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一掬の涙

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●涙不知
 はじめに気付いたのは、灯りを掲げたひとりの少女だ。
 暗い迷宮で、まろい灯りの隅に妙な影が過ぎった――気がした。
「ミュウ、じゃ、ないよね……あんなに大きなの。もしかして巨大な機械鼠?」
 一応の警戒をして角を覗き込んだ少女は、そこに何も居ないのを確認する。
「見間違いかあ。もう、ミュウどこいっちゃったの」
 息を吐いた彼女に直後届いたのは、同行する友人たちの耳を劈くような悲鳴。
 咄嗟に振り返った少女は、通路めいっぱいに広がる焔を瞳に映す。
 轟々と燃える赤と、迷宮が常に奏でる蒸気機関の駆動音が入り混じり、友の声も姿も掻き消える。
 熱に煽られ少女は後退った。炎の中に、巨大な機械がちらりと見える。
 そして気付いたときには、眼前に迫る大きな砲弾の群れ。
 少女は砲弾の雨に撃たれ、悲鳴をあげる暇もなく命尽きた。

●グリモアベースにて
「迷宮の奥に、炎と砲弾を使う蛇型のオブリビオンがいるのはわかってるの」
 ただ詳細までは視えなかったと、グリモア猟兵のホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)は口を開く。
「オブリビオンが潜む迷宮に入るには、まず扉を抜ける必要があるわ」
 冷えた機械の森に、固く閉ざされた機械の扉が佇んでいる。
 扉は三種の巣を抱いているが、どの巣にも住まうものの姿が無い。
 三種の巣を備えた機械扉の前には、真鍮製の噴水と王子像が立つ巨大な広場もある。
 その広場に、機械鳥の部品が疎らに落ちている――機械鳥たちは怪我をしていた。
「機械鳥たちを治して、巣に戻してあげてほしいのよ」
 元気になった機械鳥が三種の巣へ戻れば、扉は開くのだとホーラは告げる。
 機械鳥に近い種を実在する鳥で喩えると、ホトトギスとコノハズク、そしてツバメだ。
 ホトトギスに似た機械鳥は、悲しげな声を響かせてくれても、姿を容易には見せない。
 コノハズクに似た機械鳥は、露に濡れた百合の機械花が咲く森にいるが、近づこうとしただけで逃げてしまう。
 ツバメに似た機械鳥は、王子像と森を行き来して忙しないが、人には慣れている。脅かさなければ、他の二種に比べて簡単に掴まえられるだろう。
「怪我してる箇所も、鳥さんたちがいる場所も、それぞれ異なるわ」
 また、広場の周りには機械で出来た森が広がっている。
 森は広く、場所によって咲く花などの植物も変わってくる。植物もすべて機械で造られていて、元になった花や緑の薫りがする。

「予知した子たちは、まだ迷宮に潜っていないから、そこは心配しないで平気よ」
 彼らが探索を始める前にオブリビオンを片づけてしまえば、問題は無い。
 ただひとつ、学園の生徒たちの探索理由についてホーラは付け加えた。
「女の子のひとりがね、迷宮に迷い込んだ魔法研究のパートナーを探してるの」
 ミュウと呼んでいる猫だ。扉を抜けた先の迷宮で、ミュウのことも探してほしい。
 そうホーラは伝えると、猟兵たちを見て微笑んだ。
「さ、転送準備にとりかかるわ! 用意ができたら、声をかけてちょうだいね」


棟方ろか
 お世話になります、棟方ろかと申します。
 シナリオの主目的は『オブリビオンの撃破』です。
 コンセプトは『蒸気機関と涙』で、第一章と第二章は探索を行い、第三章でボス戦となります。

●一章について
 破損した三種類の機械鳥を探して掴まえ、修理して巣に戻しましょう。
 見た目が近い種は、ホトトギス、コノハズク、ツバメ。(似ているだけで、実在の鳥と異なる部分があります)
 能力値による指針も表記されておりますが、思い思いにどうぞ。

●二章以降について
 その都度、リプレイを載せますのでそちらもご覧くださいませ。

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 冒険 『風恋う鉄』

POW   :    使えそうな部品を探す

SPD   :    機械鳥を修理する

WIZ   :    破損個所や状態を調べる

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

コイスル・スズリズム
【WIZ・アドリブ歓迎】
すずの大好きな魔法学園で
せつない事件がおきるなんて許せないね
微力ながらお手伝いさせてもらうね

目立たない、忍び足を活用
第六感を使いながら、森へコノハズクを探しにいくよ

姿がわかったら
ゆっくりと近づいてって
そっとすずのUC「That that that」でまずは袖口に閉じ込める
ここが安全だから、じっとしててね

その後は状態を調べる
状態がわかったら
「シンフォニック・キュア」を祈りと優しさを込め歌う
修理できなかったら
修理が得意な同行している他の方にお願いする

見つかってしまったら残像を範囲攻撃で用いて
複数のすずで取り囲む
あるいは同行の人と協力して一緒に囲いこむようにしてUCで捕まえる


鴛海・真魚
機械の鳥に歌声は届くかしら?
歌唱で鳥の声を真似してみるの。
口笛を吹いてみるなんてのも良いかしら?

悲しい声でなくあなたはだあれ。
どうしてそんなに悲しいの?恋の痛み?
あなたの力になれないかしら……?少しお話をしてほしいな。
口笛を吹いて悲しい声を出すホトトギスを探すの

あら、あんなところに。
こっちにおいで、一緒にお話をしましょう。
きっとあなたの悩みも解決できるわ

こっちに来てくれたら治すの。
痛くないわ大丈夫。癒すのは得意なの、安心して。
気休め程度のシンフォニック・キュアで機械の鳥を癒すことはできないかしら
そうね、心が無いもの。
でもとても素敵な鳥だったわ。今度は喜びの歌を聞かせてね


終夜・嵐吾
キトリ(f02354)と。

わしらはコノハズクを探そう。
百合の機械花とは……さすがにわしの虚の主も姿をかえるは無理じゃろな。

探すのは、木の洞など高い処を。
……と、思ったが。もし翼などを怪我しておれば飛べぬかもしれん。
地面にも目を向けよう。ようよう目を凝らして探す。
もし姿を見つけたら――キトリ、任せる。
図体のでかいわしがいくよりも、緊張はせんじゃろから。

もし、その身に触れること許してくれたならわしが運ぼう。
傷を治すのは……できるじゃろか。得意な猟兵がおれば任せよう。
おらんかったら、よくよく傷をみて。
これか、あれかとおちておる部品と見比べて、優しくゆっくり……でもキトリ助けておくれってなりそうじゃ。


キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)と一緒に、他の皆とも協力して
あたし達はコノハズクを探しに行くわね
コノハズクが慣れている香りとかがあれば
少しはびっくりさせないで済むかなと思って
百合の機械花を一輪拝借

花の隙間、草の陰、地面にいなければ、木の上まで飛んで探して
見つけられたらまずはご挨拶からって思うけれど
機械鳥さんとお話は出来るかしら
それともこっちの姿を見ただけで、びっくりして逃げちゃうかしら
あたし達、あなたのことを助けたいの
痛いところを治して、お家に帰れるようにしてあげたいの
だから、どうか怖がらないで

コノハズクを保護できたら傷の状態を確認
手当てに使えそうな部品はきっと森の中にあると思うから、嵐吾、お願いね!


レザリア・アドニス
不思議ですね…花も、樹も、鳥も、機械で作られたのに、まるで生物のように…
森を巡って、百合の香りを追う
見つければ百合を一輪摘んで、髪につける
無闇に近づけない、両腕を広げて無害の意を表し、コノハズクの鳴き声を模倣して呼びかける
来たらそっと手を伸ばし、ここに止まって、と
治してあげるから、暫く我慢してね、と優しく掴んで隅々まで観察する
欠けた部分を紙に描いて、部品を探している方を見せ、部品探しを願う
探す間に、関節などの動く具合もチェック、オイルや磨きなどが必要ならメンテをする
不安そうになったらそっと撫でて落ち着かせる
直した後、百合を添えてそっと巣に戻す
ええと、君は、こちらの巣に住んでるよね?



●機械の森
 真鍮が連なる森は、彩りと呼ぶには程遠い鈍い色に充ちていた。
 冷たく広がるそこは、機械の森。敷き詰められた配管や基板が、でこぼこな感触を靴裏に刻み付け、猟兵たちの歩調を鈍らせる。
 しかし天を仰げば、地下迷宮とは思えぬ高さで、天井から降りそそぐ琥珀の光は明るかった。光と同じ色の目を眩げに細めて、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は唇を震わす。
「機械の空とはいえ、羽ばたけばさぞ心地好いじゃろな。そう思わぬか、キトリ」
 嵐吾がのんびりと言葉を紡ぎ、同行者の名を呼ぶ。
 すると背丈30センチにも満たないキトリ・フローエ(星導・f02354)は、ふわふわ浮かびながらも難しそうに眉根を寄せて、腕組みした。
「星が見えてくれれば、もっと良いんだけどね」
 自身が知る森をキトリは思い起こす。夜を導く数多の星が、濃い藍色に散りばめられた光景を。恋しさや郷愁とは異なるが、やはり夜空が見えない地下世界は、キトリには寂しく感じる。
 答えた少女に嵐吾は薄く笑み、静々と振り返った。
 視線の先にいたのはコイスル・スズリズム(人間のシンフォニア・f02317)と、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)だ。二人も嵐吾たち同様、コノハズクを探すべく森に踏み入っていた。
 真鍮の背景に溶ける淡い金の髪を靡かせて、コイスルは提案する。
「この森、結構広そう。手分けするのが良さそうね」
 片側の掌に琥珀色の木漏れ日を受けたコイスルは、果てのわからぬ森を見渡す。
 彼女の提案に、レザリアはこくんと頷いた。生きる森を映すはずの双眸に、機械特有の淡泊さを映して、葉すら舞い散らない木々を見上げる。
 視線動くレザリアとは別に、キトリと嵐吾も顔を見合わせて首肯した。
「名案ね。じゃあ、また後で!」
「達者での」
 挨拶もそこそこにキトリと嵐吾は奥へ進み、コイスルも二人とは違う方角へ靴先を向ける。
 森に姿消えゆく猟兵たちを見届け、レザリアが樹木に触れてみる。表面はひんやりしていて硬く、樹皮らしい目はない。磨かれた形跡も見当たらず、板金でできた木肌は濁り、ところどころ色が剥げ落ちている。レザリアは首を傾げた。
 ――人の手が入っていない……のかも。それも、随分と長い間。
 ざらりと指の腹で擦ったものを確かめてみれば、埃だった。木に付着した埃が固まり、黒ずんだのだろう。
 ふと後ろを見遣れば、先ほどから耳をそばだてている鴛海・真魚(恋心・f02571)がいた。鳥の声を聴き、何度も真似て口笛を吹き始めた真魚を見て、レザリアは物音を立てないよう注意を払い、ひとり森の奥へ歩き出す。
 くるりと機械の森を見回して、真魚の身体も踊るように揺れる。
 ――機械の鳥にも届くかしら。
 鳥の歌を倣って紡ぐ。青く透る喉を抜けた声は、真魚の意思を帯びて動かぬ森に響いた。
 ――受け取ってくれるかしら。
 不意にやめてみると、キィィン、と残響が鼓膜をくすぐる。葉や草が笑わない森に広がる真魚の唄は、機械を震わせた。
 やがて聞こえた声は、さらに奥地から。
「嗚呼、だれかを呼んで鳴いているのね」
 嘆きにも似た溜息を零して、真魚はホトトギスの呼び声を追った。

●機械の鳥
 稼働しているのかさえ判らぬほど、静寂を湛えた無機の森。
 森は、生きとし生けるものの鼓動も、移り行く時間も、すべてが止まったかのように錯覚させた。
 けれど、機械鳥は生きている。それを見つけたのはキトリだ。
 キトリが木の上まで羽ばたけば、天井から降る黄金に羽が照らされて、きらきらと星の煌めきが零れる。
 その煌めきに眸を眇めた機械鳥――コノハズクが、百合の機械花が咲き誇る一帯で休んでいた。
 樹上からそれを目撃したキトリは、嵐吾に目的地までの距離を告げて自らも花畑へ飛ぶ。
 二人が近づいた花畑は、小さくとも整然とした場所だった。馥郁とした百合の香に、すん、と嵐吾が鼻を鳴らす。
 ――虚の主も、この場で姿をかえるは無理じゃろな。
 花が香る裡は目覚めぬ洞を想い、嵐吾は顎を撫でた。彼がそう思うほど香気が漂っている。もしかすると、本物の百合より熾烈に。
 鈍く艶めいた百合を前に立ち止まった二人を、コノハズクがじっと凝視する。警戒しているのか、開いた眼から放たれる光は、香り同様に強い。
 ようようと凝らした嵐吾の視線が、地を這った。目の前の一羽に見蕩れて別の鳥を驚かせでもしたら大変だと、嵐吾は慎重に歩を進める。
 その傍で、一輪の花に手を伸ばしたのはキトリだ。
 触れた指にひんやりと伝う、百合の露。金属ならではの温度のまま、機械花はキトリの腕に収まった。
「……抜けなかったら、どうしようかと思った」
 安堵を吐息に含んでキトリが呟く。
 金属類で構成された森だけあり、それぞれの機材が繋がっている可能性を危惧したが、無事に花摘みが叶った。よくよく見下ろせば、花が咲いている地面は蒸気機関の一部らしき基盤だ。花を抜いた箇所では、ぽっかりと穴が口を開けている。
 そういう仕組みね、とキトリは少しばかり重たそうに機械花を抱えて飛ぶ。
 彼女が向かう先では嵐吾が、身を低めてコノハズクを窺っていた。翼の付け根が抉れているのが、見て取れる。
「キトリ、任せる。わしは図体もでかいしの、暫し待つ」
 気遣う嵐吾に頷いてから、キトリは百合の薫りを纏いながら機械鳥へ近づく。
 そして奔る緊張を肌身に感じ、空気を和らげるために歌った。花と精霊の歌声に耳を傾けてきた少女の歌は、縮こまったコノハズクを次第に解していく。
 やがて緩慢なまばたきを始めたコノハズクへ、歌う代わりに想いを手向ける。
「あたし達、あなたのことを助けたいの」
 コノハズクが慣れている芳香と、真っ直ぐな言葉でキトリが訴えかける。
「だから、どうか怖がらないで」
 言いながら百合の機械花を差し出せば、同じ素材で作られたコノハズクが寄り添う。
 そして百合に頬擦りするコノハズクを、物音を立てないよう近付いた嵐吾が、両の手でやさしく包み込んだ。

 同じ頃、コイスルは足音さえも忍ばせて森の中を歩いていた。
 ――すずの大好きな魔法学園で、せつない事件がおきるなんて。
 地下には無い見晴るかす夜。それを映したかのような藍色の瞳が、僅かに揺れる。
 ――そんなの、許せないね。早く解決しなくちゃ。
 両の拳を握り、意気込んだ彼女の意識はすぐさま、枝で羽を休めるコノハズクへ傾く。
 百合の機械花が足元で咲く、小柄な木。わざわざ木登りせずとも届く高さに、機械鳥のコノハズクは居た。欠けた翼が痛々しい。
 こっそり近づこうとしたものの、機械とはいえやはり鳥なのだろう。眠たげに伏せていた真鍮の瞼も、来訪者の気配に感付き開かれる。
 こんにちは、とコイスルは笑みに挨拶を乗せた。コノハズクが言葉返さずとも、瞬いた眼で声が届いていることだけ確かめ、コイスルは腕を伸ばす。館の一室に備えられた幕を思わせる袖のドレープで、やや後退り気味なコノハズクの表面に触れた――それは彼女のユーベルコード。
 袖は正しく幕と化し、そっとコノハズクを隠す。内に秘めた幻想の庭に、機械鳥を招待したのだ。
「ここが安全だから、じっとしててね」
 秘密の庭で日向ぼっこする機械のコノハズクへ囁いて、コイスルは踵を返した。

 彼女からそう遠くない森で、レザリアは百合の薫りを追う。
 巡る歩みは似た色の基盤や板金を踏み、静かな森に彷徨う。
 不思議ですね、と誰にでもなく機械へレザリアの呟きが落ちる。漸く見つけた百合の機械花に触れた面から滲む温度も、滑らかな肌触りも、人智の及ぶ金属のものであるのに。
 ――まるで、生物のよう。
 機械の花も、樹木も、そして鳥さえこの森で生きている。
 人間を必要としない空間なのだろうか。あるいは、人間が立ち入らぬ場だからか。答えに至らず緩くかぶりを振って、レザリアは百合の機械花を一輪摘んだ。
 髪に咲く福寿草の合間に、百合を挿す。幸福を招く花に、無垢なる花の香りが燈った。
 そのとき、ポウ、ソウ、と鳴き声がレザリアの耳に届く。百合の機械花が群生する別の域に、鳴き声の主はいた。
 片羽をばたつかせて均衡を保ち、金属製の低木へ止まる。大自然に生きる植物であれば、恐らく鳥が休むことすら許さないほど、か細い低木。手鞠を連想する淑やかな花は、沈丁花だ。
 花から花へ移りゆくコノハズクを前に、レザリアは両腕を広げて、鳴き声を模倣する。プッ、ポウ、と一定のリズムで音を発し、指先まで伸ばしつつも力が入らぬよう集中する。気を張っていては、コノハズクを警戒させる恐れがあるからだ。
 自分からは寄らず、コノハズクの意思に委ねたレザリアの行動は、徐々に鳥の心を揺り動かす。
 そして髪を飾る花もまた、コノハズクの警戒を解く一因となった。もう片方の翼が機能していないらしく、片羽を広げてひょこひょことコノハズクが近づいてくる。
「……ここに」
 レザリアが差し伸べた手を伝い、コノハズクはよろめきながらも彼女の肩まで登る。
 ポウ、ポウ、と何ごとか話し掛けてくるコノハズクへ、レザリアも同じ声で応じた。

 清かに歌う真魚の言葉が、無機質な森に木霊する。
 悲しき声を零す鳥への問いかけは、やがてホトトギスが姿を現すきっかけになった。
「あなたはだあれ? ねえ、一緒にお話しをしましょう」
 甘い誘いをかけてみると、ホトトギスがもうひと鳴きする。あら、と真魚は透く睫毛をぱしぱしと震わせて。
「どうしてそんなに悲しいの? 恋の痛みかしら?」
 心なしか浮き上がった真魚の声に、機械鳥が奏でる音色も少しずつ弾みだす。
「あなたの力になりたいの。さ、こっちにおいで」
 光さえ抜け落ちる指先で招けば、翼の折れたホトトギスが微速で歩み寄る。
 ――機械の鳥も、癒せるかしら。
 首を傾げた真魚が紡ぐのは、共感したものに一滴の癒しをもたらす歌。気休め程度だろうと、彼女自身も思っていた。それでも、何かせずに居られない。
 つぶらな機械の眼がそんな真魚を見上げ、水の流れにも似た手に乗る。折れた翼は歌で戻らずとも、温もり無き鳥が、自らの手で安らいだのはわかる。
 安心して、と真魚は微笑んだ。
「痛くないわ、大丈夫。治してあげるから」
 他のみんなもきっと同じ気持ちよ。
 歌のごとく話すクリスタリアンの女性に、ホトトギスは尾を揺らした。

●扉の前で
 機械鳥を連れた猟兵たちが、扉の前へ集まる。
 修理するのなら、一堂に会した方が協力し合えて良いと考え、各々動いたためだ。
 機械鳥の破損箇所を調べて、レザリアが紙に描く。嵌りそうな形状が判れば、部品を捜索する側も手際よく動ける。彼女からイラスト付きの紙を受け取った嵐吾が、任されたと胸を叩き、部品探しの旅に出た。
 仲間を見送り、それにしても、と口を開いたのはキトリだ。
「どうしてこんなに傷んでいるのかしら」
 見つけた鳥はいずれも、カラダの一部が壊れている。さすがに気がかりだった。
 木々にぶつかり怪我をしただけの可能性もある。だがそれならば、顔や嘴の破損がもっと目立つだろうとキトリは唸った。
 会話を耳に入れつつ、無言のままレザリアは鳥たちの関節の動きを確認し、防錆の潤滑油を挿していく。
 一方で、鼻歌を奏でていたコイスルが小さく肯う。
「翼やその周りばかり、怪我してるのよね」
 彼女たちが連れてきた機械鳥たちは、皆、顔面や嘴に異常は無い。ただ翼が欠損していたり、または折れていたりと、鳥にとって命とも呼べる部分の損傷が目立つ。
 視線を宙に彷徨わせていた真魚も、はたと気づいてホトトギスに話し掛ける。
「衝突したの? 何かに引っかかった? それとも……」
 途切れた言葉の先が綴れない。否応なしに襲い来る不安は、彼女たちの間で共有されつつあった。
 そこへ、いくつものパーツを抱えた嵐吾が戻ってくる。
「……気になったんじゃが」
 風呂敷の上にパーツを広げながら、嵐吾が言う。
「この森には、鳥以外の獣がおらんのう」
 猟兵たちが発見した鳥を除いて、動物らしき存在は無い。
 真魚がホトトギスの身を優しく磨きながら、何の気なしに呟く。
「天敵がいないのね」
 呟いてから瞬きをして、首を傾ぐ。
「あら? それだとやっぱり不思議」
 きょとんとした真魚の話を受けて、唸っていたキトリは大きな扉を仰いだ。
 ――いくらなんでも、扉が開かないようにした、なんてことは……。
 過ぎる違和感を胸に抱き、部品を組み合わせていく。
 ふと目線を流せば、冷え切ったコノハズクが部品を見比べる嵐吾の膝を止まり木にしていた。コノハズクもすっかり安心しきったのか、閉ざした瞼のおかげで笑っているように見える。
 しかし肝心の嵐吾の表情は、穏やかなコノハズクとは対極にあった。頬に滲み出る、焦りの影。
「キトリ……助けておくれ」
 彼の集中も、さすがに切れかけらしい。
 震えた声で助力を乞われたキトリは、彼と軽く手を叩きあってからコノハズクの治療に取りかかった。

 コイスルと真魚の歌が、祈りを帯びて機械の森に漂う。
 機械鳥たちを宥め癒す歌が続く裡に、蘇った鳥たちが巣へ飛び立っていく。
 まともに動けるようになったコノハズクを諸手で掬い、レザリアも巣へ促した。
「ええと……君は、こちらの巣に住んでるよね?」
 ホウ、と弾んで応じたコノハズクに、レザリアも微かに頬を緩め、百合の機械花を巣に添える。
「これなら、寂しくないはず」
 百合の澄んだ香りが、名残惜しそうに彼女の手を離れた。
 巣へ帰った鳥たちを眺めて、真魚もまた目を細める。
 機械でできた鳥にも、素敵な一面が窺えた。その事実は、確かに彼女の胸に残る。
 だから鳥たちへ手を振って。
「こんど会うときは、喜びの歌を聞かせてね」
 黄銅が織りなす広場に、応じるような鳴き声がいくつも重なった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

赫・絲
【WIZ】

迷い込んじゃった猫も心配だけど、先に進むためにも、まずは機械鳥達を直してあげないとね

まずどこが壊れちゃったのか調べようかな
一番見つけやすそうなツバメに似た機械鳥を探して、その子の部品を探す

一先ず王子像側で待ってみよっと
待ってる間にそれらしい部品がないか王子像の周囲を探索
もしかして、っていうモノが落ちてたら念のために拾っておくね

ツバメを見つけたら、驚かさないようにゆっくり近くへ
近くから壊れた箇所がないか確認して【情報収取】
できれば、おいで、って手を差し伸べてみてもう少ししっかり観察したいところ
しゃがんだりして警戒されないように気をつけるよ

修理箇所が特定できて、部品も揃ってたら修理するね


斎部・花虎
【POW】
……、きれいな鳥だな
愛らしいものを見ると、おれだって少しくらいは頬が緩む
嗚呼、よしよし、治してやろうな

ただ、おれが不用意に触れると、壊れてしまいそうで
だからおれは、部品を探す方に行こう

『失せ物探し』が何かの役に立ちはしないか、どうかな
機械の草葉の影ひとつ、見落とさぬように慎重に
小さな大事なパーツを見逃したりはしない様に
少しずつ少しずつ、丁寧に浚っていこう
誰かと協調する事叶えば、手分けをしたりもして

元気になった鳥が飛ぶ様を見れるのなら、少しだけ双眸眇めて
――さあ、急ごう
猫がいないと居ないと哀しむ子が居るのだろ


チガヤ・シフレット
リィ(f13106)と一緒に行動だ
懐いてくれてるので妹分みたいに可愛がってます

機械の森に、機械の鳥とはなかなかに面白いな?
色々と探索したいところだが、まずは修理からか。
おっと、リィは間違っても爆破しないようにな。

【SPD】

どの子の修理をしてやろうか。
個人的にはコノハズクが好きだがな。
百合の花を探して歩きまわってみよう。
上手く見つけられたら……ワイヤーでも撃ち出して捕まえるってのは……ちと危ないか?
むむ、これも乱暴か?
ならあとは全力で追いかけてみるか。

動きを見ながら、壊れている個所とかのあたりをつけておこう。

捕まえられたら修理だな。手先は器用だ、任せておけぃ。


リィリィット・エニウェア
チガヤ・シフレット(f04538)さんと参加
助けてもらったので姉御ーと懐いています
チガねーさんと呼びます

●SPDで挑戦!
え?爆破しちゃだめ?そっかぁ、追い込んで捕まえようと思ってたんだけど……
近づくと怯えちゃうらしいから、離れたところで
ガジェットショータイム!と、鳥を出して、見てる前で修理する
直してあげるよーってアピールだね!
向こうから近づいて来てくれるまで地道にアピールし続ける
って、ワイヤーも十分乱暴だよチガねーさん!

修理は一緒にしようね



●広場にて
 機械扉を構えた広場は、人の手によってつくられた場所に思えるのに、人の気配を一切残さずただただ横たわっている。
 朗笑さえも響かぬ広場の噴水前で、赫・絲(赤い糸・f00433)は王子像と森を交互に眺めた。
 ツバメの機械鳥は、森と王子像を行き来していると聞いた。だから絲は、森に入らず待機する選択肢を採る。
 淋しげに佇む王子像を仰ぎ、そのまま滑らせた目線を地面へ落とした。敷き詰められた配管と真鍮製の基盤は、蒸気機関の一部分だろう。散策するにしても、溝や突起物のおかげでまともに前を向けない。絲が実践せずとも、歩きにくい広場だと容易に知れる。
 王子像の足元に転がっていた螺子を拾った絲へと、穏やかな声が届く。
「おれは部品を探そう」
 そう話したのは斎部・花虎(ヤーアブルニー・f01877)だ。
 悪気なく触れたとしても、小柄な鳥を丁重に扱える自信が花虎にはない。壊れ物や華奢な命を後生大事に抱えるような真似は、きらいではないが不得手だった。
 ならば己の力量でやれることをと、花虎は歩き出す――機械鳥を優しく包めずとも、失せ物を探すのには長けている。
 歩みを進めていると、欠片は広場だけでなく森の入り口にも転がっていた。草葉の影、基盤の溝、配管と配管の隙間。そうした箇所を丁寧に浚い、細々としたパーツを集めながら、彼女は森へと入っていく。
 艶めく機械の森へ溶けた白を見送り、絲は王子像の前で腰を下ろす。
 ――迷い込んじゃった猫も、心配だなあ。
 景色を鮮やかに映す大きな眼で、扉を見上げた。三種の鳥の巣もまた、合金で編まれている。
 ――ここにあるのは、ぜんぶソレなんだね。
 右を見ても機械。左を見ても機械。
 撫でれば柔らかく肌に触れる草花も、動物が持つふわふわな毛も無い、静かな無機の世界。
 喉を晒して絲は瞼を伏せた。聴覚に頼っても、自然の森が紡ぐ風や生き物の音は聞こえない。
 不意に、気配を感じて絲が瞼を押し上げた。しゃがみこんだまま咄嗟には動きださず、力を抜いて王子像を見遣る。
 機械で出来たツバメが、像の肩に止まっていた。
 心なしか、翼に歪みを感じる。本来のツバメをすぐには想起しなくても、絲にはわかった。
 飛べるには飛べても、羽を故障しているようだ。
 そろりと、絲が手を差し伸べる。
「……おいで、ほら」
 人に慣れたツバメの機械鳥は、瞳に宿る意志の光を察したのだろうか。
 首を傾いだあと、跳ねるようにして像を下りてきた。不慣れな足取りは、やはり翼でバランスが保てないのも原因だろう。
「直してあげるからね」
 絲の掌へ着陸したツバメに、そっと囁いた。

●森のなか
 太陽を知らない森に、木漏れ日が射すはずもなかった。
 遥かな高みにある天井の照明だけを頼りに、森は煌めく。それは地下に横たわる森にとって、黄みがかった人工的な一定量の明かりを浴びるだけの、何の変哲もない日常だった。
 なかなかに面白いな、と口角を吊り上げ森に入ったのはチガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)だ。
 木々や草花を模るのは湾曲した板金。長いこと手入れされていないのだろう。表面は埃が付着し、色も鈍っている。
 そうして造られた草も枝も、風に揺れる楽しみにさえ気づかないまま群生していた。
 どことなく虚しさを覚えたチガヤは、しかしすぐに思考を切り替え、連れを振り返る。
「おっと。先に断っとくが、リィは間違っても爆破しないようにな」
「えっ!?」
 ダイナマイトガール、リィリィット・エニウェア(迷宮は爆発だ・f13106)の意向は告げる暇もなく却下された。
「ば、爆破しちゃだめ? そっか、そっかぁ」
 がっくり項垂れた拍子に、リィリィットの目許がゴーグルで覆われる。
 彼女はまん丸なレンズ越しに、やり場のない視線を地面へ落とした。
「追い込んで捕まえようかなって、思ったんだけど……」
「追い込む、か」
 意気消沈したリィリィットが続けた言葉に、顎へ手を添えたチガヤは微かに唸る。
「追い込むってのは名案だな、リィ」
 自信あふれる声音で、リィリィットの顔を覗き込んだ。
 すると、ゴーグルをぐいっと押し上げたリィリィットの鮮やかな緑に、再び光が灯る。
 がんばるぞーっ、と両腕を振り上げ気合いを注入し直すリィリィットをよそに、チガヤは周囲を歩き回った。
 ――さて、どの子の修理をしてやろうか。
 組んだ腕をとんとんと指先で叩き、チガヤは聞いていた三種の機械鳥に想いを馳せる。
 広場と森を行き来するツバメ。身を隠したまま鳴くホトトギスに、百合の機械花の近くにいるというコノハズク。
 考えながら歩いていたチガヤは、すんと鼻を鳴らす。仄かな香気が鼻孔をくすぐった。彼女は思わず、顎を引く。
「この方角で間違いない。いこう」
 金属製の木々や低木の狭間を進んだ先、百合の機械花が凛と咲く場所に、目当てのコノハズクは居た。芳しい中で、ポウ、ポウ、と鳴き声も気持ちよさそうだ。
 嬉々としてリィリィットが唇を舐め、鳥型ガジェットをポンと召喚する。
 首を傾ぐコノハズクとの距離を保ったまま、彼女は鳥型ガジェットに手を加え始めた。カチャカチャと鳴らしてガジェットの背を開き、管と管をソケットで繋げて見せる。
 修理の素振りだ。実演すれば、理解して歩み寄れるのではと期待を疼かせてリィリィットは作業を続ける。
「だいじょーぶだよ、直してあげるよーっ」
 囁きながら来い来い来いと手招くリィリィットの傍ら。
 す、と音もなくチガヤが取り出したのはワイヤーガンだ。超硬度のワイヤーを放てば、逃げ出しやすいコノハズクも容易に捕縛できるはず。平たく言えば、手っ取り早い。
 効率を重視して、チガヤは迷い無しに照準を合わせ始めた。
 そこでリィリィットがぎょっと目を見開く。
「って! ワイヤーも十分乱暴だよ、チガねーさん!」
「むむ、そうか、これも乱暴か?」
 指摘に淡い紫の粒ふたつをぱしぱしと瞬かせたのち、チガヤは考えを巡らせる。眉を上げ下げして彼女が思い至ったのは、ひとつの答え。
 ぐっと構え、彼女が行動に移したのは――ひたすら走ること。
 機械の森を、わき目もふらず全力疾走する。そこまで力を振り切れば、羽と背を負傷したコノハズクに逃げ場などなく、あっという間に片隅へと追い詰められた。
 行き場を失ったコノハズクを両手で掬い、チガヤは口端を上げる。
「あとは直すだけだな、任せておけぃ」
 頼もしく片目を瞑って宣言したチガヤを、コノハズクは円い瞳でじっと見つめるだけだ。

●開扉
 重々しい扉が聳える広場は、ひと気を得てようやく広場らしくなった。
 琥珀めいた輝きを散らす真鍮の噴水と王子像が見守る中で、猟兵たちは機械鳥の修理に励む。
 噴水の傍ではチガヤとリィリィットが話し合いながら、コノハズクを再構築していた。
 ふたりに挟まれたコノハズクは、声が降るたび主の顔を見上げるため、交互に頭を動かすのに忙しない。
 一方、花虎は部品を磨いていた。
 ちらりと一瞥を呉れれば、傍では絲がツバメの表面に付着した汚れを拭っている。鮮烈な艶と琥珀を均したかのような色の曲線、柔らかさの欠片も無い合金のカラダ。
 しかしそれは、棚の上に飾られ埃を被る置物ではなく、宙を自由に舞える鳥。
 花虎は息を呑んだ。
「……きれいな鳥だな」
 思いがけず心底から飛び出た情に、碧翠の眸が霞む。
 機械の鳥も、たしかに息衝いている。心臓を持たず、流れる血の色さえ知らない鳥。だが鳥は、同じ冷たさを有する機械の森を住処に日々を生きているのだと、花虎は痛感した。
 だからこそ緩んだ頬に力みを入れ直す――花虎と絲は先ほど、美しく宙をゆくだけの翼の付け根に、抉り取られた傷を見つけたからだ。
 よしよし、とこまめにツバメへ声をかけながらも花虎は手を動かす。部品の汚損箇所を拭き取り、埃を払う。
「ああ、大丈夫、治してやろうな」
 表情乏しくとも、白皙の肌に振り撒いた温もりまでは拭えない。数々のパーツも、そんな花虎の優しさに浴するばかりだった。
 部品が綺麗になったところで、花虎は修理を絲へと託す。
 手渡された絲の細い指先が、器用にパーツを組み込んでいく。
 ツバメの機械鳥は小柄だ。両の掌に収まるほどに。そんな身に空いた穴を弄るのも集中力が要る。けれど絲は面倒と音をあげることなく、欠けた箇所を補う。違和感ある動作をした鳥の関節部を工具で開き見て、汚れを払って部品をくっつける。
 最後に板金で穴を塞げば、色味は多少異なるものの立派な姿を取り戻した。
 作業中に呼吸を忘れていたかのように、ふう、と深い息を絲が吐く。
「これで飛べるはず」
 横たわっていたツバメが、彼女に促され掌から飛び立った。
 頭上高く幾度も旋回するツバメは、どうやら礼を述べているらしい。絲も花虎も、頬に安堵の朱を塗した。
 そして花虎が何の気なしに視線を下ろせば、猟兵たちの形跡が、四方八方に残っている。地上に在った鳥たちの、小さな小さな足跡も。
 しかし修理を受けた鳥は、躍動感あふれる飛行を見せてくれるようになった。鳥の足跡がこれ以上多く地に刻まれる機会は、そう巡ってこないだろう。
 チガヤとリィリィットの手により、コノハズクも自由を取り戻した。昼夜の境目が無い地下に広がる空へ、羽ばたいていく。
 やがて、巣へと鳥たちが戻る。
 すると重く軋んだ音と共に、気まぐれな猫が紛れ込んだという扉の向こう側が、徐々に姿を現した。
 猫の不在を哀しむ子を想った花虎の睫毛が、微かに揺れる。
「……さあ、急ごう」
 花虎の靴先は、未来へ向け歩きだした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『迷宮の迷い子』

POW   :    パワフルに。地図を埋める勢いで探す

SPD   :    スピーディに。あたりをつけて一直線

WIZ   :    ロジカルに。推理を積み重ねて見つけ出す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●涙不知の迷宮
 迷宮への扉が開き切るまでの間、猟兵たちは迷宮で成すべき事項を確認する。
 先ず、女学生が魔法研究のパートナーにしている迷い猫ミュウの発見が急務だ。
 そして最大の脅威となるのは、迷宮のどこかに潜む蛇型のオブリビオン――そのオブリビオンに見つかる前に、猫のミュウを保護する必要がある。
 話している裡に、機械仕掛けの扉は完全に開いた。
 大きく口を開けた先は、闇に閉ざされている。天井は高くとも明かりは燈らない。
 通路の幅も、荷車がすれ違えるほど広いが、見通せない道行きは縹渺たるものだ。
 入口に立ち尽くす猟兵たちは、進もうとした矢先、靴先に引っかけた何かを知る。
 聞こえたのは、カシャン、と金属同士がぶつかり合う音。
 機械の森や広場と同じく、配管や蒸気機関のための基盤が、床に敷き詰められているのだろうと考えた。
 決して平らではない無機の床。
 その一部が欠けるか隆起するでもして、足を引っかけたのだろうと。
 しかし入口から差し込む明かりだけで、迷宮は猟兵たちの眼に違うものも映した。

 迷宮の中に臥せるのは、リスや兎らしき小動物を模った機械たち。
 鋭利な刃が刺さったままの機械犬や、幾度となく殴打されたらしく、不自然に潰れた鶏もいる。いずれも合金でできていた。
 元の形を残す機械動物もいれば、脚や耳、尾が欠けているものも多い。
 入口から拝める距離だけでも、機械の骸が言葉通りごろごろと転がっていた。
 まるで飽いて置かれた玩具のように。
 あるいは、ごみ捨て場へ雑に放られた、ぼろぼろの機材のように。
終夜・嵐吾
キトリ(f02354)と、他の猟兵とも協力できれば

猫か……どうして迷い込んでしまったんかの。
何かに誘われたんかの……もふっとしたしっぽに誘われてでてきてくれたら話ははやいんじゃが。
周囲に姿がないか、よう見て、猫が行きそうな狭いところなどにも目を向けよう。
わしが行けぬところはキトリにお願いして。

それにしても、機械の骸……あまり見て、気持ちの良いものではない。
弄んだかのような、その姿。もう何もしてやれんのだが近くにその身があれば治すまでは無理でも寄せてやろう。
これは件の災魔の仕業、じゃろうか。
わしはそれにも注意して。何か不測の事態が起こりそうであれば、他の者を庇えるように気を配っておこう。


キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)と、それから、他の皆とも一緒に

ひどい有様ね
全部を治してあげる時間はないけれど
せめてこの子達をひどい目に遭わせたやつは、絶対に許さないわ
ミュウ、あたし達が迎えに行くから、待っててね

【WIZ】
聞き耳を立てて、鳴き声を聞き逃さないように
こんな嫌な空気の場所で一人ぼっちだなんて
きっと心細いに違いないもの
暗い場所、細い道の先、猫がいそうな狭い所を中心に
第六感も働かせつつ探していくわ
見つけられたら、あたし達は敵じゃないことと
ミュウを迎えに来たこと、それから、パートナーのあの子が
心配していることを伝えるわ(動物と話す)
フェアリーランドに匿うことは出来るかしら?
少しの間、大人しくしていてね


レザリア・アドニス
なんという、光景…(絶句)
どうしてこうなったのか…
猫さんも、こうなってしまう前に、見つけないと、ね…

足元に気を付けつつ進む
まずは床を調べて、塵の積む具合を確認
足跡が確認できるほどのものなら、跡を辿って追いかける
分岐点には、各方向の景色、音などを見て、猫が行きそうと行かなさそうな方向を推測し、とりあえずあたってみる
迷子にならない/重複探索しないように、分岐点に選んだ進路の壁に記号を書く
手にしたメモ帳に簡単な地図を書く
途中に出会う他の猟兵たちと情報共有、なるべく未探索の区画へ行く
歩きつつ周りの配線や機械も観察し、耳を澄ませてにゃーんと呼びかけてみる
発見したら煮干で誘きついて保護


赫・絲
【WIZ】

これ一体どうしたんだろ……外の子達の怪我も原因は一緒なのかな
やっぱりオブリビオンの仕業?
それにしては刃物とか殴られた跡とか気になるけど……
とりあえずオブリビオンに見つかっちゃう前に、急いでミュウを探さなくちゃね

入り込んだのはこの入口からだろうから、まずは入口付近で【情報収集】
足跡とか、爪で引っ掻いた跡とか、そういうのがないか調べるよ
暗いと見落としそうだから、契約してる雷の精霊・茜に常に辺りを照らしてもらうね
痕跡が少しでも見つかればそれを追って【追跡】

それにしても、ミュウはなんでここに入っちゃったんだろう
それこそ機械鼠とか、なにか気になるものでも見つけたのかな
それも一緒に探してみよう


斎部・花虎
【POW】

何とも痛ましい、――が
臆していては、掬えるものも取り逃がす
その上を通れと云うのなら、
機械の骸を踏み締めるのも吝かではない

…細かなことを考えるのは些か苦手だ
虱潰しにしてしまえば良いか
通路の壁に手を付いて、端から舐めていく様に
『失せ物探し』はさて、役に立つかな

にゃあ、なんて
時折鳴き真似をしてもみるけれど
…怯えられてしまうかな
もしそうなったとしても、
猫の逃げた先に誰か別の猟兵が居れば良いんだが


リィリィット・エニウェア
チガヤ・シフレット(f04538)さんと参加
姉御ーと懐いています
チガねーさんと呼びます

なんだか物悲しい光景だね
供養のために爆破しとく?爆葬っていうじゃない?
え?言わない?そうかー(残念)

●ロジカルに(WIZ)
猫は狭いところに収まるのが好き!
猫は暖かいところが好き!
猫は静かなところが好き!

と、ポイントをピックアップ。重なるところを探そう
飼い主さんに好きなものとか聞けたら用意していきたいな

あと、供養(になるかわからないけど)のために壊れた機械を覚えて
ガジェットショータイムのネタにしよう

道具は使われてこそ!


チガヤ・シフレット
引き続きリィ(f13106)と一緒に行動するぞ。
懐いてくれてるので妹分のように可愛がってます

なかなかに荒れ果てた光景だな。
うち棄てられた機械動物の残骸を拾って状態やらを確認してみるが……。
いや、しかし、半ば機械の体としては自分の末路を見るようで、感慨深いな。

【SPD】
感傷はほどほどにして、猫を探そう。
オブリビオンに襲われる前に見つけてやらねばならんのだから、一気に進んで探し回ろう。
名前を呼び掛けてやりながら、なるべくほかの猟兵たちとは違うルートで探しに。
リィのアドバイスを参考にしながら行こう。

うーむ、猫のえさとか、興味を引けそうなものとか持ってきたほうが良かったか?
リィは何か持ってないか……?


鴛海・真魚
ここは……動物たちの墓場…?
それとも病院?
どうして皆、とても痛々しい姿なのかしら…。

迷い猫探しも大切だから彼らに聞いてみたいけど……。
こんなに傷ついていたら答えれないかな。
何か手伝えること……、さっきみたいに歌唱で動物たちに敵意が無いことを伝えるの
機械だけど、きっと届くわよね…?

大丈夫、私たちはあなたたちを傷付けないわ
あなたたちを治すから、少し力を貸して欲しいの…。
ダメ、かな……?

ねぇ、迷い猫を見なかった?
見ていたら教えてほしいの。



●迷宮
「ひどい有様ね」
 開口一番、キトリ・フローエ(星導・f02354)は眉根を寄せて呟いた。
 猟兵たちが目の当たりにしたのは、蒼然たる迷路の入り口に臥せる、いくつもの機体だ。生気も熱も去った真鍮でつくられた、動物たち。
 魂が抜き取られたかのように横たわる彼らは、猟兵たちの視線を否応なく釘付けにした。
 しかし終夜・嵐吾(灰青・f05366)の眼差しは、落ち着く点を得ず彷徨う。
 機能を、そして役目を失い放られた命の残滓が、そこかしこにある。
 ――あまり……見て気持ちの良いものではない。何故このような。
 嵐吾は、仕掛けで動くはずの動物たちの前にしゃがみこみ、切り離されていた足と胴体をくっつける。飛び出た基盤や銅線は、解る範囲で繋げ
身へ戻す。さらに、砕けた破片は掻き集めて原型へと近づける。
 彼は蒼白に染まった指で、それを只管に繰り返した。
 斎部・花虎(ヤーアブルニー・f01877)もまた訝しげに眉をひそめ、浮かびかけた思考を振り払う。
 自身が考えに囚われ足を止めないよう、壁に掌を添えた。
 ――虱潰しにしてしまえば良いか。
 骸の波を越えて、彼女は進んでいく。
 遠ざかる背をよそに、扉付近では小声が落ちた。
「……なんだか、もの悲しい光景だね」
 呟いたのはリィリィット・エニウェア(迷宮は爆発だ・f13106)だ。両の眼に映す景色は、彼女の靴裏を板金の床に暫し縫い付ける。
 そんな妹分のような存在に、チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)が相槌を打つ。
「ああ。なかなかに荒れ果ててるな」
 単純な迷宮ではなさそうだと、チガヤは感覚で捉える。
 打ち棄てられた機体の一片を掬ってみれば、輝きを失った合金が見るも無惨な形に歪んでいた。
 ――感慨深いな。これではまるで……。
 常であれば柔らかい紫を宿すチガヤの瞳も、染みこむ情に染まる。
 ――自分の末路を見るようだ。
 己の想像に軋んだ四肢を、意識せず押さえ込む。
「チガねーさん、いこ!」
 そしてリィリィットの朗らかな誘いに乗って、チガヤは歩き出した。
 一方、まばたきも忘れる勢いで、扉と入り口の周りを確かめていたのは赫・絲(赤い糸・f00433)だ。猫の進入口が猟兵たちの通った扉であれ
ば、足跡や爪でひっかいた傷など、僅かでも跡が残るはずだと考えて。
 蒸気が走る管の列も薄汚れ、床と壁の随所に擦れた跡や傷はあった。箇所によってはへこんでいたり、明らかに力が加わって裂けた穴もある。
だが猫のものなのか、機械でできた動物たちが刻んだものかは判らない。
 ただひとつ、迷宮に漂う妙な空気は嫌でもわかる。
 いったいどうしたんだろ、と横臥する機械の動物たちを見下ろした後、絲は短杖をふるい、雷を纏う精霊の力を借りた。
「茜、お願いね」
 茜と呼ばれた一角獣は遥か天井を仰ぎ、雷光を呼んだ。雷の眩しさは頼もしい灯りとなって、絲の道行きを照らし出す。
 彼女よりも後ろ、呆然と立ち尽くす少女の姿がある。
 ――なんという、光景……どうして……。
 目を覆いたくなる光景を前にして、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は言葉を失っていた。
 暗闇に包まれた脱け殻の数々は、ぴくりとも動かない。
 ――猫さんも、こうなってしまう前に、見つけないと、ね。
 握りしめた小さな拳に意を秘め、レザリアは歩き出す。
 蒸気を通す管の並びを外れた床は、基盤と板金で構成されていた。足を取られないよう気を付けながら、少し進んだところでしゃがみ、床の状
態を確認する。
 歩けば舞いあがるか、足跡が深くなる程度の塵埃であれば良かった。
 だが一帯には薄らと積もるのみで、刻みつけられた傷や抉られた痕の方が気にかかる。
 もしかしたらオブリビオンは、常に迷宮を徘徊しているのかもしれない。レザリアは頬が引き攣るのを感じながら、歩き出す。
 暫くして、修理に区切りをつけた嵐吾も、キトリと共に先へ進む。
 しかし、探索を始めた猟兵たちを見送って、鴛海・真魚(恋心・f02571)は頽れた動物たちと向き合った。
 ――どうして皆、とても痛々しい姿なのかしら……。
 真魚は錯覚しかける。
 災魔が潜む迷宮と聞いていたが、ここは動物たちの墓場なのだろうか。それとも、病院だったのだろうかと。ぐるぐると巡る思考を、やがてか
ぶりを振って断ち切った。
 先ほど嵐吾が応急手当てを施したおかげで、機械動物たちの見目から酷たらしさは和らいでいる。けれど、立ち上がる素振りはない。
「答えられない、かな。お願い、少し力を貸してほしいの」
 彼らへ一言呼びかけてから、真魚は歌を口ずさんだ。
 透き通る喉から発する清らかな声で、敵意がないことを伝えながら、彼らの心の痛みを優しく拭う。
 大丈夫、あなたたちを傷付けはしないわ、と幾度も重ねて歌に乗せる。
 そうして倒れた彼らの身を案じて癒やした後、真魚は本題を紡いだ。
「ねぇ、迷い猫を見なかった?」
 歌いながら手を触れ、動物たちの過去を垣間見ようとする。
 無機の身であろうと命あった存在だ。動物を模った彼らなら、想いに応えてくれるだろうと信じて。
「……えっ?」
 真魚は長い睫毛をぱしぱしと震わせた。
「黒い子? どっちへいったの?」
 掠れる言葉の欠片を、壊さぬよう、ひとつずつ掬っていく。

●迷い猫
 道端の溝を覗き込み、天井高くまで積もった機器の山を仰ぐ。
 配管の上を駆け回る猫もいなければ、溝を這うように遊んで突き進む猫もいない。
 ちらりと嵐吾は、自らの尻尾を一瞥した。梳くのを欠かさない毛並みは、ふんわり空気を含んでやわらかい。色艶の良いもふもふに誘われて姿
を現してくれやしないかと、嵐吾の胸裏に期待が過ぎる。
 ――それなら話もはやいんじゃが。
 猫じゃらしにしては巨大でも、じゃれる対象には違いなく、嵐吾はゆらりゆらりと尻尾を左右に振りながら道を歩く。
 同じ通路ではキトリが、小さな身体で大きく息を吸い込み、止めた。自らの鼓動を除けば、蒸気機関の駆動音ばかりが響く――静かな迷宮だと
キトリは思った。しかし嫌な静けさだ。
 ゆっくりと細長く息を吐き、痛感する。こんな空気の中でひとりぼっちでいるなど、ミュウは心細いに違いないと。
 はやく見つけてあげなきゃ、と吐息へ微かにつぶやきを混ぜたキトリの耳に、力ない呼び声が届く。
 首を捻ると、嵐吾がちょいちょいと手招きしていた。
「この細道を頼む。わしでは行けそうになくての」
 彼が示したのは、ずらりと配管が並ぶ一帯に隠れた、細い隙間。猫や犬であれば潜って進めそうな狭さだ。軽く覗いただけでも鈍い金色が続く
のみで、ここからは奥まで見通せない。
 わかったわ、と明るく肯いキトリが潜っていく。猫を呼ぶ彼女の声が、機械の狭間に消えていった。
 別の通路では無言のままのレザリアが、握ったペンで分かれ道のひとつを示していた。
 ――こっちは、行かないはず。
 ペン先の方角に、床が抜け落ちたような巨大な窪みを確認し、レザリアは別の道へ向く。
 ――こっちはもしかしたら、行くかも。
 景色を確かめながら、レザリアは分岐のひとつひとつを潰していた。迷い込んだ猫なら、多少混乱していても床に空いた大穴へ飛び込むことは
ないだろうと踏んで。
 地図書きが一区切りしたところで、ふと配管へ耳を寄せてみれば、遠くから猟兵の声が伝ってくる。
 直後、低く唸って管は蒸気を通した。蒸気が通過しない間であれば、迷宮のどこからか拾ってきた音も知るのが叶うらしい。
 猫の鳴き声を聞き逃さぬよう注意を払いながら、レザリアは残る分岐へ靴先を向ける。
 その頃、真魚は行く先々で、倒れた機械たちへ問いかけていた。自分たちが敵でないことを歌で伝えながら、迷い猫の行方を尋ねる。
「見ていたら教えてほしいの」
 彼女はそうして探索してきた。
 そしてここでも、リスの姿をした機械の残骸と話をする。外れた部品を嵌めてあげながら歌い、動力の絶えた機械を撫でる。
「あっち? あっちね」
 ゆっくり時間をかけながらも、真魚は機械たちの記録から猫の軌跡を辿っていく。
 稲光の眩さを傍らに、絲もまた迷宮を進んでいた。雷の精霊は彼女の意志に沿い、通路の先を照らす。心なしか、壁や床を織りなす機械たちが
雷光に怯えて映る。
 しかし猫は影も姿もなく、行く先々で倒れている機械の動物たちばかり目に付いた。
 認める度に絲は思う。一刻も早くミュウを保護しなければと。
 ――それにしても。
 思考の底で疼く疑問を、彼女は無視できない。
 ――ミュウ、なんでここに入っちゃったのかな。
 壊れた機械動物の群れが住まう迷宮だ。今を生きる存在が足を踏み入れる場所ではないと、少なからず絲は思っていた。
 相手は猫だ。習性を考えれば、気になるものを追いかけてきた可能性も浮上する。
「……鼠……そう、機械鼠とか」
 猫と言えば鼠。単語は単語にすぐさま直結し、微かに顎を引く。
 物音を派手に立てない猫。鼠とはいえ機械でつくられた獣。
 機械鼠が逃げ惑っているのなら、それを探した方が早いかもしれないと、絲は考え耳を澄ました。すでに背景音楽と化していた蒸気機関の駆動
音の中、紛れ込んだ機械鼠の足取りを聴覚で追う。
 一定のリズムを奏でる機械の狭間、ギ、ギギ、と微かに漏れる不定の音。
 絲はすぐさま、壁の向こうで呻く歯車の音を辿った。
 ゆけどもゆけども転がる機械の骸。他の猟兵たちと異なる通路にも、人影はあった。
 配管の隙間を透き見していたリィリィットが、揚々とチガヤを振り返る。
「ねえねえチガねーさん、爆破しとく? 供養のために」
 弾んだ声音は、興味と好奇心で煌めいている。
 機械動物たちの惨状と相対しても揺るがない彼女の頼もしさに、チガヤも思わず口角を上げた。
「迷宮が吹っ飛んだら脱出できなくなるな」
「えっ、そっかー」
 噂の爆葬してみたかったんだけどなー、と心底残念そうに唇を曲げたリィリィットを見て、くつくつとチガヤは笑う。
「そういやリィ、猫の餌とか興味引けそうなもの、何か持ってるか?」
 続けて尋ねたチガヤに、リィリィットはふるふると頭を横に振った。
「魚の切り身か何か、あれば良かったかな……でも、猫の特徴についてはバッチリだよ」
 胸を張って告げたリィリィットの言葉に、へえ、とチガヤが感心の唸りを零す。
 鼻を鳴らしてリィリィットが告げたのは、猫の好む三つの要素。
 狭いところに収まるのが好き。そう口にしたリィリィットは、板金と板金の合間を窺う。
 そして次に、暖かいところが好きと言いながら、蒸気が駆ける配管に触れて振動を確かめる。蒸気が絶え間なく流れていることから、恐らく猫
はこの配管には居ないだろう。
 最後、三つ目の要素は静かなところが好きという点だ。
 なるほどな、と頷いてチガヤが辺りを見渡す。壁や床の蒸気機関が動作し、音が連なる空間で、薄闇に潜む静けさは、どこにあるだろう。
「ミュウ、ミュウ、いるか?」
 問いかけに応じるのもやはり蒸気の音か、機械の駆動音ばかりで。
 ――悠長にしてられないか。
 チガヤは双眸を細め、遥か通路の奥を見遣った。まだまだ先は長そうだと、己の本能が訴えてくる。
「リィ!」
 基盤から繋がるコードの網を辿っていたリィリィットを、背中で呼ぶ。
「急ぐぞ、この奥だ」
 ふたつの輪郭は、薄闇に紛れていった。
 殴打の跡が色濃く残る兎。胴体が鋭利なもので切断され部品を散らした鶏。尾の欠けた犬。
 合金でつくられた機械たちは、迷宮を進んでも尚、猟兵たちの視界を外れない。
 なんとも痛ましい。
 吐こうとした言葉は音にもならず消え、花虎はゆるりと頭を揺らした。
 ――が、臆していては、掬えるものも取り逃がす。
 込み上げる情で喉を塞ごうと、彼女の顔色は微塵も変わらない。機械の骸を超える足にも、溢れはしない。ぐっと飲み込む所作さえ、彼女は誰
にも悟らせない。言葉を知らぬ蒸気機関にさえも。
 闇の真っ只中に於いても、花虎が纏う白の毛は輝きを損なわない。天井から注ぐ灯りが無くとも、ぼうと浮かぶ白は彼女自身が思う以上に際立
つ。
 だからだろうか。
 彼女の目線の先で、一匹の黒猫がこちらを凝視していた。ぎらぎらと睨み付ける猫の目は、暗がりに溶けた黒猫の身によく映える。
 にゃあ、と花虎は咄嗟に不慣れな声を絞り出した。
 仲間を呼ぶ猫の鳴き声を模してみたものの、猫に慣れる気配はなく、一歩だけ踏み出した矢先、駆けだしてしまった。
 ――いや、しかしこの向こう側には確か……。
 焦らずとも問題無いと判断し、花虎は猫を追う。導くように、猫を壁際へ追い込んでいく。
 すると黒猫は、飛び跳ねる勢いで壁の中へ潜り込んだ。
 花虎がよくよく壁を見てみれば、機材同士を繋ぐ無数の配線が、壁に隙間を生んでいた。暗くて奥は見通せない。だが、花虎にはひとつの確信
があった。
 猫はもう大丈夫だという確信が。

●猫と、そして
 散り散りに捜索していた猟兵たちだが、迷宮を攻略していくにつれ、自然と顔を合わせる機会が増えていた。
 地図を作っていたレザリアが、改めて彼らと現在地や踏破済みの情報を共有し、地図を塗りつぶす。迷宮はさらに続いているが、構造が徐々に
暴かれつつあった。
 絲とレザリアが地図を指差す近くで、嵐吾はいまだ気配すら漏らさない敵を警戒し、くまなく辺りを見回した。
 ――件の災魔も、どこかにおる。
 警戒は外側に、けれど意識の前に広がるのは、朽ちている機械犬たちの姿。
 ――もう何もしてやれんのだが、しかし。
 黙って見過ごせなかった。
 一匹ずつ様子を窺っては破損部位を元の形に少しでも寄せる。治すまでは無理でも、せめて。
 命が灯っていたであろう機械を、弄んだかのような惨劇の景色。それは間違いなく嵐吾の胸を痞えさせた。
「災魔の仕業、じゃろうか」
 彼の言葉に、そばを通りかかった絲も苦そうに目を細める。
「オブリビオンの所為かな。外の子達の怪我も、もしかして……」
 絲は想起した。翼折られるなどして、痛々しい姿をさらけ出していた機械の鳥たちを。
 けれど鳥とは別に気になる点が、彼女の脳裏を掠める。
 ――それにしては、刃物とか殴られた跡があるんだよね、この子たち。
 人為的な気配を感じ取らずにいられない。何の確信も得てはいないが。
 一方、猫が好む場所にキトリは心当たりがあった。人間が手を差し入れられそうな太めの配管も、空いていれば覗いてミュウを呼んだ。そして
配管に頭を突っ込み、聴覚を研ぎ澄ませる。どこまでも入り組んで続く配管を伝って、猫の声が聞こえやしないかと。
 配線が絡み合う箇所は、猫の遊び場にもなるだろうと、レザリアは静かに屈む。
 基板に繋がれた線の数々は、担う役目も喪失したのか垂れ下がってばかりだ。風が吹けば揺れるだろうし、小動物が通過すればざわつくだろ
う。猫にとっておもちゃになり得る。驚かさないよう身を低めたまま、延びる配線の森でどこか動きがないか、見入った。
 すると、波打つ配線の山の向こう、薄闇を影が過ぎる。
「にゃーん」
 咄嗟に、レザリアは鳴き声を真似た。
 懐に入れておいた袋から煮干を摘まみとり、くるくると指先で回す。
「にゃあ」
 もう一度、少しばかり声量を強めて鳴いてみせると、配線の山越しにぴょこんと黒い尻尾が跳ねた。
 そして何の躊躇いもなく、黒い物体は山を飛び越えレザリアめがけて突進してくる。
 突然の猛アタックに、きゃ、と短い悲鳴を零してレザリアは尻餅をついた。気付けば彼女の手から、黒猫がはくりと煮干しを奪っている。
 すらりと着地した黒猫は、青緑の瞳を見開いて、通路に集う猟兵たちを見回した。
 飛び出した先に人がたくさんいるとは思っていなかったのか、猫の両耳が倒れる。
 怯えたのだろうかと、キトリはそっと膝をついた。
「……あたし達は敵じゃないわ」
 諸手で友好を示しながら言葉を紡ぐ。
 猫であるミュウと大して体格に差が無いフェアリーのキトリは、どうやら見慣れぬものだったらしく、ミュウの関心を引いた。
 じりじりとミュウが躙り寄る。
「ミュウを迎えに来たの。それに……」
 前進も後進もせずキトリが続ける。
 花や精霊の歌声に耳を傾けてきた彼女にとって、動物もまた森の仲間だ。話すことに抵抗はなく、そしてその姿勢は空気を伝ってミュウにも届
く。
「あの子が心配しているわ。パートナーなんでしょ?」
 ミュウを探すため地下迷宮へ挑もうとする学園生を想い、連ねる。
 魔法学園生の相棒を小さな手で招いて、キトリは愛らしい小壺を差し出した。
 幻想満ちる世界の音を転がせて、猫の興味を惹く。
 魅力を受信するかのように動かした猫の耳は不思議そうに、けれど瞳はじぃっと壺を直視して。
 開いた瞳孔へ優しく促すようにキトリが壺を傾けると、ミュウは恐る恐る前足で壺の縁をつついた。縁に引っかかった猫足が、そのままミュウ
を内なる世界へ招待する。
「少しの間だけよ。大人しくしていてね」
 遊ぶにはもってこいのフェアリーランドへ転げ落ちたミュウに、壺の入り口から声をかけて、キトリは猟兵たちへ視線を投げた。
 そこへ、迂回してきた花虎が駆けつける。黒猫を追ってきた彼女は、無事ミュウが保護されたのだと知り、よかった、と短い息を吐く。
 オブリビオンに発見される前に、探し猫と合流できた安堵から、チガヤも溜め息をつく。
 そんなチガヤの横では、リィリィットが壊れた機械たちの姿を記憶に刻みつけていた。
 ――ガジェットショータイムに使おう。供養になるかはわからないけど。
 一匹ずつ確かめながらリィリィットは頷く。
 片や嵐吾は、猫か、と唸りだした。
「どうして、ここに迷い込んでしまったんかの」
 この迷宮は、仕掛け扉で封じられた機械の森の先にある。
 学園を飛び出した猫が迷い込むにしても、あまりに深い地だ。
「もしや何かに誘われたんかの」
 嵐吾の内で渦巻く疑念に、そうかもしれないと応えたのは絲だ。
「……これを追ってきた可能性もあると思う」
 彼女は捕らえていた機械鼠を床へ手放す。迷宮内で発見した機械鼠だ。それを追いかけていたら、絲も他の猟兵たちがいるこの場へ到った。
 直後、機械鼠は息を吹き返したかのように床を這い、板金の壁の穴へと一目散に駆け込んでいった。
 ぞわりと、嵐吾の灰青の毛並みが逆立つ。不測の事態に備えていた彼の尾が、何事かを感じ取った。
「近付いておるぞ」
 嵐吾が放った端的な一言は、猟兵たちの気を張り詰めさせる。
 噴出する蒸気の音に混じり猟兵たちの元へ届くのは、重たく引きずる、奇妙な金属の響きだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『スチームドレイク』

POW   :    スチームフレイム
【口内から射出される「錬金術の炎」 】が命中した対象を燃やす。放たれた【紅蓮の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    頭部連装機関砲
【頭部連装機関砲 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    スチームファイア
レベル×1個の【錬金術 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアイシア・オブリオンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●迷宮の奥にて
 迷い猫ミュウの保護に成功した猟兵たちだが、息吐く暇もなく、災いは訪れた。
 猟兵が描いてきた地図で見ても、いま佇んでいる場所は迷宮の奥だ。
 ここへ到るまでの通路には、猟兵たちを除き人の気配など無い代わりに、無数の機体――動物を模った機械たちが転がっていた。
 そして、壁や床を成す板金や配管が奏で続けるのは、流動する蒸気と機器の駆動。
 それが迷宮の常であった。
 しかし今、迷宮を彩っていたはずの音や振動とは異なるものが、近づいている。
 身構える猟兵たちの前へ現れたのは、命尊ぶ心だけでなく、真鍮の輝きさえ持たぬ、くすんだ一匹の大蛇。

 悲しみを怒りに。涙を炎に。
 狂気の大蛇は、今日も暗闇の迷宮で『生きるもの』を破壊しようと、牙を剥く。
リィリィット・エニウェア
チガヤ・シフレット(f04538)さんと参加
姉御ーと懐いています
チガねーさんと呼びます

あたしは!爆破が!趣味なんだ!
なのに猫探しとかスニ―キングミッションとか……
猟兵になったら思う存分爆破出来ると思ってたのに!

と、いうわけで鬱憤晴らしだよ!
って思ってたんだけどね
スチームドレイク見てもしんみりしてきちゃった

道具は人の幸せのためにあるもんだ
武器や兵器だってそうなんだよ
本分を無くしたあんたも可哀想だね

2章で準備(?)したガジェットショータイム!で攻撃
爆発させていいものなのかな?
まあいいかあたしが楽しいし!
「色々あるけど楽しく爆破ー!」

チガねーさんを援護するように動く
あたしと違ってあの人ベテランだしね


チガヤ・シフレット
引き続きリィ(f13106)と一緒に行動するぞ。
可愛い妹分だと思っています。

さて、いよいよ暴れられるな!
リィも鬱憤が溜まってるだろうし……と思ったが、難しい顔をしているな。
やるしかないさ、気にするな。
派手に爆破してやればいい、それが手向けの華だ。

さて、一気に攻めていくか!
大蛇退治だな!
手足の内臓兵器を起動して、銃撃開始だ。
初めは【二回攻撃】等で手数を稼いでダメージを蓄積していこう。
リィの援護も受けつつ、隙を見て一気に接敵。
【零距離射撃】でダメージを稼ごう。
奴が火を吐く前に口も狙っておくか。

リィの攻撃も援護できるようにうまく連携して立ち回ろう。

「楽しく吹っ飛ばしてるか?」


レザリア・アドニス
・真の姿
死霊が分離され、髪も羽も白に戻る

機械の命だけど、それを奪ったのは、あなたですね…
「死」を望んでいれば、その通りに与えましょう

常に足場を注意
敵の動きを封じるため、近くの地形を思い出し、狭い通路など、可能の限り利用する
壁や天井に這わせないように警戒

騎士を前に出させて、盾役を務めさせる
他の猟兵たちとも連携させて、潜る隙が出ないように戦線を維持させる
その後ろに、敵と直面しないよう、常に位置を調整する
延焼した炎に囲まれないように注意

蛇竜には、j配線の隙間に潜らせる
敵の後ろに回って、天井から襲い掛け、頭の後ろに噛みつき、脊椎を破壊してみる

その後
猫を外に連れ出して、女生徒に渡す


鴛海・真魚
貴方も悲しい……?
燃える涙はとても情熱的ね。

戦うことは苦手だから、私は皆を癒すの。
動物たちを癒したように、味方もきっと
歌唱とシンフォニック・キュアで歌を歌って癒す。
少しでも心に響くと良いな。そうすれば皆を癒すことができるもの。

敵の攻撃はオーラ防御で防ぐの。
この身体に傷がつくと大変って昔の彼は言っていたから。
自分の身は自分で守れるように。
残念だけど、貴方の牙を涙を、物理的に受け止めるだけの度胸は持ち合わせていないわ。

強くて美しい蛇の貴方。
悲しみを晴らしたらゆっくりと眠ってね。


終夜・嵐吾
キトリ(f02354)と。

やぁ、でかぶつじゃの。
その尾で砕いたか、その牙で弄んだか。わしらも同じようにしようと思う……心があるかはわからんが。ここで挫いてしまうがよかろうよ。
そのくすんだ色合いはなれの在り様の表れじゃろか。
いや、そんなこと言うとったらわが身にも返ってくるか。真っ白では、ないからの。

戦闘は後方から支援を。
キトリの攻撃にあわせて、虚の主にその姿を変えてもらおう。
やわい花弁と思うなよ。その視界奪えて、他の猟兵達の攻撃の機をうもう。

無事、戦いが終われば安堵して。
迷い猫も返してやらんとな。
…その前にちょっとだけ撫でさせてくれんかの?(そわ)


キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)と、それから、他の皆とも連携して戦うわ!

小さな命を食べるわけでもなくただ踏み躙って壊して
何が楽しいのかなんて考えたくないけど
…楽しいかどうかさえもわからないのかもしれないわね
心がわからないなんて、ご愁傷様!
でも、それも今日で終わりよ
だって、あんたは今この場であたし達に倒されるのだもの!

あたしは高速詠唱で全力のエレメンタル・ファンタジアで攻撃するわ
属性は水、現象は竜巻
炎を呑み込んで消し去ってあげる
傷ついた皆にはシンフォニック・キュアを届けるわ

戦いが終わったら、散らばった機械の動物達の中で治せる子は治してあげたい
それから、ミュウもちゃんと、パートナーの子に逢わせてあげないとね!


赫・絲
お前がみんなを壊していたの?
訊いたって答えが返らないのはわかってる
それに是でも否でも結果は一緒
今度はお前が眠る番だ

炎をしっかり【見切り】避けながら、通路に鋼糸を網目のように張り巡らせて
その中に捕らえるように、避ける方向を調整しながら追い詰める

さくら、さくら、キミの熱を貸して
喚ぶは契交わした焔の精霊の渾名
それにより鋼糸に炎を纏わせ

どっちが先に灰になるか、試してみる?
糸による捕縛に、【全力魔法】で最大まで増幅させた炎による【属性攻撃】を重ねた【2回攻撃】
すぐに仕留められずとも、捕らえたらしっかり縫い止めて燃え尽きるまで離しやしない
それがきっと、仲間にとっての好機にもなるから


斎部・花虎
【POW】
まるで迷宮が生きている様だ、
――流れる蒸気と駆動する機器が、躰を生かす器官の如くで

おまえは何を哀しむのか
そのつめたいからだの奥底に、何ぞ抱えているのだろうか
……、詮無い事だ

口内に炎の気配見えれば避けるに努める
が、避けて攻撃が外れるくらいであれば敢えて受けに行くのも厭わない
後はそうだな、おれが避けて後ろの子に炎を当ててしまう位であれば
おれが受け止め燃えてしまおう

図体が大きければ何処ぞに当てるも容易いと思いたい、が
油断はせずに呪符と小刀を投擲
――いらせられませ、闇御津羽
おれの影より醜き獣を引き摺り出して
あれを餐えと大蛇を示す

誰かと協調出来るのならば、それに甘んじよう




 薄闇に浮かぶ影は、猟兵たちを呑み込むほど巨大だった。
 整備が為されていないと判る、褪せた合金で形成された一匹の大蛇――オブリビオン。
 迷宮の通路を塞ぐように這いずり、汚れた蒸気を排出して嫌な油の匂いを漂わせる。
 軽く掲げた片手で挨拶を向けるのは、終夜・嵐吾(灰青・f05366)だ。
 己も相応に巨躯だと思っていたが、それ以上に。
「でかぶつじゃの」
 仰げば大蛇たる所以を目の当たりにし、かといって嵐吾には、床へ視線を落とすつもりも無かった。床を見渡せば、あるのは機械動物たちの亡骸だと知っているからだ。
 色褪せた金属ばかりが連なる迷宮を、火吹きの明るさのみで闊歩する巨大な蛇。
 破壊された機体の数々も、かつては元気に迷宮を駆けまわっていたのかもしれない。想像しても動かぬ動物たちを一瞥し、嵐吾は唯一いまも生き続ける眼前のオブリビオンをねめつける。
「はて、その尾で砕いたか、その牙で弄んだか」
 直後、大蛇が開いた大口から、盛る炎が噴出した。ごう、と音を立てて耳朶を打ち、吸い込んだ熱気に鼻孔が痛い。
 ぞわりと、嵐吾の毛が逆立った。怒りか、悲しみか、一言で表せない情に駆られる。
 喉に渇きを覚えるのは、大蛇が放つ炎の所為だろうか。
 それとも、ここへ到るまでに目にしてきた凄惨な光景が原因だろうか。
 振り払うことも侭ならず、キトリ・フローエ(星導・f02354)はふわりと羽ばたき、敵を見据えた。
 ――小さな命を食べるわけでもなく、ただ踏み躙って壊して。
 細い身を抱きこむようにして、キトリは肌を這う冷たさを拭った。大蛇が撒き散らす火焔で、辺りは熱い。なのに、妙な寒気を覚える。
 機械動物たちを、この大蛇が無残に破壊してまわったのだとしたら。
 よぎる考えもあって、キトリが外さない視線の先。そこには、傍若無人に振る舞う大蛇がいるだけで。
 ――なにが楽しいの。ううん、もしかしたら……。
 楽しいかどうかさえ、わからないのかもしれない。
 身が砕けるほどの想いも、暴れるばかりのオブリビオンは、きっと知る由もない。それをキトリは実感した。
 だから掲げた両手で、水の竜巻を招く。流れる水音は心地好く耳朶を打ち、けれど激しい竜巻へと変貌してからは、すべてを呑み込み切り裂く武器となる。
 キトリが飛ばした竜巻は、大蛇が躊躇いなく噴いた炎をも掻き消す。
 その一方で。
 ――摩訶不思議というべきか。まるで生きているようだ。
 胸の底まで染み入る感情と向き合いながら、斎部・花虎(ヤーアブルニー・f01877)は辺りを見回した。
 人の手に委ねるでもなく、流れを止めぬ蒸気。人に必要とされずとも駆動する機器。いずれも、躰を生かす器官を花虎に連想させる。
 物憂げな素振りひとつ露わにせず、花虎は伏せた瞼越しに得物を放つ。
 災厄を招く呪符で、災魔と称された存在を現世に射止め、繋ぐのは刃。一片の葉を断つかのように、音もなく揮った小刀による一の太刀は、吐き出された炎による延焼を阻み、消火した。
「……おまえは」
 何を哀しむのか。
 問いかけを花虎は途中まで言葉にし、けれど詮無いことだと、言い切ることなく嚥下した。
 突然、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)から白が咲く――真の姿が咲いたのだ。
 広げた翼となびく髪から、常より彼女を彩っていた灰と黒の気配が分離される。
 白から抜け落ちた黒は二つに分かれ、一つは騎士を模り彼女の盾となり、もう一つは蛇竜となって配管の隙間へ潜る。そしてレザリア自身の眼差しは、強大な蛇型オブリビオンへ向いた。
 踏みしめた板金の熱が、靴の裏から滲む。大蛇の吐き散らした炎が、迷宮そのものを灼いているのだろうか。動物を模した機械たちの命をも、かの者は灼き尽くしたのだろうか。
 廻った思考に、レザリアの睫毛が震える。
「あなたですね……」
 咲いた白翼にいくつもの火球が映り、赤を帯びた。けれど火熱に晒されることなく、レザリアの身は死霊騎士が守る。
 滾る赤の球を呑み込んだ死霊にも、合金製の大蛇はうろたえない。
「命を……機械のそれを奪ったのは」
 共生する死霊の感じた嘆きを乗せて、総身を白光に包んだレザリアは敵を見上げた。真っ直ぐ、逸らさずに。
 答える言葉を持たない大蛇が、鋭利な牙を剥きだしたままこうべを振る。
 そして、手の平に拳を打ち付けて、チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)は口角を上げた。
「いよいよ暴れられるな、リィ!」
 彼女の一声は夥しい数の真鍮管に反響し、戦いの火蓋が切られる。
 リィリィット・エニウェア(迷宮は爆発だ・f13106)が頷き応じる間に、チガヤの四肢を構成する兵器が起動した。
 腕部が低く唸りを上げ、内臓していた銃火器を展開する。開くと同時に撃ちだしたのは閃光と弾。
 暗がりに沈む迷宮内を明滅で照らし、容赦なく敵の肌に弾痕を刻む。片腕が高熱に鈍くなれば、もう片方で射撃した。
 チガヤの連射は、合金製の大蛇が咥内から射出した炎に消える。紅蓮の最中を飛んで弾は大蛇の喉を叩き、チガヤは咄嗟に間合いを取り炎を避けた。
 一方リィリィットは、猫を捜索する間に収集した機械動物の情報を基に、ガジェットを呼び寄せる。
 番犬を模したガジェットは遠吠えで蛇の気を惹き、駆けだした。
「あたしは!」
 力んだ叫びをリィリィットが口にし、大蛇のオブリビオンは頭部の機関砲に力を装填する。
「爆破が趣味なんだッ!」
 犬型ガジェットが、頭の火器から放たれる銃弾の雨を浴びて走った。
 すると蛇の頭が犬を追って動く。迂回した犬を見守るリィリィットは、訴えを己の拳に握り込む。
 ――猟兵になったら思う存分、爆破できると思ってた。なのに!
 この地下迷宮を訪れて以来、リィリィットの身に起きていたのは、探索と猫探しだ。思うまま腕を揮えず溜まっていた鬱憤が、とうとう彼女の中ではちきれる。
 突き出した指先で、いけ、と犬に命じれば、蛇の胴へ食らいつきガジェットが爆発する。
 仕返しとばかりに戦場を覆う炎。
 しかし見切った炎の欠片が頬を掠めるのも厭わず、赫・絲(赤い糸・f00433)が大蛇の懐へ駆けこむ。
 踏み込んだ衝撃で、熱された板金の軋みが靴越しに伝わる。しかし絲は止まらない。
 朱の名を冠するグローブから、鋼糸を射出して、空気の振動にも弛まない鋼糸を通路に張る。そのまま糸の隙間を縫い、絲の身は軽々と跳ねた。
 巨体の脇を過ぎた彼女は、尾をも跳ねのけ直進する。そして。
「……お前が」
 壁へ手を押し当て糸を固定させると、大蛇へ思いのたけをぶつけ出す。
「お前が、みんなを壊していたの?」
 繰り返し絲の脳裏に思い出されるのは、迷宮で目撃してきた機体の群れ。
 犬がいた。兎やリスもいた。まるで森に住まう動物たちのように、かれらは良く知る姿形をしていた――妙な壊され方をしている点を除けば。
 だからこそ絲は、双眸に大蛇を映す。
 ――わかっている。
 答えが返らないのは絲自身、よくわかっていた。それでも。
 絲の中で巡る想いなど露も知らず、蛇を模った古びた金属の塊は、咆哮代わりに炎の球を生み出す。揺蕩う火球はしかし、絲が張り巡らせた糸で断ち切った。
 戦うのは苦手だ。だから鴛海・真魚(恋心・f02571)が択んだのは、皆を――猟兵たちを癒すこと。
 ふと見遣った巨大な蛇は、過去に持っていたはずの真鍮の輝きも陰り、薄汚れた身で這いずるばかりだ。けれど造られた瞳や、胸に抱えた火室は休むことを知らず、今なお動き続けている。
 それが、真魚には異様に映った。
「貴方も、もしかすると……悲しい……?」
 傾いだ首に返る言葉など無く、しかし真魚は肩を落とすのではなく、唇を震わせる。
 そして動物にも届く朗唱で、彼女は願う。少しでも仲間の心に響くようにと、玲瓏たる歌声を響かせて。


 奔る炎も視界に入れ、常に延焼の外側に立ちながらレザリアは死霊騎士を招く。騎士が火の球を受けている隙に、潜ませていた死霊の蛇竜を飛びつかせた。
 蛇竜はくすんだ板金をするりと這い、オブリビオンの後頭部に噛みつく。いかに堅い首回りと言えど、死へ誘う存在に牙を立てられては、一溜まりもない。咄嗟に機械蛇は尾を左右に揺らして壁を叩き、その衝撃で死霊を振り払った。
 機械とは言え、やはり痛みはあるのだろう。だが鳴き声も悲鳴もあげない。
 代わりに大蛇が喉から絞り出すのは、命も身も焼き尽くす火焔。
 レザリアは、そんな哀れな存在を静かに見据えるだけだ。
 悲嘆を炎に換えて吐き出したかのような、大蛇のひと噴き。
 溜息でも吐息でもない熾烈な一撃は、ごうと鼓膜を震わせて猟兵たちを包む。
 その最中を、花虎が駆けた。仲間の前に立ち、避けるに値しないと判断した花虎の足が、延焼した板金も恐れず床を蹴る。
 ――そのつめたいからだの奥底に、何ぞ抱えているのだろうか。
 尋ね直そうにも、言の葉が伝わらぬと知っている。
 だから花虎は獣を解き放った。
「遵え」
 一声は赤く燃え立つ空気に溶けて、
「……あれを餐え」
 影に捕らえた醜き獣の牙が、花虎の示した意志に従い大蛇に食らいつく。
 衝撃が空気を震わせ、蛇は金属特有の摩擦音で悲鳴をあげる。続く攻撃の名残が埃と共に舞上がり、リィリィットの前にたなびく。
 ゴーグルで防塵するリィリィットの眼が捉えたのは、がむしゃらに動くしかない蒸気蛇。
 なんだかな、と彼女は肩を竦めた。
 ――そう思ってたのに、アレを見てたら……。
 制御する人も、それを必要とするものも居ない迷宮で、ひたすら暴れまわるだけの機械。
 リィリィットの胸裏に湧いたしんみりと滲む情は、否が応でも惑わせる。
 ぽん、と肩を叩かれたのはそのときだ。我に返ったリィリィットが目を瞬く。あまりに難しい顔をしていた彼女を、チガヤが見つめていた。
「気にするな、やるしかないさ」
 心の内を見抜いたのか、チガヤは端的に告げる。
「派手に爆破してやればいい」
 いつもの調子で、いつもの単語を連ねて。
「……それが手向けの華だ。さて、一気に攻めていくか!」
 火を噴き空気を乱す蛇へ、チガヤは一瞬で接敵する。
 延焼した錬金術による炎が、壁や床の板金にゆらゆらと陽炎を仄めかし、ふたりを襲う。
 紅蓮を掻き分け飛び退いたリィリィットに代わり、チガヤはサイバーアイで仰俯角を見定め飛び込んだ。
 赤々と燃えた床の基板が悲鳴をあげ、高熱で迷宮の温度も上がる。彼女のボディに合わせて作られた蒸気鎧も、高温に紅く艶めく。
 しかしチガヤは振り向かず大蛇に飛びついた。
 蛇の顎を支える枠組みをむんずと掴み、開いた大口へ、炎の余韻も構わずチガヤが喰らわせたのは銃口。ガキンッと耳障りな音を立ててスチームドレイクの牙に引っかかった銃を片手で支え、チガヤは口端を吊り上げる。
「美味いよな?」
 美食を捧げたばかりの笑みが、不敵を帯びる。
「さ、笑顔で逝こうか!」
 それが彼女のキリングジョーク。
 炎の尾を引くチガヤの腕から零距離で射出された弾は、火焔振り撒く蛇の喉仏へ逆流し、巨大な蛇の合金に銃創を生む。
 直後、白皙の肌に水の流れが映り込み、やがて渦巻いた。
 深く息を吸い込んだキトリが、得意の呪文を素早く紡いで、世界の恩恵を得る。
「おいで、あたしのエレメンタル・ファンタジア!」
 飛沫をあげて竜巻と化し、大自然の猛威を揮う。
 宝石を思わせる陶肌に傷がつかぬよう、距離を保ったまま真魚は吟じる。聞き手が共感する想いを言葉に換え、蒸気機関の迷宮に響かせていく。
 そして言の葉の区切りで、真魚は大蛇へ向け呟いた。
「私には、受け止められないわ」
 貴方の牙も、赤々と燃える涙も。
 残念だけど、とかぶりを振る真魚のか細い呟きは、銅管と銅管の合間に転がり落ちるだけだ。
 そのとき、迷宮の通路に張った鋼糸に、大蛇の下半身が捕まる。
 向きを変えようとした巨大な蛇から突き出た部品や管が、絲が仕掛けた罠の餌食となった。からだのパーツに絡んだ鋼糸は、相手の動きを少しばかり阻む。
 ――さくら、さくら。
 身を捩る大蛇を前に、絲は瞼を伏せた。
 祈りに似た囁きで呼ぶのは、契りを交わした精霊の渾名。彼女にとっての、大事なよすが。
 ――キミの熱を貸して。今、このときだからこそ。
 暖かい空気を含んだ服の裾を翻す。凛と立つ彼女の貌は、滾る炎さえ感じさせぬほど平然と浮かんだ。けれども、縁のように強く張られた鋼糸が纏うのは、確かに赤き炎で。
 術士としての全力を、糸に伝う炎へ乗せた。研ぎ澄ませた神経が魔力をつぶさに練り上げ、糸を通して大蛇を焦がす。
 オブリビオンを構成する金属の肌が、己が吐くものに似た色で煤ける。
「どっちが先に灰になるか、試してみる?」
 朝焼けにも夕焼けにも似た淡い紫を瞳に宿して、絲は挑むように告げた。
 飽きもせず、大蛇は身を捩らせて火と熱で猟兵たちを襲う。
 通路を駆け抜けた熱風に、嵐吾が持つ灰青の毛並みがざわつく。熱い。毛先が焦げてしまいそうな熱さだ。
 思いがけず嵐吾は眼を細め、瞳孔が焼けるのを庇った。
 ――これを喰ろうてきたんかの。迷宮も、かの獣らも。
 長い時間を過ごしてきた地下迷宮。
 汚れた基板や管が敷き詰められた機械の森と同じく、ここもまた、手入れを知らない場所に思えた。
 嵐吾は意識せず、倒れた動物たちを視界の隅に捉える。
「心があるかはわからんが」
 右目の洞に眠る怠惰なものを、嵐吾は呼び起こした。
 花の香気もせぬ迷宮に、目覚めは静かに訪れる。
 ――ここで挫いてしまうが、よかろうよ。
 虚の主が、姿を一変させた。
 扱う得物は、いつぞや愛しんだ花々と化し、季節を問わず満開になる。
 大蛇が吐く炎の破片が無数に散ろうとも、嵐吾が舞わせた花弁は焼かれない。
 踊る花弁はオブリビオンの視覚を惑わし、じわりと苦痛を滲ませていく。


 レザリアの視線が大蛇を追う。
 そして壁面へくっつこうとした大蛇へ、自らが配管へ放った死霊の蛇竜を放つ。
「行かせません……っ」
 真鍮管の隙間から飛び出した蛇竜は、蒸気管の継手へ体当たりし、緩めた。流れる蒸気と自重に抗えず、管が撓む。
 相手は蛇型の蒸気機関。壁や天井を這う可能性を危惧したレザリアの行動が、功を奏した。
 均衡を崩し床へ一度崩れた大蛇を前に、リィリィットは猪型のガジェットを召喚していた。
 すう、と熱された息を吸い込み、乾いた喉から声を絞り出す。
「爆破ーっ!」
 掛け声が迷宮に響いた。
 驀進した猪型ガジェットは、こうべをまともに保てない蛇の腹へ突撃し、爆散した。
「今だよっ、チガねーさん!」
 受けた合図と共にチガヤが仕掛けたのは、得意とする零距離射撃。真鍮表面を黒く焦がして開けた穴から液体が噴き出し、大蛇は身を捩る。
 チガヤの戦闘を間近で拝んだリィリィットは、さすがだなあ、と唸りながら憧憬に頬を上気させる。
 ベテランの風格がチガヤの輪郭を色濃く見せ、銅や真鍮で編まれた世界で堂々と映る。
「リィ、楽しく吹っ飛ばしてるか?」
 苦しむ敵を余所にチガヤが笑みを向ければ、リィリィットの眼が爛々として、頷きを返す。
 そしてリィリィットが次に召喚したガジェットは、機械のリス。
 猟兵たちにとっては、迷宮の通路に倒れていた一匹でもある。尾を外されたリス型の機械も、猟兵の手によって復元はしたが、動きだすことはなかった――役目を失った機械のひとつだ。
「……道具はね、人の幸せのためにあるもんだ」
 翠玉を思わせるリィリィットの瞳が、揺れた。
 嗾けたリス型ガジェットが、大蛇の身をよじ登っていく。それこそリスが自由に木を駆けのぼるように。
「道具だけじゃない。武器や兵器だってそうなんだよ」
 尻尾を楽しげに揺らして、リスは板金と板金の隙間へ潜り込む。巣穴へ帰るのに似たリスの動きは、しかしオブリビオンにとってこそばゆいらしく、巨躯の内側で転がるリスを放り出そうと身を捩った。
 頭を左右に振り、大蛇が炎を撒き散らす。ガシャンガシャンと耳を劈く金切り音が連なり、直後、蛇の内側でリス型ガジェットが弾けた。
 爆破の衝撃にまた蛇が揺れる。リィリィットはそんな災魔を仰ぎ、呟いた。
「本分を無くしたあんたも、可哀想だね」
 嘆くように、大蛇の眼の内で炎が渦巻く。そして放たれたのは、身を焼く火の玉。
 飛び交う火球を遠目に、通路の後ろに立つ真魚は歌を紡ぎ続ける。
 唱歌により仲間を癒し、熱に魘される迷宮の基板や配管をも冷やす。氷水を思わせる清らかな真魚の肌は、金にも似たオブリビオンや迷宮の色に、不思議なほど映えた。
 拉げた板金は、かつて絲が施した燃える鋼糸によるもの。
 抉られた痕は、かつて絲が張り巡らせた、繊細かつ強靭な鋼糸によるもの。
 攻撃が蓄積した大蛇は、昔日の栄光の影もなく、崩壊しつつある。輪郭さえ保てないのに、暴れることをやめないオブリビオンに、絲は微かに眉根を寄せた。
 彼女の手に繋がっているのは、鋼糸の片端。
 ――何がそこまでさせるんだろ。わかんないや。
 溢れる殺意や凶行に理解は示せず、ゆるく、首を振る。
 すかさず、下ろしていた腕を前へ伸ばせば、絲のグローブから鋼糸が再び撃ちだされた。動作を阻害するべく張った今までの箇所にではなく、大蛇の尾めがけて。
 壁を破壊しかねない勢いで苛立ち任せに振り回されていた尾を、鋼糸で床に縫い付ける。
 僅かな時間であろうと、好機はつくるものだ。
「今度はお前が眠る番だ」
 そうして絲のかけた声は、くすんだ真鍮の壁が跳ね返して響く。
 召喚した死霊騎士がレザリアを庇い、火勢も衰えた。熱の余韻を腕で掻き消し、レザリアは暴れまわるばかりの災魔を仰ぐ。
 表情はない。言葉もない。爛々と輝く眼球に宿る炎も鎮まる気配はなく、殺意を撒き続ける。
 それでも、レザリアは考えずに居られなかった。
 ――望んでいるのですか?
 安らかなる『死』を。与えられなかった『終わり』を。
 迷宮の随所に臥す機械たちを想起した少女の瞳は、心なき大蛇の心を覗く。
「なら、違わず与えましょう」
 レザリアの意志に沿い、死霊蛇竜が天井から敵へ襲い掛かった。
 静止ままならぬ起伏の激しい背を滑落し、死霊が辛うじて咥えたのは――機関砲と火室を繋ぐ細い管。
 胴体の内側に守られていた火室と管だが、隙間に滑り込んだ蛇竜の牙は、それを見逃さなかった。走る過熱に焼かれながら死霊が噛み切れば、箍が外れる。
 ここに攻撃の機を連ねよう。そう決した意で瞼を押し上げ、嵐吾は右目にて眠る力の一端を呼ぶ。
 咲き誇り、そして散りゆく美を一面に映した花の舞。
 一片、猟兵たちの視界を過ぎり、一片、潰えぬオブリビオンの両の眼を過ぎる。
「やわい花弁と思うなよ」
 嵐吾の声音が低く響き、吐息で花弁を遊ばせた。
「……頽れよ」
 蒸気機関の隙間や、攻撃により生まれた穴へと、嵐吾の放った花弁が入り込んでいく。それは蛇の動きを鈍らせ、足取りを重くさせた。
 撓る身にあわせて、花弁が全身の各部位で擦れる。それは徐々に、金属特有の甲高い音をやわらげた。
 不調を示す音に、嵐吾は蛇を見遣る。
 ――にしても、くすんだ色合いは、なれの在り様の表れじゃろか。
 長い時間を生きたであろう機械の蛇に、好奇ではなく、純粋な疑問の眼差しを送る。
 しかし嵐吾はすぐさまぱしりと瞬き、いや、とかぶりを振った。
 ――これはわが身にも返ってこよう。真っ白では、ないからの。
 炎を映す真鍮の世界においても、嵐吾に染まった灰青は変わらない。
 こうして戦いが激化しても、オブリビオンの荒ぶる様にも、変化はなく。
 思わず、キトリは舌をちょこんと出して見せた。
「ほんと、心がわからないなんて、ご愁傷様!」
 尖らせた唇が奏でるのは、星の瞬きと見紛う高速詠唱。
 大蛇が撃ちだした火球よりも僅かに早く、くるりと舞ったキトリの足元で水が湧く。そしてぽこぽこと生じた湧き水は、一瞬で風に乗る。
 だが水分は世界を渡る雨雲にはならず、清らかなまま疾風と化す。
「安心して。それも今日で終わりよ! だって……」
 猛る風が、広大な大地を抉る竜巻へと変貌し、荒れ狂うだけの大蛇を狙う。
「あんたは今この場で、あたし達に倒されるのだもの!」
 轟音と水しぶきが迷宮に響き、水滴が高まった熱を冷ましていく。
 それでも絶えず火を噴いて、燃え盛る赤に佇む大蛇。それを、歌を口ずさみながらも真魚が後方からじっと見つめていた。
「ねえ、強くて美しい蛇の貴方」
 そして不意に呼ぶ。
 歌を止めた彼女の喉は、詰まる想いを吐き切るようで。
「もう、いいの」
 そう言いながら差し伸べた細腕は青白く透け、指先は愛を語るようにやさしい。
「……悲しみは晴れたでしょう?」
 機械蛇へ問いかける真魚の眼差しは揺るがなかった。
 彼女の眼は、悲嘆に暮れる大蛇のみを映す。喋れぬ大蛇もまた、真魚が持つ清流のごとき煌めきに目を奪われていた。
「あとは、ゆっくりと眠ってね」
 柔和な笑みを湛えた真魚の声が、溶けた真鍮の蛇に染み入る――それは真魚からの別れの挨拶。
 気を惹く間に、仲間が動いていた。
 空間を裂く素早さで花虎が投擲したのは、呪符と小刀。
 終わりが窺えようとも緊張を解かず、彼女は蛇の巨体へ符を張り、小刀を露わとなっていた胸元の火室へ突き立てる。
 砕ける硝子。溢れだす熱と蒸気。
 ――いらせられませ、闇御津羽。
 二度、三度、幾度連ね呼ぼうとも、淡々と紡ぐ声は変わらず。
 花虎が大蛇の内側へ送り込んだ影の獣は、最後の最後まで足搔いた命を喰らい尽くした。


 戦時からは驚くほどの静けさに包まれた、帰りの途次。
 散失したパーツを除き、治せる子は極力なおしてあげたいと動いたのはキトリだった。仕掛け扉をくぐるため、機械鳥たちを修理したように。
 レザリアの作った地図を辿る道すがら、ゆっくり手間をかけることが叶わずにいた機械動物たちを看ていく。
 フェアリーランドへ匿っていた黒猫のミュウも、呼び戻して以降は、猟兵たちの足回りを楽しげに歩きはじめる。
「……きちんと会わせてあげる」
 心配しているであろう女生徒の胸中を想い、レザリアが小声で黒猫に話しかける。
 自分が話題に上がっていると理解したのか、ミュウは名前通りの鳴き声で応じて、少女の靴に頬擦りする。
 猟兵の足から足へ渡り歩く黒猫に、嵐吾の両手は妙に落ちつかない。
「その前にちょっとだけ、ちょっとだけで良いから撫でさせてくれんかの?」
 大きな背をこれでもかと丸めてしゃがみこんだ嵐吾は、恐る恐る手を伸ばす。
 すると黒猫は、気ままに揺らしていた耳をぴんと立てて、彼の腕をよじ登り始めた。
 突然の行動に、嵐吾は猫を振り落としてしまわぬよう動きを最小に留める。
 キャットタワーとでも思っているのか、ミュウは身軽に嵐吾の頭へのぼると、そこで身を休めだす。
「……う、む。これでは撫でられんのう」
 くしゃりと表情を崩し、困ったように呟く嵐吾の姿に、猟兵たちの間から和やかな吐息が零れた。
 こうして彼らの任務は、今を生きる黒猫の安らかな様子と共に終える。
 迷宮の深くに、かつてを生きた過去だけを残して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月04日
宿敵 『スチームドレイク』 を撃破!


挿絵イラスト