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南洋に煌くは旧き神話

#グリードオーシャン #メガリス

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#グリードオーシャン
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#メガリス


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●クルーズ・ロマン・アドベンチャー!
「みんな、帝竜戦役お疲れさまだよ。無事に勝利できたようで何より……という訳で、バカンスの時間だ」
 グリモアベースに集って早々、ユエインはそう口火を切った。この人形、ばっちり水着を着こんでおり最初から行楽気分満々である。さて一体どういう事なのかと、猟兵たちは先を促す。
「今回向かって欲しい世界はグリードオーシャン。ある無人島に『メガリス』が眠っているとの予知が見えてね。コンキスタドールによって奪われる前に、これを回収して欲しいんだ」
 欲望航海群島グリードオーシャン。メガリスと呼ばれる超常の宝物を巡り、海賊や巨大海獣、異界の来訪者たちが鎬を削り合う大航海世界である。メガリスが良き者の手に渡れば強大な統治者となるが、悪しき者の手に渡れば死してオブリビオンと化す。故に誰かの手へと渡る前に回収しなければならないのだ。
「とは言え、今回はちょっとばかり予知の精度が宜しくなくてね……現状判明しているのはメガリスが眠っている孤島の場所だけだ。島がどんな地形で、メガリスが具体的に何なのかは現時点でまだ詳細が判明していない。そこは到着してからの調査で明らかにするしかないだろう」
 此度の流れとして、まずは目的地の島へ鉄甲船で向かう事から始まる。到着までに掛かる時間は二、三日程度。鉄甲船は極めて頑丈かつ大きく、航行性・居住性共に高い。道中でちょっとした海獣に襲われようがビクともしないはずだ。その間は特に差し迫ってすべきこともないとなれば、一時のクルーズを楽しんでもバチは当たらないだろう。
「予定航路は温暖な海域らしくてね、気候も穏やかだ。泳ぐに良し、寛ぐに良し。冒険を前にどうか英気を養ってほしい」
 南国の海を想像して貰えればイメージとしては近しいか。鮮やかなサンゴ礁にそこを泳ぐ魚たち。見た目だけでも楽しいが、待ち受けるのはそれだけではない。
「どうやらその一帯はクジラの回遊航路と重なっているらしくてね。ちょっと探せば群れを見つけられるんじゃないかな?」
 クジラ。諸島文化や航海とは切っても切れぬ存在だ。眺めるだけでも心癒され、共に泳ぐのも良い思い出になるだろうし……なんならば、恵みを求めて一狩り狙うのも一興だろう。
「アース系列の世界だと色々論争があるのだろうけど、彼らも自然の一部である事に変わりはない。食べられる分だけ、敬意を以て挑むならば問題ないだろうさ」
 ともあれ、到着までの過ごし方は自由だ。釣りに遊泳と言った定番から、夕焼けを眺めながら杯を傾けるのも風情があるし、波に揺られて物思いに耽るのも心が安らぐだろう。
「到着後の動きについては、皆に一任することになるだろうね。コンキスタドールの存在は現時点で察知されていないけれど、横槍が無いというのはまずあり得ない。島へ上陸したらくれぐれも油断しないでおくれよ?」
 しかし、夏の先ぶれと共に絶海の孤島を冒険するのだ。心躍る者とて少なくないはず。それにロマンにスリルは付き物、場合によっては良い刺激となるやもしれぬ。
 ユエインは説明を締めくくると、そんな不安と期待を入り混じらせる仲間たちを送り出すのであった。

●????
 ――揺らめく。ゆらゆらと、光が降り注ぐ。白い輝き。天上の恵み。

 ――嗚呼、だが。求めし物はその光明でなく。より紅き、我が半身。

 ――何処にあるか。奈辺に消えたか。それが一体いつの話だったのか。

 ――今はただ、眠り続けるしかない。細波の下、大地の裡で。

 ――世界に立ち入る者の足音を、いつか……。


月見月
 どうも皆さま、月見月でございます。
 夏の陽気も近づく中、南洋の島へのご案内です。
 古き良き探検隊、漂流記、失われた古代浪漫…とまぁ、そんなテイスト予定です。
 それでは以下補足。

●最終成功条件
 メガリス回収及び奪取を目論む敵対勢力の撃破。

●第一章開始状況
 鉄甲船に乗って、無人島へ向けて航海となります。道中は基本的に穏やか、天候にも恵まれて冒険前の良いバカンスと成るでしょう。
 クジラや熱帯魚も豊富に存在しているため、狩って良し食べて良し一緒に泳いで良し、好きに楽しみましょう。時間も夜明けに日中、夕焼けや星の輝く夜など、思い思いに過ごしてください。

●第二章開始状況
 無人島に到着後、島を探索となります。詳細は開始時点で公開されます。

●第三章について
 予知未確定領域。現時点での状況把握困難。

●プレイング受付について
 断章投下時に合わせて受付告知致します。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
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第1章 日常 『ウォッチorハント?』

POW   :    真っ向勝負、銛を手に狩りへ挑む。

SPD   :    恵みに感謝、調理や食事を楽しもう。

WIZ   :    触れ合い体験、眺めて泳いで触れてみて。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●bon voyage!
 ゆっくりと、大洋へと武骨な船影が進みだしてゆく。それは東洋の雰囲気を多分に含みながらも、黒々とした鋼鉄に包まれた巨大なる鉄甲船だ。戦う為の機能を残しつつ、遠洋を突き進むための設備も増設されている。十分な広さを誇る船室にキッチンや談話室、当面の物資を収めた船倉。船上に出れば、障害物のないまっさらな甲板を潮風が吹き抜けてゆくだろう。
 目的地に到着するまで、数日間の船旅。この船ならばちょっとした海獣や嵐など恐るるに足りず、そもそも温暖な海域にそれらの危険は見受けられない。となれば、気を緩めて楽しむのが一番だ。
 海に飛び込めば色とりどりの光景が待っているだろうし、銛なり竿なりを手に臨めば新鮮な恵みを手にすることが出来る。周囲に目を凝らせば、潮を噴くクジラの姿も見つけられるかもしれない。ただ甲板で寝っ転がるだけでも贅沢な一時を楽しめ、敢えて船室に身を預けるのも一興と言える。楽しみ方は人それぞれ、好きに過ごして構わないのだ。
 これから待ち受ける無人島は、そう一筋縄ではいかない土地だろうが……それはそれ、これはこれである。

 ――さて、何をしようか?

※マスターより
 プレイング受付は5日(金)朝8:30より受付開始です。まずは長閑な船旅です。お好きにお過ごしください。
 どうぞよろしくお願い致します。
三上・チモシー
アドリブ連携歓迎
WIZ

わーい、うみー♪
甲板で景色を見ながらのんびりしつつ、きれいなサンゴ礁とか熱帯魚の群れとかを見つけたら、巨大熱帯魚のライ麦ちゃんに乗って近くまで移動
熱帯魚って、カラフルでかわいいよねー♪

ライ麦ちゃんはナマズだから元々は淡水魚なんだけど、海水でも大丈夫だよ!
空も飛べるよ!

そういえば、クジラも見られるかもしれないんだっけ?
自分、テレビでしか見たことないんだよね
会えるかなー
会えるといいなー♪



●燦燦たる輝きに泳ぎ出し
 輝く日差しが紺碧を照らし出す、穏やかな航路。船内から甲板へと駆け上がってきた三上・チモシー(カラフル鉄瓶・f07057)は、身体を包む潮風へ心躍らせるように無邪気な笑みを浮かべた。
「わーい、うみー♪ 天気も良いし、周りに障害物もないから、本当に水平線の果てまで見えるねー!」
 くるりとその場で一回転しても、視界を遮るものは何もない。三百六十度、どこまでも穏やかな海面が広がっている。日常では到底味わえない、開放感あふれる光景。物珍しそうに周囲へ視線を向けていたチモシーは、おやと波間の煌めきに目を止めた。正確には、その下にチラリと見えた彩りへと。途端に彼の表情へ好奇心が湧きがってゆく。
「あれは……よし! ライ麦ちゃん、頼んだよ?」
 チモシーは船べりから身を乗り出すと、海面へ向けてそっと一匹の魚を離した。それは桃色も鮮やかなレッドテールキャットである。三十センチ程度の体躯は海面へと近づくにつれ大きさを増し、水しぶきを上げて着水する頃には三メートルほどの大きさへと変化していた。
「海水だけどライ麦ちゃんなら大丈夫だよね、いざと成ったら空も飛べるし。それじゃあ、レッツゴー!」
 少年は自らも海面へと飛び降り相棒に跨るや、すいすいと目的地目指して泳ぎ出してゆく。そうして間近より海中を覗き見れば、視界へ飛び込んでくるのは万華鏡が如き綾模様。紅や黄色のサンゴ礁に、その間を悠々と泳ぐ熱帯魚の群れ。人の手が入らぬ海は透明度が極めて高く、潜らずとも海底の細かな様子までも垣間見ることが出来た。
「おお~、きれーい……! 熱帯魚って、カラフルでかわいいよねー♪ それに、全然こっちのことも怖がってないみたい!」
 人を見たことが無いゆえに、警戒心も乏しいのだろうか。ぱしゃぱしゃと爪先で水面を叩くたびに、興味を惹かれた魚たちが近づいて来る。つんつんと口先で突いてくるのがこそばゆいのか、チモシーはクスクスと小さく笑みを漏らす。そこで彼はそう言えばと、ふと何かを思い出した。
「確か、ここら辺だとクジラが見られるかもしれないんだっけ? 自分、テレビでしか見たことないんだよね……会えるかなー、会えるといいなー♪ きっとライ麦ちゃんよりもおっきいんだよね?」
 他の世界は兎も角として、彼の生まれたUDCアースにおいてクジラは最大の生き物だ。日本で見られる機会などそう無い為、チモシーは期待に満ちた眼差しをきょろきょろと巡らせてみる。しかし、海は飽くまでも穏やかそのもの。それらしき姿は見当たらない。
「う~ん、この近くには居ないのかな……あれ?」
 タイミングが悪かったのかと思わず項垂れたその時、突如として海中の景色が見えなくなった。すわ何事かと眉を顰める、彼のすぐ横で。
 ――ブシュウゥゥッ、と。
 海面を割って、天高く水の柱が吹き上がった。にわか雨の如く降り注いだ水滴を浴び、プルリとチモシーは頭を振る。彼の視界へと飛び込んで来たモノ、それは悠々と浮上してきたクジラの姿であった。彼の跨る友も魚類としては大きい方だが、姿を見せた相手は優にその十倍近くもあるだろう。
 巨大なる姿は人間を気にすることなく、ゆったりと半身を海上へ晒しながら泳ぎ始めた。
「うわぁ……おっきーい! 待って待って!」
 チモシーはその大きさに目を輝かせながら、巨体の後を追ってゆく。そうして相手が海中へと帰るまでの間、暫しクジラとの遊泳を楽しむのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴桜・雪風
地に足がつかないというのは、少々落ち着きませんが……
それさえ我慢すれば船旅も良いものですね

流れ行く海の景色を眺めながら甲板でのんびりと過ごして居りましょう
日差しだけは気をつけないと焼けてしまいますね
幸い日傘は持ち歩いておりますので、ひどいことにはならないと思いますが

泳ぎや釣り……は、遠慮しておきましょう
少々趣味に合いませんわ
せいぜい遠間に見える大きな魚……クジラでしたか?
あれの姿を楽しむ程度
成程、なんとも雄大な姿です。知らずに会っていればヌシ様と思ったかもしれません

何にせよ、本番は島に着いてからでしょう?
それまでは大人しく、英気を養うことに専念しますわ



●遥けき碧海に桜咲き
 仲間がはしゃぎながら海へと飛び込んでゆくのを見送りながら、鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)は足元から伝わってくる微細な揺れに微苦笑を浮かべていた。
「これだけ大きな船でも、やはり少しは揺れますね。地に足がつかないというのは、少々落ち着きませんが……幸い、船酔いするほどのものではないようです。それさえ我慢すれば船旅も良いものですね」
 板子一枚外せば下は、などという物騒な文句が船乗りの間にはあるそうだが、少なくともこの鉄甲船はそれと無縁だろう。何せ、猟兵たちが全力で暴れ回ってようやく沈んだのだ。頑丈さは折り紙付きである。
「さて、と。目的地へ到着するまでの間、わたくしものんびりさせて貰いましょうか。とは言え、泳ぎや釣り……は、遠慮しておきましょう。少々趣味に合いませんわ」
 雪風はそう言って肩を竦めると、眩しげに目を細めた。降り注ぐ太陽は気持ち良いが、探偵には刺激が強すぎる。彼女の色白の肌にも少しばかり毒だろう。手持ちの日傘を取り出すと、広げて丸い影を生み出してその中へと身を収めた。
「日差しだけは気をつけないと焼けてしまいますね。ですが、これならば酷い事にはならないでしょうし、ゆっくりと景色を楽しませて頂きましょう」
 紺碧に淡紅色の花が一輪咲き誇り、潮風を受けて揺れ動く。体に触れる空気は確かに海の香りがするものの、極東の如くべたつくような不快さはない。海もまた単に青いだけでなく、微かにだが緑がかっている様にも見えた。どれもこれも、異国ならではの景色と言えるだろう。
「そもそもの深さに加え、鉄甲船の高さもあるというのに……ここからでも、海の中の様子を観察することが出来ますわね」
 船べりから海面までは飛び込み台を思わせるほどに距離がある。にも拘らず、波間に輝く光の反射へと目を凝らせば、その下で群れを成す魚たちの姿が見て取れた。まるで絵具で塗ったかの如く色鮮やかな姿は、海中に咲いた花のよう。竜宮城の景色とはまさにこの様な光景だったのだろうかと、雪風は徒然とした思いを巡らせていた。
「そう言えば……クジラ、でしたか。大きな魚が見られるとのことでしたが」
 そこでふと、彼女はこの周辺に珍しい生き物が棲んでいるという話を思い出す。くるりと日傘を回転させながら、試しに周囲へと視線を向けると……。
 ――ブシュウウゥゥゥッ。
「おっと。突然の雨、ではないようですわね……となると、あれが」
 船の近くで前触れもなく水柱が立ち昇り、雪風は舞い散る雫を日傘で防ぐ。その源からゆっくりと浮上してきたのは、黒々とした巨体。近くを泳いでいた仲間と比較しても、その大きさは到底五倍や十倍ではきかぬだろう。
「これがクジラ。成程、なんとも雄大な姿です。知らずに会っていれば海のヌシ様と思ったかもしれませんね」
 探偵の感想は尤もなものだ。クジラはその巨大さゆえに、古くから様々な神話や伝承のモチーフとなってきた。大洋を突き進むその姿に、人々は幾つもの神秘を想像してきたのだろう。彼女もまた、その一端を確かに感じ取っていた。
「良いものが見れましたね。ただし、本番は島に着いてから。余り日差しに当たり続けても熱にやられてしまいますし、飲み物でも頂いてきましょうか」
 南洋の気候は汗が流れにくくとも、身体から水分をしっかりと奪ってゆく。喉の渇きを覚えた雪風は冷たいお茶でも貰おうかと、船内へと足を向けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エメラ・アーヴェスピア
のんびりとした船旅に宝探し、ね
最近忙しかったし、たまにはこういうのもいいかもしれないわね
一応これでも猟兵としては仕事になるのだからありがたい事ね

甲板でゆっくりお茶でもしましょうか
出来れば星が見たいわね…本当に忙しくて、空を眺める余裕もなかったわ…
…そういえば、グリードオーシャンの島は異世界から落ちて来たのよね?
空から落ちて来たのか、それとももっと上から落ちて来たのか…
気になる所ではあるけれど、この世界ではそこまで上空に行くのも難しいし…
その内解明できれば面白いかもしれないわね
…目的地もまだ先でしょう、今はただ広がる星空を楽しむとしましょうか…

※アドリブ・絡み歓迎



●星空に心は広がって
 昼間にはあれ程まで燦然と輝いていた太陽は既に水平線の彼方へと没し、代わりに広がるのは満天の星空。欠けなき満月が海面へ己の姿を映し出す情緒的な光景の中、船上へと姿を見せたのはエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)であった。
「のんびりとした船旅に宝探し、ね。帝竜戦役を始めとして最近忙しかったし、たまにはこういうのもいいかもしれないわね。一応、これでも猟兵としては仕事になるのだからありがたい事かしら」
 甲板を歩くたびに、カツコツという硬質な足音が潮騒へ溶けてゆく。島へ到着後には探索作業が待っているとはいえ、こうした穏やかな船旅を楽しめるのであれば十分に役得と言える。風になびく金髪を梳きながら、エメラは手近にあったテーブルとチェアを引き寄せ、そっと腰を下ろした。
「星でも眺めながら、ゆっくりお茶でもしましょうか。暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ涼しいものね」
 彼女の手にはティーセットが一式携えられていた。上がってくる時にキッチンから拝借したのだろう。ポットを傾けると、湯気を立てながら琥珀色の液体がカップへ注がれてゆく。それに口をつけると、優しい暖かさと香りが喉を滑り落ちていった。
「ふぅ……思えば最近は本当に忙しくて、碌に空を眺める余裕もなかったわね」
 紅茶のお陰で人心地つけたのだろう、ほっと小さな吐息が零れ落ちる。此処一月ほどはアックス&ウィザーズの戦争で掛かりきりだったのだ、それも無理ないだろう。椅子の背に体重を預けながら、彼女はちらちらと瞬く星を望む。
「……そういえば、グリードオーシャンの島は異世界から落ちて来たのよね? 空から落ちて来たのか、それとももっと上から落ちて来たのかしら……」
 自然と、思考はこの世界について巡り始めた。グリードオーシャンに点在する島の多くは、他の世界から落下してきた地盤が元となっているのだという。しかし、個人の偶発的な移動を除けば、現状グリモアによる転送だけが唯一の移動手段である。そう考えると、ここまで大規模な転移は極めて不自然だ。
(でもかと思えば、織田信長はこの鉄甲船でグリードオーシャンに乗り込もうとしていたわね。それにこれまでの戦争だって、明らかにその世界出身でないオブリビオンも参戦していた……あの空まで行ければ、何かわかるのかしら)
 そっと静かに、天上へ掌を向けてみる。藍色に染め上げられた夜空には、ただ点々と星が輝くのみ。一見すれば、他の世界と同じようにしか見えない。だが、其処には未だ人の手が立ち入っていない『未知』が今も存在し続けているのだろうか。そんな想像を巡らせていると、エメラは我知らず好奇心が疼きだすように感じられた。
(まだまだ謎が多いわね。気になる所ではあるけれど、この世界ではそこまで上空に行くのも難しいし……その内、解明できれば面白いかもしれないわね)
 そんな心を落ち着ける様に、半機人はまだ湯気を立てるカップを傾けてゆく。こうしてこの世界を旅していれば、いつか全容に至る日が来るのだろうか。
(その前に、まずは目の前の仕事からね……けれど船旅はまだ始まったばかり、目的地も大分先でしょう。今はただ、広がる星空を楽しむとしましょうか)
 巡る思索と共にゆっくりと時間も過ぎてゆく。エメラは星空を仰ぎ見ながら、静かに紅茶を嗜むのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

雨宮・いつき
アリサさん(f01846)と

無人の孤島に未知のお宝…いつもの御勤めとは少し毛色が違いますし、気を引き締めていかないとです
とはいえ休める時に休んでおくのもまた大事
今暫くはこの大海原を満喫してしまいましょうか、アリサさん
…ふふ、満喫の為の準備に抜かりはありません
鯨を撮影する為のスマホを持ってきましたし、水着も持ってきちゃいました(興奮冷めぬ得意そうな顔)

優雅に揺蕩う鯨を眺め、潮吹きをする姿を撮って感動したり
船の側まで近寄ってくる子鯨に和んだり
…なんだかこちらを誘ってるように見えますね
アリサさん、一緒にあの子鯨と泳いでみましょ!
着替えたら海に飛び込んでアリサさんを先導して
目一杯楽しんじゃいます!


アリサ・マーキュリー
いつき(f04568)と

水着の用意も万端
テーマは人魚姫

…良い天気。風も気持ちいい。
いつきもそう思わない?

…なんか、固くなってる?
ほら、もっと力抜いて。
その方がきっと、楽しくなるから。

ふふ、こうしてみると年相応って感じ。
うん、楽しそうだ。

鯨や海を眺めて、綺麗な風景の写真や、いつきと共に写真を撮る。この眼だけでなく、全てに焼き付ける様に。
来てよかったよ、ありがとう。
あっ、ちょっと!
まったくもう…ふふふ。
うん、今日はめいいっぱい楽しもう。

鯨や魚と泳いでサンゴ礁の生物と触れ合って写真も撮って
見て、面白い形の蟹が居た。

上がったら美味しいものをいっぱい食べる。

はあ…ふふ、偶にはこういう息抜きも良いでしょ?



●大いなる群れと共に在りて
 船旅、二日目。少々雲在れど日差し良く、波風共に穏やかなり。昼夜を問わず鉄甲船は突き進み、大分距離を稼いだのだろうか。周りを見やれば、遠洋まで翼を伸ばす種類の海鳥がちらほらと目に留まる。
 初日が何事も無く終わったとあって、船旅という状況を警戒していた者たちの緊張も解けたのだろう。甲板には気持ち良さげに身体を伸ばす者の姿が見受けられた。
「……良い天気。潮風も涼しくて気持ちいいし、絶好の行楽日和だね。いつきもそう思わない?」
「そう、ですね。ただ、今回は無人の孤島に未知のお宝……いつもの御勤めとは少し毛色が違いますし、到着まで気を引き締めていかないとです」
 海風にたなびく黒髪を掻き上げながら、傍らの友人へ問いかけるアリサ・マーキュリー(God's in his heaven・f01846)。しかし、一方の雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は同意する様に相槌を打ちつつも、どこか仕事モードで気難しい様子である。元来、責任感の強い性分なのだ。そんな友の様子に苦笑を浮かべながら、少女はリラックスさせるようにポンポンと肩を叩く。
「……なんか、固くなってる? ほら、もっと力抜いて。その方がきっと、楽しくなるから。ハレとケはきちんと分けるべき、だろう?」
「確かに、休める時に休んでおくのもまた大事。分かりました、今暫くはこの大海原を満喫してしまいましょうか、アリサさん」
 アリサの言葉でようやく強張りが解けたのだろう。いつきも表情から微かな険しさが消え、柔和な笑みが覗く。彼自身、船旅に当たって期待するところも当然あった。その証拠に、少年はいそいそとスマホを取り出し始める。
「……ふふ、満喫の為の準備に抜かりはありません。鯨を撮影する為のスマホを持ってきましたし、水着も持ってきちゃいました。勿論、どっちも防水機能もばっちりです!」
 透明なカバー付きで耐水性は十二分、海中に入れても問題なく作動するだろう。加えて彼がしゅるりと羽織った上着を脱いでみれば、カーゴパンツタイプの水着が顕わになる。普段は余り露出させないのか、色白な素肌が陽光に輝き非常に眩しかった。そんな興奮冷めやらぬと言ったいつきの様子に、アリサも思わずクスリと笑みを零す。
「ふふ、こうしてみると年相応って感じ。うん、とっても楽しそうだ。私も準備万端だし、ね?」
 次いで少女も上着を脱ぎ捨てると、鮮やかな水着が日差しの下へと晒された。ひらひらとヒレを思わせるレースがふんだんにあしらわれており、差し詰めテーマは人魚姫と言った所か。そうして二人は楽しむ為の準備を整えると、まずは甲板の外延を回りながら周囲の景色へと視線を向けてゆく。
「海鳥が居るってことは、目的の島も近いんですかね……? あ、丁度手すりに留まってますし、今なら一緒に写真が取れますよ!」
 いつきに手を引かれ、アリサは共に羽を休める海鳥と写真を取る。飛び立ち魚を取る姿や、ゆっくりと姿を変える雲、煌めく波間を共に眺めながら、少女はしっかりとその光景を視界へ焼き付けてゆく。
「……今回は来てよかったよ。誘ってくれてありがとう」
「え、あ、いえ……僕も、一緒に来れて嬉しかったですから」
 友人の言葉へ、照れくさそうに頬を赤らめるいつき。そうして二人が長閑な時間を満喫していると、潮騒に混じってたおやかな響きが聞こえてきた。それも、音の源は一つだけではない。まるで木霊するかのように、幾つもの反響が海中より聞こえてくる。思わずそちらへ視線を向けた二人は、視界へ飛び込んで来た光景に息を呑む。
「あれは鯨……しかも一頭だけじゃない、大きな群れだね」
「それに見てください、仔鯨も居ますよ!」
 それは言葉通り、十頭を超えようかというクジラの群れであった。互いにつかず離れず、ゆったりと蒼海を舞い泳いでいる。また、いつきの指差す先には二回りほど小さな個体も居た。恐らく子供の鯨なのだろう。となれば、彼らは子育て中の集団か。
「うわぁ……すごく可愛いですね!」
 船べりより身を乗り出し、パシャパシャと夢中で鯨たちの姿をシャッターへ収めてゆくいつき。そんな彼の姿に興味を持ったのだろうか、仔鯨は群れより離れるや鉄甲船と並走し始める。警戒心のない姿は、まるで小さき者たちに語り掛けているようで。
「……なんだか、こちらを誘ってるように見えますね。アリサさん、一緒にあの子鯨と泳いでみましょ!」
「あっ、ちょっと! ……まったくもう。まぁ、すっかり楽しんでいるようで何よりだよ」
 止める間もなく海中へと飛び込んでいった少年に、仕方がないとアリサは笑みを浮かべる。困ったと言った風でありながら、眼差しはどこまでも優し気だ。彼女もまたいつきの後を追う様に、海面へと身を躍らせてゆく。水飛沫を上げながら着水すると、まるで待っていたかのように仔鯨が海中でくるりと身をくねらせた。
「ほら、この子も遊びたがってますよ! だから、目一杯楽しんじゃいましょう!」
「うん、そうだね。今日はめいいっぱい楽しもう」
 そうして二人は仔鯨に導かれるように、透き通った水の中を進んでゆく。一緒に泳ぐ姿は勿論、途中で見かけたサンゴ礁や熱帯魚の群れも写真へと収めていった。海底を這う面白い形の蟹に二人でクスクスと笑い合い、我が子を迎えに来た母鯨の巨大さに目を輝かせ……やがて、船の航路から離れていった群れを見送りながら、二人は甲板へと上がっていった。
「さ、流石に疲れましたね……でも、すっごく面白かったです!」
「それは何よりだ。さ、お腹もすいただろう。何か摘まみつつ一休みしようか」
 子供とは言え、鯨と人間の体力差は大きい。甲板へ登り切った途端にぺたりと腰を下ろすいつきへ、アリサは予めキッチンから持ってきておいた軽食と飲み物を差し出す。動き回り火照った体には氷の冷たさが心地よい。濡れた手でサンドイッチをぱくつく少年に、少女は微笑まし気に目を細めた。
「はあ、大分泳ぎ回ったね……ふふ、でも偶にはこういう息抜きも良いでしょ?」
「はいっ。一足早い夏の思い出になりました!」
 いつきの朗らかな笑顔に、つられてアリサも笑みを浮かべる。そうして二人は心地よい疲労を感じながら、穏やかな昼下がりを楽しむのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
雄大な自然の中で探索を行う…騎士道譚とは趣を異にしますが御伽噺の冒険譚のよう
メガリス確保という目的は疎かに出来ませんが、少々楽しみではあります

…帝竜戦役ではカタストロフの脅威が電子頭脳を過り、環境を楽しむ余裕はありませんでしたから…

探索前の動作テストも兼ね、持ち込んだ水中用装備で海中探索
クジラもいる海洋観光宇宙船もあるそうですが、天然の海洋生物に触れるまたと無い機会です

センサーでの●情報収集で所在を掴んで近づいて

魚群やクジラの群れが逃げていきます…
一体何故…

…水中用装備の機械駆動音! 

装備の改善点は後で纏めるとして
彼らが音に慣れるまで待つとしましょうか

幸い、この船旅は焦る心配はないのですから



●騎士よ、わだつみの調べを聞け
 照り付ける日差しが海面を煌めかせる一方、鉄甲船の甲板上でも光り輝く姿があった。それは青と白の装甲で全身を覆ったトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)である。彼はどこまでも広がる大洋を眺めながら、感慨深そうに腕を組む。
「雄大な自然の中で探索を行う……騎士道譚とは趣を異にしますが、まるで御伽噺の冒険譚のよう。聖杯の探索か、はたまた月への旅行か。メガリス確保という目的は疎かに出来ませんが、少々楽しみではあります」
 騎士の物語に冒険は付き物だ。奥深い森に住まう魔女に沼地へ潜む猛獣、そして厳山で待ち受ける邪竜。古来より、騎士が立ち向かうべき相手の往々はそうした手付かずの『未知』に居ると相場が決まっていた。ふと、『竜』という単語を思い浮かべた時、騎士は思わず悩まし気に頭を振る。
「……帝竜戦役ではカタストロフの脅威が常に電子頭脳を過り、伝承に語られる環境を楽しむ余裕はありませんでしたから……これも丁度良い埋め合わせでしょう」
 冒険譚という意味では、先の戦争で舞台となった群竜大陸も打ってつけではある。しかし、あの時は文字通り世界の命運が猟兵たちの双肩に掛かっていたのだ。各土地に待ち受ける驚異をじっくりと観察する余裕などなかった。とは言え、彼も共同統治ではあるが群竜大陸に領土を得た領主の一人である。これから見て回る機会も増えて来るだろう。
「ともあれ、今は目の前の未知を堪能……いえ、探索すべきでしょうね。幸い、悪天候や敵の存在を心配する必要もないようですし、今の内に装備の動作テストをしてしまいましょう」
 彼は意識を切り替え直すと、持ち込んだ追加装備を甲板へと並べてゆく。元来、彼は極限環境下でも活動できるよう製造された戦機だが、想定される戦場へ適応できるに越したことは無い。彼は身体の各部へ推進用のスクリューや姿勢制御用のジェット推進機を取り付けると、船べりへ足を掛ける。
「スペースシップワールドにはクジラもいる海洋観光宇宙船があるそうですが、こちらは天然の海洋生物に触れるまたと無い機会です。近くからじっくりと観察できると良いのですが……」
 そうして海面へと飛び込んだ途端、彼の身体は急速に海底へと沈んでゆく。総身鋼鉄製なのだ、当然であろう。だがその程度は予測の範囲内だ。彼は推進機構を作動させると、ゆっくり海中を泳ぎ出す。
(海中の透明度は良好、潮の流れも極めて穏やか。遠くから聞こえてくるのは鯨の鳴き声でしょうか?)
 木漏れ日の如く差し込む陽光に照らされながら、トリテレイアは収音マイクが拾った鯨の鳴き声を辿ってゆく。特段手間取ることなく、彼は遠くに黒々とした巨体を見つけた……のだが。
(ぎょ、魚群やクジラの群れが一目散に逃げていきます……一体何故……!?)
 くるりと、踵を返して鯨や魚が遠ざかって行ってしまう。どうしてなのかと愕然とするも、騎士はその原因にすぐさま思い当たった。
(そうか……水中用装備の機械駆動音! 恐らく、甲高い金属音は彼らの嫌う音域なのでしょう)
 そもそも宇宙は空気が無く音が伝わらない為、その手の懸念とは無縁であった。加えて、水中は大気中よりも遠くへ音を伝播する事が災いしたのだろう。原因は分かったが、その場で直せる類の問題ではない。故に、彼は静かにその場で待つことに決めた。
(装備の改善点は後で纏めるとして、彼らが音に慣れるまで待つとしましょうか。幸い、この船旅は焦る心配はないのですから……という訳で、一つ実験を)
 トリテレイアはふと思い立ち、己が発する駆動音を分析。ある周波数と成る様に調整する。それは収録した鯨の鳴き声だ。そっと音を発し、待つ事暫し。
 ――クォォン、と。
 彼の問い掛けへ応ずるように、雄大なる歌声が彼方より響いてくるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ファン・ティンタン
【WIZ】大いなるきみ
語(f03558)と
アドリブ歓迎


青い海
星海とか水族館には依頼で向かっているけれど、正しく海と言える場所には案外出かける機会が少なかったんだよね
思えば、この水着の出番もあまりなかった
今期の新調の前に、もう少しくらいは使ってあげようかな……ヤドリガミ的に

語は、釣りを?
……期待の的のようだし、まぁ、頑張ってね?

水面に身を投じ、巨大な哺乳類とご対面
不思議だ、この巨体が人と同じく哺乳で子育てをするなんて
最近に遭ったデカい奴らは凶暴な連中だったけれど……あなた達の目は、優しさに満ちているよ

ん?
髪が引っ張られるような、妙な力が……ぉ、おお?
(水中で臨戦態勢へ移るも、その先には―――)


落浜・語
ティンタンさん(f07547)と

グリードオーシャン。本当に海ばっかりなんだなぁ…
ん、せっかく夏にいろいろ用意はしたけれど使わなかったわけだし。

って訳で【釣り】するか。
本気でやる気はないから釣れたら、おかずが一品増える程度の気楽さで糸を垂らす。
ティンタンさんは、泳ぎいくのか?なんもないと思うが気を付けて。
……頼むカラス。そうやって物欲しそうに見ないでくれ。仔龍も真似するな。
お前らどうしてこういう時はしおらしく大人しくなるかな。いつも見たくド突いてきたりすれば、追っ払いやすいのに。

食べる分は確保して、あとは二匹の餌に。
そろそろ最後にするか。引き上げ間際に、今までで一番大きな当たり。釣りあげたのは…



●禍福も流れる時の前にはささやかで
「グリードオーシャン。名前の通り、本当に海ばっかりなんだなぁ……」
 見渡す限り空と海、二重の蒼がどこまでも広がる世界。足元から伝わる微かな揺れを感じながら、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は船べりに身を預ける。下を見れば、透き通る海中に無数の魚たちが泳いでいた。となれば、する事など一つしかない。
「ん、せっかく夏にいろいろ用意はしたけれど、結局使わなかったわけだし……って訳で、釣りでもするか。尤も素人手妻なんで、運よく釣れておかずが一品増えれば御の字ってとこだけどな」
 語の足元には釣り竿にルアーや餌、タモにバケツといった釣り道具一式が並んでいた。長丁場になるだろうと見越して日差し除けのパラソルや椅子を組み上げていると、小気味の良い足音を立てて近づいて来る人影が在る。
「海……青い海、か。星海とか水族館には依頼で向かっているけれど、正しく海と言える場所には案外出かける機会が少なかったんだよね」
 陽を照り返す様な白い髪と肌。眩し気に目を細めながら歩み寄ってくるのは、上着一枚を羽織ったファン・ティンタン(天津華・f07547)であった。少女は仲間の広げた道具一式を眺め、やろうとしている事を察したようだ。
「語は、釣りを?」
「ああ。こういう土地の魚を食べる機会ってのもそう無いからな。ティンタンさんは、泳ぎいくのか?」
「思えば、この水着の出番もあまりなかったからね。今期の新調の前に、もう少しくらいは使ってあげようかなと……ヤドリガミ的に」
 語の問い掛けに頷くと、ファンは羽織っていた上着を脱ぎ去った。露わになるのは全身を覆う紺色の布地に、胸元の名前欄に記された『ふぁん』の三文字。端的に言って、どこからどう見てもスクール水着である。尤も(器物期間を除けば)年齢的にそうおかしくはないだろう。とは言え、それをどう評するかはきっと赤髪の青年の領分だ。下手な事を言って蹴られたくはないので、語は苦笑を浮かべつつ身を乗り出す少女を見送る。
「一応なんもないと思うが、どうか気を付けて。何かあったら呼んでくれ」
「準備運動はしっかりしてあるよ……そちらも期待の的のようだし、まぁ、頑張ってね?」
 そう言って海中へと飛び込んでいったファンの姿が見えなくなると、語は己の横へと向き直る。欄干の上には、白首の鴉と鈍色の仔龍がお行儀よく並んで座っていた。心なしか、その視線は期待に満ちているように見える。
「……頼むカラス。そうやって物欲しそうに見ないでくれ。あと仔龍も真似するな。お前らどうしてこういう時はしおらしく大人しくなるかな。いつも見たくド突いてきたりすれば、こっちも追っ払いやすいのに」
 その様子は鴉や龍と言うよりも借りてきた猫というのが相応しい。普段とは違い過ぎる態度に胡乱気な視線を投げ掛けつつ、語は釣果を得るべく釣り糸を垂らし始めるのであった。

(これが、クジラ……動画や写真で見る事はままあるけれど。こうして間近で観察できる事なんて、そうそうなかったからね)
 一方、海中へと身を潜らせたファンはそう間を置かずにお目当ての相手を見つけることが出来ていた。全長二十メートルを優に超す、地上最大の哺乳類。その傍らには子供と思しき個体も居り、甘えるように母親の周囲をくるりくるりと泳ぎ回っている。子供であっても、その体躯は少女の身長を優に凌ぐ。
(不思議だ、この巨体が人と同じく哺乳で子育てをするなんて。確か一度地上に上がりながらも、再び海へと還る事を選んだ者たちの末裔……だったかな)
 大陸無きこの世界ではどうか分からぬが、少なくともアース系世界ではそうであるとされている。地上を選んだ小さき人間と、海へ戻った巨なる獣。外見も住まう場所も大きく異なりながら、その在り方は己が形と根本の部分では似通っているとファンは感じていた。
(最近に遭ったデカい奴らは凶暴な連中だったけれど……あなた達の目は、優しさに満ちているよ)
 そっと近づき黒々とした肌を撫ぜると、気持ち良さげな声が響く。彼らは人と同じように鳴き言葉で会話をし、独自の文化や唄を持っているのだという。生存競争や食物連鎖という過酷な環境の中で、彼らは独自の世界を連綿と育んできたのだろう。そんな遥かな刻の流れに想いを馳せていた……その時であった。
(……ん? なんだ、髪が引っ張られるような、妙な力が……ぉ、おおお??)
 クンッ、と。ファンは後ろ髪が引かれるような感覚を覚える。比喩ではない、物理的にだ。何事かと背後へ視線を向けるも、特段不審なものは見受けられない。そのまま引き寄せられながら、すわ敵の襲撃かと臨戦態勢を整え、そして――。

 時を同じくして、語もまた戦闘状態と呼ぶべき状況に陥っていた。
「そろそろ切り上げようと思ったら、こいつはなんとも……!? 最後の最後に大物が掛かりやがった!」
 元々、人との関わりが薄いこともあって魚たちの警戒心が薄かったのだろう。釣果としては上々な成果を噺家は得ることが出来ていた。仲間たちが食べる分を確保しつつ、余った魚は細かく捌いて鴉や仔龍の餌へ。数匹貰って満足したのか、彼らは既に日光浴がてらのうたた寝を始めている。
 語も丁度良い頃合いだろうと撤収の準備を始めつつ、最後にもう一度だけと釣り糸を垂らしたところ、本日一番の手応えが返ってきたのだ。
「おかず一品どころか、メインで行けるぞこれは! 糸が切れないように気を付けて……せぇ、のぉっ!」
 糸が千切れないよう慎重にリールを巻き上げつつ、ここぞというタイミングで思い切り引き上げる。飛沫を上げながら海上へと引っ張り上げられたのは……。
 魚、ではなかった。釣り糸の先でぷらぷらと吊り下げられているのは紛れもなく人である。しかも白い髪とか纏う水着とか、非常に見覚えがあるものだった。というか端的に言ってしまえばファンその人だ。紅の左瞳と視線が合い、気まずい沈黙が二人の間へ降りる。
「……………………………………語?」
「いや待て、違うんだ。何がとは言えないがこれは確実に違うんだ! だからまずはその手に握った得物を下ろせってオイッ!?」
 穏やかな昼下がりの甲板は、途端にどったんばったん大騒ぎである。鴉と仔龍はそんな主たちの様子を半目で眺めながら、小さく一つあくびを漏らすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ペイン・フィン
津雲(f07917)と狐珀(f17210)と

海、良いね
戦うのは、しばらく、後になりそうだし
今はひたすら楽しむのも、良いかも

いつの間にか、そっと着ぐるみ水着に着替え
いつものおこじょぐるみと見た目、変わらないけど、泳ぎ専用だよ
で、そのまま海へ入ろうか

水中機動、素潜り、遠泳、高速泳法
技能を使って、水中をすいすいと泳いで、鯨の元へ
動物と話すで会話しよう

こんにちは、大きな友達
少しの間、一緒に泳いでも良いかな?

……ん、ありがとう

鯨の歌を聴きながら、のんびり水泳
ああ、こういう楽しみ方も、良い物だね


勘解由小路・津雲
ペイン(f04450)、狐珀(f17210)と3人組
グリードオーシャンを発見するときの船旅はなかなかの悪路だったが、来てしまえば穏やかなものだな。
せっかくだからひといきついたら【後鬼】を甲板にでも連れて行こうかね。

【行動】
やあ、吉備さんもこちらでしたか。

あまり詳しくないが、ここら辺の海は、サムライエンパイアの海とはまた違うようだ。
最近後鬼は留守番が多かったからな、ゆっくり見学でもしてくれ。

おお、見ろ後鬼、あれが話に聞いたク……ジラか? 
なんだか別の生き物ような……?(見つめる先には遊泳するペイン)

あ、こっちが本物のクジラか。ほう、こんなに大きいのだな。


吉備・狐珀
ペイン殿(f04450)・津雲殿(f07917)と

グリードオーシャンに来るのは2度目ですけど、あの時は急いで現地につく必要があったから。
だから今回船旅が楽しめて不謹慎ですけど嬉しいです!

月代、甲板に出てみましょうか。鯨さんに会えるかもしれませんよ。
あ、津雲殿に後鬼殿も。
ええ、鯨を見ようと思いまして。
あ、ほら!月代、あそこに…あら。
真っ白なオコジョが、と思ったらペイン殿?
ふふ、鯨さんと泳いで楽しそうですね。
ん?月代も泳ぎたくなりましたか?
良いですよ。その代わり、あまり遠くへ行かないと約束して下さいね。

(鯨と楽しそうに泳ぐ月代を眺めながら)
こういう時スマホ?があれば…(操作わかりませんけども)



●航路の先に黒白は揺蕩いて
 船は風を受け、ぐんぐんと航路を進み続ける。そろそろ島も近くなってきたのだろうか、周辺も徐々にではあるが遠浅の海へと変化しつつある。鯨を見られるのも、もうそろそろ潮時かもしれない。ならばと、その数少ない好機を逃さぬために姿を見せたのはペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)である。
「海……良いね。本格的に戦うのは、しばらく、後になりそうだし。今はひたすら楽しむのも、良いかも……ね」
 彼は甲板の片隅へ移動すると、いそいそと着替えを始める。取り出したるはやけに白くモコモコとした布の塊だ。青年はそれに袖を通すと、自身の身体を中へ滑り込ませてゆく。
 そうして現れたものは一見すると水着には見えなかった。かと言ってウェットスーツとも言えず、近しいのは着ぐるみ……そう、端的に言ってオコジョである。いや待て、どういう事だ。
「これは、いつものおこじょぐるみと見た目、変わらないけど……防水加工された、泳ぎ専用品だよ。勿論、そのまま海へ入っても、問題なし……」
 心なしか、ペインは誇らしげに胸を張っているようにも思える。ともあれ、そういう訳らしい。良く見ると毛並みの下はゴム皮素材になっており、長時間の遊泳でも体温が奪われないよう工夫されているようだ。なお、水の抵抗などに関してはきっと深く考えてはいけないのだろう。
「それ、じゃあ……さっそく探しに、行こうか」
 そうして海オコジョと化したペインは船べりを蹴るや、大洋へと飛び出してゆくのであった。

「グリードオーシャンを発見するときの船旅はなかなかの悪路だったが、来てしまえば穏やかなものだな。無論、全部が全部そうだとは思わんがこれも役得だ。精々寛がせて貰おうか」
 一方、それとは離れた場所。階段を上がり、甲板へと上がってきた勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は降り注ぐ日差しへ眩しげに小手を翳した。彼の後ろではガシャガシャと足音を立てて後鬼も姿を現す。黒々とした装甲が陽光を受けて鈍く輝いている。
「さて、それでは何をしようか。もしかしたら、目的の島も見えるやも……おや」
 後鬼を引き連れつつ甲板上を見渡してみると、彼は船端に佇む仲間を認める。それは海を眺める吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)であった。
「やあ、吉備さんもこちらでしたか。月代も一緒の様で」
「あ、津雲殿に後鬼殿も。ええ、鯨を見ようと思いまして。こうした機会でもないと、そう会えませんしね」
 声を掛けられて振り返った少女の肩には、純白の仔龍がちょこんと座っている。故郷の浜辺を思い出しているのだろうか、興味深そうにきょろきょろと首を動かす姿が微笑ましかった。そっと横へと並んで景色を眺める津雲へ、狐珀は訥々と言葉を紡いでゆく。
「……グリードオーシャンに来るのは二度目ですけど、あの時は急いで現地につく必要がありましたから。勿論、今回も仕事だとは理解しています。でも皆さんと船旅が楽しめて、不謹慎ですけど嬉しいです!」
 以前にこの世界を訪れた際には、海賊団の窮地を救うため巧遅よりも拙速を重視していた。解決後に魚と戯れたのも良い思い出ではあるが、こうした船旅もまた違った趣があるのだろう。そう朗らかに笑う狐珀の姿に、津雲もまた笑みを零す。
「なに、楽しんで英気を養うのも立派な仕事ですよ。張り詰めてばかりいては疲弊してしまいますから」
 船旅と言えば、彼とて覚えがある。サムライエンパイアよりこの世界へと至る道中は、悪天候や敵襲といった困難に満ちていた。それと比べれば、今回の旅程は天と地ほどの差があると言えよう。だからこそ、この一時は陰陽師も楽しむことを決めていた。
「あまり詳しくないが、ここら辺の海は、サムライエンパイアの海とはまた違うようだ。最近後鬼は留守番が多かったからな、久しぶりにゆっくり見学でもしてくれ」
 東洋の墨がかった蒼さとはまた違う、翠緑を思わせる鮮やかな海原。中身的にも外装的にも物珍しいのだろう。二脚機はきゅるりと頭部先端のカメラレンズを収縮させながら、広がる景色を撮影してゆく。
 とその時、海面をぱしゃりと波打つ何かがあった。魚にしては影が大きく、動きも機敏。となれば、思い当たるものは一つしかない。
「あ、ほら! 月代、あそこに鯨さんが……あら?」
「おお、見ろ後鬼、あれが話に聞いたク……ジラか? いや、なんだか別の生き物のような……?」
 すわ鯨の登場かと身を乗り出す狐珀と津雲であったが、すぐに些か様子がおかしい事に気付いた。大きいことは大きいが鯨よりかは小さく、また色も黒ではなく白。よくよく目を凝らしてみると、それは普段から見慣れた姿で。
「真っ白なオコジョが、と思ったら……ペイン殿?」
「まさか、わざわざ水泳用に改造したのか? なんともまぁ、あれではオコジョと言うよりもラッコだろうに。いや、それだけじゃないな」
 その正体は狐珀の言葉通り、先ほど別の場所より海へと飛び込んでいたペインであった。あちらも二人に気付いたのか、くるりと体を捻りながら手を振ってくる。そんな様子に思わず津雲にも苦笑が浮かぶ。しかし、全くの肩透かしという訳でもなかった。
「あ、こっちが本物のクジラか……ほう、こんなに大きいのだな。巨大と聞いてはいたが、実際に目にするとまた凄まじい」
 ペインのすぐ近くへ、数頭の鯨が浮上してきたのである。彼らは勢いよく潮を噴き上げ、宙空にキラキラと虹を描いてゆく。自然の育んだ雄大さと神々しさに、陰陽師はほうと溜息を洩らした。またその横では、肩に載った仔龍がうずうずと身を震わせているのに少女が気づく。
「ん? 月代も泳ぎたくなりましたか? 良いですよ、ペイン殿も居るなら危険はないでしょう。その代わり、あまり遠くへ行かないと約束して下さいね」
 主の許しに嬉しそうな声を上げながら、仔龍は一直線に鯨の元へと飛び出してゆく。狐像の少女はその後姿を、穏やかな表情で見送るのであった。

(……こんにちは、大きな友達。もし邪魔でなければ、少しの間、一緒に泳いでも良いかな?)
 船上より視点を移すと、海中では姿を見せた鯨の群れへペインが静かに語り掛けていた。相手の気性は穏やかだが、遠目には子供の姿も見える。不躾に近づくのは動物相手と言えども礼を失する行為だ。果たして、重々しくも甲高い声音が返答となって響いてくる。
(……ん、ありがとう。それじゃあ、失礼する、よ?)
 返答の意は許容を示していた。泳ぐ速度を緩めてくれた相手へ感謝しながら、青年はそっとその横へと移動する。鯨が巨大なヒレを打つ度に、海中が掻き回されてくるくると水の流れが渦を巻く。不規則な動きを楽しみつつ流れに身を任せていると、海面から飛び込んで来た月代も遊泳へと加わってきた。大きさは違えど、精神年齢は近しいのだろうか。仔龍は仔鯨の身体へぴたりと張り付くや、まるでアスレチックの様に駆け回り始める。
(ああ……こういう楽しみ方も、良い物だね)
 難しいことは何も考えず、無駄な力も入れず、ただ自然なままに揺蕩う一時。鯨たちも興が乗ってきたのだろうか、各々が高低を変えつつ声を発し始める。それは輪唱だ。彼らが過去より脈々と受け継いできた、文化の一端。その調べに心を委ねながら、青年はこぽりと小さく、海面へ向けて水泡を浮かべゆくのであった。

「月代がとっても楽しそうで良かったです。こういう時にスマホ?があれば、色々残すことも出来るのでしょうが……」
 船上から仲間と鯨の交流を微笑ましげに見守っていた狐珀は、ふともどかしそうに指を組んだ。猟兵となって様々な世界へ足を運ぶようになったとはいえ、サムライエンパイアの生まれとしてはまだまだ現代技術方面に疎いのだろう。残念がる仲間に、津雲はふむと顎を撫ぜた。
「生憎、スマホ持ちのペインはあちら側だしな……ああいや、そうか。うってつけの適任が居たじゃないか。なぁ、後鬼?」
 そう言って津雲が背後を振り向くと、既に二脚機はアイカメラを眼下の光景へと向けていた。元々が戦闘用に製造された歩行戦車である、写真や映像の記録程度ならば機能として備わっていてもおかしくはないだろう。
「これで心配はないだろう? 後で語やファンにも自慢してやろうか」
「ありがとうございます、津雲殿、後鬼殿! あぁ、見てください、あれ!」
 これで懸念は晴れたと表情を輝かせる狐珀が、海上を指差す。その先には海面へと半身を浮かばせた鯨に、その上へ跨るペインと月代の姿があった。御伽噺さながらの一幕に、後鬼もレンズを小刻みに動かしてしっかりと焼き付けてゆく。
 穏やかさと賑やかさの入り混じった心地よい時間を言祝ぐように、ぷしゅうと鯨は小さく水柱を噴き上げるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『絶海の孤島、その密林の奥に未知を見た!』

POW   :    密林猛獣何するものぞ、鍛えた体と意志で踏破する。

SPD   :    トラップ仕掛けも何のその、解除し避けて突き進む。

WIZ   :    未知なる知識は大歓迎、恐れることなく観察する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
 断章及びプレイング受付告知につきましては10日(水)夜を目途に投下予定です。
 どうぞよろしくお願い致します。
●閉じた孤島、過ぎ去りし世界
 船旅三日目の夕暮れ時、猟兵たちは船の進路上にぼんやりと島影が見え始めた事に気付く。それはみるみるはっきりとした輪郭を浮かび上がらせると、その威容を来訪者の前へ現した。
 大きさはざっと見て南北に三キロ、東西に二キロと言ったところか。面積としてはそこまで大きいとは言えないが、鬱蒼とした熱帯雨林が生い茂っており、踏破するには相応の労力を強いられるだろう。加えて基本的には平らな土地ではあるものの、島の中心部には山が聳えている。小高いと呼べる程度の高さだが、かつて大規模な崩落があったのか山肌は険しく見えた。そんな中で、上陸できそうな浜辺を何か所か見つけることが出来たのは不幸中の幸いと呼べるだろう。
 偵察も兼ねて鉄甲船で孤島の周囲をぐるりと廻ってみるも、辺りに敵の気配は感じられない。海賊船の影も、狂暴化した海獣の唸り声も、不自然なほどに見つけることが出来なかった。言い知れぬ不気味さを覚えながらも、猟兵たちはその途中で気になる場所を幾つか発見する。
 
 山肌を垂直に走る、地割れの様な渓谷。
 一か所だけぽっかりと開けた、奇妙な平原。
 弧を描くように、そこだけ不自然に凹んだ入江。
 連なる様に密集して存在する、綺麗な丸型の池群。
 密林へ埋もれる様にちらりと見えた、石造りの人工物群。

 詳細は直接乗り込んで調べねば分からないだろうが、猟兵たちはそれらに強い引っ掛かりを覚えた。この島に眠っているというメガリスの手掛かり、もしくは隠し場所そのものに関係があるのではないか、と。
 調査地点の目星をつけている内に太陽はその殆どを水平線の下へと鎮め、辺りに夜の帳が降りる。正着手としては、夜が明けてから仕切り直すべきなのかもしれない。だが猟兵たちの本能は、探索に余り時間を掛けぬ方が良いと告げていた。実際、敵の姿が判別できぬ以上は巧遅よりも拙速を重んずるべきだろう。多少のリスクを踏まえたとしても、何かが起こる前にメガリスを手に入れた方が、後々の利となるはずだ。
 そうして猟兵たちは上陸用の小船を下ろして孤島へと乗り込むや、それぞれが目星をつけた場所へと向かい探索を開始するのであった。

※マスターより
 プレイング受付は11日(木)朝8:30より開始致します。
 第二章はメガリスを求め、夜闇に包まれた無人島の探索となります。上記に提示した五か所から一つを選び、捜索を行ってください。全ての地点を調べずとも物語は進展可能ですので、お好きな場所へ赴いて頂いて問題ございません。
 それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
トリテレイア・ゼロナイン
夜の水中という環境と己の機能を鑑み入江を担当

水に入る前に●操縦する●暗視モードのUCで地形を調査
しかし、水の地形浸食にそれ程詳しくはありませんが…こうも綺麗に弧を描くようなものなのでしょうか?
どちらかといえば、小惑星に空いたクレーターの特徴に類似しているような…

空中から情報を得られれば水中へ
…故郷の真空とはまた趣が異なる『見通せぬ』闇ですね
さて、御伽の魔法の灯りより頼れる密かな自慢のセンサー群の面目躍如です

ソナーモードを中心としたマルチセンサーによる●情報収集と●暗視で地形を●見切り把握
奇妙な点が無いか調査

該当地点があれば追加装備用ハードポイントにある●目潰し用投光器を起動し詳しく調査


ペイン・フィン
さて、と
自分は、このまま入り江探索と行こうかな
(相変わらずおこじょぐるみ水着)
(ただし強化済み)

息止め、水泳、素潜り、水中機動、深海適応、高速泳法、遠泳
水泳系能力強化で、水中を自在に移動
情報収集、世界知識の情報収集強化技能を使用
聞き耳、第六感、視力、暗視の感覚強化と暗視能力で、周囲を探索していこうか
あと、話ができそうな、入り江周辺の生き物を見つけたら、動物と話す+コミュ力
夜行性の存在とか、いるかもだし、ね

ある程度情報を集めたら、スマホの"バベル"を燕携帯にして飛ばして仲間と情報を共有
"バベル"に専用回線を用意して貰って、仲間の得た情報を、スマホや式神なんかの端末から受け取り、共有しようか



●沈み、埋もれし神話の残骸
「さて、と……恰好的にも丁度良いし、自分は、このまま入江探索と行こうかな」
「こちらも、装備を鑑みるにこの場所を担うのが適任でしょう。夜の海は単純な視界のみで見通すには荷が重いですしね」
 無人島の外延部、不自然に窪んだ入江。その浜辺にふたつの人影が佇み、墨の如き漆黒の海を望んでいた。一人は引き続きおこじょぐるみ水着に身を包んだペイン、もう一人は改良を加えた水中戦装備を帯びたトリテレイアである。
「本格的な探索を始める前に、まずは周囲の情報を集めてしまいましょう……これが入り江でなく泉で在れば、また映えるものもあったでしょうが」
 そう小さくぼやきながら、騎士は肩部に格納されていた小型偵察機を発進させた。未塗装で鈍い銀色なれど、可愛らしい妖精の姿をしたそれは高度を上げ、入江上空を旋回し始める。星明かりを受けて輝く妖精から齎される情報を分析しつつ、トリテレイアは首を捻った。
「しかし、水の地形浸食にそれ程詳しくはありませんが……こうも綺麗に弧を描くようなものなのでしょうか? どちらかといえば、小惑星に空いたクレーターの特徴に類似しているような……」
 入り江が出来てから過ぎた時間は月、いや年か。それも数十単位の。それだけの年月が在れば、地形に変化があっても確かにおかしくはない。しかし、波による浸食を加味したとしても、この地形は些かお行儀が良すぎた。それこそ、何か外部的な要因による手が加わっているのではないか。そう思わせるには十分である。
「ふむ。取り急ぎ、周辺に危険は見受けられません。ただ、上空からでは海底までの距離が測り切れませんでした。しかし小型ではありますが、妖精の性能は決して低くはありません……つまり」
「……この入江は、それなりの深さがある、ってことだね? なら、増々自分が来て良かった、かな」
 走査の結果、入江全体の地形や敵対存在の有無について把握することが出来た。一先ず、調査中に不意を突かれる心配はないだろう。だが一方で、入江内部の状況についてはやはり潜って調べるしかないようだ。赤髪の青年は奈落の如き底知れぬ海原を前に、そっと目を細める。
「それじゃあ、こうして立っていても始まらないし……そろそろ行こう、か?」
「ですね。はてさて、待ち受けるのは恐るべき海魔か財宝か。一体どちらでしょうか」
 そうしてペインとトリテレイアは意を決し、浜辺から入江の中心部へと向かって進みだした。深さは始め踝まで、次いで太腿。そして腰、胸と徐々に増してゆき……。
(っ!? いきなり、地面が無くなった……? いや、これは穴、なのかな)
 ある地点へ踏み出した瞬間、足裏が空を掻いた。咄嗟にペインは思い切り息を吸い込み、次いで来る沈降へと備える。果たして、水しぶきを上げて全身が海面下へと飲み込まれるや、そこに広がっていたのは黒々とした闇を湛えた縦孔。一見しただけでは、その底は杳として伺い知れぬ。
(海底洞窟、という訳ではないでしょう。これはあながち、隕石の落下というのも冗談では済まなさそうです)
 同様に潜航を開始したトリテレイアも、眼下の様子に思わず目を見張る。試しに各部へ装備した投光器を起動させてみるも、光はまるで吸い込まれるように暗黒へと溶けて水底まで届くことは無かった。
(……故郷の真空とはまた趣が異なる『見通せぬ』闇ですね。さて、となれば御伽の魔法の灯りより頼れる、密かな自慢のセンサー群の面目躍如です)
 この状況下でアイカメラを頼ることは困難だろう。騎士は照明を補助的な物と割り切りつつ、ソナーを中心としたマルチセンサー群へと感覚器を切り替えていった。また一方、ペインは遥か頭上の海面をちらりと一瞥しながら、己の五感を研ぎ澄ませてゆく。
(改めて、入江を担当したのが、自分で良かった。此処は余りにも、寂しすぎる)
 ヤドリガミ故に肉体は仮初の存在であり、意識さえ集中出来れば海中でも行動に支障はない。だがそれ以上に、この縦孔へ満ち満ちる暗黒こそが何よりの脅威だと彼は直感していた。
 全身にのしかかる水の重さ、例え昼間でも明かりが届かぬであろう深さ、そして強化した水着でなければ凍えてしまう寒さ。それらはまるで此処が牢獄であると錯覚させた。常人ならば、この重苦しさに数分と耐え切れまい。ペインは己が半生で経てきた経験上、他人よりもこうした状況にはまだ耐性があった。
(それに何よりも、この場所には……命が、ない)
 また、沈み続けるうちにペインはある事に気付いていた。生き物の姿が全く見受けられないのである。例え光差さぬ深海で在ろうと、生命というのは存外逞しく繁栄しているものだ。現に船旅の間も豊富な生態系を目の当たりにしている。だというのに、此処では魚一匹見つけることが出来ない。これは余りにも不自然だろう。
(いったい、其処には何が眠っているのだろうね……うん?)
 警戒感を高めるペインへ、ふと触れるものが在った。それは近くへ泳いできたトリテレイアである。彼は手の部分を明かりで照らすと、指先を振ってある方向を指し示す。どうやら、ソナーに引っかかる『何か』が在ったようだ。
 そうして仲間に導かれて辿り着いたのは、孔の底。着底すると騎士は改めて投光器を起動させ、そこに眠る存在を浮かび上がらせる。果たして、彼らの視界へ飛び込んで来たもの、それは……。
(なんで、こんなものが、ここに……)
 それは遺跡で在った。切り出された石材によって構築された、古めかしい石造りの建造物。それが縦孔の底でひっそりと佇んでいたのである。予想外の存在に、ペインも思わず仮面越しに目を見開いた。
(これはなんともはや。元々在った穴に落ちたというよりかは……遺跡の落下によってこの縦孔が形成された、と見るべきでしょうか)
 明かりを投げかけながら、トリテレイアは遺跡を丹念に調べ上げてゆく。規模自体はかなり大きいが、どうやらこれが全てという訳ではないらしい。端の部分は床材や柱が半ばより寸断されており、より大きな建造物の一部であったことが伺えた。
(残念ながら、文字や模様は磨り減って読み取れませんか。そう言えば、島側にも何らかの人工物があったという目撃情報が在りましたね。恐らく、それと関連があるのは間違いないでしょうが……それにしても)
 一通り見て回っても、メガリスらしき物品は見受けられなかった。それ自体は残念であるが、怪しい場所を一つ潰せたので決して無駄ではない。だがそれはそれとして、トリテレイアは疑問を抱く。遺跡をこんな場所まで沈降させるような出来事とはいったい何であろうか、と。
(その為にも、まずはいったん上へ戻らなくちゃ、ね……バベルにお願いすれば、情報共有は問題ないはず)
 得られた情報を持ち帰るまでが調査である。指潰しは騎士へ合図を送り、海上へ帰還すべく浮上を開始した。地上へ戻れば、通信機器を使って報告が出来る。きっと仲間たちも何らかの成果を得ているだろう。それらを重ね合わせれば、見えて来るものもあるはずだ。そうして二人は海面で揺れる微かな光を標として、上へ上へと上がってゆく。
 そして、そんな猟兵たちを追いかけるように――こぽりと一つ、水泡が遺跡より浮き上がるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

吉備・狐珀
とりあえず池まで来てみましたけれど。
池の周囲は探すことはできますがメガリスが池の中にあるとしたら…。
ここは、もふもふさんの力を借りましょうか。

UC【一獣当千】使用。
呼び出すのはカワウソさん。今回は密集した池を調査する必要があるからいつもより多くお呼びします。
確か語さんがたくさんお魚を釣っていらっしゃいました。
新鮮なお魚を皆さんにも分けてもらえるようにお願いしますから、ご協力お願いしますね。
カワウソは泳ぎはもちろん、潜水も得意ですから池の中をくまなく調査してもらいます。
ウケ、ウカ、私達は池の周辺を調査するとしましょうか。
池の周囲と池の中の(情報収集)中に式神や知り合いに出会ったら情報交換を。



●それは大いなる者の痕跡
「海の上と違い、島の中は蒸し暑いですね。やはり、風が吹かないからでしょうか」
 じっとりと滲む汗を拭いながら、狐珀は薄暗い新緑の中を進んでいた。島の外周から見えたとは言え、入江を除く調査地点はどれも島の内陸部だ。鬱蒼と茂る熱帯林は夜でも涼しいとは言い難かった。だが、彼女もまた猟兵である。下草を踏み締めながら道なき道を踏破すると、程なくして視界が開けた。
「これが先ほど見えた池群、ですか……本当に綺麗な丸型ですね」
 少女の眼前へ飛び込んで来たのは、幾つも連なった無数の池である。大きさは小ぶりで、直径はざっと十メートルほどだろうか。言葉通り、一つ一つがまるで整えられたか如く正確な円を形作っていた。それも単に密集しているのではなく、等間隔かつ互い違いに点在している。
 小川から上段の池へ水が流れ込み、溢れた分が下の池に伝う。そこが満ちれば更に下へと注がれてゆく……そんなある種幻想的な光景が、誰にも見られることなく存在し続けていたのだ。狐珀は思わず見入りかけるも、まずは調査の手を付けねばと頭を振って気持ちを切り替える。
「さて、とりあえず池まで来てみましたけれど。池の周囲を探すことはできますが、もしメガリスが池の中にあるとしたらちょっと手間ですね……ここは、もふもふさんの力を借りましょうか」
 池によって水質は異なり、透明で底まで見えるものもあれば、水生植物が繁茂して濁っているものまで様々である。数も数であるゆえ、これらの中に入って一つ一つ中を改めるのは想像以上の重労働だろう。
 そこで狐珀が取り出したるは一冊の書物、その名も『もふっと大辞典』。猫の手も借りたい状況だが、此度は既に猫よりも適任の相手へ目星をつけていた。
「もふもふさん、もふもふさん、あなたの持っている力を私に貸してください。さぁ、お願いしますね、カワウソさん?」
 ぱらりと頁を捲るや、わらわらと飛び出してきたのは細長い体を持つ小動物たち。それは少女が呼び掛けた通り、カワウソの群れであった。彼らの動きは実際機敏で在り、また手先も器用。加えて可愛らしい見た目とは裏腹に強靭な狩猟者でもある。異能に依って呼び出された個体という事もあって、例え池の中にワニが居たとしても逆に蹴散らせるだろう。
「交渉材料は……そう言えば、確か語さんがたくさんお魚を釣っていらっしゃいましたね。新鮮なお魚を皆さんにも分けてもらえるようにお願いしますから、ご協力して貰えませんか?」
 主に川沿いで生活するカワウソたちにとって、海の魚はそうそう口に出来ないものだ。提示する対価としては十分だろう。狐珀の問い掛けにもふもふたちはキュイキュイ鳴いて頭を突き合わせた後、小さくひとつ頷くと方々へ散って行った。数瞬の間をおいて、水飛沫の音が断続的に響く。
「みんな泳ぎはもちろん、潜水も得意ですから池の中をくまなく調査してくれるでしょうね。さて、ウケ、ウカ。私達は池の周辺を調査するとしましょうか」
 そうしてカワウソたちが報告を上げてくるまでの間、狐珀は黒白の狐を伴い調査も兼ねて辺りを散策してみる。とは言え、池の周辺は何の変哲もない藪と言った様相だ。もう少し気温と湿度が穏やかであれば、極東の里山に近しいかもしれない。
「そう言えば、どんな事があればこの様な地形が出来上がるのでしょう?」
 そこでふと、狐珀はそんな疑問を抱く。奇妙な法則を持った土地というのはこれまで幾つも見てきたが、少なくともこの島は普通に見える。ならば、この地形はいったいどういう訳だろうか。
 一番高い池の畔に立って下に広がる風景を見下ろした時、少女はある想像を思い浮かべた。
「……これってなんだか、足跡みたいですね」
 互い違いに、海岸線へ向けて伸びてゆく無数の池。それは何かが歩いた痕跡の様にも思える。愚にもつかない妄想だと一笑に付そうとした琥珀だったが、そこへ二つの報告が飛び込んできた。
 一つはカワウソたちから。メガリスは見つけられなかったが、池の底はどれも超重量で踏み固めたが如く不自然に均されていたこと。
 もう一つは、仲間の飛ばしてきた鋼鉄のツバメから。入江の海底には、巨大な建造物の一部分と思われる遺跡が沈んでいたらしい。
「この池の延長線上にあるのは……入江、ですね」
 果たして、これらを偶然だと片付けてしまって良いのだろうか。言い知れぬ何かの存在を思い浮かべる狐珀の耳朶へ、ぱしゃりと水面を打つ音が響くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファン・ティンタン
【WIZ】道なき未知を征く
アドリブ可

【第六感】が拙速を重んずるなら仕方ないね
じゃあ私は、あの平原を見に行こうか

地元の事は地元の存在に聞くのが一番だけれど、さて
【付喪神ねっとわーく】を地に刺し、大地の記憶を探る
相手が確たる存在を有していないから情報は断片的で曖昧だろうけれど、雰囲気が掴めれば儲けものだよ

例えば、この地に過去急激な変化があったか
或いは、この場に争いによる痛みがあるか
土地に刻まれた感情を汲み取り、【情報収集】の結果から現状を整理していこう

不測に備えて身を隠す事にもぬかりなく
【星灯】で周囲の夜闇を色濃くし、【闇に紛れる】
ここは、静か過ぎる
別働の仲間達ともスマホとかで情報共有しておこうか



●かつて共に在った者たち
「本音を言えば腰を据えて準備すべきなんだろうけれど、第六感が拙速を叫ぶなら仕方ないね……少なくとも、日差しが無いタイミングを選んだのは正解だよ」
 密林を抜けた先にある、ぽっかりと開けた平原部。頭上を遮る枝葉も無く、ちらちらと瞬く星空が地上を仄かに照らしている。そんな中、白い影がゆっくりと姿を現した。それは急ぎ足で熱帯林を駆け抜けてきたファンである。身体能力の高さ故に息こそ上がっていないが、じっとりとした湿気によって全身を汗が伝う。もしこれが昼間であったならば、より過酷を極めていただろう。
「さて、と。ぱっと見た限り、周りの森林地帯に浸食されつつあるけれど……恐らく元々は人為的に切り開かれた場所なのかな、此処は」
 手巾で汗を拭いつつ、周囲を一瞥したファンはそう推測した。通って来た道と比べて平野の地面は石や凹凸が少なく、明らかに人の手によって整備された感がある。試しにぐるっと歩き回ってみれば、崩れ落ちた石材の残骸などが草や蔦に埋もれているのを見つけられた。
「なるほど、ここは恐らく村だったのかな? 完全な無人島という訳ではなく、かつては人が暮らしていたのだと。何かしらの手掛かりが残っていれば良いんだけれど……この気候だと望み薄か」
 高温多湿な環境下において、適切に保存されていない木や紙は短期間で腐敗し消滅する。少なくとも、住民たちが消え去ったのは軽く見積もっても十年単位は昔の話だ。何かしらの情報を得るのは難しいかもしれない。石碑や彫刻など鉱物に刻まれたものであれば話は別だが、この緑に埋もれた中から見つけ出すのは困難を極めるだろう。
「地元の事は地元の存在に聞くのが一番だけれど……さて、一体何が見えるのだろうね。全貌とまで言わずとも、手掛かりくらいは覚えていてくれると有難いかな」
 じゃらり、と。ファンが取り出したのは先端に角錘が付いた一条の鉄鎖であった。無論、ただの鎖ではない。物言わぬ物品や土地神と意識を繋ぐ霊的な交信網である。尤も、今回はそもそもが人格を備えぬ大地そのものが相手で在るため、どこまで情報を得られるかは未知数だ。
(情報は断片的で曖昧だろうけれど、雰囲気が掴めれば儲けものだよ。メガリスは強力な力を備えた物品……この土地にかかわりがあれば、他の存在よりも強く刻まれているはず)
 鎖の先端を地面へと突き刺し、そこを起点として意識を平野全体へと広げてゆく。イメージとしては霧の中へ手を伸ばすのに近しいか。密度の濃淡、漠然としたイメージの中に揺蕩う朧げな輪郭。そういった情報を求め、ファンは漉し取る様に大地の記憶を手繰り寄せ、己が意識を世界へと溶けさせてゆき――。

 まず初めに浮かび上がったのは、小規模な集落の映像。それにより、この島がどの世界より来たのかが分かる。湿潤な気候へ適応するためにアレンジこそ加えられているが、建築様式的にアックス&ウィザーズの文化を色濃く残していた。浅黒い肌をした人々が行き交い、時には海や山へ出かけてゆくなど、活気ある姿が現れては消えてゆく。
 次いで見えてきたのは、荒廃した村の様子だ。流行病か、気候の変化か、はたまたコミュニティとしての寿命を迎えたのか。家々は手入れが成されず朽ちつつあり、疎らに見える住人の姿はどこか生気に欠けていた。時折、仲間の骸を運ぶ者や奇妙な格好をした者が内陸部へ向かう様子が見て取れた。
 そして、最後。家屋は崩れ落ち、村から人の気配は完全に消えていた。一つの文化、一つの世界が終焉を迎えた無謬なる景色。ただそよ風が茂り始めた下草を揺らす中、突如として急激に視界が揺れ始め、地響きが鳴り響き……。
 ――大きな、とても巨きな。山と見紛うばかりの『何か』が、まるで彷徨う様にむくりと起き上がって……。

「っ!? ……はぁ。どうやら、探れるのはここまでのようだね」
 そこでファンと大地の接続は断ち切られた。土地が記憶しているのはどうやらここまでらしい。深々と息を吐き、肺腑へと酸素を行き渡らせる。断片的ではあるが、おおまかな情報は得られたと言っても良いだろう。それに気になる点も見つかった。
「途中で見えた村人たち……彼らが向かった方向には、それぞれ渓谷と人工物が在ったはずだ」
 骸を運ぶ者は渓谷へ、奇妙な格好をした者は人工物へ。推測の域を出ないが、十中八九間違いはないだろう。取り急ぎそちらへ向かった仲間へ今見た光景を伝えるべく、少女はスマホを取り出し情報を打ち込み始める。万が一を考え、闇に身を隠す念の入れようだ。
(どちらも、恐らくは信仰や土着宗教に関する何かだろうね。渓谷は墓、人工物は差し詰め祭壇か何かと言った所か)
 ファンは確信を以てそう断言することが出来た。その理由は最後に見たヴィジョン。あの巨なる存在を表現するとしたら、相応しい単語は一つしか思いつけない。
「……神様、ね」
 そう呟くファンの口元には、どこか形容しがたい感情が覗き見えるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

三上・チモシー
アドリブ連携歓迎
渓谷を調べてみようかな

無人島で探検! わくわくするねー♪
ライ麦ちゃんに乗って、空中を移動しながら調査
【聞き耳】をたてつつ、【暗視】で周囲を観察
明るい時に来れば、きっといい景色なんだろうなぁ

広いようなら、『猫聖譚曲』でるーさんたちを呼び出して手伝ってもらおうかな
あまり離れすぎないように注意して、辺りを見回ってもらうよ
何か変わったものを見つけたら教えてね

そういえば、無人島だとは聞いてたけど、動物はいるのかな?
いるなら、話を聞いてみるのもよさそうなんだけど


落浜・語
…うん、俺は何もしてない。(言い訳)
ま、それはどうでもいいとして。
探索が必要だってから渓谷に来てみたけれど…。これだけ暗いと足下が少し不安かな。
そこも気を付けつつ、やってきますか。

【第六感】も頼りにしつつまずは歩いてみて【情報収集】を。
何か怪しいものがないかとか、それこそ人工物っぽいものがあったりしないかを気にしながら歩いてみる。
あまりに歩くのが厳しそうなら、カラスに手伝ってもらうか……。さっき魚やったんだから、手伝ってくれ。
カラスの背中に乗って、上から渓谷を確認。さて、何が出てくるやら。
情報共有は適宜していこう。



●世界は割れ、砕け、崩壊する
「……うん、俺は何もしてない。あれは不幸な事故だった。という訳で、それはもうどうでもいいとして……いや本当に横へ置いておいて、いまは探索優先だ」
 島に広がる深緑の絨毯、その上を漆黒の翼が飛翔してゆく。大鴉の背に乗った語は悩まし気に腕組みしつつ、そう独り言ちていた。何だか、どこか言い訳じみて聞こえるのは気のせいだろうか。
 彼が目指す先は島の中心部にそびえる小高い山、正確には山肌へ走る渓谷だ。島の中央なだけあって徒歩で移動すると時間が掛かる為、噺家はこうして空路での移動を選んでいた。だがどうやら、他にも同じことを考える者が居たようである。
「無人島で探検! わくわくするねー♪ ライ麦ちゃんもそう思うー?」
 夜空に元気の良い声が響く。そちらへ視線を向けると、広がる黒に一点の紅が浮かび上がった。徐々にはっきりとした輪郭が見え始めたその姿は、空を泳ぐレッドテールキャットに跨ったチモシーである。あちらも語に気が付いたのか、手を振りながら近づいて来た。
「あ、語さんだー! もしかして、そっちも渓谷を調べに来たの?」
「ああ。という事は三上さんもか。こいつは丁度いい、一人だけじゃ骨が折れそうだったしな」
 人手が増える事は喜ばしいことだ。それが見知った仲であれば猶更。連れ立って飛翔してゆく二人は、程なくして目的の渓谷上空へと辿り着いた。眼下を見やると赤岩の山肌に、山頂から麓へ掛けて一直線に亀裂が走っている。
「探索が必要だってから渓谷に来てみたけれど……これだけ暗いと足下が少し不安かな。傾斜とかもそれなりにありそうだ。ま、そこも気を付けつつやってきますか」
「明るい時に来れば、きっと見晴らしのいい景色なんだろうなぁ。それだけがちょっと残念かな?」
 平地よりも険しい土地柄だが、何はともあれ調査を進めねば始まらない。幸いにも、二人は互いの能力をおおよそ把握できている。語が地上を、チモシーが上空を担当すると手早く決めるや、二人は手分けして探索を開始するのであった。

「う~ん、そこまで高くはないけれど山は山。やっぱり広さがかなりあるね……よーし、それならるーさんたちにも手伝って貰おう!」
 上空をぐるりと旋回して渓谷の大きさを把握したチモシーは、暫し悩んだ後に人手ならぬ猫の手を借りる事に決めた。パチリと少年がひとつ手を打つや、燐光と共に灰色猫の群れが呼び出される。その数、約七十匹。彼らは背に桜色の翼を生やしており、見た目通り機動力は折り紙付きだ。
「みんな、何か変わったものを見つけたら教えてね? でも、危ない生き物とかも居るかもしれないし、あまり離れすぎないように注意して欲しいかな。それじゃあ、頼んだよー♪」
 にゃんと鳴き声を上げつつ方々へ散ってゆく羽猫たち。夜目の利く彼らであれば、メガリスの手掛かりを見落とす心配はないだろう。そこでふと、少年はきょろりと周囲を見渡す。
「そういえば、無人島だとは聞いてたけど動物はいるのかな? 見つけられそうなら、話を聞いてみるのもよさそうなんだけど……誰か起きてると良いなぁ」
 鳥か、獣か、はたまた蛇か。これだけ植物が生い茂っているのだ、きっと何かしらは居るだろう。チモシーは高度を下げながら、対話できそうな相手を求めて地上へと視線を向ける。そんな彼の傍へ、小さな黒い影が音も無く近づいて来るのであった。

「さて、分かっちゃいたが足場はあんまり宜しくないな。それも山だからと言うよりかは、地滑りとか崩落とか……何かしらの災害かね?」
 一方、地上へと降り立った語はごつごつとした地面に足を取られて辟易しながらも、それが単なる地形の問題でないことを感じ取っていた。地表へ露出した大岩や起伏の激しい斜面が、かつて発生した地形変動の名残を物語っている。
「渓谷が出来たのはそのせいか、それとも元からあったのか。そこまではまだ分からないが、あまりに歩くのが厳しそうならカラスにも動いてもらうか……そら、さっきあんだけ魚をやったんだから、手伝ってくれ」
 そう頼み込むものの、鴉はカァと不満げな声を上げる。行きの飛行で借りは返したと言いたいのだろうか。とは言え、何かしらの情報を見つけるまでは帰れない為、仕方ないと言った様子で黒鳥は飛び立ってゆく。
「何だか、段々と図太くなっていないか? まぁ、それはそれとして、こっちも探索しなきゃな。何か怪しいもの、それこそ人工物っぽいものがあればドンピシャなんだが……うん?」
 渓谷の端に立ち、目を凝らして谷底へと視線を落とす語。ふとその時、ぶるりと懐のスマホが振動する。取り出して確認してみると、他の地点を調べ終えた仲間からの報告だ。画面上の文字へさっと目を走らせると、気になる一文が飛び込んでくる。
「……渓谷に墓、ね。そう言ったもんは谷の中にあるってのがお約束だけどな。これじゃあ探し出すのは至難の業だぞ」
 谷底は星明かりすらも差し込まず、黒々とした漆黒が広がるのみ。さてどうしたものかと唸る彼の視界へ、さっと二つの影が過ぎった。一つは先程飛び立った鴉、もう一つは羽を生やした灰色猫。彼らの表情からは、何かしらの成果を得られたことが察せられた。
 また、一羽と一匹が渓谷より飛び上がってくるのとほぼ同時に、頭上からはチモシーの声が響く。
「語さーん! コウモリさんから、渓谷の途中に洞窟があるって話が聞けたよ! 道が崩れていて、歩いて辿り着くのは難しいみたいだけど……」
「ああ、こっちも丁度見つけたみたいだ。にしても、此処に来たのが飛行手段持ちの俺たちで良かったな」
 語は戻ってきた鴉を再び巨大化させて騎乗するや、駆け付けてきたチモシーと共に渓谷内へと降下してゆく。果たして、二人は壁面にぽっかりと口を開けた空洞を見つけるや、その中へと飛び込んでゆくのであった。

「なるほど、墓とはよく言ったもんだ。しゃれこうべなんざ何度も見てきたが、こうも大量にあると流石にゾッとしねぇな。だけど、こういう所には埋葬品としてお宝がありそうなもんだが……流石に罰当たりかね」
 二人が足を踏み入れた洞窟内は人の手によって整えられ、中心を貫く通路と左右に枝分かれした小部屋で構成されていた。試しに中を覗き込んだ語は、ズラリと並べられた無数の骨を見つけて思わず顔を引っ込める。
「るーさんたちに手分けして探して貰ってるけど、それらしい物はないみたいだね。奥に行けば、何かあるかもしれないけど……あんまり長居したい場所じゃないかなぁ、ここは」
 チモシーが薄気味悪そうに身震いするのは、何も内部に満ちる冷たい空気だけが理由ではないだろう。地形変動の影響だろうか、洞窟内はところどころに亀裂が走っており崩落の不安が付き纏っていた。そうして恐る恐ると言った様子で二人が先へ進むと、そう間を置かずして最奥へと辿り着く。
「こいつは仏壇みたいなものか? 暗くてよく分からないが、壁に何か書いてあるな」
 残念ながら、そこに探し求めるメガリスの姿は無かった。代わりに遺されていたのは、錆ついた燭台や陶器の破片のみ。語は壁に記された内容を確認すべく手近な燭台へと火を点し、壁面を照らし出す。
「これは……壁画、だよね。描かれているのは村人と神様? それに赤い宝石かな?」
 そこに描かれていたのは古めかしい絵で在った。チモシーは指先でなぞりながらその内容を確認してゆく。平伏する人々と聳え立つ巨人、そしてその指先に掲げられた宝石。恐らく、かつての住民たちが信じていた神話なのだろう。となれば、探し求めるメガリスはこの赤い宝石である可能性が高い。
「あとまだ探し切れていないところって、石造りの人工物だけだっけ? なら、そこにメガリスが在るのかな?」
「可能性は高いな。だけどなんだか……嫌な予感がひしひしとしてきたのは俺の気のせいかね」
 取り急ぎ、この情報は速やかに共有すべきだろう。語はスマホを取り出して情報を打ち込みながら、少年と共に来た道を戻る。そうして入口まで帰ってきたチモシーはふと、足元から伝わる違和感に眉根を寄せた。
「もしかして、なんだかちょっと……揺れてる?」
 本当に微かではあるが、少年は小刻みな振動を感じ取る。同時に、それが徐々に大きくなりつつあることに気付くのであった……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリサ・マーキュリー
いつき(f04568)と

気になる物…美味しいものあるかな…此処…。
お宝?お宝どこ?人工物…?あ、ホントだ。
アレか…うん、いいんじゃない?有るかもね…お宝…!
気になってきた…!(現金)
ふふ。まあ、楽しもうよ。

暗いなら火をつける?
うん、そっちはお願い。

ユベコで着火して松明を作る
視力で情報収集をしながら、忍び足で探索

ん?うーん…なんだろう。祭壇…なら、神殿かもね。あとはピラミッドとかなら…お墓とか。どちらにしろ、お宝がありそうな匂いがプンプンしてきた…!絶対見つけよ!
隠し通路か…ありそう!
…でも、よくある石がゴロゴロ転がってくる奴がないと良いけどね。
…トラップとか、無いよね?

※アドリブ可能


雨宮・いつき
アリサさん(f01846)と

気に掛かる場所は沢山ありますが、僕は密林の中の石造りが一番気になります
無人のはずの島にある人工物…いかにもお宝が隠れていそうな場所じゃありませんか?
…まあ、ちょっとワクワクしてはいますけども
ここから先は御勤めの時間です、ちゃんと気を引き締めていきましょう

そうですね、こうも暗いと足元も覚束ないですし…灯り、お願いできますか?
僕は念のため、分身達と八咫烏達を放って【暗視】で周辺を警戒して貰います
不審な物があればすぐ知らせますね

それにしても…アリサさん、この人工物何だと思います?
僕は祭壇じゃないかなぁって、何となく思うんです
意外とこの辺りに隠し通路とかあったりして…



●拒む故に、秘奥に宝を夢想せん
 夜であろうとも熱帯雨林の気温湿度は共に高く、蒸し蒸しとした空気が満ちている。しかし、そんな不快感もどこ吹く風とばかりに、アリサはどこか上機嫌そうな鼻歌混じりに緑の中を進んでいた。
「気になる物……美味しいものあるかな。此処かに……南国フルーツとか、甘酸っぱいのが良いよね」
「気に掛かる場所、ですか。そう聞かれれば沢山ありますが、僕としては密林の中の石造りが一番気になりますね」
 そんな年上の少女を微笑ましげに眺めつつ、先導しているいつきはいま向かっている目的地について思いを巡らせる。不可思議な地形にも興味はあるが、少年の意識を強く引いたのは石造りの人工物群だった。『人工』と言う通り、それが人の手によるものは遠目からでも明白である。しかし、現在この島は無人島のはずだ。その謎について思いを馳せると、どうにも浪漫がくすぐられてならなかった。
「無人のはずの島にある人工物……いかにもお宝が隠れていそうな場所じゃありませんか。アリサさんもそう思いません?」
「お宝? お宝どこ? 金貨や宝石、宝箱に……人工物? あ、ホントだ」
 振り返ってそう問いかけるいつきだったが、少女の視線は少年の頭を飛び越えた先を見つめていた。つられて顔を前へ戻すと、木々の間から古めかしい建造物が姿を覗かせている。思わず二人は急ぎ足で残った距離を踏破すると、件の人工物がその重々しい威容を開けた平地の中心へと鎮座させていた。
「アレか……うん、いいんじゃない? 如何にもって感じの遺跡だ。有るかもね、とびっきりのお宝が……! 私も気になってきた……!」
 建造物の表面には蔦がびっしりと絡みつき、年月を経た石材はどれも苔むしている。それに加え、島の外周からでも垣間見える程度には高さもあった。正に冒険映画や小説に出てくる古代遺跡そのものといった有様だ。アリサが俄然やる気を出し始めるのも無理はないだろう。逆にそれを見て多少冷静になったのか、いつきはコホンと小さく咳払いをする。
「……まあ、僕もちょっとワクワクしてはいますけども。ですが、ここから先は御勤めの時間です。何が待ち受けているか分かりませんし、ちゃんと気を引き締めていきましょう」
「ふふ。まあ、楽しもうよ。二人ならきっと大丈夫だからさ?」
 そんな少年の強張りをほぐす様にアリサはポンと軽く背を叩き、悪戯っぽい笑みを浮かべた。ともあれ、二人は十分に警戒しながら遺跡の内部へと足を踏み入れてゆく。だが当然ながら遺跡内は星明かりも差し込まず、非常に薄暗かった。
「暗いなら火をつける? 松明片手に探検するっていうのもさ、醍醐味だよね?」
「ふふっ、そうですね。確かにこうも暗いと足元も覚束ないですし……灯り、お願いできますか? 僕は念のため、分身達と八咫烏達を放って周辺を警戒して貰います。不審な物があればすぐ知らせますね」
「うん、そっちはお願い。幸い枝とかはそこら中に落ちてるから、材料には事欠かないよ」
 だが彼らも歴戦の猟兵、その程度の対処などお手の物である。アリサは一度外へと出て手頃の大きさの枝を数本拾ってくると、生み出した狐火を先端へと点してゆく。これならば例え何かに燃え移ったとしても任意で消すことが出来る為、こうした閉所での探索にはうってつけだ。
 また、いつきは懐から符を取り出して放つとそれを三つ脚の鴉へと変じさせる。機動力はこれで確保できたが、更に手数を増やすべく少年は静かに意識を集中させてゆく。彼の周囲へ霊力が収束したと思うや、それらはポンッと音を立てて実像を結ぶ。現れたのは何とも可愛らしいミニサイズのいつき、しかも一人でなく複数である。
「お宝も良いんだけどさ……一人くらい持って帰っちゃ駄目かい?」
「ははは、お持ち帰りには対応していませんので」
 いつものやりとりなのか、アリサの問いをいつきはさらりと受け流す。肩を竦めつつ差し出された松明を己や分身たちに持たせて視界を確保すると、二人は足音を忍びつつ内部を進み始めた。
「しかし、それにしても……アリサさん、この人工物は何だと思います? 僕は祭壇じゃないかなぁって、何となく思うんです」
 そろそろと移動しながら、いつきはそう話を振る。外観もそうであるが、こうして足を踏み入れてみると内部の構造は人が棲むのに適しているとは言い難かった。通路の幅は場所によって極端に幅の差が在り、加えて複雑に入り組んでいるため、生活する場合には不便この上ないだろう。壁には複雑な紋様や文字が彫り込まれており、何らかの神秘性も感じられた。
「ん? うーん……なんだろう。祭壇……なら、神殿かもね。あとはピラミッドとかなら、お墓とか。そういう信仰関係なら、この造りも納得かな。どちらにしろ、お宝がありそうな匂いがプンプンしてきた……! 絶対見つけよ!」
 神に献上した供物、死者へ奉じた埋葬品。この施設の建造目的が何であれ、そうした物品が貧相であるという事はまずないだろう。勇み足で歩を進めるアリサへ苦笑を浮かべるいつきは、それならばと小さく手を打つ。
「普通に探しただけでは、そういったお宝は見つけられないでしょうね。盗人対策として、巧妙に隠されているのが常ですから。例えば……意外とこの辺りに隠し通路とかあったりして」
 そう言っていつきが目星をつけたのは、壁一面に描かれた抽象的な壁画であった。内容としては山の如く大きな人型と、平伏してそれを崇める人々を描写している。権力者の偉大さを示しているのか、それとも土着信仰における神性を表しているのか。これだけは判別が付かないが、絵の内容が重要そうであるという事だけは読み取れた。
「こういった手を触れる事を躊躇うようなものへ、敢えて絡繰りを仕掛けたりするのも常道と言えますね。ただし……」
「隠し通路か……ありそう! でも、よくある石がゴロゴロ転がってくる奴がないと良いけどね。まぁ、そこまでありきたりなのって逆に珍しそうだけど」
 いつきが解説を終える前に、壁画へと近づいたアリサがぺたぺたと表面に触れてゆく。すると、それこそまさに映画じみた動きで壁の一部が奥へ押し込まれた。すわ当たりかと期待に目を輝かせる少女の耳へ、隠し通路の代わりに地鳴りのような音が聞こえ始める。
「えーっと……もう一度聞くけど、ありきたりなトラップとか流石に無いよね?」
「神様とか王様の絵を提示して、下手に手を出せば災いが来るぞっていう警告にしている場合もあります……って、続けようとしたんですよね、僕」
 こうしている間にも音は徐々に大きさを増す……と言うよりも、ここまで来れば急速に接近していることが明白である。果たして次の瞬間、通路奥の壁をぶち破って巨大な丸岩が二人目掛けて突撃してきた。まるで計ったかのように、いや実際計算された上で通路は狭く低かった。
「ア、アリサさんがフラグを立てるから……!?」
「いやいやいや! 確かに定番だけどさ、まさか本当にあるなんて思わないよ!? 兎に角、逃げなきゃ潰されちゃう!」
 迎撃するという選択肢もあるにはあったが、壁や天井ごと崩落して生き埋めになる可能性の方が高かった。幾ら猟兵と言えども、それは御免被る話だ。二人は口よりも足を動かすべきだと、一目散に来た道を駆け戻り始める。
 そうして脇目も振らず出口まで走り抜け、それぞれ左右へと飛び退いた瞬間、スピードの乗った丸岩は木々をなぎ倒しながら森の中へと消えてゆくのであった。
「あ、危なかったね……あとちょっと遅れていたら、きっとぺしゃんこだったよ」
「ですね。これは本腰を入れないと、中々に危険そうです」
 肩で息をしながら、地面にへたりこむアリサといつき。全力疾走による消耗は元より、緊張による疲労が全身にのしかかる。しかし、彼らの探索が無駄という訳ではなかった。内部の地形や罠の有無と言った情報があるだけでも、後に続く者にとっては有力な判断材料となるだろう。
「疲れたし、ちょっとびっくりしたけど。でも、何だか面白かったね?」
「無事に戻って来られたから、そう言えるんですよ……まぁ、否定はしませんけど」
 一方は悪戯っぽい笑みを、もう一方は微苦笑を。少年と少女は星空の下、顔を見合わせながら楽しそうに笑い合うのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エメラ・アーヴェスピア
…久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした気がするわ
上陸もできた事だし…猟兵の仕事を始めましょうか

さて…私はこういう場合、普段なら全域にドローンを飛ばすのだけれど…
夜間でも目が利くとは言え、何か引っかかるのよね…
…決めた、猟犬に乗って石造りの人工物群へ向かわせてもらうわ
自然よりは人工物を調べる方が私には向いてそうだし、
『我が工房に帳は落ちず』、この通り人手もあるわ
それじゃ、発掘調査…【情報収集】を開始してちょうだい
…何かしらメガリスに通じる情報があれば良いのだけれど…
あ、一応全域に一つずつ連絡用のドローンは飛ばしておくわね

※アドリブ・絡み歓迎


勘解由小路・津雲
ふうむ、それではおれは、あの人工物群を調べて見るか。何かあったら式神を飛ばして知らせることにするよ。

【行動】
【暗視】もできるし、上空から道具【式神】で【偵察】しながら進めば道に迷うこともあるまい。……【後鬼】は、ちょいと目立ちすぎる気がするので、お留守番かな。

この人工物群が何なのか気になるところではある。それ次第では調査目的が変わるかもしれんが、現状、メガリスがどんなものかもわかっていない。

ここが、例えばこの地のかつての住人のものなら、メガリスそのものはなくてもそれを知る手がかりになりそうなもの……壁画とか、モニュメントとか、そういうものがあるかもしれぬ。
そういうものを【情報収集】してみよう。


鈴桜・雪風
ではわたくしは人工物群を捜索しましょうか
人の手が入った場所なら、メガリスが安置、または放置されていそうな場所も少しは目星がつくというものです

「これは住居などではなさそうですね。どちらかといえば神殿や祭壇。それらに似た雰囲気を感じます。植生を見るに、放置されてかなり長い時間が経っているようですが……崩壊はさほどしていませんね」
髪の毛をいじりながらあれこれ推理を巡らせ(この世に不可思議など有り得ない)
人工物群の隅々まで歩き回ります
無論、敵襲への警戒は怠らずに

「これで地下にさらなる階層が続く……となっていたらお手上げでした。仕掛けの類の捜索も完全ではありませんが、大掛かりなものは無いようですね」



●紅玉よ、分かたれたる我が半身よ
 他の四か所へ向かった猟兵たちが調査を進めている頃。密林を通り抜けて人工物群の元へと辿り着いた者たちもまた、作業を開始せんとしていた。
「……久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした気がするわ。上陸もできた事だし、早速だけど猟兵の仕事を始めましょうか。休んだ分はしっかりと働かないとね?」
「ああ。それにどうやら、余り時間を掛けぬ方が良いようだ。先行した仲間からの情報も受け取っているし、何かあったら式神を飛ばして知らせられるよう手筈も整えている」
 先んじて調査に訪れた猟兵に引き続き、この場所へ赴いた人数は三名。彼らはそれぞれ違った得意分野を持っていた。
 エメラに関しては魔導蒸気機関を始めとする技術関係の知識に長じている。また、その隣で式神による連絡網を構築している津雲は霊的な存在に対する専門家だ。そして最後、下草を踏み締めながら周囲と一瞥している雪風については、探偵の肩書に劣らぬ洞察力を備えていた。
「確かにこれは、人間によって建造されたものですわね。人の手が入った場所なら、籠められた意図や目的が読み取れるはず。メガリスが安置、または放置されていそうな場所も少しは目星がつくというものです」
 雪風の眼前に聳える人工物は風雨の影響で多少崩れているものの、しっかりとした柱や壁を備えた威厳ある佇まいである。城や宮殿とまではいかないが、かなりの大きさだ。かつて島で生活していた住民にとって、ここが重要な施設であったことは間違いないだろう。
「さて、と。私はこういう場合、普段なら全域にドローンを飛ばすのだけれど……夜間でも目が利くとは言え、何か引っかかるのよね」
 この場所に対し、エメラは何かしらの違和感を覚えているようであった。セオリーとはまた別の手段を取るべきかと思案する半機人へ、陰陽師がそれならばと声を掛ける。
「であれば、上空からの情報収集はこちらに任せて貰おう。式神ならば呪術的な存在も察知出来るはずだ……それに目立つからと後鬼を留守番させてしまっていてな、地上側を任せられるならこちらとしても有難い」
「わたくしも自分の目で現場は検証しておきたいですしね。出来れば、一緒に回って頂けますと助かりますわ」
 続けて重ねられた探偵の言葉も相まって、エメラは己が取るべき行動を決めた。彼女は足代わりの機械猟犬を呼び出して騎乗しつつ、己の後ろへ乗る様に雪風を促す。更にさっと手を振るや、魔導蒸気によって駆動する工兵が八十体ほど姿を見せた。
「……よし、決めた。それなら、猟犬に乗って石造りの人工物群を調査しましょう。自然よりは人工物を調べる方が私には向いてそうだし、この通り人手もあるわ」
 確かにこれならば、陣頭に立って工兵隊の指揮に専念するのが一番効率的だろう。念のため相互通信用の連絡ドローンを津雲へ預けると、二人の乙女は猟犬の背に乗って駆け出していった。
「さて、と。それじゃあ、こちらも始めるとするか。他の仲間が一足先に内部を調べてくれたとは言え最深部までは移動できなかったようだし、一筋縄ではいかなさそうだ」
 一人その場へ残った津雲は、式神を通して建造物全体を俯瞰し始める。先行した猟兵が情報を持ち帰ってくれたのだが、話を聞く限り中々に厄介な構造をしているらしい。それはそれで懸念事項だが、彼にはまた別に気になる点があった。
(屋根や壁に阻まれて若干感知しづらいが、内部に何かあるな? メガリスそのものはなくとも壁画とか、モニュメントとか、手掛かりになるものがあれば御の字かと思っていたが……)
 朧気ながら、建物深部に魔力反応が在った。厚い石材に阻まれてもなお感知できるという事は、相当に強い力を帯びていることを示している。この状況下でその様な力を発するものなど、一つしかない。加えて、それを裏付けるように他の調査場所からの報告が飛び込んで来た。
「入江、池群、平野。どれもメガリスは発見できず、か。残るは此処と渓谷だが、反応的にも恐らくこちらが当たりだろう。何やら不穏な情報も出ているようだし、出来れば早々に見つけてしまいたいところだが……おや?」
 そうしてぐるりと建造物の上空を旋回していると、少しばかりおかしな点が目に留まる。よくよく意識を集中させて凝視した津雲は、ふむと微かに笑みを浮かべた。
「あれは……運が良ければ、大分手間が省けるやもしれん」
 そうして陰陽師はそっと、通信用のドローンへと手を伸ばすのであった。

「事前情報通り、これは住居などではなさそうですね。様式的に、生活を営むに適してはいません。どちらかといえば神殿や祭壇、それらに似た雰囲気を感じます」
「やはり、同僚さんもそう思うかしら? これほどまで大きいとなると、一体何を祭っていたのかしらね」
 一方、共に外観の調査をしていたエメラと雪風は、改めて建造物の正体について考察を進めていた。内部には宗教的な壁画や彫刻が施されていたという話だが、外装もまたその面影が色濃く残っている。罠や仕掛けが施されているという事実も、この建物の重要性を裏付けていた。
「植生を見るに、放置されてかなり長い時間が経っているようですが……崩壊はさほどしていませんね。それだけ精緻に設計されていたと同時に、頑丈さも求められていた事が分かります。正直、正面からの攻略は骨が折れるでしょう」
 出来れば、頭脳労働だけで済ませたいところですけれど。駆動音を響かせて駆け回る機獣の背中で、雪風は風にたなびく蒼髪を指先で玩んでいる。推論を重ねるたびに増々此処が本命であると確信を深めてゆくのだが、それと比例する様に攻略の困難さも浮き彫りになってゆく。エメラとしてもそれは悩ましい課題だ。
「仕掛けの攻略自体は工兵に作業させれば問題はないでしょうけれど、こう言ったものは得てして隠蔽されているもの。気付く前に発動してしまえば、多かれ少なかれ被害は免れないでしょうね」
 鉱山のカナリヤという訳ではないが、工兵を先に行かせて安全を確保するというのも手ではある。だが遺跡内の規模が分からぬ以上、悪戯に手数を減らすのは正直避けたいところだ。かと言って、そう上手い方法などあるのだろうか。
 そうして二人が様々な方法を模索する中、エメラに追従していた連絡ドローンのスピーカーから声が漏れ始める。声の主は津雲だ。
『聞こえているか? 済まないがもう暫く進んだ後、左手に回ってくれ』
「あら、何か見つかったのかしら?」
『ああ。少なくとも、悪いものじゃないはずだ』
 スピーカー越しの声はどこか上機嫌そうであった。半機人は猟犬を操って指示された道を進んでゆくと、先に到着していた陰陽師の姿が見えてくる。傍まで走り寄ると、自分たちを呼び寄せた理由を理解する事が出来た。地面へ降りた探偵は、『そこ』を覗き込んで興味深そうに目を細める。
「これは……物の見事に崩落していますわね。察するに、この先も遺跡なのでしょうか」
「ああ、入江にこいつの一部分が沈んでいるらしくてな。破壊の影響でこうして穴が生まれたようだ。ここから侵入できればかなりの短縮になるんじゃないか?」
 そこは抉り取られたように崩れ落ちた地面の一角だった。分断された影響で内部の空間を支えきれなくなり、石材や土砂が遺跡深層へと雪崩れ込んだのだろう。魔力の源もこのすぐ向こう側で在り、通路を開通させることが出来ればほぼ直通で辿り着けるはずだ。
「となれば、工兵たちの出番ね。こういった作業は慎重に行わなければ二次被害を起こしかねないけれど……」
「ええ、ご安心を。建築物の構造や様式はある程度把握できました。掘り進めるべき地点の指示はどうかお任せください」
 となれば、後は話が早かった。雪風は蓄積させた知識と推論を重ね合わせ、どの岩や土砂を掻き出せば安全な通路を構築できるか瞬時に導き出してゆく。そしてその予測を元に、エメラの号令一下で工兵たちが機械ならではの正確さで作業を進めてゆく。通常であればかなりの時間が掛かる大仕事だが、疲れ知らずの機械工兵が八十体と言うマシンパワーによって見る見る瓦礫は撤去されてゆき……そう時間も経たぬうちに、人ひとり程度なら通れるだけの通路が確保されていた。
「まぁ、一先ずはこんなものかしら。途中から穴を広げるよりも、崩れないように補強する事を優先させて貰ったわよ。何かあって生き埋めだなんて、笑えないもの」
「同感だ。それに……どうやら、お目当てのモノはすぐそこらしい」
 肩を竦めるエメラへ感謝を述べながら、津雲は濃密さを増した魔力の気配を感じ取っていた。通路から漏れ出る紅の輝きこそが、何よりの証拠だろう。三人は意を決して内部へと踏み込んでゆく。
「真紅の宝石、それもこんなに大きな……これがメガリスで間違いないでしょうね」
 侵入した先はこじんまりとした小部屋で在った。壁には複雑な文字や壁画が描かれ、そしてその中心には一抱えもありそうな紅玉が、内部より燐光を放ちながら鎮座している。技術畑の人間ではあるが、エメラはそれの帯びる力の強大さをひしひしと感じ取ることが出来た。
「正直、安心しましたわ。これで地下にさらなる階層が続く……となっていたらお手上げでしたから。仕掛けの類の捜索も完全ではありませんが、どうやら安全そうですわね」
 雪風もほっと安堵の息を吐く。メガリスの収まった台座を調べたが、罠などは見受けられない。持ち上げた途端に床が抜けて一網打尽、などという心配はしなくて良さそうである。
「しかし、どうやらこの紅玉は半分ほど割れているようだ。遺跡が崩れた際に砕けてしまったか。無理もないが、勿体ないと思うのは些か不謹慎かね?」
 気が緩んだのか、津雲もまた苦笑と共にそんな軽口を叩く。ともあれ、目的の物は発見できたのだ。遺跡の地盤が不安定であることに変わりなし、長居は無用だろう。工兵に紅玉を担がせながら、三人は足早に遺跡内部より離脱する。
 ふとその時、津雲は渓谷へ向かった仲間からも報告が入っている事に気付く。もう必要ないだろうと思いつつも、念のため中身を確認し……思わず目を剥いた。
「神格と宝石……? いや待て。今までの情報から察するに、これはまさか……!?」
 集められた情報が一つに繋がる感覚を抱いた瞬間、突如として地面が振動し始めた。一体何事かと周囲へ視線を走らせると、エメラが海岸線を指差す。
「見て、あそこ! 何かが……起き上がっているのかしら、あれは!?」
 それは入江の在った方角。海面が盛り上がったと思うや高らかに水柱が上がり、その内部に巨大な人型の影が現れる。頭部と思しき場所に煌めくは――真紅の光。
「なるほど。あれが……」
 雪風もその存在が何であるかを察したのだろう。探偵の放つ鋭い視線の先で、それはゆっくりと海水を打ち払い、そして。
「――この島の神、ですか」

 埋もれ、忘れ去られたはずの神話が――目を覚ました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『南洋島の古神』

POW   :    崩れ得ぬ神嶺
【巨大な拳】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【地盤を自らへ取り込み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    神体宝玉の瞳
【視線】を向けた対象に、【頭部へ納められた宝玉より放たれる魔力】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    島ハ我也、我ハ世界也
自身からレベルm半径内の無機物を【自身を構築する遺跡建材】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:伊瀬井セイ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
 第三章の断章及びプレイング受付告知は17日(水)夜を目途に投下予定です。
 引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
●仰ぐ者亡き神の末路
 ――さて、旧い話をしよう。

 その島がいったい何時、この世界へと落ちてきたのかは定かではない。しかし、長い年月を経て島がこの世界へと適合していったことは確かだった。かつて居た世界の文化や技術は変容し、時の流れと共に記憶は歴史の彼方へと埋もれてゆく。だが、人々が孤独や無謬を感じる事は無かった。彼等には縋る寄る辺が在ったからだ。神と言う、不変不朽の存在が。
 孤島と言う世界と呼ぶには余りにも小さな、だが生きて果てるには十分な領域。神も、人も、何ら不足を感じてなどいなかった。満ち足りた、穏やかなる日々。だが、神ならざる者にとって、終焉とはいつか迎えてしまう必定である。気候の変動や疫病の流行、些細な対立は細々とした生存圏を蝕んでゆき、緩やかな衰退の果てにこの島の人間は消え去った。平野の村跡や渓谷の墓、人工物はその遠い名残だ。
 そうして仰ぐ者が無くなり、結末を見届けた神もまた石造りの身体を遺跡に同化させ、地へと埋まり眠りについた。いつかまた、人間がこの地に訪れる事を願って。

 ここまでなら、単なる歴史の諸行無常で終われただろう。だが、そうはならなかった。突発的に発生した地形変動に巻き込まれ、神の核たる紅玉が真っ二つに割れ砕けたのである。半身を失った苦痛に、喪失に、混乱に襲われた神は堪らず身を起こし、島の中を彷徨い歩き……その果てに、海中へと没したのだ。
 池群はその際に出来た神の足跡で在り、入江の底に沈んだ遺跡は神の肉体で在り、そしてメガリスとは神の本体そのものだったのである。故に、目覚めし御柱の望みはただ一つ。半身たる紅玉を見つけ出し、完全なる己を取り戻す事だ。無論、それだけならば同情の余地があるが……古き神は既に過去からの脅威と化している。停滞した時間に支配された島は、また一歩世界を破滅へと進ませるだろう。それだけは見過ごすことなど出来ない。

 浜辺から上陸した古神は山の如き巨体を誇っている。更に内陸へ歩を進める度に島の地盤を取り込んでより巨大に、より堅牢に己を強化してゆく。しかし、頭部に輝く紅の光はそれと比較して弱々しい。あれこそ、メガリスと分かたれたるもう一片だ。つまり神は完全ではなく、故に付け入る隙がある。
 大火力を以て撃ち合うか、速度や手数を活かして翻弄するか、敵に取り付き頭部の神核を狙うか。相手の執着を逆手に取り、メガリスを囮に策を弄するのも良いかもしれない。仮にも神の名を冠する相手だ、取れる手段を全て使わねば苦戦は必至だろう。

 さぁ、猟兵たちよ、剣を執れ――続いてしまった旧き神話を終わらせる時が来たのだ。

※マスターより
 プレイング受付は18日(木)朝8:30から開始致します。
 第二章でメガリスを無事に発見出来た結果、『メガリスで相手の注意を惹いて隙を作る』という行動が可能です。ただ必須行動ではありませんので、必要という方のみご活用ください。
 それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
鈴桜・雪風
カミとは言え、これ程の大きさが相手とは想定外ですわね
大規模破壊は苦手なのですが……
「急所を狙うしかなさそうですね。やれるだけのことはやってみましょう」

前衛に負担をかけてしまうので申し訳ないのですが、一度隠れて機を伺います
狙いは敵の大地に拳を叩きつける攻撃
攻撃が大地に届いた直後に飛び出して、地面まで伸ばした腕を駆け上がり
相手の頭部を目指します
「払い落とされたら無事では済みませんね――速度が勝負!」

当然狙いは頭部の核、メガリスの片割れ
刀の間合いに入り次第、【剣刃一閃】
一刀両断にして差し上げます
「更に半分になれば、もはやその巨体を保つことも出来ぬでしょう」


エメラ・アーヴェスピア
メガリスにも歴史あり、ね
もう片方を合わせれば、もっと強力なメガリスになったりするのかしら?
それじゃあ、戦闘を始めましょうか

猟犬に【騎乗】し機動力を確保
…大雑把に広範囲の攻撃だから私の足ではとても回避できないのよ
しがみついてでも全速力で回避するわよ
回避手段がそれしかない代わりに、私はあのオブリビオンに効果的な兵器を持っているわ
『戦陣穿つは我が砲雷』、大型の物を召喚し、猟犬に追尾するように設定
相手は地形を取り込むのよね?私のこの兵器は地形すら破壊する威力の高い物
相手の強化をはがしつつ、強力な一撃を【砲撃】で叩き込むわ
さぁ、きっちりと撃滅しましょう

※アドリブ・絡み歓迎



●神に挑むは人の叡智
 巨神が大地を踏み締めるたびに、島全体が揺れ震える。自らの半身故にその場所が分かるのだろうか、古神の歩みに迷いはない。そんな天を突くような威容を仰ぎ見ながら、エメラは静かに目を細める。
「メガリスにも歴史あり、ね。単純な学術的興味なのだけれど、もう片方を合わせればもっと強力なメガリスになったりするのかしら?」
「こちらの手の中でならまだしも、敵手として立ちはだかると考えたらぞっとしませんね。カミとは言え力の半ばを失っているにも拘らず、これ程の大きさが相手とは正直言って想定外ですわね。大規模破壊は苦手なのですが……」
 半機人の呟きに、雪風は嘆息しつつ肩を竦めた。これだけの大質量を操りながら、相手は不完全な状態なのだという。全盛期は如何ほどの実力だったのか。それこそまさに、神の名に相応しい万能を誇ったであろうことは想像に難くなかった。尤も、いま目の前の巨躯だけでも脅威であることに変わりはない。
「一応、こちらにはあれを相手取る策はあるけれども……確かに、あの体躯をどうにかする方法は限られるわね」
「こちらの得物は仕込み刀が一振り、となると急所を狙うしかなさそうですね。只人の身なれども、やれるだけのことはやってみましょう」
「なら、其処に至るまでの道筋は任せて貰おうかしら。それじゃあ、方針も決まったことだし……戦闘を始めましょうか!」
 短い打ち合わせの後、二人の取った行動は正反対であった。エメラが機械猟犬に跨り駆け出してゆく一方、雪風は新緑の中へと身を紛れ込ませてゆく。それはそのまま、両者の選んだ戦法の違いを示していた。
「負担をかけてしまうので申し訳ないのですが、こちらの狙いはタイミングが肝要。一度隠れて機を伺わせて頂きます」
「こちらとしても、そうして貰えると正直ありがたいわね。威力があるけれど大雑把に広範囲の攻撃だから、使い手たる私の足でも回避しきれないのよ……!」
 猟犬の上でエメラが腕を振るうと、追従する様に一門の重砲が呼び出される。使用弾種と敵の大きさも相まって、狙いを外すという事は有り得まい。それは関節部より蒸気を漏らしながら仰角を調整すると、瞬時に火を噴いた。広がる白煙の中より飛び出した大口径弾は古神の足元へと吸い込まれるや、着弾と同時に爆炎を撒き散らす。放たれたのは大威力のグレネード弾。それは内包された破壊力を以て、相手の脚部を木っ端微塵に打ち砕いた。
 ――オオオォォォォォ……!
 だが、相手の質量が質量だ。流石に一撃で決定打とまではいかなかった。加えて、ここでようやく古神は猟兵たちの存在を知覚したのだろう。地鳴りの如き唸り声を上げながら視線を地へと落とした。相手に瞳らしい部分はないが、エメラは確かに己が紅玉に射竦められたと直感する。
「直撃は愚か、掠っただけでも戦闘不能になりかねない……! しがみついてでも全速力で回避するわよ!」
 乗り心地などかなぐり捨て、乗騎へ全力の乱数回避を命じつつ、重砲には装填、照準、発射の反復動作を入力する。途端に吹き荒れるは破壊の嵐。敵が地形を取り込んで己を強化することは既に承知の通りだ。半機人の狙いは古神へのダメージは元より、己の砲撃によって地盤を破壊する事で強化を行わせない点にあった。
 尤も、それは爆発と悪路の真っただ中を走り回ることも意味している。瓦礫に足を取られれば即致命的な事態へ繋がる中、彼女はちらりと頭上へ視線を向けた。
「でも、相性自体はそこまで悪い訳じゃないわ。さて、どこまで削り切れるかしらね?」
 取り急ぎ周囲の地形破壊が完了する一方、足元の騒乱を余所に遥か頭上では巨大な拳が握り籠められ、既に振り下ろされつつあった。一見すれば緩慢な動作でしかないが、それは相手のスケール感が異常であるが故。空を征く飛行機を思い起こせば良い。地上から見上げればゆっくりとした動きだが、実際は時速数百キロで飛翔している。あれと同じだ。
 エメラは全力で着弾予想地点より逃れながらも、少しでも威力を減じさせるために砲撃を浴びせ続け……岩拳が大地に触れた瞬間、地震と見紛う程の揺れが周囲を襲った。
「なんとか避けられたけれど、余波だけでもこの威力……! 舞い散る礫がまるで散弾銃ね」
 巻き起こる突風に飛ばされかけた帽子を片手で抑えつつ、エメラはもう片方の手で猟犬を抱きしめる。全身に銃撃の如き苦痛が襲い掛かるも、直撃時を考えればまだ軽傷と言えるだろう。
「……天変地異を思わせる威力、正しくカミ成る力と呼べるでしょう。ですが、わたくしが待っていたのはその一撃です」
 攻撃地点より遠ざかるエメラとすれ違う様に、飛び出す影がある。それはこれまで身を隠していた雪風であった。彼女は着物の裾をたくし上げ、大破壊の最中へと身を躍らせる。全身を礫が掠め、頬に傷が刻まれ朱が伝うも、彼女が一刀を叩き込む好機はこの瞬間を置いて他にはなかった。
「狙うは本丸ただ一点。当然、払い落とされたら無事では済みませんね。故に――速度が勝負!」
 探偵は千々に砕けた瓦礫を蹴って距離を詰めると、未だ地面にめり込んでいる拳へと肉薄する。地形を破壊されたことによって、思う様に地盤の吸収が進んでいないのだろう。再生されぬまま残っている表層の凹凸を利用して拳の上へ乗るや、そのまま腕を伝って駆け登り始めた。刀一本で切れる範囲は、古神の身体と比べれば余りにも微々たるもの。であれば、敵の急所を狙うのは当然の理である。
「とは言え、流石に素通しとはいきませんわね。羽虫一匹と見逃して頂ければ有難かったのですけれど」
 猟兵の脚力がいかに強靭とは言え、敵の頭部へと至るには短くない時間が必要となる。雪風もまた相手の意識が己へ向いたことを察知すると同時に、もう片方の腕が動くのを視界に捉えた。それはまるで身体に留まった蚊を叩き潰すが如き、否、古神にとっては実際にそうなのだろう。掌が頭上を覆い、星明かりを遮って影を落とす。
 この漆黒より逃れねば、死は免れない。だが巨大ではあるものの、腕と言う部位は細長く逃げられる場所は限られる。ただひたすらに、前へ前へと進むより他に道はなかった。
「あともう少し、だというのに……!」
 目指す紅の輝きまではもう僅か。しかし、黒き死は探偵を捉えて離さない。必要なのはほんの一瞬、それだけがどうしても足りない。急速に迫り来る掌の重圧に雪風が歯噛みした……その時。
「これは飽くまで『浮遊型』魔導蒸気グレネード砲。でも一発くらいなら、無理をすれば行けるものよっ!」
 手首の付け根が勢いよく吹き飛ばされた。その正体はエメラの操作によって高度を上げた重砲の砲撃である。反動によって重砲はバランスを崩し二撃目を撃つことは出来なくなるが、それと引き換えに雪風は生死を分ける『一瞬』を得る事に成功した。
「助太刀、感謝いたしますわ……これでッ!」
 そうして残る距離を詰め切り、雪風は相手の頭部へと飛び込んだ。そこにあったのは、メガリスをそっくりそのまま左右反転させたかのような巨大な紅玉。先ほど見たばかりなのだ、見間違えるはずも無い。
「更に半分になれば、もはやその巨体を保つことも出来ぬでしょう。一刀両断にして差し上げます!」
 鞘走るは、桜の和傘に仕込まれし直刀。鋭き切っ先は真一文字に振りぬかれ、紅玉へと吸い込まれてゆく。必殺の一刀、しかし響いたのは硬き金属音だった。
「っ、流石はメガリスと言った所……そう易々と断たれるつもりもありませんか」
 紅玉は輝きを増し、斬断の異能へと全力で抗い始める。神と人による鍔迫り合い。果たして、その拮抗に勝利したのは……。
「――ですが、摩訶不思議を解き明かしてきたのは何時だって人の知性。その象徴たる探偵が、後れを取る訳にはいきませんね」
 神でなく人であった。両断とまではいかずとも、刃は傷跡を紅玉へ刻み込む。かつての悪夢を思い出しのだろうか、苦しむように古神は身を捩り始めた。長居は危険と判断し雪風が頭部より飛び出すと、未だ浮遊し待機していた重砲が迎えに来てくれる。其れに飛び乗って降下する少女は、ちらりと背後を振り返って相手の様子を窺う。
 ――ォォォォォオオオオ…………!?
「人がカミに縋るならば、カミ自身はいったい何に救いを求めればよいのでしょうね」
 嘆くように、唸りを上げる古神。その圧倒的な姿に一抹の無謬を感じ取った探偵は、思わずそうポツリと呟きを漏らすのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雨宮・いつき
アリサさん(f01846)と

なんとも壮大な…
先ほどの祭壇でも丁寧に祀られていましたし、きっと善き神様だったのでしょう
…けれど、既に過去の残滓と成り果てているのであれば討つ他ありません
行きましょう、アリサさん

白虎を呼び出しアリサさんと騎乗
魔力の攻撃は冷撃符から生んだ氷の壁で受け止め、
拳は白虎の素早さに任せて回避
一気に巨神へ接近して、僕の方で囮をします
巨神に流体金属の弾丸を撃ち込み、
脆くなった所を起爆符で吹き飛ばして取り込んだ地盤を削ぎます

派手に攻撃して【おびき寄せ】、【時間稼ぎ】をして周辺を土埃で覆って目晦まし
居合が届くよう流体金属で足場を作って補助します
バッチリ決めて下さいね、アリサさん!


アリサ・マーキュリー
いつき(f04568)と

えっ、神っていうか…えっロボットじゃん。
遺跡がそのまま肉体…おおー、すごい迫力だ…。いやしかしデカイな…。
ところ変われば機械も神様か…私も崇められたりしないかな…しないか。
なるほど、メガリスが彼の本体…。
うん。神様だろうとなんだろうと、邪魔をするなら倒すだけ。

いつきの呼び出した白虎に乗せてもらって、接的した所を腕に飛び乗り足場にして、一気に頭まで蹴りあがって一閃する。

…任せて。貴方の役目はもう、終わりました。
この島は、前に進まなきゃ。
だから、おやすみなさい。

なんか、遊びに来たのに大変だったね。船に戻ったら、いっぱい美味しいもの食べようか。

※アドリブ可能



●終わりを告げ、先を行く為に
「えっ、神っていうか……えっ、あれまんまロボットじゃん。遺跡がそのまま肉体になるって……おおー、すごい迫力だ。いやしかし、それにしてもデカイな」
 先陣を切った猟兵による、神核に対する先制攻撃。それによって大きく身悶えする古神を遠巻きに眺めつつ、アリサは感心したように溜息を漏らす。探索の過程で神格の存在を感じ取っていたものの、こういったタイプは想定外だったのだろう。横に立ついつきもまた、その威容に目を見開く。
「なんとも壮大な……場所が場所ならば、国津神と称されてもおかしくはありませんね。先ほどの祭壇でも丁寧に祀られていましたし、きっと善き神様だったのでしょう」
「ところ変われば機械も神様か。私も崇められたりしないかな……いや、しないか」
 いつきの分析に、アリサはお道化た様に軽口を叩く。神と人の関係がどのようであったのかは、遺跡の造り自体やそこに描かれた壁画から見て取れた。この小さくも豊かな世界を維持し、育む管理者として、人々を見守ってくれていたのだろう。
「……けれど、メガリスが割れ砕けたことによって、その在り様は変わってしまった」
「なるほど、メガリスが彼の本体か。もう一方をくっつけてあげれば元通り、なんてことにはならないんだよね」
「諸行無常……どれほど同じに見えても、割れる前後では決定的に違ってしまいます。既に過去の残滓と成り果てているのであれば、討つ他ありません」
 行きましょう、アリサさん。そう告げるいつきの言葉尻には、一抹の感傷が混じっているように思えた。猛々しき白虎を呼び出しその背へ騎乗すると、少年は手を差し出して少女を己の後ろへと誘う。その手を取りながら、友人の気負いをほぐす様にそっと微笑んだ。
「うん。神様だろうとなんだろうと、邪魔をするなら倒すだけだよ。さぁ、やろうか」
 そうして白き虎の背に跨りながら、二人は古神目指して疾駆してゆく。相手も先の交戦で猟兵たちを明確な敵と断じたのだろう、頭部の紅光が忙しなく明滅し始めた。
「っ、どうやら気付かれたみたいですね。あちらも、ただ拳を振るうだけではない様子。少しばかり荒っぽくなりますから、しっかり掴まっててください!」
「りょーかい。前半戦は任せたよ?」
 いつきが白虎を手繰った瞬間、古神の頭部より一条の輝きが解き放たれた。それは頭部の神核に収束された魔力を解き放つ、神の視線である。威力は物理攻撃と比べれば劣るものの、視線と連動した光条は命中精度が極めて高い。地面を削り取りながら、赤き柱が二人へと襲い掛かった。
「これならばまだ、防げる範疇ですっ!」
 いつきは咄嗟に凍気を封じた符を複数枚放つと、それらを氷の壁と変じさせて攻撃を防ぐ。遮れるのはほんの数秒程度であるが、走り続ける白虎にとってはそれで十二分。辛くも攻撃を凌いで先へと突き進んでゆくも、今度は連続ではなく断続的に光線が放たれ、足を止めんと狙ってきた。
「これは、ただ闇雲に撃ってきているだけではありませんね。こちらの機動を狭めようという意志が感じられます。となれば次に来るのは……」
「いつき、上を見て!? どうやら、本命みたいだよ!」
 アリサに促され頭上へと視線を向けると、猛烈な勢いで巨大な拳が降下してくるところであった。光線で速度を削ぎながら動きを封じ、必中のタイミングで叩き潰そうという腹積もりなのだろう。隕石の落下を思わせる一撃は、直撃は愚かその余波だけでも致命へと至りかねない……だが。
「……タイミングはこっちで測るよ。だから、いつきは巻き込まれない事だけに専念して」
「そうはいきませんよ。アリサさんを送り届けるまでがボクの役目ですからね」
 二人はそれこそを待っていた。猟兵たちは己の狙いを達すべく、まずは拳の一撃を避ける事に全力を尽くす。だが、虎の脚力では着弾までに破壊範囲より逃れるのは困難。そう悟った瞬間、いつきは霊獣の秘めたる力を開放する。
「西方を司りし勇猛なる獣よ。その稲妻が如き牙を以って遍く障害を穿ち給え……!」
 ばちりと、虎の表面に雷光が迸った。白き虎は五行において金を司る。それに付随する権能として磁力を操作し、陰陽の反発を以て更なる加速を得たのだ。刹那、一瞬前まで彼らの居た場所に拳が突き刺さる。割れ砕け震える大地、飛び散る数多の礫。しかし、それに怯んでいては好機を失ってしまうと彼らは理解していた。
「白虎、ここが踏ん張り時ですよ!」
 いつきの叫びに応え、白虎はもう一つの能力を使用する。それは流体金属の操作。液体の特性を持つ金属を弾丸として次々放ち、拳や着弾地点へと打ち込んでゆく。それらは衝撃によって生じた隙間へと入り込むや瞬時に硬化、楔と化して内部より組成を崩壊させていった。
「更にダメ押しの起爆符です。爆発は五秒後……バッチリ決めて下さいね、アリサさん!」
「うん、ありがとう。ここまでくれば、あとは私の番だよ」
 間髪入れずに張り付いた札がきっちり時間通りに起爆、周囲を濛々とした爆煙で包み込んだ。そしてその白きヴェールを突き破り、単身飛び出したのはアリサ。彼女は地面にめり込んだままの拳へ飛び乗るや、一直線に敵の頭部を目指して駆け上がってゆく。
 だが、その戦法は先だって他の猟兵が披露している。二度も同じ手は食うまいと、古神は拳を引き抜こうとするが……持ち上がらない。
「そちらが同じ手を受けないように、僕たちだって全く同じ戦術は使いません。この体勢なら、もう一方の手だって自由には動かせないはずです!」
 それは白虎の権能によるもの。拳と地盤に浸透した液体金属を鎖の如く結合させ、がっちりと地面へ縫い留めたのだ。屈んだ様な姿勢のままでは、片方の手を動かしたところで十全な威力は発揮出来まい。
「最後の最後まで、本当に助かるよ……でも、ここからは私一人の勝負だ。手は使えなくても、瞳はまだ動かせるだろうからね」
 進路は確保された。後は只、ひたすらに駆け抜けるのみ。しかし少女の危惧通り、相手の頭部が煌めいたと思うや、立て続けに輝きが解き放たれる。己の身体が損壊するのも意に介さぬ、敵の排除のみを狙った攻撃だ。
 一撃、二撃は避けられても、近づく度に発射から着弾までの間隔が狭まるのだ。いつまでも回避とはいかない。彼女は足を動かしながら、すらりと得物を引き抜いた。
「……神様、か。在り方は大きく違うとは言え、その名を冠する相手にこれを振るうなんてね」
 それは真白き刃、天上なるモノの恩寵と名付けられた一振りの鋼。直撃軌道の輝きを切って捨てながら、アリサはただ只前へと足を踏み出し続ける。相手も生半可な威力では足止めにすらならないと理解したのだろう。攻撃方法を切り替え、途切れることなき光を浴びせ始めた。
「気持ちは、少しだけ分かります。いつか人が戻ってくる時の為に、かつてと変わらぬ自分で在りたい。でも、そうするには余りにも時間が経ちすぎてしまった」
 圧力が増す。だがそれでも、退くわけにはいかなかった。このまま神を放置しても、メガリスを明け渡しても、決して望んだ結末には至らぬであろうことを理解しているが故に。
「……任せて。貴方の役目はもう、終わりました。この島はもう、前に進まなきゃ」
 光線を切り裂きながら、アリサは呼吸を整え、重心を測り、心を鎮める。彼我の距離は未だ遠かれど、既に狙うべきものは彼女の間合いへと入っていた。
「――だから、おやすみなさい」
 瞬間、少女の姿が掻き消えた。それは刹那の間に距離を詰める、神速の歩法。彼女は宝玉の眼前まで踏み込むや、移動の速度をそのまま斬撃の威力へと転化し、紅玉へ二条目の傷跡を刻み込んでいった。だが、放ち続けていた光線によって僅かながらに軌道が逸らされたのか、両断にまでは至らない。
「っ、流石は神様と言った所だね」
 攻撃を受け混乱しているのか、四方八方へ光線を吐き出し始める紅玉から距離を取りつつ、アリサは中空へと身を躍らせる。足を滑らせたのではない、これも打ち合わせ通り。数秒の浮遊感を味わった後、いつきの白虎から伸びた液体金属がそっと彼女の身体を受け止め、安全に地面へと降ろしてくれた。
「無事なようで何よりです、アリサさん。戦果はどうでしたか?」
「ちょっと浅かったかな。でも、確かに一撃入れられたよ」
 見上げると苦痛を覚えているのだろう、古神は巨体をよろめかせていた。少なくとも、しばらくは追撃の心配などは不要だろう。そこで緊張の糸が切れたのか、アリサは全身にどっと疲労を覚える。
「……なんか、遊びに来たのに大変だったね。船に戻ったら、いっぱい美味しいもの食べようか」
「ええ、そうですね。事の顛末を最後まで見届けたら、是非そうしましょう」
 白き虎の背に乗りながら、戦場から距離を取るアリサといつき。彼らの視界には、天を仰ぎ咆哮する古神の姿がいつまでも映りゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(デッドウェイトの水中用装備外し鉄甲船に積んでいたUC装着、飛翔)
仮にあの古き神がこの島全てを取り込み己が体とした場合…周辺の島への被害は甚大な物となるでしょうね
なんとしてもここで討ち取らねばなりません

飛行し接近
対艦ビーム砲の●スナイパー射撃で神核狙撃

…撃った端から再生されますね

味方の支援に回ります
対艦砲撃ちつつ付かず離れずの距離で攻撃牽きつけ
センサーでの●情報収集で成長による攻撃範囲拡大を●見切り
慣性制御活かした機動で攻撃を回避する形で味方を●かばい

機を見て対艦砲をハッキングし限界突破
巨大ビームを●なぎ払い一時的に破壊することで援護

眠りを妨げ申し訳ございませんが、布石を打たせていただきます!


三上・チモシー
アドリブ連携歓迎

あれがこの島の神様? すっごく大きいね
しかもまだまだ大きくなってる
急ごうか、ライ麦ちゃん
神様が島を壊しちゃう前に、止めないと

真の姿を解放(猫耳)
ライ麦ちゃんに乗って、空中を【高速泳法】で移動し敵に接近
レッドテールキャットは本来夜行性だから、暗くても動きには問題ないよ
【暗視】能力と【野生の勘】で攻撃を【見切り】拳を回避、地盤を取り込んでいる隙に頭部へ急接近
【怪力】を思いっきり込めて、頭部の紅玉に『灰燼拳』を叩き込む!

……縁の無い土地とはいえ、島の神様を殴るだなんて、自分ってばなんて罰当たりなんだろう



●神なるモノの上を征け
 二度に渡る神核への攻撃は、古神にとっても相応の痛手だったはずだ。苦しむように巨躯をふらつかせる度、島全体が鳴動する。大きく、硬く、重い。単純な要素ではあるが、ここまで突き詰めてしまえば身動ぎすらも脅威となり得た。しかし、第三陣として挑む彼らにとって、それは当てはまらない。
「あれがこの島の神様? すっごく大きいね……しかも、まだまだ大きくなってる。力が半減しているって話だけど、限界はあるのかな?」
「仮にあの古き神がこの島全てを取り込み、己が体とした場合……恐らく、次は海を渡ろうとするでしょう。そうなれば、周辺の島への被害は甚大な物となるでしょうね」
 チモシーとトリテレイアの姿は地上ではなく、島の上空に存在していた。少年は探索時から引き続きレッドテールキャットに騎乗しており、入江に居た鋼騎士は一度船へと戻り、水中用から空中機動戦用の装備へと換装を終えていたのである。
 二人は戦場へと急行する傍ら、仲間たちの戦闘を見届けていた。彼らが敵の強化を防ごうと行動していたのも、当然確認している。にも拘らず、相手の身体は上陸時よりも明らかにその大きさを増していた。今はまだその速度も緩やかだが、メガリスを奪われて完全となれば、最早手が付けられなくなるだろう。
「故に、なんとしてもここで討ち取らねばなりません」
「そう、だね……急ごうか、ライ麦ちゃん。神様が自分の島を壊しちゃう前に、止めないとね」
 南部鉄瓶と猫魚、鋼の騎士は歩を進める古神の元へと急ぐ。この世界の脅威を排除するため、そして神自身が愛したはずの島を打ち崩す事を止めるために。
「まずは己自身でも相手の力量を測るとしましょうか。無論、小手調べと言うつもりではありませんが……さて、この一撃が通れば良いのですが」
 そうして、まず先手を取ったのはトリテレイアだった。彼は体の各部に搭載された小型スラスターを小刻みに吹かして姿勢を整えながら、大型の馬上槍を……否、槍を象った対艦用ビーム砲を構える。瞬間、夜空を切り裂く白光が解き放たれ、古神へと突き刺さる。狙うは頭部、この一射にて神核を吹き飛ばしても良い心づもりだった……のだが。
「半ば予想はしていましたが……やはり、撃った端から再生されますね。遠距離では決定打になり得ませんか」
 相手は身動ぎをして着弾地点をずらし、神核への直撃を避けた。それでもビームは肩部へと命中しごっそりと石材を吹き飛ばしたものの、見る間に破損個所が修復されてゆく。より至近距離で叩き込むか、点ではなく面で攻める火力でなければ効果は薄いだろう。
「それなら、自分が行くよ。近づけはどうにかできる手段は持ってるし、ライ麦ちゃんなら暗くっても問題ないからね」
 そんな敵の様子を見て、チモシーは自らが切り込むことを申し出る。大火力と再生力による削り合いでは、必然的に長期戦となるだろう。そうなれば、地の利を得ている敵が断然有利だ。ならばリスクは承知でも、敵の急所を狙う必要が在った。
「その方が良さそうですね。であれば、こちらは支援に回りましょう。すぐに再生されてしまうとは言え、繰り返し攻撃されれば相手も無視は出来ないはずです」
 仲間の言葉に、鋼騎士も同意を示す。先の一撃により、古神は敵が地上だけでなく己と同じ高さにも存在することに気付いているはず。その証拠に、夜闇に輝く紅の単眼が二人をはっきりと捉えていた。宙を舞う羽虫を捻り潰さんと、古神が猟兵目掛けて両腕を突き出しながら接近して来る。どのみち、あれを単独で相手取るのは困難を極めるだろう。
「こうしている間にも、相手は成長を続けています。攻撃範囲の変化にはどうかご注意を!」
「そっちも危ないと思ったら、自分に気を遣わずに離脱してね? とは言え、援護射撃は頼りにしてるから!」
 これ以上、言葉を交わしている猶予はない。互いに声を掛け合うと、トリテレイアとチモシーはそれぞれの間合いへと至るべく二手に分かれた。一方は弧を描くように付かず離れずの距離を保ち、もう一方は敵目掛けて一直線に空を泳いでゆく。
「こうして間近で見ると、本当におっきい……! 来る途中で見たクジラの何倍だろうね、ライ麦ちゃん?」
 見る間に視界を覆い尽くしてゆく巨影に、チモシーは思わず息を呑む。敵として相対しているのでなければ、さぞかし雄大な光景なのだろう。事情があるとはいえ、矛を交えねばならないのは哀しい事ではある。しかし、だからと言って手を抜ける相手ではない。
「自分も本気を出さなきゃ危ないからね。さぁ、捕まる訳にはいかないよ、っと!」
 一瞬だけ呼吸を止めるや、猫魚へ跨る少年の姿が変化する。頭部には猫の耳が、腰からは尾が、そして瞳は縦長の瞳孔へ。自らの大元と成った猫の特性を開放したチモシーは、機敏さと夜目を強化して攻撃へと備える。
「ただ単純に撃ち込んだだけでは先の二の舞……となれば、定石として狙うべきは関節部ですね。腕とは言わずとも、指の一本でも落とせれば御の字です!」
 また、それと同時にトリテレイアによる支援砲撃も開始された。高度や角度を変え、立て続けに放たれる光条が狙うは、柱の如き指の接合部分。如何な頑強さを誇るとはいえ、稼働箇所はどうしても他の部分に比べて耐久性に劣る。通常であれば狙い難い事この上ないが、今回はこれだけのサイズ差だ。外す方が難しいというもの。
「やはり脆い……もうすぐ小指を落とせます! 再生される前に潜り抜けてくださいッ!」
「オッケー! ライ麦ちゃん、ついでにちょっと軌道を調整できる? 少し試したいことがあるんだ」
 斜め上方から振るわれた掌底の内、小指部分が根元より破壊されて地面へ落下してゆく。それによって確保された空隙を通過したチモシーは、ぐんと急激に高度を下げた。それを見た古神は相手が体勢を崩し墜落したと判断、もう一方の手で拳を作るや、叩き潰さんと振り下ろし……。
「今だっ、急上昇―!」
 身体を上げた猫魚は、拳撃を紙一重で回避した。ほんの数十センチ横を大質量が通過し、それに伴って強烈な突風が吹き荒れる。だがチモシーは乗騎を巧みに操り体勢を維持すると、そのまますれ違う様に交差を果たし、進路の確保に成功した。
「一度振り下ろしちゃったら、引き揚げるまでにちょっとは時間が掛かるよね? それだけあれば、ライ麦ちゃんなら頭部まで辿り着けるはず!」
「いえ……どうやら、そう上手くはいないようですね」
 目論みを果たせたチモシーだったが、一方でトリテレイアの言葉は苦々しい。見ると、相手は小指の落とされた手で顔面全体を覆っていた。度重なる神核狙いの攻撃へ業を煮やし、こんな極端な手を取ってきたのだろう。一見すれば間抜けな光景だがその実、厄介極まりない一手だ。
「ですが、形振り構わぬと言う点ではこちらも同じ! 眠りを妨げ申し訳ございませんが、神格打倒の布石を打たせていただきます!」
 しかし、トリテレイアの決断もまた早かった。彼は自らの得物である対艦ビーム砲へハッキングを行い、出力制御リミッターを強制的にオフへと切り替える。それは即ち、砲の自壊と引き換えにした極大火力の発揮を意味していた。
「元より、鋼で覆われた宇宙戦艦を想定した兵装。すぐに再生されるとはいえ、貫けぬ道理は在りませんッ!」
 瞬間、宵闇を白く塗り潰すはそれまでと比較にならぬ光の柱。切り裂くように薙ぎ払われた一閃は掌を甲の半ばより寸断し、人ひとりが通れるだけの隙間をこじ開けた。赤熱し蒸気を噴き上げる槍砲を投棄しつつ、騎士は叫ぶ。
「同じ手はもう使えません、だから……!」
「分かってるよ。絶対に失敗出来ないし、するつもりもないから!」
 砲撃が消えた直後、間髪入れずにチモシーが吶喊してゆく。掌は融解し凄まじい温度を放っているが、ここで怯んでしまえば折角の好機は水の泡と化す。
「熱帯魚とは言え、これは流石に熱いよね。でもお願い、あとちょっとだけ頑張って!」
 主の気遣いに、猫魚もまた覚悟と共に期待へ応えた。熱波籠る隙間を最短最速ですり抜けると、その先に待っていたのは紅の宝玉。チモシーは乗騎を蹴って獣さながらの柔軟さで身を躍らせるや、利き手を思い切り握り締める。
「……縁の無い土地とはいえ、島の神様を殴るだなんて、自分ってばなんて罰当たりなんだろうね。でも、こうしなきゃ誰も幸せになれないのなら……っ!」
 一瞬、胸に過ぎる申し訳なさと物悲しさ。それらを飲み込み、重さへと変えた拳撃が叩き込まれる。極至近距離でなければ使用不可能な一撃は、その条件に見合った大威力を余すことなく伝え……。
 ――オオオォォォォォォォッ!?
 ビキリ、と。紅玉全体へ無数の罅を走らせる事に成功するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ペイン・フィン
……眠りにつくことが、敵わなかった
そして、半身を失い、今は、人に対する恐怖となった、か……

終わらせよう、その痛みを
自分の名に誓って

真の姿を解放
数歳程度幼くなり、赤い霧のようなモノを纏う
コードを使用

半身を失い、苦しむ貴方の怨念と恐怖を
どうしようもない運命に虐げられる貴方の憤怒と憎悪を
なすがまま、無力に受け入れていた貴方の悲哀と絶望を
吸収し、喰らい、飲み干し、身に宿す
纏う怨念は黒く染まり、仮面は血のような赤に染まる

攻撃は、視線を向けられた時点で、全力回避

扱うのは"ニコラ・ライト"
マヒと気絶の攻撃で、スタンさせながら攻撃を重ねていこう

……せめて
せめて、再度の眠りへと
そしてどうか、安らかに


落浜・語
これはまた、大きいな……。
まぁ、うん、仰ぐ人ももういないんだ、あるべき場所へお還りよ。

っても、こう大きい相手にできる手段がなぁ……。
人形も下手に使えないし…。カラス、あとで菓子やるからもう少し手伝ってくれ。
UC【烏の背中】を引き続き使用。
攻撃というよりも、かく乱をすることを目的にして動く。
【オーラ防御】で身を守りつつ、誘導をする人がいるならば他へ行かない様【おびき寄せる】
魔力を打つようならば、仔龍の雷【属性攻撃】でけん制したり、阻止したりできないだろうか。

倒すことで、かつて在った姿に、戻れればいいな。



●神を斃すは神鳴る光
「これはまた、予想以上に大きいな。ただ、なんだろうかね。確かに強そうではあるんだが、どこか泣いている子供じみているっていうか」
「……眠りにつくことが、叶わなかった。そして、半身を失い、今は、人に対する恐怖となった、か。その嘆きは人間のそれと、いったいどれほど……違うのだろう、ね?」
 痛恨の一撃を喰らい、木霊の如き大音声と共に身を仰け反らせる古神。その雄々しくも悲哀に満ちた姿を、語とペインは地上より見上げていた。取り急ぎ合流できたのは二人だけだが、目標があれだけ大きいのだ。各地に散った仲間たちもいずれ駆け付けてくるはず。 一先ず、いまこの場に居る者だけで戦端を開いたとしても問題はない。
「きっとこんな姿を、かつての住民たちも、望んではいないはず、だから。終わらせよう、その痛みを……自分の名に誓って」
 きっと、旧き神の在り方自体はいまも変わっていないのだろう。人を救い導くことを望み、その為に完全なる己を取り戻そうと行動しているだけで。ならば変わってしまったのは人か、それとも世界か。その答えが何であれ、ペインもまた己の在り様を貫くと決意を固め直していた。
「まぁ、うん。仰ぐ人ももういないんだ、あるべき場所へお還りよ。っても、こう大きい相手にできる手段がなぁ。人形も下手に使えないし……ま、それならこっちは足を使うしかないかね?」
 一方の語は、腕組みをして悩ましげに眉根を顰めていた。これだけの大質量を相手取るとなると、効果的な攻撃手段は必然的に限定されてくる。使用できるタイミングや戦場への向き不向きまでを考えると、より選択肢は狭まるだろう。となれば、いっそ裏方へ回るのも一手だった。
「カラス、探索から引き続きで悪いが、もうちょい頑張ってくれないか? あとで菓子をやるからもう少し手伝ってくれるとありがたい」
 噺家の傍らには、未だ巨大な姿を維持している白首の鴉が待機していた。主の頼みに黒鳥は胡乱気な視線を向けるものの、流石に事情を理解出来ぬほど偏屈ではない。仕方がないと言った風に一声鳴くと、地面へ伏して背を空けた。
「という訳で、こっちは撹乱がてらに上空を飛んで相手の気を惹くつもりだ。その間、攻撃の方は任せるぜ?」
「うん、分かった……一発一発は、微々たるものかもしれない、けど。手数なら、それなりにあるから、ね」
「了解。それじゃあ、精々叩き落されないように立ち回るとしますか!」
 そうして大鴉の背に跨った語が上昇してゆくのを見送りながら、ペインはだらりと身体を弛緩させる。此度の相手は、普段の状態で渡り合うには些か荷が重い。故に青年は己の真の姿を開放してゆく。身長は縮み少年のそれとなり、辺りには血潮の如き霧が漂い始めた。
 新緑に浮かび上がる真紅は、彼がこの世界/孤島とは決して相容れない事を示しているようで……それを埋めるために、少年は己の意識を周囲へと広げていった。
(半身を失い、苦しむ貴方の怨念と恐怖を。どうしようもない運命に虐げられる、貴方の憤怒と憎悪を……なすがまま、無力に受け入れていた貴方の悲哀と絶望を。この地に降り立ったのは、半日にすら満たないけれど。それでも、抱いた想いを理解するために)
 仲間が調査した結果、朧気ではあるがこの地に生きた人々の記憶を読み取ることが出来たのだという。であれば、どうしてより深く結びついた神の想いを汲み上げられぬ道理が在ろう。
 流れ込んでくるのは言語化できぬ、人より一段上位の視点。それは只人には手に余るものかもしれないが、仮にも宿る神を名乗る身の上だ。感情を受け止め、漉し取り、己の血肉へ変えてゆくにつれ仮面は赤く、纏う霧は黒く染め上げられてゆく。そうしてペインが自己強化を完了した時、少年の姿はほとんど宵闇と同化しているのであった。
「それじゃあ……行こうか」
 頭上を見やれば、既に語が古神と交戦している様子が見えた。余り負担を掛けるべきではないだろう。加えて、彼自身も代償によって長期戦は望めない。時間を無駄にしないためにも、ペインは戦場へと急行してゆくのであった。

「さぁて、それじゃあ鬼ごっこの時間と参りましょうか。とは言え、ただ闇雲に飛び回るってのも芸がないな……お?」
 時間は少し巻き戻り、ペインと別れた直後。語は古神の周囲を旋回しつつ様子を観察しながら、さてどう立ち回るべきかと思案していた。だが彼はふと、地上に一瞬だけちらりと赤い輝きが瞬いた事に気付く。加えて、それに照らし出された仲間たちの姿も。その行動に秘められた意図が察せぬほど、彼らの仲は浅くない。
「なるほど。となると、あっちこっちに歩き回られても困るだろうし、この場へ釘付けにする必要があるな。少しばかりキツイが、気張ってくれよ?」
 ポンポンと鴉の首を叩いてやると、ガァと一声返ってくる。方針は決まった。早速行動へ移ろうとした語が、古神へと視線を戻すと……。
 ――オオォォ……!
「っ、図体がデカいわりに目敏いもんだ。来るぞッ!」
 相手には目に当たる器官は無い。だが、語は確かに視線が合ったと直感した。瞬間、古神の頭部が瞬いたかと思うや、一直線に夜空を紅の光が切り裂いてゆく。間一髪、咄嗟に魔力障壁を張った語は辛くも初撃を凌ぐことに成功する。
「ふぅ……こりゃ回避に専念した方が良さそうだ。だけど、攻撃自体がほぼ純粋な魔力を撃ち出しているだけなら、やりようは見えてくる。勿論、気が抜けない事に変わりはないけどな」
 語は鴉を巧みに操りつつそっと胸元に手を寄せ、そこに在るループタイと懐の温もりを確かめる様に撫ぜた。一方の古神は攻撃が防がれた事に苛立ちを募らせたのか、躍起になって光線を連射している。薄紙一枚分で避ける綱渡り、次の瞬間には撃ち落とされているやもしれぬ。そんな、じりじりと神経を焦がす緊張の満ちる戦場へと。
「……ごめん、待たせたね。それじゃあ、反撃と行こうか」
 強化を終えたペインが参戦する。彼の手には、古神のそれとはまた異なる輝きが握られていた。宝玉の煌めきではなく、迸る電流の閃光。彼が此度の戦場へ挑む友として選んだのは、警棒型スタンガン『ニコラ・ライト』である。
「貴方の身体と比べたら、極々小さいのかも、知れないけど……この電流は、着実に自由を、奪い取る」
 赤髪の少年は古神の右足目掛けて電磁警棒を振りかぶるや、猛烈な勢いで連打を叩き込み始めた。一撃一撃が繰り出される度、表面はまるでヤスリに掛けられた様に抉り取られる。無論、相手も傷跡を再生しようとするのだが、その速度はこれまでと比べて明らかに鈍い。
「例え、無機物だろうと、神様だろうと。そこに意志がある以上、逃れる事は、出来ないよ……」
 幸か不幸か、ね。言葉に一抹の寂しさが滲む一方、攻撃の手は決して緩めない。連続して電流を与え続けねば、相手の地力によってすぐさま本来の能力を取り戻してしまうからだ。異常を感じ取った古神は語からペインへ標的を変えるや、雨あられの如く光線を浴びせかけてくる。流石に強化しているとはいえ、直撃を受ければただでは済まない。
 相手の身体を足場に飛び退って回避するものの、途端に古神は損傷個所の再生に注力し始めてゆく。
「削れては、いるんだろうけど。これじゃあちょっと、埒が明かない、ね……」
「一発デカいのをお見舞いしなきゃ、相手も堪えないってことかね。だったらこっちにも考えがある。すまないが、タイミングは合わせて貰ってもいいか?」
「うん……問題ない、よ」
 別個に挑んでも恐らくはジリ貧だ。語の問い掛けに、ペインは口元に滲んだ鮮血を拭いながら頷き返す。それを見届けると、噺家は再び敢えて相手の眼前へと身を晒した。
「あの負傷度合い的に、恐らくチャンスは一回こっきり。失敗は出来ないな」
 ペインへの射線を切るように、語は魔力障壁を使って光線の軌道を逸らしてゆく。攻防の回数が二桁を越えた頃、業を煮やした古神が必殺の一撃を放つべく神核に魔力を収束させ始める。全てを薙ぎ払う必滅の一射、だがそれこそを彼は待っていた。
「威力が足りなけりゃ、他から持って来れば良いってな。さぁ出番だぜ、仔龍!」
 魔力が極限まで高まり、発射される寸前。胸元から顔を覗かせたのは鈍色の龍である。仔龍は小さく雄たけびを上げるや、相手よりも一瞬だけ早く雷撃を放つ。吐息は本当にか細い輝きでしかなかったが、発射寸前の純魔力に触れればいったいどうなるのか。
 ――ォ、ォオオォォオォオッ!?
 それは気化したガソリンにマッチを投げ込むようなもの。収束された魔力は瞬時に膨大な雷撃と化して、古神の全身へ迸る……そう、雷撃。即ち、電流である。
「これ、なら……!」
 阿吽の呼吸で飛び出したペインは相手の頭部付近まで高々と跳躍するや、手にした電磁警棒を振りかぶる。これこそが語の策。相手の攻撃をそっくりそのまま利用する、二段構えの戦術だった。
「……せめて。せめて、再度の眠りへと。今度こそ妨げられぬよう、どうか、安らかに」
 そうして、振り下ろされる一撃は強かに相手を打ち据えた。迸る電流も相まって、大きく体勢を崩して倒れこむ。神核こそ砕けなかったが、痛手である事には間違いない。
「倒して、しがらみを全部取っ払って……かつて在った姿に、戻れればいいな」
 大地は揺れ、土煙が舞い、轟音が響き渡る。そんな藻掻きのたうつ古神を上空より見下ろしながら、語はそっと小さく祈りを捧げるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

吉備・狐珀
神様が脅威と化してしまったのなら、それを鎮めるのが巫女の務め。
(祈り)をこめて『魂迎鳥』を用いて奏でるは神様を苦痛から和らげ、混乱した心を落ち着かせる旋律

真の姿になりてUC【鎮魂の祓い】使用
メガリスを喪失感に苛まれるというのなら、不如帰がメガリスまで導きましょう
ですが、心を乱した今のままでは片割れを見つけても一つになることはできません
(破魔)の効果のある旋律を奏で穢れを(浄化)するとしましょう。
今の神様にはこの旋律が不快かもしれませんね。
相手は神様。振り上げられた拳を避けて戦闘能力を下手に上げるのは得策と思えません。
ならば旋律が作りだす(残像)を身代わりにわざと攻撃を当てさせるとしましょうか。


勘解由小路・津雲
神、か。本来なら紅玉を返して、手厚く祀りたいところだが、そういうわけにも行かないようだな。……すくなくとも今は

【行動】
様子を見るに、あまり内陸にあげない方がよさそうだ。メガリスを囮に、海の方へ誘導してみるか

とはいえ他にも使いたい猟兵もいるやもしれん、おれは【霊符】でメガリスの【生命力吸収】をし、力の一部を写してそいつでごまかしてみよう

【後鬼】の【援護射撃】で足止めを試みつつ、【白帝招来】でおれも白虎に変身し、先の猟兵達のように回避しながら、全力で海へと向かおう

視線を向けられたら、偽メガリスを【投擲】し、そちらに注意が向くように仕向けてみよう。

さて、神様相手に、この小芝居がどこまで通じるかねぇ。


ファン・ティンタン
【WIZ】恐み恐みも白す
アドリブ共闘歓迎

敵と見たなら壊すべしが一番楽なんだけれど……
ま、そう割り切らない彼の心が、今の私を築いているわけで
一つ、やれるだけやってみようか

相手の存在が大きいから、事を為すにはそれなりに【力溜め】が必要
お膳立ては、任せるよ
さて、私が担うべきは意識の洗浄で十分かな
相手の再構成は、メガリスに籠っている魔力を流用させてもらおう

【転生尽期】
私は命ず
その神威、過去に眠る民草と共に在れ
願わくば、彼らが首を垂れるに適う神嶺たる姿のままに

我を持って人の上に立とうとする神格は嫌いだけれど
そこに在りて人が見上げるための標は、必要だと思う

今は、おやすみ
いずれ誰かが訪ねるだろう、その日まで



●捧げよう。かつての祈り、鎮魂の詩を
「あれは……どうやら、向こうもうまくやってくれたみたいだね。正直言って私もこうした下準備より、敵と見たなら壊すべしが一番楽なんだけれど……」
 夜空を白く塗り潰す雷光を受け、大地へとその巨体を横たえる古神。森の中を移動していたファンはそれに気付いて足を止めると、戦闘が仲間の手によるものだと確信する。その派手な暴れっぷりへ羨ましそうな呟きを漏らす少女へ、狐珀は微苦笑を浮かべた。 
「異郷に由来するとは言え、仮にも相手は神様。不要と言ってしまえばそれまでですが、敵対するとしても相応の敬意は払いたいかな、と」
「ああいや、非難しているつもりじゃないよ……ま、そう割り切らない彼の心が、今の私を築いているわけで。一つ、やれるだけやってみようか」
 肩を竦めるファンがちらりと背後へ視線を向ける。その先では津雲が船より呼び寄せた後鬼に、一抱えもある真紅の宝玉を運搬させているところであった。これこそ、先ほど遺跡の中で見つけたメガリスに他ならない。
「神様が脅威と化してしまったのなら、鎮めるのが巫女の務め。それも根っからの荒御魂や悪神ではなく、元々善なる存在であったのなら猶更です」
「神、か。本来なら紅玉を返して、手厚く祀りたいところだが、そういうわけにも行かないようだな……すくなくとも、今はまだ」
 狐珀と津雲、両者ともに神格と関わり合いの深い職種についている。故に敵と言えども、神性を軽んじることに抵抗が在るのだろう。古神も既に数度の戦闘を経ており、もう終わりも近い。此度の顛末にどう幕を引くかというのも、そろそろ視野に入れねばならなかった。
「様子を見るに、あまり内陸にあげない方がよさそうだ。あれでは時間経過と共に、折角蓄積させてきたダメージが癒えてしまう。メガリスを囮に、力の及ばない海の方へ誘導したいが……」
「生憎、こっちもこっちでメガリスが入用でね? あれだけの巨大さだ、この身に宿る魔力だけでは到底賄いきれそうにないよ」
 メガリスを囮として古神を権能の及ばぬ海辺へおびき出したい津雲に対し、ファンもまた紅玉を必要としているらしい。仲間が何を狙っているか理解できる以上、陰陽師としても己の主張を殊更押し通すつもりもなかった。
「ま、それならそれで手はあるさ。そっちの準備が整うまで、時間稼ぎも必要だろうしな。俺はこいつで代用するとしよう」
 彼は霊符を取り出すと、紅玉の宿す神気を染み込ませてゆく。ほんの一端とは言え、メガリスの気配を偽装するにはこれで十二分。陰陽師は自らの意識を星獣の外殻製人形へ乗り移らせると、白き虎の姿へと外見を変化させた。
「済まないが、メガリスを此処に置いて行く代わりに後鬼は連れて行かせて貰おう。神格の強大さは身に染みているからな、単独で渡り合えるなどと過信は出来ん」
「ああ、こちらとしても問題ないよ。魔力を借り受けている間は本体の気配も薄まるだろうし、何かあれば抱えて逃げるさ」
 二脚機を招き寄せつつ霊符を口で咥える白虎に対し、白い少女は戯けた様に自らの腕を叩く。と、そんな二人の様子を見ていた狐像の少女は、それならばと笛を手に取る。
「であれば、私も助力させて頂きます……半身を求め絶えざる歩みを続ける御柱に、我は一時の休息を与えん」
 そっと唇へ添えて息を吹き込むと、たおやかなる調べが夜空へと舞い上ってゆく。音の流れは虚空に波紋を描き、やがて一羽の不如帰として輪郭を結ぶ。またそれと共に狐珀の姿もゆっくりと変化してゆき、旋律を一区切り演奏し終えるころには、彼女の相貌を白き狐面が覆っていた。
「津雲殿、どうかこの旋律も供回りに加えてください。邪念を払うことが出来れば苦痛や混乱も和らぎ、かつての穏やかな心を僅かばかりでも取り戻せるはずですから」
「いや、こちらこそ助太刀に感謝しよう。先導役は多いに越したことはないからな……さて、どうやらそろそろ時間切れの様子。あちらとていつまでも地面に倒れこむつもりはないようだ」
 仲間の支援に感謝を述べつつ、津雲は油断なく遠方の古神へと視線を走らせる。相手は既に身を起こし、今まさに立ち上がろうとするところであった。もう数分もすれば、再びメガリスを求めて移動を開始するだろう。そうなる前に、こちらも先んじて動くべきだ。
「ファン殿の準備が完了次第、旋律に乗せてお知らせします。どうかご武運を」
「お膳立ては任せるよ。くれぐれも、叩き潰されないようにね?」
「なに、この姿なら普段よりも機敏に動けるさ……さて、では行くとしようか!」
 猟兵たちは言葉を交わし合うと、それぞれの役割を果たすべく散ってゆく。駆け出した白虎の後ろを二脚機が追従し、狐面の少女はその上空へと旋律を飛翔させ、白き刀は魔力を練り上げ始める。旧き神話、その最終章は斯くして幕を開けたのだった。

「良し良し……神様相手にこの小芝居がどこまで通じるのか不安だったが、どうやら杞憂で済んだようだ。とは言え、ここからがまた厳しいんだがな」
 仲間と別れた後、海岸線を目指す津雲はすぐさま断続的な振動が近づいて来るのに気が付いた。チラリと背後を見やれば、嫌が応にも視界へ飛び込んでくる巨体。狙い通りとは言え、気を抜くことなど出来ようはずも無かった。それもそのはず、彼は相手の頭部へ急速に魔力が収束しつつあるのを感じ取っていたのだ。
「後鬼、難しい注文で悪いが走りながら牽制を頼む! 一方的に撃たれたままじゃ、どのみちジリ貧だからな!」
 忙しなく二脚を稼働させて追従していた従僕は、主の命を受けて両側面に備え付けられた機関砲を回転させ、後方へと向ける。そうして二脚機が初弾を放つのと、古神の光線が大地を切り裂いたのはほぼ同時であった。後鬼の弾幕で幸運にも狙いを逸らす事に成功したものの、大地へ刻まれた傷跡からはしゅうしゅうと煙が吹き上がっている。その威力に冷や汗を流す一方、津雲は相手も決して万全でないことを見抜いていた。
「やはり、これまでの戦闘で蓄積したダメージが堪えていると見える。これは威力を上げているというよりも、制御が効かず暴走していると言った方が適切だろうな」
 例えるならば、焼き付きつつあるエンジンか。度重なる神核への攻撃によって、自身の力を抑えきれなくなっているのだ。これでは撃てば撃つだけ、己自身も傷ついてゆく。
「とは言え、このままでは先にこちらが蒸発しかねんな。だから……頼んだぜ、吉備さん?」
 牽制を後鬼に任せつつ、自らは回避に専念する津雲。四つ足の獣が大地を疾駆する上空では、大気を震わせる旋律と共に魂迎鳥が古神の周囲を舞っていた。
「……ええ、勿論です。荒ぶる御霊を癒すことこそ、巫女の役割なのですから」
 霊鳥の翼を通して仲間からの期待を感じ取りながら、狐珀は一瞬たりとも途切れさせることなく調べを奏で続けていた。数十年、或いは数百年。永きに渡る苦悩と孤独に囚われた神の嘆きを解きほぐすには、こちらもまた全身全霊の想いを捧げねばきっと届かない。
「……メガリスを砕かれた喪失感に苛まれるというのなら、不如帰が望む元まで導きましょう。ですが、心を乱した今のままでは片割れを見つけても一つになることは出来ません。それはきっと、御身が望む結果ではないはずです」
 笛に吹き込まれた吐息が、鈴の音の如き高音を放つ。すると魂迎鳥はひょうと風を切って身を翻すと、古神の頭部目掛けて一直線に飛翔してゆく。それは石で出来た体も、罅割れた紅玉も傷つけず、裡に巣食う邪念のみを啄み切り裂いていった。瞬間、ガクンと巨体がつんのめり、目に見えて動きが鈍る。
「この旋律は穢れを浄化する祓いの祝詞。今の御身には些か以上に不快かもしれませんね。ですが、こちらも決して手を抜くつもりはありません……ただ優しくあるだけが、救いではないのですから」
 魂迎鳥は十、二十と突撃を敢行し、着実に古神の胸中へ澱の如く蓄積していた苦悩を取り去ってゆく。肉体を傷つけず、魂も貶めず、ただ縛めのみを打つ浄めの風。メガリスの奪取だけに意識を囚われた今の古神には、それを攻撃と認識することが出来ないのだろう。ただただ知覚できぬ違和感に苛立ち、闇雲に拳や光線を放ち荒れ狂い続ける。
 着実に古神の浄化は進んでいるものの、それと比例して狂乱の度合いもまた増大してゆく。このままではいずれ、現状の拮抗状態がひっくり返されかねない。そんな危惧を覚え始めた狐珀の耳朶へ。
「……済まない、待たせたね。こっちの用意は整った。いつでもいけるよ?」
 ファンの声が届いた。それは作戦を次の段階へと移行させる合図。待ち望んだ言葉を受け、狐珀は津雲へとすぐさま知らせを送る。
「津雲殿、こちら側の準備は完了しました! もう囮をして頂く必要はありません!」
「っ、そうか。こちらもそろそろ辛くなってきた頃合いだったからな、正直言って助かった。さて、ならば最後は少しばかり派手に行くとしよう!」
 報告を受け取ったのとほぼ同じタイミングで、白虎は海岸へと辿り着いていた。奇しくもその場所は古神が沈んでいた入江。彼が足を止めて振り返ると、相手はもうすぐそこまで迫って来ている。見上げるほどの巨躯を目にした瞬間、津雲はそれまで咥えていた霊符を沖合目掛け全力で投擲した。
 思わずそれに釣られ、咄嗟に手を伸ばす古神。その背後から、狐珀によって導かれた魂迎鳥が最早幾度目かも分からぬ突進を敢行し――。
「これにて、幾星霜にも及ぶ妄執を断ち切ります。在るべき姿を取り戻すためにも!」
 神核を蝕んでいた、最後の穢れを吹き飛ばした。途端に、古神はビキリと動きを止める。手を伸ばした状態のまま、バランスを崩した大質量はゆっくりとその身体を傾がせてゆき、受け身も取れずに海面へと倒れこんだ。凄まじい量の水飛沫が舞い上がり、周囲へ雨となって降り注ぐ。
 海とは島と言う世界の埒外であり、浜辺は内外を区切る仕切りの役目を持つ。故に、それを越えてしまったが為に島との繋がりが絶たれたのだろう。急速に古神の身体を構成していた地盤が崩壊し、海中へと沈んでゆく。そのまま放置すれば、古神の身体は再び入江の奥底へと沈むだろう……が、しかし。
「……幾ら何でも、それは少しばかり寂しすぎるからね。二度も薄暗い水底へ押し留めるだなんて、そんな忍びない真似はさせないよ」
 そうさせまいと動いたのはファンで在った。彼女は傍らに鎮座させたメガリスへ己の本体たる白刀をそっと添わせながら、内部の魔力を汲み上げて刀身へと纏わせる。
「さて、私が担うべきは意識の洗浄で十分かな。相手の再構成は、メガリスに籠っている魔力を流用させてもらおう。元々が自分のものだし、相性もいいだろうさ」
 そうしてヒュンと刃を振りぬくや、魔力が天高く舞い上げられ、慈雨の如く古神の身体全体へと降り注ぐ。それはまるで船旅で見た鯨の潮柱を彷彿とさせる光景だった。魔力が吸い込まれてゆく度に、崩れかけた古神の肉体が見る間に再生してゆく。
 そうして、古き神はゆっくりと身を起こす。その威容は倒れる前と寸分の変わりも無いように見える。しかし、纏う雰囲気は大きく変化していた。それまで帯びていた己が半身に対する妄執が、その佇まいからは微塵も感じられない。本来あるべき護り神としての在り方を、神性は確かに取り戻していた。
「……これならばもう、大丈夫のようだな。ほんの一時だけの仮初とは言え、神は鎮められた。もう荒れ狂うこともあるまい」
「ええ、そうですね。であれば、御柱をお迎えするのが我々の為すべき役目でしょう」
 文字通り憑き物が落ちた様に茫洋と佇む古神の前へ、魂迎鳥と白虎が姿を見せる。彼らは恭しく一礼すると、相手を先導する様に島の内陸へと進み始めた。深緑の中を白き獣が悠然と歩み、星々の輝く空を小さき翼が舞い踊る。古神はどこかそれを嬉しそうに、そして懐かしそうに眺めながら、素直に従って付いてゆく。踏み締められた大地は割れ砕けるも、足をどけた端から緑が芽吹いていた。
 そうして、津雲と狐珀に導かれた古神が辿り着いた先。其処はかつて住民たちが住んでいた村の跡地だった。半身の紅玉と共に神格の到着を待っていたファンは、左瞳をすっと細めて相手の姿を一瞥する。
「なるほど。本来は土地を奪い纏うのではなく、命を与え育む力を持っていたのか。どれもこれも、喪った半身を補おうとする代償行為だったのかな。だけどそれも、もう必要ないよ」
 そんな感想を漏らしながら、彼女はそっとメガリスに手を触れた。すると紅玉はふわりと浮き上がり、古神の頭部へと吸い込まれる。カチリと、音を立てて分かたれた輝きが一つになった瞬間、安堵と歓喜の入り混じった重低音が巨体より響く。
 それを微笑まし気に見届けると、ファンは流れるような動作で白き刃を大地へと突き立てた。
「――私は命ず。その神威、過去に眠る民草と共に在れ。願わくば朽ちず、崩れず、彼らが首を垂れるに適う神嶺たる姿のままに」
 古神が本来の姿を取り戻せている時間は決して長くはない。期限を過ぎれば、その巨体は土砂と岩石に戻ってしまうだろう。だが例えそうだとしても、ただ無為に朽ち果てさせまいと少女は意識を集中させる。
「我を持って人の上に立とうとする神格は嫌いだけれど……そこに在りて人が見上げるための標は、必要だと思う。骸こそ谷間の底へ収められているとしても、想いは未だ此処に在るのだから」
 その呼び掛けに応えて古神は膝を折ると、蹲るように身体を丸めた。紅の輝きはその中心部へと沈んでゆき、それと共に体の輪郭が溶けてゆく。そうして手と足、頭部と胴体の境目は徐々に曖昧となり、巨躯を構成する全てが混ざり合い……。
「今は、静かにおやすみ……いずれ再び誰かが訪ねるだろう、その日まで」
 平野の中心部には小山と見紛う巌がただ一つ、まるで昔からそこに聳えていたかのように鎮座しているのであった。

「これにて、今回の依頼は完了……という事でしょうか?」
「だね。仮にも神格の身体を構築していた岩石だ、そんじょそこらの手合いじゃメガリスを掘り出すどころか、ヒビ一つ入れられやしないさ」
 先の狂乱が嘘のように、孤島には静寂が戻っていた。未だ緊張を残していた狐珀も、ファンの返答を聞いてようやくほっと一息つく。少なくとも、他のコンキスタドールにメガリスを悪用される心配は不要だろう。古神がようやく得た平穏を乱されぬという事実が、彼女へ一番の安堵を齎していた。
「やれやれ。一時はどうなることかと思ったが、無事に一件落着したようで何よりだ。職業柄、ただ消滅させるのも忍びなかったしな。ある意味、理想的な着地点だろう」
 二人の元へ、白虎から人型へと戻った津雲も姿を見せる。彼は四足から二足の歩行へと体の感覚を戻しつつ、そっと巌の表面を撫ぜた。自然と三人は古神だったそれを見上げ、頂に視線を向ける。
「……果たして本当に、彼の神が再びかつての姿を取り戻す日が来るのでしょうか?」
 ぽつりと、不意に零れ落ちた狐珀の呟き。それに対し仲間たちは勿論だと頷いた。
「なに、俺たちとて百年を経てこうして意志を得たのだ。況や、神なるものに為せぬ道理も無かろう」
「神核であるメガリスも健在だし……それに、決して一人きりじゃないからね。今度こそきっと、時の流れがより良い方向へ導いてくれるさ」
 果たして、それがいつのことになるかは誰にも分からない。しかし、その日が必ず来ると彼らは信じていた。それが巌と化して眠る神へ捧げられる、唯一の祈りなのだろう。三人は小さく一礼すると、踵を返してその場を後にする。帰りもまた船旅と言うのも、きっと悪くは無いはずだ。
 森を抜け、浜辺へと出てきた三人を、夜明けの輝きが出迎える。
 その日差しは彼の神が如く、鮮やかな紅で世界を照らし出すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月23日


挿絵イラスト