ラストブライト・ジューンブライド(作者 只野花壇
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●潰えた理想の果てた後

「おまえなんかミサキじゃない! オレの理想のミサキを返せ!」
「酷い! ライトはそんなこと言わないもん! いつもの優しいライトに戻ってよ!」

 喧々諤々の言い合いは破綻した関係の残り滓。
 己の理想に溺れてしまったから現実の正しさを認められない。
 だから、誓うはずだった永遠は崩れ落ちた。
 男と女の道は別たれ、どちらも鏡の国に消えていく。

「ほぅら、やっぱりね」

 故に女は嘲笑う。
 ひとなど所詮そんなものだ。
 己の理想以上があれば現実など容易く投げ捨ててしまう。

「だからさ、みんな楽になっちまいなよ。現実なんていらないでしょう?」

 その通りだ、と理想のミサキに撫でられながら男は笑う。
 その通りよ、と理想のライトに抱きしめられた女が笑う。
 撫でる手が勢いを増して首をもいでも、男は笑っている。
 抱きしめる腕に潰れひしゃげながら、女は笑っている。
 そうして放り出されるのは散り散りになった肉片ばかり。

『あら』
『あらら』
『もう壊れてしまったのね』
『もう壊してしまったわ』
『もう少し優しくしてあげたかったのに』
『もう少し抱きしめてあげたかったのに』

 呼応するように、囁き合う理想像がどろりと溶け落ちる。
 理想の投影者たちが命を終えたから鏡は像を結べない。
 取り残されたのは困惑した無表情の娘たち。
 鏡の乙女に、女は鮫のように笑いかけてみせた。

「何、人間はまだまだたくさんいる。好きなだけ弄んでやりな」
『そうかしら』
『そうかもね』
『次はあの人がいいわ』
『それならわたしはこの人にしましょう』

 理想に奉仕する鏡の乙女たちが銀とひとつに消えていくから。
 暗がりに独り残った女は、極彩色の術式光を翻す。

「好きに遊びな、理想鏡ども。こんな場所に集る奴らなんざ……」


――――みんな、バラバラになっちまえばいい。



●ラストブライトはまだ早い

「理想通りに運ぶ世界を夢見たことはありますか?」

 言いながら、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)が取り出したパンフレットをもしかしたら見たことがある猟兵もいるかもしれない。
 『理想の結婚式』と問われた時にほぼ必ずと言っていい頻度で名前の上がる高級ホテルのものだ。
 一見繋がらないが、グリモアベースでそんなはずはないと。
 問う声に彼女は頷き口を開く。

「こちらへ結婚式の打ち合わせに来たカップルが喧嘩別れして、その後二人ともが行方不明になるんです。それも、偶然や心変わりで片付けられるような数でなく」

 そこに予知が出た。
 であれば、猟兵にしか解決できない――オブリビオン絡みの問題だ。

「『雲の鏡へ言の葉映ししもの』。あらゆる理想を写し、誰もの欲望を受け入れる鏡。……結婚式なんてその後も含めて理想に事欠きませんからね」

 本来だったら幸いの未来へ続く道を、歪めて落とす理想鏡。
 だからおそらく、それを倒すために立ち塞がるのは“理想”だ。
 望んだままの誰か。畏怖、あるいは敬愛するひとの姿。それが自分の思った通りに“奉仕”してくれる。その悦楽は、幸福は、おぞましいほどの甘露だろう。
 それでも、それらは本物ではないから……決して己の描く理想以上になりはしない。

「映し出される理想に惑わされることのないよう、くれぐれも破壊をお願いします」

 そして、と継いだ言葉は僅かに硬い。
 「それ以上」を見通せなかったグリモア猟兵は、ただ静かに頭を垂れる。

「誰が鏡を持ち込んだのか。……理想の世界を脱出すれば、黒幕も出てくると思います」

 その討伐が完了せねば、悲劇はまた繰り返される。
 そこまでを頼みたいのだと、彼女は唇を噛み締めて告げた。

「……危険な現場に送ることになってしまい申し訳ありません。何卒、警戒を怠らぬよう」

 暗くなってしまった自分を恥じるように、刀は視線でパンフレットを示す。
 美しいチャペル。各国のおいしい料理は選ぶことができて、もちろんドレスやタキシード、袴に白無垢と衣装も多種多様。
 そのどれもがきらびやかな、一生に一度の晴れ舞台。
 憧れの場所に辿り着くにはいささか早い者も多いかもしれないが。

「事件が解決したら式場体験をさせてくれるそうですよ。大切な人といかがですか?」

 かつて縁結びだった刀は明るく笑って、幻焔のゲートを開いた。
 鈴音が見送る先に、極彩色のひかりがうつる。


只野花壇
 十三度目まして! ドレスとタキシードは至高の眼福と信仰する花壇です。
 今回はUDCアースより、幸いの旅路を邪魔するオブリビオン退治へご案内いたします。

●章構成
 一章/集団戦『雲の鏡へ言の葉映ししもの』
 二章/ボス戦『?????』
 三章/日常『ブライダルフェアに行こう』

 各章の詳細につきましては断章の投稿という形でご案内させて頂きます。

●三章/日常『ブライダルフェアに行こう』について
 日常章ですのでこの章だけでの参加も大歓迎です。
 また、ご希望ありましたら当方のグリモア猟兵穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)が参ります。
 お気軽にお呼び立てください。

●プレイングについて
 アドリブ・連携がデフォルトです。
 ですのでプレイングに「アドリブ歓迎」等の文言は必要ありません。
 単独描写を希望の方は「×」を、負傷歓迎の方は「※」をプレイング冒頭にどうぞ。

 合わせプレイングの場合は【合わせ相手の呼び方】及び【目印となる合言葉】を入れて頂けるとありがたいです。
 詳しくはMSページをご覧下さい。

●受付期間
 各章の断章でご案内。
 その他、MSページやTwitterなどでの案内をご確認いただけると確実です。

 それでは、ようこそ鏡の中の理想の国へ。
 皆様のプレイング、心よりお待ちしております。
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第1章 集団戦 『雲の鏡へ言の葉映ししもの』

POW ●現化の献身
自身の【欲望に苛まれる人への奉仕行動】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD ●欲望の現出
【鏡へ映した相手が望むままの姿の存在】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ ●現身の露呈
戦闘用の、自身と同じ強さの【鏡へ映した相手が最も畏怖する存在】と【最も敬愛する存在】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●鏡の中は理想郷

『あのひとがいいわ』

 鏡が笑う。

『このひとにしましょう』

 窓ガラスの反射が呟く。

『あなたの理想はどんな世界?』

 水滴が揺れる。
 優しい声が語り掛ける。
 己の姿しか映さぬはずの鏡に、ガラスに、黒衣が、白磁が反射して。

『ようこそ』
『おかえり』
『待っていたわ』

 気付いた時には夢の中。
 そうとは知らせず、そうと気付かせず。だからこそ鏡の中は理想の国。
 あなたの思う通りに動く、あなたのための鏡だから。

     ネガイ
 あなたの欲望を教えてください。

 愛しきが微笑む? 苦しむのを助ける?
 それとも決して不可能なカタチを秘めている?
 ええ、ええ、考えるだけでいいの。
 ワタシはそれを映す鏡。
 どんな欲望もご随意に。
 すべての祈りを肯定し、すべての願いを弄び、最後に命を奪うから。

 ───あなたの堕落を味わいたいの。



*****


●第一章における注意事項

・敵の性質上、特記がない限りソロでの描写になります
・ペア・グループ参加の場合は、ばらけたり各々の理想が混ざり合った世界になったりします。
・『雲の鏡へ言の葉映ししもの』の戦闘能力は高くありません。戦闘描写はあっさりで大丈夫です。


●第一章のみ、プレイング省略記号

 ★……理想に溺れる (判定は「苦戦」~「失敗」になります)

 こちらの記号の使用可否で二章以降の有利不利は発生しません。
 どうぞ、お心のままにプレイングを綴ってください。


◆第一章プレイング受付期間
 【6月11日(木) 08:31 ~ 6月13日(土) 13:00】
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
「奉仕」とやらが出来るくらいなら、してみせて欲しいくらいだ
――私の理想は、「私が生まれることのなかった世界」だ
愛と希望に満ちていて
誰にも不幸が降り注がずに
私のいない平穏が続く世界だよ

それでも、その象徴として現れるならおまえだろうさ、姉さん
友達が欲しかったか?悪かった
家族に囲まれていたかったか?そうだろうな
私とおまえの願いはいつでも一緒だった
二人の【蜜事】、結婚式の真似事で望んだように
家族が、友達が、愛してくれる、愛する人が
――欲しかっただけ

とはいえ私が恋をしたのは世界で
姉さんの愛情は所有欲と同じ
お互いもう、誰かを当たり前に愛するなんて出来ないんだから
理想の鏡はさっさと燃やそう
なあ、私の姉さん


●世界は愛と希望に満ちているべきだった

 踏み入ったそこは、白詰草。
 記憶の景色と異なるとすれば、瓦礫の代わりにたくさんの家があることだけ。
 そのどれもに人々が暮らしているから、小さくても立派な集落が形成できているのだろう。
 広い広い白詰草の海のなか、少女たちは思い思いに花冠を編んでいた。

「でーきたー!」
「わぁ……さすが×××ちゃん、綺麗に編めてるね!」
「ふふーん、そうでしょう? お母様にプレゼントするの!」
「いいなあ、きっと喜んでくれるよ。萎れる前に持っていったら?」
「そうする。今日は先に帰るね、ばいばーい!」
「ばいばい、また明日ねー!」

 目を惹くしろがねがひとり、少女たちの輪から抜け出した。
 身を飾る清楚なワンピースにはたっぷりのフリルと飾り布。長く伸ばされた白銀の髪は動きに合わせて飛び跳ねる。
 急ぐ少女の息は弾んでいても苦しがることはない。竜と言う種族は頑健で、長の家に生まれ育ったのだから尚更だ。
 
「おや、×××! 今帰りかね」
「うん、今日はご馳走なんだって!」
「転ばないように気を付けるんだよー」
「はーいっ」

 長の娘に掛けられる声はどれも優しさと労りに満ちている。
 応える少女の声もまた明るく弾んで、それが当然だと主張する。
 整備された石畳を純白のヒールが叩いて、鳴らすリズムは彼女のための旋律。
 紫の瞳を向ける先、迎え入れるために扉が開いた。

「ただいまー!」
「はい、おかえりなさい」
「あのね、今日はプレゼントがあるんだよ」
「ふふ、何かしら」

 ドアを閉じれば己の席がある食卓に着いて、母親に花冠を褒めてもらって。お腹いっぱいご飯を食べて。
 明日も幸せな日になるといいな、と『一人娘』は笑うのだろう。
 そこに己がいなくとも。
 その光景こそ、己の描く理想郷だった。

「───怒らないでくれよ」

 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)の呼びかけに、呪詛焔を纏う少女はそっぽを向いた。
 竜翼をはためかせ、呪詛焔と包帯をたなびかせ。
 お姫様になれなかった悪魔が、約束の残滓から男の肩へ飛び乗る。
 ヒールの音は響かない。
 代わりに蠢く呪詛達が、ニルズヘッグの願望を大合唱する。
 苦笑ひとつでそれらをやり過ごし、ニルズヘッグは『姉』と目線を合わせる。

「お互いもう、誰かを当たり前に愛するなんて出来ないんだって。分かってるだろ?」

 己が恋することの無かった世界を。
 姉の愛が所有と同義にならなかった世界を。
 灰燼色の呪いの忌み子が生まれることのなかった世界を。
 「ニルズヘッグ・ニヴルヘイム」が観測できるはずがない。
 だからこの光景は偽りなのだと、打破するまでもなく分かっていて。

「なあ、私の姉さん」
『その通りだよ、私のアッシュ』

 その意志は同一だったから、しろがねは燃え広がる。
 父に笑いかける少女を、母に甘える少女を、平穏に暮らす人々を飲み込んで。
 理想の鏡は燃やし尽す。
 それが、ふたりの為の【蜜事】だった。

『友達が欲しかった』
「悪かったよ」
『家族に囲まれていたかった』
「そうだろうな」
『でも、もういらない』
「───それも、知っている」

 だって、『二人の幸せ』は
 『当たり前の幸せ』を許されなかった先にしかなかったのだから。
大成功 🔵🔵🔵

鳴宮・匡
約束を交わした大切な人が、笑っていてくれたらいい
望むのはそんな、ほんのささやかな幸福だけだ

こころから幸福を望んでくれて
衒いなく笑っていてくれたなら
――その姿を、傍で見ていられるなら
それ以上に望むことなんて何もない

……だけど
俺はまだ、自分にそんな未来を許せないし
彼女はまだ、そんな風には笑えないんだ

そんな風に笑えるようになってほしくて
必死で手を伸ばそうとして
そういう自分を許せるようになりたくて
必死で足掻いている

向けた銃口に迷いはない、引き金を引く指にも躊躇はない
目の前にあるその“理想”が、偽りだと知っているのだから

……それでも
その終わりを目の当たりにして
痛い、と思ったのは、どうしてだろう


●この手は空にはまだ遠い

『鳴宮サン、どこに連れて行ってくれルノ?』
「───ああ、そうだな」

 己の名を呼ぶ声は、たしかに彼女のものだった。
 けれどそれは、彼女の声ではないとはっきり分かった。

「たぶん、骸の海ってことになるんだと思う」

 だから鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、“ソレ”に迷いなく銃口を向けた。
 向けられた『彼女』は、おおきな瞳を瞬かせて柔らかく首を傾げる。
 その所作ですら彼女とよく似ていて、けれどやっぱり違うのだと“分かる”。

『……? どうしテ?』
「レイラはさ。まだそんな風に笑えないんだよ」

 だって、沈めた諦めがなかった。
 纏う憂鬱がなかった。
 もしかしたら、彼女が引き寄せてしまう死霊達の声も聞こえていないのかもしれない。
 だから衒いなく笑えて、こころから幸福そうでいる。
 “そうなってほしい”という、それを見ていたいという、彼の理想そのもので。
 そんな未来を許せない自分の、奥底にあるねがいそのものだった。

『ケド』

 けれど見透かすように『彼女』が笑う。
 諭すように、たしなめるように、しあわせに手招くように。

『それが欲しいんでショウ? だから私が映っているのに』
「……そうかもしれないな」
『いいんダヨ? 一緒にいようヨ。だから、またガトーショコラを作って欲しいナ』
「……」

 それに肯定を返せたら、きっと楽なのだろう。
 たったそれだけの幸福が欲しい。
 たったそれだけの幸福が許せない。
 まだ、この手は届かない。
 まだ、この足は辿り着かない。
 そもそも、「そこ」を許せるかどうかすら曖昧だけど。
 そういう自分を許せるようになりたくて。
 そういう赦しを得てほしくて、歩いている最中だと。

「…………けど、」

 そんなことを彼女本人でもないオブリビオンに言うつもりはないから、ただ一言。

「お前は、俺の理想じゃないんだ」
『……そっカ』

 引き金を引く指に躊躇はなかった。
 だから理想の鏡は、現実の銃弾にあっさりと砕かれる。

『じゃあ、バイバイ』

 『彼女』の姿をした鏡は、抵抗しなかった。
 静かにけれど明るく笑って、その銃弾を受け容れた。
 きっと“約束”を果たす時が来たらそうするだろうという態度のまま。

「あ、」

 砕け散る。
 散らばる破片は紫色。それもすぐ、特有の黒靄に包まれて消滅していく。
 ありふれたオブリビオンの終わりの光景だ。
 たったそれだけの光景だ。

「……どうして」

 思わず瑠璃唐草の武器飾りを握り締めた。
 覚悟していたはずの約束の果てが、どうしてこんなに痛いのだろう。
大成功 🔵🔵🔵

カイル・サーヴァント
望みをうつす魔法の鏡
ボクの望みは、自分でもわかんない
わからないものでも写せる?
知らないものでも投影できる?
もしできるならとてもすごいことだと認めよう。でも、そんなものはボクの望みじゃないってすぐにわかるから
真正面から押し通るよ!

戦闘は盾を使わず宣言通りに拳で正面から挑む
振るうのは空間ごと相手を砕く『断空昇華【絶空】』
例え惑わされようとも空間ごと壊してしまえば問題ないと言うように拳を振るう


死之宮・謡
アドリブ歓迎

理想、理想ねぇ…ヒト共には覿面なんだろうね…まったく、度し難いとは思わないかい?(誰にともなく呟き
さて、ゆこうか…

抑、私の心に干渉しようとは…愚かだな…(その心は狂気一色、総ての感情が破滅へ行きつき)
私の理想は、無の世界…何人たりとも触れるべからず、何人たりとも立ち入るべからず…
故、私に故など不要だ、疾く消えよ…

私は誰にも畏敬など向けん…
私は誰も敬愛しない…

呪いの黒雷(呪詛・属性攻撃・全力魔法)で攻撃
何だったら呪い返しで奴等に夢を見せても…
最後は【銀灰】でフィニッシュ


●滅びに滅ぼせぬモノがあるならば

 その世界は、ただ寒かった。
 光は無く。
 熱は奪われ。
 命は貪られる。

 羨むばかりで生み出すことをしない。
 暴食の理が溢れ出した世界の行き着く先は、滅びである。

「ヒト共には覿面なのだろうが」

 故に、死之宮・謡(狂魔王・f13193)の零す溜息は憂鬱に満ちている。
 彼女は己の渇望の行き着く先を知っている。
 温もりを許せず、満ちることを知らず、怒り、喰らい、暴れ────滅ぼす。
 言い訳の仕様がない頬の邪神、悪神。
 止まることが出来ればよかったのに、渇く程の望みは停まることを許さない。

「私の心に干渉しようとは……そういう“過去”でしかないとはいえ愚かだな……」

 その心があるから、謡は終焉を望み切れないというのに。
 全くもって度し難いと溜息をもうひとつ。

「私に理想は必要ない」

 告げる言葉は神の宣告。同時に彼女の手に呪詛が渦を巻く。
 否。言語化するのに適切な表現がそれしかないと言うだけで、本質はもっと禍々しい。
 憤怒、悲哀、懊悩、憎悪。
 ありとあらゆる負の感情。
 戦を尊び、惨劇を奉じ、享楽に咽び怠惰に親しむカミに集うとすれば“そういうモノ”でしかない。
 故に、狂気に触れるべからず。
 破滅の宇宙に立ち入るべからず。
 拒絶の黒雷が狂気を映した鏡を打ち据える。世界に走った罅は悲鳴すら上げないから、いたぶることにすら不適切だ。
 だから謡の雷は容赦なく圧力を増す。
 疾く滅びろ、と。

「私は誰も畏敬しない。誰も敬愛しない。だからこんな鏡に、意味はない」
『うそつき』
「は……?」

 その声が、よく耳に馴染んだ彼の声に聞こえて。
 一瞬の忘我。
 直後、闇が砕かれた。

「────!?」

 謡の理想を、未来を、それを映した鏡の世界を。
 砕いて姿を見せたのは、ドレスアーマーの見慣れた姿だった。

「いた、謡!」
「カイル……!?」

 愛する華に名を呼ばれて、カイル・サーヴァント(盾の守護獣・f00808)は朗らかに笑う。
 カイルが握った拳───【断空昇華【絶空】】は空間すら叩き割る一撃。
 理想を映さぬ鏡を砕いたなら、一対の指輪が同じ世界に導いたとて不思議ではないだろう。

「ボクの望みは何だろうって思って、色々見せられたけど。やっぱり謡しかいないから!」

 ……だって。
 カイルに理想があるとすれば、謡と過ごす時間に他ならない。
 それを過ごしたいのは偽物の、理想の鏡が映した彼女ではなくて。
 本物の、永劫を誓った彼女だけなのだから。
 いつものように隣に立って、愛する牡丹に笑いかける。

「大丈夫だった?」
「ああ。……今から滅ぼすところだとも」

 だから謡も止まることはない。
 空気を変換して呼び出したのは流体金属。数万度の高熱と数万トンの質量は鏡ひとつに向けるのには過剰な火力と知っていて。
 掃討には丁度いいと、破滅を手招く。

 ────【押し寄せる銀灰の波濤(メタル・クラッシュ・パニック)】。

 焼き、潰し、流し、塗り替え、滅びの光景は荒野に変貌する。
 理想ではなくなった世界が消える前にと、二人はしっかりと手を繋いだ。
 一対の指輪は残り火を反射して濡れた色に輝く。

「お疲れ様、謡!」
「カイルもな」

 その愛情が正気で為せるものではないとしても。
 それこそあなたの生なのだと、巡り来る想いに祝福を。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

茅場・榛名
※アドリブ可
「誰にだって、夢は理想は持つもの。大抵それは、
叶う事が難しい事なんだよね…。」
尤も、自分はその内の一つを叶えている人ではあるのだけど。

「ボクの、ネガイ…」
頭の中に浮かぶは愛しき人との時間。自分が恋をして、結ばれた相手。
初恋を、最後の恋にしてくれたあの人と…
叶うならば、彼と長い時を。その人が、本当に大好きだから。

「…けど、それは目の前の「影」じゃない」
ボクの望んだ相手は決して鏡が作り出した彼(まぼろし)じゃない。
だって、家に帰れば、彼は居るのだから。
「もう一つの願いに…付き合ってくれるよな?
ボクが作り出した「幻」さん」

それは…全力の“彼”とぶつかり、戦う事だ。


●光は影の全てに焦がれて

「誰だって、夢や理想は持つもの。もっともそれは、たいてい叶わないんだけど」

 淡々とした足取りを進めながら、茅場・榛名(白夜の火狐・f12464)───否、ハルナ・サーガスラーフは無感動に口ずさむ。
 そこはほとんど人の寄り付かないサクラミラージュの郊外。
 ぽつんと建った一軒家は「影光の家」。
 普段そうするように、彼女の足は帰り路を辿る。
 想像した通り、庭先で彼は待っていた。

「ボクに運はないけど、そういう意味では恵まれてるよね。思わない?」
『だろうな。だからお前はここを描いて、ここに帰ってくる』

 理想像に語り掛けてやれば穏やかに頷く。
 自分が恋ををして、結ばれた相手。
 「初恋は叶わない」なんて俗説を蹴り飛ばして、生涯の伴侶と選んでくれた影。
 彼と長く、永く、幸せな時間を過ごしたい。
 大好きな人を幸せにして、自分も幸せになりたい。
 そういう理想が、願いがあることは。偽りないハルナの欲望だ。
 ひととして当たり前の願いだ。

『そうだろう? ハルナ』
「───そっちじゃあない」

 だから、ぴしゃりと言い放つ。
 駆け寄ろうとした足が止まるのがまるわかりでほんの少しだけ愉快な気持ちにすらなる。

「キミはボクの『影』じゃあない」

 鏡が映した理想像は、想像の相手の姿とこころを持っているのかもしれない。
 それは、鏡に映した理想像でしかないから決して本人ではない。
 ……だから。

「もうひとつの願いに。付き合ってくれるよな? ボクの作り出した理想なんだから」

 ハルナがこの世界に望むのは、甘やかで優しい日常ではない。
 本当の家に帰れば「おかえり」を言ってくれる彼の元へと帰るために。
 ハルナが願うのは、「幻」としかすることのできない逢瀬だ。 

『……まったく、仕方のない』

 想像の剣が実体を象る。
 影色の霧はその姿を覆い隠す。
 その姿を頼もしく、恐ろしく────愛おしいとすら、思う。
 妻たる者、夫の全力を受け止められないでどうする!

「さあ、踊ろっか!」

 宣誓と共に叩きつけた斬撃を幅広の大剣が阻む。
 高らかな金属音が響く。直後、大剣は刺突剣の形に書き換えられる。
 体勢が崩れる。襲う刺突は高速だ。
 
「見えてるよ」

 だから地面を転がった。踏み固められた地面は硬く痛みを訴えるが刺されるよりずっとマシだ。
 勢いをつけて立ち上がると同時に握りしめたライフルを抜き撃つ。

『知ってる。それくらいやってくるだろうって』

 影は、接近を選択していた。
 弾丸は正面突破を選んだから正直だ。カーブを描いた影を捉え切れない。 
 踏み込み飛ぶ、その指先が、ナイフが、視線が。

「嗚呼───」

 恍惚が、ハルナの唇の端を歪ませる。
 潜ませた脇差が、彼の喉に喰らい付きたいと震えた。
大成功 🔵🔵🔵

神咲・七十


(理想の存在になろうとした、黒い女性のシルエットを見て)
はぁ、やっぱり「そういう人」がいた程度の記憶では、形になってくれませんか。
普段は気にしてませんが、こういう時記憶がないというのは、不便に感じますね。

まぁ、その姿でもいいです、本当に理想の人になれるなら、あなたは私より強いはずですから。


UC『制約:独裁者』を使い、【生命力吸収】と【吸血】の力を纒わせた、大剣・ショットガン・尻尾の攻撃で、「血・生命力・寿命」を奪い、相手を弱体化させ、自己強化を図りながら戦います。


予行練習くらいにはなりましたかね?
(でも、本当にその人で、奇跡の理想のようにまだ間に合うなら)
お礼もかねて助けたいですね。


●夜は未だ明けず、陽は未だ昇らず

「はぁ、やっぱり……残念です」

 理想像を前にした、神咲・七十(まだ迷子中の狂食者・f21248)の溜息は深く重い。
 彼女の目の前にあるのは、黒くのっぺりとした……辛うじて女性と分かるだけのシルエット。
 それもそのはず。
 七十に過去の記憶はない。
 「そういう人がいた」という掠れきった記憶をどうにか映して形作られた理想は穴だらけで、見るに堪える姿ではない。

『……××××……』

 ソレが発する声すら、ノイズに塗れて不明瞭だ。
 影しかないソレでは唇を読むことすら難しい。
 ため息と落胆が抑えきれないのだって仕方ないのだと、七十は誰にともなく独り言ちる。

「はあ……こういう時、記憶がないと不便だって実感しますね。分かってましたけど」

 だから取り出した大剣を握る。
 鋭い漆黒に疑問するような目線が向けられたから、七十は詠唱で返答とする。

「──Vine Quetschen des Blut──」

 ぶわりと広がるのは、月も星もない闇の色。あらゆるを塗り潰してしまう空の景。
 【制約:独裁者】。
 血を、命を、絞り尽くす夜が来る。

『Ah……?』

 一刀両断、問答無用。
 横薙ぎに振るわれた刃がその胴を両断する。
 訳が分からないとばかりに吹き飛ばされた胸から上の影は、しかし即座に下半身を生やし。
 そのまま崩れ落ちるかと思われた腰から下の影は、沸騰するように上半身を作った。

「ガムみたいですね。……ま、その姿でもいいですよ」

 シルエットの女性が二人になっても、七十は一切表情を変えなかった。
 不明瞭な理想だから、形を変えて人数を増やす余地があるのだろう。
 それくらい想定通りだ。だから取り出したのは浸食武具セプトゥアーギンター ───すなわち、ショットガン。
 装填の為のレバーを引いて、何の躊躇いもなく引き金を引く。

「本当に理想の人になれるなら、あなたは私より強いはずですから」

 射撃、射撃射撃射撃!!
 バラ撒かれた弾丸はひとつひとつが生命力喰らいの魔を纏う。
 着弾の瞬間から浸食し、独裁者の身に還元されて力を増す。
 弾丸の雨に身を晒した影は、一切抵抗せず撃たれるがまま。
 七十は、理想の誰かがどうやって戦うかを知らないから。
 だから影は、引き千切られてバラバラになって…………やがて、涼やかな音を立てて砕け散った。

「……残念です」

 もし、本当に翳った記憶の中にいる理想の人なら。
 手を伸ばして、助けられたかもしれなかったけれど。
 そこにあるのは割れた鏡だけ。
 求めた者は存在しないと、主張するような破片だけだった。
大成功 🔵🔵🔵

カイム・クローバー
成程ね。最近、便利屋Black Jackに依頼が来ていた『カップル消失事件』。痕跡がねぇと思ってたが。乗りかかった船だ。この事件、俺も噛ませて貰うぜ。

俺の理想が形になる。『親友が生きている』、これが俺の理想だ。
奉仕なんて求めちゃいねぇが、生きていてくれる。あの時、流れた血が無かった事になって…あの時のような屈託のない子供みたいな笑みを俺に見せてくれる――都合の良い『今』だ。
だからこそ、俺は『今』に惑わされるつもりはねぇよ。死んだ親友の存在を無かった事には出来ねぇさ。
…もう一度、その顔が見れて良かったぜ。UCを発動し、親友ごと鏡を叩き割る。
俺は前に進むって決めた。過去も今も背負ってやるよ。


●さよならをもう一度

「成程な」

 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、この事件を知っていた。
 猟兵業の傍らで営む便利屋に依頼が来ていたのだ。
 とはいえ一切の痕跡がなくては彼がいくら優秀でも見つけることはできない。
 だから、オブリビオンの手による事件だと聞いてむしろ納得したのだ。
 もとより乗り掛かった舟、予知が知己の手によるものとあれば解決に尽力することに迷いはない。

 ────だから。
 理想の鏡が映す、己の理想を知っていた。

『カイム!』

 その姿を見間違えるはずがない。
 その声を聞き違えるはずがない。
 子供みたいに屈託なく、けれど確かな落ち着きを纏って。
 今のカイムと同じ年にまで成長した、あの日カイムが殺してしまった親友が笑っていた。

「よう、久しぶり」

 だから彼もいつの日かしたように、片手を上げて挨拶を返す。
 駆け寄ってくる青年と目線が同じ位置にあるのが不思議だった。
 それは今よりずっと前、永遠の別れが訪れる前と同じ距離感だった。
 それこそが、カイム・クローバーの理想だった。

『良かった。また会えるなんて思ってもみなかったよ。元気だったか?』
「ああ、まったくだ。俺の方は元気でやってる」

 ───なんて都合のいい『今』だろう!
 溺れたくなるのも分かる。
 堕ちたくなるのも分かる。
 そうやって絡め取って、縛り付けて、幾人ものカップルが行方不明になったのだろう。

「悪いな」

 だから取り出した双頭の魔獣は、現実の重みで甘やかな理想を否定する。
 冗談だと言うように眉を顰める親友をもう一度殺すためにどうすればいいのか、すっかり戦闘に慣れた頭が計算を開始する。

『おいおい、どうしたってそんな物騒なモンを』
「何言ってんだよ」

 痛む心がない訳ではない。
 実体がオブリビオンだとしても、姿は想像で描いた親友そのものだ。
 決して会えぬはずだった顔を見ることが出来て嬉しく思っていることも嘘じゃない。
 けれど、だから。

「俺がお前を殺したことを、そうしてある『未来』を───なかったことには出来ねぇよ」
『……』
 
 ……果たして。
 親友だった男は、くしゃりと表情を歪めた。

『……ホント、お前は強いなぁ』
「お前たちに恥ずかしいマネは出来ねぇだろ。もう前に進むって決めたんだからよ」
『溺れてくれてよかったんだぜ? 今からでもゆっくりしねぇ?』
「悪い、もう行く。──じゃあな」

 葬送の為の銃弾は一発。苦しめることのない、正確な射撃。
 終わりを告げる硝子の砕けるけたたましい音。
 そこに混ざって、声が聞こえた。

『ああ、元気でな。カイム、嫁さんは大事にしろよ?』
「当たり前だろ!」

 それが、カイムが親友に言ってほしかった言葉だったとしても。
 過去という荷物を背負っていく、男の背中を確かに押したのだ。
大成功 🔵🔵🔵

荒谷・ひかる
【竜鬼】

「『理想』のリューさん」
優しくも堂々としていて、自信に満ち頼りがいのある男性
かっこよくて何でもできる、どんな敵にも負けない強いひと
彼の腕に優しく抱きしめられ愛を囁かれて、わたしの胸は幸せに満たされる……はずだった

……違う。
リューさんの腕は、もっと壊れ物を扱うような迷いや戸惑いがあった。
リューさんの声は、もっと緊張気味で照れていた。
リューさんは、やる時はやるけれど基本ヘタレだ。
でも、そんな自分を恥じて頑張る人だ。
わたしが好きになった彼は、理想的な完璧の人じゃない。
ヘタレ気味ですぐ及び腰になる、でも頑張り屋ですぐ隣で支えてあげたい人だっ!

【炎の精霊さん】発動、79個の炎弾で圧倒する


リューイン・ランサード
【竜鬼】

『理想のひかるさん』
男にとって理想的ともいえる、自分を心地良くさせてくれる可愛いらしいひかるさんが出てくる(男に都合の良い存在とも言えます)。

最初はドキッとしたりしますが、すぐに違和感が湧き上がってくる。
時にはヘタれた所を叱咤し、時には「しょうがないなあ、この人は」(表情に出てる)と思いつつも励ましてくれる。
そして任務では、必ず自分も一緒に戦地に飛び込んできてくれる。
優しさと勇気を併せ持つ、ひかるさんでないと嫌だ!

と言い切り『理想のひかるさん』を否定。
「この場から消えて下さい!」とUC発動。
左手をブラックホールに変換。
『雲の鏡へ言の葉映ししもの』と『理想のひかるさん』のみ吸い込んで倒す


●理想だけではまだ足りない

『ひかるさん』
「わっ……!?」

 荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)を後ろから抱きしめたのはたくましい腕。
 どこまでも強くなれるけれど、ひかるには優しい温かさしか伝えない腕。
 守るように、包むように、ひかるを抱きしめるのは『彼』しかいない。

「リューさん……どうしたんですか?」
『すみません、急にひかるさんのことを抱きしめたくなって』
「えっ!? ……だ、駄目ですよこんなところで!」
『大丈夫です。僕らのほかには誰にもいませんし……それに、何かあっても僕がひかるさんのことを守りますから』
「リュー、さん……」

 優しく、それでいて堂々とした口調は「この人なら何とかしてくれる」という安心感をひかるにもたらす。
 実際に、『彼』がどんな困難も乗り越えてくれることも知っている。
 どんな敵に負けることもなく、どんな苦難も乗り越えてくれる、強くてかっこいいひと。
 そんな『彼』の腕に抱かれたまま、ひかるはそっと目を閉じる。

 ああ。
 こんな理想の人と恋人になって。
 たくましい腕の中で愛を囁かれて。 
 わたしは、なんて幸せな───




『リューさん、お昼寝しましょう!』
「え、ひかるさん……?」

 リューイン・ランサード(竜の雛・f13950)の服の裾を引く、白く細い指先。
 見慣れた『彼女』の珍しいおねだりにリューインは瞳を瞬かせる。

「で、でも任務中ですよ……?」
『だって、リューさん怖いでしょう?』
「そ、それは」
『そっちはきっと誰かが何とかしてくれます。だからちょっとだけ休みましょう、ね?』

 言い募る彼女は率先して草原に座り込む。
 普段より短いスカートから、あまり日に当たらず白い腿が覗いた。
 思わず息を呑んで頬を染めるリューインに、『彼女』は微笑みかける。

『リューさん。……だめ、ですか?』
「……う゛」

 結局、リューインは『彼女』に勝てないのだ。
 腰を下ろす。体重を少しかけると、穏やかなベルガモットがふわりと香った。
 その心地よさに、そっと目を閉じる。

 ああ。
 こんなにやさしいひとと恋人になって。
 この膝の上で眠りながらやすらぎのひとときを過ごせるなんて。
 僕は、なんて幸せな───




「「───違うっ!!」」

 違う理想を見せられて。
 違う世界に分かたれて。
 それでもその声は、まったく同じ瞬間に響き渡った。
 理想像には映せない絆を証明するかのように。





「リューさんの腕は、もっと壊れ物を扱うような迷いや戸惑いがあった」

 だから、こんな閉じ込めるだけの腕は簡単に押し退けられる。

「リューさんの声は、もっと緊張気味で照れていた」

 だから、こんな押し付けるような言葉ではひかるの胸に響かない。

「それにリューさんは、簡単に『出来る』なんて言えない人です」

 やるときはやってくれるけど、基本的にヘタレだから。
 けれどそんな自分を恥じて、頑張ろうとする意思のある人だ。
 そういう情けない顔も彼の一面なのだと、知っているひかるは杖を手に理想の『彼』へと向き直る。
 『彼』は穏やかで力強い笑みを浮かべたまま。優しくひかるへと手を差し伸べる。

『あなたが望んだ僕が、理想通りの僕が、ひかるさんを守ります。だからずっと一緒に居ましょう。……ダメですか?』
「守られたいなんて言った覚えはありません」

 拒絶の意志に反応して、炎の精霊たちが一斉に燃え上がる。
 フレイム・エレメンタル。
 その矛先は、すべて偽物の『彼』へと向けられて。

「わたしが好きになったのは、ヘタレ気味ですぐ及び腰になる彼だ。頑張り屋で、すぐ隣で支えてあげたい人だっ!」

 放たれる情念は、理想でしかない鏡像を圧倒する。




『……どうして?』
「ひかるさんは、甘やかすばっかりじゃありませんから」

 体を起こして、そして数歩離れてしまえば頭はすっきりと晴れた。
 リューインは己の性格をよくよく知っている。
 戦うことは怖い。逃げ道を提示されたらそちらに流れたくなってしまう。
 そういう自分を無制限に受け容れて甘やかしてくれる『彼女』は、なるほど確かに理想像と呼ぶべきだ。
 だけど。

「時にヘタレた僕を叱咤してくれて。時には『しょうがないひとだな』って思いながら励ましてくれる。でなければひかるさんじゃありませんから」
『なら、わたしもそうなります。あなたを叱咤して、励まして、そのあとでうんと優しくしてげます。わたしは、あなたの理想だから』
「それは、僕が好きになったひかるさんじゃありません」

 リューインは、ひかると共にオブリビオン退治しにやってきた。
 そういう理想を突き付けられるのだとしても。 
 『荒谷・ひかると共にいるリューイン・ランサード』こそ、最強になれる自分だと知っている。
 だから。

「どんなに怖くても、必ず自分も一緒に戦地に飛び込んできてくれる。そんな優しくて強いひかるさんでないと──僕は嫌だ!」

 左手が変化したブラックホール。
 否定の意志が、理想の鏡像を吸い込んで拒絶する。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

卜一・アンリ
長らく会えてない人達に囲まれる。

想像の儘の結婚式。
家族の祝福。
私の頬に手を添えて微笑む、憧れのご近所さんの彼。
綺麗だって。
その『金』と紫の瞳をずっと見つめていたいって言って抱きしめてくれる。
あぁ…なんて


なんて下らないおままごと。
(【指定UC】で敵も理想も撃ち抜く)

この金目は『アリス』になったあの日、悪魔とした契約の証。
オウガも、この人達を苦しめていた影朧だって倒した、瞳と銃と力。
皆言ったわ。

『アンリはそんな娘じゃない』って。

私は。
必死に、必死に必死に逃げ回ってラビリンスを抜け出した私は!
この人達が知ってる『アンリ』じゃなくなっていた!

私は卜一・アンリ…帰る場所なんか無い悪魔憑きの『アリス』よ!


●ホーム・スイート・ホーム

 今日は、卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)の結婚式だ。
 相手は小さなころから憧れていたご近所さんの彼。
 家族が、友達が、ご近所さんが。
 長らく会えていなかったたくさんの人たちが新たなカップルを祝う為に集まった。
 ざわめきは温かく、視線は優しく、世界中が穏やかだ。
 自分の頬に触れる手の熱を感じながら、けれどアンリの頭は奇妙に冷めていた。

『綺麗だよ、アンリ。もっと目を開けて、こちらに顔を見せてくれ』
「ええ」

 夫となるべき人に言われてアンリはそちらへ顔を向ける。
 その双眸に視線が重なって、『彼』が法悦の溜息をつくのが分かる。

『アンリの目は、夜明けの紫と夕焼けの金だね。本当に綺麗だ。ずっと見ていたいくらいだよ』
「……そう」

 その言葉に、アンリは息を吐くしかなかった。
 ああ……なんて。

「なんて下らないおままごと!」

 銃はずっと手の中に用意していた。
 狙いをつける必要はない。
 アンリが望むだけ、アンリが望んだままに射撃は成立する。
 それが【黄金の雨のアリス】。
 銃弾の雨を作る、アンリという少女の得た力。

 金色は、彼女にとって『アリス』である証明だ。
 桜の世界からデスゲームのラビリンスへと連れ去られて、生き延びるために悪魔と契約した証。
 オウガも、影朧も、この瞳と銃と力でことごとく打ち倒せた。
 『アリス』になってしまって、けれど帰ることができたアンリに。
 家族も、友達も、ご近所さんも。……憧れだった彼も、口を揃えて言ったのだ。

「『アンリはそんな娘じゃない』って……言ったくせに!」

 なんて酷い『理想』。
 なんて惨い夢物語。
 もう誰も、あんな風にアンリを見てくれない。
 アンリの結婚式をあんな風に祝ってくれるはずがない。
 こっそり刀を贈ってくれた父のように、心配してくれる人がいる訳がない。
 だからアンリは、この結婚式を否定するしかない。

「私は卜一・アンリ……帰る場所なんか無い悪魔憑きの『アリス』よ!」

 父を撃った。
 母を撃った。
 帰り路の方向が同じだった友達を撃った。
 毎日のように挨拶をしていた近所のおじさんを撃った。
 『理想の結婚相手』だった、憧れの彼を撃った。
 そのたびに硝子の砕け散る音がする。
 心地よくて、小気味よくて、……奇妙に、哀しくて。
 感傷が見逃させていた破片が、『彼』の口元だけを映して歪んだ像を結ぶ。

『けれど、その金色ごと受け容れてもらいたいんだろう? かわいいアンリ』
「────うるさいッ!!」

 もう三発、撃ち込んでやれば『彼』は静かになった。
 もう、誰の声も聞こえなかった。
大成功 🔵🔵🔵

氏家・禄郎
やあ、ただいま

仕事が終わって、帰路を急げば待っているのは桜色の髪をした妻
もうすぐ、子供ができるだというのに……無理をするなあ

「おい、君一人の身じゃないんだぞ」

気遣う言葉は自然と出る

そして返ってくる言葉は

おかえりなさい、あなた
今日はサンマにしたわ
ねえ、子供の服を作ったの?
明日は休みでしょ、一緒に居てくれる

「勿論だよ」
【クイックドロウ】で銃の引鉄を引く

「私はまだ結婚していない」
「私の連れ合いはまだ身ごもっていない」
「私の連れ合いが料理が出来るとは聞いていない」

悪いが勝手に未来を決めないでくれ
人生は儘ならないからこそ、人生なんだ
だからね

「僕は引鉄を引くのさ」

理想通りで上手く行きゃ、ここにいないさ


●人が作る理想の話

 帰り路を辿って家に帰る。
 ドアを開ける前から明るい光が灯っていることに、実は慣れていない。
 ゆっくりと、音を立てないようにノブを捻る。そして出来る限り普段通りの声を投げた。

「やぁ、ただいま」
『お帰りなさい、あなた』

 桜色の髪をふたつに分けて束ねた『妻』が腹部をさすりながら歩み寄ってくる。
 もうすぐ子供が出来るから、無理させたくなくて気配を殺して帰ってきたのに。
 ため息をそっと押し殺せば、当たり前のように気遣う言葉が口をつく。

「おい、君一人の身じゃないんだぞ」
『心配しすぎよ。それに、わたしがしなかったら誰がアンタのご飯の支度をするのよ』
「その時は僕が自分でやるさ」
『アンタねぇ。妻の立場ってものを考えてもらえる?』
「ははは、すまないすまない」

 笑って誤魔化して、それから視線を背中の向こう側へ。
 時刻は夕暮れ時。夕餉待ちの台所の方からは食欲をくすぐるいい匂いが漂ってきている。
 思考数秒。なるほど、これはつまり。
 “そういうこと”、なのだろう。

「この匂いは……魚かな?」
『ええ。サンマを焼いたの。美味しいって聞いたから』
「成程。それで、今日は何をしていたんだ?」
『え? 子供の服を作ってたの。準備しておいて悪いことはないって聞くし』
「そうだね。そういうものはあればあるほどいい」
『でしょう? あなたもあとでいいから確認して頂戴ね』
「もちろん」
『さ、ご飯にしましょう! それに明日は休みでしょ、一緒に居てくれるのよね?』
「ああ」

 答えは出た。
 氏家・禄郎(探偵屋・f22632)は、どこまでも柔らかく頷いてみせる。

「勿論だよ」

 銃声は三回。『偽物』の額に一発、胸部に二発。
 けれど響いた音は人体を撃った時のそれではなく、硬い硝子が砕け散る時のソレ。
 理想を映す鏡は、ただそれだけで無力化される。
 破片を散らしながら、『彼女』の姿をまだ保った鏡の娘は呆然と瞬く。

『……どう、して?』
「簡単な推理さ」

 人差し指を立てる。

「壱。私はまだ結婚していない」

 中指を立てる。

「弐。私の連れ合いはまだ身ごもっていない」

 そして、薬指を立てる。

「参。私の連れ合いが料理が出来るとは聞いていない」
『……なによ、それ。だから、理想なんじゃ……ないの……?』
「人生は儘らなくてこそ。悪いが勝手に未来を決めないでくれ」

 『理想通りに上手くいく人生』だったら。
 ────そもそも、彼女にも出会えてすらいないのだし。

「だから、僕は引鉄を引くのさ」
大成功 🔵🔵🔵

ネグル・ギュネス
理想、理想ね

仲間が居て、恋人が居て──いや、これじゃない、大事ではあるが

俺はきっと、喪ったあの時に戻りたいんだ
焼け落ちる前の、あの幸せだった、暖かい日々に
戻れるものなら、戻りたい、帰りたい…帰りたい…ッ…

だが、其れは死んでも叶わぬと理解している
現実は厳しく悲しく虚しく、それでも生きねばならないのだから
放っておけぬ人々がいて、その人達が安心して生きていけるまで、俺は

例え現実(じごく)を歩かねばならぬとも、希望(ゆめうつつ)に浸っている暇は、ない!
【エクリプス・トリガー】、…その幻硝子、叩き割る

粉々になるまで、粉砕する


痛い、悲しい、寂しい
それを抱えて生きていることは、…誰にも、見せてはならないんだ


●本日の天気も雨模様

 気がつけば、ぼろい木の床を踏んでいた。
 己の体重では歩くたびに軋んでしまうから、ちゃんと直さないといけないなんて。
 思って、思い出して、足が止まった。

「此処、は……」

 分かっている。
 此処は、過去だ。
 仲間がいて、友人がいて、……恋人がいる、現在ではなくて。
 焼け落ちてしまう前の、確かにしあわせだった。
 ネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)が帰りたいと望んで、けれど決して戻れない、あたたかい場所。

『ネーグルっ』

 ……だから、その声が聞こえることを期待してなかったといえば嘘になる。
 理想郷を謳うというのなら当然いるだろうとも。
 過去の日だまりの象徴たる、今は堕ちて消えた『星』のひと。
 明るく掛けられる声は、恐ろしい程に思い出のままだった。

『どうしたの? 元気ないけど……あ! もしかしてお疲れちゃった? 薪割り頑張ってくれたもんね。いつもありがとう』
「……いや、違うんだ」
『えっ、じゃあ何? もしかしてドア壊しちゃったとか?』
「そういうことでもなく」
『……じゃあ、なあに?』

 距離を詰めてこようとする『彼女』をそっと遮る。
 きょとんと大きな瞳を瞬かせる姿は懐かしくて、泣きたくなって、無性に胸を掻き毟られて。
 喪ったあの頃こそが理想だと、ネグルに現実を叩きつける。
 だが。
 だから。
 ……それでも。

「俺は、現実(じごく)を歩かねばならないから」
『……どうして? だって、疲れたんでしょう。少しくらい休んだっていいんだよ』
「放っておけない人がいる。その人々が安心して生きていけるまで……希望に浸っている暇は、ないんだ」

 取り出したのは紫色。
 それを人ならざる機械腕に差し込んで回せば……“敵”を滅ぼすまで終わらない蝕は訪れる。
 今のネグルに選べる精一杯が、これだった。

『ねぇ、ネグル』

 それを知ってか知らずか。
 『彼女』はネグルのそれを止めることすらせず、ただ穏やかに小首を傾げる。

『……まだ、自分の幸せを許せない?』

 鍵が回る。
 機械の半身が深紅に染め上げられる。
 それは破壊の為の形態。途中で止まらないための覚悟。
 仕方ないとばかりに優しく笑って、『彼女』は破壊を受け容れる。
 だから幻硝子は砕け散った。
 破片になって、粉々になって、その粉末すら目に見えなくなるまで徹底して。
 ……そうなってからようやく、男は答えを零すことが出来た。 

「……答えるまでもないだろう、アイリス」

 星を堕とした空は暗く。
 男の苦痛を、悲嘆を、鬱屈を、虚無を、覆い隠す雨は未だ。
大成功 🔵🔵🔵

リル・ルリ
🐟櫻沫

こつりこつり
ヒールを鳴らして『歩く』

熱狂する会場
煌めくサイリウムの煌めき
スポットライトの下で、僕は歌う
僕は―歌手なんだ!
ステージの上、熱狂の海を泳ぐ
音色と踊って、歌の渦で彩って
万雷の拍手と共に、今一時
光る汗に歓声に答えるように笑顔浮かべて
世界を僕の歌で満たす

嗚呼、楽しい
皆が僕の歌で満たされてくれる

楽屋
満足感に包まれ雑誌を捲る
特集のページ大好きなショコラティエの姿に笑みを深める
櫻宵―今人気のショコラティエ
実はこっそり付き合ってるのは内緒だ
耳に揺れる桜に触れる

帰ろう
彼の待つ家に
幸せが咲く僕の居場所へ


戦いもしがらみもない理想の…

夢だ
ありのままの櫻宵がいる日常が一番に決まってる
馬鹿にしないでよ


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

甘やかな香りに満たされたしあわせの空間
私のお店
私はショコラティエ
甘やかな花をとろかせて笑顔を咲かせる
美味しい
笑顔が嬉しい

宝石のようなショコラ作る一時の楽しいこと
今ではそこそこ有名よ
この前も雑誌に載ったり

必要としてもらえるのは嬉しい
誰かを幸せにできるのは楽しい

店を閉めテレビをつければ美しい歌声が響く
美しい美しい、人気歌手
その姿を認め私は満開に笑む

リル―私の恋人
耳元で揺れる桜が誇らしい
玲瓏の歌声に耳をすませながら
ホットチョコレートをいれる

もうすぐ
彼が帰ってくる

血も殺戮もない
穏やかなひととしての『ふつう』な幸せ

淡い夢ね
それでも私は今を選ぶわ
『朱華』
あなたの堕落など
不味くて喰えたものじゃないの


●泡沫の夢、淡櫻と散れ

「いらっしゃいませー」

 開店直後とは思えない客の人数に、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は少しだけ目を瞠って……すぐに蕩けるような微笑みに変えた。
 ショコラトリー『迎櫻館』。
 この店の店長であり、唯一の店員である櫻宵の毎日は忙しい。
 それは、楽しさと喜びが表裏一体となった忙しさだ。

『わぁ! やっぱりここのショコラって綺麗だよね』
『うん、宝石みたいなお花。食べるの勿体ないなぁ……』
『でもねでもね、食べても美味しいんだよ。ここの店長さんすごいんだから!』

 店の中で囁かれる声はどれもが好意的な響きに満ちている。
 ショウケースの前で指を揺らして選ぶ人たちは誰もが笑顔を浮かべている。
 それにつられて櫻宵まで笑顔になってしまう。

 必要としてもらえることは嬉しい。
 誰かを幸せにできることは楽しい。

「ふふ、お待たせ。新作を出すわね」

 だから取り出した、八重桜のショコラ。
 複雑な花弁の重なりを再現した可憐なシルエット。ホワイトチョコレートに塩漬けの桜を混ぜたが故の優しい色合い。もちろん味だって味見してくれた『恋人』のおかげで折り紙付き。
 わぁっと上がる完成は、それを誰もが待ち望んでいたものだから。
 
 八重桜のショコラを欲しがる客の多さに、櫻宵が目を白黒させるまで、あと────


………
……



「ふう、今日も楽しかったわね」

 店の片づけを終えて、明日の為の準備も済ませ。
 櫻宵は大きなペンギンのクッションを抱えてソファに深く身を沈める。
 テーブルの上には一冊の雑誌。
 特集ページで紹介されている自分の店が、気恥ずかしくも誇らしくて。
 
「……そろそろ時間よね」

 テレビのスイッチを入れる。
 ぱっと明るくなった画面の向こう、微笑む玲瓏の人気歌手。
 時に軽やかに、時にしっとりと、黄金から銀細工、春蕩け硝子まで、千変万化の旋律。
 恋人の雄姿に笑みひとつ。
 その耳元で揺れている桜───己の耳にかかるそれと同一の華を指でなぞって。

「さ、ホットチョコレートを入れてあげなくちゃ」

 血も殺戮も、約束も宿命も存在しない。
 穏やかなひととしての、『ふつう』の───理想的なしあわせだ。





 しん、と静まり返ったコンサートホール。
 しわぶきひとつ起こらないそこに、こつり。
 こつり、こつり、ヒールの音だけが響く。
 瑠璃に染まる秘色の髪を引いて、マイクを握った歌手はひとり。
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は、ホールいっぱいの観客へと口火を切った。

「さあ───開演時間だ、有頂天外の喝采を!」

 歓声が爆発した。
 それまでの静寂が嘘のように煌くサイリウムが波を作り、口々にリルを呼ぶ声が渦を巻いてステージまで届く。
 期待されている。
 ならば答えるのが歌姫の役目というもの。
 スピーカーから溢れ出した疾走するメロディーへとリルは乗る。
 音色と踊り、歌の渦で彩ればステージ上は熱狂の海だ。
 螺鈿細工の人魚姫は旋律の海を泳ぎ渡る。

 荒れた海のようなロックナンバーが終われば一転、夜のようにスポットライトが絞られて。
 しん、とまた静寂が戻ってくる。
 最初と違うのは、客席で揺れるサイリウム。
 水。白。……そして僅かな桜の色。
 リルを象徴する色はその三色だとファンの間では根強く認知されている。

「──リルルリ、リルルリルルリ──」

 だからリルは、愛を歌いこいを咲かせる。
 静かな歌声が世界を満たす。
 誰もが満たされてくれるステージで、リルはひとり歌い続ける。

………
……


「ふぅ、今日も楽しかったなあ……」

 楽屋に戻ればリルを満たすのは満足感だけ。
 お守りを取り出した。
 それは一冊の雑誌。同じページを何度も開いたせいで癖がついてしまい、もう何も挟まずとも開ける。
 特集されているのは、ショコラトリー『迎櫻館』。
 掲載された店長の顔を指でなぞってやれば、リルの顔に浮かぶのは満たされた笑顔だ。

「櫻宵」

 秘密の恋人。
 頑張り屋で、強くて、けれど時々は脆くて綺麗な。
 彼と揃いの桜に触れればそれだけで勇気が湧いてくる。
 きっとおいしいホットチョコレートを用意して待っていてくれるから。
 彼の待つ家へ、幸せの咲く居場所へと帰ろう。

 戦いもしがらみも、悲劇も尾鰭も存在しない。
 穏やかな日々を過ごせる、『ふつう』の───理想的なしあわせだ。




「淡い夢ね」
「馬鹿にしないでよ」

 直後、世界に響き渡ったのは蕩けるような歌声。
 水底の都より、漕ぎ出した歌姫に託された【「望春の歌」】。
 恍惚と魅了を伴う泡と桜の花吹雪が抱擁の歌声に乗って世界を満たす。
 ヒールの音は響かない。空を泳ぐのは月光色に光る尾鰭。

「ありのままの櫻宵がいる日常が一番に決まってる」
「ええ、その通り。私はあなたがいる『今』を選ぶ」
 
 麗しの人魚の花吹雪の中。桜龍眼が瞬いて、身体に八岐大蛇の呪印這う。
 ショコラティエにはあり得ない、けれど『誘名・櫻宵』の証明たる力で以て。
 抜き放たれる血桜の太刀。
 【朱華】散らす屠桜は、艶やかな笑みで世界を割り裂いた。

「それに……あなたの堕落なんて、不味くて喰えたものじゃないもの」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

蘭・七結
【春嵐】

鏡面に見映したのは桜の世界
舞うひとひらへと手を伸ばしたなら
幾度と訪れた場所にいた

窓硝子に映り込む紅の着物
まろい耳。鋭い牙も爪も失せて
潜めた衝動も、あかい渇慾も
すべてなくした『人』としての姿

名を呼ばれて我に返る
隣には何時もと変わらぬあなた
この光景は、あなたの理想?

あなたの好むものを共に味わって
移ろう表情をみつめて共にわらう
その笑みが見られるなら、ついゆるしてしまう
嗚呼、本当にずるいひと
あまいお薬はイチゴ味がいいわ

朝のおはようでめざめ
夜のおやすみと共に眠りにつく
普通と呼ばれるありふれた日々
わたしのしらない日常

とてもしあわせね
けれど、本当の幸福は自分でみつけるわ
あなたの隣で偽りを払いましょう


榎本・英
【春嵐】

鏡の中の景色はありふれた日常
幾度となく見た日常
けれども今日は違う、隣には君がいる

嗚呼。知っているかい?
あそこの肉屋のコロッケはいつも揚げたてをくれてね
あつあつのコロッケはとても美味しい

私の理想
戦もなく、影朧も居なくなったありふれた世界
そして、なんの力もないただの人がありふれた日常を君と過ごす事

あつあつのコロッケを食べて火傷して
心配をする君もこの日常に溶け込んで、それから――嗚呼
夕食前にコロッケを食べると夕飯が食べられなくなると怒られるのもいいね。
ご機嫌直しにドロップをあげよう。

しかし、これは理想にすぎない。
今は君の隣で、現実を見て受け止める


●理想ばかりが幸福ではない

 鏡に映ったひとひらに、思わず手を伸ばす。
 気付けばそこは、見慣れた桜幻想世界。

「───あら」

 けれど蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は瞬いた。
 窓硝子に映る自分の姿に違和感があったからだ。
 まろい耳。
 鋭い牙も爪もない。
 胸の奥をじりじりと焼き焦がすような衝動も、あかい渇慾も、寸毫たりとも浮かばないから。
 分かってしまう。
 ここにいるのは、ただの『人』だ。

「なゆ、行こうか」
「……あ、はい」

 名を呼ばれて我に返る。
 傍らにいたのは、常と同じ笑みを浮かべた榎本・英(人である・f22898)だ。
 ごく自然と手を差し出されるから、つい手を繋いで歩き出す。
 見慣れた景色は見慣れたまま、七結の異常だけを置いてけぼりに進んでいく。

「知っているかい? なゆ」
「あなたのそれは様々な意味を含みすぎていて分からないわ」
「ああ、それは済まないね。あそこの肉屋のコロッケはいつも揚げたてでとても美味しいんだ」

 指さしたそこに、『揚ゲ立て有リ〼』の張り紙。
 油の弾ける小気味よい音と、食欲を刺激するいい匂いが漂ってくるから思わず唾をのんで。
 気が付くと、猫めいたしなやかさで店に近づいた英がコロッケを注文していた。

「お待たせ、なゆ」
「……あなたって、本当いけないひと」

 渡された油紙越しのコロッケは温かく、いいにおいがする。
 どうたものかと迷う七結を横目に英が率先して齧り付いて、そして悲鳴を上げた。

「あっつ……!」
「あら、英さんったら。……あつっ」
「……」
 
 にこにこと、楽しそうに笑うものだから少し小突いてみたりして。大げさに痛がるふりの彼をへと笑みひとつ。
 さっくりとしたコロッケの中身は滑らかになるまで潰された芋だ。
 スパイスが効いているから、何かをつける必要はない。
 さくり、ほくり、ほうと吐いた感嘆の息すらおいしい味がする。

「これが、英さんの好物なのね」
「ああ。なゆにも味わってもらえてよかった」

 あっという間に空になった油紙を屑籠へ入れて歩いていく。
 そうして歩いていけば、漂う香りは揚げ物のそれだけではないことに気付く。
 談笑する人々は誰もが笑顔で、それぞれに好きな店を冷やかして。
 降り注ぐ桜は気紛れに、空と店と人とを彩っていく。
 そのどれもがあたたかで、拍子抜けするくらいいつも通りで。
 七結は、頭ひとつ高い位置にある英の顔を見上げた。

「……この世界は」
「ん?」
「英さんの理想なの?」
「ああ、そうだろうね」
「それって……どんなものか、訊いてもいいかしら」
「何の力もない『ただの人』がありふれた日常を君と過ごす事。だから、ほら」
「あ……」

 辿り着いたそこは、美しい噴水を中央に置いた広場。
 けれど本当の世界では、そこに帝都桜學府の支部があったはずなのだ。
 影朧と戦う為の公的機関が存在しない───言い換えれば、それが必要ない世界だということで。
 驚きに目を瞠って立ち止まる、七結の指先を英は握り締める。

「もうすぐ夕餉の時間だ。……けれど、さっきコロッケを食べてしまったからあまりお腹が空いていないんだ」
「……あら。英さんったら本当にいけないひと」
「ご機嫌直しにドロップをあげよう。薄荷がいいかな?」
「あまいお薬はイチゴ味がいいわ。分かっているくせに」

 しろい手のひらに赤い薬を一粒。
 口の中で転がして、甘いそれを味わって。
 それを目を細めて見ている彼がいてくれるなら満たされるものもあるけれど。

「なゆは。どんな理想を持っているんだい?」
「ええ、そうね……夜のおやすみで共に眠って、朝のおはようでめざめるの」

 しらない日常。絵物語にだけ描かれた理想。
 そんな言葉に、丸眼鏡の向こうで瞳がさらに細められて。

「ああ……それもいいね。とてもいい」
「ええ。それって、とてもしあわせね」

 けれど。
 それを過ごすべきは、この世界ではない。

「しかし、これは理想に過ぎない」
「その通り。本当の幸福は自分でみつけるわ」

 華が咲く。
 朱い、紅い、いのちのいろ。蘭・七結を象徴するあざやかが少女の周りに咲き誇り、そして散る。
 みつめて、繹ねて───【まな紅の華颰】が桜の世界を染め上げる。
 衝動も、渇慾も。ひとならざるカタチに歪められて、それこそがまなくれなゐだと、理想の鏡に突き付ける。
 吹き荒ぶ嵐に笑み一つ。
 ひとの命で物語を記す殺人鬼は、迷うことなく著作を開く。

「だから、なゆ」


 ────離さないでくれよ。


 まなくれないの嵐の中、ひとの指先が空を穿った。
 硝子の割れる音が響き渡って、二人は現実へと還っていく。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

狭筵・桜人
まさか鏡からご飯用意してくれて掃除もしてくれて
毎月100万振り込んでくれる理想の女性が出てくるんですか?

え〜じゃあ黒髪ロングで色白で豊満で人妻で女社長で
タイトスカートでマンション買ってくれる人がいいな〜。

でも待てよ。日常的に連絡取り合うのとかめんどくないですか?
会うのも月イチでいいかなって……。

それにここって結婚式場でしたっけ。
結婚はちょっとな……付き合うのすらもめんどいっていうか
飽きたらサクッと関係切って欲しいなあなんて
責任取りたくないし……この男心わかってくれます?

――『怪異具現』。『大きな口』を持つUDCを召喚。
めんどさが勝ってきたので食べちゃっていいですよ。私の理想の女性。


●アイディアル・コレクション

「───まさか鏡からご飯用意してくれて掃除もしてくれて、毎月百万振り込んでくれる理想の女性が出てくるんですか!?」

 狭筵・桜人(不実の標・f15055)は欲望に忠実だった。
 そしてその欲望こそ、『雲の鏡へ言の葉映ししもの』の格好の餌。
 紫の鏡が光を放ったかと思うと、紅いヒールが床を踏んだ。
 
「わーお」

 化粧っ気の感じられない真っ白な肌。
 さらりと流れる黒髪は高い位置でポニーテールに結ばれ僅かな動きで揺れる。
 ブラウスを内側から押し上げるのは豊満な胸。
 タイトなミニスカートに包まれた足を組む。タイツに戒められた太腿はなんとも禁欲的で艶めかしい。
 なるほど、人妻女社長。これならマンションの一つや二つポンと買ってくれそうだ。

『こういう感じがお好みかしら』
「もうちょっと髪が長い方がイイですね」
『わかったわ』

 言われてポニーテールを解けば、さらりと流れる髪は驚くほど理想的な長さだ。
 なるほど、こうまで理想通りの存在が用意できてしまえば一般人が溺れるのも道理だろう。
 だがしかし、桜人はそんじょそこらの一般人ではない。
 理想的な女性を目の前に、顎に手を当てて考え込むポーズをとる。

「うーん……」
『どうかした?』
「いや……神経質そうな顔してるなって。格好良くっていいんですけど~日常的にライン鳴らされたらたまったもんじゃないなっていうか」
『会うの、月イチくらいがいいかしら。そういうのがお望みなら喜んでそうするけど』
「うーん…………」

 煮え切らない。
 考え込む体勢に入った桜人を理想の女性はじっと待っていてくれる。
 つまり、この距離感でいられることをずっと許容しなければいけないわけで。
 それは、なんて。 

「結婚って面倒じゃないですか。飽きたらサクっと関係切ってほしいなあなんて」
『飽きないわよ? だってそういうのが私の役目だもの』
「えっ重い」
『えっ』
「責任取りたくないんですよ。そういう男心、わかってくれます?」

 聞いておいて「分からないでしょうねぇ」なんて独り言ちてみせる。
 奉仕し、望みを叶え、以て堕落させるのが役割のオブリビオンには。その好意を重たく感じるモノがいるのだという事実を。

「結局、誰かに縛られるのって面倒なだけですよね。というわけで」

 【怪異具現(ストレンジ・コレクション)】───召喚されたのは大きな口しかないUDC。
 訳が分からないと息を呑む、ソレはもう桜人にとっての『理想の女性』ではないから。

「───食べていいですよ」

 告げる言葉は酷薄に、一方的な終わりを宣告する。
大成功 🔵🔵🔵

ティア・メル
円/f10932

ふいーん
水の中
これはぼくの理想?円ちゃんの理想?
うん、ぼくの居た海に少し似てるよ
現実の方が綺麗だから、いつか招待させてね

んに?君はだぁれ?
顔も見えない、ぼくの所に駆け寄ってくる誰か
なるほどねー
いつだってぼくの所に帰って来てくれる
抱き付いても受け止めてくれる理想の存在
ぎゅってしても感触なんてないや
甘露のなり損ないだね

円ちゃんはーっと
およ?険悪な雰囲気
一瞬世界が交差して
“誰か”に円ちゃんが霞む

初めて聞く怒りをはらんだ君の声
そんな声すら可憐なんて言ったら怒られちゃうかな

準備オッケーだよん
円ちゃんを不快にするものは、とっととやっつけちゃう
ぼくの不確かな何かごと割っちゃおう


百鳥・円
ティア/f26360

水鏡に映った姿がゆらりと歪む
気がついたら水の中ってヤツです
不思議ですね?息が出来ます
どちらの理想なんでしょーか
ティアのおじょーさんが住まう海も
こんなカンジでキレーなんですかね

その時は是非是非に!
なーんて語らっていれば眼前に人影
誰です?
……あー、あなたは

これはびっくり案件です
“この”世界であなたに出くわすとは
ん?この突っ立ってる人が誰かって?
昔のちょっとした知り合いですよう
おんなじ軍服でしょ?

その口が紡ぐのは
『   』

爪先で切り裂く
幻ごときがその名を呼ぶなよ

……おっと失礼
ちょっぴりイラッとしちゃったわたしですん
さておじょーさん、準備はオーケー?
悪趣味な鏡を砕きに行きますよっと


●水底に隠した秘密

 二人を映した水鏡がゆらり、歪んで。
 ───気が付けば、そこは水の中。

「不思議ですね? 水の中なのに息ができます」

 二色の瞳を瞬かせ、百鳥・円(華回帰・f10932)は周囲を見回す。
 どこまでも透き通る透明の水を、少し掻き分けて進んでいけば次第に暗くなっていく。
 だけどどこまでも美しく、ただ漂っているだけで時間を忘れてしまいそうなほどだ。

「これってぼくの理想かな? それとも円ちゃんの?」

 ぱしゃぱしゃと水音叩きつけ、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)は自由に水の中を泳ぎ回る。
 さすがはセイレーン、水の中も己の活動範囲と言わんばかりのそれに小さな拍手を鳴らしながら円は首を傾げた。

「うーん、ちょっと分かりませんね。水鏡に映ったせいかもしれませんし」
「そっかぁ。でもでも、綺麗だよねっ!」
「ええ、それはもう」

 それだけは異論を差し挟むこともあるまい。
 ……さて、綺麗な海と言えば。円の目の前には心当たりがひとりいるわけで。

「ティアのおじょーさんが住まう海もこんなカンジでキレーなんですかね」
「うん、ぼくの居た海に少し似てるよ。でもやっぱり現実の方が綺麗かな? いつか円ちゃんのことも招待させてね」
「その時は是非是非に! 楽しみにさせて頂きますよん」
「ぼくも楽しみ! ……って、お?」

 そんな会話を楽しんでいれば、二人しかいなかったはずの海に新たな影がふたつ。
 ひとりはティアの方へ、もうひとりは円の方へと向かっていく。
 自分の方へと向かってきたそれに、ティアは可愛らしく小首を傾げた。

「んに? 君はだぁれ?」
『……』

 それは口を開かず、ただティアに身を寄せるだけ。
 それもそのはず。それに顔はなく、体に性別の特徴もなく、ゆらゆらと波間に漂う海藻に似る。
 手を伸ばして捕まえてみても、抵抗ひとつありはしない。
 ぎゅっと抱きしめてみても反応はなく、ついでに大した感触も伝えない。
 何度抱きしめて、放してみても、それはゆらゆらと彼女について回るだけ。

「あー、なるほどねー」

 いつだってティアのもとに帰ってきてくれて、抱きついても受け止めてくれる。
 そんな存在なら誰でもいいから、ティアの理想はこんなに虚ろなのだろう。
 納得の頷きひとつ、それだけでティアの興味は薄れてゆくから。

「さーて、円ちゃんはー……っと、およ?」

 円の前に立つ虚ろは、同じ軍服姿。
 目深に被った軍帽のせいでティアには顔を伺えないが、円にははっきり分かるのだろう。
 ゆるく吐いた息と僅かに角度を変えた眉が動揺を示す。
 それでもさすがというべきか、吐き出した言葉ばかりは穏やかな風を纏う。

「あはは、これはびっくり案件。“この”世界であなたに出くわすとは思いませんでした」
「円ちゃん円ちゃん。それだぁれー?」
「昔のちょっとした知り合いですよう。いやはや、ここで出てくるなんて───」
『よお、×××』

 反応は劇的だった。
 水の中と思えぬ鋭い蹴撃。その爪先から放たれる真空の刃がその顔面に突き刺さる。
 響いた音は硝子の砕けるそれ。
 飽き足らずと、円の双色は紫の破片を睨みつける。

「───幻ごときが。その名前を呼ぶんじゃない」

 そこに宿る色が、先と打って変わって苛烈に過ぎたから。
 さすがのティアも疑問符を浮かべてしまう。生唾を飲み込んで、問い掛けるための声は僅かに掠れた。

「円、ちゃん……?」
「……おっと、失礼。ちょっぴりイラッとしちゃっただけですよんっ」
「そっかぁ。……」

 そんな声も可憐だよ、なんて言ったら怒りを買うのは火を見るよりも明らかだったから静かに飲み込んで。
 代わりに喉奥に息を通す。
 こうなった円が要求することなど、ティアには分かっているから。

「さておじょーさん、準備はよろしくて?」
「いつでもいいよ! 円ちゃんを不快にするものはとっととやっつけちゃう」
「ええ。悪趣味な鏡なんて砕いてゴミに出しちゃいましょ」

 沙羅双樹の花弁が舞い、姿なき真空波が世界を割り拓く。
 軍服の誰かも、不定形のナニカも、底なしの海も引き裂いていく。
 だから理想の訳は水底に隠されたまま。
 退廃の華と水母の唄は理想の海を抜け出した。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

水衛・巽

己が理想を具現化とは、何ともありがたいことで

日照りが続けば畑は乾き森が荒れるは必定
夜がなければ命は眠れず実も甘くならない
陰陽師が望む理想は陰陽の平衡と調和です
万物はすべてバランスの上に成り立つゆえに

喜怒哀楽も突出すれば病を得、
押し殺しすぎても心が腐る
理想に酔った所で千鳥足では奈落におちる
さりとて夢も見ず生きられるほど人は強くもない

白黒はなく光闇もなく
平行で平坦で、色は褪せ、揺さぶられず昇りもしない完全な「調和」
それが「理想」です

おや、期待していたものと違いましたか
それは失礼 理想に酔えるほど心清くないもので
「欲」だったならご期待に沿えたかも知れません
もっとも今私が欲するのはあなたの破滅ですが


●陰陽の使命、以て調和を齎さん

 そもそも「理想」とは何だろう。

「字義としては『考えうる限り最も完全なもの』と言うそうですが」

 水衛・巽(鬼祓・f01428)は飄々と嘯いて、己の『理想の光景』を視界に収める。
 陰陽の平衡と調和。
 言葉にするには易く、現実と成すのは難しい……そんな概念だ。
 だから彼は、整った顔にゆるく笑みを乗せる。

 日照りが続けば畑は乾き、森が荒れる。
 かといって雨が続けば川が溢れ、作物は流される。
 昼がなければ命は生まれず、されど渇くこともなく。
 夜がなければ命は眠れず、実も甘くならない。

 万物は流転する。
 すべてバランスの上に成り立つゆえに、どれかひとつでも欠ければすべてが崩れる。
 太極図は円を分かつ陰陽、陰中の陽と陽中の陰を持って成る。

    ・・・・・・・・
 だが、それすら不完全だ。

 だから巽の理想を映した鏡は灰色だった。
 白黒はなく、光闇はなく、それらすべてが混ざり合った中庸。
 平行で平坦で、色は褪せ、揺さぶられず昇り下りもしない。
 灰色の静止。
 完全な調和とは、変化がないということだ。

「どう思われます? 理想を具現化してくださる鏡のお嬢さん」
『……欲のないひと』
「おや、期待していたものと違いましたか。それは申し訳ございません」

 苦々しげな鏡の言葉に、やはり巽は笑み一つ。
 とはいうものの、巽とて理解はしているのだ。
 喜怒哀楽のあらゆるが突出すれば病と呼ばれ、かといって押し殺しすぎても心から腐り果てる。
 輝くばかりの理想に酔った所で、進む足が千鳥足なら奈落におちるのが必定。
 さりとて夢を見ず生きられるほど人は強くもない。
 進むことは変化で、立ち止まっているのに同じだけのエネルギーが必要で、一度大きくなったものを縮めるのは難しい。
 だからこの理想は『在り得てはならない』。

「理想に酔えるほど、心清くはないものですから」

 だから宣告する言葉は、手印を組みながら告げられた。

「では私の欲をひとつ叶えて頂きましょう。縛り穿て、玄武」

 それは、自然に非ざる黒。

 北方七星の神格化、暗闇と邪悪を司る霊獣。
 凶将・玄武。
 黒い亀と体と蛇の尾を持つというその神将の尾が鏡に叩きつけられる。
 変化は即時。
 水の縄は棘を生やし、以て縛り上げ、繋ぎ留め、終いに叩き割る。

「────あなたの破滅です」

 宣告は冷たく、非情を以て執行された。
大成功 🔵🔵🔵

戀鈴・シアン
【硝華】

気が付けば普通の街に居た

隣にはいつものように
花咲くような微笑みを浮かべる片割れの姿

今日の夕飯は何にしようかなんて
毎日交わすありきたりな会話
聞き慣れた声
聞き飽きることのない声
幾度となく二人で同じ帰路を辿る

嗚呼、これが俺の理想
はっきりと確信する
今この日々がずっと続いていけばいいと
ほんとうは、それだけを願っている
故人には、嘗ての主人には会えなくたって――

どんな強敵かと身構えていたけれど
現実となんら変わらない
惑わされるまでもない
ここを抜け出せば、イトが待ってる
こんな作り物の世界は壊して、
また、二人で家に帰るんだ

アイツはどんな世界を鏡に視ているんだろう
……その世界に俺がいればいいな


●硝華の理想は恙なく

 ───気が付けば、普通の街にいた。

『シアン?』
「ん……」
『変なシアン。僕の話聞いてた?』
「ああ、済まない。もう一度言ってくれるか?」

 戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)の隣には、いつも通りに片割れの姿があった。
 だから一瞬思考が混乱する。
 自分達はオブリビオン退治に来て、鏡に敵が潜んでいるというから片割れと共に覗き込んで、
 ───それで、どうして『普通に』『いつも通りの』帰り路を辿っている?

『晩御飯どうしようかって』
「夕食か……なんでもいいな」
『それが一番困るんだけど!』
「イトが作ってくれるなら何でも美味いからなぁ」
『もう、またそうやって……』

 交わす会話すらいつも通りのテンポで進むから、この先の流れだってわかる。
 なんだかんだイトが自分でメニューを決めてしまうから、そのための食材をスーパーへ買いに行く。自分が荷物持ちをするからどれだけ買っても大丈夫。
 その後は家に帰って、夕食を食べて、おやすみを言い合うのだろう。
 まったく『いつも通り』に。

「そうか……」

 手ごたえは、確信だった。
 シアンの望みは、今までと同じ明日。
 この日々が続けばいいと、ずっとそれだけを願っている。
 探している故人、嘗ての主人に会えなくたって。
 共に在り続けられる日々こそが、シアンの胸に輝く理想。

『シアン?』

 どうしたの、と見上げる視線は片割れのそれとまったく同一で。自分の理想の都合よさにまた呆れたくなる。
 まったく、どれだけ片割れのことを見ているのやら。
 だから、惑わされるまでもない。
 現実と何ら変わりない理想なんて、敵ではない。

「悪い、イト。ちょっと先に行っててくれ」
『……ちゃんと帰ってくる?』
「当たり前だろ」

 くしゃりと髪をかき混ぜれば、心地よい丸みの頭の感触と「もう!」という怒り声。
 それに捕まる前に飛び出して、走って走って走って距離を取った。
 いくら理想の、偽物だとしても。片割れの姿をしたものを壊すなんてぞっとしない。
 抜け出せば本物の片割れがいるのだから。
 シアンの刃はただ、二人で家に帰って……同じ日常を繰り返すために。

「だから……いつまでも蕾は萌ゆること無く、君と共に」

 硝子細工の刀にあしらわれたスウィートピーは片割れの象徴。
 それを以て世界を裂けば、鏡の割れ砕ける音が強く響いてシアンの聴覚を叩く。
 現実世界へと帰還していく、落下に似た感覚を覚えながら。思うのはやはり同じ鏡を覗き込んだはずの片割れのことだった。

「……アイツは、どんな世界を見ているんだろうな」

 願わくば。
 片割れの理想にも、己の姿があらんことを。
大成功 🔵🔵🔵

戀鈴・イト
【硝華】

気が付けば普通の街に居た

僕の最愛の片割れが知らない女の人と歩いている
手を絡めて、仲睦まじく
お似合いの恋人同士みたいだ
どこにも僕の姿なんてない
愛しい人が僕以外の人の名前を紡ぐ
初めて聞く声なのに透けていて

そうだ、これはあくまで理想
君がどんな声で愛する人を呼ぶのか僕は知らない

瞼を下ろす
胸が刺されたように痛い

僕の居ない僕の欲望
君が女の人と結ばれて
持ち主の夫婦みたいに幸せな日々を過ごす

嗚呼、良かった

決して君と結ばれる事を1番に願っていない僕で
シアンの幸せを1番に願っていられる僕で

滲む君の欲望
僕の世界が君の目にどう映るのか
君の世界がどんなものなのか

識ってしまう前に
壊してしまおう


●戀華の理想は秘されたままに

 ───気が付けば、普通の街にいた。

「……シアン?」

 戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)の隣に、片割れの姿はなかった。
 だから一瞬思考が混乱する。
 自分達はオブリビオン退治に来て、鏡に敵が潜んでいるというから片割れと共に覗き込んで。
 どうして、彼が共にいないのだろう?

『────で、だからさあ……』
「! シアン!」

 耳に届いた声は遠く、それでも片割れと確信するのに十分だったから地面を蹴った。
 走って、走って、走って、角を曲がって、辿り着く。

『なあ、×××?』
『ええ、そうね。シアンったら面白いんだから』
「────」

 心臓が止まった。
 そう錯覚するほどの衝撃だった。
 片割れはいた。イトの全く知らない女性と手を繋いでいた。
 甘やかな声で名を呼ばれた女性がクスクスと笑って、その姿にまた片割れが笑う。
 完成された一対。赤い糸で結ばれた運命の光景に、己の入り込む余地はない。
 片割れはイトの存在に気付かぬまま、仲睦まじく語らいながら女性と歩いていく。
 足から力が抜ける。
 その場に座り込んで、片割れと女性の『カップル』を見送って……イトは、目を閉じた。

「そ、っか……」

 手ごたえは、確信だった。
 イトの望みは、シアンの幸せ。
 彼がどこかの女の人と結ばれて、己らの本体を作った持ち主の夫婦のように睦まじく過ごすこと。
 そこに、イトの存在は必要ない。
 だから理想の片割れは、イトの姿を認めなかった。

「嗚呼。良かった……」

 吐いた息は安堵だ。
 だって、イトは歪だ。持ち主の女性の姿を映していながら性別ばかりは男で。
 嘗て見守っていた夫婦のようになりたくても、体がそれを許さない。
 なのに愛しくて、戀しくて、……そんな自分が醜くて、疎ましくて。
 だから、よかった。
 自分の『理想』が……彼と結ばれることではなくて。
 シアンがいつか願うはずの幸せを、一番に願っていられる自分で、ほんとうに。

「だから……萌す華は、いつまでも秘するままに」

 硝子細工の刀にあしらわれたスウィートピーは愛情の象徴。
 それを以て世界を裂けば、鏡の割れ砕ける音が強く響いてイトの聴覚を叩く。
 現実世界へと帰還していく、落下に似た感覚を覚えながら彼はきつく目を閉じた。

 この、己の欲望が滲む世界を片割れがどう思うか。
 今この場所にいない片割れが見た理想の世界はどんなカタチなのか。
 分からないから。
 識りたくないから。

 ───まだ、知らないふりを続けていよう。
大成功 🔵🔵🔵

クロト・ラトキエ
都合の良い未来。生きながらの極楽。理想通りに運ぶ世界…
骸の海で流行ってるんです?

例えば。
己を育てたあの男が在ったなら。
焔の中、何を思い俺に手を伸べたか。
…本当は“  ”だったのか。
理想じゃ無い、真実を求めるし。

何にも代えられぬ、ただひとりのひかりが在るなら。
唯、その幸せでいてほしい。
奉仕?献身?
…そんなのいらない。


理想通りに運ぶなら、
全ては策謀と偽りに彩られた掌の上。
どんな欲望も肯定し。
あらゆる願いを玩弄して、堕として壊し過去にする。
それが、俺の生きてきた道。

全てが、これは夢だと告げてくる。
…ならばいつも通りに壊すだけ。
鋼糸を振るい、敵も、世界も。


永遠なんて…
そぐわぬと言った君を、今も憶えてる


●影を照らすものがあるならば

 都合の良い未来。
 生きながらの極楽。
 理想通りに運ぶ世界。
 名ばかりは美麗なそれらを指折り数えて、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は一言。

「骸の海にも流行の趨勢っておありなんですね。存じ上げませんでした」

 告げながら、鏡へと触れる指先は手袋に包まれたまま。
 布越しでは正確な温度は伝わらないと知っていて、外すことなどとてもできなかった。

 ……己の『理想』は何だろう。
 ひとと己とを隔てる硝子越し、なんとなく思索を巡らせる。

 くすくすと、鏡の笑う声がする。
 理想が分からず、掴めず惑う男を見透かすように、覗き込むように。

 たとえば、己を育てたあの男。
 何の力もない、放っておけば灰と朽ちるだけだった子供に……何を思って手を伸べたのか。
 本当は“  ”だったのか……あるいは『  』だったのか。
 理想の中に答えは存在しない。
 今はもう闇へと葬られた真実を、理想しか映さぬ鏡が見せてくれるはずがない。

「だろうな。俺にも分からないことが分かる訳でもなし」

 たとえば、何にも代えられぬただひとりのひかりなら?
 ……問うまでもない。
 唯、在るがままに幸せでいてほしい。
 極論、そこに己の存在だって要らない。
 身を削ることなく、ただ穏やかに笑って過ごせるだけの日々を。

『それがほしいの?』
「いいえ」

 現出しようとした陽光色の髪を問答無用で引き千切る。
 それが鏡の一部だとして、手の中に走る痛みなど知ったことではない。

「奉仕? 献身? ……そんなの、いらない」

 ならば、と。
 招かれた世界は粉塵と血の臭い。
 火薬と死と超常とが支配する戦場に、ひとり。
 具わった反射が鋼糸を巡らせる。その先にいるナニカに刃を振り下ろす。
 血の臭いがいっそう強くなる。
 恐慌の悲鳴など意に介することなく、二振り、三振り。
 彼らの願いなど知ったことではない。
 彼らの祈りなど踏み潰すだけのものでしかない。
 あらゆる欲望を肯定しながら、あらゆる願いを愚弄して、堕として壊して過去にする。
 いつも通りだ。
 それがいつもよりもスムーズに、滞りなく進んでいくから。

「嗚呼。……そういう『夢』ですか」

 ならば、いつも通りに壊すだけ。
 張り巡らせた鋼糸を広げ、広げ、さらに遠くまで遍く。

「断截」

 【拾式】、振るい落とす。
 荒野の戦場にはあり得ない、硝子を壊したような澄んだ音。
 それこそが世界ごと切り裂いた証明と、ずれていく世界を見やりながら僅かに息を落とす。
 
「永遠なんて、…………」

 耳奥に響く声ばかりは理想が生み出した姿でなくて。
 ……今もクロトをあざやかに照らし出す、君のおもいで。
大成功 🔵🔵🔵

花剣・耀子

最初から、強く在れたなら。
あたしの発心。最初の願い。
だから、おまえはその姿を採るのでしょう、――師匠。

“よくがんばりましたね”
“もう休みましょうか”
“痛いのも苦しいのも厭でしょう?”

ちいさな子どもだった頃とは違うのよ。

“助かりました”
“これなら、おれの剣も任せられる”
“そろそろ何処かに根を下ろしましょうか”

笑ってしまう。
そんな甘い言葉、あたしを試す時だって言わなかったでしょう。

……そう。そうね。
あたしは認めて欲しかった。
ちゃんとできるところを見て欲しかった。
力になって、肩を並べて一緒に戦いたかった。

できなかったから此処に居るのよ。
忘れて溺れるなんて、あたしはあたしに赦さない。

――砕けなさい。


●見果てぬ夢には届かない

『よく頑張りましたね、今日は少し休みませんか?』
「……ちいさな子供だった頃とは違うのよ」
『こんなに小さな頃から知っているのですから、いつまで経っても子供みたいなものですよ』
「……よく言うわ」

 もし、最初から強く在れたなら。
 後悔と落とし物だらけの道で、さいしょに抱いてしまった願いがあった。
 だから、鏡が映し取る理想像はそれしかないと思っていた。
 花剣・耀子(Tempest・f12822)の理想は、師匠の形をとって彼女に向き直る。

『だって、痛いのも苦しいのも厭でしょう? なのにそんなに怪我をして……』

 ほんの少し下げられる、目線は気づかわしげな色を湛える。
 確かに今は生傷が絶えなくて、体のどこかに包帯を巻いているのがデフォルトだ。けれど、心配されるほどのものではないと。
 開きかけた口を翳された掌が押し留める。

『そうだ。そろそろ何処かに根を下ろしましょうか。そうすればそのお転婆も少しは落ち着くでしょう』
「……あははっ」

 思わず笑ってしまった。
 そんな甘くて優しい言葉、一度だって───試される時ですら、かけてもらったことはなかった。
 だから分かる。分かってしまう。

 ・・・・・・・・・・・・
 これが耀子の理想なのだと。
 認めざるを得なくて、それがおかして腹立たしくてなのに哀しくて、悔しくて。

「……そんなふうに認めてほしかった」
『ええ、よく仕上がっているのが分かります。これならおれの剣を任せられそうだ』
「ちゃんとできるところを見て、褒めて欲しかった」
『ええ、たくさん見せてください。強くなった耀子のことを』
「あなたの力になって、肩を並べて一緒に戦いたかった」
『これからいくらでも、一緒に戦えますよ』

 そのねがいの全てを過去形で語るしかできない。
 分かっている。もうとっくに。
 それが叶わなかったから、《花剣》は此処に居る。

「でもね。忘れて浸って溺れるなんて。そんな楽な道、あたしはあたしに赦さない」

 《クサナギ》が啼いた。
 宿す呪詛が唸りを上げて、意志を刃と変換して。

「───砕けなさい、あたしの理想」

 放たれる、あらゆるを散らし薙いで平らげる花の剣の嵐が世界を打ち壊す。
 当然の光景を硝子越しに見やりながら、けれど考えてしまうのだ。

 もし、本物の師匠だったら。
 こんな攻撃あっさりかわして───いいや、全て受け止めてその力ごと返してくるだろう。
 鏡は決して理想を映しても、決して叶えてくれやしない。
大成功 🔵🔵🔵

鷲生・嵯泉
己の望む侭に動く理想像、か
有り得ないと解っているからこそ抗い難いのだろう
弱みに付け込む遣り口は全く不快だ

――ああ、成る程良く出来ている
能く知る町並みに馴染み佇む其の姿は、きっと髪一筋すら違わない
早く行こうと差し出される手は、何時も通り
屈託無く笑う顔、“幸せだよ”と零す声
痛みも苦しみも必要とせずに在る「幸せな竜」

此れが理想とは我ながら愚かが過ぎよう
私が其の傍らにと定めたのは
痛みに藻掻き苦しみに蹲り、しかし歩むを止めない「呪詛の竜」
時に諍おうとも最後の一息まで伴に在る
――そんな竜だ

馬鹿馬鹿しい見世物の礼だ、確と受け取れ
――刀鬼立断、割り砕け
衝撃波で牽制加えて接敵し、怪力乗せた斬撃を叩き込んでくれる


●求めた先に届かずとも

『───嵯泉?』
「ああ、…………そう、か」

 成程、良く出来ている。
 有り得ないと分かっている、だというのに思うままになる理想像。
 それを形作るのは己の欲望なのだから、理想でしかないと分かっていたとて抗い難い。
 弱みに付け込む遣り口は不愉快だと、そう思っていたのに。

 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の理想の形はごく単純で───だからこそ、我ながら愚かだと嗤いたくなった。

『まーた難しい顔して。何考えてたんだよ?』

 己より少しばかり高い位置にある金と紫。
 揺れるしろがねの焔。
 それだけでは飛ぶことも儘ならない翼と、尾は埒外であるが故に常人の認識の外。
 よく知る街を背景に佇むよく知る『竜』の似姿は、想像の中と髪一筋とて変わらなかった。

「お前が気にするほどのことではない」
『そっか。だったらいいや。少し急ごうぜ! セールが始まっちまう!』

 早くはやくと急かす声。態度。立ち居振る舞い。そのどれもがいつも通りの筈で。
 だというのに奇妙に引っかかるものがあるのは、それが鏡の映した理想像だからというだけではないと。
 それを……『己の理想の形』を確かめるために、訊ねる言葉はひとつで事足りる。

「おい」
『うん?』
「今、幸せか?」

 その問いかけを投げられた『竜』は。
 おおきく瞳を広げて、瞬かせて。それからくしゃりと笑った。
 屈託なく、無邪気に、痛みも苦しみも見せることなく。

『───ああ!』
「そうか」

 その回答に。
 嵯泉はひとつ頷いて、それから。

「────断つ」

 【刀鬼立断】。
 抜き放たれた秋水は、護るべきの為悉くを断つ刃。
 理想でしかない『幸せな竜』を割り砕くことに躊躇いがあるものかと、問答無用の怪力が二メートル近い鏡像へと襲い掛かる。

「馬鹿馬鹿しい見世物への礼だ。骸の海の渡し賃にでもするがいい」

 だから砕け散る音は明瞭だ。
 鮮やかな切断面を晒しながら、加えられた衝撃が伝播するから鏡は四散する。
 『竜』の姿は瞬く間に潰え、地面に散らばる鏡の破片。
 そのうちもっとも大きい、拳大のそれが口元だけを映して苦笑を見せる。

『こうやって“私”が笑っていることが理想なんだろう? 溺れちまえよ、なあ嵯泉』
「だとしても、」

 己が傍らにと定めたのは、普遍の日々に胡坐をかく『幸せな竜』ではなくて。
 あたりまえのしあわせが分からず、手を伸ばすことを怖がって、儘ならぬ現実に藻掻き苦しみ時に蹲って。
 それでも歩みを止めることは決してなく。
 だから諍うことがあろうとも、最後の一息まで伴に在ると……堕つることあれば斬ると約した。

「それは、貴様ではない」

 そんな「呪詛の竜」なのだから、理想の鏡は踏み躙った。
大成功 🔵🔵🔵

ヴィクティム・ウィンターミュート
──自由で、誰かを愛することが出来て、焦がれるほどの夢を抱ける
誰もがその権利を持ち、飢えて死ぬことが無いような世界
あぁ、そうさ。それこそ誰かと結婚だって出来る
アイツが描いていた未来もそういうもので────

踏み潰した
誰が?とぼけるなよ"幸せ者"
人の夢を破壊し、愛を縊り殺して来たんだろう
『幸せ』の味は甘いか?そりゃあ最高だろうさ

忘れるな、決して忘れるな
お前は溺れてはならない。たとえ幸せの中に居ても忘れてはいけない
お前が壊したものは戻らないし、理想郷なんざ存在しないんだ
殺せ、あらゆる障害を他人ごと壊せ
ずっと、そうしてきただろう

あぁ──幸せだよ
甘い甘い、硝子の欠片を噛み潰してるような、最高の幸福だ


●迎え得ぬ春に凍う

 今日は、結婚式だ。

 当たり前だが少年の……ではない。そもそもそんな相手はまだいないし、これからも作るつもりはない。
 式を挙げるのは大事な仲間のうち二人、恋仲だった『彼』と『彼女』だ。
 染みひとつない──まずストリートではありえない白を纏って、微笑む姿は美しかった。
 幸せがひとの形を取ったならこんな笑みを浮かべているのだろう。そう、思わせるような。

 あぁ、と漏らした息は感嘆だ。
 『彼』の描いていた未来とは、きっとこういう形をしていたのだ。

 飢えて死んだり、誰かの気紛れで死んだり、誰に顧みられることもなく朽ちたり、そういう死が「当たり前」でない世界。
 愛することも、夢を抱くことも、あらゆる選択肢を自由に選ぶことができる。それだけのものが差し出されている。
 結婚式は、その象徴だ。
 ストリート出身の彼女と、上層出身の彼が籍を入れる。これまでの常識では決して在り得なかった光景が目の前にあって。
 だから。

  ドレッグ
「クソッタレ」

 >【Forbidden Code『Void Hex』】.exe
 > Enter.


 どろり、と。


 少年の体から噴き出し、溢れ、零れ落ちるは漆黒の虚無。
 あらゆるを喰らい、飲み干し、消滅させ、強奪を執り行う少年の在り様。
 目の前の理想像とて、『敵』が作りだしたものなのだから是非もなし。
 
 『彼』はぐちゃぐちゃに踏み潰された。
 『彼女』の体はバラバラに解体された。
 『彼』の首はどこかへ転がっていった。
 『彼女』は掬えないほどに溶け崩れた。
 『彼』は穴だらけにされて棄てられた。

 それこそが、理想を踏み潰した少年の罪だった。
 人の夢を破壊し、愛を縊り殺した、その行く末が此処だった。 
 
 嗤い、哭き、叫び、憂い、呪い、憎み、
 ありとあらゆる負の感情をいっしょくたに詰め込んだ虚無が少年の裡で合唱する。
 忘レルナ、忘レルナ、オ前ノ罪ヲ忘レルナ。
 近頃すっかり馴染みになってしまった声に、反応することすら億劫だ。
 だって、“虚無”如きに言われなくとも分かっている。
 浸ってはならない。
 溺れてはならない。
 故に、勝ち続けなくてはならない。
 この命は、彼らの為に支払わなければならなくて。
 それまでずっと、苦しみ続ける為に繋ぐものだ。  

『ねぇ』

 バラバラになった女の肉体。
 その口が動いて、記憶と寸分違わぬ声を少年に届ける。

『アンタは、幸せでいるの?』
「ああ」

 幸せだとも。
 甘い硝子の欠片を噛み潰して、そのまま口の中に含めてなければならないような。
 彼女がどう答えるのか分かっていて口にした肯定に、憎悪で世界が染め上がる。

『許さない』
「知ってるよ」

 ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)。
 その名は、決して忘れぬ為に。

「Aresenは此処だ。バラしてみろよ、Gremlin」

 
大成功 🔵🔵🔵


第2章 ボス戦 『冬寂の解拳『グレムリン』』

POW ●砕命凍牙
【触れれば概念ですら『解体』する超高速の拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD ●冬寂の破壊神
【目にも留まらぬ神速と異常なまでの反射神経】【に加え、触れた人体、物質、攻撃、概念等の】【凡ゆるものを『解体』する『破壊神の気功』】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ ●万象凍壊砲
【触れたものをバラバラに『解体』する拳圧】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はヴィクティム・ウィンターミュートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『強奪』された理想の話
 
 “お嫁さん”になりたかった。

 きっと他人が聞いたら笑ってしまうような、些細に過ぎる願い事。
 でも、そんな夢さえ叶わないのが当たり前。
 それがアタシの生きていた世界だった。

 「そんな世界を変えよう」と、そう言ってくれる人と出会えた。

 走って走って走り続けて、いつの間にか同じ方向へ走る仲間が増えていて。アタシは走っていくしかなかったけれど、方向を示してくれる人がいた。
 がら空きの背中を守ってくれる人がいた。
 隣で走ってくれる人がいた。
 ……すきなひとが、出来た。
 うまれてはじめて、恋することができた。
 この人と共に生きられたらと、そう願うことが出来た。
 だから、みんなで一緒にって。
 そんな夢が、もう少しで叶うところだったのに。

 美味しいものをたくさん食べて。
 楽しい思い出をたくさん作って。
 笑い合って。
 はしゃいで。
 夢を描いて。
 肩を並べて。
 「当たり前」でなかった日々を、当たり前に積み重ねて。

 ……しあわせに、なりたかったのに。

「ドレスを選ぶんでしょう」

「好きな食事を選んで、でも残すんでしょう」

「……アタシにはできなかったのに」

「どうしてアンタたちばっかり」

 ねえ、だから。

「邪神の餌にしてあげるから」

「みんな、バラバラになってしまえ」




●故に未来を『解体』せん

 鏡の世界を抜け出た猟兵達を襲ったのは天井の崩落。
 当然それだけで歴戦の強者たちを打倒するには足らないだろう。
 彼女が欲したのは動揺と遮蔽、それにより生み出される死角だ。

 なぜなら、彼女は触れるだけでいい。

 銃弾も、戦車も、電子機器も人間も魔法も。
 触れたすべてを『解体』するのが彼女の異能。
 それ以外に頼れないから、鍛えに鍛えた身のこなしは超一流のそれだ。

 翻る、『解体』を纏う術式光。
 唸る拳は風を切り、超常の反射で技を見切り、逆に地面を砕く震脚を叩き込む。
 それで殺せるのだから、彼女の方程式はシンプルだ。

 『冬寂』の幹部にして最強を冠した女傑。
 『Gremlin』の拳が、あなたの命に狙いを定める。


*****

●第二章における注意事項

・「冬寂の解拳『グレムリン』」は強敵です。相応に厳しく判定させて頂きます。
・是非、工夫を凝らして彼女の『解体』を乗り越えてください。
・尚、説得・浄化は不可能です。


◆第二章プレイング受付期間
 【6月18日(木) 08:31 ~ 6月20日(土) 13:00】





 ねぇ。
 ほんとうにたいせつだったのよ。
 なかまって、そういうものでしょう?

 


.
榎本・英
【春嵐】

嗚呼。一筋縄では行かない相手だよ。
私は、君のように戦う事は得意ではない。
素直に正面から立ち向かうだけでは、この身を解体されるだけだろうね。

さて、と云う訳でここはふわもこ達の出番だ。
しかし彼らだけではやはり心許ない。
なゆ、君の糸で私を操る事は出来るかい?

一瞬の速さなら誰にも負けないだろう。
だからその一瞬の隙に、私の中に隠れたふわもこ達を
あいつに差し向けようと思ってね。

戦い方は至ってシンプルだ。
だから此方も同じように、しかし少し頭を使ってと云う訳さ。

触れたら解体してしまう
それならば、針と糸を持ったふわもこに彼女の腕を縫ってもらおう

彼女に私が操られていると悟られないように
君も、攻撃はしてくれ


蘭・七結
【春嵐】

崩落する天井に心は揺るがず
降り注ぐ脅威を黒鍵で薙ぎ払う
怪我は、ない?

もちろん
ひとを操るのは、すきだった
あなたの素早さも識っている
わたしとあなたの得意をかさね合わせて
眼前の彼女に臨みましょう

問い掛けと糸を紡ぐ
『あなたの本当の望みはなに?』
人のこころはむつかしい
今もわからないことだらけ
あなただけの想いも屹度――

とっておきの糸たち
頼もしい毛糸玉の彼らに託すわ

陽動ならばお任せあれ
紡いだ糸で彼女の足元を狙う
捕らうも惑うも一瞬でしょうね
たった一瞬があればいい
あなたが駆けて往けるでしょう?

満足な答えを得るまで消えぬ糸
縫われたならば、留針で穿つだけ

嗚呼。私はしらない
あなたのいのちは、なにいろでしょうね


●千切れた糸に重ねて

「どいて」

 天井が崩落してくるなんて“いつものこと”だ。
 だから蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は、淡々と鍵杖を振りかざした。
 落ちてくる瓦礫を、豪と唸る風は容赦なく薙ぎ払う。
 二人分のちいさな安全地帯を確保して、紫色の視線は傍らのひとを気遣うように見やる。

「怪我は、ない?」
「ああ」

 風圧の領域に守られて、榎本・英(人である・f22898)はずり落ちた眼鏡を持ち上げる。
 殺戮者ではあっても戦闘者ではない英に、この速度領域は目で追い切れる代物ではない。
 いま、敵手がどこに潜んでいるかも分からないのだから。
 この時点で彼は正面からの戦闘を諦めた。
 正確には、もっと得意な領域で彼女に挑むことを選んだ。

「なゆ」
「なぁに?」
「君の糸で、私を操る事はできるかい?」
「───ええ、もちろん」

 正面からの一対一では決して勝てない。
 そんなことは最初から分かり切っている。
 だから挑むのは、二人で起こす春嵐。
 彼の得意と彼女のすきを重ね合わせて、結んで、繋いで。
 以て散らすしかない拳へと届かせてみせようとも。

「で、茶番はそれで終わりかい?」
「!」

 眼前に降った瓦礫が音もなく消えた。
 砂状になるまで『解体』されたのだと、気付くのと黒い拳が見えるのは同時。
 咄嗟に体を落とした七結の髪を鋭い風が突き抜けた。
 花弁めいて散っていく、一房の桜灰が視界の端に。

「なゆ!」
「───っ、だいじょうぶ!」

 立ち上がる、同時に鍵杖を振り上げる。
 追撃を阻みながら正確に顎を弾かんとする打撃には確かな力が込められている。
 『解体』に頼るのも得策ではないと判断したのだろう、グレムリンは後方へ跳躍することで回避、距離を開ける。
 異能頼りの猪武者ではないということで。
 頭が回るということは、それだけ厄介だということだ。内心で舌を打ってしまう。

「ねぇ」

 けれど。
 だから通じる『策』もあるのだと。七結は瓦礫の向こうへ声を乗せる。

「“あなたの本当の望みはなに?”」

 問いかけの名は【あけ紅の綴本】。
 だって七結には分からない。
 ひとのこころはむつかしくて、今も昔も分からないことだらけ。
 きっと女のかたちをしたオブリビオンのこころだって、七結に納得を乗せることはできないだろう。
 だから彼女は決して満足しない。
 つむがれたあかいいとはひょろりと舞って、答えを求めて命を留めに掛かる。

「そんなものっ!」

 だからだろう。あるいは敵対する立場ゆえか。
 グレムリンも答えを返すことはない。
 眼前に迫るひと筋は無視、足を地へと縫い留めんとする糸を踏み潰して『解体』、突破。
 次いで動きを止めんとするひと筋を『解体』。
 地を蹴る足は力強く、千切られた糸の残滓を置いて。
 瓦礫を踏み締める女の前へ姿を現したのは、ふわふわもこもこの、奇妙にやわらかな、毛糸玉たち。

「な、───ンだこいつは!?」
「『何だ』とは失敬な」

 袖口に、襟元に、髪の中に。
 【冬の仲間】を隠した英は、己を操るあかいいとを棚引かせて薄く笑みを刷く。
 息を切らして、肩を上下させて、けれど成功を確信して。
 指先で指し示す。

「頼もしい仲間達さ」

 かれらは、小さな手で針と糸を握る。
 小さな体からは到底想像できない強さでぶつかって、彼女のからだを遠ざけて動きを止める。
 問いかけが紡いだ糸をぴんと伸ばして、おおきな針を握り締めて。
 腕が泳ぐ。そう見せた裏拳が一体を『解体』する。
 だがその隙間を埋めるべく二体、三体が殺到すれる。『解体』は間に合わない。
 針運びと糸遣いが得意なふわもこ達が縫う、結ぶ、縛る────動きを封じる。

「こんな、糸ごとき……!」

 解体する。
 縫い付ける。
 解体する。
 縫い付ける。
 解体速度が上がっていく。縫い付けるのが間に合わなくなる。
 それより早く降り立った、留針を従えた牡丹が銀の軌跡を踊る。
 縫われたならば、あとはとめるだけ。

「さぁ。あなたの命のいろを、おしえて?」
「────!!」

 穿たれた、女のいのちは。
 ───目の醒めるような、くれない色。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

氏家・禄郎

冬寂……ウィンターミュート
まさかね

さて、馬鹿正直にハグをしたらお陀仏なら、私は逆に行こう
『嗜み』の使い方だ
私の動きから、君は何を狙っているかは分かるだろう
だからね、私はそれを「しない」

引き上げた技能で、敵の呼吸、動きの始まりを読み、風の動きを聴き組み合わずに【闇に紛れる】

君なら分かるだろう
空気は割れ、震える
それを聴く事を――武術家は目指してきた

ではギムレットの時間と行こうか?

君はできなかったと言った
私達ばかりと妬んだ
その為に蘇ったにしては、仕事が陳腐だ
殺したい相手が居るだけなら、他に方法がある
なら、答えは別にある
君はドレスを着るために来たね

【クイックドロウ】
拳銃を撃つ
これが私の弾丸だ


ミネルバ・レストー
わたしも、今のしあわせを奪われたなら
あなたのようになるのかしら

…なるわね、きっと

でも、そんな未来はきっとあの人が許さないから
だって、少しケガした程度ですごく怒るんだもの

だからね、わたし
無傷で勝たないといけないの

【永久凍土に乙女よ踊れ】で戦場を白く染めましょう
少なくともわたしの力はこれで底上げされる
あなたも適応するのかしら?
天井の瓦礫はわたしが「地形の利用」で遮蔽物にもできるの
どうぞ、瓦礫ならいくらでも解体していいわよ
破片から「オーラ防御」で身を守ることも忘れずに

「アブソリュート・ウィッチ」を氷の槍にして
「念動力」で一斉に投げつけてやりましょう
槍の本数は六花の六本、二本の腕で解体しきれるかしら?


●始まらなかった春へ

 『解体』されて散っていく瓦礫は、コンクリートで出来たライスシャワー。
 なんとなく浮かんだ連想を、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は瞬きひとつで追い出した。

 結婚式をしたかったのだという。
 お嫁さんになりたかったのだという。
 そういう、穏やかな日々が自分の手の中にあったとして。
 理不尽に、無慈悲に、自分の手の中から奪われたとしたら。

「怒るわよね、それは」

 きっと自分もそうだから、ミネルバの胸中にあったのは共感だ。
 それを奪った相手を許せずに、自分が滅ぶことになろうとも追い駆けていくだろう。
 抱いている想いはミネルバの想像以上に重いだろうから、オブリビオンだという前提を抜きしても話し合うことは無理だ。

「ネリー」
「わかってる。無茶はしないわ」

 だから彼女に出来るのは、「そうはならない」という決意だけ。  
 少しの怪我でものすごく怒る、年上の恋人と目線を合わせて頷いて。
 軽い動きで杖を振るった。

「だって───ここはもう、わたしの世界だもの」

 しん、と静寂が厚みを増した。
 室内にも関わらず、視界を白が染め上げる。
 降り出したのは芯から体温を奪うような、呼気すら白く染め上げる雪だ。
 【永久凍土に乙女よ踊れ(ソング・オブ・ツンドラ)】。
 氷雪の世界はこおりのむすめの独壇場。ずっと前からそうだった。
 彼女のこころに桜が咲いたとて、この景色の中を歩いてきたことが嘘にはならないのだ。

「……寒い」
「あなたコート着てるでしょ!?」
「さすがにこんな環境に適応する用のものじゃあないからなぁ」
「ちょっと!? 動ける!?」
「まあ、ネリーの世界だからね。これぐらいやれなきゃ男じゃないだろう」
「…………」

 そういうところだぞこの野郎、と言わなかっただけミネルバは褒められるべきである。たぶんそう。
 寒さに固まるのを防ぐためだろう、手首を回しながら男は緩めていた視線をきつくして瓦礫の向こうを透かし見る。

「それに、これだけ白一色なら別の色は良く目立つ」
「例えば?」
「極彩色、だね」

 色を認めたから、氏家・禄郎(探偵屋・f22632)は一歩前へ。
 直後、突き抜けてくる風をコートの裾でいなす。一瞬で『解体』されたが必要経費だ、あとで上に請求するとして。
 とかく、散った破片は目晦ましの材料である。
 視線を隠し、指先を誤魔化し、風を見せ、もって紛れる───【嗜み(ジュージュツ)】である。
 呼吸、動作の起こり、環境の変化とそれによる視線と心の向き。その全てを読んで、それに反することをする。
 いくら技量が引き上げられていたとて、一手読み間違えれば即座に死に繋がる綱渡りを可能とするのも、ひとえに降り積もる雪があってこそ。
 武術をたしなむからこそ分かる、無言の圧とフェイントの掛け合いは静かなれど確かな戦いだ。
 それだけで終わらせる気はないと、禄郎は眼鏡の奥の目を光らせる。

「では、ギムレットの時間と行こう」
「……は?」
「不思議だと思っていたんだよ。君の手筋は陳腐だ」

 できなかったと、私達ばかりと、恨み妬んでそのために蘇ったにしては。
 鏡の内へ導いて、理想によって失墜する関係を眺めているだけなんて、随分と。
 だから、その心は違う場所にある。此処がそうだというならば、

「君は、ドレスを着る為に来たんじゃあないかい?」
「───」

 果たして。
 返答は呵責の無い、拳圧の振り下ろし。
 『解体』を込められたそれが空間ごと蹂躙し降り積む雪ごと消し飛ばす。急激な環境変化で発生した風が禄郎の帽子を吹き飛ばした。
 癖毛が晒されて、その先端もふわふわと揺れる。
 冷や汗も吹き飛ばされていてよかったと巡らせる思考の片隅に、届いたのは少女の嘆息。

「あなた、女心は分かんないのね」
「……ネリー?」
「だって、ドレスを着たって見てくれる人がいないじゃない」

 一番見てもらいたいひとは、きっともうこの世界にいないのだ。
 だからどうしようもなく怒っていて。
 似たひとたちへ八つ当たりでもしなければ気が済まなくて。
 それでも、それはもう世界を侵すオブリビオンの在り様だから。

「終わらせてあげる。───アブソリュート・ウィッチ!」

 六花奏填───氷槍六連。
 二手では足りぬ慈悲と祈りの結晶が、雪空を切り裂いて飛翔する。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

リア・ファル

その辛苦はキミだけのモノ
他者も引きずり込もうというのなら

胸の裡から聞える「もう充分だ」という声に応えて

「…うん。この祈りを込めて挑もう
今を生きる誰かの明日の為に」

ボクの各センサーなら瓦礫と遮蔽も問題にはならない
(情報収集、聞き耳、暗視)

『解体』術式、ボクも触れれば危うい
だけど

「ヌァザ、概念設定……『解体』」
この銀閃ならば、その異能を受け止められる!
(武器受け、カウンター)

この銀の煌めきは、あらゆる概念を分解する
未来を切り拓く為の力
(リミッター解除、部位破壊)

小さな綻びだけど、『解体』の一部を斬ったらボクの仕事は終わり
この場は電子の粒子に消えよう


カイム・クローバー
邪神の餌ときたか。ハハッ、俺なんか喰ったら邪神でも腹壊すと思うぜ?ま、そもそもアンタに俺を殺す事は出来ねぇがな。

魔剣を顕現し、【挑発】を続け、冷静さを失わせる。『触れれば勝ち』、そう思っちまうのも無理ねぇぐらい強力な異能だ。だが…それは同時に付け入る隙になる。
高速の拳を【見切り】、【第六感】で避けつつ、魔剣で適度な反撃。
冷静さを失わせたタイミングで態勢をワザと崩す【フェイント】。【残像】の俺に触れさせて勝った、と思わせるのが狙いだ。
拳が触れる間合いは同時に俺の間合いでもある。
UCを発動させ、下からの斬り上げ、躱されるのを想定。そう来ると思ったぜ!
【二回攻撃】でそのまま、上げた剣を振り下ろす。


●ならばもう散るべき華だと

「邪神の餌、ねぇ」

 聞きなれたフレーズだ、とカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は独り言ちる。
 邪神にまつわる大抵のオブリビオンが口々にそんなことを言うから、すっかり耳慣れた文句になってしまっている。

「アンタはどう思う?」
「ボクも食べられたものじゃないからなあ」

 センサー類を駆使してグレムリンの動向を追い続ける、リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)が浮かべる眼差しは真剣そのものだ。
 瓦礫による遮蔽、それ自体はセンサーが問題なく対応してくれる。
 問題は、その向こうにいるであろグレムリン自身。
 リアはどうにかその姿を追うことができているが、伝えようとした瞬間には次の箇所へと動いているから伝達がひどく難しい。

「ヌァザ」

 だから、ではないけれど。
 呼ばれた銀虎猫のデバイスがくるりと転身、本来の魔剣形状を取り戻す。それを握り締めて、リアは瓦礫の向こうを透かし見る。
 拳を握り、『解体』を込めるグレムリンは瓦礫を踏んでこちらに向かってくる。
 身を隠し、隙を伺い、けれど絶対の意志を握って。

「いつも通り、この祈りを込めよう」

 だって、もう充分じゃないか。
 傷ついて、苦しんで、もうそれしかないモノにまで成り果てて。
 その辛苦に、痛みに、他者を引きずり込むしかないというなら。
 リアが彼女に渡せるものはひとつしかない。

「今を生きる、誰かの明日の為に!」
「知った風な口を───!!」

 銀閃と極彩色が衝突、双方が弾かれてのけ反った。
 散るのは赤い血の色と電子でできた粒子。そうなるはずがないと、グレムリンは薄く目を見開いて。
 そのつもりだったリアは、整った顔に笑みを浮かべた。

「受け止めたよ、その異能」
「……何?」
「この銀はあらゆる概念を分解する。……キミの『解体』も、綻んだはずだ」

 それは『解体』の概念を繰るグレムリンの天敵、【銀閃・概念分解(イグジスタンス・リムーバー)】。
 だがその代償は……はらはらと、電子の粒子と散っていくリアの姿だ。
 分解しきれなかった『解体』は、リアの仮初の肉体にたしかな影響を及ぼしている。
 だが、それが何の慰めになるだろう?

「ははっ、ご自慢の『解体』を引っぺがされた気分はどうだ?」

 この場には、もう一人歴戦がいる。
 神殺しの魔剣を携えて、カイムは瓦礫の積もる床へ一歩、進み出る。
 二人の紫の視線が交錯した。

「……アタシが“それ”頼りだとでも?」
「少なくとも、ここまでだとそうとしか見えないぜ」
「そう。……じゃあ、アンタの体で確かめてみなさい!」
「やってみろよ。まあ、アンタに俺を殺すなんてできないだろうけどな」
「軽口は言えるうちに叩いておきな!」
 
 踏み込む、ラッシュラッシュラッシュ!
 その速さにカイムは思わず舌を巻く。前言撤回、『触れれば勝ち』の異能だからこそ『触れる』ための努力を欠かさなかった鋭さがそこにある。
 だが見切れる。まだ躱せる。
 僅かに掠める熱さに『解体』がないことが救いだった。
 だが、この距離はカイムにとっても得意とする距離。
 黒銀が燃える。僅かな衝撃を加えられた切っ先が逸れる。無理矢理こじ開けた突きに肉が掠める感触があって、けれどそのまま突き抜けてくるストレート!
 貫いた、はずだった。

「悪いな、それ、残像だ」
「だからどうしたッ!!」

 三歩下がっていたカイムへ、グレムリンが向かってくる。
 だが開いた間合いは拳ではなく剣にこそ利する。
 だからカイムは魔剣を斬り上げ───ああ、当然躱すだろう。
 だから本命は。【終末の死神(エンド・オブ・ジョーカー)】は、振り下ろしにこそ宿っていた。

「なんせ、俺なんか喰ったら邪神でも腹を壊すだろうしな」

 諦めろ、と。
 神殺しの一閃が、女の体を切り裂いた。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

百鳥・円
ティア/f26360

水の中から戻ってこれたと思えば
何処からか害意を感じますねえ
おや、まあ。この歓迎っぷり
おじょーさん、頭上に注意ですよう
双翼と爪で衝撃波
払い切れないものは野生の勘で

人間の心とは難しーものですね
読心術で得た感情たち
残念ながら理解出来たことは殆どありません
他人の幸福を願え
そんな甘っちょろいことは言わねーですよ
所詮は他人ですもの
けど。あなたの抱え続けるソレ
八つ当たりなんかで解決するモノなんです?

意識を此方に向けつつ炎蝶で陽動
嫉妬には燃え盛る炎をあげますよっと
なーんて、本当の狙いは足元ですがね
氷蝶を使役して足を絡め取りましょ
仕上げに腕も凍らせて完成です

ほーら、おじょーさん
よろしくどーぞ


ティア・メル
円/f10932

戻ってきたよー
頭上?
円ちゃんの声と野生の勘で咄嗟に身を縮める
敵襲だね

白藍翠桃を翻してにんまり
この衣は見た者の望みを見せる
んふふ、動揺なんてしてあげない
甘く誘惑してあげる
円ちゃんに手を出したら許さないよ
大切な人に言われたら惑っちゃうよね

ひらり舞う蝶々に沙羅双樹の花弁をそわせて

ありがと、円ちゃん
ぼくにまっかせて!

支配してあげる
大切な人に心酔わされるのは気分が良いでしょ?
ぼくに…ああ、大切な人に見えてるのかな
囚われた君の負け
何をされても事象ごと無かったことにする
動いちゃだめ
これは命令だよ

炎と氷に音色が混ざる
ねえ、円ちゃん、ぼくにはあの子の気持ちが全くわからないよ
八つ当たりだったかすら


●こころの置き場も知らぬまま

「おじょーさん、頭上に注意です。大変な歓迎ですね」
「頭上? ……わっ」

 まさかこれほど早く奇襲されるとは思ってもみなかった。
 咄嗟にしゃがんだティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)より一歩前、焦りを面に出さぬ百鳥・円(華回帰・f10932)の爪と翼が風を放って瓦礫を遠ざける。
 勿論瓦礫の大きさは多種多様、ものによっては円の風をすり抜けて迫る。
 だがそこは二人とも相応の修羅場を潜ってきた猟兵だ。多少程度なら経験と直感で安全地帯を導き出すことなど造作もない。

「女二人とは珍しいじゃないか、っと!」

 が、それも瓦礫だけならの話。
 崩落を為した張本人───グレムリンの『解体』を纏う拳は、単純な衝撃波では防ぎきれない。

「おっとっと、短気ですこと!」

 だから円が射出した、ふわりと踊るほむら色。
 嫉妬に燃える炎の蝶が眼前に飛び込んで円の代わりに『解体』されて散っていく。
 続いた拳のラッシュはやはり炎蝶が阻む。散り逝く火の粉ばかりが場違いに美しい。
 さながら金平糖でしょーかと、不思議に美しい光景を眺めながら円はゆるく首を傾げてみせる。

「何を考えてこんなことをしてるんで?」
「……?」
「他人の幸福を願えなんて。いくらこんな場所だってそんな甘っちょろいことは言わねーです」

 いくら心を読んで、夢を宝石菓子と変えたって。
 円に“ココロ”はよく分からない。
 恋も、激憤も、軽蔑も、戦慄も、狂乱も、ただただ瓶底を埋める彩りでしかない。

「けど、あなたの“ソレ”」

 カップルを『理想』にくべて、別れさせて、───邪神の餌にして。
 そんな迂遠な復讐で。そんなまだるっこしい遣り口で。

「他人への八つ当たりなんかで解決するモノなんですか?」
「だからどうした、知った風な口を……!?」
「あーらら」

 踏み出そうとした、その足が凍り付いている。
 【獄双蝶(アレキサンドライト)】が放つのは火炎と───氷結の蝶だ。
 火炎は迎撃に、氷結は拘束に。
 双極を同時に繰った円は、艶やかな微笑みをひとつ。

「ほら、おじょーさん。あとはよろしくどーぞ」
「うん!」
「────!」

 ティアの纏う白藍翠桃は、見た者の見たい姿へ変容する衣。
 大切なひとがいて、それで未だに憎悪を燃やしている。そんなオブリビオンには効果覿面だろう。
 数瞬の忘我を円は見逃さない。『解体』が及ぶ前に氷蝶が四肢を氷漬けにしていく。
 それを『解体』などさせるものか。
 目の前にあるのは、甘い、甘い誘惑だ。

「“円ちゃんに手を出したら許さないよ”」
「……違う」
「お?」
「アンタが、あの人であるものか……!」

 沙羅双樹の花弁が舞う。
 浸して惑わす甘美な演奏は、ただそれだけで強固にすぎる女の意志を挫くには至らないらしい。
 あるいは『誘惑』という概念を『解体』してレジストしているのか。
 ティアにはよく分からない、けれど。

「うーん、がんばるなぁ」
「お手伝いしましょーか?」
「ううん、ぼくに任せて」
         ・・・・
 彼女の気持ちなど関係ない。
 囚われた心を甘い倒錯で満たして歪めて支配しよう。
 すべてをなかったことにする【病飴(メルティ・ルーラー)】。歌い手こそが世界の中心。
 廻り蕩けて心酔い、支配を受け入れ夢に酔え。

「動いちゃダメ」

 厳かな宣告に、今度は女は素直だった。
 目を閉じ、脱力する姿はまるで氷漬けのお人形。
 
「そうしていればキレーなんですけど、ね」

 円の呟きも聞くことなく、【獄双蝶】は再び舞う。
 今度は、女の命を刈り取るために。




「ねえ、円ちゃん」
「なんでしょー、おじょーさん」
「あの子のしたことって、本当に八つ当たりだったのかな?」
「さぁて、どうでしょうね。わたしはそう読みましたけど。本当は違ったのかもしれません」
「……ぼくには、あの子の気持ちが全くわからないや」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

死之宮・謡
【ブライダル小隊】
アドリブ歓迎

さて、征こうか諸君…奴の想いを踏み躙りに、な…
私の前に立つのであれば、誰であろうと潰すのみ
貴様等、援護は任せるぞ…

防御や援護は友軍に任せ
侵蝕の【呪詛】を籠めた黒雷(属性攻撃・2回攻撃)を放ちながら
隠密結界を身に纏い(占星術・全力魔法)奴に接近・背後に回り込み
レ・フィドラによる一撃を叩き込む(怪力・衝撃波・鎧砕き)
奴が此方にUCを展開してきたら『不条理の腕』を発動して逆に奴を右腕で触れる

此処で眠るが良い、此処が終点だ
貴様は此処から何処にも行けない
ご苦労だったな、諸君


カイル・サーヴァント
【ブライダル小隊】
アドリブ歓迎

解体、解体ねぇ…残念だけど貴女には何も、誰も解体なんてさせないよ?ボクが皆を守るのだから!

【盾の守護獣】を発動、大楯雪月花を63枚に複製しそれを自在に操り、タゲを取る榛名に向かう攻撃を受ける(盾受け、かばう)
そうして盾に触れた瞬間【邪龍覚醒】を発動し時空間を操る呪詛を盾に纏わせ触れた部分から侵食させ相手の体感時間を狂わせ、動きを鈍らせる(呪詛)
動きが鈍れば後は攻撃役の謡に任せ専守防衛

さぁ、道は開けたよ!
後は頼むね…謡!


茅場・榛名
【ブライダル小隊】
「安っぽい策だ。だが単純な分、強力か。行くぞお前ら、奴の命刈ってやれ」
自分の役割は援護。まずは狙いを自分一人に定めさせる。
「来いウスノロ。バラせるものならやってみな」
【挑発】に乗れば良、乗らずとも意識が自分に向けばいい
攻撃は【残像】を用いて回避、腰撃ちで『捕縛者殺し』を発動させる。
全力で刈り取りにいくのは私じゃないからな、せいぜい私に弄ばれるがいい。

「おっと、よそ見はいけませんぜ旦那ァ。一対多数の時は戦場を広く見ろと…ガキの頃に教わらなかったか?」
隙あらば煽ってタゲ取りを行いつつ射撃。味方小隊員の攻撃が開始されると同時に退避
「さて謡、七十。策は成った、思いっきり頼むぜ?」


神咲・七十
【ファーストネームをさん付け】【ブライダル小隊】

付き添い感覚で来たのですが、思った以上に強そうな方が現れましたね。
一応付き添いなので、役割として本気で相手をしてあげますよ♪


UC『外伝:紅色蝶』使用
杭とショットガンの遠距離からの『制圧射撃』で接近し、大剣での近距離戦闘に切り替え、『解体』を受けた部分は、尻尾で落とし、再生させることで被害を抑える。
この内容を『継戦能力』を使って、ダメージを与えながら、注意を謡さんからそらす。


こういうのって、誰がトリを飾るかって割と重要だと思うのですよ。
そう思いません?
なので、綺麗にお願いしますね、謡さん。


●夢を彼方に置いていけ

「まったく、安っぽい策を立てる」

 茅場・榛名(白夜の火狐・f12464)の独り言ちる声は瓦礫に紛れてどこにも届かない。
 一歩右へ移動して拳大のそれを避けながら、硝子越しの赤色を僅かに細める。

「だがまあ、単純な分強力か。せいぜい役立ってやろうじゃないか」

 銃声一発。
 当てるつもりはない。アピールの為だ。
 瓦礫に紛れて接近するだろう敵に、此処にハルナが居るのだと教えてやる。

「来いウスノロ。バラせるものならやってみな」
「そんじゃ、リクエストにお答えして」
「───!」

 気配はなかった。
 そう錯覚するほどの速度だった。
 グレムリンはいつの間にかハルナの目の前にいた。
 防御も回避も不可能───その頭蓋を潰さんと解体の拳を振り下ろす!

「危ないっ!」

 割り込んだのは大盾。刻まれた花弁の文様が如く、解体されて散るのも計算の内。
 それは【盾の守護獣】が複製した複製の盾。
 一枚が解かれようと、残った六十二が待ち構えてそこにいる。

「大丈夫?」
「ああ、問題ない。……来ないかと思ったがな」
「そんなことしないよ! ボクがみんなを守るんだから!」

 カイル・サーヴァント(盾の守護獣・f00808)がいる限り、他を傷つけさせることはしない。
 少女めいた容姿をした少年の、けれど断固とした意志。
 魔王の伴侶たる純白は、『解体』の理に臆することなく大盾の本体を構えてそこにある。

「だから、貴女にはこの盾しか解体させてあげないよ」
「アタシがそれで満足すると?」
「させてやるよ。さて、お手を拝借」

 口火を切ったのはカイルの大盾に隠れていたハルナだ。
 覗かせたヴァルキリーライフルから【捕縛者殺し(ウスタナクキラー)】が火を放つ。
 目視だろうが外さない。弾丸は正確に、グレムリン目掛けて炸裂する。

「余所見していたろう? 一対多の時は戦場を広く見ろと……戦場で教わらなかった箱入りか?」
「そっちこそ。正確すぎる射撃は防御されやすいって習わなかった?」
「……ほう」

 だが、グレムリンは無傷。手の中に収めた弾丸を地面へと落としながら嗤う。
 攻撃だけが『解体』ではない。
 己の身に降りかかる攻撃を『解体』し、ダメージを無効化することだって立派な『解体』だ。
 銃弾を握ったのは、純然たる見切りと身体能力の賜物だろうが……

「では、私もお邪魔させて頂きましょう」
「っ────!」

 敵の評価を向上されるハルナの脇を黒と赤の風が駆け抜けた。
 神咲・七十(まだ迷子中の狂食者・f21248)が纏うのは【外伝:紅色蝶】。
 三種のUCを組み合わせたが故の汎用性が小柄の体を加速させる。

「ええ、ただの付き添いだったつもりでしたが」

 飛翔するのはセプトゥアーギンター───ショットガンの弾丸と体力喰いの杭の二種。
 空間を埋め、『解体』を強要し、生まれる隙間をハルナの精確が穿つ。
 強引に攻めようにもカイルの盾はまだまだ厚く、接近の隙間を許さない。

「思った以上に強そうです。役割として本気で相手をしてあげますよッ!」

 スイッチ。
 白兵戦闘距離にまで詰めればショットガンに用は無い。
 寿命を喰らう作用がオブリビオン相手にどこまで通じるか不明だが、漆黒の大剣は『解体』と同じく切るだけでいい。
 七十の怪力を以て揮われる大剣は重量と刃の暴嵐だ。余所見の暇など与えない。
 だからグレムリンは気付かない。
 空気に弾けた呪詛雷の音。それが女を真っ直ぐ狙って迫ることに。

「────ッ!!?」
「私の前に立つのであれば、誰であろうと潰すのみ」

 空気が密度を増した。
 そう錯覚するだけの圧力が戦場を支配する。
 本命の到着に、戦場を支えてきた三人はそれぞれの表情を浮かべる。
 ハルナは溜息。七十は首肯。カイルは満面の笑顔だ。

「さて、ようやく策は成った」
「こういうのって、誰がトリを飾るかって割と重要だと思うのですよ。なので、くれぐれも綺麗にお願いします」
「あとは頼むね……謡!」
「────ああ。貴様等、援護は任せるぞ」

 死之宮・謡(狂魔王・f13193)とは、そういう形の存在だ。
 ここまでそれに気づかせなかったのは隠密結界を己の周囲に纏っていたからにすぎない。
 退屈げに細められた目が、七十の大剣に応じるグレムリンをじろりと見遣る。

「そして貴様は、此処が終点だ」

 当然だが、人の腕は二本しかない。
 『解体』を繰るグレムリンに、それ以外の特異は存在しない。
 
「此処から何処にも行けない。……ここで眠るがいい」

 どす、と鈍い音がして。
 グレムリンの胸元から謡の腕が生えた。
 彼女の腕は不滅すら滅ぼすと謳われる呪殺神槍レ・フィドラ。
 一度死に、骸の海から蘇ったオブリビオンなど何を況や。
 かは、と思った以上に軽い音と共に血を吐いたそれを謡は無造作に振り落とした。

「ご苦労、諸君」

 ブライダル小隊の作戦、これにて完了。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

狭筵・桜人
『冬寂』ねえ。私のようなド三流ハッカーでは
上っ面の情報しか拾えませんでしたけど。
まあしかし自ら死角を生み出したのは失敗でしたね。

遮蔽物を盾に、仲間の猟兵をすら隠れ蓑にして
認識されないように立ち回り【先制攻撃】を仕掛けます。

触れたものをすべて解体する能力。
無敵にも思えますが“触れる”というモーションを必要とするのならば
概念を認識させるより前に動きを止めます。

――UC発動。『虚の孔』。
確約2秒。ですが相手が相手なので今回は無茶してあげてもいいです。
体内UDCの【呪詛】を強化。……倒れたら拾っておいてください。
時間は大切に。この隙に動いてくれることを祈りますよ。

でないと数秒後に私がバラされるので。


花剣・耀子

触れたら終わり。
シンプルね。嫌いじゃないわ。

崩落の中でもその姿を見失わないよう注意を。
触れたら終わりということは、
触れる必要があるということでしょう?

その拳があたしに触れる前に、咄嗟にありったけの呪詛を壁に。
火矢に紙を立てるようなものだとしても、
解体という処理が挟まるなら稼げる時間は無ではないのよ。

おまえの因果をあたしは知らない。
まもりたかったひとを、なかまを、うしなってしまうこと。
ぜんぶおわってしまうこと。
それを判るとは、言わないわ。
あたしはまだ、其処に立ってはいないもの。

でも。
せかいを呪うなら、捨て置けないのよ。

無ではないなら充分。
あたしだって、触れたら斬れるの。
ねえ、シンプルでしょう。


●足元に陥穽

 『冬寂《ウィンターミュート》』。
 UDCアースには山ほどといっていいレベルで転がっている、邪神復活を目論む新興組織。
 ───以上、情報終わり。もっとがんばれよUDC組織。
 兎も角。
 狭筵・桜人(不実の標・f15055)にはその程度の情報しか拾えなかったが、そういう組織があることは事実であり。
 そしてこのオブリビオンが関係者であることも事実だというなら。

「あー、やめやめ。そういうの私の流儀じゃありませんし」

 ゆるく首を振って想像を吹き飛ばす。健康によろしくない。
 それより考えるべきは今目の前のどこかにいるであろう敵のことだ。
 触れたものすべてを『解体』する能力は、裏返せば“触れる”というモーションが必要だということ。
 ならば桜人にも取れる手段はある。
 普段ならとっとと尻尾を巻いて逃げ出すところだが……相手が相手だ。
 たまには、少しくらい、いいだろう。
 散歩の気軽さで踏み出す。
 隠れる場所を探すのは得意だ。そういうものだと認識されることも、また。
 必要なのは欺瞞と先手。
 たとえるなら、曲がり角で偶然ぶつかってしまうような気軽さ。
 瓦礫が落ちる。
 向こう側にいたグレムリンと視線を合わせて、そして笑った。

「そんなこと止めて、休憩にしませんか?」
「だ、れが────!!」

 【虚の孔(ブラインド・ミスルトウ)】。
 視線は接触よりずっと早い。
 琥珀色の向こう側に潜んだUDCの邪視が、不可思議の力でグレムリンを縛り付ける。
 確約できるのは二秒。それ以上は向こうの耐性の有無に左右される。
 だから餌をくれてやった。
 呪詛が密度を増す。グレムリンの足が一層重くなる。三秒を数えたところで思考は放棄した。
 人を呪わば穴二つ、呪詛には相応のものが返ってくるのが然り。
 反動で頽れる桜色を、踏み越えて揺れるプリーツスカート。

「……あとで拾ってください」
「考えておくわ」

 花剣・耀子(Tempest・f12822)は、《クサナギ》を握ってそこに在る。
 桜色から溢れる呪詛は、常人がその場に居れば即座に立っていられなくなる程濃密なそれだ。
 だが、それに浸っているのは耀子も同じ。
 桜人の齎した呪いに重ねた大蛇の呪詛を盾に距離を詰める。

「触れたら終わり。シンプルね、分かりやすいわ」

 耀子は、その名前を調べてはいない。
 だからグレムリンの因果を、悲劇を、怒りを、知らずにここに立っている。
 だから判らない。
 終わらないために、失わせないために、足掻いている最中の耀子にとって、その痛みは共感するものではない。
 ああなるのかもしれない、なんて余計なことに思考リソースを割いている暇はない。

「でも、」

 せかいを呪うなら。
 邪神に利するなら。
 それだけで花剣・耀子が───まつろわぬ剣が斬る理由になるのだ。
 呪詛の拘束が見る間に『解体』されていく。躓いた虚ろの穴は想像以上に時間を稼いでいる。
 無でなければ充分と思っていたから、それ以上まで届かせようと。
 真正面に一直線、耀子は瓦礫を踏んで駆けていく。

「あのね」

 エンジンが唸る。
 刃が力を増す。
 逸らさない視線は力強く、冷ややかなまでの静謐が合って。
 呪詛の拘束が『解体』される。
 得物のおかげで少しだけ長い耀子が間合いに入る。
 それを『解体』せんと伸ばされた指先を、咄嗟の呪詛が阻む。
 火矢に紙を立てるような、一秒にも満たない隙。
 それだけあれば十分と。

「あたしだって、触れたら斬れるの」

 おまえと同じ。
 シンプルでしょう?

 引き裂く動きのチェーンソーが一閃。
 ぱっと飛び散る血の色は、そればかりが人間めいて艶やかに。
 嗤う琥珀と冷えた青が見据える先で、女は散り逝く兆しを見せる。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

鷲生・嵯泉
奪われたものを奪い返す……其の行為自体を否定はせんが
過去の残滓と成ったものが為す其れを見逃せはしない
況してや奪うが命であるならば尚の事
其の凶行、此処で終いだ

些か厄介ではあるが……「解体」される前に相殺してくれよう
――伐斬鎧征、血符にて宿らん
第六感を集中し戦闘知識で図り、視線や気の流れ、得られる総ての情報から先読みし
カウンターのなぎ払いで以って攻撃の出を潰す
其の効果さえ消失が叶えば、残るは“普通”の攻撃
致命に至るものは見切り躱し、軽微なものは武器受けで弾き
衝撃波でのフェイント絡めて接敵し、怪力乗せた斬撃を叩き込む

理不尽に総てを奪われる、其の痛みは重々承知してれいばこそ
全く、目も当てられん愚か者が


クロト・ラトキエ
心は振り子
強く信じた分だけ、悲しみの反動は大きい
――って、誰かが言ってました

踏まれた瓦礫、散る砂礫
音、強さ、過る影…術式光
姿を捉えられずとも、
状況と情報から行方、進路、狙いを見切り、
知識と予測を基に対処と回避を

驚異たる異能
なのに触れる為には近付かねば…か

接近に応じ放つナイフ
振るう扇
狙うは常に放置しかねる急所
バラされるのは織り込み済み、端から破片も再利用予定
手数が命の暗器使い故に

どんなに速度を速めても、
どんなに反応し応じても、
手足の数は変わらない
解体という原理は変わらない

魔力込めた刃…否、欠片だけでも
只、影に落ちれば良い
それが己の業――UC

力を削ぎ、後へと繋ぐ


おいていかれたこころは
さみしいよ、な


●千切れた振り子は動かない

 踏まれた瓦礫、散る砂礫。
 音、影、術式光……それから、それから。
 姿を捉えられずとも、存在を感知する手段は星の数ほど存在する。
 触れなければ致命になり得ぬ、裏を返せば接近と接触が必要な異能の持ち主と……情報が知れていれば尚更に、彼らは僅かな痕跡から女の拳を紐解く。

「奪われたものを奪い返す……か」
「おや? 彼女に感じ入るものでもあったので?」

 一刀携え“騒がしい”瓦礫の向こうを透かし見る、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の漏らした言葉に。飄々とクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は振り返る。
 眼鏡の奥のひとみを細めた表情へ、隻眼が落とすは嘆息ひとつ。

「その行為自体は否定するものでもないだろう」
「まあ、確かに。でしたら今ここで僕を斬って向こうの味方になりますか?」
「……口にする冗談はもう少し選んだ方がいいぞ」
「ええ、承知しております。なんせ性分なもので」

 猟兵が、過去の残滓の行う凶行を見逃せるはずがない。
 ましてや奪うのが命であるならば、嵯泉にとってはなおのこと、止めるだけの理由がある。
 軽口で気を紛らわせ、隙がある風と見せつけて、瓦礫を踏む音を聞く。
 作った隙だと、向こうだって承知の上だろう。
 なおも突き通すのは食い破れるという自信と、それだけの鍛錬あってこそ。

「───シィッ!!」
「では失礼、っと」

 だから正面からはやり合わない。
 クロトが投げたのはナイフだ。即効性の神経毒はヒト型存在には効果覿面。
 だからグレムリンはクロトよりナイフへの対処を優先せざるを得ない。
 打撃音。極彩色は鮮やかに瞼の裏まで貫通する。
 『解体』されて散っていく鉄のいろに、誰も感慨を覚えはしない。

「壱では足りぬと。ではお次は、と」
「遅い」

 拳を受けたのは二藍の硝子──蜻蛉玉の下がる鉄扇。
 『解体』を受けた要の部分から砕かれ散るは正しき節理とばかりに。
 織り込み済みであるから、クロトが動揺することもない。
 バックステップ三歩、置き土産のナイフは悉く『解体』されて地に落ちる。

「どれだけ速度を上げようと。どれだけ反応しようとも」

 ・・・・・
 それでいい。
 それこそがクロトの狙い。
 魔力を込めた刃の欠片で影を縫い留め削弱を齎す苦の業。
 羈束、【玖式(ノイン)】。

「手足の数。そして『解体』の原理は変わらない」

 影を縛り、力を削いだ。
 僅かに沈む体、ワンテンポの挙動のズレ、散る瓦礫の数が証明する弱体に笑み一つ。
 そしてこちらにはまだ本命がいる。

「だから何だと言う!」
「───ああ。無意味と教えてやろう」

 血を注がれた黒符が燃えれば、【伐斬鎧征】───氣を纏った嵯泉はグレムリンと同じ速度領域に立つ。
 隻眼だからと言って動体視力まで売り渡した訳ではない。
 初手に比べて落ちた速度なら何を況や。
 後の先を取った刃に拳が重なる。触れた先から『分解』されるはずの刃はしかし、気功を斬り裂いて赤を散らした。
 痛みに目を見開いたのもつかの間。グレムリンは見抜いて呻く。

「……無効化か!」
「漸く気付いたか」

 『解体』の宿らぬ“普通”の攻撃なら、高速だとて白兵戦の挙動。
 この距離での交錯を捌けぬ理由がない。
 顎へのアッパーはのけ反り、逆に突き刺す刃は側面で弾かれる。ならばと出した足はダンスのようなステップで躱されて、絡め取られる前に離脱。
 達人同士の戦闘は舞踏の美しさに似る。
 それでも嵯泉の体が、武器が、『解体』されることはない。
 静謐な眼差しは一切揺らぐことなくグレムリンを見た。

 嵯泉は、理不尽に奪われる痛みを知っている。
 だから許せるはずがない。
 おそらくは彼女も、グレムリンも、分かっているはずなのだ。
 己も誰かの総てを奪う“理不尽”になっているという事実に。

「愚か者が」

 だから。
 嵯泉が過去に言えるのはそれだけ。
 断固とした踏み込みひとつ。たたらを踏んだ女へと、悉くを断つ刃が翳されて。


「……」

 心は振り子に似ているという。
 強く振れた分だけ反動も大きいと。
 信じて、預けて、好きでいて、……なのに、おいていかれたこころは。

「さみしいよ、な」

 男の言葉は届かない。
 大上段からの唐竹割りは、女の矮躯を引き裂くのみ。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

卜一・アンリ
七色に輝く魂晶石弾装填。
敵が接近する間に魔弾の色を二色に【多重詠唱】。
魔弾の色は金と紫。心に浮かぶは今しがた砕いた理想の世界。
敵の攻撃に【カウンター】【クイックドロウ】。
さっきの鏡の真似よ。
UC【強制改心刀】の居合で敵の邪心・戦意を削り
魔弾による、理想という【情熱】を煽る【精神攻撃】。

同じ理想を抱えてたからかしら。見え透いたのよ。
したかったんでしょう結婚式。
幾ら『解体』しても放せない理想。よくわかるわ。

だからそのまま理想に潰れて死んでしまえばいい。
残りの魔弾を【乱れ撃ち】、心身共に撃ち抜く。

…刀も想いも、我ながら酷い使い方。
本当、昔の『アンリはそんな娘じゃない』のにね。


水衛・巽

吊り天井とはなかなか粋な趣向で
しかし小細工を弄したこと自体
自信のなさを露呈している気がしますが
ええ、誰のことでしょうね

破魔と呪詛の防壁を重ね、脚力を限界突破
霊符をばらまいて攪乱しながら常に移動します
これなら二回まで接触に耐えられるうえ
生きている限り何度でも張り直せる

崩落する瓦礫の動きを第六感で先読みし彼女の視線を遮ったうえで
反撃に好都合な立ち位置を戦闘知識で探り
リミッター解除したUCで拘束する
タイミングを合わせられる方が居ればなおよいですが、さて

確かに貴女の拳は万物を破壊するでしょう
その域にまで異能を研いだことには敬意を表します
ですが触れること叶わなければ何ひとつなし得ない
そう、何も


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
起動術式、【嘆きの爪】
全方位に散れ。遮蔽物を壊し、出来る限り早く襲撃者を見つけ出せ
触れれば解体されるというなら、近づけさせはしない
本義は攻撃よりも妨害だ。あれの動きを阻害するように蛇どもを使い、呪詛の防御幕で時間を稼ぐ

どうせ解体されるだろうが、生憎とこいつは人の怨嗟が大元だ
貴様の恨みも怒りも執着も――愛も。全て使って無尽蔵に増え続ける
――人の想いってのは、いつだって足に絡みつくもんだろう
その蛇どもも、呪詛幕も同じだよ。貴様は己が情念に負けるんだ。私を殺さん限りな

――挑発が上手くいったなら、私の役目は充分果たした
……後は、この身が解体されるより先に、誰かがその背を取ってくれると
信じるのみ、だよ


●水無月の花嫁に最後の輝きを

 ───起動術式、【嘆きの爪(ナグルファル)】。

「全方位に散れ」

 命ずる言葉は氷の静謐を帯びる。
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、己の役割を挑発と妨害と心得た。
 術師に寄った適性の持ち主である彼に高速白兵戦闘へ対応できる身体能力はない。触れれば『解体』される。ドラゴンのバラ肉になるなどぞっとしない最期だ。
 だから、近づけさせなければいい。
 脳筋じみて素直な回答の下喚び出されたのは融けぬ氷で形成された蛇たち。瓦礫を超え、遮蔽を壊し、潜むグレムリンを探り当てる。

「なぁ貴様、隠れん坊で遊んだことはあるか?」
「生憎、生死を賭けた奴しかないかな!」

 近づく端から『解体』される?
 ならばその分送り込めばいいだろう。幸いにして餌は大量にある。
 力技も貫き通せるなら立派な戦術だ。放たれる氷蛇は『解体』されるも、その破片から新たな蛇が生成される。
 繰り返し、繰り返し。それだけなら千日手の光景も、他がいるからそうはなり得ない。

「吊り天井とはなかなか粋な趣向でした」

 足の止まった破壊者の拳など恐るるに足るものではない。
 それでも足を止めずに駆ける、水衛・巽(鬼祓・f01428)の手から放たれるのは束縛の意を籠めた霊符だ。
 氷蛇たちの隙間を縫い、時にそれらを隠れ蓑に、縛鎖の七星は狙いを定む。

「しかし小細工を弄したこと自体、自信のなさを露呈している気がしますが……」

 誰のことでしょうね? と零す笑みは挑発のそれ。
 氷蛇の向こう側、憎悪の籠る視線を遮るかの如く放つ符の乱舞は花吹雪めいて。
 恐れるべきは氷蛇よりも『解体』を縛る符の方であると、女の判断は素早く的確だ。

「なら、真っ向から破ってやるよ!」

 放たれるは拳が放つ衝撃波───【万象凍壊砲】!
 氷蛇を、符を、圧倒的な『解体』が薙ぎ払い、そのまま二人に狙いをつける。
 だがそれを指を咥えて見ているばかりでは猟兵などとは名乗れない。
 ニルズヘッグの指先が空をなぞる。引き出された情念──呪詛が物理的な衝撃をも阻む幕を張り。
 それが完成する直前、内側に滑り込んだ影ひとつ。

「巽!?」
「失礼、少々お借りしますよ……!」

 それを繰るのはニルズヘッグばかりではない。巽とて陰陽師、質は違えど類似を扱う術者だ。
 呪詛に呪詛を重ね、「異なるを阻む」という性質を強化。
 さらに外側に「ケガレを祓う」破魔を重ね、迫る攻撃に対する減衰と成す。
 重ねるのに使えた時間は三秒。
 衝撃。
 破魔と呪詛の複層防壁が揺さぶられて、砕け、しかし守られた二人にまで『解体』の理は届かない。

「助かったよ、巽」
「あなたに身を削らせてばかりではいけませんからね」
「……何の話だ?」
「今度は腕を飛ばすところだったんじゃないですか?」
「……『解体』されなくてよかったよ、とだけ」
「では、そういうことで」

 砕かれた防壁に、潜ませたのは【七星七縛符】。
 術式を手繰り、本体にまで届いた束縛が『解体』の理を封じ込める。
 そして、それさえなければこちらのもの。
 氷蛇達も本来の性能を発揮して、女の位置を暴き、牙を突き立て、身で縛り、磔に縫い留める。
 呪詛の根源とは即ち、怨嗟。 
 恨みも怒りも執着も、愛も、全てが氷蛇を生む材料である故に。

「――人の想いってのは、いつだって足に絡みつくもんだろう」
「そして万物を破壊する拳とて、触れることが叶わなければ何も為し得ない」

 縛り、凍らせ、封じてしまえば、それで最後。
 銃声は二発。
 瞬いた術式光は、紫と金の二色。

「あ、」

 ふっと、グレムリンの憎悪の視線が和らいであらぬ方へと逸れた。
 見えたのは白いドレス。
 幾人かの仲間たちと、手を差し伸べる彼の人と。
 そんな、いつか潰えた『理想』の────

「さっきの鏡の真似よ」

 だって、同じカタチだったのだ。
 家族に───大切な人たちに祝福されて、好きな人と迎える、あこがれの日。
 叶うどころか相手すらいないか、叶う直前で奪われたかの違いがあるだけで。
 だから彼女は、グレムリンを攻撃するのにこの銃弾を選んだ。
 使い手の心の色に染まり、その属性を行使する魂晶石弾を。
 
「したかったんでしょう、結婚式」

 静かに、けれど冷ややかに。
 呪詛氷を踏んで、卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)は退魔刀を握る。
 居合は真っ向からの力づく。
 斬閃は鮮やかに空と邪心を切り裂いて、惚けた女を氷のドレスに取り残す。

「……」

 酷いと、思う。
 父を思い出したくなくて封じている刀をこんな形で使うことも。
 悪意と怒りと恨みと憎悪で凝り固まったオブリビオンの、奥底に残った純な部分をこんな形で踏み躙ることも。
 
          ───『アンリはそんな娘じゃない』───

 いつか言われた声が聞こえた気がして、アンリは思わず口元を歪める。
 けれど。
 そう、けれど。
 オブリビオン───彼女の世界では影朧と呼ばれるソレを、放置する道理もまたない。
 向けるのは銃口だけでいい。
 降らせるのは、ライスシャワーではなく黄金の雨。

「そのまま───理想に潰れて死んでしまえ!!」

 悲鳴めいた絶叫が、最後を告げる引き金を引いた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

.



 千切れた糸を重ねても、
 春は決して始まらず、
 だから散るべきとされた華は、
 こころの置き場も知らぬまま、
 夢も置いていくしかなくて、
 足元の穴に落ちたから、
 千切れた振り子は動かない。

 金色の雨に撃たれた、“お嫁さん”になれなかった女は。

「やっぱり、アンタは来なかった」

 呟きひとつを残して、ばらばらに『解体』されて、骸の海へ墜ちて逝く。



.

第3章 日常 『ブライダルフェアに行こう』

POW式服を着てみよう。ドレス、白無垢、タキシード、紋付き袴。どれが似合うだろう。
SPD会場を見に行こう。チャペル、神社、高級ホテル、教会。どこがいいだろう。
WIZ料理を食べてみよう。和洋仏中伊、どんなコースなら満足だろう。
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ア・モーメント・ライト

 『雲の鏡へ言の葉映ししもの』、『冬寂の解拳『グレムリン』』───二つの脅威は猟兵達の手により撃退された。
 天井が崩落したホテルは老朽化による事故と処理され、修復に回されるらしい。
 来年か再来年には改装され、大いに賑わうことだろう。
 ……とまあ、煩雑な裏側の話は気にすることはない。
 
「ようこそ、ジューンブライダル・フェアーへ!」

 一糸乱れぬスタッフの敬礼。
 控えめな照明は温かみがあり、どこまでも落ち着く雰囲気を湛えている。
 なるほど、『理想の結婚式場』と言われて名が挙がるのも頷けるだろう。

「どうぞ、お好きなようにお楽しみください」

 例えば、会場。
 繊細な装飾を施した美しいチャペル。希望すれば提携している神社まで車を出してもらえるし、ガーデンパーティー用の庭園を散策してもいい。

 例えば、料理。
 和食、フレンチ、イタリアン、中華、エトセトラエトセトラ。コースを味わってもいいし、たとえばデザートだけを食べ比べてもいい。

 例えば、衣装。
 ウェディングドレスは白からカラーまで多種多様。タキシードももちろん、日本であるからには袴や白無垢も揃っている。希望があれば写真撮影も可能だ。

 乙女のあこがれ、あるいは誰かにとっては届かなかった理想。
 未だその未来にに辿り着くには遠くとも。
 どうぞ、今だけひとときの輝きを。


*****


●第三章について

・断章・フラグメントで示した行動は一例です。あまり囚われすぎず、お好きなように行動してくださって大丈夫です。
・することはひとつに絞って頂くようお願いします。
・グループ参加の場合、メンバー全員の呼称を表記頂けますと幸いです。
・当方のグリモア猟兵、穂結・神楽耶もお呼びいただければ同行します(お声掛けがなければ登場しません)。同行を希望される場合はプレイング内にどう呼ぶかの表記をお願いします。


◆第三章プレイング受付期間
【7月2日(木) 08:31 ~ 7月4日(土) 13:00】


.
榎本・英
【春嵐】

君が白の衣装を着てほしいとせがむものだから
白いタキシードを着てみたのだが……。

普段から着慣れない洋装
髪の毛までご丁寧に整えてくれたようだ

どうも落ち着かない
自分のこの格好も落ち着かないが
君が一体どのような衣装を纏っているのか
女性は支度がかかる事など知ってはいるのだが
それにしても遅いような……。

嗚呼。準備はできたかい?

目の前の君は幼い少女ではなく
一人の女性だった
言葉にできない
これは本番ではなく記念だというのに、妙に気恥しく

そうだとも。顔を覆ったさ
なゆ?!
声まで裏返る

これで記念撮影を?!
嗚呼。嗚呼。大丈夫だとも
これはまだ本番ではないからね
なななななな、なゆ、とても、きれっ

嗚呼。噛んだ。


蘭・七結
【春嵐】

常は和装に身を包むあなた
白を纏わう姿を見てみたかったの
どんな表情をしているのでしょうね

これはただの真似事だけれど
一度きりのあなたに出逢える
なんだかとても、胸が高鳴るよう

純白のAラインドレス
さくら色のお化粧を施して
結わう髪に牡丹一華を咲かせる
白を纏うのには慣れているけれど
少しだけ、落ち着かないの

お待たせ

――まあ、
大人なあなたをいっそう引き立てるよう
白い洋装もお似合いね
鼓動の音に支配されてしまうわ

惑うようなあなたの様相に頬が緩む
……ふ。ふふ、ふ
嗚呼、視界が滲んでしまう
泣いてなんていないわ

ねえ、少し屈んでちょうだいな
耳を貸して
あなたのまろい耳に囁きを捧ぐ
とても素敵よ、英さん

もっとよく、みせて


●春に嵐のなかりせば

「……落ち着かない」

 榎本・英(人である・f22898)の述懐は虚空に溶ける。
 その身を包むのは白のタキシード。
 常はふわふわと揺れる髪もワックスとやらで塗り固め、晴れの日の装いに相応しく整えられているのだろう。
 自分の容姿をまじまじと見る趣味もないから鏡はよく見なかった。スタッフの褒め言葉は馬耳東風と聞き流し、コートの裾をもう一度引っ張る。尻にまで当たる布地が落ち着かない。

「嗚呼。どうしたものか……」

 それもこれも原因は、あかいいとを結ぶ先───蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)の要望である。
 世界を超えても時代を経ても、それが模擬であっても、結婚式の主役は女性である。
 ゆえに彼女に「白を纏う姿を見たい」などとお願いされれば英に断る道理もない。
 それがどんなに落ち着かない格好でも。 
 どんなに待たされても。
 英にはたたぼうっと待ちぼうけるしかないのである。
 それにしたって遅い気がするが、女性の着替えを覗くのがよろしくないことであることくらい英にも分かっている。
 胸ポケットのハンカチーフを無意味に折り直していると、背後からヒールの音がひとつ。

「英さん、おまたせ」
「ああ、準備はできたかい? な、ゆ…………」

 振り返る。
 同時に目を奪われた。
 息が止まる。
 心臓の鼓動すら一瞬止まったかもしれない。

「────」

 無垢と純潔を象徴する純白は末に行くにつれ広がるように流れる。精緻な刺繍は絡まり合う蔦だろうか。
 白皙を引き立たせるための化粧は可憐に過ぎるさくら色。
 ヴェールはない。ゆるく結わえられた髪には常と変わらぬ牡丹一華。
 見慣れた少女は少しだけ気恥ずかしげに。
 けれどウェディングドレスを見事に着こなして、“一人の女性”は英にやわらかく微笑みを向ける。

「まあ、白い洋装もお似合いね。大人なあなたをいっそう引き立てるみたい」
「嗚呼…………」

 思わず顔を覆ってしまった。
 文豪の敗北である。
 ほんとうにうつくしいものを見ると、ひとは言葉を作れないのだ。

「……ふ。ふふ、ふ」

 けど、そんなの七結だって同じ。
 ドレスを選ぶときも、お化粧されているときも、ここまで歩いてくるのだってずっと心臓がうるさかったのだ。
 まるで鼓動の音に支配されているみたいな。
 死線の興奮とは異なる、あたたかな水の中で揺蕩っているみたいな。

「素敵よ、英さん」

 これは、ただの真似事だけど。
 英のそんな姿を許されるのは三十六の世界のどこを見回したって七結ひとりだ。
 さっきまでの緊張とは違う理由で胸が高鳴るのが分かる。
 視界が滲む。
 お化粧が落ちてしまうから決して泣きはしないけれど、勿体ないと思う。

「なゆ、泣かないでくれ」

 頬に触る、真新しいハンカチーフの感触。
 そのままそうっと七結の目尻に当たって、浮かんだ水を吸い取ってしまう。
 澄み切った視界には少しだけ目線を逸らした彼の姿。 

「……泣いてないわ」
「そうだね、泣いてしまったら私も困ってしまう」
「あら、どうして?」
「今日のなゆは、……とても、きれっ」

 嗚呼。噛んだ。
 落ち込んでしゃがみ込んでしまった英に、思わず七結は吹き出した。
 あざやかな白を纏っていても、彼は彼のまま。七結が隣に結んだ彼のまま。 

「とても素敵よ、英さん。……もっとよく、みせて?」

 ココロのままに囁いて、こぼれるような笑みひとつ。
 深々とため息をついて彼はようやく立ち上がって。
 
「嗚呼。すまないね、こんな顔を見せてしまって」
「ううん。さぁ、行きましょうか」
「行く? どこにだい?」
「記念撮影よ」
「記念撮影?!」
「……だめ、かしら」
「嗚呼、いや、大丈夫だとも。まだ本番ではないからね」
「『まだ』、……で、いいの?」
「…………」

 春に嵐のなかりせば、ココロを証明することもなかったろう。
 けれど天が咲いて春が降るから、めざめたふたりは手を繋ぐ。

「行こうか」
「ええ」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ティア・メル
円/f10932

ブライダルフェア!
うんうん、円ちゃんのドレス姿が見たいな
絶対綺麗だもん
未来の円ちゃんの旦那さんには悪いけど
一番最初に見ちゃおう

真白のドレスに海色の宝石を飾って
綺麗な眸を隠さないヴェールを

とーっても似合うよ!
うんと素敵な円ちゃんに抱き付いちゃう
えへへへ、ぼくも似合う?
お嫁に行くなら円ちゃんの所がいいー

チャペルの下で記念撮影
円ちゃんのきらきらした姿を撮っておきたいんだよ
寂しい時はこの写真をぎゅってするね

チャペルの下で愛を誓うよん
円ちゃん、だーいすきっ

ふふふ、りょうおもいだねー
あうー
円ちゃんが他の人のものになっちゃうの嫌だなぁ
今だけはぼくの円ちゃんでいてね
ぼくも今だけ円ちゃんのもの


百鳥・円
ティア/f26360

ハナヨメ体験!
折角ですからドレス着ましょーか

お褒めの言葉ににっこりですん
おじょーさんのお姿も見たいですね
一番を貰えるだなんて幸福の極み
どれも似合いそうです

揺蕩うクラゲのよーな愛らしさ
ふわふわフィッシュテールドレスはどうです?
尾鰭の飾りを添え
赤と青紫の耳飾りで彩りましょ

うーん可愛い!
おヨメに出したくないですね!
ぎゅうっと抱き返しです

おじょーさんも一緒に写りましょ!
忙しー時に写真を眺めたなら
お仕事もパッと片付きそうです

キュンってしました
狡いですねえ
知らぬ間に虜になりそーです
最高にキュートなあなたが好きですよ

今だけはどーぞ
わたしがあなたで満ちるように
あなたもわたしで満たしましょう


●誓いの言葉は期間限定

「ブライダルフェア!」
「ハナヨメ体験! 折角ですからドレス着ましょーか」
「さーんせい! 円ちゃんのドレス姿、絶対綺麗だもん」

 というわけでティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)と百鳥・円(華回帰・f10932)がいるのはウォークインクローゼット。
 とは言ってもそこはさすが高級ホテル、二人が並んで歩きながらドレスを吟味できるくらいには広い。
 軽口と同等に近くても褒められて悪い気はしない。二色の瞳を細めてにっこり笑う円にティアは弾むような笑みをひとつ。

「未来の円ちゃんの旦那さんには悪いけど、一番最初に見せてもらおっと」
「おやおや、一番を貰えるなんて幸福の極み。けどわたしもおじょーさんの一番ですからね」
「ほんとだ! 同じだね」
「ええ、おんなじです」
「それなら絶対円ちゃんに似合うドレスを探さないと……」
 
 むむむ、と気合を入れ直して真面目な顔になるティアに円はゆるやかな笑みひとつ。
 これだけ自分のことを考えてもらうというのも冥利に尽きる。
 楽しくなってしまって、ブーツのヒールで地面を一打ち。一歩進んで『それ』を示した。 

「揺蕩うクラゲのよーに愛らしいおじょーさんには、こんなドレスでいかがでしょう?」
「どれどれ? ……わぁ……!」

 可憐なつくりのドレスに目を輝かせるティアに手ごたえを感じて笑みひとつ。
 うんうん、と勢いよく頷く彼女は勢いのまま隣に並んだドレスを円へ示す。

「それなら円ちゃんはこれだ! 絶対綺麗だもん!」
「へぇ? ……なるほど、素敵な趣味です」

 近くにいたスタッフを呼ぶ。
 さすがに更衣室は別々だが、目的地は同じだ。

「着替えましょうか」
「うん! チャペルで会おうね!」





「わぁ! 円ちゃん、とーっても似合うよ!」
「おじょーさんも可愛い! おヨメになんて出したくないですねぇ」

 ティアが身に纏うのは円が選んだフィッシュテールドレスだ。
 純白に水色を一滴落としたペールブルー。尾鰭飾りが歩くたびに弾むから、跳ねるように歩く彼女にはよく似合う。
 編み上げられた髪から覗く耳には赤と青紫の耳飾りが控えめに、けれど確かな存在を主張する。
 同じ色のヒールで駆け寄ればつややかな足首が眩しく躍動する。

 円が着ているのはティアが選んだ純白のマーメイドドレス。
 幾重に重ねられたレースに波間を刺繍し、海色のスワロフスキーを縫い付けるから、光の加減が鮮やかな波紋を光と散らす。
 純銀の花冠から下がるヴェールは髪の上へ。編みこまれた銀糸が後光のようにひかりをつくる。
 海色を揺らした彼女は分かっていたように走ってきたティアを迎え入れて抱きしめ合う。

「えへへー、ぼくもお嫁に行くなら円ちゃんのところがいいなー」
「おやおや、それはそれは光栄な話です」

 一度身体を離して、二人並んでステンドグラスの下へ。
 記念撮影をしてくれるというからにはベストポジションはそこだろう。
 足元の絨毯は柔らかくて雲の上のようだったから。
 思わずティアは走り出した。

「おじょーさん?」
「円ちゃん」

 辿り着いたのは十字架の下。
 永遠の愛を誓う場所。
 本物にはまだ早くて、今だけでしかないとしても。
 ティアは満面に笑顔を浮かべて伝えるのだ。
 
「だーいすきっ!」
「…………」

 円があっけに取られたのはほんの数秒。
 それでも限りなく珍しい数秒を嘆息で吐き出して、絨毯を踏んで進んでいく。

「……狡いですねぇ。知らぬ間に虜になりそーです」
「えへへ。キュンってした?」
「ええ、とても」

 十字架の下に辿り着く。
 円は笑うティアの手を取って、目線の高さに持ち上げる。 

「最高にキュートなあなたが好きですよ、おじょーさん」
「ふふふ、りょうおもいだねー」
「ええ、今だけですが」

 くすくすと笑みを交わし合う二人の心は今だけ繋がる。
 だが、少しすればティアの表情は不安のそれに挿げ変わった。

「……円ちゃんが他の人のものになっちゃうの嫌だなぁ」
「あんな熱烈に言っておいて」
「そうだけどー。今だけはぼくの円ちゃんでいてね」
「ええ、今だけはあなたをわたしで満たしましょう」
「うん、今だけはぼくも円ちゃんのものだから」
「どうぞ、わたしをあなたで満たしてくださいな」

 手を取り合って睦み合う少女たちに向けられて静かにシャッターが切られたことなど、今の彼女らには知らぬ話。
 後日送られた記念写真は、寂しさを埋めて日々の活力と思い出を刻む。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

戀鈴・シアン
結婚式場
自分には縁遠いものだけど
いざ来てみると心も弾む

試着ができるんだってさ
写真も撮ってもらえるみたい
ね、お願いしてみようよ

ずらり並んだ和洋の衣装
どういうのが良いんだろう
イト、見繕ってくれる?

イトにはきっとこんなのが似合うだろうな
ふんわりとチュールがあしらわれたドレスに
透き通る眞白のロングヴェール
華飾りを散りばめて
どんな花嫁よりもずっと綺麗だ

ほら、行こう!
せっかくなので式場で撮影を
生みの親、夫婦の佳日の写真に倣って
こうしてると本当に夫婦になったみたいだ

イトがどう思っているかはわからない
でも、この先も家族として
ずっと寄り添っていけるのかな

……またその貌
少し寂しそうに見えるのはどうしてだろう


戀鈴・イト
【硝華】

すごい
結婚式場ってこうなっているんだね

そうだね、せっかくの機会だもの
シアンは和洋どちらも似合いそうで悩む
どちらも見たいというのが本当の所

一番目を惹かれたのは真っ白なタキシード
瞳に合わせて青い薔薇の飾りを付けたら素敵じゃない?
僕達の花じゃなく、別の花を飾るのも良いよね
情熱的な赤も似合いそうだ

そうかい?似合うかな
頰が熱い
君もどんな旦那様より格好いいよ

幾度も見た生みの親の夫婦の写真
真似て寄り添う

本物の夫婦になれはしないし
君の隣はいずれ違う人のものになる
わかっているから
今だけは夫婦の気分に酔いしれさせて

秘めた恋心が枯れる日は来ないだろう
痛む胸を押さえ隠して
ふんわり笑う

記念写真、大切にするね


●もしもの“いつか”を想って

 高い、高い天井。
 差し込む光はステンドグラスを越して七色に染まる。
 生前と並んだ椅子。何度も使われているから一層の深みを建物に与えている。
 ここはチャペル。
 家族になる男女が永遠の愛を誓う場所。

「自分には縁遠いものだと思っていたけれど」
「うん、すごい。……結婚式場ってこうなっているんだね」

 戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)の差し出す肘に手袋で包まれた手を添えて、戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)は同じ方向へ視線を向ける。
 そう、二人の身を包んでいるのは普段とは異なる白だ。
 和も洋も、さまざまなバリエーションでずらりと並んだ衣装。試着をさせてくれるというから、お互いに似合いそうなものをそれぞれ選んで身に着けて、二人は今ここに立っている。

「……うん、イトはどんな花嫁よりずっと綺麗だ」

 シアンは白いタキシード。
 ただでさえ王子様然とした彼が染みひとつない白を纏えば、それだけで侵しがたい花婿の姿だ。
 胸ポケットにはハンカチーフの代わりに造花の青薔薇を挿す。
 花に秘められたことばは『奇跡』、『夢叶う』。愛と言えば赤薔薇だが、青がトータルのバランスも丁度いいとスタッフもが太鼓判を押した。
 和装も見たかったけれど、そう生まれたかのようにしっくりくる。

「そうかい? 君も、どんな旦那様より格好いいよ」

 イトはプリンセスラインのドレス。
 ふんわりしたチュールをたっぷり重ねた裾には大小さまざまな花の模様をあしらって。
 髪に負けないくらい長いヴェールは透き通っているから、透かして華のかんばせを彩る。
 指先から肘までを包む白い手袋にすら細かな花の刺繍が施されているから、まるで花に包まれているかのような心地だ。
 ティアラ、イヤリング、ペンダントと揃えたスウィートピーのシルバーたちが熱を発しているような気がして頬が熱い。

「ありがとう。ほら、行こう!」
「うん」

 “結婚”という言葉は、二人にとって特別な意味を持つ。
 そもそも彼らが作られたのは恋人へのプロポーズの為で、その夫婦の生涯を見守ったが故に転じたヤドリガミが彼らだ。
 だから結婚式は、運命の赤い糸が辿り着くゴールにしてスタート。
 まさかこうして体験することになるなんて、夢にも思っていなかった。
 二人、手と手を取り合って隣に並ぶ。分かっていたように作った構図は何度も何度も見てきた持ち主たる夫婦の結婚式と同じものだ。
 シャッター音が鳴る。
 思わず目を閉じたくなるフラッシュにイトが身をすくめて、シアンが大丈夫だと手を握る力を強める。
 触れた左手には一対の指輪の感触があった。

「こうしてると……本当に夫婦になったみたいだ」
「……うん、そうだね」
「……イト?」

 シアンにとって、イトは家族だ。
 この先もずっと寄り添っていきたいと、ごく自然に思っている。
 恋を知らない少年は、ただその生まれた理由と添うた彼を守護すると誓っている。
 だから分からない。
 片割れが繊細なかんばせに浮かべた、諦めに似た寂寥の意味が。

「なんでもないよ、シアン」

 分からなくていい。むしろ分からないでほしいとイトは願う。
 赤い糸で結ばれた運命の夫婦に憧れている。
 イトが想うシアンとは、きっとそんな形にはなれないだろうとも。
 分かっている。
 いつかシアンの隣を知らない女性に譲る日が来たって、硝子の戀華に根付いた花が枯れる日は決して訪れない。
 だから、いまだけは。
 枯れない花のドレスの中心で、一対の指輪を胸の前で閉じ込めて、柔らかく微笑んだ。

「記念写真、大切にするね」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

卜一・アンリ
チャペルの様子を、他の猟兵が利用するかもしれないし隅で見ていたい。
それに独りでいたいわ。きっと今の私、此処に似つかわしくない顔してるもの。

目の前の素敵な光景が、憧れの何もかもが遠く感じる。
それもそうよね。こんな光景を過ごしたかった全ては今は文字通り別世界。
本当に…あのラビリンスに墜ちてから、随分遠くまで来たわね、私。

何気なく伸ばして、すぐに下ろす手を無意識に添えるのは悪魔憑きの拳銃…ではなく退魔刀。

なによ。あんな事の後にこんなもの寄越して。
名前まで偽って隠れてたつもりだったのに。

お父様の馬鹿。皆の馬ー鹿。
帰ってなんか、やらないんだから。
(呟く言葉は、誰にも聞こえない程小さく)


●不可能と不履行の断絶

「……」

 卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)は、その光景を見ていた。
 格式高いチャペルの隅。本体は招待客が座る為だろう椅子の一番後ろの右隅の席。
 伝統と憧れのAライン、ふんわりと可憐なプリンセス、すっきりと大人っぽいマーメイド、ゆらゆらと愛らしいフィッシュテールに一段とお洒落なエンパイア。色は白が一番多いが、淡いピンクがありペールブルーがありシャンパンゴールドがあり、どれだけ見ていても飽きないくらい。
 けれど、自分が着ようとは思えなかった。
 ドレスを纏ってチャペルで交わす誓いの言葉は、アンリにとっても憧れであったはずなのに。
 遠い。
 ひどく遠くて、届かない。

「……それもそうよね」

 笑みが湛えた色は自嘲だ。
 悪魔に血を与えた代償に、全身が発する痛みをやり過ごすのも慣れてしまった。
 悪魔憑きのアリスの故郷は、いまや文字通りの別世界。
 故郷のそれとは異なる景色に、文明に、目を細めて腰に手をやった。

「……なによ」

 その動きは自分にとっても無意識だったから、指先に触れた金属の感触に思わず毒が口をつく。
 めったに使わない、けれどいざという時に身を守る退魔の刀は何も言わずにそこに在る。

「ほんとう、なによ」

 銃は、黄金のアリスが得た力だ。
 刀は、娘の為に父が送ったものだ。
 ずっと修練していたのは刀の技で、銃はアリスになってから身に着けた技に過ぎない。
 だからアンリは、刀なんて持つつもりはなかったのに。
 
「…………」

 帝都桜學府を経由して送られてきた刀は、銘こそ切られていないが良い刀だった。
 名を偽り隠れた彼女まで届いたのは、なるほど客観的に見れば父の愛情だろう。
 そうだと信じ切るには、拒絶が痛すぎた。

「お父様の馬鹿」

 影朧なんて斬り倒さない、オブリビオンに怯えて逃げる××・×××はもういない。
 彼女と同じ顔をした卜一・アンリ……悪魔憑きのアリスは、悪夢のような現実からきっとどこにも帰れない。

「皆のばーか」

 少しだけ、お行儀は悪いけど。
 椅子の上で膝を三角に折って顔を埋める。

「……絶対、帰ってやらないんだから……」

 呟く声は、誰に届くこともなく。
 鳴り響く結婚行進曲に紛れて消えた。
大成功 🔵🔵🔵

茅場・榛名
キリノくん(f19569)と一緒 アドリブ可
鏡と異なる…『本物』と、デートできる日が来るとはね。
ボクがリードしたげる!…なんて。何気に初デートだから
楽しみにしてたというのもあるんだけどね
「キリノくんったら子供みたいにはしゃいで…。まぁ、らしいちゃらしいけどさ」

会場をあちこち見て回って、気になるものがあれば立ち寄る感じ、かな?
近いうちに…挙式をするつもりだし予備知識はたくさんあって困らないからさ。

あ、花嫁衣裳着て、夫婦で記念撮影もしなきゃ!
こんなに幸せで…いいのかな?
「この思い出を…決して忘れないようにする。いつか笑って語れるように」


キリノ・サーガスラーフ
榛名(f12464)と一緒に
アドリブ歓迎

誘われて来てみたけど……すごいね。こういうのテンション上がっちゃうよね!
ほら見てみて!すっごい綺麗な庭だよ!

恥ずかしながらこういうのに全く慣れてないから素直にエスコートされるよ
正直どんな景色でも綺麗だなーくらいしか分からないけど……榛名が楽しめたらいいかなって

キネンサツエイ?
……なるほど、思い出を形として残すってことか
いい?幸せが来たときは素直に喜ぶべきなんだよ?ってことでこれからもよろしくね


●光の降る方へ

「見てみて榛名! すっごい綺麗!」
「もう、キリノくんったら子供みたいにはしゃいじゃって……」

 先へ行くキリノ・サーガスラーフ(戯れの衝動・f19569)の幼い笑顔に、茅場・榛名(白夜の火狐・f12464)は嘆息しつつも追いかける。
 けれどその足取りは軽やかだ。
 顔に出さないだけで、榛名だって相当にテンションが上がっている。

「もう、先に行かないでよ。一緒に行こう?」
「うん、分かってる分かってる。榛名の好きなところに連れていってくれるんだよね?」
「もっちろん!」

 なんせ、二人の初デートである。
 鏡越しの理想像との逢瀬はそれはそれで楽しかったが、やはり本物の彼の手の感触は何にも代えがたい。
 軽く力を入れて引けば、笑って隣に並んでくれる。その温度が今は嬉しい。

「ここは……式場なんだっけ?」
「うん、結婚式って言えば名前が挙がるくらいには有名な場所」
「でも……外だよね?」
「最近はそういうパーティーもあるんだって」
「へぇ……」

 六月は春薔薇の季節だなんて、戦場育ちの榛名も殺人鬼のキリノも知らない。
 けれどその花が美しいということは分かる。
 緑の中にぽつぽつと咲いている薔薇の色合いはひとつとして同じものはない。
 それを右手に植え込みを進んでいければ、二人を迎えたのは薔薇で編まれたアーチ。
 そろって見上げて、ゆるく息を吐くタイミングすら同じ。

「綺麗だね」
「うん……ほんとうに、綺麗」

 分かるのはその景色の美しさだけ。
 陳腐な感想が、表現できる精一杯だ。
 咲き誇る大輪と絡み合う蔦を飽くことなく眺め、やがてどちらともなくアーチを潜って先へ行く。

「で、このあとは?」
「うーん……会場をあちこち見て回って、気になるものがあれば立ち寄る感じ、かな?」
「分かった。僕はよく分からないし、榛名が楽しめるコースでいいよ」
「あはは、責任重大だなぁ。それなら……」

 ホテルのフロアマップを思い出しながら数秒思考を巡らせる。
 ただ依頼帰りだからデート会場に選んだ訳ではない。
 今日のデートのもうひとつの目的。
 もうじき挙げることになる結婚式のために、予備知識を集めることだ。
 いけそうなところは回れるだけ回るべきだろう。

「チャペルとかホールとかの室内の会場見てー、料理の試食させてもらって、あっあと花嫁衣装着て記念撮影もしなきゃ!」
「会場と料理は分かるけど……キネンサツエイ?」
「衣装を着た写真を撮ってもらうの。今日の思い出にね」
「……なるほど、思い出を形として残すってことか」
「分かってもらえたようでなにより!」

 行こう、と引いたはずの手の力はしかし先ほどより弱々しい。
 地理を把握していないキリノは、ただ握った手へと力を籠める。

「榛名?」
「ボク……こんなに幸せで、いいのかな?」

 硝子越しの視線を爪先に落として、呟く声がひどく暗いから。
 そんな彼女にキリノが返す言葉なんて最初から決まっている。

「いい、榛名」
「……なに、キリノ」
「幸せが来たときは素直に喜ぶべきなんだよ?」

 キリノが手を引く。障害物があってはいけないから、榛名の視線は自然と前を向く。
 ホテルの自動ドアが開いて迎え入れられたロビーは広い。
 輝かしいシャンデリアに灰の髪を照らされながら、キリノは少しだけ唇の端を吊り上げた。

「僕だけじゃ行けないんだから。ほら、一緒に行こう?」
「……うん、うん……!」

 繋いだ手を握り返す。
 握ることにも、進むことにも、彼となら躊躇いはない。
 この思い出を、決して忘れないようにする。
 いつか笑って語れるように。
 だからどうか、これからも二人同じ道を。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
▶︎穂結を呼ぶ

落ち着いてくれ姉さん 多分死人は着せてもらえないから
大体おまえじゃ年齢足りてなくて無理だろ
ほらほら離れる離れる
欲しいなら今度似たようなの買ってやるから……駄目?何で……

穂結ー、穂結ー
いたいた。なー、穂結ってこういうの着たいと思うタイプ?
こういうのって特別なもんか?
普通の白い衣装じゃ駄目?
や、姉さんの乙女心が全然分かんねえから、レディに訊こうと思って

ドレスでもいろんな種類あるんだな
レディの拘りは底知れねえや
こっちの、しろむく。は、ニホンのやつか
確かに着物って感じだなあ

一生に一回――だっけ
そういう特別っての、羨ましい気はするけど
穂結は憧れとかある?
私は世界の愛と希望が最優先だなあ


●白に染まらず

 結婚式というのは、乙女の憧れである。
 表現できる言葉を知らずとも、その可憐さだけは何を言わずとも伝わる。
 だがその意味合いにまで共感できるかといえばそうでもない訳で。

「……姉さん、ほら離れる。第一、死人じゃ着れないだろ」
 
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、肩口に浮く姉へ声をかけて歩を進める。
 ぶーぶーと不満を主張する彼女だったが、その行く先に気付いて大人しく弟へと付き従った。
 描いたルートはウォークインクローゼットを通る方向。
 すなわち、煌びやかなドレスたちをじっくり見ることが出来るルートである。
 道の終わりが分からないほどぎっしりと、並べられたドレスはさまざまで姉の視線は忙しない。
 ビーズや銀糸できらきらするものがあり、レースや薄布でふんわりと飾られたものがあり、厚手の布を重ねて美しいドレープを作ったものがあり。
 もう少し先へ行けば着物……白無垢もいくつか並んでいるらしい。
 正直に言えば圧倒されるばかりだ。

「レディの拘りは底知れねえな……」

 ……だが、ニルズヘッグの肩にはそんな乙女の憧れに目をキラキラさせる姉がいるわけで。
 そして見ているだけで満足していられるならこうまでなっていない訳で。
 「ドレスを着たい」「あれが欲しい」と主張を始めるから、ニルズヘッグは肩をすくめる。

「欲しいなら今度似たような白い服買ってやるから……駄目? 何で……」

 姉の我儘は今に始まったことではないが、さすがにここまで理解が及ばないのも久しぶりだ。
 だいたい大人用サイズのものだと小柄な姉は絶対着れない気がするのだが。
 どうしたものか……と考えを巡らせる視界に、見慣れた朱色がひとつ。

「あ、いたいた。穂結ー」
「はーい?」

 呼べば振り向いてやってくる友達に、示すのは当然傍らのドレス。
 姉の霊はそれに合わせて浮いてみたりスカート部に潜り込んだりしているが、無垢なフリルは知らぬとばかりに其処にあるだけだ。

「なー、穂結ってこういうの着たいタイプ?」
「いえ全然」
「そっかー……そうだよなー……」
「何か困りごとでも?」
「姉さんの乙女心が全然分かんねえから、レディに訊こうと思って」
「ああ……」

 見えないのをいいことにドレスで遊ぶしろがねへ、焔色の視線が流れる。
 考えを巡らせること数秒、吐いた息は呆れた色を帯びた。

「そういうこと聞くならもっとレディらしい方に聞きましょうよ……」
「いや、だってレディだろ?」
「こういう『一生に一回』に憧れる女性らしさは持ち合わせていませんので」
「そっかぁ」

 何とはなしに並んで歩を進めれば、男女揃いのドレスとタキシードが展示されている。
 白を基調に淡緑を挿して、散りばめられたのは幸福を意味する四葉のモチーフだ。
 ヴェールを下ろす花冠へは硝子に遮られて触れることを許されない。

「そういう特別っての、羨ましい気はするけど……」
「ううん、全然。むしろそういう幸せを見守りたい方ですし。ニルさんもそうでしょ?」
「だよなぁ」

 個人の幸せより、世界の愛と希望が先立つから。
 きっとこんな幸いに手を伸ばせる日は遠くにある。
 きゃらきゃらとドレスと戯れる姉の声だけは近いから、ニルズヘッグはそっと目を伏せた。
 今は、それだけでしあわせなのだ。
大成功 🔵🔵🔵

鷲生・嵯泉
此れ以上用は有るまい
流石に似付かわしくないにも程がある
早々に切り上げ帰る事にしよう

……ふと目に留まる。純白の――

蘇る、自分が嫁いで来る時に身に付けていた物だと懐かしそうに語る声
息子の婚礼の際には妻と成る方に来て欲しいと思っていたと
広げた表を撫でていた白い手
そんな大事な物を良いのでしょうかと不安に揺れる問い掛けへ
嫌でなければ是非にと穏やかに笑う声が返されていた

――衣文に掛けられた白打掛に重なる幻

叶えてやる事の出来なかった、ささやかな約束
そうか、あれも灰と成ってしまって――…
1つ強く首を振って、其れから目を離す
いかん、幸せな未来の為の場で思い出す事では無いな
……矢張り私には縁遠い。退散だ


●埋葬の灰

 此れはね、と囁く声はひそやかだった。
 それでいてひどく楽しそうだった。
 子供は息子一人しかいなかったから、娘が増えるというのは喜ばしいことだったのだろう。
 思えば、二人の女性はよくよく言葉を交わしていたようにも思う。
 何を語らっていたのか、今はもう回顧するすべもないのだけれど。

 晴れた日差しも淡い昼、弾む声は語った。
 己が鷲生の家に嫁ぐ時にこの白を纏ったのだと。
 いつか遠い未来、息子の婚礼の際に妻と成る方に着てほしいと思っていたのだと。
 その為に大事にしていたのだろう。相当に年月を経ているはずの白はまだ鮮やかなままだった。
 このまま婚礼の場で纏ったとて、決して見劣りすることはないだろう。
 衣文に掛けられた布をそうっと撫でる手はふたつ。
 触れれば分かる「良い物」だったから、思わず離した片方をもう片方は微笑ましく見ていた。

 そんなに大事な物を良いのでしょうか、と問うた声は戸惑いだった。
 大事な物だから良いのよ、と返した声は慈愛だった。

 もちろん、嫌でないことが前提だけれど……と逆に返された問いかけ。
 もちろん、厭ではないですと微笑み返したかんばせの美しさ。
 それなら一番似合うようにしないとね、なんて笑い合っていた。

「────」

 ロビーに飾られた白打掛に、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は過日の幻を見た。
 鮮やかな鶴が縫い取られ、今にも飛び立たんとしている華やかな白が、あの日触れていた白と似ているかなど覚えていない。
 けれど、それは確かにあった思い出だ。
 すべてが灰と朽ちた日に、埋めてなかったことにしてしまった約束の一欠片だ。

「……そうか……」

 故郷が燃え落ちたあの日、あれも諸共灰と成ってしまったのだろう。
 叶えてやることができなかった約束。
 出来るなら叶えてやりたかったのに。
 古傷が疼く。
 どうして、己はこんなにも。

「……いかんな」

 ひとつ強く首を振る。
 幸せな未来の為の場で、恐らく辛気臭い顔をしてしまっていることだろう。
 似つかわしくないにも程があるから、意識して普段通りの厳めしい表情を形作る。

「……矢張り、私には縁遠い」

 黒い外套を逃げるように翻す。
 帰途に着く視線はもう、前しか見ていなかった。
大成功 🔵🔵🔵

氏家・禄郎
ネリー(f23814)と

結婚式前の衣装合わせというにはちょっと早いけれど、こういうイベントは大事だって昔教わってる

うーん、ネリーならどれでも似合うと思うんだけどなあ
やはり迷ってしまうかい?

……えっ、和装?
良いのかい、ウェディングドレスじゃなくて
君には君の世界があるのに、そこまで僕に合わせなくても……?
……そうか

意を決して、帯を締め、羽織りに袖を通すよ

どうだいネリー
……おい、ネリー?
どうした?
なあ、どうした?

ああ
ああ、よかったびっくりしたよ
そしてありがとう
君こそ、似合ってるよネリー……素晴らしい
四か月後の衣装はこれで決まりかな?


ミネルバ・レストー
禄郎(f22632)と

わたしが今年16になったら、式を挙げましょうねって
待たせているところだから衣装合わせにはいい機会ね
…ウェディングドレスに種類がこんなにあるなんて思わなかったけど
どうしよう、体型に合うものに絞り込んでもまだ悩んじゃう

ねえ禄郎、発想の転換はどうかしら
何もドレスにこだわらなくてもいいの
ほら、あなたの世界にぴったりの――和装よ

黒髪じゃなきゃ白無垢は似合わないかしら?
ちょっと心配だけど、それを確かめるための試着よね
ねえ、禄ろ――(紋付姿の最愛の人の姿を見て絶句)

…はっ、ごめんなさい
人はときめくものを目の当たりにすると意識が飛ぶのね
控えめに言ってカッコいいわ、ええ、最高…最高よ…!


●桜に染まる予行練習

「どうしましょう……」

 ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は、珍しく途方に暮れていた。
 ここはウォークインクローゼット。
 小柄なミネルバでも着ることのできるサイズのドレスはそこまで多くはないと踏んでいたのに。
 Aライン、プリンセス、エンパイア、etc,etc……。
 ずらりと並んだ白に歴戦たる彼女ですら圧倒されて、あちらへこちらへと目線を彷徨わせるばかりだ。

「うーん……ネリーならどれでも似合うと思うんだけどなあ」

 彼女の後ろで腕を組んで待つ氏家・禄郎(探偵屋・f22632)にとってもその悩みは同じだ。
 女性にとっては一世一代のイベントも、実は二回目になる彼である。
 とはいえ蔑ろにしていいものではないことも知っているから、野暮天は大人しく女性の身支度を待つだけだ。
 あっちへ行ってこれじゃない、こっちへ行ってこれもいい……悩む時間は乙女には短く男には長い。
 「よしっ」と決意の声が耳に届いて、禄郎はようやく腕組みを解く。

「ねぇ、禄郎?」
「お、決まったかい?」
「ええ、これよ」
「……えっ、?」

 禄郎が声を詰まらせたのも無理はない。
 なぜなら、ミネルバが示したのはドレスではなかったからだ。
 本当に珍しい恋人の驚く顔に、黄金の瞳は悪戯げに瞬いて笑みを形作る。

「あら。黒髪じゃなきゃ白無垢は似合わない?」
「いや、ネリーならどんな衣装だって似合うとは思うけれど……良いのかい、ウェディングドレスじゃなくて」
「何もドレスにこだわらなくてもいいじゃない。ほら、あなたの世界にぴったりだし」
「いや、君には君の世界があるんだからそこまで僕に合わせなくても……」
「いーいーかーらっ!」
「はい」

 彼女にここまで言われて反論できる男がいるだろうか。いやいない。
 スキップを踏みそうな勢いでスタッフに着付けを頼んだミネルバは更衣室へと消えていく。
 当然、禄郎も着なければならない。
 白無垢に合わせるならやはり紋付き袴だろう。
 幸い禄郎の体型なら丁度いいサイズがいくらでもある。
 薄灰の袴を履き、帯を締め、無難な黒羽二重の羽織に袖を通す。普段身に着けているのが洋装とはいえ、和の装いに慣れていないこととイコールでは繋がらない。
 気持ち皺を伸ばしながら、淑女の到来を待ちわびる。

「お待たせ、禄ろ───」

 声が途切れた。
 みるみるうちに頬が桜色に染め上げられる。
 年下の恋人の急変をわざと意に介さず、禄郎は片手を持ち上げた。

「どうだい、ネリー」
「…………」
「……おい、ネリー? どうした?」
「…………」
「なあ、どうした?」
「はっ」

 肩を掴んで軽く揺さぶって、ようやくミネルバは帰ってきた。
 禄郎へと焦点を結ぶ瞳にはわずかに照れが残る。
 実のところ、彼女が禄郎の和装を真正面から見るのはこれが初めてになる。悪い訳はない。むしろとてもいい。
 荒ぶる鼓動を無理矢理押さえて、万感の溜息ひとつに変えて、ミネルバは心からの笑顔を浮かべた。

「ごめんなさい……人はときめくものを目の当たりにすると意識が飛ぶのね……」
「いや、そんな状態になるとは寡聞に知らないが」
「わたしがそう思ったの! 本当にカッコいいわ、ええ、最高よ……!」
「お姫様に喜んで頂けて恐悦至極。君こそ、」

 そっと距離を一歩取る。恋人とは近くに居たいものだが、あまり近くても彼女の姿を見ることはできない。
 ようやく観察することができたミネルバの白無垢は、なんて。

「似合ってるよネリー……素晴らしい」
「ふふ、そうでしょう? わたしには何だって似合うんだから」
 
 清楚だ。
 純白ではなく一滴の桜色を落とした白はあるべきそれよりずっと華やかで、目を惹く彼女によく合っている。
 刺繍の模様は桜。満開のそれは彼女を象徴する花の片割れであり、禄郎の故郷たる世界に冠された名前。
 模擬だろうがお試しだろうが、複数ある和装からその花を選んだ意図を解さぬ男ではない。
 さすがに角隠しまでは用意しきれなかったようだが……それは“本番”まで待ったっていい。

「それじゃ、四か月後の衣装はこれで決まりかな?」

 ミネルバはまだ十五歳。結婚できる年齢になるまであと約四か月。
 ここを会場にするかはともかくとして、衣装合わせも兼ねたデートだったのだが。
 男の問いかけに、果たしてミネルバは悪戯っぽく首を傾げた。

「あら。かわいい恋人の晴れ姿が一着きりで満足なのかしら?」
「……素直に僕の格好いい服装をたくさん見たいって言ってくれてもいいんだよ?」
「……ふふっ、それもそうね」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

カイル・サーヴァント
【名前呼び】【ブライダル小隊】

謡と七十と一緒に式服を着て式体験

きっちりと白のタキシードを身に纏い、髪は首筋で一つに纏めて。着替え終われば二人のドレス姿を想像してそわそわと落ち着かない

出てきた二人の姿に言葉をなくし、
(二人ともすごくきれー…)
頬を赤くしながら見とれてしまう
声をかけられ正気に戻ればその後式場で二人と指輪交換の体験をさせてもらう

最初は謡と
今度は体験じゃなくてちゃんとしたものをしよーね?
と、満面の笑顔を浮かべ

次に七十と
七十もおよめさんにきてくれればいいのにー?
と、にまにまと悪戯っ子の笑みで


体験を終えて会場から出る時に、入り口で二人に振り替えると
謡、七十…すきー♪
と、満面の笑みで言った


死之宮・謡
【ブライダル小隊】【名前呼び】

折角だから七十も巻き込んで愉しもうじゃないか

カイルと一緒に七十を更衣室に引っ張り着替えさせる
自身も影から取り出したウェディングドレスを身に纏い
(七十も満更でも無さそうだし…よしよし)
それじゃあカイルの下に向かおうか

世界線によってはこの程度なら普通に有り得るぞ?故に、気にする必要はない

嗚呼、そうだな…準備は出来ている。後は、時が満ちるのを待つだけだ…だがまぁ、其れもそう遠くはないだろう…
愉しみに待つと良い…(慈しむように透明な笑みを浮かべ)

七十も満更でも無さそうだな…実に良い…
(此方も悪戯気な笑みを浮かべながら魔術にて映像記録を残し)


神咲・七十
【ファーストネームをさん付け】【ブライダル小隊】

付き添いのような感じでついてきたはずなのですが・・・
いつの間にか、お二人に押され、私もウエディングドレスを着ていましたね・・・
(お相手がいないので着る機会とかないと思っていましたが、いざ着てみるととても綺麗ですね。それとなんというか、緊張と高揚感がすごいですね。)

指輪交換相手が二人って、かなり不可思議な光景ですね。

・・・(本当にこの人は・・・)
こういう状況でそのようなこと言わないでください。
本気にしたくなるじゃないですか(小声)

カイルさん、とても幸せ気持ちになるように最後の言葉をお願いしますね♪


●いつかの未来に幸せの形を残して

「~♪」

 カイル・サーヴァント(盾の守護獣・f00808)がその身に纏うのは白のタキシード。
 長く伸ばされた髪をうなじでひとつに束ね、チョッキは己を象徴する淡い水色。胸ポケットには係員から貸してもらった赤と黒の薔薇の造花を挿す。
 普段女物の服を着ることが多いからあまり慣れてはいないのだが……永遠の生涯を誓った伴侶と気になる女性の為ならこの位なんでもない。
 整った容姿の二人だから、きっとドレス姿はさぞ綺麗なことだろう。
 巡らせる想像はとめどなく、カイルの鼓動を否応なしに早めていく。

「あの、今更ですけど私付き添いだったはずなんですけど……」
「何、折角の機会なのだから無碍にすることはあるまい。ほら、カイルが待っているぞ」
「ちょっと謡さん、待ってくださ……」
「あっ、謡! 七十…………わぁ……」

 足音に振り向いた、カイルの息が止まったのも無理はない。
 なんせ、二人の美しさはカイルの予想など遥かに超えていたからして。

 先導する死之宮・謡(狂魔王・f13193)が纏うのは影で編んだAラインのドレス。薄く紫がかった色合いが、黒の魔王には純白のそれより良く似合う。
 髪こそ束ねていないが、飾られた薔薇の瑞々しい美しさが褪せることはない。
 愉悦に滲む口元は幸せいっぱいの花嫁像からは程遠いが、その方が彼女らしさを見せつける。

 一方で連れられた神咲・七十(まだ迷子中の狂食者・f21248)は薄く頬を染めていた。
 高い位置にウェストを置いたエンパイアドレスは上品なシルエットで、神秘的な七十の雰囲気を引き立てる。
 胸元には薔薇をあしらったレースが重なり、白い肌に文字通りの華を咲かせる。
 まさか自分が着ることになるとは思っていなかったのだろう、緊張と高揚が形作る硬い表情はまさに初々しい花嫁そのものだ。

「どうだ? カイル、七十に何か言ってやったらどうだ」
「え、あ……二人とも、すごく綺麗だよ!」
「あ、ありがとうございます……」
「フフ……」

 初々しい二人の姿に謡は笑みひとつ。先導するように式場へ向かうから、自然と二人も付き従う形になる。
 いくつか体験はできるが、三人が選んだのは指輪交換だ。

「……指輪交換の相手が二人って……かなり不思議な光景ですね」
「そうか? 世界線によっては普通に在り得る。七十が気にする必要はない」
「そうそう。みんなが好き合ってるならボクはそれでいいと思うよ」

 誓いの象徴たる十字架の下にカイルが立つ。
 用意されていたシルバーを手に、まずは謡の方へ一歩。

「……今度は」
「うん?」
「今度は体験じゃなくてちゃんとしたものをしよーね?」
「嗚呼、そうだな……」

 影で編まれたものとて、謡自身であるそれにカイルが触れることを躊躇うことはない。
 指先の布が影と解けていくのを見送って、永遠を誓った指輪を左手の薬指へと差し入れる。
 僅かに冷たいそれが己の温度に混ざってひとつになる愉悦に、謡は微笑んだ。
 絶望と破滅の申し子にあるまじき、慈愛に満ちた透明な表情で。

「準備は出来ている。後は、時が満ちるのを待つだけだ……」
「うん、待たせちゃってるのはすごく申し訳ないんだけどね」
「構うことはない。それほど遠いということもないのだから……愉しみに待つと良い」
「謡がそういうなら、もちろん!」

 満面の笑みをひとつ返して、今度は七十へと歩み寄る。
 カイルが浮かべた表情は質を変え、今度は悪戯っ子めいたそれだ。

「七十もおよめさんにきてくれればいいのになー?」
「……あれだけ見せつけておいていうことがそれですか」
「え、ダメだった?」
「駄目です。こういう状況でそのようなこと言わないでください」

 本気にしたくなるので、とは口にしなかった。
 返事と言うように薬指へと差し入れられる金属の感触がくすぐったい。
 物を知らぬ七十でも、これが美しく、幸せな光景であることは分かる。
 カイルの熱を帯びた指先が離れていく。薬指に光る銀色に、七十はわずか唇を綻ばせた。

「どう?」
「……まだ足りません」
「え?」
「カイルさん、とても幸せ気持ちになるように最後の言葉をお願いします」
「え、えっと……」

 突然の振りにうろたえるカイル。その様子に助け舟を出すこともなくにまにまと笑うだけの謡。赤い瞳をじっとカイルの方へと向ける七十。
 息を吸う。二人の瞳を覗き込んで、カイルは満面の笑みを浮かべた。 

「謡、七十」
「ああ」
「はい」
「───大好きだよ!」


 ……なお。
 この時の様子が実は謡の手によって撮影されており、事実に気付いた七十が暴れるのは……また別の話である。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

リル・ルリ
🐟櫻沫

櫻宵と一緒に模擬結婚式を見る

真っ白な教会に白百合の香り
賛美歌が響いて―真ん中の道を歩く2人
わぁ!綺麗
厳かな空気に胸が高鳴る
櫻宵の横で初めて見る光景に瞳を煌めかせる

なのに櫻は心ここに在らず
櫻宵!て強く腕を引く
…僕から目を逸らしてほしくないのに
理由は知ってる
深くは触れず
頬だけ膨らませ

結婚式はごーるときいた
そうなのかな?
僕も櫻宵と同じ意見だ
新たな一歩を踏み出して一緒に歩むんだ

耳に届いた言葉に唇尖らせ

じゃあしようよ
僕と
眩しいくらいしあわせな結婚を
…なんてね
櫻、真っ赤で可愛い
期待した?

余所見の仕返し
…本気だけど
照れを隠すよう先に游ぐ

ドレスの試着も撮影もその時までお預け
君と愛を誓いあう、その日まで


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

―結婚を、考えたことが無いわけではなかった

白いチャペルで行われる模擬結婚式を見ながら思う
結婚を考えたひとが嘗て、いた
その女は私が、喰い殺してしまったのだけど
彼女を失いたくなかったわ私が
全てを壊して―いいえ
壊したのではなく
私のものにした
永遠にあいを誓うように
もう離れないように

噫、リル
ごめんなさい
手を引かれ、膨れる人魚に微笑みかける

結婚式はゴールでなくてスタート
ふたりで歩む新しい未来への
何だか眩しいわ

私だって
しあわせな結婚をしてみたい

え?
ゑ??
リル、それは
もう!大人を揶揄をものではないわ

早鐘うつ心臓と熱い頬を誤魔化すように人魚を追う
けれど
リルの一言でこんなにも幸せ
頬が緩む

ねぇいつか
一緒に、


●いつか蕾は花開く

 真っ白な教会を満たすのは白百合の香り。
 パイプオルガンが荘厳な音色で賛美歌を奏でる。
 軋み一つなく木製のドアが開いて、白い衣装を纏った二人が進み出る。
 厳かな空気を壊すことなく、しずしずと丁寧に。

「わあ……綺麗」

 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は初めて見る光景に胸を高鳴らせる。
 空気がきらきらと眩しくて、なのにどこまでも澄んでいて、ずっと見ていたって飽きないくらい。
 だというのにリルの隣は静かなまま。
 誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は心此処に在らずといった無表情で、模擬結婚式が流れているのを眺めているだけだ。
 そこに過る色が気に入らなくて、思わず腕を引いた。

「……」
「櫻宵? ねぇ、櫻宵ってば!」
「! 噫、リル……ごめんなさい」
「それはいいけど……」

 頬を膨らませるリルだって、櫻宵のことは分かっているから深くは掘らない。
 彼には、嘗て結婚を考えたひとがいた。
 櫻宵は彼女を喰い殺した。
 失いたくなかったから、己の糧にした。
 もう、決して離れないように。
 永遠のあいを誓うように、櫻は彼女との未来を壊した。
 竜の愛情は、ひとを壊すだけだった。

「ねぇ、櫻宵」
「なあに、リル」
「結婚式はごぉるなんだって。そうなのかな?」
「そうね……」

 リルの問いかけは話を逸らす為だったのだろう。
 櫻宵にとっても有難いことだったから、視線を前へと向けた。
 白いヴェールが花婿の手によって持ち上げられる。花嫁を今日まで守ってきた「愛情」を開いて、今度は夫となるべきひとが守るという象徴行為。
 その眩しさに、櫻宵はそっと目を細める。

「私は、結婚式はゴールでなくてスタートだと思うわ。ふたりで歩む新しい未来への第一歩」
「そっか。僕も櫻宵の意見とおんなじ。新たな一歩を踏み出して一緒に歩むんだ」
「リルの言う通りだわ。これは模擬、偽物だけど……本当なら、きっと幸せになるのね」

 誓いの口付けは、まるで完成された絵画のよう。
 美しく、幸福そうで、まるで模擬とは思えないくらいだったから。 
 櫻宵が零したのは無意識だった。

「私だって、」

 しあわせな結婚をしてみたい。
 二人の新しい未来へ踏み出していく、その象徴たる式をしてみたい。
 退場していく花嫁と花婿を見ている櫻宵は、隣のリルが唇を尖らせたことに気付かない。

「じゃあしようよ」
「……え?」
「僕と」
「ゑ??」
「眩しいくらいしあわせな結婚を、したいんでしょう?」
「リル、それは、」
「なんてね。櫻宵ったら真っ赤でかわいい。期待した?」
「! ちょっと、リル! 大人を揶揄うものではないわ!」

 いつの間にか模擬結婚式は終わっていたから、カップルが少しくらい騒いだって誰も気に留めない。
 くすくすと笑う声を上げながら人魚は游いで逃げていく。
 そんな年下の恋人を櫻龍は慌てて追い駆ける。
 二人の頬が同じくらいにあかく染まっていたことを、二人だけが知らない。
 
 余所見の仕返しは、揶揄いではなく本当の気持ち。
 照れくさくって誤魔化してしまったけれど、いつかと思う気持ちは変わらない。
 リルの心はいつだって桜の彩で満たされている。
 
 未来の約束は決して怖いばかりではない。
 櫻宵の頬は自然と緩む。
 怖いくらいに幸せで、痛いくらいに満たされている。

「リル! 待ちなさい!」
「櫻宵が早く来て捕まえればいいんだよ!」

 いつの間にか、追いかけっこはただの戯れに変わっていた。
 今の二人はそれでいい。
 愛を誓いあうその日まで、ドレスの試着も撮影もお預け。
 だからいつか。
 その日が来たら、なにもかもを一緒に。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

カイム・クローバー
仕事の報告書はUDCの知り合いに丸投げして、会場でも見に行くか。…いつもなら飯の誘惑に飛び付くトコだが。今はそんな気分にはならなくてね。

ガーデンパーティ用の庭園の散策。豪華なモンだ、と思いながら歩き疲れを感じ、手近な椅子に腰を掛けて。
訪れる客を眺めてた。幸せそうな顔をしていた。──中には喧嘩してんのか?と疑いたくなるカップルも居た。が、男が困ったような表情で謝ると機嫌悪くそっぽを向いていた女性に笑顔が戻る。
本気で怒ってた訳じゃねぇようだが、ありゃ、今後も男は頭が上がらねぇな、なんて思いつつ。
不意に二度殺した親友の言葉が蘇る。

ああ、大事にするさ。そっちに行ったら自慢してやる。楽しみにしとけよ?


●回顧録はまた明日

「へぇ……綺麗なモンだな」

 もし、彼を知る者がいれば目を疑ったかもしれない。
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が食事ではなく散策を選ぶだなんて!
 だがそんなことに突っ込む同行者は生憎存在しない。提出義務のある報告書も知り合いに丸投げしたから、今のカイムは珍しくフリーだ。
 眺めやる景色は、ガーデンパーティー用の庭園。
 今が盛りと咲き誇る薔薇の花達はそれだけで会場に文字通りの華を添える。
 だが、大人数を想定してだだっ広いそこを飽くことなく歩いていればさしものカイムとて疲労感が溜まってくるのも然り。
 手近な椅子に腰かけて、サービスのレモン水に口をつける。
 用意されたテーブルに肘をついて、庭園を散策するカップルたちの姿を眺めた。
 誰も彼もが、幸せそうだった。
 そりゃあ、こんなところに来るようなカップルは裏返せば近々結婚を考えているのだろうから笑顔に溢れていて当然かもしれないが。それはそれとして人の笑顔にはつられて嬉しくなってしまうもので、ついついレモン水が進む。
 と。

「お?」

 幸せそうなカップルの中、不満げな表情をした女性がいれば否応なく目立つ。
 男性を置いて先に行こうとしているのは、もしかして喧嘩でもしているのだろうか?
 なんとなしに見守っていると、後ろから追いついた男性が女性の手を掴む。
 耳元へと囁いた言葉は謝罪か、はたまた愛の言葉か。
 不満げな表情が一転。花咲くような笑顔になって手を繋ぐからこちらまで嬉しくなってしまう。

「ありゃ、男は今後も頭上がらねぇな……」

 まるで自分と彼女の関係のようだと、思わず笑みを零して。
 不意に、二度殺した親友の声が脳裏に蘇った。

『カイム、嫁さんは大事にしろよ?』
「───ああ」

 声は、もう思い出の中にしかないけれど。
 彼に恥じないように生きていくことはできる。
 レモン水を飲み干して席を立つ。
 今日の空は良く晴れていて眩しいくらいだから、きっと彼にも届くだろう。

「大事にするさ。そっちに行ったら自慢してやる。だから、ゆっくり楽しみにしとけよ?」
大成功 🔵🔵🔵

リューイン・ランサード
【竜鬼】

ひかるさんと一緒に結婚式の衣装を着ます。
ここは和装で。
紋付き袴はサムライエンパイアで見た事がありますが、着るのは勿論初めて。

翼や尻尾の問題は衣装係さんと相談して何とかクリアし、ひかるさんの白無垢姿を待ちます。

ひかるさんの可憐な白無垢姿を見て、思わず胸が高鳴る。
巫女さんの服もよく着ているから、和服の着こなしが見事ですね♪
「とても可憐で可愛らしいです♪」と素直に称賛。

折角の機会なので、記念撮影したいです。
という訳でホテルの方にお願いして、神社まで送って頂き、拝殿を背景に写真を撮って頂きます。

撮影時はひかるさんの肩を抱いて、「ひかるさんの角を貰い受ける時を楽しみにしています♪」と笑いかける。


荒谷・ひかる
【竜鬼】

リューさんと二人で、結婚式の衣装を着てみます
わたしの故郷のものに近い、和装……白無垢、気になってたんです

係の人に着付けてもらい、待っているリューさんの元へ
子供っぽくないかないっそ真の姿になった方が……とか思いつつとても緊張
でも素直なリューさんの言葉に「色々心配して損しましたっ」と言葉でだけ拗ねて微笑みを向けます
その後は神社へ行き記念撮影を

ところで、姉さんから聞いたわたしの生まれ故郷の村の話なんですけれど
羅刹は婚姻の時に角を一本切り落として、配偶者に預けるという風習があるそうです
幽世から常世へ存在を近づけるという意味があるんだとか
いつか本当に結婚するとき、受け取って頂けたら嬉しいです


●いつか、未来でもう一度

 乙女の憧れは、決してドレスだけではない。
 むしろ「こんな時にしか着られないから」と、和装を希望する女性も多い。
 荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)もその一人。
 サムライエンパイアの出身である彼女にとって、婚姻の衣装と言えば白無垢だ。
 恋人まで同じ和装に付き合わせてしまったのは少しばかり申し訳ないが……
 折角の機会だ。彼の笑顔に甘えて、ひかるは白い打掛に袖を通す。

「ど、どうでしょう……」

 ところで、ひかるはまだ十四歳。おまけに同世代の平均と比べても小柄な方だ。
 いっそ真の姿になった方が白無垢は似合うのでは……との考えも、着付けられてしまえば時すでに遅し。
 一番小さいサイズの白無垢は、まるであつらえたようにひかるの身体を包み込んだ。
 
「わぁ……」
「? あ、リューさん……!」

 そして、それを一番に見る権利を有しているのは当然彼しかいない。
 リューイン・ランサード(竜の雛・f13950)は己も紋付き袴を纏って、白を纏ったひかるを見た。
 恋人としての贔屓目? あるに決まっている。
 それを抜きにしても尚、胸の高鳴りを抑えることが出来そうにない。
 ならば隠す必要もないと、向ける言葉は真っ直ぐに。

「とても可憐で可愛らしいです、ひかるさん」
「そ、そうですか……?」
「はい! 巫女さんの服をよく着ているからでしょうか、着こなしも見事で」
「あ、ありがとうございます。色々心配して損しましたっ」
「? 何がですか?」
「なんでもありませんっ!」

 言葉ばかりは拗ねた口調で、けれど表情は花嫁衣装によく似合う笑顔のまま。
 そうして視線を向ければ、彼の衣装も目に入る。
 和服の中でも最も格式高い装いなんて、当然着るのは初めてだろうに。
 ほう、と吐いた恍惚の溜息だけが明瞭だ。

「リューさん、も」
「はい?」
「その恰好、よくお似合いです……」
「本当ですか? ありがとうございます!」

 さて。折角の機会を物として残す為にも記念撮影は大事だ。
 紋付き袴と白無垢なのだから、向かうのはホテルと提携した神社。
 折よく青空の覗く晴天だったから、傘やその他の煩わしいものは必要ない。
 人によっては動きにくさを感じる和装だって、普段から着慣れているひかると素のスペックは高いリューインの歩みを邪魔するには至らない。
 さくさくと境内を埋める小石を渡り、本殿の前に立つ。
 
「リューさん」
「はい?」
「突然なんですけど、姉さんから聞いたわたしの生まれ故郷の村の話をしてもいいですか?」
「もちろんです。なんでしょうか」

 機材の調整には少し時間がかかるから、立ち位置だけは自分たちで調整して。
 ふとひかるが切り出した話題に、リューインは素直に耳を傾ける。

「羅刹は婚姻の時に角を一本切り落として、配偶者に預けるという風習があるそうです」
「ええっ!?」
「ふふ、リューさんったら驚きすぎです」
「す、すみません。でも、どうして……?」

 羅刹の角と言えば、かの種族の象徴たる部位だ。確かに複数本生えている者もいるが、彼女のそれは一本きりだろうに。
 動揺の分かりやすいリューインの表情に軽い笑みをひとつ。姉の語る声を思い出して言葉を繋ぐ。

「それはですね。幽世から常世へ、存在を近づけるという意味があるんだそうです」
「そう……なんですね」
「だから……いつか本当に結婚するとき、受け取って頂けたら嬉しいです」
「はい」

 そこまで言われて否やを言えるほど、リューインとてヘタレではない。
 そっと少女の華奢な肩を抱き寄せる。
 抵抗なく、ひかるの軽い体はリューインの腕の中に収まった。

「ひかるさんの角を貰い受ける時を楽しみにしています」
「はい、……わたしもです」

 機材の準備が済んだと、係員の声が聞こえてくる。
 せっかくだから、最初の一枚はこのポーズのままで。
 いつか折れた角を手に、今日のことを思い出そう。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

リア・ファル
SPD
(お任せ。他がなければ神楽耶さんもどうぞ)

ブライダルスタッフっぽい
黒のフォーマルにレイヤ変更!

ヒトの幸いに華を添えるっていうのは良いね
料理とドリンクは提供させてもらおう
UC【我は満たす、ダグザの大釜】!


理不尽に沈み哭くヒトは、少しでも少ない方が良い
誰かには届かなかった情景でも
他の誰かがソレを得ちゃいけない、なんて言うことはないさ

(ボクはカンタンに消滅するように創られてないし)
ボクの無茶ひとつでソレが守れるなら安いモノだよ……っと
(今の呟きは失言だったね、誰も聞いてませんように!)

っと、お仕事お仕事。
花嫁衣装に気があるのなら、ボクのオススメを斡旋するし
映像演出と写真や動画もサービスするよ?


●明日を残す為の今

 ひとときの日常を満喫する方法はひとつに限らない。
 リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)にとってのそれは、いつだって人の為になること。
 という訳でレイヤーを黒のフォーマルに換装。
 ブライダルスタッフの装いに変身した彼女は、お盆の上に料理を乗せてあっちへこっちへ忙しない。

「うーん、ヒトの幸いに華を添えるっていうのは良いね!」

 が、少し忙しいくらいのことで戦艦の化身たる彼女が疲れることはない。
 料理を運んだついでに飲み物の残量を確認してお代わりを勧めるなんて序の口。空いた食器を下げて食洗器に入れて稼働開始、取って返したキッチンで丁度仕上がったメインディッシュを運んでいき、どんな料理なのかをお客さんへ説明。空いたジュースの瓶をまとめて下げてゴミ捨て場へ持っていく。
 その忙しさこそ、リアも望んだものだったから。笑顔が自然と浮かんでくる。

 だって、みんな幸せそうだ。
 一般のお客さんも、猟兵達も、裏方のスタッフたちに至るまで全員。
 幸せな未来を導くための場で、俯いているひとなど一人たりとていない。
 それでいいのだとリアは思う。 
 たとえば誰かに届かなかった景色だとして、ほかの誰かが得てはいけないなどという道理は絶対にない。
 理不尽に沈み哭くヒトは、少しでも少ない方が良いに決まっている。
 過去のそれを救い出すことは出来なくても。
 未来にひとつでも笑顔を残していくのが、リアの建造された意味だと心得る。
 “今を生きる誰かの明日の為に”。
 自分が頑丈に出来ていることは知っている、だから。

「ボクの無茶ひとつでソレが守れるなら安いモノだよ……っと」

 思わず口元を手で覆って周囲を見回した。
 幸い、こちらを気にする人影も見知った顔ぶれの姿もない。漏らしてしまった呟きは誰にも聞こえていないだろう。
 それでいい。
 そうしてほしい。
 “戦艦”の役割なんて、そんなものだから。
 レイヤー換装したヒールで地面を叩く。今やるべきことのために、リアは笑顔で声を張り上げた。

「いらっしゃい、『Dag's@Cauldron』だよ! 花嫁衣裳の斡旋、映像演出に写真と動画もサービスしちゃうけど、どうだい?」
大成功 🔵🔵🔵

水衛・巽
うろ覚えですが
「6月に結婚する花嫁は幸せになれる」とか、そういう話でしたか
個人的には幸せ以前に梅雨で式自体が大仕事な気もしますが
そこは触れずにおくのがお約束なのでしょう

今後の参考にしようにも姉達は既婚ですし
妹達は言うまでもなく先なうえ
自分にも縁遠い世界の話なのですが
綺麗なものは好きなので色々と拝見させてもらいます

猟兵仕事をしていると
人として当然の幸福を見るよりも
それが壊れ失われる不幸を見るほうが遙かに多い

自分にとり別世界の話とは言っても
誰かが幸福そうにしている光景を見るのは良いものです
潤うと言うか、癒されると言うか

まだそれを「良い」と思えるくらい
人間性を喰らわれていないと安堵する程度には


●境界線の此方と彼方

 何故ジューンブライドという、「六月に結婚する花嫁は幸せになれる」という伝承があるのか。
 発祥であるヨーロッパでは逆に最も雨が少なく、天気の良い日が多い時期だからとか。
 そのヨーロッパで、六月は結婚を司る女神が守護しているとの謂れがある月だとか。
 そんな解説が乗ったパンフレットを片手に、水衛・巽(鬼祓・f01428)は「へぇ」と呑気な声を上げる。

「だからといって日本でもやることはないと思うんですけど、ね」

 本場ならともかく、こちらでは梅雨の時期である。
 不安定な天候で服装選びひとつ取っても大変だろうし、せっかく着飾ったとて濡れてしまっては台無しだ。
 とはいえ、そんな思考を巡らせる巽にとって今は遠い話。
 四人の姉は全員が既婚者だし、七人いる妹たちにはまだ早い。そんな相手に恵まれない己は何を況や。
 そんな彼がこの会場に残っているのは、ひとえに趣味だからである。

「……ああ、良い光景です」

 視線を上げる。
 晴天に恵まれた今日、チャペルの高窓を彩るステンドグラスからはとりどりの光が差し込む。
 スポットライトめいた七色に照らされて、白いドレスを纏った女性達は思い思いのポーズを決める。
 真面目腐った顔。弾けるような笑顔。ブーケで顔を隠してしまう人がいれば、そんな女性の耳元に何事か囁きかけて真っ赤にしてしまう男性まで。
 ウェディングドレスの試着と、記念撮影。
 文字にしてしまえばそれだけの出来事が、しかし巽の視界の先ではそれぞれの物語と綴られる。
 いいな、と。もう一度唇だけを動かした。

 猟兵仕事とは、誤解を恐れず言えば悲劇を防ぐことだ。
 だから見つめるものは、ひととして当然の幸福が壊れ失われる光景ばかり。当然の幸福を守る側でありながら、それを見つめられることは多くはない。少ないと言ってしまってもいいくらいだ。
 自分にはまだ遠い、別世界のものだとしても。 
 此処にある光景が間違いなく幸福で、尊いものだと解るから。

 ───それを、まだ「良い」と思えている自分に安堵する。

 潤えている。癒されている。
 水衛・巽は、まだ「正常」の側にいる。
 あの普遍的な幸せを得ることが無くとも、それを守る側にいられるから。
 刻み付けるように、確かめるように。
 もう一度、「いいな」と言葉を吐く。
大成功 🔵🔵🔵

花剣・耀子
そうね。よきものを摂取して帰りましょう。

結婚なんて一番縁の遠いものだし、
あこがれも理想もそこに置いてはいないのだけれど。
それはそれとして、きれいなものやしあわせなものを見るのはすきよ。

神楽耶ちゃん、おひまですか。
残務処理は置いておいて、今はおひまよね。そうよね。あたしはくわしいのよ。
気分転換にお散歩はいかが?

庭園をのんびり回りましょう。
今の時分だと何が咲いているかしら。
花はすき?
あたしはすきよ。
普段触れるのは、お供えや送るものばかりだけれど。

咲いて、散って、また廻る。
……、……今日還した過去だって。
きっといつかは、帰るべき場所へ帰るのでしょう。
そのためにあたしたちが居るのだもの。

おつかれさま。


●希望を持ち帰る

 結婚になんて縁は遠い。
 あこがれも理想も『そこ』に置いてはいない。
 花剣・耀子(Tempest・f12822)は刀だ。そういう風に自身を定義している。
 だからこのフェアーに個人的な望みをかけてはいないのだけれど。
 それはそれ。
 自分のものではなくても、きれいなものやしあわせなものを見るのは好きだ。
 今日はよきものを摂取して帰るとしよう。

「神楽耶ちゃん、おひまですか」
「? え、ええと、残務処理がちょこっと……」
「つまり今はおひまなのね。気分転換にお散歩はいかが?」
「! はい、お供します!」

 というわけで、やってきたのはガーデンパーティー用の庭園。
 大人数を想定しているのだろう会場は広いから、ゆったりした速度で歩くには丁度いい。
 長い髪を風に遊ばせながら視線はあちこちの花を見る。

「六月だから、紫陽花が咲いていると思っていたのだけど」
「ほら、紫陽花って土壌で色が変わってしまいますから。あまりこういう場には向かないんじゃないですか?」
「なるほどね。けど」

 咲き誇るのは春の薔薇。
 桃色。オレンジ。朱で縁どられた白。薄緑。
 主張しすぎない淡い色合いは、きっと主役たるカップルたちを引き立てるためのもので。
 強すぎない香りが心地よい風に乗るからつい息を吸いたくなってしまう。
 吐く息を、隣を歩く同僚への問いかけに変えた。

「神楽耶ちゃん、花はお好き?」
「ええ。見ているだけで心が和みますよね」
「あたしもよ」

 と言っても、普段触れるのはお供えや送るためのものばかり。
 根付いた花に触れ得る機会は滅多にないから、瑞々しくもやわらかい色合いについ視線が行ってしまう。
 きれいだと、素直にそう思う。

「……」
「? 耀子様?」

 きれいなものはあっという間に通り過ぎる。
 この景色を見られるのも、今だけなのだろう。
 けれど、花の在り方は見られるだけではない。
 咲いて、散って、種をつけて、また廻る。

「……今日還した過去だって」
「はい」
「きっといつかは、帰るべき場所へ帰るのでしょう」

 それは骸の海かもしれない。
 はたまた、名も知らぬ虚無かもしれない。
 もしかしたら地獄と称される場所かもしれない。
 けれども、それらが世界を侵すなら。
 開いたそれを散らして還すが猟兵の使命。
 そのために、自分達がいるのだから。

「神楽耶ちゃん」

 言うべきことはただひとつ。
 花の香りをいっぱいに吸って、耀子は小さく笑った。

「おつかれさま」
「───……はい。耀子様も、おつかれさまでした」



 誰かの理想が叶わなくても。
 いつかの花が咲かなくても。
 光は潰えて、花嫁の月は終わる。次の季節がやってくる。
大成功 🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年07月07日
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵