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チップは黒へ

#UDCアース

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#UDCアース


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●違法賭博場
「おっしゃ! 俺はこっちに賭けるぜ、ディーラー!」
「なんだなんだ、威勢が良いな。じゃあ俺はそっちだ!」
「皆様、よろしいですか? では、始めますよ~」
 部屋は、褐色と灰色の煙で満ちていた。酒の匂い。煙草の匂い。
 赤ら顔の客が、テーブルに多数のチップを積んでは自分の賭け先を高らかに宣言する。それに乗じて、にやけた外野がやんややんやと野次を飛ばす。興奮した客たちを笑顔で捌くのは、経験豊富なディーラーたち。冷静にカードを切り、あるいはウィールにボールを投ずる。

 どこかで結果が出たようで、歓声と落胆の声が同時にあがる。
 博奕とは、常に勝者と敗者を生み出すのだ。

 だが、何か様子がおかしい。
 誰も彼もが、笑っていた。
 敗者と言えば、自らのすべてを失って泣き叫んでもおかしくないものを。

 何かがおかしい。
 勝者はここで何を得るのか。
 敗者はここで何を失うのか。

 ここはとある都市の違法カジノ。
 密かな計画は、すでに動き出している。

●グリモアベースにて
「皆さんは博打、得意ですか~?」
 のほほんとした声で、集まった君たちに声をかけるのはグリモア猟兵の東風・春奈(小さくたって・f05906)だ。頭に生やした飾り耳をぴょこぴょこ揺らして問いかける。
「ちなみに私は、あまり得意ではありませんー」
 つい熱くなっちゃうんですよねーなんて、他人事のように笑うのだ。

「とあるカジノが、どうもUDCとつながっているようなんですねー」
 本題はこちらと春奈はとあるカジノの写真を猟兵たちに見せた。
「そもそもこのカジノ、認可を受けていない闇カジノというものでしてー。
 現金のみならず、様々ないかがわしい商品を扱っているようなんですー。
 そこでー、皆さんにはこのカジノへの潜入捜査をお願いしたいんですねー」
 よろしいですかー?と問いかける春奈。
 オブリビオンの手がかりを前に、ノーと答える猟兵はいるまい。

「作戦の目的を整理しますねー」
 ぱんと手を打ち合わせて、小さなグリモア猟兵は注意を集める。

 ――まず、カジノの調査により、不審な情報を集めて欲しい。
 ――次に、集められた不審な情報をもとに、より詳細な調査を行って欲しい。
 ――最後に、遭遇するだろう邪神、あるいはその眷属を討伐して欲しい。

「はっきり言って、どんな邪神が関わっているかは不明ですー」
 予知の限界ですごめんなさいと、春奈は頭を下げる。

「ですからこそ。皆さんの調査力に、期待していますよー」
 よろしくお願いしますねーと、彼女はにっこり微笑んだ。


隰桑
 はじめまして。あるいはお世話になっております。
 隰桑(しゅうそう)という名の初心者マスターです。
 今回が、四作目となります。

●依頼について
 今回は、我が家のジンの宿敵……ですが、汎用的に使ってもらいたい子のお披露目を兼ねております。オープングだとわかりませんが、最終的には、依頼画像となっています、可愛い神官ちゃんと戦ってもらいます。

 今回は比較的真面目寄り、かっこいい系の依頼を目指しております。
 とはいえ展開は参加者様次第で変わるもの。
 どんな物語になるのか、楽しみです。

●プレイングについて
 自由に送っていただいて結構です。隰桑への気兼ね、遠慮は不要です。
 なるべく多くのプレイングを採用したいと思っています。
 得意なこと、やりたいことを書いてください。
 皆様の自由な発想で、事件の解決を。

 ただし、オープニング提出時点で二章と三章のフラグメントは確定していますので、その点ご留意くださいませ。

 あわせプレイング歓迎しております。
 複数人の場合は名前(呼び方・キャラIDなどあると嬉しいです)
 団体様の場合はそれに加えて人数がありますと、迷子が減るかと思います。

 逆に誰かとプレイングを一緒にしてほしくないソロ希望の方は、その旨記載していただけますと助かります。記載ない場合、どなたか別の参加者の方と同時に採用、リプレイに反映することがあります。

 隰桑はアドリブが大好きです。アドリブがどうしても困るという方は、別途プレイングにその旨記載いただけますと助かります。(【アドリブ禁】の五文字で十分です)

 それでは、熱いプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『金、もしくは命を賭けて』

POW   :    賭博場内を探索し、手掛かりを探す

SPD   :    客として潜入、賭博でイカサマを仕掛ける

WIZ   :    客として潜入、怪しげな相手を見繕い誘導尋問をする

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

緋翠・華乃音
へぇ……カジノの調査か。
俺はこういうの得意だから実際に客として潜入させて貰おう。

今回は別に金を稼ぐのが目的じゃない。
ポーカーやブラックジャックではカードのカウンティング、
ルーレットではユーベルコードも駆使して何処にボールが落ちるか正確に予測してみようか。
「見切り」や「視力」「第六感」などの技能も使用。
だが勝ち過ぎるのもきっと怪しまれる。適度に負けつつ他の客から情報を得られないかどうか試してみよう。


シェーラ・ミレディ
【WIZ】
カジノか、とても良い!
なんせ金の匂いしかしないからな。素晴らしい!

さて、客として潜入するからには遊ぶぞ。
ポーカーが妥当か? 早業、目立たない、勇気、覚悟辺りを駆使し、『肉を嬲る娼婦の指先』を使ってイカサマを仕掛けるぞ。
常にジョーカーが手札にあるようなものだが、ここぞという時以外は使用を控えよう。見破られては元も子もないからな。

ある程度遊んだら、怪しい者を見繕っていこうか。
僕に声をかけてきた、こそこそと怪しい動きをしている等の人物に声をかけるぞ。
「このカジノの、とある噂を聞いたんだが……」
などと切り出して、いかがわしい商品について聞き出そう。
言いくるめや催眠術辺りが使えるだろうか。


セリオス・アリス
★アドリブ歓迎
WIZ判定

負けても笑ってる…ねえ?
そりゃずいぶんおかしな野郎だ
それとも何かキメてんのか?

カジノに客として潜入
勝っててかつ軽そうなやつを狙う
「兄ちゃんすっげー儲かってんじゃねえか。俺もその幸運にあやかりたいもんだ」
とかなんとかいって酒の入ったグラスを渡す
『誘惑』しておだてて落ちそうなら勝ちのコツ、勝ったらどうしたいのかあたりを聞けりゃいいな
状況と空気が許すなら"こういう賭け"は初めてだって言ってみるか
初心者の方が負けたらどうなるんだとか聞きやすいだろ
必要なら軽くゲームをしてもいい

もし質問のしすぎで怪しまれるなら
開き直ってふてぶてしくいこう
『存在感』だしてきゃ他の奴らが紛れるだろ



●まずは様子見
「カジノか、とても良い! なんせ金の匂いしかしないからな。素晴らしい!」
 その舌なめずりでもするがごとき口ぶりは、シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)のものである。ぴったりのサイズのタキシードを着こなす、紫の瞳をした麗しい顔貌は、飾り細工のように繊細なつくり。そんな精巧な顔が、期待と興奮で歪んでいるのだから、げに金の魅力ほど恐ろしいものはない。
「シェーラ、今回は別に金を稼ぐのが目的じゃないんだ。勝ち過ぎるのもきっと怪しまれる。適度に負けつつ情報収集、わかってるだろ?」
 凛とした声で窘めるのは、銀の髪をした華奢な青年。緋翠・華乃音(prelude finale.・f03169)は、瑠璃の瞳を油断なく光らせる。絨毯の敷かれたカジノの中を、しなやかに音もなく歩む様は、まるで一匹の猫のよう。
「君、そんな肩ひじ張ってたら疲れないかね? 任務は成功させる、僕たちも富む! ――それでいいじゃないか。誰も損しない。グリモア猟兵の春奈だって、文句は言うまいよ」
 口を尖らせて、反論するシェーラ。誰の教えか、歩きながらも給仕から平然と飲み物を受け取る様は気品を感じさせ、堂に入っている。
「目的を忘れない範囲で、めいめいやりやすいようにやる――ってことでいいにしようぜ。それより、手筈通りに――わかってるな?」
 そんな二人の会話を取り持つような美声は、黒い髪のシンフォニア、セリオス・アリス(ダンピールのシンフォニア・f09573)の口から発された。歩くたびに揺れる黒い長髪は、まるで鳥の尾のようにしなやか。
「無論だ。今日の情報収集後、進展があっても突出せず、一度集合して情報共有」
「無暗に結果だけを求めても、痛い目を見るだけだからな、うん!」
 華乃音とシェーラは、セリオスの言葉に頷く。
「よし、――それじゃ、作戦開始だ」
 歌うような声でセリオスは、作戦開始を宣言した。

●銀色のジャック
 ブラックジャックの台には、女のディーラーがにこやかに立っていた。
「挑んでもいいか?」
 素っ気なく問いかける華乃音に、ディーラーはにっこりとほほ笑む。
「こちらブラックジャックの台になっておりますので、配当金はそれほど高くはなりません。こちらのようになります。また、カウンティングは禁止であり、当店ではコンティニューごとにシャッフルを行います。よろしいですか?」
 こくりと頷く、銀色の猫。それは、勝負開始の合図。

「――これで、20だ」
「3。合計23となり、ディーラーのバーストですね」
 淡々と進むゲーム。まるで凪のように穏やかだった。
「兄ちゃん、なかなかやるじゃねぇか」
「さっきの試合で負けて大損してなければ、今頃大金持ちだったろうに!」
 まわりの酔っぱらいが、楽しそうに絡み出す様に、心の中で苦笑する。
「……これもまた、時の運だ。それより、君ら」
 運などではない、彼の実力の結果だが、それを誇る様はわずかにも見せない。そして、冷静な彼の動作は、店側に一切の疑念を持たせることはなかった。
「なんだよ、兄ちゃん」
 人懐っこそうな顔をしたひげ面の中年男が、華乃音の問いに答えてやろうと顔を向けた。
「このカジノ……だいぶ盛況なようだが、何か事情でもあるのか?」
「……事情、事情ねぇ。さあ、俺はそういうのさっぱりわかんねーからなぁ!」
 聞く相手を間違えたか……と、河岸を変えようとする華乃音。後ろから、「そういえば」と続く声がして、立ち止まる。
「なんかこうこのカジノの資金は、このあたりを仕切っているヤクザが出してるとかって聞いたぜ」
「おいおい、適当なこというなよ。どっかの宗教団体が出してるんじゃなかったか?」
「いやいや違うぜ、財閥だかなんだかのご令嬢の趣味なんだって」
 酔っぱらいの戯言か、てんで違う言説が飛び出した。
「……そうか。参考になった」
 あまり当てにならないだろうが、覚えておくかと心の中で呟いて、碧色の夜は任務へと戻っていった。この関連のないように見える三つの言葉が、何よりも核心であることに猟兵たちが気づくのは、もう少し後の話。

●黒鳥は探る
「しかしどいつもこいつも、……イラつくほどに笑顔だな」
 勝っても負けても笑顔ばかりの、カジノの中を訝し気な目で眺める。笑顔揃いで誰が勝ってるのかわかんねーよと心の中で毒づきつつ、ため息を一つ。頭を切り替える。今俺は任務でいるのだから。バカラの台をしばらく眺めて、それなりに勝っている若者をひとり見つけた。それなりに口は軽そうに見えた。
「よぅ! 兄ちゃんすっげー儲かってんじゃねえか」
 標的を定めた黒い詩人は、ウィスキのグラスを二つ持って近づく。
「なんだ、お前?」
「俺もその幸運にあやかりたくてさ。ちょっと話そうぜ」
 これはお近づきの印とグラスを手渡すと、調子のよい若者はたちまち相貌を崩した。衆道趣味者でない普通の男性とて、美形の男から話しかけられて機嫌が悪くなるのは相当捻くれた精神性の持ち主だけである。あるいは捻くれた外見も持ち合わせているかもしれないか。少なくとも、この若者はその点素直な男だった。そしてセリオスは、この世に掃いて捨てるほどいる男の中でも、とりわけ美形なのであるから当然だ。
「なんだなんだ、兄弟。俺の話聞きたいのー? じゃあ、教えちゃう!」
 すっかり出来上がった声で、近くのビロード張りの椅子に崩れるように腰かけて若者はセリオスへ笑顔を向けた。
「兄ちゃんめっちゃ博打強いよなー。勝つヒケツとか、あるんじゃないのー?」
 先ほどの表情とは打って変ってまるで媚びるような笑顔。名演技という他ないそれを前に、最初は渋っていた若者も、だんだん、まるで誘惑の魔法をかけられたように、やがてぺらぺらと喋りだす。それを笑顔で聞いていたセリオスは内心一言結論。
(「この男は、ただ運が良かっただけだな。何もかも浅い理論だ」)
 そんなセリオスの内心の軽蔑にも気づかず、滔々といかに自分が大胆な男であるかを語り続ける若者。いつまでも続きそうな長話の、丁度切れ目を狙って、セリオスは質問を挟む。
「それだけ勝ったら、何かいいもんでも買えるんじゃねーの? この店、なんか景品とかあったりするんじゃねーの?」

 それを聞いた若者の動きがぴたりと止まる。

「……なんだ、お前。《知らない》のか。教えてやれることは、ねーよ」
 態度の豹変に面食らうセリオス、白けちまったと立ち去る若者。

「どうやら。景品には何か仕掛けがあるようですね」
 立ち去る若者の背を見つめながら、思案するように呟くセリオス。ただ探るだけではダメだ、何か手を考える必要がある……仲間に伝えなければと動き出す。気を落としてはいられない、まだ調査は始まったばかりである。
 
●人形はご満悦
「はははは! どーだ! 僕の豪運を見たか!」
 豪運の実態は、まさしく芸術的なイカサマであった。ディーラーの隙をついた、一瞬の早業。目立たないように手を動かし、サイズのほか、裏表まで完全にカジノで使われているものに一致させた偽のカードと入れ替える。それは、シェーラの持つイカサマ道具のひとつ、『肉を嬲る娼婦の指先』と呼ばれる魔法の道具。大胆に機を逃さないそのサマによって、クイーンのファイブカードを作り出したシェーラは、大金をせしめて大笑い。
「おめでとうございます。こちらはすべて、あなたのものです」
 言葉の隅に僅かに悔しさが滲む声音で、ディーラーがチップをシェーラに。
「うん、うん。来るしゅうないぞ」
 てかてかと光すら発しそうなご満悦の笑顔で、自身のものとなった金の山を見つめる。少しだけでも持って帰れないかな……と思いつつも、頭を任務に切り替える。それはやはり彼もまた猟兵だということ。
「ところで、このチップだけど、……《あるもの》に変えられるって聞いたけど、本当?」
 スーツ姿の若い女性ディーラーが、意味ありげな笑顔を浮かべる。
「はい。お望みとあらば。今回の配当でしたら、kg単位で購入できますよ」
 なるほど、やはり景品に仕掛けがあったかとほくそ笑む。ならまず、現物が何かを確認しなくてはならない。十中八九ろくでもないもので、受け取っても仕方ないのだろうが、証拠は必要である。
「それじゃあ、交換を――」

「――おい、待て。片づける前にカードを開け。そこの男も動くな」
 黒服の厳つい男が、トランプ片づけようとしていたディーラーを止める。強引にその手を払いのけて、ぱらぱらとカードをめくっていく。

あった。スペードのクイーンが二枚。
理由はもちろん、シェーラのイカサマ。

「……サマを見逃してんじゃねーよ!」
 頬を平手打ち。打擲されるディーラー。内心焦るシェーラ。ディーラーや、周囲の人間にイカサマはバレないようにしたはず。バレるなんて、ありえない。
「おいおい、ちょっと待てよ。なんでそれが二枚あるのか知らないけどさ。僕はサマなんてしてないぞ」
 突然の展開に、頭を巡らせるも、一瞬追いつかない。
 畜生、ほんの少し考えを纏める時間があれば。

「待てよ。なんで部外者のお前がイカサマなんて言い出してんだよ。
 テーブルのことは、テーブルの中で解決する。それがカジノのルールじゃねーの?」
 その騎兵隊は、シェーラにも聞き覚えがあった。ぶっきらぼうな黒鳥の美声を誰が忘れるだろうか。若者と別れたセリオスが、シェーラの異変に偶然にも気づいたのだ。そして、仲間がくれた一瞬で、智き人形は体勢を立て直した。
「そうだ。そもそも、そっちの不備じゃないのか。ディーラーだって悪くないだろ。二枚カードが被ったトランプなんてものを、持ってきたカジノ側の問題だろう。いくらでも身体検査するがいいさ。何も出てこないと思うけどね」
 ふんすと鼻息立てて、ふんぞり返るシェーラ。この時、すり替えたハートの10はまだポケットにある。だが、シェーラの視線の先には、澄ました顔の銀色の髪があった。華乃音が、ぱちりとウィンクすると、シェーラはグリモアの力でカードを華乃音の胸ポケットへ。仲間に託し、悠々と身体検査を受ける。胸ポケットをぽんぽんと叩き、所在を確認すると、仲間に目もくれず、そしらぬ顔で華乃音は一足先にカジノから去っていった。
 シェーラに続き、セリオスの身体検査も終えて、苦々し気な顔をする男。
「説明してもらうぞ。なんで二枚あるって、気づいたんだ」
 そう問いかける青い瞳は、セリオスである。
「バックヤードのカメラで、サマを監視してるんだよ」
 おそらく、カウンティングもしていたんだろうなと黒服の言葉の裏を猟兵たちは察する。とすると、ゴネて長引かせると、却ってこちらが不利だ。男は初めにカードがすべて揃っていることも、どのタイミングでクイーンのカードが出ていたかもすべてわかっているはず。男の言葉は真実を語る以上、説得力がある。そして、《オブリビオンの目はどこにあるかわからない》のだ。猟兵の力を使ったイカサマとまでバレるかはわからないが、今の段階で警戒されるのはまずい。
「……お前がそう疑ったのはよくわかった。僕らだって事を荒立てたくないんだ。景品と替えてくれたら、それでよしにしてやろうじゃないか」
 傲然と黒服を言いくるめるようにして命令し、《景品》を持ってこさせる。

 《景品》は、白い粉。覚醒剤であった。

 吐き捨てたい気持ちをぐっとこらえる。猟兵は正義の味方ではあるが、警察ではない。ここで彼らを問い詰めても、オブリビオンの尻尾は捕まらない。だから後回し。笑顔でそれを受け取って。
「これでいいんだよ。これで。……まったく、変ないちゃもんは勘弁してくれよな」

 猟兵たちは、ろくでもない景品を抱えて、カジノから一度退却する。
 調査はまだ始まったばかり。だが、着実に進んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルト・カントリック
僕は堂々と客として潜入しようかな。

僕はまだ未成年だから、闇カジノの規制が緩いことを期待するよ。年齢を聞かれたら、成人だと言い張るし、念の為年齢を証明する免許証等を組織の人に偽造してもらおうかな?


適当に客に混ざって、ゲームの席につけたら、イカサマをする為にユーベルコード【消えた土曜日】を発動。※
「これは、僕が勝負に勝つ為のおまじないなのさ」
と詠唱を誤魔化して、(一方的な)ゲームを始めよう。

※メリュジーヌ
●上半身が中世の服を着た美女、下半身が蛇。
●“ダメ男好き”以外に非の打ち所のない万能精霊。
●一人称“私”のお姉さん口調。
『〜かしら。〜なのよね。〜だわ。』
(アドリブ歓迎です!)


ナギ・クーカルカ
まあ まあ まあ!
カジノなんて初めてよ 私
とっても興味深いわ

【WIZ】

まずは そうね
お友達になるところから始めましょう
どなたか私に、賭け事を教えてくださらないかしら?
《存在感》と《おびき寄せ》で、何か情報を持っていそうな殿方にエスコートしていただきたいものね
一喜一憂 素直に喜び素直に悲しんで
まるで無垢な素人を演じましょう

それで警戒心を解くことができたなら《誘惑》して情報を聞き出したいわ

皆様 とっても楽しそう
何か特別なコトがお有りなの?
私も楽しいコト とっても好きよ
特に 些細な謎が誘っていたら
私、飛び込んでしまいたくなるの

いったい どんな秘密があるのかしら
ふふ、気分はミステリィ小説の探偵ね


レイチェル・ケイトリン
わたし、背は高いほうだし、おとなびたお化粧してお客さんでルーレットするね。

「わたくしのアルカナ、運命の輪、楽しませてね」

赤にだけかけて、かける数はすこしづつふやしてくの。

かったりまけたり、でも、わたしのまえにチップをつみあげてくね。

念動力の技能とユーベルコードの刹那の想いでボールをうごかすから。

そして精算。
「これがわたくしの『運命』」

「でもね、ディーラーさん、神って信じるかしら?」

「わたくしは信じてるの。運命すらも支配する方を」

「そして、わたくし以外にもその方を信じる人はきっといると」

「その方にならわたくしは運命すべてを捧げるわ」

「ディーラーさん、あなたはどう思うかしら?」

と気をひいてみるね。



●仕切り直し
「まあ、まあ、まあ! カジノなんて初めてよ、私」
 とっても興味深いわ、なんてまるで童女のように声をあげるのは、黒いヘッドドレスとピンカールで纏められたオレンジの髪が特徴的な、見目麗しき淑女。瞼は閉ざされたまま、その心の内は隠すように。それはまるで、翅持つ虫が自らの蛹に閉じこもっているように。柔らかい赤絨毯を、ナギ・クーカルカ(eclipse・f12473)の黒いヒールが踏みつける。そんな淑女のありようを見て、彼女が潜入中の身だと、誰が疑うだろうか。
「ふふ、ナギさんったら楽しそうだね」
 淑女の傍らを歩くのは、誰がどう見たってお嬢様。レイチェル・ケイトリン(心の力・f09500)は、微笑する。肩の高さまでで切り整えられた銀の髪は、品の良さと愛らしさを同時に感じさせ、青い瞳は男も女も見るものすべてを魅了することだろう。まるで微風が吹くように爽やかに、ナギの様子を楽しそうに笑う。
「カジノの景品はわかったことだし、僕たちは別のことを調べなくっちゃね。気になるのは、負けた人たちが気楽そうなこと、そもそもこのカジノはどういう人たちが運営しているのか……ってことかな」
 話を捜査に戻すのは、まるで竜のような鋭い瞳をした女の子。アルト・カントリック(どこまでも竜オタク・f01356)は、短く切りそろえた髪を世話しなく揺らして、思考を纏める。その瞳の奥を覗くと、光がチ、チと輝いていて。彼女の身体がただの肉でできていないということがわかる。快活な声とくりくりと動く表情を前に、それと知らなくば機械仕掛けと疑えまい。二人の戦友とは別にアルトの服装は男物のスーツ。もとよりの短髪とあわせれば、美形の男の子そのものだ。
「そうだね。少なくとも、このカジノにジャパニーズ・マフィアが関わって……ええと、なんていうんだったかしら」
「ヤクザ?」
「そう、それね。とにかく、その組織が関わっているのはシェーラさんたちの報告の通りだと思うよ。そのあたりのことを探るのは、一つの手かなって思うよ。私は、運営側……ディーラーに当たってみようと思うんだ」
 アルトの助け舟を挟みながら、レイチェルは指を縦にして、背後組織へ言及する。
「じゃあ私は、もうちょっと他のお客さんを調べてみようかしら。お友達になったら、色々と教えてもらえると思うの。私は演技、得意なのよ?」
「オッケー。それじゃあ僕はカジノの客として行動するよ。なかなかない機会だし、派手に稼がせてもらおうかな」
 妖艶な笑みを浮かべるナギと、からりと笑うアルト。入口を警備している黒服の男性に偽の身分証を見せて、各々の方針を定めた三人の猟兵はカジノの扉を開けた。

●人形は『運命』を語る
「わたくしのアルカナ、運命の輪、楽しませてね」
 ルーレットのテーブルに着くなり笑顔で宣言した銀の少女の前には、一時間もすると、チップが山と積み上げられていた。にこにこと笑うその笑顔に、禿頭のディーラーはたじたじ。なにより厄介なのは、彼は一切イカサマをしていないはずなのに、丁度彼女が大きな賭けをした瞬間に、まるで微風にでも吹かれたようにコトリと向きを変え、大穴にボールが落ちたことだった。
「はは、お嬢さんには敵いませんね。おめでとうございます」
 額の汗を拭いて、ディーラのおじさんはレイチェルを祝う。
「これがわたくしの『運命』
 でもね、ディーラーさん、神って信じるかしら?
 わたくしは信じてるの。運命すらも支配する方を
 そして、わたくし以外にもその方を信じる人はきっといると
 その方にならわたくしは運命すべてを捧げるわ」
 滔々と、狂気すら感じさせる声音で語る。もちろんそれは演技のはずなのだけど、あまりに真に迫っていた。だって彼女は人形だから。人形はその持ち主の思うが儘に、なんにだってなれるのだ。そして今は、彼女自身の思うが儘に。
 白くほっそりとしたひとさし指が、褐色に焼けた毛深い男の指をつつと撫でる。ディーラーが生唾を飲み込む音を少女は聞いた。テーブル越しに近づいて体をぴっとりと寄せて、互いの息遣いまで聞こえる距離まで近づいて。
「ねえ。ディーラーさん、あなたはどう思うかしら?」
「お、俺は……よしてくれ。君は、いい女だよ。でもこの仕事は組の命令でやってるんだ。君らが信じる神とやらのことは知らない。噂は知ってるんだ。俺は死にたくない。関わりたくないんだ。きゅ、休憩だ――あがらせてもらう」
 ちらちらとレイチェルの肢体に向きそうになる視線を必死に逸らして、ディーラーの男は逃げるように去っていく。代わりにやってきたディーラーが怪訝な目を向けながら、まだやりますかと銀髪の少女に尋ねる。もういいわと被りを振って、レイチェルはその場を後にした。

●淑女は探偵のように
「ねえ、あなた。どうか私に、賭け事を教えてくださらないかしら?」
 小汚い、あまりモテなさそうな客に目をつけて、うっとりするような声で尋ねてみる。振り向いた男の酒臭い息を吹きかけられても、その表情は変わらぬまま。
「へ、へへ……美人の姉ちゃんになら、もちろん構わないぜ」
 男の下卑た声が好色に歪む様を見て、思い通りの展開にナギは心の内で笑う。

「よっしゃ! 観たか、姉ちゃん!」
「まあ、まあ。すごいわ! あなたって、かけ事の天才なのね」
 男の腕に抱かれながら、かけ事を観戦すること数時間。すっかり信用を得て、男の動きにあわせて黄色い声をあげてみせる。男はますます調子に乗って、散財を続けて行った。頃合いを見て、ナギは口を開いた。
「それにしても……皆様、とっても楽しそう。何か特別なコトがお有りなの?」
「特別なことぉ? ……俺にとっては、今姉ちゃんと一緒に博打をすることが特別だよ。わはははは! なーんちゃって!」
「もう……真面目に答えてくださいな」
 拗ねたような声で、酒飲みの生返事を窘める。
「特別ねぇ……。ま、そうだな。なんせ負けても、負けたぶんはなんとかって団体がもってくれるんだから」
「あら、あら。そうなんですの? ……その話、初めて聞きましたわ」
「なんだ、知らねーの。じゃあ、教えちゃうー! このカジノはヤクザが取り仕切っていんのは知ってるか? 知らない? そうなんだよ、ヤクザが運営してんの! で、ヤクザに金出してる団体があるらしいんだよね。で、ここで借金こさえて負けたとしても、その団体で働けばチャラにしてくれるって話! だからみんな気楽に打ってるんだよ」
「……そんなお金を出せる団体が、本当に?」
 ナギは目をまるくして、聞き返す。
「おう。ま、俺様は勝ってるから詳しく知らねーけどな!」
 その後いくらか誘導しても、それ以上の答えは得られなかった。

 やがて男と別れてナギは一人、思考を纏める。
(「無限の資金なんてものはありません。これはきっと、負けた人間が宗教団体に送られて、何かをさせられるのでしょう。おそらく、UDCが関わっているとみて間違いないかしら。とすると、その宗教団体を突き止めるのが先決……ね」)

●メリュジーヌの趣味
「美しきメリュジーヌ、君の力を借りたいんだ」
 祈るように呟いたアルトの目の前のテーブルに輝くような美女が現れる。その名はまさしく呼ばれしメリュジーヌ。麗しの美女の上半身と、大蛇の下半身を兼ね備えた精霊である。今日の彼女は濃緑の色をした長髪で、それをくるくると指に巻き付けながら、召喚主に問いかける。
「またあなたが私を喚んだのね、アルト。それで、今日は何をすればいいのかしら」
「僕の合図にあわせて、ダイスを動かして欲しいんだ」
「なあに、激しい戦闘とかじゃないの。つまんないわ」
「そこをなんとか、頼むよ。美しい髪のメリュジーヌ」
「つまらないお世辞。でもいいわ、今日は乗せられてあげる」
 カジノの一角、そこはサイコロの目をあてるシンプルなゲーム。洋装の男たちが並んで、ダイスを振って蓋をかぶせる。ただそれだけ。つまるところ、丁半博打。クローズドな蓋の中であれば、サイコロの目は自由がまま。蓋の中でいくら動こうと、普通の人間でがイカサマできようはずがないのだから!
 精霊ゆえ、人目につかないメリュジーヌはアルトの指示通りに賽の目を動かしては、たちまちアルトは小金持ち。お金に惹かれて何人もの客が野次を飛ばしてくるが、彼らと話したところで何か情報を得ることはできなかった。

 転機となったのは、メリュジーヌの気まぐれだった。精霊である彼女とて、その気になれば人と会話するぐらいはできる。アルトが博打から離れた隙に、するすると一人のあからさまに儲かってなさそうな小汚いおじさんのもとへと近寄って問う。
「お兄さん、儲かってる?」
「へ? ……いや、全然だよ」
「そう……お兄さんは、どうしてこのカジノに来たの? 儲けるため?」
「それもあるけど、やっぱりここで俺が楽しんだお金が、めぐりめぐって神様のもとへとたどり着くんだから、これも一種の世直しなのよ」
「世直し?」
「そうよ。すべてはあの麗しい神官様の仰せの通りに!ってな」
 負けているのに機嫌よく笑った男はやがて酔眼をこする。おかしい、下半身が蛇の女性なんているはずがないのに。深酒しすぎたかなとひとりごちて、メリュジーヌを残し、男はその場を後にした。

「……アルト。面白い情報を得たわ」
 メリュジーヌは、律儀に召喚主の元へと情報を届けに戻るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヌル・プラニスフィア
ナギ(f12473)に連れられて来てみれば…ジ、派手なのは好きか?
『注目を集めるのは悪かねぇ』
そいつはよかった、お仕事だ

■イカサマは二人
機械式ルーレットを操作し望みのポケットに玉を落とす
俺ことヌルが大量のコインで注目を集め【時間稼ぎ】その間[オルタナティブ・ダブル]で別人格≪ジ≫が【目立たない】よう迅速に【ハッキング】する。
俺は無愛想故ポーカーフェイスは慣れてるし、ハッキングはジの独壇場、自信過剰な男だが腕は確かだ
後はタイミングよくジが操作して終いだ

『注目のために大量のコインとは大盤振る舞いじゃねぇか』
これはUCで作ったコイン型爆弾だ、そんな勿体ないことするかよ
言ったろ?イカサマは二人だって


幻武・極
うーん、ボクはカジノってどうも好きになれないんだよね。
ゲームのようでゲームじゃないというか、運の要素ばかりが強すぎるんだよね。
ゲームの中でカジノが出てくることがあるけど、あんまり遊んでいないね。

カジノに客として潜入は当然無理だから、こっそり裏口や下水道や通風孔などから潜入させてもらうよ。
こういった人の通らない所から見ると意外なトリックとか見えてくるかもしれないね。


三寸釘・スズロク
カジノはロマンあるよな。
客として入るぜ。
闇カジノなら、あんまし身なり整えて行かなくてもダイジョブそう?

ルーレットやるか。
ヒッソリ【次元Ωから覗く瞳】発動、
賭ける前に何回か見物さして貰って……
ある程度データが揃ったら満を持して俺登壇。

ウィールの減速具合、球の角度・回転・速度、
ついでに統計からの確率も合算。
超高度演算が叩き出した答えを俺は信じるぜ。
勿論全額ストレート・アップ。
…あ、コレって自腹?…まいっか。

勝ち続けてたらその内コワイお兄サンとかが出てきて、
バックヤードに連れてかれたりすんのかな。コワイ。
一般人なら傷つけねーよう注意だが
UCと『Fanatic』で護身と尋問の用意しとく。

※アドリブ歓迎


嶋野・輝彦
【POW】賭博場内を探索し、手掛かりを探す
取り合えず賭けて負ける

【恫喝】【存在感】【コミュ力】
「ふざけんな!イカサマだろイカサマ!!こんなに負けるわけねーだろ!客バカにしてんのか」
ディーラーに蹴り入れてボコボコにする
「責任者出てこい責任者ぁ!!」
探索じゃねぇなコレ
まあいいや
情報を取るにゃ上のもんが出て来た方が早いだろ?
こなかったら
ディーラー外に引きずり出すわ
そこまでやりゃ流石にヤの付く構成員位は出てこねぇ?
どう言う流れにしても暴れて出て来たやつ兎に角ボコって
一番偉そうなヤツから情報を取る
締め上げて【恫喝】【存在感】【コミュ力】
「おじさん色々教えてほしいなぁ?」
出てこなかったらディーラー攫うか



●賢明なる研究者の誤算
「任務は任務として、……とりあえず、どんな賭博があるのかなっと」
 飄々と歩くのは、うらぶれたような服装の三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)である。裏カジノだからダイジョブだろとテキトーな格好で、品定めをするようにテーブルを見て回る。やがて、一つの台で足を止めた。そこは機械仕掛けのルーレット。

「……ルーレットやるか」
 ニヤリと笑うと同時に、紫の瞳が怪しく光る。それは、彼のユーベルコード【次元Ωから覗く瞳】の発動の合図。彼が得た視覚情報を電脳世界上に展開・解析し、高速演算による最適化されたシミュレーションをもって未来を予測する。
――ウィールの減速具合、よし。
――球の角度・回転・速度、ばっちりだ。
――ディーラーの姉ちゃんのスリーサイズ、取り込み完了。
――他の客の賭け先の予測、済んでる。
――カジノ側のイカサマ、計測済み。
――統計からの確率も合算して、これで完璧。

――タイミングは今しかないな!

「賭けるぜ。――全額、00だ」
「おお……!」「あの兄ちゃん、気風が良いぞ!」「やるなぁ、応援するぜ!」
 二本の指で顎を撫でて、好機を逃さず有り金全てをテーブルに積む。それを見た他の客たちは歓声を漏らす。ちなみにUDC組織から提供された資金はわずかであり、残りは全部スズロクのポケットマネー。男スズロク、己の演算を恃みにしての大勝負。

 スズロクの計算は完璧だった。
 たった一つ、計測に入れていない、入れることなど不可能な要素を除いては。

●イカサマは二人
「――ジ、派手なのは好きか?」
『注目を集めるのは悪かねぇ』
「そいつはよかった、お仕事だ」
 内なる自分と対話するのは、乳白色の髪に褐色の肌をした一人の男。多重人格者のヌル・プラニスフィア(das Ich・f08020)と、その別人格の《ジ》。

 大量のチップを積み上げて、ヌルは適当な場所に宣言する。
「そうだな。俺は "0(ヌル)"にかけるぜ」
 耳目を集めながら、指先で機械に触れる。触れるだけで充分だった。指先から電脳空間を展開、相方である《ジ》がその空間を操作して、たちまち機械の制御を奪う。
『ったく。簡単な仕事とはいえ、人格使いの荒い奴だ』
 不平をこぼしながらも、《ジ》はヌルの指定通りに玉を落とす。

「おおー! こっちの兄ちゃんが、大穴を当てたぞ!」
 「「馬鹿なぁあああああ!!!!」」
「わぁああ!」 「すげぇええ!」
 たちまち大歓声が沸き起こる。

『おい、ヌル。注目のために大量のコインとは大盤振る舞いじゃねぇか』
「これはUCで作ったニセモノだ、本物使うなんて、そんな勿体ないことするかよ」
 《ジ》の問いかけに、ヌルは不敵に笑う。
 派手にやって注目を浴びて、これで調査も進むはず――

●絶叫
「「馬鹿なぁああああああ!!!!」」
 三寸釘・スズロクの予測は完璧だった。ぴったり同じタイミングで、機械の制御を奪うイカサマをする猟兵がいるなんて要素を検討していなかったことを除けば。それを予測しろというのはあまりに困難であり、同情に値する。だが、カジノの運営は同情などするはずもなく、無慈悲に彼のチップを運んでいく。
(「いかん、資金がない。というか、今月の家賃どうしよう」)
 そんな彼の嘆きを代弁するように、もう一つ、声があがる。

「ふざけんな! イカサマだろイカサマ!! こんなに負けるわけねーだろ! 客バカにしてんのか!」
 それは、冴えない外見の、嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)42歳から発された怒鳴り声だった。彼は、こっそりスズロクの後を付けて、彼が張ったのと同じ目に、有り金全部賭けていた。(「いやだって、アイツなんか頭よさそーだったし、美味い汁吸えねーかなって」)とは後の供述である。結果、ヌルのイカサマによって、彼もちゃっかり全てを失っていた。大惨事である。
 ――言うまでもないことだが、イカサマをしたのはディーラーではない。
 ――彼の仲間の、猟兵だ。

「責任者出てこい、責任者ぁ!!」
 細身のディーラーの胸倉をつかみ、怒鳴り放題。傍若無人とはまさにこのこと。あまりの剣幕にまわりの一般人はみんなドン引き。それどころか、仲間であるはずのスズロクもヌルも若干引いていた。

「お客様」
 コワモテの従業員(自称)がディーラーと輝彦の間に割って入る。
「ここでもめるのは他のお客様のご迷惑ですんで。とりあえず落ち着いて、場所変えましょうや」
 バックヤードをちょいちょいと指さして、そちらに行こうと指し示す。お仲間らしき、ガタイの良い従業員がぞろぞろと現れて、逃がさないとばかりに輝彦を囲む。
 彼らは輝彦のみならず、スズロクにまで近づいて。
「あんたも仲間なんでしょう。来てもらいますぜ」
「え!? いや、俺は関係な――いやいやいや! いやーっ!」
 猟兵とバレたわけではない。ただ近くにいたがために。ついでにちょーっと身なりが悪かったために。完全に仲間とみなされて、スズロクも連行されていく。

『ヌル、どうするんだ』
「……あいつらも猟兵だ。上手くやるだろ。たぶん」
 若干視線を逸らすように、残されたヌルはひきつった笑いをひとつして、別のテーブルへと逃げるように動いて行った。

●バックヤード
 カジノの裏側、狭い小部屋にぎっしりと黒服を着た男たちが詰めていた。どれだけ好意的に見ても、彼らはヤクザとしか言いようがなかった。その中心には、パイプ椅子に座らされたスズロクと輝彦。

「い、いやー……俺は、暴力とか、よくないと思うな! うん! ほら、聞けるものも聞けないっていうか? 事を荒立てるのは目的を見失うっていうか?」
 だから落ち着こう?とスズロクは愛想笑いを浮かべる。言葉こそ黒服たちに向けられているが、内容は傍らの輝彦をなだめるためのものでもある。ここを切り抜けるだけなら猟兵であるスズロクには簡単なことである。猟兵一年生とはいえ、輝彦にもできるだろう。でもそれでは、目的を果たせない。彼らの目的は、あくまで調査なのだから。
「あれだけ大暴れされちゃうとさー……こっちとしても、商売あがったりなんだよね」
 わかる?と口だけ尋ねるヤクザの構成員。開戦まったなし。

「ほら、何とか言ったらどうなん――あぎゃー!」
「――ああもう、うっせぇなぁ」
「てめぇこの野郎!」「この野郎てめぇ!」「やっちまえ!」「すっぞコラァ!」
 スズロクの努力むなしく、輝彦の右ストレートがヤクザにクリーンヒット。
 輝彦は髪を掻いて、ネクタイを緩めてあたりのヤクザを睥睨する。
 彼を束縛しようなどと考えたのは、まったくの間違いであった。
 たちまち大乱闘。
 殴り掛かるヤクザに拳が飛び、頭突きをくらわし、野獣のように凄絶な笑みを浮かべる猟兵を正義の味方と言えるのかは、評価の別れるところだろう。しかしその大立ち回りは大胆そのものであり、汗と血が舞い飛ぶ中で、輝彦は楽しそうに見えた。

「――ああもう、しょーがねーな!? 言っとくが一般人だからな、殺すなよ!」
 銀の銃『Fanatic』を握りしめ、でも言うべきことはちゃんと言って。スズロクも遅れて立ち上がる。さすがに銃で撃つわけにはいかないから、銃把を威勢よくヤーさんに打ち付ける。骨の折れるくしゃりとした音が鳴って、赤紫に黒々とした血が滲む。
「てめぇ、覚悟しやがれ!」
 スズロク目掛けて、四人のヤクザが迫る。
「――ちょっちょっちょっ! 四人はズルいって!」
 慌てるスズロク。彼の頭上で、ガコンと音がした。
 それは、通気口の蓋が外れる音。
 自由落下した蓋が頭に当たって、一人のヤクザが倒れ伏す。
「あれ、もしかしてこれピンチ?」
 音を立てて着地した、青いポニーテールが慣性で揺れる。のんきな声で笑うのは、小柄な羅刹の女の子、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)。赤い瞳は爛々と輝き、飛び込んだ状況を楽しそうに観察する。
「おっ、いいところに! ピンチ、ピンチ。大ピンチだから助けてくれよ」
 スズロクが調子よく頼んで見せれば、びしびしとゲーマーらしくポーズをつけて。
「よーし、任せて! ボクの武術を見せてあげるよ!」
 ご機嫌にカジノ勤めのヤクザに襲い掛かる。ヤクザが殴り掛かるのを軽々と躱して一発、二発。軽い調子で叩き込みノックダウン。それに気を取られた別の従業員を、輝彦が殴り飛ばす。三人の猟兵の猟兵は、たちまちバックヤードを静かにしてしまった。

 一人の従業員を、輝彦は無理やりパイプ椅子に座らせて、気付けのびんたをくらわせて。
「起きてるかぁー? おじさん色々教えてほしいなぁ? んー?」
 哀れな従業員の顔が、恐怖で歪んだ。
 そこから先の展開は、想像にお任せしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『猟兵VS組織暴力』

POW   :    鉄砲玉としてカチコミを仕掛ける。ドスやチャカを用意するのもいいね。

SPD   :    シャウトを叫び、相手をビビらせる。折角だから思いっきりなりきろう。

WIZ   :    金銭や利権をチラつかせ買収する。口約束なので後で反故にしても構わない。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●猟兵たちは情報を持ち寄って
「おそらくは、このカジノを運営しているヤクザと、よくわかんねー宗教団体がつながっているってことだな。違法な薬物を扱って人を集めて、負けたやつを宗教団体に引き渡してる……ってとこか」
 そう整理するのは、ヌルである。
「でも、宗教団体のことはUDC組織のデータベースを探ってもよくわからない……ってことは、次はヤクザの親玉のところに行けば、話がだいぶわかりやすくなりそうだね。 ほら、ボスのいるダンジョンみたいなものかな! きっと捜査をしていたら、ボスのいる部屋にたどり着けるんだと思うよ!」
 純朴に、ニィと笑う極。

 ――次の方針は決まった。【ヤクザ組織の徹底捜査】だ。
【対象となる組織は、『胡散組』と呼ばれる地方のヤクザ。大小いくつかの家に分かれており、どこがどうかかわっているのかは不明だ。相談を終えた猟兵たちは、めいめい得意な方法で調査を再開すべく、別れて行った】

 ――そういえばとヌルが立ち止まって、極に尋ねる。
「なんでお前、カジノの中にいなかったんだ?」

「ほら、カジノのゲームは運の要素が強すぎるからさ。あんまり乗り気がしなかったんだよね。それに、裏から調べることもきっと役立つだろうってさ」
 快活な声で答える極。
「そういうもんか」
 (「ゲーマーの考えることはよくわかんねーな」)と ヌルは内心呟くのだった。
幻武・極
とりあえず、ヤクザの親玉のところにたどり着けばいいかな。
いろいろ調べ事をするのは苦手だし、直接乗り込んで聞いていけばいいかな。

バトルキャラクターズを使用して数には数で対抗していくよ。
さて、ボスはどこにいるのかな?


セリオス・アリス
アドリブ歓迎
【杜鬼・クロウ】と同行

得意な方法…殴り込みだな

デカい家を襲撃
見るからに怪しい男(クロウ)を見つけ
まずは挨拶(肉体言語)しねえとな
風の魔力を纏った拳で『先制攻撃』
『2回』連続で殴りつけグラサンをふっ飛ばす

…あ?胡散組はそっちだろ
んん?まった、ストップ
…ヤクザじゃねえの?その顔で
あー…なんだ、悪いな
そんじゃ協力すっか!

『聞き耳』で騒めきを察知
今ので集まってきやがったか
話を聞くのに雑魚じゃ役不足だ
【青星の盟約】を歌い
敵へ駆け
殴る蹴る等の攻撃を繰り返し
『第六感』を信じ頭がいそうな場所目掛け進撃する
敵の攻撃は『見切り、カウンター』の蹴りで『武器落とし』

大暴れしたら“お話”する気になるだろ?


杜鬼・クロウ
アドリブ歓迎
勘違い野郎(セリオス・アリス)と行動

「盆も嫌いじゃねェが博徒の頭トる方が簡単だろ?
アタリ引けたらツイてるぜ。
ガサ入れして潰す(指鳴らす」

グラサンかけてヤクザ感が増す
一服した後、長ドス(玄夜叉)背負う
大の家中心に【恫喝して情報収集】
組織図を少し調べて大の家の一つに向かう
中を【聞き耳】
背後から殺気を感じ咄嗟に腕で防御

「熱烈な歓迎だなァおい。相応の覚悟あってなンだろうな?(青筋)
見るからにタダモンじゃねェな。テメェが胡散組か。
ァ?
…ち、後でお前覚えとけよ?」

敵遭遇後はセリオスと力押し
派手に暴れる
敵の攻撃は回避
胴を狙い回し蹴り
タマは取らない

「テメェらさっさと知ってるコト全部ゲロっちまえよ」


ナギ・クーカルカ
ふふ、今度はマフィア映画みたいね
こう言うのも好きよ
楽しくって胸が踊るわ!

[トリガーピース]マフィアの衣装に袖を通して人格を切り替えるわ
生まれてもヒトに成る前に死んでしまう蛹(人格)たち。けれど今日はスポットライトを浴びるのよ
さあ、ハリウッドスターの様に華やかに
演技だからと侮らないで頂戴ね?
私の役者は 本物 よ

閉じたままだった瞼が開かれる
刃物の様に鋭い女が 舞台 を見据えそこに居た

──さァて、懺悔の時間だ


トントン トン、と
ステッキで床を鳴らしてUCを発動
マフィアには調停者として殺し屋が定番さ
ヤクザを幻影に引き込んで追い詰める
なに 死にはしないぜ
死にたくなる程の拷問の幻覚が
情報を吐くまで続くだけ


ヌル・プラニスフィア
イカサマで2人も被害が出るとは…
『迷惑かけた分ちゃんと謝るんだよ!』
わかってる、≪モノ≫迷惑料ってヤツだ
儲けた分は全額2人に渡すとするさ

◆Dramaticに
カジノで事務所の情報を入手、
そこに真正面から【鍵開け】で堂々侵入
やり方はスマートに、俺は一直線に頭目の所へ行って話をするとしよう
[オルタナティブ・ダブル]で邪魔するヤツを【時間稼ぎ】今回は≪モノ≫に力を借りよう
底抜けに明るい笑顔の楽天家だが、そういうヤツからの脅しは怖いもんだ

「よろしく頭目さん。話がしたいんだがアンタは聞く"耳"があるタチか?」

耳があるうちにイイ話をしよう
別に手慣れては無いぞ、ドラマや小説は好きだけどな

アドリブ、絡みOKです



●潜入開始
 街のひときわ大きいビルの灰白色の廊下を、男が歩いていた。名前を、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)という。身長は4尺6寸、短く刈られた黒い頭髪から "もみあげ " が伸びる様は、まるで羽ばたく時をうかがう烏の翼のよう。瞳を隠す黒色のサングラス、漆黒の髪に戦闘衣。長ドスを背負いながら悠々と歩くさまは、誰がどう見てもイケイケのヤクザ。しかし行動は意外にも繊細であった。潜入し、上階へと続く扉の前で立ち止まり、その中の様子をうかがうように聞き耳を立てる。
「よし、問題な――――!?」
 中に人はいないことを確認し、扉に手を伸ばしたヤドリガミが刹那、背筋を凍らせた。風を纏った黒い殺気が背後から迫るのを感じ、咄嗟に振りむく。腕を盾替わりに掲げ、その右拳を防いだ。咄嗟の行動で魔力防御も十全でなく、鈍い痛みが走るのをクロウは感じた。だが、攻撃はそこで終わらない。返す刀替わりに迫る左の拳が、風雲児の右の頬を打擲し黒色のサングラスを弾き飛ばす。コン、コンと黒眼鏡のフレームが床に当たって音を立てる。露わとなった赤と青の瞳が、敵意を纏って殺気の源を睥睨した。
「熱烈な歓迎だなァ、おい。相応の覚悟あってなンだろうな?」
 こめかみに青筋を浮きたてて、杜鬼・クロウは問いかける。
「見るからにタダモンじゃねェな。テメェが胡散組か」
 その視線の先には、青い瞳の黒い鳥。美貌の猟兵、セリオス・アリス(ダンピールのシンフォニア・f09573)。今にも開戦するかと思われたが、思いもかけない問いにセリオスは眉根を寄せる。
「……あ? 胡散組はそっちだろ」
 何を言っているんだとばかりに、セリオスは問いかけた。
「ァ?」
 こちらは、お前こそ何を言っているんだと言わんばかりのクロウの唸り声。
「んん? ――まった、ストップ」
 自分が殴った相手の、赤と青に輝く瞳をまじまじと眺めて、セリオスは事態を理解しはじめた。両手のひらを突き出して、停戦の合図。いきなり殴られてお返しする気まんまんだったクロウとて、任務と状況が理解できないほど馬鹿ではない。
「……おまえ、ヤクザじゃねえの?その顔で」
 こめかみの青筋がぴきぴきと痙攣する様は、誰が見ても明らかだ。
「杜鬼・クロウ、猟兵だ。春奈から聞いていないのか」
 クロウは手短に、調査が進展による人手不足を懸念した、今依頼担当のグリモア猟兵、東風・春奈によって、増援を頼まれたこと。カジノから移動する必要のあった猟兵たちに先行する形で、胡散組へ、こうしてヤクザらしい格好をして潜入していたことを説明する。そういえば、そんな連絡を受けた気もする。話を聞くにつれて、セリオスは完全に状況を理解して、少しだけ申し訳なさそうな顔になり。
「あー……なんだ、悪いな! ――――そんじゃ協力すっか!」
 見事な転身ぶりを聞いた風雲児は、深々とため息をついて、舌打ちと共に曰く。
「……後でお前覚えとけよ?」
 青筋たてても任務は果たす。それこそが彼を猟兵たらしむ雄弁な証拠だった。

●胡散臭いの胡散組
「やあやあやあ、失礼するよ!」
 からりとした笑顔と、明るい声で事務所の扉をくぐったのは、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)である。華奢な体に燃えるような赤い瞳。にっこり笑って、あたりの状況を見極める。うーん……ボスっぽいヤツはいないなぁ。心のうちで、ちょっぴりがっかり。でもゲームでいうなら、いい経験値稼ぎにはなりそうかも。スライムみたいなおにーさんが、たくさんいるんだし。

「よろしく頭目さん。話がしたいんだがアンタは聞く"耳" があるタチか?」
 宙に浮かんだ、電子・ディスプレイで問いかけるのは、無精髭を生やした電脳魔術師、ヌル・プラニスフィア(das Ich・f08020)。一般人が彼に違和感を感じないのは、それもまた彼が猟兵であるがゆえ。《0》の男は、友好的に努めてなお不愛想な顔で問いかける。
「なんだオラァ! いきなりカチこんできて、何様じゃお前らァ!」
 組長を囲む三下のひとりが、知性をかけらも感じさせない怒鳴り声を出す。
「――あ、ほら。ちょっと三下は黙ってて! 話があるのは組長さんになんだ」
 一瞬の出来事。無垢な笑顔をしたプラニスフィアが、声を出した男を押しのけて、組長の目の前に現れた。それは、《ヌル》でも、《ジ》でもない。1を意味する男、《モノ》。
「悪いことは言わないからさ。ちょっとカジノについて話を聞きたいんだ」
 その表情は笑顔であるがゆえに、いっそうの迫力があった。
「てめぇ! ナメてんじゃねぇぞコ――――へぶっ!?」
 先ほど押しのけられた男が迫ったと思ったら、倒れていた。顔も向けずの拳は、一撃で十分に効果を発揮する。
「――耳があるうちにイイ話をしよう、なっ?」
 そう言えば十分建設的な話ができると信じる声だった。だが、ヤクザの組長はそれをよしとしなかった。彼はそれを後悔する羽目になるが、それには3分ほど時間を待たねばならない。
「お前ら、お客さんに礼儀っちゅーもんを教えてやれ!」
 組長が吼える。極とヌルは顔を見合わせて、ニヤリと笑う。
「――もうやっていいよね?」
「ああ、問い詰めるのは、終わってからにしよう」

 それを"見て" 、即座に極が飛び出す。大きく跳躍しての回し蹴り。ソファからたちあがり拳銃を構えたばかりの若いヤクザの男が、側頭部を打たれて倒れ伏す。とん、とソファに据えられたロウ・ボードに降り立って、きゅきゅと高下駄が擦れる音を鳴らす。
「三人がかりだ! こんなガキにやられるわけにいかねェぞ!」
 たちまち集合してきた雑魚敵を前に、羅刹の少女は余裕の笑み。殴り掛かってきた一人の男の拳を軽々と払い投げ、後ろから迫る男にバックキックをくらわして。下駄の歯が食い込ませたら即座に蹴りをしまい、もう片足に力を込めて、三人目の懐に飛び込んで腹に掌底の一撃をくらわせる。
「でもさ、ボクにかかるとやられちゃうんだよねー!」
 三人など物の数にもならぬとばかりに駆逐して、次の標的へと向かって言った。

「おい、勘違い野郎。手ェ抜くんじゃねーぞ」
 戦場となった部屋には、先ほどのセリオスとクロウの姿もあった。

「誰がするかよ。大暴れすればするほど、話す気になるだろうからな!」
 貪婪に目を輝かせて、セリオスは笑い、息を吸う。
『星に願い、鳥は囀ずる。――さあ歌声に応えろ、力を貸せ!』
 歌声が起こり、力を漲らせて、黒鳥は獲物を探して走り出す。
 美貌の猟兵は戦いを前にして、迷いを微塵も持たなかった。

「さって、こいつらはアタリかねぇ。潰して結果を見るのが楽しみだぜ」
 指を鳴らし、身長ほどもある大剣をゆらりと構える。もとより一般人相手。殺すわけにはいかない以上、相棒たる玄夜叉を完全開放する気はないが、派手に暴れないわけにもいかない。鈍い足音を立てて、クロウも進む。派手な大剣は、注目を集め、幾人ものヤクザが押し寄せる。
「俺に寄って来るとはいい度胸じゃねぇか!」
 はははと笑ったクロウは、敵の一撃を受け止めることなく頭をかがめて悠々かわし、低い位置から胴へと回し蹴りを放つ。堅いものが砕ける音がして、ヤクザの男が倒れこむ。「――今だ、隙あり!」
 それを好機と見たらしい。後ろから、別の男が殴り掛かる。ため息をついた。カウンター・パンチをしようかと拳を握りしめ、はたと手を止め呆れた声で。
「余計なことすんなよ」
「――勘違いすんな。丁度良い位置にいただけだ」
「そういうことにしといてやるよ」
 トンと足音ひとつ、叩打音ひとつ。
 セリオスの手刀が、クロウに殴り掛かっていた男の首を打った。
「おら。手を休めてないで、次行くぞ」
 それを言った黒い猟兵はどちらだったか。それに応えるように獰猛な笑みを浮かべたのは、どちらの黒い猟兵だったか。間違いないのは、二人ともがヤクザの恐怖の対象となったことだろう。

「ふふ、今度はマフィア映画みたいね。こう言うのも好きよ。楽しくって胸が踊るわ!」
 戦場にいて、マイペースな感想を漏らすのは、琥珀色の瞳をした多重人格者、ナギ・クーカルカ(eclipse・f12473)である。

「ったく、キリがないな! ――なあ、なんとかならないか?」
 次から次へと出てくるヤクザの男たちを前に、ヌルは呆れた声を出す。そんな彼がナギを認めて、彼女のちからを思い出しては問いかける。

「――私の出番? いいわ、任せて」
 淑女の笑みで、トランクの中から、ひとつの衣装を取り出した。それは、トリガーピースと呼ばれるナギの道具。袖を通してはたちまち切り替わる人格。上品な笑みは消え失せて、閉じられていた瞼が開かれて、鋭利なまなざしを見せた。

「──さァて、懺悔の時間だ」

 トントン、トン、とステッキが床を打つ。その音は、ユーベルコード【犯人はコンパクトミラーの中に】を呼び起こす鍵。聞いてしまった哀れなヤクザたちは、蛹の幻想へと閉じ込められる。彼らが見るのは、身の毛もよだつサスペンス。出口のない恐怖劇は、勇敢な男も、臆病者も、等しい表情へと貶める。部屋の中は、たちまち苦悶と恐怖の呻きで満ちた。

「――さて、お前の部下は全滅したぜ。どーする? 続ける?」
 あらためて、《モノ》が組長に問いかける。
「言っとくが、あっちのねーさんは俺より怖いぜ?」
 《モノ》に話を振られて、ナギが "良い" 笑顔を浮かべた。
「は、話す! 何でも話すから!」
 ひきつった笑顔で組長は協力を約束した。
 しかし、猟兵たちは思っていた情報を得られなかった。
 結論から言うと、胡散組は無関係だった。

「これは、アテがはずれたな」
「ま、たしかにこう……ビビッとくるものはなかったよね」
 あーぁ、とため息をつくのはセリオス。
 むすーっと頬を膨らませるのは極。

「ちぇ、ツイてねぇ。別の調査が必要そうだな」
 とつぶやくクロウに、全員が同意した。

「とりあえず、こいつどーする?」
 全てを話すはめになった組長を、ヌルが指さす。
 やがて全員の視線がナギに集まった。

「私から産まれ落ちた物語〔サスペンス〕、楽しんでくれると嬉しいぜ」
 哀れな胡散組の組長が楽しめたかどうか、言うまでもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

緋翠・華乃音
さて……なんか面倒な事になったが、調査の再開と行こうか。

俺はさっきのカジノを見張る事にしよう
正面入口ではなく裏口をメインに目立たないように遠くから監視だ
優れた視力と聴力はこういう時にも役に立つ
常人では見えない距離でも見えるし、聞こえない程小さな音や声でもはっきりと知覚出来るからな。勿論、必要とあればユーベルコードも惜しむ事はない
怪しい動きが有れば探り、ボスの元へ行きそうな奴は追跡を行う
「目立たない」「情報収集」「視力」「聞き耳」「第六感」あたりの技能が役に立ちそうか
――俺が視えるのは物だけじゃないし、聞こえるのは音だけじゃない。

ボスから情報を得るのは任せて、万が一の為に伏兵として隠れていよう


レイチェル・ケイトリン
「夢のあるお話ですね」

そうごまかすこともできなかったディーラーさん。

しんじゃうかもしれない、かかわりたくない、そんなうわさをしってる。

なら、ちからづくだね。

ディーラーさんがひとりのとこを念動力とサイコキネシスでさけべないくらいにしめつけてわたしのまえにひっばってくるね。

「ごきげんよう。またわたくしを楽しませてくれるのかしら?」
「あら、見てのとおり、わたくしはなにも。ただ目の前にあなたがいる、それがわたくしの運命なだけよ」

「誰も運命には逆らえない。でもあなたはご存じね。ひとつだけわたくしの運命を変えられると」

いろいろきけたら最後にいうね。
「お話はご自由に。それもまたわたくしの運命。楽しみね」と。



●カジノに戻る
 ここは、先に猟兵たちが調査を行ったカジノ。その裏口付近に、銀の髪をした二人が潜んでいた。それは、緋翠・華乃音(prelude finale.・f03169)とレイチェル・ケイトリン(心の力・f09500)の二人に相違ない。
「それで、華乃音さん。どう?」
「――薔薇色の手で『光』の門が開かれるのに、時は待たない」
 それは悪魔の軍勢と戦う忠実なる熾天使を謳う言葉。
「……つまり、もうすぐ出てくるってことだね」
 レイチェルの解釈を肯定するように、華乃音がこくりと頷いた。

 やがてこそこそと現れたのは、先にレイチェルに誘惑されたディーラー。彼はあたりを警戒しながら、こそこそと歩き始める。ねっとりとした嫌な予感がしたから。一歩、二歩、次第に足をはやめて、逃げるように去りだす。が、すぐに立ち止まった。いや、動けなくなった。

「ごきげんよう。またわたくしを楽しませてくれるのかしら?」
 目の前に立ちふさがる人形の少女の愛らしい笑みは、先と変わらないものであるはずなのに。言いようのない威圧感に満ちていた。そして、どうしたことか。逃げたいのに、逃げられない。身体が言うことを聞かない。
「お、おお俺に、何をした!?」
 恐怖のあまり、呂律のまわらぬ舌をなんとか転がして、禿頭のディーラーは言葉をひねり出した。必死の問いかけを前にしても、人形の少女は動じない。

「あら、見てのとおり、わたくしはなにも。……ただ目の前にあなたがいる、それがわたくしの運命なだけよ」
 優雅に目を細めて、笑うのだ。コツン、コツンとアスファルトをヒールで奏でて、歩み寄っていく。その音は、男に、自らが処刑台を上っていく音のようにすら感じられた。
「誰も運命には逆らえない。でもあなたはご存じね。ひとつだけわたくしの運命を変えられると。――さ、話してくださるかしら?」
 何を言いたいか、わかるでしょう?と少女はほほ笑む。

「だ、だが、――俺は!」
 それでもと男は抵抗する。唯々諾々と話すほど、大人の男は単純ではない。
「喋らないならそれでもいい。じきにお前は至福の座から追われる身となり果てる。果ての暗黒の奈落に、とこしえに贖われることのない定めの場所に、呑み込まれるのは自由だが――」
 哀れなディーラーの背を舐めるように、音もなく銀の猫が歩く。その運命をよしとするのかと華乃音は問いかけた。禿頭の男は、猟兵の紫の瞳に夜の闇を見て、しばしの逡巡の後に、折れた。

「――なるほど。信神組か」
 ディーラーの話はこうだった。カジノは建前上、胡散組のものとなっているが、実際に取り仕切っているのは信神組というその下部組織であり、その組長がすべてを差配しているのだという。胡散組は何も知らず、上納金を受け取っているだけに過ぎない。宗教組織については、信神組が用意していて、彼にもわからないとのことだった。話の信ぴょう性は十分にあった。華乃音は、彼が真実を言っているとわかっていたから。
「一足遅かったようだな。もう少し早く知れていたら、良かったんだが」
「仕方ないよ。これもまた、運命。それに、取り戻せるよ」
 丁度、胡散組に乗り込んだ仲間たちから、成果得られずとの連絡があったばかりだった。だが、過ぎたことだった。

「――さて、こいつをどうする?」
「ん? 聞くことはもう聞いたし、離してあげていいんじゃないかな」
 華乃音の問いに、瀟洒な声でレイチェルは答える。
「こいつが俺たちのことを誰かに話すかもしれないぞ」
 一人殺しても大した害にはならないと、懐に隠した白銀の拳銃に触れながら、冷静に言う。

「お話はご自由に。それもまたわたくしの運命」
 ディーラーの男は、レイチェルの青い瞳を見てしまった。彼女は自分の言葉を頭から信じているのだと直感できた。それは自分の理解の埒外にあるものゆえに、一般人である彼は恐怖した。
「お、俺は何も知らない。何も見ていない。何も聞いてない。――もう金輪際関わらない。だから、許してくれぇ!」
 そう言って、駆けだした。二人は後を追わなかった。

「――楽しみね」
 暗い路地の先を見つめながら、レイチェルは笑った。
 その様子を見て、華乃音は肩をすくめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
【WIZ】
危ない橋を渡ったが、目的は達せたので良しとしよう。
しかし、華乃音とセリオスには助けられてしまったなぁ。借りを返せれば良いのだが。
ともあれ、今はヤクザ連中から情報を得るのが先だな。

そうさな。折角手に入れた景品があるのだ。有効活用しようじゃないか!
手始めに覚醒剤の容器を移し替え、出所を誤魔化す。
次に件のヤクザの事務所を訪ね、
「金に換えたい物があるのだが、代表者はどこにいる?」
と、覚醒剤をチラつかせながら尋ねよう。
何、手に入った分は少量だが、サンプルだと言いくるめてしまえば良いさ。
どうせ出てくるのは下っ端だろうが、万一ボスまで辿り着けたら、覚醒剤と引き換えに宗教団体の情報を要求するぞ。


嶋野・輝彦
POWカチコミ!
一番大きい事務所に
情報が上がってたらホシの事務所に

事務所の扉蹴破って
恫喝、存在感、コミュ力
「ちわーっす、三河屋でーす」
わけわからんノリで相手を威圧する
事務所前に誰かいたらボコって引きずって扉蹴破った後投げつける
でぶん殴って凹まして一番身なり良いやつ残して情報取る
基本素手ゴロ対応
あと攻撃、刺されたり撃たれたりしても
激痛耐性、覚悟で顔色変えずに
「喧嘩の道理も知らんのか舐めてんのかゴラア!」
で対応

でアタリを引いたらそのままボコにで情報取る
でなけりゃ
恫喝、存在感、コミュ力で
ケツもち二重とか組が割れるだろ?その辺情報取ってなかったんか?危機感なさすぎだろ、取ってないなら今すぐやれや!


アルト・カントリック
少しでも効率的に調査する為に、宇宙バイク(ピュートーン)に乗って『胡散組』の家を回るよ。

『胡散組』の関係者の出入りをドローンで監視して、遠出をするようだったら追尾して、詳細を突き止めたいかな。

他の人が突撃するようなら、僕もバイクで突っ込みたいなぁ……


三寸釘・スズロク
いやー色々ヒドイ目に遭ったけど情報は取れたし?
結果オーライだったな。(震え声

俺が今武器にできそうなのはこれ(拳銃)くらいだし
カチコミすんのが手っ取り早そうだなァ。
今回こそ(味方の)コワイお兄サン達と協力したい場面なんだケド。

あーちょっとお訊ねしたいことがあるんスわ。
お時間取らせませんって。

【次元Ωから覗く瞳】の本来の使い方を見せてやるぜ。
腕っぷしはそんな強くない俺でも、連中の攻撃を全部躱して見せたら
ちょっとビビらせたり【時間稼ぎ】くらいはできるっしょ。
※なお演算通りに動けるかは

やむなしの時は【クイックドロウ】牽制弾も辞さないが
なるべくケガしないさせない方針で。
本番はこの後からだもんな。



●友好的に
「いやー色々ヒドイ目に遭ったけど情報は取れたし? 結果オーライだったな」
 まるで自分に言い聞かせるように、傍らのミレナリィドールの少年に話しかけるのは、黒い長髪をお団子に縛った猟兵、三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)である。
「そうだな。危ない橋を渡ったが、目的は達せたので良しとしよう」
 同じく自分に言い聞かせるように、傍らの多重人格者の男に話しかけるのは、尊大ながら美形の猟兵、シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)である。
 彼らは合流して、レイチェルたちから連絡のあった信神組の事務所に潜入していた。今のところ、誰とも遭遇していない。それどころか人の気配すらせず、どこか拍子抜けした思いで廊下を進んでいた。外の警戒は仲間に任せ、彼らはずいずいと歩いて行く。やがて、ひとつの扉にたどり着いた。極風にいうならば、ここがボス部屋だろうか。
「さて、そろそろたどり着きますかねっと。鬼が出るか蛇が出るか……」
 こんこんと腰に備えた拳銃を叩いて所在を確かめ、準備はいいかとシェーラに尋ねる。
「うむ。景品の準備もばっちりだ。いつでもいけるぞ!」
 シェーラの手にはハンドバッグ。その中には、折角手に入れた景品があるのだ。有効活用しようじゃないか!と持ち込んだ、先の覚醒剤。取引材料にするつもりらしい。その様子を見て頷いたスズロクが扉を開けると、怪訝そうな視線がいくつも二人を貫いた。

「あーちょっとお訊ねしたいことがあるんスわ。お時間取らせませんって」
 スズロクは愛想笑いを浮かべながら、紫の瞳の奥で電脳世界を展開する。ユーベルコード【次元Ωから覗く瞳】は、部屋のすべてを見通し、演算を執り行う。いつ殴りかかられてもいいように。
「なんだてめぇらは! 失礼じゃろがい!」
「どこの馬の骨とも知れん奴と話すことなどないわい!」
「すっぞこら! おらっ!」
 案の定というべきか、聞く耳持たぬ様子のヤクザたち。たちまち襲い掛かられて、ひ弱なスズロクは躱せるはずもなく――と、信神組のヤクザは思ったかもしれない。
「――おし、『演算完了』っと」
 スズロクは余裕の笑みを浮かべ、呟いた。頭を狙ったパンチをかがめて躱し、続けて放たれたロー・キックを最低限のジャンプで飛び越え、続けざまに側転してフックのリーチ外に出て、一番偉そうな男の前へ。
「ほら、戦争しにきたわけじゃないんスよ。ねっ、聞いてくださいって」
 得意の商品を売り込む、セールスマンのような笑顔を見せる。

「覚醒剤だ。これを買い取ってもらえないかと思ってね。君たちなら、こういうものも処理できるんじゃないかい?」
 ハンドバッグから、容器を移し替えた白い粉を取り出してみせて。その演技は堂々としたものであり、違和感や不信感を呼び起こすようなものではなかった。

「お前さんたち、何か勘違いしてないか? 俺らはただの企業で、そんなものは知らん。よしんばそういったものを扱っていたとしても、どこの誰ともわからん奴から、純度もわからんものを買い取ったりはしない。この取引は成り立たんわけだ。言いたいことは、わかるな?」
 親しさをかけらも感じさせない笑顔で、取り付く島もない様子のやくざの男。しかし、断る理由を語る親切さの理由はなんだろう。――ああ、生かして帰さないつもりなんだなと猟兵の二人は直感した。結局、戦いは避けられないらしい。

 スズロクは自身の耳に取り付けたインカムを通じて、連絡する。

 誰に?

 ……今ここにいるヤクザよりも、コワイ、コワーイ、仲間に。

 ブロロロロロロ。
 窓の外から、排気音がした。
 それは次第に大きくなっていく。
 ブロロロロロロロロロロロロ! 

 ガシャァァン!!!!!
 大きな音を立てて、巨大なモノが飛び込んできた。
 
 それは、まるで漆黒の蛇を思わせる禍々しい姿をしたバイク。
 スズロクの合図と共に飛び込んできたそれはピュートーンという名をしていて、アルト・カントリック(どこまでも竜オタク・f01356)の相棒だ。紫の煙を吐く毒蛇の背には、アルトはもちろん、嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)も乗っていた。
 窓際にいた不運なヤクザの青年(昨日床屋で気合のはいった剃り込みをいれてもらったところだった) の背中を、宇宙バイクが突っ込んで引き倒し、きゅきゅとタイヤのゴムの擦れる音を立てて停車した。
「だ、誰だ!?」
 お約束のように、並み居るヤクザの一人が彼らに問いかけた。

「ちわーっす、三河屋でーす」
 死んだような目で、笑っていない口調で、でも、『面白いだろ? 笑えよ』と言わんばかりの威圧した表情で、輝彦が降り立って答える。くしゃくしゃとぼさぼさの黒髪を掻いて、ヤクザの人数を数える。ひー……ふー……みー……いっぱい。よし、暴れるにはもってこいだ。
「違う! 僕は酒屋じゃない! 合図を受けて、竜騎士参上!」
 輝かんばかりのどや顔で、自己顕示するように青い瞳のサイボーグが竜槍を振るう。

「予想してたけど、ハデだねぇ。……殺さず頼むよ、ホント」
 乗り込んできた二人に釘を刺すように、スズロクが声をかける。彼らがやられる心配はない。――だって目の前のヤクザより強いのなんて、見ればわかるしね。

 そこからの十分間は、一方的な暴力と言わざるをえなかった。
「大勢に囲まれても慌てない! なぎ倒してこそ竜騎士というものさ!」
 アルトは不敵に笑って、白い竜槍の柄で男たちを打つ。刃を当てないから斬れはしないが、あたれば痛いどころではない。サイボーグの膂力をもって殴れば、肉はえぐれ骨は砕ける。だけど命は奪わない程度に加減して。
「さあ、どんどん来るといい! 相手になってやる!」

「おうおう、派手にやってるねぇ。――ん?」
 若い一人の茶髪をしたヤクザの顔面を血まみれに、元の形がわからなくなるくらいにまで殴っていた輝彦が、アルトの暴れっぷりを面白がる。そんな輝彦の脇腹へ、別の金髪のヤクザがナイフを突き立てた。グリとナイフが腹斜筋をえぐる音がする。常人ならば、即座に悶絶するだろう激痛が走るはず。だが猟兵は顔色ひとつ変えないままに。
「喧嘩の道理も知らんのか舐めてんのかゴラア!」
 凄絶な憤怒の表情を浮かべ、刺し立てたヤクザの金髪をむんずと掴む。そのまま地面へと落とし、ぐしゃりと嫌な音を立てさせた。
「おらおら! 喧嘩ってのはなァ! こうすんだよ!」
 赤い線を引くように、金の刷毛が床をなぞる。その一打で、金髪のヤクザはぴくぴくと痙攣するようにしか、動かなくなった。

「――ひっ!」
 幾人かの不幸な若者が、輝彦によって惨めな姿にかえられて。多くの幸運な若者が、アルトによって地に伏した。あまりの惨状を見かねた信神組の組長は、そろりそろりと逃げ出そうと一歩踏み出して、自分に突き付けられた銃に気づいた。
「……君、僕を忘れてないかね?」
 巧緻な意匠の凝らされたホルスターから、精霊銃を引き抜いて、シェーラは組長の頭にそれを突き付けた。迷いのない動作。逃がす余地はない。構成員はすべて倒れ、組長を捕らえた以上、決着は着いたのだと。

 戦場となった部屋が静かになり、凪の瞬間が訪れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『敬虔なる邪神官』

POW   :    不信神者に救いの一撃を
【手に持つ大鎌の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    出でよ私の信じる愛しき神よ
いま戦っている対象に有効な【信奉する邪神の肉片】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    神よ彼方の信徒に微笑みを
戦闘力のない【邪神の儀式像】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【邪神の加護】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天通・ジンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●決戦のとき
 その瞬間を壊したのは、女の声だった

「あーぁ、この道具はもうダメね。もう用済み。つまんないの」
 それは、黒い髪を伸ばした少女の声だった。彼女は部屋の隅にいつの間にか立っていた。猟兵たちには、不思議なことに、彼女が正気に見えた。正気の微笑で、哀れな信神組の面々を見た。いや、彼らを見ていたわけではなかったのかもしれない。

 だって、視線が通ったその直後に、彼らは【悍ましい何か】にかわっていたのだから。

 いうなれば、肉片。

 いうなれば、かけら。

 いうなれば、この世ならざる存在。

 すなわち、アンディファインド・クリーチャー。

 すなわち、定義されざる存在。

「――本当はもっともっとイケニエが必要だったんだけど」
 仕方ないよねと悲しそうに呟いて、少女は鎌を構える。

「――障害を排除して、あらためて【あの方】にご降臨いただく」
 うっとりするような声で、彼女は呟いた。


「――ね、あなたたち。死んでくださる?」

 猟兵たちは理解した。追い求めていた敵が現れたのだと。
 別の場所を調査していた猟兵たちも既に追いついている。
 じきに突入してくるはずだ。
 ならば、やるべきことはひとつ。

 猟兵よ、オブリビオンを倒せ。
【マスターコメント補足】
●戦場について
 第三章の舞台は、信神組の事務所となります。
 室内には、可愛そうに邪神の肉片に変えられてしまったヤクザだったものが転がっています。肉片の形状は色々で、猟兵のみなさんに有効な形状のものが、たまに攻撃してきます。生きている人はいません。もう助かりません。(助けようとするプレイングを書くのは自由です)

●敵について
 気になることがあれば、ボスに聞いてください。
 戦いの中で可能な範囲で答えてくれると思います。

●参加について
 第二章で別の場所にいた参加者さんは、突入してくる演出が可能です。
 もちろん、なしでも構いません。
 
 第三章からの新規参加も歓迎しております。
レイチェル・ケイトリン
こ、これがホンモノ……

そうだね、こんなかんじなんだね。
おぼえといてつぎにまねするときは
じょうずにもっともっとこわがらせて
さいしょっからいろいろおしえてもらえるようにがんばるね。

念動力と吹き飛ばし技能でサイコエッジをつかってたたかうよ。

「なんでこんなひどいことするのっ!」
っていいながら肉片をズタズタに斬り裂いてふっとばすね。
……もうもどんないみたいだし、もともともわるいくすりを
ばらまいてたひとなんかわたしはきにしないけど。

「なにこれ、きもちわるいよっ」
邪神の儀式像も出てきたらバラバラに斬り裂いてふっとばすよ。

で、敵も切り裂いてふっとばしながらようすをみてるね。

いつか、まねするからお手本みせてね。


アルト・カントリック
危ない大鎌だなぁ…

アイテム【ドリルランス】(形状は細長くスマート)に持ち替えて、ユーベルコード【人工竜巻】で敵達を吹き飛ばすよ。

味方を巻き込まないよう気をつけて、声掛けもするけど、室内で使うのは躊躇わない。

事務所なら硬いデスクとかイスもあるんじゃないかな?部屋が綺麗になるね。

ユーベルコードを使った後も大鎌を警戒して、隙あらば回転するドリルランスの先端で大鎌の根元を破壊してやろうと牽制するよ。

(ドリルランスは電撃を吸収した方が凄いけど、吸収しなくても動くという設定です)


セリオス・アリス
アドリブ歓迎
杜鬼・クロウと同行

んじゃさっきの借しの返済っつーことで
軽口を叩きながらも素直に乗る
急がなきゃいけない状況はわかっている

ずいぶん乱暴な入室だな
ガラスを払う
眉を寄せる
やくざがこう…で、念のために聞いておくぜ
賭けに負けたヤツらはどうなった?
ああ…そんだけ殺したんなら
お前がここで俺様に殺される理由は十分だよなぁ

【青星の盟約】を歌い先制攻撃だ
力を溜めて風の斬撃を飛ばし
斬撃が届く前に走り出す
クロウが作った死角を利用して一気に距離を詰め跳び
青く激しい炎を剣に宿して斬りかかる
勢いを殺さぬまま立て続けにもう一撃

敵の攻撃は第六感もフル活用で見切り
カウンターで拳をぶちこむ

行儀のいい手足じゃなくて悪いな


杜鬼・クロウ
アドリブ歓迎
勘違い野郎(セリオス・アリス)と行動

「ち、本命はあっちか。
テメェをタダで乗せンのは癪だが、時間が惜しいしお前の力も役には立つからな。来いよ!」

【杜の使い魔】使用
セリオスを乗せて(他の猟兵も可)信神組へ
窓ガラスを割り乱雑な部屋の中へ派手に登場
故人の瞼を覆い閉じさせる

コード解除
セリオスをサポートしつつ前で戦う
玄夜叉を構えて【属性攻撃・2回攻撃】で炎を宿し斬る
敵の攻撃は剣で【武器受け・カウンター】
黒の外套をバサっと広げ死角を作る
セリオスの二度目の攻撃に合わせ同時攻撃

「テメェの本当の目的は…君臨したその先に何を見ていた?
どうせ見果てぬ夢物語だ。俺がブッ壊すからなァ!
ハ、やっぱ相容れねェよ」


緋翠・華乃音
……こういう場所での戦闘は苦手なんだよな。
……まあ、贅沢は言ってられない。仕方無いか。

とはいえ最初から近接戦闘に応じるつもりはない。
窓の向こう側や扉の外側、或いは隣の建物にでも潜伏し、狙撃を行う。
優れた視力や聴力、第六感を利用して例え有効打を与えられずともせめて狙撃は必中させる。
射線が読まれてしまえばもう仕方無い。狙撃位置を変える余裕は無いだろうから近接戦闘に移行しよう。
全力でユーベルコードを使用して敵の攻撃を可能な限り見切り、一撃の重さよりも手数やスピードとテクニックを生かして翻弄させる。
ヒット&アウェイ。狙撃手が狙撃しか出来ないと思ったら大間違いだ。
近接戦では拳銃とナイフをメインに使用。


華頂・踏青
【星屑ジャンク】のヌル(f08020)とナギ(f12473)で同行

ちょっと二人に呼ばれてね、カジノなんて面白そうじゃん!
あたしの年齢じゃ出来ないけど!
ま、それを利用してヤバイこと起こそうとしてるのは許せないねえ!
「うらー!悪を成敗しにあたしが来たぞ!」
っつーことで元気よく二人に合流!二人ともお待たせ!


戦闘はドラゴンランスを構えて二人と一緒に肉片の処理します!
「戦うのをダンスに例えるの…それいいね!」
蝶のように舞い、蜂の様に刺しちゃる!【串刺し】だおらおらー!
処理後のボス相手には皆の説得等終わったのを待つけど、
怪しい動きをしたらすぐさま【ドラゴニアン・チェイン】で捕縛するべ…!

アドリブ歓迎です!


ナギ・クーカルカ
【星屑ジャンク】のヌルおじ様・f08020と踏青・f02758と突入するわ

あら、もうパーティは始まってしまったのかしら?
遅刻なんて勿体無い事しちゃったわ
でも せっかくお友達もご招待したのだから…ふふ、楽しみましょう?

レディ・ドミニカを呼ぶわ
ボスのお嬢さんは他の方にお任せして
邪魔してくる肉片たちとダンスしましょ
鋭い脚の突き刺すような アップテンポの激しいステップ
ダンスの足を止めちゃ嫌よ 彼女(ドミニカ)がうっかり喰らってしまうもの!
他の猟兵様方に肉片がおいたしているようなら 彼女嫉妬しちゃうわ
だからちゃんと私たちをエスコートして頂戴ね?

おじ様も踏青も素敵!
派手な爆発も華麗な串刺しも拍手しちゃうわ


ヌル・プラニスフィア
【星屑ジャンク】でナギ、華頂と共に行動

急なヘルプ悪いな華頂、元凶のお出ましだ。ここはひとつナギと《俺》に力を貸してくれ。

◆Dance:SPD
お嬢さん方がダンスをするなら、ステージを彩る花火でもあげるとするか。
UCで遠隔操作式の爆弾を作成し【罠使い】の技術で【物を隠す】よう設置だ。
設置できたらおれも銃剣でダンスに混ざろう【敵を盾にする、フェイント、騙し討ち】ダンスのやり方は数多にある。…お相手が肉片ってのは少し残念だがな。
味方が攻撃を受けそうなら【かばう】としよう。無粋なヤツに好きにさせるのは癪だ。

ボスは味方との話し合いが終わってから攻撃だ。その間に不穏な動きがあれば牽制するぜ。

アドリブ歓迎だ


幻武・極
やっと、たどり着いたよ。
ここに着くまでいろいろなヤクザの組に乗り込んじゃったからね。
時間が掛かってしまったよ。
似たような名前の所が多いからね。

でも、ここは正解のようだね。
明らかに雰囲気が違うね。
ボクも気を引き締めて挑まないといけなさそうだね。

へえ、そこらへんに散らばっている肉塊はその形になるんだね。
衝撃を包み込んで吸収して拡散させるその形状は厄介だね。
しかも数が多いのも厄介だね。
なら、バトルキャラクターズに属性攻撃を炎にして1個1個肉塊を焼いてしまおう。
肉だから焼いてしまうのが一番だね。
さすがに食べる気はしないけどね。


シェーラ・ミレディ
この女が宗教組織の関係者か。『あの方』と言うからには、もっと上位の存在がいそうだが……今回の事件の黒幕は、彼女と断定しても差し支えなさそうだ。
人をこの世ならざる存在に変えるなぞ、オブリビオンにしかできない所業だからな!

僕の役割は援護だな。
前に出て戦う者を支援するため、少し離れて「相思相愛」で邪神の儀式像を狙い撃つぞ。
ついでに周囲に散らばる肉片にも弾丸を撃ち込み、敵に使役されるのを防いでおこう。……何、助けられそうにないとはいえ、この程度の慈悲ならかけてやるさ。

「で? 女。借金のカタに連れて行った人達をどうした?」
「イケニエと言ったな? 儀式場は此処か? それとも他の場所なのか?」


三寸釘・スズロク
あーあー…かわいいカオしてエグいコトするね。
元々ロクでもねー連中だったかもしんないケド、それでも今を生きてたのに。
…なんて俺が言えた義理でもねーか。
悪いケド、アンタらの代わりに過去になってやるつもりは無いぜ。

場所が狭いんで今回は人形の出番はナシ
カンプピストルタイプのガジェット出して【氷海に棲む蛇の牙】撃つ。
あの娘の動きを抑えて誰かが攻撃する[時間稼ぎ]できるとイイんだけど
肉片が邪魔そうならそっちをまとめて牽制だな。
…何だこの像、ほっとくのマズイっぽい?『Fanatic』で無力化できねーかな。

こんな娘に健気に尽くされて愛されちゃって、羨ましい邪神様だな。
あの方ってのはそんなに大事なヒトなの?



●少女は笑う、穏やかに
 ヤクザの事務所は、さほど広い空間ではない。壁に寄り掛かるようにして、口をとがらせて不平を語った少女は、黒い警戒するような目つきの猟兵たちを後目にして。コツコツと音を立て歩き、やがて先のヤクザの親分が座っていた机の上に、無造作に腰掛ける。猟兵たちは動かなかった。可憐な見た目で無害と判断するような、甘い猟兵揃いだったわけではない。むしろ逆。少女の異様な雰囲気を警戒していた。
(「あーあー、……かわいいカオして、エグいコトするね」)
 心の中で呟いたのは、今依頼に参加した中でも最もUDCに詳しいだろう猟兵、三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)。飄々とした外見で、ともすればどこにでもいるようなお兄ちゃんに見えるスズロクだが、機械工作や電脳に長ける屈指の頭脳派である。そんな彼だからこそ、今この場で起きたことを冷静に理解できた。
「スズロク、君こういうのに詳しいんだろう。単刀直入に聞く。これは、これらは、あの女の仕業か?」
 尋ねたのは、目の前で、“ヤクザの親玉だったもの” が蠢く姿を無感情に見下ろした美形の人形。シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)は、まるで彼心の内の呟きを読んだかのように問うた。
「ああ、間違いないよ。この肉塊にする術は、術者がこの場にいないとできない。まず間違いなく、あの女の子の仕業だよ。犠牲になったヤーさんたちの生命エネルギーを吸収して、再分配したってとこだろう。 ――俺の第六感が、そう言っている」
 肩をすくめて、スズロクは仲間の問いに簡潔に答える。
「――そもそもこんな場所にあんな危ない大鎌構えて単身現れて、この状況で平然としている時点で、真っ黒なんだよね」
 そうだろう? と同意を求めるように、傍らの仲間たちに視線を向けるのは、アルト・カントリック(どこまでも竜オタク・f01356)。白髪のサイボーグは、ほっそりと尖った円柱状の槍に持ち替えて、いつでも飛び出せるような――いや、すぐにでも飛び出したくてうずうずしているようですらあった。

「『あの方』と言うからには、もっと上位の存在がいそうだが……今回の事件の黒幕は、彼女と断定しても差し支えなさそうだ」
 二人の言葉を聞いて大きくうなずいて、シェーラはそう断言する。
「人をこの世ならざる存在に変えるなぞ、オブリビオンにしかできない所業だからな!」
 自信満々にシェーラが言ったの聞いて、違いないと肩をすくめるスズロク。
「問題は、あの術式。おそらく、すさまじい量のエネルギーを、本体である女の子が持ってるってことかな。この場にいる面子だけだと、倒すのはちょーっと骨が折れるかもしれないぜ」

「――つまり、時間稼ぎが必要ということだな」
 スズロクの言葉を聞いて、からりと笑ったシェーラはまたしても自信満々に大きくひとつ頷いて。

「で? 女。……借金のカタに連れて行った人達をどうした? さきほど、イケニエと言ったな? 儀式場は此処か? それとも他の場所なのか?」
 まんじりと少女を見据えて、堂々、矢継ぎ早に尋ねてみせた。

(「おいおい、直球でいくなぁ!」)
 スズロクの内心の突っ込みとは裏腹に、少女はうーんと可愛らしく唸り、悩んだのちに口を開いた。

「借金のカタ……はあのカジノのこと? みんなみーんな、イケニエに捧げたわ。当然よね、彼ら負けたんだもの。そういう約束で、お金を自由に使わせてあげたんだから。……儀式場ってなんのことかしら。あの人たちを殺した場所のことだったら、ここじゃないわよ。でも、別にここでも良かったし、どこでも良いの。【あの方】 はいつだって、私と一緒にいてくださるわ。私を守ってくださるの。ええ、それはとっても素敵なこと。それはとっても素晴らしいこと。ここの人たちだってそうよ。私に負けたから、私の言いなり。ただ、それだけのこと。でもいいわよね。【あの方】の再臨の礎になれるのだから、それって光栄なことじゃなくて?」
 うきうきと語る様は、その内容が憧れの王子様を夢見る少女のそれであったなら違和感を感じさせないほどに、自然で、可憐で、それゆえに歪んでいた。

「君みたいな可愛い娘に健気に尽くされて愛されちゃって、羨ましい邪神様だな。……あの方ってのはそんなに大事なヒトなの?」
 機を逃すわけにはいかないとばかりに、スズロクも口を開いて尋ねる。戦いの後も考えれば、背景を洗うのは大事なこと。

「……ヒト?」
 きょとんとした顔で、少女は尋ね返す。やがて得心がいったように、両手をぱんと打ち合わせて。
「ああ、【あの方】はヒトじゃなくてよ。【あの方】は、【あの方】。かつて、この世界を見守っていらしたのに、不信心と、無理解と、強欲によってその位を奪われた可愛そうなお方。だから私がこうしてお手伝いをしているの。いつか復活されますようにって」
 素敵でしょう? と少女は――神官は猟兵たちに尋ねる。それに同意するニンゲンは、この場に誰一人いなかった。
 同意がないその様子を見て、少女が握る鎌に、力が込められていくのを、地を蠢く肉塊に邪悪な魔力が渦巻き始めるのを、猟兵たちは感じた。戦わずしての時間稼ぎは、これ以上無理だ。

「――よーくわかった。つまり、ボクたちは戦わざるをえないってわけだ」
 二人が少女と話していた間、黙っていたアルトが槍を――ドリルランスを構えた。きゅるきゅる、きゅるきゅると音が鳴る。間歇的だったそれは、次第に早く、速く、途切れなく、大きくなっていく。それに続くように、シェーラが壮麗な技巧で飾られた精霊銃を、スズロクが特異な形状の拳銃――見る人が見れば、KampfpistoleやAssault-Pistolと呼ぶそれを――取り出す。

「――準備はいい? 行くよ!」
 アルトが竜巻のように少女につっこんでいくのに合わせて、シェーラとスズロクが牽制射撃を加える。
 くるくる、大鎌がまわる。
 くるくる、大鎌に当たった弾が爆ぜる。
 くるくる、刃に当たってまっぷたつに裂かれた銃弾が、音をたてて地面に零れる。

 その2秒後には、アルトが神官の元へたどりつき、そのまま槍を突き立てようと進む、進む、突き進む。
「――その首、獲った!」
「――いいえ、あげませんよ」
 大鎌がまわり、その柄でいなす。ドリルの動きに合わせて身体を逸らすのは、さながら闘 "竜" 士。
 そのまま体を翻らせて、アルトの背へと鎌の刃を沿わせる。
 機械仕掛けの竜の少女は、刹那、空を踊るように身体を捻る。
「――まだ!」
「支援するぞ、アルト!」
 ドカドカドカドカ、と四つの銃声。精霊銃から矢継ぎ早に放たれた弾丸たちが、神官の少女のいる場所へ集まる。
 それはまるで、若き青年の恋路のようにまっすぐに。
「その豆鉄砲、邪魔でしてよ!」
 キュと少女の靴が床と擦れる。アルトを狙う足が止まり、禍々しい鎌が振るわれて放たれた銃弾が落とされる。
 しかしこのとき、アルトを狙った神官の動きは完全に封じられた。

「――邪魔です。神さま、どうかお力をお貸しください」
 神官が両の眼を閉じると、彼女が持つ大鎌が紫色の怪しく光る。うぞうぞと蠢くだけだった肉塊たちが、一斉に "芽生え" 出した。
「おいおい、この数はしゃれにならないんじゃないの?」
「ああ、こっちは手一杯だ。アルト、なんとか凌げ!」
 それは触手であり、腕であり、脚であり、とにかく肉塊である。一個一個にオブリビオンの魔力が満ちて、猛烈な力と素早さで動き出す。それらが一斉に、邪魔者であるスズロクとシェーラに襲いかかったともなれば、悲鳴を上げずにいられまい。
「気分は物語の勇者だね! ……なんとか頑張ってみるけど、――コイツ、強いからね!」
 一方のアルトは、ドリルランスを必死に打ち合わせて、神官少女の鎌を留める。しかしそれが精いっぱい。
 なんとか押しとどめてはいるが、このあとの戦況がどうなるかは楽観からは程遠い。

●胡散組事務所 (Interval)
「ち、本命はあっちか」
 苦々しく、舌打ちをするのは、漆黒の男、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
 話はしばし巻き戻る。ここは、胡散組。こちらに調査にきていた猟兵たちが、集結していた。
 華乃音とレイチェルの連絡を受けて、敵の本丸が判明したことを互いに確認する。
「うーん、敵の本丸は別だったんだね。ざーんねん」
 幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は両手を頭の後ろで組んで、口を尖らせる。
「ここから移動するには結構距離があるぞ。どうする?」
 ぶっきらぼうに尋ねるのは、セリオス・アリス(ダンピールのシンフォニア・f09573)。だが、彼の言葉は決して無視できない要素を孕んでいる。

「――心配ねーよ」
 俺に任せろとクロウは言う。
「古来より太陽神に司りし者よ。禍鬼から依り代を護られたしその力を我に貸せ──」
 祈りにあわせて、猟兵が握る呪われた宝珠に籠る力も一層増していく。
「――来たれ!我が命運尽きるまで、汝と共に在り」
 その祈りの終わりにあわせて、黒い大きな影が、猟兵たちを包んだ。
 ユーベルコード【杜の使い魔】。その巨大な翼の動きにあわせて、濡羽色が舞う。

「テメェをタダで乗せンのは癪だが、時間が惜しいしお前の力も役には立つからな。来いよ!」
 豪快な笑みで使い魔を叩いて、セリオスに笑いかける。
 そして他の猟兵たちを誘おうと顔を動かしたところで。

 どーん!
 そのとき。扉が開け放たれた。
「うらー!悪を成敗しにあたしが来たぞ!」
 底抜けに明るく、飾らない声で現れたのは、華頂・踏青(桜花絢爛・f02758)。
「あー……そのな、華頂。ここでの戦いは、終わっちまったんだ」
 くしゃくしゃと頭を掻いて、少し言いづらそうに伝えるのは、白いコートを着た男。
 ヌル・プラニスフィア(das Ich・f08020)は、その聞き覚えのある声に不愛想な顔で応じた。
「えっとね、踏青。敵が別の場所にいるから、そこに移動しようって話になってたとこよ」
 瞳の見えぬ貴婦人、ナギ・クーカルカ(eclipse・f12473)が付け加える。

「が、がーん……。それで、どうするんだ?」
 拍子抜けした顔で、尋ねる踏青。

「ああ、俺の使い魔(しきがみ)で、連れてってやる――って言おうとしてたところだ」
 毒気を抜かれた顔で、クロウが答える。
 それでいいか?と漆黒の猟兵に尋ねられ、拒否する者はいなかった。

「――人数が人数だから、乗り心地は保証しねーぜ」
 彼らがたどり着くまで、まだしばらくの時間を要する。


●第一の援軍
「ちょっと、ちょっと、これは――キツいな!」
 何回うち合っただろうか、数えられなくなった頃、アルトは神官の隙を見つけられずにいた。隙さえあれば、鎌を砕いてやろうとすら意気込んでいるのに、狙うどころか防ぐことで精いっぱい。むしろ、何度かいい一撃を、自分の身体で受けざるを得なかったため、アルトの服は割け、その下からはまるで竜のうろこを思わすゴツゴツとした金属が覗いて見えた。
「――余計なおしゃべりをしている余裕があって?」
「アルト、足元だ! 気を付けろ!」
 スズロクの声が一歩届かない。アルトの足に、一本の触手が絡みつき、動きを封じる。
「――ッ!」
 神官の大鎌が、大きく横へ動く。そして、帰って来るのをアルトは見た。その軌道が描く先は、自分の首に相違ない。

 不思議と死の恐怖はなかった。
 だって、そうだろう。おとぎ話の竜と絆を結んだ英雄がここにいたら、こんなところで終わるはずがない。

「――目を瞑って、耳を塞いで。……それが叶うのなら、どれだけ幸せな事だろうか」
 遠くで、呟く声が聞こえた気がした。もっとも、聞こえるはずがないぐらい離れた場所のものなのだが。

 続く音は、はっきりと聞こえた。
 強烈な破裂音。風を起こし、つんざくような甲高い音。自分の足に絡みついていた触手の核が打ち砕かれ、肉塊が爆ぜる音。
 束縛が緩んだ。

「――っととぉ! 乱暴だなぁ!」
 触手から足を抜いて、すんでのところで鎌を躱す。だが、その口ぶりとは裏腹に少しだけホッとした顔で、アルトは一度距離を取る。

「――それを支えるものは何か、果たして力か、偶然か、それとも運命か。いずれにせよ、俺が打ち砕く」
 言葉は、父なる神へと叛逆を企んだ悪魔の一人が放ったもの。それを自分の言葉で否定して。
 次弾が、《to be alone》 ――孤独を表す名を付けられた狙撃銃から放たれる。
「――!」
 目視から対応できるほど、狙撃という行為は容易なものではない。だが、神官の少女はまるで見えていたかのように鎌を振るう。からりと銃弾が斬り落とされる。
(「――射線が読まれたか、あるいは」)
 別の可能性もある――が、射線が読まれていた場合、狙撃手は危険に晒される。
 安易な可能性に縋るほど、緋翠・華乃音(prelude finale.・f03169)は甘くない。
 銀の猫は音もなく跳ぶように、その場を離れた。

「――あの狙撃、さては」
 ははぁんとスズロクが顎をさすって、納得を漏らす。

「うん、そうだよ。お待たせ。わたしもいるよ」
 楽しそうな、それでいて無垢な声がヤクザの事務所だった部屋に響く。レイチェル・ケイトリン(心の力・f09500)という名の人形は、変わらぬマイペースで部屋に入ってきて、じろじろとその内容を見回す。

「――なんで」
 すぅと息を吸う。周囲の猟兵たちは、サイキックエナジーが、彼女のまわりと渦巻く様子を感じた。

「――なんでこんなひどいことするのっ!」
 青い瞳の銀人形が叫ぶと同時に、念導力のエネルギーが、空間を圧縮、濃情報高密度の塊を形成する。
 それは無数の念の刃となって、全方位へと放射されては、あたりかまわず切り裂いて回る。

「それもまた、【あの方】の力の一部。身体の一部。聖なるもの。欠くべからざるもの。奇跡のひとつ」
 あなたこそ、どうしてそんなひどいことをするの、と言いたそうな、悲しみと怒りに満ちた瞳で、神官の少女はレイチェルを見る。

「聖なるものには、とてもみえないけど」
 きもちわるいよ、と言うレイチェル。
「表面的なものの見方。かつてあなたたちとて "こう" でした。認めないのは、狭量を通り越して、無知でしてよ」
「――そんな理屈、かってだよ」
 理解できない存在を前に、戦うことしかできないレイチェル。彼女が次々と作っては飛ばす念の刃は、鎌で防がれ、肉塊が受け止め。未だ、届かない。

「あなたが勝手と呼ぶのなら、勝手にやるだけよ」
 邪神官の少女の鎌が舞う。カツンと小気味良い革靴の音が鳴り、少女のスカートがふわりと浮いて、たちまちレイチェルの目の前に迫る。
(「――時間よ、とまれ!」)
 咄嗟の攻撃にも猟兵は慌てない。レイチェルの四肢に、念動力が満ちる。自分の動きは、少女の鎌の一撃が、スロウになったように感じられる。
 だが同時に、気づいてしまった。
(「これ、逃げられない、かも」)
 自身の足に巻き付こうとする肉塊の触手。
 そこから足を引き抜いては、鎌を回避できない。
 だが足を引き抜かなくては、目の前の一撃を躱せても、後がなくなる。
 あと一撃支援があれば。

 鈴の音が鳴った気がした。
「――射点は確保した」
 かわりに聞こえたのは、銃弾の音。瑠璃色の尾を引いて流れる、銀色の星。
 星は少女の手をかすめ、赤色をしたたらせ、鎌の軌道を逸らす。
「――ありがとう、華乃音さん。じゃあ私も、勝手のおかえし」
 その隙に触手を払ったレイチェルが、手をかざす。空気を割くように、怪しげな光輝を放つ念の刃が少女目掛けて放たれて。
 それを、何度も見たように、神官少女が鎌でいなして。

 いなして。

 ――ピキリ。

 鎌の刃に、僅かなヒビが入った。

「――あ、ああ! ああ! ああ!」
 余裕の笑みすら浮かべていた神官の少女の表情が、怒りのそれへと変わる。
「――お前たち、お前たちが【あの方】を冒涜するというのなら!」
 許さない、と。邪悪な魔力が一層強まって、肌がちりちりと焦げるような感覚がした。

「たかが鎌を傷つけられただけじゃないか」
「やっこさんにはきっと、許せないことなんだろうさ」
 そう強がった猟兵たちも、次第に焦りだす。

 次々と生み出される邪神の触手たち。
 その数は、もはや数えきれるものではない。
「流石に、キリがないぞ」
 瑠璃の色をした精密狙撃が一個一個を砕いて行っても、それと同じか、上をいく速度で増えられては、対処しようがない。 
 冷静な華乃音とて、かこたずにはいられない。
 遠くから見る彼だから、状況の悪さがはっきりと見て取れた。

「この魔力、さっきの鎌から生まれてるのかな」
 ぽつりとレイチェルが呟く。
「そうかもしれない。あの鎌さえ砕ければ、僕たちにも勝機はあるかも」
 ドリルランスをにぎりしめ、アルトは不敵に笑う。

 猟兵たちは諦めない。
 それが苦境であったとしても。

 決着には遠い。まだ猟兵たちの側は決定的な戦力に欠けていた。

●空の上 (Interval)
「これは、なかなかに優雅な旅だね!」
 使い魔の足につかまって、ぶらぶらと揺られながら笑うのは極である。
 高速で飛行する使い魔の足で揺らされて、常人なら失神してもおかしくないものを、彼女は悠々と楽しんでいた。

「おい、もうちょっと安定した飛行はできねーのか!」
 対照的に不平を漏らすのはセリオスである。
 良い場所は女性陣に譲って、彼もまたお世辞にも乗り心地の良くない足に揺られている。
 酔ったり、体調を崩しているように見えないのは、やはり彼が鍛えられた猟兵ゆえのことだろう。

「この人数だから仕方ねーだろ、我慢しろ! 隣のおっさんを見倣え!」
 最後の足につかまっているのは、仏頂面の《ヌル》。
 白いマフラーが、風圧でぱたぱたと揺れながら、彼は微動だにしない。

「おー……。やるなぁ、おっさん」
 感心の声を、セリオスが漏らす。
 《ヌル》が平然としていたのか、あるいは腰を抜かしていたのかは、本人のみにしかわからない。
 少なくとも美形の猟兵からは、泰然自若としているように見えた。

「おら、もうすぐ目的地だ! 飛ばすぞ!」
 クロウはそう宣言すると、使い魔の首をとんとんと叩いた。
 漆黒の一団は、一層加速していった。

 騎兵隊の到着は、もうすぐだ。

●待ち望んだとき
 ビルの一室、不利な状況下であっても、未だ猟兵は健在であった。
 スズロクとシェーラが銃を乱れ撃ち、華乃音が狙撃し、アルトが槍で、レイチェルが念の刃で、肉塊をあるべき姿へと戻していく。
 神官の少女の一撃を防ぎながら、それをこなすのだから、現状維持が精いっぱい。

 状況を変えようにも、手数が足りなかった。
 だが、忘れるなかれ。猟兵が猟兵たるは、その適切な投入によって戦況を変えうるという、"決定権" にある。
 そして、待ち望んでいた彼らもまた、猟兵だった。

「来たか」
 隣のビルにいた華乃音は、他の猟兵たちより一足はやく気づいた。
 紫の瞳戦況が動く。

 黒い影が、やってきた。
 それは烏。三つ足のからす。
 布津の御霊の刀と共に、天つ神の御子が賜りし、先導者。

 ガシャアアアンと、ガラスの割れる盛大な音が、事務所だった部屋に鳴り響く。
「よう、遅れて悪ぃな!」
 次々と猟兵たちが降りてくるなか、その持ち主のクロウは、戦っていた仲間たちに笑いかける。
 ご苦労様とその使い魔を労えば、満足気に一鳴きした神の使いは帰っていく。
「こっからは、俺らも加わるぜ」
 服に張り付いたガラスのかけらを落としながら、戦いを前にしたセリオスが獰猛に笑う。
 あたりを見回し、状況を睥睨し、朗らかに。
「ああ……そんだけ殺したんなら、お前がここで俺様に殺される理由は十分だよなぁ」
 すぅと息を吸い、美しい音が部屋を満たす。ユーベルコード【青星の盟約】が、彼の身体を満たしていく。

 それは、反撃の狼煙でもあった。

●黒衣の猟兵たち
「――おい、ちゃんとついて来いよ!」
 傍らのクロウに言うや否や、セリオスの純白の剣がルーンの煌めきを見せ、風の刃が空を飛び、神官の少女へと向けられる。
 放つと同時に、歌の魔力をブーツに回し、一挙に跳躍。距離を詰める。
「はっ、誰に言ってやがる!」
 玄夜叉を構えたクロウは黒の外套をはためかせ、セリオスの後を走る。

「ずいぶんと、乱暴な入室ですこと」
 不機嫌を隠さぬ少女神官は、セリオスの風の刃をいなし、彼らを見下すような目を向けた。
「不平なら、俺じゃなくてあっちに言ってくれよな!」
 歌うように他人に責任を押し付けて、剣をまとうルーンの魔力が、青く激しく光りだす。
「俺に押しつけてるんじゃねぇよ!」
 口では反論しながらも、その瞳は真剣そのもの。
 漆黒の外套を大きく広げるその様は、まるで先に見た八咫烏そのもの。
「さ、追いついたぜ。覚悟はいいか?」
 クロウの持つ玄夜叉が、赤い炎に包まれる。業火を纏いし黒の大剣を大きく振りかぶり、振り下ろす。
 単純な動作、だが、大剣とはその質量ものが武器。
 クロウは自分の身長ほどもある大剣の扱いを、よくよく心得ていた。
「――そんなもの、ただの棒! 無駄でしてよ」
 怒りに燃える神官の少女はそれでも未だ焦らない。
 鎌の石突きで刀を打ち、それをいなそうとして。

「おいおい、俺を忘れてもらったら困るぜ?」
 広げられた黒衣の影から現れた声は、獲物を前にした猛獣そのもの。
 対照的に、青い炎を纏った純白の剣は、まるで彗星のように神官の少女を斬り付ける。
 それでも、それでも敵は只者ではない。
 鎌の刃でそれをからがら受け止める。

「――行儀のいい手足じゃなくて悪いな」
 ごす、と鈍い音がした。
「――っかは!」
 はじめて、神官の少女は息を次げぬ痛みを味わった。
 黒鳥のごときダンピールは、剣を防がれたとみるや、足を伸ばしていた。
 長躯の為す回し蹴りは、敵の死角を突いたのだ。

「ふん、やるじゃねぇか」
「当然だろ?」
 鎌を構えながら、一挙に距離を取る神官少女。
 無思慮には追わず、かといってわざわざ相手の方を見ることなく、漆黒の猟兵たちは呟いた。
 彼らには、それで充分だった。

●紳士淑女のダンス・ホール
「もうパーティは始まってしまっていたなんて。 こんなに賑やかな場所への遅刻、勿体無い事しちゃったわ」
 八咫烏から降り立って、ナギは瀟洒な風に残念がる。
「日曜日の午後みたいに とっても素敵な気分なの」
 微笑とともに、マイペースに呟いて、あたりの肉塊を見回して。

「――だから、ダンスしましょ」
 淑女の後ろに現れたのは、巨大なクロゴケグモ。
 ユーベルコード【日曜日の貴婦人】で呼び出された、ナギの友。
 黒細りした足が、かたかたぱたぱたタンゴを踊る。
 その情熱的なリズムにあわせて、一体二体三体四体、みるみるうちに数を減らす。
「ふふ、みなさん情熱的ね。ダンスの相手に困らないわ!」
 その様子を見たナギが、嬉しそうにほほ笑む。
 かつん、かつんと足音鳴らし、舞い踊る様は、一方的であるのに、あまりに優雅で見るものすべての目線を奪いかねないほどだった。

 そんな社交界の華たる貴婦人たちの姿を見て、無邪気に笑うのは竜人の少女、踏青。
「戦うのをダンスに例えるの……それいいね!」
 ぶんぶん元気に威勢よく、ドラゴンランスを構えまして。
 どれにしようかなと獲物の肉塊をじろじろ眺めまわす。
 哀れな肉塊をひとつ見つけては、軽い音で跳ねる。さながら花から飛び立つ蝶のように。
 舞い踊る蝶は槍を放って一刺し。二刺し。息絶えたのを見て槍を抜き、また羽ばたいて次の獲物へ。
 見つけた次の獲物がとびかかるよりも早く、刺す、刺す、刺す!
「蝶のように舞い、蜂のように串し刺しだおらー!」
 踏青の戦いを見ていては、邪神の加護を帯びた肉塊で満ちた床が花畑にすら見えるようだった。

「いいねぇ、若い二人のダンスを見ていたら、もっと盛り上げたくなるってもんだ」
 華々しく戦う二人とは裏腹に、こそこそと動いているのは《ヌル》である。
「ま、そう言うな。これも仕事仕事ってな!」
 と、《モノ》なら言うだろうか。
「戦況を変えるには、プラニスフィアの力が必要です。そうでしょう、《ジ》?」
 策略家の《トリ》だったら、この盤面で自分の力を最大限有効に活用する方策を示すはず。
「おうよ、俺たちの力で、目にものみせてやろーぜ!」
 自信満々に《ジ》ならそう答えるだろうか。

「……しかし、なんでこればっかうまく作れるのか」
 そう言いながら、設置する。効果はほどなく現れる。
「準備完了、さ、派手にいくぜ!」
 ぱちりと指を鳴らすや否や、大きな爆発が部屋のあちこちで鳴り始める。
 ユーベルコード【嘘と噂の工芸品】のパレードは進む。

 ぱちりと爆ぜれば、肉塊が飛ぶ。またぱちりと爆ぜれば、肉塊が焼ける。
 爆炎のリズムが打ち鳴らされれば、踊る女性も一層燃え上がろう。

 貴婦人の背に乗ったナギは、ぱちぱち手を鳴らして喜んでみせ。
「まあ、おじ様も踏青も素敵! とっても楽しいパーティね!」

 彼女らが踊れば踊るにつれて、部屋の肉塊が、みるみる内に減っていく。
 神官少女はどんどん焦りだしていた。

●逆転、そして
「へえ、僕に対して君たちその形になるんだね」
 殴ったところ、衝撃を包み込んで吸収して拡散させる形状に変化した肉塊を見て、極は面白そうに笑う。
「しかも数が多い――となれば、バトルキャラクターズ、カモン!」
 極が笑うと、その姿が、幾重にも分身してみせる。
 ユーベルコード【バトルキャラクターズ】は極の姿をしていて、彼ら一人一人が炎をまとった拳を振るう。
「ほらほら、君たち! ちょっとやそっと形を変えても、炎の前じゃ無意味だよ!」
 爆炎をからがら逃れた肉塊たちを、何人もの極たちが焼き殺す。
「――やっぱり、肉だから焼いてしまうのが一番だね。さすがに食べる気はしないけど」
 その様子を見て本体は、とぼけた声で呟いて。

「――さ、道は作った。そろそろ、準備は良いかい?」
 極が、傍らの戦友に告げた。"彼女の槍" を中心に、大きな風がうねる。
 アルト・カントリックは、戦友たちの救援によって、ユーベルコードを使う好機を得ていた。
「もちろん! さあ、射線上の君たち。気を付けてね!」
 大声で、敵の近くで戦う仲間たちへと声をかける。

「それじゃあ、行くよ。――――飛んでけッ!!」
 ごうごうと音を立てて、渦巻く風の竜巻が放たれる。それはまっすぐに神官へと飛んで行って。
「――えっ、ああ! ああ!」
 咄嗟に鎌を盾にして、防ごうとする。それはもちろん、鎌への信頼の証。
 鎌が砕けるはずがない。我が神が、砕けるはずがない。
 それだけに。

 ぴしり。

 ぴしりぴしり。

 がしゃん。ばらばら。

 大鎌が砕けたとき、神官は呆然となった。

「ああ、ああ――我が、我が主よ……」
 それは、くやしさと喪失と、なにより恐怖を詰め込んだ声。
 何故、恐怖。
 猟兵たちの思考が答えに至る前に、"それ" は現れた。

「お許しを、我が主。私の身体を、あなたに捧げます。だから、どうか、どうか――」
 その言葉に応えるように鎌が光る。少女は鎌の刃を取り上げて、自ら身体を貫いた。
 ぶくぶくと、身体が膨れる。血が噴き出はしない。
 周囲の残存していた肉塊たちが、次々に少女の元へと集まっていく。

 肥大して、肥大して、高く、高く伸びて、肉塊の柱が顕現した。
 ところどころに赤い目。ところどころに紫の腕。ところどころに脈打つ青い動脈。

「なんてこった。そうか、邪神の加護を得ていたのは鎌だったんだ。アイツ自体は、ただの人間。おそらく、鎌の中に、邪神を称える何か――邪神像みたいなものがあったんだな」
 無残な状態の少女を見て、スズロクが呟く。
「それを壊されちゃったから、打つ手がなくなって、ボスが現れたってコト?」
 ゲーマーらしい口ぶりで、極が続きを尋ね、スズロクはこくりとそれを肯定する。
「なに、奥の手を出したということは、敵に後がなくなったということだ」
 正体を現したオブリビオンを前に、長時間の戦闘を経てもなおシェーラは余裕すら感じられる表情で傲然としてみせる。

「違いないね!」
 踏青が、明るく笑い、駆けだす。
 伸びる触手を避けて、それをドラゴンランスで貫く。貫かれた先が、オーラの鎖で地面とつながれる。
「――こんな感じかな! これで通れる?」
 後ろに続くのは、クロゴケグモとナギ。
「ええ。エスコートありがとう、踏青。それじゃあ、いきましょう?」
 踏青が作った道を、優雅に貴婦人が歩み、その鋭い足で、邪神の柱を貫いた。
「おっけおっけー、アンタ、運がなかったね!」
 からりと笑って、金の瞳を輝かせ、踏青の槍もまた肉を刺した。

「一体にまとまったからには、爆弾よりはコレだよな」
 取り出したのは、二連射式のマスケット。先込め式の銃弾を、棒で押し込めて。
 慌てず焦らず狙いを定め、ドン、ドンと放っては、踏青とナギが貫き作った穴を正確に穿つ。

 ギ、ギ、ギヤァア!
 奇声が聞こえた気がした。
 もしかしたらそれは、彼らの言葉なのかもしれない。
 だが、それを解せる人間は、この場にはいなかった。

「ちっとばかし、立ち往生しといて貰うぜ」
 ガジェットのカンプピストルから、得意な形状の銃弾を放つ。
 それは爆ぜて、爆ぜたにも関わらず邪神の触手を凍らせた。
 ユーベルコード【氷海に棲む蛇の牙】は、邪神と相性が悪かったにも関わらず、十全にその役割を果たす。

「まったく。そんなものが、僕に通用するとでも?」
 スズロクによって凍った邪神の"腕" たちが、次々と打ち砕かれる。
 四丁の銃はまるで花が咲き誇り競うように、火を噴いて、持ち主であるシェーラの思うが儘に穿ち尽くす。
 それは慈悲の一撃であった。動きを止める腕たち一つ一つが、きっと墓標に違いない。

「――覚悟するがいい、神の雷霆が一切を焼き尽くす火となって、汝の頭上にくだるのだから」
 邪神の目がくしゃりと潰れた。敵の急所を見逃さない狙撃手の目は、次の目標へと移る。
 神罰の一撃は、邪神の力を的確に削いでいく。

「これは私の心の炎。もえつくしてあげる」
 削がれて動きが鈍った身体を、燃え盛る炎が襲う。その光はあかあかと、清めるように。
 レイチェルの【パイロキネシス】に焼かれ、邪神の柱が声にならない悲鳴をあげた。

「わ! ダイナミック! ボクも負けてられないなぁ!」
 極はポーズを付けて跳躍し、炎を纏った拳を分身たちと共に撃ち付ける。
 ぐしゃりと肉がつぶれ、ひしゃげ、燃える。
 ふら、ふらと邪神の柱が揺れる。

「おい、今度は敵を勘違いするなよ?」
「馬鹿にするんじゃねーよ! 外さねーよ」
 クロウは冗談まじりにセリオスを見て、セリオスはその言葉を誤解しなかった。
 す、と互いの剣を引き、勢いをつけて、一気に穿つ!

 二本の剣に貫かれ、音を立てて、オブリビオンが揺れ、揺れ、倒れた。
 その場にいたすべての猟兵の技を受け、炎に巻かれた柱が倒れる。

 それはやがて、灰に至る。
 それまで、何もなかったかのように。

「テメェの本当の目的は……君臨したその先に何を見ていたんだろうな」
 その姿を見て、クロウがぽつりと呟いた。

「さあな。なんにせよ、ロクなものじゃなかったろーぜ」
 ぶっきらぼうにセリオスが応じた。

「どうせ見果てぬ夢物語、か」

「何度来たって、そのたびに潰してやるだけさ」
 そう、誰かが応じた。
 同意の笑い声が、部屋を満たした。

 灰が舞う部屋で、あるUDCの野望は多くを謎に残したままに果てた。
 それでも、きっと明日にはまた何かが蘇る。
 誰かが犠牲になって、誰かがその夢を見る。

 だが心配はいらない。
 きっと、そのたびに猟兵が立ち上がるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月30日


挿絵イラスト