帝竜戦役③〜盤上戦戯
●帝竜カダスフィア
陽光浴びて輝く砦に、一体の竜がいた。
銀の防具を纏い、目の前を見る黄金の目は煌々と。しゅううと息を吐いた口からは、これまでと現在を冷静に分析する知性ある声が紡がれる。
『僅かに一手。僅かに数日……。ヴァルギリオス様の仰られた程、我等は後手に回った訳ではない。しかし、それでも、この最速の我さえも、敵に先手を許す事となった』
長い尾がゆったりと動き、白と黒が並ぶ床――チェス盤の床を撫でる。
再孵化を果たした己らに、それ以前の記憶はない。
しかしどうした事か。脳裏には、敵の喉元に喰らいついておきながら敗北を喫したという悪夢が刻まれている。その苦い記憶は揺れる尾の動きへと現れ、大きなうねりを見せて激しく床を叩く――と見えた尾が、ゆっくりと下ろされていく。
脳裏に刻まれた悪夢は晴れない。
だがそれは、“どのような盤面からでも勝利の光明は見える”という事だ。
竜――帝竜カダスフィアはぐるると喉を鳴らして空を仰ぐ。
『例え捨て駒となろうとも、勝利の栄光をヴァルギリオス様の御元に捧げん!』
●帝竜戦役
アックス&ウィザーズのオブリビオン・フォーミュラ『帝竜ヴァルギリオス』によって蘇生された帝竜の一体、『帝竜カダスフィア』への扉が開かれた。
かの世界を救うにはヴァルギリオスを滅ぼさねばならず、その為にはまず、このカダスフィアを倒す必要がある。
「相手は凄くチェスチェスしい竜だよ。その能力もね」
リオネル・エコーズ(燦歌・f04185)はいつもと変わらない微笑を浮かべ、グリモアを現した。
帝竜カダスフィア。
周囲のあらゆるものをチェス盤や駒をモチーフとした眷属に変える竜だ。
チェス盤化した大地と合体すれば、その姿は今以上に巨大な存在へ。
チェス型ゴーレムの大群を生み出し、大群率いる将の如く襲い掛かってくる事もある。
「あと、周りの無機物をチェス盤や駒っぽい怪物にもするっぽくて」
竜と聞くと炎のブレスや金銀財宝独り占め、のイメージだというリオネルは、色んな竜がいるねと微笑んだ。
強大な存在――それも一体、二体というレベルではない数の帝竜が、郡竜大陸に存在している。最初に戦う事となる帝竜カダスフィアは、確かな戦術眼を持つといわれる帝竜であり、猟兵よりも先に攻撃してくるだろう。
カダスフィア相手に勝利を得るのは楽ではない。
しかし、猟兵たちは様々な戦場・世界を渡り歩き、救ってきた。戦った相手、編み出したユーベルコード、戦場での動き――これまでの経験全てが、力になる。
故にリオネルの浮かべる表情はいつも通り。
大丈夫、と穏やかに笑い、猟兵たちを見る。
「きっと今回もバシッと決められるよ。じゃ、あの世界を助けに行こう!」
リオネルの手の上でグリモアが輝きを放ち始めた。
向かう先は郡竜大陸。
帝竜カダスフィアが待つ、白と黒の盤上へ――。
東間
閲覧ありがとうございます、東間(あずま)です。
帝竜一体との戦いをご案内。
●プレイング受付期間
導入場面はなし、オープニング公開時からプレイング受付開始です。
〆切は翌日14時を予定していますが、成功度に達しない場合は延長します。
変更の際は個人ページ冒頭及びツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせ致しますので、お手数ですがご確認をお願い致します。
※全員採用のお約束は出来ません、あらかじめご了承下さいませ。
●プレイングボーナス:敵のユーベルコードへの対処法を編みだす
敵は必ず先制攻撃してきます。
それをいかに防御し反撃するか、そこが重要になります。
●お願い
同行者がいる方はプレイングに【お相手の名前とID、もしくはグループ名】の明記をお願い致します。複数人参加はキャパシティの関係で【二人】まで。
プレイング送信のタイミング=失効日がバラバラだと、納品に間に合わず一度流さざるをえない可能性がある為、プレイング送信日の統一をお願い致します。
日付を跨ぎそうな場合は、翌8:31以降の送信だと〆切が少し延びてお得。
以上です。
皆様のご参加、お待ちしております。
第1章 ボス戦
『帝竜カダスフィア』
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POW : ビルド・カダスフィア
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【チェス盤化した、半径100m以上の大地】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD : ミリティア・カダスフィア
【チェス型ゴーレムの大群】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 形成するもの
自身からレベルm半径内の無機物を【チェス盤やチェスの駒を模した怪物】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:あなQ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
カイム・クローバー
最初の帝竜はアンタか。…随分と装飾過多だ。趣味とファッションを両立したその頭の兜はアンタの拘りかい?
魔剣を顕現し、肩に担いだまま。ロボを見上げるぜ。…なるほど。このチェス盤大地は自分の力を最大に発揮する為のフィールドって訳か。ロボの趣味も悪くねぇ。アンタ、戦隊物の特撮とか好きだろ。
ロボに対して俺もUCで対抗だ。本体に傷は付けられねぇが、そのロボとやらは斬れるぜ。的がデカイと当てやすい。
帝竜だけになれば、魔剣を使っての【二回攻撃】と紫雷の【属性攻撃】を刀身に纏って【串刺し】を叩き込む。
魔剣から手を離し、懐から二丁銃を至近距離で構えて。この場所じゃお誂え向きの台詞。こいつで――checkmateだ
ゆるゆると水分を奪うような日差しの下、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は帝竜が一体『カダスフィア』と対峙していた。敵の喉奥から響く音は暗雲を引き連れた雷鳴のよう。
「最初の帝竜はアンタか」
『左様。最初の猟兵は貴様か』
「まぁな。……にしても、随分と装飾過多だ。趣味とファッションを両立したその頭の兜はアンタの拘りかい?」
『好きに捉えるが良い。そして死ね』
膨れ上がった殺気。轟音と共にカダスフィアの周辺が一斉に隆起し、竜の肉体を覆っていく。その拍子に落ちた巨大な欠片がガンゴン響きながらバウンドしてきた所を、カイムは肩に担いでいた魔剣でフルスイングした。
ゴォンゴォンと飛んでいった破片をカダスフィアはちらりとも見ず、大地を蹴る。それだけで凄まじい音が響き、蹴られた大地は見事砕かれた。残る足跡の陥没具合が、現在の重量がどれほどかを教えてくれる。
(「……なるほど」)
この戦場はカダスフィアの力を最大限に発揮する為のフィールドであり、幾らでも補充の利く武器庫。己にとって――いや、全猟兵にとってアウェー。だがカイムは地響きのような足音に笑み、魔剣へと力を注ぎ込んでいく。
「兜だけじゃなくロボの趣味も悪くねぇ。アンタ、戦隊物の特撮とか好きだろ」
とくさつ。聞き慣れぬ言葉にカダスフィアの目が一瞬だけ疑問の形を浮かべ――どごん、と凄まじい足音で疑問を掻き消した。巨体が更に巨体になった分、やはり足音のボリュームが凄まじい。そして。
「当てやすくて助かるぜ!」
握り締めるは神殺しの魔剣。相手が神でなかろうと“イカしたロボ”を斬れればそれで良い。魔剣の一撃は鎧の如く帝竜を覆っていた物を砕き、元の姿を露わにした。
『ムゥッ!? だが! 我は止まらぬ!』
「だろうな」
兜の駒と鼻先の銀角。二つを前に突っ込んできた一撃を魔剣で受け止めるついでに斬り、そのまま懐に飛び込みもう一閃。頭上で響いた雷鳴に「まだあるぜ」と笑い、紫雷纏った刃で腿を串刺しにしてすぐ、フリーになった両手で二丁銃を握って。ガチリ。
「こいつで――checkmateだ」
至近距離で撃ち込んだ二発が、帝竜の脚に赤い花を裂かせた。
成功
🔵🔵🔴
エンジ・カラカ
白、黒、白、黒
アァ……目がおかしくなりそうだなァ……。
コイツら何だ?
馬、王冠、変なのがいーっぱい
アァ、もしかしてコレはゲーム?
頭が高いヤツラがこんなのやってた気がする
それじゃあ、コレもゲームに参加しないとなァ
賢い君、賢い君、先にあっちからくるらしいヨ
コイツらを纏める方法は……アァ、そうしよう
目立たないと第六感と見切りで急所を外す
足に注意。攻撃を受けても走れるようにはしておく
攻撃は賢い君の赤い糸で受け止めて
そのまま括り付けるサ
そうしたらあとは走る
括り付けたまま走ってまた別のヤツに括り付けて
大きな金槌を作るサ
敵サンが纏まったら力いっぱい振り回して
全部まとめてなぎ倒そうそうしよう
クロト・ラトキエ
勝利しか目を向けぬ様は、宛ら王か。
大群の挙動を確と視る。
無規則か、駒に倣うか…
速度、盤面の間隙、攻撃の手段に予備動作…
見切り、万事を知識に照らし。
動く先が判れば、踏むべき目が分かる。
攻め手が判れば同士討ちも狙える。
同時に動かれようと――
女王に僧、騎士、城砦…兵。
圧巻なる群。
…されど、飛べる者など在りました?
動くに併せ舞わせた鋼糸は、側行く駒へと巻き絡げ。
これだけ居りゃあ、足場には困らぬでしょう。
ゴーレムの身を駆け、登り、
範囲攻撃の要領で鋼糸をより広く、
帝竜さえも巻き込んで、
空中より放つUC。遍く断て
――拾式
ルールに則りお行儀よく…なんてのは、
生きて還る為には不要。
お遊びの中だけで十分でしょう?
彼方へと駆けていく銃声が、カダスフィアの周囲を砕いて現れたゴーレム軍団によって消されていく。その姿形は本物以上のサイズを持ったチェスの駒であり、魔力でも宿しているのか、ぐわりと浮いて大地に立った。
カダスフィアの前に並ぶ大群二つの見目は綺麗な鏡合わせ。それがゆっくりと動き出せば何やらごちゃごちゃして見えて、ンン、と満月色の目が細められる。
「アァ……目がおかしくなりそうだなァ……」
「大丈夫ですか?」
クロト・ラトキエ(TTX・f00472)に、エンジ・カラカ(六月・f06959)は、ぐー、と目を閉じて、っぱ。ぱちぱち瞬きし、ダイジョーブと薄ら笑って敵を見る。
「馬、王冠、変なのがいーっぱい。アァ、もしかしてコレはゲーム?」
頭が高いヤツラがこんなのやってた気がする、と、エンジはちょっぴり顎を上げて、こんな風にと仕草をひとつ。
地底から這い出てきた大群を従えたカダスフィアの目は、次なる猟兵である二人に注がれており、そこに在るものをクロトは冷静に分析する。
(「勝利しか目を向けぬ様は、宛ら王か」)
『貴様等猟兵を全て屠り、ヴァルギリオスに勝利を捧げん!』
その『王』は己より更に上位の存在の為と声を上げ、最奥に控える将よろしく此方を見据えたまま。その前に並ぶ大群が、横へと広がりながら前進を始めた。
ポーン、ビショップ、キングとクイーンは台座から人の上半身を生やし、ルークは城砦の壁を切り取ったような姿。ナイトは、後ろ足付け根から上しかない馬と、その背にくっついている騎士のセットだ。
土煙上げて迫る大群の動きは規則正しく、駒の一歩は盤面一マス分のようだが、進み方はチェスそのものではなかった。駒に倣ったものというより統率された兵団に近い。
キングが手にした剣で自分たちを指し、ポーンとナイトが雄雄しい声を響かせ、更に横へと広がった。帝竜の命のまま、キングに率いられ迫る大群二つ。圧巻なる郡との距離はどんどん縮まって――。
「されど、飛べる者など在りました? 僕たち以外で」
「いないいない。そうだろう賢い君。アイツらみぃんな、ごんごん跳ねてるだけサ」
ちょっぴり悪い笑顔を交差させた二人の姿は、大群が雪崩の如く殺到した瞬間、行動を開始した。穏やかな空気から一転、素早く動いたクロトと共に鋼糸が舞う。手近な駒をキリリと複数纏めたなら、お邪魔しますと駒の身を飛ぶように駆け上っていって。
『きっ、貴様!?』
「ああやっぱり」
彼らの頭を拝借し、高くなった視界に「これだけ居りゃあ、足場には困りませんね」なんて余裕の笑みと共に鋼糸を広く躍らせ、次々に足場をこさえていく。そこへ伸びる筈のポーンやビショップ、ナイトにキングにクイーンが持つ得物はというと。
「そうだな賢い君、ぐるぐるにしてやろう。ぐーるぐる」
自分たちを呑み込もうとした影、駒の大群が降らせたそれにするりと気配を溶け込ませていたエンジは、肌をひりひりさせる感覚のままに身を動かし駆ける。少しだけどこかがズキズキするような。けれど賢い君との内緒話で決めたンだ。コレもゲームに参加しようって。
「コイツ、コイツ。あと、コイツとコイツも」
エンジと共に赤い糸が駒の間を無言で走り、剣もメイスも豪奢な杖も全部全部受け止め――ギリギリ、ギギギとあちこちで歪が音色が溢れ出した時には、ぐるぐると纏められた駒が複数。
しかも走り続けるエンジによって、それぞれで纏められたものがガツンごおんと激突しながら新たなひとつを作らされていく。その拍子に一部の城砦の顔、いや、壁が盛大に崩れもして。
「できたできた」
急ブレーキをかけたら賢い君を大事に大事にぎゅうっと握り締め、ぐん、と円を描くように。そうすれば帝竜製の大きな金槌は同じ駒を巻き込み粉砕し、そして自分自身もその衝撃で徐々に崩していく。
『我のゴーレムをそのような真似に使うだと!?』
「敵の使うものを使ってはいけません、なんてルールはありませんからね」
涼しげな声と共にカダスフィアの視界に飛び込んだ銀の線。ひゅ、とそれが軽やかに舞ったのは一瞬。それは戦場のあちこち――空気までも巻き込む密度であらゆるものを等しく抱き込んで。
「遍く断て。――拾式」
音すら生まぬ速さで、駒という駒を、帝竜の身を斬り裂いた。
『ガアアァァ!!』
カダスフィアの悲鳴は崩れゆく大群の音でも消せず、更に「まだあった」とニコリ笑ったエンジが、金槌の残りを思い切り頭上から叩き込む。
轟音に轟音が重なって大賑わいという中、エンジとクロトは飄々と笑んでいた。
チェスもこの戦いも、動く先が判れば踏むべき目が分かる。攻め手が判れば同士討ちも狙える。故に導かれた解が、“これ”。
「ルールに則りお行儀よく……なんてのは、生きて還る為には不要ですから」
それは楽しい楽しいお遊びの中だけで十分。
そしてこれは、どれだけ遊戯の様を模そうとも戦争なのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィリ・グロリオサ
シリウス(f24477)と
ほう、盤上遊戯。知性生物らしいものがでてきたではないか。
然しルールは碌に識らんようだな。
同時に全ての駒を動かすなど無法も良いところだ。
私は死者。
そこの男の首を落とすまでは粉砕されようとも甦る。
両腕程度ならくれてやる。杖を構えて、駒どもの攻撃を凌ぐ。
これよりこの地は処刑場。
無機物であれ、精霊は雷を落とすであろうよ。
既に限界などと笑わせるでないぞ。
雷は如何なるものにも等しく注ぐ。貴様も気をつけよ。
ふん、温き星に砕けるのは雑兵のみよ。
定めて穿てぬ矢など言うまでもない。
腕が無ければ口を使い。
雷も星も潜り、竜鱗へノコギリを叩き込んでくれよう。
この地は処刑場、先程告げたようにな。
シリウス・クロックバード
ヴィリ(f24472)と
盤上の支配者は竜たる君か、君が全てをかける何者か
こちらもルールの外からお邪魔しようかな
我が身は既に死者であれば、駒として取られはしない
その男の心臓を撃ち抜くまでこの身は死なない
蘇るのさ
傷は構わず、駒の攻撃を弓で受け止め
義眼のサーバーで軌道は予測するが、竜の術。避けるよりは凌ぐに使う
腕の一つであれば君にあげよう。至近とて射手の間合いさ
は、この程度の雷鳴では星も墜ちもしない
君も気をつけることだ。
星は誰の元にも降り注ぐ。
不用意に射貫かれないことだ。我が宿敵。笑ってしまいそうだからね
——今こそ星を招こう。
流星雨にて、駒の全てを打ち砕き竜をも狙う
片手が残れば銃を抜き撃ち抜こう
戦場となるは盤上遊戯と聞き、知性生物らしいものが出てきたと思ったヴィリ・グロリオサ(残影・f24472)だが、広がる光景を見て即座に相手の質を悟る。
白と黒の盤上。そこに現れ、そして他の猟兵二人によって瓦礫へと変えられた大群の動き。そうか、と零れた声はどこまでも冷ややかだ。
「ルールは碌に識らんようだな。同時に全ての駒を動かすなど無法も良いところだ」
かの遊戯は盤上と脳内で戦略を繰り広げ行うもの。
これでは半分も楽しめまい。
「では、こちらもルールの外からお邪魔しようかな」
冷えた眼差しと同じ声音の隣、シリウス・クロックバード(晨星・f24477)もまた、ふたつの新緑に戦場の主たるカダスフィアを映していた。
脚には銃創。纏う銀の防具には罅割れが入り、体中には裂傷多数。無傷ではないが溢れるプレッシャーと殺気は盤上の支配者と呼ぶに相応しい。しかし、真の支配者はカダスフィアではなく、あの竜が全てをかける存在か。
『客人であれば丁重に持て成すべきなのだろうな。だが!』
二人の方を向いたカダスフィアの尾が転がっていたポーンの頭を叩き飛ばす。がん、ごん、と転がる音はすぐに止み、直後、地響きめいた音と震動が盤上を覆い始めた。
『貴様等ヴァルギリオス様の敵は、この身を以って滅ぼさねばならぬ!!』
「ほう。“滅ぼす”と言ったか」
「それは無理な話だね」
激しくなる震動と音。大地より這い出るような動きで現れた巨大なクイーンが二体、ッガン、と杖で大地を突いて身を起こす中、く、と零れた笑みはどちらのものだったか。
この身は既に死者。
唯一絶対の衝動がある限り、チェスの盤上に在る駒にはなり得ない。
金緑石の視線がシリウスの首に線を引き、新緑の視線がヴィリの心臓を射抜いた瞬間、それぞれに迫ったクイーンが杖を振り上げ、二人の頭部に胴体との別れを告げさせるべく落とされる。
ごう、と叩き込まれた一撃は構えられた杖と弓越しに二人の体に衝撃を走らせ――がらん。継ぎ接ぎだらけの土気色と傷跡残る褐色が衝撃でちぎれ落ち、杖と弓が大地に転がる。だが、衝撃でばつんとちぎれ落ちたのは頭ではなく。
「両腕をあげてしまったのかい。義眼であれば君に軌道予測データを送れたろうにね」
「貴様は予測しておいて“それ”か。腕を一つくれてやるとはな」
『――!? 貴様等、死者かッ!!』
驚愕の直後、クイーンたちが今度こそ確実なる死をと杖を引く。カダスフィアが即座に見せた切り替えは流石と言えたかもしれないが、それは雷火が降り注いだ瞬間、無意味なものへと変わった。陽光降り注ぐ盤上は失われ――。
「これよりこの地は処刑場となる」
相応しくない振る舞いには、その身で以って償いを。
精霊が齎す雷火が杖握る腕を、頭を砕いて落とす。それはカダスフィアにも及び、頭を低くしたその上に竜翼が広げられるが、ヴィリの視線は怪物と帝竜ではなく、片腕を落とした男へと。
「既に限界などと笑わせるでないぞ。雷は如何なるものにも等しく注ぐ。貴様も気をつけよ」
「は、この程度の雷鳴では星も墜ちもしない。君も気をつけることだ。星は誰の元にも降り注ぐ」
宿敵が不用意に射貫かれる様なぞ見たら、死ぬほど笑ってしまいそうだ。
微笑む新緑は再度心臓の位置を見つめ――星を招く。輝き落ちる雨は処刑場を囲む結界となりながらクイーンの胴に次々と穴を開け、カダスフィアをも狙った。その程度、と侮る暇は与えられない。
『ぬうぅ、これは……これは一体っ、どうした事だ!?』
翼が。四肢が重い。
何をした。何をされたのだ。
様子がガラリと変わった盤上。雷火と流星雨注ぐ中、平然と立つ死者二人。カダスフィアの両目が解決の糸口を得ようと巡った時、シリウスは残る片手に銃を握り、ああ、と笑む。
「ノコギリだろう。取ってあげようか」
「要らん。口がある」
「そうかい」
言い終わらぬうちに帝竜へ向けていた銃口から、一発、二発。この世界を守る為の銃声は雷火にも流星雨にも落とされる事なく、帝竜の肉を裂いて痛みと熱を刻み込む。
そして、ノコギリを咥えた影が雷と星の下を一気に駆け抜けた。ヴィリはギザギザの刃を竜鱗の隙間へと迷いなく食い込ませ、全体重をかけながら一気に左へ。ぶちぶちと肉をちぎり斬り裂く手応えを得てすぐ、悲鳴を上げる巨躯から飛び退いたその眼差しは、変わらず冷ややかで。
「解らぬのであればもう一度告げてやる」
この地は処刑場。雷火が晴れたとて、一度開かれたそれは終わらない。
次の者が、すぐそこからやって来る。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ナイ・デス
流石に、帝竜。私が倒すことは、難しい、でしょう
けれど……どんな盤面からでも、勝利の光明はみえる、ですよね
私は、その光を目指してみましょうか
詰み(チェックメイト)に至らなくても、仲間がそれに繋がるような、王手(チェック)を!
【怪力ダッシュ】で大群へ突撃
【覚悟、激痛耐性、継戦能力】傷つき壊れても【念動力】で身体動かし、止まらない
そんな【存在感】で私に意識を向けさせて、私は倒される。その瞬間
王手(チェック)です!
『今はあなたの後ろにいる』
死角から【鎧無視攻撃】黒剣鎧の刃を突き立てて
【二回攻撃で生命力吸収】払われるよりはやく、力を奪う
不意打ちと急な虚脱感で、誰か仲間が、クリティカルだせるような、隙を!
呼吸のついでのように響いていた雷鳴が、今は明確な意思を伴ってその音を響かせている。真新しい血痕は日差しで真っ赤に艶めき、カダスフィアが片足を動かした拍子に新たな一滴がそこにとけ込んだ。
その色とよく似た双眸――ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)の姿が、カダスフィアの黄金に映る。
『小さき猟兵一人か。だが油断はせぬ……!』
ごおん、がおんと巨岩同士がぶつかるような音と共に現れたチェス型ゴーレムの大群は全て黒。やれ、と声が掛かった瞬間キングの剣がナイを示し、黒き駒が大挙して押し寄せる。全てはたった一つの白色を完全に滅する為。
大口開く魚のように、黒の大群が轟音を響かせながら横へと広がる様は圧倒的。その向こう、黄金の目をじっと己へ注ぐ帝竜へと至るのは至難だろう。ましてや、トドメを刺すなど。
(「けれど……」)
駆け出したナイの足音は敵群が轟かすものによって容易く消された。
迫る駒は自分より遥かに大きい。それでも、“どのような盤面からでも勝利の光明は見える”のなら、自分はその光を目指してみよう。黒き大波の中に、その向こうに、光があるのだから。
『殺せ!』
僧のメイスは肩を。兵士の剣は左の脇腹を。圧し掛かってきた城砦、嘶いた馬の前脚、女王の華美な杖――次々に襲い掛かる全てがナイを破壊しようとする。細い体はどんどん赤く染まり、倒れかける度に、ぐん、と浮き上がって走り続けた。
ナイの足は止まらない。
長い髪を尾のように翻し、血を滴らせ、何度も倒れては起き上がり、走り続ける。
『何故だ! 貴様、何故止まらぬ!? 何故死なぬ!!』
殺せと帝竜の声が響き、あらゆる武器がナイに殺到した。そこまでやってようやく白い姿は盤上へと倒れ、帝竜と駒、全ての目が赤く汚れた白に注がれ――。
「王手(チェック)です!」
完全なる死角に現れた色は白だと、カダスフィアは見るより先に感じ取っただろう。そして翼の根本から走った燃えるような痛みに、裏をかかれたと知るのだ。
『ガッ、アァ――!!』
ナイは突き立てた刃を引き抜いて即、露になった肉へと突き立てる。鮮血溢れるそこから奪う帝竜の生命力が全身を駆け巡り、勢いよく飛び退いた。背に取り付いた自分を払おうと鞭のように動いた尾は、ばしりと背を叩くだけ。
『き、貴様……! だが、これしきで我は死なぬ! 倒れぬぞ!』
「わかって、います」
ナイはそれで良かった。たとえ自分の一撃が詰み(チェックメイト)に至らずとも、仲間がそれに繋がるような王手(チェック)を刺せた――それ以上を、今のナイは望まない。
大成功
🔵🔵🔵
ナァト・イガル
【アドリブ・連携歓迎】
”例え捨て駒となろうとも”か。
帝竜たる者の知恵と力はもちろんとして、この覚悟が最も厄介ね。
敵ながら見上げた忠誠心、と唄って終わらせたいところだけれど、これがまだ一体目、なのよね。
──だから、こんなところで手間取ってはいられないのよ。
【歌唱・楽器演奏・祈り・破魔・多重詠唱・鎧無視攻撃】をのせてUC『小夜啼鳥の戯れ歌』をめいっぱいに展開、形成された敵勢へ撃ち放つわ。
今まで、この世界で磨いてきた力よ。鳥が当たりさえすれば、全て光に変えてみせる。
開いた道を【地形の利用・足場習熟】で駆け、周囲から吸収した最大出力を束ねて帝竜を攻撃
たとえ一人でも──翼の一枚くらいは、貰い受けないとね
コノハ・ライゼ
へぇ、ホント色んな竜がいるモンねぇ
感心するよな声ひとつ
ケド視線は素早く周囲を*情報収集
無機物の位置、大きさから出現位置予測
*第六感併せ不意討ちによる致命傷避けつつ
攻撃を*オーラ防御で弾き負傷は*激痛耐性で凌いでくわ
チェスの意匠は結構好きなんダケド、ルールはさっぱりでネ
アンタ(竜)がキング……ってワケでもなさそうダケド
【翔影】発動
踏みしめる足元握る掌あらゆる己の影から影狐喚び怪物達へ嗾けマショ
さあしっかり喰らっておいで、数は足りてて?
その隙に*2回攻撃で直接王サマ狙っていこうか
「氷泪」から雷奔らせ帝竜へ撃ち込むヨ
雷ならば皮膚も鎧もお構いなしだもの
しっかり*捕食し*生命力吸収しておくわねぇ
新たな気配の元へカダスフィアが顔を向ける。その拍子に翼の付け根が鋭い痛みを発したか。びくんと跳ねた翼の動きと、喉から漏れた獅子の唸り声にも似た低い音。それでも双眸に宿り、輝くのは、激しい殺意と決意の二つだ。
「ホント色んな竜がいるモンねぇ。しかも随分とお洒落してるじゃない」
コノハ・ライゼ(空々・f03130)は感心するような声をひとつ。しかし買出しに来たような空気とは逆にその目は素早く盤上を巡り――カダスフィアもこちらを量っているのだろう。刺し、燃やすような視線で全身が包まれる。
「これがまだ一体目、だなんて。困ったものね」
溜息混じりに零したナァト・イガル(さまよえる小夜啼鳥・f26029)は、コノハからの気さくな同意に微笑を浮かべた。
『帝竜』としての知恵と力に加え、カダスフィアをより厄介な存在たらしめるのは、ヴァルギリオスに勝利を齎す為と、自らが捨て駒となる事も厭わないその覚悟。他の帝竜が控えていなければ、敵ながら見上げた忠誠心と唄い、ここで終わらせる事も出来ただろうに。
「――だから、こんなところで手間取ってはいられないのよ」
『それは我の台詞だ、猟兵。貴様等に先手を許してさえいなければ……だが、相打ちとなってでも貴様等を殺せば良い。さすれば、いずれはヴァルギリオス様が勝利を手になさる』
ごご、が、と轟くのは地震かと思うほどの音。ああ来た来た、と呟いたコノハがナァトにそっと耳打ちして頷きが返るまでの僅かな間に、盤上に生まれたばかりのナイトやポーンが動き出す。
ぐるんと丸を描くように揮われた剣は、そこにいた筈の二人ではなく盤上のみをガァンと叩く。盤上の欠片が銃弾の如き勢いで飛び散るが、それも二人には届かない。
「凄いわ、当たったわね」
「デショ? あそこからと思ったノヨ」
出現場所はコノハの読み通り。だが、一撃目を外したなら次で仕留めれば良い――喉を鳴らしたカダスフィアから放たれた殺害命令でナイトたちは勢いを増し、金槌で盤上を叩くような音をがんがん響かせ二人を追い回す。
「殺せだのなンだの……チェスってそんな野蛮なゲームだったカシ、ラ!」
突き出された剣を、身を捻りながら纏う守りでふわりと弾いた時。しゃらん、と聞こえた音色は駆けていたナァトの足元から。翻っていた鮮やかな布は、とと、とん、と緩やかに足が止められた事でふわりと落ちていく。
「正式なチェスではないし、一曲くらいはいいでしょう?」
素早く呼吸を整え、手にした弦楽器からは鮮やかな音色を。紡いだ旋律に自らの声を重ねれば、広がる音と共に無数の光鳥が羽ばたいた。
輝き翔る力は、今までこの世界で磨いてきたもの――歩み、培ってきたものが周り全ての光を吸収した光矢となり、更なる輝きを放ちながら駒たちへと向かっていく。
元々の数が判らなくなるほどの眩さとなった輝きは、盤上にそれはそれは濃い影を生んでいて。ああイイ感じだわと笑ったコノハの目が、光を浴びて艶めく駒を映す。
「チェスの意匠は結構好きなんケド、ルールはさっぱりでネ」
たん、と駆けた足元。
「アンタがキング……ってワケでもなさそうダケド」
帝竜をちらりと見て握った掌。
髪が項に落とす影。
コノハが持つあらゆる影が羽を得た管狐の通り道となる。一気に駆け出した可愛い子らの後姿を、そうっと細められた薄氷色が撫でるように見て。
「さあしっかり喰らっておいで、数は足りてて?」
ああでもアレだけデカいんだもの、きっとお腹もイッパイになるわ。
大地を呑む流星のような圧に満ちた光。音もなく宙を駆けた無数の影狐。光に呑まれ影に喰らい付かれたポーンとナイトたちの体は、主であるカダスフィアが解除する必要もないほどに、ただの無機物の塊から欠片へと砕かれて――そしてふたつの力によって完全に滅べば、一粒も残らない。
『まだだ! まだ終わらぬ!』
盤上は滅びず、ここにある。ならばここから、今一度、駒を。
しかし、力を注ぐ帝竜の前。兵も騎士も消えたそこは邪魔者がいない、自由に開けた大舞台。光を連れたタールの女と、右目からぱちりと雷奔らせた男が風のように駆けて行く。
「ええ、それには同意するわ」
「ハァイ、同じく」
──翼の一枚くらいは、貰い受けないとね。
――王サマのお味は、どんなものカシラねぇ。
ふたつの輝きが迸って。盤上に響くは、帝竜の悲鳴。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
SPD】
⚫︎先制対策
まぁ、ここはあれだね。
【目潰し】煙幕や【運転や操縦】で全力後退!
ゴーレムの移動範囲を利用して、チェスの開始位置に誘おうか。
⚫︎反撃
各個追撃してきたゴーレム軍団をUCで改変してこっちの手駒に変えて行こう。
手勢が集まったら反撃開始!チェスに相手の駒を奪うルールはないけど、盤面勝負なら、こっちの方が面白いよね。
あとは、迂闊なクイーンはナイトで狩って、ルークの守りとビショップの奇襲で有利に進めて行こう!
ぼくも制圧射撃の連携や弱い位置のポーンを上手に倒して、中央を制圧して一気に詰みまで持って行くよ!ルールは変則だけど、面白い一戦になりそうだ!
ふぉん、と不思議な音を響かせ飛び込んだ赤銅の輝き。その姿はカダスフィアにとって初めて見るものであり、何よりそれに騎乗している者を見て翼をばさりと震わせた。
『尚も現れるか、猟兵!』
「おぉっと……! ここはあれだね、全力後退!」
が、ご、ごん、とカダスフィアを守るように現れた大群へ国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)は軽快な笑みを向け、フロヲトバイ『百弐拾伍式・紅路夢』に乗ったまま、ひゅうんっと鮮やかなカーブを描いて遠ざかる。そのついでに、ぱぱ、ぱっと放った煙幕で帝竜と白きチェス軍団の視界を覆う事も忘れない。
『小賢しいッ!』
怒鳴り声と共に広げられる翼。まさか飛行をと目を丸くした鈴鹿の予想に反し、カダスフィアは両翼を大きく動かし煙幕をどんどん流していく。大群が前進を始めた事もあり、すっぽりと包まれていた筈の大群が、あっという間に煙幕から自由の身となっていった。
「あ、困るよそういうことは!」
抗議の声を上げた鈴鹿だがその表情は明るい。スピードを維持したまま後ろを確認し、即、右へ。つい一瞬前までいたそこに、ギイィンッと剣が突き刺さる。
次は杖、そのまた次はメイス。
鈴鹿の周りに点状のシルエットが落ちた、と思った数秒後に降り注ぐ武器は、どれもチェス型ゴーレムが持っていた武器だ。しかしその全てを鈴鹿は丁度良いタイミングで躱し、この辺りかな、と不適に笑む。
「あなたたちにぼくの理想郷を、夢見た世界を教えてあげるよ!」
『む!?』
少女の背後から燦然と溢れた輝きが大群を照らして。ふと、ルークとビショップが真後ろを向き、続いてナイトが同じように動いた。
巨大なチェス型ゴーレムは、ほんの数秒同じ色をした駒同士で見つめ合い――突如、ナイトの剣がクイーンを突く。な、と帝竜が零した驚愕は、ルークの守りと合わさったビショップの奇襲によって更に増した。
『貴様、我のゴーレムを乗っ取ったのか!』
「そうだよ。盤面勝負なら、こっちの方が面白いよね?」
さあ反撃開始さと宣言し構えた双式機関銃『ナアサテイヤ』と『ダスラ』。二つの銃口は後光の外にいたポーンを木っ端微塵に砕いていき、ぽかりと開いたそこを鈴鹿の駒となったゴーレムたちが轟音と共に行く。
「ふふ、面白くなってきた」
『ならば……指し手を叩く!』
「それはどうかな。なんたってぼくは、今をときめく超技術機械技師、国栖ヶ谷・鈴鹿で――猟兵は、ぼくでお終いじゃないからね!」
成功
🔵🔵🔴
イディ・ナシュ
【犠手】
己が身を勝利の礎として差し出されますか
誇り高き竜の献身、お見事と申し上げましょう
ですが、それは私どもも尤も得手とする手筋なれば
前に進み出た黒鉄の背へと隠れ
攻撃を一手に受けて頂く事に躊躇いはなく
次の一手の隙を生むべく魔導書を手に呪を紡ぎましょう
幾ら眼前で苛烈な攻めに削げる姿が見えようとも
己が身に竜の爪が届くとは露とも思わぬ凪いだ声で
生み出す霧は、光明隠す夜のそれ
魂の削れる苦痛は、盤面を変える代償としてはあまりに安い
…ニコラス様は、巻き込まれぬようお気をつけくださいませ
…ヤドリガミの一番の刃は、矢張り不滅に寄った我が身でございますね
感嘆ともつかぬ言葉は、報復の刃の重さを知ったが故の
ニコラス・エスクード
【犠手】
遊戯を模した戦場か
人の駒足りえるは物の務めとも言えよう
ならば、実に似合いの舞台だ
この身は正しく盾である
先手を譲るは茶飯事に他ならぬ
それがたとえ竜の暴威であろうとも、
我が身を以て受け留めてみせよう
背に人を置く戦場が久方ぶりだが、
より一層の覚悟が身に宿る心地だ
盾を構え、竜の眼前へと
我が身を包む黒鉄の同胞達
この身にて得た知識に膂力
そして主の盾として在り続けた矜持にかけて
その一撃、後ろに通せると思うなよ
この身がいくら拉げようとも
ただ、首の皮一枚残れば良い
ただ、一刃振るう力が遺ればいい
『さぁ、報いを受けろ』
…人の身にて出来ぬ事こそだ
それを成す為に与えられた身だと
痛めど朽ちぬ我が身を、ただ支え
次いで現れたのは、100年使われ、人の身を得た男と娘だった。
「遊戯を模した戦場か」
黒き兜の下より聞こえた声が、茫と輝き覗く赤い双眸が、盤上を形作る戦場を見る。
人の駒足りえるは物の務めとも言える。ならば、ここほど己らに似合う舞台はあるまい。
肩に担いでいた断頭刃――無骨な両手剣を静かに下ろし、構えたニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)の横。佇むイディ・ナシュ(廻宵話・f00651)の双眸は、ここの主である帝竜の翼に注がれていた。
見た瞬間、翼で何かしらの無理をしたのだと判った。
畳まれた翼から、ぽたりぽたりと落ちる赤い雫が血溜りを広げている。
「己が身を勝利の礎として差し出されますか」
そう声をかけたイディの瞳は、広がりつつある赤からカダスフィアへと。顔にあるのは夜のような静けさだけ。かすかな感情も見えぬ娘へ、カダスフィアがぐるると喉を鳴らし『左様』と答える。
『この身がヴァルギリオス様に勝利を齎すものとなるならば、惜しくはない』
響いた声にあったのは狂気や心酔ではなく、迷いなき誇り。
帝竜から漂う献身に、イディはお見事と呟き――ですが、と胸元に手を添えた。
「それは私どもも尤も得手とする手筋なれば」
『ほう?』
カダスフィアが一歩進む度に盤上が割れ、紙に染み込む水のような早さで巨体を覆い、倍以上のスケールへと変えていく。傷だらけの巨体は二色の盤上からなる鎧で完全に覆われ、遥か下に立つ二人に影を落とし、告げた。
『貴様等の誇りが如何程のものか、見せるが良い!!』
「いいだろう。だが、何一つとして後ろに通せると思うなよ」
ガァン! と響いた足音。たった一歩分が衝撃を伴って伝うその前へニコラスは立つ。先手を譲る事など、盾である己にとっては茶飯事に他ならない。主と共に駆けた戦場で、何度経験した事か。
背へと隠れたイディの気配は久方ぶりの感覚を呼び起こし、黒鉄の甲冑纏った全身により一層の覚悟が宿るようで。
『ゆくぞ猟兵!!』
カダスフィアの“一歩”が轟かす音と衝撃を浴びながら、ただ一つを構え。そして受け止めた竜の暴威は、崩れゆく山を、吹き荒れる嵐を浴びたようだった。だが己が身を包む黒鉄の同胞らと、己が得た知識と膂力。そして、主の盾として在り続けた矜持。今のニコラスを形作る総てがニコラスそのものを一つの盾とする。
故に、その身がいくら拉げようと黒鉄は揺らがない。
ただ、ひとつ。首の皮一枚、一刃揮う力が在ればいい。
『オオオォォオ!!』
「――、」
絶えず繰り出される苛烈な攻撃がどれほどのものかは、黒鉄の背へと躊躇わず隠れ、守られ続けるイディの双眸にしっかりと映っていた。だが魔導書を手にした心と呪を紡ぐ唇は、帝竜の爪が自身に届くとは露とも思っていない。
大いなる暴威と絶対の守護、眼前でぶつかる烈しい戦いを知らぬような凪いだ声でそっと生み出した霧が、帝竜の知らぬ間に溢れ出す。
『!? 娘ッ、貴様何を――!』
これは魂削る業ではあるが、盤面を変える代償としてはあまりに安い。何せ、己が身を勝利の礎とする事は、“物”である自分たちが得手とする事。しかし、本体さえ無事であれば再生する身とはいえ、一応。
「……ニコラス様、巻き込まれぬようお気をつけくださいませ」
もしや、お伝えするには遅かったでしょうか。
そんな疑問をほのかに過ぎらせてふうわりと溢れさせた黒い霧は黒鉄を越え、飛び退こうとした帝竜を包み込む。カダスフィアの甲冑ともいえる盤上からなるそれは、黒霧に捕らえられた傍から、纏うまでの時間を過去へと解いていくように崩れだした。
在ったものが無くなっていくそれは、まことの黒霧が光明を隠す夜の如く。
そして黒霧が帝竜の力を一時閉じたなら、守る事に全てを注いでいたニコラスに遺る力が大きな機を掴む一刃となる。
「さぁ、」
報いを受けろ。
揮うは首を断つ為に在り続けた刃。放つはカダスフィアが与え続けたダメージ全てを種とし、それ以上のものを孕んだ衝撃波。守る事は己の意志であり誓約だが、その結果受けた諸々の報復をしないとは言っていない。
帝竜の暴威、その更に上を行く嵐に呑まれた巨体は不思議なほどに吹っ飛んだ。
がが、ッゴ、がぁんと凄まじい音を立て吹き飛ぶ巨躯を見送ったニコラスは、共に守護へと徹した同胞らを借り、痛めど朽ちぬ己の身を支える。
「……人の身にて出来ぬ事こそだ」
この身は、それを成す為に与えられた身。
此度の役目は終えた。言葉にそれを滲ませた男の背の“外”へとイディは静かに出て、今しがた放たれた嵐の如き一撃、その痕を見る。
ああ。目の前に走るこの痕は物であるが故の得手、その証。
「……ヤドリガミの一番の刃は、矢張り不滅に寄った我が身でございますね」
そう零した娘の表情は、静かなまま。
しかし言葉に宿る表情は、報復の刃の重さを知ったが故の――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
…悪夢にまで至る辛さは…
可哀想とは、思います
辛さから、希望を見出す力は凄い、とも
…でも
貴方は、捨て駒ではありません
倒すべき将の帝竜カダスフィア、です
…いきます
杖を手に
怪物達へは
第六感で逃亡方向を即座に定め、見切りと直感で回避しながら
一番自分に近い怪物達の足元を属性攻撃で凍らせては床に接着させ
付きが悪ければ水を流して媒介にし
帝竜を中心に円を描く様に、一か所に集める様に怪物達を足止めしていく
足止めが追い付かない場合は
風の精霊達と山彦の様に反響させて多重詠唱し
凍らせる回数を増やす
UCを使う隙が出来たらエレメンタル・ファンタジア
帝竜を中心にして氷の竜巻を
怪物も全てを巻き込む様に全力魔法
…おやすみなさい
遠くまで吹き飛ばされたカダスフィアが呻きながら体を起こす。
その拍子に、裂けかけていた箇所がぶつんと音を立てて裂けた。
『これではまるで、あの悪夢ではないか……! 我が身を犠牲にしたとて、貴様等を殺せねば何の意味も無い!』
怒るカダスフィアの硬い皮膚はあちこちが裂け、ぱくりと開いたそこからは大小様々な赤い滝が流れ落ちていた。その上をカダスフィアが歩けば、蝸牛が歩いた後のようにてらてらとした赤い道が生まれ――泉宮・瑠碧(月白・f04280)は表情を曇らせる。
「……悪夢にまで至る辛さは……可哀想とは、思います」
『我を哀れむというのか!』
「……いいえ」
悪夢という辛さの中にあろうと、カダスフィアは希望を見出す力を持っている。それは帝竜という呼び名だけでなく、カダスフィアという個が持つ凄まじさだ。瑠碧は炎のように輝く黄金を静かに見つめ返し、静かに。けれどはっきりと言う。
「貴方は、捨て駒ではありません。倒すべき将の帝竜カダスフィア、です」
『――妙な娘だ。だからこそ殺さねばならぬ……貴様も、他の猟兵も! ヴァルギリオス様の障害となるものは全て葬らねば!!』
先手を許した。ここまで到達された。故にここで全ての憂いを断つのだと、その叫びで大地と大気を震わせたカダスフィアの力が、割れ砕けていた盤上の一部を白のポーンへと変えていく。
『あの娘を葬るのだ!!』
「……いきます」
互いに宣言をした瞬間、ポーンたちが瑠碧へと殺到した。近い位置より現れたポーンたちの手と剣が瑠碧へと伸びる様は、無機物だというのに酷くなめらかで。しかし複数いるせいか、まるで獲物を追う魚たちのようでもあった。
瑠碧は即座に見定めた方向へと飛んで躱し、最も近い位置にいたポーンの足元を凍りつかせる。自由を奪った氷を剣で突こうとしても、瑠碧の力を強く宿した氷はそう易々と砕けはしない。
カダスフィアが無駄だと叫び、その証に捕らわれたポーンの向こうから別のポーンが次々と現れるが、瑠碧は決して足を止めず、ポーンの台座と盤を氷で接着させ、風精霊たちと共に響かせた詠唱でその範囲を広げ続ていく。
『貴様、何をしている』
これは殺し合いだというのに、ポーンを砕かず足止めをしてばかり。
瑠碧という少女を知らない帝竜は、なぜ破壊しないのだと疑問を抱き、その糸口を探ろうと目を凝らす。何だ、一体何を――。探る目が、急激な渇きと冷えを覚えた。その瞬間『ここから離れなければ』と感じるも、目の前にあらゆる冬を宿した竜巻が生まれていて。
「……どうか」
あなたがこれから見る夢が、悪夢ではありませんように。瑠碧の祈りと共に竜巻がぐるりとうねり、ポーンも、カダスフィアも。全て等しく呑み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
ほう、卓上遊戯とは小粋な真似を
ふふん、私も多少は心得がある
帝竜に後れを取る訳がなかろう?
生成されたチェス盤、駒を一瞥し、思考する
恐らく彼奴は複数の駒を有する事だろう
対して此方は私のみ――さしずめキングよな
これでは不公平故、私も駒を用意させて頂こう
描いた魔方陣より召喚するは【死への憧憬】
ふふん、ルークとポーン位にはなろうよ
屍竜に我が護衛及び騎士の援護を任せ
騎士には怪物の処理を指示
敵の行動を注視し、行動を読み、戦術を組む
騎士へ迫る攻撃を屍竜で庇い
隙をついて刃を突き立てる
その様に、駒は極力連携させ敵を屠ろう
ゆめゆめ忘れるでないぞ?
ポーンは優れた駒となり得る
それこそキングたる貴様の首を掻く程度には、な
帝竜を中心に迸った竜巻が、ポーン全てを冬に閉ざし大地へと還していく。その後に残るのは、冷気で全身の傷と固目を塞がれた帝竜カダスフィアと、冷気と共に煌いて舞う氷の粒。
「――は、なかなかの風景よな」
満足げに笑んだアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、黎明の髪を靡かせながら戦場を見渡した。だいぶ――いや、かなり損傷してはいるが。
(「卓上遊戯とは小粋な真似を」)
この遊戯には多少、心得がある。故にアルバの双眸は不適な笑みと共に輝いて、一際強く響いた喉奥からの雷鳴と損傷激しい盤上から作り出された駒の数々を前に、涼しい顔で思考の海へ。後れなど取るものか。
(「やはり複数の駒を出してきたか」)
対するこちらは己のみ――さしずめ、己がキング。
唇が笑む。彩られた指先は、宙へと流れるように魔法陣を描いた。
「これでは不公平故、私も駒を用意させて頂こう」
『勝手にするが良い! 我がすべき事は変わらぬ故!』
「そうか。では」
魔法陣の輝きが星煌く瞳に映り込む。輝きの向こうからは、ごんごんと音を轟かす黒のポーンが複数。予想通りとアルバはキングの笑みを浮かべ、二つの死を盤上へと喚び出した。
乾いた色彩が多いそこで、一際鮮やかな色を持つアルバへと伸びるポーンたちの剣と手。無作法の極みともいえる行いに割り込んだのは首無し騎士の重い斬撃。剣を叩き付けた衝撃でポーンの腕をも折り、己の剣を払うついでにポーンの頭を一つ、斬るというよりも砕く勢いで刎ね飛ばす。
「それで良い。屍竜は我が護衛及び、騎士の援護をせよ」
言い終えるのと同じくらいか。騎士に複数で斬りかかろうとしたポーンが屍竜の脚爪に蹴られ、ごおんと転がったそこに騎士が断頭の斬撃を見舞う。
斬撃と炎。駒の音とふたつの竜の声。実際のチェスと比べ遥かに戦争らしい様相を呈したそこを、アルバはキングらしく騎士と屍竜に守られながら注視し、理解した。
(「……見た目こそ駒だが、卓上遊戯とは程遠い」)
カダスフィアの意志で動いているせいだろう。更なる数を創り上げていたなら、一部を騎士と屍竜に向かわせ他でアルバを狙う、といった戦法を取れたのだろうが――遊戯ではなく戦いが始まった以上、今ある戦力をぶつけるしかない。それはアルバも同じだが。
「そろそろか」
騎士と屍竜。じわじわと進むふたつの守りを前に、キングの為すべき事はひとつ。
相手のキングを追い詰め、勝利へと至る事。
――それを、あちらも選んだらしい。
グルルと強く低く響いた雷鳴。踏み出した一歩がずしんと大きな音を立てる。
『悪夢が晴れずとも、ヴァルギリオス様の勝利の為……!』
「殊勝な心掛けよな。だが、ゆめゆめ忘れるでないぞ? ポーンは優れた駒となり得る」
それこそ。
今こうして、キングたる帝竜の首を掻く程度には。
大成功
🔵🔵🔵
ジャガーノート・ジャック
◆匡(f01612)と
やれやれ、ホーム荒されるのはやっぱ穏やかじゃないよねぇ。
さてと ――Access.
(――ザザッ)
ジャガーノート・ジャック、戦闘準備完了。
此より任務を開始する。
行こうか、匡。
(ザザッ)
任せろ。対他戦は本機の領分だ。
"C.C.":「クイックドロウ」。
凡そ一射0.01秒、それを一度に72射。
戦況を鑑み匡の判断・支援要請も加味し
必要な箇所に適切な射線を投下する。(見切り×援護射撃×スナイパー)
一射一殺等と贅沢はいわない、ただ駆動部を穿ち動きを鈍らせる。足手纏いが居た方が戦況が悪化する。戦場での常識だ。
さて、足止めはこの程度でいいだろう?
チェックメイトは任せる。
オーヴァ。(ザザッ)
鳴宮・匡
◆ジャック(f02381)と
そうだな、こっちの世界がどうにかなるのは避けたい
……んじゃ、力を借りるぜジャック
こういう戦場じゃ、お前が頼りだ
これが“駒”だっていうなら、動きには法則性があるだろう
まずは全体の陣容を【見切り】、相手の用兵を見通すところからだ
敵の進軍や攻撃方法、その到達する順番と数に応じて対処
ジャックにも支援を頼む
倒し切れなくても行動不能にするだけで十分
相手の有利な場さえ崩して思惑を外せば
“将”に至る道を見出すことだってできる
……さて、ここからはこっちの仕事だ
駒の動きは気にしない、ジャックを信じて任せる
間隙を縫うように接近して、無防備な帝竜本体を狙い撃つよ
――もう一度滅びていきな
――……ッザ。
『やれやれ、ホーム荒されるのはやっぱ穏やかじゃないよねぇ』
「そうだな、こっちの世界がどうにかなるのは避けたい」
とん、と降り立った黒と黒。こういった場――戦場に身を起き慣れているジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)の会話は、血濡れの帝竜を前にしても変わらない。
『さてと。――Access.』
――ザザッ。
黒豹型の機械鎧から聞こえていた音声にノイズが混じり、赤い“目”は任務対象へと注がれる。その横では、凪いだ焦茶色の目も標的を映していた。
『ジャガーノート・ジャック、戦闘準備完了。此より任務を開始する』
「……んじゃ、力を借りるぜジャック」
相手は帝竜。オブリビオン・フォーミュラ『ヴァルギリオス』の為と、己の全てを捨て駒としてでも勝利を渇望する、瀕死何歩か手前に在る知恵と力を持った竜――その竜が、吼えた。
『ならぬ! ならぬならぬ、ならぬ!! 何も為せぬまま果てるなどあってたまるものかアッ!!』
傷口からは血を。牙が突き出た口からは怒りの声。知恵を持つが故に帝竜は現状を理解し、形を持ち始めた終わりに怒りを溢れさせ、捨て駒にすらなれぬまま終わってなるものかと抵抗を見せる。
地響きと共に現れたチェスの駒は、白と黒。それぞれのキングとクイーン、ビショップ、ナイト、ルーク、ポーン――全ての駒が進軍を開始した。昇る土煙と盤上を揺らし轟く音。迫り来る二色を、赤と焦茶色が見つめて。
『行こうか、匡』
「ああ。こういう戦場じゃ、お前が頼りだ」
『任せろ。対他戦は本機の領分だ』
地を蹴る音にノイズが寄り添い、それを真っ先に飛び出したポーンが“足音”でかき消した。手にした剣を振り上げ、たった二人の敵を討たんと殺到する。
『決して逃さぬ! ヴァルギリオス様へは至れぬと思え!!』
カダスフィアの声と白と黒の駒の群れ。そこから器用に逃れた匡の目は敵の用兵を静かに見通していった。
(「……ああ。見た目はチェスだけど、動きは違うんだな」)
実際のチェスであれば、ポーンは初期位置からの移動では前へ2マス、それ以外は前へ真っ直ぐ1マス進むものだが、この盤上においては先陣を切って敵の元へと飛び込む第一波。
出現時にポーンの後ろに並んでいた駒も同じだ。ビショップとナイトも、ポーンの後ろから二人を逃すまいと広がりながら迫っている。最も価値の高いキングが最も奥にいるのは、実際のチェスと近い唯一の部分か。
攻撃方法は手にした得物による一撃。斬撃、刺突、殴打。ルークは体当たり。
――よし。
「支援頼む。行動不能でいいから」
『了解』
詳細を告げずとも互いに戦場というものを、戦い方を知っているからこそ、交わす言葉は極限まで短く。そして行動は素早く、的確に。
瞬間、カダスフィアの視界に光が奔った。
それはカダスフィアの零しかけた言葉が確かな音となるより速い。
およそ一射0.01秒、それを一度に72射。ジャガーノートのユーベルコードが、白と黒からなる大群の周囲に無数の光を描き、敵の脚である台座や腕、肩を穿つ事で“進軍”を鈍らせる。
一射一殺などと贅沢はいわない。
オーダーの通り、これで十分。
なぜなら戦場において動けぬ者――足手纏いが現れればそちらに人員が割かれ、自然、戦況は悪化する。それが感情を持たない駒であれば、動きの鈍った駒が邪魔となり、敵全体の動きが鈍るものだ。
そして今。二人の耳には、ぶつかり合う駒の音がやかましく届いていた。
倒れたポーンにナイトが激突し、がごんと前に倒れかけたそこを馬が前脚で踏ん張り、堪えようとする。しかしビショップがぶつかった事で完全に転倒し、そこにルークや他のポーンも重なってと、駒の山がガンゴンガンゴンと作られつつあった。
『ええい、なんという体たらく……! 散開せよ! 奴等を囲むのだ!!』
匡の目。ジャガーノートの手。その二つによってカダスフィアの“場”は思惑と共に崩れ――己へと至る道を二人に示していた。ならば、足止めはこの程度で良し。
『チェックメイトは任せる。オーヴァ』
ザザッ。
ノイズの後に呟かれた言葉は、短く一言。
「了解」
答えた匡の姿は駒の山からは遠く。されど帝竜には近く。それはジャガーノートを信じ、全てを任せたからこその位置。
銃口を向ける僅かな時間。かすかな音。それにカダスフィアが気付いて振り向くより先に、匡の放った魔弾がカダスフィアという帝竜の“過去”を縒り、カダスフィアが最も恐れる因果を引き寄せる。
『何だ』
『何だ、これは』
見開かれる片方だけの黄金。そこに映るものの形はカダスフィアにしかわからない。しかしそれが“何”なのかは、ジャガーノートも匡も理解していた。
「――もう一度滅びていきな」
詰んだ以上、キングが盤上に留まる事は許されない。
世界を荒らす王であるならば尚の事。
さあ。チェックメイトという破滅の内へ、落ちていけ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵