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明日に向かって打て!

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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 生き延びる為に必要なもの。
 水。食料。武器。寝床。そして、娯楽。
 明日をも知れぬ世界で一時の夢を見る。
 その大切さを知っているからこそ、人は。
 奪還者(ブリンガー)は危険を冒してでも、それを求める。

「――結果、不運にもオブリビオンの巣という“死”に踏み込んでしまうのですが」
 惨劇はまだ訪れていない未来の事象であるから、猟兵ならば食い止められる。
 テュティエティス・イルニスティアは語り、行き先をアポカリプスヘルと告げた。
 それから懐を漁り、拳ほどの大きさの白球を取り出してみせる。
「喉も潤さなければ腹も満たさない。けれど、これが大切だという人々もいるのです」
 とある拠点(ベース)に遺されていたバッティングセンター。
 その稼働に必要不可欠なボールを求めて出撃した奪還者達が、廃墟と化した工場に忍び込み、其処を棲家としていたオブリビオンに殺されてしまうのだと語り手は言う。
 彼らの未来を守るには、猟兵が先んじて白球を確保、拠点へと輸送する以外にない。
「他にも使えそうなものがあれば、出来る限り入手しておくと喜ばれるでしょうね」
 バットやグローブ、手袋などの道具。防球ネットやピッチングマシンの補修部品など。
 件の工場は、出荷前の商品を保管する倉庫でもあったようだ。
 荒れ果てる前の世界では、それなりの企業が所有していた施設なのかもしれない。

「腕の立つ奪還者は何処でも歓迎されるようですから、皆さんが物資を山程抱えて来たならば、恐らくは拠点の住人も総出で迎えてくれるでしょう」
 そうして始まるお祭り騒ぎに、水を差すのも野暮なこと。
 折角だから、猟兵も件のバッティングセンターで暫く遊んでみるといいだろう。
 或いは併設されている投球練習のブルペンに寄ってみたり、それらの補修を引き受けてみたり、単に盛り上がっている住人を眺めて一休みするだけだっていい。
「一時の夢。それは荒んだ人々の心を癒やし、反攻への糧となるでしょうから」
 ぜひとも猟兵達の力を貸して欲しい。
 テュティエティスは微笑み、白球を頭上へと投げた。


天枷由良
●一章:冒険
 工場探索の障害となる脅威を排除します。

●二章:集団戦
 工場を占拠しているオブリビオン群を撃破。
 物資を入手します。

●三章:日常
 拠点に赴き、バッティングセンターで遊んだりします。

 よろしければマスターページ等もご確認ください。
 ご参加、お待ちしております。
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第1章 冒険 『危険動物狩り』

POW   :    危険動物の縄張りを荒らして襲ってきた所を返り討ちにする

SPD   :    糞や足跡などを追跡するなどして、危険動物の位置を特定する

WIZ   :    危険動物に罠をしかけたり、行動を誘導する事で有利に狩りを行う

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 アポカリプスヘルに転送された猟兵達は、廃れた工場へと侵入する。
 途端、聞こえてくるのは唸り声のような音。
 ……まだ独りでに動いている設備でもあるだろうか。
 慎重に辺りの様子を窺いながら進めば、物陰からのそりと姿を表したのは。
「ぐるるるる……」
 ――なんと、ライオンだ!
 それ以外にも、コアラにウサギ、虎、熊、牛。
 鷹やツバメやカモメやイヌワシなどの鳥類も飛び交いだした。
 あとは……やたら丸っこいハムスターの群れと。
 青緑色をした正体不明の毛むくじゃらまで! ……なんだこいつは!?
 ともかく獣達は行く手を阻み、皆々牙を剥き出しにしたり翼を広げたり、おもむろに鉄骨を齧り始めたりと敵意を滲ませている。
 大きさなどに異常は見られないことから、どうやらオブリビオンではなく野生動物のようだが……彼らが野放しであれば、落ち着いて探索も出来ないだろう。
 狩るなり手懐けるなりして、無力化しなければ――!
ルエリラ・ルエラ
【アドリブ改変・連携歓迎】
たまには運動しないと太っちゃうからね
ちょうどボールを打ちたいと思ってたんだ(芋煮の鍋をぶんぶん振りながら)

さて、まずは野生の動物が相手だね。
ふっふっふ。こんなに敵意を剥き出しなのはお腹が減っているからだね。そうに違いない
という訳で、そぉい!と【芋煮ビット】で動物さん達の前に芋煮を配るよ。かーらーのー…【芋煮鑑賞会】発動!
これで芋煮いい…となった動物さん達はみんな芋煮をたーんと食べるはずだよ
お腹がいっぱいになったら余裕もできて皆仲良し。襲ってくる事もないはずだよ!きっと?
私もお腹が空いてきたので一緒に芋煮を食べていざ、廃工場へ!



 芋煮ほど生理的熱量、つまりカロリーを判断しづらいものもない。
 何故か。ご家庭それぞれのお味がありすぎるからだ。
 とはいえ、どれほどヘルシーよりのレシピを用いたところで、消費されるエネルギー以上の芋煮を摂取すれば、太る。
「だからたまには運動しないとね。ちょうど、ボールを打ちたいとも思ってたんだよ」
 ルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)は芋煮の鍋を振り回しながら言った。
 ぶんぶんと鳴る音が、程なく鋭さを増してしゅっという響きに変わった。
 そのスイングはシーズン50本塁打くらいは狙えそうな雰囲気であった。

 しかし、打ち気に逸るルエリラの前に在るのはボールでなく。
「まずは動物さんの相手をしなければいけないんだね」
 現状把握に独り言を用いれば、獣の群れから唸り声が返る。
 さて、彼らは何故そんなにお怒りなのだろうか。
「わかってる」
 ルエリラは確信に満ちた表情で頷き、獣に負けず劣らずの鋭い眼光で言い放つ。
「――お腹、減ってるんだよね」
 ぐるるるる、とライオンの唸る声が大きくなった。
 それが何を意味しているのか、常人では理解し難い。
 けれども、ルエリラには疑念など欠片もない。
 彼らはお腹が減っているんだ。そうに違いない。
「ふっふっふ……任せなよ」
 腹が減った? ならばこれを喰らうがいい!
「そぉい!」
 勢いつけて繰り出す、それは勿論、芋煮!!
 何処からともなく現れて、脳波で操作される超常の芋煮ビットは動物ごとに最も適切な分量で配膳されていく。
 温かくてもいける奴らには温かいままで、猫舌のお客様には程よく冷ましたものを。
 そうして全獣に行き届いたならば、すかさず告げる。
「芋煮、いいよね……」
「ぐるる、るるるる……」
 言葉で通じ合わずとも、芋煮は全てを融和させる。
 敵意が食欲へと変換されていく。ルエリラに向けられていた矢のような眼差しも芋煮だけに注がれて、堪えきれない獣の何匹かはぽたぽたと涎を垂らす。
「……よし、お食べ」
 GOサインを出せば、廃工場は芋煮会場と化した。
 まさに本能剥き出しで芋煮を貪る獣たち。
 それを満足気に眺めて、自らも芋煮を頬張るルエリラ。
 げに恐ろしきは芋煮のポテンシャル。
 けれども認めざるを得ない。芋煮こそが万物を結びつける統一言語。
 We are the IMONI. Peaceful IMONI.
「芋煮いいよね」
「がるる……にゃおーん」
「くまー」
「こあらー」
 すっかり野生を失った獣共は、媚び媚びの鳴き声で賛意を示して芋煮を平らげた。
 そうして一致団結したルエリラと獣軍団は、食休みを挟んでから先へと進む――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
…お前からすればそうであろうな
――この御時世、贅沢は敵であるが
偶には新鮮な肉を食わせるも良かろう

…して、ジジ
お前の目算では、どれが美味そうに見える?
彼奴の勘は目を見張る物がある故
やれ逃げられたら如何する
全てを蹂躙せんとする従者に嘆息一つ
標的を定めたならば勘付かれぬよう慎重に…
高速詠唱の【暴虐の贋槍】で一息に仕留める
ふふん、私の腕も中々であろう?

ふと視線を落とすと
足元で靴を齧る、ふくよかな獣
これ、それは食っても美味くないぞ
ハムスターを一匹摘まみ上げて
ジジ…お前、悪食も程々に…お?
ぴょんとジジに向けて跳躍する獣
遊具が如く角で戯れる様に噴出して
…いっそ飼ってしまえば良いのでは?


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

獣相手…つまりは
いつもの食料調達であるな、師父
…食えるかは分からぬが

物陰に潜み脅威となるものらを探す
ふむ
肉付きがよく、健康そうな個体が良いのでは
足跡や痕跡、物音を追って
その姿らしきものが見えれば
【竜眼】で動きを止めて師へと目配せ
うむ、実に見事な風であった

塵ひとつとして師へと被害が及ばぬよう庇いながら
素早いもの、飛ぶものは仕方ない
そこらの器具や建造物の一部を
<怪力>で放り投げ撃墜してやろう
…雑?
手っ取り早いと思ったのだが

頭上で遊ぶ屋敷の穀倉荒らしによく似た鼠
ふむ、百匹も狩れば足しになろうか

飼育と聞いて
脳裏に浮かぶは増えに増えて穀倉埋め尽くす鼠たち
…師父、それには賛成できぬ



 物陰から慎重に先を窺う。
 行く手を阻むは数多の獣。跳ねる兎、唸る熊、肥えた牛――!

「これはいつもの食料調達であるな、師父」
「……いや、まあ、お前からすればそうであろうな」
 ジジことジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が真顔でいうものだから、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は眉根を寄せてしまった。
 意外や冗句なども嗜む男だというのは、今更言うまでもなく知るところだが。
「本当に食うつもりか?」
 今一度問えば、ジャハルは眉一つ動かさず答える。
「食えるかどうかは、食わなければ判らぬな」
「……そうか」
 食わぬとは言わぬのだな。
 アルバは頷き、唸り、顎に手を添えて暫し考え込む。
 弟子の思惑は興味からなのか、食欲からなのか。
 後者であれば、師父と呼ばれる身に在って少々愧じるべきだろうか。
 いやいや、時世と己が所在を勘案すれば、贅沢など敵と断じるべきだ。
 身の内に取り込む糧は、日々を生き延びるのに必要なだけあればいい。
 まして、質にあれこれと注文をつけるべきではない――が、しかし。
(「偶には新鮮な肉を食わせるも良かろう」)
 存外、師父は弟子に優しかった。
 とはいえ、優しいだけでは如何ともし難い事もある。
 たとえば彼方の獣から、食肉としてより優れたものを選べと言われても、アルバは答えに窮す。
 ならばどうするか。
 簡単な事だ。解りそうな奴に聞くべし。
「……して、ジジ。お前の目算では、どれが美味そうに見える?」
 師父からの問いに、弟子は間髪を入れず答える。
「肉付きがよく、健康そうな個体が良いのでは」
「うむ」
 確かにそうだが。……そうだが! だが!
「結局どいつだ?」
「ふむ、ならばあの牛でどうだろうか。後躯は少し淋しげにも映るが、黒毛の艶からして、この荒廃した世界で食うや食わずの日々を過ごしているとはとても思えぬ」
「そうか……」
 牛の見立てはさておき、一目置く弟子の直感がそう告げるのであれば、アルバに異論はない。
「ならば、あれは丁寧に仕留めるとして。他は如何する」
「害為すならば悉く屠る」
 微塵も躊躇いのない鏖殺宣言に、師父は溜息を一つ零した。
 表情に変わりはなくとも理解る。
 今のは紛れもなく、本気だ。
「私を巻き込むでないぞ」
「師父ならば巻き込まれたとて心配あるまい」
「ははは、此奴め」
 本気の声音で冗談を言うでない。
 戯けるアルバに、ジャハルは無言を返した。
 意識は既に獲物へと向けられている。

 視線、呼吸、足取り――。
 牛とその他大勢の獣共の仕草を注意深く見つめて、仕掛ける一瞬を探る。
 そう、一瞬だ。瞬きをする程度の、ごく僅かな時間で事は済む。
「――――!」
 獲物が群れから一歩抜け出た刹那、ジャハルは両眼で呪いを掛ける。
 動くなと命ずるように。鋭く力強い視線で相手を射抜く。
 ただそれだけで、牛は蛇に睨まれた蛙同然。牛なのに。
「ジジに目をつけられるとは不運な奴め」
 せめて余すとこなく喰らってやるが故、観念するがよい。
 ごく僅かな時の狭間に言霊を詰めて、アルバが風の槍を射つ。
 根こそぎ刈り取っていく嵐の如き暴虐は、牛一頭仕留めるのに余りある威力。
 群れの中でも随一の体躯を持つ黒き獣は戦場から押し出されて、暫し磔のままに留め置かれる。
 その光景は二人の力を見せつけるに充分で、恐れ慄いた地上の獣たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「ふふん、私の腕も中々であろう?」
「うむ、実に見事な風であった」
 さすが師父。などと褒めそやすのもそこそこにして、ジャハルは手近なところに在った用途不明の鉄塊を放り投げた。
「うお」
 割と顔面スレスレを通ったそれにアルバが驚けば、頭上の猛禽共はさらに驚愕した様子のまま叩き落されて生涯を終える。
「……ジジ、些か粗雑すぎやしないか」
「……?」
 最適かつ単純かつ迅速な方法を選んだつもりだが、何か問題が?
 落ちてくる羽などからも師父を守ろうと立つ弟子の、童の如く純粋な疑問符を浮かべた顔を見て、アルバはまた大きな吐息を一つ零す。
「お前というやつは……む?」
 ふと目を落とせば、足元で靴を齧るふくよかな獣が一匹。
「これ、それは食っても美味くないぞ」
 一先ず声かけてみるが、獣は一心不乱に前歯を動かす。
 大した脅威でもないが、しかし靴先を穿つまで見守る意味もあるまい。
 アルバは獣をひょいと摘み上げた。
「ふむ、屋敷の穀倉荒らしによく似た鼠だな」
 まじまじと見やって、ジャハルが言葉を継ぐ。
「百匹も狩れば足しになろうか」
 ――え、これも食べる気なの?
「ジジ……お前、悪食も程々に……お?」
 呆気に取られる師父の足元から、また別の毛玉がやたらと勢いよく跳んだ。
 それはジャハルの黒髪の上に取り付き、ちょうど手頃な遊具でも見つけたかのように竜角を齧り始めた。
「割と勢いよく“がじがじ”されておるが」
「この程度の“がじがじ”では削れぬ」
「そうか」
 本人がそういうのならば心配あるまい。
 アルバは案じるのを止めて、じぃっと弟子の頭の上を見やり、一言。
「……いっそ飼ってしまえば良いのでは?」
 熟慮の末、導き出した答えを投げる。
 それを受けたジャハルは、暫し想像の翼を広げて。
「……師父、それには賛成できぬ」
 苦慮の果てに見えた光景。
 即ち、正しくねずみ算式に増えに増えた毛玉が穀倉埋め尽くす様を憂い、頭上と師父の掴むそれ、二匹の小鼠を纏めて彼方へと放る。
 ともすれば惨い仕打ちのようにも思えたが――しかし、小鼠は器用に着地すると、ひとしきり角を齧って満足したのか、瓦礫の合間に姿を消した。
 そうして、後に残ったのは立派な牛一頭。……どうするか。
 師弟は先へと進む前に、新たな問題の解決に取り組むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

仙巌園・桜
せんちゃん流石に野生動物と意思疎通は出来ないな~
作戦は考えてあげたから
今回は薩摩、あんたがなんとかしなさい

せんちゃんが思うにあの中であんたと相性が良さそうな動物は…
ズバリ、コアラ!共通点が無いように見えて仲間だから!
引き入れなさい
あと、あのコアラ超変わり者だと思う

せんちゃんの感は結構当たるよ?
疑いの目で見るのは止めなさい

次にコアラと一緒に仲間割れを狙うの
パパパっと鳥達を片付けて
大丈夫あの中に1羽仲間外れが居るから
鬼畜なツバメはご退場ね

残った動物には青緑の毛むくじゃらを指して明らかに
同じ動物じゃない事をアピール

そこまで出来たら乱戦状態だから横からあんたとコアラで狩りなさい
せんちゃん?勿論見学だよ



「いくらせんちゃんでも野生動物とお話は出来ないのよ」
 仙巌園・桜(+薩摩・f00986)は唸る獣の群れを前に呟き、回れ右。
 廃工場を後にした。

「……何よ、帰りゃしないわよ」
 獣たちの視線から逃れるところまで来ると、桜はぼやく。
 けれど、お供の小竜“薩摩”は訝しむばかりだ。
 単に主を咎めているのか、暗に己の未来を察しているのか。
 少なくとも、後者に関しては小竜の予想通りであったが。
「薩摩、今回はあんたなんとかしなさい」

 勿論、丸投げではなく。作戦は考えてある。
 桜は小竜にそれを言い含めると、再び廃工場の中へと入っていく。
 行く手を阻むのはバラエティ豊かな獣たち。
 恐らく十二種類程度だろうか。
 ……一匹、其処に含めていいのか判らない毛むくじゃらがいるが。
「あれはひとまず放っといていいから、言った通りにするのよ」
 桜は念押しするように告げて、薩摩と視線の高さを合わせながら群れを指差す。
 其処にいるのは――鉄骨にしがみついた一匹のコアラ。
「あれ、絶対に変わり者だけど。でも絶対にあんたと相性良いから」
 何を根拠にそんなことを。
 そう言わんばかりの眼差しを小竜が向けるのも当然だが、それは桜にとっても予想通り。
「そんな目で見るんじゃないの。せんちゃんの勘を信じなさい」
 とん、と軽く胸を叩きながら確信に満ちた声色で宣う。
 小竜は――やはり怪訝そうな目つきのまま、しかし見つめる相手を主から彼方のコアラへと変えた。

 そして程なく、薩摩は桜の元を飛び立って獣の群れに挑む。
 途端に獅子や熊が吠えたが、それは空に在る限り気にしなくてもいい。
 問題は、同じく空を翔ぶ連中である。
 鷹、燕、鷲、鴎……種族は違えど連帯する彼等は、薩摩にも爪や牙で襲い掛かってくる。
 それらをどうにか躱して、目指すはコアラ。
 何だか無性に腹立たしくなるような、口を半開きにした阿呆面のそれを味方に引き入れるのが、第一の使命。
 ――しかし、どうやって?
 言語が通じるわけでもなし。二者が打ち解ける未来はいまいち想像し難い。
 けれども、主が「やれ」と言えばとりあえずやるのが薩摩である。翼を翻して猛禽の追撃を躱し、まるで動く気配のないコアラの目前にまで迫って。
 じっと、その顔を見つめる。
 コアラもまた、無言と不動で応じた。
 それは永久のように長く、しかし一瞬と呼べるほど短く。
「――――!」
 和解の理由は、やはり常人に読み取れるものでなかった。
 だがしかし、桜の見立て通り、小竜とコアラの間には奇妙な友情が成立したようだ。
 何故だろう。まるで分からないが、小さい竜と書いて「しゃおろん」と読むのが関係あったりなかったりするのだろうか。

 さておき、コアラは小竜と共に反旗を翻した。
 突如として両手でピースサインを作ったかと思えば、コアラのくせに二足で立ち、何処からかおもむろに取り出してきた携帯式ロケット弾発射器で躊躇なく少し前までの仲間を攻撃する。
 凶行の標的は空翔ぶ鳥たち。中でも、燕に対するコアラの殺意は常軌を逸するものがあった。
 何が彼を駆り立てるのか。一時の仲間となった薩摩にさえ良く分からない。
 勿論、遠間で観戦する桜にも分からない。
 分からないが、しかし好都合ではあった。共に燕を追い立てて――空中で他の鳥たちと衝突させる。
 途端、四鳥連合は脆くも崩れ去った。
 燕との衝突から体勢を立て直した後、怒りを滲ませる鷹。
 拡声器ばりの音量で喚き立てる鴎。
 その間で右往左往する鷲。
 三羽は逃げ惑う燕を追い立て――皆揃って仲良く撃ち落とされた。
 コアラのバズーカにではない。
 燕が何処からか取り出したバズーカに撃ち抜かれたのだ。
 鳥のくせに器用な奴め――などと感心するはずもなく、裏切り者は裏切り者に討たれる。
 コアラの武器が火を噴き、燕は爆散した。南無三。

 その惨劇を確かめた薩摩は、青緑の毛むくじゃらを頻りに突く。
 何かを訴えようとしているような動きに、獅子や熊もすぐさま飛びかからず様子を窺った。
 そして、暫くの後。
 コアラが謎の青緑以外に無差別攻撃を始めたことで、獣の群れの仲間割れは決定的なものとなった。
 もはや収集などつかない。とかく目についた獣は全て敵。
 獅子が熊を喰らい、熊が牛を裂き、牛が暴れ狂う下でハムスターが逃げ惑う。
 なんだこれは。……なんなのだこれは!
 阿鼻叫喚の地獄絵図。その中で一騎当千の働きをするコアラと息を合わせて、薩摩は主にハムスターを啄んだ。
「……うーん。さすがにそれはぺっしなさい。ぺっ」
 鼠を咥えて帰ってくるなど、猫じゃないんだから。
 桜は薩摩を窘めつつ、餅みたいな毛玉を手に乗せて解放する。
 それがうんざりした顔で物陰に消えていった頃――混沌とした戦場にも決着がついていた。
 数多の屍の間で立つ、コアラ。
 もはや桜と薩摩から主役の座を奪いかねないそれは、己が勝者と訴えるように突如バク転を始めて――。
「……あ」
 思わず声を出した桜の見守る先で、脳天からコンクリートに頭を打ち付けて動かなくなった。

「……ま、いっか」
 概ね作戦通りだ。
 薩摩を肩で休めつつ、桜は先へと進む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・ラピエール
※アドリブ歓迎
こんな所に動物園が、というわけではなさそうだね

【WIZ】
二十日鼠の群れを召喚して囮を頼む
僕はその間に隠れて、操り糸を使って罠を仕掛ける事にするよ
目の前で走って撹乱して、喰われそうになれば抵抗する……相手が諦めず追いかける程度に苛つかせてくれたら、それで良い

あとは僕の方へ誘導を
鼠を追いかけてきた動物が引っかかるように、通路に糸を張り巡らしておくよ

罠にかかった動物は、エクレールにトドメを刺すように指示
前脚で叩き潰しても良し、噛み殺してやっても良し……分かっていると思うけれど、全力でね
……そうして恐怖を振りまいてやれば、知性の足りてなさそうな獣であっても、少しは怖気づいてくれるでしょう



 百獣の王から猛禽、それに捕食される立場の小鼠と正体不明の青緑毛など。
 行く手を阻むのは実に多様性に満ちた面々であるが、しかし。
「こんな所に動物園が、というわけではなさそうだね」
 執事服をきっちりと着た青年が泰然として微笑む。
 それはセシル・ラピエール(白磁・f01008)――そのものではなく、少女人形のヤドリガミが得た仮初の肉体。
 もっとも、獣からすれば肉体と器の差異や真贋などに意味はない。
 唸り声を上げて牙剥き、鋭い爪を露わにする彼らから見たセシルは、縄張りに踏み込んだ侵略者の一人。
 このまま歩みを進めれば、手荒な歓迎を受けることになるだろう。
 無論、それはセシルも遠慮したいところだ。ヤドリガミの仮初の肉体は、本体の器物さえ無事であれば何度でも蘇るけれども、不要な傷を負って明日の“奉仕”に差し支えるような事態は“従者”の本意でない。
「だから、君たちの相手は僕でなく――」
 彼等が務めよう。
 恭しく一礼したセシルは、小間使いでも呼びつけるかのように軽く手を打ち鳴らした。
 途端、何処からともなく現れたのは“二十日鼠”の群れ。
 五十匹は超えているだろう。整然とセシルの足元に整列したそれは、廃工場にもう一度軽い打音が響いた瞬間、我先にと争うように駆け出して――獅子や熊、猛禽の急襲を潜り抜けると、そのまま彼方へと突き抜ける。
「がるるるる!」
 腹を満たすには充分でないだろうが、しかし獣たちからすれば餌が通り過ぎていったようなものだ。
 十二種の門番は急転、二十日鼠を追っていく。
 そうして演者の殆どが舞台を移すと、一人残されたセシルの周囲には静寂が満ちた。
「……さて」
 それでは彼等が戻ってくる前に、一仕事してしまおう。
 手袋の端を摘んで嵌め直すと、セシルは舞台に仕掛けを施す。

 ◇

 手際よく支度を整えれば、謀ったように二十日鼠も戻ってきた。
 数は――二十、いや十五を僅かに下回るか。
 減った分は、つまり喰われたのだろう。或いは潰されたか。
 いずれにしても鼠は鼠でなく“土精”であるから、獣の飢えを癒やすはずはなく。
 大地を疾走るものは獅子を筆頭に牙を剥き、涎を垂らしながら。
 空を駆けるものは、鷹をはじめ皆々爪を鋭く伸ばして啼きながら。
 鼠を追いかけた先に立つ青年へと迫り――。
「……ご苦労さまだったね」
 暴虐も此処までと微笑む彼の前で、張り巡らされた操り糸に掛かって悉く自由を奪われる。
 あまりにも突然の出来事だったからか、熊などは困惑して声を上げるばかり。
 羽ばたきを封じられた鳥たちも、土精と同じような小鼠たちでさえ啼き喚く。
 その光景を暫し眺めてから、セシルは“それ”に指示を下す。
「分かっているとは思うけれど、遠慮は要らないよ」
 全力の一撃を見せつけてしまえば、全て終わるはず。
 セシルの予想と意向を受けて、それは――金の雄獅子の肉体を与えられた雷精“エクレール”は、獣の群れで最も強大と思しき相手、即ち姿形の似た獅子の首へと喰らいつく。
「――――!!」
 百獣の王と呼ぶに相応しき面構えが歪み、苦悶の声が響く。
 だが、無造作なようで無駄なく絡んだ糸が僅かな反攻も許さず。
 金獅子エクレールも一切の容赦なく、肉を噛み千切る。
 途端に溢れた血が輝かしい姿を汚せば、如何に知性の足りない獣でも敵う相手でないと理解できただろう。
 唸り声も啼声も、絡んだ糸から逃れようとする動きすらも止めて、数多の瞳が金獅子とセシルの姿をじっと見やる。
 その視線に込められた意味を悟り、青年は微笑みを保ったまま歩みを進めた。

 そして程なく、獣の群れを絡め取っていた糸は独りでに切れて散ったが。
 熊も牛も鷹も鷲も、残った者たちは一匹たりともセシルを追うことなく。
 むしろ彼の消えた方から遠ざかるようにして、散り散りに逃げていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラブリー・ラビットクロー
色んな動物がいるの
きっとみんな仲良く暮らしてたん
らぶ達が邪魔して怒ってるかも
おいマザー
すっごく動物がいるぞ
『動物との触れ合いは癒やし効果があります』
えー凄い
らぶも癒やして
『動物の癒やしBGMを再生します』
非通信端末のビッグマザーから森の中の動物達の鳴き声のヒーリングミュージックが聴こえてく


らぶはあくまでお客さん
動物さん達を刺激するのは良くないのん
ウサ耳を生やして周りを気遣いながら静かに出来るだけ動物さんと友達になれるよーにがんばるん
らぶは一人だったから友達がほしー
もし仲良くなれたらちょっと工場の外で待ってて貰うのん
もし仲良くなれなかったらしょーがない
マザーのライト機能を使ってがおーって警告だ



 たぶん仲良く暮らしてたんだろうなと思った。
 だって、がおーもーもーちゅーちゅーと鳴き喚く動物たちは種類も大きさも違う。
 なのに此処で一緒になって過ごしていたのだ。
 そんなの、仲良しじゃなきゃ出来ない。
 じゃあ、どうやって仲良しになったんだろう。
 お友達の作り方? それを聞いたところで、手元から返る答えは予想がつく。
【ネットワークに接続できませんでした。】
 ほらね、って。

 ◇

「マザー、らぶ達おじゃま虫なのん」
【よくわかりません。虫、をネットワークで検索しますか?】
「らぶは虫じゃないのん」
【はい。】
 傍から見ても当たり前だと思える否定に、端末は最短の定型文を返す。
 なかなか不思議で癖のあるやり取りだ。
 けれども、これが彼女たちの日常なのだろう。
「あの中にも虫はいないな。……でも動物はすっごいいるぞ」
【動物との触れ合いは癒やし効果があります。】
「えー、すごい。じゃあらぶも癒やしてくれるのん?」
【動物の癒やしBGMを再生します。】
 機械であるが故に生じた微妙なずれは、修正される事なく音として発された。
 ぴーぴー、けーんけーん、ほーほー。
 ほとんどは森の中で暮らす鳥のものだろうか。
 恐らくそうなのだが、中身は今、問題でなく。
 およそ聴覚を傷つけはしないが、異音として認知されるに充分な音量が辺り一面に響き渡った事実。
 そちらの方が重要で。

 のそり、のそりと獣たちが近づいてくる。
 牙を剥き、爪を研ぎ、涎を垂らして、のそり、のそりと。
「マザーのせいなん」
【よくわかりません。】
「だまって」
【はい。】
 機械は機械であるが故に、何処までも融通が利かなくて、けれど従順。
 ミュート+スリープモードで完全な沈黙に移行した“マザー”を抱えて、自身を“らぶ”と呼ぶ娘は迫る獣の群れを見る。
 じっと、じっと見つめる。
 そしておもむろに“ウサ耳を生やす”と、媚びるでも恐れるでもなく淡々と言った。
「らぶもお友達になりたいんな」
 飾り気がないからこそ、それは彼女の本心なのだろう。きっと。

 それから暫しの静寂を挟んで、ウサギが動いた。
 忽然と耳が生えた方でなく、元から耳が生えていたほうだ。しかもオレンジ色。
 わらわらと湧くように群れから飛び出したそれは、ウサ耳を生やしたっきり立ち尽くすだけの娘を囲んで、ぐるぐると回り始めた。
 ――はて、何の意味があるのか。
 分からないけど、日頃尋ねる先は押し黙っているから、とりあえずウサ耳を動かしてみる。
 獣たちを刺激せず、けれど此方の意志を伝えるに、何とか頑張ろうとしての行動。
 無言のコミュニケーション。獣的相互理解。
 上手くいく保証も確証もなかった。
 だから危機が訪れたなら、マザーを使って乗り切るつもりだった。
 けど、それよりも。
(「友達がほしー」)
 そう思ったから、ウサ耳をぴこぴこと動かした。
 そのうちウサギの輪の中に小鼠が混じりだして、頭上では鳥たちが円を描き出して。
 ライオンやクマも、のそりのそりと外環の形成に加わっていく。
「……らぶもお友達になれたのん?」
 ぽつりと呟けば、マザーが発したものよりも多種多様な鳴き声が返ってきた。
 何を言っているのかはさっぱりもってちんぷんかんぶんだったけれど。
 それでも、ラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)が群れの中に受け入れられていた事は、認めざるを得ない現実だった。

 ◇

「お外で待てるん?」
 獣との融和を果たしたラブリーが言えば、ライオンが一つ吠えて首を横に振った。
「ここでなら待てるん?」
 今度はクマが吠えて、首を縦に振った。
 外には出たくないが、じっとしているのはやぶさかでないと。
 そういうことらしい。
「じゃー、ちょっとじっとしててな」
 友達なら連れて行ってもいいかもしれないけれど。
 友達なら危ないところには誘わないものじゃないだろうか。
 よくわからないけど、ラブリーはそんな気がしたから群れに待機を呼び掛けて。
 それから、奥へと進んでいく。

「……あ、マザー、おきろー」
【はい。おはようございます。ラブリー】
「なんか友達できたっぽいぞ」
【複数人で楽しめるレクリエーションを検索しますか?】
「あれが人に見えたか?」
【よくわかりません。】
「ウサギと人の区別もつかないか」
【ウサギ、について検索しますか?】
「して」
【ネットワークに接続できませんでした。】
「知ってた」

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロゼ・ラビットクロー
動物……!
もし彼らと戦闘になれば、
正直僕では歯が立たないだろう。

ここは知恵を使って立ち回らなければ。
古来より動物は火を恐れると相場が決まっている。
焚き火を焚いて彼らが去るまでくつろぐことにしよう。

あれ?
なんで動物集まってくるの?
なんか火の周りでくつろぎ始めたけど??
ちょっとそこ勝手にたきぎくべないで!?
目をつつくな!!
ガスマスクしてなかったらエラいことになってたぞ!?!?
ああもう好きにしてください……。

※他人と話す時は敬語。独り言や動物相手には普通。混ざっても問題なし
※ラブリー(f26591)が居る場合。呼び名はラビィ、口調は普通
※単独、連携どちらでも問題なし



 少女の背中を追ってくれば、出会したのは獣の群れ。
 小鼠くらいならともかく、獅子や熊と戦って勝てる気はしない。
 クロゼ・ラビットクロー(宿無し兎・f26592)は現実を無思慮な期待で歪曲せず、在るがまま認識するのだ。そうでなければ、明日をも知れぬ世界で生き残っていけない。
(「……そうだ、頭を使おう。頭を」)
 獣と人の決定的な違いは何か。
 それは(稀に例外もあるが)道具を扱えることだ。牙も爪も衰えて、肉体的にはとても強靭と言えない人がこれまで生き延びてきたのは、道具とそれを扱う知恵のおかげ。
 そして、クロゼは先人に倣う。
 獣が恐れるもの。それはずばり――火。
 遥か遥か古の時代から、人々は火を起こすことで闇と獣を追い払い、安寧を得た。
 いつか何処かで得た知恵の欠片が、こうして今日もクロゼを生き延びさせる。
(「火を焚いてくつろいでいれば、きっと離れていくよね」)
 そこはかとない楽観を醸しつつ、作業に取り掛かる。
 程なく生じた赤い揺らぎは当然温かく、近くに腰を下ろせば思わず溜息が溢れた。

 そうして和んでいたからか。
 異変に気づいた時、それは避けようがないほどに迫っていて。
「……あれ?」
 思わず呟いた頃には、腕を伸ばせば触れられるところに来た。
 それは獅子。つまりライオン。
「……え、え、ええ……?」
 やばい死んだかもしれない。ごめんよラビィ。
 なんて、諦めるにはまだ早い。一匹くらいならば、火を利用してどうにか離れる算段を――とか考えてたら反対に熊が座り込んだ。ああ、終わった。
(「なんで? なんでくつろぎはじめたの?」)
 焚き火は煌々と燃えている。
 知識に誤りがあったのか、それとも獣たちが誤ちの産物なのか。
 前者だとは思い難い。というかそんなはずはない。断言していい。
 では一体――。
「――あああ!?」
 考えている間に火力アップに勤しんでいた。熊が。
「ちょっと、勝手に薪焚べないで!?」
「くま?」
「もうやだ鳴き声からしてなんかおかしい――いた、いたい!」
 まだ現実を受け止めきれていないというのに、今度は大きな鳥が降ってきて目元を突き始めた。
 たまらず追い払ってから見上げれば、まるで獲物を品定めするようにくるくると頭上を回る鳥が幾つも。
「目は! 目はやめて! 目はつつくな!!」
 ガスマスクを被っていなかったら今頃大惨事だ。
 いや、もう既に大惨事なのかもしれないけど。
 隣にライオン座ってるし。熊も座ってるし。
 気づいたら対面にはコアラを乗せた牛がくつろいでいるし。
 なんかウサギとハムスターが集まってきてるし――ああ、とうとう両肩に鷲と鷹が止まった。重い。すごく重い。

「……もう好きにしてください……」
 膝を抱えたクロゼは、暫しの間、置物と化した。
 下手に敵意を覗かせなかったから、争いにもならなかったけれど。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧島・絶奈
◆心情
娯楽は直接生命維持にこそ関わりませんが…
「生きる」為には心にも栄養が必要です
好みや得手不得手はあるでしょうけれど、例え細やかでも潤いはあるべきだと思います

◆行動
さて…此処は野生動物の王国と化しているようですね
折角【動物と話す】術を持っているのですから「穏便に」解決したいものですね
…【優しさ】と【恫喝】で穏便に

『暗キ獣』を使用
己の存在を誇示しつつ示威行進を敢行

自然に生きる者ならば彼我の実力差は明白でしょう?
此方を害さない限り、私も貴方方を傷付けるつもりはありません
そうですね…手伝ってくれるのであれば、些少ではありますが食料をお礼として差し上げましょう

もし戦うというのなら…容赦はしませんよ?



 心臓を動かすだけなら水と幾つかの栄養素で事足りる。
 だが、そうして鼓動と熱を保つだけが“生きる”ということか。
 否。“生きる”とは、もっと豊かなものであるはずだ。
 人が人として生きる。その為には、心にも栄養を注がなければならない。

 そして。
 アポカリプスヘルの片隅には、拳大の白球を心の糧とする者たちが居るらしい。
 ともすれば「そんなもので」と思う者もいるだろう。
 それは間違いでない。
 人の心が求めるものは千差万別。ただ一つで全てを癒せるはずがない。
 けれど「そんなもの」で明日を生きられる人が、少なからず居る事も確かなのだ。
 ならば、手を差し伸べよう。彼等の可能性を明日に繋ぐべく。

 ◇

 かくして。
 廃工場に降り立った霧島・絶奈(暗き獣・f20096)を、数多の獣が迎え撃つ。
 縄張りを侵すものは何人たりとも、何者であっても拒むと言わんばかりの唸り声。
 常人ならば腰を抜かすか、今すぐ踵を返して逃げ惑うだろう威圧感。
 それらを前にして――絶奈は微動だにしない。
 そも、彼女が目の前のそれを獣と認識しているかどうかも怪しい。
 動物と獣。同じものを指し示すであろう言葉にも、絶奈からすれば大きな隔たりがあるのではないか。
 何故なら彼女が引き連れるものこそが獣であって。
 そして、彼女こそが。
 殺戮を嗜好する獣であるのだから。

 しかし、だ。
「私に貴方方を傷つけるつもりはありません」
 至極穏やかな語り口で言った絶奈は、己の姿すらも変えながら、屍獣と屍者を連れて進み出す。
 一糸乱れぬその行進は示威的で、厳かで。
 ひれ伏すならば慈悲を、手向かうならば――と、絶奈の意志を表すに充分。
 それを感じ取れないようなら、如何に獅子でも熊でも、野生で過ごすことなど出来るはずがない。
 強者を強者と認められない者に待つのは、只々簡潔な“死”以外ないのだ。
 故に唸り声はすぐさま止んで、行く手を阻む動物たちは二つに分かれた。
 そうして開かれた道を、絶奈は緩やかに行進する。
 威厳を保ちつつ、けれど僅かに慈しみも覗かせて。
「……手を貸す、というのならば。些少ではありますが食料でも差し上げましょう」
 半ば独り言のような呟きに、数頭が鳴き声を返してから列へと加わる。
 明らかに言葉を理解しての反応だったが、何も不思議なことはない。
 かつては全てを一つの言語が結んでいた時代もあった、などと語る書も在る。
 そして、神は全てに等しく慈悲を与えられるからこその神でもある。
 ――いや、根拠を血眼で探さなくとも、ただ現実を認めればよいのだ。
 獅子も熊も牛も鳥たちも、全ては絶奈の前に退き、頭を垂れた。
 綴るべき事実は、それだけである。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『フレイムアーミー』

POW   :    ファイアスターター
【火炎放射器の炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【ゲル状の燃料を燃やすことで生じる】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    トリプルファイア
【火炎放射器】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    ヘルファイア
【火炎放射器の炎】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を炎で包み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 様々な方法で獣たちを退けた猟兵は、廃工場の奥へと進む。
 幸い、道に迷うことはない。廃れたとはいえ、かつては人が管理していた土地。
 何処に行けば何があるか親切丁寧に書き記した板なども貼り付けてある。
 それを頼りに幾つか手付かずの保管庫なども検めつつ。
 白球を確保すべく歩みを進めれば――。

「……燃やしてやる……」

 目的の倉庫の前。
 広々とした通路に現れたのは、ガスマスクに火炎放射器を装備した兵士たち。
「燃えろ、燃えろ、燃えてしまえ」」
「オレたちゃガソリン担いだファイヤーマン」
「誰かを燃やすぜ。己も燃やすぜ」
「炎上上等。守りは不要。いくぜファイヤーフォーメーション――!」

 ぶつぶつと口々に呟いた兵士たちは、扇状の陣形を取る。
 数は八――いや、もう一人。猟兵の背後からぬらりと現れた者が居た。
 九人だ。白球を運び出す前に、まずは彼らを退けなければ――!
============================
プレイングの送信は【5/1の8:30~】でよろしくお願いします。
============================
楊・宵雪
(こういう燃料は強力だから気休めかもだけど…
衝撃波で延焼部分を消火
敵のいるところ、味方に危険のある部分を優先する
誤って味方を攻撃しないよう、味方には風圧だけが当たるように攻撃箇所を工夫

延焼部分を無闇に広げないよう、切り込むよりは敵を包囲するように位置取る

各個撃破を心がけ、他の味方の援護をするように立ち回る
オーラ防御で被弾を防ぎながら交戦
部位破壊で脚を狙い敵の動きを止めようと試みる

複数の味方が敵クロスファイアに巻き込まれることがあったら鍼治療で回復
戦線を立て直す


ニニニナ・ロイガー(サポート)
ど〜も~
要請を受けて参りました、UDC職員のニニニナとドビーちゃんっす。
よろしくっすよ〜

そんなわけで、どんな触手がご入用っすか?
長い触手に太い触手、幅広触手に細触手。
鋸歯つきのゴリゴリ削れる触手にヒトデみたいな手裏剣触手、
ドリル触手に粘着触手に電撃触手その他色々行けるっすよ。
あるいは溶解液を吐く触手とかご所望っすかね?
麻痺触手に毒触手に石化触手になんなら自白用の催眠触手とか…
後は耐熱耐冷耐衝撃触手に再生触手なんかもOKっす。

マニアックな所だと按摩触手に美肌ローション触手、電脳アクセス触手とかも便利っすね。
あ、触手本体は見えないようになってるので、
一般人が狂気にとか気にしないで大丈夫っすよ~。



 赤々と燃えて揺らめく灼炎が行く手を阻む。
 その熱波から逃れようと、僅かに後退れば退路も炎が塞ぐ。
「いや~、割と面倒なところに喚び出されたっすね~」
 ニニニナ・ロイガー(一般UDC職員・f17135)は頭を掻き、ちらりと傍らの女仙を見やった。
 雪のような白毛、ぴんと立った大きな耳。地を擦るほどに長く立派な九尾と、それが常であると思しき柔らかで艶やかな微笑み。
 静かに立ち尽くす楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)は、向けられた視線に気づくと微笑みを浮かべたまま、すらりと伸びた白い指で宙をなぞる。
「熱く燃え上がる、だなんて。そんなの恋だけで充分よね」
「そっすね~」
 ニニニナの返事は明らかに右から左へと受け流すもの。
 けれど、宵雪は怒るでも不貞腐れるでもなく、宙に置いたままの指をニニニナへと向けて言葉を継ぐ。
「援護なら任せてほしいのだけれど……」
「あ~、じゃあアタシは前でゴリゴリやる感じでいいんすね~」
「ええ。お願いできるかしら?」
「承りっすよ~。まあ、働くのはアタシじゃなくてドビーちゃんなんすけどね~」
「ドビーちゃん……?」
「視えないんで気にしなくっていいっすよ~」

 などと言うが早いか。
 ニニニナの元からは太く長く悍ましい、けれども不可視の触手が伸びた。
 熱などものともしないそれは前方に立つ兵士たちを乱れ打ち、まず二人ほどをあっという間に叩き伏せる。
「マスダとヒライが……!」
「狼狽えるなオオイシ!」
 まだ無事な兵士の一人が叫び、引き金を引く。
 途端、忽然と巨大化した火炎放射器からは竜の息吹の如き凄まじい炎が吐きつけられたが――その豪熱は冬山から吹き下ろすような風に阻まれて、ニニニナにまでは届かない。
 それを喚んだのは勿論、熱気立ち込める戦場で一人優雅に佇む宵雪。
 先に後方を塞ぐ一人を牽制しつつ、宙に置いたままの指を撫でるように動かして前へと向け、衝撃波で脅威を掻き消したのだ。
 猛炎追い払うほどの力。ともすれば味方すら巻き込みかねないが、其処は仙女たる宵雪の腕の見せ所。至極繊細な手付きで寒風を操り、牙剥く相手を敵意在る存在だけに限定してみせる。
(「気休め程度かもしれないと思ったけれど……」)
 敵の炎は確かに強烈だが、しかし絶望するような脅威ではない。
 一時の僚友と離れすぎないように、けれど一緒くたに焼き払われない程度の距離を保って、宵雪は自らにも神秘の守りを施しながら、炎を鎮め続ける。
 その援護があれば、ドビーちゃんもより暴れまわれると言うもの。
 不可視の触手は弱まった炎を裂いて迫り、至近距離からのフルスイング一発で兵士たちの意識を彼方へと打ち上げていく。

 そして程なく、行く手を阻んでいた八人は全員ノックアウトされて。
「……くっ、オオイシにオノデラまでやられるとは……」
 退路を塞ぐことで仲間の援護をしていた一人が、ガスマスクの中に苦悶を漏らす。
 刹那、垣間見えた隙に宵雪が間合いを詰めて、流れるように足払いを掛ければ。
 体勢崩れた最後の獲物に、ドビーちゃんがこれでもかと襲いかかった。
「う、うわあ、あああああああ!?」
 ただ一人で抗えるはずもなく、兵士は視えざる狂気に飲み込まれていく。

「あ~い、お仕事終了っすね~」
 まるで戦いに臨んだとは思えない調子で言うと、ニニニナは肩を揉む。
 そして、俄に目を瞬かせて。
 ふと自らの片手を確かめれば、其処は微かに赤く焼けていた。
「あ~? まじっすか~?」
 炎を浴びたつもりなどないのに――と、今しがたの出来事を思い返すニニニナに、宵雪はそっと近づき、手を取って。
「ちょっと痛いかもしれないけれど、火傷を残したままよりはいいはずだから」
 呟き、その答えも聞かないままに乳白色の鍼を当てる。
 ちくりと走る痛みに、ニニニナは僅か顔を顰めたが――。
「……お、おお~?」
 瞬く間に肌の色が治っていくのを見れば、ふと思いついたように肩を叩いて。
「それ、凝りとかにも効いたりするっすか~?」
 なんて調子よく問う。
 それに宵雪は無言のまま微笑みかけると、鍼をもう一つ取り出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロゼ・ラビットクロー
ラブリー(f26591)と
ラブリーのことはラビィと呼び、普通の口調
他の人には敬語

ラビィの親戚みたいなのが出てきたな。
炎を撒けば自身も煙でやられてしまうが
そのためのガスマスクか。
戦術は僕に似ている。ならば…

今回使うグレネードは消火弾、爆弾、そして閃光発音筒。
消火弾はラビィを守るためだが、
使う状況にならないのが望ましい。

投擲爆弾は素早く投げる必要もなければ、
最初から当てる必要もない。
爆発の衝撃波で炎や周囲の可燃物を吹き飛ばす
“爆風消火”に用いるのが目的だ。
ラビィが撒き散らした器材を盾に、
器材ごと吹き飛ばして消火帯を作り出す。
そこに閃光発音筒。
ガスマスクでは閃光と爆発音を防ぐことは出来まい。


ラブリー・ラビットクロー
クロゼ(f26592)と
クロゼの事は
ししょー
くろ
くろぜ
等気分で自由に呼ぶ

めっちゃ炎を撒き散らしながらガスマスク
らぶとそっくり
そっくりだ(二度見)
しょーがねーのん
ししょー
マザー
らぶ達もいくぞ
ラビットフォーメーションだ
【お気をつけて行ってらっしゃいませ】

工場は安全確認ヨシ!が大事だってししょーがゆってた
周りを見るとネットを巻いたロールとか
バットを沢山立て掛けたラックとか
色んなのがあるぞ
ししょーはなんだかもう戦い始めてるしきっと安全確認はした筈だかららぶも戦い初めてヨシ!

偽神兵器の翼で無差別に暴れ回っちゃうぞ
しかも3回
めっちゃネットが転がるん
バットとか沢山落ちてるん
場は温めといたよ
ししょーやっちゃえ



「ししょー、どうした? おなかでもいたいん?」
「……いや……別に、大丈夫……」
 “ぜえはあ”と肩で息をしながら、クロゼは片手を少し突き出すようにして答える。
 どうにか追いつけたのはよかったけれども、あの動物軍団と焚き火を取り囲む神秘体験のおかげで失った時間を取り戻すのに、まあ走った走った。
「ラビィ……ラビィは、どうやってあれを……通り抜けたの?」
「あれ?」
「ほらあの、動物がいっぱい居たところ」
「あー」
 その話か、と少女は手を打つ。
「友達になった」
「とも……だち……?」
「みんないい子だったんな。ししょーはお友達になれなかったん?」
「……え……いや、どうだろう……」
 穏やかに火を囲んだあれを友達と呼んでいいものか。
 なんて、逡巡する間にラブリーが肩を“ぽん”と叩いて。
「くろぜもお友達の作り方、勉強しないといけないんな」
「やめてくれ」
【友達の作り方、を検索しますか?】
「やめてって」
 なんだかとんでもなく寂しい誤解をされている気もするが、それより何より、今は目の前に立ち向かわなければならない脅威がある。

「……一応聞いておくけど、親戚とかじゃないよね」
 行く手を阻むガスマスク&火炎放射器軍団。
 それを指差して尋ねるクロゼに、対するラブリーの返答は。
「ししょー」
「うん?」
「らぶとそっくり」
「……うん」
「らぶとそっくりだ」
「見れば分かるよ。だから二回言わなくていいし、二度見しなくていいから」
「あれはらぶのしんせき? だったりするのん?」
「僕から聞いておいてなんだけど違うよ絶対」
「ししょー」
「なに?」
「やっぱりおなかいたいから早口なん?」
「むしろ痛いのは頭……ああいや、なんでもないよ」
 本当に頭痛がしていると思われたら、また話がややこしくなる。 
 クロゼは口を噤んで、再び前を見る。
 敵は八人。……いや、九人。
(「……たった一人でも後ろを取られたのはよくないな」)
 このまま挟撃の状況で、本格的な戦いに移ればどうなるか。
 それこそ火を見るよりも明らかだ。
 まして、今のクロゼにはラブリーという守るべき存在も居る。
「いいかいラビィ、まずは僕が――」
「ラビットフォーメーションだ」
「……え?」
「あっちがファイヤーフォーメーションなら、らぶ達はラビットフォーメーションやるしかないんな」
「……え、ラビット……?」
「おくのて、だったけどしょーがねーのん。ししょー、マザー、らぶ達もいくぞ」
「ちょっと待ってラビットフォーメーションて」
【お気をつけて行ってらっしゃいませ。】
「まって」
 今日はどうしてそんなに掻き乱すのか。
 ……あれ、いつものこと?
(「僕が甘やかしすぎた……とか、そういう?」)
 クロゼは悩む。
 ラブリーは待つ。
 彼女が「いくぞ」と声を上げておきながら飛び出さなかったのは、まだ“ししょー”からGOサインが出ていないからだ。
(「工場は“安全確認ヨシ!”が大事だって、ししょーいってたからな」)
 その“ししょー”がまだ動かないということは、つまり“ヨシ!”じゃない。
 それが“ヨシ!”になるまで、ラブリーは周囲をぐるりと見回しておく。
 辺りにはネットを巻いたロールだとか、バットを沢山立て掛けたラックだとか。
 手袋や靴下の束とか。つるんでぴかんなヘルメットとか。
 あと白くて厚い板みたいなのとか、何かの部品の山とか、割と色々ある。
(「おみやげたくさん。もってかえったらよろこぶ?」)
 熊にはヘルメット。ライオンには靴下。
 ウサギとハムスターズには、齧り倒せるバット?
 なんて、考えているうちにクロゼが動いた。
「ししょーまだ“ヨシ!”っていってないん」
 でも動いた。
「“ヨシ!”なん?」
【よくわかりません。】
 マザーが無意味な返答をする間に、クロゼは擲弾を放り投げる。

 それは素早く投げつけたのでもなければ、必中を志してもいない。
 クロゼの狙いは他にある。火炎放射器を携えて、戦場を真っ赤に染めようという敵に対する、別の意図。“爆風消火“!
(「燃えるものさえなければ、そもそも炎は広がらない!」)
 幾つもの擲弾を投げて、敵の炎と此方との間に新たな熱波と衝撃を生む。
 目論見は――まずまずの滑り出しだろう。兵士たちは何故か巨大化した火炎放射器からこれでもかと炎を噴いているが、それは銃部のパイプから伸びるばかりで、意外や周囲には残らない。
 あとは――。
「ししょー」
「っ、ラビィ!?」
 先を考えるクロゼの思考が、聴覚に届いた声で途切れる。
 ふと視線を動かせば――少女は凄まじく強そうな、けれど実際にはとてつもなく弱いという、巨大な六翼を生やして。
 戦場を見境なく駆け回り、暴れ回り。ありとあらゆるものをぶちまけていく。
 バット、ミット、ネット、メット、ナット……割と燃えそうなものから、燃えないゴミに等しいものまで。何もかも。
 まるで子供がおもちゃ箱をひっくり返すようだ。
 普段ならさすがに叱りつけるべきかもしれない――が、今は違う。
 場は温めておいたぞと。やってしまえと。そんな雰囲気で親指立てるラブリーが撒き散らした資材器材を盾にして、或いはそれごと爆風で飛ばして、クロゼは徹底的に火の及ばない一帯を作り出す。
 それから満を持して繰り出すのだ。ガスマスク。燃え盛る炎が生み出した煙は防げても、決して無敵ではないその防具を貫く為の一打。
 すばり、閃光発音筒!
「ラビィ!」
「ん」
 合図を出して、少女が頭を抱えるようにしながら屈むのを見やり、自らも視聴覚を守る。
 クロゼがそうするまでに掛かった時間は、ごく僅か。瞬きするほど。
 それも仕掛ける側だからこそ。仕掛けられる側は、たとえ反応して動き出すにしろ、僅かな遅れが必ず生じる。
 その一瞬が全てを分けるのだ。強烈な閃光。耳をつんざく爆発音。防御出来なかった二種の衝撃は、火炎放射器構える敵から世界を奪う。
 視えない。聞こえない。見当識の失調は兵士たちに焦燥を与えて、苦しみ悶ながらも慌てる彼らは、最もすべきでない手段を選ぶ。
 即ち、敵味方の区別もない攻撃。無差別火炎放射。微かに揺らめく影が何者か、明確になる前に引き金を引いて――仲間を燃やす。
 それが八人の暴挙ともなれば、起こる惨劇は相当なもの。
 行く手を阻む部隊は瞬く間に一つの炎の塊となって、程なく燃え尽きる。
 後は一人取り残された後方の兵士を、擲弾で片付けてやれば、おしまい。

「ラビィ、無事だね?」
「ん。マザーも元気なん」
【はい。なんでしょう。】
 いつもと変わらない調子の少女たちを見て、クロゼは胸を撫で下ろす。
 万が一の為に用意していた消火弾。
 それを使う状況にならなかったということは、危機を存外上手く切り抜けた証。
「……でも、気をつけていこう」
「何かあるん?」
「いや、何もないだろうとは思うけど……」
【今日の外出の予定はありません。】
「マザー、ついにここがどこかもわからなくなったか」
【現在地を確認しますか?】
「やってみろ」
【GPS信号が失われています。】
「なー。よくわかんないけど」
「とりあえずラビィ、マザーとのお喋りはそこまでにしよう」
「ん」
 二人と一台。揃えば随分賑やかな彼らは、白球というお宝待つ倉庫の扉を開ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈
◆心情
成る程、9人ですか
妙な所で野球と同じなのですね

◆行動
…巻き込むのは偲びありません
動物達には逃げる様に促しましょう

さて、火炎放射器の恐ろしさは消えない炎の液体だと言う事です
とはいえ、対応手段は皆無ではありません

『暗キ獣』を使用
軍勢には「音波消火器」を所持させ、火勢を相殺
燃え続けるというのなら、消し続ければ良いだけの話です

私も球を打つとしましょうか
【罠使い】の技能を活かし「魔法で敵を識別する指向性散弾」を設置
尤も、球は球でも…と言う類のものですが…
まあ、嘘は言っていません

加えて【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【火炎耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復



 それは野球の神様。
 否、確かに神では在るが、少なくとも野球を司ってはいない。
 けれど驚くことに(?)絶奈は野球を識っていた。
 その恐ろしさすら感じるほど神々しい雰囲気から、野球という言葉が放たれただけでも正気を疑ってしまうような気がするが。
 しかし、彼女は転がっていたバットを拾い上げて。
 見惚れるほど美しく構えた。

 そして、静止したままで呟く。
「お逃げなさい」
 途端、付き従っていた動物たちが反転、来た道を戻り始める。
 其処には一人、退路を阻むものがいるが――。
「……弾ですから、これも球でしょう」
 天地すらも揺るがすような独り言を溢した後、絶奈は痛烈なライナーを放つ。
 それは件の敵に向かって進み、直撃間際で細かな球、もとい弾となるべく爆ぜた。
 ともすれば撤退中の動物すら巻き込みかねない愚行に見えたが、まさか、神ともあろうものが粗雑な事をするはずがない。
 魔法を掛けられた散弾は、吸い込まれるように討つべき敵の身体にだけ沈み込んで、それを過去へと葬る。
「オ、オーヌマ隊長が……!」
「俺達のオーヌマ隊長が、あんなにあっさりと……!」
 残る八人に動揺が走る。
 一方で、絶奈は動物たちが無事に脱していくのを見送ると、討つべき敵へと向き直って、再びバットを構えて。
 散弾を打つ前に、蒼白き燐光の霧を纏う。
 刹那、忽然と湧き出て来たのは応援団――でなく、先頃は絶奈と共に葬列の如く歩んでいた、屍獣の群れと屍者の軍勢。
 常ならば隙間なく隊伍を組んで槍を構える屍者たちは、武器を音波消火器に持ち替え、敵兵へと低周波を放った。
 水などでは鎮めようもない火炎放射器の炎も、それが起こす空気の振動によって勢いを殺されていく。
 ――燃え続けるならば、消し続ければいい。
 至極単純であるが故に一つの真理。
 かくして炎と不可視の揺れがせめぎ合う最中、異端の神々の似姿へと変貌した絶奈は地獄のノックを繰り出す。
 どれもこれもが鮮烈で、捕球することなど全く考えていない凄まじい一打。しかも扇状に展開した敵の各ポジションへと、寸分違わず引っ張り、流し打つ。
 正しく神業的バットコントロール。その一振りで二度、空を裂き衝撃を奔らせて。
 勝負は一方的。ワンサイドゲーム。九打で斃れる九人。
 その結果よりも恐ろしいのは、仮に――仮に絶奈が屍者たちを喚び出さず、その身を炎に巻かれたところで、恐らく“結末は変わらなかった”であろうということなのだが。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仙巌園・桜
試合開始前から貴方たちの敗北は約束されてるのよね~
だってさ~炎上上等なんでしょ?
しかも君達9人でそのフォーメーションは目も当てられない…守備側じゃん。
この状況で使う炎上ってどういう時に使うか知ってる?
知らないならば教えてあげよう。滅多打ちされてる時よ!!
分かるかどうか知らないけどこれから滅多打ちにされる方は貴方たちの方よ?

さぁ、薩摩片付けてきなさい。
目指せ9打数9安打9打点だよ~。
大丈夫この敷地内に限ってはせんちゃんの予想は当たるから!
しかも勝手に自爆して同士討ちやらするから、自分達で言ってるし。
……本当だからそんな目で見るのはやめなさいってば

せんちゃん?今回もあんたの活躍見てるから。



「かっとばせー! さっつっまー!」
 廃工場の片隅に響き渡る声援。
 打ち鳴らされるメガホン。
 舞台は整った。小竜の前には扇状に展開した八人の兵士。
 振り返ると同じ姿がもう一人。
 ついでに端の方へと目を向ければ、主が楽しげに腕を振っている。
 ……その縞々の服は何処から調達してきたのですか。
 なんて、薩摩は問いかけない。
 小竜は今、真剣勝負の場に立っているのだ。
 立たされているともいうが。
 ともかく燃やすか燃やされるか。集中を欠き、相手から目を離せばたちまち炎が襲い来るだろう。火炎放射器の銃口は全て薩摩に向けられている。
 だというのに。
「へいへーい! びびってるびびってるー! 薩摩やっちゃいなさーい!」
 ご主人よ。随分生き生きと野次られておりますな。
 小竜はじぃっと、桜を見やる。
 その視線はさすがに知らん振り出来そうもなかったか。
「だからそういう目は止めなさいってば~」
 メガホンを通じて、何故か呆れたような声が返ってくる。
 ……呆れたいのは小竜の方では?
 仄かに漂う戦場とは思えぬ空気に、八人組が顔を見交わす。

 瞬間、薩摩は糸を引くように飛んだ。
 160km/hくらいの迫力で、とかく何処にでも当たれとばかりに突撃を掛ければ、その猛攻は八人組の一人の左肘辺りを直撃して。
「うぐおおおおおお」
 よほど当たり方が悪かったのか、被弾した敵は腕を押さえながら倒れる。
「タ、タカハシ!」
「古傷があるタカハシの左肘を狙うなど、なんと卑怯な!」
「いや知らんがな」
 過剰な反応に桜が呟くも、スタンド観戦中の彼女に兵士たちは見向きもしない。
 火炎放射器を構え直して、ついに薩摩を焼き払わんと炎を噴く。
 ――が、彼らは小竜の機敏さを侮りすぎた。
 薩摩は狙われるより先に動く。兵士たちが炎の噴射口を向けようとする動きの隙を盗んで、次々に体当たりを仕掛けていく。滅多打ちだ。
 それは扇状の布陣に渦を巻くような軌道で。
 痛みと苛立ちに混乱の度合いを深めていく兵士たちは――引き金に掛けた指を、随分と軽率に動かしてしまった。
「――――あ」
 気づいた時には、もう遅い。
 薩摩の機動力にすっかり翻弄された彼らは、向き合って輪になるような状態のまま炎を噴く。
 結果は言わずもがなだが、敢えて言えば。
「燃えたな~」
 のんべんだらりと戦況を見守る桜の前で、八人をも取り込んだ巨大な炎塊が煌々と燃え上がる。なるほど、まさしくファイヤーフォーメーションな光景だ。
 酒とつまみがないのが、何だか惜しい。
「ま~、別にこんなの見ながら呑んでも美味しくないだろうけど~?」
 にへらと緊張感の無い笑いを浮かべて、桜はメガホンを取る。
「せんちゃん喉乾いてきちゃったから、とっとと終わらせて帰るよ~」
 呼びかける相手は当然、薩摩しかいない。
 残る敵も退路を塞いでいた一人しかいない。
「な、なんということだ……」
 まさか小竜一匹にやられるとは思わなかったか。
 最後の一人は炎を噴くのも忘れて呟いた。
 その哀れな様に向けて。
「始まる前から終わってたもんね~」
 桜は何故か勝ち誇って、言葉を継ぐ。
「守備側で炎上とかファイヤーとか、意味も分かんないで言っちゃダメよ~?」
「……どういうことだ……?」
「せんちゃんも知らな~い」
 すっとぼけているのかそうでないのか。
 まるで掴みどころのない台詞に只々呆然とするばかりの兵士は、忍び寄る薩摩の牙に仕留められて、仲間たちの後を追った。

「やるじゃない薩摩~。9打数9安打9打点だよ~。MVPだよ~?」
 舞い戻ってきた相棒を撫でて褒める。
 けれど、今日のヒーロー。
 もとい今日“も”ヒーローな小竜は、さも当然と言わんばかりに聞き流して。
「言った通りだったでしょ~。ここではせんちゃんの読みが冴えるんだってば~」
 自爆に同士討ち。相棒の大活躍。
 戦う前に予想した通りの結果になったと、桜はやっぱり、己を誇るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルエリラ・ルエラ
【アドリブ改変・連携歓迎】
何故燃やしたがるのか
まぁ人間色んな趣味あるからね…
何にせよ炎と芋煮の相性はバッチリ。美味しい芋煮をお届けしよう


今回もいくよ【芋煮ビット】!
火炎放射器の炎を全部芋煮満載のお鍋で受け止めるよ。
そうする事によって美味しい芋煮がさらに熱々になって美味しさアップ!
そしてそのまま相手にダバァ。敵はダバァされた熱さでなにもできないはずだから、そこを一緒についてきた動物さん達と一緒にタコ殴りにするよ
流れ炎で周囲が燃えちゃってたら芋煮ダバァで消化消化。
え?食べ物を粗末にするな?大丈夫大丈夫。環境に配慮された火災消化用の芋煮だからセーフ。言ってて意味わからないけどUCだからしかたないね



 ルエリラが芋煮に魅了されたように。
 彼らは炎に夢を見ているのかもしれない。
 いや知んないけど。
「まぁいいよ。人間、趣味は色々だからね」
 それに、どうせ全ては芋煮に集束するのだ。
「さあ美味しい芋煮をおみまい、いやお届けするよ」
 九つの火炎放射器が向けられても狼狽えることなく、ルエリラは今日も芋煮という恒星の周りをくるくるふわふわと回る。
 意味分かんない? 分からなくていいんだ。
 ただ芋煮という概念を受け入れよう。

「――じゃあ行くよ、芋煮ビット!」
 行く手を阻む八人と、退路を塞ぐ一人。
 その全てに芋煮の素晴らしさを知らしめるべく、ルエリラは異空間から鍋いっぱいの芋煮を喚び出し、差し向ける。
 火炎放射? 問題ない。むしろ好相性だ。
「芋煮がどうやって作られてると思う? ――そう、炎でことこと煮込むんだよ」
 どやぁ。考えれば秒で分かる知識を殊更大袈裟に披露しつつ、ルエリラは芋煮を巧みに操る。
 芋煮を巧みに操る。不思議な言葉だ。
 さておき、芋煮をたっぷり抱えた鍋は炎に晒されたくらいじゃ止まらない。
 むしろ煮込まれて熱々、美味しさ倍増!
「その美味しい芋煮を! 芋煮をー?」
 だばぁ。ダバァ。だばだばダバァ。
「熱ッ――!?」
「ああああああっ!?」
「しまった! オサダとタカギが!」
「だから防火服は首元までちゃんと締めて着ろと言ったんだ!」
 狼狽する兵士たち。乱れ飛ぶ芋煮鍋。倒れ伏す兵士たち。
「……よし、ゴー!」
 ここが攻め時とルエリラが合図を出せば、芋煮を分かち合った仲間が――ライオンや熊、牛、猛禽類などが次々とオブリビオンに襲い掛かる。
 その牙や爪は、決して侮れないもの。
 新たな炎噴くより先に襲い来る獣に抗えず、兵士たちは次々に過去へ葬られていく。
 その中にルエリラも混じって、ひとしきり敵をタコ殴りにしてやって。
 ふぅ、と額を拭えば、辺りには炎の名残。
 なるほど。
「芋煮の出番だね」
 確信に満ちた頷きを一つ挟んで、芋煮ビットを傾ける。
 またダバダバと零れ落ちる汁やら芋やらが、あっという間に炎を鎮めていく。
 なんだか面倒くさい団体とかに知られると烈火の如く怒られそうな光景だが。
「大丈夫大丈夫。これは環境に配慮された火災消化用の芋煮だからセーフ」
 消火用芋煮。それなら問題ないね!
「……あ、こら、それは食べる用じゃないから」
 お腹空いたならこっち食べなさい。
 やたら美味そうな消火剤の匂いを嗅ぐ動物たちに、ルエリラはそっと芋煮を差し出した。
 もちろん、自分の分も出して食べるよ。
 うーん、やっぱり一仕事した後の芋煮は、美味しい!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…ところで師父、あの球を如何やって使うのだ
転がして追わせるのだろうか
今問うなと睨まれれば納得し敵へ向く

もう春も終わりというに
暑苦しい格好をしているな
しかし燃やせというなら吝かではない
師父、細かいところは任せた

師の髪一筋として焦がさせぬよう盾となり
敵以外を焼かぬよう範囲を絞った
【うつろわぬ焔】にて薙ぎ払う
勢いを削いだ兵どもへと
背から凍て風吹き付ければ道を開け
そら、大将の御成りだ
今度は容赦が無いぞ

師を安堵させるべく声を
少々炙られた程度では大事無い
俺の肌は元々よく焼けている故


…球を沢山運ぶには如何すれば良いだろう
いくつか抱えてみれど零れ落ちる球を前に
師へと助けを求めてみるなど


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
は、球?
斯様な疑問、後に取っておけ
ステーキにされたくなくば疾く片付けるぞ

従者の炎で焼かれる敵を眺めては
魔方陣を描き【女王の臣僕】を召喚
ふふん、火傷を負った身を冷やしてやるのだ
私の寛大な心に、喜びに咽ぶが良い
謎の機器より放たれる炎の動向を予測する為
その放出口には常に注意を払う
蝶を集め、氷を盾として用いる事で
可能な限り敵の炎を防ぐ
彼奴等の強化を妨害する為
炎に包まれた地点を凍てつかせようぞ
…やれ酷い火傷はしておらぬであろうな?
後で確と手当しておかねば

ふむ、そうさな
大量に運ぶとなればそれなりの道具が欲しい
ふと己が纏う外套を見ては
脱いだそれを風呂敷代わりにすれば
物資を包めるのでは?



 行くも戻るも炎が阻む。
 絶体絶命。そう呼ぶことさえ考えられる状況で。
「師父」
 弟子がやたら神妙に何事か言おうとするものだから、アルバは当然、耳を傾けて。
「あの球を如何やって使うのだ」
 ――うむ、理解ってはいた事だが、然し。
「は、球?」
 口にしてから、何とまあ間抜けな反応を返したものだと自戒する。
 そして眉根を寄せたままで一つ息吐いて、弟子の弟子たる所以と言うか、平たく言えば「此れはこういう奴なのだった」と噛み締めていれば、ジャハルは依然として炎の向こうにある白球を眺めたまま、至極真剣な顔で呟いた。
「……転がして追わせるのだろうか」
 全く、嗚呼、全く。
「斯様な疑問、後に取っておけ」
 じっと睨めつけながら諭す。
 ジャハルは二つほど瞬きをしてから頷き、焦点を白球より手前に合わせた。
 その横顔は何とも頼もしく映るのだが、しかし一皮剥けば童のような事を言い出す。そんな弟子の尻をもう一叩きするには何と言うべきか。
 極々僅か、一瞬未満の思案の末、アルバは言葉を継ぐ。
「ステーキにされたくなくば疾く片付けるぞ」
「うむ」
 すこぶる素直な返事を寄越したジャハルは、然も当たり前の事だと言うように、アルバを庇って立つ。

 世界それぞれに風土の差はあれど、今頃は概ね春の終わりを感じる季節である。
 だと言うのに、行く手を阻む敵は全く肌を露出していない。
 四肢のみならず、顔までも奇怪な面で覆っているのだ。
「随分と暑苦しい格好をしているな」
 ジャハルは覗き込んだ池に石を投げるかの如く、やや挑発的な物言いで様子を窺う。
 返答は――ない。強いて言えば、僅かばかり噴き出された炎が拒絶を示しているだろうか。
「……師父、細かいところは任せた」
 背に庇うアルバへと振り返らずに言って、答えも待たずに一つ息を吸う。
 いや、わざわざ返答を待つまでもないのだ。昨日今日結んだ師弟の契りでなし、任せるなどと言葉にしなくとも、師父は師父としての有り様を違えぬだろう。
 故に、ジャハルも弟子として為すべきを為せば良いのだ。
 今此処に在って、それは師父を脅かすものに立ち向かう事。
「――還れ」
 呟き、喉奥の魔方陣より生み出されし黄金の焔で、敵のみを焼き払う。
 向こうも尽きる気配のない、魔法じみた炎を武器としているようだが。
 それと竜の息吹たる焔。どちらが真なるものかなど比べるまでもない。
 喉奥に刻まれた、弟子たる証左の一つに意識を集中させて。
 ひたすらに敵だけを焼く。灼き尽くす。

 その様を後ろから眺めつつ、アルバも弟子に応えるべく魔方陣を描く。
 ジャハルが焔を放つのであれば、此方は――。
「……ふふん」
 どれどれ。一つ、師父などと呼ばれる己の寛大なる心を見せつけてやろうか。
 喚び出すのは青き蝶の群れ。
 気品溢るる羽ばたきにて、舞い飛ぶ最中に落とすは冱てる鱗粉。
「火傷を負った身を冷やしてやろうと言うのだ。喜びに咽ぶが良い」
 師父は師父であるが故、偉ぶってもよいのである。
 尤も、オブリビオンからすればアルバは只の敵であるから、それは傲岸不遜であるようにしか映らないのだけれども。
 何、すぐに葬り去る相手が何を想おうと知った事ではない。
 敵の気勢を表すような炎を鎮めながら、一点に蝶を集めて氷盾を作り、熱波の噴出それそのものを防ぐ。
 未だ、如何にして猛炎を生み出しているのかまでは解明できていないが、それほど融通の利くものではないだろうとは予測がつく。兵士たちが握る部分の向きにさえ注意を払っておけば、前に弟子を置かずとも危うい事態とはなるまい。

 ならば遮らぬようにと道を開け、情け容赦ない大将に火の始末を任せたジャハルは、戦場に残る最後の懸念と向き合う。
 刹那、それは予想だにせぬ勢いの火を噴いて。
「――――!」
 万が一にも、師父の髪一筋として焦がしてはなるまいと己を擲てば。
「ジジ!」
 先への道を阻む八人を片付けた師父が、驚愕を声にする。
 それに片手だけで応えて、ジャハルが再び黄金の焔を生み出せば、最後の敵も敢え無く灰と化した。
 けれど、アルバはそれに目もくれず。
 弟子に寄り付いて腕を取り、頭の天辺から――だと、そのままで覗けぬので屈ませて――爪先に至るまで隈なく視線を走らせ、ほっと息を吐く。
 それでもまだ全ては晴れなかったか、じっと弟子の目を見やり。
「……やれ、酷い火傷はしておらぬであろうな?」
 問いかければ、ジャハルは眉一つ動かさぬまま。
「大事無い」
 答えた後、さらに一言付け足す。
「俺の肌は元々よく焼けている故」
「……」
 いや、弟子なりに思案しての事なのだろう。
 なのだろうが、しかし。なんだ、それは。
 冗句ならば、せめて表情筋をもう少し働かせるべきではないのか。
「……後で確と手当しておかねばな」
 如何ともし難い想いの代わりとして、アルバは弟子を案じる言葉を紡いでおく。

 かくして、オブリビオンを退けた二人は宝物庫に至る。
 ずっしりぎっしり、堆く積まれた白球を暫し眺めて、其処から転げ出た幾つかをジャハルは拾い上げた――が。
 両手の数にも届かぬ内に、ぽろりぽろりと腕から零れて。
 それをまた拾って、零して。拾って零して。拾って。
「……師父」
 幾度繰り返したかも判らない二文字の中に「如何する」などと含めれば。
 師父は込み上げる笑いを何とか殺しながら、実に師父らしい顔つきを整えて、唸る。
「ふむ、そうさな」
 いやいや“そうさな”も何もない。
 物をより多く運ぶとすれば、それなりの容れ物でも用意すればいいのだ。
 無論、何を用いるかは大いに思案すべきところであるが、その手段の枠組みには悩むところなどない。
 ところがどうだろうか。ジャハルはあの調子であれば、一晩かけても考え続けるかもしれない。そして再び言うのだろう。言葉で、瞳で。師父、如何する、などと。白球をぽろぽろ零しながらだ。
 いやはや、まだまだ教えねばならぬ事も多いと見える。
 などとは思いながらも頬を緩めつつ、アルバは言った。
「ジジよ。外套を風呂敷代わりにするのはどうだろうか」
「……うむ。妙案である」
 さすが師父。
 純朴にしか聞こえない称賛に、アルバはふふんと胸を張った。
 そしてすぐ、ジャハルの言葉で足を滑らせかけた。

「――して、師父よ。やはり此れは転がすものなのか?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『スクイズ・グローブ・ストライク・グランド』

POW   :    白球をかっ飛ばす。

SPD   :    白球をぶん投げる。

WIZ   :    一休みする。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――ここまでのあらすじ。
 猟兵は見事オブリビオンを撃破して、大量の白球を入手しました。
 他にもバットやネットなど。野球道具と呼ばれるものは凡そ一式、それなりの数をゲットして、いざ件の拠点へと向かってみれば、もう英雄扱いです。
 それはバリバリのメジャーリーガーが助っ人外国人として空港に降り立った感じでもありますし、九回裏ツーアウト満塁一打逆転サヨナラの大チャンスで回ってきた4番バッターに渾身の応援歌と声援を捧げるようでもあります。とにかく盛り上がったのです。
 そして、興奮収まらぬ住人たちは拠点の名物“バッティングセンター”へと猟兵を案内しました。もうウキウキで招待しました。
「これだけあれば当分は野球三昧ですわ! ガハハ!!」
 やたらと馴れ馴れしいおじさんが豪快に笑って、豪快に空振りして、腰を痛めて何処かに運ばれていきました。今季終了らしいです。
 さておき、住人たちはせめて一打席でもと猟兵に勧めてきます。ちなみに一打席(1プレイ)で25球だとか。左打席もありますし、球速は80km/hから5km刻みで160km/hまで。凄まじい充実っぷりです。一部は硬式対応でもあるようです。
 或いは投球練習など如何かとも誘ってきます。やたらと恰幅のいいおじさん2号が、何故だか既にやる気でマスクを被って「おう。まず放ってみぃや」などと呟いています。ちょっと怖い。
 ともあれ、凄まじい歓迎ムードですから、無下にするのも忍びない気がします。
 ただ、少し気になるのは設備の劣化かもしれません。一球投げるにも異音を奏でるマシンや、防球ネットに破損なども見受けられます。バットやグラブも、新しいものを届けてあげられましたが、古いものを傷んでいるからと簡単には捨てられないのが、この荒廃したアポカリプスヘルという世界。
 遊ぶのはちょっと、なんて猟兵はそれとなく修繕でもしてあげると喜ばれるのは間違いなしでしょう。タダ働きですけども。
 ――以上、あらすじ終わり。ではプレイボール!
楊・宵雪
「スポーツはあまり得意ではないけれど、お裁縫なら少し自信があるわ

物品の補修をする
大きな布を裂いてひも状にしたものやロープでネットを補修
中くらいの布は袋にして物品の収納や運搬、分別に使えるように
小さな布は手袋やグローブの補修に

補修だけでなく汚れも落としておき
穴をふさいだ靴下や運動着の洗濯をする

裁縫をして肩が凝ったら
凝りほぐしの散歩がてら、小石拾いや雑草抜きをしておく



 カキン、カキンと軽やかな金属音が響く。
 その度に打ち上がる白球を、木製のベンチに腰掛けて眺める。
 褪せた緑色の網の向こう。バッターボックスに立つ青年は、当然ながら見知らぬ人。
 けれども、時折はにかんだり首を捻ったりしながら、一生懸命にバットを振る青年を眺めていると、この荒廃したアポカリプスヘルで生きる人の強さを感じられるようで。
 悪くないわねぇ、なんて思ったりしていたら、何だか鈍い音が鳴って。
「――あら」
 ぽてんと弾んだボールが一つ、足元に転がってきた。
 廃工場から持ち帰ったばかりでまだまだ綺麗なそれを拾い上げれば、打席を外した青年が申し訳なさそうに背中を丸めながら近づいてくる。
「すみません。……あ、代わりますか?」
「いえ。わたくし、スポーツはあまり得意ではないのよ」
 物柔らかに答えてからボールを手渡し、そのまま宵雪は青年の隣を過ぎて。
「此方なら少しは自信があるのだけれど」
 そう言いながら、破れたネットを軽く持ち上げる。

 戦利品として得たのは、ボールやバットばかりでない。
 例えば、細めだけど丈夫なロープ。在りし日のネットと同じ色のそれを使って、編むように裂け目を閉じていけば――あっという間に修繕完了。これで打ち損じたボールが打席の外に出る事も少なくなるだろう。
 それから、手頃な布を袋状に縫って道具の収納や運搬に。
 端切れだって捨てるのは勿体ないから、手袋やグラブの補修に使ってしまう。
「こんなにくたびれるまで使い込むなんて、本当に好きなのね」
「ええ、まあ。此処の人はみんなそうですよ」
 他に娯楽なんてないものだから、と先の青年は笑ってみせる。
 素直で快活、爽やかという言葉は正しく彼のような人の為にあるのだろうけれど。
「……お洋服も綺麗にしておいた方がいいわね?」
 気まぐれに作った白狐のワッペン付グラブを手渡すと、宵雪は空いた手のひらをそのままにして微笑む。
 その意図が青年に伝わるまでは、僅かばかりの時間を要した。

 さて、早速だが自分で作った大きな袋の出番だ。
 青年の着ていたユニフォームを始め、住人たちから集めた運動着などをそれに放り込んで拠点内を歩く。
 手作業の気構えでいたら、どうやらかつて“コインランドリー”と呼ばれていた設備の名残が、まだ辛うじて使えているらしい。
 そうした生活用設備の維持に(当然ながら)資材が投じられた結果、娯楽用のピッチングマシンなどは大した修理も出来ずにいたようだが――今日という日を境に改善されるはずだ。
 それよりも驚いたのは、汚染されていない潤沢な水源があることか。
 この世界では素晴らしく幸運な話に違いない。
 だからこそ、野球なども楽しめていたのだろうが。

「それにしてもまあ、皆子供みたいね」
 たっぷりついた砂土を叩いて落として、大口開けた機械に服を放り込む。
 たまに穴あきの靴下なんかを見つけたら、ちょちょいと縫って。
 ぐるんぐるんと勢いよく洗濯機を回している間は、椅子に座ってのんびりと。
 何だか夢と現の狭間に居るようだ。
 此処で『アポカリプスヘルでは人類の大半が死滅しました』なんて聞かされても、信じようか信じまいか、迷ってしまうかもしれない。
 けれど眼前を見つめれば、たった一台限りの塗装の剥げた機械が必死に働いている。
 一歩外に出てみれば、騒乱で傷んだ灰色の建物が映る。
 此処は、確かに荒廃した世界なのだ。
 だからこそ、住人たちは“らしく”生きていて。
 そして、宵雪には少しだけ、彼らの“らしさ”を保つお手伝いが出来る。
「……さて、此処からが重労働ね」
 うんと背伸びをしてから濡れた衣服を取り出す。
 何倍もの重さになったそれを抱えて、えっちらおっちらと歩く。
 乾燥機という便利な代物は御臨終なされて久しいそうだ。
 とはいえ、見上げた天に太陽という恵みがあるのだから、贅沢は言うまい。

 普段から住人が使っているという場所を借りて、洗い終わったものを片っ端から物干し竿に掛けていく。
 そよ風に揺れるそれから、仄かな洗濯石鹸の香りを感じつつ、また空を仰ぐ。
「いい天気ね」
 この分なら、今日のうちに乾いてしまうだろう。
 後は――いや、裁縫に勤しんだからか肩の凝りを感じる気がする。 
 もう少し身体を動かすべきだろうか。
 なんて、考えている間にも足は来た道を辿っていて。捲れ上がった舗装の合間から逞しく伸びる雑草を引っこ抜いたりしながら、宵雪はまだ一時、此処の日常に浸る。
 すっかり耳に馴染んだ金属音が、遠くから心地よく、聞こえていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈
◆心情
例え僅かであっても、心の栄養が生きる活力となる…
燥ぎ過ぎて怪我をするのも様式美でしょうけれど…
其れで身を崩さない様に気を付ける必要はあるでしょうね
…まあ、それも含めての「娯楽」なのかもしれませんが

◆行動
折角の機会に楽しめないのも不幸でしょう
今この時だけは怪我を気にせず目一杯楽しむと良いでしょう
…特に先程「腰をいわした」方は気を付けて欲しいものです

『涅槃寂静』にて「癒」属性の「微風」を行使
微風程度なら遊びの邪魔にはならないでしょう

さて、私も楽しませて頂きましょう
先程の球撃ちは中々に愉しめましたし、バッティングに挑戦してみましょう

結果は…成る程
どうやら私は殺気を感じないと調子が出ない様ですね



 軽やかな金属音が絶え間なく響いている。
 バッティングセンターの打席は入れ代わり立ち代わり、老若男女問わず必ず誰かしらが埋めていて、その表情は皆々等しく笑顔。
 娯楽の齎す活力とは斯くも――と、思わず感嘆するほどだが、一つ気掛かりなのは燥ぎ過ぎによる予期せぬ負傷か。
 まあ、そこまでが様式美、所謂“お約束”というものなのかもしれないが。しかし賑やかなお祭り騒ぎをベッドの上で見守るだけになるのは不幸だろう。
 それだけならばまだしも、日常生活に差し障ったりすれば一大事だ。

 とはいえ、気を回しすぎるあまりに水を差してはいけない。
 今日という一日を終えれば、彼らはまた日常に戻る。無論、其処には猟兵たちの力で保たれた娯楽が組み込まれるだろうが、彼らとてそればかりで過ごしている訳ではなく。
 荒廃した世界を未だ切り裂き続ける“オブリビオン・ストーム”の恐怖。それによってオブリビオンへと変貌した暴漢や死体、暴走する機械群などの襲撃。食料事情や医療環境などの維持、或いは向上。
 日々を生き抜く為、否が応でも見つめ合わなければいけない現実は多い。
 ――だからこそ、だ。
 せめて今、この時だけは何も気にせず。
 一球一打を楽しむことだけに心血を注いでくれたら良い。

 ……祈るような想いが細やかな風となって吹く。
 それは大地を撫で、灰色の家屋を通り抜け、人々の身体も心も癒やす。
 途端、彼方から中年男性と思しき絶叫が聞こえた。
 声はどんどんと迫って、ついには空いたばかりの打席へ飛び込んでいく。
 先程“腰をいわした”男だ。絶奈の放つ微風が痛みを取り除いたのだろうが、しかし余程の野球好きと見える。
(「さて、私も楽しませて頂きましょうか」)
 人を其処まで熱中させる娯楽。
 その真価を問うべく――否、そうではない。
 拠点の人々と同じように愉しむべく、絶奈もバットを握る。
 廃工場でのフリーバッティングは中々のものであったのだ。
 機械が放る球など――放る球など――放る、球など。

「どうしたねーちゃん! 腰が入っとらんぞー!」
 防球ネット越しに名も知らぬ老人の声が飛ぶ。
 しかし、いやはや何とも、これは。
 真剣に振り抜いているのだが、バットが悉く白球の下を潜ってしまう。
 打ち頃の球が何故か打てない。逆に――。
「あ、あぶねぇ!」
 老人が声を上げた直後、すっぽ抜けて顔の方にまで迫った一球を絶奈は見事に捌いてみせた。
 脇を締め、腕を畳み、マシンに近い側の肘を抜く。
 打球は矢のように鋭く飛んで、彼方の丸い的に当たった。ホームランだ。
(「……成る程……」)
 どうやら殺気を感じられるくらいでないと調子が出ないらしい。
 平穏の中で知る己の性(さが)に、絶奈は何を思ったか。
 再び空振り三振の山を築き始めた彼女の姿からは、誰にも解りようがなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルエリラ・ルエラ
【アドリブ改変・連携歓迎】
んー、とりあえず修繕からだね
私は 無性に いい器具でバッティングしたいんだ!
という訳でちゃちゃっと軽く整備しよう
動物さん達どうしようかなぁ

ウェストポーチからドライバーやら、その他雑多な整備道具を取り出してピッチングマシンやバッドにミットを軽く修繕するよ。ちゃちゃっとね
それが終わったら念願のバッティング。お腹の贅肉消費のために飛んでくるボールに【芋煮アタック】でそぉい!そぉい!私のお鍋が火を噴くぜ
その後は周辺の一般の人に芋煮を振る舞って、今回協力してくれた動物さん達とは仲良くしてもらえないかお話しておこう。動物さんにも言う事聞くんだぞーと言い含めてね



 逸る気持ちを抑えて、まずは道具の手入れだ。
 会心の一打も入念な準備から。打ち頃の絶好球をバンバン放り込んで貰うためにも、ピッチングマシンの修理は欠かせない。
「ちゃちゃっとやっちゃおうね」
 芋煮で腹ごしらえして作業に取り掛かる。
 とりあえず分解。内部の汚れや錆を落とす。ついでに油も差しておく。
 モーターはまだまだ行けそうだが、実際にボールと接触するホイールのゴムのヘタリ具合がやばい。もはや溝だ。
「まあ、交換すればいいんだけどね」
 彼処は何から何まで至れり尽くせりの廃工場であった。廃の字を取って差し上げたいくらいだ。
 ともあれ、ゴムを巻き替えてからマシンに付け直す。
 それを興味深そうにライオンが眺めている。クマもコアラも、皆一緒に眺めている。
「あ」
 そう言えば連れて帰って――というか、付いてきてしまったのだった。
 悉く借りてきた猫のようだから今のところは問題ないけれど。
「どうしようかなぁ」
 暫し手を止めて考える。しかし悩んでいても仕方ないので、一旦後回し。
 今は道具の手入れに勤しもう。いや何、もうとっくに軽く修理なんて域を超えている気もするが、芋煮を食べていればこれくらい出来るさ。
 ボルトやナットで各所をきっちり締めて、ピッチングマシンのメンテは終わり。
 しかし、まだだ。まだバッターボックスに立つのは早い。
 芋煮小休止を挟んでから、今度は下ろし立てのバットにグリップテープを巻いていく。
 たかがテーピングと侮るなかれ。その巻き加減や精密さが全身のパワーを余すところなくバットに伝える為の鍵となるのだ。多分。
 後は――もう、ここまでやったらもう全部やる勢いでミットなんかの補修も請け負っちゃう。
 とことん直しておけば、この拠点の住人たちも当面は不安なく過ごせるだろう。

 そうしてあらかたのメンテナンスを終えると、ルエリラはドライバーやらレンチやらをウエストポーチにしまい込む。
 いよいよだ。いよいよ、その時が来た。
「がっつり振り込んでお腹の贅肉も完全燃焼だよ」
 気合十分。体力十分。すっかりぴかぴかなマシンを見据えて打席に立つ。
 本来なら百円玉だの回数券だのを投入するところだが、此処にそんなものは無い。あっても意味はない。
 ボタンを押したら25球。それが気の済むまで、飽きるまで出来る。
「よしこい」
 ポチッとな。
 信号が彼方に送られてマシンが動き出す。此処で球速を設定し忘れたことなど思い出したが、160キロでも200キロでもどんどこいだ。来るもの拒まず全部打ち返す。
 ぐっと重心を低くして待てば……ボールがころんと機械に送られた。
 ――来る!
「そぉい!」
 パァン!
 渾身の一打に破裂するボール。響き渡る爆音。
 飛び散った欠片と握りしめた『芋煮入り鍋』を交互に見やってから、ルエリラは空を仰いだ。
「……なんてこった」
 溢れる芋煮パワーが悲劇を呼んでしまうとは。
 やはり芋煮は凄まじい。
 此処は大人しく最高級品質の鍋を置いて、遺憾ながら(?)ただのバットを振るしかあるまい。

 かくしてカロリーの消費に勤しんだ後は。
 勿論、芋煮の素晴らしさを世に知らしめるべく、住人たちに振る舞う。
「たんとお食べよ。これ一杯でホームランだよ」
 ホームラン芋煮は飛ぶように売れた。ホームランだけに。
 当然である。栄養満点で美味しい食べ物。アポカリプスヘルではとてつもない贅沢だ。
 しかも、どれだけ振る舞っても底をつかない。
「芋煮、いいよね」
 住人総出の「いいね!」が帰ってくる。
 この拠点の名前が芋煮ベースになる日も近いかもしれない。

「ところで」
 食後の芋煮を嗜みつつ、ルエリラは懸念を一つ解消しておく。
 ずばり、動物たちの事だ。野に放つなど忍びないけれど、世界の果てまで引き連れていく訳にはいかない。つまり此処に預けておくしかない。
 どうだろうか――と、反応を窺うようなルエリラの頼みを、住人たちは快く了承してくれた。やっぱり芋煮は世界を繋ぐのだ。
「よかったな。ちゃんと言うこと聞くんだぞー」
 たてがみをモフりながら呼びかければ、芋煮を貪るライオンが小さく吼えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロゼ・ラビットクロー
ラブリー(f26591)と
ラブリーのことはラビィと呼び、普通の口調
他の人には敬語。適当でも問題無し

野球、野球ね。
知ってるよもちろん。
せっかくだから僕はこのマネージャーってポジションを選ぶよ。
ボールを投げるポジションの人の係は、
このピッチングマシンに頼もう。

運動が苦手?
ちょ、そんなことねーし。いつも爆弾とか投げてますし?
メジャーだって持ってるんですよ?
資材の寸法測るのに欠かせないからね。
でもほら走るの?
ガスマスク付けたままだとすぐ息切れするから…。

ラビィはバットを振るポジションの係をやるのか。
ルール? 急にボールが来るから当てればいいんだよ。
当たったら優勝するから。
当たったの? メジャーいる?


ラブリー・ラビットクロー
クロゼ(f26592)と

ここに来るまでらぶ達めっちゃ頑張ったん
でもここからが本番だぞ
ししょーはマネージャーのポジションか?
らぶはバットするポジションの係りやる
マザーはちゃんと実況な
【聞き取れませんでした。もう一度言って下さい】
くろぜボタン押していーぞ
ぷれいぼーる

■160km
ボール当てればいーん?
おっけー押していーぞ
まだかー?
おした?

■140
マザー今の見たか?
【今呑み鷹さんという人は見つかりません】

■100
ほんとにルールあってるん?
バットに当てるの?
ねえちゃんと見てる?

■80
しょーがねーのん
ウサ耳で音を感知
きたっ
もしボールが当たったら衝撃でバット落とすかも

当たった!
らぶ優勝した!
メジャーいらない



 大冒険だった。
 猛獣の襲撃を掻い潜り、灼熱の海を渡って、お宝をゲットした。
 本当に大冒険だった。めっちゃ頑張った。めっちゃ。
(※個人の感想です)

「でもここからが本番だぞ」
 ラブリーは金属の棒を掴み取る。
 銀色にへんてこなラインの入ったそれは『小学1〜2年生用』とかいうシールが貼り付けたままだったが、意味が解らないので気にしない。
「これがバットなんな」
「そうだね。でも持ち手が逆さまだね」
 クロゼがやんわり指摘すれば、ラブリーは改めてバットの細い方を握り締めて。
「これがバットなんな」
「そうだね」
 なんで二回言ったんだろう。
 分からないけど、しかしクロゼにも断言出来る事が一つ。
「ラビィ、打つ気満々だね」
「うん。らぶはバットするポジションの係りやる」
 ぶおん。言葉だけでなくスイングでも意思表示してみせれば、中々どうして様になる……様になって……いや、なっていないな。ガスマスクに金属バットで様になるのは暴漢だけだ。それはアポカリプスヘルでよく見るタイプ(当社調べ)の奴ら。モヒカン、肩にトゲトゲ、バイク。あと戦車と火炎放射器――。
(「いやいや、止めよう」)
 今日一日だけでも炎とは距離を置いておきたい。
 クロゼは頭を振って。
「ししょー?」
 ラブリーに微妙な誤解を招いた。
「らぶ、バットするポジションの係りじゃないほうがいい?」
「……ああいや、違うんだ。打つのはラビィがやればいいよ」
「じゃあししょーは何するん? ボール取る係りか? ボール拾う係りか?」
「どっちもやらないかな」
「じゃあボールになる係り?」
「それは絶対にやらないね」
「じゃあなんなん」
 ぶおん! 早いところ打席に立ちたいラブリーがバットを振る。
 危ない危ない。まったく女の子ってやつは難しい。
 ボールにされてしまう前に、クロゼは安全圏への退避を急ぐ。
「せっかくだから僕はマネージャーってポジションを選ぶよ」
「マネージャー? なにするん?」
「えーっと……ラビィがバットするポジションの係りをするのを手伝うんだよ」
「それってボール投げるのと違う?」
「違うよ。投げるのはあれがやってくれるんだ」
 クロゼが彼方を指差せば、其処には猟兵の持ち帰った資材でバッチリメンテナンスされたピッチングマシンが、久方ぶりの全力投球を待ちかねるように鎮座している。
「なるほどなー」
 ラブリーは18.44m先に向かって「ししょーのいうこときけよー」なんて声掛けた。

 かくして、少女は打席へと。
 青年は防球ネット越しの操作盤へと、それぞれ位置につく。
「マザーはあれな、実況ってやつな」
【聞き取れませんでした。もう一度言って下さい。】
「ぷれいぼーる」
 どこまでもマイペースなラブリーは端末の声を受け流し、バットを構えて。
 構えて……構えて、それで?
「ししょー」
「ん?」
「バットするポジションの係りってどこでバットすればいーん?」
「急にボールが来るから当てればいいんだよ。そしたら優勝だから」
「わかった、まかせろ。らぶ優勝する」
 声音はともかく言葉は頼もしい。
 だが、果たしてそう上手くいくものだろうか。
 一抹どころでない不安を抱えつつも、クロゼはボタンを押す。
 がこん、と音が鳴ってマシンが動き出した。
 筒の中をボールがコロコロと転がっていって――。

 ――スパーン!

 凄まじい勢いで飛んできたボールがネットを揺らす。
 勿論、ラブリーの前でなく後ろに垂れ下がる側だ。それがなければ今頃クロゼは悶絶していたであろうが、しかし。
「くろぜボタン押したか?」
「……え?」
「ボタン押したか? まだ投げないか?」
「もう押したよ」
「おしてからどのくらいでくる? きょう? あした?」
「もう過ぎたよ」
「すぎたかー」
 ラブリーはバットを置いた。
 クロゼはそれを無言のまま拾って、もう一度握らせた。

 諦めるにはまだ早い。
 今のは160km/hだ。経験者でもなければ打てまい。
 操作盤を弄って球速を下げて――140km/hの表示でマシンが動き出す。
 立ちはだかったのは投球間隔という壁であった。
 融通が利かない辺り、如何にも機械らしい。
 なんて、納得している場合ではない。
 唸るマシン。飛び出すボール。微動だにしないラブリー。
「……ラビィ、振らなきゃ当たらないよ」
「当てるボールがないよ?」
「後ろに落ちてる」
「ほんとだ。マザー、今の見たか?」
 問いかける主に機械音声は淡々と返す。
【今呑み鷹さんという人は見つかりません。】
「だれだそれ」
【わかりません。】
「マザーがわからないの、らぶにもわかるわけないのん」
 ぶおんぶおん。抗議のスイングが力強く行われたが、そういう時に限ってまだボールは飛んでこない。

 だから今のうちに、クロゼは球速を下げる。
 100km/hくらいならいけるだろうか。
 何となくキリの良いところで止めて様子を覗えば――。
 ぶおん、と空を切る音が聞こえた後、ネットに触れたボールが転がってきた。
「ししょー、ほんとにルールあってるん?」
「合ってるよ」
「ほんとにあたるのん?」
「当たる……はずだよ」
「ししょーてきとうにへんじしてないか? ちゃんと見てるん?」
「見てるよ。ばっちり見えたよ空振りするところ」
「じゃあ当てて」
「え?」
「くろぜがやって」
「……いや、僕はいいよ。マネージャーだから。それにほら、ガスマスク付けたままだと息切れするだろうし」
「あー」
 うんうんと頷いた後、ラブリーは真理に至る。
「ししょー、なんだかんだりゆーつけてやりたくないくらい苦手なんな」
「何が」
「うんどー」
「ちょ、そんなことねーし。いつも爆弾とか投げてますし? あとメジャーだって持ってるし?」
「めじゃー」
「……資材の寸法測るのに使うから」
「めじゃーな。うん」
 なにいってんだこいつ、みたいな空気がすごい。
 それはムキになって反論した分だけ酷くなる一方だろうから、クロゼも黙ってボタンを押した。
 表示された数値は、80km/h。

 もうこれ以上は下がらない。
 これで打てなかったら、おしまい。
「しょーがねーのん」
 ラブリーはウサ耳を生やすことにした。
 それはすごいウサ耳だ。人間の耳とは比較にならないほど、音を正確に感じ取る。
 音とは振動であって、振動による空気の揺れなどから――うん、まあざっくり言えばボールをより正確に捉えられるのだ。
 だから、ラブリーは今日イチの確信を抱いてバットを振る。
「きたっ」
 ぶおん。ぺこん。からん。ぽてん。
 ラブリー的には鋭い一振りからの超絶凡打。衝撃に思わず手放したバットと、その傍で転がりもしないボール。なるほど。これは――。
「当たった! らぶ優勝した!」
「……当たったの?」
 その割にはしょっぱい絵面だが、ラブリーは勝利を疑いもせず、ねだる。
「ししょー、しょーひんは?」
「え?」
「しょーひん。ゆーしょーしたから、しょーひん」
「……メジャーいる?」
「メジャーいらない」
「だよね」
 クロゼは掴み取った小さな道具を、またポケットの中で離した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

仙巌園・桜
折角だから遊んでみようかな~
マシンの調子もあんまり良くないみたいだし
せんちゃんがバッティングピッチャーやってあげる~
薩摩、あんたキャッチャーしなさい
ミットが持てない?…あんたその口飾りなの?口で受けなさい口で

せんちゃんの投球フォームはサイドスローで
基本は普通に打たせてあげるけどそれだけじゃ面白くないので
所々でイカサマ
ボールは古いぼろぼろの傷が入っているボールを使う
理由は傷が付いてる方が変化球が投げられるから
薩摩にバッターが立ってない方の翼で向かってくるボールに風を
当てることで速度の変化を起こす等

さあ、打ちたい人はかかってらっしゃいな~
ラスト一球は全力で投げたらどうなるかやってみよっかな~



 新しいボールがある。新しいバットもある。
 だと言うのに、ピッチングマシンがメンテナンス中では快音響かせられない。
「くそぅ……!」
 おっさんが大袈裟に地面を叩いた。
 そんなに遊びたいか。そうか。それなら遊んでやらない事もない。
「せんちゃんがバッティングピッチャーやってあげる~」
 にへらと笑ってボールを掴み、桜は防球ネットを潜った。
 それを悪魔の囁きと知らぬ羊たちが、わらわらと打席に集い始める。

「じゃあ薩摩、あんたキャッチャーしなさい」
 は?
 目を丸くした小竜は明らかにそんな感じの反応だった。
 まあ球拾いには駆り出されるだろうなぁ、なんて悠長に構えていたのだろう。
「あんたもまだまだね~。そんな普通のことやらせるわけないでしょ~?」
 ぱしん、ぱしんとグラブにボールを叩きつけながら笑う桜。
 いやしかし、と食い下がる薩摩。
「……ミットが持てないって、あんた何言ってんのよ。口があるでしょうが」
 は?
 開いた口が塞がらないとは、正にこのことだ。
 小竜はあんぐりと大口開けたまま固まって、桜は其処にボールを充てがって。
「ほら、いけるじゃない。よゆ~よゆ~」
 サイズ確認はしたけれど安全確認はしないままで、打席から距離を取る。
 勿論、背中に突き刺さる小竜の視線は無視した。
 酷い? いやいや、信頼しているからこそと言うやつだ。
 物は言いよう、なんて言葉もあるけれど。

「それじゃ~いくよ~」
 片腕振って呼びかければ、打席に入ったおっさんがバットを構える。
 かなりのオープンスタンス。ひと目で分かるパワー系。
(「……なるほどね~」)
 悪魔の瞳が妖しく煌めくが、18.44m離れているから分からない。
 桜は一投目を放る。両腕上げたワインドアップからの――。
「サイドスロー!?」
 防球ネット越しに野球博士っぽい青年が声を上げたが、それはさておき。
 緩やかに横から伸びた腕がボールを放る。
 ど真ん中やや高め。山なり気味の軌道。打ち頃に間違いない。
 おっさんのフルスイング。響く快音。高く打ち上げられる球。
「あ~、ホームランだ~」
 がっくりと項垂れて見せれば、おっさんはこれ見よがしにバットを放り投げて両腕振り上げ、全身で『X』みたいな形を作っていた。それでいいのかおっさん。ピッチャー女子だぞ。
(「……これは教育が必要だね~」)
 バッピなのだから気持ちよく打てる球を放るのが役目だが、それだけでは面白くない。
 実戦は甘くないだと思い知らせてやるのもいい。
「次いくよ~」
 健気さを演じつつ、二投目。
 同じ投球フォームで、同じコースに同じ球を。
 貰ったぜ! ――なんて、意気込んだバットが空を切って、おっさんはそのまま尻もちをついた。
「あれ~? せんちゃん普通に投げたよ~?」
 軽く煽れば、薩摩がボールを返しに飛んでくる。
 ……それはもう、ずたぼろ傷だらけのとんでもない球だ。
 これでは空気抵抗が乱れて、予期せぬ変化をしてしまう。
(「だからいいんだけどね~?」)
 にやりと笑って、薩摩に耳打ちしてからの三投目。
 さらに球速を落とした、ど真ん中の棒球。これを打てなくてどうする――というそれを、おっさん、やはり華麗に空振り。
 最初の威勢は何処へやら。首を傾げるバッターを見ながら、桜はどうにか笑いを堪える。
 これは『無垢な少女がそんなことするはずはない』と思わせなければ成り立たない作戦だ。
 エメリーボール紛いの不正投球に、薩摩の密やかな羽ばたきによる減速や変化。
 真剣勝負の場なら懲罰やむなし。けれども、此処はバッティングセンター。バレたところで笑い話だ。
「もしかして降参かな~?」
 作戦の好調ぶりが挑発的な態度となって滲み出る。
 当然、おっさんはリベンジに挑んだが――きりきり舞い、三振の山を築いて敢えなく体力的に終戦を迎えた。
「さあ、打ちたい人はかかってらっしゃいな~」
 勢いづいた桜は、次々と住人たちを打ち取っていく。

 とはいえ、桜も機械ではなく生き物である。
 投げ続けていれば疲れるし、正直ちょっと飽きてきたりもする。
 だから、これが最後の相手と決めてツーストライクまで追い込み。
(「……最後だし全力やっちゃおうかな~」)
 自身も悪魔の囁きに惑わされたか、綺麗なボールを握り、目一杯に腕を振って――。
「――あ」
 放られたのは渾身の棒球。
 落ちも曲がりもしなかったそれは、綺麗に打ち返されてホームランボードを叩く。
 呆気に取られていれば、バッターの青年(野球博士)が嬉しそうに吼えていた。
 その傍らで、何故か薩摩が喜びの舞を披露していた。
「……こらー! 薩摩ー!」
 サヨナラの一発を浴びたくらいの声色で言って、桜は猛然と薩摩を掴まえに走る。
 その乱闘の如き光景が落ち着く頃には、ピッチングマシンの修理も終わっていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
ばってぃんぐ…せんたー…だせき…
成る程分からぬ
故に師と並び座って暫し観察

師父よ、あの武道だが
俺は分かった気がするぞ
――習得すれば竜とて撃墜できるに違いない
参ろう、師父

反射すべき球は速い方がいい
しかし斯様な細い棒には慣れぬ
ならば、こうだ
【封牙】用いて手足と反射神経を強化
放たれる白の点を視界の中央に捉え
…ここだ

狙ったのとは全く違う方向ではあるが
中々の威力であったように思う
見たか師よ
まだ飛距離が足りぬが何れは…
師父、今なんと
師の背に揺らめく炎の幻
どうした事か
まるで本物の「カントク」の様ではないか

そうか、剣とは違うのだな
うむ――今度こそやれる気がするぞ
来るがよいと棒で蒼穹を指して


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
グラブの解れた糸を裁縫感覚で直しつつ
ばってぃんぐなる遊戯を楽しむ様子を観察
ふむ…我々には馴染のないものであるが
成程、皆の様子を見る限り
何となくだが勝手は分ってきた

…む、武道?
あれは武道になるのか?
おいジジ、分っておると思うが
くれぐれも妙な真似をするでないぞ?

初心者というに宝石すら砕きかねん速度を
選択する阿呆に冷や汗が止まらず
はらはらと気を揉みつつ弟子の姿を見守る
逸れて尚、飛び往く速球に小さな悲鳴を上げるも
何処となく瞳を輝かせる彼奴の姿が微笑ましく
…ええいもう少し腰を引け
手を振りかぶり過ぎるでない!
【賢者の提言】でジジの能力を強化する事で
せめて僅かばかりでも力を貸してやろう



 ふふん、ふふんと鼻歌交じりでグラブの解れた糸を直す人影が一つ。
 もはや針仕事をする母のような雰囲気であるが、しかし見た目は若く中性的な美貌で、けれども年齢は達観した内面と相応。
 そんな人影の隣では、立派な体躯の青年がまるで置物のように固まっていた。
 かきん、かきんと乾いた金属音が響く度、視線だけは微かに動いていたが、果たして己が今何処にいるのか、何を見ているのかさえ解っていないような、そんな雰囲気を醸している。放っておけば、日が暮れても夜が明けてもそのままで居そうだ。
 それでも青年は置物でなく、生きた竜人であるから、ふと口を開いた。
「師父」
「何だ」
「解らぬ」
「何がだ」
「あれは、何だ?」
「……はぁ」
 極短い応酬の後に小さく息吐いて、師父と呼ばれた男――即ち、アルバはグラブから目を離して答える。
「ジジよ。あれは『ばってぃんぐ』なる遊戯だと、此処の者が申していただろう」
「うむ……ばってぃんぐ……」
 それは俺も聞いたのだが――と、内心は口にせず。
 ジジことジャハルは、また眼前の光景に集中する。その姿は行為を理解するだとか、真理を読み解くというものでなく、只々、幼子が呆然と眼前の景色を眺めているだけのようにも映る。
「……確かに、我々には馴染みのないものであるが」
 手入れを終えたグラブを脇に置き、アルバが言葉を継いだ。
「何も難しい事ではあるまい。あの打席という場所に立ち、向こうから飛んでくる球に鉄の棒を振って当てる。球が前の方に飛べばよし、飛ばねば……いや、前に飛ばずとも棒が当たらずともよいのだろうな。あれは娯楽であるのだから」
「だせき……うむ……」
 そういうものか、と呟いて。
 程なく、ジャハルは忽然と立ち上がり、確信に満ちた声で言った。
「師父」
「何だ」
「理解した――ような気がするぞ」
「そうか」
「あれは武道だ」
「ジジよ。まず人の話を聞け」
 娯楽だと言ったであろうが。
 全く、面構えは常に確りしているのだが、油断すると直ぐに底の抜けた鍋のような見当外れの事を言い出す。そういうものだと解ってはいるが――。
「参ろう、師父」
「……む?」
 アルバが唸っている間に、ジャハルは空いた打席へと入っていく。
「おいジジ、分っておると思うが、くれぐれも妙な真似をするでないぞ?」
「無論だ」
 返答が力強いからこそ不安も募る。いや募るというか、もう弟子の手足が竜化しているのを見たら不安しかない。
 アルバは立ち上がり、打席へと近づいていって。

 ――すぱーん!!

「…………」
 ボールと防球ネットが生み出す凄まじい音に、思わず足を止めた。
 ふと傍らを見やれば、操作盤に表示された球速は160km/h。その横には『Min 80km/h~160km/h Max』などと書いてある。
「……ほう」
 成る程。成る程。最高速か。
「ジジよ」
「師父。この『ばってぃんぐ』の極意を習得すれば、俺は天駆ける竜とて撃ち落とせるだろう」
「おい」
「師父。其れには最も疾き球を叩かねばならぬ」
「おい」
「何、斯様な細い棒には不慣れであるが、俺にも考えがある故」
「だから人の話を」

 ――かこん、ぱーん!!!!

「ひぅ!?」
 再び鳴り響く轟音に師父が師父らしからぬ悲鳴を上げた。
 けれど、音は先のものと違う。
 最高速で放られた白球は打席を素通りせず、ジャハルの振ったバットに当たったのだ。
 もっとも、それは真芯で捉えるような一打でなく、端っこの方を掠めた程度。故に打球は前へと飛ばず、猛烈なバックスピンをしながら師父の眼前へと向かって……防球ネットに掛かり、破裂するような音を立てたのだった。
 しかしまあ、猟兵の持ち込んだ資材で諸々修繕を終えていたから良かったものの。
 老朽化した設備のままであれば、今頃アルバの綺麗なお顔がホームランしていたところ。
 そんな剛球を、弟子が打席の中で迎え撃とうとしているのだから、師父としては気が気でない。
 この阿呆が、初心者らしいところから始めぬか――と、そう言いたくもなるが、しかし。
(「……全く」)
 ネットから一歩ほど引いて、見守る弟子の瞳の輝きと言ったら、もう。
 宝箱でも見つけた童のようだ。そういう眼差しと面を見せつけられては、止めろと言えぬのが師父の師父らしさ。じっと、気の済むまでやらせてやろうと――。
「思った矢先に、だな」
 師父は師父であって親馬鹿ではないから、どうにもこう、沸々と湧くのだ。
 真剣にバットを振ってはいるものの、快音響かせるどころか凡打の山を築き上げるばかりの、不甲斐ない弟子に対する、衝動が。
「……ええい!」
 やはり堪えきれなくなって、防球ネットに取り付いて。
「もう少し腰を引かんか!」
 一言放てば、後はもう雪崩のように。
 やれ脇を締めろ、手を振りかぶり過ぎるな、球をよく見ろ、軸足の体重を確りと乗せろ。
 溢れ出る助言。それは素人の発言でありながら、然し賢者の提言でもある。
「師父……」
 一打席目を終えて振り返れば、ジャハルが師父の背に視たのは揺らめく幻炎。
 嗚呼、これは確か――。
「師父が、師父が『カントク』のように……」
「口を動かす暇があるなら手を動かさんか!」
 何処からか闘将を降ろしてしまったらしき師父は、口角泡を飛ばすくらいの勢いで言いながら、操作盤のボタンを押し込む。
 途端、彼方から放られる豪速球。ジャハルも懸命にバットを振るが、打球はまだまだ、ぼてぼてのゴロばかり。
「阿呆、剣と同じように振って如何する!」
「……そうか、剣とは違うのだな」
 うむ。やはり師父の言葉として受けてこそ、理解も進むというものか。
 網一枚隔てての熱烈指導に不思議な充足感を覚えつつ、ジャハルは自信を持って彼方を見据えた。
 ――来るがよい。あの蒼穹の果てまで打ち上げてやろうぞ。
 バットで天を指し示してから構えれば、機械から投じられた一球が唸りを上げて迫る。

 そして。
 拠点一帯に響き渡るほどの、爽快な金属音が一つ、鳴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月14日


挿絵イラスト