帝竜戦役⑰~わらう勿忘草
●わたしを忘れないで、と
「帝竜戦役、お疲れさん!帝竜もたくさん現れて大事なとこやけど、ちょーっと頼まれてくれへんか?」
シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)は集まった猟兵たちを労い、そしてつとめて明るい調子で話し始めた。
「群竜大陸に『約束の地』いうんがあるのはもう知っとるやろか? 端目にはキレーな草原やねんけど、全ての草花が強烈な「恐怖」を放っとるらしいねんな。そんで、恐怖に負けた奴や自分の中にその恐怖があることを認めへん奴に寄生して、「力ある苗床」にしてまうんやと」
その恐怖に打ち勝つには、自分の中にその恐怖が有ることを認めた上で、なおかつそれを克服しなければならないという。
「今から行ってほしい所もそのひとつで、『忘れられてしまうこと』への恐怖やねんな」
けったいな話や、とシャオロンは唇を尖らせる。
例えば家族や友人、親しい人、大事な人に。あるいは自らの功績、生きた証を。
人はその存在を忘れられたときにもう一度死ぬとさえ言われている。そんな、己を忘れられる恐怖から、目を背けてはならないという。
「戦場に立った時点で、『恐怖』っちゅーのは襲ってくるやろな。そんで、草原にはもう敵が居るわけやねんけど……そいつは恐怖に負けて苗床化してめちゃくちゃ凶悪に強なってもうてん」
『戦竜』ベルセルク。かつては強大なドラゴンを討ち、そして竜の呪いを受けた戦士であるが、オブリビオンとして蘇った今となっては竜の意識のほうが強く、誇り高き戦士の人格は失われているという。
「強き魂を尊ぶ誇り高き“暴れ竜”……やそうやけど? まぁ? 今は恐怖に負けてもうとるらしいから?」
自らも「暴れ竜」を名乗るだけに思うところがあるのだろう、シャオロンはどこか不満げに笑った。
「その戦場に立つとな……友人や家族、親しい奴や、『一番忘れられたくない奴に忘れられる』幻を見るらしいねん。それが恐怖や。めちゃくちゃしんどいけどな、それから目をそらしたら「苗床」にされてまう。恐怖に負けてもおんなじや。……ここは、打ち克たなあかんとこやで」
心の準備が出来たら呼んでや、と。シャオロンは最後に真剣な声で言った。
遊津
遊津です。
帝竜戦役のシナリオをお届けいたします。
こちらのシナリオはにはプレイングボーナスが存在しております。
※プレイングボーナス……「恐怖」を認め、それを克服する。
プレイングには親しい人(家族や友人、仲間など)に忘れられた時、どのような恐怖を感じるか、を書いてくださるとよいかと思います。
当シナリオはオープニング公開からすぐにプレイング受付を開始いたします。
MSページを必ず一読の上、ご参加ください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『『戦竜』ベルセルク』
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POW : 戦火飛翔
対象の攻撃を軽減する【全てを壊し蝕み糧とする竜炎を纏い操る姿】に変身しつつ、【戦う程に際限なく鋭さを増す剣術や肉弾戦】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : 竜圧選別
全身を【輝きに触れた全てを圧し砕く鮮血紋】で覆い、自身が敵から受けた【戦意や殺意、或いは畏怖や恐怖の総量】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : ドラゴンブレス
【掃討用の超広範囲型から収束まで自在な吐息】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【や空間が竜呪の炎に包まれ、燃え広がりゆく】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:ハギワラ キョウヘイ
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「月宮・ユイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
皆城・白露
(連携・アドリブ歓迎です)
『覚えていてほしい、忘れられたくない』
その恐怖は、いつだってもっている
思い浮かぶのは友人達
最初同類かと思った、白い獣耳のヤドリガミ
何故か近いものを感じた、やたら賑やかなキマイラ
多分オレは、あいつらを置いて逝く事になるんだろう
そのうちあいつらは、オレを忘れてしまうんだろう――
そんなことはわかっている
突き付けられても、腹が立つばかりだ
恐怖はある。でも目は逸らさない
震える暇があるならオレは、「今」を戦う
わかりきった事をわざわざ抉りにかかったお前は許さない、覚悟しておけ
【白い闇】使用
怒りに任せて【2回攻撃】【捨て身の一撃】
鋭さを増すとかいう相手の攻撃は【激痛耐性】で耐える
●
忘れられたくない、誰かに覚えていてほしい――……
それは、皆城・白露(モノクローム・f00355)にとって常に傍らにある感情だった。
咲き乱れる薄青色の小さな花が、白露の中のその感情を、無理矢理に切り裂いて、引きずり出して、暴き出して、煽り立てる。
最初は同じ人狼かと思った、白い獣耳のヤドリガミが怪訝な顔をする。
何故か近いものを感じた、やたら賑やかなキマイラが笑顔のままで首をかしげる。
――どちら様でしたかね?
――はじめまして!
知らない覚えていない、そんな態度で、薄っぺらな笑顔で、幻覚の彼らは白露に問う。
お前は誰だ、と。
暴き出された恐怖の中に、ぷつりぷつりと根を張ろうとしてよじ登ってくるものがある。
「……わかってるんだ。いつか、お前らの中から俺はいなくなるんだろう」
鋭い犬歯が唇を噛み切る。痛みが理性を、正気をつなぎとめて。
白露は己の中に根を張ろうとしてくる異物を振り払う。
知っていた。理解していた。覚悟はしていた。
人狼の自分は、彼らを置いて先に逝くことになるだろう、と。
いつかそのうち、彼らは自分のことを忘れて。
遠い、遠い、自分よりも遥かに長い人生のうちの刹那に存在した、過去の人物としてしまうのだろう――そんなことはいつも、いつだって、覚悟してきた。
それをあらためて突きつけられたことに、ふつふつと胃の腑の底から怒りが湧いてくる。
(恐怖は、ある。……でも、目は、逸らしたくない。逸らさない)
「震えてる暇があるなら、俺は――……今を、戦う!」
目を見開けば、目の前に荒れ狂う敵の姿が有る。
『アアアアアア、アア、ア!!』
炎を纏い、吠え猛るその体表には、薄青色の花が根付いている。
(わかりきったことをわざわざ抉りにかかってきやがって……許さない。覚悟しておけ)
湧き出した怒りで白露の姿が変わっていく。両の手は銀色の体毛に覆われ、尾が生える。
瞬きのあと、そこにいたのは一頭の白狼だ。
一面の花畑で、剣竜と白狼が互いの刃と牙を交える。
幾度剣に切り裂かれ、炎に焼かれようとも、白露は避けることも防ぐこともなく――ただ、機を待つ。
『アアアアア!!』
恐怖に冒され、苗床となり、己の顔面を掻きむしる剣竜。無防備に喉元が晒されたのを見計らい、白露はそこに食らいつき――食いちぎる!
真紅の液体がびしゃりと飛び散って、白銀の体毛を汚した。
薄青色の花畑を紅が染めていく。吹き飛ばされた剣竜が藻掻くのを、鋭利な視線が貫いていた。
成功
🔵🔵🔴
弦月・宵
父さまー!…?
オレ、宵が参りました。どうかなさいましたか?
とうさま…?
母さま、父さまはどこかお加減が…かあさま?
(息ができなくなるのと同じ
南国の海が凍りついたのと同じ
考えた事もない。あり得るはずがない
世界が終われば良いと過る程の恐怖
刃物を握って、血の代わりに吹き出した炎に現実を思い出す)
…あの時のオレは、越えられなかったかも、ね…
甘えていたんだ。今は、どんな残酷な事でも起きる可能性があると、知ってる
父さま、母さま、子供はね…必ずいつか親元を離れるんだ
それが少し早かっただけ。
立派にやるから。オレの事は忘れて、静かに眠って?
…さよなら。
攻撃は【UC:ブレイズフレイム】で
相手を上回る気力で食らいつく
●
……ぱたぱたと、屋敷の中を駆け抜ける。
「父さまー!」
弦月・宵(マヨイゴ・f05409)は父の元を目指して走る。廊下を走ってはなりませんよと咎められる声は、今日はなぜか無い。
「父さま、オレ、宵が参りました。どうかなさいましたか?」
振り返った厳しい視線が、けれどいつもとは違う。いつもは厳しい中にも優しいものがあったはず、なのに。どうしてそんな目で宵を見るのだろう。
『何者か』
「とうさま……?」
『疾く去れ、迷い子ならば特別に許そう。しかし、此処がどこかを知って来たとあっては、幼子であれど容赦はせぬぞ』
話のかみ合わない……否、何を話しているのかわからない父の様子に戸惑っていれば、宵の後ろにはいつのまにか母が立っている。よかった、と胸をなでおろしたのもつかの間。
「母さま、父さまはどこかお加減が……」
『……どこの子供ですか。いつの間に入り込んだのです?』
「……かあさま?」
氷のように冷たい声に、ひゅ、と喉が鳴った。
どこまでも広がっていた世界が一気に狭まって、両の足元だけになる。
息ができなくなる。南国の海が凍りついたような寒さ、心細さ。
考えたこともない、あり得るはずのない恐怖に、足がすくんで。
ゆっくりと足元に咲いた薄青の花が絡みついてくる。
ぎゅ、と拳を握りしめて――握りしめようとして。
滴る赤の代わりに迸る炎に、はっとした。
――ああ、ああ。そうだ、そうだった。
父さまも、母さまも。
忘れてしまうのは。いつか忘れられてしまうのは、自分のほうじゃあ無くて。
(あのときのオレには、越えられなかったかも、ね……)
無償で注がれる愛情に甘えていたあの頃。
今は、どんな残酷な事でも起きる可能性があると、知ってる。知ってしまった。
「……父さま、母さま……子どもはね、必ずいつか、親元を離れるんだ」
自分は、それが少し早かっただけで。
(立派にやるから、オレのことは忘れて、静かに眠って?)
絡みついていた花が離れてゆく。両の足が自由になる。足元を見れば、見慣れた屋敷のそれではなくて――薄青の花が咲く、草原。
世界が広がる。ここはどこか、自分が立っている場所を思い出す。
竜鱗に混じって薄青の花を散らした剣竜が、叫びながら宵の首を落とさんと剣を掲げている――
「……さよなら」
後ろ髪を引く、涙が出るような慕情を断ち切って、手のひらの中の刃、そこから噴き出した血を燃え上がらせながら、宵は身を低くして駆けた。
彼女がいた位置に、剣の切っ先が叩き落される。
竜炎と紅蓮の炎がぶつかり合って、剣竜は吠えた――否、叫んだ。
『アアア、アアアアア!!』
恐怖による恐慌。脳髄までをも恐怖に支配された、力ある苗床の末路。
それを、宵の炎が両断する――剣竜が二度目の絶叫を上げた。
大成功
🔵🔵🔵
トール・テスカコアトル
友達に言われる、はじめまして
仲間に言われる、はじめまして
家族に言われる、はじめまして
「……はじめまして、トールは……」
聞いてたけど、キツイな
「トール、は……」
いつも通り、が、トール抜きに回ってく
トールなんていてもいなくっても同じって言われてるみたい
忘れないでって泣きわめきたい
思い出してって縋り付きたい
「……」
だけど、そう、みんながトールを忘れても
トールは、みんなを覚えてる
一緒に依頼に行ったこと
パトロールなんかしちゃったこと
一緒に食べたケーキの味
……数えきれないや
「はじめまして、トールは、トール・テスカコアトル。よろしくね」
笑顔で挨拶
任せて、みんなを守ってみせる
「……変身」
思い出が勇気を呼び込む
●
――友達に言われる、はじめまして。
――仲間に言われる、はじめまして。
――家族に言われる、はじめまして。
「……はじめまして、トールは……」
そのたびに自己紹介を繰り返して。
胸が切り裂かれそうになる。心臓がえぐり出されそうになる。
ここにお前の居場所などなかったのだと、全てを否定されている気持ちになる。
「トール、は……」
(ああ、聞いてたけど、本当に……キツイな)
いつも通り、日常が自分抜きで回っていく。
お前なんていてもいなくても同じだって、そう言われているみたいだ。
お前など誰も知らないと、冷たい目線が自分を見て。
そうして次の一呼吸後には、また全てがゼロに戻ったように首をかしげられる。
『はじめまして、どちら様?』
「…………。」
何度も何度も繰り返して、
大きすぎる感情が喉の奥に詰まって、とうとう声が出なくなる。
忘れないでと、子供のように泣きわめきたい。
思い出してと、臆面もなく縋り付いてしまいたい。
だけど、こんなに苦しくなるのは。自分が、みんなを覚えているからだ。
自分だって全てを忘れられてしまえば、忘れられてしまって苦しいこともないのだから。
トール・テスカコアトル(ブレイブトール・f13707)は、そこに縁を見出す。
背筋を駆け上がってくる恐怖を、自分の中に根を張ろうとする異物を、拒絶する。
……一緒に冒険に行ったこと、トールは覚えてるよ。
パトロールなんかしちゃったことも、一緒に食べに行ったケーキの味も。
(それから、それから……数え切れないや)
微笑んで。そして、明るく声を出して。
「はじめまして、トールは、トール・テスカコアトル。よろしくね」
(任せて)
(みんなを、守ってみせる)
抱えたいくつもの想い出が勇気を呼び込んで。
「……変身」
そして、トール・テスカコアトルは、勇気の戦士ブレイブトールへと変身する!
『アア、アアア……アアアアアッ!!!』
竜炎を纏った拳がブレイブトールへと迫る。
上がる叫びは咆哮ではなく、恐怖に冒された絶叫。薄青色の小さな花たちが眼球にまで根を張って、流れ落ちようとする涙をせき止め水分を吸収している。
かつては誇り高かったと言われるそれに哀れがましさを感じるも、手を抜けるわけがない。
拳を手のひらで受け止め、次いで繰り出された剣撃をブレイブ・ソードで弾き返して、距離を取り。もう一度、今度は両手で力強く剣を握り、そして自らの中の勇気すべてを注ぎ込んだ一撃を――振り下ろす!!
『アアアアアアア!!』
胸を切り裂かれた剣竜が血と炎とを撒き散らして薄青色の花畑へと倒れ込む。
溢れ出すその紅さえも養分として花々は吸い付くし、そして剣竜は立ち上がろうとする……否、花々が、剣竜を立ち上がらせようとする。
彼にとっては、もはや死こそが開放であり救いなのだと悟ってしまう。
再び剣を構え直し、トールはまっすぐに剣竜を見据えた。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
忘れられる恐怖…親交のあるフォルター様(f07891)に忘れられることは恐ろしいですね
他の方の恐怖とは少々違う形で、ですが
あの方と私は言ってしまえば水と油、黒と白
様々な偶然が重なり親交を深めましたが、殺し合いになっても可笑しくはなかったのです
もし記憶を無くしたら、『悪』として眼前に立ち塞がるかもしれません
もしそうなったとしても、あの方の礼儀として刃を突き付けることに躊躇いはありません
約束したのです
『貴女が悪を自認するならば、悪討つ騎士として善を為す』と
機械馬に●騎乗しUC突撃
竜炎をバリアで防ぎながら●怪力で振るう槍で突き破り一瞬で串刺し
あの方の変身姿との相対と比べたらこの恐怖も些細な物ですね!
●
長く艷やかな黒髪の女が、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の前に立っていた。
『我の前に立つ貴様は何者か?』
女は血に濡れた大鎌をトリテレイアに向ける。
《彼女》こそが、彼が忘れられることを恐れた女。けれどそれは、忘却されることを恐れるがゆえのものではない。
騎士道を重んじる正義の騎士たるトリテレイアに対して、《彼女》が冷酷無慈悲が形を成したると言われる悪の女。いわば本来ならば水と油、黒と白。
けれど親交があるがゆえに、絆が有るがゆえに、二人が互いを知るが故に彼らは対立せずにいられたのだ。
《彼女》の中からトリテレイアの記憶が失われれば、《彼女》は悪として彼の眼前に立ちふさがるだろうと――その予想通り、或いはそう畏れるが通りに、幻の彼女はトリテレイアの前にいた。
『答えぬか、……それとも、答えられぬか?』
凶々しい重圧が《彼女》から発される。
それは畏れと成ってトリテレイアの喉を締めつける。それでもトリテレイアは応えた。
「否(いいえ)、いいえ……!」
それは《彼女》との約束。
《彼女》が彼を覚えていなくても、《彼女》がたとえ幻であろうとも、違えてはならぬ、約定。
「我が名は、トリテレイア・ゼロナイン。貴女が悪を自認するならば、悪討つ騎士として善を為す……騎士道に則り、貴女を討ちに参りました」
『ははっ、面白い!貴様如きに、我を打ち倒すことが出来ると申すか』
「やってみせましょう……それで貴女がまた、私を記憶するというのなら」
そう、忘れてしまったのならば、剣を向ければ良い。
悪たる《彼女》にとって、己は正義の騎士として、また新たに関係を作ればいい。
例えそれがどちらかが首を落とされるまでの、ほんの短い時間の間のことだとしても。
己の心に巣食おうとしていた薄青色の恐れが、ぶちぶちと千切れて行く。
目の前にいるのは《彼女》ではない。
身体のそこかしこに薄青色の花が根付いた、忘却されることへの恐怖に冒された剣竜。
「……ああ、そう。そうでしたね」
倒さねばならぬのは、貴女ではない。貴女ではまだなくて、良かった――。
安堵すら覚えながら、トリテレイアは巨大な機械白馬「ロシナンテⅡ」に跨り、馬上槍を携える。
『アアア、アア、アアアアア!!』
「おおおおおっ!!」
槍の穂先から展開されるバリアが剣竜の竜炎を防ぎ、扇状に弾き返す。滅茶苦茶に振り回される剣をかいくぐり、馬上槍は鎧を貫通し、剣竜の身体に孔を開ける。
その鎧の隙間から薄青色の花が根を伸ばし、絡み合うそれで傷口を塞ぐ。
恐怖で苗床を捕らえた花々は、苗床をそう簡単に使い物にならなくはしてくれない。
その姿にいっそ哀れがましさを覚えながらも、トリテレイアは第二撃に向けて備えた。
「あの方の変身姿との相対に比べたら、……この恐怖など、些細なものでしたね」
大成功
🔵🔵🔵
浅間・墨
私としては逆の考えでして忘れてくれた方がいいです。
存在が死という形で離別した場合に悲しませたくないのが理由。
なので忘れられたくない恐怖というのはいまいちピンときません。
そういう方々がいないというわけでもないのですが私はあまり…。
この考えは私が半分魔に侵されている影響なのかもしれませんね。
他のフェイントと残像と見切りを駆使しつつ攻めます。連携協力必須です。
まだまだ未熟なのでどの程度暴れ龍さんに渡り合えるかわかりません。
今の私の実力で可能な限り対応します。
兼元の一刀と【黄泉送り『彼岸花』】で。
(早業、破魔、限界突破、2回攻撃、鎧砕き、鎧無視攻撃)
…できれば。戦士の人格を取り戻せるような戦いを…。
御園・桜花
「人は生きていてさえ忘れる生き物です。忘れ去られることが、それほど恐怖になりましょうか。それは…人の奢りでは」
忘れたくないと思うのは転生を願った相手
転生した彼等は私を覚えていない
精鋭パーラーメイドと目される程度に業務もお客様も覚えておきたいがそれを外で使う気もない
大家に忘れられても家賃の払いが面倒な程度
誰に知られなくても知らなくても困らない
「ああ、でも未練多く死ぬ方があるのは少しばかり恐れるかもしれません。だから…死を紡ぐ貴方には、骸の海へお還り願いましょう」
人は命は、大抵志半ばで死ぬものだ
そのときの未練が小さくあれと願うから
UC「桜吹雪」使用
ブレスは第六感や見切りで避け一気に切り刻む
●
忘れられるということが、そんなに辛いものだろうかと、彼女たちは思う。
(死という形で離別したときに、悲しませるくらいなら……いっそ忘れられた方が、いいです。……忘れられたくない恐怖というものが、いまいちピンときません)
――この考えは、私が半分魔に冒されている影響なのかも知れませんね。
浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)はそう思う。
(人は生きていてさえ忘れる生き物です。忘れられることが、それほど恐怖になりましょうか。……それは、ひとの奢りでは?)
――転生を願った相手を、お客様方のことを忘れたくないとは思いますが、大家さんに忘れられても家賃の支払いが面倒になる程度ですもの。誰に知られなくても知らなくても困りません。
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はそう思う。
彼女たちに忘却されることの恐怖はない。
墨はいっそ忘れられたいとさえ思う。
桜花は誰にも知られていなくても、困りはしないという。
彼女が強いのか、それとも空であるのか、それはわからない。
ただ一つ言えるのは、彼女たちに見える幻はなく。花々の放つ恐怖は彼女たちにとってそよぐ風ほどにも影響はなく。
一歩、一歩、踏み出すごとに花々が彼女たちを苗床にしようと取り付こうとして失敗し、薄青の花が踏み荒らされる。
「――ああ、でも」
桜花が歌うように言った。
「未練多く死ぬ方があるのはすこしばかり、恐れるかも知れません。だから……まずは死を紡ぐ貴方に、躯の海へとお還り願いましょう」
こくりとその横で、墨が頷く。
――人の命など大抵志半ばで尽きるものですから、その時の未練は少ないのに越したことはありませんでしょう?
「アアアア、アア、アアアアア!!」
薄青の花に全身の鱗を冒され、恐怖に冒されて花々の苗床と化した剣竜が、嘆きの叫び声を上げる。
忘れられたくない。嫌だ。私を忘れないでくれ。私を。私が生きた証を、私が残した功績を、奪わないでくれ、何も、何も――!!
その声は聞こえない。ただその嘆きに満ちた叫びは、炎の吐息となって二人へと襲いかかる。
桜花はそれをぎりぎりのところで躱し、墨は襲いくる炎へ向かって半身を引き、大刀「真柄斬兼元」を構える。
(……この兼元は必ずや、炎をも斬ってみせるでしょう)
炎をも斬る刃。信じる思いこそがそれを実現してみせる。真っ二つに炎は割れ、けれど大地に燃え移る。されど薄青色の花だけは、燃やされることなく咲いて……桜花と墨は、その花を踏んだ。
「合わせてくださいますか?」
桜花の声に、墨はこくりと頷いた。
桜花の手にしていた銀盆が桜の花弁となって、咲いては散っていく。
薄桃色の花びらは薄青色を塗り潰すようにあたりを満たし、そして剣竜へと一斉に襲いかかった。
全てを切り刻む花びらを血に塗れながらも掻き分ける剣竜の、その恐怖に染まった眼に映ったのは、銀色に光る墨の刃。それが、剣竜の鎧ごと斬り伏せて――
大地の薄青と薄桃色を、紅が塗り替えた。
「アア、アああ、私は、私を……どうか……!!」
忘れないでくれと、剣竜は叫んだ。
(できれば、剣士としての人格を取り戻せるような、戦いを……いいえ、未熟な私の腕では、これが精一杯だったのでしょうか……いいえ、まだ)
苗床と化し恐怖に冒された剣竜には、人の言葉を取り戻せただけでも奇跡的なことだ。
それでも墨は諦めないとばかりに兼元を握り、桜花もまた剣竜に向かって構えるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
オレにとって家族や郷の者は大事だ
なのに
…なんでねーちゃんそんなよそよそしいん?オヤジ殿も幼馴染みも
名乗っても…知ってるような…でも誰?って顔
久々だからって、そんな
あの、師匠…も?
覚えてないのかよオレの事
皆の記憶から消されるなら…郷抜けした罰だって狩り立てられる方がよっぽどマシだ、こんなの
でも幾つも世界を渡り歩けば事象も歪んで
こんな日も来るかも…って
でも絶対オレからは忘れない
赤の他人からやり直してもまた皆と
そうだ
この敵も誰かに忘れられて変になったんだっけ
こんな猛者でもイチコロで壊れんだな
UCで強化
代償の流血と手裏剣を敵へ【目潰し/投擲】
追って接近しクナイで攻撃【追跡/暗殺】【激痛耐性】
アドリブ可
●
鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)の前に広がるのは、懐かしい郷の風景。
道を歩いていた女達の中に姉の姿を見つけて、トーゴは笑いかける。
「ただいま、ねーちゃん!!久しぶり!!」
……けれど。
『え……? あの……あなた、私のこと、知ってたかしら?』
「ねーちゃん……? なんでそんなに、よそよそしいん……?」
トーゴは、目を合わせてくれない姉に手をのばす。
次いで現れるは、父の姿。
「……あ、親父殿!なぁ、ねーちゃんが……」
『……? お前は……この郷の者か?』
「何言ってるん? オレだよ、トーゴ!」
『トーゴ?』
「……赭、だぜ……わかんないのか……?」
『そんな名前の者が……いたか? ……いや、誰だ……』
姉、父親、幼馴染。郷での名を名乗っても、皆誰もが首を傾げて。
「なんで……久々だからって、そんな……」
一歩、二歩、後ずさって。背中に硬いものを感じて、振り返ればそこにいたのは。
「あの、師匠、」
『ここから出てゆけ。お前など知らぬ』
「師匠……も……? 覚えてないのかよ、オレのこと……!」
ふつふつと首筋が粟立つ。背筋が冷たくなる。誰一人自分のことを覚えていない、孤独。
こんなふうに皆の記憶から消されるくらいなら、郷抜けした抜け忍として追われ狩られる日々を過ごすほうが余程マシだと思えた。
追われるならば、追ってきてくれるならば、それは自分のことを自分として見てくれている証。今目の前に映る彼らからはそれさえもない。
自分は、トーゴではなく、「どこかの誰か」「知らない人」。写真の目元が黒線で引かれたような、どこか遠くの、彼らとは関係のない、名もない、存在さえもはっきりしない、「誰か」――。
「あ、ああ……嫌だ、こんなのは……」
不安にぼやける世界の中で、薄青色がトーゴを包み込もうとする。
(――だけど……。幾つも世界を渡り歩けば、事象も歪んで、こんな日も来るかもって……思ったことが、ないわけじゃあ、ない)
――誰に忘れ去られても。
「オレからは、絶対に忘れない……!」
赤の他人からやり直したって良い。また、皆とともにあれるのなら!
「オレは、鹿村トーゴ!覚えていないならこれからでいい……オレの事を、覚えてくれよ!!」
幻が、消えた。郷も家族も、師の姿もそこにはなく。
薄青色の花咲き誇る草原で、同じ花をその身に幾つも幾つも咲かせた剣竜が吠え猛る。
『アアアアア…………私は、私を、ああ、私のことを……おおお、アアアアア!!』
全身を覆う輝く鮮血の紋章の下には、やはり同じ様に花がぷつぷつと咲いている。振り下ろされた剣をクナイで受け流し、トーゴは剣竜から距離をとった。
(そうだ……この敵も誰かに忘れられて変になってるんだっけ……こんな猛者でも、イチコロで壊れんだな……)
咆哮を上げる哀れな苗床に感じるのは憐憫か、それとも。
(とにかく、ここには長居したくね―な……っ!!)
足元の薄青色を踏みつけ、トーゴは飛ぶ。この世にあらざるものどもをその身に宿し、その代償として血が流れる。喉の奥からせり上がってきた鉄の味を含み、霧のように敵の顔面に噴きかける。打たれた手裏剣が剣竜の顔面に突き刺さった。
顔を抑えて叫ぶ剣竜に飛びかかり、クナイでその喉を突く。
『――――!!』
ぶしゃあ、と血を飛沫かせながら、剣竜が花畑の中に倒れ伏す。
紅に染まる小さな花が、その傷を繋ぐように覆い始めて――トーゴのクナイが、それを引きちぎる。
何度も、何度も、花びらを引きちぎって。ようやく花びらによる再生行為が中断された時、剣竜もまた動かなくなっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
げほり、ともう一度赤い塊を吐き出して、トーゴは空を仰ぐ。その間にも、剣竜の亡骸は塵となって消えていく……骸の海へと、還っていく。
見上げた青空は、どこか花の色と似ていた。
大成功
🔵🔵🔵