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華やかなり船上の龍よ

#UDCアース

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#UDCアース


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 海は、在ることを知っている。
 海は、通じていることを知っている。
 嗚呼、いまこそ。
 天の雷鳴を降ろす時がきたのだ――。
「……あとで呼びにくる。それまで、いいこにしていなさい」
 穏やかな声色で、扉をしめる。
 外と、内。
 狂気に歪んだ微笑みと、不安に揺れた瞳が、最後の隙間でかち合っていた。

 背後で、UDCアースの風景が揺れる。
 その男、扇原・アイスケ(ただの人間の死霊術士・f01817)は、やぁやぁ愉しげに手招いて、周囲の猟兵達を集めると、
「神格級のUDC――こいつぁは雷神のごとき龍のオブリビオンだ。その、降臨の兆候を『視』ちゃったんだよねー! なんとまぁ完全な降臨まで待ったナシの切・迫・状況!」
 どうにも、切迫さには大きく欠ける軽薄な口調だ。それでも扇原は構わずに、大仰な身ぶりと歩き回りで、話を続けた。
「呼び出そうとしてる何者かは、これから儀式の仕上げをしよう、ってとこらしい。さて、その喜劇の舞台となりますのは――豪華客船リューグウ号!」
 全長200mを越える、豪華客船だ。11階建てのビルに匹敵する階層。赤絨毯の螺旋階段がうずまく、広々としたラウンジ。どの客室も、高級ホテル同等の快適空間が約束されている。ショップ、カフェ、バーはもちろん、シアターにサロン、ダンスホール、プールにテニスコートまで――まさに、娯楽を詰めこんだ夢の船舶。
 今回、その船を舞台にして、企業やセレブリティが集まるナイト・パーティーが開催されているそうだ。著名な楽団の演奏会、画家たちによる新作のオークションなども行われる。
 しかし、そこに集った乗客、乗組員あわせて約1000名。そのうちの誰が召喚者であるか、予知をもってしても定かではなかった。

 けれども扇原が、まず探してほしいんだけど、といったのは、
「UDCを降ろす先となる『だれか』が用意されている、みたいでさ」

 それは、UDCの『依り代』となるもの。
 人の感覚には不確かで。手の届かない高次元の存在を、この世俗に繋ぎ止めるための人間(イケニエ)だ。
「降臨まで待ったナシな以上、せめて完全体でのご登場はゴメンこうむりたいトコだからねぇ。どのタイミングかはわからないが……儀式の仕上げが行われる、その前までに。『依り代』にされようとしてる誰かさんを、まずは見つけだしてくれるかい?」
 怪しい場所をあたってみるか?怪しい人物から追ってみるか……どのような手段をとったものか。
 豪華客船での、膨大な捜索だ。扇原は、ちょっと小首を傾げて、
「んーそうだなぁ……予知でもハッキリはしなかったけど。用意された『依り代』さん、拘束されてるってわけでもなく。でも、どっかの部屋に、軟禁くらいはされてそうな印象だった……かなぁ?」
 船の、どこかにいる『依り代』。見つけたならば、悪意あるその場所から、なんとか引き離さなければならないだろう。
 ……だが。それを成し遂げたとしても。神格級のUDCの出現は、もはや避けられない段階まで進行している。不完全であろうとも、現れたならば、放っておくわけにはいかない。
 豪華客船へは、人類防衛組織【UDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)】の人員もひそやかに配置される。万が一の時には、彼らが乗客たちの避難誘導や情報統制を行ってくれるはずだ。

「そ。なのでどーぞ憂いなく。君たちならば、きっと『救い出して』くれることだろう!あぁっ!信じているともさ!――それでは。猟兵諸君らの健闘を祈ろう! いってらっしゃーい」
 扇原・アイスケは、狂喜高らかな声をあげたとおもえば途端、平凡に手を振ってみせて、猟兵たちを送り出すのだった。
 転送する――華やかな客船へと、猟兵たちは乗り込む。


ともすがらす
 ともすがらすと申します。
 本日はご乗船、誠にありがとうございます。
 豪華客船リューグウ号での快適で狂気なひと時を、みなさまどうぞお過ごしくださいませ。
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第1章 冒険 『光輝の下にある闇』

POW   :    会場のバックヤードを捜索する

SPD   :    招待客や従業員の話を立ち聞きする

WIZ   :    会話・交渉し情報を聞き出す

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 某日。ヨコハマを出港した、豪華客船リューグウ号。
 それは華やかな灯りと音楽をまき散らしながら、暗い夜の海を突き進んでいく。――水面下で、ちいさな狂気が用意されているともしらずに。

にぎわうばかりの、客船のパーティー。その会場を猟兵たちが巡り巡る。
桑崎・恭介
SPD


うお…すげぇ豪華客船やな…映画やったらトラブルからのパニック発生間違いなしやで
いやまぁ、それを阻止しに来たんやからそうなられても困るんやけどな

(多くの人が行きかうラウンジで、軽く周囲の人を見渡して)
…この、全員の命が掛かっとるんか(責任の重さにプレッシャーを感じる元一般人魂)
現時点ではどこが怪しいかの判断は難しい…なら、王道に足で探すか
使うのは俺の足やないけどな、っと(別々の方向に歩いていく数人に「影の追跡者」を追わせる)

ぐっ…ここまで追跡者出したんは初めてやけど、酔うわこれ…
いや…でも、依り代さんも救うためには俺の酔いとか些細な問題や…
目で、耳で、情報を逃さんようにせんとな…



「うお…すげぇ豪華客船やな…映画やったらトラブルからのパニック発生間違いなしやで。いやまぁ、それを阻止しに来たんやからそうなられても困るんやけどな」
 桑崎・恭介(浮草・f00793)は、その映画でみるような華やかなラウンジへと、今まさにやってきていた。軽く、周囲の人を見渡す。
 光沢のあるスーツを着こなし、談笑する男性たち。鮮やかなドレス姿の女性たち。品のある老夫婦。足早にいく乗組員たち……。
「…この、全員の命が掛かっとるんか」
 言葉にしてみて、息を、のむ。
 人命が左右される……そんな責任の重さは、以前の、ごく普通の日々となら無縁のものだっただろう。桑崎の元一般人魂としては、プレッシャーを感じずにはいられなかった。
 だが、同時にそれは『元』一般人、でもある。桑崎は『猟兵』となって――その世界へ、足を踏み入れたのだ。
(現時点ではどこが怪しいかの判断は難しい…なら、王道に足で探すか)
 その順応は、早かった。

「使うのは俺の足やないけどな、っと」
 桑崎の足元から、【影】が伸びた。――【影の追跡者(シャドウチェイサー)】、それはだれにも気づかれることなく、床を這って走りだした。
 別々の方向へと歩いていく、何人かの人物を同時に追いかけ、複数の影は散開していく。
――途端、いっきょに押し寄せてくるのは、共有された五感のせめぎ合いだ。
「ぐっ…ここまで追跡者出したんは初めてやけど、酔うわこれ…」
 その混濁に、思わずえずきそうになるのを堪えながら、
(いや…でも、依り代さんも救うためには俺の酔いとか些細な問題や…)
 目で。耳で。情報を逃さないようにと、桑崎は全身で踏ん張った。
 研ぎ澄ます――、

『今年のオークションは――』『先生、どうしました?――』『――準備は、舞台裏の倉庫――』『ジュースをVIPルームに――』『――いよいよですね』『私こそが――』『うちも狙ってますよ――』『――あの【龍】の絵を手に――!』

「…【龍】の絵やと?…」
 偶然か? それとも。
 『依り代』に繋がるかはわからないが。耳には、いくつかの気になるキーワード。
 そして桑崎の目に、やけに印象づいたのは……華やかな乗客たちが皆、口々に、絵画のオークション『ばかりを』楽しみにしている、どこか奇妙な様子だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィン・スターニス
儀式を完遂させる訳には行きませんね。
出来るだけ早く、依り代となる人を見つけないとです。
ですが、焦りすぎても良くありません。
他の方達とも、出来るだけ情報を共有して捜索しましょう。

情報収集は、足を使うのですよね?
出来るだけ広い範囲で、人の話を立ち聞きします。
その時は、目立たない様に気配を殺します。

歩き疲れて来たら、七彩の雷針を使用。
休んではいられません。
少しでも有力な情報を入手しないとです。



 どこぞで知ったことなのか。情報収集は、足を使うものなのだ、と。
 フィン・スターニス(七彩龍の巫女・f00208)は、豪華客船のなかをとにかく歩き回ってみていた。
 広い客船、大勢の人々。だが、海上を動く閉ざされた空間だ。どんなに広くとも、捜索の範囲も人物も、いまや限定されている。
(儀式を完遂させる訳には行きません。出来るだけ早く、依り代となる人を見つけないとです。……ですが、焦りすぎても良くありません)
 そう、焦らずに。でもすこしでも広い範囲を、多くの人々の様子を、確実に、調べ潰しておく。
 豪華客船は11階建てだ。自由に歩き回れる、という範囲であれば、4階から6階までが娯楽施設、7階から10階までが客室のあるフロアだった。11階は、ひらけた展望デッキ。
 フィンはそのうちの、まず4階から6階までを隅々まで歩き回った。娯楽施設のエリアは、どこも大勢の声が混ざりあう、賑わった場所だった。接客するスタッフはにこやかに、通り過ぎる乗組員は忙しそうだ。そのなかで、華やかにおしゃべりに興じるのは、乗客たち。
 決して目立たない様に、気配を殺して立ち回りながら、フィンは彼らの話を立ち聞きしていった。

(……やはり、【龍】の絵、ですか……)
 他の猟兵たちとも情報を共有していたが、フィンが聞いたかぎりでも、乗客たちの間では、【龍】の絵、で話題はもちきりのようだ。
 今回、呼び出されようとしているのも、雷神のごとき【龍】のオブリビオン。
(なにか、関連が?)
 もっと、少しでも、有力な情報を入手したい。
 しかし、ここまで隅々まで歩き回り、情報を足で稼いだだけあって、フィンの体にもそれ相応の疲れはきていた。次のフロアへあがる手前、長椅子が置いてあるのが眼にはいる。
 けれども、
「休んではいられません」
 瞬間、フィンの体に、微弱な電流がながれた。
 七色の雷はフィンの体を駆け巡って、その身を活性化させる針となる――フィンの体から、疲労の色が瞬く間に抜け落ちた。

 立ち止まらない。長椅子の前を通り過ぎて、次のフロアへと。
 フィンはひたむきに、ひたむきに、捜査の足を進めていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

北条・冬香
【アドリブ・共闘歓迎】
『WIZ』

乗客やスタッフの皆さんとお話して、何か変わったこと・人物がいなかったか、聞き込みをします。
とは言え、他人のことです。不躾に質問をして回っても素直に答えてはくれないかもしれません。

というわけで、客船から許可を頂いて簡単なお悩み相談所を開きます!
皆さんのお悩みを聞いて、打ち解けたところで世間話の体で質問をするのです。
(使用技能、優しさ+コミュ力)

もちろん、お悩み相談は真剣にやりますよ?これでも私、シスターですから。
信徒でなくとも、迷える子羊は導いてあげなくてはいけません。



 北条・冬香(鉄拳シスター・f13098)もまた、乗客やスタッフへの聞き込みに回ろうとしていた。
(とは言え、他人のことです。不躾に質問をして回っても素直に答えてはくれないかもしれません)
 そこで冬香は、シスターたる自身の職と技能をいかして、簡単な『お悩み相談所』を開いてみることにした。
 客船へと申し出てみれば……UDC組織の根回しもあったのだろう……許可をもらうことも無事できた。
 くわえて提供されたその場所は、おあつらえ向きの、小さな教会となっている部屋だった。日頃、世界一周といったプランにも使われるような豪華客船だ。さまざまな宗教への対応や、ここで挙式をあげそのままハネムーン、といったケースのために用意されているのだろう。

「こんばんは。さぁ、どうぞ気軽に入ってきてください。……信徒でなくとも、構わないのですよ?これは、信仰を押し付けるものではありません。ただ私と、お話しをしてくだされば、それでよいのです」
 訪れた人へと、冬香は優しい微笑みで、迎え入れてみせた。
 敬虔なシスターが、話をきいてくれる。話題をききつけて、ひとり、またひとり。ぽつり、ぽつりとではあるが、相談所の扉を叩くものはやってきた。
 上司とそりが合わない。彼氏とうまくいっていない。仕事きつい。眠れない。寒い。
 ひとりひとりと、真剣に向き合い、真剣にお悩み相談もこなしていく冬香の姿は今、とてもシスターだった。……あ、いえ、もともとシスターではあるのですが……。
 
 そうして、相談をうけていく中。冬香にはすこしだけ、引っかかることがあった。
 相談にくるのは、いまのところ乗組員ばかりだ――乗客はひとりも、やってこない。
「……ところで。今夜も、これだけ大勢のお客様を相手にされるというのは、たいへんなことですね?それだけこの船が、魅力的なのでしょうけど。こうしてお仕事をする中で、ほかに困ったことや、変わったことなどは、今日はありませんでしたか?」
 打ち解けたところで乗組員へと、冬香は世間話の体で尋ねてみた。けれども彼らは、特にはないかなと首を傾げるか、ごく当然な仕事の愚痴を吐き出すばかりで、終わってしまった。
 残ったのは、ただただ言い知れぬ、違和感だけだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

音無・紆余
【SPD】
誰がどうなろうがどうでもいいんだけど
何処にも逃げられない空間で狂気ってさ、ワクワクしない?
不謹慎?そんなの…終わり良ければ総て良し、でしょ。

ただ闇雲に聞き耳立てたって、こんな大人数じゃあらちが明かない。
ベタだけど、ここはやっぱり人目につかない場所…
特定の人しか出入りできない扉を見つけたら【鍵開け】でお邪魔しまーぁす!
ま、大きな音立てちゃ逃げられそうだからなるべく静かにね?

誰か発見したら傾聴の姿勢。ニヤニヤしそうだなぁ…

『依り代』サンだったらラッキー★
取り敢えず、紆余とデートしよう?
狂気な未来へいざ行かん!

抵抗したり叫ぼうとしたらぶっ飛ばすよ?
機械の片目がギロリと睨む笑顔を向けよう。



 誰がどうなろうがどうでもいいんだけど。
――何処にも逃げられない空間で狂気ってさ、ワクワクしない?
 歪む、口元がにやけてしまいそうになる。
 その感性を聞いたなら、大抵のものは不謹慎だと眉をひそめるにちがいない。
 だとしたって、音無・紆余(木偶・f12444)はきっと、のらりくらりとどこふく風だ。
 そんなの…終わり良ければ総て良し、でしょ、と。

 煌びやかな表舞台には見切りをつけて、紆余はひと気の少ない方、少ない方へと足を向けていた。
(ただ闇雲に聞き耳立てたって、こんな大人数じゃあらちが明かない。ベタだけど、ここはやっぱり人目につかない場所…)
 そこで、辿りついたのは、
「……オークション会場?」
 客船の中でも最も広い、催し物ホールだ。豪奢な両開きの扉の前には、ここが『オークション』会場であるということと、『準備中です。開場は××時から――』と、立て看板が置かれていた。
 開場までまだ時間があるせいか、あたりに人はいなかった。
「お?」
 正面から迂回して、ホールの側面にあたる通路を覗き込む。そこは、薄暗い通路だった。
 最奥には、『舞台裏 staff only』の文字。
「お邪魔しまーぁす!」
 一応、潜めた声だ。紆余は【鍵開け】し、そうっと扉を開くと侵入した。

 舞台裏はひっそりと、いかにも人目につかない場所ではあった。

 そこには、誰かがいた。紆余は大道具の影に隠れると、傾聴の姿勢――ニヤけた口元とは裏腹に、ギロリと動く機械の片目が、その姿を捉えていた。
 スーツ姿の男が、二人だ。布で覆われた絵画の山を前にして、
「出品はこれで全部ですか」
「あぁ。まぁ正直この辺のはオマケ。今夜の目玉は、あの【龍】の絵だからな」
「『降りる』ってほんとです?」
「先生がそうおっしゃったんだ。……養子縁組の手筈は――」
 
(『依り代』サンがいればラッキー★だったんだけどなぁ)
 狂気の未来へいざ行かん!紆余とのデートコースはまだお預けとなったようだが。
(【龍】の絵に降りるって?)
 去っていく、男たちの様相は、UDCの召喚に関わっていそうな空気だった。しかし、
(グリモア猟兵の話じゃ、依り代となる『だれか』って話じゃなかったっけ――?)

苦戦 🔵​🔴​🔴​

花京院・紗
さあ、隠されているのはどこでしょう
厳重か、それとも灯台下暗しか

私はバックヤードを捜索しましょう
[第六感][野生の勘]を使用し周囲に気を配りながら
怪しそうなところを当たります

船なのであるかはわかりませんが
部屋へ繋がる通路の入り口

人があからさまに多い、もしくは少ない場所
食事を運ぶことがあるかもしれません
こちらが怪しまれるかもしれないので
出くわさないように気を配りながら人通りにも注意します

自ら依り代になったのかは分かりませんが
もしそうでないのならVIP待遇とか受けているんでしょうか?
でなければ私だったら船の中を散策したいのに



(さあ、隠されているのはどこでしょう。厳重か、それとも灯台下暗しか)
 白銀の毛並みをゆらしながら、花京院・紗(花巫女・f04284)は、バックヤードの捜索にあたっていた。
 華やかな表舞台とは真逆な。そこは飾り気のない、無機質な鼠色の通路が続く。だが、
(怪しそうなところは……見当たりませんね)
 バックヤードも、行き交う乗組員たちの姿も、ごくまっとうに仕事をしているだけにみえる。
 紗は、今度はバックヤードから、客室側へと繋がる通路の出入り口を、各階で調べて回ってみた。人があからさまに多い、もしくは少ない場所……そんな、違和感を覚えそうなところは――。
「ここは……?」
 そうして、10階のフロアへと差し掛かった時だ。
 これまでの通路は、どこもたくさんの乗組員たちが忙しく行き来していて、紗はたびたび身を隠すほどだった。
 だが、ここへきて、急にぱたりと人影が途絶えた。

 ざわり、紗の毛並みが、『予感に』総毛立った。

 その時。近くで従業員用のエレベーターが灯る音がして、紗は慌てて物陰に飛び込んだ。
 ワゴンをかたかたと、運んでいくスタッフ。
(ジュースと……食事、でしょうか。この階のお部屋に……)
 見つからないよう、気を配りながら紗は後を追った。

 スイートルームのドアが並ぶフロアは、閑散としていた。
 そこにあっては目立つ、唯一の、人影があった。中央のロイヤルスイート――VIPルームだ。ドアの前に、数名の、スーツをきた男たちが立ちはだかっていた。
 ジュースと食事は、やはりVIPルームの中へと運びこまれた。
 
 確証は、まだない。あるのは感じる、ざわめきだけだ。
 けれどもしも。『依り代』が軟禁されているのが、あの部屋だったとして、
(自ら依り代になったのかは分かりませんが。もしそうでないのなら……)
 ああして、VIP待遇を受けて、誤魔化されているのだろうか?
 ちっぽけな部屋のなかに、閉じ込められたままで――、
「でなければ私だったら船の中を散策したいのに」
 飛び出そうとは、思わない? ……飛び出したくても、できない?
 桔梗の髪飾りにちょっとだけ、触れる。そうして深呼吸すると、紗はまず情報を整理しようと、踵を返すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
……神格級のUDCが不完全で現れるなら、まだ対処の使用があるだけ救いかもしれませんね。
なんとしてでも『依り代』になってしまった人をを探し出さないと。ううん、そうね……。
あまりいい手段というか、合法ではないかもしれないのだけど、客船の使用人にチップを握らせてみよう……かな。出来れば臨時で入っているような子が相手だと【言いくるめ】がうまくいきそうな気がします。
軟禁されているのが確かであれば、この船に乗って、かつ、今まで一度も外に出ていない人が――いるはず。
……うう、気はすすまないけど。

――ねぇ、すいません。そこのあなた。人を探しているの。ちょっと、教えてくれませんか?



 ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)は、思考していた。
(……神格級のUDCが不完全で現れるなら、まだ対処の使用があるだけ救いかもしれませんね)
 ただでさえ……UDC、という存在がもつ力は強大で、蠱惑的なものだから。
 とはいえ、完全体の阻止は、『依り代』の人物をどうにかしなければ叶うことはない。
(なんとしてでも『依り代』になってしまった人を探し出さないと。ううん、そうね……)
 
「――ねぇ、すいません。そこのあなた」
「あ、はい……?」
 ヘンリエッタが向かったのは、人もまばらな客室のフロアだ。
 そこで、リネンのカートを運んでいた、ひとりの若い女性へと話かけた。先ほどまで、この若い女性が、他のスタッフから指示を飛ばされていた様子を、ヘンリエッタは観察していた。
 ……これはまったくもって、慣れていない。おそらく『臨時で入っているような子』だ。
(あまりいい手段というか、合法ではないかもしれないのだけど……)
 すっと一息をついてから――あらためて、ヘンリエッタは切りだした。
「人を探しているの。ちょっと、教えてくれませんか?」
「えっと……はぐれたとか、ですか? たぶん、館内放送とかは……」
「いえ、そうじゃなくって、」
 さっと、ヘンリエッタは女性との距離を詰めると、その手をとってチップを握らせた。
(……うう、気はすすまないけど)
 やはり相手の女性は、びっくりしている。ヘンリエッタはそこを、なんとか言いくるめた。
 馴染みがないだろうけど、チップは使用人が貰ってよいものだ、と。相手の後ろめたさを誤魔化すように、誘導した上で、
「客室――あるいは、ほかの部屋でも――乗船してからずっと、そこに籠もりっきりの人とか、心当たりがありませんか?」
 軟禁されている、ということが確かであれば。
(この船に乗って、かつ、今まで一度も外に出ていない人が――いるはず)

「……こもりっきり……あ、それなら、」
 ヘンリエッタの考察は、見事に的中した。

「VIPルームの、男の子。ほら子供って、船の中を探検しに走り回るもんでしょ?でも、誰も見かけてないんですよね。……なんかずっと、部屋の奥に籠ってるみたいで」

成功 🔵​🔵​🔴​

ジロー・フォルスター
ダークセイヴァー出身に、この豊かさは目が眩む
…怪しまれるからサングラスは外すけどよ

まずはクルーに『変装』
『礼儀作法』を心掛け『コミュ力・言いくるめ』で立ち回る

船内地図を手に入れ『世界知識・情報収集』で確認
『祈り』の儀式をやる聖者なら気付く事もあるかもな
もし俺が儀式をやる側になった場合を想像し、予測をつけて行動する

「まず簡単に人に見られない場所にする筈だ。クルー全員を抱き込んでるとは考え難い。倉庫よりも個室の線が有力か。そんだけでかい儀式をやるなら、広さが必要なはずだ。いい部屋から順に『お客様のお部屋の空調にエラーが』とでも理由をつけて訪問してみるか」

『オーラ防御』に何か抵抗を感じないか気を配る



 輝かしい灯りの中、不足するもののない贅沢な人々の姿が行き交っている。
(ダークセイヴァー出身に、この豊かさは目が眩む)
 ジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)は、客船のクルーに【変装】していた。怪しまれないようにと、愛用のサングラスは外していたが……陽光が差しているわけでもないのに。
 どうにもここは、目が眩む光景だ。
 
 ジローは、同じクルーに頼んで、詳細な船内地図をコピーして貰っていた。これなら裏方も含めた、すべての構造が確認できる。
 眺めながら、想定する。もし、自分が儀式をする側だったとして、
「まず簡単に人に見られない場所にする筈だ。クルー全員を抱き込んでるとは考え難い」
 地図を、なぞる。裏方の通路や倉庫はどこも繋がっていて、常にクルーが行き交う。聖者の立場からみても、【祈り】の儀式をやるにはあまりに落ち着きがなさすぎる。
「倉庫よりも個室の線が有力か。そんだけでかい儀式をやるなら、広さが必要なはずだ」
 だとすれば。指先が一気に、客室の最上――10階のフロアを指し示した。
「いい部屋から順に『お客様のお部屋の空調にエラーが』とでも理由をつけて訪問してみるか」

 その結果。いきなり、『大当たり』を引き当てることになるのだ。
 
 訪問した一番いい部屋――VIPルームは、あきらかに異様な『厳重警備』だった。
 ガードの男たちに、空調の件を装い、中へ入れないかと丁寧に伺う。
「……リビングだけなら。奥の寝室には人がいる、立ち入らないでくれ」
 簡潔に言うと、ひとりのガードマンがドアを開いて、ジローを通した。
 しかし、ガードマンの視線は、部屋の中のジローを、しっかりと監視し続けている。
(神経質なこった)
 ピリピリとする――だがこの感覚は、警備の緊張感からだけでは、ない。
 その時。

 寝室のドアが、わずかに、開いた。
 一瞬だけのぞく――ちいさな人の影。

「どうですかね?」
「あぁ。もう終わりましたよ。……どうも、失礼しました」
 ガードマンも、気づいたのだろう。急かすような口調に、ジローはすぐに退室した。

 だが。ジローの緋色の瞳は、たしかに捉えていた。
(……ガキか?)
 その子供からは――オーラに抵抗する、『嫌な』気配が感じられた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
…船…か
…少々怖いが…いや、大丈夫だ

服装はドレスコードがあるだろう故、ダークスーツを着用
参加者を装い召喚者と依り代に繋がりそうな情報を集めようと思う

まずは船内の見取り図を見、怪しい空間等が無いかチェックを
不自然な箇所があればその近くのラウンジや人が集まる場所を歩きながら『聞き耳』を
噂話や何か気になる話をしている人物が居れば、『礼儀作法』に気を付けつつ話しかけ世間話を装い情報を聞き出したいと思う
…肉体を得る前貴族に所有されていた事もある故、社交の場での立ち振る舞いは何となくわかりはするが…精神的に疲れるな
情報を得られたらUDCの人員へ他の参加者と情報を共有出来る様に伝えられれば幸いだ



「お客様。だいじょうぶですか? ご気分でも……」
「…あぁ…いや、大丈夫だ」
 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は、我に返った。
 青ざめてみえたのだろうか。スタッフは「船の上ですからね。どうぞご無理はなさらずに」と気遣うと、立ち去っていった。
「…船…か」
 …少々怖いが。頭を振ると、ザッフィーロは切り替えるようにして、歩き出した。

 その服装は、普段の祭服ではなく、ドレスコードに合わせダークスーツとなっていた。華やぐ乗客たちの間へ、その佇まいはいっそう溶け込んでいた。
(召喚者と依り代に繋がりそうな情報を集めたいところだが…)
 掲げられた船内の見取り図を、チェックする。
 だが一見して、この客船の構造自体には、怪しい空間などがある様子はない。
 ただ、
「……開場って何時?そこで座って待ちます?」
「そうね。早く見たいわぁ、【龍】の……!」
「しーっ。あまりオープンにしないことって、決まりでしょ――」
 耳にとらえた噂の声。気になってその人物たちの後を、それとなくついていった。
 
 ラウンジには、紳士淑女たちがソファに腰かけ集まっていた。
 【聞き耳】をたててみれば――彼らはずっと、『絵』の話で夢中なようだ。
「…歓談中に、失礼する。同席しても、よろしいでしょうか?」
 礼儀作法に気を付けつつ、ザッフィーロは話しかけてみた。
 男のひとりが穏やかに、
「あぁ、どうぞ。あなたもオークションに?」
「えぇ。…連れてきてもらった身、なもので。お恥ずかしい話、絵にあかるいわけではないのですが…」

(…肉体を得る前貴族に所有されていた事もある故、社交の場での立ち振る舞いは何となくわかりはするが…精神的に疲れるな)
 その経験が、役に立ちはしたが。
 世間話を装った振る舞いは、ついに「ここだけの話」を聞き出すのだった。

 今夜。オークションに出品される、【龍】の絵。
 それは――『とある少年の背中』を『キャンパス』にして、刻みつけられたモノ。
雷神のごとき登り龍の絵、だという。

「先生の【龍】の絵を手に入れた者は、みんな事業を成功させているんだ! だから欲しい……欲しいのさ!」
 紳士淑女たちが、にこやかに頷いた。とても楽しそうに、愉しそうに――。

(…この、乗客たちは…、…依り代というのは…)
 UDC組織の人員、そして――他の猟兵たちへと、情報を共有するべく。
 ザッフィーロは断わって席を立つと、足早に、そこから離れていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィネ・ルサルカ
カカカ、絢爛豪華な成りをしておっても漂う狂気を隠すことは難しいようじゃのぅ。どれ一夜の宴、愉しむと致すかのぅ。

客船へは招待客を装い乗船、事前にシックなナイトドレスと装飾品を購入し着飾るとするかのぅ。む?代金?UDCにツケじゃ、ツケ。

表向きは優雅に堂々と振舞い、船内の雰囲気を楽しむとするかのぅ。
生け贄の捜索は招待客と船員の会話を立ち聞き、特に衆目に隠れて耳打をしている連中は聞き耳を済ましておくかのぅ。
怪しいと感じた奴は儀式の関係者に成り済まし、色気で誘惑しつつ今宵の儀式の準備の進捗でも聞き出してみるのも善いな。
『依り代』『龍』『儀式』の何れかを手掛かりに【野生の勘】で探りを入れてみると致そう。



「カカカ、絢爛豪華な成りをしておっても漂う狂気を隠すことは難しいようじゃのぅ」
 あぁ、感じる。感じるとも。
 豪華客船に乗り込んでいく客、どれもこれも華やかだ。欲深い笑い声、身にまとった醜悪な宝飾、らんらんと輝く瞳には――たしかな、狂気の色が滲んでいる。
 その光景に、ヴィネ・ルサルカ(暗黒世界の悪魔・f08694)は鮫のような歯並びを覗かせて、にたりと笑みをこぼしていた。
「どれ一夜の宴、愉しむと致すかのぅ」
 乗船するヴィネの姿は、シックなナイトドレスに様変わりしていた。豊満なスタイルを惜しげもなく、くっきりと形どるドレスのライン。シックなそれに合わせた、装飾品の数々――。

 代金の領収書は、後日、UDC組織あてにお届けです。ツケじゃ、ツケ。

 ヴィネは優雅な足取りで、船内を散策していく。
 華やぐパーティー会場、その船内の雰囲気をゆるりと楽しみながらも、耳は周囲の音に、声に、油断なく研ぎ澄まされていた。
「――……はどうだ、そろそろ運びこまないとだろ?」
 ヴィネが目ざとく、耳ざとく拾ったのは、楽しげな公衆の隅っこで、身を寄せ合う男たちだった。
(おぉおぉ。怪しい、怪しい)
 衆目はばかって耳打ちとは、いかにもやましいことだ。
 笑ってやりながら、【聞き耳】をすましてみれば、【龍】の絵がどうやら……会場で仕上げ、やらと。
(ほぅ……【龍】、のぅ)
 くすぐるような【勘】が囁きかける。これは、探りを入れてみる価値がありそうだ。

 『オークション会場』『準備中――』の立て看板が置かれた、催し物ホールの扉を、男のひとりが開いて中へと入っていく。
 そこへ滑り込むように、ヴィネはしなやかな身を通して入り込んだ。
「――どうじゃ?【龍】の絵の様子は?」
「!、ど……ちらさまで?」
「知らぬのか?ふむ……まぁ、わしはいつも蚊帳の外じゃしのぅ。お主が知らぬも無理はない。気にするな」
「い、いや、でもここはですね……」
「まぁまぁ、そう、堅くするでない」
 男へと、ナイトドレスの滑らかな体つきを摺り寄せる。
 豊満な感触、男はうろたえた……ヴィネは妖艶に、紅をひいた口元を歪めて、
「蚊帳の外は寂しくってのぅ……我慢できぬ。のぅ?よいじゃろう?わしも、進捗が気がかりなだけなのじゃ。耳打ちするがよい。――今宵、【龍】の『儀』は、いかがな程じゃ?」
 
 あれよあれよと。ヴィネは、男の口から言葉を引きずり出していった。
 このあと開催される、絵画のオークション。そこで出品される【龍】の絵――それは、『背中に雷神のごとき登り龍を彫られた、少年』そのものである、ということ。
 だが、まだ『完成品』ではない、という。仕上げに会場で、制作者の画家が、本物の龍のいぶきを吹き込んでみせる、らしい。
 会場は、準備中だ。その間、【龍】の絵――少年だけは特別だと、VIPルームに『保管』されているという。

(ほぅ……それが龍降ろす儀かのぅ。そして生け贄……依り代となるは、そのこどもか)
 やはり、華やかさなど、見てくれだけだ。
 探りだした――たしかな狂気の手がかりを、ヴィネは持ち帰るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『去らば平凡、ようこそ非凡』

POW   :    正面突破で救い出す

SPD   :    潜入し、ばれないように連れ出す

WIZ   :    教団員を誘惑、或いは騙して連れ出させる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちは、それぞれに見つけ出した情報を、共有した。

 まず、軟禁されている依り代の手がかりを求めて、船内を捜索した猟兵たちの耳に飛び込んだのは、『【龍】の絵』というキーワード。
 船内のどこを巡っても、乗客たちは皆、その話題で持ちきりのようだった。
 そして、【龍】はその絵に降りる、という。
 
 ……依り代となる誰か、ではなく?
 
 だが、猟兵たちが見つけたのは、あからさまに人払いされ、閑散とした客室のフロアだ。
 そこにあるVIPルームには、数名のガードマンが配置されていた。
 そして、その部屋には――ひとりの子どもが、潜んでいるようだった。

 乗船してから、ずっと……そこに籠もりっきりの、男の子。

 その少年こそが、話題の【龍】の絵、そのものである、という。
 まるで、キャンパスとして扱うように。
 『少年の背中に、刻みつけられた』――雷神のごとき、登り龍の絵。

 まだ『完成品』ではない、という。それはオークション会場で、画家が、本物の龍のいぶきを吹き込んでみせるのだ、と――それこそが予知にあったUDCを完全に降臨させるための、仕上げの儀、なのだろう。
 ならば依り代は、【龍】の絵として扱われた――その少年だ。

 乗客のほとんどはその、【龍】の絵が『少年』であるということを『知っている』。
 ……儀式によって起こること、その信憑性までは、知らないのだろうが。
「先生の【龍】の絵を手に入れた者は、みんな事業を成功させているんだ! だから欲しい……欲しいのさ!」
 乗客たちはみな、【龍】の絵に熱狂している。――狂信、しているのだ。
 そんな人間たちが、内なる想いを打ち明けようとするはずもない。相談所へ……教会へと、足を運ぶはずも、なかったわけだ。
 
 依り代となる少年は、いまもVIPルームの奥の、寝室に閉じこもっている。
 そこから少年を、連れ出せたのならば……UDC組織の人員が、すでに救命ボートを抑えている。密かに、近くには手配した救助用の船も走行している。
 少年を、豪華客船から遠ざける手筈は、整っていた。彼らのところまで辿り着き、預けたならば、その後の安全は確保されることだろう。
 
 問題は、どう連れ出すべきか?

 VIPルームの前には、ガードマンが数名、立ち塞がっている。
 そして……そこを突破したとしても、油断はならない。なぜなら、
 なにも知らない乗組員たちを除いた、豪華客船にいる乗客600名。
 【龍】の絵が逃げだしたと知られれば――
 狂信する、600人分の目をむけられ、600人分の手が、伸びてくる。
 600人分の追いかけっこが、巻き起こるかもしれない。

 オークションの開始まで、あと30分。
 狂気の豪華客船から、たったひとりの少年を救い出そうと、
――猟兵たちは、動きだす。
フィン・スターニス
人の欲は、恐ろしい物ですね。
船の乗員の六割が追手になるのですから。
ともあれ、先ずは少年を逃がす事を最優先に行動しましょう。


とは言うものの、潜入して密かに逃がすですか、苦手分野ですね。
なので、私は他の方のサポートに回りましょう。

歩き回って得た船内の構造から、
比較的逃走しやすいルートを割りだせれば、
その情報を共有させましょう。

追手がいれば、障害物(観葉植物等)を通路に倒し、
それを七彩の風衣で透明化させ、
即席トラップにします。

後は誤情報で混乱させる、
あるいは、陽動として別所で騒動を起こしましょうか?

行動中は、無理の無い範囲で、
自身も透明化し、人の目をやり過ごします。


ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】【共闘歓迎】
体に、【龍】を彫られて……ッ、助けないと、こんなの……!
【私】のままでやるよりは、【ルビー】のほうが上手でしょうね……。
【トリガーピース】を噛み砕いて、人を【誘惑】するのに長けている彼女に交代しますっ……!
「あは。ねぇねぇ、お兄さんたち。そこで何してるのぉ。え?商品?知らないわよォ。私、『可愛がられるがわ』だから余計なことわかんなくってぇ。でもね、ちょっと嗅ぎまわってる変な人たちが来てるんだってェ。なんだか、この子――場所、変えたほうがいいんじゃなァい?ねぇ、そのあと私と『遊んで』よぅ」
さぁて、うまくいったら――周りの猟兵たちに助けてもらえないかしら?荒事は嫌なのよねぇ。


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
VIPルーム、か
見張りが厄介だが…

VIPルームを警備するガードマン達を遠くから観察
『聞き耳』を立てながら現場から一人離れる者が居らんか待とう
持ち場を離れた者がいたならばその者を
居らんならば不審な物が置かれていると伝え案内する様に人気のない死角の場所に連れ出せればと思う
…多少渋られても『言いくるめ』で説得できたら嬉しいが…どうだろうな
成功したならば『気絶攻撃』を仕掛けた後【赦しの秘跡】にて操りVIPルームの少年を他のガードマンに怪しまれぬ様連れ出して来るよう送り出したい

後は、潜入し様としている者が居った場合は動きやすい様、他のガードマンに不審者が居た等話を振る等し気を逸らせたりもして見ようと思う


ヴィネ・ルサルカ
龍神を彫られた幼子が依り代で競りが儀式とはのぅ…いやはや、祭典を主宰者はわしの琴線に触れる善き趣味をしておる。

おっと、感心しておる場合ではない。わしは正面から救出する猟兵に動向し護衛と援護を行う。

先ずガードマン共は【先制攻撃】【誘導弾】を併用した【七星七縛符】で動きを停めておくかのぅ。
依り代の安全を確保したならば非常ベルを鳴らして、船員として潜入しておるUDC職員に乗客を避難誘導し船内から遠ざけるよう要請しておくか。

万一、追手が来るならば腐食の呪詛をオフした【ネクロポリスの黒嵐】で妨害すると致そう。

わしとしては『オークション』をゆるりと堪能したかったが…ま、次の機会に取って置くかのぅ。


花京院・紗
ジロー(f02140)さんと行動

部屋の中に入るまでは指輪の中で待機

ガードマンの注意がジローさんに向いている間に外に出て
不意打ちで気絶させる

寝室に入ったら少年の状態を確認
囚われているのか、望んで其処にいるのか
表情や体の状態、雰囲気で確認します

どうか怖がらないで
貴方がどんな理由でここに居ようと、助けたいの
要らないお世話かもしれないけど、私たちの我儘に付き合ってくださいね

もし少年が暴れた場合はそのばはジローさんに任せ
その間は私が[第六感][野生の勘]で周囲を警戒

指示に従ってエレメンタルロッドと[属性攻撃]の炎で焼き切る
もしくはフォックスファイアの炎を一つにし火力を上げ壁に穴を
そこから脱出します


ジロー・フォルスター
船内で知り合った花京院紗と少年確保へ

紗や同じ狙いの猟兵を
指輪『静寂の廃聖堂』に入れ先刻のクルー姿に【変装】

VIPルームを訪問
【礼儀作法】でもう一回だけと【言いくるめ】入室
「やっと合うネジが見つかりまして。15…いや10分で直します」

指輪を床に転がし椅子に上る
外した空調カバーを監視役ガードマンに取って貰う
その隙に指輪を出て気絶させてくれ

すぐにドアを施錠
船内地図を【地形の利用】で確認
逃走に最適のルートの壁に穴を開けて貰う
少年が暴れれば【医術】で麻酔を嗅がせ【ロープワーク】で縛り猿轡で『静寂の廃聖堂』の中へ

後一手
ガードマンの服を脱がし隠す
騒がしくなれば奴から奪った無線に
「敵はガードマン姿で逃走中!」


桑崎・恭介
SPD


おいおい!こいつら何も知らん哀れな犠牲者違ったんかい!
くっそ…その子が一体何を!惨いことをッ…化け物の胃ん中放り込まれた気分やわ…
やから言うてここの邪教徒はただの人、死なせてええわけちゃうけどな…

・救命艇付近で猟兵と少年の来訪を待つ
…くそっ、平和に生きてきたせいで上手い救助策が思いつかん…
『【龍】はその絵に降りる』…
杞憂ならええ…やけど、最後の息吹が無ければどこに龍が出るんや?
例の『先生』か…それとも…それでも『少年』か?

・少年が平気そうであれば迫る追手に体当たりで足止め
 儀式成就の兆候が有れば≪瞬息世界≫で時間を圧縮しつつ刻印でその背を傷が深くならない程度に削ぎ、傷の処置は職員に任せる


北条・冬香
【アドリブ・共闘歓迎】
残念ながら目的達成の一助となることはできませんでしたが、乗組員の皆さんの力になれたのならば、ええ、無駄ではありませんでした。

せっかく打ち解けたのです。乗組員の方に少しご協力頂きましょう。まずは船内の詳細な見取り図をお借りできないか打診いたします。
それを元に、人の目に触れづらい移動ルートの割り出しを行いましょう。
救出では、メンタルを安定させるための話し相手に命ぜられた、とでも言って潜入、軽く説明をして、前述のルートで隙を見て連れ出します。
影の追跡者の召喚を先行、突発的な遭遇は控えるようにします。

熱狂するのは構いませんが、子供を犠牲とするのは許せません。必ず阻止しなければ。



「おいおい!こいつら何も知らん哀れな犠牲者違ったんかい!」
 桑崎・恭介(浮草・f00793)は、明らかとなった真相の姿に、憤りと戸惑いを吐き捨ていた。
「くっそ…その子が一体何を!惨いことをッ…化け物の胃ん中放り込まれた気分やわ…。やから言うてここの邪教徒はただの人、死なせてええわけちゃうけどな…」
 やりきれない、思いに苛まれながらも。
 根本的に善性たる桑崎は、そう言うと頭を掻いて、
「…くそっ、平和に生きてきたせいで上手い救助策が思いつかん…」
 救助、きゅうじょ、救助……考えだそうとしても、なかなか日常、こんなシチュエーションに対面したことなどないものだ。
 最終的に、桑崎は救命艇のちかくで、少年と猟兵たちがやってくるのを、待ち構えることにした。
 こっちはこっちで、何が起きるかわからない。それに、
 桑崎には――どうしても、気がかりなことが、あった。
「…杞憂なら、ええんやけど…」

 オークションの開場まで、30分を切った。

 部屋を警備する、ガードマン達の姿を、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は遠くから観察していた。
「VIPルーム、か。見張りが厄介だが…」
 そこには今、さらに数名のガードマンがやってきていた。少年を……【龍】の絵を、会場へと『護送』するためだ。
 複数のガードマンに固く囲まれながら、少年が、奥の寝室から連れ出されてくる。
だが。VIPルームのドアから出る、その間際になって、ひと悶着が起きているようだった。
(…一人だけ。持ち場を離れる者が居ればいいんだが…)
 【聞き耳】を立てながら、ザッフィーロはその様子を伺って待つ。
 ガードマンたちは額を寄せ合い、話していた。
「まだ運び出すなって?」
「あぁ、先生のご指示だ。この『商品』は、ギリギリまでここに置いとけって。直前になったら壇上へあげればいい、と」
「なんでまた……先生がおっしゃってるなら仕方ないかもだが。でももう時間が……」
 会話するガードマンたちのその隙間で、少年はただただ黙って俯いていた。
 そこへ――、

「体に、【龍】を彫られて……ッ、助けないと、こんなの……!」
 持ち寄り、情報が合わさったその時、ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)は身を、声を、ぶるりと震わせていた。
 子供の体に刻みつけられたもの。そこへ圧し掛かるのだろうUDCの影。
 ……それは、決して。放っておけるものではない。
(【私】のままでやるよりは、【ルビー】のほうが上手でしょうね……)
 ヘンリエッタは、手のひらの、カプセル型の錠剤の形をしたもの――【トリガーピース】を口にして、噛み砕いていた。
 管理の主人格たる【ヘンリエッタ】から、その表情が『交代』する。

「あは。ねぇねぇ、お兄さんたち。そこで何してるのぉ」
 ルビーは軽々、ガードマンたちへと近づいていった。にやり、にやにや笑みを傾ける。
 ガードマンたちは顔を見合わせて、それから、
「お客様……ですよね? もしオークションにご参加でしたら、会場はこちらではありません。このフロアには、その……貴重な『商品』を保管しておりますので、立ち入りは、」
「え?商品?知らないわよォ。私、『可愛がられるがわ』だから余計なことわかんなくってぇ」
 言いながら、ルビーは男のひとりへと、腕を絡めて擦り寄った。
 擦り寄るさまは自由な猫のようで。絡めるその腕は、引きずり込む蜘蛛のようで――。
 【誘惑】的に孤をえがいた、ルビーの唇に、男たちはいつしか釘付けになっていた。
「でもね、ちょっと嗅ぎまわってる変な人たちが来てるんだってェ。なんだか、この子――場所、変えたほうがいいんじゃなァい?ねぇ、そのあと私と『遊んで』よぅ」
 ちらり、少年のほうへと視線をやる。その気配に、顔をあげた少年は、向けられたルビーの笑みを……どこか不思議そうに、眼を丸くして見つめるのだった。

 ……ここで、この厳重な警備のまま、会場へと少年を運ばれては水の泡だ。

 惑わすルビーの言葉に、ガードマンたちは見事にぎょっとして、
「嗅ぎまわってる? もしや、だから運び込むのはギリギリにしろと?」
「どうする、部屋を……」
「いや、そんな勝手はできない。と、とにかく、運ぶのはあとになったんだ。コイツはまた奥へ、」
「ねぇ、ねぇってばぁ。私と遊んでくれないのぅ?」
「ちょ、ちょっと…!貴女はとりあえず、こっちきて!」
 途端に慌ただしく。ガードマンたちは少年を再びもとの部屋へと戻しつつ、一方でひとりだけは、絡みつくルビーを付き添って、そこから離れようとした。

 人気のない死角へと、ガードマンのひとりとルビーは移動すると、
「え……?」
 ふいに、ガードマンの男は首筋に重い鈍痛をうけて――気絶した。
 そこの暗がりに立っていたのは、ザッフィーロだった。
 ルビーがゆらりと、笑う。
「助かったわァ、荒事は嫌なのよねぇ」
「【言いくるめ】て連れてこようかとも思っていたが、手間が省けた」
 ザッフィーロは、倒れた男に向かって手をかざした。
「『…さあ、瞳を開けよ。汝の罪は赦された』」

「こちらにいる子供の、話し相手になるよう命じられてきました」
 オークション目前にした少年の、メンタルを安定させるために、と理由をつけて、今度は北条・冬香(鉄拳シスター・f13098)がガードマンたちのもとへと訪れていた。
 冬香が相談室を開いていたことは、ガードマンも小耳に挟んでいたようだ。その相談員が、メンタルケアのために、と来たことは、彼らにとっても得心いくことではあった。
 だが、それでも冬香ひとりだけで通すわけにはいかない、と……見張りがつこうとしたその時、
「『それなら。こちらで引き受けるよ』」
「あぁ、戻ったか。遅かったな」
 それは――ザッフィーロが、【赦しの秘跡】にて操ったガードマンの男だった。
 操りガードマンと共に、冬香は怪しまれることなく、部屋の中へと入っていった――。

 また、一方で。花京院・紗(花巫女・f04284)は、船内で知り合ったジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)とともに、潜入の機を伺っていた。
「それでは、お願いします」
「あぁ」
 ジローが、首からさげたチェーンを指先で引き上げる。そこには、狼の紋章が掘られた指輪。
 彼の『実家に繋がる』唯一の品だ。
 小さな指輪から、光を放つ――光は、紗を包み込むと、指輪の中【静寂の廃聖堂】へと、彼女を仕舞いこんでいった。
 
 指輪の彼女を伴って、ジローは再び、クルー姿のままVIPルームを訪問した。
 またか、と眉をひそめるガードマンたちへと、ジローは礼儀正しく、丁寧に、もう一回だけですから、と【言いくるめ】ようとする。
 互いに押し問答する、そこへ、
「…ちょっと、いいか?」
 ザッフィーロ・アドラツィオーネが、声をかけにきた。ガードマンのひとりが、「お客様……あぁ。先程、ラウンジで皆さんと御一緒されていましたよね?どうかなさいましたか?」と、丁重に答えていた。ダークスーツを着込んで、乗客らしく溶け込んでいたザッフィーロの姿を、よく覚えていたようだ。
 潜入しようとしている、猟兵の姿を見たザッフィーロは、他のガードマンたちの気を逸らそうと、
「…いや、なに。下の階に、気になる不審者がいてな。オークションを、楽しみにしている身としては…どうにかしてもらいたいんだが…」
「!、そうでしたか。その不審な人物は……」
「あの、いいですか?本当に、もう一回だけなんです」
 その隙に、ジローが【言いくるめ】を畳みかけて、
「やっと合うネジが見つかりまして。15…いや10分で直します」
「あぁあぁ、わかったわかった!10分だな。なるべく早く頼みますよ」
 ザッフィーロが、ガードマンたちの気を引く。
 その間に、ひとりのガードマンが見張りとして貼り付きながらも、ジローは部屋の中へと通されていった――。

 部屋の中で。監視のガードマンの視線を受けながらも、ジローは計画を進行していた。
 手近なイスを運ぶ……その合間に、監視役の死角へと、あの指輪を転がす。
「よいしょ、っと…あ、すみません。ちょっとコレ外すので、受け取ってもらっても?床に置いて頂ければいいので」
 そう言って、椅子の上からジローは、外した空調カバーをガードマンへと渡そうとした。
 渋々、男がそれを受け取った。――注意が向いたその瞬間に、

 指輪から、花京院・紗が飛び出す。
 
 死角から繰りだす、紗の不意打ちの一撃。鮮やかにくらった監視役の男は、どさりっと沈んだ。
 ジローがすぐさま、ドアの施錠へと走る。
「うまいこといったな。あとは、」
「はい。……寝室、ですね」
 
 紗とジローが寝室に入ると、そこには冬香と、ザッフィーロの操りガードマンの姿もあった。
 猟兵たちが、見渡す。
 床には、ちらばったマンガ本。飲みかけのジュース。手をつけていない、乾燥しきったサンドイッチ。
 そして――少年が一人、座り込んでいた。

 紗が、慎重に近づきながら、その様子を確認する。
 少年は、パーティーに相応しい、Yシャツにネクタイを締めた姿でいた。その衣服が、乱れているようなことはない……部屋の様子を見ても、暴れたり、抵抗しているような跡はなかった。
 少年は、ただそこで、ぼんやりとしているようにみえた。
 ただただ、空気を眺めるだけの……無気力な目。それは、
 未来を、諦めている目、だった。
「……誰?、あんたたち」
 ようやく気付いたように、少年は猟兵たちの姿を見ると、ぶっきら棒な言葉遣いを発した。
 だがその声には、緊張しきったひどい硬さが、ある。

 ……この子は……きっと、望んで此処にいるわけじゃあ、ない。

 紗は、身をかがめて。座り込む少年との目線を合わせると、
「どうか怖がらないで。私たちは、貴方を助けにきたんです」
「…は?」
 一拍。……沈黙の、間があいて、
「そんなの、……だって。でも、……」
 視線を、言葉をさまよわせる。助け。突然あらわれた『希望』たちに、少年は……すがって、よいものなのか、とためらっているようだった。
 そして――紗は構わずに、手を差し伸べた。
「貴方がどんな理由でここに居ようと、助けたいの。要らないお世話かもしれないけど、私たちの我儘に付き合ってくださいね」

 北条・冬香は、相談室を開いていた際に、打ち解けた乗組員に協力してもらって、船内の詳しい見取り図を借りていた。
 狂気に満ちた船内にあって、何も知らぬ乗組員たちの――迷える子羊への、導きをなせた。
「乗組員の皆さんの力になれたのならば、ええ、無駄ではありませんでした」
 それは、短いひと時にも、彼らから寄せられた信頼の成果だろう。
「その時に、人の目に触れづらい移動ルートを、割り出してみました」
 冬香がそのルートを、軽く説明する。ジローもまた頷いて、手元の船内地図を確認しながら、
「後方だな、まずは隣の部屋へ。ぶち抜いてくれるか?」
「わかりました。下がってください――焼き切ります!」
 紗が、手にしたエレメンタルロッドに炎を灯す。
 指示に従い向かった壁へ――炎の軌跡をえがいて焼き切っていく。
「あぁ。……それと、こっちも」
 後一手。その間にジローは、寝転がしたガードマンを隠しながら……その衣服を剝ぎ取りにかかるのだった。

「なんだ?いま物音が、」
「! 鍵がかかってるぞ?!おい!ここを開けろ!」
 VIPルームの扉の前で、異変に気づいたガードマンたちが騒ぎはじめる。
 施錠されたドアを何度も何度も叩き、慌ただしく右往左往するそこへ、
「……そう、騒ぐでない。――停まれ」
 先制――ヴィネ・ルサルカ(暗黒世界の悪魔・f08694)が、【七星七縛符】を巡り放つ。誘導されるように飛びむかった護符は、ひそやかにガードマンたちへと命中するなり、その動きを縛りあげるように『停めて』しまった。
 突然の不可思議に驚き、けれど身動きが取れず更に混乱に陥っていく。
 そんな哀れなガードマンたちのさまを笑ってやりながら、
「龍神を彫られた幼子が依り代で競りが儀式とはのぅ…いやはや、祭典を主宰する者は、わしの琴線に触れる善き趣味をしておる。おっと、感心しておる場合ではない」
 ガンッ!と非常ベルのボタンを殴りつける。瞬間、船にけたたましく警報が鳴り響いた。
 依り代を確保したと、知らせる合図だ。
 これで聞きつけた潜入のUDC職員らが、乗客たちを船内から遠ざけるよう、避難誘導を開始することだろう。……だが、それでも、
「さて。ではわしも、護衛なり援護なりとするかのぅ」
 欲にまみれた人間は、これでもまだ何をしでかすかわからない。
 ヴィネは、救出する猟兵たちのもとへと向かった――。

――ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ……!!!
 
 なんだなんだ!と怒り声を荒げるもの、足踏みをして震えるもの、泣き叫んで悲鳴を轟かせるもの、平静に言葉を繰り返して指示を飛ばすもの――。
 船内は混沌と、パニックと化していた。
 走る――少年を連れた猟兵たちは、あらかじめ想定したルートを駆け抜け、時に紗がフォックスファイアの収束をもって壁に穴をあけながら、最適な脱出路を切り拓いていく。
 ヴィネが手配した、UDC職員による誘導も手伝って、そのルートの行く手に乗客たちの姿を見かけることは、少なくすんでいた。
 それでも、総員1000名がひしめき合う船の中。パニックによって、人々は思いもがけないあちこちの方向へと交錯し、動き回っている。
「【影の追跡者】、先行しなさい!」
 冬香が、召喚した【影】を先へと行かせることで、そんな混乱に行き交う人々との、突発的な遭遇を避けて通った。
 そこへ、

「――いたぞ!あれは【龍】の絵だ!」

 誰かが、叫んだ。
 振り返れば、オークションの関係者なのだろう――数人の追っ手が差し迫っていた。

「『狂える王よ、万物を侵せ』」
 どこからともなく現れたのは、ヴィネ・ルサルカだ。瞬く間に、漆黒の色をした疾風――【ネクロポリスの黒嵐(アースィファト・ウルジュウネ)】が吹き荒れて、追っ手の身を押し返す。
「カカカ、安心するがよい。腐食の呪詛はオフにしておいてやろう」
「みなさん、こちらです」
 フィン・スターニス(七彩龍の巫女・f00208)が猟兵たちを呼んだ。
「直に歩き回ったので、船内の構造は把握してます。この先のカフェを抜けて、後方のデッキへと出て下さい。側面に回って、そこの階段を降りれば――救命艇は、目の前です。いまなら、比較的逃走しやすいルートかと」
 フィンがルートを指し示す――その間にも、【龍】の絵、という単語を耳にしたからだろう、周囲の散っていた客たちが一斉に、こちらへと目を向けていた。

 血走った、無数の目。目。

「人の欲は、恐ろしい物ですね」
 自分たちを取り囲む、変わった目の色を、フィンはみた。
 船の乗員、六割。それが追手として様変わりするほど、人を駆り立てる欲望――。
 異様な気配を察して、冬香もまた、少年を背に隠すように庇いながら、
「熱狂するのは構いませんが、子供を犠牲とするのは許せません。必ず阻止しなければ」
「ともあれ、先ずは少年を逃がす事を最優先に行動しましょう」
 フィンが、少年と自分以外の猟兵たちを送りだす。
 途端、その後ろを追って、客、客、客たちが群がって追いかけだす。
 
――絵だ、絵だ、【龍】の絵だ、【龍】がいる、【龍】を、【龍】ヲ、ヨコセ!!!

 その行く手に、七色の風が吹き抜けた。
 フィンが導く、【七彩の風衣】を纏うと、通路にあるイスや観葉植物が、すぅっと透明と化す。
 それらを密やかに倒してやれば、血走った客人たちはみな蹴つまずいて、次々と転倒していった。
「!?!?」
 足を取られて、客人たちは思わず辺りを見渡すが、なにも見えない。
 フィンは余裕で先回りをしながら、そんな追っ手たちの足を幾度となく止めてやった。

 騒動は、いよいよ極まっていた。
「『敵はガードマン姿で逃走中!』」
 ジローが、気絶させたガードマンから奪った無線で、偽の情報を吹き込む。
 実際、ザッフィーロが操ったガードマンが少年を連れ出しているところを、目撃されてもいたおかげか。その無線の報告を信じて、ガードマンたちはガードマン同士で、関係者や客たちはガードマンを追いかけてと――なんともヒドイ追いかけっこが始まった。

 自身もガードマンへと変装したジローは、捕まらないよう上手くその騒動をかいくぐりつつ、囮となって、猟兵たちの逃走を助けた。
 フィンも、その騒ぎに乗じて、
「ガードマンなら、上の階で見かけました」
「いいえ、レストランにいたそうです」
「7階のデッキだったかもです」
 どこだどこだと、探す乗客たちの間へと、それとなく誤った情報を囁いては、【七彩の風衣】で姿をくらまして、引っ掻き回してやった。
 
 追っ手の影は、もうすっかりと、猟兵たちの後ろから消え去っていた。

「『【龍】はその絵に降りる』…」
 救命艇の近くで待つ、桑崎・恭介は、どうしてもその言葉が気になって、さっきからぐるぐると思考を占拠されていた。
(杞憂ならええ…やけど、最後の息吹が無ければどこに龍が出るんや?)
 そう、その『存在』を、桑崎はたしかに【影】と共有した時、耳にしていた――。
(例の『先生』か…それとも…それでも『少年』か?)
 考える、そこへ、外通路を抜けやってくる、猟兵たちの声がして、桑崎は顔を上げた。
「おぉー!こっちや、こっち!」
「遅くなりました。でも、これで……?、どうしました?」
 紗が、少年を救命艇へと乗せようとすると、……少年は、ゆるゆる。首を、振っていた。
「……やっぱり、いい。こんなのに乗ったって……どうせ、だめだ」
「そんなことは、」
「無理。帰りたくたって、母さんどうなってんのかもわかんないし。……気づいたら、『先生』のとこに連れてこられて。……こんなんなって。もう、オレ。オレはもうっ、死――!」
 振り払う――暴れて逃げ出そうとした少年の背後から、ジローの手が伸びていた。
「ジローさん!、」
「ったく。もっと早くに暴れてたら、猿轡かませて縛り上げてたとこだぞ」
 ジローによって麻酔を嗅がされた少年が、くたりと気を失って、崩れ落ちた。
 そのまま、UDC職員へと引き渡そうとすると、
「ちょぉ待った! 試したいことがあんねん、時間くれへんか?」
 桑崎が、少年の身を預かる。そして、少年の容態を、検めていった。
 眠っている男の子の顔は、ひどく青ざめていた。
 Yシャツの背を、めくりあげる――。
 そこには、たしかに見事な、『雷神のごとき登り龍』があった。
 だが、刺青とも、言い難い。そこに色はなかった。
 ただ丹念に、丁寧に、『傷』痕だけで形づくられた、それが【龍】を描くものであった。

「…近いな」
 ザッフィーロが、ふいの雷鳴の音を耳に拾って、その方角を向いた。
 ルビーは柵に前のめりになって寄り掛かりながら、
「兆候だねェ。――もう来ちゃうかも?」
「っ、」
 【龍】が降りる、その仕上げの儀は、させずに済んだ。だが、この【龍】の絵を背負ったまま、この場から引き離しても――少年は本当に、巻き込まれずに済むか?
 すでに男の子の呼吸が、浅く、乱れ始めていた。
「……このままには、しておけん」

 桑崎・恭介は、一度、目を瞑って――そして、開いた。
 刹那、彼を取り巻く『時間』が、圧縮されていた。
 弾丸すら視認できるほどの、体感の世界。
 【瞬息世界】の中で。桑崎は【刻印(ドライバー)】をもってして、少年の【龍】の絵を、削いでいった。
 その背の傷が、深くならない程度に。慎重に――ゆっくりと。

 麻酔が効いていたこともあって、少年に、痛みはないようだった。
 ちいさな背中から、【龍】は削ぎ落され、もう影も、かたちも、残ってはいない。
「…これで、だいじょうぶやろ、きっと」
 【瞬息世界】から覚めた桑崎は、そっと肩の力を降ろした。
 のこる傷の処置とともに、今度こそ少年の身柄を、UDC職員の手へと委ねる。

「……主よ。どうぞ、あの子を見守ってください」
 冬香がおごそかに、祈りを捧げた。
 猟兵たちに見送られて――少年を乗せた救命艇は無事に、脱出していった。

 しかし。まだ残る雷鳴の音が、猟兵たちの意識を空へと誘導する。

 豪華客船の上空はいまや、厚く真っ暗な雲に覆われていた。
「――います、あの中に」
 感じ取る、雷の気配、…龍の気配に、見上げたフィンが呟いた。
 ヴィネはちょっとだけ、肩を竦めてみせながら、
「わしとしては『オークション』をゆるりと堪能したかったが…ま、次の機会に取って置くかのぅ」
 
 その、神にも近しいモノは――猟兵たちの頭上へと、現れようとしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『雷穹龍グローレール』

POW   :    雷霆光輪
【超高熱のプラズマリング】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    撃ち砕く紫電
レベル×5本の【雷】属性の【破壊光線】を放つ。
WIZ   :    ドラゴニック・サンダーボルト
【口から吐き出す電撃のブレス】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠神楽火・皇士朗です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 豪華客船の、最上階。展望デッキに、ひとつの『まっくろに焦げた死体』が転がっていた。
 ……先刻まで、『先生』と呼ばれていたモノだろう。
 一体、何を思って、少年をさらい、龍を刻み、龍を描き、龍を求めたのか。
 最早、死体(それ)が語ることはない。

 死体の手には、雷にも龍にもみえる、奇妙な文様が施された杖がくっついていた。
 いまは滅びし、崇拝者達が残した、祭具。
 だがそれもまた、黒焦げにぷすぷすと焼ける匂いを立ててもう使いものにはならない。
 まるで避雷針のようにして、その杖はたしかに『最後の』喚びだしを行ったのだ。
 
 豪華客船の上空を覆う、厚く真っ暗な雲。
 その中から――巨大な青龍が、降ってきた。
 
 身に纏った雷鳴とともに、怒り狂った咆哮をとどろかせる。

 少年という生け贄、絵という依り代をもって、この雷神のごとき龍を制御しようともしたのだろうが……そんなことは、最初から不可能だったのだ。
 この龍は、無差別に、ただただ破壊のみをもたらす『暴力』だ。

 しかし。その力は本来のものよりも、遥かに落ちているようだった。
 依り代もなく、不完全な召喚の儀だったためか。
 それを表すように、暗黒の雲の中では、雷の光りが瞬いてはいるが、一向にひとつも、海へと落ちてはこない。まるで、そこに封じられたままかのようだ。
 巨大な龍は、その暗黒の空へと昇る力もないようで、豪華客船のすぐ低空を飛び回っている。

 乗員すべての避難は、完了している。華やかだった船は、がらんと虚しい抜け殻のようになっていた。
 ここに残っているのは、猟兵たちだけだ。
 UDC――オブリビオンたる龍は、その姿を見定めると、猟兵たちめがけ牙を剥いた。
 龍退治の、幕開けだ。
フィン・スターニス
龍、ですか。
あれを龍と呼びたくありませんね。
あれはただの災厄です。
雨月様、龍モドキに龍神のお力を知らしめてあげましょう。

龍神天駆で雨月様を喚び、騎乗しての空中戦を行います。
移動は雨月様にお任せし、
私は弓での援護射撃を行います。
鱗の無い、目や口内を狙撃し、
敵の動きを妨害しましょう。
時折、破魔の祈りを籠めて矢を放ちます。

敵の攻撃は、回避を優先。
見切りと第六感を駆使して避け、
タイミング次第で、矢をカウンターで放ちます。


ヘンリエッタ・モリアーティ
【POW】
大きな龍、だわ。【マダム】、あなたなら、倒せるでしょう、この獲物すら任せて――構わない、わよね?
(真の姿:マダム・ヘンリエッタ・モリアーティ)
……龍だなんだと言うから見てみれば――随分と大きな蛇だな。おっと、丸呑みだけで済みそうにもない。
神聖なものだと文献では知識を仕入れたのだが、こうも下品に暴力を振るわれては、崇める気にもならないものだね。
【モラン】、出番だ。【ブラッド・ガイスト】を発動し、【モラン】を槍に変え、さらに殺戮捕食形態へ移行させる。
――大きな獲物だ、龍には竜で対抗しようじゃないか。

哀れだな龍よ、ここに君の場所などない!さあ!堕ちろ!!
――せめて私たちの餌となれ!



 豪華客船の、最上階。
 展望デッキへと駆けあがった猟兵たちの、何も隔てるもののない頭上を、UDCの巨大な影が通り過ぎた。
「大きな龍、だわ」
 見上げて、ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)が、呟いた。
 【雷穹龍グローレール】――古代東アジアで、雷神として崇拝されていたとされる、神格級のUDC。
 その長い躯は、スケールの大きい豪華客船の周りを一周しても、なお尾が余るほどの巨大さだ。――だが、
「【マダム】、あなたなら、倒せるでしょう、この獲物すら任せて――構わない、わよね?」
 言葉が終わると、同時に。
――その銀の瞳には、深く窪んだような、暗闇の影が差した。
 キュッと引き締められていたはずの【ヘンリエッタ】の口元が……口角を上げる。

 【マダム・ヘンリエッタ・モリアーティ】。それは彼女の――『真の姿』、だ。

「……龍だなんだと言うから見てみれば――随分と大きな蛇だな。おっと、丸呑みだけで済みそうにもない」
 耳を裂くような咆哮、間近を掠めていく雷撃の巨体を、一歩下がって見送りながらマダムはやれやれと首を振っていた。
「神聖なものだと文献では知識を仕入れたのだが、こうも下品に暴力を振るわれては、崇める気にもならないものだね」
「龍、ですか。あれを龍と呼びたくありませんね」
 毅然として断じたのは、フィン・スターニス(七彩龍の巫女・f00208)だった。
 その周囲には今、七つの色彩が取り巻いて、呼びかけるかように瞬きを始めていた。

「あれはただの災厄です。雨月様、龍モドキに龍神のお力を知らしめてあげましょう」
 召喚――巫女たるフィンの声に応じて、出現したのは『龍神【雨月】』だ。

「【モラン】、出番だ」
 マダム・ヘンリエッタもまた、召喚した。――親愛なる右腕、【飼い竜、モラン】。
 飛竜にしては這うように、擦り寄ってきた忠実なるそれへと、マダムは自身の血を分け与えて、
「――大きな獲物だ、龍には竜で対抗しようじゃないか」
 変貌をとげた、黒く豪奢な槍をその手に取った。

 咆哮する、咆哮する。
 二匹のまったく異なる龍と竜の気配に、【グローレール】は怒号するかのように吠え、真正面から突撃してきた。
 天へと舞う、真なる龍神、七彩龍へとフィンは飛び乗ると、
「移動はお任せします、雨月様」
 手にした、和弓の矢をつがえた。
 空中へと追ってくる【グローレール】――そのうねる巨体めがけて射撃し、応戦する。
 モドキと断じたが、龍と共通している以上、その特徴は熟知している。鱗の無い、目や口内へと狙いさだめて、フィンは矢を放った。もろい箇所めがけ的確に飛んでくる矢に、突っ込んできたはずの敵の勢いは、またたく間に失速した。
 また、移動を任された雨月様は、フィンが矢を放ち易いように、そして敵の頭を常に抑え込むようにして、空中を立ち回っていた。

 巫女を背に、天を駆ける龍神の姿――その気質を、力を、知らしめてやるかのようだった。

 頭を抑えこまれれば、それ以上、高く飛ぶことはできない。ただでさえ低空飛行でいた【グローレール】は、客船すれすれのところにまで、その巨躯を降ろさなければならなくなった。
 そこへ。マダムが【モラン】の矛先を、鋭く放り投げた。
 ただの槍ではない。『殺戮捕食』の形態をとったその凶悪な牙は、【グローレール】の巨体へと喰らいついて、えぐり、食って、食って喰って喰い破った。
 腹の一部を喰い千切られた痛み、オブリビオンの悲鳴があたりに木霊する。
「哀れだな龍よ、ここに君の場所などない!さあ!堕ちろ!!――せめて私たちの餌となれ!」
 【モラン】を引き抜く、さらなる捕食を加えようとマダムが振るうと、【グローレール】は尾を勢いよく跳ねそれに抵抗した。
 瞬間――青き龍の全身を駆け抜けた、青紫の光。

「ッ――!、雨月様!」
 『察知した』フィンの声に、龍神は空を素早く走った。
 敵から放たれた【超高熱のプラズマリング】が、無作為に空も海も焼き切りつけていく。
 船上、猟兵たちを裂くようにして走る雷の光輪、それぞれが抵抗する、防御する、あるいは一時退避する中で。
 雨月と共に、フィンは見切り、回避していった――機械人形のその白い肌を、それでも掠めた熱がビリビリとさせたが。
 フィンは、矢を構えた腕を、下ろさなかった。
「――破魔、この祈りを籠めて、」
 撃ち放った。その見事な一射が、敵の目をとらえた。
 
 破魔の力を帯びた矢が、【グローレール】の片目へと突き穿った。
 ギャア!!!ギャアと災厄のモノは、その力、耐えがたいとばかりにあたまを激しく振り乱した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


 その痛みを散らすためか。怒りを散らすためか。
 オブリビオンは紫電の音をバチバチと弾けさせた。次なる暴力の構えを――だが、
中御門・千歳
龍とはまた、大物が来たねぇ
出遅れたが、UDC組織に呼ばれて応援に来たよ
UDCエージェントとして、しっかり祓わせてもらうよ

仲間の猟兵たちの突撃に合わせ、『式神召喚・具足』を使用するよ

いきな錆丸っ!抑え込むんだよ!
あたしの錆丸は鋼で出来た大百足さ
サイズでは負けていようとも、絡みつけば少しは足止めにはなるさ

侘助っ!その騒々しいもんをたたっ切りな!
あたしの侘助は野太刀を扱う荒武者さ
死霊らしく雷なんかものともしないさ!
真向から敵を切り捨てるよ

え?あたしの式神たちが不気味だって?
慣れりゃぁ可愛いもんだよ

ヒィッーヒッヒッヒ!人間様を舐めるんじゃないよ

*アドリブ絡み歓迎です


ヴィネ・ルサルカ
いやはや…不完全とは言え神格級、喰いごたえが有りそうじゃのぅ。

奴は低空とは言え天を翔ておる。ならば【■■■■■・■■■】にて奴隷を喚び【誘導弾】【鎧砕き】【毒使い】を付与、他の猟兵の攻撃で気が逸れているのを狙い強酸での狙撃を命じよう。

【野生の勘】にて範囲攻撃の気配を感じたら奴隷を送還、【誘導弾】を付与した【七星七縛符】で動きを封じると致そう。

それ以外の攻撃の気配を察知したならば【喰らい呑む悪食】にて模倣し撃ち返すとしようぞ。

奴が瀕死で船上に打ち上がったら上半身を【暴食螺鈿怪口】にて変化、【大食い】を併用し一気に丸呑みにしてやろうぞ。

ククク…流石は神を名乗るだけある。心地の善い、美味よのぅ。


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
巨大な龍、か
少年がかような物の依り代に等されず本当に良かった
さて…では、地に墜とさせて貰おう

『二回攻撃』『高速詠唱』『全力魔法』を使いつつ【ジャッジメント・クルセイド】とメイスでの通常攻撃にて体力を減らせて行けたらと思う
範囲攻撃の雷攻撃の場合は『オーラ防御』にて防ぎつつ攻撃を優先
『オーラ防御』と『雷撃耐性』の加護が多少ある故、体力を削り倒すことを優先にしようと思う
逆に大ダメージの攻撃を直撃を喰らいそうな時は手袋のビームシールドを盾に『盾受け』にてなるべくダメージを最小限に出来るよう動ければ幸いだ
又、防御した後は、可能ならばそのまま相手の攻撃の隙を突くように『カウンター』で反撃攻撃を狙おうと思う


ジロー・フォルスター
やれやれ、小僧は何とか逃がせたな
乗客については多少痛い目を見て貰うのもアリかと思ったが…
「ああ、避難した船から見えてっかな」

猟兵でも子供一人救うのに全力なんだ
人間がこんなモン操れるわけがないだろうがよ

・戦法
派手な技を使ってくる相手だな
味方をサポート&守る為に行動するぜ

俺には【オーラ防御】や【電撃耐性】がある
いざって時には【激痛耐性】も使って【かばう】かね
聖痕や【祈り・医術】で傷の治療は得意だ

『雷霆光輪』から味方を守る為『禍祓陣』を使うぜ
プラズマリングや敵の強力な攻撃を【見切】ったら対応するように陣を張る
その最中は動けねえから、かばうと併用していいほうを選ぶ

「守りは任せとけ。攻撃は頼んだぜ」


桑崎・恭介
神格級…完全やないなら…と思ったのに…
あんな自然そのものみたいな奴に…こんな豆鉄砲で…?(両手の銃を呆然と見やり)

膝が震える、隠れたり、情けなく逃げたくなる…けど…
(戦いを見つつ龍への恐怖を心に刻む)
あんなもん、逆にここで仕留めんとそれこそ怖うて眠れんわな
…家族や友人に、その暴威向いたら敵わんわ!
悪かったな皆、ちょぉっと船酔いしたけど、もう大丈夫や

アイヴィー・ショット!伸縮する蔦で龍顔面に飛びつくで!
(怯えた自分を罰するかのように、仲間に攻撃が向かないよう自身を危険に晒す)
豆鉄砲でも使いようや…この距離なら、外さん!(龍の双眼に向けてUC)

(後は電撃を食らって、仲間に後を任せつつ海に落ちます)



 そこにはヴィネ・ルサルカ(暗黒世界の悪魔・f08694)の、愉し気な笑みがこぼれていた。
「いやはや…不完全とは言え神格級、喰いごたえが有りそうじゃのぅ」

【■■■■■・■■■】ヴィネの口から、『ソレ』は紡がれた。
――『ソレ』は、ニンゲンの口では乗せることが不可能な音だった。

 顕現されたのは【奴隷・■■■■ (不定形の何か)】だ。
 ヴィネに命を受けた奴隷は、強力な『酸』を発射した。――ここまで、他の猟兵たちが仕掛けてきた攻撃によって、その敵の気は逸れに逸れていた。
 低空を飛翔する龍の身へと、強烈な酸が狙いすまして届く。鎧のように固く覆うそのウロコを、次々と焼き溶かしていく匂いと音が立ち昇った。
 次なる構えを取っていたはずの敵は、思いもがけないダメージに驚き、集めていた紫電を散らしてしまった。
「おっと、いかんのぅ」
 しかし。こちらを向いた気配を察知して、ヴィネは左腕を突き出し身構えた。
 オブリビオンの龍が、口を大きく開いた――その中でひとつに収束し、高まっていく電撃――。
 瞬間、吐き出された電撃のブレスがヴィネを襲った。
「ぐッ――!……う、がァ…っ…!」
 回避は許されない。ヴィネの青い肌を、その走る神経を。ことごとく焼き切るような鋭い電撃が、全身を貫いた。
 だが。この瞬間においては――これを受け、耐え凌ぐ必要が、ヴィネにはあった。
 ゆら、ゆら、と。焼け痺れて、感覚もおぼろとなった体を、それでもヴィネは立たせながら――、
「……『口を開け、牙で喰らうものよ。』」
 ぐぁぱり。【牙で喰らうもの】に変じていたヴィネの左腕が、【咀嚼】していた口を大きく開いた。
――その中で。ひとつに収束し、高まっていく電撃――。
 瞬間、吐き出された、『まったく同じ』電撃のブレスが、オブリビオンへと撃ち返された。
『――!!!!!?』
 【グローレール】の胴めがけて電撃は命中した。
 先刻、穿たれていた腹から、溶かされていた皮膚から、その電撃は侵入して走ると、内側の肉をも焼き焦がしていた。

 そこへと狙い定める、指先がひとつ、ある。
「巨大な龍、か。少年がかような物の依り代に等されず本当に良かった」
 『かくあれかし』――と。
 あるいは創られた事による、その身、その思考からの言葉でも、あったのかもしれないが。
 それでも。
 目の前で荒ぶる暴威を指さしながらザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は、そこに克明に告げていた。
「さて…では、地に墜とさせて貰おう」
 暗黒の雲が、途端に裂けた。雲の間から差し込む、神々しい幾重もの輝きの筋。
 それはザッフィーロの指先――指し示した敵めがけて天上から裁きの『光』を落し出した。

 光の柱が落ちる、落ちる――!!

『Gaaaaaaaaaaaaa――――!!!!』
 オブリビオンの忌まわしき身を焼く、光。
 激しく揺れ動きまわるその【グローレール】の身を逃さんと、ザッフィーロは高速詠唱をもって立てつづけに容赦ない【ジャッジメント・クルセイド】を繰り出していく。
「…来るか」
 だが無差別な破壊神は、動きを止めることはない。
 先の矢で片目の潰れている龍は、狙いもままならぬのも構わずに、速度をあげて猟兵たちへと突っ込んできた。
 ザッフィーロがメイスを手に殴りつけ、それに応戦する。
 しかし――そのザッフィーロの目の前で、【グローレール】の口が大きく開かれた。
「…、それは、」
 この近接での、直撃は…まずい。
 予感した、ザッフィーロは意識を、手袋へと集中させた。
 淡く、光るエネルギーの盾が現界する――。
『GaaaaaaaAAA!!!』
「――…、…ッ!」
 【雷穹龍グローレール】から吐き出された電撃のブレス。――直撃した、激しいサンダーボルトが、展開したビームシールドをガリガリと撃ち揺さぶってくる。

 伝わってくる、熱、衝撃。雷の奔流が――シールド越しでもザッフィーロの身を刻みつけるようだった。だが、持ち前のオーラと、雷撃への耐性も多少ある。……凌ぎ切る――!

 攻撃が、終息する。同時に凌ぎ切ったシールドのエネルギーが弾け飛んで消えた。
「…、【ジャッジメント・】――【クルセイド】、」
 瞬間、【グローレール】めがけ指さす、反撃の光が落とされた。
 大きな攻撃を繰り出した反動で、すぐには動けない隙ができた敵へと、その光はさらなるダメージを与えていった。

 猟兵達と。破壊の雷――。
 相対し、さらなる攻防が広がっていく、その後ろで、

「神格級…完全やないなら…と思ったのに…」
 立ち尽くしていた。桑崎・恭介(浮草・f00793)は、呆然と……その両手にある銃を、ただただ呆然と、見やって、
「あんな自然そのものみたいな奴に…こんな豆鉄砲で…?」
 荒れ狂う、巨大な龍。
 それに対してこんな小さな銃をパンと向けたところで、一体なんになる?
 いまも撃ち穿たれる、激しい雷撃は、船上を青白く照らし出して――周囲に火の手を上げていた。
「、!」
 立ち尽くして、いた。桑崎めがけ、そして猟兵達めがけて。
 オブリビオンは、神の如き背伸びをし――さらなる雷を撃ち放った。

――それは。
 救命艇を見送った後のこと。戦闘がこんなに激しくなるよりは、ほんのちょっとだけ前のこと。
(やれやれ、小僧は何とか逃がせたな)
 ジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)は見送って、少しだけ、一息をついていた。
 だけど同時に、ついさっきまで逃亡劇を繰り広げたのがウソみたいに、ガランと静かになった船内を見て、
(乗客については多少痛い目を見て貰うのもアリかと思ったが…)
 狂気に取り付かれた乗客たち……人間たち。その結果と、これから自分たちは真正面から対峙しに向かうのだ。
「ああ、避難した船から見えてっかな」
――この、恐ろしい一夜の光景を。

「――させるかよ、」
「?!、なん……!!!」
 身動きを取れずにいた猟兵を、桑崎をかばって。
 ジロー・フォルスターは電撃の前へと飛び込み、立ち塞がった。
 【オーラ】を張り巡らせたその身を、しかし容赦なく、強烈な雷電のエネルギーが引き千切りにかかってくる。
「が、ぐ、ッぅ……――!」
 一撃が落ちる。二撃、三撃。打ち据えてくる連続した電撃のブレスを受けながら。ジローは、耐えた。走る電撃を、――激痛を、
「……ぁぁ、まったく、」

(猟兵でも子供一人救うのに全力なんだ)
 たった、一人だ。
 その一人だけを、救うことすら。猟兵たちが全力を出さなければ、この脅威を前に叶うか、敵わないか、なのだ。
 それなのにましてや、
(人間がこんなモン操れるわけがないだろうがよ)
 今頃。見えて、いるだろう。きっと。
 逃げた小さな船の上から。この暴威を前に、人の手には負えないという『恐怖』を、心の底から……思い出すのだ。

 そびえる龍を、見上げる。
 この暴威に対してジローは――味方を、守るために。立つ。
「派手な技だな。……だが、もう【見切った】ぜ」
 攻撃が途切れる、その瞬間、ジローは酷く痛む体に鞭うって、猟兵達の中心へとさらに位置を変えた。
 【グローレール】の全身を駆け抜ける、青紫の光――【雷霆光輪】を放つ予備動作に、ジローは自身に刻まれた聖痕の力を瞬く間に広げた。

 【禍祓陣】。――場の、広範囲に張りめぐらされたジローの陣が、猟兵たちを包みこんだ。

 放たれたプラズマリング、しかし波打つ雷の光輪も、それがもつ超高熱すらも、張られた陣を前にして立ちどころに弾かれた。
「守りは任せとけ。攻撃は頼んだぜ」
 陣の最中に立つジローは、猟兵たちへとさっと手を振り送った。

 その守りに、猟兵達は一挙攻勢へと打って出ることができた。

 その、最中で、
(……俺は、……)
 桑崎・恭介はギュッと、強く、強く、両手の銃を、握りしめた。

 膝が、震える。
 隠れたり、情けなく逃げたくなる…けど…。

 猟兵達が、立ち向かっていく。戦いの光景。
 そのすぐ頭上を駆け抜けていく、巨大な龍の長躯。
 すれ違うだけで、凄まじい暴風と雷が周囲を吹き荒れた。
 落雷。轟音が鼓膜を破りそうなほど何度も、何度も何度も落されて。
――この豪華客船も。船体のあちこちから、もうもうと火の手を上げ始めていた。

 破壊だ。その光景に、龍がもたらすあまりの暴威に――心に刻みこまれるのは、当然の、恐怖だ。
 桑崎は、だけど。だからこそ、
「あんなもん、逆にここで仕留めんとそれこそ怖うて眠れんわな」

 …大切な、家族や友人。彼らがいる居場所へと、この破壊の光景が……その暴威が、向いたら。――それこそ、敵わんわ!
 
「悪かったな皆、ちょぉっと船酔いしたけど、もう大丈夫や」
 一気に、駆けだす――!、攻勢に打って出た猟兵達のもとへと、桑崎・恭介もまた加わろうと。
 しかし。その時、猟兵達へと襲ったのは、敵が直接もたらす雷ではなく。
 足元を、大きく揺らした、振動だった。

 客船が、揺れて、傾いていた。
 戦いの余波だ。戦いの場となっていた客船へも、たびたび直撃していた【グローレール】の雷や衝撃。
 これ以上長引けば、船が沈むのが早いか――、
 【雷穹龍グローレール】が、さらなる紫電の音を弾けさせる。
 そこへ、
「アイヴィー・ショット!」
 桑崎は、撃ち出した。伸縮する蔦、【グローレール】めがけて巻き付けると、そのまま龍の顔面めがけて飛びついていった。
 降り立った桑崎の目の前で、真っ赤に怒り狂った龍の隻眼が睨みつけた。
「、っ」
 恐怖が、目の前にある。だが、桑崎は蔦をしっかりと巻き付け、しがみつき続けた。
 ……それはまるで。さっきまで、怯えていた自分を、罰するかのように。
 あえて自身に課した、自身を危険に晒す行為だ。

――でも。これ以上、仲間に、船に攻撃を向けさせるわけには、いかない……!
 
「豆鉄砲でも使いようや…この距離なら、外さん!」
 撃った。撃った、撃った、撃った撃った――!!!
 龍の双眼へと向け連射する。
 龍が暴れる。鬱陶しいとばかりに桑崎を振り落とそうともがき頭を大きく揺らす。
 だが、引き金は止まらない。撃ち込み続ける至近距離の弾丸が先に刺さっていた破魔の矢ごとさらに徹底的に二つの眼を潰した――!
『GAAaaaaaaaaAAA――!!!』
 視界を潰された龍が、ひときわ大きな咆哮をとどろかせた。
 その身に、紫電の光が明滅する。
 龍の全身から解き放たれた電撃とその光線が、滅茶苦茶に周囲の海へ、空へと撒き散らされた。
 そして流れた激しい電撃は、桑崎の身を直に焼き刻んでいた。
「がぁァアッ!!!!」
 蔦が焼き切れる――……支えを失った桑崎の体は、軽々と投げ出されていた。
 
 冷たく暗い海へと真っ逆さまに落ちていく。
(…後、任せ、…)
 桑崎の意識はそこで――ブツリと、途切れた。

 桑崎の手によって、両目を潰された龍。客船がどこにあるのかも、猟兵達の姿を見ることも最早できない。
 右も左も分からぬままに、あらぬ方向へとむかって暴れだす。
 戦局は大詰めだ。最後の突撃に、猟兵達がそれぞれの得物を、技を構える。

「龍とはまた、大物が来たねぇ」
 そこへ姿を現したのは中御門・千歳(死際の死霊術士・f12285)だ。
「出遅れたが、UDC組織に呼ばれて応援に来たよ。UDCエージェントとして、しっかり祓わせてもらうよ。……あぁ、それと。さっき冬の海に落っこちてきた子は、うちの組織のもんがしっかり拾ってっから安心おし! 風邪のひとつもひくかもしれんが、ま、若いもんなら大丈夫だろう。ヒィッーヒッヒッヒ!あたしも負けてられんねぇ……!」
 UDCエージェントの中御門の言葉に、案じていた猟兵達の気が落ち着けられた。
 そして、――猟兵達は、荒れる龍へとむかって、突撃していった。
「いきな錆丸っ!抑え込むんだよ!」
 中御門・千歳が、式神を召喚する。
 まずは【錆丸】。鋼で出来た大百足が現れた。
 この空をゆく巨大な龍の前に比べてしまえば小さいものに思える。が、
「あたしの錆丸は鋼で出来た大百足さ。サイズでは負けていようとも、絡みつけば少しは足止めにはなるさ」
 これまでの猟兵達の攻撃によって、だいぶ削られていた龍のその身へと、【錆丸】が踊りかかって絡みついた。

 鋼で出来た頑丈な大百足の、鋭い無数の手足が龍へと喰い込む。
 決して離さない――小さいはずのそれに、胴から抑え込まれた失明の龍は、荒れた客船のデッキへとその巨体を横倒しにして降ってくる――!

「侘助っ!その騒々しいもんをたたっ切りな!」
 次いで【侘助】。髑髏顔の鎧武者が現れた。
 倒れこんできた長い長い龍の巨体めがけて飛びかかる。
「あたしの侘助は野太刀を扱う荒武者さ。死霊らしく雷なんかものともしないさ!」
 龍は両目がつぶれながらも尚、口を大きく開いて近づく気配へとむかって電撃を吐き出す。
 だが――すでにジローが敷いていた陣が、その電撃をも弾き防ぎ、猟兵達を守っている。
 
 飛びかかった中御門の荒武者は、刀を閃かせた。
 激しい雷をまとう龍の皮膚をものともせずに、真向から振り下ろす――!
 
 それにしても、と。
 荒んだ戦場を跋扈する、大百足に髑髏の荒武者と。身震いのひとつもしたくなるような光景がそこにはあったが、
「え?あたしの式神たちが不気味だって?慣れりゃぁ可愛いもんだよ」
 中御門は構わずに、なんとも陽気に引き笑っていた。

 畳みかける、猟兵達の一斉の攻撃。
 龍の抵抗など最早、その攻撃の前には意味をなさなかった。
「ヒィッーヒッヒッヒ!人間様を舐めるんじゃないよ」
 【侘助】の野太刀が尚、龍の胴を斬りつけ、そして――切り捨てた。

 猟兵達の手によって、ついに――龍は、堕ちた。

 船上の、展望デッキへと打ち上げられた龍は、その全長のごく一部しか、最早体は残っていなかった。
 もう、神のごとき雷の気配も、そこにはない。
『…、…!…!!』
 海のような血だまりを広げていく、瀕死の龍――見えてはいない、その眼前へと。
「…これにて、終いじゃ。龍よ、あるいは…龍『だった』モノ、かのぅ」
 ヴィネ・ルサルカが、ニヤリと笑って、見下ろしていた。
 そして、変化する――ヴィネの上半身が、暴食の【クリオネ】の頭部と化して、
 ぱ く り。
 巨大な龍の頭から、一気に、一気に、丸呑みにしていく。
 ぺろり、と全てを呑み干して――ヴィネは上機嫌に、舌をなめずった。
「ククク…流石は神を名乗るだけある。心地の善い、美味よのぅ」
 焼け焦げていたヴィネの肌が、生命力を吸い上げて元の通りに癒されていた。
 
――猟兵達の、龍退治が終わりを告げた。
 豪華客船からは、狂気の跡はひとつ残らず……消え去った。

 戦いの後。ボロボロでいまにも沈みそうな豪華客船から、ひとまず猟兵達は退避した。
 UDC組織が駆る救命艇へと乗り込み、一路――ヨコハマの港へと船は向かう。

 夜のパーティー会場だったはずの海には、いつの間にやら朝日が昇り始めていた。

 明るくなり始めた空の下で、治療の心得の多いジロー・フォルスターやUDC職員らの手を借りつつ、猟兵達は互いの戦いの傷痕を塞いでいく。

 そこへ。ひとりの少年が、顔をだしていた。

 目が覚めたのだろう、少年は、……けれどまだ、不安そうに、視線をさまよわせていた。
 ほんとうに、このまま帰れるのだろうかと。
 あのマンガの続きを読めるような、平凡な日常へと戻れるのか、と――。
 
 まだまだ、半信半疑なのだ。
 それでも。――今、伝えなければならない言葉はあって。少年は、口にした。

「……たすけてくれて、ありがとう」

 猟兵達は、ひとりの少年の未来を――たしかに救い出したのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月02日


挿絵イラスト