2

🐱チェイス💣️

作者：大熔解

●🐱🐱🐱🐱🐱
　こつこつと固い靴が床を叩く音が響く。
　照明が落とされた暗い施設を、コート姿の男が歩いている。帽子の下の容貌は機械のソレだった。施設には大量のコンテナが置かれていて、男はコンテナの間の狭い道を縫うように通り抜けていく。
「ちょっろい仕事だったなァ……あとはこれだけ仕掛けて終わりかよ」
　手に持った大きなボストンバッグに視線をやると、くく、という声とともに男の肩が揺れた。

　ふと、男が足を止めてコンテナのひとつに目を向ける。
「チッ……またいやがんのか。うっとうしい」
　そのコンテナは外壁の一部が破損していて、そこから中の暗がりが覗けるようになっていた。

　――暗がりの中で何かが光る。動いている。

　うにゃあお。

●💣️💣️💣️💣️💣️
「宇宙船内に爆弾が仕掛けられていることが判明した。オブリビオンの工作員の仕業だ」
　グリモアベースにてそう語り始めたのはウォーマシンの大男、アーノルド・ステイサムである。
「だが予知で分かったのはそれぐらいだ。どこに仕掛けられているのか、爆弾がどの程度の威力なのか……詳しいところまでは見えなかった」
　分かった範囲で情報を伝えておく、とアーノルドは断片的に予知の内容を語り始める。爆弾を仕掛けた犯人はコート姿の機械男であるということ。見えた予知だと犯人はコンテナが大量に置いてある施設の中を歩いていたということ。それから、
「人以外の動物がいた。多分あれはオブリビオンじゃねえな、猫だ」
　……宇宙船に野良猫がいるってのは、個人的にはかなり驚きなんだが。
　アーノルドは自身の経験を踏まえてそう述べる。実際その爆弾が仕掛けられた宇宙船においても、野良猫というのはかなり珍しい存在であるらしい。
「だからそいつらが手掛かりになる。少しまどろっこしい方法になるが、まずは猫を探してみてくれねえか」
　コンテナが大量に置いてある施設、という情報だけでは予知の場所を絞り込めないだろう。
　僅かではあるが外を出歩いている猫の姿も予知で見えた。つまり施設の中にこもりきりということも無いはずだ。宇宙船内のどこかにいる猫たちを探し出し、“彼ら”を手掛かりに犯人を追ってみて欲しいとのことだった。
　施設の場所が判明したら、爆弾解除のために内部に踏み込むことになる。
「爆弾を発見したら解除自体は難しくない。ボタンひとつで止められるはずだ。だが施設の内部はコンテナだらけで道が狭く、迷路のようになっている」
　犯人が何らかの罠を張っている可能性も高い。攻撃的なトラップや警報装置などに注意しつつ、可及的速やかに爆弾を発見することが肝要となるだろう。
　また、仕掛けられた爆弾は複数あると思われる。猟兵全員が確実にそれぞれの任務を果たす必要がある。
「首尾よくすべての爆弾が解除できたら、任務失敗と判断した犯人は逃走を図るだろう。どうもこいつはなかなかのチキン野郎みたいでな」
　猟兵と遭遇すると戦おうとはせず、一目散に逃げるのだという。戦闘は正面からのぶつかり合いではなく、犯人を追う形の追走戦となるだろう。
「逃げる犯人を追いながら攻撃して仕留めることになる。奴さんは逃げるのが第一優先だから積極的に猟兵への攻撃はしてこない。……ただ、時間稼ぎ目的で一般市民や街の施設に“嫌がらせ”をしてくるだろう」
　腐った野郎だ、と毒づいた。
「すまないが、そういう敵の行動を牽制しながら依頼を遂行して欲しい。犯人の居場所を探すのも含めて難しい仕事ではあるが……お前らにしかできない仕事だ。よろしく頼む」

第1章 冒険 『にゃんこバンバン』

POW   :    とにかく驚かせて危険な場所から逃がす SPD   :    猫を追いかけて捕まえる WIZ   :    おやつやおもちゃでおびき寄せる 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●ねこのうた
　宇宙船内の比較的治安の良い住宅区画で、猫のような耳と尻尾を揺らしながら一人の少女が歩いている。
　ソフィア・テレンティアはにゃーにゃーとまるで猫を真似たようなかわいらしい声で、自作の歌を口ずさんでいた。
「にゃー、にゃーあ、にゃー」
　そんな彼女の様子を微笑ましく眺めている通行人たちもいる。きっと可憐な声と仕草が彼らの心を和ませたのだろう。
「にゃー……にゃー？」
　調子よく歌い上げていた声がふいに止む。ソフィアは集合住宅の間にある小さなスペースに目を向けていた。暗がりとなっていて中はよく見えないが、何かが動いた気配がしたのだ。
　探している猫だろうか。用意していた猫じゃらしを構えながら歩を進めていく。
「！」
　いた。暗がりに溶け込むような真っ黒な猫だ。こちらに振り返って視線だけを向けている。
　すかさずソフィアはしゃがみ込んで猫じゃらしをぴょこぴょこと動かす。猫が興味を抱くように、不規則に動きを変えながら。ぴょこぴょこ。
　そしてじゃらし作戦が功を奏したのか、黒猫をのっそりと足を動かしてソフィアの方へと近寄ってきた。
　ぺち、ぺち。
　じゃらしを叩き出す。老猫なのだろうか。動きが少しゆっくりとしているようにも見える。
　しばらくの間そうやって黒猫と戯れた後、ソフィアは地面に猫じゃらしを置いてそっと黒猫の身体の下へ手を伸ばす。
「少し、失礼致しますね」
　ひょいと抱きかかえる。黒猫は抵抗することなくソフィアの腕の中へと収まった。
　ソフィアは黒猫の身体を撫でながら異常な点がないか確認していく。目立った傷や怪我などはない。少し痩せてはいるが、目に見える範囲では健康体であるように思えた。
　ただ、食事の後なのだろうか。くあ、と黒猫が気持ちよさげにあくびをしたとき、口から生臭いにおいが漂ってくる。
「何を食べていらしたのでしょう……近くにご飯を食べられる場所があるのでしょうか？」
　尋ねても、眠たげにうとうととしている黒猫は何も答えない。
　まあ、それはそれとして。
　ついでに少しだけ、と、ソフィアは黒猫の毛をもふもふと撫でて感触を楽しんでいく。
（罰は当たらないでしょう、はい。これは私欲ではなく調査のためですので、致し方ないのでございます）
　心中でそう述べて自分を納得させると、しばしの至福の時間を楽しんでいくのだった。

●ねこときつねと転送装置
　妖狐の男は、宇宙船内の高度な文明で構築された街並みを物珍しげに眺めていた。
（スペースシップワールドでの初仕事が、猫探しになるとはね）
　……戻ったら似たような仕事を押し付けられそうですね。
　珈琲と煙草の匂いが香る馴染みの店について思いを馳せながら、ルイーネ・フェアドラクは下調べの結果アタリをつけていた場所へと足を向けた。
「あまり、好かれた記憶はありませんけれど」

　しゃらりしゃらり。
　人気のない住宅区画の裏路地で、鎖の音が軽やかに響いている。
　フードを被った小さなシャーマンズゴースト、ヴァロ・タハティが、手持ちの地縛鎖で何かの形を作ろうと試みているようだ。
　やがてその鎖が少し歪な丸を形作ると、どややっ！　と誇らしげに胸を張った。
（出来た～！　ボクしってるよ、猫転移装置っていうんだよねっ）
　説明しよう！　猫転送装置とは！
　猫がぎりぎり収まる程度の小さな円を床に描くことで猫を誘導できるという、なんとも不思議な装置のことである！
　テープなどを使って作る例があるが、ヴァロはその代用として鎖を使ったのである。
（ねこ、くるかなあ……目立たないようにしてまってよう！）
　心の中でだけそう言うと、ヴァロはとてとてと近くにある大きなダストボックスに身を隠した。人間の子供程度の大きさでであるヴァロなら、立ったままでもすっぽり隠れることのできるサイズだ。
（くるかな、こないかな……どきどき）

　狐へと変じた方が視点が近くて探しやすい、と判断したルイーネは、その髪と同じく色鮮やかな赤毛の狐へと姿を変えていた。
　すんすんと鼻を働かせ、同時に物音も見逃さないよう耳をそばだてる。
　目立たなさ故に見逃してしまいそうな、暗く、狭い場所……そのような道を選んで歩を進め、野良猫たちの気配を探っていく。
　しばらく進んだところで、ルイーネの鼻がひときわ強いにおいを感じ取る。野良猫かはわからないが、獣のにおい。それから、腐った魚のような生臭さも感じ取った。
　そこで耳が僅かな“揺れ”も感じ取る。確証はないが、においの主がこちらの気配に反応したかのように見えた。
　忍び足のまま速度を速めたルイーネは、追い込むようににおいのもとへと迫っていく。

（わ！）
　じっと待っていたヴァロは胸中で驚きの声を発する。
　転送装置にぴょいと茶毛の猫が飛び込んできたのだ。
　まるで何かから逃げるように建物間の仕切りの上を移動していたが、どうやら転送装置が気になって思わず入ってしまったようだ。じっと座りつつも、どこか不思議な居心地なのか、自分を囲っているヴァロの地縛鎖をてしてしと叩いている。
（わ、わ……い、いかないと！）
　生の猫に少しだけ臆していたヴァロだったが、覚悟を決めると鎖に近寄って猫の状態を確認していく。
　茶毛猫は不思議そうにヴァロを見上げたものの、転移装置の効力なのか、すぐに逃げる様子はないようだった。
（ケガはしてない、とっても元気そう。……うん、なんだろこれ）
　しゃがみ込んで観察していたヴァロが気になったのは、茶毛猫の尻尾の根元についていた半透明の薄い物体である。
　人間の爪の大きさほどで、手に取ってみるとガラスほど重くはないが、プラスチックの感触ともまた異なっていた。
　これはなんだろうと正体に思考を巡らせようとしたところで、茶毛猫がぴくりと耳を動かした。
　仕切りのほうに一瞬だけ視線をやって、それからびゅんと転移装置を脱出し違う路地の暗がりへと駆けてゆく。
（あっ！）　
　仕切りの上から現れたのは茶毛猫の気配を追っていたルイーネである。どうやら茶毛猫はルイーネの気配を逆に感じ取って退散したようだった。
　ヴァロとルイーネは視線を合わせて互いの目的を確認すると、逃げて行った茶毛猫のほうへと足を向ける。
（ま、まってえ～！　ふぎっ！）
　ヴァロは道の段差にややつんのめったものの、立て直して懸命に茶毛猫を追おうとする。
　一方ルイーネはそんなヴァロを気遣って視線の端に入れながら、茶毛猫を見逃さないよう俊敏な足取りで追跡を再開する。
（……怖がられるのは少々、複雑ですね）
　確実に目的へと近付いている実感を得ながらも、ルイーネは猫の反応にほんの少し切ない思いを抱いていた。

●かりかり
（猫が爆弾に巻き込まれては大変ね。巻き込まれちゃったら爆弾仕込んだ人を、指先からじわじわ痛めつけなきゃいけませんし……）
　ハードなお仕置きに思考が至ろうとしたところで、一時中断して絢辻・幽子はレジでの会計を済ませた。
　野良猫たちをおびき寄せるための物品調達を行っていたのだ。カリカリのチーズ入りおやつ、猫じゃらし、毛玉のおもちゃ……バリエーションに富んだラインナップで迎え撃とうとしている。
（なぁんて、どっちにしろじわじわ追い詰めて捕まえる必要があるんですけどね）
　捕まえたらどうしましょう、と歩きながら幽子は眼の下にクマの入った表情でくすりと笑みを見せる。どこか艶やかながら迫力を持ったそれは、偶然見てしまった街行く通行人を少しだけぎょっとさせた。
　さて、と目当ての裏路地についたところで幽子はカリカリの袋を取り出した。開封して香ばしいチーズの香りが外に漏れるようにすると、かさかさ揺らしながら野良猫を求めて歩き始める。
　しばらく歩いたところで、ナァ、とか細い鳴き声を幽子の耳がとらえる。道の脇に停められていた二輪車両の陰に、小さな虎柄の猫がいるのが見えた。大きさからしてまだ子供だろう。
「あら」
　ふんわりと頬を緩めてしゃがみ込むと、かさかさと袋を揺らし念押しのカリカリアピールを試みる。加えて猫じゃらしを取り出しこちらもふりふりと。ふたつの方面からの二重攻撃だ。
　そして抵抗を一切見せることなく子猫は陥落する。てててと幽子のそばへ足早に近づくと、後ろ足だけで立ち上がってじゃらしを捕えようとしてくる。子猫ながら前足捌きはなかなかに達者だ。
「ふふ、紐とか扱うのは得意ですよ」
　慣れた手つきで子猫を翻弄する幽子。カリカリの中身を掌に出すと、待っていましたとばかりに子猫が興味を切り替えて食いついてくる。
「落ち着いてゆっくり食べてね。……お友達にも分けてあげたいのだけど、どこか他にお友達、いないかにゃん？」
　可愛らしい語尾を付け足して語り掛けると、子猫は顔を上げてぱちぱちと瞬きをしてきた。するとカリカリの乗っている幽子の手に顔を擦り付けて、路地の暗がりのほうへと歩いていこうとする。通じたのかは分からないが、幽子に背を向けつつも横顔で視線を送ってくる子猫の仕草は、どこかしらに誘う案内人の所作のようにも見てとれた。
「……気をつけないと挟まりそ」
　子猫の向かう先は、人が歩くにはやや狭い建造物同士の隙間。
　幽子は尻尾が挟まらないよう、細心の注意を払いながら進んでいく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●たいりょう
「ねこーねこー……ねこ、ですよー……。にゃー」
　寧宮・澪が網を張ったのは廃倉庫が多く立ち並ぶ、宇宙船内のデッドスペースともいえる場所だった。その中でも猫が好みそうな狭い暗がりの道を選び、ビニール袋のおもちゃやキャットフード入りの仕掛けを数多く用意していた。
　結果を述べれば、澪の見立ては大当たりであった。
　彼女がビニール袋で翻弄している猫が二匹。箱や袋に出入りしたり収まったり、寝ていたりするのが五匹。大漁も大漁の大釣果を成し遂げていた。彼女の予想が的中したのもあるが、物は試しと口ずさんでいた猫寄せの歌と、理屈では説明できない第六感が働いたのも勝因のひとつと言えるかもしれない。
　ビニール袋をぶんぶんと動かす手を止めず、集まっている猫一匹一匹の状態をそれぞれゆっくり、落ち着いて確認していく。
（寝てる子とー……眠そうな子が多いですねー……）
　ビニール袋で元気に遊んでいる二匹以外はそのような様子だった。睡魔に負けた猫、微睡みの中で睡魔と戦っている猫。
　動いている猫も箱の中で眠るためのベストポジションを探しているように見える。てしてしと踏み心地を確認し、程なくして目を細めながら丸くなった。
「ごはんを済ませた後なんですかねー……にゃー……？」
　ふと、眠っている二匹の身体に透明な何かが付着しているのを発見する。指でつまんでじっと確認してみると、澪はその正体に行き当たった。
「さかなのー……うろこー……ですかねー……にゃー」
　目を閉じて少し考えてみる。この宇宙船において生きた魚というのは希少品だ。海や川というものが存在しない以上、人工的に培養する方法でしか魚介の類は手に入らない。
　そして希少である以上は高級品である。取り扱っている店も必然と限られてくる。野良猫の活動圏内は澪が今いるこの辺り。魚介を取り扱っている飲食店、あるいは卸売業者の建物近くの施設を当たれば――。
「……一発で引き当てるのは難しそうですがー……でも時間はかからなさそうですねー……にゃー」
　すでに猫の足取りを追っている仲間たちもいる。
　自分の得た情報を連携すれば、さらに“当たり”の確率を上げることができるはずだ。
　ビニール袋を動かす手を止める。元気に動いていた猫二匹は不思議そうに澪を見た後、すぐに興味を失くしたのか裏路地から立ち去ろうとする。
「くっついていきましょう……にゃー」
　澪は元気な二匹に離されないよう、足早に後を追っていくのだった。

●うちゅうにゃんこ
　コンテナのある施設の近辺で、気温が安定していて物流の少ない通路。
　この見立てがぴしゃりと当たった。
「おおお……」
　蓮花寺・ねもが目の当たりにしているのは、たとえて言うなら猫の大洪水。
　寝息を立てている猫、奇妙な体勢で寝転がってまったく動かない猫。
　じゃれあっている猫、威嚇しあっている猫、どこからか持ってきた食べ物らしき欠片を奪い合っている猫。
　ねこ、ねこ、ねこ……。一面猫だらけ。
　ねもがいるのはこの辺りの倉庫・工場をすべて総統括する大企業ビルの裏手である。大型ビルの空調機構から排出される温風によって、この辺りは猫にとっては非常に過ごしやすい場所に出来上がっているのである。
　加えて大企業のお膝元ということもあって警備も厳重だ。猟兵以外の人間は易々とここに立ち入ることはできない。にも関わらず猫たちがここに侵入して溜まり場とできているのは、ここが周囲の道から隔絶された地図上の空白といえる場所だからだろう。警備の巡回コースから外れており、関係者も非常時以外は立ち入りが許されていない空間だった。
　人にとっては道でない場所も、猫は自らの力で道に変えることができる。
　閑話休題。ねもは大洪水を前に、ひとまず猫たちの観察を試みた。
（ぐにゃぐにゃしててかわいい……）
　警戒心の薄そうな寝転がっている猫に狙いを定める。猫じゃらしと煮干しを構えて、いざ。
　おそらくとても怠惰な猫なのだろう。ねもの振る猫じゃらしには反応したが、寝転がったままで起きる様子はない。腹を見せた体勢のまま、どこか気だるげに猫じゃらしを叩こうとする。
　ぺち……ぺち……。
　しかし動きが緩慢すぎて全く届いていない。
（かわいい……）
　頬を緩ませるねも。煮干しは食べるだろうか、と怠惰猫の顔の近くに置いてみると、そこでようやくふんふんと鼻を動かして起き上がる。はぐはぐとがっつくように食べだした。
　よく見ると周りの猫に比べるとかなり体格が大きい。表情もどこか威厳があり、喧嘩が強そうにも見える。もしかするとリーダー格の猫なのかもしれない。
　置いてあった煮干しを食べ終えると、怠惰猫はくあ、とあくびをする。そして猫じゃらしからは興味を失ったように溜まり場から立ち去ろうとしていた。
（溜まり場がここにあるということは……ねぐらが近いのかもしれない）
　そしてそれは、予知で言及されていた施設なのでは。
　そう推定したねもは怠惰猫の後を追い始める。
　さいわい怠惰猫は歩く動作も緩慢で、追跡にはまったく苦労しなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第2章 冒険 『時限爆弾を阻止せよ！』

POW   :    力づくで爆弾を止める SPD   :    導線を切るなどの技術で爆弾を止める WIZ   :    ハッキングや魔法で爆弾を止める 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●コンテナ迷路へ
　猟兵たちの活躍により、野良猫たちから多数の情報を得ることができた。
　・野良猫たちは廃倉庫街近くのレストランから廃棄される魚介類を主な食料としていること。
　・野良猫たちの活動圏は廃倉庫街に集中していること。
　・廃倉庫街を含む一帯の施設を統括している大型ビルの裏手に野良猫たちの溜まり場があること。
　
　そして複数人の猟兵が野良猫たちを追跡したところ、廃倉庫街の中の一つの施設に行き当たった。
　前述の大型ビルから徒歩七分ほどの位置にあるひとつの廃倉庫。
　追跡していた野良猫たちのうち何匹かがこの施設に入っていったのを確認したという。
　大型ビルやレストランの位置関係、それから廃倉庫周辺にある野良猫たちの痕跡から考えて、ここが予知に出てきたコンテナ施設に間違いないだろう。

　また、一つ重大な事実が判明した。
　この廃倉庫の地下には宇宙船を機能させるための核ともいえる「コアマシン」への動力供給ラインが引いてあるという。
　仮にここを爆破されれば、その復旧には多大な時間とコストが必要になるだろう。
　宇宙船市民たちの生活に甚大な被害を及ぼすのは明白だった。
　宇宙船のためにも、そして野良猫たちのためにも、必ず、爆破計画は阻止しなくてはならない。

　放棄されて長いのかセキュリティはろくに機能しておらず、廃倉庫へは正面から侵入することができそうだ。
　ただし、ここはすでに敵のテリトリー。爆破計画の予防線として、どのような罠が仕掛けてあるかは分からない。
　施設内は照明もないためとても暗くなっている。また、施設内のコンテナは無造作かつ不規則に置かれており、僅かなコンテナの隙間を迷路のように通り抜けていく必要がある。視界の悪さを十分留意しつつ、罠の存在を警戒しながら爆弾を探していくべきだろう。
　倉庫内に無数にいると思われる野良猫たちの存在にも注意しなければならない。彼らに気を引かれるあまり、罠に引っ掛かってしまう可能性がある。

　残された時間が後どれぐらいあるのかは分からない。
　すみやかに全ての爆弾を解除するのだ！




●地図／突入
「んー……」
「……何をしていらっしゃるのでしょうか？」
「ここの眠ってる子にー……起きてもらえないかなー……とー……」
　廃倉庫前。座り込んで入力デバイスのキーを打ち込んでいる澪にソフィアが声をかける。
　澪の周りには空中に投影されたハッキングツールの画面がいくつも展開されていた。それらの内容はすべて、スペースシップワールド製の難解なコードで埋め尽くされている。電脳魔術の素養が無ければ用途の理解は難しく、魔導蒸気文明の申し子であるソフィアも流石に専門外のようだった。
「起きてもらえれば、ここの地図とか、作ってー……皆さんに提供できないかなー……とー……」
「なるほど。手応えのほうはいかがでしょうか」
「……完全なものを作るのはちょっとー……無理ですかねー……。時間をかければいけるかもー……ですがー……」
　カメラの映像や内部システムの情報から地図を作る目論みだったが、廃棄されてから長いこともあって操作を受け付けないカメラが多数。また、内部システムに格納されていた施設の詳細情報もいくつか欠損していた。それでももう少し作業を続ければ不完全な部分も補完できるというのが澪の見立てだったが、今はあまり時間に猶予がない。
　澪がデバイスの操作を一段落させてたん、たん、たんとキーでリズムを刻む。すると仲間の猟兵たちのそばにそれぞれ、フロアマップのような小さな画面がブンと音を立てて出現した。
「しかし十分でございますね。しるべが何もないより余程頼りになることでしょう」
　澪が作った地図に目を通すと、ソフィアは力強く頷いた。
「そう言っていただけるとありがたいー……ですねー。……ところでー、さっきのねこはー……？」
　澪が言及したのはソフィアと戯れていた黒猫である。ソフィアに懐いていたようで、ここに来る途中までずっとついて来ていたのだ。
「安全な場所に置いてまいりました。流石にここまで連れて来るのは、かわいそうでございますから……」
「あー……ですねー……」
　口惜しそうな表情を見せるソフィア。本当に、心の底から残念そうだった。

　コンテナ施設の攻略が始まる。
　二人の猟兵はそれぞれ手駒として機兵とガジェットを用意していた。施設外からリモートで作業を行うのは難しいという判断だったため、琥珀金のエレクトロレギオンが小型のガジェットを搭載する形で迷路を進むことになる。
「猫たちも中にいるはずなのでー……気を付けつつ慎重にー……いきましょー……」
「拝承しました」
　澪が作成した地図から進路を決定し、照明の落とされた暗い施設内部を機兵たちが先行する。二人の背丈よりはるかに高いコンテナの壁が与える圧迫感はなかなかに強い。
　二人の端末にはレギオンに搭載されたガジェットから一定間隔で情報が送信されてくる。施設の構造情報や、罠と思しき怪しい反応についてなど。その度に二人は地図情報を最新・最適化し、反応の解析を行っている。
「前方Aマーカー……小型爆弾。地下深くまで吹き飛ばすにはちょーっと物足りない量ですねー……」
　おそらく本命の爆弾ではなく、センサー式の対人トラップなのだろう。
「解せませんね。時限爆弾への誘爆は危惧していないのでしょうか」
「もしかすると、コンテナが盾になっているのかもしれませんねー……。誘爆させずー……侵入者だけを排除できるようにー」
「そのように計算されてコンテナも配置されていると？」
　歩きづらいコンテナ迷路は二重の侵入者対策。ソフィアは猫たちが罠に巻き込まれていないかと不安になったが、今のところ対人爆弾が作動した形跡は見当たらない。ほっと胸を撫で下ろした。
「とりあえず取っ払ってしまいましょうかー……これも邪魔ですしー……」
「そうですね」
　ハッキングによって二人は対人爆弾を解除していく。澪が電脳魔術用のデバイスを操作する一方で、ソフィアが使用するのは猫尻尾に偽装された独自のハッキングツールだ。澪は時折興味深そうにふらふら揺れる猫尻尾へ視線を送っている。
　対人爆弾を解除した後、再び進行を再開すると新たな反応をガジェットが検知する。内容物の解析結果としては先ほどと同じく爆弾のものだが、電脳魔術の演算から予測される被害規模は、先ほどの対人爆弾より桁違いに大きい。
「これが本命ですかねー……」
「周囲の警戒へ力を割いている分、核の仕掛けはあまり凝っていないようですね」
　二人は頷きあうと、念のためレギオンのマニピュレーターを介して時限爆弾のボタンを操作する。
　赤く点滅していたランプがふっと消え、ガジェットが伝える危険レベルも大幅に低下した。

　重なるふたつの安堵の息。
　まずは、ひとつ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●邂逅
　先行した二人と別ルートで進んでいたのは、フォックスファイアを明かりの代わりに使っている幽子である。暗い廃倉庫で妖力からなる青い炎をお供のように連れ歩く彼女の姿は、どこか怪談めいた雰囲気を漂わせていた。
　彼女も澪が作成した投影地図を視界のそばに伴わせている。
（まぁ、しらみつぶしにゆきましょうか。足元に気を付けつつ……）
　青い炎がコンテナに挟まれた細い道を照らす。その先にあったのは件の対人爆弾だ。一瞬考えを巡らせた幽子はそれを放置して迂回の選択をとることにする。
（ほら、隠したいモノって、人の死角になる所とか、目の付かないとこにありそうですし）
　その気になれば狐火をぶつけて無効化する手段もあったが、これ見よがしに“番兵”を置いてある様がどうもわざとらしく見えてしまった。いやらしい対策を取りたがる今回の犯人のことだ。本命はもう少し工夫するのではないか？
　破損したコンテナの欠けた穴へ狐火を向けたところ、ナァ、と中から鳴き声が響いてくる。暗闇の中で青いゆらめきに照らされているのはふたつの小さな目。身体の輪郭ははっきりと認識できないが、ここをねぐらとする猫の一匹だろう。逃げる気配はない。
「……ココをお家にしている猫さんなら、いつもと違うものに気が付いてないでしょうか？」
　膝を折って視線を猫に近くする。外の探索時と同様に猫との対話を試みようとしていた。
「何かしらないかにゃ？」
　こてんと首を傾げる幽子。暗闇の中で猫の目がぱちぱちと瞬いた。
　フナァ、と気の抜けるような返答が響いて猫の気配が消失する。その後わずかに聞こえた足音が遠ざかっていったため、幽子は無視してそのまま居なくなったのかと消沈しかけた。が、ふたたび気配を感じて顔を上げ、考えを改める。
　コンテナの上だ。屈んでいる幽子より遥かに高い位置から猫の影が彼女を見下ろしていた。もう一度フナァと鳴いて、コンテナの縁に立ったままどこかへ歩いていこうとする。その方向は地図が示す進行ルートのひとつだ。
　影を追って幽子が辿り着いたのは、正面入口とは逆側の倉庫の端だった。使い道の無さそうな廃材などが無造作に積んである。もしや、と思い積んであった廃材をいくつかどかしてみると、赤いランプが点滅している時限爆弾が出現した。
「ぽちっと」
　あらかじめ聞かされていた通り、ボタンを押すだけ。それだけで爆弾は完全に無力化した。
「ありがとにゃー」
　猫の影はすでに見えないが、フナァ、とだけ小さく幽子の耳に届いた。
　
　これでふたつ。

成功 🔵​🔵​🔴​

●視野／迷彩
「罠は厄介だな。視認できるものならいいけれど」
　手に持ったランタンでそばのコンテナ壁を照らすねも。浮き出た錆がぼんやりと見えるのみで特筆すべき異常はない。多少暗視の利くルイーネはランタンの範囲から漏れる暗がりをカバーするように視線を動かしていた。
「センサー式の小型爆弾、と情報共有がありましたね」
「爆破事件の犯人らしいと言えばらしいけれど……物騒だな」
「ええ、それで猫たちが怪我をしてしまうのは堪え難い。彼らの楽園を守るためにも、爆弾はすべて取り除かなくては」
「うん。ひとの営みもねこの営みも、ちゃんと守るとしよう」
　強い意志のもとに目的が合致したことを確認した二人の猟兵は、視線を交わして頷き合う。
　一人の犠牲者もなく、必ず。
　しばらく迷路を進んだところで彼らもまた共有のあった対人爆弾と遭遇した。これ見よがしに進路の中央で立ちはだかっており、いかにも分かりやすく罠という風体だった。
「隠す気がないね。通せんぼといった佇まいだ」
「随分杜撰な置き方ですね……それとも他の意図があるのか。少し“視て”みます」
「？　みる？」
　ルイーネは眼鏡のフレームに指を添えて、宣言通りに罠とその周囲を眼鏡越しに“視る”。ねもには分からなかったが、この時ルイーネのかけている眼鏡では内臓されたサイバーアイ機能が有効になっていた。
　レンズに映る視覚情報の解析が開始される。
『生体反応――無し』
『温度解析――熱源反応２――閾値超過無し。異常無し』
『記憶済危険物照会――登録有り。該当数２。詳細情報を表示します』
　細やかな文字情報が踊るルイーネの視界で二つの物体にフォーカスが当たり、赤字で強調表示される。一つは目の前の小型爆弾。もう一つは右横のコンテナ壁中央に警告の矢印が向いている。
「そこですね。ネモ、明かりを」
「こうかな」
　ねもは言われるままにランタンをかざしてコンテナの壁を照らした。一見してもよく分からなかったのでじっと観察してみると、示された位置にわずかだが不自然な出っ張りがあるのを発見する。ほんの少しランタンの光で影ができていた。
　壁に貼り付けられた異物がカモフラージュされているのだ。
「これもセンサー式の爆弾ですね。目立つほうに気を取られてうっかり通ろうとするとこちらに刺される……と」
「へえ、よく分かったものだね」
「実は高性能なんですよねえ、これ」
　鎖付きの眼鏡を指で軽く押し上げてタネを明かしてみせるルイーネ。ねももそれで何か仕掛けがあったのだと察し、感心したような表情を仲間に送った。

　その後、二つの爆弾が仕掛けられた道は無理して通ることもないだろうとの判断で迂回することになった。
「具体的なリミットは不明とのことでしたが、早く片付けてしまいたいものです」
「そうだね。先ほどのようなものがあるなら、本命も迷彩を纏って隠されているのかもしれない……」
　仲間が罠を看破したことで視野が広がったような感覚を得たねもは、超能力者としての一面を研ぎ澄まして周囲に存在するすべてを“視る”ように注意を配っている。
（迷彩……隠す。何かに……どこかに……）
　ナァオ。
　鳴き声だ。かなり近い。
　というか足元だ。いつの間にか、ルイーネの足に茶トラの猫が身体を擦り付けにやって来ている。
　ねもは前に目を向けていたので後ろから来ていた、いや、ついて来ていたのだろう。
「ああ、こら。奥はまだ危険だから行くんじゃない」
　足を動かすとそのまま纏わりつきながらついて来ようとする茶トラに、ルイーネは妖狐の力を色濃く発現させて追い払おうとする。それで萎縮してしまったのか茶トラは後ずさり、穴の開いたコンテナの中にぴょいと飛び込んでいった。
　目論み通りの結果だがどこか切なげな表情を浮かべるルイーネ。一方でねもは、茶トラが飛び込んでいった穴を真面目な顔でじっと見つめている。
　そしてふいに目を閉じた。するとルイーネは、そばにいる少女が何故か突然“大きくなった”ように錯覚する。
　ねもが発現させている不可思議な力――彼女の身体を覆っているサイキックエナジーのプレッシャーが、ルイーネに彼女を大きく見せているのだ。
「……猫たちはコンテナの中をねぐらにしているのかな」
「うん？　どうでしょう、倉庫内の床で丸くなっている猫は見かけませんでしたが。まあ、中の方が暖かいでしょうしね」
「成る程」
　サイキックエナジーの発露状態が三十秒ほど続いたところで、ねもが放つ重圧が消えた。ふたたび目を開く。
「あった」
「あった？」
「コンテナの中で猫たちがくっついて眠っていた。何匹も。とてもふかふかで柔らかそうなまるで猫の絨毯……いや、それはさておき。時限爆弾がね、その猫の絨毯に埋もれるように置いてあった。あの集まりようは……おそらく、爆弾が熱を発してて温かいんじゃないんだろうか」
　サイキッカーの超能力を駆使してコンテナ内の探知を行っていたらしい。
　それを聞いてルイーネは先ほど、サイバーアイで対人爆弾二つに熱反応が出ていたことを思い出す。閾値を超えていなかったためそれで異常とは判定されなかったが。
「猫たちの中に隠していたということですか？」
「犯人としてはコンテナの中に隠していただけで、猫たちに埋もれていたのは偶然の産物だろうね。そのお陰で少し探しにくかった。壁迷彩ならぬ猫迷彩というわけだ」
　コンテナ内の探知を試みたのは茶トラが飛び込んでいったのを見たためだ。しかし対人爆弾の経緯から探索の発想を得なければ、猫たちの中に埋もれていた時限爆弾は見逃していたかもしれない。
「何にせよ、見つかったから良かった」
「ええ、何よりです。それで爆弾はどうしましょうか」
「うん。もう処理したよ」
「えっ」
　思わずルイーネから声が漏れる。ねもによると、念動力によって船外への強制転移を行ったらしい。ついでに適当なスペースデブリにぶつけて無力化させたという。
「そんなことまでできるのですか？」
「物が小さくて、そんなに遠くもないからね」
　それでも今いる廃倉庫から船外に出るまで直線距離で1kmは下らないはずだ。涼しげな顔でそう言ってマップに“処理済み”のチェックを入れるねもに、ルイーネの見開いた目はしばらく戻らなかった。

　みっつめ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●強行探索
「こら、肩に飛び乗るな……ああ、面倒だ」
　視界の端に影が見えたと思ったら目にも留まらぬ勢いで飛び乗ってきた。浮遊する機械生命体、ルイス・アケーディアは困惑しながら、何とか元気な三毛猫を地面に下ろそうとする。口ぶりとは裏腹に猫を取り扱う動作は繊細で、小さな生き物の身体を十分に気遣っていた。
　何度目かのクライミングを諦め大人しく地面に降り立った三毛は、その場から去ろうとしつつも名残惜しそうにルイスを見つめている。ルイスは視線でいいから来るな、と最後の念押しをして進行を再開。ようやく人心地ついた。
　二本の足を持たず、代わりに岩石状の外殻を下半身に備えるルイスは、自身のユーベルコード『燦爛たる宝物庫の管理者』を利用することで移動を行っている。その能力の実態は『自身の肉体と』『周辺に存在する金属を含む物体を』『浮遊させ操る』こと。
　倉庫の床に触れることなく弾のように疾駆するルイスの移動方法は、徒歩での移動よりも遥かに静音性が高くスムーズだ。しかもルイスは仕掛けられている罠を“掛かってから”対処する前提で堂々と道の真ん中を突き進んでいる。止まらず、迷うことのないルイスの進行速度は、侵入した猟兵たちの中においても群を抜いていた。
　ただし、他種族に比べると体格が一回り大きいウォーマシンだったため、狭い道の通過には難儀しているようだった。
「狭い通路に、ちょこまか動き回る猫に……ええい、まどろっこしい」
　下半身外殻のサイズが道幅をオーバーし仕方なく迂回路を選択する。道を突き進む途中で時折猫らしき影が視界に映ることもあった。巻き込まれたらどうするというのだ、まったく。
　今日何度目かの対人爆弾を視認する。ちょうど処理に使えそうなコンテナがそばにあったため、能力を使い浮かせて引っ張り出し、爆弾の上で能力を解除。潰される形になった爆弾は、コンテナの下で音と爆風を生んで無力化された。
　用の終わったコンテナを元の位置に戻そうとしたところで、横倒しになったコンテナの上側に目が向いた。何かがある。ルイスは移動スピードはそのままにふわっと飛んで、コンテナの上に浮いたまま“着地”した。
　間違いない。目当ての時限爆弾だ。
「捻りのないところに置いてあるもんだな」
　特に偽装もなくコンテナの上にただ置いてあるだけであった。とはいえ、背丈がありかつ浮くことで視点が高くなっていたルイスがこのコンテナを引っ張り出さなければ、発見は難しかったかもしれない。
　ルイスは爆弾を浮かせて、空中で停止ボタンを押下した。

　よっつめ。

●猫の細道
（わー！ボクこんなの初めてみるよ！）
　コンテナの立ち並ぶ複雑な迷路の様相にヴァロはむしろ興奮していた。小さなシャーマンズゴーストである彼からすれば他の猟兵よりずっと巨大な壁に見えたことだろうが、ヴァロにとってはそれも興奮材料の一つのようだった。
　アトラクションを前にする子供のようにはしゃぎかけたところで、はっと我を取り戻す。
（うん、爆弾だよね、わかってるよ～）
　ヴァロはその小柄さを利用して狭い通路やコンテナ内部などの探索を担当していた。侵入前にコアマシンの動力ラインについて聞き込みを行っていたが、芳しい成果は得られず地道に探すことにしたようだ。
　コンテナの上から一匹の猫がふいに飛び降りてくる。ヴァロをちらと見ただけでコンテナの隙間へのたのたと去って行こうとするが、なんとなく気になったヴァロは後を追うことにした。通路とも呼べない細長い道を十分に注意しながら進む。手に持っている杖で進行方向の床を念入りに叩きながら、ちょこちょこと小刻みに足を動かしていた。
　やがて少しだけ広い道に出る。一息ついてよしっと気合を入れなおすと、再び猫の後を追う。
　突然、猫がぴょいと跳ねた。まるで前にあった何かを避けるように。
　ヴァロが杖で軽くそこを叩いてみると、床とは違う固い感触があった。踏むことで作動する爆弾、すなわち地雷である。他の猟兵が見つけたセンサー式の対人爆弾とはまた種類が異なるものだ。
　猫を真似てぴょいと跳んで回避するヴァロ。おそらくあの猫は安全な道を知っているのではないか。
　その後も猫を追う過程で、猫がぴょんと跳ねたり、不自然な遠回りをしたりする場面がいくつかあった。ヴァロは寸分の狂いもないよう猫の模倣を試みる。ぴょんと跳ねたり、まっすぐ歩きかけて慌てて遠回りしたり。
（罠が多いって事は、こっちに来てほしくないって事じゃないかな？　近くに爆弾を隠してるかもしれないよね！）
　爆弾に近付いている実感を得るヴァロ。そんな中、追っていた猫の横にあるコンテナが目に入った。
　ぎょっとする。見つけたのは偶然であったが、そこには偽装されたセンサー式対人爆弾が貼り付いていたのだ。
（そ、そっちいっちゃ危ないってば～！）
　猫の身を案じる余り最短距離で駆けつけようとする。
　かちっ。
（……かち？）
　足裏の危険な感触。
（きゃー！！！）
　反射的にヴァロは飛びのいた。すごい勢いで飛びのいた。
　その勢いが幸いしたのか、パンという軽い音とともに地雷が作動してもヴァロにダメージはまったくなかった。どうやらセンサー爆弾に比べるとかなり威力は低めであるらしい。その欠点を数でカバーしていたのだろう。
　ほっと胸を撫で下ろすヴァロ。ただし飛びのいた拍子に何かに頭をぶつけたので、そこがほんの少しだけ痛かった。
（……って、あれっ。これ！）
　何にぶつけたのかと後ろを確認してみると、それは偽装された時限爆弾だった。コンテナ壁の地面に近い部分に貼り付いている。
　ヴァロより視線の高い他の猟兵たちでは発見が難しかったかもしれない。怪我の功名だった。
　念のため廃倉庫の外まで時限爆弾を持ち出すと、ヴァロは手順通りボタンを押すことで爆弾の解除を行った。

　ちなみに猫はセンサー爆弾に引っ掛かることなく、無事だったという。

　いつつ。
　――これで、最後！

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

第3章 ボス戦 『帝国エージェント』

POW   :    ゴールドアイ 【金色の瞳】に覚醒して【歴戦の白兵戦型ウォーマシン】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。 SPD   :    仕込み帽子 自身が装備する【鋭利な刃を仕込んだ帽子】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。 WIZ   :    ハッキング 対象のユーベルコードに対し【電脳魔術のハッキング】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●機械男と
（あああ……！？　どういうことだよクソッタレ……！！）
　廃倉庫に無数にあるコンテナの中のひとつ。その陰で、コート姿の機械男――今回の黒幕である銀河帝国のエージェントが、苛立たしげに手持ちのデバイスを見つめていた。廃倉庫への侵入者を即座に検知した男は、猟兵たちに見つかることのないようここでずっと身を潜めていたのだ。
　男が持っていたそれは、時限爆弾の管理端末である。画面上では仕掛けたはずのすべての爆弾がオフライン状態と表示されていた。
（さっき仕掛け終わったばっかりだってのに……対応が早過ぎる！　……猟兵どもか……！！）
　彼に人の口があれば悔しげに歯を噛みしめていたことだろう。しかし機械としての性質ゆえか、すぐに冷静になるとプランB、爆破計画失敗時の脱出行動に移ろうとする。
（まだあいつらは俺に気付いてねェはずだ……このまま隠密状態を維持して外に抜ければ……）
　気配を殺したまま裏口に向かい、何者にも邪魔されず廃倉庫を脱出する。
　はずだった。

　うにゃあお。

「……！？」
　思わず振り向くエージェント。
　そこにいたのは一匹の野良猫である。
　威嚇している風でもなく、敵意もない。

　うにゃあお。うにゃあーお。

　ただ、誰かに何を伝えようとしているのか。
　一度では終わらず、猫は何度も鳴き続けている。

「馬鹿てめェ、うるせぇんだよコラ……！？」
　“静かに”させようとエージェントが猫に近付いて手を伸ばしかけた時、コンテナ迷路の方から迫り来る気配を感じた。
　気配の数は多く、しかも早い！仲間と声を掛け合いながらエージェントのもとへ迫って来る！
「クッソ馬鹿猫が……！！」
　結局エージェントは猫に何もせず、慌てて廃倉庫から逃げて行った。

●チェイス
「ああ――チクショウ、クソッタレ、クソッタレ……！！」
　倉庫街の道を全力で走る男。緊張と動揺で呼吸が乱れることがないのは機械ゆえの幸いだった。
　焦燥は胸中でのみ。身体の動きは最適形を維持して、迫り来る“危機”に捕まらぬよう全身全霊で逃げている。

「チクショウ、クソッタレ！！　捕まらねぇぞ……！！
　“どんな手を使っても”！！　俺はてめェらから逃げ切ってみせる！！」






●追跡行
「いい子ですね。後は任せて、仲間の元へ戻っていなさい」
　エージェントの存在を知らせてくれた小さな白猫。軽く頭を撫でて微笑んでみせると、ルイーネは他の猟兵たちと共にエージェントを追って廃倉庫を脱出する。
「猫のおかげで無駄に探し回らずに済みましたね」
「そうですねー……あとはしっかり、やっつけるだけ」
　人の姿のまま獣を想起させるフォームで倉庫街の道路を疾駆するルイーネ。その彼に並びながら澪は変わらずマイペースな態度で応じている。のんびりとした所作を維持しつつも距離が離されていないのは、澪の腰から生えている優美なオラトリオの翼ゆえだ。羽搏かずとも広げるだけで不可思議な浮力と推進力を澪に与えている。
　一方、形はルイーネと似ているが、どこか別種の隠密めいた静かな足取りで並走する猟兵がいた。幽子である。
「あらあら、まぁまぁ……逃げてるんですか、そうですか」
　咎人殺しの血が掻き立てられるのか、歌うように独り言ちながら頬を綻ばせている。
「逃げてる人って追いかけたくなるんですよね。狐ですし、動物ですから」
「ええ、分かる気もします。――とにかく見つけた以上、決して逃しません」
　微笑む二匹の獣。
　二人とも笑ってこそいたが、その表情はどこか攻撃的で、凄味のあるものだった。
「……がんばりましょー、おー」
　そして持ち前のペースを崩さない澪。
　三者三様の姿勢を見せながら、先を行くエージェントの後を追う。

「発見」
　そう言ってルイーネが懐から愛用のハンドガン、GB-10を抜いた。
　エージェントを捉えたのは倉庫街を抜けて市街地に入ってからだった。浮いて移動しながら手持ちのデバイスでエージェントの逃走経路を分析していた澪によれば、ある程度往来のあるルートを多く選択している傾向があるという。予知を信じるならおそらく“嫌がらせ”に使うためだろう。
　橋代わりにもなっている大型オートウォークを渡った先は商業施設の立ち並ぶ広い通りだった。宇宙船の中枢からは離れた区画だが、それでも人は多い。猟兵たちの視線の先に、人を突き飛ばして進路を確保する必死なエージェントの姿があった。
「まだ距離がありますね――ミオ」
「……がってん、です」
　澪がデバイスのキーを叩く。電脳魔術によって澪の前面に投影された周辺マップのある地点に、赤い光が点った。
『隔壁強制作動準備――――――完了。実行します』
　その機械音声から数秒後、商業施設一帯に非常事態宣言のアラートが鳴り響いた。そしてエージェントが逃げる先の路面から、重々しい作動音とともに３０メートルほどの鉄の壁が急速に飛び出してくる。通りを分かつように端から端まで壁は生え、あっという間にエージェントの行く手を阻んでしまった。
　このように、ここまでエージェントに追い付くことができたのは主に澪の功績である。宇宙船内の設備管理システムにハッキングすることで逃走経路の誘導、および妨害を行っていたのだ。
　アラートに隔壁の作動、突然の非日常に通りは混乱に包まれる。そして動揺しているのはエージェントもまた同じようだった。リアクションが取れずにただ壁を見つめている様子をルイーネが確認する。
「袋の鼠ですね。では、始めましょうか」
「ふふっ……さてさて、鬼は何人でしょう？」
「……私はうしろでー……」
　号令にあわせて走り出すルイーネと幽子。澪は琥珀金のエレクトロレギオンを召喚し、一般船員たちに戦闘の被害が及ばないよう散開させて護衛にあたらせる。
「クソが……クソが、クソが！！　もう追い付いてきやがった！！」
　距離を縮めつつある二人の猟兵。目に見えて憔悴しているエージェント。前に猟兵、後ろに壁。前後に逃げ場がないと判断した機械男は、横に見える商業施設内部に活路を求めて飛び込んでいこうとする。
「逃がしませんよ、捕まえてあげます」
　幽子がたおやかな指から伸びた赤い線を建物の方へと走らせる。“張った”手応えを感じると、機械男が狙った位置に来るのを待ってピンと線を弾いてみせた。
　それは蜘蛛の糸。張れば必ず標的を捕える、彼女の得物。
「がぁっ――！？」
　幽子が糸を弾いたタイミングで前に転がる機械男。足に食らいついた彼女の糸が振動することで凶器となり、エージェントの足へとダメージを負わせたのだ。
　糸を無理やりちぎりながら立ち上がると、エージェントは機械の面をぎっと幽子たちへと向けてきた。その顔に人の表情は無いが、男の身体からどす黒い感情が発せられているのが肌越しに伝わってくる。
「テメェェェ……調子に乗ってンじゃあねェッ！！」
　男は被っていた中折れ帽を手に持って空中を横に薙いでみせた。すると手品のように帽子の分身がいくつも生まれ、それぞれが仕込まれた刃を露出させて凶悪な回転を始める。そしてエージェントの念力によって空中を舞いながら、周囲の動くものすべてを標的として襲い掛かり始めた。
　動くものすべて。そこには逃げ遅れている一般船員たちも含まれている。
「澪さん！　ルイーネさん！」
「はーい……」
「ええ」
　幽子はどこからか球体関節のからくり人形・壱の子を取り出すと、それを盾として刃帽子の回転を難なく受け止めた。澪はエレクトロギオンを動員させて幽子たちから遠い一般船員たちの壁となるよう指示。
　そして追撃を目論み待機していたルイーネは、ハンドガンを構えて一呼吸。
　銃声が連続する。
「……！？」
　やがてルイーネが銃口をエージェントに向け直すころには、彼の周囲に乱舞していた帽子はすべて“ぺったりと”路面に伏して回転を停止していた。そのすべてにきれいな風穴が出来上がっている。
　解せない、といった風の機械男。あの帽子は念力によって動かしているのだ。ただ銃で撃たれただけで止まることなどないはず――。
「ただの実弾じゃありませんよ」
　ガン、と槌で鉄板を叩くような音。
　幽子の糸が絡みついていたエージェントの脚に、ルイーネのユーベルコード『支配者の弾丸』が撃ち込まれる。
「穿ったものを何倍にも重く縫い留める――重力の楔です」
「が……っ！！」
　撃たれた脚側の膝をつくと、路面が重量に耐え切れず砕けてしまう。
　何だこれは。重い。重い！！
　精霊の力によってもたらされた重力干渉。経験したことのない違和感と“重み”に、男はひたすらに困惑していた。
　撃たれた箇所のダメージは小さい。痛覚のない機械の身体は無理も利く。この程度の損傷であれば稼働に問題はない。ないはずなのだ。
　何も問題はないなずなのに――何だ、この“重さ”は！！
「いい加減観念なさい、あなたのお粗末な爆破計画は阻止しました。あなた自身も、ここで仕舞いです」
　眼鏡のレンズ越しに銀の眼光が男を射抜く。ルイーネはハンドガンをもう片方の脚に照準した。
「それとも、まだ何か隠し玉がありますか」
「…………！！！！」
　男が無音の声をあげる。
　それはおそらく、屈してなるものかという不退転の咆哮だった。
　突如として男の上半身が肥大化し、コートの袖が破裂する。丸太のように大きくなった剥き出しの機械の腕は、重力干渉が残る片方の足を掴むと、力任せに膝から下を引きちぎった。
　間もなく上半身と同様、強化変形を始める下半身。驚くことに引きちぎった脚の再生も同時に行われている。
　男の変化を見て発砲するルイーネと糸を走らせる幽子。しかし弾丸は巨体に似合わぬ俊敏さで避けられ、糸は巨大な腕で力任せに無効化された。
「……ヤラレテ……タマルカ……！！」
　変形を終え何倍もの体積となった男は執念の声を漏らすと、出力の増した両足で商業施設へと飛び込んでいく。
　ルイーネが弾丸で進行方向への牽制を行うが、巨大化したエージェントは臆した風もなく、そのまま商業施設の奥へと消えていった。
「……逃がしましたね」
「ちぎった脚はまた生えちゃいましたねぇ」
「痛手は与えることができたー……と思いますよー」
　レギオンに一般船員たちの避難誘導を指示していた澪が、二人の傍にやって来ていた。
「あの形態は切羽詰まった証拠でしょうしー……再生も含めて、あれだけの力を使うと消耗も半端ないかとー」
「確かに、二度は使えない奥の手のようにも見えました。もう一息といったところでしょうか」
　他の猟兵たちもエージェントを追跡しているはずだ。
　戦況と逃走経路の予測を仲間たちに連携し、三人もまた追跡を再開した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●屋上の決戦
　猟兵たちに追い立てられた結果、エージェントが辿り着いたのは商業施設の屋上だった。建物はすでに猟兵たちの手で封鎖されており、外に逃れることができず、唯一進むことが許されていたエスカレーターを蜘蛛の糸を伝うように上ってきたのだった。
　宇宙船内の居住可能区域、そのドームの端まで一望できる高層ビルの天辺。そこで待ち受けていたのは二人の猟兵。武装したソフィアとねもである。
「ようこそ」
「……！？」
　ねもが軽やかに告げて指を弾き鳴らすと、エージェントの後ろでどかどかと物が落ちる音が連続する。あらかじめ空中に浮かしていた積み荷の念動力を解除し、エージェントの背後を障害物で埋めてしまった。退路を断ったのだ。
「おや、よそ見していていいのかい」
　エージェントが気を取られた隙にねもが両掌に充電したサイキックエナジーを放出する。疾走する白い電熱のジグザグがエージェントの背後を襲い、袖の無くなった衣類ごと機械の身体を沸騰させた。
「ガァァーッ！！」
　四肢を痙攣させるエージェントにねもはもう一度指を弾き鳴らした。退路を塞いでいた積み荷に再度念動力を働かせ、隙だらけのエージェントを岩石で殴るように何度も何度も打ち据える。無慈悲な追撃である。
「――帝国の手先が。ここから逃げ切れると思うなよ」
　常の表情と声の調子をそのままに、激情の言葉を吐きつけるねも。
「……クッソッ……がァ……ッ！！」
　電撃と殴打で深い損傷を負い、身動きのとれないエージェント。先ほどの猟兵たちとの戦闘で巨大化した時のようなパワーはすでにない。それでも抵抗を諦めずに反撃を試みる。
　殴打が止んだ頃合いを見計らって帽子を手に持って横薙ぎ。生まれる帽子の分身たち。刃を生やして回転を始め、無数の凶器が二人に襲い掛かり始める。
　しかし、飛来する脅威を正面から撃滅する暴力の嵐があった。
　ソフィアの持つ、少女の体躯には無骨過ぎるガトリングガン。『蒸気駆動式機関銃・冥土式』による集中砲火である。
　蒸気を噴き出し薬莢を吐き捨て轟音の咆哮をあげる。鉛の雨が頼りない帽子たちの身体を一瞬で布切れ以下に散らせてゆく。
　嵐が止んだ後には何もない。帽子の残骸と言えるものすら、何も。そこにあるのはガトリングガンの熱と、静けさのみだった。
「猫に――小さな生き物に手を出す輩に、かける情けはございません」
　メイドたる者、常に優雅たれ。
　そのような言葉がソフィアの胸中にはあった。しかし、沸き立つ怒りが今はそれを許さなかった。
　“ウォームアップ”を終えたばかりの得物の砲身を、這いつくばることで弾丸を回避していたエージェントへと向ける。
「スクラップにして差し上げましょう」
　そこでエージェントはようやく戦力分析を終了した。
　勝てない。
　周到に整えられた戦場。ありあまる火力。先ほどの戦闘で疲弊し手札の尽きた己。戦力差が過ぎる。
　自棄になって相手をしかけたが――こいつらには何をどうしたところで勝てる見込みがない！
「グゥゥ……ッ！！」
　逃げられる見込みすらなかったが、正面から戦うよりは可能性があるように思えた。
　電撃で麻痺したいまだ満足に動かない身体に鞭をうち、必死に積み荷をかき分けて来た道を戻ろうとする。
「逃げ切れると思うなよ、と言ったはずだ」
　再度の電撃。
　ソフィアの手番で“充電時間”が長かったせいか、一度目よりも幾分か威力が増していた。
　動ける余地もなく、完全に四肢の動作が麻痺したエージェントに、ソフィアが召喚した多脚ガジェットが突貫していく。
　ずたぼろの機械の身体が、積み荷の海に沈んだ。
「このまま機能停止するまで、お相手していただきます」
「……！！！！」
　再度、機関銃の咆哮。
　ソフィアが弾丸を撃ち尽くすころには、“銀河帝国のエージェント”の名残と呼べるものすら、そこには存在していなかった。

「終わりましたね」
　ふう、と一息つくソフィア。戦闘中の猛攻ぶりが嘘のような爽やかさだった。
「結局、懸念していたほど一般の人たちに手は出さなかったね」
　仲間たちからの情報共有には、猟兵と一般船員たちへの無差別攻撃を図ったとあったが、その一度きりだった。
　いざとなれば敵の射線上に割って入ってでも被害を阻止するつもりだったねも。猟兵たちの追跡が速過ぎたために、卑劣な計略を使う暇も無かったのだろうか、と考えを巡らせる。
「死ななければ、まあ安い……けど、怪我が無いに越したことはない。比較的穏便に済んでよかったよ」
「ふふ、とても頼もしくございました」
　花のように笑うソフィアに、ねもも微笑んで応えてみせた。
「さてと、帰る前にぼくはまた廃倉庫に寄って行くけれど。君も来るかい？」
「まあ！　でしたら私もお供させていただきます。もう少し、もう少しだけあのもふもふを楽しみたくありますので」
「けっこう倉庫に行くまで楽しんでなかったかな」
　武装を解いて雑談を交わしながら、二人の猟兵は屋上を後にする。

　宇宙船と、それから猫たちの危機は去った。
　今後何事もなければ、彼らはあのねぐらでのんびりと暮らし続けることだろう。
　機会があればまた会いに来てみるのもいい。
　きっと君たちを迎え入れてこう言ってくれるはずだ。

　うにゃあお。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年02月01日