帝竜戦役⑤〜狡猾竜、怯懦す
●潰えぬ徒花
かつて群竜大陸へと渡った数千人の「勇者」達。
その足跡の最期の地が、この勇者の墓標である。この地にてヴァルギリオスと相討ちになり全滅した勇者たちの戦いで穿たれた竪穴が今も存在している。
そこに『狡猾竜』ド・ガルは座していた。だが、ド・ガルは苛立っても居た。
なぜならば、本来の計画通りであれば、このアックス&ウィザースを滅ぼすためにもう数日で彼の好む人々の恐怖や絶望に歪む顔を存分に味わうことができたはずなのだ。
だが、結果はどうだ。
猟兵達の予知により、帝竜ヴァルギリオスの計画は前倒しを余儀なくされ、ド・ガルもまた、この竪穴穿たれたる地にて猟兵を迎え撃たねばならない。
「見たかったのは、無力な人間たちの絶望にむせぶ顔だというのに……何故、猟兵などの相手をせねばならぬ……!」
だが、帝竜戦役で猟兵を討ち果たせば、ド・ガルの望むものも手に入る。それまでは、この竪穴にて猟兵たちを闇討ちし、打倒して時間を稼ごうではないか。
ド・ガルは狡猾竜と呼ばれる所以はそこである。自身の目的のためであれば、どんなこともする。
他の竜種たちが、その誇り故に出来ぬことでも、容易く出来るのだ。
「この深き竪穴であれば、猟兵達も無理には行動できまい……そうでなくとも、この残留思念の鬱陶しさは、奴らであっても踏み込むことをためらうであろうからな」
だが、ド・ガルの言う残留思念が彼にとっては最大にして致命的な計画の綻びであった。
オブリビオンであるがゆえに忘却の彼方にあった記憶。
己を討ち果たした者たちがなんであったか。そして、この地の名がなんであったのかを、考えるべきだったのだ。
「―――相変わらず、でけェ図体を縮こまらせてよォ……今でも巣穴の中に隠れるのだけは上手いみてェだなァ!おい!」
その声は字面だけみれば、荒々しい男性のものであっただろう。だが、その声は美しい女性の声。気性の荒さ、そして、何者にも屈しぬ誇り高さを兼ね備えた声。
その巨体を揺らして、ド・ガルは顔を見上げた。
「な、なんだ、この声は!?どこから……まさか、この残留思念だとでもいうのか!?ここまで強く響くほどの力は無いはずだ……!」
竪穴に集まる残留思念が色濃くなっていく。それは色濃くはなっていくものの、実体化するまでには至らない。
「ちまちました小心者なのは蘇っても変わってねェようだなァ!ええ!くそでけェ図体があるんだから、真っ向勝負しろよ、なァ!」
それは嘗て、この地にてヴァルギリオスと相討ちになった数千の勇者の内が一人にして、『狡猾竜』ド・ガルを討ち果たした女傑の残留思念であった。
ド・ガルは震える。それは記憶には無くとも、脳裏にこびり着いた生前の恐怖そのもの。
故に、怯懦したのだ。過去の化身として蘇って尚、己が晒される運命に―――。
●帝竜戦役
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを出迎え、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)は、頭を下げる。
すでに帝竜戦役が勃発し、猟兵達の進撃は予断を許さぬとは言え、順調に群竜大陸を踏破していた。
それに喜びたいところであるのだが、まだ帝竜戦役は始まったばかりである。自身が浮かれてはならないと気を引き締めるのだった。
「お集まり頂きありがとうございます。みなさんのご尽力により、群竜大陸の新たなる一角を攻略するルートが確立されました。今回みなさんの挑んで頂くのは、勇者の墓標と呼ばれる大きな竪穴穿たれたる大地です」
かつて、生前のヴァルギリオスと戦い、その地にて相討ちとなった数千の勇者たち。その最期の地が、この勇者の墓標と呼ばれる地であるのだ。
「この地にて確認された『狡猾竜』ド・ガルを討ち果たして頂きたいのです。狡猾、との名を冠する通り、このオブリビオンは強力かつ知恵の働く敵なのです」
だが、今回このド・ガルの周囲にはかつての勇者たちの残留思念が漂っている。
強力な敵ではある。しかし、今回に限って言えば、かつてド・ガルを討ち果たした勇者の残留思念が、ド・ガルの狡猾な立ち回りを萎縮させているのだという。
「そして、この勇者の残留思念と心を通わせ、そのパワーを借りることによって皆さんの力は更に強化されるのです。このかつての勇者である方とどのように心を通わせるのかは皆さん次第なのです」
どうやら、女性の勇者であったようだが、女性らしいというよりは姉貴分的な気風の良い性格であったようだ。
ド・ガルのような狡猾な、回りくどいことをするような者との相性は非常に悪いことはうかがえよう。
しかし、彼女の助けなくば、ド・ガルは遁走しようと立ち回り攻撃をくわえることも難しくなるだろう。
故に、この勇者の残留思念と心を通わせ、力を借り受け、『狡猾竜』ド・ガルを討ち果たさなければならないのだ。
「私は、皆さんであれば勇者の残留思念と心を通わせることができると信じています。どうか、かつての勇者と共に今一度、『狡猾竜』ド・ガルを討ち果たしてください」
そう言ってナイアルテは、猟兵たちを送り出す。
もう何度目かもわからぬ彼らの背中を見送る瞳は、この心配がきっと杞憂になるであろうことを信じて疑わなかったのである―――。
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『帝竜戦役』の戦争シナリオとなります。
勇者の墓標へ進撃し、『狡猾竜』ド・ガルを打倒しましょう。
※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。
プレイングボーナス……勇者の残留思念と心を通わせ、そのパワーを借りる。
※この戦場で手に入れられる財宝について。
宝物「魂晶石」……かつての激しい戦いの余波で生まれた、高純度の魔力結晶体。1個につき金貨600枚(600万円)の価値。
アイテムとして発行するものではありません。ロールプレイのエッセンスとして扱ってください。
それでは、帝竜戦役を戦い抜く皆さんのキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 ボス戦
『『狡猾竜』ド・ガル』
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POW : 魂喰い
【咥えている『恐慌の頭蓋』】を使用する事で、【今まで喰らった魂で強化された鱗】を生やした、自身の身長の3倍の【嘲笑う悪辣竜】に変身する。
SPD : 呪壊の嵐
【呪詛満ちた暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 死都との再会
【各々がかつて所有していた武器や農具】で武装した【騎士や市民】の幽霊をレベル×5体乗せた【城塞都市】を召喚する。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
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「しゃらくせェ真似ばっかりしやがってよォ!なァ!この私から逃げられると思ってんじゃァねェよなァ!」
その声は『狡猾竜』ド・ガルをして、怯懦させるほどに力強く気高きものであった。
多少乱暴な言葉遣いでは在るが、この声の主である嘗ての勇者、女騎士の気性と生い立ちを考えれば当然のことであった。
女子であるにも関わらず男子として育てられ、またその期待に答え続けてきた連綿と続く騎士の家系。
彼女にとって戦いとは、弱者を護るための戦いである。
だからこそ、『狡猾竜』ド・ガルのやり方は彼女の逆鱗に触れた。
かつて彼女の槍にてド・ガルは貫かれ敗れたという。
その記憶は、過去の化身として蘇ったド・ガルにはない。だが、その脳裏に焼き付くような悪夢は今も尚、ド・ガルを恐怖に震え上がらせる。
「今の私じゃァ、どうにもならねェが……来たぜ、今のお前をぶち倒す奴らが―――!」
ソラスティベル・グラスラン
悪竜よ
貴方が今までに喰らった魂を解放して貰います
その誇り高き魂たちは…勇者たちは
貴方如きに貶められて良い存在ではないのですから!!
竪穴を、遥か上から【空中戦・ダッシュ】
【盾受け・オーラ防御】で全力で守りを固め、突撃!
自由落下の勢いと合わせ先制の体当たりでご挨拶です!
…地の深き底に籠り、闇に隠れ討つ。貴方は本当に竜なのですか?
目を合わせ相対すらもできぬ【勇気】なき者に、
『わたしたち』勇者は、絶対に負けません!
わたしの【勇気】に応えて、古の勇者よ!
その荒々しき力と勇猛、屠竜の力となりて我が手に!【怪力】
巨大となり緩慢となった動きを【見切り】、前へ、前へ
その頭部に、闇を祓う雷を突き立てる為に!!
理解できぬものに恐怖を抱くのは人の性である。
それ故に体は心と直結している限り、恐怖は体を縛る枷となる。それを良く理解していたのが、『狡猾竜』ド・ガルだった。
ド・ガルはわかっていた。
人の恐怖は絶望の呼び水である。絶望は諦観へと変わっていく。ド・ガルは、その瞬間がたまらなく好物であった。その顔を見る度に、己の心が喜悦に満ち溢れるのを自覚していた。
だが、かつての勇者たる女騎士によって討たれた記憶は過去の化身として蘇った今はない。脳裏にこびりつく理解不能な感情によって、ド・ガルは恐怖を抱く。
それが己を目の前にして人間が抱いたであろう感情であることを理解できなかった。
今、目の前に対峙する猟兵―――ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)が声を上げる。
それは宣言であった。
「悪竜よ。貴方が今まで喰らった魂を開放してもらいます。その誇り高き魂たちは……勇者たちは……!」
声が震える。だが、今はそれは無視する。
対峙する竜の巨躯。禍々しき姿。加えた頭蓋が輝き、その巨躯がさらなる変貌を遂げる。
強化されし龍鱗が輝き、ソラスティベルの勇気ある言葉を嘲笑う悪辣竜。優に元の姿の三倍はあろうかという威容。それは言葉を断ち切るには十分すぎるほどの姿であったかもしれない。
勇気。気合。根性。震える足は勇気で止める。ひりつく喉は気合で持って潤す。手にした武器を取り落しそうになる手は、根性で繋ぎ止める!
「貴方如きに貶められて良い存在ではないのですから!!」
スラスティベルの声が勇者の墓標と名付けれた竪穴に響き渡る。彼女の足が駆ける。恐れはもう無い。彼女の心に燃えるは勇気である。
戦わねばならない。貶められし魂たちのために。だからこそ、彼女は蒼空色の大戦斧を振りかぶるのだ。
竪穴に飛び込んだ彼女の振るう大戦斧は硬い龍鱗に阻まれる。金属同士がぶつかるような鈍い音と、手に響く衝撃。
「……地の深き底に子守、闇に隠れ討つ。貴方は本当に竜なのですか?」
悪辣竜と化したド・ガルは嗤う。
何が竜であるか、そんなことなど誰が決めるというのだと。強者とは勝者である。敗者は弱者に他ならず、死せる者は、即ち弱者なのである。
故に、ド・ガルは嗤うのだ。
「目を合わせ、相対すらもできぬ勇気なき者に『わたしたち』勇者は、絶対に負けません!」
ソラスティベルの言葉に呼応するように残留思念が再び色濃くなっていく。
それは彼女の勇気ある言葉に応えるように、彼女の大戦斧にまとわりつく。己の信じる者のために、己ではない誰かのために勇気を振り絞ることの出来る者。
それが勇者という存在なのである。かつての女騎士は見てきた。ソラスティベルのような者を。何人も居たのだ。
勇気を振り絞ることによって戦う者が。
「わたしの勇気に応えて、古の勇者よ!その荒々しき力と勇猛、屠竜の力となりて我が手に!」
「―――あァ!私は、こういう奴らを何人も見てきた!勇気在る者が勇者なんじゃァない!勇気を振り絞って前に進む者こそが勇者!」
ソラスティベルのユーベルコードが輝く。
それは掲げられし蒼空色の大戦斧へと心通わせた勇者の力が籠もった証拠である。蒼雷を纏う大戦斧は、彼女のユーベルコード、我が名は神鳴るが如く(サンダラー)!
「これぞ我が勇気の証明、至る戦火の最前線!今こそ応えて、蒼雷の竜よ!!」
ド・ガルの巨躯が揺らめく。それは動揺そのものであった。だが、こちらには龍鱗がある。死者の魂を喰らい、強化された龍鱗が貫けるはずがない。
「その驕り!その悪辣!その総ての闇を払う雷を突き立てる為に!」
蒼雷を纏う大斧が、音速を超えて振るわれる。
かの狡猾竜の振るう力が彼女を捉えることなどできようはずもない。今の彼女は蒼雷。空を掛ける姿は一条の雷である。
前に進むことこそが、彼女の勇気であるのであれば、まさしく蒼雷の一撃は過たず、狡猾竜の頭蓋へと叩きつけられ、蒼電を勇者の墓標たる暗闇の竪穴に迸らせるのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
ベール・ヌイ
「真っ向勝負でいくよ」
まず、ジャーマンとして勇者に『無音鈴』をつかって「ダンス」による舞で心を通わせます
その後は勇者とあわせるように、真っ向からいきます
真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに
走りながら、あいての攻撃は「激痛耐性」で耐えて
UCを詠唱しながら『鬼殺』で「捨て身の一撃」を放ちます
相手が大きくなろうと関係ありません
竜王は巻き付き、燃やします
アドリブ等歓迎です
勇者の墓標と名付けられた群竜大陸の一端。
底深き竪穴に『狡猾竜』ド・ガルは、猟兵を迎え撃たんと待ち構えていた。だが、この勇者の墓標に残る残留思念によって、本来の計画のまま猟兵を隠れ打倒しようとした算段は水泡へと帰した。
それは嘗ての己を討ち果たした勇者の一人のもの。
「残留思念如きが、我を縛るか!」
ド・ガルの咆哮が木霊する。それは己が恐怖していることを隠すかのような、咆哮であった。
そんな勇者の墓標に鈴の音が響く。
その音の中心にいたのは、ベール・ヌイ(桃から産まれぬ狐姫・f07989)であった。彼女が振るのは無音鈴。玉の入っていない鈴であるが、彼女が振ることによって音が鳴り響くのだ。
かつて数千という勇者たちが散った最期の地。勇者の墓標。その目の前でベールが舞うのは鎮魂の舞であったのかもしれない。
流麗な舞と共に響き渡る鳴らぬはずの鈴の音。
それに惹きつけられたのか、残留思念が色濃く形を持っていく。ぼんやりとだが、目の前に確かに存在する気配。
「ンだよ。何かと思えば、お嬢ちゃんじゃァねェか……舞を収めてくれるのはありがてェンだけどよ」
何もベールのような幼い少女が戦わなくてもいいだろうと、勇者の残留思念が難色を示す。
それはかつて勇者であった女騎士の信条に悖るものであったのかもしれない。弱き者のために戦う。それがかの勇者の戦う理由だったのだから。
しかし、ベールにとって己の幼さは戦わぬ理由にはならない。
「ヌイは真っ向勝負でいくよ」
ベールの言葉はまっすぐと残留思念の女騎士の心へと向かう。
それは変わらぬ意志。己が出来ることを成すために。アックス&ウィザーズの世界を救わんとするために。
「―――……しゃーねーな!じゃあ、行くぜ?」
彼女と女騎士の心が繋がる。心が通ったのだとわかるほどにベールの体に宿るは、勇者の力。
先程の言葉を体現するようにベールは竪穴へと駆ける。そのまま真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに走りながら、竪穴へと飛び込むのだ。
「来たか!猟兵……!」
竪穴の中で巨大化する『狡猾竜』の姿。ド・ガルのユーベルコードによって、元の体の三倍はあろうかという巨躯へと姿を変えたのだ。
だが、ベールは臆しない。振るわれる巨大な爪も、暴風の如き呪詛も、今の彼女には何の関係もない。
痛みなど、彼女の歩みを止めるに値しない。
「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」
詠唱の言葉は紡がれる。手にした鬼を殺すために討たれた刀を堅き龍鱗に覆われたド・ガルの外殻へと突き立てる。
それは切っ先が突き刺さったに過ぎなかった。だが、ベールにとっては、それだけで十分だった。
「不動明王へ願い奉る 御身の力をここに」
それは彼女のユーベルコード、不動明王・倶利伽羅(クリカラノケン)が発動した瞬間であった。その瞬間、突き立てられた刀身が倶利伽羅竜王の姿をした炎へと変ずる。
勇者の力を得たベールのユーベルコードはさらなる力を発揮する。『狡猾竜』がどれだけ大きかろうが、どれだけ龍鱗が硬かろうが関係がない。
炎の竜へと転じた鬼殺の刀身は、ド・ガルの巨躯へと巻き付き、燃える。蒸し焼きにせんばかりの勢いで燃え盛る炎。
それは竪穴深き、勇者の墓標において篝火のように煌々とド・ガルの龍鱗を焼き焦がしていくのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
アメリア・イアハッター
姉貴分の勇者さんならバッチリ気があうかも!
私も旅団の皆のお姉さん分を自称しているからね、ふふん
竪穴であるならば、迷う事なく最上段から身を投げダイブ!
勇者さんとはお話しできるタイミングで話す
同じ女性として、貴女の様な強い人がいた事を知れると勇気がわくよ
貴女も仲間のために戦ったりしたのかな
私もそう
世界、空、自分と友達のために戦うんだ
それらを守るため、力を貸してくれないかな
貴女の代わりに、奴をぶん殴ってくるから!
空中にいるのであれば完全脱力状態になるなんてお手の物
UCを発動しながら風に身を任せ降下を続け、敵UCを食らった後、帽子を敵に向けてUCを返す
更にその暴風に乗り突っ込んで、敵の顔面をぶん殴る!
アックス&ウィザーズ世界において勇者とは群竜大陸へと足を踏み入れ、ヴァルギリオスと戦い相討ちになって全滅した者たちのことを指す。
その勇者たる彼らの最後の地であるのが、この勇者の墓標と呼ばれる大地へと穿たれた竪穴である。
底を見通せぬほどの深く昏き闇。それを覗き込むだけで息を呑む。どれだけの深さであるか、誰も応えることができないだろう。
だが、それでも勇気ある者は、その底へと向かうのだ。何故なら、その底にこそ打倒すべき敵、オブリビオンである『狡猾竜』ド・ガルがいるのだから。
アメリア・イアハッター(想空流・f01896)は群竜大陸の大地を駆ける。
彼女の緑の瞳が見据えるのは、勇者の墓標たる竪穴。そこに彼女の倒すべきオブリビオンがいるのであれば、彼女は躊躇わない。
アメリアとはそんな女性である。彼女が恐れていては、彼女の後に続く者たちもまた恐れに二の足を踏むことになる。
その二の足が決定的な遅れとなって帝竜戦役に影響を及ぼすことになる。ならばこそ、彼女は躊躇わない。
一気に大地を駆け抜け、竪穴へと最上段から飛び込む。それはまるで身投げのようであった。
しかし、彼女には確信があった。グリモア猟兵の語る、勇者の残留思念。その女騎士の気質は、皆のお姉さんを自称している彼女と相性がいいであろうと。
「―――おいおい。いきなり無茶すンなァ……だけどまァ、そういう無茶やる奴ァ、キライじゃァないぜ!」
飛び込み、竪穴へと落下していくアメリアの耳元で聞こえるのは、残留思念の女騎士の声。ほら、やっぱり!とアメリアは人知れず微笑む。
竪穴へのダイブだというのに、微笑むアメリアに女騎士の声が呆れたような、感心したような声色になる。
「同じ女性として、貴女の様な強い人がいた事を知れると勇気が湧くよ。貴女も仲間のために戦ったりしたのかな」
「さァな。私がやれることをやって、私がやれないことは誰かにやってもらっていただけだ。それが強さっていうんなら、そうなんだろうさ」
「私もそう。世界、空、自分と友達のために戦うんだ。それらを守るため、力を貸してくれないかな」
アメリアと残留思念の会話は、ほんの一瞬のことだった。だが、確かに心を通わせた者同士に時間という概念は意味を成さない。
本当に出会った者に、時間と距離は関係なくなる。
だからこそ、アメリアの言葉に女騎士の残留思念は応える。
「あァ、任せたぜ―――!」
残留思念……かつての勇者の力がアメリアの体に染み込んでいく。アメリアは自然と拳を握りしめていた。
ダイブして行く先に、こちらを忌々しげに睨めつけるは『狡猾竜』ド・ガル!大口を開け、放とうとするは呪詛満ちた暴風である。
そうやっていつも不意打ちを狙うことなんて、もうわかっている。勇者の残留思念たる女騎士が教えてくれていた。
だから―――!
アメリアのユーベルコード、Magicians Hat(マジシャンズハット)が発動する。
空中で落下しているというのに、アメリアは完全なる脱力を体現する。呪詛満ちた暴風が放たれ、無防備な彼女へと放たれ―――そして、彼女の……ヤドリガミである彼女の本体である帽子から放たれる。
反射ではない。完全無効化を果たされた暴風を吸い込み、帽子から解き放ったのだ。もしも、失敗すれば、アメリア自身は通常よりも被害を被ったことだろう。
だが、それがなんだというのだ。彼女は恐れない。今の彼女は一人ではない。
彼女を守る残留思念、勇者の力が彼女を守る。
放ったはずの呪詛に塗れるド・ガル。暴風と共にアメリアが突っ込んでくる。
その拳にはVanguard!輝ける先駆けの光灯す旅人の腕が、ド・ガルの顔面へと迫る。
その一撃を放つ。それは彼女との約束であったからだ。
「貴女の代わりに、奴をぶん殴ってくるから!」
その言葉を今、アメリアは実行する。彼女の耳元に響く声。
「あァ―――!やっちまえ!」
快活な声に、アメリアは微笑んでしまう。轟音響き、勇者の力が上乗せされたVanguardの一撃が強かにド・ガルの顔面を打ち据え、その巨躯を打ち倒すのだった―――。
大成功
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棒・人間
ふははは!中々威勢の良い声ではないか!俺の中の魂が滾るぞ!敵はまさに悪の象徴!俺達が斬って捨てるにはお誂え向きの相手というわけだな!
ならば俺も正面から受けて立とう。あのクソ竜に一矢報いたいというのなら力を貸せ!俺の武具に勇者の力を!
強化された鱗で身を包むというのなら俺は破壊力を上げていく。敵の一撃は残留思念で強化した盾で防ぎ、近付いてからこの手にした剣で奴のはらわたを一閃する!俺は……俺は勇者だぁッ!!
猟兵とは、如何なる存在であるのか。
その問いに対する答えを明確に持つ者は、多くはないだろう。
ある者は世界に選ばれし戦士であると応えるだろう。ある者は他者の窮地に駆けつけるバイスタンダーであると応えるだろう。
そのどれもが、誰かを救うために戦うものである。
ならば、勇者と呼ばれる嘗ての群竜大陸にてヴァルギリオスと戦い相討ちになって全滅した者たちも同じ意志を持つ者であった。
だからこそ、幾星霜の時が流れてもまだ勇者の残留思念は、この大地に残っている。
暴虐そのものである竜を許さぬと。世界を滅ぼさんとするヴァルギリオスに対抗しようと。
その言葉は、猟兵に届く。
「猟兵ってェのは、こんな面白いやつもいるのか!クハハハっ!いいじゃァないか!世界は広いな!」
かつての勇者の残留思念である女騎士の快活な声が響き渡る。その声が示すは、棒・人間(真の勇者・f18805)の姿であった。
ブラックタールたる彼の姿は一見すると、唯の棒人間そのものであったのだ。しかし、猟兵とは常識の埒外にあるものである。
見た目と実力は伴わない。
「ふははは!中々威勢の良い声ではないか!俺の中の魂が滾るぞ!」
人間もまた快活に笑い飛ばす。
そこには心地よさもあったのかもしれない。変に遠慮されるより余程、気持ちがいいというものである。
だからこそ、即座に人間と女騎士の残留思念は心を通わせる。なぜなら、人間と彼女の目的は明確に合致しているからだ。
「敵はまさに悪の象徴!俺達が斬って捨てるにはお誂え向きの相手というわけだな!」
「おうよ!あのくそでけェ癖にみみっちィ戦い方をするヤローに勇者の戦い方ってェのを教えてやろうぜ!」
即座に呼応する残留思念と人間の力。
普段であれば、ユーベルコード、セルフ・サジェスチョンによって自分を勇者だと思いこむ自己暗示によって力を増すのだが、本物の勇者に勇者たることを認められているのだ。
これで上がらない男ではない。
しかも、対峙する『狡猾竜』ド・ガルの巨躯は、ユーベルコードによってさらなる強化を施されて強大なる姿へと変じている。
だからそれがどうしたというのだ。自身のこの身は勇者である。体躯の差をなんとする!
「ならば、俺も正面から受けて立とう。あのクソ竜に一矢報いたいというのなら、力を貸せ!俺の武具に勇者の力を!」
勇者だからなんとかなると思う根拠のない自信は、残留思念によって強化されていく。この力の滾りは、今回限りであるかもしれない。
だが、それでも人間の身に宿る力は、尋常鳴らざるものとなっていく。自己暗示が強ければ強いほどに能力が強化されていくのであれば、今の人間に断てぬものなど存在しない。
「あァ!行くぜ!勇者ァ!」
残留思念の言葉は、益々人間の自分を認めてほしいという自己顕示欲を満たし、増大させていく。
ド・ガルが強化された龍鱗にて体を覆うというのであれば、人間は破壊力を上げていく。
ド・ガルの巨躯から放たれる爪を強化された盾で受け止める。ずしりと体が沈む。棒人間の姿である人間が受け止められたのは、ひとえにユーベルコードと残留思念の力故。
だが、この力の源は間違いなく人間が勇者たらんとする心故。
だからこそ、彼に今、断てぬものはない。
「俺は……俺は勇者だぁッ!!」
その胴を一閃する剣の一撃は、龍鱗を砕き、その覆われし堅き外皮をも貫き、かつての勇者がそうしたように、両断せしめたのだった―――。
大成功
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ヴィヴ・クロックロック
竪穴に引き籠る竜と言うのもシュールだな…。そして幽霊にビビって身動きが取れない…もう竜と言うよりは子犬、いや子栗鼠…。
竪穴に引き籠るというなら空から爆撃で攻めようか、心強い女傑も味方をしてくれているしここは、彼女にも音頭を取って貰ってあいつの召喚するべき市民や騎士の霊をこちらで先に召喚してしまおう。今こそ叛逆の時。
どういう経緯かはわからんがどうせ碌な縁じゃないだろう。民衆よ騎士よ今こそ立ち上がれ!死んでからでも遅くはない!今こそ邪竜を滅ぼし君たちの手で君たちと愛すべき者たちの仇を取る時だ!あの竪穴ごと吹き飛ばしあそこを邪竜の墓にするのだ!
(アドリブ協調歓迎です)
かつて数千という数の勇者たちがヴァルギリオスとの戦いにおいて、相討ちとなった戦場の痕。
それが大地に竪穴を穿ちし、勇者の墓標。
今そこは、群竜大陸にてオブリビオンが猟兵を迎撃しようと待ち構えている。本来であれば、『狡猾竜』ド・ガルは、この昏き竪穴に潜み、進撃する猟兵たちの足止めをし、時を稼ごうとしていた。
だが、この地に宿る勇者の残留思念によって、その目論見は看破された。それ故に、本来の狡猾さは失われ、正面から猟兵たちと相対せずにはいられない状況に立たされていたのだ。
その様を見て憐れと思う者もいたかもしれない。
だが、ヴィヴ・クロックロック(世界を救う音(自称)・f04080)は、呆れ果てていた。
「竪穴に引き篭もる竜というのはシュールだな……そして、幽霊にビビって身動きが獲れない……もう竜というよりは子犬、いや子栗鼠……」
彼女の言葉に残留視線が吹き出す気配がする。
この勇者の墓標へとヴィヴがやってきた時に聞こえてくる声に彼女は応えていた。その残留思念を心強いと感じていた。
「クハハッ!子犬どころか、子栗鼠と表現するかよ!ダハハ!あんだけ、図体してて、そういうとこあんだよ、あれァ!まァ、私が前ぶちのめしたんだけどな!」
勇者の残留思念たる女騎士の声が快活に笑い飛ばす。
同感である、とヴィヴは頷いて、彼女との心が通い合っているのを感じるのだ。
「竪穴に引き篭もるというなら、空から爆撃で攻めようか―――星辰より染みいでよ!いざ出航!」
彼女のユーベルコード、鬼宿船団・アンナトラ(キュシュクセンダン・アンナトラ)が発動する。
それはミュージック鳴り響く爆発物で武装せし、ガレオン船団!
その音頭を取るは、彼女が心強い女傑と感じる女騎士である。女騎士の音頭は残留思念では在るが、ヴィヴの力となってユーベルコードへと流れ込む。
それは本来、ド・ガルのユーベルコードによって呼び出されるべき城塞都市に存在する亡霊たちを強引に此方側へと先んじて召喚するという力技であった。
「いいねェ!相手の出鼻をくじくってェ意味ではサイッコーじゃァないか!」
ヴィブのユーベルコードによって先に召喚され、ガレオン船団に乗り込む嘗ての市民や騎士たちの霊が女騎士の残留思念に先導されて鬨の声を上げる。
「今こそ叛逆の時……どういう経緯かわからんが、どうせ禄な縁じゃないだろう。民衆よ騎士よ。今こそ立ち上がれ!死んでからでも遅くはない!」
そう、ヴィヴの言葉は真である。
人は負けない。殺されてしまうかも知れないけれど、負けはしない。
そういう生き物であるのだ。人間というものは。死して魂を縛るユーベルコードがなんだというのだ。
ユーベルコードであるのなら、ヴィヴもまた持っている。ミュージックが鳴り響く。
それは竪穴にて立て籠もるド・ガルの鼓膜を強かに打ち据える大音量。聞け、狡猾竜!
「今こそ邪竜を滅ぼし、君たちの手で!君たちの愛すべき者たちの仇を取る時だ!」
ヴィヴの言葉は一斉にガレオン船団の霊たちの魂を震わせる。
戦わなければならない。奪われたというのならば、奪い返さなければならない。滅ぼされたというのならば、滅ぼさねばならない。
ンだよ、と女騎士の残留思念は良いところをもっていかれた、とブツブツ言うが、その声色は驚くほど優しかった。
それをヴィヴは耳にしたが、彼女が今すべきことは共感ではない。それは―――。
「あの竪穴ごと吹き飛ばし、あそこを邪竜の墓にするのだ!」
ヴィヴの宣言が響き渡る。
かくて、空を飛ぶガレオン船団から放たれる爆発物は竪穴に立て籠もるド・ガルを蹂躙し、鳴り止まぬミュージックと共に爆音をいつまでも鳴り響かせるのだ。
それが滅ぼされし城塞都市の者たちへの鎮魂歌となると信じて―――。
大成功
🔵🔵🔵
鈴木・志乃
一個だけ言っておく。あたしはてめぇみたいのが大嫌いだ。
UC発動。破魔の力を籠めたオーラ防御を展開。
暴虐の限りを尽くしたばかりか、蘇っても尚牙を民衆に向けようとする。それが力を持つ者の取る態度か。生命を恐怖に陥れるのがそんなに楽しいか。
お前のようなやつは絶対に許されない。人々の為にもここで討つ。
これでも昔は街の守護者だったんでね!
第六感で風の流れを見切り、逆に利用してユミトに乗って高速接近。多少の揺れや風の摩擦はオーラ防御と高速詠唱(必要なら全力魔法)でどうにかする。そのまま鎧砕き出来る魔改造ピコハンでぶん殴るか、光の鎖で捕縛(2回攻撃)
姉さん、今だもう一度ぶっ刺してやれよ11
『狡猾竜』ド・ガルが嘗て滅ぼした城塞都市があった。
それは最早記録にも残っていない古き都市。だが、確かにそこに存在していた人々を恐怖と絶望に陥れ、それを喜悦としたのだ。
過去より蘇りし化身となった時点で過去の記憶は失われている。だからなんだというのだ。
怒りに震える。力がみなぎる。
その怒りは嘗ての誰かのものと同じものであったのかもしれない。過去の化身として蘇る前にド・ガルを討ち果たした勇者と呼ばれし女騎士の感情と同じであった。
許されない。
昏き竪穴……勇者の墓標と呼ばれる、その地の底にて『狡猾竜』ド・ガルと対峙するは、鈴木・志乃(ブラック・f12101)である。
「一個だけ言っておく。あたしはてめぇみたいのが大嫌いだ」
静かに怒気籠もる声とともに志乃は、ユーベルコード、Ray of Hope(レイオブホープ)を発動する。
駆けろ、希望の流れ星と祈りを捧げる言葉と共に現れたる天馬精霊ユミトへと騎乗する。破魔の力を込めしオーラが彼女たちを包み込む。
「あァ、まったくもって同感だよ」
その言葉は勇者の残留思念。志乃の言葉は、たった一つで女騎士と心を通わせる。
許せない。その気持は、かつて女騎士も抱いた感情と同じであったからだ。
「暴虐を尽くしたばかりか、蘇っても尚、牙を民衆に向けようとする。それが力を持つ者の取る態度か」
志乃の言葉は、ド・ガルへと届いた。しかし、嗤う。ド・ガルはおかしそうに笑ったのだ。
それは彼女にとってはさらなる感情を呼び起こす。
「力を持つからこそ、力なきものを支配できる。力なきもの言葉ほど空虚なものはないだろう。強者とは力を持つものであり、弱者の生命を自由にできる権利である!」
その言葉に、志乃の感情は爆発する。
その感情の爆発は女騎士と共鳴する。力があふれる。力あるものが強者であり、力弱き者を自由にしていいというのなら―――。
「生命を恐怖に陥れるのがそんなに楽しいか。お前のようなやつは絶対に許されない。人々のためにも此処で討つ。これでも昔は街の守護者だったんでね!」
強者はさらなる強者によって蹂躙されるのだ。
それをかつて身を持って痛感したであろうに、その記憶すらなくしたからこそ、ド・ガルは怯懦するのだ。
放たれる呪詛満ちる暴風を騎乗した天馬精霊と共に風の流れを読み切って躱す。逆に暴風を利用して一気にド・ガルへと接近する。
暴風に依る呪詛はオーラが防いでくれる。高速詠唱によって放たれる全力魔法が襲い来る呪詛を撃ち落としていく。
「一気に行こうぜ―――!力は私が込める、アンタは遠慮なくやっちまいな!」
残留思念の力が光の鎖となってド・ガルの体を拘束する。
「いいや、姉さん!もう一度ぶっ刺してやれよ!!」
志乃の声が響く。
それは過去の再現である。残留思念の力が流れ込んだ何の変哲もない魔改造ピコハンをさらなる激痛放つ一撃となって、ド・ガルの龍鱗を砕き、絶叫を響き渡らせる。
それは志乃の怒りであり、暴虐に晒された民衆の悲哀を晴らす一撃であった―――。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◆SPD
あの竜は何かに怯えているようだ、勇者の残留思念の影響だろうか…?
しかし残留思念が勇者の物なら、こちらにとっては鬱陶しいどころか心強い存在に他ならない
あの暴風を突破できれば攻撃に移れる筈だ
俺一人では不可能だろう、勇者の残留思念に呼び掛けて助力を求める
「あの狡猾竜を見過ごせば、この世界の為にならないのは明らかだ
オブリビオンとして蘇ったなら今一度、骸の海に送り返したい
その為に、力を貸して欲しい」
勇者の助力を得る事ができたら敵に接近、暴風の影響を受けない状態でユーベルコードで反撃する
こちらはあえて正面から突破して攻撃を通してみせる
なにせこちらには勇者がついているん、下手な小細工は必要ないだろう
怯懦する。
それは如何なる理由からか。その理由を『狡猾竜』ド・ガルは知らない。記憶にない。それは過去の化身であるからだ。
生前の記憶は失われる。だからこそ、その体、脳裏に焼き付く忌々しい悪夢がオブリビオンの体を縛る。
ド・ガルにとっての最大の誤算であり、致命的であったのは、この場が勇者の墓標であったことである。
もしも、ここでなければ、ド・ガルはその冠する名の通り、狡猾そのものな能力と知恵を使って猟兵たちを翻弄せしめ、彼らの足を止めたことだろう。
だが、ここは勇者の残留思念が残る大地。
かつてド・ガルを討ち果たした女騎士の残留思念が存在するのだ。その残留思念とは言え、言葉、雰囲気はド・ガルを怯懦せしめるには十分すぎた。
「あの竜は何かに怯えているようだ……勇者の残留思念の影響だろうか……?」
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、昏き竪穴である勇者の墓標にて幾多もの猟兵の攻撃を受けて尚健在である『狡猾竜』ド・ガルの姿を捉えていた。
この大地に満ちる残留思念を竜であるド・ガルは不快に思っているようであるが、この残留思念が数千と散った勇者の残留思念であるというのならば、こちらにとっては鬱陶しいどころか、心強い存在に他ならない。
しかし、かの『狡猾竜』ド・ガルの放つ呪詛満ちる暴風は脅威である。
あの暴風が吹き荒れる以上、シキは攻撃に移れない。彼の扱う武装がハンドガンである以上、暴風は弾道がそれる要因になりかねない。
どう考えても己だけでは不可能だろうと判断する。決断は早かった。即決であった。
「あの狡猾竜をミス超えば、この世界の為にならないのは明らかだ。オブリビオンとして蘇ったなら今一度、骸の海に送り返したい」
シキの言葉は偽りではなかった。己を飾ることもしない。見栄が何の意味を成さないことをシキは知っている。
己ができることと、己ができないことをシキは自覚している。だからこそ、勇者の残留思念へと助けを求めるのだ。
それは勇者の残留思念たる女騎士の心へと通じる。
「だよなァ。アンタの武器は飛び道具だしなァ。あの風はクソうぜェだろうしなァ……ンで?」
目的は分かっている。だったら、どうするのだと。残留思念の言葉は突き放すような言葉面ではあった。だが、声色は優しかった。
これが勇者と呼ばれる者の言葉なのだな、とシキは頷く。
「その為に、力を貸して欲しい」
誰かのために、己の力の範囲外を求める。だというのであれば、それは嘗ての女騎士も通った道だ。己ができることは己が。己ができないことは、他の誰かに頼る。
そうやって数千の勇者たちもまた戦ってきたのだ。
シキの体には残留思念を通じて流れ込む力によって、ユーベルコードの輝きがましているのを実感していた。
古の勇者の力とは、これほどまでのものであるのかとシキは竪穴を駆け下りる。
見据えるのは、『狡猾竜』ド・ガル!勇者の加護は呪詛満ちる暴風を無効化していく。
打ち払うように暴風は引き剥がされ、無防備なド・ガルの姿が晒される。
ならば、もはやシキには正面から突破する以外の選択肢はなかった。
「なにせ、こちらには勇者が付いているんだ。下手な小細工は必要ないだろう。正面から―――突き破る……!」
ハンドガン、シロガネを構え駆ける。残留思念によって強化された身体能力は、まさに野に放たれた猟犬そのもの。
一気に暴風剥がされたド・ガルへと肉薄する。一瞬で距離を詰めた、ド・ガルの龍鱗にハンドガンの銃口がぶつかる。
零距離。
「全弾くれてやる」
この至近距離で回避する術はない。弾倉内の弾を全て撃ち切る高速の連射が放たれ、フルバースト・ショットの凄まじい連射音が、勇者の墓標に手向けのように鳴り響くのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
水貝・雁之助
真っ向勝負かあ
んー、ならそうなる様に敵を追い込んでぶちかます感じで行くしかないかなあ?
人を傷つけ虐げる様な奴は大っ嫌いだしね!
お前に何もやらない!
人の未来を汚せると思うなクソ野郎!
竪穴という『地形の利用』をし大岩を竜目掛けて堕としたら即UC発動
『地形の利用』をし獅子が乗れる竪穴の突き出した部分を『見切り』其処を足場に跳躍
敵の目目掛けて獅子と共にぶちかます
又、暴風は『地形の利用』をし土壁で防ぎ『敵を盾にする』つまり敵の竜自身の体が攻撃の邪魔になる様に誘導しながら移動
敵の目にぶちかましたら後は其の傷を広げる様に竜自身の体を地形に見立て走り回り竜の体という『敵を盾にする』様に位置取りながら戦っていく
勇者の墓標となった群竜大陸に穿たれし竪穴は、今や猟兵を迎撃するための大地であった。
『狡猾竜』ド・ガルにとって、そこは己が身を隠すには容易き地形であり、闇に紛れ、姿を隠し、猟兵を翻弄するに適した戦場であったのだ。
だが、誤算があったのだとすれば、その大地の名である。そう、勇者の墓標。その所以は、この地にてヴァルギリオスと相討ちになり全滅した勇者たちの残留思念が残るためである。
ならば、かつてド・ガルを討ち果たした女騎士たる勇者の残留思念もまたこの地にて残っていたのは、致命的な計算違いであったことだろう。
「あァ、あァ、もう本当にどうしようもねェなァ!くそでけェ図体も、宝の持ち腐れってェやつだ!」
あの声が響く。怯懦する。恐れる。違う。己が恐怖を齎す側なのだ。だというのに、何故体は震える。
生前の記憶はない。だが、この脳裏に響き渡る恐怖は一体なんだというのだ。
『狡猾竜』ド・ガルは十全たる力を発揮できぬままに竪穴に籠もるしかなかった。
それはだまし討ち、不意打ちを得意とするド・ガルの力を減ずるには十分であった。
だからこそ、猟兵が行うは真っ向勝負である。
水貝・雁之助(おにぎり大将放浪記・f06042)は、思索する。真っ向勝負を嫌うのは、ド・ガルである。ならば、そうなるように追い込みをかけるのが、己である。
「人を傷つけい虐げる様なやつは大っ嫌いだいね!」
雁之助の心根は燃える。こうなれば、かの暴虐の徒であるオブリビオン、『狡猾竜』ド・ガルには何もやらない。やらせはしない。
竪穴のそこに陣取るド・ガルを確認すれば、周囲の地形を瞬時に理解する。この大岩であれば、落とせる。
そう判断して、ド・ガル目掛けて叩き落とす。即座にユーベルコード、ライオンライドによって呼び出された巨大な黄金のライオンへと騎乗する。
彼の瞳が捉えるのは、竪穴の地形を熟知した立ち回り。
如何に呪詛満ちる暴風が彼らを襲おうとも、竪穴にせり出した岩場を足場に変え、こうげきを見切り続ける。
ド・ガルの目へと目掛けてライオンの爪が放たれる。再び暴風が吹き荒れるが、敵の巨躯を利用した立ち回りで、ド・ガル自身が邪魔になるように動き回るのだ。
それはどれだけ暴風を放とうとも、ド・ガル自身が障害となって一手一手を遅らせていく。
黄金のライオンによるこうげきで傷を広げていく。ド・ガルの巨躯を地形と見立てて、位置取りを極めながら戦う姿は獅子奮迅の働きであったことだろう。
「人の未来を汚せると思うなクソ野郎!」
雁之助とライオンの咆哮が竪穴に反響し、響き渡るのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
卜一・アンリ
そんな大きな翼も広げず穴に篭るだなんて、竜は竜でも土竜なのね、貴方。
敵への射線が通る位置に仁王立ち、
【指定UC】による【クイックドロウ】【乱れ撃ち】。
敵の位置と銃弾の軌道を【見切り】【地形の利用】、跳弾も合わせて四方八方から撃ち貫く。
あら、ここの勇者様は騎士様なのね。
けれどお生憎様。騎士様の後ろに隠れて怯えるつもりはないわ。
今はレディも銃を手にとって戦う時代なのよ。
ああでも、あの土竜さんの急所でも教えて下さると助かるかしら。
(敵の呪詛攻撃は腰に提げる、父から与えられた退魔刀の【破魔】が本人の意図と関係なく相殺していく)
……。余計なお世話。(小さく憎まれ口一つ。)
【アドリブ歓迎】
群竜大陸の一角、勇者の墓標。
それは、かつてヴァルギリオスと数千に及ぶ数の勇者たちが激しい戦いの後に相討ちを果たした、穿たれし大地である。
竪穴の深さは要として知れず。
その昏き闇にて、『狡猾竜』ド・ガルは猟兵を迎え撃つ。身を潜め、隠れ、だまし討ち、闇討ち、あらゆる妨害で持って進撃する猟兵の足を止める算段であった。
だが、その算段を打ち破ったのは、この地にて倒れし勇者の残留思念である。
かつて『狡猾竜』を討ち果たした勇者である女騎士の存在は、ド・ガルをして、怯懦す。
総てはご破算となり、この竪穴にてだまし討ちを封じられたド・ガルは猟兵を迎え撃たねばならなくなったのだ。
「そんな大きな翼も広げず穴に籠もるだなんて、竜は竜でも土竜なのね、貴方」
冷ややかな言葉が竪穴に反響する。
その言葉は放ったのは、卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)である。
『狡猾竜』に敢えて姿を晒す。それは自殺行為であるように思えただろう。
だが、アンリには打ち勝つ算段は既に付いていた。
「吐かせ、小娘が―――!」
ド・ガルの息が吸い込まれる動作をした瞬間、アンリのユーベルコードがきらめく。一瞬の出来事であった。
彼女の手にした悪魔を宿す拳銃を目にも留まらぬ速度で抜き放ち、放たれたる銃弾は乱れ撃たれる。
ゴットスピード・ゲットレディ―――それは神速の銃技。さらなる絶技は、乱れ放たれた銃弾を周囲の地形を見越して跳弾させ、四方八方からド・ガルを襲う。
あまりの超絶スピードによって、暴風を生み出すこともできずに行動を封じられる。
「遅いわ。欠伸をしてしまいそう―――」
だが、そんな言葉は続かない。
たしかに彼女の銃弾はド・ガルの堅き龍鱗に阻まれ、押し止められたのだ。
油断。その言葉が脳裏をよぎる。暴風が彼女を襲う。呪詛満ちる暴風は、彼女の体を塗りつぶさんと濁流のように流れ込んでくる。
しかし、彼女の身は父より与えられし退魔刀の破魔によって相殺されていく。彼女がそれを望んだわけではない。それでも、その退魔刀の破魔の力によってアンリが救われたことは事実であった。
だからこそ、小さく憎まれ口を叩いてしまうのだ。
「……。余計なお世話」
「まァ、父親ってェのは、だいたいそんなもンだよなァ―――娘にァ、おせっかい焼きたくなるもんなんだよなァ」
彼女の耳に届くは残留思念。
女騎士の言葉は、どこか自身と似通った境遇もあったのかもしれない。同情するような、慮るような声色は優しかった。
「……あら、ここの勇者様は騎士様なのね。けれど、お生憎様。騎士様の後ろに隠れて怯えるつもりはないわ。今はレディも銃を手に取って戦う時代なのよ」
その言葉は強がりでもなんでも無かった。
そう、猟兵であれば性別は関係ない。戦うと決意した覚悟に性差は意味をなさない。
「ハッ―――!これまた頼もしいなァ!女も強くなったもンだ!私も安心ってな!」
「ああでも、あの土竜さんの急所でも教えてくださると助かるかしら」
ちゃっかりしてやがるぜ、と女騎士の残留思念は快活に笑う。だが、それでも似通った境遇故か、心は通じる。
それに、と付け加えるように残留思念が言うのだ。土竜っていうのは言い得て妙だなと。
ならば、狙うべきは目であろうと。
「―――ふ、そうね。そうしてみるわ、ありがとう、騎士さん」
その言葉の刹那、神速の銃技が炸裂し、アンリの放った銃弾は違わず、ド・ガルのその眼球を見事に貫いていたのだった―――!
大成功
🔵🔵🔵
ジャム・ジアム
アドリブ歓迎
竜を倒しに命を。勇敢な人
降下前に戦闘の準備を
羽を広げて『ガラス蜘蛛』で【空中浮遊・オーラ防御】
そして
彼女へ敬意を表し『しっぽの針』を槍のように連ね
『護り現』で強化・繫ぎ留める
【念動力・勇気・野生の勘】を駆使し彼女を探りつつ祈る
お願い、あなたの強さをどうか分けて
【聞き耳】で不意打ちに警戒しながら静かに降下
『謎のレモン』の蔦を構えながら
狡い竜を誘き寄せる為、上で拾っておいた石など囮に投げる
現れたら『猛る毒蔦』を発動、【先制攻撃】を狙う
城塞都市が現れるなら埋め尽くしてあげたいわ
女傑の力も借りながら
蔦と強化した針の槍で幽霊たちを払い
狡い竜に一撃を
懲りないのね。何度やっても彼女には勝てないわ
勇敢であることと、勇気あることは似ているようで違うことなのかも知れない。
勇気あるからこそ勇者足り得るのだとすれば、命を捨てる覚悟は果たして勇気であるか。
しかし、群竜大陸、勇者の墓標と呼ばれる大地に穿たれし竪穴にて散っていった数千の勇者たちの魂は、確かに高潔なものであったのだろう。
その残留思念残る場所にてジャム・ジアム(はりの子・f26053)は、それを感じていた。植物と融合した明色の羽が、そよそよと風に揺れる。
その羽を揺らすは、残留思念のかすかな声。
「竜を倒しに生命を。勇敢な人」
「いやァ、最期にしくじったなァって、まァ、そういう感じだけどなァ。だがまァ、何もかもが無駄だった、てェわけじゃァないのが私達の救いだな」
明色の羽が思念を受けて羽撃く。
ジアムの尻尾の針が槍のように束ねられる。それは女騎士への敬意を評した形であった。
銀の薄布が空気の層を形成し、護り現が尻尾の針を繋ぎ止めるように強化していく。
「無駄ではないのが救いなの?」
「あァ、少なくともこうしてお前たち猟兵に後を託せる。それは無駄とは言わねェだろう」
女騎士の言葉は言葉面だけ見れば乱暴で粗暴な言い方だったかもしれない。
けれどジアムの耳をくすぐる声色はとても優しかった。これが勇者であった女騎士の本質であったのかも知れない。
勇猛の裏に優しさを。厳しさの根本に優しさを。その心が通うのをジアムは感じる。
だからこそ、彼女は願うのだ。
「お願い、あなたの強さをどうか分けて」
ふわりとジアムの体が竪穴の昏き空間へと降りていく。静かに、不意打ちに警戒するのは当然のことであった。
『狡猾竜』と呼ばれる所以を知っているから。謎のレモンの蔦を構える。試しに小石でも、と投げると音が反響し……そこへ現れたのは、かつて『狡猾竜』ド・ガルが滅ぼした城塞都市に在りし市民や騎士の亡霊たち。
これが、ド・ガルの所業である。人を恐怖させ、絶望させ、その結果、こうして死した後も己の傀儡として扱う。
それはとても許しがたいことのようにジアムは思えたのだ。
「さあ、埋め尽くしてっ!」
彼女のユーベルコード、猛る毒蔦(タランテラ)が発動する。謎のレモンの蔦が城塞都市へとぶつかると、その地形に沿うように蔦と葉が周辺一帯に生い茂り、埋め尽くしていく。
「ちょっとだけ、ちくっとするかもしれないけれど、ごめんなさい」
尻尾の針は、蔦と葉に覆われた城塞都市において、彼女の力をさらなる高みへと引き上げる。
亡霊たちを強化された針の槍で一蹴し、隠れたるド・ガルへと迫る。
「そこか!くそでけぇ図体は隠しきれねェって何度も言ったろうがァ―――!」
女騎士の残留思念が吼え猛る。ジアムは、その言葉に導かれるようにして、竪穴の昏き闇の中に隠れるド・ガルの巨躯を見つける。
「狡い竜。本当に懲りないのね。何度やっても彼女には勝てないわ」
ジアムの尻尾の針が励起するように残留思念と共振する。
その針と針とがぶつかるように音を立てる。それはまさに数々の兵士が槍の柄を大地へと打ち鳴らすがごとく、怯懦するド・ガルを囃し立てるのだ。
忘れるな。
己が欲望のために弄んだ生命の重さを。ジアムは、その暴れるように打ち鳴らされる尻尾の針を再度束ね、槍へと変ずる。
貫く。その意志は残留思念と共に、ド・ガルの体を嘗ての勇者がそうであったように、打ち貫くのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
(残留思念等の神秘・魔術の力を借りるのも依頼経験で慣れたSSW出身)
●礼儀作法で一礼
私は騎士を志すモノ、A&Wの人々の安寧の為戦いに馳せ参じています
この戦いをご照覧下さい
それを以て、貴女にお力添えを願います!
敵の空中攻撃をセンサーでの●情報収集から飛行速度と体躯を●見切り、●盾受けで受け流し
同時にUCでの●だまし討ちし頭部に掴みかかり
●ロープワークで巻き取り、空中の竜の背に●騎乗
●怪力でしがみ付きながら剣で滅多刺し
少々乱暴ですがお気に召して頂けましたか?
UCを巻き取り首を曲げさせ剣を●投擲
頭蓋ごと口内を●串刺し
落下時は竜を下敷きに着地
ご助力に感謝を
戦友として、お名前を教えていただけますか?
騎士とは己の矜持を守るものである。だが、矜持の前に弱者を守れぬのであれば、騎士である資格もまたないのである。
だからこそ、勇者たる女騎士は嘗て『狡猾竜』ド・ガルを討ち果たした。
己より弱き者を虐げ、その絶望と恐怖に染まる顔を己の喜悦とする悪しき竜は、過去の化身として蘇って尚、それの性根を変えてはいなかった。
変わらぬ者は変わらないのだと、半ば諦めていた。だが、悪しき者が変わらぬように、善き者もまた変わらずに存在するのである
例え、それが機械じかけの騎士であろうとも、変わらないのである。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、スペースシップワールドにて生まれし猟兵たるウォーマシンである。
だが、それでも彼の行動理念、行ってきた数々の行いは、騎士そのものであったことだろう。
だからこそ、トリテレイアは己の力を、志を証明するのだ。
「私は騎士を志すモノ。アックス&ウィザーズの人々の安寧のために戦いに馳せ参じています。この戦いをご照覧下さい。それを以て、貴女にお力添えを願います!」
女騎士の残留思念が揺らめく。
機械じかけの騎士とは、まさに彼女の知識記憶にはない最新の騎士であったことだろう。
トリテレイアは一礼して、勇者の墓標と呼ばれたる竪穴に躊躇なく飛び込むのだ。
飛び込んだ竪穴の先にあったのは、トリテレイアを待ち構える『狡猾竜』ド・ガル。それはすでにユーベルコードにより、巨躯をさらなる強大な姿へと変えていた。
龍鱗はさらに固く、威容はさらに見るものに恐怖を与えんと嘲笑うかのように膨れ上がっていた。
しかし、その威容もはったりである。
トリテレイアは知っている。これまで幾多もの猟兵達の攻撃を受けて、相当な痛手を負っていることを。それを多い隠そうとユーベルコードにて自身を鎧っているのだと。
「―――張りぼての体など!」
トリテレイアに伸びる爪の一撃は、盾によって受け流す。彼のユーベルコード、両腰部稼働装甲格納型 ワイヤー制御隠し腕 (ワイヤード・サブ・アーム)によって、隠し腕が展開され、ド・ガルの頭へと掴みかかる。
ワイヤーが巻き取られ、一気にトリテレイアの機体が距離を詰める。
巨躯となったド・ガルの背中へとのしかかると、手にした剣が突き立てられる。
「騎士の戦法ではありませんが…不意を討たせて頂きます。貴方自身、こういう戦い方はお得意でしょうから……貴方の得意分野にて、潰させていただきます」
暴れるド・ガルの巨躯から振り落とされそうになるも、トリテレイアの体はふわりと中を舞い、着地する。
片膝を尽き、顔を上げると残留思念が集まっているのがわかる。
「少々乱暴ですが、お気に召して頂けましたか?」
「いやァ―――機械仕掛けの騎士ってェのは、すげェな。どうなってんだそれ」
女騎士の快活な笑い声が飛ぶ。
それは感心した、というよりは、トリテレイアの機体としてのギミックに驚きを隠せないようであった。女性というよりは少年のような好奇心が透けて見えるようだった。
まだまだ驚異なる仕掛けは多数。などと言おうものなら、全部見せろと言われるかもしれなかった。
だが、今はそんな時間はあまりない。
「では、共に参りましょう!」
ワイヤー制御隠し腕のワイヤーが巻き取られると、ド・ガルの首が折り曲げるように引きずられる。
如何なる巨躯とて、このユーベルコードの機構には力負けせざるを得ない。傾いた首へと剣を投擲し、口内の頭蓋を叩き割るのだ。
凄まじい轟音と共に、トリテレイアは巨躯たるド・ガルを勇者の墓標たる竪穴の底へと蹴り飛ばし、叩きつけるのだ。
「ご助力に感謝を。戦友として、お名前を教えて頂けますか?」
残留思念とは言え、一時でも共に戦った者の名をトリテレイアは記憶しておきたかった。
ふ、と女騎士の残留思念が笑ったような気がした。そんな風に思えるほどには、トリテレイアもまたスペースシップワールド出身であっても慣れてきたのかも知れなかった。
そして、トリテレイアの記憶に新たなる戦友の名が、また一つ刻まれたのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
領主の令嬢として生まれ、癒しの聖女として祈りと歌を捧げてきた日々
勇者様とは出自も方法も違うけれど、わたくしも弱者を守るために戦ってきました
でも……ある日わたくしは気づいてしまったのです
守られるだけでは、守ってくれた人を傷つける
癒すだけでは、いずれ限界が来るのだと
……だから僕は、今こそこの力を解放するよ
ただ守られるだけでなく、共に並び立ち戦う強さを!
大切なものを守るための鋼の意思を!
【白鳥の騎士】として、共に戦おう!
市民の幽霊たちには手出しせず、極力見切り回避
食らっても激痛耐性と覚悟で耐える
卑劣な罠になど負けるものか!
空中戦を挑み狡猾竜に肉薄
勇気を振り絞り、限界突破した破魔の一撃を叩き込む!
アックス&ウィザーズ世界。そこにかつて在りし勇者たちの軌跡は、群竜大陸のこの地にて終焉を迎えた。
ヴァルギリオスと戦いし数千にも及ぶ数の勇者たちは、この勇者の墓標にて相討ちとなり散っていったのである。
その大地に穿たれし大穴は今や、猟兵達の進撃を阻もうとする『狡猾竜』ド・ガルが待ち構えていた。
己の欲望のために弱き者たちを恐怖と絶望に陥れ、己の喜悦のためだけに力を奮ったド・ガル。その悪しき竜を討たんと、また一人猟兵が、この地へと一歩を踏み出す。
それは雪のように白い髪をなびかせ、青いカスミソウの華を咲かせるオラトリオのヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)であっった。
その玲瓏なる声を以て、ヘルガは領主の令嬢としての生まれ、癒やしの聖女としての祈りと歌を捧げてきた日々に思いを馳せる。
それはかつての誰かのために戦った勇者たちとは出自も方法も違う。だが―――。
「わたくしも弱者を守るために戦ってきました。でも、ある日わたくしは気づいてしまったのです」
その声は過去を思い出して振るえていたのかも知れない。天使の歌声を持つ歌姫として大切に育てられた自身。しかし、自身の安全と引き換えにあったのは、民の犠牲であったことを。
それは忘れてはならない事実。彼女が護られていたという事実である。だからこそ、彼女は気がつく。
「守られるだけでは、守ってくれた人を傷つける。癒やすだけでは限界が来るのだと」
それは独白であったのかもしれない。しかし、この勇者の墓標たる竪穴に浮遊する残留思念渦巻く場では違う。
彼女の目の前に色濃くなっていく残留思念。それは勇者として『狡猾竜』を討ち果たした女騎士のもの。
「男なら、女なら―――なんてェのは、誰かのために強くなれ。守る側も守られる側も一緒だな。だからこそ人は手を取り合って生きていけるんだと、人はいつか気がつくもんだ」
その声は優しかった。ヘルガは頷く。だからこそ、彼女は立ち上がらなければならない。心が通い合うのを感じた。
彼女のユーベルコード、白鳥の騎士(シュヴァンリッター)が発動する。
ヘルガの姿が変ずるは、騎士礼装に身を包み白い翼を持つ男装の王子。その姿は、己の思い描く未来のため。
「……だから僕は、今こそ、この力を開放するよ。ただ守られるだけではなく、共に並び立ち戦う強さを!大切なものを守るための鋼の意志を!」
手にした聖奏剣ローエングリンが光輝く。それは悪意ある者。『狡猾竜』を挫き、これより虐げられるかもしれなかった人々のために戦うと決めたヘルガ自身が放つ光だった。
「あァ。それでいい。男だから、女だからってェのは後回しさ。なけなしの勇気を振り絞って、立ち上がるのが勇者っていうやつなんだからなァ!」
心通いし残留思念の力を受けてヘルガの力が増していく。
「白鳥の騎士として、共に戦おう!」
竪穴へと一気に飛び込むヘルガ。目の前にはド・ガルが放ったユーベルコードによって生み出された城塞都市の亡霊たち。
その中には市民たちの姿もあった。かつてド・ガルによって滅ぼされた城塞都市の市民たちであろう。
死して尚、傀儡とされる姿を見るのは忍びなかった。
「彼らには手出しはしない!卑劣な罠になど負けるものか!」
ヘルガは駆ける。多少の痛手など気にはしない。死してなお、魂を縛られる彼らの痛みと苦しみに比べるまでもない。
空を舞うド・ガルへと肉薄し、剣を振るう。爪が剣を遮る。重い一撃。けれど、負けられなかった。
彼女の中にある勇気を振り絞る。
女騎士の言葉が脳裏をよぎる。なけなしの勇気を振り絞って立ち上がるのが勇者であると。
ならば、今のヘルガもまた勇者である。
「負けない、負けるものか―――!」
限界突破した破魔の力が、聖奏剣ローエングリンへと込められ、まばゆい光を放つ。その一撃は、ド・ガルの巨躯を切り裂き、失墜させるには十分な一撃であった。
聖奏剣ローエングリンの破魔の輝きは、召喚されし城塞都市に囚われた無辜の民たちの魂を浄化し、解き放っていく。
これこそが、ヘルガの目指した戦いの形。その一つであったのかもしれない―――。
大成功
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テイラー・フィードラ
そうか。貴殿が奴を討ち倒したのか。すまないが、可能ならばその力を今一度貸してくれ。
そして、やっと会えたな狡猾竜。国崩しの準備は不要だ、二度と此処に現れぬ様殺さなくてはな!
勇者の魂はその存在だけで勇士であることが分かろう。ならば此方も堂々と立ち向かわん!
フォルティと共に正面へと突貫、振るわれる尾も強烈な風圧も物ともせず進め!面倒な攻撃が来るならば長剣で切り払え!奴を討つ事こそが他者、果てに民への被害を防ぐのだ!
それで更に巨大化?喰らいし魂での補強?
――王たる俺の目前で民を踏みにじるか!
血が湧き立たせ、吸血鬼へと変貌せん!
血濡れた黒翼より飛翔、己が爪牙を以って奴の喉笛を食い荒らし、頭蓋を千切らん!
滅ぼされし国があった。
小国であったと言われるが、それは他国から見た話である。そこに生きる者たちにとっては、己の国は誇り在る国である。
『狡猾竜』ド・ガルによって滅ぼされた城塞都市は、まさにそんな国の一つであった。誇りがあるからこそ、それをくじいた時の悦楽は計り知れない。
恐怖と絶望に染まった人間の顔にこそ、己の享楽がある。
ならば、それを追求し、探求するのは己という生命の責務である。
『狡猾竜』ド・ガルは哂った。己の手の内で潰えていく生命を嘲笑った。なんのために生命が生まれるのかと問われれば、こう応えただろう。
「我に恐怖と絶望の味をもたらすために、生まれ出る。そして、死に絶えていくのが人間の宿命である」
だが、人間は負けることはない。
殺されてしまうかも知れない。死んでしまうかも知れない。だが、それでも、人間は負けはしない。そういう生き物であることを、『狡猾竜』ド・ガルは知らない。
故に、かつての勇者と呼ばれし女騎士の槍の前に斃れた後、過去の化身オブリビオンとして蘇って尚、その人間の持つ力を理解できないでいる。
「そうか。貴殿が奴を打倒したのか。すまないが、可能ならば、その力を今一度貸してくれ」
テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)は、勇者の墓標と名付けられた昏き闇広がる竪穴にて、かつての勇者の残留思念たる女騎士と心を通わせる。
「あァ、二度と蘇ることのできねェように頼むわ。あのクソでけェ図体を何度も見るのはごめんだからなァ!」
残留思念の力がテイラーの体へと流れ込んでくる。古の勇者の力。その力の片鱗が彼の持つ細身の剣へと込められていく。
ありがたい、とテイラーは馬上から礼をする。跨るは屈強の名を持つ筋骨隆々なる白馬。その嘶きは、対峙する巨竜に臆することなどないというかのよううであった。
「そして、やっと会えたな狡猾竜。国崩しの準備は不要だ。二度と此処に現れぬよう……骸の海へ還す必要もない……此処にて因縁を断ち切ってくれよう!」
それは宣言であった。
彼の、テイラーの嘗て指にかかりし物を見果てぬために。
「猟兵ごときが、我との因縁を断ち切るだと?嗤わせてくれる!汝の欲望と我が欲望の何処に違いがある!」
ド・ガルの口に加えたる頭蓋が砕かれる。それは不退転のユーベルコード。その巨躯がさらなる強大な嘲笑う悪辣竜へと変える。今まで食らってきた魂に比例するかのような巨躯に、見上げるものは畏怖を抱いたことだろう。
だが、テイラーを前にしてそれは意味がない。燃え上がる熱情の前にそれはただの焼け石に水である。
「勇者の魂は、その存在だけで勇士であることがわかろう。ならば、此方も堂々と立ち向かわん!フォルティ!」
主の言葉に応えるように白馬が駆ける。その蹄が岩場を難なく駆け下りる。この時、この瞬間こそが主であるテイラーに応えるために駆ける時である。
正面から突貫するフォルティはその名のとおりに疾駆する。強烈な風圧など無いが如く突き進む姿は雄々しく、白き姿はまさに放たれた弓矢の如く。
「―――王たる俺の目前で民を踏みにじるか!」
貴華長剣が襲い来る呪詛に塗れた暴風を切り裂く。
呪詛がなんだとうのだ。その尽くを己は切り払い、突き進む。必ずや、この剣の切っ先を狡猾竜の首へと届かせる。
堅き龍鱗を強化せしは、弄んだ苦悶のままに死せる魂であろう。それはテイラー自身が治め、守るべきはずであった民草のものである。
それを眼前で弄ぶ行為は、彼の逆鱗に触れた。
「その愚行……万死に値するッ!」
彼のユーベルコード、血統覚醒が発動する。
真紅の瞳に輝きしテイラーは、その姿を真なる姿赫灼たる炎髪と紅蓮の瞳へと変貌を遂げる。嘗て簒奪されし総てを、その手に取り戻さんとする吸血鬼。
『狡猾竜』ド・ガルが己よりも高く飛翔するのであれば、さならる飛翔を以て越えよう。そのために己が積み上げてきた研鑽である。
その爪牙が己を引き裂こうと振り下ろされるのであれば、尽くを打ち砕こう。そのために己が錬磨せし爪牙がある。
過去の化身たるオブリビオンである『狡猾竜』ド・ガルには、生前の記憶はない。だが、その脳裏に浮かぶは勇者の一撃の悪夢。しかし、それを塗り替える者が、目の前にいる。
かつてのド・ガルが奪いし数多の生命。その生命が今、過去よりド・ガルを追いかけてきていた。
なんだ?一体なんだというのだ?ここまで執拗に己を追い立てる者は。
「貴様は一体何者だというのだ―――!我が欲望!我が渇望を!邪魔立てするは―――!」
ド・ガルは咆哮する。そこに最早嘲笑はなく。弄んだ生命の数だけ、自身の体が重くなる気がした。
絶望と恐怖を振りまく側であった己が、今、怯懦する。かつては、槍を使う女騎士に。
そして、今は―――。
「王たる俺のものに手を出した不敬……死を持ってしても有り余る不敬である。二度と骸の海より出ること叶わぬと知れ―――!」
テイラーの牙が変貌せし狡猾竜の喉笛を食い荒らし、頭蓋を引きちぎっていく。怨嗟に満ちた声がド・ガルを追い立てるような一撃。
しかし、それで終わるわけではない。次々と外殻たるユーベルコードの体が引きちぎられ、その強化された体躯総てを引き剥がす。
轟音と共に勇者の墓標たる竪穴の底へと叩き落され、テイラーの爪がさらにド・ガルを襲う。
恐ろしい。
なんだ、この生物は。ごぶ、と血を吐いて尚、止まらぬ力の嵐。容易に絶命出来ぬのはなぜか。
引き止められている!簡単には絶命させぬと、容易い死は許さぬと。かつて己が弄んだ生命総てに呪われている。
喉はひしゃげ、龍鱗は砕け散る。翼はもがれ、逃げようにも、それすら許されぬ。
痛みは恐怖となって地を這う。それでも許さぬと振るわれる一撃一撃が、かつて弄んだ魂の代償だというように振るわれるのだ。
「―――……『狡猾竜』よ。お前に二度目はない。俺が、その最期の一撃であるからだ。俺より奪いし……そして、民草より奪いし魂への贖罪となりて霧散せよ」
最期の一撃は、テイラーとの因縁を断ち切る一撃。
過去は過去に。そして、己の胸に去来する思いと共に未来へと進まねばならないのだから―――。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年05月06日
宿敵
『『狡猾竜』ド・ガル』
を撃破!
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