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月差さぬ昏き闇へ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 薄っすらとした月明かりが窓から入り込むと、艶のある手摺が照って耀く。
 無限の曲線を描くそれは、一歩、一歩と段を降りるたびに光の反射の角度を変え、眺めるほどにこの上なく美しかった。
「人々は弛まず働き、世界は美しい。今日も善き日でした」
 彼女は麗しき笑みを湛えて、その声音に慈愛を込める。
 こつり、こつりと下るのは螺旋階段。
 明媚な造形を持つそれは、少しずつ地下に近づいていくに連れ、視界を淡い月光の明るさから闇へと変えていく。
 その光の変遷が優美で、彼女は館内に造らせたそれが好きだった。
 嘗て人間が治めていた頃とは、大きく様相の変わった領主館。そこでの日々は満たされていて幸せなものだ。
 自分一人ならば少々広すぎるくらいだけれど──共に働き繁栄を目指す仲間なら、幾らだって居るのだから。
「皆さん、今夜も、明日も、未来永劫。共に歩んで参りましょう」
 そこには幸せな日々が有るのだから、と、彼女は呼びかける。
 応えるのは無数の人影だった。
 人間──否、何時かは人間だった者達。
 死の安息すら与えられず、繁栄のためにと永遠の隷属を命じられた亡者達。
 支配された村を救おうと、過去勇敢にも彼女に立ち向かった者達もその中には含まれている。その全ては今、彼女を守り、人を狩るための尖兵へと変貌させられていた。
 無数の声が螺旋階段に響く。
 それはどこか、慟哭のようでもあった。

「ダークセイヴァーの世界において、オブリビオンの討伐をお願いしたく思います」
 グリモアベース。
 真剣な面持ちで皆へ語りかけるのは冷山・霊音(人間の戦巫女・f00468)。とある領地にある、領主館での作戦なのだと説明を始めていた。
「その領主というのがオブリビオンなのです。もちろん、村は支配されており、この領主館も普段は外に警備がいるのですが──」
 今宵に限って、その警備がいなくなるのだという。
「おそらく何か、別の仕事を命じられたのかもしれません」
 油断か否か。詳細は不明だが、領主の居城が警備不在になるのは事実。
 長らく支配されてきた村を解放する、千載一遇のチャンスだと言った。
「そこで皆さんには、この領主館に潜入。領主たるオブリビオンを撃破して貰いたいのです」

 霊音は簡易の地図を用意した。
「ここが領主館です。辿り着くまでは容易でしょう」
 館は高い壁に囲まれていて、建物自体にもそれなりの高さがある。周囲に警備は居ないので、よじ登るなりして侵入はできるはずだ。
「とはいえ──中には領主を守る別のオブリビオンも居ます。一筋縄ではいかないでしょう」
 おそらく数は多い。先ずはそれらの敵をかいくぐる必要があるだろう。
 それが『朱殷の隷属戦士』。
 嘗ては人だったが、今では敵の尖兵と成り果ててしまった存在なのだという。
「村を解放しようと、過去に領主に立ち向かった者……そんな人達も隷属戦士の中には含まれているようです。躊躇わず……とは簡単には言えませんが」
 少しうつむいて、それでも油断ないようにお願いします、と霊音は言った。
 それから地図の中心、空白となっている建物の図を見下ろす。
「内装がどうなっているか、細かくは判りません。ただ、上階から地下にかけて大きな螺旋階段が架かっているようです」
 事によると挟み撃ちされる危険もある。高い壁から最上階に侵入して下っていく方法が確実でしょうと言った。
「最上階ならば、窓を破壊して簡単に入り込めるはずです」
 領主はおそらく地下に居ることだろう。見つければ、後は討伐するのみだ。
「村の支配状況は深刻です。日々、死者が出ているという状態の中で……皆さんの行いがきっと、救いとなるでしょう」
 ですから確実な撃破を、と霊音は続ける。
 グリモアが眩く光った。
「では、行きましょう。月夜に、闇を晴らすために」


崎田航輝
 ご覧頂きありがとうございます。
 ダークセイヴァーの世界でのオブリビオン討伐となります。

●現場状況
 領主館。縦長の建物で地下階もあるようです。潜入までは苦労なく出来ます。中は基本的に吹き抜けで大きめの螺旋階段が架かっています。

●リプレイ
 一章は集団戦、二章でボス戦となることと思います。
 三章では村に寄ることが出来ます。支配されていた村ですが、元気づけたりそこで幾ばくかの休息を取ることで、人々に癒やしを与えることは出来るでしょう。
 二章や三章からでもご参加頂ければ幸いです。
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第1章 集団戦 『朱殷の隷属戦士』

POW   :    慟哭のフレイル
【闇の力と血が染付いたフレイル】が命中した対象に対し、高威力高命中の【血から滲み出る、心に直接響く犠牲者の慟哭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    血濡れの盾刃
【表面に棘を備えた盾を前面に構えての突進】による素早い一撃を放つ。また、【盾以外の武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    裏切りの弾丸
【マスケット銃より放った魔を封じる銀の弾丸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

麻生・大地
【暗視】【忍び足】【だまし討ち】

足場が不安定そうなので、大立ち回りはせずに、静かに、手早く済ませましょう

最上階からの侵入直後に【ハイドクローク】起動で隠密

高周波ブレードで、背後から確実に首を飛ばします
位置取り的に首が難しそうなら、脚を斬って動きを止めます
できるだけ乱戦で挟まれないように、戦力分散を意識しましょう

共闘している仲間が襲われそうになったらそちらを援護します
あと、万が一転落しそうな方が居たら【念動力】を使って落下阻止をします

「死が救いになるだなんて綺麗ごとは言いません。ただ、せめてこれ以上あなた方が苦しまないように祈ることはさせてください」


楠瀬・亜夜
此処の月は相変わらず綺麗ですね
……でもその光はこの世界には届かない
……行動あるのみ、ですね。

まずはフック付きワイヤーを壁に引っ掛ける様に使用し
【ジャンプ】を駆使して素早く最上階まで登ります
窓から内部の様子を確認した後に窓を破り突入
戦闘に入ります。

村を救う為に立ち上がった者が村を脅かす者に加担させられている……
今、その因果から解き放ちその意思、私達が受け継ぎましょう!

敵を目視したら【先制攻撃】で先手を取り
【knife vision】でナイフを展開し、敵へ向けて放ちます。
その後に続くように【クイックドロウ】で銃撃を浴びせながら
一気に敵との距離を詰め、直接ナイフにより追撃を仕掛けます。


七詩野・兵衛
なんとも痛ましい事だな。
せめて俺が死後も弄ばれる体を解放しよう。
今日の俺は応援団長ではなく一人の戦士としての俺だ。
俺の気合と情熱お見せしよう。

まずは応援殺法『飛翔演舞』を駆使して壁を乗り越えるか。
問題無いならば俺は派手に着地して注目を集めるぞ。

敵が血濡れの盾刃で来たならば、
俺は飛翔演舞で空を舞って攻撃だ。
スカイダンサーとしての俺の身のこなしをみろ!
技能「2回攻撃1」や「空中戦1」を駆使する。
時折「踏みつけ1」や所持した武器での攻撃も交え敵を屠る。

やれそうならば「捨て身の一撃3」も使い一撃必殺も試みる。
この一撃こそがバーバリアンとしての俺だ!

さて、できれば応援に回りたいがその機会はあるだろうか?


モリオン・ヴァレー
例え敵わなくても、か
何かせずにはいられなかったのね

<鎧砕き>霊力を宿し硬化した針を壁に突き立て足場にし最上階へ
そこから潜入し下っていくわ
<忍び足><目立たない>音を立てない様
【アクセラレイタ】使用での移動
<情報収集>周囲を確認しつつ
先手を取れる様索敵もしながら進軍するわ

敵を発見した場合
<投擲>遠くの壁に針を投げ音で注意を逸らし
<敵を盾にする>その隙に後ろから拘束
<暗殺><鎧砕き>そして首筋に硬化した毒針を
<毒使い><マヒ攻撃><気絶攻撃>一思いに沈めるわ
他の敵の攻撃が来たら
持ってる『盾』を手放し同士討ちを狙おうかしら
別の『盾』の確保及び毒での無力化も忘れずにね

だけど……蛮勇は悲劇しか産まないわ



 昏き夜には雲が厚く垂れ込めて、澄んだ空を望む事もできない。
 なのに、仰げば月だけは良く見える。
 そこばかりが雲を避けているように遮るものがなくて、不思議な明るさが視界を淡く照らしていた。
「此処の月は相変わらず綺麗ですね」
 楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)は藍の瞳に夜空を映し呟く。
 静謐の中だからこそ、その唯一の光が一層美しく感じられていた。
「……でもその光はこの世界には届かない」
 少しだけ視線を降ろす。
 そこに背の高い建物があった。
 夜闇に影を落とす、壁に囲まれた領主館。
 この最奥まで月光は照らしはしない。この内奥にいる無数の影は、月の明媚さを覚えてはいまい。そしてこの牙城によって苦しむ人々は、未だ闇の中にいる。
 人が光を取り戻すのは、いつのことか。
「……今は行動あるのみ、ですね」
 だからこそ元より迷いはなかった。
 石造りの壁へ、亜夜は視線を遣っている。そしてフック付きワイヤーを高く放ると、窪みに引っ掛けて昇り始めた。
 たん、たん、と、壁を跳んで登る足取りはリズミカルで淀みない。みるみるうちに、高度を上げていく。
「じゃ、俺もいくか」
 追随するように地上から見上げるのは七詩野・兵衛(空を舞う熱血応援団長・f08445)だ。
 闇の世界でも覇気失わず、がしっと拳を打ち合わせる。ふっと息を吐いて気合を入れると、地を蹴って応援殺法『飛翔演舞』。
 まるで飛び上がるように、空中跳躍を繰り返して高空まで昇っていた。
「よっ、と」
 くるりと体を廻して、壁の頂上に着地する。
 足場としていい場所では無かったが、眼前に館の最上階が見えた。
 そこは屋根に覆われているわけではなく、平坦な天頂と窓があるばかりだ。月明かりを採光して内部を照らす造りのようで、外からでも中の螺旋階段が窺えた。
「侵入してくださいと云うかのよう──実際、入り込まれても怖くはないと思っているのかも知れないわね」
 色を失った灰の髪が揺れる。
 静かな声で窓を見つめるのはモリオン・ヴァレー(死に縛られし毒針・f05537)。針に霊力を宿して硬化させ、それを壁に突き立てることで登ってきていた。
 鋭利なその針は、石を砕くと云うより突き通す。まるで布か人肌を刺すかのように、一切の無音でここまで到達していた。
 故に、敵に気づかれた様子もなく、建物の中は未だ動きがない。
 今が好機。
 皆は一度見合い、直後に仕掛ける。
 壁を蹴って宙に踊ったのは兵衛。まるで舞うように体を翻すと──破砕音。蹴りで窓を突き破り、最上階に着地した。
 そこは緋の絨毯の敷かれた、幅広の螺旋階段の頂上だ。無限に続くかと思われる階段の渦が、下方の闇まで延びている。
 外から入る月光が木漏れ日の様に美しい、明媚なる世界だった。
 だが、その階段を上ってくる影は眺めとはどこか不釣り合いにも見える。
 血に塗れた鎧を纏い、死の香りを漂わせる鎧兜達。
 いつかは人であった亡者。
 朱殷の隷属戦士。
 死して永劫の使命を植え付けられた彼らは、唯一覗く眼光に不自由な殺意を滲ませて、こちらへ接近を始めていた。
 だが周到な侵入者達が、先制を譲るはずもない。
 真上ばかりを見ていた隷属戦士の背後へ、一人の影が迫っていた。
 それは影という表現すら不十分な透明の存在。微かにだけ低く聞こえるのは、肘先より伸長する高周波ブレードの唸り。
 隷属戦士が違和感に気づいたときには、既に剣閃は走っている。
 ──先手は、こちらです。
 ぷつりと、一瞬。
 亡者の首が切断されて階段に落ちる。そこで初めて敵は、そこに何かが居るのだと気づいた。
 隠密・不可視モード“ハイドクローク”で姿を隠していた、麻生・大地(スチームハート・f05083)。
 奇しくも機械の体が実現した超常の力により、何者にも悟られずに敵陣に入り込んでいたのだ。
 オ、と、隷属戦士のわななきが漏れる。
 その一体が銃口を向けてくると、しかし大地は続く二閃。下段の斬撃で脚部を裂き、転倒させて攻撃を許さなかった。
 敵から位置が把握されると、そこで初めて飛び退く。
 その頃には、モリオンが敵へ距離を詰めていた。
 アクセラレイタ──霊力により纏った重力オーラの力で、その機動もまた無音に近い。
 隷属戦士はそれでも気配に振り返ろうとしていたが、直後に金属音。モリオンが力を込めて針を投擲し、遥か後方へ大音を上げさせていた。
 それにより僅かの間、隷属戦士の意識が逸らされる。
 その間隙でモリオンには充分。
 後ろから一体を拘束すると、手に携えるは硬化した毒針。首筋にそれを刺し込むことで神経、血流、その全てを蝕み無力化していた。
 隷属戦士達はそこでようやく、現れたのが“強者”であると理解し始める。
 零れる音は呻きか、否か。
 猟兵達を見つめると、何かの残滓を瞳に浮かべて声にならぬ声を伝えてきていた。
「あの中に……村を救う為に立ち上がった者達もいるのですね」
 亜夜は異質な存在となってしまった彼らを見つめる。
 領主が弱き人間の敵う相手ではないことなど、遥か以前から判っていたはずだろう。
 なのに彼らは立ち向かい、そして亡者になった。
「例え敵わなくても、か。きっと、何かせずにはいられなかったのね」
 自分達の住む世界が蹂躙される事──モリオンは表情を大きく動かしはしないけれど、その村人達の気持ちが理解できる。
「なんとも痛ましい事だな」
 呟く兵衛も目を伏せる。
 けれど一瞬後には、真っすぐの眼光を見せていた。
「せめて俺が、死後も弄ばれる体を解放しよう」
 今日の自分は応援団長ではなく一人の戦士。
「この気合と情熱、お見せしよう。しっかりと目に焼き付けてくれ」
 瞬間、兵衛は跳んだ。
 隷属戦士は、或いはそれに目を奪われたろうか。
 アーチを描くような飛翔演舞。疾く、そして勇壮に宙を奔る身のこなし。敵が反応する前に頭上に迫った兵衛は、そのまま脳天を踏みつけて一撃を入れた。
 着地せず、続けて空中で回転して連撃。斧を縦に振り回して斬打を放ち、一体を吹っ飛ばしていく。
 盾で突進してくる相手は、上方に踊って回避。さりとて逃げには徹さず、上方向の空中を蹴って加速。全身の力を込めて捨て身の拳を放った。
「この一撃こそが、バーバリアンとしての俺だ!」
 命中した衝撃は鎧を突き破り、その命を穿つ。
 後続からも数体の戦士が上ってくる、が、そこには亜夜が目を向けていた。
「やらせはしませんよ」
 手元から円形に広がるのは複数のナイフ。
 月にきらりと光る刃が流麗に、鋭く。亜夜の合図で飛翔し刺突の雨を降らせゆく。
 knife vision。美しきそれが夢か現か幻か、理解する前に隷属戦士は体を貫かれて斃れていった。
 受けた本数の少ない個体は、未だ息を保っている。亜夜はそこへ小型の拳銃を向けて早撃ちし、怯ませたところへ疾駆。直接の斬撃を見舞った。
 悲鳴を上げる暇すら無く、亡者は息絶えて階段に体を横たえる。
 兜が割れて覗いた顔には、どこか無念の色が宿っていた。
 亜夜は視線を迫り来る敵へ向ける。
 きっと彼らの皆が、同じなのかも知れない。
 ──救おうとした者が、脅かす者に加担させられる。
「今、その因果から解き放ち……その意思、私達が受け継ぎましょう!」
 月夜にナイフを輝かせ、亜夜は意志の刃で前進していく。
 敵が纏まって迫ってくれば、モリオンは拘束していた一体を手放し、同士討ちさせる。
 その間に素早く別の一体を毒で無力化し、同じ戦法を繰り返した。
 嘆くような視線で、只管に攻撃をしてくる戦士達。
 嘗ての村人の気持ちが理解できるからこそ、モリオンはそれが哀しかった。
「……蛮勇は悲劇しか産まないわ」
 だから、一思いに。
 毒を刺し、一瞬で意識を奪っていく。
 それは安らかだろうかと、大地は一瞬だけ視線を遣っていた。
 小さく首を振る。多分、一言で言って終われる事ではないのだと思った。
 それでも大地は刃を止めない。
「死が救いになるだなんて綺麗ごとは言いません。ただ、せめてこれ以上あなた方が苦しまないように祈ることはさせてください」
 一刀一刀が命を奪って、傀儡となった亡者達に静謐の終着を与えていく。
 侵入、奇襲、戦術、退かぬ心。
 猟兵達は隷属戦士の上を行く力で、徐々に階層を下り始めていた。
「俺も頑張るから、皆も頑張って行こうぜ」
 兵衛は皆を鼓舞するように応援の声を贈っていた。
 段々と暗がりになっていく世界に、それは光明のような励ましとなったことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルノルト・ブルーメ
勇気の果てに、亡者にされたなんて話は
きっとここでは日常茶飯事で
ありふれた出来事なのだろうけれど、ね……
いい気分にはならないよね、当然だけど

だから、一先ずここで終わらせよう

フレイルでの攻撃はViperでその軌道を変えて回避
盾刃と弾丸には咎力封じを使用

仲間が狙われた場合も同様の対応ないし
Viperで身体を拘束するなどして敵の動きを妨害

その間に、確実に倒してくれたらそれでいい
今ここに居るのは、僕だけじゃないのだから

補足
自分にもヴァンパイアの血が半分流れている事を
過去には厭い、疎んだこともあるが
今はそれさえも力に出来ると咎人殺しを生業にする

丁寧な言葉で柔和な口調だが、逆に攻撃は冷徹で非情で遠慮がない


ヒビキ・イーンヴァル
……放っておくわけにはいかねぇからな
柄じゃないが、せめてこの戦士たちには安らかな終焉を

『蒼き焔よ躍れ、嵐の如く』で攻撃だ
『高速詠唱』からの『2回攻撃』を狙っていこうか
炎は纏めずに、様々な角度から当てていく
倒す為と言うよりは陽動に近いかもしれねぇな
敵さんの注意をこちらへ引き付けようか

戦士からの攻撃は剣を使って『武器受け』で対処
接近戦に持ち込まれたら、『フェイント』も駆使して立ち回る
背後を取られないように注意、だな

あまり、この戦士たちとは長く戦っていたくはないな
個人的な感傷ってやつかね


レナ・ヴァレンタイン
※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎

"No one lives forever(永遠に生きる者なし)"
そんな簡単なことも分からんとは、オブリビオンというのは困ったものだ
それに付き合わされる者たちもとんだ迷惑だろうさ
叩き潰すぞ、諸君


――ほう、数だけは多いな
それに銃持ちか。数を撃たれると厄介そうだ
という訳だ、諸君。先手は私に譲れ
接近される前に削れるだけ削る

ユーベルコード起動 『軍隊個人』発動承認
マスケット、リボルバー、ガトリングガンによる制圧射撃を行う
銃を構えるものはマスケット、突撃してくるものはガトリングで優先排除
幾人なりと連なってくるがいい
此方も銃弾なら山ほどあるんでな
遠慮なく、全弾喰っていけ…!



 光と昏闇の狭間のような世界だった。
 数百と段を下りるに連れて、下方の闇が少しずつ近づいてくる。中腹に位置するそこは眩くもなく漆黒でもない、月光の残滓色の景色だ。
 最上階からここまで敵の増援は無い。
 おそらく配備されている場に隔たりがあるのだろう。頂上での奇襲がごく短時間で進んだために、敵全体の対応も遅れているのかも知れない。
 それでも、闇に蠢く悲痛は絶えはしない。
 壁側に伸びた通路から、無数の隷属戦士が出現してきていた。
 少し見えたそこは、昏い聖堂の入口のように見える。隷属戦士の住処か、或いは人間が“処理”される場か。
「勇気の果てに亡者にされたなんて話は──きっとここでは日常茶飯事で、ありふれた出来事なのだろうけれど、ね……」
 それを眼下に、アルノルト・ブルーメ(暁闇の華・f05229)は声を零す。
 平素と変わらぬ口調に柔い声音。だが僅かに細まる翠の目の奥には、憂いも含まれていたろうか。
「──いい気分にはならないよね、当然だけど」
「ふむ、そうだな」
 腕組みし視線を降ろすのはレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)。
 尊大な口ぶりは、しかし元より素直な内奥の発露ではない。
 自尊でも睥睨でもない、ただの振る舞いの上塗り。瞳の内奥は他者を見下すでもなく……やるべきことを確と見据えている。
「“No one lives forever”。そんな簡単なことも分からんとは、オブリビオンというのは困ったものだ。それに付き合わされる者たちもとんだ迷惑だろうさ」
 だから、と。
 たんと足元を蹴って数段飛ばす。
「──叩き潰すぞ、諸君」
 手摺を支えにして緩く旋回すると、敵と間合いを置いた位置に着地する。
 今も後続から現れ続ける隷属戦士を、レナは見据えた。
「やはり数だけは多いな。銃持ちである分、数で撃たれれば厄介、と」
 分析しながら、怯みすら見せない。
 手を斜め下方に翳すと、ちらと仲間へ向いていた。
「という訳だ、諸君。先手は私に譲れ。接近される前に削れるだけ削る」
 刹那、機械人形の体がエネルギーの流動を自覚する。
 ──ユーベルコード起動、『軍隊個人』発動承認。
 多量の金属が擦れ、機巧が動く音が響いた。
 現れたのはマスケット、リボルバー、ガトリングガン。要塞のように火器の壁を喚び出したレナは、その手を真っ直ぐに突き出す。
「幾人なりと連なってくるがいい。此方も銃弾なら山ほどあるんでな」
 ──遠慮なく、全弾喰っていけ……!
 火花が舞い、発砲音がエコーする。
 マズルフラッシュが瞬き、甲高い音が反響した。
 敢行した射撃が、先ずは前面にいた隷属戦士の鎧に風穴を開け、頭部を貫いていく。衝撃で階段から墜ちゆくも含め、広範囲に銃撃の嵐が降り掛かっていた。
 隷属戦士達は唸りを上げて躍りかかってくる。
 突撃してくる数人は、ガトリングの集中射撃で排除された。だが敵も数にものを言わせてかかってくる、が。
『其は荒れ狂う蒼き焔、我が意により燃え尽くせ』
 突如、月夜が明けるかのような光が奔る。
 上方から顕れたのは、恒星の如き輝きの雨だった。あまりの美しさ故か、隷属戦士ははっと顔を上げてそれを見つめてしまう。
 その頃にはそれが零距離に迫っていた。
 蒼く燃える焔。
 敵の一体がそれに突き破られ、炎に包まれて朽ちてゆく。
 傷が浅く生き延びた個体も近くにいたが、間を置かず二撃目が降り掛かり灰になった。
 その力こそ──蒼き焔よ躍れ、嵐の如く(ワイルドハント・ブレイザー)。
 かつり、と段を下ってそれを行使していたのは、ヒビキ・イーンヴァル(蒼焔の紡ぎ手・f02482)。敵の攻撃が届くよりも疾く、高速詠唱をやってのけていた。
「よそ見していたら、燃え尽きちまうぞ」
 金と青、二色の瞳で見据えるとヒビキは再度詠唱。焔を喚び出していた。
 敵が惑ったのは、その炎が薙がれるように真横から襲ったからだ。
 蒼き恒星は上方から降り注ぐばかりではない。ヒビキの操作によって角度を変え、流線を描き、あらゆる方向から隷属戦士を襲う。
 言葉と焔に乱された戦士達は、僅か一瞬の間で統制を失い始めていた。
 散発的にヒビキへの反撃を始めるが、精彩を欠いた攻撃をアルノルトがみすみす逃すはずもない。
 冷たい空気の間を、高速のワイヤーが踊った。
 体に巻き付いてきたそれを、隷属戦士は当然外そうとする。だが、鎧にすら食い込む鋭利なフックがその挙動を簡単には許さなかった。
 アルノルトの放ったViper──毒蛇の異名のごとく、捕らえた獲物は離さない。
「後、頼めるかい」
「いいだろう。手を下してやるとも」
 レナは軽く視線を動かすだけで、マスケットの銃口を向けた。乾いた音と共に弾丸が心臓を射抜けば、その一体は拘束されたままに息絶えた。
 アルノルトは素早くワイヤーを別の個体に投げ、動きを止める。そして仲間の攻撃へと確実に繋いでいった。
 自身ばかりが敵をなぎ倒す必要はない。
(「今ここに居るのは、僕だけじゃないのだから」)
 仲間を信ずれば、大胆で迷いのない行動が出来る。だからこそ多勢に退くことなく、確実に敵数も減り始めていた。
 闇雲にかかってくる敵は、ヒビキが剣を使っていなしていく。接近戦を好みこそしなくても、手際は惑いなく。
「それにしても──」
 ヒビキは呟く。
 敵が死んでいくたびに、残る隷属戦士達は啼くように吼えていた。
 獣の威嚇のようにも聞こえたけれど──それは嘗て同じ人間だったものの死を、哀しむかのようでもあって。
「あまり、この戦士たちとは長く戦っていたくはないな」
 個人的な感傷ってやつかもしれないが、とヒビキは一度目を伏せる。
 勿論、それでも戦わなければならないとは判っている。
「……放っておくわけにはいかねぇからな」
「そうだね。だから彼らを、一先ずここで終わらせよう」
 アルノルトの言葉はあくまで柔和だった。
 けれどその腕は、鈎は、敵を捕らえ続ける。
 この世界はヴァンパイアによって支配が始まったという。
 その種族の血が流れていることを、アルノルトは過去には厭うていたし、疎んでいた。
 だが今はその思いもこの血も力に出来ると知っている。
 だから容赦なく、躊躇なく、斃すべき敵を斃していく。その先にいるさらなる敵もまた討つ為に。
 Viperで足止めされた一体を、ヒビキは確実に炎で灼いていった。
 柄ではないけれど──せめてこの戦士たちには安らかな終焉を。
 そんな思いも込めて。
 ヒビキが一端息をつく頃には、階段はまた静かになっていた。
「先に、進むか」
「そろそろ下層も近いな。油断なく征くぞ」
 レナの言葉に猟兵達は頷く。景色が闇色に染まり始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

デナイル・ヒステリカル
村を支配する者がいる。
普通の村にだって居ます、当然です。学校にだって会社にだって居ます。

日々死者が出る。
悲しいことですが、当然です。人はいつか必ず死にますし自然の摂理です。

ではこの件を見逃していいのか?
「それはできませんね。彼ら(オブリビオン)が関与しているのだから」
これは僕たち(猟兵)の仕事だ。

窓を破壊して侵入した時点で存在は露見するでしょう。
しかしそれは詳細な情報ではないはずです。

自身に【迷彩】を施して戦士たちの側面へ回り込みます。
UCを使用して【先制攻撃】【範囲攻撃】【一斉発射】で痛打を与えましょう。
僕の攻撃で倒せなくとも、次へ続く他の猟兵へのアシストになるはずです。


ワズラ・ウルスラグナ
望まず戦わされる、か。
まあ大抵の戦いはそう言うものよな。望まぬから戦うのだ。
しかし今回ばかりは望むが善い。戦いの先に安寧を与えてやる。

飛行を駆使してなるべく上層の階から侵入し、後は派手に暴れ回る。
なぎ払いや怪力を駆使してブレイズフレイムや戦獄龍焔珠で薙ぎ倒し、地獄の焔を撒き散らす。
囲まれるのを防止したいだけだ、過度な延焼や仲間の邪魔になる分は消そう。
いざとなれば戦獄龍終極で破壊し尽すが、仲間への被害も有りそうなので拙そうなら控える。

慟哭くらいなら幾らでも聞いてやる。
かつて敵に立ち向かった者達の遺志を継ぐ、とまでは言えんが、果たそうとした事は代わりに果たすと約束しよう。


アルバ・ファルチェ
…もう救えないのなら、楽にしてあげるしか……ないよね。

潜入までは苦労なく出来るなら深く考えなくて大丈夫なのかな?
壁を超えて最上階から行くよ。
吹き抜けで螺旋階段…落ちないよう気をつけなきゃ。

攻撃はなるべく【見切り】で避けながら、【カウンター】気味にユーベルコードを使用。

倒すよりも【鎧砕き】や【武器落とし】みたいな、仲間が倒しやすくなるよう援護する形が理想かな。
ドラゴンランスの『コルノ』も【援護射撃】の要領で【串刺し】【槍投げ】みたいに体当たりして貰おう。

無念も怒りも背負う【覚悟】で…ボスは必ず倒すからと【祈り】を乗せて。

ここで立ち止まる訳には行かないから、君達を倒して僕達は前に進むよ…ごめんね。



 月が暗雲に隠れたかのような昏さだった。
 地下に伸びた空間にも、変わらず螺旋階段が繋がっている。
 だが辺りを彩っていた月光は既に無く、闇のヴェールに包まれた景色があるばかり。足音が不思議な程に反響するそこは、既に地上とは異質な空気だった。
 ただ、そこは静寂ではない。
 闇から這い出るように、亡者の戦士が止めどなく上ってきているからだ。
 数は多かった。おそらく、最下層に残る勢力の全てで打って出るように命じられたのだろう。
 一人すら残さず。
 死しても役目を押し付けられて。
 永劫に消えぬ隷属のくびきを付けられて。
「彼らは全員……こんな戦いを望んではいないんだよね」
 アルバ・ファルチェ(紫蒼の盾・f03401)は小さく声を落とした。
 整った顔立ちにも、僅かに眉尻を下げさせて。彼らの運命を変えることができないことに、浮かぶのは憂愁でもあったろう。
「望まず戦わされる、か。まあ大抵の戦いはそう言うものよな。望まぬから戦うのだ」
 ワズラ・ウルスラグナ(戦獄龍・f00245)は反して、足取りも声音も淀むことはない。
 ちり、と体に奔らせる地獄の焔で闇を照らし出し、隷属戦士に向けるのは戦いの意志に他ならない。
 拳を握り、聞かせるのは宣戦の言葉。
「しかし今回ばかりは望むが善い。戦いの先に、安寧を与えてやる」
「そうだね。……もう救えないのなら、楽にしてあげるしか……ないよね」
 声を継ぐアルバもまた、戦いから逃げはしなかった。
 閉じていた目を開けて、手に淡い輝きを纏う。
 それもまた昏い世界を照らす光。
 同時、猟兵達は段を蹴って戦いの間合いへ入る。
 隷属戦士達はほつれた自意識に敵意を編み込まれて、無我夢中に駆け上がっていた。だがその横合いには、既に別の猟兵が迫っている。
「状況開始」
 ──こちらから、行かせてもらいますよ。
 一瞬、透明の空間が明滅した。四辺形の青い光が瞬いたかと思うと、それが形をとって機械兵器へと構成されてゆく。
 疲れ知らずの配下たち(バーチャルレギオン)。
 自身に迷彩をかけて潜んでいたデナイル・ヒステリカル(架空存在の電脳魔術士・f03357)の生み出した、電子精霊により形作られた軍勢だ。
 ここに来るまで、対峙した敵は全て掃討してきている。新たに現れた敵はこちらの詳細な情報を持っていない──だからこその、奇襲。
 兵器は閃光を湛え、一斉射撃。
 隷属戦士達を巻き込み、数体を蜂の巣にした。
 死には至らなかった個体も、大なり小なり傷を負っている。
「さあ、皆さん、続く攻撃を」
「ああ。暴れ回ってやるとも」
 ワズラはそこへ火の粉を棚引かせて跳んでいた。
 迫る龍人の威容に、隷属戦士は何を思ったろう。あるものは盾を掲げ、あるものは距離を取ろうとする。
 だがその全てに一切構わず、ワズラは凄まじいまでの獄炎を放った。
 まるで焔の滝。
 頭上から雪崩を打った紅蓮がその場を飲み込み、二体を灼く。
 距離を置いて盾で熱波を防いでいた個体もいる、が、そこには着地したワズラが一撃。炎を纏った腕で薙ぎ払い、盾ごと吹き飛ばして壁に激突させた。
 次々と塵にされていく隷属戦士達に、敵も本能的なおののきを見せる。
 それでも、亡者には迷うことも許されない。
 ただ苦しむような呻きを上げて銃を向けてくるばかりだった。
 アルバはそれをじっと見つめるから、弾道も予測できる。見切って斜めに跳ぶことで躱し、逆に攻勢に入っていた。
 纏っていた光を放ち命中させる。するとその戦士へ天から輝きが降り注ぐ。
 まるでそこにだけ月明かりが戻ったかのように。美しく澄んだ光柱が、浄化するように隷属戦士の命の灯を散らしていった。
「コルノ、右の一体を」
 アルバの声に鳴き声で応えた小竜は、手摺から飛び立って速度を付け体当たり。確とアルバの意を汲んで敵の脇腹を穿っていた。
 同時にアルバが飛び退けば、周囲の空間に僅かだけノイズが奔る。デナイルが兵器を再度展開し、壁のように広げていた。
 レーザーが閃くと、コルノの攻撃で怯んでいた隷属戦士が貫かれて息絶える。周囲にいた数体もまた足を貫通されて機動を失っていた。
 そこを狙う、天を衝くかのような焔。
 ワズラの構える十メートルに及ぶ大剣だ。
「我が身こそ我が武具なれば──」
 ──我が戦獄此処に極まれり。
 声音が轟くのは、ワズラ自身までもが巨躯の黒龍へと変貌していたからだ。
 戦獄龍終極(マキシマル・アトモスト)。
 封印を解いて平時の数倍の大きさとなった竜に対し、動きの鈍った亡者が太刀打ち出来るはずもない。大波の如く振るわれた巨刃によって、隷属戦士達は纏めて断たれ、屠られていった。
 彼らを討ちながら進めば、いつしか螺旋階段は終わりを迎えている。
 美しく造られた空間の終端。
 そこは闇に閉ざされた通路と数体の残党、奥へ続く扉だけが存在する場だった。
 ただ、その先に何かが居ることが、この場からでも強く感じることが出来る。
 無辜の村人を亡者へと変えたもの。
 領地も村も、その命までもを支配するもの。
「支配者というものは、普通の村にだっているのでしょう。当然です、学校にだって、会社にだって、どこにでも」
 デナイルは扉に視線を向けて呟く。
「日々死者が出る。これも悲しいことですが、当然です。人はいつか必ず死にますし自然の摂理です──」
 きっとそれは特別な事ではない。
 どこかに支配者がいる。
 どこかで人が絶える。
 世界は当たり前の中で動いていて、そこには悲劇も内包されている。
 けれど、だからこの件を見逃して良いのかと言えば、デナイルは否と応える。
「ここを看過することばかりは、できませんね。“彼ら”が関与しているのだから」
 オブリビオン。
 その存在がいる限り、それはどこまでも猟兵の仕事だった。
 最後の隷属戦士達が迫ってくる。
 残り僅かの戦力。それでもその慟哭はわんわんと響いて、耳について離れない。
「慟哭くらいなら幾らでも聞いてやる」
 ワズラは亡者達を見下ろして、巨大な炎を生む。
「かつて敵に立ち向かった者達の遺志を継ぐ、とまでは言えんが。それでも、果たそうとした事は代わりに果たすと約束しよう」
「──うん。だから君達を倒して僕達は前に進むよ……ごめんね」
 アルバも決して立ち止まらない。
 前へ、前へ。
 その無念も怒りも背負う覚悟で、その先にいる存在を必ず倒すからと、せめてもの祈りを乗せて。
 光が隷属戦士達を縫い止める。
 そこへ落ちゆくワズラの炎が、彼らを跡形もなく焼き尽くした。
「行きましょう」
 一瞬の静寂にも、止まらずに。
 デナイルの声に頷いて、皆は扉を破って奔る。その先に“善神”はいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『繁栄の代行者・ラグナソピア』

POW   :    繁栄の時、来たれり
【周囲を鼓舞し能力を引き出す声援】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
SPD   :    栄耀の時、来たれり
【正】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【光輪】から、高命中力の【限界を超えて能力を引き出す光】を飛ばす。
WIZ   :    最盛の時、来たれり
【死亡させた人々】の霊を召喚する。これは【自身が創造した肉体】や【他者に憑依する事】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●善神
 それは繁栄をもたらす為に降臨した神だった。
 美しい世界を造り。
 その世界が善き日々を送ることが出来るよう邁進する。
 心に疑いなく、行動に迷いなく。
 全ては善き行いなのだからと、彼女は満たされた実感の中で──支配を続けた。
 死すまで弛まず働かせれば、もっと善い世になるから。
 死した者に更なる使命を与えれば、もっと幸せになるに決まっているから。
 ──だって、繁栄を目指すのは素晴らしいことでしょう?

 清らかなくらいに明るい空間。
 静謐と聖堂のような厳かさに包まれた部屋で、猟兵達は彼女の姿を見つけた。
 異端の神。
 ──繁栄の代行者・ラグナソピア。
 作り物のように美しい髪を揺らして、その善神は振り返る。
「あなた方が、私と共に歩む仲間を憂き目に遭わせてしまわれたのですね」
 そっと目を閉じる仕草は清廉。
 同時に嘆かわしいという声音でもあった。
「未来を目指す同胞になれる仲だというのに、争うのは愚かなことです」
 だから、嗚呼──可哀想に、と。
「きっとあなた方は、未来への標を持っていないのですね」
 私達の実現する繁栄、その素晴らしさを理解されていないのですね、と。
 まるで迷える子羊を導くように、彼女は微笑む。
 光の円陣から生み出したのは、悍ましき異形の肉体。
 その容れ物へと宿す霊魂もまた──死した村人のもの。
 目の前に現れた、猟兵という“誤った存在”に教え、諭してあげようと、神は一歩踏み出す。
「共に歩みましょう。その幸福の為に先ずは、正しき死を」
デナイル・ヒステリカル
言葉を聞いて理解する。
彼女は自分の信念(ルール)に従って行動する存在だ。
絶対に相容れない相手だ。
「解釈違いですね。貴女の望む未来に僕が必要無いように、僕の望む未来に貴女は必要ありません」
「僕は僕のプログラム(信念)に従います」

前回の戦闘に引き続き対多数の戦いになりますが、
前回とは違い司令塔であるラグナソピアの行動を封じれば、全体の攻勢も鈍るはずです。

相手が人々の霊を召喚する隙を突き、自身に光学迷彩を施して接近。
拳を振りかざしてUCを解き放ち、敵の行動や思考を全て停止させます。


七詩野・兵衛
アドリブや他の猟兵との絡み大歓迎

それは違うと思うぞ。
お前は心底そう思うのだろうが、俺は貴様が幸福を実感しているだけでは、人々は幸福はだとは思わないぞ?
繁栄の時、来たれりか。
奴の【周囲を鼓舞し能力を引き出す声援】を聞いたならば、
我輩は対抗せねばならぬな。

(歌唱4、祈り1、鼓舞5、気合い5、勇気4)
我輩の100の応援道を構成する応援活法の一つ『猟兵賛歌』だ!
『歌唱』するがごとく声援に必勝の『祈り』を込めてみなを『鼓舞』し、
我輩の『気合』と情熱と『勇気』を託そうではないか!
我輩の全力の声援を見せてやろう。
(属性違うですが応援合戦は出来ますか?)

……だからこそ我輩はこの後村に応援に行かねばならぬのだ。


アルノルト・ブルーメ
君の夢見る繁栄という名の理想
それは君だけのものだよ
繁栄も理想も、押し付けられるものではないからね

異形の肉体に宿る村人の魂……
本当に、僕の怒りの琴線に触れるね、君は

血統覚醒を使用して戦闘
Viperを振るって先制攻撃からの範囲攻撃での2回攻撃

栄耀に対しては対象者をワイヤーで引っ掛けて
光の射線から外れて貰おうか

勘違いをした彼女の事は大きな一撃を使えるものに任せるよ
僕は僕に出来る事……
召喚された彼らを抑えて同行者への攻撃を阻止する事
それに専念させて貰うよ

繁栄は、誰か一人の支配でなされるべきではない
君達の血を繋いだ誰かが成しえるだろう
遅くなってすまなかった……
今日ここで終わらせるから、君達はもうおやすみ


ヒビキ・イーンヴァル
その程度の事しか言えねぇのか、てめぇは
理想を持つってのは、常に自問自答を繰り返すもんだ
絶対的に正しいもんなんてどこの世界にもねぇんだよ
っと、こんな事議論しても仕方がないな
ここで全部終わらせてやろう

『高速詠唱』からの『先制攻撃』で先手を頂こう
『蒼き焔よ躍れ、嵐の如く』で攻撃だ
炎は全部一つ纏めて、『全力魔法』でありったけの魔力をぶつけてやる
ついでに隙でもできれば、他の猟兵も攻撃しやすいだろう
敵からの攻撃は、剣を使って『武器受け』で防御
……死人を召喚するとか、戦いにくい攻撃はしないで欲しいもんだが

簡単に繁栄させるだの何だの……
世界はそんな単純には出来てねぇよ、オブリビオン


モリオン・ヴァレー
支配に隷属に思考の矯正
何というか……あなたって本当に繁栄の神?
社畜の神とかじゃなくて?

【ショック・バースト】発動
周囲の護衛が厄介ね
<誘導弾>だからまずはその数を減らす
肉体の無い霊相手だとあたしの針も効き辛い
ならばそういう相手にも響く攻撃をする迄
その為のこの杖なのだから
この一撃の重さ、耐えられるかしら?
<気絶攻撃>霊相手に言うのもなんか変だけれど
のびてなさい

<オーラ防御>霊達のあたしへの憑依や攻撃も
同じく重力のオーラで抵抗を
この霊達といいさっきの兵士達といい
人使いが最低ねあなた

<2回攻撃>ある程度周囲を無力化できたら社畜神にも重力の一撃を
少なくともこの世界の未来に
あなたの居場所は何処にもないわ


麻生・大地
【武器受け】【盾受け】【二回攻撃】【情報収集】【時間稼ぎ】

【プログラム・ディアボロス】起動
防御、回避に重点を置きながら、高周波ブレードで斬り抜けながら
戦います

重要視するのは、手数を多くして少しでも敵の手の内を暴くこと
後方に多目的ドローンを待機させ、情報は逐一仲間と共有します

できるだけ情報を集めるための時間を稼いで、付け入るスキを
見極めなければいけません
深追いはせず、その後は他の方にお任せすることにします


「あなたの目指す未来は、過去を冒涜することでしか成し得ないものですよ」

過去は礎とするもの
それすら分からない愚か者には未来を語る資格などないのです


レナ・ヴァレンタイン
※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎

知らんよ。貴様の脳みその中だけの幸福など
お前に“同胞”などいない、周りを見てみろ
在るのは無理矢理魂を縛り付けたお前のお人形
――“お前自身”の劣化コピーだ

ユーベルコード起動
『ハンティング・ホラー』超過駆動開始
宇宙バイクのリミットを解除し、突撃開始

前に、前に、前に。
壁が何体いようが構うものか。出力で強引に捻じ伏せ、踏み砕き、前進する
しつこい奴は直接銃撃して打ち払う
私の後ろにはまた別の誰かがいる
私が届かなくても、別の誰かが貴様の喉笛を喰い千切る
別に私でなくてもいい。後の者に希望を託す
そうやって誰かが誰かにバトンを渡していくのが「繁栄」だろうが!


アルバ・ファルチェ
押し付けの『善』なんて悪と何が違うんだ?

僕は、僕の意思を無視した押し付けの善など不要だよ。
…そして、それは亡くなった皆だってそうだったはずなんだ…。
だから、こんな悲劇はもう止めるよ。
これ以上の犠牲なんて出させるもんか。

【かばう】【おびき寄せ】【挑発】で攻撃を引きつける。
【見切り】【武器/盾受け】に【各種耐性】でダメージを減らしつつ、『ドラゴンランスのコルノ』と一緒に仲間のサポートを。
攻撃はダメージを与えるよりは行動を阻害する事がメインだね。

攻撃の範囲が広めならユーベルコードで盾を複製、仲間を囲うように防壁を作るよ。
僕の前では誰も傷つけさせないからね。


楠瀬・亜夜
なるほど、確かに繁栄して賑やかになったこの世界は
それはそれはきっといい場所になるのでしょうね
――しかし貴方の望む繁栄は唯の独り善がり
この世界は必要とするものはきっとそれではない
神殺し――執行致します

【shadow hearts】で影蝙蝠を呼び出し、高速で敵へ突撃して貰い
その後を【ダッシュ】と【クイックドロウ】を駆使し
銃撃により追撃しつつ距離を詰め、影蝙蝠が敵へ接触したのを確認したら
【ジャンプ】で敵の頭上へ飛び上空からナイフを投擲、そして落下速度を
利用してナイフによる直接攻撃を仕掛けます。

他の味方の援護をする為にも【援護射撃】で
召喚された霊を撃破する事にも気を配っておきましょう。


ワズラ・ウルスラグナ
同胞か。
残念ながら過去が繁栄しても世界が滅ぶだけなのでな、悪いが討たせて貰う。
なに、同胞の誼だ。繁栄の願いは委ねて逝け。過去は過去へと還るが善い。
そう、正しき死を、だ。

とは言っても受け入れ難いだろうから戦おうか。
基本的には支援型と読んで手駒から削る。
声援への共感は、最終的に敵対している俺に加護は与えんか。ふむ、善い闘志だと思うのだがな。

用いるのは戦獄龍終極。加えてブレイズフレイムで薙ぎ払い、一気に殲滅を狙う。
敵に直接攻撃が少ないのなら支援の間を与えない事が最大の防御足り得る。
なるべく仲間の邪魔をせず、波状攻撃になるよう連携を意識しつつ、
その上で全力で破壊し尽す。

この戦いも繁栄の礎と成るだろう。


ルフトゥ・カメリア
はッ、ばっかじゃねぇの?
なんだそのクソ偽善者ヅラ。気持ち悪ぃ
繁栄の意味を履き違えた挙句、それ以外に指針もねぇ未来になんの意味がある
終わった奴がしゃしゃり出て来んじゃねぇよ。オブリビオンの癖に繁栄?テメェらこそ繁栄に邪魔な過去のゴミだっつーの

両手首の古傷を掻っ捌き、炎と共に突っ込む
【怪力】で片手で軽々とバスターソードを操り、大振りの隙は炎で埋める
天使サマが火葬してやるよ、テメェら纏めて逝きやがれ!【祈り】
足首の炎を足裏へ、翼の付け根からも噴き出す炎をブースター代わりに
【第六感】を働かせて立ち回り、ガラの悪い蹴りも入れる足癖の悪さ

誰かが危険に晒されれば、罵声を飛ばしながらも護らずにいられない



「……正しき死? 素晴らしさを理解してない? ──その程度の事しか言えねぇのか、てめぇは」
 幽玄ささえ漂う美しき部屋。
 月明かりも届かぬのに純な白色を見せる空間。
 そんな中で、呑まれてしまう程の神威を湛える善神・ラグナソピアに──しかしヒビキは投げ放つように声を返している。
 歪な言葉を、正面から唾棄してみせるように。
 退きもせず、魔導書を携えて踏み寄ってみせながら。
「理想を持つってのは、常に自問自答を繰り返すもんだ。絶対的に正しいもんなんてどこの世界にもねぇんだよ」
「──、それは、あなた方が繁栄の真なる正しさを理解していないからでしょう」
 彼女はあくまで声音を淀ませない。
 けれどモリオンもまた、そんな言葉に表情を崩すことはなかった。
「繁栄、ねぇ。何というか……あなたって本当に繁栄の神なの? 社畜の神とかじゃなくて?」
「……何が、仰りたいのですか?」 
「支配に隷属に思考の矯正。その霊達といいさっきの兵士達といい、人使いが最低ねって言ってるのよ」
 紅色の瞳を、モリオンは斜めに向けた。
 そこに居るのは蠢く異形。宿された魂で既に鳴動を始めている肉体。
 失われた村人達の命の、最後に行き着いた果て。
 善神はほんの少しだけ、気を害したかのように首を振っていた。
「彼らは同胞です。共に繁栄し、新たな世を造るための、友人であり家族です」
「どうであれ──残念ながら過去が繁栄しても世界が滅ぶだけなのでな」
 白の空間に、一層眩い灯りが瞬く。
 仰ぐ程の巨龍となっているワズラから零れる、紅の獄炎。身じろぎ、拳を握るだけでも濃密な熱気を振りまきながら、ワズラはその神を見下ろした。
「悪いが討たせて貰う。なに、同胞の誼だ。繁栄の願いは委ねて逝け。──とは口で言っても受け入れ難いだろうからな」
 もう、余計な手間は取らない。
 そこにあるのは戦いのみだと、巨腕を振り上げていた。
 その腕の肌を裂いて溢れるのもまた、地獄の焔。ブレイズフレイム──振り下ろした腕から豪速でそれを放射し、眼下に熱の塊をぶつけている。
 標的は複数の異形達。まずはそこへ紅の奔流を叩きつけて、二体ばかりを焼き払ってみせた。
 それで異形の全てが消えたわけではない、が、こちらも一手では終わらない。
 モリオンもまた、始めから数が厄介だと判断して杖を突き出している。
 重鎚メテオライト──隕鉄を湛えたその一振りは、注ぐ霊力によって常識を超える力を操る。先端の空間が揺らぐように歪んだかと思うと、圧縮されるのは重力波だった。
「この一撃の重さ、耐えられるかしら?」
 ショック・バースト。
 隕石が追突したかのような打力が、そこにある空間そのものを襲う。ぐにゃりと鈍い音を上げて、更に二体の異形が散っていった。
 ラグナソピアも次々に異形を生み出している。だがヒビキもまた、それに先んじた。
 霊魂が醜い肉体に入り込む僅かな間隙に──高速の詠唱で蒼の焔を生み出したのだ。
 それが星のように耀くのは、全ての炎を一つに纏め、巨大な光の塊へと形成しているから。
 焔の球が燃え盛る轟音は、異形を一瞬怯ませてしまう程。
 或いはそれは、肉体の内奥にある霊の、正しい恐怖なのかも知れなかった。
「……死人を召喚するとか、戦いにくい攻撃はしないで欲しいもんだがな」
 それでも──否、だからこそ。
 ありったけの魔力を、ぶつけてやる。
 投げ飛ばされた焔は異形を灼き、光の中に消滅させる。苛烈なまでの熱量は射線上の護衛を全て払って、その先にいる神にまで到達する程だった。
 半透明の光輪を喚び出して、ラグナソピアはそれを防御する。
 だが、この一手が仲間の攻撃に繋がれば、一先ずヒビキには充分。視線を横にやれば、間断を作らずモリオンが二撃目に移っていた。
 ラグナソピアもとっさに残る異形を正面へ移動させようとする。が、盤上の動きを見据える黒龍がそれを放置するはずもない。
 傷一つ無かった壁に切れ目が奔り、煙が上がる。ワズラが大剣を大振りに振るい、横薙ぎの斬撃を見舞っていたのだ。
「これで邪魔もできまい」
 ラグナソピアの前面を扇形に過った斬閃は、異形を一刀に両断。その全てを灰燼にしていく。
「社畜神、あなたも痛みを味わうといいわ」
 そこへモリオンの波動が飛ぶ。遮るもののない重力の歪みは、光輪までもを巻き込んで熾烈な衝撃を加えていった。

 硝子のように欠片を落とす光輪と、視界を満たすほどの火の粉のカーテン。
 眩さの残滓が晴れると──善神を纏う光が僅かに弱まり、衣も微かに焼け落ちていた。
 ただ、彼女自身は輝かしい程の笑みを見せている。
「──あなた方は、とても素晴らしいのですね」
 手をぽんと合わせて、それは隣人が善き友人であったのを見つけたような僥倖の表情。
「これほどの力と意志を備える方々を、私は見たことがありません」
 きっとその全てを、未来の為に活かせるでしょう、と。
 だからこそあなた方の行いが誤っているのが残念です、と。
 新たに喚んだ異形で、自身の守りを厚くした。
「私の知るこの幸福を知らないのは、不幸です。それを知ればあなた方も幸せとなるでしょう。ですからすぐに、教えて差し上げます」
「──それは違うと思うぞ」
 ラグナソピアの確信に満ちた言葉に、しかし兵衛は首を振っている。
「お前自身が心底そう思うのは、当然かも知れないが。貴様が幸福を実感しているだけでは、人々までが幸福だとは俺は思わないぞ」
「その通りだよ。君の夢見る繁栄という名の理想。それはあくまで君だけのものだよ」
 アルノルトはViperを手にとって、視線を巡らす。
 異形に閉じ込められた人々の霊魂。
 それはきっと、幸せなどでは。
「繁栄も理想も、押し付けられるものではないからね」
 諭すと云うよりも、ただ穏やかな口調で揺るがぬ事実だけを伝えるような声音。
 ラグナソピアはほんの少しだけ口をつぐんだ。
 それでも祈るように敬虔な仕草で、言葉を返してくる。
「始めは、皆さんそう仰るものです。しかし目指す未来の素晴らしさを知れば、理解して頂けると私は思っています」
「素晴らしい未来、ですか」
 大地が返したのはただ冷静な声だった。
 善神を騙るその存在がしてきた行いをその目にしていればこそ、そんな言葉に心が動かされるはずもないから。
「あなたこそ、理解していないではないですか。あなたの目指す未来が、過去を冒涜することでしか成し得ないものだと」
「──」
「過去は、礎とするもの。それすら分からない愚か者には、未来を語る資格などないのです」
「……言葉で足りないのであれば、残念なことです」
 ラグナソピアは目を細めると、最前に別の異形を召喚。歌い上げるような声援を響かせて、その霊魂の力を増強させてゆく。
 呻くように体を震わせる異形。
 だが、その歌が最後まで唄われることはなかった。兵衛が、“鼓舞”する行動を前にして黙っているはずはないからだ。
「それがそちらの声援か。いいであろう」
 呟くと、相対するように立つ。
 その背筋は真っ直ぐに、その立ち居は勇壮に。腕を掲げて、応援団長としてそれに対抗する手段は同じ応援に他ならなかった。
「フレッ! フレッ! 猟兵ィ! フレッ! フレッ! 猟兵ィ! オーーー!」
 敵の歌をかき消すほどに響き渡るのは応援『猟兵賛歌』。
 こちらもまた歌唱するが如く、必勝の祈りを込めて仲間を鼓舞する。
 全霊の気合と情熱、そして勇気を仲間に託す行動は、確かに湧き上がるほどの力を猟兵に与えていた。
 異形の戦力は確かに増強していたが、兵衛の齎した戦力もそれを同等に補う。だから大地は敵の素早さに劣らず、切り込むことが出来ていた。
 白き空間に奔らせるのは高周波ブレード。
 異形とて弱くはないが、その切断力に抗うだけの肉体は保持していない。歪な腕を切り落とされ、悲鳴の轟きを漏らす間に大地はその先へと攻め入っていた。
 躊躇わずに前進するのは、決して無謀な攻勢ではない。
 刃を振るい、攻撃を避け、ラグナソピアへ一歩近づく。その一挙手一投足が、敵の状況を詳らかにする情報収集そのものだった。
 プログラム・ディアボロス。
 実行するその能力は、過去の戦いのデータを紐解き、参照し、新たに積み上げる。後方に待機させた多目的ドローンと同期することで客観的な情報をも集積していた。
 得られるのは、まるで俯瞰で戦場を眺めるかのようなデータの奔流だ。
 ──異形の召喚までは最低720ms程のラグあり。
 ──複数召喚の際には凡そ関数的に時間が増加。
 ──生成できる数に限度あり。
 ──肉体の再生にも時間的拘束が発生する……。
 判るのはラグナソピアと異形、どちらかを対処すれば残る方へ隙が生まれること。
 それはどちらの対処も怠らぬ、こちらの攻勢の正しさを証明するものでもあった。
 同時に大地は深追いせず、情報が集まったところで後退する。
 入れ替わりにワイヤーを振るうのはアルノルトだ。
 血統覚醒によって真紅の瞳へ変貌、ヴァンパイアの姿へと変わったアルノルトは──異形を素早く捕らえて引き、仲間への攻撃を阻止していた。
 ラグナソピアが異形に光を与えようとすれば、それもまた阻害して射程から外させる。
 行うのは、異形に攻撃させないこと。
 異形に力を与えさせないこと。
 無辜の霊魂にこれ以上望まぬことをさせず、苦しみをもたらさないことだ。
 そうして仲間に攻撃の機会を与える。
 それこそが自分のできること。
 思い通りにならぬ異形に、ラグナソピアは眉根を寄せる。
「……あくまでも、あなた方は私の造る幸せを理解されないのですね」
「知らんよ。貴様の脳みその中だけの幸福など」
 興味薄で、不遜な声が聞こえた。
 善神が視線を注ぐそこにいるのは、大型の宇宙バイクに跨るレナの姿。
 超過駆動によりリミットを解除されたそれは瞬間、高速の凶器となって一直線に突撃する。
 忌まわしき狩人(ハンティング・ホラー)──捉えることも困難なほどの速度で駆けるそれが、目の前の異形を踏み砕き、払いのけていた。
 ラグナソピアが複数体を壁にするように配置しても、構うこともない。その出力で強引にねじ伏せて前進していく。
 前に、前に、前に。
「形骸ですらない妄想に興味もない。知ろうとも、思わない」
「……、形ならばあります。この、私の同胞と共に創り上げた場所が──」
「お前に“同胞”などいない。周りを見てみろ」
 粘性の体で喘ぎ、苦しむ肉体。
 人の身であった霊魂を押し込められ、苦悶にむせぶ異形達。
「在るのは無理矢理魂を縛り付けたお前のお人形──“お前自身”の劣化コピーだ」
 一呼吸の内に、レナはラグナソピアの眼前に迫っていた。
 質量と速度の塊となったバイクは遮るものを振り払い、ラグナソピアへ突っ込んで強烈に過ぎる衝撃を与えた。
 彼女は初めて吹っ飛ばされるようにして後退する。
 すると僅かに表情を歪めて手を翳す。狭い範囲に異形を複数降り立たせ、自身の壁にしていた。
「人形などでは、ありません。彼らはすぐにでも、喜んで繁栄に奉仕するようになるでしょう。今はまだ過渡期なのです」
「……人の為に立ち上がった村人の魂を自分の盾にして、“喜んで”か」
 アルノルトの声音は相変わらず、凪のようでもあった。
 けれどその奥で小さく、歯噛みしている。
「──本当に、僕の怒りの琴線に触れるね、君は」
 まるで疾風が吹いたかのように、アルノルトはViperを飛ばして彼らを縛り付ける。
 ワイヤーが体を抉り、フックは肉へ突き刺さると、異形は啼き声を上げた。
 けれどそれは多分、肉体的な苦しみではなく。
 運命を歪められたことへの無念と悲嘆の声。
 だからアルノルトは、その歪みを断って終わりにするために力を込める。
「遅くなってすまなかった……」
 そう優しく声をかけて。
「──今日ここで終わらせるから、君達はもうおやすみ」
 撒いたワイヤーの円周を一瞬で零にするように、アルノルトは素早く異形達を切り裂いて、その生命を絶った。
 魂の残滓が立ち昇るように、光が宙へ消えていく。
 アルノルトは少しだけそれを見つめていた。
「繁栄は、誰か一人の支配でなされるべきではない。──君達の血を繋いだ誰かが成しえるだろう」
「そうだ。そうやって、誰かが誰かにバトンを渡していく」
 アルノルトが開いた空間へ、レナは加速し風になる。
 遺志を継ぐ。そこに残った思いを続けゆく。攻撃を繋いで活路を拓く。
 人が人へ、希望を託していく。
「──それこそが、「繁栄」だろうが!」
 レナはバイクを旋転させ一撃。重い殴打を直撃させ、ラグナソピアの光の輪を粉々に粉砕した。

 光が零れ落ちていた。
 床に手をつく善神から溢れるそれは、まるで血のようでありながら、白色の空間に溶けるように消えていく。
 或いは神性の塊であろうか。それが無くなった時、彼女は消えてなくなるだろう。
 ラグナソピアは苦しげに喉を鳴らしながら、それでも諭す声音は変わらなかった。
「人々は迷い、立ち止まるものです」
 ゆっくりと膝を伸ばして立ち上がり、光陣へ異形を喚び降ろす。
「だからこそ導き手が必要なのです。美しき繁栄を知る存在が」
 だから、先導してでも繁栄を目指さなければならない。
 ──混沌よりも繁栄した世界の方が素晴らしい、それは確かなのだから、と。
「なるほど」
 呟く亜夜は、白銀の髪を少しだけ揺らして頷いてみせていた。
「確かに繁栄して賑やかになったこの世界は、それはそれはきっといい場所になるのでしょうね──しかし」
 と、言いながら見据える。
 一度は認めてみせながら、声音では始めから降伏などしていない。
 澄んだ宵か蒼空か、透徹な色の瞳で向ける視線は──眼前の神を紛うことなき“敵”として見定めていた。
「繁栄にも、形があるでしょう。貴方の望むそれは唯の独り善がり。この世界が必要とするものはきっと──それではない」
「……、あなた方にとってそう思えても。多くの方々に求められる未来がやってくると、私は信じています」
 ラグナソピアはあくまで、自身の未来に疑いを持とうとしない。
 けれど歪な神が神たる自覚を持とうが、デナイルの心を構成する電子の流れが揺らぐことはなかった。
「解釈違いですね」
 言葉はただ冷静に。
 その神の声をしかと聞いて──その上で議論の余地も無いのだと言ってみせるように。
「貴女の望む未来に僕が必要無いように、僕の望む未来に貴女は必要ありません。相容れない、ただそれだけのことです」
「……善き未来の為に手を取り合うことは、出来ないと?」
 ラグナソピアは哀しむ様相すら見せて言い返す。
 そして愚かな者を導いてみせるかのように、厳かな仕草で異形を増やしていた。
 アルバにはそれが何より、認められない。
 迫りくる無念の群れに一歩だって下がらずに、立ちはだかってみせながら目を正面に向ける。
「押し付けの『善』なんて悪と何が違うんだ? 少なくとも僕は、僕の意思を無視した押し付けの善など不要だよ」
 微かに唇を震わせ、異形達へ視線を奔らせる。
 正しい善があるとするのなら、決して死ななくて良かった者達。
「それは、亡くなった皆だってそうだったはずなんだ……」
 自身の手を少し、きゅっと握って。
 美しき瞳を一度伏せてしまうけれど、すぐに前へ向き直って。
 ──だから、こんな悲劇はもう止める。
「終わらせるよ。これ以上の犠牲なんて、出させるもんか」
 前進する異形達に、アルバは真っ向から立ち向かった。
 逃げないだけではない。目を引いて、攻撃の全てを引き受けてみせるというように。
「僕の前では、誰も傷つけさせないからね」
 手を翳し、その場を一瞬光で満たす。
 顕現するのは、Molti Scudi(シュゴノイシ)。
 携えた白銀の盾が耀くと、その形が空間に投影されて複数の像が浮かび上がる。
 直後、それらの光が現実の形へと固定され──二十を超える盾となって仲間を囲っていた。
 それは強大な防壁。アルバが一つ一つを巧みに操作することで、異形達の攻撃の手を仲間に一切届かせない。
 ラグナソピアは更なる異形を召喚しようとして精神を集中する。
 が、それこそが大きな隙。デナイルがそこへ、自身に迷彩をかけて肉迫していた。
 彼女はその気配を感じても、とっさに正確な位置を補足できない。そして一瞬惑ったその間に、デナイルはもう拳を振りかざしている。
「PSIプログラム実行。チャージ完了」
 ばちりと雷光が奔った。
 それは現実の雷にも匹敵する放電現象──遠近両用かみなりパンチ(ライトニングストライク)。轟音が劈くと、次に襲ったのは衝撃波を伴う熱と雷撃。
 凄まじい光の雪崩が神の身を灼き、悲鳴を零させる。だけでなく雷条は深い感電を齎して、その動きを一時的に封じてしまう。
 その手際に一切の遠慮はなかった。
 この神は、どこまでも他人の言を受け入れず自分の信念(ルール)に従って行動する存在なのだろう。
 だとするならデナイルがやることもまた、一つでしかない。
「僕は僕のプログラム(信念)に従います」
「……ええ、ならば私も、やるべきことに邁進するとしましょう」
 正面から聞こえたのは、亜夜の声音だった。
「神殺し──執行致します」
 ──来たれ我が眷属。
 ──具現せよ我が心。
 瞬間、宙に昏きシルエットが奔る。
 亜夜の喚び出した影の蝙蝠。
 ラグナソピアは自由の利かぬ体で、多少なりとも異形を動かそうと試みている。だが影蝙蝠はその頭上を高速で飛び、何者にも縛られなかった。
 Shadow Hearts。
 意のままに動くそれは、高速度でラグナソピアへと突撃していく。
 亜夜は駆けながら小型銃で追撃。一瞬の間隙も作らず攻撃を加え──影蝙蝠がラグナソピアの腹部を穿つのと同じタイミングでその頭上へ跳んでいた。
 疾く、そして鮮やかなる跳躍。
 上方からもナイフを投擲して傷を加えていくと、落下しざまに更に一閃。もう片手に握っていた刃を振るって直接攻撃を加え──肩を深く抉っていく。
 煙のように生命を零しながら、善神は苦痛に膝をついた。
 それでもようやく異形をけしかける、が、その一体の振り上げた腕を貫く影がある。
 アルバのドラゴンランス、コルノ。小竜の姿のままに懸命に宙を翔け、角で突き通すように異形の攻撃を阻止していた。
「僕とコルノが守るから。怯まず攻撃を」
 アルバの声は意志の表れ。
 けれど同時に、そのまま事実になると思わせるだけの力強さがそこにはある。
「判りました」
 ならば遠慮なく、と。
 着地して僅かに膝を畳んでいた亜夜は、それを助走に勢いを付けて一刀。切り上げる形で至近から斬閃を見舞い、ラグナソピアの片腕を切り裂いてみせた。

 動きの鈍った異形達の、煩悶の声ばかりが耳朶を打つ。
 数歩下がる善神は、暫く言葉を継がなかった。
 明色の瞳は見開かれ、表情は信じられぬというふうでもある。
 それは神にあるまじき死を感じ始めたからか。
 或いは、最後まで自らの言葉が届かないことへの驚きもあったろうか。
「神を、討つのですか」
 今ならまだ間に合うとでもいうように、ラグナソピアは言った。
「未来を捨てるのは、浅はかな選択です。私はただ善意のもとに、人々の為、彼らへ善き世を与えるために行っているというのに──」
「善意? はッ、ばっかじゃねぇの?」
 心底馬鹿らしい、というように。
 吐き捨てたのはルフトゥ・カメリア(Cry for the moon.・f12649)だ。
「人の為だとか、なんだそのクソ偽善者ヅラ。気持ち悪ぃ」
 小綺麗な容貌の中に、乱暴な嫌悪の色を浮かべて。身の丈ほどもある黒翼を微かに揺らして一歩踏み出ると、声を投げ放っている。
「繁栄の意味を履き違えた挙句、それ以外に指針もねぇ未来になんの意味がある」
「……未来は、大切なものです。少しずつ、創り上げて行かねばならないのです」
 善神が応えた言葉に、ルフトゥが頷くはずもない。
 ああそうかよと、乱雑に返した。
「だったら尚更終わった奴がしゃしゃり出て来んじゃねぇよ。オブリビオンの癖に繁栄? ──テメェらこそ繁栄に邪魔な過去のゴミだっつーの」
 また一歩近づくと、同時に手首に爪を立てていた。
 瑠璃唐草の熾火(ネモフィラ・フランメ)──古傷を引っ掻くことでそこから地獄の炎を溢れさせていたのだ。
 ネモフィラ色の鮮やかな炎に尾を引かせて、ルフトゥは真っ直ぐ突っ込む。
 邪魔する異形は、幅広の剣を軽々振るって払った。脇から迫ってくれば、その個体の顔面部へガラの悪い蹴りを入れる足癖の悪さも披露して。複数の敵がいれば炎を差し向けている。
「天使サマが火葬してやるよ、テメェら纏めて逝きやがれ!」
 灰になる異形を横目に、無言で祈りも籠めながら。
 足首の炎を足裏まで滾らせ、翼の付け根からも吹き出す炎をブースター代わりに加速。一息にラグナソピアへ迫っていた。
 慣性を加えた刺突は、腹部を貫いて彼女自身をも吹っ飛ばす。
「このままブッ倒すぞ!」
「うむ。永らえさせる理由もないからな」
 レナはバイクを駆って、高速で床を滑りゆく。
 体勢を崩していたラグナソピアは、それでもその直線から逃れようと横へ這った。けれどデナイルの放った雷撃がそれを縫い止め、突進を直撃させる。
 光が散り、神の体は薄らいでいく。
 ラグナソピアは退かず、残る異形へ声援を届けた。
 兵衛はそれを自身の応援でかき消してみせる。
 死した魂に鞭打つ声を看過したくないから。
 村の人々は祝福の声や真なる応援の声を聞いたことなんて、ないのだろう。
(「だからこそ我輩は勝って、村に応援に行かねばならぬのだ」)
 死した者達の為にも。
 故に、負けずに仲間を鼓舞していく。
 異形の動きはアルバが押し留めていた。亜夜はそこへ射撃を挟み、体力を削っている。
「そろそろ皆、撃破可能でしょう」
「うん、……やろう」
 次の銃撃に合わせ、アルノルトはViperを操って異形を斃していく。一体一体の奥に眠る魂を、記憶に留めるようにしながら。
 ラグナソピアは僅か数体の霊魂を漂わせた。
 それが残存戦力なのだろう。肉体を与えても無駄と悟ったか、猟兵へ憑依させようとするが──モリオンは重力のオーラを纏って防御。逆に反撃して霊魂を散らせていく。
 ヒビキも剣を抜いて防ぎ、霊を消滅させていた。
 大地は素早く敵の挙動を見て取っている。
「もう、霊魂はいないようです。自らが手を下した人々の数が底をついた、ということでしょう」
 猟兵はそれを機にラグナソピアへ攻めかかった。
 彼女は苦悶の色を見せる。
「私が──神が残れば、世界は必ず反映するのです……!」
「世界はそんな単純には出来てねぇよ、オブリビオン」
 ヒビキの言葉にモリオンも頷いた。
「ええ。少なくともこの世界の未来に、あなたの居場所は何処にもないわ」
「過去は過去へと還るが善い。そう、正しき死を、だ」
 そしてこの戦いも繁栄の礎と成るだろう、と。
 ワズラは業風の如き炎を放って一帯を熱波で包む。
 逃げ場を失う敵へ、ヒビキも蒼き炎を撃ち出していた。
 放たれたモリオンの重力波もまた、全く同時にラグナソピアへ命中。永劫に月差さぬ静謐の世界へ、その善神を消滅させていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『闇に閉ざされた世界に、癒しの光を……』

POW   :    力仕事を手伝ったり、勇壮な英雄談を語る。

SPD   :    破壊させた施設を修復したり、軽妙な話術や曲芸で楽しませる。

WIZ   :    怪我や病気を癒したり、美しい歌や芸術で感動させる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●月明の時間
 その村は決して大きくなかった。
 幾分か自然の残った景色が広がっていて、それは明媚ではあったけれど手入れがされていないと言っても良い。
 建物は崩れたものも多く、誤った“繁栄”の為に破壊された痕跡が各所にあった。
 墓も無いのに、血の跡ばかりが路々を汚している。
 村の規模を眺めれば、それに比して傷跡は余りに深い。
 住人の中の如何程の人数が亡者として散っていったのかと、それは改めて認識させられる光景だった。
 だから村は始め、静寂に包まれていた。
 猟兵達から話を聞いても、最初は半信半疑で信じなかった程に。
 それから時間をかけて事情を理解すると、村人達は静かに頭を下げていた。
 求めていた平和がやってきたことに、喜んでいるのは事実だったろう。それでも明るく笑顔を浮かべるには、歩んできた道が余りに過酷だったのだ。
 人々は疲弊していた。
 それでも、人の中に気力の源が無いわけではない。
 そっと寄り添うでもいいだろう。
 物質的に何かを手伝うことにも、大きな意義はあるはずだ。
 村を救った猟兵達が元気づければ、彼らは応えるだけの生命力を持っている。
 だから今暫く、ここで過ごすとしよう。
 未だ傷癒えぬ月明かりの村で、猟兵達は──。
アルノルト・ブルーメ
負った傷と向かい合って、前を見るには時間が必要だからね
それでも今の僕達に出来る事はあるだろう

弔うべき血肉が無くとも、弔いは出来るし
瓦礫を撤去し、修復する事も出来るだろう
彼らがどう進みたいのかは彼らが決める事だから

行きずりの僕達に出来る事は
決めるために、気持ちの区切りをつける手伝いをするくらいなのだしね

子供が居たら、親御さんの許可を得て少し話してみよう

お気に入りの場所があったのであれば
そこを教えてくれるかい?
良ければ皆と一緒に……行ってみようか

うん、良いんだよ

怖くて酷いものはもう居ないから、沢山泣いて良い
泣いて良いけれど……
沢山沢山泣いたら、笑ってみせてくれるかい?

君達は未来に繋ぐ希望なのだから



 空に掛かっていた鈍色の雲が、少し動いたろうか。
 天を遮るものが少なくて、月の周りでなくても雲の切れ目が多く望める。だから空の全体から光線のような月光が零れ、地面はその美しい残滓に照らされていた。
 だけに、村に刻まれた傷跡が一層浮かび上がって見える。
 砕けた石畳は所々がまともに歩む事もできなくて、その合間には崩れた建物の破片が行く手を塞いでいた。
 オブリビオンの云う“繁栄”の道筋が残したもの。
「この村で、沢山の惨いことがされてきたんだろうね」
 アルノルトは立ち止まって呟いている。
 それは確かに、戦禍と言えた。
 けれどアルノルトが一番意識してしまうのは、靴音すら大きく響く静寂。零した言葉がどこにもぶつからない寂しい静謐。
 平和は取り戻されたのに、人々が塞ぎ込みがちになっていることだ。
 実際、傷と向かい合って前を見るには時間は必要なのだろう。
 すぐにも明るい気持ちで、とは言えない。
 だから街が未だ静けさに沈んでいるのも、無理からぬことなのだ。
 ──それでも、今の自分達にも出来ることはある。
 だからアルノルトは人家の通りの方へと向かっていた。
 彼らがどう進みたいのかは彼らが決めること。自分がやるのは、彼らがそうやって歩む道を決めるために──気持ちの区切りをつける手伝いをすること。
 軒先に、まだ幼い子供がいた。
 その少年は外に出たい気持ちがあっても、躊躇いがあるというふうだった。
 積み上げられた不安がおもりになって、体が重くて動かない。元気に走り回っていていい年齢のはずなのに、今もただ辺りを気にしているばかりだった。
 同じような子供は、そこに多くいる。
 その親達もそれを気にしているようだ。
 行う作業があるから、彼ら自身は忙しさに身を任せることに意識も向き始めているらしい。けれど子供に元気がなければ、心配は消えないだろう。
 アルノルトはそんな親達に許可を得て、子供の元へ歩んだ。
 腰を落として目線を合わせる。
「どこかに行きたいのかい?」
「……、うん。でも」
「なら、教えてくれるかい? 良ければ皆と一緒に……行ってみようか」
 穏和な声音に、その少年は少しだけ表情を変えた。
 それから数人の子供も連れ、瓦礫を縫って歩んでいく。
 その場所は村の中心部である広場の近くにある、花畑だという。今より状況が良かった頃、自然が作り出したその風景は子供達にも人気の場所だったらしい。
「そっか。広場は向こうだから、そろそろ着くね」
 頷いて歩を進めるアルノルトは、しかし途中で一人を見下ろす。
 広場の前で立ち止まり、少年が俯いていた。
「平気かい?」
「……あそこで、まえにね。ひどいことが、たくさん」
 少年が言っているのは広場のことだ。
 そこは、特に破壊の痕が著しい。
 ここで連れ去られた者もいただろう。或いはもっと惨いことをされた者も。
 少年は涙を零してしゃくりあげていた。
 ごめんなさいと謝る彼に、アルノルトは首を振った。
「良いんだよ。怖くて酷いものはもう居ないから、沢山泣いて良い」
 すると少年は、しがみつくようにして泣く。
 アルノルトはそんな彼の頭に優しく手をおいてあげた。
 それから抱き上げて、瓦礫を跨いで進む。そこに、それが見えてきた。
「泣いて良いけれど……」
 ──沢山沢山泣いたら、笑ってみせてくれるかい?
 アルノルトはそっと少年に視線を向けさせる。
 広場の端に、自然が広がる一角があった。そこもまた多くが荒らされてしまっていると言ってよかったが──鮮やかな色を見せる花が、少し。
 少年が目を見開く。花畑という広さではなくなってしまったそこには、それでも力強く咲く花々があった。
 赤に白に橙、黄色。その色彩が心を躍らせる。
 子供達がそこに駆けてゆく。既に来ている子供もいて、待っていればもっとやってくるかも知れない。
 ほら、とアルノルトが降ろしてあげるとその少年も走った。振り返った顔で、確かに笑みを見せて。
 そうやって笑っていてくれればいい、とアルノルトは思う。
 ──君達は未来に繋ぐ希望なのだから。
 空を見上げる。月明かりが先刻よりも少し、綺麗に見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

モリオン・ヴァレー
確かにあの邪神は居なくなった
でもそれが遺した爪痕と犠牲は大きいわ
ならば少しでもその傷を癒す手助けを

【サルース・ライン】発動
何かしらの傷を負った者
病を患っている者
彼らに、この村に一時とはいえ安寧を
せめて生き残った命がさらに消える事の無い様に

あと<情報収集>この辺りで何かしら薬として使えそうなモノを近場で探すわ
<毒使い><医術>毒薬変じて薬となる
あたし達が居なくても大丈夫な様に


腕を動かした際右腰から鈍い音
上着で隠れてはいるけれど
そこにあるのは帰ってくる際に拾ったモノ達
あの兵士達が使っていた小型銃と弾丸

知られたくないでしょうから
村人達には『あなた』達の正体については伏せておいたわ
……その力を、貸して



「どこまでも、あの邪神が遺した爪痕と犠牲は大きいのね」
 月明かりにだけに照らされた藍夜は、モリオンの紅瞳にも僅かに夜色を混ぜさせる。
 それくらい村の空気は沈んで、深い静けさの底にあった。
 モリオンは道々を歩んでいく。けれど人家の多い一帯に行くまで人影は少なく、まるで水底を進んでいるかのような心地だった。
 敵はいなくなっても、未だ消えないものが多くある。
 それが人々を、夜の奥へと潜ませているのだろう。
 ──ならば、それを少しでも。
 モリオンは不揃いの瓦礫の間を踏みしめていく。
 人家には流石に人の気配が多くある。そこを尋ねて話を聞き──怪我人や病人を探すことにしていた。
 彼らが話すには、支配者は人が死ぬことを厭いはしなかったという。
 元より医者や病院も含め、人が集まりそうな場所や職業が許されることは無かった。だから家族が残っているなら、負傷者は家にいるだろうとのこと。
「なら、訪ねて回ればいいわね」
 それくらいならば、何でもない。
 モリオンはすぐ近くに怪我人がいると話を聞いて隣家の門を叩いた。
 それは、家の長兄である青年だ。
 彼は背中に深い裂傷を負っていた。歩くことは出来るようだが、絶えず苦痛が襲うらしく、寝ていられるときは横になっているのだという。
「重い傷だわ」
「ええ」
 モリオンを招いて苦しそうに座ると、青年は応えて話した。
「斬られたんです。恐ろしい異形でした」
 支配者は異形の魔物を小間使いにして、人をさらいに来ることもあったという。
 彼はその魔の手から何とか逃れた。その際に付けられた傷なのだと語った。
 恐ろしい異形、という言葉にモリオンは声を返さない。
 ただ、この傷を放置しておけば死に至ることは間違いなかった。
 帰らないものもあるけれど。
「傷だけは──治してみせるわ」
 せめて生き残った命がさらに消える事の無いように。
 サルース・ライン──携えた針に霊力の糸を繋げ、そこに治癒の力を宿す。それで傷口を縫うことで、痛みを与えず処置を完了。糸や傷跡が残らないどころか、元の傷までほぼ跡形もなく癒やしていた。
「こんなことが……凄いんですね」
 ありがとうございました、と深く礼を言う彼に見送られ──モリオンは次に病人を訪ねる。
 それはとある家の子供で、高熱で床に伏せていた。
「村がひどい状況になる前ならば、薬も手に入ったのですが──」
 子供の母親が言うには、今では薬を持っている家も無いだろうとのこと。
「薬、ね」
 モリオンは一先ず医療処置をして、子供の熱が下がるのを見届けた。
 それから家を出て木々のある方へと向かう。昔はここから薬になるものを見つけていたという情報を聞き出したがためだ。
 そしてすぐに薬効のある木の枝に葉、茸を見つけて煎じ、瓶へ。また乾燥させたものも粉末状にして多量にこしらえた。
 これから猟兵がいなくてもいいように、せめて置いていけるものは置いていきたかったから。
「こんなものかしらね」
 薬を揃えて歩み出す。
 と、そこでかしゃりと右腰から鈍い音が鳴った。
 モリオンはちらと視線を下ろす。
 上着で隠れてはいるけれど、そこには領主館で拾った物達──あの戦士達が使っていた小型銃と弾丸があった。
 モリオンは一度それを手にとる。
「知られたくないでしょうから、村人達には『あなた』達の正体については伏せておいたわ」
 ──その力を、貸して。
 金属が鈍く光る。それはきっと、これから無二の力を発揮してくれるだろう。
 その武器を収め、モリオンは村人へ薬を届けていく。
 彼らは嬉しそうな、安堵の表情を見せた。ようやく安寧の片鱗が見えたというような。
 それがいつまでも続けばいい。
 モリオンは静かに思って、夜の村を歩んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・ファルチェ
これでも騎士だけじゃなくてクレリックでもあるからね、怪我や病気の手当をするよ。

あ、別に女性優先とかじゃないよ?
そりゃ女性の力にはなりたいけどさ、心身に傷を負った人は男女関係ないでしょ。
僕だってそれくらいは弁えてるんだよ。

【礼儀作法】【コミュ力】を使って少しでも心を許して貰えたらいいな。

話を聞くだけでもいいし、【医術】で治療も出来るかな?
【救助活動】なんかも役に立つといいけど。

あとは何か楽器があればリラックス出来るような演奏も出来るかな?
一応【楽器演奏】の特技もあるんだ。

身体の傷は目に見えて治るけど、心の傷は簡単にはいかないから…それでも僕なりに、少しでも癒したいよ。



 夜が少しだけ深まってきていた。
 月は高くなり、宵の天は尚美しい光を注いでいる。それでいて寝静まる時間ではないから、本来ならば幽玄な月に見惚れる人があってもよかった。
 けれど村は未だ静けさの帳が上がらない。
「こんな状態だと中々元気に、っていうわけにもいかないよね──」
 アルバは石畳の潰れた部位を避けるように、家々に向けて歩んでいる。
 村自体がこれほどの傷を受けているならば、そこに住む人だって例外ではいられまい。
 まして、破壊がひどい場所では血の跡が地面を汚している状態──だから、まずアルバが対処したかったのは怪我や病気だった。
 健康な子供は、もう外に遊びに出たりしている。そんな風景も見えるから、皆が危急というわけではないのだろう。
 でも、月を仰ぐ気力すら無い者も確かにいる。
 物静かな人家にいる一人の村人がそうだった。
「村を救って下さった騎士様ですね。……わざわざ訪ねて頂いて」
 アルバを迎えて丁寧に応えた彼は──まだ若い、精悍な青年だ。
 支配がひどくなる前は大工として村や近隣で建物を造っていたらしく、逞しい体躯にはその名残が十分に残っている。
 けれどその腕は破れた布を包帯代わりに撒いていた。その布は乾いた血でどす黒く染まっていて、合間から覗く傷跡は痛々しいものだ。
「その傷も……領主に?」
「その差金というやつでしょう。禍々しい異形でした」
 アルバの言葉に青年はそう言った。
 魔物に抵抗できず、建物が破壊されるのを見ているしかないのが悔しかったという。
「造るどころか壊れるのを見てるだけなんて、大工失格ですね」
 それにこの傷じゃあ、ろくに槌もふるえない、と俯いた。
 その表情に浮かぶのは諦念。
 だから、アルバは首を振る。
「オブリビオンが相手だったんだ。それは仕方のないことだったと思うよ。それに……脅威はなくなった」
 無力感に苛まれるにはまだ早い、というように。
 いつもの穏やかな声音に優しさも加えて。
「少なくとも傷は癒やすことが出来るから。見せて」
 アルバは青年の腕の布を取る。
 激しい損傷ではあったが、再生が不可能なほどではなかった。そこに視線を当てるように痛みを治療すると──医術を駆使して傷口までもを綺麗に修復し始める。
 青年はびっくりしているようだ。
「騎士様には、こんなことが出来るんですね」
「一応、癒し手でもあるからね」
 痛みの消えた腕を、青年は嬉しそうにぐるりと回す。
「これならまた大工仕事ができそうです」
「よかった。もう、邪魔するものは現れないから。安心して」
 そんなアルバの笑みに、青年も初めて笑顔を返していた。
 その後、アルバは更に治療をして回る。そうすると静寂だった道に段々と人通りが現れるようになっていた。
 皆が皆明るく、というわけではないけれど──少しでもそうなればいいと願い、アルバは一角に腰掛けてリュートを手にとった。
 一軒の人家の奥に眠っていたものだ。以前までは楽器を鳴らすことも自由じゃなかったらしく、人々はその姿に興味を抱いている。
 アルバは静かに爪弾いた。
 洗練されていて、それでいてどこか懐かしいような旋律。それは心に染み入るように、人々に耳を傾けさせていく。
 体の傷は治っても心の傷は簡単にはいかないだろう。だから少しでもそれを癒やしたいと、そんな気持ちを籠めて。
 演奏が終わる頃には人が多く集まっていた。希望を見つけたような、そんな表情で。
 請われれば、アルバはまた少し演奏をした。すると人々の間にもどこか安らかな空気が流れ始めたろうか。
 きっと、この村はこのまま良くなっていく。
 前向きなものをその中に感じ取って、アルバは奏でていく。夜の中に、清らかな曲が響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヒビキ・イーンヴァル
【セフィ(f00065)】と村を回る

少しでもこの村の役に立てるよう、頑張ろうか
大変なのはこれからだろうから
せめて、これからは平和に暮らせるように

こら、一人で行くんじゃない
いくら治癒が使えるっつったって、使いたい放題じゃねぇだろが
まず、俺が『医術』で村人を診る
で、俺じゃ手の付けられない人はセフィに任す
軽症の人は俺が何とかする
それでいいな

おい、疲れたら一旦休めよ。俺が代わる
俺はお前も心配だよ、まったく……

は……?
何で俺がお前を負ぶって帰らなきゃならねぇんだ
歩けなくなる程働きます宣言か
仕方ねぇやつだな、本当に


セフィ・イーンヴァル
【ヒビキさん(f02482)】と一緒だよ

私で、少しでも役に立てるなら……
怪我をしてたり、具合が悪いひとはいませんか?
『生まれながらの光』で治すよ
ちょっと疲れるから、少しずつ
でも、できるだけ村を回りたいな

ヒビキさんも手伝ってくれるの? ありがとう
そしたら、わたしが症状の重いひとを治していくね
うん、どんどん治療していこうっ

なるべく笑顔で、朗らかにっ!
わたしたちが暗い顔をしてたら、村のひとも心配になっちゃうもんね
頑張っていこう!
……へ?わたしも心配?
ふふっ、珍しいね
大丈夫だよ、無理はしないから
そうだなぁ、じゃあ帰りはおんぶしてもらおっかなー



 音の少ない夜に、二つの足音が響く。
 通りを歩みながら、ヒビキはひとけのない風景に視線を巡らせていた。
 本当なら賑わっていていい場所。
 それでも今は砕けた瓦礫が広がるばかり。
「大変なのは、これからだろうな」
 呟きが零れる。
 村を恐怖に陥れるものはなくなった。けれど本当の姿を取り戻すのは一朝一夕で成し得ることではあるまい。
「とにかく、まずは出来ることをやるか」
「うん、そうだね。少しでも役に立てるなら、そのほうがいいから」
 こくりと頷くのはセフィ・イーンヴァル(氷晶の乙女・f00065)。
 美しき銀糸の髪に蒼の瞳。その姿は文字通りの天使のようで、月明かりの中を煌めきを伴って歩んでいた。
 ヒビキも頷く。
「ああ。これからは平和に暮らせるように、手助けくらいはな」
 そうして目を向けるのは、人家のある場所だ。
「不便はいろいろあるだろうが……一番は、人だな」
「みんなが元気じゃないと、村も良くなっていかないもんね」
 セフィは頷くなり、ぱたぱたと進んでいく。
 そうして、怪我をしてたり具合が悪いひとはいませんか、と家々を訪ねていった。
 外観からは判りにくいが、負傷者は相応の数がいる。元よりまともに治療される環境が無かったのだから、当然とも言えるだろう。
 セフィもすぐに隣家に怪我人が居ると聞いて、治療に向かおうとしていた。
 そんなセフィの後ろからヒビキは遅れてついてくる。
 天使、というよりはお転婆な娘を前にしたように──軽く息もつきながら。
「こら、一人で行くんじゃない。俺だってやることはやる」
「ヒビキさんも手伝ってくれるの?」
 セフィがくりっと瞳を向けると、ヒビキは肩をすくめた。当たり前だというように。
「いくら治癒が使えるっつったって、使いたい放題じゃねぇだろが。協力してやった方がいいに決まってる」
「ありがとう」
 セフィがにっこり笑むと、ヒビキは改めて説明するように、自分とセフィを指していった。
「まず、俺が『医術』で村人を診る。軽症だったら俺が何とかするから──」
「わたしが症状の重いひとを治していくんだね?」
「ああ。それでいいな?」
「うん、どんどん治療していこうっ」
 頑張っていこう、と朗らかなセフィの声音に、ヒビキは毒気を抜かれたような、同時に気合を入れ直したようなそんな吐息。
 ともかく、やることが決まれば迷うこともない。
 早速話に聞いた家を訪ねて、外傷を負っている子供を見つける。
 ヒビキは素早くその状態を見て取ると、自身が処置。傷口を治療して完治状態にまで持っていった。
「あとは安静にしてな」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
 子供の元気な声を背に聞きつつ、次の家へ。
 そこでは横になった青年がいた。
「これは……重傷か」
 ヒビキは目を細める。その青年は腹部に深い裂傷を負っていて、余りに鋭利な切り口はオブリビオンによるものに間違いない。
 青年は苦しげな面持ちながら、口を開いた。
「生きているだけでも、幸運です。僕のすぐ近くで殺された人もいたから……」
「……だとしても、それは付けられなくても良かった傷だよ」
 ヒビキは青年の体を見下ろしながら言うと、セフィに視線を移した。
 うん、とセフィは歩み寄る。
「大丈夫だよ。ちゃんと治るからね」
 淡く美しい光が灯った。
 そっと手を組んで輝かせるのは、セフィが持つ生まれながらの光。
 まるでもう一つの月明かりのように。優しく撫でるような煌めきは、祝福を与えるように傷口を包み……その痛みも切り口も、無かったもののように修復していく。
 青年は信じられないという目をしていた。
「まさか、こんなことが──」
「これで、元気に歩けるようになったはずだよ」
 セフィは明るい顔で言ってみせていた。
 青年は立ち上がり、痛みが消えたことに涙を浮かべている。
 それにも最後まで笑顔を見せながら、セフィはヒビキと共に次の負傷者の元へと向かっていった。
 傷や病気など、村人を苦しめるものは様々だったが──二人はそれを代わる代わるに治療して回っていく。
 と、セフィがまた重い傷の村人を治そうとするところで、ヒビキは気づいて止めた。
「疲れたんだろ、一旦休めよ。俺が代わる」
「でも、まだ平気だよ?」
「いいさ。俺が出来る」
 言って治療に入る。
 セフィは力を行使していくたびに疲労していく。その状態もヒビキはしかと見ていた。
 自分達が暗い顔をしていたら心配させてしまうからと、セフィはずっと笑顔だったけれど……疲労は隠せない。
 セフィ自身、疲れすぎないように少しずつやっていたのだが、それを看過するヒビキでもなかった。
 問題なく村人の処置を終えると、道すがらヒビキは溜息を一つ。
「村人もだけど、俺はお前も心配だよ、まったく……」
「……へ? わたしも心配?」
 セフィは少々意外という顔をしてから、笑みを見せた。
「ふふっ、珍しいね。大丈夫だよ、無理はしないから」
「ならいいが。協力が必要なら言えよ」
 ヒビキがかつりと歩み出すと、セフィはそんな姿を見て、んー、と顎に指を当てる。
「協力? そうだなぁ、じゃあ帰りはおんぶしてもらおっかなー」
「は……?」
 再開されたばかりの歩みがまた止まった。
 頓狂な声を零してから、ヒビキは若干眉根を寄せている。
「何で俺がお前を負ぶって帰らなきゃならねぇんだ。歩けなくなる程働きます宣言か?」
「だって、協力してくれるんでしょ?」
「別にそういう意味じゃ……」
 と言いつつも、割とそういう事では押し切られてしまうヒビキだ。最終的には歩み始めながら、背中で呟いていた。
「仕方ねぇやつだな、本当に──」
 その後、村の復興も段々とはずみが付き始めてきた時分。
 帰路に向かう一人の青年が、可憐なるオラトリオをおぶって歩いている姿が確かに見られたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ワズラ・ウルスラグナ
さあ、此処からが最も過酷な戦いだ。
目に見える敵だけ討てば平和になり幸福を得られると言う訳ではない。
生きる事は戦いだからな。無論、俺も戦わせて貰おう。

怪力でも戦獄龍終極でも使って復興を手伝おう。
害獣や魔物が居るならその掃除も引き受けるぞ。
猟兵は留まらない。だから居る内に好きなだけ扱き使うが善い。

死者を弔うも各々が望む繁栄を目指すも自由だ。
腹が膨れれば少しは元気が出るかも知れんぞ?
俺はそれを手伝おう。
不幸は似たり寄ったりだが、幸福は人によって違うからな。王だの神だのと違って導いてやれるなどとは思えん。
だから作るのは礎だけだ。その先は村人達に任せよう。
願わくば末永く生き足掻き、善き戦いを続けてくれ。


麻生・大地
○巨人の宅配便

【レグルス・タイタンフォーム】使用

大型のコンテナに、【軍用糧食エナジーバー】を詰め込めるだけ詰めて
持参しましょう
長期保存もできますし、甘味は疲労にもストレスにもよいものでしょうから

あとは、少しばかり復興のお手伝いを
瓦礫の撤去など、巨体のほうがなにかと効率がいいでしょうしね
他の仲間から要請があればそちらも手伝いましょう

…なんでしょう?
……よろしければ、僕の肩に乗ってみますか?

少し高いところから見る夜空はどうですか?
この世には確かに、目を覆いたくなる悲劇や惨劇が溢れている
黒く深い絶望がいつも近くにある

それでも
明けない夜はないのだと
光は必ず差すのだと、信じていてほしい



 夜が更けだす頃。
 烈しい戦いが為されていた時刻よりも月は高々と上がり、寧ろ村の風景は明るさを宿し始めていた。
 尤も、それは見た目だけの事ではない。
 戦いの直後から村人の治療が始められ、肉体的な元気を取り戻す人も増えている。
 最初は子供の声すら聞こえなかった一帯も、段々と音が戻ってきていた。
 嘗ての絶望に、確実に光は灯り始めている。
 ただ、だから復興が成されたとはまだまだ言えない状況だ。
 人々は当面の生活もままなっていないのだから。
「さあ、此処からが最も過酷な戦いだな」
 ワズラは小さな焔を口腔から零しつつ、そんな村を見回している。
 荒れ果てたといって差し支えない人里。
 目に見える敵だけ討てば平和になり幸福を得られると言う訳ではない──それを実証するかのような光景が、今まさに眼前にあった。
 無論、その戦いにおいてもワズラが退くことはない。
 生きることが戦いならば、自分も戦わせて貰う、それだけのこと。
 平時でも上背のあるワズラを、興味深げに、時に畏れを抱いたように見上げる人々。ワズラはそんな彼らに遠慮なく言った。
「出来ることは全て手伝おう。猟兵は留まらない。居る内に好きなだけ扱き使うが善い」
 村人達は始め、顔を見合わせて迷いを見せる。
 けれどその内に一人が言った。
「黒爪狼という獰猛な獣が森の奥にいます。人を襲う魔物で、放っておけば子供や女性では太刀打ちできないので──」
「害獣というわけか」
 村人は頷く。
 支配下にあったときは、良くも悪くも領主が邪魔なもの全てを狩っていた。だから困ることもなかったが、今はそうはいかない。平和になったからこそ生まれる問題もあるということだろう。
「支配がひどくなる前は狩り道具で狩っていたんですが。今ではそれもなくて……」
「では、一先ず俺がやっておこう」
 人々が森の奥に行かなければいいということでもあるが、復興を進めれば何かを採取しに向かうこともあるはずだ。
 何より人を襲う魔物ならば、先んじて狩ることに意味はある。
 ワズラは森へ飛ぶと──その奥地で早速その魔物を見つけた。名の通り狼に似ていて、魔物としては下級。獣と大差ないといった生き物だ。
 ただ確かに、目についた物は全てを喰らうという獰猛さを備えていて……武器の一つでもなければ人間には苦労する相手だと判った。
「村人が自分の身を守れるようになるまでだ。悪く思うな」
 ワズラは獄炎で、その群れを灼き飛ばす。とりあえず森が安全になるまでに、時間はかからなかった。
 村に戻ると、ワズラは歓迎をもって人々に声をかけられる。害獣をあっという間に退治したという事が、人々には寧ろ判りやすい強さに思えたのかも知れなかった。
「さて次は──」
「食料に関しては、こちらもお手伝いさせて頂きますよ」
 と、そこで機械的な反響を持った声が聞こえる。
 見れば人々──特に子供達が何かに興味を抱いたように走っていっていた。
 そこにいたのは、レグルス・タイタンフォームによって変形した大地だ。
 見上げるような体は、三メートルを優に超える。角ばった部分や流線を描くパーツで構成されたその姿は、正しくロボ。
 だけでなく可変試作型バイク【レグルス】とも合体。大きな車輪も組み込まれた形状を持ち、全長は更に高くなっている。
 子供達が興味を抱いて集まるのも無理からぬ見目であった。
 巨体を動かして、大地は移動。そこに大型コンテナを持ってくる。
 中には軍用糧食エナジーバー。
 携行型ですぐに食べられる救難食だ。当面の食事を準備できないものも多数いると用意してきたものだった。
「さあ、お子さんだけでなく、皆さんもどうぞ自由に」
 大地が言うと、子供達だけでなく大人達もそれを手にしていく。食料に困っていたものも多いのだろう、すぐに沢山の人が集まったのだった。
「長期保存も出来ます。食料が不安な方は幾つか備えておくといいですよ」
 大地の言葉に、人々は感謝の声を返す。
 食べ物という目先の問題が済めば、人々の間に明るい雰囲気が交じるのも事実だった。だから惜しみなく与えて──その後で大地は視界を巡らせる。
「あとは、少しばかり復興のお手伝いをしましょうか」
 とにかく目につくのは散乱した瓦礫。
 この風景が変わらない限りは、生活が戻ったとは言えまい。
 大地はがしゃりと踏み出すと、特に荒れている広場から手を付けることにした。
 村の中心にあたるそこは、円形の広い土地を取った場所だ。
 だだっ広いばかりではなく、中心には大きな噴水があり、人々が語らえる椅子や休憩所があり、美しい造形の柱が立っていたという。
 ただそれも昔の話。
 今は道を塞ぐ石柱の名残や、噴水のあった場に散らばる原形もない破片ばかり。隣り合う建物も崩れてきており、廃墟の様相だった。
「ここは人力では、時間がかかるでしょうね」
 だからこその機械の巨体だ。
 大地は腕部を伸ばして、まずは一番巨大な柱の残骸を持ち上げる。本来なら、滑車と相当の人足がなければ動かすことも不可能なもの。
 それを広場の端に積み上げ、更に経路上の細かな瓦礫も拾っていた。
 大きな石材はまた建造に使える。小さな破片も物によっては別の加工品に利用できるから、使えるものはしかと保管場所を作ってそこに置いた。そうでない材料は廃棄し、可能であれば自然に還す。そうして少しずつ綺麗にしていった。
「復興には手が必要と言われたのでな。俺も手伝おう」
 歩んでくるのはワズラだ。
 その体躯は戦獄龍終極を行使することで巨龍と化している。
 ロボの姿の大地と並び立つと、その光景は一種浮世離れしていて──見物する子供達も圧倒されていたことだろう。
 ワズラもまた、その怪力を活かして崩れた建物の一部を軽々持ち上げる。そうして大地と協力し、広場を平坦に戻した。
 人々は深く礼を言った。
 この広場に新しい物を建てるのは、村人達自身がやるだろう。
「広場の仕事は、ここまでですかね」
「そうだな」
 ワズラは頷く。
 彼らが新しい物を創造したいのなら、それに任せる。
 自分達が作るのは礎だけ。それが役割だとワズラは思った。
「幸福は人によって違う。王だの神だのと違って導いてやれるなどとは思えんからな」
 故に、これから先は彼らの時間だ。
 大地も頷いて、別の場所へ行こうとする。
 と、その姿をじっと見つめる子供があった。
「……なんでしょう?」
 訪ねつつも、その視線で言いたいことはおおよそ分かる。
「……よろしければ、僕の肩に乗ってみますか?」
「いいのっ?」
「ええ」
 大地が腕を差し伸べると、その少年は嬉しそうにそこへ上がる。大地はそのまま彼を肩に乗せてあげた。
 少年は目を煌めかす。
「わぁ……!」
「少し高いところから見る夜空はどうですか?」
「とっても、きれい!」
 はしゃぐような声で、少年は笑顔を見せた。 
 自然と他の子供達や大人もそこに集まってきていた。
 だから、よかったと大地は思う。
「──この世には確かに、目を覆いたくなる悲劇や惨劇が溢れています。黒く深い絶望がいつも、近くにあることでしょう」
 ──けれど、それでも。
「明けない夜はないのだと、光は必ず差すのだと信じていてほしいと、そう思います」
 そんな大地の心は、少しでも伝わったことだろう。
 大人達の顔は前向きだ。
 子供達は、次は自分が肩に乗せてもらうのだと言って止まない。その楽しそうな、わくわくした顔が、この村にあってよかったと大地は感じた。
 ワズラもまた、自分の体によじ登ろうとしている子供を支えたりしつつ……歩み出す。次は墓場にしようと計画されている場所の、整地を頼まれているのだった。
 そこがどんな場でどんな思いを村人が抱くのかは、彼らの心の中のことだろう。
 もう、村は自由を得たのだから。
 ──願わくば末永く生き足掻き、善き戦いを続けてくれ。
 ワズラはそんな思いと共に、当面の戦いに出向いていく。美しい月光が、その背を淡く照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

楠瀬・亜夜
目に見える傷跡はいずれ消え失せる
しかし、凄惨な記憶はきっと根強く……
まぁ私自身が綺麗さっぱり記憶飛んでるんでなんともですが
ともかくあの悪夢のような闇夜は消え去り
これからはあの月の光もこの地に届くでしょう
きっと彼らは立ち上がり歩いていける……

という訳で疲弊した心には音楽です
この隠し持ってきたハーモニカで月明かりに似合う
曲を一曲……音楽についての知識は趣味程度ですが
そこらへんは心でカバーしますよ心で……くふふ



 人々は徐々に復興へと目を向け始めていた。
 遥か遠くの木々のさざめきも聞こえる──そんな無音だった夜にも、明るい声や足音が響くようになっている。
 村人の多くが支配からの解放を信じられずにいた頃とは、景色も変わったろう。
「目に見える傷跡はいずれ消え失せる。しかし、凄惨な記憶はきっと、まだまだ根強くあるのでしょうね……」
 こつ、こつ、と。
 塀の上に腰掛けて、月明かりに影を落とす姿がある。
 天に昇っていく月に、豊かな銀髪を一層煌めかせて。ブーツで軽く壁を鳴らしながら、村を眺める亜夜だ。
「心に残った記憶は簡単には消えないでしょうから──まぁ、私自身が綺麗さっぱり記憶飛んでるんでなんともですが」
 呟きつつ、ほんの少し自身を見下ろした。
 亜夜には十五歳以前の記憶がない。
 UDCアースで普通の人間として生活した後、猟兵の身となって初めて自身にヴァンパイアの血が流れていると知ったほどだ。
 だから、村人を知ったふうに言うつもりは無いけれど──それでも判ることはある。
 前向きに復興へと向かう者は確かに多い。
 だが全員が全員、そうではなかった。
 未だ、何か別の支配が降りかかるのではないかと怯える人。友人や知り合いが傷ついた者。長く続いた暗い日々に心が擦り減ってやまぬ者達。
 一辺倒に平和が訪れたとは言えない空気が、まだこの村には残っている。
 ただ、猟兵達の協力で状況がだいぶ改善されているのも事実だろう。それでもまだ、心が疲弊している人がいなくならないというだけのことで。
「とはいえ、それを癒やすことも出来るでしょう」
 くるりとマントを翻す。
 手で勢いをつけて塀からジャンプ。綺麗に宙返りして飛び降りた。音もなく着地した亜夜の姿は美事だったことだろう。
 尤もそれは誰が見ているということでもなく──ただ亜夜の中でカッコいいから、という以上の理由はなかったけれど。
「ふふ……さて、行きましょう」
 すたすたと歩んでいくと、寄合所に辿り着く。
 そこは人家の他では数少ない、人の集まる場所だ。屋根と塀、申し訳程度の床や椅子で造られたもので、復興が始まってからは集会所や臨時の役場の代わりにもなっている。
 村人達は亜夜を丁寧に迎えた。
「戦士様。訪ねてくださったのですね」
「その呼び方はくすぐったい気がしないでもないですが──」
 亜夜は視線を巡らす。そこには家が壊れて住む場の無い者や、一人でいることに不安を感じている人々がいた。皆でいれば、少しは寂しさも紛れるというように。
 亜夜はその一端に座って、隠し持っていた楽器を取り出した。
 幼い子や女性がそれに興味を抱く。
「それは?」
「ハーモニカです。村には無いでしょうかね」
 亜夜の言葉と金属塗装の美しい煌めきを、不思議なものを見るようにしている村人達だった。
 その中で、亜夜は一曲奏でる。
 伸びやかな旋律。反響し合う和音の、美しい響き。
 心を癒やすことに、音楽は大きな役割を齎すだろうと亜夜は思っていた。
 賑やかになってきた村だが、まだまだ必需品以外の彩りは少ない。だから音がある場所には自然、人も集まる。
 そうして興味を持った皆で一つの音に耳を傾ければ、気分も変わるだろう──と。
 描くメロディは、月明かりに似合う優美なものだった。
 音楽の知識は、趣味程度のものではあったけれど。
(「心でカバーですよ心で……くふふ」)
 事実、ハーモニカ一つで鳴らす静やかな音楽は皆の心にも溶け込むようだ。
 こうしたきっかけがあれば、人は元気を取り戻すこともある。
 あの悪夢のような闇夜は消え去った。
 これからはあの月の光もこの地に届くだろう。
 だからきっと、彼らは立ち上がり歩いていける。
 亜夜の思いが形を取るように、澄んだ音律が空へ昇ってゆく。それが月光に溶けるように、朗々と響き渡っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

デナイル・ヒステリカル
今回戦ったオブリビオン。
繁栄を目的として支配と強制を選択した、ラグナソピア。
主張こそ到底受けれられるものではありませんでしたが、その行動は、僕に少なくない影響を及ぼしました。
「反面教師として、ですが」

僕は村の助けになりたいと思いますが、第二の彼女になるつもりはありません。

今暫くの間この村へ逗留し、村の方達と共に泣き、笑い、苦労して、
彼らの日々の労働を、ほんの少しずつ手伝いたいと思います。
事前に調査した世界知識は役立つかもしれませんが、僕の持つ装備やユーベルコードなどの、この村に不相応な超常の能力は使用しません。

そんな物に頼らなくても、彼らは前を向いて平穏に生きていけると証明して見せます。



 電子が奔り、蒼色の四角形を作る。
 頭脳の中で画面となったそれは、集積されたデータから情報を表示する。
 光輪を湛えた女性の顔と、付随して記録されたメモの数々。
 ──今回戦い、討ったオブリビオン。
 その注釈の傍に、女性の名は書かれていた。
 “ラグナソピア”。
 繁栄を目的として支配と強制を選択した、異端の神。
 柔らかな笑みを浮かべて、最後まで自身の正義を疑ってやまなかった存在。
 骸の海に沈む前の彼女がどういったものだったのかは不明。少なくとも、戦った彼女の主張は到底受け入れられるものではなかった──けれど。
「彼女の行動は、僕に少なくない影響を及ぼしたと言えるでしょうね」
 呟くデナイルは、しばしその思いを反芻していた。
 同時にゆるりと首を振る。
「反面教師として、ですが」
 目を開き、視界を戻した。
 そこは村の寄り合い所。
 屋根や壁、床や設備も幾分しっかりとしてきたろうか。どこをとっても、当初より整頓された見目になっていることが判る。
 そこに一人の女性が通りかかった。
「あら、デナイルさん」
「どうかされたのですか? 確か、この時間は旦那さんの手伝いをされているはずでは」
 デナイルが尋ねると、彼女は家のある方に目を向けていた。
「また子供がぐずっちゃって。見てないと大変だから」
「なるほど。僕が少し、見ていましょうか」
「いいんですか?」
 うなずいたデナイルは、ひとまず彼女と共に家に行く。三人暮らしであるその家には、今は子供がぐずる声が響いているばかりだ。
 デナイルはしゃがんで、まだ幼さの残るその子へ顔を近づける。
「大丈夫ですよ。お父さんはすぐ帰ってきますから」
「……こわい化物に、連れていかれない?」
「ええ。今はきちんと家を建てるお手伝いをしていますからね。皆の為に」
 すると彼は少し泣き止んだ。
 この子供は、村が支配下にあるときに父親が危険な目にあったことから、今でも不安になって泣き出すことがあるのだった。だからデナイルは時々こうして様子を見て、かまってあげている。
 そうして母親と父親が仕事を終えるまで見てあげると──次は通りを歩み出した。
 村には、段々と建物が増え始めている。
 瓦礫は殆ど無くなって、ようやく再建が本格化しだした、というところだろう。
 少しずつ、けれど確かに。村は平和な村としての形を持ち始めている。
 と、通りがかりに手押し車を押す男性を見つけて、デナイルは声をかけた。
「手伝いましょうか。僕もさして力自慢というわけじゃないですが」
「助かりますよ! 一人で運ぶより全然いい」
 というわけで、荷物を積んだそれの移動を手伝っていく。
 これが意外に中々の労働で、広場まで行く頃にはデナイルにも多少の疲労が残った。
「いやあ、ありがとうございました。苦労かけちまって」
「必要ならまた声をかけてください」
 デナイルが言うと、彼は人懐こく笑った。もう何度も会話を交わしているから、親しみもあるのだろう。
 それは彼に限らない。今では道行く人の多くがデナイルに声をかけていく。
 あれから、数日が経っていた。
 デナイルは村に逗留し、村の人々と生活を共にしている。
 日々の労働をほんの少しずつ手伝い、話を聞いて。同じ時間を一緒に過ごしながら。
 広場の中を歩いていくと、再建を進めている者達が目を向けた。
「今、丁度新しい噴水を設置するところです。これで広場の中心部は完成ですから──皆で一緒に立てませんか?」
 彼らが指す場所に、横たえられた石材がある。
 丁寧な細工が施されていて、広場の中心に見合った見栄えのものだ。あれを縄で引き上げて、地面にある水の出口と繋げて噴水にするのだ。
 残る作業は、滑車と繋がった縄を引くだけ。それが大仕事なので多人数が集まっているというわけだった。
 勿論、と頷いたデナイルは皆と共に縄を握る。
 重りは石が担っているが、それでも人力が必要だ。皆で掛け声をかけて、少しずつ石材を直立させていく。
 この作業も含めて、デナイルは超常の力を使ってこなかった。
 村の助けにはなりたいと思ったけれど、第二の“善神”になりたくないと思ったから。
 環境を大きく変えたりはせず、村人と共に泣き、笑い、苦労したい思いがあったのだ。
 そうして最後には、特別な力や道具に頼らなくても──彼らが前を向いて平穏に生きていけることを証明したかった。その道筋を見届けることで。
 一口にそれが成った、というにはまだまだ時間は必要かもしれない。
 けれど、人々は今も前向きだ。
「もう少しで立つぞ……やった、噴水の完成だ!」
 石材が真っ直ぐに立つと──丁寧に形作られた噴水口から水が出て、せせらぎのような音を作り始めていた。
 それはオブジェであり、モニュメントであり、人々の希望の道筋の一つ。
 石畳は作業中だし、柱もまだ立っていない。けれど、以前の造りを参考にしながら新しい色も加えたその広場は、確かに村のシンボルとなってゆくだろう。
 それを村人達は感慨深そうに見つめていた。
 見ているデナイルの心の中にも、去来するものはあったろう。
「デナイルさんや、皆さんのおかげだ」
 村人の言葉に、デナイルは相槌を返す。けれどもう彼らは自分達で歩み出しているのだろうという実感があった。
 月が出始めている。
 その綺麗なものを綺麗なものとして、彼らは享受できるだろう。
「少し、歩きますか」
 デナイルは背を向けて歩を踏み出す。
 時間と共に空が翳ってきた。でも月は一層明るい。それはきっと、昏き闇も照らし出す程の眩さだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月26日
宿敵 『繁栄の代行者・ラグナソピア』 を撃破!


挿絵イラスト