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帝竜戦役②~片割れ

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #群竜大陸

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●カタワレ
 気がついたときには森にいた。己の足で鬱蒼とした森を歩いていると、向かって来る気配を知る。森を抜けようとする猟兵たちの気配をかれは確かに感じとった。あれが敵だと、本能にも似た考えが胸を占める。
 それにしても、疲弊などしていないというのに、なぜかピキピキと音を立てて割れていったものが、手の中にあるような感覚だ。
 ふと握りしめていた手を解いてみると、薄汚れてところどころ欠けたペンダントが、そこにあった。しかしその見た目によらず篭る力は間違いなく偉大で、力を行使できる自信がかれにはある。
 いつからだ、と少年は呟く。いつから共に在ったのだろう。
 ずっと前から。もしかしたら、生まれたときから。
 わからない。わからないけれど、渦巻く過去が彼を駆り立てる。
 悪しき竜は倒すべき敵だ。邪心に触れて狂った者は屠らねばならない。
 そうしてかれは、猟兵たちの前に立つ。
「ああ、あれもそうか。邪悪な心は、魂は、俺が砕かなきゃな。……砕いてやらないと」

●グリモアベース
 魂喰らいの森へ向かってほしいと、ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が話を始めた。
「初めて向かう方もいるかしら? 名前の通り、魂を食べちゃう動植物がいる森なの」
 ひとたびそこに迷い込んだ生物の魂は、森の番人──オブリビオンにとって獲物。誰ひとりとして例外なく、オブリビオンの攻撃を受ければ魂を啜られ、力を奪われてしまう。つまり、いつも通りに戦うのが困難になる場所だ。
 だが、為す術なく森に呑まれ、甘んじて魂を啜られ続けなければならないのかというと、そうではない。
「対抗する手段はあるわ。……ねえ、皆さんには相棒さんっている?」
 ホーラからの唐突な質問に、猟兵たちが顔を見合せた。
 パートナー、同行者、愛刀など呼称や関係性も多岐に渡るが、とにかくそうした対象が存在する或いは存在した猟兵なら、より抗いやすいだろうとホーラは言う。
 特に、相方との楽しい想い出を持つ者ほど、魂喰らいの効果を弾きやすい。
「念じるの。強く。楽しかったときを思い出したり、懐かしんだりして」
 想い出は──中でも楽しさに満ちた温かな想い出は、魂を啜ろうとする悪意をも跳ね返す場合がある。不思議な森だからこそ叶うことだ。
 肝心の森の番人はハイレームという名で、竜騎士を模っている。
 かの者は確かにオブリビオンであり、想い出の類など持たぬはずだが、しかし。
「番人さんには、特に相棒さんとの想い出の力が効くわ」
 念じるだけでもいい。想い出を言葉に変えてもいい。
 パートナーとの楽しい想い出がもたらす力は、うまく使えば魂啜りを防ぐだけでなく、敵の動きを鈍らせることもできるだろう。
「それじゃ、準備ができた方から声をかけてね。転送します!」
 ホーラは最後にそう言うと、転送の用意に取り掛かった。


棟方ろか
 お世話になっております。棟方ろかです。
 このシナリオは一章のみとなっております。

●プレイングボーナスについて
 このシナリオでは、『楽しい思い出を強く心に念じ、魂すすりに対抗する』行動を取ると、有利になりやすいです。
 パートナーとなる誰か(または何か)との思い出だと、もっと良いです。

 それでは、プレイングをお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『落ちた竜騎士ハイレーム』

POW   :    魂砕きのカウンター
【邪悪龍の怨念】を籠めた【右手に持った剣によるカウンター攻撃】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【邪心】のみを攻撃する。
SPD   :    ダークディメンジョン
【邪悪龍の高速な運動能力】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【対象の目前に瞬間移動し左手の龍の爪】で攻撃する。
WIZ   :    アビスのマグマブレス
【ペンダントのドラゴン】から【超高温の炎のドラゴンブレス】を放ち、【高熱によるやけど】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:純志

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアテナ・アイリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シリル・アルバ
えー、ネムスを相棒とか言ったら怒るんじゃないの?!
……はい、ネムスに相応しくなるよう頑張りマス
ほどほどに
一言余計、じゃないよ、空気を和らげる為の必要な一言ですとも

って、俺らはだいたいこんな感じだし、相棒っていうには俺が頼りないだろうけどさ
俺らはこれでイイんだよ、うん
だって
こんな感じで、今まで二人で生きてきたデショ

魂喰らいなんてモノで、どうこうなりようが無いってコトさ

……あ、うん、そうそう、年季が違うって言いたかったの
はい、勉強頑張りマス

ってコトで、俺らの仲を羨みながら倒れていくとイイよ!

炎対決だったら、負けるか!



 ひとりぼっちという感覚をシリル・アルバ(キマイラの精霊術士・f12861)が抱くことは、ついぞ無かった。
 えー、とあげた不服の声を聞き届ける相手が、彼の傍に在り続ける。
 シリルにとって当たり前のことだ。
「相棒。相棒って。ネムスを相棒とか言ったら怒るんじゃ……」
 臆せず零した彼の面差しは常と変わらぬまま、言葉ばかりが先走り、大樹の精から睨みを引き出す。睨みの根は、彼が手にした塊から放たれている。深い緑の縁を辿り朝を報せる光にも似た、金色の向こうから。
「……はい、ネムスに相応しくなるよう頑張りマス」
 ほどほどに、と控えめに付け足した言葉さえ、ネムスの意識は掬いあげてしまう。こうして、隔たれた時間も距離も構わず披露される琥珀を通したやりとりは、他者には理解できない空気を保つ。
 それでも、シリルが言の葉と共に吐き出した空気は、少しばかり強張っていた。けれど次に吸い込んだのは、和らいだ森の呼気。魂を喰らうという森も、動じぬ彼らに呑まれつつある。
 だからシリルは胸を張って言う。俺らはこれでイイんだよ、と。
 そして踊りも弾けもしない調子のシリルが、すかさず掲げてみせたのは森厳たる杖だ。鬱蒼と暗闇に沈む森へ、眼が痛くなるほどの輝きが尾を引いて駆ける。
 彼らの見せたものにちかちかと眩むのを感じ、ハイレームはペンダントから迸る朱を解き放つ。ごうと音を立てた赤は森を焼くためではなく、彼らを焦がすために舞う。
 だからシリルも、火精霊の息吹を呼び覚ました。来たれと紡げば熱が滴り、混じり気のない紅蓮が敵の色を灼き尽くす。
 火の加護を得て操る彼らに、ドラゴンの猛りが叶うはずもなかった。なぜなら。
「砕かなきゃ。おまえたちみたいなのは、俺が」
 ハイレームの言に怨嗟が溶けこみ、どろりとした情を声音へ寄せた。
 一度だけ瞬いたシリルが、ふっと吐息に笑みを乗せる。
「そんな感じだから、俺らの火に勝てないんデショ」
 意味をハイレームが理解できるはずもなく、鋭い眼光を突き刺すばかりで。
「魂喰らいなんてモノで、どうこうなりようが無いってコトさ」
 言いながらシリルが目許を緩めると、再び琥珀から威圧が飛ぶ。さすがに飛んできたものを受けた瞬間だけ、彼はぴくりと肩を揺らした。
「あ、うん、そうそう、年季が違うって言いたかったの。はい、頑張りマス」
 本日二度目の宣言を、抑揚もつけずにシリルは返す。
 ひとりぼっちの侘しさを痛感する日など、やはり彼には来そうにない。

成功 🔵​🔵​🔴​

小宮・あき
アックス&ウィザーズ。私が最も大好きな世界。
崩壊させるわけには行きません。

騎士を名乗るのなら、あなたにも誇示があったでしょうに。
なんとも言えない、悲しい気持ちになりますね。
魂を啜ろうとする悪意に飲まれることはありませんけど。

UC【愛雨霰】
73本のマスケット銃を展開し、周囲に半数を展開。
敵SPDの正面突撃に備え、5本×5本の簡易盾を構えておきましょう。
2本クロスで進行を止める事もできます。
残りの半数は攻撃に。

これだけのマスケット銃に刻まれたイニシャルは、私の心の支え。

愛する夫の待つ、UDCアースに戻らなければいけませんから。
この世界は好きですけど、私、死ぬのは夫の隣って決めてるんですよ。



 果てなき大空を映し、はばたく鳥たちの声に耳を傾ける。そうして生きてきた小宮・あき(人間の聖者・f03848)の心身を揺るがすのは、この世界に訪れた危機で。
 ──アックス&ウィザーズ。私が最も大好きな世界。
 常であれば天真爛漫、花咲く笑みを振る舞うばかりの少女も、今だけは敵を前に凛々しく立つ。浮かぶ微笑に違いはなくても、オブリビオンであるハイレームを捉える眼差しは、ひとりの猟兵のもの。
「騎士を名乗るのなら、あなたにも誇示があったでしょうに」
 失われた過去を想い、あきがぽつりと呟く。僅かにひそめられた眉から滲む悲しみが、彼女の頬を彩った。それでも、だからといってあきが悪意に身を委ねる理由にはならない。
 飲まれはしません、と宣言と同時に彼女が展開したのはマスケット銃の群れ。地を蹴ったハイレームの姿が眼前へ迫る、その直前。彼女はいくつかのマスケット銃を、降りかかる火の粉を払うための盾とした。
「砕いてやる……全部砕いてやる……」
 呪文のように繰り返すハイレームの言葉を、あきは確かに聞いた。間近だとよりわかる。ハイレームを苛める過去の悪意が、いかに強敵であるのかが。
「残念ですけど、見知らぬ男性に砕かれるような身ではありませんので」
 俯くことを知らぬあきがそう告げれば、ハイレームが低く呻いた。直後、素早い爪があきの築き上げた自信も情も、打ち砕こうと伸びる。
「そう簡単にはいきませんっ」
 受け止めた衝撃で銃が弾かれようとも、次なる銃がハイレームの狂爪を払う。決してあきに傷は負わせまいとする、銃たちの意思さえ感じられる──あるいは、銃を拠り所とするあきの力が、そう感じさせるのか。
 言の葉で象らずとも伝わるものを、ハイレームもひしひしと感じていた。あきの揮う力の源を。彼女が姿勢よく立てるその理由を。だからこそ譲れないのか、ハイレームは更なる一撃を繰り出す。
 刻まれたイニシャルを愛おしげに指の腹で撫でたあきは、尚も猛攻を止めないハイレームと、真っ向から対峙する。
 彼女を守るために舞う銃が鳴けば、薄暗い森の自由を浴びていた別の銃が、脇から敵を撃つ。何本弾かれようとも、彼女の元からマスケット銃は消えない。影も形も明瞭に映し出して、あきの糧となる。それが嬉しくて、あきの頬が緩む。
 ああ、一刻も早く戻らなければ。
 考えた途端、彼女は長い睫毛を震わせて微笑む。
「この世界は好きですけど、私、死ぬのは夫の隣って決めてるんです」
 屈託のないあきの顔と声音に、銃創を受けたハイレームの眉間が、よりしわを深めていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御形・菘
妾の信者たるファンは星の数より多くいるが、相棒といえば天地しかあるまい
動画配信活動を始めるよりも前、話しかける相手を求めて拾ったジャンクの…
…はっはっは、要は血よりも濃い絆で結ばれておるということだ!
そして今も、見守ってくれているのだ! お主に負ける道理など一切存在せん!

カウンターが来ると解っていて、なお攻撃をブチ込むとも!
左腕の一撃にボコられ沈め!
…いやまあ、妾は間違いなく邪心は少ない方でな、ダメージもそう大きくなかろう
邪神を名乗っておるから、オフレコであるぞ?

そして! 実は本命の攻撃は左腕ではない!
そのまま身体を鷲掴みして固定…決して逃がさん!
さあ、渾身の右手でブチ貫いてくれよう!



 彼方から響き渡る高笑いが、かの者の到来を知らせた。
 鬱蒼と茂る森をざわつかせた高笑い。森が御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)の姿を捉えた頃には、もう遅い。
 魂喰らいの森をも驚かせる登場をした菘は、高笑いを続けたまま、共に在るドローンを飛ばす。
 ──妾のファンは星の数より多いが、相棒といえば天地しかあるまい。
 すぐさま菘の視線が、ドローンへ向かう。
 思い返せばもはや懐かしく、動画配信を始めるよりも前へと記憶は遡る。視聴者に脳内映像は見えていないため、敵を前にしても威風堂々たる菘の姿ばかりが配信され続けた。
 ──あの頃は話しかける相手を求めていた。そこで拾ったジャンクの……。
 手繰り寄せれば、いくらでも想い馳せることができてしまう。
 だからこそ菘は緩くかぶりを振り、血よりも濃い絆で結ばれたドローンへ頷く。今も天地が見守ってくれているのだと、眼で見て、音で聞いて感じ取れる。だからこそ。
「お主に負ける道理など一切存在せん!」
 宣言した菘へ、悪しき竜の怨念が、ハイレームの繰り出す一撃となって迫る。
 わからいでか、カウンターに臆する邪神が在るはずもなく、菘は迷いなく踏み込んだ。そして敵が構えるより僅かに早く、突き出した左腕で力強い一打を喰らわせた。
「沈むがよい!」
 止まずに飛ばす掛け声も、菘の威勢を更に際立たせる。
 直後に返された一撃が菘の邪心を抉るも、傷が生じるでもなく、菘の内でのみ痛みが迸る。
 覚えた苦痛を押さえる仕種さえ、菘は手札に持たない。
 元より邪心と呼ぶべきものは、そこまで多くは取り揃えていなかった。邪神を名乗っているがゆえ、痛みに耐える素振りだけをそれとなく示し、菘は口端をあげる。
「聞かずとも驚くがいい! 本命は左ではない!」
 菘の真相発言が轟くと同時、ハイレームをがっしり鷲掴みにする。
 逃がさん、と口にした決意をもマイクに乗せて、邪神たる己が右手で悪意の権化を貫く。
 ぐらりと傾くハイレームの身。
 風穴を押さえて菘の腕を振り払うも、かれの顔には苦痛の色が濃く滲みだした。
「さあ、ブチ貫いてみせたぞ! 見届けたか!」
 しっかり右手も任を果たしておるのだぞ、と菘が胸を張る。
 そして視聴者一行から降りかかったコメントの段幕が、配信を益々賑わせていく。
 うむうむと納得を頷きで表した菘は、先ほど味わったばかりの邪心への苦痛をも感じさせない、邪悪で清々しい笑みを浮かべてみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レザリア・アドニス
相棒、と…
胸を抑えれば、掌の中にひょこっと出てくる死霊ちゃんがこちらを窺ってるようで
うん…あなた、ですね…(指先でちょいちょい)

この子と出会って楽しいこと…楽しい…
つらいことばかりだったけど…
一緒に生きてること、一人じゃないこと、それはそれで…楽しいよね…?
新しい所へ一緒に行くこと
美しい風景を一緒に見ること
美味しい食べ物を一緒に食べること
寒い夜に寄り合うこと
全ては、あなたがいるから楽しくなる…
あなたも、そう思うかしら…?

歩きながらしっかり警戒
接敵後はすぐに花嵐の防壁を作り、攻撃も兼ねる
炎が来たらそれを巻き込み、
防御しながら、炎を纏う風で攻撃をはね返す

あなたも、相棒のことを想っているのか…?



 なんて短く、そして強い言葉なのだろう。
 相棒──音と意味が織り成す温もりを、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は胸へ抱き寄せた。そこにあるのは少女にとっての、相棒とも呼べる存在。掌にひょこっと出てきた、ちいさなちいさな死霊ちゃん。
 レザリアの顔を窺う素振りを示す死霊ちゃんに、彼女も口端を緩めて。
「うん……あなた、ですね……」
 指先でちょいちょいと触れれば、死霊ちゃんがころころと戯れる。
 ──つらいことばかり、だったけど……。
 夜の世界に生き、夜より深い冷酷さを感じてきた少女だ。辛い記憶の強さは計り知れず、そして簡単に拭い去れるものでもない。それでも。
 この子と、一緒に生きている。
 この子がいるから、夜の底にいても一人ではなかった。
「それはそれで……楽しいよね……?」
 レザリアが未だ確信が得られないのは、楽しいと呼んで良いものか、判断に迷ったからだろうか。楽しかったと、胸を張っていいものか区別がつけられずにいるからか。
 それほどまでに、知る闇は彼女の心身を黒く染めてきた。けれど。
 黙したまま顔を上げ、ハイレームをじっと見つめる。妬ましそうな視線に射抜かれても、レザリアは動じない。共生する死霊ちゃんが、確かにここにいると解っているのだから。
 思えば、一緒に新しい世界へも足を運んだ。種々の佳景が彼女たちを出迎えてくれ、未知の食べ物に揃って舌鼓を打った。どんなに寒くても寄り添え合えたと、温度を想起する。
 しかし温もりは消えない。ずっと、レザリアを温めてくれている。
「全ては、あなたがいるから……」
 紡いだ声音は、レザリア自身が思っていたよりもずっと優しい。
「楽しく過ごせた。あなたも、そう思うかしら……?」
 鈴蘭の花嵐の中心に佇みながら、レザリアは死霊ちゃんへ声をかける。
 そんなふたりの姿を目の当たりにしたハイレームが、眉根をこれでもかと寄せた。忌まわしいとかれが吐き捨て、レザリアたちをねめつける。
「俺が砕いてやる。壊してやらなきゃならないんだ」
 焦燥に駆られたかのようにそればかり繰り返し、かれのペンダントから炎が昇った。
 舞い踊る花弁は、滾る赤に煽られてもレザリアの肌まで火の粉を届かせない。ちりちりと焼ける花嵐の向こう、少女は敵の言動に感づき唇を震わせる。
「あなたも、相棒のことを……?」
 問われたハイレームが返すのは、そんなもの知らない、という突き放す言葉のみで。
 ──そうは、見えない……。
 かれの過去に渦巻く闇を垣間見た気がして、レザリアはそっと双眸を伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリル・チェコット
魂喰らいの森
ここに訪れるのは初めてじゃない
前も、愛しい家族の力を借りて驚異を振り切った

今回だって絶対大丈夫
羊飼いの笛と、母のロケットをきゅっと握りしめて

わたしの相棒
とってもおっきくて頼もしくって
いつもわたしを守ってくれる
あなたと出会った時のこと、覚えてるよ
お母さんがいなくなって、わたしは森でひとりで泣いていて
運悪く狼に出会ってしまった
もうダメだって諦めたときに
あなたが助けてくれたんだよね

あの日からずっと傍にいてくれる
毎日一緒に高原を駆け回って
たくさん踊って、たくさん遊んで
お父さんに怒られた時は庇ってくれて
ふふ、口に出すとキリがない

前もここで一緒に戦ったね
今回もわたし達なら大丈夫
行こう、ドリー!



 ひだまりを失った森は、メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)の心身を大きな口で飲み込んでいく。けれど踏み入った森の冷たい空気も、心閉ざしたかのように固い土も、初めてではなかった。
 前にも訪れた。その経験が、メリルの背を押してくれる。圧しかかる脅威も、掻き乱そうとする悪意も、愛しい家族の力を借りて振り切ることが叶ったのだ。
 ──今回だって大丈夫。絶対。
 俯かず、きゅっと唇を引き結ぶ。
 揺らめくオブリビオンのほの昏さを眼前にしても、彼女は打ち拉がれない。
 そしてただただ握りしめるのは、羊飼いの笛と、母のロケットで。
 相棒という言葉で過ぎった輪郭が、姿が、メリルの眼裏に熱を点す。
 ──あなたと出会ったときのこと、ちゃんと覚えてるよ。
 太陽が沈んだ後の時間も、太陽がそばにいないことも恐れた当時のメリルにとって、相棒は大きな存在だ。
 ひとりきりで歩いて、ひとりきりで泣いた森のなか。
 狼との遭遇が、少女に絶体絶命という状況を刻み付けた、あのとき。
 諦めかけた少女は、呼吸を枯らせる。呼吸どころか涙すら枯れ果て、恐怖で目の前が真闇に染まりかけた彼女を助けたのは、他でもない。
 ──そう。おっきくて頼もしくって。いつだってわたしを守ってくれる。
 そして、あの日からずっと傍にいてくれる。
 思えば思うほど、メリルの胸へ込み上げる温もりが、楽しかったときの記憶が、輝きとなって森にあふれていく。
 一緒に過ごすようになってから、毎日高原を駆け回った。そのとき感じた緑のにおいも、撫でていく風の無邪気さも、彼女はよく覚えている。
 父にメリルが怒られ、肩を縮めていたときも、庇ってくれた勇ましさを、よく覚えている。
「……前も、ここで戦ったね」
 ふふ、と吐息だけで笑ったメリルは、大きな羊にぴょんと飛び乗る。
 魂を啜ろうと機を窺っていた森も、妬みの眼をくれたハイレームですら、彼女たちの放つ陽にあてられ、身動きもままならない。
 かれがそうしている間に、メリルはハイレームを指し示して。
「行こう、ドリー!」
 共に生きる羊が応じ、深い緑に沈んだ森を駆ける。
 どれほど暗い緑が蔓延ろうとも、ひだまりの少女が持つ色は失われることなく。
「悪い子はやっつけて、ここを抜けちゃおう!」
 恨みがましく爪を振るうハイレームを、全力疾走によるもふもふが襲う。
 目映いふたりの突撃は、ハイレームをいとも容易く吹き飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火
人格:カイラ


人型に対する戦闘知識で挙動や間合いを見切り
攻撃直後の隙を狙い一太刀、その傷から噴く血を啜りUC発動
カウンターが来る事は識っている故、敵の剣は刀で受け。UCで顕現した舌にカウンターさせる
舌先で付けた傷から更に吸血、再度UC発動で強化。これを繰り返す

私の片割れは勿論、雷火
明確に意識が分かれたのは猟兵になった日からだが
その前なら、共に家族と過ごしていた幸せな日々。その後なら、其処彼処で遊んだ思い出が沢山ある
表で雷火が殺人事件の被害者を演じ、内では私が鑑賞感覚で楽しんだり
UC(オルタナティブ・ダブル)で並んで歩き、共に気に入ったを選んで買ったり……ささやかで、だが大切な、楽しかった思い出だ



 悪しき魂を砕くと告げたハイレームの挙動を、忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)はしかと捉える。
 竜の騎士として過去に駆けたであろう痕跡を、敵は己の腕で刻んだ。怨念の零れた切っ先を突き出すその姿勢も、斬り払う際の流麗な動きも──どこか、竜を思わせると雷火は──もうひとつの顔であるカイラは思う。
 けれど沈思する暇などカイラは持たない。振るわれた刃の軌跡から、かれの剣の行く先を得る。
 剣の狙いを外させるように銘なき刀で受けるも、邪心を裂かねばと挑むかの者の意志が刀の上を滑った。その衝撃で刀身の角度を変化させ、カイラの手が切られるもそれより深くは追わせない。追わせなかった。
 ──雷火。
 そして、片割れの名を想う。
 いつしか分かたれた意識が、今のふたりを成している。猟兵になったあの日を想起すれば、懐かしさに眦が和らぐ。
 家族としての過日は、思い出としてカイラを織る。
 其処彼処で共に遊んだ日々も、鮮明に思い出せる。
 ああそういえば、とカイラの瞳が記憶に潤む。雷火が殺人事件の被害者を演じる間、自分が鑑賞する感覚で楽しんだこともあった。
 オルタナティブ・ダブルで歩いたときに見た景色は、ささやかなものだが、カイラにとって大切な──楽しかったひとときだ。
 懐かしいと口走るより先に、幸せだったという言の葉が生まれる。
 けれど浸れば浸るほど、彼女は喉の渇きを覚えた。
 発露するべき情の代わりに、感じる飢え。冷えきった赤ではなく、温かくて蕩ける真紅を欲する双眸が揺れた。
 ──魂を啜るというのなら。
 止まず迫る刃を跳ね返せば、ハイレームの足がもたつく。そのほんの一瞬をカイラは見逃さなかった。
 カイラの刻印から噴き出したのは煙りだ。彼女の、カイラの眼差しを辿るように煙りはやがてかたちを生み出す。
 そうして模った長舌が飢餓を煙らせて、かれの腕を、眼前に提供された獲物を穿つ。
 鋭く突き刺して血を啜る様は、まさしく猟犬の獰猛さで。
 足りない、と彼女が囁く。まだ、まだ満たされない。
 啜らせる魂も砕かせる魂も、渡すつもりは微塵もないが。だからこそカイラは啜った熱を力へと転じ、得物を振るう。
 雷火の血は汚させない。混じり気のない思い出を、濁らせるなど。
 言葉で模らずともカイラの意志は瞳に宿った。一閃、瞬きほどの間に輝いたのはカイラの刀だ。どす黒い過去に沈んだハイレームへ試みた迫撃が、暗い森に一陣の賑わいを吹かせた。
 かの者の剣を、腕を砕く音が森にこだまする。

成功 🔵​🔵​🔴​

日東寺・有頂
相棒との和気藹々エピソードにようけ反応してまうと?そらあアレか。妬みかしら。
アンタさんはこっから先、そがん人を得る事も取り戻す事もないけんね。
言うて浮かべる相手は相棒やなか。慕っとーアニさんね。フリーダムでノリ良かあん人とのナンパ資金調達ツアー。いや〜〜楽しかった!金ば拵えるどころかストーカーのおばちゃんや病ん病んなギャルに捕まってドリンクバーで反省会。最後にゃ肩組んでスーパー銭湯。
あがん思い出またほしか。あん人と馬鹿馬鹿しくやりたかよ。
さあアンタの名ば呼んでそん知覚を根こそぎ奪おう。視とうたそばから見失うた?
ハイレームさん大丈夫、一人にせんよ。
幾筋もの神経毒手裏剣でその五体に呼びかけてやる。



 そらあアレか。
 顎を撫でながら唸っていた日東寺・有頂(手放し・f22060)が、くるりと視線を転がして考える。アレならば仕方がない。アレを受け入れ、もしくは抗う術をオブリビオンと化したハイレームはもはや持てぬだろうからと、有頂はかぶりを振る。
 ちらと一瞥し、敵の様子を知る。既に仲間たちの猛攻を受けて、ハイレームはぼろぼろだ。
 構わず有頂が紡ぎ出すのは、「楽しかった」という念の輝き。
 相棒とは違うが、共に楽しむことのできる相手に変わりはない。慕う心持ちを存分に顔へ浮かべて、有頂は頬をふくりと上げる。
 フリーダムを絵に描いたようなアニさんとのナンパ資金調達ツアー。言葉の響きからして愉快痛快、どれだけ有頂たちが堪能したかが知れるだろう。
 期待と現実は奇しくも馴染まず、金を拵えるどころかストーカー気質のおばちゃんに追われ、病みに病んだギャルに捕まった挙げ句の反省会はドリンクバーで。紆余曲折を経てたどり着いたスーパー銭湯で、汗を流しながら肩を組んで笑えば、湯気に乗って響き渡る声もまた。
「いや〜〜楽しかった!」
 口をついて出た感想に、苦悶の色を帯びたハイレームが眉根を更に寄せる。
「……あがん思い出またほしか」
 馬鹿馬鹿しいことを全力で楽しむ。そして思い出をまたひとつ増やす。
 遠のけばまた欲しくなり、疼く気持ちを有頂は力に換えた。
「ハイレームさん大丈夫」
 ──ひとりにせんよ。
 不敵を刷いた口の端で告げる。彼の声は鬱蒼と茂る森をも透かし、かの者へ届くより一瞬早く、幾筋もの手裏剣が宙を舞う。
 有頂の打った手裏剣は傷だらけのハイレームへ追い撃ちをかけた。そうして、砕かなきゃと繰り返してばかりいたハイレームの動きを、森に縫い付ける。おかげで行き場のなくなったハイレームの爪が、ギリギリと音を立てて軋む。
「アンタさんはこっから先、そがん人を得る事も、取り戻す事もないけんね」
 言いながら有頂は、尚も立つ相手に目を細める。
 魂を啜るため、砕くために立つ森は、もしかしたらかれにとって。
「そこ、甘か?」
 有頂の問いに返答はなく、ただ面差しから滲む雰囲気だけが伝えてくれた。身を沈める先が片割れへの想いに満ちているなら、かれにとってここは離れがたき場なのかもしれない。
 それでも、訪れた者が抱く思い出を傷つけようとするのは、紛うことなき。
「そらあ妬みっさね」
 終いの言は手裏剣に乗って、ハイレームを森の軛から解放させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月05日


挿絵イラスト