「何やってんだロメ郎! 早く来い、死にてぇのかッ!」
「だってよう、ライ兄! フルっちとダリ夫が!」
荒く乱れた呼気が重なる中、ふたりの少年が薄暗くカビ臭い廊下を走り続ける。どこまで続くのだろう。どれだけ走っても、果てがないのではないかと思われる一本道を、少年たちはただただ必死に走る。
「あきらめろ! あいつらはもう……」
「ちくしょう!」
半狂乱に上擦った泣き声を漏らす弟分に、年長の少年は諭すように告げる。後ろに迫る獣めいた無数の息遣いと強く濃厚な死臭は少年たちに仲間の死を悼む感傷に浸る余裕さえ満足には与えてくれない。不意に目の前の扉が開く。
「……くそッ! 逃げろロメ郎!」
咄嗟にライ兄と呼ばれた少年、沙村・雷三(さむら・らいみ)は弟分の吉祥寺・ロメ郎(きちじょうじ・ろめろう)の身体を強く突き飛ばした。
「ライ兄ぃ!?」
「……振り返るな、ロメ郎! 死ぬんじゃねえぞ……!」
地面に倒れ込むロメ郎が振り返り際に見たもの。開かれた扉から伸びる無数の腕が、雷三の身体に纏わりつくようにして捉え、扉の向こうに広がる暗闇へと引きずり込んでいく姿。自分も恐ろしくて堪らなかっただろう。それでも雷三は兄貴分として格好つける事を選んだ。その代償として、閉ざされた扉の向こうから聞こえる凄絶な悲鳴。フルっちやダリ夫の上げたそれと同質の悲痛な叫びが響く廊下を、ロメ郎は必死に走り抜けた。
「ちくしょう! ちくしょう!」
どこまでも続くと思われた廊下の途中で不意に現れた、屋上へと続くと思しき階段を駆け上がる。準備運動もなしに、この長い距離を全力疾走して足を挫かなかったのは幸運だったと言えよう。後ろ手に思い切り叩きつけるようにドアを閉ざした少年を待っていたのは、頭上一面に広がる青い空と、照り付ける強い日射し。四角いタイルは彼方此方がひび割れ、敷き詰められた隙間に枯れ草の生えた屋上床を喘ぐように歩きながら、なんとか辿り着いたフェンス際。ところどころ緑の塗装が剥げて赤錆の浮いた中身の露出した金網を、震える指がくしゃりと掴む。
「……昼間? 嘘だろう、俺たち……夜が明けるまで、此処に居たってのか?」
仲間たちとこの廃ビルに忍び込んだ時点では真夜中だったはずだ。時間の感覚が狂うほどの長時間を此処で過ごしたというのだろうか。たったひとり生き残ってしまった少年は混乱の極みに陥っていた。それでも、見下ろす先では往来を行き交う人々がそれぞれの日常そのままに過ごしている姿が幾らでも目に入る。
「た、たすけて……! たすけてください!!」
震える喉を引き裂かんばかりに上げた少年の声が、しかし彼らに届くことはなかった。その喉から血が滲みそうなくらい痛くなるほど張り上げた大声であるにも関わらず、路上を行き交う人々は少年の叫びに足を止めることはない。……当然だ。ロメ郎の声は、人々の耳に届いてはいなかったのだから。
「なんで! どうして!?」
一層の混乱に陥り、ヒステリックに叫ぶ少年の背後で分厚い鉄の扉が開く。その物音に続いて聞こえてくる死者たちの呻き声に、振り返ったロメ郎の表情は恐怖、そして絶望に染まるのだった。
「……そ、そんな……」
少しずつ屋上へとその姿を表す、生ける死者たちの集団。その先頭には、逃げる道中にその腕に絡め取られて落伍していった友人たちの姿もある。フルっち、ダリ夫、そして。
「ら、ライ兄……」
つい先程、話し合っていたときの面影を留めつつも、もう二度と彼とは友情の言葉を交わす事はないと言う事を本能が確信してしまった。彼方此方から血を滲ませた痛々しい姿。顔は最早血の気も引き、白く濁った瞳が焦点を結ぶ事もあるまい。その半開きの口からは涎がだらしなく零れ落ちて、其処から何か意味のある言葉が紡ぎ出される事もない。
「ちくしょう! こんなところに来ちまったばっかりに!!」
自分を庇ったばかりに死者たちの眷属へと成り果てた兄貴分の痛々しいその姿に、ロメ郎は絶叫した。
●グリモアベースにて
「……こういう訳でね、みんなにはUDCアースにある廃ビルに行ってほしいんだ」
自身のグリモアから虚空へと投写された映像から視線を離し、イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)は集まった猟兵たちにその緑の隻眼からの視線を一巡させる。
「男の子たちが肝試しに忍び込んだ廃ビルは、実は邪神の餌場だったんだよ。たぶんネットで噂の怪奇現象スポットとか、そういう感じに仕立てて前々からエサになる人間を集めてたんじゃないかな。ゾンビたちは邪神の犠牲者だ。生死の価値を損ねられて、こんな姿になっちゃったみたい」
それ、たまたま今回はわたしが予知できたみたいなんだけどね、と続けてからイサナは改めて虚空に映し出された廃ビルへと視線を引き戻す。
「場所は繁華街の一角にある三階建ての廃ビル。中は結界化されてて、邪神の思い通りに構造を変えられるし、普通の人はこの中で何が起こってるかを知ることもない。ロメ郎くんの悲鳴が通行人に聞こえてないのも、そういう理屈だね」
逆に言えば、と人差し指を一本立てたイサナは再び猟兵たちへと向き直った。
「多少ハデにドンパチやっても、目立たないっていうことで。……ロメ郎くん以外の人たちはもう手遅れだけど、出来れば彼のことは助けてあげてほしいな」
そんな言葉と共に、虚空に浮かぶグリモアが緩やかに回転を始める。今まさにロメ郎へと襲いかかろうとする無数の死者たちが蠢く屋上へと続くゲートが開かれようとしていた。
「転送したら、すぐにゾンビたちが襲ってくると思う。それを始末したら、廃ビル内を探索して、安全な場所に結界を作って隠れている邪神を探してほしい。それを倒せば、今回のミッションはクリアって訳だね」
毒島やすみ
はじめまして。或いはいつもお世話になっています、毒島です。ロンドンゾンビ紀行はとても面白いのでぜひ一度見てほしいです。それはさておき、ゾンビもの依頼の二本目になります。第一章では押し寄せるゾンビを退治する集団戦、第二章では認識阻害の結界内に潜む邪神を見つけ出すべく、結界破壊に挑んでいただきます。そして迎える第三章、廃ビルを自分の支配領域に仕立てた今回の事件の黒幕である邪神とのボス戦、という構成です。
尚、今回のゲストNPCの吉祥寺・ロメ郎くん(14)の生死はクリア条件にまったく関係ありませんが、生き残らせてあげたほうが後味はきっと良いと思います。良かったら守ってあげてね。
それでは今回も毒島と地獄にお付き合いください。
第1章 集団戦
『ゾンビ』
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POW : 反射行動
【生者を追うだけの行動パターン】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 活性化
戦闘中に食べた【被害者の肉】の量と質に応じて【興奮状態となり】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : 感染増殖
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身と同じユーベルコードを持ったゾンビ】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
イラスト:バスター
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
神羅・アマミ
ライ兄にロメ郎…親戚には江戸川・来人(えどがわ・らいと)くんとか壇・オバ夫(だん・おばお)さんとかおるんかのー。
それはともかく、盾キャラの妾としては自らを犠牲にすることも厭わず英雄的行動に出る他あるまい!
戦場にはエアホーン持参でおもむろにプープカ鳴らしてゾンビをこちらへ引きつけるぞ。
今回の黒幕が好きなように建築構造を変えられるというなら敢えて狭い個室のような袋小路を選んで飛び込み、自らを背水の陣へと追い込む!
壁に囲まれればそれだけ死角は潰せるし、興奮状態のゾンビが出入口に殺到すれば動きも相当に制限されるはず!
こちらは小回りが効くUC『特機』で狙うは当然頭部と心臓部!
トドメの二度撃ちも忘れずに!
才堂・紅葉
「機構召喚符」で呼び出した金剛石式鎖鋸でゾンビ共を薙ぎ倒しエントリー
ゴーグルを下し、外套で身を包んでいる
「こっちよロメ郎!!」
呼び馴染む名前だなと言う感想は脇に置き避難誘導を行いたい
折角の生存者を逃すのも査定に響く
方針は安定した体幹による【怪力】で鎖鋸を振るってゾンビ供を解体していく
狭い通路の場合、刃が壁に弾かれる場合もあるが心配無用だ
「コードハイペリア!」
紋章の力の【封印を解く】事で、鋸刃を形成する金剛石に超重力圧をかけ六方晶金剛石に錬成する
ロンズデーライトパワーだ
黄を帯びた輝きで切れ味を三倍(当社比)にし、壁や天井、床を気にせずゾンビを刻んでいこう
「さぁて、こっから先は通行止めよ!!」
●Come with me, if you want to live!
「せっかく庇ってもらったのに、結局俺も食われちゃうのか……! イヤだ!!」
じりじりと押し寄せてくるゾンビたちの集団。屋上は今や彼らによって埋め尽くされようとしていた。フェンス際に追い詰められていたロメ郎少年は、それでも一縷の望みを抱いて背を預けていた古びた金網によじ登ろうと必死に藻掻く。伸びる腕が、少年のシャツを掴み、荒々しく引き千切る! 事案!!
「オ゛、オ゛オ゛ァァ……!!」
「うわあああああああッ!!!!」
群がる死者たちの呻きに、少年の上げる絶望の叫びが飲み込まれようとしていたその時である。プオオオオオ~ン!! 不意に鳴り響くその音はどこかサイレンにも似ていた。聞く者が聞けば、ドッキリなどにも使われる、輩に持たせちゃいけないグッズの類である事を看破しただろう。エアーホーン。輩の者が車に取り付けるなどして騒音を撒き散らしたりするアレである。但しこれはエアー缶にラッパを取り付けた持ち歩きの出来る代物だ。輩でないお子様でも気軽に持ち歩ける……あれっ、車よりも迷惑な代物じゃないですかこれ。ウチの近所で鳴らさないで欲しいな。
「ふはは! こっちじゃ! こっちじゃぞー!!」
プープカプープカ鳴り響くエアー缶を片手に転送された神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)は屋上へと飛び降りるなり、手近なゾンビを飛び蹴りで吹き飛ばす。突如現れた乱入者の奇襲に為す術もなく空を舞うゾンビを襲う、更なる追撃。
「……ふんっ!!」
「ヴ、ァァ……!」
低いエンジン音が唸り、鎖のように連なる無数の小さな刃が獰猛な高速回転と共に、ゾンビの胴体を豪快に叩き切る。続け様に振るう逆袈裟の一撃で首を切り飛ばされ、合体ロボット宜しく分割された残骸は重力に引かれて屋上へと次々に転がり落ちた。
「チェーンソー!?」
それは降りかかる返り血を浴びぬようにした備えのつもりだったのだろう。戦闘服の上に羽織った外套の彼方此方には赤黒い水玉模様が斑に飛び散っている。その双眸をゴーグルレンズで覆い隠した才堂・紅葉(お嬢・f08859)は、少年に群がろうとしていたゾンビたちを機構召喚符によって取り出した金剛石式鎖鋸(ダイヤモンド・チェーンソー)にて薙ぎ払い、少年の絶体絶命の危機を救ってみせた。それを目の当たりにしても、ゾンビたちが驚愕や狼狽することはない。空腹を満たそうとする本能によって突き動かされる死者たちには、ただ手頃なエサがまた増えた、程度にしか感じることもないのだろう。
「案ずるな、ロメ郎。其方は死なぬ。何故なら妾たちが守るからの……!」
「こっちよロメ郎! 死にたくなければついていらっしゃい」
エアーホーンを鳴らしてゾンビたちの気を引きつつ、手にした和傘で彼らを打ち据え押し退け、血路を開くアマミ。そして倒れ伏したゾンビたちを次々とチェーンソーで解体していく紅葉。飛び散る血液が、見る見る内に屋上の古びたタイルを凄惨な色彩で染め上げていく。
「……す、すげえ……! 」
「ううむ、埒が明かぬのう。こやつら、雑魚じゃが数はクッソ多いんじゃい」
先導するように、そして同時に味方の盾となって道を切り開くアマミであるが、それ故に彼女の負担は大きい。一体一体は彼女自身が言うように取るに足らない相手だが、多勢に無勢。無尽蔵とも思えるほどに湧いて出るゾンビたちを相手取るのは些かに骨が折れる作業である。
「ならばひとつ、妾自身で埒を明けるとするかの!」
屋上から屋内へと続く扉からゾンビを蹴り飛ばして侵入したアマミは、プープカプープカとエアホーンの騒音を纏いながら、押し寄せるゾンビたちを翻弄するように擦り抜けて薄暗い廊下を突き進むと、手頃なドアを蹴り破って、狭い個室へと踊り込んだ。
「……のじゃロリの子! そっちに行ったら追い詰められちゃうよ!」
「妾に構うなロメ郎! あとアマミさんと呼べぃ!」
解体された残骸の散らばる廊下を紅葉に先導されながらおっかなびっくり続くロメ郎は、自ら袋小路へと飛び込んだアマミの姿に思わず声を上げてしまうが、アマミ自身はさしたる問題もないとばかりにニヤリと笑ってみせた。
「……お主ら、先に往くが良い。なあに、妾はすぐに追いついてみせるからのう」
何やら不穏な響きを帯びそうな口上を宣いながらも、表情はどこまでも不敵。サムズアップしてみせるアマミの姿に、紅葉は一瞬だけ考え込んでから「任せるわ」と短く告げるとロメ郎の手を引いて走り出す。
「おっとそうじゃ、ロメ郎。お主、親戚に江戸川・来人(えどがわ・らいと)くんとか壇・オバ夫(だん・おばお)さんとかおるんかのー?」
「……ええと、友達に地音・川辺太(じおん・かぺんた)くんとか、或振洞・七告(あるふれどう・しちこく)くんなら居るよ。今日は一緒に来てないけど」
不意にかけられた問いかけに、足を止めて一瞬考え込んでから答えるロメ郎。それに目を丸くするアマミであったが、一寸の間を置いて改めてニヤリと笑ってみせた。
「そいつら運が良かったのー。そやつらともまた会えるようにしちゃるからの」
ロメ郎たちが遠ざかる合間も、アマミはエアーホーンを鳴らし続けた。その辺りのゾクや輩にも負けぬ勢いで鳴らしまくるこの騒音も、結界の外の一般人たちには一切届かないのだろう。そう思えば、一層余計にうるさく鳴らし続けた。その甲斐あってか、騒音に引き寄せられたゾンビたちはこの袋小路に集結し、今まさにアマミを飲み込まんとする大津波へと変わりつつあった。余りにも絶望的な状況。死亡フラグもしっかり立てた。しかし彼女の表情に焦りの色は微塵もない。
「フフ、お主らってたぶん妾の事を追い詰めたとか思ってるんじゃろうなー」
プープカプープカ。役目をだいたい終えたエアホーンを未練たらしく最後に鳴らしてから、改めてアマミは密室に集まったゾンビたちへと視線を巡らせた。どうせすぐに忘れてしまう有象無象どもの顔であるが。
「逆だからの。罠にかけられたのはお主らじゃ」
アマミの口元がゾンビたちのそれにも負けぬほど凶暴に吊り上がって深い笑みの形を描く。双眸は禍々しく炯々と輝いた。
『とくと見やれ、ガラクタより組み上げし妾の華麗なる剣舞!』
手にした和傘を振り上げ、吠える。同時に、アマミの周辺の空間が揺らぎ、其処から次々と姿を表す、飾り気のないシンプルな赤い剣たち。それは柄尻の表示器に「1」のサインを点灯させながら反重力の仕掛で浮遊、飛行する戦闘用ソードビット。アマミの力量に応じ、総数77本にも及ぶ編隊を組んだそれらは、逃げ場のない袋小路に追い込まれた哀れな死者たちの群れに、一斉にその鋭い切っ先を向けた。
「せめて一思いに骸の海の藻屑へと還してやろうぞ! 死ねーッッッ!!」
アマミのサディスティックな咆哮と共に一斉射出されたそれらは空を裂き、そして突き立つ肉を引き裂き撃ち抜いた。生々しい斬撃音とゾンビたちの怨嗟か苦痛か判別のつかぬ呻き声が、その個室の外へも暫くの間響き続ける。念入りに頭部と心臓に『二度ずつ(ダブルタップ)』を徹底する神羅・アマミ。彼女はゾンビ映画と殺し屋映画の両方ともに履修済みであった。
「……そらぁ!!」
振りかざすチェーンソーの駆動する咆哮が、薄暗い廊下に響き、立ち塞がるゾンビたちの腕や足を次々と切り飛ばしていく。一見少女の細腕だが、弛まぬ鍛錬と無数の鉄火場で鍛え上げられた彼女の腕は、その凶悪すぎる巨大な凶器を流暢に振り回せるだけの腕力を十二分に備えていた。自分についてきた少年が、その間合いの外に居ることを確認した上で、まるで竜巻のごとく振り回して繰り出す斬撃によって、動く死体はただのバラバラ死体へと成り果てる。アマミが受け持ってくれたとは言え、未だにゾンビたちの数は多い。
「まさかリスポーンはしないと思うけど、確かに尋常な数じゃないわねこれ」
「えっ、そんな。……だったら幾ら殺しても全滅させられないって事だよね、それ」
足を止めて一息吐きながら冗談めかして言う紅葉であったが、口にした後で本当に尋常じゃないわ、と肩を竦めた。だとしても此処から生き延びて帰る自信も彼女にはあるのだが、今彼女の傍らで壁に背を預けて青息吐息に喘ぐ少年はどうだろうか。足を止めたのは、彼を少し休ませるためでもあったのだが、その考えはすぐに中断された。前から、後ろから、わらわらと湧いて出るゾンビたち。そして、そんなふたりをからかうように開かれる新たな道。この廃ビルの中は構造が変わる―― それを思い出した紅葉であった。
「お次はこっちですよ、ってか。やってくれるわね、ホント」
苦笑しながら、チェーンソウを掴む紅葉の手には強く力が籠もる。じりじりと近寄ってくるゾンビたちを前に、ロメ郎を庇うようにして構えるチェーンソウの刃を唸らせる。
「ロメ郎、私もすぐに追いつくから先に進んで。きっと皆があんたを守ってくれる」
「……わかった。絶対だよ! おねーさんも死んじゃヤだよ!」
これまでに見た光景が、少年に甘えた事を言わせないだけの肚を決めさせたのだろう。四の五の言わず素直に走り出す少年の気配が遠ざかっていくのを感じながら、紅葉は切り札の開帳を決意する。
「今まで加減してたのよ。あんたたちだけじゃなくて、あの子まで解体しちゃいそうじゃない?」
その問いに、群がる死者たちは答えない。だが、これからその身を以って思い知ってもらうとしよう。
「コード:ハイペリア!!」
チェーンソーの取っ手を掴んでいた紅葉の手の甲に浮かび上がる紋章が青白く輝き、薄暗い廊下に広がる闇を染めていく。高速回転し、唸るチェーンソーの金剛石で作られた刃が次々と超重力によって強引に凝縮され、一層鋭利にして硬質な結晶へと変化していく。空を裂く唸りすら一層獰猛なものに変わっていった。
「六方晶金剛石(ロンズデーライト)の切れ味、試してみる? コイツはさっきよりもずっと凶暴よ!」
構わず前に出るゾンビの腕を黄味がかった煌めきを迸らせた金剛の刃が斬り飛ばす。更に続けて膂力にまかせて強引に振り回したチェーンソーの斬撃が、次々と襲いかかり、ゾンビを瞬時に無数の肉片にまで解体してしまった。その切れ味はまさしく先程までとは比べ物にならない。守るべき少年という枷から解き放たれたチェーンソーは、壁や床、天井に至るまですべてを無惨に食い千切り、紅葉の周辺はズタズタに切り刻まれていた。その切れ味を障害物に阻害される恐れはないということだ。縦横無尽に襲いかかる、生中な防護も通用しない凶悪な刃。極限までの圧縮によって強化された金剛石の連刃が、次の獲物を求めて再び唸りを上げる。
「さぁて、こっから先は通行止めよ!!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レイ・オブライト
◎
バケモノをわざわざ見に来る奴がいるか?
余程平和なんだろうな、普段の此処(UDCアース)は
まあ、いい。出会い頭に手近に迫った個体を蹴っ飛ばし敵の波へ送り返す
下がれ
お仲間がどれだか知らねえが
綺麗には殺してやれねえ。嫌なら目でも瞑っておくこった
【一撃必殺】
殴りつける動く死体を基点に属性攻撃(電気)の衝撃波を発生させ、周囲数体を巻き込む
動きの鈍ったところへ鎖鞭として『枷』を振るい薙ぎ倒し、頭を潰す
生者にカウントされるだろうかな。されなきゃされないで吉祥寺を半囮のように利用し、死体が奴に触れる前に『覇気』で捉え死角から殺していけるが
オレを止めようとしてもいい
が、無駄だとはこいつが一番分かってるだろう
アラン・スミシー
やれやれ、ゾンビ映画はあんまり見ないんだがね?
あれだろう?
一人になるな、パニックになるな、そして二度撃ちを忘れるな。
だったかね。
幸いにして銃器と弾の蓄えは十分なんでね、なんなら貸すさ。
閉所なら私が得意な分野だよ、なにせ狙いを付けるのが楽になるからね。
散弾銃と機関銃で掃討しながら上を目指すとしよう。
ああ、そうそう。こういう時はエレベーターを囮にするんだったね。
この手合は頭狙いが効くのと効かないのがいるらしいがどうなのかね?
撃てば分かる?
そうだねえ。
ところで彼は雷三君かね。ならなるべくロメ郎君に見せないように撃つとしよう。
さて、映画ならこれで脱出してお終いという所だが。
…そうじゃないだろう?
●Go ahead, make my day.
「……やれやれ、ゾンビ映画はあんまり見ないんだがね?」
廃ビルの1階へと転送されたアラン・スミシー(パッセンジャー・f23395)は少しおどけるような口ぶりで独り言ちながら、薄暗い廊下を進む。道中行く手を阻む亡者たちに出くわす度に、携えたソードオフショットガンが轟音と共に火を噴き、動く死体を動かぬミンチへと瞬時に変える。もう片手に携えるタイプライターがカタカタと軽快にタイプ音を響かせれば、其処から生まれる無数の文字たちがゾンビたちを忽ちに虜とし、その場から一歩も動けぬように手足を吹き飛ばす。至近距離での圧倒的破壊力と、遠距離からは手数を活かした一方的な蹂躙。どこに撃ってもとりあえずは当たる。弾が当たるなら相手は死ぬ。
「閉所なら私の得意な分野だよ、なにせ狙いを付けるのが楽になるからね」
ふたつの銃器を手足の延長が如く流暢に使いこなすアランにとっては、この領域はまさしく死角無く立ち回ることの出来る絶好の戦場だった。狭い道にゾンビが溢れ返っても、寧ろいちいち狙いをつける手間も省けるというものだ。
「幸いにして銃器と弾の蓄えは十分なんでね。一応、セオリーは心得ているさ」
足元で藻掻く手足を無くしたゾンビをちらりと見下ろし、静かにサブマシンガンの銃口を傾ける。カタカタとタイプ音が響けば、二発の弾丸で脳天を貫かれて中身を存分に撹拌されたゾンビはそれきり完全に沈黙して動きを止めた。
「そうそう。二度撃ちを忘れるな、だったかね」
アランの言葉に答える者は居ないが、それをいちいち気にするアランでもない。装弾を全て撃ち切ったドラムマガジンを無造作に放り捨てれば、トレンチコートの懐から取り出す新たなマガジンを手慣れた所作でサブマシンガンの銃身に叩き込む。がちん、と小気味のいい音を響かせたそれを肩に担ぎながら、アランは再び歩き出す。
「セオリーはまだある。一人になるな、パニックになるな……ってね」
そう口にしたところで彼が思うのは、この廃ビルの中をひとりで逃げ惑い続けているであろう少年の事だった。手遅れになる前に彼を見付け出さなくてはならない。
「……さて、目の前には何やら便利そうなものがあるけれど」
アランはそう呟きながら、突き当たる行き止まり。目の前にあるエレベーターをぼんやりと眺め見た。
「これってまだ使えるのかねえ……」
息を殺し、足音も殺し、少年は慎重に薄暗い廊下を一人でアテもなく進む。持ち込んできた懐中電灯は最初に逃げるどさくさで失ってしまったが、逃げ回っている内に目はすっかり闇に慣れた。外は昼間であるにも関わらず、建物内部はこの有様……少年が知る由もないが、それも邪神の作り上げた結界の特性の一部だったのかも知れない。そして、安全な場所から逃げ惑う少年を一方的に監視する邪神にとっては、彼の行動も織り込み済み。最後に生き残ったただ一人の子供を、たっぷりと恐怖と絶望で味付けして負の感情で調理して味わうのが、彼の愉しみである。ロメ郎が如何に巧妙に逃げようとも、邪神はそれを捕捉して自在に手駒を差し向ける事ができる。脇道のドアが唐突に開かれ、其処から響く餓えた死者たちの呻き声。
「うわっ、うわわ……!!」
途端に尻餅をつくロメ郎。覚悟を決めたつもりであっても、彼はただの子供に過ぎない。必死で取り繕っていた胆力はあっさりと雲散霧消する。更に絶望を味わわせてやろうと邪神は嗜虐の愉悦に浸っていたかも知れない。しかし、この領域の主たる彼の意図の範疇に収まらぬものがある。
「……よう、生きてるかい」
「ほあぁぁッ!?」
それこそが、猟兵である。突如として響く低い声に少年が驚愕するとほぼ同時、続けての轟音と共に壁が文字通りに吹き飛び突き出した太い腕に少年の襟首が掴まれ、強引に壁に空いた大穴の向こうへと引きずり込まれる。少年と入れ違いとなる形でのそのそと姿を表したのはレイ・オブライト(steel・f25854)。その身体を壁面に空いた穴の前に立たせる盾の如く立ち塞がるレイは、手近に迫るゾンビの胴体には容赦なく分厚い靴底で蹴りを入れた。身体をくの字に折り曲げて吹き飛ぶゾンビが、後方のお仲間たちの集団を巻き込むようにして床上に沈む様を嘆息しながら見送れば、レイは緩やかに肩を竦めた。ある意味では彼らも自分の親戚かも知れないが、流石にもう少し上等なものだと自分では思っている。
「バケモノをわざわざ見に来るなんざ、よほど平和なんだろうな。普段の此処は」
「……その、ごめん……なさい」
呆れたように呟いたレイの言葉に、崩れた壁の向こう側で萎縮する少年はますます萎縮してしまう。言葉の意図は理解し切れずとも、自分たちの短慮さがこの状況に陥った原因だと自覚はしていたのだろう。目に見えて意気消沈する彼の気配に、レイは後頭部を掻きながら付け加えた。
「ヘコませてから言うのも何だが、悩むのは後にしな」
握り固めた拳を緩やかに押し寄せるゾンビどもへと突き付けて、レイは身構える。一体一体はわざわざ自分と比べるまでもないお粗末な連中だ。然し、数の一点に限れば流石に向こうの方が上。「なんだ、オレの方がよっぽどレアじゃねえか」と胸中で独り言ちながら、緩慢に、然し着実に距離を詰め続ける死者たちの群れに視線を巡らせる。
「お前のお仲間がどいつだかは知らねえが、綺麗にゃ殺してやれねえ」
その言葉に、少年は伏せていた視線を持ち上げて息を呑む。彼は短慮でこそあるが、その言葉の意味するところを察せる程度には分別もついている。それは痛ましいことだ。けれども、一度こうなってしまえば彼らが助かる術もないことも知っている。こんな形で存在し続ける事。その方が余程痛ましいのではないだろうか。
「嫌なら目でも瞑っておくこった」
「……お願い、します」
自分を命懸けで庇ってくれた友人の顔を思い出しながら、それでも死者と化した彼らを直視する勇気はない。せめて苦しまずに楽にしてやって欲しい。少年の絞り出した言葉は、そんな想いを込めたもの。ロメ郎の言葉を背に受けながら、レイは自身の拳に意識を傾ける。その胸部、心臓代わりに埋め込まれたV-エンジンが低く駆動し、大気を震わせる。エンジンから流れ出す力。レイの言葉には出さぬ衝動そのものが神経を、そして血管を伝い、握り締めて振り被るその拳をばちばちと青白いスパークで輝かせた。
「おう」
その短い答えを合図のようにして、ほぼ同時に炸裂する眩い雷光が闇を白く灼いた。突き出した拳から放出された衝撃波が死者たちの群れを吹き飛ばし、其処に込められていた雷光が周囲の同類たちを巻き込むように弾けた。その強烈さは、死んでいる筈のビルの電源が復旧するほどのもの。暗闇を染める輝きが晴れた後も、薄暗かったはずの廊下は突如として蛍光灯の照明光によって照らされていた。
『オ゛、オ゛オ゛ォォ……!!』
肉や骨を押し潰す衝撃に加え、腐りかけの神経や筋組織を焼き焦がす強烈な電撃に貫かれ、黒煙を噴き上げながら焼け焦げた死者たちはその焼け爛れた声帯を震わせ、掠れた怨嗟の呻きを漏らす。そんな怖気を催す姿に構うこともなく、レイの力強い腕が虚空を払えば勢い良く其処から伸びる銀の鎖が彼らの足元を薙いで、無理矢理に体勢を崩して打ち倒す。
「見てくれが悪いのは勘弁しろ。それでもあんたらを終わらせてやる」
「ア゛ア゛、ァァ……」
白濁した目で光をぼんやりと見上げる死者。彼が最後に見たものは、破帽を被る青年の顔。そして彼が振り下ろす分厚い靴底。ぐしゃッ――まるで果実でも潰すかのような無造作で手近なゾンビの頭部を粉砕したブーツの靴底が床板を抉るように血の痕を擦り付ける。
「なあ、いいか」
レイの声は、背後で震える少年へと向けるもの。彼は結局、目を瞑る事無くその光景を見ていたのだろう。双眸から流れ落ちた涙の痕を一瞥した後、再びレイは視線を前方の敵たちへと向ける。
「動けるなら、いつまでも此処に居ても仕方ねえだろ。指一本触れさせねえ」
あっちの方に走れ、と肩越しに視線で示すレイ。その言葉に、少年はこくこくと幾度も首を上下に振って、立ち上がる。壁の大穴を抜け、レイが立ち塞がるのとは反対の方向へと向けて走り出すロメ郎の姿に反応し、死者たちは一斉にその目標を少年へと切り替えた。それまで戦っていたレイに構わず、その左右をすり抜けるようにしてふらふらとロメ郎の背中を目指して追い始めていく。手近な左右のゾンビをその脳天をそれぞれ握り潰すように破壊し打ち捨てながら、レイは再び自身の双腕に意識を募らせた。
「オレは生者のカウント外、か。確かに美味くはねえだろうがよ。傷付くぜ」
冗句めかして嘯く言葉と共に、レイの掌から放たれた闘気の奔流がゾンビの脚を吹き飛ばし、機動力を奪い取る。少年には指一本触れさせぬ。その言葉を実証するが如く。逃げる少年そのものを囮にしている部分もあるが、無闇に彼を傷付けるつもりなどレイにはない。
「……おじさん!」
「振り返るな。転んでも知らねえぞ」
背後からの物音に堪らず声を上げる少年を制するようにレイの漏らす声。続け様に繰り出す覇気は、目に見えぬ拳の延長として、次々にゾンビたちを打ち据えていく。数は多いが、機動力は然程ではない事が救いだ。尤も、その数こそが彼らの最大の武器であるのだが。
「流石に多すぎじゃねえか。どんだけ間引いてもらえば気が済むんだよ」
そうボヤくレイの眼前で、少年へと群がるゾンビたちはロメ郎へと追い付こうとしていた。必死に逃げる少年の眼前に迫る行き止まり―― 動くはずもないエレベーターの階数表示ランプが「3F」を示す。ポーン、と気の抜けるようなチャイムが響き、左右に開かれる分厚い鉄の扉。
「……やあ。ロメ郎君だったね?」
「え……!?」
そこから姿を表したのはフェドーラにトレンチ姿の壮年の男だ。まるで映画のワンシーンから切り取られたようなその姿に、少年は思わず息を呑む。
「しゃがんでいなさい。危ないからね」
「は、はいっ!!」
アランの言葉に突き動かされるように、ロメ郎は両腕で頭を抱えるようにしてしゃがみ込む。これで射線が通る――誤射する心配もなくなった。タイプライターの軽快なタイプ音と共に、吐き出される鉛玉の雨がゾンビたちの波を打ち払い、薙ぎ倒す。血の帯を引いて倒れ込む先頭の者たちを踏み越えて更に少年へと迫る後続の群れ。しゃがみ込む少年の脇を擦り抜けながら、アランの突き出したショットガンが爆発するような咆哮を轟かせ、ゾンビの頭部をまるでトマトピューレの如く吹き飛ばした。
「連中、どうやら頭狙いの効く方だったらしいな。私の知る映画だと、頭を破壊しても燃やしても殺せないヤツがあってね」
「そいつはすげえな。まあ、オレもきっとそっちの方だろうと思うがね」
日本公開にあたっての邦題が元になって、オバタリアンなる流行語さえ生み出した非常に個性的な映画だ。それはさておき、ゾンビたちの群れを前後から挟み込む形で相手取る二人の猟兵。前方ではロメ郎、そして自身を生者という餌代わりに引き寄せては銃撃で粉砕するアラン。そして後方では餌に釣られて後ろを顧みないゾンビたちを知ったことかとばかりに一方的に叩き潰していくレイ。無尽蔵に湧き出す死者たちも彼らの即興の連携の前に着実に数を減らされていった。
「暫く掛かりそうだな。ロメ郎君、何ならそのエレベーターを使うといいよ」
「階段を探すのも面倒だろうからな。……見てても気持ちよくはねえぞ」
銃声と肉を轢き潰す打撃音の合間に、それぞれ落ち着いた様子で掛けられる声。少年は緩やかに立ち上がれば、未だ開かれたままのエレベーターの扉に身を滑らせた。
「その、ありがとうございます。おじさんたちも、死なないで」
「……そうだな、善処する」
もうとっくに死んでるんだが、と答えかけつつも咄嗟に言い換えるレイを他所に閉まる扉。それを追い縋るように一体のゾンビが群れから飛び出せば、それはアランにも構う事はなくエレベーターへと縋り付くように手を伸ばした。
「…………ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!」
興味深げにその背中に一瞥を向けるアラン。よくよく見れば、まだ年若い少年らしいその個体は、ロメ郎と同年代だったのだろう。
「……そうか。君が、雷三くんだったか」
微かな憐憫の気持ちを声に滲ませながらも、アランは迷わなかった。ソードオフショットガンと入れ替えるように取り出す、愛用のピースメーカー。かちりと撃鉄を起こすと弾倉がガチリと回る。
「顔合わせねえで済んだのは、こいつらにとっては幸運だったかもな」
レイの言葉に、かも知れないねえ―― そう呟きながら、アランは引き金を引く。銃声の奏でた残響は暫く止む事無く廊下に響き続けた。それが齎すものは平穏ではなく、静寂だ。
「……レスト・イン・ピース」
安息の祈りを込めた短い言葉と共に倒れ込んだ少年の躯をそっと引き寄せれば、アランは再びソードオフ・ショットガンを取り出した。
「さて、これが映画ならこれで脱出してお終いという所だが」
そうじゃないだろう?と問うアランの言葉。微かな首肯と共にレイも呟く。
「……あんたも、映画監督をぶっ飛ばしてやりてえって顔してるしな」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
白斑・物九郎
●POW
ゾロゾロ湧くゾンビが勝手に突っ掛かって来てくれるんスか
獲って喰うにもラクでイイですわ
・左腕のドライバー『ザ・レフトハンド』に【グールドライブ】を励起させながら廃ビル内をずんずん驀進
・序盤は定点の周辺を探索しながらゾンビ出現に対し迎撃的に対処
・超強化ゾンビの機先/速度/挙動は【野生の勘】で察知し抜き対抗
・ドライバーを宿した左腕でゾンビを【なぎ払い】、その血肉を左手から吸い上げる(吸血+生命力吸収)
・己への強化累積が超強化ゾンビ数体分を上回る域に達したら、定点探索から奥へ奥への探索にシフト
・ゾンビをこちらから探し出したり追い立てたりしながら随時狩猟
・ついでにロメ郎も【野生の勘】で探してやる
●Say 'hello' to my little friend!
「なぁーるほどねェ~……」
死者たちの呻き声の響く合間。からんころん、と廊下に響く下駄の音。
悠々と廊下を進むのは藍染の甚平を纏ったひとりの若者だった。黒髪を突き破って生える黒猫の耳は、この廃墟を仕切りに揺るがす微かな鳴動を感じ取る度にひくひくと小さく震える。長く伸びた尾を揺らめかせながら、白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は独り言ちた。
「ははァ、ゾロゾロ湧くゾンビが勝手に突っ掛かって来てくれるんスか」
そんな彼の言葉を裏付けるかの如く、暗闇に幾つも灯る禍々しい凶暴な獣の眼光。血肉に餓えた動く死体たちが、彼の行く手を遮るが如くに立ち塞がった。そんな彼らをまるで蝿でも払うかの如く、物九郎は左腕を無造作に振るう。同時に紡がれる声は、まるで鋭利に研ぎ澄まされたナイフのように冷たく響き渡る。
『ザ・レフトハンド――オン』
その左腕にくっきりと刻み込まれた虎縞にも稲妻にも見えるグールドライバー『レフトハンド』が宿主の意思によって励起。それは低い唸りを上げながら輝いて、一瞬の内に巨大なサイズへと膨れ上がり、鋭く伸びた禍々しい鉤爪が立ち塞がるゾンビを瞬時に細切れに引き裂いた。その凄まじい膂力に耐えきれず、爆発するかの如くに吹き飛ぶゾンビたちの残骸、続けて噴き上がる黒血は壁に、床に、天井にまるで花を咲かせたかのように模様を撒き散らす。
「そりゃ獲って喰うにもラクでイイですわ」
たった今作り上げた凄惨な光景には見合わぬ、気のない呟き。然しその態度とは裏腹に、物九郎の左腕だけは今この瞬間も獰猛に立ち塞がるゾンビたちに襲いかかっては次々に引き裂き、力任せに彼らを解体していく。そして、其処から飛び散った血液はまるで録画映像の逆再生シーンのようにその巨大な左腕へと吸い寄せられ、文字通りに糧へと変えられていく。足元に転がるのは、まるで木片や炭の如くに萎縮し干からびた残骸ばかり。ぐしゃり、と下駄の歯が残骸を踏み砕き、物九郎を更に前へと進ませる。
「なかなかの餌場じゃねェの。俺めにゃこーゆーの、ボーナスステージですわね」
血を吸えば吸うほどに一層猛り力強さを増していく左腕を意識しながら、甚平姿のキマイラはニヤリと笑う。数だけは十二分に揃った連中だ。獲物の数が居れば居るほどに強化される彼のドライバーにとっては、それはまさしく絶好のボーナスステージと言えただろう。そんな調子でゾンビに出くわす度に振るわれる彼の左腕は、相対する死者もどきを尽く文字通りの動かぬ死体へと変え、なけなしの生命をも容赦なく取り立てていく。
「ま、こんぐらいで十分でしょうや。肩もじゅーぶん暖まったし?」
ひとまずはこのくらいで満足しておこう。数えるのもバカバカしいほどの有象無象を残骸に変えた後で、漸く一息と言った調子で物九郎は告げる。彼の通り過ぎた後には乾いた血痕と夥しい破片、引き裂かれては干からび砕けたゾンビたちの成れの果てが転がるばかり。始めから見れば二周りほどは巨大に膨れ上がった異形の腕の先から伸びる鋭い爪をガチガチとぶつけ合わせながらに、物九郎は暗闇を見据えた。
「ほんじゃ、こっからは本格的に狩りの時間ですわ」
闇の向こうに潜む気配、息遣いは狩猟者たる物九郎から見れば一目瞭然。尤も、彼らにそれを隠すだけの知能など最早備わってはいないだろうが。闇の向こうを見据える物九郎の黄金色の虹彩、その奥の瞳孔が狩猟の歓喜と興奮に丸く膨れ上がった。
「……っと、ついでにロメ郎だっけ。探しといてやんねえと」
だんッ―― 地を蹴り駆け出す物九郎。続けて膨れ上がった左腕を三本目の脚代わりに跳躍し、床だけに囚われる事無く、壁や天井をも足場に跳ね回りながら廊下を暴風の如き勢いで突き進む。道中現れる新たなゾンビを鎧袖一触、擦れ違い様にパスタソースが如く爆ぜさせながら、彼の嗅覚と狩猟者としての勘はこの領域における明確な弱者の匂いを鋭敏に嗅ぎ取っていた。
「ふぅん、そっちかい。……ま、無事で居てくれりゃいいスけどねぇ」
華のある映像は、何もスプラッタなものだけには限るまい。ヒロイックであれば一層に視聴者からのウケも良い筈だ。死の気配が彼を捉えるよりも早く、物九郎は風のように突っ走る。彼の走り抜けた後に残るものは、ただ敵が居たという痕跡のみ。それはまさしく、 Wild Hunt(猛々しい狩り)を体現する堂々たる進撃であった。
大成功
🔵🔵🔵
ビスマス・テルマール
◎
人の怪談的好奇心を利用しての今回の件ですか……非常に胸くそ悪い話ですね
『ああ……趣味が悪い……この上無いな』
せめてロメ郎さんは何としても救わないと、行きましょうクロガさんっ!
●POW
『早業』でUCを防御力重視で発動、『オーラ防御』で覆った【イカドリルロケットビット】をレベル分展開し、半分をロメ郎さんの護衛に
半分をゾンビ達の撹乱に『念動力』で遠隔操作
わたしも『第六感』で『見切り』ながら『空中戦』で撹乱しつつクロガさんに【強化状態も壊す光学烏賊螺旋ロケット】を取り付け『属性攻撃(ミント)』を込めた『一斉発射』の『砲撃』を放ち『範囲攻撃』で一掃を
※クロガさんについては
ステシの【帝竜戦役⑩〜】参照
●Shane. Shane. Come back!
「人の怪談的好奇心を利用しての今回の件ですか。……非常に胸くそ悪い話ですね」
『ああ……趣味が悪い。……この上無いな』
予期せぬ雷光によって駆動し始めた非常電源によるものか、薄闇から照らし出された廊下を走る少女がひとり。否、彼女は決してイマジナリーフレンドと会話しているのではない。正確にはひとりと一振り。ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)と、ひょんな事から彼女と契約を果たした生ける杖、クロガ。少女の携えたクロガの、ハリネズミめいた黒水晶による装飾の施されたそのフォルムは、一見すれば栗や雲丹を彷彿とさせる。モーニングスターや金砕棒のような打撃武器としても使えるかも知れない。
「せめてロメ郎さんは何としても救わないと! 行きましょう、クロガさんっ!」
『最後の生き残りか……。そうだな、急げよマスター』
そんな彼らの目の前で、「2F」を示すエレベーターの回数表示が点灯し、ポーンと気の抜けるようなチャイムの音が鳴り響く。分厚い鉄の扉が開かれ、其処から顔を出したのはまさしくビスマスの探し求めていた吉祥寺・ロメ郎その人であった。
「ああっ!ロメ郎さん、ロメ郎さんですよね!」
「……あっ、はいそうです」
食い気味に詰め寄るビスマスの雰囲気に推されるロメ郎も、これまでの流れで彼女もまた自分を救助しに来てくれたヒーローなのだとすぐに納得はしたようだ。漸く安堵のため息を零す彼の心臓を不意打ちで驚かせるかの如く、次の瞬間には廊下の彼方此方の扉が開き、其処から一斉に亡者たちが顔を出す。
「……わあああああああッ!!」
「大丈夫です、ロメ郎さん。なめろうに似た名前の人を、こんなところで決して死なせはしません」
半狂乱になりかける少年を優しく諭すようにビスマスは囁くと、彼を庇うようにゆっくりと押し寄せてくるゾンビたちを見据え、その手に携えるクロガを両手に握り直しながら、そのウニめいた飾りを突き出すように構えて見せる。
「さあ! やっちゃいますよ、クロガさん!」
『オーケーだ、マスター』
契約者の意思に応えるクロガを介し、ビスマスのユーベルコードが瞬時に起動する。
『Namerou Hearts Squeese !』
機械の作動音と共に迸る眩い閃光。そして噴き上がる濃密な白煙を切り裂くようにして、次々と虚空より姿を表すものたち。
「イカー…………キタァーーーーッ!」
それは小さなイカを象ったドリル付きの浮遊攻撃端末。名付けてイカドリルロケットビット。それらはビスマスの意思を汲むが如くに虚空を浮かび、そのおおよそ半数は後方のロメ郎を護衛するかの如くに編隊を組んで、その周囲を飛び交う。そしてもう半分。
「さあ、ちゃっちゃと片付けちゃいましょう!」
白煙の名残を切り裂き飛び出すビスマス。その青く透き通った肌を防護するかの如くに形成されたイカ型鎧装『ナメロウスクイーゼ』を纏い、流線形を帯びた全身が弾丸の如く地を蹴り舞い上がり、天井すれすれの虚空を奔る。その後に続き―― 否、加速して追い越したイカドリルたちが、次々と唸りを上げて疾走し、立ち塞がるゾンビたちを切り裂き、貫き、鈍重な動きをからかうかの如くに翻弄する。本能的に高速で動く物体に執着するゾンビたちは辿々しく手足を動かすも、それがドリルたちを捉える事はなく、逆に突き出した腕を切り裂かれるばかり。
『……こっちは何時でも行けるぞ、マスター!』
「はいはぁい! それじゃあ、決めるとしますかっ!」
クロガの声に頷きながら、腕を伸ばしたゾンビの頭を踏みつけてやり過ごしたビスマスは、大きく振り被ったクロガのウニ結晶へと魔力を流し込む。強い魔力の流れを受けて、黒水晶は激しく明滅を繰り返しながら、余剰の魔力を白煙の如くに噴き出し、やがてその煙は杖飾りどころかビスマスの手元までをも全体を覆うように巨大なイカを象る、光学螺旋ロケットロケットを形成する。巨大な黒水晶のイカが内蔵機関を高速回転させ、螺旋を描くように光の粒子が粉雪の如く舞い散り―― 薄っすらと漂い始める爽やかなミントの芳香。
『せめて爽やかに吹き飛ばしてやる!』
「死臭はこれで解決ですよっ!! やっちゃえ、クロガさん!!」
巨大な砲身と化したクロガを抱え、イカドリルの撹乱によって密集したゾンビたちを見据えるビスマス。黒水晶の巨大イカが、最大速の回転と共に射出され、眩いプリズム光を撒き散らしながら突き進む。それはゾンビたちの集団を真っ向より吹き飛ばし、巻き起こる爆発の中飛び散る爽やかなグリーンの光の粒子によって、死者たちを浄化するが如くに分解していく。爆音の残響と輝きの余波が収まった後、少女は展開させていたイカドリルたちを収納し、元のサイズに戻ったクロガと共に少年へと向き直る。
「さあ、もう大丈夫ですよ。ロメ郎さん」
「……あ、ありがとうございます」
驚愕の光景を目の当たりにしたロメ郎は、へなへなとエレベーターの扉に持たれた身体を脱力させて、漸くの安堵に浸る。そんな彼を気遣うように歩み寄るビスマスは、何やらゴソゴソと懐を漁れば小さなお椀をひとつ取り出した。中に盛られているものは、新鮮な作りたてのイカのなめろうだ。
「ところでなめろう食べませんか? 美味しいですし、滋養もありますよ」
「……ウッ……」
突き出されたそれに、顔色を変える少年。口元を押さえると、そのままエレベーターの内側に戻って操作パネルを発作的に押し込んだ。これまでに散々スプラッタな光景を目の当たりにしてきた今の彼に、ネギトロやなめろう、スパゲティミートソースなどのメニューはまさに鬼門だったのだ。
「俺……ナマモノ、だめなんです……。本当すみません……」
ばたむ、と閉ざされたエレベーターを前に、ビスマスは絶叫した。
「待ってぇ! なめろう、美味しいんですよ本当ですよ!! ロメ郎さぁーん!!」
そして残るものは、爽やかなミントの香りの名残。とりあえず自分でなめろうを食べてから、ビスマスは彼を追うべく再び走り出した。
「……うう、美味しいのに!」
『むう、イカだったのがいかんのか……?』
成功
🔵🔵🔴
灰神楽・綾
【梓(f25851)と】◎
無数のゾンビとの殺し合いという
シチュエーション自体は悪くないんだけどねぇ
さっきまで生きていた人がそこに居ると
分かっているとちょっと、ね
今出来るのは少しでも早く逝かせてあげる事か
Emperorを構え敵陣に突っ込む
1体でも多く巻き込むように薙ぎ払い
派手な立ち回りで敵の注意を引きつけ
ロメ郎に被害が行かないようにする
理性の無い行動は単純で隙も大きい
此方に向かう敵の動きを冷静に見切り
ジャンプやスライディングで躱し
敵の攻撃が外れた事による隙を狙ってUC発動
ゾンビならやっぱり弱点は頭かな
一撃で仕留めんと脳天目掛けてEmperorを振り下ろす
ここまでやったら、最後の仕上げは宜しく、梓
乱獅子・梓
【綾(f02235)と】◎
いっそ顔が認識出来ないくらい完全な
化け物に変わってしまったならまだしも
中途半端に面影が残っているのが
あの子供にとってはきついだろうな
ドラゴンの零を成竜に変身させ
敵の群れに氷のブレスを浴びせ(属性攻撃・範囲攻撃
ダメージを与えると同時に
凍り付かせて自由に動き回れないようにする
特に足元を狙って地面に張り付かせる
ロメ郎の周囲にも気を配り
近づこうとする奴を優先的に攻撃
綾の意思を汲み取り、UC発動
成竜に変身させた焔に命じる
破壊したゾンビを灰も残らないくらい焼き尽くせ、と
化け物に変わってしまった上に
更にズタズタにされた知人の姿なんて
いつまでも見ていたくないだろうからな
●Keep your friends close, but your enemies closer.
屋上―― 猟兵たちの出現により、邪神が追加で出現させたのであろう。先の死闘で多くの個体が薙ぎ払われたにも関わらず、其処には未だ多数の死者たちが犇めいていた。その中にあって、地獄めいた光景の中で鮮やかな戦いぶりを見せる者たちがいる。
「無数のゾンビと殺し合う。シチュエーション自体は悪くないんだけどねぇ」
そんな言葉と共に振るわれるハルバードの斧刃が鈍重なゾンビの胴体を真一文字に薙ぎ払う。身体の上半分を失って倒れ込むゾンビから視線を外せば、次の標的目掛けて繰り出すハルバード。手の中で器用に柄を回せば、斧刃の裏側に配されたハンマーが横殴りにゾンビの側頭部を叩き潰し、鬼灯のように爆ぜ散らす灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。穏やかそうな細い眼差しに見合わぬ斧槍「Emperor」を縦横無尽に扱いこなす彼は、此処に至るまで幾多のゾンビを斬り捨ててきたが、息一つ切らした様子もない。
「顔が認識できないくらい完全な化け物に変わっていた方がマシだったかもな」
友の面影を留めたゾンビを前に、多感な少年の精神が平静を保つ事は難しい事だと微かに案じながら、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は相棒と背中合わせに、自身たちを取り囲むゾンビの群れをサングラス越しに見据えた。老若男女、様々な者たちの成れの果て。その中でも比較的損傷が少ない、小柄で若い個体の中には、少年の友人たちが混じっているのだろう。梓の何処か物憂げにも聞こえる呟きを気遣ってか、彼の肩に寄り添うように止まっていた氷の仔竜「零」が小さく鼻を鳴らす。
「平気だ、俺はな。……それよりも頼むぞ、零」
『ガウ!』
主の命に従い、その肩から飛び立った小さな仔竜は眩い輝きに包まれ、次の瞬間には幼体のそれから成体と呼ぶべき巨体へと急速な成長を果たしていた。力強い羽撃きと共に舞い上がる巨竜が、大きく顎を開けば其処に収束していく輝ける凍気。吐き出された凍てつく吐息に晒されて、ゾンビたちの四肢は瞬く間に霜に覆われて凍りついていく。特に足元を狙って重点的に浴びせ掛けられる吐息は、ゾンビたちの足と地面を縫い付けるようにして凍結させた。
「ノロい相手だけど、数が多いからな。助かるよ、梓」
氷竜の吐息で生まれた霜に覆われて大凡の身動きを封じられた今、ゾンビたちはただの動かぬ的と成り果てた。大きく振り被ったEmperorと共に、敵の密集地帯へと切り込んだ綾は渾身の膂力を載せて愛槍を横一線に振り抜いた。豪快なスイングは、狙い通りに通り過ぎた軌跡の中に収めたもの全てを叩き斬り、粉砕する。粉々に砕けた凍てついた残骸たちをまるで粉雪のように虚空を舞い、差し込む陽光に晒され、頭上に広がる青空へと静かに溶け消えていく。
「……今俺たちに出来るのは、彼らを少しでも早く逝かせてあげる事だからね」
「違いない。手早く終わらせるとしよう。余り無用に苦しめたくはない」
両者の視線は、零の吐息から逃れたゾンビたちの生き残りへと向けられる。ちょうどそのタイミングで、屋上に続くエレベーターの階数表示が「R」を点灯させた。「ポーン」とチャイムが鳴り響く中、開かれた扉から顔を見せたのは、なめろうから逃げ出してきた吉祥寺・ロメ郎である。
「……っ、まだゾンビが……!」
「綾! いたぞ、ロメ郎だ」
自身の目の前に未だ蠢く死者たちの群れ。この一日で幾度も目にしたものだが、その恐怖に彼が慣れる事などないだろう。人間など、余りにも容易く殺傷せしめる怪異。そして、彼らの中には自分の友人さえ混じっているのだから。
「……任せて、俺が行く!」
言うよりも先に、飛び出した綾はゾンビたちが背後のロメ郎へと振り返るのを制するが如く駆け出した。自身へと伸びる腕を、大きく跳んでやり過ごし、続いて迫るゾンビの足を蹴りつけながら、凍りついた地面をスライディングで滑り込んですり抜ければ、全力疾走でエレベータ前へと駆け寄った。
「綾、右から来るぞ」
「大丈夫だよ、心配性だな」
梓の声に苦笑しながらも綾は続けて荒々しく振り回すEmperorの斬撃で手近に迫るゾンビの足を斬り飛ばして強引に引きずり倒す。その鮮やかな手並みに、エレベーターの中でその光景を見ていた少年はただ息を呑むばかり。常人を超越したその技は、素人目にはまるで一種の芸術のようでさえあったかも知れない。
「なあロメ郎、そこでちょっと待っていてくれるかい」
「……は、はいっ……!」
返す刀で綾の突き出す石突、それは後方から自身へと食らいつこうとしていたゾンビの眉間を無造作に貫いた。後頭部までをも突き抜いた一撃に痙攣するゾンビに視線を傾ける事もなく、綾は無造作に石突を引き抜けば、支えを失ったゾンビの身体は倒れ込んで、すぐに痙攣さえする事無く動きを止めた。それでも綾の前には未だ無尽蔵とも思えるほどのゾンビたちが蠢いている。
「……ふぅ。これだけやってもまだ減らないのかい」
「なら、出てこなくなるまで壊し続けるだけだ」
そして、ロメ郎は見た。未だ蠢く死者たちの中に混ざる、自身の友人たちの姿を。余りにも痛ましいその姿、直視することも出来ずに拳を握り締めて、項垂れる彼の姿を一瞥し、綾は手にしたEmperorの柄を握り直す。
「友達か。……ごめん。やり方は粗っぽいけど、俺たちがちゃんと終わらせる」
「……案ずるな、お前の友の尊厳は守ってやる」
梓の言葉を受け、互いに視線を交錯させると同時に走り出した綾は、力強い踏み込みで床を蹴りつけ、空高く跳躍した。頭上に振り上げたEmperorをまるで風車の如く高速で回旋させる事で、存分に加速させた斧槍を敵集団目掛けて真っ向より振り下ろす。
『――“皇帝”のお通りだよ』
虚空を切り裂く音さえ置き去りに叩き込まれた一撃が、狙い定めたゾンビを脳天から一息に叩き斬り、続けて足元にまで突き抜けた刃が屋上床を深く切り裂き、破砕する。其処から巻き起こる衝撃、そして飛び散る破片がクレイモア地雷の如く炸裂し、爆音と共に四散する衝撃は周囲に屯していたゾンビたちをも巻き込み、その肉体を粉々に引き裂き、吹き飛ばしていく。
「……ッ、フルっち……! ダリ夫ぉぉぉぉーッ!!!!」
「……最後の仕上げは宜しく、梓」
無数に飛び散る破片が舞う中、梓の羽織る白いコートの懐から顔を出したのは炎を司る赤い仔竜「焔」。綾の言葉に、そしてロメ郎の想いを汲み取った梓の振るう腕に従うように、コートから飛び立った仔竜は『キュー』と一声鳴いた後、光りに包まれ瞬時に成体へと進化した。巨大な翼を広げ、飛翔する火竜が大きく息を吸い込めば、その顎にはオレンジ色の輝きが収束し、膨れ上がっていく。
『紅き竜よ、世界を喰らえ!』
主の命に、紅き竜はその咆哮と紅蓮の吐息を以って応えた。凄まじい勢いで吹き荒れるオレンジの熱風。それは舞い散る死者たちの肉体を瞬時の内に飲み込み、焼き消していく。焼き焦がす瞬間さえも見せぬほどの火力に、それらは文字通りに灰一粒さえ留めず、跡形もなく焼失した。熱風が止み、漂う熱気を氷竜の冷気で中和させながら、空を二匹の竜が舞う。
「化け物にされ、ズタズタになった友の姿なぞ見ていたくはないだろうからな」
空を舞う竜たちから、梓の視線はエレベーター前で虚空を見据える少年へと向けられた。恐怖も、悲しみもある。それでも絶望はしていないだろう。涙を乾かせたその目には、確かな意思の光がまだハッキリと存在していた。
「梓、助かったよ。俺だけじゃ、彼にはちょっとキツい光景だっただろうから」
相棒からのそんな言葉に、梓は小さく「ああ」と頷いた。蠢く死者たちの気配は未だ薄れない。二人の猟兵は、それぞれ互いをカバーし合うかの如く、背中合わせに周囲を睨む。この惨劇の幕引きの時は確かに近づいている筈だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天星・雲雀
(アドリブ・共闘・連携・サポート歓迎)
「まちなかにゾンビが出たら、ロケランブッパしたく成るのが人の常」
ゾンビの腕の下をくぐり抜けつつ。
【行動】UCサモニング・ガイストを使って、ゾンビの足や頭をふっとばして、一箇所に纏まっていら、まとめて燃やします。
その後、ロメ郎くんの探索、『オトモ』達にも手伝わせましょう。見つけ次第、ロメ郎とその友人(まだ無事な場合は、共に救助)の退路を確保しつつ、追ってくるゾンビをUCで、ふっとばして数を減らしておきます。
「亡者よ、屍に還れ」
「壁の向こう側のゾンビは、壁ごと粉砕してあげます」
「結界化されてるおかげで、いくら穴ぼこだらけにしても崩れないのは僥倖ですね」
●I love the smell of napalm in the morning.
「まちなかにゾンビが出たら、ロケランぶっぱしたくなるのが人の常……」
天星・雲雀(妖狐のシャーマン・f27361)はそう呟いた後、「いや、撃ちませんけどね自分!」と慌てて否定した。誰に聞き咎められた訳でもないが。呻き声と共に伸びるゾンビの腕を、咄嗟に屈んでやり過ごせば、その脇をすり抜けるようにして廊下を走る。迫るゾンビの数にうんざりしてきたところで、彼女が用いるのはユーベルコード【サモニング・ガイスト】。
「……頼みますよ、古代の戦士さん!」
彼女を守護するようにその前方へと唐突に出現するのは巨大な蒼い鬼火。虚空より現れるなり、それは一瞬の内にして長く鋭い槍で武装し、屈強に鍛え上げられた筋骨逞しい肉体を腰蓑と幾何学的な紋様の施された仮面で飾る勇壮なる古代戦士の姿を取った。立ち塞がるゾンビの腕や足、或いは頭を彼の風を裂いて突き出す槍が鋭く吹き飛ばし、主の進むべき道を力強く切り開いていく。
「――――……亡者よ、屍に還れ。どうか迷わず成仏してくださいね」
道を塞ぐように寄り集まった邪魔な集団は、古代戦士の掌から噴き出す蒼い炎が容赦なく焼き払う。蒼い火の粉が舞う中、黒く焦げて崩れ去っていく躯たちの残骸を踏み越えて、雲雀はただ前へと突き進む。
「ほら、オトモも一緒にちゃんとロメ郎くんのこと探してー!」
ふよふよと自分の周囲を漂う相棒の狐火「オトモ」に声をかけながら、その合間に襲いかかるゾンビたちを使役する古代戦士によって打ち倒し、雲雀は探索を進めていく。
「なかなか見つかりませんね。でも、ゾンビを沢山仕留めるのはきっと良い事です」
不意に足を止めて考え込む雲雀であるが、間近な金属扉の後ろには蠢くゾンビの気配。彼らが扉を破るよりも一瞬早く、地を蹴った古代戦士の亡霊が体当たりするかの如くに全身の勢いを載せて繰り出す槍の鋭い一撃が、分厚い金属扉ごとその後方に潜むゾンビたちを纏めてぶち抜き、その衝撃にドアが収まる壁さえもが音を立てて崩れ去る。
「……不意討ちなんて無駄ですよ! 自分、一人きりじゃないですからね!」
その肉体を貫いた槍を通して生み出される蒼い業火によって、全身を焼かれて崩れ去っていく死者たちに成仏を願う一瞥を寄越してから、雲雀は再び歩き出す。それを先導するように浮かぶ鬼火が、索敵も同時にこなしているのだろう。同様に脇道に潜むゾンビたちを彼らが襲撃するよりも先んじて、オトモがその炎を勢い良く燃やし、それを合図代わりに古代戦士が壁ごと豪快に粉砕して跡形もなくその火力で燃やし尽くしていく。彼女たちが通り過ぎた後に残るものは、ゾンビであった者たちの成れの果てたる灰や白く燃え尽きた炭の欠片。そして、古代戦士の惜しげもなく奮った剛槍と怪力によって散々に破壊された痕跡の生々しい、穴だらけの壁面ばかり。
「結界化されてるおかげで、いくら穴ぼこだらけにしても崩れないのは僥倖ですね」
そんな様相をちらりと一瞥しながら、雲雀は嘯く。そんな主の様子を少しばかり不安げに眺めるオトモであったが、すぐに気にしないでいくことに決めたらしい。そんな両者の少し後を、寡黙に油断なく周囲を警戒する古代戦士が静かに追随していく。持ち主が今どうなっているかも分からぬ上に、邪神の好き勝手に改造が続けられているこの物件、確かに好きなだけ派手に戦ったところで、此処が結界の内側で在る限りは外にその騒ぎが露見することも、倒壊することもないだろう。……邪神が生きているその間ならば。
「ともあれ、この調子で探索しましょう。ロメ郎くんの安全を確保するためにも」
ゾンビを狩れば狩るほどに、保護対象の少年を襲う危険度が下がっていくのは道理だ。道中、他所の階から聞こえてきた様々な騒音は、他の猟兵たちも派手に戦っているという合図なのだろう。
「……自分も、他の方々に負けては居られませんね。ええ、本当に待ち遠しい」
雲雀は少しだけ暗い表情で、くつくつと笑った。不届きなる邪神。彼に限ればどれだけイタズラをしても咎められることはあるまい。まだ見ぬ仇敵をどう翻弄してやるべきか、それを思えば雲雀の楽しみは尽きなかった。ああ、早く会いたい。待ち焦がれる相手の姿を夢想する少女を他所に、その道を遮る新たなゾンビを、古代戦士が繰り出す槍の穂先が打ち砕く。どさりと重たい音を立てて倒れ伏すゾンビの躯を踏み越えて、少女は好戦的な笑みを浮かべた。
「……そうだよ! 早くうちと遊ぼうじゃねえの、邪神ちゃんよう!!」
大成功
🔵🔵🔵
フィオレッタ・アネリ
【封印を解く】で大きくなったゼフィールの【援護射撃】と鉤爪でゾンビを攻撃して注意を引き、ゾンビを【おびき寄せ】て囮になって【時間稼ぎ】してもらってる間に、【存在感】を消して【目立たない】ようにロメ郎くんを救助!
「もう大丈夫だからね。これはゾンビ映画じゃなくて、ヒーロー映画なんだから!」
ロメ郎くんを抱きしめながら《花々の護り》で花の騎士たちを召喚
結界の中に入り、騎士の半分をゼフィールと一緒に増殖するゾンビの殲滅、半分を自分とロメ郎くんを【かばう】ことに回して、自分は【魔力溜め】に集中
十分魔力が溜まったらUCを解除して、ゾンビの群れを【限界突破】した風精の【範囲攻撃】でまとめて【吹き飛ばし】!
●Carpe diem. Seize the day, boys. Make your lives extraordinary.
「……っ、まだゾンビが……!!」
破砕された屋上床の割れ目から這い出す新たな死者たち。同胞の残骸を気に留める事もなく、ひたすら餓えを満たそうという本能に突き動かされ無尽蔵に這い出てくる彼らを前に、ただ一人の生存者たる少年は恐怖の極みに陥ろうとしていた。ゆっくりと立ち上がるゾンビ。顔面の彼方此方の皮膚が欠落し、白骨や腐肉を所々から覗かせる醜悪な姿で、それは白濁とした眼を少年へと向けた。そう、餌だ。餌を見つけた彼らは、それを求めてのろのろと動き出す。
「……ううっ……」
じりじりと後退する少年は、やがて背を壁にぶつけてそれ以上後ろには下がれない事を知る。恐怖と、それ以上の絶望が彼の心を絡め取っていこうとする―― その時だった。空から高らかに轟くは、勇ましき竜の咆哮。蒼穹と陽光を背負い、広がる緑翅がその巨体を軽やかに空へと浮かばせる。その名は精霊竜「ゼフィール」。封印を解かれ、真の姿を取り戻した風の竜が吐き出す疾風は、弾丸へと早変わりし地上へと降り注いでは死者たちの群れを次々と撃ち抜いていく。
「……もう、大丈夫だからね!」
「うわっ……!」
突如として空へと出現した竜が、ゾンビたちを相手に一方的な蹂躙を始めるのを他所に、ゼフィールの主たる女神、フィオレッタ・アネリ(春の雛鳥・f18638)は死者たちの死角より回り込んで、慌てふためくロメ郎を素早く抱きかかえるようにして彼らの手が届かぬよう、掻っ攫った。
「もう大丈夫。これはゾンビ映画じゃなくて、ヒーロー映画なんだから!」
少年を抱きしめる女神の両腕。自身を包むような柔らかい温もりは、此処までの惨劇を紙一重にやり過ごしてくる間に乾き罅割れてきた少年の心に深く沁み入る事だろう。ひっく、と小さく込み上げてきたそれを、彼はもう抑え切る事ができなかった。鼻奥から迫り上がってくる熱い痛みが目元を潤ませ、視界をぼやけさせていく。何か声を出そうとしても、格好悪い泣き声しか今の自分は出せそうにない。
「お゛れ゛…… お、れ……ッ…… 自分、だけ……こ゛ん゛な゛ッ……」
「……いいの。ここまでよく頑張ったね」
ぽんぽん、と少年の背を軽く叩いてから、フィオレッタはゼフィールの風弾にも怯まず、再び少年を捕捉して動き出したゾンビたちを静かに睨む。ロメ郎をその腕に抱くフィオレッタを中心として、彼女たちへと寄り添うように流れる清涼な風。何時しか其処には色とりどりの花弁たちが混じり、鮮やかに虚空を彩っていく。そして花弁たちは次第に光を帯び、それが膨れ上がって次々と爆ぜていく度に、其処には花を象る衣装の鎧を身に纏う可憐なる十二輪の少女騎士たちが出現した。フィオレッタの行使するユーベルコード《花々の護り(グアルディアーノ・ディ・フィオーリ)》がその効力を発動させたのだ。
『ヴィオラ、ローズマリー、マーガレット、カンパニュラ――お願いね!』
それぞれが『誠実』の花言葉を抱く忠勇の精霊騎士たちはそれぞれがその手に携えたレイピアの切っ先を軽く打ち鳴らし、六輪は空を舞う風の竜の援護に飛び出し、残るもう六輪は花弁の結界で身を守るフィオレッタと、その腕に抱かれた少年を守るため押し寄せるゾンビたちに次々と斬り掛かっていく。
「……すごい、皆めちゃくちゃ強い!」
「そうだよ。待っててね、もうすぐ此処から救い出してあげるから」
ひとりひとりそれぞれがフィオレッタと同等の強さを誇る十二人の騎士たち。風の如く迅速にして鋭きレイピアが敵を裂くたび、噴き出す血液はまるで花弁のように鮮やかに舞い、死者たちを弔う徒花を咲き散らす。無尽蔵に増えるのではと思える程の膨大な死者たちも、風竜より撃ち出される疾風の弾丸の嵐に加え、いずれ劣らぬ武勇の戦乙女たちが振るう利剣の前にはその勢いを削がれているかのようだった。迫るゾンビたちは瞬く間に切り伏せられ、残るは床の割れ目でもたつくように蠢く出遅れ組ばかり。そして、ほぼ同時にフィオレッタの練り上げ続けてきた魔力が臨界点に達した。
「ゼフィール、みんな……ご苦労さま! さあ、其処を空けて!!」
主の声に、騎士たちは一斉に飛び退りながら、その身を無数の花弁と変えて散り失せ、風竜ゼフィールもまた空高くその巨体を舞い上がらせる。取り残された死者たちの群れを取り巻くように流れる風が渦を巻き、その勢いを少しずつ力強いものへと増していく。それは一度捉えたものを二度とは出さない暴風の牢獄。内側に捉えたものを、その凄まじい不可視の刃は強引に磨り潰すがごとくに切り裂き、解体していく。
「……さあ、これでおしまい!……貴方達も、もう楽になっていいんだよ!」
死者たちを解き放つ女神の声。その暴風は不条理ではなく、女神としての慈悲だった。吹き荒れる暴風が止んだ頃には、其処には最早何も残らない。塵一つ残さずに分解された死者たちは、理性を失くした獣同然の身で暴れ回る因果より永劫に解き放たれた。静かに晴れ渡る蒼穹を見上げながら、フィオレッタはへたり込んでいる少年へと手を差し伸べる。
「あともうちょっと。すぐにロメ郎くんを日常に帰してあげるから」
だからもうちょっとだけ、わたしたちに付き合って、と。そう続ける言葉に少年は少しの逡巡の後に大きく頷いた。いつの間にかもとの小さな身体へと戻りながら舞い降りるゼフィールをその肩に止まらせたフィオレッタ。彼女は見下ろしたビル屋上の割れ目を静かに睨む。
「……次は、ここのボスを見つけ出さないとね」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『認識阻害の結界を打破せよ!』
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POW : ひたすら歩き回って探す
SPD : 違和感や不自然な点を見つける
WIZ : 魔術や魔法で隠された真実を暴く
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Intermission
邪神の支配領域内で使役されていた無数のゾンビたちは、しかしその全て猟兵たちの目覚ましい活躍によって尽くが撃破された。この結界の奥深くに潜む邪神は手駒を全て失った事になる――が、彼が安全圏に潜んでいる限りは、この結界の外へと少年を脱出させることも不可能。そしてこのまま邪神を放置していれば、新たなる犠牲者をこの廃ビルへと呼び込み、己の愉悦のための惨劇を再び演出しようとすることだろう。
誰からともなく、猟兵たちはそれぞれが同じ結論へと思い至る。彼の邪神を守る最後の砦、厄介なこの結界をどうにかして突破するのだ。腹立たしくもひとりだけ安全圏へと引き篭もる邪悪の根源を戦いの舞台にまで引きずり下ろす為に。
果たして、彼らを待ち受けるさだめの行方は?
吉祥寺・ロメ郎は無事に日常へと帰り着くことが出来るのか?
全ての答えは未だ深き闇の中にある。疾風怒濤の後半を待て!
アラン・スミシー
映画監督が、制作陣が気にすることは何だと思うかね?
興行収入?
観客動員?
まあどちらも正しいさ、ただもう一つ数字じゃ測りにくい要素があってね
…レスポンス、さ
彼らは常に観客の顔色を知りたいんだ
つまり、『最も間近で反応が見えるところにいる』
この場合ならロメ郎君の最期を直接見られる所にいるんじゃないかね
もっとも目を飛ばせたりするなら話は別だがね
そうそう、それに…そいつは私の調査によると人を下に見てるそうだ
本人はその姿を見せないことが恐れを呼び起こす、なんて考えてるようだが、その考えこそが自身の恐れを隠すための演技だろうね
おっと、こんな話をしてたら図星を突いてしまうかもしれないね
ちょっと失礼だったかな?
●Elementary, my dear Watson.
猟兵たちを包み込む強烈な違和感。目の前にある風景は現実には存在しないもの。邪神によって作り上げられた結界は今も尚、その姿を緩やかに変え続けていた。開いた扉は何処に繋がる事もなく、階段を降りようとすればその道筋は恐らくどれだけ歩みを進めても次の階へと辿り着く事もない。其処を歩む者の気が狂うか、或いは餓えて死んだとしてもそのループが途切れる事はないだろう。
「……さて、と」
扉を開き、其処に広がる蠢く闇を興味深そうに覗き込むアラン。開闢の瞬間より膨張を続ける宇宙のような、その異様な深淵の様から視線を切れば、嘆息と共に扉をバタンと閉ざす。
「映画監督が、制作陣が気にすることは何だと思うかね?」
唐突に彼の投げかける問いは、誰に向けたものか。居合わせた猟兵に向けてか。或いはこの空間を作り上げた邪神自身か。もしかすれば、自分自身に問いかけて己の中で組み上げていた思案への確証を深めるためのものだったかも知れない。
「……興行収入? それとも観客動員? まあどちらも正しいさ」
彼の続く言葉に、誰も答えない。もしくは各々が思案を続けている最中だったのかも知れない。構わずに言葉を続けるアラン。或いは誰かがその先の言葉を求めるような視線を送っている事を気取ったのだろうか。
「ただもう一つ数字じゃ測りにくい要素があってね」
「……観客が、どんな反応を返すか……とか?」
アランの言葉に続けるように呟くのはロメ郎だ。彼自身、既に気付いていた。自分たちが何かとてつもない悪意を持った存在の掌の上で転がされていた事に。恐らくは自分たちの一挙一動も見世物として彼らの娯楽代わりに使われていたのだろう、と。そして少年は撮影対象であるのと同時に、邪神の作り上げた脚本を見せ付けられる観客そのものであったのだ。
「そう。……レスポンス、さ。彼らは常に観客の顔色を知りたいんだ」
「そん、なっ……」
薄々感じていたかも知れないが、そう言葉に出されてしまえば少年はそれ以上の言葉を紡ぐことも出来ずに押し黙る。ただの人間に対しては余りに荷の重すぎる出演オファーと言わざるを得ない。彼には拒否権もない。おまけにギャランティーは自分の絶望と死のみと言う、余りにも理不尽な運命だ。
「……つまり、彼は『最も間近で反応が見えるところにいる』ってことさ。この場合ならロメ郎君の最期を直接見られる特等席にいるんじゃないかね」
「それじゃ、そいつがこの場に居るってことですか?」
ロメ郎の問いに少し考え込んだアランは、緩やかに首を振る。
「或いは、彼は自分の目だけ飛ばすような器用な真似をしているのかも知れない」
更に或いは、と続けた彼の視線は虚空を静かに見上げる。この結界の何処か、もしくは何処にでも隠れている『カメラ』を気にしたつもりだったのかも知れない。
「これからその特等席にロメ郎くんだけを引き込もうとしているのかもね」
だが、今此処には猟兵たちも同時に存在している。彼らを前に、さしもの邪神も迂闊に手を出せずにいると言うことか。狼狽える少年に向けるアランの視線は「心配は要らない」とでも言いたげな穏やかなものだ。自説の披露を続ける内に、何時しか身体に纏わりついてきた重圧と違和感を涼しげに受け流しつつ、アランの言葉は更に核心へと踏み込んでいく。
「そうそう。それに……そいつは私独自の調査によると、人を下に見ているそうだ。本人的にはその姿を見せない事が観客の恐れを呼び起こす、なんて考えている心算のようだが……私に言わせるなら、その考えこそが『自身の恐れを隠すための演技』だろうね」
要するに彼自身もビビっているのさ、とアランは少し挑発的な調子を帯びた声で繋げる。邪神が圧倒的な強者であるならば、わざわざ小細工を弄して安全圏に引き篭もる必要などないのだから。
「おっと、こんな話をしてたら図星を突いてしまうかもしれないね」
「おじさん……!」
そこまで口にしたところで、アランは周囲を見回すようにどこか悪戯っぽい視線を向ける。同時にその身体が末端からじわじわと消えていくのを見咎めたロメ郎が声を上げる。
「……ちょっと失礼だったかな? どうやら本当に図星だったらしい」
心配は御無用さ、と続けるアランの姿がゆっくりと消えていく。しかし、彼の表情には言葉通りに一抹の不安も見受けられはしない。
「これ以上余計な事を言わないよう、彼からご招待されたようだ。私はひと足お先に失礼するよ。皆も向こうでまた会おう」
生憎、もう大体必要なことは言い切った。満足気に頷くアランの姿が掻き消える。最後に少年へと一言だけを残して。
「……思惑通りに動いて彼を楽しませる必要はない。アドリブを見せ付けてやれ」
此処から先には、邪神の書いた筋書きなど必要ない。
成功
🔵🔵🔴
神羅・アマミ
自由に構造を変えられる結界が廃ビルに張り巡らされているとは、なんともZ級映画のセットのようじゃの~!
カメラの視点や角度、オブジェクトを変えて必死に広く見せるやつな。
「さあゲームのはじまりです」とかいうクソみたいな前置きが出れば完璧。
正攻法による法則性や抜け道があるのかも知れぬが、妾は貴様のルールに付き合う気は毛頭ない!
真の姿・ゴリラニックパワーローダーに覚醒し、放つUCは『山台』よ!
結界には結界をぶつけんだよ!ということで、こちらもまた建築・建造の特殊能力でもって内側から力ずくでのこじ開けを試みる。
この時ゴリラ看守も役に立とう。
結界の外に抜けられるような空間の歪や敵ボスを検知できるやもしれぬ!
天星・雲雀
「ぞんぞんぞんびの大合唱♪がお~。も、終りが見えましたね」
「ゾンビの巣窟を作ったボスを廃ビル内から探そうにも、地上部は、あらかた壊しちゃいましたし。まだ壊してない場所は建物の地下でしょうか?」
【行動】特技【第六感】を頼りに結界の中心付近の違和感と不自然な物を探索します。
UC狐火の『オトモ』達にも手伝ってもらって大捜索します。
「オトモ!廃ビル全体を結界化してるということは中心部に、発生原か増幅用の媒体があるかもしれません。探してみて!地下に通じる道の有無も一緒に!」
「結界に穴を開けないと、ボスを発見できないという事なら、先にロメ郎くん達をその穴から、結界の外に逃がす方が先なのでは?」
●Toto, I've got a feeling we're not in Kansas anymore.
「ぞんぞん、ぞんびの大合唱~♪ がお~♪……も、終わりが見えてきましたね」
既に廃ビル内を埋め尽くさんばかりに犇めいていた無数の死者たちは皆、再びの眠りに就いた。もう二度と目覚める事がないよう念入りの再葬を施された彼らは最早脅威足り得ない。上機嫌に歌いながら周囲を見回す天星・雲雀。その背後では神羅・アマミが周辺の様子を興味深げに見回している。
「此処のボスを廃ビルの内側から探そうにも、地上部はあらかた壊しちゃいましたし。まだ壊してない場所は建物の地下でしょうか?」
「或いは、自由に構造を変えられる以上、ボスの居所も動き続けているのやも知れぬ。……見よ、壊された痕跡も修復されてきておる。なんともZ級映画のセットのようじゃの~!」
まさしくご都合主義じゃわー、と肩を揺らしてけらけら笑うアマミ。幾らでも使い回せるこの空間、考えようによってはあの手この手を使ってセットを少しでも広く見せようとする、エクストラを何人も使いまわして大勢のゾンビが出てくるように思わせる、そんな低予算ホラー映画などでも使われる手法にも似ていると解釈できたかも知れない。
「さあ、ゲームの始まりです……とか、ナレーション出たりはせぬのか? お?」
何処かにあると思しきカメラを背伸びしたり、ぴょんぴょん跳ねたりしながら探そうとするアマミであるが、暫くすればそれに飽きたらしく歩き出す。
「ふうむ、あちらは何やら思いついたご様子。では自分も探してみましょう」
アマミの背中を見送る雲雀は、一本立てた人差し指の先に小さな狐火を生み出した。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……次々と生み出されるそれらは、瞬く間に雲雀の周囲を取り巻くように幾つも現れ、ゆらゆらと虚空で揺れながら静かに燃えている。
「さあ、オトモたち!このビル全体を結晶化しているということは、中心部に発生源か増幅用の媒体があるかも知れません。ちょっと探してみて!あと、地下にも何かあったりしないかも一緒に見てきてちょうだい!」
主の号令に狐火『オトモ』たちは廃ビルの彼方此方へと一斉に飛び立っていく。総数72にも及ぶ狐火たちが、わらわらと彼方此方に散らばりながら、その探索範囲を徐々に徐々に広げていく。何か違和感らしいものを感じ取れば、それは即座に雲雀のもとへとフィードバックを果たすのだ。
「……ううん、媒体らしいものは特にない?それじゃあ、やっぱり邪神そのものが発生源ってこと?」
狐火たちからの報告に、顎に小さく手を当てて思案の表情を見せる雲雀。おまけに地下通路なども存在はしていない―― 結界はちょうどこの建物そのものを覆うように発生しているらしい。その中で彼方此方を区切るように更に小さな結界を幾つも発生させることで、邪神はこの廃ビルそのものを自在に操作可能な迷宮へと仕立てているのだ。ちょうどそんな彼女の後ろをアマミが通り掛かると立ち止まる。
「何か気になるものはあったかの?妾も色々あっちこっち引っ繰り返してみたが、さっぱりじゃ」
じゃから、と続けたアマミが高く両腕を頭上に掲げる。
「もしかすれば他に何か、正攻法による法則性や抜け道があるのかも知れぬが、妾は邪神なんぞのルールにこれ以上付き合う気は毛頭ない!ここから先は、妾の流儀で行かせてもらうとしようッ!」
眩い輝きに包まれたアマミ。それが弾けるように消え失せたところで、彼女を包み込むようにして形成されるは、黄色と黒のタイガーめいたカラーリングのゴリラを象る二足歩行式のパワーローダー。両肩に備えられた回転灯をぐるぐると眩く放光させながら、まるでボディビルダーの如く力強く両腕を持ち上げる様は、さながらゴリラそのものだった。
「これぞ我が自慢の……ゴリラニックパワーローダーじゃ!!」
「名は体を表す……!まさしくそのまんまなネーミング、自分嫌いじゃないですよ」
むん、と力むポージングを次々と繰り返しながら油圧シリンダを伸縮させたアマミのゴリラニックパワーローダーは、不意にその両腕を勢い良く振り上げれば強引に足元へと叩き付ける。
「さあて、こっからじゃ。妾のやりようは至ってシンプル!良いか、力こそパワーじゃ!そして結界には、同じようにこっちも結界をぶつけてやんだよぅッ!!」
強引に叩き割った床面から覗くのは、下層階の廊下の様子。しかしそれは結界に歪められた視覚的な情景でしかない――それでも、ゴリラニックパワーローダーのずば抜けた怪力は、結界に一定の歪を生み出した。その小さな揺らぎに向けて、アマミはパワーローダーの両腕を基点にユーベルコードを開放させる。
『我こそが警察、我こそが司法!其方の罪咎を禊ぐべく、天に代わりて拵えしが鋼と磐の密林よ!浅ましき咎人と我を繋ぐ一路を繋げッ!今こそ貴様の裁きの時なり!!』
その両腕の間で形成されていくコンクリートと鉄格子で形成された迷路―― 否、巨大な一本道。それが此方と彼方を遮る目には見えぬ結界へと突き刺さるッ!! 互いに異なる性質を持った結界同士が鬩ぎ合い、空気が震える。ゴリラニックパワーローダーの踏ん張る床がその重みに抉れていくほどだ。その鬩ぎ合いのバランスを崩すものは――
「……オトモ! みんな、行って! 手伝ってあげるのよ!」
雲雀の号令に一斉に集い、床に空いた大穴へと次々に降り注ぐ72の狐火たち。それは結界にぶつかる度に細かく蒼い火の粉を散らして爆ぜ飛びながらも、じわじわと鬩ぎ合い続けていた両者の均衡を崩す。突き刺さろうとするアマミの結界を後押しするかの如くに爆ぜ続け―― 不意に、何かが砕け散る音が響き渡った。
「どんなもんじゃい、これがゴリラのパワーじゃ!ざまあねえな!」
「お、おお……ッ!すごい、本当に穴が空いちゃいました!」
なにもない筈の空間を文字通りに割り砕いて突き刺さるアマミの形成した一本道のコンクリートジャングル。パワーローダーから飛び降りるなりに、アマミは迷わず其処へと飛び込んだ。少し迷って、雲雀もその後へと続いていく。彼我を繋ぐ直通の一本道。彼女たちは何時しか自分たちと並走し、追い抜いてはその先を疾走するメカニカルなゴリラ看守を先導代わりに駆け抜けていく。
「ゴリラくんの勘では確かに居るぞ。この先に大ボスがのう!ボスの間までの直通ルートじゃ!」
「……うーん。結界に穴を開けないとボスを発見できないのなら、ロメ郎くんをその穴から結界の外に逃がした方が良かったのでは?」
雲雀のふと口にする至極まっとうな疑問。しかし、アマミは微かにちらりと振り返れば小さく唸る。少年は、最後の生存者としての絶望と死を邪神が味わうために招き入れられた存在ゆえに。
「邪神がむざむざそれを許すとも思えぬ。あの小僧のリアクションを楽しむために、邪神がわざわざこの舞台を用意したというのであれば……」
だが、それもこの先に待ち受ける邪神を撃破すれば、その悪趣味な脚本をご破産にしてやる事も出来る筈だ。彼女たち猟兵には、その力があるのだから。絶望の悲劇を、希望の喜劇へと塗り替えるために彼女たちは今、此処に居る。
「……それなら、ボスをぶっ飛ばすまでのこと」
そう、不敵な笑みを浮かべながらアマミに告げる雲雀の背後で、其処に付き従うオトモたちは『その通り!』とでも言いたげに前進を激しく燃え輝かせた。間近に迫る巨大な敵の気配に対しても、彼女らの戦意は一切の揺らぎなく燃えたぎり続けている。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レイ・オブライト
◎
ビビリと逃げ足の速え奴は早死にするかその逆か。やはりあいつは運も良い
常時監視中なら自らの元へ辿り着かれる恐れには即座に対処するかもな。あちこち一気に壊して道作りまくり、組み替えに時間掛からなかった方向がより"近い"と仮定し進む
他の奴とは手分け。壁、床、天井。扉。大体は格闘+衝撃波、なんなら【Blast】もいい
鎖にて落下死は避けとく。ま、地形は此方にとって常に不都合に変わると予測し休まず突き進むが
おい、暇なんで新鮮な死体でも寄越しちゃくれねえか?
サービスしといて損はしねえと思うぜ。例えば殴ったときのお前の潰れ具合が101から100へ変わったりよ
そういや邪神ってのはどんなナリだ
大方想像つくが、な
●They’re coming to get you, Barbara.
「ビビリと逃げ足の速え奴は早死にするかその逆か……」
そう呟いたレイを、どこか不安げに見守る少年。その視線に気付けば、レイは一寸考え込んでから小さく付け加えた。
「……要するに、だ。おまえの運が良いって事さ」
そのまま、やはり不安そうな侭の少年の視線から遠ざかるように歩き出すレイ。今も結界内は少しずつその構造を組み替えているのだろう。その仕掛に気付いた猟兵たちは、次々とこの迷宮の主たる邪神の元へと向かうべく姿を消して行った。ある者は核心に近付いたが故に招かれ、ある者は強引に道を抉じ開け殴り込みに向かった。
「…………ふん」
そしてレイが目指すものと言えば、それは当然に後者の方であるだろう。難解な法則の類をいちいち読み解く悠長な時間などはないし、それにわざわざ付き合う義理もない。ちらりと振り返るのは少年の姿。そして彼は今一度周囲を見回せば、開いていた五指を拳の形へ静かに結ぶ。
「……試してみるとするかね」
言うが早いか、レイの剛拳が唸りを上げる。叩き付けられた衝撃に響く轟音。鉄塊のような拳を撃ち込まれた手近な扉がまるで飴細工のように歪んで壁から剥がれて吹き飛んだ。勢い余った衝撃の余波が天井を、壁を引き裂き、尚も振り回した拳が次の壁に突き刺さる合間に、勢い良く床板を踏み締めた靴底がクラッカーでも踏みつけたかのように床を破砕し粉々に吹き飛ばす。重力に引かれて下方へと落ちて行く―― レイの眼前に広がるのは、本来あるはずの下の階の廊下ではない。無限に広がる暗闇が大きく口を開けて、奈落の底の如くにレイが落ちてくるのを待ち受けている。
「……ちッ……!」
レイの腕から解けた銀の鎖が真っ直ぐに伸び、その先端に繋がれた楔が壁面に深々と突き刺さっては、レイの肉体の重みを支え、それ以上落ちぬように吊り留まらせた。慣性に揺さぶられ、振り子のように揺れる躯体のバランスを宙吊りのまま整えて、レイは微かに嘆息を溢した。
「他の連中から離れといて正解だったな……」
巻き込まれた者たちにあれこれ説明するのもいちいち面倒だ。或いは、ショートカットコースを見つけた、と喜ぶ者も居るかも知れないが、そういうテンションに付き合うのも彼には少々大儀に感じた。見上げる崩れた天井は、まるで録画映像を逆再生して巻き戻すかのごとく元通りの姿へと修復されていく。その速度から察するに、この迷宮の主の権能が十分に行き渡っているということだろう。これを即ち敵の潜む位置に『近い』のだとレイは判断する。
「……これが罠かとか、そういうのは考えるのも億劫なんでな……」
そうボヤくように呟けば、それまで壁面に突き刺して己の体重を支えていた楔を力任せに引き抜き、無限に広がる暗闇へとレイは両腕を広げて飛び出した。忽ちに重力の法則に付き合わされて引きずり降ろされる肉体。それは次第に加速していく。
「こいつが罠なら、この死に損ないが終わるってだけの話だが……」
呟きながらレイの大きく振り上げたその拳に宿る雷光。体内で低く唸り、駆動を始めたV-エンジンの生み出す電流が神経を伝って彼の右腕へと収束していく。強弓を引き絞るが如くに力を込めて引いた拳が、何もない虚空を殴りつけた。大気を引き裂き唸る拳から巻き起こる眩い閃光。轟音と共に迸った青白い雷光が視界を埋め尽くすが如くに何本も深く暗い闇の底へと降り注いでいく。
「そうじゃねえなら、ちょいと明かりを付けさせてもらうぜ」
底なしとも思える闇を引き裂き撃ち抜く雷光。それが無限の暗闇の奥深くに潜んでいた何かへと突き当り、そして盛大な破裂音と共に突き刺さり、引き裂いていく手応えをレイは確かに感じた。――― 眩い暗い闇の奥深くから、天を目指すが如くに突き上がっていく無数の雷光に迎えられながら、レイはその深淵へと降りていく。
「ずっと独り言ばっかくっちゃべって、暇だったんだがよ。余興とかはねえのかい」
そう問いかける彼の目前に不意に現れる巨大な影を、反射的にレイの拳が撃ち抜いた。胴体を貫かれたまま弱々しく藻掻くそれが迸る雷光に照らされて、一体のゾンビであった事を知れば、レイはそのまま拳を引き抜いた死にかけのゾンビを掴み、空中で落ちながらもその首を器用にもぎ取りつつ、彼我の体勢を入れ替えた。
「粋な気遣いだな。礼と言っちゃ何だが、殴る時はしこたまサービスしてやるよ」
力尽きたゾンビをサーフボードにでもするかの如く、その背に跨るレイ。迸っては爆ぜて散っていく雷光の粒子を置き去りに、地面へと激突するときのクッション代わりのゾンビを力強く踏み締めながら、彼は少しずつ近づいて行く巨大な敵の姿を静かに想起しようとして、ふと気付く。
「そういや邪神ってのはどんなツラしてやがるんだ」
そう呟きながらも、すぐに彼は考える事を放棄した。
「……ま、どんなツラしてようと殴った後なら形なんざ幾らでも変わるもんな」
レイはその美醜にも、有り様にもさしたる興味はない。己の行く手に立ち塞がるものは何であろうと踏み越えて往くまでのこと。近づく巨大な闇の気配に、レイは表情を消して呟いた。
「たまにはてめえが怖がってみるってのはどうだ。化け物ぶりには自信があるぜ」
闇の底は、すぐ其処にまで迫っていた。
成功
🔵🔵🔴
エミリロット・エカルネージュ
◎
チーム【なめろう餃子】で参戦
●POW
認識阻害の結界かぁ……ビスマスちゃんに呼ばれた時には、事情を聞いて憤りを抱いたけど
邪神に余りロクなのって居ないね、それはさておき……ボクに良い手があるよ
UCの霊芝餃薬勁法は治癒以外に【状態異常】を攻撃する効果がある
だからスカムキングみたいな存在そのモノが【状態異常】なのにはダメージが通るのは、ジェネシスウォーで実証済みだし
認識阻害もれっきとした状態異常、結界単位なら全部無理だけど、ビスマスちゃんがUCで生成したソナーに、霊芝餃薬勁法を『鎧無視攻撃』を込めて『武器改造』すれば、認識阻害の結界内でも正常に働く筈
行く道はビスマスちゃんに委ねてボクも一緒に行くよ
ビスマス・テルマール
◎
チーム【なめろう餃子】で参戦
●POW
ロメ郎さんを一刻も早く助けたい所ですけど、認識阻害の結界は厄介ですし、人手も必要そうなので、エミリさんを読んでみましたが
成る程、アルタワの戦争依頼(アルタワ魔王戦争1ーAの依頼参照)で使った手が有効活用出来そうですね。
ビルド・なめろうビームウェポンで【ホタルイカのなめろうビームライト】を生成
照射するライトのホタルイカの光に『属性攻撃(超音波)』を込め、回りを照射しながら進む事で超音波探知機の要領で
後、エミリさんのUCで『武器改造』付与して貰ったお陰で、何もしないよりかは、効率的に邪神の所まで進めそうかも知れませんね
『第六感』たよりに照射しつつ進みましょう
●As God is my witness, I'll never be hungry again.
「ロメ郎さんを一刻も早く此処から出してあげたい所ですけど、認識阻害の結界は厄介ですし、人手も必要そうなのでエミリさんを呼んでみました」
「という訳で、呼ばれてきたボクなのです。ビスマスちゃんから事情を聞いたときには憤ったけども、邪神ってのはロクなのが居ないねえ」
急遽相棒を呼び出したビスマス・テルマールの要請に、彼女と固い絆で結ばれたエミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)は快く応えてくれた。急遽グリモアベースに駆けつけ、そこから援護に飛んできた彼女と結界内で運良く合流できたビスマスは、周囲を見回しては意見を求めるような視線を相棒へと向ける。
「早速ですが、エミリさん。何か妙案などありますか?」
「もちろん。ボクに良い手があるよ」
当意即妙と褒めてやるべきか、即座にビスマスの問いに答えてみせるエミリ。赤い毛並みに包まれたその手の人差し指を一本立ててはビスマスへと振り返る。
「いいかい、ボクのユーベルコードには治癒以外に状態異常そのものを攻撃する効果がある」
そう語るエミリの脳内では、嘗てのヒーローズアースにおけるジェネシスウォーで交戦した強大な敵幹部の姿が思い返されている。悪臭と汚染を撒き散らす最悪の怪人スカムキングとの戦闘においても、彼女のユーベルコードは効果を発揮した。既に実証済みという訳だ。
「認識阻害も状態異常の一種じゃないかとボクは考える。だからと言って、この結界まるごと全てを解除するのは流石に無理だと思うけど……」
「なるほど……!」
エミリの披露する自説に、感心したように目を輝かせるビスマス。わざわざ呼び出した甲斐がある、頼もしい相棒だった。そしてエミリの誇るユーベルコード『霊芝餃薬勁法』。強力な滋養効果を秘めた霊芝によって作り上げた茸餃子を再現した霊気の塊によって、肉体を治癒して状態異常そのものをも攻撃するという超常的な奥義である。
「ボクの霊気をビスマスちゃんの作るソナーに組み込めば、結界の認識阻害を突破して正しい道筋を導き出してくれる……ハズ!」
「ソナー! アルダワの戦争でも使った手ですね!」
方針さえ定まってしまえば、両者の動きは共に迅速だった。エミリは武術演舞が如き緩やかな動きで己が体内の気を高め、一層の高次元へと練り上げていく。緩やかに旋回する両腕が弧を描き、やがてひとつに重なる両掌の間に収束していく輝き。
「……さあ、行くよビスマスちゃん!」
「こちらも生成開始(ビルド・オン)っ! なめろうビームウェポンですっ!」
ビスマスの掲げた手の中に生まれる眩い輝き。その手に握られたホタルイカの特性を備える『なめろうビームライト』が七色に輝きながら、その艶かしく煌めく刀身表面を微細な震動で震わせる。色とりどりの輝きを帯びたその刀身に向けて、エミリの突き出す掌から放たれた霊芝の濃い匂いを帯びた高濃度の霊気の塊が流れ込めば、ビームライトの輝きが一際激しさを増した。
「……どうだ!」
「……むむっ、これは……!!」
輝きが結界を照らし、同時にその輝きに乗って放たれる低い唸り声めいた超音波の調べ。余り長い時間耳にしていると頭痛さえしてきそうなものだが、今はその強烈さがいっそ頼もしくも思えるほど。障害物に跳ね返っては、そのままこちらの全身そのものを震わせるような超音波の力強さを身を持って味わいながらに、ビスマスは違和感を特に強く感じる一点を確かに見つけ出した。
「……恐らく、此処です! そして、この結界の歪みは動き続けている……」
「今この時以外、このポイントを突き破るタイミングは他にないって事だね!」
その通り、と応える代わりにビスマスは渾身の力を込めてビームライトを何もない筈の虚空へと振るう。ばちり、と弾けるような音と共に、ビームライトから伸びる輝きの刃は、虚空を切り裂き、その向こうに広がる混沌とした空間を暴き出した。
「……さあ、こっちですよエミリさん! 覚悟はいいですか!」
「勿論、呼ばれたときからできてるよ! 案内はビスマスちゃんに任せるから!」
ふたりは共に、その空間へと呼吸を合わせて飛び込んだ。ここから先は完全に一蓮托生。ビームライトから返る超音波の震動と、ビスマスの研ぎ澄まされた勘を頼りに、ふたりは混沌の中を手探りで突き進んでいく。走り続ける二人は次第に近付いてくる濃厚な悪意の気配を鋭敏に感じ取り、この勘は間違っていない事を確信していた。
「もう少しですからね、なめ郎さん!」
「……ん? 確かロメ郎さんじゃなかったっけ?」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
才堂・紅葉
「さて、こう言う時は少し視点を変えてみるのも大事ですね」
一通り歩き回って状況を確認し、今度は別の視点を試して見よう
「ガジェットブーツ」の機構を持って壁を上り、更に紋章の重力【属性攻撃】で自身に逆Gをかけ、天井を地面とするのだ
敵の迷彩は見事だが、上下の入れ替わった視点についての対応はどうだろう?
ゴーグルを下し、改めてセンサー【メカニック】を再起動して初回と同じ道を辿って、この迷宮の不自然な点を探りたい【情報収集、偵察】
三週目は壁伝い等、結果を焦らずに色々と試して見るのが肝要だ
不自然な場所を見つければ、UCで浄化属性の詠唱弾を撃ち込み、少しずつでも確実に迷宮の【封印を解く】一助としていきたい
エル・クーゴー
◎
●WIZ
躯体番号L-95
当機は人海戦術による広域探索_及び_情報統括に高い適性を発揮します
・電脳世界をピコピコ操作しながらエントリー
・【ウイングキャット『マネギ』】発動
・空をフワフワ飛ぶ変なデブ猫MAX395体を順次召喚、周辺の【偵察】及び探索に十数体ずつ送り出す
・マネギ全機の視覚を【撮影】機能に置き換え、己の電脳世界に集約・総括し【情報収集】
・マネギ達は探索に並行して、味方の支援、情報通信中継なんかにもコキ使う
・作成出来たマッピングデータは味方に配布したりもする
・探索中、一撃で破壊されるだけに、反応がロストしたマネギは「そのポイントには何か異常があった」ものとしてその情報もマップに盛り込む
●Of all the gin joints in all the towns in all the world, she walks into mine.
「……さて、こう言う時は少し視点を変えてみるのも大事ですね」
目星をつけたフロアを一通り歩き回ったところで、才堂・紅葉は足を止めて思案に移る。ここまで様々な可能性を考えてきたが、ここらで一度思考を切り替えてみることにした。足元を見下ろせば、彼女が着用しているブーツが視界に映る。無論のこと、ただの頑丈なブーツではない。あらゆる環境を踏破するべく仕込まれた特殊機構により、閉所においては三次元的な行動さえ可能とする特製のガジェットブーツである。
「よッ……と!」
床板を軽く蹴りつけながら前に踏み出せば、靴裏に仕込まれた吸着機能が壁をも足場に変えて紅葉の身体を一息に天井にまで駆け上がらせる。ブーツの機能で天井へとそのままぶら下がる格好となる紅葉だが、彼女は自身の拳の甲に刻まれた紋章に意識を集中させる事で、青白く輝く紋章より重力操作の権能を引き出した。普段であれば専ら攻撃用途に用いられるそれを、自分自身へと用いることで彼女を基点とした限定的な範囲の重力が上下逆さまに移り変わる。
「……時には視点を切り替えてみる事も大事よね。例えば、こうして上下逆さまになってみるとか」
重力に引かれて床へと垂れ下がっていた髪がばさりと天井へと向けて落ちる。続けて身体に掛かる負荷が嘘のように消えたところで、紅葉は重力制御の成功を確信し、安堵の吐息を静かに溢した。傍から見れば、今こうして天井を足場に歩く彼女の様子はまるで大昔の時代劇の忍者のような姿に見えた事だろう。続けてゴーグルを下ろせば視界を覆うレンズの内側には、内蔵されたセンサーから投影される結界内の情報がずらずらと流れていく。更に解析を進めるべく再び歩き出す彼女の視界にふと何か丸い影が過ぎった。
「……あら?」
それに意識を傾け足を止める紅葉。レンズ越しに映し出されたそれはフワフワと虚空を浮遊する羽の生えた太っちょの猫を象るマシーンだった。上下が逆転した今の彼女からすれば逆さに足元を浮遊しているように見えるこれは、偵察ドローンか何かの一種だろうか。訝しげにそれを見守る彼女のゴーグルに映し出される解析結果。それは即ち、この太った猫がユーベルコードによって発生した存在だということ。
「お仲間かしらね」
『……これなるは当機の操作するウイングキャット『マネギ』と申します』
不意にデブ猫から流れ出した若い女の音声に、一瞬目を丸くする紅葉であったが、状況を把握すれば行動は早い。ならばと再び歩き出す。天井を歩いていく彼女を追うように、マネギもそれに続く。
「……これ、1機だけじゃないわよね。どれだけ用意してるのかしら」
『総数は395体、順次召喚しつつ周囲の探索に手分けして回しています』
周囲を見回す紅葉。巡らせた視線はマネギの同型機たちが他にも周辺を漂い彼方此方へと流れていく様を目撃した。「成程、心強いかも」などと口にする彼女の様子をマネギに内蔵されたカメラを通して確認すれば、遠く離れたフロアに佇むエル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)は無表情ながらも、何処かそわそわとした雰囲気を滲ませた。付き合いのある者がそばに居れば、きっとドヤ顔をしているのだと理解した事だろう。
『躯体番号L-95。当機は人海戦術による広域探索、及び情報統括に高い適性を発揮します』
「手伝ってくれるみたいね?」
紅葉の問いに、クーゴーは『勿論です』と頷いてみせた。彼女の操るマネギは眠そうな顔をしているばかりで、頷く仕草が紅葉に伝わる事もないのだが。
『マネギたちを探索と並行し、他猟兵への支援と情報通信の中継などにも用います。要するに数にモノを言わせつつ無駄なくコキ使うということです』
淀みなく其処まで言い切れば、同時に紅葉のゴーグルに仕込まれたデバイスへと送信されてくるデータ。それはこれまでにクーゴーがマネギを介して収集した情報を解析し続けたものだろう。395体にも及ぶマネギの大群が織り成すネットワークは綿密だ。しかし、捜索の間に何かあったのか反応がロストした機体も幾つか存在している。余り頑丈ではないマネギであるが、戦闘用途以外では余程の事がない限り破損する筈はない。つまり、彼らが反応を絶った領域には何かがある。
『たった今そちらのデバイスに送信したマッピングデータをご確認ください。その中のチェックマーカーをつけた幾つかのポイントにおいて、探索にあたっていたマネギが反応を喪失しました』
「……ひい、ふう、みい…… あ、っと。 此処のポイントとか、私たちに近いわね?」
そう、紅葉が呟いたところで彼女たちを先導するように虚空を流れていたマネギが不意に爆発四散した。視線を持ち上げた紅葉が目にするものは、まるで石を投げ込んだ水面のように揺らぎ乱れる何もない筈の空間。火花とともに飛び散ったマネギの残骸が床へと吸い上げられていく様を天井から見上げつつ、紅葉は愛用のリボルバー銃を取り出した。
「早速か……。オッケー、此処を調べるとしましょう」
『お任せします』
スイングアウトさせた弾倉を振って弾丸を振り落とせば、拳銃を握るのと逆の手に紅葉は意識を集中させる。その手の甲に刻まれた紋章が明滅するたび、彼女は自分の内側で力が練り上げられていくのを感じていた。
「……コード申請、来なさい六星!!」
その呼び声に招き寄せられるように、彼女の手の中に生み出されるのは六つの特殊詠唱弾を装着済みのスピードローダーだ。先に装弾を外した空の弾倉に、改めて押し込まれた六つの弾丸が嵌まり込む。弾丸一発一発に込められたものは、『浄化』を司る清浄な魔力だ。弾倉を押し込み、撃鉄を起こしながら紅葉はその銃口を揺らぐ虚空へと突き付けた。
「さあ、ブチ抜くわよ!」
その声を合図代わりに、立て続けに鳴り響く銃声六連。響き渡る残響の中、吐き出された弾丸は次々と虚空に突き刺さり、吸い込まれ、空間に弾痕を深く穿つ。穿たれた穴の向こうから覗く深淵を引きずり出すように、穿たれた弾痕を基点に空間がじわじわと裂けて、やがては廃ビルとは明らかに異なる極彩色のマーブル模様が蠢き続ける異空間への入り口を大きく開いた。
「見えるかしら、クーゴー! どうやらビンゴみたいね!」
「……そのようですね」
振り返った紅葉の視線の先に浮かんでいたのは見慣れたデブ猫ではなく、銀髪を異界から流れる風に戦がせる電脳ゴーグル着用の白い少女。レオタードにも似たバトルスーツに身を包み、臨戦態勢を整えたエル・クーゴーそのものが、急遽この領域にまで移動し終えていたのだ。反転していた重力を切り替え、天井から床へと着地すれば彼女は撃ち切った空薬莢を弾倉から振い落しつつ、偵察端末の本体たる彼女に改めて視線を傾けた。
「あら、本体もカワイイじゃない」
「褒めても何も出ませんが、覚えておきましょう」
リボルバーに新たな銃弾を込めた紅葉と、同時に他猟兵たちにも残存するマネギを介して更新済みのマップデータを一斉送信させたクーゴー。ふたりは、自分たちを待ち受ける不吉なる異空間への入り口に揃って足を踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】
さてさて、一難去ってまた一難
今度は邪神探しかぁ
邪神の思うように内部構造が変わる、
邪神は結界を張って安全な場所に隠れている
つまり、邪神自体はその安全な場所から
動くことは無いわけだよね多分
また、構造が変わってもその場所の
緯度・経度までは変わらないのかなと予想
というわけでUCの紅い蝶を放ち
今このビルの唯一のオブリビオン―邪神の気配を追跡
複数の蝶それぞれ別のルートで向かわせる
恐らく、邪神に近づいてきたら
結界が邪魔をして行き止まりみたいになるんじゃないかな
複数の蝶が行き止まりを告げるその場所に結界があり
そしてその先に邪神は居る、と
肝心の結界破壊は…物理で行けるのかなコレ
梓、任せたよ(肩ぽん
乱獅子・梓
【不死蝶】
闇雲に歩いているだけじゃ
迷路に彷徨うことになりそうだしな
綾の蝶に任せっぱなしなのもアレだし
道すがら、紙とペンでメモしてマッピング
分かれ道の壁や床に印を付けておいたりな
内部構造が変わるらしいが何も無いよりはマシだろう
「構造が変わった」という事実が分かるだけでも
何かの手がかりになるかもしれないし
また、邪魔な瓦礫やゴミが道を塞いでいたら
焔と零に協力してもらい
ブレスで燃やしたり体当たりでどかしたりして強行突破
力仕事は任しておけ
…って結界の破壊もしろと…!?
ありったけのユーベルコードの力をぶつけるか
UCで各種属性のドラゴンを召喚
結界へ一斉に全属性ブレスを発射!
…ヴァルギリオスを思い出すなコレ
●Open the pod bay doors please, HAL.
「さてさて、一難去ってまた一難。今度は邪神探しかぁ」
「アテはあるか? 闇雲に歩いているだけじゃ迷路に彷徨うことになりそうだぞ」
ボヤくような口調で呟く綾に、嗜めるように告げる梓。まるで「お前だけに任せてはおけないぞ」とでも言いたげな態度の相棒に、綾は緩く笑って見せるのだ。
「邪神の思うように内部構造が変わる、邪神は結界を張って安全な場所に隠れている。此処まではいいね?」
「ああ、そうだな」
歩き出す綾の少し後ろで、メモ帳とペンを取り出しながらマッピング作業を始め出した梓は短く相槌を打つ傍らも、周辺を見回し様子を伺う素振りを見せる。
「つまり、邪神自体はその安全な場所から動くことは無いわけだよね多分」
「とりあえず、そうだと仮定しても良いかもな」
先導するように歩き続けていた綾が、指を一本立てて虚空に翳せば、其処に生まれる小さな火。次第に膨れ上がっては弾けて散る火の粉から次々と鮮やかな紅い蝶が虚空へと舞い上がる。
「……だからね、この蝶たちを飛ばして今このビルにいる唯一の邪神の気配を追わせるんだ」
「成程。ちゃんと考えているようだな」
「……当たり前だよ。さあ、みんな行っておいで」
頷く合間に、両者を待ち受ける分かれ道。それぞれの方角に飛んでいく蝶たちを見送った後、綾があるき出した方向へと続く梓は、曲がった方向の壁にペンで星のマークを大きく描けば、更に手にした自分のメモ帳にも同じの道筋を書き込んでいく。道中立ち塞がる邪魔な障害物は、梓の使役する二匹の竜が燃やし、或いは力任せに排除する。竜種の備える膂力で突破できぬ障害などはそうそう存在しないものだ。
「……少しずつでも、これで邪神に近付いているなら良いんだがな」
そして、綾の手元から飛び立った蝶たちが見つけた道筋を、時折梓からメモ帳とペンを引っ手繰っては綾が書き加えたりしながら両者はじわじわと探索を進めていく。
「マメだよねえ、梓ってさ」
「おまえの蝶に任せっぱなしなのもアレだからな。……ところでお前も書くなら、もう少し丁寧に書いてくれ」
線が曲がっているぞ、という相棒からの指摘に苦笑しつつも、蝶からの反応に足を止める綾。同時に綾の持ち歩いていた端末には、他猟兵から送られたマップデータを受信した事を示す着信音が鳴り響いた。
「……ふうん? だいぶ近いな。それに当たりらしいよ梓」
「そうか。……なら、マッピングも此処までだな」
端末を覗き込む綾の言葉にメモ帳を畳んで懐に仕舞う梓。綾はそのとき相棒がほんの少し残念そうな表情をした事も見逃さなかったが、端末を仕舞いながらその顔を見なかったふりをする気遣いも勿論のこと備えていた。
「はい着いた、行き止まりだ。此処からはまた梓の仕事だよ」
何もない行き止まりの壁を前に、虚空を漂っていた蝶が近づく綾の傍を懐くように飛び回り、そして花火が弾けて消えるように儚く溶けて消え去った。「お疲れ様」と蝶たちを労うように囁く綾。それを他所に一歩踏み出す梓。後は任せたよ、と言いたげな相棒の視線とムチャぶりに呆れながらも、コートの裾を翻す。
『―――集え、そして思うが侭に舞え!』
その呼び声に従うように、梓の周囲には、彼の使役する竜たちが次々と姿を表した。
「……俺を余り便利屋扱いするなよ。だが、ひとつやってみるとしよう」
炎竜『焔』、氷竜『零』。そして各種属性を司ったその他の多種多様な竜たちが一斉にその開いた口にブレスのエネルギーを収束させていく様は圧巻だ。
「いやあ、すごいね。どこかで見たことあるぞこれ」
「奇遇だな、俺も多分同じことを考えていた」
八つの顎がそれぞれ限界まで収束させたエネルギーを一息に虚空の一点目掛けて吐き出した。鮮やかな各色入り混じった輝きは美しくもあるが、同時に凄まじいまでの破壊力を備えた文字通りに死を呼ぶ暴虐の奔流だ。
「ヴァルギリオスを思い出すな、これ」
「ね、そんな感じだったと思う」
八竜の吐き出す強烈なエネルギーの塊を真っ向より叩き付けられた壁が歪み、それまで壁として存在していた虚像を穿ち抜き、その奥に潜む異空間を顕とさせた。暴き立てられた醜悪な極彩色に蠢くその闇を見据え、ふたりの青年は再び歩き出す。彼らに付き従うように、竜たちも其処に続く。不気味に蠢き続ける混沌の闇は、彼らを飲み込み次の戦場へと誘う。其処こそが、この結界における最終決戦の舞台。悪趣味な映画監督、邪神の待ち受ける最深部である。
「さあ、行こうか梓」
「……心配するな。最後まで付き合ってやるとも」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フィオレッタ・アネリ
◎
ロメ郎くんにはゼフィールをつけて、調査中の護衛&慰め役に
少しでも気が紛れればいいけど…
偶然とはいえ、事件が予知できたってことは、結界のどこかが弱まってるはず…だったら
花よ、教えて――
【範囲攻撃】を乗せた《ゴッド・クリエイション》で廃ビル一帯に意志を持つ花びらを生み出して【情報収集】
花びらの感知する揺らぎを元に、研ぎ澄ませた【第六感】で結界を探って、結界の力が一番弱まっているところへ向かうね
死を弄ぶ邪神の生み出した結界なら、命の芽吹きを司るわたしの力で打ち破れるはず!
豊穣の神性を【祈り】で増幅し、結界のほころびに【破魔】の力を注ぎ込んで結界を打ち破るよ
――これ以上、思い通りにはさせないからね!
●Rosebud.
エレベーター前、色とりどりの花弁が鮮やかに舞う中で、フィオレッタは考え込んでいた。少し離れたところでは、護衛代わりにつけた風竜ゼフィールが座り込んだロメ郎の膝上で撫でられて心地よさそうに欠伸をしている。ひとまずゾンビという分かりやすい危険は排除済みゆえ、落ち着きを取り戻した少年の緊張を和らげる役にも立っていたようだ。冷静に返ってしまえば、これまでに遭遇してきた恐怖の数々は一般人にとっては余りにもハードな体験に他ならないのだから。
「……偶然とは言え、事件が予知できたってことは結界のどこかが弱まっているのかも知れない」
その綻びこそが、この結界を踏破する抜け道なのではないか。そう、フィオレッタは考える。
『花よ、教えて――』
祝福と豊穣を表す花を司る女神としての権能が、死の気配の名残に満ちていた廃ビル内の彼方此方に無数の花を咲き誇らせ、色とりどりの花弁がひらひらと舞う。それは或いは、邪神の思惑に絡め取られて生命を冒涜された無数の死者たちを弔う慰めの花でもあったのかも知れない。近くを舞う一枚の花弁をそっと掌にすくい取りながら、少年はゆっくりと立ち上がった。不意に揺れる膝からぱたぱたと翼をはためかせ、小さな竜が飛び上がれば、それは少年の頭の上に着地する。
「お姉さん、これからその――俺たちを此処に閉じ込めたやつのところに、行くんだよね?」
「……ええ、そのつもり」
無数の花弁それぞれにフィオレッタが与えた意思と知性。それはある種、常人では及ばない超自然の感覚を備えたレーダーとして機能する。彼らの感じ取った揺らぎは同期された感覚を通して、その違和感を創造主たるフィオレッタへとリアルタイムに伝達する。彼らの声に耳を傾けるフィオレッタであったが、不意に振り返るのは後ろの少年から伝わる雰囲気に何かを感じ取ったからか。
「……俺も、行く。ここがそいつの思い通りになるなら、何処に居たって危険なのは変わんないし」
「それは確かにそうだけど。それなら、目の届くところに居てもらった方が守りやすい……のかな」
その言葉に難色を示すフィオレッタではあるが、少し悩んだ末にロメ郎の言葉を受け入れる。
「……ゼフィール、ちゃんと付いていてあげてね」
きゅるきゅる、と小さく鳴く少年の頭上の仔竜。これは肯定の意思表示であったのかも知れない。
「わたしね、今結界の中を探ってるんだ。それで、その力が一番弱まっている所を探してるの」
「そこに、おっかない奴の居場所の入り口があるんだね」
ふたり並んで廊下を歩きながら、フィオレッタはこれから目指す場所についての説明を手短に行った。全てを詳細に告げる必要はないが、当事者でもある彼が一応の納得のできるだけの情報を教える程度には彼の心中を慮ったのかも知れない。何も知らず理不尽な恐怖に苛まれ、友人たちを失い一人生き残ってしまった少年へと彼女なりに誠実に向き合った形だ。
「わたしの考えが間違ってなければ、ね――――」
そう言いかけてフィオレッタが足を止める。揺らぎ、綻ぶ結界の隙間に近付いた。花弁から伝わるイメージが強まっていく事に気付き、少年を庇うように前へと踏み出る。同時に、少年のポケットから鳴り響く着信音。人間と会話可能な人工知能を備えるハイテクカーが私立探偵の青年とさまざまな事件を解決する、古い時代の海外ドラマのサントラの収録曲である。
「うわわ、びっくりしたっ!」
「あ、ごめん。俺の携帯だこれ……って、んん?」
スマートフォンを覗き込むロメ郎につられ、ゼフィールとフィオレッタもその画面を覗き込む。三人揃って顔を並べて窮屈だったが、いずれも気にする事無く其処に写り込んだ表示を眺めるのだ。
「ああ…… やっぱりわたしの勘、合ってたみたい!」
ふとっちょの猫を象ったアバターが少年の端末へと送り付けてきたものは、この廃ビルを表現する3Dマップのデータだった。先行する猟兵が収集したデータを纏めたものらしいそれには、彼方此方に結界の綻びと思しき地点を示すマーカーが施されていたのだ。
「……じゃあ、やっぱりこの先に」
「うん。ロメ郎くんは一応下がっててね。わたしがちゃんと守るけど、一応ね」
表情を硬く引き締めるフィオレッタ。その声が帯びる緊張を感じ取ったのだろう。微かに頷きつつ、少年はそれ以上前に出るまいと数歩後ずさる。そんな彼を勇気づけるかのごとく、頭上で丸くなっていた仔竜は肩を伝ってその腕の中へと滑り込む。ふわふわとした羽毛の柔らかな温かみを感じたのか、彼の纏う気配もほんの少し落ち着いたことを感じ取りつつ、フィオレッタは眼前の光景に意識を集中させた。
「……わかるよ。……本当に、此処がそうなんだ……」
虚空を舞う花弁たちが、急速に萎れて枯れて散っていく。其処から漂っていたのは、まさしく死の気配。生命を弄び冒涜する邪神に対する嫌悪と怒りがフィオレッタの内側に広がる。それを発露させまいと抑える事に努めるのは女神としての矜持と、後ろに控える少年をこれ以上怯えさせまいとするためだ。
「此処が死を弄ぶ邪神の生み出した結界なら、命の芽吹きを司るわたしの力で打ち破れるはず!」
頭上に翳した両手それぞれに、想いを込める。女神としての権能、豊穣を司る神性の力が掌を基点に不可視の力場を作り上げていく。膨れ上がるそれと、結界のほころびがそれぞれ干渉し合ってばちばちと空気を震わせていくが、その鬩ぎ合いは次第に女神の力が優勢さを増していく。
「……邪神なんかに、わたしは負けない! 女神パワー、全開ッ!!!!」
ダメ押しに注ぎ込んだ惜しげもない奇跡の力。魔を打ち砕く強烈な破魔の輝きが結界の綻びを強引に突き刺し押し広げ、引き裂くように抉じ開ける。炸裂音と共に吹き飛んだ虚空―― まるで其処だけが風景という壁紙を剥がしたかの如く、その内側に秘められていた極彩色に蠢く異空間を露出させていた。
「……どんなもんよ、ふふん!」
「…………す、すごい。本当に女神っぽいよお姉さん!」
後ろから聞こえる少年の声に気分を良くしながら女神は振り返る。これ以上ないくらいの決めの笑顔を添えた上で。其処から漂う死の気配は恐ろしいものだ。しかしそれでも、その感覚を少年に伝えはしまい。必ず救い出してみせると決めていたのだから。
「……生命を司るわたしが、死神なんかに負ける訳がないでしょう? 壊すことより、作ることのほうがよっぽど難しいんだから。さあ、ちゃっちゃと片付けてこんな場所からは出ていきましょう」
その言葉と共に、フィオレッタは異空間へと向けて歩き出す。邪神、恐れるに足りず。真っ向より討ち果たしてみせるまで。
「待ってなさい。――これ以上、思い通りにはさせないからね!」
そして閉ざされる異空間へと繋がる結界の綻び。後に残るものは無数に咲き誇った女神の花たち。それはまるで猟兵たちの武運と勝利を願うかのごとく、誰にも知られる事無く、ただ鮮やかに咲き誇り続けている。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『死を削ぐもの』フートゥ・ヤグ』
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POW : 彼の邪神は不敬を嫌う
【フートゥ=ヤグに敵意 】を向けた対象に、【存在の『格』の差による重圧】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : 彼の邪神は従属を赦す
【恐怖や忌避など、死に対するなんらかの 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【姿形が曖昧なフートゥ=ヤグの信奉者】から、高命中力の【フートゥ=ヤグに従属するよう唆す言葉】を飛ばす。
WIZ : 彼の邪神は飽食を好む
戦闘中に食べた【存在の『格』 】の量と質に応じて【フートゥ=ヤグの存在が増し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
イラスト:灰色月夜
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「グルクトゥラ・ウォータンク」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Intermission
無限に広がる闇。
極彩色のマーブル模様が生物的に絶えず蠢き続ける広大な空間で、その中央に鎮座する巨大な塊がゆっくりと動き出す。兜のごとく被った頭蓋骨の眼窩から覗く赤い眼差しは、果たして人種と意思の疎通を果たせるものだろうか。彼は言葉を操りはするが、邪悪な神に他ならぬ。神がわざわざ人の言葉を聞き届けなどするだろうか。
『不快。甚だ不快なり』
否、必要はない。ただ恐怖と絶望に慄き叫ぶ断末魔の叫び。その供物が齎す喜悦のみを邪神は欲している。脈打ち鳴動を続ける奇妙な肉塊めいた醜悪な大地に次々と降り立つ猟兵たちを娯楽に餓えた赤い瞳の注いだ視線が憎悪と侮蔑を以って一巡させる。
『矮小な羽虫が、我の愉しみを邪魔する心算であるか』
淡々と、然しその音の裏側に確かな不機嫌さを滲ませて、邪神は居合わせたものたち全ての脳に直接言葉を送り込む。猟兵たちを襲うのは強烈なプレッシャーであったが、今更そんなものに怖気づくような猟兵は一人たりとも存在しなかっただろう。
『思い上がりの対価、存分に支払って貰おう。……貴様を愉しむのはその後だ』
邪神の視線が射抜くのは、最後の生存者たる少年。余りにも強烈なプレッシャーに地に膝を搗きそうになるのをかろうじて踏みとどまり、少年は睨み付けた怪物に掠れ上擦った声で宣告した。これまでその悪意に絡め取られて生命を冒涜された者たちの分まで、その尊厳を叫ぶように。
「……だっ……誰が! おまえなんかの餌になってやるもんか! ばーか!!」
語彙力が不足しているのはきっと、緊張しているからだろう。
かくして、最終決戦の幕が切って落とされた。既に破綻した筋書きの中、全ての演者が舞台に上がる。
才堂・紅葉
良いガッツじゃないロメ郎
そこから先は任せておきなさい
不敵な笑みと共に、外套を脱ぎ捨てて真の姿を現す
召喚された眷属からの言葉を
「やかましい」
【気合】で捻じ伏せ、手の甲の紋章を向ける
巨きな門のイメージが脳裏を過る
『コードハイペリア承認。アビスゲート限定解除…非承…』
「承認よ」
【気合】で声を重ね【封印を解く】
『(エラー音)…承…認……。超高重力場…特異展開……実行』
ほんの僅かに開いた門から巨きな力が溢れるのを【激痛耐性】で制御し、邪神を見据える
「不敬よ……矮小な羽虫の分際で頭が高い」
神託を齎す巫女のように告げ
「控えなさい」
【存在の『格』の差による重圧】の如き巨きな重力【属性攻撃】で、拳を打ち下ろそう
フィオレッタ・アネリ
◎
ゼフィールと一緒にロメ郎くんを【かばう】ように立ち――
思い上がってるのはあなたの方だよ
ゾンビ映画の監督気取りで楽しんでたみたいだけど、ここまで乗り込まれたらホントはもう余裕なんてないんでしょ
これまで犠牲になった人たちに代わって、あなたを骸の海に還してあげる!
強い【祈り】で自身の神性を高めて「格の違い」に対抗しつつ、重圧を【オーラ防御】
邪神の力で満たされた異空間を豊穣の力で侵食しながら、【破魔】の力で重圧を消し去るよ
そしたらこっちの番!
邪神に悠然と歩み寄り、指先でそっと触れて《花神の抱擁》
【限界突破】した生命の花びらの渦を際限なく注ぎ込んで、その邪悪な意志を異空間ごと浄化するね
●I'm as mad as hell, and I'm not going to take this anymore!
『小癪な。脆弱な人の仔風情が、我に楯突くと言うか』
「……ッ、ぁ……!?」
啖呵を切った少年へと向けられた邪神の赤い双眸。其処に込められた殺意に射竦められた少年は声一つ上げられず、呼吸することさえ忘れるほどの恐怖に貫かれた。そんな彼を引き裂こうとするが如く、邪神の巨体が生み出す影が揺らぎ、其処から次々と生み出された影達が襲いかかる。
「やかましい」
そんな影を撃ち落としたのは、紅葉の振るう鉄拳だった。
『……!!!!』
吹き飛ぶ同胞には微塵も構わず、狙いを紅葉へと変えた影――邪神の眷属たちが一斉に紅葉へと群がるように踊りかかった。無惨に引き裂かれた外套が虚空に舞い散る。
顕になった鮮やかな紅の髪を焔のように揺らめかせ、紅葉に群がった眷属たちはそれぞれがハイペリアの紋章が作り出した巨大な重力の障壁によって先の仲間同様に吹き飛んだ。それでも尚、諦め切れぬように立ち上がっては再び紅葉めがけて襲いかかる眷属たちを何時の間にかロメ郎を庇うように前に出ていたフィオレッタの巻き起こす花弁の嵐が、そして風竜ゼフィールの吐き出す疾風の息吹が引き裂き打ち砕いていく。
「良いガッツじゃない、ロメ郎。でも、ここから先は任せておきなさい」
「そう、邪神と戦うのはわたしたちの仕事だから。ゼフィール、ロメ郎くんをお願いね!」
少年を自分たちの後方に庇い、邪神と相対するふたりの猟兵。彼女たちの様子を邪神は興味深げに一瞥するも、すぐにその双眸には自身の愉悦を妨害された事への怒りと苛立ちを含んだ殺意の光を燃え上がらせた。
『我と戦う、か。その思い上がり、後悔させてやろうぞ』
「思い上がってるのはあなたの方だよ」
邪神の言葉に、すかさず反駁するフィオレッタ。然し、それは感情に任せて紡いだ考えなしの言葉などではない。女神としての矜持、そして命の尊厳を穢した者を絶対に許す事は出来ないという強い意思が彼女を邪神に立ち向かわせているのだ。
「まるでゾンビ映画の監督気取りで楽しんでいたようだけれど、ここまで乗り込まれたらホントはもう余裕なんてないんでしょう?」
『おのれ、貴様……この我を、神を愚弄するか』
邪神の怒りが呼び起こしたかの如く、巻き起こる強烈な重圧感。それはまるでドス黒い霧のごとく猟兵たちの全身に纏わり付き、その身体を軋ませるほどに押し潰さんばかりの過重を押し付けてくる。これこそが、邪神の頼みとする己の『格』、即ち神威の具現なのであろう。しかし、フィオレッタは一歩も退きはしない。
「フィオレッタ!」
「……大丈夫、神はあいつだけじゃない。わたしだって、神様だもの……!」
紅葉の前に立ち、押し寄せる重圧を一手に引き受けるフィオレッタ。その身を取り巻く重圧にじりじりと圧されながらも、しかし彼女が膝を屈することはない。組んだ両手を基点に祈り、己の力を静かに高めていく。格の違い、何するものぞ。その一心が、フィオレッタの心身に決して折れることのない芯を通しているのだ。
「……図星、突かれちゃって必死になっちゃったかな……? 余裕がないみたいだけど」
『貴様ァ……!!』
プレッシャーに苛まれながらも、挑発するように冗句めかして見せたフィオレッタの表情に、邪神は明らかに苛立ちを滲ませて吠える。同時にフィオレッタを蝕む瘴気と重圧もその勢いを苛烈に増そうとしていたが、相手を一気に押し潰さんと力むその一瞬を、女神は見逃しはしなかった。
「言ったでしょう? ……こっちだって、神様なのよ!」
押し寄せる瘴気、重圧を清浄なる祈りの元に膨れ上がったフィオレッタの神性が真っ向より打ち払う。忽ちに雲散霧消する黒い霧を更に細々に引き裂くようにして、フィオレッタの生み出した無数の花弁たちが空間を舞い、其処に満たされた邪神の瘴気を清めるように弱めていく。
『……我の権能を中和するだと……!』
「それだけじゃない! これまで犠牲になった人たちに代わって、あなたを骸の海に還してあげる!」
鮮やかに舞う花弁たちを引き連れて、尚も押し寄せる重圧、その尽くを弱め、中和しながら歩み寄るフィオレッタを前に、邪神は自身の眷属たちを再び自身の影より生み出した。周囲より一斉に襲いかかる彼ら、その速度は電光石火。如何に女神と言えども容易く打ち払える数には非ず。
――――しかし。
『コードハイペリア承認。アビスゲート限定解除……非承…』
「承認よ」
赤い髪が燃えるように虚空を踊る。巻き起こる疾風。フィオレッタの前に割り込んだ娘の身体に収束するエネルギーは、暴発しそうな程に苛烈。それはその力を引き出そうとする本人の肉体をも内側から引き裂こうとするかのようだった。自分の中にある巨大な門を、どうにか抉じ開けようと悪戦苦闘するイメージ。ほんの少し開いただけで溢れた力の発露は、彼女たちに襲いかかろうとする邪神の眷属を容易く撃ち落として大地へと激しく叩き付けるほど。
「……紅葉さん、それ……!」
「大丈夫」
明らかに暴走するが如く強引に高められたその力を危惧するように声を上げるフィオレッタを制止するように、紅葉は告げる。そして、己の中で今にも決壊しそうなその門を、今一度強い意志を持って大きく開け放った。
『――――承認……。超高重力場……特異展開……実行』
背に輝く紋章から溢れ出す輝きは、まるで巨大な翼のよう。己の身体から迸る強烈な力を引き出す反動、代償のように全身の筋骨を引き裂き砕かんばかりの激痛が紅葉を襲う。それを奥歯を粉砕しそうな程の勢いで噛み締めて耐えながら、紅葉は一歩前へと踏み出した。激痛のピークはもう過ぎている。それでも気を抜けばそのまま倒れ込みそうになるほどの苦痛を抱えながらも、紅葉の表情に焦りはなかった。
「……不敬よ。矮小な羽虫の分際で頭が高い」
『……な、に……!?』
それはまるで、先に自身の告げた言葉を再現するかのよう。邪神を見据える娘の視線は、神を見るそれではなかった。己を遥かに卑小な存在であるかの如く見遣るその視線、屈辱と激怒を抑えきれずに邪神が吠える。
『貴様、貴様ァァァァァ!!!!』
その研ぎ澄まされた霊気は高次の存在に愛された託宣の巫女が如く。その涼やかな声音に対し、荒ぶる邪神の怒りは雷雲の如き濃密な瘴気を再び生み出し、猟兵たちへと襲いかかる。
「控えなさい」
荒れ狂う邪神の咆哮を撃ち抜くのはそんな言葉と共に振り上げられた拳。空高く舞い上がった紅葉の振るう拳が、大上段より邪神の脳天へと叩き付けられる。
『が、はァ……!?』
その身を貫く強烈な重圧に全身が軋むのを感じながらも、それでも邪神が倒れぬのは彼にもまた高次の存在たる自負ゆえか。然し、彼の被る頭蓋骨の彼方此方に細かな亀裂が走り始めた事までは隠し切れない。そして、強烈な一撃に蹈鞴を踏んで耐え抜こうとする邪神のすぐそばには、フィオレッタが静かに接近を果たしていた。
『骸の海よりこぼれし雫よ――いのち満ちるとこしえの春に眠れ』
死と絶望と虚無で練り上げられた闇の塊のようなその巨体に触れる白く細い指。其処を基点にして、邪神の体内に流し込まれるのは、フィオレッタの高められた神性によって活性を帯びた生命の結晶たる花弁たち。
『これは……我が、我が……内より破壊されている……だと……!?』
その身を内側から暴れ狂って切り裂いていく花の嵐によって浄化という名の責め苦を負わされた邪神の上げる苦悶の唸り声が虚空を揺るがした。
「だらしないわね、邪神」
「これまであなたの苦しめてきた人たちに比べれば、その程度……まだまだちっぽけなものよ」
巫女と女神。生命の尊厳を守護する者たちそれぞれがその心に燃やした怒りの焔の熱と勢いは、まだまだ収まりそうにはない。断罪のラストシーンはまだ始まったばかりである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天星・雲雀
「み~つけた♪こんなところに隠れていたんですね?近づいてみたら、なんて気配が、だだ漏れ。もしかして、見つけてもらうのが待ちきれなかったりしましたか?」
【行動】UC千切り糸の結界で、ボスと信奉者を蜂の巣にします。体を貫通した千切り糸は、対象が動くほど肉を切り裂いて、細切れのバラバラに解体していきます。
「慈悲は有りません!」
「ロメ郎くんは、人の住まう外の世界に返してもらいます!」
「真に偉大な者は、かわいい雲雀ちゃんです!」
ピィ!「ビル解体完了しました。報酬はいつもの口座に・・・」
(アドリブ・共闘・歓迎)
●I am big! It's the pictures that got small.
『おのれ…… おのれェ……!!』
邪神の想像を遥かに超える戦力。自身の肉体を蝕む浄化の責め苦に悶えながらも、邪神は体勢を整えるべく、己が眷属たちを次々とその周囲に展開していく。自身のホームグラウンドである結界最深部、彼の誇る権能の力にもまだまだ翳りは微塵もない。――――しかし。
「み~つけた♪ ……こんなところに隠れていたんですね?」
不意に後方より掛けられた声。それは邪神を更なる絶望へと突き落としていく予兆であったのかも知れない。振り返った先には佇む少女がひとり。雲雀の輝く金と紅のヘテロクロミアが何処かサディスティックにも思えるような濡れた光を帯びて、熱く邪神へと突き刺さる。
「近付いてみたら、気配が駄々漏れ」
『……ッ!!』
咄嗟に邪神の繰り出した眷属の群れは、しかし雲雀に襲いかかる寸前で一斉にその動きを静止した。まるで、虚空に縫い付けられたかの如く、1ミリたりともその身を動かすことはかなわない。
「……もしかして、見つけてもらうのが待ちきれなかったりしましたか?」
一方的にかけられる、何処か悪意すら込められたかのような少女の言葉に、邪神は恐怖というものが何たるかを漸く悟ったかも知れない。しかしそれでも彼は邪神だった。そうであるが故に、下賤の輩と見下した者たちによって与えられた感情が何であるかを認める訳には行かなかったのだ。
『ふざ、巫山戯る……なァッ!!!!!』
吠える邪神の腕が少女目掛けて唸りを上げ、それまで彼女が立っていた地面を爆裂させる程の衝撃が叩き付けられた。しかし、それを軽やかに上空へと舞い上がった彼女を傷付けることは叶わない。同時に、彼女の手を基点にして伸びる光の糸が虚空で踊り、それまで身動きする事も出来ずに虚空へと磔にされていた眷属たちが一斉にその身を引き裂かれ、細切れに千切れ飛ぶ。
「慈悲はありませんよ」
『……神に慈悲の有無を説くか!』
尚も暴れ狂う邪神の振るう腕が巻き起こす暴風は、無惨に幾つもの断片へと引き裂かれて解体された眷属たちの残骸を巻き込みながら吹き荒れる。その中をまるで軽やかに踊るようにすり抜けながら、雲雀が身を翻す度に振るう腕から伸びる糸は、一本、そしてまた一本と次々邪神の身体へと突き刺さって、やがてはその身体を雁字搦めに絡め取ってしまう。ぎちぎちと喰い込みその身を苛む戒めの糸に焼かれ、邪神の身体は最早一歩進む事さえ儘ならない。
「……ロメ郎くんは、人の住まう外の世界に返してもらいますよ」
『おのれ、どこまでも神を……我を侮るか、小娘ェ!!!!』
その身が引き裂けても構わない。それほどの爆発的な憤怒に突き動かされて、雲雀目掛けて躍りかかる邪神の巨体。食い込む光の糸が、そのまま彼の腕や胴を引き裂いて鮮血を噴き上がらせる。更に深く喰い込み肉体を引き裂く糸を強引に引き千切る邪神の猛然と突っ込ませる巨体を闘牛士よろしく鮮やかなステップですり抜けるようにやり過ごせば、同時に振るった雲雀の光糸は邪神の巨腕をサイコロステーキ宜しく幾つもの肉片へと細かく切り刻み、分解せしめた。
「……邪神さんからは崇めるほどの偉大さをちっとも感じませんねぇ~」
『グオオオオオオオオッ!!!!!』
片腕を失うほどの強烈な激痛に思わず叫びのたうつ邪神を振り返りながら、サディスティックに甚振るような視線を向けて、少女は小さく舌なめずりをひとつして見せる。それは相手を神とも思わぬ蛮行には違いない。しかし、散々に人々の生命を冒涜し続けたこの邪神にとっては紛れもなく正当な報いであっただろう。
「真に偉大な者! それは即ち、このかわいい雲雀ちゃんです!」
そう告げながら不遜に胸を張ってみせる少女。彼女のそれを思い上がりだと否定し罵るほどの余裕さえ、今や邪神からは失われていた。これまでの長きに渡る邪神生において、ここまで彼が劣勢に立たされた経験など皆無であったことだろう。己こそが至高の存在であると自負するがゆえに、それまで味わったこともない苦境という未知の経験が彼をじわじわと追い詰め始めていたのである。
「邪神さんの次はこのビルも解体しちゃいましょうか。ああ、でも皆が脱出した後じゃないとなー」
成功
🔵🔵🔴
ビスマス・テルマール
◎
チーム【なめろう餃子】で参戦
ロメ郎さんが受けた苦しみ
被害者の方々が受けた尊厳への理不尽
全部まとめて貴方に返して差し上げますっ!
●POW
『早業』でUC発動し生成した絶対超硬剣を食べプラチナさんを模した鎧装を装着
白金竜装態になり
邪神の格の威圧にはロメ郎さんを助ける為の『覚悟』と心に『激痛耐性』と『覇気』を備え
エミリさんと連携しつつ
『空中戦』で駆けながら『第六感』で攻撃を『見切り』ながら
撹乱し
被害者の皆さんの分に
【弱いマカジキのなめろうの大地の力を込めた絶対超硬剣】を撃ち続けつつ
【クロガ】さんと【ディメイション・なめろうブレイカー】の『属性攻撃(マカジキ)』を込めた『一斉発射』の『砲撃』をお見舞い
エミリロット・エカルネージュ
◎
チーム【なめろう餃子】で参戦だよ
思い上がりかぁ
まるでロメ郎くんや被害者の皆の命は自分の為の物とでも言いたげだね
そう言う理屈をウエメセで押し通す輩は、餃心拳継承者として
ギョウザライダーとして絶対見過ごせないっ!
●POW
『早業』でUCを攻撃力重視で発動し真の姿
ギョウザライダー・エカルドに
邪神のウエメセな格の威圧には『覇気』含む『オーラ防御』を纏い
心に『激痛耐性』を備えて何とか耐える
耐えつつビスマスちゃんと連携して『オーラ防御』を纏った【島唐辛子餃子ウィングファング】を盾にしつつ『第六感』で攻撃を『見切り』
『怪力』込めた『早業』の『グラップル』を【竜の覇気を纏うシャオロン(麺棒モード)】で決める
●A census taker once tried to test me. I ate his liver with some fava beans and a nice Chianti.
『……我が、神であるこの我が……!』
片腕を失い、全身を引き裂いた苦痛に呻く邪神。その周囲に散らばる眷属たちを乱暴に掴み取っては頭蓋骨の内側へと押し込み、ぼりぼりと噛み砕いて咀嚼を始める。眷属たちを食らうことで、少しでも活力を取り戻そうとする心算であっただろうか。それは余りにも凄惨な光景ではあるが、事実失われた筈のその腕は早くもその断面から不気味に蠢き始め、じわじわと盛り上がる肉組織が新たな腕を形成すべく自己再生を始めかけていた。
「……アレってやばいんじゃないかな、ビスマスちゃん」
「むむ。せっかくダメージを与えたのに、再生なんてされては堪りません!」
再生を阻止すべく、また邪神を一層に追い詰めるべく、エミリロットとビスマスは不気味に蠢き続ける大地を疾走し、邪神へと距離を詰めていく。その最中にビスマスが生み出すもの。
『生成開始(ビルド・オン)っ! 絶対超硬剣・秋刀魚のなめろうっ!』
翳したその手の中に、収束していく輝き。それは嘗て群竜大陸を支配した帝竜たちの一角、白金竜プラチナの振るった剣を模して、ビスマスの手元へと顕現せしめた。
「……プラチナさん、貴女のお力をお借りします……!」
おもむろにそれを虚空に翳した後、煌めくその刀身にビスマスは迷わず齧り付く。見た目こそ硬く鋭利な刀剣なれど、蜂蜜味噌で味付けされた秋刀魚のなめろうで形成された刀身だ。それを己の内へと取り込み、文字通り血肉と変えて一体と重なることで、ビスマスはかの帝竜の力の一端をその身に取り入れ再現することができるのだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
ビスマスのその身を、白金竜のそれを模した装甲が覆い、巨大な翼が形成される。白金に煌めく金属で彩られた翼をはためかせ、ビスマスは空へと舞い上がる。かつての白金竜をスケールダウンさせたような姿であるが、機動力においては遜色ないものであるだろう。
「……ボクも負けていられないや」
邪神目掛けて白金の流星と化し駆け抜けていくビスマスの背を目で追いながら、エミリロットも駆ける足を早めていく。その身を加速させながら、同時に募らせるのは眼前で蠢く邪神への怒りだ。
「……これを思い上がりと言うキミは、まるでロメ郎くんや被害者の皆の命もぜんぶが自分のモノだって言いたげだよね」
それこそ思い上がりじゃないかな。そう独り言ちながら、駆け抜けるエミリロットの全身を燃えるような赤と金の輝きが包み込む。風が唸り、地が轟く。正しき怒りのもと、変身グッズ『エカルドライバー』が機械音声を発し、彼女を真の姿へと導いていく。
『Dumpling System!』『True Form Revolution!』「……変身ッ!!」
エカルドライバーから巻き起こる炎が更に彼女の全身を重ねて覆い、それを内側から引き裂くようにして飛び出し姿を表すエミリロット。
……否。今の彼女の名は。
「それこそがキミの思い上がりだと知るがいい。ギョウザライダー・エカルドただいま参上ッ!」
引き裂いた炎を火の粉と散らし、疾走するエカルド。その駆け抜けた軌跡に炎の轍を刻みつけながら猛進する彼女は忽ちに先行していたビスマスを追い抜き、その加速の勢いを以って真っ正面から邪神へと挑みかかる。
『ギョウザライダー……? 知らぬ、なんだそれは! 我の理解が及ばぬ!』
「なら教えよう! 熱く、辛く、そして美味しいもの! 餃心拳継承者の集大成さ!」
真っ向より飛びかかりながら、繰り出す綿棒『シャオロン』。その先端に竜を象るオーラを纏い、鋭く繰り出す連撃が再生途中の邪神を襲う。立て続けにその身を突いては打ち据えるその連打を耐えながら、邪神は強引に再生しかけの巨腕を奮ってエカルドを叩き潰そうとする。其処に込められたものは膂力だけではない。邪神としての圧倒的な存在の『格』そのものが込められた一撃だ。
「……エミリさんっ!!」
頭上から叩き潰さんと迫る巨腕を、然し滑り込むように舞い降りるビスマスがエカルドを抱えるようにして掻っ攫い、紙一重にやり過ごす。地響きを立てるほどの衝撃で大地を揺るがす巨腕の破壊力は凄まじいものであるが、当たりさえせねばどうということもない。
「助かったぁ……! あ、もう下ろしてくれていいからね」
そう告げてはビスマスの元から再び邪神目掛けて飛び降りるエカルド。
『理解不能! だが殺す! 貴様たちは一匹残らず我が絶滅させてくれる!』
上空の目障りなビスマスともども纏めて薙ぎ払わんと振るわれる邪神の巨大な双腕を、それぞれが嵐の中を舞う木の葉のごとく軽やかにすり抜けながら距離を詰めていく。
「どこまでも上から目線だねえ、キミは!」
「ですが! ロメ郎さんが受けた苦しみ、被害者の方々が受けた尊厳への理不尽!」
吹き付ける強風を構わず切り裂く白金の翼。その羽撃きから生み出されるものは、其処から舞い散る白金の羽根。幾つも飛び散ったそれらは、微細な金属の刃を無数に生み出し、それが風に乗って飛びながら、鋭利な剣の形へと寄り集まって、敵目掛けて降り注いでいく。なめろうによる加護を帯びたそれは、次々と邪神の巨体を穿つ剣の雨となり、その漆黒の肉体を貫き引き裂いていく。飛び散る闇色の鮮血が周囲を無惨に汚すほどの苛烈な集中砲火。それはまるで邪神の肉体を少しずつ削り取っていくかのようだ。
「全部まとめて貴方に返して差し上げますっ! クロガさん!」
『何時でも行けるぞ、マスター!』
剣の雨を繰り出し続けながら、同時にビスマスが振り翳す黒水晶杖型魔導武器。握り締めた其処から流し込んで、収束させた魔力を一息に邪神目掛けて叩き付けるようにビスマスは解き放つ。
「……最大出力です! ディメンション・なめろうブレイカー!!!!!!」
「こっちも忘れちゃヤだよ! さあ、唸れシャオロン! その力を見せてやれ!!」
剣の雨を掻い潜りながら、邪神に肉薄するエカルド。彼女の振るう渾身の力を込めた巨大麺棒が竜の覇気を纏いながら邪神の鳩尾に突き刺されば、そのまま勢い良く伸縮して邪神の身体を大きく後方へと突き飛ばす。
『……ぬぅっ……! 貴様らァ……!!』
その衝撃に為す術もなく、ただ藻掻く邪神を大きく膨れ上がった魔力砲撃『ディメンションなめろうブレイカー』の閃光が捉え、其処から立ち上る巨大な輝きの炸裂の中に飲み込んでいった。大地を、そして大気をも鳴動させる凄まじい轟音の中、短く縮めたシャオロンを軽く振るって肩に担ぐエカルドと、地上に舞い降りたビスマスが静かに並び立つ。
「邪神だかなんだか知らないけど、人の生命をなんとも思わないその理不尽な上から目線、ギョウザライダーとしては絶対に見過ごせないよっ!」
「だからこそ、わたしたちはそれ以上の理不尽を以って、あなたの野望を打ち砕きます!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アラン・スミシー
これはこれは、お冠のようだね。
こんな素敵なダンスホールまで借り切って、監督がキャストに向けるのがお怒りの言葉とはちょっとばかり興ざめだねえ。
ああ、でも端役から言わせてもらえば。自己満足で撮る監督はいただけないね。もっとも世の中にはそれを芸術的と呼ぶ向きもあるらしいが。…私の趣味ではないね。
まあともかくラストシーン。
キャストも台本通りに動く時さ。ちょいと目立つカメオ出演になるが付き合ってもらうよ。
他の血気盛んな者たちを援護するように私は動こう、まあエキストラの相手になるかな?
それを片付けつつ、本命に繋がる隙を作るとしよう。
悪いね。君の書いたホンにペンを入れさせてもらったよ。さあクランクアップさ。
白斑・物九郎
◎
●POW
エッラそうにふんぞり返りましてからに
ズイブンと上からじゃニャーですか、ええ?
神がどうした
こちとら王――ワイルドハントの王っスよ
不敬はどっちだ
傅き方ってモンを教えてやりまさァ、泥饅頭風情が
●ドリームイーターⅡ
・闇の中でも【野生の勘】で照準を定め、魔鍵を【怪力】で【投擲】
・魔鍵の発揮する【精神攻撃】で、ヤグの思考/精神をグチャグチャに攪拌・改竄し【蹂躙】せん
・精神の改竄方向は『格』の自認
・傲慢さを卑屈さへと反転させ、ヤグにヤグ自身を矮小かつ無価値なものと一瞬でも誤認させる
・その一瞬、己の『格』とヤグの『格』の多寡は反転しよう
・ヤグ自身のユーベルコードに則り、逆にこちらの『格』で重圧を課す
●Wait a minute, wait a minute. You ain't heard nothin' yet!
『グヌゥゥゥゥ……! 羽虫風情が、この我によくもこのような屈辱を……! 許してはおけぬ……』
魔力光の突き抜けた後、大地をも抉るような焼け焦げた痕跡からは静かに白煙が立ち上る。腐肉の焼けたような臭いが漂い、居合わせた者たちの鼻を突く中、ゆっくりと立ち上がろうとする邪神フートゥ・ヤグ。そんな彼へとゆっくり歩みを進め、彼我の間に広がる距離を埋めんと近づく者たちがいる。
「これはこれは、お冠のようだね」
「エッラそうにふんぞり返りましてからに、ズイブンと上からじゃニャーですか、ええ?」
邪神の苛立ちを煽るような口ぶりでアランがゆっくりと距離を詰めていく。そして、その隣には見開いた双眸、金色に煌めく虹彩で相対するフートゥ・ヤグに突き刺すような視線を向ける物九郎が並ぶ。
「まあ、彼は監督さまだ。上からなのも仕方ないだろうさ」
物九郎の言葉に、軽口と共に肩を竦めて見せるアラン。そんなもんすかね、と興味なさそうに告げる物九郎を他所に、彼は更に言葉を紡ぎ続ける。
「だが、こんな素敵なダンスホールまで借り切って、監督がキャストに向けるのがお怒りの言葉とは……さすがにちょっとばかり興醒めだねえ」
『……貴様……!』
頭蓋骨の眼窩から覗く邪神の赤眼が強烈な憎悪と殺意の光を帯びていく。然し、そんな邪神の様子さえお構いなしにアランは続ける。寧ろ、分かっていてやっているのであろう。彼の流儀に、自尊心に、わざわざ付き合う義理も道理もないのだから。
「端役の身で恐縮だが、言わせてもらおう。自己満足で撮る監督はいただけないね。もっとも世の中にはそれを芸術的と呼ぶ向きもあるらしいが。……私の趣味ではないね」
「いやー、どっちにしてもコイツのセンスはB級未満じゃニャーすかね。売れねえでしょ、脚本も演出もお粗末に過ぎるんですわ」
物九郎の率直な言葉に、アランは「違いない」とばかりに首肯の仕草を見せる。それを合図としたが如くに、邪神を取り巻く殺気が一段と濃厚で苛烈なものへと膨れ上がっていく。されども、それを対峙し続ける彼らはその佇まいを微塵も崩す素振りさえ見せず、平静の余裕を保ったままである。
『嗜虐の作法を三文芝居と断ずるか。我こそは死と生命の境を司りし神なるぞ』
「神がどうした。こちとら王――ワイルドハントの王っスよ。少なくとも、てめえは俺めの神様じゃニャーんだわ」
物九郎の言葉に、いよいよ激昂を抑え切れぬフートゥ・ヤグ。空間そのものを震わせるほどの苛烈な怒気と共に、その巨体に傅く影からは無数の眷属たちが一斉に姿を表した。
「まあともかくラストシーン。キャストも台本通りに動く時さ。私はちょいと目立つカメオ出演になるが付き合ってもらうよ」
物九郎とアラン。両者を取り囲むようにして四方八方に次々と配される邪神の眷属たち。黒いゴムのような、或いは溝底で蟠る濁りきったヘドロのような、黒い混沌の身体を不定にうねらせたそれらは、生ある者全てへと仇をなす、邪神の狂信者に他ならぬ。彼らが口々に紡ぎ立てる言葉は、生への希望を失わせ、死へと引きずり込む誘惑の呪詛である。しかし、彼らふたりの前では壊れたラジオのノイズ程度の力しか発揮できぬのだ。
『先程より、我という神を前に狼藉の数々。不敬の極みであるぞ。罰せねばならぬ』
「不敬はどっちだ。傅き方ってモンを教えてやりまさァ、泥饅頭風情が」
一斉に四方より飛びかかる眷属たちを前に、一歩踏み出す物九郎。その手に何時しか携えられていたのは巨大な鍵である。一見すれば、剣か何かと見紛うほどのそれはただ扉を開くためのモノには非ず。金の瞳に射竦められた眷属たちは、何かに弾かれたかのように身震いし、そのまま虚空で動きを静止した。それ以上踏み込めば、死を免れぬとでも言うかの如く。
「……おらよォ!!」
『グゥッ!?』
大きく振りかぶった渾身のオーバースロー。握り締めていた魔鍵をまるで槍の如く投げ放つ。砲弾宜しく加速した巨大な鍵は狙い過つ事無く、邪神の胴体へと深々突き刺さった。突き刺さる鍵が、ひとりでにぐるりと渦を描き、突き刺さった邪神の内部を刳り、掻き回す。それはただ傷口を広げるだけではない。同時に鍵に備わった魔力は、フートゥ・ヤグの精神そのものをも撹拌しようと言うのだ。
「てめえ様が何モンか、この俺めが教えてやりますよ。どんだけちっぽけでつまらねえもんかをなあ」
『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! 我が、我がッ……汚染されて……ッ!』
物九郎の言葉に突き動かされるように、魔鍵は更にぐりぐりと貫いた邪神の肉体を、精神を引き裂きかき回していく。乱雑に掻き乱されていく邪神の中に一瞬生まれたもの。上書きされた卑小さはほんの僅かな一瞬だけのもの。されど、綻びを暴き切り開くには、その一瞬で事足りる。
『い、否ッ……我、卑小に非ず。無価値に、非ず!生と死の境界司る我が、断じてそのようなッ……!』
流石に邪神を気取るだけの事はある。掻き乱された精神を一瞬の内に取りまとめ、再び邪神の威厳を取り繕おうとするフートゥ・ヤグ。然し、混乱の一瞬の間に物九郎は既に彼と大きく距離を詰めていた。邪神の赤い瞳を間近から覗き込む金色の瞳。そして、ワイルドハントの王を標榜するする青年の浮かべた禍々しい笑みが邪神の身体を射竦めた。
「……案外やるもんスね。けど、もう遅ぇんだわ」
その言葉と共に、物九郎の手は邪神の身体に突き刺さった魔鍵の頭を掴み、強引な力任せで捻りながら無理矢理に突き立てた鍵を荒々しく引き抜いた。ぐちゃぐちゃに引き裂かれた肉体から、精神からマグマの如く溢れ出す強烈な激痛の感覚に邪神は堪らずに吠えた。空間そのものを揺さぶるような耳障りなノイズに顔を顰めつつも、最早互いの『格』は逆転を果たしている。
「――平伏せ」
『……な、あ……ッ!?』
まるで愛着のない犬猫を躾けるようなぞんざいな手付きで突き出した手。邪神は反射的に地に伏せ、王へと頭を垂れていた。その事実を自覚した瞬間に彼の自尊心を深々と抉る屈辱と憤怒の衝動。地に縫い付けられたように深く沈み込む両手が、砕けるのにも構わず。伏せの姿勢を継続しようとし続ける肉体が軋み、悲鳴を上げるのにも構わず、強引に立ち上がれば眼前の物九郎目掛けて真っ向より襲いかかる。
『貴様、貴様、貴様ァァァァァァァッ!!!!!!』
「……マジうるせースわ。てめえ、それしか言えねえのかよ」
振るわれる巨腕を手にした魔鍵で鬱陶しげに払い除けながら飛び退り距離を保とうとする物九郎を、尚も執拗に追わんとフートゥ・ヤグは眷属たちを強引に使役する。中空で磔にされたが如く、それまで動きを停めていた雑兵たちが再び一斉にその狙いを物九郎へと定めるその一瞬。
「悪いね。ホンは既に君の手を離れている。私がペンを入れさせてもらったからね」
『が、はァッ……!?』
押し寄せるエキストラたちを貫いたのは、アランのピースメーカーより放たれた一発の弾丸。銃声はたった一度響いただけにも関わらず、物九郎を引き裂かんと迫った眷属たちは何れも血の飛沫を噴水が如くに噴き散らしながら、次々と重力に引かれて墜落していく。物九郎は確かに見た。アランの放った弾丸は、まるで円を描くような軌跡で飛んで、その軌道上に立ち塞がった障害物を全て撃ち貫いた挙げ句に、邪神の肉体へと深々突き刺さっていたのだ。
「まだまだエキストラを用意しているのだろうが、そろそろクランクアップの時間が迫っているよ」
「いい加減、俺めも飽きてきたとこスわ。つまんねえ映画は眠くなるんすよ」
魔鍵に引き裂かれた傷口、そして今新たに己の身を深々と抉り突き刺す銃創の激痛に呻きながら、邪神はじりじりと後退る。己が見下していた存在に、ここまで追い詰められているという絶望を、彼は自身の巨体が大地に刻んだ血の轍を見下ろすことで、否が応でも認識させられた。悪趣味な映画監督は、最早自分の書いた筋書きから見放されていた。破滅のラストステージが、彼を絡め取ろうと手ぐすねを引いて待ち構えている。
「……この映画に二作目はない。君の話はつまらないという事だよ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】
へぇ、結界の中はこんな風になってたんだ
これだけ広ければ派手に戦うのには困らないね
で、邪神様はここでパソコン広げて
せっせと怪奇現象スポットの噂でも流していたの?
なんてジョークを言いつつ武器を構える
戦場に少しずつPhantomを飛ばし敵を包囲していく
これはパッと見は何の害も無いただの紅い蝶さ
その間Emperorによる2回攻撃で斬りかかり
普通に戦っているように行動して
本命の蝶の狙いを悟られないようにする
敵の攻撃は上から押し潰す感じなら
スライディングで躱せないかな
喰らっても激痛耐性で耐える
無数の蝶による包囲完了したらUC発動
大量の鎖が突き刺さり巻き付き捕縛していく
じゃ、トドメは宜しくね梓
乱獅子・梓
【不死蝶】
ハッ、偉そうな口ぶりだけは
いかにも邪神といった感じだが
廃れたビルの隅っこでコソコソ隠れていた奴が
言っても全然格好良くないぞ
引きこもりの悪趣味な娯楽はここまでだ
綾の準備が完了するまで
成竜の焔と零をけしかけ共に戦わせる
零のブレスで凍らせ動きを鈍らせたり
焔のブレスで炎の継続ダメージを与えたり
また、兜のような頭蓋骨を被っているという事は
それに覆われた中が弱点ではないかと推測し
噛みつきや体当たりで鎧砕きを試みる
よく考えたら、今日ずっと最後は俺お任せだなお前?
苦笑しつつ焔に命じる
さぁ、そのデカブツを灰にしてやれ!
UC発動
綾によって縛り付けられた邪神に
真正面から焔の最大威力のブレスをぶつけてやる
●You cannot live your life to please others. The choice must be yours.
『……我が、神が……頭を垂れる、など……有り得ぬ……。あってはならぬ……』
茫然自失と言った様子で呟く邪神を他所に、異空間へと降り立つ綾と梓。新たな闖入者の気配に、邪神の影より泡立つようにして膨れ上がり、次々と飛び出した眷属たちが一斉に襲いかかる。それを事も無げに携えたハルバード『Emperor』を振るって叩き落とし、或いは斬り捨てる綾。己の斬ったものにはそれきり興味すら抱いた様子もなく、物珍しげに血の色にも似た赤いサングラスのレンズ越しの瞳が周囲を見回した。
「へぇ、結界の中はこんな風になってたんだ。これだけ広ければ派手に戦うのには困らないね」
そんな言葉と共に、軽くおどけるようにハルバードをもう一度振り回す。実際に長物を振り回すのにも何ら支障はないと判断すれば、その視線は前方の邪神へと据えられる。
「で、邪神様はここでパソコン広げてせっせと心霊スポットの噂でも流してたの?」
「さんざん偉ぶっていた割には、やっている事が随分とお粗末だったようだな」
からかうような綾の口振りに頷くように続ける梓。それを聞いて、邪神は漸く敵の気配を認識したらしく、赤い双眸はギロリとふたりの青年を睨みつける。
『貴様らも、神を愚弄する愚か者であるか』
「ハッ!その偉そうな口ぶりだけはいかにも邪神といった感じだが、廃れたビルの隅っこでコソコソ隠れていた奴が言っても全然格好良くないぞ」
梓の痛罵が邪神の怒りに火を注ぐ。虚空がざわめき、異空間に立ち込めたる瘴気が濃度を増していく。足元で蠢き続ける一面の不気味な肉塊はまるで太い血管が脈打つように、薄気味の悪い鳴動を繰り返しながら、その勢いをじわじわと早めていく。
「梓。幾ら本当の事でもそんなに面と向かってズバズバ言ったら気の毒だよ?」
「そうだったかな。……何にせよ、引きこもりの悪趣味な娯楽はここまでだ」
強まる怒気を感じ取りながらも、それを気にすることもなくマイペースに告げる彼らの遣り取りに、ついに邪神の怒りは頂点に達した。その巨体を憤怒に震わせながら、邪神がゆっくりと二人の猟兵へと向けて進行を開始する。
「……梓」
「任せておけ」
綾の身に寄り添うかのように、赤い蝶が一羽、二羽と虚空より生まれ出ては彼の周囲をひらひらと舞う。そんな綾の姿を邪神の視線から隠すが如く、梓は静かに前へと踏み出した。そしてその左右にはそれぞれ、一瞬の内にして成体へと成長し臨戦態勢に移った炎と氷の竜が陣取り、己を使役する主を守護するが如く、邪神へと威嚇の咆哮を上げる。
「……焔、零。仕込みの時間を稼げ」
主の言葉に頷くように吠えた竜たちはそれぞれ左右から邪神を挟むように躍りかかる。空間さえ凍りつかせ、凍結した粒子を煌めかせる冷気の息吹が邪神の脚を地べたへと縫い付けるように凍てつかせ、空飛ぶ彼らを撃ち落とさんと振るわれる巨腕は、まるで地獄の劫火めいた灼熱の息吹が容赦なく炙る。
『グゥゥゥ……!! 誇り無く飼われた獣どもの分際で!!』
「……ペット扱いしてくれるなよ。こいつらは俺の相棒だからな」
怒気を強める梓の声、それと同時に二匹の竜の吐き出す息吹もまたその勢いを強めていく。半身は凍てつき霜に覆われ、そしてもう半身は燃え盛る炎に包まれ炎上し、邪神はその痛苦に悶えながらも緩慢に進撃を続けようとする。――――何時しか自身の周囲に、幾つもの赤い蝶がひらひらと飛び交っている事にさえ気付かぬままに。
「……準備は出来たし、俺の事もそろそろ思い出してもらおうかな」
そして竜の息吹を掻い潜り、弾丸の如く地を疾駆する綾が邪神の巨体へと肉薄する。一呼吸の間に、二度斬りつけた斬撃が虚空に交差する軌跡を走らせ、同時に邪神の巨体にも罰を与えるクロスの傷が刻まれる。
「これだけ刻めば、ちょっとは気にしてくれるかい」
『がぁぁぁぁッ!?』
斬り裂かれた邪神の胸部より激しく飛び散る血潮を飛び退ってやり過ごし、続け様に踏み込みながら振るわれる炎を纏ったままの巨拳。それを大地を靴底で抉るようなスライディングで、綾は強引に潜り抜けた。同時に、二匹の竜が次々と邪神の頭部目掛けて体当たりを繰り返し、罅割れた頭蓋骨の亀裂を更に深刻なものへと変えていく。
『おのれ……! どいつもこいつも群がりおって!! 目障りだッ!!』
怒りに任せて更に振るわれる両の拳を、二匹の竜はそれぞれ敵を幻惑するかのように、右へ左へと逃げながら互いの身を空中で交錯させ、荒れ狂う拳の嵐を擦り抜けながら、寧ろ敵を翻弄さえして見せた。傍から見れば間抜けに踊っているようにも見える、その隙だらけの姿を当然ながら綾は見過ごしなどしなかった。
「――頃合いだな。離してあげないぞ」
『……!?』
その言葉をトリガーにしたかの如く、邪神を取り囲んでいた無数の蝶たちが一斉に爆ぜて散り、花弁のように舞い散る赤い粒子を引き裂くようにして生まれた無数の鎖が虚空を迸る。まるで蛇の如く生き物めいてうねりながら虚空を突き進む鮮血色の鎖たち。それらは一斉に邪神の腕に、脚に、胴に絡みついては更に幾重にも巻き付きながら強引にその身動きを封じ込んでいく。更にはその身体にまで突き刺さり、貫いていく鎖は、邪神の巨体を大地へと文字通りに縛り付け、完全に束縛したのである。
『……なんだと……! この鎖、千切れぬッ……! 我の力で、壊せぬというのか……!』
「悪いね。そいつを壊せるのは、俺だけなんだ。……じゃ、続きは宜しくね梓」
ひらひらと片手を振って、緩く微笑む綾。それと入れ替わるようにして前に出る梓が、嘆息を溢しながらも黒いサングラス越しに敵の姿を眼に捉える。
「……よくよく考えれば、今日はずっと〆を俺にお任せだな、お前は」
「つまりはそれくらい俺が梓を頼りにしてるって事でしょ」
相棒からの答えに、梓はますます苦笑する。
「どうだかな。まあいい……さあ、そのデカブツを灰にしてやれ!」
その声に竜の相棒たる焔は一声高らかに鳴いた後、大きく息を吸い込んだ。吸い込まれていく呼気に込められた熱は激しいオレンジ色の輝きを生み出しながら大きく膨れ上がっていく。収束していくその余波だけで、周囲の瘴気が焼けて散るほどの高熱。限界以上にまで吸い込まれて巨大に膨れ上がった灼熱の息吹は、まず始めに巨大な火球を叩き付けるようにして身動き取れぬ邪神の巨体を飲み込み、その爆裂に続けて噴き付ける超高熱の炎の奔流は、まるで世界を焼き尽くす黒き巨人の携えし炎の剣が如く、焼け焦げた邪神の身体を更に容赦なく焼き切っていく。
『ゴァァァァァァァァァッ!!!!!!』
地獄の劫火に飲まれた邪神の上げる苦悶の叫びが轟く中で、オレンジ色の鮮やかな光景をふたりの猟兵は並びサングラスのレンズ越しに静かに眺め見る。――――激痛にのたうち暴れ狂うフートゥ・ヤグの獣めいたその姿には、最早神の威厳らしきものは微塵も残ってなど居なかった。
「……人の恐れや絶望がお前の愉悦になると言うのなら」
「生憎だったね。今や、恐れを抱いているのはお前の方だ」
俺たちをね、と。そう続けた相棒の言葉に梓は「違いないな」と不敵な笑みと共に頷いた。邪神の圧倒的な力を前にしても、互いの阿吽の呼吸に加え、強大な二匹の竜さえ従える彼らには一切の死角も油断も存在しない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神羅・アマミ
デスゲーム仕立てでゾンビの集団けしかけて上質なエンタメ作品を気取ったつもりか!?
貴様の思い上がりこそ甚だしい!
何故なら監督たる貴様がサメに喰われて終わりを迎えるどっちらけのクソ展開が待ち受けておるのじゃからな!
真の姿・レーザーシャーク形態へ覚醒し、放ちしUCは『奈落』!
肥大化していくサメを中心に渦巻くトルネードで【範囲攻撃】による【吹き飛ばし】!
風圧でもってして奴のようわからん重圧とやらの相殺を試みる!
既に結界をこじ開ける力業なら一度は通しておる。
同じように一瞬でも無風状態を作り出せたならば渾身の一撃を振るうチャンス!
サメの背から【ダッシュ】で跳躍、和傘の強打を脳天目掛けお見舞いじゃーい!
レイ・オブライト
◎
さっきはシャレたボードをどうも。脆過ぎて売れやしねえが
奴が吉祥寺に熱視線を寄越すのを投げ捨てる死体でカットしご挨拶
死と言われてもな
食傷気味だぜ
今更特に思うこともないが、こいつそのものにゃあ一つある
こんなんにも信奉者、か
オレがオレの生き方をやめるときが死ぬときなんだろう。お前らに変えられるって?
【Haze】
冗談の上手い信奉者どもを『覇気』で捉え、それ以上無駄話を唱えられねえよう折り畳む。頭はそっち「が」垂れてもらおうか
邪魔者を踏み越えたうえで追撃は邪神へ
目玉がついててなによりだ。属性攻撃(電気)を叩き込み内から焼いて涙の流し方を教えてやろうな
んなもん見たところで
一つも楽しかねえんだよ、ゲス野郎
●Choke on 'em!
『……燃える…… 我が、燃えている…… 否、神は滅びぬ……』
まるで松明の如く、火竜の息吹を受けた邪神の巨体が燃え続けている。蠢く空間を照らす炎の色。その身を戒める鎖も既に無く、虚ろに呟く邪神は辛うじてその存在を留めているようである。それでも彼が邪神である事に相違はなく、そうである限り、彼が人類にとっての忌まわしき災厄である事に変わりはない。
「デスゲーム仕立てでゾンビの集団けしかけて上質なエンタメ作品を気取ったつもりか!?」
蠢く巨体に対峙するアマミ。彼女の声に、邪神はゆっくりと視線を巡らせる。ぎょろりと今にも砕け散りそうな頭蓋骨から覗く赤い双眸が少女の姿を捉えた。
「今の己の姿を省みて知るが良い! 貴様こそ甚だしく思い上がった愚か者であるとな! 何故なら!」
息巻くアマミの後方で炸裂音。振り返れば、高所より落下したと思しきゾンビの躯が弾けて飛び散り、激突した大地に半身を埋もれさせるように減り込んでいた男が、大地に沈んだ自分の身体を引きずり出さんとしていたところであった。
「何故なら……えーと、その……あれ、なんだっけ」
「……お構いなく。ほら、何故ならの後はどう続くんだ」
飛び散った肉片を引き剥がしながら立ち上がる、レイの巨体がのそのそと邪神へと数歩進んで立ち止まる。片手に引きずるのは辛うじて原型を留める腕にぶらさがった大きな肉塊だ。彼は太い首の骨をごきごきと鳴らしながら、隣に並ぶようにして立つアマミの言葉の続きを促した。
「……何故なら!! 監督たる貴様がサメに喰われて終わりを迎える、どっちらけのクソ展開が待ち受けておるのじゃからな!」
「……サメだとよ。そりゃあ良いな。このクソ映画を〆るにゃ、うってつけの演出じゃねえか」
続く言葉を思い出しては一息にのたまったアマミの言葉に、邪神は怒りの感情を辛うじて思い出せたようだった。燃え盛る巨体を勢い良く震わせれば、その身を包んでいた劫火は強引に散らされ、残るものは無惨に焼け焦げ異臭を漂わせる漆黒の巨体。それが巡らせる視線は、遠巻きに猟兵と邪神の激闘を見詰め続けた少年へと向けられる。その恐怖、絶望を少しでも己が糧へと変える腹積もりであろうか。そんな様子に目敏く気付いた巨体がゆっくりと動き、少年と邪神の間を横切るようにぶら下げていた肉片を放り投げた。放物線を描いたそれは、やがて地べたへと重たく落ちる水っぽい物音と共に潰れて散っては彼方此方にへばりつく。
「さっきはシャレたボードをどうも。でもこりゃ脆過ぎて売り物にゃなんねえな」
「……おじさん!」
強引に邪神の耳目を自身へと引き寄せれば、レイは己を案ずるように少年の上げた声を制するように片手を突き出した。
「他の連中にも言われたろう? まだ、俺らの出番らしいんでな。……で、サメは何時出てくんだ」
「お、おお……! そうじゃったの、ラストシーンを派手に決めようではないか!」
レイの言葉に慌てて頷くアマミは、その身を眩い輝きで包み、次の刹那には無限に広がる虚空全てをまるで海の如く自在に泳ぐ巨大なサメ、『レーザーシャーク』に跨った姿で現れた。
『愚か者め……! サメごときが神にかなうものかァッ……!!!!』
「ならば試してみるかよ! 妾がチェーンソーを用いぬのはせめてもの慈悲と知れぇー!!」
虚空を踊りながら、邪神目掛けて突き進むアマミの駆る巨大ザメ。それを己が神としての神格を以って捻じ伏せようと睨みつけるフートゥ・ヤグ。次々と大地を陥没させていく巨大な不可視の重圧を、しかしアマミの跨る大鮫は巧みに擦り抜けながら、邪神の周囲を高速で旋回する。
『巫山戯ておるのか、貴様は!』
「……まだ分からぬか、たわけめ。貴様はもう何処にも逃げられぬぞ!」
苛立つ邪神の声を嘲笑うかの如くに叫ぶアマミ。邪神の周囲を高速で回転し続ける大鮫は、何時しかその勢いを更に力強く加速させ、強烈な激流を生み出していた。触れたものを容赦なく刳り取って粉砕するほどの苛烈なトルネードは、包囲した邪神を文字通りに喰らいついて離さない。じわじわと肉体を端から削り取っていく激流に追い立てられながら、それでも邪神は下賤の存在たちの誇る恐るべき力量を正しく判断することは出来なかった。どこまでも、神としての歪んだ自尊心に囚われていたのかも知れない。観客はおろか、演者の都合さえ一切省みぬ独りよがりの脚本を描いた者にはある意味で相応しい心情だったと言えよう。ともあれ、彼は神であるが故に悪辣であり、神であるが故に振り切れぬ驕りによって、自身を絡め取っていく恐怖と絶望を正しく理解し得ない。
『抜かせ! 神に退路など不要なり……! 貴様らこそ殺す! 殺し尽くす!!』
激流に飲まれながらも、足掻くように巨体を狂おしく揺さぶる邪神。突き出した腕が激流とサメの牙に抉り取られても尚構う事無く振るう其処から生み出されるは無数の眷属たち。激流の勢いに巻き上げられたそれは、頭上より雨あられの如く猟兵たちを襲わんと次々に降下していく。
「……いい加減、死なんてもんには食傷気味なんだがよ、こっちはな」
まるで嘆かわしいとボヤくように。嘆息気味に呟きながら、レイは降下してくる邪神の眷属たちを呆れたような眼で静かに見上げる。
「こんなんにも信奉者なんて居るんだな。だがよ、改宗なんざしてやらねえ。ビール券だの、野球のチケットだの付けられようとも、絶対にな。オレの在り方はオレだけのもんだ」
雨の如く降り注ぐ呪詛。生を呪い、死を享受せんとする、その誘いを拒めなかった者たちが、生き続ける者たちを嫉妬し、羨望し、己が同類へと引きずり込まんとするその調べを、レイは一笑に付す。
「……聞き飽きてるンだよ、とっくにな」
その呟きと同時に、レイの突き出した掌から放たれた苛烈な闘気。遠間より、その拳の延長が如くに眷属を打ち据えた衝撃に続けて、彼の腕から伸びた銀の鎖が体勢を崩した眷属を絡め取っては引き寄せる。瞬く間に手元へと手繰り寄せたその身体を手荒く真二つに畳んで強引に自身へとお辞儀をさせた。中の芯が砕ける音と共に、それはぐにゃりと力を失い動きを止める。
「次はもうちっとマシな奴の下にでも付くんだな」
無造作に放り捨てられそのまま足元へと転がり落ちた残骸を、レイは荒々しく踏み砕いて散らし、更に一歩。大きく振りかぶった彼の腕には、何時しか闇を裂くように弾ける青白い電光が茨の如く絡みつき。見据えるのは渦巻く激流のその向こう、まだ自分の運命を悟ることなく傲慢であり続ける哀れな邪神のその姿。
「……どうじゃ! 恐れよ!崇めよ!深き海より浮上せし真の脅威に絶望しながら、白き牙に砕かれ躯の海の藻屑と消えるがよい! ほれほれ、サメって馬鹿にしてた奴にここまで良いようにされるのどんな気持ち? ねえどんな気持ち!?」
苛烈な激流に閉じ込め、ほぼ一方的に邪神を切り刻み嬲り続けるアマミのサディスティックな叫びが響く。しかし、邪神とてこのまま無惨に屠られるつもりはない。大気を揺るがす雄叫びと共に、荒々しく巨体を振り回して暴れ狂えば、サメの生み出す激流と噛み合った逆回転の動きは、一瞬の拮抗を生み出した。
『よくも、神を虚仮にしてくれたな! ただでは殺さぬ!! 散々に甚振り尽くして殺す!』
「……ふん、その動きもとっくに織り込み済みじゃ。むしろ遅かったなァ!!」
一瞬の拮抗から激流の包囲を抜け出し暴れ狂う邪神の腕の一振りを、サメの背を蹴りつけ跳躍して追い越すアマミ。空を切る腕を更に蹴りつけた二度目の跳躍で更に勢いをつけた彼女が振り上げる和傘。それは弧を描くように唸り、加速し、がら空きの邪神の脳天目掛けて激しく叩き付けられる。
「疾く死ねよやァーッッッ!!!!」
『がぁ、はァーッ!!!?』
邪神の巨体を揺るがすほどの衝撃。渾身の勢いに十二分に加速まで乗せた強烈な一撃が打ち据えた頭蓋骨を木っ端微塵に打ち砕く。飛び散った骨片から顕となった、闇そのもの。炯々と赤く輝く眼光は、どこまでも生者への憎しみに燃え上がっている。身を貫いた衝撃に堪らず体勢を崩しかけた彼の眼に飛び込むものは、その右腕に迸る雷光を纏う一人の男の姿。
「仮面が壊れてものっぺらぼうじゃねえんだな。安心したぜ」
『……な、にィ……』
その意図を邪神が問うよりも先に、深々とその胴へと撃ち込まれた砲弾の如き鉄拳。そして、其処から弾けた強烈な電撃が内側より邪神の身体を引き裂き貫き焼き焦がす。爆ぜるような轟音と共に、漆黒の身体を青白く透かすほどの強烈な閃光。炸裂したのはほんの一瞬、しかし加えたのは十二分の激痛であっただろう。
「……最後に涙の流し方くらいは教えてやろうと思ってな」
その眼窩より、血の涙めいたものを垂れ流す邪神の身体を強引に掴み上げればそのまま空高く放り投げる。
「後のてめえはもう、サメの餌になっちまうだけらしいからよ」
「……うむ、妾の筋書き通りよ。貴様の終わりにはどっちらけの結末こそが相応しかろうな」
己を打ち上げた死人もどきの言葉。その傍らに着地する水着姿の小娘が不遜に腕組みしながら頷いてみせる。憎たらしい。
『……我は……どうなると、言うのだ……!?』
状況を理解できずに呆然と空高く打ち上げられる邪神。その背に迫るものを緩やかに振り返り、彼は悟る。自分が手を出してはいけないものに手を出してしまったという事実。そして、神をも屠る存在がこれほどまでに多く存在しているという絶望。
「……さっさと失せろ、クソ野郎!」
遠くから己を睨む子供が、そう叫ぶのを耳にしながら、彼の身体は後方より迫る巨大なサメの大きく開かれた口の中に吸い込まれていった。めりめりと巨体を飲み込み噛み砕く苛烈な咀嚼音が響くのも僅かな暇。アマミの操る巨大ザメが咀嚼した邪神を飲み込むのと同時に、この空間を支配していた重圧感は瞬く間に消え失せ、同時に不気味に蠢き続けた異空間もその四方八方が崩れ落ちていく。
やがて猟兵たちの視界に飛び込んでくるのは、抜けるような青空に差し込む陽光。そして、彼らの眼前には無惨に崩壊した廃ビルの残骸が此処で起こった出来事の断片的な証拠として辛うじて存在しているだけであった。
「ほれ、見たことか。やはりオチの付け方も三流じゃ。下らぬ邪神の仕事らしい雑っぷりではなかろうかの。妾らが演出してやってちょうどというものよ。かーっかっかっかっか!!」
瓦礫の山に駆け上がればその一番高いところに陣取り、腕組みしながら得意気にけらけらと笑う少女。その姿をぼんやりと見遣りながら、地べたにへたり込む少年は自分が日常へと帰ってきた事を半信半疑ながらも実感する。一時の好奇心のために失ったものの重みを抱えながらも、彼がその重圧に屈することはないはずだ。
「……立てるか」
差し伸べられた背の高い男の手を、少年は首を振ってやんわりと断る。
「大丈夫。俺……もう、一人で歩けるから」
「……そうかい」
自分を庇って消えていった者たちのためにも。そして、圧倒的恐怖の根源たる邪神を颯爽と打ち砕いたヒーローたちの勇姿をその記憶の中に鮮やかに留めている限り。少年の心はきっと死の恐怖にも負けはしない筈だ。
大成功
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