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美しいひと

#UDCアース

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#UDCアース


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 駅前の歩行者信号が青に変わった。
 鳴き交わす電子音の鳥の声。人の波がどっと流れ出す。
 遠くから見ているとどれも同じに見えるのに、近づいて良く見てみるとまるで違う。そっくりなのは服や化粧や髪型だけだ。
 別に奇抜である必要もない。そう、そんなものはどうでも良い。のに。
 あれはだめ。これもだめ。ほとんどがだめ。
 いま立ち止まったあれはどうだろう。
 眼鏡が邪魔だけれど、そんなものはどうでも良い。どうせ捨てる。
「あなた。そう、あなた」
 警戒心は必要ない。これはスカウトではないのだから。
 こちらをお向き。
「ああ、美しい目をしている」
 これは良い。これは、とても……美しい。

「こんなもの……警戒しない方がおかしいだろう。聞いてくれ、事件が起きている。場所はUDCアース世界の東京だ」
 辻村・聡(死霊術士・f05187)は眉根に薄く力を込めた。なぜなのか。事態の説明をしていてごく微かな違和感を覚えたのだが、正体はわからない。
 少し考えた後に気持ちを切り替え、まずは先を続ける。
「都内では、ここのところ十代から二十代にかけての若い女性の失踪事件が頻発しているが、これがどうやらUDCの信徒の手によるものらしい」
 短期間で結構な人数に及ぶものの、事件性の有無がわからないために警察の動きは鈍い。いつもよりも多いなと思う程度に留まっている。女性というだけでは関連性を疑う動機として少し弱かった。
 想像に難くない現状を語り、聡は静かに明滅を繰り返しているグリモアを見る。
「嫌な予感がする。UDC絡みで失踪というと、多くは邪神の降臨に関わる事件だろう。消えた女性たちが無事である可能性は、残念だが低い」
 ほぼ、ゼロ。そうした口振りになってしまうことは否めない。苦い話だ。
「ただ、現状ではまだ邪神の復活は認められていない。なので、関わりのある何者かと復活の儀式が行われる場所とを突き止め、これを阻止して欲しい」
 そうして、と聡は言い加える。
「阻止に成功したとしても不完全な形での召喚は行われてしまうだろうから、最終的には戦いになるだろうことも記憶の片隅に留め置いてくれないか。予感が当たっているならば、辺り一帯に狂気を振りまく、ある種凄惨な邪神である可能性が高い。名は『残響の女神』」
 グリモアベース内はターミナル駅周辺の光景を再現している。雑踏という言葉が似つかわしいが、少し行けば小綺麗でしゃれた界隈へとつながるだろう。ゆえに女性好みの街でもある。行き交う人々の年齢層は比較的若い。それを示して、聡は皆へと向き直った。
「失踪者たちは、こうした街の中で消えたと思われる。まずは現場から当たってみてくれ。最初は大変かもしれないが、手がかりは必ずあるはずだ」
 現場とは言ったものの、足のみならず、手や耳、その他の手段を用いても構わない。方法はきっと当たる猟兵の数だけある。
「きわめて個人的な動機による事件という気がしているが、失踪者の数は少なくない。邪神が召喚された時の被害も範囲の大きなものと予想される。帰らない誰かを待ち続ける人が増えていくばかりなのは痛ましい。どうか力を貸してくれ」
 集う猟兵たちを前に、聡はそう締めくくった。背後の信号の色は青だ。


来野
 こんにちは、来野です。今回はUDCアースでの失踪事件をお送りします。
 都会の雑踏の中から人が数人消えたとしても、見知らぬ同士であれば気づくこともない。喧騒の中の孤独には、過去の闇の付け入る隙が大いにありそうです。

 第一章では、どのようにして女性たちが消え、どこに行ったのかを探って頂きます。そうして第二章を挟み、第三章で戦闘となる予定です。
 第一、二章での猟兵の皆様のご活躍により、三章の状況が変わる可能性のあるシナリオです。
 ご参加、心よりお待ち申し上げております。どうかお力をお貸しください。
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第1章 冒険 『大都会の闇』

POW   :    情報は足で稼ぐ。根気よく現地で聞き込みを行う。

SPD   :    情報は指で稼ぐ。ネットや出版物を読み漁る。

WIZ   :    囮捜査を試みる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

蔵持・倉子
【囮調査】…アタシは家出少女みたいな見た目…かどうかはわかんねぇがそれらしくすりゃ引っかかる奴もいそうなもんだ。物理的に連れ去ってるとは思うが…あまり人目に付かなそうなところに座り込んで待ってみるか。
一応はフードを深めにかぶりゃぁいいか。

なんかあってもアタシの倉庫なら必要なモノを取り出せるだろ。最悪捕まった後でもどうにかなるように物資は詰めておかねぇとな。囮やる以上は他に協力者も欲しいとこだが、信用できるヤツがいるでもなし…情報だけでもとっていくかね。少なくとも騒ぎを起こせば対応を変えるだろ、ここまで来て地下に潜るとも思えねぇしな



●足
 視界の隅をいくつもの足が通り過ぎて行く。
 蔵持・倉子(歪に歪める歪みの少女・f12345)が脇道に座り込んでしばらくが過ぎていた。大通り側を行き過ぎる人々の群れは、まるで足を止めようとしない。
 家出少女に見えるかどうか。念のために目深にかぶったフードの陰からは口許だけが覗いている。
(「囮やる以上は他に協力者も欲しいとこだが」)
 抱えた膝の上に顎を乗せ、倉子は短く息をつく。両手の指先に力を込めた。
 自分以外に信用できるものなど、この世にはない。万が一の時には倉庫の能力を使えば良い。
 ガツリ。
 固くて少し重たい靴音が止まった。
 男か。それも革靴を履く大人。人数は一人。
「なあ、君……」
 倉子へと投げかけられた声は穏やかで低い。やはり男だ。大きな手が肩へと伸びてくる。
「……っ」
 触れられるのも近寄られるのも苦手だ。ぐっと息をつめた倉子の肩に見知らぬ指が触れかけた時。
「大館(おおだて)さん、何かありましたか?」
 大通りの方から女性の声が聞こえた。大館と呼ばれた男は手を引き、屈めていた腰を起こす。
「いや、大丈夫そうだ。注意だけはしておくよ」
「はーい」
 補導員だろうか。聞こえてくる会話はグリモアベースで聞いたものとは趣が違う。
「具合が悪いのでなければ気を付けような。もうすぐ日が暮れるから」
 そう言ってから大館は黙った。倉子は小さく身じろぎをする。
 気まずいのは無言だけではない。身に絡みつくように感じるものは、これは間違いなく視線だ。凝視されている。
「大館さーん」
「ああ、はいはい」
 男の声と靴音が遠ざかった。大通りの向こうへと消える。
「大館……?」
 なぜ、あんなにも視線を注がれたのか。会話の印象は善人だったが。
 倉子の耳の奥に固い靴音の記憶が残った。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

桜田・鳥獣戯画
個人的な動機により、多数の女性を攫うか…真実だとすれば許し難い!
孤独な女というものは… 如何に気丈に振舞っても、縋れるものに縋ってしまう。こともある。かもしれん。
私はないがな!

【POW】
いつ何があるかわからん。体力は温存しつつ、なるべく大声や勢いは封印し、相手の目を見るようにして聞き込みに当たろう。
最近声を掛けられたことはないか、そういう女性を見たことはないか等々。コーヒーなど片手に持てば多少警戒も薄れまいか。
使えるかわからんがオルタナティブ・ダブル(SPD)も使用、情報があれば共有する。
他の参加者とも可能な限り情報を共有したい。それにより引き出せる話も変わってくるはずだ。

(アドリブ歓迎です)


赭嶺・澪
【POW】情報は足で稼ぐ。根気よく現場で聞き込みを行う。
私は技能【情報収集】を使いながら現場で聞き込みを行うわ。
付近の店を回ってみて、勧誘・ナンパされている女性の目撃情報を聞き出しましょう。

店の人の他にも、外でビラ配りやティッシュ配りをしている人がいればその人にも聞いてみましょう。
外にいるなら、もしかしたらその現場を見ているかもしれないしね。

それでだめなら通行人に聞いてみましょう。
出来るだけ現場に何回も来てそうな人がいいわね。

集めた情報を総合して、犯人像を出すわ。
出来たらその情報を他の猟兵達にも伝えましょう。



●目
 駅から少し歩いた先のカフェ。
 桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)はスリーブをはめたカップを片手に店を出る。指先がほんのり温かい。
「新しい豆のご紹介です。いかがですか?」
 店頭で試飲サービスを行っているようだ。真紅と緑、二色の瞳の少女が小さなカップを受け取った。
「いただくわ。それと……最近この辺りで、女性をナンパしたり勧誘していたりする姿を見かけたことはない?」
 情報収集中の赭嶺・澪(バレットレイヴン・f03071)だった。
「それはもう良く……といっても最近は減ったかなあ」
「減ったの?」
 入店する客に試飲カップを渡しながら、店員の女は頷く。
「イベントがあるたびに若い子が集まるでしょう。暴れたり散らかしたりするから、地域の人が見回り活動を始めてね……あ、ありがとうございます」
 鳥獣戯画の手に商品が握られているのを見て、店員は笑顔で頭を下げる。少し高いところにある顔を見上げ、眼差しが合うと大きく目を瞬いた。
「そういえば、わたし、最近ナンパされたわ。女の人に」
「女の人?」
「女?」
 訝しげな二人の様子に店員は弱い笑みを見せ、顔の前で忙しく手を振った。
「目を見せてとか言われて、こう背の高い……お姉さんくらいの人だったからなんか……わたしちょっとヤバくない? って」
 と言って鳥獣戯画の銀髪の位置まで片手を上げ、同じくらいの背丈を表しながら澪の方を向く。
「でも、すぐ行っちゃった。あなたみたいな目だったら良かったのかな」
「それはナンパというよりも何かの勧誘ではないの?」
 義眼側の眉尻に指先を当て、考えがちに澪が問う。
「あ、そうかも。四角い大きなバッグを肩にかけていたし……なぁんだ」
 ポートフォリオ、あるいは図面バッグ。二人は視線を見交わした。
「美大生だろうか?」
「どう、かな。もう少し大人じゃないかな。あ、いつもありがとうございます」
 男性客が一人店から出てくると、店員の女はにこやかに笑って頭を下げた。背が遠ざかり、失礼ではないくらいの距離になってから二人へと耳打ちする。
「見回り活動の人……」
「それを早く言わんか」
 急ぎ足に追ったが、雑踏の中に紛れた背は見つからない。人が多すぎた。
「だめね。まずは情報の共有を優先しましょうか」
 澪が携帯端末を取り出す
 二人の前を通り過ぎる多くの足音。その合間で行われたのは許しがたい犯罪。もう一人の自分を伝令に使い、鳥獣戯画は苦い思いと共にリッドの縁を噛んだ。
(「孤独な女というものは……如何に気丈に振舞っても、縋れるものに縋ってしまう。こともある。かもしれん」)
 澪が液晶から目を上げ、ゆるやかに首を傾ける。
「私はないがな!」
「……?」
 どこかで歩行者信号の誘導音が鳴っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
【アドリブ/複数描写OK】


女ばかりってのは確かに、作為的だよな
こういう手合いは頭のネジがおかしいやつって相場が決まってるんだが
……まあ、いいか
撃てば死ぬなら、なんだって同じだ

【SPD】
先に今回の失踪事件に関する情報をネットで調べておく
失踪した女性の特徴や、事件の起こりやすい立地など
何かしら目星を付けられるような情報があればいいか

不自然でない程度に現場付近の街中を移動しながら
人込みに紛れて【目立たない】ように周辺を警戒
もし囮捜査するってやつなんかがいれば、連携できるといいかもな

首尾よく現場が抑えられれば【影の追跡者の召喚】で
犯人と思しき人間を追跡
自分も見失わない程度の距離で【追跡】するよ


田中・ストロベリー
【WIZ】
そっか……先に攫われちゃった女の人たちはもう、助けられないんだね……。
なら、ストロベリーたちはこの事件絶対に解決しないとね。

ストロベリーは囮になって犯人を捜すよ。
服装や髪型が奇抜である必要はないみたいだし、普段の格好で行くね。
目が攫う・攫わないの判定になるみたいだから、前髪が目にかからないように気をつけてみようかな。
犯人が女の人に接触した場所を中心に、できるだけ人通りの多いところで電話をしているフリして根気強く待つよ。もし、不躾に女の人に声を掛けている人を見つけたら後を付けていこう。
口調から犯人は女性かな?って思ったけどあまりそこには拘らないようにしておくね。


ミニョン・エルシェ
WIZ

10〜20代であれば、私も囮として有効かもしれません。
「懐に飛び込むならば、それなりに準備が必要ですね」
私がやろうとしている事は、仲間にも共有しておきます。

服装は眼鏡を含め、予知で被害に遭われた方に準じましょう。
目を重視しているようですし、必要ならばコンタクトも使用して、
目の特徴も似せておきます。

街に出てからは、青信号で立ち止まるなど、被害者の行動をなぞります。

声を掛けられたら、何も知らない少女のふりをして、ついていきましょう。
と、同時に赤い墨汁を持たせた「影の追跡者」を召喚し、墨汁を垂らさせながら私を追跡させます。

また、他に声を掛けられている方が居ましたら、これを影の追跡者で追跡です。


瑠璃光寺・未子
ミコ:
けしからん人攫いなど、ミコが捕まえてみせよう
ふふふ、任せるがよい♪
さぁて、若いおなごをつけ狙う怪しい者はおらぬかのぅ?(迷子の子供のようにキョロキョロ)

ミモリ(執事人格):
あああ…どうしましょう…
お嬢様が無策で雑踏の中に飛び込んでいってしまわれました!?

高貴なお生まれがゆえに身に着けている[礼儀作法]のお美しい所作で
大変【お麗しゅうお嬢様】でございますから
恐ろしい人攫いを惹きつけてしまうかもしれません……!

わたくしめは【ミモリの使いっ走り】でお嬢様の肉体から離れ、[忍び足]でお嬢様を尾行し、別視点から観察してお嬢様をお守りもうしあげますっ…!

(アドリブ大歓迎)



●肌
「この辺、かな」
 田中・ストロベリー(👧女子高生探索者👧・f00373)が立ち止まったのは、ある交差点の一角。カッコーの音の向きと指で作ったファインダーとでおおよその見当をつけ、事件のあった場所の見える位置に佇む。電話中を装えば怪しまれることもないだろう。
(「先に攫われちゃった女の人たちはもう、助けられないんだね……」)
 軽めにアレンジした前髪が風にふわりと揺れる。ピンク色の瞳に街を映して、周囲を見渡した。ここから何人が消えたのか。空白の気配すら残されてはいない。
(「なら、ストロベリーたちはこの事件絶対に解決しないとね」)
 囮を担う猟兵が他にもいるならば、先に配置を知っておいた方が良い。動きを止めている者を重点的に探す。
「あ……」
 その少女はすぐに見つけられた。眼鏡をかけて信号の手前で立ち止まっている。
 事件の光景を再現したミニョン・エルシェ(城普請術師・f03471)だった。
「懐に飛び込むならば、それなりに準備が必要ですね」
 そう告げ、ミニョンは作戦の情報を皆と共有していた。間違いない。
(「こう……ですか」)
 建物の端に背を預けて人待ち顔で顎を引く。記憶の中にある視点をひっくり返して上手く再現していた。
 ストロベリーは電話に向けて二度頷く。
 コツリ、コツリ。
 雑踏の中に、ごくゆっくりと歩く靴音があった。
 コツ、リ。
 立ち止まった。
(「……!?」)
 ミニョンの視界が、唐突にぐるりと回る。顎の下が冷たい。喉の付け根を捕まれている。後頭部でゴツンという音が聞こえた気がしたが、大きく目を見張って痛みに耐えた。
「……」
「……」
 見つめ合いはきっかり5秒。
「あなた」
 薄い唇がそう言った。
(「この声」)
 ミニョンが息をつめた時、相手が視線を外した。危険を悟ってやってきたストロベリーに気づいたのだろう。そちらを見ている。
 ストロベリーには納得があった。
(「やっぱり」)
 女性だ。
 さらりとした髪を頬にかかる長さにカットした長身の女性。肩に黒くて四角い大きなバッグを掛けている。切れ長の目がボーイッシュな印象を放っているが、眼差しがおかしい。刺さると感じるほどに強いのに、それが頭の後ろに突き抜ける勢いで遠い。二人の反応を意に介することなく女は言った。
「少し小さいね」
「え?」
「え?」
 背を測る時の手つきでそれぞれの頭の上に手を置き、するりと頬を撫でて双方を離す。中指の爪が目の下に触れた。
「肌は良い。とても白い」
 細めた目尻にあるものは恍惚の色。その時、足を止めた通行人がスマートフォンのカメラを彼女たちに向けてきた。興味本位の行動だろうが、察した女はさっと身をひるがえす。
「見抜かれていたのでしょうか」
「もう居ない……っていうことかもしれないね」
 ミニョンとストロベリーは後を追う。万が一の時のためにミニョンを追うのは彼女のシャドウチェイサー。その手には赤い墨汁を携えてマーカーを残す。
 雑踏の中の追跡が始まった。

●節
 さかのぼること半刻前。
「無防備、違うな、見て欲しいのか」
 多数の自撮り画像を見て鳴宮・匡(凪の海・f01612)は首を捻っていた。全て失踪した女性たちの写真だ。SNSに多数残されていた。
 ぱっと見てわかる共通点は肌の白さだった。修正されていたとしても背景や目鼻立ちの歪みは小さい。そうしてもう一つ。
「頭身……」
 全員の眉間を正しく撃ち抜こうと想定すればわかる。それぞれの身長、頭身が非常に近しい。
 見た目重視ともとれる検索結果を得て、今、匡はファッションビルやデザイン事務所の目立つ一角に向かっていた。女性たちが失踪したと見られるのは駅前からそちら寄りの地点だからだ。
(「こういう手合いは頭のネジがおかしいやつって相場が決まってるんだが」)
 できるだけ目立たない道筋を選び、ある十字路へと差しかかった時のこと。
「あああ……どうしましょう……」
 路上駐車のライトバンを盾にして、いかにも執事といった風体の男が先の通りをうかがっている。
 それは瑠璃光寺・未子(ヒトリカゴメ・f06597)の別人格『ミモリ』の姿を纏った忌神だった。口はともかく動きに隙はなく、見張りを務めているのは想像に難くない。
 が、その輪郭が小刻みにぶれて急に消えた。
 ものも言わずに匡は走る。

 十字路の歩道で未子は空を仰いでいた。脇から駆けてきた女に衝突されて転んだのだった。
 油断していたわけではない。きょろきょろと迷子のように歩いていたのは、お嬢様だからだ。
 高貴にして麗しく礼儀作法に長けた令嬢たるもの、さっとかわして相手だけを転ばせるようなことはしない。
 頭も背も腰もアスファルトに打ちつけたところは全て痛かったが、自分に馬乗りとなる形で起き上がった女を未子は真っ直ぐに見上げた。
(「けしからん人攫いなど、ミコが捕まえてみせよう」)
 どれだけの速さで走ってきたというのか。息を弾ませた長身の女が片手を未子の目の前に差し出す。黒い大きなバッグを肩にかけ直し、人差し指と中指とを立てた。
「珠のよう」
 薄い唇が囁く。
 未子は藍色の瞳を瞬かない。
 抉られる。そう思った瞬間。
「……!?」
 ピクリとも動けない女の手首は脇からつかまれ、未子の両眼の前には掌が一つ翳されていた。
「おやどうした??」
 何一つ見えない暗がりで、未子はきょとんと天を仰いでいる。届くのは声ばかり。
「やめろ、イチカ」
「邪魔をするなと言っただろう、兄さん」
 動きを取り戻した女が手首を握った男の手を払い、脇に屈んだ匡が未子の目の前に翳した手を引いた。手の甲に残るのは小さな爪痕。
「もう、やめるんだ!」
 男の言い分を聞かずに女は再び駆け出す。男は匡と未子に何かを言いかけ、結局、別方向へと駆け出した。
 とっさの判断で匡がシャドウチェイサーに追わせたのは男の方だった。撃てば等しく死ぬのならば、変人も常人も皆同じだ。
「女の方にはもう、追跡がついているだろう」
 自分もまた男を追おうとした時、背に未子の声が届いた。
「これは……何であるか?」
 すんなりとした白い指先にはシャンパンホワイトの封筒が挟まれている。ダイレクトメールだろうか。
「落とし物ならば届けてやらねばならぬのぉ?」
 お嬢様は微笑んだ。

●報告
 赤い墨汁の跡が途絶えたのは真新しいビルの前。雑踏のおかげで女が中に入ったのかそうでないのかはわからない。
 ビルの一階は『MUSA(ムーサ)』という名のギャラリーとなっているが、施錠された正面扉には「クローズ」の札がかけられている。閉館時刻を過ぎているようだ。

 男が複数の住民の群れに紛れ込んだのは『MUSA』のほど近くの路上。彼らの会話には「見回り」という言葉が何度も現れた。周囲の人間の反応を見るに街からは歓迎されているらしい。男の姿はそこで見失った。

 シャンパンホワイトの封筒に入っていたものは『ギャラリーMUSAへのご招待』と書かれたカード。彫刻を展示するギャラリーだと思われる。招待状に添えられた女神像の写真はどれも美しく、まるで生きているかのようだ。
 封筒に受取人の名は記されておらず、差出人の名前は『大館・一歌』だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『美の謎を追え』

POW   :    美術品の搬入作業員として入り込み、直接確かめる

SPD   :    閉館後のギャラリーに忍び込み、調査する

WIZ   :    聞き込みなどで、彫刻の出所などの情報を集める

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 そのビルは白い。
 施錠された正面扉には『MUSA』の四文字が金色で記されており、アールデコのラインと踊る女神とが描かれている。開設して間がないのだろう。エレベーター室の前には祝いのフラワーアレンジメントが置かれている。
 裏に回ってみても新しい建物であることは一目瞭然だ。展示品の搬入口は大きく、良く整備されたビルの駐車場に運搬車が停まっている。
 写真で知る限りでは中はこぢんまりとした造りで、展示品の数はそう多くないようだ。

 季節がら当然ではあるものの、どことなく薄ら寒い。
 邪神降臨の場へといたる手がかりは、ここにある。
蔵持・倉子
【潜入】
他の手段はアタシには見た目もあるが出来そうにねぇからな、それにアタシならデカイもんでも持ち出そうと思えば簡単に持ち出せる。しかし、生きているような女神の像ねぇ…。そういうわかりやすい結末だったら笑えるが。

施錠されてるようなら【鍵開け】がつかえるか。電子錠なら【ハッキング】がある。この腕もつかえるだろうし、監視カメラもあるだろうから無力化しちまいたいところだ。後ろめたいことがあるなら見回りも居そうだが、どうかね。とりあえず怪しいものは【倉庫】で持ち出して調査にかけたい。最後の手段は【破壊工作】や【怪力】で無茶すりゃいいか



●箱の中の女神
 街の向こうに陽が落ちた。代わって点るのはビル群の窓明かりとイルミネーション。
 それら人工の明かりを背に蔵持・倉子(歪に歪める歪みの少女・f12345)は白い建物の脇へと回る。
(「アタシには……こっちかね」)
 通用口や電気系統の配置を確認すると、最初に行うことは監視カメラを眠らせる作業だった。続いて通用口のロックの解除。ハッキングの心得がある彼女にとっては難しいことではない。
「しかし」
 陥落した扉を開けてビルの内部へと滑り込み、サイボーグの少女は先を急ぐ。
「生きているような女神の像ねぇ……」
 給湯室の脇を抜け、展示室の扉のレバーを下げた。
「そういうわかりやすい結末だったら笑えるが」
 そこで一瞬、足を止める。極端に寒い。生身ならば震えるほどの低温に保たれた室内は、倉子の全身を一気に冷やし始める。
「生きていたら凍えるだろうよ、これじゃ」
 急ぐしかない。手近な彫像の固定を外して脇から支えた瞬間、倉子は妙な危うさを覚えた。台の上の女神像は、なぜか一方向へばかり傾こうとするからだ。
 ゴッという嫌な音が聞こえたような気がしないでもないが、ディメンジョンスペースに入れてしまえば大きさ諸とも問題にはならない。倉子は棚番号の書かれた小さな紙片を像に触れさせ、何ごともなかったかのような手ぶらで部屋を後にする。彼女よりも大きな女神様は大人しく倉庫の中だ。

 中身の確認は十分な安全を確保してから行われた。
 脆くも折れた模造の腕を片手に、倉子が覗き込むはめになったもの。それは人の肘の切断面。血は一滴も流れない。
 実にきれいな切り口だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

桜田・鳥獣戯画
【POW】搬入作業員としてMUSAへ潜入。

皆の情報を合わせると、事件のキーパーソンであろう大館・イチカがターゲットとしているのは恐らく、白い肌、160cmほどの身の丈、そして青い色の瞳(もしくは眼球か)を持つ女性。

この事件で複数の「女神像」ときたらもう…
どう考えても、その結末しかないではないか。だが油断はできない。
彼女の兄は見回りの補導員として、イチカの周辺を警戒しているらしい。
蔵持の印象では善人だったという。
彼を味方にできれば何か得られるやもしれんが…

ともあれ情報は極力共有し、画廊の中にあるものを確かめる。
万が一危険なことが起きたら、味方の盾となれるよう心掛けたい。

(アドリブ連携歓迎です)


鳴宮・匡
【アドリブ/複数描写OK】

【SPD】
完全に顔を見られてるからな
調査はできるだけ人目につかないようにしよう

人の気配があらかた遠のいたら内部を調査
鍵は……、誰かが開けててくれればいいし
そうでないなら中に入る従業員なんかに追従かな
本人には眠っててもらうか
あ、殺さないけどな

彫像も気にはなるが、儀式の場所を突き止めないとな
見取り図があればそれと照合しながら
明らかに隠されている区画や
立ち入りを制限されている場所なんかがあればそこが怪しいか

……生きているかのような、ね
失踪事件と関連があるとすれば、さしずめ中身は……ってところか
だとしたら、なかなかいい趣味だぜ
そういう手合いの奴なら、気兼ねなく殺せそうだからな



●白い墓場
 駐車場の内、搬入口の前。
 大型車両の後部ハッチを開けた作業員は、ぎょっとした面持ちで手を止めた。
「だ、誰だ。どうして、こんな所に」
 脇から身を現した桜田・鳥獣戯画(鑑の黒鐡・f09037)は、答えるまでもないという面持ちでハッチを押さえる。
 よほど後ろめたいのか、それとも錯乱したのか。鳥獣戯画へと向き直った作業員は、やおら殴りかかってくる。
「……っと」
 片手で受け止めた掌の中で、しかし、拳は急に力を失った。真後ろから現れた鳴宮・匡(凪の海・f01612)が頸部を締め、男の意識を落としたからだった。
「見回りグループの男を味方にできれば何か得られるやもしれんが……」
 手首を振りながら鳥獣戯画が呟く脇で、匡はピクリともしない作業員を横たえる。
「俺は完全に顔を見られてるからな」
 どちらにせよ慎重に動くしかない。匡が作業員から剥がした上着を投げ渡すと、受け取った鳥獣戯画が眉根を持ち上げる。ジャラッという音が聞こえた。
「鍵だ」
 上着のポケットから出てきたものは、三つの鍵を留めたキィホルダーだった。
 一つは搬入口のもの、一つは運搬車のものとして、三つめはどこのものか。匡は手近なハッチの内を覗いて物思わしげな顔となる。
「これは保冷スペースだよな?」
 指差す先、緩衝を施した積み荷が入れられている車両内からは冷気があふれていた。金属の枠組みも見える。
「そうだな。それに、なにやら薬臭くはないか?」
 脇から覗いた鳥獣戯画が眉根をひそめる。ハッチを開けた作業員が無事なのだから毒物ではないだろうが、嗅ぎ慣れない薬品臭が漂っていた。改めて見てみると、積み荷の脇には数種類のポリタンクが積まれている。
 そこで二人は二手に分かれた。どうせ運び込むものならばと鳥獣戯画が積み荷の確認を担当し、匡が搬入口の内の見取り図を探しに向かう。無ければ作れば良い。
 しばらくの後、駐車場に戻った匡の第一声はこうだった。
「これはギャラリーなんかじゃない。冷蔵倉庫だぜ」
 造りはいたって平凡で隠し部屋などはなく、三つめの鍵は建物内のどこにも合わない。おかしな点があるとしたら室温で、開館時がどうであるのかはわからないが、夜間の今は運搬車と同じくらいの低温に保たれている。
「ならば『ナマモノ』の貼り紙を貼らんといかんだろう」
 答えた鳥獣戯画の前にあるものは、梱包を解かれた女神像。首のないその像からはポリタンクと同じ匂いが漂ってくる。鍵の頭で軽く引っ掻くと土気色の肌が覗いた。血は一滴も流れない。
 女神は彫られたのではない。特殊な薬品で固められたのだ。
「なかなかいい趣味だぜ」
「そうか?」
「気兼ねなく殺せそうだからな」
 ギャラリーが倉庫だというのならば、この車は一体どこから来たのか。
 二人は白い運搬車を見つめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●現状
 建物の監視カメラには対策が施されており、通用口のロックは解除されている。
 ギャラリー内の彫像は一体が持ち出されており、それは腕が切断された上で模造と入れ替えられ、特殊加工を施してあった。
 新たに搬入途中だった彫像には首が無く、ギャラリーの入っているビル内には他に怪しい施設は見られない。作業員は軽く意識不明中。死んではいない。
 三つの鍵と運搬車が残されている。
ミニョン・エルシェ
【WIZ】私もしっかり顔を見られていますし、出来るだけ目立たないように調査です。

さて、残されているのは鍵と運搬車、ですか。
なれば、これの出所を調べないわけにはいきませんね。

車内を調査して、カーナビや地図アプリが有れば、そちらの履歴から割り出しを。
出所の住所が書かれているものがあれば、完璧なのですが。
めぼしいものが無ければ、運搬員さんを鉤縄で拘束の上、
起こして直接お聞きするしかないですね。
手荒な事はしたくありませんが…口が固いようならリザレクト・オブリビオンの騎士さんと竜さんに威圧して頂きます。

「何処から来たのか。教えてくださいますよ、ね?」

危うくなれば【逃げ足】と【ロープワーク】で離脱です。



●悪夢の生誕地
 駐車場の一角。
 ミニョン・エルシェ(城普請術師・f03471)は運搬車の鍵を手にして運転席を見た。
(「これの出所を調べないわけにはいきませんね」)
 目当てのものはしっかりとそこにある。カーナビゲーションだ。
 残された情報にアクセスし、ミニョンは頷いた。
「荷物の集積場ですか」
 再生したデータには、今いる場所よりも東寄り、大型の冷蔵倉庫のある場所とギャラリーとの間を往復した形跡が残されていた。物流企業の名前はダッシュボードの上の社員証を見ればわかる。
 他に衛生保全関連の企業との往復も見られ、助手席に置かれたクリップボードには薬品の取引書類が挟まれていた。
 ステップに片足を残した姿勢でミニョンは背後を振り返る。そこにはこの車を運転してきた作業員がだらしなく伸びていた。
「直接お聞きするしかないですね」
 身軽に降り立つ手にあるものは特製鉤縄。小型のオールリールを備えたそれを、するりと伸張させる。
 目覚めはどのようなものだっただろう。目を開けて最初に見たものが少女だと知って、男は無防備に目を瞬いた。
「お目覚めですか?」
「あ? ああ。俺はいったい……」
 頷いた男は自分が捕縛されていることを知って、ミニョンの顔を振り仰ぐ。
「何処から来たのか。教えてくださいますよ、ね?」
「ど、……え? どこ? なぜ」
 男の返答は要領を得ない。覗き込む顔が三つに増える。ミニョンの右に死霊騎士、左に死霊蛇竜。
「ひっ!」
「ね?」
「2番倉庫、2番倉庫! にばんそうこ!!」
 これ以上ない勢いで答えた作業員の頭がガクリと後ろに傾く。もう一度落とす手間が省けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『残響の女神』

POW   :    信者の供物
自身の装備武器に【生贄になった者の身体部位の一部 】を搭載し、破壊力を増加する。
SPD   :    叫ぶ
【絶叫 】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ   :    凝視
小さな【狂気 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【トラウマに応じてダメージを与える空間】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナハト・ダァトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 私の美しいひと。
 完璧な顔、完璧な手足、完璧な髪。
 全ては生来の輝き。
 どれだけ見つめても、あなたは見つめ返してくれない。
 ――そんなアナタは大きらい。
 なぜ、輝きは失せていくのだろう。
 あと、少し。もう少しで、きっと、私を見てくれたのに。

 湾岸寄りの物流センター、2番倉庫。中にはあるべき荷物が無く、代わりに巨大な水槽が置かれている。満たされているものは幾人もの女の血。
 真っ赤な水面へと向けて大館一歌が胸を突いた時、そこにうずくまっていた者が立ち上がった。
 犠牲者の頭、犠牲者の胴、犠牲者の手足。眼球だけがあるべきところに定まらず、全て口の中に突っ込まれている。いくつも、いくつも。
「ウ……」
 死んだ召喚者の胸から得物である剣を抜き、残響の女神は水槽を出る。
 正面には社員証で開く大きな扉。背面には三つめの鍵で開く通用口。左右の壁には二重サッシの窓。
 倉庫の外には夜間作業に携わる作業員たちと車両とが存在している。
 締め切った箱の中ではあらん限りの叫びも力が弱い。
 心の傷を覗き込もうにも遠すぎる。
 つぎはぎの女神は今、扉を開けて外の世界へと出ようとしていた。
蔵持・倉子
はてさて、案の定というかなんというか。色々と出来の悪い女神様だことで…と言えばいいのか。まぁいい、作業員どもには物理的にどいてもらうとするか。一時的に【倉庫】で隔離してやる。抵抗するならそれでいい、最低限の人命に関わる義務は果たした。あとは知るかよ【救助活動】

立ち回り自体は内蔵火器で【援護射撃】か、あとはまぁ、この機械の体でぶんなぐるか、かね【怪力】【鎧砕き】
一応は固有振動波もあるといえばあるが、あまり大立ち回りはしたくねぇな【衝撃波】

あとは、出来るなら倉庫から出したくねぇな。人目に触れていいもんじゃねぇし、揉み消すにも都合がいいだろ。資材やらで出入り口を塞ぐってのも考えるかね【拠点防御】



●神具女
 白々と明るい操車場で、今、蔵持・倉子(歪に歪める歪みの少女・f12345)は面倒な作業に追われている。
 倉庫の周辺が危険だと告げた時、作業員たちはまず目を逸らそうとした。何かを知っているわけではないが、どことなく異変を感じている者たちの顔だった。
「助けてくれるのかっ?」
 最初にそう言い出したのはどの作業員だっただろう。
(「抵抗するならそれでいいとは思ったが……」)
 まさか、次々に助けを求めてくるとは。
 人間の素直な生存欲求を目の当たりとしながら、ディメンションスペースを用いて避難誘導を行う倉子は、どのような作業員よりも勤勉な作業員と言える。彼女の口調よりも行いを重く見たのだろう。救助される側はおとなしい。
「さて、最低限の人命に関わる義務は果たした」
 全ての避難を済ませ、あとは知るかと2番倉庫に向き直った時、正面の扉が小さく軋んだ。観音開きの中央に少しずつ隙間が開き始める。
「アンタは」
 倉子は扉の正面へと駆けた。隙間から覗いた血の気のない膝頭を、助走の勢いを乗せて蹴り戻す。
「人目に触れていいもんじゃねぇ」
「ッウ……ウ、ウ……!」
 機械化された体の一撃を食らい、残響の女神は倉庫の中でうずくまった。間髪入れずに扉を閉じる。
 ガンッという固く重たい音が、意識を引っかくような呻き声を打ち消した。
「揉み消すにも……」
 倉子は脇に積まれていたパレットを四つまとめて抱え上げ、閉ざした扉の前へと立てかける。それを押さえるために引きずるものは金属箱二つ。
「こうすりゃ、都合がいいだろ」
 両手の汚れを叩いて払う。扉は悔しげに振動するばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミニョン・エルシェ
SPD
外に出すと作業員たちを巻き込む上に、戦力にされそうですね。
3つ目の鍵を使って通用口から踏み込み、倉庫内で仕留めます。

「行きましょう、綺羅星。少し狭いですが、走れるでしょう?」
倉庫内にほぼ何もない、というのが幸いですね。万里走破・如煌星で騎乗戦闘です。
外の作業員が叫びに共感しないように遠ざけるべく、
鎗で弾き飛ばす、馬で撥ねる、鉤縄で引き摺りあげるなどの手段で
倉庫の中央まで追い込みます。
「己に都合よく輝き続けるものなどないのです。道を誤りましたね。」
叫びが喉に依存しているかはわかりませんが、ダメ元で喉を貫きます。
狂気に対しては抵抗です。

こんなものの為に。亡くなられた方は浮かばれませんね。


鳴宮・匡
【アドリブ/複数描写OK】
◆真の姿:瞳が仄かに青く

突入は窓か、或いは通用口
なるべく音を立てずに済む方を使う
人目に触れたくはない、正面は避ける

こんなものに殉じる性根も
これの何が美しいかも
俺には理解できない
だからこそ気兼ねなく殺せるんだけどさ

牽制を織り交ぜて射撃しながら相手の特性を観察
何処が脆そうか
何が動きの要になっているか
どこを砕けば効果的にダメージを与えられそうか
観察から得られる情報は逃さない
「視る」のは得意だ

あの「眼」は嫌だな
凝視されたら即座に【抑止の楔】
眼を狙って狙撃
序でに幾つか脆そうな部位も戴いておく
少しでも勢いを削げば次に繋がるだろ

そのまま倒れてくれていいぜ
――視られるのは、嫌いなんだ


桜田・鳥獣戯画
最初に辻村が言った「女性達の生存の可能性は低い」とは、こういうことだったのか…
おそらくこの中には、観客発狂寸前のとんでもない化け物が居るだろう。

三つ目の鍵で開く背面側通用口からの侵入を試みる。
正面出口を抑えてくれた者が居れば袋の鼠にできよう。窓も少々気にかかるので注意はしておく。

【POW】
戦闘前に一度、両手を合わせる。
戦闘になればUC【弱肉狂喰】で戦力増強を図り、前衛からの攻撃で対抗。弱点がわかるまでは移動部位(脚?)を狙う。
これまでと違い相手の目を見ぬよう努めたい。

中はおそらく見るに堪えぬ状況だろうが、片付くまでは極力心は動かすまい。
そこに誰の切なる想いがあろうがな。

(アドリブ連携歓迎です)


ロジロ・ワイズクリー
何処の世界にも似たような存在はいるらしい。
何れにしろ滅べ、クソッタレ。

倉庫の闇に紛れるように物陰から残響の女神へと【忍び足】と【フェイント】を駆使して接近しよう。血の匂いに、否応なく【血統覚醒】の能力を引き出せば、一気に形を付けるべく魔術装置の力を借りて【捨て身の一撃】でバールのような形状のメイスを叩き込み【傷口をえぐる】。

その中身に詰めたモノ、全部かえして貰おうか。
返せない?ならその命で贖えよ。



●星読み
 ミニョン・エルシェ(城普請術師・f03471)が向かったのは通用口だった。
 三つめの鍵を使ってドアを開くとガツンという破壊の音に出迎えられる。
 ガツン。
 また、ガツン。
(「窓を……」)
 ミニョンの見つめる真っ直ぐ先で、残響の女神が剣を振り上げている。振り下ろすのは柄頭、叩きつける先はサッシ窓。外界を目指して破ろうとしているのに違いない。
 駆け込むミニョンの傍らで空間が揺らぐ。
「行きましょう、綺羅星。少し狭いですが、走れるでしょう?」
 そこに現れたものは頑強な馬鎧に身を包んだ神馬。ミニョンが鞍を跨ぐと嘶きと蹄の響きとが高らかに反響する。
「……ゥ、ウ?」
 異変に気づいた邪神が手を止めた。向き直って前に出る動きは思いのほか速い。
 そちらを一直線に目指し、騎馬は大きな水槽を飛び越える。
(「こんなものの為に」)
 残響の女神が剣を振り上げた。馬身の片側へと身を落とし、ミニョンは刃をかいくぐる。
(「亡くなられた方は浮かばれませんね」)
 銀の髪を一筋断たれたが、それだけ。手綱を絞って神馬を操り、後脚で女神を蹴り飛ばす。弧を描く蹄とドンッと腹に響く衝撃。重い。
「ウ゛、アゥ……!」
 女神は倉庫内中央まで跳ね飛ばされた。床に叩きつけられて大きく一度バウンドする。
「ウ……」
 つぎはぎの体はバランスが悪いのだろう。敵が立ち上がろうと足掻いている間に、ミニョンは馬首を巡らせる。
「己に都合よく輝き続けるものなどないのです」
 淡と告げて馬上鎗を構え、一直線に煌星を駆った。狙うのは女神の喉頸。
「グッ……ゥ!」
 チャージの勢いを真っ向から受けて、残響の女神は天を仰ぐ。
「道を誤りましたね」
 倉庫の天井に、行方を示す星はない。


 女神の口から、すきま風に似た音と多数の眼球とがこぼれ落ちる。
 呆気なく転がる犠牲者たちの一部。邪なるものはひざまずいてそれを拾い、剣のガードにはめ込んだ。
「……フ」
 異様な飾り玉となった瞳は血の涙を流し、ぎょろり、ぎょろりと動く。
 刀身が黒く輝き始めた。

●帰還
(「こんなものに殉じる性根もこれの何が美しいかも、俺には理解できない」)
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は通用口付近の物陰に立ち、関節を縫い留められているらしき敵の足首から上へと視線を上げる。弱点はどこか。
(「だからこそ気兼ねなく殺せるんだけどさ」)
 女神が歩み出すのは破れかけの窓の方角。もう、ろくに声も発せられないだろうにまだ外を目指すのか。
 行く手を塞ぐ位置へと桜田・鳥獣戯画(鑑の黒鐡・f09037)が歩み出た。亀裂の入った窓を背へと回して立つ。あと一撃でも入れば、さしもの二重サッシももう保つまい。
「あれは、こういうことだったのか……」
 グリモアベースで聞いた話。被害者たちの生存の可能性は極めて低いとは、こういうことか。
 赤茶色の瞳はこの場までの道筋を全てきっちりと見つめてきた。その眼差しを今初めて外し、鳥獣戯画は胸の前で両手を合わせる。十の指がぴたりと重なった。
「ウ、……ァ」
 そこに何を感じたのか。被害者の部位の集合体は唐突に足を止めた。縫い合わされている関節たちが個々に泣き出したかのように震え始める。
「継ぎ目だ」
「ここか」
 匡の一言に鳥獣戯画の足払いが応える。生肉を臓腑に得ての蹴りは鋭く、膝関節をもろにやられた邪神は水槽を背にして尻餅をついた。立ち上がろうと床に差し出した手を匡が撃ち抜く。
 とぷり。
 真っ赤な水面が揺れた。
 今にもあふれそうな水槽の脇から、一対の腕が差し伸ばされている。握っているのはバールのようなもの。そしてバールではないもの。
 それは巨大な水槽の裏に身をひそめていたロジロ・ワイズクリー(ブルーモーメント・f05625)の腕だった。手にした凶器を渾身の力で振り下ろすと邪神の肩口が深々と抉れる。
「……! ア、ガアッ!」
 剣を取り落とす音が甲高く響いた。
「何処の世界にも似たような存在はいるらしい」
 生き血の匂いに満ちた緋色の陰から、ロジロはその姿を現す。
「何れにしろ滅べ、クソッタレ」
 ヴァンパイアの血統に覚醒したダンピールの力は凄まじい。真紅の瞳に生涯の一部を捧げながらも、ロジロは得物を握り直す。
 女神は唯一無事に残った側の手で剣をつかみ上げる。しかし、手首を鳥獣戯画にとられて動きを失った。
「誰の切なる想いがあろうがな」
 犠牲者の瞳を飾った剣を鳥獣戯画は拳で叩き落とす。
 だめなことはだめだ。飲まれるわけにはいかない。
 ダンッという足踏みは女神の抗議。つぎはぎの邪神が身を起こした。黒い穴でしかない双眸を匡へと向けて、ふと、唇を戦慄かせる。
「『視る』のは得意だ」
 暗闇である匡の銃口が、暗闇である眼窩を見ている。だが、女神が一心に見ているのは匡の瞳だ。仄かに青い真の姿の瞳。
 眼窩の虚の奥で何かが蠢く気配がする。
 でも、と匡は言った。でも。
「――視られるのは、嫌いなんだ」
 いくつもの銃声が畳みかける勢いで響き渡る。
「ヒ、ィ、ィ、ィッ……ァ」
 残響というにも細い悲鳴と共に女神は頭を仰け反らせ、硬直した。抑止の楔に眼窩を撃ち抜かれて、崩れた虚はただ天井を見るしかない。
 ロジロが重たい鈍器を振りかぶった。
「その中身に詰めたモノ、全部かえして貰おうか」
 赤い水面だけが、ひたりと揺れる。
「返せない? なら」
 ブンッという風切りの音。
「その命で贖えよ」
 鉄槌が落ちた。
「アアアアア……、……!」
 刹那、鳥獣戯画の五指の間から肉の抵抗が消え失せる。つぎはぎが崩壊して、手首が、肘が、肩が解けて落ちていく。最後には、頭が。
 心許ないそれらは水槽に落ちて飛沫を上げると彼女の赤黒いコートをさらに赤黒く染め上げ、本来の持ち主たちの血へと溶けてあふれて還る。少しだけ寂しかった女たちの全てが還る。召喚者も含めて。
 とぷり。
 揺れる水面の立てる音は、あたかも末期の吐息だった。
 もう、帰らぬ女が増えることはない。


 私の美しいひと。
 脇目を振らずにいれば、本当に欲しいものを見ずにすむ。
 見たくはないものを見ないために見えないものに目をみはる。
 ワタシヨリモアイサレルモノナンテホントハダイキライ。
 見つめていたものは、独りきりの闇だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月30日


挿絵イラスト