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エクスペルテン・オブ・ザ・デッド

#アポカリプスヘル #オブ・ザ・デッド

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#アポカリプスヘル
#オブ・ザ・デッド


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●グリモアベースにて
「みんな、ゾンビって平気?」

 そういえば一応グリモア猟兵だったイサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)はそんな問いかけと共に、自身の要請に応じてくれた猟兵たちそれぞれを見回すように視線を巡らせた。

「わたしは平気。どんな相手だって死ぬまでタマ撃ち込めばちゃんと死ぬもん」

 見た目ちょっとグロいけどねー、なんて小さく付け加えながらも年相応に悪戯っぽい表情を浮かべるイサナであるが、やがて本題に移るべくこほん、と小さく咳払いをひとつして見せた。傍らのテーブルに置かれたノートパソコンを叩けば、画面に映るのは荒れ果てた荒野にぽつんと存在する小さな集落の様子だった。

「あのね、アポカリプスヘルで生存者たちがひっそり暮らす小さな集落があるんだ」

 みんなに行ってもらいたいのは其処なんだよ、と続けるイサナの指が流暢にキーボードを叩き、次の画面に切り替わる。其処に表示されるのは、荒野を金切り声を上げて全力疾走する老若男女入り混じった集団の様子。よくよく目を凝らせば、それが真っ当な人間などでない事はすぐに分かるだろう。……そしてそれは最早生きてすら居ない。無惨に破れ、彼方此方には乾いた血液の跡も痛々しく染み込む着衣、理性など最早感じられようもない白濁した目、損傷し、あちこち剥がれ落ちた皮膚、所々が腐敗を始めた肉体――――そう。これはまさしく。

「……はい、ゾンビだよ。今回は走るタイプだね」

 わたしは歩くほうが好きなんだけどね、と付け加えつつもイサナの指は更に踊る。少女の小さな指がキーボードを叩き続ける音が室内に微かに響く。

「こいつらが集落の方に移動中。鉢合わせしたら、ひとたまりもない。
 生きてる人間が妬ましいのかな?まあ、理由はわかんないけどね。
 ともかく、皆にはこのゾンビを退治してもらいたいんだ」

 画面に表示されるのは、この状況で生存者たちを護るために推奨される行動プランの数々。バリケードなどを作り、敵の侵入を阻む。或いは罠や武器を設置してゾンビたちを迎撃し、その数を減らす。或いは女子供や老人などの戦う力を持たない非戦闘要員たちの保護や避難誘導……などなど。

「一体一体は大したことないよ。でも、走るからね。
 普通のゾンビよりもパワフルだと思う。それに数も多いね」

 とりあえずは集落の人たちを護ってあげるのが第一目標ね、と告げるイサナは少し考え込んだ後に少々不安げな表情を見せながら更に小さく付け加える。

「ゾンビへの備えをした上で、押し寄せるこいつらを撃破。
 でも、それだけじゃ終わらないんだ。
 たぶん、こいつらを倒した後にもっと強いオブリビオンが攻めてくる」

 それが何かまではわたしにもまだちょっと分からないけど、と呟くイサナはノートパソコンを畳み、依頼に臨もうとする猟兵たちへ向き直る。彼女は改めてその隻眼で猟兵それぞれを見渡した。

「ともあれ、アポカリプスヘル復興はみんなのおかげで着実に進んでる。
 この調子で今回も無事帰ってきてほしい」


毒島やすみ
 はじめまして。或いはいつもお世話になっています、毒島です。好きなゾンビ映画はナイト・オブ・ザ・リビングデッドです。ショーン・オブ・ザ・デッドも大好きです。それはさておき、懲りずにアポカリプスヘルでの依頼になります。

 第一章では襲撃される予定の集落の防備をあの手この手で固めてください。提示されたプランはあくまで参考にして、思いつく行動を取ってみましょう。
 第二章は集団戦、走るゾンビがわらわら群がってくるので撃破していきます。
 第三章はボス戦です。詳細不明の強いやつを撃破しちゃいましょう。

 それでは皆様のプレイングをお待ちしています。
 今回もどうか広い心でお付き合いください。
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第1章 冒険 『襲撃に備えろ』

POW   :    バリケードを作ったり、建物の補強をする

SPD   :    罠や武器を作り、設置する

WIZ   :    敵の進行経路を予測し、非戦闘要員を避難させる

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一寸の虫にも五分の魂
「……大量のゾンビが此処を襲ってくるって!?」

 突然の報せに、集落の長を務める壮年の男は途端にその顔色を青褪めさせた。ただ日々を懸命に生きることで精一杯の彼らに、防衛の余力があるとは到底言い切れない。嘗ての文明の名残とも言える、なけなしの建造物とそれをありあわせの廃材で補強した粗末な家々が点在する小さな集落を絶望が包み込む。然し、その絶望をひっくり返すために君たち猟兵はこの集落に訪れたのだ。

「……そうか、君たちが……。オレたちの為に、戦ってくれると言うのか?」

 一騎当千の頼れる「傭兵」たちが現れたことで絶望一色に染まりかけていた彼らの心に差し込む一抹の希望。ソーシャルディーヴァたちが敷いた通信網によって繋がれた猟兵たちの活躍譚によって灯された、その小さな火を絶やす事はできない。それが大きな炎になるまで、猟兵たちは戦い続ける。

「オレの名は出番・是武(でばん・これだけ)だ。
 ささやかながら君たちに協力させてほしい」

 ただ守られるだけでは申し訳が立たない。せめて村長として、一人の男としての譲れない誇りと、そしてなけなしの勇気を振り絞った男は君たちに告げる。

「オレだけじゃない。この集落の人間のことは自由に使ってくれ。
 オレを含めて30人くらいの人手だが、みな積極的に手伝おうとする筈だ。
 何せ自分の命が懸かっているからね」
才堂・紅葉
「本当に走ってるわねぇ」
荒野の高台からゾンビ軍団を見やり、呆れ声で告げる
ゾンビは歩く方が好みだ

蒸気バイクによる【偵察】でゾンビ達の動向を【情報収集】
現在位置、進路、到着予想時刻を【戦闘知識】で分析し地図に記入しておく

「定石は外しませんが、今回はこちらも有効ですね」
定石通りのバリケードの構築を手伝いながら、幾つか罠を提案する
走ると言う特性を逆手に取り、足を引っ掛けやすいU字金具の埋め込み、首や足首の高さに鋼線を張る、単純な引き起こす仕組の尖った鉄パイプの槍衾等を皆と【メカニック】で作成したい
後は資材を用いて簡易な誘導路を作り、ゾンビ達を一箇所に纏めて殲滅する下準備を【拠点防御】知識で行いたい


シャルロッテ・ノワール
心情:「いくらこの世界が飢えているからって…平穏は壊されて良いものじゃない…よね」


行動:
「敵の進行経路を予測し、非戦闘要員を避難させる」に挑戦するね。
 ユーベルコード【召喚:影の斥候】を使い、走り続けるゾンビ達の経路観測と、それに対しての避難誘導を最優先で行うよ。
借りられる人員は一部を借りて避難させ、彼らも最終的には無事撤収させる…
最終目標は、一人でも多く生存させる事、だし…
 その為なら、ある程度の怪我や些細な失敗はやむを得ないけど
仲間や村民の被害を減らす一助になれば、幸いですね。

台詞例:
「正面から真っ直ぐ突っ込んで来ると思ったけど…死者なりの、考えっていうのがある…のかしら…」



●Running to the straight
「本当に走ってるわねぇ……。私も歩く方のゾンビが好みなんだけど」

 集落より少し離れた高台から双眼鏡を覗き、荒野を全力疾走するゾンビたちの大群の姿を確認する才堂・紅葉(お嬢・f08859)はついつい呆れたような声を漏らしてしまった。まるでムービーの中の出来事のような、悪夢めいて現実離れした光景であるが、猟兵という立場からすれば、割と似通ったケースを見慣れてはいるだろう。

「ただひたすら走っているだけかと思ったけど……。
 まるで、何かに追い立てられているみたい」

 紅葉から双眼鏡を借りて、同様にゾンビの大群を観察するシャルロッテ・ノワール(不幸な寓話の断罪者・f26419)は、ふとそんな事を呟いては少し考え込んでから、双眼鏡を紅葉へと返すのだった。

「なんとなく、そう思ってしまったけど。この位置からだとわからないですね」
「もう少し近づいてみるわ。私はこのまま蒸気バイクで偵察を続ける」

 停めていた愛車へと跨り、エンジンを蒸かす紅葉。
 その背中にシャルロッテが声を掛けた。

「私からも斥候を出します。一緒に当たりましょう」

 その言葉に振り返る紅葉は、シャルロッテの言葉通りその傍らに漆黒の人影が跪いて控えているのを目の当たりにする。それは静かに主の言葉を待ち続けているようだった。シャルロッテのユーベルコード「召喚:影の斥候」によって呼び出された漆黒の影は、主の命令を受けて立ち上がれば、音もなく地面に潜り溶け込んでいくようにその姿を消し、ただ小さな影をひとつ残すのみとなった。それすらも、隠形に集中すれば常人どころか猟兵やオブリビオンであっても見つけ出すのは容易な事ではあるまい。

「成程ね。頼れる相棒じゃないの」
「どうか無理をしないで」

 蒸気の白煙を噴き上げながら高台を駆け降りていく紅葉のバイクと、それに追走するかの如く遠ざかっていく小さな影を見送ったシャルロッテはふと一抹の不安を覚える。何かに追い立てられているかのように感じたゾンビの大群と。その後ろに控える何か―― 予兆にも現れた、ゾンビよりももっと恐ろしい何かという疑念が必要以上に膨れ上がりそうになってきたところで、それ以上深く考えるのをやめる。

「……今は、ゾンビへの対処のほうが先だもの」

 紅葉に何かあれば、シャルロッテと五感を共有している影の斥候がリアルタイムで伝えてくれる。ならば自分は集落でやるべき事を、今のうちに出来るだけ片付けておこう。他人よりも効率的に動けるという強みを活かすのだ。






「定石のバリケードはもちろんですが、今回はこちらも有効かと」

 蒸気バイクでの偵察を終えた紅葉は、ゾンビたちの進路予想やそれに基づく到着予想時刻などを書き込んだ地図を村長に手渡しつつ、防衛設備の構築を始める住民たちの手伝いをしていた。

「連中はひたすらパワフルに走るわ。
 それを逆手に取って転ばせたり、自分から罠に突っ込むように仕向ける」

 彼女の提案する、足元を狙って引っ掛けるU字に湾曲した金具や、鋼線に槍衾などの仕掛に作業中の男たちが揃って興味を示す。連中を転ばせ、或いは寸断し、串刺しにする。全部を仕留められる訳でもなかろうが、それでも罠の直撃を受けたものは、後続のゾンビたちを巻き込んでその進行速度を大いに遅延させる事だろう。

「作りそのものはシンプルだから、用意もしやすそうだな」
「昔こういうのドラマで見たな。首のないバイカーって知ってるかおまえ」
「……テレビなんて最後に見たのはどんだけ前だったか……」

 男たちは、それぞれ豊かであった時代を懐古しつつもすぐに意識を切り替える。まずはこの危地を乗り越える。さもなくば、人類の文明の復興など遠い話。生き延びなければ明日は来ないのだ。

「あとは一箇所にゾンビを纏めて、殲滅できるような仕掛とかも……」
「凄ェ!」「怖ぇ!」「やべェ!」

 テンション上がってきた、とそれぞれバーナーやら電動工具を手にバリケードの構築とトラップの設置作業に没頭し始める男たちを見て、紅葉はひとまず安堵の溜息を漏らす。悲壮感に浸るよりは、希望を持ってもらったほうが余程いい。余り浮かれているようなら、適切な頃合いで釘を刺しておこうと思いつつも、ひとまずはその視線を紅葉が渡した地図を睨んでいる村長へと戻す。

「まだ遠い。思っていたより時間的余裕もあるが、全員で逃げるのは厳しいな」
「連中は普通の人間と違い、寝たり休んだりしなくても動き続けられる」
「だからこそ、咄嗟に動けない人たちを最優先に避難させるべきです」

 渡された地図と、提案される罠の仕様を見比べながら小さく唸る村長であったが、シャルロッテの提案には尤もだと重々しく頷いた。苦難の日々を送りながらもなんとか生活基盤を築いた土地を簡単に手放せるものではない。不条理な荒野の漂流生活を知る者であれば、尚更の事だろう。しかし、彼とて集落全体の命を預かる身。その逡巡は余りにも重たいものだ。

「……そうだな。作業に参加できないような連中は優先して避難させよう」
「わかりました。そちらにも少し人員をお借りしますね」

 だが、時間は限りあるものだ。意を決してシャルロッテの提案に頷く村長は、何人かの若者を見繕って彼女の手伝いに回す事を承知した。この間にも時間は無情に過ぎるばかり。避難作業も迅速に進めねばならない。集落の彼方此方で金槌やバンドソーが資材に噛み付く音を聞きながら、シャルロッテは慌ただしく彼方此方を駆け回っていく。

「どうか大人の方は、子供やお年寄りについてあげてください!
 慌てず落ち着いて私たちの指示に従ってくださいね!」

 拡声器で増幅された彼女の声が集落に響き渡る。その声に続くようにして若者たちが老人や病人の身体を支えるように寄り添いつつ、彼方此方のバラック小屋から連れ出そうと悪戦苦闘を始める。彼らに足取りを合わせる都合上、どうしてもそれは迅速とは言い難いものであるが、安全な後方への避難作業は着実に進行しつつあった。

(一人でも多く生存させる……。私達がその一助になれると良いのだけれど)

 紅葉のバイクが戻った後も、シャルロッテの斥候はゾンビたちの大群の後を静かに追跡している。ただ盲目的に走り、立ち塞がるものに飛び掛かり、喰らい貪る事だけに執着している彼らにはそれを察知する由もないだろう。然し、シャルロッテには矢張り不安があった。これだけの大群を突き動かすほどの何か――それは一体どれだけ強力な存在なのだろうか。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェーズ・ワン
なるほど、ゾンビディフェンス系って言やいいのかな
任せときな
この集落を、ガッチガチの拠点にしてやるぜ

やっぱりゾンビを追い返すには圧倒的な火力が必要だよな
そしてゾンビディフェンスとくりゃ、これこれ、オートタレットの出番だろ
持ち込んだ資材と、UCにて召喚したパーツを用いて、集落に可能な限り多くのオートタレットを作成する
自身は作成に集中し、自律兵器と集落の人々に設置をお願いする
タレットは壊されぬようになるべく高所、かつ十字射撃ができる位置に設置するように指示
後は集落の人間から見て脆い場所や重点的に守らなければいけない場所に設置してもらう

弾幕は最大の防御ってな
派手にバラ撒いて、銃声で大合唱といこうぜ


リムティア・クィリス
WIZ重視。共闘即興歓迎!

「私は……そうね、人員と物資の輸送かしらね?」

まず、住民から周辺情報の収集。
戦車(大型装甲バイク)に乗り、周辺の地形確認と有用物資の探索。
物資は発見次第、食料を優先的に回収。避難先でも迎撃戦をする村でも食料は必要だしね。
物資や地形情報は他の猟兵と共有し、避難場所の選定も同時進行。

避難場所決定後、避難場所である程度の環境を整えるための人員を先に輸送。
輸送先から帰るときも、使えそうなものが無いか確認しながら移動。

「さぁ、誰を優先的に避難させればいいのかしら?」

全員を運ぶ時間は無いかもしれないけど、村長に優先順を決めてもらい搬送。もし時間が余った場合は、補強手伝いに。



●RUNNING TO HORIZON
「なるほど、ゾンビディフェンス系ってヤツか」
「あら、そういうの詳しいの?」

 バリケード構築作業に慌ただしく住民たちが動き回る集落を見渡すように視線を巡らせていたフェーズ・ワン(快音響・f06673)の漏らしたそんな言葉に、リムティア・クィリス(ワイルドハントの先駆け・f26831)は興味を抱いたのか、ふと問いかけてみる。

「特別に詳しいって程でもねえが、まあ任せときな。
 この集落をガッチガチの拠点にしてやるぜ」

 成程それは頼もしい、早速愛用の工具類を取り出しながら集落の見取り図と格闘を始めるやる気満々といった様子のフェーズへと、リムティアがそんな相槌を返したところでフェーズは首を傾げて彼女へと小さく問い返す。

「ところでお前はどうするんだい?」
「私は……そうね、人員と物資の輸送かしらね?」

 お互いしっかりやろうぜ、等という彼の言葉を背に受けながら、リムティアは愛用の大型装甲バイクに跨り、エンジン駆動の爆音を響かせて走り出す。輸送にはまず、その経路を把握することも肝要だ。自身で走ることになるであろうその道筋を、リムティアは自分の目できちんと確認しておきたかった。バイクの速度によって見る見る内に小さく遠ざかる彼女の背中を見送って、フェーズがぽつりと呟く。

「……なかなか良い音させやがる」

 俺も負けちゃ居られねえ―― そう呟く彼の口元がニヤリと笑みを浮かべた。



「…………なるほど。この辺りの地形は聞いていた通りね」

 目の前に広がる荒野――地平線と点在する廃墟ばかりが視界に映る光景の中、装甲バイクの巨体を地響きと共に走らせながら、それに跨るリムティアは独りごちる。二度手間ではあるが、伝聞と自分の目で確かめた確実な情報を照らす事は重要だ。他人からの又聞きで生まれる小さな齟齬が、運命の分かれ目となる事も知っている。このアポカリプスヘルを渡り歩くには、とかく用心に用心を重ねて損はない。尚、彼女のバイクの後方に臨時で取り付けた大型のキャリアには、道中で見つけた廃材の類が幾つか積まれている。余り大きな資材を積み込めはしなかったが、それでもバリケードの補強やトラップの材料として使えそうなものが、この荒野には数多く眠っている。これも、災厄に飲まれて崩壊する前の文明の名残である。

「おっと……あそこで擱座してる装甲車、何か積んでないかしら」

 武器弾薬、医薬品に食料。どれもこれも喉から手が出るほどほしい。まともな文明や技術の類を吹き飛ばされ、細々と暮らし続けているこの世界の住民たちにとって前時代の遺産は何であれ貴重なものなのだ。荒廃した大地のど真ん中で遺棄されている軍用車両を目指して、リムティアはバイクのアクセルを全開に入れる。戦利品の検分をする程度の時間的な余裕はまだありそうだ。まるで獰猛な獣のようなバイクの咆哮が荒野に響く。



「……やっぱりゾンビを追い返すには圧倒的な火力が必要だよなあ」

 着実に構築されていくバリケードを見上げながら、フェーズは微かに思案の表情を浮かべる。しかしそれも僅かな時間の事、すぐに表情を改めれば資材や部品類を積み込んだ改造車の荷台より、使えそうなものを見繕って地面の上に並べていく。その光景を物珍しそうに遠巻きから見守る住民たちは、直後にフェーズの用いたユーベルコード「S-Parts」によって次々と生み出されていく新たな機械部品の山に目を丸くした。無理もないことだ。それはまるで魔法のような光景なのだから。

「よっし、それじゃあ作るぞ。
 ゾンビディフェンスとくりゃ、オートタレットの出番だろ!」

 そう言うなり地べたに座り込んで、部品を手慣れた様子で組み上げていくフェーズ。その手際もまさに魔法と言って差し支えなかっただろう。旧文明の遺産に縋って生活する人々の目には、今こうしてその技術と文明の力をフルに生かして見せるフェーズの姿はさぞや眩しく見えたに違いない。何時しか彼の周りには人山さえ出来ている。そんな暇はないぞと注意をしようとした村長ですら、その光景に圧倒されて目を離せずにいるのだ。

「ここは俺が作業してるから皆は自分の事をやってくれよ。
 イイ音がどっからもしてこないぜ?」

 衆目に囲まれている事に気づき、ドライバー片手に周囲に視線を巡らせるフェーズが苦笑いを浮かべるも、やがて何かを思いついたようにその笑みを屈託のないものへと変える。

「……俺は作るのに集中するからさ、設置は皆に任せるよ」

 数十分後には、出来上がった無人自動機関銃を抱えた村人たちが命綱を腰に結わえてバリケードや建物などによじ登る様子が彼方此方で見られた。フェーズが手ずから作り上げた自慢の自律兵器たちも、それぞれの強みを生かして皆の作業を手伝っている。隼型のウィンズは空から高所の設置を行い、サイ型のスピナーは幾台ものタレットを単独で彼方此方に運んでいる。人型のタップは肩車をするような格好で、住民の少年と共に設置作業を行っている。危なっかしく子供がバランスを崩す度に甲斐甲斐しくその世話をする様子を満足気に見やりつつ、フェーズは新たなタレットを組み上げるべく、電動工具の快音を響かせ続ける。

「わかってると思うけどな、連中に壊されないよう出来るだけ高所に。
 それでいて、敵に十字砲火を食らわせられるように上手く配置してくれよ」

 後は護りの薄い箇所を重点的にやってくれ――そんなフェーズの指示を聞きつつ、村長は奔走する住民たちそれぞれに次々と激を飛ばす。緊迫はしているが、着実に襲撃者たちへの防衛設備は整い始めていた。頼もしい救援者たちの行動に勇気づけられた住民たちの中にも、希望の炎はたしかに灯っているのを強く感じる。

「……いけるぞ。これなら、きっと皆生き延びられる」
「当然だ。俺たちはそのつもりであんたたちを助けに来たんだからな」

 並んで語らう二人の元に、やがて聞き覚えのあるエンジン音が近づいてくる―― 重厚な地響きと共に、リムティアの駆る大型装甲バイクがバリケードの隙間を潜り抜けて、集落へと戻ってきたのだ。

「バリケードに使えそうな資材を持ってきたわ。それに軍用保存食も見つけたの」
「……そいつは有り難い。それと、なんだが」
「ええ、分かってるわ」

 跨っていたバイクから降りて、高く聳える頑強なバリケードと、幾つもの自動機関銃で武装化された集落を見回しながら、リムティアは村長とフェーズへと告げる。頼もしい備えは出来たが、それだけではまだ足りない。念には念を入れなくては。

「……このまま次は人員輸送ね。さぁ、誰を優先的に避難させればいいのかしら?」
「女子供と老人たちの避難がまだ終わっていないんだ。手伝ってほしい」

 勿論、と告げながら頭に叩き込んだ周辺地形を思い返す。時間は刻一刻と迫っているが、その間に一人でも多くの非戦闘員を安全地帯に運ぶ。じわじわと胸中で高ぶる緊張感に、リムティアは思わず口元に微かな笑みを浮かべる。大丈夫だ、きっと上手くやれる。皆そう信じてそれぞれのベストを尽くしているのだから。

「ね、これが無事に片付いたら。皆に料理を振る舞わせてちょうだい」

 ウチのシェフの腕は保証するわよ、と彼女は悪戯っぽくウインクをして見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト


ああ、あいつらか
いっそ全員お仲間にでもなれりゃ過ごしやすかろうがな。ってのは冗句だが
お行儀良く入口から入ってくるとも思えねえ
猟兵の数のが少ねえなら守るもんを纏めた方が戦力も集中しやすいんじゃねえか
ボロい家をバラして資材を寄せ集め、デカめの建物一、二か所を補強。そこに人間を詰め付近に守り手がつく
動けねえ奴は怪力他で運ぶ――なんてのを考えもするが
他にマトモな頭した奴の作戦がありゃ黙って力仕事の労働力として使われておく。なんか崩すなら【一撃必殺】でちゃちゃっとだ

要は後ろに通さなけりゃいいんだろう
来た奴を片っ端からぶん殴る程度しか芸が出来ねえんでな。オレから確実に言えんのは、下がっとけ、そのくらいだ



●そうとも言えるし、そうでもないとも言える
「…………君は、その。厳密に言えば違うんだろうが」
「おう」

 集落を取り囲むような形で順調に出来上がっていく防衛陣地を前に、レイ・オブライト(steel・f25854)は隣に並ぶ村長と共に、その作業工程をぼんやりと見上げていた。傍らの壮年男からの問いかけに対する答えは端的で素っ気なくも聞こえるが、それはそれで彼なりに真摯な受け答えなのである。

「……だが、ある意味では『彼ら』に対しての専門家とも言えるのではなかろうか?」
「まあ、そうと言われればそんな気もするな」
「それでも結構だ。良ければ君からの知見を伺いたい」

 村長が言葉を濁すのは、デッドマンという存在への彼なりの配慮なのだろう。いかに認識を補正する特性を備えている猟兵であろうと、大工仕事を手伝おうとしてうっかり自分の手を金槌で叩き、挙句掌を貫いた釘を事も無げに引き抜く姿に、住民たちはようやくその特異性の一端を思い知ったらしい。それでも恐る恐ると言った様子で遠巻きから見守る大人たちとは違い、子供たちは純粋なものだ。「あのおっさん、すげぇてのひら頑丈だよな」「おっさんって呼んだら怒られるぞ」「あとでサインもらおうぜ」などと口々に言いながら無邪気にはしゃぐ様子をBGM代わりにしつつ、レイは顎に手を当て考えるような素振りを見せる。……いや、実際に考えている。

「……あいつらか。いっそ全員お仲間にでもなれりゃ過ごしやすかろうがな」

 と、そこまで口にした所でレイは「冗句だがな」と小さく付け加える。露骨に怯える表情を見せた村長に一応配慮してみたつもりだ。元々緊張を解す計らいのつもりであったレイなりの小粋な死人ジョークは、村長には愉快なジョークとして受け取ってもらえなかったらしい。少々残念そうにしながらも、レイは気を取り直して再び口を開くのだった。

「まあ、お行儀よく入口から入ってくるとも思えねえ。なんせ連中はオレと違って、そこまで考えが至らねえんだ」
「な、なるほど……」
「……大丈夫だ。要はオレたちの後ろに、連中を通さなけりゃいいんだろう」

 まるで大樹や、大岩の如く鍛え上げられたレイの鋼の肉体が物珍しいのだろう。しきりにぺたぺたと触ったりつついたりする子供たちを他所に、レイは自分の考えを傍らの村長へと厳かに伝える。歴戦ぶりを物語るような傷の刻まれたレイの精悍な顔立ちが、重々しくその口を開いて響かせる言葉は、彼の纏う雰囲気とデッドマンという体質もあって、なかなかに説得力を帯びたものであった事だろう。

「こっちの守りも人数が限られてんだ。
 守るもんは纏めたほうが戦力も集中しやすいんじゃねえか?」
「ああ。非戦闘員の避難も進めている最中だ。
 ……おい、おまえたち。大人たちの邪魔をせず、すぐに避難するんだ」

 群がる子供たちを見かねてか、村長が手を伸ばして子供たちをレイの身体から引き剥がす。文句と不平をわめいて手足を動かしもがく子供の姿はまるで木の幹から引き離されるカブトムシのようだなとレイは思ったかも知れない。

「……ま、ちょっとぐれえなら良いんじゃねえか。まだ連中も来ねえしよ……」

 言いながら歩き出すレイの視線の先には、今にも倒壊しそうなボロボロに朽ちかけの小屋がある。余りに老朽化が進んでいる為、今は住人も居ない空き家だというのは予め村長に確認済みだ。

「……オレぁ大雑把な力仕事が一番得意だからよ。……なあ、これ。
 さっきも聞いたが、解体しちまってイイんだろ?」
「勿論だとも。一人で大丈夫……いや、そういう存在なのだったな、君たちは」

 おうよ、と村長の言葉に頷きながら、ボロ小屋のすぐ傍にまで歩んで立ち止まったレイは首をごきりと鳴らして肩を回し、ゆっくりと指先から関節を折り曲げて拳を作っていく。

「おい、ガキんちょども。危ねぇから少し下がっときな……。
 面白ぇもん見せてやるからよ、これ見たら大人しく避難しとけ」

 大きな深呼吸と共に、丹田にありったけの気迫を込める。
 一歩、大きく踏み出す靴底が大地を沈み込ませるような地響きと共に、地表に亀裂を走らせ、その靴の形に深くめりこみ陥没する。まさしく大地を揺るがすような錯覚さえ覚えるほどの勢いを載せて繰り出したレイ渾身の拳の一撃は、それを打ち込んだボロ小屋の壁面に大きな風穴をブチ開け、その衝撃に元々倒壊寸前であった小屋は静かに建材を散らして崩れ落ちていく。大人数人であっても数時間はかかるであろう解体作業をわずか数秒で終わらせた男は、事も無げに呟いた。

「……確か資材も足りねえって言ってたよな。
 この調子で、あと2、3軒ぐらい解体させてくれ」
『『『スゲェ!!!!!』』』

 その光景を目の当たりにした子供たちと村長は、口々に快哉と感嘆の声を上げる
。彼らさえ居れば、絶対にこの集落の者たちは生き残れる。彼らの中にあった小さな希望の火は、今や確かな炎となって激しく赤々と燃え上がっていた。絶対に生き残ろう。集落の住民たちは、誰からともなく口々に叫ぶ。彼らの生き残るための抵抗運動の帯びる熱は最高潮に達しているとも言えるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『走るゾンビの群れ』

POW   :    ブルゾンビ
自身が戦闘で瀕死になると【屈強な走るゾンビ】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    群がるゾンビ
自身が【食欲や飢餓感】を感じると、レベル×1体の【走るゾンビ】が召喚される。走るゾンビは食欲や飢餓感を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    獰猛なゾンビ
【噛みつき】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。

イラスト:小日向 マキナ

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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Battalion

 彼らは走る。
 餓えている。餓えを満たせ。喰らわせろ。
 その本能に突き動かされて、荒野をひた走る。

 生きていた時のことなど既に憶えては居ない。それを悲しむ心もない。
 彼らが感じているのは決して満たされる事のない飢餓感と、そして焦燥感。

 その背を静かに、しかし確実に追い続けている得体の知れぬ恐怖。
 彼らは食料を求めると同時に、迫るそれから逃れようとしていたのかも知れない。

 ……然し、彼らにはそれを明確に思い浮かべる知性も、理性も。
 それを表現する言葉も、最早持ち得ては居なかった。

 全力で荒野を駆ける彼らの視界にやがて飛び込むのは巨大な“餌場”。
 ああ、餓えを満たさなくては―――――。

 バリケードをよじ登り、餌皿に盛られた大量の肉塊どもに噛みつこうと飛びつく先頭のゾンビの首が不意に虚空を飛び、そのまま地に墜ちて転がった。倒れ伏す死体を蹂躙しながら続く群れたち。彼らはその行手に張られた赤い血の雫を滴らせるワイヤーに気付かぬまま、続けて何匹ものゾンビたちが刻まれ、肉片となって転がり落ちる。やがて血脂に塗れて切れ味を失ったワイヤーを強引に物量で押し込むようにして引きちぎり雪崩込む餓えた死者どもの大群。

 無数に仕掛られたタレットの銃声が幾つも重なり轟き、血煙を散らしてゾンビたちを薙ぎ払い、吹き飛ばす。その弾幕をも物ともせずに集落へと侵入せんとする夥しい死者たちの物量は数えるのもバカバカしいほどだ。

 しかし、彼らは失念している。
 ここに最後の防衛戦力。一騎当千の強者たちが待ち構えていることを。

 その名は即ち、猟兵。
 
才堂・紅葉
「っしゃ、おらぁっ!!」
「蒸気バイク」を【操縦】して群れに突っ込み、鋭いターンで後輪を浮かし【吹き飛ばし】、フルオートに榴弾を叩き込んで即離脱
これを何度も繰り返す

ストレス解消目的は3割程度で、一番はゾンビの進撃速度と布陣の調整だ
迎撃に際し、連中に無秩序かつ圧倒的多数で拠点を取り囲まれるのは避けたい
【情報収集】で強いれた地図に、【戦闘知識】で生の情報を組み込んで調整
後は事前に作成した誘導路や柵等の【地形を利用】し、連中の主力部分を出来るだけ纏めたい

後は拠点に帰還し、外壁から両手でリボルバーを構え、目標点に向け虎の子を叩き込む

「予定通り、ここででかいの行くわよ!!」

その先はまぁ【気合】で頑張ろう


リムティア・クィリス
即興共闘歓迎

行動は、ゾンビの波の押し戻しに集中。
バリケードにどうしても出来る薄い部分を真正面に、加速距離をとって陣取ります。
その箇所が破られゾンビが見えた時点で、自分の戦闘開始。

「突っ込んで、奴等の注意を引くわ。フォローよろしく!」
「さぁ、無事にあの腕の中に戻らなきゃ…吼えてッ!Eisen!!」

UC一機徹閃を使い、エンジン出力と装甲を強化。
強度と速度、パワーを生かし、フルスロットルでゾンビの群れに突撃!
巨大な弾丸となって、ゾンビにひき逃げによる『蹂躙』を仕掛けます。
乗り上げたり、跳ね飛んだり、ターレットの銃弾の雨を避けたり、奥に行きすぎず援護を受けながら暴れます。

「給仕前はシャワー絶対ねっ!」



●Driver's High
「っしゃ、おらぁッ!!」

 爆音を轟かせる蒸気バイクのエンジンにも負けぬほどの獰猛な叫びが響き渡る。
 愛機を駆る紅葉は、バリケードに取り付こうとするゾンビたちの群れに突っ込めば、そのタイヤで何体もの死者たちを冥府へと送り返す。分厚いタイヤがめり込み、脆い死体を容易く轢き潰していくが、やはりどうにも数が多すぎる。鋭くハンドルを切り、ターンで翻れば跳ねた後輪が浮くと同時に、無造作に撃ち込むアサルトライフルに据え付けたグレネード。オレンジの爆炎を撒き散らし、ゾンビたちを纏めて吹き飛ばしながら大群から離脱するこの手順を、紅葉は既に幾度か繰り返している。バイクのタイヤから逃れた運の良いゾンビは、バリケードに手をかけよじ登ろうと顔を上げた所で、唸る機銃弾の掃射に頭部を吹き飛ばされ、崩れ落ちる。倒れ込むその死体は、後から後から湧いて出る次の死体の群れの中に飲み込まれるようにして消えていった。

「……やっぱり、数が多いわね。分かってたけども……」

 もう既に人としては死んでいるバケモノ相手にいくら暴力を振るおうとも、既に滅んだ人権愛護団体の出る幕はない。宗教家が居合わせたならば、なんとも無慈悲なことだと嘆いたかも知れないが、この世界はとっくに神のお慈悲を離れている。ストレス解消にはちょうど良いが、それも流石に飽きてきたというものだ。再びゾンビの群れをフロントタイヤでトマトピューレとミンチに変えてやりながら、頬に飛び散った返り血をうんざりとした様子で紅葉は拭う。この闇雲にも思える作業にも意味はある。無尽蔵に群がるゾンビたちを『間引く』ことで、その進軍速度を抑え込んで予め仕掛ていたタレットやトラップによる処理能力でも十分に対処できるように調整しているのだ。そして、敵の数を減らすことは、溢れるほどに増殖する集団によってこの拠点を取り囲まれる事態を防ぐということにも繋がる。如何に防備を万全に敷こうとも、十重二十重と包囲されてしまえば何処かに綻びが生まれて破綻してしまう最悪の可能性も起こり得る―― それだけは何としても回避せねばならない。

 次の作戦も既に立てているが、そこに繋げるまでの敵を抑える一手が微妙に足りない。考えあぐねる紅葉のその頭上に浮かぶ影がある―― バリケードをジャンプ台代わりにして大型装甲バイク「Eisen」を跳躍させるリムティアの姿だった。

「……突っ込んで、奴らの注意を引くわ。フォローよろしく!」

 返事を聞く暇さえ惜しむように、ゾンビの群れのど真ん中へと勇ましく飛び込むリムティアのバイク。その質量に容赦なく叩き潰され飛び散る死体を、更に唸りを上げるタイヤが掻き毟るようにして轢き潰していく。四方より押し寄せ、掴みかからんとするゾンビたちの腕を掻い潜りながら、リムティアは想う。自分には帰れる場所がある。自分を待つ、逞しい二本の腕と分厚い胸板。そのぬくもりを覚えている限り、此処は自分の死に場所などになることは決して有り得ない。

『さぁ、無事にあの腕の中に戻らなきゃ……吼えてッ! Eisen!!』

 リムティアは吼える。その身体を背に預かる巨大な鋼鉄の駿馬は主のその叫びに応えるが如く、エンジン音を獰猛に唸らせた。元より武装を廃した事で自由になったウェイトの分だけ装甲とエンジンを改造したモンスターマシンはただ走るだけでも十二分に苛烈な質量兵器である。それが今、使い手のユーベルコードによって更に強化されていく。青白い粒子の輝きを帯びて、一層の強固さと重厚さを増す装甲は、群がるゾンビたちをその重量で容赦なく跳ね飛ばす。エンジンから響き渡る唸りは魔獣の鳴き声かと思う程。吐き出されるエグゾーストは、今や青い噴炎と化して、轢き潰した死体どもを容赦なく焼き炙っては灰と帰す。

「援護するから、頭を下げてッ!」

 その声に反射的に首を竦めれば、横一線に薙ぎ払うような紅葉のアサルトライフルの掃射がゾンビたちを打ち倒していく。ゾンビたちの集団を薙ぎ倒していきながら、後方より追い付いた紅葉の蒸気バイクと、リムティアのEisenが並走して囲いを抜ける。すかさず二人並んで仲良くターンを決めれば、荒野に深く抉るように刻み込まれるタイヤ痕を二つ並べて残しつつ、二台のバイクが再びゾンビの集団へと飛び込んでいく。

「……先頭は任せて! 私のEisenは頑丈なんだから」
「主力の連中は私たちに釘付けね。あっちの誘導路を通って戻りましょう」

 Eisenの巨体を盾にしてゾンビ達の群れを跳ね飛ばすように掻き分け突き進む両者。予め脳内に叩き込んでおいた周辺の地図情報を頼りに、バリケードに意図して用意していた切れ目を通って、二人は拠点内へと帰還する。二人が通り抜ける度に、住民たちの手によって次々と隔壁のように降ろされていく柵が、後を追うゾンビたちの進路に立ち塞がり、その進路を遮り、意図した方向へと誘導していくのだ。

「ただいま! あっちの路はもう潰しちゃっても良いわね」
「おうとも、何時でも行けるぜお嬢さん!」

 揃って地を抉り掻くようにして停車したバイクを飛び降りる二人を出迎える村長が、ニヤリと笑ってサムズアップの仕草を見せた。3人の見据える先は、入り組んだバリケードの隙間に設けられた通り道。すぐに其処から聞こえる怨嗟の声めいた死者たちの唸り声が、彼らの接近を教えてくれる。

「それじゃあ予定通り、ここでデカいの行くわよ!」
「オーライ!!」

 並び立つ紅葉とリムティア。それぞれ、手に握る古ぼけたリボルバーと腰溜めに抱えるようにして構えたビームキャノンの銃口が通り道へと向けて静かに据えられる。紅葉のリボルバーには、それを握る彼女の手の甲に浮かんだハイペリアの刻印が青白く輝き、エネルギーを収束させていく。両手で握り締めれば、その輝きは更に勢いを増し、銃口に集まる光の粒子。がちりと軋むシリンダーの奥で装填されたマグナム弾の弾頭が鈍く煌めきその時を待つ。そして、傍らに並びビームキャノンを構えるリムティア。愛機Eisenに積み込んだ大型のバッテリーに繋いだケーブルより送られるエネルギー総量を示す砲身のゲージがじわじわと高まり、最大出力での砲撃可能を示すラインまで到達すれば、「チャージ完了」とのシステム音声が無機質に響く。

「……よっし、こっちは行けるわ。お先に一発!」

 直後、耳を劈かんばかりの勢いで咆哮を上げて顔を出したゾンビの群れ目掛けて引き絞られるビームキャノンのトリガー。咆哮を打ち消すほどの轟音と共に、その砲口から撃ち放たれる眩いビーム光の奔流がゾンビたちの上半身を纏めて焼き尽くし、更に後続して現れる死者たちの四肢をも纏めて吹き飛ばす。その輝きに晒され、抉るようにくり抜かれた断面を赤熱化させたバリケードからも、その出力の凄まじさは容易に窺い知る事も出来よう。

『コード:ハイペリア承認。
 高重力場限定展開ランク2実行…… 虎の子をくれてやるわ!』

 両手で構えたリボルバー銃より撃ち出された紅葉とっておきの虎の子、「絶・六式詠唱弾(フェイタリティ・グラビトンマグナム)」。刻印の力による強化と強装薬での加速を帯びて射出された重力子マグナム弾頭が唸りを上げる――。

「纏めて吹っ飛びなさい!!」

 それは青白い閃光を帯びながら虚空を奔り、ビーム砲の威力に半壊したバリケードの間で死肉を引き千切りながら尚も進軍を続ける死者たちの群れの中心で球状の力場を作り出し、大きく弾けて炸裂する。周囲に巻き起こる爆裂の余波に、ゾンビたちは纏めて吹き飛ばされ、それに巻き込まれる形で倒壊していくバリケードや建材が大きく崩れ、地響きと共に通路を塞いでいく。重力波の炸裂から生き延びたゾンビたちも、崩れ落ちる残骸によって潰され埋め立てられる事だろう。誘導路ひとつと引き換えに、大群はまるまる地の其処へと飲み込まれていったのだ。

「……この路はもう使えんが、これで連中も入っては来れないだろうな」

 倒壊して積み上がる残骸の向こうから響く死者の声。それを薙ぎ払うようなタレットの途切れぬ銃声を聞きながら、村長は額の汗を静かに拭う。

「ええ、此処から先は気合で頑張りましょう」

 駆け寄る住民たちから水入りの水筒を受け取りながら、紅葉は頷いた。水筒の中身を一息に煽れば、再び蒸気バイクへと跨る。まだ戦いは終わっていないのだ。ビームキャノンを愛車Eisenの荷台に積み込みながら、リムティアは軽く自分の服の裾を摘んで匂いを嗅いでみた。……汗や土埃の匂いはまだ仕方ない。しかしこの濃厚な死臭は我慢がならないものだ。

「終わったら料理を振る舞うって言ったけど……。
 その前にまずシャワー。これは絶対よ!」

 そして洗車。これも絶対譲れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロッテ・ノワール
心情:「住人の避難は一通り…済んではいるけど…それでも、この場所が無くなってしまうのは…辛いから、ね」

行動:戦闘中、敵の注意を引きつけつつ削りを入れる囮役をしますね…
「もっと速ければ…私にだって、それくらい…!」
走るゾンビ達の「群がるゾンビ」に対し、UC【暗示・高速機動(スピード・シフト)】を使うことで、速度を上げつつ錯乱、鎌が届く範囲のゾンビへ【なぎ払い】で迎撃していきます
最大の目的は、可能な限り早く敵の数を減らすことですね
目的の為なら、UCで服を脱いでしまいますが(ワンピースのみで行動)
負傷や損傷はやむを得ないと思います…第一に、仲間の成功の為…ね

(破れても恥じらいはしますが大丈夫です…)


クロゼ・ラビットクロー
他者との会話は敬語。
独り言は普通。
混ざっても問題ありません。

いっけない遅刻遅刻……
ガスマスクの男は力なくつぶやく。
戦車、ラビットモービルが荒野の真ん中でエンストしてしまったのだ。
危うく戦う前に野垂れ死ぬところだった。

なんとか修理を終えようやく着いた現場では、
既にゾンビと味方の激突が始まりつつある。
ちょうどいいので側面からゾンビを引きつけることにしよう。
僕の武器は手投げ弾くらいなので味方を巻き込まない位置が望ましい。

でもゾンビには毒ガスも閃光も、もしかして煙幕も効かないかな。
通常弾と焼夷弾で地道に潰していくか。
かなり足が速いみたいだけど、流石に戦車の方が速いよね?
自信無さげに、戦場へと突入した。



●Swinging Blue Moon
「いっけない、遅刻遅刻……」

 一見すればバイクにも似た小型戦車「ラビットモービル」が土煙を上げて荒野を突き進む。力なく呟くのはそれを駆るガスマスクを着用した小柄な少年……いや、童顔をしているが、彼はれっきとした青年だ。その名はクロゼ・ラビットクロー(宿無し兎・f26592)。本来ならば、既に集落に到着しているハズが、道中にエンストを起こしたラビットモービルを修復するため、荒野のど真ん中で暫し身動きが取れなくなっていたのだ。

「いやあ、危うく戦う前に野垂れ死ぬところだった……」

 なんとか修理を済ませて一安心――と思いきや、近づく集落は既にバリケードとタレットで固められた要塞と化し、それに群がる無数のゾンビとの間で防衛戦を繰り広げている真っ最中だ。止むこと無く響き渡る機銃の銃声に、飢餓の本能だけに突き動かされるゾンビたちの上げる怨嗟の声が、普段であれば何も無さすぎて静寂であろうハズの荒野を不吉に賑わせている。

「……出遅れてしまったけれど、ちょうどいい」

 この位置からなら側面から回り込んで連中を引き付けて引っ掻き回す事も出来そうだ。ついでに言えば、彼の持っている武器は正面からゾンビどもとやり合うのには些かクセが強い代物なのだ。ガスマスクのレンズ越しに走るゾンビたちの大群を睨みながら、クロゼはラビットモービルのエンジン出力を最大にすると全速力で爆進させた。雄々しく地を掻くクローラーの唸りが荒野の赤土を抉りながら轟き渡る。

「……でもゾンビには毒ガスも閃光も、もしかして煙幕も効かないかな」

 仕方ない、通常弾と焼夷弾で地道に潰していくか。どこか覇気にも欠けるクロゼの自信が無さそうな小さい呟きは、クローラーの唸りに吸い込まれるようにして掻き消えていく。
 


「住人の避難は一通り……済んではいるけど」

 高く積まれたバリケードの上から見下ろす集落周辺。外壁に取り付いたゾンビたちは、間断なく撃ち込まれるタレットの掃射にも負けぬ勢いで、じわじわと外壁を登りつつあった。シャルロッテはその姿を物憂げに見つめる。猟兵たちも、集落の住民たちも、皆が今この瞬間も懸命に戦い続けている。全てはこの場所を護るため。

「それでも、この場所が無くなってしまうのは……辛いから、ね」

 彼らが帰ってくるための居場所を、失わせる訳には行かない。命を失わない事が第一だが、それだけではない。日々の生活を送るための基盤、拠り所がなければこの険しく理不尽な世界はいとも容易く人々の心を絶望と自棄へと突き落とし、飲み込んでいく事だろう。

「……だからこっちに注意を引き付ける……!」

 意を決したシャルロッテが、足場を蹴って空を舞う。振り上げる大鎌「エーテル・リーパー」の青い刃はまるで月のよう。ふわりと音もなく舞い降りたシャルロッテが優雅に身を翻らせれば、途端に周囲のゾンビたちの首や四肢が虚空へと切り飛ばされ、次々と降り落ちる。振り抜いた大鎌を手元に引き戻しながら身構えるシャルロッテ。そんな彼女を取り囲むように、四方八方より白濁しつつも血と肉に餓えた獰猛な死獣の眼が無数にその姿を見詰めている。

「……いくら数が多くても、動き回っていればだいじょうぶ……!」

 そう容易く捕まりはしない。伸びる腕を振るう大鎌にて切り払いながら、シャルロッテは群れの隙間を掻い潜るように身を低く沈ませ疾走する。行手に立ち塞がるゾンビの膝を蹴って飛び上がれば、彼らの頭上より振るう大鎌の一閃が、断頭台宜しく死者たちの首を纏めて幾つも斬り飛ばす。しかしその奮戦も、ゾンビたちの物量の前には些か分が悪い。進路上に次々と湧いて出るゾンビたちに阻まれ、一瞬足を止めた其処に伸びる腕が、シャルロッテの肩へと喰い込む。湧き上がる恐怖が喉から叫びとなって飛び出てくるのを必死で噛み殺し、飲み込みながら、彼女は強く大鎌の柄を握り締めた。

『……ッ……! もっと、速ければ……私にだって、それくらい……!』

 出来る。出来るのだ。強く自分にそう信じ込まれるように、シャルロッテは大鎌を振るう。ゾンビの不躾な手によって捕まれ、引き千切られた上着の切れ端が舞う中、彼女はそれを置き去りに一陣の風となる。ユーベルコード「暗示・高速機動(スピード・シフト)」によって、自身の限界速度を更に越えた超速機動を得たシャルロットは、すれ違いざまに振るうエーテル・リーパーの斬撃により、群がるゾンビたちを次から次へと斬っては捨てる。可能な限り、一匹でも多く敵を仕留めてその数を減らす。その目的の為ならば、衣服が千切れて裂けようとも、多少のことでは怯みはしない。恐怖を噛み殺し、死神の大鎌を振るい続ける少女の視界の端で不意に閃光と爆音が炸裂する。

「……!?」
「遅れてすみません! 援護させて頂きます!」

 炸裂した手榴弾によって開けたゾンビたちの包囲網。其処からシャルロッテが目にするのは、100mほど先で兎を象った装飾の施された小型戦車に跨るガスマスク姿のクロゼであった。彼は手の中で転がし弄んでいた手榴弾のピンを抜くとすかさずゾンビの群れ目掛けて投げつける。緩やかな放物線を描きながら、100m近い距離を悠々と飛んだ手榴弾はゾンビたちの群れの中へと落下し、一拍を置いた後に爆音と共に数体纏めて豪快に吹き飛ばし、餓えた死者たちをたちまちに赤い血煙へと変えてしまった。常人の肩では到底届かぬ長距離からの遠投を可能とするのは、クロゼのユーベルコード「投擲弾(ハンドグレネード)」による強化である。

「……かなり足が速いみたいだけど、流石に戦車の方が速いよね?」

 近づかれないと良いけどな……とボヤきつつも、クロゼの投げるそれはゾンビたちでも容易くは接近できぬ距離から一方的に飛来し、盛大に爆裂して彼らを焼き尽くしていくのだ。通常の手榴弾と焼夷手榴弾を使い分ける事で、あるものは吹き飛び、あるものは火に巻かれて燃え尽きていく。クロゼに群がろうとする者は、それよりも早くシャルロッテが振るう大鎌によって寸断され、崩れ落ちていく。彼の心配は今や杞憂と化していた。焼夷弾の炎が飛び散り、鮮血と共に荒野の赤土をより赤々と染め上げる中、舞う火の粉をオレンジの粉雪の如く散らして、シャルロッテは手近な一体を袈裟に斬りつけ両断すれば、爆音と共にゾンビたちを跳ね飛ばして突入してきたクロゼのラビットモービルの後部へと飛び乗った。後ろ手の無造作な所作からクロゼが投げつけた手榴弾が派手に弾け、追い縋ろうとするゾンビたちを爆炎の中へと飲み込んでは焼き尽くしていく。その光景を見届ける事もなく、ラビットモービルの車体が爆風に乗って大きく跳躍し、着地の衝撃に小型戦車は数度バウンドしながらも、すぐにバランスを取り戻して荒野を爆走する。

「……こっちは十分に引き付けられたでしょう! 一度拠点に向かいますね」

 そう言えば、まだ集落の人たちにも挨拶が済んでいなかった。そう思い至りながら後ろを振り返ろうとするクロゼの首を、シャルロッテは慌てて手を伸ばして押し留めた。

「……その、すみません! 今、ちょっと……服が……その……アレでして……」

 奮戦の最中、上着を脱ぎ捨てたシャルロッテが身に纏うのは、あちらこちらが無惨に引き裂かれて返り血に染まったワンピース。背や太腿など、顕になってしまった今の姿を、シラフで男性に直視されてしまうのは思春期の少女にはとても酷な事である。

「了解です、大急ぎで戻りましょう。着替えるだけの時間はある筈です……!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レイ・オブライト


そんじゃあひとつ

手薄な側のバリケード外へ降り衝撃波
覇気+格闘ベース。もいだ頭に属性攻撃の電流込め砲弾代わり
包囲は想定内。うまいといいんだがな、この肉も
お集まりが『十分』なら【Blast】
地を殴り地形破壊と雷で蹴散らす
前方注意なんつうルール忘れてそうだろ。深く刻むクレーターは蟻地獄みたく後続ゾンビの受け皿にもなるかもな
よおきょうだい、岩登りは得意か? 此方は鎖をその辺の出っ張りに射出し(覇気制御)おさらばさせてもらうが
穴ん中に属性攻撃+衝撃波叩きつけときゃ土葬の手間も省けるってとこだ
ま、
バリケード上からグレネードやら撃ち/投げ込む用意のある現地民いりゃその手で片せばいい
抗うと決めたのはお前らだ


フェーズ・ワン
味方や、皆が作ってくれた拠点があれば防衛は平気だろ
後は馬鹿みてぇな数に対抗にするには、先と変わらず圧倒的な火力だな
逆に蹂躙してやんぜ

敵を把握しやすい高所に陣取る
サーチドローンを戦場に放ち、敵が固まる場所を探す
探している間は少しでも火力が上がる様に、各自律兵器に火器をじゃんじゃん積み込む
いいぶっ放し位置が見つかり次第、各自律兵器を現場に向かわせUC発動
射程が足りない場合は自身も加わりつつ、範囲内の敵を根こそぎバラバラにしてやろう

自律兵器で事足りるのであれば、自身は高所から各自律兵器や他の人の援護に回る
必要に応じて、バイクで周囲を回ったり、車で轢き逃げアタックして味方を荷台に乗せたり、動き回ろう



●BIGBANG BEAT
「ひい、ふう、みい……ああ、馬鹿くせぇ。数える気にもなりゃしねえ」
「あんたが無理ならオレにも数えられる気はしねえな。おっくう過ぎるぜ」

 周囲を見回せるだけの高さに恵まれた建物の上。飢餓感に突き動かされ、バリケードに取り付いてはよじ登ろうとするゾンビどもの軍勢を見下ろすようにふたりの男が並び立つ。仕掛られたタレットの射角に捉えられたゾンビは、忽ちに鳴り響くけたたましい銃声になぎ倒され、壁から滑り落ちては血飛沫の帯を引いて、そのまま同胞たちの蠢き続ける群れの中へと墜ちては飲み込まれるようにして次々と消えていく。気分はさながら、カンダタに垂らされた蜘蛛糸に群がる地獄の亡者たちを見やる釈尊と言ったところか。然し、其処に慈悲はない。一匹たりとも拠点内に彼らを迎え入れるつもりもない。

「あの馬鹿みてぇな数を相手にすんのはちっと疲れるよな」
「ああ。始めから見りゃ、だいぶ落ち着いたとは思うがな」

 フェーズの言葉に頷きつつも、レイはそう指摘する。事実、フェーズたちの予め配置していたタレットや各種トラップ、そして猟兵達の奮戦によってゾンビの集団の大半は既にあの世に送り返された後だ。それでいて尚、未だ残る敵戦力の膨大さには誰しもが顔を顰める事だろうが。

「ま、此処までやりゃあ防衛はあと一息ってとこだな。
 ……片ァ付けンなら、必要なのはやっぱ圧倒的な火力だ」

 連中を逆に蹂躙してやんぜ、と意気込むフェーズを他所にレイは手摺に手をかけて大きくその身を乗り出す。

「……お、行くのか」
「まあな。あと一息なんだろ」

 行ってくるぜ、と告げながら、レイの体躯が虚空を舞った。そのまま重力に引かれて落ちる重質量の肉体がバリケードの頂上を蹴りつけながら再び跳ぶ。二段式加速で勢いをつけて降下したレイのストンプは地響きと共に衝撃波を巻き起こし、深く抉られた大地から吹き飛ぶ赤土と、衝撃に巻き込まれ引き千切られた死肉を巻き上げる。レイの鋼の如き二脚がたまたま其処に倒れ込んでいた運の悪い死者の胴体を荒々しく踏み躙る。一拍置いて降る血の雨の中、足元で動きを止めたゾンビの死体を見下ろせば、屈み込んで辛うじて原型を留めていた頭部を鷲掴みにして。

「借りるぜ。答えは聞かねえけどよ」

 そのまま無造作に引き千切る。まるで果実を木からもぎ取るような気軽さだ。血の糸を引いて胴から離れた生首を掌中で転がしながら、幾度か跳ねさせる内に、ボールの如く虚空を舞う生首からは肉の焼ける臭いと共に黒煙が噴き上がり、レイの腕を通して流し込まれていく青白い電光が空気をざわめかせながらその勢いを増し、“砲弾”へと収束する。

「そら、返すぜ」
 
 そのまま渾身の力を込めて、振り被った生首をオーバースローのフォームで豪快に投げ放つ。ボウリング大のそれは、大気の分厚い壁を貫くだけでは飽き足らず、居並ぶゾンビの胴体を数人分立て続けにぶち抜いた末に、中に篭もっていた雷光を炸裂させながら弾け飛び、周囲のゾンビたちを巻き込み、焼け焦げた肉片へと爆ぜさせる。

「結構よく焼けてるじゃねえか。うまいといいんだがな、この肉も」
「……おいおい、それ食うのかよ」

 バリケード上から聞こえるフェーズの言葉に、レイは緩く肩を竦めて見せる。オレが食うんじゃねえよ、と示したつもりではあるが、果たしてフェーズにはきちんと伝わるものだろうか。その間にも、わらわらと周囲を取り囲むゾンビたちをレイは腕を振るって薙ぎ倒し、バリケードに取り付くものは強引に引き剥がして大地へと叩き付けて踏み潰す。黒い衣はこういう時は大層便利だ。多少ぐらいは電撃で焦げようが、或いは敵の、そして自分の血に汚れようが、黒い色なら目立ちはしない。

「イイぞレイ! もう暫く其処で踏ん張っててくれよ!」

 バリケードの足元で、押し寄せる大波の如く群がるゾンビたちの侵攻を遮るレイ。その武力は圧倒的なれど、タレットの支援射撃を持ってしても、大群を相手取るにはまだ処理能力が追いついていない。しかし、蹂躙するのはこちらの方だと言ったはずだ。高所に陣取ったのは、何も敵の進撃から逃れるためだけではない。狙撃手が高所にポジションを取るのと同じくして、フェーズもまた必殺の意志を胸に秘め、此処に居る。羽織っていたメカニックマントを勢い良く翻せば、その裾から次々と飛び出す小さな影。戦場に響き渡る銃声や怒号に同調するように自ら流す音声に紛れ、ゾンビたちを捕捉するサーチドローン「Look」が戦場に散らばり、文字通りにレイの耳目と化す。インカムを通して送られる情報を掌握することは即ち、戦場を支配することにも等しい。

「……さあて、待たせたなお前ら! 出番だぜッ!」

 タレットの銃声轟く中、バリケードの上に立つフェーズの背後から、彼お手製の自律兵器たちが次々と戦場に降り立っていく。大地を踏み荒らしながら突進するスピナーが、ドリル状の角を高速回転させて立ち塞がるゾンビたちを尽く突き通しては荒々しく振り回して蹴散らし。その間隙を縫うように、左右それぞれの手にヘビーマシンガンを携えたタップが浮足立つゾンビたちを薙ぎ払うように掃射を見舞う。猟兵ならばいざ知らず、常人では両手で扱うのも持て余しそうな重火器をいとも容易く使いこなすのはまさしくマシンの強みであろう。

「いいぞタップ! スピナー! その調子でやっちまえ!」

 通り過ぎた後には引き千切られた死体と夥しい空薬莢を打ち捨てながら、進む彼らを援護するように、上空からはウィンズの撃ち込むビームキャノンが光の雨を降らせ、一方的にゾンビたちを蹂躙し、爆ぜる血袋と変えていく。彼らはそれぞれ、Lookから送られる情報を元にして、ゾンビたちを駆り立てて誘導していた。物を言う暇も惜しむかの如く、ただ力強く黙々と敵を屠り続ける彼らの雄姿に勇気づけられたかの如く、集落の住民たちもまた、有り合わせの古びた銃器、或いはフェーズの用意していた重火器を手に取り、バリケードの上からゾンビたちに弾丸の雨を惜しげもなく浴びせかける。

「気張れよ! 猟兵だけに任せきりでは男の名折れってもんだ!」
「ここは俺たちの村だぞ。俺たち住民が守らなくっちゃなあ!」

 自らも銃を手に迎撃に加わる村長に触発された住民たちの意気も高い。ビームマシンガンを横水平に乱射し、バリケードをよじ登ろうとしたゾンビの頭を吹き飛ばしつつ、Lookから飛んだ報告に絶好の機会を確信したフェーズが吼える。

「レイ、もう良いぞ! やってくれッ!!」
「……おうよ。十分下がったか。巻き込んでも知らねえぞ」

 どこに誰が居るかも分からぬほどに混然としたゾンビたちの群れのど真ん中から、ずぼりと生える太く力強いその腕はレイのものに他ならない。大きく振り上げた腕から迸る青白い電光が空気を焼く臭いが理性ある者の鼻を突く。眉を顰める間もなく、突き上げられた拳が再びゾンビの群れの中へと吸い込まれ、そのまま鉄槌の如き剛拳が大地を殴りつける勢いに風は哭いて、地は揺れる。直後、ゾンビたちの足元から次々と天を目指して逆立つ眩い光の柱。

『――――纏めてで悪いがな。これがお前らの墓穴だッ』

 否、これは極太の雷光だ。周囲を蒼白く焼く眩い雷の柱に巻き込まれ、ゾンビたちが次々と焼き尽くされていく。そして、レイ渾身の拳の威力は、叩き付けた地面を粉砕し、まるでクレーターが如くに丸く大地を抉り取った陥没痕を生み出すに至る。眩い閃光が晴れた後、大きく崩れて陥没した其処はまるで巨大な蟻地獄の巣と化していた。雷光に焼かれる事を逃れたゾンビたちも、そのほぼ全てが蟻地獄に捕らわれ、土砂に塗れて藻掻くばかり。

「……っと……」

 大地を刳り抜く大穴の中心でゆっくりと立ち上がるレイ。帽子に掛かった土をぞんざいに払ってから、その太い腕に幾重にも巻かれた鎖を解けば、それを頭上目掛けて無造作に投擲する。レイの闘気を帯びて伸縮する銀の鎖は狙い通りにバリケードの突き出た廃材に絡みつき、軽く手繰って幾度か試すように引っ張った後、レイは周囲を見回した。穴底で無様に藻掻き続ける哀れな死者たちを。レイと、ゾンビたち。彼らの姿は確かに似ているが、やはり別のものだと彼は思う。

「……よお兄弟。岩登りは得意か?」

 無論、答えはない。幾つもの手が無意味に虚空を掻くばかり。幾つもの怨嗟の声と餓えて濁った眼を置き去りにレイは跳ぶ。

「オレは得意なんでな。悪いがお先におさらばさせてもらう」

 鎖の縮む復元力に自身の跳躍力を上乗せし、レイの重たい身体が弾丸の如く勢いを付けて引き戻されていく。それと入れ替わりの如く、大穴を見下ろすように包囲するフェーズの自律兵器たちがこれでもかという程に積み込まれた過剰な程の追加武装を一斉に展開させる。
 
『同士討ちの心配はねえぞ! 遠慮なくぶっ放せ!』
 
 直後、自律兵器たちにそれぞれ積み込まれたポッドから一斉に射出される小型ミサイルが噴煙の尾を細く引きながら穴底へと吸い込まれるように次々と突き進み、機銃弾、ビームマシンガン―― 更には住民たちからの遠慮も容赦もない全力射撃が雨霰と降り注ぐ。思いつく限りの銃火器類が火を噴き、作り出す巨大な弾幕が、大穴の中身を全て飲み込むような火球へと膨れ上がり、何もかもを焼き尽くしていく。フェーズの号令に突き動かされて住民たちは、爆発が晴れて噴煙が風に流された後、恐る恐る大穴を睨みつけるように見下ろす。

「……や、やった……のか?」
「あれだけのゾンビが、みんな吹っ飛んじまった……みてぇだ」

 視界の先、無残に焼け焦げた大穴の底に最早動く死者は一人たりとも残っては居ない……その戦果を目の当たりにして、彼らはようやく安堵の溜息を漏らした。

 鎖に引き戻され、叩き付けられるようにして飛びついたバリケードの頂上まで登り付いたレイは、振り返ればその視界の先に広がる地獄の釜の底――― 否、その墓穴を見下ろした。

「……火葬は足りたらしいな」
「ああ、根こそぎバラバラにしてやったぜ」

 何時しか同じくバリケードをよじ登って彼の隣にまでやってきたフェーズが得意げに告げながら、レイの肩を軽く叩く。

「なかなかイイ音してたぜ、あの雷。俺のマシン達も負けちゃいないがな」

 そう告げながら、改めて周囲を見回すフェーズ。大地を抉る大穴に飲まれる事を免れたゾンビたちも多少は生き残っているが、それはもはや、住民たちでも十分に対処可能な残り滓のようなもの。それに始末を付けるべく、慈悲の弾丸を見舞うタレットと住民たちの銃声が疎らに響くのを聞き流しながら安堵の溜息をつくフェーズであるが、不意に目を見開くと視線の先は遥か彼方を睨みつける。インカムを通して響き渡る、Lookからの警戒を促す信号が集落へと迫る新たな危険を知らせていた。

「……来るぜ、本命だッ!!」
「ちょうどいい、肩慣らしが済んだところだ。そうだろ、アンタも」

 レイの言葉に、フェーズの口元が不敵な笑みの形を刻む。

「ああ。……まだまだ暴れ足りねえと思ってたところだぜ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『燦然たれ希望の星』

POW   :    戦友たちよ、今再び共に征こう。
【Bf109戦闘機に搭乗した戦友】の霊を召喚する。これは【搭載武装】や【連携戦術】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    速度を保て、蒼空を目指せ。
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【空戦速度】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ   :    翼はある。希望はどうか。
【かつて戦友から仮託された『必ずや勝利を』】という願いを【己自身】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。

イラスト:ヘッツァ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●真昼の星は燦然と輝き続け

 空を愛していた。
 空に生き、空に死す。
 誇りを胸に戦い続けた空の騎士の想いは今も尚、眩く輝き続けている。

 然し、今の彼女が見ている者は守るべき人々ではない。
 ただ焦がれている、この空に還る日を。

 その身に纏うBf109の頼もしき翼が荒野の風を切る。
 嘗て乗り込んだ愛機は死して尚、その身に融合し、常に共にある。

 地べたを走る汚らわしく醜い怪物を散らしながら、ただ只管に空を翔ける。
 あれほど焦がれていた空を自由に舞っているのに、理由も分からぬ餓えがある。
 守るべき人々も忘れるほど強烈に記憶に焼き付いたひとつのイメージを求めて。

「……ああ、分かるぞ。この方角だ……! 確実に近づいている……!」

 待ち望んだ戦場へと騎士はようやく辿り着いた。
 星は今も輝く。今一度の死闘を求めて一際強く輝いている。
 
 担いだ砲を打ち鳴らし、己を迎える強敵へと知らせよう。
 急降下からすれ違いざまに死人の生き残りをずたずたに斬って散らす。
 その残骸を置き去りに、翼纏う躯体は天高く飛翔し、迫る集落を見下ろした。

「永らく待ち侘びた御敵たちよ。……私が、来たッ!!!!」

 死して尚戦い続けるエクスペルテン(Experten)。
 その勇ましき声が戦場に木霊した。
 
 その星を墜とせる者は、果たして居るものか。
クロゼ・ラビットクロー
他者との会話は敬語。
独り言は普通。

あっ、無理なやつだ。
まず空を飛んでるのが無理。
地上に突っ込んできても速過ぎて擲弾で対処するのが無理。
ヨシ!いつものように住人の避難活動に回るか。

…その前に。
小型端末を取り出すと、敵の僚機とおぼしき機影を
カメラに収めスイッチを押した。
あっちはまだ常識的な動きだからなんとかなるかもね。

端末から送信された電波は荒野の真ん中、
戦車がエンストする原因となった“重過ぎる荷物”に届けられる。
トレーラー移動式のミサイル起立発射機は、
送られたデータを元にゆっくりと起動を開始した。
なお外しても空中で自爆する仕組である。
どうせ周りは荒野だけど、たまたま生き物が居たら危ないからなー。


才堂・紅葉
「速過ぎる……なんなのよ、あれ!?」
拠点から見上げ、思わず絶句する

「みんな、建物の中に避難して!」
悲鳴のように指示を出し、自身も「紋章板」の防御ガジェットを発動し【オーラ防御】を展開する
ターレットと連携し【拠点防御】を構築。【援護射撃】で味方を支援する
【戦闘知識】で敢えて、施設直上の護りだけ手薄にしたい

【気合】で堅守し、相手が焦れて直上を取る瞬間を待つ
その時が来れば、「ガジェットブーツ」で大跳躍
「コード・ハイペリア」
真の姿の【封印を解き】、更に空を蹴って大跳躍
奴を【グラップル】で掴まえ、掌握から重力【属性攻撃】の【衝撃波】
【二回攻撃】で「落下技」による【重量攻撃】で地に落したい

「落星!!」



●Re:Battle of Britain

「速過ぎる……なんなのよ、あれ!?」

 三階建てのビルの屋上より見上げた新たな敵。ゾンビたちの猛攻を凌いだ後の襲撃が予知されて居たとは言え、その詳細は今の今まで誰も予見出来ては居なかった。大空を自在に飛び回るその翼が鋭く風切る音を追うように紅葉は視線を巡らせる。幾つもの死線を越えて培った彼女の感覚が未知の敵に対してのアラートサインを引っ切り無しに訴えていた。

「みんな、建物の中に避難して!」

 そう住民たちに向けて叫びながら、同時に彼女は特殊鋼を織り成して作り上げた紋章板の鎖を引いて、強引に振り上げた装甲板を虚空に翳す。紋章に走った魔力によって起動し、積層された108枚の装甲板が瞬時に展開されて構築する防御壁。それとほぼ同時に、ビル上空を滑るようにして飛来してきたオブリビオンの担ぐ長砲身のロケットランチャーから射出された砲弾が、紅葉の防御壁に真っ向より突き刺さって炸裂した。

「……ぐぅッ!!」

 その爆音に、大気が震える。ビルの窓ガラスが次々と割れては虚空に煌めく破片の雨を降らせた。防御壁の表面で爆ぜた衝撃に圧されるように、後退る紅葉。障壁越しとは言え殺し切れない衝撃に面食らいはしたものの、目立ったダメージはない。ガラスの雨に慌てふためきながらも住民たちが次々と手近な建物に飛び込んでいく姿を確認したところで、漸く未知の敵へとその意識を集中させることが出来る。同時に彼女が気付くのは、防壁を張っていたとは言え初撃を凌いだ直後から、それ以上の攻撃が行われなかった事。それは、まるで―――


(…………住民たちが避難するのを、待っていた……?)


 小さな疑念を胸に抱きながらも、紅葉は上空を飛び続ける敵の姿を目で追う。仕掛られた幾つものタレットから、空へと向けて止む事無く浴びせ続けられる無数の機銃弾が生み出す嵐の中、彼女は巧みな空戦機動を描き、紙一重でやり過ごしながら優雅に翔けていく。陽光を浴びた装甲を煌めかせるその姿は、まるで真昼の空を駆け抜けていく一筋の流星のよう。対空射撃の弾幕を物ともしない機動力に舌を巻きながらも、紅葉は肩に吊るしていたアサルトライフルを抱えるように掴み取る。

「……準備は出来たようだな。良い戦に過度の気負いは無用だ」

 遥か視界の先で、自身を迎え撃とうと戦意を募らせる戦士たちを見下ろして“彼女”は笑う。己の望む死闘に、要らぬ介入をされたくはない。気掛かりが増えれば、相手の動きも精彩を欠くことだろう。それでは到底納得など出来ようはずもない。警告の一射を見舞った後の、迅速な動きは相手もまた歴戦の勇士であろう事を示している。満足のいく戦いが出来そうだ。

『戦友たちよ、今再び共に征こう』

 彼女の呼び声に応えるが如く、虚空に次々と生まれ出る青白い炎。激しく燃え盛るそれらが次々と爆ぜ、其処から生み出されていくのは、旧大戦時に猛威を奮った誇り高き空の騎士たちの乗り込む鋼鉄の猛鳥たち。Bf109戦闘機に乗り込んだ過去の亡霊たちが鮮やかに空を舞い、隊列を織り成した。いずれ劣らぬ一騎当千の古強者の魂を乗せた空の軍団が制空権を支配しようとしている。

「凄まじいわね。……バトル・オブ・ブリテンの再現かしら」

 悪夢じみた光景だと舌打ちを漏らしながらも、紅葉はその威容を誇る布陣から目が離せない。口元がつい無意識に笑みの形に歪む。紛れもない強敵の予感に、細胞の半分が怯え、もう半分は逸っていた。激突の瞬間を待ち侘びているかのように。そして彼女は知っている。かの苛烈な航空戦を制し、敵の猛攻を凌いだのは英国だ。ならば、その勝利も再現してやるべきだろう。


「あっ、無理なやつだこれ」

 空を自在に飛び回る新たな敵影をガスマスクのレンズ越しに見上げながら、愛機ラビットモービルに跨るクロゼは緩く肩を竦めて溜息を溢した。

「まず空を飛んでるのが無理」

 小型戦車と言いつつも、踏破性能と馬力による輸送力に主眼を置いているのか、モービルに目立つ武装の類はない。よって、空を飛ぶ敵に対して打てる手立ては極端に限定されてしまうのだ。もう少し深く考えてみたが、結局クロゼの結論は変わらない。

「地上に突っ込んできても速過ぎて、擲弾で対処するのが無理……」

 其処まで口にした所で、炸裂する爆発音がクロゼの思考を一気に現実へと引き戻す。敵の撃ち込んだ砲弾の衝撃に細かく砕け散り、降り注ぐ鋭いガラスの雨に逃げ惑う住民たちを追うように、クロゼはラビットモービルをフルスロットルで走らせる。大馬力とクローラーの踏破性能を活かし、荒れ地に特徴的な轍を刻み込みながら、クロゼの伸ばした腕が、見当外れの方向へと逃げ惑おうとしていた住民の胴体を無造作に掴んで抱え、そのまま鮮やかにハンドルを切り返し、モービルをターンさせれば無造作に廃屋の入り口へと抱えた住民を放り込んだ。

「手荒ですみませんが、其処でしばらく隠れていてください!」

 うげっ、と叩き付けられるような形で床板に転がる男の悲鳴が聞こえるが、それに構っている暇はない。彼を置き去りにクロゼの駆るモービルが戦場を再びフルスピードで走り出す。あちこちが凸凹した未舗装のラフな地面をがくんがくんと不規則に揺れつつ、モービルが唸りを上げる。容赦なく揺さぶられるクロゼの脳内でヘルメットを被って二足歩行する猫が「ヨシ!」と力強くガッツポーズを決めた。

「僕のやることがわかったぞ。いつものように住民の避難活動に回るとしよう」

 言いながら見上げる空―― 最初の敵が味方を呼び出したのだろう。上空に展開される、数多の戦闘機が織り成す戦列にクロゼは小さく呻いた。やはり分の悪い相手だ。けれども、このまま救助、避難だけをしているつもりはない。

「考えようによってはチャンスだな、これ。
“アレ”を持って帰る手間も省ける」

 クロゼはガスマスク越しに微かに笑みを浮かべる。エンストして修理に手間取った時、砂漠の真ん中にやむなく遺棄してきた例のブツ。正直かなり持て余し気味だった邪魔な荷物を上手く処理するいい機会だ。ポケットから取り出したカメラ付きの小型端末を上空に翳す。一番最初に現れたオブリビオン―― だめだ、早すぎてまともに撮影が出来そうにない。仕方なく、その周囲を護衛するかの如く飛び交う僚機たちをファインダーに収め、シャッターを切る。あちらはまだ動きが常識的な範囲だ。撮影するのは思ったよりも苦ではなかった。

「……さあ、上手いことやってくれよ」

 小型端末のスイッチを押し込みながら、クロゼは逃げ遅れた次の住民たちを探し求めてモービルを走らせる。後は自分のできることを、できる範囲でこなしていくだけだ。彼の意志を示すように、分厚いクローラーは飛び散るガラスや廃材を物ともせずに蹂躙し、蹴散らした。

 荒野のど真ん中―― 牽引するための荷台ごと切り離されて遺棄されていたコンテナが、端末より発信された信号を受けて、がたんと二つに割れるようにして外装を展開させる。其処から露となるのは、まるでスペースシャトルの発射台を彷彿とさせるような装置。真横に寝かされていたそれをゆっくりと引き起こしていく姿をもし見る者が居たのであれば。そして彼が兵器に詳しければ、その目を見開きさぞや驚愕した事だろう。それはトレーラー移動式のミサイル起立発射機。クロゼ虎の子の一発にして、余りにも重たすぎて牽引して輸送していたラビットモービルがエンストを起こしてしまったほどの厄介な荷物である。送られたデータを元にゆっくりと作動し始めたそれは、今こそ巨大な図体に秘められた真価を発揮しようとしていた。


「……ああもう! ……ゾンビほどじゃないけど、こっちも数が多い!!」

 頭上の隊列から降り注ぐ機銃弾と、ロケット砲弾の雨を展開する紋章板による装甲によって凌ぎつつ、紅葉が舌打ちを漏らす。数多の僚機を従えたエクスペルテンからの容赦なく苛烈な攻撃を装甲とバリケードに潜り込んでやり過ごしては、その合間にアサルトライフルやグレネードでタレットの自動射撃に合わせた散発的な反撃を先程から繰り返しているが、焼け石に水だ。しかし、歴戦の亡霊たちが侮れぬ存在ではあっても、本来一機ごとの単位で見れば猟兵たちにとっての脅威とは言えぬものだ。彼らを恐るべき強敵の集団へと変えているのは、高度で綿密な連携技術と高い士気だ。それを作り出しているものこそ、今も静かに天空高くより戦場全体を睥睨するエクスペルテンそのものだった。

「このままじゃジリ貧ね……。でも、こっちはあんなに高くまでは跳べない」

 高所を陣取ってはいるが、自在に空を飛び交う相手を上手く有効射程の内へと収めるには厳しい距離だ。それを卑怯とは言うまい。戦いとは、己の持ち得る手札を生かして、相手の手札を出し切らせぬ内に徹底的に叩き潰すのが基本なのだ。だが、その優位は同時に勝ちを望んで逸る相手の隙をも招く諸刃の剣。ならばそのチャンスを静かに待ち続ける。今が辛抱の時だと紅葉は自身に言い聞かせながら、弾を撃ち尽くしたアサルトライフルに新たなマガジンを叩き込めば、限界を迎えつつある装甲板の影で一層に激しく闘志を燃やす。

「…………肉薄してきた時が、チャンスよ」

 そして、そのチャンスは意外にもすぐに訪れるのだ。遠い彼方に光る小さな煌めき。もうひとつの真昼の星が集落目掛けて真っ直ぐに唸りを上げる。荒野のど真ん中に遺棄された発射台より射出されたクロゼ虎の子の一発。中型のミサイルが白い噴煙の尾を一筋引いて、戦場へと飛来した。

「……何ッ!!」
「慌てるな、こんなモノ当たらなければどうと言うことはない」

 指揮官の周囲を護衛すべく飛び交う直掩機を捕捉し追尾するそれを、しかし歴戦の空戦兵は慌てず鮮やかに紙一重ですり抜けるように回避する。――――その光景を双眼鏡で覗くクロゼが小さく笑う。

「まあ、こっちもそう簡単に直撃なんてしないと思ってたよ」

 だからね、と続ける彼の独白を飲み込むように上空で不意に大爆発が巻き起こった。爆風に、そして飛び散る破片に絡め取られ、引き裂かれ、幾つものBf109が爆ぜては砕け、火の玉と化して次々と重力に引きずられるように地へと滑り墜ちながら、大地に突き刺さるよりも先に燃え尽きて火の粉の如く散っていく。

「……当たらなくても、目標のそばでセンサーが作動して爆発するんだ」

 予想外の甚大な被害に色めき立ち、統制されていた隊列を乱し始めた上空の戦隊を他所に、クロゼがモービルを全力で走らせる。さて、次はどうするか。……ともあれ、もう一働きしてこなくちゃ。レンズの奥で戦場を見渡すクロゼの瞳は、炎の色に揺れ輝いていた。


「……なるほど、近接信管の類か」

 見事にしてやられた、と乱れた隊列をカバーするべく高度を緩やかに下げるエクスペルテン。今の一撃で散っていった頼れる部下や戦友の顔や名前を逐一思い出してはやるせない思いを抱きはすれど、彼女の表情は変わらない。寧ろ、戦の高揚に嬉々としてさえいるかのようだった。

「そうとも。死を過分に恐れて戦など出来ようものか。
 その恐怖こそが私を歓喜させ、研ぎ澄ませていくのだ」

 低く滑り降りながら、担いだロケット砲を廃ビル目掛けて立て続けに連射する。得体の知れぬ装甲板を展開し、籠城を決め込んだ敵を追い立てるかのように、連続して起こる爆発の衝撃が低層の建物を容赦なく揺さぶり苛んで行く。自身を狙う自動機銃の対空射撃をすり抜けながら、返礼とばかりに撃ち込むロケット砲が炸裂し、瞬く間に3機のタレットを粉砕、沈黙させる。

「さあ、どうした―― それで終わる貴様たちではあるまい」

 次の反応を心待ちにしているかのように告げる彼女に応えるかの如く、爆炎に包み込まれ、燃え散り崩れ落ちていく装甲板とバリケードの隙間から飛び出す影。それはもちろん、紅葉だ。

「お望み、どおりにしてやるわッ!!」
「……ほう」

 高度を下げたエクスペルテンに、弾切れのライフルを打ち捨てながら飛びかかる紅葉が振りかぶりながら繰り出すフック気味の軌跡を描いて唸る右拳。それを僅かに顎を持ち上げるようにして上体を反らして紙一重にすり抜けるエクスペルテンが、驚愕に満ちた紅葉の顔面めがけて、自身の額を強引に鉄槌の如く叩き込む。

「ッが……!! スウェーバック、ですって……!?」
「舐めるな! ドッグファイトであろうと遅れは取らぬッ!」

 割れた額から流れ出る血の帯を引きつつ、地上目掛けて叩き落される紅葉――このままでは大地へと背中から叩き付けられてしまう。なんとか体勢を整えねば、と思考を巡らせる彼女の落下点を目指して荒れた大地を地響きと共に爆走するものがある。

「……見つけた! こいつが、僕の次の仕事だ!!」

 限界を越えて爆走するラビットモービル。クロゼのユーベルコードにより、頑強に補強された装甲は本来ならば機体を軋ませる程の激しい加速にも問題なく耐えることができる。そして、落下してくる紅葉と突っ込むモービルの機体が激突するか否かの瞬間に。

「これ、使ってください!」
「……恩に、着るわッ!!」

 クロゼの短くも端的に示した叫びに、突き動かされたかのように紅葉は思い切り良くモービルのフロントを勢い良く踏みつけ、そのまま強引に蹴りつけた。彼女の身につけたガジェットブーツにより増強された脚力によって蹴られたモービルの車体が大きく揺さぶられ、倒れ込みそうになるのを辛うじてクロゼは逆方向に身体を傾がせながら必死に支えてなんとか凌ぐ。ぐらつく車体を垂直に引き戻しつつ、上空へと矢のような勢いで跳躍していく紅葉の背中を見送るクロゼは、自分の仕事の出来栄えに満足気に頷きながら快哉の声を上げた。

「……やった、どこも壊れてないぞ!」


 一度叩き落としてやった相手が、再び跳躍して肉薄する。余りにも予想外の反撃に、さしもの撃墜王も一拍反応が遅れてしまう。その一瞬が、戦場では命取りとなる事を本能で理解していて尚、彼女はそれを回避することがとうとう出来なかった。時分を目掛けて真っ直ぐに飛び込む少女の髪が鮮やかな紅に染まる。美しくも凶暴なそれに見惚れた一瞬の内に、自身と同じ高みにまで至った少女が不敵に笑う。伸びる手のひらが優しく触れるように肩へと重なり、同時にその身体に急速に伸し掛かる強烈なG。

「……待っていたわ、この一瞬を!」
「……なん、だと……ッ!」
『コード:ハイペリア承認。高重力場限定展開ランク1実行……!』

 強烈なGに押し込められたエクスペルテン、渾身の力で組み付いてくる少女を振り解く事は叶わない。振り返れば迫る地上はすぐ其処に。もう一度間近から組み付く敵の姿を見上げる。成程―――譲れぬ何かの為に懸命に戦う姿は美しい。その有り様に善悪の区別は関係ない。

「……落星ッ!!」

 振り上げられた紅葉の拳が、大地に叩き付けられるのとほぼ同時のタイミングで鳩尾に叩き込まれた衝撃に、撃墜王の視界は一瞬真っ赤に染まる。叩き付けられた大地を豪快に粉砕し、深々とクレーター状に陥没させながら、大地を錐揉み回転しつつ幾度もバウンドした挙句に漸く勢いを殺し切る事に成功する。クレーターの真ん中に立ち不敵に笑む赤い髪の少女を見やりながら、撃墜王はゆっくりと立ち上がる。内臓が拉げ潰れたものか。喉元を迫り上がってくる鮮血を強引に飲み下して、不敵に笑う。土砂に塗れた軍服を軽く払い、未だ撃ち足りぬロケット砲を担ぎ直して敵の姿を真っ向より見据える。

「……っ、ぐぅ…… ふ、ふははッ!! いいぞ、これこそ私の求めていたものだ」

 自身を追い詰める死地のヒリつく冷たい感覚が、寧ろ一層に己を研ぎ澄ませて高めてくれる。御敵との尊い一戦の歓喜を噛みしめるように、エクスペルテンは再び地を蹴り空高く舞い上がった。

「重ね重ね見事だ、戦士たちよ……!
 だがまだ終わらぬ。私の戦争は、まだ終わってなどいないのだ!」

 再び空へと登るエクスペルテン。
 真昼の星は今もまだ、激しく輝き続けている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

火土金水・明
「そちらが空を飛ぶのでしたら、こちらも空を飛ぶことにしましょう。」
魔法の箒に跨って【空中戦】の技能を使用します。
【WIZ】で攻撃です。
攻撃方法は、【高速詠唱】し【破魔】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【サンダーランス】で『燦然たれ希望の星』を【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】【見切り】でダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでも、ダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。


リムティア・クィリス
共闘即興歓迎
POW

「予知を聞いていたけど、私、対空能力は低いのよね」

遠目に見える高速で距離を詰めてくるオブリビオンを確認し溜息
出来る事は、派手な囮とまだ残っている地上残党の掃討と判断、周囲に自分の行動を通達

Eisenの装甲を一撫でしてから、UCを使い、残るゾンビを強化した【重量攻撃】で【蹂躙】!
UCの光とマフラーの轟炎、魔獣が如きエンジン音を響かせゾンビを轢きながら、上空の目を引き的にならないようにランダム機動。
ゾンビを轢いて車体がぶれたり跳ね飛ぶから【運転】で上手く操作。

レーザーキャノンは、バッテリーに接続する暇がないので不使用。

とにかくゾンビ轢き&空中からの囮逃げ重視、決して止まらぬように



●BROKEN THUNDER

「冗談じゃないわ……」

 リムティアの見上げる空、その視線の先で幾多もの戦闘機が飛び交う光景は悪夢そのものだった。荒野から突如飛来し炸裂したミサイルの爆風によって燃え尽き落伍していったモノたちも居るが、その奇襲で乱れた隊列は、指揮官機が再び空へと舞い上がるに従い、緩やかにではあるが統制された整然ぶりを再び取り戻し始めている。

「予知は聞いていたけども……。私、対空能力は低いのよね」

 そもそも相手が飛行する事など誰も予測はしていなかったのだから無理もない話である。縦横無尽に空を翔けるオブリビオンの影を遠目に、彼女は重い溜息をゆっくりと吐き出した。けれども、出来ぬ事が全く無い訳でもない。速やかに気分を切り替えれば、リムティアは愛機Eisenの装甲を軽く触れるように一撫でしてから周囲を見回す。ゾンビたちは既にほぼ死滅しているが、それでも生き残りは微かに居る。住民たちも避難してしまった為、そちらに目を向けられる者は今や限られていた。

「……とりあえず、動き回ってさえいれば死にはしないわね。派手に動いて敵を引き付ける!」

 周囲で上空の戦闘機たちを相手取る猟兵たちにそう短く告げれば、リムティアはEisenのエンジンを全開に戦場を疾走する。同時に発動させるユーベルコード「一機徹閃(ミーティア・ドライブ)」が、跨る大型装甲バイクのエンジン出力を再び限界以上に引き上げた。耳を劈かんばかりの爆音と青い炎の如きエグゾーストの尾を引きながら疾走る彼女は、地上を駆ける青い彗星とその身を化した。黒焦げになりながらも弱々しく地を這いずる死に体のゾンビの頭を容赦なくバイクのカウルが粉砕し、今度こそ引導を渡す。千切れ飛ぶその破片を置き去りに、次々と視界に飛び込むゾンビたちを轢き潰し、踏み砕いていくその姿は上空からもさぞや目立つ事だろう。望むところだ。

「……そうよ、こっちを狙ってきなさいな!」

 大きく荒れ地を掻き抉るようにターンを切るEisen。其処で旋回せねば、そのまま自身を補足していたであろう上空よりの機銃掃射をあざ笑うように、リムティアは更に爆音を響かせて愛機を走らせる。右へ、左へ、ランダムに機体を揺さぶりながら、その都度自身を狙う対地攻撃をやり過ごす。最早取り回しの悪いビームキャノンを使う暇もないが、回避に専念すればこの程度の攻撃に狼狽える要素は微塵もない。

「まだまだッ……!! ちゃんと狙っているのかしら!」

 続けて風を引き裂き唸りを上げて飛来するロケット砲を身を竦めて紙一重にすり抜ければその後方、大地に着弾して炸裂する爆音、そして生まれる衝撃にEisenを乗せて大きく跳ねる。オレンジに激しく燃え上がる爆風に煽られながらも、巧みに愛機の手綱を取ってバランスを整える。熟練のスタントライダーでさえ、このアクションを経験することなどそうはあるまい。再び着地し、悪路とタイヤのぶつかり合う衝撃に大きく身体を揺さぶらせながらも、リムティアはそれに耐え切った。

「……ッ、と……! 誰も褒めてくれないから、私が自分で褒めようかしら……!」
「いいえ、凄いテクニックだったわ。……連中の気を引いてくれてありがとう」

 そんな彼女のすぐ隣、超加速を帯びたEisenのボディに並行するように疾走る影がある。それは超低空を弾丸の如く飛んでいた。彼女の言葉に対しての賛辞と礼の言葉を残して、それは急速に上空目掛けて機首を。否、箒の先端を向けた。流れ星は落ちていくものだが、それは逆に空へと跳ね上がって飛んでいく。

「オーケイ、任せたわ! しっかりやんなさいよ!!」

 空を征く頼もしき箒の彼女の背を見上げ、リムティアの激励の叫びが響き渡った。


「……成程、確かに数が多い。
 けれどもそちらが空を飛ぶのでしたら、こちらも空を飛ぶことにしましょう」

 魔王の落し子を自称する、火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)の駆る魔法の箒は、すれ違った戦闘機たちを次々と迸る雷光で貫き、火の玉と変えて爆ぜ散らす。 爆ぜては虚空に火の粉を散らして消えゆく残滓たちを振り返りもせぬままに、青白い魔力光を纏うように帯びた箒は戦闘機たちの隊列を驚異的な加速で置き去りにしながら明は短く呟いた。

「……空を飛べるのがそちらだけとは思わない事です」

 此方も空を飛べるという条件を満たせば、猟兵にとって群がる戦闘機たちは脅威とはなり得ない。纏わり付く羽虫の如きBf109を鎧袖一触に散らしながら、明の見据える先はただ一点。上空高くに陣取ったエクスペルテン『希望の星』ただひとり。

「フッ…… 航空戦力をそちらも備えていたか。……それは重畳ッ!!」

 突っ込む明を見据えて向ける長砲身の発射音が吼え渡り、射出されたロケット砲弾が唸りを上げる。それは明を捕捉し、正面よりその胴を貫くが、不意にその姿が不規則に揺らいで掻き消える。

「何ッ―――……!!」
「……残念、それは残像です」

 消えゆく明の残像が遅れて炸裂したロケットの爆発に飲み込まれるその刹那には、明は希望の星の死角に回り込んで、小声で紡ぎ続けた高速詠唱を既に唱えきっている。構成される術式――惜しげなく全力で注ぎ込んだ魔力が空に巨大な魔法陣を描いていく。

『我、求めるは新たな雷撃の力――』

 真昼の空に、一瞬にして生まれる幾つもの眩い輝きを帯びた槍たちが浮かぶ。大気を焼く青白い電光で形作られたそれは、なんとその総数380本にも及ぶ。希望の星を取り囲むようにしてその穂先を規則正しく中心に向けた槍たちは、次の刹那には標的目掛けて一斉に唸りを上げて襲いかかった。

「これだけの数を避け切れますか? 受けなさい、サンダーランス!!」
「これ、は……!! いかん、全部貰う訳には……ッ!!」

 380の殺意を帯びた雷の投槍が希望の星を射抜かんと唸る。その雷雨の中を、すり抜けるようにして希望の星は飛ぶ。或いは紙一重にやり過ごし、或いは巧みに浴びせ掛けるロケット砲の偏差射撃にて撃ち落としもしようが、然しその数は尋常なものではない。

「……ッ……! まだだ、このままでは……終われんッ!」

 一つを避ければ次の一つがその身を掠め、引き裂いては焼き焦がして苛んで行く。何時しか避け切れぬ雷槍はその身の彼方此方を貫き、その身体と一体に融合した愛機の翼に、其処に刻印された帝国軍の紋章に、無残な傷を上から刻みつけていく。電熱の威力に所々が焦げて融解さえし始めた機械部位に大きくバランスを崩しながらも、然し彼女はまだ墜ちない。飛び続けて再び高度を上げていく。

「……少しでも多く、ダメージを与えなければッ!!」

 尚も追い縋ろうとする明を牽制するかのようにロケット砲を乱射して距離を取る希望の星を追い打つように、明が再び展開する魔法陣より一斉に撃ち出す雷槍の全力射撃。それは指揮官を守り立ち塞がろうとする直掩の機体たちを貫き、その尽くを次々と火球に飲み込み焼き散らしていった。彼我の間に広がる距離は広く、然し遮る者たちは次々と消えていく。けれども、未だ地へ墜ちることを拒み続ける希望の星。彼女を空へと縛り付けるプロペラの奏でる不吉の羽音は、今もまだ確か高らかに。墜ちぬ星の翼は羽撃きを続けていた。

「……まだ終わらん。そうだ、戦い続けねば……!」

 せっかく、蘇ったのだ。まだ終わらない。終われない。
 何のために。わからない。けれども、けれども。
 何かあった筈なのだ。戦い始めたその理由が。

 ただ、焦燥感に突き動かされながら星はひとり、高く高く空を飛ぶ。
 戦友たちが、ひとりまたひとりと落伍していく事にさえ気付けぬまま。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シャルロッテ・ノワール
心情:「ゾンビが恐れてたって、こんなの…滅茶苦茶すぎです…
敵の敵は、結局…討たなくちゃいけないのですね…」

行動:戦闘中は、主に仲間の支援にあたります
回復も無ければ、私に出来るのは錯乱させるくらいだけど…
「あの速度、追い付けるのかな…身体一つ、頑張らなきゃ…」
 燦然たれ希望の星の「速度を保て、蒼空を目指せ」に対し、UC【暗示・高速機動】を使うことで、速度勝負で撹乱します。
勝てない試合だったとしても、やる事に意味があるから、ね…
 最大の目的は、損害を出来るだけ減らして勝利する、事
その為なら、多少の怪我や損傷は平気、です

(服を脱いでワンピ一枚で、相手が相手なのでボロ切れになってもやむを得ないです…)


レイ・オブライト


オレの死がお前の勝利なら、そいつは叶わねえ
試してみな
【Arbiter】
彼方は殺し続ける程速度が落ちる。此方は殺され続ける程上がる
覚悟の上で限界突破。どっちがまだ死ねねえか、死人同士根競べといこう

お前にゃもう聴こえねえらしいが
救って、つってうるさくってよ
極限まで速度に±補正掛かった一瞬が勝負だ
信管作動前に拳撃で起こす衝撃波で砲弾打ち返すのは、敵に上手く当てるより一時の視界確保と攪乱目当て
もげた片腕を地へ蹴りつけ突き刺し、そこから飛ばす鎖で陸と空を結んで足場とし跳ぶ
結ぶ――鎖で貫く空側は奴か奴の戦友でもいい。戦友なら次々踏み台に駆け奴へ
オレからは叩き込む一撃限り
星ってのは、最後が一等輝くんだとさ



●Rising Star/Blazing Star/Shoot The Star

「ゾンビが恐れてたって……こんなの……滅茶苦茶過ぎです……」

  空へと向けて止む事無く吼え続ける対空砲火の轟音。幾条も空を切り裂き迸る赤い火線のその中を一筋颯爽と駆け下りていく真昼の星は、今も尚燦然と輝き続けている。火線に捕らわれ火の玉と化し、次々と散り墜ちていく僚機たちを彗星の尾の如く従えて。悪夢のようであってもどこか儚く鮮やかなその光景に、シャルロッテは思わず目を見開いて息を呑む。すぐに気を取り直すのは、ここが戦場だと思い至ったからだ。ただ圧倒されている時間も惜しい。どの道ぶつかり合うしかない相手だと理解したならば、後は身体を動かしていくばかりだ。村長から渡された真新しい上着の慣れぬ感触を持て余しつつも、少女はその襟元を強く抑えながら、迫る決戦の終着に想いを研ぎ澄ましていく。

「……敵の敵であっても……結局、討たなくちゃいけないのですね……」

 出会う時間が、場所が違えば或いは肩を並べて共に戦うようなIFは存在したかも知れない。けれども、目の前の現実こそが全てだ。おぼろげなIFは結局のところ、どこまでもあり得たかも知れない、しかし起こることのないもしもの出来事であって、それ以上でもそれ以下でもなかった。口元をきつく結んで空を睨む。真昼の星は、もうすぐ地へと墜ちる。其処につながる布石は必ずある筈だ。その瞬間を待ち続けながら、シャルロッテは戦場を駆けていく。この手が星に届くその瞬間、ぜったいに見逃してなどやるものか。

 

 耳を劈くような爆音の中、まんじりともせずにレイは空を静かに睨む。精彩を欠いた指揮に隊列が大きく乱れた僚機たちは、次々と対空砲火に捕らわれて虚空で爆ぜては散っていく。まるで花火か、或いは天地開闢の光景か。聴覚はとっくに麻痺していたが、それでも爆音の向こうから聞こえるプロペラの、死と破壊を纏った不吉の羽音ははっきりとレイの耳にまで届いていた。空高くから滑り降りてくる流れ星のような女を見上げ、静かに口を開いた。

『オレの死がお前の勝利なら、そいつは叶わねえ』

 轟く爆音の中で真昼の星は動く男の口元だけを見て、聞こえぬ筈の言葉を知る。

『―――― 試してみな』
「……ッ…… 面白い!」

 言いようのない、理解し難い衝動にただ突き動かされるばかりであった、エクスペルテンの翼に組み込まれたプロペラが、猛然と唸りを上げる。傷付いたその翼に込める願いを、戦場を求め続けた女の最後の希望を果たすために。

『――――翼はある。希望はどうか』

 静かに、女は自分に問う。かつて、無数の戦友たちに託された想いを果たし続けることが自分の戦いの意味なのだと信じていた。その想いも、何時しか自分の命と、愛機と共に空で砕けて散った。愛憎募る空に、それでも想いを今一度馳せる。『必ずや勝利を』。もう、それを求めた敵は居ない。発破するその時を求めて高まり続ける戦意と裏腹に、冷水の如く研ぎ澄まされた理性が冷静にそれを理解する。しかし、この戦場こそが今の彼女にとっての全て。何の因果か妄執に歪んだ肉体は蘇ってしまったが、こうして今も空にある。ならばただ砕け散るそのときまで、全力で飛び続けるのみ。彼女は先の自問に胸を張ってこう自答する。

『――――我が翼、我が想い、未だ折れず。ならば希望は無論あるッ!!』

 焦がれ求めてやまぬ最後の戦いを。その戦場へと向けて、急降下しかけた姿勢を引き戻す。希望の星は、最大戦速にて御敵目掛けて突っ走る。咆哮する。

『このまま。……速度を保て、蒼空を目指せ!』

 今一度高度をより高く求めて、エクスペルテンは急上昇していく。ゆっくりと傾き始めたオレンジの陽の光を背負い、空の頂に陣取る真昼の星は、いよいよ燦然と燃え上がる。そして、再び降下を始めた彼女を瞬きもせずにレイは静かにその双眸で見上げ続ける。空気の壁を容易く引き裂き突き破る、ただ止まるその時まで飛び続ける事を願う矢のような女。その姿は酷く歪であれど、目を離し難い凄みを確かに帯びていた。ゆっくりと開いた五指を拳の形に結びながら、レイは蒼空を滑り落ちてくる流星を待ち構える。

「……悪かねえ。先の連中どもよりかは随分マシだろうさ」
「いざ、尋常にッ!!」
「おうよ。どっちが先に終わるか、死人同士根競べといこうや」

 瞬きする間に空から駆け下りた流れ星は、担いだロケット砲を小刻みに乱射する。偏差をつけて放たれた砲弾が次々と炸裂し、レイの肉体を取り囲むようにして巻き起こる爆発。暴風に翻弄されるように、レイの破帽が虚空を舞う。肉体の彼方此方は着衣と共に爆風に焼かれ煽られ、焦げては灰と散っていくが、それでも地面を踏みしめた両脚はまるで碇の如くその身体を大地に縫い付け、微動だにさせなかった。

「なあ。……お前にゃもう聴こえねえらしいがよ」

 尚も自身を打ち砕くべく叩き込まれるロケットの砲火に焼かれながらも、レイは告げる。ダメージなどで、止められることはない。身を苛む痛みなどは本当に些末なものだ。それが動く死人というものだから。

「救って、つってうるさくてよ」
「……何の、話だ! 貴様、何を言っている……!」
 
 肉薄する超至近。強引に振り抜かれたロケットの砲身に打ち据えられ、さしものレイも堪らずに後退る。後退しながらも、自身を向けて狙い定めたロケット砲の洞のような黒い闇と。そしてそれを構え続けるただひとりの女に向けてレイは静かに告げた。

「忘れてんだろうがよ。お前にも救われたやつらが、居たってことだろ」
「……っ!?」

 引き絞られたトリガーによって、レイに至近からのロケット弾が襲いかかったのは言葉を紡ぎ終えるとほぼ同時のことだ。そして、エクスペルテンは確かに見た。砲弾がかの偉丈夫を捕捉し突き刺さるより尚早く、彼が拳を繰り出す瞬間を。爆発は、真昼の星を飲み込むようにして巻き起こった。立て続けの砲撃と、限界を超えた駆動に堪らずに引き千切られるようにしてもげたレイの片腕が楔の如く大地に突き刺さる。

「……私に……救う? 意味が、わからない! 理解、できない……!!」

 同時にロケットの爆炎と黒煙を突き破るようにして飛び出すエクスペルテンの影を追い縋るようにして、引き千切られた片腕に絡んだ鎖が蛇のごとくうねり、その銀の連なりを唸らせ空へと真っ直ぐに伸びる。赤土で覆われた大地と、蒼い大空を一筋繋ぐ銀の架け橋は、空を旋回し続けていた彼女の“戦友”の翼へと絡みついていた。

「出番、だぜ」
「……っ、行きます!」

 待ち構えていた一瞬。銀の鎖目掛けて駆け出す小柄な影が、地を蹴り飛ぶ。蒼白く輝く大鎌エーテル・リーパーを片手に引っ提げたシャルロッテが、今一度その身を疾風の如く疾走らせ、銀の細い一筋を駆け上がって重力の理に反旗を翻す。その姿はまるで、空を目指して突っ走るロケットか、或いは流れ星か。一息に銀の鎖を登り終えたシャルロッテが、Bf109の機体を蹴りつけるようにして虚空を舞う姿を視線で、そして自身の肉体そのものでレイは追い縋る。

「……星ってのはよ」

 焼け焦げ無残に抉れた満身創痍の肉体を突き動かす、ヴォルテックエンジンのフルドライブ。爆風に抉り取られた胸部から突き出す折れた肋骨の奥から覗く埋込み式の動力装置が、喧しいほどの鳴動と共に激しく明滅を繰り返し、そして青白い雷電を迸らせてこれまでにない程の限界を越えた超駆動を続けていた。傷つき焼け焦げた肉が、蠢きながらビデオの巻き戻しの如く復元されてく光景は間近で見れば悪夢そのものだったが、今の彼の姿を直視する事は困難を極める。傷付いた肉体に比例したかの如く、底無しに湧き上がる衝動に突き動かされた今のレイは、シャルロッテにも負けず劣らずの超速度を得ていたのだ。

「最後が一等輝くんだとさ」

 筋骨の塊の如き肉体が風と一体となり、鎖の繋ぐ細い道筋を駆け上がる。彼女から遅れる事数秒、既に次の僚機を足場に空を駆けるシャルロッテの姿は遠く、踏みつけた戦闘機をその勢いのままに叩き落とし、次の獲物を踏み締めて跳び続けながら、レイはその後を追い縋る。彼女が駆け抜けていった軌跡をなぞるように、次々と空を火の玉が彩っていく。
 
「今がそのときらしいぜ、おまえらのよ」

 そんな言葉と共に、レイは新たな戦闘機のキャノピーを荒々しく踏み砕いた。



「私に出来るのは錯乱させるくらいだと思っていたけど……」

 足場となる戦闘機たちを蹴りつけ跳躍し、次々と置き去りにしていきながら、シャルロッテはエクスペルテンへと追い縋る。彼我の速度差はいよいよ僅かなものにまで迫っている。その最後の一押しを踏み込む間際に逡巡するシャルロッテ。それでも追い付かなければどうするのだと言う不安が付き纏うかのように。けれどもそれはすぐに振り払われる。此処まで来たのだ。もう、やるしかない。

「……あの速度に、後少しで追い付けるんだ。
 ……頑張らなきゃ。此処で、決めるッ……!」

 飛び移った新たな翼を蹴りつけ、少女は跳ぶ。脱ぎ捨てた上着が風の中を踊りながら落ちていく様子には目もくれず、視界の先に映った目指すべきただ一点へと手を伸ばす。さらなる加速を帯びて伸ばす手は。それが握り締めた大鎌は、少女の想いを乗せて唸りを上げる。

『私にだって……これくらい、できる……!!
 勝てない試合、なんかじゃないんだ!』

「な、にぃッ……!! 私が、墜落とされる……!?」

 星に手が届く。ありったけの加速と跳躍の勢いを乗せて袈裟に振るったエーテル・リーパーの刻む蒼い軌跡が、真昼の星の翼へと吸い込まれるように迸り、鋼の翼を一刀の元に断ち切った。返す刀で続けざまに振るわれる蒼い月のような刃によって、エクスペルテンの脇腹から肩口に掛けて刻みつけられる逆袈裟に走る傷。溢れる血潮を火の粉のように散らしつつ、寸断された翼と肉体本体を深々と切り裂かれたダメージによって勢いを失う彼女の身体が大きく傾ぎ、バランスを崩したその一瞬を、見逃しはしない。

「お前はオレたちを殺せなかったが……死人としての勝負なら、お前の勝ちだぜ」
「……そうか、此処が――――」

 踏み砕いた僚機の起こすオレンジの爆炎に吹き飛ばされるようにして躍りかかるレイが振るう渾身の拳が唸りを上げる。それは真っ向よりエクスペルテン目掛けて叩き込まれ―― 空を駆け続けた星は、地へと吸い込まれるように墜ちて行く。重力に逆らい続ける術を失った彼女は錐揉みするように回転しながら、青空一筋の軌跡を刻みつけて墜ちて行く。

「……ここで終われる、おまえのな」

 墜ちて行く星を見下ろしながら、レイは呟いた。



「……此処が、わたしの終わりか」

 大地に背中から叩き付けられた身体は最早まともに動かせそうにない。その身体に融合していた愛機のエンジンも最早唸ることさえ出来ぬであろう。幾つもの星が、あの空で爆ぜては散っていく。生命が燃え尽き散っていく青空を、お誂え向きに大きく抉られたゾンビたちの火葬穴に半身を埋めた格好で、墜ちた星は静かに呟く。憑き物の落ちたかのような表情で。

「……思い通りにならないことばかりだが、それでも」

 愛しくも憎らしい空へと手を伸ばす。届くはずもない、大きすぎて遠すぎる空。幾多もの想いを浮かべ、そして散らしたあの空に。もう二度と飛べぬこの腕が届く事はないけれども。それでも今度の戦いはきっと、悔いを残さずに戦えただろう。そんな彼女を見下ろすように大穴の縁に次々と集う人影たち。霞む目で、それでもその姿を見上げる女は微笑む。
 
「ああ、戦友たちよ。……待たせて済まなかったな……。
 わたしも、このままそちらに行ければ良いのだが」

 伸ばした手が緩やかに重力に引かれて地へと落ちる。もう指一本動かす事さえ儘ならぬ。いよいよぼんやりと霞んで見えぬ目を閉じると、女は大きく深い溜息をひとつ吐き出した。

「どうしようもない戦狂いであったが、ひとつだけ誉があるよ。
 ……守るべき、人々を……どうにか手にかけずに済んだ」

 それもこれも、私と全力で戦って止めてくれた者たちのおかげだ。そんな安堵の言葉を紡ぎ終えたところで、女はそれきりぴくりとも動かなくなった。……地に落ちた真昼の星は、静かに空へと還っていったのだ。そんな彼女の身体を労るように、風に煽られゆっくりと舞い落ちてきたシャルロッテの上着が、そっと覆い被さる。それはまるで、彼女が愛し続けた空からの微かな慈悲か何かのように。



「…………終わった、のか」

 散々に空を飛び回り、暴れ回ったオブリビオンの沈黙に大穴の縁よりそれを覗き込んでいた人々は漸く安堵のため息を漏らした。そんな彼らの中には、上空を飛び回っていた鳥型自律兵器によってなんとか地上へと無事に戻ることの出来たシャルロッテとレイの姿もあった。上着代わりに羽織った毛布に落ち着かなさそうにしつつも、戦闘の緊張感から開放された安堵に疲れ果てたシャルロッテと、マイペースに帽子の埃を払い落として被り直すレイの様子は対照的でもあるだろう。

「……あいつはどうやら満足できたみてえだな。まあ、よかったじゃねえか」
「私にはよくわかりませんが……それでも、人々は皆無事です。
 よかった。…………本当に、よかった」

 避難先から次々と集落に戻ってきた女子供たちの歓声に勇気づけられたかのように、住民たちは遅れながらも漸く勝利を喜ぶ勝鬨の声を上げ始めた。ゾンビと戦闘機の襲撃により、彼方此方の被害を復旧するのに時間は必要だろう。けれどもこの窮地を乗り切った彼らは、今後もこの世界で力強く生きていく事だろう。それはこの世界の文明を再興するための確かな礎となるのだ。猟兵達の戦いはまだ終わることがないが、それでも着実な一歩は踏み出せている。そう信じて、彼らはこれからも戦い続ける事だろう――――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月02日


挿絵イラスト