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命の価値を問い掛けろ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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「命には価値がある」
 そんな言葉が耳に響いている。
 その言葉は、もしかしたらずっと前に聞いたものだったのかもしれない。
 だけれど、少年にとっては今もなお、耳の、いや、頭の中で響き続ける言葉であった。
「結局のところ、煩わしさを与えて来ると言う意味で、私にとって君らの命はそれだけの価値がある。潰してやろうと自ら足を運ぶくらいには」
 これはきっと、本当に、今、聞こえている言葉なのかもしれない。
 瓦礫に半ば全身を覆われた状態で聞こえてくるその言葉が、幻聴なのか現実のものか。その声を聞く少年には判別できないものの。
「今まで、私はお前達の命の価値について、尊重してきたつもりだ。定期的に血袋を差し出せ。代わりに、お前達の集落の無事は保証してやる。そういう取り決めを行ったのは、命の価値を認めているからだ」
 少年の目蓋の裏に見えるのは、自分が瓦礫に覆われる前に、村の中心へと現れた一人の男と、その男により悉くを破壊されていく集落というもの。
 それこそ、少年が瓦礫に埋もれる前に見た光景であった。
「逃げ出した血袋を匿えと……そう言ったつもりは無い。そうするとお前達が言って来た事も無い。約束を違えたな? これは私を侮辱する行為だと、何故誰も気付かなかった?」
 男の声が、少年の耳に響き続けている。それは男がすぐ近くにいるからか。それとも、自分がいるこの集落すべてに聞こえる様な、何らかの力に寄るものか。
「一人、逃げ出した血袋を匿う程度なら、それほど大事にならない。私がやってきたとしても、言い訳をすれば済むと、そう思われるのは心外だ。一度の間違いが、すべてを台無しにする。私と、お前達の関係についてもそうだと、理解させる必要があった」
 声が、少しずつ遠ざかるのを感じる。それは少年の意識が遠のいているからか、実際、その男が村から去ろうとしているからか。
「その結果がこれだ。目に刻み込め。運よく生き残れたのなら、心にも刻み込め。今後は、二度と約束を違えぬと」
 男の声は、それっきり聞こえなくなった。男は、自らが破壊した集落を、価値の無くなった場所として立ち去る事にしたのか。
 それとも、これは死に至るまでの暗闇であり、少年と、少年が逃げ込んだこの集落全体が、その命脈を断たれようとしているだけなのか。少年には判別が付かなかった。

●●●

「時々、僕らに出来る事って、どれだけの価値があるんだろうなって思う事はありません?」
 あなた達に語り掛けるグリモア猟兵の少年、ラック・カルスは、珍しく真剣な表情を浮かべていた。
「ダークセイヴァーの世界。その辺境において、とあるオブリビオンに支配された集落があります。あ、いえ、あったと言うべきかもしれません」
 ラックが語るところに寄ると、その集落は無残に破壊されたのだと言う。その破壊そのものを、止める事が出来なかったのだとも。
「まだ、それほど時間は経過していません。破壊された一日程度……ですかね。みなさんにはその、集落に赴き、被災者の救助を行って貰いたいなと考えています」
 猟兵の誰かが聞く。そんな事を仕出かしたオブリビオンを倒さなくても良いのかと。
「結局、それをもっと早く出来ていれば、集落を破壊しようとするオブリビオンを倒してくれ、なんて仕事を頼めたんでしょうね……」
 なんとなく、空を見る様な目線で、ラックは語る。手遅れだから、今はそれを頼めないと。
「人の命が優先です。戦っている間にも、誰かの命が失われる。だからその……そっちを優先しては貰えませんか?」
 それが終わった後に、オブリビオンの退治に向かっても良い。あくまで救助だけで仕事を終えるのだって構わない。それは猟兵達の自由である。そうラックはあなた達に語る。
「何時だって追い詰められている人間はいます。そんな人間にだって、一端の人間と同じだけの価値があるって思いたいじゃないですか。そんな命が失われるのも、きっと悲しい。ですからその……まずは村の方々を助けては貰えませんか?」
 ラックの語り掛けに対して、猟兵達はどう答えるだろうか。そこには、猟兵それぞれの答えがあるのだと思う。
「どうにも……僕の予想は間に合わなかったかもしれません。けど、あなた方の行動は手遅れになりませんように。それだけの幸運を、ただ祈らせてください」
 最後にラックはそれだけ伝えると、襲われた集落への移動準備を始めた。


ゴルゴノプス
 ゴルゴンプス的な存在です。
 今回はダークセイヴァーでのシナリオと言う事で、結構、シリアスな路線のシナリオになるかもしれませんが、猟兵のみなさんには、どうか色んなことを試して、この世界に何がしかの結果をもたらしていただけたらなと考えております。

 それではどうか、よろしくお願いできれば幸いです。
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第1章 冒険 『救助活動』

POW   :    力で瓦礫を退かしたり、治療の障害となるものを壊す

SPD   :    怪我人を見つけたりテントを建てたり、治療に必要なことを行う。

WIZ   :    患者の治療を行ったり、話を聞いてあげて安心させる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

石動・劒
戦場じゃあ援軍に間に合わねえなんてことはザラでさ。到着した時には全部終わってて、結局戦わずに遺体を回収して帰るだけ、なんてこともあった。
生き残りがいるだけまだマシだ。
マシなのに…どうしてだろうな。やっぱり俺も悔しい。俺にだって予知能力はあるのに、なんで気付けなかったんだってな。

…これ以上の弱音はナシだ。
剣刃一閃。2回攻撃で手早く瓦礫や障害となるものを切断して小分けにして、運び出すぜ。
下敷きになってるヤツがいたら、医術で応急手当ぐらいはしてやれるが、専門じゃねえから本格的なのは他に任せた。

今は、生きてるヤツを優先しろ。…死んだヤツらの弔いはそれからだ。


レイラ・ツェレンスカヤ
もう終わってしまった後なのかしら!
とっても残念なのだわ!
でもでも、いまならまだ傷付いて、倒れて、死にかけた人たちが、たーくさんいるのかしら!
いいわ、レイラが助けに行ってあげる!

レイラは怪我してる人を探そうかしら!
集落に住んでいたのは何人?
19人のレイラが集落を走り回るのだわ!
瓦礫が邪魔になっているときは、他の人を呼んでくるかしら1
レイラは怪我人を探すだけ!
治療が間に合うかは、運次第かしら!

きっとヴァンパイアはこの集落を冷遇して、血の一滴まで絞り取り、もっとあなた達を追い詰めるのだわ!
誰かがヴァンパイアを倒さないかぎり、ずっと、ずーっと!
楽しいお祭りの予感がするかしら!



 暗闇の中にいる。
 もしかしたら、目蓋を閉じているからそう見えるのか。目を開け、そして閉じても、見えるものが同じだと言うのなら、いったい何の違いがあるというのか。
 瓦礫に埋もれた少年は考える。いったい、自分は何時までこうなのだろうと。もしかしたら、既に自分はとっくの昔に命を失っていて、死を実感している最中なのかもしれない。
 そんな考えまで頭を過ぎる。ああ、きっと、自分の命にはその程度の価値しか無いのだろうとも考え始める。生きているのか死んでいるのか分からない。その程度のものでしか無かったのだと。
 そんな少年の目に、突然、光が差し込んだ。いや、暗闇が切り開かれた。



「ん? おいおい。やっぱりまだ瓦礫の下にいたよ。なぁ、お前、大丈夫か? まだ生きてるか?」
 無事の家屋の方が珍しい程に破壊された集落。田畑の悉くが土を抉られる徹底ぶり。そんな中で、瓦礫をその刀で切り飛ばしていた猟兵、石動・劒。
 辿り着いた時点で、既に多くの命が失われていたこの集落において、瓦礫の下にもまだ生き残りがいるかもしれないと探し続けた彼は、斬り飛ばした瓦礫の下に見つけた少年に声を掛ける。
「……ぁ」
 石動が見るところ、少年は明らかに衰弱していた。今にも命の火が消えそうなその少年を見て、石動は駆け寄った。
「分かった。生きてる事は分かってる。だからそれ以上は返事をするな。無駄な体力も使うなよ? 分かったな?」
 残る瓦礫を掻き分け、少年をそこから抱き上げようとする。動かしても大丈夫だろうかとも思ったが、何時崩れ出すか分かったものではないため、とりあえずは近くの地面まで運び、そこでとりあえずは降ろした。
「怪我は……無いって言う方がおかしいわな。どうだ? 痛むか?」
「ぅ……」
 少年の身体の各部位に触れ、状況を確認し続ける石動。ある程度の応急手当くらいなら出来る彼であるが、それ以上の事が必要かもしれない。衰弱した少年は今、そういう状況だった。
「あんまり……使いたくは無いんだが……」
 石動はそう言いつつ、懐から魔法薬を取り出す。簡単な外傷なら治せる薬であるから、気付けくらいには使えるだろうと、少年の口に含ませる。
「辛いのは分かってる。けどな、それを飲まなきゃ辛いとすら思えなくなるかもしれない。だから頼む。我慢して飲み込んでくれ」
 石動の声が聞こえたのか、それとも、単なるの条件反射か。口に入れたその魔法薬を飲み込む様に、喉を動かす少年を確認し、石動は別の猟兵を呼んだ。
「おーい! こっちにも生きてる人間がいた! 頼む! 来てくれ!」
 石動がそう叫ぶと、どこからか少女が一人やって来る。
「あら、あらあらあら。また倒れて死に掛けの人が見つかったのね? レイラが助けに行ってあげる」
 やってきた少女の姿は銀髪と透き通る様な白い肌。それこそが猟兵のレイラ・ツェレンスカヤの姿であり……そんなレイラの姿を見て、少年は悲鳴を上げた。
「ぁあ……あああ!!!」



 その叫びは、少年から残った体力をはぎ取るに十分なものであった。
 気を失っていたのだろうその少年は、漸く目を覚ます。
 目蓋を開ければそこは暗闇……では無く、薄暗くはあったが空が見えた。瓦礫の中ではない。ということは、あの紋様が描かれた不可思議な格好をした青年に助けられた事は夢では無かったらしい。
 そうして、すぐ近くにいる少女もまた、夢では無かった。
「―――ッッッ」
 叫ぼうとする少年。だが、その叫びが声になる事は無かった。



 また、気絶されてはたまらない。そう思ったのか、レイラは少年の口を塞いでいた。呼吸はできる様に、鼻までは塞いでいないし、塞げる程大きな手の平もしていない。
 まあただ、興奮し過ぎれば悲鳴を上げなくなってまた気を失うか、今度は命を失うかなので、レイラは少年に話し掛ける事にする。
「乙女を前にして悲鳴は、とても失礼な事だと思うかしら?」
「ひっ……す、すみません。すみません……」
 意外と素直と言うか、むしろ怯えは悲鳴を上げた頃より余程強烈なそれ。レイラはそんな少年の姿を見て、言葉を続ける。
「乙女を前にして、急に謝り始めるのもとても失礼ね? あなたってとても無様で可愛いけれど、そのまま死んでしまわれるのはとても迷惑かもしれないわ?」
「は、はい……」
 レイラの言葉に、落ち着いたと言うよりは、恐怖で抑え付けられている様子の少年。そんな少年をじろじろ見ながら、レイラは彼に質問を始める。
「あなた、痛いところは?」
「え? そ、その……全身……かな」
 見れば分かる。実に痛そうな姿だし、ちょっといじめてみようかなどとも思ってしまう。それについては一旦我慢だ。
 今はただ、レイラは少年についての興味を優先させて貰う。
「どうしてそんな風になっているの?」
「それはあの……え? 知らないん……ですか?」
 驚いた様子で、レイラを見つめる少年。自分の質問はそれほど意外なものだったろうかとレイラは首を傾げるも、少年は言葉を続けた。
「だ、だって……村を襲ったのは、あなたみたいな姿の人で……いえ、あの方はこの村と契約を交わしたその……あなたはあの方の知り合いじゃあない?」
「知っている人かしら? 知らない人かしら? レイラはあなたの事を良く知らないから、あなたが怯えている人も知らないみたい。けれど、この村を襲うつもりは無いし、あなたをこれから襲うつもりもレイラには無いわ?」
「……」
 怪しいものでも見る様に、レイラを見てくる少年。いい加減、本当に驚かしてやろうかなと思っていたところで、もう一人の猟兵である石動も、少年が目を覚ましたのを察したらしく、近づいて来た。
「おー、話せるくらいには回復したか。そりゃあ良かったが、もうちょっと休んでな。というか、当分は休んでろ。そうしてお前は驚かし続けるのを止めろ」
「あら? あらあら? 別にレイラは驚かしてなんかいないわ? ただ、ちょっと事情を聞いていただけなの。それにほら、お仕事はちゃーんとしているし?」
 レイラは周囲を見渡す。その周囲には、忙しそうに村の中を走り回っている、レイラの姿が複数存在していた。
「えっ……あ、あれは……あれはいったい……!」
 何人ものレイラの姿にまたしても怯え、そうして驚いている少年。石動はその少年の様子が十分に理解できると言った風に、深く溜め息を吐いた。
「怪しい人間じゃあないなんて言っても、無理なんだろうが……敵じゃあない。お前が命を大事にしたいって言うのなら、それを助けるためにやってきた。そういう連中だよ。俺を含めてな」
「まあ、まるでレイラが怪しい人間筆頭みたいに仰るのね?」
 頬を膨らませて視線を向けてくるレイラを見て、石動は再び溜め息を吐いた。恐らく、この少年が状況を幾らか落ち着いて見られる様になるまで、まだもう少し掛かりそうに思えたからだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

モルツクルス・ゼーレヴェックス
【WiZ】
明るく行くっすよ!
ギンギラギンに【生まれながらの光】を垂れ流して

めちゃくちゃ【存在感】ある自分が笑ってたら、ここの人達も明るくなるかもっすよね

でも【礼儀作法】は心得てるんで、バカ笑いしないっすよ!

【コミュ力】とUCの併せ技で、心と体を一人ずつ癒してあげたいっすね!

自分のここの出身っすから【世界知識】はあるっす!
そんな自分に言わせりゃ、生きてる限りはなんとかなる

「一人じゃどうにも出来ないなら、みんなでやるっす!もちろん自分等猟兵も力を貸すっす!」

上手いこと【鼓舞】できたらいいっすねえ


アイリーン・イウビーレ
弱っている人を助けるにはまず自分が笑顔にならないとね!

愛は、まだここに残っています!
愛があるなら、私は動く、それが「愛ドール!」

サウンド・オブ・パワーで愛の歌を歌います!
瓦礫の下とかにいる人たちが少しでも耐えてくれるように!
もっと共感しやすい歌もあるけれど、私が一番心を込めて歌えるのはこういった歌詞だから……!

それと同時に崩れた家などをメインに救助を行うよ!
多少とは言え、怪力を持っているからね!これも愛!

人命救助にどれほど役立てるかわからないけど、頑張るよ!私!
他の猟兵さんがいるなら、邪魔にならないなら協力もしていきたいな



 少年が眺める限りにおいて、本当に彼らは、この村を助けに来た様だった。
「みなさん。愛を知っていますか? 愛を憶えていらっしゃいますか? 愛はきっと、今ここに……残っています!」
 村へとやってきた彼らの内一人、アイリーン・イウビーレが丁度、怪我人達の真ん中で歌っていた。
 恐らくは……まあ、多分、きっと、まだ確証は持てないが、助けに来てくれている……はずだ。
 村へとやってきたあの男、この村を管理していたあの男に、村そのものが破壊されて、残された人間達を。
 瓦礫の下に居たものや、半死半生となった人間が、集落中央にある広場(もっとも、瓦礫さえなければ大半がそんな場所になってしまっている)に集められ、猟兵を名乗る彼らの手当を受けていた。
 少年もまたその一人だ。瓦礫の中から助け出され、そうして、今はアイリーンの歌を聞いている。
「~~♪」
 どうして急に、しかも今、こんなものを聞かせるのか。少年は分からず、ただ困惑しながら猟兵を見つめていた。
「歌を聞いて、どう反応すれば分からないって顔をしているっすね」
 ふと、自分が横たわる簡易の寝床の様な場所の隣に座り込む影があった。
 翼を背中から生やした青年。天の御使い。少年は噂でしか聞いた事の無い、その翼を生やした存在を見つめていた。
 不思議な事が続いている。不思議と言えば、その神秘的な存在であるはずの彼が、何故かこちらに笑い掛けて来ている事も不思議だった。
「えっと……あの……」
「自分はモルツクルス・ゼーレヴェックスと言うっす。まあ、こんな羽を生やしちゃいますが、怖い人間じゃあ無いので、ご心配なく」
 そうは言われても、じゃあどういう人間達で、何故、自分達をこうも助けてくれるのかが少年には分からなかったから、不安は消えなかった。
「あなた達は……どうして……」
「どうして救助作業なんてしているのかっすか? それじゃあ逆に質問っすけど、人を助けるのって、どうしてと聞かれるほど、理由が必要な事なんっすかね?」
 モルツクルスに問い掛けられ、少年は考える。
 考えて……涙が出そうになった。



「僕は……僕を助けたから、この村は、こうなって……」
「そうっすか。それは……辛いっすね……」
 少年の言葉を聞いて、モルツクルスはただ頷いた。それはこの少年の責任ではない。そういう慰めだって言えただろうが、今はこうやって、話を聞いてあげる事が大切だと判断したのだ。
「僕一人、あの……この村を管理している屋敷の主様は、僕一人だけの血を所望していて……けど、僕はそれが怖くて屋敷から逃げて……それで……村に逃げ帰った僕を、村のみんなは匿って……それが、それが……」
「うん。うん……そうっすね。それは……悲しいっすよね」
 ただただ、少年の言葉を受け止めるモルツクルス。自分がするべきは、きっと、こういう心に傷を負った人間の、倒れそうな身体を支えてあげる事だと思うから。
「今はきっと、泣けば良いと思うっすよ。耐えられ無かったら、泣けば良いんっす。それで、泣き止んでから笑えば良い」
「笑う……笑うなんて……」
「今は出来なくても、何時かはきっと。それだけ、頭のどこかで憶えてくれれば、それで良いっす」
「っ……」
 そうして、少年は泣き始めた。それを、じっとモルツクルスは黙って見守り続けていた。



 どれだけか、泣き続けていただろうか。
 何時までも泣き続けられる人間もいない。少年はふと、涙か止まってくるのと同時に、顔を上げた。隣にモルツクルスが座る中で、もう一人、近づいてくる人影に気が付いたのだ。
 それは先ほどまで、愛にまつわる歌を唄っていた少女、アイリーン・イウビーレである。
「……あなたは」
「愛を、感じているところですか?」
 唐突に、そんな言葉を投げ掛けられる。
 少年には良く分からなかったので、ただぽかんとアイリーンを見上げるのみである。
「いやいや、いきなりそう言われても、多分、困ると思うっすよ」
 実際、モルツクルスの方も、アイリーンの様子に困った顔を浮かべていた。
「これはすみません。ですが、そこのあなたや、この村には今、きっと愛が必要だと思いましたから。そうして、確かにこの村にはその愛があるんです!」
 雰囲気に不釣合いな程の元気の良さで話を続けるアイリーン。愛については、少年は分からなかったが、その勢いは、確かに今、必要なのかもしれない。
「それでもっすねぇ。あんまりこう、傷ついた人達を混乱させるのは……」
「それでもも何も、やっぱり、愛はこういう時こそ伝えないと。例えば、あそこにいるお爺さん」
 アイリーンは怪我をした村人の一人を指差す。もう随分と年を経ているであろうその老人。村の生き字引とも言われていたが、確か……家族だっていたはずだ。けれど、今、その老人の周りにその家族はいない。
「あの方……何よりもまず、村全体で匿ったあなたは無事なのかって、そう私に聞いて来ましたよ、さっき」
「それは……僕が……心配で?」
「はい。確かに、そう仰っていました」
 アイリーンの言葉に、自分が恨まれていたのではなく、心配されているのだと少年は知った。
 そうして、それを自分はどう受け入れるべきなのか。少年は考え始める。
「あー、ほら、泣き止んだ後に、笑える雰囲気じゃなくなったじゃないっすか」
「それは最初から、そうだったと思いますけど? それよりあなた、ちょっと、こっち」
 アイリーンはモルツクルスに、立つ様に促す。
「何っすか? 自分はまだ……」
「いいからいいから。この子だって、何かを一人考えたい時間でしょうし。ね?」
 ね? と言われて、少年は頷いた。少しだけ、考えたい事があるのは確かである。
 そんな少年の返事を見てから、モルツクルスはアイリーンに連れられ、どこかへと歩いて行く。
 少年はただ、その背中を見送るのみであった。



「何っすか、急に。あのっすね、あの子は、まだ見守ってあげる必要が」
「そろそろ、倒れそうでしたので。見守る相手の目の前で、見守る側が倒れるわけにもいかないでしょう?」
 モルツクルスはアイリーンにそう言われた瞬間、自分の足から力が抜けそうになる感覚に襲われる。
 実際、足を折って倒れなかったのは、ただアイリーンが前から支えてくれたからだ。
「ああ……もうちょっと、いけると思っていたんっすけどねぇ」
「笑いながら、そんなぎらぎら光ってたら、そりゃあ疲れますよ。あの子も大分回復していましたし、とりあえずはそこまでで良いんじゃないですか?」
 モルツクルスがずっと、【生まれながらの光】というユーベルコードを使っているのを、アイリーンは知っていた。
 それが他人の体力を回復させる代わりに、自分が酷く疲れるものである事も。
「ええ、だから、もうちょっと」
「愛、ですね!」
「愛については知らないっす」
 とりあえず、支えられた状態から立ち上がれるくらいには、やせ我慢が出来そうなので、モルツクルスはアイリーンから離れる。
「ふむ。でしたら、私の愛が伝えきれてないみたいですね。ちょっと、また歌って来ましょう」
 アイリーンはそう言うと、再び歌を唄い始めた。それはこの場においては唐突な歌であったかもしれないが、その歌を聞いた村人の誰かが、涙をゆっくりと流すのをモルツクルスは見た。
 アイリーンの歌は、その歌に共感した相手に、何かの力を与えるものだろう。それはもしかしたら、現実を受け入れる心の強さや、ただ悲しみを実感するだけの力を村人に与えているかもしれない。
(まったく、人の事言えないんじゃないっすか?)
 そんな力のある歌を唄い続ける彼女も、きっと疲労は蓄積しているだろう。
 もう少しで、救助の段階は終わるはずだが、その間だけでも、自分達のこんなやせ我慢が続けば良いと、モルツクルスは心の中で思っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジョン・ブラウン
【ヴィム(ヴィクティム)と協力して治療に当たる】

いつもと違い、どこか上滑りする軽口を叩きながら
マテリアル・デバッグで運ばれてきた人達の治療を行う
「価値、ねぇ」
「無理難題押し付けといて、約束破ったのはお前だの……ブラック企業の上司かな?」

ヴィムのプログラムを有線で接続して怪我人にブチ込んだり
ウィスパーの処理速度を上げるために演算領域を間借りするなど
似た傾向のユーベルコードを補助し合うことで擬似的なデュアルコアを再現する

「ヴィム、プログラム組めたらこっちに流して。残りのデバッグやっとく」
「流石本職、1.5倍ってとこかな?ウィスパー、意地の見せ所だぞ、僕の負担は気にしなくていい」

「大丈夫、助けるよ」


ヴィクティム・ウィンターミュート
【ジョン・ブラウンと協力】

さーて、愉快で素敵な人命救助の時間だ。…いや、笑えねーな。
ダークセイヴァーは嫌いだ。弱者を玩具にして悦に浸るカスどもが多すぎる。悪ィがそういう奴の企みを潰すことに関しちゃ、この俺は誰よりも強いぜ?

ジョンと共に回復ユーベルコードで治療して回る。疲労がかさんじまう代物だが…2人は電脳魔術師。【早業】を併用した【ハッキング】で互いのデバイスを同期できるか試してみよう。デバイス同士を補助しあい、疲労を分散できれば効率が上がるはずだ。シングルコアよりデュアルコアってな

絶望すんにはまだ早ぇーぞ!死神諸共、クソッタレオブリビオンに死刑宣告を叫んでやろうや。最強の端役に任せとけ。



「ヴィム、プログラムが組めたらこっちに流して。残りのデバックこっちでやっとく」
「ちょっと待てって、もうちょい時間が」
「時間無いだろ? ちょっと構成が雑でも時間が稼げれば良いんだよ」
「あーはいはい。ほら、出来たから雑なもんブッ刺すんじゃねえぞ?」
 猟兵と話をする中で、何故か立ち上がれる程度には回復した少年は、他の猟兵達が他の村人達を治療している姿を見ていた。
 少年の目線は二人の青年。いや、少年にも近いくらいの年齢か。兎角、二人の男は、少年には分からぬ言葉で会話をし、少年には分からぬ器具を使うや、その器具から伸びる線を、怪我をしている村人に突き刺していた。
 それが治療行為である事が分かるのは、その線を刺された村人の顔色が、幾らかマシになっているからだ。恐らく、あの二人は医者か何かなのだろう。少年はそう思った。
「ふん? さすが本職。確かに時間稼ぎになる程度には回復してるね」
「まーだまだだ。ほっときゃ逝っちまう状態には変わらねえ。傷口は俺のプログラムでデリートしたから、次はお前の方で体力の回復してやれ。傷が治ったって人間が立ち上がれるわけねえんだぞ」
「体力を一時的に回復したって、栄養がなきゃ飢えるしかないしね。点滴とか無いのかい? ここ」
 何人かの村人(それも怪我が酷い人間)の間を何度も往復しながら、それぞれの器具を操作し、さらに村人達の治療を続けているその二人。
 少年はどこか、その雰囲気が医者と言うより戦士みたいだなと思ってしまった。
 だからこそ、彼らに近づく。さっきから考え続けた事を言葉にしたい。そんな思いがあったのだ。
「あ、あの……」
 すぐ近くを二人の猟兵が通るタイミングで、少年は話し掛けた。二人がじろりと少年を見下ろしてきて、少年はたじろぐ。
「あっと、ごめんね。今、ちょーっと忙しいから、気が立ってる。話なら後にしてよ。こっちのお兄さんが暴れ出しちゃうだろ?」
「だーれが子ども相手に暴れるか。けど坊主、忙しいのは本当だ。こっちのもやしの手が空くまで待っててくれや。どこか死ぬほど痛いって言う話なら、治療を始めさせて貰うけどな」
 二人の言葉に、少年は首を横に振った。実際は、体力が回復したとは言え、身体のあちこちが痛いままなのは変わらないが、我慢できぬ程では無かった。
 そうして、少年は待つ間、再び考え始める。この自分の中に生まれたある言葉を、あの二人の猟兵に投げ掛けても良いかどうかを。



「ウィスパーのやつ、意地は見せろって言ったけどさ。ちょっと無茶し過ぎだよね。もうフラフラ」
「自分でやらせといて、その言い草は無いだろうが。だが、休憩は必要だな。お互い」
 ジョン・ブラウンの言葉と様子から、そろそろ休まなければ、治療する側が倒れると判断したヴィクティム・ウィンターミュート。
 二人は治療を受ける村人達から少し距離を置いた場所で、とりあえず腰を下ろす事にした。
 そんな場所には事欠かない。村中が破壊された状態だから、手頃な瓦礫は幾らでもあった。
「ふぅ……一心地って言う程、落ち着けやしないね」
「まったくだ。まったく笑えねえ光景だよ、ここはな」
 念の入った惨状だとヴィクティムは感じた。家屋でまともなものなど一つも無い。怪我人は広場に集められているが、それ以上の酷い人間……つまり、息をしておらず、もうどうしようも無い人間は、集落の端の方にまとめて置くしか出来なかった。
 それでも、五体が揃っているだけまだマシかもしれない。もっと酷い物は―――
「村人の治療が落ち着いたら、テントの設営が先かな。雨でも降ってきたら事だし。んー、幾らか先を見せるっていうのなら畑の瓦礫なんかも撤去してあげるべきなのかな。土いじりなんて禄にした事が無いから分かんないけどさ」
 ふと、ジョンがヴィクティムの思考を中断させる様に、独り言みたいな会話を始めた。もしかしたら自分の表情から気を使われたかとヴィクティムは自分の頬を軽く撫でる。相も変わらずの輪郭だ。
「今は考え過ぎて消耗する事だって勿体ないからね。深く考えずに仕事を続けよう」
「同感だが、そうも言ってられないみたいだぞ」
 ヴィクティムは視線をちらりと動かす。自分達に近づく一人の少年の姿がそこにあった。
「んー、返す返すごめん。話を聞くって言っときながら、まだだったね。今なら時間があるから、こちらへどうぞ?」
 ジョンは隣の瓦礫を手で示す。椅子なんて上等なものは無いのだから仕方ない。
「あ、あの……」
 残念ながら少年は隣には座ってくれず、ジョン達の正面で立ち止まり、何かを話そうとしていた。
「怖いお兄さんが睨んで来るのがお困りかい? ちょっとヴィム。顔暫く隠してて」
「あ? 俺のどこが怖いって? だいたい、背が高くてぬっと怖いのはお前の方だろうが」
「残念ながら、さっき言われた通りのもやしでね。他人に威圧感を与える姿をしてないんだよ、僕」
 二人の言い合いが続く中、それが途中で止まる。少年が予想外の事を口にしたからだ。
「村を、村をこんな風にした奴を、倒したいんです……それを、手伝ってくれませんか?」



 その言葉は、どうにも無謀を通り越した無茶な要求だとジョンは感じた。
(恐らく、この村を襲ったのはオブリビオンだ。一般人が倒せる様な存在じゃあない)
 だから、断るという選択は十分に有り得たと思うのだが、それでも今、少年の話を聞いている。漸く、隣の瓦礫に座ってくれた少年の話を。
「だいたいなー。倒す倒さないっつったって、どこにいるかも分からないしな」
「村の近くにある屋敷に、あいつは住んでます。村から定期的に、血を吸うための人間を要求するために……」
 主に、少年の相手はヴィクティムがしていた。彼の対応を見れば、少年の要求を遠回しに拒否するつもりなのだろうと分かるが、少年は諦める様子を見せていない。
「ちっ……この村はそいつにとって、養鶏場か何かかよ……胸糞が、あ、あー……けどな。今は俺達、村人の治療に忙しいし」
「みなさんの準備が整うまでなら待ちます。出来ないって言うのなら、僕一人でも……」
 ヴィクティム自身、若干少年に感情移入しているところがある様子だから、真正面から少年の意見を否定するというのが難しいのかもしれない。
「君さ。村をこんな風にする存在と、まともに戦えると……本当に思ってる?」
 だからジョンは口を挟んだ。
 少年が一人でオブリビオンに挑むと言うのは、どう考えたところで悪い結果にしかならない。そう判断したジョンは、ここに来て、漸く少年の提案を否定する事に決めたのだ。
「あいつの……あいつの屋敷に忍び込む方法を僕は知ってる。気付かれずに、近づく事が出来れば……」
「刃物一つでも持って襲い掛かるかい? で、その刃が立たずに逆襲に遭って、次にまた、この村に生き残った人達がお仕置きされるって、そこまでは考えなかった?」
「お、おい、ジョン」
 ヴィクティムがジョンの言葉を遮ろうとするも、ジョンは構わず言葉を続けた。
「率直に言うよ。君一人が、相手に出来る様な生易しい存在じゃあない。この村を襲った奴はね」
「……」
 少年が黙り込み、拳を握り込んでいるのを見た。その力は、とても強いものに見えたが、だからってオブリビオンには通用しないだろう。
「ジョン! そこまで言うこたぁ無いんじゃねえか?」
「言わなきゃならない。だってさ、ヴィム。それは僕達の仕事だ。違うかな?」
「え?」
 少年とヴィクティムは同じ様にジョンを見た。ジョンはそれを確認するより前に言葉を続ける。
「思い出しなよヴィム。村のこの状況を幾らかマシにするのが僕らの今の仕事かもしれないが、オブリビオンを倒すのだって仕事さ。その仕事を、素人に任せる事は出来ない。これは……そういう話だ。違うかい?」
「……ああ、そうだった。そうだったな。ずっと胸糞悪い気分だったが、それを何とかするのだって俺達の仕事だ。助ける人間に託す事じゃあなかった。漸くどっか、すっきりした気分になった」
「何の……話ですか?」
 状況が分からない風の少年に対して、ヴィクティムは顔を向ける。出来るだけ、相手を安心させる様な表情を浮かべながら。
「お前がやらなくても良い。俺達が倒してやる。そう言ったのさ。今すぐには無理だが……村の方が落ち着いたら出発する。だからお前は……話を聞かせてくれよ。屋敷に住む奴の存在についての情報は、きっと役に立つからよ」
 言いながら、ヴィクティムは少年の頭を撫でた。彼の戦いは、勇気を振り絞るここまでだ。後は自分達が動くだけ。それを伝えるために。
「大丈夫。君達を助けるよ」
 ジョンはそれだけを呟いた。そうして立ち上がる。とりあえず、休憩の時間は終わりだ。また仕事を始めよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『侵入経路はどこにある?』

POW   :    周囲をくまなく探して回る

SPD   :    鍵開け穴開け道具と技術でこじ開けろ

WIZ   :    構造から入れそうな場所を予想する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「少年に付いて来て貰えば良かったんじゃあないか?」
 猟兵の誰かがそう言うも、また別の猟兵が言葉を返す。
「まだ怪我人を連れて来るわけにも行かない。例え、村を襲ったオブリビオンが待つ屋敷を前にして、どう侵入したものかと迷っていたとしてもだ」
 村での幾らかの救出作業が終わり、猟兵達の何名かは、次の仕事として、二度と村があの様に破壊されないための対策を開始した。
 つまり、村を破壊したオブリビオンを倒すため、そのオブリビオンが住むという屋敷までやってきたのだ。
 屋敷は鬱蒼とした森の中に存在し、薄暗くじめじめした雰囲気が常にある、そんな場所であった。
 大きな門と塀に囲まれたその屋敷は、簡単には侵入できない気もするが、一方で、警備の一人でもやってくるかと思ったが、そうでも無い
「誘われているのか。それとも何らかの罠か」
 誰かが自分の疑問を言葉にするものの、逃げるという選択肢は無い以上、挑むしかない。猟兵達はそう考えて、屋敷へと挑む。
 その奥に居るであろう、オブリビオンを倒すために。
ハル・パイアー
「慣用句によれば税は血とも例えられるという。では、この屋敷はどれほど吸い上げられて建てられたものかな。」

小官はこれよりSPDによる解錠、および他の手段による侵入口の開放を試行致します。
まずは門に接近し妨害の有無を確認。その際は《クイックドロウ》で反撃の用意。
確認後[鍵開け]を開始します。ダミーの可能性を考えて構造の[情報収集]も並行。
突破が不可能な場合は解錠を中止。
不可能な場合は[破壊工作]に移行致します。この際も警戒を維持。
目標は蝶番、老朽化した箇所など。これらを熱線銃または熱ブレードで切断、熱破壊を試みます。

「さて、吸い上げたものを見栄えのみに費やしている事を祈りたい所だ。」


蒼焔・赫煌
【POW】

うーん! 如何にも怪しい御屋敷ね!
見張りもいないだなんて……ははーん! さては皆寝坊しているのね!
つまりは今がチャンス!!

見るからに昔からありそうな御屋敷だから、やっぱり抜け道とか抜け穴とかあるに違いないわ!!
捜査は足が勝負! 隅々まで走り回って探索、探索!
ちょっとぼろっちそうなとことかあればそういう所を優先しながら、這いまわってでも見つけ出してあげる!



「出迎えも無しなんて失礼しちゃうわね。誰もいないのかしら? 寝坊? 寝坊ね? 恐らく、かなりの確率で寝坊である可能性が高いわ! ねぇ、そう思うでしょう? あなた。絶対そう思うでしょう?」
「あー、小官は与えられた任務を忠実に執行するだけだからしてー」
 少女からの言葉を棒読みで返す小さな少年、ハル・パイアー。外見に不釣合いな軍人然とした姿であるが、今は自分の隣に立つ少女に対して疲労を感じていた。
「ほら、ボクってこんなかわいいでしょう? 相手も遠慮しちゃうっていうか。あ、これ、ちゃんとした服装で会わなきゃいけない相手だ。あー、どうしよう。ボクに出会う服が無いって、そう慌ててる頃合いだと思うのよね」
 出来れば、これから会いに行く人間について考える前に、こちらの疲労度を察して欲しいとハルは思うわけであるが、この少女、蒼焔・赫煌は止まらない。きっと脳内の回路をどこかに落として来たのだと思う。そうでなければきっと、生産時点で深刻なバグが生じていたかだ。
「……多分、ライン工が何か仕出かしたのだな」
「何? ライン工って? 可愛いボクと何か関係が?」
「デザインセンスだけを優先しても、碌な結果にならないのだなと思っただけですのでご心配なく。ふむ。それを言うならこの屋敷もそうか」
 ハルは顔を上げて、薄暗い森の中に立つその屋敷を見る。
 怪しげな洋館。端的に言えばそう表現できるだろう。
 猟兵達が救出作業を行っていた集落からの情報に寄って、ここにはオブリビオンが潜んでいる事が判明している。言ってみればオブリビオンの基地。要塞。防御陣地と言った場所のはずだが、デザインが先行していて、機能性が損なわれているとハルは感じた。
 高い塀と門。それはまあ、それで良いのだろうが、どこか脆い印象を受けるのは、ところどころに無意味な飾りつけがされており、そこが明確に強度不足であろう事が見るだけで分かった。
「デザインセンスって言うけれど、そんなに良くないわ? 多分、雇った職人さんが駄目だったのね。ボクならもっとこう、光の加減からちゃんと考えて屋敷を用意しちゃう」
「デザインも駄目かー」
 じゃあ、この屋敷の何が良い部分なのかと考えるも、まったくの無駄だとハルは答えを出す。どうせ自分達がこれから侵入する屋敷だ。機能性も無い方が良いし、デザインだって禄でも無い方が壊す事に躊躇が無くなる。
「さて、まずはブラスターで門でも壁でも破壊して―――
「ちょちょちょちょーっと待ったぁ! え? 何? ボクの可愛さに驚いて動揺してる? いきなり敵の本拠地で熱線銃ぶっ放すっていうの、お姉さんは感心しないなぁ!」
 大声で色々と叫ぶ女に言われたくない。ハルはそんな風に蒼焔を見つめるも、彼女はどうやらそれを、ハルが意見を乞うていると言う風に取ったらしい。
「ふふーん。こういう時には、ちゃんと作法があるのよ、坊や。まずは抜け道とか抜け穴を探すの。捜査は足が肝心よ? マサさんという先輩刑事を相棒に、夕暮れ前まで聞き込みと張り込みを続けるの。深まる関係性に反して、時効までの時間が刻一刻と迫る。犯人は一行にその正体を現さない中、襲われるボク達。そこでマサさんはある手がかりを見つけるサスペンス!」
「良く分からないので、これから炸裂弾の一つを投げつけてみようかと」
「だーかーらー! それじゃあ何もかも台無しでしょー!? ほら、キミも何か無いの? そういう……サスペンス?」
 サスペンスか何か知らないけれど、とりあえずお互いに意見の妥協点が必要か。ハルは蒼焔を見つめながらそう考えた。相手が考えられない様な方法で仕掛けるのは奇襲の常套手段であるのだが……。
「簡単な鍵開けなら出来ますが。あと、それに平行して、建築物や構造物の解析なども出来るかと。ああ、それと……」
「ふむふむ。サスペンス度合いがボク好みになってきましたね。さらにどの様な技能が?」
「あの門を、熱ブレードで切断できたりも」
「駄目ですー。それは禁止ですー。さっき、大いなるマサさんとの協定により、禁則事項となりましたー。我々に残された手段は今や、この屋敷に単身、侵入する事のみとなったわけですー」
 良く分からない理屈であるが、この少女に反抗すれば、それはそれで面倒な事になりそうだなとハルは感じた。
(妥協だ妥協。今はそれが必要だ。落ち着けハル・パイアー。殴り飛ばして気絶させた方が早いのではなどと考えるべきではない)
 強く力を込めた握り拳は、きっとオブリビオンにぶつけるべきだろう。そう考えたハルは、とりあえず塀の一部へと近づき、脆い場所や、蒼焔が言う様な抜け道が無いかを探し始める。
「ふふふー、そう簡単に見つかりますかねー? ボク達は今、調査を始めたばかり。ここから、この怪しさ120%のオブリビオン屋敷に挑むや、数多くの試練が待ち受けてってあいたぁ!?」
 厚い金属の門で閉ざされた出入口。そこにもたれ掛かって何かを話そうとしていた蒼焔であるが、急に倒れた。いや、もたれ掛かっていた門が屋敷側に動いたのだ。
 つまりそれは……閉ざされていたはずの門が開いたと言う事でもある。
「ボクの魅力に……門が押し負けた?」
「そんな馬鹿な」
 ハルは呆れながらも、開かれた門の奥を見た。
 人は十分に通れる隙間がそこにあり、奥には屋敷への扉も見える。侵入経路なんて考えるな。お前達はここから屋敷へと入るんだ。そんな風に誘われている様な、嫌な感触がそこにある。
(罠か? そうだ。その可能性は十分にある。それ以外の可能性なんてここにあるか?)
 この門を素直に潜るべきか? 躊躇するハルであったが、倒れていた蒼焔はがばっと立ち上がるや、門の向こうへと無警戒に歩き始める。
「うわぁ! つまり今、ボク達は歓迎されてるって事ね! さあ出発しましょう! もしかしたら素敵な出会いがまっているかも!」
「あ、ちょっとまっ……ええい、何なんだ!」
 とりあえずは無事らしい蒼焔を見つめ、ハルは頭を掻きながら、彼女の後追う。開かれた門の先に何があるかを警戒しながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジョン・ブラウン
あの子には言わなかったけど
この手の根性悪がうっかり逃げられたって思えないんだよねぇ……

ハナっから逃して匿われた先の集落ごと潰す気だったんじゃないの連中
こんな世界で着の身着のまま逃げ出して
弱い人間が山や森に逃げ込めるわけがない
生きたくて逃げ出したのなら行き着く先は最寄りの村だ

警備が居ないのもそういうことでしょ
つまりはワザと開けっ放しの出入り口が有るわけだ、多分だけど

逃して嬲って遊ぶとしたら……逃げやすいルートを用意するはず
ならなんとなくの目星はつくよなウィスパー?
今まで出会った根性悪のクソッタレ連中の思考をトレースしろ

後はその辺を虱潰しの人海戦術だ
機械兵達、入れそうなとこ見つけたら連絡入れてくれ


ヴィクティム・ウィンターミュート
さーてさて、ジューヴ(子供)にああ言ったんだ、きっちり倒して帰らねーとな。でけえ屋敷でふんぞり返ったクソ野郎に、未来のやり方ってやつを教えてやるよ。

【WIZ重視】100機の偵察ドローンを展開して、空撮をして【情報収集】だ。
内部に入るための侵入経路、屋敷の構造、罠の有無、黒幕以外の敵性勢力の有無の確認、その他諸々を三次元の偵察で把握してみる。
子供の言ってた忍び込む方法も気になるな。痕跡がないか【追跡】で探ってみるか。情報が集まったら仲間に周知しておこう。

不本意ながら村人の希望を背負っちまったからな。
端役には重い期待だぜ。まぁいいさ。たまには、悪党を倒すのが悪党であってもいいかもしれねーな。



「ま、こういう手合いは、要するにこういう事をするよね」
「こうこうって、良くわかんねえが、つまり……こっちが舐められてるって事か?」
 屋敷の塀と門を越えた先、そのまま屋敷の玄関口があるその場所で、二人の猟兵、ジョン・ブラウンとヴィクティム・ウィンターミュートは屋敷を睨んでいた。
「入るも自由。出るも自由。けど、自由には責任を伴うとか何とか、つまり……やった事の結果は必ず返ってくるみたいな事を暗に伝えてきてるんじゃないかな?」
「結局、お前らが自由に動いたとしても、どうともするものかって事で、やっぱり舐められてるじゃねえか」
 ヴィクティムはこの屋敷の様子に対して、そんな家主の意思を感じていた。試しに玄関口に手を掛ければ、本当にそのまま開いたのだ。不用心この上無いし、相手の余裕とやらを嫌でも感じてしまう。
 では、そんな不用心な屋敷に対して、二人して中へ侵入するのかと言えば、それを選択していないから、今でも二人は屋敷を睨んでいるのである。
「癪ではあるよね。もっと言わせて貰うなら、何でこれから戦う相手の思い通りに動かなきゃならないんだって気分にもなる」
 言いながら、ジョンは自分の腕に装備された携帯式コンピューターを操作し続ける。
 ヴィクティムも同様だ。ジョンの様な携帯式と言うより、彼自身の能力に寄ってある計算を続けていた。
 具体的な行動を説明するとすれば、この屋敷の家主に対して、ざまあみろと言い放てる努力をしているのだ。
「よー、ジョン。準備は良いか? こっちは丁度百体程用意できるぜ」
「ちぇっ、もう一体用意できるのなら、僕の方が勝てたのに。あ、ウィスパーを入れれば百一体だから僕の勝ちー」
「抜かせ。むしろ手伝って貰ってその数だろうに。実質、俺の方が優秀ってところだな」
「あーはいはい。ここに来て喧嘩なんてつまらないよ。負け側なら、この屋敷の主さんになって貰おう」
「先に勝ち負け言い出したのはお前の方だろうに……っと、それじゃあゲームスタートだ」
 ヴィクティムの言葉を合図に、二人の周囲に大量の機械群が出現する。
 一体一体は小さな機械だ。宙に浮く武装した小型のドローンが百に、地面には百体の機械兵器がずらずらと並んでいた。
 空間を埋め尽くすのでは無いかと言うその数は、即ちジョンとヴィクティムが出現させたものであった。
 この総勢二百の武装機械に、この屋敷を制圧させるのかと問われれば、とりあえずはそれをやってみようと二人は頷くだろう。
「君は上の階から、僕はこの玄関から探索だ。先に敵を見つけた方が勝ちで良いかい?」
「負けるのはやっぱり見つけられた敵さんの方か? なら上等だ。さっさと見つけて、散々に敗北を味わって貰おう」
 言うや否や、ヴィクティムが操るドローンが屋敷の窓を突き破り、屋敷の中へと侵入して行く。一方でジョンの機械兵器達はジャラジャラと、不用心な玄関口へ侵入させていく。
 二人が召喚した機械達は、屋敷へとすべて入るや、次々に屋敷中を動き回って行く。屋敷の中のマッピングを兼ねたものであるが、一番の目当ては、集落を破壊し、そうしてまたこの屋敷へ戻ったであろうオブリビオンであった。
 一応は戦闘能力を持つ機械群だ。オブリビオンに相対しても、ある程度は戦えるだろう。
「ふむふむ。デカいだけあって、随分と入り組んだ構造だ。ほら、ジョン。分かるか? こりゃあ、外観は普通の屋敷に見えるが、その実、迷宮みたいな作りになってやがる」
「ははーん。そもそもこの屋敷、家主を守るものじゃなくて、侵入した人間が迷う姿を笑うための場所だな? やっぱり性格が悪いじゃん。けど、それを苛立たせられるのなら最高だ」
 機械群は広がり続け、ヴィクティムとジョンはその動きと位置関係を常にデータとして整理し続けていた。結果はと言えば、入り組んだ屋敷内の構造も、どんどん道が判明していく。
 どこが入口でどこが出口か。部屋は幾つでどこが行き止まりか。食堂は? キッチンは? 洗面所は? そうして主のベッドルームは? そこまでだって判明して来そうな、そのタイミングで、機械の一体から反応が消えた。
「おっと、ビンゴ。こいつは俺のドローンだ」
 ある程度は戦えると考えていたドローンであるが、抵抗も反応も出来ずに潰された。そういう反応の消え方をしたので、結果的に、そこに敵がいる事が分かったのだ。
「他にこういうのを撃退できる存在や仕掛けがあれば別だけどねぇ」
「そこまではまだ分かんねえが……いや、多分こりゃあ、あるな」
 一体のドローンが消えたのは最初の合図であった。次々に消えて行くヴィクティムとジョンの機械群。秒単位で一体ずつ消えているのを見るに、家主が一つ一つ潰している可能性は低いだろう。それはそれで面白い光景かもしれないが、恐らくは、侵入者を効率的に潰す機構なり部下なりがいるのだと思われる。
「そう簡単には行かない相手ってところかな。ま、そういう手合いって事も、何となく分かってたけどさ」
 ジョンの言葉は、最後の機械から反応が無くなったタイミングでのそれであった。屋敷を機械に探索させ、あわよくば戦闘を行わせようと言う狙いは、この時点で終了してしまった。
 残されたのはジョンとヴィクティムの二人のみ。
「さて、ここで奴はどう思っているかな?」
「そりゃあお前、こんなちゃちな玩具で何をするつもりだったのだ? みたいな笑いを浮かべてるんじゃあねえか?」
 その姿を想像して、二人は内心の怒りを湧き立たせるも……すぐにそれは収まる。冷静さは重要だったし、無駄な事をした覚えも無かったからだ。
「ヴィム。そっちは消えたドローンの順番をきっちり把握してるかい?」
「抜かせ。そっちの機械の動きや反応だって分かってるっての」
 だから二人して分かっている。機械群がそれぞれ、どの順番で消えて行ったかを。
「全部一片に倒せないって言うんだから、たかが知れてるよ、奴もさ。順番に倒してたって言うのなら、その順番に、そこが重要な場所だって自分で言ってるみたいなものじゃないか」
 無作法をする玩具を排除するとして、その排除の順番は、目障りな物からになるだろう。だから、その順番を辿れば、侵入して欲しくないルートと言うのが導き出される事になる。
「全部とは言わねえが、まあ、地図は出来た。印刷機はあるかい?」
「無いから頭の中に刻み込んで置いて。オブリビオンの顔を殴り付けるって行動もそこにメモだ」
 機械に無様に倒されなかった事を後悔させてやる。ジョンとヴィクティムはそう考えながら、導き出した屋敷内のルートを進む事にする。
「さーてさて、あのジューヴ(子供)にああ言ったんだ、きっちり倒して帰らねーとな。でけえ屋敷でふんぞり返ったクソ野郎に、未来のやり方ってやつを教えてやるよ」
「これ、多分、逃げ出したあの子が選んだルートかもしれないね。それが一番、移動しやすい場所って事だから……そこからの逆襲を、さあ、始めようじゃないか」
 ジョンとヴィクティム。二人は冷静さを保ちながらも、怒りはやはり忘れていなかった。集落を破壊した償いをさせてやる。そう心に刻み込み、屋敷への一歩を踏み出したのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

モルツクルス・ゼーレヴェックス
【WIZ】
目立たないに超したことは無いっすからね、屋敷の周りをぐるっと遠巻きに見て【情報収集】っす!
【学習力】活かして脳味噌に特徴叩き込むっすよ!

【世界知識】からあの建築の特徴や歴史背景を思い出してヒントを探り

【地形の利用】や【拠点防御】の観点から、領主の意図を推察してみせるっす!
今まで聞いた話しのなかの領主の、傲慢で、自分の中の基準を大事にし、それに外れるものに怒るといった性格から【コミュ力】で思いつく事もあるかもあるかもっすよね!

「首ぃ洗って待っとくっすよオブリビオン」

今にそこまで行って、首を狩りとってやるっすからね

……おっと、静かにしなきゃなのに、つい独り言が、出ちまうっすね


レイラ・ツェレンスカヤ
素敵な匂いがするのだわ!
乾いた血と錆の匂いが!

レイラはあまり得意じゃないもの、お屋敷の周りをぐるぐるまわるかしら!
もしかしたら森の方に出入り口があるかもしれないのだわ!
だってほら、塀があったら、出るもの大変かしら!
きっと塀を通らないところに入り口があるのだわ!

どうしても見つからなかったら、もう新しい穴を作ってしまうかしら!
レイラの大砲がお屋敷の壁に穴をあけるのだわ!
見張りもいなくてまるで誘われているみたいなら、正面から突入するのはとっても怖いかしら!
もう気付かれているかもしれないなら、正面から突入するよりは、ずっと賢いのだわ!


アルトリウス・セレスタイト
面でも拝んでおくか

界識を送り込んで屋敷の主を探索・追跡
屋敷内での行動を観察し何に注意を払っているか確認
独り言などあれば合わせて注意し、内容から行動の優先順位や心理状態など推測
罠や仕掛けなどの有無も探り、交戦するに適した場所・目標が逃走するとしたらどこを使うかも候補を割り出しておく



「ふっ、屋敷内部の様子を他の猟兵がマッピングしてくれた上、オブリビオンの居場所への最適ルートまで導き出してくれたとあれば、後は突き進むだけ! 首ぃ洗って待っとくっすよオブリビオン! なーんて思ってたけど、そんな上手い話は無いっすよねぇ!」
 屋敷の中へと侵入した猟兵の一人、モルツクルス・ゼーレヴェックス。彼は叫びに近い言葉を口から吐き出しながら、屋敷の中を走り続けていた。
 侵入者が忍び歩きもせずに何事だと思われるかもしれないが、現状、モルツクルスを責める人間はきっといないだろう。
 何せ壁や床から、腕の様な物が、何本も飛び出してきて、モルツクルスを捕まえようとしてきていたからだ。
(うぇぇ……悪趣味この上ねぇっすね……薄暗い雰囲気ははあれ、まだ威厳さとか気高さ? みたいなデザインセンスがあったっすけど……腕は無い。うん。腕は)
 無数の腕は青白く細いそれである。しかもその腕は、何かを求める様にうぞうぞと蠢いていた。
 何かなどとは言うまい。それはモルツクルスの身体を掴もうとしている。一本に掴まれても、無理矢理引き剥がせる程度の握力ではあった。だが、それに何本も掴まれ、引きずり倒され、全身を拘束されでもすれば、動く事すら困難になるかもしれない。第一、良い気分しないはずだ。絶対。
(一応、これで侵入者の排除もしてるって考えて良いんすよね? 確かこの屋敷内部をマッピングするために送り込んだ機械が、全部やられたそうっすけど、残骸も見えないから、腕が掃除もしているのか……)
 想像すれば間抜けな姿であったが、今は必死にその腕から逃げ続けていた。進めば敵には辿り着く。振り払いを兼ねてそれを行うには、やはり走る事が一番だった。
 しかし……。
「何っすかねぇ。何か……そういう事をする様に誘導させられている気もするんっすか」
『ほう。気付くのが少し早いな』
「……っ!?」
 突然、聞こえて来た声に身構えるモルツクルス。
『だが、その反応は鈍い』
 声の意図は兎も角、確かに今の行動は失態だったとモルツクルスは舌打ちを鳴らしたくなった。両足を、床から生えた腕に掴まれてしまったのだ。一本だけでなく、何本の腕が自身の足に絡みつく様に。
「この声……お前は……あの集落を襲ったオブリビオンっすか?」
『……』
 声は聞こえない。だが、どこか鼻で笑う様な息遣いだけが返って来る。間違いない。このムカつき加減は味方では無いと確信する。
 確信して、今すぐ顔面でもぶん殴ってやろうかと足を動かすも……動かない。
「この数は……振り払うにはしんどいっすかね……!」
 自身を掴む腕が、さらにその本数を増やしていた。床や壁や天井からだって、その腕はモルツクルスに纏わりついてくる。
 ここから脱出するには、何らかの破壊的な力を使う必要があるだろうか。そうモルツクルスが考えたその瞬間。
「去るが良い」
 またどこからか聞こえて来た声。その声と当時に、あちこちから生えた腕が燃えた。
 このタイミングで、次は延焼させるつもりかと焦るモルツクルスであるが、その炎は何故か、モルツクルスを掴む腕のみを燃やしていた。
「な、なんすか!?」
 解放されたモルツクルスは、わけも分からず、ただまた走り出そうとする。そうしてまたそのタイミングで、声が聞こえて来た。
「こっちだ。あの腕はしつこいぞ。早く」
 その声は、先ほど聞こえて来た声とは違う、淡々として無機質なものであったが、敵意は無い様に感じた。
 そうして示されるは、この迷路の様な屋敷の中における、一つの行き止まり。そこに来いと声は言う。
「あのっすねぇ! 立ち止まればまた腕に捕まれて――ー
「言ってる間にも止まれば捕らえられる。そうだ、つまりこっちに進むしかないし……行き止まれば……じっとしてろ」
 再び床や壁から生え始めた腕が、急に止まる。次の瞬間には、廊下の影から一人の男がぬっと這い出て来た。
「これで、時間稼ぎ程度なら出来る」
「えっと……つまり援護っすか?」
「アンタがこの屋敷の主を倒すつもりと言うのなら、そういう事になる」
 男はその名前をアルトリウス・セレスタイトと言う。サイキッカーとして幾つもの力を扱える猟兵。腕を燃やしたのも、今、腕を止めているのも、彼の力に寄るものだった。
「そりゃあ有難い! っすけど、行き止まりに誘導されちゃあ、元も子も無いっすよ……どうしたもんか」
 腕はアルトリウスの力に寄り止まっているが、何時動き出すか分かったものでは無いし、止まったままでも、邪魔な障害物としてそこにあり続けるだろう。
「無理に前に進んだところで、やはりそこには行き止まりが待っているはずだ」
「どういう事っすか?」
 恐らく、モルツクルスより先にこの屋敷に侵入していたらしきアルトリウス。だからこそ、アルトリウスの意見を聞くべきだとモルツクルスは判断した。
「他の猟兵が侵入されたあの機械群。それに便乗する形で、俺も侵入させて貰った。機械に気を取られている間に、ここのオブリビオンの隙を突けるかと考えてな。で、さっきまでは上手く行っていた。屋敷の中を十分に、気付かれないままに観察できたし、この屋敷が底意地の悪い場所だとも知れた」
「意地が悪そうなのは同感だと思うっすけど……」
「そう、この意地の悪い腕が問題だ」
 止まったままの腕を足で軽く蹴るアルトリウス。この腕は、屋敷に侵入した存在をひたすらに掴もうとする、生物というよりは機械的な存在である。勿論、肉で出来ているらしいので、有機的な機械と表現するべきか。
「確かにこの腕、邪魔ではあるっすけど……」
「屋敷の主に、敵意を持って近づこうとする存在に対して、距離が近ければ近い程、この腕はその対象を掴もうとして力を込めてくるし、数も多くなる。機械群がオブリビオンに近い方からやられたのもそれが原因だろうな」
 つまり、この屋敷の中において、猟兵達の目当てであるオブリビオンに近づけば近づく程、邪魔は増えてしまうのだとアルトリウスは語る。そうして次には、また別の声が。
『何故、腕の形をしているのかと問われれば、足を引っ張るには丁度良い形をしているだろう? 有象無象の腕とはそういうものだ。私の姿を見た瞬間、完全に身動きが取れなくなった事を自覚する相手……見ていて気分が良くなる』
「この……!」
「乗るな。単なる挑発だ。だいたいそうやって怒りに震えたり、恐怖したりする人間の顔を見て、嘲笑うのがこの屋敷の主の趣向らしい」
『業と言って貰いたいところだ。そういう他者の姿を見れなければ、この世はくだらなくてつまらない。そうは思わないか?』
 まったくもって趣味が合わなさそうだとモルツクルスは感じた。例え敵では無くとも、友達にはなれない。もっとも、オブリビオンの友人など頼んだっていらないが。
「アンタの苦しむ姿を見れば、俺の方も少しは気分が上向きになるか?」
 アルトリウスはオブリビオンの挑発を、そっくりそのまま返す。だが、圧倒的に有利な状況は敵のオブリビオンの方である以上、その挑発に動じはしないだろう。
『ああ、私の苦しむ姿には相応に価値がある。悶える姿を見れば、君らの気分は健やかになるだろう? 私にとっては、その価値を君らにも感じている。命とやらにはそんな価値が存在している。それだけの事だよ』
 もしや、集落に逃げた少年も、彼や集落が絶望する姿を見たくて、このオブリビオンはわざと逃がしたのではないか? そんな予感すらして、モルツクルスは声の聞こえる方へ飛び出そうとするも。
「今、突っ走ったところでどうしようもない。落ち着け」
 モルツクルスの勢いを、アルトリウスが手で止める。
「け、けどっすねぇ……」
「安心しろ。俺が隠れて潜んでいたのは、タイミングを計るためだ」
『ほう? まだ、何かあると?』
「ああ、とびっきりだ。俺の界識はそれを既に認識しているし、あれが味方側で良かったとも思っている。いや、まだ味方と判断しても良いか普段だがな?」
 アルトリウスのその言葉はまるで合図であった。言い終わるタイミングを待っていたと言った風に、屋敷全体が大きく揺れたのである。



「きゃははは! 愉快ね? 愉快かしら? 痛いなら痛いって言ってくださる? そうすれば楽しいわ!」
 屋敷の庭園に一角から、笑い声が聞こえてくる。
 楽しそうに笑うその猟兵、レイラ・ツェレンスカヤは、彼女自身の力に寄って、さらにもう一度、屋敷を大きく揺らそうとする。
 【волшебство・пушка(タイホウノマホウ)】。その単純明快な力は、赤黒く、巨大で、質量のある杭を屋敷へと叩きつけるものであった。
 杭で屋敷を解体するかの様に、その力を振るうレイラであったが、二撃目の杭は、半壊した屋敷の壁から生えた、幾つもの腕に受け止められる。もっとも、受け止めた衝撃に寄り、腕の多くは醜く潰れていたが。
「あら? 痛そう。痛そうね? 叫び声を上げる口が無いのがとても残念そう。本当は、とっても悲鳴を上げたがってるのでしょうに!」
『あの機構に、その様な情動があるとは思えんがな』
 その声がまた、屋敷の庭園にいるレイラにも聞こえて来た。屋敷の方から聞こえて来ているのは確かだが、屋敷のどこからか聞こえて来るのかは分からない。だからレイラは、とりあえずまた、屋敷を壊そうとし始める。
「あなたは声だけ? なら、悲鳴を上げる係ね?」
 そうしてまた一発。巨大で残酷な杭が屋敷を破壊しようとして、またそれを受け止める腕を無残に潰して行く。
『……同族か?』
「あら? あら? あなたったら、レイラと一緒の猟兵かしら? けどけど、このお屋敷に住む人はオブリビオンと聞いていたわ?」
『ふんっ……そういう意味では私とお前は敵同士だろうよ。だが、同じ業を持っていそうだと、そう感じた。そう言う意味での、同種だ』
「そういえばこの屋敷ったら、乾いた血と錆の匂いがたっぷりとしてくるわね? 素敵な匂い」
 オブリビオンの声とレイラの声。それは互いに、愉快な相手を見つけたと言う風な感情が込められていた。互いに共感するところでもあるのだろうか。
 暫し、どちらからも笑い声らしきものが聞こえるも、レイラは再び、声と力を放った。
「なら、やっぱり敵同士」
 レイラから声と同時に放たれた杭は、再び屋敷を突き、砕く。今度のそれは、先ほどまでよりも強いとびっきり。受け止めたはずの腕すら貫き、また屋敷を揺らす威力でもって、壁に大穴を開けていた。
『ああ、そうだな。そうだとも。私と同じ業を持つ相手なぞ、怖気が走る。早々に私自ら潰させて貰おう。来るが良い。そのための入り口なら、君が今、開いたはずだ』
「ええ。ええ! そうね? それじゃあさっそく決着をつけましょう? けどけど、残念だわ。きっと、レイラ以外もあなたの元にやってくるもの!」
『だろうな。さっそく、君がこの屋敷へと与えたダメージの隙を突き、私の元へとやってくる人間がいる。一体一とは行くまいて』
 どこか愉快そうな声を発しながら、オブリビオンの言葉はそれ以上を聞かせてはくれなかった。
 残ったレイラの方はと言えば、薄っすらと笑いながら、自分が屋敷に開けた大穴へと歩き始める。
「あなたは相手の無様な姿を見るのが好き。レイラも相手の無様な姿を見るのが好き。そうね? 同じ趣味だけれど、相容れはしないわね?」
 オブリビオンがレイラが床へ這いつくばる姿を想像している様に、レイラもまた、オブリビオンの四肢に杭を打つ光景を想像している。
 同好であろうとも、友にはなれぬ相手。お互いにそれを確認し合い、レイラは決着をつけるために前へと進み始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 屋敷の内側から、屋敷に開いた大穴から、猟兵達はその部屋へと辿り着く。
 半ば破壊された様なその部屋で、まるで待っていたとばかりに椅子に座り、こちらを眺めている色白で白髪の男。
 心底気怠そうに猟兵達を眺めるその男は、この屋敷の主であり、集落を襲った存在であり、そうして猟兵達がオブリビオンと呼ぶ存在でもあった。
 そんな男がふと、集う猟兵達に語り掛ける。
「少し考えてみたのだが……君らと……私が戦うだけの価値はあるかな?」
 今さら、そんな事をオブリビオンは猟兵達に尋ねて来る。
「あの集落なのだが……私にとってはあれで十分でね。あそこさえあれば食うものに困らぬし、ある程度の欲求も解消できる。それで十分だ。だから……あそこ以外に私が害を与える事は無い」
 言いつつ、ゆっくり、オブリビオンを椅子から立ち上がる。破壊された部屋に舞う埃を払う様に肩を手で払いながら、さらにオブリビオンは猟兵達へと問い掛けた。
「私は別に、世界征服などを考える程に大それた存在では無くてね。そんな状況で、あそこを、危険を冒してまで助ける必要があるか? それだけの価値があるのか。それを少し、聞いてみたいな?」
 言いながら、オブリビオンは笑った。その問い掛けに対して、猟兵達がどう答えるか。それもまた娯楽だと言わんばかりに。
モルツクルス・ゼーレヴェックス
「あるっすよ!」

【高速詠唱】で【火の属性攻撃】の【ウィザード・ミサイル】を次々撃つ

「命と魂ある者には、可能性って価値があるっす!」

一回につき105本の【範囲攻撃】を正確に、味方を妨げないよう撃つっす!【コミュ力】の見せ所!

「分かんないっすかねえ!なら、教えてやるっす!」

【情報収集】と【学習力】で段々と効率化

「集落で、いえ、この暗いダークセイヴァーで生きる人はみんな、魂を持ってるっす!逃げて来た仲間を匿える優しさがある!」

声を張る!みんなを【鼓舞】するっす!

「そんな、お前にとって訳の分からん奴等の同類!なんの得もないのに頑張る猟兵が!お前を倒す!」

叫ぶ

「せいぜい思い知って地獄に落ちるっすよ!」


ジョン・ブラウン
あの子から話を聞いて、ずっと考えてたんだ
お前みたいな性悪が、逃げる獲物が村に匿われるまでノータッチ
わざわざ迷宮みたいにした屋敷の奥で待ち構える
”らしくない”

興味無いフリしておいて、興味があるのバレると恥ずかしい
お前みたいな奴が覗き見してないわけがないんだ

だから、ずっと居たんだろ多分
僕らの後ろにそのコウモリが

そんじゃ出てこい。ご飯だぞ

『今日のメニューは鉄分豊富だむー』

残さず食べちゃっていいからね

『じゃあ』
『いただきますむー』

……こいつの腹の中どうなってるか、中から見えたら僕にも教えてくれない?

『いやーんエッチだむ―』<ゲップ

自慢のカメラ食べちゃったけど……
そっちも僕らの壊したし、おあいこって事で



「あるっすよ」
 こちらを見据えるオブリビオンに対して、正面から言葉を返すはモルツクルス・ゼーレヴェックスであった。
「ほう? 今にも震え出しそうなその姿で、何がそこにあると?」
「お前を倒せる……可能性が!」
 モルツクルスはその啖呵と共に、発生させた炎の矢をすべて目の前のオブリビオンに向ける。
 その数は百を超えるそれであり、今か今かとモルツクルスに射出されるのを待っていた。
「力に対する自信はあるらしいな!」
 身構えるオブリビオンに向けて、モルツクルスの炎の矢が幾本も放たれて行く。
 まっすぐに放たれた矢はオブリビオンに避けられるも、その次の矢は頬を掠める。火傷の如き微かな傷痕を頬に残されたオブリビオンは、感心した様にモルツクルスを見た。
「事実、力がある」
「何度も言わせないで欲しいっすけどね、これは可能性っす。お前を倒せるかもしれないという可能性を、自分はぶつけてるんっすよ!」
 さらに矢を放つ。より、オブリビオンを効率的に狙える様に角度を調整し、相手が一本二本避ける事も承知の上で、その避けるであろう軌道にも矢を放つ。
 オブリビオンの可能性を、炎の矢の数だけある可能性で潰す様に。
「可能性ってのは……誰にでもあるもんなんすよ。命と魂のある者には、誰にでもそれがある!」
 自分にも、他の猟兵にも、あの集落にも、この屋敷から逃げ出したあの子どもにも可能性がある。その可能性の多くを、目の前のオブリビオンは奪ったのだ。
 だからこそ、モルツクルスはその可能性を奪い返そうとしていた。
 オブリビオンがこれから、ずっとあの集落を襲い続けるという可能性を、ここで潰す。そのためにこそ戦うのだ。
「その可能性とやらには、それだけの価値があるのかね?」
「分かんないっすかねえ! なら、教えてやるっす!」
 炎の矢がオブリビオンが回避する場所を潰して行く。放ち続けてあと五十本程か。半数を避け続け、掠りはすれど致命傷を避けるオブリビオンの動きは、さすがと言うところであったが、それでも確実に追い詰めていた。
「集落で、いえ、この暗いダークセイヴァーで生きる人はみんな……魂を持ってるっす! 逃げて来た仲間を匿える優しさがある! そういう可能性がここにはある! それを潰させやしない!」
 あと四十本。オブリビオンはこの広い屋敷の、広い部屋の、狭い隅にまで追い詰められている。
「仲間を匿うというのは優しさか? 臆病さか? どちらにせよ、強さには届かない。収奪されるだけの価値しか無いと思うがね」
 あと三十本。オブリビオンに直撃させる軌道では無く、その逃げ道を予想し、そこへと放つことで、敵の逃げ場をさらに奪う。
「お前にとっては価値の無いものだったとしても、そういう優しさを持つ存在が! 自分達猟兵が! 何の得も無いってのにお前を倒す! その可能性を見せてやるっす!」
 あとニ十本。直撃の軌道で炎の矢を放ち、オブリビオンは矢に対してマントを翻した。オブリビオンの怪力により、十分な速さで振り回せるそれは、十本の矢が跳ね飛ばすには十分な勢いを持っていた。だが、それでも矢は後10本残っている。
「せいぜい、思い知って地獄に落ちるっす」
 残りの十本。それらが、防御行動を取った後のオブリビオンをさらに一歩、追い詰める。もはやその直撃は確実。それ程までのモルツクルスはオブリビオンを追い詰めていた。
 だが―――
「なっ……」
 炎の矢が、オブリビオンへと直撃する前に、屋敷のあちこちから生えた腕に掴まれていた。青白い、散々に足を引っ張ってきたその腕が、またしても攻撃を妨害したのである。
「可能性は……私の方が多かったらしいな? 今ので全力か? なら―――
 こちらから仕掛けさせて貰う。そう言ってモルツクルスへと踊り掛かろうとするオブリビオン。だが、その前進を白い何かが塞いでいた。
『だぁぁぁぁぁぁああああむぅぅぅううううう』
 大きく口を開いた、白く巨大な、さらにヒレまで生えた饅頭。モルツクルスは突然に現れたそれを、脳内でそんな風に形容していた。
「は?」
 そんな間抜けな声が漏れたって仕方あるまい。その巨大白饅頭が如き存在は、開いた口で、オブリビオンを飲み込もうとしていたからだ。
「ぐっ……何だ? 貴様はっ」
 さすがのオブリビオンも、現れたそれに驚きを隠せないらしく、行き止まりであったはずの背後へと逃げた。
 背後に、屋敷の壁があったはずのそこに、穴が開いたのである。
 壁が分解するかの様に無くなっている。壁から生えていた腕もまた消え去り、代わりとばかりに何羽、何十羽、何百羽もの蝙蝠が代わりにそこに現れる。
 その蝙蝠の間を、オブリビオンは後退していた。
「この蝙蝠」
 オブリビオンが後退した部屋の中に、また一人、猟兵がやってきた。その猟兵、ジョン・ブラウンは、突如現れた蝙蝠を見て呟く。
「それが種かな?」
 蝙蝠の向こう側に退いたオブリビオンを睨む様に、現れた蝙蝠を見つめるジョン。
「この迷路みたいな屋敷や、あの妙な腕が何なのかなってずっと考えてた」
 オブリビオンがこの屋敷を立てたのか? そんな事をする存在か? 誰かを脅して立てたのか? あちこちから腕が生える屋敷をどうやって?
 恐らく、その種のすべてがこの蝙蝠だ。
「蝙蝠が、すべてに化けていた。そうして、蝙蝠がすべてを見ていたんだ。お前はずっと、屋敷の中で惑う僕達を監視していたな? そうしてそれを娯楽と言うのなら、人が苦しむ姿に価値を見出したのなら、ずっと、この蝙蝠で見ていたんだ。あの、お前に苦しめられていた集落も、少年だって!」
 そのジョンの語気には、やや怒りが含まれている様にモルツクルスは感じた。モルツクルスもまた、そんな感情を持っていたから分かること。
「ああ……そうっすよね。余裕綽々なのも、こうやって、蝙蝠でずっと見ていたからなんだ。守られているから、超越者のフリが出来る。けど、種はこんな多くの蝙蝠だけっす。お前の可能性なんて、その程度のものでしかない!」
 多くの蝙蝠に守られたオブリビオン。ただ、それだけの存在がこのオブリビオンだ。ならば恐れる必要なんてこれっぽっちも無い。
「ただの蝙蝠だと……これを見ても言えるかな?」
 瞬間、ジョンとモルツクルスは浮遊感に襲われる。屋敷が崩れた。そんな風にも思える程に、二人の周囲の建築物が家財が、床が、壁が、すべて蝙蝠となったのだ。
 大きな屋敷に化けていた大量の蝙蝠。それがただの蝙蝠だったとしても、すべてが猟兵に、敵意を持って襲い掛かって来るのだとすれば、確かに脅威だ。
「ええい。それじゃあもう一度、矢でも鉄砲でも放ってやるっすよ!」
 身構えるモルツクルスは、再びマジックミサイルを放とうとするが、ジョンがそれを止める。
「あ、その必要は無いよ。獲物を奪われるとこいつ、怒る時があるから」
 こいつと、ジョンは自らが召喚した、顔付き巨大白饅頭を示す。それもまた多くの蝙蝠に囲まれていたが、巨大過ぎて囲みきれずにいる。というより、その巨大さの影に猟兵二人は立っているから、蝙蝠に完全に囲まれずに居た。
「え、獲物っすか? っていうか、これは一体?」
「これ? ああ、だむ人形。知ってる? 可愛い顔して、凶暴なところがある。ご飯の時間だ、だむ。さっさとこいつらを全部食っちまえ!」
 ジョンの言葉に反応して、その巨大白饅頭ことだむ人形が、ずずずと動き始めた。
『今日のメニューは鉄分豊富だむぅうう』
 口を開くそのだむ人形は、次々と、屋敷を構成してた蝙蝠を口の中に吸い込んで行く。咀嚼する。また口へと入れて行く。
「良し良し。残さず食べて良いからね」
『いただきますをわすれていたむぅぅぅうう』
「い、意外と律儀っす……ね?」
 だむ人形の勢いに、若干引き気味のモルツクルス。だむ人形の主であるところのジョンはと言えば、軽口を叩く余裕すらあった。
「あの蝙蝠。あのオブリビオンの視界代わりになってるんだったら、この人形の口の中がどうなってるか教えて欲しいところだね。明らかに、自分の体積以上の量を食べてるし」
「おのれっ……」
 蝙蝠が無くなり続ける中で、蝙蝠の向こう側へと後退した……いや、逃げたオブリビオンが、もう一度姿を現す。漸くその表情から余裕を消してくれた。二人の猟兵にはその姿がそう見えた。
「自慢のカメラを喰い尽くしちゃうかもだけど、勘弁してね? そっちが先に僕のとっておきの機械を壊したんだからさ」
「何にせよ、これで、またそっちの可能性が無くなったっすね!」
 屋敷を構成していた蝙蝠を食い散らかされ、住居と自らの守りを破壊されたオブリビオン。そんな相手に対して、猟兵二人は再び啖呵を切ったのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハル・パイアー
「成る程、アレは貴殿の管理した牧場だけでの余興と仰ると。なんとも穏和で気のいい貴族様だ。我らが母船ノーマッドの末端としては、返答を"任務"の一言で済ますのでは不足というものでしょう。」

小官は[礼儀作法]にて姿勢を正し、UC《クイックドロウ》を使用。
オブリビオンへ圧縮重粒子放射器の射撃にて"返答"を行います。
意図の聞き逃しが無いように丁寧な[2回攻撃]を。また、確実に伝わるよう[誘導弾]を使用するものであります。

「人が人として生きる為に作られた管理社会にて、端末の一兵士として産み出された私が答えよう。貴殿の支配にはAIが足りない。それと、生きる[覚悟]を忘れた問答は虫唾が走る。」


ヴィクティム・ウィンターミュート
あの村を、命を賭けてまで守る価値があるか。そう言ったな?
悪いが俺はリアリストでね。あそこの村にある命に、価値なんざない。
…が、土壇場で価値が"芽生えた"
支配されて、ただ奪われて泥濘の上で無意味に生きていく命に価値なんざねえ。だが、少しでも。少しでも反抗する意志があるなら。強者に一矢を報いたいと、そう思うのなら。命に、価値という名の炎が灯る。
あそこにいたガキは立ち上がった。自分の意志で、足で!今、この世界に必要なのは…そういう意志だよ。だから、消させねえ

なんて、言いながら【時間稼ぎ】してナノマシンを【破壊工作】よろしく【早業】で散布。【だまし討ち】のように、一気にぶちこむ。
騙される方が、悪ィんだ



 屋敷を構成していた蝙蝠を喰い尽くされたオブリビオン。だが、その体は未だ健在だった。
 そもそもがダメージを受けていない。これまでは防戦一方だったとも言えるが、今はその余裕を消し、猟兵達を睨みつけていた。
「追い詰めた……などと思ってはいないだろうな?」
 屋敷は半ば崩壊し、開けた土地となったその場所で、オブリビオンは剣を一本手に持って、尚も戦う姿勢を見せていた。
 オブリビオンはすぐさまに動きだし、その俊敏極まりない動きで、一人の猟兵へと接近する。
 接近して……剣の間合いへと入れるその前に止まった。
「剣を銃で受けるとは……中々に驚きの光景だ」
 オブリビオンが剣で攻撃を仕掛けてくるその前に、銃を引き抜き放つ猟兵の名前はハル・パイアー。
 剣の振りよりなおも早いその銃撃は、オブリビオンの進行を止める効果があった。だが、それだけであった事にハルは驚いていた。隙を突いたと思っていたが、それでも反応できる程に敵は素早い。
「小僧、私の足を止めたな?」
 だが、その程度の妨害ですら、オブリビオンにとっては怒りを覚えるそれであったらしい。自らの優位を崩す相手。そんな相手に、この敵は弱い。
 だからこそ、ハルは自らの驚愕を飲み込み、銃を構えたままに、自分もまたお前を恐れずに立ち向かう人間であると胸を張る。
「その程度で怒りを覚えているのならば、それこそ価値が無い。そう言ってみせよう」
 ハルの言葉と共に、オブリビオンが持つ剣が折れた。いや、砕けた。ハルの銃は単なる銃では無く、圧縮重粒子放射器。その破壊力は剣を砕くには十分であった。もっとも、本来は剣だけで防げるものでは無いのだが……。
(単なる剣では無かったか? だが……それを奪えたのだから良しとする)
 動揺だって続けてはいられない。今は冷静に、オブリビオンの戦力を把握し、倒し切る事だ。
 だからハルは再び引き金を引く。圧縮重粒子放射器により放たれた、物質を凶悪に破壊する熱線は、まっすぐに再びオブリビオンを狙う。
「私に価値が……無いと言ったか!」
 その熱線を、オブリビオンは自らの剣で防ぐ。防いだ剣が再び砕け、そうしてまた、オブリビオンは剣を握り込む。
(剣を幾つも召喚できるのか? つまり……あの剣もまたこいつの力!)
 飲み込んだはずの驚愕が、脅威の感情となって再びハルの心に浮かんでくる。そうして次にオブリビオンは、その剣をハルへと投射していく。
「ちぃっ!」
 投射された剣を避けるハルであるが、腕を剣が掠めた。避けられぬ攻撃では無いが、避け切る事も難しい。そんな速度の攻撃に、ハルは舌打ちを鳴らす。
「まだだ……これでもまだ、私を価値無しと蔑むか!」
 想像以上に相手の心を抉ったらしい自らの罵声。それはそれで気分の良いものかもしれないが、今は投げられ続ける剣が厄介だった。徐々に、徐々にであるが、ハルの身体を掠める剣が傷つけて行く。
(攻撃の機会さえ、あれば……!)
 放たれ続ける剣のもっとも厄介なところは、ハルが銃を撃つ隙が無いところだった。早撃ちを仕掛ける事は出来るだろう。だが、それをまた剣で防がれれば、次の瞬間には投げつけられた剣がハルの身体を貫く。そういう予想が出来てしまう。
「となると、漸く俺の出番ってところか!」
 しかし、ハルは一人では無かった。戦う猟兵は一人では無い。ハル一人をオブリビオンは追い詰めたつもりになっているかもしれないが、また別の猟兵の援護がある以上、戦い方は幾らでも存在しているのだ。
 ヴィクティム・ウィンターミュートの援護もまた、そういう類のものだろう。
 彼は叫び、そうしてオブリビオンの視界を自らに向けさせる。
「自分が引き受けている間に、仲間に攻撃でもさせるつもりか?」
「いいや? そろそろ効いてくる頃だろうから、宣言させて貰っただけさ。ありがとうよ、坊主」
「……誰が坊主ですか」
 ハルは笑うヴィクティムを見ながら、溜め息を吐きたくなった。時間稼ぎの仕事はこれで終わり。散々に受けに回り続けたハルであるし、命の危険すらもあったが、それでも、本当に、そろそろ効いて来てくれた。
 即興のチームワークと言えば良いのか、ハルはこのヴィクティムが、ハルとオブリビオンとの戦いの裏で、何かの準備をしていた事を察する。
「これは……私の剣が!」
 漸く、オブリビオンの顔が驚愕に染まってくれた。
 オブリビオンが握り込んでいたその剣が、腐食するかの様に溶け始めていたからだ。
「特製のナノマシンだ。対象を腐食させるとっておき。おたくが悠長に戦っている間に、あんたの武器の周囲に散布させて貰ってな!」
「くそっ……私から武器を奪ったつもりかぁ!」
 オブリビオンは剣を召喚し、その剣が腐食する。その効果はつまり、オブリビオンがどれほど剣を召喚したところで、それが武器となる事は無いと言う事。
 その事実にオブリビオンは怒り、そうして狙いをヴィクティムへと変えて走り始め、次には剣では無く、足を崩した。
「なっ……がぁ!」
 膝を突くオブリビオン。その姿を見て、再びヴィクティムは笑う。笑ってやる。
「散布したと言ったぜ? 剣だけじゃなく、それはお前自身にも有効ってわけだ!」
「くそっ……くそ! 私が……こんなものに!」
 動揺し、驚愕し、怒りに染まるそのオブリビオンは、屋敷で悠然としていた頃とは大きく違う無様さを晒していた。
「所詮は、生きようとする覚悟無き余裕。崩れる時は、何とも脆い。そんな存在が、良く、誰かの価値を語れたものだ。あの集落の価値を語れる程に、お前自身は上等か?」
 膝を折るオブリビオンを、ハルは蔑む様に見つめる。
「私が……私の存在には、それだけの“価値”がある! あの集落に存在するすべてを合わせたよりももっと、もっと大きな価値が!」
「ああ、そうかもな。あの村を、命を賭けてまで守る価値があるか。そう言ったな? 悪いが俺はリアリストでね。あそこの村にある命に、価値なんざない。お前の言う通りだよ。だけどな……」
 ヴィクティムはオブリビオンに一歩近づいてから、その言葉を告げる。
「土壇場で価値が"芽生えた"。支配されて、ただ奪われて泥濘の上で無意味に生きていく命に価値なんざねえ。だが、少しでも。少しでも反抗する意志があるなら。強者に一矢を報いたいと、そう思うのなら。命に、価値という名の炎が灯る。あそこにいたガキは立ち上がった。自分の意志で、足で! 今、この世界に必要なのは……そういう意志だよ。だから、消させねえ」
 続けるヴィクティムのその言葉は、オブリビオンがナノマシンにより侵食されるまでの時間稼ぎだったかもしれないが、どこか、ヴィクティムの本音にも聞こえる。
 そうして、トドメの言葉をヴィクティムは告げる。
「お前の“価値”は、ここで腐り落ちて行く。命に価値があるってのは、つまり……生きてるからこその価値ってことさ! 次の未来に、お前の価値は消えるって事でもある!」
 足だけでは無く、全身にもナノマシンが侵食していくオブリビオン。身体のところどころが崩れて行く中で、オブリビオンは断末魔とすら思える叫びを上げた。
「まだだ……まだ……まだ私は生きている!!」
 叫ぶオブリビオンの言葉と同時に、周囲に無数の剣が。それだけでは無い、再びオブリビオンが召喚したらしき蝙蝠もまた大量に発生し、まるでオブリビオンを中心として爆発する様に、それらが猟兵達へと襲い掛かって来た。
 断末魔に思えたその叫びはつまり……オブリビオンの、決死の反撃を意味していたのである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

蒼焔・赫煌
????
え、誰かを助けるのに価値とかそーいうのって必要なの?
可愛い僕にはさっぱり理解できないんだけど
ボクは正義の味方だから、困ってる人をボクが助けたいから助けるの
それが楽しいからするんだよ
可愛いボクの力が誰かのためになるのがすっごく楽しくて嬉しいの
だからキミの聞きたいことはさっぱり分からないよ
だってボクは自分のやりたいことをしたいようにしているだけだからさ!

武装化したら真正面から突撃して斬りかかるよ!
多少のダメージは気にしないしない!
【捨て身の一撃】で特大の一撃をぶち込む【覚悟】さ!
身を捨ててこそ……浮かぶ瀬も、あれ! なんてね!!
可愛いボクを倒すのは骨が折れるだろうけど!


アルトリウス・セレスタイト
強者を気取るなら余裕くらい保つんだな

破天で蝙蝠諸共に掃討
高速詠唱・全力魔法・2回攻撃・範囲攻撃など駆使し、破裂する魔弾の弾幕を絶え間なく叩き付ける面制圧飽和攻撃
細かく狙わず見える敵勢力を残らず正面から
目標の起こす行動も含めて全てを物量で圧殺する

逃亡するようなら界識で追跡し回廊で味方と共に追撃



 爆発が如き勢いでばら撒かれていく剣と蝙蝠。
 その圧力に対して、猟兵達は散り散りに回避を始めた。オブリビオンの最後の力が如きその攻撃を耐え切る事。それが勝利に繋がるからだ。
 一方で、そうは考えない猟兵もいる。
「剣に蝙蝠の雨あられ! みんな僕を狙ってるって、僕ったら随分と人気者だ! そんな人気に、僕は答えてあげるべきかな? かな?」
「剣と蝙蝠に何を答えると?」
 剣林獣雨。そんな中において、はしゃぐ猟兵、蒼焔・赫煌と、そんな彼女に話し掛けられるアルトリウス・セレスタイト。
 この二人は攻撃を回避しながらも、話を続けていた。というより蒼焔が一方的に話を続けさせていた。
「君達はここで最後だー! 僕の剣の露と消えよー! とか、そんな感じで」
「躱しながらそれをすれば良いだろう」
「なんかそれは僕らしくない!」
「……そうか」
 話を続けるのに疲れて来たので、暫くは黙る事にしようか。アルトリウスがそう考え始めた頃、蒼焔は聞き流せない言葉を口にした。
「僕はね、あのオブリビオンにトドメを刺してやりたいのさ! これまで散々に好き勝手して、そうしてこのまま、全力全開の力を尽くして、やり遂げたみたいに死んでいく? そういうのって、ズルいじゃないか!」
「……まあ、そうだな」
 人を苦しめて来た上で、今も猟兵を苦しめ続けている。それでそのままこの世から去るというのは、出来過ぎている話だ。最後くらいは、目にもの見せて貰いたいとも思う。
 なるほど。アルトリウス自身、その実、蒼焔と同じ気分であったらしい。
「俺がすべて引き受ける」
「え?」
「俺がこの剣と蝙蝠の群れを全部引き受ける。そうしてアンタは、アンタが望む最後をあのオブリビオンに与えてやれ。分かったな?」
「分かったけど……良いの? ほんとに?」
 最後のトリくらいなら取らせてやる。そう言っているのだから、素直に受け入れればどうだとアルトリウスは呟きたくなる。
 どうせ、これから一番目立つのは自分だ。自分の全力でもって、この剣と蝙蝠の波を弾き飛ばすつもりなのだから。
「さぁ、ここがお前の行き止まりだ。どうせ、既に前にも進めないだろうが……」
 さらにそこから台無しにしてやろう。そんな風に考えて、アルトリウスはオブリビオンが振るう力に対して、自らのユーベルコードを解放した。
 【破天】。青く輝く魔弾の弾幕を放つその力は、オブリビオンが放った幾つもの剣と蝙蝠を、正面から叩き潰して行く。
 アルトリウスの技能、能力、あとは体力や精神力やら。すべてを費やし、相手の物量に物量を重ねて消失させる。
 別にこの後がどうなろうと構わない。トドメなら任せた相手がいるのだから、最後くらいは派手に目立とう。
「さて? 隙なら作ってやったぞ? ド派手にな?」
「青くってキラキラしてて、気に入りましたよ! 僕の舞台としてね!」
 抜かせとその背中にぶつけたくなるものの、今の蒼焔は、ガラ空きとなったオブリビオンの正面へと走り出していた。
 オブリビオンは既に足を、全身を崩され、身動きも取れない様子。だから距離はすぐに縮まる。
 そんなオブリビオンに対して、何時の間にか纏った骨の装甲と骨の刃を纏った蒼焔は、次にオブリビオンへと刃を振り下ろしていた。
「そっちがそうして来たみたいに、僕も自分のしたいようにさせて貰うよっと!」
 蒼焔のその言葉に、オブリビオンが何を思ったのか。アルトリウスには分からなかった。もっと近くにいる蒼焔なら、何か分かるだろうかと彼女を見るものの……。
「やったね! ブイだよブイ!」
 と、こちらを振り向いてピースサインを向けてくるところを見るに、きっと彼女も、何も考えていないのだろう。
(最後はそういう清々しいくらいの雰囲気で、丁度良いのかもしれないな)
 アルトリウスはぼんやりと、そんな事を考えながら、戦いの終わりを確認していた。



 終わりでは無い。
 戦いは終わったとしても終わりではきっと無い。
 彼女がそう思ったのかは知らないが、蒼焔は再び、集落へと戻って来ていた。
 この世界を去る前に、もう一度、その光景を見ておきたかった……と、考えているかどうかは、やはり知らない。彼女に同行する形になったアルトリウスも、きっと知らない事であった。
「オブリビオンを倒した。そういう報告くらいはするべきだと、そう考えたわけか?」
「え? そんなの、僕以外の猟兵さんがしてくれるんじゃないの?」
 あっけらかんとした蒼焔の様子に、どう返したものかと迷うアルトリウスであったが、まあ良いかと諦める。彼女との付き合いで大事な事は、きっとそういう諦めの心だろう。
「その猟兵さんとやらが俺かもしれない。集落を支配し、襲った輩は倒したと、そう言ってやらねば、この集落には何の未来も無くなりそうでな」
 アルトリウスは、戻って来たその集落を見つめる。
 オブリビオンとの戦いに参加していない猟兵は、この集落の復興作業を続けていたのだろうが、まだまだ先が長く見える。
 猟兵だって、何時かはここを去るだろうし、そうなった時、この破壊し尽くされた集落はどうなっているだろうか?
 家々や田畑はマシになるかもしれない。かつての姿だって取り戻すだろう。
 だが、人の命まではそうも行かないはずだ。失った命はあまりにも多く、その多さを思えば、またこの先の一歩を踏み出せるかどうか。アルトリウスには断言が出来なかった。
「僕は……その先の未来をここに見に来たんだけどねー」
 軽く言いながら、蒼焔は生き残った村人達の手当をしている広場までやってきた。
 幾らか、テントや簡易の建屋などが準備され始めたそこでは、他の猟兵達が未だに慌ただしく働き続けていた。
 そこまではアルトリウスの予想通りの光景だったが、一人、猟兵とは違う人間が混ざっている様に見えた。
「あれは……」
「村の子どもだろうね。ああやって、誰を助けようとしている。きっと誰かに助けられたからだよ。そんな関係が続く限り、この村は大丈夫なんじゃないかな? ま、僕は良く分かんないけど」
「……かもな」
 二人して、猟兵達を手伝っている少年の姿を見つめる。
 まだまだ弱弱しい姿を晒した、弱い人間かもしれないが、それでも、少しずつだが出来る事をしようと成長し続けている。その価値を高めている。
 生きている限り、諦めない限り、それが出来る。それがきっと命の価値と言うものかもしれない。
 アルトリウスがそんな風に思い、蒼焔がへらへら笑う。それは二人が、見ているだけじゃなく働けと他の猟兵に文句を言われるまでは続く事になった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月26日


挿絵イラスト