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帝竜戦役①~暗澹の森

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #群竜大陸

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●群竜大陸へ
 魂喰らいの森。
 昏い闇が満ち、妖しい樹々が生い茂った森の中。
 天空に浮かぶ群竜大陸にあるその森には恐ろしい力が宿っていた。暗闇に潜んでいた悪魔の少女は大きな戦いが始まったことを感じて、背筋をぴんと伸ばす。
「敵が来る……猟兵が来る!」
 赤い髪に金の眸。悪魔の角と翼を生やした彼女の名はリリィ・デモンズ。
 手にした槍を強く握り締めたリリィは猟兵達の気配を感じて身構えた。元より自分の力に自信はなくて、てんで弱いものだと自覚している彼女だが、今は違う。
 魂喰らいの森が力を与えてくれている。
「大丈夫。これで私だって誰かをやっつけられる! 弱っちい私だって、この力があれば帝竜さまのお役にも立てるはずだもの……!」
 意気込んだ小悪魔は揺れる樹々の向こう側を見つめた。
 自分に課せられた世界を滅ぼすという責務を頑張って果たすために。小悪魔リリィは森に訪れた者達と戦う覚悟を決めた。

●森の番人
「お前らも『帝竜戦役』の話は聞いてるだろ。そうだ、戦争だ」
 アックス&ウィザーズ。
 この世界のオブリビオン・フォーミュラ――帝竜ヴァルギリオス。
 配下の帝竜達を引き連れたヴァルギリオスは世界を滅ぼそうとしているという。ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は、その危機を予知することが出来たと語った。
 どうやら敵は群竜大陸に猟兵達が侵攻してきたことに危機感を覚えたらしく、当初の計画を前倒しにして大規模な戦争を仕掛けてようとしている。
「このまま放っておけば世界は崩壊する。分かってて何もしないわけにはいかないよな」
 それゆえに敵が完全に行動を開始する前に、迅速に帝竜ヴァルギリオスを滅ぼさねばならない。そのためには先ず行く手を阻むオブリビオンを戦わなければいけないと語り、ディイは『魂喰らいの森』の或る区域を示す。

「リリィ・デモンズ。そういった名前の小悪魔が守っている場所がある」
 皆には其処に向かって欲しいと告げ、ディイは森の特性を説明していった。
 此処に存在する動植物は生物の魂を喰らうと言われている。森に配置されたオブリビオンは『森の番人』と呼ばれており、訪れる者の魂を吸い取る能力を得ていた。
「敵の力自体は弱いんだが、森の力が作用していてな。何も対策をしなければ一発で倒れちまう。しかし、この森の力を無効化する確実な策があるんだ」
 それは楽しい記憶を心に念じること。
 そうすれば魂が啜られることを阻止できるのでいつも通りに戦える。ただ出来事を思うだけではなく、そのときの光景をしっかり思い浮かべたり、その際の感情を思い出してみると抵抗効果も大きくなるだろう。
 後はオブリビオンを倒して先に進むだけだとして、ディイは説明を終えた。
「何はともあれ此処を抜けなきゃ始まらねえ。ってことでお前ら、頼んだぜ!」
 そう願ったディイは蒼い炎を纏い、転送陣を展開していく。
 魂喰らいの森と番人。
 これから始まる帝竜戦役を戦い抜くために、それが先ず乗り越えて行くべきものだ。
 そして――深く昏い森に続く転送陣がひらかれた。


犬塚ひなこ
 こちらは帝竜戦役、『魂喰らいの森』のシナリオです。
 今回は少数採用予定のシナリオとなります。
 ご参加人数によっては、全員描写が出来ない可能性があります。描写は先着順ではございませんが早期完結を目指しています。そのためプレイングに何も問題がなくてもお返ししてしまうこともありますので、ご了承の上でご参加頂けると幸いです。

●プレイングボーナス
『楽しい思い出を強く心に念じ、魂すすりに対抗する』

 戦場は暗い森の中。敵は頑張り屋さんの小悪魔です。
 敵の前に転送されるので移動してすぐに戦いが始まります。
 相手の攻撃はチクっとしたりするだけですが、当たれば確実に魂を吸い取られます。そうならないように自分の記憶の中で楽しかったことを思い浮かべてください。記憶の内容が詳しければ詳しいほど、大成功に近付きます。
 対策ができていれば怖い相手ではないので格好良く戦って頂けると嬉しいです。
 これから始まる戦争を前にしての景気付けとしてどうぞ!
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第1章 ボス戦 『『小悪魔』リリィ・デモンズ』

POW   :    悪魔の契約~デビルボム~
【悪魔の契約書(対象の署名・捺印が必要)】が命中した対象に対し、高威力高命中の【亀の歩みの様な超低速の誘導魔力弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    悪魔の神槍~デーモン・グングニール~
【刺そうと思ったら途中でボキッ!と折れた槍】を向けた対象に、【折れた槍の先端部分を拾い、投擲する事】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    悪魔の魔針~小悪魔ニードル~
レベル分の1秒で【針でチクッ!とされた様な威力の魔力針】を発射できる。

イラスト:らぬき

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リル・ルリ
楽しい思い出
歌うような踊るような
弾けるような
咲き誇る

胸に咲く花を歌うんだ
思い出すのは―かあさんと一緒に、とうさんのために歌った…水葬の街のひと時
切なかった
哀しかった
けれどそれ以上に

楽しかった

僕の夢
エスメラルダは僕の憧れの歌手
そんな、かあさんと一緒に大好きな愛しい人のために歌えた
彼に望まれておくることができた

かあさんの尾鰭が揺らぎ
歌声が重なる
身を寄せて、撫でて

とうさんが微笑んで聴いてくれた
大好きな櫻も聴いていてくれて

幸せでたのしかったんだ
光に満ちて
愛に満ちて

たのしかった

嬉しくて楽しくて―楽しかった―涙が零れる
笑顔が溢れる
嗚呼、歌おう
この魂を
授けられた歌声で紡ぐ

悪魔なんかに、一口だって啜らせないよ



●路を導く光
 暗澹たる森に満ちる闇は深い。
 森の最中を宛もなく彷徨ったとしたら心までもが暗闇に閉ざされてしまいそうなほどだ。魂を吸われ、啜られて奪われる森。聞いていた通りの場所だと思えた。
「ここが魂喰らいの森?」
 生い茂る樹々のせいで天上から光が差し込まない分、水底の都市よりも暗い。
 そう思ったリルは深く横たわる暗黒の景色を見渡しながら眸を凝らした。次第に目も慣れてきた頃、木の陰で何かが動いた気配を感じる。
「やっぱり来たのね、猟兵!」
「君が悪魔だな。悪いけれど、この先に進みたいんだ」
 姿を現わした小悪魔、リリィ・デモンズは身構えた。
 彼女と対峙したリルは尾鰭を揺らめかせ、宙でふわりと揺蕩った。その瞬間、先手を取ったリリィが掌をかざす。
「えーいっ、くらえ!」
 其処から放たれたのは悪魔の魔針。暗闇で軌道が見えなかったリルの肌にちくりとした痛みが走った。その途端、魂が引き摺られるような感覚が巡る。
(僕の、楽しい思い出……)
 対抗するために思い浮かべるのは記憶と歌と花。
 歌うような踊るような。そして、弾けるように咲き誇るもの。心に舞う花の色は優しくて淡い彩。リルは魂を抉られかけているかのような妙な感覚に耐えながら、胸に咲く花を歌ってみせようと決めた。
 思い出すのはエスメラルダとノアの姿。かあさんと一緒に、とうさんのために歌った水葬の街のひととき。
 ――私の為に歌ってくれ。
 彼の声を思い出す。そう願われてから、ふたりで奏でた歌をノアは心地よさそうに聴いていた。ゆっくりと眼を閉じたノアの顔も、それを優しく見守っていたエスメラルダの眸も、今もはっきりと思い出せる。
 葬送のために謳った歌は切なかった。別れの歌を紡ぐのは哀しかった。
 けれども、それ以上にリルの裡には強い感情があった。
「そうだ、僕は……楽しかったんだ」
 夢を識れた。
 エスメラルダは憧れの歌手で、そんなかあさんと一緒に大好きな愛しい人のために歌えたことは嬉しいことだった。
 そして、彼に望まれておくることができた。
 エスメラルダの尾鰭が揺らいで、リルの歌声が重なる。身を寄せて、撫でて、ノアが微笑んで聴いてくれた。それに、大好きな櫻も聴いていてくれて――。
 思い返す度に魂が啜られるような感覚は遠くなっていく。
「そんな、魂啜りの力が効かない?」
 リリィはリルの魂が少しも削られていないことに驚いて槍を構えた。そんな彼女を見つめるリルは体勢を立て直し、ふわりと微笑む。
「幸せでたのしかったんだ。だから、こんな力になんて負けないよ」
 光に満ちて、愛に満ちて、幸福だった。
 それはもう消えてしまって手の届かないところにあると知っているけれど、嬉しくて楽しくて、今だって涙が零れるほど。
 触れられなくても思い出せる。涙の雫と一緒に笑顔も溢れるから。
 嗚呼、歌おう。
 この魂を籠めて、望春の歌を。授けられた聲で紡ぐ歌は泡と桜の花吹雪を巻き起こし、暗闇の森をあらたな彩で埋め尽くしていく。
 その歌声に合わせて式神ペンギンのヨルもきゅきゅ、とうたった。
「僕のいのちも思い出も大切なんだ。悪魔なんかに、一口だって啜らせないよ」
「うう……私、この人魚とペンギンとは相性が悪いみたい!」
 リルが凛とした言葉を向けると、リリィは悪魔の翼を羽ばたかせて身を翻した。
 彼女が逃げたのだと察したリルはヨルを抱き、宙を翔けるように敵を追っていく。闇に閉ざされた森の最中にいても決してリルは迷いはしない。
 何があっても行く先を示してくれる。
 あたたくてやさしい思い出のひかりが、この胸の裡にあるのだから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
楽しい思い出は数え切れぬ程ありますが
ハレルヤが誕生した瞬間こそが楽しい思い出の根底ですね

人狼病を機にハレルヤと自らに名付けた瞬間の
あの言い尽くせぬ高揚感は今でも忘れられません
ただ名前を得ただけですけど、心が弾んだものですよ
ハレルヤらしく在ろうと口調も一人称も人生も変えて

おかげでそれからは楽しい思い出ばかりです
大切な人たちと時間を共有する楽しさとか
何も気にせず美味しい物を堪能できる楽しさとか
褒められる楽しさとか、こうして敵を【串刺し】にする楽しさとか!

武器が折れた位で刺すのを諦めるとは勿体無い
見本を見せてあげますから、どうぞ存分に褒めて下さい
そうしたらハレルヤの楽しい思い出の中に加えてあげますよ



●突き刺す刃と名の煌き
 闇に包まれた森の中で、何かが羽撃く音が聞こえた。
 耳を澄ませた晴夜は双眸を鋭く細める。森の奥を見据える彼の白灰色の狼耳がぴんと高く立ち、音の方向が探られていった。
 そして、晴夜が顔を向けた方から悪魔の少女が現れる。
「出ましたね、悪魔さん」
「わあ!? また猟兵が出てきたのね」
 何処かから逃げるように飛んできたリリィ・デモンズは晴夜に気が付いていなかったらしく、声を掛けられたことで驚きの声をあげた。
 しかし彼女は即座に身構え、悪魔の神槍を晴夜に差し向ける。
 そのまま突きを放とうとしたリリィだが、不意に槍がボキッと音を立てて折れた。
「……」
「…………」
「折れちゃった」
「折れましたね」
 一瞬の沈黙と事実確認。双方の視線が重なったことで、はっとしたふたりは気を取り直す。開き直ったリリィは折れた槍の先端部分を拾って思いっきり投げた。
「いいもの、槍くらいまた召喚するから!」
「なかなかな投擲ですね」
 小悪魔から投げられた槍は避けられないと気付き、晴夜は敢えてそれを受け止める。抜き放った悪食の刃で槍の先端を弾き返したが、それと同時に魂が吸い取られていくような感覚が走った。
 されど晴夜は対抗策をしっかりと知っている。
 楽しい思い出。考えればそれはこれまでに数え切れぬほどにあった。魂が引っ張られていく前に、晴夜は或る出来事を思い返す。
「そうですね、あれは――」
 ハレルヤが誕生した瞬間。それこそが楽しい思い出の根底だったと晴夜は懐う。
 名前がなかった頃。友達だったあの子に名前をつけるということすら考えられなかった頃と、名を得た今は全く違う。
 人狼病を機にハレルヤと自らに名付けた瞬間のこと。
 歓喜と感謝、賛美の意味を持つ名前こそ自らに相応しいと思えた。あの言い尽くせぬ高揚感は今でも忘れられず、あの切欠があったから今の自分がいる。
「今となれば懐かしいですね。私は、私ではありませんでしたが……どうでしょうか。実にハレルヤらしくなれましたよね」
 うん、と頷いて記憶を思い返した晴夜は己を確かめるように独り言ちた。
 そうすることで魂を奪おうとする力が撥ね退けられていく。
「どうして? 呪いの森の力が消されるなんて!」
 晴夜に魂喰らいの異能が効いていないと知ったリリィは慌てている。悪戯っぽい笑みを浮かべた晴夜は、彼女の姿を瞳に映す。
 ただ名前を得ただけの記憶だが、随分と心が弾んだことは今でも思い出せる。
 名に見合う自分で在ろうと決めてからは人生が変わった。否、自ら変えたのだ。おかげで楽しい思い出ばかりであり、魂を喰らう呪いも効きやしない。
 大切な人たちと時間を共有する楽しさ。
 何も気にせずに美味しい物を堪能できる嬉しさ。
 褒められて、やさしくして貰えて、気持ちを分かち合って、それから――。
「こうして敵を……あなたを串刺しにする楽しさとか!」
 晴夜は口許を悪戯っぽく緩め、妖刀の切っ先をリリィに差し向けた。
「ひゃ、わあああ!?」
 欲求のままに突き刺した刃がリリィの傷口を抉る。悲鳴をあげた小悪魔は晴夜と距離を取る。彼女は痛みを堪えながら逃げるか否か迷っているようだ。
 晴夜はその隙を狙って、更なる一閃を見舞う為に駆ける。落ちた槍が目に入り、晴夜は薄く笑ってみせた。
「武器が折れたくらいで刺すのを諦めるとは勿体無いですね」
「だってだって、近付くのは怖いんだもの! 私は弱っちいから……!」
「そうやって自分の価値を諦めているんですね」
 リリィの言葉にほんの少しだけ過去の、ハレルヤではなかった時の自分を重ねた晴夜は首を振る。そして、見本を見せてあげますと告げて一気に刃を振り下ろした。
「どうですか、痛いでしょう。どうぞ存分に褒めて下さい。そうしたらハレルヤの楽しい思い出の中に加えてあげますよ」
「う、うぅ……お断りするわーっ!」
 二撃目を受けたリリィは何とか力を振り絞り、晴夜から全力で逃げ出した。
 羽撃く後ろ姿を見つめた晴夜も地を蹴る。
 途中で逃げられてしまっては楽しい記憶には成り得ない。それゆえに決して逃しはしない。そう決めた彼は、魂喰らいの森の最中を駆け抜けてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「悪魔ねぇ…。吸い殺したら、悪魔大王さんに怒られないかな?」
まあ、いいか。それより血の味が気になるしね。

UCで吸血鬼化して戦い、全力で【吸血】を狙っていく。チクッとするくらいの威力なら、敵さんの生命力を奪えばすぐに治りそうかな?
んでもって、僕の楽しい記憶は、もちろん敵さんの血を思う存分吸っている記憶。
敵さんの首に噛み付いて肉とか骨を噛み砕き、血を啜る。ちっとでも喉の渇きを癒せる楽しいひと時より楽しい記憶ってあるのかな?

「可愛い女の子がこんな暗い森にいちゃダメだよ?こわーい、吸血鬼に会っちゃうかもだしね。」



●血と魂
 転送された先は真っ暗な森の中。
 鬱蒼と生い茂った樹々が天を隠しており、陽の光は射していない。しかし、目を凝らせば次第に暗さにも慣れてきた。
 辺りを見渡した莉亜は樹々の向こう側に何かの気配を感じる。
「悪魔ねぇ……」
 人形のものが翼で飛んできていると察した莉亜は身構えた。きっとこの気配の主がこの森の番人なのだろう。
「吸い殺したら、悪魔大王さんに怒られないかな?」
 ふとした疑問を零した莉亜は軽く首を傾げる。そうして見据えた先に影が現れ、莉亜は気を取り直した。
「……!」
 木の陰から顔を出した敵、リリィ・デモンズは驚いて声なき声をあげる。それを迎え撃つ形で立ち塞がった莉亜は己の力を巡らせた。
「まあ、いいか。それより血の味が気になるしね」
「血? その前に私があなたの魂を喰らってあげる!」
 戦闘態勢を整えたリリィは魔力を紡ぎ、悪魔の魔針を解き放つ。鋭く飛翔した細い針が莉亜に襲いかかって行く中、不死者の血統の力が発動していった。吸血鬼化した莉亜は針を受けたが、全力で吸血を狙うべく立ち回った。
「チクッとする威力なら、敵さんの生命力を奪えばすぐに治……あれ?」
 莉亜の言葉が途中で止まる。
 確かに敵の能力は強くないが、其処にはこの森の力が宿っていた。当たれば魂を啜られるという効果だ。
「ふふん、私が貰った森の力はどう?」
 リリィは得意げになって問いかけてくる。見る間に莉亜の魂が不可思議な力によって啜られていき、妙な感覚が体中に走った。
 だが、莉亜は楽しいことを思い返す。
「甘いね、僕にだってこれを跳ね除ける楽しい思い出があるんだよ」
 それはもちろん敵の血を思う存分吸っている記憶。
 その出来事は今すぐにでも此処で起こすことができる。そう告げた莉亜の言葉にリリィが不思議そうにした、その瞬間。
「例えば、こう」
「ひゃ!」
「なかなかガードが硬いね」
 不意をついて相手の首に噛み付こうとした莉亜だが、リリィは慌てて避ける。僅かには吸えたが黙って吸われているばかりではなかった。
 されど莉亜は過去に敵の血を吸ったことを思い出して魂が奪われることを避ける。
 肉とか骨を噛み砕き、血を啜る。
 喉の渇きを癒せる楽しいひととき。それよりも楽しい記憶なんてあるのだろうか。そう思うほどに莉亜の記憶は血で彩られている。
「どうしよう……頑張らなきゃいけないのに!」
 リリィは恐れをなしている。
 その様子を見て薄く双眸を細めた莉亜は揶揄うように語りかけた。
「ほら、可愛い女の子がこんな暗い森にいちゃダメだよ? こわーい、吸血鬼に会っちゃうかもだしね」
「……駄目かも。退散!」
 するとリリィは不利を察して一目散に逃げてしまった。
 軽く溜息をついた莉亜は後ろ姿を見遣る。しかし、あのように羽音を立てて逃げる相手ならば気配を追うことも容易だ。
 次に会ったら必ず血を吸い尽くそうと決めた莉亜は、その後を追っていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

栗花落・澪
思い出は沢山あるけど…
大切な人と結ばれる前
一緒にホログラムの海を泳いだ時

本当はあの時にはもう、僕の気持ちは決まってて
それでも…あの人も同じ想いでいてくれたなんて、気づけなくて
僕はどうしても、ネガティブだから
それでもその時の記憶を焼き付けたくて

彼と手を繋いで泳いだ事
競走したこと
大好きな自然の生き物達に囲まれ過ごした時間
凄く心地よくて…楽しかった

出来ればもう一度
今度は…恋人として思い出を作りたいから
頑張ってるとこ悪いけど、ここは通してもらうよ

翼の【空中戦】で距離を取り【指定UC】
敵の攻撃は分身に盾になってもらいつつ
【破魔】を宿した光魔法の【高速詠唱、属性攻撃】の【一斉発射】で
浄化攻撃を仕掛けるね



●記憶を重ねて
 魂喰らいの森の中、澪は敵の気配を感じて身構えた。
 木の陰から飛び出してきたリリィ・デモンズも澪の存在に気が付いて身構える。
「出たね、猟兵!」
「出たな、小悪魔!」
 ふたりの声が重なって視線が交差した。暗い森の中でもはっきりとお互いを見据え、睨み付ける。一触即発の空気が流れた刹那、リリィがえいっと悪魔の魔針を解き放った。
「あなたの魂、貰っちゃうんだから!」
 すると無数の針が澪に襲いかかり、ちくりとした痛みが肌に走る。
 痛みは大したことはないが問題は其処に宿った魂啜りの力だ。身体の中に奇妙な感覚が巡っていくことを感じながら、澪はぐっと堪える。
(駄目……楽しいことを思い出さないと)
 この森に宿る力への対処策を思い出した澪はこれまでのことを考えていく。
 楽しいと感じた思い出はたくさんある。
 きっとどの記憶も魂喰らいの力を跳ね除ける助けになってくれるだろう。その中でふと脳裏に浮かんだのは去年の夏の出来事だ。
 それは大切な人と結ばれる前。
 彼と一緒にホログラムの海を泳いで過ごしたこと。彼を導くように海月の群れの中へ進めば、この手が小さいといって大事に握ってくれた。
 泳ぎの競争をして、彼に負けてしまって、きらきらとした石を拾って見せて――そういった何気ないことが嬉しくて堪らなかった。
 あれからたくさんの世界を渡って色んなことを体験した。
 そして、今だから分かることがある。本当はあのときにはもう自分の気持ちは決まっていたのだろう。
(それでも――あの人も同じ想いでいてくれたなんて、気付けなかったんだ)
「どう? 魂が引っ張られていく感覚がするでしょ?」
 思いに耽る澪を見たリリィはどうやら魂喰らいが効いていると思っているようだ。ふるふると首を振った澪は、違うよ、と告げた。
「僕はどうしても、ネガティブだから……」
「?」
「それでもね、その時の記憶を焼き付けたくて頑張ったんだ」
 彼と手を繋いで泳いだとき、とても楽しかった。大好きな自然の生き物達に囲まれ過ごした時間は掛け替えのないものだと思えて、凄く心地が良かった。
「えっ……もしかして、効いていないの?」
 リリィは澪がしっかりと立ち続けていることを悟り、慌てはじめる。
 澪は翼を羽ばたかせ、己の力を紡ぐ。あの楽しかった記憶をもっともっと重ねていきたい。出来ればもう一度、今度は恋人として思い出を作りたいから。
「頑張ってるとこ悪いけど、ここは通してもらうよ」
 そして、澪は無邪気な自分の分身達を呼び出した。リリィもとっさに針を解き放ったが、ミニ澪達がそれを受け止める。
 其処から破魔を宿した光の一閃を放てば、浄化の力が辺りに巡った。
「うう、やっぱり私じゃ駄目なのかな……」
「逃さないよ!」
 攻撃を受けたリリィは身を翻して逃げ去っていく。
 その背を追っていく澪は真剣な眼差しを敵に向け、最後まで戦うことを誓った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

薙沢・歌織
あの悪魔の少女が、今回の討伐対象?
悪魔の針を無数に飛ばすUCを持つようですが…とりあえずミラージュオーブの【オーラ防御】で防ぎ、減った魔力を【魔力溜め】で回復です。

楽しいことですか…自分のことなら、魔法の研究ですね。物心ついた頃から、魔法の神秘性や無限の可能性に惹かれていました。
最近ですと、精霊の杖を元素変換でエレメンタルオーブへと変化させるのに成功しまして…元素変換ってとっても奥が深いんですよ!
夢中になって打ち込めるものが、あなたにありますか?

では…打ち込んだ成果をあなたの身を以て味わっていただきます。
UC【裁きを下す天の光】を【属性攻撃・高速詠唱・全力魔法】でミラージュオーブから発動です。



●魔法の研究
 猟兵の攻撃から逃げて来ている悪魔が見えた。
 歌織はその様子を見つめ、暗い森の中で目を凝らしていく。歌織が見たのは他の猟兵へと小悪魔がきらりと光る細い何かを飛ばす場面だ。
「あの悪魔の少女が、今回の討伐対象?」
 どうやら相手は針を無数に飛ばす力を持つようだと察せられた。
 威力はなさそうだが、あれをすべて避けることは難しそうだ。弱い力ならば無視出来るが、今の小悪魔には魂喰らいの力が宿っているという。
「とりあえず……」
 身構えた歌織はミラージュオーブのオーラ防御を巡らせ、リリィ・デモンズを迎え撃った。歌織の存在に気が付いたリリィは身構え、敵意を見せる。
「また猟兵……! うう、ひとりくらい倒さなきゃだよね」
 掌を掲げたリリィは歌織に針を飛ばしてきた。
 歌織は防御の力でそれを受け止めて防いだが、容赦なしに魂啜りの力が巡っていく。魂とは即ち自分の身を巡る魔力でもある。受けた攻撃を魔力溜めで回復しようとした歌織だが、それだけでは足りないことも分かっている。
「楽しいことですか……」
 咄嗟にそのことを考えた歌織は思う。
 自分のことなら、それは魔法の研究だ。物心ついた頃から魔法の神秘性や無限の可能性に惹かれていたゆえに楽しいと感じている。
「誰も彼も対策してきてずるい!」
 リリィはその声を聞き、悔しそうに翼を羽撃かせた。
 対する歌織は双眸を細めながら自分の研究について語っていく。
「最近ですと、精霊の杖を元素変換でエレメンタルオーブへと変化させるのに成功しまして……元素変換ってとっても奥が深いんですよ!」
「そんなの興味ないわ! えいっ!」
 リリィは既に他の猟兵にやられていて傷を負っている。それでも何とか帝竜の力になろうと頑張りたいらしく、再び針の攻撃を放ってきた。
 歌織はもう一度、オーラ防御でそれらを受ける。魂を啜る力が広がっていくが歌織はもうそんなものなど気にも留めない。
「夢中になって打ち込めるものが、あなたにありますか?」
「う……ない、けど……」
「では打ち込んだ成果をあなたの身を以て味わっていただきます」
 攻撃が効いていないと察して肩を落としたリリィ。彼女に対して指先を向けた歌織は裁きを下す天の光を発動させていく。
 ミラージュオーブから巡った力は天空に魔法陣を描き、光線となって放たれた。
 きゃあ、という悲鳴があがったかと思うとリリィは光に貫かれる。しかし、力を振り絞った小悪魔は暗い森の奥に一目散に飛んでいってしまった。
「逃げられましたか……ですが、追うだけです」
 羽音を聞けば追うことも難しくないだろう。歌織は気を引き締め、更なる戦いが続くことを覚悟しながら駆け出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクス・カンタレッラ
楽しかった想い出、ねぇ
そりゃあ私向きだ
何と言っても私の坊ちゃんと出逢ってから、毎日が天国だからな!

坊ちゃんの剣となった数年前、あの小さな身体を抱き上げた日を忘れたことなんてない
人に隙を見せねぇように頑張ってるあの坊ちゃんがさ、寝る前の無防備な姿で私を部屋に呼んでくれるんだぜ
眠れないからって小さな手を私に差し出して、爪の手入れを頼んでにこにこ笑ってる
明日の朝はミルクティーが良い、なんて朝一番に私に逢うことを望んでくれる
これが護衛冥利以外の何だってんだ

坊ちゃんのことならまだまだ語れるぜ?
私の魂の一欠片まで全て売約済みだっつーの

ゼーヴィントを槍に、クヴェレの背に乗ってそら突っ込め!
蹂躙の時間だ!



●彼との記憶
 暗い闇に閉ざされた森の中、戦いは巡る。
 小悪魔が魂啜りの力を猟兵達に撒いて回っている気配を感じ取り、ルクスは静かに身構えた。あの力を受ければ魂が奪われてしまう。
 だが、ルクスをはじめとした猟兵達はしかと対策を持ってきている。
「楽しかった想い出、ねぇ」
 そりゃあ私向きだ、と呟いたルクスが思うのは自らが坊っちゃんと呼ぶ子のこと。
 クヴェレの背に乗ったルクスは小悪魔、リリィ・デモンズを追って魂喰らいの森の中を翔けてゆく。その際、既に彼女は楽しいことを思い浮かべていた。
「何と言っても私の坊ちゃんと出逢ってから、毎日が天国だからな!」
 彼女の声に気付いたリリィは振り返り、また猟兵だと忌々しげに呟く。そして、腕を掲げて契約書を放り投げた。
「天国か何か知らないけれど、地獄に誘ってあげる!」
 それは悪魔の契約だ。
 ひらりと舞った書はルクスとクヴェレにぺたりと当たる。
 其処から生まれた誘導魔力弾はのろのろと、それでも確実にルクスを狙って放たれていった。動きの遅い攻撃を見遣ったルクスはクヴェレに願ってそれを避ける。
 されど、紙が当たったことで魂啜りの力が巡る。対するルクスはすぐに自分にとっての楽しいことを再び思い浮かべた。
「悪いな、坊っちゃんが居る限りそんなことにはならないんだ」
 そう、あれは彼の剣となった数年前。
 あの小さな身体を抱き上げた日を忘れたことなんてなかった。人に隙を見せないように頑張っている彼。そんな子が寝る前の無防備な姿で自分を部屋に呼んでくれる。
 眠れないから、と小さな手を差し出してくれた。
 爪の手入れを頼んで、にこにこと笑っている。
 明日の朝はミルクティーが良い、なんて――朝一番に自分に逢うことを望んでくれる。
「この記憶が、思い出が、護衛冥利以外の何だってんだ!」
「わあっ、全然効いてないの!?」
 ルクスが威勢よく叫ぶ声に驚き、リリィはふるふると羽を震わせた。再び契約書を投げつけることも出来ないでいる敵は及び腰だ。
「坊ちゃんのことならまだまだ語れるぜ?」
「もう聞きたくなーいっ! どうせ私の攻撃が通じないんだもの!」
「私の魂の一欠片まで全て売約済みだっつーの」
 リリィは必死に首を振るが、ルクスは薄く笑ってみせた。そして、竜槍を握り締めたルクスは一気に突撃していく。
「行くぞゼーヴィント! クヴェレ! そら突っ込め!」
 ――蹂躙の時間だ!
 言葉と共に鋭い一閃が敵に向けて放たれ、森を突破する為の一手となって巡った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

樹神・桜雪
楽しい思い出…楽しい思い出…。
アリスラビリンスで妖精や愉快な仲間達と小さな国を作った時の事かな。
お菓子の家を食べた事もだけど、相棒そっくりなお菓子を貰ったのがすごく嬉しくて楽しい素敵な思い出。
妖精さんや愉快な仲間と楽しいお話もしたね。
皆がキラキラ聞いてくれたのが嬉しくて楽しかった。
いろいろ思い出すけど、一番は相棒とすごす何でもない日常なんだ。
ただ一緒にいて、話をして、一緒に寝る。
時には喧嘩もするけどすごく楽しいんだよ。
だって相棒と一緒なんだもん。

さて、ボクの魂が欲しいの?ごめんね。好きにはさせないよ。
思い出も魂も全部ボクの宝物だもん。
さ、相棒。一緒に頑張ろう?
一緒に戦えるの、すごく嬉しいんだ。



●信頼の眼差し
 深い闇が満ちる魂喰らいの森。
 其処に降り立った桜雪は今、リリィ・デモンズと対峙していた。リリィは既に何人もの猟兵を相手取っては逃げてきた状態らしく、複雑な思いを抱いているようだ。
「次々と現れて、猟兵っていうのは本当に厄介なものね!」
 これじゃ帝竜さまも警戒するはずだという旨を呟いた彼女は敵意を向ける。対する桜雪は当たり前だと言うように静かな視線を返した。
「ねえ、君はボクの魂が欲しいの?」
 交差する視線。
 相容れない相手だと互いに分かっているゆえに戦いは避けられない。桜雪の言葉を受けたリリィは片腕を掲げた。
「私だってやられてばかりじゃないもの。その魂を奪ってあげる!」
「ごめんね。好きにはさせないよ」
 放たれた魔針が桜雪に迫る。全てを避けることは難しいと察した彼は敢えて針を受けることを決め、確りと身構えた。
 ちくりとした感覚が身体に巡っていく。それと同時に魂が引き摺られていくような気がして、桜雪の心が揺らぎそうになった。
 だが、すぐに対抗策を思い返した桜雪は胸の裡に或る記憶を浮かべる。
(楽しい思い出……楽しい思い出……)
 そう考えて浮かんでいったのは、アリスラビリンスでの出来事。
 妖精や愉快な仲間達と小さな国を作ったときのことは今もよく覚えている。あの国に訪れた危機から住民を救えたこと。
 その過程でお菓子の家を食べたことは他では経験したことのないことであり、とても興味深くて楽しかった。
 そして、桜雪を気に入ってくれた妖精を思うと自然に気持ちが穏やかになる。
 シマエナガの相棒にそっくりなお菓子を貰ったことが嬉しくて、食べるのが勿体ないほどだった。その気持ちも含めて素敵で素晴らしい思い出だった。
(妖精さんや愉快な仲間と楽しいお話もして……皆がキラキラした顔で聞いてくれて……あれが平和っていうんだろうな)
 声には出さずに考えを巡らせた桜雪の双眸がそっと細められる。
 あんな不思議な出来事も良かった。けれども色々と思い出している間に、一番だと思えることが浮かんできた。
「そうだね、相棒とすごす何でもない日常が一番かな」
 ただ一緒にいて、話をして、一緒に寝る。
 君と過ごす日々が楽しいことのすべて。時には喧嘩をしてお互いが不機嫌な気持ちになることがあっても、それすらもすごく楽しい。
 だって――。
「どんなときでも一緒なんだもん。さ、相棒。一緒に頑張ろう?」
 桜雪が相棒に呼びかけると、其処にサメの着ぐるみが装着された。シマエナガの翼には鋭いカッターが現れている。しゃきんとした凛々しい表情を浮かべた相棒は小悪魔に向かって飛翔していく。
「お願い、相棒! 思い出も魂も全部ボクの宝物だもん。渡さないよ!」
 今この瞬間だって大切だ。
 一緒に過ごした日々。一緒に戦えること。それがすごく嬉しい。だから頑張れるのだと感じた桜雪は相棒を見つめ、リリィ・デモンズを追い詰めていった。
「ひゃっ、いやああー!!」
 不利を感じた小悪魔は悲鳴をあげながら羽撃き、森の奥に飛んでいく。
「逃しちゃいけないね。行こう、相棒」
 そして、桜雪は頼りになる相棒と共にその後を追っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

オブシダン・ソード
こんな所で止まってはいられないからね、覚悟してもらおう
相手の攻撃は剣で受け…えっ槍が
それ大丈夫かい君、痛っ

とはいえ魂を吸われる対策はしっかりと
楽しい思い出を胸に向き合うからね
最近初めて飲んだんだけど、タピオカミルクティーってのが美味しかったんだよ
まず名前がかわいいし食感も面白いよね
でっかいストローで吸うのが癖になりそうな感じで
テレビで映画見ながら飲んでたんだけど、こっちも頭使わなくても盛り上がれるやつで最高だったなぁ
これ終わったらまた買って帰ろう、ふふふ

上手く凌げたら反撃に移るよ
UCを発動、頼んだよ管狐、さっき投げつけられた槍の穂先を拾ってきて
後は細腕でちからいっぱい投げ返すね
てーいっ!



●剣と槍と管狐
 帝竜戦役の首魁、ヴァルギリオス。
 その喉元に迫る為の第一歩目がこの森だ。魂喰らいの力を宿す小悪魔の気配を探り、オブシダンは先に進む。
 どうやら敵は猟兵から逃げ回っているらしく、羽撃く翼の音と悲鳴が聞こえた。
 そして、オブシダンは声を頼りに森の奥に進む。
「ひゃ! また猟兵……っ!」
 その先で鉢合わせたリリィ・デモンズは驚きながら身構えた。オブシダンは手にしていた剣の切っ先を少女悪魔に差し向ける。
「こんな所で止まってはいられないからね、覚悟してもらおう」
「覚悟するのはそっち!」
 及び腰ではあったが、リリィは勇気を振り絞って槍を握り締めた。それと同時に一気に突撃してきた彼女はオブシダンに刃を振り下ろす。
「えーいっ! ……あっ」
「……えっ、槍が」
 だが、刺そうとして振るわれた槍が唐突に途中でボキッと折れた。瞼をぱちぱちと瞬いたリリィに対し、オブシダンも軽く驚いたように口をあけた。
「また折れちゃったわ! でもいいもの!」
「大丈夫かい、君……痛っ」
 涙目になったリリィはすぐに折れた槍の先端を拾ってオブシダンに投げつける。一応は心配していたオブシダンだが、咄嗟に投擲された槍を剣で受け止めた。
 痛みはそれほどでもないが敵の攻撃には魂を奪う力が宿っている。直撃した槍の痛み以上妙な感覚がオブシダンの中に巡っていった。
 魂が遠くに引き摺られていく。そう感じたオブシダンは胸に思いを抱く。
 それは何気ない日常の記憶。
 或る夜、毎週に決まって放送する映画の時間。借りた部屋に皆で集まって、或いはふたりで過ごす少し特別なひととき。
(そうそう、タピオカミルクティーってのが美味しかったんだよね)
 あれは名前がかわいくて食感も面白い。
 普通より大きなストローで吸うのが癖になりそうだと思えた。そうやって見た映画も難しいことは考えなくていい、盛り上がれる内容で最高だった。
 そんな普通の日々が楽しい。
 ひとりではない、誰かと――そして、想いを抱く相手と共に居られるあの時間はかけがえのないものだ。
「これ終わったらまた買って帰ろう、ふふふ」
 思わず独り言ちたオブシダンの口許は楽しげに緩められていた。魂啜りの力はそのときには効力を失っており、彼の身に巡っていた違和感も消えている。
 するとリリィが地団駄を踏んだ。
「うう、なんで誰もが皆そんなに心が強いの!? ずるいーっ!」
 頑張り屋な小悪魔もそろそろめげそうだ。可哀想に、と小さく口にしたオブシダンは其処から一気に反撃に入る。
 おいで、と呼べば周囲に管狐が現れた。軽く擦り寄うようにふわりと舞った管狐に向け、オブシダンは願う。
「あれを取ってきてくれるかい。頼んだよ」
 管狐はすぐに動き、投げつけられた槍の穂先を拾って渡してくれた。それを受け取ったオブシダンはリリィにしっかりと意識を向け、全力で腕を掲げる。
「ひっ……何するの? 何をするの?? もしかして私と同じこと?」
 槍を投げ返されるのだと気付いたリリィは背を向けて逃げ出そうとした。されどオブシダンはその背に狙いをつけ――細腕で力いっぱい投げつける。
「てーいっ!」
「いやあー!」
 魂喰らいの森に響く掛け声と悲鳴。痛みに耐えながら全力で羽撃くリリィ。
 もはや小悪魔は逃げ回ることしか出来ない。間もなく戦いの終わりも見えてくるはずだと察したオブシダンは駆け出していく。
 きっと此処に集った猟兵、皆の力で決着を付けることが出来る。そう信じて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
楽しい…たってよう、そねェな事急に思いつくかい?
ねえって訳じゃあねえんだ
寧ろ逆サ
日々面白可笑しく過ごしてら

先ず大体朝四ツに目が覚めるだろ
近所の婆が勝手に置いてった朝飯食って、身支度
そっから女衆の洗濯の合間に子供の相手
此れは案外嫌いじゃねえんだ
したが街出て、茶屋に行くか煙草屋覗くか、貸本屋の奥で若旦那に追ん出されるまで昼寝
何せ広い
マ、手伝いさせられることもあるがよ
で、暮れ六ツまでに長屋に帰ぇって、ちいと墨摺るか本読んで、眠くなったら猫と寝る

俺にだって特別な事くれえ多分あるが、今此処で思うにゃちと惜しい
そいつァ亦今度

あゝ、夫れと
こうして筆の一閃で大浪描いて派手にやんのも、楽しいもんだぜ



●日々是好日
 ざわめく樹々の音に入り混じって悲鳴が聞こえる。
 暗い森の最中、戦いは既に巡っていた。彌三八は耳を澄ませて音の方向を探り、敵が立てているであろう翼の羽撃きを捉える。
 其方に向けて駆け出せば、必死で逃げてくるリリィ・デモンズの姿があった。
「おっと、お前さんがこの森の番人か」
「そういうあなたも猟兵ね。逃げてる先にいるなんて……!」
 リリィと彌三八の視線が交錯する。双方は戦う意志を見せたが、リリィは既に幾つもの傷を負っているようだ。
 痛みを堪えながら翼を広げたリリィは先手を取る。弱った彼女は魔力を行使する余裕もないらしく、えいっと彌三八に蹴りを入れた。
 その衝撃自体は大したことはなく、痛みとすら呼べない程度のものだ。
 しかし、彌三八の魂に作用した力が巡る。これが魂喰らいの森が齎した効力なのだと気付いた彼は、胸の裡に妙な感覚が走っていることに気付いた。
 確かこの力に対抗するためには楽しい記憶を思い返せばいいのだったか。彌三八は心を蝕む感覚に耐えながら、胸中で独り言ちる。
(然しなァ、楽しい……たってよう、そねェな事急に思いつくかい?)
 そういった記憶がないわけではない。
 寧ろ逆であり、日々を面白可笑しく過ごしているがゆえにひとつを取り上げることができないという意味だ。
 彌三八はそんな日々を思い、薄く口許を緩めた。
 先ず、大体は朝四ツに目が覚める。
 そうして近所の婆が勝手に置いていった朝食を食べて、身支度をはじめていく。
(そっから女衆の洗濯の合間に子供の相手をして――)
 手が掛かったあの子供も近頃は落ち着いてきた。大人しかったあの赤子も少しずつ言葉を喋るようになってきた。そういったことを思い出せば、此れも案外と嫌いではないのだという思いが浮かんでくる。
 次は街に出て、茶屋に行くか煙草屋を覗くか。もしくは貸本屋の奥で若旦那に追い出されるまで昼寝をする。
 何せ町は広い。何処にでも行けるし、何処でだって楽しめる。
 暮れ六ツまでには長屋に帰り、墨を摺るか本読んで、それから眠くなったら猫と寝る。それが彌三八の日常だ。
 魂喰らいの力に対抗している彌三八に気付き、リリィは訝しげな表情を見せた。
「あれ? 全然効いてない……!」
「そりゃな。マ、色々と手伝いさせられることもあるがよ」
 過ごす日々は楽しいことばかりだ。
 大きな歓喜に満ちたものではないが、穏やかで賑わしい日常こそが面白い。彌三八にもそれ以外の特別なこともあるが、今此処で――長く続く戦の始まりでしかない場面に思うには惜しい記憶だ。
「そいつァ亦今度ってことで」
「私には今度なんてないのに……。ううん、それでも頑張るしかないわ!」
 彌三八に対して更なる敵意を向けたリリィは契約書と魔力弾を放ってきた。しかし、彌三八にはそんなものなど効かない。
 筆を構えた彼はふと顔を上げ、そうだ、と口にした。
「あゝ、夫れと」
「なに?」
 きょとんとしたリリィに対して彌三八は片目を瞑ってみせる。其処から描かれていくのは激しい大浪。波濤が敵に迫る中、彼は告げてゆく。
「こうして筆の一閃で大浪描いて派手にやんのも、楽しいもんだぜ」
 その言葉と同時に小悪魔は悲痛な悲鳴をあげながら波に流されていった。しかし、羽撃いた翼の音も聞こえてくる。
 彼女がこのまま姿を晦ませる心算だと察した彌三八は駆け出し、波と悪魔を追う。
 勝負が付くのも間もなくだと感じて、彼は筆を然と握り締めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
…何だ?この小悪魔

楽しい事…楽しい事、か
前は楽しいがよく分かんなかったけど
猟兵になって1年にもなんねぇ間に
…楽しいと思える事一杯あった
独りなのに
いいのかなって思える位

クリスマスはパーティー行った
美味いもん食って
シュークリームでタワー作った
めっちゃでけぇの作ろうってすげぇわくわくしたし
写真も撮った
年明けに雪合戦もしたな
わりとみんな初めてなのにはびっくりしたし
結構マジだったのは笑えた
この前は桜も見に行った
屋台美味かったし
桜も綺麗で
初めていいもんだなって思えた

…悪ぃ
その速さだと当たれねぇ
見切りしそのままダッシュで距離詰めグラップル
まだ楽しみな事沢山あるんだ
こんな所で負けらんねぇ
UC

先行かせて貰うぜ


ユヴェン・ポシェット
楽しい記憶か…

そういえば、今年の年明けに旅団の仲間と雪合戦をしたのは…あれは楽しかったな。最初は遠慮もあったが、雪だらけになり気がつけば夢中になっていた。最高だった。また皆と共に出かけたいものだ。
それから…冬の思い出も良いが、夏もタイヴァスとミヌレとアルダワ魔法学園の地下迷宮で肝試しに参加したのも楽しかった。あの時のタイヴァスの怖がりようといったら…本当、可愛いよな。
他にも沢山あるが、思い出すだけで気持ちが温かくなる気がする。

リリィ・デモンズといったか。
良い槍を持っているようだが、使い方がなってないぞ。ほら、ミヌレ見せてやろうぜ。ロワも。いくぞ。


泉宮・瑠碧
楽しい、記憶…
…ふと
銀鈴蘭の森の仔竜達は元気かな
雨の森も…

故郷の贔屓目を抜いても
森も、自然も、生き物も
美しい世界だと、思います

魂喰らいの森は、生者の無念が漂って、少し悲しい
共存出来る森になれたら良いと
他の森を重ねて

短剣『氷牙』を逆手に持ち風牙剣舞
投げられる槍の先端は斬り落として
風の精霊達…力を貸してね

様々なオブリビオンに出会いますが…
何方にも、嫌悪も憎しみも、ありません
次こそは幸せにと、願う方達ばかりです

此処に至る道行きは必死で
討つ事の辛さや悲しみも、多くて
…でも
広い世界、様々な彩は…楽しかったのです

リリィ、君も
己が弱いとしても頑張る所は、素敵で
…出来る務めは果たしたと、悔いなく逝けますように



●共に過ごした日々を
 暗闇が広がる魂喰らいの森の中。
 樹々が生い茂っている最中、理玖は少し開けた場所に転送されていた。
 周囲には誰かの気配が感じられる。一瞬はそれが敵である小悪魔のものだと思ったが、どうやら違うらしい。
 何故なら、気配は確かにふたつあるからだ。
「誰だ?」
 理玖が問いかけると、樹々の向こう側から二人分の影が現れた。
「陽向?」
「……君達か」
 男性と女性の声。それに聞き覚えがあると感じた刹那、影の正体が明らかになる。
「ユヴェン兄さん、瑠碧姉さんもか」
「どうやら近くに転送されたようだ。二人が一緒なら心強いな」
「良かった。暗くて少し迷ってしまいそうで……」
 理玖がほっとしたのと同じくして、ユヴェンと瑠碧も仲間同士で合流できたことに安堵の気持ちを抱いた。
 しかし、そのとき――。
「無理、無理だわ! 森の力があっても私は勝てな……わあっ、また猟兵!?」
 叫びながら飛んできた小悪魔が三人の元に出現する。
 慌てた様子のリリィ・デモンズだが、逃げられないと察して召喚した槍を構えた。
「何だ? この小悪魔」
 思わず理玖は首を傾げるが、相手が敵だということは明白だ。
 ユヴェンは傍に黄金の獅子ロワを呼ぶ。瑠碧もリリィを見つめることでどんな攻撃にも対抗できるよう身構えた。
「どこからでも来るといい」
「魂を奪われはしない。僕達にはその力がある」
 ユヴェンが迎え撃つ姿勢を取る中、瑠碧は凛と宣言する。対するリリィはぐっと掌を握り、手にした槍を振り回した。
 魔力で形作られた槍は構造が弱いのかだろうか。途中でボキッと折れてしまったが、リリィは我武者羅に武器を振るい続ける。
「あなた達みんな、森の魔力に包まれちゃえ!」
 その途端、広がった魔力が魂に作用していった。リリィの力に乗せられた森の効力は三人の魂を啜っていく。
 瑠碧と理玖は胸を押さえ、ユヴェンとロワは地を強く踏み締めた。
 胸の奥に巡る感覚が自分のものではなくなっていく。そんな不可思議な心地が与えられたが、彼らは対抗策を知っている。
 それは自分の記憶の中にある楽しい出来事を思い返すこと。
 瑠碧は目を閉じる。
 思い浮かんだのは銀月の花が咲く森のこと。あの日、共に遊んだ仔竜達は元気だろうか。雨已まぬ森で過ごした時間、うさぎに道を聞いたことも思い出深い。
 この世界は美しい。
 故郷の贔屓目を抜いても、森も自然も、生き物も素晴らしい。
 けれども、と顔を上げた瑠碧は周囲を見遣った。魂喰らいの森は生者の無念が漂って悲しい。共存が出来る森になれたら良いと思い、他の森の景色を重ねた瑠碧は魂喰らいに対抗していく。
 これまでに様々なオブリビオンに出会った。瑠碧にとって、どんな相手も嫌悪や憎しみの対象ではなかった。次こそは幸せにと願う者ばかりだった。
 此処に至る道行きは必死で、討つ事の辛さや悲しみも多かった。それでも――。
「広い世界、様々な彩は……楽しかったのです」
 瑠碧が思いを言葉にした刹那、彼女を包んでいた魂の呪縛が緩まっていく。
 同じように理玖も過去を思い浮かべていた。
 以前は楽しいという感覚がよく分からなかった。それは実験体にされて記憶が奪われ、負の感情以外も忘れ去っていたからだ。
(……けど、今は違う)
 師匠に救われた。様々なことを教えてもらった。そして、猟兵になって一年にも満たない間に楽しいと思える出来事がいっぱいあった。
 独りなのに。いいのかな、と思えるくらいに――。
 クリスマスはパーティーに行った。美味しいものを食べて、シュークリームでタワー作った。皆でとても大きいものを作ろうと決めたとき、作っていく過程でわくわくした気持ちは忘れていないし、一緒に写真も撮った。
 理玖の口許が自然に薄く緩む中、ユヴェンの裡にも楽しい記憶が巡っていく。
 今、此処に集まっている三人。
 それを切欠にして思い起こされるのは皆で過ごした共通の思い出だ。今年の年明け、仲間と雪合戦をしたこと。それは現在、理玖も瑠碧も思い出している記憶だ。
「あの雪合戦、あれは楽しかったな」
 ユヴェンはふと思いを零す。
 最初は遠慮もあったが、皆が雪だらけになり気がつけば夢中になっていた。最高だった、と思えるのは全力で遊んだからだろう。
 また皆と共に出かけたいと思えるのはあの時間が楽しかったからだ。
「懐かしいな。あれから季節も変わったけど、面白かったし笑えた」
「皆が真剣だったな。……ふふ」
 理玖はユヴェンが語ったことに頷き、瑠碧も静かに微笑んだ。共に過ごした時間は紛れもない楽しい記憶であり、忘れられない出来事だ。
 それに、とユヴェンは更に以前を思う。タイヴァスとミヌレとアルダワ魔法学園の地下迷宮で肝試しに参加したこと。あの時のタイヴァスの怖がりようは本当に可愛くて、今も時折思い出すほどだ。
 他にも沢山あるが、どの思い出も心に浮かべることで気持ちが温かくなる気がした。
 雪の記憶の後は春の桜の思い出がある。理玖は緩やかに息を吐き、初めてというものはとても良いものだと感じられた。
 そして、理玖は自分の心が穏やかに凪いでいることに気が付く。
「あれ……妙な感覚が消えてるな」
「ああ、森の呪いとやらに対抗できたようだ」
「それなら、ここからが反撃だ」
 理玖は勿論、ユヴェンと瑠碧の中からも魂を奪う効力は消滅していた。そうして三人は並び立ち、リリィを見据える。
「魂も奪えない、勝ち目もない……けど、頑張るわ!」
 リリィは涙目になりながらも責務を全うしようと決めているらしい。彼女の言葉通り、あちらの勝ち目は万にひとつもないだろう。それでもリリィはのろのろとした悪魔の契約書や、折れた槍の切っ先を投げつけてくる。
「……悪ぃ。その速さだと当たれねぇ」
 軌道を見切った理玖は契約書を避け、一気に敵との距離を詰めた。その間にも槍が迫ってきていたが、氷牙の短剣を振るった瑠碧がそれを阻止する。
「風の精霊達……力を貸してね」
 鋭く巡る風牙の剣舞が巡ると同時にユヴェンもロワに願って槍を躱し、理玖に続いて突撃していく。その眼差しは真っ直ぐにリリィに向けられていた。
「良い槍を持っているようだが、使い方がなってないぞ」
「ううっ……だって折れちゃうんだもの!」
 慄くリリィは身構えることしか出来ない。其処へ理玖が拳を向け、ユヴェンが竜槍を振るいあげた。
「まだ楽しみな事が沢山あるんだ。こんな所で負けらんねぇ!」
「ほら、ミヌレ見せてやろうぜ。ロワも――皆でいくぞ」
「この世界の未来は、この風で切り拓かせて貰おう」
 更に其処へ瑠碧と風の精霊の力が巡り、リリィ・デモンズを鋭く貫いていく。
 きゃあ、と悲鳴をあげた小悪魔の翼が飛べぬほどに傷つけられた。地に落ちたリリィは荒い呼吸を整えながら悔しそうに拳を握る。
「まだ、負けてない……私はまだ……!」
 悲痛な声が森に響いた。
 その言葉を聞いたユヴェンは緩く首を振り、理玖も次の一撃を見舞うために構える。瑠碧は悲しげな瞳を向け、そっと語りかけた。
「リリィ、君も己が弱いとしても頑張る所は、素敵だ。だから――」
 出来る務めは果たしたと、悔いなく逝けますように。
 思いはきっと完全には届かないだろう。けれど彼女の在り方は尊重したい。瑠碧のやさしい願いが言葉にされる中、戦いの終わりが近付いてきていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
楽しかった事。
きっと楽しかった事も山のようにあったのだろう。
あまり思い出したくない物ばかりだが
嗚呼。いや、あるではないか。

今思い出せば頬が痛むのだが
そう、悪戯なあの子が私の頬を引く事を覚えてしまってね
嗚呼。私のせいでもあるのだが……。
元は祖父が始めた事なのだよ。

可愛げのない私の頬を引き
気を引き、そしてにらめっこだとおかしな顔をする
にらめっこは笑うと負けなのだがね
そうされると私はいつも笑ってしまって
その後の優しい祖父の顔を見るのも好きだった

生憎、祖父のように変な顔は出来ないが……。
あの表情は真似できないと思うのだよ
試しにやってみたが、やはりできない
いや、あの顔は彼の特権かもしれないね。



●頬に触れる指先
 深い闇の帳が落ち続けている昏い森。
 此処に満ちているのは陰気で不穏な悪しき力だ。はっきりとはしていないが確かに感じられる悪い空気を肌で感じ取り、英は進んでいく。
 どうやら敵は森の中を移動しているらしいが、少し離れた所から戦闘音が聞こえる。其処に自らも馳せ参じるべきだと感じた英は、森の中のひらけた空間に辿り着いた。
 その場所ではリリィ・デモンズが猟兵達と戦っている。
「君が悪魔なのだね」
「ええい、次から次へと! あなたも魂を啜られちゃえ!」
 はっとした小悪魔は英にも、えいっと槍を投げ放った。槍としての使い方が成されていない攻撃は痛くも痒くもなかったが、その代わりに魂喰らいの力が巡る。
 胸の奥が貫かれるような感覚が走った。
 英は魂が違う場所に引き摺られていくようだと感じながら、脳裏に記憶を思い浮かべようと試みる。
 ――楽しかったこと。
 それはきっとたくさん、山のようにあったのだろう。あまり思い出したくないものばかりであり、魂が更に啜られていく感覚が止まらなかった。
 しかし不意に英の中に或ることが過ぎる。
 いや、あるではないか。それは今も思い出しては頬が緩む、もとい痛むこと。
 そう、悪戯なあの子。
 彼女が英の頬を引くことを覚えてしまって、随分と困ったのだ。
(嗚呼。私のせいでもあるのだが……)
 頬を引くのは元はと言えば、祖父が始めたことだった。可愛げのなかった英の頬を引き、一緒に気を引いて、そしてにらめっこだと言っておかしな顔をする。
 にらめっこは笑うと負け。
 けれども毎回、そうされると英はいつも笑ってしまった。少し悪戯っぽく、その後の優しく目を細めた祖父の顔を見るのも好きだった。
 そんな話をしたものだから、彼女もそれを真似るようになってしまった。
 自分もあの子の頬をつつくこともあるのでお相子かもしれない。生憎、祖父のように変な顔をするのは難しい。あの表情を真似することはできないと思う。
 彼女を笑わせて、自分も笑うことができるだろうか。考えても答えは出ず、試しにやってみたが、やはりできなかった。
「……いや、あの顔は彼の特権かもしれないね」
 思わず口に出た言葉には楽しげな雰囲気が宿っていた。そして、英はいつの間にか自分を蝕む魂喰らいの力がなくなっていることに気が付く。
 あの記憶も、今の気持ちも、悪しき力に対抗できるものだったのだろう。
「では、お返しといこうか」
 英は自身の著作から情念の獣を召喚し、リリィ・デモンズに向けて解き放った。どうして魂啜りの力が効かないのかと困惑する小悪魔は既にかなり消耗している。
 獣が敵に向かっていく様を見つめる英は森のざわめきを聞いた。きっと、間もなくこの戦いにも終幕が訪れる。
 そんな気がして、英は眼鏡の奥の双眸を細めた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

華折・黒羽
思い出した記憶に笑みが零れる

以前依頼で学らん、というものを着て
学園に潜入した事があるんです
寺子屋とは違った所が沢山あって
すごく楽しかったのを覚えています

図書館で友達と鉢合わせて
一緒に学校内を探検した
向日葵みたいに優しく笑う人なんですよ
帰り道ではもう一人とも合流して…
え、どんな人か…ですか?

……いつも揶揄ってくるふざけた人です
…でも、なんだかんだ気に掛けて甘やかしてくれる兄の様な…

…はっ!い、いいんですよそんな事どうでも!
とにかく帰りは3人で中華まんを食べて帰ったのが楽しかったんです!

こんなに楽しい思い出が増えるとは思わなかった
絶対にあげません
大切なものだから

氷花は盾にも錠にもなる
逃がしませんよ



●記憶のぬくもり
 闇は深く、暗い世界が何処までも広がっている。
 そのように感じた黒羽は森の奥から聞こえる戦いの音に耳を澄ませた。リリィ・デモンズは森の中を忙しなく飛び回っていたらしいが、ある地点から悲鳴と叫びが聞こえた。それが示すのは戦いの終わりが近いということ。
 急ぎ参じなければならぬと察した黒羽は仲間達が集っている場所に向かう。
 樹々が生い茂る中にある少しひらけた空間。リリィは其処に追い詰められており、飛ぶための翼も傷つけられていた。
「あれが……悪魔?」
 敵とて懸命に頑張っていることが分かり、黒羽は双眸を鋭く細める。しかしはっとしたリリィは掌を此方に差し向け、悪魔の魔針を解き放ってきた。
「あなたの魂も喰らってあげる!」
 自棄にも聞こえる声で叫んだリリィから飛んできた針はものすごい数だ。避けられないと察した黒羽は腕で己を防御して針を受け止める。
 ちくりとした痛みは大したことはない。だが、森がリリィに与えた魂を啜る力が黒羽をじわじわと蝕んでいった。
 魂が自分のものではなくなっていくような感覚は苦しい。
 しかし、黒羽は慌てることなく自分の記憶を思い返していった。そうして、不意に笑みが零れ落ちる。
 あれは、そう――以前に学ランというものを着て学園に潜入したこと。
 自分が知っている寺子屋とは違った場所だった。教室で普通の生徒と共に授業を受けたこと、昼休みに学食という場所で過ごしたこと。どれもが初めて新鮮で、世界の違いと平和のかたちを知った。
(そうだ、すごく……楽しくて……)
 今もよく覚えている。
 図書館で友達と鉢合わせて、一緒に学校内を探検したことも思い出深い。
 向日葵のように優しく笑う彼を思い出した黒羽の笑みが更に深まる。帰り道ではもう一人とも合流したのだったか。いつも揶揄ってくるふざけた人だけれど、なんだかんだと気に掛けて甘やかしてくれる兄のような相手だ。
「……はっ! い、いいんですよそんな事どうでも!」
 其処まで考えた黒羽は首を振る。
 とにかく、楽しかったのだ。帰りは三人で中華まんを食べて帰った思い出が蘇り、黒羽を蝕んでいた魂啜りの力が弱まっていく。
 こんなに楽しい思い出が増えるとは自分でも思っていなかった。それゆえに――。
「絶対にあげません。大切なものだから」
 完全に魂喰らいの力を振り払った彼は、縹の符で氷属性を纏わせた屠を構えた。
 氷花は盾にも錠にもなる。そのため、もう小悪魔からの攻撃を受けることなどない。リリィはこれまで逃げ回っていたようだが、咲く氷の花群が退路を塞ぐ。
「逃がしませんよ」
 黒羽が強く告げた刹那、戦いの終焉が導かれた。
 そして――森の番人たる小悪魔に最期が与えられていく。

●暗澹に沈む
 昏い森の中で、ひとつの命の灯火が消えようとしていた。
 リリィ・デモンズは必死に足掻いたが、誰の魂を喰らうことも出来ないでいる。それは猟兵達が皆、それぞれの楽しい思い出で以て魂啜りの力に対抗したからだ。
「どうして……この森の力が通じないの……?」
「それはね、僕達が全力で生きてるからだよ」
 追いついたよ、と言葉にした澪はリリィが零した疑問に答える。その後ろには莉亜も参じており、やっと吸血の続きが出来ると頷く。
「さぁ、楽しい時間を過ごそうよ」
 莉亜は弱ったリリィに近付き、全力で吸血を狙っていった。其処に歌織も加わり、裁きを下す天の光で敵を貫く。
「もう悪さはさせません。ここで終わりにしましょう!」
 目映い光がリリィを穿っていく中、クヴェレに乗ったルクスも戦場に辿り着いた。逃げ回っていたリリィを見据えたルクスはゼーヴィントの槍を差し向ける。
「蹂躙される気持ち、もっと味わわせてやるよ!」
 ルクスの一閃がリリィを深く抉った。
 そして、其処へ敵を追ってきた他の仲間も到着する。
 桜雪は少女悪魔から苦しげな声があがる様を見つめ、もう終わりだね、とちいさく呟いた。その隣には頼りになりすぎる相棒が意気込んでいる。
「やろうか、相棒」
 シマエナガに攻撃を願った桜雪は小悪魔の最期を見届けようと決めた。鋭い刃が敵を斬り裂いていき、更なる痛みを与える。
 澪が追撃を加え、彌三八も筆を宙に疾走らせていった。
「さァて、また今度がねェならもう一閃、と」
 描いた波がリリィの身体を押し流す。流れていた涙すら波に飛ばされた小悪魔はかなり疲弊してしまっているようだ。
 少し可哀相だと思う気持ちは変わらず、オブシダンは軽く肩を竦める。
「ごめんね。君が帝竜についている以上、僕達は敵同士なんだ」
 けれどもその頑張りだけは認めたい。そんな風に語ったオブシダンは一気にリリィとの距離を詰めて一閃を見舞った。
 剣の軌跡は真っ直ぐにリリィを切り裂き、更に力を削いでゆく。
「森の力よ……私を助けて……あの人達の、魂を――」
「あげないって言っただろ」
 リリィが魔針を放ったが、ふわりと泳いできたリルはそれを避けた。魂を渡さぬと決めた以上、容赦はしない。
 花唇をひらいたリルが望春の歌を紡ぎあげていく最中、英と黒羽が頷きを交わす。
「彼の歌声は葬送歌のようだね」
「ええ。あの歌と、俺達の手で終わらせましょう」
 英の言葉に黒羽が同意を示し、屠を構え直した。英が情念の獣を放てば黒羽が其処に続き、鋭く重い一撃を敵に叩き込む。
 大きく揺らいだリリィはもう痛みに耐えるだけで精一杯だ。
「ごめんなさい、帝竜さま……」
「大丈夫ですよ。このハレルヤがあなたのことを覚えておいてあげますから」
 遥か遠くに存在する主に謝罪の言葉を向けたリリィ。その声を聞いた晴夜は、頑張ったことをその帝竜とやらに伝えても良いと話した。
 それはつまり、竜の喉元まで自分達が辿り着いてみせるという意味だ。
 悪食の刃がリリィを切り刻み、更に痛みを与えた。其処にロワに乗ったユヴェンが駆け、ミヌレの槍で小悪魔の羽を貫く。
「陽向、泉宮、今だ!」
 それによって一気に攻め入る好機を生み出したユヴェン。その声に応じた理玖と瑠碧がリリィに左右から迫る。
「もう頑張らなくていい。ここで散ってくれ」
「リリィ……。これまでよく頑張ったね」
 理玖が打ち込む灰燼の打撃が小悪魔を貫き、瑠碧の振るう風の刃がその身を穿った。倒れ込んだリリィは虚空に瞳を向け、掠れた声で呟く。
「本当に? 私……頑張れたのかな。そうだったら……嬉しい、な……」
 完全に地に伏したリリィ・デモンズは最期にほんの少しだけ微笑み、消滅していった。
 こうして戦いは終わり、魂喰らいの森の番人は倒された。
 
 森を抜ければ、次は荒野を越える為に進んでいくことになる。
 先に何が待っているのかは未知であり謎だ。それでも此処で胸に抱き、思い返した記憶があればこの先も戦っていける気がした。
 どんな窮地に陥ろうとも、魂に宿るこの感情が消えることはないのだから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月04日


挿絵イラスト