群竜大陸に足を踏み入れた不届き者。それに洗礼を浴びせかけるのは――やはり、竜に他ならない。
黄金のように輝く、骨格か、あるいは大樹を思わせるその体は、禍々しくも、どこか神々しい。
第一陣の門番からこの強大さ。それこそが、群竜大陸の恐ろしさに他ならない。
●
「さて、いよいよ彼の世界で帝竜たちに本格的な戦争を挑む時がやって参りました」
グリモアベースに集った猟兵たちに栄養価の高いチョコレートドリンクを振る舞いながら、アルレクリア・ジャストロウは作戦を告げる。
「皆様にこの度挑んでいただくのは、群竜大陸の入り口に位置する“魂喰らいの森”の突破となります」
群竜大陸の攻略のためには、その森から先へ侵攻するための橋頭堡を築く必要がある。そのために、森の番人となっているオブリビオンを撃退しなければならないのだ。
「今回皆様に対峙していただくのは、“崩竜”ヴァッフェントレーガー。この世界の例に漏れず、強力な力を持った竜のひとりです」
強靭な肉体を使った白兵戦、恐るべき肺活量から繰り出される回避困難なブレス、豊富な魔力によって生み出される火球、攻撃手段そのものは多くの竜種に通じるオーソドックスな物だが、彼の脅威はそこではない。
「その二つ名の示す通り、ヴァッフェントレーガーによって傷つけられたものは、その姿を崩壊させてゆきます」
生物非生物を問わず、果ては大気や大地といった自然に至るまで、全てが崩れ、形を失い、最後には世界から消えてしまう。
「くれぐれも敵の攻撃に気をつけて戦ってくださいね……と、言いたいところなのですが。今回は、“魂喰らいの森”の番人として召喚されたことにより、更なる力を身につけて蘇ったようです」
というのも、この森の番人となったオブリビオンは、敵対した存在の魂を啜る力を身につけるのだ。
「彼の竜の場合は、元々所持していた“崩壊”の能力と融合した結果、攻撃の余波を受けた相手の記憶を崩壊させ、粉々になった魂を悠々と食らう……そういった形で魂を啜るようですね」
これは、精神に働きかける攻撃のため、心を強く持つことで抵抗が可能である。特に、『楽しい思い出を強く心に念じる』ことが有効だと考えられているらしい。
「恐るべき能力ではありますが、しっかりと対処法をもって挑めば、十分戦闘を優位に運ぶことができるはずです」
「敵は強大ですが、群竜大陸の先には更なる脅威が数知れず存在します。しかし、皆様ならば、きっと乗り越えることができると信じております。――それでは、ご武運を」
月光盗夜
いよいよ戦争ですよ、戦争!
折角のA&Wの戦争ですので、まずお送りする敵は、やっぱりドラゴンです!
以下、依頼内容やプレイング送信時の注意点を簡単に記載させていただきます。
●“魂すすり”能力について
ヴァッフェントレーガーからの攻撃を媒介として、その攻撃が命中したり、余波による被害を受けたりした者の記憶を崩壊させます。まともに食らってしまった場合、戦闘に著しい支障をきたすでしょう。
これに対して特に有効な対策とされているのは、『楽しい思い出を強く心に念じる』ことです。プレイング中にその旨が記載されていた場合、強いプレイングボーナスを付与します。
勿論、猟兵さんごとに、独自の方法で対処を試みてもよいでしょう。
また、崩壊させられそうになる記憶への思い入れなどを宣言していただいた場合も、ある程度のプレイングボーナスをかけるつもりです。
●プレイングについて
◇募集期間
募集期間に区切りはございません。オープニング公開から🔵達成まで、いつでもプレイングをお送りいただいて大丈夫です。
◇略式記号
アドリブ、連携描写などを多用する傾向にあります。
アドリブは大丈夫だけど知らない人との連携描写は苦手だよ、という場合は「▲」を、アドリブも連携描写もなるべく少なめで、という場合は「×」を、【プレイング冒頭に】お書き添えください。
なお、アドリブ連携大歓迎、という場合は「◎」を書いて頂いても構いませんが、そもそも記載のない場合は原則アドリブや連携多めになりますので、記載しなくても問題ありません。
◇合わせプレイングについて
お二人での合わせプレイングをお送りいただく場合は、プレイング冒頭にお相手様の呼び方とIDを記載頂くようお願いいたします。(例:「太郎くん(fxxxxx)と同行します」)
また、グループでお越しになる際は、プレイング冒頭にグループ名を【】で囲っての記述をお願いいたします。
なお、どちらの場合もなるべくタイミングを揃えて送信いただけると、迷子の危険性が減るかと思います。
長々と失礼いたしました。それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『崩竜・ヴァッフェントレーガー』
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POW : ネーベルヴェルファー
【自身の周囲に生じた魔法陣】から【何もかもを“崩壊させる”火球】を放ち、【超遠距離からの面制圧爆撃】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : ヴィルベルヴィント
【顎】を向けた対象に、【消失や崩壊を与える速射のブレス】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : ホルニッセ
【自身の“崩壊”すらも省みない状態】に変形し、自身の【射程距離】を代償に、自身の【巨体による攻撃力や機動力】を強化する。
👑8
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フォルティナ・シエロ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
群竜大陸を訪れた猟兵たちが、不気味な森の中を歩んでいく。小鳥や虫の囀りといった爽やかな音がする気配はなく、枝葉が揺れる音ばかりが不気味に響く。
用がなければ一刻も早く抜け出したいような場所ではあるが、この森の中には、大粒のものであれば金貨数百枚は下らない最高の美食食材とも呼ばれる“魂喰らいの森の核”が眠っているのだという。
だが――今は財宝に目を奪われているわけにもいくまい。猟兵たちのたどり着いた、森の中の開けた空間で待ち受ける存在――そう、記憶を崩壊せしめる竜を撃破しなければならないのだから。
『不届き者どもよ――己の魂が崩壊していく様に、震え、咽び泣き――跡形もなく、消え去るがよい』
さあ、武器を取れ猟兵たちよ。竜退治こそ、冒険者の華なのだから!
雨宮・いつき
クリスマスに正月、バレンタインに花見
里を出て色んな世界を巡って、色々な人々や出来事に出会って
楽しく素敵な思い出も、守りたい人々も沢山増えました
それをいとも容易く奪おうなどと…不届き者は其方であると知りなさい
呼び出した白虎の背に乗り、
機動力と冷撃符で生んだ氷の壁を利用して攻撃の回避を行いながら
敵へ向けて魂縛符を投げつけます
その場に縛り付けた敵に雷で牽制を行い【時間稼ぎ】しつつ、
高速で背後に回り込みましょう
息吹で物体を崩壊させるなら、崩壊しきる前に届く速度と量をぶつけるまで
【高速詠唱】で流体金属を幾層にも重ねた長大な槍を生み出し、
符の効果が切れてこちらを向いた敵の大口目掛けて磁力で高速射出します!
天壌・つばさ
うわっ、見るからに俺の出番じゃないって感じだけど
勇者っぽいやつとかいないの?そう……
とにかく近付いて、相手の周囲を回るんだ
俺自身も回って加速加速!
動き回って顎の先から逃げ続けろ!
直撃しなくてもやばいやばい!
かわいい女の子とスケート、花見、それからキャンプ!
俺の青春まだまだ始まったばかりなんだ!
この程度で、忘れてたまるかよ!
痛みで忘れんのも、辛いことだけで十分だ!
……へへっ、もう一回、いや何度だって、手料理食べねえとなぁ!
ついて来れるかクソ竜! 蹴っ飛ばされて泣くんじゃねえぞ!
「うわっ、見るからに俺の出番じゃないって感じだけど……」
その姿についてはブリーフィング時に説明されていたものの、こうして対峙して初めて伝わってくる威容に、天壌・つばさ(クレバスを満たして・f17165)は気圧されたように一歩後退りする。
「勇者っぽいやつとか……いないよなぁ」
ともに戦場に立つのは、大なり小なり自分より戦場に立った経験の多い猛者ばかり。けれど、そんな彼らと云えど、全てを解決してくれる万能の勇者ではない。己も戦わなければならないのだ。
「……よし、やってやる!」
自分に気合を入れるように眼前の巨躯を見据えると、つばさは勢いよく駆け出した。
「おわっ、ヤバ……! 小回り効くなあ、もう!」
気合を入れたはいいものの、易々と攻撃を決めるとはいかず、巨躯ながら機敏に繰り出される攻撃を必死の表情で回避していくつばさ。普段ならば芸術活動に活かされる、その華奢な両脚によって刻まれるステップを、今は歯を食いしばって戦いのために重ねていく。
「どっかでチャンスが……うわっ!」
『鬱陶しい小蝿よ、散れ!』
薙ぎ払うように振るわれた前肢をバックステップで回避したその隙に、間髪入れずに放たれた滅びの吐息が放たれる。
「おいおい、こんな所で――」
その気になれば、空中でもステップを刻めるつばさではあるが、回避をするには遅すぎた。このまま消失が訪れるのか、そう思われた瞬間。何者によるものか、つばさの眼前に突如分厚い氷の壁が生み出される。
「こちらへ!」
氷の壁によってブレスが遮られた隙に、つばさの身体が引かれ、何者かの上に乗せられる。
「サンキュ、助かった!」
「ご無事で何よりです。……狙いは同じみたいですし、二人で撹乱といきませんか? きっと、的が増えた方が、奴の狙いも逸れやすくなるかと」
つばさを乗せて崩竜から距離を取るその存在は、純白の毛並みをした体長3mに及ぼうかという巨大な虎であった。雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)が冷気を込めた護符によって氷の壁を生み出し、己の使役する白虎の上につばさを匿ったのだ。
「オッケー、それでいくか! ……気を付けろよ!」
「ええ、お互いに」
頷き合うと、白虎の上から跳び降りたつばさと、白虎を使役するいつきは、別の方角に駆け出していく。
「危ねぇ……けどっ、さっきに比べたら余裕はある!」
『ええい、猪口才な……!』
再びヴァッフェントレーガーの先を跳び回るつばさであるが、そのステップには幾分余裕がある。いつきの言の通り、周囲をちらつく影が増えたことで、敵の気が散っているのであろう。
「その動き、封じさせてもらいます!」
そして、つばさに向かって大振りな攻撃が行われた隙を突いて、いつきの投擲した護符が崩竜に命中する。その符に込められたのは、魂ごと肉体を縛り付ける緊縛の力。
『ぐっ――身体が重い!』
「魂縛符はこうかがあるようですね。そう長くは持たないでしょうが……」
「今がチャンス、ってわけだ!」
回避のみに踏んでいたステップを前のめりに刻むつばさと、白虎の力によって流体金属を練り上げるいつき。大技を叩きこもうとした二人の判断は間違っていなかっただろう。だが――。
『舐めるなよ、人間ども!』
「強引に攻撃を放つとは……!」
「やぶれかぶれか!?」
だが、計算外だったのは、群竜大陸に住まう竜の暴威。動かぬ体はそのままに、強引に首だけを地面に向けて、一際大きなブレスを地面に射出する。無論、そのようなブレスが直撃するはずはない。しかし、ブレスによって砕けた地面の飛礫、地面に反射することで拡散したブレスといった余波は周囲に飛び散る。
そして恐るべきは、ヴァッフェントレーガーの攻撃は、その余波にすら魂魄崩壊の力が込められていることだ。必死に回避をする二人だが、飛礫の全てを避けきるというわけにはいかず、遂にはその身を掠めてしまう。
「……ォエッ」
「気を……強く……!」
僅かに身を掠めただけで、崩竜の魔力は心を揺るがし、嘔吐感にもよく似た気分の悪さが体と心を苛む。あるいは、このままであれば心根より崩壊せしめられることを確信させられるような肌寒さ。だが、対策はわかっている。
「里を出て色んな世界を巡って、色々な人々や出来事に出会って。楽しく素敵な思い出も、守りたい人々も沢山増えました」
己の故郷には存在しなかった催事に目を丸くした想い出や、お返しにとお菓子作りを練習した日々。守りたい人の顔を思い浮かべれば、心が静かに透き通っていく。
「それをいとも容易く奪おうなどと……不届き者は其方であると知りなさい!」
『なっ……我が崩壊の力より抜け出すとは! ……だが、もう一度吹き飛ばしてくれよう!』
一瞬驚いたような声を上げるも、ブレスの速射で応じるヴァッフェントレーガー。彼の竜が持つ恐るべき力をもってすれば、それは正着手といえよう。だが、いつきとて、対策を講じていなかったわけではない。
「物体を崩壊させるというのなら――崩壊しきる前に届く速度と量をぶつけるまでです!」
先程記憶が揺らがされる直前に練り始めていた、流体金属の槍はここに完成した。ブレスを真向から貫くように放たれた槍は徐々に崩壊しながらも、鋭い高度と速さによって、形を失うよりも先に崩竜の顎に直撃した。
「――今です!」
アッパーの要領で流体金属による衝撃を顎に打ち付けられた崩竜の頭は大きく揺れ、そこに飛び込んでくる小柄な影。
「俺の青春、まだまだ始まったばかりなんだよ……!」
唇を噛みしめながら想起するのは、友人と出かけた思い出の数々。スケートでかき抱いた体の柔らかさに、星空を見上げながら交わした言葉の数々――。天真爛漫な笑顔とともに思い出される記憶に、気付けばいつの間にか、食いしばっていた口元に、穏やかな微笑みが浮かぶ。
「この程度で、忘れてたまるかよ! 痛みで忘れんのも、辛いことだけで十分だ!」
手作りのタルトを思い浮かべながら、大きく、大胆に、崩竜の頭上に跳びあがって。
「蹴っ飛ばされて泣くんじゃねえぞ!」
あるいはそれは、空中舞踏を得意とする彼女を思い浮かべながら。振り落とされる蹴撃が、竜の脳天に直撃した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御狐・稲見之守
楽しい思い出、か。そうさなァ、小学5年生の時に隣のクラスのケンジ君と夏祭りに遊びに行って、奴さん顔を紅くしながらワシの手を引いて楽しそうにしてナ。思えば初めてのデートじゃったなァ。
…という、大嘘の記憶を強く念じておこう。崩壊しても困らんし。[催眠術][呪詛]化かすが生業の妖狐なれば、己の記憶すら化かしてみせよう。
さて『魂啜り』の『崩れ者』同士、仲良くやろうじゃァないか。
[UC化生顕現][生命力吸収]――不定の獣姿にてお相手しよう。喰らう頭が一つかと思えば二つとなり、いや三つか四つかわからない。切り裂く腕爪も二つかと思えば三つ、四つ、五つ…いったい幾つやら。ふふっその精気、その魂、いただこうか。
須藤・莉亜
「竜の血って美味しんだよねぇ。是非とも吸いたいし、余ったら持って帰りたいところ。」
敵さんの血を吸う楽しい記憶を思いつつ、新しい楽しい思い出を作りにいこうか。
不死者の血統のUCを発動し、吸血鬼化して戦う。
敵さんの動きを【見切り】攻撃を躱しつつ、生命力を奪うオーラを纏わせた血飲み子と黒啜で攻撃して行く。攻撃が当たって崩壊しそうになったら、その部位を斬り落とし、敵さんの生命力を奪って再生させる事にしようか。
もちろん、【吸血】も忘れずに狙って行くよ。
荒谷・つかさ
◎
出たわね竜肉……!
森の核もとっても美味しいから、最高に期待していたんだけれど……
お前の肉はどんな味がするのか、今からとても楽しみだわ!
・楽しい思い出
以前喰った森の核の味の記憶と、これまでに狩って喰ってきた様々な竜焼肉の思い出
これらが合わさって目の前の竜がネギ背負ってやってきたカモに見えている(酷)
目の前の竜が消えない限り、食欲から連想してどんどん記憶が蘇っていく
火球は速度に緩急をつけたり急なステップ等で可能な限り躱し、問答無用で間合いを詰めつつ【焼肉担当の本気】発動
まず狙うは尻尾、或いは翼の端等斬りやすい所から
斬った端から「烈火包丁」で焼き、喰って、また斬ってを繰り返し
骨まで残さず頂きます。
ベリル・モルガナイト
◎
遂に。この時が。来たの。ですね
どの。世界でも。守り抜く。ことに。変わりは。なく
ですが。己の。故郷。というのなら。より。力も。込められる。もの
私は。盾
竜を。前に。しようと。砕けは。しません
思い出す。のは。あの方との。思い出
共に。語り。共に。戦い。共に。過ごした。日々
この。記憶も。記憶に。残した。大地も。私が。守り抜く
顎の。動きを。観察
開かれる。動きと。同時に。飛び出し。傍の。方を。【盾受け】で。【かばう】
貴方には。守るべき。思い出は。ございますか?
ブレスを。受け止めると。同時に。崩壊と。消失を。反射
さぁ。どちらが。先に砕けるか。付き合って。頂けますか?
『不覚を取ったか……。だが、ならばそもそも近寄らせぬようにすればいいだけの話よ……!』
脳天に喰らった一撃から立ち直ると、先程の二の舞は御免というように、ヴァッフェントレーガーは周囲に数多の魔法陣を展開する。ひとつひとつが熟練の魔導士の大魔法にも匹敵するであろう大仰な魔法陣は、当然ハリボテではない。
『肉と魂のすべてを焼き尽くされ、無に帰すがよい!』
全ての魔法陣から同時に、太陽かと見紛う巨大な火球が放たれる。遠距離から幾重にも折り重なるように放たれた火球によって、近づくことすら許さない超高密度の面制圧爆撃。竜種の膨大な魔力に物を言わせた乱暴な戦法であるが、それ故に対抗する手段は多くはない。
強引に突破しようとすればその身と心を業火に晒さざるを得ず、かといって守勢に回ってもじりじりとゆっくり焦がされていくだけ、そのはずであった。
『これ……は!』
崩竜が戸惑ったような声を上げるのも無理はない。次々に放たれ、森ごと邪魔な猟兵どもを焼き尽くすはずの火球が、何かによって受け止められ、その魔力を発散させられていくではないか。
「確かに。随分と。強烈な。熱量。ですが。受け止められない。ものでは。ありません」
爆炎が微かに薄れれば、その中心で毅然とした立ち姿で輝石の盾を構える騎士の姿がある。ベリル・モルガナイト(宝石の守護騎士・f09325)である。
『貴様……! 我が爆炎を一身に受け止め、砕けぬはずがない!』
「いいえ。私は。盾。竜を。前に。しようと。砕けは。しません」
爆炎により鉱石の身体を赫々と照らされながら、緑柱石の騎士は静かに決意を告げる。竜の脅威にさらされるこの世界こそは、彼女の故郷。最愛の人とともに語らい、ともに過ごし、ともに戦ってきた世界。もう二度と言葉を交わすことはなく、ともに過ごす時はなく、戦場に立つのは己一人。それでも。
「この。記憶も。記憶に。残した。大地も。私が。守り抜く――」
この盾を持つのは一人であれど、不壊の記憶が彼女に力を与える。仮面に覆われた右目から一滴の涙がこぼれ、モルガナイトの盾に落ちたかと思うと、盾が優しくも眩い赤紫の輝きを放ち始めた。
「さぁ。どちらが。先に砕けるか。付き合って。頂けますか?」
決意を示す一言ともに、それまで威力を減衰して受け止める一方だった輝石の盾が、火球を反射し始める。
『我が力を利用するとは――不届き者め!』
業火の交差する戦場で、苛立たし気に崩竜が咆哮を上げる。
『だがしかし戦況は変わらぬ……!受け止め反射したと言えど、こうして業火の広がる戦場では、突破するだけでも魂を焼かれるほかあるまい……!』
であれば、撃ち負けぬようこちらも火球を放ち続ければ、いずれは受け止め切れなくなったあの小癪な騎士も灰と化すであろう。そう得心して、魔法陣を展開し続けるヴァッフェントレーガー。確かに、一対一の削り合いとなれば、骸の海から蘇りしがゆえに元より喪う記憶のない崩竜と、記憶を頼りに戦うモルガナイトの騎士では勝負は見えていただろう。だが、ベリルの得意とするところは、攻撃を一手に引き受け、味方のための突破口を開くこと。
「大上段のその物言い、竜種というのは偉そうで大いに結構だが――古今東西、慢心に脚を救われるのも変わらんな」
『ぐっ――貴様、どうやってこの記憶焼却の灼熱地獄を越えてきた!』
低い声を響かせた大柄な獣が、鋭い爪でヴァッフェントレーガーを切り裂いた。全体的な印象で言えば狐を思わせるものの、一時として姿を固定することなく、その姿を変じ続ける異形の獣、その正体は、御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)がその姿を変じさせたものである。
「どうやって越えてきたか、と? あそこの娘御と同じよ、楽しい記憶を胸に乗り越えたのだ」
そう、あれは小学5年生の頃だったか、隣のクラスの少年と夏祭りに出かけ、お互いどぎまぎとしながらはじめてのデートを――。
『馬鹿な、そのような安っぽい記憶と決意で!』
「ほう? 察しがいいな。いかにもこれは偽りの記憶よ。されど、狐神たる我にとっては己を化かすも容易いことなれば」
偽りの記憶で攻撃を乗り越えられれば万々歳、仮に崩壊させられたとしても、適当に植え付けた偽りの記憶となれば、何の痛痒もないという寸法である。
「さァさ、『魂啜り』の『崩れ者』同士、仲良くやろうじゃァないか」
意地の悪い笑い声とともに、不定の体を持つ妖狐が、変幻自在の攻撃を繰り出す。食らいつく顎を回避したかと思えば、別の箇所に大口が現れ噛みついてくる。切り裂く爪を、堅い前肢で薙ぎ払っても、その下から二本三本と新たな腕が現れる。己の実体という境界線を焼失させる神業は、体にかかる負担も相応であるが、そこは妖狐の為せる業、攻撃の中で相手の精気を吸い取って、己の力と変えていく。
「ふっ――我一人に手こずっていては竜種もたかが知れるぞ?」
『なんだと!?』
そう、火球を騎士が受け止め、竜の注意は妖狐に向き。他の猟兵たちが、正攻法でもって飛び込んでくるには、十分な時間。
「「いただきますっ!」」
炎の壁の中から現れた男女二人の猟兵が、勢いよく崩竜に飛び掛かった。
彼らは如何にして記憶崩壊を乗り越えたのか。それは勿論、“楽しい記憶”を頼りにである。
「熱い……けどっ、これを越えたら竜肉よ……!」
「竜の血って、美味しいんだよねぇ。ああ、楽しみだ」
稲見之守に僅かに遅れ、荒谷・つかさ(『風剣』と『炎拳』の羅刹巫女・f02032)と須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)が、灼熱の中を駆け抜ける。ジグザグ移動や急加速、動きに緩急をつけるつかさと、見切りによる最小限の動きでかわす莉亜、それぞれ方法は違えど、火球の直撃を巧みに避けながら進んでいく。
だが、直撃を避けても、余波による熱波すら記憶を蝕む――はずであった。
「森の核もとっても美味しかったもの、竜の肉も食べなきゃ、気が済まないわ!」
「ふふふ、君はどんな味がするんだろうね、楽しみだ」
――そう、食欲。生物の根本的欲求と、それより生み出される喜びは、記憶を繋ぎとめるに十分であった。なにせ、彼らの目の前にはご馳走が待っているのだから。
「さあさ、まずは――やっぱり、尻尾からかしら!」
不意打ちのように飛び込んできた勢いのままに、つかさがその手に握った巨大な肉切包丁で尻尾の先端を切り落とす。烈火の名を冠するその包丁は、恐るべきことに、切り落とした肉がそのまま焼肉として食べれるほどの高熱を発している。
「うん、尻尾はやっぱり固めだけど、その分歯ごたえがある!」
切り落とした肉にそのまま齧り付き、満足げに笑うつかさ。そして彼女は、喰らった肉から力を得ることができる。グルメファイターさながらの、戦う焼肉担当が彼女であった。
『我が肉を狙うとは――不遜である!』
火球を己の近くに展開し、剛腕も振るい、つかさを振り払おうとするヴァッフェントレーガー。しかし、その大振りな隙を狙って、莉亜がその背に飛び乗る。
「肉じゃなくて、血ならいいのかい?……なんてね」
不敵な笑みとともに、崩竜の首筋に喰らいついた。己の身に流れる吸血鬼の血脈に眠る力を解放した彼の牙は、竜種の堅牢な鱗を容易に貫く。そのままじっくりと堪能するように、遠慮なく血を吸い上げていく莉亜。
「やっぱり首筋から吸う血は格別だ――っと、うわっ」
だが、そのまま堪能するのをよしとするわけもない。己の背中が焼けるのも厭わずに生み出された巨大な火球が、莉亜を大きく吹き飛ばした。
直撃こそ防いだものの、防ぐのに使った左腕が徐々に崩壊していく。だが、莉亜は躊躇なく己の左腕を切り落とした。
「と、危ない危ない。これくらいなら、君の豊富な生命力をもらえば再生できるからね。――さあ、どっちが先に死ぬのかな?」
「骨まで残さずいただきます、ってね!」
『気狂いどもめ……!』
戦いながら、己の血肉を狙おうとする猟兵たちに、戦慄したように身震いする崩竜であった。
「クク、我も精気を喰らいはするが、此奴らは格別だな。――して、いいのか? すっかり火球の的がお前の周囲に集中しているが」
崩竜の反撃を、己の身を変形させて化かす様に回避しながら、稲見之守が不敵に笑う。
『何、まさか――』
「注意が。疎か。でしたね? 自らの。崩壊の力。味わって。くださいませ」
反射されて戻って来た火球を、新しく放った火球で相殺していたならば、接近した他の猟兵たちの迎撃に火球を使い、ベリルに向かう火球が減ればどうなるか。そう、当然、反射された火球が勝り――。
『ぐおおおおおおおお!』
接近していた三人が飛びのくのと同時に、灼熱がヴァッフェントレーガーを飲み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャーロット・クリームアイス
ほうほう。
崩竜、という凶暴な称号はともかく。こんな名前の兵器がどこぞにありましたねぇ。
名物・“魂すすり”には対策が必要ですか。
楽しい思い出を、と案内をいただきましたけれど。
ここはもうすこし、確度の高い方法でいきましょう!
(UC使用)
えぇ、もちろん思い出もすばらしいのですが!
やはり実物を見たほうが、より強固にイメージできるというもの!
(サメ映画から再現したサメそのものを視界にとらえて、サメ映画の記憶を想起しますよ!)
さて、最初に言ったように、あなたの銘には兵器の概念がふくまれます!(断定)
在来兵器がKAIJU――すなわちサメに勝てるでしょうか!?
続きは、あなた自身の目で確かめてください……!
フェルト・ユメノアール
楽しい思い出……なら、これしかないよね
レディースエーンジェントルメーン!
沢山のお客さんに囲まれた楽しいショーの記憶を糧に戦うよ!
『トリックスターを複数投擲』、頭部を狙って相手を攪乱しながら反撃の機会を窺う
そして、相手がUCを使って攻撃を仕掛けて来た時が勝負!
その攻撃は通さないよ!
ボクは手札から【SPファントム・マタドール】のユニット効果を発動!
受けるダメージを半分にしてこのユニットを召喚する!
ガードしながら相手の攻撃に合わせて飛び退いてダメージを軽減
相手が巨体なら間合いの内側に潜り込む!
そのまま相手の体を踏み台に接近、狙うは装甲の薄い目や口
そこにファントム・マタドールと一緒に攻撃を仕掛けるよ
『おのれ……おのれおのれおのれ! もはや容赦はせぬ、我が身に変えてでも貴様らを屠ってくれる……!』
己の力を利用されたこと、そしてその反撃によって己が身が崩壊させられつつあることに対し、ヴァッフェントレーガーが怒号を上げる。
火球を放つために展開していた魔法陣を己の身に融合させることで、その肉体が膨張し、体そのものに魔法陣めいた紋様が刻まれていく。火球による遠隔攻撃を封じる代わりに、接近戦への適性を大いに高める形態である。
『まずは――そこの無防備な小娘からだ!』
崩壊の力を己の身に取り込んだことで、崩竜の体の崩壊が早まる。だが、そんなことはどうでもいいとばかりに、己の身を犠牲にして得た超加速で猟兵に向かって突進していく。
『我が力の前に抵抗の術はない! 覚悟せよ!』
「――それはどうかな?」
突進に晒された、一見非力な、華やかな道化の衣装に身を包んだ少女が不敵に笑う。
『強がりを!』
「その攻撃は通さない! ボクは手札からスマイルパペット・ファントム・マタドールの効果を発動!」
フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)は、ただの笑顔が可憐な道化師ではない。一度戦場に立てば、師より受け継いだ魔法のカードを手に敵を退ける召喚士なのだ。
彼女が左腕に装着する円盤状のデバイスにカードを差し込むことによって、カードに封印された亡霊闘牛士が召喚される。闘牛士とは、猛牛の突進をいなし、統べるもの。そう、それは竜とて変わりはない。真紅のマントがはためき、崩竜の巨躯から繰り出される突進の威力を大きく減衰させる。
『邪魔立てを……! 諸共吹き飛ばしてくれるわ!』
「わわ、これはちょっと予想外っ!」
だが、アックス&ウィザーズの竜種の力は、軽減して尚恐るべき威力を持つ。ガードしながらバックステップで回避することによってダメージを最低限に抑えてなお、服を切り裂き、存在そのものを崩壊せしめんとする力がフェルトを苛む。
「くっ……崩壊の力に抵抗するためには、楽しい想い出……。なら、ボクはやっぱり、たくさんのお客さんに囲まれているショーを思い出して……!」
きっ、と唇を噛みしめ、楽しいショーの記憶を糧に、一人立ち向かおうとするフェルト。だが、そんな彼女の周囲に、いくつもの影が現れる。
「そういうことでしたら、私も助力いたしましょう! 興行はやはり観客がいてこそ! 一夜興行ならぬ一夜鮫行と洒落こみましょう!」
シャーロット・クリームアイス(Gleam Eyes・f26268)によって使役される、サメの大群である。
「わたしのイメージを補強するために呼び出したサメたちですが、必要とあれば賑やかしにもなりましょう! なにせショーはジョーズに通じるもの、サメ映画にはギャラリーが不可欠ですからね!」
「おっと、流石のボクもサメを観客にパフォーマンスした経験はなかなかないけれど……うん、いいね、盛り上がって来た!」
一瞬驚いたように目を丸くするフェルトであったが、それが友軍によるものだと理解すれば、不敵な笑みを浮かべて愛用のダガーを手に高らかに名乗りを上げる。
「レディースエーンジェントルメーン! 楽しいショーの始まりだ、目を逸らしちゃいけないよ!」
観客は奇怪なサメばかりという不思議な舞台なれど、観客の前と合っては昂るのがエンターテイナーというもの。昂揚に応じるように、崩壊しかけていた体と心は、しっかりと繋ぎ留められていた。
「さあ、いこうかマタドール!」
攻撃による不調を克服したフェルトは、マタドールを従え、崩竜の懐へ飛び込んでいった。
さて、例のサメの大群は、果たしてフェルトを盛り上げるために呼び出されたものだっただろうか。否、元々彼らが呼び出されていたのは、掠り傷だけで精神を崩壊させうるこの戦場において、シャーロットの精神を繋ぎとめるため。様々な世界に存在するサメ映画から再現された、特異な力を持つサメの数々を呼び出すことで、逆説的にサメ映画の記憶を補強していたのである。
そして、サメ映画の記憶が補強されたことによって、シャーロットの操る鮫魔術もまた、その精度を増す。
「さて、崩竜ヴァッフェントレーガー! とある世界には、あなたと同じ名を冠する兵器が存在します。即ち――ああなたの銘には、兵器の概念が含有されている!」
懐に潜り込んできたフェルトと切り結ぶ崩竜に向かって指を突き付け、独自の理論を朗々と語るシャーロット。傍から見てどれほど支離滅裂であろうと、彼女が強固な意志のもとに断言すれば、そこに鮫魔術は発動する。
「さて、在来兵器の属性を持つあなたがKAIJU――すなわちサメに勝てるでしょうか!?」
びしっ、と指を突き付けるのを合図とするかのように、フェルトのパフォーマンスのギャラリーとなっていたサメたちが、崩竜に向かって殺到していく。
「続きは……あなた自身の目で確かめてください……!」
その言葉とともに、高らかに跳びあがったフェルトの投擲するダガーがヴァッフェントレーガーの片目を貫き、もう片方の眼窩の周囲に、サメの牙が突き立てられた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
浅葱・シアラ
◎フェルト(f01031)と参加
私はフェルトの前にたってフロントで攻撃役を担当します
ユーベルコード【神薙胡蝶蘭】によって、誓いを込めた聖剣Knights of Filfadenを胡蝶蘭の花びらに変えて。
無数の花びらは嵐のなかで刃に変わる!
「属性攻撃」で強化された魔法のユーベルコードを「全力魔法」に乗せて!
「高速詠唱」で、何度も発動します!
相手の攻撃は射程範囲を犠牲にする
常に距離をとって遠くから攻撃します
攻撃を受けたときは楽しい思い出を思い出しましょう
苦手ながらもクリームシチューを一生懸命作ったフェルト
私も助けながらあなたの成料理の腕が成長するのが楽しかったです
勝ちましょう、思い出を重ねるために
フェルト・フィルファーデン
◎シア様(f04820)と
わたしはシア様を最後まで絶対に守り抜くわ。
距離を取りつつ戦いましょう。UCで作り出した炎の壁を重ね大きな炎の盾にして接近してきた敵を【盾受けからの【シールドバッシュの要領で押し返してシア様の詠唱を邪魔されないように【時間を稼ぐの。最悪突破された時は槍盾の騎士人形の盾で庇うわね。
楽しい思い出……そう、この前ね。シア様と一緒にお料理したの!でもわたしは、お料理全然ダメで……包丁があらぬ方向に飛んでいったりして結局ほぼシア様が作ったのだけれども……それでもとっても美味しかったの!クリームシチュー!
……あなたが一緒で良かったわ。そうよ。騎士が、シア様が一緒なら、負けはしない!
『ぐおおおおお! 我が両眼が――!』
両目を鋭く切り裂かれ、その身を徐々に崩壊させながら苦悶にのたうつヴァッフェントレーガーを見据える、小さな小さな人影ふたつ。
「痛みに苦しむ姿は可哀相ですが……手心を加えるわけにはいきません」
「ええ、みんなの記憶を護るためにも、ここで打ち倒さないといけないわ、シア様」
竜の暴威の前では、余りにも頼りなく思える矮躯の二人のフェアリー、浅葱・シアラ(幸せの蝶々・f04820)とフェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)は、しかし決意に満ちた表情で視線を交わす。
「フェルトは私の後ろに……! さあ、聖剣よ、私に彼女の、みんなの敵を打ち払う力を――!」
金のフェアリーを庇うように前に出た蒼のフェアリーが、己の腰に携えた剣をゆっくりと抜き放つ。聖剣Knights of Filfaden。今は喪われたとある国の姫君が、己の認めた騎士にのみ渡していた剣――の、レプリカである。祭儀用の剣、しかもレプリカとあっては、通常ならば戦闘能力は望むべくもない。
だが、シアラにとっては違った。この剣こそは、彼女が騎士として、姫君を守護すると誓った証。想いのこもった武器を媒介に発動すれば、彼女のユーベルコードは一層その威力を増す。
「胡蝶蘭の花びらたちは、嵐のなかで刃に変わる!」
聖剣がその身を解けさせたかと思うと、刀身は淡く輝く胡蝶蘭の花弁と変じてシアラの周囲を舞う。最愛の両親より受け継いだ胡蝶の力が、友を守るという決意と混じりあい、花弁の奔流となって崩竜に向かってうねりを上げる。
『があああああ! 貴様! 貴様ああああああ!』
既に目も見えていないであろうに、己を切りつける花弁の本流から、攻撃者の位置を読み取ったのか、崩竜が突進してくる。竜種の巨躯の直撃を受けたとあっては、妖精ではひとたまりもないであろうが、シアラには動じる様子はない。
「シア様はわたしが守り抜く……!」
自身の背に守るフェルトが、虚空、いや、電子空間より炎の防壁を生み出すことがわかっていたからだ。生み出された炎の防壁は、幾重にも折り重なって巨大な炎の盾となる。
「近づけはしないわ!」
崩竜が万全であれば、あるいは炎の盾を強引に突破することもできたかもしれないが、心身ともに崩壊が進みつつある今、彼の竜にそれだけの馬力はない。
だが、その崩壊しつつある体が仇となった。炎の壁によって焼き焦がされたヴァッフェントレーガーの鱗がはじけ、礫のようにフェアリーたちへ飛来したのだ。狙ったわけでもないその攻撃は二人に命中する事こそなかったが、崩竜の体の一部となれば、込められた崩壊の魔力も格別である。フェルトとシアラの心が大きく揺さぶられ、二人に翅は危うげにふらつく。
「あ、ああ……! わたしの故郷が……思い出が……!」
「フェルト……! 楽しい思い出を強く想うんです!」
彼女の原点といえる記憶が揺るがされ、我を失いかけるフェルト。だが、そんな彼女の傍まで戻って来たシアラが、そっとその手を取り、優しく、しかし気高く語りかける。
「楽しい想い出……?」
「ええ、ええ。ふふ、この間二人で、クリームシチューを作ったでしょう?」
優しく語りかけられる言葉に、フェルトの心の中にも、温かな思い出が蘇ってくる。包丁がうまく扱えず、あわや大惨事になりかけたこと。シチュールウをチョコレートかと思って恥ずかしい目を見たこと。それでも、自分たちの力で作り上げたシチューは、何の変哲もないはずなのに、随分美味しく感じられたこと。
シアラもまた、不器用でありながら、ひとつひとつに全力で挑戦するフェルトが、達成感に満面の笑みを浮かべる姿を思い出し、優しい微笑みを浮かべる。
「……そうね、そうだわ。あのクリームシチュー、すごく美味しかったんだもの」
「ええ、また作りましょう、今度は他のメニューにも挑戦しないといけないんですから。……二人で」
記憶崩壊の危機を乗り越えた姫と騎士は、手と手を取り合い、魔力を練り上げる。
「……あなたが一緒で良かったわ。そうよ。騎士が、シア様が一緒なら、負けはしない!」
「勝ちましょう、思い出を重ねていくために!」
二人の魔力が混ざり合い、放たれる。胡蝶蘭の花嵐が勢いを増し、崩竜に向かって殺到する。そして、胡蝶蘭の嵐の中を翔ける剣を持った人形が、花吹雪を纏った一閃を繰り出した。
大成功
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祇条・結月
“竜”
魔王もそうだけど、ほんとに僕の人生にそんな単語が出てくる日がくるなんて思ってなかったな
怖くない戦いもきつくない戦いもなかったけど
……でも、逃げれないしそのつもりもない
特に、ここには宿があるもの
……そう、普通の「宿」
巡るかもめ
同じ屋根の下で、同じ食卓を囲んで、ロビーでただ話をして
……あはは、ただ、同じ宿に住んでるだけだったはずなのに、毎月盛大にパーティをして、って?
……うん。そんな単純な場所
学校とかともまた違って、あそこは家だと思うから
失くすには、楽しすぎるよね
だから自分や、もし共闘相手がいるなら一緒に錠を掛けて保護
大人しく崩壊なんかしてやらない
目や急所を【スナイパー】で銀の弓で潰していく
アルベール・ユヌモンド
◎
【思い出】
思い出って……そりゃあA&Wにはいるだろ……その、片思いの相手がよ
楽しい思い出なんて一晩でも言い切れねぇし、これからも増やしていく予定なんだよ
そーいう期待をしちまうくらいには前向きな気持ちなんでな
ああ、悪いが最低でも今年の水着姿拝むまではこんなところで躓いていられねぇよ……!
【戦闘】
使用UC「模倣魔剣」
竜退治の伝説の聖剣……ってわけじゃねぇがな
ああ、テメェには残念なことにもっと上等なもんだ
何せ……運勢占いまでしてくれる
最も――俺の目が見るテメェ等の未来は揃いも揃って地獄行だがな
千里眼と経験則による僅かな未来視で敵の攻撃も敵も空間ごと切断する
「おうおう、随分とボロボロじゃねぇか。だからって同情してやる気もねぇけどな」
己よりよほど幼い友人のフェアリーたちの健闘を見届けたアルベール・ユヌモンド(無月の輝きは・f05654)は、妖精たちの猛攻によって半ば以上体の崩壊した崩竜の前に歩みでる。
「アイツらがそんだけ気合入れて戦ったんだ、俺もやることやらなきゃ嘘だろ」
心配がないではないが、彼女たちも猟兵としてこの場に赴いている以上は、蝶よ花よと心配するのではなく、信頼して戦いを引き継ぎ、眼前の竜にトドメを刺すことこそが己の役目であろう。そう自分に言い聞かせて、アルベールはヴァッフェントレーガーを睨め上げた。
「ぐっ……! 死にかけのくせに……それともだからこそ、か? 聞いてたよりかなりキツいな……!」
だが、恐るべきは竜種の持ち前の魔力。体の大部分が崩壊したことによって、魔力のコントロールができなくなったことによって、逆に膨大な魔力が垂れ流しになっているのだ。その力は、攻撃を受けることすらなく近づいただけで、己の精神が揺さぶられる余り、その場に片膝をついてしまう程の者であった。
「だが、残念だったな。こちとら思い返したい思い出には事欠かねえんだよ……!」
不敵な笑みを浮かべてアルベールが想起する思い出は当然、片思いの相手とのものである。大樹の下の合コンパーティーめいた場で出会えば、自分と恋人同士だという噂になったとしてもむしろ嬉しいという言葉に胸を高鳴らせ。
「楽しい思い出なんて一晩でも言い切れねぇし!」
聖夜の街中を二人で歩いたときには、手袋もせずに繋いだ手が、しかしとても温かく。
「これからも増やしていく予定なんだよ!」
共に迎えた正月に目にしてしまったあられもない姿は、実は今も脳裏にしっかりと焼き付いている。
「そーいう期待をしちまうくらいには前向きな気持ちなんでな……」
そして、つい先日図らずも同衾する羽目になった時には、随分な殺し文句を投げかけられた。
「ああ、悪いが最低でも今年の水着姿拝むまではこんなところで躓いていられねぇよ……!」
更に言うならば、彼女に――と、“最低でも”ではない、密やかな決意については胸の内に留め、アルベールは獰猛に笑って、ヴァッフェントレーガーに向き直った。
「……言うじゃん」
「結月!?」
片膝をつくアルベールを助け起こしたのは、祇条・結月(キーメイカー・f02067)である。赤裸々な決意表明を、同じ宿で暮らす同年代の友人に聞かれたのかと少しばかりバツの悪そうな顔をするアルベールに、しかし結月は感心したように頷いて。
「きっと、そういうのが大事なんだと思うよ」
己とは縁がない――というより、意図的に距離を置いていもいる、色恋沙汰。しかし、それによって、これほどに情熱を燃え上がらせる事のできる友人の姿は、素直に眩しく見える。
「僕はアルベールみたいな理由があるわけじゃないけど……でも、逃げるつもりはない。……だって、ここには。この世界には、宿かあるから」
――宿。美味しい料理が出てくる酒場が併設されているくらいの、何の変哲もない宿。巡るかもめ亭。
「同じ屋根の下で、同じ食卓を囲んで、ロビーでただ話をして……」
指折り数えるように呟く結月に、アルベールが微笑んで言葉を引き継ぐ。
「ただ同じ宿に住んでるだけだったはずなのに、毎月盛大にパーティをして、ってか?」
「……あは。うん、そう」
アルベールの言葉に、どこかニヒルな普段の微笑とは違う、素直な笑顔で頷いて。
「……うん、そんな単純な場所」
あの場所を形容するならば、きっと。家と呼ぶほかないのだろう。
「失くすには、楽しすぎるよね」
「だから、僕らは大人しく崩壊なんてしてやらない」
そう言って、彼には珍しいどこか挑戦的な笑顔で、結月がアルベールに向けた手を小さく回転させると、アルベールの感覚のどこかで、カチャリという音が聞こえた気がした。
「これ、は……?」
「君の心に錠をかけた。……もう、崩竜の攻撃くらいじゃ揺るがないよ」
結月の所有する、アンティーク風の銀の鍵。その鍵は、有形無形、ありとあらゆる錠前を開け――逆に、閉じることもできる。
「……なるほどな。サンキュ、行ってくる」
結月に向かって笑いかけると、アルベールは三度ヴァッフェントレーガーに向き直った。だがしかし、今度は目に見えて体が軽いのを感じる。
「待たせたな。クソ竜。首はしっかり洗ったか? 俺の刃はさっきのやつらと違って、伝説の聖剣ってわけじゃねぇが……お前に使うには、もっと上等なくらいだ」
アルベールが掲げた右手の上で、ごうごうと異音が立っている。彼の右腕に、空気を切り裂く刃が練り上げられている証拠である。
「なにせ……運勢占いまでしてくれる」
そう言いながら、肉塊と化しつつあるヴァッフェントレーガーに肉薄すると、右手に練り上げた不可視の刃を振るう。
「最も――俺の目が見るテメェ等の未来は揃いも揃って地獄行きだがな」
『GRRRRAAAAAAAAAAAAAA!!』
己の予知した通り、サイキックによる刃で、ついにヴァッフェントレーガーが轟沈したことを確認すると、アルベールはほっと一息つくのであった。
「お疲れ様、アルベール」
「サポートサンキュ、結月。……森の核、美味いんだったよな。持って帰るか?」
「……いいね、かもめのみんなで食べようか」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵