帝竜戦役⑱〜踊るアサシン
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群竜大陸の一角には、カラフルな珊瑚が群生する地帯がある。この珊瑚には不思議な効果があった。水を温泉へと変えてしまうのである。
現に珊瑚礁が形成されているこの一帯には、湯気が立ち込めている。豊富なミネラルを含んだ温かな湯。それはこの場所を訪れる者へ癒しを提供する――わけではなかった。
「ファイヤー!!!」
お湯を跳ね上げながら、かつて暗殺者と呼ばれた者たちが踊っていた。どこから拾ってきたのだろうか。彼女たちの両手には炎を灯した長い枝がある。
「Fuuuuuu!」
別の場所では激しいブレイクダンスが行われていた。堕落した女アサシンたちは、浅い場所でお湯を跳ね上げながら豪快に体を回転させている。
他方、背の高い孤立丘では別のアサシンが優雅に腕を上げていた。しなやかに動く腕は翼のようにも見える。足はどこか窮屈な形で交差していた。
どこもかしこも賑やかである。そう、このお湯に触れたものは何故か無性に踊りたくなるのだ。それはオブビリオンたちも例外ではなかった――。
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グリモアベース内部。アーリィ・レイン(オラトリオの精霊術士・f13223)は、モニター画面を見ながら両腕で軽くリズムを取っていた。画面の中では人型のオブビリオンたちがパラパラを踊っている。
「!」
猟兵たちの気配に気が付いたアーリィは、慌てて画面を元に戻して後ろを振り返った。
「ゴホンッ。皆さま、この度もお集まり頂きありがとうございます」
気持ちを切り替えたアーリィは、さっそく説明を始める。
「今回、戦場となる場所はこちらになります」
カメラワークが群竜大陸全体から、敵が集まる珊瑚礁の温泉地帯へ切り替わった。戦場には白い湯気が立ち込めている。
「この場所には高熱を放つ珊瑚が生えていて、それがこの一帯の水を温泉へと変えているようです。そして、この温泉ですが」
湯気の中を進んだカメラは、肌も露に踊り狂う女たち――もといオブビリオンたちの姿を映し出した。
湯気をタオル代わりにして激しいダンスを披露する者もいれば、衣服を舞台用の衣装と見立てて優雅に踊る者もいる。
「このように温泉へ浸かった者は『何故か無性に踊りたくなってしまう』らしいのです。ただ、この感情を押さえ込むことによって、戦闘力が一時的に上昇することも確認されています」
モニター画面の中のオブビリオンたちは、衝動に身を任せているように見える。であれば、こちらは『何故か無性に踊りたくなってしまう』衝動を押さえ込み、冷静に対処することが出来れば戦闘は有利に運べるだろう。
「敵は格闘術や暗殺術が得意なようですね。踊りながら向かって来ると思いますので、やや変則的な動きをするかもしれません。それから、お湯の下は棚田のように緩やかな起伏があります。足までしかお湯に浸からない場所もあれば、腰までお湯に浸かってしまう場所もあると思いますので、充分に気をつけてください」
モニター画面を閉じたアーリィは、猟兵たちへ頭を下げる。
「それでは皆さま、どうぞよろしくお願い致します」
ユキ双葉
今回のシナリオは『帝竜戦役』に関連した内容です。
構成は一章、集団で襲ってくる敵の撃破が目的となっています。
また今回のシナリオフレームには、プレイングボーナスがあります。
●プレイングボーナス
「何故か無性に踊りたい感情」を発露させた上で、抑え込む。
●宝物『サウナ珊瑚』
水を温泉化する、成分が摩耗することもない不思議な珊瑚。
おそらくクリーンな火力発電としても利用できる。
親指大の欠片で金貨100枚(100万円)程度で取引される。
第1章 集団戦
『堕落した女アサシン』
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POW : 女の股で息絶えるの、幸せでしょ?
【プロレスの投げ技フランケンシュタイナー】が命中した対象に対し、高威力高命中の【そのまま股間を押し付けて太腿を締める極技】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 段々と気持ち良くなっちゃうから…
【一瞬で懐に入り、寝技に持ち込む暗殺術】による素早い一撃を放つ。また、【全裸になる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 房中術
技能名「【誘惑】【生命力吸収】【早業】【グラップル】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
イラスト:善治郎
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
護堂・結城
たまに剣舞したりするから無性に踊りたい…!踊りたい…!
いや、でも戦うのに半端したら失礼だよな、我慢我慢
【POW】
一度温泉に浸かったら戦闘開始と同時に【水上歩行】
氷牙を刀に変化させ【怪力・なぎ払い】で近寄る敵を牽制
【歌唱・大声】に【生命力吸収】をのせて戦場に溢れた感情を喰らう【大食い・範囲攻撃】
自身の踊りたい衝動を根こそぎ喰らい、敵は冷静にならない程度に加減して吸収だ
あぁ、歌に合わせて踊りたい人はどうぞ
吸収した感情を基に指定UCを発動、【焼却・属性攻撃】をのせた白き劫火の剣群を召喚
接近戦は避けたい、剣群を投げては炸裂させ【爆撃・衝撃波】で攻撃だ
「戦争じゃなけりゃ共に踊るのも悪くなかったんだがね」
●
熱気の篭もる温泉地帯。
湯気の向こうからは熱を上げた女たちの声が聞こえてくる。
戦場へ降り立った護堂・結城(雪見九尾・f00944)は、離れた場所から敵の様子を窺った。
薄煙の中、ちらちらと見えるのは炎の灯。衝動に身を任せている敵は、自分がここにいることにも気付かず踊りに狂っているのだろう。
(「まぁ、気持ちは分からないでもないんだよな」)
結城自身も剣を持ち舞うことがある。扇子を片手に舞を披露し、次に刀を鞘から抜き出して殺陣を披露する。足のつま先、剣の切っ先にまで集中する快感はよく知っている。
「あっ、やべぇ」
膝上まで湯に浸かっている足が、じりじりと開いていった。火照る体と高まる気持ちは結城を舞へ誘う。いやいや、と結城は頭を横へ振った。
「戦うのに半端したら失礼だよな。我慢我慢っと」
「ふふ、何をそんなに我慢しているの?」
「!」
湯気の向こうから声が近付いてくる。パシャッ、と湯を跳ね上げた足が、回し蹴りの要領で煙を裂いて現れる。姿を見せた敵の一群は、燃え盛る枝を背中や体の横で回転させていた。
「ねぇ、そんなところで見ていないで、私たちと一緒に踊りましょう?」
結城を見た女たちは色めきたった眼差しを向けてきた。
「!」
一人がトンッと地面を蹴る。リズミカルに跳躍した敵は、燃え盛る枝を上空へ放って開脚しながら迫ってきた。
組み付かれたらそのまま回転して投げ飛ばされ、頭から湯を被ることになる。温泉は好きだが、頭から湯へスライディングするのはマナーに欠ける。結城は軽やかな足捌きで敵の攻撃を避けた。
「悪ぃけど、中途半端なことはしたくないんでな!」
敵の誘いを断った結城は、涼しい色の『氷牙』を刀へと変化させ、すぐさま水平に薙いで敵を牽制した。剣圧に巻き込まれた湯の飛沫が扇状に広がる。
湯の飛沫を浴びた敵は「ああっ!」と高い声を上げていた。踊りたい衝動が極限にまで高まったのだろう。
「そんなに踊りたいなら、俺の歌で存分に踊ってくれてもいいんだぜ?」
結城は大きく息を吸い込んだ。感情の高まりを根こそぎ喰らい尽くす力。それを声に乗せて高らかにシャウトする。
『Going to That Dance! Wow Wow Wow――!!』
湯が大きな波紋を浮かべ外側へ広がる。
結城の声を聞いた敵は瞬く間に踊り出した。リズム感も良くボディウェーブまで披露している。先程攻撃を仕掛けてきた敵も、落ちてきた枝を受け止めディスコへ来たかの如く踊り狂っていた。
対して結城は自身の踊りたい衝動を歌へ任せ、敵の衝動を吸収しつくすことに専念していた。無論、敵が冷静にならない程度に。
「行くぜ! クライマックスだ!」
頭上へ掲げた人差し指から燃え盛る炎が噴出する。喰らいつくした感情を示すかの如く轟々と輝く炎から、数多の剣が姿を現した。炎は剣へと絡み付き結城の力をも強める。
さらに結城が手を大きく振りかぶると、剣はその切っ先を一斉に敵へ向けた。
「喰らえっ!」
「っ!? あああ――っ!」
空中からの波状投擲。燃え盛る剣が敵へ降り注ぐ。剣で穿たれた敵は内側から破裂し、剣を避けた敵にも横殴りの衝撃波が迫った。結城の攻撃を前に右往左往する敵の姿は、踊っているように見えなくもない。
周辺が炎で照らされる。程なくして炎は鎮火した。それは敵の一掃が完了したことを意味している。
「ま、戦争じゃなけりゃ共に踊るのも悪くなかったんだがね」
敵の残骸を見た結城は、ほんのりと肩を竦めてみせた。
大成功
🔵🔵🔵
クシナ・イリオム
アドリブ歓迎
ダンス……ねぇ
こう、切った張った殺す殺されるばかりの人生だったしそろそろ自分の趣味を持っても…
(ちょっと身体を動かしてみる)
(クソみたいなリズム感と身体能力は高いのに動きが残念なことに気づく)
……うん、すごいな私のダンス。一瞬で踊ろうって気が収まった……
ちょっと凹んだところで【魔法罠即席設計】でスピーカーを召喚
伎楽のBGMを流して敵の速度を下げて敵を【暗殺】するよ
まあ、踊るのはいいけどこうやって戦いの最中にってのは感心しないよ
リズムを取ると動きが読みやすくなり、派手に見せるための大ぶりの動きは隙が大きくなる
……だから私のダンス下手は暗殺的に理にかなってる……はず。
●
湯気の向こうから躍動的な音が聞こえてくる。これはアサシンたちの奏でる音だ。
手拍子、ノリの良い歌声。時折混ざる歓声。即興で音を作り踊っているのだろう。場はかなりの賑わいを見せているはずだ。
「ダンス……ねぇ」
ほつりと呟いたクシナ・イリオム(元・イリオム教団9班第4暗殺妖精・f00920)の脳裏に甦るのは過去の自分。切った、張った、殺す、殺されるばかりの人生だった。そろそろ自分の趣味を持ってもいいのではないか。
岩間から流れ落ちる湯の飛沫が、クシナのささやかな衝動を後押しする。
「…………」
聞こえてくる音へ耳を傾けながら、しかし、敵には気取られないように、クシナは岩陰でそっと体を動かしてみた。
宙に浮いたまま、両腕を振ってリズムに乗ってみる。足元が覚束ない。岩へ着地して足でもリズムを取ってみた。だがしっくりこない。どうしてもただのランニングのようになってしまう。クシナの心はすぅっと落胆へ向かった。
「……うん、すごいな私のダンス。一瞬で踊ろうって気が収まった……」
凹みつつも気を取り直したクシナは、湯煙に紛れながら移動を開始する。敵の位置を確認してスピーカーを配置する場所を決めた。
「よいしょ……っと」
クシナは魔法で作り上げたスピーカーを召喚する。コンパクトサイズのカラフルなスピーカーだ。これなら珊瑚に紛れ込ませることが出来る。
「よし……こんな感じ、かな……」
準備を終えたクシナは、スピーカーのボリュームを上げた。程なくして音がフェードインしてくる。歩をゆっくりと進めたくなる雅な音。音は笛と太鼓、そして鈴と鐘によって彩られている。
「!? この音は何?」
「ああっ、でも体が勝手に――!」
アサシンたちはあからさまな戸惑いを見せた。だが踊りたい衝動を止めることはできなかったようだ。
彼女たちは伎楽に合わせて独特のリズムで踊り出した。体は笛と太鼓に合わせてゆらゆらと揺れている。鈴の音が聞こえれば、その場で跳び上がっていた。
「……よし、敵の動きが少し落ちてきたね」
暗殺は向こうも得意なはずだ。クシナは敵に勘付かれないよう、慎重にタイミングを見定める。
「!」
敵がこちらへ背中を見せた。今だ。湯煙から飛び出したクシナは、敵の背中へ組み付いた。相手の衣服へ手を掛けて、汗に濡れた体から振り落とされないように踏ん張る。同時に暗器を取り出し、骨と骨のすき間へ素早く刺し込んだ。
流れ込んだ魔力が敵の体を内側から破壊する。血を吐き白目を向いた敵は、その場で崩れ落ちた。
「敵がいるわ!」
襲撃に気付いた一体が、踊りながらも小刀を取り出してきた。クシナを発見した敵は鈴の音と共に跳び上がりつつ向かってくる。避けるには容易い。クシナは羽ばたきながら向かってきた一体の背後へ回り込む。
「まあ、踊るのはいいけど、こうやって戦いの最中にってのは感心しないよ」
リズムを取ることで動きが逆に読みやすくなってしまう。暗にそう告げたクシナは素早く敵の首へワイヤーを巻きつけた。
「か、はっ!」
飛び散った血飛沫が湯気を紅色に染め上げる。一体、また一体。スピーカーから流れる音につられて自分たちのリズムを見失った敵を、クシナは確実に葬り去っていった。
ゴァァァァン――……。
「ん?」
クシナが事を終えるタイミングを計っていたかのように、鐘の音が聞こえてきた。思わずポーズを取りたくなったが、先のダンスを思い出して止める。
派手に見せるための大ぶりの動きは隙が大きくなる。だから、とクシナは続けた。
「私のダンス下手は暗殺的に理にかなってる……はず」
表情にこそ出ないものの、その声色は自身を慰めるようなものだった。
大成功
🔵🔵🔵
ベール・ヌイ
躍りを我慢するならこの手に限る
『おこたcar』にはいることで踊れない状態をつくります
上半身だけで踊れる?「ダンス」持ちとしてさんざん舞を奉納したのでそれはなけなしのプライドが許さない
おこたに入りながら【火鳥乱舞】と『氷火双銃』で射撃
近づてくるなら浅瀬なところでは『おこたcar』で轢きます
深そうなら轢きません、銃撃で対応します
アドリブ協力等歓迎です
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どこからか音が流れている。これは伎楽だろうか。笛と太鼓。鈴、鐘の音。
シャンッ――と鳴り響く音に、ベール・ヌイ(桃から産まれぬ狐姫・f07989)は、もぞもぞと体を揺らしながら頭を抱えた。
「……ダメ」
この鈴の音はいけない。舞い手としての血は疼くが、敵と同じ衝動に身を投げ出すわけにはいかないのだ。
即座に自分を律したベールは、コタツの中へ下半身を突っ込んだ。そう、コタツである。
荒野をも駆ける厳つい四輪の上にコタツはあった。雰囲気のみで言えば天井と窓のないジープといったところだろうか。だがそこに座席はなく、代わりにちゃぶ台と蜜柑とお茶が常備されている。床にはふわふわのカーペットが敷かれていた。
「これなら、もう……踊れ、ない……」
ふわふわな床は眠気を誘う心地よさだ。次第に心の箍も外れていく。ベールの手は無意識に上へ上がっていき――。
「んーっ!」
体の動きを拒否するようにベールは頭を振った。上半身だけで踊るなど、舞い手としてのプライドが許さない。もし、どうしても踊るのなら敵を倒したあとだ。
ベールはきゅっと表情を引き締めて『おこたcar』を走らせた。タイヤは浅瀬の湯を跳ね上げながら進む。ほどなくして敵の一群が見えてきた。
アンダーウェアのみを身に纏ったアサシンたちは、岩場の上で跳んだり体を揺らしたりしながら踊っている。別の場所から聞こえてくる音にリズムを合わせているようだ。
ベールはさっと周辺の地形を確認する。車で通れないほど深そうな場所は無い。『おこたcar』を唸らせて一気に加速する。
「えっ、車、違う、コタツ!?」」
突然の襲撃に敵は戸惑った様子を見せた。あるいは『おこたcar』の見た目に驚いたのかもしれない。いずれにせよ敵は戦意を漲らせた。
「どっちでもいいわ! 倒せば済む話よ!」
近くにいた二体の敵が腕を伸ばしながら向かってきた。ベールはすかさず『氷火双銃』を取り出す。氷と火の魔力を籠めた双銃――銃口を左右へ向けたベールは、躊躇うことなく引き金を引いた。
「あうっ!!」
「ああああっ!!」
氷柱と火柱が同時に立ち昇った。氷柱は珊瑚の熱気に当てられながらも硬度を保ち、火柱は熱気を巻き込んで勢いを増す。
「くっ……!」
猟兵の攻撃を目の当たりにした敵は一斉に散開した。戦闘の間に生じる僅かな余裕。ベールはすぐさま能力を発動させる。
「火の鳥よ……敵を啄め……不死鳥よ……仇なすモノを……倒せ」
珊瑚の放つ熱よりも熱い火の鳥が、ベールの周囲で旋回を始めた。湯煙に紛れて敵が飛び掛かってくる。すかさず『おこたcar』を発進させて避ける。ベールはすぐさま火の鳥を差し向けた。
「いやあーっ!」
ゴオッと炎が立ち昇った。ファイヤーダンスと言うには激しい。燃やされた仲間の悲鳴を聞いた最後の二体が『おこたcar』に追走してくる。
ベールは速度を落とさずに岩の影へ移動した。岩陰で車体を急旋回させ、且つスピードを上げる。
「ぐえっ!」
意表を突くUターン。敵は車体を避けきれず、硬質な音を轟かせてボンネットへ乗り上げた。立て続けにドンッと鈍い音が響いて、敵の体は転がり落ちていく。
ベールは『おこたcar』を停車させ、背後を振り返った。細かな痙攣を繰り返していた敵は、ベールの前でゆっくりと事切れた。ベールはこたつから出る。
「……ちょっとだけ」
未だ聞こえてくる伎楽の音色。その鈴の音に耳を澄ませながら、ベールはそっと舞を披露した。
大成功
🔵🔵🔵
クトゥルティア・ドラグノフ
※アドリブ共闘大歓迎
踊りたくなるか……一応アイドルやってる私だと、結構乗せられてしまうかもしれない。
でも、やるしかない!
な、なるほど…不思議と体が動き出しそう!
だけど、これは逆に使えるかもしれない!
躍りながら攻撃するんじゃなくて、踊るように攻撃すればいいんだ!
寝技なんて使わせない!
【戦闘知識】と【野生の勘】で敵の動きを見切りつつ、【パフォーマンス】技術で使った体の動かし方を入れて、踊るように【怪力】の乗った攻撃!
戦舞は躍りというよりも戦法だから、あんまり誤魔化せないかもだけど、勝手に踊り出す体を逆に利用できるから良しとしよう!
おっと離れようとしても無駄だよ!
深蒼月光で【切り込み】追撃だ!
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硫黄の匂いが鼻を付く。
戦場へ降りたクトゥルティア・ドラグノフ(無垢なる月光・f14438)は、一抹の不安を抱きながら歩みを進めていた。
不安の根幹を成すのは自分がアイドルであるということだ。歌って踊るアイドル。敵が躍っているのを見たら、自分もつられて踊ってしまうかもしれない。
「う、でも、やるしかない!」
クトゥルティアは気合を入れ直した。
程なくして敵の気配がある場所へ到着する。湯の高さは膝より少し上くらいだ。温かくて心地よい湯。皮膚を通してじわじわと温泉の成分が沁みこんでくる。同時に沸き起こる衝動もあった。クトゥルティアはごくりと喉を鳴らす。
「これは……」
クトゥルティアの脳内で曲が鳴り響いていた。イントロから始まった曲は、ややテクノポップ調のメロディーを奏でる。
歌声は無いが曲そのものにテーマがあるため、メロディーラインは後半につれて盛り上がりを見せる。つい踊りたくなるほどカッコいい曲だ。クトゥルティアの蹄は思わずビートを刻みそうになる。
ああっ! と声を上げたクトゥルティアは、思わず両手で頬を覆っていた。
「な、なるほど……不思議と体が動き出しそう! だけど、これは逆に使えるかもしれない! 躍りながら攻撃するんじゃなくて、踊るように攻撃すればいいんだ!」
内側に響く音に併せてクトゥルティアは走り出す。ざぶざぶと湯を足で派手に掻きながらも、一つの解を導き出したクトゥルティアの表情は生き生きしていた。
「はあああっ!」
浅瀬へ出たクトゥルティアは湯煙を裂いて跳躍する。脳内に流れる音がリズムを変えた。音に併せて勢いよく大剣を振るい、出会い頭の一体を仕留める。
「何てことするのよ、楽しく踊っていたのに!」
仲間の死に激高した敵が襲い掛かってくる。戦意を漲らせてはいるが、それ以上に足元がダンサブルだ。
後ろ、前。横へ振れてリズムを取りながら膝を上げる。ダンスとしては格好いい。しかし、戦闘には不向きなステップだ。無駄な動きが多くて攻撃を見切りやすい。
「やっ!」
寝技へ持ち込まれる前に大剣を翻したクトゥルティアは、向かってきた一体を素早く切り伏せた。
「!」
別の一体が後ろへ回りこんでいる。耳へ届く湯飛沫の音はリズミカルだった。まるでポップコーンが弾けているみたいだ。何より気配で丸分かりである。
「甘いっ!」
「いっ!?」
クトゥルティアは振り向き様、敵の横っ腹へ肘を入れた。敵がよろけたところへ剣を振り斬り伏せる。返り討ちにされた敵は、あっという間に湯へ沈んでいった。
「うっ……」
戦況が不利になっていると見るや否や、残りの敵は撤退する仕草を見せた。見逃すわけにはいかない。クトゥルティアは両足へ魔力を溜める。
「離れようとしても無駄だよ!」
溜まった魔力は蒼い輝きを放ち、クトゥルティアの体を瞬く間に敵の元へ運んだ。
ひっ、と喉を引きつらせる敵へ容赦なく剣撃が浴びせられる。幾重にも切り刻まれた敵は血の華を咲かせて崩れ落ちた。
「ふぅ……」
脳内の曲も終盤へ差し掛かっている。
ヒュッと剣を振って血糊を払ったクトゥルティアは、曲のフィニッシュと共に蹄を鳴らし、鮮やかな手つきで髪を掻き上げスマイルを浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
中村・裕美
裕美は感情の発露とか苦手なので、副人格のシルヴァーナで参戦
「ダンス……ラテン系の情熱的なノリかと思いましたが、もっとプリミティブな感じの方もいらっしゃいますわね」
踊りたい感情を【優雅なるご令嬢】によってお嬢様然とした所作で抑え込む
「そのノリにお付き合いできませんが、せめて黄泉路へはエスコートさせていただきますわ」
変則的とは言ってもダンスであればリズムはあるはず。その辺りを【見切り】、【残像】を残すような緩急をつけた動きで回避。攻撃は2本の惨殺ナイフで【早業】の斬撃を繰り出す。
時には足元のお湯を蹴り上げて目くらましにする【だまし討ち】【地形の利用】
「少しはしたなかったかしら? ごめんあそばせ」
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火が揺らめいている。
アサシンたちは、ヌンチャクのように枝を回しながら飛び跳ねていた。珊瑚が囲う岩場を舞台と見立てて踊る彼女たちは、入れ替わり立ち代り激しい動きを披露している。
それを見ていた中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)、もとい表へ出ている副人格の『シルヴァーナ』は、ほぅと息を吐き出した。
「ダンス……ラテン系の情熱的なノリかと思いましたが、もっとプリミティブな感じの方もいらっしゃいますわね」
感心したつもりだったのだが、敵にはそう聞こえなかったらしい。『シルヴァーナ』の呟きを耳聡く聞いた敵は、踊ることは止めずに威嚇しながら近付いてきた。
「この原始的な荒々しさこそが、ダンスの原点なのよ!」
「上品なお嬢様にも分かるように教えてあげるわ!」
火の粉が飛び散り、ただでさえ熱い温泉地帯はサウナの様相を呈してきた。しかし『シルヴァーナ』は汗を掻いていない。
胸にそっと手を置き、踊りたくなる衝動を押さえ込んでいる彼女の仕草は、どこまでもエレガントだった。
「そのノリにはお付き合いできませんが、せめて黄泉路へはエスコートさせていただきますわ」
胸元から滑り降り、服の下へ潜り込んだ手が二本のナイフを取り出した。刃先がギザギザのナイフ。裂傷に特化したデザインである。
「はあっ!」
敵は掛け声と共に踊りながら近付いてくる。その動きは、深い森の奥で原始の人々が火を囲みながら踊る姿を想起させた。
確かに一つ一つの動作には勢いがある。だがそれはあくまでパフォーマンス用だ。攻撃へ転じる際にはどうしても、一度パフォーマンスを止めなければならない。
その瞬間を見逃さず、『シルヴァーナ』は着実に攻撃を回避して、敵の体をナイフでズタズタに裂いていく。
「ふふっ」
うつぶせに倒れこんだ敵を飛び越えて、着地と同時にナイフを煌かせた。ヒュッと空気を切る音が耳に届く。敵は上体を逸らして避けていた。『シルヴァーナ』は薄く笑う。敵の行動は計算済みだ。
しなやかな『シルヴァーナ』の足がすかさず湯を蹴り上げた。目くらまし。湯の礫を目で受けた敵は「きゃぁ」と高い声を上げた。
「少しはしたなかったかしら? ごめんあそばせ」
前方へぐんっと足を踏み込み、二本のナイフで敵の腹に×印を刻んだ。血が左右対称のアーチを描く。珊瑚よりも濃い赤だ。
「よくも!」
機動力を得るため全裸になった一体が向かってきた。『シルヴァーナ』は思わず口元へ手を当て「まぁ!」と声を上げた。
「いけませんわ。いくら踊るのが楽しいからといって、服を脱いでしまうなど」
倒れていた敵の服をナイフで剥ぎ取った『シルヴァーナ』は、敵の視界を遮ることも兼ねて布切れを敵へ放った。案の定、敵は攻撃を空振りする。ついでに着地へ失敗して、湯で足を滑らせていた。
「失礼致しますわ」
「ぐふっ!」
敵へ覆い被さって素早く喉を裂く。振り向き様、背後を取ろうとしていたもう一体も瞬く間に切り伏せた。『シルヴァーナ』の動きにはまったく無駄がなかった。
「これで終わりですわね」
流れるような動作で戦闘を終えた『シルヴァーナ』は、ゆっくりと立ち上がる。
そして、服のポケットからおもむろにハンカチを取り出して、返り血をそっと拭い取った。
大成功
🔵🔵🔵
フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【WIZ】 (連携・アドリブ可)
フィオ姉ちゃんと一緒に踊る気持ちを抑えてアサシン退治だ!
【行動】
セーラー姿の水着で温泉地帯へ
「わわ、フィオ姉ちゃん。体が勝手に動き出しそうになるよ」
温泉に触れると体が動き出しちゃうYO
我慢我慢と思ってもついつい体が反応しちゃうNE
「フィオ姉ちゃん、どうしたらいいかな」
そうか踊りたくなる気持ちを抑えて歌を歌うね
銀月琴を取り出してシンフォニック・キュアを奏でるよ(歌唱&楽器演奏)
じっくりと歌える賛美歌のような曲がいいよね
これならなんとかなりそう。アサシンの動きも分かり易いね
近づいてくるアサシンには、歌の間を狙ってクラロ・デ・ルーナだよ
フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【WIZ】(連携・アドリブ可)
「ええと、この戦場は一体なに?」
■作戦
踊りだす気持ちを歌で抑えて戦う
■行動
水着姿で戦場へ。温泉に触れると何故か、キレッキレに動きたくなる。
「ちょっと、なんなのこれ?」
こんなところでブレイクダンスとか始めると戦闘どころではない
落ち着け私と思いつつも、何か動作するとついダンスのノリになってしまう
「ここはアレよ。歌を歌えばいいのよ」
フォルセティの銀月琴の旋律にあわせて、思いっきり歌って(歌唱)
踊りたいという気持ちを抑え込む
「あと、そこ。変な技でフォルセティに近づかないで欲しいわ」
(全力魔法)の【フィンブルの冬】で女アサシンを一網打尽にする
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いたるところに湯気が立ち込めている。戦場へ足を踏み入れたフィオリナ・ソルレスティア(サイバープリンセス・f00964)と、フォルセティ・ソルレスティア(星海の王子様・f05803)は、周囲を見渡した。
カラフルな珊瑚が群生しているのと、猟兵によって倒された敵がそこかしこに転がっている以外は、普通の温泉に見える。だが。
「ちょっと、なんなのこれ?」
フィオリナは戸惑った様子を見せる。湯はフィオリナの膝くらいの高さだ。白いフリルの水着を纏ったフィオリナ。傍から見れば、ただ温泉に浸かろうとしているようにも見えるが、彼女の中ではとある衝動が沸き起こっていた。
踊りたい。とにかく体を動かしたい。広い岩場へ行って、地面へ手を着き体を激しく回転させたら、とても気持ちがいいだろう。
(「こんなところでブレイクダンスとか始めたら、戦闘どころじゃないわ!」)
拳をぐっと握り締めたフィオリナは、隣にいる弟の様子を窺った。セーラー水着を着た少年は困惑した面持ちで姉を振り向く。
「わわっ! フィオ姉ちゃん、体が勝手に動き出しそうになるよ……! どうしたらいいかな?」
ズンズンチャッ、ズンズンチャッ――。
そんなリズムが聞こえてきそうな動きをしつつも、フォルセティは最後の砦を必死に守っている。
弟の気持ちは痛いほど分かる。宥めようとする手さえ踊り出す。これならいっそ、踊りたい衝動を思い切り発散してしまえば良いのではないか。
フィオリナは一定のテンポで体を左右へ動かしながら、フォルセティへ話し掛けた。
「歌よ。歌を歌えばいいのよ、フォルセティ」
「歌……? あっ、そっか」
フォルセティの歌には不思議な力がある。踊りたくなる気持ちを抑えて歌を歌えば、それ自体が聞く者の共感を呼び起こす筈だ。
勝手に踊り出す手で『銀月琴』を取り出したフォルセティは、演奏する曲を吟味した。
何がいいだろうか。心を静める、あるいは衝動を抑えるような曲。例えばじっくりと歌える賛美歌はどうだろう。
「Uh――――……」
軽く目を伏せたフォルセティはデバイスを操作する。ポロ――……ン、と余韻を残す音から始まった旋律は、その数を増やし聖なる音色を作り上げていった。
温泉地帯に響く賛美歌。フォルセティの声に併せて歌うフィオリナ。力強く伸びのある二人の声は、エコーロケーションのように広がった。
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二人の歌に引き寄せられたのだろうか。湯煙の向こうから敵の気配が近付いてくる。
フォルセティの歌はまだ続いていた。二人とも踊りたい衝動はかなり収まっている。加えて、近付いてくる敵の動きはゆったりとしていた。賛美歌のリズムに体が慣れてしまったのだろう。
歌の合間、息継ぎを済ませたフォルセティは姉へ話し掛けた。
「これならなんとかなりそうだね」
「えぇ」
弟の言葉にフィオリナは頷いた。
やがて湯気の中から敵が二体飛び出してくる。
「見つけたわぁ!」
「あら、可愛い坊や!」
敵は両腕をゆったりと広げていた。こちらへ組み付き締め上げるつもりだろう。しかも両方ともほぼ素っ裸だ。眉を跳ね上げたフィオリナは敵を牽制する。
「そこ! 変な技で弟へ近づかないで欲しいわね」
フィオリナの足元から冷たい気配が立ち込めた。立ち昇った冷気はフィオリナの周りを漂い、白銀のドレスを形作る。
次いで、つむじ風が巻き起こった。溢れた冷気は氷雪となり風へ流れ込んでいく。瞬く間に勢いを増した風の渦は、氷雪を伴う竜巻となって敵へ襲い掛かった
「ああああっ――!」
周囲の湯気は一気に吹き飛び、冬の露天風呂を思わせる光景へ早変わりした。服を脱ぎ捨てていた敵は大ダメージを負っている。
「フィオ姉ちゃんに近付いたら駄目だよ」
氷雪の竜巻を止めようとして、二体の敵がフィオリナへ近付いていた。歌詞が間奏へ入った瞬間を見計らって、フォルセティは溜めていた力を解放する。
おおよそ77分の1秒。閃光と衝撃を伴う高エネルギーが放たれた。空気を炸裂する音が響き、敵は体をくの字に曲げて吹っ飛ばされていく。
「このぉっ!」
「だから……そんな破廉恥な格好で弟へ近付かないで!」
最後の一体は、弟の貞操を守る姉が迎え撃った。ドレスをたなびかせて、全魔力を敵へぶつける。体から全ての熱を奪われた敵は、断末魔さえ残すことなく凍えて息絶えた。
「やったね! フィオ姉ちゃん! ボクたちの作戦勝ちだ!」
フォルセティは満面の笑みを浮かべている。屈託のない笑顔。フィオリナは軽い眩暈を覚えた。可愛い。やっぱり私の弟は可愛い。
そんなことはおくびにも出さず、フィオリナはフォルセティと勝利のハイタッチを交わした。
大成功
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蛇塚・レモン
シャーマンで戦巫女なあたいにとって、踊りは蛇神様との絆を意味するよ
いつも踊っているわけだけど、これを我慢するなんて……!
でも他の強い感情で、踊りたい感情を抑えつけられるはず!
あたいは『物欲』で抑え込む!
だって、そこら中に『サウナ珊瑚』が転がってて、回収し放題っ!
売却して大金持ちだし、持ち帰って自家製露天風呂作れるよっ!
強化した蛇神様と眷属達を召喚
眷属達は環境耐性と継戦能力と催眠術で踊らないように暗示を掛けてあるよ
だから敵の誘惑にも負けないよっ!
戦闘よりも踊りたいっていうのなら、お望み通り踊ると良いよっ!
但し、ダンスパートナーは衝撃波の弾幕だけどねっ!?
最後は蛇神様の破壊光線でドカーン!だよっ!
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踊りとは神へ捧げ心を通わせるもの。しかし、蛇塚・レモン(白き蛇神オロチヒメの黄金に輝く愛娘・f05152)にとっての踊りは、蛇神様と絆を強めることを意味している。
シャーマンであり戦巫女でもあるレモンにとって、踊りとは日常的なもの。だが、この場所で踊ることは些か不利になる。
「いつも踊っているわけだけど、これを我慢するなんて……!」
温泉に浸かる足が疼きを訴える。脳内には踊る際に使用している音が木霊し、レモンを誘惑してくる。
しかしレモンには秘策があった。踊りたいという気持ち以上に滾るものがある。それは物欲だ。
(「一欠片で金貨100枚……」)
ごくりと喉を鳴らしたレモンは、そこいら中に転がっている珊瑚を見回す。舐めるような視線だ。レモンの目には円マークが浮かび、音で満ちていた脳内はすでにお金の計算を始めていた。
(「この珊瑚が回収し放題なんてっ! 売却すれば大金持ちになれるし、売却しなくても持ち帰れば自家製露天風呂が作れるっ!」)
選択の自由があるということは素晴らしい。あとは、この気持ちが萎まないうちに敵を撃破して、珊瑚を回収するのみだ。
レモンは己の力を高める。敵へ遭遇した際、一気に畳み掛けることが出来るように、蛇神と眷属達をあらかじめ召喚しておくのだ。
「村のみんな……蛇神様とあたいに力を貸してっ!」
レモンの呼びかけに応え空間が歪んだ。湯気を吸い込み渦を巻いた空間から395体の幽霊を乗せた蛇神が召喚される。
ぬっ、と突き出された顔の中でぎょろりと動く目。八つの首は敵を探して蠢いた。レモンは蛇神へ自分の意思を伝える。
(「あのさ、敵を見つけたら教えるから、それまでは上にいてくれる?」)
八つの顔はじぃっとレモンの顔を見ていた。その眼差しが不意に緩む。
ややあって、蛇神は翼を羽ばたかせて上空へ移動した。途端に長い大きな影が差し込む。彼らはぴったりとレモンへ追走してくる。
(「あたい達の他にも、色んな人が来たんだね」)
そこかしこに戦闘の跡が残っていた。とある場所では湯が真っ赤に染まり、また別の場所では雪を被っている珊瑚があった。
高温を放つ珊瑚を覆う雪には不思議な力を感じる。それ即ち、他の猟兵がこの場所で戦ったということだ。
「あ、見っけ!」
レモンは声を上げた。その後ですぐに口元を押さえる。岩の上から滝のように温泉が流れてくる場所で、敵はパラパラを踊っていた。
敵との距離を目測したレモンは、蛇腹の剣を取り出す。レモンとしては珊瑚の回収が大切なのだ。一気に片をつけたい。
レモンの意志を汲み取った蛇神が咆哮した。大地を揺るがすほどの咆哮に、敵は「きゃああ!?」と悲鳴を上げた。アサシンたちは蜘蛛の子を散らすが如く方々へ駆け出す。
「逃がさないよっ!」
「あぐっ!?」
分割された剣がヒュオンッと音を立て敵へ斬りかかった。突然の奇襲に敵は成す術なく倒される。まずは一体。
「ひっ!?」
今度は上空から幽霊たちが降ってきた。幽霊たちは一心不乱に敵へ襲い掛かる。そこかしこで衝撃波が生じ、湯が不自然に波打ち始めた。
かろうじて攻撃を避ける敵は、腕を細かに振っている。これは、あれだ。パラパラダンスの続きだ。目聡く気がついたレモンは即座に指摘した。
「戦闘よりも踊りたいっていうのなら、お望み通り踊ると良いよっ! 但し、ダンスパートナーは衝撃波の弾幕だけどねっ!?」
二度目の咆哮が響き渡った。今度は上空から衝撃波が降ってくる。逃げ場のない衝撃波をまともに受けた敵は、潰れた悲鳴を上げて地面へ縫い付けられた。
「う……うっ……!」
四肢を痛めつけられた敵が呻く。不意にその体が明るく照らされた。
敵の周囲から光の柱が立ち昇っている。否、破壊光線だ。蛇神の口から放たれた光線が降り注ぎ、残っている敵を全て飲み込んでいた。
敵は一瞬で塵と化し、柱の中で焦げて消えていく。役目を終えたと分かった蛇神は幽霊たちを乗せ、歪んだ空間の向こうへ戻っていった。
「さぁ、回収するよ~!」
頼もしき蛇神と眷属達を見送ったレモンは、意気揚々と珊瑚へ駆け出していった。
大成功
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