帝竜戦役⑨〜終焉を待つ原初の獣
●創世巨獣は勇士を待つ
その帝竜は沼沢地を引き裂きながら浮上した。
その背の棘は一つ一つが天を貫く槍を束ねたような鋭さで、獣毛と皮膚は千引の岩をも断ち割る戦神の斧ですら弾き返すだろう。
三日月のような鋭い爪は容易に土砂を抉り、掘り進めばどこまでも深く遠くまで辿り着く事が出来るだろう。
なによりその生命力。あらゆる生命の進化と絶滅が絶えず繰り返される、その揺籃としての強靭な肉体。
あらゆる獣の優れた部分を集めたような、逞しく美しい巨獣。
だが、その巨獣の意思ではどうしようもない程の破壊の力が肉体に溢れていた。
存在してはならない存在――誰かに殺して貰えなければ世界を殺してしまう、そう創世巨獣は恐れている。
自身を殺してくれる勇士、その訪れを『帝竜ガルシェン』は待っていた。
「みんな、ちょっといい? 帝竜についての予知が引っ掛かったんだけど」
グリモアベース、祓戸・多喜(白象の射手・f21878)が白象の巨体を揺らし猟兵達にそう告げる。
「今回見えたのは『帝竜ガルシェン』、群竜大陸の沼地を割って出てきた何十キロにもおよぶ巨大な竜よ。もう本当山みたいね」
そう軽く言う多喜だが、その表情は険しい。
「遠くから見るとモグラのようにも見えるけども……とにかく強い。猟兵を殺す毒を宿した新種の巨大生物を生み出してきたり、外敵を飲み込み自爆する虫のような翅を生やした数百体の巨大スライムを召喚してきたり。そして巨大な薔薇を生やしてただでさえ大きな体を三倍にした創世巨獣形態に変身してきたりするみたいよ。元のサイズが規格外でそれを活かしてくるからとにかく厄介ね。それにガルシェンは先制攻撃をやってくる……だけれどどこかに勝機はあるはず」
そう言う多喜は信頼に満ちた目で猟兵達を見る。
「とにかくまずは耐えないと始まらない。凌ぎ切っても守り、というか生命力も凄まじいけれど皆ならきっとなんとかできるって信じてるから」
それじゃ、お願いね。そう締め括った多喜は、猟兵達を転移させる為グリモアを輝かせた。
寅杜柳
オープニングをお読み頂き有難うございます。
こんな姿だったようですね。
このシナリオは毒ガスの蔓延する広大な沼沢地を割って現れた『帝竜ガルシェン』と戦うシナリオとなります。
また、下記の特別なプレイングボーナスがある為、それに基づく行動があると判定が有利になりますので狙ってみるのもいいかもしれません。
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プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
(敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります)
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それではご武運を。
皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『帝竜ガルシェン』
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POW : 創世巨獣ガルシェン
【獣の因子】を使用する事で、【巨大な薔薇】を生やした、自身の身長の3倍の【創世巨獣形態】に変身する。
SPD : アンチイェーガー・ギガンティス
いま戦っている対象に有効な【猟兵を殺す毒を宿した『新種の巨大生物』】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : 防衛捕食細胞の創造
召喚したレベル×1体の【外敵を飲み込み自爆する『巨大スライム』】に【虫を思わせる薄羽】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
イラスト:桜木バンビ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
死之宮・謡
アドリブ歓迎
んー…こうも大きいとまともに削れんよなぁ…まぁ良い
地道に削って征こうか…
死にたいのだろう?ならば大人しくしていろ…私が貴様を殺してやるから
唯、私のために、な
・WIZ
黒障壁(呪詛・全力魔法・占星術)でスライム共を足止めしながら
【不条理の腕】を発動して逆にスライム共をガルシェンに突っ込ませる
その後飛翔(全力魔法)して背に乗り、闇呪宝玉をグレートアックスに変えて叩きつけて回る(怪力・鎧砕き・衝撃波・2回攻撃)
途中で連鎖黒炎(呪詛・属性攻撃)もばら撒いておく
トゥール・ビヨン
大きい
これが創世巨獣ガルシェン!
うん、わかってる
キミをその呪われた意志から解放してみせる!
パンデュールに搭乗し、操縦して戦うよ
きっとあの薔薇が何かガルシェンに作用してるんだろう
先ずはあの薔薇を落とす!
まともに正面から進んでも辿り着くのは困難だろう、なら敢えてガルシェンにパンデュールごと飲み込まれて体中からあの花の元まで向かおう
ガルシェンの体内も安全じゃないだろうけど、ボクとパンデュールの力で道を切り開いてみせる
体内を進み、巨大化などの影響か強そうな場所に出たらUCを使用しガルシェンの体表に向けて中から穴を開けて脱出、そのまま薔薇を切り刻んで落とそう
持ちこたえてくれ、パンデュール!
アウル・トールフォレスト
(※好きにお任せします)
そう、わかったよ
わたしも殺すのを手伝ってあげる
けれど大きなあなたには、今のわたしじゃ小さいみたい…
だから
わたしも本気を…ううん
少しだけ、無理をするよ
先制攻撃には防御を取る
オーラも展開して、兎に角只管に耐えて、
そして
【開花の時は来たれり、我は天地囲う世界樹なり】
終わりを告げる「神体」に変貌して巨大化――文字通りに、世界を覆うほどの巨体に
世界には世界を。けれどわたしは終末に聳え立つ破滅の大樹
終わらせるために、本能に任せたままに襲いかかる
わかるの
あなたとわたしはよく似ていると思うの
創世と終末、輪廻と破滅。ただ役割が違うだけで
あなたの望み、痛いほどにわかってしまって
だから
水貝・雁之助
成程かなり厄介な感じの敵さんだね
でも此れだけ大きければ最早、地形みたいな物
そして地形を利用する事に関しては此れでも自信があるんだなー
沼地は『地形耐性』で適応
『地形を利用』し敵が沼地に突っ込む様にしたり敵の数を活かして互いが互いを攻撃しあう様に誘導したり帝竜の体を盾にする、つまり『敵が盾になる』様な位置取りを心掛け敵の攻撃を凌ぐ
凌ぎきったら『地形の利用』をし帝竜の足が沼地の深い所に踏み入れ体勢を崩させる様『敵を盾にする』事によるスライムの相打ちやスライムの帝竜への激突による自爆からくる爆発等も利用して誘導
其の隙をつき悉平太郎を呼び帝竜という『地形を利用』し其の体を駆け上がって目狙いの『部位破壊』
ケイ・エルビス
アドリブ連携歓迎
先制攻撃してきた羽の生えた巨大スライムに
早業、野生の勘で判断し覚悟を決めダッシュ
スライムに自分から飲み込まれ
服の下に着込んでるフィルムスーツとオーラ防御で
自爆に何とか気合で耐えきる
その後カウンターで保護し隠し持っていたトランシーバーを
遠隔操作で作動
故障していた場合音声認識による大声で作動「来いアトラス!」
遥か上空に迷彩、目立たない、地形の利用で待機させていた
戦術輸送機「アトラス」を呼び寄せ
命中率の高い誘導ミサイル複数をスナイパー、誘導弾、乱れ撃ちで発動
猟兵達への援護射撃、鼓舞、時間稼ぎ
輸送機は早めに帰投させ被害を抑える
「的がデカいから楽なもんだ。さっきのお返しだぜ!」
フィロメーラ・アステール
「うおー、コイツは大きいな!」
宇宙では珍しくないスケールだけど!
地上だと比較するものが多いし、大きさが際立つ!
そして、さらに大きくなるのか!
……あの体の凹凸も大きくなるってこと?
【空中浮遊】して、敵の体の凹凸の隙間に素早く【スライディング】で飛び込む感じで攻撃から逃れる!
つまり【敵を盾にする】……敵自身の体を利用して、姿を隠したり攻撃を防いだりする戦法!
体にひっつくけど【忍び足】技術で【存在感】を殺し、敵の感覚を刺激しないよう動けば、見失ってくれるかな?
反撃チャンスには【成層圏・重力隕石落とし】発動!
【全力魔法】を込めた【踏みつけ】だ!
これだけ大きいと体が地形みたいなもんだし、効果ありそう!
シン・コーエン
故郷の伝説や両親の冒険譚で名前は聞いたが、実物を見るのは初めてだ。というかガルシェンって竜だっけ?
ともあれガルシェン殿の意志に応え、望まぬ偽りの生から解放しよう
先制で召喚された巨大生物に対しては、【第六感・見切り】で毒攻撃を予測し、【空中浮遊・自身への念動力・空中戦】で空を舞って回避。
最終手段として灼星剣の【武器受けとオーラ防御】で防ぐ。
そして【2回攻撃・炎の属性攻撃・衝撃波】で斬り倒す。
UC使用可能になれば、縦10㎝×横10㎝×長さ7.6キロの灼星剣皇を創造。
(フォースセイバー故に重さ無し)
「ガルシェン殿に敬意を表し、介錯仕る」と灼星剣皇を【2回攻撃・光の属性攻撃・鎧無視攻撃】で振るって介錯
ワン・シャウレン
帝竜の名に恥じぬ見事な偉容よな
どうも相手側にも事情がありそうなのがせめての糸口という所か
制御出来ておらぬ、それならば加減はないが技もなし
生まれる巨大生物とやらもただ生むばかりで統率などなし
本能でこちらを襲うが精々じゃろう
そう判断すれば速攻あるのみよ
水霊駆動を全力魔法を上乗せ起動
高速移動で巨大生物は極力相手せず抜いていく
追ってくるものも水で自身のダミーを生み出したり、水の壁や幕などでいなしていく
目指すはガルシェンの頭部
その図体で叩ける所など限られるしの
その意思に従い、元より出来よう相手でもないがこちらも加減なし
水霊の力と武術、持てる限りで狩りに行くのみよ
アリス・セカンドカラー
ま、私にとって肉体は飾りなので敢えて呑み込まれて自爆させるわ。それにより肉体の軛から解き放たれ(封印を解く)、魂が解放(リミッター解除)される。霊体になった私は防衛捕食細胞に憑依寄生(ハッキング/盗み攻撃)すると呪詛で私を感染(多重詠唱/集団戦術)させていくわ。
私に感染した防衛捕食細胞はサイトカインストームを引き起こし、あるいはアレルゲンに変異してアナフィラキシーショックを起こし、あるいは癌化して内側から捕食略奪して帝竜ガルシェンを蝕むでしょう(毒使い/医術/属性攻撃)。
ま、この変異もB.I.G EXPの妄想を具現化する世界改変や形態変化能力があればこその暴挙だけどね。
アリス・フォーサイス
うわぁ、ほんと、おっきいー。
召喚してくるスライムもおっきいね。
しかも飛翔能力があるから、隠れるのも大変そうだな。
囮の人形を投げつけたりして、自爆を誘えないかな。
うまく先制攻撃をやりきったら、エレクトロレギオンで機械兵器の召喚だ。
スライムの攻撃手段は自爆だから、数の有利を確保すれば怖いことはないはず。
機械兵器はスライムの囮役と本体の攻撃役に役割分担をして仕掛けていくよ。
ただ、臨機応変にね。
リオン・ソレイユ
ガルシェンか。
お伽噺に出てくる創世の獣も確かそんな名じゃったな。
どれ、ここは現役時代を思い出しつつ、巨獣討伐といくかの。
さて、助走も必要じゃ。
まずはエイスに騎乗し、空中にてダッシュして距離をとるかの。
あとは、敵の初動と、あの巨体が動く際の風の動きを見切り、天地を縦横無尽に駆けて回避。
シールドファランクスの障壁をその巨躯に合わせて鋭く尖らせ展開し、極光の外套に仕込まれたゼルフォニア鉱によるオーラ防御を重ね突進。
奴と同じ、創成の獣の名を冠した鉱石、その力をもって奴を穿ち貫くぞい!
「優しき獣よ、眠るがよい!」
ナイ・デス
ガルシェンさん……忘れてはならないこと、ですね
オブリビオンは、元から悪であるとは、限らない
歪められた存在も、いる、と
……救いましょう。せめて、安らかな死を
骸の海に、還してあげます
【念動力で空中浮遊】して、ガルシェンさんに近づきます
自爆攻撃は【オーラ防御】と
【覚悟、激痛耐性、継戦能力】本体無事なら、再生する体。どれ程にぼろぼろになっても耐えて
抵抗、しないでくださいね
『守護の光』で触れて、吸い込む
縦横高さ10億m以上の空間
数十km(数万m)程度、余裕
……光の中で、おやすみなさい
捕らえ、3倍なっても平気だから
『クラウモノ』(だいぶ加減してナイくん)発動
眠るように消滅できるよう、優しく【生命力吸収】
●創世巨獣、相対
大きい、超常鎧装パンデュールに搭乗するフェアリー、トゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)に真っ先に浮かんだのはその驚きだった。
パンデュールも常人よりは大きい。フェアリーである彼の身の十倍はある。だが、この創世巨獣という存在は桁違いだ。
「これが創世巨獣ガルシェン!」
「うおー、コイツは大きいな!」
きらきらした星の粒子を纏うフェアリーのフィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)はガルシェンのその大きさに感嘆したように言う。宇宙怪獣等の宇宙スケールで見るなら珍しくないスケールではあるが、地上だと大きさの比較になる見慣れたものが多い為その大きさが際立つ。
ただでさえ種族的に小柄なフェアリーであるフィロメーラだが、眼前の帝竜にとっては猟兵達の大きさに然したる違いはないのだろう。
「帝竜の名に恥じぬ見事な偉容よな」
ふう、と見上げるワン・シャウレン(潰夢遺夢・f00710)。ミレナリィドールとしての稼働年数もそこそこだがこの巨大な存在感には素直に感嘆の声を漏らしている。
「うわぁ、ほんと、おっきいー」
「成程かなり厄介な感じの敵さんだね」
見上げる情報妖精の少女、アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)とシャーマンズゴーストの水貝・雁之助(おにぎり大将放浪記・f06042)はどこかのんびりした口調。現実感がないのかこの位見たことがあるという余裕からか。
「ガルシェンか。お伽噺に出てくる創世の獣も確かそんな名じゃったな」
顎髭を軽く撫でながらリオン・ソレイユ(放浪の老騎士・f01568)は自身の記憶を手繰っていく。
「というかガルシェンって竜だっけ?」
シン・コーエン(灼閃・f13886)も故郷の伝説や両親の冒険譚でその名前は聞いた事があるが、実物を見るのは初めてだ。
「……土竜みたいじゃから竜なんじゃろう。多分」
そういう老騎士も自信はなさそうだ。そもそもこの形状を正確に物語に言い表せるかと聞かれれば二人は首を傾げてしまう。無数の動物の優れた個所を集めて混ぜこぜにしたような、或いはその逆で優れた場所が無数の動物に分割されていったのか。
御伽噺により語られるところでは、大いなる地母神と深淵の海神の間に生まれ死した後に多くの生命の礎になった、或いはその骸はその内に住まうものに大いなる力を与えた、或いはその心臓はとても価値のある宝石であるんだとか。
当然ながら御伽噺らしくどこまでが真実なのかは分からない。けれどもこの巨体を見上げる限り、そのなにもかもが嘘だとは否定し辛い迫力がある。
しかし、その瞳は巨体の威圧感に反してどこか哀しげに見える。
「――うん、わかってる。キミをその呪われた意志から解放してみせる!」
いずれにせよガルシェンは偽りの生を望んではいなくて、望まれぬ歪みは正さねばならない。
届いているかは分からない。だが、トゥールはその超常鎧装越しにその解放を誓った。
――自分とガルシェンはよく似ていると思う。
創世巨獣の巨大な体を見上げ、アウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)は静かに思う。
創世と終末、輪廻と破滅。対になるその両端、役割は違えどこの巨獣の望みは痛い程にわかってしまう。
だから、
(「そう、わかったよ。わたしも殺すのを手伝ってあげる」)
バイオモンスターとしての普通よりは大きな体、それでもこの巨獣には全然届かない。少なくとも、この状態では。
だからアウルは少しだけ無理をしよう、そう決めた。
ガルシェンの背から緑棘の茎が伸び、ガルシェンの背の最も高い位置に達した先端で蕾が開花する。帝竜の頭程もある獣の因子により生み出された赤き巨大な薔薇は力を重ね、それを束ね上げてガルシェンへと力を注ぎ込みその肉体をさらに巨大なものとする。
けれどフィロメーラは驚かない。元々の差が大きいのだから三倍になっても大して変わりはないという事か。それよりも、とフィロメーラの視線はガルシェンの体表に向いていた。
「ガルシェンさん……忘れてはならないこと、ですね」
オブリビオンとして骸の海から現れた存在であっても、その元となった存在が悪であるとは限らない。
この帝竜もそのような存在なのだろうと、ヤドリガミのナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)は思う。
「……救いましょう。せめて、安らかな死を」
――骸の海に、還してあげます。決意を以て、眼前の山脈のような巨体に咲く赤薔薇を見上げる。
創世巨獣が足を上げ、毒沼に降ろす。それだけの動作で底なしの水瓶をぶちまけたような派手な毒の津波が沼地に大きく立ち上がる。
だが、それは唯の踏み込み。踏み込んだ上で創世巨獣はその前脚を猟兵達に向け横薙ぎにする。その鋭き爪もこのサイズとなれば最早巨大な壁、それが恐ろしい速度で猟兵達を薙ぎ払わんとする。
第一波の津波が先に到達する。
「どれ、ここは現役時代を思い出しつつ、巨獣討伐といくかの」
そしてリオンは軍馬の星霊グランスティードのエイスへと騎乗し、空を跳ねる。そして空中で振れたガルシェンの爪を足場に真上へ駆け上がり、その一撃をやり過ごした。
巻き上げられた毒沼の飛沫もその外套で弾き、そしてガルシェンの追撃を天地を駆ける加護を持つエイスのダッシュにより回避し、そして前脚を足場にガルシェンの頭部へと一気に駆けていく。
そしてシンは空を舞い回避していたが、そんな彼に巨獣が襲い掛かる。
召喚された足を持った巨大な鯨、さしずめ地鯨とでもいった所か。
全身に猟兵をも死に至らしめる猛毒を纏い、その巨大な体で押し潰そうとするが、シンは自身に念動力を働かせ大きく間合いを取りつつ空を舞い回避する。
他を見れば、ガルシェンが出現する時に共にせりあがった巨岩。その上で毒の津波をやり過ごした雁之助、その鳥のような仮面の赤い瞳はその重心をしっかりと見極めていた。踏み込んだ側の前脚、その足元を崩せば動きそのものを大きく縛ることも出来るだろう。
だけれどもガルシェンは巨大すぎる。
その巨体は単純な重量だけで凶悪な武器だ。多少地形をどうこうする位では力業で抜け出してくるだろう。
地形を利用する事には一家言ある彼がどうしたものかと思案していると、津波の中で何かが光ったように見えた。
その毒の津波をオーラを展開し、その頑丈な足で流されぬようにアウルは踏みしめ耐えていた。
全身に走る痛み、多くの耐性を持つ体に自生している苔植物も変色し始めている。
その波は高さを増していき、アウルの背を超える。だけれど、準備は整った。
「――あ――ぁ――a――A――iyA――AAAAAAAAAA!!!」
毒の中からの叫び、それは彼女のユーベルコードの発動の先触れだ。頑丈な脚は樹の幹のように太く、それが支える体はガルシェンに並ばんとするかのように巨大となっていく。
それは星を侵食し、拡張し続ける神体。放置すれば創世の獣すらも飲み込む巨体になる可能性を本能で恐れたのか、ガルシェンはその成長を終える前にアウルに前脚を叩きつけ、さらに全体重をかけて真上から踏み潰さんとする。
けれど終末に聳え立つ破滅の大樹にも似たアウルはその創世の獣の拒絶を否定せんと巨大化を続け、抑え込まれながらも頭上のガルシェンの腹部へと龍脈の実体のない光の槍を本能のままに振るい、突き立てていく。
アウラが真下から押し上げる事でガルシェンの動きは大きく制限される。
持久戦では勝ち目がないと猟兵達は直感していた。動きが制限されている今がチャンス、猟兵達は一斉にガルシェンへの侵攻を開始する。
●ガルシェンを登る
ある猟兵は沼地を踏みしめる前脚から登ろうとする。
今は巨大化したアウラを抑え込むために動きが制限されているようだが、その拮抗が崩れれば身動ぎしただけで遥か彼方まで吹き飛ばされかねない。
しかし、それだけ大きければ最早地形のようなもの。地形を利用する事はえっちらおっちらとガルシェンの首元にまごまご登ろうとする雁之助にとっても自信がある。
そんな彼らに無数の翅のスライム、そしてガルシェンの体表を伝って降りてきた新種の巨獣達が毒沼の猟兵達を捕食せんと襲い掛かってくる。
(「どうも相手側にも事情がありそうなのがせめての糸口という所か」)
圧倒的に巨大なガルシェン、しかしそれを打ち倒すのが猟兵としての役割だから、ワンはそう思いながらも勝算を検討する。
破壊の意思、制御できぬそれの力は加減なし、だが技もなし。
生まれ来る巨獣や飛翔するスライムは数限りなし、だが統率などなしの本能のみ。
ならばと、ワンの首の紺碧のリングが淡く輝き、流水と力場によりその身体を一気に前方へと押し出す。統率も技もないなら余計な事をやる前に速攻あるのみ、ガルシェンの巨体の隙間を地形に自在に合わせる流水のような滑らかさですり抜けていく。巨体が邪魔して攻撃を上手く行えない巨獣達をワンはその洗練された動きで突破していった。
巨大化したガルシェンだが、その棘や皮膚などの比率はそのまま。つまり体の凸凹も巨大化しているという事で。
ガルシェンの初撃をその凸凹の隙間に飛び込む事で回避したフィロメーラは、その小柄な体で隙間を縫うようにガルシェンの頂上へと向かっていた。
帝竜の防衛機構たる細胞や生物はいずれも巨大、ガルシェン自身は言わずもがな。
凸凹の隙間を音もなく存在感を消して姿を隠しながら飛びまわるフィロメーラを捕らえる事は困難であった。
そして雁之助は冷静に頑丈なアリアドネの糸球とペイントブキを構え迎撃にかかる。沼地を利用し糸球から引っ張り出した糸をトラップにし、スライムの翅の付け根を絡め取る。さらにガルシェンの沼に沈めている側の足を壁にしてスライムの突撃を防ぐと、そのまま駆け上がっていく。
敵の移動手段は翅、それなしではその巨体もあってか素早く動く事も困難なようで、ガルシェンの前脚を駆け上がる猟兵達への追撃はない。
ワンを追いかけるように細身の海蛇のようなの巨獣が帝竜が皮膚に生やした針山をかき分けながらも高速で追いかける。その牙は猟兵をも殺害せしめる猛毒を吹き出す致命の武器。それを比して小さなワンに食い込ませようとする。
「さて、舞うとしよう」
からかうようにワンが振り返り嗤い、ユーベルコードを起動する。宿した精霊――流水と夜雨の精霊の加護を纏う彼女は更に速度を上げ、海蛇巨獣の長い体を置き去りにしつつ変幻自在の流水を放射した。流水の威力は加護を帯びているだけに強烈、ほんの一瞬動きが止まった隙にワンの体はガルシェンの体表を滑るように泳ぐように進んでいく。
(「んー……こうも大きいとまともに削れんよなぁ……」)
端すら霞んで見える程の巨体、それを前にどこか暢気に死之宮・謡(狂魔王・f13193)は構えつつ、踏みしめたガルシェンの前脚を跳ねるような軽やかさで登っていた。
羽音がする。その先を見ればガルシェンの身体から湧き出したスライムが翅を羽ばたかせ猟兵達に襲い掛かろうとしている。
相手が巨大、そんなことは些細な事。この死を望む巨獣を殺すには、人なる身で地道に削って征くしかないのだから。
「死にたいのだろう? ならば大人しくしていろ……私が貴様を殺してやるから」
それは巨獣への憐憫でもなく、唯彼女自身のため。
迎撃するかとその呪詛を以て仕掛けようとした謡、だけれどその前に一本の鞭が下から伸び、体を引き上げたケイ・エルビス(ミッドナイト・ラン・f06706)がスライムの体へと飛び込んでいく様子が見える。
鞭を巧みに操り体表の突起に巻きつけ体を引き上げた姿はさながら冒険者、スライムの体が波打ちケイをその身に取り込んだ瞬間、液体の体は爆発する。
覚悟を決めて着込んだフィルムスーツの上からオーラを全身に纏い全力で防ぐが爆発の破壊力は強烈。どうみてもケイの意識は飛びになっている。
けれど彼は自信の負傷など構わずに服の下に隠していたトランシーバーを取り出すと、
「カードは揃った。『アトラス』、ショータイムだぜ!」
そう大声で呼びかけユーベルコードを起動した、すると天を衝く程に巨大化したガルシェンのさらに上空、雲の中に潜んでいた彼の戦術輸送機が高度を落としてくる。
そしてガルシェンの鼻先に兵装をロックオン、誘導ミサイルを発射。直後、ミサイルの爆発音がガルシェン頭部周辺の戦場に響きわたる。
登りゆく猟兵達を支援するように誘導ミサイルが翅のスライム達を撃ち落としていく。
(「的がデカいから楽なもんだ。さっきのお返しだぜ」)
ガルシェンの頭部を見上げケイはその眼に一撃を加えようとするシャーマンズゴーストを支援。
ただ、この位が頃合いだろう。トランシーバーで輸送機に帰投命令を送り、飛び去っていくアトラスの姿を見送りながら彼は傷の手当てを行う。
そしてそんなケイの横をその念動力による空中浮遊で上昇していくナイの姿。
爆撃の余波で密度こそ下がっているものの、翅のスライムがヤドリガミを喰らわんと襲い掛かる。
捕食、自爆。その身に纏うオーラで被害を抑えるも、その顔が少し曇る。
耐性なしには厳しい痛み、けれど彼女の本体はヤドリガミ。それさえ無事であるならばいくらでも体はボロボロになっても耐えられる。
そこから少し離れた場所、一人のダンピールがガルシェンの体をとんとんと階段を駆け上がるような気軽さで登っていく。
彼女、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)にとっての今この時点の肉体は飾り、だから彼女は向かってくる翅のスライムを見遣ると、全く躊躇う事もなくその身を巨大なスライムに飛び込ませた。
ダンピールを飲み込んだ翅のスライムは即座に自爆、サイズ相応の巨大な爆発と共に周囲に構成していた液体を撒き散らす。
後には、誰もいない。ただ言い知れぬ不安感がその場に漂ったままだ。
一方で、脚を上らずにガルシェンの頭部を目指す者もいた。
例えばリオン。創世巨獣の巨体だけあり、ほんの僅かに力を込めるだけで周囲の空気が動く。その為、風の動きを読めば行動の起こりはまだ読み易い。多くの戦場を越え、英雄と呼ばれた老騎士はその経験を活かしガルシェンの頭部を真っすぐに目指す。そして、それにやや遅れる形で念動力で飛行するシンもそれに続いた。
「スライムもおっきいね。それに飛翔能力もあるから隠れるのも大変そう」
冷静に分析しながら飛来するスライムの一撃を躱すアリス。フック付きのワイヤーを射出しガルシェンの体表に張り付かせ、巻き取る事でスライム達から距離を取ろうとするが、翅を鳴らして巨大なスライムは追い縋ってくる。
囮の人形を投げつけてみるも、スライムが獲物を捕食したとの認識でないからか、スライムの体内にぷかぷかと浮かんでいるだけで自爆の気配もない。
どうしたものかとアンブレラを広げ、創世巨獣の動きにより生じた風に乗り軌道を上向きに変えて思案する様子のアリスにスライム達は迫ってくる。
まあ、既に準備はできているのだけれども。エレクトロレギオンを起動すれば、数百体の機械兵器の群が傘で空飛ぶ少女の周囲に展開、数体がスライム達へと飛び込む勢いで襲い掛かる。
液体ボディは上手く切断できないけれど、その中に飛び込みブレードを振り回せばそれを捕食した敵と認識したのか自爆。
衝撃波に数機は消滅してしまうが、それでも数は此方の方が圧倒的に有利。
スライムを撃退する為の囮に半分、ガルシェン自身を攻撃する為に半分を割き、スライムの自爆による風圧に乗ってアリスはガルシェンの全体像を観察する。
近づいてみてみればその威圧感には凄まじい。それなりに距離があるにも関わらず、眼球だけでも上と下を視界に収め切れない程。
けれどもアリスは調子を崩さず、まずは近づいてみようとアンブレラに受ける風を調整してふわりと体をガルシェンの頭部へと向かわせた。
バンデュールを操縦しガルシェンの首元まで飛行させながら、トゥールの頭脳は思案する。薔薇はどこから伸びているのか、それはガルシェンの背中からだ。ならばその下は?
あの禍々しき赤薔薇がガルシェンに何かしら作用していることは疑いない。だからそれを落とす事をトゥールは第一の目的に定めている。
けれど、その目的を果たすためにはあの大きく暴れまわるガルシェンの表皮を登り、さらには山脈の頂上に登るような難事を成し遂げなければならないだろう。
――本当に、そうだろうか。
どこからその薔薇は来ているのか。例えば。
「――心臓だ! 行ってくる!」
トゥールは躊躇わずにガルシェンの口内に飛び込む。その薔薇の根を目指し、剪定、さらにはその上の茎や花弁を破壊する。
体内と体外、どちらが目的に近いかはわからない。けれどフェアリーの青年の勘は其方が正しいと告げていた。
機械鎧の言葉に続き、リオンとシンがガルシェンの体内へと突入、さらに情報妖精のアリスも飛び込む。無数の進化と絶滅、つまりは無数のクライマックス。
それが物語なのかは分からないけれども、何となくこの先を見てみたいような気がしたのだ。
けれどガルシェンの口内に飛び込もうとする猟兵達に、スライムの群が殺到する。体内に侵入しようとする者どもを止めようとするスライムだが、彼らの前に黒き障壁が突如出現、へばりつき勢いが止まった瞬間その姿が掻き消える。
そして障壁から入れ替わりに翅の巨大スライムが出現、ガルシェンの口内に取りつき自爆した。
相手の能力をかき消して代わりに自分がその能力を放つ不条理極まりないユーベルコードを放った謡は飛び込んだ猟兵達の姿を確認した後、ガルシェンの背へとその魔術で飛翔する。
そしてその同士討ちしたスライムを利用するのは雁之助。地形を利用し上手く自爆に多くを巻き込むように誘い、そして帝竜の眼――その大きさから上瞼すら数百メートルは遠くに在るそれを見遣る。
「悪逆を為せし非道の猿神を討ち滅ぼせし悉平太郎! 人々の涙を止めるために僕たちに力を貸して欲しいんだなー」
彼がユーベルコードを起動すれば召喚されたのは猿神殺しの柴犬の霊、驚くほどの速度で柴犬は地形と見紛うガルシェンのごつごつとした皮膚の上を走り、眼球をも駆け上がりながら牙と爪を突き立て引き裂いていく。
流石にそこは急所だったか、ガルシェンが大きく頭を振るい、そして翅スライムの群がガルシェンの瀑布のような質量の涙と共に溢れだす。
しかし悉平太郎は猿神すら弑した柴犬の霊だ。スライム達の間をすり抜け手早く右目を傷つけ続けていく。
変幻自在の水を操り加速したワンは、足に纏わせた水をガルシェンの鼻先に裂帛の気合と共に蹴りつける。
そんな彼女を止める為に猛毒の新種の巨獣がガルシェンの眼窩から飛び出してくる。地鯨の巨獣は真上からワンへと飛び掛かり、全身で圧し潰した。だがそれは流水により形成されたダミー。撒き散らす猛毒も水の遮幕で防ぐワンが目指すは帝竜ガルシェンの頭部、これだけの巨体であるなら余程の火力でない限り有効打を与えられる場所は限られている。
元より加減などできる訳もない。ただ全力を叩き込むだけだ。襲い掛かってくる巨獣に水霊の力と体得した武術による連撃を叩き込み迎撃しながら、水を操り高速で移動するワンはガルシェンの頭頂部から衝撃を中に届かせるように強烈な水の一撃を加えた。
●体内を往く
山と同じ巨体を真っ向から倒せるかといえば、それは正直厳しい。だからこそ猟兵が目指すは意識、あるいは生命の核となる部位。
例えば脳、例えば心臓。
頭の方は頻繁に動いているため移動すら困難、体内に飛び込んだ四人の猟兵が目指すは心臓だ。
何十kmにも及ぶ巨体の中は相応の空間、けれども体表とは違い、何故か翅スライムや巨獣達と遭遇する事はなかった。
その原因は体内に在った。
(「上手くいったみたいね」)
そうほくそ笑むのはダンピールのアリス。スライムの自爆により精神をダンピールの肉体の軛から解き、サイキックの塊――或いは魂と化したアリスは霊体をガルシェンの体内に潜り込ませていた。
彼女のユーベルコードが爆破とほぼ同時に起動、召喚した人工未知霊体の霊による形態変化と妄想具現化能力により自身をそのように変化させたのだ。
そして手近な防衛捕食細胞に憑依、そこから周囲に彼女の霊体を感染拡大させ防衛捕食細胞を暴走させていく。周囲を敵と認識し手当たり次第に捕食、そして自爆。それを食い止めるかのように正常な防衛捕食細胞が襲い掛かっていく。
しかも霊体であるアリス自身は損なわれる事無く周囲に自身を乗せた呪詛を拡大させていく。そしてそのまま創世巨獣の巨体を内側から砕こうとしたのだ。
だが、創世巨獣も伊達ではない。その体内は無数の進化と滅亡が繰り返されてきた領域、それら全てを受け止めていた肉体の恒常性維持能力は尋常ではなかった。
血流、代謝を落とし全身への感染拡大を食い止め、異常な防衛細胞に対抗する為の呪詛への抵抗を持った巨大生物、防衛細胞を即座に生み出し、アリスを迎撃せんとその生命力をフルに働かせる。
そして、其方に力を割いた分生まれた大きな隙を四人の猟兵は行くのだ。
そして体内を征く猟兵達は構造物のようにも見える領域へとが辿り着く。そこは大悪魔でも召喚できそうな暗闇の空間、光で照らし出せば見えたのは巨大な建物のような残骸、ガルシェンが動き出したからなのか、多くは崩落しただそこに何かがあった、という痕跡のみが残っている。
一部が動物のようにも見える巨大な人型の骨が転がっている。それはかつて体内でガルシェンの体内で進化し、そして絶滅した生命の一つなのだろうか、と情報妖精のアリスは推測する。
けれど何があったかに思いを巡らせるのはまた後、今は心臓を目指し彼らは周囲を探索、そして天井から伸びている血管のような生物的な管、位置から恐らくは心臓も近いだろう。その管に潜り込み、暗い道をずっと進んで行けば、猟兵達は赤き色に満ちた空間――ガルシェンの心臓へと辿り着いた。
心臓には巨大な棘の生えた緑の茎が絡みつき、喰い込んでいる。ガルシェンの心臓、この獣の根源、因子。もしかすると外の赤薔薇はここを起点に外へと伸び、開花しているのかもしれない。
心臓を守るために多くの抗体の役割を果たす生物――スライムと巨大生物がみっちりと集中している。そして人のような獣のような、巨人。牛の角と蟷螂の鎌の腕を持つそれは、心臓に訪れた侵入者の姿を見るや否や、理性などないような咆哮と共に毒を纏うの鎌を振るい襲い掛かる。その動きを見切り回避するが、地鯨がその飛び上がり全体重で圧し潰さんとしてくる。同時に翅スライムも猟兵達に襲い掛からんとする。
「ゼルフォニアよ、我に力を!」
だが、それらの抵抗にリオンが対抗。漆黒の剣を構え、展開した極光の障壁を前面に光速の突進、巨獣達を後退させる。
外套の裏地に仕込まれたこの帝竜と同じ創世の獣の名を冠した鉱石の輝きはその障壁を拡大、強化。その猛毒一滴すらも後方には通させない。さらにアリスの展開した機械兵器群がスライム達への囮となり、その攻撃を妨害する。
こじ開けられた一瞬の隙、トゥールは躊躇わない。
「これがパンデュールの力だ!」
超常鎧装が光の羽を纏う真の姿をさらけ出す。代償はそのエナジー、全力を示すにはこれ以上ない位おあつらえ向きな状況だ。
双刃の薙刀をパンデュールが振るう、肘関節から発生したエナジーソードをも縦横無尽に振るい、巨大な薔薇の茎を切り裂き切り裂き、そしてその茎を伝いガルシェンの背へ全力で加速していく。
当然ながら多くの防衛機構、猛毒巨獣が宿主を守ろうとする。吐かれた毒を掌のビームシールドで弾くが数が多い。だからトゥールはそれらをも置き去りにする速度で振り切っていく。それはパンデュールの限界を引き出し続けるような行為で、当然ながら長くは保たない。
(「持ちこたえてくれ、パンデュール!」)
だが、鎧装のフォースオーラを絞り出しながらトゥールはパンデュールを信じ、速度をさらに加速させ、そして。
●背中、ラスト
ガルシェンの背に重量物が叩きつけられる音が響く。
呪詛の宝玉をグレートアックスの形に変え、謡がその強靭な棘と皮膚へと叩きつけ断ち割っていく。しかし針鼠の棘のようなそれは恐ろしく頑丈、皮膚の方も罅を刻むことはできるがすぐに治癒してしまう。
合間に飛来する翅スライムを呪詛の黒炎をばら撒き撃ち落としているがどうにもキリがなさそうだ。
そこにトゥール、そしてパンデュールが飛び出す。その勢いは留まることもなく、螺旋を描くように薔薇の花弁へと速度を上げていく。
咲き誇る時はもう終わり、今が収穫――年貢の納め時だ。
それを反撃のチャンスと見極めたフィロメーラは中から飛び出してきたバンデュールに続いて空へと飛び、赤薔薇を置き去りにしてさらに高く魔で飛翔。
気温も下がり空気も薄くなってくる高度でようやくガルシェンの頂上へと到達し、ガルシェンを見下ろす。
邪悪なる大輪の赤薔薇は茎を切断されたことでガルシェンの背に墜落する。遥か上空から見下ろすフィロメーラにとって、花弁はまるで血しぶきのようにガルシェンの背を彩った。
そしてそれと同時、心臓を覆っていた茨が紫へと変色そして煙のように消え失せた。
創世巨獣形態のガルシェンは巨大すぎる。ユーベルコードにより数キロの刃を創造できるシンだが、首を落とすには足りないとも感じていた。
だけれどもこの心臓ならば斬れる。
「我が剣よ、無限の想念の元、全てを超越せし剣皇として顕現せよ!」
リオンとアリスの稼いだ時間、シンがユーベルコードを起動し、超長尺の愛刀灼星剣を創造する。それは長さ数キロの深紅の柱、しかし鋭さは名刀をも上回る。
「ガルシェン殿に敬意を表し、介錯仕る」
深紅に輝くサイキックエナジーの刃が横に、そして縦に連続で振るわれる。
重さを持たぬそれは同じくらいに紅いガルシェンの心臓をその頑丈さをまるでないもののように通り抜け、それを両断した。
「優しき獣よ、眠るがよい!」
さらにリオンが両断されたガルシェンの心臓の片方へと突撃、呆れる程に頑丈なそれを穿ち貫いた。
その影響は体表にも表れる。
傷の治癒が停止したのだ。これならば、と謡が連鎖黒炎と不条理の腕により簒奪した巨大スライムを一点に集中させその背を砕いていく。血が溢れぬのは心臓を失ったためか。
「成層圏! 重力隕石落とし!!!」
そして空から一条の流星が落ちてくる。きらきらと、粒子を箒星のように残すその妖精はガルシェンの背へと加速。重力波を纏い驚くほどの加速度を乗せたその踏み付けの一撃はガルシェンの背の硬質な棘を地形を砕くようにバラバラに撒き散らしながら速度を落とす事もなく、そして謡のこじ開けた皮膚の隙間へと盛大な音を立てて突き刺さった。
同時、衝突地点の周囲の皮膚が内側からの圧に耐え切れずはじけ飛ぶ。
心臓が切断され、続いた強烈な隕石のような衝撃に、とうとうガルシェンの意識の糸が途切れ最初に猟兵が視認した大きさまで縮小される。
「抵抗、しないでくださいね」
その瞬間、ガルシェン上層まで登ったナイがその手を覆う程度のささやかな光を掌から発し、ガルシェンに触れれば、その巨体がぱっと消失。
ガルシェンの行き先はナイのユーベルコードによる空間、抵抗の意識も持たない今だからこそこの空間への招待は成立した。
空間の中は重力もない光に満ちた場所、数十キロ、創生巨獣形態だと少し厳しかったかもしれないがこれならば余裕をもって取り込める。
体内、体表。交戦していた猟兵だけを創世巨獣の体積分浅くなった沼地へとナイはその意志で排出して。
――光の中で、おやすみなさい。
静かなナイの言葉。意識もないガルシェンは光の中、揺籃の中の赤子のように安らかに眠り、その生命力を空間に溶けさせてやがて消失した。
そして大いなる帝竜を失った沼地に静寂が戻る。
それは創世巨獣の望んだ、なにも壊さないでいい光景であった。
大成功
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