帝竜戦役⑥〜腐敗の戦線
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帝竜戦役。A&W(アックス&ウィザーズ)の命運を賭けたその戦争は、当該世界の上空に浮かぶ群竜大陸で行われていた。
大陸の各所で幾つもの戦端が開かれ、激突の音が空を揺らす。そんな中、一際盛んな戦場は大陸端にある“地獄の古戦場”と呼ばれる場所だった。
沼地にも似たそこは、しかし異様だ。沼と見紛うように満たされた液体は、その色が毒々しい紫色だった。
その正体は辺りに漂う臭いで解る。腐汁だ。
「……!」
腐った沼地の中から、群竜大陸で死んだモンスター達が蘇り、大陸の端を目指し進んでいく。
狙いは一つ。腐汁と共に地上へ落下するつもりなのだ。
それらが成功すれば遥か彼方の大地へ降り注ぎ、世界に大災害を巻き起こすことは確実だった。
なのでそれを阻止するため、集まった猟兵達がモンスター達を塞き止めるように、押し退けるように、戦闘を開始していく。
猟兵達は自分達の背に大陸の終端となる崖を置き、正面には押し寄せて来るモンスター達、そして、
「――!」
敵陣奥から飛来して来る、無数の火球を見た。
敵司令官が放った爆撃だった。
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「――防衛をお願いしますわ!」
猟兵たちの拠点、グリモアベースでフォルティナは言う。
「帝竜戦役……。A&Wの命運を賭けた戦争は、群竜大陸の様々な箇所で行われていますが、皆様に向かっていただきたいのは、“地獄の古戦場”と呼ばれる場所ですの」
群竜大陸、その地図の右下側を示しながら、
「そこでは、A&Wの地上へと落下を目論むモンスター軍団が配置されていますわ。
地上への被害を考えると、これを阻止する必要がありますの」
地図上の、紫色の沼地を指示しながら、言葉を続ける。
「既に多数の猟兵がここで戦闘を開始していることは、皆様も知っているかと思いますが、その後押しとして、皆様に敵軍団の司令官を撃破して貰いたいのです」
つまりは暗殺ですわね、と。
「そうすればオブリビオン達にとって打撃となり、攻勢が緩みますわ」
だが、と言葉は続く。
「戦場に多くのモンスター軍団がいて乱戦の様相を呈していますの……。まずこれを切り抜けないことには、敵司令官に近づけませんわね」
そこまで言うと、フォルティナは開いた手を見せ、そこに光を生み出す。
オレンジ色の光はグリモアだ。
「――まとめますわ」
・A&Wの命運を賭けた戦争、“帝竜戦役”が開始された。
・敵は群竜大陸から腐汁と共に地上世界への落下を目論んでいる。それを阻止する後押しとして、敵司令官の暗殺が必要。
・しかし戦場は乱戦。それらを潜り抜けて接近する必要がある。
グリモアで空中に文字を書き終えると、フォルティナは手中に残ったグリモアの輝きを一層強くする。
「A&Wの命運をかけた戦争……。危険な戦いになるかと思いますが、皆様、ご武運をお祈りしますの!」
シミレ
シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
今OPで26作目です。A&Wは2回目です。
不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。
●目的
・“地獄の古戦場”でモンスター軍団の司令官であるオブリビオンを撃破。
●説明
・A&Wで戦争イベントが始まりました。A&W上空に浮かぶ“群竜大陸”の奥地にいる帝竜ヴァルギリオスを撃破するため、猟兵達は戦場を進んでいきます。
・その道中、“地獄の古戦場”と呼ばれる戦場があります。群竜大陸で死んだモンスター達が復活し、戦場に満たされる腐汁と共に地上への落下を目指しています。
・『サバイバル』で、それを阻止しようとしていますが、その後押しとして、敵司令官の暗殺を行います。
※この戦場でのシナリオ成功ひとつにつき🏅5000を加算します。
●プレイングボーナス
以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス……乱戦を潜り抜け、司令官に素早く接近する。
※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 ボス戦
『崩竜・ヴァッフェントレーガー』
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POW : ネーベルヴェルファー
【自身の周囲に生じた魔法陣】から【何もかもを“崩壊させる”火球】を放ち、【超遠距離からの面制圧爆撃】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : ヴィルベルヴィント
【顎】を向けた対象に、【消失や崩壊を与える速射のブレス】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : ホルニッセ
【自身の“崩壊”すらも省みない状態】に変形し、自身の【射程距離】を代償に、自身の【巨体による攻撃力や機動力】を強化する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フォルティナ・シエロ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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天を衝く咆哮。地面を揺らす踏み鳴らし。ぶつかり、互いに干渉し合う打撃音。
猟兵達が降り立った“地獄の古戦場”は、その名に相応しい轟音が戦場を覆いつくしていた。
見る。
「……!」
腐汁の沼を掻き分けて進軍するモンスターもいれば、沼の中で隠れるように潜水する個体もいる。かと思えば、そんな腐った沼の中から飛び上がり、空へ羽ばたくものだっていた。
それらは一様にA&Wの大地を目指すため、大陸端へと進軍しはじめているのだ。
そこで、絶叫にも似た一際大きな咆哮が聞こえた。
「――!」
敵司令官、“崩竜”・ヴァッフェントレーガーだ。
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猟兵達は思考する。自分達の眼前に広がる現状を、だ。
目の前に広がる沼地の水面上にも、水面下にも、上空にも、モンスターの軍勢が配置されている。
これらを突破しなければ司令官である崩竜にたどり着くことは出来ず、またたどり着いたとしても、
「……!」
崩竜、その名の通り対象を“崩壊”させる能力を持つ竜との戦闘を考えなければならない。
遠距離からの面制圧爆撃、速射のブレス、そして自身の“崩壊”すら顧みない戦闘方法。敵の手段は様々だが、ここで敵を屠ることが出来たのならば、眼下に広がるA&Wの大地が腐汁のモンスター達に蹂躙されずに済む。
「――――」
猟兵達は“地獄の古戦場”へと介入していった。
レパル・リオン
ちょっと苦戦っぽいサバイバル!あたしも助太刀するわよ!
魔法猟兵イェーガー・レパル、今回は『ウィンドカメレオン』フォームに変身よ!
風のスピードとカメレオンのステルスで、敵に気づかれずにボス怪人(オブリビオン)の所に行くわよ!
ダッシュとジャンプなら得意技!最高速で駆け抜けて、ボスのなんかグチャグチャしてそうな体をぶん殴り抜けるわよ!
見えなくて透明な相手を狙って頭を向けられるっていうなら、ぜひやってみてもらいたいわね〜〜!
デタラメに打つ?それくらいは見切ってこそ、スーパーヒーロー・イェーガーよ!
要するに全力で駆け抜けてぶっ倒すって事!みんな、がんばろう!
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崩竜が司令官として座す古戦場に、いち早く駆けつけたのはレパルだった。
「“サバイバル”がちょっと苦戦してるっぽいしね! あたしも助太刀するわよ!」
“サバイバル”。普段であれば猟兵同士の対戦制度は、戦争中の今、その相手を猟兵ではなくA&Wのオブリビオンとなっていた。
すなわち帝竜戦役への対抗として組み込まれ、その現場がここ、“地獄の古戦場”なだ。単独や旅団員とのチームなど参加方法は様々だが、猟兵達は復活したモンスター軍団と戦い、A&Wへの被害を抑えようとしている。が、その戦績が少し不足していることにレパルは気付いたのだ。
「だからここで司令官を倒せば……!」
レパルが見るのはモンスターの進軍で揺れる沼地、その奥だ。そこに司令官である崩竜がいる。
否、正確には、いるはず、だ。
「――!」
遠く、前方から沼地を揺らしてモンスターの群れがやって来る。沼地というロケーションで視界は開けているが、押し寄せる敵の波が厚く、奥にいる崩竜まで見通せない。
「でもまあ、あの波を抜けたら良いのよね」
多数の敵勢に対して、レパルはしかし臆することなく身構え、
「フォームチェンジ! えいっ!」
虚空から引っ張り出すような動きで腕を振るったかと思えば、事実、その腕の先にあるものが握られれている。
風に棚引く柔らかな動きは、衣類のはためきだった。
「魔法猟兵イェーガー・レパル、今回は“ウィンドカメレオン”フォームに変身よ……!」
そう言った次の瞬間、薄い緑を基調としたデザインをレパルがその身に纏われている。
「――――」
衣服の表面に描かれていた流線を思わせる意匠は、しかし一瞬の内に消えていた。
“ウィンドカメレオン”フォーム。その名の通りの特性が、フォーム意匠だけでなくレパルの身体ごと透明に変化せしめたのだ。
そして、
「それじゃ行きましょうか……!」
フォームが持つもう一つの特性が、彼女を後押しした。
「――!」
それは物理的な後押しだった。
誰の目にも映らない透明の存在が、風に乗るように沼地の上を走った。
行くのだ。
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大陸端へと進軍していくモンスター達は、最後まで自分達の周囲に存在した異変に気付くことは無かった。
「――――」
沼地の水面が蹴立つように飛沫いたとしても、自分達が起こす波の方が大きく、それは掻き消える。
「――――」
誰かが自分の身体に触れたとも思ったが、密集して進む最中では不自然ではなく、それは意識の外だ。
「――――」
自分達の間を疾風が抜けても、やはり気づかない。
なのでモンスター達が異変に気付いたのは、もっと直接的な要因によってだった。それは、
「……!?」
自分達の背後、そこにいる司令官から苦悶の叫びが聞こえてきたのだ。
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敵勢を抜けていく最中、レパルは目標を確認した。
ヴァッフェントレーガー……!
敵の司令官だ。モンスター達の体躯の間から見えたその竜は、未だ距離はあるが巨体だということがすぐに解った。
彼我の距離を錯覚しないように、残りの歩数を目で測り、
「――!」
己が定めた場所で踏み切った。ぬかるんだ地面だが、ジャンプとそしてダッシュの得意なレパルだ。十分な助走と踏切によって跳躍は成功し、一気に崩竜との距離を詰めていく。
「……?」
僅かな異変に気付いた崩竜がレパルのいる宙へ緩く顔を向けるが、そこにあるのは透明だ。
やがて、透明の背後に散る泥土に気づいた竜が目を見開き、その泥土にピントを合わせるため、瞳孔が収縮していく。
竜のそんな詳細な変化まで、レパルには見えていた。
それは両者の距離が、最早至近になっていた証拠だった。
「ゃああ……!」
「……!?」
最高速で駆けつけた勢いのまま、レパルの拳が崩竜の身体を打撃した。“崩れ”かけている部分を狙った一撃は、確かに通り、竜に苦痛の叫びを挙げさせた。
鱗ごと抉り飛ばすように“抜けた”拳を素早く引き戻すと、レパルは再度跳躍。
「……!」
崩竜から反撃のブレスがやって来るからだ。
しかしレパルの位置を正しく把握していないため、その狙いは甘い。
「どう狙うかと思ったら……。デタラメに撃っても見切れるわよ! 私、スーパーヒーロー・イェーガーだもの!」
沼地を蹴った側転気味の跳躍でブレスの範囲から抜け、そのまま崩竜の頭上を越したかと思えば、いつの間にか身体の下へ潜り込み、
「スーパーヒーロー・イェーガー・アッパー……!」
言葉と共に手足に着けたルーンストライカーが輝く。だがそんな輝きも今や透明というレイヤーで覆われていた。
こちらの叫びに釣られて、眼下を確認するために身を屈めた竜の腹を、不可視の拳が下から打ち抜く。
打ち抜いた。
「……!?」
「――みんな!」
崩竜の肉を打つ音の合間、レパルの声が響く。
「――がんばろう!」
“サバイバル”としてこの戦場に立つ猟兵に、そして自分の後に続くであろう猟兵達に向けて、レパルは言葉を送った。
大成功
🔵🔵🔵
春乃・結希
これを通り抜けるのかー…
でも、『with』と一緒なら余裕だよね!
UC発動
竜に近付くまでは小回りの効く地上を走ります
進路上の敵を蹴散らすための戦闘力強化と
風を追い風として利用する事で【ダッシュ】の速度を上げ
戦っている敵や仲間の頭上を飛び越えます
火球は直撃だけは避けるように最小限で
損傷は炎で補完、【激痛耐性】で痛みは無視
竜に近づく事を優先します
十分近付いたら『wanderer』で強化された脚力【怪力】での踏み込みにより一気に宙へ加速【空中戦】
音速を超える速度のまま『with』を叩き付けます【重量攻撃】
ふぅ…やっとたどり着けましたっ
ここから本気出します
『with』と私は最強。だから絶対負けません!
●
波だ。
押し寄せ、飲み込もうとする動きが今、結希の目の前にある。
これを通り抜けるのかー……。
正面からやってくる敵は多勢だ。腐沼のいたるところ、上空にさえモンスター達は配置されている。
「……!」
そんな空に浮かぶ一体が結希に気づき、警戒の声を挙げたが、結希はさして慌てることはなく、
「――――」
手に持った大剣を構え直した。
敵は多勢だ。
しかし、
「――“with”と一緒なら余裕だよね!」
そうだ。己の相棒でもあり恋人でもある存在が共にいれば、結希にとってそれ以上のことは無い。
信じている。その一念で剣の柄を握りしめれば、思いに呼応するように結希の周囲を風が渦巻く。
ユーべルコードを発動したのだ。風は強さを次第に増していく中、その風に押されるように結希は前進した。
波の中へ、突撃していく。
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風を身に纏う結希が選んだルートは、地上だった。空中や沼とは違い、小回りの利く道として選んだのだ。
沼の腐水を吸ってぬかるんでいるが、地面として確かにそこにあるのだ。
「行くぞ……!」
靴裏で蹴れば返ってきた力が身を押す。それでも足りなければ、身に纏う風を追い風として、
「――!」
飛ぶように、跳ぶ。跳んだ。
加速の風に乗った一歩は数十メートルの距離を一瞬で詰め、波の最先端に肉薄する。
「通ります!」
結希は足を止めることなく“with”を振り被ると、横薙ぎで波を散らした。
「……!?」
肉を裂き、骨を断つ一撃はそれだけに留まらず、周囲にいたモンスター達をまとめて薙ぎ飛ばし、波に空白の空間を創り出す。
真空を大気が埋めるように、空いたスペースにモンスターが押し寄せるが、
「遅い!」
結希が一歩早く、踏み込み、
「よっ……!」
押し寄せたモンスター達の頭上を飛び越えた。
すると、
「来ますか……!」
見えた。一瞬、敵陣の奥が淡く光ったのだ。
「……!!」
司令官である崩竜がユーべルコードを発動したのだ。結希が地面に着地するときには、既に輝きは上空へと移っていた。
首を上げて、見る。
そこにあったのは翼で浮かぶ崩竜と、それが放った火球だ。
弓なりの軌道で結希の元へ降り注ぎ始めているその数は無数。結希のいる場所を面として制圧するため、多量で爆撃するつもりなのだ。
「……!」
波の中に食い込み、周囲はモンスターの群れだ。逃げ場は無く、崩竜としても周囲のモンスターごとこちらを爆撃するつもりなのだろうと、結希も瞬時に判断できた。
直後、“崩壊”の能力を持った火球が、辺り一面に着弾した。
●
「…………」
崩竜・ヴァッフェントレーガーはそれを見ていた。
放物線を描いて上空から降ってきた火球の弾着は、何もかもを“崩壊”させていく。崩竜にとってそれは既知の結果だった。
モンスターに衝突した火球は、衝撃でその身体を弾け飛ばすのみならず、身体の組成が破壊されていく。地面や沼地に着弾すれば、立ち上がるはずの砂埃や水飛沫すらも次弾で“崩れ”、すぐに霧消していく。
砂埃や水飛沫が存在しないクリアな視界の先、崩竜はしかし未知の結果を見た。
「――――」
倒れ伏しているモンスターが吹き飛ばされ、その下に隠れていた者が現れる。爆撃の目標だった猟兵だ。
彼女は未だ崩れず、立っていて、
「……!」
その飛ぶような走りを止めず、接近してくる。
●
結希は行った。空から火球が降り注いでいても、足を止めずに駆けていく。
直撃は流石に避けないと……!
効果のほどは、先の第一射で解る。あの時は周囲のモンスターを盾にして逃れたが、そのモンスターも数を減らした今、同じ手は使えない。
ならばどうするか。
「前進します!」
迫る火球で僅かに陰った視界の中、崩竜までの道を“with”で切り開き、空いたスペースに飛び込む。
背後から爆撃の音と振動が押し寄せるが、それで終わりではない。本のページをめくる様に次から次へと、結希のいる場所を狙って火球が降り注ぎ続けるのだ。
止まれない。
「……!」
なので、止まらない。結希も、“With”も。
“with”がスペースを作り、結希がそこへ共に飛び込む。一連の動きは途切れず、一方が一方を引き寄せるようでも、抱き寄せるようでもあり、そんな動きは段々と速度を増し、動きの延長線上にいる敵が次々と沈黙していく。
だが、結希も無傷というわけではなかった。
「――――」
直撃は避けたが、火球の余波が彼女の身体を削っているのだ。“崩壊”の攻撃を受けた損傷は、しかしすぐにブレイズキャリバーとしての炎で上書きされる。
切り払って進んでいく度に、身に纏う炎は増えていく。皮膚が裂け、肉を削られた痛みは激痛だが、しかし結希は顔色一つ変えない。
崩竜に近づく事を最優先としているのだ。
「ここまで近づいたら……!」
言って、結希はぬかるんだ地面を一層強く踏み込んで、弾き飛ばされるように跳んだ。ユーべルコードによる速度上昇と、脚力を強化するブーツ“wanderer”の力が合わさって、その大跳躍は大気を割るような音をしていた。
結希の速度が、音速を超えていた証拠だった。
「――!」
飛行している崩竜目がけて、弾丸のように一直線に進む。水蒸気となった大気を背後に散らしながら、身体ごとぶち当たる様にして、結希は速度が乗った刃を竜の身体に叩き込んだ。
「……!?」
「ふぅ……、やっとたどり着けました」
苦悶の叫びを挙げる眼前の竜から、結希は“with”を引き抜くと構え直し、
「ここから本気出します。“with”と私は最強。――だから絶対負けません!」
さらなる連撃を繰り出していった。
成功
🔵🔵🔴
黒影・兵庫
【蜂皇族】
ここで食い止めないと帝竜を倒しても世界が終ってしまう!
(「その通りよ黒影。だから敵の司令官を速攻で倒す必要があるわ」と頭の中の教導虫に話しかけられる)
了解です!せんせー!
クロリアも...え?踊ろう?
何言って、あっちょ
(クロリアに腕を掴まれワルツを踊ると、踊ってない敵の動きが遅くなる)
なるほど!これが狙いか!
クロリア!このまま敵司令官まで連れて行ってくれ!
敵司令官に接触したら『念動力』で{皇糸虫}と{蠢く水}を敵に絡めて動けなくした後
UC【蟷螂の鋸】で召喚し合体した伐採兵さんの回転鋸と一緒に『衝撃波』を叩きこむ!
播州・クロリア
【蜂皇族】
夥しいほどのモンスターの数...これを切り抜けるには
踊りしかありませんね
(目を閉じ、すっと手を真横にピンと伸ばすと{絢爛の旋律}で『ダンス』を始める)
あにさん、ワルツを踊りましょう
(ダンスしたまま黒影の腕をつかみUC【蠱の宴】を発動する)
さて、このまま敵司令官へ向かうとしましょうか
(黒影とワルツを踊ったまま『衝撃波』で飛び上がり翅で『空中浮遊』しながら敵司令官前に向かう)
空を飛びながらあにさんとワルツを踊れるとは...
戦場とはいえリアですね
●
兵庫は、自分が介入すべき戦場を確認していた。しかしそれは己一人でではない。
「わあ」
隣、高い位置からの声は自分の妹であるクロリアだ。
「あの全部が……。夥しいほどいますね、あにさん……」
妹の言うとおりだ。視界の端から端まで、“地獄の古戦場”にモンスターのいない場所は、存在しなかった。
あの全てが一直線に大陸端を目指せば、どうなるか。
「帝竜を倒しても世界が終ってしまう……!」
『その通りよ黒影。だから敵の司令官を、速攻で倒す必要があるわ』
頭の中、響く声は脳内に住まう教導虫だ。
「了解です、せんせー!」
師と仰ぐ存在に答え、そして応えるために、自分の得物である破砕警棒を握りしめる。
「クロリア」
振り返って妹の様子を見る。確認と促しを含めた視線を、彼女も正しく理解し、頷きを返してくる。
「はい。これを切り抜けるには、踊りしかありませんね。あにさん」
理解してなかったかも。
●
クロリアは兵庫の背後で構えを取る。しかしそれは構えと言っても、堅い動きではなかった。
「――――」
瞳を閉じて、両腕を横に伸ばす。高さは肩の位置で、張るように伸ばしてはいるが、表情と同じで不必要な力は無い。
「……え? 踊り? あ、本当に踊り始めた……!」
ぬかるんだ大地は軽やかなステップとはいかず、フロアのように硬くて抜けるような音は出ないが、跳ねる泥が手応えとして解りやすく、リアだ。
踊り始めた自分を、兄が信じられないものを見る目で見ている。瞼を閉じていても解る。
それは己の能力で知れる“色”と“リズム”からもだが、兄と妹という付き合いなのだ
。
だから、
「――あにさん、ワルツを踊りましょう」
「何言って、あっ、ちょ……!」
手を取って、腕を引いても、彼が拒絶してこないことも知っている。
互いの身長差はざっと三十センチメートル。彼の頭が自分の肩程で、手を組んで肩を支えてとポジションを組んだら、その差はよく解る。
だが、そんなことは些細なことだ。
「それじゃ行きましょうか」
気にせず、彼の腕を引いて、行った。
踊り始める。
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兵庫は踊り始めてすぐ、周囲の異変に気付いた。
「周りのモンスターが……」
遅くなっている。随分大雑把な評だと自分でも思うが、そうだ。自分たち以外の動作が文字通り遅くなった。
「なるほど! これが狙いか!」
「ええ、そうです。“蠱の宴”が発動してますからね。だから、あにさんもしっかり楽しんでください」
「クロリアだけ速くなったら、本当にこっちは振り回されるな……」
ワルツは三拍子で、ステップとターン、そしてスウィングのある踊りだ。ダンスを楽しめなかったと判断されればユーべルコードに囚われ、自分の速度も落ちる。
それは比率にして今の五分の一で、そうなれば目の前の長身の妹に、文字通り振り回されることになるだろう。
「クロリア! このまま……!」
「はい。敵司令官まで、ですね」
だから動作を止めず、流れるようにしてクロリアと戦場を舞って行った。
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泥を踏んだ。かと思えば、滑るように足を運ぶ。
ぬかるむ土。飛沫く泥が、互いの裾と靴に散る。
手で支える。倒れぬよう、互いの体を保持する。
身が固まる。不倒になる。泥の上に不断がある。
途切れない。誰も断てず、二人のワルツが続く。
音楽は無い。咆哮も何も、すべてが五分の一だ。
戦場の最中。舞踏の音が、場に存在する全部だ。
音が加わる。喉を震わせ、相手へ届かせる音だ。
兄が呼べば、妹が応える。一際強いステップで。
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司令官である崩竜は、上空から戦場を俯瞰しながら、その光景に驚愕していた。
「……!?」
突如現れた二人組の猟兵が、戦場だというのに踊り始めたかと思えば、こちら側の誰もがそれを阻止できなかったのだ。
戦線が次々と突破されていく。その理由はすぐに解った。猟兵達の速度が異常なのだ。
「――――」
速い。目測でこちらの五倍速。差し止めようと、配下のモンスター達が爪や牙を送っても、次の瞬間には別の場所でステップを刻んでおり、追いかけようとしても、瞬く間に距離を離されてしまう。そして、
「……!」
今、沼地に衝撃波を残して、敵が上空へと跳び上がってきた。
こちらを目標として、接近してくる。
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舞台が空中に移っても、クロリアにとってワルツは変わらなかった。
「衝撃波や翅で、宙を“蹴れば”いいわけですからね」
むしろターンにいたっては三次元になって、幅が広がった感じもする。
「あにさんと、空でこんな風にワルツを踊れるとは……。戦場とはいえリアですね」
翅を伸ばす、文字通りそんな気持ちで、先ほどよりも伸び伸びと動作を繰り出し飛行系モンスター達の間を抜けていく
すると、兄が声を挙げた。
「クロリア、あそこ。司令官だ!」
前方、モンスター達の向こう側に、司令官である崩竜を見つけたのだ。
つまりワルツはもう少しでお仕舞い。しかしそれは言い換えると、
「――それじゃあ、締めと行きましょうか!」
二人で息を合わせて、最後のワルツを作れるのだ。
ナチュラルもリバースも含めて、大抵のステップは先ほどまでで試したし、ポジションだってプロムナードにクローズドと一通りはやった。
それは義務感としての“試し”ではなく、ワルツという踊りを余すことなく楽しんだのだと、そう思える。
だからそれらを思い返して、最後にもう一度踊る。今までで一番良かったことを繰り返すわけで、つまりは最高を集めた集大成。
そんな踊りの前では、誰も立ちはだかることは出来ず、
「辿り着きます……!」
最後のステップを踏んだ先、そこに崩竜がいた。
●
速攻だった。
「――――」
顎を開いた崩竜の喉奥で、光が溜まっていくのが兵庫には見えた。光の収束速度は、五分の一の世界においても速いと形容できるほどで、
「――!」
しかも次第に加速していった。
ダンスが終わり、クロリアのユーべルコードが解除され始めた証だった。
「……!」
クロリアと共に横へ跳び退ることでブレスの範囲内から逃れながら、己はそれと同時。崩竜へ掌を向けていた。
「動くな……!」
「!?」
すると、もう一度ブレスを放つために、こちらへ首を向け始めていた崩竜が、固まったようにその動きを止めた。
「……!? ……!?」
跳び退る直前に崩竜へと投擲しておいた皇糸虫と“蠢く水”が、念動力で崩竜の身体を縛り上げていっているのだ。
首や肩の関節を固められたことでこれ以上首を動かせず、ブレスの狙いもつけられない。そして何より、
「――!?」
翼の基部を固められたことで、飛翔に制限がかけられ、見る見るうちに高度を失していく。
そんな崩竜と並列するように己も垂直落下し、
「伐採兵の皆さん!」
崩竜を挟んだ向こう側に、ユーべルコードで伐採兵を呼び出した。両腕に数字が書かれた丸鋸を構えた蟷螂の数は、七十七体。
「――合体してください!」
落下の最中、その全てが身を寄せ集めて合体していく。丸鋸の数字は合体の度に増えていき、最初は一だったが、最終的に七十七と変化していた。
すべての伐採兵が、一体に集約されたのだ。
「――!!」
回転数を上げて唸る丸鋸を構えた伐採兵が翅を起こし、こちらと同じく、崩竜と並ぶように垂直効果を開始した。
「……!?」
己が破砕警棒を、伐採兵が丸鋸を構えたことに気づいた崩竜が、逃れるように身をよじるが、それを見越して動きを封じたのだ。
「食らえ……!」
破砕警棒と丸鋸を竜の身体に押し付け、そのすべてのエネルギーを送っていく。
警棒から送られる衝撃波によって崩竜の鱗が砕かれていき、そんな体表へ丸鋸の歯が抉りこんでいく。
鱗が砕かれる硬質な音も、肉を引き裂いていく軟質な音も、そのどちらも竜の絶叫で上書きされていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
西堂・空蝉
「ふむん……(戦場の彼方に光る爆発を見据え)なんともはや、敵さんも派手にやってますねえ。あたしの刃があの奥に届くかどうか、ひとつ試してみましょうか」
こちらの存在を感づかれないよう、敵さんが気づく前に【残像】を使って走り抜けていきます。手薄な場所や、逆に乱戦になっている場所なんかを選んで進みましょう。
あれだけの攻撃を正面から相手にするのは流石にホネですね。最初の不意打ちの接近に賭けて【天罰覿面髑髏】を脳天に放ち、あちらさんの動きを封じます。その間に【目潰し】で得物を突き刺し、【傷口をえぐる】で手負いにしてやりましょう。
「こうなってしまえば、まな板の上のなんとやらってぇやつです。さあ、お覚悟を」
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“地獄の古戦場”。空蝉はそこにいた。
「ふむん……」
得物である“土瓶落とし”を肩に担ぎ、目を細めて見やるは遠方、敵陣だ。そこに無数の輝く光がある。
すると、光が大地へ降り注いだ。
「――――」
爆発。そう言っていい発光が離れたこちらからでも解る。光が大地に着弾したのだ。だが着弾の音や、振動としての地揺れが空蝉の元までやってくることは無かった。音も揺れも、何もかも“崩れた”のだろう。
「なんともはや。敵さんも派手にやってますねえ」
土瓶落としで肩を叩きながらそんな感想を零すが、今の光景を見ていると、同時にある思いも抱く。
……あたしの刃が、あの奥に届くかどうか。
それだ。今、光爆は収まり、大陸端を目指さんとするモンスター達が歩みを再開し、その足音はこちらの足元を緩く揺らしてきている。
敵は厚く、突破するのは容易ではないだろう。だが、だからこそこちらの感情も動くというものだ。
細めていた目を開き、鋸の切っ先を敵陣奥地に向けた。
「――ひとつ試してみましょうか」
●
空蝉は姿勢を低くして行った。今、“古戦場”の敵達の中には、こちらの違和感に気付くものもいる。
大陸端に向けて進軍する最中、モンスター達の視界にちらつく“何か”が映るのだ。
「……?」
それは何かと、連中が視線を向けてみてもそこには何も存在しない。先ほどと変わらない光景だ。
そのころには己はその場を後にしている。敵の目に映っていたのは、己が残した残像なのだ。
残像をわざと“散らす”ことで敵の注意を逸らし、活動しやすくしていくのだ。そうして狙うのは、
手薄な場所か、密集地域……!
その二種類だ。手薄な場所は速度を出しやすいが、その分見通しが良く発見されやすい。なので場合によっては、密集地域に飛び込み、
「――よっと」
魔獣の懐や腹の下を抜けていく。ともすれば踏み潰されそうだが、これからそれ以上に強大な相手に向かおうというのだ。
なので臆すること無く、危うげ無く、着実に戦線の奥深くへ潜入していくと、
見えてきましたね……。
モンスターの身体を越して、崩竜の姿が見えてくる。未だ距離はあるが、むしろその方が己にとって都合は良い。
あれだけの攻撃、正面から相手にするのは流石にホネですからね……。
爆撃は先ほど肉眼で見たのだ。その威力の結果は今、己の足元にクレーター然とした窪みに生じている。
親玉へ一直線だった進路から、外れるように迂回していく。正面を避けて死角に回るのだ。
その窪みに身を潜めながら進み、崩竜との距離を十分に詰めたと判断した己は、ぬかるんだ大地を蹴って突撃していった。
大地を蹴り、モンスターを蹴り、そして崩竜の鱗すらブーツの裏で踏み伏せて駆け上がっていく。
「……!!」
そのころになってやっと、侵入者に気付いた崩竜は、一瞬、周囲を探そうとしたが、鱗を踏まれる感覚が今も連続しているのだ。
直後、足元が揺れ、こちらの視界も揺れた。足場である崩竜が動いたのだ。それも一気に。
身に加わり始めた慣性から、体表上にいるこちらを振り落とそうと、敵がスピンの動きを身体にぶち込んだのはすぐに解った。
数秒の後には竜の身体が高速で旋回し、こちらは吹き飛ばされる。そんな直近の未来を回避するべく己が取った行動は一つだった。
竜の身体を踏み切って、天上に向けて跳躍したのだ。
「――――」
一度、宙で回転を身に入れて姿勢を整える。沼地を踏みしめて旋回する竜を眼下に収めながら、そこへ向けて落下していく。
落下するにつれて、竜が視界一杯に広がっていく。視界の中心は竜の頭部。
「――天罰覿面!」
竜の脳天に、己の拳骨を叩き込んだ。
鈍く硬い打撃音が、戦場に響き渡った。
「……!? ……!?」
頭蓋を強打で揺らされた竜は平衡感覚を失い、スピンの最中ということもあって派手に転倒した。巨体故、大地の泥も周囲に撒き散らされるというより、竜の身体に押されて吹き飛ばされていった。
脳天への打撃の後、大地に降り立った自分は一層ぬかるんだ大地を駆け、崩竜が再び復帰するより早く、その瞳に土瓶落としの刃先を突きこんだ。
「――!!」
絶叫。竜が喉を振り絞り、痛苦と怒りの叫びを挙げる。
突きこんだ土瓶落としは、切っ先は鋭利だが刃は鋸状の得物だ。手首のスナップを聞かせて捻って引き抜けば、竜の眼球が完膚なきまで破壊される。逆側の瞳も同様だ。
「――! ――!」
崩竜が頭を振り回し、ブレスをがむしゃらに吐き始めるが、視界が失われた狙いはあまりに無茶苦茶だ。回避することは容易く、むしろ敵陣への被害の方が大きい。
崩竜のすぐ側でそんな様子を見上げながら、己は土瓶落としを両手で構える。
「こうなってしまえば――、よっと」
声に反応して、自分が立っている場所にブレスを撃ち込んでくるのは解っていたので、難なく回避。
「……まあ、まな板の上のなんとやらってぇやつです」
狂ったように暴れ、四肢や翼、尾を周囲に叩きつける崩竜へ切っ先を向ける。
「――さあ、お覚悟を」
成功
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