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「いってらっしゃい」(作者 月光盗夜
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 とん、とん、とん。2日前から、少女の部屋の天井を、ダレカが踏み鳴らす音がするようになった。
 かり、かり、かり。昨日から、少女の部屋の扉を、ダレカが引っ掻く音がするようになった。
 そして今日。

『あー、けー、てっ』
『あーそびーましょっ』
「やだやだ、やだよぉ……! 帰りたいよぉ……!」
 少女は部屋の片隅で、布団をかぶってガタガタと震えていた。扉のすぐ外にナニカがいる。聞こえて来る声はこちらの庇護欲を誘うような可憐な幼子のものだが、少女の何か超常的な感覚が、ソレはよくないものだと告げていた。
 扉が開いてしまえば、ここではないどこかに連れ去られてしまう。そんな気がした。

 何がいけなかったのだろう。
 厳しくも優しい職員さんたちにもっと頼っていればよかったのだろうか。
 それとも、お節介で騒がしくも、仲間思いな友人たちに悩みを打ち明けていればよかったのだろうか。
 ダメだったのだ。新しい家族たちは、少女にとって、本当の家族ほど、心を許せる相手ではなかった。

「帰りたい……! 助けて、おとうさん、おかあさん……!」

 大切な仕事の休みに、一緒に川釣りに出かけて、滑りそうになった自分の体を抱きとめてくれた、父の頼もしい手はもう握れない。
 今思えばあまりに幼い不平不満をぶつけるたびにとことんまで真摯に語り合ってくれて、最後には優しく笑いかけてくれた、母の声はもう聞けない。

 震える少女を抱擁するように、さらさらと、爽やかな風が吹いた。
 気づけば、扉の向こうにいた怖いナニカの気配は消えていて。部屋の中であるにも関わらず、どこか暖かな気持ちに誘う、夏の日差しが少女を照らしていた。

『――もう、大丈夫。おかえりなさい、怖がらなくていいんだよ』

 ――ちりん。風鈴の音が静かに響く。


「夏だねー、みんな」
 そんな呑気にも聞こえる言葉とともに、ウェンディ・ロックビルは今回の事件について説明をはじめる。
「今回の事件の舞台はUDCアース……ただ、アリスラビリンスも関係してくる感じだねっ。アリスラビリンスについては知ってるー?」
 無数の不思議な国と呼ばれる小世界によって構成される複合世界。アサイラムと呼ばれる場所から召喚された異世界人が、人喰いのオウガから逃げ惑う、幻想的な外観とは裏腹の死と隣り合わせの世界である。
「そう。そのアサイラムが今回、UDCアースにも見つかったんだ」
 どうやらこれは以前から時折確認されている現象らしく、厭世観や疲労、身近な人との確執などの、心の傷をもつ人物がアリスとして選び出され、その人物のいる病院や孤児院といった外界から隔絶された空間がアサイラムと化すことがあるようだ。
「今回予知に現れた女の子――天神・もねちゃんって言うんだけど、今いる施設に馴染めなくて、アサイラム化に取り込まれちゃったみたい」
 もねは次第にアリスとしての適合が進んでおり、それが完了したならば、不思議な国に連れ去られてしまうだろう。
 では、そのアサイラム――養護施設に向かい、彼女を助け出せばいいのかといえば、ウェンディは悩ましげに吐息を漏らす。
「それがねえ、ちょっとだけややこしくて」
 曰く、ユーベルコードの力はオブリビオンを引き寄せる場合がある。もねもアリス適合者としての力――“ガラスのラビリンス”だと思われる――に目覚めかけており、自身の周囲にラビリンスを展開しているようだ。
 その力に反応したUDCが、養護施設にやってくるのだという。
「そのUDCはね――『向日葵』」
 『向日葵』。基本的に害意はなく、訪れた者の望郷の念を刺激する異界に閉じ込めるだけの異質なUDCである。
 現在は、『向日葵』の展開する異界の中にラビリンスごと取り込まれることで、もねが不思議な国に連れ去られるのは先送りになっているようだ。
「結果的に、『向日葵』ちゃんの力で、もねちゃんは守られる形になってるわけだけど……だからといって、このままにもしておけません」
 なぜなら、いくら優しい世界であろうと、UDC存在の生み出す異界は歪んでいる。そんな中にずっと取り込まれていれば、脱出する気力も奪われ、いずれは人ではなくなってしまうことだろう。
「だからみんなには、『向日葵』ちゃんの生み出す異界に侵入してから、『向日葵』ちゃんを倒して、その上で、もねちゃんを助けてもらう必要がある、かな」
 優しい世界を壊す覚悟はあるか、とグリモア猟兵は問いかける。

「ん。それじゃあ、具体的な作戦内容について説明していくね? まず、みんなが辿り着いた時点で、既に施設は『向日葵』ちゃんに刺激されて現れたUDCによって支配されちゃってます」
 そのUDCは『黄昏』。逢魔時ともよばれる、夕暮れの時間そのものがUDC化したような、空間と一体化するタイプのUDCである。
「外は真昼なのに、施設に入ったら夕陽が差し込んでるんだよ。びっくりだよねぇ。……えっとね、そういうわけで、敵は空間と一体化してるから、倒すのがとっても難しいです。なので、みんなは施設の中にある、もねちゃんの部屋にたどり着くのを最優先してください」
 もねの部屋にたどり着けば、そこから『向日葵』の異界に突入できる。『向日葵』を撃破すれば、施設を包む『黄昏』も終わりを迎えるはずだという。
「もねちゃんの部屋から『向日葵』ちゃんの異界に突入したら、あとは彼女を倒すだけ。……なんだけど、『向日葵』ちゃんはみんなの故郷や家族を想う気持ち……郷愁の念ってやつにはたらきかけてくるから……その、ね」
 くれぐれも心を強く持って臨んでほしい、とウェンディは言う。
「『向日葵』ちゃんを倒したら、いよいよもねちゃんの“ガラスのラビリンス”にたどり着くはずだよ。みんなは迷宮のゴール……出入口から逆走する形で、中心部にいるもねちゃんの救出に向かうことになると思う」
 UDCを倒しても、彼女の救出が間に合わず、アリスラビリンスへと連れ去られてしまっては目的達成とは言えない。最後まで気を抜くべきではないだろう。
「作戦は以上です! 出現するUDCの特異性もあって、ちょっと大変だと思うけど。みんな、気をつけてね」
 そう言って、ウェンディは猟兵たちを送り出した。





第3章 冒険 『ラビリンスを突破せよ』

POWとにかく諦めずに総当たりで道を探す
SPD素早くラビリンスを駆け抜け、救出対象を探す
WIZラビリンスの法則性を見出し、最短経路を導く
👑7

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ここに優しくも先のない、『向日葵』の異界は焼失した。いよいよ残すはアリス候補、天神・もねを救出するのみである。
 UDCを撃破した猟兵たちは合流すると、迷宮の出入り口となっている、もねの部屋の扉を開く。すると、そこに待っていたのは――。

 青々とした木々で織り成される、植物の迷宮であった。曲がり角や、壁となる植え込みの一部には、向日葵をはじめとした花が植えられており、鮮やかな色どりを見せている。
 アリス適合者の多くは、硝子による迷宮を生み出すと聞くが、もねはどうやら、本人の嗜好に加え、『向日葵』の異界に取り込まれていた影響で、植物の迷宮を生み出すに至ったようだ。

 ともあれ、迷宮が何によって作られていようと、猟兵たちのやるべきことは一つ。迷路を辿り、中心部にいるはずのもねを救うことである。ある意味で彼女を護っていた『向日葵』の結界がなくなった今、アリスラビリンスに彼女が連れ去られる前に、急ぎ迷宮を突破しなければならない。
 また、グリモア猟兵の説明によれば、この迷宮はもねの心の象徴。ゆえに、もねに対して語りかけを行えば、近道がわかるかもしれない。
 猟兵たちは、迷路へと足を踏み入れた。
※補足
 断章でも簡単に説明のある通り、迷宮の主であるもねに対して、有効な説得や語りかけを行うことができれば、効率的に迷宮を踏破することができるでしょう。
 ただし、もねに対する語りかけを重視せず、各々の手段で迷宮攻略することを重視していただいても勿論構いません。お好みでどうぞ。