それは決して満たされぬ
すいています。
すいています。
だから、どうかアナタの全てをボクに下さい。
「好きという感情も様々ですよねぇ」
揺れる頭部の兎耳。
生来のそれでなく、後付けのそれを揺らしながらハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)は、どこか困ったように言う。
「さてさて、本題をばぁ。ええとぉ、今回の御案内させて頂く世界はですねぇ、ダークセイヴァーになりますよぅ」
そこがヴァンパイア――オブリビオンに支配された世界というのは、猟兵達も知る所であろう。
だが、昨今ではそれも少しばかり事情が異なる。
「知っているヒトもいらっしゃるかもですがぁ、最近は皆さんの活躍とかの世界の住人達の活動によってぇ、僅かながらでもヒトのための活動圏が生まれつつあるそうですよぅ」
ヴァンパイアの支配が及ばない人類の活動圏――通称「人類砦」。
それは猟兵達の活躍によって希望を得たヒトビトが生み出した拠点。
今回はその内の一つが舞台となる。
「そこはですねぇ、山岳にある小さな砦ですぅ」
いつからあるのかは分からないが、打ち捨てられた古い砦。
山の中ほどにあるそこを中心として、ひっそりと広げられたヒトの活動圏。
小さくはあるが畑もあり、山から流れ出る水の流れは川となり人々を潤す。
そして、近くには火山もあるのだろう。温かな湯――温泉とも言えるものが湧き出、心身共にヒトビトを癒してもいるそうだ。
それらだけを聞けば、何の問題がとも思うことであろう。
だがしかし、こうして猟兵達に依頼として持ち込まれるということは――。
「その場所がぁ、オブリビオンの襲撃を受けますぅ」
――その答えに行きつくことは難くないことであった。
「と言ってもぉ、その柱となるオブリビオンにぃ、そのつもりはないのでしょうけれどもぉ」
はて、いかなることか。
そう言いたげな猟兵の顔もちらほらと。
「彼というかぁ、彼女というかぁ、そのオブリビオンからすればぁ、これは好意の現われなのですよぅ」
ハーバニーに曰く、そのオブリビオンはヒトを好いているのだ、と。
ヒトに憧れ、ヒトの美しさに惹かれ――そうであるだけならば、どれだけ良かったことだろう。風変りと言えるだけで済んだことだろう。
だが、その好意の枠はヒトのそれに収まるものではない。それ故の。
「価値観というかぁ、見ているものがぁ、根本から違うのでしょうねぇ」
最初に零した時と同じく、どこか困ったようにハーバニーは零す。
そして、勿論ながら脅威はそのオブリビオンだけではない。
彼か彼女か、そのオブリビオンが率いるというよりは、自然発生的に付いてきてしまった者達もまた脅威。
猟兵達が現場に付いた時には、それらが波となって押し寄せ、戦闘は開始されていることだろう。
過去からの波に呑まれぬよう、砦のヒトビトも抵抗を勿論しているが猟兵程の強さを持つ者はいない。
ならば、今回の依頼の目指すべきは――。
「人類砦を守りながらぁ、オブリビオンの全てを討ってくださぁい」
人類砦へと取りつかんとするそれらを排除し、襲撃の柱たるオブリビオンを討つ。それが猟兵達に求められることだ。
「希望の萌芽。それを守り抜けるのは、皆さん以外にはありません」
それを確かな希望として世界へ根付かせるために。
さぁ、剣戟と喧騒のただ中へと。
ゆうそう
オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
ゆうそうと申します。
ダークセイヴァーで生まれた希望。
それはまだ小さくとも、いずれ大きな光となることでしょう。
その日を彼らに見せることが出来るかどうかは、皆さんの手腕にかかっています。
以下、補足。
第1章。
人類側は山岳の地の利を生かし、高所や砦よりオブリビオン側を攻撃しています。
しかし、数の差と力の差は明白であり、オブリビオンの集団はじわりじわりと迫っています。放っておくと、オブリビオンの波に呑まれることは間違いありません。
なお、非戦闘員は既に砦内部に逃げ込んでいます。
第2章。
第1章の集団戦で力を見せつけることが出来ていれば、必然として猟兵を狙ってきます。
第3章。
戦闘を終えての日常となります。
土地の名物でもある温泉で疲れを癒したり、復興のお手伝いをしたりと自由にどうぞ。
なお、温泉の入浴施設はありますが、現代のものに劣ります。その分、開放感や肌で感じる自然があります。
それでは、皆さんのプレイング、活躍を心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『満たされることは無い飢餓者』
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POW : 分解作業
【手に持った武器】が命中した対象を切断する。
SPD : 捕縛行動
【獲物を押えつける為の死角からの攻撃】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 共食い
戦闘中に食べた【死体の肉】の量と質に応じて【さらに上質な肉を求め】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
イラスト:森乃ゴリラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
山裾より伸び来る影はまるで津波。
押しては寄せて、押しては寄せて。討てども、討てども、その数は減らず。
「押し込まれる! 一旦下がれ、さがぎゃあ!?」
影の群れ――痩せ細った死体の群れの中に、赤が飛び散る。
それに呑み込まれた者がどうなるか、言葉にするまでもない結果がそこに。
だが、波がたった一人の犠牲で止まる筈もない。
山の斜面に生えた草を踏み、岩肌を越え、それは確かに砦へと迫っていた。
「諦めるな。諦めるな! ここは希望の地。私達の、人類のための砦なのだ!」
落とされてはならない。呑み込まれてはならない。
そうなってしまえば、折角と芽吹いた希望が、ここに至るまでの犠牲が、無意味になってしまうのだから。
最前線で粗末な刃を振るう男達を援護するように、砦から飛び来る矢。
ドスリドスリと音を立て、迫りくる波に突き立つが――その足を僅かと遅めたのみ。
波から無数の、終わりを齎す手がヒトビトへと伸びる。
――その時であった。
「これは、光? いったい、何が……」
暗雲を晴らすかのような光が満ちる。砦と波とを隔てる壁の如くと。
そして、全ての視線が集まる中、ざりと足音が暗黒の世界に刻まれる。
それこそは世界の壁を越えて来る者。新たなる希望――猟兵の到来を此処に知らしめる音であった。
シャルロット・クリスティア
【銀蒼】
純粋な戦力不足で押されているようですが……。
立地は上々、防衛戦に向いた良い場所です。
山間の高所を陣取り、射線と視野を確保。迎え撃つとしましょう。
ユアさん、前衛は任せます。いつも通り、こちらで掻き回すのでトドメは任せますよ。
機関銃をフルオートに。相手が物量で来るならこちらも物量で押しとどめる。
下手に分散させないように、端から追い立てるように撃って行きます。
極力、一カ所に密集させる。
そうすれば身動きも取りづらいでしょうし、死角に回られる心配もない。
何より……その方が『殺りやすい』でしょう。ユアさん、存分にどうぞ!
ようやく芽生えた希望を踏み荒らされるわけにはいかない。
……守ってみせますよ。
ユア・アラマート
【銀蒼】
よし、シャル。まずはいつも通りだ
背中を任せる。逃げ遅れた人がいたら一緒に連れて行ってくれ
ああ、よく頑張ったな。後は任せろ
後方支援をシャルに任せ、自分は敵の真っ只中へ
味方を巻き込むと危ないからな、少し離れよう
できるだけ、一度に倒す敵は多い方がいい
死角から迫る敵は【第六感】と【見切り】で回避し、周囲が敵だけになった所で術式を起動
全てを切り裂く斬撃の嵐で、まとわり付くものは全て切り刻もう
まあ、そうでなくても死角を取られる心配はしていないよ
そうだろうシャル。お前の目も、お前の銃弾も、これしきの敵を仕留めるのであれば事足りすぎる
さあ来い、私達がお前達をただの躯に戻してやる
あとは安らかに眠りにつけ
伸び来る手は生命の気配を欲してやまぬ。
いのちを、いのちを、いのちを。
満たされぬ飢餓を少しでも癒さんと、彼らの歩みは止まらない。
だが、彼らの歩みが止まらぬということは、それ即ち、彼らの過ぎ去った後に残るのは横たわる死だけだ。
だから、ヒトビトは抵抗をする。
それに呑み込まれまいと。それの一部となるまいと。
しかし、数の差は圧倒的。希望と共に人類がそれに呑み込まれるのも、時間の問題であった。
――そう。輝きが世界を満たし、その雨が降り注ぐまでは。
「立地は上々、防衛戦に向いた良い場所です」
高所より降り注いだ雨は地を濡らさず。しかして、死者の身を穿ち、地を耕し、迫る波を飛沫と砕く。
突然の出来事に、死へと抗うヒトビトが思わずとその出所を見上げる。
――漂うは硝煙の香り。輝くはこの世界で失われて久しい蒼天の彩。
吐息吐き終えた武骨なる愛銃。それを手に、彼女は――シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)の姿は確かにそこにあった。
「惜しむべきは純粋な戦力不足。ならばこそ、私達がそれを補いましょう」
――そうですよね?
虚空に投げかけたシャルロットの言葉。
それに応えるは――。
「ああ、その通りだ」
――死の波間に揺れた銀の彩。
伴う剣閃はさやりと吹き抜ける涼風。死者の身を断ち抜ける音すらも響かせず、終わりなき歩みへと静かに終わりを刻み込む。
己が手により凪いだ波間。そこからトンと身のこなしの音も軽やかにと銀彩がヒトビトの前へ舞い出れば、香るは死臭に非ず。それは花の香か、はたまた生命の香か。
「よく頑張ったな。後は任せろ」
不思議な香りを纏った彼女――ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)。
彼女の刻んだ剣閃とシャルロットが穿った弾丸の雨。
突然のそれらと遠のいた死の手招きに、ヒトビトはようやくと呼吸を思い出す。中にはへたり込むものすらもあった。
「だが、安堵するには少し早い。そういうのは、しっかりと下がって、安全を確保してからだ」
「あ、う、後ろ……!」
そう。そこはまだ血腥き戦場の地。油断はすぐに死神を連れてくる。
水が再びと形を戻すように、死者の群れもまた同じく。
ユアの背後からその麗しきを摘み取らんと手を伸ばす。
それに気付かぬユアではないけれど、彼女の第六感とも言える経験が囁くのだ。
「いつも通りに、だ」
「勿論。いつも通りに、です」
――それが自身に触れるを叶えられる筈もない、と。
鷹の眼の射手が、射抜くべきを定めた弾丸の主が、そこにはあるのだから。
そして、ユアをして一目を置くシャルロットへの信頼があるからこそ、彼女もまた安心してその背を任せるのだ。
故に、此度伸ばされた死神の手は、ただ虚しく砕け散るのみ。
「ほら、さっきも言っただろう。後は任せろとな」
「皆さんは一度後退を。態勢を立て直して下さい」
降り注ぐ弾丸の雨が、吹き抜ける剣閃の風が、死者の波を止める。その間に下がれと彼女たちは言っているのだ。
それを分からぬヒトビトではなく、自分達がこの場において足手まといになりかねないと分からぬヒトビトでもない。
「す、すまねぇ……!」
「おい、手を貸せ! 動けないヤツらを運ぶぞ!」
「あんたらも、危なくなったら逃げろよ!?」
謝罪と感謝と、口々に零しながら、彼らは身を引きずりながら下がっていく。
あのまま介入がなければ、限界はそう遠くなかった。
だが、シャルロットとユエの存在が彼らを救ったのだ。既に出た犠牲もあっただろうけれど、それでも、まだ生きている彼らを確かに。
「背中は任せる」
「前衛は任せます」
いつも通りに。
今更言うことでもなかったか、と思わず口元に描かれる弧は両者共に。
数多の敵を前にしても、二人の常は崩せず。
下がっていくヒトビトを守るために、死の波をただの骸へ戻すために、いざ。
「ようやく芽生えた希望を踏み荒らされるわけにはいきません」
戦場となったために踏み荒らされた大地。
ヒトビトの作った畑の名残も無残な姿を晒している。
だが、それらはまだ作り直せるのだ。人類と、彼らの内に宿る希望さえあれば。
だからこそ。
「――守ってみせますよ」
蒼の双眸に宿るその決意は揺らがない。揺らぎようがない。
既に初弾は撃ち込んだ。
その折、逃げるように動いた者、それでもと挑むように進んだ者。様々な反応をも、シャルロットの瞳は見ていた。
ならば、その瞳から、銃口から、逃れる術などあろう筈もない。
「まぁ、狙いをつけるまでもないんですけれどね」
戦場を俯瞰する視界の中、黒々と敷き詰めるように迫りくる死者の波。
これでは狙撃手としての腕よりも、掃除人としての腕が必要か。
苦笑を口の端に乗せながら、それでもシャルロットの指先は思考から切り離されたかのようにトリガーを引く。
そして、放たれた弾丸はその先の結果を見る必要性もない程に。
「逃げても構いませんが、方向を見誤っていますよ?」
弾丸の雨の中、一箇所だけ開けた逃げ道。そこへと殺到する死者。そうなるように仕向けたのはシャルロット。
さて、ここからは成果の収穫をする番だ。
「――ユアさん、存分にどうぞ!」
「いい仕事ぶりだ。流石だな、シャル」
波間深くに踏み込んで、舞い踊り、斬り裂くは銀色の。
舞台の中央に至れば至る程、ダンスの相手を申し出るように伸び来る手は増える。
それは正面から、側面から、背面から。
死角も何もない程に、引く手数多の舞台の花。それが今のユアであった。
だけれど、ユアはただ無残に引き裂かれ、散るだけの花に非ず。
「術式、起動」
一つ、二つ、三つ。施された術式回路が励起すれば、その身に宿るは莫大なる力。
今の彼女には、全てが視えていた。追い立てる銃弾により作られた、死者の檻の全てが。
重苦しい死の中、跳び込んだのはユア自身。だけれど、そう、これは違う。彼女が繋ぎとめられるに相応しい檻ではない。
ならば、いつまでもとここにあるのも違うのだろう。
だからこそ、それは放たれる。
「ただの躯に戻してやろう」
――透過驟閃『斬撃廻廊』。
ユアを囲う檻を裂く、斬撃という名の概念。それは肉を裂き、骨を断ち、死者の念をも斬るモノ。
死角をすら塗りつぶすそれは、正しくユアの周囲全てを斬り裂き、檻を開くに余りある。
「安らかに眠りへつけ」
概念の風が吹き抜ければ、後に残るは広々とした開放感のみ。
そこに彼女を繋ぐ檻は最早跡形もない。
そして、見上げたユアからはシャルロットの蒼が、見下ろすシャルロットからはユアの銀が、互いによく見えていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
上野・修介
※連携、アドリブ歓迎
「猟兵です!助けに来ました!」
まず味方であることを『人類側』に伝える。
最前線に立ち、そのまま戦線を押し上げる様に戦闘。
攻めを受け持ち『人類側』には守りに徹して貰う。
「推して参る」
呼吸を整え、無駄な力を抜き、戦場を観【視力+第六感+情報収集】据える。
敵味方の戦力、総数と配置、周囲の地形を確認。
得物は素手格闘【グラップル+戦闘知識】
UCで防御強化。
【フェイント】を掛けながら狙いを付けらないよう常に動き回る【ダッシュ】か、近くの敵か周囲の遮蔽物を盾【地形の利用】にして出来る限り被弾を減らしつつ、相手の懐に肉薄し一体ずつ確実に倒す。
囲まれそうになれば迷わず退き【逃げ足】仕切り直す。
雨宮・いつき
ようやく灯りだした人々の希望を、潰えさせるわけにはいきません
例えそれが小さな灯火であろうと、その火が人々を、人の世の理を照らす事に変わりはないのですから
御勤め、此度も果たさせて頂きます
数は多いようですが、地の利は此方が上と見ました
ならばそれを活かさぬ手はありません
砦の傍に玄武を呼び出し、難攻不落の要塞と致しましょう
砲撃による【範囲攻撃】で、登り来る亡者達を砦の方達と共に迎え撃ちます
前線の方達を巻き込まぬよう、後方の集団に狙いを定めて下さい
前線にやって来る亡者達は、
玄武から放たれる霊達に相手をして頂きます
雷纏った槍で穿ち焼き払い、その腕で今一度、彼らを餓鬼道へと引き摺り戻して下さい
迫りくる死の波は絶望の象徴。
今迄であったのなら、人類砦という希望がなかった頃であれば、恐らくはヒトビトがそれに抵抗するという発想すらなかったことだろう。
だが、今ここにそれはある。風に吹き消える程の仄かな灯火であったとしても、確かな希望の萌芽として、人類砦はそこにあるのだ。
ならば、その希望の芽を摘ませまい。
波と押し寄せるならば、波砕く防波堤とならん。
灯火掻き消す風ならば、風より守る壁とならん。
そのためにこそ、彼らはここに駆け付けたのだから。
「猟兵です! 助けに来ました!」
剣戟響く戦場の中にあってもなお、はっきりと届く大音声。
それこそは希望の到来を輝きと共に知らしめるもの。上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)が声。
それは迫り来る波濤にとっては、脅威示す咆哮の如く。
それは抵抗する人類にとっては、援軍示す銅鑼の如く。
広がり、伝わり、ここにありと示すのだ。
しかし、駆け付けたるは修介のみに非ず。
「ようやく灯り出した人々の希望を、潰えさせるわけにはいきません。例えそれが小さな灯火であろうとも」
しゃらりと揺れた衣擦れの優雅。
未だ光差さぬ世界を見据えるレンズ越しの瞳は、それでもそこにある希望の灯火――ヒトビトの姿を確かと捉える。それこそは守るべきものと、その青の瞳に見据え見て。
再び響いた衣擦れの音は、彼がその身に背負う勤めを果たさんとするための。
そう、それこそは雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)。
昏き世界を照らす可能性。ヒトの世の理を照らさんとする者達を守らんと、彼もまた馳せ参じたのだ。
「数は多いようですが、地の利は此方が上と見ましたが……如何思います?」
「ここまで持ち堪え続けたのは、彼らの意思も勿論ですが、それもあったからでしょう」
二人が見据える視界の先には、懸命に死の波濤を受け止める者達の姿。
高所を活かし、地の利を活かし、絶対的な数の差に呑み込まれるを僅かでも遅らせんとする。
「ならば、それを支えるべく」
「俺は彼らの拳として」
「僕は彼らの盾として」
「――推して参る」
「――御勤め、此度も果たさせて頂きます」
力強く地を蹴る脚の躍動が、舞い踊る術符の幻想が、戦場に新たな彩りを加えていくのだ。
吸い込んだ空気の味は戦場のそれ。鉄と死と熱気を孕んだ。
今更とそれに眉を顰める程に、修介の心は軟ではない。
だけれど、その空気の一部になる者を少しでも減らさんと、彼は駆ける。
そして、斜面を駆け抜けた速度もそのままに、ダンと地を踏みしめた脚は軽々と修介の身を宙へと押し上げ、死者達の前にその身を運ぶ。
くるり宙にて一回転。そして――。
「そこを退け」
零れ落ちた言葉は秘めた獣のそれ。
その獰猛さを示すかのように、ヒトビトへと向けて武器振り上げる死者を目掛け、断頭台の刃が落ちる。
――その蹴りの鋭さは刃よりなお鋭い。
宙より降った修介の脚。それは正しく戦場の空気を、死者を武器ごと、断ち割っていた。
「ご無事ですね?」
「た、助かった、のか?」
「ええ。少なくとも、今、この瞬間は」
二つに断ち割れ、どさりと倒れる骸の身体。その向こうには傷負い、へたり込んだ男の姿。
だが、会話もそこそこに、修介の瞳は迫る刃の気配を見逃しはしない。
その耳朶が拾い上げた風切り音。
考えるより早く身体は動き、腕は動き、振るわれた死神の鎌を払いのける。
「不意を打つにも、お粗末がすぎるな」
受け流し、返す拳でその顔面を打ち砕いて、どさり積み上げる二つ目の骸。
呼吸に乱れはあろう筈もない。
地を踏みしめる脚に揺らぎがあろう筈もない。
戦に臨む意思に油断があろう筈もない。
「皆さんは後退して守りに専念を」
「だ、だが、あんただけでこれだけの数を……」
「――いえ、大丈夫です。俺だけじゃ、ありませんから」
「な、なんだぁ、あれは!?」
修介がその手足で骸を積み上げる中、ヒトビトが見上げた景色の異常。
先程まで何もなかった筈のそこに、異世界より招かれし獣があった。
「さぁて、此処は一つ、大仕掛けと参りましょう」
ヒトビトがそれに気づく僅かばかり前、静かに響いたは修介を見送ったいつきが声。
その瞳には理知が宿ってはいたけれど、僅かと垣間見えたはこれから行う仕掛けへの高揚か。
その感情へ呼応するようにその周囲でゆらゆらと術符は揺れて、ぼうと宿す輝きがその身を浮かび上がらせる。
「北方を司りし堅剛なる獣よ」
鞭声粛々。しかして、その声は力強く。
呼び掛けるは世界の壁を越えたその向こう。
「――その海嘯が如き猛撃を以って」
舞い踊る術符は虚空へ昇り、広がり、まるで陣描くように。
「――遍く侵掠を薙ぎ払い給え」
結びの言葉。招きの言葉。
それがトリガーとなり、かの者はこの世界へと足を踏み入れる。
『それ』は見上げるほどの、ともすれば人類が築き上げた砦と同じ程の大きさの亀であった。
だが、いつきの招いた『それ』が、ただの亀であろう筈もない。
その身――甲羅より突き出るは鈍い輝きを放つ戦艦の如き砲。背に負うは数にして三百を優に超える深き者達。
そう。それこそは四方世界の護り手。四聖獣が一。玄武の名を冠する者也。
ゆるりと理性の輝きがいつきを捉えた。それはまるで、指示を待つかのように。
「登り来る亡骸達を一掃します。前線の方達を巻き込まぬよう、後方の集団に狙いを定めて下さい」
応え、指し示す指先は白魚。それが示した先にあるは死者の集団とそれを迎撃する修介達の姿。
理解を示すかのように、玄武の瞳が二三瞬き、そして。
「――いざ、彼らを餓鬼道へと引き摺り戻さん!」
咆哮の代わりに砲口が火を吹き上げ、深き者達が三叉を掲げ行く。
それは死者の欲する命に代わり、その身に砲弾と雷をたらふくと御馳走し、彼らを焼いていくのだ。
「あ、あんた達……」
「言ったでしょう? 俺だけではない、と」
ヒトビトを前にして足を止め、語るは修介。その横を追い抜いて、深き者達が波へと挑んでいく。
そして、修介によって指し示された景色の中で、数の差が生み出す天秤の傾きが正され、均衡へと戻されていくをヒトビトは見る。
「少し、仕掛けに時間が掛かってしまいました」
「いいえ、問題はありません。十分です」
ひらりと舞い降り、修介の隣に並び立つはいつきが姿。
劣勢を均衡へ。瞬く間に天秤の傾きを戻した二人。その存在はヒトビトの心に生存の未来を、希望を広げていく。
「あ、ありが――」
「感謝は、全てが終わってから頂戴しましょう」
「今はどうか、生き残ることをこそ優先して下さい」
誰かの零しかけた感謝。だが、それを贈られるにはまだ早い。
だからこそ、彼らはそれを遮って、未だ緩まぬ緊張の糸を張り詰めさせ続ける。
かの大群を押しのけてもなお、まだそこには確かな脅威が潜んでいると知るからこそ。
暴食のスタンピード。その原因たると出会うには、まだ今暫し拳を、術符を振るう必要があるだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
トリテレイア・ゼロナイン
この物量の攻勢が偶発的とは…災難という物でも限度があります
人々に降り掛かる災禍を払うのは騎士の務め、加勢させて頂きます
機械馬に乗りUCも併用し敵に突撃
山岳地帯の騎馬突撃だろうと、重心制御機能由来の●騎乗能力、●暗視とセンサーの●情報収集による●地形の利用で縦横無尽に踏破
●怪力のランスと馬の●踏み付けで当たるを幸い薙ぎ倒し
前衛となっていた「人類砦」の人々を●かばいます
負傷者は後退を
戦えるものは私に続いてください!
討ち漏らしを任せ頭部や肩部格納銃器の●なぎ払い掃射も併用し押し返し
ヒトを好いても価値観が違う
刃を振るうに躊躇いは無くとも、その類の敵との相対は気が重くなります
此度『も』覚悟をしなくては…
「この物量の攻勢が偶発的とは……災難という物でも限度があります」
世界を跨ぐ光の先。そこにあるだろうは溢れかえる死の足音。
聞けば、それはとある存在があったが故に生じた、ただの偶発的な産物だという。
では、いったい何故、満たされぬ飢餓を抱えた死者達が呼び起こされたのか。
それを引き起こすだけのものが、まだ見ぬ存在にあるということだろうか。
ならば、伝え聞いたそれの抱える好意の正体とは――。
「……いえ、今は考察に時間を割く余裕はありませんね」
情報の通りであれば、今は火急の時である筈。余分に意識を割くことは危険だ。
ただ、言えることはただ一つ。
「此度『も』覚悟をしなくては……」
怪物がヒトを好いたとしても、それがヒトにとって良いものであるとは限らない。
だから、必要とあらばその好意を否定してでも、討つ必要があることを。
――世界跨ぐ光を抜けた。
センサーが光に対する順応を自動で行い、そこにある光景をタイムラグなく映し出す。
それこそは。無辜の民がその手に粗末な刃を持ち、懸命に死へと抗う光景。
悲鳴が、怒声が、不協和音の足音が。戦場に満ちる音の数々を、その身に搭載するセンサーは余すところなく拾い上げていく。
――コアユニットが思考を弾き出すより早く、かの身が集め、宿してきた物語が熱く脈打った。
響くは嘶き。鋼鉄の嘶き。
それは悲鳴も、怒声も、不協和音も塗りつぶし、世界に高らかとその存在を主張する。
一瞬の静寂が場を支配し、死へと抗う民も、それを呑み込まんする筈の死者でさえも、無意識に『それ』を見ていた。
それこそは闇の世界にあってもなお失われぬ白銀の輝き。堂々たる体躯を惜しげもなくと晒し、それを支える白馬に跨る姿は勇壮そのもの。
「人々に降りかかる災禍を払うのは騎士の務め」
眼前に掲げた槍の穂先は天を指し示し、それはまるで騎士が誓いを立てるかの如く。
そして、掲げられていた槍が死者達を指し示すように構えられる。
「――加勢させて頂きます」
弾丸の――否、砲弾の勢いをもって、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)がロシナンテを駆り、地を蹴り放った。
巌が落ちてくる。
トリテレイアが守るとしたヒトビトをして、そう思わせるほどの勢い。
だが、それも無理からぬことだろう。
トリテレイアをして、その身の丈は3m弱。そこに白馬の姿を合わせれば、ある種、当然の想いとも言える。
しかし、それは斜面を転がり落ちる巌の速度を持ちながら、まるで羽毛のようにふわりと宙をも舞ったのだ。
それは巧みなる騎乗の手腕。地形を読み取り、踏破するトリテレイアの。
斜面を蹴って跳んだトリテレイアの視界の下、唖然とした表情のヒトビトの姿――傷だらけの、疲労を積み重ねた姿。
「振り下ろされる刃は、こちらで引き受けましょう」
質量はそれだけで十分すぎる武器となる。
過ぎ去ったヒトビトを背後に、白馬がその質量でもってヒトビトへと迫らんとしていた死者の一部を踏み砕いた。
だが、まだ止まらない。慣性をそのまま利用して、薙ぎ払う槍は下生えの草を刈るかのように。
死者の波の中、瞬く間に築かれたは橋頭保。
「負傷者は後退を! 戦える者は私に続いて下さい!」
誰に言ったのかなど、考えるまでもない。
そこにあったのは劣勢を押し留め、終わりの時をその身でもって引きのばし続けていた者達だ。突然の出来事に忘我することこそあれども、齎された機を逃す程に温くはない。
「はは、まさか生き残る目が出るなんてな!」
「馬鹿言ってる暇があったら、態勢を立て直せ!」
態勢を立て直す間、追撃がないことは理解している。何故なら、刃の全ては彼らではなく、トリテレイアへと向かっているのだから。
だけれど。――否、だからこそ、その恩に報いるべきと彼らは動くのだ。
トリテレイアの振るう槍が、銃器の咆哮が、楔となって波間を拓き、それをじわりじわりとヒトビトが押し広げている。
此処に、劣勢は覆されるを見るに至ったのだ。
成功
🔵🔵🔴
フィランサ・ロセウス
人が大好きなオブリビオン?
ふふっ、私もその子を“好き”になれそう!
その本命はまだみたいだけど、いきなり地獄みたいな光景ね!すごくいい眺めだわ❤
こっちに向かってきている集団はゾンビなのかしら?
壊(あい)し甲斐はなさそうだけど、数が多くて目移りしちゃう❤
ただ、まとめて来られると大変だわ
だから私のUCの迷宮に閉じ込めちゃいましょう
たくさんの鉄格子に阻まれて、
砦を攻めるのも、誰かを襲うのもやりにくくなるはずよ
だけど私だけは何にも阻まれる事なく動き回れるから、
まごまごしている所を思いっきり壊してあげるの❤(地形を利用)
とあるオブリビオンの抱いたヒトへの好意。
だけれど、それが齎したものは眼前に広がる地獄絵図。
死者が闊歩し、生命を摘み取らんと手を伸ばす。
生者が足掻き、生存を掴み取らんと手を伸ばす。
まさしく修羅の巷。あぁ、これはなんて――。
「なんて素敵な地獄の光景!」
感情の彩は恍惚。漏れ出る言葉は愉悦。
飢餓を癒す。生き残る。生の感情を剥き出しにして、血で血を洗う。
その光景に覚えるものが恍惚でなくて、愉悦でなくて、なんだというのか。
少なくとも、その紅の中にどろりと渦巻くものを宿したフィランサ・ロセウス(危険な好意・f16445)には、そう思えて仕方がなかった。
「嗚呼、早く会いたいわ。人が大好きなオブリビオン! こんな光景を生み出す子なんだもの、私もきっとその子を“好き”になれそう!」
だから、その本命との出会いが待ち遠しい。待ち遠しいというのに、だ。
「あら、少しはしゃぎすぎちゃったかしら?」
声を聞きつけたのだろう。その彼女に歩み寄るのは、生者であれば誰彼構わずな死者の群れ。
それは少しばかりフィランサの好みとは異なるもの。だけれど――。
「壊し/愛し甲斐はなさそうだけど、数が多くて目移りしちゃう❤」
それでも、歩み寄ってきてくれるのだ。ならば、この手を広げて歓迎しようではないか。
日曜大工の準備もOK。穴掘り、解体なんでもござれ。素材は向こうからやってくる。
さて、どうやって壊そう/愛そうか。
「でも、一斉にだと歓迎もしきれなくなりそうだから」
――愛の迷宮へとご招待。
そして、彼女の愛が世界を塗りつぶす。
そこは監獄。愛の監獄。鋼鉄と鋼鉄が檻なすフィランサの世界。
突如として出現した鉄格子の迷宮に、死者達の足も止められる。
だけれど、その視界の先――鉄格子の向こう側にはフィランサという絶好の獲物。
ならば、彼らがその命へ手を伸ばすを諦める筈もない。彼らを支配する飢餓が、諦めるを赦す筈もないのだ。
「ふふっ、そんなに求めて、情熱的なのね❤」
好みではなかったけれど、絆されてしまいそう。
鉄格子越しに伸びくる手。ガチリガチリと噛み合う歯の音色。
「嗚呼、いいわ。一人ずつ、一人ずつよ?」
まるで飴細工のように、フィランサが通る場所だけ鉄格子が曲がりくねる。
だけれど、彼女が通り抜ければ、ほら、それは元通り。
なにも不思議なことは無い。だって、ここは彼女の世界。彼女の愛をなすための世界なのだ。
ならば、その主たるフィランサの行動を鉄格子が邪魔をする筈もない。
「こんにちは。どうぞ、こちらへいらっしゃい?」
一人の死者とフィランサとの間を妨げるものなどなきダンスホール。
歓迎するように手招きすれば、その隙だらけのようにも見える姿へ死者も逸る。
早く、その身をに歯を突き立てんと。命を喰らわんと。
そして、その情熱へと応えるように、紅の瞳もまた渦巻く愛を燃え上がらせる。どろりどろり、と。
だが、知るがいい。それは燃え上がれば燃え上がる程に、他者を焼き尽くさずにはいられない炎。
眼前のフィランサを喰らわんとした死者。それを歓迎したのは、頭部に突き刺さった刃。
刺しこみ、捻じ込み、ぐちゃりとかき混ぜれば、びくりと痙攣一つを起こして死者は骸へと還るのみ。
「なんてこと! あまりにもあなたが情熱的だったから、私もつい逸ってしまったわ!」
本当はもっと楽しむつもりだったのに。
本当はもっと好きの形をぶつけるつもりだったのに。
ああ、でも構わない。だって。
「さあ、さあ、さあ! 楽しい楽しいゲームを始めましょう?」
ここにはまだまだゲストは沢山いるのだから。
最早動かなくなった骸には目もくれず、フィランサの好意は次を求めて彷徨い、揺れる。
今度はちゃんと愛さなきゃ。
今度はちゃんと――。
「あなた達もちゃんと愛してあげるからね?/今から、殺してあげるからね?」
形だけの笑み。狂気は嗤う。
迷宮が愛/骸で満ちるのは、きっとそう遠くない未来のことだろう。
成功
🔵🔵🔴
テイラー・フィードラ
亡者が我が物顔で闊歩してよい訳がないだろうが。とっとと去れ。
フォルティに騎乗し突撃。餓鬼共を撥ね飛ばしながら長剣を抜き、戦士たちを喰らわんとする手を切り飛ばし撤退を支援しよう。
だが、数が多い。喰らい付く口もだが錆びた武器は厄介な病を引き起こし面倒であろう。
ならば悩みの種を踏み砕かん。
我が声を聞け。汝らは救われぬ存在であれど、腹満ちぬという衝動のまま襲う罪人である。
故に『其の手に持つ武装を捨てよ』。
沙汰待つ罪人が武器を持つなどおかしい話であろう。
それで武器を捨てるような輩がいるならば即座に駆け、切り捨てよう。だが大多数は捨てんはずだ。ゆえに偽権執行である。捨てなかった武器で己の口を切り刻め。
地獄の釜の蓋が開いた。
死せる亡者が我が物顔で地上を闊歩し、生ある者を追い詰める。
それはまさしく、その言葉が相応しいものなのだろう。
「ふん。そうであってよい訳がないだろうが」
だが、その光景に異を唱える者が此処にはあった。
不条理を踏みつぶす蹄。不浄なりしを断つ刃。
砕かれ、絶たれ、死者はその命を大地へと還す。
代わりに残ったのは――。
「あ、あなたは……?」
珠の緒が断たれる間際で繋がれたヒトビトの姿。
容易くと死者を屠ったかの姿。ぶるりと馬の嘶き残す、馬上の主を彼らは見る。
「貴殿らの奮闘に意味はあった」
「……え?」
「いずれ呑み込まれると知りながら、それでもなおと戦ったことに意味はあったのだ」
そうだ。彼らの奮闘があったからこそ、この援軍は、猟兵達は間に合ったのだ。
それを知るからこそ、馬上の主――テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)は厳粛なる言葉をもって、その功を労う。
傷だらけの民。滅びを待つだけであった民。既にここにはない民。
それはもしかしたら、在りし日の過去を重ねただけなのかもしれない。巨大な竜に蹂躙された、かつての国を。
だが、最早それはさせぬ。下手人違えど、再現などさせぬ。
かの日に味わった血と屈辱は、もう二度と味わうつもりがないのだから。
「此処は私達が引き受けよう。傷を負いし者達は疾くと退け」
ともすれば、突き放すようにも取れる言葉。だけれど、その芯にあるのは気遣いだ。
だからこそ、その言の葉から滲む想いは確かにヒトビトへと届く。
「申し訳ありません。どうか、どうかお願いします。ですが、あなたも――」
「案ずるな。数は多くとも、所詮は有象無象だ」
「……ありがとうございます」
身体引き摺り、斜面をあがる者達。肩を貸し合い、砦へ向けて。
その背を見送るテイラーの顔は、その暫しの時のみ厳めしさが消えていた。
だが――。
「さて、待たせたか」
それも振り返り、迫りくる無粋な死者達を捉えた時には既にない。
代わってあるのは、眉間に刻まれた皺。吊り上がった眦。王の顔。
「――と、言っても、汝らは介さまいな」
その言葉を証明するように、迫りくる死者達が奏でるは不協和音。
ずるり、ぺたりと地を踏む音と、引き摺りたてる金属の音。
死者達が持つは剣に斧に、槍、刃。いずれも錆付き、その切れ味には疑問が残る。
だけれど、ヒトを掴み殺す程の膂力がある死者が振るえば、それはまさしく肉切り包丁と化すことだろう。そして、それだけではない。錆びた刃が食いこんだ肉に残す汚濁は、その身を蝕む毒となることは間違いない。
「それに捉えられるつもりもないが、策は講じさせてもらうぞ」
高まる戦意。ぶるりとフォルティも鼻息荒く。
しかし、まだ早い。まだ、まだ、まだ。
「其の手に持つ武装を捨てよ」
それはただの言葉。だがしかし、王の言葉でもあった。
金属の奏でが止まる。まるで勅命を受けた兵達のように、ぴたりと。
「そうだ。汝らは救われぬ存在であれど、腹満ちぬという衝動のまま襲う罪人である」
故にこそ、本来であればその罪の裁きを待つ筈の者達が武器を持つなどおかしな話。
テイラーはそう言わんとしているのだ。
だからこそ、彼は今一度、死者達に告げる。
「其の手に持つ武装を捨てよ」
と。
だが、地獄の釜より這い出てきた者達が、果たして王の言葉を聞くだろうか。
答えは――否。
彼らの抱える飢餓が身体を突き動かし、目の前にある肉を喰わんとさせるのだから。
「そうか。では、その締まりのない口を刻むがいい」
王の勅命に反すれば、待ち受けるのは当然にして罰があるのみ。
布かれた武器を捨てろというルール。それを破った者達に待ち受けるは、己が刃を味わう末路。
先程の言葉と異なり、強制力を伴ったそれは違わずと死者達の身を動かしていく。
だけれど、彼らはそれでも止まらない。止まれない。
口を裂いた程度で、死者は骸に戻れない。
故に。
「醜悪を晒すままも忍びない。終わらせてやろう」
慈悲の輝きがその首を断ち落とす。
一閃、二閃、三閃――。動き鈍る死者達を、テイラーはフォルティと共に終わらせていく。
そして、彼の駆け抜けた後に生じるは、死者達の零した血濡れの道。
だが、それこそが彼の覇道。
如何にその身が、歩む道が血と濡れようとも、その先に目指すべきモノがあるのなら、彼の歩みは決して止まりはしないのだから。
銀閃。
そして、また一つ、骸が彼の道を彩った。
成功
🔵🔵🔴
オリヴィア・ローゼンタール
希望の萌芽、手折らせはしない!
聖槍に、そして全身に、聖なる力を纏う(属性攻撃・オーラ防御)
我々が助力します! 決して諦めてはなりません!
【全力魔法】【破魔】で【聖天烈煌破】を放ち、超高熱を以って屍肉を【焼却】し、供給を断つ
無窮の光よ、迸れ! 太陽の如く、焼き尽くせ!
瘴気を祓い祝福で満たされた地へ吶喊
【怪力】を以って聖槍を振るい、【なぎ払う】
人類砦の兵へ振り下ろされる武器を【聖槍で受け】流し(かばう)、炎を纏った脚で蹴り飛ばす(踏みつけ・吹き飛ばし)
【殺気】と共に【存在感】を放ち【おびき寄せ】る
群がる敵を斬り打ち穿ち、【蹂躙】する
有象無象が何するものぞ!
我ら猟兵、貴様たちを狩り尽くす者と識れ!
ダークセイヴァー。
それは夜と闇に覆われ、ヴァンパイアという名の絶望が支配する世界。
ヒトはその中においては家畜か、はたまた玩具か。
少なくとも、未来への希望を抱くには難しい環境であったことは間違いないであろう。
だからこそ、人類砦という名の希望がこの世に生まれたことは、得難いもの。
「希望の萌芽、手折らせはしない!」
まして、この世界を生まれとするオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)からすれば、猶更であった。
故にこそ、振るう聖槍に、全身に宿す気迫は並々ならぬ。
世界を跨ぐ光を跳び出すと同時の一番槍。
昏き世界を切り裂く黄金の輝き。聖炎の灯火。
それは錆びた鉄を、腐乱した骨肉を、穿ち、断ち切り、絶望の波間に風穴を開けた。
「我々が助力します! 決して諦めてはなりません!」
凛とした声が絶望を塗り替えんと響き渡る。
同時、薙いだ槍の軌跡がその範囲に捉われた死者達を文字通りに刎ね飛ばす。
波間に穿たれた空白。死の中に生じた活路。
「こちらへ! こちらへ一度退いて、立て直しを! 一人一人で相対しては、呑み込まれるだけです!」
聖炎の尾がなびき、旗の如き揺らめきをみせる。
死者にとってはその身燃やし尽くす炎であっても、生者にとっては傷付き凍えた身体を癒す温かな炎。
故にこそ、それを見た生きる者の全てが感じたことだろう。
あの旗の下に集え、と。
誰もがその生を繋ぐため、懸命に伸び来る死を跳ねのけて走り出さんとする。
だが、餓えに乾く死者達とてそれを見過ごす筈もない。
手を伸ばし、武器を振り上げ、その命を刈り取らんとするのだ。
だが、忘れるな。此処にあるはオリヴィア・ローゼンタール。不浄を討つ者也。
昏き道より死が手を伸ばすのなら、それよりも早くその昏きを祓わん。
「無窮の光よ、奔れ!」
――光が、満ちた。
それは天へと捧げた妙なる祈り。闇に閉ざされて久しい世界を照らす、希望の輝き。
天へと掲げた聖槍の穂先。そこに集まるは聖炎を圧縮させた極光。超密度の光球。
「太陽の如く、焼き尽くせ!」
――ヒトに祝福を。悪意に粛清を。
掲げた槍を振り下ろせば、輝きが降り注ぐ。
それは生者へと追いすがる死者を呑み込み、燃やし、その祝福と共に大地へと還していく。
――そして、地に輝きが満ちた。
呑み込んだ死者を灰すらも残さず焼き尽くす輝きだったというのに、それの着弾したあとに残るは瑞々しき彩。
まるで太陽の輝きを、恵みを受けたかのように、光の落ちた大地に溢れる生命の香り。
それこそは祝福の地の顕現。
穢れある者には地の底へと繋ぐ足枷を。信仰ある者には天上へと至る自由の翼を。
「有象無象が何するものぞ! 我ら、貴様達を狩り尽くす者と識れ!」
その地の上、オリヴィアの槍の冴はますますと鋭さを増し、死者の肉片、血すらも刃に纏わせることなく断ち抜ける。
その姿、迫りくる波をして一歩も退かず。むしろ、それを打ち砕き、ヒトビトを守るはまさしく一騎当千そのもの。
そしてなにより、闇の世界を塗り替えたその姿は、ヒトビトの胸中へと更なる希望を齎すものであった。
人類の希望を蝕まんとする絶望が祓われ、その奥に潜む元凶へと光届ける時も、そう遠くはない。
成功
🔵🔵🔴
ジェイ・ランス
【WIZ】※アドリブ、連携歓迎
好意ゆえの行動。ね。でも好きっていうか、これ好物って感じじゃね?
金の卵を生む鶏そのものを喰ってく感じかね?ちょっと違うか…
とりあえず、ここの【世界知識】を【情報収集】、【ハッキング】して…
―――感情演算停止、超重力制御術式『schwarzes_Loch(シュヴァルツェス・ロッホ)』起動。
……ブラックホールで居なくなっていただきましょう。敵の規模からすると、この程度の大きさが丁度いいのですかね?ずいぶん大きいですが。
死角からの攻撃は重力壁で【オーラ防御】。しかし、すべからく吸いこんでしまいますからね。私自身が何かする必要は、あまりないかもしれません。
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
あ―あーいるわいるわ、有象無象がわらわらと。あたし雑魚散らしは得意な部類だけど…流石にちょぉっと骨が折れそうねぇ。
さぁて、それじゃ…○気合い入れて○蹂躙してやりましょうか。
ミッドナイトレースに○騎乗して突撃。●轢殺で敵陣をズタズタにしてやるわぁ。この子、見た目はバイクっぽいけどUFOだもの。斜面だろうが絶壁だろうが関係なく動けるのよねぇ。
荒らしまわったら上昇してグレネードの〇投擲による空爆に移行。対○空中戦の備えなんてないわよねぇ?安全地帯から○爆撃してやるわぁ。
いいだけヘイトを集めて再度降下。ガンガンブチかますわよぉ。
意識をこっちに○釣るのも、立派な援護でしょぉ?
「あーあー、いるわいるわ。有象無象がわらわらと」
「なんか好物に群がるって感じに見えねぇ?」
「こいつら自体にあるのは餓えだけみたいだし、あながち間違いでもなさそうよねぇ。その表現で」
黒々とした波となり山裾から伸び来る波。
それを鳥の視点で見れたなら、それはまるで人類砦という砂糖へ向けて押し寄せる蟻のようにも見えたことだろう。
そして、そのままであればいつしか砦が黒に覆われるも時間の問題。
「金の卵を産む鶏そのものを喰ってく感じかね?」
「そっちの表現はちょっと違うかもしれないわねぇ」
「あ、やっぱりそう?」
「あれらからすれば、鶏も卵も関係なさそうだもの」
満たされぬ飢餓の前には、増やすという概念もなにもない。
ただ貪り、消費するだけがあれらなのだから。
冷静に、冷徹に。笑みと微笑みの下にそれらを潜めた金と黒――ジェイ・ランス(電脳(かなた)より来たりし黒獅子・f24255)とティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は冗談混じりに言の葉を交わす。
「あー、でもぉ、あたし雑魚散らしは得意な部類だけど……この数はちょぉっと骨が折れそうねぇ」
わさわさと動く死者の群れ。それは数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどに。
一人でそれを掃討するとなれば、ティオレンシアがかく語る通りに骨は折れよう。だが、犠牲も何も勘案しなければ不可能ではない。
だが、それらも気にしなければならない現状、手は幾つあっても悪くはない。
だから、ちょっとにアクセントを乗せて、微笑みと共に隣の金色を見るのだ。
「ん? ああ、ああ、安心してよ。勿論、オレだって手伝うさ」
それをわざとらしくと気付いたフリで、ジェイも悪ふざけにお付き合い。
彼とてこの場に駆けつけたのだ。この場の物語に登らぬ筈もなかった。
「あら、心強い」
「だけど、あれはオレも骨がちょぉっと折れるからなぁ」
ジェイの中で思い描く手段。それにリソースを割けば、動けぬとまでは言わないが動きが幾分鈍りかねない。
なので、こちらもちょっとにアクセントを乗せてみて。
「ええ、ええ、いいわよぉ。ここで会ったのも何かの縁だものぉ」
「互いに互いを補っててやつだな」
「そういうことぉ。それじゃ……気合入れて蹂躙してやりましょうか」
「悪くもない提案だ」
そして、即席の共同戦線は動き出す。
ガォンと吼えた鋼鉄の嘶き。されど、吐き出される煙はなし。
飛ぶように――否、文字通りに飛行して、それは斜面を駆け下る。
「おー、上手いもんだね」
「それは勿論。これでも、だいぶ特訓したんだから」
それこそはUFOの特性を兼ね備えたバイク。ティオレンシアがいつかの日に得た戦利品。
だが、地を駆けるバイクと異なり、また別の法則で動くUFO型のバイクを動かすには一朝一夕ではいかない。
それを己が手足の如くと乗りこなすティオレンシアの技術の高さがそこには窺えた。
そして、それに乗るは、今は彼女のみではない。その後ろにはジェイの姿もまた。楽しむような表情を張り付けて、その移動を堪能している。
「さぁて、本丸に突入よぉ~」
唸れ、エンジンフルスロットル。
ひと際高く鋼の心臓が鼓動を奏で、死者の波を目掛けて高速の弾丸――ミッドナイトレースが突き進む。
「これ、ぶつからない?」
至極真っ当なご意見が後ろから。
だけれど、微笑みに細められているティオレンシアの眼。その奥に宿っていたのは刃の輝き。
「ふふふ~、なに言ってるの?」
「あ、直前で躱すかなにか――」
「ぶつかるんじゃなくて、ぶつけるのよぉ?」
指先は、最初からブレーキに掛かってなど居なかった。
その言葉がジェイへと届くと同時、ガンと走る衝撃。飛び散る人間大のナニカ達。
「わぁ~お」
それが何か、猟兵たるジェイには視えていた。
それが何か、ティオレンシアは理解していた。
ただ言えることは、轢殺行進が始まった。それだけだ。
「結構、ガタガタするよね~」
「まぁ、悪路も悪路だものぉ。仕方がないわよぉ」
空を飛んでいる筈なのに、悪路で躯体が揺れるとはこれ如何に。
だけれど、敢えてとどちらも突っ込まない。
それよりも、とティオレンシアは言うのだ。
「そろそろ荒らしまわるのも十分かしらねぇ」
突き進み、気付けば敵陣奥深く。
その身が吹き飛ばされるも構わず、二人を引きずり降ろさんと伸び来る手が随分と増えていた。
それだけではない。近付くを危うしと本能で気づいた幾つかの個体は、その手に握った粗末な得物を投げつけて、二人を狙わんとすることすらもあったのだ。
――空中から爆撃とも思ったけれど、案外、対応してくるのかもねぇ。
それに内心と抱えていた策を一時棚上げし、ティオレンシアは自身の策持つであろうジェイへと水を向ける。
「ん、情報も整ったし、そろそろこっちもいいかな」
だから、彼もまた自身の役割を果たさんと応えるのみ。
ジェイとて、ただティオレンシアの後ろで荷物を演じていた訳ではない。
その瞳の奥深く、彼だけに見える視界の中で、この世界を構成する情報を解析していたのだ。
――感情演算停止。
瞳閉じ、再びと開いた時に赤の瞳は虹と輝く。
「あら、また印象が変わったわねぇ」
「意思の疎通の可否に変化はありませんよ」
「能力のスイッチみたいなものかしら」
「そんなものだと思って頂ければ」
互いに説明は省き、聞くことも省く。必要なのは、この状況への対応が出来るか否かなのだから。
――超重力制御術式『schwarzes_Loch』起動。
解析した世界の情報を用い、生み出すは超重力の渦。光すらも逃さぬ、終焉の孔。
そして、予告もなく、世界に黒点が生まれた。
「ちょ、ブラックホールとか、私達も危ないんじゃぁ?」
「いいえ、問題ありません。あれは識別も行いますから」
「なんとまぁ。便利なものなのねぇ」
だが、それは暗に言えば、敵と識別した者には無慈悲なる。
それを証明するかのように、死者の群れが掃除機に吸い込まれる塵芥のようにと黒点の中へ。
吸い込んで、吸い込んで、吸い込んで。それでも決して満杯になどならぬ黒の孔。
その中で、最早走る必要もなしとバイクは緩やかに止まるを見せる。
迫る脅威は悉くと黒穴に吸い込まれ、もう二人を狙う者などその周囲にはいなかったからこそ。
「満たされぬ飢餓の顛末が自分達こそ底なしに吸い込まれるだなんて、とんでもないオチよねぇ」
「同情されるのですか?」
「まさかぁ」
黒穴が収束した後には二人の周囲に死者の足音もなく、ただ冗談のように軽口を交わす声だけが響いていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クレア・フォースフェンサー
好きという感情も様々――
確かにの。「蟲は好きだが、愛してはいない」と公言する少女の物語もあると聞く
それがオブリビオンならば、猶更、想像の外じゃろうて
さて、まずはこ奴らの殲滅じゃな
正面からの制圧は他の猟兵殿に任せ、わしは討ち漏れを処理するとしよう
マシン・ビークルによる光盤に乗り、空中に移動。光珠を戦場に展開し、状況を見切る
群れから逸れて砦に近付く者、仲間の背後に回る者などを【能力破壊】を込めた弓矢で射貫いてゆこうぞ
なお、砦の中から自分の姿が見える場所に位置する
この姿も衣装も、かようなときに人に見せることを想定してのものらしいからの
――あと一刻、到着が早ければ、犠牲を出さずに済んだやもしれぬの
エドガー・ブライトマン
今回訪れたのはココ!ダークセイヴァーさ
訪れたというか、いつも通り通りすがったんだけれど
この世界ってば、いつだってシビアな暮らしをしているらしい
さてさて、ひとびとを助けてあげよう
それこそが私の務めであり、責務であるからー
なんて喋ってる場合じゃあないね
征こう。レディ、オスカー
高所からの支援は得意な者に任せよう
私たちは最前線へ!
共食いをしようとしているゾンビ君がいたら厄介だな
そいつから攻撃していくよ
私の剣は一本しかないからね。一体ずつ、堅実に減らそう
飛んでくる武器や攻撃は
近くに落ちているものも使って自分を《かばう》ように
間合いを詰めれば“Jの勇躍”
レディ、ゾンビはキライかい?
もう、すこしは我慢してよ
好きという感情も様々。
友情、親愛は元よりとして――。
「『蟲は好きだが、愛してはいない』と公言する少女の物語もあると聞く」
十の内の全てが好きであるとは限らず、愛憎入り混じるもまた。
ならば、そこに通り一遍を当てはめることこそが難しいものであろう。
「さてはて、それがオブリビオンならば、猶更、想像の外じゃろうて」
理解の外にあるものを理解しようなどと、それこそ無理難題もいいところ。
それに頭をひねるのは、日常の中で良い。今はそれよりも、分かり易くやることがあるのだから。
常ならざる者の証。金の瞳を瞬かせ、クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)は目の前に広がる死の波をただ見据えるのみ。
「私としては、その『蟲は好きだが、愛してはいない』と公言する少女の物語というのも気になるところなんだがね!」
クレアの影よりふらりと続いた金糸の揺らめき。白の衣擦れ。
まるで物語から抜け出たかのような彼――エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、寝物語をねだる子供のように好奇心へ蒼を輝かせる。
「話してやってもよいがの、今は優先すべきこともあるでな」
「それは確かに!」
知らぬ世界の物語。まして、好きだけれど、愛していないなどという言葉。
それはエドガーがエドガーであるからこそ、無意識にでも興味を抱かずにはいられない。きっと誰かに似てる気がしたから。
だけれど、クレアが語るように、今はそれより優先すべきこともある。
だから、気を取り直して、もうワンテイク。登場の段からやり直し。
「さて、今日も今日とて、いつも通りの通りすがり。だけれど、ここはいつだってシビアな世界だね」
まだ喰われてはいない記憶を頼りに、過去と現在とを比べ見る。
過去の記憶が間違いでなければ、そこには変わらず助けを求めるヒトが居て――。
「さてさて、それならひとびとを助けてあげよう」
――その手を掴まんとする王子様が居る。
時間と共に変わったものはあるのかもしれないけれど、それだけは決して変わらない。
「それこそが私の務めであり、責務であるから――って、痛い痛い。わかったよ、喋り過ぎたし、格好つけすぎた」
「はは。面白いのう、お主ら」
左腕の疼きと燕の啄みに、思わずエドガーの言葉も止まる。
その様子が面白可笑しくて、クレアも思わずと状況を置いて口元に笑み。
「ほら、笑われてしまったじゃないか」
「良い良い。肩の力を抜くには、丁度良かったというものじゃ」
淑女と友に愚痴ってみれば、クレアはフォローするように語る。
「じゃが、ここからは腰を据えてやらねばの。そちらのお嬢さん方も」
「ああ、勿論だとも」
死へと向き直る二人の横顔は既に戦場のそれ。
弓を持ち、細剣を持ち、互いに猟兵としての役割を果たさんと。
「それでは、わしは上から。援護と撃ち漏らしの処理は任せよ」
「ああ、頼もしい限りだね! それなら、私たちは最前線へ! 猫の子一匹も通さないつもりでね!」
「それこそ頼もしいものじゃの」
「――さて、殲滅じゃな」
「――征こう。レディ、オスカー」
光と共にクレアは空へ舞い上がり、エドガーは友と淑女と共に斜面を駆ける。
あれ、そう言えば、オスカーはともかくとして、レディを彼女に紹介したのだったかな?
そんな疑問符の置き忘れ。
「ゾンビ君、ゾンビ君。キミ達は随分とお腹を空かせているんだねえ」
駆け降りた先の大歓迎。
我ぞ先にと手が伸びて、歯が鳴って、エドガーをそのお腹の中に納めんと。
だけれど、残念。この身は既に売約済み。
彼らにこの身を捧げては、左腕に宿る淑女が眦を釣りあげること請け合いだ。今の彼女に釣りあげる眼があるかなんて、それは分からないけれど。
だから、今は彼らの不運を断つとしよう。
――Jの勇躍。
ステップ踏んだ足捌き。時に小刻みに、時に大胆に。
伸び来る手と歯を掻い潜り、一人ずつだと刃を刻む。
「すまないね。私の剣は一本しかないんだよ」
くるりくるりと花舞うように。
前を刻んで、後ろを刻んで。死の舞台の中心で大立ち回り。
いつ、その身を死の手が掴むか分からない。
いつ、その身に鋭い刃が食いこむか分からない。
だけれど彼は恐れない。王子様であるから。僅かと戻ろうとも、まだ痛みには鈍いから。それになにより――。
「うん、素晴らしい腕前だね! 私だとどれくらいの距離なら当てられるだろう!」
ちらりと見えた景色の向こうより飛来した矢が、彼の死角より迫る脅威を討つからこそ。
「ふむ、結果は上々かの」
ふわふわと浮かぶ淡い光球。浮かび上がらせるクレアの残心。
放った矢を外すつもりなど毛頭ないが、それでも的中を見れば自身の機能が十全を果たしていると確認できる。
そこに間髪入れず、びぃんとかき鳴らした弦の残響。立て続けに三つ。
彼女の視界のその向こうで突き立った矢。骸に還った死者。その数、三つ。
「――逃す筈など、なかろうが」
それはエドガーの背後へ回ろうとする者でもあり、群れから逸れたかのように砦へ向かう者であり、まるで逃げるようなそぶりを見せた者。
それを彼女は、彼女の眼は見抜き、射抜いたのだ。
その眼――常ならざる者の金色こそが、その視野にある全てを見抜く。それは死者の核であったり、ダレカの茨であったりと。
勿論、それでも視野には限界もある。だからこそ、そこには絡繰りもある。それこそが彼女の周囲に、戦場に飛び交う光の球。それが彼女の索敵能力をサポートし、より精度の広い視野を得させていた。
――さて、少しは鼓舞にもなっておるかの?
空中。それは射線遮るものがなく、弓を射かけるにはもってこいだろう。
だけれど、遮蔽物がない故に、彼女もまた狙われる可能性は常にあるのだ。
だが、その危険性を犯してでも見せたいものがあったのだ。そう、砦に籠るヒトビトへと。
クレアの外装。それは見目麗しい女性のそれ。そこに纏う軍服のような白は、より彼女を引き立てる。
――これも人に見せる事を想定してのものらしいからの。
ならば、それを利用し、ヒトビトを鼓舞するに使わぬ手はあるまい。
この姿が、戦う様子が、彼ら彼女らの希望となるならば、と。
そして、射かける弓の速度が増していく。
暫しの時を経て、降り注ぐ矢の雨は止み、ダンスの舞台はその幕を下ろす。
気付けば、周囲には死屍累々。
しかし、その多くはヒトビトのモノではなく死者であったモノの――翻せば、僅かはヒトビトの犠牲によるモノ。
「あと一刻、到着が早ければ、犠牲を出さずに済んだやもしれぬの」
それはきっと猟兵達が来る前に出ていたもので、もう救いようのないもので。
それでもなおと空より舞い降りたクレアは哀悼の念を抱かずにはいられない。
「そうかもしれないね。だけれど、少なくとも、これ以上の犠牲はない筈さ」
死者との戦いにゴネそうになった淑女を宥めすかしながら、クレアへと歩み寄る。
だけれど、淑女の機嫌はなかなかに。
イタタ、イタタと左腕と格闘するエドガーの姿に、少しばかりクレアの心も晴れようというもの。
柔和に戻った金色がエドガーの姿を捉え――さて、彼と淑女の関係に横たわるは如何な好意か。それはその眼をもっても見通せず。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リーヴァルディ・カーライル
…ん。彼らもまた、オブリビオンの“好意”の犠牲者なのね…
理不尽に殺されて、安息すら奪われて操られて…憐れな
…死者の亡骸を辱しめる事は赦されない
…これ以上、貴方達の手が血で染まる前に終わらせてあげる
空中戦を行う“血の翼”を広げ、存在感のある残像を囮に敵陣に切り込み、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収して魔力を溜め、
光の力を使う反動を激痛耐性と気合いで耐えてUCを発動
…闇の娘が光の精霊に請い願う。
死の眠りを奪われた者達に安息の光を…!
死者達の呪詛を浄化する“光の風”をなぎ払う光属性攻撃を行い、
聖光のオーラで防御を無視して彼らを浄化して心の中で祈りを捧げる
…もう苦しむ必要はない。眠りなさい、安らかに…
幾度突き刺され、斬られようとも止まらぬ進行は奴隷の歩みにも似て。
「……ん。彼らもまた、オブリビオンの“好意”の犠牲者なのね」
未だ姿を見せぬオブリビオン。それが居なければ、こうして起こされることも、それによって飢餓に苦しむこともなかっただろう。
だからこそ、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の解釈は、この事態の側面の一つとして正しいものだ。
ぺたり、ぺたり、ぺたり。
裸足の脚が岩肌を踏む。安息も、休息も、ないままに、死者達は迫りくる。
理不尽に殺され、安息すらも奪われて、死んだ後も操られて、それはなんて――。
「――なんて、憐れな」
そう、零さずにはいられない。
ならば、その憐れみを抱いた者として、過去を屠る者として、為すべきことは一つ。
「……これ以上、貴方達の手が血で染まる前に終わらせてあげる」
それこそが、彼らの救いとなると信じて。
ばさりと宙を打つは翼。されど、それは鳥の羽音に非ず。
地に這う者共が見上げれば、そこにあったのは血色。
ばさり。また、血の翼が空を打つ。
誰だ、などという者はここには居ない。
あるのは餓えに染まった眼差しと、届かぬと知ってもなお伸ばされる手。
意思はあれども飢餓に染め上げられ、その果てに終わりはない。
――ああ、これが辱めでなくて、なんだと言うのだろう。
それが果たしてヒトの終わりの姿で良いのだろうか。
否、否、否!
だからこそ、リーヴァルディはそれを終わらせるとしたのだから。
――風切り音。
リーヴァルティの耳が拾い上げた音は、空を往く自身の奏でたものではない。
内蔵を引っ張られるような急速旋回。かかる重圧と苦痛を無視して、彼女はそれを回避する。
「……武器の投擲はしてくるか」
飛来した物。その正体とは死者達の持つ粗末な、しかし、ヒトを殺すには十二分な刃。
当たれば一撃で骨を断たれるまで行くことはないだろうが、それでも食いこんだ刃と汚濁は後に影響を齎すことは明白。
いや、それだけではない、びちゃりと飛沫をあげて伸び来るモノ。
「……共食いすら、か」
それは投げるモノのなくなった者達が、互いを喰らい、遺された部品を投擲のそれへと代えて。
――もう、見てなどいられなかった。
その地獄の如き光景に戦意を喪失した訳ではない。ただただ、彼らが憐れであったから。
「……闇の娘が光の精霊に請い願う」
それは祈り。闇たる己が捧げる光への。
「死の眠りを奪われた者達に」
相反する力の行使。じゅわりと灼けるような痛みが広がる。
だけれど、リーヴァルディは行使を止めない。止めなどしない。
「安息の光を……!」
そして、結びの言葉と共に、輝きが世界を覆う。
それは光の風。この闇に閉ざされた世界にはあり得ざるもの。
降り注ぐ陽光のように、草原走る風のように、世界に満ちる呪詛が祓い清められていく。
風切り音が止んだ。死者の歩みが止んだ。
いつしか音はさやりさやりと奏でる風の音を残すのみ。
行使の代償が己を灼く激痛の中、リーヴァルディはそれでもそれを微塵も出さぬ。ただ、静かにその眼下を眺め見るのみ。
「……もう、苦しむ必要はない。眠りなさい、安らかに……」
そこには倒れ伏し、動かぬ骸の海。
だが、その顔は一様に眠っているかのよう。
そう。今や彼らを支配していた飢餓は失せ、縛り付けていた呪詛は失せたのだ。
ふわりと聖光の残滓を纏い、リーヴァルディはその地に降りたつ。
煌々と輝きを残し――その実、身を灼き――ながら、降り立った姿は、まるで死者を迎える天使のようでもあったという。
最早、数瞬前までこの地に広げられていた地獄は過去。ただ、安らかな終わりだけがそこにはあった。
大成功
🔵🔵🔵
メアリー・ベスレム
まぁ大変
あんなにたくさんのお客様
アリスのお肉で足りるかしら?
いいえ、きっと足りないわ
食べても食べてもまだ足りない
骨まで全部お腹の中ね
鬼さん美味しいお肉はこっちよ、って
肉付きの良いお尻で敵を【誘惑】して
【ジャンプ】【踏みつけ】で敵を足蹴にしながら
捕まらないよう【逃げ足】で立ち回る
そうやって砦から少しでも敵を引き離すわ
捕まりそうになったら【復讐の一撃】で
その手や首を切り飛ばして【部位破壊】
あぁ、つまらない
メアリ、人を食べるオブリビオンは嫌いよ大嫌い
だからこうして殺しに来たのに
あなた達ったら餓えて渇いて痩せ干そって
みじめで哀れなばかりじゃない
それももうお終いにしてあげる
渋滞、列成し、大盛況。
ざわりざわりと人波立てて、群衆は一つ所を目指し行く。
「まぁ大変。あんなにたくさんのお客様。アリスのお肉で足りるかしら?」
それを群衆の目指す場所より眺め見る影の一つ。
兎の耳模したヴェールを風に遊ばせ、メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)がポツリ。
これだけの群衆が集まる程に宣伝などした覚えもないが、それでも来てしまったものは仕方がない。
はてさて、お肉が足りるかしら。なんて、ある材料を指折り数え。
柔らかな胸肉。引き締まった腿肉、筋は多めな腕の肉。それ以外、内蔵、脳漿……etc.
「――いいえ、きっと足りないわ」
どれだけ斬り分け、選り分けたところで、あの群衆の胃を満たすなど到底無理であろうことは明白。
これではクレームも致し方なし。
――なんて言えるとすれば、それはこれがただの食材展などの興行であれば、だ。
だが、これはそもそもとして興行に非ず。
目の前に迫る群衆――死者の群れは、クレームなどしない。
ただただその飢餓に追い立てられ、目の前にあるものを喰らい尽くすだけだ。
「食べても食べてもまだ足りない。骨まで全部お腹の中ね」
喰われ、貪られ、食欲のままに。
そのままではそうなる未来は想像に難くないだろう。
だけれど、残念。そうはならない。そうはさせない。
そのためにこそ、メアリーはわざわざと此処にまで足を運んだのだから。
手の内でくるりと回し遊んだ肉切り包丁。
明けぬ闇の中、武骨な輝きがその存在感を示していた。
トンと足音も軽やかに、暗闇の宙に兎が躍る。
一瞬の浮遊感。
そして、重力がメアリーの身体を地へと運ぶ。
その先にあるのは――。
「鬼さん。美味しいお肉はこっちよ」
餓えた者達の姿。
彼女の言葉を拾い上げたのだろう。群衆のうちの一つが空を見上げ、彼女と視線を結び合う。
そして。
――グシャリ。
その顔面を踏みつぶすようにして、いいや、正しく顔面から踏み潰してメアリは群衆の中に着地する。
その登場に、周囲の視線が集まっていく。一つ二つではない。世界そのものからメアリが見られていると感じるほどに。
空白の時は僅か。
死者達からすれば、メアリーは突如として現れた垂涎の獲物。
思考が奔るよりも早く、飢餓の本能は彼らを突き動かした。
「本当に、餓えた獣のようね」
踏み潰された同類のことなど、それらはまるで気にしない。
伸び来る手は荒々しく、飢餓を一時でも凌ぐことのみを考えるもの。
そこにオウガ達のような遊び心も、余裕もない。
「鬼さんこちら。手の鳴る方へ」
だけれど、それが辿り着くのを待つほどに、メアリーは穏やかな兎ではない。
兎の健脚が齎す、再びの浮遊感。
それを追いかけるように手が伸び、届かぬと知れば同類を足場にしてまでも追いかけてくる本能の塊。
くるりと宙から逆しまの世界を見上げながら、自分に迫らんとするそれもメアリは視界に納める。
オブリビオン。オブリビオン。オブリビオン。
結局のところ、オウガもこの死者達も、そうであることには違いない。人食いであることに違いない。
だけれど、その飢餓に支配された浅ましい姿はあまりにも――。
「あぁ、つまらない」
――ただただ哀れ。
オブリビオンが嫌いで、人食いが大嫌いで、だからわざわざ殺しに来たというのに、これではただの獣狩りと変わらないではないか。
迫る死に刃が奔る。
それこそは手の中で遊ばせ続けたメアリーの牙。
肉斬り、骨断ち、命を終わらす、彼女の牙。
無尽に閃を刻んで奔るそれは、迫る手の端から斬り飛ばし、斬り潰し、メアリー/アリスを望むモノ達に触れるを赦さない。
そして、その身十全のままに彼女は再びと地に羽毛のようにふわりと降り立つ。
それを追いかけるように波が迫る。
「おいでなさい。みじめで哀れなあなた達」
――あなた達にあげるアリスはいないけれど、メアリが全部お終いにしてあげる。
迫る死の波の中で静かな宣告が響き渡り、兎は呑み込まれることもなく水面を渡っていく。
その跳びはねる道の後に、無数の喰い殺された獣の亡骸を遺しながら。
大成功
🔵🔵🔵
小日向・いすゞ
【狼と狐】
ぴんちにすさっと参上っスよ!
センセ達に任せておけば、ここはばっちり大丈夫っス!
ねえ、センセ!
あっしはまあ、応援とか得意っスよ!
がんばれがんばれっス〜
鼓舞は0
応援ばかりしてられないっスし
センセが突っ込んでくれるならば、あっしは符を撒いてその道を作りましょう
アンタらの獲物は鉄、火は金に剋つっス!
今日は符だって大盤振る舞い
さぁさ
あしゅりーずセンセ、頼んだっスよォ!
攻撃は得意じゃないっスからね
引きつけるように身軽に跳ねて、蹴って、尾で払い
杖で叩いて、敵をひっかけて盾に
ぽっくり下駄をコーンコン
敵の攻撃もできるだけ相殺してセンセを庇いましょう
攻撃を受けたらもう気合っスよ
後で回復の符貼ったげるっス
リグ・アシュリーズ
【狼と狐】
ありがとう。持ちこたえてくれて。希望を、捨てないでくれて。
……行きましょ、いすゞちゃん。あとは私たちに任せて!
斜面上の砦を背に庇って、黒剣で敵を押し止めるように戦うわ。
敵の武器を刀身で受けたり弾いたりして被害を減らしつつ、
一体ずつ確実に斬って起き上がれなくしてくわ。
いすゞちゃんが火の札を撒いてくれるなら、
一気に薙ぎ払って武器を壊すのもアリね。
接近戦はもっぱら私が引き受け、彼女に危害が及ばないようにするわ!
なかなか数が減らないわね。なら……!
バックステップで斜面の上に逃れ、地面を抉るように斬り。
打ち上げた土砂を一気に振り撒き、降らせるわ。
砂礫の雨……そのまま土砂に埋もれて眠ってなさい!
噎せ返るような鉄の匂い。
それは人類砦にあるヒトビトの抵抗の証であり、積み上げた死者と血の証。
ぶつかり、ぶつかり、またぶつかり。
鬩ぎ合う刃が火花を零し、掠め合う刃が血を零す。
だが、幾らヒトビトが抵抗を示そうとも、死はそれ以上の力と物量をもって生を飲み干さんとするのだ。
その戦場の片隅。そこでもまた、数多ある攻防のうちの一つが終わりを迎えようとしていた。
傷と血に塗れた男の頭上、死が錆びた刃を高々と振り上げる。
男とてただ討たれまいとなけなしの刃を盾にせんとするが、力尽きた腕はそれを持ち上げるすらも最早許さない。
周囲もそれを知るが、それでもそれぞれが掛かり切り故に、救いの手は届かない。
そして――。
「おおっと、そうは問屋が卸さないっスよぉ!」
宙を滑り、落ちる断頭の刃を受け止めたは一枚の符。
それは振り下ろされた刃へ触れると同時に燃え上がり、死を齎す刃を跡形もなくと溶かした。
誰がと符の舞い込んだ先を見れば、応えるはココンと下駄ポックリ。琥珀蜜色狐が一人。
「ぴんちにすさっと参上っスよ!」
その周囲へと舞い遊ばせる符の吹雪も雅やかに、小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)がここにあり!
だが安堵の時にはまだ早い。いすゞの介入は男へと迫る死の一瞬を先延ばしとしただけ。
融け落ちた刃は最早無用の長物でも、死者には人喰らう牙があるのだ。
それを投げ捨て、いすゞの妨害で先延ばしにされた御馳走の時、それを今度こそとばかりに目の前の獲物へと手を伸ばす。
「無視はちょっと悲しいッス」
それを止めるに符を纏わり付かせて燃やすもいいが、それよりもなによりも、ここは無視も出来ないくらいに頼もしきヒトへ登場頂こうではないか。
「――ねえ、センセ!」
「応とも!」
打てば響いた明るき応え。
だが、続いて巻き起こされた事象は、響いた女性の声とは正反対の豪胆なそれ。
地を踏み砕くような踏み込みと共に、奔るは轟風。風巻く刃。
鉄塊のようなその剣は、今まさに男の命を摘み取らんとしていた死を捉え、当たりも見事に吹き飛ばしたのだ。
「ぃよいっしょっと」
振り抜いた黒鉄の重さを掛け声とと共にいなし、『彼女』は態勢を整える。
死を覚悟した男の視線が、その周囲で戦う者達の視線が、『彼女』へと集まっていく。
「ありがとう。持ちこたえてくれて。希望を、捨てないでくれて」
大丈夫かな。と伸ばされた『彼女』の手。それを辿れば、優しく微笑むリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)の姿がそこに。
そして、男の意識はそこで途絶えた。
死んだわけではない。戦闘の疲労。それに加え、覚悟した死が彼を捕らえることなく過ぎたことによる安堵。それらによって緊張の糸が切れたために。
「えっ、あ、どうしよう?」
「大丈夫っス! ちょいとそこのセンセ方!」
流石に戦場のど真ん中。倒れた彼を放置すれば、それはむざむざと殺すようなもの。
だから、先んじて動いていたいすゞが符を飛ばし、周囲囲むように展開した炎揺らめく結界で死者達の足を止めをさせる。
それだけではない。それによって得た猶予を使って、他のヒトビトが態勢を立て直すための時間を生み出していたのだ。
「――ここはあっしらにお任せを。センセ方はこちらのセンセをちょちょいと引っ張っていって欲しいっス!」
杖で指し示す先は砦。つまるところ、一時撤退をとの促し。
――ならば、ここはどうするのか。
そう疑問の声があがるのは、ある種当然。だからこそ――。
「大丈夫。あとは私たちに任せて!」
「そうっスよぉ。このあしゅりーずセンセに任せておけば、山盛り一杯の数を一つや二つなんて、ばっちり大丈夫っス!」
「いや、それは言い過ぎな気も。じゃあ、いすゞちゃんはどうするの?」
「あー、あっしっスか? あっしはまあ、応援とか得意っスよ!」
がんばれがんばれッス~。なんて、力の抜ける応援の声。
ちなみに、いすゞの鼓舞技能は0。まさに気持ちばかりの。
それにがくり肩の力を抜いて、まったくもうとリグも苦笑い。
そんな戦場に遭っても気負わぬ姿に、そして、その直前に見せた力に得心したのだろう。ヒトビトは彼女たちならば、とその視線に最早懐疑はない。
――ありがとう。どうか、頼む。
――あんた達も無理するんじゃないぞ。
――危なくなったら、選ぶのは自分の命よ。絶対に逃げなさいね。
口々に感謝を残し、肩貸し合いながら退いていく。
気付けば、そこにあるのは勢いを弱め始めた火の結界が弾ける音のみ。
全員、無事に撤退していった。
ならば――。
「……行きましょう、いすゞちゃん。期待に応えないとね」
「勿論っスよぉ。今日は大盤振る舞い見せてあげるっス!」
大暴れするに遠慮は無用。
それを待っていたかのように火の結界が弾け、決壊の勢いをもって死の波が押し寄せてくる。
「ばーげんせーるとは違うっスからねぇ。行儀良く並ぶっスよぉ!」
波に線引く焔の尾。
いすゞより放たれた火の符は死者達を分かつように区切りを生みだし、道を作る。
それは一度に多数が迫るを制限し、封じるもの。
誰のための? 決まっている。『彼女』のための、だ。
「ありがとう! お陰で前だけに専念が出来るってものね!」
「応援とか得意って言った手前もあるっスからねぇ」
「あら、私はさっきの応援も嫌いじゃないわよ?」
いすゞの軽口に、にっと笑ったリグの顔。真っ直ぐな笑みには思わず狐も口噤む。
そんな間にも、リグの一歩は確実に孤立した死者の身に迫り――。
「悪いけれど、これ以上先には進ませないわ!」
迎撃するように振るわれた錆びた刃ごと、黒鉄は喰らい、砕き、薙ぎ払うのみ。
鎧袖一触。これまさしく。
振るう刃の重みを受け止められるモノはなく、一閃の度、轟風奏でる度、死者であったものが消えていく。
「このまま押し切れるかしらね?」
「そうなら何事も万々歳っスがねぇ」
――じゅわり。
押し切れるか。
それが二人の脳裏に過った瞬間に響いたは、熱した鉄に水をぶちまけたかのような音。
「……そうくるっスか!」
「仲間の身体を使うって言ってもね!」
視線をやれば、そこには同類の身体から溢れる血を消火剤の代わりとぶちまけ、いすゞが火の結界を越える死者の群れ。
「唵、蘇婆訶――鑁、吽、怛落、纥利、悪!」
再びと符を撒き、火を結べど、それを乗り越え来る死者の波。
確かに乗り越える度にと死者はその数を減らすが、同時、距離を詰めて迫りくるも確か。
そして、彼我の距離は衝突まで幾許もないとまで削られて――。
「さぁさ、あしゅりーずセンセ、頼んだっスよォ!」
――狐が改心の笑みを浮かべていた。
降り注ぐは土砂降り。ただし、それは雨の勢いを指すモノではない。文字通りの土砂が降ってくるのだ。
潰れ、埋もれ、視界より消えていく死者の波。
彼らが最後に見たモノがあるとすれば、それは地を削るように掬い上げ、刃掲げたリズが姿。
「……そのまま土砂に埋もれて眠ってなさい」
そして、餞の言葉を最後に死者の視界は黒へと染まった。
「いやいや、流石っスねェ」
「なかなか数も多かったみたいだしね。ちょっとこの辺りの土地は荒れさせてしまったけれど」
「それはもう仕方がないっスよォ」
降り注いだ土砂の作った簡易の墓標。それを前にして二人は語る。
最後の時に何が起こったのか。
それは、十重二十重と破られるを前提にした結界をいすゞが張り、その隠れ蓑に乗じてリグが渾身の一撃でもって地を削り、砂礫の雨を降らせたのだ。
言葉にすれば簡単にも思えるが、実際にはそうではない。
いすゞは敢えてと自身の姿だけは死者達に見せるよう、その結界を張っていた。
リグは飛び出しそうになる身体を抑え、力溜めて自身の役割に徹した。
言葉交わすまでもなく、それでも互いが互いの役割を果たすだろうと踏んだ、阿吽の呼吸があったからこその結果であった。
「さてさて、少しは落ち着いたっスかね?」
「どうだろうね。この辺りは、随分と静かになったけれど」
死者の奏でる音は遠く、それは脅威の一幕を去ったを感じさせるもの。
ならば、次に来たるは――。
新たなる幕があがる。その気配が近いことを、墓標の前で二人は静かに感じ取っていたのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ルネ・プロスト
人形達は死霊憑依&自律行動
ポーン8体で前線構築、銃剣の乱れ撃ち&制圧射撃で敵群削りつつ接近妨害
砦の人巻き込むと面倒だしなるべく最前線に立たせる
森の友達は散開させて情報収集、敵の前線越え警戒と死角潰しを
前線越えてきた敵はキングの斧槍なぎ払い、ルーク2体の盾殴りで迎撃
ルネはUCで増幅した呪詛を身に纏って常時オーラ防御、基本後方から戦闘指揮だけしてる
雑兵相手なら駒盤遊戯達だけでも十二分
抜けてきても纏った呪詛で侵して内側から溶かしてやればいいし
砦にも君達にもさして興味はないけれど
亡骸は墓石の下へ、無暗に地上を彷徨うべきではないよ
――ま、言って聞くような相手じゃなさそうだし
力業でねじ伏せさせてもらおうか
さあさ、何方此方も寄っといで。
今宵見せるは駒盤遊戯の英雄譚。
最前列で見物しなけりゃ、勿体ないと来たもんだ。
御代? ははは、金銭なんていらないさ。
必要なのは――アナタの終わり。
「前線構築。統制射撃、開始」
ぺたり、ずるりと死者の波。
それへと相対するは規律正しき歩兵の八個。
指揮する指がゆるりと動けば、それへと応えるように歩兵も動く。
――構え、狙い、放て。
闇の中に閃光残し、それぞれの銃口より放たれた銃弾が死者を穿つ。
はたり、はたり、はたり。
弾丸受けて倒れ込む骸。だけれど、それを乗り越え、踏みつぶして波の歩みは決して止まらず。その先にある御馳走を目指して。
「砦も君達にもさして興味はないけれど」
戦果にも、迫りくる死者達にも心動かされぬ平坦な語り口。
だけれど、歩兵と繋がった指先は繊細。まるでそれぞれの指が自立しているかのような複雑怪奇。
それを為すにはいったい如何な処理能力が必要であろうか。だが、それをおくびも感じさせず、歩兵の主――ルネ・プロスト(人形王国・f21741)は彼らを動かし続ける。
――再びの射撃音。
ルネの統制の下で放たれるそれは、八つであるのに音としては一つ。
僅かともズレず、同時に放たさせる。それこそ、彼女の技量の高さを物語っているもの。
しかし、そこより生じた結果は先程と同じ。死者の波は犠牲となった者を踏み越え、ひたすらに前へ。
「亡骸は墓石の下へ。無暗に地上を彷徨うべきではないよ」
死者は死者らしく。
だが、ルネの言葉に反応する者はいない。ただ、どれもが飢餓を満たさんと迫りくるのみ。ルネの身体を引き裂かんと進むのみ。
ああ、だが、返答がないだなどと、そんなものは予想の範囲内だ。
「ま、言って聞くような相手じゃないのは分かってるし」
であるならば、力業でねじ伏せるのみ。
そうするための手段を、ルネは持っているのだから。
弾幕を物量でもって押し退け、歩兵と死者との距離が詰まる。
「銃剣構え……突撃」
銃弾の雨では物足らず、最前線で彼らが活躍をその身でも持って見たいというのなら、なに、見せてやろうではないか。
刎ね飛ばし、突き崩し、撃ち砕く。
八個の歩兵が行進に死者は蹂躙されるのみ。
時折、その粗末な刃を振り上げ、その死角より殴打せんとするものもあった。
だが、それだけだ。それだけのことなのだ。
多少の傷は付こうが、死者と同じく人ならざる者達である彼らがそれで動きを止める訳もなし。
そう。彼らを止めたくば、ルネをこそ討つべきであったのだ。
しかし、彼女があるのは戦場――盤面の外であり、歩兵を越えて直接と狙えるはずもなかった。
それに、そうしようともさせるに至らせない準備もあったけれど。
ゆるりと動かす腕。それは歩兵たちを繰るのとは、また違う動き。
その腕が、彼女の傍にあるキング――彼女が『パパ』と呼ぶそれ――を撫でていた。
「所詮は雑兵。その駒に指示する者もなければ、こんなものだろうね」
指し手なき駒など、それこそ置物と変わるまい。
彼女を盤面へ立たせるには、死者達だけでは不十分。それこそ、この元凶たる者が現れねばなるまい。
ルネの視界の中、歩兵に討たれた幾つかの死者が骸へと戻っていた。
死者を押し返す八個の英雄。そして、その軌跡を指し示すルネ。その活躍は今暫く――。
大成功
🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
希望の地、か
俺には理解できないけれども
きっと、そういうのもひとには必要なんだろうな
と、いうわけで。
でもあんまり目立つ行動も得意じゃないので、最前線で戦う普通の人に紛れ込んで、普通にそこから援護射撃で撃ち込んでいくよ
人間の数を減らすのもよくないだろうからね
星鯨を起動させてなるべく押されている場所を探して、それを助けるように立ち回る。
ある程度落ち着いたら移動を繰り返して、穴を埋めるような感じで戦っていけたら
勿論、その必要がなくなったら制圧射撃に切り替えて、押し返していくけれど……
派手な攻撃とか人を励ますかっこいい台詞とかは、得意な人に任せたい
俺は、静かに殺すべきものを殺せればそれで充分だから
「希望の地、か」
もしそんなものがあるのなら、それはきっと旅の果てに辿り着くところなのだろう。
そして、ここ――人類砦はそんな場所の一つ。
ダークセイヴァーの世界に生きるヒトビトが辿り着き、築いた希望の地だ。
「そういうのは、俺には理解できないや」
だが、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は、きっとまだ旅の途中。
世界を巡り、土地を巡り、まだ見ぬを求めて旅を続ける。
だからこそ、彼にはまだそれを理解出来ない。
希望の地――彷徨う果てに得た、定住の地に描く彼らの夢を。
しかし、それでいい。それでいいのだ。
彼らとリュカは違う。
生まれが、生き方が、価値観が。
だから、彼らのそれを理解できずとも、それでいいのだ。
ただ――。
「でも……きっと、そういうのもひとには必要なんだろうな」
理解出来ずとも、そのヒトビトにとっては大切なのだという理解さえあれば。
――手の中でカチャリと音立てた愛銃の声。
手にズシリと感じる重さを掲げ持ち、リュカはスコープの先を眺め見る。
その先にある、ヒトビトの奮闘を助けるために。
そして、放たれた弾丸は彼我の距離を埋め――押し寄せる死の一部を骸へ変えた。
「撃てば止まる。なら、やってやれないことはない」
動き回る死者とて無敵ではない。
撃てば止まる。射抜けば止まる。
ならば、そこに問題は何もない。
戦場の喧騒は掻き消された死の波の一部など気にもせず、ただただ互いの命を貪り合う。
だけれど、それでも、リュカの掻き消した死の波があったこと繋がった命は、そこへ確かにあるのだ。
であれば、リュカはそれを淡々と続けるのみ。
――また一つ、スコープ越しに波が飛沫と散り、消えた。
「人間の数を減らすのも、よくないだろうからね」
これからもこの地を彼らにとっての希望の地と、定住の地とするのなら、ヒトが減るのはきっと不都合だろう。そんな考えに基づいて。
そして、彼はその手を大きく広げていく。
より能動的に、より効率的に仕事をこなすべく。
「星鯨。援護を頼んだ」
宙に浮かんだ星明り。
元よりこの世界は夜と闇の世界。ならば、宙の星が増えたところで誰が気にしようか。
――宙の鯨が声なき声で鳴き泳ぐ。
「……そう。そっち側が」
それを聞いたは、きっと主たるリュカだけで。意味を介したのもリュカだけで。
導きの声にスコープの向きを変えてみれば、押し込まつつあるヒトビトが姿。
なるほど。これは確かに危機だ。突破されれば、砦も脅かされよう。
「ひとによっては、ここでかっこいい台詞なんて言うんだろうけれどね」
――俺は、静かに殺すべきものを殺せれば、それで十分だから。
静かに引き金が絞られて、吐き出されるは無数の弾丸。
無慈悲に降り注いだそれは、波を打ち砕いて余りある。
射抜き、穿ち、砕いて、死の波を押し返す弾丸の波。
例え、千切れた同類を喰い、その力を高めようとしたところで、立ち止まって喰らうなど、射抜いてくれと言っているようなもの。
「隙だらけだよね。実際のところ」
抵抗も許さず、リュカは淡々と愛銃に弾丸を吐き出させ続けるのだ。
そして、リュカの愛銃がようやくと一息つく頃には、脅威の一端もまた霧散霧消。
けれどそれで手を止めることなく、リュカの仕事は途切れることなく淡々と続けられていくのであった。
全ての脅威が払われる、その時まで。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『深海蜘蛛アモウ』
|
POW : ボクの世界へようこそ!
【吐いた糸】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に張り巡らせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : きみはとてもおいしそうだ!
【血を欲する本性】に覚醒して【完全体の蜘蛛】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない
レベル×5体の、小型の戦闘用【毒蜘蛛】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
イラスト:moya
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アライン・ブラインダウト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
躍動するヒトの身体。
懸命に生へと手を伸ばす姿も、死を蹂躙する姿も、どちらも蜘蛛の目を惹いて止まない。
嗚呼。嗚呼。それはとても美しくて、とても尊くて。
「――好いています」
だから、見つめる自身の胸はこんなにも高鳴るのだ。
胸当てた両の手に伝わる鼓動の強さ。
そんな彼らと一緒にいたい。そんな彼らをもっと感じていたい。
だけれど、そう思えば思う程に、膨れ上がるもう一つの感情。
「――空いています」
くぅくぅと鳴きやまぬ食欲は、高鳴る胸と比例するように、強く、強く。
あんなにも美しく、あんなにも尊い彼ら。
そんな彼らを欲するのは何も可笑しなことではない。
肌と唇を彼らの滴で濡らし、腹を彼らの命で満たす。
そうすれば、一緒にいられる。そうすれば、ずっと感じていられる。
そうだ。だから、この想いを伝えに行こう。
好きだから、空きだから、すきだから。ボクと一つになりましょう、と。
そして、猟兵達の活躍によって大きく数減らした死の波を跳び越え、ついに蜘蛛はヒトビトの――猟兵達の前へと姿を晒す。
「どうか、アナタ達の全てをボクに下さい」
ヒトから見れば破綻した、蜘蛛――化け物――の理論。
決して満たさせる訳にはいかないそれを胸へと大切に抱えたままに。
テイラー・フィードラ
誰がくれてやるか。お前にやる物など一つも無いと知れ。
凶月之杖を構え、詠唱。我が血肉を贄とし契約の魔を通常時より素早く解き放とう。
名をハルモニア。邪教たる魔性にして堕翼と睡眠を手繰る悪魔よ。この場を汝の歌にて包み込め。
さて、魔の歌は意味知らずとも聴いただけで効果があろう。魔に浸った俺と相棒は元より効かん。しかし過去の存在たるお前自身への効果は少なかれど召喚した蜘蛛には良く効く事であろう。
ならば後は行くのみ!
フォルティに騎乗し戦場を疾走。眠りこける毒蜘蛛の群れを踏み潰し抜剣し肉薄。戯けた事を抜かす蜘蛛脚を切り飛ばして見せよう!
あぁそうだ、少し訂正しよう。お前に苦痛と死を与えてやる。とくと感謝せよ。
トリテレイア・ゼロナイン
(消化器の音と表情をセンサーで拾い)
等号で結ばれた好意と食欲、まだ悪意や生理的欲求で在ればある意味で救いがあったものを…
戦機の私に対してもあの様子なのはいっそ哀れですらあります
糸をスラスターでの●スライディング移動で回避し、地形の糸をセンサーで走査し●情報収集
地形や粘着糸にUC発振器を打ち込み、バリアの『床』を構築
地の利を奪還
格納銃器での●スナイパー射撃で糸発射を、両手で●投擲した杭状発振器で左右移動牽制、剣盾を抜き放ち接近し攻撃
距離を取られるのも織り込み済み
後退のタイミングを●見切り投擲した発振器を起動し壁の『罠』を構築
激突し止まった相手に止めの●怪力近接攻撃
その好意は、独り善がりに過ぎます
あなたを下さい。
それに対しての返答など、決まっている。
「誰がくれてやるか。お前にやる物など一つも無いと知れ」
けんもほろろ。だが、当然の答えだ。
かの蜘蛛の言葉に応えたならば、その先にあるのは命の終わり。
それは目指すべきもののある、テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)からすれば、決して応えることの出来ぬもの。
まして、かの蜘蛛が――故意か否かを問わず――なしたことを思えば、何を言わんや、だ。蜘蛛が居なければ、この人類砦に被害など出なかったのだから。
「符号で結ばれた好意と食欲、まだ悪意や生理的欲求で在れば、ある意味での救いがあったものを……」
その傍、思わずとその顔を片手で覆ったはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
かの蜘蛛の好意。しかし、それが齎したものを思えばこそ、やり切れずにはいられない。
彼が言うように蜘蛛の行動が悪意からくるものであれば、生理的欲求のみからくるものであれば、単純に討つべき対象として見ることも出来ただろう。
だが、そうではない。
蜘蛛の好意が織りなす複雑な綾は、単純に1と0で分けられるものではなかった。
だからこそ、救われない。
「ですが、私は……私達はヒトの側に立つ者」
「故にこそ、我らはお前を討つものであると識るがいい」
突き付けるは守護の刃。
突き付けるは王権の証。
大敵を討たんと掲げた両者の輝きが、なによりもの返答であった。
「ふふふ、そんなに見つめられると困っちゃいます」
だが、蜘蛛はヒトの敵意になど頓着しない。
恐らくは、今迄だってそうだったのだろう。
蜘蛛の好意へ素直にどうぞと身を捧げる者は少なく、今回と同様に刃でもって答えられることが多かったであろうことは、想像に難くない。そして、そのヒトの行為を越えて、自身の好意を受け取ってもらっていたことも。
だからこそ、蜘蛛は学習したのだ。突き付けられるそれを己が価値観で解釈し、理解したのだ。
「――でも、そうするのがヒトなんですよね?」
その抵抗の兆しこそがヒトの習性であり、自身の好意を受け取るための準備なのだ、と。
くぅくぅと鳴りやまぬ好意の徴は、より強くとなっていく。
「戦機の私に対してもあの様子とは、いっそ哀れですらありますね」
「怪物の価値観とは分からぬものだ。肉も鋼も、生きていて、噛砕ければ等しくヒトなのだろうよ」
「種族の如何を問わず。ある意味で平等だとも言えますか」
「ただ、話は通じんがな」
蜘蛛討たんと散開する二人を追うように、粘つく糸の手が伸びる。
それこそはまさしく蜘蛛の糸。
触れればたちどころに絡みつき、粘つき、身動きすらも封じられることであろう。
それを理解するからこそ、二人は戦場を駆け抜ける。糸に囚われまいとして。
――蹄が地を蹴り、焔の尾が空気を焦がす。
人馬一体たるテイラーであればこそ、重き身を軽やかに運ぶトリテレイアの推力であればこそ、蜘蛛糸に囚われぬは可能。
だが、網の如くと広がる蜘蛛糸は確実に世界を蝕み、蜘蛛への道を、生存の領域を閉ざしていく。
「走り回る姿も、きらきら輝く光も、すごい綺麗……!」
「余裕綽々といったところか」
「ならば、こちらもそろそろ打って出ましょう。ですが――」
「ああ、理解しているとも」
「であれば、重畳です」
動き続けるテイラーとトリテレイア。時に刃で糸を裂き、鎧の内より撃ち出す弾丸で糸を迎撃する。
だが、その躍動こそ、輝きこそ、蜘蛛を惹きつけて止まぬもの。
だからこそ、蜘蛛は喜びと共にそれを腹に満たす時を夢想するのだ。
彼らが反撃の牙を研ぎ続けているなどと、想像もつかぬままに。
――輝きが蜘蛛を指し示す道となる。
「え、え、え?」
「道を敷かせてもらいました。その上であれば、粘つく糸に脚を取られることもないでしょう」
「ありがたい!」
その輝きの道こそ、トリテレイアの搦め手。
糸の迎撃にと撃ち出す弾丸へ混ぜた、電磁障壁生み出すための発振器。それが互いを結び合い、壁――否、今は蜘蛛糸の中に輝く道を生み出していたのだ。
それを俯瞰して見れたのなら、輝きの道に蜘蛛の巣が斬り裂かれたように見えたことだろう。
そして、同胞の生み出した道がその前にあるのならば――。
「後は行くのみ!」
それを駆けぬはテイラーではない。
愛馬との呼吸は阿吽のそれ。敷かれた道を力強く踏み蹴って、ただ只管と駆け抜けるのみ。
「そういうことも出来るんですね!」
だが、蜘蛛の表情は崩れない。
時にあるのだ。こうして糸を踏み越えてくる者が。
だから――。
「出番だよ!」
それを迎撃し、絡めとるための手段。
蜘蛛糸の一部が膨れ上がり、破裂し、飛び出すは毒蜘蛛の群れ。
側面より強襲するそれが、テイラーへと殺到し、その身を覆わんとする。
「――気付かぬとでも思っていたか?」
だが、顔色変わらぬはテイラー達も同じ。
その手に握られた王権の如き杖へと輝くは赤き星。即ち、力の行使を示す輝き也。
「我が命を結び堕翼授けし悪魔よ。贄を代価に貴殿の力を発揮せよ」
赤き星に導かれ、虚空に開くは黒き門。
それより出でた牙がテイラーの身を抉り、その肉を核として『ソレ』をこの場へと顕現させる。
ばさりと広がったは堕ちたる翼。その口元より零れ出るは麗しき奏。
ソレこそは堕翼と睡眠を手繰る悪魔――名をしてハルモニア。
その口より零れ出る魔歌は毒蜘蛛の身を睡魔の中へと引きずり込むに十二分。
それを示すように、ポトリポトリと睡魔の中へ墜ちる毒蜘蛛。そして、同時にそれはテイラーを輝きの道から落とせなかったことを示すモノ。
「私達とて、ただ避け続けていた訳ではありませんからね」
奇襲も種が割れていれば、対応の仕様など幾らでも。
そして、ここにはそれをなし得るセンサーを持ったトリテレアイが居るのだ。
蜘蛛糸を躱し、動き続ける中、彼は常にと情報を拾い続けていたのだ。反撃の牙を剥く、その瞬間のために。
だからこそ、テイラーもまた、より円滑な迎撃へと移れていたのだ。
障害を踏み越え、乗り越え、牙は遂に蜘蛛をその手が届くところへ。
「すごい、すごい! ここまで来れるなんて!」
だが、蜘蛛とて牙を棒立ちで待つものではない。
その身翻し、跳ぼうと――。
「きゃん!?」
「本来は、こうして使うものなのですよ」
――して、それを阻むは光の『壁』。
檻の如くと立ち塞がるそれは、電磁障壁の本来の使い方。
道ばかりと見せていたのは、この時のためにこそ。
――蹄が地を蹴り、焔の尾が空気を焦がす。
「あぁそうだ、お前にやる物など一つも無いと言ったが、少し訂正しよう。お前に苦痛と死を与えてやる。とくと感謝せよ」
「好意はありがたいのですが、アナタのその好意は独り善がりに過ぎるのです」
そして、遂にと二人の牙は蜘蛛の身体へと届き、その身に食い込んだのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャルロット・クリスティア
【銀蒼】
あれは人側の理屈が通じる相手じゃなさそうですね……こうなれば問答は無用ですか。
しかし射手がいるのは見られたでしょうし、伏兵は効果が薄いと言うのはわかりますが、こんな相手に実戦訓練とはスパルタなことで……!
ダガーを用いた近接戦闘。
ユアさんと挟み込むような位置取りを基本に、こちらは彼女が動きやすいよう、相手の逃げ場を塞ぐよう援護を中心に。
覚醒された状態ではユアさんも簡単には仕留められないでしょうが、メインの攻撃手が彼女だと誤認させる。
……そう、本命は私の側。
ユアさんに注意が向いた瞬間を狙って、不意を突いて抉り取る……!
一度崩せば後はこっちの物。その命、獲らせて頂きますよ。
ユア・アラマート
【銀蒼】
出てきたな
シャル、前線に出ておいで。この間教えたことを試すいい機会だ
風の術式を纏い、正面から相手取る
【見切り】【ダッシュ】で敵の攻撃がギリギリ届くか届かないかの距離感を維持し、意識を自分に惹きつけながらチャンスを伺う
下手に当たれば大怪我だろうし、油断はできない
まあ、これだけ時間を稼いだんだ
私は美味しい所をもらうから。後は任せるぞ、シャル
シャルの死角からの攻撃で敵の意識がシャルに向いた瞬間
【2回攻撃】で敵の首元を斬りつけ、的確に致命傷に繋がりそうな部位を狙っていく
好いてくれるのは結構だが、一方的に愛されて食われてなんてやれないぞ
ああ、シャル。お疲れ様。上手だったぞ
さすが、私の見込んだ子だ
「いた、いたい、いたい?」
ぐらりと揺れる、蜘蛛の身体。俯いた顔からは表情は窺えない。
だが、刻まれた傷より零れ落ちる色は赤ならざる。
それこそが、なによりもヒトならざるを示しているかのよう。
「……嬉しいです。アナタ達もボクと同じ想いだなんて」
痛みの波を越え、ゆれる身体を持ち直せば、得心したかのようなにこりと笑顔。
どういうことだというのだろう。
「アナタ達も、ボクと同じように、お腹の中をボクで満たしたいんですね?」
蜘蛛にすれば、ヒトが自身へと刃向けるは好意に応えてくれた証。
普段はそこからその刃を砕いて腹を満たすが一連の流れであったが、その刃が届いて傷を負うなど初めての体験。
それは蜘蛛の元々あった認識――ヒトが刃を向けてくることの意味を揺らがすものであったのだ。
だから、蜘蛛なりにそれをどういうことかと解釈した。
そして、した結果が、それであった。
彼ら彼女らも、自分と同じく相手で己の内を満たしたかったのだ、と。
「あれは人側の理屈が通じる相手じゃなさそうですね。分かってたことですが」
「だからこその怪物ということだろう。知恵がある分、厄介なことだが」
ボタンの掛け違いどころではない。そもそもとして、ボタンからして違うのだ。
それを改めてと認識し、辟易と言わんばかりのシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)。傍らにあるユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)の顔には苦笑い。
だが、今更と蜘蛛の認識を正すようなことはしない。その必要性もない。
何故なら――。
「その知恵のせいで、こうして前に出て来なければならないというのも因果なものです」
「いいじゃないか。この間教えたことを試す、いい機会だ」
「こんな相手に実践訓練とはスパルタなことで……!」
「ははっ、可愛い子にはなんとやらだよ」
「私、本職は狙撃手なんですけれどね!」
討つべき者へと贈るべきは、刃以外にないのだから。
闇の中に冴えた蒼の輝きが尾を引いて、銀の波が揺らめき踊る。
それはとても美しく、蜘蛛の眼に映り込んで――。
「あぁ、どうしてアナタ達はそんなにも!」
自身の血の香りと共に、蜘蛛/怪物の本能を刺激するには十二分。
ヒトの上半身の模りは膨れ上がり、崩れ落ち、露わとするは蜘蛛のそれ。
ぎちりぎちりと牙鳴らし、口元より零れ落ちる雫が地を濡らす。
「正面は受け持とう」
「大丈夫ですか?」
「問題ないさ。シャルは私では不安かい?」
「分かって聞いているでしょう」
「勿論だとも」
「なら、任せましたよ」
「任されよう」
落ち来る蜘蛛の爪を躱し、巻き上がる土煙から散開する二つの影。
さて、どちらを追うべきかと蜘蛛が思考するより早く、銀が躍った。
「あの子を追いかけるより、まずは私を見てくれないか」
風纏う踏みこみは土煙を吹き飛ばし、鮮やかなる牙を最短最速をもって運ぶ。
狙うは脚。その間接を刎ね飛ばさん。
だが、蜘蛛とてそう容易く脚などくれてはやれぬ。
噛み合い、火花散らした刃と爪。硬質の奏でが闇へと響く。
「――傷を重ねていけば」
「そちらも視えてますよ」
ユアのそれを隠れ蓑とシャルロットも側面より踏みこむが、蜘蛛の視野がそれを阻む。
二刀一対、輝かぬ刃が軌跡はユアの牙と同じく爪に阻まれる。
――だが、それでいい。
蒼の瞳に揺れる意思はなによりそれを語るもの。
シャルロットが側面より強襲を掛けたが故に、鍔競り合ったユアへの追撃は阻止され、彼女が次へと動き繋げるを助けるのだから。
「うん、やっぱりいい眼をしている」
「視界の広さは負けたとしても、視ることで負ける訳にはいきませんからね」
ユアを前衛としつつ、シャルロットがそれを補佐する。
共に前へと立つという若干の形の違いはあれども、それは先の戦いと同じもの。
阿吽の呼吸とも言えるものが互いの命を繋ぎ合い、蜘蛛/怪物と渡り合うを叶わせている。
だが、火花散り、硬質の奏で続けども、互いに決め手は遠く、千日手――そうまでは言わずとも、拮抗の時が流れていた。
蜘蛛はその視界の広さと手数を、シャルロットとユアは阿吽の呼吸と技術を有するが故に。
だからこそ――。
「そろそろか」
ダンと強く踏み込んだはユア。
前衛として、攻撃の主役として、矢面に立ち続けた彼女。それがあからさまに力強くと前へ出たのだ。
ならば、そこから来たる一撃を予期し、蜘蛛がユアへと警戒を強めるは必然。
「――視るのを止めましたね?」
そして、それはシャルロットへの意識が疎かになることでもある。
踏み込みは最速。刃運びは最短。それはまるでユアが最初に見せたかのように。
その身を弾丸の如くとして蜘蛛の意識の網を掻い潜り、例え気付いたとしてももう遅い。
シャルロットを意識から外した時点で、必滅の刃は既に抜き放たれているのだから。
そう。彼女こそが、刃の本命。ユアはそれを為すための囮であったのだ。
――ダーク・セイバー。
救世の名には遠く。されど、見知らぬ誰かのためにと振るう刃が故にこそ、今、その名を語ろう。
「どうですか!」
「ああ、シャル。お疲れ様。上手だったぞ。さすが、私の見込んだ子だ」
刃は冷たい感触を、次いで熱い感触を蜘蛛の脚が1つへと残して断ち抜ける。
「GYAAアアaaああ!?」
蜘蛛の悲鳴は轟と風巻き、世界を揺らす。
岩肌に残る樹々が揺れ、土煙が巻き上がり、地面をビリビリと震わせる。だけれど、それだけだ。風を纏うユアには、何の影響も齎さない。
ゆるりと踏みこんだ一歩。シャルロットが切り拓いた隙を悠にと使い、その一刀を翳す。
囮だからと言って、敵を切り裂く刃を持っていない訳ではない。
「好いてくれるのは結構だが、一方的に愛されて、喰われてなんてやれないぞ」
――おやすみなさい。あなた。
そして、蜘蛛の悲鳴すらをも斬り裂いて、その身体に翡翠の軌跡が描かれる。
漂う香りは噴き出る蜘蛛の血のものか、それとも――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
ぅ、ぐ、む、むし……!
正直、逃げ出したくなるほど苦手ですが……そういうわけにもいきません!
白き天使の姿に変身
飛翔(空中戦)しながら、すれ違いざまに聖槍で斬り裂く(切り込み)
好意と食欲が混合した異形の精神性! ヒトの世界で生きることは能わず!
糸を吐くという虫そのものな行為に動揺
機動性を失って捕らわれ、雁字搦めにされて地に落ちる
きゃぁぁあ!?
捕食しに近付いてきたところで、全身が黄金の炎で包まれ(属性攻撃)、【巨躯変容・炎冠宰相】を発動
巨大化(488.1cm)し、糸を引き千切って脱出
【怪力】を以って燃え盛る聖槍を振り下ろし、炎の【衝撃波】で【焼却】する
燃え尽きろ――!
雨宮・いつき
随分と情熱的な御方がいらっしゃいましたね
人に好意を抱く事そのものを責めるつもりはありませんが…
好意の伝え方をそれしか知らないというのは、難儀なものです
…如何にその感情が尊いものであったとしても、人に害成すのを看過は出来ません
やりきれぬ気持ちはありますが、討たせて頂きます
吐かれる糸を避けつつ、
両刃の剣と化した朱音を手にして霊力を高めていきます
地形に残る蜘蛛糸は非常に厄介ではありますが…導線として逆に利用させて頂きましょう
高めた霊力を用い、蜘蛛糸を伝う雷の【マヒ攻撃】で動きを封じ込めます
その隙に朱音へ霊力を注ぎ込み、反撃を受ける前に一気に攻め立てましょう
滾る炎で蜘蛛糸諸共、彼の者を焼き尽くすのです
クレア・フォースフェンサー
悪意のない悪意、といったところじゃの
食欲を満たすために喰らうというのであれば、生き物としては極自然なことじゃ
人が藻掻き苦しむ様を愉悦をもって鑑賞する輩よりは、遥かにましかもしれん
いや、喰らい、己がものにするという意味ではむしろ悪質か
溜めこんだものは全て吐き出して貰わねばならんな
まずは敵が巡らした蜘蛛の巣や毒蜘蛛を【能力破壊】を込めた光弓で破壊するなどして、仲間をサポート
敵の動きが鈍ってきたならば、見術をもってその魂魄を見切り、敵の肉体が完全に滅ぶ前に【能力破壊】を込めた光剣でその外殻を破壊しよう
今までおぬしが喰らった者達の魂はここで返してもらうぞ
骸の海にはおぬし一人で還るのじゃな
満ちず、満ちず、満ちず。
むしろ、刻まれた傷から今なおと零れ落ちる命の滴はそれに拍車をかけるもの。
「う、ぐぅ、あぁ……」
今迄のヒトビトでは抵抗あれども蜘蛛を傷つけるには至らなかった。
抵抗という応えだけでも、跳びはねるほどに嬉しいものではあったけれど、それでも今を知った蜘蛛にはそれが随分と劣るように感じる。
傷付けて、傷つけられて。互いに貪り合うように求めることのなんたる幸せか。
故に、欲しくなる。より一層と欲しくなる。猟兵を、彼ら彼女らを。
とはいえ、それをあくまでも好意と捉えているのは、相も変わらず蜘蛛だけなのだけれど。
「でも、よりアナタ達を好いているのはボクですから」
だから、蜘蛛は信じて止まない。勝つのは自身なのだ、と。
「随分と情熱的な御方のようですね」
「まぁ、人が藻掻き苦しむ様を愉悦をもって鑑賞する輩よりは、遥かにましかもしれん」
「そうですね。人に好意を抱く事そのものは責められるものではありません」
「とはいえ、ワシらとて喰われる訳にはいかぬ」
「……如何にその感情が尊いものであったとしても、人に害なすのを看過は出来ません」
好意の発露。ヒトに合わせたその方法を知らぬが故の、悲しき末路。
ヒトとヒトならざる者とが想い通わせる物語は世界に数多とあるが、それは必ずしも大団円で終わる物ばかりではない。
中には、こうしてヒトに討たれる終わりがあるものもあったことであろう。
それを想い、己の責務を想い、その胸中に複雑な感情の綾を広げるは雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)。
「好意という言葉で飾ろうとも、お主のそれは悪意のない悪意といったところじゃの」
クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)もまた、己が製造された理由を背負い、此処に立つ者。
ヒトより生み出された人造のその身を持って、蜘蛛/オブリビオンを討たんとするのだ。
だが、その前に――。
「ぅ、ぐ、む、むし……!」
「のう、おぬし。無理をせんでも」
蜘蛛を前に唸る彼女――オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)の苦悩を見抜く。
発汗。開いた瞳孔。僅かと震える手足。
その全てがクレアに彼女がそれを苦手か、はたまた天敵としているかを告げていた。
故にこそ、無理をするなと声を掛けたのだ。
「……いえ、正直、逃げ出したくなるほど苦手ですが……そういうわけにもいきません!」
「そうか? だが、無理と思えば退くも勇気じゃ。良いな」
「分かっていますとも」
戦場での迷いは、そのまま己の脚を掬いかねないのだから。
だが、それこそオリヴィアもよく知るところ。彼女もまた、数多と戦場を駆けた一人であるのだから。
息を整え、丹田に力を込めて、己の心に落ちる影を吹き払う。
――輝きを、ここに。
己が心に喝を入れ、オリヴィアはその身を白へと染め上げるのだ。
「――参ります!」
「――討たせて頂きます」
「――皆、気負い過ぎるでないぞ?」
「イロ、色、彩。嗚呼、アナタ達はだからこそ、こんなにも眩しい!」
三者三様の言葉が響き、相対するように蜘蛛の言葉も響き渡る。
激突するは必至であった。
天翔けるは輝きの翼。
飛翔し、真っ直ぐと突き進むはまさしく槍の如くと。
それを援護するは光矢。
追従し、並走するようにと射られたそれは、射手の力量を思わせるもの。
「好意と食欲が混合した異形の精神性! ヒトの世界で生きることは能わず!」
「今迄に喰らい、溜め込んだもの。全て吐き出して貰わねばな」
――天より断罪が降ってくる。
だが、蜘蛛とて飛来する者達をただ座視する筈もなし。
「その翼も、輝きも、ボクにはないもの!」
だから、好き。だから欲しい。だから――。
「ボクに下さい!」
「え、きゃぁぁあ!?」
吐き出されるは蜘蛛の糸。捕らえて離さぬ、絡めの糸。
投網の如くと広げられたそれは天を覆うに余りある。
降下の速度が合わさったオリヴィアに回避は――不可能。
本来のオリヴィアであれば、そこまで逸ることはなかっただろう。
槍の如き突破力はここぞでこそ使っていた筈だ。
だが、押し殺したとは言え、僅かな苦手意識――動揺が彼女を無意識に急がせていたのだ。
「落ち着いて下さい!」
絶体絶命。それを救ったのは年若き声。
宙跳んだ影から朱の双刃閃いて、天の投網が閉じるまでの数瞬に、それを瞬く間と裂いていく。
「――今の内に脱出を!」
影――いつきが作った隙間から、オリヴィアが白の翼を羽ばたかせて蜘蛛の巣より抜け出でる。勿論、いつきも忘れずと拾い上げ。
「すいません、ありがとうございます!」
「お礼は僕だけでなく、クレアさんにも!」
「念のためと並走させておいて、正解であったのう」
そう。天の投網が閉じる際に生まれた数瞬。それはオリヴィアを囲んでいた光矢が先んじて触れ、閉じるを僅かでも阻害していたからこその。
クレアからすれば、そのままオリヴィアと共に蜘蛛を討てれば善し。討てぬでも、何かの役には立とうと思っての矢であったが、それはまさしくであったのだ。
「なに、おぬしが蟲を苦手としているのは既に聞いた。それを抑えてでも戦わんとする勇気もな」
「ですが、僕達もいるんです。これを活かさない手はありませんよ」
「そう、ですね。改めて、お二人に感謝を」
焦りは確かにオリヴィアの胸に。だが、それを溶かすは仲間の言葉。
追いかけるように放たれた蜘蛛糸を撃ち落とし続けるクレアの姿が、案じるように身体を診てくれるいつきの姿が、オリヴィアの肩の力を抜いてくれたのだ。
瞳閉じ、再びと開かれたレンズ越しの金。そこに最早曇りは無かった。
「頼りにさせて頂きます」
「勿論です」
「応とも。頼るがいいさ」
満ちる心。満ちる戦意。それは蜘蛛には決して到達できぬ境地。
そして、再びの幕はあがる。
「その蜘蛛糸、確かに厄介なのではありましょう」
粘つく糸は触れれば立ちどころに身を絡めよう。そして、抵抗できぬままに蜘蛛の足元へご案内、だ。
だが、逆を言えば、その糸は常に蜘蛛の足元へと繋がっているのだ。
それはつまり――。
「導線を四方に伸ばすなど、火をつけてくれと言っているようなものですね」
にこりと笑ったいつきの手には術符の姿。
それに虫の報せがまさしくと囁いたのだろう。
蜘蛛が視線をいつきに集め、その手の中でばちりと奔る稲妻を視た。
「それは嫌な感じがします!」
「じゃからと言って、邪魔立てはさせぬがな」
糸の弾丸迫りきて、されどそれを届かせぬはクレアが己に課した役目。
矢を放ち、剣閃刻んで、蜘蛛糸を無害の糸へと還していく。
それこそはクレアが眼であるからこそできるもの。
術の核、それをそうと成り立たせる核を見抜き、穿ち、絶つことで無力化させる、クレアだけの業。
「時間稼ぎは上々じゃろう?」
「ええ、問題ありません! いけます!」
「それは重畳。さて、今迄おぬしが喰らった者達の魂分、取り立ての時間じゃよ」
数多と糸弾を裂こうとも息切れぬ背中のなんと頼もしきか。
オリヴィアのそれとはまた違う金色の瞳が、やっとくれ、と茶目っ気交じりにいつきを視る。
それを合図としたかのように、遂にと臨界越えた稲妻が蜘蛛糸に触れ――。
「――ぎゃん!?」
弾かれたように蜘蛛の身が跳ねる。
それは反射的に逃げるかのように、それは苦痛から逃げるかのように。
だからこそ。
「――逃がしません!」
それを抑えるはオリヴィアが役目。
だが、その姿は白き天使が姿であっても、その身体は見上げるほどに。
それこそはオリヴィアの信ずる守護天使。その力の一端をその身に降臨させたもの。
蜘蛛よりなおと巨なる体躯であれば、それに劣るを槍で抑えるなど容易きは自明の理。
そして、それを抑えるオリヴィアの姿に、先程までの心の曇りは一切ない。常の姿を取り戻した、戦乙女の姿がそこにはあった。
ばちりばちりと稲妻が逃れられぬ蜘蛛の身体を蹂躙し、痙攣するようにその身を震えさせる。
開いた口は閉じるも叶わず、絶叫をあげるをすら許されない。
「南方を司りし聡明なる獣よ。その清き炎を以って遍く闇を打ち払い給え」
だからこそ、蜘蛛はその顕現を瞬く世界の中で見守るしか出来なかった。
いつき掲げたは交差する朱の双刃。交差するそれはまるで翼広げた鳥のように。
否。ように、ではない。その刃より確かに焔が燃え上がり、翼模られ、『ソレ』は生まれる。
「――四獣招来『朱雀』」
炎の鳥は赤々と闇の世界を照らし出し、その声を響き渡らせる。
そして、それが放たれる先こそは――。
「燃え尽きろ――!」
「滾る炎で蜘蛛糸諸共、彼の者を焼き尽くすのです」
「骸の海にはおぬし一人で還るのじゃな」
身動き封じられた蜘蛛の在り処。
最早、蜘蛛にそれを避けうる手段はない。
蜘蛛を中心として膨れ上がった焔が諸共に空気を焦がしていく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ジェイ・ランス
【POW】※アドリブ、連携歓迎
やっぱ食欲と混同してたか。一種のヤンデレかね?
まあ、食われるわけないは行かねーしなあ。ヤッときますか。
"慣性制御術式"、"重力制御術式"で自身を制御して【残像】を生みつつ回避機動。攻撃は"機関砲"でいっちゃおう。
―――感情演算停止。運命変転術式『Nibelungen(ニーベルング)』起動。
"事象観測術式"で観測したオブリビオンの「好意にいたる経緯」と「食した未来」をUCで切り離し、食欲を失せさせましょう。
もはや貴方は、ただの獰猛な蜘蛛です。飢える事でしょう。しかし食せない。
その辺の動物で、飢えを凌げば良かったのですが、ヒトに仇なした以上は消えていただきます。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。怪物には怪物の理があるように、人には人の理がある
その法を理解せず悪戯に人を求めるその歪みこそ、
お前が骸の海へ排斥される原因と知るがいい
過去の戦闘知識から敵の殺気や気合いの残像を暗視して見切り、
魔力を溜めた大鎌をなぎ払う早業のカウンターで迎撃する
…蜘蛛糸も毒蜘蛛も蜘蛛化も無駄よ。私には通じない
…さぁ、報復の時よ。今までお前が犠牲にしてきた者達の怨嗟を知れ
第六感が好機を捉えたら懐に切り込みUCを発動
右手に展開した結晶刃を怪力任せに突き刺して呪詛を解放
限界突破したオーラで防御を無視して敵の体内を乱れ撃ち、
傷口を抉る闇属性の2回攻撃を放つ
…この一撃を手向けとする。眠りなさい、安らかに…
リュカ・エンキアンサス
……色々旅をして、いろんな人を見て、いろんな好きの形も見てきたけれども、
それって本当に好きってものなの。食欲と混同してない?
とはいえ……あなたがそう思うのなら、そうなんだろうな
否定はしない。否定できるほど俺はあなたを知らない
そのうえで、それを人類は受け入れることができないと、思うよ
視界に入った瞬間から先制攻撃で銃撃を開始
取りあえず仮の急所として腹部を狙って素早く殲滅したいけれども、
近寄ってきそうなら、早業で後退
必要なら足狙いなどに切り替える
戦闘知識と第六感を駆使して、そのあたりは状況で判断する
好きだから自分のものにしたい、までなら理解できる
食べたいも、まだわかる
でも、空いてるは、違うと思うんだ
燃える、燃える。躰が、燃える。
その熱さは身に染みて、蜘蛛の思考をも焼いていく。
「あ、は……求められることが、こんなにも身を焼くものだったなんて」
常であれば求める側。常であれば喰らう側。
こうして刃に抉られ、身体燃やされるなど、あり得ざる体験。
だが、それでも蜘蛛/怪物は嗤う。
今この時、彼ら彼女らの思考は自身と同じく相手にだけ注がれているという事実に打ち震えて。
昂る心と共に、傷付いた身体が補填を求めて、またくぅと鳴いていた。
「……色々旅をして、いろんな人を見て、いろんな好きの形を見てきたけれども、これって本当に好きってものなのかな」
「やっぱそう思うよな。食欲辺りと混同してるぜ、きっと」
「……ん。怪物には怪物の理があるんだろう」
「でもよ、人の理に当てはめるなら、これってヤンデレの一種じゃね?」
アナタが好きだから、アナタを私の一部とする。
病んだ心の行きつく果て。その思考の一つにそういったものがあるのは否めない。
そして、そうなったヒトはヒトの理を越えて、ある種の怪物になり果てるのだ。
それを怪物自身がこうしてみせたことの、なんたる皮肉であろうか。
だから、ジェイ・ランス(電脳(かなた)より来たりし黒獅子・f24255)は肩を竦めてわらってみせる。
「ヤンデレというのは分からないが、あなたが言うように人には人の理がある」
「その上で食欲を好意と言い張るのなら、俺はそれを否定はしない。否定できるほど、怪物の理とやらを俺は知らないから」
――だが、否定をせず、でも、言えることはある。
「でも、それを人類は受け入れることができないと、思うよ」
「そうだ。怪物には怪物の、人には人の。その法を理解せず悪戯に人を求めるその歪みこそ、お前が骸の海へ排斥される原因と知るがいい」
誰しもがその身を怪物に捧げる供物としたい訳ではない。
それを知らずして好意とは名ばかりにヒトを喰い散らすのであれば、ヒトより怪物の謗りを受けるは免れまい。
そして、現に蜘蛛は怪物として彼らを前にしているのだ。
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)に過去喰らう死神の鎌を向けられ、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)に鈍く輝く銃口を向けられながら。
「ま、小難しいことは何にせよ、喰われるわけには行かねーしなあ」
――ヤッときますか。
気の抜けたような、しかして冷徹な刃を秘めたかのような。
そんな矛盾するジェイの響きを合図として、猟兵達は動き出す。
ヒトの世にて満ち足りるを望む怪物を討たんとして。
響いたは無数の銃声。火薬の灯火。
ジェイの持つ機関砲とリュカの持つアサルトライフル。
その二つの砲身より吐き出される銃弾が、荒れ狂う風となって蜘蛛を包み込む。
瞬く間に形成された銃弾の幕。それは広い視野を持つ蜘蛛の視界であろうとも、問答無用と塞ぎこむのだ。
「過去が私の前に立たないで」
銃声の中に混じる静かな言葉。
嵐をものともせず、むしろ、その中へ溶け込むように流れる銀なる揺らめき。
気付けば、蜘蛛の目の前にはリーヴァルディの振りかざした大鎌が、火薬の煌きを照り返して不気味と三日月を宙へと描く。
「アナタの銀も、とても綺麗で――」
ゾワリと奔った第六感。振り下ろす筈の刃を引き戻し、囁きのままに振るう。
――ビシャリ。
刃に触れて飛び散るは蜘蛛の糸。
「――すごく好きですよ」
遅れて、蜘蛛の鉤爪が飛来する。だが、絡んだ糸は刃を鈍らせ、リーヴァルディ本来の動きを制限する。
死神の吐息が彼女の耳のすぐそばを擽っていた。
「火力集めて、撃て、撃て、撃てー!」
しかし、その吐息を吹き飛ばすは陽気な声。
補うように、蜘蛛の身体を叩いていた弾丸の嵐が降り注ぐ鉤爪へと集められ、その軌道を逸らすのだ。
「今のうち、どこでもいいから動いて」
そして、導かれるように飛び退れば、命刈り取る爪がリーヴァルディの眼前を風と過ぎていく。
死の予感にバクリバクリと鼓動が跳ねる。だが、今はそれに頓着している場合ではない。
振り暴れる鉤爪が縦横無尽と動き回り、跳ねまわっているのだから。
「……助かった」
「どういたしまして」
「はっは、『オレ』が何体も吹き飛ばされちまった」
リーヴァルディに追撃が来なかったのは、ジェイが己の影を囮に動き回っていたからこそ。そして、リュカが火力を迎撃に割り振っていたからこそ。
どちらかが欠けていたならば、その身に刻まれる傷を受け入れねばならなかっただろう。
「しかし、すごい暴れっぷりだね」
「あれじゃあ、お腹も空くだろうよ」
「……いや、それだけではないみたい」
周囲にジェイの影がなくとも動き続ける蜘蛛。時に糸吐き、時に爪を振るい。
それは空きっ腹へ暴れているかのようにも、遊んでいるようにも見える振る舞い。
だが、そうではないと気づいたのは、その身が白――蜘蛛糸で覆われていくが故に。
それは傷を包むように、その身を守るように。
「――即席の鎧といったところ」
「なんだよ、そういう知恵は働く訳ね」
「通常の弾だと……ちょっと貫通するには厳しそうだよ」
三人とてただ見守っていた訳ではない。
先んじて動いた時のように銃弾を嵐とぶち撒け、その身の動きを止めんとしていたのだ。
だが、粘つく蜘蛛糸はそれを受け止め、蜘蛛の身に到達するを妨げる。
通常の弾頭では届かず、近づくにも振り暴れる爪の結界を抜けねばならない。
ならば、どうするか――。
「――感情演算停止」
「……星よ、力を、祈りを砕け」
「……限定解放」
決まっている。できるものを用意するだけだ。
瞳には虹の輝きを。
銃には星の祈りを。
刃には血の報復を。
それぞれがそれぞれの最善を目指すのみ。
「運命変転術式『Nibelungen(ニーベルング)』起動」
同時、ジェイの瞳に映るは現在から伸びる過去と未来の糸。
地続きのそれを辿り、ジェイは過去/未来へと至る。
それは蜘蛛の過去を識るものであり、望む未来を識るものでもあった。
過去、蜘蛛が初めてヒトを食したのは、その主の教えによって。そうすることが蜘蛛をより美しくさせるのだ、と。そうすることで私達は喜ぶのだ、と。
未来、辺りに散乱するは誰かの部品。しとどに濡れた肌は紅に染まり、満ち足りた笑みは確かに美しく。
「その辺の動物で餓えを凌げば良かったのですが、ヒトに仇なした以上は消えて頂きます」
だが、ジェイはそれを識ってなお、揺らがない。
そんなもの、彼から言わせれば一言で済むのだ。
――だからどうした。
手にする刃は事象をも断つ概念の刃。瞳に映る地続きの現在、過去、未来を断つための。
そして、刃は無情にも振るわれて、瞳の中の景色は元の世界を戻す。
その中で、動き回る蜘蛛がびくりと身体震わせ、困惑するようにその動きを止めた。
まるで、そこにある理由を突然と忘れ、喪ったかのように。
それは一時的なものなのかもしれないが、それでも確かに蜘蛛の動きが止まったのだ。
だが、まだ糸の鎧がかの身を覆う。
それのある限りにおいて、弾丸は止められ、刃は絡めとられることであろう。
ならばこそ、これはリュカのなすべき仕事だ。
既にリーヴァルディは好機を逃すまいと走り出しており、その刃が到達するより早く、蜘蛛の守りを引き剥がすのは。
「こういうのも、信頼っていうのかな?」
駆けだした彼女の背中。そこには糸の鎧に対する懸念など一抹もない。
蜘蛛討つだけを考えているのか。それとも、第六感の囁きに仲間を信じたのか。
だが、まあ、構わないだろう。
その信頼/依頼に、リュカは淡々と応えるだけなのだから。
「好きだから自分のものにしたい、までなら理解できる」
――銃身に込めるはたったの一発。
「食べたいも、まだわかる」
――発射姿勢を整えて、スコープ越しに獲物を映す。
「でも、空いてるは、違うと思うんだ」
――放つはあらゆる装甲、あらゆる幻想を打ち破る星の弾丸。
駆ける彼女を追い抜いて、弾丸は正しくと蜘蛛を射抜く。その身に纏う幻想の、糸の防御を諸共として。
「……さぁ、報復の時よ。今までお前が犠牲にしてきた者達の怨嗟を知れ」
目の前で動き止めた蜘蛛。目の前で解ける糸の鎧。
誰がやったのか。誰もがやってくれたのだ。
ならば、それに応えねばなるまい。
はらりはらりと解け、無防備を晒す蜘蛛の腹。
そこに突き立てるはリーヴァルディの右腕。されど、無手ではない。
その手にあるは結晶の刃。蜘蛛に喰われた者達の怨嗟を固めた、結晶の刃だ。
「――ぼ、ボクは、なんっ、あ、ああぁぁぁ!?」
血肉を裂いて埋没する感触。その突然の痛みに忘我より立ち戻るは蜘蛛。
だが、もう振りほどくにも、痛みに耐えるを覚悟するにも遅い。
「……この一撃を手向けとする。眠りなさい、安らかに」
突き刺した結晶刃を基点として呪詛が弾けた。
それはまるで傷口を抉るように。蜘蛛に喰われた者達が解放されるかのように。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
リグ・アシュリーズ
【狼と狐】
あら。気に入ってくれるのは嬉しいけど、
あんまりがっつくのは嫌よー?
特にいすゞちゃんは嫁入り前だし、ねっ!
気さくに話しつつも警戒は怠らず、きた攻撃は黒剣で弾くわ!
えっ、私?私はほら、まだお相手がいるわけじゃ……!
いすゞちゃんの予想外の返しにタジタジしながらも、手は休めず。
これだけ脚の本数があれば、焦って狙うほど絡まりそうなもの。
だから、狙うのはカウンター。
確実に痛そうなのを避けつつ、敵の懐へ斬りこむわ。
いすゞちゃんの技封じが決まったら真の姿を解放、
怪我の痛みを吹き飛ばした体で大きく本体へと踏み込んで。
この一撃が反撃の狼煙、畳み掛けるわ。
いすゞちゃんの大事な命、削らせるもんですか。
小日向・いすゞ
【狼と狐】
尾は二尾
気を惹くように杖笛を一度鳴らして
やあやあ
申し訳無い
この身にゃァ先約があるモンで
いやァ
センセも嫁入り前でしょう
変わんないっスよ
ま、ま、ま
それでもそんなに熱く想って貰えるのならば
少しだけならあっしを分けてあげるっス
七星七縛符を駆けさせて
あっしが強化を止めるっス!
あまり長く保たせるつもりは無いっスから
センセ
そっちは任せたっスよォ
こっちはあっしがどうにかするっス!
鬼さんこちら
杖笛を吹いては小さな蜘蛛を惹き付け
敵のUCを止めている力まで割く訳にゃァ行かないっスから
逃げて、跳ねて
杖笛で殴りつけ
アンタの事は嫌いじゃァ無いっスが
でも
そうっスね
価値観の違いってヤツっス
さあさ
センセ頼んだっスよォ
土手っ腹に空いた穴。
ヒトとは異なる色の滴を零すそこ。確かめるように触れれば、ぐちゅりと湿った音が響く。
「……っ、あっ」
触れた刺激は痛みとなって蜘蛛の脳内を駆け巡り、本能とも言えるものを刺激する。
「ふ、ふふ、ふふふふふっ」
ぐちゅり。ぐちゅり。ぐちゅり。
触れる度に奔る痛みになど頓着せず、蜘蛛はその痛みを楽しむかのように。
他の猟兵達との交戦の中、既に本性とも言える完全なる蜘蛛の姿は晒されている。
その蜘蛛が自身の爪先で楽しむように傷口を抉る姿は、狂気をすら滲ませていた。
「嗚呼……ボクが欠ける。でも、欠けた分だけアナタ達でボクを埋められると思えば……」
傷口抉る爪先の動きはひたりと止まり、代わって蜘蛛の複眼は誰かを探すように。
そして――。
「あ、そこに居たんですね?」
ひゅるりと鳴った笛の音。まるでそれへと導かれたかのように、視線動かした蜘蛛の瞳が人影を映す。
その視線に宿るは絡みつく糸のような好意と空腹。
「あら。気に入ってくれるのは嬉しいけど、あんまりがっつくのは嫌よー?」
「やあやあ、申し訳無い。この身にゃァ先約があるモンで」
くすり笑った亜麻色の瞳。されど、その手に握った黒剣がリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)の油断ならぬを匂わせる。
笛の奏では音絶えて、揺れる尾の二尾いざ示す。小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)が本領を。
蜘蛛の瞳の絡みつくをどこ吹く風と跳ねのけて、二人は変わらず飄々と。
「そうそう、特にいすゞちゃんは嫁入り前だし、ねっ!」
「いやァ、センセも嫁入り前でしょう。変わんないっスよ」
「えっ、私? 私はほら、まだお相手がいるわけじゃ……!」
「ま、ま、ま」
二人の会話もたけなわに、蜘蛛の空腹もたけなわに。
振りくる鉤爪の鋭さへ、異論反論後にして、リグが刃と応じて返す。
ガチリと噛み合い、火花を散らし、衝撃に風が吹き抜けた。
「さっき言ったでしょう? がっつくのは嫌よって。それに、つまみ食いのつもりにしても、私達は高いわよ?」
「そうっス、そうっス。火遊びは手痛い目を見るだけっスよォ」
「? よく分からないけれど、ボクはアナタ達と一緒になりたいだけなんです」
鋭く、鋭く、鋭く。
蜘蛛は己が脚を数多の刃と代えて、リグを、いすゞを串刺しにせんと。
それはまるで幾度もアプローチを掛けて口説き落とすかのよう。
「あら、案外本気なのかしら」
困ったわね。なんて言ってみては見たものの、それで絆される訳もなし。
幾度もアプローチを掛けてこようとも、その全てをすげなく断るだけなのだ。
だがしかし、代償はある。手に残る甘き痺れこそがそう。
今は捌けているものの、続けば、はてさて。
それでもリグの瞳に諦めるはない。むしろ、ここからどうするかを思い描くこそが。
「うーん。そんなに熱く想って貰えるのならば、少しだけならあっしを分けてあげるっス」
「いすゞちゃん!?」
窮地と見て、まさか本当にその身を喰わせるのか。いやいや、そんな訳もある筈なし。
「――先に続いての大盤振る舞い。これは赤字も赤字っスよねェ」
奔る護符の描くは七つ星。蜘蛛を中心として円描き、護符の点と点を結んだ七つ星。
それは中央に配された蜘蛛を縛り付け、その身に宿るを封じ込めるための。
「あ、ぐぁ、ぐ、ぐぅ!?」
蜘蛛の姿が歪んで戻り、完全体なるから始まりのヒトの上半身を模った姿へと。
「あっしが強化を止めるっス! あまり長く保たせるつもりは無いっすから、センセ、そっちは任せたっスよォ」
分けてあげるのは少しだけ。それはその業を行使するにあたっての代償――寿命を指し示すもの。
だからこそ、これを長引かせるはいすゞの生命力を浪費することに他ならない。
ならば、それに応えずしてはリグ・アシュリーズの名が廃る!
「いすゞちゃんの大事な命、削らせるもんですか!」
ざわりと揺れた灰の彩。唸り、猛れば、揺れる灰より天へと伸びたる獣の耳。
この世に広がる未知を見るための瞳は、今この時はと鋭く敵を射抜くために。
決意こそがリグの内に眠る狼の血を呼び覚ましたのだ。
「一気に畳みかけさせてもらうから!」
踏みこむ足は地にその足跡を刻む程に。そして、ぐんと加速した躰の目指すは懐、蜘蛛の内。
だが、蜘蛛とてそれが危険なものであると本能で理解するのだ。
近付けてはならない。踏み込ませてはならない、と。
故にこそ――。
「はじ、け、てぇ……!」
「――っ!」
その身の内より肉食い破り、呼びださせたは毒蜘蛛の群れ。それはリグの刃を受けるよりはと選んだ自爆。悪足掻き。
突如としてリグの眼前で形成された毒蜘蛛の壁。
止まるか。それとも、痛みを覚悟として突っ切るか。
思考は一瞬。
そんなもの、迷うまでもなく決まっている。
「いすゞちゃんにだけ命を差し出させて、おめおめと引き下がれる訳ないのよ!」
脚はより力強くと地を蹴って、毒蜘蛛の壁へ――。
「嫁入り前はセンセも同じって言ったっスよォ。それに傷つけたとあっちゃァ、あっしも申し訳がたたないってモンで」
――響いたは笛の音。動物の意識惹きつける、いすゞの音。
ばらりと砕けた毒蜘蛛の壁。がさりがさりと音立てて、それはいすゞへと向かう。
「でも、その状態だと!」
負担はより一層と強くなるのではないか。
「いやさ、こっちはあっしがどうにかするっス!」
そのための二尾。そのための本領。普段であれば出来ずとも、今、この状態であるならば毒蜘蛛の群れの一つや二つ。
「――あ、でも、やっぱり長々は厳しいっスから、センセ、早めに頼んだっスよォ!」
近付く毒蜘蛛蹴散らして、蹴散らし、跳んで逃げ。全滅させることは難しくても、逃げ続けることならば。
それを流れる景色の向こうに見ながら、リグは苦笑をその口元に描く。
決めた覚悟が宙ぶらりん。
だから、それを代わりにと刃へ込めて。
「やられてばっかはね、性に合わないのよ!」
反撃の狼煙を、いざ、あげん。
唐竹、水平、袈裟 逆風。
見るも目まぐるしくと太刀筋が踊り、その軌跡を蜘蛛の身体へ描いていく。
悲鳴は、最早零れるをすら許されない。
「アンタの事は嫌いじゃァ無いっスが、でも、そうっスね」
――価値観の違いってヤツっす。
ヒト同士でも往々にして、それが原因でその仲が割れるのだ。
ならば、価値観を同じとしないヒトと怪物ならば、それは猶更のこと。
叩きつけられる刃の舞を、いすゞは毒蜘蛛から逃れつつ遠目から見ていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メアリー・ベスレム
アリスが欲しいの?
だめよ、そんなの
だってメアリはあなたの事、嫌いだもの
【野生の勘】と【逃げ足】で攻撃を避けながら
赤い血、甘い血、アリスの血
どこから欲しいの? やっぱり首から? それとも腿が良いかしら?
血の出易い箇所をわざと示して【誘惑】してみせて
噛まれた箇所から【霜の牙】で魔氷を放射、凍り付かせてあげるから
それで動きが止まったら大きく【ジャンプ】
体重を乗せた肉切り包丁の【重量攻撃】を叩き込む
メアリ、人食いを愉しむオブリビオンは嫌いよ大嫌い
ええ、だからこそ――メアリはあなたが好きよ大好き
だって、こうして殺すのがとても楽しいんだもの
あなたと一つにはなれないけれど
メアリがあなたを愛(ころ)してあげる
フィランサ・ロセウス
うふふ、やっと逢えたわね!待ってたわ!
そんなにも私を想ってくれるなんて、ドキドキしちゃう
いいよ、私を全部あげるから
きみの全部を私にちょうだい?
まずはUCを発動、増大した反応速度で攻撃をかわしたり、[武器受け]やフックで引っかけた[敵を盾にする]で受け止める
食らってしまった分も[激痛耐性]で無視して反撃よ
グレイブディガーで抉った土を飛ばし([地形の利用])て[目潰し]したり、
関節など構造的に脆そうな箇所を見定め([情報収集][戦闘知識])て、[部位破壊]!
動きが鈍ったら徹底的に壊してあげる!
一目見て確信したの、私もきみの事が“大好き”だって
だから私の想い、しっかり受け止めてね♪
むわりと香るは血の香り。
されど、それはヒトのそれでなく――。
「ぐぅ、げほっ、ふ、ふふふ、ごほっ」
蜘蛛の身より零れる雫。
零れ、吐き出され、動く度にそれはびしゃりと地を濡らす。
まさしく虫の息。
だけれど、その中で蜘蛛の虹彩だけが爛々と輝いていた。
「ギラギラ、ぎらぎら、それがあなたの本性かしら」
「うふふ、やっと逢えたわね! 待ってたわ!」
邂逅するは血濡れ兎とチェシャ猫が如き笑み。
それこそはメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)とフィランサ・ロセウス(危険な好意・f16445)が姿。
言の葉に釣られた蜘蛛の瞳は二人を収め、伸びて絡まる欲の糸。
欲しい。欲しい。欲しい。
「――欲しいです! アナタ達が!」
言葉は最早絶叫で、好意も食欲も綯交ぜにした感情が吹き荒れる。
それは一度は抑え込まれた本性を再びと顕現させるに足るもの。
めきりめきりと音立てて、ぐちゅりぐちゅりと体液零し、蜘蛛の身体は完全なるそれへ。
だが、その変容はスムーズとはいかないもの。明らかな負荷。それでも、それでも、と。
「そんなにアリスが欲しいのね?」
「そんなにも私を想ってくれるなんて、ドキドキしちゃう」
嗚呼、ならば、その想いに応えねばなるまい。
「でも、だめよ。だって、メアリはあなたの事、嫌いだもの」
「いいよ。私を全部あげるから、きみの全部を私にちょうだい?」
蜘蛛の好意へ響いた声は否定と肯定の相反するそれ。
されども、そこ込められた意味は同じ。
――ころしてあげる。/こわしてあげる。
冷たく、熱く、二人の宿す意思は風となって戦場を駆けていく。
「ふ、ふふっ。応えて、くれ、て、嬉しい、ですよ!」
だから、蜘蛛もまた喜悦をもって鉤爪を振るう。
どちらの『こうい』が相手を捕まえるが先かと。
健脚用いて跳び退り、抉る刃で打ち払い。
降り注ぎ、暴れ回る爪の嵐のただ中を、それぞれがそれぞれにやり過ごす。
その中でメアリーの頭上を過った爪の風。それにはたりはたりと兎耳のフードが揺れた。
遅れて、蜘蛛の爪先から零れ落ちた体液が、ぴしゃりと跳ねて彼女を濡らす。
「赤い血、甘い血、アリスの血」
鼻腔を擽るはヒトならざる香り。重い鉄の香りとはまた違う、それ。
自身に触れた体液を拭うでもなく、メアリーは鳥の囀りの如くと詠う。
「あなたはいったいどこから欲しい? やっぱり首から? それとも腿?」
加速する世界の中で、兎耳のフードと同じくしてメアリーの衣も揺れる。
肌の全てを隠すには心許ないそれであるが、だからこそ、詠う彼女が指し示す部位をより鮮明に蜘蛛へと晒すのだ。
「ねぇ、あなた。アリスをその腕で温めてくれる?」
――まるで、その場所へと誘うかのように。
供物の獣が微笑み、嗤う。
どうぞ、食べて御覧なさい、と。
それは数多の戦いを経て、傷つき、欠けた身を満たすを望む蜘蛛からすれば、垂涎の。
だからこそ、そこから先は必然でもあった。
「首。首がいい、です!」
そこを食い千切れば、噴き出る暖かきに身体を濡らせると知っているから。
メアリーを追いかけるように蜘蛛の牙が追いかけて、そして――。
「あ、ふぇ?」
――それを歓迎したのは暖かき紅ではなく、極上の冷気。メアリの愛/殺意。
パキリパキリと凍る牙。それを見つめるは絶対零度。
「でも、やっぱり駄目よ。その腕じゃあ、アリスを捕まえさせてなんてあげないわ」
「なら、代わりにわたしがその腕に触れてあげるね」
「そうね。メアリばかり独占するのも悪いかしら」
牙が霜と凍ろうとも、まだ動く爪はある。
それがメアリーを追うより早く、届いたはフィランサの危険な好意。
抉り飛ばすは砂礫の恋文。
己とは違う誰かを追う腕を無理矢理と叩き落とし、己とは違う誰かを見る眼を潰すための。
「あの子ばかり構うのは駄目だよ。わたしだって、きみが欲しいんだから!」
蜘蛛の視界を覆うは土煙。
塞がれた視界の中で聞こえるは、フィランサが奏でる音ばかり。
彼女の声。彼女の足音。彼女の引き摺る得物の――。
「そほひ、ひま、すか?」
「ふふふ、やっと見てくれたぁ!」
凍れる口元に言葉はたどたどしく。されど、音を頼りに鉤爪振れば、返ってくるは確かな感触。
視界が戻り、開けたそこにあったのは、振るった鉤爪と鍔競る円匙。そして、その向こうにどろり渦巻く紅の瞳。
そこにいは歓喜があった。そこには喜悦があった。そこには好意があった。
鉤爪受け止めた時の衝撃からくる痛み。今も競り合う刃から伝わる重さ。自分を見つめる蜘蛛の無機質な、しかし、欲に濡れた瞳。
そのどれもがフィランサの感情を揺り動かす。
「嗚呼、好き、好き、好きよ!」
混じりけのない好意の叫び。
されど、それは彼女が表せる唯一の感情だからこそ。ヒトであれば数多ある感情の動きを、そうとしか表現できないからこそ。
だが、構わない。構うものか。
そうとしか表現できなくとも、それをぶつける相手が、ぶつけて赦される相手が、目の前に居るのだから。
痛みも痺れも、全てを無視してフィランサが動く。その身に宿した知識と経験に従って。
鍔競り合いの円匙を巧みと動かし、力を逸らす。
噛み合う刃からずるりと逸れた鉤爪。圧し合う力はそのまま勢いと転じ、フィランサの身を掠めて過っていく。
「――あはっ♪」
それはフィランサに血の一筋を刻むものではあったけれど、その痛みも、今は彼女の好意を更にと燃え上がらせる薪でしかない。
構わずと踏み出す一歩は簡単に彼女の身を蜘蛛の内へと誘って――。
「一目見て確信したの。私もきみの事が“大好き”だって」
土煙の中でわざと音立てた時とは異なる、静かな得物の振り上げ。
「――だから私の想い、しっかり受け止めてね♪」
ガツンと音立て、刃突き立つ蜘蛛の関節。
土を抉り、岩を穿ち、障害諸共に墓穴を掘る円匙。故にこそ、それが蜘蛛の関節を容易くと断ち落とすは道理。
「あ、ああ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛……!」
噴き出る蜘蛛の体液が降り注ぎ、フィランサの身体を暖かく濡らしていく。
だが、燃ゆる想いはその程度で止まるには至らず、振るう刃が蜘蛛を達磨に変えていくのだ。その好意のままに。
悲鳴零す蜘蛛の動き。それは隙だらけと言う他になく――。
「メアリ、人食いを愉しむオブリビオンは嫌いよ、大嫌い」
その健脚と共に天高く。そして、重力がメアリーの身を引き寄せ、空広がる闇を背にして彼女は堕ちる。
「ええ、だからこそ――メアリはあなたが好きよ、大好き」
その手に握る肉切り包丁の鈍い輝きを共として。
「だって、こうして殺すのがとても楽しいんだもの」
世にはヒトの首すらも刎ねる兎が居るのだ。ならば、怪物の首を刎ねる兎が居たとてなにも不思議ではあるまい。
そして、四肢落ち、達磨となった蜘蛛にそれを躱すは、不可能。
――斬。
ごろりと地に転がったは蜘蛛の頭。
「あなたと一つにはなれないけれど、メアリがあなたを愛/ころしてあげる」
「わたしも、もっともっと刻んで、愛/ころしてあげるね」
――嗚呼、今度はボクが好意を受け取る番だったんですね。
最早、言葉零す身体は蜘蛛の頭部にはなく、近付く刃の輝き双つを見守るのみ。
それが蜘蛛の見た最後の光景にして、最後の想い。
怪物は最後まで怪物のままに。されど、その終わりにどこか満ち足りて。
そして、幕が落ちるように意識は途絶え、視界を黒が塗りつぶした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『温泉でのんびりしよう』
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POW : 心行くまで温まる
SPD : 全身の力を抜いてまったりと
WIZ : 他者と交流、スキンシップする
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
戦いの日は開けて、人類砦を歓喜が包む。
大小を問わず傷はあれども、それでも生き残れたのだという歓喜が。
そう。確かに、戦いの傷痕はヒトに、心に、大地にとあちらこちらへあることだろう。
だけれど、それはまだ失ったものではない。
一朝一夕とはいかないだろうが、癒せるものなのだ。治せるものなのだ。
だから、彼らは歓喜を心に満たす。失った者への哀悼と共に。
ある者はとっておきと料理を振る舞い、ある者は傷を癒すと温泉に浸る。ある者は――。
それぞれがそれぞれに今を過ごしていることだろう。
この地における英雄とも言える猟兵達ならば、彼らに歓迎されることは間違いない。
まだ今暫し、それぞれの居場所へ還るに時間はあるようだ。
その歓喜の輪の中へ飛び込むもいいだろう。
怪我や疲れに効くという天然の温泉を楽しむもいいだろう。
伝え聞くに、それは砦の中にも入浴施設としてあるそうだが、川の一部からも湯が出、天然の露天風呂を作ることも出来るそうだ。
勿論、それ以外にも荒れた田畑や壊れた設備を立て直すを手伝うもいいだろうし、自身の思いつくままに行動するもよしだ。
時が来るまでの暫しの間、それをどのように過ごすかは、それぞれに委ねられていた。
テイラー・フィードラ
……吸血鬼紛いに悪魔も召喚する私がいては、此の地の民も気が休まらんだろう。祝宴や温泉は申し訳ないが拒否させて貰おう。
それよりも、だ。私はフォルティと共に外壁や砦周辺を見回らせて貰おうか。戦場となったのであれば何かしらの傷跡はあるからな。
主に砦の設備が壊れていないか、どれ程の損壊であったかを調査する。それと同時に周辺地形で資源になりうる存在や開拓に適した土地、防衛する必要がある場所を紙で記し、守衛係の者に渡すか。
私自身修繕や修理、或いは改造といった技術は持ち得ていないからな。調査だけで申し訳なく思うが許してほしい。
その代価に糧食と水を貰えるならば頂き、そのまま調査の方を続行していくぞ。
かぽりかぽり。
蹄が地面を叩く音は緩やかで、それは今が戦時でないことを示すなによりの。
「ふむ、随分と荒れたようだな。致し方のない事ではあるのだろうが」
かぽり。
手綱を軽く引いて動き止める意思示せば、愛馬は主の意志を汲み上げてその脚を止める。
それはまさしく以心伝心。
馬上の主――テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)はそれに満足気と、愛馬の首筋を緩やかと撫でた。
さて、先程も言葉零しはしたけれど、愛馬撫でる手を止めて景色を見れば、そこには踏み荒らされた大地。
かつては細々と、それでも確かに実りをつけていたのだろう。畑の名残が見て取れる。
「だが、彼らの様子を見るに、まだ食料に余裕はあるのだろうな」
生命線の一つではあるのだろうけれど、歓喜に渦巻く砦のヒトビトがその貯蓄を振る舞っているのだ。
ならば、テイラーの言う通り、まだ食料の貯蓄はあるとみてよいだろう。それに、畑はここだけではないのかもしれない。
だが、被害の一つとしてテイラーはその手に持った紙へと被害を書き記す。
場所を、被害規模を、想定される復興費用を。
これも、いつか故郷を取り戻した時の、国を興した時の予行演習とばかりに。
勿論、これはこの地に生きるヒトビトのためだ。それはそうなのであるが、それはそれである。
かぽり、かぽり。
紙の上を滑る筆が止まり、代わって、再びと蹄が地を叩く。
「私自身が修繕なりを出来ればいいのだがな」
それが早くはあるのだろうが、それは出来ない。
その技能を修めていないというのもあるが、なによりも、王たらんとするならばヒトを使わねばならぬ。
王が一々と現場に出ていては、他の政務も滞ろう。だからこそ。
とは言え、それでも現場を識ることは後々に生きてくる筈。
それを信じ、彼は一つ一つを積み上げていくのだ。
未来へと繋がる確かな道筋を。
「――以上が周辺の情報だ。どう扱うかは、貴殿らに任せよう」
回り回って、砦の周囲。
気付けば、テイラーがその手にしていた紙には情報の海。
筆滑らせて描いた地図の上に、描かれ、記されるはまさしく宝。
周辺の被害箇所は勿論として、人類砦のヒトビトにとってはまだ未開の場所――開拓に適した土地、防衛に適した土地の記されたそれ。
受け取った砦のヒトビトは目を白黒とさせる他にない。
「こ、こんな貴重なものを……!」
「今の私には、こうしたことしか出来ないからな」
もっと力があれば、ヒトを派遣することも出来よう。
もっと力があれば、物の流通をさせることも出来よう。
だが、まだテイラーにあるのはその身一つの力のみ。
だからこそ、いつか必ずとその胸の内の野心を心新たと彼は掲げる。
「ここまでして頂いて、ただ帰すでは私達も心苦しいというもの。どうか、貴方様も宴に参加を……」
「申し出は有り難い」
「なら、是非に……」
「しかし、それは申し訳ないが」
「……なんと」
何故という感情がヒトビトの眼に、ありありと浮かぶ。
「この宴は貴殿らの物だ。そこに私のような者が居ては、気の休まらぬ者もいよう」
思い起こされるのは、蜘蛛との戦。
そこでテイラーがその身を代価として呼びだしたのは――。
「……悪魔、ですか」
「そうだ」
それは確かに畏怖を覚えさせるに十分なものだろう。
だからこそ、人類砦の宴に参加しないことはテイラーなりの気遣いだと言えた。
そして、ヒトビトもまた、彼の気遣いを無下にすることは出来なかったのだ。
少しだけ、重くなる空気。
「――だが、そうだな」
しかし、それを塗り替えるのも、またテイラーなのだ。
「――え?」
「この調査の代価に糧食と水を貰えるなら、更に士気も高まろう」
それはつまり、共には楽しめずとも、心を無下にはしないという暗なる言葉。
「! はいっ。すぐにお持ちします! 皆、急ぎお渡しする準備を!」
「あまり持ち運びに困る量では困るぞ」
――分かっていますとも。
ぱたぱたと動き回るヒトビトの中からそう返ってくる言葉ではあったけれど、それがそうでないことは彼らの明るい表情がなによりも語っていた。
そして、それを待つテイラーもまたそれを理解して、その準備を苦笑浮かべて待つのであった。
調査の続行へと踏み出すには、また暫しかかりそうだ、と。
大成功
🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
ウーン、何か忘れているような
誰かさんによーく似た蜘蛛が居た気がするけれど
思い出そうとするほど、忘れていく気がする
レディ、なんだか急いで記憶を食べてない?
まあ~いいか。私は立て直しを手伝おう
温泉とやらも気になるけれど
王子様は肌を人目に晒しちゃダメなのさ。そんなもんなの
(まあ本当のところ、結構治らない傷が多くてね)
気づかないまま放置してしまった傷もあって
宇宙船《ネレイス》で船医君に言われたこと、結局守れそうもないや
バリケードを補修するため、木材を集める
フフ、こういうの何度かやったことあるみたい
だからちょっと慣れたのかも
あ、でも手先は器用な方じゃないから……
人類砦のみんなにやってもらった方がいいかも
トリテレイア・ゼロナイン
故郷の他の種族や研究家の方ならば天然温泉を楽しめたのでしょうが…
もし関わるとしても私の場合、あまり有意義とは言えませんね…
疲労などあって無きが如しのこの身、滞在時間一杯まで人々の為に力を尽くしましょう
この『人類砦』は古い砦が元になったもの、今回の襲撃や経年劣化で補修が必要な箇所が出ている筈
UCによる●情報収集や現地の方々の所感を元に補修・改修計画を立てましょう
早急に改善すべき箇所の洗い出しも大事ですが、将来この砦を更に堅固とする案も私達が去った後に役に立つ筈です
その後は●怪力での運搬作業で貢献
さあ、改修作業を始めましょう
ここで将来育まれる希望…命の為に
皆様、よろしくお願いいたします
戦い終すんで日が暮れて。
とは言っても、ここはダークセイヴァー。夜と闇の支配する世界。見渡す世界の景色に変わりはない。
――いや、あると言えばあるか。
犇めいていた死の気配は遠く、身体に残る疲労の名残。だけれど、それ以上に何か。
「ウーン、何か忘れているような」
首をひねって不思議を浮かべ、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は穴だらけの記憶を振り返る。
確かに、死の波に抗った記憶はあるような気もするのだけれど、その後からが消しゴムで消されたか、虫食いのように。
「誰かさんによーく似た蜘蛛が居た気がするんだけれど」
掠れ往く記憶の彼方。残滓をかき集めて繋ごうとしても、それは違う誰かの手がばらばらにするのだ。
記憶の欠片は欠片のままに、その姿をどんどんと消していく。
心当たりはある。あるのだけれど――。
「レディ、なんだか急いで記憶を食べてない?」
そう問うたところで、淑女は何も答えない。
ただ、エドガーの左腕で僅かと身動ぎをするのみだ。
――棘の刺さる痛みは、なかった。
それに、エドガーは少しだけ口元へ苦笑いを浮かべるのであった。
「まあ~いいか」
「おや、何かありましたか?」
「――ん?」
誰かさんからの返答を期待していた訳ではないけれど、それとはまた違う方向からの反応の声。
エドガーがそちらを振り向いてみれば、そこには白銀の彩り。
直接の面識はないけれど、幾度か依頼の中で見かけた色。
「いやいや、何をしようか悩んでいてね。それで、ここの立て直しを手伝おうかな、とね」
「おお、それは奇遇ですね。私も、ここの防備が気になっていたものでして」
だから、周辺を見て回ろうかと思っていました。
そう、白銀の彼――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は語るのだ。
そして、恐らくはそうした中でエドガーの姿を認め、近づいたところで彼の言葉をセンサーが拾い上げ、声を掛けたのだろう。
「見ての通り、私はこの身体ですからね。疲労などあって無きが如し。休む代わりに滞在時間一杯まで、人々の為に力を尽くさせてもらおうと」
「それはすごいことだね」
この地に湧き出る天然温泉。
それはそれで惹かれるものがないでもないが、トリテレイアが指し示す自身は鋼と精密機械の身体。
「なにより、温泉に浸かってショートしては大変ですからね」
勿論、彼の身体が多少の水気でどうにかなる程の軟なものではない。
専用の装備を身に纏うとはいえ、海水の中ですら行動可能なのだ。
だから、これは彼なりの冗句というもの。
少しばかり考えこむような表情をしていたエドガーと空気を軽くするための。
「ははは、キミが動けなくなってしまっては、引き上げるのも一苦労しそうだね」
そして、それの分からぬエドガーでもない。
笑みをくすりと口元浮かべ、彼の冗句に付き合うのだ。
「――気を遣わせてしまったかな?」
「さてはて、なんのことでしょう」
素知らぬ顔をする鋼の彼のそれは、きっとヒトらしさなのであろう。
さて、随分と脱線してしまったけれど。
「そろそろ、参りましょうか」
「そうだね」
本来の目的たる、砦の補修の手伝いへと。
古き砦。永の歴史を踏み越えた砦。
だが、それは先の襲撃に及ばず、時の流れの蝕みも受けていたのだ。
「ふむ。損傷というよりは、風化によるものの方が……」
「私にもオスカーが居るけれど、これはまた綺麗なものだね」
「ははっ、御伽噺の騎士に導き手の妖精は付き物です……なんて言うと、格好をつけすぎですかね?」
「いいや、そんなことはないさ!」
闇の中、砦の周りをひらりはらりと光の乱舞。
きらきら、きらきらと輝いて、まるでそこは童話の世界。
見上げるエドガーの瞳も輝きを放つ。
その光の正体はトリテレイアの操作する妖精――型のロボ。
それがトリテレイアだけでは届かぬ砦の隅々を捜査し、調査し、情報を伝え来ていたのだ。
その調査の結果がトリテレイアの零した言葉。
先の戦いでは猟兵達の活躍もあり、砦自体の損傷は少なかった。
しいて言うのであれば、即席のバリケードや畑こそ踏み荒らされてはいたが、本丸は無事であったのだ。
だからこそ、経年劣化による砦の摩耗こそがトリテレイアの眼には目立って見えていた。
「バリケードの再構築は勿論ですが、壁の再補修が優先されるところですね」
「あ。なら、私はバリケードの補修を手伝おうかな」
「そうですね。木材はともかく、石の切り出しや運搬は私の方が適任と言えるでしょう」
そこは役割分担、適材適所。
壁の補修は怪力秘めたるトリテレイアであるからこそ、だ。
複数人必要な物でも、彼であるならば一人でこなせよう。まさに百人力とも言えるもの。
「――では、砦の皆様にも声を掛けて、改修作業を始めましょう」
全てはこの地に生きる者達の、これから生まれる者達の為に。
ガヤガヤと集まるヒトビトを前にして、その緑の瞳は道の先を視ていた。
「皆様、よろしくお願い致します」
そして、今を未来へと繋げるための行動が始まっていく。
「フフ、不謹慎かもしれないけれど、少し楽しくなってきたね」
オブリビオンたる吸血鬼が幅を利かせる世界。
ヒトの存在は肩身も狭く、明日も知れぬ世界であるからこそ、こうして明日を夢見てヒトビトが活気づくのは良い事だ。
その想いは、きっと記憶失えども失わぬエドガーの根底なのだろう。
トリテレイアの示す改修案に従って動き出すヒトビトの活気を、王子様はにこやかに見守るのだ。
勿論――。
「む、むむ、どうして形がこう不細工かな?」
「ハハ、なんだい兄ちゃん。自信満々だった割りには手つきが危ういぜ? どれ、貸してみな」
「すまないね。しかし、うむむ、多少は慣れたものだと思ったんだけれどなあ」
今はその輪の中に跳び込みながら。汗を流しながら。
「ところで――」
「――ん、なんだい?」
「エドガー様は温泉へ入られないのですか? 働いた後、人は汗を流すものだと」
「……いやいや、気にはなるけれどね。でも、王子様は肌を人目に晒しちゃダメなのさ」
「……なるほど。そういうものなのですか」
「そんなもんなのさ」
深まる痛みへの耐性。故にこそ、気付けぬ傷。故にこそ残る傷痕。
幸福の王子様が自分の幸福を望む日は来るのだろうか。
それはまだ誰にも分からない。
そんな閑話休題。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クレア・フォースフェンサー
まずは、この砦の守り手達を弔わねばな
死人は他の猟兵殿が焼却、浄化してくれるであろうが、その前に……いや、待て。この中にまだ息がある者がおるかもしれぬ
光珠で戦場を捜索すると同時に、行方知れずとなった者の数、風貌等を砦に確認。砦の住人、そして住人であった者を見つけたならば、砦まで運ぶ
また、群れからはぐれた死人や蜘蛛に呼び寄せられた他の魔物がいないとも限らない。併せて捜索し、いたならば始末をする
それらが終わったならば、温泉に浸からせて貰おうかの
この身体に湯浴みは不要じゃが、少し温まるくらいのことはしても罰は当たらんじゃろう
(自身の身体は武器の一部と捉えているため、見せる、見られることに頓着はない)
死が、死が、死が。
その痕跡が、ゆるりと歩く大地の上に転がっている。
それは血痕であり、ヒトの欠片であり、戦いの名残。
それは勇敢に戦った者達なのだ。そして、帰れなかった者達なのだ。
宵闇支配する世界の中、その闇を僅かと照らすようにぽつりぽつりと光が浮かび上がっては消えていく。
その光景は、まるでこの地で果てた者達の魂が彷徨っているかのよう。
「まずは、この守り手達を弔わねばな」
その光の中、浮かび上がる生者の姿。光照り返し、金色と輝くクレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)が姿。
そして、クレアは何の躊躇もなく眠る彼らへ手を伸ばし――。
「いや、待て。この中にまだ息がある者がおるかもしれぬ」
ふと過った思考に、彼らの一部を持ち上げた手が止まる。
それはきっと可能性としてはかなり低いものなのだろう。
だけれど、決してあり得ぬと断じることも出来ぬ可能性。
であるならば、探さねばなるまい。その結末がなんであれ、クレアにはそれを出来るだけの力があるのだから。
「なんにせよ、情報が必要じゃな」
今はひとまずと回収した彼らだけを引き連れて、クレアは人類砦へと戻るを選ぶ。
彼女が最初に持ち上げた彼らの一部。そこから感じる温もりは、まだ冷め切ったそれとは言えず。
「――そうか。すまぬな」
「良いのです。このような場所ですから、別れなどいつも突然ですもの」
「だが、辛いことを聞いた。余計な期待を持たせるだけかもしれぬというのに」
「いえ、我らの分まで動いて下さっているのです。そこに感謝はあっても、です」
命が幾分か軽いこの世界。死は隣人だ。それに迎えられることへ恐怖がないと言えば嘘になるが、それでも覚悟だけはあった。こうして人類砦なるものを築いたからには、と。
故に、クレアが砦のヒトビトから帰らなかった人達の情報を集めることは、そう難しい事では無かった。
勿論、そこに哀しみがなかった訳ではない。それを呑み込んだ上で、ヒトビトは歓喜の時を迎えているのだ。
だからこそ、クレアは謝罪したのだ。情報を掘り起こすことは、哀しみの傷を抉ることでもあったから。
だが、それがあったために得られた情報もあった。
「ならば、期待分は働かねばのう」
行方知れずとなった者達の数。その風貌。誰がどこに配置されていたのか。その全てを。
クレアの周囲に揺蕩う光球は輝きを増し、方々へと散っていく。
回収した彼らの一部。その温もりに気付けたのはクレアであるからこそ。
だが、その先にあるのはもしかしたら間に合わなかった現実かもしれない。その先にあるのは生者を騙る死者かもしれない。
しかし、それは確かめねば分からぬ事。
故に、彼女は瞳を飛ばす。岩陰に、木立の中に、数多の死の中に、何一つ見落とすまいと。
そして――。
「ははっ。どうやらわしの眼も、まだまだ捨てたものではないらしい」
宵闇を裂いて光矢が奔る。岩陰の下、隻腕の男性を取り囲む獣達を追い散らして。
血液を零し過ぎたのだろう。息も絶え絶えな様子は、獣達からすれば絶好の獲物であったに違いない。
だが、それは叶わなかったのだ。クレアが、その瞳が、彼を見つけ出したからこそ。
恐らくは、彼こそがクレアの回収した身体の一部の。
「これでひとまずは良かろうな」
止血し、手当し、彼の命をクレアは繋ぐ。
彼自身は既に意識を失っていたから、それに対する反応はなかったけれど、それでも一つの命は彼女によって確かに救いあげられたのだ。
そして、彼は砦へと歓喜をもって迎え入れられる。
それに連れ帰ったクレアが含まれているのも、想像に難くないことであろう。
「やれやれ働き詰めで身体も冷えてしまったのう。どれ、一つ此処の湯を頂くとしようか」
だが、クレアは己が偉業に頓着せず。
ただ一つ、冷え切った身体を温めるための湯だけを望み、その心を満たすのであった。
大成功
🔵🔵🔵
雨宮・いつき
誰一人の犠牲も無く…というわけには参りませんでしたか…
…護るべきは人の命ではなく人の理
里ではずっとそう教わってきましたが…やはり、そう簡単に割り切れるものではありません
砦の方達も、戦の常であると心得ていても、まだ踏ん切りがつかない方もいらっしゃるでしょう
そういう方達に、少しでも寄り添ってあげる事が出来ればと思います
犠牲となった方達の弔いを、砦の方達と一緒に行います
鎮魂の笛の音を奏で、死出の花を贈る…
夜に覆われたこの世界では花は貴重かもしれませんが、そこはそれ
青竜の植物を生み出す力をお借りして、夜闇にも負けぬ花を贈りましょう
どうか無事に魂が安寧の場所へと辿り着けるよう、祈りましょう
リーヴァルディ・カーライル
…ん。この地を脅かす脅威は去った。後は彼らを弔うだけ
…本当は貴方達を一人一人棺に入れるべきなんだけど…時間がない
皆、一様に埋葬させてもらうけど…ごめんなさい
先の戦闘で飢餓者達と闘った山裾に向かい、
倒れ付した亡骸に向かい両手を繋いで祈りを捧げ、
常以上に時間をかけて魔力を溜めてUCを二重発動(二回攻撃)
広域に“大地の渦潮”を起こして遺体を地の底へ沈め、
死者の呪詛を浄化する“光の地震”を起こして、
限界が突破する直前まで力を行使する
…もう二度と貴方達の尊厳が損なわれる事は無い
眠りなさい。地の底で、安らかに…
…後は、人類砦の人達に墓碑を作ってもらうとして…
私も他の人達と同じように、温泉を楽しもうかな…?
「……ん。この地を脅かす脅威は去った」
「そうですね。人の理を守るは叶いました」
聞こえ来るは歓喜に渦巻く砦の声。
それは今を生き残ったからこそのもの。
勿論、それは歓迎すべきことだ。喜ぶべきことだ。
だが――。
「誰一人の犠牲もなく、という訳には参りませんでしたが」
この時へと至るまでには喪われたものもある。
その際たるこそ、ヒトの命。
雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)。まだ幼さを残すその背中に負ったは、脈々と受け継がれてきた教え。
――守るべきは人の理でこそあれ、人の命の全てではない。
その教えに反するつもりも、反したつもりもない。
だけれど、想わずにはいられないのだ。
人の命も守りたかった、と。
「やはり、そう簡単に割り切れるものではありませんね」
齢にして十三。幼さから少しずつ脱却する年頃ではあるが、だからこそ多感な時期。
いつきがあったからこそ守れた者達があり、今の砦の歓喜があるのだが、それよりも自身の手が及ばなかった命へと想いは及んでいた。
「――だから、弔わないと」
その思考を断ち切るように鋭く、けれど、どこか優しく。
齢にしてわずか二つばかりの違い。それでも、確かな違い。
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、先達として導くかのように、今、なすべきを語るのだ。
勿論、彼女にそこまでの想いがあったかは分からないが、少なくとも、いつきの思考を斬り返させるには十分であった。
「犠牲は戦の常であると心得てはいるのですが」
「悼む心は必要。卑下することは無い」
それを失えば、きっと末路は蜘蛛の怪物と同じだ。
リーヴァルディが言った人の理といつきの言う人の理は全て同じではないのだろう。でも、それだけはきっと確か。
「なら、この感情はきっと悪いものではないのでしょうね」
「……ん」
多くを語らぬリーヴァルディの姿に背中押されながら、いつきは己の心の置き所を見定める。
「……まだ、踏ん切りがつかない方もいるでしょう」
誰とは言わない。ただ、いつきの視線は人類砦へと向いて。
「そういう方達に、少しでも寄り添ってあげる事が出来ればと思います」
「連れていくなら、好きにするといい」
恐らく、リーヴァルディだけであれば一人で黙々と弔いをしたことなのだろう。
だけれど、今は少しばかり足を止めて待ってくれている。
それがなによりの答えであり、いつきは急ぎ、砦の中へと駆けこむのであった。
――辿り着いた山裾は、死の香りに満ちている。
それは歓喜に湧く砦の気配とは真逆。
無念が、怨嗟が、空気の中に重く淀んで満ちているようでもあった。
「……うっ」
「大丈夫ですか!?」
戦の熱狂が過ぎ去れば、それを直視するのは素面では厳しかろう。
先頭を行くリーヴァルディの背後で、堪えきれずに嗚咽を漏らし始めるヒトもいる。
恐らくはいつきがそのヒトを慮って声を掛けているのだろう。
だが、リーヴァルディは振り返らない。
今、彼女が真摯に向かい合うはヒトではなく、勇敢に戦った『彼ら』なのだから。
「……本当は、貴方達一人一人を棺に入れるべきなんだけど」
そうするには、リーヴァルディに許された時間は余りにも少ない。
だから――。
「皆、一様に埋葬させてもらうね」
ごめんなさい。とぽつり謝り、彼女は己が汚れるも厭わずと地面へ膝を付く。
そして、伸ばした腕は『彼ら』――体の一部が幸運にも残っていた者の欠片を掴む。
「……限定解放」
捧ぐは祈り。
より丁寧に、より心を込めて。
ゆるりゆるりと渦巻く魔力は光の粒子を纏い、まるで彼女の前に魂が呼び集められているかのよう。
端正な顔の輪郭を伝い、ぽたりと落ちる汗の滴。
輝きはリーヴァルディが本来有する属性とは対極のもの。
まして、これは今日に限れば二度目の事。その負担は計り知れないものだろう。
視界は霞み、揺れ、意識が諸共に眼前の渦へと引き込まれるを、彼女は歯を食いしばって繋ぎとめる。
ぽたりと落ちた滴の中に、赤が混じった。
「東方を司りし、高雅なる獣よ――」
その時であった。彼女の背中を支えるように、共にと立つように旋律が流れたのは。
リーヴァルディが視線を僅かと横へ流せば、そこにあるは銀の横笛響かせるいつきの姿。
彼の背後では、砦のヒトビトがリーヴァルディへと倣うように地へと膝付き、祈りを捧げていた。
「あなた達……」
「彼らもまた、祈りたいのです。故人を送るために」
「……そう」
高らかに響く鎮魂の音色に、祈りの声は数多と重なる。
もう、リーヴァルディの視界は霞むこともなければ、揺らぐこともない。まるで、全員が負担を分け合ったかのように。
――大地が渦を巻き、満ちる澱みを地の底へと鎮めていく。
澱みに代わって光が満ちれば、そこにはもう死の香りはない。
そして、満ちた光も静かにその輝きを闇の中に溶かしていく。
「そこは墓標。安息の地。もう、二度と貴方達の尊厳が損なわれる事はない」
「なら、僕からも贈り物を。死出の餞に……」
渦巻いた地の中心に芽吹き、花開いたは可憐なる小さき青。
一つ、二つ、三つ……無数と咲かせ、宵闇の中に小さな花畑が作り出されていく。
「宵闇に負けぬ花を。彼らを忘れないために」
「眠りなさい。地の底で、安らかに……」
二人が生み出した勇敢なる彼らのための眠りの地。
それに、祈り捧げていたヒトビトの眼から涙がこぼれ、止まらぬ嗚咽へと変わっていく。
そこにまだ笑顔はないけれど、その涙もきっと猟兵にとっての報酬なのだ。彼らがちゃんと悲しめたという。
零れ落ちた雫が一つ、また一つと地に沁み込んでいく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャルロット・クリスティア
【銀蒼】
無事に撃退できたとはいえ、やはり被害状況は気になるところですね。
見回ってみて、修繕や補強が必要な個所はちゃんと直しておかなければいけませんし、ここの皆さんの練度向上も急務でしょう。
……の筈なんですけど、なんで脱がされて湯船に浸かってるんでしょうかねユアさん。
確かに休息は必要でしょうけど、どうせこの後また汗かきますよ?
……うーん。なんだか上手いこと言いくるめられている気もしますが……まぁ、良いことにしますか……。
さすがにあまり近接戦をしないと疲れますね。鍛えてはいるつもりなんですが。
……一応、その成果は出ているんですかねってどこ触ってんですかぁ!?(お湯ばしゃぁ)
ユア・アラマート
【銀蒼】
ああ、ひと仕事したあとの温泉はやっぱり良いな
大変な目にあったというのに、ここを守ろうとする人達の目もしっかりしていた
これなら、これからも立派にやっていってくれるだろう
……ん?ああ、いや。これから軽く砦の人達と戦闘訓練をするんだし、その前に一回浸かっておこうかと思ってシャルを引きずってきたんだが
勿論、また汗はかくだろうけどな
聞いた話だと、こうやって入浴する場所として整備されていない天然の温泉もあるそうだ
どうせ外に出るんだし、帰りはそっちに入っていけばいい
……ところでシャル。最近少し肉付きがよくなったな
太ったと言うよりよく引き締まってる。ほら、この辺とか特に
(お湯を顔面にぶっかけられる音)
戦いが終わったとしても、まだまだすることはある。
傷病者の手当や被害の確認、ともすれば、第二第三の脅威に備えた練度の向上……etc。
シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)が脳裏に浮かべるだけでも指足らず、時間も足らず。
ならば、出来ることを急いでやらねばなるまい。
「――の筈なんですけど、なんで脱がされて湯船に浸かってるんでしょうかね、ユアさん」
「ああ、ひと仕事したあとの温泉はやっぱり良いな」
「……馬耳東風」
「いいや。私は馬なんかでなく妖狐だよ」
「聞いてるんじゃないですか」
ぱしゃり口元まで沈んで、不満の泡がぶくぶくと。
それがなんだか面白くて、ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)の口元にも自然と笑み。
不機嫌と上機嫌の正反対がそこにはあった。
「なに、大丈夫さ。大変な目にあったというのに、ここを守ろうとする人達の目はしっかりしていた」
思い起こされるのは、俯きはしても、それでもと前を向いた者達の姿。
それはまるでどこかで見た蒼の色にも似ているようで、ならば大丈夫だろう。とユアは思うのだ。
「ですが……」
「ああ、分かっている。何も残さないという訳じゃないさ」
お湯の暖かさが身体を解してくれたのだろう。
シャルロットの蒼に宿っていた不満は、その気配を随分と落ち着かせている。
だから、ユアもここが攻め時とばかりに理論を構築するのだ。
「――折角と歓喜に浸っている人達だ。すぐにでは心も付いてこれないかもしれないだろう」
「……む。分からない、でも、ありません」
「そうだろう? だから、休息の時間を置くことは大切なのさ。砦の人達も、私達も」
「むむむ!」
年の差。経験の差。なんだか負けた気がして。
「確かに休息は必要だと認めますけど、でも、こうしてお湯に浸からなくても良かったんじゃないですか? どうせ、この後また汗をかきますよ?」
負け惜しみと理解していながら、シャルロットは最後の悪足掻き。
敗戦の色が濃厚であったとしても、諦めてはならないのだ。
「勿論、また汗はかくだろうけどな」
それを理解するが故に、ユアは遠慮なくと詰みへの一手を進める。
「――シャルと一緒に入りたかったんだ」
「――っ! ……狡いですよ、それは」
「はは、狐とは狡いものだよ」
入りたければ一人でも入れたのに、それでもとシャルロットを引き摺ってきただけの理由がある。
その言葉が本当か、それとも方便かはさておき、呵々と笑う狐の奥底は本人のみぞ知るところ。
だが、なんにせよシャルロットは遂にと白旗をあげるのであった。
「それにな、また汗をかいたとしても問題はない」
「? それは?」
「聞いた話だと、こうやって入浴する場所として整備されていない天然の温泉もあるそうだ」
流れる川を掘れば暖かな湯が湧き出て、それを自分だけの露天風呂に。
なんて言えば、どこかの温泉宿場の謳い文句のようでもあるが。
「どうせ外に出るんだし、帰りはそっちに入っていけばいい」
「……うーん。さっきのと合わせて、なんだか上手いこと言いくるめられている気もしてきましたが」
もしかすれば、目の前の女性は一人で入るのが寂しかっただけなのでは。
「――まぁ、良いことにしますか」
そんなこともシャルロットの脳裏に過るが、まあ、それもいいだろう。と温かな湯の中に疑問を溶かす。
楽しむと決めたのなら、楽しんだ方が良いに決まっているのだから。
――ちゃぷり。
湯の中から腕を出してみれば、身体の輪郭に沿って滑り落ちていく湯の感覚。
また湯の中にと戻せば、温かく包み込むそれ。
「はふぅ」
連戦の中で凝り固まった疲労も、溶け出ていくかのよう。
包み込む暖かさのなんと心地よい事か。
「……ところで、シャル」
「はい?」
「最近、少し肉付きがよくなったな」
「え゛、太って……ます?」
「いや、太ったと言うより、よくよく引き締まってると言うべきだったか」
「ああ、よかった」
落とされたのは爆弾かと思いきや、己の鍛錬の成果のことで、ホッと一息。
だが、しげしげと眺め見てくるユアの眼差しに、少しばかり身も隠そうというもの。
ましてや、プロポーションから言えば現段階の戦力比は確実に相手側なのだから、それにじっと見つめられれば恥ずかしさもあろう。
「ですが、流石に今回は疲れましたね。接近戦というのは、やはり慣れないものです」
筋肉は筋肉でも、狙撃手としてのそれと前衛で使うそれはやはり異なるのだろう。
「だが、あの時も言ったが、上手くできていたと思うぞ」
「改めて言われると、やっぱり嬉しいですね」
戦場で見せる顔とはまた違うシャルロットの顔。
それに少しばかり、ユアの心へ悪戯心がむくりむくり。
「ああ、よく鍛えている証拠だ。ほら、この辺とか特に」
むにゅりとシャルロットの身体へ突き刺さるユアの指先。
――沈黙。
シャルロットの視線が指突き刺さった場所を見、再び上がってユアを見る。
未だ突き刺した指先で感触を確かめるユアの顔は、どこまでも真剣(そう)なものであった。
「……どこ触ってんですかぁ!?」
「やはり、いい身のこなし……ぶくぶく」
瑞々しい身体の躍動にお湯が跳ね、容赦なくと温泉の波がユアを襲う。
そして、出来上がるは頭からずぶ濡れの狐が一人。
死の波を跳ねのけるだけの力を持つ筈のユアであっても、その波を跳ねのけることは出来なかったのだ。
――甘んじて受け入れたとも言うけれど。
なんにせよ、彼女らが温泉からあがるのは、もう暫し先の事となりそうなのは間違いない。
それを示すかのように、人類砦の温泉からは賑やかな声が響いていたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
思わぬ強敵でしたが、何とかなりましたね……
今回は精神的に疲れたので、温泉を堪能させていただきます
いやはや、吸血鬼だろうが悪魔だろうが恐れをなしたことはありませんが、どうにもあの……カサカサとした動きは生理的に……
ゆっくりとお湯に浸かり、寛ぎます
この世界らしく、相変わらずの曇天ですが、山の中腹だけあって見晴らしがいいですね
そして何より、人が人の力を以って切り開いた土地であるというのが良い
他の世界に比べればまだまだ劣るかもしれませんが、それでもこうして自らの力で世界を広げられる
その最前線にある温泉……これほどの贅沢があるでしょうか
メアリー・ベスレム
まぁ。まるでお鍋ね、大きなお鍋!
コトコト煮込んでトロトロ煮詰めて
みんな仲良くシチューになるの?
なんて、身体が冷えてしまったからちょうど良いかしら
アリスのこれまでの生活を思えば
まともなお風呂に入る機会なんて殆どなかったから
そうでなくともこの世界では貴重なものでしょう?
だから少しはしゃいでしまいそう
他の人がいても特に恥ずかしがる事なく服を脱いで
温泉を使わせて貰いましょう
お湯の温度は熱すぎるぐらいだけれど
それがむしろ気持ちいいわ
シチューの具もこんな気持ちなのかしら?
ええ、本当にこのまま溶けて、シチューになってしまいそう……――
(のぼせた)
「思わぬ強敵でしたが、何とかなりましたね……」
強敵。
そう。かの蜘蛛はオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)にとっても、まさしくそう言うべき相手であった。
「いやはや、吸血鬼だろうが悪魔だろうが恐くなどもないのですが」
多節の脚。蠢き、跳びはね、迫り来る姿はオリヴィアをして――。
「――いえ、止しましょう。折角と温泉を楽しんでいるのですから」
温かな湯の中に身体を浸けているというのに、思わずと浮かんだ二の腕の鳥肌。
如何に歴戦の勲を誇る戦乙女であろうとも、乙女であるからには生理的に無理なものはあるのだ。
それが、オリヴィアにとってはそういう類がそうあったというお話。
温かさを取り戻すかのように、意識切り替えるように、湯の中で身動ぎする身体。
豊かに恵まれた乙女のそれに合わせて、ちゃぷりと静かな水面が波立ち揺れた。
「まぁ。まるでお鍋ね。大きなお鍋!」
それへと呼応するかのように響いた声は年相応。
先程までの戦場で、どこか蠱惑を思わせていたそれではなく、目の前のものを純粋に楽しむもの。
オリヴィアが視線巡らせてみれば、入浴施設の入り口にメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)が姿。
纏う衣は一糸もなく、色素薄き身体を彩るははらり解けた薄青のみ。
だけれど、そこに恥じらいは遠く、メアリーは瑞々しき白磁の肌を惜しげもなくと晒していた。
そして、とたとたと足音も軽く、興味は深く、浴槽近付き、濁りの湯へ触れては遊ぶ。
「コトコト煮込んで、トロトロ煮詰めて……みんな仲良くシチューになるの?」
であれば、具材はメアリーならぬアリスといったところか。
まだ、他にもアリスを食べたいオブリビオンがいるのかしら。困ったわ。なんて、冗談交じりに呟いて。
「――ねえ、あなたもそう思わない?」
「ふふっ、これが罠であったなら、最早骨抜きにされたあとですね」
「でしょうね。この暖かさは、冷えた身体にはよく効きそだもの」
触れた湯からじんわり沁み込む暖かさは、戦いの疲労を訴える身体に、冷えた身体に、丁度良い。
ならば、皆仲良くシチューの具材となるのも悪くはなかろう。
とぷんと、温泉の大鍋に新たな仲間が加わった。
湯を楽しむ、僅かな沈黙。
空は相も変わらず陽の光を拒み、陽光なき地上の温度は身を凍えさせる。
だが、今は暖かな湯が寒さから身体を守ってくれていた。
「暖かい、ですね」
「身が蕩けるというのは、こういうことなのでしょうね」
寛ぎの時は平等に二人の手から刃の気配を遠ざける。
「アリスのこれまでの生活だと、まともなお風呂に入る機会なんて殆どなかったから」
身体の芯まで温まる心地よさは、見知らぬ快楽。
それはオブリビオンを喰い殺すとは、また違うそれ。
はふと零された吐息の艶やかさは、先程までの年相応を覆い隠す程に。
だが、そのどちらもきっとメアリ/アリスなのであろう。
「身を清めるのは心地よきことですからね。ですが、ここで楽しめるのは、それだけではありませんよ」
ざぷりと湯を身体から滑り落としながら、立ち上がるオリヴィア。
指し示す先は湯煙の向こう。山の中腹という高所から眺める彼方の景色。
それは薄闇の中であっても世界の広さを感じさせるものであった。
「いい景色ね」
「ええ。それに、この光景は人が人の力を以って切り開いたからこそのものでもあるのです」
オブリビオンの跋扈するこの世界。
ヒトビトは鎖に繋がれた奴隷も同然で、だけれど、その手から逃れ、立ち上がったヒトビト。
その尽力が生み出した光景は、きっと何者にも勝るもの。
「あの人達も、食べられるを待つばかりの無力な獲物ではないということ」
ならば、この光景には眺め良きものという以外の意味も持つ。
「そうです。ここはきっと希望の地。自由を得るための最前線の光景」
「貴重である訳ね」
ヒトビトの勝ち得た光景を肴に、湯を楽しむ。そのなんたる贅沢か。
オリヴィアの瞳の中には、目の前の光景ですら輝いて視えていた。
そして、戦いの後の高揚感。目にした光景への想い。温もり齎す湯の感触。様々なモノがメアリーを満たす。
「――よい気持ちだわ」
ふわりふわりと意識は浮かび、とろりとろりと意識は溶ける。
隣でオリヴィアが再びと湯に身体を沈め、その波にメアリーの身体もゆらゆら揺れた。
――蕩けるほどに煮込まれたシチューの具も、こんな気持ちなのかしら?
酩酊感すらも心地よい。だけれど、白磁だった肌は、今や茹った人参のように真っ赤。
「ええ、本当にこのまま溶けて、シチューになってしまいそう……――」
「――? だ、大丈夫ですか!?」
唐突に途切れた声へオリヴィアが不審と横向けば、眠るようにぷかり浮かんだ茹で兎。
まさか、本当に骨抜きとなるとは。なんて冗談めいた思考が脳裏を過るが、今はそんな場合ではない。
慌ててオリヴィアがメアリーを湯から引き上げ、その身体を冷ますにてんやわんやの騒動となったのはまた別のお話。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夏目・晴夜
リュカさん(f02586)
怪我無いようで何よりです
そしてお疲れの所を恐縮ですが
一緒に露天風呂を作る依頼を受けませんか?
楽しいですよ、多分
いや、力仕事は私が
私の方が筋肉ありますしね
温泉を溜める部分を掘りますので
リュカさんは他の作業と、今日の活躍を聞かせて下さい
全力で褒めて差し上げますよ
凄い、彫刻とは器用な…!
邪神の偶像ですか?
私でしたか…(必死で笑いを堪え
彫刻はさておき
残すは湯を引く為の水路だけですね
よし、お任せを
狼の姿になって川に繋がる水路を素早く掘ってみせます
このハレルヤの活躍をその目に焼き付け、後で存分に褒めて下さい!
(狼になって前足で一気に水路を掘って川と繋げる
(そのまま川に流されていく
リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さん(f00145)と
…ん
お兄さんの顔を見たら気も抜けたので、作りますとも
力仕事は任せて…って、お兄さん掘ってくれるんだ
了解。じゃあ俺は、石で囲いを作ってお湯が流れないようにします
(今日の依頼のことを、言葉少なめに語りながら、割と作業系はてきぱきする。あんまり褒められると照れる
(時間余ったな……何か温泉らしいオブジェでも作ろうかな
(石を掘り出して、この世のものとは思えない化け物を作る
え?これ?晴夜お兄さんだけど…
…何、その顔
……(無表情でふてくされている
兎に角、こんな感じで出来たし
あとは…あとは……!?
お兄さん、流されてる…っ、掴まって!!(焦って追いかけて
…楽しいのは間違いなかったね
ワイワイガヤガヤ。
歓喜だけでない。様々なヒトの感情織り成す人類砦。
そういったものも悪くはないのだろうけれど、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は一人、それに混ざることもなく。
「……ん」
静かに、戦い終えた愛銃の整備を行っている彼へと近づく気配。
敵――であろう筈もない。リュカの身に宿る第六感はそれがそうだと警告を鳴らして等いないのだから。
ならば、誰か。
身に沁みついた戦場のいろはは素早くと愛銃を組み立て直し、その身いつでも動けるようにと。
そして――。
「ああ、リュカさん。怪我が無いようで何よりです」
色彩の灯火連れた夏目・晴夜(不夜狼・f00145)が、ひょこり。
様々な色の灯りが照らす彼の顔は、ともすれば無表情。
だが、リュカは知っている。
その内面は晴夜の連れる色彩と同じぐらいに感情豊かであることを。
それを証明するように、晴夜の口元が知人であるならばこそ分かる程度、僅かと悪戯な笑みを描き出していた。
さて、何を言わんとするのだろうか。
リュカに浮かんだ警戒の色は既に抜け、何を言い出すやらと身構える色こそ滲んで見える。
「――お疲れの所を恐縮ですが、一緒に露天風呂を作る依頼を受けませんか?」
「……え?」
「露天風呂ですよ、露天風呂! 楽しいですよ、多分」
自信満々胸張って。きっとそれは楽しいことに違いないとばかりに。
リュカもこの地に温泉があるとは聞いていたが、晴夜の提案に思わず目も点となる。
だが――
「……ん。お兄さんの顔を見たら気も抜けたので、作りますよ」
「いや、はは、もっと褒めて下さって結構ですよ?」
「褒めたかな?」
「気が抜けたというのは、私の顔を見てリュカさんはリラックスできたという事でしょう?」
心通じ合う二人。顔を見せ合った時から、既に肩の力は抜けていたのだ。
ならば、それに付き合うも悪くはないことだろう。
差し出される手とそれを掴む手と。
よいせと二人立ち並び、いざ行かん、露天風呂の湯気の向こうへ。
ざあざあと流れる川。
川縁に転がる石除け、地に触れれば掌に伝わるはほんのり暖か。
「それじゃあ、力仕事だね。任せて」
「いやいや、力仕事は私が。筋肉は私の方がありますしね」
お湯溜め、お湯引く、準備も手早く。
シャベルを片手に晴夜はえいさえいさと、まずは湯船づくり。
「お兄さん掘ってくれるんだ」
「勿論。リュカさんは……他の作業と、今日の活躍を聞かせて下さい。全力で褒めて差し上げますよ」
もしかしたら、それは、この誘い自体は、戦いの疲労もあろうリュカを気遣ってのことだったのかもしれない。
「了解。じゃあ俺は、石で囲いを作ってお湯が流れないようにするよ」
ならば、それに甘えるも気心知れているからこそ。
ざくりざくりと地を穿つ音の周りに石並べ、見目も立派な露天風呂にしようではないか。
「それで、先程も言いましたけれど、今日はどんな活躍をなされたのですか?」
「活躍……他の人達程派手派手しくなんて、出来てないけれど」
「おお、その謙遜もまたらしさですね!」
「それはちょっと早すぎない?」
「はは、全力で褒めて差し上げると言いましたからね」
戯れ、軽口、和やかな時。
だが、それを潤滑油としてリュカもぽつりぽつりと今日の出来事を語るのだ。
死の波に抗った時のこと。その波濤を砕く弾丸を。
蜘蛛の怪物との出会い。その糸の鎧を撃ち抜く星の輝きを。
立て板に水の如くとは行かずとも、それでも確かに。
その姿が好意に値するからこそ、晴夜の口元には確かな、そして、温かな笑み。
相槌打つ言葉と共に、シャベル捌きはより鋭さを増していく。
「いや、リュカさんのお話は流石ですね。お蔭で、あっという間に穴掘りも終わりですよ」
「そんなことは、ないよ」
「おや、照れていらっしゃる? いやいや、そんな照れることはありませんよ……っと、その手のものは?」
真正面から遠慮もなくと褒められれば、普段淡々としていてもやはり照れるもの。
その姿に晴夜も一層と笑みを深くし、そこで気づいた。リュカの手に収まっているものに。
「枠組みは割とすぐ終わったから、折角だし石でオブジェでもと思って」
どうかな。とは言わない。
でも、そこそこの力作に思わずと力も籠る。
「すごい、彫刻とは器用な……!」
「そうかな?」
照れり。
「邪神の偶像ですか?」
「――え?」
「いやはや、よくできている。リュカさんはそういった方面の才能もお持ちでしたか!」
そう。そのオブジェは――名状するに相応しいものを言葉と出来ない、そんな形をしていたのだ。
だが、それはそれ。何事も全力で褒めるが晴夜。自信満々にそうなのだろうと断定し、リュカを褒めちぎる。
だけれど、リュカの顔にはなんとも言えない表情が浮かんでいた。
「……これ、晴夜お兄さんだけど……」
「……私でしたか」
沈黙。
矯めつ眇めつ眺めてみれば、なんとか、そう、見えなくともない様な。
「……何、その顔」
「い、いえ、何でもありませんよ。そうですか、私でしたか」
口元がひくついて、今迄浮かべていた笑みとは違う種類の笑みが思わず浮かびそうになる。
だけれど、それは出来ない。出来ないから抑え込もうとするのだけれど、こういう時は逆に抑え込もうとすればする程に感情は強くなるものなのだ。
そして、晴夜がどのような状況かと理解するからこそ、リュカもまた憮然とした表情を浮かべているのであった。
それがまた、晴夜の感情をより刺激するのだけれど。
「さ、彫刻はさておき!」
ひとしきりの我慢大会。それを乗り越え――まだ欠片と雰囲気を残し――露天風呂づくりの最期の仕上げ。残すは湯を引くための水路のみだ。
「……そうだね。気を付けてやらないと、ここまでの頑張りが台無しだ」
水を引きすぎては露天風呂が決壊しかねないし、かといって浅すぎては湯が貯まるのを待つ間に滞在時間も過ぎよう。
だが、そんな思案を重ねるリュカの傍で、彼は既に動き出していた。
「お任せを! このハレルヤ、川に繋がる水路を素早く掘ってみせます。私の軽役をその目に焼き付け、後で存分に褒めて下さい!」
「……え?」
狼――晴夜の変じた姿が、その前足を使って器用に溝を掘り進めていく。
そして――。
「リュカさ~ん」
「お兄さん、流されてる……っ!」
迅速に掘り進めたまでは良かったが、リュカに褒められるを期待した晴夜はその勢い止まらずに川にまで突入してしまったのだ。
後はどうなるか。決まっている。
河童の川流れならぬ、狼の川流れ。
湯が引き込まれて露天風呂が完成していく傍ら、リュカは大急ぎで流されいく晴夜を追いかけるのであった。
「いやぁ、楽しいものですね!」
「……楽しいのは間違いなかったね」
湯の中で疲れを溶かし、ずぶ濡れ身体を温めながら、二人はどたばた騒ぎを振り返る。
でも、それもきっと何物にも代えがたい思い出。
そして、いつか過去を振り返った時、何度でも心満たしてくれるであろう記憶の一頁。
湯気がゆらりゆらりと揺れながら、闇の空へと昇っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フィランサ・ロセウス
他の猟兵ならともかく、私は好き勝手にしただけよ?
何も感謝されることなんてないわ
まあ賑やかなのは好きだから、
なるべく隅のほうで[目立たない]ように宴に混じるわ
ヒトに手を出さないだけの分別はあるけれど、
あまり一緒に騒ぐと気持ちが抑えられなくなっちゃいそう
だけどこの想いを明日もまたオブリビオンにぶつける為に、今は我慢しなくちゃね!
ああ、それにしてもあの蜘蛛ちゃんは本当に良かったわ
今もあの時の手の感触を思い出してドキドキしちゃう♪
もしまたあんなのが現れたら教えてね?すぐに駆けつけるから!
歓喜の糸を縦として、彩り添える悲哀の糸。
様々な感情が織り成す複雑な絵図。人類砦の様相は、まるで一つの芸術のよう。
そして、その渦中にフィランサ・ロセウス(危険な好意・f16445)の姿もあった。
「――他の猟兵ならともかく、私は好き勝手にしただけですよ?」
乾杯、献杯、やんややんや。
訪れた彼女は、助けてくれてありがとうと言った。
訪れた彼は、敵を討ってくれてありがとうと言った。
宴の隅で目立つまいとしていても、ヒトビトからすれば英雄でもあるフィランサへと訪れる足は途絶えない。
だから、彼女はかく言ったのだ。
多くはそれを謙遜と捉えたことだろう。
だが、違う。本当に、彼女は『好き』にしただけ。
「何も感謝されることなんてないですよ」
変わらぬ表情――笑顔のままに彼女は言う。
その笑顔の意味を、言葉の意味を、ヒトビトは理解しないままに聞いていた。
――そこに相互理解はなくとも、宴は進む。
温かな料理が饗される。
大人達には心緩ませる酒が注がれる。
笑って、泣いて、騒いで。
誰もが今を生きていた。
ようやっと足運ぶ者の波も遠のき、落ち着き取り戻したフィランサの周囲。
彼女はそこからそれを眺めるのだ。
「……ふふ、ふふふっ♪」
離れてくれてよかったと思う。離れてしまって残念とも思う。
心から今を生きるヒト達の感情の動きは、フィランサのそれを刺激するに十分だったから。
小波立ち、心擽るは彼女の感情/好意。
好いて/こわしてしまえとソレは語る。
愛して/ころしてしまえとソレは語る。
それしか、自身にこの心の動き表現する方法などないのだから。
思わずと手が得物に伸び――。
「でも、今はまだ我慢しなくちゃね!」
それを寸前で抑えるは理性ならぬ打算。
まだ早い。まだしない。まだ――。
今、ヒトに手を出せばどうなるかなど、考えるまでもないことだから。
大丈夫。まだ分別はある。我慢は効く。故に、今はこの感情を取り置こう。
「ああ、それにしても、あの蜘蛛ちゃんは本当に良かったわ」
その手に残る感触。抉り断った蜘蛛の節の、浴びた体液の暖かさの。
それを無聊と代えて、胸の高鳴りを目の前の光景から別のモノへとシフトさせる。
「おぉい、今日の主役がそんなところに居るもんじゃないぜ」
一人佇むフィランサへ、砦の住民が輪の中へと誘う。
それに応えるは、笑み。満面の、笑み。
「ええ、すぐにそっちへ行くね!」
崩れた言葉は顔覗かせた好意の片鱗。
だけれど、それを向けるはヒトビトへではない。
宴の中で彼女はかく語る。
「――そうそう。もしまたあんなのが現れたら教えてね? すぐに駆け付けるから!」
取り置いたこの感情を、育んだ好意をぶつける相手――オブリビオンを想って。
それまではこのヒトビトとの饗宴を楽しもう。
フィランサにとっての狂宴の時が訪れる、その時を愉しみに。
人類砦の宴織り成す感情の絵図。そこへ、また複雑な綾が交わっていく。
大成功
🔵🔵🔵
リグ・アシュリーズ
【狼と狐】
村の復興をお手伝いして、終わったらお風呂、いただこうかしら!
川で作るお風呂の話には楽しそう!と乗り気。
それじゃ二人で……って、あれれ。力仕事は私がメインなのね!
手伝ってもらいつつ、掘り進めるのは頑張るわ!
人がいないのを確かめ、そっと湯船に。
湧き上がるあたたかい湯の心地よさに目を細めて、空を仰いじゃう。
ううん、まったく知らないわけじゃ無いんだけど。
こうして誰かと入ったり、湯船でのんびりは初めてかも。
って、わわ。いすゞちゃんがいっぱいお湯に浮かんじゃった!
面白そうに毛をすくって拾い集め、はい!と冗談っぽく渡すフリ。
今日はあちこち走って頑張ったものね!
ええ、思う存分ゆっくりしていきましょ!
小日向・いすゞ
【狼と狐】
壊れた村の設備の立て直しをちょいと手伝ってから
川で自分で作る風呂って楽しく無いっスか!?
センセがきっとぱわーで作ってくれたっスよ
力っス~
ふれーふれー
大丈夫
少しは手伝うっスよォ
空を見上げてぼんやり
温泉と言っても、自分で作った温泉っス
気負わず風呂と思って……
もしや湯船に馴染みの無い文化の人っスか?
なるほど
ならじっくり温まっていきましょうね
温泉は恋の病以外にゃァ効くそうっスし
それにあっしもあんまり人とは入らないンスよね
いやァ理由はすぐ解るっスよ
ほら
あっし、風呂に入ると尾の毛が無限に浮いてくるもので
自分で作る風呂で助かったっスよォ
ま、ま、ま
後で流せば大丈夫っスから
ゆっくり湯治して行くっス〜
トンテンカンテン、槌の歌。
ギィギィギィギィ、鋸の声。
なんて、宴とはまた違う喧騒。
だが、壊すためでなく直すためのそれは、どこか活気を孕んでいた。
そして、全てが全て元通りとはいかずとも、先の見通しが立つ程度に修繕進めば喜びもひとしお。
そのために汗を流した甲斐もあったとヒトビトは、それへ参加した猟兵は、笑みを浮かべるのだ。
「小耳に挟んだんスけど、此処の川は温泉が出るらしいンスよ」
「へぇ、そうなのね」
「ということで、どうっスか?」
「うん?」
「川に自分で作る風呂って、楽しくないっスか!?」
「そうね。お仕事後で汗も気持ち悪いし、折角だから露天風呂を満喫するのもいいかもしれないわね」
設備修復も一段落。後は現地のヒトビトが自分達の仕事と感謝を述べる。
そんな中、どこから仕入れてきた情報なのか。もしかしたら、設備の立て直しの際に仲良くなったヒトから聞いたのか。
なんにせよ、楽し気に誘い来る小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)が面白可笑しくて、リグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)の顔にも笑み。
一段落も付いたことだし、と、その誘いに彼女は喜んで応じるのだ。
だが――。
「ふれーふれー」
「あれれ。力仕事は私がメインなのね!」
鼓舞技能、プライスレス。
流れる川と仄かに揺れる湯煙の中、響いたは力の抜けた応援の声。
応じて、あははと浮かぶは苦笑い。
「こういうのは、二人で力を合わせてやるものじゃない?」
「センセのぱわーなら、きっとあっという間っスよ。力は全てを解決するっス!」
確かに、鉄塊振り回すリグの膂力あれば、シャベル捌きもお手の物。
ざくりざくりと石ごと掘り進め、湯船代わりの穴を掘るなど朝飯前であろう。
しかし、それはそれだ。
「うぅぅ、いすゞちゃんは私を便利な女にしようって言うのね」
「いやいや、そんなことはないっス! ……ちゃんと、少しは手伝うっスよォ」
「ええ、そうだと信じていたわ」
「騙し化かしはこちらの手管の筈だったンスけどねェ」
「ふふ、偶にはね」
泣き真似の姿が嘘のようにと、リグの屈託のない笑みが眩しい。
それにいすゞは騙されたと大袈裟に天を仰ぐ。
とはいえ、互いに分かってのじゃれ合いだ。
だからこそ、そんな小芝居を挟みながらも露天作りは順調に。
穴掘り、地固め、枠を組み。
気付けば出来上がる、自然の中に立派な露天風呂。
染み出る温泉と川の水を引き込んで、露天風呂に張られた水面からは仄かな湯気が立ち昇っていた。
さあ、準備はもう万端だ。
ざぁざぁと流れる川の音。山裾を駆ける風が耳朶を共にと擽っていく。
「温まるわねぇ」
「癒されるっスよォ」
ちゃぷりちゃぷりと湯の白波。
心地よさに身を預け、誰に気兼ねすることもなく湯船でのびのび。
思わず力抜けて天を仰げば、そこには宵闇。煌く星空。
「綺麗ねぇ」
「綺麗っスねェ」
思わず語彙もとろとろり。
「こういうお湯に包まれる温かさも、いいものね」
「おや。あしゅりーずセンセは、もしや、湯船に馴染みの無い文化の人っスか?」
「ううん、まったく知らないわけじゃ無いんだけど」
「無いんだけど?」
「こうして誰かと入ったり、湯船でのんびりは初めてかも」
旅の空であれば、風呂も行水となることだろう。
だから、こうして湯船に誰かと浸かって、星空を眺めてなんて、そうそうない体験。
その初めてが心地よくて、新鮮で、リグは心の中へその感動を記すのだ。
「なるほど。なら、じっくり温まっていきましょうね」
心の動きに目を細めるリグ。それを見つめるいすゞの目には、声には、柔らかなものが宿っていた。
――自然の奏でる音だけが聞こえてくる。
その沈黙が少しくすぐったくて、リグはぱしゃりと水面を揺らす。いすゞの方へ視線向け直すために。
「そういう、いすゞちゃんはどうなのかな?」
「あっしっスか? あっしは……あんまり人とは入らないンスよね」
「え、どうして?」
「いやァ、理由はすぐ解るっスよ」
そろそろっスかねェ。なんて、呟きの意味。
それに小首を傾げて、リグが待てば――水面にぷかりと浮かびあがった琥珀色。
その正体とは――。
「ほら。あっし、風呂に入ると尾の毛が無限に浮いてくるもので」
「わわ。いすゞちゃんがいっぱいお湯に浮かんじゃった!」
掬い上げて、掌に絡む狐の毛。
それが面白可笑しくて、リグは何度も掬っては集め、掬っては集めを繰り返す。
「いやいや、自分で作る風呂で助かったッスよォ」
「あ、もしかして、これが理由でこっちに誘ったのかしら?」
「ま、ま、ま。ここなら後で流せば大丈夫っスから」
誰かと共にと入りたくても、これは確かに公衆風呂では難しかろう。
その意外な秘密にくすりと笑い、集めた尾の毛をリグは見る。
「羊毛フェルトならぬ、狐毛フェルト。なんて」
「そういうことにでも使えたらいいンスけどね」
冗談めかして言い合って、二人揃って苦笑が浮かぶ。
「なんにしても、今日はあちこち走って頑張ったものね!」
「温泉は恋の病以外にゃァ効くそうっスし、疲れなんてきっと覿面っスよ」
「ええ、思う存分ゆっくりしていきましょ!」
「そうっス、そうっス。ゆっくり湯治して行くっス~」
ゆらゆら揺れる湯煙と水面。
それに溜まった疲れを蕩かして、心と体のお洗濯。
明日のために、未来のために、身体へ活力を満たすのだ。
大成功
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