帝竜戦役⑯〜自由なる竜への子守歌
●
「……っ!」
グリモアベースの片隅で。
瞼に視えた光景に、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が眉を顰めて双眸を開く。
それから軽く目頭を押さえる様にしながら、溜息を一つ。
「自由、か……。本当に自由ならばどれだけ良かったことだろうな……悪魔兵の主、帝竜プラチナ……」
独り言の様に呟いている優希斗の様子が気になったのであろうか。
姿を現した猟兵達に、皆、と優希斗がそっと囁きかける。
「帝竜戦役も漸く折り返し地点、と言ったところだな。6体目の帝竜が発見されたよ。その名は、プラチナ……」
帝竜の名を告げる優希斗のそれに何処か憐れみの様なものが含まれている気がするのは、気のせいであろうか。
彼の左腰の月下美人が、怪しげな白銀色の輝きを発していた。
「……帝竜ヴァルギリオスによって『再孵化』されたこのプラチナが倒すべき相手として姿を現した。……どうもプラチナは、嘗て余程の隷従を強いられていたらしい」
『再孵化』以前の記憶はない筈だが、隷従から解放されたという開放感だけはある様だ。
故に自分を蘇らせ自分に自由を与えてくれた帝竜ヴァルギリオスに深い感謝を示し、それが帝竜ヴァルギリオスへの深い忠誠……依存心? となっている様だが……。
「これでは、今度は帝竜ヴァルギリオスに隷従しているのと殆ど同じなんじゃないか、と俺は思う。そしてこの竜による悪魔兵の軍勢の創造の結果を放置しておくわけにも行かない。だから皆には、彼女を倒しに戦場に向かって欲しい」
しかし、どれ程無邪気に思える態度を見せていたとしても、彼女もまた帝竜。
その強さは他の帝竜と比べても遜色ない実力であることは間違いないだろう。
「故に彼女もまた、皆よりも先に必ずユーベルコードを使用してくる。となると当然ながらそれに対する対応は必須だろう」
プラチナの最初の攻撃を凌ぎ、どうやって彼女を追い詰めて倒すのか。
それが今回の戦いの課題となる。
「利用され、隷従することに慣れ切っているプラチナは、ある意味では非常に哀れな帝竜かも知れない。けれども、倒すべき相手であることは変わらない。どうか皆……宜しく頼む」
呟きと共に、優希斗の周囲から白銀色の風が吹き荒れて。
それに包まれた猟兵達は、何時の間にかグリモアベースから姿を消していた。
長野聖夜
——隷属に慣れし哀れな竜に、安眠を。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
有力敵『帝竜プラチナ』シナリオをお送りいたします。
今回のプレイングボーナスは下記です。
========================
プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』
========================
帝竜プラチナは必ず先制攻撃してくるので、それを如何に防御し、そして反撃に転じるかが非常に重要な戦いになります。
また、プレイング次第では本体を確認することも可能です。
戦場はレアメタル化した大地として描写致します。
プレイング受付期間及び、リプレイ執筆期間は下記の予定です。
プレイング受付開始:5月14日(木)8時31分以降~
リプレイ執筆開始:5月16日(土)~5月17日(日)一杯迄。
——それでは、良き子守歌を。
第1章 ボス戦
『帝竜プラチナ』
|
POW : ジルコニア、プラス、バナジウム『絶対超硬剣』
自身の【本体(少女)を守る超硬装甲】を代償に、【剥離した装甲を飛翔剣化し、膨大なエナジー】を籠めた一撃を放つ。自分にとって本体(少女)を守る超硬装甲を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : テルル、プラス、ニオブ『悪臭毒ガス粘液塊』
自身に【本体(少女)を守る粘液状の毒煙】をまとい、高速移動と【悪臭の毒ガスを放つ粘液弾丸】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : プラチナ、プラス、バナジウム『命令電波プラチナ』
自身が装備する【本体(少女)】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エルザ・メレディウス
アド◎連携◎
利用され続ける悲しい存在...せめてその存在をこの手で断ち切ります
■POW
【集団戦術】で仲間の連携の質を向上できるように心がけます
【地形の利用】を活かして、地形の起伏や山陰を進み、絶対超硬剣を上手く防ぎながら敵へ近づける様に工夫
【残像】なども作り、相手の攻撃が少しでもそちらへ向かうように【誘惑】。少しでも回避率を上げられるように
自分や仲間の猟兵にはなるべく声掛けを行いながら、【鼓舞】しながら進みます。一人でも多くの仲間と共に敵のもとへ
敵の本体を見つけたら、一気に近づいて攻撃を
このような相手を斬る以上...自分の身も捨てる覚悟で戦います
【捨て身の一撃】で白王煉獄を繰り出します
ウィリアム・バークリー
なんというか、戦意を削がれる娘ですね、彼女。
でも、せっかく自由になったところ申し訳ありませんが、帝竜ヴァルギリオスに与する以上、しっかり討滅させていただきます。
絶対超硬剣は「見切り」、「全力魔法」「範囲攻撃」の「衝撃波」で撃墜していきます。
このユーベルコードは、使えば使うほど装甲が薄くなるんですよね。なら、本体が見えるようになるまで、攻撃を受け流し続けましょう。
「武器受け」と「衝撃波」で投射攻撃を撥ね除けながら接近し、本体が見え始めたら、ルーンスラッシュで致命傷を狙います。
帝竜プラチナ、覚悟!
もう蘇ることなく、骸の海で永遠に眠ってください。それがお互いのためです。彼女の魂が安らぎますように。
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
フン、とぼけた言動だが…往々にしてこう言った輩は手強い事が多い
気を引き締めていかなければな
敵の飛翔剣には装備武器で対抗
オーヴァル・レイの粒子ビーム線や銃弾、デゼス・ポアの刃で破壊することは難しくてもその切っ先を逸らす事は可能だろう
飛翔剣を見極め、回避に徹底してUC発動の機会を待つ
なるほど、凄まじい威力だ
だが、その代償として守りは薄くなるようだな
ジャンプで飛翔剣に接近してUCを発動
強力な蹴りを叩き込みその反動で空中を飛び回る
次々と飛翔剣を足場にして敵に急接近し、防御が薄くなった本体に一撃を叩き込む
お前の自由は多くの死を呼ぶ
多少は哀れに思う気持ちはあるが、それを見過ごすことは出来ん
山梨・玄信
相手を舐めて手を抜くタイプなら対処し易いが…あれは弱者を喜んで叩き潰すタイプじゃな。
【POWを使用】
上がるのは威力で命中精度ではない。そこが狙い目じゃな。
飛んで来る剣の起動と威力を見切りで見定め、第六感で着地点を読んで全力回避じゃ。
直撃は避けられてもエナジーによる衝撃が大きいじゃろうから、そちらにはオーラ防御での衝撃緩和と激痛耐性で耐えるぞい。
そして、この時に衝撃を利用して一気に敵の本体に近付くのじゃ。
プラチナの近くに来たら、衝撃波を足元に撃ち込んで飛び上がり空中戦で旋回、敵を翻弄しつつ第六感、聞き耳で本体を探り、装甲の薄い所を2回攻撃で殴って気を逸らしてから、本体に灰塵拳を叩き込むぞ!
白石・明日香
要は中身を引きずり出せばいいのだろう?
煙幕弾を放り投げて置き視界を塞ぐ、奴が慌てて全方位に攻撃しようものなら占めたものだ。その分装甲が減っているという事だからな。
バイクで全速力で突っ込み間合いを一刻も早く詰める。飛んでくる飛翔剣は軌道を見切って回避運転技術舐めるな!当たりそうなのは武器受けと部位破壊で受け流しなおも近づく。無理そうになったらバイクから飛び降りて
残像で攪乱しながらダッシュで更に接近、間合いに入ったら怪力、2回攻撃、属性攻撃(炎)、鎧無視攻撃で残った装甲事叩き切る!
この後が控えているんでな、あばよ!
斬断・彩萌
毒ガスに粘液とはまた嫌なもの放ってくるわねぇ
ダメージもそうだけど普通に喰らいたくない攻撃だわ
てワケで全力で避けるわよ
咄嗟の見切りでプラチナからの攻撃を寸でまで引き付けて回避
次に逃げる場所を見失わないように戦場の情報収集も忘れない
万が一少しでも被弾した場合や、本体に近づいた場合は環境耐性でもって毒に耐え抜く!
さぁ、抜けきったら反撃の時間よ!
そっちが毒粘液ならこっちは超能力で勝負だわ
【光楼】でめまい付与を狙いながら
技能による素早さ・正確さでもって
確実に本体を狙っていく
プラチナ、あなたはきっとこき使われてきたのね
その幕切れがこんな結果だなんて少し可哀そうだけど
現実って案外そういうものなのかもね
ユーフィ・バウム
倒すべき存在であるならば――この拳を止めはしません
帝竜の『絶対超硬剣』には、【覚悟】をもって
全力の【オーラ防御】で凌ぐ
可能な限り【激痛耐性】と【気合い】で立ち、
平然とした様子を心掛ける
どうしました?もっと大きな飛翔剣でなければ、
私のオーラは突破できませんよ?
笑みを浮かべ、【挑発】しより強力な一撃を誘い出す
そして次の一撃こそ、受けるのではなく【見切り】、
回避しながら【ダッシュ】で接近する!
培った【戦闘知識】天性の【野生の勘】、私に力を!
超硬装甲を失ったプラチナまで寄り【グラップル】で
至近距離での打撃を叩き込む!
残る装甲を砕く【鎧砕き】の打撃をねじ込み
《トランスバスター》の一撃で完全に砕きますッ!
司・千尋
連携、アドリブ可
装甲が固いって事は本体は脆いんだろ?
壊せるだけ壊してやるぜ
常に周囲に気を配り敵の攻撃に備え
少しでも戦闘を有利に進められるように意識
先制攻撃は鳥威を複数展開し威力を相殺し『翠色冷光』で迎撃
撃ち落とせなければ回避
近接や投擲等の手持ちの武器も使いつつ『翠色冷光』で攻撃
弾道をある程度操作して追尾させ敵の攻撃も撃ち落とす
本体も『翠色冷光』の範囲に入るよう位置調整
死角や敵の攻撃の隙をついたりフェイント等を駆使
確実に当てられるように工夫
深追いせずダメージ蓄積を狙う
敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
手数が足りなければ武器や『翠色冷光』を使い迎撃
間に合わなければ回避
●
「なんというか、戦意を削がれる娘ですね、彼女」
「フン、まあ確かにとぼけた言動であることは、認めるが。だが……」
ウィリアム・バークリーの呟きに、キリカ・リクサールが軽く鼻を鳴らしながら、目眩でも堪えるかの様に微かに頭を抱えている。
「……往々にしてこう言った輩程、手強いことが多いな」
「そうじゃのう。確かに相手を舐めて手を抜くタイプであれば対処しやすいが……」
キリカの頭痛を堪える様なそれの理由に感づいたのだろう。
ゴシゴシと髭を扱きながら、フム、と山梨・玄信が思慮深げに目を細めた。
「……まあ、あれは弱者を喜んで叩き潰すタイプじゃな」
『こんにちは、猟兵の皆さん! まさかヴァルギリオス様の邪魔をしに来たんですか?! そんなこと、この私、プラチナちゃんは絶対に許しません!』
何処か稚気を感じさせる無邪気な声でキッパリとそう断言する帝竜プラチナの姿を見てエルザ・メレディウスの心は千々に乱れ、微かにその眉を憂いげに顰めさせる。
「……気がつかれていないのですね。利用され続けているその事に……」
『? な~に、言っているんですか猟兵さん! ずっと隷属を強いられていた私の事を、ヴァルギリオス様は解放して下さったんですよ? こんな開放感、生まれて初めて! 自由ってやっぱり最高です!』
エルザの言葉の意味を図りかねたのだろう。
ハキハキと答えるプラチナのその姿に、エルザは思わず息を一つ吐いた。
「本当に哀しい存在なのですね、あなたは……」
「――確かに、本当はエルザさんの言うとおり、彼女は悲しい存在かも知れません」
腰に吊った勇気の実を一つ摘まみ。
自らの裡から無限に溢れ出てくる勇気を力に、その周囲に空色のオーラを張り巡らしながら、ユーフィ・バウムが決然たる表情でエルザに呟く。
「ですが彼女は、わたし達の倒すべき存在です。ならば――この拳を止める理由はありません」
「まあ、確かにこいつ相手に手を抜く理由は無いわよねぇ。やばそうな毒ガスや粘液迄使ってくるわけだしねぇ」
何かを悟ったかの様に溜息をつきながら、くい、と実はだてである丸眼鏡を引き上げるは、斬断・彩萌。
眼鏡の向こうの茶色い瞳が、何を映し出しているのかは分からない。
「まあ要は中身を引きずり出してやれば良いのだろう? 実に単純な話じゃないか」
鮫の様な笑みを浮かべた白石・明日香が、さもあらんという様にそう告げれば。
「まあ、そう言うことだよな。そう割り切った方が楽で良い。……装甲が固いって事は、それだけ本体は脆いって事でもあるんだろうからな」
明日香に同意する様に司・千尋が皮肉げに肩を竦めながら、無数の鳥威を周囲に展開し始めていた。
「ええ……分かっています。その為に……」
――その存在を、この手で断ち切るために。
「私は、皆さんと共に此処に来たのですから」
呟きながら右手にハスタを構え、左手で大きく翼を広げた鷲が描かれた軍団旗を翻すエルザ。
それらはその身に纏う深紅のマント共々……エルザの指揮官としての技量が確かなものであることを示している。
(「成程。そう言う事、か」)
ちらりとエルザの掲げた旗を見たキリカが、直感的にそれを察したか、エルザにさりげなく告げた。
「組織戦には慣れている。私は、お前の指揮下に入ろう」
『キャハハハハハハハッ!』
その左側にオーヴァル・レイを、右側に、子供とも老婆ともつかぬ笑い声を上げるデゼス・ポアを展開しながら。
指揮下に入ることを明言したキリカに静かに首肯し、それでは、とエルザが小さく呟いた。
「行きましょう……あの悲しい存在を、私達の手で断ち切るために」
『やっぱり、私達の邪魔をするんですね! 絶対に、絶対に許しません! この私が、あなた達を止めるために、精一杯頑張りますっ!!!』
溌剌とした少女を守るジルコニア、プラス、バナジウム等、超硬装甲と、粘液状の毒煙を全身に纏った帝竜プラチナは、純真無垢を感じさせる咆哮を上げた。
●
咆哮と共に自らの超硬装甲を幾分か剥離させ、それを幾本もの飛翔剣へと変形させて、悪臭漂う粘液弾丸を構えるプラチナ。
その周囲の状況をエルザが軽く目を細めて見ながら呼びかける。
「明日香さんは煙幕弾を投擲後彼女の周りを回って攪乱を。ユーフィさん、玄信さん、彩萌さんは全速前進、キリカさん、ウィリアムさん、千尋さんは各々の武器と魔法で弾幕をお願いします。私もユーフィさん達と前に出ます。先鋒はお任せします、明日香さん」
エルザの口から零れ落ちた立て続けの指揮に気がつき、へぇ、と薄らと口元に笑みを浮かべながら明日香が懐から煙幕弾を投擲と同時に、漆黒のバイク『ベトゥラー』に乗り込みアクセルを踏み込み加速させる。
もくもくと焚かれるスモークで視界を遮られるプラチナではあったが……。
『煙を操るのは、私の専売特許です!』
ばさり、と超硬装甲の羽を羽ばたかせ、明日香の焚いたスモークを吹き散らしながら自らの周囲に展開された、幾本もの飛翔剣と粘液弾丸を、驟雨の如く降り注がせるプラチナ。
明日香がまるで突撃槍の様に駆け抜けるその後ろから、だん、と『ウロボロス』に積んだ『ウロボロスエンジン』のブースターを全開にして戦場を疾駆する空色の結界を張ったユーフィと、冒険靴で大地を蹴りながら、焦げ茶色の結界を張った玄信が続き、更にそこにエルザが後追いで続いていく。
「さて、私達の防御を、あなたに突破できますか?」
「その軌道と威力で、わし等の守りを容易く貫けると思わぬ方が良いぞ?」
不敵に構えるユーフィと玄信、そして突出する明日香達の様子を見て取り、ぶん、と軍団旗を振るエルザ。
エルザに振られた旗の合図を諒解したキリカが、ジリジリと近くの障害物に身を潜めながらヒュン、と片手を振ると同時に、空中に浮遊していたオーヴァル・レイから粒子ビームが解き放たれ、童女の様な甲高い笑い声を上げながら、デゼス・ポアがその全身を彩る錆色の刃を振り翳して、それらの飛翔剣の軌道を逸らし。
「楽ですねこれは……Wind Wave!」
すかさずルーンソード『スプラッシュ』を抜剣したウィリアムが描き出した、若緑色の魔法陣から、大気を振動させて生み出す波を作りだし、キリカによって軌道を逸らされた飛翔剣を次々に風の振動を以て砕け散らせていく。
パリン、パリン、パリン、と宝石が割れる様な甲高い音と共に飛翔剣が砕かれ、折れていくその間隙を縫って、粘着弾丸が着弾しようとするが。
「彩萌さん、左斜め前です!」
「ギリギリまで引き付けて……それっ!」
エルザの咄嗟の指示に頷いた彩萌が左斜め前にあった小さな突起物をひょい、とジャンプし、粘着弾をそれらに着弾させて回避させ、更に……。
「邪魔だな。『消えろ』」
呟きと共に自らの周囲に展開した無数の青い光弾を、散弾の様に千尋が撃ちだし、キリカとウィリアムの弾幕をすり抜けてきた飛翔剣とぶつかり合い、爆ぜて爆散させ、破片にして細かく砕いていく。
それでも尚降り注ぐ飛翔剣の欠片だったが、膨大なエナジーを籠めたそれであってもその形を破壊されて威力を大きく削がれ、更に着弾の直前に千尋の鳥威によってその勢いを減じさせられた状態では、ユーフィと玄信の結界の前にはあまりにも無力。
明日香はバイクをハンドリングで右回転させながら、プラチナの周囲を泳ぐ様に走り、プラチナの次の一手を誘発するべく挑発し。
更にユーフィが不敵な笑みを浮かべて、プラチナへと問いかけた。
「どうしましたか? もっと大きな飛翔剣で無ければ、私達のオーラを突破することは出来ませんよ?」
『くっ、これでも精一杯頑張っているのに! 良いもん、良いもん! 私、ヴァルギリオス様のためにも、もっと頑張っちゃうんだから!』
「なんかまるで恋する女の子みたいねぇ、あなた。その気持ちはよく分かるわぁ」
甲高い声を上げながら、更に自らの超硬装甲を剥離し、明日香の動きに合わせる様に高速で戦場を横っ飛びしながら、更に莫大なエナジーを宿した無数の飛翔剣を大地と水平に飛ばすプラチナを、彩萌が何処か共感の光を称えた瞳で見つめながらポツリと呟き、エルザの指揮によって隠れた遮蔽物から素早く飛び出し、プラチナの左翼へと肉薄していく。
『……伏兵ですか?!』
驚いた様に其方にも自らの超硬装甲を剥離した飛翔剣を解き放つプラチナに、明日香がニヤリとしてやったりの笑みを浮かべている。
(「こうも上手く策に嵌まってくれるとはな。それだけ装甲が減ってきていることに気がつかないか?」)
そのままハンドリングで後方に回る様に駆け抜ける明日香に向けても、装甲を剥離させて飛翔剣を放射するプラチナ。
エルザが素早く旗を振って指示を出し、それに応じる様に、ウィリアムがジリジリと、千尋が両手の糸を操りながら、暁と宵の其々に、月烏と鴗鳥を持たせ、鳥威を絶えず展開しながら、摺足で前に出る。
デゼス・ポアとオーヴァル・レイに指示を出していたキリカは大地を蹴って跳ぶ様に空中を飛翔し、慣性を無視した様な空中側転を行ないながら、その両手に構えたVDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”と、フルオートモードに切り替えた強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"の引金を、大地と水平に浮遊していた無数の飛翔剣に向けて引いた。
空中浮遊するオーヴァル・レイから光線が降り注ぎ、クリムゾンガードに走る黄金のラインを輝かせたVDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”から聖歌の様な音を立てながら黄金の弾丸が撃ち出され、更に強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"が黄金のラインを朧気に輝かせて、無数の銃弾の嵐を上空から降り注がせた。
「ユーフィさん、玄信さん、回避を!」
遮蔽物に隠れていたエルザが遮蔽物から飛び出し漆黒の残像を曳きながら右側面へと走り出し、プラチナがそれに呼応する様に更に強化された飛翔剣を撃ち出すのを、自らの横目に捉えながら叫ぶのに応じる様に、ユーフィと玄信が、キリカの空中からの猛攻によってその軌道を鈍らせた飛翔剣達のその軌跡を読み、真正面からそれに踏み込んでいく。
「ギリギリまで引き付けて……!」
「行くぞい!」
当たる寸前まで飛翔剣に肉薄したところで、ユーフィが身を大きく屈めて、タン、と大地を蹴り、『ウロボロスエンジン』の加速装置を限界まで引き上げて加速して一気に肉薄する一方、玄信は直前でジャンプをして、その飛翔剣の真後ろにピタリと張り付く様に着地する。
「今じゃ、千尋殿!」
「無茶な手を使う。が……良いだろう。『消えろ』」
玄信の呼びかけに応じ、千尋が玄信の真後ろの飛翔剣を指差して、威力を高めた青い光弾を発射。
それが飛翔剣に着弾し、玄信の真後ろで派手に大爆発。
焦げ茶色のオーラを集中させていた玄信は、その爆発の激しい衝撃が背中に痛烈に走るのをその身で感じながらも、その爆発の衝撃そのものを利用して、ユーフィとほぼ同等の瞬発力を見せて、一気阿世にプラチナへと接近していく。
『えっ……ええっ!? 私の飛翔剣を利用してこんなに一気に迫ってくるんですかぁ!? ちょっ、ちょっと酷くありませんか!? 私、別に悪いことしてないのに!』
「この領地の生物達を死滅させたじゃろうが! それを悪いことと言わずして何というのじゃ、お主!?」
爆発の衝撃で空中へと飛び出す様に舞いながら、玄信がトンボ返りを撃って、続けざまに放たれた粘液弾丸を躱し、左拳を剥離され、薄くなりつつあるプラチナの装甲に向けて叩き付ける。
『キャハハハハハハハハハッ!』
その愛らしさをオペラマスクという仮面と、全身に錆び付いた刃で完全に裏切ったデゼス・ポアが甲高い笑い声を上げながら、玄信に続けてその無数の刃を振り下ろし、プラチナの本体を覆う超硬装甲を剥ぎ取る様に斬り裂いていく。
そこにユーフィが圧倒的な速度で迫り、すかさず両拳を握りしめて巨大な拳骨による一撃を、プラチナに向かって叩き込んだ。
「これで……どうですかっ!?」
溢れる勇気と覚悟に満ちた叫びと共に、ピシリ、と残っている超硬装甲に罅が入る音がユーフィと玄信の耳に入る。
「どうやら、大分装甲を剥ぎ取られてきている様だな」
上空から監視する様にその目を鋭く細めたキリカが呟きながら、オーヴァル・レイにユーフィ達を援護する様に光線を撃ち出させてプラチナを守る超硬装甲を砕きながら、VDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”と、フルオートモードに切り替えた強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"の引金を再び引いた。
それはユーフィ達が強引に振り切り、ウィリアム達に向かって真っ直ぐ飛翔していた飛翔剣を撃ち抜いている。
そうしながら自らに向かって打ち出された数本の飛翔剣を見て、キリカがニヤリと口の端に鮫の様な笑みを浮かべ、黒いレザーブーツ、アンファトリア・ブーツで踏みつける。
その靴の裏側に彫り込まれた魔法紋様が異様な輝きを発するや否や、飛翔剣がぽっきりとその剣先から真っ二つに折れ、大地へと落下していった。
トン、とまるで蝶の様に軽やかな足取りで飛翔したキリカが、それらの飛翔剣をまるで飛び石の様に軽々と踏み付けて叩き折りながら、プラチナの本体に向かって肉薄するその最中……。
「彩萌さん、明日香さん!」
右側面から回り込む様にプラチナに肉薄していたエルザの指示に応じる様に、彩萌が左側面から、明日香が後背に回り込んで、一斉に其々の得物で襲いかかった。
「抜けきったわね! 追撃させて貰うわよ!」
叫びながら彩萌が、ExecutionerとTraitorの二丁を構え、其々に籠められた弾丸に、自らの超能力のオーラを纏わせる。
『光よ、貫け!』
叫びと共に、ExecutionerとTraitorの引金を引く彩萌。
銃口から吐き出されたのは眩い光輪のオーラに包み込まれた、巨大な二発の弾丸。
狙点を定めて撃ち出されたそれが、罅の入りつつあるプラチナの超硬装甲を抉り、そして穿つ。
『あ……あれっ……?!』
打ち込まれた光の弾丸のあまりの眩さ故か、その超能力に籠められた力故か。
放たれた弾丸に装甲を撃ち抜かれたプラチナが、不意に鋭い目眩を覚え、その体をグラリと傾がせる。
「背中がガラ空きだぜ!」
バイクから飛び降りながら明日香が嘲弄を交えた叫びを上げ、彩萌による攻撃で目眩を起こし、体を傾がせていたプラチナの背に向けて、血の様に赤い紅蓮の焔を纏った全てを食らうクルースニクと、呪剣ルーンブレイドを十文字に振るう。
縦一文字に振るわれた全てを食らうクルースニクがその焔で超硬装甲を焼き尽くし、そこに続けざまに放たれた呪剣ルーンブレイドの炎が、プラチナの背を容赦なく嬲り尽くした。
「今しか手は……!」
そう呟きながらエルザが踏み込み、その手に構えていたハスタを突き出し更に全身に罅の入りつつある超硬装甲を貫き、その向こうで胎動する様に悲鳴を上げる少女の声が耳に入り、微かに苦渋に表情を歪ませつつ、左手の軍団旗を振るった。
振るわれた軍団旗を合図にする様に、上空からのキリカの一斉掃射によって撃ち抜かれていた飛翔剣達を、ウィリアムが小刻みに連射する風の刃で、宵と暁を引き戻し、其々に預けた得物で飛翔槍を砕かせ続けていた千尋が、烏喙で朽ち果てる寸前の飛翔剣を叩き落とし、鳥威を無数に展開して飛翔剣からウィリアムと自分を守りながら、右指を突き出し、青い光弾を撃ち出している。
ズキリ、と軽い頭痛が千尋を襲い、微かに顔を歪める千尋。
(「細かい指定をしているわけでは無いのだが……連発すれば、流石に消耗も激しくなるか」)
だからと言って、手を抜いている暇が在る筈が無いのだが。
内心でそう呟きつつ、散弾の様に青い光弾を撃ち出し、飛翔剣を片端から叩き落とし、プラチナを囲む最前線一歩手前まで接近する千尋。
「千尋さん」
「ああ、分かっている」
『スプラッシュ』で若緑色の魔法陣を描き出し、そこに風切りの刃の紋様を描き出すウィリアムの呼びかけに、千尋が静かに頷きながら、暁と宵をデゼス・ポアに合流させて空中から一斉に攻撃させながら、グイ、と糸を使って自らの手元に引き寄せた烏喙を握りしめ、プラチナに向かって投擲した。
「Wind Cutter!」
『スプラッシュ』で描き出された魔法陣に向けてその詠唱を解き放ったウィリアムに応じて、魔法陣に風の精霊達が集い、無数の風の刃となって、プラチナを覆う超硬装甲をズタズタに斬り裂き、罅を全身へと巡らせ。
そこに暁が青白い刀身の月烏を振るってその傷口を更に穿ち宵が鴗鳥で殴りつけ。
『キャハハハハハハハハハハッ!』
童女の様にあどけなく残酷な笑い声を上げたデゼス・ポアが錆色の刃を光らせながら、オーヴァル・レイの粒子ビームで抉れた装甲を更に引き裂き削り取っていく。
そして、天空から。
「砕けろ!」
キリカが落下速度で自らの体を更に加速させながら、アンファントリア・ブーツで踵落としをプラチナの頭頂部に叩き付けた、正にその直後。
――パリィィィィィン!
金属が砕け弾け飛ぶ鈍い音を上げて、帝竜プラチナの超硬装甲で作られた頭部や全身の金属が弾け飛び、地上にまで届く程に豊かな銀髪の、愛らしい顔をした頭に小さな冠を乗せた少女が、何処か怯える様な眼差しを向けて、その姿を晒したのだった。
●
見た目少し浮世離れした巫女の様な、そんな愛らしい少女が姿を現したのに、思わずユーフィとエルザが微かに怯んだ様な表情を見せる。
『どうして、こんな事するんですかぁ! 皆さん、酷い、酷いです! 私は、私は只、やっと手に入れることの出来た素晴らしい自由を楽しみたいだけなのに……!』
本気で涙目になって訴えてくる少女プラチナだったが、その少女の肢体を守る様に放出されている異様なほどの悪臭……粘液状の毒煙は、彩萌達を苦しめるには十分であり、両の鉤爪の先端の10本の爪は、飛翔剣と化して自由自在に戦場を駆け抜け、キリカ達を貫き倒さんとしていることに気がつき、千尋が鳥威を反射的に展開して、それらの飛翔剣からキリカ達を守る。
「本体が現れた、と言う事は……一気に終わらせるぞい!」
自らの全身を焦げ茶色の結界で守り切った玄信が、当然と言った様に叫びながら、腰を深く落として、拳を真っ直ぐに振るった。
『終わらせるぞい……灰塵拳!』
玄信の放った一撃が、プラチナの華奢な腹部を殴打する。
『キャァァァァッ!』
幼い愛らしい悲鳴を上げ、喀血するプラチナの姿に、僅かに躊躇いを見せながらウィリアムが空中から舞う様に肉薄、『スプラッシュ』に氷の精霊達を集中させた。
「本当にやりにくい相手ですが……それでもあなたはオブリビオン。帝竜ヴァルギリオスに与する以上、ぼく達にとっては討滅の対象です……! 『断ち切れ! スプラッシュ!』」
氷の精霊達の力を刃に籠めて凍てついた氷の剣と化した『スプラッシュ』を袈裟に振るうウィリアム。
その刃の一撃があわや少女の体に吸い込まれる直前に、主を護る様に浮遊していた右腕が動き、その斬撃を受け止めるが、受け止めた傍からその腕は凍てついていき……程なくして、ぽとり、と地面に落ちた。
自らの右腕のモジュールが奪われたことに心を痛めたか、ポツリ、ポツリと涙を零す少女に、ギリリ、とユーフィが歯を食いしばりながら全身全霊の力を込めた後ろ回し蹴りを叩き込む。
「たとえ、貴方がどの様な相手でも……わたしは止まりませんっ! それが、森の勇者の誇りであり、そのための力です!」
全身全霊の力を籠めた空色の闘気の全てを注ぎ込んだ後ろ回し蹴りは、少女体のプラチナのもう片方の浮遊していた左腕が防御し、瞬く間にその左腕は砕け散った。
『あっ……ああっ……!』
「オレ達にはこの後が控えているんでな、あばよっ!」
明日香が吠えながら、全てを食らうクルースニクと、呪剣ルーンブレイドに血色の焔を這わせてプラチナの本体を炎で炙る様にX字型に背後から斬り裂けば。
「少し可哀想だけれど、これがあなたの幕切れよ。終わらせるわっ!」
彩萌がExecutionerとTraitorの引金を引き激しい衝撃と共に、銃弾を撃ち出し、プラチナの華奢な体を撃ち抜いていた。
『うあああああっ……う、うう……!』
全身を襲う灼熱感による痛みと苦しみに悶え喘ぐプラチナに、千尋が烏喙を構えて肉薄し、プラチナのその薄い胸に突き立てる。
毒で身を守っていた少女の体内にプラチナの免疫の無い、対オブリビオン用とも言うべき毒が全身を駆け巡り、プラチナの全身に紫色の斑紋が浮かび上がり始めた。
「げ……ゲホッ、ゴホッ……そんな、私、頑張った! 頑張ったのに……!」
「……全く哀れではない、と思わないではないが」
ぜぇ、ぜぇ、と激しく肩で息をつき、その場で頽れる様に蹲るプラチナに、微かに憐憫の光を宿した眼差しを向けながら、キリカがナガクニを引き抜き、肉薄。
「ですが……すみません。この地の者達を皆殺しにしたあなたの罪は……裁かれ、そして断ち切られなければなりません」
キリカに頷き掛けながら、ハスタを投げ捨てサムライブレイドを引き抜き、その刃に焔を乗せたエルザが、相手に攻撃させる隙を見せながら、一歩前進。
苦しみ、喘ぎながらも、尚、生への渇望故か、涙を流しながらもきっ、と睨み付けてくるプラチナを守る様に、プラチナを守る粘液状の毒煙が弾丸となってエルザに放たれる。
放たれたその弾丸を正面から受け止め、少しでも彼女の思いを、気持ちを受け止める様に、と祈りを籠めて前進したエルザが、その刃を突き出した。
炎を纏ったサムライブレイドの刃がプラチナの心臓を貫き、彼女の口からガボッ、と大量の喀血を零させ、その顔を上向かせる。
そこに……。
「だが……お前の自由は多くの死を呼ぶんだ。それを、見過ごすことは出来ん」
締めくくる様に重苦しく息を吐き、ナガクニの刃をその喉に一閃するキリカ。
キリカのその刃が、剥き出しになったプラチナの白い首を撥ね……エルザと明日香の炎に焼かれながら、この時首を失ったプラチナの肉体が大地に頽れそのレアメタルの大地に沈み……彼女は最初の『死』を迎えたのだった。
●
「彼女の魂は、安らぐことが、出来るのでしょうか?」
大地に沈んでいったプラチナの肉体を見送りながら。
ウィリアムの呟きに、分かりません、とエルザが悲しげに首を横に振る。
あの一撃に加えたのは、『浄化の炎』
その魂を清め浄化される様、願った刃だったのだが……果たしてそれが叶えられたのか否か。
「……プラチナ」
大地に沈んでいったプラチナを思い出しながら。
彩萌が、やや悄然とした表情で呟いている。
「あなたはきっと、こき使われてきたのね。……嘗ても、今も」
(「その幕切れが、こうも呆気ないなんて……」)
彩萌が求めるのは、『ハッピーエンド』
でもこれは、『ハッピーエンド』じゃない。
その事実が、彩萌の心にずっしりと重く圧し掛かってくる。
重い気分を吐き出すかの様に。
溜息をつきつつ戦いの中でずれてしまった眼鏡の位置を修正しながら彩萌が呟く。
「でも……現実って、案外そう言うものかもね」
「そうだな。それが現実だ」
現実には、『ハッピーエンド』なんてそうそうに見つからない。
此処に至るまでにしてきた数多くの経験と、部隊の同僚達の死を間近に見たキリカの言葉には、重い空気が漂っている。
(「あの人達が此処にいたら……この戦い、どう思ったのでしょうね」)
自らの左手に握られた、鷲の軍団旗。
その元に集った100人隊の者達と、嘗ての赤い記憶を掘り起こし、エルザが沈痛さを感じさせる溜息をつく。
「一先ず戦いは終わったんだ。撤収するぞ」
「――はい。そうですね」
「うむ、そうじゃのう。その通りじゃ」
千尋の呼びかけに、唇を噛み締めて俯き加減だったユーフィが頷き、彩萌達のやり取りに腕を組んで黙って耳を傾けていた玄信が頷く。
「さて……次の相手は、どいつだろうな?」
好戦的な笑みを口元に浮かべた明日香の呟きを最後に、猟兵達は白銀の光に包み込まれて、静かに戦場を後にした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
――消える?
――また私は、消えてしまうの?
――ヴァルギリオス様のお陰でやっと手に入れることが出来た自由。
――その為に、一杯、一杯頑張ってきたのに。
――それなのに、こんな所で私は消えてしまうの?
――いや。
――そんなの、そんなの絶対に嫌!
――ちゃんと頑張ったからしょうがないと思っていたけれど!
――素晴らしい、あの自由を謳歌する事も出来ないなんて、絶対に嫌!
――だから、もっと頑張らなきゃ!
――ヴァルギリオス様のためにも、私の為にも。
――もっと、もっと私、頑張らなきゃ!
――そうですよね、私達……!
ルテネス・エストレア
あなたが何を以て『幸せ』と言えるのか、その心を誰に向けるのかなんて、口を挟むつもりはないの
自由は尊いもの
ならば、この世界に住まうヒト達にも『平和』という名の自由があって然るべきね
魔導書にわたしの魔力を注ぎ【全力魔法】で防御の結界を施すわ
聖なる星の加護を此処に
わたしの周囲に幾重にも張り巡らせた白き星光の結界を展開し、全方位からの攻撃を防ぎきるわ
次は此方の番ね
相手の攻撃が緩んだその隙を見計らって
魔導書に込めた防御用の【全力魔法】を攻撃用へと転換
招くはすべてを凍らせる氷の嵐
これはあなたの世界を滅ぼす予兆にして序章
終わりの始まり、大いなる冬の魔法
今、わたしの全力を以てあなたの物語を終焉へと導きましょう
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
隷属することに慣れ切った哀れな竜か
…優希斗には何が見えていた
誰かに依存し臣従する限り、自由を得たとは言えないがな
理解する前に徹底的に砕いてやる
竜の先制攻撃は「見切り、視力」で代償にした部位を把握しつつ
「ダッシュ、残像」で緩急つけて走り残像を囮として置きつつ回避
俺自身が狙われたら「第六感、スライディング、ジャンプ」も駆使して全力で回避優先
一撃を凌いだら「ダッシュ」で失った超硬装甲があった場所に接敵
必要あらばフック付きワイヤーを引っかけて「クライミング」で登ってやる
接敵したら「早業、2回攻撃、鎧砕き、部位破壊」+【魂魄剣・一撃必殺】
その超硬装甲をさらに粉々にしてやろうか
荒谷・つかさ
全身金属の竜は……流石の私も食べられないわね……
仕方ない、コイツの焼肉は諦めて……色々剥ぎ取って強化素材にしましょうか
大槌「流星」を担いで対峙
先制で飛ばしてくる飛翔剣に対し、持ち前の怪力で大槌を横殴りにぶち当てての破砕、或いは軌道逸らしを狙う
硬いということは、代償としてしなやかさを失う……つまり脆いとも言い換えられる
装甲であれば厚みでカバーできても、剣へと形状変化したなら腹への打撃には弱い筈
凌げたならば、地形や仲間の助力を得て飛び上がり高度を稼ぎつつ【荒谷流重剣術奥義・稲妻彗星落とし】発動
全身金属の竜であれば、それはある意味「地形」と認識できなくもない
ならば、地形をも破壊するこの一撃で勝負よ!
彩瑠・理恵
帝竜プラチナ……サイキックハーツに至ったロード・プラチナですか
えぇ、リエ、すぐに代わりますから待っていてください
先手に対してはバベルブレイカーを盾にして致命傷だけは避けるように逃げます、バベルブレイカーは壊れても構いません
最悪、片手が無事ならなんとかなります
先手を超えられたら上空に指鉄砲を向けて【模倣再現・殲術再生弾】です!
ハハッ!リヴァイヴァーが発動したら理恵からボクに代わるわ!
ダークネスカードで服も武器も変わって……と、記憶なくてもリヴァイヴァーと朱雀門制服には思うところがあるかしらね?
まぁどっちでもいいわ、理恵が流した血を武器にリヴァイヴァーの強化と回復能力で本体出るまでゴリ押してやるわ
加賀・琴
帝竜プラチナですか
知っているような知らないような?
いえ『私』は知らない相手ですね……はて、私はなにを?
先手に対しては見切りと第六感を駆使して天女の羽衣で宙を舞って避けようとはしますが、無理だと悟れば即座に薙刀を盾にして受けます
羽衣で自分から後ろに流されるように飛べば、少しは威力を逃がせると思いますが
先手をどうにかできたら和弓・蒼月で【破魔清浄の矢】を放ちます
装甲が薄くなっていますし、なによりも悪を成すのがデモノイド・ロード、再誕しようとその性質は変わらないでしょう
ならば、その悪と罪穢れを祓い浄化する破魔の矢は効くはずです。今更デモノイドヒューマンにも成れないでしょうしね……私は、なにを言って?
尭海・有珠
行き過ぎた忠誠は、依存は、隷従となんら変わりはないと思うんだがな
…そう遠くもない昔を思い起こせば
そんな関係も間近にあったのだが、私はごめんだな
基本は跳んで回避、避け切れぬだろう分については
武器にて飛翔剣の軌道を逸らし威力を削ぐ
速度と角度は経験則で、軌道は敵の目線を頼りに。多少は感も絡もうが。
完全に避ける心算でいけば、被弾の傷も少なく済むだろうか
痛みには多少慣れもあるしな
解放されたんだろう?
お前が自由に思考した末にそこに行きついたのなら構わないが
憐憫は多少あれど、私は遠慮なく屠るだけだ
反撃は炎で攻撃力に極振りした≪憂戚の楔≫
瞬間的な、超超高熱の熱と炎の杭を多段に、装甲を失った部分へと叩きつける
ルード・シリウス
嗚呼、自由ってのは自らの手で掴むもので、誰かに与えられるものじゃねぇ
それに、だ…少女だろうが帝竜なんだろ?なら、喰らうべき獲物それ以外に変わりはねぇ
外套と靴の能力で気配と音を殺し、残像を囮としてばら撒く様に配置
飛翔剣が広域の可能性も加味し、攻撃の瞬間を見切って掻い潜る様に回避。同時に神喰と無愧の二刀を重ねて盾の様に構え、致命傷に至る攻撃だけを全力で受け流す様に防御し凌ぎつつ、本体の位置を把握
攻撃を凌ぎ切れたら、【魂装】発動。武装の真名及び自身の真の姿を開放
更に嘗て喰らった敵達を憑依させて強化して本体に向けて接近。二刀による連撃と捕食能力で鎧諸共、本体を喰い千切る様に斬りつけ血肉を喰らう
●
「……隷属することに慣れきった、哀れな竜、か……」
この戦場の予知をしたグリモア猟兵、優希斗の言葉を思い出しながら。
館野・敬輔が、誰に共無くポツリと呟いている。
「そうだな。確かに行き過ぎた忠誠は、依存は、隷従と何ら変わり無いものだろうと私も思うな」
「嗚呼、自由ってのは自らの手で掴むもので、誰かに与えられるものじゃねぇからな」
敬輔の呟きに応じたのは、尭海・有珠とルード・シリウス。
「それにしても帝竜プラチナ、ですか……」
その呼び方に、何か含む物を籠めながら。
彩瑠・理恵が呟くそれに、彩瑠さん? と加賀・琴が問いかけている。
「何かご存知なのですか?」
「いえ……でも、あれは……」
琴の問いかけに理恵が軽く頭を横に振り、ブツブツと呟き始めた。
と……何かを思い出したかの様に、理恵がそう言えば、と琴に尋ねかけている。
「琴さんは知っていますか? サイキックハーツに至った、ロード・プラチナという存在を」
「……?」
飲み込めない様子の琴に理恵が微苦笑を浮かべて返事を待っていると、琴がそうですね、と軽く呟いた。
「『私』は知らない相手、ですね……って、えっ?」
自分でも、何を言っているのか分からないのだろう。
パチクリと瞬きする琴の様子を見て、敬輔が鋭く目を細めた。
(「まるで、優希斗みたいな事を言っているな、琴は」)
時折、優希斗が見ると言う『過去』の夢。
それが切っ掛けとなって幾つかの予知をしたことが在ると言う話は聞いたことがあるが、その真意は時折不可解に感じられる。
ただ、まさかそれと同じ様な話を、別の人間の口から聞く羽目になるとは。
「う~ん、全身金属の竜は……流石の私も食べられないわよね……」
「喰いたいのか?」
琴達のやり取りに奇妙な既視感を感じながらも、腕を組み、考え込む表情になる荒谷・つかさに、ルードがさりげなく問いかける。
「えっ?」
思わず、と言った様に目を瞬かせるつかさに、ルードが続けた。
「元々俺にとって帝竜は喰らうべき獲物だ。それ以上でも、それ以下でも無いぜ」
突き放す様に告げるルードの声に応じる様に。
その腰に帯びた漆黒に染め上げられた大剣、暴食剣『神喰』が、禍々しい黒い輝きを発するのに、がっくりと肩を落とすつかさ。
「ああ……魂を喰らうってことね。私が食べたかったのは、帝竜の肉そのものよ。まっ……だから今回は残念ながら焼肉はお預けって所ね」
「そうか」
つかさが肩を竦め、ルードがそれを適当に受け流すその間に。
レアメタルの大地が、激しく振動した。
思わぬ振動に、有珠達がその震動源へと視線を向けると、そこにいたのは……。
「ああ~、猟兵! 猟兵達じゃないですか! あなた達はまさかやっと得た私の自由を奪うために此処に来たんですか!? そんな事はこの私、帝竜プラチナちゃんが許しません!」
必死の形相でそう告げるプラチナの問いかけに。
「自由、ね……」
ふわふわと、柔らかな鳥の子色の腰まで届く程の髪を、振動と同時に起きた風に靡かせながら。
ルテネス・エストレアが、何処か人形の様にふわりとした口調で囁きかける。
「そうね。自由は、尊いものよね」
『そう! この開放感! ヴァルギリオス様が与えてくれたこの自由! 私に与えられたこの自由は、この幸福を、貴方達猟兵に侵させるつもりはありません!』
キッパリとそう告げるプラチナのその瞳には、ヴァルギリオスに対する崇拝……慕情? の様なものがありありと浮かんでいて。
その純真な瞳を見た有珠がその黒髪を風に梳かしながら、海を映した様な青い瞳を、鋭く細める。
此処では無い何処かを見る様な、そんな茫洋たる大海を思わせる眼差しを。
(「……そう遠くも無い、昔を思い起こせば」)
そんな依存する関係が間近にあったのが、はっきりと思い出せて。
でも……それは。
「私は、お前とヴァルギリオスの様な関係は、はっきり言ってごめんだな」
『な、何ですって!? あなたには分からないのですか! ヴァルギリオス様が与えてくれた自由の意味が! この私の幸福が!』
「貴様が感じているそれが自由? そんな訳無いだろ。誰かに依存し、臣従する限り、それは自由とは言えないからな」
冷たく切り捨てる様に告げる敬輔に、そんな筈はありません! とプラチナがキッパリと告げる。
『私の心からの開放感が私にとって幸せじゃ無い訳がありません! そんな自由の意味を私に教えてくれたヴァルギリオス様の真価があなた達には分からないのですか!?』
「そうね」
叫びながらプラチナの周囲に、無数の愛らしい姿の少女達が姿を現す。
幼さを感じさせる無数の少女達の周囲に展開し、浮遊する2本の銀の竜の腕。
全身を超硬装甲で覆い尽くし、偉大なる巨大な竜の形を取ったプラチナの周りに現れた、純真無垢な表情の少女達の群れを破壊し、自らの殻に籠り自由を満喫する少女の自由を破壊する事は、確かに何処か酷く残酷なことの様にも思える。
――けれども。
「あなたが、何を以て『幸せ』と言えるのか、その心を誰に向けているのか、それに口を挟むつもりは、わたしにはないの」
――でもね。
そこまで告げたところでルテネスがその胸にそっと魔導書を……人々の未来の夢を、物語を守るためのそれを抱きながら、ほんわりと言の葉を紡ぐ。
「あなたにとって、その『自由』が尊いのと同じ様に。この世界に住まうヒト達にも『平和』という名の自由があって然るべきよね?」
『だから私を倒し、ヴァルギリオス様をも討ち取ろうと……そう言うのですか! そんなこと、私は絶対に許せません! 私の自由を奪い、私の幸せを脅かす……そんなあなた達から私の自由を守るために、私、頑張ります!!!!』
その咆哮に合わせる様に。
周囲に現れた幼く愛らしい少女達の周囲を浮遊する両腕の爪と、プラチナが自らの心を覆う様に纏った超硬装甲の一部が剥離し、飛翔剣化し、矢の様に解き放たれた。
●
「人々に聖なる星の導きを。わたし達に聖なる星の加護を」
放たれた無数の飛翔剣。
その少女達の周囲に浮遊する両腕から解き放たれた、無数の飛翔剣を抑える様に。
そっと胸の上に押さえていた本に祈りと共に魔力を注ぎ込み、白き星光の結界を展開し、それらの攻撃を防ぐ事を試みるルテネス。
「皆、お願いね」
ルテネスの張り巡らした星光の結界の加護を受けながら、有珠が小さく祈りの言葉を紡ぎ、肩に流星を担いだつかさと共に一直線に戦場を駆け出した。
「まあ、食えないんじゃぁしょうがないから……色々剥ぎ取って、強化素材にでもさせて貰うわ。ええと、あなた……」
「有珠と呼んでくれ。姓で呼ばれるのは、どうにも馴染みが薄いものでな」
共に併走しながら海昏で飛翔剣の軌道を逸らし、回避を試みている有珠の言葉に、そっ、と軽くつかさが返す。
「つかさよ。有珠、先に言っておくけれど……巻き込まれないでね」
「?」
つかさの言葉の意味が分からず、思わずキョトン、と瞬きをする有珠。
「ああ、後理恵。それともリエ? どっちか分からないけれど、あなたと、後方の琴もね」
「!! つかささん、私達の事……」
理恵が驚きに目を瞬くのにさぁ、と軽く肩を竦めながら、つかさが、巨大な鎚『流星』をよいしょ、と持ち上げる。
ルテネスの結界に威力を減殺され、或いは直撃コースを狂わされていた飛翔剣に向けて、つかさが超重量級の金属塊としか称する事が出来ない大鎚『流星』を全身の筋肉を剥き出しにして、ぶん、と勢いよく振るった。
『ちょっ……えっ、何、何ですかあれはぁっ?!』
素っ頓狂な声を上げるプラチナになど一瞥もくれず、流星が正しくその名の通り、流星の煌めきを伴った軌跡を描くと。
――轟!
筋肉に全てを注ぎ込んだ一人の女修羅の力に感応する様に凄まじい音と共に流星が大気を切り裂き、振るわれた金属塊が風とその暴力的なまでの力で、容赦なく放たれた飛翔剣を叩き落としていた。
「これで大分、避けるのも楽になったでしょ? さっさと行くわよ」
「……バベルブレイカーが壊れる私の覚悟は、一体何だったんでしょうか……?」
目を白黒させながら呟く理恵ではあるが、流石につかさとルテネスの一手だけでプラチナが完全に怯む筈も無い。
自らを守る超硬装甲を剥離し、先程の倍以上の数とエナジーを籠めた飛翔剣を、無数の羽根の様に解き放っている。
その周囲をフワフワと漂う様に存在していた少女達も、空中に浮遊する自らの両腕を、少し強く握りしめてしまえば容易く折れてしまいそうな程に細い両腕に篭手の様に装着し、両拳を握りしめてそのままルテネスの作り出した星光の結界に叩き付けていた。
――ガツン! ガツン、ガツン、ガツン!
鋭く鈍い音が戦場一帯に響き渡り、その度に星光の結界が軋む様な音を立てるのにルテネスが微かに表情を曇らせた。
「この結界じゃ何処まで耐えきられるか分からないわね。皆、気をつけて!」
魔導書に防御用の魔力を籠めて、少女達の攻撃を辛うじて抑え込みながら叫ぶルテネスの言葉を耳にしながら。
ルテネスの作り出した星光の結界、そして周囲の彼方此方に存在する障害物の影に潜む様にしながら戦場を駆け抜けつつ、敬輔が漆黒の残像を曳いてプラチナに肉薄していく。
(「剥離させている部位は、翼か」)
これは厄介だな、と胸中で独りごちる敬輔と同じく、残像を周囲にばらまく様に配置しながらも、敬輔とは対照的に半円を描く様に幻影の外套と音無しの靴に籠められた力を駆使して自らの気配と音を殺し、まるで猫の様に息を潜めて周囲の地形を渡り歩きながら、ルードが鋭く目を細めて、プラチナの動きを観察していた。
(「正面から、は危険か。ならば側面に回り込んで喰らうのが有効だろうな」)
つかさ達が先陣切って真正面から立ち向かって行っている以上、気配さえ断つことが出来れば、彼女達を囮に、隙を見てプラチナに肉薄してやれば良い。
最も全方位に向けて飛翔剣を放射してくる可能性もある以上、油断できないのもまた、確かではあるのだが。
(「さて……いつ、その血肉を喰らえるかな?」)
シリウス……猟犬として、知られているその名の存在と同じ様に。
その好機が来るのを待つ様に……ルードは完全に息を殺して、星光の結界に覆われた遮蔽物の影に隠れ続けていた。
●
(「つかさに、ルテネスか。大したものだな」)
腕力に物を言わせて力任せにプラチナの第一波を叩きのめしたつかさと、本体の模造品と思しき少女達の攻撃を、星光の結界を張り巡らして耐え続けるルテネスの姿を見て。
オセアノの涙雨を広げて、ふわりと空中に浮き、平面に沿って飛んできていた飛翔剣を躱しながら。
有珠が一つのことを極め、その力を存分に打ち振るって、豪快に飛翔剣を突破していくつかさと、同じくほぼ極めたのであろう星光の結界……防御用の魔法だけで、少女達の攻撃を受け止め続けるルテネス達に、舌を巻く様な思いを抱きながら、前進。
それは、その身にヴェールの様に天女の羽衣を纏い、それを神に捧げる舞の時の様に翻して宙を舞いながら、射程範囲内に敵を収めようとする琴も同様だったが、その刹那。
一瞬ではあったが、剥離された翼からの攻撃を、プラチナが止めたのに気がつき、琴がポツリ、と呟いている。
「どうやら、どうにか初撃は耐え凌ぐことが出来たみたいですね。これで、それなりに装甲も薄くなっている筈。いえ、何よりも敵は……」
ふと、琴の脳裏に、グリモア猟兵のこの言葉が蘇る。
その言葉の名は――悪魔軍の主(デモノイド・ロード)
「ヒトへの悪を成す存在である悪魔軍(デモノイド)である以上、この悪と罪穢れを祓い浄化する破魔の矢は効く筈ですね」
告げながら宙に浮かんだままに、和弓・蒼月に破魔の矢を番える琴。
一方で、つかさによって完全に抑えきられることの無かった飛翔剣をバベルブレイカーで受け止めきった理恵もまた、痛む右腕では無く、左手で指鉄砲を形作り、空中へとその指先を向けた。
「今なら……行きます! キリング・リヴァイヴァーっ!!」
叫びと共に指鉄砲から一発の七色の光を纏った銃弾を撃ち出す理恵。
空中を舞う弾丸が弾けて七色に光り輝く雨と化して、敬輔達に降り注いだ。
――それは、仲間に力と、無限の回復力を与える、とある英雄達の弾丸の模造品。
それとほぼ同時に、理恵はダークネスカードを掲げると、その身に朱雀門学園制服を纏い、鮮血の影業と鮮血槍を構え口元に酷薄な笑みを浮かべたリエが姿を現した。
「さて……ボクには記憶が無くても何か思うところがあるかしら、悪魔軍の主(デモノイド・ロード)・プラチナ?」
挑戦的に問いかけながら、鮮血で作り上げられた無数の槍を解き放つリエの姿を見て、微かにその双眸を鋭く細めるプラチナ。
『あなた、凄く、凄く不快です! 再孵化前の記憶が無くても感じた開放感を締め付ける様な、そんな不快感が酷すぎます! そんな人は……こうです!』
叫びながらプラチナが飛翔剣を剥離させて一斉掃射。
明らかに翼を剥離して放たれた無数の飛翔剣は、無限の回復力を得た筈のリエの体をも貫き、容赦なく身動きが取れなくなる寸前まで追い詰めていく。
――けれども。
(「隙が出来たか。ならば……」)
ここぞとばかりに隠行で姿を隠していたルードが、漆黒の暴食剣「神喰」と、鋸刃の巨大な大鉈、呪詛剣「無愧」を十字に構えて防御態勢を取り突貫しながら、その呪詛を、言の葉に乗せた。
『これが、俺達の渇望』
シリウスの呪詛を受け、『神喰』がその柄と刃先に、ギョロリとまるで邪眼の様に輝く真紅のダイヤモンドを嵌め込んだ、全てを喰らう刃を形成し。
『ソシテ、我等ガ憎悪ト狂気』
続け様の呪詛を受けた『無愧』もまた、凶獣ベルセルクの如き黒獣を纏い、その真名を開放した刃を剥き出しにして。
――そして。
『捕食者の如く尽くを暴食し、暴君ノ如ク尽クヲ鏖殺シ、一つ余さず蹂躙シ尽クソウ……ッ』
呻きと共に身に纏っていた幻影の外套が、呪錬戦衣が裂けて、代わりにその全身に刻み込まれた、獣の烙印が克明に浮かび上がってくる。
――その、逃れ得ぬ飽くことなき飢餓を満たす、捕食衝動への理性を代償に。
――ドクン。
アルダワで喰らった魔王の力を借りて、ルードの、その第二の心臓と化した暴食の血核が、強く脈打った。
「俺ニお前ノ魂ヲ喰ラワセロ……!」
自らに強く根付く、憎悪と狂気すらも、飽くなき飢餓への衝動へと変えて。
真名を開放した双剣を十文字に振るい、剥離され、薄くなりつつある装甲を容赦なく抉り取るルード。
『きゃ……キャァァァァァァッ!?』
ルードによる斬撃にその超硬装甲を剥ぎ取られるプラチナの隙をついた敬輔が、すかさずフック付きワイヤーを、飛翔剣を生み出すことによって剥離された翼へと引っ掛けて、そのままロープワークの要領で巻き取ってその体に取り付く様に肉薄し、刀身が赤黒く光り輝く黒剣を逆手に構えて、振り下ろした。
――ヒュン、と大気を切り裂き音の無い世界が、一瞬だが生まれ落ちる。
その中で敬輔の酷薄なこの声だけが、まるで色を持った様に辺り一帯に響き渡っていた。
『一撃で壊してやるよ……壊れろ!』
赤黒く光り輝く黒剣が、まるでルードの飢餓に引き摺られる様に飢えた渇きを癒すかの様に鋭く突き刺さり、プラチナの片翼を粉々に打ち砕く。
『イ、イヤァァァァァァァァァッ!』
か弱い少女の様な悲鳴を上げたプラチナの恐怖に感応する様に、星光の結界によって攻撃を阻まれ続けていたプラチナの少女体の分身達が、敬輔とルードを止めんとばかりに、篭手の様に身に付けた巨大な両腕を其々の背後に隣接して振るおうとした、その時だった。
「わたしの番、忘れないでね」
自らへの攻撃の手が緩んだその隙を見逃さず、魔導書に注ぎ込んでいた防御魔法に回していた魔力の全てを、周囲に集う氷の精霊達を結集させるための力へとルテネスが転じる。
「これは……貴方の世界を滅ぼす予兆にして、序章」
呟きと共に、ルテネスが生み出したのは氷の嵐。
即ち……終わりの始まりと言う名の、大いなる冬の魔法。
その氷粒が、まるで彼女の本体であるブックマーカーの先端についている小さな星の煌めきを想起させられるのは……果たして、ルテネス本人だけなのだろうか。
それとも……。
吹き荒れる凍てつく風を、涼しい表情で制御し、怒濤の氷嵐と化させて吹き荒れさせるルテネス。
その氷の嵐に、敬輔とルードの背後を狙った少女達は打ちのめされ……。
そして……。
「氷の嵐、か。成程。これは名案だわ」
「えっ、あの荒谷さん……?」
口元に何か悪いことを思いついた様な、そんな笑顔を浮かべたつかさの様子に、破魔の矢を射り、プラチナの瞳を射貫いていた琴が、怪訝そうに問いかけているが、つかさは完全に無視を決め込み、これ幸いとばかりに、何処からともなく……。
「……ちょっと待て。何故、こんな所に丸太があるんだ?」
有珠が小首を傾げるのに、然もあらんと言う様につかさが頷き、そして答えた。
「私が持ってきているからよ」
「って、荒谷さん、まさか……!」
なんとなく次に見そうな光景を描き出した琴が引き攣った声を上げるのは、全く気にした素振りも見せず。
つかさが、ルテネスの呼び出した氷嵐に、丸太を使って巻き込まれる様に乗り込み、そのまま一気に天空……プラチナの遙か高みへと辿り着き……。
「さて、久しぶりに行くわよ! 『重剣術奥義……この鎚に、打ち砕けぬ物など無し!』」
叫びながら、グルンと空中でトンボ返りを打って『流星』を大上段に振り上げて慣性の法則に従ってプラチナに向かって落下していくつかさ。
『えええええええええええええええええっ?! 何ですか、その技はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
胸部に突き刺さった琴の破魔の矢から拡がる浄化の力を持つ破魔の光による浄化の光に苛まれながらも、突然彗星の如く落ちてくるつかさに動揺を隠せず絶叫するプラチナ。
けれどもつかさは全く気にした様子も無く、大気圏から落ちてきたのか、と言わんばかりの摩擦熱を持ち前の筋肉で無理矢理抑え込み、ルードに装甲を喰らわれ、敬輔に翼の装甲を完全に砕かれ、ルテネスにその身を凍てつかされ、琴の破魔の矢の浄化の力に体を蝕まれていたプラチナの腹部に容赦なく『流星』を振り下ろした。
「全身金属の竜であれば、このレアメタルの敷き詰められた戦場では、ある意味『地形』と認識できなくも無い! ならば、地形であり、腹部への打撃には弱い筈よ、あなたのその装甲は!」
叫びと共に理恵のキリング・リヴァイヴァーにより更に自らの力を高めたつかさの振り下ろした『流星』が大振動と共に、陥没しかねない程の大爆発を起こす。
『アッ、アアアッ……!』
超硬装甲を完全に打ち砕かれ、剥き出しになったその体内には、ルテネスの氷の嵐によって飲み込まれたのと全く同じ姿形をした愛らしい少女が、膝を抱えてガクガクと震えながら、あまりの恐怖からか、滂沱の涙を流し続けていた。
●
『わ、私……私は……!』
敬輔によって既に左腕の浮遊アームは砕かれ、右腕の浮遊アームも傷だらけのプラチナ。
その少女が恐怖のあまりに涙を流し続けているのを見ても尚、ルードは止まらず、暴食剣「神喰」と呪詛剣「無愧」を、その体を骨までむしゃぶりつくさんとばかりに振るっている。
『い……いや、止めて……!』
愛らしい悲鳴を上げたプラチナを守る様に、まだ存在していた右腕がルードとプラチナの間に割り込みその攻撃を辛うじて凌いだ。
――けれども。
「……解放されたんだろ?」
恐怖に身を震わせ、それでも尚、自らの自由のために戦う意志を捨てずに健気に戦い続けようとするプラチナの姿を認めながら。
有珠が、微かに憐憫を滲ませた口調で、問いかけている。
『そ、そうです! わ、私は、プ、プラチナちゃんは漸く自由になったんです! だ、だから、こ、こんな事で、敗れるわけにはいきません! で、でも……怖い……怖いのは、止められないんです!』
そう、告げながら。
ルテネスによって凍てつかされた自らの超硬装甲の一部を剥離させ、飛翔剣に変化させて有珠に向けて解き放つプラチナ。
けれども敬輔が冷徹な眼差しで見つめて黒剣で振り下ろし、既にその力が削がれている飛翔剣を砕いている。
猟兵達に力を与える光の雨を受け、海昏の海を思わせる球体が、海色に光り輝く様を見つめながら、有珠が静かに呟いた。
「問おう。お前は、自由に思考した末に、そこに……今の自由に行きついたのか?」
『……えっ?』
淡々と問いかける有珠のそれに、涙を零しながらも、無垢な瞳を見開くプラチナ。
(「これは……自分では辿り着けていない、か……?」)
――けれども……関係ない。
ルードの双剣がプラチナの左腕を完全に喰らい尽くし、その歯牙を、見た目華奢な少女に過ぎぬプラチナに掛けようとしたその刹那。
有珠が一気に肉薄し、超々高熱の熱を伴った無数の炎の杭を、パチン、と指を鳴らして召喚した。
「私は、ただ遠慮なくお前を屠るだけだ」
その言葉と、ほぼ同時に。
生み出された無数の小規模な炎の杭が、墓標の様に次々にプラチナの全身に突き立ち、その体を紅蓮の炎で焼き尽くしていく。
せめて一口、と言わんばかりにルードがその魂を喰らわんと、暴食剣「神喰」をその身を焼き尽くされていくプラチナの首筋に突き立て、その力を、生命力を喰らっていく。
ルテネスが祈りの様に魔導書を天へと掲げ、天空に氷結の嵐を呼び出し、それを礫にしながら、小さく告げた。
「わたし達の全力を以て、あなたの物語を終焉へと導きましょう」
――と。
ルテネスの言葉に応じる様に、氷の礫がプラチナに飛来し、有珠の焔に焼き尽くされた彼女の華奢な体を打ち据え、零れ墜ちていた涙をも凍てつかせていく。
炎に焼かれ、氷によって凍てつき、杭の様にルードに暴食剣「神喰」を突き立てられた少女の……プラチナの彫像は。
敬輔の黒剣による一閃と、琴の二射目の破魔の矢による一撃……そしてリエの鮮血槍に貫かれ、そのままガラガラガラガラガラ……と、崩れ落ち。
そのまま、砂の様にレアメタルの大地に吸収されて消え……2度目の『死』を、迎えるのであった。
●
「……これで、本当に良かったのでしょうか?」
大地に染みる様に消えていったプラチナの姿を思い出しながら。
微かに何かを思いあぐねる様な表情になった琴が、誰に共無くポツリと呟く。
「どうなのだろうな」
琴の懸念の様に告げられたそれに、有珠もまた、軽く頭を横に振った。
(「少なくとも……彼女が、思考の末にあそこに行き着いた様には……」)
考え込む内に、何時の間にかぎゅっ、と強く拳を握りしめてしまっていた自分に気がつき、有珠が握った拳を広げながら、軽く頭を横に振る。
――と、そこで。
「わたし達は、きっとね」
「……何だ?」
ルテネスの囁きに、本来の自分が微かに反応したのであろうか。
敬輔がさりげなく問いかけると、ルテネスが訥々と言の葉を続けた。
「きっと……あのプラチナさんの為に、開いてあげたのよ」
「開いた……? 何をですか……?」
リエから肉体を返して貰い理恵の人格に戻った理恵が飲み込めない様子で首を傾げるのに、ルテネスが、ゆっくりと本の1頁を捲り、その台詞を読み上げる様に静謐な空気を纏いながらその言葉を紡ぐ。
「あの子の終焉の物語……終わりの始まりの、その扉を」
「終わりの始まり……? でも、あの子はオブリビオン……デモノイド・ヒューマンにだって成れない筈です……って、えっ?」
自身の呟きの意味が分からず、動揺して口元に手を当てている琴に、そっと、ルテネスが微笑んだ。
「その、デモノイド・ヒューマンっていうのは分からないけれどね。でもきっとこれは、あの子にとっては始まり……そんな気がするのよ」
「何故だ?」
周囲に散らばったプラチナの欠片を採取するつかさをちらりと横目で見やりながら、有珠がそう問いかけると、ルテネスが、有珠の、その海の色をした眼差しを真っ直ぐに見つめて告げた。
「わたし達も、だけど。あなたが、問いかけたからよ」
ルテネスの、その言の葉に。
有珠がびくりっ、と肩を振るわせ、敬輔の表情もまた、忽ちに驚愕に満ち満ちる。
そんな敬輔達にルテネスが微笑み、静かにその『答え』を告げた。
それは――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
●
――悔しい、悔しい、悔しいよ……!
――やっと……やっと自由になれたのに。
――ヴァルギリオス様のお陰で、漸く私は自由を得ることが出来たのに!
――それなのに……その自由を、猟兵達に奪われてしまうなんて!
――どうして?
――漸く『自由』になれた、それは素晴らしいことの筈なのに……。
――どうして、私は……。
――欠けていく。
――また、私の記憶が欠けていく。
――でも……不思議。
――私の中には、どうしても一つだけ燻っているモノがある。
――それは……。
――『自由』って、何?
――それは一体、どんなものなの?
――それとも私は、今度こそ、巡り会えるのかな?
――『自由』の意味を知る……その人達と。
ナハト・ダァト
毒ヲ使うのカ
ならバ此処ハ、私ノ出番ダ
対処法
かばうで毒を受け
全身に回らない内に毒を受けた触手を切除
直後、無限光の発光を行い
レアメタル大地を地形の利用で
目潰しに応用
乱反射させより強烈な光を生み出す
目眩ましで硬直を受けている間に
迷彩と残像で分身を生成し囮に
撹乱の間に
「瞳」、「啓示」から
毒の成分を解析
世界知識、医術から薬を生成し
仲間に触手を使って打ち込んで行く
これらは早業で行い
同時に、ユーベルコードを発動
損傷した箇所の修復と強化を行う
抗体を打った味方に
「へその緒」も渡し、仲間の連携が取れるようサポートを行う
サ、これデ動けるだろウ
後ハ主役ノ出番だヨ
国栖ヶ谷・鈴鹿
【SPD】
【先制対策】
耐毒決戦仕様[メカニック]改造!
悪臭や毒に対応できるように紅路夢や銃に、[属性攻撃][衝撃波]迎撃用で粘液や煙を吹き飛ばし、装備品に[毒耐性][オーラ防御]加工でぼく自身の防御も高めておこう。
【戦闘】
本体の目星かぁ。
うん、ずっとひどい扱いされてきたんだと思うから、こっちから提案しよう。
「ねぇ、せっかくの自由を満喫する良い方法があるんだけど知ってる?それはね、お菓子を大人食べすること!お腹いっぱい満足するほどね!」
ぼくのUCで、粘液や毒霧、装甲をお菓子やお茶に改変していって、本体を誘ってお菓子パーテーをしよう!
一緒に食べながら平和なうちに改変して、相手も満足させてあげよう。
ノイジー・ハムズ
敵が強大な力を宿す剣ならば、敢えて受けきらず!
空中線ですぐに飛翔です!
『ホープ・テンペスト』に魔力を注ぎ巨大化させ、攻撃を受けます!
金属の大地と剣で挟まれれば危険ですが、ここは空中!
受けきれない分は吹き飛びます!
風魔法で体制を立て直し…焼き尽くす強敵の鎖!
本体を捕縛します!
逃しませんよ、プラチナさん☆
飛翔剣で追撃できないよう懐に飛び込みます!
…私の成長の証に、貴女を否定してみせましょう!
再編し尽くして残るのは、自由な世界ではなく
捻じ曲げられた心に、自由はありません
蘇り自由になったのではなく、死して尚、囚われたんです!
一人では抗えないというのなら…
この鎖ごと、隷従の運命を断ち切ってあげましょう☆
文月・統哉
隷従と自由
彼女が求めたのは一人で好き勝手する自由?
いや、きっと違うと思う
彼女のUCには繋がりの力を感じるから
意志を持たぬ筈のレアメタル達が
鎧となり剣となり彼女の事を支えてる
その絆が何だったのか覚えていないのだとしても
冷静に状況分析
仲間と声掛け連携
エネルギー変化見切り
攻撃の軌道予測し回避
無理でもオーラ防御と武器受けで凌ぐ
カウンターに炎と氷の属性攻撃
高い熱伝導率逆手に鎧無視攻撃
超硬装甲の意義を減じ剣の威力削り
焼割れで弱った装甲剥がし
本体を斬る
聞いていいかな
君にとって大切なのは
再孵化で記憶を奪ったヴァルギリオス?
それとも
忘れても尚君を支える絆達?
骸の海へ還すよ
君の記憶も仲間達もきっとそこに
…おやすみ
ニャント・ナント
アドリブ歓迎
「吾輩がここに来たのは帝竜プラチナを解放するためにゃ、吾輩がサクラミラージュで開眼した奥義なら出来るはずにゃ」
先制攻撃として放たれた絶対超硬剣を【オーラ防御】で強化した二対の鯖で【武器受け】し左腕に持った鯖の【カウンター】で弾き飛ばす
右腕に持った鯖を両手持ちにして【範囲攻撃】で帝竜全身を薙ぎ払えるほどに大海原のオーラを増量した『鮮魚剣法奥義・青空に浮かぶエガオ』で本体の少女を斬る
「オブリビオンの破壊の意思に捕らわれたままでは自由とは言えないにゃ、サクラミラージュで桜の精の癒しを受けてこそ真の自由への一歩と言えるにゃ…幻朧桜の導きあれ」
●
「隷従と自由か……」
大地の不気味な振動を、肌で感じ取りながら。
レアメタル化した大地に姿を現した文月・統哉がレアメタルの大地の中でも、一際輝く漆黒の大鎌『宵』を構え、瞑目しながら呟いている。
「統哉君は、何か違う事を考えているようだにゃ」
そう統哉に問いかけたのは、背中に二対の鯖を背負い、どっしりと胴丸の様に『鯖』とデカデカと書かれた缶詰を身に纏ったふっくらした、ケットシー、ニャント・ナント。
ニャントの問いかけに、統哉がああ、と軽く頷きかけた。
「彼女が求めた自由は、本当に一人で好き勝手する自由だったのかな? ってな」
「そうだね、確かにそれはちょっと違うかも知れないね!」
天真爛漫に、ハキハキと。
自作の愛車、百弐拾伍式・紅路夢に搭乗した国栖ヶ谷・鈴鹿が断言するのに、そうですね! と同意するのはパタパタと背の羽を広げて空中を浮遊しているノイジー・ハムズ。
「あの方は、プラチナさんの言っている自由は違うと私も思います!」
鈴鹿とノイジーのそれに、我が意を得たり、と言った笑みを浮かべて頷く統哉。
統哉達の其々の思いを見聞きし、その黒い異形の中で輝く、穏やかな白い瞳を称えて統哉達を見つめるは、ナハト・ダァト。
「サ、皆サン。彼女ガ来マスヨ」
ナハトの呼びかけに応じる様に。
不気味な大地の振動と共に、巨大な鉱石竜が姿を現す。
『ああ~、猟兵! 猟兵の皆さんですね! どうして……どうしてあなた達は、私が自由を満喫しているのをそのままにしておいてくれないんですか~!? 私、とっても悲しいです!』
苛立ちを隠す様子も無く、不機嫌そうに幼く愛らしい声で叫ぶプラチナに、パチリ、とノイジーがウインクを一つ。
「違いますよ、プラチナさん☆」
「吾輩達が此処に来たのは、帝竜プラチナ。あなたを解放する為にゃ」
『解放? 何を訳の分からないことを言っているんですか! 私ことプラチナちゃんは、ヴァルギリオス様のお力で真の自由を得ることが出来たんですよ!』
「プラチナ。本当に君は、そうなのか?」
プラチナの確信と共に放たれたその言葉に、統哉が探る様な目付きで問う。
その統哉の言葉に……プラチナが怪訝そうに声を投げつけた。
『えっ? 何を言いたいのですか!?』
「君が求めた自由は、本当にそれなのか?」
何処か、奇妙な確信を持った統哉のその問いかけに。
『えっ……ええっ?! き、決まっているじゃないですか! 何を今更……?!』
必死になって言い募るプラチナの様子を見て、うんうんと鈴鹿が首肯した。
「あの子、動揺しているね! 思う所がやっぱりあるんだ!」
「きっと帝竜プラチナは、真の自由とは何かを知らないのにゃ。ならば、それを伝えるのが吾輩達の役割にゃ」
鈴鹿に応じて鷹揚にニャントが頷くのに、益々困惑と動揺を深めるプラチナ。
「し、真の自由……? 猟兵の皆さんの役割……? で、でも、私は……!」
その身と……その心を覆い隠す様にその全身に纏った超硬装甲を剥離させ、その周囲に粘液弾丸を生成する、帝竜プラチナ。
「私は……ヴァルギリオス様に与えられた自由のために、此処であなた達を頑張って倒して見せるんだからー!」
粘液弾丸を解き放つプラチナのその金切り声は……まるで、自らの迷いを振り切るための慟哭であるかの様に、この時、統哉達には思えたのだった。
●
「毒ヲ使うのデスカ。ならバ此処ハ、私ノ出番デスネ」
粘液弾丸とプラチナの周囲を守る様に漂う毒煙の匂い。
その匂いを感じ取ったナハトが、その毒から統哉やノイジー、ニャントを守る様に全身の触手を伸長させて立ちはだかる。
「フフフッ、ぼくにその毒は効かないよ!」
告げながら、百弐拾伍式・紅路夢の先端と、フルオートモードに切り替えた双式機関銃ナアサテイヤの銃口から無数の銃弾を吐き出させる鈴鹿。
撃ち出された無数の銃弾が粘液弾丸を撃ち抜いていくが、それでも撃ち落としきれない粘液弾丸は触手を伸長させたナハトが受け止めていく。
「ナハト!?」
「大丈夫デス」
気遣いの声を上げる統哉にナハトがそう告げると、毒を受けた自らの触手を切断するとほぼ同時に、自らの身から常に放たれている無限光を発光させた。
光がレアメタル大地で乱反射して閃光の如く炸裂し、剥離させた超硬装甲を飛翔剣へと変化させようとしていたプラチナの目を鋭く焼く。
『ああっ?!』
ナハトの発光に目を焼かれ硬直するプラチナ。
その間にナハトが医神のローブを風に靡かせながら、戦場をジグザグに駆け抜け無数の残像を生み出し、更にその動きを掻き乱した。
『やっ……やってくれますね!』
まだ完全に目潰しが回復していない状況で、剥離した超硬装甲を飛翔剣化して解き放つプラチナ。
出鱈目に撃ち出されたそれに向けて、鈴鹿がフルオートモードの双式機関銃ナアサテイヤから無数の弾丸を吐き出し、その飛翔剣を抉るその間に。
「ノイジー! ニャント!」
「行きますよ!」
「うむ、行くにゃ」
ナハトの影に匿われていた統哉とニャントが左右に分かれて散開して戦場から飛び出し、ノイジーが桃色の自らの髪を飾る愛らしい風のリボンの魔力を自らに宿し、空中を蝶の様に舞う。
と、丁度その時。
「サ、これヲ持って行きナサイ」
最初に発射された粘液弾丸に含まれている毒の成分を解析する時間を、残像と鈴鹿の援護射撃で稼ぎながら、ナハトが自らのへその緒を飛翔剣への対応をするべく飛び出した統哉達と鈴鹿に渡す。
「もう少し、待ってテ下サイ。もう直ぐ出来マス。無茶ヲしてはいけマセンよ」
その水晶の様に白い瞳で、プラチナから放たれた粘液弾丸の毒を解析し、叡智を持つ者から授けられる預言の様に与えられた、『啓示』に耳を貸しながら。
告げるナハトに頷き、へその緒を受け取った統哉達が、驚いた様に目を瞬かせる。
「ぼく達、念話で繋がっている!?」
鈴鹿が流石に目を白黒させながら脳裏で叫ぶのを、受け取ったニャントが首肯しながら、その背の二対の鯖を二刀流に構え、その二対の鯖を大海原の様に青い群青色のオーラで覆い、右腕で、鈴鹿によって威力を削がれた飛翔剣を受け止め。
「ノイジー、下だ!」
「ありがとうございます☆」
統哉が念話で空中を舞うノイジーに周囲の状況を見て取って解析した情報を伝えながら、自らに向かってくる勢いの鈍る飛翔剣の軌道を読み、その内の一本を屈んで躱し、追撃の飛翔剣は黒猫の刺繍入りの深紅の結界と『宵』で受け止める。
統哉からの念話を受け取ったノイジーは、蝶の様に空中を舞いながら、大魔剣『ホープ・テンペスト』に自らの最も得意な闇の魔力を注ぎ込んで『ホープ・テンペスト』を巨大化させ、その飛翔剣を真っ向から受け止めた。
「金属の大地と剣に挟まれれば危険ですが、ここは空中……! 今の貴女を否定し、貴女を縛り上げる隷従の運命を断ち切る為にも……此処で負けるわけには行かないんです!」
告げながら、巨大化した『ホープ・テンペスト』で飛翔剣を受け止めたノイジーだが、少しずつその威力に押され始めた。
ニャントもまた、右手の刀の様な切れ味と化した鯖で辛うじて受け止め、これはまずそうにゃ、と内心で呻き。
左手で空中に魔法陣を描きいていた統哉もまた、苦痛に歪んだ表情をしていた。
それは、矢絣ノ風ニ花瑠瑠ノ浪を、ハイカラさんのメイド服の下に着こみ、ニャントと同じ海色の結界を張って、弾幕やナハトの残像を潜り抜けた粘着弾丸で対応しながらも、それすらも潜り抜けてきた粘液弾丸に張り付かれ、毒にその体を蝕まれつつあった鈴鹿も同様だ。
「ぼく自身、準備万端に整えていたけれど、これはちょっと参ったね!」
鈴鹿の思念に、そうですね! とノイジーが思念で応じている。
「やはりプラチナさんを覆う毒が私達の動きを……!」
ノイジーの言う通り。
プラチナを守る様に覆われている毒煙と液状弾丸こそが、其々が最大の実力を発揮しきれていない、最大の要因だった。
——このまま、押し切られてしまうのか?
飛翔剣に黒猫の刺繍が貫かれ、『宵』の刃先が欠けた統哉。
大海原を思わせる群青色のオーラを纏った右の鯖に、罅が入り始めたニャント。
大魔剣『ホープ・テンペスト』で飛翔剣の勢いを殺しきれないノイジー。
そして、双式機関銃ナアサテイヤの弾薬が切れかけている鈴鹿。
誰もが背筋に冷や汗を垂らした、正にその時。
「スミマセン。少し遅くなりマシタ」
——六ノ悪徳・醜悪(クリファ・ベルフェゴール)
悪魔の名を関した神の祝福が……光が、希望が、統哉達に舞い降りる。
その福音は、ナハトが鈴鹿達の背に注射器の様に刺した触手によって齎された。
「! これは……」
毒気が一気に抜け吐き気を催し始めていたそれが消え、同時に『宵』の刃先が深淵を眩く照らし出す星光の如き際立った淡い輝きを発し始めるのに、統哉が驚愕の表情を浮かべて思念を伝え。
「すっかり良くなっちゃったね!」
鈴鹿が愉快そうな思念でその抗体を受け取ると同時に、自らの双式機関銃ナアサテイヤの弾丸が補填されて、フルオートモードの弾丸の精度と弾速を更に上げ。
「これなら……いけます☆」
ノイジーが注ぎ込んだ『ホープ・テンペスト』の魔力を更に増幅させて、自らに向かっていた飛翔剣を叩き割っていた。
『ええっ?! 私の飛翔剣が叩き折られた!?』
小柄なフェアリーに飛翔剣を断ち切られたのがあまりにも衝撃的だったのか。
驚愕と動揺の綯い交ぜになった黄色い悲鳴を上げるプラチナに向けて、持ち直した右の鯖で飛翔剣を受け止めきったニャントが、海の様に深い声でプラチナに告げる。
「どうやらあなたは吾輩達の言葉に動揺し、吾輩達の絆に激しく戸惑っているようにゃ」
――カキーン!
呟きと共に、大海原の様な群青色のオーラを纏った左手の鯖で、右手の鯖で受け止めた飛翔剣を弾き飛ばすニャント。
まるで意志を持った様に飛翔剣がプラチナに向かって飛んでいき、彼女の超硬装甲の一部に突き刺さり、その一部を剥ぎ取っている。
『きゃ……キャァっ?!』
「何よりも、吾輩達に飛翔剣を無力化されているのが、その証拠にゃ」
愛らしい悲鳴を上げるプラチナの様子を見つめ、諭す様に語りかけるニャント。
『私とヴァルギリオス様の絆の前には……!』
叫びながら第二波の粘液弾丸と、飛翔剣を精製しようとするプラチナ。
だが、毒への免疫を持って完全に持ち直した統哉が、左手で描き出した複雑な魔法陣……左半円が炎の様に赤く染まり、右半円が水の様に青く染め上げられたそれを通して氷炎の竜を象った魔法を発動させながら問いかけた。
「本当に、それが絆なのかな?」
『えっ……?!』
統哉の問いに、訳が分からぬという様に目を見開くプラチナ。
そのプラチナに向けて氷炎の竜が迫り、着弾。
着弾した氷炎の竜が彼女の超硬装甲を融解させ、その意義を失わせていく。
——そう……殻に閉じこもった彼女の『心』を解き放とうとするかの様に。
そのまま統哉が戦場を疾駆し、ノイジーが空中からプラチナに向かって滑空し、ニャントが左手の鯖を背に戻して右手の鯖を両手遣いに構えて全てのヒトが生まれた生命の源……水を、大海原を思わせるオーラを練り上げ始め、鈴鹿が百弐拾伍式・紅路夢のエンジンを全開にしてプラチナに肉薄する姿を……ナハトが、何処か穏やかな白い眼差しで眺め、そっと囁いた。
「モウ、これデ自由ニ動けるだろウ。後ハ主役ノ……皆ノ、出番だヨ」
——と。
●
「それにしても、本体の目星かぁ」
鈴鹿の内心の呟きに気が付いた統哉が念話で問う。
「何か手でもあるのか、鈴鹿?」
「うん、あるよ。だってあの子、今までずっと酷い扱いされてきたんだろうなぁと思うからね」
夜空に煌めく星空を思わせる淡い輝きを刃先で発している『宵』を構えて前進する統哉に、鈴鹿がそう答えると。
まるで、怯えた獣の様に後ろへと後ずさるプラチナの姿が目に入った。
『こ……来ないで、来ないで下さいっ!』
まるで、触れてはいけない何かに触れられることを、恐れるかの様に。
及び腰のプラチナに向かって空中からひらりと宙返りを打って滑空してきたノイジーが、愛らしいポーズを決めながら、プラチナの懐に飛び込んだ。
「逃がしませんよ、プラチナさん☆」
告げながら『ホープ・テンペスト』に籠めた魔力の性質を闇から炎属性に変え、自らの飛行能力を高める風のリボンの風属性の魔力の全てを、『ホープ・テンペスト』に注ぎ込み、その莫大な魔力をプラチナの至近距離で解き放った。
――轟。
轟音が鳴り響き、統哉によって融解されその硬度が削がれていた超硬装甲が砕け散ると同時に、炎の鎖がプラチナとノイジーを繋ぎ止め、逃げ腰のプラチナを縛り上げていく。
そこに星空の如き煌めきを刃先に伴った『宵』を振るい、超硬装甲を砕く統哉。
砕けた超硬装甲の向こう側に、自らの殻に閉じこもる様に超硬装甲の鎧と毒煙の中で、震える愛らしい少女の姿が見えた。
「やっと見つけましたよ、プラチナさん☆」
ノイジーがそう告げると、少女は来ないで! と言う様に華奢な両腕で両耳を塞ぎ、剥離していた超硬装甲達の鎧を覆う様にその身を再構築しようとしていく。
(「まずい……このままだと!」)
――彼女に届けたい声が、届かない。
「逃げちゃ駄目ですよ、プラチナさん! 貴女には、知るべき事があるのですから」
炎の鎖で自らとプラチナを繋いでいたノイジーもまた、そう言ってお茶目にウインクを一つして口元に笑みを刻んでいるが、内心焦りを覚えていた。
何故なら……。
あの時、彼に……少年に誇りを持って告げられた、夢幻の英雄の導き手としての矜持が、プラチナが一人でその残酷な運命に抗えず、囚われ続ける事を許さないから。
それが……あの人と交わした最後の約束を果たす為の道だから。
――そんな、時。
「ねぇ、あなた!」
鈴鹿が、プラチナの耳に届くであろう溌剌な声に、少しだけ悪戯めいたものを隠して呼びかける。
「あなたが、せっかくの自由を満喫する方法があるんだけれど、知っている?」
『えっ……?』
鈴鹿の思わぬ問いかけに。
ノイジーと炎の鎖で繋がれ、統哉に空を砕かれたプラチナが、期待と恐怖が綯い交ぜになった表情で、微かに好奇を帯びた甲高い声を上げた。
耳を塞いでいた両手を開き、その表情に興味と恐怖を抱きながら。
「それはね……」
――ザァァァァァ。
不意に周囲一体に幻朧桜が咲き乱れうららかなる陽光と文明の薫りが戦ぎ始める。
それは、鈴鹿だけの理想郷。
風が吹き、幻朧桜の花が花吹雪となって戦場に仄かな春の薫りを与えていくのを感じながら、鈴鹿が笑顔でパッ、と開けっ広げに両手を広げた。
「お菓子を大人食べすること! お腹いっぱい、満足する程ね!」
華やいだ、明るい声音と共に。
鈴鹿の作りだした彼女だけの理想郷が……瞬く間にナハトによって無力化された粘液や毒ガス、そして傷つきやすく脆い少女を守る様に覆われた毒煙や、統哉達によって砕かれた超硬装甲の破片すらも、沢山のお菓子やお茶へと改変していく。
「ねぇ、一緒にパーテーをしよう! お菓子やお茶に囲まれた、楽しい楽しいお菓子パーテー!」
笑顔でそう呼びかける、鈴鹿の声を聞きながら。
全ての生命の起源を想起させる大海原の力を秘めたオーラを、両手遣いに構えた鯖に大きく大きく、纏わせ続けていたニャントが、深く深く首肯する。
溢れ出すお菓子と美しき幻朧桜に囲まれたこの世界……鈴鹿の生み出した、鈴鹿のための理想郷は、プラチナという少女の目を、大きく見開かされるに至っていた。
そんな少女の超硬装甲を炎の鎖で縛り上げたノイジーが悪戯っぽい笑みを浮かべ、統哉がそっと、少女に手を差し出す。
「折角の鈴鹿のお菓子パーティーのお誘いだ。俺達と一緒に楽しまないか?」
統哉の呼びかけに、プラチナが静かに頷いた。
●
――それは、あまりにも非現実的な理想郷。
敵同士が手を取り合い、ただ束の間の楽しみを享受する。
鈴鹿の生み出したそんな不思議な世界の中で、プラチナは、鈴鹿も食べているお菓子とお茶を口元に運んだ。
――とても、甘い。
『これが……お菓子?』
「うん! そうだよ!」
自分が作り出した理想郷の中で。
お菓子を食べ、お茶を飲んでニコニコと笑う鈴鹿がコクコクと首を縦に振る。
鈴鹿に生み出されたお茶を一口口にした統哉が、静かにプラチナに質問を一つ。
「君にとって大切なのは、再孵化で記憶を奪ったヴァルギリオス?」
『奪った……!? ヴァルギリオス様が、私の記憶を……?!』
再孵化以前の記憶が無いプラチナが、何を言っているのだ、と言わんばかりの棘だらけの眼差しを統哉に向ける。
けれども統哉はそれに怯まず、只、静かにこう続けた。
「それとも……忘れても尚、君を支える絆達?」
『えっ……ええっ?! 私を支える、私の忘れた絆ぁ!?』
言われていることの意味が分からないのだろう。
反駁の声を上げ、まだお菓子化されていない両腕を振るおうとするプラチナの浮遊している巨大な両腕を、ノイジーが炎の鎖で縛り上げ、その動きを拘束していた。
その両腕は、鈴鹿によって作られたお菓子パーテー会場と化し、お菓子を食べお茶を飲む本当に只の愛らしい少女の様なプラチナにはあまりにも不釣り合いだから。
統哉がそっと微笑して、だってさ、と言の葉を紡ぐ。
「君のユーベルコードには、君が何だったのか覚えていない、そんな絆が、意志が……繋がりの力が、感じられるから」
「……っ?!」
統哉に告げられたそれに、物理的に傷つけられるよりも、遙かに何かに殴られた様な表情になって、プラチナは思わずつんのめりながら、鈴鹿の改変したお菓子に手を伸ばす。
「それも、あなたの繋がりだよ! ぼくの力で出来たそれも、あなたの力が、繋がりが無ければ出来なかった!」
鈴鹿の呼びかけにプラチナは益々困惑し、頭に一杯の疑問符を浮かべ首を傾げた。
ナハトはそんなプラチナに優しく語りかける統哉達を、白い瞳で見つめている。
「プラチナさん☆ 再編し尽くして残るのは、自由な世界ではなく」
お菓子に舌鼓を打ちながら。
幼い子供をあやす様なそんな声音でノイジーが甘く優しい睦言の様に、鈴鹿の言葉を引き取ってそう続けた。
「また、ねじ曲げられた心にも、自由は決してありません」
冷たく研ぎ澄まされた刃の様に。
プラチナには決して知らされなかった残酷な現実を、ノイジーはキッパリと言い放った。
『ねじ曲げられた、私の心……? この開放感も、自由も、ねじ曲げられたと言うのですか……!?』
「はい。統哉さんが言ってくれました。『貴女には、貴女の覚えていない、そんな絆があるんじゃないか』、と。その絆の先に求めるものこそ……」
「プラチナさん。それが、吾輩達が貴女に差し出す事の出来る、真の自由にゃ」
ノイジーの言葉を引き取る様に。
ニャントが告げたそれに絶句するプラチナ。
「でも、君の本当の記憶は、意志を持たぬレアメタル達が、鎧となり、剣となり、君のことを支えてくれる……その大切な絆は、きっと……」
――骸の海で、静かに眠りについている。
新たな生命の産声として、鈴鹿の生み出した、この幻朧桜に満ちた仮初めの理想郷の様な世界へと、生まれ変われるその時を信じて。
「蘇り……いいえ、蘇らせられた貴女は! 自由になったのでは無く、死して尚、その鎖に囚われてしまったのです! この……隷従の運命に。ですから……!」
『ねぇ、教えて! 自由って……猟兵の皆さんの知っている本当の自由って、何なんですか!?』
お菓子を食べ、お茶を飲み。
鈴鹿によって生み出されたこの温かで平和な……偽りの世界の中で。
虐げられて滅ぼされ、そしてヴァルギリオスによって再孵化させられ、再び隷従の鎖に囚われてしまった哀れな竜の少女は……大粒の涙を零しながら、統哉達に問う。
それに微笑んで答えたのは、ニャントだった。
「今のプラチナさんの様に、オブリビオンの破壊の意思……過去と言う名の鎖に未来永劫囚われず、前を向き、自分の力で自分の道を選び取れる、無限の未来のある事にゃ。それがきっと……本当の自由にゃ」
「過去を思い、其れを大切にすることは決して誤りではないけれど……君の様に過去を奪われ、未来への道標も何も無い……そんな今の君の在り方は、少なくとも君が望んだ本当の自由じゃ無い、と俺は思うぜ?」
ニャントの言葉に頷き、統哉が静かにそう締めくくり。
鈴鹿の生み出した幸せなお菓子とお茶の世界の中で、鈴鹿は笑顔でプラチナへと両手を差し出した。
「さあ、行こう! この幸せな世界の中で、あなたの心を本当に自由にするために!」
笑顔で差し出された鈴鹿の両手を、おずおずとプラチナが取って、立ち上がる。
「……もう、この隷従の運命の象徴はノイジーちゃんが断ち切ってあげましょう☆」
パチン、とウインクを一つして。
ノイジーが指を鳴らすや否や浮遊していた彼女の両腕が炎に包まれ灰燼に帰した。
其れとほぼ同時に……。
ニャントが、両手使いに構えられた鯖……それこそ、まるでプラチナを竜形態事飲み込んでしまいそうな程に莫大な大海原のオーラを纏った鯖を、高々と天に掲げる。
「吾輩がこの幻朧桜咲き乱れる世界の中で開眼した奥義なら……恐らく、貴女の本当の自由への一歩を作る事が出来る筈にゃ。だから、今は……」
――どうか、その邪心を……破壊の意思を、骸の海へ。
祈りと共に大海原のオーラを纏い、超巨大化した青く輝く鯖を大上段から振り下ろすニャント。
振り下ろされた鯖は咄嗟に後退した鈴鹿をすり抜け……自由の意味が知れた事に対する悦びの涙を零す少女の体に振り下ろされる。
振り下ろされた鯖に、プラチナをプラチナたらしめていた邪心が断ち切られ……彼女の姿が、大海原の光に包み込まれて消えていった。
「……どうか、サクラミラージュで、桜の精の癒しを受けて、新たな生を歩める様に……幻朧桜の導きあれ、にゃ」
ニャントのその言葉と共に。
消えゆく少女……プラチナの良心……『自由』の意味を知りたがっていたその心がアックス&ウイザーズの青空に広がり、泣き笑いの笑顔を浮かべて消えていく。
「……お休み、プラチナ」
統哉の呟きが風に浚われて、彼女の良心を追う様に、天へと舞い上がった。
――これが、自由を渇望した少女への、鎮魂と転生の祈りを捧げた子守歌。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵