帝竜戦役⑤〜龍なる星は山脈を穿つ
空に浮かびし帝竜が拠点、群竜大陸。その一角に戦士たちの墓標がある。かつて生前のヴァルギリオスへと挑み、相討ちとなって散っていった数多の勇者たち。彼らが戦った戦場こそが、まさにその場所である。
尤も、今は墓標としての静謐さが失われて久しい。復活を果たしたヴァルギリオスとその配下の進軍により、其処此処で死闘の喧騒が響き渡っているからだ。
そんな墓標の一角に、一振りの剣が突き立っていた。かつては相応の業物だったと思しいが、長い年月の果てに錆付き、刃毀れし、今にも朽ち果てんばかりであった。
しかし――其処に宿る魂は未だ朽ちず。
『山より高く、鳥より遠く。されども、星の海より低き場所』
剣のすぐ傍に、うっすらと人影が見える。半透明なその体は、既に生者のものではない。掠れ、擦り切れた魂の残像が、虚空へ向かって歌を口遊んでいた。
『天の河より降り注ぎ、龍の如く山を穿つ。地の奥底にて眠れし巌を、炉にくべ金打ち剣と為す。ただ一振りを携えて、向かうは竜の住まう土地』
どこか飄々とした雰囲気を纏う死者は、生きて居ればおおよそ三十の後半と言った年齢か。無精ひげの生えた口元より紡ぐ言の葉は、山麗より吹き降ろす涼風を思わせる。
『鍛え鍛えた龍星剣。帝竜討たんと挑み掛かるも、星は破れて地の底へ。最早、地上へ戻れはすまい……況や、あの風澄み渡り、星輝きし村々なぞ』
そんな魂の眼前を、山脈の如き巨体が通り過ぎてゆく。三頭の頚に、背負った岩の何と巨大な事か。動きは鈍重そのものなれど、この巨躯を打ち破らんとすれば相当の労力が必要となるだろう。
それこそ――山麗を一撃で穿ちぬくような、強力な業でもなければ。
『…………我が龍星が万全ならばあの程度の石ころ、容易く貫けたというのに』
ぽつりと漏れ出る呟き。そこにはちろりと、熾火の様な熱が確かに籠められているのであった。
●
「さて、良く集まってくれたね。群竜大陸での戦争が開始されて早一週間……複数の帝竜への道を開き、まずは順調な滑り出しと呼べるだろう」
ユエイン・リュンコイスは集まった猟兵たちを眺めながら、そう口火を切った。
「さて、今回も例に漏れず群竜戦役に関する依頼だよ。舞台は『勇者の墓標』、その名の通りかつてこの大陸へ乗り込んだ勇者たちがヴァルギリオスと戦い、散っていた戦場だ」
今回は此処に跋扈する敵勢力を叩き、以て戦況の優勢を確立することが目的である。
「キミたちに討って貰いたい敵は……『山龍』カルパディア。名前の通り、山の如き巨躯を誇るドラゴンだ」
三つ首の亀の様な外見をしたドラゴンで在り、背に山麗を思わせる岩塊を背負っている。その見た目に漏れず動きは鈍重だが頑強さは指折り付き、並大抵の攻撃では決して揺らがぬ耐久力を誇る相手だ。これを放っておけば、存在そのものが自走する橋頭保と化しかねない。
「遠距離から攻撃すれば安全だろうが、よほどの一撃でないと表層を削るだけ。接近しても質量そのものに攻撃を阻まれる。間違いなく難敵だ……だが、手はある」
山龍のすぐ傍に、朽ち果てた剣が突き立っている。それを依り代に、然る勇者の残留思念がその地へ留められているのだと言う。
「勇者の名はグローセ・ベーア。龍星と言う、かつて彼の故郷へ墜ちた隕石を鍛えた剣を手に奮戦した剣士だ。彼の助力を得られれば、山龍攻略の大きな一助となるはず」
グローセの手にした剣は、まるで山脈を穿つ隕石の如く敵を貫いていったのだという。その強力な貫通力を借り受けることが出来れば、山龍の強固な防御とて貫徹することが出来る。ただし、その為には彼を説得し、力を貸しても良いと思って貰わねばならない。
「彼の助力を得る為に必要な事……それは『帰る場所への想い』を伝える事だ」
グローセはどうやら、故郷を深く愛した勇者らしい。それ故に、共に戦う者が帰る場所をどれ程思っているのかを重視しているようだ。
「これは何も家や土地という意味だけじゃない。人、未来、物……自分の核となる、そういった存在も指しているみたいだね」
それらに対する想いを示すことが出来れば、勇者は力を貸してくれる。剣を振るえば岩肌を抉り、銃弾を放てば岩盤を穿ち、魔法を唱えれば巌を木っ端微塵に吹き飛ばす。まるで隕石衝突を思わせる突貫力を身に帯びることが出来るだろう。
「彼らは戦いへと赴き、そして帰ることが叶わなかった……それ故に、キミたちには同じ轍を踏んで欲しくないのかもしれないね。戦い、前へ進むのは勿論重要だ。だけどどうか、必ず帰るという想いを忘れないでくれ」
そう話を締めくくると、ユエインは仲間たちを送り出すのであった。
月見月
どうも皆さま、月見月でございます。
此度は勇者の魂と共に山脈が如き竜を討っていただきます。
それでは以下補足です。
●勝利条件
『山龍』カルパディアの討伐。
●戦場
開けた平野。広さは十分であり、正面からの殴り合いは勿論、機動戦や狙撃戦も可能です。その代わり、相手からの射線も通りやすくなっています。
●勇者について
グローセ・ベーア。『龍星の墜ちる地』と呼ばれる高山の村出身。村へ落下した隕石を鍛えた隕鉄剣を手に、貫通力に長けた剣技で敵群と渡り合った勇者。生まれ故郷を深く愛しており、猟兵たちへ帰る場所への想いを問いかけてくる。
彼の助力を得られれば、天より墜ちて地を穿つ隕石の様な力が得られるだろう。
●この戦場で手に入れられる財宝(フレーバー)
宝物「魂晶石」……かつての激しい戦いの余波で生まれた、高純度の魔力結晶体。1個につき金貨600枚(600万円)の価値。
●本シナリオは月見月の過去シナリオの要素が入っております。
ですが、特にそれを知らずとも問題ありません。気兼ねなくどうぞ。
それではどうぞよろしくお願い致します。
第1章 ボス戦
『『山龍』カルパディア』
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POW : 踏み込み
単純で重い【体重を活かした強烈な踏み込み】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 咆哮
【三つの口】から【広範囲に大音量の咆哮】を放ち、【その衝撃波】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 火炎放射
【三つの首から、広範囲に超高温の炎を吐く事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ソラスティベル・グラスラン
足元で戦っては危険です、竜の翼で空へ!【空中戦】
【盾受け・オーラ防御】で守りを固め、
攻撃を【見切り】、【怪力】を以て受け流す!
敵は巨大で動きは緩慢なはず、直撃だけは避けなければっ
わたしも故郷を、家族を想わなかった日はありません
けれど…他世界といえどこんな脅威があっては帰れない
立ち向かうのです!
退けば脅かされるのはこの世界の民、そしていずれは世界を越えアルダワの民も!
ここで退いては旅立ちを後押ししてくれた皆に顔向けできません!
勝って帰ります!黄昏の竜の民として誇れる、英雄譚の『勇者』のように!
『勇者グローセ』よ!我が【勇気】に応えて!
天を裂き山を割る龍星、我が手に宿りて此処に!【怪力・鎧砕き】
●今昔勇者は斯く語らいき
大地に重々しい足音が響き渡る。山脈の如き体躯を誇るドラゴン、カルパディア。戦場へと転送されて早々に敵影を認めると、ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は己が背の翼をはためかせて空中へと飛び上がった。
「まずは試しに一当てしてみたいけど、足元で戦っては危険かな。竜の翼で空へ! 敵は巨大で動きは緩慢なはず、直撃だけは避けなければっ」
敵はいったい如何ほどの相手か。ソラスティベルはその実力を推し量るべく、まずは一撃を浴びせかけんと宙空より敵へ挑み掛かる。身の丈ほどもある戦斧を手に、機動力を生かして一太刀打ち込んでみるも……やはり、固い。自慢の重斬撃も、岩肌の表面へうっすらと傷を刻み込むのみ。全く通じない訳ではないが、このままでは長期戦は免れぬだろう。
敵も攻撃者の存在に気付くと、邪魔な羽虫を叩き落さんと三つ首をうねらせながら迫り来る。一先ず、ソラスティベルは回避へと専念し始めた。
「なるほど、話には聞いていたけど恐るべき頑強さだね。さて、どう攻めれば……」
『……おっと。どうにも騒がしいと思ったら、御同輩の登場って訳か。はてさて、喜ぶべきか嘆くべきか分からんね』
百聞は一見に如かず。予想以上の硬い手応えに唸る少女へ、風に乗って声が届く。下方へと視線を巡らせれば、そこに在ったのは朽ちかけた一本の剣。傍らには半透明の姿をした男が佇み、こちらを見上げていた。
『中々の難物だろう、そいつは。だが、帝竜ってのはそれ以上にバケモンだ。生半な実力じゃあ歯が立たん……下手を打てば、俺みたく帰れなくなっちまうぜ?』
男……龍星剣の勇者グローセの口ぶりには、相手を推し量るような色が見て取れた。後に続く者への興味と戦士の覚悟、そして先達としての気遣い。そんな問いかけに対し、ソラスティベルは自らを呑み込まんとする顎を殴り飛ばしながら、胸を張って叫び返す。
「わたしも故郷を、家族を想わなかった日はありません。けれど……他世界と言えどこんな脅威があっては帰れない。誰かの危機を見過ごして、自分だけ安穏とその場から立ち去るなんて出来ません」
だから、と少女は続ける。
「立ち向かうのです! 退けば脅かされるのはこの世界の民、そしていずれは世界を越えアルダワの民も! 折角かの大魔王すら打ち倒したというのに、ここで退いては旅立ちを後押ししてくれた皆に顔向けできません!」
帝竜たちは界を渡るのだという。それがいかなる意味を持つのか、詳細は掴めずとも大意を察することは出来る。故にこそ、彼女はこの場に立つ事を決めたのだ。
「勝って帰ります! 黄昏の竜の民として誇れる、英雄譚の『勇者』のように!」
それは新しき猟兵から旧き勇者へ向けた、決然なる宣誓。三方向から襲い掛かる敵の頚を紙一重で払いのけながらそう言い放つソラスティベルに、グローセは小さく息を吐きながら笑みを浮かべる。
『勇者への憧れ、か。オーケイ、こっちも大仰にその名を背負う身だ。後輩らにそう言われちゃぁ、手を貸さない訳にもいかんでしょうや!』
朽ちた剣より星を思わせる煌めきが溢れ出し、少女の全身を覆ってゆく。それと共に、彼女は己の身体に荒々しい力が宿るのを感じた。また、山龍も相手の異変に気付いたのだろう。首の攻撃だけでは埒が明かぬと判断するや、大きく上半身を持ち上げて前足を振るう。全体重を掛けた、必殺の威を籠めた踏み潰し。
だが、それに対してソラスティベルは避けるのではなく、真正面から応じた。
「我らが先達、『勇者グローセ』よ! 我が勇気に応え……!」
握る大戦斧にバチリと蒼雷が迸る。それはさながら、翼を広げた龍の如し。少女はギリギリまで攻撃を引き付けると……。
「天を裂き山を割る龍星、我が手に宿りて此処に!」
直撃の寸前、一気に得物を振りぬいた。それは超重量を乗せた前足を深々と切り裂き、あまつえさえ逆に相手を押し返してゆく。大気を裂く雷鳴は、猛々しい雄叫びにもよく似て。
「これが……今の『勇者』の力です!」
地面へ転がる敵の姿を見下ろしながら、ソラスティベルはそう高らかに名乗りを上げるのであった。
成功
🔵🔵🔴
ベール・ヌイ
『無音鈴』を使って「ダンス」の舞を剣に向かって奉納します
ボクは家に帰って、仲間と…大好きなあの子と一緒にお昼寝したい
一緒にご飯を食べて、お喋りして、みんなでならんで眠って
それがボクの幸せだから
どうか力を貸して欲しい
『鬼殺』を構えて突撃します
相手の攻撃は「野生の勘」で避けて、防御なしの「捨て身の一撃」を突き刺します
つきさされば【不動明王・倶利伽羅】を起動
縛って燃やします
全てが終われば剣にもう一度舞いましょう
どうか、貴方が大切な場所へ還れますように、祈りを込めて
●日常、それは何事も無いが故に
雷斬を受け、地響きと共に地面へと転がった山龍。その重量は脅威だが、こうなってしまえば逆に仇となる。流石にそのまま起き上がれないということもあるまいが、少しばかりの猶予が出来た。その隙を以て、新たな猟兵が墓標へ降り立つ。
『助力在りとは言えやるねぇ、今代の勇者殿も……おや?』
豪快な一撃へ思わず口笛をグローセは、ふと眉を上げる。戦場へ響く涼やかな音色。勇者が音の源へ視線を向けると、そこには舞を捧ぐベール・ヌイ(桃から産まれぬ狐姫・f07989)の姿があった。玉が無いにも関わらず、彼女の挙動に合わせて鈴が甲高い音を零してゆく。
『へぇ、良い音だ。何だか、故郷の祭りを思い出すな』
「……そこは良いところだった?」
『ああ、勿論。お前さんの場合はどうだい』
払うべき敬意として披露した舞だったが、殊の外喜ばれたらしい。懐かしそうな笑みと共に投げかけられた問い掛けへ、ベールは訥々と言葉を返す。
「良い場所だよ。とても……とても、だいじな陽だまり」
そう話し始めた彼女の表情はどこか穏やかで、温かな感情が滲んでいた。思わず、聞き手側の勇者も目を細めて耳を傾ける。
「ボクは家に帰って、仲間と……大好きなあの子と一緒にお昼寝したい。一緒にご飯を食べて、お喋りして、みんなでならんで眠って……それがボクの幸せだから」
脳裏に浮かぶは愛しき仲間の姿。春は縁側、夏は木陰で午睡を愉しみ。秋は紅葉、冬は炬燵で同じ景色を共有する。そうした、白竜の少年や青髪の少女と過ごすゆったりとした時間こそが彼女の幸福で在り、帰る場所だ。
「だから、ボクがまたあの日常へ戻るためにも……どうか力を貸して欲しい」
『……何もなく同じ日が流れ、世は並べて事も無し。その尊さを知っているなら、心配は要らんか。オーケイ、それじゃあこいつは舞の礼だ』
日常の強さ、見せてやりな。グローセがさっと腕を振るうと、一陣の風に乗って煌めきがベールの元へと届けられる。かつて帝竜と渡り合った勇者の力が、そこへ確かに籠められていた。
「うん……ちゃんと、帰るためにも」
行ってくるよ。音無き鈴から悪鬼を弑する刃へ得物を持ち替え、少女は疾風の如く敵目掛けて駆け出してゆく。それと同時に山龍もまた体勢を立て直し終わり、次なる敵手を三対六つの瞳で捕らえた。苛立たし気にドラゴンは一声唸りを上げると、巨体を揺すりながら四肢を地面へと叩き込んでゆく。
それは単なる地団駄とも言える動作だが、そこに大質量が伴えば極めて凶悪な攻撃と化す。当たる当たらぬなどお構いなしに足踏みをする度、地面が打ち震え岩盤が砕かれてゆく。近づくだけでも一苦労、気を抜けば足を取られてそのまま潰されてしまうだろう。
「あの威力だと、防御は無意味。なら、足を止めずに避け続ければいいだけ」
だがベールが臆することは無かった。彼女は衝撃で粉砕され浮き上がった石塊を瞬時に見分けるや、それを足場に飛び石の如く相手へと肉薄する。
(足は常に動き続けていて狙いにくい……それなら)
少女は最後の大岩を思い切り蹴るや、真上へ向けて跳躍する。三つ首の猛攻すら潜り抜け、狙いは敵の背負いし大岩山。そこへ目掛け、ベールは勢いそのままに得物の切っ先を突き立てた。常ならば数寸も進まぬうちに止められてしまうが、今は龍星の加護がある。
するりと、薄紙を貫くが如く刀身が根元まで巌へと突き刺さった。
「ノウマク、サンマンダ、バサラダン、センダンマカロシャダ、ソハタヤ、ウンタラタ、カンマン……不動明王へ願い奉る 御身の力をここに」
素早く切られた九字の契機に、刀身が炎と化して倶利伽羅竜王の姿を取る。それは内部から岩盤を焼き尽くし、まるで火山の噴火が如く岩肌を吹き飛ばした。これには堪らず、山龍も苦悶の雄叫びを上げながら身震いする。
「あなたを、倒して。それでどうか、あの勇者も大切な場所へ還れますように……」
敵の巨体より飛び退きながら、ベールは助力してくれた勇者へ感謝の念を思い浮かべる。山龍を倒し、帝竜を討てば、グローセの魂も故郷へ戻ることが出来るのだろうか。そうであれば良いと、少女は願う。
その祈りを表す様に、地面へ着地したベールからシャン、と。鈴の音が一つ響くのであった。
成功
🔵🔵🔴
鈴木・志乃
平和な日常。それが私の帰る場所。
いつも通りあくせく働いて、好きなことに目一杯打ち込んで。友達とランチしてどうでもいいこと喋ったり、恋人と黙って一緒にいたりするの。
時にはくだらない喧嘩して、恥ずかしくなるような馬鹿やって……そんな、どこにでもあるような平凡な幸せを、私は取り戻して皆で過ごしたい。
それが私の帰る場所。
私の生きる道。
グローセ様、私はなんでもない今の拠点を愛しています。そのために平和が欲しいのです。
どうかお力添え頂きたく存じます。
第六感で攻撃を見切り、光の鎖で早業武器受けからの念動力操作で捕縛を狙う。
敵UCには自UCで対抗。全力魔法で一切合切をなぎ払い、私の帰る場所を描いて見せる。
薙沢・歌織
勇者グローセ・ベーア…猟兵の薙沢・歌織と申します。
あなたは故郷を愛しているのですね。
私の故郷はアルダワの大都会。敬愛する私の祖父母がアルダワに移住してきた時、子供達が将来生活に不自由しないようにと選んだ地だそうです。
戦いを好まない私が猟兵になったのは、家族…祖父母と兄や妹を守る力が欲しかったから。この戦いにも生還し、家族を安心させたいです。
山龍のUCは強烈でしょう…やられる前に【先制攻撃・ダッシュ・空中浮遊】で山龍の山の上に向かい、急降下してUC【地竜滅砕破】を地【属性攻撃】で増幅、【重量攻撃】で発動。山龍を背中から破砕します。
勇者よ、私に力を…!
魂晶石は魔法の研究素材として回収したいです。
●何事も無きが故に、其は掛け替えの無き
『随分とまぁ、見た目に似合わず苛烈なもんだ……いや、かつてのお仲間も似たような奴ばかりだったか』
背に負った大岩山を一部とはいえ吹き飛ばされ、雄叫びを上げる山龍。その様にグローセはひゅうと小さく口笛を吹く。世界を救おうと考える者たちだ、きっと彼と肩を並べた他の勇者も一癖二癖ある人物だったのだろう。
『とは言え、それでも負ける時には負けるもので。まぁ、俺たちの伝承が残っている以上、生きて故郷へ帰った奴もいるんだろうが……さて、俺の村はどうなっているのやら』
「あなたは故郷を愛しているのですね、勇者グローセ・ベーア」
かつてを懐かしむ勇者へ声が掛けられる。男が視線を向けると、そこには声の主である薙沢・歌織(聖痕宿す魔法学園生・f26562)と、同じタイミングで転送されてきた鈴木・志乃(代行者・f12101)の姿があった。
「どうも初めまして。猟兵の薙沢歌織と申します」
『こりゃご丁寧にどうも。ああ、そうだ。故郷は良い。帰る場所があるってのはな。そう言うお前さんたちはどうだい?』
歌織の問い掛けに頷きながら、勇者が逆に猟兵たちへ尋ね返してくる。それに対して口を開いたのは志乃。彼女は噛み締める様に、言葉を紡いでゆく。
「もちろん、愛していますよ……平和な日常を、戻るべき場所を」
静かに瞳を閉じれば、瞼の裏に浮かぶは何気ない普段の日常風景。どこにでもあるような、しかして色あせることのない輝きを持った日々。
「いつも通りあくせく働いて、好きなことに目一杯打ち込んで。休日には友達とランチしてどうでもいいことを喋ったり、恋人と黙って一緒にいたりするの」
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム。悪戯っぽく、古いバラッドの一節を芝居がかって口遊みながら志乃は言葉を続ける。
「時にはくだらない喧嘩して、恥ずかしくなるような馬鹿やって、最後は笑って仲直りして……そんな、どこにでもあるような平凡な幸せを、私は取り戻して皆で過ごしたい」
――それが私の帰る場所。私の生きる道。
そう話を締めくくり、演者は自らの台詞を終えた。志乃は舞台を譲る様に一歩身を引くと、入れ替わりに今度は歌織が己の故郷について訥々と語ってゆく。
「私の故郷はアルダワの大都会。敬愛する私の祖父母がアルダワに移住してきた時、子供達が将来生活に不自由しないようにと選んだ地だそうです」
大迷宮の上に立てられし、英雄を育てるための学園。数か月前に地底より大魔王が蘇ったとはいえ、あの世界は学ぶに良し営むに良しの良い街だ。彼女は祖父母の選択は正しかったと、自らの半生を振り返りながらしみじみ思う。
だが、敢えて少女はそこから一方踏み出し、こうして戦いの荒野へと自らの意志で赴いた。それはひとえに、己の故郷を思うが故。
「元々戦いを好まない私が猟兵になったのは、家族……祖父母と兄や妹を守る力が欲しかったから。この戦いにも生還し、家族を安心させたいです。勿論、帝竜の脅威を打ち払った上で」
「グローセ様、私たちはなんでもない今の拠点を愛しています。そのためにも界を渡らんとする軍勢を消し去り、変わらぬ平和が欲しいのです。どうか、お力添え頂きたく存じます」
歌織の言葉へ被せる様に、志乃は深々と頭を下げて勇者へ助力を請い願う。少女二人の頼みを前に、苦笑を浮かべながらグローセは頬を掻く。
『いやはや、いやはや。これを断ったらどっちが悪者か分かんなくなっちまうね。ま、それを抜きにしてもうら若き乙女が傷つく余地を減らせるとくれば、断る道理もない』
今も帰りを待つ誰かの元へ、元気な姿を見せられるようにな。ひゅるりと、清々しい風が吹く。それは歌織と志乃の背中を後押しするように、そして蠢く巨影を退けるが如く、戦場を駆け抜けていった。二人は己の身体へ付与された力を感じ取ると、頷きを交わし合いながら敵目掛けて飛び出してゆく。
「山龍の一撃は恐らく強烈でしょう。可能ならば、動かれる前に先手を打ちたいところですが……」
「どうやら、そうもいかないようですね」
彼女らの視線の先では、敵対者の姿を認めた山龍が大きく息を吸い込み終えた所だった。三つ首の口元から漏れ出るは緋色の輝き。カルパティアはそれぞれの顎を開くや、周囲へと紅蓮の業火を解き放つ。瞬く間に戦場は焔に覆い尽くされ、踏み入る者を焼き尽くす地獄と化した。しかし、猟兵たちの歩みが衰える様子は微塵もない。
「丁度良い具合に追い風が吹いていますからね。全部とは言わずとも、進む道くらいはこじ開けて見せましょうか!」
今一時銀貨の星を降らせる、世界の祈りの風よ。前へ駆け出た志乃が懐に潜ませていた二冊の魔導書をつま弾くや、周囲へ突風が巻き上がる。
「これが私の帰る場所。さぁ、貴方にはどう見えますか!」
それは苦痛と焦熱を齎す焔を取り込み、代わりに魅せるは幸福なる幻想(にちじょう)。進路を確保しつつ、相手の視界を覆い夢幻の世界へと引きずり込んでゆく。幸福な光景によってカルパティアの警戒が緩んだと見るや、演者は輝く光条を取り出し振るい始めた。
「この巨体相手に、これだけではそう長くは持ちません! 大人しくさせられて、精々十数秒が限界です!」
「それで問題ありません! ……竜には刃を、岩盤には大地を」
志乃の鎖は山龍の足へと絡みつき、足踏みも含めた挙動を封じる。しかし、その巨躯から発揮される膂力は驚異の一言に尽きた。ギチリと張り詰める鎖を何とか操る仲間の言葉に、歌織は十分だと叫び返す。
「狙うは背負う大岩山、先ほど吹き飛ばされた傷跡です! 勇者よ、どうか私に力を…!」
彼我を繋ぐ鎖を足場に、歌織が一直線に目指すは敵の背中。先に交戦した猟兵によって粉砕された傷口であれば、他の個所を攻撃するよりも深い部分にまで威力を届かせられると考えての選択だった。しかし、相手もその意図を察したのだろう。幻想を振り払い、鎖を引き千切らんと身を捩り始めた。だが不安定になる足場にも動じず、少女は目的の場所まで到達するや緋色の刀身を持つ大剣を振り上げる。
「大地の咆哮に震え、喰われよ! 地竜滅砕破!」
山龍の咆哮にも劣らぬ大音声が刃を震わせ、振動を破壊力へと転化してゆく。そうして叩き込まれた一撃は堅牢な巌を粉砕し、飛び散った石塊すらも微塵の砂へと変えていった。更に全体重を乗せて刃を押し込めば、噴き上がるは竜の血液。これには堪らず山龍も身体を揺すって歌織を弾き飛ばす。
「確かに一撃、入れましたよ……!」
「ただ、流石にもう拘束が外れますっ。一時退避を!」
少女は空中で身を捻って体勢を整えつつ、仲間の警告に従い距離を取る。そうして着地した彼女の掌には、敵の体内より奪い取った魂晶石がしかと握られているのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ダビング・レコーズ
諸事情により記憶情報が欠落している当機には、故郷と呼べる場所はありません
しかし戻らなければならない場所はあります
当機は山より高く、鳥より遠い、星の海で製錬された機械兵器
存在意義の全ては敵を倒す為
戦場こそが戻るべき場所
故に此処へ来ました
【アドリブ連携歓迎】
確かに単純な質量差は致命的です
しかし生物である以上は脳や心臓と言った生命機能の根幹となる中枢部が存在する筈です
中枢の一点突破による一撃必殺
これを戦術とします
空中戦時の最大加速を得る為にソリッドステート形態で出撃しSSDを起動
限界高度まで上昇後に急降下
最大加速した当機に霊体の貫徹力を相乗させ山龍に突撃
回避運動は不要
攻撃が到達する前に一撃で決めます
●星海の銀鋼より、地上の隕鉄へ
『豪快だねぇ。ああ言う派手なのは見ていて胸がすくようだ』
「……派手な戦いぶりがお好みですか、勇者殿」
『こんな場合だからな、しみじみとやるよりかは良いだろうさ』
大質量の一部が吹き飛ばされ、苦悶の咆哮を上げる山龍。その手並みを面白そうに眺めるグローセの傍へ、駆動音を響かせながらダビング・レコーズ(RS01・f12341)が並び立つ。その姿を見上げた勇者は、おやと眉を上げる。
『全身鎧、じゃないな。絡繰り仕掛けの御同輩か。どこから来なすった』
「山より高く、鳥より遠い、星々の輝く空の海。当機はそこで製造されました」
『なるほど、そいつは素敵だ。言わば、こいつの生まれ故郷って訳か』
戦機の言葉に呵々と笑いながら、グローセは己が依り代たる隕鉄剣を叩く。星界にて鋼は人型となり、地上へ降り墜ちては剣となった。親近感を覚えて目を細める男に対し、ダビングは『故郷』という単語に反応する。
「……諸事情により記憶情報が欠落している当機には、故郷と呼べる場所はありません。こうして再稼働するまでどれほどの時間が経っているのかも分からぬ以上、記録を辿ることも難しいでしょう」
紡がれた言葉は、どこか電子音以上の無謬さが滲んでいるように思えた。大破状態より修復されただけでも三十年。それより前と成れば如何ほどの年月か。だがそれでも、と。ダビングは続ける。
「しかし、戻らなければならない場所はあります。どれ程の刻が流れようとも、当機が機械兵器で在る事に変わりなく……存在意義の全ては敵を倒す為、戦場こそが戻るべき場所」
故に、此処へ来ました。そう話を締めくくる戦機の言葉に、勇者は長い息を吐く。
『そう在れかしと作られ、斯く在らんとした以上、戦場こそが己の居場所、ね。空の果てがどんなところかは分からんが、こっちと変わらず世知辛いようだ』
グローセは肩を竦めながらも、そっと得物の表層を撫ぜる。そこからは当の昔に失われた煌めきが零れ落ち、ダビングの装甲表面をコーティングしてゆく。計器では観測しきれぬ力が、そこへ確かに籠められていた。
『ならば精々、御同輩が戦場の「次」へ辿り着けるよう助力させてもらいますかね!』
「……協力、感謝いたします」
男の言葉をしっかりと記録しながら、ダビングは飛行形態へ変形すると上空目掛けて飛翔してゆく。そのまま敵の頭上を旋回しつつ、各種センサーで相手の状態を計り始めた。
(確かに単純な質量差は致命的です。しかし、生物である以上は脳や心臓と言った生命機能の根幹となる中枢部が存在する筈……そこを狙った一点突破による一撃必殺、これを戦術とします)
幸い、敵は数度の交戦によって負傷している。そこから敵の生体情報を推察することは容易かった。頭部は三つあり、即ち脳も三つ。恐らく、一つ潰したところで致命打にはなり得ないだろう。その場合、狙うべきは内蔵器官か。
(とは言え、そのまま背面から挑んだ場合、狙いが逸れる公算が高いと思われます。となれば、攻撃すべき個所はその逆)
そう判断を下すや、ダビングは機体表層へ電磁障壁を展開。空気抵抗を極限まで低下させながら、山龍の眼前を飛び回り攻撃を誘発させる。果たして、首だけでは埒が明かぬと判断したのか、相手は身体を持ち上げて足を振り上げ……。
「……今です」
戦機は飛行軌道を急変更、相手の鼻先を舐める様にこすりながら一気に高度を上げた。山龍が思わず怯み仰け反ったタイミングと同時に、最高高度へ到達したダビングは垂直反転。そのまま眼下の相手を目掛けて一直線に突撃する。
「これで守りの薄い腹部が射角に入りました。こうなれば、もはや回避運動は不要。攻撃が到達する前に一撃で決めます!」
音の壁すら打ち破り、戦機の吶喊が山龍の腹部を貫いた。それは正しく、天より放たれし龍星が如き威力である。勢いもそのままに相手の背より飛び出したダビングは、人型へ戻りながら地面へと着地する。
――ガァァァアアアアアアアッッツ!?
ガリガリと地面を削って勢いを殺しながらも、彼のセンサーは三つ首より放たれる苦悶の叫びをしっかりと捉えているのであった。
大成功
🔵🔵🔵
春乃・結希
私は旅人だから
世界中が私の家で、私の庭だから
故郷への想いは、あなたの様に強くない
私の唯一の拠り所は、この大剣
『with』が側に居てくれるなら
私はどこにだって行ける
どんな相手とも戦える
『with』が居てくれるなら、他に何も要らない
あなたの言う『帰る場所』とは違うけど
世界でただひとり、愛する存在です
それでもよければ…『with』と私に
力を貸してください
巨大化した大剣【重量攻撃】を【怪力】で振るい足を止める
止める事が出来たら【ダッシュ】の勢いで身体の上に駆け上がり
咆哮は剣を突き立てる事で耐え
背負う山を切り崩す
伝説の勇者と一緒に戦えるなんて、光栄です!
あなたの貸してくれた力、無駄にはしません…!
●共に過ぎ行く日々もまた旅人なり
『帰るべき場所が戦場、闘争こそが日常……ま、それも一つの形なのかねぇ』
渾身の重墜撃に身体を貫かれ、苦悶の叫びを上げる山龍。重要な臓器を幾つも傷つけられ、傷口より滂沱と鮮血を流していたがそれも暫くすると停止した。だが、治癒ではない。筋肉と質量を利用し、破れた血管を圧し潰しているのだろう。文字通り血みどろの戦闘を眺めながら、勇者グローセはちらりと背後を見やる。
『……お嬢ちゃんも似た様なクチかい?』
「ちょっと、違いますけどね……私は、旅人だから。世界中が私の家で、私の庭だから。きっと、故郷への想いは、あなたの様に強くない」
問い掛けに応ずる声がある。茶色のコートをはためかせながら姿を見せたのは、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)だ。彼女は小さく首を振って、勇者の言葉に同意を示す。しかし、それを以て彼女の想いが弱いなどと判断するのは早計だ。
「私の唯一の拠り所は、この大剣。『with』が側に居てくれるなら、私はどこにだって行ける。どんな相手とも戦える。帝竜だろうと、大魔王だろうと。きっと、神様相手だって」
――『with』が居てくれるなら、他に何も要らない。
そう告げながら、結希はそっと布にくるまれた背の大剣を撫ぜる。ややもすれば、彼女の主張は眉を顰められるかもしれない。己が得物に対する親愛の情は、もはや信仰の域に達していると言っても過言ではなかった。それは何よりも堅く、重く、鋭い。
「あなたの言う『帰る場所』とは、違うけど。世界でただひとり、愛する存在です。それでもよければ……『with』と私に、力を貸してください」
だが、それこそが彼女の真実。何者にも、例え世界を相手取ってもなお変わらぬ絶対だ。
他と隔絶した想い――しかして、グローセがそれを否定することは無かった。
『そこまで想われちゃあ、武器も冥利に尽きるってもんだろうさ。何分、その気持ちが分からん身の上じゃあない。こっちも死んでから、何百年とコイツと一緒だしな』
ポンポン、と。男は朽ちかけた剣を労わる様に叩く。これこそが彼の依り代で在り、この世へと繋ぎとめる縁。剣が今まで形を留めて居てくれたが故に、彼はこうして新たな戦場へ立つことが出来たのだ。共感できる部分も大きいのだろう。
『……貫くだけしか能がないが、それだけなら誰にも負けん。その一端を貸し与えるが、精々気を付けなよ。戦闘中に見惚れちゃあ危ないからな?』
ひゅうと一陣の風が吹くや、それは黒剣を包む布を解きほぐし浚ってゆく。姿を見せた刃は、星の輝きを思わせる煌めきに包まれていた。
「……それの上で勝ちますよ。私と『with』なら」
結希は愛剣を引き抜くや、山龍目掛けて飛び出してゆく。自らへ接近する敵の姿を認めると、カルパティアもまた鎌首をもたげながら三頭を差し向けてくる。大きく息を吸い込み、ガチリと牙を噛み合わせ、そして。
――オオオオオオォォオォォォォォ!
三重咆哮が戦場に木霊する。だが音の壁が届くよりも先に、少女は剣を振るっていた。
「一手……私の方が、早いッ!」
相手が音の速さで迫るなら、こちらは光の速さへ至るまで。ただでさえ身の丈ほどもある剣は、石火よりもなお早くその刀身を巨大化させていた。増大した質量を利用し、衝撃波を強引に切り裂きながら肉薄すると、そのまま敵の身体へと突き立てる。吹き飛ばされぬため柄を抱きしめる様に掴む少女へ、三つ首の咆哮が襲い掛かる。
「この程度、全然平気です! 伝説の勇者と一緒に戦えるなんて光栄、そうそうありませんから……情けない姿は見せられない。あなたの貸してくれた力、無駄にはしませんッ!」
身を震わせる激痛も、増加した重量も、何一つとして気にならない。かつての英雄が力を貸してくれ、そして何よりも愛する剣と戦場に在る。である以上、負ける道理が何処にあろう。
「わたしたちは、強い……こんな岩山程度で、阻めると思わないでくださいッ!」
結希は敵の身体を踏み締めて突き立てた剣を引き抜くや、全身を使って思い切り振りぬく。グローセの加護を受けた斬撃はまるで薄紙を断つか如く岩山を切り飛ばし、返す二の太刀でそれを木っ端みじんに打ち砕いた。それによる急な重心の変化についてゆけず、堪らず山龍は体勢を崩してひっくり返る。
転倒へ巻き込まれて圧し潰されぬよう、少女は大剣を元のサイズへ戻しながら飛び退いた。結希は藻掻く巨体へ向けて、敢然と胸を張る。
「――これが私と『with』の力です」
パチリとひとつ。その在り方へ称賛を送る様に、グローセの手拍子が戦場に響くのであった。
大成功
🔵🔵🔵
白峰・歌音
オレは帰る先の記憶が無い。
帰った先に希望があるのか絶望があるのか、それがどちらかも分からない。でも、それを恐れたらオレはどこにも進めなくなる。オレが帰る場所へ抱く想い、それはオレが先へ進み続けるために目指す場所なんだ!
「無くした記憶が叫んでる!何が待ち受けていても、恐れず前へ踏み出せと!!」
【ダッシュ】して動き回ったり【ジャンプ】して飛びのいたりして久保の攻撃をかいくぐり、風の【衝撃波】【属性攻撃】で敵の衝撃波を少しでも相殺しながら接近、敵の内側に潜り込めたら、UC【ブレークアウト・サイクロン】で思いっきり蹴飛ばし、ぶっ飛ばしてやるぜ!!
アドリブ・共闘OK
●戻るのではなく、先へと進むために
負わされた傷の痛みに引き転がされた屈辱も相まって、怒りの雄叫びを上げてのたうち回る山龍カルパティア。相手が再度戦闘態勢を整えるまでの僅かな猶予、その隙を突いて姿を見せたのは白峰・歌音(彷徨う渡り鳥のカノン・f23843)だった。
「場所や人、それに物……みんな、やっぱりそういうもんを持ってるんだな」
『おや。その口ぶりだと、お前さんにはそいつが無いって風だがね?』
他の猟兵たちが語った、それぞれの『帰るべき場所』。それらを指折り数える歌音へ、グローセが訝し気に眉を持ち上げる。ああ、と頷きながら少女は問い掛けに応じた。
「オレは帰る先の記憶が無い。自分の扉さえ見つけることが出来れば思い出せるんだろうが、その前に世界を飛び出しちまったからな」
彼女は絶望童話迷宮へと堕とされたアリスだ。今でこそ猟兵として世界を飛び回っているが、己の扉を見つければ帰る場所どころか元居た頃の記憶とて蘇るだろう。だが、それが果たして良いと言えるのかどうか。多くのアリスは絶望故に逃避を望んでしまったのだから。
「帰った先に希望があるのか絶望があるのか、それがどちらかも分からない。もしかしたら、耐えがたい何かが待ち受けているかもしれない……でも、それを恐れたらオレはどこにも進めなくなる」
実際、元の世界への帰還を拒絶する者、記憶を取り戻したが故に食人の怪物へと為ってしまった例も少なくない。だが、それを恐れて立ち止まってしまっては、死んでいるのと変わらないと歌音は考えている。
「オレが帰る場所へ抱く想い、それはオレが先へ進み続けるために目指す場所なんだ! 無くした記憶が叫んでる! 何が待ち受けていても、恐れず前へ踏み出せと!! オレに足を止めている暇なんてないんだ!」
だから、力を貸してくれ! そう叫ぶ歌音の言葉に、ふむとグローセは顎を撫ぜる。
『正直、他の世界の事情だなんだってのは想像もつかん。だが、俺たちに負けないくらいクソッタレな状況をぶち破って来たってことだけは分かる。その熱量と気合、嫌いじゃあないぜ?』
帰るのではなく、辿り着く為に。それもまた一つの形なのだろうと、勇者は歌音の在り方を認めた。ひゅるりと、朽ちた隕鉄剣から一陣の風が吹き荒れる。それは確かに、アリスの身体へと力を与えてゆく。
『ま、今じゃあこんなナリだが、追い風くらいは吹かせてやれるさ。行ってきな、嬢ちゃん』
「サンキュー! それじゃあ、目に物を見せてやるぜ!」
涼やかな風に背を押されながら、歌音自身もまた疾風となって戦場へ飛び出してゆく。ごろりと身を起こし終えた山龍が態勢を整える前に、彼女は速攻を仕掛ける。
「まずは小手調べ、ってな!」
手近な手足目掛けて、少女は拳打蹴撃を叩き込んでゆく。通常であれば分厚い皮膚と筋肉に阻まれて碌々威力を通せぬだろうが、龍星の加護があれば話は別だ。山龍は骨肉の軋む痛みに耐えかね、首を巡らせて敵を噛み砕かんとするも、歌音は強靭な脚力を活かしてそれを掻い潜る。
――オオオォォォォッ!
「衝撃波か? だけど、もうここまでくれば!」
埒が明かぬとカルパティアは衝撃波を放つも、アリスは風を生み出してそれを相殺。強引に相手の懐へ肉薄するや、思い切り地面を踏み締める。
「超重量がなんだってんだ……一切合切、全部吹き飛ばす風になってやるぜ!」
放たれしは暴風を纏う回し蹴り。それは相手の腹部甲殻を割り砕き、僅かながらではあるが相手の巨躯を蹴り上げることに成功する。巻き込まれぬよう距離を取った一瞬後、盛大な地響きを立てて山龍が地面へと落下し沈み込んだ。
「はっ、どんなもんだ!」
そうして、歌音は己の戦果を誇る様に呵呵と笑みを浮かべるのであった。
成功
🔵🔵🔴
勘解由小路・津雲
懐かしいな、あのときの祭りに縁ある勇者か。あんたの故郷に行ったことがあるぜ。こんな形で会えるとはな。
【行動】
故郷、か。おれは本来「物」ゆえ、生まれ育った土地、という感覚は薄いかもしれん。
……ただ、例えばサムライエンパイアにあるヤドリガミたちのお屋敷、UDCアースにある路地裏、友の住むA&Wにある風光明媚な国。
そういう、失いたくない場所というのはある。そういう場所は今後も増えるかもしれん。
かけがえのない場所を故郷と呼ぶのなら、おれにとって故郷は、過去ではなく繋がっているのかもな。助力、願えるか?
助力を得られれば【歳刑神招来】を使用。隕石代わりに、矛や槍の雨を降らすとしよう。
●増えてゆくことの幸福を
『帰る場所の在る者、無い者。場所に人や物。いやはや全く、老婆心を出して聞いて回ったのは良いが、俺まで里心を疼かせちゃあ世話ないなぁ。ええ?』
自らの助力した猟兵たちによって、山龍は着実に追い詰められている。戦況の優位によって、グローセにも徐々に余裕が生まれたのだろう。問答を経た彼の胸中には、他ならぬ己の故郷が朧げな輪郭と共に浮かび上がっていた。
『ま、ただでさえ小さかった村だ。何があってもおかしくはないが……』
「いや、その心配はないぞ」
一抹の寂しさを浮かべた男へ、否と声が上がる。シャンと錫杖を鳴らしながら姿を見せたのは、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)。彼はしげしげと勇者の顔を観察しながら、穏やかな笑みを浮かべた。
「懐かしいな、あのときの祭りに縁ある勇者か。まさか、こんな形で会えるとはな。安心してくれ、あんたの故郷には行ったことがあるぜ。」
『な、オイオイオイ! そいつは本当か!?』
「ああ、勿論。仲間と連れ立って、あんたの痕跡を探しにな。多分、この後にでもやって来るやもしれんし、そこでも話は聞けるだろうが」
飽くまでも戦闘中故、長々と話す時間は余りない。だがそれでも、津雲は出来る限り手短に纏めながら見てきた村の様子を語って聞かせた。それはきっと、勇者にとって何よりも待ち望んだ報せのはずだから。
そうして村と祭りについて聞かされると、グローセは照れくさそうに頬を掻いた。
『俺を由来として祭りが。たっは、そいつは何ともこそばゆいなぁ』
「ふむ……故郷、か。あんたと違っておれは本来『物』ゆえ、生まれ育った土地、という感覚は薄いかもしれん」
勇者の感慨深げな様子を微笑まし気に眺めつつ、陰陽師は翻って己の身を顧みる。彼の本来は金属鏡。自我を知覚したのも作られてから相応の時間が経過した後故、生まれ故郷と聞いてパッと思い浮かぶものは乏しい。だが、大切な場所ならば確かにあった。
「……ただ、例えばサムライエンパイアにあるヤドリガミたちのお屋敷、UDCアースにある路地裏、友の住むA&Wにある風光明媚な国。そういう、失いたくない場所というのはある。そういう場所は今後も増えるかもしれん」
縁側では姦しい桐箪笥の声が響き、路地裏には飄々とした白刀が陽だまりで微睡み、水路も美しき街並みを星剣が歩む。そのどれもが、彼にとっては気を安らげる憩いの居場所。もしそれらが危機に晒されれば、陰陽師は全力を以て脅威と対峙するだろう。
「かけがえのない場所を故郷と呼ぶのなら、おれにとって故郷は、過去ではなく今と繋がっているのかもな。少なくとも、この世界が滅びればその内の一つが消えてしまう」
だから、どうか助力を願えるか?
その問いへ、勇者は威勢よく膝を打った。見つめ返してくる表情はどこか晴れやかだ。
『是非も無し。村の危機を救って貰ったなんざ、デカすぎる借りだ。返さなきゃ龍星の名が廃るってもんだ!』
ひゅるりと風が渦を巻き、津雲の霊力へと溶け込んでゆく。冷たき水気と涼やかな旋風は、まるでかつて訪れた山村の空気を思い起こさせた。陰陽師は増した力を確かめながら、剣指を結ぶ。
「ではこの力、有難く借り受ける……八将神が一柱、刑罰を司る歳刑神の名において、悪竜を裁かん。急急如律令!」
戦闘の余波で粉砕された土塊がぼこりと蠢くや、それらは無数の鋼鉾や鉄槍へと変じてゆく。常ならば呪者の念で動かされるものだが、今はそれに加えて龍星の加護を纏いその鋭さを更に高めていた。
「敵は火を噴く竜と言う。ならば水剋火、隕石代わりに矛や槍の雨を降らすとしようか!」
津雲の意志に従い、四百に届こうかと言う長物が山龍目掛けて降り注いでゆく。相手もそれらを迎撃せんと三つ首を小刻みに動かしながら焔を吐き出すも、数が数だ。加えて、水気を含んだ風を纏っていれば早々火を通すことなどなく……。
「悪蛇討滅、邪竜調伏……ってな」
岩も、鱗も、肉も関係なく。数多の鉾槍は一本余さずカルパティアの全身へと突き立ち、敵の体力を猛烈な勢いで削り行くのであった。
成功
🔵🔵🔴
落浜・語
龍星かぁ。もう、懐かしいって言うほどに前か。
…あの時から、大分変わったな。何がって訳じゃないが。
故郷か…『おれ』にとっては主様の懐がそうかもしれないけれど、残念ながら俺には故郷はないや。
でも、俺の帰る場所はある。大切な人の隣。温もりも他人に触れることも、怖れ躊躇した俺に大丈夫だと、寄り添ってくれる人。彼女の温もりを感じることのできる場所が、俺の帰る場所だ。
この世界にも、彼女と一緒に行った場所が沢山ある。龍星の降る村や、行きたいところもある。だから、護るために力を貸してほしい。
協力得られたなら、UC『人形行列』使用
【オーラ防御】で自分だけでなく人形も相手のUCから護りつつ、接近、爆破してしまおう
●変わるもの、変わらぬもの
「おお~、ありゃ津雲さんのか? 中々派手にやってるなぁ」
次いで戦場へと転送されてきたのは、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)であった。彼は山龍へと突き刺さった無数の鉾槍を認め、それが仲間によるものだと理解する。彼の呟きを耳ざとく拾ったのか、勇者の魂は興味を惹かれた表情で話しかけてきた。
『お前さん、あの呪い師のお仲間かい? もしそうなら、俺の故郷にも……』
「ああ、行ったよ。祭りの日は中々に賑わっていて、俺も一席小咄を披露させてもらったしな」
『そいつぁ良い。折角のハレの日なんだ、活気があるのは嬉しいもんだぜ』
グローセの問いへ首肯しつつ、噺家は感慨深げに腕を組む。思い出すのは当然、あの祭りと闘争の夜について。
「それにしても、龍星かぁ。出向いてから一年ちょい、もう懐かしいって言うほどに前か……あの時から、大分変わったな。何がって訳じゃないが」
あの頃は恋仲の仲間たちを冷かしつつ、先の陰陽師と男二人で祭りを練り歩いたものだ。それから一年、懐かしさを覚えるのも当然だろう。その間にあった変化は、どれも彼にとって忘れられぬもの。
「故郷、か……『おれ』にとっては主様の懐がそうかもしれないけれど、残念ながら俺には故郷はないや。でも……俺の帰る場所はある」
落浜語という人格を説明するには、些か複雑な経緯を要する。だが端的に言ってしまえば、彼にとっての生まれ故郷は存在しないという事になるだろう。しかし、語はそれを不幸などとは決して思わない。故郷と等しい輝きを、彼はこの一年で手にしていたのだから。
「……大切な人の隣。温もりも他人に触れることも、怖れ躊躇していた俺に大丈夫だと、そう言って寄り添ってくれる人が居る」
脳裏に思い描く相手は狐像の少女。今は隣に姿が無くとも、例えどれだけ離れていても、その存在はいつもはっきりと感じられる。それがとても幸福な事なのだと知れた事こそが、この一年で最大の変化だった。
「彼女の温もりを感じることのできる場所が、俺の帰る場所だ。それだけはこんな俺でも、胸を張って言えるよ」
それはどこまでも、どこまでも穏やかな笑み。噺家の青年は感傷の余韻を引きながら、表情を引き締める。戦いへ赴く猟兵の顔へと。
「この世界にも、彼女と一緒に行った場所が沢山ある。龍星の降る村や、行きたいところもある。だから、護るために力を貸してほしい」
『はっは! そう頼まれちゃあ、断る事なんざ出来ないじゃねぇかよぅ。だが、女の為か。悪くない、全くもって悪くない。好きだぜ、そういう気骨はよ!』
語の真剣な眼差しに、グローセも不敵な笑みを以て応える。男の感じた心意気を表すかのように煌めく輝きが噺家の全身へと降り注ぐ。試しに語がぐっと手足を動かしてみれば、身体に満ちる力を感じることが出来た。
『どうせなら派手にやって、土産話に武勇伝でも聞かせてやんな!』
「切った張ったはそこまで得意じゃないんだがね。ま、派手さってならこいつかな」
パシンと一つ勇者に背を叩かれて、語は戦場へと進み出る。相手は丁度、突き刺さった鉾槍をへし折っている最中だ。付け入る隙は十分にある。彼は文楽人形を糸で操ると、山龍目指して進ませてゆく。
「あれだけの巨体だ、こっちもそれなりに数を揃えるとしますか」
二が四、四が八、八が十六。一歩一歩踏み出す度に、人形の数は倍々方式で増えてゆく。そうして山龍が気付く頃には三百と八十五体もの数が揃っていた。地を埋め尽くす人形を蹴散らさんと相手は手足で叩くが、衝撃をトリガーとして内蔵された火薬が爆発。逆に皮膚を吹き飛ばされてしまう。
――オオオオォォォォォ!
ならばと、カルパティアは灼熱の吐息でそれらを燃やし尽くさんと試みるも、その程度は語とて想定済みだ。
「飽くまでも起爆タイミングはこっち都合で行きたいんでな。龍星の加護があるなら、少しばかりの火も怖かないぜ?」
繰り糸を通して伝わる気力により、焔を通さぬ護りが形作られる。普段であれば抜かれる心配もあろうが、今は勇者の援護もあるのだ。不安要素など何処にもない。
敵は耐久力と引き換えに機動力に乏しく、じりじりと包囲を狭めてくる人形から逃れる術などなく……。
「隕石落下とまではいかないが、お前を吹き飛ばすには十分だろうさ」
足元で一斉起爆した人形によって山龍の巨体は勢いよく吹き飛ばされるや、畳返しの如く盛大にひっくり返されるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
吉備・狐珀
A&Wは私をいつも支えてくれる月代の故郷です。
…私の故郷は戦でなくなりました。幸いなことに新たに私を迎えてくれる場所はあるけれど。それでも失った悲しみが完全に癒えることはありません。
それに護れなかったことが何よりも辛い。
月代にそんな悲しみや悔しさを味あわせたくない。
月代に会わせてくれたこの世界を、月代の生まれ故郷を護りたい。だから、どうか力を貸して下さい!
勇者殿の力を借りることが出来たら【青蓮蛍雪】を使用し、氷の壁を作り炎を防ぎつつ山龍を凍らせる。
月代に(炎耐性)と(激痛耐性)の(オーラ)を纏わせ、ウカに強化してもらった(衝撃波)を(全力)で山龍に。
月代、勇者殿と一緒に故郷を守りましょう。
●友が為に挑み征かん
強烈な爆焔の中に山龍の巨躯が飲み込まれてゆく。しかし、橙色の輝きの中では未だ三つ首の影が暴れ狂っている。その外見にそぐわぬ耐久力はまさに驚異と言えた。
『まだ動くか。つくづくしぶとい奴だぜ……これじゃあ先に、この墓標が消し飛びかねんぞ』
「……それは出来る限り避けたいところですね。個人的な理由も含めて」
忌々しげなグローセのぼやきへ、相槌を打つ者がいる。横へ視線を向けた勇者の元へ歩み出るのは、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)。彼女は肩口に乗せた月光色の仔龍を撫ぜながら、男の魂と対面する。
『口振り的に、あんまり愉快な事情ではなさそうだな』
「……はい。私の故郷は戦でなくなりました。幸いなことに新たに私を迎えてくれる場所はあるけれど。それでも失った悲しみが完全に癒えることはありません……それに護れなかったことが何よりも辛いのです」
形は崩れ、命は尽き、全ては移ろいゆくもの。諸行無常と言ってしまえばそれまでだが、然りとて何者かの手によって奪われるとなれば話はまた違ってこよう。例えそれが神霊によるものであろうと、何か打つ手があったのではないかと思ってしまえば猶更。
「この世界は私をいつも支えてくれる月代の故郷です。この子にそんな悲しみや悔しさを味あわせたくはありません」
主の想いを察してか、ぐるると幼龍は喉を鳴らす。あの浜辺での出会いは、今でもありありと思い出せる。金色の波に楽しげに泳ぐ一条の白。魚を食み、果物を齧った穏やかな一時。それが世界ごと消えてしまうなど、断じて見過ごすことは出来なかった。
「月代に会わせてくれたこの世界を、月代の生まれ故郷を護りたい。だから、どうか力を貸して下さい!」
そう言って、狐珀は深々と頭を下げる。その真摯な姿を見下ろしつつ、ちらりと勇者は未だ炎を纏わりつかせる山龍へ視線を巡らせた。そうして口を開き何事かを発しかけ、しかして思い直したかのように閉じる。暫しの沈黙の後に、彼はうむと頷いた。
『己の為でなく、友の為か。理由としちゃ上等な部類だ。良いだろう、力を貸そうか。それに俺も、個人的な理由ってのがあるしな』
グローセがぱちりと指を一つ鳴らすや、星めいた煌めきが小さき仔龍へと流れ込んでゆく。体に漲る力を感じ取ったのだろう、心地よさげに長駆をくねらせ声を上げた。その様子へ狐珀は一瞬微笑まし気な表情を浮かべるも、すぐさま猟兵の真剣なそれへと変わる。
「月代、勇者殿と一緒に故郷を守りましょう? 今度こそ、喪わないためにも」
さっと腕を一振りするや、少女の周囲へ蒼き炎が幾つも生じてゆく。それは燃やすのではなく、凍てつかせる狐の幻火。ビキリと周囲の地面が凍り付き、氷柱が乱立し始めた。
「熱いのはお嫌いの様ですね。では代わりに、少しばかり涼しくしてさしあげましょう」
冷気を伴った蒼炎は山龍へと取り付くや、焔を消すどころか触れた端から相手を凍らせてゆく。相手も異変に気付き氷を溶かさんと焔を吐き出すも、その程度は既に対策済み。氷柱を束ねて防壁とし、焔を防ぐ。
「ウカ、協力をお願いしますね。月代も怖くはないですか?」
しゅうしゅうと吹きあがる蒸気の中で黒狐が足元を駆けまわり、白幼龍はその小さな体へ闘志と共に護りの加護を纏わせる。問題ないと判断した狐珀は、そっと輩を送り出した。
「さぁ、守って見せましょう。貴方の故郷を、貴方自身の手で」
蒸気を切り裂き、仔龍が山龍へと挑み掛かる。両者の体格差、質量差は何百倍、何千倍か。されど、小さきモノは決して臆することは無かった。月の名を持つ幼子は星々の残光を曳きながら、一直線に敵の眼前へと迫り……。
――ぐるるるっ!
龍の龍たる由縁を斯く示す。放つ咆哮は幼さの残る甲高いもの。されど共に放たれた衝撃は成熟した龍のソレと比べても見劣りせぬ威力。小さきモノという侮りか、三つ首を纏めて強かに撃ち据えられた山龍は、ぐらりとその巨体を傾がせる。
「やりましたね、月代」
誇らしげに舞い戻ってき仔龍。その小さな体の為した大きな意味を言祝ぐように、少女はそっと頭を撫でてあげるのであった。
成功
🔵🔵🔴
ペイン・フィン
1年前になるんだね
龍の星の輝きは未だ覚えているよ
……その時に踊った踊りと、相手のほうが思い入れ深いけど、ね
自分には、想い人。恋人が、居るよ
それに、自分に懐いてくれている友人のオコジョに、機械の燕
一緒に部屋でのんびりしている、その時間がとても好き
自分の帰る場所と聞かれたら、そこしか無い、ね
恋人の、ファンの隣、あの部屋
だから、帰るためにも
貴方の力、借りるよ
戦場の、そして、勇者達の、かつての無念と、今の無力感の負の感情を吸収
宿すのは、焼き鏝"ジョン・フット"と重石"黒曜牛頭鬼"
咆吼は、"黒曜牛頭鬼"でガード
一気に近づいて、"黒曜牛頭鬼"で叩き付け、"ジョン・フット"で焼き焦がしてしまおうか
●龍星の降夜でワルツを
「もう、一年前になるんだね。降り注ぐ龍の星の輝きは、未だ覚えているよ」
戦場に降り立ったペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)は、周囲へ残る仲間たちの痕跡に気付く。破魔の鉾槍に焦げた市松人形、微かに残る霜柱。恐らく先に戦場へと降り立ち、交戦していたのだろう。その顔触れに勇者の出身も相まって、思い出すのはあの輝きの夜について。
「まぁ……どちらかと言えば、その時に踊った踊りと、相手のほうが思い入れ深いけど、ね?」
『そう言われるとちっとばかり物悲しいが……なるほどなぁ、確かにそうだろうさ』
知らず知らずのうちに青年の頬が僅かに緩む。それを横目で観察していたグローセは、溜息を吐きながらもニヤリと笑みを浮かべた。この男とて旅の中で酸いも甘いも嚙み分けてきたのだろう。ペインが何について思いを巡らせているのか、察せられぬほど野暮ではない。こくりと、指潰しは小さく頷いた。
「自分には……想い人。恋人が、居るよそれに、自分に懐いてくれている友人のオコジョに、機械の燕。彼らと一緒に、部屋でのんびりしている、その時間がとても好きだから」
宿り神たちの箱庭、その一角に在る洋館の地下で。街並みから一歩外れた、陽だまりの心地よい路地裏で。そして、隣り合わせの部屋の中で。物が人の形を成してより、一つ一つ拾い集めていった輝きは、きっと龍なる星にも劣らぬだろう。
『それが、お前さんの居場所か』
「うん。自分の帰る場所と聞かれたら、そこしか無い、ね。恋人の……ファンの隣、あの部屋」
『たはははっ、こいつぁとんだ惚気話を聞かされたもんだ! さぞかし、良いお相手なんだろう。仮面越しだろうが、お前さんの顔つきを見れば分かるさね』
もし此処に他の仲間が居れば、思わず恥じらって顔を赤くしていたかもしれない。しかし、今の青年は揺らぐことなく自らの想いを告げて見せた。それが者/物たる己が得た、唯一無二の真であると信ずるが故に。
「だから無事に、勝って帰るためにも……貴方の力、借りるよ」
『オーケイ。それじゃああのデカブツを叩きのめして、一つ男を上げて来な!』
勇者の激励と共に隕鉄剣から輝きが溢れ出す。星々の煌めきは、強敵へと挑む若人に何物をも抉り貫く力を付与してくれるだろう。それを見るや、ペインは己が同胞を二つ呼び出してゆく。一つは焦痛の焼き鏝"ジョン・フット"、もう一つは苦圧の重石"黒曜牛頭鬼"。
「あなた達の無念も、無力感も……全部、連れて行くから」
ぞわり、と戦場の空気が蠕動する。物理的なものではない、霊魔的な揺らぎだ。墓標に眠りし数多の勇者たち。グローセの様に形を成せず、されども敗北の慚愧をこの世へ残し続ける無数の魂。ペインは彼らの負念を汲み上げ、咀嚼し、己の力と化す。
輝ける星の光。仄暗き魂の闇。それら黒白を裡に宿した焼き鏝と重石は、普段以上の力を宿して顕現を果たした。
「それじゃあ……行くよ」
ダンっと地面を踏み締め、赤髪の青年が敵目掛けて飛び出してゆく。異能の代償で、手足が鉄鎖で縛められたが如く軋みを上げている。長期戦は不利、短時間で全ての火力を出し切らんと青年は決断した。
――オオオオオオォォォッツッツ!
牙の幾本を失い、三頭の顎より鮮血を垂らしていてなお、山龍の戦意が衰えることは無い。痛みを半ば無視して放たれた大咆哮に、ペインは重石を盾とする。
「何もかもを穿てるなら、それは振動の壁だって、例外じゃないはず……!」
大半は石塊で相殺するも、体の端が空気の振動で削られてゆく。鑢にかけられたような痛みに耐えながらも彼は互いの距離を零へ詰めるや、駆け抜けた勢いそのままに硬質量を相手の脇腹へと叩き込んだ。
「……これで終わりだと、思わない、で」
超重量と化した抱き石で相手の動きを封じ、ペインはすかさず焼き鏝を振るう。最短最小の動作で最大の戦果を、そう考え狙ったのは右の頭……その両眼。
「全部は流石に、厳しいだろうけど……頭一つ分くらいなら、ね」
肉の焦げる嫌なにおいと共に耳をつんざく絶叫が響き渡る。確かな手ごたえと共に、青年は自らの戦果の程を確認するのであった。
大成功
🔵🔵🔵
千栄院・奏
ヒーローズアースが静かになって半年。他の世界に来るのも久しぶりだね
人々を護るのはヒーローの務めだけど、私が猟兵として始まった地の勇者にも会ってみたくてね
会えて光栄だよ。グローセ・ベーア
私はスプラッターなんて呼ばれていてね。「スプラッターの機嫌を損ねると両手足を刻まれる」なんて言われて学校でも腫れ物扱いさ
けど、私がヴィランに恐れられれば家族も友人も平和に過ごすことができる。私はそれで満足だよ……ま、できれば学校生活くらいは普通に送りたいけどね
龍星、綺麗だったよ。あの地を護るためにも力を貸してくれるかい? この世界のヒーロー
ばらばらになりたいなら来るといい
踏み込んでくる足から順に鎖鋸剣で切り刻むよ
●始まりの夜よ、昔日よりの軌跡を示さん
頭一つ分とは言え、視界を文字通り焼かれて無事なモノなどありますまい。苦悶に暴れ狂う山龍の巨大な姿を一瞥しながら、千栄院・奏(『スプラッター』・f16527)は戦場の空気を久方ぶりに味わっていた。
「ヒーローズアースが静かになって半年。思えば、他の世界に来るのも久しぶりだね。燃え盛る焔や爆ぜる魔法の匂い……ああ、確かにこういうものだ」
『なんだ、嬢ちゃん。随分と鉄火場から遠ざかっていたような物言いだな。差し支えなければ、わざわざ足を運んでくれた理由を聞いても?』
準備運動をするように手足を伸ばす奏へグローセは興味深そうな様子で尋ねてくる。ああ、と応ずる少女の表情に浮かぶのは、どこか懐かしむような感情だった。
「人々を護るのはヒーローの務めだけど、私が猟兵として始まった地の勇者にも会ってみたくてね……会えて光栄だよ。グローセ・ベーア、龍星の勇者さん?」
『ほぉう、アンタもあの村に足を向けてくれていたのか。こいつは有難いねぇ。ただ、始まりってのはいったいどういう事だい?』
グローセは横目で敵の様子を確認しつつ、そう水を向ける。カルパティアも今しばらくは欠けた視界へ適応するのに四苦八苦しているはずだ。多少の話を聞く時間もあるだろう。奏はさてどこから話したものかと思案しながら、己の得物である鎖鋸剣や丸鋸を取り出して稼働させ始める。
「私は周囲からスプラッターなんて二つ名で呼ばれていてね。『スプラッターの機嫌を損ねると両手足を刻まれる』なんて言われて、学校でも腫れ物扱いさ」
『すぷらったー?』
「なんて説明したら良いのかな……端的に言えば、こういう武器を扱う手合いのことさ」
ガォンと唸りを上げながら鎖鋸剣のエンジンが火を点し、念動力で操作された鋸刃が高速回転を始めた。それらが触れ合うと、甲高い金属音と共にバチバチと石火が飛び散る。それで大まかな想像がついたのだろう。両手を上げた勇者は視線で先を促してくる。
「御覧の通り、これは恐ろしい武器だ。けど、私がヴィランに恐れられれば、彼らも悪事を働こうなんて思わなくなるだろう。そうなれば家族も友人も平和に過ごすことができる。私はそれで満足だよ……」
ま、できれば学校生活くらいは普通に送りたいけどね。そう悪戯っぽく肩を竦める奏に対し、グローセは神妙な面持ちを浮かべている。言葉の裏に在る若き苦悩を、朧気ながらに察したのだろうか。少女は小さく笑いながら、そしてと言葉を続けた。
「猟兵になって、初めての依頼。それで訪れたのが貴方の村だった。たまたま、同じ様に初依頼のお仲間も居たから、星空の下で少しばかり話もしてね」
龍星、綺麗だったよ。そう言って、事の顛末を締めくくる奏。己の故郷が長い年月を越えて誰かの始まりに成れたという事実に、勇者もどこか誇らしそうであった。
「だから、あの地を護るためにも力を貸してくれるかい? この世界のヒーロー」
『オーケイ、異世界のヒーロー。あんたの恐ろしくも頼もしい戦いぶり、とくと見せて貰おうか!』
龍の如く猛々しく、星のように煌びやかに。勇者は英雄(ヒーロー)へと全力のエールを送る。岩山を断つ力を無数の刃へ宿しながら、奏は躊躇うことなく敵前へと躍り出た。焼き潰された目を除く二対四眼の視線が、殺意と共に睨め付けてくる。
「お怒りかい? 良いさ、付き合ってあげよう。ばらばらになりたいなら来るといい」
挑発する様にクイと指を折るヒーローに、カルパティアの怒りは頂点に達した。たかが人間、小刃の群れなど何するものぞと、相手は眼前の少女を叩き潰さんと前腕を振り上げて襲い掛かる。
「確かに普段なら、切断速度が追いつかずに質量負けしていただろう。でも、今この時だけは別。これもある意味、ヒーロー同士の共闘さ!」
地面破壊など眼中になく、狙うは圧殺ひとつ。それを真っ向から受けて立った奏は桜と梅の名を持つ得物、そのリミッターを解除する。更に一段階、回転数を上げた刃と敵の腕が接触するや……。
『なるほど、確かにこいつはすごいな……っ!』
思わず、眺めていた勇者が舌を巻いた。吹き荒れるは滂沱と流れる鮮血と舞い散る肉片の嵐。まるでシュレッダーにかけられた紙束の如く、山龍の腕がまるまる一本、微塵となって消し飛んだ。バランスを崩し、倒れこむ巨体。転倒に巻き込まれぬよう飛び退きながら、奏は顔に掛かった鮮血を拭う。
「……観衆が勇者一人だけだったのは、不幸中の幸いかな。ともあれ、腕は一本頂いたよ」
そうして危なげなく地面へ着地すると、鋸刃のヒーローは得物を振って血糊を払うのであった。
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
私の帰る場所、ですか。
そうですね……こんなにも晴れた空は、故郷では見たことはありませんでした。
常に夜の闇に覆われ、人々は吸血鬼や邪神に怯えて日々を過ごす。
私の住む町では人々はもっと荒んでいましたね。少ない食料を奪い合い、時には……吸血鬼に他人を差し出す。そんな町です。
こうして他の地に行ってみると、殊更あの地は絶望に溢れていると思いますね。
だから……私はあの世界で生きるために戦っています。
いつの日か人が住みよい地にして、私はあそこに帰る。
協力が取り付けられたのなら【奇跡の狙撃手】を。
広範囲に炎を吐かれれば避けることは難しいですが、こちらに直撃する炎を貫き被害を抑えつつ、敵の頭を撃ち抜きます。
●強さを、いつか陽の昇る日に願って
「手負いの獣……いよいよ大詰めと言った所ですが、気は抜けそうにありませんね」
山龍は前足を一本、微塵に切り刻まれて喪失していた。強靭な筋繊維で圧迫し出血を止めているようだが、ただでさえ乏しい機動力の低下へ拍車がかかっている。セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)のような狙撃手にとって、動けぬ獲物は格好の的だ。だが同時に猟師の経験として、傷ついた獣の危険性もまた重々承知していた。
「どんな時でも気を抜かず、いっそ臆病すぎるくらいで丁度いい。あの世界では慢心と油断が死を招くと、身に染みて学びましたから」
『戦士としての心得……ってだけじゃなさそうだな。随分と暗い陰が見えるぜ、お嬢ちゃん。故郷はよっぽど過酷だったのかい?』
相手に気付かれぬよう身を隠しながら様子を窺うセルマへ、息を潜めながらグローセが話しかけてくる。絶望的という点では、勇者の望んだ戦いもそう形容できるだろう。しかし、狙撃手の居た世界ではまた別方向の苦しさに満ち満ちていた。
「そう、ですね……こんなにも晴れた青空は、故郷では見たことはありませんでした。なにぶん、百年近くも夜が明けない世界ですから。それも月は愚か、星すら望めぬほどの」
救い無き漆黒の絶望世界、ダークセイヴァー。ヴァンパイアによる完全支配が確立され、人間は家畜同然の生活を強いられる暗黒の世。三十六ある世界の中でも指折りの過酷さを誇る世界こそが、セルマの生まれ育った場所であった。
「常に夜の闇に覆われ、人間は吸血鬼や邪神に怯えて日々を過ごす。取り分け、私の住む町では人々はもっと荒んでいましたね。少ない食料を奪い合い、時には……我が身の可愛さに吸血鬼へ他人を差し出す。そんな町です」
『そいつはまた何とも……胸糞悪い世の中だな。高みの見物を決め込んで、他人を玩ぶ。その手の非道無道な連中が一番嫌いだ。もし世界を渡る力が俺にもあれば、乗り込んでいってやりたいくらいだぜ』
「確かにこうして他の地へ行ってみると、殊更あの場所は絶望に満ち溢れていると思いますね。他世界はまだ、脅威は在れど自分の意志で明日を選べますから」
勇者を名乗る者である以上、やはり邪悪には敏感なのだろう。憤懣やるかたなしと言った様子で吐き捨てるグローセに、淡々と狙撃手は応える。一見すれば冷たい態度にも見えるが、続く言葉には確かな熱が籠められていた。
「だから……私はあの世界で生きるために戦っています。吸血鬼の支配を打ち破り、いつの日か人が住みよい地にして、私はあそこに帰る。例え何があっても、どれ程困難でも」
――私の帰りたい場所ですから。
そう話を締めくくるや、何かに気付いたようにハッと狙撃手が敵へと向き直った。
失われた視覚を嗅覚で補い始めたのだろう。鼻をヒクつかせた山龍がぐるりと頭を巡らせ、恐ろしい視線がセルマとグローセを捉えた。それを悟るや、少女は淀みない動作で銃身へ魔力を籠め、射撃姿勢を取る。動き回るよりも、先手を打って狙い撃つつもりだった。
『……それじゃあ、あんな石ころトカゲにかかずらってる暇はないよなぁ? 物見が居た方が良いだろう。任せな、目は良い方だ』
そんな彼女の横へ、グローセは身を乗り出すと敵の様子を窺い始める。セルマはスコープに視線を通したまま、勇者へと問いを投げた。
「良いのですか? 力を貸して頂くだけでも十分過ぎるというのに」
『この程度貸しにもならんさ。伊達に何百年と此処に居座っちゃいないんだ。多少地形が変わろうと、風の流れまでばっちりよ』
三つ脚の不安定なバランスのまま、山龍が迫り来る。相手がこちらを攻撃圏内へ捉えるまで、残り数歩。グローセは風の流れを読み、それを受けてセルマは照準を補正してゆく。
『岩が砕けたせいで、風が乱れてる。このままだとちょい右上に逸れるな』
「了解です。こちらも、もう少しで射程に入ります」
『オーケイ、タイミングは任せるぜ』
山龍が足を踏み出す。大きく息を吸い込み、口腔内から炎を漏らす。
狙撃手はそっと引き金に指を乗せ、ゆっくりと力を掛けてゆく。
『……頼んだ』
「ええ……勿論です」
カルパティアが最後の一歩を踏み出した瞬間、焔が大気を焦がす轟音と銃弾の炸裂音が同時に響き渡った。燃え広がる紅蓮の炎の中を、氷弾が飛翔してゆく。通常であれば溶かされてしまうだろうが、元々帯びる冷気と龍星の加護が熱波を貫いてゆき……。
「……捉えました」
三頭の内、左側。その眉間を捉えるや、ただ一射を以て吹き飛ばした。鼻面より上が吹き飛ばされ、ばらりと肉片が舞い散る。まだ動かすことは出来るだろうが、左頭は戦闘力の大半を喪失したと見て良いだろう。
『お見事。惚れ惚れする腕前だったぜ?』
「いえ……まだまだですよ」
勇者の称賛に謙遜するセルマ。だがほんの微かだが、その口元には薄い微笑みが誇らしげに浮かんでいるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ソラスティベル・グラスラン
ふぅ、真の龍星剣には遠く及びませんか…
グローセさん、本当に本当に偉大な勇者だったのですねっ
【盾受け・オーラ防御】で守りを固め、
巨大ゆえに緩慢な攻撃を【見切り】、【怪力】を以て受け流す!
一度攻撃を加えた程度では、まだまだ元気は有り余っていそう…
…頭部を落とせば、大人しくなるでしょうか?
【空中戦】で遥か上空に昇り、【ダッシュ】で急降下!
意識外から、狙いは敵の巨大な頭部!
『勇者グローセ』よ!今一度、我が【勇気】に応えて!
ご心配なく!故郷に錦を飾るまで死ぬ気はありませんよ
ただ信じているのです、わたしたちの力を!
真の姿を解放
竜ではなく、流星の如く天地を裂く
これがわたしの『流星剣』です!!【怪力・鎧砕き】
鈴木・志乃
……格好つけた発言をするのは止めよう
グローセさん、私には何でもない日常の中に
特に帰りたい場所があります。恋人の所です。
私の恋人には予知能力があって未来の悲劇が見えてしまいます
おかげで今はろくに休めてないんじゃないかな、彼
でも私も彼も日常が、人が、今の拠点が大好きだから
絶対に放っておけない 黙ってなんかいられないんです
一つでも欠けたらダメなんです!!
今も彼は別の場所で頑張っている
必ず帰ると約束もした
だから、悪いですけど、こんなところで
くすぶってる訳にゃあ行かないんですよお!!
第六感でタイミングを見計らい敵UC直前に自UC発動、捕縛
念動力で鎧砕き出来る魔改造ピコハン操作
なぎ払い2回攻撃
いっけぇ!!
●剥き出しの魂よ、吼え猛れ
――ォォォォォオオオオオオオッ!?
山龍カルパティアは狂ったように雄叫びを上げる。その姿はまさに満身創痍と言って良い。背負う岩山は半分近くが突き崩され、前足は一本が根元より切断。
更には三頭の内右頭は視界喪失しており、左頭も上顎より上が粉砕。中央も無事とは言え、戦闘の過程で既にボロボロの有り様。あと一押し、それを叩き込めれば趨勢は決する。
「ふぅ、真の龍星剣には遠く及びませんか……十人以上の猟兵が総出で掛かって、ようやくここまで持ってこれました。グローセさん、本当に本当に偉大な勇者だったのですねっ」
それを決めるべく姿を見せたのは、先んじて戦場へ現れて戦闘を開始していたソラスティベルと志乃の二人であった。再度、山龍へ挑み掛からんとする猟兵たちへ感心したように口笛を吹くグローセだったが、ふと訝しそうに首をひねる。
『なぁ、そっちの演者の嬢ちゃん。さっきと何だか様子が違うようだが、どうした? けがを負った様な様子は見えなかったが』
「あ、ははは……やっぱり、分かりますか?」
『分からいでか。わざわざ問答なんて仕掛ける男だぜ、俺は』
声を掛けられた志乃は一瞬気恥しそうな苦笑を浮かべたものの、心を落ち着かせるように表情を引き締める。そこには覚悟を決めた者特有の堅き意志が見て取れた。
「うん……格好つけた発言をするのは止めよう。グローセさん、私には何でもない日常の中に、特に帰りたい場所があります」
『特別な場所ってのは?』
「恋人の所です」
断言する少女の言葉にはもう、照れや動揺の色は無い。続けて言葉を紡ぐたびに、まるで己を研ぎ澄ませるが如く志乃の声音には芯が通ってゆく。
「私の恋人には予知能力があって、かなりの頻度で未来に起こる悲劇が見えてしまいます……おかげで、今はろくに休めてないんじゃないかな、彼。大分、お人好しだから」
『一見すれば便利そうな能力だが、確かに見方を変えればかなりキツイな。真っ当な人情があれば、防げる悲劇を見過ごせやしない。だが、一つも取り零さないよう立ち回ろうとすれば……ま、気の休まる間なんざ無いわな』
こくりと、志乃は勇者の言葉に頷き同意を示した。紫紺のスーツに身を包み、玄妙洒脱な立ち振る舞いでそうとは悟らせぬ老紳士。だが、それはある意味で男の意地と言えるだろう。萎えた姿など見せられぬ。恋人なのに? 否、愛する者の前で在るが故。
「でも私も彼も日常が、人が、今の拠点が大好きだから……絶対に放っておけない、黙ってなんかいられないんです。一つでも欠けたらダメなんです!!」
矜持に理解は示そう。尊重もしよう。ならば己に何が出来る。身を張り、削り、挺してもなお、それをおくびにも出さぬ想い人へ何をしてやれる。決まっている、そんな事は一つだけだ。
「きっと今も、彼は別の場所で頑張っている。お互いに必ず帰ると約束もした。だから……悪いですけど、こんなところでっ」
――くすぶってる訳にゃあ行かないんですよお!!
速やかに、敵を討ち果たす。眼前の山龍も、待ち受ける帝竜も、首魁たるヴァルギリオスも。全て、全て、一切合切を倒し切る。そうして戦いを終わらせ、無事な姿を見せて同じ時間を過ごす事こそが、自らに出来る最善だと彼女は理解していた。
「だからもう一度、改めて願います! 私たちに力を貸してください、勇者グローセ!」
「私からもお願いします! 山龍は手負いとは言え、未だその戦闘力は健在。あれを打ち負かすには、グローセさんの助力が必要なんですっ!」
志乃の切実なる叫びに、ソラスティベルもまた願いを重ねる。先に振るった重斬、確かに渾身の一手ではあった。だがまだだ。まだ、高みへと昇れると勇者志望の少女は確信している。その為にも、この先達の助けが不可欠であると彼女は理解していた。
『……そろそろ、奴にも引導を渡すべき頃合いだしな。オーケイ、それじゃあ見せてくれよ。今生の英雄たちの本気ってやつをよ』
勇者は不敵さと穏やかさの入り混じった笑みを浮かべる。それは若人の成長を言祝ぐ、年長者のそれ。再びの加護は先の余韻と混ざり合い、より一層の力を二人へと与えてゆく。
「よし、これなら……さぁ、行きますよ!」
ばさりと翼を広げてソラスティベルが矢の如く飛び出し、それに続いて志乃も駆け出して行く。相手は弱っているとは言え、まだまだ強大な戦闘力は健在。切り札の使い時は慎重に見据える必要があるだろう。
「さっきの鎖は拘束こそ成功したけれど、十数秒しか持たなかった……なら、次に選ぶべき手は」
志乃は自らの持ちうる手札を吟味しつつ、動くべき機を伺っている。ならば前衛は己の役目だと、ソラスティベルは空を縦横無尽に駆け巡りながら白兵戦を繰り広げ始めた。先と比べて、相手の手数は文字通り半減している。だが後ろ足でカルパティアは立ち上がるや、三つ首も動員して少女を捉えに掛かった。
「そちらも最早なりふり構っていられないようですね、っと!」
片足と三つ首が、退路を断つように連携しながら少女へ攻撃を浴びせてゆく。黒翼の盾と魔力障壁で攻撃を凌ぎながら返す刀で斧撃を繰り出すも、敵が怯む様子はない。
「生半可な攻撃を加えた程度では、まだまだ元気が有り余っていそう……頭部を落とせば、大人しくなるでしょうか?」
狙いとしては悪くはない。とは言え相手の頚は三つ、こちらは二人。よくよくタイミングを合わせなければ、狙った通りにはいくまい。仲間が付け入る隙を生むためにも、まずは己が身体を張らねばとソラスティベルは一層奮起する。
「動き自体は緩慢ですから、後は攻撃の出掛かりに合わせられれば……!」
敵は正しく一心同体、されど万全に在らず。前足は隻腕、頭部の一つは脳が吹き飛ばされ、物を考えられるとは到底思えぬ。連携の中に生じる遅延と綻び、それを見極めるや。
「せぇ、のおっ!」
位置、角度、力の方向。諸条件を重ね合わせて前足による一撃を受け止め、更には跳ね返した。二足立ちという不安定さが災いし、大きく相手は体勢を崩す。
「今度のは……逃れられると思わないでッ!」
その大きすぎる隙を見逃してやるほど、今の志乃は甘くない。彼女は今再び、光り輝く鎖を放つ。だが長さどころか、本数すらも先の比ではない。十数本、否、数十本もの光条が志乃の身体より溢れ出し、山龍の身体はもちろん首元までをも雁字搦めに縛り上げてゆく。相手も咄嗟に炎を吐き出そうとするも、口まで縛られては火の粉すらも漏らせまい。
「『勇者グローセ』よ! 今一度、我が勇気に応えて!」
好機到来。ソラスティベルは翼を一打ちするや、敵の直上へと至る。描き出す軌道は、地面へ向けたほぼ垂直の落下コース。堪らず見守っていた勇者が声を上げた。
『おいおいおい、捨て身か竜の嬢ちゃん!』
「ご心配なく! 故郷に錦を飾るまで死ぬ気はありませんよ。ただ信じているのです、わたしたちの力を!」
「ええ、そうです。こんな見た目でも、今のあなたなら十分すぎるでしょうよ!」
また、地上では志乃が得物を持ち替えていた。それは一見すれば黄と赤色に塗装された、所謂ピコピコハンマー。されど、アルダワに置いて手を加えられた逸品。実際の衝撃力はトンを優に超えるだろう。
二人の猟兵は天と地より、それぞれ左右の頚へと狙いを定めた。
「これこそ竜ではなく、天翔ける流星の如く天地を裂く……っ!」
降下するソラスティベルの姿が変わる。それは荘厳さと、それ以上の力強さを感じさせる彼女の真の姿。
「切れ味なんてものはないけれど、それでも重ねて叩きつければ……っ!」
己が念動力に勇者の加護、そして愛する者への想いを載せて志乃が得物を振るい。
「これが、わたしの『流星剣』ですッ!!」
「いっけぇぇえええええええッ!!」
大気を震わす大斬斧と、瞬時に返す刀を叩き込んだ双重打。二人の全力を籠めたその威力を、これまでの戦闘でダメージを蓄積した山龍が耐えきれるはずもなく。
――ガ、アァ………ァァァアアオオオオオオッツ!?
左右の首は勢いよく刎ね飛ばされ、高らかに中空を舞うのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ファン・ティンタン
【POW】最優の使い手ならずとも
アドリブ歓迎
星降る地の、かつての勇者にお目見え出来るのは光栄な事だね
つかぬことを尋ねるけれど、あなたは古きオラトリオ種をご存知か……
いや、この問いは、意味の無い事だね
私はね、時にただの刃に還りたくなる事があるんだよ
純粋な一振りとして、何物をも斬り伏せたい、貫きたいという本能みたいなものかな
使い手によって、どこまで高みに到れるか、知りたいんだよ
……それは、最後に収まるべき“彼”に対する、品定めみたいなものだけれどね
おしゃべりが過ぎたかな
さて、勇者様、難しいことは言わないよ
語られる優をもって、私を“振るって”頂戴
意思さえ通えば、私は隕鉄剣にも劣らぬ働きをしてみせるよ
●いずれ、我が身を委ねるに足る者よ
二人の猟兵による、渾身の一撃。それは山龍の三頭が内、左右の頚を刎ね落とす事に成功していた。鮮血を噴き上げながら舞い、地響きと共に地面へ落下した双首に思わずグローセも喝采を上げる。
『こいつは見事と言うしかない! だが……あと一本。それを落とさなければヤツも本当の意味でくたばるまい』
「ならばその役目、任せて貰おうじゃないか。美味しい所を横から攫ってゆくようで、少しばかり申し訳ないけれどね?」
そんなどこかとぼけた呟きと共に姿を見せたのは白き少女。ファン・ティンタン(天津華・f07547)は勇者の前へ歩み寄ると、薄く笑みを浮かべながら相手の姿をしげしげと眺める。
「星降る地の、かつての勇者にお目見え出来るのは光栄な事だね。故郷についての近況は、もしかしてもう耳に入っているのかな?」
『ああ、お陰様でな。先に来たお仲間さんたちが聞かせてくれたよ……村の様子は勿論、それ以外についても』
鷹揚に頷くグローセだが、それ以上については肩を竦めるだけで何かを漏らすような様子は無かった。彼らが紐帯も堅き仲で在ろうと、それが共に戦った者への敬意であり護るべき一線だと彼は十分に理解している。
「成程ね。ふむ、代わりにつかぬことを尋ねるけれど、あなたは古きオラトリオ種をご存知か……いや、この問いは、意味の無い事だね」
『うん、どうした?』
ならばと一つ質問を投げかけようとするも、途中でファンは思い直して口を噤んだ。求める答えが眠るのは、きっとこの世界ではないと朧気に直感した為だろう。尤も、その理由を明瞭に言語化できるほど、彼女の意識はまだ解きほぐれてはいなかった。
なにはともあれ、今すべきことは勇者の助力を得て、敵を打ち倒すことだ。ファンは小さく咳払いしながら、話題を本来の流れへと戻してゆく。
「帰る場所、とはまた若干違うかもしれないけれど……私はね、時にただの刃に『還りたくなる』事があるんだよ。想像しづらいかもしれないけどね?」
『あ~……分からんでもないな。数は多くは無かったが、似た様な手合いは勇者にも居た』
「それなら話は早いね。私の場合は純粋な一振りとして、何物をも斬り伏せたい、貫きたいという本能みたいなものかな。とどのつまり、使い手によって、どこまで高みに到れるか、知りたいんだよ」
――それは、最後に収まるべき“彼”に対する、品定めみたいなものだけれどね。
付け加えられた呟きは囁き程度の微かな声量しかなかったが、勇者は耳聡くそれを拾い上げていた。彼は表情にこそ出さなかったが、赤髪の青年を思い出して内心微苦笑を浮かべる。ある意味での難物だが、先ほど見せたあの面構えならば心配は不要だろう、と。
『オーケイ、嬢ちゃんの求める所は分かった。だが、それで一体どうするんだ。此処にはもう俺とアンタしか居ないんだぜ?』
「いいや、それで十分だ。さて、と。少しばかりおしゃべりが過ぎたかな。前置きは此処までにして、次が本題だ……勇者様、何も難しいことは言わないよ」
話が見えてこないと眉根を顰めるグローセの眼前で、ファンはその場で身を翻す。ふわりと纏う装束がはためき……一回転し終えると少女の姿は消え去り、代わりに一振りの白刀が突き立っていた。
「伝承に語られる優をもって、私を思うがままに“振るって”頂戴」
『オイオイオイ、ここに来て俺を引っ張り出そうってのか!? こっちは生身じゃなくて魂だけなんだぞ!』
突然の申し出に然しもの勇者も頭がついて行かないのだろう。慌てふためくグローセを面白がるよう、刀のままファンが補足を加える。
「その点については心配無用。意思さえ通えば、私は隕鉄剣にも劣らぬ働きをしてみせるよ。それに……」
何より、貴方も見ているだけじゃ満足できないでしょう? ファンの一言、それは正しく殺し文句だった。帝竜までとは流石に言わない。だが、目の前の鬱陶しいトカゲへ一撃でも良いから全力で叩き込んでやりたい。それは内心、猟兵たちの戦いぶりを見てきた勇者が感じていた事なのだから。
『……全力でぶん回すからな、文句は言ってくれるなよ?』
「勿論。そうでなければ意味が無いからね」
グローセは溜息と共に白刃を引き抜くと、ゆるりと弓を引き絞る様に構えた。貫くような殺気を感じ取ったのだろう。山龍は残った頭で敵を睨みつけると、狂乱のままに突撃を敢行してくる。迫り来る山の如き巨体、それを前にして勇者は微塵も動じることなく全身を弛緩させ……。
『――これぞ、我が龍星の一穿。後に続くヴァルギリオスへの土産話として、冥途へ持ち帰るが良いッ!』
瞬間、全身の筋肉を瞬発させ、破壊力の全てを切っ先へと集中させた。それは天を切り裂き、山脈を貫く龍星の一撃。刃が閃いたと思うや、一拍の静寂を置いて衝撃が吹き荒れる。
――オ、ォォオオ、ォ…………!
巻き起こる風が止んだのち。山龍カルパティアは最後の首を断たれるは愚か、背負う岩山すらも頭から尾へかけて一直線に貫かれ、墓標へと骸を晒すのであった。
「見事なものだね。流石、龍星剣の勇者様」
『いや、最後は逆にこっちが助けられたな。かつての隕鉄剣じゃ、こうも鮮やかにはいかなかった……これが猟兵の力か』
人型へ戻ったファンとグローセは互いに健闘を称え合う。そこでふと我に返った勇者は慌てた様に付け加える。
『おっと、だから今のは飽くまでも参考で、基準にはしてやるなよ? 例外だ、例外!』
「ふふ、考えておこう」
そうして軽口を叩き合いつつ、グローセは己が愛剣の傍らへと腰を落とす。もうこの場に敵は居なくなった。猟兵は次の戦場へ、彼は此処で眠らねばならない。
『礼を言わせてくれ、猟兵殿。俺はここから動けんが、これからの武運を祈る……どうか、ヴァルギリオスを今度こそ倒してくれ』
「ああ、任されたよ。全部終わったら、吉報をあの村へも持っていこう」
そうして、猟兵と勇者は互いに別れを告げる。
勇者の墓標にはあとはもう、ただ穏やかな静寂だけが満ちるのであった。
大成功
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