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帝竜戦役⑮~グラビティゴリラ回廊

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #群竜大陸

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●重力異常とゴリラモドキ
「やあ、皆。お疲れさま。今日も群竜大陸に行って貰うよ」
 労う言葉もそこそこに、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は集まった猟兵達に、何やら妙にいい笑顔を向けた。
「今回の攻略地は『岩石回廊』と呼ばれるエリアだ」
 岩石回廊。
 その名の通り狭く入り組んだ回廊のような峡谷に、転がって来る巨大な岩石などと言う厄介なおまけがくっついているエリアなのだが――それだけではない。
「どういうわけか、凄まじい回廊全体に重力異常が発生していてね」
 当然と言うかなんというか、重たくなる方の重力異常である。
「ざっと数十倍。うん。とても飛べない。無理。サメで飛べるか試してみたけど、地面にサメ型の穴が出来るかと思ったよ」
 飛ぶどころか、普段通りに歩行する事すら困難な超重力地帯を、いつ何処から転がって来るか判らない巨大岩石をどうにかしつつ、突破しろと言うのか。
 ――どうしろと?

「重力異常に耐えられるようなトレーニングをすると良いよ!」

 まさかの力技だったよ。
「そこはまあ肉体的な力でも魔力的な力でも良いのだけど。重力異常を消す手段がない以上、耐えるしかないんだよね……」
 流石に申し訳なさそうな顔で、ルシルは告げた。
 でもそれ、トレーニングで耐えられるの?
「それは君たちなら大丈夫。と言うか、耐えてるのが既にいるから」
 ――はい?
「いるんだよ。こんな環境にも適応しちゃってる生き物が――ゴリラっぽいのが」
 ゴリラモドキ。
 その名の通り、ゴリラに良く似ているがゴリラではない生き物である。
 ゴリラにしちゃ尻尾が長いとか、素人目でも『あ、これゴリラじゃねえ』ってわかる程度には、ゴリラではない。
 うん。何でこいつらが、こんなところに生息してるの?
「大昔に群竜大陸に取り残されて、絶滅せず生き延びてたのかもしれないね」
 マジか。
「超重力に適応してるから、グラビティゴリラとでも言おうか」
 ルシルの口から、すごくどうでもいい名称が提案された。
「ちなみにゴリラモドキ、縄張り意識は結構強いらしい。でもグラビティゴリラは縄張り狭いから、通るだけなら手出しされずに通れる可能性もあるよ」
 通るだけなら?
「岩石回廊にも財宝がある。とても高価な『種籾』だ」
 その名も、へしつぶの種籾。
 高重力下でも破壊されなかった、頑丈な種籾である。
 生育に尋常でない時間がかかるのだが、育てた米は、1粒で成人男性が優に10日間も過ごせる栄養価を持っているという。
 そろそろ、おわかりだろうか。
「へしつぶの種籾、グラビティゴリラの貴重な食糧なんだ」
 そんな凄い栄養価を持っている米を食べているのも、グラビティゴリラが生存していられる理由かもしれない。
「何にせよ『へしつぶの種籾』が欲しかったら、グラビティゴリラから奪うなり交渉するなりする必要があると言う事だよ」
 なお、グラビティゴリラの縄張りでも巨大岩石は転がって来るので、注意されたし。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、『帝竜戦役』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 帝竜戦役⑮『岩石回廊』のシナリオです。
 OPの通り、全身に数十倍はあろうかと言う超重力がかかる峡谷です。
 猟兵でも歩行もままなりません。種族的に飛べる人でも飛べません。
 そんなところで、でたらめに転がって来る巨大岩石を対処しつつ、突破するお仕事になります。

 と言うわけで、今回のプレイングボーナスは『重力異常に耐えられるようなトレーニングを実行してから、回廊に挑戦する』となります。
 現地でトレーニングしても良いですし、好きな世界に一度戻るってのもOKです。

 あと何故か、ゴリラモドキがいます。
 何でじゃ。引けたんだから仕方なかろう。

 ゴリラモドキはゴリラモドキです。
 ゴリラみたいだけど、ゴリラじゃない生き物です。今回は超重力に適応してて、お猿っぽい尻尾が生えてたりします。
 環境によっては他の動物の縄張りに入っては争いを起こす事もあるらしいのですが、岩石回廊の中では、狭い縄張りを守っています。
 まあ、周りは各種ドラゴンはじめ、物騒なの多いから。

 そしてOPにも記載しましたが、財宝の『へしつぶの種籾』は彼らの貴重な食糧です。
 欲しければ、ゴリラモドキから奪うなり交渉するなりが必要となります。
 ちなみに価値は『種籾一粒で金貨88枚(88万円)』です。

 プレイングは公開後から受付開始です。
 締切るタイミングは人数次第で考えていますので、別途告知します。
 ではでは、よろしければご参加下さい。
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第1章 冒険 『ゴリラモドキ』

POW   :    力ずくで止める

SPD   :    罠を仕掛けてみる

WIZ   :    意思の疎通を図る

👑3
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ナーシャ・シャワーズ
ほお、異常重力ね。
そういう場所での戦いをしたこともあるが……
ソウルガンの弾は曲がっちまうし、苦労したよ。

ま、その経験からスラッグ号には重力トレーニング機能がついてる。
10倍から始めて少しずつ増やしていこう。
キリがいいし100倍くらいまではいっておきたいね。

転がってくる岩石は……
飛び道具が使えんのならこれしかあるまい。拳で行く。
私にだって、ゴリラ相手に腕相撲できるくらいの力はあるんだぜ。

そう、ゴリラだ。せっかくの財宝だし、譲ってもらいたいね。
力ずくってのは趣味じゃないが、言葉通じるのかな。

本当に腕相撲でも仕掛けてみるか?
勝てば奴さんたちも認めてはくれるだろう。
後はボディランゲージでなんとか、ね。


エルザ・メレディウス
アドリブ◎
連携◎

ゴリラモドキ...かわいいです。。。愛着を感じずにはいられません

■訓練
実戦も兼ねられる実地訓練で鍛えます
必要な分の食料等を持ち込んで、回廊に至る前の入り口周辺の安全そうな場所で高重力・岩場に対する訓練を行います

高重力や岩場における【地形耐性】【環境耐性】【足場の熟知】を会得できるように、日常動作→走ったりと少しづつ運動強度を増やしていきます

十分に訓練が積めたと判断したら、しっかりと休憩して探索へ

★探索
【地形の活用】を活かして、安全なルートを進みます
ゴリラモドキ様には、戦いの意志が無いことを示し、安全に通過させて頂けるように【取引】を

*連携時には【集団戦術】で連携の質を高めます


雨音・玲
「POW/重力修行継続中」
へぇ?グラビティゴリラ?
「へしつぶの種籾」回収に行こうと思ってたんだけど
面白そうじゃん?

UC「一握りの焔」の持続時間向上修行をしながら
薄着のラフな格好で、この重力下で割とケロっとしています
それもそのはず
UCの効果で「地形耐性」「環境耐性」「見切り」「怪力」「動物と話す」の技能レベルをLv760まで上昇させている為、割とへっちゃら

「怪力」で転がって来る大岩を片手で止めながら「動物と話す」で交渉
怪我をしない程度に組手相手をお願いしたり
持ち込んだ食糧で一緒に飯を食ったりしながら
ちょっと楽しい時間を過ごします

そして修行を終えて涙の別れ
戦争終わったら食い物持ってまた来るかならな


雨咲・ケイ
我が古武道の真髄は練氣にあります。
私は未だ目にしていませんが、極めし者は
その身を数mも宙に浮かせる程の氣を放つといいます。
という事で現地で修行しましょう。

……うん、ダメですね。(地面に這いつくばって)
先ずは体を動かし氣を練る所から始めましょう。
大丈夫です。練り上げた氣は裏切りませんッ!

歩けるようになったら回廊にチャレンジしましょう。
回避はしんどいので岩石は【魔斬りの刃】で破壊していきます。

ゴリラさんにも交渉してみましょう。
ゴリラにはやはりバナナ……ではなくSSW驚異のメカニズムで
開発されたダンベルをプレゼントです。
この超重力下でダンベル何キロ持ち上げられるでしょうか?


戦場外院・晶
何故にゴリラは強いのか?
決まっていますバナナ食べているからです
「ゴリラがその強さ故に重力とやらに耐えるというなら是非もなし。……私はきなこの美味しさをもって鍛え、耐えてみせましょう……ペロペロ」
普段は浮かばぬ効率的肉体改造が、きなこを舐めれば思い付く
走ってきなこ舐め
逆立ちしてきなこ舐め
戦ってきなこ舐め
寝ながらきなこ舐め

気づけば……私は(薄情な家族連中から)ゴリラと呼ばれていたのです
「酷いとは思いませんかゴリラ……モドキの皆様方」
お構い無く、お米が目当てでなく、貴方様方に会いたくて来たのです
「ゴリラの握力は凄まじいと聴き及びます……どうですか、一つ、比べっこなど」
ご心配なく怪我はさせませんよ


上野・修介
※アドリブ、連携歓迎
「冒険というより鍛錬だな」

まあ、それはそれで楽しみではある。

・鍛錬
現地にて、走り込みと体幹部の筋トレを中心に鍛錬。
超重力に慣れると共に、スタミナ増強と足腰と体幹部の安定性強化を狙う。

・ゴリラ
彼らは先住民。
伝わるかはわからないが敬意と礼節をもって接する。
「故あってここを通らせてもらいます。貴方達に危害を加えるつもりはありません」
襲ってきても往なすに留め、極力傷付けない。

・峡谷突破
UCは防御重視。

事前に進むルートを確認し選定。【視力+情報収集+見切り】
進むは最短距離。

止まれば再始動するのに体力を持っていかれる。
走り出したら極力止まらない。

岩は拳【グラップル+戦闘知識】で対処。


七瀬・麗治
っ!…なんつう高重力の空間だよ。
こんな状況じゃまともな行動は不可能だぜ。
…不可能? 否! マッスルオウガとの戦いを制したオレに
不可能などあるものかよ!
おっ、あんなところに人がいるぜ。話しかけてみよう。
おーい!…って人じゃねえ!ゴリラだ!?
いや違う!よくわかんねえけどゴリラとも言い切れねえ!なんだこいつ!

とにかくこのゴリラモドキ(仮)から、ここを突破するヒントを得よう。
成る程筋肉ね!ならアレを使うか!
無敵の筋肉を想像から創造!
フン!ムン!どうだ、オレの筋肉!恐れ入ったか!
ムテ筋を維持できるよう己を<鼓舞>し、<限界突破>して回廊に挑むぞ。

※ゴリラと交渉し、持参したプロテインと種籾の交換を試みる



●重力の洗礼
 ズンッッ!

 その峡谷に降り立った猟兵達に、目に見えない力が襲い掛かった。
 透明な錘が幾つも身体に乗っかったような感覚と、見えない縄で身体を地面の底から強い力で引かれているような感覚が同時に加わっている。

 ――異常重力。

「っ! ……なんつう高重力の空間だ」
 膝についた両腕と足に力を込めて、七瀬・麗治(悪魔騎士・f12192)は倒れ込みそうな身体を何とか支えていた。
「こりゃ冒険というより鍛錬だな」
 そのすぐ近くでは、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)も同じような態勢で身体を支えている。
 ――何故か、その口元に小さな笑みを浮かべて。
 麗治も修介も、気を抜けばすぐにも膝を着いてしまいそうだ。
 だが――今、膝を着いてはダメだ。
「……うん、ダメですね」
 それは、既に地面にうつ伏せに倒れている雨咲・ケイ(人間の學徒兵・f00882)が、身を以て示してくれていた。
 試しに動こうとしたものの、重力に負けて足を取られて倒れてしまったまま、起き上がれずにいるのだ。
「倒れない方が良いです。一度こうなってしまうと、すぐ起き上がれません」
 うつ伏せに這いつくばったまま、顔だけ上げてケイが告げる。
 自分の身体を持ち上げる。それだけの事が、出来ない。
「……これは確かに、身体を慣らすしかないみたいですね」
 エルザ・メレディウス(復讐者・f19492)も、足元の荷物を持ち上げようとしていたのを諦めて、手を放した。
 エルザの荷物の中に入っているのは、食料の類だ。それほど重たいものが入っているわけではないのだが。
「克服しないと、食事もできないですね……」
 ほぅとエルザの口からため息が零れる。

 そして――それぞれの鍛錬が始まった。

●どんな環境でも生きてるものはいるんだよ
 まずは1歩動いてみる。
 1歩、2歩と倒れずに進む。その距離を徐々に伸ばしていく。
 日常的な動作が少しずつ行えるようになり、それからは思い思いの鍛錬へ。

(「皆、頑張るなぁ」)
 重力異常に身体を慣らそうと頑張る猟兵が多い中、雨音・玲(路地裏のカラス・f16697)は1人ケロッと涼しい顔して立っていた。
 何かトレーニングをしているようには見えない。
 確かに、玲は肉体的なトレーニングはしていなかった。だが、トレーニングとは肉体を鍛えるものばかりではない。

 一握りの焔――シャープファイヤ。

 自身の持つ技術や技能を、その時々で数百倍に強化する付与魔術である。
 玲は自身のユーベルコードで、地形や環境に慣れる能力に、重力に耐える怪力を強化する事で、この重力環境を克服しようとしていた。
 問題は――この力をどこまで使い続けられるか。
 魔術の持続時間の向上。
 涼しい顔をしている裏で、玲も特訓をしているのである。

「くそっ」
 肩で息しながら毒づいて、麗治が膝に手をついた。
 日頃もジムに通ってトレーニングを欠かしていなかった身体が重い。ちょっと動いただけで、身体の疲労が尋常ではない。
 時に、身体の疲労は心にも及ぶ。
「こんな状況じゃまともな行動は不可能……ん?」
 思わずそんな言葉が口を吐いてしまった麗治が、ふと顔を上げると、少し離れたところに人影の様なものを見つけた。
「おっ、あんなところに人がいるぜ」
 あまりに重力が過酷すぎて、麗治は忘れてしまっていたのかもしれない。
 転送前に聞いた筈ではないか。
 此処にいるのは人ではなく――。
「おーい! この重力に慣れるコツとか」

『ウホ』

「……って人じゃねえ! ゴリラだ!?」
 此処にいるのは人ではなく、ゴリラでもなくゴリラモドキ――またの名をグラビティゴリラだって。まあ、またの名はさっき決まったんだけど。
「グラビティゴリラだね。あっちから姿を出すなんて」
「あれがそうか。よくわかんねえけど、確かにゴリラとも言い切れねえな……」
「ああ、ゴリラモドキ!」
 意外そうに目を丸くする玲と首を傾げる麗治のすぐ近くで、エルザが声を上げた。
 その瞳は――何故かキラキラ輝いていた。
「ゴリラモドキ……かわいいです……!」
「かわいい……?」
 そろそろスクワットでもしてみようかと身構えていた修介も、その声にグラビティゴリラに視線を向ける。
「ええ。愛着を感じずにはいられません」
 一体グラビティゴリラの何が、エルザの琴線に此処まで触れたのだろう。
「愛着はともかく……すごい筋肉だな」
「そりゃあ、ゴリラですからね」
 体毛の下のグラビティゴリラの体躯に気づいた修介の呟きに答えたのは、白い頭巾と黒い法衣姿の戦場外院・晶(強く握れば、彼女は笑う・f09489)である。
「皆様、何故にゴリラは強いのでしょう?」
 如何にも尼僧と言った風体で、ゴリラを語り出す晶。異郷の信仰を奉ずる隠れ里の生まれらしいが、もしかしてゴリラでも奉じていたのだろうか?
「決まっています」
 突然のゴリラトークに答えられない他の猟兵達を見回し、晶は続ける。

「バナナ食べているからです!」

 ゴロゴロゴローッ!
 晶の後ろを、巨大な岩が転がっていった。
「取り合えず見渡す限りの荒野の様ですね……」
 這いつくばりから復活したケイが、辺りを見回し呟く。バナナの樹どころか、樹木の類がまるで見当たらない。
「ゴリラがその強さ故に重力とやらに耐えるというと言うなら――是非もなし」
 バナナの黄色が見当たらないという現実を軽くスルーして、晶は開いた両手を掌を上に向けてピタリと合わせた。
「私はきなこの美味しさをもって鍛え、耐えてみせましょう」
 顔を洗うために水を掬う時の様に組んだ晶の掌の中に、何かの粉末の山が現れた。
「あれは……きな粉に見えるのですが」
 猟兵になってから和菓子の美味しさを知ったエルザが、その正体に気づく。
「ええ。きなこです。ですが、ただのきなこではありません」
 エルザに向かって頷くと、晶はそのきなこに顔を寄せて――。
「――ペロ」
 晶は躊躇いなくペロッと舐めた。
「あ――来てます。来ました。普段は浮かばぬ効率的肉体改造が、きなこを舐める事で次々と頭の中に浮かんできます!」
 傍から見ると、ただきなこを舐めているだけなのだが、何とこのきなこ自体が晶のユーベルコードの産物なのである。

 きなこペロペロ、智慧もりもり――グッドナイス・キナコ。

 召喚された『とっても美味しい神秘のきなこ』は、舐めた晶に智慧を齎すのだ。
 言われてみるとそのきなこ、何かキラキラと神秘的な輝きを放っている
「まずは走ってきなこ舐めですね!」
「きな粉は、和菓子に使うだけではなくそんな効果も……?」
 きなこペロペロしながら小走りに進みだした晶を見送り、エルザが首を傾げる。
「実際、きなこは筋肉に良い食材だ。プロテインには劣るが、筋肉に良いタンパク質も豊富だからな」
「プロテインには少ない栄養素もあるしな。きなこ牛乳とかあるし、プロテインにきなこ足すのも良いんだよな」
 鍛錬マニアな修介と麗治は、きなこについての所見を語り合っていた。

●ゴリラと筋肉
『ウホホ、ウキ』
 じーっと猟兵達の様子を伺っていたグラビティゴリラが、動きを見せた。
 何か微妙に混ざった鳴き声を上げると、ぐっと膝を沈める。ゴリラは両足の筋肉をムキッと隆起させ、ピョーンと跳び上がった。
 そのままぴょんぴょんと身軽に飛び跳ね、峡谷の向こうへ去っていく。
「んー……敵かどうか見に来たってところかな」
 『一握りの焔』で動物と会話する能力も高めていた玲は、直接会話せずとも、ゴリラモドキの目的を何となく察していた。
 おそらくは、観察。
 突然現れた猟兵達が、自分たちの敵となるか否か。
 まあ、今この群竜大陸、あちこちに帝竜がポコポコ現れてて、非常に物騒なのだ。すぐ近くにもその縄張りがある。
 グラビティゴリラだって、慎重になろうってもんである。
「そうか、成程!」
 そして去り行くグラビティゴリラを見て、麗治が声を上げた。
「筋肉だ! ならアレを使うか!」
 グラビティゴリラが何故ああも動けるのか。そのヒントを得ようとして、麗治は筋肉に気づいたのだ。
「無敵の筋肉を想像から創造! フンッ!」
 ぐっと背筋を伸ばした麗治は、ボディビルダーがしそうなポーズをとる。
 ムキィッ!
 直後、膨れ上がった麗治の筋肉が、内から服を押し上げていた。

 筋肉こそ正義――マッスル・イズ・ジャスティス。

 それは想像から筋肉を創造するユーベルコード。
「動ける! 動けるぞ!」
 ムッキムキになった麗治が、スタスタと歩き出す。あとは、どれだけこの状態を維持できるかと言う問題。
「なに。マッスルオウガとの戦いを制したオレに、不可能などあるものかよ!」
 筋肉と共に自信も取り戻した麗治は、己を鼓舞して己の筋肉の限界を超えていた。

●鍛錬は続く
 プランク、と言うトレーニングがある。
 うつ伏せの体勢から、前腕と肘、爪先だけで身体を持ち上げるものだ。そのままの状態をキープするのが基本だが、腕立て伏せの様に身体を上下させる事もある。
 体幹に効くトレーニングである。
 それを、修介はこの超重力下で行っていた。
「っ……効くな、これは」
 修介の頬を伝った汗が岩肌に落ちて、小さな染みを残す。
 ただ此処にいるだけでも、身体に負荷がかかるのだ。
 鍛錬マニアな修介にとっては、ある意味、理想的な鍛錬環境と言えよう。
「ここでプランクですか……」
 一度うつ伏せに倒れて起き上がるのに苦労したのを思い出したか、ケイが感嘆したような溜息を零す。
「ああ。体幹部を鍛えて安定性を強化しようと思ってな」
 修介が言う体幹とは、首から上と腕・足を除いた部分である。体幹を鍛える事は、身体全体を支える筋肉を鍛える事になるのだ。
「そっちは――古武道か?」
「ええ。そうです」
 プランクを続けたまま訊ねてくる修介に、ケイが1つ頷く。
 ある程度動けるようになったケイは、慣れ親しんだ武道の型を繰り返していた。それは身体を慣らすと同時に、もう一つの理由がある。
「我が古武道の真髄は練氣にあります」
 練氣。
 読んで字の如く、氣を練る事。
 それは、ただ氣を溜めればいいというものでもない。
 体を動かす事で、氣を練るのだ。
 ケイはまだ未だ目にした事がないが、ケイが学んだ古武道を極めし者は、自身の身体を数mも宙に浮かせる程の氣を放つと言う。
 軽気功と呼ばれるものが近いのだろうか。
「さっき試してみてダメでしたけど――大丈夫です」
 ケイがいきなりうつ伏せで倒れていた理由は、それを試そうとしたからだった。
 だからケイは基本に立ち返り、基本の型で身体を動かし、身体の内に自身の氣を巡らせて練り上げていく。例え、ここで宙に浮けないとしても構わない。
「練り上げた氣は裏切りませんッ!」
「そうだな。筋肉も、裏切らない」
 自身と自身の氣を信じるケイに、プランクを終えて立った修介が頷いた。

 タッ、タッ、タッ。
 峡谷に規則的な足音が響く。
「ふぅ……大分、動けるようになってきました」
 少しずつ歩くことから始めて、小さな石を持ち上げて。石の次は持ってきた荷物を持ち上げられるように――と、日常的な動作をこなして徐々に体を慣らしていたエルザは、ついに軽いジョギングくらいが出来るようになっていた。
「きなこおいしいです……ペロペロ。あ、次は逆立ちしましょう」
 晶は定期的にきなこを舐めながら、いつの間にかエルザに遅れる事無くジョギングくらいには走れるようになっている。
 きなこすげぇ。
「皆さんも動けるようになってきましたね。そろそろ休憩をして進んでも良い頃合いでしょうか」
 足を止め、エルザが呟く。
 持ってきた食料はまだまだある。もっと鍛錬してもいいかもしれない。
 だが――時間は有限だ。
「――どうやら、丁度いいタイミングだったみたいだね」
 そこに新たな声が響く。
 どこからともなく光の輪が降って来て、その中から、ナーシャ・シャワーズ(復活の宇宙海賊【スペースパイレーツ】・f00252)が姿を現した。

●宇宙船の中で
 ――話は少し遡る。
 ナーシャの宇宙船スラッグ号。
「さて……まずは10倍から慣らしていくか」
 船内のと一室で、ナーシャは中心に設置されている機械を操作していた。
 部屋はかなり広いのだが、今ナーシャが操作している機械以外に照明やドアを除けばほとんど何もない。
 それでいいのだ。
 必要ないのだから。
 ナーシャの指が赤いボタンを押すと、機械の中のデジタルモニターに『10G』と表示される。直後、ズシリとナーシャの身体に重みがかかった。
「おお……この感覚、久しぶりだな」
 ナーシャは以前にも、異常な重力の中で戦ったことがある。
「あの時は、苦労したねぇ。ソウルガンの弾は曲がっちまうし」
 重力そのものは目に見えないものだが、その影響は目に見える形で現れる。
 それを、ナーシャは身を以て理解していた。そして、その経験をただの『過去の苦労』では終わらせていなかった。

 宇宙船と名がつくものは、大抵、船内に人工的に重力を発生させて制御する機構が備わっている。何せ、基本的に無重力の宇宙空間の航行のために作られるのだから。
 そしてナーシャは、スラッグ号の重力装置に重力トレーニング機能を追加したのだ。
「キリよく100倍くらいまではいっておきたいね」
 10Gに慣れたら、20G。20Gにも慣れたら、今度は少し飛ばして40G。徐々に重力を増加していく。普段通りに駆けて、腕を上げられるように。
 そして――。
 目標の100Gで一通り動けるようになったところで、ナーシャは再び、グラビティゴリラ回廊へと戻っていったのである。

●いざ行かん岩石回廊
 それぞれに鍛錬を終えた7人の猟兵達は、岩石回廊の中へ踏み込んでいた。
 普段通りとはいかないが、軽く走る程度は皆こなせている。
 あとは、この峡谷を突破するまでだ。

 ゴロゴロゴロゴロー!!!
 だが、重力に負けずに小走りに駆けぬけんとする猟兵達に、あちこちから巨大な岩が転がって来た。
「こりゃまた、本当にデカい岩だね」
 それを見たナーシャは、足を止めずに軽く拳を握る。
 重力に身体を慣らす事は出来たが、それでもソウルガンの弾道が曲がってしまうのはどうしようもない。そればかりは、自分の力の問題ではないのだから。
「ふっ!」
 だからナーシャはソウルガンを使わず――岩をぶん殴った。
 フック気味に横から殴りつけて、壊すのではなく叩いた衝撃で岩のコースを変える。
「私にだって、ゴリラ相手に腕相撲できるくらいの力はあるんだぜ」
 実際、それなりの腕力がなければできない芸当だ。

 1つ2つ凌いでも、巨大な岩は次々と転がって来る。
 今度は猟兵達の進行方向から、一気に3つの岩が縦に並んで迫って来ていた。
「この数を避けきるのはしんどいですね」
「別のコースを探します」
 小さくため息を吐いたケイに頷き、エルザは周囲に視線を向ける。
 巨大岩は、基本的に転がって来るのだ。峡谷の上から降って来る事はあっても、何者かに投げられて飛んで来るわけではない。
 ならば、峡谷の地形を見ればいい。
「こっちです!」
 地形から比較的安全なコースを見出し、エルザは指で示して声を上げる。
 進行方向を変えた猟兵達の後ろから、巨大な岩が峡谷の壁に激突したであろう重たい音が響いてきた。

「ちっ、また来るな。2つだ」
 最短距離を行こうと遠くまで見ていた修介が、次に迫る巨大岩に気づく。
「極力、足を止めたくはない。このまま突っ切る」
 一度足を止めてしまえば、再び走り出すだけで体力を持っていかれてしまう。
 故に修介は、2つの岩の片方に自ら突っ込んで行った。
(「――力は溜めず――息は止めず――意地は貫く」)
 胸中で呟いて、修介は拳を眼前から迫る岩に向ける。
「邪魔だ」
 短く呟いて修介は、腰溜めに構えた拳を打ち込んだ。突き上げるような打撃が、下に発条があった様に岩を跳ね上げる。
 頭上を越えていく岩の下、ケイが飛び出した。
 避けきれないならどうするか。
 切り開けばいいのだ、文字通りに。
 五指を揃えて伸ばしたケイの手が、光に包まれる。
 それは、ケイが練り上げ続けた氣の発露。
「はぁっ!」
 氣の光を纏った手刀を、ケイが岩に振り下ろす。
 邪妖を斬り裂く『魔斬りの刃』が、2つ目の岩を真っ二つに斬り裂いた。

 順調なペースで、7人は峡谷を駆けていく。
 だが――。
『ウホホーゥ!』
『ウォッホウォッホ!』
 そこに奇声を上げて、ゴリラモドキ――グラビティゴリラが現れた。

●力を示す時
 行く手を阻むように現れたグラビティゴリラ達。
「戦いの意志はありません、安全に通過させて頂ければそれでいいのです」
「貴方達に危害を加えるつもりはありません」
『ウーホッ!』
 エルザと修介が敵意はないのだと伝えるが、しかしグラビティゴリラ達は揃って首を左右に振って、否定の意を示した。
「へぇ?」
 通せんぼするように居並ぶグラビティゴリラに視線を向けて、玲がニヤリと笑みを浮かべる。横から、岩が転がって来る音が聞こえていた。
『へしつぶの種籾』を回収に行こうと思ってたんだけど……またそっちから出て来てくれるなんてね――探す手間が省けたじゃん?」
 ズンッ!
 グラビティゴリラに視線を向けたまま、玲は片手で閉栓を巨大岩を受け止める。
 『一握りの焔』で超強化した怪力のなせる業である。
「さて、どうしようか。組手でもする?」
『ウホゥ? ウホホゥ!?』
 巨大岩を片手で止めてみせた玲に慌てながらも、グラビティゴリラはぶんぶんと首を横に振る。
「んー? 何がしたいのさ」
『ウホホ、ウホウホホ、ウホ、ホホホウウホ』
 問い詰める玲に、一際身体の大きなボスっぽいグラビティゴリラが何やら返す。
 他の猟兵には『ウホウホ』としか聞こえていないのだが、『一握りの焔』の効果で動物会話の能力も数百倍に高まっている玲には、グラビティゴリラの言わんとすることがばっちり判っていた。
 曰く――。
「進むな。引き返せ。この先は危険だ。縄張りを通るな。縄張りを通したと帝竜に知られたくない――そんな所だね」
 猟兵達の行く手を阻むが、襲ってくるわけでもない。
 グラビティゴリラたちの行動の理由は、自分達の平穏を守りたいというものだった。そうしてこの異常重力の中に引き籠もる事で、彼らは生存してきたのだろう。

「だったら、私らの力を見せようじゃないか」
 そんなグラビティゴリラ達の前に、ナーシャが進み出た。
「悪いけどこいつらに、腕相撲で勝負だと伝えてくれないか? 私らが勝ったら道を開けて貰うのと、種籾も分けて貰うってことで」
 玲に通訳を頼みながら、ナーシャは手ごろに平らな岩の上に肘を置く。
「力ずくってのは趣味じゃないが、せっかくの財宝だし譲ってもらいたいね」
『ウホウホホッ!』
 何をするのか理解したらしいボスゴリラが、ナーシャの前に出てきた。同様に腕の肘を岩の上に乗せたゴリラの手が、ナーシャの手を掴む。
 腕相撲と言うものは、腕力だけで決まるものではない。
『ウォッホォォォッ!?』
「言ったろ? ゴリラ相手に腕相撲できるくらいの力はあるって」
 ナーシャの目の前で、腕ごと押し倒されたグラビティゴリラの巨体が舞っていた。

『ウホォゥ……』
 蹲ったまま、何だこいつら……、みたいな視線を猟兵達に向けるボスゴリラ。
「ゴリラ……モドキの方々。私は貴方様方に会いたくて来たのです」
 そんなグラビティゴリラのボスの前に、今度は晶が進み出る。
「一つ、私と握力の比べっこしましょう」
 ボスゴリラの手を取って立ち上がらせると、そのまま手を繋いで向かい合う。
「ゴリラの握力は凄まじいと聴き及びます……どうか全力を見せて下さい」
 そして晶とグラビティゴリラは互いの手を握り合い――。
 ミシッ、メキメキメキッ!
『ウッホホッ!? ゴリゴリゴリゴリゴリッ!?』
 数秒後、そこには腕を抑えて蹲るグラビティゴリラボスの姿があった。そりゃ素で100もある怪力でその倍の力で手を握られたら、ゴリラだって秒殺されるさ。
 手を離し俯くグラビティゴリラを見下ろし、晶が口を開いた。
「私は……きなこを舐め続けていました。走ってきなこ舐め、逆立ちしてきなこ舐め、戦ってきなこ舐め、寝ながらきなこ舐め」
 今日だって、晶はきなこ舐めながら走っていた。
「……気づけば……私はゴリラと呼ばれていたのです。薄情な家族連中から」
 それってきなこが原因ではなく、怪我をしない程度に加減してもゴリラも秒殺する握力のせいじゃなかろうか――。
「酷いとは思いませんかゴリラ……モドキの皆様方」
『ウホホッホ、ウホ?』
 訴える様に声をかける晶に、しかしグラビティゴリラ達は首を傾げるばかり。
「あ、駄目だ。ゴリラ、まずきな粉が判らないみたい」
「ええっ!?」
 玲が通訳した言葉に、晶が驚き目を丸くした。

●さらばグラビティゴリラ
『ウボォ……』
 猟兵達の目の前で、グラビティゴリラボスが体育座りしている。
 どうやら腕を使った勝負で二連敗して、軽くショックを受けてしまったようだ。
「うわー……意外とメンタル弱かったー」
 その胸中を察してしまった玲が、思わず声を上げた。
「成程……ならば、ここは俺に任せて貰おう」
 そんなグラビティゴリラの前に、麗治が進み出て――。
「フン! ムンッ!」
 筋肉を誇示するようなポーズを取り始めた。
「どうだ、オレの筋肉! このムテ筋! 恐れ入ったか!」
 麗治は実際、見せつけていたのだ。創造した無敵の筋肉を。
「この筋肉は、お前達からヒントを得て創造したのだ! だからお前達も鍛えれば、ムテ筋が手に入る! プロテインがあれば。と言う事で種籾と交換でどうだ? ――と通訳を頼めるか?」
 玲に通訳を頼みながら、麗治は持参していたプロテインをグラビティゴリラの前に差し出していた。
 言いたいことは、物々交換かい。
「これ、何キロ持ち上げられますか?」
 そこに、ケイがすっと何かを差し出した。
 鉄の棒に鉄の輪がはまった道具――ダンベルだ。
「こうして――こうです」
 グラビティゴリラの前で2,3度使って見せてから、ケイはダンベルをグラビティゴリラの掌に載せる。
 ただのダンベルではない。宇宙世界の技術で作られた、超重力にもグラビティゴリラの握力にも耐えられるダンベルだ。
「自信がないなら、もっと鍛えればいいんです!」
「鍛える為には、食事も大事ですよ」
 ダンベルに錘を加えていくケイの後ろから、エルザが食料を差し出した。持ってきたものの余ったものだ。
「そうだな。適度な運動と適度な食事は、大事だ」
 グラビティゴリラとの交渉を離れて見守っていた修介も、口を開いた。
『ウホォゥゥゥッ!』
 グラビティゴリラボスの瞳から、輝くものが流れ落ちた。

 こうして――。
 その力を見せつけ、心を通わせた猟兵達は、グラビティゴリラに見送られながら、彼らの縄張りを抜け、岩石回廊の出口へ向かって行く。
 それを望んだ猟兵達――ナーシャと玲とケイと麗治は、グラビティゴリラの掌いっぱいの『へしつぶの種籾』を手にしていた。
「さようなら、心優しいゴリラモドキたち」
「じゃなあー。戦争終わったら、食い物持ってまた来るかならな」
 振り向き手を振るエルザと玲に、グラビティゴリラ達が手を振り返していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【剛力】
重力に耐えるためのトレーニングですか
最近できた当社の極限戦闘訓練アスレチックがありまして
その名も『ごっつ・おっきい・ええきんにく・むきむき・おんすてーじ』
【GOEMON】です

縄張り意識強いらしいからね、縄張りの外で
異次元箱『亀趺』で施設を開放しますよ!
さあ、鍛えましょう!重り百キロ装着!!
いいですか優しいことなら誰でも言えるんです必要なのはスパルタの精神
筋肉もタンパク質だし脳もタンパク質なんで鍛えればどっちにもいいよって最強
これぞ文武両道、喧嘩両成敗、天上天下唯我独尊の理論。テストに出ます

さてゴリラ
岩を拳で割って静かに渡ってやるから良いものを頂戴
あ?腕相撲でもしますか? あ??


穂結・神楽耶
【剛力】

さあ!いよいよ始まりました、探偵社有志によるゴリラ回廊攻略戦。
実況はわたくし穂結が、
参戦はヘンリエッタさんとグナイゼナウ様でお送りします。

まずはこちら!
【GOEMON】で極限まで鍛え抜く!鍛え抜く!
竜も人形も重力異常に対応できる筋肉を手に入れられること間違いなし!
こんな施設で鍛えたらどうなってしまうのでしょう…(ごくり)

それではお待たせしました。本番です…
レディー、ファイッ!(鈴音)
おおっといきなり決まった――!!
これぞ『ごっつ・ええ・きんにく・おんすてーじ』の成果です!
重力異常などものともせずゴリラモドキに勝利しました!
さすがですヘンリエッタさん。
これが覇者の風格というものなのかッ!


ヨシュカ・グナイゼナウ
【剛力】

【GOEMON】を使えば人形のわたしでもムキムキになれますか?『はい!なれますよ!(幻聴)』
人形に筋肉などない…?
あると思えばそこに鍛えられた筋肉は存在します。筋肉(概念)は裏切らない
ハイ!重り百キロ装着!!(復唱)

GOEMONによって鍛えられた筋肉に【天泣】による肉体改造&強化さらに先輩の鈴音による能力アップ…!
これぞ鍛えられた脳(筋肉)による最高に頭のいい作戦。ブンブリョードー。
つまりいまのわたしたちはさいきょうにつよいということです!(眼鏡クイッ)
重力もついて来れない


わー!先生頑張れー!!
やったー!かっこいい!(キャッキャ)

種籾!種籾!

(先輩/穂結さん・先生/モリアーティさん)



●終わるまで終わらない、それがGOEMON
 一方、その頃。
 6人の猟兵が鍛錬をしていた辺りに、箱が転がっていた。
 時折、コトリと小さく揺れて音立てている。
 それは、ヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)の持ち物である。だが、持ち主の姿は見当たらない。何処に行ったというのか。
 その答えは箱にあった。
 箱の名は――『亀趺』。
 中に建物が入るほどの巨大な異次元空間を持つ、四次元小箱である。
 その中では――。
「はぁ……はぁ……ちょ、ちょっと休ませ……」
「わたしは……なるんだ……ムキムキに……」
「さあ、進むのです! GOEMONから抜けるにはゴールあるのみ! 途中脱落なんて甘い仕様はないのですから!」
 息も絶え絶えと言った様子の穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)とヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)を、ヘンリエッタが急き立てていた。

 亀趺の中で何が起きているのか。
 それを話すには、少し――多分少しばかり話を遡らねばならない。
 箱の外でも、猟兵達が鍛錬していた頃に。

●ごっつ・おっきい・ええきんにく・むきむき・おんすてーじ
「さあ! いよいよ始まりました、探偵社有志によるゴリラ回廊攻略戦!」
 マイクを手にした神楽耶の声が響き渡る。
「実況はわたくし穂結が、参戦はヘンリエッタさんとグナイゼナウ様でお送りします」
 そこは、岩石回廊の荒涼とした景色とはまるで違う。
「では先生、この施設の説明をお願いします」
「はい。最近できた当社の極限戦闘訓練アスレチックです」
 マイクを向ける神楽耶とヘンリエッタの後ろには、なんだかどこかで見た事があるような気がしないでもないアスレチックが、どーんっと鎮座していた。
 何か回転する足場とか、手足で壁を踏ん張って進む床なしゾーンとか、垂直よりもえぐい感じに削れた壁登りとか、腕の力だけで進まなければならない大階段とか、走力の問われるトラップコンベアーとか。
「重力に耐えるトレーニングにも打ってつけ。その名も『ごっつ・おっきい・ええきんにく・むきむき・おんすてーじ』――【GOEMON】です」
 ヘンリエッタが開放した巨大なアスレチック施設があるのは、岩石回廊に転がっている小箱――亀趺の中にある異次元空間であった。
「ちなみに『ごっつ・おっきい・ええきんにく・むきむき・おんすてーじ』が【GOEMON】になるのは、ローマ字読みの頭文字なんですよ」
 神楽耶は実況兼、解説も担っているようだ。

●ミレナリィドールは筋肉の夢を見るか
 極限戦闘訓練アスレチック【GOEMON】。
 そのスタート地点では、ヨシュカがせっせと準備体操をしていた。
 右目を覆ういつもの眼帯はそのままだが、ヨシュカは普段は後ろに纏めたりすることが多い長い髪を、今日は頭の天辺に纏めて垂れない様にしていた。
「やる気充分ですね、グナイゼナウ様!」
「声が――聞こえたんです」
 神楽耶にマイクを向けられたヨシュカは、目の前に待ち受ける【GOEMON】に視線を向けながら口を開いた。
 そこに立ったヨシュカは、こう呟いたのだ。
「【GOEMON】を使えば人形のわたしでもムキムキになれますか?」
 ――と。
「そうしたら『はい! なれますよ!』っていう声が聞こえたんです。あれはきっと、【GOEMON】の声ですよ!」
 幻聴? いいや――確かにヨシュカは聞いたのだ。
「人形に筋肉などない……? そんな事ないです」
 ヨシュアは自立機械人形――ミレナリィドールと呼ばれる種族である。その体は、人工的に作られたもの。
 だがヨシュカも猟兵。猟兵は、埒外の存在。
「あると思えばそこに鍛えられた筋肉は存在します。筋肉は裏切らない!」
 ヨシュカは最近、水の上を走れる様になったり、恐竜と友達になったりしたらしい。猟兵として様々な世界を知る内に、筋肉と言う概念も知ったのだろう。
「良い覚悟です」
 そんなヨシュカの背後に、いつの間にかヘンリエッタが立っていた。
 良い笑顔で、何か重たそーな石を抱えて。
「鍛えて損する事なんかないです。筋肉もタンパク質だし脳もタンパク質なんで」
「ハイ! 先生!」
 ヘンリエッタが持っているものにもその言葉にも疑問を持たず、ヨシュカが元気よく手を挙げ頷く。
「つまり鍛えると言うのは身体にも頭にもどっちにもいいよって最強の事。これぞ文武両道、喧嘩両成敗、天上天下唯我独尊の理論。テストに出ます」
「ハイ! ブンブリョードー、覚えました!」
 どこの世界にそんなテストが出るのだろう。
 と突っ込む人は誰もおらず、ヨシュカはまた元気よくヘンリエッタに返事していた。
「さあ、鍛えましょう! 重り百キロ装着!!」
「ハイ! 重り百キロ装着!!」
 そしてヘンリエッタが差し出した重そーな石を、ヨシュカは何の疑問も持たずに背負おうとする。
「何と言う事でしょう……いきなりです。いきなり百キロスタートです!」
 これには実況役の神楽耶も、興奮した声を上げる。
「いいですか。優しいことなら誰でも言えるんです。必要なのはスパルタの精神!」
 スパルタにしても最初っから飛ばし過ぎやしませんかね?
「極限まで鍛え抜くのですね! これなら竜も人形も重力異常に対応できる筋肉を手に入れられること間違いなし!」
 しかし神楽耶がそんなスパルタに、何故と言う疑問は抱かなかった。
「こんな施設で鍛えたらどうなってしまうのでしょう……」
 代わりに抱いた『どうなるか』と言う疑問。そして、神楽耶はそれを口に出してしまったのだ。だって、実況役だし。喋るのがお仕事だし。
「ふむ。どうなってしまうかですか。それは身体で知るのが一番です」
 ヘンリエッタが真顔で、神楽耶の肩をむんずと掴んだ。
「え? え? でも、私、今回は実況役で――」
「大丈夫。刀も筋肉つけてあげますよ」
 突然の展開に困惑した神楽耶に、ヘンリエッタの手が両肩に置かれる。
「先輩、一緒にブンブリョードーになりましょう!」
 神楽耶の逃げ道を塞ぐように(多分そこまで意図せずに)ヨシュカは無邪気な視線を真っすぐに向けてくる。
「え、ちょっと待――……あーっ!?」
 こうして、神楽耶の背中にも百キロの重りが装着され、なし崩しに【GOEMON】参加となったのである。まあ、実況はトレーニングにならないですし。

 ちなみに、この空間のある箱――亀趺だが、その名は此処とは別の世界の伝説で、龍に連なる生まれながら龍になれなかった霊獣に由来する。
 その霊獣は亀のような姿を持ち、重きを負うことを好むと言う。
 その姿を象った石碑は――箱と同じ「亀趺」の字で書かれるのだ。
 つまりこの空間の中で重りを背負う事は、名前に適っているいるのである。多分。

●ダイジェスト・オブ・GOEMON
 それは――とても過酷な時間だった。
 回り出した足場から、何度滑って落ちただろう。
 不規則に動き回る足場の上を跳びきれず、水に落ちた事もある。
 壁しかないゾーンでも、手足から力が入らなくなって何度落ちただろう。
 ベルトコンベアーの上で力尽き、スタートに戻されたのも数えきれない。
 重たい壁を持ち上げきれず、危うく潰れそうになった事もあった。
 登り切れなかった傾斜をズルズルと落ちたのも何度あったか。
 疲れ果て、ずぶ濡れでボロボロになりながらも、ヨシュカと神楽耶は最後の関門を登り切って、よろよろと手を伸ばし――同時に最後のボタンを押した。
 パンッと紙吹雪が舞い上がる。
 ヨシュカと神楽耶は、ついに【GOEMON】のゴールに辿り着いたのだ!
「二人とも、よく出来ました!」
 流石に創設者と言うべきか、先にゴールして待っていたヘンリエッタが、2人を出迎え肩を抱く。
 ――何か感動のフィナーレっぽいですが、此処まで前哨戦です。

●本番です
 そして3人が箱の外に出ると、周りには誰もいなかった。
「あれ? 誰もいませんね……先に行ってしまいましたか」
 他の猟兵の姿もあったのに、と神楽耶が首を傾げる。
 亀趺の中は、異次元空間。外とは隔絶されているのだ。色々頑張っている間に、陽が沈んで月が昇って月が沈んでまた陽が昇っていたりしたのかもしれない。

「さておき、本番です。お陰で身体はすごい軽い気がしますが、どうしましょう」
「ハイッ!」
 岩石回廊をどう進むか――神楽耶の呈した疑問に、ヨシュカが挙手する。
「突っ走ります!」
 ヨシュカは中では外していた眼鏡をすちゃっかけて、どキッパリと告げた。
「わたしたちは、【GOEMON】で筋肉も脳もきたえました!」
 厳しい――厳しいアスレチックだった。
「つまりいまのわたしたちはさいきょうにつよいということです! ゴリラも重力もついて来れない!」
 眼鏡クイっとするヨシュカのドールアイには、並々ならぬ自信が漲っている。
 あと『そうです! 最強です!』とか言う、謎の声も再び聞こえてたらしい。やっぱり幻聴だろうか。
「これぞ鍛えられた脳(筋肉)による最高に頭のいい作戦。ブンブリョードー!」
「……それもそうですね!」
 そんなヨシュカの言葉を聞いてる内に、神楽耶も出来る気がしてきて頷いていた。
 そんな2人に、ヘンリエッタは黙ってサムズアップ。
 こうして3人は、あまり深く考えずに内なる筋肉の声に従って、岩石回廊に飛び込んでいった。

●鍛えた筋肉と脳の前に敵はなし
 ゴロゴロー!!!
 ゴロゴロゴロー!!!
 あちこちから、巨大な岩が転がる硬く重たい音が響いている。
 実際、音だけではなく岩も転がって来るのだが、3人は音も岩の置き去りにして回廊をずんずん進んでいた。
「バランスボール地獄に比べた怖くないですね」
「これぞ『ごっつ・ええ・きんにく・おんすてーじ』の成果です!」
 【GOEMON】で色々と鍛えられたヨシュカと神楽耶は、巨大な岩が転がって来た程度ではもうビビらなくなっていた。
 人間、極限まで精神が削られると恐怖に麻痺すると言うが、その境地だろうか。
 だがしかし、岩石回廊で障害となり得るのは岩石と重力だけではない。

「2人とも、出ましたよ」
 先頭を行くヘンリエッタが、それに気づいて後ろの2人に止まれと合図する。
 見れば、行く手を阻む様にゴリラっぽいゴリラじゃない生物――ゴリラモドキ、またはグラビティゴリラの群れが並んでいた。
「2人は【GOEMON】を頑張りました。だからここは私が」
 そう言い残し、ヘンリエッタが駆け出す。
「わー! 先生頑張れー!!」
 その背中に声援を送りながら、ヨシュカは鍼を投じた。
 千本とも呼ばれる、一種の暗器。それを経絡に放つ事で、身体を癒すと同時に戦闘能力を高める鍼の業。
 天泣――アマナキ。
 だいぶ脳が筋肉になっているヨシュカだが、覚えた業は忘れていなかった。
「レディー、ファイッ!」
 神楽耶が掲げた『穂垂ノ鈴』が、チリーンと涼し気な音を鳴らす。
 曙送りの祝り音――ホタルノヒカリ。
 ゴング代わりに響いたどこか懐かしいその音は、歩き始めた背中を押す音色。音に共感した全ての戦闘力を強化する神楽鈴。

(「――今日の気分は?」)
 鍼と鈴の力を受けて進むヘンリエッタは、白を翻していた。
 黒か白か――デッド・オア・ダイ。
 マントの色で効果が変わる、自己を強化する業。握った拳に力が籠る。
 ゴロゴローッ!
 そこに転がって来た巨大な岩を見もせずに、ヘンリエッタは右の拳を叩きつけた。
 ズドンッと入った拳の衝撃で岩が止まり、更にビシッと縦に亀裂が入って、岩は真っ二つに砕け散る。
「おおっといきなり決まった――岩砕きだ!!」
 実況役に戻った神楽耶がやや興奮したような声を上げる。
「さてゴリラ」
 2つに割れた岩の片方を無造作に投げ捨てて、ヘンリエッタはグラビティゴリラに改めて視線を向けた。
「静かに渡ってやるから良いものを頂戴」
 ヘンリエッタの視線の先では、グラビティゴリラたちはその場で固まっている。意地でも阻む――という様子ではない。
 むしろあれだ。蛇に睨まれた蛙状態。迂闊に動いたら死ぬ――そんな恐怖感。
「早く頂戴。それとも腕相撲でもしますか? あ??」
『ウホ! ウホホホホッ! ウボゥ!』
 ヘンリエッタが腕相撲の構えを取って急かすと、グラビティゴリラ達は何やら慌ただしく動き出す。
「重力異常などものともせず、ゴリラモドキに勝利しました!」
「やったー! かっこいい!」
 グラビティゴリラ達のそんな様子に、神楽耶はヘンリエッタの勝利を宣言する。
 その隣では、ヨシュカもキャッキャと声と身体を弾ませていた。
 3人は知る由もなかったが、既にこの時、グラビティゴリラは腕相撲で苦い敗北を喫した後であった。
 そしてその敗北の中でも――岩を素手で砕くと言うのは、グラビティゴリラ達は見ていなかった。つまりヘンリエッタはよりやばい相手として、グラビティゴリラ達の目に映っていたのである。
『ウホホーッ』
 やがてヘンリエッタが広げたマントの上に、グラビティゴリラの掌いっぱいの種籾が差し出された。
「よろしい。約束通り、静かに渡ってやりましょう。行きますよ、2人とも」
「勝者の報酬として、種籾もゲットです。さすがですヘンリエッタさん。これが覇者の風格というものなのかッ!」
「種籾! 種籾!」
 剛力で種籾せしめて進みだすヘンリエッタの後に、神楽耶とヨシュカもやや興奮しながら続いていく。
 そのままグラビティゴリラの縄張りを抜けて――やがて3人の視界に、岩石回廊とは違う景色が見えてきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月16日


挿絵イラスト