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過去には戻れない

#ダークセイヴァー #同族殺し

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#同族殺し


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●暴食卿
 人は過ちを犯す生き物である。
 犯した過ちが大きければ大きいほどに、人は心を閉ざす。己の心に鍵をするのだ。
 過ちは正せない。人は過去に戻れない。しかし、過去の化身たるオブリビオンは、人ではない。彼らは過ちを犯したからこそ、オブリビオンであるのか。その問いに答えるものはいない。
 だからこそ、暴食卿『ヴェルハディス』は狩り殺す。
 己の過ちを薄めるように。何度も何度も、狩り殺す。それを人は贖罪と呼ぶのかも知れない。
 狩り殺す。目に映る異形全てを滅するまで、止まらない。銃声が響く。放たれる魔弾はあらゆる障害物を無に帰す。放たれた餓狼は次元を超えてでも異形を食い破る。蝗害そのものたる銀の蝗は、あらゆるものを貪り尽くす。
 そのもてる手腕全てを持って、暴食卿『ヴェルハディス』は狩り殺す。

 嘗ての己の指の隙間からこぼれ落ちたものを得る、その時まで。

「俺は間違っている。間違っていた。そして、これからも間違える」

●同族殺し
 そこは幾多もの近衛兵が警備する領主館であった。しかし、今は喧騒に包まれ、混乱の極みにあった。
 オーバースト・フックス。それは剣技と分身に長けたヴァンパイア。彼らは全てが分身体。己自身であるが故の連携に長けていた。
 分身であるがゆえに、意思伝達も連携も全てが高度そのもの。しかし、その尽くが血の追跡者たる餓狼によって食い破られ、銀蝗の大群がありとあらゆるものを貪り尽くしていく。
 何重にも張り巡らされた警備が引き剥がされていく。難攻不落とも言われた要塞めいたヴァンパイアの領主館が今、一人の狂える同族によって瓦解しようとしていた。

「同族殺しが、たった一人でここまで被害を齎すなど……」
 領主館の主、聖剣使いの吸血鬼・ブラックはその言葉とは裏腹に歓喜の表情を浮かべる。
 狂える同族殺しは彼らヴァンパイアにとっては忌むべき存在である。同族殺しが何故、狂ってしまったのかは、ブラックにとって問題ではない。
 むしろ、歓喜しているのは、己と同等かそれ以上の強者との戦いに打ち震えているからだ。武者震いなど、とうに忘れた感覚かと思っていた。だが、己の体の震えは失っていたものを急速に取り戻そうとしていた。
「私も打って出る。久方ぶりの強者との戦いだ……」
 漆黒の鎧をまといしヴァンパイア、聖剣携えし嘗ての騎士は獰猛に哂う。狂える同族殺し何するものぞ。
 聖剣を掲げ、ブラックは部下たる近衛兵が止めるのも聞かずに館の外へと飛び出すのだった。

●領主館強襲
「お集まりいただきありがとうございます。今回の事件はダークセイヴァー。ヴァンパイアの支配する闇の世界です」
 ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)がグリモアベースに集まってきた猟兵たちに頭を下げて出迎えた。
 そう、闇と夜の世界ダークセイヴァー。そこはヴァンパイア支配の根強い世界である。その世界で事件ともあれば、ヴァンパイアによる領民である人々への圧政によるものであると判断するものも少なくなかった。

「いいえ、今回は違うのです。聖剣使いの吸血鬼・ブラック……かの強力なヴァンパイアの収める領地、難攻不落とも言われた彼の領主館が、狂える同族殺しによって強襲されているようなのです」
 そう、今回はヴァンパイア同士の戦いに介入し、二人の強力なヴァンパイアを滅しなければならない。本来であれば、ブラックの領主館は警備が厳重であり、猟兵達では破ることがそもそも難しい拠点であった。
 だが、今回何故かはわからないが、狂える同族殺しと呼ばれる狂ったヴァンパイアによって警備の層が薄くなり、ブラックを討ち果たすチャンスとなっているのだという。

「狂える同族殺し……暴食卿『ヴェルハディス』が何故、同族を狙うのか、狂ってしまったのかは未だわかりません。ですが、強力なヴァンパイアを二人も倒せる機会はそうあるものではありません。皆さんでこれを討ち果たしてほしいのです」
 これは絶好の機会である。
 まずは警備である群体オブリビオン、オーバースト・フックスと呼ばれる分身で構成された近衛兵たちを同族殺しの強襲によって混乱に乗じて蹴散らす。
 この際、狂える同族殺しはヴァンパイアのみを狙っている。無理にここで同族殺しを狙うのはリスキーであろう。
 今はまだ放っておいて良い段階である。

「近衛兵たちを蹴散らした後は、この領主館の主、聖剣使いの吸血鬼・ブラックを討ち果たしましょう。とはいえ、同族殺し、ブラックとの三つ巴の戦いとなります。同族殺しは、常にブラックを狙っていますので……利用する、のが得策でしょう。そうでもしなければ、ブラックは倒せないほどの強敵なのです」
 漁夫の利を狙う、ということである。
 どのような理由があるにせよ、強力なヴァンパイアを倒せる機会などそうない。これを逃してしまえば、どちらのヴァンパイアも取り逃がしてしまうという最悪の結果にナリかねない。

「最後に狂える同族殺し、暴食卿『ヴェルハディス』です。狂気を纏った極めて強大なオブリビオン……ここまでの戦いで極度の消耗を強いられています。途中の戦闘で彼の言動から何かがつかめることもあるかもしれません。ですが、彼を倒すこと……骸の海へと還す事自体は変わりません」
 どうか、ヴァンパイアを討ち果たし、ダークセイヴァー世界の人々の安寧に繋がるように事件を解決して欲しいと頭を下げるナイアルテ。

 正道を行く戦いとは、ずれているのかもしれない。ヴァンパイアの戦いに介入すること、それがどのような結末を齎すかわからない。
 だが、それでもヴァンパイアはオブリビオンであり、過去の化身である。彼らを討ち果たさなければ、人々の暮らしに安心と平和はやってこないだろう。

 だから、とナイアルテは再び頭を下げる。どうか、人々のために、と。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はダークセイヴァーにおけるヴァンパイア同士の戦い、狂える同族殺しとヴァンパイア領主との戦いに介入し、これらを討つシナリオになります。

●第一章
 集団戦になります。同族殺しによる強襲によって混乱している領主館の警備を蹴散らし、領主である聖剣使いの吸血鬼・ブラックへと迫りましょう。
 この戦いの場に狂える同族殺し、暴食卿『ヴェルハディス』も近衛兵たちを攻撃していますが、猟兵の味方というわけではありません。
 標的があくまでヴァンパイアというだけで、猟兵が攻撃を仕掛ければ、当然反撃してきます。ただし、強大なオブリビオンのため、彼に攻撃を加えた場合、相当な苦戦か失敗を強いられることになります。

●第二章
 ボス戦です。猟兵、同族殺し、領主ヴァンパイアの三つ巴になります。同族殺しは依然、ヴァンパイアのみを狙っています。扱いは第一章と同じです。
 猟兵の皆さんの目的は領主ヴァンパイアの撃破です。これに集中しても構わないでしょう。ただし、同族殺しに呼びかける、狂った理由を引き出す、などの行動は判定に影響しません。

●第三章
 ボス戦です。敵は同族殺し。狂気に飲まれた強大なヴァンパイアですが、連戦で消耗しきっています。本来の力を出すことはできませんが、それでも強力であることは間違いありません。
 戦い討ち果たすもよし、その狂える理由を汲んでみるのもよいかと思います。どちらにせよ、討ち果たし、骸の海へと還すことにはかわりありません。

 それでは闇に支配された世界、ダークセイヴァーにおけるヴァンパイア同士の戦いに介入し、強大なオブリビオンを倒しましょう。
 みなさまの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 集団戦 『オーバースト・フックス』

POW   :    ツヴァイ・クラールハイト
自身と自身の装備、【己の分身】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    ブルート・イルズィオーン
【流し目】から【紅光】を放ち、【血まみれの臓物に縛られる幻覚】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    フェアエンデルング・シュヴェールト
【血をすすり形状を変える吸血牙の剣】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。

イラスト:唐草

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 その魔弾の銃声が鳴り響く度に、ヴァンパイアであるオーバースト・フックスの頭が吹き飛ぶ。
 オーバースト・フックスは分身による完全なる意思疎通と連携に長けたヴァンパイアである。一体の頭が吹き飛ばされようとも次々と分身し、数を増やしていく。
 だが、それでも魔弾放つ狩り人たる暴食卿『ヴェルハディス』の進撃は止められない。

「俺は間違っている。間違えている。やり方も間違えた。生き方を間違えた。だから―――」
 だから何だというのだ、とオーバースト・フックスの吠える口蓋諸共吹き飛ばされ消えていく。

「異形は狩る。狩り殺す。一匹残らず狩り殺す。俺の前に立ち塞がるだけで、すでにお前たちは罪ありき者。異形である以上、俺に狩り殺される宿命。殺さない選択肢はない。不殺はしない。狩り殺す。全て狩り殺す」
 餓狼が飛び出し、新たなる犠牲者が増えていく。遠吠えのように、哀切含む餓狼が鳴く。それはもはや、見果てぬ何かを見ようとして、目の前の異形を取り除くしか手段のない子供のように。

「俺は取りこぼした。指の隙間からでさえ、取りこぼしてはならない何かを―――」

 暴食卿『ヴェルハディス』は魔弾を放つ。何者も、彼を止められなかった。
ガーネット・グレイローズ
同族殺しによる、吸血鬼同士の抗争か。では、この混血児の末裔が状況をさらに引っ掻き回してやろう。殲滅戦だ!

屋敷の中は暗くて見えにくいだろうから、にわとり型ドローン『メカたまこEX』の〈暗視〉能力を頼りに進もう。敵と接触したら【妖刀の導き】を使用して武器攻撃力を強化する。狭い廊下や階段での戦いを想定し、武器は取り回しに優れたスラッシュストリングを選択。切れ味の増した鋼糸を〈念動力〉で操り、糸鋸の要領で高速振動。〈鎧無視攻撃〉で防具もろとも切り捨てるぞ。ついでにヒット後は糸に帯びた〈呪詛〉を流し、追加ダメージを与えてやる。



 闇と夜の世界、ダークセイヴァーにおいてオブリビオンであるヴァンパイアの支配は盤石である。故に彼らが警戒すべきは猟兵であり、異端の神々である。
 しかし、彼らとて忌むべき相手は存在する。それは同族殺し。狂えるオブリビオンであり、その狂気にいたった理由は定かではないが、同じヴァンパイアを狙って同士討ちをはじめてしまう。
 難攻不落と言われた領主館の主、聖剣使いの吸血鬼・ブラックは、それを歓迎したが、大概のヴァンパイアは同族殺しを忌避している。
 暴食卿『ヴェルハディス』は屋敷の中にすでに突入し、近衛兵であるオーバースト・フックスの分身を尽く鏖殺せしめる。混乱の最中に乗じて猟兵たちが強襲を仕掛けても、以前ほどの堅牢さはないだろう。
 グリモア猟兵の予知通りである。ならば、ここからは猟兵次第。この狂えるヴァンパイアによる同士討ちを契機に、圧政強いる領主館の主ブラックを討ち果たす。
 そして、狂えるヴァンパイアであるヴェルハデスもまた討伐しなければならない。

 屋敷の中は混乱の渦中にあった。そして、闇夜の世界の支配者であるヴァンパイアにとって暗がりは夜目が効くが故に明かりは必要なく暗黒そのもの。
 にわとり型ドローンが屋敷の中を飛ぶ。ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)の所持するドローン「メカたまこEX」は、その暗視したデータを主であるガーネットに送り続けていた。
「同族殺しによる吸血鬼同士の抗争か」
 それはガーネットにとっては如何なる意味を持ったであろう。吸血鬼と人間の混血。さらに言えば、ダークセイヴァー世界ではない遥か昔に宇宙へと領土を求めて進出した吸血鬼族の娘である。
 そんな彼女にとってダークセイヴァー世界での同族殺しに介入するのは思うところがあったのかもしれない。

 だが、そこに情け容赦という言葉は存在しない。ヴァンパイアである以上、人々の安寧に牙をむく者だ。
 ならばガーネットが成すべきことは決まっている。
「この混血児の末裔が状況をさらに引っ掻き回してやろう……」
 暴食卿の強襲によって屋敷の中は混乱しているとはいえ、警備がまったくないわけではない。ガーネットの侵入を嗅ぎつけたオーバースト・フックスの分身たちが彼女を追ってやってくる。
「殲滅戦だと意気込んでいたが、これは僥倖。相手が向こうからやってきてくれるとはな!」
 彼女のユーベルコード、妖刀の導き(ヨウトウノミチビキ)が発動する。彼女の手にした妖刀・アカツキの解き放たれた刀身が赤く輝く。それはその名の通り、暁ではなく朱月。
 銘の通り、朱く輝く月を思わせる刀身にユーベルコードによって地に満ちた邪気がまとわりついていく。
 それは彼女の持つ武器全てに行き渡るように強化を施されていく。
「今宵のアカツキは血に飢えている……だが、振るうには値せず。あなたたちにはこれで十分……」

 オーバースト・フックスたちがたじろぐ。そう、この屋敷の通路という限定された空間の中で長物を振るうのは不利が生じる。だからといって、彼女の持つ武器は見え―――。
 闇夜に銀閃が閃く。それは彼女のはなったスラッシュストリング……オーバースト・フックスたちは知る由もないが、未知の惑星に住まう凶暴な宇宙怪獣の外皮すら物ともせずに切り裂くブレードワイヤーが放たれたのだ。
「言っただろう?殲滅戦だ、と。あなたたちを逃がす理由はない。さらば、遠き過去のヴァンパイアたち」
 ガーネットの放ったブレードワイヤーは念動力によってコントロールされ、狙い過たずにオーバースト・フックスの首を寸断する。
 念動力はコントロールだけではない。振動させ、糸鋸のように高速で切り裂く攻撃は鎧の防御など紙切れ同然であった。

「呪詛を与えるまでもない……と……あれが噂の」
 同族殺しか、とガーネットの視界に映る暴食卿『ヴェルハデス』の姿。彼は無機物全てを銀の飛蝗へと変え、オーバースト・フックスの分身体たちを貪り尽くしていた。
 その姿は強大なオブリビオンであることは間違いない。
「俺は間違えた。取り間違えた。思い出してはならないものを思い出した……それが間違いであったのに、止められなかった事自体が間違いだった。取り返しが付かないのに、取り返せると一瞬で思ってしまった……!」
 それは憤怒。
 離れているガーネットは標的にされない。だが、それでもその肌を震わせるほどの憤怒が空気を振動させ、ガーネットの肌を焼く。

 あの狂えるオブリビオンは、一体何を。
 そう疑問に思う間もなく、ガーネットの前から暴食卿『ヴェルハデス』は新たなるヴァンパイアを求めて消えていく。

「……憎悪、憤怒……あれが同族殺しなのか?」
 垣間見た暴食卿の翳り。それは彼が狂気に陥った要因を紐解くものへとなり得るのだろうか―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・咲凛
よくわからないけどとてもとても激おこなのです。何を失ってしまったのでしょうか、聞いても構いませんか?
私も、覚えてないのですけど、とても大事な物を失った気がするのです。(記憶喪失ですが怯えて戦えなかった自分の『助けて』という言葉に応じるために、単騎で敵の大軍と戦った姉を喪っています)
銃を使うのであればあんまり距離は関係なさそうかな。こちらも話せる程度の距離で戦いましょう。ガトリングだと音がうるさいので火線砲を使用、暴食卿の後ろの方の敵を倒すようにしておけば、信用されるかはともかく役に立つ程度には思われるかな、と。
口より手を動かす感じではありますけど、ちょこちょこ言葉をかけながら共闘していきます。



 時は戻らない。
 失ったものは戻らない。無くしてしまったものは、すでに掌の間からすり抜けていったものばかりだ。
 取り返しのつかない行いは、どうあがいても取り戻せない。失った場所に充填しても元通りにはならない。
 傷は癒える。時間だけが慰めになる。だが、その傷痕は消えない。歪に歪み、元には戻らないのだ。
 だからこそ人は成長していくものであるのかも知れない。人はそれを錬磨とも呼ぶし、研鑽とも呼ぶ。
 小さな傷を受けて人の形となっていくのだと。
 だが、大きな傷を受けたものはどうなるのだろう。傷痕を満たせぬほどの傷を負った者は―――その傷を持って、他者を傷つけるしかなくなる。
 取り返しのつかない何かを取り返そうとして、他者から奪おうとするのだ。

 暴食卿『ヴェルハディス』もその一人であったのかもしれない。
 その力は強大そのものであり、狂気に陥っていなくとも実力は凄まじいものであったことだろう。オーバースト・フックスの分身たちを薙ぎ払う餓狼の群れ。ヴァンパイアである以上、暴食卿の標的であった。
「取りこぼしてしまったものは救えない。こぼれた生命は戻らない……」
 譫言のように暴食卿の口からこぼれ出るのは後悔の言葉か。いや、その言葉に含まれるのは怒気そのもの。

 月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)は、それを見て理解できていなかった。何故、そこまで怒り狂うのか。
「とてもとても、激おこなのです。何を失ってしまったのでしょうか……聞いても構いませんか?」
 その声が届くとは思えなかったが、言わずにはいられなかった。彼女もまた屋敷の中へと突入してきた猟兵の一人だった。
 飛行ユニットによって体格差を補ってはいるものの、彼女のような幼い少女までもが戦いに参じるのは猟兵以外には奇異に映ったことだろう。
 しかし、猟兵である以上、見た目が幼かろうがヴァンパイアであり、オブリビオンであるオーバースト・フックスたちにとっては関係がない。
 彼らの流し目と目が合った瞬間、咲凛の瞳に映るのは幻覚。血まみれの臓物が彼女の体を縛り付ける幻視が彼女の体の動きを苛む。

「―――っ、ひ、これっ!」
 怖気が走るような幻視。それは彼女の足を止め、オーバースト・フックスにとって絶好の好機となる。だが、それは暴食卿の放った餓狼によって打ち破られる。
 餓狼がオーバースト・フックスを食い破り、咲凛に掛けられた幻覚を解く。
 助けられた……?と思う間もなく次々と暴食卿、咲凛に襲いかかるオーバースト・フックスたちの分身。
 なだれ込むようにしてやってくる彼らを咲凛のユーベルコード、コード・アクセラレーターによる超高速攻撃がなぎ払っていく。
 火線砲の攻撃は、暴食卿を巻き込まぬようにと、注意を払って放った。これで信用を得る……そういった狙いが無いのかと言われたら、そういうわけでもなかった。

 ただ、咲凛にとっては、どうにも放ってはおけない。
 それは暴食卿にシンパシーを感じているからかも知れない。彼女の過去。もう思い出せない何か。自分にも在る喪失感。それを暴食卿もまた抱えているのではないかと思ったからだ。
「あなたは、なんで―――!」
 どうして、こんなことをするのか。その言葉は戦いの音にかき消されていく。届かない。今はただ、戦う相手が同じである、ということだけが共闘の要石になっている。
 もしも、それが無くなった時、咲凛は暴食卿を撃てるだろうか。

 答えはまだ出ない。しかし、その暴食卿が抱える憤怒の意味。その意味を理解しようと咲凛は未だ闇夜の世界でもがき続ける。
 手を伸ばしたとしても、答えが出るとは限らない。
 だが、手を伸ばさなければ手に入れることはできない。喪ったものは戻らない。けれど、新たな何かを掴むためには、手を伸ばさなければならないのだから―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

シル・ウィンディア
同族殺しかぁ…

いろいろ気になるけど、まずはここを切り抜けないとね
屋敷内だし空は飛べないかぁ
機動は【ジグザグ】と【残像】で撹乱しながら動き回るよ

回避行動は【第六感】を信じて動きを【見切り】対処
被弾時は【オーラ防御】と【盾受け】でカバー
その時、【属性攻撃】で光を付与してカウンター出来るようにだね

通常攻撃は光刃剣と精霊剣の二刀流でヒット&アウェイ

うーん、このままじゃちょっとじり貧かなぁ
よし、久しぶりにこれで行くか
【高速詠唱】で隙を減らして
エレメンタルドライブ・ダークネスを発動

…さ、ここから本番だよっ!
強化された機動力+低空飛行の【空中戦】で切り裂いていくね

攻撃や機動時は同族殺しの射程や射線に注意



 同族殺し。それはヴァンパイアの中でも忌避すべき存在である。
 オブリビオンであるヴァンパイアの支配が盤石であるダークセイヴァーにおいて、異端の神々と同じようにヴァンパイアにとって疎ましい存在である。
 同族殺しが何故狂ってしまったのかは、定かではない。何故狂うのか。何故同族を狙うのか。その理由すらわからぬままに、同族殺しのヴァンパイアは同じヴァンパイアを執拗に狙い続ける。

 暴食卿『ヴェルハディス』もまた同族殺しの一人である。
 その攻撃は苛烈にして激烈である。遮蔽物など意味をなさす銃弾に召喚される餓狼と銀蝗。それらは暴食の名に恥じぬ狂乱の徒となって、聖剣使いの吸血鬼・ブラックの難攻不落の城塞じみた領主館の警備を引き剥がすようにヴァンパイアであるオーバースト・フックスの分身たちを引き裂いていく。
「断じて許せない。やはり狩り殺さなければならない。異形は全て。殺して、狩って、その存在の一欠片とて残してはおけない……」
 その言葉に宿るのは憤怒。言い知れぬ同族への嫌悪。そして、それは同じヴァンパイアである自分自身にもまた言えることであったのかもしれない。

 その咆哮じみた暴食卿の声を同じく屋敷に突入してきた猟兵であるシル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)は聞いた。
 憎悪に塗れた憤怒の声。それは確かに彼女の気を惹いた。どうしてだろう。この憤怒と憎悪の声は、一体どうしてなのだろう。
 彼女の心根がそうさせるのかはわからない。けれど、その憎悪と憤怒は、なぜか彼女の物悲しく感じさせたのかもしれない。
「色々気になるけど、まずはここを切り抜けないとね」
 彼女が対峙するのは、オーバースト・フックス。それらは数多の分身を生み出し、分身であるが故の連携と意思伝達によって人ならざる行動を可能にした群体オブリビオンである。

 事前の情報通り、彼らの瞳には幻覚を見せる効果がある。空中戦が得意なシルにとって屋敷内での戦いというのは、そのアドバンテージを捨てることと同義であった。
「屋敷内だし、飛べないけど、ね―――!」
 だが、空が飛べぬからと言って彼女の実力が遜色するわけではない。
 屋敷が四方を囲われた壁だというのであれば、その壁こそが彼女の足場そのものである。床を、壁を、天上を蹴る戦闘軌道はまさにジグザグに宙を裂く刃。
 撹乱されるオーバースト・フックスを尻目にシルの光刃剣と精霊剣が十文字にオーバースト・フックスの分身体を切り裂く。
「まずは一つ!このまま―――わっ!」
 しかし、狭い屋敷の通路内では分身を次々と生み出せるオーバースト・フックスに利がある。
 二刀流でのヒット・アンド・アウェイの戦法も数が多けれ多いほどに、時間の経過がネックになっていくだの。

「うーん、このままか、ちょっとジリ貧かなぁ」
 オーバースト・フックスの放つ剣をオーラの盾で受け流しながら、カバーする。しかし、如何せん敵の数が多い。斬って捨てても即座に分身が増えてくるのだから、きりがない。
 これが難攻不落と言われた領主館の防衛力の秘密なのだろう。
「よし、久しぶりに来れで行くか!」
 彼女の高速詠唱が始まる。それは彼女のユーベルコード、エレメンタルドライブ・ダークネスの発動トリガー。
 一瞬で詠唱が終わる。それはまで異なる星の歌声のような詠唱であった。
 彼女のユーベルコードにより、闇の精霊『ダークネス』の力が身に纏わる。剣にもまた闇精霊の力が込められ、漆黒に妖しく輝く剣を翻して、シルが駆ける。
 先程よりも一層身体能力が跳ね上がり、速度が増す。
「……さ、ここから本番だよっ!」
 
 それは正しく一瞬の攻防であった。闇を纏うシルの体は残像を残す。しかし、その残像が消える前に、オーバースト・フックスの分身は切り刻まれ、霧散していく。
 低空飛行の如き低いシルの踏み込みはオーバースト・フックスの分身に知覚させることもなく、分身を増やす間も与えずに周辺の分身を無に還していくのだった。
「―――っ、ふう!これ、疲れるんだよね……でも、こっちはあらかた……同族殺し……あっちは、どうなっているんだろう」
 憤怒の声はまだ悲しく響いている。銃撃の音、餓狼の遠吠え、銀蝗の羽撃きは屋敷の中から収まることなく聞こえてくる。
 未だ暴食卿の鏖殺は止まらない。きっとこの領主館の主を倒したとしても、きっと終わらないのだろう。
 それを予感させる残響だけが、シルの耳にこびりつくのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「吸血鬼が二人いるのか。…吸う順番間違えないようにしないとねぇ。」
まあ、先ずは前菜からかな。

暴食蝙蝠のUCを発動。無数の蝙蝠に身体を変化させて戦う。
敵さんを霧で囲み撹乱し、無数の牙で【吸血】し【生命力吸収】。
ミイラになるぐらい吸って殺してあげる。

同族殺しさんの方は無視する事にしよう。好物は後で食べる派なんだよねぇ。

「さて、君らの血はどんな味なのかな?」



 暴食卿『ヴェルハディス』。その名は瞬く間にダークセイヴァーを支配するオブリビオン、ヴァンパイアに知れ渡ることとなった。
 それは彼が同族殺しであるが故。ヴァンパイア支配の盤石である闇と夜の世界であるダークセイヴァーに置いて、最も忌避すべき存在。それが同族殺しである。
 狂気に陥ったヴァンパイアは強大であるがゆえに、同族であっても手を付けられないほどの暴風となってヴァンパイアを襲い続ける。

 その理由もわからぬままに徒にオブリビオンであるヴァンパイアたちは同士討ちを続けるのである。
 大概のヴァンパイアは同族殺しを忌避する。だが、難攻不落の城塞じみた領主館の主である聖剣使いの吸血鬼・ブラックは違う。強者との戦いを求める彼は、その相手が同族殺しであろうと猟兵であろうと構わないのだ。強者であるのならば。

 領主館を強襲する暴食卿『ヴェルハディス』は、まさに暴風のように領主館を守る近衛兵、オーバースト・フックスたちを屠り去る。
 銃弾は魔弾じみた精度でオーバースト・フックスの分身を打ち貫く。呼び出された餓狼があっという間に喉笛を掻ききる。
 銀蝗の羽撃きが通った後にはオーバースト・フックスの分身の死骸すら残らない。
 
 そして、領主館を強襲するのは暴食卿だけではない。
「吸血鬼が二人いるのか。……吸う順番間違えないようにしないとねぇ」
 須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は、暴食卿の強襲に合わせて、ゆらりと紫と黄色の髪を揺らして屋敷内に侵入を果たした猟兵の一人であった。
 強固な警備は、暴食卿の蹴撃によって破綻している。こんなにすんなりと入り込めるとは思ってもいなかった。
 なるほど、と莉亜は得心行く。暴食卿の通った後は、何も残っていない。ヴァンパイアの近衛兵の分身の死骸すら一片も残っていない。
 まさに暴食。なるほどねぇ、と莉亜は笑う。
「敵さん、よほど腹に据えかねているんだねぇ……まあ、まずは前菜からかな?」

 莉亜が振り返ると、そこには近衛兵たる群体オブリビオン、オーバースト・フックスが群がるようにして殺到していた。
 大方暴食卿の強襲に慌てて分身体を増やしたのだろう。無駄なのに、とまた莉亜は笑う。
「暴食卿か、僕か、どっちかの問題だとは思うんだよねぇ……でも、わざわざやってきてくれて、帰ってもらうのも悪いからねぇ」
 彼のユーベルコード、暴食蝙蝠(グラトニーファングズ)が発動する。足元から無数の蝙蝠へと姿を変じていく。
 それは闇の夜の世界たるダークセイヴァーの支配者、ヴァンパイアそのもの。
 莉亜の体全てが蝙蝠へと変化すれば、オーバースト・フックスの分身体全てを濃霧で囲い込む。
 それはただの捕食であった。ただの食事。暴力ですらない。
「さて、君らの血はどんな味なのかな?」

 オーバースト・フックスたちの吸血剣が濃霧の中で無闇矢鱈と振り回される。それは標的定まらぬ剣故、無数の蝙蝠へと変じた莉亜に届くべくもない。
 蝙蝠たちの牙が得物へと突き刺さる。かぶりつき、吸血し、生命そのものを吸収していく行為。見る見る間にオーバースト・フックスの分身たちが干からびていく。
「血も肉も全部、僕のモノ……わかっているよねぇ?君たちはただの前菜さ。好物は……後で食べる派なんだよねぇ」
 わかるかな?と無数の蝙蝠たちから莉亜の声が反響する。濃霧の中は最早混乱そのものであった。
 また一人、また一人と干からびて倒れていく。
 軽い音。生命の音がしない。濃霧が晴れ、蝙蝠たちが集合して、再び莉亜の姿へと戻った時、オーバースト・フックスの姿は何一つ残っていなかった。

「ぷはっ……あー……これを使うと食べているはずなのにお腹が減ってしようがないんだよねぇ……メインディッシュは、まだかなぁ……」
 未だ暴食卿の蹂躙は屋敷の中で続いている。
 楽しみだ、と蹂躙の音を奏でられる音楽に聞き入るようにしながら、莉亜は屋敷の中を進むのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九之矢・透
勘十郎サン(f23816)と共闘

同族揉めなんて勝手にしろって所だけど
領民が助かるなら話は別だ

暴食卿は狙わない
巻き込まれるのもゴメンだが
卿が通った警備が薄い所を穿ってみよう
ま、それでも数は多そうだ
先ずは動きを止めようか

夜目で剣の煌めきを逃さずに
聞き耳で足音を捉え
群れで襲い来る時を狙い【蜘蛛の絲】

室内留意しある程度方向は予測
絲は範囲広く多くの敵を捕らえられる様に

取りこぼしは包囲や刃が届く前に
腕や足を麻痺纏わせた柳で狙い機動力を削ぎ逃げる

捕らえたヤツのトドメや捌ききれないヤツは…
任せても?勘十郎サン

にしても、何に怒ってるんだろうな
あの人

半透明の姿に目を白黒
そんな事も出来るんだ

お、まだ居た?
ありがと


岩永・勘十郎
※九之矢・透殿と共闘

透殿は雑魚敵をUCで的確に拘束。流石としか言いようがない。
全て任せても良いかもだが、それでは勘十郎の面目が立たないという物。

「ほれ!」

軽く傍観を決めていた勘十郎は飲んでいたジュース缶に土を入れ【怪力】を駆使し暴食卿の背後遠くまで飛ばす。きっと落下した音に反応し、暴食卿は後ろの敵に気を取られ始めるだろう。その隙に前進する。

「さぁ? でも触らぬ神に祟りなしだ」

そう言って弓を構え【UC】を発動。今回は透殿に分かるよう自身を半透明にしオーバースト・フックスに攻撃する間も与えず【早業】【見切り】を駆使し射抜いていく。

「さっさと終わらせよう」

と透殿が捉え切れなった背後の敵を矢で射抜く。



 闇と夜の世界ダークセイヴァーにおいてヴァンパイアの支配は盤石である。彼らの支配が届かぬ場所といえば辺境の地くらいのものである。そこは異端の神々が跋扈する場所であり、同時に体を乗っ取られたヴァンパイアが狂えるオブリビオンとして存在している。
 それと同様にヴァンパイアにも忌避すべき存在がいる。
 同族殺し。それが彼らヴァンパイアにとって最も忌むべきものである。狂気に陥ったヴァンパイアが何故そうなったのか。その理由は知りようもない。
 何故ならヴァンパイアを執拗に狙い続け、意思疎通など不可能であるように思えるほどに凶暴なる力をふるい続ける。
 暴食卿『ヴェルハディス』もまた忌むべき同族殺しの一人である。その力は強大そのものであり、まさしく暴風のような力をふるい続けているのだ。
 難攻不落の城塞とまで呼ばれた聖剣使いの吸血鬼・ブラックの領主館を強襲しているのも彼である。最も、領主のブラックは強者との戦いを求めるヴァンパイア故に、この状況を歓迎しているようであったが。

「同族揉めなんて勝手にしろってところだけど、領民が助かるなら話は別だ」
 よっ、と暴食卿の強襲によって警備の緩んだ領主館に入り込んだのは猟兵の一人、九之矢・透(赤鼠・f02203)である。その後に続くのは、岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)だった。
 二人が連れ立つ姿を咎める近衛兵はいなかった。それは屋敷の中から響く銃声や餓狼の遠吠え、銀蝗の耳に衝く羽撃きのせいであることは明白だった。
 然り、と勘十郎が頷きを返す。これだけ警備が手薄であるのであれば、傍観に徹していてもいいのではないかと思ったが、そうも行くまい。
 二人は互いがどう立ち回るのかをしっかりと打ち合わせてきている。
 暴食卿は狙わない。それは彼を狙えば警備の手が強まるし、こちらへの負担もかかる。だが、暴食卿の攻撃に巻き込まれるのも御免なのだ。

「透殿、では参ろう」
 短く頷きあって、二人は暴食卿が蹂躙した痕であろう通路進む。すなわち警備の薄くなった場所を穿てばいい。そうすれば、素早く領主館の主である聖剣使いの吸血鬼・ブラックの元へたどり着けるだろう。
 夜と闇の世界であるダークセイヴァーにおいて領主館は薄暗い。夜目が効くほうではあるが、油断はならない。
「と、早速お出ましだな。勘十郎サン、任しておいて!」
 オーバースト・フックス、分身を得意とするヴァンパイア。彼らは全て同一であるがゆえの意思伝達速度と連携を持って、この領主館の警備を鉄壁せしめていたオブリビオンだ。
 その鉄壁も暴食卿によって食い破られているせいか、数が少ない。といっても、普段に比べれば、という話である。それでも二人にとって数は多い。

「先ずは動きを止めようか!」
 オーバースト・フックスの剣が闇に包まれた領主館の通路に閃く。しかし、夜目の効く透の瞳にはしっかりと剣閃が映っていた。聞き耳はしっかりと足音を捉え、踏み込みの速度、距離を把握する。
 するりと剣の攻撃を避けきって、透はステップを踏むようにして立ち回る。自身の生まれ育ったストリートの狭さを考えれば、ここは広いくらいであった。
 剣閃が何度も闇に翻り、透を捉えようとするも、そのどれもが彼女を捉えられない。そして、そのステップはオーバースト・フックスたちの連携故に彼らを一箇所に誘導していたのだ。
「これから、逃げられると思うなよ!」
 そら!と両掌から放たれるのは、彼女のユーベルコード、蜘蛛の絲(クモノイト)である。それらは一箇所に誘導したオーバースト・フックスたちを一網打尽に捉え、拘束する。もがけばもがくほどに蜘蛛の絲は絡みつき、次第に彼らの体全体を覆い尽くしてしまう。
「ま、ざっとこんなもんだよ。さ、行こう勘十郎サン」
 お見事、と勘十郎が感心する。さすがとしか言いようがない。さて、全て任せても良い思ったが、それでは勘十郎の面目が立たないというもの。
 諦観を決めかけていたが、気を取り直して勘十郎は透と共に領主館の通路をひた走る。

 銃声がどんどん近づいてくる。複数の足音。飛び出してきたオーバースト・フックスの体を透の放つ蜘蛛の糸によって捉え、動きを止める。トドメを刺す間もなく襲い来るオーバースト・フックスたち。
 これでは捌ききれない。それに、オーバースト・フックスたちが多い理由も分かった。
 暴食卿だ。思いの外彼の近くに来すぎていたのだ。
「任せても?勘十郎サン」
 短く目配せして、取りこぼしたオーバースト・フックスたちを勘十郎がトドメを刺していく。休憩とばかりに飲んでいた缶ジュースに土を入れ、遠くとも暴風の如き戦いを見せる暴食卿の背後へとそれを投げ飛ばす。
 それは暴食卿の背後に落ちる。高い音を立てて、彼の注意が背後に向く。
 その瞬間に二人は、この乱戦の最中を駆け抜けた。
「さあ?でも触らぬ神に祟りなしだ」
 そう言って弓を構える。彼のユーベルコード、老梟の弓術(ロウキョウノキュウジュツ)が発動し、彼の姿が半透明になっていく。本来であれば、完全なる無色透明になることもできるのだが、今回は隣りにいる透にも認識しやすいように半透明になっている。
 その姿に透は目を白黒させている。思わぬ勘十郎の能力に、そんな事もできるんだ……と驚愕しきりである。

「黄泉送りだ。受け取れ」
 勘十郎の目にも留まらぬ早業は、つがえる弓さえも認識できぬほど。一瞬の見切り。透の放つ蜘蛛の糸。暴食卿の銃弾、餓狼の動き……あらゆる状況を見切っての斉射。
 一瞬で放たれる矢は、ありえぬほどの早業でもってオーバースト・フックスたちの体を貫いていく。それは駆逐、という言葉がしっくりくるほどの力であった。
 透がさらなる驚きに目を見開いた瞬間、彼女の背後に迫るオーバースト・フックスの眉間へと勘十郎のはなった弓矢が突き刺さる。
「さっさと終わらせよう」
 透が捉えきれなかった背後の敵を射抜き、勘十郎は暴食卿を見やる。こちらにはとんと視線を向けない。しかし伝わってくる怒りと憎悪は彼の肌を泡立たせたかもしれない。

「お、まだ居た?ありがと」
 互いの死角をカバーしあいながら、二人は領主館で戦い続ける。透は思う。何に怒ってるんだろうな、あの人、と。
 その怒りは何のために。誰のためのものなのだろうか。それをうかがい知ることはまだ出来ないのかも知れない。

 ただただ、彼ら二人の肌を暴食卿の放つ怒りと憎悪が焼く。
 その感情は確実に敵であるはずの猟兵、二人ではないヴァンパイアのみに向けられていた。その感情が如何に矛盾したものであるのか、かの暴食卿は築いているのだろうか。
 ヴァンパイアを憎むということは、己自身をも憎んでいるということに他ならぬのに―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレア・フォースフェンサー
オブリビオンの同士討ちを狙うか。
暴食卿なる者に勝って欲しいところじゃの。
倒せなかったとして、オブリビオンのみを狙うのであれば、むしろわしらには都合がいい存在じゃからの。
領主のところまでは消耗を抑えるよう援護しようぞ。

もっとも、この屋敷の有様を見るに援護など必要ないかもしれんがの。
一人のオブリビオンが攻めてきた割には、軍勢が蹂躙したような有様じゃ。

光珠を展開して戦況を把握。
暴食卿を狙うフックスらを【能力無効】の力を込めた光弓や光剣で屠ってゆこう。
増殖する輩というのは、再生する輩と並んで嫌われる存在じゃぞ?
大人しく骸の海に還るのじゃな。

――フックスらを蹂躙する暴食卿の技と力、見切っておこうぞ。



 同族殺しはヴァンパイアにとって最も忌避すべきものである。
 それは狂えるオブリビオン、つまりは異端の神々に魂と体を乗っ取られる以上に厄介な存在であるからだ。
 ヴァンパイアだけを狙い、ヴァンパイアを殺す。暴食卿『ヴェルハディス』はまさに暴風そのものである。ただただ、ヴァンパイアを鏖殺せしめんと放たれる銃弾は障害物など無いが如く貫いて標的の頭を吹き飛ばす。
 呼び出された餓狼は、どんな鎧をも噛み砕くようにしてヴァンパイアの喉笛を掻ききる。銀蝗の羽撃きが聞こえる度に、ありとあらゆるものが貪り尽くされ、霧散していく。
 もはやそれは、暴風と呼ぶには生易しい。竜巻、台風、災害と呼ぶに相応しい強大さであった。
 強襲されし領主館は常であれば難攻不落の城塞とも呼ばれる聖剣使いの吸血鬼・ブラックの館である。警備の要であったオーバースト・フックスの分身たちは、あらゆる場所から食い破られ、蹂躙され尽くしていた。

「オブリビオンの同士討ちを狙うか……暴食卿なる者に勝って欲しいところじゃの」
 クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)は静かに領主館へと入り込んだ。ゆっくりと足をすすめる。屋敷の中は銃声と餓狼の遠吠え、銀蝗の羽撃く音ばかりが渦巻くようにして反響している。
 鉄壁の警備で知られるオーバースト・フックスの姿もここには見当たらない。恐らく暴食卿の手によって倒され尽くしているのだろう。
 もしも、暴食卿がこの館の主、聖剣使いの吸血鬼・ブラックを倒せなかったとして、オブリビオンのみを狙うのであれば、むしろこちらにとっては都合のいい存在であるからだ。領主であるブラックのところまで消耗を抑えるように援護しようと算段を立てるのは自然な成り行きであったのかも知れない。

「……もっとも、この屋敷の有様を見るに援護など必要ないかもしれんがの」
 そう、進めば進むほどにわかる暴食卿の強大さ。それはまさに軍勢が蹂躙したも同然の有様であった。
 警備にあたっていたであろうオーバースト・フックスの分身たちは軒並み倒され、死屍累々の有様であった。
 ある者は頭蓋を吹き飛ばされ、ある者は胴を薙ぎ払われ……そして、死骸一つ残らぬ銀蝗の被害者のことを思えば、この積み重なったオブリビオンの分身の亡骸は氷山の一角。
 そもそも同士討ちの後の漁夫の利を狙わなければ、弱体化すら難しい相手であることにクレアは即座に気がつく。
 そして、この惨状を引き起こした暴食卿、その人となりは未だわからぬままであるが、この徹底ぶりを見るによほど腹に据えかねた怒りが根底にあるのだろうとわかる。

「しかし、何もせずにというのもな。早々にケリを付けたいと思うのは、わしも同じこと」
 彼女の光珠が展開される。それは宙に浮き、彼女の周囲と屋敷の中の状況を把握する。彼女の進む先に暴食卿はいる。屋敷の中央、大広間でオーバースト・フックスの分身たちが雪崩のように暴食卿へと襲いかかっている。
 だが、そのどれもが無意味であるかのように暴食卿によって尽く鏖殺され続けている。
 さて、とクレアは息を吐き出す。彼女のユーベルコード、能力無効(アンチ・コード)が発動する。それはユーベルコードを無効化する力を込めた光弓を生み出す。
 増殖する、ということは彼らの能力であろう。それに加えて、光珠から送られてくる情報でわかることもある。
 それはオーバースト・フックスの透明になる能力。おそらく暴食卿を不意打とうとしているのだ。
 それを見逃すほどクレアは愚かではない。光弓を即座に引き、光矢を放つ。
 狙い過たずに透明化しているオーバースト・フックスの体を貫く。どさりと重い音を立てて、オーバースト・フックスが崩れ落ちる。
「増殖する輩というのは、再生する輩と並んで嫌われる存在じゃぞ?大人しく骸の海へ還るのじゃな」

 その様子に暴食卿の視線が一瞬、クレアと絡まる。肌が粟立つような怒りに満ちた瞳。それはクレアに向けられているわけではない。だというのに、それでもなお、こちらの肌を焼くほどの怒りを感じてしまう。
 だが、それも一瞬である。暴食卿はすぐに視線を襲い来るオーバースト・フックスたちに向けられる。
 銃声が響き、オーバースト・フックスを鏖殺し続ける姿は、あまりにも流麗な動きであった。
 無駄であるように見えて無駄ではない布石。その一挙手一投足全てが、対峙するものを鏖殺するための手段。その技量、力、を見切ろうと金の瞳を細めるクレア。
 そこにあったのはオブリビオンである、という以上に暴食卿の抱える憎悪と怒りが彼を突き動かしているという事実であった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

村崎・ゆかり
同行:アイシャ・ソルラフィス

同族殺し。心が壊れるほどの何があったのか? 知る必要は無いかもしれないけど、この事件の全貌をあたしは知りたい。

まずは館の警備を潰さないとか。
執金剛神降臨。あたしは巫覡載霊の舞で神霊体になって薙刀を振るうわ。
執金剛神様の動きを同調させて、長物で「範囲攻撃」の「なぎ払い」。
透明になっていても、廊下の端から端まで薙げば当たるでしょ。
敵の動きは、あたしの知る「集団戦術」のセオリーから逆算し、逆手にとって「串刺し」にしてあげる。

暴食卿のことも気になるところ。
黒鴉召喚で作った「目立たない」式を「偵察」に送りだし、暴食卿の間近に張り付かせて、その言葉を残らず拾って事情を推測する。


アイシャ・ソルラフィス
ゆかりさん(f01658)と一緒に参加します

…なんだかすごい呪詛…
この人(暴食卿)がなにを失ってこうなったかは分からないけれど、これも猟兵としてのお仕事
本当は救ってあげたいんだけれど… 今はそんな雑念は振り払って、目の前の戦闘に集中しなくっちゃ、ボクたちがやられちゃうね!

ゆかりさんが前に出て戦うから、ボクは【守護の祈り】を使ってゆかりさんの戦闘力を増強! 負けないで、ゆかりさん!!
その後は《全力魔法》+《属性攻撃》+《見切り》+《なぎ払い》でゆかりさんを援護しつつ、暴食卿には攻撃が当たらないようにオーバースト・フックスの数を減らします



 心が耐えられる圧力はどれほどのもであろうか。
 来るえるほどの怒りを抱えて尚、潰れぬ心の有り様は一体何を支えにしているのであろうか。
 同族殺し、暴食卿『ヴェルハディス』は、聖剣使いの吸血鬼・ブラックの難攻不落の城塞とまで言われた領主館を強襲していた。
 夜と闇の世界ダークセイヴァーにおいて、同族殺しは忌避される存在である。ヴァンパイア支配の盤石であるダークセイヴァーの根底を揺るがす存在であるからだ。
 ヴァンパイアたち自体が悪しき存在であることはわかっている。だが、狂気に陥ったとされる同族殺しは一体何を思い、何を成すために同族を殺すのか。
 その理由はようとして知れない。だが、それを知りたいと思う気持ちは間違いであるのだろうか。
 知る必要がないと切り捨てることが最善であろうか。それはそれぞれの猟兵たちが思い、心に持つものである。
 正しさを決めるのは、己の心。他者の心をに寄り添うからこそ、人は強さを得ることができるのだから。

 領主館は凄まじい激戦の痕……いや、一方的な蹂躙の痕がそこら中に撒き散らされているかのようだった。
 アイシャ・ソルラフィス(隣ん家の尚くんを毎朝起こす当番終身名誉顧問(願望)・f06524)は、その屋敷の中の様子を持ってして、微かに肩を震わせた。
「……なんだかすごい呪詛……」
 そう、この館の警備を一手に担っていたであろう群体オブリビオン、オーバースト・フックスの亡骸とも言うべき分身体の残骸があちらこちらに散乱しているのだ。猟兵達もまた暴食卿の強襲に合わせて突入しているとは言え、この惨状を撒き散らすようにして進んだのかと、アイシャはそれを呪詛と表現した。

「こんな……同族殺し……心が壊れるほどのの何があったのか。知る必要はないかも知れないけど、この事件の全貌をあたしは知りたい」
 アイシャの隣に立つのは、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)。この惨状を見ても尚、暴食卿の何がここまでそうさせるのかを知りたい。知らなければならないと思ってしまう。
 アイシャもまた同じ気持ちであったのかも知れない。何を喪ってこうなってしまったのかわからない。けれど、これは猟兵としての仕事なのだと、二人は共通した想いを持って、この領主館へとやってきていたのだ。
「本当は救って上げたいんだけれど……今はそんな雑念は振り払わないとね」
「そうだね……でも、まずは館の警備を潰さないとか…」

 すでに暴食卿と館の警備であるオーバースト・フックスたちの戦いは、館の中心部へと推移しているようだった。
 彼女たちが館の中心部へと駆けつけた頃、そこには暴食卿の銃声と呼び出された餓狼による攻撃で分身を増やしながらも、徐々に押されつつあるオーバースト・フックスの姿があった。
 一方的な蹂躙。暴食卿は傷一つ負ってすらいない。しかし、ここで消耗仕切らせてしまうと、続く領主である聖剣使いの吸血鬼・ブラックとの戦いに支障が出る。
「オン ウーン ソワカ。四方の諸仏に請い願い奉る。其の御慈悲大慈悲を以ちて、此の時此の場に御身の救いの御手を遣わしめ給え!」
 ゆかりのユーベルコード、執金剛神降臨(シュウコンゴウシンコウリン)が発動する。呼び出されたるは、甲冑と金剛杵で武装した執金剛神。ゆかりの動きをトレースし、戦うのである。
 そんなゆかりにアイシャのユーベルコード、守護の祈り(プレアー・オブ・プロテクション)による加護が付与され、ゆかり自身の戦闘力が高まっていく。
「負けないで、ゆかりさん!!一生懸命応援するから!!」
 アイシャの声がゆかりの体に心強い暖かさを生み出す。それは加護の力だけではない。この惨状に渦巻く暴食卿の肌を焼くような怒りと憎悪に負けぬアイシャの心だった。
 それを受けたゆかりが負けるわけがない。
「まかせておいて!さあ!とくとご覧そうらえ!巫覡載霊の舞!」
 ゆかりの体がアイシャの加護を受けてなお、一層輝く神霊体へと変ずる。手にした薙刀は衝撃波を放ち、アイシャの放つ全力魔法によって広範囲にオーバースト・フックスたちを吹き飛ばす。
 暴食卿に当たらぬように、見切りをつけながら戦うのは困難を極めたが、アイシャにとって最も心強い味方、ゆかりがそばにいるのだから、弱音を吐くわけにはいかない。
「眼の前の戦闘に集中……!ボクたちがやられたら意味がないんだから!」
 アイシャの奮戦に背中を押されるようにして、ゆかりと執金剛神が戦場に舞い踊るようにして、薙刀から振るわれる衝撃波によって次々とオーバースト・フックスたちを撃破していく。
 例え、オーバースト・フックスの能力で透明になっていたとしても、広範囲にわたる衝撃波の攻撃の前には無意味である。逃しはしない。あらゆる場所においても、逃げることなど敵わないのだから!

 しかし、ゆかりはそれ以上に気がかりであった。召喚し作成した目立たない式。それを戦う暴食卿に張り付かせていたのだが……

「俺は間違えない。違えない。異形は殺す。狩り殺す。間違っていたとしても、間違えない。鏖殺するは異形のみ……俺は間違っている。間違えている。俺の狙いは―――」
 瞬間、ゆかりの背筋を凍らせる殺気を式越しに感じる。途絶える式の反応。撃たれた、と感じたのは式から送られた情報でわかった。
 あの乱戦の最中、暴食卿はゆかりの式を狙い撃ちしたのだ。恐るべき技量。恐るべき力。
 しかし、それ以上に狂気に満ちた暴食卿の言葉がゆかりの肌をざわめかせる。アイシャと共に感じた呪詛にも似た怒りと憎悪。
 それは肌を焼くほどの熱量であったにも関わらず、その言葉はあまりにも冷徹そのもの。相反するそれを感じて、肌が震えるのを確かに感じたのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
強者達の宴か
怒りも
憎悪も
憤怒も
今は置いておこう
おれは強者との戦いを望もう
おれはそこまで頭が回るわけでもないしな
同族殺しと近衛兵達の立ち位置と周囲の解析
そして…姉のシルの戦いぶりを見据えその斬撃の軌跡を脳裏に刻み

さて…ちょいとばかり出遅れたが…一つ巻き返そうか

同族殺しと動きを合わせるように飛び込む

【属性攻撃】
炎を全身と剣と太刀に付与
【第六感・見切り・残像】で回避
【空中戦】で飛び回りながら二刀での斬撃で襲い掛かり

刺突で【串刺し】

何度も激しく斬撃を繰り出し

斬撃の軌跡…シルの放ったものも含め多くの敵を巻き込めるように仕掛けを完了すれば

一つ姉妹の共同作業といこうか!
消えざる過去の痛み発動
(斬斬斬斬斬!



 闇と夜の世界ダークセイヴァーに銃声と遠吠えが響き渡る。それをかき消すように銀蝗の羽撃きが耳を劈くほどの音となって反響する。
 聖剣使いの吸血鬼・ブラックの難攻不落の城塞とまで呼ばれた領主館の警備は、すでに暴食卿『ヴェルハディス』の強襲と、それに合わせた猟兵達の突入によって引き剥がされたも同然となっていた。
 戦いは今も続いている。分身分裂を続け、近衛兵であるオーバースト・フックスたちは抵抗を試みていたが、同族殺したる暴食卿の前には、もはや風前の灯であった。

 同族殺し、それはヴァンパイアにとって忌避すべき存在である。
 そのヴァンパイアが狂気に陥った理由はようとして知れない。だが、確かなことは、同族であるヴァンパイアだけを狙って行動を起こし、そのどれもが例外なく強大な力を持って、同族をしに至らしめるという事実だけである。
 その強者の宴とも言うべき惨禍において、テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は、呟く。
「怒りも、憎悪も、憤怒も。今は置いておこう。おれは強者との戦いを臨もう。おれはそこまで頭が廻るわけでもないしな」
 何を持って狂気へと暴食卿がいたったのかは解らない。理由がわからないのであれば、考えれ考えるほどのドツボにはまってしまう。ならば、テラは考えるのをやめる。
 考えるのは、如何に戦うかだけだ。目の前にはオーバースト・フックスと暴食卿の戦い。その周辺でもまた猟兵達の戦いが繰り広げられている。
 彼らの剣撃、斬撃の奇跡を脳裏に刻み込む。それだけが今テラがすべきことであった。

「さて……ちょっとばかり出遅れたが……一つ巻き返そうか」
 テラは戦いの最中に飛び込む。それは同族殺したる暴食卿と動きを合わせるようにして立ち回るためだ。
 暴食卿の狙いがヴァンパイアだけであるというのなら、それに同調するのが戦いの推移を優位に進める策。テラの体が炎の包まれる。剣と太刀に宿った炎は華麗に宙を舞いながら戦うテラの姿を輝かせる。
 空中を飛び回り、ニ刀での斬撃でオーバースト・フックスたちに襲いかかる。刺突は彼らの体を貫き、オーバースト・フックスの分身を霧散させるのだ。

 だが、予期せぬ場所からの斬撃を第六感とも言うべき勘によって回避したテラが見たのは、透明に消えていくオーバースト・フックスの姿。

 なるほど、と思う。分身で数を増やし、透明な個体を紛れ込ませることによって不意打ちを狙うのか。
「これは我が悔恨…我が無念…そしておれが知る恐るべき刃だ…とくと味わえ…!」
 テラのユーベルコード、悔恨「消えざる過去の痛み」(キエザルカコノヤイバ)が発動する。
 それは虚空より現れたる、空間に刻み込まれた斬撃。それはまるで檻のようにオーバースト・フックスたちを巻き込んで斬撃を放ち続ける。
 それは予め記憶しておいた数々の斬撃の軌跡であった。暴食卿の放つ攻撃が暴風であるのだとすれば、テラの放つユーベルコードの斬撃は鎌鼬そのものである。
 オーバースト・フックスたちの体を切り刻み、霧散させていく。
 骸の海へと還っていくが、それでも暴食卿の狂乱じみた戦いは続く。その姿にテラは何をおもっただろうか。
 あれが本当に強者と呼ばれる者の姿なのだろうか。
 近くで戦えばわかる。あれの身を焦がすほどの怒りと憎悪は、近くにいるものですら焼くほどの感情。
 だというのに、狂気に陥った暴食卿は、まるで凍てつくような刃であった。近づくものを誰彼構わず傷つける。それを知りながらも、止められない。
 抱いた憎悪は他者よりも内なる自身へと向けられているようにさえ思えてしまうのだ。

 それが、同族……ヴァンパイアに向けられるのと同時に、自身もまたヴァンパイアであるという矛盾を抱えていることに気がついているのかも、テラにはわからなかったが―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『聖剣使いの吸血鬼・ブラック』

POW   :    こちらの番だ
【聖剣による一撃を何時でも放てる用に構えて】対象の攻撃を予想し、回避する。
SPD   :    避けられるか?
【殺意】を向けた対象に、【神速の速さで接近からの聖剣による連続攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    見切った
【聖剣】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【攻撃と防御】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。

イラスト:童夢

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシュバルツ・ウルリヒです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 近衛兵たるオーバースト・フックスたちは、すべて屠り去られた。
 難攻不落の城塞とまで呼ばれた領主館の防御全てを剥ぎ取られたというのに、現れた聖剣使いの吸血鬼・ブラックの表情は晴れやかなものであった。
「よくぞ参った、強者。ああ、俺は今、歓喜に振るえている。よもや、我が聖剣を振るうに値する者が現れようとは」
 館の中での戦いを捨て、あえて館の外へ。
 それは何も遮るもののない、荒野での戦い。相対するは同族殺し、暴食卿『ヴェルハディス』。その瞳は憎悪と怒りに塗れていた。

「関係がない。値するしないは関係がない。狩り殺す。お前は狩り殺す。ただそれだけの存在だ」
 ブラックを見ているようで、見ていない。その瞳の先にあるのはブラックではない。あれはただの障害物。排除すべき異形。
 互いに相容れぬ異形同士が荒野に相まみえる。この戦いの先にあるのは、どちらかの死による決着であろう。
 だが、ここに介入するは猟兵。ブラックはさらなる歓喜に打ち震えたようだった。鉄面皮であった表情が喜悦に歪む。
「いいぞ!すばらしい!今宵は強者ばかりが俺の元に現れる……!ああ、その尽くを蹂躙し、強者との戦いに明け暮れることが―――」

 しかし、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。銃声によって遮られたのだ。暴食卿のはなった銃弾がブラックの頬をかすめた。
 それはブラックにとっては名乗りを上げる機会を奪った無粋。
 故に、聖剣と暴食が一瞬の後に激突し、圧倒的な力の奔流が荒野を襲う。

 この三つ巴、まずは聖剣使いの吸血鬼・ブラックを仕留めなければならない。
 漁夫の利を制する……そのためにはこの地方を収める領主であるブラックを打倒し、人々の安寧を確保するのが最優先だからだ。

 この戦いを制し、猟兵は勝ち取らなければならない―――!
シル・ウィンディア
吸血鬼なのに聖剣使い?
もったら焼けそうな気がするんだけどなぁ…

でも、このプレッシャー
気合入れて行くよっ!

空飛べなくてもやることは一つ
【フェイント】を混ぜた3次元機動を行って【残像】も駆使して撹乱だね
力負けするし、機動力勝負じゃないとね

回避は【第六感】を信じて敵の動きを【見切り】対処
回避行動は上記機動で厳しいなら一瞬の【空中戦】も混ぜて回避
被弾時は右腕のビームシールドでの【盾受け】と【オーラ防御】の展開で防ぐよ
防御行動時は【属性攻撃】で光・聖属性を付与してカウンター出来るようにだね

隙を見せたら【高速詠唱】【多重詠唱】でエレメンタル・ファランクスっ!
ごめんね、わたし剣士じゃなくて魔術師なの



 ダークセイヴァーにおける同族殺しを巡る戦いは局面をさらなる三つ巴へと変化させた。闇と夜の世界に同族殺しである暴食卿、領主である聖剣使いの吸血鬼・ブラック、そして……猟兵たち。
 彼らは領主館の外である荒野にて対峙する。聖剣使いの吸血鬼・ブラックは、この状況を是としたようであった。猟兵の狙いは己であると自覚して尚、同族殺しである暴食卿とも戦おうというのだ。
 その貪欲さは傲慢そのものであった。ヴァンパイア支配が盤石なダークセイヴァーにおいて、彼は退屈していたのだ。強者との戦いは制限され、虐げる領民の中から自身へと抗おうとするものはなく。
 故にこの状況は僥倖とも言えたのだ。領主に違わぬプレッシャーは、周囲の空気を歪ませていく。だが、それを物ともせずに暴食卿が襲いかかる。
「狩り殺す―――!ヴァンパイは一人残らず―――!」
 狂気に陥っても尚、その戦闘力は先の近衛兵、オーバースト・フックスたちとの連戦に次ぐ連戦であるというのに些かの衰えも見せない。
 荒野に転がる石ころたちが銀の飛蝗へと姿を変え、ブラックへと襲いかかる。

 しかし、猟兵達の狙いは領主である聖剣使いの吸血鬼・ブラックである。彼を抑えなければ、この領内に圧政を強いられる人々を助けることは出来ない。撃破の優先順位はブラックが上なのだ。
「吸血鬼なのに聖剣使い……?もったら焼けそうな気がするんだけどなぁ……」
 そう呟くのは、シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)である。彼女の見解からすれば、聖なる剣とオブリビオンであるヴァンパイアは相容れぬ物であると思えるのだが、過去の化身たる彼らには関係のないことであったのかも知れない。
 それに何よりも彼女も肌で感じている。目の前のヴァンパイアたちにとって、それは些細なことであると。
「でも、このプレッシャー……本物だよね。気合入れて行くよっ!」

 シルの体が荒野に駆ける。二人のヴァンパイアの戦いに真っ向から介入する。目指すはブラックの首唯一。
 暴食卿の動きを読んで、フェイントを駆使した3次元機動!残像を残すほどのスピードでブラックの剣撃を撹乱する。
 確実に力で勝負しては力負けしてしまう。ならば、彼女に残されたのは機動力での勝負だった。
「そこっ!もらったよ―――!」
 シルの精霊剣と光刃剣の二刀が暴食卿の攻撃の隙間から、完全に虚を突いて放たれる。それは必殺の間合いであった。
「見切った……!」
 しかし、その必殺の間合い、さらには暴食卿の攻撃をいなしながら聖剣がシルの二刀を防ぐ。恐るべき反応速度。さらなる返しによって、シルへと迫る聖剣。
 それを第六感とも言うべき勝負勘で避け……ようとして、聖剣の機動が変わる。それはブラックのユーベルコード。
 受けた攻撃を元にシルへの有効打を生み出す。さらにシルは避けきれないと悟ると右腕のビームシールドで聖剣を受け止める。
 火花が散る。聖剣の名は伊達ではない。力負けしてしまう、というシルの読みは正しい。ビームシールドが押されている。オーラ防御も足しているのに、そのオーラすらも切り裂いて剣が食い込んでくるのだ。

「くっ―――カウンター狙いもわかってるって顔だよね、それ!」
 そう、一瞬の隙すらも見いだせぬブラックの剣技。ただ、唯一の誤算は同族殺しの攻撃であった。
 銀の飛蝗が空を舞い、ブラックの聖剣を押し返す。え、とシルが思うのも束の間、銀蝗の群れはブラックの鎧を侵食するように取り付き、決定的な隙を生み出す。
 今しかない、とシルは決断する。それは剣士としてのシルを捨てること。
 彼女の声が高速詠唱によって流麗なる声へと変ずる。
 さらなる多重詠唱を重ね、彼女の掌に集まる魔力は強大な魔法陣を闇夜の空へと浮かべる。
 二重、三重に重ねられた魔法陣は煌々と闇夜を切り裂き、光り輝く。

「ごめんね、わたし剣士じゃなくて魔術師なの!」
 掌の魔法陣が焼け付くほどの膨大な魔力が渦巻く。彼女の掌がジリジリと焼け付く。しかし、この機を逃しては、ブラックに致命打を与える機会はやってこない。
 彼女のユーベルコード、エレメンタル・ファランクスが発動する。

「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ…。我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ!!」
 それは空に長槍を並べたかのような壮大な光景。各属性のこもった魔力の槍は収束され、一斉に放たれる。
 魔力砲撃。その一撃は荒野を穿ち、その中心にいたブラックの鎧を焼いたのだった―――!

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
「おお、なんか盛り上がってるなぁ。僕も混ぜて?」

血界形成のUCを発動し、周囲の無機物を血に変換。その血を鎖に変えて全方位から敵さんを狙う。一本でも敵さんに巻き付けたら、巻き付いた鎖から更に槍を生やして敵さんを【串刺し】に。それで隙が出来れば【吸血】も狙っていく。同族殺しさんの攻撃に合わせて攻撃していき、吸血をする隙をうかがうのも忘れずに。
敵さんの攻撃は、殺気を【第六感】で感じ取り、動きを【見切り】回避するのと、自分が持っている血飲み子と奇剣を持たせた悪魔の見えざる手による【武器受け】で防御。

「聖剣使いなんてレアな血はきっと美味しいよね?」
全部吸い尽くして殺したいなぁ…。



 三つ巴の戦いは、常に三すくみになるとは限らない。
 同族殺し、暴食卿『ヴェルハディス』。領主である聖剣使いの吸血鬼・ブラック。そして、猟兵たちの三つの勢力による戦いは、互いの利だけで繋がる戦いであったのかも知れない。
 暴食卿はヴァンパイアを。ブラックは強者を。猟兵はオブリビオンであるヴァンパイアを。だとすれば、この場で真っ先に狙われるのはヴァンパイアであるブラックである。
 暴食卿の餓狼がブラックへと飛びかかる。その鋭い牙を受け止めるのは聖剣。その切れ味は凄まじく、餓狼の牙を尽く砕いて引き裂く。
 その光景から見てもブラックの聖剣を使った戦闘力は、三つ巴の勢力の中にあっても群を抜いていたのかもしれない。
 だが、狂気に陥ったとは言え、暴食卿もまた強大なヴァンパイアである。即座に攻撃を銃撃に切り替えて対応している。
「餓狼に、銀の飛蝗……!そして銃か!良いぞ!これが強者との戦い……!もっとだ!もっと私を楽しませろ!」
「楽しませる義理はない……ただ、俺はお前を狩り殺す……異形は全て鏖殺する」

「おお、なんか盛り上がってるなぁ。僕も混ぜて?」
 強大なヴァンパイア。その二人の間に割って入るのは、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)である。どこから現れたのか。そう疑問を感じさせるほどに、暴食卿とブラックの間へと割って入る。
 彼のユーベルコード、血界形成(ケッカイケイセイ)が発動する。周囲の無機物が血液へと変わっていく。紅い、紅い血液。それはただの血液ではない。

「この場全てを血で満たす。吸血鬼冥利に尽きるってものだよ」
 そう、莉亜の意志に応じ、莉亜の思いのままに操ることの出来る真紅の血。その地を鎖に変えてブラックを狙う。
 徹底してブラックを付け狙うつもりなのだ。ブラックもまた聖剣でもって血の鎖をいなし、断ち切り、中々付け入らせる隙を見せない。
 中々敵さんもやるなぁ。そう莉亜が嘆息し、笑顔に表情が変わる。ああ、なんて楽しいんだろう。きっとブラックも同じ思いだろうなぁ。そんな風に莉亜は思っていた。
「聖剣使いなんて、レアな血はきっと美味しいよね?」
 飲んでみたい。飲み干したい。全部吸い尽くして殺したい。その欲求は、莉亜の中で膨れ上がっていく。そのためには何を成すべきか、彼の頭の中はいっぱいになっていた。
 そうだ。せっかくだから同族殺しにも手伝ってもらおう。僕は血が飲みたい。同族殺しはヴァンパイアを殺したい。利害の一致ってやつだぁ!と莉亜は燥ぐようにしながら、同族殺し、暴食卿の攻撃に合わせるように血の鎖を解き放つ。

「おっと―――!ちょっと流石に欲を出しすぎちゃったかなぁ……気が付かれちゃったよねぇ?」
「吐かせ!この程度の鎖で私を捉えられると―――」
「思ってないよ?」
 真紅の鎖がブラックの足元を掬う。それは捕らえるためにはなったものではない。それは同族殺しの攻撃を届かせるための布石。足元を救われ、たたらを踏んだブラックの背後から迫るのは同族殺し、暴食卿の餓狼。聖剣を握る手甲に食いつき、動きを鈍らせる。
 一瞬で蒸発する餓狼の体。だが、それでも莉亜にとっては十分すぎる隙であった。

「あはっ!もらったよ!」
 全方位から放たれる血の鎖。どれだけ早く聖剣で薙ぎ払おうが、体制を崩した上に聖剣を振るう手を餓狼に一瞬で抑えられたのだ。
 間に合うわけがない。真紅の鎖がブラックの肩に巻き付く。その切っ先が槍へと変ずれば、それが深々と肩に突き刺さる。
「ぐぅ―――っ!だが―――!」
 じゅ、と突き刺さった槍が脈動する。それは肩に刺さった槍から行われる吸血行為。血液が吸い上げられる。ああ、とその味に莉亜の中に秘めたる吸血衝動が封を来られる感覚を味わう。
「これ!これだよねぇ!血の味!聖剣使いの味!ああ―――!なんて―――!」
 なんて―――。
 言葉にならない。それが美味であったのか、不味であったのか、それを知るのは莉亜だけだ。

 だが、確実のその一撃はブラックの体力を削ぐ。
 今はまだ致命の一撃ではない。しかし、確実にブラックを疲弊させていく一手。鎖を引きちぎる聖剣の一撃。
 それでもなお、莉亜は高らかに笑う。体の奥底に流れる絶対的な吸血衝動。それを一時であっても満たせた歓喜に―――笑うのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

岩永・勘十郎
※九之矢・透殿と共闘

「気が合うな? ワシもだ」

彼も正々堂々と戦う気は無い。
透殿のアシストもあり、かなり動きやすい。

まず領主の攻撃に怯んだ暴食卿を確認。その次に透殿の技で怯んだ領主に早業を駆使し居合斬り。だが相手も手練れ。一撃の攻撃では倒れない。だが時間差で早業による無数の斬撃が領主を襲う。勘十郎は畳み掛けるように、再度居合斬りを繰り出し怪力で飛ばす。

「どうした? 足元がふら付いてるぞ? ほら稽古つけてやるから来い」

その挑発にイラっとした領主は鬼気迫る勢いで勘十郎に攻撃するが、その相手にだまし討ちと砂を蹴り上げ目潰し。それと同時に勘十郎目掛けて来た暴食卿の攻撃を見切り、回避して領主にぶつけた。


九之矢・透
勘十郎サン(f23816)と共闘

なあ、同族殺しサン
異形を全部狩ったらアンタの間違いは正されるのか?
…と、よそ見は厳禁だな

生憎と正々堂々とは縁が無いんだ
邪魔するぜ
はは、アンタも?
じゃあ揃ってお行儀悪くいこうか

勘十郎サンが真正面から斬り合うならサポートを
アンタは思いきりやってくれ

麻痺の力を纏わせた柳での投擲攻撃は変わらず
ただあの鎧は厚そうだ
鋼に包まれていない所、関節部分を狙う
刃が届かなくとも動きを阻害し
一太刀の隙さえ作れたらそれでいい

大技の動きがあれば【不羈への枷】使用
成否に関わらず二回攻撃でもう一度

接近し過ぎない様に立ち位置には注意
此方が狙われるなら即後退し距離を取る
又は射線上に暴食卿を挟むかな



 暴食卿『ヴェルハディス』の理性なき咆哮がダークセイヴァーの荒野に響き渡る。それは痛みから来る咆哮ではなかった。絶叫ですら無い。
 聖剣使いの吸血鬼・ブラックの神速の踏み込みから放たれる剣閃によって暴食卿の体に聖剣による裂傷が深々と刻まれる。
 だが、吹き出す血液は再び傷口に戻っていく。再生しているのだ。それも尋常ではない再生速度。
「狩り殺す―――!異形は全て―――!一人残らず、狩り殺す!」
 ブラックの聖剣を掴み、赤き瞳を爛々と輝かせながら迫る暴食卿。銀の飛蝗が一斉に飛び立ち、ブラックの鎧を蝕んでいく。
 その攻防は熾烈を極めたと言ってもいい。正面からぶつかり合うヴァンパイア。かたや理性を失ったが故に正面からしかぶつからぬ暴食卿。かたや正面からの力のぶつかり合い、強者との真っ向勝負を覗くブラック。
 両者が動く度に力の奔流が風となって九之矢・透(赤鼠・f02203)の頬をなでた。

「生憎と正々堂々とは縁が無いんだ……邪魔するぜ」
 透は駆け出す。両者の間に介入する。それを決めた瞬間、岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)と共に駆けたのだ。
 二人共、ヴァンパイアの戦いに介入するのであれば、そこに正道はないとわかっていた。意味はない。ただ、そこにあるのは命のやり取り。それを分かっていないのは、聖剣使いの吸血鬼・ブラックだけである。
「気が合うな?ワシもだ」
 勘十郎が快活に笑った。透の言葉に同意を示す。
「はは、アンタも?じゃあ、揃ってお行儀悪くいこうか」
 勘十郎はすでに二人のヴァンパイアの間合いに入っている。彼の瞳が見据えるのは暴食卿。ブラックの剣撃を受けて怯んだ暴食卿の動きを確認する。
 あれだけの攻撃を受けて尚、ダメージがないように見えるのは流石と言うべきか。だが、どちらにも着実にダメージが入っている。それは間違いない。

「なあ、同族殺しサン。異形を全部狩ったらアンタの間違いは正されるのか?」
 透の言葉が剣撃の合間に嫌に鮮明に響いた。それは真理であった。過去の間違いは正すことはできない。だからこそ、その慟哭じみた咆哮は透にはどのように響いたことであろうか。
 手にした麻痺の力を込めた投げナイフをブラックへと投げつける。聖剣で、手甲で弾き返される。狙いがまだ甘い。
「間違いは間違い。正されるべきは、滅するべきもの!俺は間違えているのだから、即ち―――!」
 暴食卿の言葉が返ってくる。意外ではあったが、その言葉の端々に狂気がほとばしっている。
「……と、よそ見は厳禁だな」
 透の顔の横をかすめる聖剣の一撃。少しでも反応が遅れていれば、即座に首をはねられていたかも知れない。
 危ない危ない、と透は立ち回りを変える。勘十郎のサポートに廻るのだ。

「透殿のアシストは助かるな……かなり動きやすい」
 勘十郎が素早く柄に手をかける。居合とは即ち一撃であるか、受けて返す刃で仕留めるものである。透の投げナイフがブラックの鎧の隙間を過たず穿つ。
 ぐ、と顔を歪めるブラックに好機と見た勘十郎の踏み込む足が沈む。足をバネに。体幹は不動のごとく。柄に伸ばした手は裂帛の呼気と共に放たれるは居合の一撃。
 放たれたる居合の一撃はブラックの聖剣を持ってしても捌ききれない。聖剣と軍刀が火花を散らす。
「―――やるな、見慣れぬ剣を使う猟兵!だが、その薄刃一刀で私が倒れると―――!?」
 ブラックの瞳が驚愕に見開かれる。そう勘十郎の剣撃は一撃にならず。早業たる抜刀によって繰り出される斬撃は無数であろう。
 畳み掛けるように再度居合斬りがブラックへと放たれる。怪力によって放たれた斬撃は、ブラックの体を後方へと吹き飛ばすほどであった。
 たたらを踏むように、足元がおぼつかなくなるブラック。

「どうした?足元がふらついているぞ?ほら稽古をつけてやるから来い」
 明らかなる挑発。だが、連戦に次ぐ連戦で消耗しているブラックにとっては、それは効く。怒髪天を衝く。その言葉がしっくり来るほどの鬼気迫る表情。
 明らかに大技の兆候―――そして、それが放たれる。
 透のユーベルコード、不羈への枷(フキヘノカセ)。それは虎鋏がブラックのレガースへと食いつき、放たれた投げ縄が聖剣持つ手甲を縛り上げ、投擲された網が鎧に絡みつく。
 そうすることで完成する透のユーベルコードである!

「いつまでも自由にしていられると思うなよ!」
 確実に動きを止めた透のユーベルコードに勘十郎はさらなる追撃をくわえる。彼のユーベルコードをく破るように聖剣が振るわれる。
 そこへだまし討ちのように勘十郎の足が蹴り上げられる。舞い上がる砂がブラックの芽を潰す。
「―――わかっているよ、暴食卿。ワシの背中越しにも見えているのだろう?」
 そう、勘十郎の背中から迫る暴食卿。その狙いがわかる。手にとるように。放たれた餓狼は、勘十郎が軽く体を捻っただけで躱すことができた。
 そして、その直線状に在るのは目潰しにあがくブラックの姿!餓狼がブラックへと食いつき、その肩を食い破る。
 鮮血が舞い散り、ブラックへと癒えぬ一撃を刻み込む。

 それは真に戦巧者である二人の連携によるもの。
 勘十郎と透の連携は、さらなる習熟を見せるのであった―――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

村崎・ゆかり
同行:アイシャ・ソルラフィス

いよいよ吸血鬼大決戦か。傍観してても暴食卿が勝ちそうだけど、それをより確実にしないとね。

外へ出てくれて助かったわ。飛鉢法で宙を舞って、聖剣の届かないところから領主を狙い撃てる。
攻撃は「高速詠唱」「全力魔法」「範囲攻撃」「破魔」の不動明王火界咒で。「範囲攻撃」は暴食卿を巻き込まず、かつ確実にブラックを巻き込めるように。
アイシャと協力して、相手の隙を作り出せるように空中機動するわ。領主級の吸血鬼相手に正々堂々なんてしてる余裕は無い。

対空攻撃が来たら、あたしが乗ってる鉄鉢そのもので「盾受け」する。
流れ弾が飛んでくる可能性もあるし。

暴食卿に気圧されないよう「呪詛耐性」使用。


アイシャ・ソルラフィス
ゆかりさん(f01658)と一緒に参加します

ブラックさん、どれだけ戦いに飢えてるんだろう? まさかお城の外に飛び出ちゃうとは思わなかったよ
おかげで空爆し放題… ちょっとだけ「いいのかな~?」って気がしないでもないけれど、ここでボクたちが消耗したら、この後の戦いで暴食卿を倒せなくなるし…
なので、ユーベルコードで上空を飛びまわりながら、暴食卿に攻撃が当たらないように、ブラックさんだけ攻撃します

ここは《勇気》を振り絞って、心を鬼にして………ごめんなさい。(と言いつつ《全力魔法》+《属性攻撃》+《見切り》+《鎧無視攻撃》で攻撃)



 滴る血は一体何のために流されるのか。
 闘争があらゆるものを傷つけるのだとすれば、それは誰しもが望まないものではないのか。
 しかし、戦いを望む者は言う。
 戦いこそが人の本質であると。他者との争いは摩擦を産み、摩擦は研鑽となる。玉石混交。どうあがいても他者と自己とは違う何かなのであるから、そこに諍いが生まれるのは必然。
 同族殺し、暴食卿『ヴェルハディス』は吼え猛る。目の前に映る異形全てを鏖殺せしめんと。
 領主たる聖剣使いの吸血鬼・ブラックは傷を受けながらも強者との戦いを心底楽しんでいるようだった。
 咆哮を受け、あそこまで心地よさそうな顔をするのだ。傷を受け、己が追い込まれていると知って尚、笑う。
 その表情を打ち砕かんと銃弾を放つ。聖剣が弾き返し、互いの力は未だ健在であるというかのように荒野に力の奔流を吹き荒らすのだった。

 その様子を見て、聖剣使いの吸血鬼・ブラックがどれほどに戦いに飢えているのかと表情が陰るのはアイシャ・ソルラフィス(隣ん家の尚くんを毎朝起こす当番終身名誉顧問(願望)・f06524)だった。
 何がそこまで戦いに駆り立てるのか、正直なところわからなかった。
「まさか外に飛び出しちゃうとは思わなかったよ……」
 おかげで空爆し放題……いいのかな~?と思わないでもなかった。しかし、ここで彼女たちが消耗しては、のちの戦いおいて暴食卿を倒す事は敵わない。

「外へ出てくれて助かったわ。正直ね」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)が華麗な戦巫女の盛装へと変身する。小回りが効く鉄の大鉢へと乗り、宙を舞うのは、聖剣使いの吸血鬼・ブラックを警戒してのことだ。
 剣を持つ以上、空への耐性は少ないであろうと判断してのことだった。
 アイシャもまたユーベルコード、空飛ぶ魔女の杖(ウィッチフライト)によってイルミンスールと名付けてもらった杖の鳥の飾りが変形し、彼女を空へと舞い上げるのだ。
「ここなら聖剣も届かないよね。上から攻撃し放題だけれど……」
 見下ろす眼下には暴食卿とブラックの攻防が続いている。
「いよいよもって吸血鬼大決戦ね……傍観してても暴食卿が勝ちそうだけど、それをより確実にしないとね」
 ゆかりとアイシャの狙いは聖剣使いの吸血鬼・ブラックだけだ。
 どちらも類稀無い技量を持つオブリビオン、ヴァンパイアである。その二人が同士討ちに近い形で消耗してくれるのは、願ってもないことである。
 彼女たちはヴァンパイアを侮らない。領主級の吸血鬼相手に正々堂々なんてしている余裕は無い。

「ここは勇気を振り絞って……心を鬼にして……」
「ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
 二人の声が重なる。それは空より放たれる一斉攻撃。ブラックだけを狙うとはいえ、その攻撃は苛烈を極めた。
「―――ごめんなさい!」
 まさに爆撃、その言葉がしっくりくるほどのアイシャによる全力魔法による攻撃はブラックの聖剣を持ってしても防ぎきれない。いくつかの属性攻撃は打ち払っていたようだが、確実に攻撃をあたっている。
 爆風がブラックを包み、黒煙が上がる。さらにゆかりのユーベルコード、不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)によって投げつけられたトランプから噴出する炎が、ブラックの体を焼き尽くさんばかりに燃え広がる。

「ここまでやれば―――!」
 だが、黒煙切り裂くは聖剣の剣撃。まずい、とゆかりが思った瞬間、聖剣を構えたブラックの体が動く。
 それは空中にあってもなお、怖気を走らせるプレッシャーであった。宙に浮かぶゆかりたちを睨めつけるブラックの視線は戦いに依る高揚で真っ赤に染まりきっていた。
 笑っている―――。
 戦いが楽しくて仕方ない。その剣撃は衝撃波となってゆかりたちを襲った。
 ゆかりの鉄鉢そのものが盾のように斬撃の衝撃波を受け止める。ぐらつく耐性。大地から放った一撃、それも衝撃波だというのにゆかりの乗った鉄鉢を両断しかねない一撃。
 ぐら、と体が傾くも、アイシャのフォローによってなんとか態勢を立て直す。

「ゆかりさん!大丈夫ですか!?」
 しかし、二人が重なり合うようにして空中で動きを止める。それこそがブラックの狙いであったのだろう。邪魔な猟兵を打ち払うことのできる絶好の機会。
 だが、その攻撃は暴食卿の放った銃弾によって中断させられる。
「……間違いは俺から目をそらしたことだ。俺が鏖殺する得物が、俺の殺意から目をそむけるなど許せることではない。間違っているのだから、俺がお前を狩り殺すことには、間違いはない―――!」
 暴食卿の銃撃がブラックを襲う。
 狂気に陥った言葉に意味はない。だが、それでも暴食卿に彼女たちは奇しくも助けられた形になった。
 聖剣と餓狼がぶつかり合う。暴食卿の咆哮は一層強く荒野に響き、ゆかりとアイシャの肌をジリジリと焼きつける。

 呪詛にも似た暴食卿の咆哮が、いつまでも二人の耳にこびり着いて離れない―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
貴方がこの館の主ですか。聖剣の使い手、サー・ブラック。
私は猟兵ガーネット、混血児の末裔。
この双剣でお相手いたします。

妖刀アカツキと躯丸による二刀で挑む。
<フェイント>を交えての<2回攻撃>、
ヒット後は<呪詛>を叩き込んでの
<継続ダメージ>を与えよう。
敵の聖剣攻撃は、二本の刀とブレイドウイングによる
<武器受け>でガードする。これによって
敵は私の戦闘パターンを把握していくだろう…
だが私の狙いはここからだ。
奴が勝負を決めに踏み込んで来たら、
ブレイドウイングを広げる…と見せかけて
【サマーソルトブレイク】による<カウンター>で
聖剣を蹴り上げ、相殺を図る。
相手が怯んだ隙に、再度<2回攻撃>による連撃だ!



 暴食卿『ヴェルハディス』と聖剣使いの吸血鬼・ブラックの戦いは佳境に入っていた。剣撃と銃声が響き渡る荒野において、彼らの戦いは互いの死力を尽くして行われている。
 いや、死力を尽くしている、と思っているのはブラックだけだったかもしれない。暴食卿は只々、目の前のヴァンパイアを鏖殺せしめんと銃を構え、餓狼をけしかける。そこに熱量の差があった。
 聖剣使いの吸血鬼・ブラックは燃え盛る炎のように戦いへの劣情をぶつけるように聖剣を振るう。その一撃は暴食卿の胴をなぎ払い、衝撃波となって強かに荒野へと吹き飛ばすのだ。
 かたや暴食卿は、凍てつく雪原そのもの。

 そして、第三者である猟兵、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は、倒れ起き上がろうとする暴食卿と聖剣使いの吸血鬼・ブラックとの間に立つ。
「貴方がこの館の主ですか。聖剣の使い手、サー・ブラック。私は猟兵ガーネット、混血の末裔……」
 ガーネットが一歩踏み出す。その背に同族殺しとは言え、ヴァンパイアを背に庇うような立ち位置になっていることに奇妙なおかしみを感じながらも目の前の聖剣の使い手に対峙する。
「混血……ダンピールの猟兵か!混血とはいえ、猟兵となって私の前に立つか。おもしろい!」
 ブラックが獰猛に笑う。普段の鉄面皮とは明らかに違う。戦いと受けた傷による高揚によって、高ぶっているのだ。まるでエンジンが温まったかのように闘気が溢れる。
 ガーネットは臆することをしない。むしろ、手にした屍骨呪剣「躯丸」の真っ白な太刀と対を成すような妖刀・アカツキが朱く輝いた。
「この双剣でお相手致します」
 ガーネットの手に朱と白の刃が構えられる。その動きはまるで幽玄のごとく。ゆらりと状態が揺れたと思った瞬間に、彼女とブラックの間にはいくつものフェントの応酬が重ねられていた。
 手強い、と感じたのは両者とも同じであった。
 聖剣とニ刀がぶつかり合い、火花を散らす。手数で勝るガーネットなのだが、それでも聖剣の斬撃は手数を勝るほどに鋭く疾い。
「っ、く―――!さすがの技量……!」
 ガーネットの双剣が押される。聖剣による防御が間に合わないと分かれば、手甲で受け流す。しかし、それはガーネットの打ち込む呪詛が蝕む隙となるのだ。
 しかし、それでもなお聖剣の剣閃はガーネットを捉え始める。

 理解されている、と感じたのは斬撃の軌道が変わった瞬間だった。必殺の間合い。聖剣がひらめき、胴を両断せんと放たれる一撃をマントの中に秘匿する液体金属の翼が硬質化しなんとか防ぐ。
 防刃で防ぐことはできても、横っ腹を殴りつけられるような衝撃には防御のしようがない。

「ぐっ……!これで、私の戦闘パターンを把握した、そう言いたげですね……」
 無論、と聖剣使いの吸血鬼・ブラックが笑う。
 その笑みは勝利を確信した者の顔であり、慢心した驕りそのもの。一気に踏み込んでくる大ぶりの一撃。振り下ろされる聖剣の刀身をガーネットの真紅の瞳は瞬きせずに捉えていた。

「見えている……私は知っている。そして、これが、グレイローズ家秘伝の一撃!」
 聖剣の太刀筋に合わせるようにして、ガーネットのユーベルコード、サマーソルトブレイク(トバセテオトス)が放たれる。その一撃は弧を描く宙返りの蹴撃!
 ブレイドウィングを広げ、空を華麗に舞うガーネットの蹴撃は聖剣を蹴り上げ、その斬撃を見事なまでに跳ね返す。

「見えていると言った……!」
 一撃目は、聖剣の迎撃。しかし、大ぶりの一撃であるが故に、防がれた後の隙は大きい。圧倒的な技量を持つブラックといえど例外ではない。跳ね上げられた手は、ガードを下げたも同然である。
 無防備そうのものブラックの脳天へと、蹴り上げられたガーネットの踵が脳天直下で振り下ろされる。
 その一撃はまさに宙をひっくり返す一撃。凄まじい踵の一撃は、ブラックの頭蓋を割り、地面が叩き割れるほどの衝撃を持って、ガーネットの勝利を決定づけるのであった―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

月守・咲凛
アドリブ他諸々OK。
(私を庇ってくれたのです)
少なくとも自分はそう認識したので、暴食卿さんへの敵意はありません。
彼の動きはさっき見たのです、好きに動いて貰ってこっちから合わせる方があの人も戦いやすいと思うのですよ。
防御なしでは辛そうなので、アジサイユニットを周囲に展開、ビームチェーンソーを起動してこれが武器であることを暴食卿さんに認識して貰って、ブラックを威嚇するように動かして暴食卿さんの方には向かわせないようにして、害意は無い事を示しておきます。
ブラックには牽制の攻撃に徹して近付かないようにしますが、射撃戦しかしないとブラックが認識した所で、急加速してムラサメユニットで一撃離脱します。



 助けられた。庇われた。
 そう感じるのは、主観の問題であったのだろう。だが、それを感じる者にとっては、意味のない問題であった。
 少なくとも自分はそう認識したのだ。―――月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)は、暴食卿『ヴェルハディス』に対する敵意を持ち得なかった。
 屋敷の内部での戦いにおいて、奇しくも助けられる形で窮地を脱した咲凛。そのせいか、彼女は三つ巴の戦いにおいて、ブラックだけを狙う。
 それに、と咲凛は手にした武器を持ち、フライトユニットで空を飛びながら思う。

「彼の動きはさっき見たのです。好きに動いて貰って、こっちから合わせるのですよ!」
 暴食卿、聖剣使いの吸血鬼・ブラックが飽くこと無く闘争へ身を投じる。何が彼らをそこまで突き動かすのかわからない。
 わからないが、咲凛がすべきことだけはわかっていた。彼女が展開したブレードガーディアンユニット、アジサイ。円盤状の遠隔操作ユニットが群れをなして空を舞う。
「だいじょうぶです!私の狙いはあっちの吸血鬼だけです!」
 アジサイユニットたちが、ブラックと暴食卿の間に割って入る。ブラックにはチェーンソーを向け、暴食卿には盾になるように動き回る。
 その動きで暴食卿が咲凛の思惑に気がついたかは定かではない。だが、呼び出した餓狼がアジサイと合わせるようにブラックへと攻撃を仕掛けたことで、ここで一時の協定が結ばれた気がしたのは、咲凛の一方的な思い込みであったのかも知れない。
 しかし、それでもいいと思うのだ。

「猟兵がヴァンパイアと手を結ぶか!だが、敵は多いほうがいい……!戦いとはかくあるべきであるゆえ!」
 聖剣使いの吸血鬼・ブラックの聖剣が唸る。アジサイユニットを両断しながら、餓狼の攻撃を受け止める。あれだけの傷を負わされて尚、この気迫。
 領主を任されるだけはある圧倒的な技量は、次々とアジサイと餓狼を討ち果たしていく。
「やっぱりやるのです……!」
 咲凛はブラックには牽制の攻撃に徹して近づかない。それが逆に仇となった。そう、牽制程度の攻撃しか放たないということは、接近戦を嫌うからこそ、近づくな、と牽制を行うのだ。
 それ故に、看破される。咲凛に接近戦の手段はないと。
 殺意に肌が粟立つ。踏み込まれる!と感じた瞬間、咲凛のユーベルコード、雨の中のサーカス(アメノナカノサーカス)が発動する。
 それはまさに天から落ちる雨水を躱すかのように、聖剣による斬撃を躱す。咲凛の髪が数筋はらりと宙に舞う。刃が眼前をかすめていく。
 ひやりと背筋に冷たいものが走った。

「でもっ!ここから私の、距離―――!」
 手にした近接攻撃用ビーム兵装ユニット、ムラサメのビームチェーンソーが唸りを上げて回転する。その凶悪そのものな駆動音が鳴り響き、ビームの刃がすれ違いざまにブラックの鎧を両断する。
 ビームの刃がブラックの鎧の下の肉体までをも深く傷つける。血飛沫が舞い上がり、咲凛の髪が血に濡れる。

 それを見た暴食卿の咆哮が咲凛のみならず、ブラックをも震撼させる。立ち上がってくる。狂気に濡れた瞳。その瞳に映るのは、小さきものが血に塗れる姿。
「異形……!異形……!異形……!『それ』は異形だ……間違っている!間違えた!まちがってはならないものを―――」
 それは絶叫であった。
 血に濡れる幼き者の姿。それが、きっと、暴食卿の狂気の一端―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレア・フォースフェンサー
己の館のかような惨状に歓喜するとはの
それほどまでに強者との戦いを求めておったということか

あやつは勝利よりも戦いそのものに喜びを見出しているようじゃの
この戦いに敗北したとして、あやつは満足を抱き骸の海に還ってゆくことじゃろうて

そのような最期、認められる筈があるまい

領民が今まで受けたものと同じだけの苦しみを味わわせたいところじゃが、此度はその時間がない
ならば――

隠密機能と【能力無効】をもって自分の存在を敵の意識から隠匿
仲間や暴食卿との間を抜け、敵との射線が通った一瞬の隙を見切り、敵の認知の外から光弓でその魂を貫こう

敗北の余韻すら、おぬしには過ぎたものじゃ
死を意識することすらなく消え失せるが良い



 同族殺しとは、狂えるヴァンパイアである。
 その狂気の発端がなんであったのかを、もはや知る術はないのかもしれない。
 暴食卿『ヴェルハディス』の言葉は、狂気に塗れ、どれ本当であるのかもわからなくなっている。
 それでも、その一端は垣間見えることだろう。血に塗れた者。それは暴食卿の瞳に幻視を与えたのかも知れない。
「異形……!異形……!異形……!『それ』は異形だ……間違っている!間違えた!まちがってはならないものを―――」
 暴食卿の絶叫が鳴り響く。

 暴食卿と猟兵の強襲によって領主館は惨憺たる惨状であった。
 荒野へと飛び出した聖剣使いの吸血鬼・ブラックは、それすら気に留めない。なぜなら、彼にとって大した損害ではないからだ。
 今、彼の心を占めているのは戦いへの渇望が癒える喜びのみ。
「己の館のかような惨状に歓喜するとはの。それほどまでに強者との戦いを求めておったということか」
 クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)は、静かに荒野へと降り立つ。闇と夜の世界に眩しいほどの金色が翻った。
 かの聖剣使いの吸血鬼・ブラックは勝利よりも戦いそのものに喜びを見出しているのだとクレアは理解した。
 理解したからと言って、その価値観、喜びに賛同するものではない。しかし、この戦いに彼が敗北したとして、彼は満足を抱き骸の海に還ってゆくことだろう。

 拳が握られる。形の良い眉根が寄せられ、眉尻が跳ね上がる。
 戦いに満足をする。勝利や敗北は二の次である。戦い、飢えを満たし、充足を得る。それこそが、聖剣使いの吸血鬼・ブラックの本懐である。

「そのような最期、認められる筈があるまい」

 クレアが踏み出す。視線の先はブラック。その視線に気がついたブラックが笑う。笑う。それは強者の特権であると言わんばかりの笑みであった。
 強者であるがゆえに、死に方も選べるのだと。弱者はその踏み台にすぎぬのだと。過去の化身オブリビオンが笑う。
 領民が今まで受けてきた苦しみを知らぬ顔。きっと骸の海に還る時、あの顔はさらなる充足の笑みとなるのだろう。
 それは断じて許せない。

「此度は時間がない……」
 ならば、どうするのか。
 ゆらりと彼女の姿が世界から消える。彼女のユーベルコード、能力無効(アンチ・コード)と、彼女に搭載された隠密機能によってブラックの意識から姿を隠匿する。
 暴食卿の絶叫が聞こえ、聖剣使いへと銃声が走る。餓狼が飛びかかり、銀蝗がつんざく音を立てながら羽撃く。
 その間隙をすり抜ける。敵の意識は既に己にはない。ブラックと暴食卿の射線が交わる。銀蝗の群れがブラックの視界を遮る。一瞬の交錯だった。

 引き絞られる光弓。その狙いは聖剣使いの吸血鬼・ブラックを形作る核たる魂。
 その金色の瞳にはそれが見据えられている。逃すわけがない。外すわけがない。
 放たれる光矢。それは暴食卿の攻撃の合間をすり抜けるようにして一射絶命が放たれた。
 次はない。二度目はない。それはクレアの放った一撃の二撃目はない、という意味ではない。そう、これより後にブラックに訪れるのは敗北ではない。

「敗北の余韻すら、おぬしには過ぎたものじゃ」
 玲瓏なる声が虚空に響く。光矢は確実にブラックの魂を打ち貫いた。それは己が絶命したという事実すら感じさせぬ一撃。
 ブラックにとって魂が砕ける音すら届くことはなかったことだろう。
 敗北がないのが、その定め。過去に如何なる栄光があろうとも、過去の化身たるならば、敗北すらも許さない。

「死を意識することすらなく消え失せるが良い」
 きっとクレアの言葉でさえも、絶命の感触すら奪い取られたブラックには届かなかった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『暴食卿『ヴェルハディス』』

POW   :    血の追跡者
自身の【存在を知覚した者の意志力と生命力】を代償に、【次元すら越えて対象を猛追する異形の餓狼群】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【“腐食”の呪いを帯びた咆哮と牙、爪】で戦う。
SPD   :    奈落の王
自身からレベルm半径内の無機物を【あらゆる存在を貪欲に喰い尽くす無数の銀蝗】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    “何人も死より逃れること能わず”
【あらゆる“障害”を接触即時消滅させる魔弾】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【七度その身を貫くまで止まらぬ呪いの弾丸】で攻撃する。

イラスト:らぬき

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナ・ヴァレンタインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 その生に意味はない。狩って、狩って、狩って……いつしか、己が狩り殺してきた者たちと同じ異形に落ちているなど、落ちる最中に気がつくことなどできようはずもなかった。
 狩った。狩り殺した。ありとあらゆる異形を狩り殺した。
 なぜかと問われれば、異形が己たちを脅かすからである。ただ、穏やかに、静かに暮らしたいと願うことすら、闇夜の世界であるダークセイヴァーにおいては過ぎたる望みであった。

 故に、狩り殺した。魔銃で穿った。殺した。
 だが、いつしか自分自身もまた異形にとっての異形へと堕していたなどわかるわけもない。異形を殺す以上、己もまた異形なのである。

 気がついた時、己以外の何者も全てが異形へと成り果てた。
 かつては、守護すべきはずであった己と同じ側に、己の傍に立っていた尊い者たちですら、わからずに狩り殺した。

 気がついたのは、骸の海より舞い戻ってから、しばらくしてからだった。
 小さきものを撃った。弱きものを撃った。狩り殺した。
 己の手が、引き金を引いた。

「俺は間違った。間違えてはならないのに、間違えた。間違っていないと分かっているのに、間違ったということだけは間違えようがない事実―――」
 ああ、と言葉が漏れ出る。赤い瞳から流れるは一筋の紅い血。涙すらなくなったのは、己が異形であるから。

「俺は間違ってない。間違ってない。間違えてなどいない。間違えるはずがない!俺は―――」
 狂気に濡れた瞳が、猟兵たちを捉え、叫ぶ。

 目の前の『異形/猟兵』を狩り殺す―――!
須藤・莉亜
「さっきの血は中々だったねぇ。…貴方はどういう味なのかな?」
狂った感じ?それとも後悔の味?まあ、吸えばわかるか。

不死者の血統のUCを発動し、敵さんの望み通り吸血鬼となって戦う。そっちの方が楽しそうだしね。
強化された戦闘能力と生命力吸収能力を駆使してガンガン攻めることにしようかな。
敵さんの動きを【見切り】、白い大鎌の血飲み子と黒い大鎌の黒啜で敵さんを斬り刻む。攻撃は【武器受け】で防御。
常に敵さんの生命力を吸い続けて弱体化させつつ、自身の傷を治すことを忘れずに。
魔弾に7度貫かれるなら、8度敵さんの命を吸って再生すれば良いって話だよね?
もちろん【吸血】も狙って行くよ。そのためにここに来たんだしねぇ。



 他者が自己を自覚するための写し鏡だというのであれば、オブリビオンと猟兵はどうであったか。
 鏡と鏡の合わせ鏡であったのかも知れない。互いを写しあい、決して相容れぬ存在。猟兵にとってオブリビオンとは滅すべき世界の敵だというのなら、オブリビオンにとって猟兵は己の欲望を妨げる障害である。
 そこにどんな感情を持ち寄ったとしても、平行線を辿るだけである。時には交錯することはあるかもしれない。しかし、交錯した時は互いにとっての破滅のときであろう。

 闇と夜の世界、ダークセイヴァー。その荒野に暴食卿『ヴェルハディス』の咆哮が轟く。目の前の異形……猟兵を狩り殺す。その絶対的な意志が真紅の瞳に宿っていた。
 手にした魔銃が構えられる。理性を喪ったとしても、その業の冴えは絶技である。
 対する猟兵は、その弾丸から逃れる術はあるのか。

 須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は、荒野に歩みだす。今宵の彼は未だ腹の収まりを知らないのかもしれない。
「さっきの血は中々だったねぇ。……貴方はどういう味なのかな?」
 その紫の瞳の中にあるのは、狂気に染まったオブリビオン……同族殺しのヴァンパイア。暴食卿の紅い瞳と視線が絡まる。
 狂った感じ?それとも後悔の味?どちらだろう。そんな思考が莉亜の胸の内を支配していく。
 苦み走った味かもしれない。酸味を含んだ唾棄すべき味かもしれない。もしかしたら、甘露と思える味かもしれない。ああ!と両手を広げる。天を仰ぐ。
 今宵は月光まばゆい満月。

「さあ、遊ぼうか。どっちが先に死ぬのかな?」
 莉亜のユーベルコード、不死者の血統(イモータル・ブラッド)が発動する。纏うオーラは触れるだけで生命力を奪う生命吸収を凝縮したかのような闇色。吸血鬼の姿へと変ずる彼の瞳は紫から金へ。
 暴食卿の紅の瞳が歪む。求めた敵。あれを狩り殺すために自身は存在しているのだと自覚した瞳。
 狂気は淀む。あれは、正しく自分の敵であると認識する。
「俺は間違えてなどいなかった。俺の目は間違っていない―――!」
 魔銃の引き金が引かれる。放たれる銃弾が莉亜へと迫る。だが、それを強化された戦闘能力を得た彼にはかすらない。
 駆け出す。体中の細胞が皆、喜びの声をあげているようだった。楽しい!敵さんの望み通りにしてあげてよかった!楽しい!血湧き肉躍る感覚。これが充足なのかもしれない。

「ああ!本当に敵さんは間違っていないよねぇ!こんなにも楽しいことを!まだできるんだから!」
 銃弾は最早見切っていた。放たれる度に銃声が鳴るが、その尽くを莉亜は避け暴食卿へと迫る。
 振るわれるは、黒き大鎌、黒啜。再生能力を有するヴァンパイアとて、その大鎌の刃に切り裂かれれば、流血は止まらなくなる。血飛沫が飛び、暴食卿の身を刻む。
「これでもう傷は塞がらないよ!あはは!楽しいねぇ!」
 白い大鎌が、血飲み子が振りかぶられ、魔銃の銃身とぶつかる。火花が散り、互いの金と紅の瞳が交わる。互いに互いを敵として認識してるた。
 暴食卿の足が莉亜を蹴り飛ばし、彼我の距離を取らせる。内臓が破裂するほどの一撃を受けて尚、莉亜の傷はたちまちに癒えていく。生命吸収能力によって自身の傷は癒えていくのだ。

「このままじゃ、ジリジリと―――」
 そして、莉亜の金の瞳に映るは、暴食卿の―――
「“何人も死より逃れること能わず”」
 魔銃の銃口が爆ぜる。放たれるは、あらゆる“障害”を接触即時消滅させる魔弾!
 その魔弾の前にはどれけ隠れようが逃げようが無意味である。何故なら、それは七度、敵の身を貫かねば止まらぬ呪いの弾。
 それは結果を既に決定づけた呪い。

 しかし、それに向かって駆け出す。なぜなら、七度当たるというのであれば、逃げようがない。そんな逃げようのない攻撃に回避など無意味。
 ならば、やるべきことはシンプルである。
「魔弾に七度貫かれるなら―――!」
 両足を貫かれる。両腕を貫かれる。すでに四度。その銃創は莉亜の生命吸収能力を上回る勢いで、彼の体力を削ぎ落としていく。
 だが、それは彼が普通の猟兵であったのならの話だ。

 手にした白き大鎌。血飲み子。七度、銃弾を受けるというのであれば、それよりも早く!大鎌を振るう。目にも留まらぬ連撃。瞳と瞳とが交錯する距離で大鎌と銃弾が凄絶なる連撃を重ねていく。
 七度。莉亜の喉笛を打ち貫いた銃弾が役目を終えて、宙に霧散する。

「―――なら、八度目。一手多く僕が吸って再生すればいいって話だよね?」
 上段から振るわれる白き大鎌。
 それは袈裟懸けに暴食卿の体を刻みつける。血飛沫が舞い、頬に付着した血を艶かしく舐め取りながら、莉亜は笑う。

 その笑顔は、この凄絶なる戦いの渦中にあってなお、妖輝の如き金の瞳をうるませるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シル・ウィンディア
真の姿を開放っ!
青白いオーラを纏い、背中には1対の光の翼が発現

出し惜しみなしでいくよっ!
間違って後悔してるなら…
やりなおせばよかったのっ!
それでもまだ間違ってると思うなら…
わたし達が正すだけっ!!

機動は【フェイント】を交えた急加減速の低空飛行での【空中戦】で動くよ

敵攻撃やUCは
【第六感】を信じて敵の動きを【見切り】
上記機動に【残像】を生み出した機動で回避するよ
ちょっとの被弾なら止まらないっ!

こっちからは
二刀流の光刃剣と精霊剣でヒット&アウェイ!
でも、本命は…

【高速詠唱】で隙を減らして【多重詠唱】で術式強化
【全力魔法】での限界突破の
エレメンタル・ファランクス!

わたしの全部、もってけーっ!!



 人は過ちを犯す生き物である。それが必定であるというのならば、人の歩みはどれも正道ではないであろう。
 しかし、過ちを正すことが出来るものと出来ないもの、それを隔てるのは一体なんであろうのだろうか。
 暴食卿『ヴェルハディス』は正せなかった。過去の化身である。もはや未来という可能性はなく、それを食いつぶすことでしか存続できないものである。
 ならば、過ちとは正せないのであろうか。
 
 いいや、違うと叫ぶ者がいる。正せるのだと。間違いを後悔するのであれば、やりなせる。常に人の道行きは未来がそうであるように可能性に満ち溢れているのだから。
 ならば、正せぬ過ちは糧にして進んでいくことが出来るのだろう。
 故に、シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)は真なる姿を開放して叫ぶ。それを証明してみせると。
 青白きオーラを纏いし、一対の光の翼を負う者。それが彼女の真なる姿である。
「出し惜しみ無しで行くよっ!」
 彼女の一対の羽根が羽撃く。それを見上げ、咆哮するは暴食卿『ヴェルハディス』。空に舞い上がり、己の手が届かぬ異形に狂気に飲まれた憤怒の咆哮を上げる
「間違って後悔してるなら……やりなおせばよかったのっ!それができるのが人でしょう!それでもまだ間違ってると思うなら……!」
「俺は間違った。間違えてはならない者を間違えた!取り返しのつかないものは生命!間違えてはならない生命を、どうやってやりなおす―――!」
 魔銃が爆ぜる。放たれるは、魔弾の一射。
 一度放たれれば、それは狙ったものを七度貫くまで止まらぬ呪いの魔弾。空に舞い上がるシルを負う魔弾は、どれだけ機動にフェントをかけようとシルの背中を追尾してくる。

「わたし達が正すだけっ!わたしがそれを成す!そのための力でしょう―――!」
 シルの翼がはためく度に急加減速の低空飛行は、魔弾の弾道を見切り続ける。しかし、それでも呪いの魔弾は避けきれない。
 肩を貫く魔弾の一撃。大きく体が傾く。だが、それでも止まらない。痛みは忘れる。被弾するのは覚悟していた。歯を食いしばる。その痛みは、今は自分のためのものではない。
 手にした光刃剣と精霊剣のニ刀が閃く。暴食卿の体に刻まれる裂傷。だが、それでも尚追いすがる魔弾は、彼女の足を貫く。激痛が走る。
 だが、それでも止まらない。光刃剣が魔弾を弾く。大きく空に舞い上がる銃弾が、勢いを殺される。だが、くるりと宙で向きを変え、シルへと向かう。

「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ…」
 光刃剣を投げ捨てた手に開かれるは、極大の魔法陣。高速詠唱とはいえ、向かい来る魔弾は間に合ってしまう。
 さらにもう片方の精霊剣で魔弾を薙ぎ払う。その精霊剣さえ捨てる。多重詠唱が開始される。魔弾がさらなる追撃を見せる。彼女の詠唱重ねる掌を貫く。
 だが、詠唱は止まらない。
 止めないと決めた。正す。間違いは正す。

 起こってしまった悲劇があるのだとしたら、それはこれより現れる悲劇の鎹にしてはならないのだ。
 悲劇が連鎖するのだというのならば、断ち切らなければならない。
 間違いを間違いのままにしてはいけないのだ。だから、シルは痛みを超える。乗り越える。

「が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ!!」
 完成する多重詠唱の全力魔法。
 空を仰ぎ見よ。そこにあるは、極大の魔力砲撃たるユーベルコード、エレメンタル・ファランクス。
 シルが息を吸い込む。この一撃を持って連鎖を断ち切る。その万感の思いを込めて、声を張り上げるのだ。

「わたしの全部、もってけーっ!!」
 膨大な魔力の奔流が、砲撃へと姿を変えて暴食卿へと放たれる。
 その魔力砲撃は呪いの魔弾を蒸発させ、因果すらも焼き切り暴食卿へと注がれる。鎹は砕け散る。悲劇の連鎖は生み出されない。
 それが、シル・ウィンディアの為したことであった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

熨斗蘭・百合
少々遅刻してしまったかのう?

さて、多くを語る必要は無いじゃろう。
お主が間違えておらぬのならお主は生き残りこれからも狩り続ける…、そういうものじゃ。

【戦闘】
《樹精達の兵団》は先に発動すると全て“障害”として消滅させられる可能性があるので敵がユーベルコードを使用した後に発動する。

《“何人も死より逃れること能わず”》は回避できないと判断、魔弾に込められた《殺気》から魔弾が来る箇所を《野生の勘》で予測、手など致命傷や戦闘の支障になりえない箇所で当たりに行き貫かせる。

自身が魔弾を引き付けてる間に召喚したドライアド達で攻撃。
自身も余裕がありそうなら近づいて《クサナギノツルギ》で攻撃、なさそうなら後退する。



 同族殺し。それはダークセイヴァー世界を支配するヴァンパイアにとって最も忌避すべき存在である。同族でありながら、同族を殺すもの。
 それは過去の化身であるオブリビオンであるヴァンパイアにとってさえ理解不能の存在であり、狂気に飲まれたがゆえに強大な力を振るう暴風の如き徒である。
 強襲されし領主館は同族殺し暴食卿『ヴェルハディス』と猟兵によって、かつて難攻不落とも言われた警備は無残にも引き裂かれた。
 また領主である聖剣使いの吸血鬼・ブラックもまた、強大なオブリビオンであったが、度重なる暴食卿『ヴェルハディス』の攻撃、幾多の猟兵の前についに倒れ、骸の海へと帰された。
 それはこの領地に圧政を敷き、人々を苦しめていた領主の打倒であり、彼らを救うことになったのだ。同族殺しという狂気に堕ちたヴァンパイアが切っ掛けとはいえ、それは紛れもない事実であった。

 そんな彼らから遅れるには遅れたが、それでもなお、幾度の戦いで消耗した暴食卿を前にして新たに駆けつけた猟兵の存在は大きな助けとなる。
 強大であった暴食卿であったが、連戦に次ぐ連戦で消耗している。今を逃せば倒す機会もなくなるだろう。それは猟兵もまた同じである。
「さて、多くを語る必要はないじゃろう」
 熨斗蘭・百合(深森の魔女・f12830)が人形と見紛う程の整った容姿を闇夜の世界に晒す。
 それは暴食卿に対する言葉であった。
「異形は殺す。狩り殺す。俺は間違えない。間違っているのなら、間違えるはずがない―――!」
 彼女の言葉は暴食卿の耳に果たして届いていただろうか。狂気に堕ちた紅の瞳は、彼にとっての異形……即ち猟兵である百合を見据えていたのだから。

「お主が間違えておらぬのなら、お主は生き残り、これからも狩り続ける……そういうものじゃ」
 もはや対話に意味はない。今やそこにあるのは、猟兵とオブリビオンという存在のみ。互いが異形であると、異物であると認識する以上戦いは避けられるわけもない。
 暴食卿の咆哮が闇夜の世界の荒野に響き渡る。
 構えた魔銃から放たれるは、あらゆる“障害”を接触即時消滅させる魔弾!七度、対象の身を貫くまで決して止まらぬことのない呪いの魔弾である。

 放たれたが最後、それを避けるには能わず。
 故に百合は覚悟を持って、それに対するのだ。
「木々に宿りし精霊たちよ、我が許に集え!」
 彼女のユーベルコード、樹精達の兵団(ドライアドアーミー)。それは彼女自身が生み出したもの。植物の生命力を操る独自のもの。
 彼女のユーベルコードによって呼び出されたるは、ドライアド。彼女を護るようにボウガンや弓で武装した彼らを障壁として呼び出したのだ。
 しかし、これでは呪いの魔弾を防ぐことは不可能だとも百合は理解していた。彼女を護るように呼び出された以上、彼らは魔弾にとって障害物と認識される。
「―――だからといって、はいそうですかと引き下がるわけにもいかぬて!」
 
 魔弾に込められし呪い。それを野生の勘とも呼ぶべき殺気を感知する能力によって魔弾を受け止める。避けることも適ったであろう。だが、それでは結局の所、七度貫く呪いを回避できない。手、肩、魔弾が貫いていくのは致命傷に至らぬ場所ばかり。
 内蔵、頭部は確実に護らなければならない。

 そして、それは彼女にとって痛みを伴う覚悟。傷ついても前に進む覚悟である。
「さあ、征けい!」
 彼女の号令と共にドライアドたちが進む。暴食卿へとボウガンや弓矢が放たれる。惹きつけた魔弾は未だ百合の体を貫く。七度、その身を貫くまで止まらぬ魔弾は、それ故に次弾を装填できない。
 進む。
 貫かれた銃創から血が吹き出す。それでも進む。そうしなければ、人は生きていけない。後退はない。
 彼女の手には魔術によって作り出された植物の剣―――クサナギノツルギ。

 進む。
 暴食卿が過去の化身であるからこそ、己の行いに足を止めてしまったのだとしたら、己は猟兵である。今を進み、未来を掴む可能性そのものである。
 ならば、百合は止まらない。
 肉薄し、手にしたクサナギノツルギを振るう。その一撃は、暴食卿を袈裟懸けに切り捨てる。

「間違いを認めて進むこともまた、一つの強さじゃ。それをわかるんじゃ、過去の化身……いや、ヴェルハディス!」
 荒野に咆哮だけが虚しく響き渡る。それは虚のような咆哮。
 間違えた道をこれ以上進ませはしない。それが百合のできる唯一の手向けであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレア・フォースフェンサー
この圧倒的暴力は、かつての自分が犯したことへの贖罪ということかの
はは、わしと似ておるやもしれぬな

かつてのおぬし……いや、おぬしの元となった者は確かに間違えたのかもしれぬ
しかし、骸の海より生み出された今のおぬしは何ら間違えておらぬであろう
間違えたという過去も、間違えたという記憶も全て、生まれたときに一方的に与えられたものにすぎぬ
それらはおぬしが行ったことではない

ゆえに、わしはおぬしを認めよう
おぬしがこれまでに成してきたことを認めよう
おぬしはこの世界に幾多の光をもたらしておる

じゃから、もう休むが良い

【能力破壊】の力を乗せた光剣を構え、餓狼群を捌く
暴食卿の魂魄を見切り、痛みなど感じさせぬよう斬る



 相対するは暴食卿『ヴェルハディス』。その紅の瞳は目の前の猟兵を認識している
 異形であると。あれは己とは違う、異形であると確信している瞳。
 そう、異形は狩り殺さなければならない。消耗しきった足を踏み出す。足取りは重い。それは旗から見ても明白であった。
 しかし、止まらない。
 これを止めなければ、さらなる災厄を齎すことは必定である。倒さねばならない。骸の海へと還さなければならない。
「間違ってない……俺は間違えない。異形は狩り殺す。狩り殺してしまわねばならない……確実に、間違いなく。間違えてなどいない。間違えた。間違えた」
 ゆらりとその紅い瞳に力が灯る。
 目の前の猟兵を狩り殺さんと―――。

「この圧倒的暴力は、かつての自分が犯したことへの贖罪ということかの……」
 自嘲めいた笑いが溢れる。案外わしと似ておるやもしれぬな、そうクレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)のつぶやいた言葉は、召喚されし餓狼の遠吠えによってかき消された。
 しかし、いくら耳をふさごうとも、いくら遠吠えで塗り重ねようとも、真なる言葉は、その言葉が真を突けば突くほどに如何なる壁をも通り抜けて届くものである。
 それは暴食卿のユーベルコードと皮肉にも似通っていた。
 次元をも超えて襲い来る餓狼の群れ。“腐食”の呪いを帯びた咆哮と牙、爪、それらを携えて、クレアへと敵意を顕にする。

「かつてのおぬし……いや、おぬしの元となった者はたしかに間違えたのかもしれぬ」
 能力破壊(デストロイ・コード)。小さく囁くようにクレアのユーベルコードが発動する。それは手にした光剣に込められたユーベルコードを破壊する力の顕現である。
 構える……それが合図であった。一斉に餓狼たちがクレア目掛けて殺到する。闇夜の世界にクレアの金色の髪がたなびく。それはまるで満月の月光のように輝きながら、光剣が振るわれる度に風になびくのだ。

「しかし、骸の海より生み出された今のおぬしは何ら間違えておらぬであろう。間違えたという過去も、間違えたという記憶も全て、産まれた時に一方的に与えられたものにすぎぬ」
 骸の海より産まれた過去の化身。それは過去の塊でありながら、全く別の新しいなにかであったのかも知れない。今、過去の化身たる暴食卿が何を為してきたのかを顧みれば、その与えられた記憶と必ずしも一致するとは限らない。
 彼は領民を傷つけたか。否である。
「それらはおぬしが行ったことではない」
 光剣が翻る。剣閃が餓狼の牙を、爪を胴を薙ぐ。両断された餓狼は霧散し消えていく。

「ゆえに、わしはおぬしを認めよう」
 踏み込む足は素早く。餓狼の群れが背後より迫ってこようとも、意味はない。その場で振り返り光剣が餓狼の喉笛をかき切る。
 痛みも与えぬ剣技の冴え渡りは、時間が立てば立つほどに増していく。
「おぬしがこれまで成してきたことを認めよう」
「―――だまれ」
 クレアが暴食卿に迫る。踏み込んだ足は神速の踏み込み。彼我の距離など意味をなさぬほどの踏み込みは、正しく次元を跳躍するが如く。
 光剣の輝きが増す。その光は闇夜の世界にあって、目がくらむほどの輝きだった。この世界の人々が欲して止まぬ光。闇夜を切り裂く光だ。
「―――黙れ!俺は違う!俺は間違えている―――!」
「おぬしはこの世界に幾多の光をもたらしておる」
 その言葉は暴食卿に罅を入れる楔。そう、出自がいかなるものであろうと、彼は領民たちを虐げる領主を打倒せんとした。
 それが過去の化身同士の戦いの結果であったとしても、結果として人々を救う。その救われた領民たちの心に宿るのは希望の光。それを齎したのは―――。

「じゃから、もう休むが良い」
 すれ違うクレアと暴食卿。クレアはもう振り返らなかった。それは意味のないことだった。
 彼女の言葉は気休めであったかも知れない。そのひび割れた心に何かを打ち込んだのかも知れない。
 だが、それを知る術はない。過去には戻れないのと同じように、クレアもまた戻る術を持たない。
 だからこそ、彼女は前を見て進むのだ。振り返らない。ただ、それだけで人は進んでいけるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九之矢・透
勘十郎サン(f23816)と共闘

意志だろうが生命だろうが持ってってみろ
手が足が止まりそうになった時は「鼓舞」する
アンタが哭いてるなら止まれない

己に向かう狼たちは見切り避ける
獣が相手ならこっちも野性の勘を働かせよう
――悪ぃな、ありがと
こっちも勘十郎サンを背後から狙うヤツが居たら優先して柳で狙うよ

近づけたなら【山嵐】
狼が居ようと構わない
咆えるヤツには喉を
牙爪を剥くヤツには目を足を
破魔をのせて
即二回攻撃
狙うは本命、暴食卿だ

あのな
アンタが来た事で領主を倒せた
きっとアンタは誰かを、弱きものを今度は救ったぞ

だからこれはアンタの流儀に則ったアタシらの礼だ
異形ってアンタを滅してやる
いっちょやろうぜ、勘十郎サン


岩永・勘十郎
※透殿と共闘

「後はお前だけだ」

勘十郎はUCを発動。敵のUCによる攻撃を早業や見切りを駆使し斬り裂き、技や概念その物を無効化する。
ただ無数の攻撃を防げる訳じゃない。もちろん敵本体も動いている。

「さて、どうするか」

次の手を考える勘十郎に透殿は自らのUCで動きを止める案を出す。
「乗った」と透殿の作戦に合わせ勘十郎が攻撃を防ぎながら接近。

だが敵も歴戦の猛者。こちらの攻撃を読んで透殿めがけ攻撃が飛ぶ。
勘十郎は敵の攻撃に挺身して防ぎ、勘十郎はダメージを受けるが透殿の攻撃は通る。

「だな、もう終わりにしよう」

すぐに自分の身体を斬りダメージその物を消す。そして透殿の言葉に合わせ、敵の恨みや悪意、魂を斬り裂いた。



 それは慟哭のような咆哮であったのかも知れない。
 すでに領主である聖剣使いの吸血鬼・ブラックは骸の海へと還された。残るヴァンパイアは同族殺しである暴食卿『ヴェルハディス』のみ。
 その咆哮に勝利の余韻はなく。その慟哭には過ちを嘆く絶望と狂気だけが込められていたのかも知れない。
 慟哭の意味を知るものはいない。語られることもない。
 ただ、そこに在るのは猟兵とオブリビオンという互いを異形と認識し合うだけの邂逅があるだけであった。
 暴食卿は狩り殺す。異形を狩り殺して、狩り殺して、挙句の果てに己をも異形へと変じた者の末路。
「俺は間違えた。間違えてはならないものを……間違えた……狩ってはならぬものを狩ってしまったがゆえに、俺は間違えた」
 その言葉は、ただの羅列であったのかも知れない。
 言葉に籠もる深い懺悔は一体何か。それを贖うこともできない、過去の化身たる己の身を苛む後悔という名の狂気か。

 餓狼が呼び出される。それは次元すら越えて目標へと“腐食”の呪いを帯びた咆哮と牙、爪を振るう血の追跡者。
 だが、それが一体何だというのだろう。猟兵が足を止めるわけではない。
「後はお前だけだ」
 岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)の声が響く。荒野にたなびくは黒の外套。手にする太刀には、ユーベルコード、六道・龕灯返しの太刀(リクドウ・ガンドウガエシノタチ)によって込められし仙力。

「意志だろうが生命だろうが持ってってみろ」
 咆哮は容易に他者の足を止めるほどの呪詛を持つ。しかし、その慟哭を聞いて足を止められるほど九之矢・透(赤鼠・f02203)は、己を鼓舞できぬものではなかった。
 あの暴食卿の咆哮は慟哭である。哭いているというのなら、己が足を止める理由はない。止まれないのだ。
 彼らに群がるようにして襲い来る餓狼たちの爪を勘十郎と共に見切りながら躱していく。
 次元を越えてまで追いすがる血の追跡者たる餓狼たちの能力は、簡単に攻略できるものではない。透の背より襲い来る餓狼を勘十郎の太刀が切り捨て、勘十郎の背から迫ったものは透の放つ投げナイフを眉間に受けて崩れ落ちる。
「―――悪ぃな、ありがと」
「構わんよ……さて、どうするか」

 勘十郎と透の視線が交錯する。それだけ互いの協力体制は整う。どうすればいいか。どのような策でいくのか。もう理解していた。
 互いに頷きあって荒野を駆ける。先に駆けるは透であった。手にした投げナイフを器用に使いながら、襲い来る餓狼の喉を切り裂く。
 走り抜ける。群狼の間をすり抜け、牙を剥くものには目を、爪を振り下ろすものには足を。
 破魔の力が宿る武器は餓狼たちをなぎ払いながら進む。瞳に見据えるのは、暴食卿のみ。
「あのな。アンタが来たことで領主を倒せた。きっとアンタは誰かを、弱きものを今度は救ったぞ」
 徹の声が響く。それは荒野の戦いにおいて、本来なら届かない言葉であったであろう。餓狼の唸り声、暴食卿の慟哭。何もかもが遮ったことだろう。
 だが、届くのだ。彼女のユーベルコード、山嵐(ヤマアラシ)が発動する。放たれたる投げナイフには神経毒が含まれている。これを受けて動きを止められない敵はいない。
 それでも追いすがる餓狼。牙を向き、透の手を食いちぎろうと迫る。しかし、それは勘十郎の太刀によって切り落とされ防がれる。
「流石は歴戦者―――!だが、そうはさせぬ!」
 勘十郎が透へと襲い来る牙、爪……ありとあらゆる攻撃が身を挺して護る。太刀で防ぎきれぬ攻撃は、己の身を盾にしてでも護る。

「だからこれはアンタの流儀に則ったアタシらの礼だ。異形っていうアンタを滅してやる」
 徹の声が響くのと同時に放たれた投げナイフが暴食卿の体に食い込む。瞬時に廻る神経毒が暴食卿の膝を地に付かせる。
 真紅の瞳が彼らを捉えていた。異形。異形。己を異形というのなら、他者もまた異形。
 しかし、その真紅の瞳こそ断ち切らねばならぬ異形である。
「いっちょやろうぜ、勘十郎サン!」
「だな、もう終わりにしよう」
 己の身に受けた腐食の呪いは勘十郎の太刀によって概念ごと両断される。
 もはや勘十郎の太刀筋を狂わせるものなどなに一つなく。
 ただ、その刃は恨み、悪意、魂を切り裂く刃となる。黒い外套が翼のように闇夜の空に広がる。月光を覆い隠すその姿を暴食卿は、どのように思ったことだろう。
 月光受けた刀身が輝き、勘十郎の一撃は、怨嗟の連鎖を断ち切るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
【ドヴェルグ】

短いお付き合いだったけど、それももうお終いよ、暴食卿。仲間も来てくれた。『異形』が私たちかあなた自身か、白黒つけましょう。

空にいては銀蝗の群に対処出来ないと判断し、地上戦を選択。
執金剛神降臨、巫覡載霊の舞を再度使用。
式たる偶神兵装『鎧装豪腕』を顕現。

向かってくる餓狼の群を『鎧装豪腕』の「盾受け」と「オーラ防御」を重ねた神霊体の防御力で凌ぎながら、「破魔」属性を帯びた執金剛神の長物による「なぎ払い」「範囲攻撃」「衝撃波」と「串刺し」を主力として戦うわ。

暴食卿の狂気に犯されないよう、「呪詛耐性」の符を自身と仲間全員に。
自分を見失うようじゃ、この相手には勝てない。

餓狼を払いつつ一撃を!


アイシャ・ソルラフィス
【ドヴェルグ】メンバーで参加します

…思うところはいろいろあるけれど…
暴食卿さん、あなたを救えなくてごめんなさい
ボクたちは、ボクたちのできる事をします
どうぞあなたも、今できる精一杯の抵抗を、そして意志を示してください
それこそ、今度こそ悔いの残らないように…

《祈り》《鼓舞》の技能を付加した「守護の祈り」でみんなを強化
次元を跳躍する餓狼には《見切り》+《視力》でよく狙って、《全力魔法》+《属性攻撃》+《なぎ払い》+《鎧無視攻撃》で、獣が相手だから炎属性で焼くよ
可能なら《動物と話す》で餓狼の会話を聞き取って、狼のコンビネーションを崩すね

エミリオくん! ゆかりさん! 尚くん! 今だよ、暴食卿さんをっ!!


エミリオ・カリベ
【ドヴェルグ】の仲間と参戦
※アドリブ歓迎

ゆかりさん(f01658)、アイシャ(f06524)、大丈夫!?
二人が強力なヴァンパイアとの戦いに赴いたって聞いて慌てて駆けつけたんだけど……
ギリギリ間に合った、って感じかな?
(二人の無事と暴食卿の存在を確認し、即座に戦闘態勢へ)

まずはユーベルコードを発動!
光球の属性は「雷+【マヒ攻撃】」「火+【範囲攻撃】」「光+【破魔】」。
役割は順に足止め、広範囲の焼き払い、浄化(止め)だね。
暴食卿の纏う狂気(を帯びた攻撃)……
自分とみんなを守る魔力障壁(【オーラ防御】+【呪詛耐性】)にも力を注ぐよ。

尚人(f01298)、アイシャを守るためとはいっても無茶はダメだよ?


日野・尚人
【ドヴェルグ】

あーちゃん(f06524)、無事かっ?!怪我して・・・ない、な?
はぁ~、村崎(f01658)とヤバイ奴を相手しに行ったって聞いたんで心ぱ・・・
と、とにかく4人で協力して一気に片付けちまおうぜ!

俺は<先制攻撃>の<乱れ撃ち>で出鼻を挫いてやるか!
適当にぶっ放した弾丸は風の魔力で狼共の喉元を狙う<部位破壊>の<誘導弾>に!
妙な咆哮を上げられたくないからな?

攻撃は<見切り>、<ダッシュ>で躱して<武器受け>で防ぐ!
そこから<カウンター><2回攻撃><フェイント><零距離射撃>で撃退だ!

あーちゃんには指一本触れさせないぜ!(<かばう>)



リ、リオ(f07684)、何言ってんだよっ!?



 変わらぬものはない。
 終わらぬものもない。ならば、戦いとはいつか終わるものである。発端があるからこそ、結末が在ある。
 孤独である者と繋がりを得た者。異形とそうでない者。どちらの言葉が正しいのかはわからない。
 しかし、互いに相容れぬ存在である。猟兵とオブリビオンである以上、両者の間を隔てる溝は深く、埋められるものではなかった。
 暴食卿『ヴェルハディス』は咆哮する。幾多もの猟兵たちに攻撃を受けて尚、その肉体は滅びない。真紅の瞳が輝く。
 大気を震撼させるほどの咆哮は、対峙する者たちの足を止めるかも知れない。だが、それは対峙する者たちが一人であればの話だ。
 彼らは一人ではない。暴食卿のように隣に誰もいないわけではない。たった一人では抗えぬ力も彼らは互いに寄り添って打倒せしめるのだ。

「短いお付き合いだったけど、それもお終いよ、暴食卿」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は足を止めない。空にいては銀蝗に対応できないと地上に降り立ったのだ。かと言って、群狼である餓狼に対する備えがなければ意味はない。
 しかし、彼女には仲間がいる。背中を、脇を、任せられると信じる仲間が。
「……思うところはいろいろあるけれど……暴食卿さん、あなたを救えなくてごめんなさい。ボクたちはボクたちのできる事をします」
 アイシャ・ソルラフィス(隣ん家の尚くんを毎朝起こす当番終身名誉顧問(願望)・f06524)は、ただ祈りを込める。己を鼓舞する。ゆかりの符によって呪詛への耐性はできあがっている。
 だが、ここに来て勝敗を決するのは、己の心の有り様である。それ故に彼女は祈りをユーベルコード、守護の祈り(プレアー・オブ・プロテクション)に込めるのだ。

「あーちゃん、無事かっ?!怪我して……ない、な?やばいやつを相手しに行ったって聞いたんで心ぱ……と、とにかく4人で協力して一気に片付けちまおうぜ!」
 日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)が二人のもとに急ぎ駆けつけたのは、彼の心配する心根の優しさがあってのことだろう。
 彼とともに駆けつけたエミリオ・カリベ(星空と本の魔法使い・f07684)もまた同様であった。
「ギリギリ間に合ったって感じかな?」
 これで4人が揃った。尚人のユーベルコード、トリニティ・エンハンスが発動し、彼の戦闘力を強化していく。手にしたハンドガンに宿る力は、さらなる力を得る。
 しかし、暴食卿の呼び出す餓狼は彼らの想像を絶する数だった。
 次元すらも越えて対象を捕食する群狼。それはあれだけの攻撃、あらゆる力を持って打倒せしめんとしても尚、その体を突き動かす狂気と同じ群狼。
 
 エミリオのユーベルコード、Lluvia de meteoritos(ジュビア・デ・メテオリトス)が発動し、ガジェットを核とした様々な属性の球体が飛翔する。
 餓狼が4人に襲いかかるも、雷の属性を持つ球体が群狼の足を止める。そこに火の属性の球体が薙ぎ払うように炎で焼き払っていく。
 しかし、いくら倒しても、その後から湧き出るようにして襲い来る餓狼たち。アイシャの全力魔法でもってしても、その数は減らすことしか出来ない。
 一掃できなければ、本体である暴食卿には届かない。
 アイシャとエミリオの炎の属性攻撃が闇夜の空を幾度も照らす。範囲攻撃はあまりにも広く展開する。そのおかげで戦いの推移はこちらに傾いている。
 だが、それでも範囲攻撃を飛び越えてくる餓狼がいた。

「あーちゃんには指一本触れさせないぜ!」
 尚人がアイシャに襲いかからんとした餓狼を、身を挺して守る。アイシャのユーベルコードによって傷には至らない。エミリオの属性攻撃で餓狼を引き剥がし、滅することができた。
「尚人、アイシャを守るためとはいっても無茶はダメだよ?」
 そうやって無茶をたしなめるエミリオ。
 そう、無茶をしてはいけない。誰一人欠けること無く戦いを終えなければ、アイシャも笑ってはいられないだろう。
 だからこそだ。蛮勇と勇気は違うのだとエミリオは窘めた。
「リ、リオ、何言ってんだよっ!?」
 仲間を護っただけだと、慌てたように言い繕う姿は、一時の癒しになっただろう。それでいっそう4人の連携は高まる。
 エミリオとアイシャが餓狼の群れをなぎ払い、打ち漏らしたものを尚人が討ち果たす。

 そして、ゆかりは巫覡載霊の舞によって変じた姿、神霊体となってユーベルコード、執金剛神降臨(シュウコンゴウシンコウリン)を発動する。
 完成された甲冑と金剛杵で武装した執金剛神が、ゆかりの背後より出る。その巨躯はあらゆる呪詛をも跳ね除ける神々しき姿。
「みんな、鎧装豪腕の後ろに!」
 ゆかりの声とアイシャの声が重なる。今だ、と確信する。薙ぎ払われた群狼は霧散していく。
 ゆかりの動きをトレースしていく執金剛神。
「オン ウーン ソワカ。四方の諸仏に請い願い奉る。其の御慈悲大慈悲を以ちて、此の時此の場に御身の救いの御手を遣わしめ給え!」
 その手は遍く全てを救い、差し伸べる手。破魔の力を帯びた長物を振るい上げる腕は、未だ救われぬ暴食卿を救うため。
 異形に堕ちながらも、異形を討ち果たそうとした暴食卿のかつての絶望と後悔を救いあげるために振るわれる。

 白黒をつける。
 自分という存在を見失ってしまわぬように。それほどのまでの敵であったのだ。だからこそ、彼女たちは全力を尽くす。
 それが救いになるのだと信じる。過去は過去に。骸の海へと過去は還さなければならない。
 暖かい光。その一撃は、天上より振るわれた―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
強大な吸血鬼を前に、己の中の闇の血が目覚める…!
真の姿を解放し、ヴァンパイアの姿となって現れるぞ。
こんばんは、暴食卿。
狩人の殺意には、神殺しの力でお答えしよう!

敵は追尾してくる魔弾を操るのか。ならば…
【パイロキネシスα】を発動させ、76体の火球を
生み出して<念動力>で操る。
放たれる弾丸に火球をぶつけ、<焼却>して
攻撃を相殺だ。火球が弾丸に貫かれた場合は<第六感>
を頼りに回避し、七回躱しきれなければ
マントに仕込んだブレイドウイングによる<武器受け>で
ガードするぞ。多少の負傷は厭わず前進、
間合いに入ったら二刀流による<2回攻撃>だ。
<吸血>で刃を通して<生命力吸収>しながら戦闘続行するぞ。



 他者が己の鏡写しであるというのなら、己の道行きもまた他者と同じものであるのだろうか。
 答えは否である。どれだけ他者の鏡が己の姿を写そうとも、己の歩んだ道程は他者とは違うもの。
 引き寄せられるようにして、引きずられることはったとしても、己は己である。確固たる己が克己を成すのである。
 ならば、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は己の中に流れる闇の血に翻弄されることはないであろう。真なる姿、ヴァンパイアの姿は、暴食卿『ヴェルハディス』の真紅の瞳にどのように映ったであろうか。
 それは彼の瞳に力が宿ったことを見れば明白であろう。
 ―――狩り殺す。
 ただそれだけのために生きて死んだ過去の化身。その過去の集合体である暴食卿にとって、ガーネットの姿はまさに宿敵、怨敵そのものである。
 かの異形を全て狩り殺さんとする意志は真紅の瞳を輝かせる。手にした魔銃が掲げられる。

「こんばんは、暴食卿。狩人の殺意には、神殺しの力でお答えしよう!」
 幾多もの猟兵の攻撃をこれだけ受けても尚、動きを止めぬ肉体。その肉体は魂をも凌駕していた。ゆらりと立ち上がる暴食卿。そんな彼に応えるはガーネットの言葉は、決然としていた。
 もはや問答は無意味。咆哮のような慟哭に何が合ったのかは問うまい。彼女が応えるのは、その殺意のみ。
 そして、それに応えることのできる神殺しの力を持つのは自身なのだから。

「私の前に立ち塞がるものは、すべて焼き払ってやろう」
 放たれるは七度貫くまで止まらぬ呪いの魔弾。彼女のユーベルコード、パイロキネシス・α(パイロキネシス・アルファ)が発動する。
 76の火球が生み出され、それぞれを念動力で制御する。サイキックエナジーの炎は、放たれた魔弾にぶつかる。
 相殺を狙ったはずだが、火球を障害物と認識した魔弾は止まらない。焼却せんと炎を重ねるも、それでもなお、貫いてくる。
 これが暴食卿としての力。
 強大な吸血鬼の力なのだと、ガーネットは第六感とも言うべき勝負勘によって魔弾を回避する。しかし、七度回避しきれるものではない。必ず貫かれる。

 マントを翻し、仕込まれたブレイドウィングが硬質化し魔弾を防ぐ……だが、その防御すらも突き抜ける呪いの魔弾。
 多少の負傷は覚悟していた。それでも尚、その上を行く呪いの魔弾はガーネットを貫く。
 しかし、それは多少の負傷のうちである。元より無傷で片がつくとは思っていない。歩みを止めない。前に進むしか無い。
 いつだってそうだ。
 戦いにおいて勝利を掴む者、価値あるものを掴む者、彼らの道行きはいつも困難で厳しい道だ。ガーネットはそれを知っている。
 己の肉体は貫けても、己の覚悟は貫けない。

「間合いに入った……覚悟、暴食卿―――!」
 手にした躯丸とアカツキの白と朱のニ刀が振るわれる。十字に切り裂く刃の二連撃は暴食卿の生命を吸収しながら、彼女にさらなる力を与える。
 止まらぬ連撃。
 それでもなお、暴食卿は止まらない。何がそうさせるのか。何を持ってそうなってしまったのか。

 だが、神殺しの力を持って立ち止まることは許されない。ガーネットの連撃はついに暴食卿の膝を折らせる。
 呪いの魔弾もまた、妖刀・アカツキの前に霧散して消える。
 因果は断たれた―――。

 その絶望も、後悔も、何もかもが過去になる。
 再び相まみえることがあったとしても、幾度でも因果を断とう。それが猟兵としてのガーネットの信念であり、歩む道程の一歩であったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月守・咲凛
アドリブ他諸々OK
倒すのではなく心を救ってあげたいので、戦う意思はありません。

あなたは、後悔しているのですね。
飛行を解除して地上に降り、武器を構えずに暴食卿さんの前に立ちます。
ゆっくりと歩いて近付きながら、武装ユニットをひとつひとつ解除して行き、戦闘能力のないただの女の子として、彼の前に立ちましょう。
あなたは私を守ったのです。前に間違えたと思ってるのなら、間違ってない方に進み直せば良いのですよ。

攻撃をされても、当てられる事はないと思っているので怯みません。
ちゃんと歩いて相手の所に辿り着けたら、にっこり笑って『私は生きてますよ』と言って撫でてあげましょう。



 暴食卿『ヴェルハディス』は、地に膝を折った。
 もはや立ち上がる力は残っていないのだろう。声は枯れ果て、真紅の瞳は力を喪っていた。
 その胸に去来するのは、狂気ではない。ただの虚しさだけであった。何もかもが己の指の隙間からこぼれていった。
 間違えを正せぬままに終えた過去。それが自身のものであるという自覚もないままに、その衝動のままに同族を狩り殺し続けた。
 間違えた。間違えた。何もかもが間違いであったのだと、間違えたのだ。

 月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)はフライトユニットを解除して地上に降り立つ。目の前には力を喪ったヴァンパイアが一人。
 小さき彼女にとって武装とは即ち猟兵としての力である。それがなければ、彼女は戦闘力のない唯の少女である。
 それが如何に自殺行為であるかは第三者しかわからぬことであろう。
 何故なら、彼女に戦う意志はない。心を救ってあげたい。そこに戦うとい意志は介在しないのだ。
「あなたは、後悔しているのですね」
 ゆっくりと近づく。武装を解除していく。一つ一つ。暴食卿の前に立つ。顔を附した暴食卿には最早見上げる力すら残っていないだろう。

「あなたは私を守ったのです」
 それはただの反応であった。彼の過去、過去の化身たる所以。その過去にあった小さきものを誤って撃ち殺したことへの後悔。
 それは過去の化身として産まれた自身のものではない嘗ての誰かの後悔。だが、その後悔は自身を苛む。
 何故。何故間違えたのだと。
「前に間違えたと思っているのなら、間違ってない方に進み直せば良いのですよ」
 それはただの傲慢である。
 間違えぬ者はいない。間違えたことを正せるであろう。だが、それを誰もができるものではない。誰でもはできないのである。
 だからこそ、暴食卿は真紅の瞳を輝かせる。

 見果てぬもの。手を伸ばしても得られぬもの。それこそが暴食卿にとっての『異形/猟兵』である。
 故に魔銃掲げ、咲凛へと向ける。銃声が響く。しかし、その魔弾は咲凛へと当たることはなかった。
 それが何故なのかはわからない。けれど、咲凛はまばたき一つせずに、進む。怯むことはない。確信だけが彼女の足を踏み出させている。

 だからこそ、咲凛は暴食卿へと辿り着く。彼女はにっこりと笑顔を浮かべる。
「私は生きてますよ」
 撫でる手付きは、いつかの誰かのものであったのかもしれない。
 それが誰のものであったのかわからぬまま、けれど、確かに感じるものはあった。その名を思い出せない。それがなんという感情であったのかを思い出せない。
 けれど、いいのだ。
 それでいい。狂気に陥った心は納得していたのだから。

 暴食卿の足元から灰に変わっていく。闇と夜の世界に夜明けはない。足が崩れ、風に運ばれていく。
 後悔しか無かった過去。懺悔と贖罪に追われた過去。間違えてしまった過去。

 だが、ここに至れり。

「過去には戻れない―――」
 暴食卿であった体は完全に灰へと変わる。
 骸の海へと還る。

「だが、間違いなどではなかった―――」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月28日
宿敵 『聖剣使いの吸血鬼・ブラック』 を撃破!


挿絵イラスト