14
国に必要な物~滅亡の愛姫~ 其の参 

#サムライエンパイア

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア


0





 犬神藩は藩主が住まう城の大広間で、とある書状を携えて来たという使者団が藩主里見・義巳(さとみ・よしみ)に謁見していた。
「この書状の内容、誠であろうな」
 口から洩れる言葉に僅かに怒気をはらみながら藩主里見が使者団へ確認する。
「はっ、我らが主、狒々堂藩藩主白背・羅剛(しらせ・らごう)様と、多野家藩主十石・上埜信(といし・かずのしん)様が交わした証文の内容に嘘偽りは御座いません。そしてこちらがその約定を記した証文、お二方の署名もありますれば……」
 恭しくもう証文を差し出し、家臣伝えに手にした里見義巳は目を通す。
 確かに、白背羅剛と十石上埜信の署名がある。だが、上埜信亡き今、この署名を証明する術は無い……。
「さて、理解して頂けましたかな。それでは、藩主様方にて取り交わした約定に乗っ取り、齢14となられました美濃姫を、我がお館様の側室へとお迎えさせて頂きます」
「ま、待て! その前に1つ聞く。多野藩が武者鎧の難敵に襲撃された際、狒々堂藩より近い北側に現れた故、まず最初に狒々堂の方に援軍を願ったと聞いている。お主等狒々堂藩も多野とは友好を結んでいたのであろうに、その要請を断った理由はなんと申し開くつもりだ!」
 藩主里見の詰問に、使者は僅かながらに表情を強張らせるが、ニヤリと笑みを浮かべると。
「はは、これは手厳しい。実はこの約定の内容、多野の十石様は難色をしめしておりましてな……援軍の要請が美濃姫様の14となる日と近う事から、謎の敵なる架空の戦を理由に、この約定について引き延ばそうとしているのでは……と、我らがお館様はお考えなりまして。戦国の世はすでに終わり、藩同士の諍いすらお上に厳しく止められている今の時代、いや、まさか本当に謎の武者集団に襲撃を受けているとは思わぬではありませんか」
 ペラペラと答える使者の様子に、これは事前に想定されていたか、と歯噛みする里見義巳。
「それでは……」
「ま、待て!」
「他にも何か?」
「いや、美濃姫にも準備というものがある。数日間ほど猶予を頂けないか」
 へりくだるように里見が言えば、使者は少し気を良くしたのか。
「確かに準備は必要でしょう。解りました、それでは3日間の準備期間を設けましょう。それでは、3日後に……」

 狒々堂の使者団がいなくなって犬神の家臣達と藩主のみになった大広場は、これからどうするか喧々諤々だった。
「美濃姫のことは避難して来た所を預かっている身、あのような証文を突き出されては、狒々堂に渡すほか……」
「解っているのか? 狒々堂は多野の領地と鉱山を我が物とする為、美濃姫を利用しているにすぎん、あの証文とて……」
「しかし、こちらに美濃姫を渡さない正当な理由はありませぬ……」
「いや、いっそお館様が美濃姫と婚約するのは!?」
「馬鹿モン! わしをあの羅剛の色狒々と同類にする気か! それに……わしはアレに先立たれてまだ一周忌にもなっておらん、後妻を迎える気は無い」
 里見義巳が奥方を亡くして数ヶ月が経つ。子宝に恵まれなかった事もあり家臣団の誰もが後妻を薦めているのだが、一周忌までは、と義巳は態度を変えない。
 もちろんそれがなかったとしても、大切な家族を失い心穏やかでない美濃姫の心情は、最愛の妻に先立たれた自身とも重なり、それを政治的に利用するなど……。
 もちろん多野の鉱山は犬神藩にとっても喉から手が出る程欲しい資源だ。だが、家臣達は誰もが解っているのだ、このお館様はそれをかすみ盗るような事は絶対にしない、と。
「お館様、なんとか3日の猶予は出来たのです。皆で知恵を出し合いましょうぞ」


「興味深い……実に興味深い……」
 グリモアベースに黒い陰陽服を着た妖狐の男が1人、何が面白いのか8本の白き尻尾を揺らすと、次の瞬間にはグリモアベースの背景が和風の城下町へと変化する。
「サムライエンパイアにて興味深い事件が起こっているようです」
 黒い陰陽服の男――陰陽師・五行が言うには、多野藩の藩主の娘、美濃姫が14歳となったあかつきには狒々堂藩の藩主の側室になる、と書かれた証文が出て来たと言う。
 そしてこの案件の裏には、どうにもオブリビオンが絡んでいる、との事だった。
「まずはこの婚姻話を破棄させて下さい。どうすれば破棄できるかはお任せ致します」
 それが成れば、裏でオブリビオンと通じている輩を見つけ、その糸を辿れば真の黒幕へと辿りつくでしょう。
 五行はそう告げると、ニヤリと口許に笑みを浮かべ。
「さて、この事件のきっかけが、どんな物語を紡ぐのか……それはあなた方猟兵の行動次第です。興味深い、実に興味深い……」


相原あきと
 マスターの相原あきと(あいはら・-)と申します。
 『国に必要な物~滅亡の愛姫~』其の参、となります。
 このシナリオは複数回のキャンペーンの第三話目となります。
 もちろん第一話、第二話にご参加されてなかったとしても、
 この第三話から参加して頂いて構いませんし、遠慮なくどうぞ。
 プレイングはフラグ攻略に終始しても良いですし、
 まったく無関係な事に挑戦しても良いです。自由にお書き下さい。

●多野藩
 犬神藩の北にある山間の小さな領地。謎のオブリビオン軍団に滅ぼされた。
 現在も強力なオブリビオンが彷徨っているようで立ち入り禁止状態にある。
 多野藩の民は友好を結んでいた犬神藩に全員避難済み。

●犬神藩
 南に海を持ち、北は平野と山があり食料豊かな藩。多野藩は犬神藩の北にある。
 多野藩の5倍の領土。人口は5倍以上(多野は山間の小藩で人口が少ない)。
 犬神藩の城下町は港街でもある。

●狒々堂藩
 領地のほぼ全てを森や林が占める林業の藩。多野藩は狒々堂藩の南にある。
 多野藩の5倍の領土。人口は5倍以上(多野は山間の小藩で人口が少ない)。

●多野藩藩主『十石・美濃(といし・みの)』
 14歳の姫君、蝶よ花よと育てられた為、戦など本当は怖くて仕方が無い。
 責任感が強く、父亡き後は藩主として民を逃がす事を優先する決断をした。
 猟兵達に何度も助けられており、猟兵達の事を信頼している。

●多野藩の家臣団
 みんな美濃姫の事は大事に思っています。
 猟兵達に対する認識は美濃姫と同じ。

●犬神藩藩主『里見・義巳(さとみ・よしみ)』
 誠実で民想いの良君。40代。
 城下の人々からも信頼されている。
 城下町で起こっていた事件を猟兵が解決した事があり、猟兵については好意的。
 亡くなった美濃姫の両親と懇意にしており、可能な限り助けたいと思っている。

●狒々堂藩藩主『白背・羅剛(しらせ・らごう)』
 強欲で自信過剰な暴君で知られる40代。
 街や村で気に入った娘がいたら側室に連れて行く等、民からは恐れられている。
106




第1章 冒険 『望まぬ結婚をぶち壊せ』

POW   :    少々過激だが力づくの行動に出る。花嫁誘拐や両親の脅迫等。

SPD   :    すでに別の結婚話の既成事実の証文を偽造したり、結婚に必要な道具を盗み出す。

WIZ   :    破談になるよう交渉する。対象が結婚を断れるよう後ろ盾を作ってあげる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第一章予告

 証文により美濃姫を側室に迎えるという狒々堂藩の使者達。
 だが、その証文が本物である証拠は無く、しかし犬神藩にはそれを引き留める正当な理由は無い。

 このまま美濃姫を狒々堂藩藩主、白背羅剛に嫁がせれば、
 多野の地も、民も、そして美濃姫自身も不幸な未来しか待ってはいないだろう。

 さらに、暗躍する黒道坊の策略が犬神藩を窮地へと……。

『国に必要な物~滅亡の愛姫~ 其の参 』

 第一章 婚姻
高柳・零
新参者が失礼致します。自分に婚姻破談の案がありますので、上申しに参りました。
義己様と美濃姫の心を傷付けず、しかもほぼ本物の書状を作る方法がありますよ。それは「里見義己様に男子が誕生した際に美濃姫と結婚させる」という約束の書状を十石上埜信様と交わしていた事にするのです。
上埜信様の筆跡は文書官をしていた方なら真似できるでしょうし、義己様の筆跡は本物ですから、対抗するには十分でしょう。
無論、あちらは「偽物だ」と言って来るでしょうが、あちらも本物という証拠が無いのは一緒です。
子供が居ない事に関しては「これから作る」と義己様に心を偽って頂かないといけませんが…それぐらいの腹芸は出来ると信じております。


死絡・送
「なんてこった、これは是が非でもお助けせねば。」
姫に助けに駆けつけると約束したので、危機を知り動く。
江戸へ行き、猟兵が貰った札を使い徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)の所へ目通りに行き上様でなくても上様の奥方達に話を聞いてもらい
血統覚醒でヴァンパイアの姿になって聞き手の同情やシンパシーを得られるようにかくかく云々と姫の境遇を事細かに語り助けを必死に求める。
その上で、上様の所へ行儀見習いに行くと言う内容の正式な書状を必死こいて一筆勝ち取りに行き、取れたら書状をもって待ったをかけて破談の材料とする。


嶋野・輝彦
里見の殿様が姫様娶るのが一番いいと思うんだが
証文が→婚約済み
鬼札だろ

問題は
猟兵が信頼され過ぎなんだよな
姫様も殿様も猟兵頼りになるで腹括りきれてねぇ

つー訳で
●POW
力づく、姫様攫う、暴れる
猟兵信用できねぇ、俺が腹括るしかねぇって殿様になってもらう

緊張感持たせる為に誰にも言わずに実行
姫様の所に挨拶した風から攫う
障子蹴破って存在感、コミュ力、恫喝で
「騙されたなぁ馬鹿どもが!羅剛のおっさんに幾らで売れるかなぁ」
で回りの注目を集めて暴れながら外に向かう
対応は素手ゴロ対応
攻撃受けても覚悟、激痛耐性で顔色変えずに圧倒
で存在感、コミュ力、恫喝
「効かねぇよクソ雑魚がぶち殺すぞ」
二人の為せいぜい派手に討伐されるさ


プリンセラ・プリンセス
貴種に生まれた以上政略結婚は世の常。割り切らねばならぬ。
だからこそ助けてやりたい。だが上手く言語化出来ない。
「誰ぞ来よ。――決断の時間です」
結局兄姉に頼ってしまう。
出てきたのは長兄ヴィルヘルム。皇太子である彼が相応しい。
「これは外様である我々が口出しすべき問題ではありません。重要なのは美濃姫様のお考えです」
「助けよと仰るのであれば助けましょう。ですが助けよと言わなければ助ける事は出来ません。美濃姫様の御心こそが重要なのです。――ご決断ください。決断する事こそが人の上に立つ者の使命」
まるでプリンセラに語りかけるようでもあり。
「その決断に従い、我々猟兵は姫の望みを叶えるべく全力を尽くしましょう」


吹鳴管・五ツ音
縁談、で、ありますかー…
(目眩がしそうなほど縁遠い、自分には無縁と思っていた種類の話に遠い目)

…何にせよ、過去の亡者が生者の営みを脅かさんとするのであれば、我らの領分であります

(工兵呼集の喇叭吹鳴)

それに。
戦友には、心安らかに戦後を過ごしてもらいたいじゃないですか

此の一帯は先の防衛戦にて敵軍の本陣が置かれた地
…野盗の如き生者が敵軍に紛れていたこと、敵軍の野営地に多くの金銭の類が積まれていたこと、狒々堂と無関係とは考えにくいであります

取引の証文、所有者や譲渡先を示す書付、何でも構いません

掘り出してでも見つけ出すであります

場所が場所でありますから敵軍の駐屯や巡回があっておかしくありません
警戒は密に


寺内・美月
【WIZ】
前提として再度使者が来るまでに江戸へ駿馬(ブロズ)で駆けて幕府に確認を行う。
『武家諸法度』もしくは類似した法から、『私に婚姻を締ぶべからざる事』と似ている文が存在するかを確認します。
上記の一文があるならば『藩主(城主)』となった美濃姫の婚約等の許可は幕府に帰するものになります。そこで『藩主交代に伴う婚姻の取り消し』を発してもらい、証文の効果を消失させます。
もっとも、証文が本物なら幕府に記録があるはずで、幕府の認可がなければ証文自体をはね除けることが可能だと思われます(さらに食い下がってくる場合は『幕府、多野藩、犬神藩の威信を傷つけた』として幕府に報告することを検討していると伝える)。


御剣・刀也
POW行動

婚約破棄ねぇ
俺は惚れた相手がいるわけじゃねぇが、花嫁泥棒する気にはなれねぇなぁ。
となると、脅迫?いやいや、それはそれでおかしい気がするし………
まぁ、此処は正直に何かきな臭いから猟兵が動くって伝えるか
嘘をつくのは苦手だしな


藩主と美濃姫に何かきな臭い匂いを感じたから猟兵が動く。と正直に伝える。
「どうにもこの一件、裏で画策してるやつがいる臭くてな。あんたたちには悪いんだが、なんとか理由をつけて結婚断ってくれねぇか?後のごたごたは俺たち猟兵が責任持つからさ」
と素直に伝える。それで無理だと言われたら
「あぁ、うん。まぁ、そうだよなぁ」
とどうしたもんかと頭を抱える


レイチェル・ケイトリン
破談交渉だね。

「天下自在符は猟兵の特権にあらず」

「戦乱を終えてなお跋扈する亡者などから世を守る上様の大いなるお心」
「賜ったその重き使命ゆえに他者にも尽力を求めるもの」

「上様が世を案じておられる脅威……」

「『戦国の世はすでに終わり……まさか本当に謎の武者集団に襲撃を受けているとは思わぬ』とはなにごとだ?」

「武家においてその怠慢は言語道断! 怠慢ゆえに友好を損なうならまさに裏切り。それでは約定などそもそも論外」

「世を案じられる上様の威をこの天下自在符で示す」

「怠惰なる狒々堂が多野藩及び犬神藩に関わること厳禁とする!」

あのね。立派な人を殺して手駒にするってダークセイヴァーとかでみなれた手口なんだよ。


ジェフリエイル・ロディタ
こちらの領主は皆素敵なのかと思いかけていたけれど、
やはりそういうものでもないね。
内の輝きは釣り合うべきだよ。

難色を示されるような内容なら、普通は結ぶ必要のない筈。
いつどんな状況で、止むを得ず結ばれたのかききたいものさ。
先から流れがよくできているから、少し調べる時間も欲しいよね。

偽書状を作る時に参考にするから十石様の文を沢山見せて欲しい。
僕の案は「出陣前のお殿様が、某藩の不義理を添えつつ、
万一にはお姫様を里見の養子に預け民の受入れも頼む」書状作り。
先日の反応と齟齬がないかや書式、書きそうな内容か。
その確認はお姫様と里見様にお願いしたい。
紙も墨も近いものを用意したいね。
さて。器用な人はいるかい!


コノハ・ライゼ
あー、殴って終わらせれナイのホント苦手なんダケド

んー、残った書状とかで筆跡検めるとか……
要は嘘だって証明出来りゃええんよな
毒には毒を、嘘には嘘を

例えば他に婚約者がいたとか
そうそう、姫サン恋愛話に興味津々だったようダケド
惚れた相手とかいないワケ?

じゃなきゃ、そうだネ
いっそまた逃げちゃおうか、姫は賊に攫われマシタ!てネ
つうても犬神の殿様に迷惑はかけられんし
出来りゃ狒々堂側の責任にさせたいトコ
姫に脅しの手紙が届いた、ナンてのはドウかしらね
リアリティあるじゃナイ
嘘には少しの真実を、ネ
ついでに裏で糸引く輩を炙り出せりゃイイ
勿論お命はちゃあんと守りますよって

万一敵遭遇時には【月焔】と「柘榴」にて応戦


御代・燕三
そうですね、まず初めに美濃姫。好みをお聞きしてもよろしいでしょうか。
何、いざと言う時のためにこちらにいらっしゃる猟兵諸君が、婚姻相手の代役を担ってもらう事もあるやもしれません。その為の前準備ですよ。言いにくいかもしれませんが、相手を説得する種にも使えます。
っと、ご無理を言って申し訳ありませんでした。余興でした。望まざる相手では哀しいですからね。
わたし達がお助けいたします。

UC攻守自在式を利用して、交渉や策を弄するための素材を見つける事に従事します。
狒々堂藩の人や物の動き、出入りする人物や立ち寄る施設など多方面に同時展開させて情報収集し、
他の猟兵達に即時共有していきます。どうか役立ててください。


紺屋・霞ノ衣
山賊の件が一段落したと思ったら、今度は婚姻だぁ……?
なんでこう次から次へと問題が来るかねぇ
此処まで来ると、山賊の時みたく茶々を入れる奴が居るんだろうよ
陰でこそこそしながら楽しんでるとんでもなく陰湿な奴がね
まずは目の前の事に集中!阻止が優先さ!
……負けるんじゃないよ、姫さん

ちょいと狒々堂藩の奴に会いに行ってみるか
なに、姫さんの嫁ぐ所の奴等にどんな猛者が居るのか知りたいだけさ
腕に自信がある奴と手合せさせておくれよ
多野の前の藩主、姫さんの親父さんは最期まで勇ましく戦ったんだと
その娘と一緒になる相手なんだから、強くなきゃ駄目さ
二度と、国を落とされない為にも
この通り武器は使わない、アタシは拳だけでいい


月舘・夜彦
羅剛の素性から書状が偽りなのは間違いないでしょう
仮に正式でも約定した藩の危機に援軍も送らぬ者は信用なりません
何より死人に口無しと利用されるのは許容しがたいです

今回は力ばかりでは難しいでしょう
……いっそ、逃げてしまいましょうか
半ば冗談ではございますが私達は多野の危機に姫を救い
敵から家宝の取り返したという実績がある
その報酬として我々が姫様を貰い受けたと主張したなら
加勢すらしなかった狒々堂藩も証文という武器だけは不十分のはず
真っ向から争う事にはなります

逃げても一国の主の名は消えない
何より貴女自身がそれを許さないでしょう
今回の件、姫様が婚約を望まぬならば
私も【勇気】と【覚悟】を以て、お供させて頂きます


ヴィクトリア・アイニッヒ
権左衛門(f04963)と行動
まったくもう、ゴンちゃんさんは冗談ばかり…

私も貴族の出ですから、結婚が政略の一要素となるのは理解していますが…
今回の件、相手が美濃姫様の立場を余りに軽んじ過ぎています
良い噂のある相手でもありませんし、怪しいですね…

…そう言えば、今まで引っ掛かっていた事があるんです
多野藩を襲ったオブリビオン。その陣にあった武具の数々は、多野の兵から奪ったにしては多過ぎる気がするのです
…あれらを支援していた者がいる?そうする事で利を得る者がいる?

…考え過ぎかもしれません。でも…
ゴンちゃんさん、雲隠れも兼ねて一緒に来てくれませんか?
多野領に忍び込み、戦場跡を調べてみたいんです


桐・権左衛門
ヴィクトリア(f00408)と共に行動

嫌や!あかんあかん!美濃ちゃんの乳はウチのもの…どぐしゃぁ!(誰かの物理ツッコミ)

とりあえず!本人の気持ちも無視する結婚はアカンし気に入らん、個人的感情やけどドツく為に決闘状でも書いたろかな…


多野藩藩主の証、名刀・赤磊刀…
国の宝であり、父君の形見でもある赤磊刀が行方不明になれば心労理由で延期できるんちゃう?
【忍び足1+暗視1】で赤磊刀を拝借しよか

大泥棒的書置きも残すで!大髭書体で『しんごのわざ』(アナグラムでごんのしわざ)っと…
美濃ちゃんには簡単すぎるかもしれへんけど、上手くいけば時間も稼げて怒りの矛先も美濃ちゃんにはいかんしヴィクトリアと雲隠れもイケるね


トゥール・ビヨン
ボクは身体の小ささを活かして、狒々堂藩藩主の家に忍び込み【情報収集5】を行うよ

オブリビオンがいるかも知れないから、見つからないように天井裏とかに潜り込んで様子をうかがう

今回の婚約話の裏の意図や、敵の手の内がわかればやりやすいだろうしね

もし、婚約の証文の場所がわかれば【盗み5】でこっそり盗っていっちゃおう

念のため、写しみたいなものも無いか確認しておいて、それも可能なら拝借していくよ

情報と証文など十分成果がえられたら【逃げ足5】でみんなの元へ合流するよ

今回はパンデュールを降りて行動するので、戦えないから極力戦闘にならないよう配慮するね


逢坂・宵
証文、ですか
果たしてそれが本物であるか怪しいものと考えます
本物であるならば、なぜ今?
たしかに姫の藩は危急の時期。そして再建の時期です。しかし、タイミングには疑問を覚えます

証文を少々詳しく調べてみましょうか
何か手がかりがあるかもしれません
僕は術師ですから、術師らしいやり方で
霊術、または魔術的要素の側面から調査してみましょう
『封印を解く』が役立てばいいのですが
他の猟兵の方々とも協調して、何か策をひねり出せたら良いですね


レッグ・ワート
気早いな、多野にはまだ敵居るだろ。気にする必要ないか実は知らないか、狒々堂藩はどっちかね。……藩主の好みにお姫様入んのかなあ。

犬神直だと警戒厚いだろうし少し遠回りで多野の鉱山みてくる。念の為現地で働いてた面々に裏道とか隠れ場所教えて貰って、接敵避ける時に使うわ。敵地じゃ視聴覚的な警戒はする。基本は装甲に迷彩ホロで忍び足、下手に近づかない。真新しい人通りがあるか、人影があれば装備格好を覚えとく方向で。空振りなら狒々堂藩の村でお殿様の評判や多野との仲でも聞いて帰るぜ。

とばして平気な時はゴッドスピードライド。帰りは撒けても気付かれてたら横藩通る迂回路、でなけりゃ最短距離だ。一応天下自在符持っとくか。


涼風・穹
根本的に疑問なんだけど、仮にあの証文が本物だとしても今は姫さんが藩主なんだから先代の約束は拒否出来ないのか?
そうでなくても跡取りもいない藩主を側室にというのはその藩を吸収するようなものだけど、石高というか藩の規模が変わるような事態はお上にお伺いをたてないで大丈夫なのか?

まあ勝手にやっていい、というのなら、例えば後で返す前提で多野藩藩主の証『赤磊刀』を犬神藩藩主に渡して、里見義巳こそは多野藩藩主、と先に名乗りを上げて貰うとか
藩主が別にいれば姫さんを側室にしても多野藩はすぐには手に入らないから婚姻話も意味がなくなるしな

……手段を選ばないなら、狒々堂藩の使者達には証文ごと行方不明になって貰うとか…?



―――

■第一章『婚姻』


 犬神藩藩主たる里見・義巳(さとみ・よしみ)が居城の大広間にて、領主に謁見するは1人の猟兵――御剣・刀也。その立ち居振る舞いは戦国時代から続く剣術流派の後継者故か、サムライエンパイアの世界に妙になじむ。
「どうにもこの一件、裏で画策してるやつがいる臭くてな。あんたたちには悪いんだが、なんとか理由をつけて結婚断ってくれねぇか?」
「ふむ、天下自在符を持つお主らがそう言うなら、何か引っ掛かるものがあるのだな?」
 藩主に対する口調で普通なら咎められる所だが、すでに里見義巳により側近の老中1人以外は人払いがされており、刀也の口調を咎める者はいない。もちろん、藩主もそれに慣れた物だと普通に刀也に話しかける程だ。
 それが、この犬神藩にて猟兵達が培った信頼であり藩主からの信用でもある。
「具体的に何がって言われると、まだ何も掴んじゃいないんだが……厄介な黒幕がいるのは確かだ」
 刀也の言葉に藩主は少し思案し……。
「あいわかった。元より美濃姫を寄越せ等と理不尽極まり無い要求、まして狒々堂なんぞに渡したら、上埜信殿と彩殿に申し訳が立たぬ」
「そう言って貰えるとありがたい」
「だがな、上埜信殿とかわした証文を出されては、さすがのわしも手出しはできん。何か良い案が無ければ切り抜けられぬぞ」
「あぁ、うん。まぁそうだよなぁ……」
 結局そこに行き着くんだよな、と刀也は思いつつ。
「ま、それは俺の仲間達も考えてるし、もしそれで後からごたごたになったらその時は俺たち猟兵が責任を持つさ」
「ああ、頼む。わしもできる限りは美濃姫を助けてやりたいと思っている。困った事があったら遠慮無く言ってくれ」


 美濃姫に与えられた武家屋敷の広間にて、やって来た猟兵達に事の詳細を説明する多野家の家臣達4人。すでにグリモア猟兵から聞いていた者も多いが、多野家の者にとっても今回の婚姻話は寝耳に水だったようで当の美濃姫本人もかなり動揺しているようだった。
「そう心配すんな、姫様の危機を知り俺も駆けつけた。他の皆だってそうだ。是が非でも助けてやる!」
 そう死絡・送が大風呂敷を広げるが、今はその自信こそ多野家の家臣達や美濃姫の不安を振り払う一番の特効薬であった。これまで猟兵達が彼女達に築き挙げた信頼は熱い。
 もちろん、送のように大きく出れる者ばかりではない、無言で安心するよう微笑む者、すでに何か思案する者、猟兵も様々だ。プリンセラ・プリンセスなど、世界は違えど美濃姫に一番近い立場でもある故、世の常たる政略結婚は貴種に生まれたからには割り切らねばならぬ……と理解しつつ、だからこそ助けてあげたいとの気持も沸き上がってくる。その複雑な心境から上手く言語化できず、心配するような視線を送るばかりだ……。
「そうだ、先に言っとくが、里見の殿様には今回の件、できる限り婚約破棄に動くよう頼んどいたぜ? 出来る限りの協力はしてくれるらしい。とはいえ、嘘をつくのは正直苦手だし、何かきな臭いから俺達が動くって伝えちまったけどな」
 刀也の素早い行動に多野の家臣達が感心する。もちろん、多野家の家臣達から犬神藩の藩主に協力を請うには手順が付きまとう故、刀也の行動は猟兵の利点を活かした素晴らしい結果だと言えた。
 もちろん里見の方でも解決策を考えるとの事だが、結局は多野と狒々堂の間で作られた証文なので、部外者たる犬神藩ではなかなか自主的に良案が出るとは思わないが……。
「嫌や! ウチは嫌やで!」
 良い案が出ず沈黙が支配したのを不安に感じたか、桐・権左衛門が騒ぎ出す。
「あかんあかん! 美濃ちゃんの乳はウチのもの――」
 そのまま勢いで美濃姫に抱きつこうとダイブし――。

 ……どぐしゃぁ!

 飛び込んだ権左衛門を刀の柄で叩き落としたのは美濃姫の前に座る4人の家臣のうちが1人、30代半ばの精悍な顔の男だった。確か名を寺島・進助(てらしま・しんすけ)、寺社奉行でありながら剣の腕がたち、籠城戦でも最後まで一緒に戦った1人だった。
「桐殿、いくら恩義ある猟兵であろうと姫を呼び捨てにするだけでなく、抱きつこうなどと……例え女人といえど看過できませぬぞ!」
 ピクピクと怒りながら言う寺島寺社奉行に、権左衛門が「あの人苦手やぁ……」とコソコソ後ろに下がる。
「寺島、もうよいから、それくらいで……」
 美濃姫が仲裁しひとまずは仕切り直しに……。
「あー、殴って終わらせれナイのホント苦手なんダケド」
 とはいえ、良案がすぐ出るわけでも無く、コノハ・ライゼがあぐらを掻いたまま伸びをし背を後ろに倒しつつ両手で支え呟く。
「そいつぁ同意するね」
 あぐらに肩肘をついて手の上に頭を乗せ、難しい顔で紺屋・霞ノ衣がコノハに同意。
「だいたい、山賊の件が一段落したと思ったら今度は婚姻だぁ……? なんでこう次から次へと問題が来るかねぇ。」
 そのまま溜息を付く。
「私も貴族の出ですから、結婚が政略の一要素となるのは理解していますが……」
 そう発言するはヴィクトリア・アイニッヒ。どこか思案し続ける顔で。
「……今回の件、相手が美濃姫様の立場を余りに軽んじ過ぎています。良い噂のある相手でもありませんし、私は怪しいと思っています……」
「山賊の時みたく茶々を入れる奴が居るんかね? 陰でこそこそしながら楽しんでるとんでもなく陰湿な奴がね」
 ニヤリと霞ノ衣が笑う。
「十中八九、狒々堂藩藩主白背・羅剛(しらせ・らごう)の人となりを聞くに、その書状が偽りなのは間違いないでしょう。仮に正式でも約定した藩の危機に援軍も送らぬ者は信用なりません。何より死人に口無しと利用されるのは許容しがたいです」
 月舘・夜彦が言葉尻怒りを交えて発言する。その発言に影響されたように多野の家臣達も激しく同意、やはり主君が居ぬ間に勝手に利用した事は多野家の者として我慢がならぬのだろう。
「んー、残った書状とかで筆跡検めるとか……要は嘘だって証明出来りゃええんよな
毒には毒を、嘘には嘘を、ってナ」
 コノハの言葉にスッと挙手するは高柳・零。
 だが、テレビニウムであり身長40cm弱の零に気付く者は少なく――。
「そこの、何か案があるのだな?」
 最初に気付いたのは猟兵達に対面している美濃姫だった。姫に直接差され皆に注目される零。
 ごほんっ、と咳払いし佇まいを直すと。
「新参者が失礼致します。自分に婚姻破談の案がありますので、上申したく……」
「うむ、願ってもない事だ。言ってみよ」
「はっ! 義己様と美濃姫の心を傷付けず、しかもほぼ本物の書状を作る方法があり……」
 零の発言に何人かが頷き、多野の家臣達も「それは是非犬神の藩主様にもご相談願わねば」と笑みを浮かべる。
「もちろん、前提として書状の作成が挙げられます。上埜信様の筆跡は文書官をしていた方なら真似できるでしょうし、義己様の筆跡は本物ですから対抗するには十分でしょう」
 零の言葉に家臣や美濃姫の視線が家臣の中でも一番上座に座る筆頭家老に注がれる。
「ん、儂? こりゃ参ったのぅ」
 つるりとはげ上がった頭を撫でつつ笑うは、多野家筆頭家老の笹野・高之(ささの・たかゆき)、御年68歳の重鎮である。
「爺、お主なら父上の書状も多く見て来た。代筆を行った事もあろう?」
「確かに確かに、しかし姫様、儂はもう歳ですからのぅ、正直どこまで上手く書けるか……」
 空気中に筆を持って書く真似をする笹野だが、すでにその手が震えている。
「あ~……と、紙も墨も近いものを用意したいね! それと……真似る必要があるから、器用な人がいいね!」
 さりげなくダメだしするジェフリエイル・ロディタ。もっとも、そのおかげで猟兵達の大部分がホッとしたのだが……。
「これ外山、お主はどうかのぅ」
 筆頭家老に指名されたのは実際に奉行達を纏めていたNo2の家老、外山・長道(そとやま・みちなが)であった。歳は40前半、性格は真面目。多野藩の民が犬神藩に逃げ出す際に民を纏め率いた男だった。
「はっ、承知致しました」
 笹野に対し素直に頭を下げる外山。
 とりあえず、これで偽の証文の作成については目処が立った。あと、他にできる事は……と猟兵達が再び沈黙モードになりかけた所で。
「そうポンポンと良案を思いつく方が難しいもの、ここは一つ思考の手助けとなるよう美濃姫にお聞きしたい事があるのですが……」
 立ち上がり、そう言うは御代・燕三、青き陰陽服を来た白髪の妖狐である。
「妾は構わぬ。何でも聞くが良い」
「ははぁー、ではまず始めに……姫様の好みをお聞きしてもよろしいでしょうか」
「好み……だと?」
 疑問符を浮かべる美濃姫に、柔和な笑顔で燕三は続ける。
「何、いざと言う時のためにこちらにいらっしゃる猟兵諸君が、婚姻相手の代役を担ってもらう事もあるやもしれませんからね」
「なっ!?」
 素直に驚く美濃姫、猟兵達の中にも思わず自分だったらと想像する者もおりつつ――。
「美濃――(しゅん)」
 寺島寺社奉行に睨まれシュンとなる権左衛門を見てヴィクトリアが溜息付いたり。
「兎に角、言いにくいかもしれませんが、相手を説得する種にも使える可能性もあります。如何でしょう」
 燕三の言葉に美濃姫は真面目に悩み。
「……すまぬ、自由な恋愛というのには憧れるが、そのような事は考えた事も無い……だが、あえて言うなら父上のように立派な方じゃろうか」
 少しだけ声に寂しさが混じったのを感じ。
「っと、ご無理を言って申し訳ありませんでした。なんにせよ、望まざる相手では哀しいですからね。大丈夫、わたし達が必ずお助け致します」
 礼をして再び座る燕三。すると入れ替えるように逢坂・宵が。
「狒々堂の言う証文ですが、僕もそれが本物であるとは思えません……ただ」
 しんみりした空気を変えるよう即座に宵が口にしたのは、今回の件でどうしても疑問に思っていた事だった。
「この機に使者にて知らせて来たのが気に掛かるのです。確かに姫の藩は危急の時期、また再建の時期でもあります。しかし、だからこそこのタイミングで言ってきた事が疑問なのです」
「そいつは俺も同意だ」
 スッと手を上げるレッグ・ワート、身長2m半のウォーマシンは否応にも目立つが、すでに多野の家臣や美濃姫は見慣れたもの。
「正直、多野の地にはまだ敵が居るだろ? このタイミングで姫が欲しい――つまり多野の地が欲しいってのは、あまりに気が早くないか?」
 レッグの言葉を否定する猟兵は誰もいない。宵もレッグも正論なのだ。もしこの正論が覆るとしたら、それは前提が間違っている事になる。つまり、狒々堂は多野の地にオブリビオンがいても気にする必要が無い……と。
 再び沈黙が支配し、一度会議を打ち切りましょうと家臣の笹野が提案し。最後に美濃姫が皆に向かって。
「妾は多野藩の藩主と自負しておるが、諸外国にとってはすでに滅びた国の姫と思われているかもしれぬ……ただ、多野の民を救ってくれた犬神藩に迷惑はかけれぬとも思っておる」
 そこで一度言葉を止め、少し諦めたように美濃姫は続ける。
「もし、狒々堂が無茶を言い、妾1人が犠牲になる事で犬神藩にも犬神藩にいる多野の民達も救われると言うなら、妾は喜んで狒々堂藩へと嫁ぐだろう。それだけは、覚えておいて欲しい」
 覚悟と言うには悲壮な声音の美濃姫に、会議が終わった後、猟兵の皆が必死に考え直すよう声をかける。
 だが、その輪に加わらずにじっとその様子を見つめるは嶋野・輝彦。
 会議の間中ずっと気怠げに壁に寄りかかり一言も発言せず見守っていた男は、独り嘆息し部屋から出て行くのだった……。


 カー……カー……カー……。
 カラスの鳴き声が響き渡る戦場跡。
 今そこには屍の工兵達数十名が脇目も振らず穴を堀り、野晒しだった亡骸を埋葬し続けている。
「お二人ともやりたい事があったのでは? 無理に自分の自己満足に付き合わずとも目的を優先して頂いて構わないでありますが……」
 屍工兵達を召喚し、侍達の亡骸を埋めていた吹鳴管・五ツ音が、後からやって来て手伝ってくれている2人に言う。
「気にせんでええよ、死者を放置しっぱなしには出来ぇへんやろ?」
「ゴンちゃんさんの言う通り、人として当たり前の事をしているに過ぎませんから」
 そう五ツ音に言う権左衛門とヴィクトリア。
「そう言って貰えると、戦友達もきっと喜んでいるでありますよ。やはり戦友達には心安らかに戦後を過ごしてもらいたいでありますし……」
 行軍喇叭のヤドリガミたる五ツ音にとって、戦場で散った命は皆戦友という事だろう。
 ここは多野の兵達と謎の武者軍団が激突した地だった。
 五ツ音はいろいろあって後回しになっていたが、どこかのタイミングで散った多野の兵達を弔いたいと思っており、自身のユーベルコードで屍工兵を多数呼び出し1人でせっせと行っていたのが、そこにヴィクトリアと権左衛門が現れ手伝ってくれたのだ。
「それにしても美濃姫に縁談、で、ありますかー……」
 ヴィクトリア達から聞いた美濃姫の近況に、思わず遠い目をする五ツ音。
 正直、縁談など自分にとって目眩がしそうな程縁遠い話だ。
「……そう言えば、今まで引っ掛かっていた事があるんです」
 弔いながらヴィクトリアが口にする。
「多野藩を襲った武者軍団、その陣にあった武具の数々は、多野の兵から奪ったにしては多過ぎる気がするのです……事実、こうやって多野の兵の亡骸を埋葬して確証を得ました。上級武士の武具はともかく足軽程度の武具は捨て置かれている……」
「確か、敵軍の中には野盗の如き生者が紛れていたはずであります。彼らが使う為の武具も、今考えれば上等な物を使っていたような……」
 敵陣に攻め入った際の事を五ツ音が思い出す。
「なんや2人して……? 拾いもんを使って無かったらどこから新品を調達したんよ?」
 権左衛門が土を掘る鍬の柄に寄りかかりながら聞く。
「……あれらを支援していた者がいる? そうする事で利を得る者が……」
「先の美濃姫の話を聞くに、狒々堂と無関係とは考えにくいでありますな。武者軍団たるオブリビオン達が多くの金銭を持っていた事もそれなら理由がつくであります」
「ほんまかい……」
「……考え過ぎかもしれません。でも……」
「筋は通っているでありますな」
 狒々堂がオブリビオンと通じている……その事実に悪い予感を禁じ得ない3人。
「何にせよ、過去の亡者が生者の営みを脅かさんとするのであれば、我らの領分であります。そして此の一帯は先の防衛戦にて敵軍の本陣が置かれた地、取引の証文、所有者や譲渡先を示す書付、何でも構いません。弔いが済んだら何かしら証拠が無いか探してみるであります」
 五ツ音の言葉に2人はコクリと頷くのだった。


「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」
 息を切らせつつ森の中を飛び回るのはトゥール・ビヨンだった。
 妖精たるその小さな身体は、森の中で身を隠すのには丁度良いが、こうも追手が多くては……。
「ボク、逃げ足には自信あったんだけどな……」
 地形を利用し木陰に身を隠しつつ息を整え、チラリと追手達の様子をチェックし死角を付いて再び飛び立つ。
 なぜこんな状況に陥っているのか……それは、トゥールが単身にて狒々堂藩への潜入を試みたからだった。
 もちろん潜入と言うからには目立つパンデュールに乗って行くわけにもいかず、こうやって身一つでやって来たのだが……。
「参ったよ、こんなにオブリビオンがいるなんて……おっと!?」
 別方面から来た武者オブリビオンに気が付くサッと身を隠すトゥール。
 狒々堂藩は事前情報通り林や森ばかりの領地だった。領内への潜入こそ楽勝だったのだが、すぐにそれを後悔する事に……。そう、まるで国境を警備するようにオブリビオンの武者達が巡回していたからだ。
 結果、パンデュールも無いトゥールは慌てて逃げ出したという訳だが……。
「ん?」
 追手達の動きが止まり違和感を覚えた――その瞬間、進行方向に矢の雨が降る。
 急いで別方向へと飛ぶが……。
「(これ、誘導されてる?)」
 自身の戦闘知識が警鐘を鳴らす。
 だが、だからと言って単身で囲いを突破するのは無謀というもの。
 トゥールはじょじょに追い詰められて行き……。
「これは……失敗したかな」
 覚悟を決めたトゥール……そのすぐ目の前に、紙人形が浮遊しているのに気が付く。
「何だ、これ?」
 すると紙人形はトゥールを引っ張るように敵の囲いの一部に向かって行く。付いてこいと言うように途中で止まったりしつつ、一直線に。
 紙人形から悪い気配を感じない事も有りトゥールは、どうせなら、と紙人形について行き。
 しかしその先には武者オブリビオンが……それも3体待ち構えている。やはり引き返そうかと思うトゥールだったが、次の瞬間、武者オブリビオン達の背後から何かが飛び出し、一瞬で3体を吹き飛ばす。
 それは、見た事のある宇宙バイク、だった。
「トゥール、早く乗れ!」
「レグ!?」

 さすがは逃がす事を得意とするレッグであり、トゥールとレッグは武者オブリビオン達を振り切りなんとか狒々堂藩を抜け多野藩にまで逃げて来ていた。
「ありがとう、本当に助かったよ」
「礼なら俺だけでなく、こいつにも言うんだな」
 そこで待っていたのは青い陰陽師服を着た白狐、燕三だった。
「初めまして、御代・燕三と申します。レッグ・ワートさんを手伝いつつ周辺を警戒していたら、わたしの式が気が付きましてね」
 先ほどトゥールを案内した紙人形の式が燕三の元へ降りフワリと消える。
「まったく、ちょうど国境の鉱山を調査してる時でよかったぜ。これが犬神藩側の山を見てたら、気が付かなかっただろうしな」
 レッグが言うには、情報収集のために多野藩の鉱山を調べていたとの事だった。
 鉱山の情報は多野藩の生き残った家臣の1人、金山奉行たる吉田・鋼(よしだ・こう)に貰い、さらに情報収集なら協力できると思いますと燕三が同行を申し出てくれ、2人でこの国境に近い鉱山へとやって来たのだ。
 わざわざ狒々堂に近い山から調べ出したのは、途中で狒々堂の村が見えればそこで狒々堂藩の藩主等について情報収集を行なう予定であったからだが……。
「おかげでボクは助かった、という事だね」
「運が良い奴だ」
 言葉のニュアンスはニヤリ、と言った所だがロボのレッグにそんな表情は無い。
「しかし、こうなると狒々堂はかなりオブリビオンに侵食されていると考えて良いかもしれませんね」
 燕三の言葉に2人も頷き。
「鉱山の調査は切り上げるべきだな。さっさと美濃姫の元に戻った方が良いかもしれねぇ」
 レッグがそう言い自身の宇宙バイクをゴッドスピードライドで変形させ騎乗、トゥールと燕三も同席し、急ぎ犬神藩へと戻るのであった。


 狒々堂への解答まであと1日と迫ったその日、猟兵達は里見義巳の元に集まり、明日の打ち合わせを行なっていた。
「まず前提として天下自在符は猟兵の特権ではなく、戦乱を終えてなお跋扈する亡者などから世をまもらんとする上様のおおいなるお心なのです」
 レイチェル・ケイトリンが人差し指を立てて説明する。
「ゆえに多野藩が謎の軍団に襲われ助けを求めた際、狒々堂藩がそれを無視した件について、見過ごすわけにはいかないと思っています」
 それは上様の命を無視した事にもなる、そうレイチェルは言う。
「ふむ、まずは交渉をこちらの主導で進められるよう優位性を得るわけか、確かに悪くない」
 犬神藩藩主が悪くない案だと褒める。
「具体策はいくつかあるが、まず俺から言わせてもらおう」
 会話を引き継ぎ1つ提案するは送。
「俺が提案するのは美濃姫を江戸――上様の所へ行儀見習いに出す案だ」
「行儀見習い……まして上様の所へ、か」
 さすがに難色を示す藩主。もし可能だとしても上様は江戸を不在にしている事が多いとも聞く、奥方達は多いがその許可を得るなら老中や大老たちに謁見する必要もあるだろう。例え天下自在符を持っていたとしても数日でなんとかなる物でも無く、事実、送は江戸行きを諦め事後承認を得る上での提案としている。
 送と同じく少し弱腰に言うはジェフリエイルだ。
「僕も案はあるのだけど、まだぎりぎりまで待ってほしいかな……調べる時間はとれるだけとりたいし、いろいろ準備もいるからね」
 確約の自信にまで達していないからか輝きがいつもより弱々しい。そんなジェフリエイルの胸元には紙人形がちらりと覗いていた。
「自分はもう少々具体的な案があります。ただ、準備にもう少々時間を頂きたいのは同じく」
 そう言うはテレビニウムの零。ただし、と付け加え。
「ただし、先に里見義巳様に確認したい事があります」
「なんだ、遠慮なく申せ」
「はっ、里見義見様は今はまだ後妻を娶るつもりが無いようですが、いずれ後妻を取り、引いては跡継ぎを作る気はありますでしょうか」
 零の唐突な確認に、多少面喰いつつも「もちろんだ」と頷く藩主。
「いえ、その言葉が頂きたかったのです。それならあとは準備ができ次第、明日はなんとかできるかと……」
 零の話が終わると、他に案は……と他の猟兵に話を振れば。
「1つ、気になっている事が」
 と話し出すは寺内・美月。
「狒々堂の使者が持参した証文ですが、あれは本物なのでしょうか?」
「それは……」
「もし証文が本物なら幕府に記録があるはずで、幕府の認可がなければ証文自体をはね除けることが可能だと思われます。もちろん、狒々堂は偽物だとは口が裂けても言わないでしょうが、そこまで言ってくるのでしたら、多野、犬神、そして幕府の威信を傷つけた、と報告することも可能かと思われます」
 美月の案に同席していた犬神と多野の家臣達も『おお』と同意する。ここにいる誰もが、狒々堂の証文が本物だとは思っていないのだ。もちろん、そう信じたくないというのもあるのだが……。
「ところで、根本的に疑問なんだけど、仮にあの証文が本物だったとして、今は姫さんが藩主なんだから先代の約束は拒否できないのか?」
 そもそも論として涼風・穹が疑問を投げる。
「無論、美濃姫自身が多野藩の藩主としてそれなりの力を得た後なら、その断り方もできるであろうな……だが現状は違う。藩主と言ってもその領地は無く、力……つまり動かせる兵もほぼいない。なかなか難しいであろうな」
 犬神藩の藩主が現実問題それは厳しいだろうと説明する。
「なら、こういうのはどうだ? 例えば後で返す前提で多野藩藩主の証『赤磊刀』をあんたに渡して、里見義巳こそは多野藩藩主、と名乗りを上げて貰うとか。藩主が別に居れば姫さんを側室にしても多野藩はすぐには手に入らないから婚姻話も意味がなくなるだろう?」
 それは敵の欲しい物を奪えなくする良案ではあった。しかし――。
「それこそ上様の許可なく、勝手に領地を併合するような真似はできぬ」
 ここが戦国の世ならいざ知らず、今の世はそのような事はまかり通らない。
 ん? なら何で狒々堂は……? そう穹が疑問に思って再度質問しようとした、その時だった。
 ドタドタドタと慌ただしい足音が広間に近づいてきて、「会議中失礼致します」と犬神藩の侍が無礼を承知でと報告に入って来る。
「構わぬ、何があった?」
「はっ、実は先ほど――」
「どけっ! 邪魔だ!」
 報告しようとした侍を足蹴にし、巨漢の男がヌッと現れる。
 それは角刈り風の髪型に斜めに乱暴に曲げを結い、筋肉隆々の体つきが上等な着物の上からでも解るような体躯で、粗暴さがにじみ出るような顔つきをしていた。
 その姿、顔に、里見義見が誰よりも驚き声をあげる。
「まさか……白背、か?」
「がははははっ、良くわかったじゃねーか!」
 大声で返す巨漢の後を追うように、今度は狒々堂の使者団が現れ。
「狒々堂藩藩主、白背・羅剛(しらせ・らごう)様の恩前なるぞ、その方ら、道を開けよ」

 猟兵達も家臣達も広間の左右へと分かれ、里見義見の正面に白背羅剛がどっかりと腰を下ろし、その後ろには使者団や護衛達が着座する。
 その姿を見て里見義巳は違和感を覚えていた。白背羅剛とは指折りしか会った事は無いが、自身より5歳は年上のはずだった。だが、今目の前にいる男は三十後半の脂の乗った若々しさと野心に満ちている。まるで若返ったかのようではないか……。
「久しいな白背の……多野との友好を祝し彩殿が開いた宴で会った以来……約10年振りぐらい、か」
「はっ! そんな昔の話はどうでも良い! わざわざ儂が来たのは他でも無い。美濃姫とやらを迎えに来ただけだ」
「それは早急過ぎるというもの。約束は明日のはず」
「明日? どういう事だ。もう話は付いているはずだろう」
 使節団を振り返り、疑問をぶつける羅剛に対し、使節団の団長は汗をぬぐい、喉にくっつく舌を剥がしながらなんとか「3日の準備期間が欲しいと言われ……」と説明する。
「ほう、そんな約束を……」
 説明後、深々と白背に頭を下げる使者を、羅剛は立ち上がりその頭を手で押さえ。
「では、責任は貴様1人で良いな?」
「は?」
 グシャッ!!!
 羅剛がまるでトマトでも握り潰すように使者の頭を握り弾けさせる。
「さて、これで3日とかいう戯言は無くなった」
 潰した使者の服を使って手を拭きつつ、里見義巳に向き直る白背羅剛。
「犬神藩の藩主よ、いくら猟兵に頼っても無駄だ。責任を取るから婚約破棄に協力してくれ? まったく下らん! 元より此度の話は儂と今は無き多野藩藩主との間の取り決め、口出しはさせぬぞ」
 ギロリと猟兵達を睨みつける狒々堂藩藩主。
 対して犬神藩藩主の里見は、先ほどの言葉に引っかかりを覚える。
 そして……その場で見守っていた猟兵達は確信する。

 ――こいつは、オブリビオン、だと。

「では、さっさと姫を貰って行くとしよう。美濃姫はどこにいる?」
「それは……」
 気圧されるよう里見が口を開きそうになった――その時だ。再びドタドタを慌てて広間に入って来る犬神藩の侍。
「今度はどうした? 何を聞かされてももう驚かぬぞ」
「はっ、実はその言いにくいのですが……美濃姫様が……――」


 時間を少しだけ巻き戻す。
 ここは美濃姫に与えられた武家屋敷。
 ドガッ! と障子がけ破られる音と同時、屋敷中に悲鳴が響き渡る。
「きゃあああああっ!!!」
 それは聞き間違えるはずもない、美濃姫その人の悲鳴だった。
「黙ってろ!」
 鳩尾に一発入れて美濃姫を気絶させると、肩に担いで部屋を出ていく。
「ひ、姫様! 貴様ぁ、天下自在符で儂らの事を謀ったか!!」
 額の欠陥がぶちぎれそうな程顔を赤くして、筆頭家老の笹野が刀を抜く。家族全てに先立たれた笹野にとって美濃姫は実の孫に等しい、故に陥落寸前の籠城戦時も最後まで姫と共に戦ったのだ。
 だが――。
「どいてろジジイ」
 ゆるりと振るわれた裏拳一発で伸びる笹野。
 今、屋敷内に笹野以外の家老はいなかった。もう1人の家老たる外山は犬神藩に連れて来た子供に会いに行っており、また偶然、金山奉行の吉田も、寺社奉行の寺島も不在、残っているのは屋敷で姫の身の周りの世話をする女中ばかりで……。
「あんた、どういうつもりだい」
 いや1人、頭使うのは苦手だと屋敷に残っていた猟兵――霞ノ衣が立ちはだかる。
「チッ、全員婚姻破棄の為に奔走してると思ったんだがね、こいつは誤算だ」
 霞ノ衣の前で気絶させた美濃姫を抱えた40代の男――いや、猟兵たる嶋野・輝彦がめんどくさそうに呟く。
「おい、質問に答えな。どうして猟兵のあんたが姫さんを攫う。事と次第によっちゃあ半殺しで済むと思うな」
「おー怖いねぇ、もう半殺し確定じゃねぇか……」
 そう、お道化たように輝彦が言った、その瞬間。
 ドドドドドンッ!
 庭の方から幾つもの火炎玉が放たれ霞ノ衣が吹っ飛ぶ。
 そのチャンスを逃さない輝彦。
「騙されたなぁ馬鹿どもが! 羅剛のおっさんに幾らで売れるかなぁ」
 捨て台詞を派手に吐き、そのまま玄関口へ。
「ま、待ちやが――くそっ! また狐火か!? 誰だ!!」
 追おうとする霞ノ衣を封じるように、追加で火炎玉が打ち込まれ足止めされてしまう。
「………………」
 支援者に疑問を抱きつつ、屋敷を飛び出した輝彦の元に、パカラパカラッと馬に乗り、もう1頭を引きつれた覆面の男が――「乗って下さい!」と誘う。
 ここでの判断は致命的になると咄嗟にもう1頭の馬の背に姫を横たえ、その後ろに飛び乗る。
「今回ばかりは力で何とかするのは難しいでしょうしね。いっそ逃げるのも手です」
「あんた、解ってるじゃねーか」
 覆面の男に輝彦が笑い、2人は馬を駆って颯爽と犬神の城下街を後にする。
 その光景を屋敷にちょうど戻って来た所の少女は見た。見てしまった。
 自分と同じ境遇の美濃姫、政略結婚は常と思いつつ、かといって解決策の提示もできず。
 自分はただ姫様の話し相手ぐらいにしかならないのでは……そう思っていた。思い始めていた。
「いいえ……私にだって」
 そう胸元で拳を握り、少女――プリンセラは決断する。
「これ、少しの間お借りします!」
 強引に荷を引いていた馬を奪うとひらりと跨り。
「ちょ、お――」
「ごめんなさい!」
 静止を振り切り馬の腹を蹴り、姫を連れ去った2人組を追うのだった……。


 美濃姫に与えられた武家屋敷に白背・羅剛達が到着したのは、すでに事が起こってから数分後の事だった。
 どかどかと土足で屋敷内に入り美濃姫を探すも、もちろんそこに姫の姿は無く……。
「おい! 誰だ! 誰がやった!」
 適当な女中を捕まえ締め上げる。
「し、知りませぬ。ただ、先ほどアレを見つけ……」
 女中が指差す方のには刀置きがあり、そこに1枚の文が落ちていた。
「しんごのわざ?」
 そこには大髭書体で『しんごのわざ』と書き記してあった。
「ここには何があった!」
「ひぃぃ、た、確か、多野藩藩主の証たる赤磊刀とかいう刀が……」
「ふんっ!」
 女中を放り投げ屋敷から出ていく羅剛。
 門から出た所で馬に乗った里見義巳らと、自身を追って来た使者団と護衛兵達が合流する。
「白背殿、此度の騒動、よもやお主の差し金ではござらんな」
「貴様の目は節穴か! 自ら仕組み自ら怒る阿呆がどこにおるか! だいたい、それを言うのはこちらの台詞、里見の……貴様こそこの茶番を仕組んだ張本人ではあるまいな! 儂に美濃姫を奪われんが為に!」
「それこそわしに何の利がある。藩主名にて預かりし姫を野党や何かに奪われるなどという失態、外に知られればこれ以上ない恥となろう」
「………………」
「………………」
 お互い睨み合うが本当にお互い知らない事であり、一歩も引かずに時間だけが過ぎる。
 やがて、白背羅剛の肩に漆黒の鴉がとまり。
「ふん、そうか……」
 真っ赤なガラス玉のような瞳で鴉は一度、里見が引き連れた猟兵達を見つめると、バサバサと飛び去って行く。
「まぁいい、美濃姫の事はお主の言う通り明日の場で決着をつけようではないか。例え姫自身がおらずとも、な」
「元より、明日の会合で決めるべきこと。わしに異論は無い」
「がっはっはっはっはっ、その言葉、忘れるでないぞ」
 そう言って使者団と護衛兵を伴い、白背・羅剛は屋敷の前から立ち去って行ったのだった。


「本人の気持ちも無視する結婚はアカンし気に入らん! 個人的感情やけどドツく為に決闘状でも書いたろか!」
 瓦礫漁りを行なう権左衛門が拳を振り上げる啖呵を切ると、同じく漁りつつヴィクトリアが「まったくもう、ゴンちゃんさんは冗談ばかり……」とそちらを見ずに合の手を入れる。
「何か証文等があるなら十石城の方が……というアイディアは解るでありますが」
 2人と同じく瓦礫を漁る五ツ音が、さすがに徹夜でやるには腰も痛くなってきたと伸びをしつつ言えば、少し休憩にしましょうかと竹筒の水筒を配るヴィクトリア。
 疲れた身体に水が喉を通っていくのが気持ちよく、ふとそこで五ツ音はずっと気になった事があり権左衛門に聞いてみる事に。
「ところで桐殿、その腰に引っ提げた刀はもしかして……いや、まさかとは思うでありますが……」
「お、五ツ音はんはお目が高い! そうや、これぞ多野藩藩主の証、名刀・赤磊刀や! 盗んで来てもーた」
 あはは、と笑う権左衛門に、ヴィクトリアが思わず飲んでいた水を拭き出す。
「な、な、な、」
「やっぱりでありますか、似てるなぁ~とは思っていたでありますよ」
 納得とばかりに手を打つ五ツ音を押しのけ、ヴィクトリアが権左衛門に迫る。
「何をやっているんです!」
「そう怒らんといてーや、国の宝であり、父君の形見でもある赤磊刀が行方不明になれば、美濃ちゃんの心労理由で結婚話も延期できるんちゃう、てぇ」
「それは無いでありますよ」
「え?」
「へ?」
 ザッザッ、と再び瓦礫漁りを開始した五ツ音が淡々と告げる。
「婚姻話の準備で3日間の猶予を貰っているでありますし、その上病気になったからと言って向こうがそれを聞き入れるとはとても思わないであります」
 言われ見れば……と思うヴィクトリア。
「じゃ、じゃあ、ウチ、どないなるん?」
 少し青ざめて権左衛門が言う。
「結局、ただの盗人ですし……でも、国の宝でありますから……」
「この時代だと、打ち首、市中引き回し、島流し……とかでしょうか?」
 ヴィクトリアが知っている言葉を適当に並べる。
「そ、そんなん嫌やーーー!」
 泣きべそをかく権左衛門に、ヴィクトリアが言い過ぎたかなと謝ろうとした時、シュパッと権左衛門の手が動き何かを掴む。
「何やコレ?」
 ちなみに涙は一滴も流れていない、嘘泣きだったようだ。
「陰陽師の方が使う式神……でしょうか?」
「紙人形でありますな……しかし、少し大きいような……」
 ヴィクトリアと五ツ音も寄って来て式神を見て見る。
「ん、これ……」


 美濃姫を攫った2人組は、途中で馬を逃がし、徒歩で方向を変えて逃走し……。
「ちょ、ちょっと待て、そろそろ休まねぇ?」
 輝彦が言う。
 すでに山の中、川も越え、追手がおいそれと追いつく距離ではない。
「そうですね……一休み致しましょう」
 そう言って馬を手配した男が布をぐるぐる巻いただけの覆面を取る。
「あんた、確か姫様の屋敷に集まっていた時にいた……」
「月舘・夜彦と申します。あなたは確か、あの時は後ろの壁に寄りかかっていた……確か、嶋野殿、嶋野輝彦殿でございましょう」
「チッ、俺の顔なんざ誰も覚えちゃいねーと思ったんだがな」
 髪の毛をかきつつ輝彦がぼやく。
「それで、嶋野殿はいかにしてこのような暴挙に?」
「あんたが言うか? ったく、まぁ大した理由はねぇよ。俺はただ、猟兵が信頼され過ぎだって思っただけだ」
「信頼されて悪いのですか?」
「ああ、悪いね。おかげで姫様も犬神の殿様も、ずっと猟兵頼りになってて腹が括りきれてねぇ」
「つまり、猟兵であるあなた自ら悪人となり、里見様や姫様に腹を括らせようと」
 話が早くて助かる、と言った目で輝彦が夜彦を見つめ。
「その通りだ。俺としちゃあ犬神の殿さまが姫様を娶るのが一番良いと思ってるんだ。ただ、その覚悟が無ぇだけでな……」
「ふむ」
「で、俺の事情は話したぜ。あんたの事情も聴かせてもらおうか」
 今度はこちらの番だと、夜彦に指を突きつける。
「私は純粋に、狒々堂とやらに美濃姫を奪う資格は無いと付きつけたかったまでの事」
「どういう事だ?」
「私達は多野の危機に姫を救い、敵から家宝を取り返したという実績があります。その報酬として私達が姫様を貰い受けたと主張したなら……加勢すらしなかった狒々堂も証文という武器だけは釣り合わない、つまり不十分のはず」
「そりゃ確かに……だが、それじゃあ狒々堂が姫を取り返しに来たらどうするよ? 渡しちまったら奴らはあんた等と同じ資格十分って話になっちまうぜ?」
 輝彦の言葉に夜彦が微笑む。
「無論、その際は真っ向から争う事にはなりますね」
「覚悟の上かよ? あーやだやだ、UDCもだったが、このエンパイアも大概だなぁオイ」
 なぜか笑いが込み上げてくる輝彦。
「――と、そういや、庭から火の玉で援護してくれたのも月舘の仕業か?」
「火の玉、ですか?」
「違うのか?」
 だったら誰が……そう輝彦が思った時だ。ガサガサと繁みをかき分け誰かが近づいてくる音がする。
 咄嗟に輝彦が銃に手を伸ばし、夜彦も夜禱の柄に手をかける。
「ちょー待った待った、せっかく援護してあげたのに刀向けるのはあんまりじゃナイ?」
 そう言って現れたのはコノハであった、いつもの軽薄な口調と足取りで現れるも、輝彦と夜彦はその腰でじたばた暴れている少女に目が行ってしまう。
「あ、この子? なんか付けて来てたみたいだから連れてきちゃったンだけど、ダメだったかナ?」
「放して! 放して下さい!」
「はいはい」
 コノハが少女――プリンセラを危なく無いよう地に降ろす。
 すると膨れっ面のような怒った表情をコノハに向けるプリンセラだが、すぐに美濃姫が寝ている事に気が付き駆け寄ると。
「大丈夫ですか! 命に……別状は無さそうですね」
 慌てるプリンセラに輝彦がため息をつき、それぞれの事情を伝え……。
「そういう事でしたか……でも、だったら皆に言って下されば!」
「いや、言ったら猟兵全員が悪者になっちまうじゃねーか」
「それで、ライゼ殿はどうして輝彦殿の援護を……話を聞く限り、事前に打ちあわせていたわけでもなかったようですしね」
 夜彦がここまで事情を話して無かったコノハに話を振る。
「いやー、オレは考えるの苦手だからサ。脅しの手紙でも届いた事にして逃げちゃえば、犬神の殿様に迷惑はかからないし、それで良いかなーってネ。力技しか思いつかなくって」
 明るく笑い飛ばすコノハ。もちろん、実際にどうするかまで考えておらず、そんな所にちょうど輝彦が姫を攫いに来た為同調した、という事らしい。
「あの、それは良いですが……肝心の脅しの手紙はどうされたのですか? 私、屋敷におりましたがそのような話、まったく聞きませんでしたが」
 プリンセラがジトッと見つめつつ言うと、コノハはウィンクひとつ。
「実は誰か知らないけど赤磊刀を盗んだ賊が居たみたいで、刀置き場に書置きがしてあったカラ、そのせいにしちゃえばイイかなーって」
「赤磊刀が!?」
 夜彦が本気で驚くも。
「大丈夫じゃないかナ、そこには『しんごのわざ』って書いてあったから」
「しんごのわざ? なんだそりゃ?」
 輝彦が意味解らんと眉間に皺をよせると、その背後から。
「文字を入れ替え読めば『ごんのしわざ』となる……つまり、桐権左衛門の仕業、じゃろうな」
「姫様!?」
「美濃姫様、いつからお気づきに!」
「コノハが考えるのが苦手と言い出した辺りから薄っすらと……」
 夜彦に支えられつつ上半身を起こした美濃姫に、4人が現状と何が起こったかを説明する。
「事情はわかった……すまぬな、妾に力が無いばっかりに、お主等を悪人に……」
「気になさらず、覚悟の上です」
「今更でデショ?」
「謝るのはこっちの方だ。腹パンしちまって悪かったな。だが、攫ったのはこっちの事情だ。気になさんな」
 3人がそれぞれ美濃姫に言うと、プリンセラが。
「こうなった以上、私も覚悟を決めております……まずは、もっと犬神の城下から離れ安全な場所へ逃げましょう。途中、その着物も変えた方が良いでしょうし……私がいて良かったですね?」
 同意を求められ、一瞬何の事かピンと来なかった美濃姫だが、すぐに着替えの件だと理解し。
「うむ、頼もしい限りじゃ」
 とプリンセラに笑顔で頷くのだった。

 ――そして犬神藩の城では、運命の会議が開かれる……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 犬神藩は城の中広場、上座には誰も座らず左右に分けるよう犬神藩と狒々堂藩が対面して座っていた。
 そして両陣営の中央の仕切り位置に、今回の見届け人として指名された多野家筆頭家老である笹野・高之が着座し婚姻の件についての会議が始められる。
 最初こそ礼式に乗っ取った定例文と、狒々堂側が所持している証文が如何に正当性を持つかが伝えられ、また犬神藩側は美濃姫や多野の家臣団を受け入れた事で彼らの処遇について口出しする正当性があるとこじつけるように説明……そして、会議は紛糾する。
「下らぬ! 犬神藩が口を出す事が正統な権利とは片腹痛いわ。そのような戯れ言が通じると思っているのか!」
 羅剛が大声で怒鳴り散らし、その怒声に犬神藩の家臣達が威圧される。
「発言させて頂いても宜しいでしょうか」
 羅剛が威圧した雰囲気を壊すよう、零が声を上げ立ち上がる。
 頭が高いと狒々堂の護衛の1人が言おうとするも、立っても40cmにも満たない零の姿に言うべきか困惑、飲み込んでしまう。だが、それを意に介さない男が1人――羅剛だ。
「黙れ小僧! 家臣でも無い部外者はそこでじっと座っていろ!」
 その事にカチンと来たのは零だけではない、猟兵は天下の将軍より天下自在符を持たされた存在だ、ただの客人とは訳が違う。
 だが、そんな猟兵達を手で制して里見義巳が。
「構わぬ、話せ!」
 羅剛にも負けぬ凜とした声で許可を出す。
「貴様!」
「何が問題だ! この方々は我が犬神藩の問題を解決されし大事な客人、此度の件も相談役に近い存在としてここに同席して頂いた。もちろん、客人達の失言はわしの失言、その言葉はわしの言葉と思って頂いて構わぬ。何か問題でも」
 どちらかと言えば温和な里見義巳の迫力に、今までこちらを舐めていた狒々堂の使者団や護衛達が一斉に背を伸ばし、当の羅剛も「ふんっ」と鼻息一つで着座する。
「では高柳殿、続きを……」
「は、はい。……では、ごほん……」
 思った以上にピリついた空気に1つ咳払いしてから零は口を開く。
「確かに、先ほど狒々堂側から提出されたの証文によれば、美濃姫様を側室に迎えるという言い分は間違っていないでしょう」
 零の言葉に羅剛が、所詮は小僧か……と笑みを浮かべる。
「しかし、それはこちらも同じ事」
「どういう事だ」
「こちらにも似たような証文がある……というだけでございます」
 そう言って零が事前に多野藩の家臣と里見義巳に言って作って貰った書状を見届け人の笹野に渡し、里見義巳が、そして白背羅剛が目を通す。
「見て頂いた通り、そこに記載されておりますは『里見義己様に男子が誕生したあかつきには、美濃姫と結婚をさせる』との内容。十石上埜信様と里見義巳様、両藩主の署名も正しく記載されております」
「ふざけるな! そんなもの、真っ赤な偽物であろうが!」
「念の為、もう一度狒々堂側の持つ証文を此処に……」
 見届け人の笹野が両陣営の書状を提出させ、両書状にあるかつての主、十石上埜信の証明と見比べると……。
「見れば見るほど瓜二つ。細かなハネやトメすらぴったり一致致しますぞ」
 笹野が断言すると同時、零が。
「どうやら、どちらも本物のようですね」
 勝ったというニュアンスで言う零の言葉に、羅剛がドンッと畳に拳を打ち据え歯ぎしりする。
「し、しかし羅剛様、もし両方の書状が本物だとするのなら、多野家無き今、一刻も早く約定が締結する証文を優先するが常、このまま美濃姫を放置するわけにはいきますまい」
 使者の1人が恐る恐る助言し、羅剛が膝を叩く。
「その通りだ! で、貴様に跡継ぎたる男子はおるのか? ほら、早ぅ連れてこい」
「それは……」
「わしとお主の息子、どちらが娶るにしても居ない者に娶らせるわけにはいかぬなぁ? まして、子供どころか奥方すら持たぬ貴様に、子が生まれるなど夢のまた夢」
「くっ……」
 証文が両方本物なら実現可能な方を実行しよう……という事だ。こうなると実子もその予定も無い犬神藩側が一気に不利になる。
「実現可能かどうかで判断するならば、白背殿、貴殿の証文こそ実現不可能」
 狒々堂勝利の雰囲気を一刀両断するは美月だ。
「何が実現不可能だ。貴様、わしを馬鹿にしているのか?」
 美月は真っ正面からの羅剛の重圧を受け止め、微動だにせず続ける。
「失礼ながら今は泰平、戦国の世とは違います。藩主同士の婚姻なれば上様へ報告が必須なのは知っておりましょう?」
 それは徳川の時代となって広まった話だった。徳川家に許可なく藩主同士が結婚すれば、勝手に領地まで合併される事となり、引いては徳川に謀反を起こす温床となりうる……徳川はそれを懸念しているのだ。
「確かに、今の美濃姫は多野の主、藩主様でありますのぅ」
 見届け人の笹野が呟き。
「もしその書状も本物なら犬神藩側の書状も含め、一度幕府に『藩主交代に伴う婚姻の取り消し』を発して頂く必要があります」
「そうでなくとも跡取りもいない多野の藩主を側室に……というのは、その藩を吸収するようなものだ。さすがに石高が変わるような事は、お上にお伺いを立てる必要があるんだろう?」
 美月に続いて畳みかけるよう穹も言う。
「ぐぬぬ……おい、今の世はそんな約定がまかり通っているのか」
「は、はい、将軍様の時代となり大名同士の婚姻はお上に報告の義務が……」
 ――グシャアッ!
「そういうことは先に言え」
 使者の1人の頭を握り潰し、そのまま仁王立ちした羅剛はぐるりと犬神藩の参列者達を睨み付け。
「ならばお互い、この書状を江戸へと届けさせお上の判断に仰ぐとするか? しかし覚悟しておけ、江戸までの道中は長いぞ」
 自身の部下を握り潰し血を滴らせた拳を握って羅剛が恫喝、犬神側の家臣の何人かが気に当てられ意識が飛びそうになり……その時だ、広間に響くは少女の声。
「天下自在符とは! この世に迫る脅威に対抗するため上様が認めし者に下賜されしもの。つまり、上様はこの世に仇成す脅威を認識しているということ!」
 小さな少女――レイチェルの堂々とした声に広間の皆が呆然と耳を傾ける。
「『戦国の世はすでに終わり……まさか本当に謎の武者集団に襲撃を受けているとは思わぬ』と、多野の地が襲撃を受けた際に申したそうだが……武家においてその怠慢は言語道断! 上様が懸念せし脅威を軽んじ、己が怠慢を棚に上げ、友好すら損なうなど裏切りの誹りを受けてもまだ足りぬ! そも、そのような怠惰なりし狒々堂が証文を持ち出し正論を説くなど筋違いも甚だしい! 恥を知れ!」
 レイチェルの言葉にぐうの音も出ず黙り込む狒々堂側。唯一、藩主たる羅剛だけどんどん顔を紅くしていくも――。
 パンッ!
 場の空気を変えるよう宵が柏手をうち立ち上がり。
「皆様、お互い熱くなり過ぎぬよう……あくまでこの場は話し合いの場、戦場ではありませぬ。失礼、笹野殿……先ほどの二通の書状を少しお借りします」
「何をするつもりか?」
 疑問顔で笹野が宵に二通の書状を渡すと。
「いえ、僕は術士でして……この書状が、どちらも本当に本物かどうかこの場で明らかにして見せましょう、と」
 ガタタっ!
 両陣営の数人が止めようとするかのように身動ぎするが、「面白い、やってみろ」と羅剛が止める。
「では……古物に宿りし魂よ、汝の辿りし星の巡りは幾度なり、幾度なり……」
 宵は長々と呪文を唱え、皆がイラつき出すタイミングで二通の書状がそれぞれ宙に浮き、さらにその状態で再び長い呪文を唱え、再びイラつきがピークになりそうになった所で、やっとその周囲を魔術的な文字と数字が回り始め、三度の長文の後、その数字がピタリと止まる。それは狒々堂の書状が二桁の数字、犬神の書状が一桁の数字であった。
「今のは……逢坂殿、今ので一体何が……?」
 術を終え両手に書状を持った状態で宵が答える。
「今、書状達が幾度の星を視たか……つまり、何度夜を越えたか答えて貰いました。そして先ほどの数字から計算するに……残念ながら、この二通は十石城の落城後に書かれたもので間違いありません」
 両陣営がざわつく。
 特に犬神藩側の動揺は激しい、宵だってこの書状が偽物である事は知っていたはずだ。それをどうしてわざわざ……。
 ざわついたその瞬間、見計らったように立ち上がる男が1人。
 キラッと輝き皆の視線が集まる……ジェフリエイルだった。
「さて、実は美濃姫から預かった書状がここにも1通ありまして……」
 さらりと笹野に渡すジェフリエイル。
「こちらは十石上埜信様が謎の武者軍団討伐の出陣前に美濃姫様に渡した書状。ご確認を」
 笹野、里見、白背と皆目を通すと、そこには『万一の際は美濃姫を里見の養子とし、民の受け入れを頼みたい』との内容で、さらりと狒々堂の不義理についても認めてあった。書状にある署名は藩主たる上埜信ともう1人……。
「この名は……我が藩の馬廻衆の1人だのぅ」
 笹野が知った名に思わず声を出す。だが、この者は上埜信様が討ち死にした後、籠城戦までの間に敵から民を守るために戦い戦死している。
「本当なら、この馬廻衆の方が犬神藩に書状を届ける役だったのだろうけど、討ち死にしてしまった為その書状はここにない……残念ながら」

 犬神藩は城の門前、急ブレーキをかける宇宙バイクの上からヒラリと飛び降りるは1人の男と1人の妖精。
「これを持って先に行って下さい!」
「わかった!」
 そう言って妖精は先に飛んでいき、その後を追って男も駆けていく。
 2人の背中を見送りながら、宇宙バイクに乗ったままのレッグは腕を組み。
「やれやれ、俺は運び屋じゃないんだがな……」
 フー、と溜息のような蒸気を吹き出すのだった。

 狒々堂側がジェフリエイルに反論しようとした、まさにそのとき。
「失礼します!」
 声と共に窓から飛び込んできたのは妖精のトゥールだ。
 そのまま一直線にジェフリエイルの元へ行き、両手で抱えた煤汚れた書状を渡す。
「これ、やっと見つけたよ……本当、大変だったんだから」
 へろへろと飛べなくなり畳に大の字に転がるトゥール。
「そ、それはまさか……」
 見届け人の笹野がジェフリエイルから煤汚れた書状を受け取り中身を確認する。
 それはまさしく、先ほど話していた馬廻衆が犬神藩に渡す予定だったもう1通の書状だった。
「そんなもの、なんの証拠が――」
「ありますとも」
 羅剛が煤汚れた書状を奪い取ろうと声を上げ、その声を制するよう別の声が広間の入り口から上がる。
 それは汚れたままの青い陰陽師服を纏った燕三だった。
「失礼します。十石城の焼け跡から見つけてきた物です。署名している方の遺品もここに……」
 燕三が印籠や短刀などを笹野に渡す。
「間に合って良かったですよ、まったく……出世払いを期待しているとはいえ、なかなかにキツイ」
 燕三が宵とジェフリエイルに目を向け、3人は目だけでお互い頷き合う。
「もし真偽の程が知りたければ、再び僕が術を施しましょうか?」
 トドメとばかりに宵が言えば、羅剛が無言で背を向け、どかどかと広間の入り口から出て行こうとする。
「白背殿! どこへ!」
 笹野が呼び止めると。
「黙れ! 今回の事、後悔するでないぞ」
 凄みのある低い声で呟き、そのまま羅剛は背を向け広間を出て行き、その護衛や使者団も後に続きいなくなる。
 こうして、猟兵達によって美濃姫の婚姻は破談と消えたのだった……。


「御館様! これから如何なされ――」
「知れた事、犬神の奴等より先に美濃姫を見つけるのだ」
「しかし、姫は里見殿の養子という事に……」
 ガッ! 反論した使者団の1人が殴り倒され。
「そんな証文など知ったことか、滅ぼした敵国の姫は勝利国のモノ。それが戦国の理よ!」
 野心に満ちた目に暗い焔を灯しガハハと笑う羅剛。
 そのまま列を作り城下の大通りを北に向かって進んでいく狒々堂藩の者達だったが、進路上に人物が立ち塞がっており、一様に足を止める。
「無礼であるぞ!」
 護衛の独りが叫ぶが、その人物は羅剛を見つめニヤリと鬼のような笑みを浮かべる。
「あんた、相当強いね? ちょいと手合わせさせておくれよ」
 その人物――蒼の戦鬼こと紺屋・霞ノ衣が指差すは、列の先頭に立つ巨漢の男――狒々堂藩藩主、白背羅剛その人であった。
「御館様!」
「あのような無礼者、即刻斬り捨て――」
 護衛達がいきり立つ中、羅剛が一歩進み出。
「よかろう、受けて立つ」
 驚く護衛達を手で制し仁王立ちとなる羅剛。
「姫さんの親父さんは最後まで勇ましく戦ったと聞いてね。その娘と一緒になる相手なんだから強くなきゃ駄目さ……そう思って声をかけたんだが」
「当てが外れたか? 羅刹の女よ」
「ああ、外れも外れ、大外れだ。まさか嫁ぎ先が……オブリビオンとはね」
「ならば話が速いな、猟兵ならば捻り潰しがいがあるというもの」
 羅剛と霞ノ衣の言葉の応酬とただならぬ雰囲気に、喧嘩だと思って集まっていた野次馬達が少しずつ距離を置きだす。
 しかし、それを見て霞ノ衣は内心舌打ちする、距離を置こうとも所詮は往来だ。本気でやり合えば被害は必ず城下の人々に及ぶだろう。
 ガシャン。
「どうした?」
 霞ノ衣が武器たる無骨な斧を捨てるのを見て羅剛が問う。
「言っただろう。手合わせ願いたいってね。この通り、アタシは拳だけでいい」
 それは挑発であり賭けだった。ステゴロならなんとか町民達に被害が及ばず戦えるだろう、との……。
「気に入った! 儂もコレだけで戦ってやろう!」
 羅剛も刀を護衛に預け、拳同士をぶつけながら霞ノ衣に向かって歩いてくる。
「(これで被害は抑えられるかね……それなら)」
 ギンッと霞ノ衣が力を解放。
「それじゃあ……こっちから行かせて貰うよ!!!」
 身を低くし地面すれすれを飛ぶように羅剛に接敵、右の拳を振りかぶり――。
「ふんっ!」
 羅剛が見切ったように頭上から叩き潰さんと拳を振り下ろし、霞ノ衣は咄嗟に大地を拳で打ち方向転換、羅剛の拳が地面を砕きクレーターが作られ、その舞う土砂に紛れて羅剛の背後に回り込んだ霞ノ衣が蹴りを放つ。
 完全な死角からの一撃、それを羅剛は後ろに目でも付いているかのように左手一本で受け止め、そのまま霞ノ衣の足首を掴み上げる。
 霞ノ衣は舌打ちし身体を振って逆の右手を掴み、そのまま右手を締め上げる。
 巨漢の羅剛の右手に霞ノ衣が絡まっているかのようだが、その怪力がギリギリと腕を締め上げ骨を軋ませる。
「あんた、見かけ通り凄い膂力だね……だけど、そろそろ降参しないと腕一本、頂くよ」
「がっはっはっはっ、その程度で儂の腕をとったと思うな。もらい受けるは此方の方だ……もちろん、貴様の命をな!」
 羅剛が足首を掴んだ手を放し、目にもとまらぬ速さで霞ノ衣の左胸に向かって伸ばす。
 そしてその時霞ノ衣がとった行動は……命の危険を振り払い、羅剛の右腕をボキリとへし折る事であった。同時、羅剛の左手の五指が霞ノ衣の左胸に食い込み、そのままの勢いで心の臓を掴み潰そうと――。
 ズシュっ!
 肉を貫くその音は、羅剛の左腕から響き渡る。
「1対1だと思っていたのだがな?」
 左腕を日本刀に貫かれ、また鋭い爪持つ両手にて食い込む程握り止められたまま、余裕の声で羅剛が言う。
 その向けられた視線は、羅剛の左腕を不屈の獅子のように煌めく日本刀――獅子吼にて貫き、霞ノ衣へのトドメを間一髪止めた男、御剣・刀也に注がれ。
「悪いな、仲間が殺されるのを指を咥えて見ていられる程、人間できちゃいないんでね」
「で、そっちの化生も同じクチか?」
 羅剛が己が左手に両の爪を食い込ませ、同じく霞ノ衣を救った化け物に顔を向ける。
 そこには化け物――ヴァンパイアに変身し戦闘力を爆発的に増大させた死絡・送がいた。
「お前さんがここで止めるってなら、俺等も退くさ」
 しばし睨み合う3人だが、にやりと羅剛が笑い、霞ノ衣の胸から五指を引き抜く。
「ぐはぁっ!?」
 心臓の真上から大量の血を吹き流し倒れる霞ノ衣を刀也が支え、2人を守るようヴァンパイア状態の送が立つ。
「いいだろう、ここは退こう」
 だらりと右腕を垂らし、左腕からは血を流したまま羅剛が狒々堂の列へと戻っていく。
 だが、その途中でボキボキメキメキと骨と筋肉が軋む音が響き、列の先頭に戻った羅剛の両手は元通りとなって――。
「猟兵ども、決着はいずれ付けようか。がっはっはっはっ、最後の最後で悪くない余興であった!」
 豪快に笑いつつ去って行く羅剛の背を、朦朧とする意識を強固な意思で繋ぎ止めつつ霞ノ衣は「次遭うときは……」と心の中で笑みを浮かべるのだった……。


「燕三はん、ちゃんと間におおたかな?」
 多野の地を3人で歩きながら権左衛門が呟く。
「まあ、レグさんのバイクは速いですからね、大丈夫じゃないでしょうか」
 会議の為の仕込みを裏付ける小道具を実際に十石城の焼け跡から見つけて持って帰る、という無茶な作戦に乗りはしたが、正直ぎりぎりだったのでは……と思う。
 実際、時間的に徒歩で戻るには間に合わず、定員的な問題で結局ここの3人はこの地に置いてきぼりとなってしまったのだ。
「しかし、赤磊刀を持ったまま戻るわけにもいかないでありますし、仕方が無かったのでは?」
 五ツ音が言うと「それを言わんといて~」と権左衛門が嘆く。
「それで、これからどうするでありますか?」
 赤磊刀を見つめつつ五ツ音がヴィクトリアに聞けば。
「燕三さん達の話によると、美濃姫様は犬神藩の城下町から逃げ出したと言ってましたし、なんとか美濃姫様と合流したいですね」
「確かに」
「せやな! 美濃ちゃん待っててやー!」
 多野の空に権左衛門の声が響き、女猟兵3人は姫を求めて歩き出す……。


 見つけた漁師小屋の中で、美濃姫の着替えをプリンセラが1人手伝う。
 残りの男共は小屋の外で見張りだった。
 ある程度着替え終わると、後は自分で出来ると言うのでプリンセラは着替えの手伝いを止めクルリと背を向ける。
「プリンセラ?」
「これからどうするべきか、兄姉達に聞いてみようかと……」
「それはどういう……」
 問いかける美濃姫に答えず、背を向けたままプリンセラは。
「誰ぞ来よ。――決断の時間です」
 そして現れたるは長兄ヴィルヘルムであった。
 これほど状況が錯綜している今、とりまとめられるのは長兄であり皇太子である彼が相応しい。
 プリンセラ=ヴィルヘルムは、美濃姫に背を向けたまま。
「これ以上は藩と藩、国と国との問題。外様である我々が口出しすべき問題ではありません。ただ、我々にとって重要なのは……美濃姫様のお考えです」
 雰囲気が変わったプリンセラを心配しつつも、その真剣な問いかけに「妾の?」と返す。
「はい。もし助けよと仰るのであれば助けましょう。ですが、助けよと言わなければ助ける事は出来ません。美濃姫様の御心こそが重要なのです」
「妾の……心……」
「ご決断ください。決断する事こそが――人の上に立つ者の使命」
 それはプリンセラに語りかけるようでもあり、そしてだからこそ同じ立場の美濃姫には重く心に染み渡る。
 ふと、自分の胸に手をあて美濃姫は考える。
 自分はどうしたいか、蝶よ花よと育てられていたあの頃はもう遠く、思い出せるのは決死の籠城戦、燃える城、必死に戦った仇討ち、そしてそのどこにも猟兵達がいた。
「ご決断ください。その決断に従い、我々猟兵は姫の望みを叶えるべく全力を尽くしましょう」
 歩き出し、小屋から出ようとする美濃姫の気配を察し、プリンセラ=ヴィルヘルムは立ち上がり道を開ける。
 そして――。
 小屋から現れた美濃姫は、今までの打掛姿でなく若侍のような侍装束だった。髪も上でまとめ上げ馬の尻尾のように肩に垂らしている。
「妾は決めたぞ。狒々堂の好きにはさせん! かと言って恩義ある犬神の地も見捨てはしない! 今はまだ……明確に言えることはそれだけじゃが……それでも、付いてきてくれるか?」
 美濃姫が4人を見回す。
「逃げても一国の主の名は消えません。何より貴女様がそれを許さないと思っておりました。今回の件で姫様が覚悟を決めたのでしたら、私も同じ覚悟を以て、お供させて頂く所存」
 夜彦が最初に膝を付き。
「もちろん、協力させて頂きます」
 プリンセラがスカートの両端を持ち上げ。
「オレの答えは決まってるデショ」
 コノハが軽薄に頷く。
「しゃーねーなーって思ってるよ」
 最後に、輝彦が頭をかきながら……美濃姫へと微笑む。
 若侍の恰好をした美濃姫と共に、4人は覚悟の道をゆく……。


 バサバサバサ……。
 遊郭の二階、窓際に漆黒の鴉が降り立つと、ガラス玉のような紅い瞳で一声鳴くと、それが合図であったかのように霧散する。
 その部屋の中、薄暗くされた六畳間には2人の人物。
 1人は黒い法師服を着崩した赤毛の法師――黒道坊。
 もう1人は畳に額を付け土下座を続ける多野の家臣だった。
「やれやれ、本当に美濃姫が逃げ出す事を知らなかったのですか?」
「は、ははー、寝耳に水の出来事で……」
 ひたすら平伏する男を黒道坊は見下すように。
「信じますとも。そのような些細な嘘をついても、あなたには何の得も無い……」
「は、ははー……」
「それでは引き続き、新しい情報を得たならすぐに連絡を寄越しなさい。連絡用に新しい式を渡して起きます」
 黒い式札を1枚、スッと男の前に投げると、男はそれを懐へとしまい。
「それでは、怪しまれる前に戻ります故……くれぐれも、どうか、くれぐれも」
「わかっていますよ。ご安心下さい。ただ、あなたの働き次第、という事もお忘れなきよう」
 微笑む黒道坊に平伏したまま後ろに下がり部屋から出て行く男。
 黒道坊はふと窓の外に目を向け。
「さて、御館様もたいそうお怒りのようだ。行方知らずの美濃姫に追手をかけると致しましょうか」
 黒道坊は懐から黒い式札を取り出し窓から外へ放る、すると途中で札は紅目の鴉へと変化し北へと飛んでいく。
「それに、私自身もこのまま手ぶらで帰るわけにもいきますまいて……とりあえず、この地を地獄に変える準備でも致しましょうか」


 犬神藩藩主たる里見・義巳(さとみ・よしみ)が、話したい事があると言い城の大広間に猟兵達を集めていた。
 広間にいるのは猟兵を集めた藩主の里見と、猟兵への信頼厚い家老が1人、あとは犬神藩に残っていた猟兵達全て、である。
 小さなトゥールや零から大きなレッグまでが一様に並んで座っており、最後に入ってきたジェフリエイルが「遅くなったかな」とマイペースに輝きつつ着座する。
「それで、話というのは?」
 美月が切り出せば、里見義巳は「うむ」と頷き。
「先の会議にてどうしても気になった点があってな……それが何か合点がいったのだ」
「それはいったい?」
 宵が聞くと、藩主は刀也に顔を向け。
「一応確認さえてくれ、お主がわしに話した内容、それを知るのはお主とわし以外は誰がおる」
「え、あとは姫様の前で話しただけだが……」
 刀也がそう言うと。
「その場に、多野の家臣4人もおったのではないか?」
「いましたね。確かに」
 藩主の問いに燕三が答え、集められた猟兵達の何人かはピンと来る。
「あの4人の中に、敵に通じてる奴がいるって事か?」
 送が言うと藩主は渋い顔で首を縦に振る。
 考えたくはなかったが、今まで起こった事や羅剛が知らないはずの情報を知っていた事から、誰かしらが通じている事は確実だった。
「会議の通り、今後狒々堂の奴等が何をしてくるかわからん状態だ。美濃姫がいない今のうちに、多野の家臣の誰が敵と繋がっているのか……それを暴き、その裏切り者を捕まえて貰えないだろうか」
 藩主からの依頼に猟兵達は顔を見合わせ。
「あのね、藩主様。立派な人を手駒にするってダークセイヴァーとかではみなれた手口なんだよ」
「だーくせいばー?……は解らぬが、やはりそのような手段を暴く事も慣れておる、そう受け取って良いのだな」
「手段を選ばないならなんとでもなるさ」
 穹の言葉に一抹の不安を感じ、藩主は「民に被害がでるような事だけはやめてくれよ」と釘を差すのだった……。


第2章 冒険 『真の黒幕』

POW   :    鉄拳制裁で本音を聞き出せ! 怪しいヤツが尻尾を出すまで寝ずに監視しろ!

SPD   :    偽の証拠を偽造して黒幕を動揺させボロを出させろ! 死者に変装し黒幕を自白に追い込め!

WIZ   :    論理的思考を続け破綻している証言を見つけろ! 「それは犯人しか知らないはず」と口車で黒幕に言わせろ!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第二章予告

 強引な婚姻話をぶち壊した猟兵達だったが、
 この事件の裏にはオブリビオンの影がある。
 オブリビオンに繋がった糸を手繰り寄せ、
 猟兵達は真の黒幕を日の下に引きづり出す事ができるのか。

 だが、猟兵達が動く裏で、真の黒幕も動き出す。
 犬神の城下町に地獄のような火の手が迫る……。

『国に必要な物~滅亡の愛姫~ 其の弐 』

 第ニ章 黒幕
プリンセラ・プリンセス
「誰ぞ来よ。――偽装の時間です」
応えたのは11番目の兄姉オフェリー。彼女は間諜いわゆるスパイ担当である。雰囲気も冷たく研ぎ澄まされた感じとなる。
「私が姫と成り代わり敵の目を引きつけます。姫はその間他の猟兵と行動し、敵の狙いを探ってください」
「敵も姫の姿が見えている限り、そう無茶な事はしてこないでしょう。多少の傷など、と申したいところですが生憎と肉体は愛しき愚妹の物。お早めにお願いいたします」
「狒々とオブリビオンの繋がりが分かれば犬神藩も重い腰をあげましょう。
猟兵の力を借りて己の目で事実を確認してください。他の猟兵の方々もこの件はご内密にお願いします」
後の展開はお任せします




「本当に、よいのじゃな……」
 若侍に変装した美濃姫が心配そうに呟く。
「私が姫と成り代わり敵の目を引きつけます。姫はその間他の猟兵と行動し、敵の狙いを探ってください」
 そう答えるプリンセラ・プリンセスは、普段のドレス姿でなく打掛……美濃姫の来ていた着物であった。
「誰ぞ来よ。――偽装の時間です」
 一度目を瞑りプリンセラはそう呟くと、纏う空気感がピタリと変わる。
 ペルソナ・チェンジで現れた人格は、プリンセラの11番目の兄姉オフェリー。
 彼女の得意とするは間諜――つまりスパイ行為である。
 ゆっくりと瞳を開ければ先ほどまでのお転婆だが愛らしい雰囲気はどこへやら、冷たく研ぎ澄まされた空気を纏う。
「敵も姫の姿が見えている限り、そう無茶な事はしてこないでしょう」
 口調もどこか平淡で捉えどころが無い。
「いや、妾の姿なのだ。狒々堂が力づくで連れ去ろうとしてくるやもしれぬではないか! 大丈夫なのかぇ!?」
 プリンセラ=オフェリーはフッと微笑むと。
「こちらも猟兵です、ある程度は自力で退ける事は可能ですから……とはいえ、生憎と肉体は愛しき愚妹の物。お早めに事態の解決か進展を、お願い致します」
「うむ」
 その言葉に美濃姫がこっくりと頷くと、プリンセラは纏う空気を変化させ――。
「お主の覚悟の道先がいかな未来に続くのか……己の目で事実を確認するのだ」
 そう言うとプリンセラは、すでに美濃姫そのものだった。口調だけでなく、僅かな所作すらも……。
 そして最後に他の猟兵達の瞳を見つめ。
「皆も、この件はご内密に」
 そう言ってプリンセラは美濃姫たちとは真逆の方向へ1人歩いて行くのだった……。

 結論を書こう。
 黒道坊の指示により、オブリビオン数グループが美濃姫確保の為に多野藩を越え犬神藩に入るも、そのほとんどは本物に美濃姫に到達する事はできなかった。
 なぜなら、その大部分をプリンセラが引きつける事に成功したからだ。
 ただし、その結果プリンセラがどうなったのか……。
 その真相は……今は、まだ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御剣・刀也
黒幕か、確かに、おかしい点はあったよな
策略とか謀略は苦手だし、ちょっと違和感を感じたあいつを見張りますか

第六感で少し違和感を感じた大将を監視する
剣術道場の出なので気配を消すのはお手の物、大将が外に出たら付かず離れず、絶妙な距離を持って移動する
普段着だと目立つのでサムライエンパイアの町人風に着替えて後を追う
目立たない所に(密会場所など)に入って行ったら気配を殺して出てくるのを待つ
出てきたら襲撃を気を付けて少し離れたところで声をかけて問い詰める
「なあ、あんた、あんなところで何の話してたんだい?しかも、話してたのはどうも人外っぽいし。洗いざらいはいてくれるなら、俺も殿様に寛大な処分を求めてやるぜ?」


寺内・美月
推定、老中【外山・長道】。
根拠、両偽書の筆跡の酷似と本人の地位の高さ。
捜査、外山の家族友人等で一年以内に死去もしくは顔を出していない人物を調べる(人質となっている可能性を考慮)。
証明、両偽書と本来の書状にある上埜信の署名の鑑定(他の書類の署名も集められれば尚良し)。
その他、逃亡阻止に犬神家から腕の立つ者を数名借り受け、ブロズも用意する。
「しかしここまで見事な『内間』を行うとは、狒々堂の頭脳は恐ろしく頭が回るみたいですね。あの会議に居なくて幸いでした」
蛇足、狒々堂藩に対する抗議等では同盟と増援拒否は触れないこと。上級法が『寛永令』に類似している場合、狒々堂藩の援軍拒否は罰せられない可能性が高い。


月舘・夜彦
犬神藩の猟兵とは合流せず、美濃姫様から家臣の情報を得ます
怪しい言動、時折姿を見せなかった者は居なかったかと
長く連れ添った家臣を疑うのは気分の良い物ではないと思いますが
奴等に脅されてやらざるを得ないのであれば話は別です
手がかりを得たのならば、私は一度戻って仲間に情報共有を
【東雲】に【騎馬】を活用

待機時、多野・犬神の者が現れたら警戒
裏切った家臣の配下、オブリビオンの配下の可能性があり戦いになるかもしれません
同時に追手も現れたなら戦闘
【2回攻撃】【カウンター】等、技能を活かします
羅剛のような強敵が現れた際には猟兵の人数を確認
我々だけで勝てない相手なら【東雲】を呼び出し
美濃姫様と共に犬神藩へ逃げます




「(通じてる奴がいる……か、確かにちょっと引っかかる感じはあったよな)」
 服装を普段着からサムライエンパイアの町人のものに変え、町に馴染むように通りを歩きつつ御剣・刀也は考える。
 正直、相手を嵌めるような事は苦手なので、刀也は自身の直感を信じてある人物を尾行していた。
 つかず離れず、絶妙な距離を維持し、通りを抜け路地を曲がり……。
「(何やってんだ?)」
 その人物は空き家に勝手に上がり込んだり、町の人に何かを聞いていたりする。
 刀也はその人物が去ってから急ぎ町の人に何を聞かれたか聞いてみたのだが、町人は「空き家を知らないか」と聞かれたと言い……。
 一体何の意味が解らないが刀也はそのまま追跡を続け……一刻も経とうと言う頃、事態は動く。
「な!? なんだ……驚かせないで頂きたい」
 刀也が追跡する先、その人物の前に誰かが現れたのか、その人物が驚きの声を挙げたのだ。
「(誰と話している……くそ、この位置かは見えねぇな)」
 隠れている場所から出れば相手の顔もわかるが、それは見つかる可能性もある。
 どうしてものか、とジレンマに陥っていると。
「待てっ!」
 その人物の前に立ち塞がった者だろう、別の声が聞こえる。
 見れば追跡していた対象がこちらに逃げてくるではないか。
 一瞬の躊躇、だが刀也は静止の声に聞き覚えがあった。
「なあ、あんた。どうして逃げ出そうなんてするんだ?」
 刀也は自身の第六感と記憶を信じ、隠れていた場所から飛び出し立ち塞がる。
「まさか、すでにこの私を……!?」
 挟まれた形になりガックリとその人物が膝を付く。
「あなたは……御剣様、でしたね。あなたもこの人物が怪しいと?」
 静止の声を上げた人物――寺内・美月が駆けて来て刀也に声を駆ける。
「ああ、まぁな」
 美濃姫の所で会った仲間だったと思い出し、安堵する刀也。
 そして、2人は視線を下に移す。
 怪しいと睨み、挟み撃ちにされ膝を付いている人物。
 それは……。

 多野家家老、外山・長道であった。


 猟兵2人に囲まれ膝を付いている外山は、なぜか憔悴しているようだった。
 自暴自棄だろうと、憤怒だろうと、今すぐに暴れる様子がなかったので刀也は美月に聞いてみる事に……。
「寺内はどうして、このおっさんを怪しいと思ったんだ?」
 聞かれた美月は顎を触りつつ。
「いくつかありますが、まず美濃姫が前に屋敷内で拾った書状も内通者の仕業だとするなら、屋敷内に自由に出入りできるほどの位が高い人物である必要があります。そして私達が用意した偽書と、狒々堂側の用意した偽書の筆跡が完璧に一致していた事。……偽書の作成を行なったのは、あなたでしたよね」
「そ、それはそうだが……何だ、私は疑われているのか!? 内通者だとでも!?」
 現状を理解し慌てる外山に対し、刀也は遠慮なく。
「その通りだぜ? 多野の家臣4人の中で誰かしら狒々堂への内通者がいるって探してたんだ」
「そんな!? 私は……」
 何か言おうとした外山を制し、美月は懐から5通の書状を取り出す。
「こちらは狒々堂より提出された婚姻の書状です。そしてこちらは……笹野様、吉田様、寺島様に書いて頂いた多野藩藩主様の署名、そして5つ目は里見義見様より預かった、かつて多野藩より届いた書状です」
 5通の書状、そのそれぞれの署名を見せる美月。
「それぞれの本当に微妙な部分ですが、どの署名も僅差で違っている。ただ――」
 美月が6通目――外山に書いてもらった偽書を取り出し。
「この偽書と狒々堂からの偽書だけ、署名が完璧に一致します」
「………………」
 黙り込む外山に、美月と刀也がどうするか……、そう思った時だった。
「やはり、外山殿でしたか……」
 そう言って現れたのは月舘・夜彦だった。
「美濃姫様から外山殿が心配だ、と伝言を預かっておりますよ?」
 そう言葉を続ける夜彦に、美月と刀也が「居場所を知っているのか!?」と声を揃えて聞かれるが。
「その話はまた後で……」
 と横道に逸れるのを止め、外山に向かって夜彦は言葉を続ける。
「なんでも籠城戦に私達が来る前、鎧武者達の襲撃であなたの奥方は亡くなられたそうですね」
「ですが、運良く生き残った娘さんと一緒に、あなたは民と連れて犬神藩へとやって来た……」
「姫様は……なんと?」
「外山様が娘さんの話を振っても辛そうな顔をするだけで、話が続かなかった。母親を亡くした事できっと娘さんが気落ちしており、それをなんともできない事が辛いのではないか……と」
「姫様、らしいですな」
 自嘲気味に少しだけ笑う外山に、意を決して美月が言う。
「あなたの家族友人等の事は調べました。娘さん……蜜さんは、今どこに?」
「………………」
 再び黙り込む外山に、やはりと夜彦も言う。
「黒幕に、脅されているのですね……」
「………………」
 喋らない外山に、刀也は事情を理解し同情するように話しかける。
「洗いざらい話てくれ。内通したのは問題だが、その件は俺らも殿様に寛大な処分を求めてやる。だから……な?」
 3人の視線が集まり、外山は膝を付いたまま涙を流す。
「すまない……恩義ある多野家を裏切り、狒々堂に内通するなど切腹してもし足りぬ罪、それは解っている。解っていたのだ……」
 内通者が自分だったと吐露する外山。大地の砂を両手で握り、その手の甲にも涙が零れ。
「だが、私には、私にはもう、蜜しか残っていないのだ……あの子だけは、蜜だけは……! 頼む、見逃してくれ! 私が内通者としてバレたと知られれば、蜜は……蜜は……!!」
 3人に泣きついてくる外山の顔は、たった1人残った我が娘を守ろうと必死な父親の顔であった。
 真面目で忠義に厚い外山は、常時なら娘を人質に取られても内通するような真似はしなかっただろう。
 だが、突然の戦、妻の死、帰るべき故郷は無く、憔悴し逃亡してきた所に行なえば……。
 まさに、今回の事を仕組んだオブリビオンの恐ろしい所だろう。
「狒々堂の頭脳は恐ろしく頭が回るみたいですね。あの会議に居なくて幸いでした」
 美月が独りごち、夜彦が外山の肩に手を置き。
「心配しなされるな。美濃姫様も外山様の自害など望んでおられません。それに……」
 残り2人を見上げると、コクリと2人も頷き。
「ああ、あんたの子供、俺達猟兵が助けてみせるさ」
「ええ」
「すまない……本当にすまない……」
 何度も謝る外山から、直接脅迫してきたのは『黒道坊(こくどうぼう)』という黒い法師だったとの事だ。
 いざという時の連絡用で持たされた式札は、指で挟んで念を込めれば、式神に変化し直接連絡が取れるとの事だったが……。
「下手に起動すりゃ、俺達が気づいた事を知らせる事になるか」
 刀也の言う通り、ひとまず式札は置いておく事に。
 その後、外山が黒堂坊と密会したという宿に3人は行ってみるが、そこはすでに引き払われた後であった。
 黒幕たる黒道坊は何処へ……。
 そして人質となっている蜜という娘は何処に……。
 猟兵達は再び城下を駆け巡る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

嶋野・輝彦
今後だが暫く合流は避けたい
姫を養子、里見に輿入れと違って相続関係が厄ネタ過ぎてなぁ
後で詳しく話すが内側に敵を作りかねん
国が割れるか姫様消されるか、とは流石に言えんな

まず姫様自身が自分の事を決めんとな
その為にゃ世間に触れて知って…そう言う余暇だと思いな
追手付きだがな

後は裏切り者を釣り出したい

姫様は姿を変えてるし
主犯の俺の顔も民じゃ知らんだろ
そっち線から情報が上がらんとしたら
現状で接触してくるのは
猟兵
狒々堂の追手監視…これは撃退
犬神は狒々堂対応でそれどころじゃないはず
本命は4人の家臣
接触してきたら狒々堂から情報を貰った線が濃い

POW
存在感、コミュ力、恫喝
間違ってたらすまん、家の為姫の為に死んでくれ


吹鳴管・五ツ音
美濃姫殿は戦うことをお決めになったのでありますな
(なし崩しにというわけではなしに
其を確かめ軍帽を引き下げる)

では石層宗の方々と合流なされては如何でありましょう?

一度は敵勢に取り込まれればこそ再度の失態を犯す危険も低いのではないかと

「里見の御養子」であられる美濃姫殿を守護する功は彼らにとっても願ってもない話となりましょう

自分は先の物探しがてらに、遠目には赤磊刀のように見える拵の刀を”お借り”しましたので此を持って里見の城下へ

”多野城主縁の猟兵”と見ては敵方も捨て置けぬでありましょうから
誘き寄せて”話”をさせていただくであります

敵方が襲いかかってきた時に備え、危険を報せる警報喇叭の準備は怠りません


レイチェル・ケイトリン
犬神藩主さん、それから会えたらお姫さまにも説明するね。

「上様が懸念しておられる脅威は亡者などの跋扈。
殺されて操られる亡者もいます。
署名入り書状があったのですからお姫さまのお父上、
十石・上埜信さまもそうされているのかもしれません」
「多野家臣の方々のなかで、それで心揺らぎそうな人はいませんか?」と。

わたし、ひどいこと言ってる。
でも、覚悟はしなきゃいけないの。
敵になった過去に夢を見たら、もっとひどいことになるから。

「上埜信さまが町などであばれさせられる事にも備えてください」
「ただの操り人形ですから」

消火や救出もできる念動力とサイコキネシスでわたしも準備して、ほかの猟兵さんたちにもおねがいしておくね。


ジェフリエイル・ロディタ
疑われた誰もがお姫様の大切な人達だ。
もし理由があるなら穏便に進めたい。
自主自害なんて問題外。
お姫様と彼女が大切に想う全員の輝きを
末永く守るのも責任の取り方だと僕は思うね。
何せ難しいから。

城下の各所でシンフォニック・キュアを歌おう。
藩に住まう皆に気持ちの良い潮風が、素敵な波模様があるように。
明日も先も互いの瞳に輝きを見れるように祈りを込めて。
これで少しも元気にならない人は、気難しいか怪しい人さ!
また式神を借りて良いなら、
励ますように近づいて目印に仕込もうか。
犬神藩の幸を喜ばない人達が集まる場所は気になるだろう?

……かわったのは最近かな。
多野の友だった別の領主、どんな人にせよ僕は会ってみたかった。


玖篠・迅
まず式符・朱鳥で高いとこから赤目の鴉の探索兼ねた城下町の警戒
家臣の4人にも監視としてつけとく
何かあったらすぐに念話で猟兵に連絡と赤目の鴉の追跡と邪魔を頼むな
外山さんがちょっと気になるんだよな
家族いるみたいだし利用されてないといいけど

寺島さんは会ってこの人の視点からの話を聞きたい
探り合い苦手だし正直に中から情報が漏れてそうって事と、追い詰めない様に密やかに調べたい事も伝える
普段と様子の違ったり、気になる動きした人に心当たりないかな
あと、俺の興味で藩主としての姫さんをどう思ってるかも教えてほしいな
第六感とかに変な感じしたら鳥の監視を続ける
なくて信じれるって思ったら調査を手伝ってもらうお願いをしたい


ヴィクトリア・アイニッヒ
権左衛門(f04963)と行動

多野の家臣団に内通者、ですか
…戦略の常道ではありますね。搦め手も使える相手となると、中々に厄介です
そちらの方は犬神藩に残っている方々が捜査を進めるでしょう
…私達は、姫様との合流を優先するべきでしょう

多野藩領から犬神藩領へ帰還、美濃姫との合流を急ぐ
…あ。ゴンちゃんさん、赤磊刀は隠して下さいね?あまり人目に晒したい物ではありませんから

姫との合流後は、姫の護衛に専念
…ゴンちゃんさんなら、大丈夫。あの人は、義理堅い人です
…きっと、無事に。また私達の所に戻ってきてくれますよ。囮の方と一緒にね

万一戦闘に巻き込まれた場合は、美濃姫の護衛を最優先。自分の身体を盾代わりにする


桐・権左衛門
ヴィクトリア(f00408)と共に行動

赤磊刀を布に包み隠しながら行動

プリンセラはんを助けに行きたいけど…赤磊刀を美濃ちゃんに返却せなあかん。持ったまま囮援護して奪われたら目の当てられん

美濃ちゃんと合流でき顔を見ると何時もとは違う毅然とした態度で
布をばさりと払落し、跪き両手で赤磊刀を掲げる

この赤磊刀で美濃『姫』が意思を持ち号令を出す事に意義があるんや
ウチが持っても唯の刀、家宝窃盗罪としてこの場で首を刎ねても文句は言わんで

美濃ちゃんの沙汰次第で生存返却後
プリンセラの向かった方角情報を得て
囮援護の為に急ぐ

一人よりも二人、二人よりも幾人かの猟兵がいた方が信憑性はあるやろ
問題は時間、急ぐで!翔ぶが如く―


トゥール・ビヨン
ボクは人質に取られた蜜さんの救出に向かうよ

ただ、そうすると内通者を従えるための重要な鍵だし、手元に置いておくよね
そうすると、黒幕の黒道坊とか言う奴と一緒にいる可能性が高いかな

先ずは、起点に密会があった宿の周辺に聞き込みをして最近変わったものを見なかったか情報収集で聞いて回るよ
些細な手がかりでも掴んだらそれを追って敵の拠点を突き止める

拠点を発見できたら蜜さんがいないか、探り、戦闘知識で罠などがないか確かめながら救出しよう

前は先走って失敗しちゃったけど、今回はこのままだと危険と判断したら一旦仲間に知らせて一緒に行動するよ


コノハ・ライゼ
仲間含め衣服変え偽装しておく
犬神藩へは戻らず先ずは猟兵との接触を目指す

監視の目は既にある物と考え
式、使い魔、情報取得系の術の存在に留意
自身も同様の術の使い手として上空、木陰、人や荷の背等特に警戒
気付かれぬようであればやり過ごし
目を付けられたなら上手く巻くか偶然装い排除
それが不可能であればコチラの動向を悟られる前に力尽くで排除

また狒々堂追っ手及びオブリビオンと遭遇時は
手に負えれば戦闘し排除、無理であれば姫の安全を第一に逃走
戦闘時は「柘榴」「氷泪」で『2回攻撃』『傷口をえぐる』等し『生命力吸収』もしておく
逃走厳しい時は仲間に姫託し足止めを行う

プリンセラに【黒管】使用
安否の確認と万一時のの追跡を行う


高柳・零
猟兵が姫を誘拐ですか?
何か意図があるんでしょうが…危険な状態ですね。それなら…

誘拐を実行した猟兵の似顔絵を作り、聞き込みをします。
その際、同じような事を聞きに来た人や、人探しをしている集団の情報にも気をつけます。

猟兵や人探し集団の動向が掴めたら、行動を開始します。
猟兵の足取りを敵も掴んだと判断したら敵を、掴めてないと判断したら猟兵を追います。

目標に追い付いたら付かず離れずで尾行し、姫さま一行に襲撃が行われたら助太刀に入ります。
衝撃波、範囲攻撃、2回攻撃、盾受け、武器受け、オーラ防御、見切り等の戦闘技能で立ち回ります。
敵が逃げようとしたら、気絶攻撃で何人か捕まえます。

アドリブ、絡み歓迎です。


レッグ・ワート
一昔前のノリにするから一昔前の物騒さで良いみたいなの勘弁してくれ。先ずは金山奉行に礼と報告。多野家臣団に家族での付き合いがありゃ蜜の歳背格好聞いて、記録と一致したら描き起こして貰うなりして仲間に知らせる。そんじゃ一時のご同僚の身内逃がしに行くか。

場所がわかりゃ忍び込む。警戒するのは蜜の偽物と、発見離脱間の奇襲や罠。暗視は出来るが通しで音にも要注意だ。鉄骨での武器受けやかばい、アンカー離脱で間に合わなけりゃ無敵城塞で捌く。止んだら即解除して突破にかかるぜ。一応途中で他に捕まってる奴がいなかったか聞いて、その後は宇宙バイクで親父さんのトコまで送るぜ。途中で何かやらかしてるのがいたら轢き逃げるわ。


紺屋・霞ノ衣
姫さんは目の前で攫われちまうし、羅剛はオブリビオンでやられちまうし
……全く情けない所ばっかりだね
傷の事なんか気にしてらんない
羅剛がオブリビオンとなれば、裏で情報流してる奴も同じ
家臣を質した所で尻尾が捕まえられるとは思ってないよ
寝ずに探し回ってやるさ

宿には居たらしいが、奴も警戒して付近に居るとは思えないね
そういえば狒々堂藩は木が多い所だったか
その辺りに山小屋なり洞穴なり、探してみよう
敵意が無い奴と接触出来たなら若い娘が居たかも聞きたいね
……実の所、寝ずに動き回ってたもんで腹が空いてる
森に猪や熊を見つけたら、ちょっと食いたい
【怪力】やら【先制攻撃】やら使って狩りつつ動くとするよ


御代・燕三
またしても調査となりましたか。わたしの式が役立ちそうです。
なにせ、わたしは頭脳派ですから、各地を走り回るのは、先程まででまいりましたよ。

UC算術式:先見の章を展開させ、紙人形を各自ないし各班に同行、または勝手に追跡。各地方に放ちます。

美濃姫様たちの居場所、赤磊刀を所持する班の姫様たちへの合流手助け、1人で陽動された方の様子、蜜殿の捜索などなど各所で行動する方々の情報を中継・伝達する役目を担いましょう。
時は金なり、と言いますように情報の集約が迅速であることは皆様のお役に立てるかと。
UCでの通話時は周囲に気を配り、余計な存在に気付かれないように警戒。もちろんUCを利用した探索も機会有れば行います。


涼風・穹
……姫さんや『赤磊刀』をかっぱらうとは、随分とまあ乱暴な手に出る方々もいたもんだ…
確かに一時凌ぎにはなるだろうけど、その後どうするつもりだったのやら…?

そして目の前の問題が一つ
明日の犬神藩と狒々堂藩との会談、当事者である多野藩側は姫さん欠席で代表者不在、代理役の小道具に使えそうな『赤磊刀』も無しでどうしろってんだ…

……もしもの時は『贋作者』で『赤磊刀』の偽物を作成して小道具にする
武具なら精巧に作れるからどうにか…

後は、本当に会談が始まりそうなら多野藩家臣の偉い方に全権委任の証明として『赤磊刀』を預かったという名目で姫さんの代理として参加させよう
欠席裁判なんてされてしまえば非常に宜しくないからな


山梨・玄信
零殿から救援要請の手紙が届いたので来てみたんじゃが…中々大変な状況じゃのう

【POWを使用】
猟兵の方は似顔絵を持ってる零殿に任せて、わしは情報収集で敵の情報を集めるぞい。どんな情報を欲しがってるか、人数はどれくらい居るか。他にも何か怪しい動きは無いかなどのう。
もし、姫様の追手以外の情報が入ったら、城下町に居る信用出来そうな猟兵(出来れば1章に参加した方)に連絡するのじゃ。猟兵間の情報共有は大事じゃからな。

ここから先は零殿の作戦に従うぞい。
敵と戦う時はアースジャイアントを召喚して、範囲攻撃や衝撃波で蹴散らすのじゃ。反撃は第六感と見切りで躱し 、避けきれなければオーラ防御で弾くぞい。

アドリブ歓迎じゃ




「申し訳ない、このような方を見ませんでしたか?」
「ん? うーん……すまねぇ、見たことねぇなぁ」
「そうですか、ありがとうございます」
 高柳・零は懐に似顔絵を閉まってお礼を言うと、トコトコと歩き出す。
「(それにしても猟兵が姫を誘拐……ですか)」
 歩きながら小さな身体で腕を組み、テレビの顔を傾け考える。
 何かしら意図があるのは間違いないと思うのだが……如何せん、危険な状態にあると言える。
 故に零は誘拐を実行した猟兵を見た女中に聞き込み、その猟兵の似顔絵を作って聞き込みをしていた。すでに城下を出て森に逃げた所までは突き止めたが、その後の足取りが解らず、手当たり次第に周囲の村や宿場、旅人に聞いて回っているのだが……。
 すでに季節は冬のまっただ中で、1人寒空の下を歩くのは中々に厳しい。
 それでも零は諦めず聞き込みを続けていると――。
「おお、そんな男ぉぁ見たことねぇが、お前ぇさんと同じような事ぁ聞かれたなぁ」
「え? それはどんな人でした!?」
「なんだらぁ、柄の悪りぃやつらでよぉ、知らねぇ言ったら5人にどつかれ酷ぇ目にあったよ」
「その人たちがどこに行ったとか、わかりますか!」
 姫を攫った猟兵を追う集団、それはつまり敵方の追手で間違い無いだろう。
 敵はすでに姫達の足取りを掴んでいるのか、それとも摑めていないのか……。
 零はお礼を言い急ぎその集団が向かった方向へと走り出す。


 犬神藩は城の大広間で、藩主である里見・義見(さとみ・よしみ)と話すは3人の猟犬たち。藩主もいつもの事とすでに周知の家老以外広間から人払い済であり。
「して、わしに用とは何か?」
「はっ、懸念したき事柄があり……」
 まず最初に話したのは涼風・穹だ。
 領主はうんうんと話を聞き、穹が驚く言葉を告げる。
「は? 帰った?」
「うむ、狒々堂の者達は使者団含め羅剛が全て連れ帰った。お主等にやり込められたのには憤慨しておったがな」
 もともと狒々堂とは反りが合わないからだろう、藩主が楽しそうに笑う。
「しかし、あそこまで美濃姫に拘っていたのに、まさか素直に帰るなんて……」
「まぁな……だが、お主等の言い分が奴の反論をぐうの音も出さぬ程であったともいえる。お主等のおかげだ。わしからも、また美濃姫に変わって礼を言おう。ありがとう」
 本当に? もし帰ったとして置き土産の一つもせずにあの羅剛という男が帰るだろうか。
 穹が自問自答しつつ思考の海に落ちる頃、入れ替わるように質問を投げるはジェフリエイル・ロディタ。
「殿さま、僕も白背羅剛という男について少しお聞かせ頂きたい」
「どのような事だ?」
「あの男と殿さまはお会いになられた事は? もし、会った事があるのなら、何か違いや違和感はなかったかな?」
 ジェフリエイルの言葉に、藩主は深く頷き、実は……と話し出す。
 もとより色狂いで女関係に悪い噂ばかりの男であったが、今回の婚姻の偽証文のような強引な手をやるようには昔は見えなかった事、前に会った時より身体が大きかった違和感、実年齢は自身より年上のはずなのに若々しく見えた事……。
「正直なわしの感想を言わせてもらうならば、まるで戦国時代にこの地の覇権を賭けて争っていた口伝にある初代・狒々堂藩主を思い起こしたわい」
 ジェフリエイルはそれを聞いて「やはり……」と小さな声で独りごちる。
 それなら羅剛が今の時代の法を知らない事、婚姻等という強引なやり方で来た事に納得できる。
 つまりこの時代の本物の羅剛は、もう……。
「(多野と友好を結んだこの時代の羅剛、どんな人間だったにせよ……僕は会ってみたかったな)」
 そして残った3人目――レイチェル・ケイトリンは、これ以上ジェフリエイルが深く聞かない事を待って確かめてから、神妙な顔つきで話し出す。
「徳川の……上様が懸念しておられる脅威は亡者などの跋扈。殺されて操られる亡者もいます」
 レイチェルの言葉に藩主が「そんな事ができるのか!?」と驚く。
「はい。ありえます。それこそ……」
 そこで一度だけ息を吸い。
「それこそ……お姫さまのお父上、十石・上埜信さまも、その死体を利用される可能性すらあります」
「なんと……」
 絶句する藩主に、レイチェルは「(わたし、ひどいこと言ってる)」と心の中でつぶやく。
 いや、本当にひどい事を言う事になるのはお姫さまに会った時だ。
 それでも、敵になった過去に夢を見たら、もっとひどいことになるから……。
「レイチェル、よくぞ言ってくれたな……おかげで、もしそのような事が起こっても対処ができる。助かったぞ」
「……はい」
 レイチェルを思ってか優しく声をかける藩主の言葉に、レイチェルは少しだけ気が楽になるような気がしたのであった……。


 美濃姫と一緒に逃亡する猟兵は囮役にて1人減り、城下への使者としてもう1人減り、気がつけば嶋野・輝彦とコノハ・ライゼの2人となっていた。
 若侍姿の美濃姫を含め、輝彦とコノハも衣服を替え偽装してある。最低限の目くらましにはなるだろう。
「とりあえず、暫く合流は避けたいと思う」
 輝彦が言うと美濃姫が「ならばどうするのじゃ?」と聞けば、今度はコノハが。
「先ずは他の猟兵との接触を目指します。それが最優先……デショ?」
「あ、ああ、その通りだな」
 コノハの軽い口調に、輝彦の少しだるい感じが、なかなかどうして良いコンビ感である。
「ま、俺達が付いてるんだし、姫様はちょうど良い機会だ。世間に触れていろいろ知る……まぁ、余暇だと思えば良い」
「余暇、じゃと?」
「姫様自身で世間を知る事、それが今後いろいろ自身で決める上で役に立つはずさ」
 輝彦が言い、美濃姫が「ふむ……」と考え出す。
 まずは見聞を広げる事、それは悪いことでは無い。
 その後は追手に見つからぬよう細心の注意を払って行動する3人。
 上空からの式や使い魔、または情報取得系の術の存在に留意しつつ、木陰や人、荷の背など……コノハの指摘は事細かで、実際、怪しい鴉や追手の侍達をやり過ごしたのは何度もであった。
 だが、とある林に入った所で、コノハがピクリと反応。
「嫌な予感がするンよね……道から外れて隠れるぞ」
 有無を言わせず林道から外れて林の奥へ、林道からでは見つからない距離まで離れて木陰に身を隠す。
「どうしたのじゃ?」
「なるほど、アレか」
 輝彦がコノハの見つめる先に気がつき渋い顔をする。
 それは武者団の行列だった。その数は数十なれど、はためく旗の紋所は……。
「あれは狒々堂の家紋じゃな」
 美濃姫の言葉にコノハも神経をとがらせながら。
「やっぱりネ」
 ただ、妙なのはその人数だ。追手にしては多すぎる……。
「そ、そんな……どうしてここに……み、見よ。あの旗に描かれているのは狒々堂の家紋だけでなは無い。領主が直参する場合にのみ使われる家紋もある……父上から教わった事があるのじゃ、あれはたぶん……狒々堂藩藩主、白背羅剛の列じゃ」
「何!?」
「狒々堂の藩主!?」
 美濃姫の言葉に2人の緊張感が更に高まる。
 そして――。
 ゾクリッ!
 猟兵たる2人は木陰に身を隠し、その重圧から顔を背ける。
「おい、コノハと言ったな……今の、気付いたか?」
「いやー、信じたくは無いデショ……でも、あの殿様、確実にアレ、だよネ?」
 ちらりと見た狒々堂藩主、白背羅剛から感じたプレッシャーは紛れもなくオブリビオン、しかも相当な力を持つオブリビオンだった。ここで見つかりでもすれば、例え命をかけても美濃姫を逃せるかどうか……。
 だからこれだけの距離があり隠れていれば見つからないだろうと思いつつ、2人はじっと息を潜め、また美濃姫もその2人の緊張感からじっと息を殺し……。
「行った……か」
「ふぅ~。緊張したー」
 完全に列が見えなくなってから、ぶはっと息を吐く輝彦と、その場で座り込むコノハ。
 他の仲間達が揃っている時ならいざ知らず、今出会うのは最悪としか言えなかった。
 だが、どうやら気がつかれずやり過ごせたらしい。
「あの方向は何があるんだ?」
「狒々堂藩の方だから、普通に考えて自藩に戻るンじゃない?」
「つまり、犬神藩に来ていた、という事か……姫を攫ったのは、悪くなかったかもな」
「おかげで今は冷や冷やモンだけどー?」
「違いない」
 2人して軽口を叩けるまで冷静さは取り戻したが、怪訝な表情のまま列が去った方向を眺めているのは美濃姫だった。
 どうした? と声をかけると何か考え込むように。
「いや、妾も5年前に見たばかりじゃから記憶が完璧というわけではないのじゃが……記憶の中の白背羅剛はあんな桁外れに大柄であったかな……とな」
 まるで別人のようにも見えたのじゃが……。
 どうしても引っ掛かると言うように、美濃姫はそう呟くのだった……。


 美濃姫不在の武家屋敷には多くの猟兵が集まっていた。
 その中には今まで見た事の無い顔も混じっている。
「救援要請の手紙を受け取りやってきたんじゃが……中々どうして大変な状況のようじゃのぅ」
 そんな1人、少年ドワーフな山梨・玄信が現状の説明を受け腕を組む。
「そうじゃ、零度のから伝言を預かっておったのじゃ、姫を連れて逃げた猟兵達の方は零殿が追跡するらしいので、皆は城下の方の騒ぎを頼みます、との事じゃ」
 玄信の言葉にこの場を仕切っていた青き陰陽服の妖狐、御代・燕三が。
「それは助かりますね。居場所が分からないのでは連絡も取れなかった所です。かと言って人を裂くのも難しかったので、それを1人で賄って下さるのなら願ったりです」
「うむ」
 とりあえず今目の前の問題は、内通者として発覚した外山家老の娘が捕えられている場所を見つけ救出する事だろう。もちろん、黒幕たる黒道坊の居場所も知りたい情報だが、それは平行して調査するしかなさそうだった。
 そんな中、この会議に猟兵ではなくとも参加している3人の多野家家臣の中、金山奉行たる吉田鋼に、レッグ・ワートが近づき。
「鉱山の場所、教えてくれて助かった。幸か不幸か、教えて貰った場所のおかげで仲間のピンチに駆けつける事もできたしな」
「いやなに、知っている事を当たり前に教えただけだ。お礼を言われるような事じゃない」
 謙遜する吉田に、レッグは「そういや外山家老の娘さんの顔を知ってる人はいないのか?」と聞けば。
 それなら笹野様なら……と教えられ、そこから笹野に聞き取りながら外山の娘たる蜜の人相書きを作成するターンへ……そしてなんとか完成した蜜の似顔絵を皆に配布。
 それじゃあ探しにと屋敷から出て行こうとする猟兵達を「少しだけお待ちを」と止めるは燕三。
「調査となれば、わたしの式が役立ちそうです。こちらをお持ちください」
 燕三が猟兵1人1人に紙人形の式神を手渡す。
「これでわたしが中継役になれば相互の連絡も取れます」
「燕三はどうするんだ?」
 レッグの言葉に燕三はこともなげに。
「わたしは頭脳派ですから、各地を走り回るのはもうこりごりです。もちろん、あなたのバイクもね? 時は金なり、と言いますように情報の集約が迅速であることでわたしは皆様のお役に立てるかと。つまり、今回はこの屋敷に陣取り情報の中継に努めます」
「そうか、ならそっちは任せたぜ? 俺等は一時のご同僚の身内を逃がしに行くか」
「ついでに敵の情報も集めるぞい、あやしい動きをしている可能性は高いからのぅ」
 レッグの事に玄信が補足し、『おー!』と掛け声があがりどやどやどやと猟兵達が屋敷からいなくなる。
 そうして一時的に静まり返った屋敷だったが、唐突にその静寂は破られる。
「放せ! 傷の事なんて気にしてらんないんだ! 放せって!」
 止める女中たちを引きづりながら広間に入って来るのは紺屋・霞ノ衣。
 仲間のユーベルコードで治療したとはいえ、単身オブリビオンの羅剛に喧嘩を売り全身あちこち包帯だらけだった。
「姫さんは目の前で攫われちまうし、羅剛はオブリビオンでやられちまうし……全く情けない所ばっかりだよ。羅剛がオブリビオンとなれば、裏で情報流している奴も同じだろうさ」
「それだけ元気があれば大丈夫そうですね……これを」
 燕三が霞ノ衣に紙人形を飛ばすと、人差し指と中指で挟み受け取り。
「解ってるじゃないか。それじゃあ行ってくる。寝ずに探し回ってやるさ」
 そう言って包帯を乱暴に千切りとり捨てながら屋敷を出ていく霞ノ衣であった。


 寒風吹きすさぶ中、3人で歩くは軍服姿の吹鳴管・五ツ音、洋装でシックなワンピース姿のヴィクトリア・アイニッヒ、そして花魁風の着物を着崩した桐・権左衛門である。
「っくしゅん! あかん……さすがに寒いわ」
「肩とか出してるからでは?」
「そうですよゴンちゃんさん、もう少し厚着して下さい」
 鋭く指摘する五ツ音と心配するヴィクトリアに対し、権左衛門はいやいやと首を振り「これがおしゃれやねんや」と謎のだだっ子状態に。
「まったく……じゃあもう言いません。その代わり、赤磊刀はちゃんと隠して下さいね? あまり人目に晒したい物ではありませんから」
 溜息しつつ言うヴィクトリアに、権左衛門は腰に差した布に包まれた赤磊刀を叩く。
 ちなみに五ツ音は赤磊刀に似せた刀を帯刀し、わざと見せびらかしていた。いざという時の為に本物は隠しつつ、偽の赤磊刀に釣られた敵を……という作戦だったのだが。
「おかしいであります。ぜんぜん敵が現れない……桐殿、本当に赤磊刀を盗んだ時に目立つように書を残して来たでありましょうな?」
「もちろんや!」
 自信満々の権左衛門を見るに、忘れてたり勘違いしている風でも無い。
「城下で何かあったのでしょうか?」
「赤磊刀が盗まれるよりも大事など、そうそう無いと思いますが……」
「せやな、それこそ美濃ちゃんが攫われでもしない限り――」
 権左衛門が言った言葉に残り2人が。
「まさか……」
「ありえないでありますよ……」
 一刀両断する。
 3人は犬神藩へと戻って来ており、赤磊刀(偽)を囮に敵を釣りつつ、そのまま城下町へと向かっていた。
 だが、3人の進行方向になにやら土煙が上がっているではないか……。
「なんやアレ?」
「……テレビウムが戦ってる? それって、猟兵ですよね!」
「助けに行くであります!」

 ちまちま逃げながら1人、また1人と浪人風の侍を気絶させていくテレビウム――零。
「いい加減にしやがれ!」
 と残った浪人が怒りを露わにするも。
「こちらも命が掛かっていますから……いい加減にはしませんよ?」
「減らず口を! おい、同時に攻撃しろ! 片方は当たるだろう!」
 浪人の声に残り2人が零を挟むように同時に攻撃モーションに入る。
「(さすがに片方はくらう覚悟を決めた方が良さそうですね……)」
 零が片方に集中し、もう1人からの攻撃がくるのは覚悟を決めた――その時だ。

 喇ッ叭叭叭叭叭――っ!

 突如響き渡った喇叭の音、浪人達の気が一瞬削がれ。
「まず1人!」
「そして2人目、ですね」
 権左衛門とヴィクトリアが浪人2体を不意打ちで片付け、唯一生き残った最後の1人が逃げようと振り向けば。
 ドスッ!
 振り向いた所を鳩尾に鞘を突き込まれバタリと倒れ、かわりに突きの体勢で五ツ音が現れる。
「ふぅ、助かりました」
 零がお礼を言いつつ、3人を見て呟く。
「美濃姫を攫った方々では無いようですね」
 一瞬の間。
「え!?」
「どういう事でありますか!?」
「なんやてー!?」

 零と合流し城下で起こった一部始終を知った3人は、通りで赤磊刀というエサに食い付かないはずだと納得した。それより大物が逃げているのだ、敵も追うならそっちだろう。
「まさか城下でそのような事になっているとは……とはいえ、狒々堂との交渉は上手くいったようで安心したであります」
「とはいえ、今の私達は姫様との合流を優先するべきでしょう」
「せやな、赤磊刀を美濃ちゃんに返却せなあかん。何より、美濃ちゃんが心配や」
「その通りです……でも、その前に少しだけ時間をくれますか?」
 零はそう言うと1体だけ縛り付けておいた浪人を気絶から回復させる。
「……ん? オレぁ、いったい……て、テメェはさっきのチビ!」
「こんにちはオジさん、起きたばっかりで悪いのですが……知っている事があったら教えてくれますか?」
 丁寧にお辞儀する零に、縛られた浪人は「ふざけんな!」と息巻くも。
 すぐに零のやろうとしている事を察した3人が取り囲み。
「話した方が良いと思うであります」
「もちろん、話す話さないは自由ですよ……ほら、あなた以外に聞いても良いですしね」
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!(なぜか全力でバットで素振りをしている権)」
 浪人はどんどん青い顔になり、そして……――。


 城下に散った猟兵達の中で、トゥール・ビヨンは外山家老が黒道坊と接触したという宿に入り手がかりを探すも。
「やはり黒幕の姿はもう無いか……」
 宿の主人に聞いたところ、すでに黒い笠、黒い法師服の男は部屋を引き払った後だった。
 だが、宿屋の主人はその法師が去り際に引き払う際に呟いていた言葉が気になっていたと言う。
「どんな言葉だったの?」
 とトゥールが聞くと、主人は神妙な顔で。
「いやね、その法師様、去り際にこう言いなすったんで……『今宵この地は地獄に変わる。精々楽しみなさい』とね。なんだか俺ぁ気味ぃ悪くなっちまってね」
 トゥールはその言葉を怪訝に思いつつも、さらに宿屋の周囲で聞き込みを続ける。
 すると宿屋の裏で黒い法師が荷車押した浪人風の男たちと何か話してた……との情報を得る。
 なんでも荷車には封をされた大量の壺と、同じく大量の蝋燭が積んであったとの事だが……。
「壺の中身が解ればある程度、黒道坊の考えが解るのかもしれないけど……」
 前回の失敗を活かし、逐次紙人形を通して仲間に情報を共有しつつ、トゥールはさらに情報を集める。

「ラララ~~~♪」
 集まった人々が初めて聞くジェフリエイルの異国の歌に聞きほれ、歌が終わればお捻りが飛ぶ。
「ありがとう、ありがとうございます!」
 集まった観客に礼を言って回りつつ。
「(でも、この区画では無いようですね……)」
 と心の中にマップを思い起こし、この区画にバツ印をつける。
 藩に住まう皆に気持ちの良い潮風が、素敵な波模様であるように。
 明日も先も互いの瞳に輝きを見れるように祈りを込めて歌ったジェフリエイルの歌は、城下の人々を少なからず元気にして回っていた。
 そうやって町のあちこちで歌を歌って歩き回っていると、どうしても共感者の少ない区画を発見する。
 ジェフリエイルは歌を終え、次の場所へ向かうふりをしつつ紙人形の式で連絡を取る。
「燕三くん、聞こえるかい? どうにも犬神藩の幸を喜ばない人達が集まっている場所をみつけたよ……場所は――」

 一方、城下を多野家家臣、寺社奉行の寺島と共に捜索に当たっていたのは玖篠・迅だった。
「玖篠殿と言ったか、我が藩の不始末であるというに、手伝って頂き誠に感謝する」
 くそ真面目に寺島寺社奉行に言われて、後ろ頭を掻く玖篠。
「いや、気にしないでいいよ。俺はヤドリガミだ、人質にされてるのが女の子だって言うなら放っておけないしな」
「その言葉、あとで外山殿に必ずやお伝え致す」
 そうして城下で聞き込み等を続けながら、玖篠は寺島から生き残った多野家家臣の4人の仲や状況についても話を聞く。だが、思った以上に生き残った4人の仲は悪く無く、そして多野家への忠義も厚い。子供が人質にされたとしても、平時なら外山家老は敵の要求を突っぱねていただろうと寺島は言う。
「申し訳ない……外山殿の様子がおかしい事に、我らが亥の一気が付かねばならなかったと言うのに……!」
「だからもう良いって……ん?」
「どうなされた?」
 ふと空を見上げた時、玖篠の視界に漆黒の鴉が映ったのだ。
 もちろん、凝視し瞳が紅いガラスのようか確認したかったが、あの鴉が敵の式だった場合、こちらが気が付いている事はバレたくない。
 玖篠は寺島に耳打ちし、少し大仰にせき込んだりして貰い注意を引きつけておいた隙に、路地に入って式符『朱鳥(シュチョウ)』を飛び立させる。
「(さて、鬼が出るか蛇が出るか……)」


「隠れろ」
 静かな声で輝彦が告げ、コノハが偵察に黒管を飛ばす。こちらに近づいてくる4人組、それは……。
「いや、仲間だネ。隠れないでよさそうだヨ」
 物陰から立ち上がりコノハが言うと、美濃姫も立ち上がる。
 すると遠く、4人組の方もこちらに気付いたようで姫の名が叫ばれ――。
「おい、本当に仲間か? なんか花魁風の奴、叩かれてるぞ?」
「姫の名前を大声で呼ンだからネ~」
 苦笑するコノハ。
 やがて4人組――五ツ音、ヴィクトリア、権左衛門、零が駆けてきて合流する。
「やっと見つけました……本当、大変でしたよ」
 零が、はふぅ、座り込む。
「ごめんネー、猟兵仲間も追って来てるとは思ったンだけど、敵から見つからない方が重要だったから」
 コノハの言葉に納得する4人。
「それより、美濃姫様達はどこまでご存じでありますか?」
 どこまで?
 五ツ音の言葉に美濃姫達は顔を見合わせる。
「とりあえず、お互い情報交換を致しましょう」
 そう言ってヴィクトリアがまとめ、それぞれが知っている事を話す事に……。
 まず、狒々堂との婚姻は破棄された事、その経緯で美濃姫が里見義巳の養子となった事、美濃姫が狒々堂が今度もちょっかいを出してくるなら戦うと決めた事、狒々堂藩主の白背羅剛がオブリビオンである事、しかし美濃姫が言うにはあの今の羅剛は本当の羅剛とは違うような気がするとの事、そしてプリンセラが美濃姫の変装をして1人追手を引きつけて逃げている事……。
「そないな無理を……早ぉうプリンセラはんを助けに行かへんと!」
「いや、その前に今後の方針をしっかり立てた方が良いと思うぜ?」
 輝彦がわざとのんびり言い、焦る皆の気持に水を差す。
「……せ、せやな、今は焦ってもしょうがあらへん」
 深呼吸する権左衛門を見つつ、それにしても……とヴィクトリアが。
「多野の家臣団に内通者、ですか……戦略の常道ではありますね。搦め手も使える相手となると、中々に厄介ですね」
「でも、そっちは城下に残ってる皆に任せるしかなンじゃない?」
「そう……ですね。私達はせっかく美濃姫様と合流できたのです。姫様の護衛に専念した方が良いでしょうし……」
 コノハの言葉に少々歯痒くも、仲間を信じる事にするヴィクトリア。
「それより問題は姫を養子にしたって事だろう……破談理由としちゃまさに鬼札っちゃ鬼札だが」
 髪の毛を書きつつ輝彦がぼやくと。
「何か問題となるでありますか?」
 素直に聞いてくる五ツ音に対し、ちらりと美濃姫を見てから。
「いや、その話は後にしよう。今は多野の内通者と、姫様の今後を考えるべきだ」
 と強引に話を切る輝彦。
「(相続関係で問題が起こった際、国が割れるか姫様が暗殺されるか……なーんて、目の前で言う訳にはいかねぇしな……)」
 自分の懸念が杞憂で終わることを願いつつ、内心で嘆息する。
 輝彦が何も言わないと察し、今度は五ツ音が先ほどの話を思い出し。
「しかし……やはり美濃姫は人の上に立つお方、話を聞いて一緒にここまで来れた事を自分は誇りに思うであります」
 と美濃姫に向き直って言う。
「何を急に……?」
「謙遜なされますな。美濃姫はなし崩し的にという訳でも無く、自身で戦う事をお決めになったのでありましょう。違うでありますか?」
 五ツ音の言葉にヴィクトリアや権左衛門、零の視線が美濃姫に注がれ。
 美濃姫は僅かに息を吸い。
「うむ。決めた。お主らと行動し、お主らの行動を見て、妾にもできる事があるならやるべきだと気付いた……それが、刀を振るって戦う事でなくとも、妾には妾にしか出来ない戦い方がある事も」
 そう言い放つ美濃姫の瞳には迷いが無い。齢14で親が死に、国を追われ、敵に命を狙われ……だが、その経験と猟兵達との出会いが、彼女を変えたのだ。
 その瞳の奥に灯された火は、まさに人の上に立つ者の信念だった。
 五ツ音はそれに気づき、ソッと軍帽を引き下げ――。
「なればこそ、自分は姫に提案があります」
 ザッと膝を付き五ツ音が言う。
「このまま無目的に逃げ回るのでなく、まずは周囲の村々を自警団として周っている石層宗の方々と合流なされては如何でありましょう?」
「あの僧兵達とかえ?」
「はっ、彼ら一度は敵勢に取り込まれればこそ、再度の失態を犯す危険も低いのではないかと。まして、里見の御養子であられる美濃姫殿を守護する功は彼らにとっても願ってもない話となりましょう」
「確かに……そういう奴等は裏切る可能性も低い、悪くないかもな」
 顎に手をあて輝彦も同意する。
 目立つ事にもなるが数十人の僧兵が共に行動する事になれば、敵もおいそれと手出しはできなくなるはずだ。
「うむ、五ツ音の言う通りじゃな。わかった。まずは石層宗の僧兵達と合流する。良いな?」
 美濃姫の言葉に5人が頷き、ただ1人頷かなかった権左衛門が。
「その道に、ウチは付いて行く事はできまへん」
 いつもと違い毅然とした態度でそう言うと、バサリと布を払落し、美濃姫に跪いて両手で赤磊刀を掲げる。
「それは……赤磊刀?」
「この赤磊刀で美濃『姫』が意思を持ち号令を出す事に意義があるんや。ウチが持っても唯の刀、家宝窃盗罪としてこの場で首を刎ねても文句は言わんで」
 美濃姫は「城下を出た妾にわざわざ届けてくれたのじゃろう? どうして打ち首など出来ようか」と微笑みつつ赤磊刀を受け取る。
「なぜじゃろうな……つい先日も持ったばかりなのに、今はこの刀が何より重く感じる……」
 そう言って何も差してなかった腰に赤磊刀を差す美濃姫。
 本人の言葉では無いが、今はあの頃よりどこか貫禄があるようにも見える。
「さて、それじゃあウチはさっき言った通り別の道を行かせてもらうで」
 スッと立ち上がって権左衛門が言う。
「どこに行くでありますか?」
「そりゃあ……たった1人で影武者しているアホの所や」
「今から行っても、もう間に合わない可能性が高いぜ? それでも行くのか?」
 輝彦が釘を差すが、権左衛門は何も言わず笑って返す。
「……なら、何も言わねーよ」
「一応、彼女がどの道を通ってどう動いたか……途中までなら教えられるケド?」
 コノハがそう言うと小さな黒い管狐がスルリとコノハの手の先に現れる。
「くーちゃん……黒管っていう管狐の一緒ネ。途中までずっとくっつけておいたンだけど、途中で戦闘の範囲攻撃に巻き込まれて……でも、消えた所までなら教えられるカラ」
「いや、それで十分や」
 コノハからの情報を得て、権左衛門は1人別方向へと駆けていく。それは風のように、一陣の疾風となってすぐに豆粒ほどの大きさに……。
 ずっと心配そうに見つめる美濃姫の側にヴィクトリアが立ち。
「ゴンちゃんさんなら、大丈夫。あの人は、義理堅い人です。……きっと無事に、また私達の所に戻ってきてくれますよ」
「……そう、じゃな。行こう、妾達には妾達のやるべき事がある」
「はい」
 そうしてまずは国境の村や宿場を巡回している自警団に接触しようと動き出す美濃姫達だったが、ふと思い出したように零が懐から紙を取り出す。
「そうです。姫様に合流したら他の猟兵の方にもコレを見て貰おうと思って……」
 その紙は美濃姫を探していた狒々堂の追手たる浪人が持っていた物だった。書いてあるのは簡単な単語と数字だけだった。
「何かの暗号だと言う事はわかったでありますが……」
「私達では解読できなかったんです」
 美濃姫が受け取り、輝彦とコノハがのぞき込む。
「こいつぁ、敵の何かしらの作戦の実行日時と作戦内容が書かれてる……のか?」
「そこまでは想像が付いたでありますが……」
「オレ、こう見えて騙し討ちとか得意な方なンだけど……ちょっと解ったかもしンない」
 コノハがにやりと笑みを浮かべて。
「たぶん……火攻めの指示書カナ? 実行日も解るけど……場所が――」
「犬神の城下じゃな」
 美濃姫がずばり言う。
「数字やらはさっぱりじゃが、似た印の集まりを輪郭とし見れば、犬神藩が中心部の城下町とだいたい合う」
 言われてみれば確かに犬神の城下町が浮かび上がる。
「本当ですね」
「おいおいおい、ちょっと待てよ!? もしこれが城下町でさっきのが日時ってんなら……!」
「そうでありますね、急ぎ戻った方が良いであります」
「そうしないと……」
「城下が……火の海に……!?」


 ブルァァァァアアアアアッ!
 ここは城下町のすぐ外にある林の一つ。
 鼻息荒く突進してくる巨大なイノシシに、霞ノ衣は拳を構え。
「武器は使わねぇ、八つ当たりだと悪く思うなよ」

 パチパチパチ……。
 一撃で仕留めたイノシシを霞ノ衣は丸焼きにしつつ、焼けたところから肉を削ぎ切って食べていく。
「……やっぱ怪我には飯が一番だな。特に猪や熊は絶品だね」
 そうやってワイルドにエネルギーを補給していると、林の中を誰かが歩いてくる気配を感じ、霞ノ衣は足で土をかけ火を消すと、自身の気配を消してそちらの方へと走る。
 果たして見つけたのは空の荷車を押す商人であった。城下で積み荷が売れたのか鼻歌交じりで上機嫌だ。
「おい」
「ふんふっふ――ひぃぃ!? お、驚かせないでくれよ、何だいあんた」
 完全に一般人の商人だが、なんとなく荷車の特徴が、情報共有で回って来たトゥールが言っていたモノに近いような気がして霞ノ衣は聞いてみる。
「その積み荷、どんな奴に売った。何を売った」
「え、いやー、実は良い商売ができたんですよ。あの城下でね、実は――」


 城下町の南、港となっている一端に幾つもの蔵が倉庫街のように並んでいる場所があった。
 ジェフリエイルからの情報で猟兵達はその並んだ蔵を調査し、そして――。
「俺の式があの蔵に出入りする奴らと、敵の式――漆黒の鴉が接触しているのを見た。間違いないと思う」
「しからば猟兵殿方、これから如何に蜜を助けるか」
 迅と寺島が言うと、レイチェルの持つ紙人形から燕三の声が響き。
「玖篠さんは式を飛ばして上空から俯瞰し警戒を、寺島さんはレッグさんと組んで退路の確保をお願いします。ジェフリエイルさんは歌を歌って見張りの気をそらして下さい。その隙にトゥールとレイチェルさん、涼風さんで潜入と救出をお願いします」
「わかった。でも、人質の所に黒道坊がいたらどうする?」
 トゥールの問いに燕三は「レイチェルさんの念力で少女を守りつつ戦わず逃げる事を優先で」と冷静に答える燕三。
 そして外山蜜の救出作戦が実行された。
 まずは歩きながら蔵が並ぶここまで来た風でジェフリエイルが歌いながら近づいて行く。
「(お姫様と彼女が大切に想う全員の輝きを末永く守るのも責任の取り方だと僕は思うね。それは何せ難しいから……だからこそ、外山さんにも自害等せず、娘さんと一緒に生きて償ってほしい)」
「おいおい、うるせーぞ!」
 案の定見張りがジェフリエイルに因縁を付けてくる。
 ジェフリエイルは聞こえないふりをして歌い続ける。
「(あとは……頼むよ)」

「空いたよ?」
 蔵の小窓から中に入った妖精のトゥールは、内側から鍵を開けてレイチェルと穹を招き入れる。
 蔵の中は物が積まれ一見すぐに行き止まりとなっているが、3人の気配を感じたのか。
「ねぇ、お願い、お母さんだけでも助けてあげて……」
 と荷物の壁の向こう方から、小さな女の子の声がした。
「わたしが……」
 レイチェルがサイコキネシスの力で壁となっていた荷物を動かし、静かに道を作る。
 するとその先には木で出来た格子檻の中、蜜が目隠しされた状態で閉じ込められており、その檻の前には女性のオブリビオンがおり。
『おミツ……静かにしてましょう……殺されてしまうわ……』
 と、3人の姿を見て呟きだす。
「悪趣味な……」
 穹が敵の思惑を知り風牙を抜き一刀両断すると、ズズッと上下に分かたれたオブリビオンがそのまま呟きつつ消滅していく。
「大丈夫ですか?」
 レイチェルが檻を壊し目隠しを外すと、「お姉ちゃんは誰? それよりお母さんは!?」と涙目になる蜜。
「外山家老にいわれ助けにきました。お母さんの声は敵の術によるまやかしです……だから、今はいそいで逃げましょう」
 そう説得するも決して納得したわけではない顔のまま、しかし現状を理解したのか泣き声を我慢した蜜を抱え、レイチェル達は蔵から脱出する。
 そこにすぐさま宇宙バイクが横づけされる。
「早く乗れ! 捕まってたのはそいつ1人か? 他には?」
「いなかったよ。僕達はいいからまずはこの子を!」
 トゥールと穹はバイクに乗らず、レッグの宇宙バイクには蜜とレイチェルが乗り、間髪入れずにレッグが飛び出していく。
 それと入れ違いに見張りが気が付き戻って来るのが見えた。
「ボク達2人でなんとかなるかな?」
「するっきゃないだろ」
 そう言ってトゥールと穹は強引に見張りを突破し脱出したのだった。


「こいつはまずい事になるかもしれんぞい」
 城下町で敵の情報について調べていた玄信が、ノシた敵から荷車の積み荷を見て青ざめる。
 そこに積まれていたのは油壺と蝋燭、さらに油を染み込ませた紙類が入った壺もあった。
 そしてその量は尋常じゃない。
 慌てて式人形で燕三に連絡を取る。
「聞こえるかのぅ? かなりまずい事になりそうじゃぞ。敵さん、どうやらこの町を灯の海に変えようとしているようじゃ」
 ノシた敵から聞いた情報では、この積み荷はほんの一部だったと言う。これと同等の量がいくつも運び込まれて、城下の各所に設置されたとしたなら……。
 式人形の向こうから燕三が言う。
「思ったより量が多いですね……とりあえず、他の猟兵の皆さんにも共有します――あ、ちょっと待って下さい。黒道坊の居場所を見つけた!?」
「なんじゃと!?」


 犬神藩城下町に建つ犬神城。
 その天守閣の屋根の上に、黒い法師服を着崩し、黒い編笠を被った男――黒道坊がいた。
 すでに夜が始まりだし、城下には夜の提灯や灯りがほそぼそと灯されている。
 その黒道坊の方に赤いガラスのような目をした漆黒の鴉が止まり。
 黒道坊の目は自身の数m先で浮遊する1匹の式を見つめる。
「おやおや、私の式が付けられるとは……なかなかどうして、優秀な式をお持ちのようだ」
 黒道坊が語り掛けるは迅が放った式符・朱鳥だ。
「しかも、私がこちらの準備にかまけている間に、内通者の脛を奪われてしまうとは……」
 内通者の脛、つまり外山の娘の事だろう。
「しかし……そんなつまらない命は斬り捨て、もっと私に注視するべきでしたね」
 スッと黒道坊が目を細めると、自身の影が渦巻くと同時、影の刃が朱鳥を真っ二つに斬り裂き消滅させる。
「式を壊しても、私がここにいるのはバレたでしょうね……しかし、もう遅い」
 にやり、笑みを浮かべると同時、眼下の城下で営みの明かりではない、真っ赤な火が次々と灯り、その火は轟轟と近隣の家を伝って燃え始める。
「やはり冬場は火の周りが早い」
 黒道坊が仕込んだ放火の火は、今や20カ所。
 少しずつ城下から人々の悲鳴の音が聞こえ出す。
「最後の仕上げと参りましょうか」
 そして、シャンッ、と錫杖を鳴らすと同時、今度は自身の足元、お城の各所から火の手が上がる。
 城内からも悲鳴が巻き起こり、すぐに騒がしくなっていく。
 黒道坊はその声を聞きながら笑みを浮かべ。
「ふふふふふ……やはり人々の悲鳴は心地良い。さぁ、地獄の大火よ! この町を、民を、燃やし尽くすのです!」


●●●●●●●●●●●
【第三章への注意事項】
・第三章は特殊な判定を致します。
・猟兵の3分の1以上が火災に対応しなかった場合、城下町は壊滅します。
・猟兵の3分の1以上が黒道坊に対応しなかった場合、黒道坊は逃亡します(依頼失敗)。
・むろん両方が3分の1以上だったら(例えば半分半分とか)、城下も救い、黒道坊とも戦えます。
・3分の1以上、の判定はプレイングが良い場合ボーナスを付けて判断します。
・プレイングに両方書いていた場合、どっちに比重が重いかMS側が判断致します。
・姫様サイドで城下にいない猟兵達も城下町にギリギリ戻れた事にして良いです。
●●●●●●●●●●●

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『黒幕の助言者』

POW   :    死灰復然(しかいふくねん)
【Lv体の武者】の霊を召喚する。これは【刀】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    含沙射影(がんしゃせきえい)
【無数の影の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    電光雷轟(でんこうらいごう)
【錫杖】を向けた対象に、【激しい雷光】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●●●●●●●●●●●
【第三章への注意事項】
・第三章は特殊な判定を致します。
・猟兵の3分の1以上が火災に対応しなかった場合、城下町は壊滅します。
・猟兵の3分の1以上が黒道坊に対応しなかった場合、黒道坊は逃亡します(依頼失敗)。
・むろん両方が3分の1以上だったら(例えば半分半分とか)、城下も救い、黒道坊とも戦えます。
・3分の1以上、の判定はプレイングが良い場合ボーナスを付けて判断します。
・プレイングに両方書いていた場合、どっちに比重が重いかMS側が判断致します。
・姫様サイドで城下にいない猟兵達も城下町にギリギリ戻れた事にして良いです。
●●●●●●●●●●●

●最終章予告

 事件の背後には黒き法師――黒道坊がいた。
 猟兵達と相対した彼は言う。

「舵取り役の私が死ねば、狒々堂は暴走するでしょう。
 さすれば被害は今の比では無い。それでも、私と戦いますか?」

 黒道坊を逃さんとばかりに相対する猟兵達。
しかし、広がる火の手から民達を守る為に裂く手も必要であり……。

 どちらも取るのは難しく、故に猟兵達の決断は……。

『国に必要な物~滅亡の愛姫~ 其の弐 』

 最終章 大火
吹鳴管・五ツ音
(「騎兵、駈歩」にて同行できる限りの戦力と共に城下へ急行)

銃後を戦火に晒すなど…!

(ぎりり。自責と共に奥歯を噛みしめて
上がる火の手の煙を認めた”右眼”が見開かれ《真の姿》から死の気配が溢れ出す)

砲兵による防火帯作成、工兵による避難路確保…いえ、手が足りぬであります…

(錬成カミヤドリにて無数の喇叭を顕現させ、吹鳴するのは速歩行進)

ーーこの音が届いた方々が、どうか今を生き、戦う助けとなりますよう…!

自分達も急ぎましょう!
砲兵の防火帯作成や工兵の避難路確保は勿論でありますが、聞き知った黒幕の特徴、自分の知るあのオブリビオンであるならば

防火の妨げとなるよう手勢を呼び覚ましていておかしくありませんので!


嶋野・輝彦
恫喝で住人から奪った笠を姫さまに被せる
姫さま逸れんなよ

姫さまは言った
犬神の地を見捨てはしない
ならやるこたぁ一つだ

●POW
怪力、鎧砕きで破壊消火
足りなきゃ捨て身の一撃も入れて
反動は激痛耐性、覚悟で耐える
城下の消火

邪魔する住人は周りも含めで
恫喝、存在感、コミュ力
うるせぇ!
命あっての物種だろうが!眠たい事言ってんな!動ける奴は手伝え!!

出火元が大きい時は周りの平屋を破壊
延焼が広がる所は第六感で進行方向の家を指示
しながら自分も破壊消火

ハンマーで柱吹き飛ばして
平屋の家ってのはなぁ柱一本傾げば壊れんだよ!!

崩した家にゃ水掛けんだよ、濡らして堰にすんだよ

この出火、姫様の釣り出しも含まれてんのか?
第六感で警戒


トゥール・ビヨン
キミを逃がせば、きっと今よりも悲しみが広がる。

だから、ボクとパンデュールはここでキミを倒すよ!

パンデュールに搭乗して戦うよ

ボクはみんなが戦いやすいように敵の攻撃を阻害したり防いだりするように戦うよ

武者の霊が召喚された際は、なぎ払いにより排除を行う

含沙射影が放たれる際は、システム・パンデュールを起動し高速で敵に接近し、盾や武器で攻撃を弾きながら仲間を射程外に逃がす。

錫杖が仲間に向けられたら、ドゥ・エギールで杖を弾くように射線をずらす。

「キミの好きにはさせない、ボクとパンデュールが相手だ!」

システム・パンデュールを使用する際は、真の姿を開放して背中に光の羽を発生させながら、飛んで動くよ

アドリブ歓迎


御剣・刀也
黒道坊組

きたねぇなぁ。何処までも
俺はお前みたいなやつが大嫌いなんだよ
上等だ。狒々堂が暴走するってんなら、そいつも止めてやるよ!!

死灰復然で亡者を呼ばれたら弓矢での一斉射が来るなら潰し、刀で邪魔するなら邪魔な奴だけ斬り捨てる
含沙射影で攻撃しようとしたら、大技故貯め動作などがると思うのでその隙に近づいて斬り捨てる
電光雷轟は雷なので光の速さは流石に超えられないので第六感で避けられないならくらうの覚悟で耐えて接近する
「俺は学が無ぇし、考えるのは苦手だ。だからシンプルに行く。てめぇも潰して、狒々堂も潰して、美濃姫さんを助ける!それが俺の答えだ!!」


紺屋・霞ノ衣
急いで犬神藩の城下町に戻るよ
アタシは黒道坊をぶっ倒しに行く
羅剛は暴れちまうだろうけど、此処であんたを逃がしたら
また今回みたいな事が何度でも起こる
犬神が多野みたいになっちまうのだけは絶対に嫌だ

それに羅剛……あいつには借りがあるんだ
アタシが越えなきゃならない相手
その為には、まずはあんたを倒す!

攻撃は【先制攻撃】【怪力】【鎧砕き】【鎧防御無視】
【羅刹旋風】は攻撃の隙を見て回し【捨て身の一撃】と上乗せして使う
敵からの攻撃は【武器受け】【オーラ防御】
霊を召喚されたら【範囲攻撃】と【2回攻撃】で薙ぎ払う
頭はかなり回るようだから、逃がすのだけは許さない
その立派な錫杖、真っ二つにしてやるよ


コノハ・ライゼ
姫サンは石層宗へ預け急ぎ城下町へ
早く着けるのなら普段しない銀毛の狐姿となり駆ける

指示所の内容を記憶
且つ火の手の大きい場所を目指し
町民へは互いに声を掛けながら火の手の少ない方へ避難するよう伝え
猟兵仲間へは可能な限り指示書の内容(火種設置点)を報せる

協力頼める町人へは火の勢いが弱い場所の消火を
初期なら水でなく砂か濡れた布を被せるよう依頼

自身は火の手が大きい場所へ向かい火元、或はより火の大きな箇所へ向け
熱と空気を断つように【彩雨】を撃ち込む
『高速詠唱』『2回攻撃』駆使し素早く何度でも、鎮火するまで
また柱などを破壊し家屋を倒壊させ延焼を防ぐ
逃げ遅れた町民は火や倒壊から『かばう』ようにし助け出す


涼風・穹
【火災に対応】

黒道坊にはきっちりと挨拶を返しておきたい
猟兵としての目的はオブリビオンの撃破、それも分かっている
まして俺はグリモア猟兵だ
だけど今は…俺、涼風穹はこっちを選ぶ!

火勢がまだ消化できる程度で水場が近くにあるのなら人をかき集めてバケツリレーで対応
バケツ代わりのものが近くにないなら『贋作者』で幾らでも量産する

火が燃え広がりそうなら『贋作者』で金属の壁を作り即席の防火壁にする
兎に角被害を少しでも減らすんだ

それと黒道坊が放火による混乱に拍車を掛ける仕込み、サクラを用意していないか警戒
悪質な流言飛語を流布させたり、火事場泥棒や暴れだすような方がいればオブリビオンであろうとなかろうと即座に鎮圧する


プリンセラ・プリンセス
冒頭でよいのでどのように追手から逃れたのか描写をお願いします。
内容は全お任せします。

人格は引き続きオフェリー。
姫に扮したまま城下の民に避難を促す。
戦闘で服装はボロボロだが逆に説得力が出るだろう。
手勢が潜んでいる場合にも再度囮となれる。
「皆逃げよ! 城下には火計が仕掛けられておる! ほれ、そこに!」
近くにある油壺を低威力のジャッジメントクルセイドでわざと破裂させる。
JCなら指指すだけなので姫がやったとは思われず、急に爆発したようにみえるだろう。
パニックになる前に声をかけて落ち着かせ避難を促す。
その後は避難をさせつつ本物との合流を目指す。
合流後は交代。
コードによる家屋破壊で延焼を防ぐのに回る。


レイチェル・ケイトリン
たかく、もっとたかく。

でも、いまのわたしはあのときとはちがう。

「念動力」で「遥かなる想い」を使って「高機能超小型デジタルカメラ」を城下町の上空までもちあげて遠隔操作で「撮影」し「コミュ力」でみんなに情報提供するね。

「遥かなる想い」で救出や消火もするよ。

遠くからでもあぶないひとたちを「かばう」、そしてくずれるおうちももちあげてはこびだし、土をかぶせて火を消すよ。

じゃまな瓦礫とか気をつけて「吹き飛ばし」てみんながうごきやすくしたりもするね。

空からの写真がギリギリになっちゃったあのときから工夫して準備してわたしはできることふやしてきたの。

その力でみんなをたすけてあげたい

それがいまのわたしの心だから。


山梨・玄信
く、遅かったか…!こうなったら城下の人々を守るぞい。

【POWを使用】
先ずは零殿と合流じゃ。
情報交換をして襲撃地点の地図情報を共有したら、御代殿の式で皆に伝えるぞい。その後の指揮はそちらに居る猟兵方に任せるのじゃ。
この世界では…類焼を防ぐ為の防火帯を作るしか無いのう。
人々の避難誘導をしつつ、アースジャイアントで建物を壊すのじゃ。
逃げ遅れた人の救助も、火炎耐性があるから引き受けるぞい。
実行犯や妨害する者は、わしの拳で粉砕してやるわい!
その他、出来る事は何でもするのじゃ。

「零殿、すまんの。色々遅くなってな。完全に後手に回ってしまったわい 」
「その情報、直ぐに皆に伝えるのじゃ」

アドリブ、絡み歓迎じゃ。


羅賀・乙来
豪い騒ぎだと聞いて来てみたが……なるほど、これは大変だ
これまでの経緯は把握している
僕は火消しに回ろう
黒道坊の事、そちらに任せたからね

城下町の井戸や付近の川等、十分に水のある所を確認
見つけたら、その周辺にて消化活動に取り掛かる

侍龍招来で式神を召喚
僕は器に水を入れて運搬、式神はそれを持って火災部分へ水撒き
可能な限り高所から、火災が大きい所は多めに運んで一気にかける
逃げ遅れた者は式神を使って救出

この状況を招いたのは、僕達の所為なのかもしれない
美濃姫と僕達がこの地に来たが故に、と
しかし相手がオブリビオンなら、いずれ起きただろう
僕達ならばこの悲劇を止められる
此処は君達の地、君達も協力してくれるかい?


高柳・零
町の鎮火作業に当たります。

町が近付いたら「ここまで来ればこれが使えますね」と言ってトランシーバーを取り出します。そして玄信さんと連絡を取って落ち合います。
この時、襲撃場所の地図がある事を伝えます。可能なら、その場所も。
情報交換をしたら姫の事は希望者と僧兵に任せ、城下に向かいます。
希望者が居なければ自分が残ります(その場合の行動はアドリブでお願いします)

防火帯を作る為、天斬りで斬りまくります。特に重要な柱など。
体の小ささを活かして、狭い場所で活動します。
実行犯は1人だけ気絶打撃で捕らえ、それ以外には容赦しません。天斬りで斬り捨てます。捕らえた敵には情報源になってもらいます


アドリブ、絡み歓迎です。


御代・燕三
範囲が広いですね。これは猟兵だけでなく民の助けも必要になりそうです。

犬神藩の藩主里見殿、わたし御代燕三が火消の指揮を代行する許可と、その周知をお願いします。
それと並行して城下町の地図を頂き「犬神藩や多野藩」家臣の方々と、延焼を防ぐため壊してよい建物の抽出と整理、家臣や町人で火消隊を結成してもらい各班と猟兵の方々に事前指示と班名、「UC算術式:先見の章」で召喚した紙人形を渡しますね。それと城下町全体を俯瞰できる位置に複数の紙人形を浮遊させます。

猟兵以外の方々は火に近づきすぎないように、また煙に注意してください。
幾ばくかの余裕があれば城下に居なかった猟兵達を火消か黒道坊へ行けるよう誘導支援します。


逢坂・宵
ははは、我々を見くびってもらっては困ります
暴走する?そうなるからと、あなたを見逃す理由にはなりません
勘違いしないでいただきたいですね
あなたがいなくとも、我々は事態を解決する
……いえ、姫のお力になる
そう決めたのですから

『属性攻撃』『2回攻撃』『高速詠唱』『全力魔法』を用いて
『天撃アストロフィジックス』で攻撃します
猟兵の仲間とも連携や協力をおこなっていきましょう


月舘・夜彦
【博愛祈願堂】で参加
私は火煉殿と共に黒道坊へ向かいます
火災の対応へ向かう鹿糸殿は、どうかお気を付けて
人々をどうか頼みます

敵を確認したら【先制攻撃】にて仕掛ける
攻撃は【2回攻撃】を活用
常に逃走に警戒
霊を召喚された時は逃走に利用されないよう優先して撃破
敵からの攻撃は【残像・見切り】にて回避
そして抜刀術『静風』の攻撃に併せて【カウンター】により斬り返す

今も人々が危機に晒されている中
私は戦うべきなのかと、己の選択は正しいのかと
ですが、そうした中で仲間が向かってくれたのです
もう、迷いはございません

例え刺し違える事になろうとも
この連鎖する悲劇を止める為ならば……意義は在る
私は決してお前を逃がさない


氏神・鹿糸
【博愛祈願堂】で参加

黒道坊の方へ向かった友人達は大丈夫かしら。
安否が気になるけれど、消火活動に専念ね。

「『無限の形態として従属し、ついに従属を抜け出した形態なき隣人よ』…少し、協力してね。」
消火活動としては[属性攻撃]から水の精霊に手伝ってもらうわ。

根本的に火を消すために[火炎耐性]で炎の酷い所へ。
そこでユーベルコードを使用。
本体については、まだ秘密にするつもりだったのだけど…やむを得ないわね。

私の本体は、50cm程の丸い〔青磁の花瓶〕よ。
水の精霊に手伝ってもらって、19個の花瓶を水でいっぱいに。
あとは念力で操作しながら消火活動の繰り返しよ。


(アドリブ・連携歓迎)


玖篠・迅
狙いが何であれ邪魔するのみだ
っと寺島さんに城で藩主が居そうなとこの目星つくか聞いとく
手伝ってもらえたら避難誘導お願いしたいけど、安全第一な

もう隠れる必要ないし式符・青天で蛟を全部呼び出す
俺と5体は城
他は城下に広げて炎の周りを水気で満たして延焼阻止を頼む
水が足りなきゃ海から借りて消火する勢いで抑え込め
城下が落ち着いたら城に集合!

青天維持して使えれば式符・白秋も使って城に急ぐ
犬神藩主さんも狙いじゃないといいんだけど…
藩主さんの安全確認と、逃げ遅れの人の救助だ
煙は吸わないように布で口とか覆ってな
蛟には消火と排煙に避難補助……余裕あったら黒道坊に思いっきり水ぶっかけて邪魔してくれってのも頼んどこ


レッグ・ワート
まあ畳みかけてくるもんだ。この手の仕事は無い方が良いんだが、あると嬉しいのはどうにもならないな。

俺は城下町で動くぜ。真っ先に迷彩仕様のドローン空にあげて、町全体の火元の位置と数を確認する。避難先になりそうな場所もいくつか挙げて、誘導に使えりゃ上等だ。そしたら高度を少し下げて、火や倒壊で使えなくなった道の把握に回すよ。

万一雑兵がうろついてるなら鉄骨片手に走り回るのも考えてるが、基本的にはバイク使って仲間から遠い火事場の対処にあたる。とはいえ人命が最優先だ。耐性あるし、逃げ遅れがいそうなら中入って確かめて救助してくよ。その後は火元に接してる無事な建物を壊して燃え広がる元を断つ、でいいんだよな確か。


寺内・美月
黒道坊を攻撃。
〖死灰復然〗対策で事前に『戦闘団召喚』にて事前に歩兵を伴って攻撃。
遠距離攻撃には『完全管制制圧射撃』、近距離攻撃には『剣刃一閃』、負傷者が発生した場合は『SSW式治療レーザー』等を状況に応じて使用する。


ジェフリエイル・ロディタ
同じ場にいた皆へ、
叶うなら散開までの間にエコーリングを奏でよう。
さあ防ぎ、助けに駆けようじゃないか!

今回僕はエレメンタル・ファンタジアで
雨を歌い続けて火の勢いを弱めていこうと思う。
僕の邪魔や民の危険には念動力で対処するつもりさ。
何か所も火元を範囲に入れられる時は小雨でも広さをとって、
消火が進めば残りへ大雨を注いでいくよ。
大胆な飛び地なら最初からピンポイント豪雨で消火して回るとも。
歌う時はエコーリングの演奏を合わせて制御の助けにしたいね。

温水の雨、故郷で使ってる時は僕閃いちゃったなって思ってたのに
場所によってはしゃわーとかって名前で普通にあるとか嘘でしょ?
まあそれはともかく、僕喉やばくない?


越喜来・湊偲
霞ノ衣姐さん(f01050)から事情は聞いたっす
黒道坊をぶっ飛ばしてやりたいですけど、目の前の事も大事です
奴はきっと姐さん達がやってくれるはずです
俺は火災の対応へ向かいます!

火災発生源、煙が多い所へ向かいます
水を撒くのがベストなんでしょうけど、そんな簡単に水があるわけないですよね
魔法は慣れませんが使わないよりはマシです
エレメンタル・ファンタジアの氷の津波を使います!
燃えている建物を氷の波で覆い、他へ燃え移らないようにしましょう

野生の勘で建物に違和感を感じた時は逃げ遅れた人が居るかもしれません
その時は中に入って助けに向かいます
これでも体は丈夫に出来てるんです、こんな熱さどうってことないです!


桐・権左衛門
ヴィクトリア(f00408)と共に行動
ヴィクトリアが美濃ちゃんを護衛してくれてるし安心や
人が割かれる以上尚更狙われる可能性は捨てきれん

赤磊刀も無事美濃ちゃんに返却できたし、背負うモンがないと気ィ楽やわー
プリンセラはんと合流可能ならば援護合流する

まぁいらん世話かもしれんけど無理するもん同士やしな

火災対処も重要やけど、今回は美濃ちゃんの代わりに黒幕ドツいたらんと気ぃすまんわ

狐火は…火災的にあんま良くないけどしゃーないわ

舵取り役?暴走?この場所でぶち飛ばして暴走も美濃ちゃんが止める
今の美濃ちゃんの覚悟にはその程度余裕やわ

けど不真面目なウチがこない働くなんて難儀な場所やなぁ
まぁ悪い気ィはせーへんけど


毒島・火煉
【博愛祈願堂で参加】
カレンちゃん参戦!よるっち(月舘夜彦)の手助けしないとね!性根の腐ったクソ野郎は許せないし!
【おびき寄せ】でカレンちゃんに注目向けながら、先陣切って攻撃していくよ!【目潰し】【毒使い】を使って上手く足止めしながらよるっちのサポートで走り回るね。
「ほらほら!カレンちゃんはここだよぉ!」
無差別攻撃が来たら【見切り】で避けるか【破壊工作】で適当な物を壊して盾にして防ぐよ。【盗み攻撃】で相手の武器の錫杖を盗んでおけば、無差別攻撃の方に意識をシフトさせられると思うしね!
「よるっちやっちゃえ!こんなやつ、敵じゃないよ!」


ヴィクトリア・アイニッヒ
……まさか、本当に街に火を放つとは。
空気の乾き具合、時刻……いけない、これでは大火となってしまいます。
……ですが、この混乱を突いて狙ってくる可能性は否定できません。
私は、美濃姫様の護衛に専念いたしましょう。

黒幕も、大火への対応も、他の者に任せましょう。美濃姫様は、決してご無理な事はなさいませんように。
貴女の身の安全が、今後の犬神・多野・狒々堂の未来を左右するはずです。
…この場は、私がこの身に代えてでもお守り致します。

こちらに接近する者に対しては警戒を怠らない。
万一戦闘に巻き込まれた場合は、美濃姫の前に立ち壁となる。
攻撃は神威の光剣を使用。襲撃者の足止め・撃退に専念。深追いはしない。


法悦堂・慈衛
【博愛祈願堂】の夜彦さんや火煉ちゃんと行動。

さてさて、同じ御仏の教えの下にあったモンとしては見逃せんなぁ。
和僧が黒道坊さんか?…俺はな、女の子を泣かせる奴は嫌いやねん。
せやから、閻魔さんとこに送ったるよ。超特急でなぁ。

遠距離から【偏愛真言符】を使って攻撃。
杓杖が握れんよう、手を狙うて火傷でも負わせたろか。
熱いやろぉ?やられたら嫌やろ?そういうことはしたらあかんのよ。

近付いてくる武者は【煩悩切】でなぎ払ったろか。
まぁ露払いって程度やけどな。基本は前衛の援護やね。

そんで…無差別攻撃には【七星七縛符】や。
正直しんどいけども、ココで踏ん張れば…前衛のみんなが動きやすいやろ。
みんな、頼むでぇ。




 追ってくる武者鎧のオブリビオン達を時に退け、時に逃げ、なんとかやり過ごしてきたが……。
「ここが……限界、でしょうか……」
 美濃姫から借りた打ち掛けにはいくつもの血が染み出していた。プリンセラ・プリンセスが逃げながらくらった傷は数知れず、また最後の方は止血する間すらなく、血の流し過ぎでクラクラする。
「(それにしても……これだけのオブリビオン……作戦は……成功、ですよね……?)」
 木を背に預け座り込む。
 周囲からは未だオブリビオンの気配は消えない。ここでこうしていればいずれ捕まるのは明白。
 プリンセラは美濃姫に変装したままだった。だからこのまま捕まれば、狒々堂側に美濃姫が捕まったとの噂が広まり、やがて、白背・羅剛を避難する大義名分と民達の士気高揚にも繋がるだろう……。
 だが、もし偽物だとバレたら……?
 特に敵のオブリビオンにとって猟兵である事まで隠すのは難しい。美濃姫の恰好をしていても猟兵というだけで即座に殺される可能性もある。
「(もう……視界が……)」
 座ったまま立てなくなっていた。まぶたが重たく凄く眠い。
 そして……。
 ドサリ――。
 木陰に座っていたプリンセラはそのまま倒れ、眠りについたのだった……。
  
 あの頃の夢。
 たくさんの兄とたくさんの姉、あの頃の……。
 ふと、夢から目が覚めたプリンセラは誰かに背負われている事に気がつく。
「お、気付いたようやな」
「え……?」
 それは桐・権左衛門だった。花魁風の着物を着崩した権左衛門が、プリンセラを背負ったまま森の中を疾走していた。
「堪忍なー、兄ちゃんでも姉ちゃんでものぅて」
 寝言を聞かれたと真っ赤になるプリンセラ。
「かわりに権ちゃんって呼んでええで?」
 周囲の森はどこか見たことがある気がするし、背後からは未だ追手の気配を感じる。どうやら倒れているプリンセラを見つけそのまま脱兎のごとく逃走中、という事か。
「あ、あり――」
「お礼は後や、今は黙っとき。応急処置もほどほどに逃げ出したからすぐに傷口が開くで?」
「………………」
「それにしても、ウチが行かなんだらどないなっとったか……それとも、いらん世話やったか?」
 権左衛門の背中でプリンセラが首を横に振るのが振動で伝わり、権左衛門はニッと笑い。
「ま、お互い無理するもん同士や! もうちょい眠っとき? そんで体力回復しい」
 やがてプリンセラが再び意識を失ったのか心持ち重くなる。
「さぁ、気張るでぇ」


 すでに空は暗闇に染まり、提灯の明かりを頼りに犬神の城下町へと向かうは美濃姫達一行であった。
 途中、村々の自警団として巡回していた石層宗の1部隊と合流するも、それ以外の部隊と合流する事より、城下へと急ぐ事を優先した結果……。
「城下町の空が……赤く……」
「銃後を戦火に晒すなど……!」
 うっすらとだが遠く城下町が赤く浮き上がっていた。それは炎の赤色で、それを見た吹鳴管・五ツ音は自責と共に奥歯を噛みしめる。
『(ガ……ガガ……』
 と、一行の中、テレビニウムの高柳・零の荷物から聞いたこと無い音が響く。
「あ、これは玄信さんですね」
 そう言って零が通信機を取り出し「あーあー、こちら零、こちら零。姫様と無事合流し今は犬神の城下町へと期間中。そろそろ城下に到着します。どうぞ」
 お互いの距離が近づいたからか使えるようになった通信機の向こうから、ドワーフの少年たる山梨・玄信の声が聞こえる。
『(ガガ……)了解。敵は城下で火付けをやらかしたぞい? 姫様がいるなら来ない方が良いと思うぞい。どうぞ』
「それなら、こちらには襲撃場所――火を付ける場所の地図があります。どうぞ」
『なんと! ではこれから指示する場所へその地図を持って向かって欲しいぞい。そこで消火の為に指揮をとってる猟兵がおる! 場所は――』
 玄信との通信が終わり、零が襲撃場所の地図を持って走りだそうとした時だ。その肩を美濃姫が掴む。
「その地図を妾に渡してくれ」
「え?」
「何言ってんだ姫サン」
「そうであります!」
 嶋野・輝彦と五ツ音が驚くが、美濃姫は空まで赤い城下を見つめ。
「お主らは城下の民達を……妾の事を気遣ってくれる事には感謝しておる。だが、今は大火より民を逃がす事を優先させるべきじゃ」
 その言葉に自身と同じ気持ちか……と猟兵達も納得し、零も地図を美濃姫に渡す。
「姫さまは言った、犬神の地を見捨てはしない。なら、やるこたぁ一つだな」
 そう輝彦は言うと途中で道すがらの商人から貰った(睨んだらくれた)笠を美濃姫にかぶせると。
「俺ぁたいしてやれる事はねーが……やれる限りをやってくるさ」
「自分も、玄信さんと合流して火災の鎮火作業に当たります」
 そう言って輝彦を追うとうに零も火が昇る夜の城下町へと走って行く。
「石層宗の皆は姫サンを頼ンだよ」
『ハッ!』
 二十人ほどの石層宗がコノハ・ライゼの言葉に声をハモらせる。 
「それでは自分たちも行くであります」
 コノハに続き五ツ音が美濃姫に無言に敬礼し、そのまま2人も城下へと……。
 最後に美濃姫の側に残ったのはヴィクトリア・アイニッヒだった。
「ヴィクトリア、お主も――」
「行きませんよ」
 城下に向かうよう言おうとした美濃姫の言葉を遮り毅然と答える。
「じゃが!」
「美濃姫様、なんの為にプリンセラ様が1人囮になったと思いますか? この混乱の隙をついて再び姫様を敵が狙ってくる可能性は否定できません。プリンセラ様だけでなく、ゴンちゃんさんも……姫様が攫われたら2人の行動は無意味になってしまいます」
「それは……」
「大丈夫です。信じましょう、皆を。それに私達だってやれる事はあります。まずは先ほどの地図を届けましょう」
 ヴィクトリアに諭され、美濃姫はグッと零から受け取った地図を手に取ると、火が昇る場所を無視して指揮を取っているとされる猟兵に合う為、城下へと向かうのだった……。


「すでに城下から上がっている火の手は10を越えておる! いずれここにも火の手が回ってくるぞ? あー、困った、困った困った!」
「落ち着いて下され笹野様、騒いだ所で何も変わりますまい」
 美濃姫に与えられた武家屋敷でおろおろする多野家筆頭家老の笹野の爺さんを、寺社奉行の寺島がなだめる。
 今、金山奉行の吉田は内通者であった外山を連れ、内々の恥を里見藩主に報告しに行っている所だった。
 そんな家老達を尻目に、広間に城下町の地図を広げて仮の対策本部として効率よい消火案を練る猟兵達。その中心となっているのは青い衣の陰陽師、御代・燕三だった。
「範囲が広過ぎますね。これは猟兵だけでなく民の助けも必要になりそうです。犬神藩の里見藩主に猟兵による消火の際の指揮代行の許可とその周知を頼みたいのですが」
 燕三の言葉に寺島奉行が「今から登城するのではとても間に合わんぞ」と答えれば。
「そんなもん、上様の天下自在符を使えば良いじゃろう。今は緊急時じゃ、里見の殿様も解って下さる」
 笹野が最年長らしく「いざとなったらわしが責任を取る」と燕三をけしかける。
「確かに今はそれが最速でしょうね。頭の柔らかいご老人は嫌いじゃありませんよ? ふっ、解りました。自在符を使いましょう」
 うなずき合う燕三と笹野。
「よし、それじゃあ俺はさっさと行くぜ!」
 城下の地図に目を通していた涼風・穹が立ち上がる。
「どちらに?」
 燕三がその背に声をかける。
 穹は背を向けた広間から庭へと降りて行きながら。
「黒道坊にきっちりと挨拶を返しておきたい……猟兵の目的はオブリビオンの撃破だ。まして俺はグリモア猟兵だ、今ここで奴を倒さないと未来が救われないのは痛いほどわかってる」
 一瞬だけ赤く染まりつつある夜空を見つめ。
「わかってるんだ……だけど、今は、俺は、涼風穹はこっちを選ぶ!」
 そう言うと自身で作り出したバケツで庭の池の水を汲み、ザバリと自身にかけびしょ濡れになる。 
「それもまた猟兵の道だと、僕は思うよ」
 ふわり、そこに現れたるは蚕のような触覚を生やした白いキマイラの陰陽師、羅賀・乙来だった。
「豪い騒ぎだと聞いて来てみたが……なるほど、これは確かに大変だ」
「あなたは?」
 穹が突然の事に驚いて聞けば。
「猟兵だよ。ここまでの騒ぎだ、猟兵の手は1人でも多い方が良い、そうだろう?」
「もちろん、助かる」
「僕も火消しに回ろう……そうそう、来たのは僕だけでは無いよ」
 そう言うと、さらに数人が到着する。
「カレンちゃん参戦! よるっちは元気ー?」
「火煉殿!? それに皆も!!」
 やって来たメンバーに月舘・夜彦が声を上げる。
 恋多き羅刹の少女毒島・火煉、花に寄り添うヤドリガミの美女氏神・鹿糸。
 2人は夜彦が所属する旅団【博愛祈願堂】の仲間であり、そして――。
「噂のお姫様はいないんかぁ……ざーんねん」
「慈衛殿まで!」
 それは【博愛祈願堂】の旅団長たる法悦堂・慈衛だった。
「助けにきたで? こんな時のための……仲間、やろ」
「……皆」
 夜彦は感謝の言葉は口に出さず「礼は生きて全てが終わった後で」と良い。
「私は黒道坊の方へ向かいます」
「いいよー! カレンちゃん的にも性根の腐ったクソ野郎は許せないし!」
「同じ御仏の教えの下にあったモンとしては、黒道坊とやらは見逃せんなぁ」
 火煉も慈衛も夜彦と同じく黒道坊を倒しに行こうとする中、鹿糸だけは夜空に反射する焔の赤を見つめ。
「私は消火に向かうわね。火の精霊さんとは仲良しだけど……この炎は頂けないわ」
「わかりました。鹿糸殿は人々をどうか頼みます」
「ええ、3人も気をつけて」
 そう言って夜彦達【博愛祈願堂】の面々は屋敷を飛び出して行く。
「仲間……か、いいね! それじゃあ僕から光を手向けよう! さあ防ぎ、助けに駆けようじゃないか!」
 向かう者達の背を押すようジェフリエイル・ロディタがエコーリングの曲を奏で少しでも彼ら彼女らの戦闘力を向上させる。
 その曲による力が増した事を確認しつつ紺屋・霞ノ衣が先ほど博愛祈願堂の面々と一緒にやって来た筋肉質な男に。
「あんたも来たんだね」
「あ、はい。少しでも力になれるかと思って……それで、姐さんは黒道坊をぶっ飛ばしに行くっすよね?」
 霞ノ衣の弟分たる青年、越喜来・湊偲が確認すると。
「ああ、アタシは黒道坊をぶっ倒しに行く!」
「だと思ったっす。だから、俺は町の火災の対応に向かうんで、遠慮無くそっちはやって下さいっす!」
「ぁあ? 言われるまでもないさ。それじゃあ、そっちは頼んだよ!」
「はいっす!」
 そうして霞ノ衣と湊偲もそれぞれ別方向へと向かって走って行く。
「どうした玖篠殿」
 地図とにらめっこしている燕三達を抜けば、黒道坊か消火かに向かうだろうと思っていた
玖篠・迅が1人佇んでいる事に不思議に思い、奉行の寺島が声をかける。
「いや、ちょっと敵の狙いがな……そうだ、寺島さん、少し手伝ってもらいたいんだが……いいだろうか」
「ああ、自分に出来ることなら」
 そうして迅は怪訝な顔をしつつ、寺島を伴い屋敷を出て行くのだった。
 果たしてその行動が、後々大きな転換点に繋がるのだが……。
 さてはて。


 犬神の城下町は炎と悲鳴と飛び出した人々によって大混乱の渦にあった。
 火付けが行われたのが人々が寝入った夜であった事。
 10以上の火付けが同時に行われた事。
 そして季節柄の乾いた風と乾いた空気……。
 黒道坊的にはまさに大火にうってつけの条件だったと言える。
「く、遅かったか……完全に後手に回ってしまったわい! 零殿、こうなったら城下の人々を守るぞい」
「もちろんです。一人でも多くを助けないと!」
 城下の火事において一番火の周りが早いのは町民の長屋である。狭小住宅でありながら密集しその素材は木と紙だ。燃え広がらないわけがない。そんな長屋が密集する一角にやって来た玄信達は、これ以上の類焼を防ぐ為に防火帯(可燃物が無い帯状の地帯、このような城下町の場合、長屋等の建物を破壊して作成される)を作るしかないと即断。
「ゆくぞ、アースジャイアント!」
 玄信が地に掌を付き力を与えれば、そこから自身の2倍――180cm近くの土塊の人形が出現する。
「アースジャイアント! あの建物を壊すのじゃ!」
 炎が燃え移りそうな長屋に向かってアースジャイアントを特攻させる玄信、アースジャイアントは火の粉を物ともせず長屋に入り内側から破壊していく。
 一方、玄信が破壊した長屋に隣接する別の長屋に入り込んだ零は、その身体の小ささを活かして次々に柱を斬り倒す。もちろん、中にはかなり太い梁などもあったが……。
「天斬り!」
 その小さな身体のどこにその膂力が……いや、そうではない。零の技の冴えが梁を一刀の元に真っ二つに!
 一方、防火帯を作るにも住人がいては長屋の破壊もままならず……。
「うるせぇ! 命あっての物種だろうが!」
 ごねる住民を輝彦が一括する。
「し、しかし……」
「まだ眠たい事言ってんのか! 口を動かす暇がある奴はこっちを手伝え!!」
 ハンマーを振り抜き長屋の柱を吹き飛ばし、ぐらりと揺れた瞬間に長屋から飛び出す輝彦、同時、ガララーっと倒壊する長屋。
「平屋の家ってのはなぁ、柱一本傾げば壊れんだよ!!」
 もちろん、どの柱をどの角度で破壊すれば一気に倒壊するか、大工の棟梁でも無ければ見極めるのは難しい。だが輝彦の第六感はそれをなんとなく可能としていたのだ。
「おら! 見てる暇があるなら、崩した家に水掛けんだ! 濡らして堰にすんだよ!!」
「お、おう! 俺たちもやるぞ!」
 輝彦の声に住民達が協力を始める。
「急いで! 女性や子供、お年寄りの方は避難を優先するであります!」
 自身の砲兵達を召喚し、防火帯作りを手伝いつつ避難を指示する五ツ音。
「赤毛の娘さん、ばあさんが、ばあさんが見当たらないんじゃ!?」
「ええ!?」
「そのおばあさんって、この人じゃナイ?」
 コノハが煤だらけになりながらお婆さんを背負ってやってくる。
「おお、お前!」
「あんた!」
「取り残されてたからちょっと助けてきたンだけど?」
「さすがであります!」 
「こっちの防火帯は終わったぞい!」
「こちらも終わりました!」
 ぐるりと燃える長屋を囲むよう防火帯を作り上げた所で。
「これ以上は良い、みんな避難してくれ!」
 輝彦が声をあげ、一斉に荷物を持って逃げ出す町民達。
 そんな中、背後の燃える長屋を見つめ零が呟く。
「放火犯が残っているかと思ったのですが……」
 さすが放火犯もこれだけ危険な場所にはもう居ないだろう。
 もし、いるとするなら……。


「御代殿! 我々もそろそろ避難しなければならぬのでは!?」
 美濃姫の武家屋敷に1人残って地図と格闘する燕三を笹野が慌てさせるも。
「いえ、駄目です。もう少々詳しく指示を出さねば避難経路の指示が出来ていないのです」
「避難経路?」
「ええ、燃えているだいたいの場所はともかく、こう火付け場所が多いと避難経路を間違えれば炎と煙で袋小路に逃げた、等という事にもなりかねない」
「うううむ……」
 笹野が腕組みし唸った所で、屋敷の庭に何かが乱暴に――降り立つ。
「どうやら、間に合ったようですね」
「待たせたか!」
「ええ、まったく!」
 ニヤリと笑う燕三に、庭に停められた宇宙バイクから2m50cmもの長身のウォーマシン、レッグ・ワートが降り広間へと上がり込む。
 レッグは地図の前に座るとメモリデータを燕三に渡すと、燕三は己のカラクリ電算盤に差し込み――。
「なんと!」
 笹野が声を上げる。
 地図の上に立体映像のように炎の映像が揺らめいている。
「こ、これは一体何ですかな?」
「ドローンの映像だ。ま、未来の術って所か?」
 レッグが適当に説明すると、陰陽術の何かだろうと勝手に納得する笹野。
「レグさん、スタート時の炎の位置はわかりますか?」
「ああ、巻き戻せば……」
 そう言って画像を巻き戻すが、すでに炎は広がり類焼を続けている状態が一番古く、それ以上は無かった。
「連絡を取り合った分だけ時間を消費しましたからね……」
 と、そこに誰かがやってくる音。
 3人がそちらを向けば所々煤で汚れた銀髪の少女、レイチェル・ケイトリンだった。
「あ、あの、……これ、使えませんか?」
 
 ――たかく……もっとたかく……。 
 城下町で火が昇った時、誰より先に自分にできる事を始めたのはレイチェルだった。
 荷物入れから高機能超小型デジタルカメラを取り出し、念動力でふわりと浮かすと、さらに集中。
「(……届いて、この想い)」
 レイチェルの想いと共に、ギュンッとカメラが上空へと昇っていく。
 それはかつては出来なかった力。
 あの時は自身が空の上へ上へと昇り写真をとった。
 それで足りると思っていた。
 だけど、違った。
 足りなかったのだ。
 だから、レイチェルはあの日、あの時から工夫して準備をしてきたのだ。
 自分にできることを一つでも多く出来るように……。
「(この力でみんなをたすけてあげたい……それがいまの、わたしの心だから)」
 遠く豆粒以下で視認できないカメラを感覚を頼りに、さらに細かい操作を念動力のみでおこう。額に汗が滴り頭の中の何かが焼き切れそうになるが……。
「いまのわたしは……あのときとは、ちがう!」

 ――燕三の電算盤にカメラを繋げると、立体映像の下に縮尺を合わせたレイチェルの写真画像が写される。
「完璧です! 素晴らしい!」
「ああ、良く撮れてるな」
 レッグもレイチェルを褒めるが、燕三は「違いますよ」と否定。
「レイチェルさんの凄い所はこの写真を、火事が起こったと気付いた瞬間に撮りに向かった所です。普段から気を張っていなければできない芸当です」
 凄い褒められ思わず無言で照れてしまうレイチェル。
「ともあれ」
 燕三は一番下にあった微妙に縮尺の合ってない手書きの地図を邪魔だとばかりに取り除くと、自身の電算盤をいじり出す。
「爺! 皆は無事か!」
 その時だった、屋敷の玄関から声が響き「姫様!」と笹野が喜声を上げる。
 そこに入ってきたのは笠を被り、若武者姿に変装した美濃姫であった。
 後ろからは護衛のヴィクトリアが付いてきており、屋敷の外には石層宗二十名が。
「お姫さま……」
「レイチェルか……ここにはこれだけか」
 レイチェルの髪についた煤を払いつつ、美濃姫が皆を見つめる。
「皆、救助や黒幕を倒しに行ってるんだ。大丈夫、心配するな」
 レッグが簡素に説明する。
「そうか……ならよかった。ここで指揮を取っている者がいると聞いたが、お主か燕三? なら、これを役立ててくれ」
 そうして差し出すは零から受け取った敵の指令書、火付け場所が印された地図だ。
「御意」
 それを受け取り、さらに電算盤を操作……そして。
「できました」
 そこには写真をベースに完璧に描かれた城下の地図と、そこに立体的に動く炎、さらに火付け指示書によって最初の火元が描かれ、さらに炎の進行ルート、風向き、までが追加されていた。
「見定めよ! 我が呪に従いて……先見の章!」
 燕三が懐から大量の紙人形型の式札を取り出しばらまくと、そのままそれらは宙を飛んで城下の四方八方へと散っていく。さらに5体がレッグ、レイチェル、笹野、美濃姫、ヴィクトリアの肩のとまり。
「皆さん聞こえますか、御代燕三です。避難経路を算出しました。これからお伝えします」
 紙人形から燕三の声が聞こえ、各地に散っている猟兵達へと指示が成される。
 これで避難はかなりの効率化が計れるだろう。
「では、そろそろわたし達も避難致しましょう」
「なら俺は別の所に行かせてもらうぜ? アレがあるから遠くまで行けるのは俺の役目だろうしな」
 レッグが宇宙バイクにまたがり言うと。
「ああ、それなら遠くでなく西側に向かって下さい。そちらが風上です。ソレなら急いでいけますよね」
「……ああ、任せとけ」
 声と共にバイクが一陣の風となって吹っ飛んでいく。
「わたしも、人を助けにいきます」
 レッグがいなくなりレイチェルも拳を胸元に握っていう。
「しかし……」
「だいじょうぶです。今のわたしなら、きっと助けられるから」
 心配する美濃姫にそう微笑み、レイチェルが屋敷から火のある方へと駆けていく。
「それでは姫様、私達は」
 ヴィクトリアに促され美濃姫と笹野、歩きながらも皆に連絡を入れる燕三は武家屋敷を後にするのだった……。


 犬神城を見上げる城の中庭に、溢れんばかりに猟兵達を向かい打つは武者の霊。
 その数……約100体。
 黒幕たる黒道坊は城の上部、天守閣の屋根の上からこちらを高みの見物するかのように見下ろしている。
「こいつら倒さねーと、駄目ってか? 上等だ。やってやろうじゃねーか」
 御剣・刀也が獅子吼を抜いて咆えれば。
「我々を見くびってもらっては困りますね」
 逢坂・宵もまたアストロ・ロッドを構え断言する。
『それはずいぶんと威勢の良い事で……では有言実行と行きましょう。本当に、倒せますか?』
 情報からの黒道坊の声と共に、100体の武者霊たちがザッザッ、ザッザッザッザ! と走り込んでくる。
 寺内・美月が手を挙げれば彼ら4人の背後に各種戦闘団が召喚され、一斉に重火器を構え。
 トゥール・ビヨンが愛機パンデュールに乗り込む。
「キミを逃がせば、きっと今よりも悲しみが広がる。だから、ボクとパンデュールはここでキミを倒すよ!」
 トゥールの言葉を合図とするように、黒道坊との戦いの火ぶたが切って落とされた。

 100体もの霊の真っただ中に突っ込んだパンデュールが両端に刃のついた薙刀型双刃『ドゥ・エギール』を振りまし、一気に数体の武者霊たちを薙ぎ払い。宵が星の属性魔法で貫通を付与し、直線状に並んだ数体をまとめて貫き倒す。
 しかし、武者霊の数はあまりに多く、なぎ払っても貫いても、すぐに湧き出るかのように群がって来る。
 特に最前線に出て戦っているパンデュールは狙われやすく、すでに両手両足を羽交い絞めにするよう4体の武者霊がとりつき、さらにビタンビタンと2体の武者霊が胴や顔に抱き付いてくる。
「くっ、離れろ!」
 なんとか振り解こうとするも、振り解いた先から別の武者霊が飛びついてきてはキリが無い。
 このままでは……、とそうトゥールが思った時だった。
 ズバズバズバンッ!!!
 経文の写経された薙刀が右手右足にとりついた武者霊を、曇りなき刃の刀が左手左足に付いた武者霊を、そしてピンク髪の少女が手にしたダガーが頭と胴にとりついていた武者霊を斬り捨てる。
 スタンッとパンデュールの前に降り立つは3人。
「お邪魔様、露払いさせてもらうでぇ」
「カレンちゃん、参・上!」
 【博愛祈願堂】の慈衛と火煉が降り立ち、最後に夜彦が。
「今も人々が危機に晒されている……そんな中私は戦うべきなのかと、この選択は正しいのかと……ですが、そうした中で仲間が向かってくれたのです。ならば、もう迷いはございません」
 チャキッと愛刀である夜禱を構える夜彦。
「おいおい、アタシが来る前に始めたってのか? 連れないじゃないか」
 戦刃――無骨なハルバードタイプのバトルアックスを肩に担いで霞ノ衣がやってくる。
 その瞬間、上の方で何かが光り。
 同時、美月が叫ぶ。
「完全管制制圧射撃開始」
 一斉に美月の背後の部隊が上空に向かって一斉掃射。
 瞬後、霞ノ衣の頬をかすめて雷撃が大地を穿つ。
「こいつら倒すまで手は出さないんじゃなかったの?」
 パンデュールからトゥールが挑発するように雷撃を放って来た黒道坊へと叫ぶと。
 ストンッ!
 武者霊たちの前に天守閣から黒道坊が降り立つ。
『気が変わりました……私直々に殺して差し上げましょう』
 そういうと黒道坊の足元、影が渦巻き始める。
 チャンス!
 そう読んで走り出すは刀也、あの影の大技は溜め動作などがあると思うので、その隙に……。
 大地を蹴って一足跳びに黒道坊の懐へ――。
『あまいですよ』
 溜めなど無く一気に放たれる影の刃による無差別攻撃、わざわざ突撃してしまった刀也はそれをモロに直撃してしまう。
「ぐあああああああっ!」
 全身を切り刻まれ、血まみれで吹き飛ばれる刀也。
 美月の呼び出した兵士達が救護に向かうが……。
『もう、1人欠けてしまいましたね……おやおや、先ほどまでの威勢は如何なされました?』
 黒い笠の下、赤い瞳が蛇のように笑みを浮かべる。
 戦いはまだ、始まったばかり……。


 狒々堂の追手は国境の近辺までは執拗に追ってきていたが、そこを過ぎると何か命令でも受けているのか多野藩の領地へと引き返していった。おかげでプリンセラと権左衛門はここ、犬神藩の城下町まで逃げ戻ってくる事が出来たのだが……。
 と、上空に何かあると気がつき視線を見れば、そこには人形型の式札が浮遊し。
「あれは……?」
 その式の方でもこちらに気がついたか、フワリと宙を飛びプリンセラの肩へ。
 さらにもう1枚がどこからか飛んできて権左衛門の肩に止まり、そこから燕三の声が流れ出す。
「そんな事になっていたのですね」
 燕三が現状について説明し、状況を把握するプリンセラと権左衛門。
「とりあえず、ヴィクトリアが美濃ちゃんを護衛してくれてるなら安心や、人が割かれる以上尚更狙われる可能性は捨てきれん」
 権左衛門の言葉にピクリと反応するプリンセラ。しかし権左衛門の呟きは終わらず。
「赤磊刀も無事美濃ちゃんに返却できたし! 背負うモンがないと気ィ楽やわー……せやけど、消火と黒道坊……これは対処せなあかん。プリンセラはんはどうする?」
「そう……ですね。私は消火と避難を行いたいと思います。権左衛門さんは?」
「確かに火災対処も重要やけど、今回は美濃ちゃんの代わりに黒幕ドツいたらんと気ぃすまんわ。それじゃあ、ここでお別れやな」
「はい。気をつけて下さい」
「プリンセラはんも……すでにボロボロなんや、無理したらあかんよ?」
 そう言って権左衛門は黒道坊がいる方向へと走って行った。
 残ったプリンセラは。
「ボロボロ……か。でも、今はその方が信憑性が高いですよね?」
 誰に共なくそう呟くと。
「誰れぞ、来よ。――戦いの時間です」
 プリンセラの雰囲気が変わり、そして――。


「今回の黒幕が自分の知るあのオブリビオンであるならば……防火の妨げとなるよう手勢を呼び覚ましていておかしくありませんと、そう思っていたであります!」
 次の火事場へと向かっている途中、五ツ音に横合いから斬りかかってきたのは武者鎧のオブリビオンだった。ヒラリと身をかわすと同行させていた砲兵によって攻撃、そのまま消滅していくオブリビオン。
「そっちにも出たようじゃな」
「大丈夫でしたか?」
 玄信と零がやって来て言う。どうやら玄信達の方にも武者型のオブリビオンが現れたらしく。玄信の鉄拳と零の剣で粉砕したとの事だ。
「式神で御代殿に伝え、皆にも拡散して貰うであります」

 一方、オブリビオンではない黒道坊の仕込みに気がついたのは穹であった。
「痛てて、痛い痛い痛い……っ!?」
 背中に手をねじり上げられ悲鳴を上げる山賊。
「放火による混乱に拍車を掛けるよう、サクラのような仕込みをしているとは思ったが……まさか火事場泥棒まで働いているとはな。言え、他にどんな指示を受けている」
「た、頼む、助けてくれ、別にそれ以外の命令は受けてねーよ!?」
「本当か?」
 さらに腕が折れる寸前まで締め上げた穹だが、それ以上は本当に聞いていないのか山賊が涙ながらに懇願してくる。
「扇動役……か」


 町の南側では海から水を組み上げ乙来が消火活動に当たっていた。
 しかし、如何せん人手が足りない。燕三からの連絡では何人か猟兵をそちらに回した……との事だったが。
 と、明らかに大きな火が類焼し近づいてきているのが見て、どうするかと乙来が思った――その時。
 ドンッ!
 巨大な金属の壁が出現し、火を押さえ込む。
「今のは……」
 乙来が驚いていると「遅くなってすまない!」と穹が走ってやってくる。しかもその途中途中で大地から金属の壁――防火壁を出現させているではないか。
「(さっきのは彼が……!?)」
 そんな乙来の気持ちを読んだのか、穹は笑顔で。
「【贋作者】っていう俺のユーベルコードだ。兎に角少しでも被害を減らそう」
「ええ、そうですね」
「避難する奴等はこっちだ! 慌てなくて良い、安全なルートは確認してある!」
 と輝彦が住民を逃がそうを誘導していると、火のせいか脆くなった平屋住居が倒壊――。
「危ないっ!」
 少女の声が聞こえたかと思うと、倒壊した平屋住宅がピタリと空中で停止する。
 それは遙かなる想いで遠距離であるにも関わらず、念動力を強引に発動させたレイチェルだった。
 更に「はっ」と気合いを込め、静止させていたがれきを吹き飛ばすレイチェル。
「助かった!」
 手を振り合図を送る輝彦。だが……と輝彦はふと避難を促す民に目を向ける。この辺りは直で火災が発生していない為、住民がなかなか本気で逃げ出すよう動いてくれないのだ。恫喝したり丁寧に説明したりあの手この手で促しているのだが……。
 と、そこに現れたその姿に、輝彦は一瞬だけポカンとしてしまう。
 だが、すぐにソレが彼女だと気が付いて……その上でその案に乗る事にし。
「美濃姫様!」
 だからこそ、輝彦は大きくそう叫んだ。
 姫という言葉に住民が一斉に振り向く、そこには火事のせいか汚れてはいるが打掛を纏った美濃姫が――美濃姫に変装し、オフェリーの人格により雰囲気すら同じくしたプリンセラがいた。
 むろん変装が城下の民に気づかれる事は無く。多野の姫がここに滞在している噂だの、それは昔の約束通り養子に来たんだ! とザワザワし始める民たち。
「皆逃げよ! 城下には火計が仕掛けられておる! ほれ、そこに!」
 プリンセラが指差すと、同時に家の柱が爆発する。
 どよめく民達。もちろん今のはトリックがある、ジャッジメント・クルセイドでプリンセラが自作自演したのだ。
 しかし、その効果は絶大で、さらに逃げろと指揮するのが美濃姫だとあって、先ほどまでの様子はどこへやら、住民たちがテキパキと荷物を纏めて長屋から逃げていく。
 それと同時、通りの向こうから角を曲がって顔を出すは鎧武者のオブリビオン達だ。
「この出火、やはり姫様の釣り出しも含まれてんのか」
 そう呟くと輝彦はオブリビオン達の前に立ち塞がる。
「(姫様の対処は任せておいて良さそうでありますな……しかし)」
 純粋に考えてあまりにも手が足りない。
 ならばどうするか……。
 五ツ音は錬成ヤドリガミで無数の喇叭を権限、それらを四方八方に向けると――。
「進め。進め。死線さえも踏み越えて。我らが歩みは今を生きる者らの明日がため、であります。総員。前へ、進め――」
 叭っ喇叭吹鳴―!
 叭っ喇叭吹鳴―!
 叭っ喇叭吹鳴―!
 必死に喇叭をかきならず五ツ音だが、どうにも音の響きが悪い。
「(ならば……!)」
 そう覚悟を持って五ツ音の右目が介抱される。
 そして五ツ音から死の気配が溢れ出す。
 再び泣き放たれた喇叭の音は犬神藩の城下町全土に広がり、これなら誰の耳へも伝わっただろう。
「この音が届いた方々が、どうか今を生き、戦う助けとなりますよう……」


 黒道坊との戦いは一進一退……いや、どちらかと言えば猟兵側が劣勢だった。
 もう100人はいないとはいえ、武者霊の数は未だ50人を超え、それらが弓だ刀だと間髪入れずに襲い掛かって来る中、一撃必殺ともいえる強力な一撃を黒道坊が隙を見て放ってくるのだから。
 猟兵達は余裕のある戦い方などできるはずもない。
「貴様、大丈夫か?」
「う、うう゛……俺は?」
「治癒レーザーで治療した。もう戦えるはずだ」
「すまんな、恩に着る」
 そう言って再び刀也は前線へ。
 その前線ではちょこちょこと黒道坊の周囲をカレンが飛びまわっていた。
「ほらほら! カレンちゃんはこっこだよぉ!」
 挑発しながらダガーで目を狙って突いたり、毒を縫った刃で攻撃したり、完璧に嫌がらせ――足止めをこなすカレンだが、黒道坊が紅い瞳の奥で僅かに苛立ちを覚えた事に気づかず。
『ふん』
 錫杖を脚に引っ掻けるようカレンに突き出す黒道坊。
 だが、カレンもその錫杖を起点にくるっと回って見事に着地。
「10点!」
『100点をあげましょう』
 ニヤリ、黒道坊が錫杖を構えれば先ほどカレンが着地した場所と、その射線上には、トゥールと、復活したばかりの刀也が並ぶ。一気に3人を雷撃で消し炭にするようだ。
「させないよ!」
 カレンが咄嗟に黒道坊の錫杖へと飛びつく。時にハート以外も盗むカレンの早業あっての機転だったが。
『離しなさい』
「離さないわよ!」
『ならば……』
 超至近距離にて錫杖から雷撃が放電され、他の皆にはいかずとも錫杖を握っていたカレンだけは絶対命中となる。
 ブスブス……煙をあげて、しかしまだ錫杖を離さないカレンを、黒道坊は遠慮なく腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。
「まったく、同じ僧とは思えんな……俺はな、お前みたいな奴ぁ嫌いやねん」
 いまだに煙をあげ転がっているカレンをチラリ見て。
「せやから、閻魔さんとこに送ったるよ。超特急でなぁ」
『そういう台詞は彼らを突破してから言う事ですね』
 事実、最前線で戦っていたカレンやトゥール達と違い、その前衛を支援しつつ戦っていた慈衛の前には十数体の武者霊たちが立ちはだかっていた。おいそれと黒道坊まで近寄れないのも事実。
「覚えとくで」
『忘れて下さい』
 ニコリと微笑み黒道坊が錫杖を慈衛に向ける。
 バチッ!
 しかし、その雷撃は慈衛の頭20cm程上を走り抜ける。
「キミこそ忘れてない? キミの相手はボクとパンデュールだ! キミの好きにはさせない!」
 錫杖を上に弾いた格好のままパンデュールに乗ったトゥールが叫ぶ。
『少し……イラ付きましたよ』
 声音が低くなり、錫杖を上段から振り下ろしパンデュールを大地に叩きつけると同時、黒道坊の足元の影が渦巻く。
「それを待ってたんや! 七星七縛符!!」
 慈衛が放った護符が黒道坊の胸に張り付き、その影の術をピタリと停止させる。
「正直しんどいけども、ココで踏ん張れば……前衛のみんなが動きやすいやろ」
『この力……命を縮めて使っているのですか……無謀な』
「無謀も無茶も関係あらへん。あとは……みんな、頼むでぇ」
 咄嗟に動いたのは3人、霞ノ衣が戦刃を大振りに振りかぶって跳躍、夜彦が刀を鞘に閉まったまま抜刀の構えで疾走、刀也が牙突の構えで突貫。
『含沙射影が使えずとも……あなた方を倒すぐらい!』
 パンデュールを抑えていた錫杖を跳ね上げ戦刃を弾くと、そのまま霞ノ衣の首後ろへ錫杖を回しそのままパンデュールの横に叩きつけ、くるりと回転しつつ夜彦や刀也へ近づくと空いている左手で夜彦の柄を抑え抜刀を封じ、そのまま脚だけで放り投げる。そして刀也の突きの一撃は微動だにせずガツンと身体と身体がぶつかり合う――も、刀也の刀は僅かに身を反らされ空を差し、カウンター気味に黒道坊の頭突きが刀也の額を強打、刀也の額が割れ流血する。
『言ったでしょう。あなた方を倒すぐらい――』
 そう余裕を持って言おうとした瞬間、猟兵達の罠に気が付きハッとする黒道坊。
 その正面には呪文を高速で詠唱する宵の姿が映る。
「太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る。そして時には、彼らは我々に牙を剥くのです。さあ、宵の口とまいりましょう」
「――しましょう」
 しかも、その詠唱は高速ながらも二重に聞こえ、それはすでに宵が連続詠唱を並列処理にて行っていた事を意味し。
『チッ、……!? 離しなさいっ!』
 飛び退こうとした黒道坊だが、右足首と左足首を霞ノ衣とパンデュールに抑えられ。
『この馬鹿力が!』
「全力、天檄アストロフィジックス!!!」
 100本弱の星の矢が、いや倍の200本近い星の矢が一斉に放たれそれぞれ別の弧を描き、それらが全て黒道坊へと収束、全命中する。
『ぐがあああああああああああっ!』
 全ての魔法の矢が刺さった後、黒道坊の黒い笠がパサリと落ちる。
『よくも、やってくれましたね……まったく、これだから猟兵は……』
 1歩、2歩と歩き出した黒道坊は、しかしまだその目に邪悪な光を宿していた。
 そして、ふと上を、まだ燃え続ける犬神城を仰ぎ、黒道坊が言う。
『まぁ、いいでしょう。もう少しだけ遊んであげますよ。どうせそろそろ、こちらの目的は終わっている事でしょうしね』


 迅は寺社奉行の寺島と共に城に向かっていた。
 すでに城もあちこちから炎が噴き出ており、放っておけば全焼しきってもおかしくない。
「これでは……!」
 寺島が城内に向かう事に二の足を踏む。
「寺島さん、ちょっとだけ離れてて――もう隠れる必要は無いし、全部呼ぶ出す! 式符・天水!」
 18枚の式符を放り呪と唱えると、式符が浅葱の蛟へと変化。それは水を操る迅の式神であった。
「13体は城の周辺を水気で満たせ! 残り5体は俺と一緒に来い! 寺島さん、行こう」
「う、うむ、心得た」
 そうして蛟に守られながら炎に包まれつつある城内へと2人は突入して行ったのだった。


 【博愛祈願堂】から救援に駆け付けた鹿糸は、1人でかなり火の勢いが強い場所へとやって来ていた。
 もとは貧乏な職人が暮らす長屋兼作業場が並ぶ場所だったか、密集した住宅地は恰好の火の餌となって燃え続けている……。
 その炎の中へすたすたと歩き、入っていく鹿糸。
 元は土と火から生まれた存在たる鹿糸にとって、火は決して恐ろしい存在ではない。火は隣人であり友人、故に炎への耐性も鹿糸は強かった。
 そして激しい炎の中心部までやってくると、一応周囲を確認。
「(私の本体については、まだ秘密にするつもりだったのだけど……今なら、見られてないわね)」
 そう言うと自身の複製たる、50cm程の丸い青磁の花瓶が19個出現。
 ふわふわと浮く19もの花瓶に、次は――。
「『無限の形態として従属し、ついに従属を抜け出した形態なき隣人よ』……少し、協力してね」
 水の精霊に手伝ってもらい、みるみるうちに花瓶が水でいっぱいとなる。
 そこからは鹿糸1人の独壇場だった。念力で19個もの花瓶が時にバケツリレーのように、時に一斉に、次々と炎にかけられ続けるのだ。
 やがて、貧乏職人長屋の火はブスブスと煙を残して鎮火した。
 正直驚きであった。結局鹿糸1人でやってしまったのだから……。
 当の鹿糸はふとお城の方を見つめ、黒道坊の方へ向かった友人たちは大丈夫かしら、と想いを馳せるのだった……。

「カラクリ人形さん、ありがとー!」
 救出した身重の母親を届け、レッグは先に脱出していた男の子にお礼を言われていた。
「いつか生まれてくる弟だから妹だかは、今度はお前が守ってやるんだぞ」
「うん、絶対守る!」
 ガシガシと男の子の頭を機械の手で撫でてやり、レッグは宇宙バイクに乗り再び燃える町へと舞い戻る。
「それにしても……まあ畳みかけてくるもんだ。この手の仕事は無い方が良いんだが、あると嬉しいのはどうにもならないな」
 感謝された先ほどのシーンを思い出し、思わず呟くレッグ。
「助けてくれー!」
「ほい来た。ちょっと待ってな!」
 ギャギャッとバイクを急転回し、レッグは助けを求める人の元へと急行する。

「空気の乾き具合、時刻……これほど条件が揃っていれば本当に大火となってしまいます。それなのに、何の躊躇も無く街に火を放つとは」
 美濃姫と一緒に城下の端へと避難して来たヴィクトリアが、未だ炎が立ち昇る城下を振り返り奥歯を噛む。
 しかし、黒幕も大火への対応も、ヴィクトリアは他の者に任せてここにいる事を選んだのだ。
 だから、今は祈るぐらいしかやれることは無く……。
「おお、美濃姫様、良かっただ。あれからすぐ避難して下さったのですな」
 ふと、城下から逃げて来た腰の曲がった民が、笠の下から美濃姫を見上げてそんな事を言う。
「どういう事か?」
 美濃姫がその民に聞けば。
「何をおっしゃるでよ。この大火の中、姫様自身が民に避難誘導をしているって聞いただよ」
 ありがたや、ありがたや、と美濃姫を拝みつついなくなる民。
「姫様はずぅっとここに居られるというに、あの者はなぁにを言っておるのでしょうなぁ?」
 首を傾げる家老の笹野だが、美濃姫はハッとした表情となる。一瞬、嬉しそうにし、しかしすぐに厳しいものへと変わる。
「プリンセラじゃ、プリンセラが生きておったのじゃ……妾に変装したプリンセラが、今も城下で民を救おうと非難誘導をしておる……そうとしか考えられん」
「私も、そう思います……ゴンちゃんさん、間に合ったのですね」
 美濃姫の言葉にヴィクトリアも同意する。
 生きていて良かったと、まずはその感情だった。
 だが、すぐに気が付く、思い出す。
 自分はプリンセラに何と言ったか、自分は……――。

『妾は決めたぞ。狒々堂の好きにはさせん! かと言って恩義ある犬神の地も見捨てはしない!』

「ヴィクトリア、すまない」
 ふと、美濃姫の纏う空気が変わった事にヴィクトリアも気が付いていた。
 そして、だからこそ何を言われるかも……。
「姫様、貴女の身の安全が、今後の犬神・多野・狒々堂の未来を左右する事になります。それも解っておいでですね」
 美濃姫が何を言おうとしているか解った上での問い。
「無論、解っておる。だが、妾は決めたのだ。この犬神の地を見捨てぬと……それは、この地に住まう民達を見捨てぬという事、だから――」
「姫様の事は、私がこの身に代えてでもお守り致します。ですが、決してご無理な事はなさいませんよう」
「わかっておる」
 そうヴィクトリアに微笑むと、キッと表情を引き締め自身について来た石層宗20名に向き直り。
「妾はこれより再び城下へ戻り、逃げ遅れた民達の救出に向かう。付いて来て……くれるか?」
『はっ!』
 石層宗の声が響き、大量の式を打ってへたり込んでいた燕三も、やれやれと立ち上がる。
 唯一反対するかと思った笹野は、逆に「それでこそ多野の血筋!」と自身の頭から水筒の水をかけ気合いを入れる始末。
「一人でも多く……いや、一人も死者を出さぬと思え、行くぞ!」


「参ったネ、姫サン、こっちに来るってサ」
 式神にて燕三から連絡を受け取ったコノハが呟き、そこに集まっていた乙来と湊偲が驚き、ジェフリエイルが苦笑する。
 すでにこの辺りの町民へは互いに声を掛けながら火の手の少ない方へ避難するよう伝えてあり、力がある者は火の勢いが弱い場所の消火を手伝うよう言ってある。
 ただ、このままだとこの大通りが全て全焼し、ここを止めなければ類焼はさらにひどい事になる……という事だった。
 そんな中、燕三が言って来た案が4人で協力して術を完成させる、というものだった。
 集まった4人の中には陰陽師の乙来もおり。
「理論的には可能だ」
 と言う。
「僕の龍に水属性の力をお二方から付与して頂ければ、一時的にただの龍でなく水龍の召喚を可能になるかと思います。また水龍が召喚された状態なら、コノハさんの技で出した氷属性の針を水龍が装備し、水龍から放てばその威力は何倍にも上がるはずです」
「どうしましょうか。水を撒いて鎮火するのが一番ですが、それを水龍召喚して一気にってのは悪くないと思いますが……」
 真面目に答える湊偲。
「無論僕は反対しないとも! さぁ、4人で一気に方をつけようじゃないか!
 ジェフリエイルの言葉に他の3人もコクリと頷く。
 そして……――。
「氷の津波よ」
「さあ、雨の歌を歌いあげよう!」
 湊偲が真面目に集中し、ジェフリエイルがいつもの調子で歌に力を込め。
 その力が2人の中心に浮かぶ式札へと吸収されていく……。
「出ておいで……水龍招来」
 乙来の言葉と共に式札から巨大な龍が現れ天に昇り、やがてゆっくりと下へ降りてくる。
「本当に水の龍……ネ」
「コノハさん、あの術を」
 見とれていたコノハが乙来に言われて【彩雨(アヤアメ)】を発動させる。
「煌めくアメを、ご堪能あれ」
 100本以上の氷水晶の針が出現し、それを上空から水龍が抱え込むように持ち、そのまま城下町の上に漂いだす。
「これで……どうなるんっすか?」
 湊偲が見上げ、ジェフリエイルが歌を歌い出す。
 すると、上空を旋回していた巨大な水龍は、まだ鎮火できていない火元へと手にした氷水晶を一掴みすると、それを上空から投擲のように投げつける。その針らは空気中で煙をあげ水となり、火元へと降り注いだ。
「あれ、僕の温水の雨の術が応用されてるねー。故郷で使っている時は僕閃いちゃったなって思ってたのに、場所によってはしゃわーとかって名前で普通にあるとか嘘でしょ? って思ったけど、今は作って置いて良かったって思ってるよ!」
 いつも良く眩く光るジェフリエイル。
 さらに水龍は多少の火なら上空から水のブレスを吐き鎮火、一騎当千の働きを見せ――。
 4人はお互い笑みを浮かべ、人によっては声を出して笑うのだった。


 城の内部は想像していたより暑く、また火の周りも早かった。
 藩主、里見義見を探して城内を進む迅だったが、ここに来るまで蛟を2本帰している。要救助者を見つけて城外に連れ出す為に使ったのだ。
 だが、やがて大広間のある階に差し掛かった所で。
 キンッ! カキンッ!
「今の音……誰かが刀で戦ってる?」
「確かに」
 頷き合い急ぎ大広間に向かい、そして――。
「吉田様、大丈夫ですか!?」
 広間の入り口で斬られ倒れていた金山奉行の吉田に気が付き、寺島が駆け寄る。
「お、おお、寺島殿か……わしの事はいい、それより、里見様を……」
 大広間ではすでに激戦があったか、たくさんの護衛の侍が倒れ伏していた。
「犬神の藩主さんはどこに? 何があった!?」
「忍びだ。城に火が放たれたと同時に異形の忍びが現れ……数体はここにいる者たちで倒したが、全部じゃない。外山様と他の護衛達は里見様を守りに奥へ……」
「急ごう、寺島さん。蛟はこの人を外に運んで」

「くっ! おのれ! 異形の下忍めが!」
「待て、むやみに飛び込んでは――」
 突貫した護衛の侍が超拘束の忍者刀の一撃で絶命する。
 藩主里見義巳を守っているのはこれであと3人。対して刺客たる忍者は2人。
 先ほど大広間で戦った際、忍び1人を倒すのに10人弱の手勢が犠牲になったのだ。この人数差では……。
「外山殿は我が藩の家臣では無い、隙を見て逃げられよ」
 里見藩主を守る3人のうちの1人に、藩主自らが声をかける。
 しかし、外山は忍び達から目を話さず。
「なんのこれしき、打ち首とて仕方の無い身のこの私、せめて最後ぐらいは武士として華を咲かせとうございます。どうか、ご容赦を」
「ぐあぁぁ……」
 忍びの1人が腕を伸ばし、その腕が護衛の1人の心臓を貫いていた。身体すら自在に操る異形の忍び。
 この異形の力は多野家を襲った謎の鎧武者達と同じだろう。
 ならば、この忍び達も主君の仇、ここで引くわけには……。
 外山の覚悟とは裏腹に、忍びの刃が煌めく。
 それは反応できない程の速さで外山の首へと迫り――。
 瞬間、横から何かが飛び込んで来て忍びが壁へと叩きつけられる。
「もう一体もだ!」
 さらに先ほどと同じく何かが――龍だろうか?――が突貫し、2体目の忍びを同じく壁へとめり込ませる。
「藩主さん!」
「外山殿!」
 忍者2人を圧倒した迅が、まずは藩主里見義巳に駆け寄り、寺島は上司たる外山の身を案じる。
「犬神の藩主さんも狙いじゃないかと思ったけど……無理言ってここにきて正解だったよ」
「さすがは猟兵だな……この里見義巳、九死に一生を得た、ぞ……」
 バタリ、お礼を言うと同時にその場で昏倒する藩主。広がる血の池。
「す、すぐに医者に見せるのだ。里見様は、先ほどの忍びに一度斬りつけられておる」
 外山の言葉にさすがの迅も青くなる。さすがの迅も治癒の式符は持っていない……急ぎ仲間の所まで運ばないと。
 あと2人、いやあと1人で良いのでこの事に気が付いていれば……。
 だが、迅がここの急行できた事は大きい、今ならまだ、命は長らえらえる可能性が――。


「ここにまだ人がいると思うっす!」
 焼け落ちた屋敷の瓦礫に上って湊偲が言えば、鹿糸とレイチェルが念力を使って二次崩壊が起きぬようゆっくり瓦礫をどかし、その奥でぐったりしていた要救助者を救出する。
 すでに大きな火はどれも消え、今はチロチロと燻っている火があちこちであるだけで、猟兵達はどちらかと言えば消火より救助を優先して行い出していた。
 そんな中、声高らかに歌を歌うはジェフリエイル。
 その精霊の力を乗せた歌声は、その響く範囲に小雨を降らせる。
 これで残った小さな火も全て鎮火するだろう。
 もっとも、全てが終わった時、ジェフリエイルは久しぶりに声が枯れ果てるのだが……。
 とにかく、犬神藩の城下町を襲った大火は、大量の死傷者を出す事無く、無事に鎮火したのだった……。


 犬神城の炎はやっと鎮火し始めていた。どうやら誰かが城の消火を担ったようだ。
 だが、ここから見上げるだけでも城は半壊以上の状態で、とてもそのまま使えるとは思えない。
 そしてその庭先での戦いも、そろそろクライマックスを迎えようとしていた。
 最前衛として戦うはパンデュールとカレン、夜彦と刀也、そして霞ノ衣の5人。
 黒道坊は錫杖を使った棍棒術も侮りがたく、5人で一斉にかかってもなかなか手傷を与えられず、かと言って誰かが捨て身で攻撃すれば必ず隙が出来、大ダメージも与えられた。
 結果論だが、黒道坊はそんなに戦うのは得意な方ではないのかもしれない。人数さえもう少し多ければ、十分猟兵側が優勢で戦況を進められたかもしれないのだ。
 とはいえ、人数などという無い物ねだりは出来ず、今いる人数で出来うる限り戦うしか無く……。
『そろそろ数人死んでください』
 スッと前衛5人を盾にするよう位置取り後、黒道坊の足元、影が渦巻く。
 慈衛が再び懐の護符を掴むも、前衛達が邪魔で護符を放る事ができず――。
『含沙射影』
 瞬間、黒道坊の足元の影から無差別な影の刃が放たれる。
 そこで後の展開を分けたのは2人の行動だった。
「システム・パンデュール!」
 すでにパンデュールにはヒビやキレツが入っているが、それでも強引にシステム・パンデュールを起動させ。
「神速を越えろ!」
 影の刃より早く、パンデュールは黒道坊へと突貫する。一部の影の刃には自ら飛び込むような形となり、パンデュールの腕や脚がバキリとモゲ、斬り落とされるも、トゥールはその突進を止めない。
 無差別な影の攻撃だが、その射程距離は決して広くは無い。黒法師自体を引き離せば仲間は助かる。
 もちろん、その代償は回避する事すらせず自ら突貫する無謀さだ。
 コックピット内のトゥールも衝撃で頭から流れて来た血が目に入り、視界が真っ赤に染まる。
 ヴンッ……と動きを止める相棒のコンソールに手を置き。
「ごめん、よ……でも、みなは、守れたから……」
 ガシャンッ、黒道坊が自身にもたれ掛かった動かなくなった右手と左足のもげたパンデュールを投げ捨てる。
『つまらないことを……』
 とはいえ、致命傷こそ避けれていても、多かれ少なかれ影の刃は残り4人に怪我を負わせていた。特に――。
「よるっち、怪我は無い?」
「火煉殿、その傷は!?」
「さっきの一撃で全力のスピード出せなくなっちゃってて……だったら、よるっちだけでもって思ったら、身体が勝手に、さ」
 火煉の太腿はザックリと斬り裂かれ、血で真っ赤に染まっていた。咄嗟に夜彦を庇ったせいだが、戦術的にもそれが正しかっただろう。
 しかし、夜彦的には複雑だ。仲間が傷つくのは……。
「そんな顔しないしない! よるっちならできるよ! こんなやつ、敵じゃないって!」
「はい。そうですね……わかりました」
 スッと立ち上がり刀を納める夜彦。
『そろそろ諦めてくれても構いませんよ? そうしたら、トドメは刺しませんから』
 シャランッと錫杖を構える黒道坊。
 ここからは1人ずつ雷で撃ち抜こうという事だろう。
「させへん!」
 だが、黒道坊の動きを誰よりも先読みしていた男が、偏愛真言符を飛ばす。それは錫杖をするりと抜けて黒道坊の右手に張り付くと、勢い良く燃え始める。
『何!?』
「熱いやろぉ? やられたら嫌やろ? そういうことはしたらあかんのよ。杓杖が握れんよう火傷負うたらえぇ」
『ふん、悪あがきですね』
 黒道坊は燃えたままの右手で錫杖を持ち、ピタリと慈衛に標準を付ける。
『この程度の炎で、私を止められると?』
「なら、直接握ったらどうないする?」
 突如乱入してきた新しい声に、戦場の誰もが驚愕する。
 スッと上空からジャンプし黒道坊の背後をとったその影は、後ろから黒道坊の右手首と左手首を掴みあげ。
「こんな色っぽいウチに抱き付かれて、火傷程度じゃすまへんで」
 ボボボッと掴んでいた手首ごと狐火の炎が黒道坊の両手を焼く。もともと右手はやせ我慢していたのだろう、上乗せされた炎に我慢できずに錫杖を取り落とす黒道坊。
 それは花魁風の着物を着崩した女性――権左衛門であった。そのまま自身の手が焼けるのも構わず、黒道坊を背後から押さえつける。
『や、やめろ! 解っているのか! 舵取り役の私が死ねば、狒々堂は暴走する! さすれば被害は今の比では無い。それでも、それでもこの私を滅ぼすというのか!?』
「舵取り役? 暴走? この場所でぶち飛ばして暴走も美濃ちゃんが止める。今の美濃ちゃんの覚悟にはその程度余裕やわ」
『ただの人間の姫に、そんな事ができるはずがない!』
 強く叫ぶと同時、ブワッと霊気が広がり一瞬にして100体もの武者の霊が再び召喚され始める。
「一斉掃射!」
 美月が待っていたとばかりに自身の戦闘団に号令を発する。実体化し立ち上がる側から無防備な武者の霊が次々に打ち抜かれ、再び消滅していく。
「しもうた! あいつ影で自分の手ぇを!?」
 権左衛門の声が響く、見れば権左衛門が持っているのは黒道坊の両腕のみ、本体は――。
「狙うは、刹那」
 スンッ、風斬り音さえ涼やかに、夜彦の抜刀術が武者の霊たちを纏めて数人塵に返す。
 再び鞘に刃を戻しつつ、霊たちの後ろで逃げようとしていた黒道坊と目が合う。
「私は決してお前を逃がさない。例え刺し違える事になろうとも、この連鎖する悲劇を止める為ならば……意義は在る」
 両腕の無い黒道坊は憎々しげに睨みつけ、己が影から刃を飛ばす。
『なぜ解らない! 私がいなければ、こんな国、とっくに滅んでいたという事が!』
 ドドンッ!
 黒道坊の背後からその両足が星の魔法によって貫かれる。
「狒々堂が暴走するからと言って、あなたを見逃す理由にはなりません。勘違いしないでいただきたいですね。あなたがいなくとも、我々は事態を解決する。……いえ、姫のお力になる、そう決めたのですから」
 ガックと両膝を付く形になり、黒道坊がそれでも最後の力で影を操り――。
「俺はお前みたいなやつが大嫌いだ。頭ばっかで心が無ぇ」
 黒道坊の背後から近寄るは刀也、今にも発動する影の刃に恐れる事なく――。
「俺は学が無ぇし、考えるのは苦手だ。だからシンプルに行く。てめぇも潰して、狒々堂も潰して、美濃姫さんを助ける! それが俺の答えだ!!」
『おのれ――――――っ!!!!!!!!』
 黒道坊の影から刃が生まれ周囲を斬り裂く、刀也はその刃に身を斬られるのを物ともせず、必殺の一刀を振り下ろし。夜彦は影の刃が届くより早く、黒道坊の胴を抜刀一閃、両断すしたのだった……。

 四つに斬り分けられ、傷から消滅していく黒道坊が己を見下ろす猟兵達に向かって笑う。
『ふ、ふふふふふ……』
「何がおかしい」
 美月が冷たく言い放つ。
『何が姫様か、何が藩主か……あの娘は呪われた御子です。確かに猟兵どもにも領民にも愛される姫かもしれません……しかし、あの娘がいる国は常に滅びに向かうでしょう。滅亡の称号こそ、あの娘には……ふさ……わし……い……』
 そう言い放つと悪しき陰謀を企んだ黒幕は、その身を塵とし消えて行ったのだった。


 炎の夜が終わりをつげ、朝日が昇る頃には城下の火はどれも消し止められ、幾筋か煙が立ち上るだけとなっていた。
 一時的に呼んだ雨も上がり、真冬の海風が焼け出された人々を寒さに震わせる。
 すでに半分以上が焼け落ちた犬神城は、この後、幕府に立て直しの許可を頂くまでは修繕の目途は立たないだろう。
 それでも、犬神城縄文前から続く大通りの広場には、なんとか一命を取り留めた城下町の民達が集まって来ていた。
 それは猟兵達による治療目的だったり、かき集めた食料の配給目的だったり、布団1枚すら無くなった者へ持っている者が分け与える場であったり様々だ。
「姫様!」
 そんな広場で民の相手をしている美濃姫を見つけ、最初に抱き付いて来たのは。
「プリンセラ! よくぞ無事で!」
 お互いの安否に安堵し、助かった経緯を説明される。
「だから言ったじゃないですが、ゴンちゃんさんは信じられるって」
 美濃姫の後ろでヴィクトリアが笑顔で言う。
「やっぱり美濃姫様を狙っているオブリビオンがいましたね。でも、全員倒したと思うであります」
「残党がいないか念のために見回ってきたが、まぁ、大丈夫だと思うぞい」
「雇われ山賊を捕まえたって聞いたのですが、結局、火付け時に流言を流す以外に仕事を貰って無かったようで……残念です」
 玄信が報告し、零が残念がる。やはり情報統制は黒道坊が仕切っていたようだ。そう考えると有益な情報を得られるとは思えない……それほど頭の回る相手であったから。
「お姫さま……あ、あの、みなは、町の人はどうだったでしょう」
「死者は……やっぱり出たんだ、よな?」
 心配そうにレイチェルが、そして冷静に穹が聞いてくる。ここまで派手に大火にやられたら民に被害が出ないわけがない……。
「……そうじゃな、妾もそれが心配じゃ、今、燕三達が調べておる」
「あっと、出ましたよ? あくまでざっくりですが……重軽傷者は数多ですが、事死傷者については今の所該当者はいないようです」
 燕三の言葉にワッと広間に集まった者達が歓喜に沸く。
 その燕三に近寄って行くは輝彦とコノハ。
「おい、さっきのは本当なのか?」
「はははっ、あくまで計算上と名簿上は……です。登記の無い無宿人や宿無しに関してはどうでしょう。正直、私もそういった方々の避難経路より、町民の皆さまの方を優先したので」
「貴様」
 ギロリと輝彦が睨むも。
「いいンじゃない? 俺たちはやれることやったっショ? これ以上何を求めるのヨ」
「……はぁ、ああ、そうだな。悪かった」
「構いませんよ。ただ、まだまだ私達は力不足、という事かもしれません……」
「あーっと、今のは聞かなかった事にしようかなー。輝かしい僕としては姫様にも聞かせたくないしね」
「当たり前だろうが」
 そこにジェフリエイルとレッグがやって来て言う。
 本当に死者がゼロだったか、それは解らない。解らないで今は良いのだ、と。
『わああああぁぁあ!!!』
 唐突に歓声が上がり人だかりから美濃姫に向けて道が出来る。
 そこを歩いてくるのはボロボロの9人だ。
 足を引きづる火煉に肩を貸す慈衛。
 腹に痛々しい包帯を巻いたままひょこひょこ歩く夜彦には鹿糸が駆け寄り。
 腕を三角布で吊った霞ノ衣に湊偲が駆けよれば、邪魔だとばかりにドツかれ。
 権左衛門はぐったりしたトゥールを両手に乗せている。
「黒幕は、倒しただな」
 美濃姫の言葉に比較的警鐘の刀也、美月、宵が答える。
 再び歓声に包まれる広場の民衆たち。
 敵は倒した。大火での被害もできる限り止めた。
 しかし、朝日に照らされた犬神の城下町は、そのほとんどが瓦礫の山だ。
「この状況を招いたのは、僕達の所為なのかもしれない。美濃姫と僕達がこの地に来たが故に」
 乙来が呟く言葉に猟兵達が誰もが耳をそばだてる。
「しかし相手がオブリビオンなら、いずれ起きただろう。そして僕達ならばこの悲劇を止められる。此処は君達の地、お互い協力すれば、きっとなんとかできる」
 その言葉は猟兵達だけでなく、周囲の民達にも伝搬する。
 希望は決して無くなってはいないのだから。
「しずまれ! しずまれー!」
 そこに大きな声が響き、民達が条件反射のように静まり返る。
 そこにやって来たのは犬神藩家老と、家臣達に肩を貸されやっと歩いている藩主、里見義巳その人であった。
 その後ろからは多野の家臣団と迅も一緒についてきている。
 ヨロヨロと顔色の悪い里見藩主が、民達の前へと出て――。
「皆、あの大火をよくぞ無事に生き延びた。わしは藩主として民であるお前達が無事な事が何よりもうれしい……ぐふっ、ごほっ……いや、大丈夫だ。……だが、わしは少々逃げ遅れてしまい……だが、言っておかねばならぬ事がある」
 藩主里見義巳はそこまで言うと、キリと空気を変え。
「今、我が藩は謎の武者軍団に脅かされておる。そしてそれは……戦に発展するやもしれぬ」
 藩主里見義巳の宣言は、犬神藩自体を大きな戦いのうねりへと飲み込んでいくのだった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月03日


挿絵イラスト