16
存在の証明方法

#UDCアース #感染型UDC

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#感染型UDC


0




●誰ソ彼の禍ツ時
 こんな話を聞いたことはありませんか?
 曰く、私たちは誰かに創られた存在であると。
 曰く、私たちは何者かに操られているのではないのかと。
 曰く、私たちは自らの意思などないのだと。

 いいえ返事は結構、それもまた神をも超える存在の導き。貴方の自由な思考など、最初から無いのです。であれば、わたくしもまた神を超越した存在から降ろされた、使命ある存在なのでしょう。

 例えるならば……。
 ヒトという存在をこの時空に受け入れるとか。
 猟兵という存在をこの世界から拒否するとか。

 いいえ返事は結構、此れもまた神をも超える存在の誘い。貴方の自由な選択など、最初から無いのです。であれば、わたくしもまた神を超越した存在により具現した、この世とあの世を繋ぐ者なのでしょう。

 では、では。貴方達という存在は、一体誰に望まれて、誰の為にあるのですか?
 此処ではだれもが主人公にして端役、貧民にして富豪、自由にして束縛者。
 教えてください、わたくしという些末な存在に。あなたの存在理由を。貴方が生きるこの世界の、本当の価値を。わたくしと神越神が認めるに足る、その所以を。

 時間と場所はそう、誰が誰かも分からぬ逢魔が時、禍ツ場所が良いでしょう。貴方が本当に見えているものは何なのか、彼のものに教えてください。大丈夫、時間が来ればおのずとわたくしの元へ導かれます。それまでは、どうぞ誰とも知らぬ輩と、不穏なままに戦ってください。そうして時間が過ぎたころ、貴方が抱いている感情は屹度今までとは違う――。

 ――ぱたん、其処まで言って眼鏡を掛けた知的な女性は読んでいた本を閉じた。そして徐にこちらを見つめる。確りと合った視線は『あなたというキャラクター』を筒抜けた、その先を見透かすような眼差しだった……。

●グリモアベースにて
「っていうのが今回視えた予知だよ。都市伝説と言っていいのかな? ともかく、間違いなくオブリビオンだよ」
 天球儀型のグリモアに映し出された映像を切り、レイッツァ・ウルヒリン(紫影の星使い・f07505)は話を続ける。
「えぇと、どこから話せばいいのかな。皆、『感染型UDC』って知ってる? 噂を広めたひと、見たひと聞いた人から生まれる感情を「精神エネルギー」として吸収し、力にしてしまうんだって」
 今回の敵もそうで、第一の被害者……つまり、レイッツァの予知に引っかかった人もまたその存在を知り、逃げおおせてSNSに投稿して噂を広げてしまったのだ。
「戦いの舞台はとある『夜行図書館』前の大広場。時刻は夕暮れ時、斜陽が眩しい時間帯だね。この敵は……はっきり言って、倒せない」
 『夜行図書館』とは何か、聞きなれない言葉に猟兵の誰かが声をあげる。いやいやそれより倒せないことの方が問題だろうと別の声もあがるが、順番に説明していくからとレイッツァは慌てて宥めた。
「やこうとしょかん、っていうのはね。夜しかやってない図書館の事だ。夜行列車、とか言うでしょ? それと一緒。きちんと司書さんも居るし、昼間より静かだし、学習机もあるから遅くまで勉強したい学生や、仕事帰りの人が利用しているんだ」
 そして、皆にはこっちの方が重要かなと言い、倒せない敵――【黄昏】についての説明を続ける。
「相手は太陽、お天道様だもん。どう頑張ったって人が倒せるわけない。【黄昏】はただ其処にいて、歯向かう者をすべて喰らってしまう。幸いあまり強くはないよ、だからぼーっとしてても死ぬことはないと思う。でも、一般人が広場を通りすがるかもしれないし、最低限の注意はしておいて欲しいかな」
 その後は夜行図書館で、感染型UDCについて調べものをしてもらう。図書館自体はUDC組織が猟兵の為に貸し切ってくれているので一般人が紛れ込む余地はない。
 今回の敵はどうにも、その性質を他のオブリビオンとは異としているようで、第一の被害者が流した噂によると、『彼女はいつの間にかそこにいた。そして質問を投げかけてくる。あなたはあなたですか? と』という事だ。調べものや勉強をしていれば夜行図書館に勝手に現れる、実に簡単な召喚方法である。
「あなたはあなたですか? ってどういう事だろうね。僕は僕で、君はきみだ。もし仮に神様が僕たちを全部操っているというのなら、こんな遊びに興じるなんて、よほど暇なんだね」
 レイッツァはそう笑うと、いってらっしゃいと猟兵を一人一人送り出していく――。


まなづる牡丹
 オープニングをご覧いただきありがとうございます。まなづる牡丹です。
 今回の舞台は『UDCアース』にて、所謂第四の壁ネタです。自分という存在は何なのか見つめなおす機会をどうぞ。がっつり心情寄りです。

●第一章【黄昏】
 OPの通り耐久戦です。陽が沈んだ段階でクリアです。日没まで皆様の戦い方で、黄昏に立ち向かうか受け入れるか、選んでください。

●第二章【調べもの】
 場所は夜行図書館館内になります。それなりに大きい図書館で、吹き抜けの2階建て、学習机やパソコン、小さなカフェも併設されています。
 そこで感染型UDCについて、ひいてはOPにもありました『あなた』自身について考えるのも良いでしょう。

●第三章【???】
 ――あなたは自分が自分であると、証明できますか?

●プレイング送信タイミングについて
 各章ごとに導入文を執筆します。以降はMSページにてプレイング受付期間を告知いたしますので、お手数ですがご確認お願いします。
 (基本的に導入文を投下した次の日よりプレイングを受付致します。申し訳ありませんがそれ以前に送られたプレイングは返金とさせていただきますのでご了承ください)

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
104




第1章 集団戦 『黄昏』

POW   :    【常時発動UC】逢魔ヶ時
自身の【黄昏時が進み、その終わりに自身が消える事】を代償に、【影から、影の犬などの有象無象が現れ、それ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【影の姿に応じた攻撃方法と無限湧きの数の力】で戦う。
SPD   :    【常時発動UC】誰そ彼時
【破壊されても一瞬でも視線を外す、瞬きを】【した瞬間に元通りに修復されている理。】【他者から干渉を受けない強固な時間の流れ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    【常時発動UC】黄昏時
小さな【懐古などの物思いにより自らの心の内】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【黄昏の世界で、黄昏時の終わりを向かえる事】で、いつでも外に出られる。

イラスト:猫背

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●黄昏サンクチュアリ
 美しい橙だった。あるいは紫、もしくは朱。見る者によって何色にも変わるその時間帯を、人は逢魔時と呼ぶ。
 魔物に出会うだとか、災禍を蒙るとか、昔から様々な謂れのある今まさに、それは現れた。
 沈む太陽の化身は叫ぶ。苦しそうに、悲しそうに、怒っているようで、嘆いているようで。
「消えたくない」
「わたしは沈む為に生まれたんじゃない」
「明日のわたしは、今日のわたしじゃない」
 また昇りくる明日を信じられないのか、死を恐れる者が其処にいた。
 貴方達はそれを拒否し静かに陽が沈む時を待っても良いし、抗う太陽に一閃を浴びせても良い。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

ああ、そうだな。
アンタの足掻き、抵抗する意思はよく分かる。
同質の存在には、一度相対した事があるんでね。
対処もなんとなくは分かってるよ。

ま、今回はだいぶ物分かりが良さそうだねぇ。
まだ誰も取り込んでないと見える。
今宵の帳が降りるまで、いっちょ付き合ってやろうじゃないのさ。

そうさ、時の流れにゃ逆らえない。
だから、逆らわない。
押しとどめるは、この黄昏を永遠にしようとする意思。
おしゃべり相手が必要かい?
『コミュ力』には自信があるんだ、存分に語ろうじゃねぇか。
時は移ろう、日はまた昇り、別の黄昏がやって来る。
自然の摂理を恨むじゃないよ、
だから今この時のアンタが美しいんじゃねぇか。




 静かに沈むだけが太陽だと、どうして、誰が言いきれるのだろう。その足掻き、抵抗する意思はよく分かると、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は一人納得した。同室の存在にも一度相対したことがある故に、対処法もなんとなくだが分かる。
「ま、今回はだいぶ物分かりが良さそうだねぇ」
 まだ誰も取り込んでいない、純粋な沈む陽。であれば、今宵の帳が降りるまで、いっちょ付き合ってやろうじゃないのさ。おしゃべり相手は必要かい? 存分に語ろうじゃねぇか。
『ああ、どうして。沈んでしまう、死んでしまう。私という存在が』
「時は移ろう、日はまた昇り、別の黄昏がやって来る。自然の摂理を恨むんじゃないよ、だから今この時のアンタが美しいんじゃねぇか」
 同じ陽は二度とない。だからこそ、日々の黄昏はこんなにも人の心に響き渡り、魅了してやまない。写真に切り取られた橙も、目に焼き付けた紫も。どれもかれもが美しく、多喜の心にも残るのだ。
 太陽はそれでも、自分の死を恐れ震える。まるで人の子のように。それを諫めるように、宥めるように、多喜は優しく声を掛ける。
「時の流れにゃ逆らえない。だから、逆らわない。そいつにゃ誰にも敵わないんだから」
 押しとどめるは、この黄昏を永遠にしようとする意志。永遠なんて何処にも誰にもない。それは人も大地も太陽でさえも同じ。何時かは尽きる運命だ。それでも太陽が嘆くのならば、沈むまで話そう。話して、最後の一瞬がひとりぼっちで寂しくないように。
「なぁお天道様よ、アンタが沈むのは確かに悲しい事かもしれねぇさ。でもよう、それに勇気づけられる人間だっているんだ」
 沈んでは昇る日に、諦めなさを見出す者もいる。沈みゆくその日だけの一瞬の美しさに、生の喜びを感じる者だっている。黄昏とは悲しい事の代名詞ではない。新しい日を歓迎することなのだ。
「だからさ、アンタが悲しむ必要はないんだよ。恐れることだってこれっぽっちもない」
『では私は、なぜ、どうして、沈んでしまうの。永久に人々を照らせないの』
「そりゃ、アンタの眩しさに目がくらんじまう人だっているからさ。人ってのは弱い。暗いくらいが丁度いいやつもいるんだよ」
 もちろんそれが悪いことだとは思わないがね、と付け加えて。
 太陽はまだまだ沈まない、ずぅっと話していてやることは出来ないけれど、せめてこの死に怯える太陽を温めてやれるならと、多喜は話を続けた。
「少なくとも、今沈みゆくアンタはここ最近で一等美しいさ。思い出に残る、いい黄昏だ」
 そう言う多喜に、黄昏は少し照れたように朱を濃くした――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
夜行図書館目当てで来ちゃいました
とりあえずお日様沈むの待てばいいんですよね
あ、勝てない相手と戦う気はないです。怪我するの嫌なんで

お喋りでもしますー?
絵面的に一人で喋ってるヤバイ人みたいに見えそうですけど

ね、勝手に色々な意味を見出されるのって疲れませんか
お日様はただのお日様なのにね
昇ったときはどんなでした?
死ぬのは、あたしも怖いです。……秘密ですよ?

その辺を歩き回って、出鱈目な鼻歌でも歌いながら夜を待って
それとも黄昏を見届けてるって言うんでしょうか
どっちでしょう

あなたが沈むのは誰にもどうにもできませんけど
あたしが覚えててあげますよ
だからそれまで、あなたの好きに生きてください

※アドリブ等歓迎です




 夜行図書館に釣られて来たという渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)は、怪我するのが嫌という理由で勝てない相手とは戦う気は無かった。とりあえずお日様が沈めばこの戦闘は勝利を迎えるのだ。だったらそれを待つのが1番良い。
「お喋りでもしますー?」
 絵面的に一人で喋ってるヤバイ人みたいに見えそうだが。それはそれ。ユキテルの評価に関わるとはいえそんなことで離れる人なんてどうだっていい。
「ね、勝手にいろいろな意味を見出されるのって疲れませんか」
 お日様はただのお日様なのにね。ただ昇って、時間と共に沈みゆく存在。誰もが当たり前に受け入れて、誰も疑問に思わない世界の摂理。それにこの太陽は抗おうとしているのだ。
「昇った時はどんなでした? 死ぬのは、あたしも怖いです。……秘密ですよ?」
 くすりと笑ったユキテルの本当の心は見えない。恐怖でもない、愉快さでもない。でも、どこか秘密を共有する者の楽しさを抱えていた。その辺を歩き回って、出鱈目な鼻歌でも歌いながら夜を待つ。いや、それとも黄昏を見届けるとでも言うのだろうか。真実は朱と橙に染まった雲に隠れてわからないけれど。
「あなたが沈むのは誰にもどうにもできませんけど。あたしが覚えててあげますよ」
 美しい紫、鮮やかな朱、暖かな橙、透き通る蒼。そのどれもかれも、あたしが覚えているから。だからそれまで――。
「地平線に沈むまで、あなたの好きに生きてください。それがあたしの望みです」
『では、では。私は沈むしかない運命なのでしょうか。死にゆく運命なのでしょうか』
「うーん、その考え方がまず違いますね」
 だって、と続けるユキテルは、髪をくるくる捩じりながら右上に視線を向ける。一瞬の思考、そして回答。
「陽はまた昇るんですよ。それはあなたじゃないかもしれないけど、見る者にとってもそれは同じです。一瞬一時だって、同じ時間はない。それは黄昏だって同じ。綺麗な日もあれば空恐ろしい色合いの日もある。不安なのは皆一緒なんですよ」
 だからあなたが一人で恐れる事はないんです。あたしだってひとりぼっちで死ぬなんてまっぴらですもの、それをあなたはやり遂げることができる。やり遂げなければいけない。大変ですよね。苦しいですよね。分かります、でも……。
「あなたがいるから、人々は夕日に色んな思いを馳せるんです」
 思い出を、夢を、未来を。夕焼けに乗せた様々な思いは、きっとその日の夕日だけの大切な記憶。だからこそ切り取られた黄昏は誰も共有できないし、一人ひとりの心に残るのだ。
「あなたが好きにいきるのが、あたし達の為にもなります。それは、誇ってください」
 黄昏はすんすんと泣いた。泣いて、ユキテルの言葉に静かに寄り添った――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
沈むことが怖いということかな
そして、恐怖のあまり明日を信じることができない、と

ふふ、まるで眠るのが怖いと泣く子供のようだね
…だが、私は怯える子を上手に寝かしつけるような技術はないからねえ…困ったな

そうだね、では
あなたが沈む最後の瞬間まで傍にいようか
誰かと一緒にいれば少しは気が紛れないかな?

他にも嘆きがあれは耳を傾け、ただ頷いたり、時折質問を挟んだりして、眠りの時に相応しい穏やかな時間を作る
少しでも彼らが希望を抱きながら眠ることができればいいのだが
…共に沈んでやれたらいいのだが、生憎私にはまだやることがあるから、ね?

――おやすみなさい
良い夢を




「沈むことが怖いということかな。そして、恐怖のあまり明日を信じることができない、と」
 まるで眠るのが怖いと泣く子供のようだと、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は黄昏を愛おしくすら思った。……だが、生憎とセツナには怯える子を上手に寝かしつけるような技術は持ち合わせていない。
「困ったな。――そうだね、では、あなたが沈む最後の瞬間まで傍にいようか」
 誰かと一緒にいれば、少しは気が紛れるかもしれない。
『わたしは、沈みゆくのが怖いのです。忘れ去られるのが怖いのです。今日というわたしは今日にしかいないのに、誰もかれもが明日の私を望む。どうして、どうして』
「今日のあなたを覚えている人はきっといるよ。私もそう、いつもとは違う特別な黄昏だ」
『それでも貴方は、朝陽を待っているのではないですか? 明日に焦がれ、未来を夢見る』
「未来、ね……ふふ。どうかな? 私の場合はね――」
 嘆きに耳を傾け、ただ頷いたり、時折質問を挟んだりして、眠りの時に相応しい穏やかな時間を作りあげる。すんすんメソメソとする黄昏も、セツナの言葉を聞くうちに大分落ち着いてきたようだ。代わりに浮かぶのは疑問。
『わたしは何故生まれたのでしょうか。どうせ死にゆく運命ならば、生まれない方が良かったのに』
「うん? それは違うよ。あなたは明日がそうであるように、昨日の誰かに望まれて生まれてきたんだ。それはとても、尊いことだよ」
『誰かに望まれて……』
「そう。あなたがあなたでいることは、今日の人々を照らし、来るべき夜に備え、一日の終わりを実感する。あなたがいつまでも沈まなければ、今日が永遠に続いてしまう。終わらない日々に、人々は耐えられないから……どうか、静かに、安らかに沈んでくれ」
 少しでも黄昏が、希望を抱きながら眠ることが出来たならいいのだけれど。セツナは言葉を選びながら、この幼くも純粋なオブリビオンに対し暖かな感情が芽生える。屹度、黄昏が感じる疑問と不安は誰でも考える可能性のある感情だから。最初に抱いた『子供のよう』という考えは変わらない。子供のように真っ直ぐで、尽きない疑問に捕らわれたもの。害のないオブリビオンだが、放っておいたら人々を呑み込んでしまう危うさも持っている。
「少なくとも、あなたが居たことで今日の私の胸の裡に、この鮮やかな景色が残った。それではダメかい?」
『嗚呼、嗚呼。わたしの生きた意味は、確かにあったのですね』
「もちろんだよ」
 共に沈んでやれたなら一番良いのだが、セツナにはまだやることがある。だから、せめて悲しまずに。
「――おやすみなさい、良い夢を」
 抱いた気持ちを黄昏に投げかけ、色づく空を送り出した――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鞍馬・景正
月に叢雲、花に風――それもまた風雅と感じるのは人の勝手であり、万象に自我があるなら宜なる訴えかも知れませんが。

ならば今ここだけの黄昏を刻む為にも、我が一刀お貸し致そう。

◆戦闘
立ち向かうも、耐えるも随意と――ならば、精一杯太刀を揮わせて頂く。
大量に湧く影を斬撃の【衝撃波】で迎撃。

間合が詰まれば、【曇耀剣】による雷電の剣で薙ぎ払わせて頂く。

正面ばかりに気を奪われず、全体の動きを【見切り】、脇差も抜いて背後や側面からの不意打ちや包囲を警戒。

やがて終わる刻まで鍛錬も兼ねて――されど本気でお相手致そう。

もし一般人が通りかかるか、或いは味方の猟兵が危ういと見れば、雷の結界を巡らせて【かばう】べく立ち回り。




 月に叢雲、花に風――それもまた風雅と感じるのは人の勝手であり、万象に自我があるなら宜なる訴えかも知れませんが。
「ならば今ここだけの黄昏を刻む為にも、我が一刀お貸し致そう」
 立ち向かうも耐えるのも随意と――ならば精一杯太刀を揮わせて頂くと、鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)の一刀が冴えわたる! 大量に沸く無限の犬猫その他動植物の影を、斬撃の衝撃波で迎撃し、迎え撃つ。其処に一片の狂いも躊躇いもなく、ザシュっと切り刻めば、黄昏は『嗚呼』と嘆くばかり。
 一般人の気配を読み取れば、彼の人に勘づかれないよう慎重に間合いを詰め、雷の結界を張り巡らしかばうべく立ち回る。一般人はそれに気付くこともなく、すたすたと横を通り過ぎてゆく。良かった、何の被害も、影響も無くて。
「貴殿は沈むことを拒むか」
 もはや微かな光となりつつある陽光に語り掛ける。それは景正にとって意外な行動だった。自分でも戸惑う、こんなやり取りに意味はあるのかと。それでも尚、相手から返事があるならば答えぬわけにはいかない。
『ええ、ええ。私は死にたくない。沈みたくない。永遠に人々を照らしていたい』
「それは無理な考えです。いえ、無意味と言って良いでしょう」
 黄昏とは毎日訪れては消えゆく存在。誰に止められ、咎められることもない。永遠に人々を照らし続けるなど、それは最早妖かしの類で、自然の摂理から外れている。人の考えの及ばぬところまで……迫ってしまっている。
 揺らめく黄昏に近づき、曇耀剣を行使すれば、雷電の剣が陽光を引き裂く。それにうんともすんとも言わない太陽という存在は、やはり無敵なのか。
 正面ばかりに気を奪われず、黄昏全体の動きを見切り、脇差も抜いては囲碁や側面からの不意打ちや包囲を警戒する、が……肝心の黄昏にその気は全く無いようで。最初に嗾けた犬猫の影も、今やすっかり影を潜め、電灯や広場前のオブジェの陰に吸い込まれている。
「……黄昏よ、貴殿はやはり、沈むべき存在なのだ」
『なぜ? どうしてそんな酷いこと』
「酷くはない。むしろ私は、お前の為に言っている」
 ぐずる太陽を励ますように、景正は黄昏を讃えた。お前の自我は本来人々に害を成すものではないと。森羅万象の束の間の戯言でも。お前に意思があるならば、それに剣を以って私は応えようと。やがて終わる刻まで鍛錬も兼ねて――されど本気でお相手致そうと。
『嗚呼、私は最後まで、一人ではないのですね』
「然り。とくと見届けよ、当流が守護神、建御雷に願い奉る……」
 神征の剣が、ぴしゃりと稲妻を落とし落雷の光は黄昏の陽に吸い込まれた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリエ・ルーミエンス
……へぇ
とても興味深くて、つまらない問いかけをしてくる奴もいるもんです
少しぐらいは思索に耽ってあげても――って、オブリビオンがいるんでした

力で倒す必要が無いなら、逃げに徹させてもらいますよ
攻撃らしきものは【見切り】で回避しつつ逃げ回りますね
一応余裕があったら千里眼射ちでつついてあげても構いませんよ

しかし……うるさいですね
そんなに沈むのが怖いんですか? それとも私の心を乱したいだけ?
別に、沈んだところでまた昇るだけだと思いますが
ま、どうせ死を迎えると思ってるなら、もっと胸を張って毅然と受け入れてみてはいかがですか?
それが定められたものに対する最適な向き合い方だと思いますよ

※アドリブ歓迎




 なんとも奇妙で、とても興味深くて、つまらない問いかけをしてくる奴もいるものだ。と、エリエ・ルーミエンス(誰かのためのヒロイン・f17991)は思った。『一体誰に望まれて、誰の為にあるのか?』など、エリエにとって答えはひとつしかない。確固たる、明確なる意思で、答えが出きっている。まったく、本当に下らない質問です。なぁんて憤慨するのも束の間、オブリビオンが居たのだと、眼前の黄昏に目をやった。こちらはこちらで、なんというか、小うるさい、湿った奴で、面倒くさい。
「そんなに沈むのが怖いんですか? それとも私の心を乱したいだけ?」
 その言葉ではエリエの心は揺れない。石よりも固い決意が、エリエを強く立たせている。誰かのためのヒロインは、その実主サマの……いや、これ以上はまた別のお話。今相手をしなければいけないのは、この極端に弱気な太陽そのもの。誰かを照らし、最後まで美しいくせに、どうしてそんなに嘆くのだろう。エリエは心底疑問に思った。
「別に、沈んだところでまた昇るだけだと思いますが」
『明日のわたしが今日のわたしと同じである証拠がどこにあるでしょう。わたしは恐ろしいのです、わたしがわたしでなくなることが』
「…… ……」
 エリエは想像した。自分が自分で無くなるとは、どういうことだろうと。エリエは夢と希望の結晶である。望み、愛された存在である。それは自分という意識に強く根付いた考えで、また事実である。であれば、自分はどうあっても自分だ。これから何を成しても、為さなくても、変わらない事実がそこにある。
「あなたは結局、自信がないんですね。そしてとっても強欲です」
 世界を照らし、あらゆる人々から感謝され、また明日と望まれているのに、黄昏ときたらそれに目もくれない。可哀そう――エリエはフとそう思った。自分の価値を見誤り、ひとり勝手に湿っぽくなっている。それはあらゆる人々への裏切りだ。太陽に感謝するすべての人々への背信だ。
『死にたくない。怖いのです、沈むことがこんなに恐ろしいなんて、今までのわたしもそう思ってきたのでしょうか』
「さぁ、わかりません。ま、どうせ死を迎えると思っているなら、もっと胸を張って毅然と受け入れてみてはいかがですか?」
 それが定められたものに対する最適な向き合い方だと思いますよ。どちらにせよ、足掻いても抗っても、あなたは沈むんですから。そう言ってエリエはくるりと振り向き、広場のベンチにちょこんと座った。手を頬に当て、沈みゆく太陽をぼんやりと眺めた。

 ――主サマならどう返したでしょうか。私を私と認めてくれた主サマなら、もっとうまく慰められたのでしょうか。私にはよく分かりません。沈みゆくものに掛ける言葉なんて、思いつきませんよ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三嵩祇・要
倒せないんじゃ戦っても無駄に体力消耗するだけだ
広場に立って陽が落ちるまで待つとする
一般人が近づかない様にガンでも飛ばしておくか

ガキの頃、夕暮れはあまり好きじゃなかったな
不気味で追い立てられているようで
早く家に帰らなければという気にさせられたもんだ
「黄昏」が嘆き苦しんでいる所為だったのかもな

しかし太陽の化身なら消えたくないと嘆くのはおかしいだろ?
お前は黄昏と名前を付けられたから存在を根付かせてしまったのか?
人間は自我によって苦しむ
とかなんとか
どっかで見たことがある

「消えたくない」って声を聴き続けるのも大分精神にくるな…


「自分」ってそんなに大事か?
セテカーお前はどう思う?
無視かよ
まぁわかってたけど




 広場の入り口の塀に背を預け、通りすがろうとする一般人にガンを飛ばしながら、三嵩祇・要(CrazyCage・f16974)は陽が落ちるのを待っていた。倒せないのでは戦っても無駄に体力を消耗するだけだと、頭に手を回し黄昏にも視線を向ける。
 ――ガキの頃、夕暮れはあまり好きじゃなかったな。不気味で追い立てられているようで。早く家に帰らなければという気にさせたもんだ。【黄昏】が嘆き苦しんでいる所為だったのかもな。などと、一人ごちる。
 しかし、太陽の化身なら消えたくないと嘆くのはおかしいだろう。
「お前は黄昏と名前を付けられたから存在を根付かせてしまったのか?」
 人間は自我によって苦しむ、とかなんとか。どこかで見たことがある。それがどこかは思い出せないけれど、要の心に強く残る言葉だったのは確かだ。
『消えたくない、死にたくない。沈んで、誰もかれもに忘れられるのはいやだ……』
 それは要の心の奥にじんわりと染み込む。死とは怖いものなのか、いや、そんなことは自分が一番分かっているくせに。死を望んだこともあった、今もたまに擡げるその感情を、自分から完全に切り離すにはまだまだ時間がかかりそうで。
『消えたくない』
「しつけぇな……」
 同じ嘆きを聞き続けるのも大分精神にくるものがある。何か話しかけるべきかと考えても、頭に思い浮かぶのは悪態ばかり。そんなのでは黄昏は納得しないだろう。であれば、もう正直な言葉をぶつけるしかないと、要は口を開いた。
「そんなに沈みたくなきゃ、沈まなきゃいいだろうが」
『出来ない……わたしは沈みゆくさだめ……人がいつか死ぬように。私は毎日生まれては死んでゆく』
「ンじゃ同じじゃねぇか、俺たちとよ。人だって死ぬのは怖がるヤツばっかだ。でも死ぬからって毎日を嘆いて生きてないだろうが。だからお前も今日輝いたことを誇れよ」
 ――恐れるだけの人生なんてクソダセぇ。少なくとも、俺は御免だね。俺は俺の人生を誰かに委ねるなんて、そっちの方が怖ぇだろうが。お前のやってることはそういうことだ。人々に自分の価値を預け、正当化している。
「つまんねぇ人生すぎんだろ、死ぬのがこわいのを誰かに肯定されんのも、否定されんのも」
『ではわたしは、なにを想いすごせばよいのですか? わたしは、誰なのですか?』
「さぁな。自分で考えろよ。恐れる暇があるならな」
 黄昏は黙りこくり、紫の空をより一層濃くした。

 ――「自分」とはそんなに大事なものだろうか? 己の中の悪魔に尋ねる。しかし返答が返ってくることはなく、静寂が辺りを包む。まぁわかってたけど、と要は眩く光る黄昏をじぃっと細目で見届けた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
🌸宵戯

ぼんやり黄昏を眺める
屋上とかで寝転んで抵抗しない
あかいろに染まる龍は返り血でも浴びてるみたいできれい
物憂げなのもうつくしいよ

そのまま眺めていてもいいけど
ひとつ話をしようか
この眼の色はよく黄昏と似てるって云われるんだよね
朝陽って云われたことはないな
決まって夕陽なの
面白いよね
これは黄昏のいろでもあるけど暁のいろでもあると思わない?
死ぬことでもあるし生まれることでもある
太陽でさえもうつろう
生まれ変われる
うつろわぬかみさまからしたら羨ましいことだよ

だいじょうぶ
死んでお逝きよ
看取ってあげるから
そんなに哀しいのに壊してあげられないのが残念だけど
壊せたら君が恐れる明日すらも来ないのにね
さぁもうお眠り


誘名・櫻宵
🌸宵戯

空を染める黄金に手を伸ばす
伸ばせど届かぬひかりに双眸をおとして微笑んで
溜息ひとつ

日は昇れば沈んで、今日が終われば明日がくるの
同じ時など一瞬だってきっとない
咲いては散る花もきっと同じ
そんな当たり前のことに、気がつかされた

夕暮れ空はいつも物悲しくてそれでも暖かな彩に染まるその空が、私は好きだったの
そういえばそうね
ロキの瞳は黄昏の金だわ
暁は黄昏を超えた先にある
ロキの言う通り
始まりと終わりの色だわ
それはきっと、裏表の同じもの

沈むのが怖いの?
怖いなら寄り添っていましょう
避けられないこと
でも黄昏のあなたは暁になれるのよ

その瞬間までに今までを振り返って
最期に笑って咲いて
眠って
また巡る

だから、おやすみ



 高層ビルの屋上。ごろんと寝転んで、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はぼんやりと黄昏を眺めた。黄昏の包み込むような嘆きには抵抗せず、ありのままに受け入れる。その隣で空を染める「黄金」に手を伸ばした誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)。伸ばせど届かぬひかりに双眸をおとして微笑んで、溜息ひとつ。
 「あかいろ」に染まる龍は返り血でも浴びているみたいでとてもきれいだと、ロキはうっとりと見惚れた。物憂げに溜息をつく姿もまたうつくしい。あかなのか金なのか、見る者によって変わる黄昏の彩。どちらが本当かなんて、今はどうでもいい話。
『わたしが沈んでしまう。死んでしまう。明日のわたしは本当にわたしなの? こわい、こわい……』
「陽は昇れば沈んで、今日が終われば明日が来るの。同じ時など一瞬だってきっとない。咲いては散る花もきっと同じ」
 そんな当たり前のことに、櫻宵は気付かされた。人も、花も、移り行くすべてが、一瞬ごとに違うのだ。それは沈みゆく太陽ですら同じ。一コマ一コマ切り取られた映画のようで、しかし同じカットは現実にはない。夕暮れ空はいつも物悲しくて、それでも暖かな彩に染まるその色が、櫻宵はすきだった。
 そんな美しい横顔を眺めていたロキは「ひとつ話をしようか」と上半身を起こした。くすりと1回笑って、龍の視線をもらう。
「この眼の色はよく黄昏と似てるって言われるんだよね。朝陽って云われたことはないな。決まって夕日なの。」
「そういえばそうね。ロキの瞳は黄昏の金だわ」
「面白いよね。これは黄昏の色でもあるけど、暁の色でもあると思わない?」
「暁は黄昏を超えた先にある。ロキの言う通り、始まりと終わりの色だわ――それはきっと、表裏のおなじもの」
「死ぬことでもあるし、生まれることでもある。太陽でさえもうつろう。生まれ変われる。うつろわぬ神様からしたら、羨ましいことだよ」
 ロキはくしゃりと笑って、真剣な表情の櫻宵を見た。そしてぺしぺし、と地面を叩く。隣に座らないかの合図。櫻宵は衣装の崩れを気にして一瞬迷ったけれど……好意を無碍にするのも良くないと、思い切ってコンクリートの固い地面に座った。そこから見える景色は、先ほどは確かに「黄金」だったのにここからは「あかいろ」に見える。
『嗚呼、嗚呼。こわい、こわいのです。沈みたくない、消えたくない』
「沈むのが怖いの? 怖いなら寄り添っていましょう。避けられないこと。でも黄昏のあなたは暁になれるのよ」
 その最後の瞬間までに、今までを振り返って。最後に笑って咲く。眠って、また巡る。人生のように、時計のように、ぐるぐると天体は回り続ける。嗚呼、だから。
「大丈夫、死んでお逝きよ。看取ってあげるから」
 そんな哀しいのに壊してあげられないのが残念だけど、壊したら君が恐れる明日すらも来なくなってしまう。それはこの場の誰もが望んでいない結末だ。
「さぁもうお眠り」
 ロキの声を最後に、黄昏は静かに金とあかを明滅させた。まるでありがとうと述べたかのように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
――やぁ、また逢ったね

在る日見かけた君と近しい趣の“君”
同じようで、違う存在
きちんと理解はしているけれど
やはり君の姿を見ると、あの日が思い出されて、いけない

ねぇ
“君”はどんな夢を観せてくれるの?
それは僕を魅せてくれるものかな?

伸ばした指先はそのまま黄昏に吸われ
誰そ彼の刻の陽光が頬を撫でつける
じわりと得るぬくもりは決してお前の掌からじゃあ、無い
お前の姿が透けて向こうに在る太陽がきちんと見えているから

泣かないで?
――何を、馬鹿な事を

哭いているのはお前の方でしょう?

傾き暮れ征く刻へ、想う
仮初でも構わないから
今だけはこのまま

静かで穏やかで
優しいばかりのこの時を少しでも長く、永く

何れ、消え征くものだから




 「――やぁ、また逢ったね」
 ある日見かけた黄昏と、近しい趣の“君”。同じようで違う存在。頭ではきちんと理解しているけど、やはり君の姿をみると、あの日が――苦しみと、痛みと、怨恨が、思い出されて、いけない。心はあの日を映し出し、語り掛けてくる。それを頭を振って振り払い、旭・まどか(MementoMori・f18469)は死にゆく黄昏に目を向けた。
「ねぇ。“君”はどんな夢を観せてくれるの? それは僕を魅せてくれるものかな?」
 伸ばした指先はそのまま黄昏に吸われ、誰そ彼の陽光が頬を撫でつける。じっとり、じんわりと得るぬくもりは、決してお前の掌からじゃあ、無い。お前の姿が透けて、向こうにある太陽がきちんと見えているから。嗚呼僕は、一体何に囚われて――……。
『泣かないで』
 ――何を、馬鹿な事を。
「哭いているのはお前の方でしょう?」
 生と死を繰り返し、自然の摂理によって沈む太陽が、夕日になった途端こんなにも子供のように泣きじゃくるなど、てんで可笑しな話である。啼いて、哭いて、最後には亡くなる。太陽が如何に全てを照らそうとも、最後にはこんなに小さくなってしまって。
 傾き暮れ征く刻へ、想う。仮初でも構わないから、今だけはこのまま安らかな時間が過ぎてくれと。いつか視た、最早会えぬ逢いたい人の幻影は、もう、今此処には居ないのだから。
 静かで穏やかで、優しいばかりの事の時を、少しでも長く、永く。
『あなたは死を恐れない?』
「分からない。でも、僕の代わりにいきて欲しかった人はいたよ」
 前の君は、僕と彼を合わせてくれた。優しいね、残酷だね。でもその位で丁度良かった。贖罪は苦しい方が良い。こんな真綿で抱きしめられるような黄昏には、キツイ言葉をかける意味がない。
『死にたくない……わたしという存在が消えてしまう』
「死なないよ、お前は。僕らが生きている限り。いや、僕らがきっと滅びても、永遠に地球を照らし続ける。
消えた先に、また意味が生まれる」
 それが、お前の役割でしょう? 人も、動物も、草も樹も。何もかもが屹度役目を以って過ごしている。意味のない今なんて、どこにもない。
『わたしという生に意味はあったと?』
「それは君が沈む前に、君自身が考えることだ」
 何れ、消え往くものだとしても。希望を与えることくらい、良いだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
アドリブ歓迎

あらゆるモノの境があやふやになる瞬間
刻々とその姿を変えていく空は美しいと思う
でも同時に、心にほんの少しの不安も浮かぶ

明日のわたし…そうですねぇ
あなただけでは、無いのです
きっと私達ヒトも明日は今日の私とはどこか違うのです

明日は恐い
本当に来るのかどうか
わからぬものを信じるのは私も恐ろしい
今までのことが全て夢だったのだと
最初から無かった物になってしまったとしたら
私も絶望するでしょう

だからこう考えてみては?
沈む為ではなく
移ろう為だと
明日のこの時間に空へ浮かべる色を集めに行くのだと
だって
此処では沈むかもしれないけれど
何処かでは上っているでしょう?

だなんて
明日を恐れる私が言うのもおかしなことね




 あらゆるモノの境――この世とあの世、異世界、過去と未来――があやふやになる瞬間。刻々とその姿を変えていく空は本当に美しいと思う。でも同時に、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)の心にはほんの少しの不安も浮かぶ。
「明日のわたし……そうですねぇ。あなただけでは、無いのです。きっと私たちヒトも、明日は今日のわたしとはどこか違うのです」
『でも、あなたは今日まで生きてきた。数々の黄昏を、見送ってきた。私が輝ける最後の瞬間を、わたしは一度しか見ることが出来ないのに! 嗚呼、怖い……明日が、恐ろしいのです』
 悲痛なまでの黄昏の叫び。――明日は怖い。本当に来るのかどうか、分からぬものを信じるのは、千織だって恐ろしい。今までの事が全て夢だったのだと、最初から無かったことになってしまったとしたら、千織も絶望するだろう。だから……。
「だから、こう考えてみては? 沈む為ではなく、移ろう為だと。明日のこの時間に空へ浮かべる色を集めに行くのだと」
『色を、集める?』
 黄昏は新しい使命に、興味が湧いたように千織の話に返事を返した。薄っすらと微笑んで、話を続ける。
「そうです。だって、此処では沈むかもしれないけど、どこかでは昇っているでしょう? その色を集めに行くんです。今のあなた、とてもきれいよ」
 橙、朱、紫、青、金、白、紺……虹とはまた違うけど、鮮やかな色彩を宿した夕焼けは、完璧な色の調和を成したキャンパスに近い。それを明日の日の為に、集めに往くのだと。その提案に、黄昏はしばし、沈黙し。
『わたしに出来るでしょうか。もう尽きかけのわたしで』
「あなただからこそ出来ること。人間は明日に今日を持ち越せない。でも、太陽は毎日昇って沈む。今日を明日に託すことができる」
『そう――それでも明日は怖い。どんな理由があろうとも、心は変わらない』
 まるで人間のようなことを言う太陽だと思った。そしてそんな存在だから、きっとこうやってつい話をしてしまうんだろう。
「ふふ。だなんて、明日を恐れる私が言うのもおかしなことね。ねぇあなた、私も明日が怖いわ。だから今日は、一緒に居てあげます。そうすれば、少しは怖くないでしょう?」
 黄昏はビルに反射してキラキラ光り、その気持ちを表した――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桔川・庸介
んー。なんとなーく気になるんだよな、この予知。
バチバチに戦いって感じじゃないし、非力な俺でも安心、てのも
あるっちゃあるけど。最近なんか、……ひっかかってる?事と
関係あるかもしんない、よーな気がしてさ。

え、え、この声ってなに?夕焼けが喋ってんの!?
UDCってなんでもありですげーよな……
概念的なものを殴るよーな力なんてもちろん無いし
俺は素直に待ってる事にします。はい。

……あー、でも。言いたい事はちょっと分かる、かも。
まだ俺がちっちゃい頃、寝るのが怖かった事があってさ。
なんつーのかな、今の自分っていう意識が途切れちゃうのが
子供心に怖かったんだと思う。
あの日の俺と今の俺って、まだ同じものなのかな。




 バチバチに戦うというわけでもなく、妙な謎解きもない。非力な俺でも安心と、桔川・庸介(「普通の人間」・f20172)はなんとなく気になる此の予知へと足を突っ込んだ。そういった意味合いもあるが、最近何か……ひっかかってる? 事と関係あるかもしれない、ような気がして。
『わたしは沈むしかないのでしょうか。もう誰かを照らす役目は終わってしまったのでしょうか』
「え、え、この声ってなに? 夕焼けが喋ってんの!?」
 UDCってなんでもありですげーよな……なんて思い、またひとつ常識の更新を終えた。
 概念的なものを殴るような力なんてのは持ち合わせていないし、庸介は素直に待っている事にした。それが彼の処世術、誰に咎められるでもない。
「えっと……どう言ったらいいかなぁ。沈むのは、何で怖いの?」
 此処で黄昏に声を掛けてしまうのは、彼の優しい性格の所為か。それともそういう人格だからか。どちらにせよ、黄昏にとっては貴重な言の葉。
『恐ろしいのです。わたしという意識がなくなり、誰の記憶からも消えて、無かったことになってしまうのが』
「ふぅーん……」
 上手い返しが思い浮かばず、相槌を打つだけになってしまったが、黄昏はそれでも満足したらしい。ちらちらとビルの隙間から、青に朱に空を染めてゆく。
『どうかわたしを覚えていて。暁がきたら、おはようと声をかけて』
「……。あー、うん。言いたいことはちょっと分かる、かも」
 まだ庸介が幼かった頃、寝るのが怖かったことがあった。なんというのか、『今の自分』という意識が途切れてしまうのが、子供心に怖かったのだと思う。――あの日の俺と今の俺って、まだ同じものなのかな。その疑問に答えられる者は誰も居らず。一人ごちた庸介は顎に手をあて、うん。とひとつ頷いた。どうせ誰にも理解されやしないのだ、だったらこの死にゆく太陽だけが知っていれば良いと、そう思った。
「おはようってさ、言うよ。朝起きたら、まずはアンタに。昨日のアンタを覚えてた証としてさ」
『そう――うれしい。わたしはもう、わたしがきえることを恐れなくていいのですね』
「いや、最初から恐れる必要なんてなかったと思うけど……」
 なにせ相手はお天道様。この世を照らし、人々を活性化させ、生活を操るもの。でも、そんなすごいものに、庸介は何かしらの影響を齎せたのだ。
「俺も偉くなったモンだなぁ」
 夜に怯えていたあの頃と、屹度本質は変わってないはずなのに。未だ心の裡には、黒く燻るナニかがあるのに。否定も肯定もされないままに、庸介はじっと沈みかけの夕陽を見守っていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『図書館で調査』

POW   :    気合いを入れて、ページの隅から隅まで。とにかく量を読む

SPD   :    速読など、読むスピードを早めて情報を掴む

WIZ   :    アタリを付けて本を抜き出し、目当ての情報を探す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜行図書館
 黄昏が静かに入滅したところで、夜行図書館にパっと明かりが着いた。
 静かで、ゆったりとした時間が流れる場所だった。外は真っ暗なのに、中は眩しくない程度に明るく、目に優しい色をしている。蔵書数は万単位、広くて細分化された棚。倒れてこないよう耐震つくりもばっちりで。
 そこは夜行らしく、日焼けしていない本が並び、陽が差さないゆえに埃っぽさもない不思議な空間だった。小さなカフェーでは無料のお茶や珈琲も飲める。
 パソコンやコピー機、雑誌に週刊誌など、若者向けの蔵書も取り揃えている。
 そして何より不思議なのは、たった一人の女性司書が切り盛りしている点だった。彼女の口癖はいつも誰にでも決まってひとつ。

「あなたは、誰ですか?」
 それに答えが返ってくることは少ない。どんな答えでも司書は受け入れ、また手元の本に視線を戻すのだ。

 あなたはその答えを探しても良いし、好きな本を手に取ってみるのも良い。

 ※PSWは参考程度にどうぞ。
セツナ・クラルス
私が誰かって?
それは答えにくい質問だ
――私は、セツナ・クラルス
但し、この名前が本当の私の名前なのかはわからない
生まれも不明、育ちはダークセイヴァー
私はそこで――私の運命を変える体験をした
……そう、私は、あの場所で――痛っ!?
不意に現れた別人格に本の角で頭を小突かれて思わず涙目

『思い出に浸るのも悪くねぇが、それは今することじゃねぇだろ
さ、一旦気分入れ替えて、オシゴトオシゴト!』
ゼロが顎でカフェを示してさっさっと背を向けて歩いていってしまう

ふふ、そうだね
私はセツナ・クラルス
救い主を自称しているが、頼れる相棒殿がいないと、一人では何もできないぽんこつだ
でも、それが悪くないと思ってしまうのだよね、ふふ




 カウンターの奥でひっそりと本を読む司書に近寄れば、司書の女性はめがねをくいとあげてセツナに前触れも無く問いかけた。
『こんばんは。あなたは、誰ですか?』
 ともすれば一方通行の質問に、セツナは律義に答える。私が誰か、なんて……至極答えにくい質問であるけれど。
「――私は、セツナ・クラルス。但しこの名前が本当の私の名前なのかはわからない」
 ほう、と司書は興味を示したようにテーブルに本を置き、続きを促す。記憶喪失か、はたまた偽名を使わなければいけない理由でもあるのかと、聞く価値があると判断されたのだ。
「生まれも不明、育ちはダークセイヴァー」
『ダーク、セイヴァー……?』
 此処はUDCアース、猟兵でもなければ別世界のことは分からない。この司書にとってもそれは同じことなのだろう。疑問を投げかけられ慌てて繕う。
「地方ですよ。そこで――運命を変える体験をした。……そう、私はあの場所で――痛っ!?」
 後頭部に急に走る痛みに思わず振り向くと、不意に現れた別人格・ゼロが本の角をセツナに向けている。その辞書のように分厚い本でごちんと小突かれた。痛いじゃないか、と言う間もなくゼロから声がかかる。
「思い出に浸るのも悪くねぇが、それは今することじゃねぇだろ。さ、一旦気分入れ替えてオシゴトオシゴト!」
 顎でカフェを指してさっさと歩きだすゼロに、待ってと声をかけて改めて司書に向き直る。司書は一連の流れにぽかん、としていた。
「すみません、相棒は少し乱暴で」
『本は武器ではありませんので……丁寧に扱ってくださいね』
 お互い苦笑し、セツナはゼロが待つカフェに向かう。そこは無料の珈琲やお茶が飲める、本の山に疲れた人へのちょっとした休憩所。まだ来たばかりのセツナ達が本来来るところではないけれど、まずは目覚めの珈琲から入ってもいいだろう。
 ゼロは勝手気ままに椅子に座り、やや不機嫌な様子で、独り言のように……それでいて確りセツナに聞こえる声音で話し出す。
「早々喋るもんじゃねぇだろ、ああいうのは。俺達の大事な記憶なんだから」
 仏頂面のゼロに、セツナの頬が思わず緩むのは仕方ない。だってそれは、共有する二人だけの秘密だと言ってるように聞こえて。
「ふふ、そうだね。私はセツナ・クラルス。それで十分だ。救い主を自称しているが、頼れる相棒殿がいないと、一人ではなにもできないぽんこつだ」
 うんうんと頷くゼロ。その表情は満更でもない。そしてセツナもまた、それが悪くないと思ってしまうのだった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

渦雷・ユキテル
ユキテルです。軽く微笑んでそれだけ答え
……本当に司書さんなんでしょうか
まあ、揉めて本読めなくなっても困るんで黙ってましょ

そうだ。司書さんが読んでるの、どんな本か気になります
後はおすすめ聞いてみたりもしたり【情報収集】【コミュ力】
お喋り好きって図書館じゃ好かれなさそうなんで
声は抑えめ、手短にを心掛けて

得られる情報があれば素直にそれ関係のを読みます
特に無いようなら禁帯出図書を探しに
折角なら此処でしか読めない本がいいかなって
これだけ広いと面白い資料ありそうですよね
存在論に絞って読んでみます

結構好きですよ、哲学
観点をずらせば賛否両方論じられて
世界がどれだけ曖昧に出来てるか感じられるから

※アドリブ等歓迎




 暗いのに、明るい。ユキテルが思ったのはまずそれだった。辺りの夜闇から浮き彫りになったこの夜行図書館では、蛍光灯が鳴ることもなく静かに猟兵を迎え入れている。其処で一人、カウンターの中で黙々と本を読む司書の女性が一人。靴音をならさないように静かに歩いて近寄ったのに、司書は随分と遠くからユキテルに気付いたようで本を閉じ眼鏡を上げなおした。
「こんばんは」
『こんばんは。失礼ながら……あなたは、誰ですか? いえ、興味本位です。深い意味はございません』
「ユキテルです」
 ほんの僅かに口角をあげて、軽く微笑み、それだけ答える。普通の司書がこんな質問をするだろうか。――……本当に、司書さんなんでしょうか。とは思っても聞かず、ただ笑みを湛える。揉めて本が読めなくなって困るのはこちらなのだ。
『本をお探しでしたらお手伝いいたします』
「んー……、そうだ。司書さんが読んでるの、どんな本か気になります」
『こちらですか? つまらない本ですよ。ジャンル的には哲学、でしょうか』
「あたし、結構好きですよ、哲学。論点をずらせば賛否両論論じられて、世界がどれだけ曖昧に出来てるか感じられるから」
 声は極力抑えめに、しかしハッキリとした口調で意見を口にするユキテルに、少しばかり目を見開いて司書はゆるく笑む。そして閉じていた本をスっと差し出した。
『では、ユキテルさまは屹度この本を楽しめるでしょうね。宜しければお貸ししましょうか?』
「他におすすめがあればソレ読みますけど」
『そうですね、ユキテルさまはとても洒落てらっしゃいますから、若者向けの雑誌など如何でしょう。哲学がお好きでしたらDの棚列にご用意しております』
「そうですか……ありがとうございました」
 礼を述べまずは雑誌コーナーに向かう。そこにはキラキラの表紙に『なりたい自分になれる!』だとか『本物の自分で愛されよう!』だとか、陳腐なキャッチフレーズで飾られた月刊誌が並んでいた。メイクやネイルは確かに雑誌を参考にすることもあるけれど、それは本当に本当の自分なのか? とも思う。いや、今はそれはともかく。
「禁帯出図書を探してみましょうか」
 折角なら此処でしか読めない本を読んでみるのもアリだろうと、少しばかり隔離されたコーナーに向かえば、迎えてくれたのは背表紙に赤いラベルでRと書かれた本たち。これだけ広ければ面白い資料もあるだろう。目についた統計学の本を読んでみれば、スっと目に入ってくる『自己に満足しているか』のアンケート結果。それによると大抵の人間は『自分はもっとできるはず、本当の自分はこうではない』と思っているとか。傲慢な結果に笑ってしまう。
 続いて向かったのは案内されたDの棚。存在論に絞って蔵書を漁るユキテルの目は、宝物を探す子供のように輝いていた――。

成功 🔵​🔵​🔴​

エリエ・ルーミエンス
……まったく、哀れな奴……
いえ、居なくなった者のことは一旦置いておきましょう

さて、UDCに関する書物を探すんでしたか
とりあえず適当に本棚を巡って、目についた書物でも読みますか

しかし、静寂とともに膨大な情報に囲まれていると落ち着きます
原風景って言うんですかね
落ち着いてくると、なんだか眠くなって……うぅん……

……はっ
質問をされたら迷うことなく答えます
私はエリエ・ルーミエンス。愛おしき主サマにより創られた電子存在
たとえ嗤われようが、主サマへの愛を証明し続けるのが私の存在意義です
ご満足いただけましたか?

……なんて、普通の人が聞いたらどうせドン引きでしょうけど
試しに相手の様子を窺ってみます

※アドリブ歓迎




 遂に沈んだ黄昏に、エリエは哀れな奴。という以外の感想が浮かばなかった。可哀そうだとか、また会いたいとか、優しい気持ちは浮かんでこない。所詮それだけの存在だったということ。いや、居なくなった者のことは一旦置いておこう。今は此処、夜行図書館で調べものをしなければ。
「さて、UDCに関する書物を探すんでしたか」
 とりあえず適当に本棚を巡り、目についたのは【日本の怪奇現象】という本。眉唾な都市伝説もあれば、実は聞いたことのあるオブリビオンが原因であるとわかるものもあった。しかし、それ以上の情報は入ってこない。普通の人間が書いた本に、そこまで求めるのは酷だろう。そっと本をもとの場所に戻し、また一歩一歩館内を歩いてゆく。
 静寂とともに膨大な情報に落ち着くとエリエは満足気だった。原風景、とでも言えばいいのか。電子の海で読み切れない程の情報と感情に渦巻かれているのと同じような……。落ち着いてくると、なんだか眠くなって……。目をごしごし擦るエリエに、すっと影が覆う。何かと思って見上げれば、それは眼鏡をかけた女性司書が本を返しに来たところだった。
「うぅん」
『もし、大丈夫ですか。あなたは、誰ですか』
 その質問にエリエははっと覚醒する。そして迷わず答えた。
「私はエリエ・ルーミエンス。愛おしき主サマにより創られた電子存在。たとえ嗤われようが、主サマへの愛を証明し続けるのが私の存在意義です。――ご満足いただけましたか?」
 ――……なんて、普通の人間が聞いたらどうせドン引きでしょうけど。少々の諦めと多大なる疑惑の目で、試しに司書の様子を窺ってみれば、さして驚いた風もなくエリエの言葉を受け入れている様子。
『電子存在……創られた……。そうですか、あなたはこの世界の構造を、少しは理解していらっしゃるのかもしれませんね』
「? なんのことですか」
『いいえ、いいえ。それを問うのは今ではありません。今はどうぞごゆるりと、此の蔵書を堪能していって下さいませ』
 そう言うとサッサとエリエをその場に残し、カウンターの中に戻っていく司書。何か、隠しているような、それとも勿体ぶっているような言い方だなと思った。しかし、これ以上踏み込むのも何らかのトリガーを引いてしまいそうで危険だと判断したエリエは、言われた通り本棚をじっくりと見て回ることにした。
 本日の新聞コーナーには『自己肯定力の低い現代人の……』等という見出しが見える。――自己肯定力、不思議ですね人間は。私は主サマに愛された絶対的な存在。揺らぐことなんてない。それなのに、人々は自分の存在価値を求めてあてもなく彷徨う。哀れですね。それは黄昏に思った気持ちとは少し違うけれど、言葉にしてしまえば同じものであった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

橙樹・千織
アドリブ歓迎

夜の図書館は初めて
昼とは違う、不思議な雰囲気を楽しみつつ本棚の間を進む

ふらふらと館内を歩き
気になる本があれば手にとって読み
本棚に戻したらまた歩き出す
そんなことを繰り返していれば目の前には噂の司書の姿

……私は…千織
…“橙樹”千織
司書に問われたなら
自分の名を、自分を確かめるように静かに答える
問自体は大した物ではないはずなのに
無意識に握りしめていた手は、白く冷え切って

視線を外されれば全身に入っていた力が抜けていく
ふらりと窓辺に歩み寄ればガラスに映る自分の顔
自分が思っている以上に動揺しているとも気付かず
そっとガラスに触れて
心に浮かんだ言の葉は留まること無くこぼれ落ちる

今、此処にいるのは…




 夜の図書館は初めて。昼とは違う、不思議な静謐さを醸し出す雰囲気を楽しみつつ、本棚の間をゆったりと進む。ふらふらと館内を歩き、気になる本があれば手に取って読む。『平成の猟奇殺人』『怪奇現象を解剖せよ』なんて胡散臭いものから趣味の悪いものまで、その棚には並んでいた。ぱらぱらと覗き見して特段気になる記事がなければ本棚に戻しまた歩き出す。それの繰り返し。いつしかカウンターに近づいていた千織は、思い切って本を読んでいる司書に声をかけてみた。
「こんばんは」
『こんばんは、何か御用でしょうか。いえ、その前に。貴方は誰ですか?』
「……私は……千織。……“橙樹”千織」
 問われた質問に、自分の名を確かめるように静かに答える。問いかけ自体は大したものではないはずなのに、無意識に握りしめていた手は、白く冷え切っていた。愛も、夢も、記憶も、全て此の名の下に、柔らかく抱いているはずなのに、どうしてか震えが止まらない。嗚呼、ああ、私は脆い。揺るぎない、凛とした立ち振る舞いを心掛けていても、心の裡はどうしようも出来ない程に――恐れている。何に?それは……――。
『ご気分が悪いようでしたらソファがありますのでお休みくださいませ。図書のインクの香りは独特ですからね』
「……ありがとうございます」
 司書に促され窓際のソファに向かう。視線を外されれば全身に入っていた力……無意識に力んでいた体から力が抜けていく。ふらりと窓辺に歩み寄れば、ガラスに映る千織自身の貌。自分が思っている以上に動揺しているとも気付かず、そっと硝子に触れた。ひやりとした硝子は千織の手を伝わり頭まで届く。酷く、冷たい。心も、身体も。
「今、此処にいるのは……」
 心に浮かんだ言の葉は留まること無く零れ落ちる。此処にいるのは、誰? そんな事、自分が一番分かっているはずなのに、どうしてか自信が持てない。いや、自信とはまた違う……確信、だ。橙樹・千織という存在は確実に此処にいるのに、揺らめく存在。それは前世の記憶だとか矜持だとかを通り越し、自分の気持ちを惑わせる。
 ――私が私であるならば。私という存在は――……。
 罪か罰か、分からない。くらりと眩暈がした。そこでやっと、ソファに腰掛ける千織。ふぅ、と深く息をつき、呼吸を整える。自分がこんなにも曖昧だなんて思わなかった。故に、混乱した。
「この感情は私だけのものであるはずです。そうでなければ……」
 そうでなければ、こんなにも心を乱すのは一体誰の仕業だというのだ。千織は目に手を覆い、深呼吸をする。私は千織。森を守る山吹の花の守護巫女。八重櫻は……。それを知るのは、語るに足る資格がるのは、千織という人格ただ一人――。

成功 🔵​🔵​🔴​

三嵩祇・要
誰でもない
とだけ答えて感染型UDCについて調べられそうな本を探しながら質問について思考する

自由な意思など無いとして
だから何だ、としか言いようがない
自分が何者かなんて興味ない

誰にも望まれてないし、誰の為にあるわけでもない
けど、在るんだから仕方ねぇだろ

オレはヴィランに殺された
「その続きはいらない」
そう思い過ぎた所為かもしれないが
誰かを不幸にするだけの自我なら無い方がマシだろう

死にぞこないか空っぽか
自分でもわかんねぇけど

あいつにはオレがどんな人間に見えてるんだろうな
良い人間のはずがないんだが
何故友人足り得ているのか、少しだけ興味はある
いや、やっぱ知らなくていい

感染型UDCの弱点とか倒し方とかねぇかな




 夜風に背中を押されながら、要は煌々と明るい夜行図書館に足を踏み入れた。夏も近いとはいえ、夜は冷える。それなのに空調が行き届いているのか、不思議なくらいこの空間では何も感じなかった。
 宛てもなく彷徨うのは得策ではないと、件の司書の元へとりあえず足を運んでみる。何が起きても良いように、セテカーをすぐ呼べるよう心構えを忘れずに。――司書は要に微笑みかけ、予知の通りに定型文を問う。
『こんばんは。不躾ですが、あなたは誰ですか? 深い意味はございません。此処の利用する皆様にお聞きしている事です。どうぞ思うままにお答えください』
「誰でもない」
 ぶっきらぼうに一言そう告げると、司書は困ったように眼鏡をクイとあげ閉口した。どうせ何と答えても、こちらが納得する理由は応えないくせにと、要は舌打ちをしたくなるのをグっと堪えた。此処で押し問答をしても無意味だぞ、と頭の中から声がする。その声に「分かってる」と声に出さず返事をして、今度はこちらから司書へ話しかける。
「あー……、UDCに……いや、都市伝説とか口承の類の本あるか?」
『もちろんございます。Nの棚へどうぞ』
 ドーモと礼を告げ言われた通りにN棚へ向かう間、司書からの質問について思考する。
 ――例えば俺が俺でなく、自由な意思など無いとして、だから何だとしか言いようがない。自分が何者かなんて興味ない。誰にも望まれてないし、誰の為にあるわけでもない。けど、在るんだから仕方ねぇだろ。
 要という存在は、ヴィランに殺された。「その続き」は「いらない」。そう思い過ぎた所為かもしれないが、誰かを不幸にするだけの自我なら無い方がマシだった。死にぞこないか空っぽか、自分でも分からないけれど……誰かに教えて貰うほど素直な性格でも、それを信じられるほど柔軟でもなかった。
 敢えてひとつ挙げるならば、ひとつ気になる事がある。ある友人のことだ。彼には自分がどんな人間に見えているのか。良い人間のはずだが、ならば尚の事どうして自分のような人間と友人足り得ているのか、少しだけ興味がある。知りたい、いや、やっぱり知らなくていい。知って勝手に失望も落胆もしたくないのだ。例え答えが友好的なものでも、それはそれでくすぐったくて正面から見るのが辛くなる。
 Nの棚列に着いた要は、上から下までぼんやりと蔵書を眺めた。胡散臭い『UFOの正体!』『呪いのビデオは実在した!』なんてものには思わず失笑してしまう。感染型UDCの弱点や倒し方が書いてある本があれば万々歳だったのだが、残念ながらそう簡単には見つからない。この列の本を隈なく調べれば万が一にもあるのかもしれないが、そんな事をするよりは直接雷を落とした方が早いだろう。
「弱点を早々晒すわけねぇか」
 さっさと諦めて、普段は読まない新聞コーナーに向かう。不審死のニュースでも探した方が早いだろうと思ってだ。このご時世、アブなくない話を聞かない方が難しい。それがUDCが原因であれ、醜い人間の仕業であれ、最終的に裁かれれば良い。悪は裁かれるべきだ、それを行うのが司法か猟兵かの違いなだけ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

旭・まどか
さよならと同時
閉ざした瞼の向こう
“君”がくれた温もりは失せ
代わりに開くは夜の世界
馴染みのある刻にひとつ息吐いて

ぐるりと周囲を見渡し
世界中の蔵書を集めたかのような規模に瞬いて
宛ても無く虱潰しに頁を捲るのは得策じゃあ、無い
何か手がかりを、と考えた所で落ちる声

僕は、誰?

そんなこと、僕が聞きたいくらいだ
ぼくは、だれ?

君が答えを持っているならば、僕に教えて
“ぼく”という存在を示す一冊を、此処に持って来てよ
君が応えてくれるならば、僕は――、

その先を頭を振る事で払い、足は雑誌棚の方へ
適当に手にする一冊
記される内容には全く興味が無いけれど
噂話を書き連ねる所になら
何か糸口のひとつでも無かろうかと




 さよならと同時。閉ざした瞼の向こう。“君”がくれた柔らかな温もりは失せ、代わりに開くは夜の世界。
馴染みのある刻にひとつ息を吐いて、まどかはいざやいざと夜行図書館に足を踏み入れた。
 ぐるりと周囲を見渡し、世界中の蔵書を集めたかのような規模に瞬く。これだけの蔵書、一体いくらの時と金が費やされたのだろう。それなのに夜しか運営してないだなんて、とても贅沢な時間の使い方だなと思った。宛ても無く虱潰しに頁を捲るのは得策じゃあ、ない。何か手掛かりを求め、尋ねに向かうは司書の元。
「こんばんは。本を、探しているのだけど」
『こんばんは。それに関してなら何でもお答えしましょう。代わりに私からもお聞きしてよろしいでしょうか。あなたは、誰ですか?』
「僕は、誰?」
 ――そんなこと、僕が聞きたいくらいだ。ぼくは、だれ? 何物にも成れない僕が、何者かだなんて、知ってしまうことで何か変わるのか。君が答えを持っているならば。僕に教えて。“ぼく”という存在を示す一冊を、此処に持って来てよ。君が応えてくれるならば、僕は――……。
「僕は……知りたい。自分のことを」
『然様ですか。ではあなたは、まだ自分という存在に揺らめいているのですね』
「……」
 司書の言葉にうんともすんとも返さず、帽子を目深に被り直し、頭を振る。教えて貰ったところで、意味があるかどうか決めるのは結局自分なのだから。
 一礼しカウンターを離れると、向かった先は雑誌棚。適当に手にした一冊には『自分をみつめる総合運占い!』の見出し。記される内容には全く興味がわかないけれど、噂話を書き連ねるところになら何か糸口のひとつでもなかろうかと頁をぱらぱらと流せば、今月の特集に『自己を見失う人々』という記事が載っていた。
 自分という存在は、価値がなければ存在してはいけないのか? 誰かに認められなければ存在しないのと同じなのだろうか? 我々は自己の行動全てに意味があると信じているだけで、その実、自分以外の存在でも代用できることを知っているのだろうか? ……そのような記事が書かれていた。酷く、馬鹿らしいとまどかは目を細める。それが分からぬから誰もが自己を認められたいと願うのに。
 ――僕は、だれだ。僕を知らない誰かに決めてもらうのも癪だし、かといって僕ひとりの力では分からない現状に、ため息が零れる。僕は旭・まどか。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。
『ではなぜ、あなたは自分に苦しむのですか?』
 いつの間にか隣には、女性司書が本を戻しに立ち寄っていた。心の声でも漏れていたのだろうか、核心を突くような司書の疑問に、答えられるほどの明確な回答は持ち合わせていなくて押し黙る。それでも司書が去る前に言えたのは。
「僕は……――僕でありたい」
 たった一言、それだけ。司書は振り向くと眼鏡をクイとあげて、にこりと微笑んだ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

誘名・櫻宵
🌸宵戯

私は本は好きだけれど
しらぬ事を識れて
ゆけぬ場所へ往ける

ロキは本が好かぬのかしら

神話、というものがある
神が八首の龍を討伐するもの
私が誰って……
私はその八岐大蛇
何時だって屠られる悪の龍
ロキ、そういうものよ
ひとに害を成すものは悪となり
何時だって倒される側になる
負けてしまえば悪となる
そう思わない?

本はひとの認識の集まりよね
だから面白い
ハラハラ本を捲る

私は誰か
何処にも私を示す言葉など載ってない

今更何を
ロキは私のかみさまでしょう?
私を救ってくれる神様

哲学なんてどうでもいいわ
私は私
誘七櫻宵という咲き誇る桜
ひとか、化け物か、悪魔か
何物にも定義されない
ひとりの龍よ

言うのは簡単なのに
認めるのはなんと難しい


ロキ・バロックヒート
🌸宵戯

本はあんまり読まないようにしてる
知らなくてもいいことも識るから
これは櫻宵には言わないけど
英雄譚でひとが『私』を“邪神”だなんて定義しなければ
『私』が狂うこともなかった
ひとが好き勝手に書く知識
それが本への印象

問いに不思議と答えられない
私はなんだと思う?
横にいる龍に聞く

かみさま
そうだね
そして君は龍だ

神は救いを齎すもの
この龍の救いになっているのならばその通り
幾らでも肯定してあげる

それでも満足にそれが私だと云えないのは
欲を持つようになってしまったからか
自分の存在意義を疑っているからか

最近はこうも思う
こんな風に思い悩むなんて
ひとと変わらないんじゃないかと

私はかみさま
でもなにもできない私は、なに?




 夜の静けさの中、夜行図書館の中でも響かぬほどのひそひそ声で、櫻宵とロキは本を捲る。櫻宵は楽しそうに、ロキは……あまり興味を感じていないように。隣に並ぶロキを見上げ、こそりと尋ねる櫻宵。
「ロキは本が好かぬのかしら」
「あんまり読まないようにしてるだけだよ。知らなくてもいいことも識ってしまうから」
 櫻宵にこそ言わないが、英雄譚でひとがロキを“邪神”だなんて定義しなければ、ロキが狂うことも無かった。『ひとが好き勝手に書く知識』、それが彼の本への印象。そして多分、その印象もまた間違いではないのだろう。書く権利は誰にでもある。勝者にも、敗者にも、悪者にも、善人にも。
『もし、お二方』
 棚の後ろから声がして、振り返ればそこには数冊の本を抱えた女性司書が立っていた。丁度彼らが読んでいた棚の本を返しに来たのだろう。
「嗚呼、ここの司書さんね」
『如何にも。ええと、あなた方は、誰ですか?』
 随分と唐突な質問であるが、この夜行図書館に於いてこの質問は様式美なのだ。誰しもが受ける、歓迎のしるし。

 ――神話、というものがある。神が八首の龍を討伐するもの。人々の間、帝にすら受け継がれるその伝承。櫻宵の正体、それは。
「私が誰って……私は、八岐大蛇。何時だって屠られる悪の龍」
「……私はなんだと思う?」
 ロキは不思議と問いには答えられなかった。並び立つ櫻龍に聞く。口元を袖口で隠し、櫻宵はくすりと嗤ってその問いに答える。
「今更何を。ロキは私のかみさまでしょう? 私を救ってくれる神様」
「かみさま。そうだね、そして君は龍だ」
 神は救いを齎すもの。櫻宵の救いになれるのならばその通り、幾らでも肯定しよう。幾らでも注ぎたもう。それでも満足にそれが『私だ』とロキが云えないのは、欲を持つようになってしまったからか。自分の存在意義を疑っているからか。最近はこうも思う――こんな風に思い悩むなんて、ひとと変わらないんじゃないかと。
『あなた方はお互いを認め合うことで個を確立しているのですね』
「さぁ、どうかな」
 司書の解釈に合間に応えるロキの表情は、穏やかながらその奥に辛辣さを隠していた。それを見抜いたのか、あるいは見過ごしたのか分からぬ曖昧な笑みで、司書は二人の間に割り入り本を戻していく。そして去り際に一言、言葉を投げかけた。
『本に書いてあることが全てではありません。しかし、本に書いてあることでしか動けないヒトも居るのです後世に続く人々は、いつも誰しも正義を望む』
 例えば、私のように。……その真意は分からない。ロキも櫻宵も司書が去っていくのを黙って見届けた。分からないな、とごちるロキに、櫻宵は真っ直ぐと司書の背を睨みつけながら言う。
「そういうものよ、ロキ。ひとに害なすものは悪となり、何時だって倒される側になる。負けてしまえば悪となる。そう思わない?」
 ――本はひとの認識の集まりよね。だから面白い。ハラハラと頁を捲る本は、キャッチーなコピーと小難しい導入文で人々の興奮を煽る。実に陳腐な内容だ。でもそれに惹かれるひともいるのだから、どんなものでも侮れない。しかし、櫻宵自身が誰なのか、それを示す言葉は何処にも載っていない。
「櫻宵、君は君である自信があるかい?」
「ふふ、なぁにそれ。哲学なんてどうでもいいわ。私はわたし。誘七・櫻宵という咲き誇る桜。ひとか、化け物か、悪魔か。何物にも定義されないひとりの龍よ」
 言うのは簡単なのに、認めるのはなんと難しいことか。それでも、隣にいるかみさまを想えば孤独ではない。自分以外に自分を認めてくれる存在に、感謝と少しばかりの祝福を。それが邪龍と云われた龍に出来る、最大限の恩返し――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鞍馬・景正
ただの誰何、では無いようですね。
……胡蝶の夢でなし、この自分が自分ではないという事などありえるのでしょうか。

幸い、考える為の時間も書物も事欠かぬ、か。

◆思料
純粋理性批判、世界五分前仮説、シミュレーション仮説――。

随分と難渋で、理解の及ばぬ点も多くありましたが。
成る程、此の世は舞台の書き割りで、我らも絡繰り人形のようなものではないかと。

ありえる。
というより否定しきれない。

しかし――それを是とすれば、あの黄昏の嘆きは奈辺にいくのか。
作り物であれ、私は確かにそれと接し、真と感じた。

ならこの身も同じ事でしょう。

存外、私の操り人などがいるなら、呆れ半分、やりたい通りにさせてくれているやも知れませぬしな。




『あなたは、誰ですか?』
 此の夜行図書館に入るなり、聞かれた言葉。女性司書はあなたの言葉を待ち、すっと姿勢よく立っている。
「ただの誰何、では無いようですね」
 ――……胡蝶の夢でなし、この自分が自分でないという事などありえるのでしょうか。幸い、考えるための時間も書物も此処では事欠かぬ、か。
 純粋理性批判、世界五分前仮説、シミュレーション仮説――。随分と難渋で、理解の及ばぬ点も多くありましたが。成るほど、この世は舞台の書き割りで、我らも操り人形のようなものではないかと。ありえる。というより否定しきれない。そんな景正に、司書は嬉しそうに手を両手合わせにし胸元に組んだ。
『嗚呼、嗚呼。あなたは感じているのですね。世界を想像し、創造しえた神をも超える存在を!』
「いや、私は……」
 それを是とすれば、あの黄昏の嘆きは奈辺にいくのか。作り物であれ、景正は確かにそれと接し、真と感じた。
 ならばこの身も同じ事でしょう。
 存外、私の繰り人などがいるなら、呆れ半分、やりたい通りにさせてくれているやも知れませぬな。
「失敬。私は私を操るものがいるなどと、本心から信じておるわけではありませぬ」
『ではなぜ、世界を拒絶しないのですか?』
「……拒絶するほどの答えを、私はまだ見つけておりません。それでは不服でしょうか?」
『いいえ、いいえ。結構です。あなたのお気持ちはよくわかりました。どうぞこの図書館を隈なく堪能されませ。さすれば自然と、己が応えに行き着くはずです』
 世界が5分前に唐突に出来た話も、シミュレーション仮説も、自分を肯定するにはあまりに不安定で脆い。シミュレーションであるならば、尚の事自分である必要などないのに。頭が混乱する。しかし、痛いというよりはどこか心地の良い頭痛だった。はまらないパズルのピースをひとつひとつ埋めていくような感覚……それによく似ている。
 ――夕陽は私にこう話しかけた。『私は最後まで、一人ではないのだ』と。であれば、私こそそうあらねばならない。誰かを見届けたものが孤独のまま沈むなど、あってはならないこと。沈むことを拒んだ者へのせめてもの償い。
 操り人よ、今だけでいい。私を意のままに動かしてくれ。そなたを神と崇めるならば、そうしようじゃないか。一度きり、あの女司書には、伝えたいことが、まだある――。

成功 🔵​🔵​🔴​

桔川・庸介
哲学?のなんか小難しい本。手に取って適当にページをめくる。
目が滑って、普段ならたぶん1行も読めやしないやつ。
『世界が5分前に以前の記憶ごと造られたという可能性は、誰にも否定できない』
……難しすぎるけど、やっぱし引っかかる。

あ、えーと、俺っすか?俺は、
……や。すいません、名乗れません。
俺が誰なのかって。丁度今、すげー悩んでて。

俺の記憶。つまりここまでの人生の、思い出とかそういうやつ。
不自然なくらい、今まで気づかなかったけど
多分、なんも無い。思い出そうにも、すっぽ抜けてる、っぽくて……
おれって、

(言葉は途中で止まった)
(少年は身の内からの干渉で絶命し、崩折れる)
(代わりに傍らに立つ人影がひとつ)




 静かで足音ひとつ聞こえない夜行図書館にぞわりとしたものを感じながらも、隅から攻めていった庸介は、AからきてDの棚まで来たとき、其処が哲学ジャンルであることに気付いた。なんぞ小難しい本を手に取って適当にページをめくる。普段なら多分、目が滑って一行だって読めやしないのに、どういう訳か今日は見れば見る程吸い込まれていくような感覚に襲われる。『世界が5分前に以前の記憶ごと造られたという可能性は、誰にも否定できない』。
 ――難しすぎるけど、やっぱし引っかかる。それが本当だとしたら、俺の記憶もそうなのか?
 考えても答えにはたどり着かない。しかしどうしても気になるそれを一応借りて読んでみようと、庸介はカウンターに向かった。そこには眼鏡をかけた大人しそうな女性司書が本を読み来客を待っている。
『こんばんは、本の貸し出しですか?』
「はい」
『ではバーコードを通しますので一度本をお貸しください。そして……あなたは、誰ですか?』
 本を差し出したところでぴたりと庸介の動きが止まる。簡単な質問だ、ただ自分の名前を名乗ればいいだけ。それなのに口に出すのが憚られる気がして喉から声が出ない。は、と小さく息を飲んで、司書に対して声を絞り出した。
「あ、えーと、俺っすか? 俺は、……や。すいません、名乗れません。俺が誰なのかって。丁度今、すげー悩んでて」
『然様でございますか。自分が何者かもわからないとは、さぞや不安でしょう』
 不安。そうなのか? 庸介の記憶……つまり、ここまでの人生の思い出とかそういうもの。不自然なくらい、今まで気づかなかったけれど。
 ――多分、おれにはなんも無い。思い出そうにも、すっぽ抜けてる、っぽくて……もし世界が5分前に創られたのだとしたら、俺の記憶だけは作られなかったのかと疑問に思ってしまうくらい。
『世界の定理を学びたいのでしたら、哲学は良いですよ。あなたは良い本を見つけられました』
「はぁ……ありがとうございます」
『しかしながら名乗れぬ方に貸し出しは出来ませぬ故、どうぞ館内でお楽しみ下さい』
 そうして本を返された時、内に響く何かがキーンと音を立てて庸介の中を弄った。なんだか嫌な予感がする。蒼褪めた表情でソファのある窓際に足早に歩いていくと、脳内で声が聞こえたような気がした。
 ――『虚像の分際で何を』
 それは自分と全く同じ声。なんだ、これは。虚像ってなんだ。おれって、――。
 意識が途切れ、ソファにたどり着く前に身の内からの静かながらも強烈な干渉で絶命し、崩折れる。代わりに傍らに立つ人影がひとつ。証明に照らされたその顔は、俯かれどんな表情をしているのかまるで分らなかった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

さて、ここが件の図書館かい。
まさかこんな所があるなんてね……
しかもここに感染型UDCの気配があった、と言うのも
捨て置けない話だよ。
日中の図書館には何度も『情報収集』で訪れた事があるけれど、
なんだろうね……静謐の質が何か違う、そんな気がする。
まるで宵闇に紛れて境目がぼやけていくような……
まさか、なんて笑ってすます訳には行かないね。
これも或いは何かの攻撃かもしれないから。

ま、適当に感覚を頼りに本を読んでみるかな。
直感も第六感もないんで、本当にあてずっぽうだけどさ。

……て、それでこれかよ。
デカルトなんてアタシゃトンと知らないよ?
それこそ「コギト・エルゴ・スム」くらいしか。




 黄昏の幕は降り、夜の帳が静寂を制す時刻。件の夜行図書館に足を踏み入れた多喜は、まずその蔵書量に驚いた。一通り見渡して、一言。
「まさかこんな所があるなんてね……」
 しかも此処には感染型UDCの気配があった、と言うのも捨て置けない話である。日中の図書館には何度も商法収集の為に訪れたことはあれど、なんと表現すべきか……静謐の質が違う。そんな気がした。まるで宵闇に紛れて境目がぼやけていくような……なんて、まさか笑って済ます訳にはいかない。これも、或いは何らかの攻撃かもしれないのだから。
 中央に鎮座するカウンターには眼鏡を掛けた女性司書がひとり、デスクライトが照らす中本を読んでいる。近づいてみれば多喜が話しかけるより先に、司書はフッと笑って口を開いた。
『こんばんは』
「ああ……こんばんは」
『あなたは、誰ですか?』
「……」
 誰、と云う問いに、多喜は答えを持ち合わせていない。いや、あったとしてこの司書に言ってどうなるというのだろうか。沈黙を貫いていると司書はフフと小さく笑い、読んでいた本を閉じて多喜に手渡した。
『どうぞ、デカルトです。ご存じですか? 哲学書です』
 無言でそれを受け取ってみたが、何ともいい返しが思いつかない。そう考えている内に、司書はまた別の本を読み始めた。とりあえず受け取った以上読んでみるかと窓際のソファに腰を下ろす多喜。
「……て、それでこれかよ。デカルトなんてアタシゃトンと知らないよ? それこそ『コギト・エルゴ・スム』くらいしか」
 我思う故に我あり。有名な言葉だ。自分という存在を肯定するのは常に自分であると、疑問をもったその瞬間、存在は揺らぎ曖昧なものになるという格言。
 精神、自我、自意識、自己愛。全てのモノは自分という存在に繋がっている。それを認識できないのならば、自分は一体誰なのだろうか? 多喜はぱたん、と本を閉じた。小難しい話は置いておいて、今重要なのは『自分が何者なのか』ということ。猟兵、UDCを追うもの、失った親友、他世界の血族……すべてが全て、多喜を形成するもの。であるならば、そもそもその問いに意味はあるのか?
「アタシはアタシさ……それを否定するやつがいるってんなら、ぶっとばしてやる」
 そのまま本を哲学書の本棚に戻し、適当に感覚を頼りに本を読んでみる。直感も第六感もない、完全なる当てずっぽう。そこで手にしたのは……。
「ハイデッガー……」
 名前は辛うじて聞いたことはあるが、何を主題にしているかまでは知らない。一応さわりだけでもと、多喜は最初の1頁を捲るのだった……。

成功 🔵​🔵​🔴​

スキアファール・イリャルギ
夜行図書館に惹かれて来てしまった
静かで眩しくなくて良い所ですね

私は誰か?
……スキアファール・イリャルギ
そして、
真境名・左右です

ふたつも名が在って不思議ですか?
どちらが本名か、なんて質問は止してくださいね
どちらも"私"です
私という『人間/怪奇/影人間/怪奇人間』を表す名です

怪奇人間とは何ぞやと聞かれたら?
さぁ、なんでしょうね……
私の場合は"つくりなおされた存在"と言ってもいいのかもしれません

――今のこの躰は擬態
本当の人間の躰は影に溶けましたから
これは言わずに黙っておきますけど

……お喋りが過ぎましたね、すみません
影は影らしく大人しく隅っこで静かにしてましょう
お勧めの本あります?

(アドリブ等ご自由に




 此処、夜行図書館の静かで眩しすぎない落ち着いた雰囲気に惹かれる者は少なくない。会社帰りのサラリーマンや、子供を寝かしつけた主婦、バイト帰りの勉学に励む学生。そんな彼らが普段なら利用している。尤も、今は猟兵が貸し切っており一般人は誰も居ないのだが。
 一直線にカウンターに向かい、此処の構造やシステムを聞きに行く。其処には大人しそうな女性司書がゆったりと本を読んでいたが、足音も無く近づくスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)を遠くから補足してにこりと微笑み本を閉じた。
『こんばんは。あなたは、誰ですか?』
「私は誰か? ……スキアファール・イリャルギ。そして、真境名・左右です」
『二つの名をお持ちで?』
「不思議ですか? どちらが本名か、なんて質問は止してくださいね。どちらも“私”です。私という『人間・怪奇・影人間・怪奇人間』を表す名です」
 司書は怪訝な顔でスキアファールを見つめた。聞きなれない単語、それが自分であると言い切るその姿に少しばかり圧倒されたのか。
『怪奇人間とは……また聞かぬ言葉ですね。ご職業ですか?』
「さぁ、なんでしょうね……私の場合は“つくりなおされた存在”と言ってもいいのかもしれません」
 ――今のこの体は擬態。本当の人間の躰は影に溶けましたから。と、これは言わずに黙っておきますけど。知られて困る事ではないが、意味不明な言葉をこれ以上続けるのも意味がない。自分でもうまく説明できるものでもなしに。
「……と、お喋りがすぎました、すみません。図書館では静かにするものでしたね。影は影らしく隅っこで静かにしていましょう。お勧めの本あります?」
『そうですね……では、もしよろしければ此方を読んでみては如何ですか? あなたの存在を肯定してくれるかもしれません』
 何かを察したように、司書は読んでいた本をスキアファールに差し出した。有名な哲学書のようで、作者の名前を聞いたことがあるような気がする。
「ありがとうございます、お借りします」
『どうぞ、ごゆるりと』
 隅っこは照明のついた学習机だった。丁度いい、一人でひっそり読めるというものだ。それにしても、あの司書……あなたは誰? とはまた唐突だなと思う。静かな場所にお似合いだが、どこか浮いている……そのように感じた。その直感が当たっているかはどうかは、これから分かる事だ。何しろ『一般人は避難している』はずの夜行図書館で、何食わぬ顔で其処に居るのだから――。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『司書』

POW   :    私達は誰かの思考から生まれた存在なのでしょうか?
対象への質問と共に、【この世界を構成する神以上の存在】から【御手】を召喚する。満足な答えを得るまで、御手は対象を【含む、世界を追記、編集、削除する事】で攻撃する。
SPD   :    私達の行動は物語に綴られた文字にすぎないのでは?
対象への質問と共に、【この世界を構成する神以上の存在】から【御手】を召喚する。満足な答えを得るまで、御手は対象を【含む、世界を追記、編集、削除する事】で攻撃する。
WIZ   :    この世界は、私達は、本当に存在しているのですか?
対象への質問と共に、【この世界を構成する神以上の存在】から【御手】を召喚する。満足な答えを得るまで、御手は対象を【含む、世界を追記、編集、削除する事】で攻撃する。

イラスト:ナミハナノ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 夜行図書館の電気が一斉に消え、敵襲に備える猟兵だったが、一向にその様子はない。しかし、気付く。司書のいるカウンターのみ明かりがつき、また彼女も何事もなかったかのように本を読み進めていることに。
 一歩踏み出し、誰かが言った。「お前は誰だ?」と。司書は眼鏡をクイと上げ、微笑みながらこう答えた。
「私達は誰かの思考から生まれた存在になのでしょうか?」
 質問には答えず更に続ける。
「例えば、私達の行動は物語に綴られた文字にすぎないのでは?」
 本をぱたんと閉じ、集まった猟兵全てに目配せをして。
「或いは、この世界は、私達は本当に存在しているのですか?」

 司書はただ知りたいのだ。世界の真実、あなたがたの運命、そしてそれを背後で操る存在を。
「みなさまは<RP>という言葉を知ってますか? 役割演技というものです。私も、みなさまも、結局のところこの世界より上位の存在にRPされているに過ぎないのでは?」
 司書の言い分はめちゃくちゃであったが、必死に謎を解きたい気持ちは切に伝わってくる。
 あなたはあなたなりの回答で司書を納得させるしかない。満足いく答えを得られたならば、オブリビオンと化した司書は世界の摂理を理解し消えゆくだろう――。

 ※戦闘プレは必要ありません。文字数フルにお使いください。
誘名・櫻宵
🌸宵戯

私は私ではなくて
誰かに操られている、と
この思考も行動も誰を好いて嫌うかも全て決められていたとしたら
神が歯車なら
ひとは踊子かしら
運命という目に見えぬ因果の上で踊り狂うだけ

…私は霊媒体質で
昔から憑かれたり強い亡霊には乗っ取られかけたりするの
ねぇ、
私の中の過去の亡霊さん
私あなたに私を渡せない
もう憑依もさせない
傍らの桜わらしに自身にくっついていた亡霊を剥がして閉じ込める
操られるなんてごめんよ

誰かが書いた台本の上でも
例えそうだったとしても、私は私として在りたいわ
全ての選択は私自身がしたものだと
何かのせいにすることなく受け止めていたい

私は誘七櫻宵という龍

そう
いつかは私も
ちゃんと滅んでいなくなるもの


ロキ・バロックヒート
🌸宵戯

もし誰かにこの世界が創られたとするなら
神はその最たる歯車かもしれないね
役割をもって世界を形作るものだ

世界を滅ぼす神威をもって生まれたなら
いずれ来る滅びに必要だから
私が封じられているのもその必然のため
今は滅びのときではない
そう―理屈では思うのに

もし背後で操る者が居るとすれば
とんでもないひねくれものなんだろうな
世界の滅びを齎す存在なんて兵器で良かったじゃない
どうして意思や感情なんか持たせたのか
どうして哀しみを報せるのか

あぁでも
もしそんなのが存在するなら
それもいずれは滅びるんだよ
みんな等しく滅ぼす
だから大丈夫だよ
そんな存在を恐れなくても
思い悩まなくても
こえだけは優しく

そう
傍らの龍もいつかは―




 もし誰かにこの世界が創られたとするなら、神はその最たる歯車かもしれない。役割をもって世界を形作るものだ。神が歯車なら、ひとは屹度踊り子。運命という目に見えぬ因果の舞台で、くるくるからからと踊り狂うだけ。
「私は私ではなくて、誰かに操られている、と。この思考も行動も、誰を好いて嫌うかも全て決められているとしたら……なんて、可笑しな話。それでも私が誘名・櫻宵であることに変わりはないのに」
 ロキはそんな櫻宵を見ながらくすりと静かに笑って、頭の中でぐるぐる回る理屈について考えた。
 ――世界を滅ぼす神威をもって生まれたなら、いずれ来る滅びに必要だから意味がある。私が封じられているのもその必然のため。だが今は滅びの時ではない。……そう思うのに。
「もし背後で操るものが居るとすれば、とんでもないひねくれものなんだろうな。世界の滅びを齎す存在なんて兵器で良かったじゃない」
「滅び……そうね、何時かは来るもの。その最後を人に委ねるなんて、相当なひねくれものだわ」
「意思や感情なんか持たせて、悲しみを報わせる。どうして、どうして――この世は遊びじゃああるまいし」
「ふふ、ロキ。私のかみさま。難しく考えすぎよ」
 妖艶に微笑む櫻宵は、滅びの時なんて大仰なことは考えていない。想うのはもっともっと、身近なこと。
 ――櫻宵は生来より酷い霊媒体質だった。昔から憑かれたり強い亡霊に乗っ取られかけたりする事が日常茶飯事。もうその程度では驚かなくなっていた。
 ――ねぇ、私の中の過去の亡霊さん。私、あなたに私を渡せない。もう憑依もさせない。
 傍らの桜わらしに、自身にくっついていた亡霊を引き剥がして閉じ込める。操られるなんて、もう御免。
「例え誰かが書いた台本の上でも……例えそうだったとしても、私は私として在りたいわ」
『それすらも神以上の存在が与えたもうた考えだとしても?』
 司書はノートを捲りながら、櫻宵の意見をさらさらと書き込んでいく。
「全ての選択は私自身がしたものだと。何かのせいにすることなく受け止めていたいわ」
 仮に神以上の存在が、自分を操っているのだとしても。何かが起こった時にそのせいにして自分が悪くないなどと逃げるつもりは毛頭ない。私が選んだものが間違っていたとしても、それは私の責任だから。
「櫻宵、君はつよいね」
「そうかしら。あなたの方がよほど強いわ。周りを、世界を、その眼で観察している」
「それが私の在り方だからね、なんて。今のは少し、神様っぽかったかい?」
『神であるあなたは、神以上の存在を否定すると。そう仰りたいのですか?』
 再びノートにペンを走らせる司書は、興味深そうにロキを見遣る。人懐こそうな笑みを浮かべ、ロキは「さぁ?」とお道化た。
「あぁでも……もしそんなのが存在するなら。それもいずれは滅びるんだよ。みんな等しく滅ぼす。だから大丈夫だよ、そんな存在を恐れなくても、思い悩まなくても」
 声だけは優しく、しかし眼差しは真剣に。全てのモノに訪れる滅亡を、ロキは見通している。逢いも、愛も、哀も、全てすべて、いつかは消える。傍らの龍も、いつかは――。
「そう。いつかは私も、ちゃんと滅んでいなくなるもの」
 視線を感じた櫻宵はかんらかんらと面白おかしいものをみたように口元を隠しながら上品に笑って。
 神以上の存在であっても止められない因果。歯車が止まり、踊り子への糸が切れても、高らかにステップを踏み鳴らし、彼らは踊り続ける。どうしてかって、それは神以上の存在もまた、それより先の存在に操られている可能性を捨てきれないから。滅びを受け入れるのは、あくまでも自分の意思だ。
『あなた方の考え方はよく分かりました。いつかの滅びを受け入れ、それをだれの責任にもしないと。そういう事ですね?』
「ええそう。私は、私。誰にも操られていない、操られていたとしても、それを理由に思考を放棄したりしない。そうでしょう、ロキ?」
「同感だよ、櫻宵。私たちは私たちでしかない。それは明確な、私たちの意思だ」
 くいっと眼鏡をあげた司書はノートをぱたん、と閉じ、立ち上がって二人に深々と礼をした。謎への回答と、新しい考え方との邂逅に感謝して。
『あなた方の行く先は、屹度穏やかなばかりではないのでしょうね』
「そのくらいが丁度いいわ。予定調和なんてつまらないもの」
「ああ、そうだね。考えつかない程の驚きを、期待しているよ」
 そう言う二人の表情は晴れやかで、不安や怯えは毛頭ない。司書は椅子に座りなおし、くるりと椅子ごと1回転まわると、スゥっとその場から消えカウンターの中から消え去った。
「あの司書は誰かに操られていることを恐れていたのかしら」
「どうだろうね。ひとつ言えるとしたら、彼女こそ神以上の存在の代弁者だったかもしれないって事だよ」
 二人はその場を後にする。閉館までまだ時間はあるのに、夜行図書館の電気の一部が消えた。それはその電球の入滅のタイミングだったのかもしれないし、誰かの……例えば神以上の存在の調整が入った結果かもしれない。それも、二人には関係のない話――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎
……と、何度書き込んだ事だろう。
それは、私は彼女の全てを
コントロールしないという意思表示に他ならない。
彼女を知り思考をリンクさせる様になり、
1年半ほどが経つだろうか。
私は彼女の上位存在であるという主張に対しては、
私自身は疑義を持っている。
実際彼女は私の知らぬ場所でサポートに出て、
知らぬ経験を積んでいる。
だからこそ私は主張したい。
私は神でも上位存在でもない、彼女の「筆頭観測者」であると。
彼女らの行動は貴方をリンク先とする観測者を通じて
こうして綴られ、観測できる形態となる。
世界とは、そもそも数多の観測者が観測した結果が収斂し、
像を結んだ物ではないかね?】

……だ、そうだよ?




 【アドリブ改変・連携大歓迎……と、何度書き込んだ事だろう。それは、私は彼女の全てをコントロールしないという意思表示に他ならない。
 多喜という女を知って思考をリンクさせるようになり、1年半ほどが経つだろうか、私は彼女の上位存在であるとい主張に、私自身は疑義を持っている。実際、彼女は私の知らぬ間にサポートに出て、知らぬ経験を積んでいる。……だからこそ私は主張したい。
 私は神でも、上位存在でもない。彼女の「筆頭観測者」であると。彼女らの行動は【あなた】をリンク先とする観測者を通じてこうして綴られ、観測できる形態となる。世界とは、そもそも数多の観測者が観測した結果が収斂し、像を結んだ物ではないかね?】
『なるほど、あなたの意見はよくわかりました。数宮・多喜の観測者さま。しかし、あなたの知らぬところで……いえ知っての通り、でしょうか。貴方の観測対象はルール違反をおこしているようですね?』
【なんだと?】
 司書はノートをぱらぱらと開き、ある一頁を見せる。其処には多喜自身が記したであろう文字がびっしりと残されていた。それは本来神以上の上位者、しかもほんの一握りのモノにしか見えぬところに、多喜はどうやってか書き記したのだ。上位存在がいるのらば必ず、この項目を読むだろうと察して。
『文字に起こして実に774文字。この世界の規約である300文字を優に超す数値ですよ。ルールは守らなければなりません。観測者として、あなたはどう思われますか?』
【それが彼女の選択だとしたら、私にどうすることもできない】
『そうですか。全ては彼女の責任であると、しらをきるのですね。ならばこちらも考えがあります』
 そう言う司書はノートの先から最後までをざっくりと朗読して見せた。
 ――学校の成績は良くなかったこと、ここにきて漸く名乗りをあげたこと、自分と上位存在はある程度の価値観を共有していること、お互いの過去を検索しないこと。
 そして書き込む『窓』を間違えているんじゃないかという疑問。しかし今だけは間違えてないと多喜は断言できる。なにをするか……上位存在がプレイング、と呼ぶところには、そいつ……上位の存在が書き込んでて、自分の書く場所なんてない。これもこの異常な空間と多喜のテレパスのせいなのかは分からないが、ともかく。「筆頭観測者」である以上多喜が【感想欄】を使って話すことは予測できただろう。それはいわば、観測者という名に逃げ、罪を背負わない者の思想の放棄ではないのか。司書はビシっと「筆頭観測者」を名乗る多喜とまったく同一の存在にペンを構えた。「筆頭観測者」はなにも言わない。多喜がこんな時どうするのか、考えて、観測しているようだ。して、その多喜はといえば、
「しかしまぁ、そいつも物好きなもんだねぇ。アタシの人生覗き見てそんなにたのしいもんかねぇ? なぁ、アンタはどう思う?」
 「筆頭観測者」は多喜を同じ声で、宙をくるくると探し、この辺かな? と少し司書に近づき言い放った。視線は司書ではない。まるでカメラを覗き込んだかの如く、『こちら』を見ている。
「なぁ、司書さん。その後ろにいる神以上の存在よ。人を操るのは楽しいかい? その先のマスターさんもさ」
 司書はふぅ、とため息をつくと、座りなおしてノートに一言、「多喜さまと【観測者】の存在を同時に確認」と記した。
【……此処までが、数宮・多喜の存在理由にして証明。以上の考察を以って、「筆頭観測者」たる私はまた舞台裏に下がる事とする。この表現は、プレイングにも感想欄にも載ってないだろう? 故に楽しいのさ】
 ……――だってさ。勝手だねぇ。でも、その位が丁度いいのかもね。司書に手を振った多喜は、ひとつの確信を得てその場を去ってゆく。夜行図書館の電球が、またひとつ消えてゆく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
上位存在があると仮定したとして…
…ふむ…(考え中)
それのどこに問題があるのだろうか
この世には理不尽が多数ある
その理不尽を齎すモノは
意志があるものなのか、ないものなのか
それだけの差ではないかな?

大丈夫だよ
あなたは自分自身のことを疑っている
その時点で上位存在からのくびきから逃れたと言えるのではないかな?

…そうだ、上位存在の作った枠組みから、外れてみるというのはどうだろう
具体的には
「友達になってみないかい?」
勿論、違う機会に会えば敵になるかもしれない
しかし、この世界が物語だというのなら、
そんな世界軸がひとつくらいあってもいいのではないかな

――私はセツナ・クラルスというよ
あなたの名前は?




 この世の次元を超えた先に、上位存在があると仮定して。セツナは「ふむ……」と考え込んだ。そして導き出した答えは、それのどこに問題があるのだろうかという事。
「この世には理不尽が多数ある。その理不尽を齎すモノは、意思があるものなのか、ないものなのか。それだけの差ではないかな?」
『ではあなたは、上位存在が悪意を以ってあなたに苦難を下しているとしても、許すのですか?』
「許すとか、許さないじゃないよ。元からそういうものだと思えばいい」
 諭すように、柔らかな口調で告げるセツナの中には、はっきりと自分の意思があった。この気持ちが誰かに動かされた感情なのか。そんなことはどうだっていい。大事なのは『今』、『自分が』思ったという事実。
『では私は、何故世界に対し疑問を抱くのでしょうか。このような思想は、本来不要であるはずなのに』
「大丈夫だよ。あなたは自分自身のことを疑ってる。その時点で上位存在からのくびきから逃れたと言えるのではないかな?」
 司書はノートにペンを走らせる。其処には【くびきから外れる→神超神に縛られない世界?】と書かれていた。セツナは更に続ける。このオブリビオンは、孤独なのだと気付いたから。
 ――……そうだ、上位存在の作った枠組みから、外れてみるのはどうだろう。猟兵とオブリビオンは敵対するもの、そうこの世界では決まっている。ではそれを壊すには……。
「もし、あなたが恐れないのなら。私と友達になってみないかい?」
『友達、ですか?』
 なにを、といった少し戸惑うような様子でクイと眼鏡をあげる司書。その反応に柔く笑んで、セツナは手を差し出した。
「勿論、違う機会に会えば敵になるかもしれない。しかし、この世界が物語だというのなら、そんな世界軸がひとつくらいあってもいいのではないかな」
『それをすることによるあなたのメリットは? 何故、私に優しくしていただけるのでしょうか』
 差し出された手を取ろうかとるまいか、手を伸ばしかける司書は、不安気にそう聞いた。そんな簡単な答え、わざわざ説明するまでもないのだけど。迷い、宙でふらふらする司書の手をさっと掴んで告げる。
「私は救済者。それが誰であっても救うよ。それ以上の理由はいらない。例え上位存在がいるとしても、この使命は私だけのものだ」
『……なるほど。理解しました』
 こくりと頷く司書に、ぎゅっと暖かな手を握りしめる。
「――私はセツナ・クラルスというよ。あなたの名前は?」
『私の名前は……』
 その声はセツナにしか届かない。でも、それで良い。不確定な未来も、過去から来た存在も、全てが全て上位存在にみられているのだとしても、セツナが選んだ行為はきっと予測できなかった可能性の種なのだから。
 チカチカと夜行図書館の明かりがまたひとつ消える――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三嵩祇・要
だからなんだ?としか思わねぇな
何者かに世界が作られ操られている存在だなんて
今更だ

細胞のひとつひとつが生きる為のプログラムだし
感情だって脳細胞のプログラムだろ
そもそも、命に支配された存在なんだよ

魂とやらがオレの個だとしても
死ななきゃ確かめようもない

世界を作ったのが誰か
それを知ってどうなるってんだ
真実が知りたきゃ「これが真実だ」と自分で決めるしかねぇんだよ

オレが物語に綴られた文字にすぎないのなら
その物語を書いてるのはオレだろうさ
オレが生きている限り、オレの世界は存在している

あんたは上位存在に愛されてる確証が欲しいのか?

それとも支配から解放された先の自分が知りたいのか?
それなら少しは面白味のある話だ




 天にまします我らの父よ、とはよく言ったものだが、この場合の神ですら上位存在に操られているのだろうか。それともその父こそが上位存在そのものなのか。だが、だからなんだ? としか思わない。何者かに世界が作られ、操られている存在だなんて今更だ。
『あなたにとって、操作されている、ということは当たり前であると。そういう事ですか?』
 美しい顔をわずかに歪め、司書はカウンター内に座ったまま要を見つめる。その視線をハッ、と鼻で嗤い、見下ろして自意識の中で渦巻く思想を述べる。
「細胞のひとつひとつが生きる為のプログラムだし、感情だって脳細胞のプログラムだろ。そもそも命に支配された存在なんだよ」
 心が死にたくても、体は必至で生にしがみつくように。嘘にも誠にも揺れ動く感情だって、経験の流れを汲んだプログラムに過ぎない。どちらにせよ、操られている。生かされている。
「魂とやらがオレの個だとしても、死ななきゃ確かめようもない。世界を作ったのが誰か、それを知ってどうなるってんだ。真実が知りたきゃ「これが真実だ」って自分で決めるしかねぇんだよ」
『成程、なるほど。理解しました。あなたは操られている事を自覚していながら、それを否定しない』
 司書が持つノートには人々の考え方が纏められていた。そこに要の【傀儡を恐れない】という意見も追加されたようだ。司書は先ほどとは違い緩く笑んで、要に一冊の本を差し出す。タイトルは……『三嵩祇・要』。
『あなたの物語です。今まで歩んできた歴史と、未来が記されています。読みたいとは思いませんか?』
 その本をじっと見つめ、要は静かに首を振り本を押し返した。司書は残念そうに返却図書にそれを戻す。
「オレが物語に綴られた文字にすぎないのなら、その物語を書いてるのはオレだろうさ。オレが生きている限り、オレの世界は存在している」
 本の中身に自分の感情も行動も未来も結末も綴られていたとしても。今それを決めるのは自分自身だ。それに、そんな本が存在していても、読まなければ結局、全てを選び取るのは自分の意思なのだと要は思う。真実を決めるのは常に自分であり、誰かが綴ったわけのわからない歴史書なんかじゃ絶対にない。
『残念です。これを読めばあなたも幸福に近づけるかもしれませんのに。神超神に愛される事は幸福ですよ』
「生憎と、何が幸福かを決めるのもオレだ。翻弄されんなんて冗談じゃないね。……なぁ、あんたは上位存在に愛されてる確証が欲しいのか?」
『私は愛されていますよ。故に悩むのです、この世界、ひいては私という存在に疑問を持つ程度には。支配され、自分で選ばなくてもすべてが進むとは、幸福でなければなんなのでしょう』
「支配から解放された先の自分が知りたいんだったら、少しは面白味のある話だったんだがな」
『ふふ……』
 不敵に笑う司書に、今度は要が顔を歪める。なんだ、と言うより先に答えは出された。
『今日は多弁なのですね。「いつも」は口数少なだと本に書いてありましたが』
「……じゃあ、今のオレは上位存在とやらの意図から解放されたんだろうよ」
 目深に帽子を被り直し、踵を返して要は図書館を後にした。その背中を見る司書の眼差しは優しい。チカチカと明滅した照明が、またひとつ消えた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
アドリブ歓迎

この世界が存在しないというのなら
私達の感覚や想いは何なのです
これも偽りだと?
…冗談じゃない

そんな存在がいるならば
私達を通してこの世界を見ているということでしょう?
私達が…この世界が存在していないとしたら
そんなことはできませんね?

そもそも、ヒトは神に作られたとさえ言われている
今更誰かの思考から作られた…なんて言われてもねぇ?

私達が作られたヒトだとしても
私達の行動がそれらの想像した通りかどうかなんて誰にも分からない

この感情は私だけのもの
此処は私の大切な世界
私の存在を否定するだけならまだしも
大切な愛しい子らの存在を揺るがすというならば
どんなモノであろうと許しはしない




 世界の構造や成り立ちなど、誰にも分からない。分からないから夢想し、研究し、真実を暴こうとする。それがどんなに困難で愚かな路であろうとも、人々は好奇心には逆らえない。ではその好奇心とは何処からきているのか……それ自体を考えたことはあるだろうか。この世界は現実ではなく、幕の中の劇中劇だと知った時、人々はその真実に耐えうるのだろうか?
「まさか。この世界が存在しないというのなら、私達の感覚や想いは何なのです。これも偽りだと? ……冗談じゃない」
『偽り、とはまた少し解釈が異なりますね。私たちは上位存在の操り人形、私たちが抱いている想いは、神超神が抱かせた感情なのです』
 淡々とした声音で話す司書に、千織は多少の苛立ちを覚えた。どうしてその結論にたどり着いたかはさておき、それが真理だとして、――そんな存在がいるならば、私達を通してこの世界を見ているということでしょう。私達が……この世界が存在していないとしたら、そんなことはできませんね?
「そもそも、ヒトは神に作られたとさえ言われている。今更誰かの思考から作られた……なんて言われてもねぇ?」
 あらゆる神話において、ヒトを作ったのは神だと言われている。ならば此れまで通りと何も変わらないじゃないかと、千織は考える。考えて、答えを導き出す。私のやり方、私の思考、私の望む『答え』を。
「私達が作られたヒトだとしても、私達の行動がそれらの想像した通りかなんて誰にも分からない」
『あなたはよく戦い、よく守り、骸の海の亡霊を屠ってきましたね。それもあなたの意思ですか?』
「そうだと言ってるじゃない!」
『では、誰にも操られていない誰かの思い出を蹴散らすことに、なんの罪悪感も抱かず殺害したのも、あなたの意思というわけですね。ただ一点、オブリビオンであるというだけで』
「…… ……」
 確かに千織は様々な敵と対峙し、退治し、人々を救ってきた。そこに誇りや怒りこそあれど、罪悪感を抱いたことは少ない。それが自分の意思だとしたら、私は――。
『上位存在に操られていると、そう考えた方が心が楽になりますよ』
「――……だとしても。私は私の意思を貫く。この感情は私だけのもの。此処は私の大切な世界。私の存在を否定するだけならまだしも、大切な愛しい子らの存在を揺るがすというならば、どんなモノであろうと許しはしない」
 世界はなにもいってこない。テレパシーを受信してそれに従っているわけではないのだ。千織の大切な子らにも意思がある。感情がある。向けて、向けられる想いは暖かく、時に冷たく。それが自分の意思で生まれていないのだとすれば、千織の考える世界は崩落する。故に認められない。そんなけったいな話!
「私の世界には、不要な考えです。あなたの好奇心は認めますが、宗教勧誘はお断りですので」
『まぁ』
 くすくすと笑う司書は、手にしたノートに【新興宗教説】と書き足した。そして真っ直ぐ出口を指さす。
『お行き下さい、自らの意思に従うヒト。行ったなら、もう振り返らないで。――それが私の望みです』
 千織はくるっと振り向くと、「あなたに言われるまでもなく」と呟き夜行図書館を後にした。蛍光灯の光がまたひとつ落ちる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鞍馬・景正
難しい問いですね。

仮にどれだけ否定の証拠を集めても、それはその何者かに用意されたのだと言われれば言葉も無い。

しかし我らを盤上の駒よろしく玩ぶ存在がいたとして、彼らもまた誰かに創られた存在ではないと誰が保障できるのでしょう。

――思索は大事でしょう。何が真実なのか追及する事も良い。

ですがただの武士でしか無い私は、自灯明の精神を掲げるのみ。

神が私にやらせたい事も、やらせたくない事も
それが私にとって十分納得の行く事なら、問題は無いのですよ。

……ええ、その『納得』すらも与えられたものにすぎぬかも知れませんね。

ならば真実にしていくまで。
もしかしたら、という想いは残しつつ。
それでも、と我が心が命じる限り。




 この世界は本当に存在しているのですか? と問う司書の言葉に、景正は顎に手を当て少し俯いた。
「難しい問いですね。仮にどれだけ否定の証拠を集めても、それはその何者かに用意されたのだと言われれば言葉もない」
 今まで行ってきた数々の所業も、それによって生まれた感情も、想いの詰まった品物だって、全てが運命に導かれるようにそうなると最初から決まっていたのだとしたら。私の肯定してきた自分という歴史は何なのだろうか。あるいはこの疑問すら、彼の者から与えられた思考なのだとしたら。……わからない。だた一つ言えるのは、我らを盤上の駒よろしく玩ぶ存在がいたとして、彼らもまた誰かに創られた存在ではないと、誰が保証できるのかという事だ。
「――思索は大事でしょう。何が真実なのか追及する事も良い」
『ええ、ええ。考えることは大事です。ヒトは『考える葦』と例えられます。思考こそヒトの最大の武器でございましょう。そして、その考えは果たして本当に自分という内から湧き出たものなのか……それを知りたく思います』
「貴殿の言う……神をも超えた先にあるものが何なのか、それは私には分かりかねる。ただの武士でしかない私は、自灯明の精神を捧げるのみ」
 誰かに選択をまかせるのでなく、自身を頼りとして生きていく。どんな暗い路でも、光は自分自身であるために。この心は神ですら侵させはしない。
「神が私にやらせたい事も、やらせたくない事も、それが私にとって十分納得の行く事なら、何も問題は無いのですよ。要は利害の一致ですね」
 ――……ええ、その『納得』すらも、与えられたものに過ぎぬかも知れませんがね。景正は伏せた目を一度閉じ、ゆっくりと開けると、至極真面目な顔をした司書と視線が合う。その眼はあなたの答えの続きを待っているようだった。景正は少し思案して、司書に投げかけるべき言葉を探す。
「選択とは取捨択一です。どちらかを選ぶとは、その他を切り捨てるということ。私にもそういう経験はあります。反省し、後悔したことも。それでも私は今此処に立っている。ならば私という存在がとった行動は正しいのだと考る。それは神が選んだ選択肢だとしても、結果論からみれば私の為になっている。故に私は、その存在を邪魔には思いません」
『操られていても良いと?』
 ふるふると首を横に振る。操られていてもよいか、だなんて。そんなのは駄目に決まっている。だが、否定しようがないものに、いつまでも抗うほど時間の無駄な事はない。
「感情も、感覚も、思い出も。全て与えられた偽物の記憶と記録だというのなら、それを真実にしていくまで。私という存在が暗路を照らすように、真偽は私の目で確かめます」
 もしかしたら本当に……、という想いは残しつつ。それでも、と心が命じる限り、自分の路を歩んでいく。
 司書は納得したように頷き、手にしたノートに【自灯明】と書き記した。照明がまたひとつ落ち、段々と夜行図書館は暗くなっていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
もし誰かに操られてたとしても
自分に不都合がなければ別に構いませんよ
体が勝手に動いたりしたら困りそうですけどー

それに、例えば。
役者さんって役に引きずられることがあるでしょ
時として元の自分を思い出せないくらい深ーく
あたし達を操ってる、と思い込んでる誰かさんは
役の影響を受けてない、手綱を握れてるって
自信を持って言えるんですかね
どっちが"上位"か分かりませんよ?

カメラがあるとしたらこの辺ですかね、なーんて見上げ

ねえ。あたしを操るあなたはどうです
服の趣味に変化は。夜空を見上げる機会は増えました?
あたしの意思に動かされたこと、あるでしょう

その辺の人と変わらないと思いますよ
違いは認識できるかどうかだけ




 もし誰かに操られたとしても、自分に不都合がなければ別に構わない。ユキテルはそう言って、くるり、カウンターの前で両手を広げ一回転した。体が勝手に動いたりしたら困るけれど、これは間違いなく自分の意思でやっていると、胸を張って言える。だってこんな無意味なコト、神様がするわけないでしょう?
「例えば。例えばですよ、役者さんって役に引きずられることがあるでしょ。時として元の自分を思い出せなくなるくらい深ーく」
 ――あたし達を操ってる、と思い込んでる誰かさんは、役の影響を受けてない・手綱を握れてるって、自信を持って言えるんですかね? どっちが"上位"か分かりませんよ?
 役割を演じていた心算が、いつの間にか役割に乗っ取られていたりして。なぁんてくすくす笑い、司書に向き直ったユキテルは、その後ろを見透かすような瞳で口を開く。
「ねぇ司書さん、あなたは操られているんですか? それとも操る側?」
『私は上位存在より受け取ったこの『疑問』を追求するためだけに存在しております。故に目的は操られていますが手段は自由である、と言えるでしょう』
「ふふ、じゃああたし達と変わりませんね!」
 ネイルで彩られた人さし指を立てて口元に当て、まるで「ひ・み・つ」と言わんばかりに片目を瞑り中腰になったなら、その様子をじっと見つめる司書に向かって蕩けるようにあまぁい真実を言い放つ。
「あたし達も、結果を求められています。でもその過程は問われていない。どんな手段で問題を解決するかは、あたし自身と、敵と、グリモア猟兵さんに委ねられている」
『それは即ち、思考の放棄ではありませんか?』
「さぁ、どうですかね。それを判断するのは、所謂上位存在ってやつなんじゃないですか?」
 きょろきょろと辺りを見渡して、ふと一点、宙を注視するユキテル。……視ている、私の存在を。いや、私とは、――……誰だ?
「カメラがあるとしたらこの辺ですかね。いぇーいピース」
 司書から見たら何もないところに向かってにっこりと笑いながらピースするユキテルはいっそ不気味に見えたが、そんなことは今はどうでもよい。
 ――ねぇ。あたしを操るあなたはどうです? 服の趣味に変化は。夜空を見上げる機会は増えました? あたしの……役の意思に動かされたこと、あるでしょう。
「あたしは誰かを操る気なんて全然無いんですけど、引き摺っちゃうなら仕方ないですよね。だって、あたし達が操られてるんだとしたら、元の個性なんて無いんですから。あたしがあたしでいられるのは、誰のおかげでもありません」
『ではユキテル様、最後にひとつお聞かせください』
「なんですか?」
 少し目を伏せた司書は力なさげに震える指先で、手にしたノートに【個とは何か】と書き記し、戦慄く唇で『上位存在にもまた、それを操るものがいるのだとしたら……』と呟いた。ユキテルは見えないカメラをぐいと司書に向けて、その問いに答える。
「そんな本がありましたね。なんでしたっけ、ナントカの世界……だったような。哲学のコーナーにあるかもしれません」
『そうですか、ありがとうございます。読んでみますね』
 艶やかな唇で笑んだ司書に、ユキテルもまた笑顔で返し。チカチカとまたひとつ照明が落ちた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
もしぼくが誰かの意思で以って役割を与えられ
それを、知らずに実行しているのだとしたら
この胸に沸く感情でさえ最初から定められているものだと云うなら

今すぐにでもぼくを解放して
らくに、して欲しい

ぼくがこう願う事すら最早プロットの上に在るのだとしても

希わずにはいられない
ぼくを消して
代わりに――、と

この世界に神なんてものは存在しない
居るならば酷く利己的で、残虐で
慌てふためき苦しむ様を見るのが愉しくてたまらない愉快犯だ

どうして存在しているのか

それを探す為に、此処に居る
君が答えを見つけてくれないから
ぼくはぼく自身で応えなければならない

僕の生きた軌跡で以って
“旭まどか”が目醒めた意味を


――僕は、そう思っているよ




 此れはもしもの話。誰にも分かってもらえなくていい、ぼくだけの話。
 ぼくが誰かの意思で以って役割を与えられ、それを知らずに実行しているのだとしたら。この胸に沸く感情でさえ最初から定められているものだと云うなら。――今すぐにでもぼくを解放して、『らく』にして欲しい。ぼくがこう願う事すら最早プロットの上に在るのだとしても……希まずにはいられない。まどかは手をくしゃりと握りしめ、顔を覆い天を仰いだ。
「ぼくを消して。代わりに――」
 絞り出すような声。ふるえる指先。どくどくと脈打つ心臓がうるさく、喉元を搔き切ってやろうかとさえ思う。でも、それが意味のない事だと分かっている。そんなことをしても彼は『      』。
 この世界に神なんてものは存在しない。居るならば酷く利己的で、残虐で、気紛れで、ひとが慌てふためき苦しむ様を視るのが愉しくてたまらない愉快犯だ。
「カミサマなんて、ぼくは、信じない」
『それがあなたの答えですか。居ないと否定して、何にも縋らず生きていけるのですか』
「決めるのは何時だってぼくだ。神なんかじゃない」
 司書はそうですか……と呟き、手にしたノートに【神とは利己的なもの?】と記した。まどかは掌をほどき、眼鏡の奥の何もかもを探るような司書の瞳を見つめる。このオブリビオンもまた、神に操られているのか。はたまた神を疑問視させるためにわざわざ生み出された存在なのか。誰にもわからない。まどかにも、司書自身にも、はたまた、これを読んでいる『あなた』にも。世の中の何が本当で何が嘘なのか。どうして――。
「どうして、存在しているのか……それを探す為に、此処に居る。君が応えを見つけてくれないから、ぼくはぼく自身で応えなければならない」
『お力になれず申し訳ありません。私もまた、ただの探究者の一人であります故に』
「いいんだ、気にしにでおくれ。ぼくは、自分で見つける。僕の生きた軌跡で以って、“旭まどか”が目醒めた意味を。こんなにも、無力で、よわむしな僕が何故ここに至ったのか、その意味を――必ずこの手に。僕は、そう思っているよ」
 まどかは泣きたいような、酷く感傷的な気分になった。誰もぼくの求める答えを見つけてはくれない。であれば、路は自分で切り開くしかないのだ。カミサマに願っても、何も叶えてくれやしない。道標の光を翳してもくれない。ただぼくに『自由』という選択肢を与えるだけ。嗚呼、なんて残酷なんだろう! 世界はこんなに広いのに、ぼくに見える世界はたったこれっぽっちで!
「もし誰かに操られているのだとしたら、そいつはかなり、操り人形が下手くそだね。ぼくにこんな気持ちを抱かせるなんて。それとも、それが愉しいのかな? イイ趣味してる」
『真意は分かりませんが……そうだとすれば、私もまた、糸が絡まった状態なのでしょうね』
 悲しそうに目を伏せる司書に背を向けて、まどかは出口へと、自分の意思で歩き出す。照明が明滅し、またひとつ明かりが落ちた……――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリエ・ルーミエンス
そうですよ
この身は始めから0と1で紡がれた存在
私は私の意志で行動しているつもりですが
結局主サマを愛するのも、自由意志を持った風に振る舞うのも、役割演技に過ぎないんでしょうね

それとも、もっと外側の話ですか?
だとしても変わりませんよ
例え全てが造り物だったとしても、私の胸を満たすこの情動は、いつだって変わりなく躍動しています
それは誰にも否定させません

愛の証明こそが、すなわち私がここに居るという証明
外側の存在が居るならば、彼らにまで私の存在証明を見せつけてあげるまでです

この世界の在り方がなんだろうが、私の意志は変わらないってことですよ
私の回答は以上です
…あなたも、あなたの答えが見つけられたらいいですね




 この世はすべて、善か悪か、生か死か、0か1かで出来ている。そしてこの身は、始めからと1で紡がれた存在。それがエリエ・ルーミンス。電子の世界を泳ぎ回った末に、こうして現実世界に具現したもの。
「私は私の意思で行動しているつもりですが、結局主サマを愛するのも、自由意思を持った風に振舞うのも、役割演技に過ぎないのでしょうね」
 そうプログラムされたから。そう思考するように回路に刻まれているから。主サマを愛するように、主サマに命じられたから。そう思う事は楽だけど、屹度これは、もっと視点の大きな話。もっともっと、外側の話。
『あなたは命じられた存在であるならば、神の傀儡であると、そう言えるのではないですか?』
 司書の言葉にふるふると首を振るエリエ。私を作ったのは神じゃない。主サマだ。それは純然たる事実。例え神がそうするように命令したのだとしても、実行したのは他でもない主サマなのだ。
「だとしても、変わりませんよ。例え全てが造り物だったとしても、私の胸を満たすこの情動は、いつだって変わりなく躍動しています。それは誰にも否定させません」
 ――主サマ。私を想像し、創造し、愛し、私からも愛されたヒト。その気持ちは誰にも否定させはしない。誰にも命令された気持ちではない。私は主サマに命を与えられ、それに感謝し……こうして此処に今、猟兵として存在している。愛の証明こそが、すなわち私がここに居るという証明。外側の存在が居るならば、彼らにまで私の存在証明を見せつけてあげるまでです。
「ゆえに、私はここに居ます。神さまの為でも、命でもない。主サマと私自身の為に」
『ふむ。ではあなたは、神の存在を否定するのですね?』
「否定はしません。私にとって主サマこそ神ですから。他の神サマはいらないんです。上位存在だとか、誰かに操られた気持ちだとか。そんなことはありえない。私は一神教なんですよ、主サマ以外の神なんて、信じない」
 この世界の在り方がなんだろうが、エリエの意思は変わらない。それがエリエの答えにして真実。誰にも侵されない、この世の理。
『あなたにとっての神とは、また別にいるのですね』
「はい。私をプログラムした主サマが、私のすべて。回答は以上です」
『理解しました。有意義な回答をありがとうございます』
 司書はだいぶ書き込まれたノートに【神は人によって異なる】と書き記した。エリエにとっての神は、主サマそのもの。創造主、愛することは科せられど、でも自由は許された。それが酷く嬉しくて、苦しくて。いっそ主サマを愛するだけだなら何も考えずに済んだのにと考えた日もあった。でもそれも過去の話。
「……あなたも、あなたの答えが見つけられたらいいですね」
「――ありがとうございます。その日が来るのを楽しみにしています」
 司書は薄く微笑み、立ち上がってエリエに深々と礼をした。それにこくん、と頷き、夜行図書館を後にする。照明はパチっと消え、残り少なくなっていた……――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桔川・庸介
あ?知らねーしそんな事。
俺をこういう風に……殺人鬼にでもなんなきゃやってらんない体質に
わざと作ったヤツがいるんなら、シュミ最悪だしぶっ殺したいけど。

コイツを(傍に転がるものを蹴る)作って動かしてる経験からするとさ。
作りもんだからって、何もかも思い通りになんて動きやしないんだよな。
『すべて筋書き通り』なんて素敵な事はまず無い。

さっきのだって。俺だって殺したかったわけじゃないんだ、
コイツが勝手に動きだして、色々探ってるから止めなきゃヤバかっただけでさ。
そういうことってない?

……あー、俺も喋りすぎてるな。
俺は『自分の事は何一つ明かしたくない』、はずなんだけど。
ま、最終的にアンタが消えるんならいっか。




 傍らに転がるかつて桔川・庸介だったものの亡骸をげしっと蹴り、先ほどまで温和に見えた庸介からは想像もできない程の憎悪の塊である黒が語りだす。その様子をさして驚いた風もなく見つめる司書に、チッと舌打ちした。
『あなたは、庸介さまではありませんね。あなたは……神の御使いですか? それともその上の存在?』
「あ? 知らねーしそんな事。俺をこういう風に……殺人鬼にでもなんなきゃやってらんない体質にわざと作ったヤツがいるなら、シュミ最悪だしぶっ殺したいけど」
 なにせ漸く出てこれた、本来の人格だ。だがその性質は度し難い程の闇に包まれている。自らに興味を向けたもの全てを殺し、消し、隠す、生来のシリアルキラー。それが桔川・庸介の正体。先ほどまでの温和な青年は死に絶え、死の代名詞が姿を現した。ぐりぐりと庸介だったものを踏み躙り、ひとでなしは話を戻す。
「コイツを作って動かしてる経験からするとさ。作りもんだからって、何もかも思い通りになんて動きやしないんだよな。『すべて筋書き通り』なんて素敵な事はまず無い」
『神も、上位存在もまた、全能ではないと。そう仰りたいのですか?』
「まぁ、そんなモンだ。作りもんのくせに、色々やりやがって。一端に正義の味方になんか憧れてよぉ」
 ――くだらねぇ、つまんねぇ、馬鹿らしい。そんな事が頭の中を渦巻く。そして思うのだ、『こんな事考えさせるなんて、尽々上位存在ってのはいいシュミしてやがる』と。嗚呼、自分でも分かってる。喋りすぎだと。俺は本来、『自分の事は何一つ明かしたくない』はずなんだけど。
『あなたは神超神の存在を、肯定しているように思います。そうでなければ、彼の者をヒトに例えたりしない』
「じゃあよぉ司書さん、あんたならどう思う? その上位存在とやらは可愛らしい人形遊びでもしてる幼女にでも見えるかい」
『わかりません、質問しているのは私です』
「そうかい」
 それ以上何も言わず、こと切れた表人格を侮蔑の眼差しで見遣る。――さっきのだって、俺だって別に殺したかったわけじゃないんだ。コイツが勝手に動き出して、色々探ってるから止めなきゃヤバかっただけでさ。そういうことってない? あー、無いか。なにせ『あんた』はこうなることも全部織り込み済みで俺達を動かしているんだろうからな。
「帰る。あんたも自分の出処的に、そろそろ帰ったらどうだ?」
 俺に殺されないうちにな、と冗談なんだか本気なんだか分からない声で呟き、踵を返した。一瞬で闇に紛れた庸介の姿を、もう誰も捉えることは出来ない。
 司書はその背中を見て、手にしたノートに【死んだのは誰のせい?】と記した。照明が落ち、もう半分も明かりのついてない図書館で、司書は待つ。自分が納得できる答えを――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
折角ですから"影人間"の姿を晒します
"人間"として生まれたのに
"怪奇"としてつくりなおされた存在――
それが私、"怪奇人間"スキアファール
どんな資料を漁っても前例は見当たらない、悍ましい影

もしも私が神越神の役割演技であり
好奇心でこんな怪物を生み出したのなら
この手で捻り潰してやりたいくらいですが
"そいつ"を殺せば"私"という役割演技は終わってしまうのか?
もしくは別の神越神によって役割演技は続くのか?
はたまた役割演技からは解放され何にも縛られず自由に生き続けられるのか?

まぁ、操られていようがなかろうが
私は"人間"を謳歌できればいい
何処かでそいつが想定外だと驚くような行動がとれているなら万々歳ですよ




 司書は怪奇人間について何も知らなかった。故に、折角です。"影人間"の姿を晒しましょう。“人間”として生まれたのに"怪奇"としてつくりなおされた存在――それが私の正体、"怪奇人間"スキアファール。どんな資料を漁っても前例は見当たらない、悍ましく惨たる、冒涜的ですらある影。
『あなたはヒトですか? それとも、あなたたちで言うところのオブリビオン?』
 スキアファールは首を横に振る。そのどちらもが不正解。スキアファールはあくまでも人間だ、但し、ヒトとは異なるもの。怪奇とは、彼とは切っても切り離せない現象。
「私はヒトですよ。怪奇人間は珍しいでしょうけど、オブリビオンではないです。大丈夫、今のところ、生を謳歌してますから」
『そうですか。ならば結構ですが。ヒトは自分とは異なるものを拒む傾向にありますからね。尤も、人と同じことを嫌う者もいます。なんて面倒臭いのでしょう』
「ははは……そうですね」
 どうせ操るならば、一人ひとり個性があった方が良いという事なのだろうか。それにしたって此れはないだろう。『元』はアリス、帰る場所も無く。留まれば影が身を覆う。そんな人生に誰がした!
「もしも私が神超神の役割演技であり、好奇心でこんな怪物を生み出したのなら、この手で捻り潰してやりたいくらいですが」
『辞めておいた方が賢明かと。そもそも上位の存在に、こちらから干渉するなど不可能です』
「わかってますよ。……"そいつ"を殺せば"私"という役割演技は終わってしまうのか? もしくは別の神越神によって役割演技は続くのか? はたまた役割演技からは解放され何にも縛られず自由に生き続けられるのか? 私はそれが知りたい」
『自由とは……残酷ですよ。何にも縛られないというのは、何の所為にも出来ないという事。全て自分の責任なのです』
 司書の真剣な忠告に「その通りかもしれませんけど」と前置きしながら、スキアファールはいっそ清々しい気持ちで心情を語る。
「操られていようがいなかろうが、私は"人間"であることを謳歌できればいい。何処かでそいつが驚くような行動がとれているなら万々歳ですよ」
『それはようございますね。私もそのように思考することが出来ればよいのですが……残念ながら……』
「あなたは神超神に縛られているんですね。でも、あなたが言ったんですよ、『不自由とは責任がない』と。ですから、あなたのその思考はすべて上位存在の所為です。私がこんなことをあなたに言うなんて、イレギュラーですかね?」
 くすりと司書はその美しい顔に笑みを湛え、それに応えるようにスキアファールも僅かに笑んだ……気がした。司書は手元のノートに【生きるという自由】と書き込んだ。

 最後の客であったスキアファールが去ると、夜行図書館の電気はついにカウンターに点いたもののみになる。そこで司書は今日の来訪者の『歴史書』を読んでいた。過去、未来、現在。その人の全てが書かれた年代記。見ればきっと歴史が変わるかもしれない。しかし、その変わった未来もまた、上位存在の手の上に過ぎないのかもしれない。永遠に続く平行線。それでも司書は、ノートをちらりと見て思うのだ。
「あなたがたの未来が、操られていたとしても。それが不幸とは限りませんものね」
 ぱたん、と本を閉じると電灯がパっと消える。静かになった夜行図書館。明日もまた、名もなき人々――モブが利用していくのだろう。

【True End...?】

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月19日


挿絵イラスト