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艶めかしい肉の迷宮

#アルダワ魔法学園

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●艶めかしい肉の迷宮
 うぞうぞと蠢く肉色の壁が、三人の女生徒の足を立ち止まらせていた。
 地面も肉であれば、壁も肉。見上げた先に見えるのも赤い肉の塊で、たまに降り注ぐぬらつく液体が生臭くてしかたない。粘液は地面にも行き渡り、気を抜けばそのまま転び、全身を濡らしてしまいそうになる。
 アルダワ魔法学園の制服を着た生徒たちは、嫌な顔を隠すこと無く振り向き、不安定な足場を更に進めていく。壁に手をつくわけには行かない。転ぶことも、これ以上は出来ないはずだ。
 彼女たちの背後の壁は、ぬらつく水音を響かせ迫ってきていた。その速度は恐る恐る進む彼女たちの足取りよりも遅い。だが一定の速度で、確実に迫ってくる。ぐぷ、ぐぷ、と聞こえる音がおぞましい。メンバーの中の一番小さな生徒は、泣きだしそうな表情を堪え、歯を食いしばって進んでいく。
「あ」
 それが、少女の最後の言葉だった。
 ぬらつく地面に足が取られ、壁に手をついてしまったのだ。泣き出しそうな表情は、一瞬で泣き顔に。声を上げる間もなく、壁から伸びる幾数本もの触手が彼女を掴みとり……壁の中に連れ込んでしまった。
 それを見ていた仲間たちが、動揺しないはずがない。既に全身ずぶ濡れの眼鏡の彼女は、驚いた拍子に地面に膝をついた。流れるように両手を付き、滑る地面が全身を地に打ち付ける。
 今度は声もない。彼女を包むように左右から伸びた触手は、水音だけを残して地面の奥へと消えていった。
 あっという間、である。消えた二人は仲間だった。新しいフロアへ行ける許可が降りたと、綿密な打ち合わせをしてやってきたはずだった。
「なんで……」
 知らないフロア、見たことも、聞いたこともない。
「どうして!」
 背後から迫る壁。呆然としていた時間は、本人が思うよりも長かったのだろう。ムカデを思わせる触手の群れが、最後の一人を抱きしめるように捕まえると、その肉の中に押し込んだ。
 いやだ、などと考える暇もない。直後に訪れる快感の渦に、寸前に考えていたことなど忘れてしまったから。

●インターミッション
「……今回は、まあ分かりやすいミッションだ。ちょっとしたトラップの道を抜け、クソのようなフロアを作ったオブリビオンを殺す。どうだ、簡単だろう。ああ嫌だ、まじで嫌だ……くそ、詳細を説明するぞ」
 眉間に寄せた皺が強く強く刻み込まれる。アオイ・ニューフィールド(象打ちサイボーグ・f00274)は子供然とした風体をしながら、違和感をもたらす不機嫌な表情を隠しもしない。組んだ腕に乗せられた指は、苛立ちからかトントンと言う上下の動きを止めないでいた。
「触手トラップのフロアだ……もう一度言う、触手トラップのフロア、だ。侵入者を快楽で捕らえ、数時間から数日弄んだ後に、フロアの外へと捨てられる。これだけ聞けばそう怖いものでもないだろうが、問題はここからだ」
 そうして、ここが安全だとわかった生徒たちは、快楽のためにここ何度も足を運ぶことになる。気持ちいいのだから、怖いことは無いのだから。安全、それは本当だろうか。
「そうだな、分かるものには分かるかもしれんが。快楽というのは、分かりやすい武器だ。抗いづらく、そして中毒性が高い。安全? バカを言え。快楽を得るためだけにフロアへもぐり、自らトラップに引っかかる。それをただ繰り返す人間が中毒ではないとでもいうのか」
 つまり、殺すフロアよりも危険度は高いということだ。少年少女も多く在籍するアルダワにおいて、戦い以外の手段で訴えてくる攻撃は強力と言える。
「とは言え、諸君らは猟兵だ。武器を使い、ユーベルコードを使い、罠を破壊するのもいい。身のこなしに自信があるなら、そのまま進んで突破してもいいだろう。快楽など気にしない、というのならそれも手だ。そういう存在もいるだろう。いざとなれば全てを破壊する事もできる……かもしれん。フロアの全体図がまるでわからんのでな、可能かどうかも分からん」
 アオイの肩口から白い光が浮き上がる。淡いその光は猟兵たちの視界を包み広がり、白い世界で埋め尽くした。
「とは言え時間はたっぷりある。なんせ生かして返してくれるのだからな……そうだな、頑張ってくれたまえ……」
 そう送り出す言葉は、どこか悲哀に満ちていた。


三杉日和
 おはよう御座います、三杉日和です。

 今回は触手トラップの迷宮を突破するシナリオとなります。
 オープニングにもあります通り、時間はたっぷりある設定となっております。ですので、プレイング内で失敗前提のゾンビアタックをかけるというものであれば、それを採用し成功、大成功となるものと考えています。
 分かりやすく肉壁を削りながら進むというのも良いかもしれません。あえてトラップに引っかかり、根性を見せて進むのも良いかもしれません。
 当たり前ですが、描写はある程度抑えめなものとなります、官能小説レベルのものをご期待されると肩透かしを食らうと思いますのでご注意ください。
 あと、当然ですが普通にクリアしたいという方がいらっしゃれば、勿論歓迎いたします。

●成功条件
 触手トラップの突破(🔵の確保です。揃えば全員突破という形になります)

●場所
 送られたのは、フロア直前の入り口。触手トラップフロアに入るまでは、石畳のよく見るフロアです。

●状況
 入り口から甘い匂いが漂っています。
 入り口から先へと進むと、いくつかの通路に別れています。オープニングにあるトラップだけではありません。
 プレイングにこういうトラップが良い、こういう目にあいたい、こういうことをしてほしい、など御座いましたらルールに抵触しない範囲で受け付けられるかと思います。

 以上となります、よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『触手迷宮クロニクル』

POW   :    罠による妨害を受ける前に破壊する。気合で耐えれば罠にかかっても大丈夫と対策せずに進む。

SPD   :    罠を素早く回避して突っ切る。自分の身のこなしなら罠にかかっても脱出できると対策せずに進む。

WIZ   :    罠を無力化する手段を用意する。冷静に対応すれば罠にかかっても脱出できると対策せずに進む。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アリア・ティアラリード
制服姿でおぞましい肉窟を奥へと進んで行きます
魔法学園の生徒として同じ生徒にこれ以上犠牲者を増やす訳には

肉窟の触手の量は深度に比例し増えていき、このままではジリ貧と思い
つい【サイン・オブ・ニアフォーチュン】未来視を使ってしまって
それが絶望的な危機を呼び込むとも知らずに…

10秒先の未来で私を襲う、狂おしい程に凶悪な触手悦楽
粘液を纏った肉瘤、肉疣まみれの触手が私の体を擦るだけで
乳房を、腰を戦慄かせ四肢を突っ張らせさせていました
必死に嬌声を殺そうとする私を嘲笑うように再び触手が蠢めき始め…

UCの見せた、感じさせた未来の内容に硬直した私の目前を
触手の肉色が埋め、次の瞬間にはその未来視が現実に…
※苦戦希望




(私だって魔法学園の生徒です。同じ立場にあるものとして、生徒達から犠牲者を出すわけにはいきません。どうか、どうか皆さん。こんなものに負けないで……)
 祈るような思いは踏みしめる足にこそ込められる。びち、と粘ついた音を立てながら踏みしめた足。生まれた慣性は振り上げる腕へと流れ込み、握った光剣を宙に瞬かせた。
 打ち払うのは、壁から生えた無数に触手。一振りで十数本を同時に刻みながら、狭苦しい肉天井をも切り裂いた。どっと溢れてくる赤茶けた血を思わせるそれは、天井の体液だろうか。どばどばと零れるものの、地に落ちる触手を蹴り飛ばし、一歩を進めることで直撃を免れる。
 アリア・ティアラリード(エトワールシュバリエ・f04271)は、その足を、その手を止めることが許されないと本能で感じ取っていた。更に一歩、同時に一閃。振り抜く刃が迫る触手を切り落とし、汗ばんだ額を拭う暇すら無く進んでいく。
 アリアがこの通路へ侵入してから十数分。進むほどに迫る触手の量は増え、今や常に狙われていると言っても過言ではない状態となっていた。そもそもこの通路を選んだ理由は、まっすぐに伸びた通路の先に出口めいた光があったから。多少の妨害があったとしても、行先が分かっている道に迷うこともない。数に任せて攻め立てるとしても猟兵の敵ではない、そう考えていたのだ。
 更に一閃。今度は足が止まり、一歩引きながらの回転斬り。続いて縦に腕を振り、小さく前進しもう一度。弾け飛ぶ体液と粘液がアリアの長い髪に降りかかり、背後へと迫る触手を気配だけで切り落とす。
 強敵ではない触手は、ただただその数を武器に襲いかかってきている。出口は目測で、およそ十数メートル。目的地は近いはずなのに、アリアの顔にはただただ焦りの色が浮かんでた。
(この多勢、ジリ貧になるのは明らかかしら……)
 どうしよう、と考える頭に浮かぶのは二つの手段。この通路ごと破壊し先へ進むか、この場をやり過ごす一手を選ぶか。周囲を囲む災魔の気配に、殆ど自動的にその力が選ばれた。苦戦が予想される戦いにおいて、確実に有効なアリアの能力。ユーベルコード『サイン・オブ・ニアフューチャー』は、十秒先の未来視をもたらす。これが尋常な戦いであれば攻めに逃亡に、その勝敗を決しかねない超常の力。
 そうして見た未来、たった十秒の間の自分自身。息を切らせ嬌声を抑え、手にした光剣を拾い上げる自由さえも奪われた、絶望の未来。見えた未来が快感の信号を脳に焼き付け、そんな状況を頭が処理するその一瞬。前後左右から伸びる触手はあっさりと手足を絡めとり、肉色の壁へとその身体を縛り付けてしまった。


 アリアの格好は、アルダワ魔法学園においては比較的ポピュラーな格好と言える。学生然としたブレザータイプの衣服に、チェックのミニスカート。ブルー系統に纏められた出で立ちはよく似合っていると言える。が、ブレザーの下の白いブラウスは、豊満な胸を見せつけるように大きく開かれていた。
 少しだけずぼらで、多少見られたところで気にしないという、彼女の性格がこの格好に繋がっていた。アリアを見る相手が人間であれば、性的な魅力を感じたところでただ視線を送るに留めただろう。
 しかし、相手は触手である。人並みの知性を持ち合わせない軟体共が、遠慮などという言葉を知っているはずもない。魅惑的なスタイルの少女が、壁に貼り付けられている。身動きも取れないその身体を自由にしていいと判断すれば、そこからは迅速なものであった。
 気をつけの形で手足を拘束し、とりわけその胸を強調するように巻き付く触手。縛り、下から持ち上げる。開いた胸元からあっさりとトップが顔を出し、桃色の先端を見るやいなや小指の先程の触手が餌に食いつくように群がった。
 それは歯のない小さな口を持ち、狙った対象に噛みつき、甘くゆるく吸い上げる。例えばそれがたった一体。胸の先に吸い付いたところで、眼の前の少女は声の一つも上げることは無いだろう。だが、そんな触手が先端を埋め尽くすように食らいつき、各々が持つ精一杯の力で甘く噛みつくのだ。
 動きに統一感はないが、思い思いに食む動きはアトランダムに刺激を加える。奥歯を噛み締め声を我慢できたのは、ほんの数秒。漏れるような声は一際高く、周囲の触手を喜ばせた。
 膨らむ先端は面積を増し、更に多くの細触手を受ける準備が整ってしまう。電撃のような快感が胸から広がると、殆ど自然に腰が揺れ動く。全く知らない、過剰なまでのその感覚に、アリアは何が起こったか理解が出来てはいなかった。
 全身がピンと引き伸ばされ、あらぬ方向へと力が込められる。まるで自分自身の身体ではないように、甘い刺激で身体が跳ねていく。
「何……これ……」
 この場で理解しているのは、目の前の触手達だけだ。息を呑み、上がるはずの嬌声すら出せない程に慟哭するものの、すぐに身体は順応する。これが先程頭に焼き付けられた快感の一部だということ。そして今まさに埋め込まれる壁の中。太ももへと伸びる触手は、凸凹とした瘤付きそれ。それが何をするものなのか、知らないほど知識が無いわけではない。
 アリアの予知の先にあるものは、特殊な力など使わなくても分かる簡単な未来だ。胸だけの絶頂に混乱する身体は肉壁に押し込まれ、熱帯の暑さを浴びながら、身動き一つ取れない身体をなぶられる。内腿に迫る瘤付きの触手が、ぬらりと粘液にまみれた身体をこすりつけ……前進した。


 金色に輝いていた長髪は粘液によって濡れそぼり、彩度を落としながら束となっている。触手の存在しない肉のフロア、腰だけを突き上げた情けない格好で倒れるアリアは、強すぎる余韻を抑える余裕すら無く腰を揺らしていた。
 ボタンが弾かれたブラウスは濡れて透け、ベッタリと身体に張り付きことさら豊満なラインを強調している。下着は無理やり剥ぎ取られ、粘液を全身からこぼしながら、荒い息を吐き出していた。
 およそ数分、そのまま動きのないアリアであったが、よたよたとふらつく足を肉壁で支えて立ち上がり、真っ赤な顔をそのままに一歩一歩進み始めた。
「私が、いかなければ……生徒の……皆さんが」
 上擦った、使命感に満ちた言葉。快感に染まらなかった彼女の意思が、自然と口から生み出したのか。ゆっくりと進むのは先程の道。うねる触手が待ち構える、出口が見える一本道。握りしめるのは、杖代わりに地をつく粘液塗れの愛剣一つ
 熱い、甘い息を吐きながら、何かを期待するような視線を向け、アリアは蠢く触手に斬りかかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アルテミス・カリスト
「学園の生徒たちを虜にする迷宮など許せません!
この正義の騎士アルテミスが、このような迷宮、突破して見せましょう!」

ここは大剣を抜き、触手を破壊しながら進みましょう。
捕まっても力ずくで脱出すれば問題ありませんよね!(フラグ)

「いやらしい触手なんか斬り裂いてあげます!」

触手を斬り裂きながら進みますが、罠が触手壁だけだと思っていたら、足元に落とし穴が開き、触手で溢れた落とし穴の底に落とされ……

触手に全身をまさぐられ、あんなことやこんなことをされた挙げ句、
迷宮の外に放り出されるのでした。

「こ、こんなことでは諦めませんっ!」

全身ぬるぬるのまま再挑戦しては、何度も色々な罠にかかるのでした。(騎士のお約束)




「学園の生徒たちを虜にする迷宮など許せません!」
 可愛らしい雄たけびと共に、身の丈ほどはあろうという大剣を構えるのはアルテミス・カリスト(正義の騎士・f02293)その人だ。狭い通路であること等お構いなしに、曲がりくねった肉の道をイノシシのように突き進む。
「この正義の騎士アルテミスが、このような迷宮、突破して見せましょう!」
 勇ましい声は行動を表す。振り抜いた大剣が狭いはずの壁ごと裁断し、その重量をもって通路を切り裂いた。吹きかかる赤茶けた体液などお構いなし、ぞわぞわと這い寄る触手を肩当てで打ち、通路ごと切り伏せる。
 力任せという言葉がこれほど似合う豪快な戦い方も、そうはないだろう。降りかかる粘液を気に留めること無く、アルテミスの行進は留まることを知らない。まさに快進撃、曲がる道すらも切り裂いて、その身を絡め取る触手の束を撃ち落とす。
「ほうら! 捕まえられるものなら……!」
 這い寄る足元の触手も、地擦りの剣先が切り払う。先の見えない通路であったが、調子付いたアルテミスの足は止まることはない。走る、進む、切り裂く。絶好調の彼女の前に敵はない。あるのは、一つの単純な罠だけだった。


「……ちょ!?」
 愛らしい雄叫びは、一瞬で黄色い叫び声に変わる。突然現れた大きな穴は、アルテミスを飲み込んで余りあるほどの大きさだった。突然の浮遊感に両足をパタつかせ、重力に従う身体に待ったをかける。
 手にした大剣を振り回し、落とし穴を壁へと突き刺した。肉色の壁は体液をアルテミスに吹きかけ、壁として機能していたはずの硬さを徐々に失っていく。柄を握りしめる手は粘液に滑り、気を抜けば……いや、壁の様子を見る限り長くは持つまい。
 落とし穴の底を見るアルテミスの表情に影が落ちる。しかし、それは一瞬のこと。
「触手等と言うイヤらしい存在、騎士たるこの私が切り裂いて……!」
 ずるりと傾いていく身体に諦めが付いた。柄を強く握り直したアルテミスは、勢いよく大剣を抜き去ると、両手に構え底を目指す。
 迫ってくるのは、視界いっぱいに触手が生え揃った、落とし穴の底である。見れば、通路で切り裂いてきた軟弱なものばかり。ここまで無傷でまかり通った自身が、遅れを取るわけがない。自信に満ちた表情のまま、底へと大剣を振り下ろし、大量の触手を一刀のもとに切り伏せた。が、そこまでだった。


 一際柔らかな落とし穴は、裂いた大剣を挟み、飲み込んだ。力任せに抜き取ろうと手を振り上げたアルテミスは、新たに生え揃う触手に足を取られ、すっ転んでしまう。仰向けに転がるアルテミス。触手達もこの騎士が厄介な存在だと理解しているのだろう。全身を覆い尽くす触手はミイラのように巻き付き、落とし穴の底の底。更に一段深い場所へと、少女を連れ込んだのだ。
「こんな、雑魚モンスターにおくれを……ひぁっっ!?」
 長い髪まで触手に巻き取られ、甘い匂いを擦り付けるように何度も扱き上げる。それと同時に、身動きの取れないその少女の防具を剥ぎ取り、弄る邪魔をする衣服すらもびりびりと破ってみせたのだ。
 待って、と声を上げる口に差し込まれる瘤付きの触手。ぼこぼこと歯に当たるのも気にせず、甘ったるい粘液と唾液を絡め、口の中で撹拌していく。喉の手前まで押しこまれ、吐き気に口を閉じようとするもの、まるで噛み切れる様子はない。ただ、触手はアルテミスの口の中で遊んでいるかのようだった。
 遊びといえば、口以外も同等である。辛うじて残ったインナーも、長く細い触手が内側に忍び込めば何の隔たりにもならない。内腿を先端でなぞりながら、もぞりとショーツへと潜り込む。ふっくらとした柔肉をつついて遊び、新たな触手を招き入れては挟んで弄ぶ。
 アルテミスが出せるのはうめき声だけ。塞がれた口は吐き気による嗚咽と、くぐもった嬌声のような何か。濁音混じりのそれに区別はなく、熱を帯びてきた肉を弄び、強く跳ね出す身体を玩具にされるだけの存在に成り下がっていく。
 何時間ほどそうしていただろう。結局それ以上の事をしてこなかった落とし穴は、武器も防具も破れた衣服も一緒に、アルテミスを入り口に吐き出した。いっそ一思いに……などという気持ちがあるわけはない。そう、アルテミスは騎士なのだ。こうして味方を守るために自らを犠牲にする、それこそが本分であるといえる。ここに守るべき味方が居ない事を除けば、間違いでは無いだろう。


 インナーの上に取り付けた防具。柄から粘液だけを拭き取り、グリップを確かめたアルテミスは、雄叫びとともうもう一度駆け出した。
 落とし穴の場所は分かっている。おおよそ敵を粉砕し続けた道のりは、現状回帰というほど元にはもどっていなかった。
「今度こそ! いけます!」
 落とし穴を飛び越え、新たな触手の群れを切り伏せる。真横に一閃、切り裂いた触手がは宙を舞い、視界の尽くをなぎ倒した。そう、勝利を確信したアルテミスに吹きかけられる、謎のスプレー。触手の先端から吐き出されたそれを吸い込んだアルテミスは、はっきりと意識を持ちながら全身をしびれさせ……触手のご馳走となった。
 三度目は、天井から伸びてきた丸呑み型の巨大触手。四度目は防具に寄生した触手が身体を包み、五度目は疲れから転ぶという失態を犯してしまった。
 ぼーっとする頭を振りながら、大剣を支えに立ち上がる。雄叫びをあげる気力を振り絞り、高く掲げた大剣は天井を切り裂いて進んでいく。復活する余力さえなくなってきたのか、通路は体液にまみれの悲惨な様相を呈していた。
 体力がなくなり突破を諦めるのが早いか。それとも、この通路をずたずたのスクラップにしてしまうのが先か。可愛らしい雄叫びを上げながら、アルテミスは六度目の突撃を仕掛けるのだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

白皇・尊
へぇ、快楽で虜にする罠ですか…僕にも造り方を教えて欲しいものですよ。

とはいえ仕事は仕事、研究がてらやりましょう。
まず最初は無策で罠に囚われてみます…快楽をたっぷりと堪能しながらこの触手は精気を吸う機能があるのかなどを調べましょう。
「ん…あは…この責め方…次の吸精の参考にしましょうか…んうっ!」

2回目のアタックからは全力魔法で百鬼夜行を行使、罠の届かない位置から式神に罠を破壊させて経路を確保します。
「式神の触手プレイとかノーサンキューなんで、容赦無く破壊させて頂きますよ」
後は地道にそれを繰り返します。

ああ、もし中毒になった生徒さんが迷宮に行こうとしていたら、僕が誘惑して吸精し満足させて止めます。




 触手のフロアへと向かうその手前。制圧済みの通常フロアにふらふらと足を伸ばす一つの影があった。それはアルダワ魔法学園の制服に身を包んだ、女生徒の一人。赤く染めた頬に虚ろな瞳、石畳のフロアにまで届く甘い香りに表情を溶かすと、荒い息遣いのままよたよたと歩みを進めはじめた。
 彼女が何か、等という説明は必要ない。要点は一つ、彼女が触手たちの快楽の虜となっているかどうか。そこだけだった。
「やあ、お姉さん」
 瞳を糸のように細め、半月に歪む口元が笑みを形どったその表情。フロアの奥から顔を出したのは、耳と尻尾を小さく揺らす、白い妖狐であった。艶めかしい和装に身を包んだ身体は細く華奢で、女生徒と比べても頭ひとつ分は小さく可憐で、妖艶に見える。
 女生徒は怪訝な視線を向けるものの、会話はしないとばかりに口をつぐむ。脇を通り抜けようとふらつく足で前に進もうとするものの、力なく歩く身体は細腕に掴まれ、囚われてしまった。
「あの、あのね? お姉さん急がないと、だめだから」
 劣情を含んだ吐息が妖狐の鼻先をくすぐると、抱きしめるその手に力が込められる。やめて、とその手を振り払おうと身をよじるも、その瞬間。濡れたような瞳が薄明かりを照り返し、ぬらりと糸を引いた。
 女生徒の顎に当てられた指先が向きを調節すると、妖狐は小さく足を伸ばし、顔を寄せ、唇を寄せた。
 ねろ、と動く舌が女生徒の唇を撫で、食むような動きで口内へと誘い込む。強く腰を抱き、もう片方の手が手首を掴み、口づけを交わしながら見つめるその瞳が女生徒の視線を掴んで離さない。
 腰を抱く手が臀部を撫でるも、舌同士を擦り合わせるキスするだけで、うっとりと抵抗をやめてしまう。ゆっくりと伸びる指先がスカートの下へ、何をするまでもなく濡れたそこ。下着の上から爪先で撫で削ると、喜ぶように腰が跳ねた。
 高い声を上げながら熱い視線を寄せる女生徒とは正反対に、妖狐の表情はどこか冷たい色を帯びていた。こうして食事ができることは喜ぶことだろう、しかしどうにもつまらない。
 白皇・尊(魔性の仙狐・f12369)は指先を根本まで差し込み襞の海を泳がせると、仕事の前のおやつを平らげていく。


 十数分のおやつタイムは、女生徒の降参によって膜を閉じた。迷宮へと向かう心は完全にほぐされ、彼女は満足の内に帰路につく。別れ際に何度も聞かれた連絡先だったが、出鱈目なそれを教えるだけで喜ぶ姿は、快楽によって緩んでいるとは言え、いくらか出来が悪いようにも思えてしまった。
 しかし、それはそれだ。少なくとも猟兵が突入を開始してから中毒者の学園生徒がやってくるなど、状況を悪くする要因にならない。このフロアを封鎖したと聞いているが、彼女達は自らの意思でやってきたはず。それこそ、入り口を鉄板で防ぐまでしなければ中毒者を防ぐことは出来はしまい。いや、この世界の住人だ、それくらいは障害としてみなさないのかもしれないが。
 既に自身の唾液の味しかしない指を舐めながら、尊はそんな事を考え歩いていた。粘つく地面が耳障りな音を立て続け、狭い通路から伸びる触手が伸びてくる。ひょろひょろと細長いそれを握り、粘液の感触を確かめ、舌で舐め取る。
 どこか気持ちよさそうに脈動する一本の触手を掌全体で握り込み、軽く前後に擦って見せると喜び勇んでヌメる身体を押し付けてきた。物足りない。尊はその触手を強く握り、体液を先端へ寄せ、弾かせてみせた。赤茶けた体液が周囲へ飛散し、それは尊の顔にまで及ぶもののまるで気に留めることはない。
 べったりと張り付いた甘い匂いの赤い体液。透明な粘液よりもいくらか薄いが、精気は見た目で図れるものではない。躊躇なく指で絡め取り、小さな口に放り込む。
「……まっず」
 顔をしかめ、赤く染まった唾液を吐き出す。宛が外れてしまったのだろうか、わざわざ人を快楽で襲うということは尊の種族と同じように精気を糧として生きている可能性があったのだが、彼らの肉体はそんな名残を感じさせることはない。
 何が目的なのか。それ自体に興味はないが、尊を出迎えるように先で待つ、触手たちの群れそのものに興味はあった。彼の周りで切なげになびき、恋煩いでも見せるように擦り寄る木っ端の触手に用はない。狐火が周囲の触手を焼き尽くすと、尊は身につけた服を脱ぎながら、その群れへと歩み寄っていく。
「せいぜい楽しませてくださいね? あなた達をしっかり……調べさせてもらいます」
 スラッとした身体にくびれはない。上下の下着は白い肌とは対象的な黒いもの。少しだけ張った肩と薄い筋肉を見せる肉体は、薄暗いその肉の通路の上にあっても美しくあった。
 触手の群れに近づくだけで、彼らが発する香りに鼻が麻痺するような感覚に襲われる。だが、それも脳の奥を疼かせる不思議なもので、媚薬の類いだろうかと首を傾げる。そんな尊の身体を無数の触腕が絡め取り、その中心へと誘い込んだ。


「ん……あは……この責め方……次の吸精の参考にしましょうか……んうっ!」
 そこはまるで触手のベッド。誘われるままに進んでいくのは、その通路の中心部。毛足の長い触手がゆらゆらと大量に生え揃い、腰元まで伸びる腕が愛撫でもするように優しく太ももから下を撫で回す。
 促されるままに横になれば、むわっと広がる甘い香りと敷き詰められた触腕が放つ熱に包まれた。下着の中へと潜り込む触手達、その身体の違和感に気付くものの動きに対した変化はない。薄っすらと筋肉が乗った胸に粘液をこすりつけ、女性とは大きさの違う小さな先端を転がすように撫で回す。
 片方は潰し撫で、もう片方は細い触手が左右から潰して遊んでいる。黒い下着は粘液が染み込み更に黒ずんでおり、身動ぎの度に張り付く感覚がどうにもこそばゆい。甘い香りにつつまれたそれは、女性を誘う香薬にでもなるか。そんな事を考えている時点で、自身の鼻がおかしくなっていることには気づかない。
 下半身も既に剥ぎ取られ、徐々に大きくなり始めたそれに無数の触手が絡みつく。彼らの動きは、揉み込むように根本から先端へ。やんわりとした軟体の感触は人の手では到底感じ得ない不思議な快感。似たような動きをする道具を使ったとして、これと同じ感触を得ることは不可能であろう。震える腰を抑えることもせず、尊はなすがまま、されるがまま。触手に全てを預けて、この一瞬を楽しんでいた。
 精の放出は一度や二度ではない。それでも萎えず彼らの攻めを受け続けられたのは、粘液がもたらす力か彼らの技術の為せる技か。粘膜に擦り付けられる触手の表面の感触に、彼はついぞ慣れることは無かったのだ。


 触手のベッドから吐き出されたのは、およそ数時間後。粘液に塗れたけだるい身体をゆっくりと起こすと、うんと大きく伸びをする。一緒に吐き出されていた濡れた衣服を身に纏い、そして大きなため息を付いた。
「学べるところはありましたが……」
 全身に残る余韻、その一つ一つを思い出しながら、まるで人の手には真似できない技術の数々に思案顔を隠せない。確かに真似る事ができる技術もあるが、それを人の手でやることにどれほどの意味があるだろう。
 音もなく、尊の周囲に暗い光が浮かび上がる。それは通路を照らさない、ただただ暗い光。瞬き一つの後に表れるのは、五十を数える様々な妖怪変化の姿であった。
 ユーベルコード『百鬼夜行』。指示もなく、彼らの半数は前方へと駆け出した。先程の触手の群れへと舞い踊り、騒ぎ立て、穂先を刈り取り、食い荒らす。
「式神の触手プレイとかノーサンキューなんで、容赦無く破壊させて頂きますよ」
 尊の歩みはゆっくりと。周囲を踊り暴れる妖怪たちが障害を切り裂き噛み砕く。これで突破できれば御の字ではあるが、見る間に数を減らす妖怪たちの様子に、今度は小さなため息を接いた。
 さて、僕は無事でいられるだろうか。快楽を与える側であるはずの自分が快楽に溺れる。それもまた楽しそうだと、地面へと引き倒してくる触手の動きに抵抗もせず、彼は笑みを浮かべたまま触手に飲み込まれていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月宮・ユイ
WIZ行動

通路:肉壁の通路の先に大部屋
大部屋:部屋中心まで行くと全面から触手が襲い掛かる
核となる触手(差は小さいが一番太い)を破壊すると先へ進める

中毒性まである快楽ですか…
呑まれない様”覚悟”を決めて行きましょう

【破壊の火】を”全力魔法、2回攻撃”込みで使い
炎を体の周りに回す様にし防御、必要時一部射出
破壊、牽制しながら通路を突破
大部屋では抵抗するが炎が尽きれば捕まる
一度目、尽きる直前、悪あがきに薙ぐよう”範囲攻撃”時
反応から弱点(核)の存在を発見
破壊成功まで継続挑戦

「このっ、離しなさい!ちょ…来ないで、中に、やぁ…」
「また失敗。このままじゃ癖に…ぁ、いや、ダメです…負けるわけには」

アドリブOK




 部屋に充満する甘い香り。怖気すら感じる暴力的なその匂いに表情を歪め、滑らかな手袋越しに鼻を覆うものの、まるで役に立っている気がしない。視界に浮き上がる臭気は白い湯気のように浮かび固まっている。そんな中を歩くというのは、一種の拷問であった。
 粘つく足を前に進める度に、靴底から糸を引く粘液が耳障りな水音を奏でていく。うぞうぞと蠢く肉の壁は天井、地面と地続きで、ここが迷宮の一フロアであると認識していなければ大型災魔の腹の中と勘違いしてしまいそうな程だった。
 一人歩くのは月宮・ユイ(終焉に抗いしモノ・f02933)。メイドかウェイトレスか、といった衣服をまとった少女は、蠢くだけで動きのない肉の広間に違和感を覚えていた。グリモア猟兵が語っていた部屋とは似ても似つかない。入り口は開いたまま、おそよ十メートル四方の大部屋は肉色に濡れ光る姿を脈動し、見せつけている。
「……まあ、まともな仕掛けではないはず、よね」
 ぐるりと見渡す視界に、今入ってきた入り口以外の道はない。全て赤い肉の色に染まり、行く手を遮る壁が四方を塞いでいた。
 水音を鳴らしながら進むユイの足は部屋の中央へ。天井からぽたぽたと落ちる粘液を避けながら歩いていると、自然とそんな歩みとなっていたのだ。およそ部屋の中心にたどり着いたその瞬間。ぞわりと全身に走る悪寒が、彼女に危機を伝えた。揺れる足元、耳慣れない水音。
 何が起こったのか、と理解するのに時間は必要無かった。四方の肉から生える触手。それは細く長く伸びながら、ユイの身体を求めるように一斉に群がり襲いかかってきたのだから。


「この程度!」
 ユーベルコード『破壊の火』。発動したその超常の力は、ユイの身体を覆うように炎が浮かび上がり、揺らめいていた。
 触手の群れが少女の身体に触れることは叶わない。四方から襲い来るそれらに炎が触れる、ただそれだけで肉は乾き崩れ、塵となるからだ。だが流動的に聞こえ続ける粘液の音に終わりはない。無駄だと知りつつ襲い来る触手は、その尽くを炎によって削り潰されていく。
「まったく、大したこと……っ!?」
 壁から迫る触手の勢いは留まることを知らず、炎を操るユイの意識は視界を埋め尽くす触手の群れへと向いてた。炎を揺らし、打ち付けるように触手へぶつけると、束になったそれは宙を舞い落ちていく。
 更に大きな束となった触手の塊がユイへと真っ直ぐにぶつけられ、塵と崩れ落ちる。厄介なのは数だけだ、しかしこうして削り続ければ攻撃の手段もなくなるだろう。そんな考えは、肉の地面へと尻もちをついた自分自身に気がつくことで、あっさりと消え去った。
「え……?」
 それは足元から直接生え、伸びた触手。思わずついた手にも、彼女の腕よりも太い触手が、ぐるりと数周絡みつく。浮かぶ炎はまだそのままに、しかし働かない頭はその動きを制御できないでいた。
 ずん、と地面が一段と下がった。引き込まれる感触は、両足と腰、両手に巻き付いた触手のせいだろう。原っぱに生える草のように生え揃い、なおも背を伸ばす触手たち。それはまっすぐにユイを見つめ、ぬらつく先端を揺らしながら近づいてきた。


(これが中毒性のある快楽……こんなもの、私の覚悟をもってすれば、なんということは!)
 まずは、迫る触手を炎が削る。塵となった肉片が粘液に落ち、それでも殺到する触手は後を絶たない。
 更に身体が沈み込む。無数の触指が掌と指の股に殺到し、人の手を模した。恋人にするような握り方を見せながら、粘液がべったりと染み込む手袋越しにやわやわと撫でくすぐってくる。
「こ、の!」
 手足を絡め取る触手を炎がなぎ払い、ぞわぞわと震える身体を体を立ち上がらせると……天井から降りてきた触手が、ユイの顎を寄せ上を向かせた。この部屋全部が触手を生み出している。混乱の最中気づいた事実ではあったが、もう遅い。
 優しく頬を撫で、甘い粘液をこすりつける柔らかな触手。甘いキスでもするように、口の中に侵入し舌を撫で、吸い上げる。抵抗する手足は拘束を受け、どうにか動かせる炎で払ったとしてもすぐに次ときりがない。
 足を拘束する触手が腿へと伸び、ショーツ越しにその柔肉を撫でて見せた。同じように、腕を絡める触手は大きく空いた胸元へと先端を寄せ、それも同じく柔らかな肉を撫でる。
「このっ、離しなさい! ちょ……やめて、中に、やぁ……んぅっ」
 生み出していたはずの炎は徐々に力を失い、手袋どころか衣服全てをぐずぐずに濡らす頃には消え去っていた。
 焦らすような指使い、粘液越しに撫で擦られる感覚。立ったままの状態で続けられる愛撫は徐々に過激さを増し、衣服の内側へと伸びた触手が素肌をすする。濡れたスカートは触手が蠢く毎に浮かび、胸元などは触手が殺到し、透けた布地の下には蠢く触手が這い回っている様子が見て取れた。
 かぷ、と先端が開いた触手。それはスカートの奥へと進み、小さな突起に噛み付いた。全身を拘束されながら、少女は身体を跳ねさせ、真っ赤な顔をくしゃくしゃに歪め……一度だけ、奮起する。
「破壊の理を!」
 大きく振るった顔が口の中の触手を振り解く。粘つくその感触に顔を緩めながら、はっきりとした声は触手の塊の中心に響いたのだ。
 彼女の周囲に浮き上がる、破壊の理を持った炎。ぞぶ、と周囲を削り取ると、肩で息をつく彼女の目に大慌てで逃げ出す大きな触手が映った。これだけ殺されたとしても気にする様子のない触手の群れにおいて、あまりにも異質な動き。待て、と声を上げる余裕もない。ユイを覆っていた炎を一塊として、逃げた方向へと打ち込んだ。が、それは無駄打ちに終わる。
 触手の群れは大きな壁を作り出し、炎の勢いを止めてみせたのだ。消え入る力は、今の彼女の全力だった。直後に全身を這い回る触手の動き。手足、顔に口。視界も閉ざされ、衣服は破かれた。


「また失敗。このままじゃ癖に……ぁ、いや、ダメです……負けるわけには」
 濃く染まる赤い頬と、うずくお腹を抑える手。衣服を全て剥ぎ取られ、万能肌着だけをまとったユイは、今まさに吐き捨てられた入り口を睨みつけていた。すぐにでも駆け出して戦いを挑みたい本能を理性が必死に押さえつけ、ユーベルコードを使用できるだけの体力と精神の回復を待つ。
 荒い息遣いは疲れからか、動く腹筋が痛くてたまらないが、それもまた気持ちいい。なぜ焦らしてくるのか、と怒りを覚えながら、違う違うと頭を振る。
 既に全身粘液まみれ。初めはおぞましく思っていた粘液の香りも、心地よいものとして認識できるから恐ろしいものだ。中毒、という言葉が頭をよぎる。大丈夫、アルダワの生徒とは覚悟が違うのだ。
 そうして、数分の休憩をとったユイの四回目の突撃は、果たして逃げる触手を討ち取って見せた。
 力なく崩れていく触手たちを見ながら、どこか名残惜しい感覚のユイだったが頭を振り、部屋の先へと足を運んで行くのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロート・カニーンヒェン
「気持ちいいだけなら、問題ない。触手なんかに絶対負けない(キリッ)」
力任せにフルバースト・マキシマムで触手を薙ぎ払いながら突き進む。捕まって吐き出されても、クリアするまで何度でもチャレンジする。そう、ぬるぬるになろうがめげないよ。




 肉の壁が大きく膨らみ、少しずつ割れ目が広がっていく。重なった触手がそこから顔を出し、壁を形作っていたその一部が解けてみせたのだ。中から吐き出されるのは浅黒い肌に、大きく豊かな肉体を持った一人のバーチャルキャラクター。張り付いた白のレオタードスーツは粘液で濡れ、首周りや腕脚、腰に装着された外部装甲もまた分厚い粘液に覆われていた。
 ロート・カニーンヒェン(グリーディー・ファントム・f00141)は肉の通路に捨てられ、大きな胸がクッション代わりに小さく跳ねあげり、うつ伏せで腰を上げるという無様な格好で着地する。細切れになる息を整えながら、抱える程にありそうな尻をプルプルと揺らしていた。それは快感によるものだけではない、フロアの突破を阻止した触手たちへの復讐心も多大に含んだ揺れであった。
 倒れ伏せていた身体を勢いよく起こし、粘ついた粘液を地面から幾筋も伸ばす。ロートの顔は未だ快感の余韻を残した笑みを携えていたが、その心は違う。次こそは、そんな思いが子鹿のように震える脚を立ち上がらせ、粘液塗れのアームドフォートを構えて見せたのだ。
「これくらい……少し気持ちが良いくらいのもの、触手なんかに絶対負けない」
 強がりにも聞こえる言葉は彼女を些か頼りなく見せるが、その攻撃性は見かけによらない。
 一度目の突入でずたずたに引き裂いた肉の通路は、傷こそふさがり赤茶けた体液を取り除いているが、侵入してきたロートに触手を差し向かわせる事はしなかった。びくびくと脈打つだけで、それは通路の回復に力を注いでいるように見える。ならば、先程のお返しだとばかりに複数門のアームドフォートが火を吹いた。修復中の通路に砲弾が打ち込まれ、上下左右の壁が赤く裂けていく。
 そんな様子に、ざまあみろとばかりにロートは口の端を歪めた。震えていた膝も、こうして反撃をしていくことで徐々にいつもの調子を取り戻して行く感じられる。うずく身体は高揚感からだろうか、全身に浴びる肉壁の体液も、いっそ清々しく気持ちがいい。無抵抗の相手ではあるが、先程まで苦しめられていた敵である。また一つ打ち込まれる砲弾が、心地の良い震えをロートにプレゼントしていた。


 一度触手に捕らえられた場所はとうに通り過ぎた。ドコドコ打ち込まれる砲弾が遠距離から壁を破壊し、その身を捉える前に無力化していく。壁の修復力は見て理解しているが、元の状態に戻る前に。もっと言えば、近づく前に吹き飛ばしてしまえばいい。合理的とも言えるその行動は、果たして正解に近い行動だったろう。
 そう、一度捕まるという失敗を犯していなければ。
 ユーベルコード『フルバーストマキシマム』で更地になった道を進むロートは、既に余裕の笑みを浮かべていた。意気揚々と進む脚は軽く、血溜まりの道を歩く彼女は気まぐれにアームドフォートを起動してみせる。水っぽい着弾音が心地いい。そんな高揚感のせいだろう、脚が進むほどにうずく身体の正体に、ついぞ気付く事は無かった。
「後はここを超えたら……」
 視界の先には群生する触手の一帯、さらにその先に見えるのは薄明かり差す歪つな長方形の出口。躊躇などあろうはずがない。ロートはアームドフォートを構え、もう一度ユーベルコードを使用する。持ちうる火力の一斉発射、最後の悪あがきだろう、目の前で揺れる触手達は手招きするように蠢いていた。
「きゃぅっ!」
 そして、ロートの身体が跳ねる。一斉発射のその寸前、身体のうずきは明確な刺激となって、腹の奥を攻め立てたのだ。そこで漸く感じ取る異物感。張ったエラで擦り上げながら、奥から外へと向かう感触に、砲撃など取り止めざるを得なかった。


「ゃ……なんで!?」
 襞の粘膜に感じる異物感は、瞬く間に大きくなっていく。何が起こっているのか理解するよりも先に、先程の刺激よりも強い、ぞり……と削るような快感がロートの目に火花を起こさせる。跳ね上がる腰、思わず触れるその箇所からは、内側より顔を出そうと蠢く何かの存在が指先に感じ取れてしまった。
 指よりも太く、硬く、熱い。恐ろしさから離した手の下、濡れた白いスーツを盛り上げる赤い影。混乱と驚嘆はロートの判断力を根こそぎにする。引き抜こうと手を伸ばし、ぬるつくそれをつかめないまま、足を開いて何度も何度も。本人は必死なのだろうが、傍目から見たそれは、無様に自慰を行う女でしか無い。
 それが、魅惑的で豊満すぎる身体を持っているとなればなおさら。数度の挑戦に失敗したところで、彼女の足は触手に絡め取られる。引きずり倒され身体全体を掴まれ、そうなっては既に手遅れだった。
 殲滅するはずだった触手の海。大きな胸を肉の地面に擦り付けながら、引きずられる間にも暴れる触手は、既に手の付けられない大きさに膨れ上がっていた。ゴール目前の失態に、諦めの表情と共に飲まれていくロート。こうして、二度目のアタックも失敗に終わるのだった。
 同じ入口に吐き出されるロート。またも仕込まれた触手を抜きさり、再度挑戦に向かうも、仕込まれていた後ろの触手に弄ばれ失敗に終わる。快楽に揺れる頭は両手では数え切れない果てを味わった結果だが、彼女の持つ快楽への抵抗力というものは確かなのだろう。未だに溺れること無く、明確な意思を持って、通る道をずたずたに引き裂いていくのだから。
 数度の挑戦の果て、漸くたどり着く。何のことは無いはずの触手の群生地は、彼女のユーベルコードによって更地にされた。度重なる戦いは外装どころかアームドフォートまでも粘液にまみれさせ、未だにこうして動いているのが不思議なほど濡れ光っている。
 しかし、漸くである。砲撃の嵐が生み出した煙の中を進み、その手で払いながら。目前に迫った出口へと足を運んでいく。
「おわった……」
 心からの言葉である。やっと、この挑戦が終わりを迎えるのだ。
 踏み出した一歩、そこに余りにも単純な落とし穴が仕掛蹴られているのにも気づかない。自らが作った砲撃の煙がそれを隠していたのだ。
 おわった。その言葉の意味は、直後に全く別の意味に成り代わっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋月・信子
・WIZ行動
(この匂い…頭が、ぼやけて…来そ…う……)
ダンジョンに漂う匂いを極力吸わないようハンカチで鼻と口を押さえながら進みます。

(身体が…火照って、来ちゃ…う…。ここ、最近「シてなかった」し…)
(身体が…疼いてどうかしちゃうそう……)
(ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ「シちゃって」も…。)
(……だめ。ここでしたら、取り返しのつかない事になりそう」

そう自分に言い聞かせながら誘惑に耐えて進みます。

もし、罠に捕らわれて肉の壁に取り込まれそうになったら…「影の追跡者の召喚」を発動させて、罠を影の銃弾で破壊して、脱出を試みます。

(援護射撃2、医術5,毒耐性1)
(えっちなアドリブ大歓迎です)




 身を屈めなければ通れない狭い道。垂れ落ちてくる粘液は狭く細い道全体に溜まり、くるぶしまではあろうかという水たまりが靴の中を粘液塗れにしていた。歩く毎にぐぷぐぷと鳴る靴に嫌悪感を覚え、それ以上に絶望的に思えたのは、周囲が見渡せない現状にあった。
 秋月・信子(魔弾の射手・f00732)はハンドガンを両手で握り、先の見えない道をゆっくりと進む。狭いせいなのか分からない。その通路は白く浮かぶ湯気のような臭気が、霧のように立ち込め視界を奪っていたのだ。それは信子が呼吸の度に生む空気の流れが、霧を揺らめいて見せる程の濃度。進む度に揺れ動く臭気の霧は濃くなっていくように思えた。
 じん、と脳の奥を焼くような甘さ。ハンカチで押さえた鼻と口だが、呼吸の度に侵入してくる香りが甘く甘く信子の意思を溶かしていく。
(この匂い……頭が、ぼやけて……来そ……う……)
 ハンカチ越しの自らの吐息も、まるで毒ガスのような甘さで心配になってしまう。こんな身体は大丈夫なのだろうか。
 どぷん、と足を進める水音は粘つき、素肌に染み込んでくる感覚がいやに気持ちいいのが気に入らない。
 ただ、問題と言えばそれだけだ。頭がぼやける程の臭いと、歩きづらい粘液の道。それ以外に関しては、触手の妨害も罠も無い。ただ、人をぼんやりさせるだけの道程である。


 どれほど進んだのだろう。時間にして十数分、未だ濃くなる霧は数十センチ先の視界も奪っていた。まとった学生服は霧に濡れ、全身が甘い香りを発している。身じろぎの度に濃い香りが鼻を擽り、それを悪い匂いではないと感じてしまうのが気持ち悪い。衣擦れの感触にも敏感で、こうして前に進む事自体が罠なのでは無いかと錯覚するほど。
 更に狭い道があった。手探りで見つけたそこを潜ろうと、膝を付き屈んで見せる。軽く足を閉じ、内股気味に。じんと広がる甘い感覚はどこから来たものか。自らの肉を小さく歪めた、ただそれだけで信子の身体は強く揺れてしまった。
 下着越しに擦れる柔肉、閉じた膝が歪めたそこは、まるで感じたことのない甘美さを生み出してしまう。思わず離してしまうハンカチと、悲鳴めいた小さな声。
 反射的に吸い込んだ空気は、まさしく臭気の塊であった。どろ、とした感覚を肺に覚え、直後に走る電撃のような痺れは腹の奥底から湧いて出たもの。奥歯を噛み締め、ぬるぬるの壁を掴み、握りしめる。真っ赤な顔にハンカチを押し付けると、その上から手で抑え深呼吸をした。


(身体が……火照って、来ちゃ……う……。ここ、最近「シてなかった」し……)
 甘い香りに誘われて、甘い考えが頭に浮かぶ。四つん這いでその狭い道を抜けたものの、信子の頭の中からは先に進むという考えが少しずつ抜け落ちていく。
(身体が…疼いてどうかしちゃいそう……)
 壁に手を付き、ゆっくりと立ち上がる。膝を軽く曲げ屈んだ状態、試しに膝と膝を強く押し付け、太ももに力を入れてみる。頬が赤く染まり、瞳にうっすら涙が浮かんだ。
(ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ「シちゃって」も……)
 じ、と視線が下に落ちる。視界に収めるのは、裾が濡れてしっとりとした白いスカート。浮かぶのは、その奥の布の状態。
 本来なら気にすることもない小さな刺激。その一つ一つに過敏に反応するまでに高ぶったその身体……幸い、ここは霧で閉じられた個室のようなもの。声さえ我慢すれば、誰に気取られることもないのではないか。他に誰かがこの通路を通っている様子もない。もしかしたら、これは自身に対するご褒美なのではないか。欲求不満を見透かした神様の……。
(……だめ。ここでしたら、取り返しのつかない事になりそう)
 ゴクリと息を飲み膝を開いたところで、信子は頭を数度振る。何を馬鹿な事を考えているんだ、と言い聞かせる自分自身の言葉は、どうにも弱々しい語気ではあったが。


 そんな決意をした信子に、漸くと言っていい結果が舞い降りた。十数分の道のりは遠く、甘美なもの。しかし、果てにやってきたその場所は、数メートル先をも見通せる空間となっていたのだ。
 どぷどぷと粘液を靴の中で撹拌させながらも、進めば進むほどに霧が晴れていく。芳しい香りは徐々に濃度を減らし、溜まった粘液も浅くなっていく。代わりに、信子が吐き出す息だけは名残惜しそうに熱く燃えていた。
「やった……!」
 そうして、霧は完全に晴れた。ハンカチを口元から外し、屈まずとも歩ける肉の道に立ち上がる。すぐ前に見える出口の先は薄明かりが灯り、ここまでの道のりとは全く違う作りになっているように見えた。
 意識が緩んだ。そして、そんなタイミングを触手たちが見逃すはずはない。
 踏み出した一歩。信子の身体はぬかるみにハマるように落ち込んだ。ずぶ、と汚い音をたて、一瞬にして引きずり倒される。
 それは何の事はない、ただの窪み。溜まった粘液のせいで水上からは見分けがつかない、触手の迷宮に相応しいびっしりとそれが生え揃った、ただの窪み。
 息を飲む音が聞こえた直後、響き渡る激しい水音。ばしゃん、と少しだけ粘ついた音は、信子が窪みに腰を下ろした合図だった。
 尻もちを着いた状態で、足と腰を掴まれる。触手に遠慮なんてものがあるわけがない。伸びる触腕の先は発情しきった柔肉を布越しに擦り、皮膚の薄い内腿、脹脛、靴の中まで潜り込む。それは、今まで必死に我慢していた信子の声を引き出すには、十分すぎる愛撫だった。
 窪地についた両手も触手に絡め取られると、身動きなど取れる体勢ではなくなった。粘液に浸かりながら、その効能を粘膜に直接こすりつけられ、あっという間にやってくる果てを待つしか無い。
 信子の頭に浮かぶ二つの選択肢。迷うことなど出来ない、もう一つの選択など、あってはならないのだから。


 発動するユーベルコード『影の追跡者の召喚』。信子の背後で生み出された影色の存在は、なんの表情も浮かべること無く手にしたハンドガンを構えた。
 響き渡る乾いた音。十数発に渡る銃撃は、正確に触手を捉え打ち破る。強さ、という点で言えば猟兵の足元にも及ばないそれ。緩んだ拘束を振り解くと、信子は水音をたてながら地面に転がった。ぜいぜいと息を整えながら伸びる視線は、自らが生んだ影へと向かう。
 影は、不思議そうに主人を見つめた。それは不満げな表情を隠すこと無く、自身を睨んできていたせいだ。無表情に首を傾げ、間違えたのかと問う瞳に信子は何か言える訳がない。
 くるりと振り返り、見つめるのは触手の窪地。生き残り多数の触手達は、戻ってこいと手招きをする。奥歯を噛みしめる信子。もう一度、窪地を銃撃する影。
 憎々しげ、と言っても良い視線。信子の視線の意味を影は最後まで理解することは出来なかっただろう。名残惜しい思いを引きずりながら、信子は目の前にある出口へと駆け込んだのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

虚宮・空
快楽のタチの悪さは知ってる
ヤられた子達、これから大変だね

うっ……この匂い、あのクソ触手の匂いに似てる
死ねばいいのに……

ブーツを脱いでブラッドガイスト
足爪をスパイク状にして滑らないように進むわ
向かってくる触手は腕を刃物のようにして薙ぎ払う
でもこれ、足の裏から伝わる感触が……
『罠:薄い膜が張ってあっただけの窪み』
あ。
『足をとられる』
『膝をつく』
殺到する触手。ぐちょぬる。
『アウト』
精神型UDCも宿主を堕とすために反逆し、肉体精神両面からの快楽に翻弄される。

アドリブOK

結局:散々弄ばれてペッされたら、全身ブラッドガイスト変異で壁を喰い千切り、全身色んな液体でドロドロになりながら強引に突破試み。




 中毒、と一言に言ってもその依存方法は様々だ。急激な快楽によって天国を見せた後、地獄のような苦しみを伴う生活が始まることから、逃避のためのそれ。もしくは、軽微な毒を取り込みフラストレーションを発散させるという、半ば習慣化することで生まれる中毒もある。
 これはその、中間だろうか。話に聞けば抜け出す余地はあるのだという。心に住み着く、快楽の欲求。お手軽に最大限の快楽を受け入れられるという、人の欲望から生まれる中毒。
 虚宮・空(孤心融界・f12710)は、背後から伸びた触手をその腕で切り裂いた。今まさに首筋をなで上げ、ベタつく粘液を刷り込むように触れていた触腕は、先のなくなった根本を大急ぎでしまい込む。赤茶けた体液を吹き上げ逃げ出す姿を、もう一度振り上げた腕が縦に裂いた。
 ぶらりと垂れ下がる触手は天井から生えたもの。溢れてくる体液が肉の地面を汚していくが、既に粘液で濡れたそこがどうなろうと知ったことではなかった。
 鳥肌が収まらない。ぞっとするその気色の悪い触り方。空が記憶しているそれと別種のものだと頭では理解していても、見るだけで気が滅入ってくる。この匂いだってそうだ、違うと言われれば違うのだろうが、嗅いでいるだけで気が遠くなる。暴力的なまでに甘い香り。この匂いに包まれているだけで、すべてを投げ出し暴れたくなってくる。
「クソ触手が……死ねばいいのに」
 振り向きざまに腕をふるい、振り上げた足がそれを捉える。スパイク状に変化した足裏が太い触手に噛みつき、同じく刃となった腕が別方向から伸びる触手の束を切り落とした。
 ユーベルコード『ブラッド・ガイスト』は、空の腕と足を変化させていた。燃えるような熱量を手足に感じながら、思うままに変化する身体は武器と言って間違いない。それが血を消費する感覚だとしても、あれと同種の敵を殺すことに使えるのなら、血など惜しいとは思わない。
 数十秒の戦闘はあっさりとケリがつく。数で押さなければ勝つことの出来ない触手達は、今の所空に対しては散発的な攻撃のみを続けている。未だ先の見えない肉の道ではあったが、この調子が続くのであれば問題はない。
「……まあ、引っかかった生徒たちは気の毒だと思うけど」
 粘つく足元の対策に、足裏のスパイクだけは保たせる。
 一息ついた空の頭は、亡者のようにこのフロアを目指す、顔も知らない学園生徒たちの姿が思い浮かべた。彼らが悪いわけではない。だがこのフロアを制圧し、この肉の通路を打ち壊しても、彼らの生活はそう簡単に戻ることはないのだ。大変だね。まるで他人事、気持ちを込めないその言葉を発した後、空は口を強く結んだ。


 他の通路がどうなっているか空本人は知らないが、彼女の進む道は比較的一般的な肉の道であった。曲がりくねった先の見えない洞窟を、上下左右から伸びる触手が襲い来る。単純と言えば単純な道ではあるが、だからこそ空のようなタイプには厳しい戦いを強いられる事となっていた。
「ちょっと……多、すぎっ!」
 血を代償とするユーベルコード。その使用時間は、強力であることを差し引いて短時間使用を想定しているのだろう。代償に違わない腕の切れ味は異様なほどで、触手も壁も同樣に撫で切りとすることも問題ない。ただ、屠るべき対象が数多ある、それだけがネックとなっていた。
 先の見えない触手の道。縦横から襲い来る触手の動きに気を張り、効率的に裂き、潰す。踊るように身をひねり、進む度に回転する身体は周囲に血しぶきを広げていく。時間はかかる、血も使う。だが、私の敵ではない。
 にぃ、と口元が半月に歪む。このおぞましい軟体生物に打ち勝つことができるという、確信の笑み。事実、足が進むに連れて増える触手の束も、あれから一度も触れることは叶っていない。スパイクの足を踏み込み、刃の足を振り上げ、ぐるりと回した腕が周囲を一閃する。
 返り血がどうしたというのだ。ただ進めばいい。ただ、殺せばいいのだ。


 両足のスパイクが地を噛み、踏みしめる。そこが不安定な軟体の足場だということも忘れさせる、強い踏み込み。流れは腕へと伝わり、弾かれるように振る腕が敵の数を減らしていく。
 さあ、次だ。視線は天井、氷柱のように垂れ下がる触手群。ドン、と強い振動が足から身体へと伝わるはずだった。ぶら下がる触手を一刃のもとに切り伏せ、更に足を進めるはずだった。
 空の身体がバランスを崩し、ずるりと地面へと落ちていく。踏みしめるはずだった地面はそこにはない。薄い膜を破ったような感触が足先に伝わると、そのまま身体が落ちていくのだ。
 それは何のことはないただの窪み。いびつな形のその窪みは、まるで修復作業でもしているかのように膜を貼っていた。内部では、ぐずぐずと蠢く肉がミミズのように小さな触手を象っている。それは罠でも何でも無い。触手たちとて意識していなかった、天然の窪み。
 ぞわ、と全身を悪寒が走る。ミミズのような触手が足にへばりつき、その腕を寄せる。赤茶けた粘液を脛に擦り付けられながら、足を振り上げようと力を入れるが、だめだった。
 彼らは一瞬の隙を見逃さない。空が膝をつくのとほぼ同時。もしも彼女の意識がこの体勢を見越していれば、叶わなかったであろう拘束。着いた足を絡め取られ、腰に回された触手が数度の反撃に合いながら、引き倒す。
 ぞっとするのは空の方だ。何が起こったのかわからないまま、自らの身が拘束されている。燃え上がるように熱かった手足が、既に冷や汗にまみれ体温を奪いはじめている。
 視界の外から聞こえるヌメる音の正体など、考えるまでもない。違う、まだ。まだやれる。
『アウト』
 触手たちの粘液の音よりもおぞましい、できれば一生聞きたくない声。手足を冷やす汗は全身へ伝播する。固まったように動かない身体、首に巻き付き肩から脇へとへばりつき、腰回りを撫で回す。
 そして、その感触を全身で受け入れようとする理性があった。
 気持ちいいのだから、どうせ助かるのだから……。
 それは空が知る、空の声。聞き覚えのある、知らない声。色のない言葉に全身は弛緩し、まるで求めるように腰を突き出す。ミミズ触手で溢れる窪みに胸をつき、顔を押し付け甘い匂いの地面を舐める。
 虚ろに潤む瞳がみつめるのは、差し出した舌に伸び、絡みつこうと身体を伸ばす小さな子どもたち。大きな君たちも、肌を撫で、もっともっとと求めるみたいに柔肉を弄ぶ。
 舌は甘さの薄い赤い体液をすすり、見る間に大きくなる子供たちの好きにさせた。ちゅ、ちゅ、と舌に吸い付く感覚が甘くとろけ、上げたままの腰がふわふわと浮き上がるのが分かる。
 大きな彼らも負けては居ない。胸元に忍び込んだのは十数体の細い子たち。根本から絞り上げ、血液を無理やり送り込んだ先端に吸い付いてくる。大きいのにまるで赤ちゃんめいた動きに、困った奴らだなあと苦笑がもれてしまう。
 腰回りをいじめるあの子も、中々に酷いやつだ。あのクソ触手は凹凸の激しい瘤をもって、濡れそぼった下着の上からごりごりと押し付けてくる。苛立ちが慈しみを生みながら、流れ込んでくる快感とおぞましさに、空は最大級の頭痛に晒されていた。
 愛しい彼らのために身体をさらすなんてありえない、今すぐにでも全てを食い荒らしてこの迷宮の中で生きていきたい。
 くそ、なんで。


 通路の初め、最初の場所。
 既に頭痛は治まっていた。衣服は着たまま、ぼろぼろになってはいるが、なんとか元の形を保っている。
 快感にゆれる身体を地面に擦りながら、ただただ怒りに震えている。何が触手だ、快楽だ。深呼吸を数度行い、全身に吐き出された液体を憎々しく払い、その力を発動する。
 ユーベルコード『ブラッド・ガイスト』。全身を変化させたその姿は、既に人の身ではない。ただ、空の怒りを表す感情の顕現。
 躊躇はない。次負けることなど無いのだから。跳ねるように駆け出し、壁を、天井を、見える敵全てを食い荒らそうと、獣口が開かれた。
 敵は、肉色の奥。そして、自分の中に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリア・ティアラリード
「ま、まだ…この程度じゃ…ぁ…」

あれから何度触手に弄ばれたのでしょう…
おぞましい触手の群れは【誘惑】的な肢体を貪ぼろうと十重二十重に蠢き
肉窟に、私の耳朶に響き、判断力と理性を煮蕩かせる粘着音を上げて
それでも【勇気】に突き動かされ、朦朧とした意識のまま弱々しく歩みを進めます

そんな私の目前にせり上がってくるのは一本の木馬…いえ、肉馬とでも言うべき触手
奥まで続くそれは、肉で出来た鋸のような背を蠢かせ
「真の聖騎士ならこれ位乗り越える事など余裕だろう?」と嘲弄しているように見えて
この肉窟に嬲られ抜き、既に正常な判断は出来なくなっていた私は
朦朧とした状況判断で肉馬に跨り【光煌刃衝角】で一気に駆け抜けようと




「ま、まだ……この程度じゃ……ぁ……」
 光剣を地面に刺し、絶え絶えと言った熱い吐息をもらしながら、アリア・ティアラリード(エトワールシュバリエ・f04271)は杖代わりに体重を掛け立ち上がった。
 びりびりに破かれた衣服は既に身に纏う事もできず、辛うじて残っているのは上下の下着だけ。それすらも粘液で濡らしながら、彼女は羞恥に耐え、奮い立つのだ。それが騎士としての勤めか、それとも学園の仲間を守るためなのか。それ以外の何かなのかは分からない。
 結局あれからアリアの挑戦は結果を出せず、二桁に迫ろうかという突入は全て失敗に終わっていた。それを物語るのは、彼女の体中に着いた赤い痕。大きな胸には吸い付き、縛り、弄んだ痕が残り、腰回りにも打ち付けたような色が残っている。猟兵と言えど痛むのだろう、アリアはその傷を指先でなぞり、その時の屈辱を反芻する。
 染まる顔は赤色。泣き出しそうな表情で目をうるませると、甘いため息を一つ。滑る柄を握り込み、強い意志を持ってアリアは歩き出す。ただひたすらに、前に進まんとする強い意志を携えて。


 光剣の柄を両手で握り、えいやと振れば触手は逃げ出していく。道のりもおよそ半ばというところまで辿り着いているにもかかわらず、敵の攻撃は酷く緩やかだ。鋭い剣閃が触手の束を打ち、数体を切り落とすとそれは逃げだした。
 天井からやってきた触手を剣で打ち、背後から迫るそれをひっぱたく。地面から顔を出せば踏みつけ、全力の攻撃は尽く触手達を撃退してみせた。
 アリア自身、既に何度この通路の突破を試みたか覚えていない。数えていられたのは五回まで。それ以降は記憶が混濁したように頭から抜け落ちている。ただ、奴らからの陵辱の記憶だけは忘れない。
 憎しみを胸に、よたよたとまっすぐ歩くアリアは、更に出口へと近づいていく。視界に映る光差す出口は、未だ遠い。彼女の足取りではどれくらいかかるのかわからないが、少なくとも歩みを止めなければ。そう、アリアは強い心で揺れる肉の地面を踏みしめて行くのだ。


 ある一帯に足を踏み入れた瞬間、アリアの脳が危機を発した。聞こえてくる音、匂い、そして薄暗い中でかろうじて見える人にはない動き。
 全身から汗が吹き出し、身体が強ばる分かる。べちょ……と鳴る重たい水音から耳を離せず、前回の戦いを想起する。表情が崩れ、恐怖を思い出した身体が小さく跳ねた。光剣を握る手の力が抜けてしまいそうになるのを、彼女はすんでの所で食い止めてみせた。
(いえ、私が……私が行かないでどうするというのですか)
 燃える闘志は騎士の証明。アリアを恐れているのか、すぐには顔を出さない触手達に、光剣の切っ先を向けて威嚇する。進む足を止めるものはおらず、足音と、粘液の音だけが響き続けていた。
 来るなら来なさい。中々顔出さない敵に焦らされる。奥歯を噛み締め、切っ先を振り回し、彼らの真意を読み取ろうと、必死でその力を使い続けていた。
 そして、それは現れた。出口方向から視線をそらし、現れた気配に向き直す。一瞬前には居なかったはずの、大きな馬が眼の前に現れていた。
 赤い肉体を持つ大きな馬は、ちらちらとアリアを見つめては、アピールを繰り返す。特殊な形の鞍を見ると、喉が大きく鳴り、心臓が強く響いた気がした。
『真の聖騎士ならば……私を乗りこなすなど余裕だろう?』
 物言わぬ馬は、その暗い色をした目でアリアに語りかける。動悸が治まらない彼女であったが、その視線が最後の一押となった。こくり、と頷き、鋸上の鞍に腰をおろす。
「大丈夫、あなたを信じています」
 生暖かい、ぬるつく馬の首をなで、浮き上がってくる匂いに安心感を覚えるアリア。
「アリア・ティアラリード……参ります!」
 馬の腹を蹴り、完成するのはユーベルコード『光煌刃衝


 大量の粘液がぶつかり、弾ける音が聞こえる。
 どぷどぷと次々に与えられる粘液はローション代わり。触手で出来た馬に取り付けられたちょっとした玩具。そのために大量に放出しているのだ。
 大した玩具ではない。少しだけ硬く長い疣を馬の背中から飛び出させ、無限軌道の要領で周しつづける、そんな玩具。それを馬の背骨にそって、鞍として腰を下ろす場として用意していた。
 触手が寄り集まっただけのブサイクな馬は、所々がほころび背に乗るアリアへと手を伸ばしている。両足を捕まれ、身体を下へ。体重が掛けられれば、鞍へと股ぐらが押し込まれ、玩具がより深く肉を削って見せるのだ。上がる絶叫は悲痛な色はなく、楽しんでもらえている事に周囲を囲む触手も嬉しそうに揺らめいていた。
 背に乗るアリアと言えば、既に抵抗する様子も無い。馬の首に抱きつき、全身を触手の塊に押し付けながら、与えられる快楽を貪っている。戯れに触手が足を引くと、あられもない声を上げ首を反らせる。縦に割れた粘膜全体を削られ続けるというのは、ここまでに無い趣向だった。
 乾き始めた髪の毛に、粘液を塗りたくる。根本から先まで丁寧に扱き上げるその動きはまるでその手の職人だ。抱きついた胸をマッサージし、跳ねて逃げようとする腰を優しく覆い、押し付ける。喉が乾いただろう、と口の中を優しく撫で回す触手が、粘液とは違う液体を飲ませてみせた。
 呆けた顔で飲み干した後、嬉しそうに破顔する。そして触手達は、偉いとばかりに顔を撫でてあやす。何度目だろうか。そうされるだけで震える身体は、馬を強く抱きしめる。腰を逃がそうと浮かせてしまうも、即座に取り押さえられ、元通り。
 触手たちの匂いを嗅ぐだけ。姿を見るだけで。思い出すだけで。
「ごめんなさい」
 謝る声は上擦り、まるで悲壮な色はない。ただただ、誰に対して言っているのかも分からないまま、アリアはただ嬲られ、口を塞がれながらも謝り続けていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

グァーネッツォ・リトゥルスムィス
娯楽や嗜好は社会生活と両立してこそ成り立つんだ
生活を破綻させようとする卑劣な罠もオブリビオンもぶっ壊してやる!

迫りくる触手なんてグラウンドクラッシャーで壁や床ごと破壊破壊破壊!
とにかく暴れまくりながらオブリビオンを探すぜ

だが、破裂した触手体液の淫毒が徐々に溜まって体が甘い痺れに負けてしまうかもしれない……
「うっ、あっ……だ、だめだ、気合を入れろ、オレ!」
だが自らを鼓舞し気合と絶望に立ち向かう勇気でまだまだ暴れるぜ!

……罠迷宮を突破できた頃には自分の脈打つ心臓の鼓動、瞬き一つ、息を吸って吐く事でさえ全身の感度がウン千倍になってるかもな……♪
「オブリビオンさえ倒せれば、んひっ♪気持ち、よしゅぎ♪」




 両手で握る柄を絞り込み、振り下ろすのは巨大な斧。臭気漂う肉の道、甘い匂いに包まれたその空間を切り裂く風切り音と共に、淀んでいた空気すらも打ち壊された。
 たわむ地面は肉色の軟体。大きく波打つその地面は瞬く間に破れ、その内部に収まる肉体と体液を弾き飛ばす。肉色の天井と壁、それらはより赤い体液によって塗りつぶされる。退廃的な通路の空気は一変し、肉の通路は薄く香る戦場の匂いを生み出し始めた。
「はっ! 弱い弱い!」
 抉るような一撃が通路を数メートル掘り下げる。散った体液と触手片がこぼれ落ち、足元に溜まっていくがまるで気にしない。色黒の肌を汗に濡らし、グァーネッツォ・リトゥルスムィス(超極の肉弾戦竜・f05124)は竜骨仕立ての斧を振り上げ、壁に向かい打ち放った。
「破壊! 破壊、破壊だー!」


 膝下まで溜まった体液の池を、グァーネッツォざばざばと音をたてて歩いていく。掘り進んだ道は平和そのもの。触手達もこれほど強引に進む人間が居るとは想定していなかったのだろう、未だ無事な天井と、ほぼほぼ破壊しつくされているもののいくらか原型をとどめている壁から、にょろりと触手が顔を出すだけ。
 ちょっかいを掛けようと伸びる触手も、グァーネッツォが放つ一撃が壁ごと粉砕すれば、存在の大本を壊され動くこと等出来なくなる。前進と破壊を繰り返す少女の行動は、おそらくこの場における最適解の一つだろう。
 根源たる通路の破壊が、触手の生存そのものを脅かす。もしも知恵が働くならば、彼女を捉える手段を再考する事もできよう。ただ、悲しいかなその軟体生物にそれほどの知能はない。あわあわと慌てるように触手を揺らめかせては、少女の一撃を通路に受け、血と臓腑をぶちまける。
「おいおい、もうちょっと頑張ってくれないとさ……」
 更にもう一撃。手応えのない敵に苛立ちを隠すことなく、衝動のままに壁を粉砕。腰元まで上がってきた肉片が浮かぶ体液の海の体積を増やし、目前まで迫ってきている出口をただひたすらに目指し、進んでいく。
 高揚する感覚は、強敵不在のフラストレーションから来るのだろうか。破壊とは別の、強い衝動が身体に熱を与えてくる。
 一歩一歩を進む毎に、粘つく体液の流れに巻き込まれる豊満な身体。ただ流れるだけ、グァーネッツォの動きに合わせて水流が生まれる。そんなプールに身をおくだけの身体ではあったが、その流れに確かなこそばゆさを感じていた。


「さい……ご!」
 何の障害もなく少女は出口へとたどり着く。トドメとばかりに吹き飛ばしたのは、出口手前の肉の崖。出口へと向かうスロープを創るように地面を削ると、ぶぢゅるぶぢゅると赤い体液を吐き出す地面を踏みしめて渡った。
 漸く抜け出した体液のプール。一メートルとない身長の彼女の胸元まで溜まっていたそれは、視界の外でゆらゆらと揺れている。じんわりと熱い身体をプールから引き抜き、数歩足を進めたところで自らの異変に気がついた。
 プールを抜けたことで感じる空気の流れ。ぺたりと乾き張り付く体液の感触。なにが起こったか理解は出来ない。ただ、自身の身体がどうなってしまったのか。それくらいの理解は彼女でも出来てしまった。
 天井を見上げると、ぬるぬると動き回る触手たちが身を隠す。ちらりと視線を周囲に向け、無事な壁を見たところで、彼らは姿を表さない。グァーネッツォは歯噛みをし、歯肉にかかる圧力に甘い息を漏らす。
「畜生……なんだってんだ……」
 知らずに閉じる内股が、彼女の奥を優しく刺激する。ただそれだけで、グァーネッツォは甘くとろける涙をこぼしてしまったのだ。


「うっ、あっ……だ、だめだ、気合を入れろ、オレ!」
 物欲しそうに触手達を見る自分の頬を叩く……しかし、考えられないような痺れ感覚がそこから広がると、グァーネッツォは居ても立っても居られなくなってしまった。
 ぐるぐると回る目、頭の中に渦巻くのは二つの選択肢。ここから戻って触手たちに身体を明け渡すか、それとも戦士として、オブリビオンを打ち砕くか。
 選択の余地などあろうはずがない。彼女の理性は後者を選択していたが、出口の先へと足が進まない身体は前者を選択した本能が支配したようだった。
 もう一度振り向く彼女の視線に、触手達は身をひそめる。一メートルにも満たないその小さな体を、彼らは完全な驚異として見なしていた。たとえ触手に身体を捧げたとしても、安々と姿を晒すことはないだろう。何より、自分自身が取り潰したこの通路に戻り、無事な触手を探すのがどれほど大変か。
 理詰めの説得は自らの本能に対して。それが本当であるかどうかは関係ない。グァーネッツォの理性は、ただ前へ進む理由を欲していた。こんなところで立ち止まっている暇はないのだ、と身体を説き伏せる。
 くるりと前を向き直す。びちゃりと音をたて、グァーネッツォは足を進めた。数分間に渡る精神のバトルは、辛くも理性が勝利を収めたのだ。


 光差す出口。そこは肉の地面が続くものの、壁と天井は石畳の不気味な空間だった。
 粘質的な足音をたてて数歩、グァーネッツォはその場に膝を付きうずくまる。激しい呼吸と動悸が全身をこわばらせ、粘つく地面に額を擦り付けながら両手で腹を抑えていた。
「オブリビオン……オブリビオンさえ、倒せれば……」
 時間が経つ程に全身へと回る、触手たちが持つ微弱な毒。それは小さなドワーフの身体だからこそ、強く早く駆け巡ったのだろう。
 ぜひゅ、と濁音混じりの呼吸音。喉を激しく通るその感覚にさえ、卑しいその身体は反応してみせる。鋭敏になった感覚は、呼吸のみならず筋肉の動き、瞬きの動作、ひいては心臓の鼓動にすら快楽を発生させてみせた。ただそこに居るだけ、存在していることが、彼女の脳を快感で満たしていく。
 地面に擦り付けた額から広がる甘い痺れは、脳をも壊してしまいそうに熱い。大きな胸を肉の地面に押し付け、柔らかく伸び広げていく。空けた口から伸びる舌が粘液にまみれた床を舐め、味蕾の一つ一つに刻むような甘さをこびりつかせていく。
「ん、ひっ♪ これ……これ、き、ぉっ♪ 気持ち、よしゅぎ……っ♪」
 ずり、と全身を地面に押し付け、擦り付ける。幾重にも重なる上り詰める感覚が、グァーネッツォの身体を跳ね上げ、その動きはまた快感を浴びせかけた。
 下腹部に伸びる指がやけどするような熱を感じ取ると、慣れ親しんだ襞をつまみ、擦り上げた。
 そうして、復帰するのにかかった時間はどれくらいだろう。全身を粘液にまみれさせながら、ぼーっとする頭を掻く彼女は、つやつやと潤みスッキリとした表情を取り戻している。記憶を脳の済へ、忘れようと努力するほどにニヤけてしまう顔を、グァーネッツォは思い切りひっぱたき、痛みを感じることに安堵していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

彩波・いちご
【恋華荘】のゆのかさんと

触手の迷宮って、なんかよく見かける気もしますねぇ…
ゆのかさん、誘っておいてなんですけど、大丈夫ですか…?
とにかく、触手トラップに負けずに行きましょう

力業で進んでいくゆのかさんに守られながら進み
くっ、私にまで絡んできて…くすぐったいような気持ち悪いような、気持ちいいような…これはまずいですね
ゆのかさんっ、負けないでください、私が後でしてあげますから…って何言ってるんでしょう私
ゆのかさんも何口走ってー?!

なんとか突破して
「ええ、ゆのかさんお疲れさまでした…」
とそっとぎゅっと抱きしめようと…あの、ゆのかさん、完全に肌蹴て胸見えちゃってますが(赤面
抱きしめて隠しますねっ(ぎゅー


白銀・ゆのか
【恋華荘】
(服装は、BUの着物姿)
いちごちゃんと共に、罠の正面突破を慣行しますっ。
解除手段が思いつかない以上
いちごちゃんの盾になる形で庇いつつ…発動したもの一つ一つを…
『壊し』て進みますっ。

「大丈夫、いちごちゃん…?」
甘い香りも…じんと身体の奥が疼く感触も…
いちごちゃんと過ごしてきた中で、全て体験してきたことだから…!
「この程度で…っ…感じちゃうわけには、いかないのっ!」
(全身に絡みつかれようと…火照った体を擽られようと…お腹に力こめて…灰燼拳を発動させた手で…引きちぎる!)


「ぁは、は…ちょっと流石に…熱いかも
いちごちゃん…少しだけ…(精気を)吸ってくれる?」(ぎゅっと…はだけた姿のまま…




 ぞっとするような甘い香りに包まれた肉通路。二人分の粘つく足音を響かせるそこは、どこからか差し込む薄明かりが進む先を照らしている。それは視界の確保という点で見ると幸運な事ではあったが、おぞましく濡れ光る壁面の脈動を見せつけられる、ということでもあった。
「最近、こういう迷宮増えてきてませんか?」
 制服姿、青髪の妖狐。彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)は華奢な手を前に出し、つないだ手を握りしめながら恐る恐る進んでいく。
「こういうって……! こういうの?」
 そんな手を握り返すのは、和装に身を包んだ羅刹の少女。白銀・ゆのか(恋華荘の若女将・f01487)は左右同時に飛び出してきた触手を器用に躱す。身を翻した勢いのそのまま、打ち付けた手刀がその束を切り裂いた。
 超高速のその一撃は、ユーベルコードが生み出す超常の力。切り離された触手の先端は地を跳ね、間もなく力を失い横たわる。そんな死骸を指さしながらゆのかはいちごに聞き返し、いちごはこくりこくりと何度も頷いててみせた。
「ふふ、まあ安心しなさい。何があっても私がいちごを守って見せるから」
 満面の笑みを向けるゆのかに、同じく笑みを返す。本当は逆なんだろうな、なんて事を考えながら、男であるいちごはスカートから伸びる白い足を前に進めていくのだ。


 肉の迷宮の入り口から感じていた、暴力的にまで甘い匂い。慣れてきたと思っていたその匂いも、こうして粘液塗れの通路に立つと頭の奥を焼くような感覚が蘇ってくる。それは進むほどに濃く、強くなっていくようで、時間を追う毎に汗にまみれていく二人の手がその事実を物語っているようだった。
「ゆのかさん、なんだかこれ……!」
 ぎゅ、と握りしめるいちごの手を、ゆのかが振り払う。左右だけではない、上下からも突然湧き出した触手の束が、前を進むゆのかへと殺到したのだ。
 その判断は早い。不安定な地面を強く踏みしめ地鳴りのような音を響かせると、その直撃を受けた触手たちが動きを止める。突き出した抜き手が乾いた音を生み出し、その直後にもう片方の手が振り払われる。
 踏みしめ押し返す足が触手を潰し、振り抜くように足を蹴り流せば、地から溢れる触手は一掃された。弾けた肉体が壁にこびりつき、体液の匂いを空間に混ぜ込んでいく。
「……ごめん、いちごっ! 大丈夫、行こう」
 改めて握られる二人の手。粘液のぬめりを感じたその手を、いちごは強く握り返した。せめて足手まといにはなるまいと、安心させるような手付きにゆのかは照れた笑い顔をみせた。


 それから数分間。二人の足は一向に進まない。進んでは触手を削り、打ち払う。時には首筋を撫でられ、足を舐められる。不思議と湧き出ない不快感に覚える違和感、曲がりくねった道の先はまだ遠いのか、出口は未だ見当たらない。
 濃くなる匂い、甘い臭気。通った道に赤茶けた体液をぶちまけながら、ゆのかは頭の中心が熱を持っていくのを感じていた。それは文字通りの熱でないことも分かっているし、この感覚が何かということも理解できている。
「なんで、こん、なっ!」
 ざわ、と響く粘質的な水音。それは縦横から鳴り響き、現れたのはこれまででも最大数を誇る触手の群れだった。ゆのかの瞳に炎が宿る。半身、大きく開いた足が地面を踏みしめ、先程よりももっと強い地響きを引き起こす。
 足に絡みつく肉色の触手であったが、そんな手段はお見通しだ。腰から膝、足首から足裏へ。身じろぎのような捻りは強い回転を生み、ユーベルコードの助けも借りれば、足元に生み出されるのはドリルのような回転力。迫る触手は足に触れる直前に弾け飛ぶ。
 腕を取ろうと伸びてくる触手はいわんや、首、胴を捉えんとするそれも、突きと払いで打ち崩す。辺りに広がる体液の量はずいぶんと増えてきた。そして、今の一合ですら敵を振り払うことは出来ていない。未だ揺れ、茶化すような視線を送る触手を睨みつけるゆのか。そんな彼女の耳に聞こえてくるのは、いちごの必死に抑えた悲鳴であった。
「いちご!?」
 手足を拘束されたいちごの姿。それを視界に収めた瞬間に、彼女の闘志は消え失せる。助けないと、そんな思いが身体を突き動かし、ユーベルコードの力で拘束する触手を切り裂いた。そして、安心したゆのかの足に巻き付く、大量の触手。
 ぞり、と肌を撫でる感触が心地良い。いやだ、の声の直前、驚いた表情で自らを見るいちごの姿があった。
「ゆのかさん、負けないでください……!」
 そんな言葉に、笑顔を返す。
「安心しなさい!」


 自由を奪うために巻き付く触手。それにどれほどの知能があるかはわからないが、少なくとも羅刹たるゆのかの戦闘技術を、一時的に封印できる程度の拘束力は持っていた。
 腰まで伸びる触手の大群、一匹二匹を掴み、引きちぎる事は造作もない。ただ、初めから問題にしているのはその数だった。一匹を引きちぎる間に絡みつく触手は数匹。地面だけではなく、左右の壁からも手を伸ばす触手たちは、そんなゆのかの手の動きも奪い去った。膂力に任せて動かす身体も、まるで思うようにいかない。どうすれば、と手段を講じる頭であったが、それは即座に中断することとなる。
「私にまで……ちょ、やめてください!」
 叫び声はすぐ前方。改めて両手両足を拘束されるいちごは、自身を信じて待っていたのだ。どの口が安心して、などと言い放ったのか。やめろ、と叫ぶ口も、大根ほどの太さはあろうかという触手が塞いでしまう。力任せに引く腕が多少は動くものの、頭の奥を擽る熱が全てを発揮させてはくれない。
 絶望的な状況にあって、ゆのかは自身の身体が昂ぶっていることに腹をたてていた。
 どん、とぶつけられる軽い感触。喋れないゆのかは呻き声で反応し、押し付けられたのがいちごであったことに、少しだけ安心してしまう。
「気持ち悪いような、気持ちいいような……これはまずいですね……」
 いちごも同樣な症状にあるとわかった事が、なぜかゆのかの心に少しばかりの平穏をもたらした。それと同時に、触手なんかで気持ちよくなるんじゃない、と嫉妬心も湧き上がる。
 二人はまとめて拘束された。抱き合うように身体を密着させ、足から首元までミイラのよう包まれる。ゆのかの腹に感じる硬い感触。眉を潜めて睨むゆのかに、いちごは泣きだしそうな表情を返した。


 包まれる感触は、温かいと言うより熱い。触手たちの熱が中に篭り、粘液の匂いを鼻先に感じることで体温は際限なく上がっていく。
 太ももを撫で、脹脛を撫でる。皮膚の薄いそこを撫でられる不快感だったが、あっさりと快感が上回り二人に声を挙げさせた。服越しに塗りつけられる粘液も、既にベッタリとシミを作り素肌へと塗り込まれている。
 交互に身体を跳ねさせる二人は、荒い息混じりに言葉を交わしていた。
「大丈夫、いちごちゃん……?」
 先程まで睨んでいたその顔は穏やかに……むしろ、淫靡な笑みを浮かべている。押し付けられた身体はお互いの体温を感じ、触手に包まれているという感覚が一体感を生み出していた。嫉妬心は既に消え去り、ゆのかに浮かぶのは、通路に浮かぶ香りのような思いだけ。
「私は大丈夫……ゆのかさんこそ、負けないでください……!」
 切実な言葉に顔を歪め、臀部を揉み込まれる感触息を吐いた。そして、それはいちごも同じ。少しだけの間をおいて、二人は同じ責めを味わっていたのだ。
「……負けそう」
「えー!?」
 それは間違いではない素直な言葉。眼の前にいちごが居なければ、この疼きを一度発散させ二度目の挑戦という選択肢もあったはずなのだ。じわりじわりと焦らす動きは感情を昂ぶらせ、こうして居る事がもどかしくなっていく。
 触手に感じていた嫉妬心も、これだけ気持ちいのなら仕方ない、と思うほどになっていた。それほどに羅刹の身体を蝕む快楽への欲求が高まっているということでもある。
 だから。
「ねえ、いちご」
「な……なんです?」
「少し、してくれない?」
 まるで信じられないようなものを見る、そんな表情。赤い顔、状況を考えて下さいと言わんばかりにぱくぱくと動く口を、ゆのかはとても可愛いと思ったのだ。


 長い長いキス。貪るように吸い付く口はお互いの舌を求め、振りかけられる粘液も同時に飲み込みながら、唯一自由の効く顔を使って快楽を求め続けていた。
 はじめはゆのかから。お願い、と艶のある声で頬に口づけ、唇へ。なんで、と抵抗するいちごも、慣れ親しんだ彼女の唇を受け続けると、快感に飲まれる感触を心地いいと感じ始めていた。
 数分間、拭き取ることも出来ない顎は唾液に包まれ、湯気の一つも吐き出しそうな吐息を交わす。そうして漸く口を離したのも、ゆのかだった。
「……最後まで、なんて無理だよね」
 コクリと頷く。
「私が後でしてあげますから……って何言ってるんでしょう私」
 跳ねそうになる体を抑え、いちごは照れ笑いを見せる。
 愛おしい、とゆのかは思う。この子を守らねば、とも思う。
「言質とった!」
 に、と笑うゆのかの身体にみなぎる力。握りしめた触手を潰し、膝を折り身を沈める。地面が揺れ、ヌメる身体が空間をつくりだすと、スッキリした頭のゆのかは手を振るった。


「……はぁ、もう……大丈夫でしょうか?」
 ばたばたと走り込み、大きな息をつくのはいちご。すぐ隣で軽い深呼吸をするのはゆのか。持ちうる体力の差だろうか、出口へと辿り着いた二人は対象的であった。
「だと、思う。ほら、ここ違うし」
 視線の先にあるのは、石造りの天井と壁。地面だけはそのまま肉ではあるが、先程まで追っていた触手が見えないということは、ここは一応のセーフゾーンなのかもしれない。ここも罠だ、と言われた諦めて再度挑戦することを、ゆのかは考えている。
「ええ、ゆのかさんお疲れさまでした……」
 そんな考えなど察することもない、立ち上がったいちごはねぎらいの意味を込めてハグをしようと手を広げ……目をそらした。
「あの……前、はだけて見えちゃってます……」
 触手のせいだけではないだろう。うぅ、と唸り声を上げる初心な反応に、ゆのかはニンマリと笑みを浮かべた。
「ぁは、は……ちょっと流石に……熱いかも」
 隠す気もない胸元を更に開き、ぱたぱたと空気を送り込む。両目をつむって見ないようにしているその姿も愛らしい。何を今さら、と思う心もあるが、これがいちごなのだと、穏やかな気持ちになる。
 じ、と見つめるゆのかに折れた。できるだけ胸元を見ないように、にまにまと笑うゆのかの顔をみつめて、ぽてぽてと歩く。
「……私が、隠して上げるしか無いじゃないですか」
 照れ笑い、恥ずかしいその言葉に顔を赤くするいちごの頬にキスをする。
「いちごちゃん……少しだけ……吸ってくれる?」
 抱き返したゆのかのその言葉。触手に捕まったときに見た、驚いたあの表情。何をいっているんだと言わんばかりに見開かれた目と、それに反してお腹に感じる硬い感触。さっきと違うのは、ここに居るのは二人だけ、という事実だ。
「……言質とったし、ね?」
 そう言って、ゆのかはいちごの服に手をかける。守らなくても良いそんな言葉を盾にされ、いちごは困った顔をしたまま、ゆのかに身を任せていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

杜鬼・カイト
兄【杜鬼・クロウ】と行動

うわっ…なんですかこのグロい迷宮は?
兄さまを【追跡】してこんな所に来るとは思わなかった。

兄さまの烏に乗せてもらう。
さすが兄さま!…って、ああ!兄さまが触手の餌食に!?
兄さまを置いて先に行くなんてできません!
……というか、触手ごときが兄さまの体を弄ぶなんて許せない。

触手に対する嫉妬心から【殺気】を放ち、無謀にも正面衝突。
…てへ、オレも捕まっちゃった。
ごめんなさい兄さま。

服の中に侵入する触手に反応。
…ちょ、オレの体を好きにしていいのは兄さまだけなんだから、やめろ…って!
やだぁ……スカート捲んな変態っ!!
拒絶反応から【なぎ払い】

■アドリブ歓迎


杜鬼・クロウ
アドリブ歓迎
自称妹(杜鬼・カイト)と行動

「またエラい迷宮に迷いこんじまったな、オイ…甘ったるくて吐き気がする。俺の迷宮運悪すぎだろ。
それも、お前もかよ…俺の背後取るンじゃねェよ怖ェし。
普通に歩いてたら避けきれねェだろうが、コレ乗ってればイけんだろ(余裕」

【杜の使い魔】使用
カイトも一緒に乗せて触手から逃げ…られなかった!
カイトに触手が及ばないよう突き飛ばし【かばう】

「ハ?!クソ…コイツらしつけェ…ッ!…、のやろ!
おま…見てねェでさっさと先に行、け。
こンの馬鹿が…」

八咫烏は消え去る
服の中へ入る触手に鳥肌が立つ
力が入らず息が乱れるが兄のプライドと負けず嫌い精神で【2回攻撃・カウンター】
剣で削ぎ落とす




 この迷宮に辿り着いたのは偶然だった。とりあえず何かしらの依頼を受けようとグリモアベースを歩いていたのが始まりで、アルダワ魔法学園がピンチだという概要を聞いただけで選んだ、それが間違いだった。
 今の世界は大なり小なりピンチを迎えている。猟兵としての力を持っている者として、そのピンチに立ち向かわねばならないと心がけてもいる。ただ、本人が少しだけ大雑把だったのだ。やってきた場所が色物の迷宮だと、確認を怠っていたことからもそれは分かることだろう。
「またエラい迷宮に迷いこんじまったな、オイ……甘ったるくて吐き気がする。俺の迷宮運悪すぎだろ」
 微かな熱気とともに運ばれてくる強烈な匂い。顔をしかめながら鼻をこするのは、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)その人だ。黒衣をまとった長身、片手を腰にあて思案顔になるものの、それは数秒と持たず破顔する。
 薄暗い肉の道。この先に待ち受ける驚異がどんなものか、なんとなくの想像はついている。それでも、いや、だからこそ。猟兵たる自分が前に進むしか無いのだ。例え待ち受けるのが碌でもない迷宮であろうとも、こうと決めた心に嘘を付くことは出来ない。
 深い溜息と、深呼吸。鼻を慣らす意味も込めて吸い込んだ空気は、頭を打ち付けるような衝撃を与えてきた。揺らぐ決心ではあったが、もう迷いはしない。クロウは長いもみあげを揺らしながら、ベタつく通路へと足を踏み入れた。
 そして、そんな後ろ姿を追う人影もまた、同じ通路へと進んでいった。


 ガムを踏んだ靴底、というには粘着力が薄いが、ローションと言うにはいくらか滑りは良くない。しかし不安定な足元というのは確かで、気を抜けば足を滑らせてしまいそうになる。舌打ちと共に両腕を組むクロウは、先ほどと同じような思案顔を見せる。
「こんな道歩きたくないです、なんとかなりませんか?」
「……だよな、正直こんなところで靴汚したくねェ……おい」
「しかし……なんですかこのグロい迷宮は。兄さまを追跡してこんな場所にくるなんて……兄さま、こういう趣味ができたんですか?」
「おい」
「いえ、勿論兄さまの仰ることに間違いはないのでしょうけど、オレとしてはやめたほうがいいかなーって」
「おい」
 クロウの背後から顔を出し、覗き込むように見上げる小さな影。セーラー服をまとったその美貌は、クロウに馴れ馴れしく後ろから抱きつくと、甘えるように微笑んだ。
 対するクロウはといえば、しかめっ面を隠すつもりもなく、面倒だという言葉を纏った顔を向ける。杜鬼・カイト(アイビー・f12063)は向けられた感情などどこ吹く風で、早く早くとクロウの腰を叩いている。
「何でお前イんだよ……俺の背後取るンじゃねェよ怖ェし」
 大きなため息を吐かれるも、構ってもらえるのが嬉しいのか、まるで尻尾を振るように腰に抱きつくカイト。しかしまあ、とクロウは考え直す。こんな面倒な道、突破するのに一人というのは無理がある。よく知ってるヤツがついてくるなら、悪いものではないのかもしれない。
 クロウの様子を伺い子犬のような視線を送るカイトの頭を、大きな手がぽんと叩く。途端に見えない尻尾を振りしきり、掴んだ腰を支点にぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「うし、やるか。普通に歩いてたら避けきれねェだろうが、コレ乗ってればイけんだろ」
 見やる先は、少しだけ広い肉の通路。切った張ったができる程度の空間をもつ通路であれば、可能かもしれない。


 ユーベルコード『杜の使い魔』。完成したクロウの力は、肉色の空間に似つかわしくない黒い鴉を生み出した。三本の足を持った八咫烏。三メートルは優に超えるその巨体はその通路においてもやはり巨大であった。
「……まァ、余裕だろ」
「流石兄さまです!」
 いくら広いとは言え、飛ばし続けることは可能だろうか。曲がりくねった道の先は見えず、広い空間が続いているとは限らない。この巨体が壁に……すでに手招きするように蠢く触手に絡め取られる可能性もある。
 だが、少なくとも見える範囲まで進むことは可能だろう。例え八咫烏が墜落するハメに陥ったとしても、力を解除しそこから進めばいい。何か問題があったとしても、二人で進めばなんとかなるだろう。
 じ、と視線を落とした先のカイトは不思議そうに、しかし見てくれたと嬉しそうに微笑む。頼りになるのかわからない所ではあるが、クロウは覚悟を決めた。
 そして、不思議な力で飛ぶ鴉は、二人を載せ肉色の迷宮を進んでいく。


 ベタつく足場から逃れた二人を待っていたのは、暖簾のように垂れ下がる触手の群れだった。
 やはり八咫烏は大きい。翼を広げたその大きさは、なんとか通路に収まる程度。勢いよく飛ぶのも初めだけで、曲がりくねった道を飛ぶのに難儀しているようだった。八咫烏の操作に手間取るクロウに代わり、触手と対峙するのはセーラー服を纏い妖刀を構えたカイトである。前進し続ける鴉の上、足場が悪いのを差し引いたとして、カイトも同樣に手間取っていた。
 相手は甘い粘液を吐き出すだけの触手。妖刀を振るえば断ち切るのは容易な相手だ。事実、大群とも呼べる数の触手を切り払い、第一コーナーを曲がるまではそれほど苦戦することもなかった。上方から垂れ下がる柔らかな筒を切り落とす、それは少なくともカイトにとっては難しい動作ではない。打ち払い切り捨てる、そうして曲がった2つ目の直線に、眉を顰めたのだ。
「兄さま!」
 揺れる足場に根を張るように、膝をやや深く曲げた状態。声は風に消えそうになるものの、クロウには届いたようだ。払う刀身がヌラリと糸を引き、遥か下方に見える肉の道へと触手の先端を落とした。
「まずいです!」
「何がまずい……くそっ、何だってこンな……!」
 二つ三つと増える剣閃。カイトの動作に間断がなくなり、視線を送る瞳が上下左右を向いては忙しない。弾ける体液の量も増え、無呼吸の行動が増えていく。
「相手が……」
「なンだよ!」
「多すぎます!」
 その声に、弾けるように顔をあげる。八咫烏が向かう先、天井に生えた触手の数は、無数といって差し支えないものであった。暖簾という比喩はすでに意味をなさず、それは壁といったほうが正しいだろう。
 舌打ち、それと同時に身体が動く。眼の前のカイトが振り抜いた刀。本来であればそのまま切っ先は翻り、前方の触手群を打ち払うはずだ。
 だがその手は止まっている。いや、動き出すのが遅い。早すぎる進行速度、連戦のペース。それがカイトの体力を急速に奪ったのだろう。畳を割るだけの居合ではない、これは実践なのだ。
 今まさに触手の群れへと突っ込む直前。クロウはカイトの服を引き倒し、烏の背中に伏せて寝かせた。その代わり、身を起こしていたクロウは全身を触手に打ち付け、地に落ちていった。


 幸いというべきか、不幸と言うべきか。クロウの身体を受け止めたのも触手の群れであった。
 汚い水音を慣らしながら吸い込まれ、待ってましたと言わんばかりにその身体に巻き付き自由を奪う。腕をふるいあげ、ぬめりと共に抜け出した先に、新たな触手が掴みかかる。首、腰、足。膂力だけで起こす身体も、息をつく瞬間に倒される。
「ハ?! クソ……コイツらしつけェ……ッ! ……のやろ!」
 焦りの色を浮かべながら、ざわざわと身体を撫でる感触に怖気が走った。やめろ、と声を上げようとするクロウの視界に、八咫烏が映った。兄さま! と叫ぶ声も聞こえてしまえば、悲痛な言葉など言えようはずもない。
「おま……見てねェでさっさと先に行、けっ……こンの馬鹿が……」
 代わりに出るのは、怒鳴りつけるようないつもの声。裾と首元から侵入してきた触手が肌を噛み、割れた腹をなぞるように噛んでいく。ざらつく表面も、粘液に塗れた滑りのよさがあれば、いっそ気持ちいいとすら思えてしまう。
 呼吸の度に熱を持つ感覚。ただひたすらに嫌悪感を持とうとしても、ざわりと撫でられるだけで甘い声が漏れそうになる。もこもこと膨れ上がる服の下、無数の触手が忍び込み、衣服と肌を内側から濡らし弄ぶ。
 気が狂いそうだった。嫌悪感と快感の板挟みに混乱する頭だが、聞こえる弟の声に一つだけできることがあった。
 上空に浮かぶ八咫烏を前進させる。先の道がわからないため操作は出来ないが、このまま軟着陸させることは可能だろう。
 触手は徐々にクロウの胸板に吸い付き、粘液を刷り込んでいく。小さな口が二つの突起の周辺を探り当てると、焦らすように吸い上げる。胸元から聞こえる複数の吸引音が、不思議な甘い感覚を呼び起こしクロウの顔を赤く染め上げていった。
 やめろ、の声はださない。せめて弟を先に進ませてから……そんな思いは、二つ同時に噛みつかれることで霧散する。息を呑むような、しかしクロウの顔からは想像できない高い声。痺れるその感覚に、ユーベルコードを解除した。悔しさに歪む顔色は、しかし赤く火照っていた。


 引き倒されたカイトの目前には、うようよと蠢く触手の群れがあった。奥歯を噛み締め刀を振るい、立ち上がった視界の中に、兄の姿はなかった。
 触手に飲まれたのか、と眼の前の触手群を切り払うも姿はない。まさかと下を見れば、今まさに手足を拘束される兄の姿があった。
「兄さま!」
 思わず掛けた声。ああ、なんて素晴らしい兄さまなんでしょう。妹を守るために自らを犠牲に、しかもあんな目に遭うだなんて。これを愛と呼ばずしてなんと呼ぶのでしょう。任せて下さい、オレは兄さまを置いて先に行ったりなんかできません!
 日夜兄を追跡してきたその目が、触手に塗れれ悔しそうに苦悶する顔を正確に写し取る。ああ、すごい、兄さまあんな顔するんだ。こんなところに来る趣味があったなんてびっくりしましたけど、あれはあれで中々見れない表情ですし、悪くないのではないかと思うんですけど、なんでそれがオレじゃないんでしょう。何で触手なんでしょう。何を勝手に触れてるんでしょうあの軟体生物は。は? は? 違うよね? それはオレがやるやつだよね? いやオレもそんな事する気はないですけど、だったら触手ごときが触る権利ないよね? いや……は? は?
 見る間に影が落ちる顔。にこやかに兄の痴態を見たいてのは数秒だけ。あとは勝手に積もり始める怒りと嫉妬心が、兄を縛り付ける触手に向けられた。
 決断は早かった。無言で八咫烏から飛び降りる。その直後、兄の思いが込められた巨体が少し先の地面へと向かい進み、姿を消した。


 びちゃ、と粘液が跳ね上がる。飛び降りた先はまさにお隣。クロウを巻き取るいくつかの触手を押しつぶしながら、カイトは愛しい兄へとその身を寄せる。
「……てへ、オレも捕まっちゃった」
 可愛らしく舌を出し、ごめんなさいと謝る姿に誠意は感じられない。怪訝な表情でカイトを見つめるクロウだが、弟はその表情の違いを見逃さない。触手に責められている、その事実を思い出したカイトの頭は一瞬で沸騰し、しかし冷めていく。
 兄さまの敵、と妖刀を振り上げた矢先にびくんと腰が跳ねたのだ。何をされているかなど言うまでもない、足に絡みついた触手たちのいたずらである。
 涙目で刀を振る。いくつかの触手を払うことはできるが、すぐに新たな腕がカイトを掴んで離さない。衝動的なダイビングだったが、内腿を撫でくる感覚に背筋をそらし、失敗だったかも、と今更ながらに反省する。
「なンで戻ってきた!?」
「オレが兄さまを見捨てるわけ……ひんっ!」
 もこ、とスカートが盛り上がる。スカートの下に殺到した触手たちが、カイトの雄の殺到し始めたのだ。思い切り足を閉じようと奮起するものの、裾から潜り込んだ触手がへそを撫で始めたせいで力が出ない。
「……ちょ、オレの体を好きにしていいのは兄さまだけなんだから、やめろ……って!」
「しねェよ!」
 冗談めかして言うものの、これはまさしくピンチであった。クロウの目の前には貞操……かどうかは本人の人生なのでわからないが、少なくとも触手を相手に大事なものを奪われそうになる弟の姿。さらに言えば、自分自身もこのままどうなるか、わかったものではない。
「やだぁ……スカート捲んな変態っ!!」
 ぶん、と振り抜いた妖刀は、しかし致命打を与えない。十数本の触手を切り裂きはしたものの、カイト自身の拘束を解くには至らない一撃。
 だが、それはクロウの腕を縛る数本を切り裂いた。緩む感触、快感に流されそうな感情をたった一度だけ引き締める。奥歯よ砕けろとばかりに噛み締め、奥底から湧いた膂力が腰に携えた魔剣を抜き出した。
 一振り、続け様の二振り。クロウの身長ほどはあろうかという刀身が、薄暗い空間に翻る。黒い刀身が空間に紛れ、彼の拘束をあっさりと割り、裂く。更に振られる一撃で、カイトを捕まえる触手に切り、焼いた。
「……流石兄さまです!」
「うるせェよ! 何戻って来てンだ!」
 ぬらつく身体で飛びつき、抱きつこうと手をのばすカイトを押しのける。べちゃりと肉の地面に転がるものの、カイトは笑顔を絶やさない。
「きっと助けてくれると思っていました……」
 すでに彼の中で、この戦いは美談として映っているのだろう。今後何を言われるのか想像すれば気が滅入るものだが、巻き込んだのは自分自身だ。と、クロウは思い直す。それよりも。
「進まねェとな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒玻璃・ミコ
◆心情
おや、まだ見ぬ竜種を探してアルダワに来たら妙な迷宮に
ちょっと寄り道しましょうか?

◆行動
【POW】という名の【気合い】で判定

まぁ、罠があったとしても
【怪力】溢れる【範囲攻撃】で根絶やしにしてしまえば無問題です
つまりはよゆーなのですよ、よゆー
万が一にでも婦女子の方々がピンチになりそうでしたら
颯爽と【かばう】位置に移動し私が身代わりになりましょう(フラグ)

この程度でブラックタール界隈で美少女と評判の
私をどうにかしようとは恐れ入るのです
おや予想以上に触手の数が…
ちょっ…餡子の様に溶けてしま…

人間形態でしたら破廉恥極まりない姿でしたね(遠い目)

◆補足
コミカル要員です
見知らぬ方々との連携も大歓迎


ルナ・ステラ
触手トラップ嫌です...!
繰り返したくなんかないです!!
危険な迷宮で気は進みませんが放っておけません!

近づかれる前に魔法で無力化していこうと思います!
―詠唱中に上から何かが!?
あぅ...変な臭いが...
ネバネバしてます...
気持ち悪いし臭いし、詠唱に集中できないよ...

ひゃう!!
触手も...
放してください!!
(気持ち悪いはず...なのに...なんか変な気持ちに...)

このまま取り込まれちゃうの?
(―助けて!)
〔オーラ防御〕など、リボンが危険から身を守ってくれるかも?

脱出できたら、〔高速詠唱〕等で今度こそ罠を無力化!
(心理的にも)傷ついた猟兵さんがいたら獣奏器で癒しの音色を奏でます!




 甘い匂いが立ち込める肉の道。背中を丸める小さな影は、恐る恐る前へと進んでいた。
 小さな体身、舌っ足らずなその口は、気持ち悪い、嫌だと口ずさみ、嫌悪感を隠すことなく涙ぐんだ視線で周囲を見渡している。粘つく足裏の感触にも慣れる様子はなく、粘液の薄い地面を見つける度にこすりつけては、汚れを落とそうと試みていた。
 どこかで小さな水音が鳴る。天井か壁か、どこからか落ちた粘液が地面で当たり、跳ねた濁った音だ。ここまで歩くのに何度聞いたか分からない。そんな水音に新鮮な反応を返す、ルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)の反射的動き。
 小さな体を縮こまらせ、呻くような悲鳴。高い声は嫌悪を示し、腕の中で蠢く黒い塊を抱きしめては離し、ぶにぶにと形を変えている。
「触手トラップ嫌です……! なんでこんな……こんな」
 自らの言葉で、じわりと溢れる涙。心底から出るその言葉は静かの通路に響き、腕の中の黒を盛大に押しつぶした。ぶぎゅ、と潰れる声に気づいたルナは、涙声のままごめんなさいと謝るのだ。
 開いた腕の中には、のそりのそりと形を変え、楕円の球体を形作るスライムがあった。ふるふると震え、突然の変形に驚いた呻き声を出しながらも、叱りつけるようなことはしない。
「落ち着きましょう。大丈夫、私がついています」
 諭すようなその声にルナは頷く。一呼吸の間を持って、泣き止んだ顔を見せた彼女に、よし、と声という柔らかな声が掛けられた。


 黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)がそのフロアへ立ち寄ったのは全くの偶然だった。彼女はグリモアベースを介さず、目的の相手を探すために旅をしている最中、たまたまそこに立ち寄ったのだ。
 アルダワ魔法学園、その地下迷宮。場所が限定されているため、出入りする猟兵を見かける事が多い場所だ。現在見つかっている他の世界にはない特徴だろう。迷宮を探索する途中にみかけた、封鎖されたエリアに突入する猟兵の姿。いつもの事と見つめながら立ち寄ってみたのが、出会いのきっかけとなった。
 小さな女の子が立っていた。愛らしい格好をしたふわふわの少女。とある入り口を見つめながら、その手を握っては開き、膝を曲げて気合を入れ、その場で足踏みをしている。
 ずりずりと身を擦りながら、ミコは少女へと近づいていく。見れば分かる、彼女は猟兵だ。戦う力を持った、世界を救う星の一人。
 地を這い進む身体をぴょんと飛ばし、少女の前に姿をあらわす。ぴぃ、と鳴いた声は驚きのものだろうか。ミコは少女に微笑んで見せると、大丈夫だと身振り手振りで伝えてみせた。恐る恐る、その身体を触る指。抵抗などしない。ふにふにと突く感触にくすぐったい顔を見せながら、ミコはふるふると震えてみせた。
「どうしました?」
 優しい女性の声はミコのもの。喋ることに驚いたのか、少女はもう一度鳴いた。
 それはそうだろう、ミコはブラックタール……それも、人型を維持しようとしていない、まるまるとした黒い蜜スライムのような形をしていたのだから。
 ミコのことをまるで、害意のない災魔の一つだと思っていたのだろう。心外だ、と思う半面、この姿では仕方ないと、スライム状の身体に浮かぶ顔はのほほんと穏やかなものを見せるのだった。


「わたしはね、ミコさん」
 突然口を開くルナ。なんでしょう、と返すミコを抱く力は強く、先程から身体の形が全く安定しない。その身を硬くすることもできるが、今は彼女の好きにさせていた。
「動物に好かれるんです」
「……良いことではないですか」
 草原に座り、小鳥や小動物と戯れるルナの姿を思い浮かべる。セミロングの白い髪が風に揺れ、きっと今みたいにおどおどしてものではない、優しい表情を浮かべているのだろう。そんな姿は殆ど自然に頭に浮かび上がった。よく似合う光景だ。しかし、何故急に?
「うん、わたしもね、動物はすきなんです。でも、あのね……」
 言いづらそうに口をつぐむ彼女。おどおどとした表情だけではない、目の色に浮かぶ恐怖はこれまでのそれとは違う、まるで真に迫った強いもの。
「その、もう……来ます」
 合図ではないと思いたい。ルナの言葉と同時に、二人が立つ場所へと触手が殺到したのだ。息を呑む悲鳴はルナのもの。気がついた瞬間には、左右の壁から目前へと迫る触手の束。
 しかしそれと同時、地面を打ち付ける粘ついた打撃音が響くと、二人はその場所から姿を消す。空中をくるりと回転するルナを器用に抱きとめたスライムは、身体を平たく伸ばしクッションとなる。
 歪な形の腕は地を叩き、二人を空中へ打ち上げた名残。打ち叩く反動に崩れた腕は、今まさに元へ戻ろうと脈動していた。
 瞳を瞬かせ、ミコの背に座るルナ。何が起こったのかわからず動けない彼女に、触手は更に殺到する。
「なるほど、好かれますね……」
 だが、届かない。スライムは更に形を変え、粘ついた腕を触手の下から打ち上げる。それは、硬化した薄い膜。シャッターが閉められるように、下から上へと上がっていくその膜は、ミコの怪力によりギロチンめいた切断力を秘めていたのだ。
 断ち切られる触手の束。本体から吹き出す赤茶けた体液をその膜が受け止める。
 それは一瞬の攻防。二度目の瞬きをしたルナをスライムの形で持ち上げると、流れるような動きで彼女を運んでいく。
「あれ?」
「さあ、ここからが本番のようですよ」


 ミコを抱えたルナが、ひんひんと泣きながら走っていく。ベタつく足元に気を使う余裕など無い。靴下まで濡れた感触に不快感を覚えるものの、背後から迫る触手の群れに対する嫌悪感の方が数倍も高いのだから。
「どうぞ」
 前方を見るルナに変わり、後方の視界を確保するのはミコの役目だ。伸ばした腕に視力を宿し、背後から迫る触手の群れを見ては、合図を送る。涙をこぼしながら急ブレーキを掛けたルナが、振り向きざまに、自らに宿った力を放つ。
「ふり……降り注げ!」
 ユーベルコード『シューティングスター』、おどおどとした声の主からは想像もできない、余りにも強力なその一撃。
 放たれるのは星のかけら。通路の色に負けない、赤々とした煌めきがルナの手元から降り注ぐと、狭い通路は一瞬にしてずたずたに切り裂かれた。百にも登ろうかという流星の尾は、凄惨な通り道を後に残したのだ。
「お疲れ様です。流石ですね、ルナさん」
 こともなげに言うミコに返す言葉はない。ただ肩で息を吐き、じんわりと広がっていく痺れに頭を揺さぶられる感覚があるだけ。
 ミコ自身も、彼女の様子に気が付かない訳ではない。ただ、この場に適していると言える彼女の力を使うのが、この場を突破する最適手になるだろうと思っていたのだ。それに、彼女の思いは強い。本来嫌いだと、捕まったらどんな目にあわされるのか、怖くて仕方ないという思いを吐き出していた。
 そんな彼女が、逃げることもできる入り口で立ち止まり、小さな勇気を絞り出そうと奮闘していた。この世界の人のため、そんな目にあってほしくないと、ただその一心で。
「急ぎましょう、立ち止まっていては追いつかれてしまいます」
 その言葉に背筋を伸ばす。慌てて前方へと向き直る動きはぱたぱたと慌ただしい。ルナはもう一度ミコを腕に抱え、先ほどと同じように走り出した。


 曲がりくねった道を廃墟にするのは、それから二度。通ってきた道は原型を留めないほどに崩れ去り、二人が立つグロテスクな肉の表面がいくらかマシに見える惨状となっていた。
 赤い顔をして、熱い息を吐くルナ。ブラックタールの身でありながら、跳ね、飛び、張り付く粘液に淡い痺れを感じているミコ。生身であるルナはどれほどの毒が身体に回っているのだろう。ここがこんな場所でさえなければ、ミコは休憩の決断をくだしている。
「……いけますか?」
「いける! 大丈夫、です!」
 汗ばむ額を拭い、顔に張り付く髪を梳かす。空元気も元気という言葉がどこかにあったが、まさしくそれだ。しかし、元気がないよりはとても良い。
「流石にそろそろ出口も近いはず……です」
 もしも出口を見つければ、その場から前方を打ち崩せばいい。触手が顔をだす隙間を消してしまえば、二人に迫る驚異などないのだから。
 そうして、もたつく足を健気に前に。艶のある吐息を漏らしながら走るルナは、ミコの手を借り、もう一度ユーベルコードを発動する。
 伸ばされた手。発動を補助する詠唱に、ミコを抱きかかえる強い腕の力。発動するその力は、瞬く流星の代わりに一抱えのタライをもたらした。
「……へ?」
 大群となって迫る触手に、がたんと間抜けな音をたてて落ちるタライ。相手が人であれば十分なダメージを負わせたかもしれない。だが、そうはならなかったのだ。
「ルナ!」
 抱えられた黒いスライムが、ぬるりと身体を変形させ、一本の長い腕を振り回す。束を纏めてぐるりと巻取り、怪力をもって押しつぶし、切り潰す。ぶちぶちと気色の悪い感触を伝えながらも、触手も全てを排除するには至らない。
 中心にのこった触手の群れは、体液と粘液を滑らせルナへと向かう。ふわり、と舞うルナのリボン。薄暗い中でも光り輝くそれは、迫る触手を巻取り、行動を一瞬遅らせた。そして、もう一度力が込められるミコの腕。断ち切られた触手から吹き出る体液が二人を汚すものの、一瞬の危機を脱することが出来た。
 そして、二度目の詠唱。今度こそ失敗しない。そんな思いを込めたルナの一撃は、天井から落ちてきた数匹の触手によって妨げられる。詠唱の代わりに響くのは、幼いながらも甘い声。身を屈めた彼女の衣服が、もこもこと盛り上がっているのを黒いスライムはみてしまった。


「放して……下さい!」
 攻撃の手段を失ったルナに対して、触手たちが取る行動は素早い。無事のままの壁からは触手が湧き出し手足を拘束すると、そのまま地面へと引きずり倒す。
 ざわり、と肌を撫でる感触。徐々に胴体へと向かう触手の先端が肌を擽る度に、芯に籠もっていた熱が強く吹き出し始める。甘い甘い、脳を梳かす快楽。幼い身体には余りにも強い、触手の愛撫。
(気持ち悪い、はずなのに……なんでこんな、変な気持ちに……)
 ぐ、と噛み締めた奥歯が痛みつつ、どこか甘い痺れをもたらす。バタつかせる手足はまるで言うことを聞かず、顔の前まで迫った触手が粘液をぼとりと垂らしてきた。
 いやだ、そんな声を上げる口を塞ごうと伸びてきた触手は……強い力で打ち付けられ、弾き飛ばされ、爆ぜた。手足の拘束を生む触手も潰されると、ルナの視点が一段上がる。
「大丈夫、と。私はそう言いましたね?」
 それは、倒れたルナを地面から持ち上げる黒いスライム。ミコは相変わらずのほほんとした表情を浮かべたまま、蠢く身体を器用に使い地面を這い、前方へと駆け出す。
 まるで波の上を滑るように、ルナは走るよりは遅いスピードで風を感じていた。流れる風が気持ちいい、それは火照った身体を冷ますから、ではない。流動する風の感覚が、快感となって脳を揺らすのだ。
 見えてきた出口、一段と明るいその仕切りの先は石壁があった。
 ずぞぞぞぞ、タールと粘液が弾ける音はその速度を表す。もう少し、もう少し。そんなミコの思いは半分だけ達成される。
 ざわ、と上下左右から顔を出す触手。それは出入り口を塞ぐように生み出され、さながら壁のようであった。しかしその一瞬前。勢いをつけたミコは身体をうねらせ、ルナを弾き飛ばす。べちゃり、と粘質的な音を慣らしながら転がると、それは彼女が無事たどり着けた事を意味していた。
 その代わり。ミコの肉体は無数の触手に絡め取られ、前方へと向かい勢いを殺され……拘束されていた。


「あー、これはこれは。参りましたね……」
 不定形の身体を撫で回す触手が、その体内に粘液を混ぜ込んでくる。少しだけ強く押し込む触手がスライムの体の中へとめり込むと、そのままぬるりと飲み込まれていった。それは一本や二本ではない。上下左右から押し込まれる触手がその球体を崩し、粘土ののように形を変えていく。
「ふふふ、私をどうにかしようとは恐れ入るのです。全く、その程度でなびく女に見えますか?」
 冷静な言葉とは裏腹に、ミコの身体は受け入れる本数が増えるほどに形をなくしていく。それを見ているルナは気が気ではない。徐々に崩されていく形に見るのは、彼女の死。うそ、と声を上げる身体が、状況を問わず疼くのが煩わしい。
 しかし、そんなルナの思いとは裏腹に、ミコは余裕の表情を浮かべたまま、しかし逃げられない状況に苛立っていた。
「あのですね、こう見えてもブラックタール界隈では美少女と評判なんですよ? ちょっと男を拐かせばこんな風にしたいと言い寄って……ちょ、まって、まって、まって!」
 溶ける! という叫び声。ルナにはそれが断末魔のように聞こえてしまう。もどかしい呼吸を押さえ込み、詠唱する。降り注げ、シューティングスター。
 弾けるように吹き出した光点が、目の前の触手を切り裂いた。使った力に甘い痺れを覚えながら、狙ったのは壁の際。左右から湧き出た触手を刈り取り、未だ中心で引き伸ばされていたミコの身体にはダメージはない……はずだ。
 ぼとり、と音をたて開ける視界。触手で塞がれていた出口、その奥には今まで通ってきたはずの肉の道があった。は、は、と熱い息を吐き出しながら祈る少女の前に、ぐんにょりと身体を伸ばしてきた黒いスライム。
「助かりましたよ。あのままだと餡子の様に溶けてしま……」
 こともなげに言うミコの姿を見止め、ルナはその場で号泣をはじめてしまった。


 獣奏器の音色が響く。数十分とそこに居るものの、触手が生えることも、過剰な匂いに悩まされることもない。
 少しずつ身体から粘液を排出するミコを薄目でみながら、ルナは獣奏器の演奏の手を休めない。こうして聞きいる内に、身体の火照りは癒え、泣いていた精神も落ち着いていく。
 のほほんとした表情のまま、ミコはルナの前で揺れていた。音楽を気に入ってくれたのだろうか。だったらいいな、と別の喜びに頬が染まる。
『きっと、この世界を救うのは貴方のような猟兵だと思うのです』
 この迷宮へと足を踏み入れる前に言われたその言葉。それをルナは理解出来ていない。
 きっとミコ一人であれば、この道の踏破も難しくなったのではないか。それなのに、どうしてついてきてくれたのだろう。
 ふんふんと鼻歌が混じり始めたミコの姿は愛らしい。柔らかな感触の肌などずっと撫でていたくなる。しかし、そのための指は、今は演奏のために使っている。残念。
「どうして……」
 音楽に紛れたその一言。ミコには届いて居なかったのか、ルナはそれ以上言葉を続けることは出来なかった。肉色の世界に浮かぶ、やんわりとした一時。二人は精神の癒やしを待ちながら、しばしの休息を取るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイル・コーウィン
最近、こういう迷宮にばっかり挑戦してる気がするわ。
べ、別にそういう事に期待してる訳じゃないけど、誰かがやらなきゃだしね、うん。

じゃあ早速、トレジャーハンターとしての勘とスピードを生かして罠を突破するわよ!
……っと思ったら、本気出すと意外に簡単に突破できそうな迷宮ね。
このまま呆気なく終わっちゃうのも何だし、ちょっとだけなら罠にもかかってみようかしら……?

(しばらく後)

ま、また失敗だわ……一度罠にかかってからというもの、身体が思うように動かなくて……。
でも、諦める訳にはいかないわ。
また触手達にヌルグチョにされて気持ちいい事になっちゃったとしても、挑戦し続けなくちゃ……。




 アイル・コーウィン(猫耳トレジャーハンター・f02316)は肉の道に立っていた。白の髪に耳と尻尾、動きやすさを優先した衣服は露出が多く、漂う臭気に肌を晒してしまっている。そのおかげで、漂う臭気は細かな粒子となり、彼女の素肌をしっとりと濡らし始めていた。
 彼女を取り囲むのは退路が塞がれた肉の壁と天井と、床。赤い道は透明な体液で濡れ、彼女の足を粘液で濡らしている。
 最近こんなところにばかり来ている気がする、とうんざりとした表情。開いては閉じる手を見ながら、自問自答する。手招きするように揺れる触手が目に入り、ぞっと走る悪寒が全身を震わせた。
「……いや、さ? 誰かがやらないとだめな訳じゃない? こんな任務、受けたがる人も少ないでしょうし? ね? だから」
 期待してるわけじゃない、その言葉を飲み込んだ。誰が聞いているわけでもない、それはあくまで自分自身への言い訳でしかない。というのに、期待、などと言う言葉を出すのが憚られたのだ。
 脳を焼くような匂いに瞳を潤ませ、ゴクリと飲み込む息が深く落ちていく。視線は触手の動きへ自然と向かう。ゆらゆら、ぬとぬと。人外のその動きに、彼女は甘い感覚を想起していた。


 不安定な地面を物ともせず、軽やかに走る足音は通路へと響き渡っていた。慌てたように伸びてくる触手をすんでで躱し、足を取ろうと絡みつくそれを飛び上がり回避する。余裕が無いのか、アイルの身体を打ち付けようと走る触手であっても、手にしたダガーが振り払われると音もなく切り裂かれ地に落ちる。
 一瞬だけ掴まれた腕だったが、まるでそれが分かっていたかのように引き抜かれ、返す刀で切り落とされる。間断の無い移動と、曲芸じみたアクロバティックな回避行動。あの触手に捕まった後どうなるか、それは理解している。理解した上で、自身の探索者、シーフとしての経験がそんな大胆な行動を可能としていた。事実、彼女の動きに追いつく触手は殆どおらず、束のような触手の群生地も人間離れした脚力を持って、あっさりと飛び越えてしまった。
 断ち切り、直後に投げられるダガー。大きな刃渡りの使い込まれたそれは、複数の触手を切り落とし、数本を貫き壁に突き刺さる。駆け寄り、引き抜き、横に裂く。その動きに淀みはない。弾かれるようにスライドするダガー。それを握りしめたアイルは、一瞬で身を低くし、地面すれすれを滑空するように走った。彼女の背を幾本もの触手が滑り、しかし捉えることは叶わない。
 あっという間の快進撃。道を大きく破壊することもなく、ただ一人、その身のこなし一つで辿り着いた道の先。周囲の触手を刈り取ったアイルの視線の先には、四角い出口が薄明かりと共に佇んでいた。そうして思う。
(……つまんないな)
 既に諦めているのだろう。出口目前だと言うのにゆらゆらと揺れる触手は、アイルに向かう素振りさえ見せない。それどころか、睨みつければ視線? を逸らし、ダガーが動けば身を隠す。
 これ見よがしに出口に近づいたとしても、動き一つ見せることはない。
「ほら? ほら? ねえ、いくよ? でちゃうよー? いいのー?」
 あえて大きな声を上げ、様子を伺う触手に視線を送る。身体を前後に揺らしながら、出口と内部を行ったり来たり。
(出口には罠とかあるでしょ? ほら、ほら!)
 アイルの露骨な行動にも反応はない。
 困った。いや、困ってはいない。困ってはいないが、困った。
 出口付近に立つアイル。何の抵抗もないその肉の通路だったが、でんと置かれた触手の椅子。それだけが、うねうねと身体を揺らして鎮座していたのだから、どうしたものかと頭を捻ってしまった。


 ふふんと息を弾ませ、その椅子の前に立つ。不格好な椅子ではあったが、折り重なった触手が不気味に蠢き、肉壁とは全く違う質感を粘液と共に醸し出していた。
 王様でも座らないような、大きくて無骨な触手椅子。本来であれば出口付近で人を捕まえ、この椅子に座らせるという算段なのだろう。しかし目論見は脆くも崩れ去り、あっさりと突破された触手達は省エネモードに入っている。おかげでこの椅子の動きもあまり良くはない。
 肘掛けに触ろうと手を伸ばすも、椅子の反応はなく、そのまま触れたところで動きはない。
「えー、うそでしょー?」
 言いながら、肘掛けをベタベタと触る。蠢く触手はその手を舐めるように触ってくるが、捕まえる素振りはまるでない。最初、自分にした言い訳はどこへやら。
「ほら、ほらほら! どう、捕まえたくならない? 触り心地いいでしょ? いいよね? え、うそでしょ、よくないの?」
 両手を両方の肘かけへ。腰掛けに手を載せ、べちゃべちゃ叩く。土台を蹴りつけ、背もたれを押し込む。背後に周りスイッチを探し、何もないと蹴りつける。
「……はー、もうほんとつまんない」
 大きなため息。緩んだ感覚。汚い水音を背に受けながら、アイルは椅子に背を預けた。


「……はぁっ! はぁ、はぁぁ……なによ、あれ……あ、やば……」
 ぐったりと横たわり、全身で息をするアイル。投げ出されたのはこの道の始まりの場所、揺らめく触手が顔を出し、遠くからアイルを見て笑っていた。
 横たわるアイルは粘液にまみれ、ただでさえ布地面積の少ない衣服はずり上がり、ずり下がっている。未だ震える身体が余韻を全身に循環させ、その感覚は身動きを取る余裕を与えはしなかった。
 思い出すのは……どれほど前なのだろう。時間を測る暇などあっという間に奪われた。アイルの頭に残る最後の記憶は、あの椅子に座ってからしばらくの間だけだった。
 まるで動きを見せない椅子に、油断していたのは事実だ。どうせ座ったところで動きはしない。せめて触手の感触だけでも味わおうと、深く腰を掛けた。
 肘掛けに載せた腕を、数本の触手が縛り付ける。土台に添えた足、深く腰掛けた腰、高い背もたれに預けた首。ぬるりと熱い感触が手足にふれると、全身から熱が引いていく感触を覚えた。
 望んでいたはずだ。望んでいたはずなのに、その不意打ちはアイルの肝を冷やした。安心という心持ちが、その恐怖を生んだのだ。
 衣服の上から振りかけられる粘液。優しくマッサージをする触手が、全身に染み込ませる勢いで撫で回してくる。目立って仕方のない大きな胸は当然として、肩、脇、指の先。お腹から腿、膝裏まで。自ら腰を下ろした事を反省させるように、肉体全体へと余すことなく塗りたくり、愛撫する。
「……ね、うそ……それは、さすがに……」
 数分続いたマッサージ、漏れる声すら我慢できなくなったアイルの頬に当てられた、ざらつく大きな熱い触手。粘液に濡れた頬をこする大きな凹凸の感触。粘液の糸を引きながら目の前に引き出されるそれに、彼女は声もなく見とれてしまった。
 威圧感すらあるその先端。アイルの腕ほどはありそうな先端は、歪に反り、脈動する。形容するならとうもろこしだろうか。指先ほどの疣が反りに合わせて全体に、それこそびっしりと映え揃い……蠢いている。
 その形と感触を確かめさせたいのだろう。触手の先端はアイルの胸の間をこすりつけながら通り、腹、腰へと落ちていく。既に剥ぎとられた下半身、何も付けないまま濡れそぼる柔肉にぺたりと当てられると、それだけで腰が浮き上がりそうになる。
 無理だという思いと反対に、アイルの身体は早く早くとそれを求めて蠢いた。荒くなる息遣い、押し当てられる、凹凸の感触。
 アイルの意識はそこで途切れていた。
 ……。
「……あー! こんなつもりなかったんだけどな! あー、だいまんぞ……大失敗しちゃったなー!」
 未だ奥に残る異物感は強制的な疼きを与え、壁伝いに立ち上がるその動きだけで、どこで果てているのか理解も出来ずに全身を震わせる。
 それでも、アイルの表情は明るかった。まだ挑戦できる、諦めなければ、チャンスを掴み取れる。
 都合のいい解釈を浮かべる顔は、淫蕩な笑みを浮かべていた。今度こそ突破する。欠片にもない思いを胸に、ダガーを握ったアイルは触手の海を乗り越えようと、駆け出すしたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白皇・尊
※一章2度目プレイングになりますので、1度目の方を優先して頂き、マスター様の負担が大きそうなら遠慮なく不採用行きでお願いします(PLより)

「ふぅ… はぁ…やれやれ、僕まで半ば中毒になりかけるとは」
幾度かのアタックで触手の虜になりかけた僕はその欲求を発散する為に学園の生徒で同じように中毒になりかけた者を探し、誘惑して組み敷き、吸精したり、逆に放ったりして自身を慰めてから再び踏破を目指します。

「そろそろ本気を出さないといけませんかねぇ…学生を孕ませたなんて事がバレる前に終わらせなくとは!」
フォックスファイアを全力魔法で放ち、触手を燃やして延焼させひたすら焼き尽くして踏破を目指します。




 ゆっくりと開く視界には、相も変わらず蠢く肉が一杯に広がっていた。全身を撫で擽る感触は既になく、乱れきった着衣と白い素肌には透明な粘液がこびり付くだけ。重たく粘ついた感触が身体の上をずり落ち、そんな微かな感覚にさえ白い妖狐は息を漏らしてしまう。
「……やれやれ、僕まで半ば中毒になりかけるとは」
 肉色の天井を仰ぎ見、その視界を片腕を載せ塞いだ。吐息が熱い、自分でも分かるほどに艶かしい水気を含んでいる。吐息に唇が濡れ、舐め取る舌は唾液に塗れていた。
 気を抜くと思い出すのは先程の、乱れに乱れた自身の姿。屈辱的とも言えるその快楽の嵐は、しかし官能的に尾を引いている。心のどこかに、「もう一度」、という思いが存在する事実に首を振る。何度目だ、と震える身体は、理性が縛らねばその足を触手の元へと向かわせてしまうだろう。
 白皇・尊(魔性の仙狐・f12369)は気怠げに身体を起こし、張り付く粘液を犬や猫がするように振り払った。着替える余裕などあろうはずもないが、それはそれ。先へ進みそうになる足を強引に反対方向へと向ける。赤い顔、荒い息、このフロアを知るものであればよく知るそんな姿を敢えて見せながら、尊はゆっくりと外へと歩き出した。


「大丈夫ですか!?」
 ばたばたと駆け寄る学園の制服を身にまとった女性。身長は尊と同じくらいだろうか、大きな胸を揺らしながら、惨敗を喫したであろう妖狐を柔らかく抱きしめた。粘液にまみれようとも気にしない、むしろそうなることを求めるように、不自然なまでに妖狐を抱きしめ、擦り寄せる。
 むわ、と漂ってくる香りにほころぶ顔も、相手には見えないように抱きしめながら。これは善意などではない、ただの自慰行為なのだ。
「はい……大丈夫、です。ごめんなさい」
 女生徒の意図など見越している。今彼を抱きしめている彼女のような存在は、多数いるはずなのだ。そして、このフロアの攻略が猟兵……転校生によって行われると決定すれば、学園はこのフロアを封鎖する。生徒たちの手に負えない、オブリビオンによる侵攻だと決定づけるのだ。速やかな鎮圧は最優先事項であり、生徒たちに口をはさむ余地などそもそもない。
 女生徒は香ってくる粘液と体液と……それ以外の精臭に瞳を輝かせた。ねっとりと尊に張り付いた液体を自身の身体に塗り込み、おまけのように「よかった、無事だったんですね」などと、演技する気もない棒読みのセリフを吐いている。
 もう少し頑張ればいいのに、とは表情にすら出さず、尊は女生徒の身体を抱き返す。
「実は……あの」
 潤んだ瞳はか弱い少女を気取る。赤く染まった頬は女生徒も分かっているだろう、未だ静まらない余韻の影響。ぐ、と押し付ける腰に硬い感触を知らせてると、見た目とのギャップから驚いた顔を見せた後……じんわりと表情が緩んでいく。
「……あの、あっちに物陰が、あるので……」
 話が早い。どれくらいの期間ここが肉のフロアとして使われていたのかはわからないが、こうした生徒たちの集いの場としても使われて居たのだろう。
 女生徒が待ち望んでいた、触手たちの残り香。それを全身に受けた尊はまるで神様のように扱われ、粘液を啜り上げる彼女は一心不乱とも言うべき献身を見せた。


 女生徒の言う物陰は、迷宮内の小さな小部屋。涼やかな小部屋には大量の布が敷き詰められ、簡易的な布団となっていた。それが何を意味するかわかった上で、まずは一人を平らげる。
 上がる声を隠す気など毛頭ない。こうしてこの場に集まる生徒たちを、尊はできるだけ引きつけたかった。
 それは人よけの意味もある。性的な満足感を与え、一時的にでもこの場から遠くにやりたいという親心。
 それを上回るのは、数度の触手との戦いで得た技術の実践と、吸精である。趣味と実益を兼ねた乱交は、あられもない声に釣られた女生徒達を二人三人と食い荒らしていく。
 試しに内腿。散々嬲られた自分のそこは、あのまま通いつめれば完全な性感帯となっていたのではないか。そして、それは彼女たちとて同じこと。粘液に塗れた指を、淫肉にふれるかどうかの位置に。片手を別の女性に吸わせながら、ローション代わりに撫でこそぎ、爪を立てる。
 もどかしい感覚なのだろう。なんで、と不思議な顔を見せる女生徒の表情は、しかし期待に溢れていた。ずり、ずりと押しつけ擦り、口づけを交わす。下半身を振り上げながら、膨らむ肉をつまみ、弾き……もみほぐす。
 強い快感は一つとしてない。ただ、触手に作られた感覚か、それとも粘液がもたらす幻想か。舌を絡める動きは激しく、漏れる声が口の中を通り、尊の身に落ちていく。一定の速度、柔らかな動きを続ける内に、尊の指に降りかかる熱い飛沫。
 部屋を汚しながらも、彼女たちは快楽を貪ることをやめることはなかった。そうして増える女生徒達。
 最後の六人目、極まった嬌声を聞き届けた所で、満足げ気なため息を吐き出した。追加の女生徒はやってこない。中を覗く気配もあったが、この中に飛び込む勇気はなかったのだろう。しかしまあ、それで十分だった。
 乱れた着衣を正しながら立ち上がる。つやつやとした頬を見せる尊の足取りは軽かった。


 実験と研究を題した数度の突入だったが、想像を超えた苛烈さであった。吸精を糧とする妖狐である尊ですら、勝てない戦いを挑みたくなるほどの甘い誘惑。学園の生徒達がここに足を運ぶ理由も頷けるというものだ。
 尊は猟兵である。傍若無人で慇懃無礼、人の世を乱すことすら良しとすらする彼であっても、その一点だけは譲りようも無い。
「そろそろ本気を出さないといけませんねぇ……」
 濡れ光る瞳は剣呑に。半眼の眼が睨みつけるのは、敗北を喫した肉の道。踏み込む尊は詠唱の一つもないまま、その身を覆い隠さんとする大型の炎を生み出した。
 ユーベルコード『フォックスファイア』。全力の力が込められたそれは、弾けるように周囲へ飛び散り、壁を、天井を。赤い肉を焦がしていく。
「お礼参りです。楽しくいきましょう」
 にい、と釣り上がる口の端。怖気すら感じる表情の後に、彼の周りに浮かび上がるのは大小様々な妖怪変化。彼らはがやがやと踊り、叫び、鳴きながら。焦げる肉の香りが漂うその道を、触手を食い破り進んでいく。
 ゆったりとした足取り。百鬼夜行の行進は、多少の抵抗を受けながらも十数分の道のりを完走する。出口に辿り着いた妖怪たちはやったやったと喜び、力の解除と共に霧散していった。
 振り返る道はどれこれも炭と焦げ、ステーキのように焼けている。香ってくる匂いは良いものではないが、あの甘い香りに比べれば随分とマシなものだ。
 衣服をただし、足を進める。尊にはあまり時間が無かった。一旦休憩と休む事もできるが、できればすばやく事を収めたい。
「学生を孕ませたなんて事……バレる前に終わらせなくては!」
 物陰の小部屋。そこで起こった事実に魔法学園が気づく前に、尊は手早く仕事を終らせる必要があった。魔法学園の出入り禁止など、あってはならない事なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
女性ばっかり酷い目に合わせるわけにはいかないし
男としてちゃんと守ってあげるべきだよね
…でもやっぱり気持ち悪いよぅ!(うにょうにょ苦手)

罠といえば
変なスイッチとか定番だよね…
肉壁はうっかり触らないように
かつ伸びてくる触手はUCで払いつつ
飛行能力で移動しスイッチ罠回避

念の為囚われてる生徒の有無を確認
万一発見したら救助優先
【破魔】の【歌唱】で依存症状緩和を試みます

<万一囚われたら>
ふゃっ!?ま、待って、んっ…僕…ダメ…ひぅッ!

※見た目も声も少女な少年
ウブで免疫無いが非常に快楽に弱い受け
裏知識ほぼ無し
汚し方自由

その場合涙目で震えつつ再突入
守る為なら頑張るもん…男だもん…!
(恥ずかしさで口調退化)


村雨・ベル
な…なんという迷宮なのでしょうか!

私の溢れ出す恥的好奇心が疼いてしまいますね
まずは触手の威力を実地調査です

封印指定・魔眼覚醒で普通では計り知れないモノのサイズまで
理解してしまいます。
歓喜に奮えるかも?
触手の長さや太さやその成分などもばっちりです

人知れず何回も何回も繰り返しチャレンジするかもしれません
すでに虜になりかけていても表向きは平静を装います

途中で他にも捕まったりしている猟兵さんがいれば
救助しようとして一緒に巻き込まれたりするかもしれません
ですが助けようとしたり助けてくれたりする人のスリーサイズも
魔眼の力で全てお見通しです。

これだけよく観察すれば突破口にも気付けるかも?

アドリブ&絡み歓迎




 粘液滴る肉の道。ぽとりぽとりと滴る雫が、粘着的な音をたてながら地に吸い込まれていく。
 不規則に鳴る音は通る者の集中を削ぎ、不明瞭な恐怖を薄暗い道の先に積んでいくようだった。それは時間が立てば立つほど、そこに居れば居るほど堆く積もり、それ以上の侵入を拒むように強くなる。
 粘つく足音は一つだけ前に。甘い匂いが脳を揺らし、臭気でぼやける視界は膜を貼った涙がさらに滲ませていく。
 意を決したもう一歩。曲がりくねった道の先がぼやけた視界に入り込んだ。そこではうねる触手が身体をくねらせ、侵入者を呼ぶように動いている。ぴぃ、と鳴く声をあげながら、べたべたと逃げ帰る足音が続くと、通路の入口に小さな影が身を丸め、息を切らして座り込んでいた。
「……やっぱり、気持ち悪いよぅ!」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は恐怖で鳴る心臓を必死で抑え、ぜひぜひと息を吐く。脂汗に塗れた額を拭い去りながら、どうしようと道の先を振り返った。
 こうして入口付近を往復するのは何度目だろうか。道の先を確認することも出来ないまま、澪は潤んだ目も袖で拭う。視界が広がれば見えてくる、グロテスクとしか言いようの無い道。湯気のような臭気が視界を薄く白ませるものの、一歩先へ進めばそんなぼかしで隠しきれるような存在感ではない。
 今にも泣き出しそうな顔のまま、澪はもう一度向き直した。奥歯を噛み締め、怖くない、気持ち悪くないと心の中で唱え続ける。一歩一歩、触手の影の無い入り口付近はまだ大丈夫。ぼとり、ぼとりと水が落ちる音、煽られる恐怖心をこらえ、澪はべたりべたりと足を進める。
 べたりべたり。その音が突然増えた。身が凍る身体は既に自由を失い、ガタガタと震えどうしようも無くなった。あのさ、と肩に掛けられる手の感触。澪の身体は、驚くほどに震えて跳ねた。
「わぁーっ!?」


「いやいや、ごめんなさい。もう何回も謝ってるじゃないですかー」
 心臓が止まりそうになったという澪の言葉に謝り倒すのは、村雨・ベル(エルフの錬金術士・f03157)。尖った耳を下げながら、柔らかな澪の肩を揉み解し胡麻をすっているところだ。
 ベルからすれば自身も被害者と言えるのだが、不機嫌な同行者をそのままにするのは具合が良くない。何度も道を行き来する小さな影の手伝いをしようと声を掛けただけだったのが、タイミングが悪かったのだろう。ちょっとした行き違いというやつである。
「……もう、分かった。わかったから……肩、もういいから」
 くるりと振り向く栗色の髪。結わえた二つの結び目が左右に落ち、ふわりと甘い……この空間に立ち込める異常なそれではない、正しく甘い香りがベルの鼻をくすぐった。まあまあ、と優しい笑みを浮かべるメガネのエルフ。凝りなど無い若い肉体をやんわりと撫で続け、揉み続けるのは数分間に渡っていただろうか。
「えー、もう少し……」
「大丈夫だから!」
 赤い顔をして離れる澪を微笑ましく見つめ、ベルは何もしないよと両手を軽く掲げて見せた。
「手付きがなんか……じゃなくて! 大丈夫、一人でいけるから!」
 むふ、と笑みが零れるベル。ムキになったような表情を浮かべ、迫力無く睨みつけてくる。決して馬鹿にしているわけではないが、そんな態度を微笑ましく思ってしまう。
「んー……でも、二人で行ったほうが効率良いと思うんですよ。ほら、お互い苦手な事を協力して乗り越えられますし?」
 そんな言葉に眉を顰め、思案顔をむける澪。
「それにあれです、何か合ったときにお互い助けられるじゃないですか。ほら、効率ですよ、効率。触手が苦手そうですしきっと力に……」
「苦手じゃないよ!」
「……そうですね、苦手じゃありませんね。ほら、でも何か合ったときに助け合えますよ? ほらほら、私きっと役に立ちますよ?」
 にっこりと微笑んでは、妙なポージングで有能アピールをするエルフ。澪自身も彼女が悪いわけではないと理解しているが、驚かされた上に怒ったフリをした手前、素直に協力を仰ぐことが出来ないでいた。
 うー、と唸る澪に、ベルはもう一押。ほらほら、肩だって揉んであげますから、と近寄って来た所で交渉が成立する。ベルの腕をはたき遠ざけながら、決心したフリの大仰な頷き。元々一人で先に進めるか怪しいところがあったのだ。渡りに船、少しばかり時間がかかったが、ベルの提案は初めから受け入れるつもりではあった。
「……共闘っていっても、ここを抜ける間だからね? それに、何があってもお姉さんは僕が守ってあげる。男だもん、女性を酷い目に合わせたりしないから!」
 その言葉に、ん? と首を傾げるベル。同じように、ん? と首を傾げた澪を見て、ベルはもう一度首を傾げてみせた。


「仕方ないじゃないですか、怒らないでくださいよぉ」
 腰を掴まれたまま、押し出されるように前を歩くのはベル。澪はといえば、ぷりぷりと怒りながらベルを掴み、ぐいぐいと前へと押し出していく。
「僕は男です! なんでみんな間違えるんですか……」
 はいはい分かりましたから、と押し出されるままに歩くベルは、この状況を最大限楽しんでいた。そもそも今回の任務は、殆ど彼女の趣味嗜好から選ばれたものだった。迷宮を支配する触手、その動きやテクニック、形や太さに多数あるであろう種類まで。
 風に聞く話はあまたあれど、実地で、その目で全てを見ようとする猟兵はそう多くはない。それを語り継ぎ、研究までしようというのならほんの一握りとなる。
 興味があった、調べてみたかった。第一人者になりたいわけではないが、自身の知的欲求のため。ベルがこの地に降り立ったの理由の殆どはそれだったのだ。
「あのですね、澪さん」
「なに……」
 ぺたぺたと歩き続ける二人は雑談混じり。通路を行ったり来たりしていた澪の姿からは想像も出来ない速度で進み、二つ程先の角を曲がった辺り。
「あんまり押されると、触手に捕まっちゃうんですけど」
 のんびりとした口調のベルの脇から顔を覗かせる澪。言葉通り、一メートルもない距離にあったのは、天井からぶら下がる大量の触手暖簾。ざわざわと手をのばす触手がベルへと迫り、粘液をふりかけている。
「早く言いなよ!?」
 前を見ていなかった自分は差し置き、ベルを手前に引き戻し距離を取らせる。
 視界一杯に映る触手の群れ。全身に鳥肌が立ち、直後に脂汗吹き出してきた。


(気持ち悪い……)
 弱音が頭をめぐり、ベルを救った腕はそれ以上動かない。ぼやける視界は涙だろうか、思わず飲んだ息が喉に詰まり、むせる。
 背後からベルの声が聞こえる。澪君!? と焦る声はなんだか遠く、急速に現実感を失っていった。
 近づくほどに鮮明に鳴る赤い触手。肉色といっていいだろう、筋張ったたわみと幾筋も伸びる濃い赤と青の血管。蠢きは蛇のようで、しかしそれとは似つかないおぞましい動き。いやだ、と心が叫ぶその直後、男だろ、と声がかかる。それは何者でもない自分の声。そうだ、女性を助けると、ベルを助けると決めたんだ。
「……っ! 裁きを、与えん!」
 思いを込めた詠唱が、力を発現する。ユーベルコード『plumes de l'ange』、澪の周囲に花弁が浮かび、ふわりと散りゆき落ちていく。触手の群れは、構うものかと飛び込み……裂かれた。
 花びらに触れた側から柔らかい肉が切り裂かれ、もがくように動けば被害は更に増えていく。澪が手を振り、指示を与える。風のないその通路を一迅の花吹雪が舞い踊り、目前に迫る驚異は一瞬にして姿を消した。
 後に残るのは汗に塗れ、荒い息を吐き続ける澪の姿。壁すらも切り裂いた花弁はその姿を消し、澪の元へと姿を戻している。
 は、は、と短い息。やった、と声を上げそうになるのを必死に堪え、汗を拭いながら表情を作った。そうだ、ドヤ顔が良い、と振り向く澪。
「大丈夫? さあ、先にすす……」
 なんともないフリ、怖くなんて無い。そうして開いた瞳に映るのは、地に落ちた触手の体液を瓶に詰め、有ろう事かそれを舐め取るベルの姿であった。
「……うん、いきましょう」
 便をカバンにしまい込み、何事も無かったように澪の手を引く。何をしているかなど分からないまま、澪は促されるまま奥地へと進んでいく。


「あの、絶対暴れないでよね?」
「大丈夫任せて!」
 更に進んだ先には落とし穴。数メートルはあろうかというその底に居るのは、大量の触手群。幸いなことに、ジャンプで飛ぶには遠すぎる、という単純なもの以外に罠はない。ならば、とオラトリオの特性を活かした澪の発案で、ベルを持ち上げ飛行する。そんな空中散歩が開催されていた。
「……下凄いですね」
「見ないから!」
「……落ちたらどうなるんででしょうね」
「知らないって!!」


「澪君澪君、あそこに休憩ゾーンがありますよ!」
 ベルが指差すのは余りにもわざとらしく作られた、部屋のような一角。ドアも何もないが、肉の壁にできた洞というのが適切だろうか。
 中には粘液も何もない。ただ脈打つ肉の壁が佇むだけだ。
「……お疲れだったりしませんか?」
 にっこり微笑む彼女の表情が余りにも胡散臭い。絶対やだ、と一蹴するものの、名残惜しそうに袖を引くベルが鬱陶しい。
「罠以外のなにものでもないよね、あれ」
「えー、わかりませんよ? もしかしたら人を気遣ういい触手がいるかも知れないじゃないですか」
 分からないことを言うベルに、澪は彼女のカバンから一つの瓶を取り出した。まだ空のそれを握りしめ、ぽいっと部屋に放り投げる。
 ざわ、と震える空気。直後に入り口は締り、その奥から粘り狂うような水音が聞こえてきた。中で触手が絡み合い、擦り合っている音なのだろう。想像するだけで鳥肌が立つ。嫌そうに眉を顰める澪はベルの顔を覗き見る。
 そこにあったのは、満面の笑みであった。


 花弁が前方の触手を切り裂き、一時の安全を確保する。おぞましいという心持ちは変わらないが、こうして対処できるという経験が、澪を苦手から解き放ちつつあった。対して、恐ろしさを感じるのは隣を歩くベルである。苦手意識がないとしても、触手たちに対してまるで危機を感じていない。
 触手なんて相手にしないほどの実力者なのかも。そう思う澪ではあったが、そんな凄さを感じる場面はここまで訪れていない。
 だが幸いなことに、二人の道程は好調なものとなっていた。一つ一つの罠はあるものの、それを潰し、飛び越え、機転を効かせて先に進む。触手を見るベルの熱い視線以外に問題は一つとしてなく、この道を通る事を恐れていた自分がバカバカしく感じてしまう程だ。
 澪はベルを下から覗き、じっとその瞳を見つめた。なんでしょう、と変わらない笑みを返すベルは穏やかなもの。
「ベルさんはさ、どうしてここにきたの?」
 それなら聞いてみるのが早い。澪にとってベルは、ここを進む勇気をくれた女性だ。不審な点はあるものの、感謝こそすれ疑うなんて気持ちが悪い。じ、と赤い頬を携え見つめる澪。うーん、と言葉選び、考えるベル。
 ぞ、と背筋がざわめき、振り返る。澪の目の前に、縦横から伸びる触手が二人を同時に絡め取ろうと殺到していたのだ。
 険しい顔を残しながら、ベルを後方へと突き飛ばす。背後に聞こえる尻もちの音を聞き届けた直後、澪の頭は触手の大群に巻き付かれ、粘液の濃い匂いを鼻先に直接浴びせられることとなった。
 同時に拘束される手足と胴。声をだす間もない。遠く聞こえるベルの叫び声も、水音にかき消され消えていく。


 いやだ、いやだ!
 想定していたはずの状況に、澪の頭は混乱する。気持ちが悪い、気持ちが悪い。気持ちが悪いはずなのに、気持ちいい。
(なんで……待って! んっ……僕、ダメ……っ!)
 全身を覆う触手の群れ。衣服を粘液で濡らしながら、身動きの取れないその身体をゆっくりと剥きあげ、裸にしていく。
 ベルさんがいる、後ろに居る……そんな思いを汲めるほど触手たちの頭は良くない。むしろ、仲間が居るからこそそうするという面もあるだろう。パーカーを、インナーを。ほのかな甘いいい香りを全て、鼻を潰すその甘い香りで押しつぶしていく。
 いやだ、と声を出すことも出来ない。細く長い触手が口の中へと入り込み、舌に吸い付き無数のキスを浴びせかけ、口蓋、歯肉、唇の裏。口内の粘膜全てを舐め取ろうと、全力のキスが行われている。
 気持ち悪いはずなのに。硬くなる雄に向かい、触手たちは濃い粘液を放つ。透明な粘液とは違うマグマのように熱いそれ。ぼたぼたとこぼれ落ちるその感覚が、どうしても……どうしても。
 そして、それを塗りつけ擦り付けるように、ピッタリと張り付くブラス状の触手。泡立て、擦り、その特殊な粘液で汚れを洗い流す。声にならない声を上げるその触手の繭は、もこもこと蠢き続けていた。


「……澪君すっごいですね、惚れちゃいそう」
 ベルの目の前で触手に覆われる澪。触手たちの勢いは烈火のごとく、彼を包み込むとあっという間に攻撃を開始した。中で何が行われているのか、どうしても気になってしまうが今は少しだけ"見る"べき時だ。
「森羅万象、全ての根源を見通す我が瞳に測れぬ物は無し。目覚めよ我が身に宿りし魔力の輝きよ」
 ユーベルコード『封印指定・魔眼覚醒』。全てを、そう全てを見通す魔眼の力がベルに宿る。
 視線を送る、その度に彼女の頭に入ってくるのは、彼ら触手の詳細データ。どんな形、どんな大きさ、何が得意でどんな成分をもっているのか。
 流れ込んでくる未知のデータに、ベルは鼻血の一つも零しそうになる。自然とニヤつく口元、ふわふわと浮き上がるような高揚感は、研究データの取得に拠る興奮だろう。
 なるほど、あれは拘束用、これも、これも、メインはこれなのね。奥のあれは……ブラシ、いっぱいある、下の方に集まってあーーーーーー、なるほどね? 細いあれは……吸い付くだけ。あー、やっぱりあるよね、筒のあれね。そうね、あとで使うよね分かる分かる。あとはなに? いぼいぼ? とうもろこし? でっかいお口に……ん? 注射?
 制御できないその情報量。全ての意識を向けることで何とか捌けるデータの洪水に、彼女は興奮に飲まれ現在の危機を完全に忘れていた。
 手足を取られ、目の前に繭に押し付けられる。瞬時にベルを取り込む繭は、二回りは大きく育ってしまった。中に入って初めて気付く、その匂いと熱。聞こえてくる澪の声は、意味もないただの叫び声ばかり。
 ベルの耳、左右からしゃぶりつく触手が、粘液の音でその声を消し去る。押し付けられる豊満な胸が口型のそれにしゃぶりつかれ、粘土でもこねるように歪み、動かされていく。
(何事も経験ってやつよね)
 思った以上に強い快感。思わず溢れる涙は歓喜のものか。ただ、ベルは抵抗すること無く、腕に押し付けられる注射針を受け入れ……沈む意識に身を任せていった。


 数時間の後。二人は入り口の肉通路に投げ捨てられていた。
「……ベルさん……まもるもん……絶対、守る……男だもん」
 泣きべそをかきながら、どろどろの服を掴み身体を隠す。甘えた声をだす澪はとても愛らしく、ベルの笑顔を誘っていた。
 よしよし、と頭を撫でるベルの手を、今は素直に受け入れている。初めの調子ではこんな事させてくれなかっただろう。役得だ、と思いながらも、少しだけ罪悪感が心に残る。
 助けようと思えば助けられたのだ。あの時、自分の欲が勝ってしまった。引き受けたからにはやり通す心はあるが、ここまで真剣な男の姿をみせられて、何も思わないほど人でなしではない。
「うん、うん。次は私も頑張るから……」
 殆ど裸のまま、澪が落ち着くまで相違していた二人。
 そして、理性を取り戻した彼をもう一度通路に誘うという難題。怖気づく彼を説得するのにかかった時間は、また長いものだったという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『ウォーク』

POW   :    触手乱撫 + 服破り
【胸部のサイズを見定める視線】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【いやらしい触手】で攻撃する。
SPD   :    ギラつく視線 + ホーミング
【極度に興奮した視線】を向けた対象に、【精神的な苦痛】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    粘液乱舞 + 恥ずかしい
【気持ち悪い触手】から【防具を溶かす粘液】を放ち、【恥ずかしい気持ちにさせること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●肉の道、その先
 果たして猟兵達は難所たる道を超えた。
 その身を削り、心を汚し、辿り着いたのは大きな広い広い大きな部屋。
 足元の肉は変わらないまま、四方と天井を敷き詰めるのは切り出されたような石の壁。
 待ち受けているのは、ウォークと呼ばれる触手の怪物。これを知っている猟兵は数少ない、しかし彼らが携える紫の触手。ここまでやってきたものにとっては何を、それが意味するのか考えるまでもないだろう。
 下卑た笑い声と、今度は生臭い雄の匂い。やってきた猟兵を見つめる彼らの瞳は、余りにも汚い。
 猟兵の侵入にも動じることはない。ただ、君たちの到着をまっていたかのように、彼らはただ笑い続ける。
 さあ、打ち倒せ。
 

●マスターから(以下、後に削除予定)
 おはようございます、三杉日和です。

 第二章は『ウォーク』との集団戦です。
 皆さんは同時に侵入したとしても構いませんし、それぞれ順繰りに侵入し、戦闘を開始するとしても構いません。
 同時に入ってきたから一緒に描写をする、というものでもありません。戦闘演出として、周りに誰かがいるかどうか、という程度の差ができる位です。
 同時演出など希望がありましたら、一言ございますと助かります。無くても合わせる可能性はありますが……。

 大変申し訳ありませんがリプレイを返すのは1月24日、もしくは25日からになると思います。
 また、第一章で全員この調子で返すのが中々に厳しいという事実が発覚してしまいましたので、多数いらっしゃる場合は、却下してしまう可能性があることをお伝えしておきます。
 私の遅筆が原因で進行が送れております、本当に申し訳ありません。

 以上となります、よろしくお願いしまします。
フランチェスカ・ヴァレンタイン
行動【POW】

さて――これだけ広ければ跳ぶには十分、ですわね? 三次元機動の【空中戦】で応戦致します
(機動の度に跳ねる【誘惑】的な【存在感】の胸部で)触手を【おびき寄せ】て囮役もできますかしら?

殺到する触手は斧槍で【なぎ払い】、【カウンター】で蹴払い、【見切り】【フェイント】等を駆使して迎撃致しましょう
周囲にある程度の数のウォークを引き付けましたら、上方へのループ機動から【UC】を発動、頭上からの砲撃の雨と斧槍でのトドメの一撃で根刮ぎ掃討致しますわよー

※アドリブ・他の方との絡み歓迎
※触手を捌ききれずに防具の破損で肌があちこち露出したり、一時的に絡み付かれて弄ばれてもまあ……それは不可抗力かと?


月宮・ユイ
アドリブ・絡み・連携歓迎
心の芯が折れない限り好きにどうぞ>PLより

触手に嬲られたせいか、体の感覚がおかしい
お腹の奥が常に甘く疼き、まるで雄が欲しいと蠢いて
体が酷く敏感になっているみたい

「この程度…」
快楽を欲する体を意志の力で抑え戦いに向かおうとする
自身で慰めないのは強がり故に…

武器:’星剣、暗器’
普段に比べ動きの鈍い体を補う為【根源識】を使用
”戦闘知識、視力”等技能も駆使して敵の動きを”見切り、カウンター”
ただ【根源識】のせいで、相手の興奮状態等詳細情報に加え、
失敗した際の結末や相手の想像下での自身への凌辱風景まで
読込・演算してしまい、嫌悪感とどこか期待に疼く体に苦しむ
それ故の失敗もあるかも…


アリア・ティアラリード
ビキニアーマー『メローラフレーム』
姫騎士の鎧は、性能に対し見た目は恐ろしい露出度で
未だ粘液まみれでヌルテカな素肌と合わせ全裸より【挑発】的
目前の魔物の群れを容赦なく発情させ【誘惑】し【おびき寄せ】るも
【勇気と覚悟】で迫り来る敵と対峙

その姫騎士の姿は、物言わぬ触手と違う
陵辱と言う意思に滾る数十の瞳に晒され隅々まで視姦される

触手肉洞が与えた喜悦の余韻に翻弄される身体は疼き戦慄いて
無意識に喉を大きく鳴らし、魂に刻まれた劣情に、期待に鼓動が高鳴る

迷いを振り払うように光剣が槍に変形【捨て身の一撃】《光煌刃衝角》
突進する彼女を無数の腕が、触手が一瞬で呑み込む
待ち受けるのは、彼女の淫らな妄想を遥かに超えた…




 下卑た笑顔を浮かべる豚頭。醜悪に肥えたその肉体は、果たして筋肉を内包する強靭な身体を作り上げていた。手にした武器は剣に斧、使い方のわからない魔導蒸気機械を握りしめ、彼らは一様に視線を差し向けニヤついている。
 当然といえば当然だろう。ウォークと呼ばれる彼らの行動原理は性欲にある。根源たる力を手に入れるため、ただ犯し喰らい、生物としての繁栄など知らずただ享楽に生きていた。種族の生存を後回し、ただ欲望に忠実に。彼らが淘汰されるのはごく自然なことであったろう。
 豚頭の視線の先。久しぶりの御馳走に涎すら垂らす目に映るのは、アリア・ティアラリード(エトワールシュバリエ・f04271)のあられもない姿だった。荒い息のまま、粘液に塗れた下着のような装甲は、ウォークたちの望んでいたものだったのだから。睨みつける視線に力が無い。それを理解している彼らは、例え相手が強力な力を持っていると知っていても、まるで意に介す事はなかった。
「その様な目で……!」
 見るものに目がなければ、それはただの水着。ボロボロに破れた下着、その代わりと言うには些か過剰な性能をもつその装甲。メローラフレームと呼ばれる、学園騎士科の特殊な制服であった。
 耐性を魔法技術に拠ることで、機動性を重視したその意匠は肌を大きく露出することで更に向上させていた。睨みつけるアリアの視線。しかし、ウォーク達は彼女の変化に喜びこそすれ、恐れる様子は一切無かった。
 粘液で濡れた肌、局所だけを隠したその姿は彼らの御馳走そのものである。手土産を持ってやってきた、その程度の認識をアリアに向け、ギラついた視線を素肌に刺しては笑っていた。
 強い憎しみを持って光剣を構える。ウォーク達はのそのそと、まるで散歩にでも行くかのように緩やかに足を進め、アリアをゆっくりと取り囲んでいく。
 そんな災魔達に眉根を顰め、視線を回す。相手の動きは隙だらけと言って過言ではない。視認できるだけでも十数体はある巨体だったが、光剣の柄を握りしめればまるで負ける気がしない。行ける、そう踏んだアリアの行動は早かった。
 取り囲まれるその寸前。近づくウォーク達の一体に低い姿勢の疾駆。視界から消えたアリアに慌てた豚頭の腹を一薙ぎすれば、その一合で事は済んだ。すり抜けるように足を伸ばしたのはウォークの背後。大きく裂かれた腹部から湧き出す赤い体液は、どこかで見たそれと似たような匂いであった。
 むず痒い感覚に肌を震わせるアリアの耳に入ってきたのは、ウォーク達の笑い声。下品に低い彼らの声は耳障りで、今まさに死んでいく仲間を見て心から笑っていた。
「何を笑っているのです!」
 これが彼らのはなむけなのか、ざわつく心を押さえ込み、ぬめる身体をもう一度低く。当たりを付けたウォークにその足を疾走らせ、今度は地から空への斬撃。回転を加えた一撃は、巨体を縦に割り、彼らの笑いをもう一度誘うはずだった。
 伸び切らない腕と、止まる動き。光剣はウォークの武器を裂き、その腕の一本を切り落としたが、それまで。背から生えた幾本もの触手が束ね、重なり、硬化していた。
 赤い体液を吹き出す眼の前のウォークは、痛む素振りすら見せず、げひげひと生臭い息を吐き出している。そして、無事だったもう一本の腕をアリアへと伸ばしてきたのだ。おぞましさか、それとも別の何か。ゾっとするような匂いにその身を固め、心の中だけで睨みつけるその視線。アリアの身体は、なぜか強張ったままだった。


「痛撃……爆砕っ!」
 薄明かりにかかる影。風切り音と共に鳴る武骨なまでの打撃音と、その直後に響き渡る爆破音。眼の前で爆ぜた触手の肉片にその身に受けながら、荒ぶる呼吸で胸を抑えていた。唾棄すべきその感覚が、なぜか全身に広がっていく。強ばるように固まった身体、その肩を強く握られ揺さぶられた。
「戦えないのなら、下がっていてくださいますか?」
 邪魔です、という言葉を遮るように、遠くから更にもう一つの声。固まったアリアの肩を引き倒し、純白の翼を携えた女は浮き上がる。スラスターが周囲を揺るがす風が巻き起した。そして、二度目の打撃音。振り下ろした槍斧が敵の背を捉えると、触手の根本を狙いすまし、断ち切るように弾き飛ばす。
 倒れたアリアの眼の前に、数本の巨大な触手が伸びていた。それは爆破とともに地に落ち、ぬらつく粘液を纏い転がっていく。
「早く、こっちへ!」
 遠くから頭を抑え、険しい表情を向ける一人の少女。月宮・ユイ(終焉に抗いしモノ・f02933)はよたよたと重たい身体を走らせる。アリア同様全身を粘液に濡らした、なぜか水着を着ている彼女ではあったが、オーク達の攻撃をまるで物ともしない。伸びる触手をすんでで避け、肉の地面に身体を転がしながら、手にした武器を振り抜いていく。ウォークの油断だろうか、一振りは巨体を舐めるように切り取ると、一刀両断を音もなく実現してみせていた。
 彼女の動きは、まるで結果が分かっているかのような緩慢とした動き。見切る、というより知っている。気怠ささえ感じるそれも、険しい表情が余裕さえ見せる動きを悲壮なものに変えていた。
 鳴り響く爆発音。それは数度連続で聞こえたかと思えば、ユイの声。『飛んで!』の言葉が聞こえた直後、抱えられた身体は宙を舞っていた。今まさにアリアが居た地上。そこには四方から絡む触手が撃ち放たれ、浮かび上がった二人を楽しそうに見るウォーク達の姿があった。
「こういう手合、好きではありませんのに」
 呟きの直後、突然の落下する感覚。風を頬に浴びながら落ちるアリアは、しかしその手に抱き留められたまま揺るがない。眼の前には、ウォークを刺し穿ち、切り裂いた直後のユイの姿があった。
 アリアの身を預けて、鎧装騎兵は軽やかなステップで半歩後ろへ。
「任せましたわ」
「任されました」
 言うが早いかもう一度。地を蹴り上げた身体に広がる大きな翼。フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は身の丈はあろうかという斧槍を携え、ウォークの群れへと切り込んでいった。


「私は……」
「いいから。まだ戻ることはできる……戦えなくなる気持ちは分かるわ」
 ユイはアリアの顔色を見るだけで分かってしまう。それが、肉の通路に囚われ続けた人間の顔だと。この広場はここまでの道のりほど強い臭気に満ちてはいない。その代わりにあるのは、ウォーク達のギラついた視線。疼きを覚える身体を蝕む、雄の性欲をぶつける強い視線。
 ユイが手にした星剣に残る、彼らの体液の匂いもそうだ。触手たちが持っていたそれよりも遥かに濃い同種の匂い。ヘドが出る、それと同時に甘い疼きを覚える自分の体が嫌になる。
「私は平気。これがあるから」
 頭痛を引きずる頭を指先で叩き、ユイは笑って見せた。二人が通ってきた肉の道、その方向を指さしながらユイは走り出す。今まさに猟兵が単騎奮闘するその戦線へ。
 頭部を狙う払うような一撃。それは巨大な謎の魔導蒸気機械だが、重量が余りにもいやらしい。それを躱すのを見越しているのだろう、身をかがめた身体を巻き取る数本の触手。粘液に塗れたそれが手足を絡め取り、自由を奪う。それが、同時に複数行われる。そんな未来を予測した。
 なるほど、シンプルながらも面倒くさい。フランチェスカのように飛べればいいが、羽のないユイにはいかんともしがたい。それならば……一寸早く身を屈めたユイは、全身のバネを一気に開放する。空中で回転する身体は、災魔たちが狙い澄ます位置を遥か下に見下ろす大跳躍を見せた。手にした星剣が凶悪に輝き、色めいて敵意を剥き出しに形を変える。
 既に武器を振りかぶっていたウォーク達はその軌道を無理矢理に変更するも、届かない。浮き上がった身体、目測していた地面へと伸ばせなかった触手達は、わらわらと精彩を欠いた動きで空へと向かっていく。
 空中で音もなく、飛び降りた先はウォークの背後。背後を確認するまでもなく振り払われる腕。一体の災魔を切り裂いた身に迫る触手の群れも、ユイはまるで視線をやることもない。手を出す必要がないのだから。
 激しい風切り音が鳴り、空を舞うフランチェスカの一撃が爆音と共に響く。ユイへと迫る触手は動きを止め、どくどくと脈打ち地に伏せた。
「……大丈夫ですの?」
「ええ、大丈夫よ」
 先程から、オウム返しのような言葉に不安を覚える。戦えないというのなら、ユイも大概ではないか。不安と言うべきか、心配と言うべきか。だが、今はその言葉を飲み込むことにした。


 出会ったのは肉の通路。少しばかり出遅れたフランチェスカが通ったのは、大きな四角い肉の部屋であった。そこに居たのは粘液に塗れた黒髪の少女。水着姿で赤ら顔、何をされたのかなんてすぐに分かるいでたちではあったが、先へ進む道が開かれた部屋。辺りに猟兵の姿はない、彼女が単独でトラップを打ち壊したのは明確であった。
 この先はわたしにお任せ下さい。そんな言葉が出るのは当然と言える。フランチェスカが見る限り、その身体は色に溺れかけている。猟兵と言えども少女だ、そんな身体を推して戦いに赴けなどどの口が言えようか。事実、必死で歩こうと足を進める度に漏れる甘い声は、聞いていられないほどに切羽詰まっている。おそらくこうして出会わなければ、ナニをしていたから分からないほどに。
「まだやれることはありますから……」
 全身から甘い香りを漂わせるユイではあったが、その瞳だけは強いままだった。必死でその疼きを抑え、いかに自身が戦力になるか。直接戦闘以外でもやれることがあるか。それを、ぽつぽつと語ったのだ。
 猟兵だから、という言葉。それは世界の行く末を担う強き存在の名前。フランチェスカは知らず微笑んでいた、足手まといにはならないでくださいね、と呟きながら彼女の肩を強く抱いていたのだ。
「だから!」
 ユーベルコード『根源識』。彼女が見通す全ての情報は、その感情と動作をつぶさに観察し、予測していく。ウォーク達の苛立ちが分かる。何をしたいのか、どんな動きをしたいのか。次にどんな行動をして、捕まえて、押さえつけて……刻まれるような頭痛に、声もなく呻くユイ。しかし止める事は出来ない。これがユイにできる現状最大限の支援であり、フランチェスカを戦わせることができる最良の武器なのだから。
 事実、フランチェスカはその手を止めないままにウォークの頭を叩き割っていく。ユイの声と共に弾かれるように飛び上がり、打ち付けた斧槍が爆破し、その勢いで次の戦場を駆け巡る。ウォーク達も戦いに慣れてきたのだろう、味方の死骸を踏みつけ乗り越え、硬化させた触手が攻撃を防ぎ始めていく。
 まだ戦える。強くなる頭痛の理由から目を背けたまま、ユイは力を使い続ける。下手をすればこのままジリ貧となるだろう。しかし、すぐに猟兵が駆けつける。アリアを助け、今一時の時間を稼げれば……。
 そんな思いは、割れる様に痛む頭と、直後にとろける快感の渦によってかき消されてしまうのだが。


 じ、とウォーク達を見つめる視線が甘く濡れる。粘ついた涙が瞳を潤ませると、今の今まで出せていた声が出せなくなった。殆ど同時に動きも止まり、伸びてきた触手に身体を明け渡す人形となる。
「ユイさん!?」
 そんな声も、遠く靄がかった耳には届かかない。ぞっとするような触手の数々、それぞれが何を意味し、どうなるのか。まるでウォーク達の感覚をその身に宿したような、女の身では味わえない恍惚の未来。抱き寄せるように絡め取り、一体のウォークへと押し付けられる小さな体。肥えた腹が水音と共に迎え入れると、そそり立つ剛直を押し当てながら抱きしめられた。
 先端が割れ、ヒトデの様に開いた触手。その中心には歯のように生え揃った小さな触手がうぞうぞと蠢き、吸い付いた相手を柔らかく噛み、揉みしだく。
 抱かれているウォークの背から伸びる触手は、野太い腕と同サイズの一本。先端数十センチにびっしりと生え揃った無数の瘤。ユイの頬に擦られ、その感覚と連動するように体の奥が引き締まる。
 円筒状の、細いとはいってもユイの腕ほどはあるその触手。先端に細かな穴が無数に空いて、それが相手を噛み、吸い付く。太さの代わりの数を誇るうねる触手は、ブラシのように肉瘤が生えた平べったい形。
 それらの使い方と、感覚。流れ込んでくる情報量は能力を解除した後もユイの頭を甘く蕩けさせていた。既に触手達にほぐされきった身体だ、あれよりも太く硬い……吐き出される生臭いウォークの息にすら媚を売りそうになる身体。理性がダメだと言った所で、蝕まれた本能が身体の自由を奪ってしまう。
 握られる髪、向けられる顔。上に向いた視線が豚の頭に刺さり、自然と腰を前に突き出す。長く脂ぎった舌がユイの口へと差し込まれるものの、それを恍惚として受け入れた。ざらつく舌、擦れる感触。雄の、野生の匂いに揺れる口が、ちゅ、ちゅと音をたててその舌にすいついていく。


「離しなさい……この!」
 それは殆ど一瞬のこと。ユイの動きが止まったかと思えば、目の前でウォークに抱きしめられ口づけを交わしている。何が起こったのか、予想はつけど確証はない。いくつか思い当たる原因があるものの、それを悠長に特定している暇など与えられないのだ。
 殺到する触手。ユイを驚異とみなさなくなった瞬間、敵の動きは苛烈さを増していった。まずはその羽を絡め取ろうと伸びる無数の腕。そして、それと同時に豊満な胸を見定めるような視線を浴びせ、彼女の衣服を打ち破る素早い殴打。
 今のタイミングであれば、一度猟兵の到着を待ち撤退することも可能だろう。しかしそうなればフランチェスカを囲むそれら全てが、捕まったユイへと牙をむく。道中で知り合っただけの仲だ、少しの時間共闘しただけの赤の他人。無理に戦いに出たのは彼女の自己責任、勝利を確実なものとするなら一度引くべきだろうと彼女の理性がそう叫ぶ。
 大きな噴射を一つ、浮き上がる身体が宙を舞うと、更に上へ。視線は通ってきた肉の道、その通路の出口。そこに見覚えのある影を見つけ、小さく歯噛みをする。ほうほうの体のアリアがそこに立ち、戦いの様子を見守っているのだ。
 逃げたほうがいい理由が出来てしまった。彼女の連れ、一度回復に戻る。おそらく勝率だけを見るならばそれが一番だろう。だがそれは、ユイを見捨てるという事に他ならない。
「あなた!」
 空中で姿勢を制御し、フランチェスカは乞い願う視線を強く向ける。
「戦えますね!」
 それは頷くことを期待した、懇願のような言葉。ビキニアーマーの少女は己が武器を握りしめ、大きくうなずいた。
 よし! 声もなく叫ぶその身体は、折りたたんだ羽が鋭角に尖り、風を切る。
 ウォーク達の触手の群れを、打ち払い、切り結ぶ。目前へと迫ったそれを膝で打ち返し、錐揉みしながら、ミサイルさながらに突っ込んでいく。
「さぁ!」
 踊りなさい! 打ち込まれる砲弾の嵐。反動を逆噴射のスラスターが受け止めながら、足元に迫る災魔を砕いて落とす。醜く肥え太った醜悪な肉を弾き、爆ぜ、殺す。肉の地面を削りながら、爆炎と轟音を響かせる彼女の身は弾丸の様だ。
 ユーベルコード『九天穿ち 灼き撃つもの』。焼けていく砲身を気にすることもなく、フランチェスカは目に入る敵を一掃せんと銃口を向け、地に降り立ったその勢いのまま、槍斧を振り抜き敵を切り潰していった。
 細かなダメージなど気にする事はない。纏ったフィルムスーツが細かに破れ、傷と共に肌が露出していく。その度に揺れ、震える大きな胸にウォーク達は湧いていた。まるで緊張感のない、戯れのような行動。
 振り抜いた槍斧が、着弾と同時に炸裂する。一撃で背中の触手を裁断し、衝撃は醜い身体を転がし絶命せしめたのだ。
 降りかかる大量の体液を受けた身体は、浮かれたような熱を持っていた。歯噛みと共に堪える疼きに、フランチェスカは自身の肩を抱きしめる。薙ぎ払う触手も、ユイの援護を欠いたその一瞬は囮と気付くことさえ出来ない。
 切り飛ばした触手の先端を見送る視線は揺れ、全身を覆う熱い粘液の感触に驚いた。ひ、と情けない音を漏らす口を結びながら、吐きかけられる生臭い息に顔をしかめながら。ニヤつく豚頭に、心からの恐怖を感じていた。


 握り締める光剣を胸の前。支配されそうな快楽への欲求を胸の奥に押し込み、アリアは今一度戦場へと足を運んだ。幸いと言うべきだろうか、ウォークの群れの殆どは前線で戦う二人へと集中している。チャンスと呼ぶものがあるなら今しかない。
 高鳴る鼓動を押さえつけ、緩む顔を引き締める。アリアの視界に入ったのは、今まさに翼を触手に掴まれ、飛ぶための力を奪われるフランチェスカの姿。
 構え、切っ先を向ける。その力を強く意識し、目標全てを狩るために……踏み出した。
 ユーベルコード『光煌刃衝角』。一歩、二歩。そして三歩目を踏み込む頃には到達する超高速。アリアの周囲を覆う光の衝角が、空気を受け流し加速のための邪魔を刈り取り、打ち消して進ませる。
 一瞬で膨らむ一団の影、触手に拘束された二人を助けるその一撃。真っ直ぐに貫いた光剣がウォークを切り裂き、覆う衝角がウォークのみを打ち貫き、巨体を砕いた。辺りを包む衝撃の余波は風を巻き上げる中、呆然と立ち尽くす二人にアリアは手を伸ばす。
「私にだって、やれることくらいはあります」
「……覚えておきますわ」
 フランチェスカは粘液を纏った翼を大きく開き、張り付いたそれを払う。甘い息を上げながら険しい息をあげるユイを抱きしめ、一時の平穏をもたらしたアリアに目を伏せた。頷くアリアの様子を感じると、鎧装騎兵はボロボロの羽から轟音を響かせ、飛び去った。
 追いすがる災魔へと向けられる光剣。油断さえしなければ、少なくともアリアの手にあまる敵ではない。それを示すように切り裂かれる巨体は、体液を吹き出し崩れ落ちていく。フランチェスカ自身も戦えるはずだ、このまま一時的な撤退も一つの手だろう。
 ただ、問題は残っている。これほどの力を見せても、未だ大群を維持し寄ってくるウォーク達。アリアは光剣の柄を握り、二人が遠のく音を聞き、そして高鳴る胸を必死で押さえつけていた。
 漂ってくる体液と、粘液と、香ばしい彼らの吐息。全身に走る悪寒は甘い痺れをもたらし、背後から迫る触手を切り払う腕の力を弱めてしまう。ニヤつくウォーク達の視線が一層強く刺さり、何をしているのだと叱りつける頭が桃色に染まっていく。
 ユーベルコード『光煌刃衝角』。もう一度、その力を完成させようと構えた光剣。握りしめる腕が、あっさりと触手に絡め取られた。ぬめる、しかし力強く硬い触手の感触にときめく感情が、発生しかけた力を霧散させ……憎しみを込めた甘い視線を、そのウォークへと向かい叩きつけた。
 そんなアリアを飲み込もうと広がる触手の群れに、彼女は為す術も無かったのだ。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

黒玻璃・ミコ
◆心情
むはー危うく練り餡になる所でしたね
しかし、あんなことはそうそうありませんよね(フラグ)

◆行動
【黒竜の災厄】で攻撃回数を重視です
ばーんと怪しげな扉を開けてミコさん、華麗に登場です
どんな強敵が居ても【毒使い】によるフェロモンで【おびき寄せ】て【カウンター】でいちころで……
おや?アレなるはウォーク、しかもやたらと興奮してませんか?
いくら私が百年に一人の美少女ブラックタールとは言え
そんなに熱狂的に飛びかかって来なくともー

ひゃー私はボールや玩具、ましてやローションではないのですよー
すべすべお肌がー汚されるー

◆補足
引き続きコミカル枠
他の方との連携も大歓迎
特にルナ(f05304)さんが居ればご一緒に


秋月・信子
「視界が…ぼやけて…」

肉の迷宮で吸い込んだ甘い臭気と同じモノが漂う中で思考が鈍り視界が霞む…
徐々に再び熱を帯び始める吐息、アルダワ魔法学園とは異なる制服姿、その制服に隠された豊満な果実はウォークは見逃さない。
覚束ない足取りの彼女は触手乱舞に難なく捕らえられ、迷宮の触手を思い出される様に弄ばれるだろう。
引き寄せられると離そうとしかけた銃を強く握る。
そう、魔弾を確実に中てる距離、この時を待っていた。
「…この距離、なら…っ!」
快楽で混濁する意識から正気を振り絞るように真の姿を解放して、眼を蒼く輝かせながらユーベルコード【接射】でウォークに魔弾を撃ち込みます。
(誘惑2、毒耐性1、真の姿解放)


ルナ・ステラ
(ミコさん一緒に付いてきてくれて、ありがとうございました...)
が、がんばって次に進みます!

うぅ...変な匂いがして、臭いです...
あれは、豚さ...触手!?

何でこっち見て笑ってるの?
不気味です...

きゃあ!!
ぬるぬるするよぉ...
服が...!?
(恥ずかしいです...)

ひゃん!!触手が纏わりついて...
気持ち...悪いです...
だめ...!!触らないで...
(気持ち悪いし、怖いよぅ...)

(怖い。怖いけど諦めちゃだめです!!勇気を振り絞って戦わなきゃ!)
コメットブースターやUCで触手を吹き飛ばそうと思います!
うまく、振り払えたら、反撃にも出ようと思います!


アドリブ・絡み等歓迎です




「いやー、練餡になる所でしたね……」
「紛らわしいこと言うの、禁止ですからね?」
 黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)を腕に抱いたルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)が、その大広間に足を踏み入れたタイミング。不意打ちめいて一際大きな嬌声が響き渡った。とっさに伸ばしたブラックタールの黒い腕でもってルナの耳を塞いだものの、少しばかり遅かったようだ。
「ねえ、ミコさん。今のって……」
 ルナの視線の先には、ウォークの集団が一塊になっている様子が伺える。目を凝らせば、せっせと腰を振り恍惚に歪む顔を何者かに寄せている豚の顔が見て取れただろう。
「ミコさん、見えない」
 耳栓の次は目隠し。忙しない動きは一時的な情報遮断に役立ちはしたが、それがどうしたとばかりに強く腰を押し付けるウォークの姿。直後に響き渡る吐き出すような声は、ミコの腕を伝いルナへと辿り着いていた。
「……ミコさん」
「ええ、分かっています。こんなものは無意味です。まずは私が切り込みます、ルナさんは隙を見てあれを潰して下さい。ああ、なんてシンプルな作戦……」
 こんなものを作戦と呼ぶかは別として、誰かがあの災魔の集団から人間を救わなければならないというのは確実だった。危ない、等と言うレベルではなく、常に進行形の危険な状態。少なくとも、放っておくことなど出来ない状況。
 囚われているのが何者であれ、動き出すなら今しかない。一瞬だけ頭に浮かんだ情操教育という言葉を頭から振り払い、ルナの手元から飛び出したミコはぴょこぴょこと災魔の集団へと近づいていった。
 丸い体をくねくねと縦に伸ばし、ののほんとした表情はそのまま、あはんあはんとわざとらしい声。熱狂の只中に居る災魔達はそんなブラックタールに気付くこと無く、転がした金髪の女性を延々と貪っていた。全員の視線は彼らの餌に向かい、うねうねとセクシーポーズを取るミコを見るものなど居ない。
(あれ、これすごい敗北感ですね?)
 ぴょんこぴょんこと更に近づくその姿。振りまくフェロモンが漸く届いたのだろう、振り向く一体の災魔。順番が回って来ない、とギラついた目を血走らせ、黒いスライムの様なそれを視界に収める。どろりと溢れた唾液が臭い。なんだってこんな相手に色目を使っているのだろう。彼らの醜悪な見た目がミコの頭に冷静さを取り戻させた。
 じろり、と見つめる視線が増える。それは順番待ちの最後尾。眼の前に使える玩具があると言うのに、未だ使えない欲求不満を纏った目。
 ぞ、と悪寒が走る。敗北感、などと言っている場合ではなかったのだ。


 気が気でないのはルナである。意気揚々と飛び出したミコは、ここが敵地であると忘れたように無防備な姿を晒し、災魔の気を引いている。あの体を多少どうにかされた所で問題はない、そう聞いたとしても心配の種が無くなる訳ではないのだ。
 また一つ前に出るミコ。うねうねと身体を伸ばしながらアピールするその姿は、可愛らしいがどうにも頼りない。強い弱いではなく……作戦は成功するのだろうか、という頼り無さ。
「……ミコさん!」
 そうして、漸く彼女は目的の一端を果たせたようだった。更に近づいたミコを、一体の災魔がむんずと捕まえる。興奮気味に眺めるその災魔は、手の中で硬さと柔らかさを確かめ、腰の方へと持っていく。
「……ミコさん?」
 そういえば、作戦の合図もなにも決めていなかった。気をそらし、蹴散らす。余りにも単純なものではあったが、何をもって彼らの気を散らすと定義付ければいいのだろう。ミコが捕まった今も、彼らの様子に変わりはなく見えた。
「……ミコさん!?」
 被害者が一人増えてしまった、そんなルナの想定は的中している。ミコ自身の油断があったのは確かだろうが、二次遭難となっては余りにも格好悪い。大部屋の入り口に身を隠していたその影は、居ても立ってもいられない様子で駆け出した。
 浮き上がる箒にまたがるルナ。蒸気機械を搭載した魔法の箒は、唸りを上げながら速度を増していく。一直線に飛び込む小さな影の速度は凄まじい。災魔に囲まれてしまっている要救助者は仕方ないとしても、ミコだけはなんとしても……。
 ブラックタールのスライムに対する情欲を、あっさりと超えた視線がルナに突き刺さる。睨み返す瞳は涙が溢れ、伸びる触手の群れを躱す箒の勢いは、余りにも強かった。
 どん、とぶつかる感触は、災魔の膨れ上がった腹のクッション。粘液とも違う汗の感触。近づいて初めて分かる生臭い香りは、ここまで甘い匂いに慣らされた鼻にとって脳を揺さぶる感覚をもたらした。
 嫌悪感が滾って仕方ない。いやだ、と逃げ出そうとした小さな手をオークが掴む。触手が腰を巻取り、伸びた先が衣服を簡単に破り捨てると、幼い肌が外気と彼らの視線に晒された。
 息が止まる、涙が零れる。視界の端にある黒いタールは、複数の災魔に引き伸ばされ、各々の玩具となっていた。


 そんな大広間へと、また一人の猟兵が足を踏み入れた。既にあられもない声と泣き声、肉の道では聞くことの無かった水音がその部屋では響いている。耳に入るだけで思い出す甘い甘い誘惑。鳴き声を上げる彼女達を、心のどこかで羨ましいとすら感じていた。
 秋月・信子(魔弾の射手・f00732)はボルトアクションのライフルに弾を込め、声もなく撃ち放った。再装填、飛ぶ薬莢を横目に、二つ、三つ。阿鼻叫喚とも言える広間に響く銃撃音だが、信子の手に明確な手応えは一つとしてない。震える手と高鳴る心臓。甘い誘惑が心を揺らし、信子の手元を狂わせていた。
「視界が……ぼやけて……」
 浮かぶ涙が視界をぼかし、下卑たる笑い声は耳を蕩けさせる。殆ど自動的に浮かぶ期待感は、余りにも濃い臭気を吸い込みすぎたせいか。考えたくはないが、これが自身の本性なのか。
 豚頭共の姿は美醜を論ずるに値しない。それは分かっている。わかっているはずなのに……。
「……やめ、ろ」
 抵抗する気力がない、と見込んだのだろう。ずるりと伸びる複数の触手が信子の胴体を絡め取るも、まるで反抗など出来てはいなかった。引き寄せられ、吐き出される息を鼻が嗅ぎ取ると、嫌悪感を上塗りする期待感を覚えてしまう。やめろ、心の中でもう一度唱えた言葉。それは、触手の先端が信子の口を占拠してしまったから。
 見慣れない制服、濡れた身体に熱くほてった顔。ニマニマと見つける災魔の表情、彼らはその異世界の衣装を好ましく思っていたようだ。
 だぶついた脂肪の奥に感じる、強く硬い筋肉。これはオブリビオンだ。敵だ。陰惨たる思いを抱きなながら、不躾に触れる彼らの乱暴な指使い。気まぐれに揉みしだかられる胸の感触に流され、信子は次第に意気を落としていった。


 練餡となったミコが、ルナの身体に塗りたくられていた。多少なりとも形を保っていたブラックタールだったが、ウォーク達による念入りな触手マッサージを受けた結果、物言わぬローションの様なものになってしまったのだ。
 手足を拘束され、幼い身体に擦り付けられるのはマグマのように熱い剛直。ウォークの吐く息など比にならない生臭さの液体は、ミコ越しのルナの腹に押し付け、刷り込まれていた。響いていたルナの泣き声も、今は既に収まっている。口に差し込まれた細い触手が、その舌と口蓋をブラシめいた先端で撫で解し塞いでいたから。
 仰向けに寝かせられているルナの上に、投げ捨てられた一人の猟兵。アルダワ魔法学園では珍しいセーラー服は生臭い粘液を塗り込められ、マーキングされた彼女はミコを挟みルナへと覆いかぶさっていた。
 猟兵のブラックタールサンドとでも言うべきだろうか。ルナにとっては素肌、信子にとっては衣服越し。数体の災魔は棍棒の様な剛直を二人で挟みながら、げふげふと耳障りな喘ぎ声と共に腰を振っていた。
 二人の間で広がっていく匂いは筆舌にし難く、信子の目の前のルナなど声もあげられないまま泣いている。口内を弄ぶ触手の感触を未だ心地よく感じていないのだろう、信子とは違いその匂いに明確な拒否反応を示している。
「くそ……」
 羨ましい、などと言えるわけもない。こうして焼けた鉄のような剛直が、服越しとは言え身体を這い回っている。前後する毎にどぷどぷと溢れてくる粘ついたそれが、人と同じであれば何なのか知らないほど初心ではないのだ。
「何を考えて……」
「何を考えているんですか?」
 独り言に返される言葉に、きゅっと心臓が縮まり冷や汗が全身を覆い尽くす。眼の前で泣いている少女は未だ口を犯され、すぐにでも訪れるであろうその時の準備を行われているはずだ。ならば、どこから。
「いえ……ですから、何をお考えでしょうか? 窮地です、脱する手はありませんか?」
 開いた瞳孔が狭い視界を這い回り、その音源を探し出そうと右往左往。そんな視界に、ぬるりと伸びてくる黒い影……いや、塊。淫蕩な場にそぐわないのほほんとした声色は、この現実感のない状況をさらに現実離れさせてくる。
「いや、あの……え、なんなのあなた」
 いやあ、と照れくさそうにはにかむ表情も、災魔達の動きに合わせてずるずると動いていく。そんな会話と今の状態。すり合わせると、置かれている状況というのが明確になってきた。


「一か八か、ルナさんのあれがあれしたときにオブリビオンのあれをブラックタール式ギロチンであれしてやろうと思ったんですが。まあ、失敗したらあれじゃないですか?」
「いや……何かエグいですし、嫌ですねそれ」
 セーラー服に塗り込められたのは、ミコの身体と彼らの体液。同樣にルナの身体にも擦り付けられ、滑りを良くする潤滑油として使われている。段々と甘い声を出し始めたルナの様子を心配するミコは、どうにも焦ったように、しかしゆるい喋り方はそのままに信子へと助力をと願い出ていたのだ。
「大暴れするにも、近すぎると被害を与えてしまいますし。上手いことやれる手はないかと考えているんですが。こう、身体を使われている状況ですと、難しくてですね」
 こうして放している最中も、ところどころ途切れる言葉が多々ある。それは彼らが腰を突き出し、身体を強く撫でこする時。悍ましさと快感に濡れる信子ではあったが、ミコはそれ以上に純粋な衝撃を身体に受けているのだろう。
「ええ、大丈夫。あなたと話せてよかったわ、少し冷静になれました……ルナさん、守ってあげて下さい」
 快感に向かう思考が身体を熱くたぎらせている。それは間違いないが、彼女の語り口が微かながらも冷水を浴びせてくれた。眼の前で嬲られる少女を見て、羨ましいなどという浅ましい考えを持ってしまった自分を恥じ、敵の思い通りに使われるなどと言う屈辱を甘んじて受ける訳にはいかない。
 当たり前ではないか、と目に光が灯る。意識を変えれば、身体の下で蠢く熱い塊がどれほど嫌悪を催すものかと思えてくる。くすぶる熱はあれど、猟兵としての思いを踏みにじれるほど強い感覚などそうはない。
「……この距離なら……!」
 そして、もう一度強く腰を押し付け、粘液に塗れた身体が水音を立てたその瞬間。災魔の油断を誘いきったそのタイミングに、信子は本来の姿を取り戻す。そして、完成した力を解き放った。


 ユーベルコード『接射』。蒼く輝く瞳は移ろうこと無く一点を見つめ、三人が密着したその隙間を見通した。硝煙の匂いが微かに広がり、直後に弾ける赤い体液と轟音が鳴り響き、弾ける。抜き放ったハンドガンから放たれる銃弾は、寸分の狂いもなく災魔の股ぐらを貫いた。
 同時に数度鳴る音は、災魔に同様の被害を与えて見せた。たじろぐ彼らは股間を押さえ、視線を向ける信子の指が引き金を引く。殆ど隙間のない銃声は、その見た目からは想像出来ないほどに大きかった。二つの穴が額に空き、ばたりと倒れるウォークを踏みつけ信子はライフルを振り回す。
 どん、と更に強い音は大砲を思わせるほど。同時に倒れ伏せるウォーク達を見渡し、薬莢を飛ばす。
「さあ、暴れられますか?」
 拘束を解かれたルナが立ち上がり、肉の地面にぐずぐずと広がっていたミコが徐々にスライムめいた形を取り戻す。
 涎をだらだらと零しながら、口内で感じていた微かな快感に恐怖を覚えていたルナ。うー、と唸るその顔は怒っているのだろう、赤く染まっている。対してミコはのほほんとした表情を崩さないものの、やる気を示すようにびょんびょんと伸びては縮みを繰り返していた。
「ええ、大丈夫です。ルナさん、いけますか?」
「ほんとに、気持ち悪かったんですから……!」
 背にした二人の声色は、どこかのんびりとして微笑ましい。即座に装填される銃弾がその直後に撃ち込まれ、本来の姿を取り戻した信子の銃声が邪魔してしまっている。うるさいのだろう、段々と大きくなる二人の相談の声は、声量に応じてヒートアップしているように感じられた。
「いえ、あの。落ち着いてくださいね? さっきまでの感じで構いませんから……」
「ほんとに、ほんとに!」
 信子の背後から高まる二つの力。にやつく頬をそのままに、手早く再装填を行うライフルは更に轟音を響かせた。既にこの場の主導権は、三人の猟兵が握っていたのだ。


 ユーベルコード『スチームエンジン』。本来、搭載された箒の移動速度を飛躍的に上げ、攻撃回避共に一段も二段も上へと引き上げる加速装置であるコメットブースター。魔導蒸気の煙を上げるルナの箒は、そんな本来のものとは違う強大な力を発揮し始めていた。
 そんな気配を見逃すほど災魔たちも馬鹿ではない。銃声とともに倒れ伏していく仲間などお構いなしに、硬化させた触手を抜き放つと、前後左右覆い尽くすように紫色の肉塊を殺到させた。
 ライフルの轟音と、ハンドガンの銃声。その口径からは考えられない程の火力を見せる信子の銃撃も、多勢をたった一人で相手取り、全ての敵を片付けられるほど圧倒的なものではない。ルナへと向かう触手を撃ち落とし、切り落とす事が出来るものの、撃ち漏らした数は少なくない。
 目を閉じ、箒を掲げる少女の姿。集中するその精神は白く溶け、内に秘めた力を組み合わせ、強大な魔力に指向性をもたせている。そんな最中。迫る紫の肉塊は、黒い触腕が打ちのめし、弾き飛ばしていく。
 数十はあろうかという触手の群れを、小さな黒いスライムたる黒玻璃・ミコの身体が的確に撃ち落としていた。みょんみょんと上下させていた身体は一気に膨れ上がり、伸びる黒い腕達は本来の質量など無視する様に、縦横へと広がり一斉に触手に襲いかかった。
 ユーベルコード『黒竜の災厄』。粘液が弾ける水音と、質量のある物体同士がぶつかる打撃音。中心で伸び縮みしながら「いあいあ」と唱えるミコの顔は未だ穏やかではあるが、無数の腕はせわしなく、しかし的確に彼らの攻撃の手をルナから守り通していた。
 切り落とす火力とと守り通す手数。十秒に満たない攻防が果たしたのは、この戦闘を終わらせる痛恨の一打。
 ユーベルコード『シューティングスター』、箒を振り下ろしたルナの瞳が開かれると、一面に咲く星の花が姿を現した。大小様々な光が三人を取り囲み、安らぐような柔らかな熱を注いで回る。くるくると揺らめき瞬く星たちは、明滅を繰り返し光を放っていた。
「おーばーきるでは?」
「しりません!」
 すまし顔が赤く染まり、集中の際に取り除いていた怒りが姿を現した。そんな感情に左右されるのだろう、周囲を取り囲む星は更に強く光り、ルナを中心に公転を初めた。初めはゆっくりと、迫る触手を触れた側から蒸発させて、それは早まり広がっていく。
 二つのユーベルコードを組み合わせた、その強力すぎる一撃。ウォーク達は、弾け飛んでいく自らの触手を見ながら笑い、手にした武器を振りかざした。触れ、弾かれ、消えていく。げらげらと大笑いを繰り返し、欲望に塗れた視線を三人へと突き刺しながら……周囲の災魔は、その光へと突撃を開始したのだ。
 間もなく、戦いは終わりを告げる。三人を取り囲んでいた十数体の災魔達は、物言わぬ肉塊へと姿を変えたのだ。残るのは、怒りを通り越し怖かったと思い出したルナと、それをなだめるミコ。そして、体液に塗れた黄金色の髪をした猟兵を背負う、信子の姿であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

白皇・尊
アハ…アレを超えた先にこの濃厚な雄の香り…あぁ…欲しくなってしまいます…。
お尻が精気を求めて疼き、僕はフラフラと雄の元へ…誘惑して、雄豚に為すがままにされ、それでも貪欲に吸精して。
「あふ…あは…あっ…ああ!」

存分に精を取り込んだら、反撃開始と行きましょう。
「ふぅ…そろそろ消えてもらいますよ、僕には時間がありませんからね」
女生徒達との無責任な交わり、露見すればただでは済まない…猟兵として皆さんに迷惑はかけられません。
全力魔法で百鬼夜行を呼び出して総攻撃、反撃を受けても吸収した精気を霊力に変換して数を増やし、物量で押し切ります。
「1匹くらい残して持ち帰りたい所ですが…そんな場合ではありませんか!」




 突き上げられる身体が乱暴な調子で浮き上がり、同時に広がる感覚が押し上げられる臓腑の苦しさを補って余りある程の快感となり埋め尽くしていく。肌蹴た和服から覗く白い地肌は火照ったように染まり、そんな色を際立たせる粘液がべったりと張り付いていた。
 濡れ光る身体はなお淫靡に輝いて、伸ばされた舌が這いずり回る感触を強く印象づけていく。間断なく、しかしスローペースなその動きは確実に快感を生み出している。自身の腕程の直径はあろうかというモノも、受け入れてしまえば何のことはない。まるで自身が雌にでもなったような気分だった。
 白皇・尊(魔性の仙狐・f12369)は、今まで抱いてきた女のような声を上げていた。初めこそ痛みを感じていたその行為も、彼らの技術か粘液の作用か。ざわつきの渦が脊椎を囲み押し寄せ、砕けた腰は余りにも簡単にその感情を受け入れたのだ。深く刻まれる眉間の皺は、想像もし得なかった暴力的な快楽に対するせめてもの抵抗。打ち付けられる感覚が広がる度ににやつき開いていく口が、そんな表情の意図を全て逆に変えてしまってはいるのだが。
「あふ……あは……あっ……ああ!」
 広がりきったその感触は受け入れてしまっている。人ならざるものを体内に取り込みながら、なお疼き欲する自身の感情のうねりは余りにも現実離れしていた。もっと、とせがむように腰を振り、目の前の豚面が応え突き上げる。漏れるのは甘い甘い呻き声、男ながらに男に媚びた音に気を良くした豚面の災魔は、オレのものだと主張する様に尊を抱きしめる。
 ふくよかな身体に抱きしめられ、息苦しささえ覚える生臭いさ。平時であればこれを気持ち悪いと切って捨てる事もできようが、今の尊にそう断じることは出来なかった。
 んっ、と強く上がる呻きにはにはちみつが振り掛けられていた。例えばそれを尊が聞いたとして、拒絶の意思を感じることなど到底出来やしない。奥を抉る動き、浮き上がった身体は体重の全てを一箇所に乗せ、揺れる足がポイントをずらしては体の芯を蕩けさせていく。
(時間がない、分かっているはずなのに……これは、ちょっと……)
 なんの考えもなしに使われているわけではない。突き穿つそれが強力な……しかし邪悪な精をもたらし、こうしている間にも尊の身体を潤わせているはずだった。触手相手にすら耐えたのだ、災魔とは言え男一人に抱かれるなど造作もない。
 あられもない声を上げ、思考はゆるゆると霧散していく。時間が無い、とそれだけを芯に残しながら、災魔の一突きで直前の考えがどこかへ飛んでいくのだ。自らの精を放ちながらも、未だ滾ったままのそれに馳せる思い。それは猟兵の生とはかけ離れた淫蕩なものであった。


 張り裂けそうな圧迫感が腹部を満たし、しかしどこか恍惚に広がる熱はマグマの様に熱い。何度意識を手放そうかと考えたまぐわいは、漸く終わりを迎えた。
 収まり切らない体液が吹き出る感触すらも心地良い。汗臭くぬるつく豚頭の身体も、抱き慣れれば何のことはない。何度も求められるままにキスに応じ、弾力のある舌に吸い付き、舐めあげ……齧りついた。
 ぶち、と千切れる音は耳障りに鳴り響き、肉厚な災魔の舌を裂いた後には止めどない血飛沫が吹き上がる。白い髪、火照った顔。そこに塗り重ねられる赤い体液は、尊の笑みを誘った。先程まで愛していたと言っても過言ではなかった災魔の舌は、口の中でコロコロと蠢く玩具に変化する。吐き出した口は体液に塗れ、釣り上がる口の端が彼の愉悦を現していた。
「いやいや、危ない所でした」
 抑えた口からも流れ続ける赤い体液。災魔と言えど痛みを感じるのだろう、先程まで快楽をもたらしていたはずの尊に向ける視線は憎々しく細まり、睨みつける。それが尚好ましい。忘れているのではないか、猟兵はお前たちの敵だということを。
「ふぅ……そろそろ消えてもらいますよ、僕には時間がありませんからね」
 そう、何よりも時間が無い。こんな場所で淫行に耽り時間を掛けてしまえば、女生徒との情事が露見する可能性が高まってしまう。例え露見したとして、その場に居合わせないというのは最低限。彼女たちを一端追い払っている今こそが最大の好機と言える。
 ユーベルコード『百鬼夜行』、心地よい敵意を受ける男の周りに、花がさくように開いた妖怪変化達の群れ。騒がしく踊り狂う彼らは百を超え、げひげひと笑う災魔達に負けない雄叫びを上げた。
 指示を出すまでもない。眼の前に立つ豚面の災魔は数秒と持たずに埋め尽くされる。色とりどり、大きさ形も様々な彼らは、思うままに災魔を貪り食う。頬、あるいは腹肉。打ち付ける触手に消える者も気にせず、手にした武器を振り払い、噛みつき、蹴たぐり、切り裂いた。
 断末魔は一瞬だった。減っていく質量に上げた声も、破られた喉が空気を吐き出すと、それ以上耳障りな音は聞こえてこない。よろめき倒れていく災魔に食らいつく妖怪達と、戦果を報告するように肉を掲げ踊り明かす妖怪達。満足気に頷くのは尊である。よし、と小さく呟くと、視線をぐるりと回して見せた。


 血に染まった妖怪達の笑みはおぞましく濡れ光り、けたたましい笑い声は災魔達の笑い声と相まって、さながら地獄の様相を呈していた。吹き出す血飛沫が視界を染め、打ち付ける触手と武器が妖怪達の身体をひしゃげ、潰していく。
 一体を相手にするだけならば事は簡単だろうが、続々と集まってくる災魔の数には際限が見えない。彼らを相手取るに、物量で攻めると言うには些か物足りない数である。
 しかし、今はそれで構わない。尊の視界の端に見えた、きらびやかな光の渦。災魔達を巻き込み地面すらも削っていくその火力は、目の前にたむろする豚頭たちとは全く別種。猟兵の力が生み出した奇跡だ。
「1匹くらい残して持ち帰りたい所ですが……そんな場合ではありませんか!」
 数を減らした百鬼夜行、その間隙を縫い走り寄る一体の災魔。手にした大斧を両手で振りかぶると、力の限りをもって振り下ろす。
 素直に玩具として使われている間は構わないが、そうでないなら必要ない。続々と集まりつつある猟兵に女がいると分かっている彼らは、聞き分けのない尊を殺す事に決めたようだ。
 振り下ろされる斧、錆びついた先端は尊の頭蓋を狙い空を裂き、そして弾かれる。
「あぁ、惜しい……」
 血にまみれた凄惨な笑みを、結界によって阻まれ体勢を崩した災魔に向ける。中空に固まり、微かな光を放つ特殊な霊符。二度目に行われた横薙ぎも同様の光が弾いて見せると、尊は小さくため息を吐いた。
 それは言外の合図、哀れみの吐息。もう一度体勢を崩した災魔を囲む小さな妖怪達の姿に気付くのは、一つ目が喉笛に噛み付いて漸くのこと。再度弾ける血潮の霧を、尊は全身で浴びながら微笑んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

虚宮・空
触手や肉壁を食い千切り、粘液塗れになって無事に済むだろうか
あり得ない

淫毒ごと解毒もせずに肉を喰らって、体表からもじわじわと染み込むんだ
迷宮を抜けた時にはもう理性が蕩けて身体の疼きも凄いことになってるだろうね

オルタナティブダブル……私のサポートを。
その命令を分身は忠実に実行するだろう
でも敵を倒す援護じゃない
この身体の昂りを鎮めて……違う、呑まれたいという意識しない様にしている深層の望みのサポートを
命の危険がないとわかればウォークと協力すらして

なんでそんな笑みを…?
クソっ……豚がそんな視線を向けるなぁ……っ!

※オルタナは本来なら擦り切れた無表情
ここぞとばかりに精神UDCが表層に出てきた

アドリブ歓迎




 重たい足を引きずり、石壁に身を預ける影があった。全身を覆う倦怠感と奥底から湧き上がる熱を堪えながら、雫が浮かぶ瞳をじっと前へと向ける影。
 燃えるような息、冷える粘液を浴びながらなお発熱する身体。湧き出る疼きの正体を知りながら目を背け、ただ真っ直ぐに、目指すべき場所へと歩き続ける。辛うじて着ていると言えるレベルの衣服を身にまとい、全身を濡らしたその身体は赤く染まっている。いっそ悲痛とも言える状態であるはずの表情は、淫靡に輝いていた。
 虚宮・空(孤心融界・f12710)は己が身を呪った。本来であれば最大級の力をもって敵を粉砕するユーベルコード。事実彼女の能力は肉の通路をまかり通り、討ち果たし進む事が出来た事で実証している。問題は、その方法にあった。
「なんだってこんな……」
 災難とでも呼ぶべきであろう。彼女がその身を賭し、変化させ食い破る超常の力。食い散らかした手足の獣口は本体たる空の身に吸収され、更なる力となるはずだった。摂取した相手が淫蕩を司るような触手でさえなければ。この場を歩く彼女の背は伸び、とうの昔に先へと見える大広間に足を踏み入れていたことだろう。
 しかし現実はどうだ。全身を蝕む痒みの様な感覚、動き度に衣擦れする衣服と流れる甘い風の動き、そんなものにすら思考が流され揺らいで行く。甘いため息を吐き、漸く見えてきた大広間の中へと視線を向ける。既に幾人かの猟兵が到着しているのだろう、そこかしから聞こえる戦闘の音楽が聞こえていた。
 高揚する感情と共に溢れてくるのは、むず痒い痺れるような感覚。想像以上に広い室内には見慣れない災魔たちがくつろぎ、戦い死んでいく仲間たちを見ては笑っている。そして、向けられる彼らの視線。新たな客の登場に、豚頭の災魔達は脂っぽい舌をねろりと動かした。
 刺さる視線に込められた、彼らの意思。下卑た思いが込められた雄の薄汚い、欲塗れのいやらしい目。
 それに嫌悪感を感じるべきだ。だから、嫌悪感をむき出しにした表情を向けた。
 情欲に支配された唾棄すべき敵。だから、空は奥歯を噛み締めた。
 敵を打ち払うべく、己が力を発揮するのだ。敵を、倒さねばならないのだから。
「だから……クソっ……豚がそんな視線を向けるなぁ……っ!」
 ユーベルコード『オルタナティブ・ダブル』。ニヤついた表情をした空と同じ姿をした少女が音もなく現れる。眼の前に居る災魔は数体、まずはそれを血祭りに上げ、自身の強さを確認したい。猟兵たる信念を、自らの心を。情欲などという不埒な感情に流されない、強い自分を。


 違和感があった。じ、と空を見つめる同じ顔をした少女の笑みに、災魔達と同種のおぞましさを感じたのだ。何かがおかしい、と警告を出す本能は、刺さるような災魔達の視線によってかき消された。些細な疑問に首を傾げていられるほど余裕があるわけではない。
 言葉はいらない。にたにたと笑みを携え、手足を異形に変えたもう一人の空が駆け出した。肉の地面を噛みしめる足と、鋭利であるはずの刃となった腕。低い軌道から振り上げる腕が醜悪な腹に微かな傷を付け、伸ばされた触手をゆるく弾くと地に転がり回避の姿を見せる。
 違和感があった。ゆっくりと追いすがる触手はのろのろと近づき、切り裂くように振られた刃を硬化して耐えしのぐ。微かな傷に、災魔は楽しそうに笑っていた。むんずと伸びる腕をステップで回避する分身は、まるで緊張感のない表情を、本体たる空に向ける。
(なんでそんな笑みを……?)
 茶番のような攻防戦。他の災魔はといえばそんな戦いをにやつき眺め、加勢することも声を上げることもなく見守っている。オルタナ(分身)から幾度となく送られる視線の意味は分からないまでも、この状況がおかしいということに気付かない程余力を無くしてはいない。
(なぜ、お前は笑っている?)
 無表情なオルタナの姿を何度見てきただろう。どんな状況にあっても、自らの分身は仏頂面を携え思うままにオブリビオンを駆除する力を振るってきた。
 疾駆するオルタナ。懐まで潜り込んだ彼女が行ったのは、軽い軽い右ストレート。変化すらさせていない腕はふくよかな腹に衝撃を与えただけで、それ以上のダメージを与えることなど出来はしない。ぞ、と全身に渡る冷や汗が、己の窮地を告げる。
 あれは、敵だ。
 拳を災魔に打ち付けたまま、オルタナは緩慢な動きの太い両腕に抱きすくめられる。見つめる瞳は淫蕩に輝き、視線の意味を考えるまでもなく全てを物語っていた。
 自らと同じ顔をした少女に向けられる性欲の視線。大きな唇が頬を吸い、脂ぎった肉厚な舌が唾液を塗り拡げるように舐め潰す。背を抱いた腕と腰を抱く腕。胸と尻を大きな手が形を変えるように揉みしだくと、オルタナの身体が悶え揺らめく。
 彼女には何の躊躇もない。口に向けられる災魔の唇を吸い上げると、自ら背を抱き身体を預けていた。腰を押し付け、唾液に塗れる感覚に恍惚の表情を浮かべる。吐息の音など聞こえようはずもないこの距離で、空はオルタナのそれを聞いた気がした。は、は、と甘く粘ついた、呻き声混じりの淫靡な声。
 頭の芯が焼けるように熱い。揺れる意識はどこへ向かうのか、ダメだと叱りつける自身の身体が何を求めて居るのか、必死で振り払う。
 そんな空に向けて、まるで恋人にでもするかのようなキスを交わすオルタナは、一際蕩けた表情を空に向け……笑っていた。


 モザイクなどかからない肉眼のそれは、おそらく空の腕を一回り丸く太らせたような歪な形。触手が振り掛けた粘液が潤滑油となり、見せつけるようにオルタナの腹部を前後する。へそ周りをまた別の粘液で汚しながら、見える彼女の表情は淫蕩に光り、既に本体たる空の事など気にしないかの様にじっと視線を下に向けている。
 喉を大量の唾液が通る。その音に自ら驚きながら、視線がまるで外せない。自身と同じ姿をした存在が、敵である災魔に媚を売り、抵抗の一つもなく身体を明け渡そうとしている。忌むべきオブリビオンを見つめる視線はどこか虚ろで、にじむ涙は粘ついて張り付くかのように。空の口の端が、ゆるゆると持ち上がっていった。
「やめろ……」
 浮かんでくるのは、必死で抑えていたただ一つの欲求。疼く全身を押さえつける理性はやせ細り、噛み締めた奥歯の感触にすら甘い痺れを覚えてしまう。
 やめろ。声にならない声は、串刺しになったオルタナを見て、心の中でさえも崩れ落ちる。鏡の中で見た自分自身が、あんな顔をする状況を想定しえただろうか。水音を慣らしながら体を揺らすオルタナは、只々声を上げては災魔にしがみつく。
 やめろ、本当に? 自ら身体を抱きしめ、その場に膝をつく。荒い息を吐き出しながら、燃えるように発熱する身体の対処法を考え、首を振る。耐えられない。聞こえてくる自身のあられもない声が、空の思考を打ち崩していくのだ。
 目を閉じ、耳を塞ぎ、しかし溢れてくる涎を止めることは出来ない。ぼたぼたと零れる唾液を肉の地面に落とし、たった一押で転がり落ちそうな自我を必死で保ち続ける。
「ふぅ……ふぅっ……」
 憎々しげに吐き出す甘い吐息と共に上げる顔。そこには前後から串刺しになったオルタナの姿があった。くぐもった声を上げるだけ、しかし赤く染まる表情は息苦しさすらも快感として覚えてしまっているのだろう。それを見た空はこう考えてしまった。羨ましい、と。
 掛かる影、見上げる先には二体の災魔。粗末な武器を手に、しかし彼らは空を抱き起こすだけ。ギラついた視線を間近に感じ、荒くなる呼吸は一切の抵抗を奪いさった。抱かれる背中、近づく顔。
 霞がかって聞こえる、オルタナのくぐもった声。空の頭にあるのは、私もああなってしまうのか、という期待に満ちた感情だけだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

彩波・いちご
【恋華荘】のゆのかさんと引き続き

先程のご休憩を思い出してちょっと赤面しつつも
「守られてばかりではいられませんから」
敵が現れたら、今度は私が助けます

敵が触手でゆのかさんを捕まえたりしたら
「私の大切な人に触らないで!」と叫びつつ【異界の抱擁】で逆に敵を拘束衣
彼女を捕まえて引き剥がします
…その際胸とか掴んでるかもですが

そのまま【天使のような悪魔の歌声】で敵を滅ぼします
近くにいる敵はまとめて全部!

一息付けたら、先ほど捕まって肌も露わだったゆのかさんの姿態を思い出し
(あとついでにまだ抱きしめて胸を揉んでるままだったりなので?)
「今度は私が少し昂っちゃったかも…です」とゆのかさんにキスをしてそのまま…


白銀・ゆのか
【恋華荘】のいちごと挑戦


「(こゆところが可愛いんだから…)」

強がってるいちごをぎゅっとして…漲った状態で挑んじゃうわ。


ま、本来は私が守る側
いちごには悪いけど…
醜悪なあれを彼に触れさせるのも烏滸がましい…!
羅刹旋風から…振り回した薙刀で…叩っ切る!


・不覚とった時
いちごの目の前で絡み吊るされて。
意識も朦朧、口の中は嫌な味。
マトモに喋ることすら…

情けなくて腹が立つけど…いちごが必死に、助けようと力を使っている…なら、
(その想いに…応えられないなんて…御免よっ!)

力振り絞って、手を伸ばして…囚われの身から脱出を試みるわ。

・一段落したら
いちごに身を寄せ…
「大丈夫…今度はいちごのを受け止めるから…ね?」




 言葉少なに、肉の地面を歩く二つの姿があった。小さな二つの影は手をつなぎ、お互いの体温を確かめながら、しかし視線を合わせられずに進んでいく。
 未だ広がる甘い匂いではあったが、その濃さは明らかに弱まり頭の芯を疼かせるほどの強烈なものではなくなっていた。すっきりしてしまったせいもあるだろう、こんな場所で致してしまった事実を鑑みる冷静さを取り戻した二人は、気まずさとは違う恥ずかしさで口数を減らしていたのだ。
「……どうかしてましたね、私達」
 遠くに見えていた通路の終わり、徐々に大きくなってくる大広間への入り口が見えて来た所で、そう切り出したのは彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)である。赤らんだ頬を向け、少しだけ強く手を握ると足を止めた。
 一歩先へ行くのは白銀・ゆのか(恋華荘の若女将・f01487)。突っ張った手が後方へと向かうのを感じ、くるりと振り返る。そこには、きりりと表情を作ったいちごが顔を見つめ立っていた。すぐに視線を逸らすゆのかの手を握り、小さく引き込む。身体が近い、顔も。
 う、と呻くゆのかを尚も見つめるいちごは、両手を使って彼女の手を握って見せた。
「次は、私だって戦います。守られてばかりではいられませんから」
 ゆのかはきょとんと顔を呆けさせ、その直後から緩んでいく頬を必死で取り繕っていた。真剣な眼差しを見つめ返すには気恥ずかしい。だから、代わりにその身体を抱きしめた。頬をすり合わせ、優しく解いた両手をいちごの背に回す。ぬるつく感覚が邪魔ではあったが、先程までのつながりとは違う穏やかな暖かさ。気持ちいいな、とゆのかは感じていた。
(こゆところが可愛いんだから……)
 数秒の抱擁、思いがけない反応に慌てるいちごも、それはそれで可愛らしい。身体を放し、今度こそ正面からその目を見つめる。
「頼りにしてるからね?」
 に、と染まるのはひまわりのような笑顔。はい! と応える姿にほころぶ表情。ここからは手を握って一緒に、などという訳にはいかない。ただ、いちごの言うような状況にはさせない。大丈夫、私が守ってあげる。ゆのかの思いは一層強く決意として固められていた。


 駆け出したのは大広間に向かう直前。通路の終わりから見える光景に、眉をひそめた直後であった。
 ゆのかが構えたのは一振りの薙刀。炎を思わせる刃を前へ、両手で絞るように柄を強く握りしめる。風を切る音は後方から、広いおかげで振り回せるその長ものを身の回りで一振りすると、頭上に掲げ回転させる。
 風切り音は濁り、音に聞くまま破壊力が増していく。進む足は更に加速し、燃える瞳がただ一点を睨みつけていた。
 ユーベルコード『羅刹旋風』・取り回し、振り回す、回転はそのままエネルギーを産み、更に込められる超常の一払いは何ものを阻むことを許さない。盛大な風切り音。そこに他の音は介在せず、舐めるように切り捨てた二体の災魔は、死を自覚する前に意識を断った。
 二人が見たのは、肥え太った災魔の群れ。入り口にほど近い場所にたむろしていた豚頭たちは、夢中で何を貪っていた。集団となり、たった一箇所に向かい、腰を振る。げひげひと不快な笑い声が耳に届く前に、ゆのかは一歩を進めていた。
 近づくほどに分かるその惨状。顎がはずれんとばかりに開かれた口に差し込まれる剛直と、反対から串刺しにされたようなその体勢。舌打ちをする労力すら惜しい、全力はその足へ。膝立ちに向かい合う二体の災魔を同時に切り捨て、間に挟まれた一人の猟兵が力なく倒れるのを確認する。死んでいるわけではないが、これを無事と言うには些か問題があるだろう。
(醜悪なあれを彼に触れさせるのも烏滸がましい……!)
 遅れて駆けてくるいちごを、手を上げて止める。猟兵を取り囲んでいたのはその二体だけではない、死んだ仲間を見て笑う同種の豚頭達。彼らは値踏みでもするように視線を這わせ、にやついた表情を浮かべていた。
 左半身、倒れた猟兵の壁として立つゆのかは、刺さる視線にむき出しの嫌悪感を示した。性欲を纏ったおぞましい視線、触手の通路に明確な意思を感じなかった事と比べると、どれほど気色の悪いものだろう。
 視線を動かさないまま振り抜く刃。それは、背後から近づく細い触手を一つ切り捨てた。


 頭上を回転する薙刀が、威嚇するように音を吐き出している。様子を見るように二つ三つと伸ばされる触手の一切を切り落とし、その射程圏内へと近づく災魔を撫で斬りにせしめた。
 ゲラゲラと笑い、駆け寄ってくる災魔。二体、三体と増える敵を超常の技を用い切り捨て、しかしどこまで増えるのか分からない敵に苛立ちも感じていた。
(どれだけいるの、こいつら)
 ぶん、と振るわれる刃。切り弾くその手を返し、更に寄る気配を打ち砕く。刃は三本纏められた巨大な触手を断ち切り、更にもう一つ。翻る刃、伸びる剣閃。五本に纏められたそれに漸く手応えを感じ、もう一つ翻した所で、ゆのかの手が止まった。
 弾けた触手が宙を舞い、血飛沫と共に地に落ちる。炎を模した刃は、数本の硬く硬化した触手を噛み、動きを止めていた。柄に巻き付き、引き込まれる。にやつく彼らは一歩近づき、更に溢れる触手がゆのかの手を縛った。
 万歳するように持ち上げられる腕。散々仲間を殺してきたゆのかに対する彼らの動きは優しく、そしてねちっこくいやらしい。手首から伸びる触手が二の腕を回し、肩口を絡め取る。首筋を這う細い触手が、肌に浮いた汗を舐め取り蠢いていく。
 視線の先には慌てた様子のいちごの姿。大丈夫、そんな声を出そうと開いた口に差し込まれる、新たな触手。先端に空いた穴から細かな舌が大量の飛び出す、彼らの口臭を吐き出すおぞましい器官。口内の粘膜を撫で回される感覚に表情を崩しながら、噛み締めようと口を閉じた所で、文字通り歯が立つこともない。
 手にした薙刀を放り投げられ、背後にかばっていた猟兵も彼らの触手に捕まった。何が起こったのか分からない、それはほんの一瞬のことだった。


「私の大切な人に……」
 守ると言ったはずだった。結局飛び出したゆのかを止めることも、こうして捕まるまで手を出すことすら出来なかった。ゆのかの強さを知っている。だからこそ、こうなれば彼女ならなんとかなると、どこかで漠然とそう思っていたのだ。
「触らないで!」
 沸騰したように湯だった頭が、殆ど同時にその力を完成させる。
 ユーベルコード『異界の抱擁』。災魔の持つ触手とはまた別種、いちごの影から生まれでた大量の触手達。意のままに操ることが出来るその異界の触手は、矢の様な速度でゆのかへと迫った。
 いちごの周囲を埋め尽くすような触手の群れ。それを打ち払うべく数体の災魔が前に出るが、物の数ではない。足を払い、手を掴み、首を締める。一つ一つの動きは絶命せしめるものではないが、大量に絡み拘束を試みればこの程度の数を足止めすることなど造作もない。駆け寄るいちごの足元から新たに生まれる触手が、ゆのかを縛る災魔へも殺到した。
 全身を覆うように埋め尽くし、目、口、鼻と耳。存在しると穴を穿ち、オブリビオンとは言え生物を元にしているのであれば、それは耐え難い苦痛であるはずだ。
 ぎ、と苦しげな声が漏れるものの、送り込まれる触手の群れが口内を圧迫しその喉の奥まで開き、削っていく。いちごはといえば、ただ走っていた。拘束が緩まったことを確認する余裕などなく、最愛の人を抱きしめるように、触手に嬲られていたゆのかに抱擁を交わしたのだ。
「ゆのかさん!」
 細かな吐息は焦りの色か、手の中に柔らかな感触を感じながら、ゆのかの体温を感じられる事に安堵する。むせる咳は口の中へと侵入していた触手のせいだろう。耳まで赤い表情は、もしかして見えない所で何かされてしまったのか。後悔は渦を巻き、更に強く抱きしめる。やわからなゆのかの身体を、一時でも好きにした彼らを許しておける訳はない。
 ユーベルコード『天使のような悪魔の歌声』、冷たく作ったアイドルとしての表情。目の奥に浮かぶ冷たさを差し込む、アイドルスマイル。自らの触手に覆われたままの災魔を見つめ、いちごは唄を歌う。覆う触手を即座に殺し、浮き上がった豚面に浴びせる超音波。
 口と鼻から血を吹き出し、揺らめく身体が止まったかと思えば崩れて落ちる。もう一度叫ぶ。その声に、ゆのかの瞳に炎が煌めいた。


 情けない、腹が立つ。ゆのかの腸は煮えくり返っていた。任せておけ、と先陣を切って、守らなければならない相手にこうも必死な真似をさせて。このままでいいの? ただ守られる、そんな女でいいと思ってる?
(その想いに……応えられないなんて……御免よっ!)
 緩んだ拘束が微かな隙間を生み、振り払う顔から気色の悪い触手を抜き去った。身体を振り、いちごを抱きしめ、握った触手を握りつぶす。
 ばちゅ、と水音が響くと、絶命した災魔の拘束から抜け出してみせた。即座に吹き掛かる真っ赤な血からいちごを守り、抱きしめられたままの形で地面に転がっていく。
「手が……」
「ゆのかさん! 大丈夫、任せて……任せてください!」
 精一杯の本物の笑顔。辺りに撒かれるアイドルスマイルではない、必死な彼の本物の表情。
 紡がれる歌声が近づく災魔を揺り潰し、精一杯に喉を開く彼の歌声にゆのかは聞き惚れていた。
 どれほど居たかもわからない豚面の敵達は、少なくとも周りを囲んでいた分は滅したのだろうか。遠巻きに眺める災魔はにたにたと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、しかし襲ってくる様子はない。
 すぐ隣に寄せた猟兵の様子も確認し、ぜいぜいと息を吐くいちごを抱きしめる。がっつりと胸へ添えられた彼の手を注意すること無く、むしろそのまま押し付けるように。
「これで……きっと、大丈夫……」
 気づいていないいちごに、ほんのりと赤い顔を寄せるゆのか。ありがとう、と伝えたいのに、守ってもらえたという喜びがどうしたって勝ってしまう。震える声を聞かせたくなくて、こつんと額を当ててみた。更に身体を押し付け、まるで緊張感のない空気を、喜びの感情そのままに押し付けてしまう。
 そうして漸く気付くいちごであったが、慌てる様子はその表情だけ。じ、と見つめる視線はゆのかを穿ち、目を離せないフックを掛けていた。
「今度は私が少し昂っちゃったかも……です」
 そんな空気に当てられたのだろう。手を特別に動かす様子はないものの、感じていたいとばかりに退かす様子もない。こんな状況だと言うのに、だからこそ嬉しかった。
「大丈夫……今度はいちごのを受け止めるから……ね?」
 震える声。恥ずかしくなんて無い。
 どちらともなく寄せられる唇はピタリとあわさり、擽るだけの軽いキスに二人ははにかんで見せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイル・コーウィン
ふぅ、触手トラップにだいまんぞ……いえ、大失敗をしちゃったけど、まだまだこれからよ。
先は長いし、どんどん進みましょう。

ウォーク、これまた厄介そうな相手だわ。
豚人間から触手が生えてる姿はとても気味悪いけど、臆せず相手するとしましょう。
ユーベルコード「シーブズ・ギャンビット」にてウォークを切りつけて、どんどん倒して行くわ。

でも、やっぱりあの触手は厄介ね。
少しでも身体を掠めちゃうと、さっきの触手トラップでの出来事を思い出しちゃうかもしれないわ。
もしそうなったら最後、ウォークに捕まってされるままにアレコレされて、あまりの快楽に自分から求める事になるかも……。
うん、しっかり用心しないとね。


栗花落・澪
よかった、今度はまともな敵…
違う、そんな事なかった(後ろの触手に気付く)

もーっ、さっさと片付けちゃうもんね!

斧の攻撃回避のため飛行
【空中戦】の素早さを生かし触手を極力回避しながら
【破魔】も混ぜたUCで一掃狙い

敵が素早い場合
【催眠】効果のある【歌唱】で無力化狙い
…うっかり【誘惑】注意
やらかしたら囮引き受けます

女性に悪さするのは許さないよ!
…守る意味あるかな

<万一攻撃命中or囚われたら>
ひっ…!?や、やめ…んんっ…

免疫の無さでされるがままに
但ししつこく辱められた場合
恥の臨界点突破で魔力暴走
【全力魔法+範囲攻撃】で一掃

うぅ…もうお婿に行けない……(泣)

※汚れた服の代わりに渋々変装用の白ワンピース


村雨・ベル
道中、役得でした(つやつや

とても知見を得ました
貴重なサンプルも手に入りました

今回も色々な秘密(猟兵含む)を暴いて魅せましょう

ウォークのモノも摂取方法による効能の違いも気になりますし
色々な方法で味見します

ですが任務は忘れません
可愛い少年少女「は」、守護(まも)らねばなりません

UC百腕巨人の腕で作った無数の私の腕で
見えそうな大事な部分は鷲掴みで守ってあげます
手付きがいやらしい? キノセイデス
感覚繋がってるのは本人達には秘密ですよ
魔眼でサイズも形状もきっちり計測しておきます

操作に集中してたら私無防備なのは内緒
私が危ない!とか言って身代わりになれば美談に見えませんか!

アドリブOK 誰とでも絡み大歓迎




 ぺたぺたと粘ついた足音が二つ。眼鏡を掛けたエルフの足取りは軽く、上機嫌な鼻歌まじりにステップを踏んでいる。全身を粘液に塗れさせながら、その上からでも分かる肌のハリツヤは常人ならざるもの。
「いやー。道中、役得でした」
 満面の笑顔から飛び出る声も同じ様に弾み、村雨・ベル(錬金術士・三世村雨・f03157)は同意を求めるように振り返る。視線の先の小さな影は、彼女とは対象的なに疲れた表情を浮かべていた。足取りは重い。信じられないものを見るような視線をベルに送り、力なく首を振るだけ。
 白いワンピースはふわりと浮き上がるものの、茶色の長い髪は粘液によって束ねられ、麗しい衣装と対照的に散々な姿を醸している。
「ベルさん」
 可愛らしい声を上げるのは、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)。不機嫌な表情とは違い、その声色は可愛らしく揺れている。
「今度はちゃんとしてよね?」
 そんな澪の調子に、ベルは嬉しそうに頷いて見せる。さあ、もうすぐですよ、と手を引かれるまま、暖簾に腕押しでもしているかの様な手応えの無さに、澪は更にうなだれて歩いていく。ベルは強い、強い猟兵のはずだ。少なくとも、そこに疑いを挟む余地はない。
 近づいてくる大広間への入り口に目を細めながら、一度だけ立ち止まる。ベルの手を払い、大きく呼吸をし、戦いに赴く心構えを新たにした。既にどこかから聞こえてくる戦いの音に高揚する身体、そんな自身を見て嬉しそうにしているベルは置いておくとして、更に先へ。
 見えてきたのは、肉の地面の大広間。想像よりも遥かに大きなその広間のあちこちに佇む豚面の災魔が、ゆっくりと二人に視線を向けてくる。手にした粗末な武器は様々で、その巨体は見上げるほどに大きく膨らんでいた。
「よかった、今度はまともな敵……」
 隣で楽しそうに跳ねているベルはともかく、近づいてくる災魔達の圧迫感にたじろいでしまう。この広い部屋の中に、どれほどの敵が居るのだろう。手を握りしめ、睨みつける。にまにまと笑う彼らの身体、その背中。うねりながら伸びる幾筋もの紫色のそれ。
「違う、そんな事なかった!」
 ひ、と上がりそうになる声を押さえつけ、身構えた澪は一歩後ろに後退してしまった。


 触手を背に持つのはその一体だけではない。当然、二人を取り囲もうと近づく十数体の災魔達全ての背から、様々な形の触手が浮かび上がってきている。
 澪の意気込みがドライヤーを当てたアイスの様に溶けていく。元々苦手だったはずの触手ではあるが、この場にたどり着く道中で更に強く刻まれて居るように感じる。こうして眼の前で脈動する触手の質感、同時に晒される豚頭の熱視線。
 更に一歩、足を下げた所で浮かび上がった涙を優しく拭う手の暖かさに顔を上げた。視界の先には穏やかに微笑むベルの顔。災魔の触手をみて飛び上がっていた彼女とは思えないほどに、見つめる瞳は力強い。
「大丈夫、オマカセクダサイ」
 違和感のある言葉遣いを気にする余裕など無い。今まさに迫ってくる触手の群れが視界の端を動く度に、身が固まり背筋が凍っていく。何度も頷き返す澪の頭を撫でると、その視界の端にあった触手達は弾かれるように浮かび上がった。
 ユーベルコード『錬成・百腕巨人の腕』、突如として現れ浮かび上がるのは、三六を数える巨大な腕。ベルの周囲に現れたそれは二人に迫る触手を掴み、殴り飛ばす。
「一度後ろに……」
 言葉と共に澪の肩を抱き、入ってきた通路へと誘導する。激しい打撃音はすぐ側からも聞こえ、想像以上に激しい触手達の動きにベルの顔にも焦りが生まれていた。そして、それを見つめる怯えた表情の澪は、小さく歯ぎしりをする。
「僕も……」
 震えた声の澪の胴回りを包む感覚。一つの腕が澪を掴み取ると、思い切り引きつけ移動させた。直後になる風切り音は、一瞬前まで澪が居た場所を打ち付ける一本の触手が生み出していた。溜まった粘液が弾け、辺りを粘液の飛沫が包み、その衝撃をベルが受け止めていた。
 直撃は免れたのだろう。しかし地面の転がりながら、尚も腕の操作を行う彼女の姿は無防備そのものだ。澪の保護を優先させた、そのせいで今彼女は危機を迎えている。
 噛みしめる奥歯、集中させる猟兵の力であったが、今まさにベルへと向かう触手の脈動を前にすると恐れが勝ってしまう。やめて、なんて声をだす間も無い。ベルの細い腰を掴み取ろうと伸びた触手は、その寸前で一つの線が入った。
 血が吹き出るよりも早く、二つ、三つと増えていく線は紫の触手を赤く染め、ずたずたに切り裂いた筋繊維が浮かび上がる力を失わせていく。四つ、五つと増える線は一秒にも満たない一瞬の間。刻まれた触手は地に落ち、ぐったりと横たわり、最後の一閃がトドメを刺した。
「助けにきたよ! なんて、かっこいいでしょ?」
 しなやかに全身を回転させ、虫の息となった触手を血に塗れさせた。飛沫を避けるように走る白い姿は、倒れたベルを抱き起こし、手の中に収まった澪に笑いかける。助かったことを喜んでいるのだろう、にんまりと笑顔のベルは腕の操作に集中し、未だ迫る触手の群れから三人を守っていた。
「あの、あの! ありがとう、ございます」
 澪を覆う掌が、ふにふにと優しく身体を揉んでいた。気にするな、負けるな。そんな思いを伝えようと言うのだろうか、一層笑顔が増していくベルを見れば、澪は不思議と温かい気持ちを覚えていた。
 コクリと頷く白い猫、アイル・コーウィン(猫耳トレジャーハンター・f02316)は抱きかかえたベルに微笑みかける。そうして、腕と触手の合間を縫って駆け出した。


 ユーベルコード『シーブズ・ギャンビット』、アイルは粘液に塗れた布地の少ないジャケットを脱ぎ捨てると、光る肌を彼らに見せつけながら走り出す。その姿勢は低い、地を駆ける。いや、地を這うような走法は的を小さく減らし、触手達から容易にその身を躱してみせた。
 ずらした身体の真横を走る触手、そこに置いたダガーは長い長い線を刻み、押し込んだ瞬間に飛び上がり、回転を見せればえぐれた肉から飛沫が上がる。
 抜き去ったダガーは翻り、そのまま真上から差し込まれ、裂く。動きの一つにダガーが舞い、その行動の全てが回避を実現している。走り寄る災魔の腹を突き、裂き、更に点く。殺到する触手達は尚迫るものの、ベルのユーベルコードの援護もあるのだろう。白猫を捉える触手は一つとして無く、舞う度に上がる血飛沫が動く敵を確実に減らして行くのだ。
「ふむ、可愛い少年少女は守らねば、と思っていたのですけどね」
 じ、っと見つめるベルの目に澪は小さく震えた。さっきまでの穏やかな表情ではない、どこか切羽詰まった、押し殺した感情が漏れるようなそんな表情。これだけの数の腕を精密に動かしてみせる技量は並大抵ではない。こうして落ち着かせる様に身体を揉み込む大きな手も、安らぎすら感じてしまう。
 見つめ返す澪に、笑みを返すベル。気を使わせてしまった、悪感情が広がる前に、同じ様に笑みを返す。震えていた身体はいつしか収まり、目の前で戦う二人を見ているだけでふつふつと湧き上がる闘志がみなぎってくる。
「守られるだけじゃない。だから……」
 決意に満ちた表情を向けると、ベルは意外な表情を浮かべ眉尻を下げる。澪を包む腕をゆっくりと離すと、その身を大きく広げた。背に広がるのは白い翼。今まさに前線で戦う彼女を援護すべく広がる、自由の翼。
 集中するのは奇跡の力、その源。膨らんでいく力を感じ、不安そうに送り出すベルに向かって、澪は一つだけ強く頷いて見せた。


 行ってしまった。未だ手の中に残る澪の柔らかな感触を思い出しワキワキ動かすと、周辺で触手たちと格闘戦を繰り広げる巨大な腕も同じ様に動いて見せた。
 ベルの目の前で切り刻まれる災魔の姿があった。それはダガーによって表面を削られ、削がれた奥にある筋繊維を切り裂く踊るような多段攻撃。
 あるいは、空から降り削ぐ花弁が舞い、同様にふくよかな肉体を刻む、そんな情景。赤い飛沫の中に、白い鈴蘭の大きな花弁と白い猫が舞い踊る、戦場にあるまじき甘美な風景。
 しかし、ベルの脳内に入ってくるのは情報の渦だった。一つは澪の詳細情報。男の子ながらに柔らかなそのスリーサイズと、その身体についてを頭の中に叩き込む。同時に、アイルと言う名のヤドリガミについても、その豊満な胸のサイズから何まで。
 もっと言えば、今まさに戦っている災魔たちについての情報も、ベルの中に流れ込んできていた。それぞれ微細に違うものの殆ど同じの彼らではあるが、背中に背負った触手だけはバラエティに富んだ賑わい見せていた。
 真面目に戦うつもりだった。少なくとも、澪が怯えていた時点で一度引くことすら考えていた。しかしどうだ、突然現れた猟兵の動きは格段に良く、ベルの考えに通じ合うなにかも見えた。僥倖なのは、澪が奮起したことだ。苦手だったはずの触手を乗り越えたのか、男らしい姿を見せる少年は余りにも可愛らしい。
 尊い、やばい。語彙が少なくなる頭を必死に押さえつけ、少しずつ減り始めた災魔達を見渡した。
 このままだと順調に勝てるだろう。そう、勝ってしまうだろう。
 ベルの額に一筋の汗が流れる。じっとりとした脂汗。それは前線で戦うアイルも同じで、どこか不穏な空気を見せ始めていた。
 ふ、とアイルの身体から力が消え失せる。鬼神のような戦いぶり、速度を誇った彼女は足をもつれさせ、作ったような焦りの表情を浮かべていた。
 あ、ずるい。


 駆け出すアイルの足に、先程までの脚力は備わって居なかった。翻弄されていた災魔は突然の動きに驚くものの、退かすように払った触手がアイルを捉えると頬を緩ませて笑う。
 睨みつける視線は災魔に向けて、一切の傷を付けていないその災魔の触手がアイルに迫り、殺すなら殺せと言わんばかりに悔しそうな表情。下卑た笑いを浮かべる災魔の触手がアイルを捉えるその寸前、強い衝撃に身体を揺らし、押し出されたアイルが見たのは代わりに拘束されるベルの姿であった。
 あ、ずるい。
 手足を拘束され、胴に巻き付いた触手が引き寄せると、生臭そうな息を端正な顔に吐きつけられている。ぞわぞわと動く触手たちが、既に粘液に塗れた衣服の内側に這い寄ると、張り付いたその下からもこもことうねりを上げて形を浮かび上がらせた。
 嫌がる声を吐き出すベルに情熱的な口づけ行い、口内を舌で舐め回す災魔。浮かび上がっていた無数の腕は消え去った。残るのは、甘い息を漏らしながら衣服の下を盛り上げる小さなエルフの姿だけ。
「お……おのれ!!」
 焦った声は上擦っていた。棒読みの声を上げるアイルは順手にダガーを握りしめ、とてとてとベルを拘束する災魔へと走り寄る。勿論、そんな勝手を許す敵ではない。緩慢な疾走を触手が掴み、傷一つ無い新たな災魔にその身を拘束される。
 やめろ、はなせ。力ないそんな言葉も、濃厚な粘液が身体を這い、撫で付けるブラシの様な感触があればそこまで。後から出てくるのは、甘さで覆われた吐息のような音だけ。露出過多気味な衣服は器用に剥ぎ取られ、腹に押し当てられる硬い感触に涙が浮かび上がっていく。
「用心してたはずなんだけどなー!」
 砂糖に塗れたその声を最後に、アイルの口も災魔によって塞がれる。
 残されたのは澪ただ一人。
(きっと何とかしてくれるでしょう、彼女強いし)


 ベルが触手に拘束され、災魔に抱きしめられた瞬間。その名を呼ぼうと開いた口は、驚きに寄って遮られてしまう。彼女が捕まるのと殆ど同時、閃光のように閃き翻っていた白い猟兵も拘束されていたのだから。
「二人を!」
 離せ。続く言葉はユーベルコードの集中によってかき消える。背後から寄る触手の群れを切り裂く花弁。『plumes de l'ange』が生み出した己が武器の化身が、三人目を捕獲しようと伸びる腕を切り裂いた。
 数体の災魔が二人を取り囲み、汚らしい声を上げながら覆いかぶさる。見るに堪えないそんな光景も、一進一退となった現状では助けに向かうことすら難しい。
 ベルが操る無数の腕が、澪へ迫る驚異を取り除いていた。アイルが走るその動きが、敵の調子を崩し、数を減らしていた。
 たった一人になった瞬間に感じるのは、おぞましい触手体の動きと匂い。肌にひりつきを感じながら、もう一度放った花弁が災魔を刻む。早く助けなければ、そんな焦りが足元から迫る細い触手の動きに気付く邪魔をしてしまったのだ。
 反転する世界。ぐるりと掴まれた足が掲げられ、足首を支点に宙吊りになる澪。何が起こったのか理解する前に、押し寄せる触手の群れ。視界いっぱいに広がるそれを残った花弁で切り裂くも、そこまで。首に巻き付き手足を巻取り、子供らしい張りのある肌を丹念に舐める触手。
 青くなる表情は即座に赤く染まり、脱がされていく感覚が只々恥ずかしさを誘っていった。
 いやだ、という声は、口の中に侵入する触手が塞ぎ、なすがままに全身を撫でられ弄ばれていく。
 いやだ、と思う心は、小さな突起を撫で回される感触に溶けていく。
 いやだ。
 感情の臨界点、澪の持つ欠点の一つが、爆発した。


 それは力を込める必要のない、指向性のない力の暴走。恥の感情を限界まで受けたその身体から溢れる魔力。属性すらまとわない純粋な力が災魔達の触手の中心から溢れ出ると、力の奔流が肉を刻んだ。
 弾ける触手からあふれる血潮。それすらも千切り、削り、灰と化す。制御が行えない、澪の持つ力を吐き出すだけの攻撃とも言えないそんな一撃。
 広がっていく魔力の奔流は遠く離れるほどの弱まっていくが、ベルとアイルを囲う災魔を削る程度のことであれば、造作もないものであった。
 肉の地面をも削るその一撃は、数秒の掛けて澪を中心に辺りを削っていく。幸いだったのは、大量の災魔が二人の盾となったことだろう。今まさに腰を押し込む。そんなタイミングで膨れ上がるその力に触れた災魔達は、身体がちぎれていくその感覚を持ちながら、死んでいく。削られた地面へと転がっていく二人は、快楽に揺れていた目を擦り、じっと顔を見合わせていた。
「……ふたりとも、大丈夫!?」
 寝転がる二人に息を切らせ駆け寄るのは、満身創痍の澪である。使い果たした魔力は全身の脱力をもたらすが、それでも必死の形相で走り寄ってきた。
 ぐ、と手を上げ、親指を立てる。そんな二人を見た澪は、へなへなとその場に腰を下ろしてしまった。安心感か、疲れか。その両方から、泣き出しそうな感情を堪え二人に寄り添った。
「えーと……有難うございます、タスカリマシタ……」
「本当に! ほんと、助かっちゃった!」
 泳ぐ視線を澪に向ける二人は、良かった良かったと澪の肩を叩いた。衣服は散々な状態だが、無事な二人に胸をなでおろした澪は、大きなため息を吐く。
「よかった……でも、うぅ……もうお婿に行けない……」
 その言葉ににまにま笑みを作るベルと、不思議そうに首を傾げるアイル。
「お婿?」
 疑問系のその言葉に、澪の表情は更に崩れて行くのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

グァーネッツォ・リトゥルスムィス
ぐっ、さっきまでの触手と違って明確な悪意を持った敵達か
一筋縄じゃいかなそうだが、新たな被害が生まれる前に倒す!

とにかく触手の射程が長すぎる
1体に近づく頃には他数体の触手でアウトなのは明白
一か八か勝負を仕掛けてみるか

触手を払いのけるつもりが手が滑った……と装って槍を真上に投げる
武器を失い慌てる振りをし、敵達の触手をオレに絡ませるよう誘導しつつ
真上の槍を目立たせない様にする
「やめろ、オレに触手を伸ばすな!?」
刺激と快感に何とか耐えつつ敵達の触手を纏め上げ、
重力に従って落ちてくる槍の刃で全ての触手を【串刺し】に!
ドラゴニック・エンドで召喚されたドラゴンは
槍が貫いた全ての敵に攻撃してくれるはずだ




 遠く聞こえていた戦場の音。少女が懐かしむようなそれではない、猟兵としての新たな戦いの音楽。声が、光が、見えない力が。見たことも無い力を操る彼らは、彼女の喜ぶ強者としての力を発揮し、そして苦戦しているようにも思えた。
 グァーネッツォ・リトゥルスムィス(超極の肉弾戦竜・f05124)は、どこかに感じる焦りを表情にだしつつ、早く早くと駆けていた。ここにたどり着くまでに通った道は、猟兵の力を無視した人の本能に語りかける痛烈なもの。力をもって制したはずのグァーネッツォですら、今こうして戦えるだけの気力をもっているのは、一度その本能に負けたから。
 強い、という言葉に複数の意味があるとするならば、この迷宮に潜む敵は強いだろう。ただ戦うだけの人間を、あっさりと虜にしてしまう、そんな強さ。
 一度だけ足を止め、自らの両頬をぱちんと叩く。スッキリしたはずの頭は道中の匂いに痺れる前兆を感じさせている。悠長に戦う時間は無いだろう。握りしめた無骨な斧を肩に掛け、今まさに戦場となった大広間へと足を踏み入れた。
 大きく聞こえる戦闘の音。えぐれた地面にこぼれ落ちた臓腑。甘い香りを上回る血の、しかしそれも甘く感じるこの場は、地獄絵図の一つかもしれない。
 浅黒い肌を粘液に濡らし、ほとんど裸のその姿。彼女に匂いがあるとすれば、それを捉えたのだろう。未だ戦いに参じず、膠着……いや、グァーネッツォが見る限り苦戦しているはずの豚面災魔達は、のんべんだらりとそれを眺めていた。
 そうして、新たな獲物を見つけギラつく視線、睨み返すグァーネッツォ。
「まったく! 一筋縄じゃいかなそうだな!」
 握りしめた竜骨の斧を前に。にやけ面の災魔たちに一振りすると、その強力な力を誇示し、威嚇をしてみせた。


 幸いと言って良いのは、多くの災魔が他の猟兵に気取られているということ。半笑いでにじり寄る災魔達は、他で戦う猟兵達のそれよりも幾分か少なく見える。とはいえ、回し見る限りそれは両手の指では足りない程度の数ではあったのだが。
 そしてある一定の距離まで近づいた災魔の背から、一斉に溢れ出る触手の群れ。一体一本などと生易しい数ではない。明確な悪意を持った、道中の触手たちとは全く違う動きをみせるそれ。形も様々に独特な動きを見せる触手達は、フェイント混じりにグァーネッツォへと迫っていく。
 振り払われ、一蹴される触手の群れ。風を切る斧の一撃がまとまった触手を断ち切り、地に落とす。先端が切れた触手が痛みに震えながら、それでも前へと向かい、更に輪切りに落とされた。
「へっ! 所詮触手は触手ってな!
 ざわ、と広がる悪寒。肉の道と通ったときに感じた、甘い甘い誘惑。芳しい血飛沫に揺れる頭を振り、更に近づく触手を切り払う。強い手応えを感じながらも断ち切った竜骨の刃には、血と脂がベッタリと張り付いていた。
 新たな触手がグァーネッツォへと襲い来る。もう一度、と振り払う斧は触手の半ばまで切り込みを入れると、そこでピタリと止まってしまった。血の気が引く感覚を覚えながら、グァーネッツォは渾身の力を持って押し込んだ。
 強い手応えを手に残しながら、更に迫る触手を……渾身の力で切り落とす。振り回す斧は速度を上げ、近づく触手を側から叩き切る。全身を汗に塗れさせながら、切り落とした触手の血飛沫を浴び、渦巻く思考が窮地を理解させていた。
「よくねえな……よくねえよ」
 触手を切り落とした所で、災魔たち本体へと続く道が切り開かれているわけではない。このまま延々と敵の武器を潰し続ければ、いずれある道かもしれないが、少なくともこの調子で武器を振り続けるのは体力との相談ということになってしまう。他で戦う猟兵の助けを待つ、という手も無くはない。が、この程度を一人で突破出来なくて何が強者だ。そう浮かび上がる考えは、彼女にとっては自然なものだった。
 何よりも、敵が遠い。近づくために無理をすれば、この大量の触手の餌食になるだろう。全てを断ち切る事も、本体を確実に落とすことも不可能。それならば。
「一か八か、ってやつだ!」
 気合を入れる声と共に振り抜いた竜骨の斧。それは硬化された触手に弾かれ、飛ばされ転がる。反動は小さなグァーネッツォの身体にも渡り、もつれた足が転倒を促した。


 焦りの表情を浮かべながら、しかし災魔を、触手達を睨みつけるグァーネッツォ。寸前に迫る触手に向けるのは、取り出したもう一つの武器。幽冥竜槍ファントムドラゴンランス、無骨に大きく光るその槍を、座り込んだその手でぐるりと回し斬りつける。
 しかし結果は変わらない。硬化した触手に傷は付けられるものの、その動きを止めるほどの成果はまるで期待出来ないでいた。焦りの表情は強くなる。もう一度、もう一度。駄々っ子の様に振り回す大仰な槍は、にやにやと笑う災魔たちにとってただの玩具でしか無いようだった。
 落ちていく薙ぎの速度をあざ笑うように、触手がその槍をつかもうと伸びてくる。必死で引き戻し、もう一度突き上げようとしたグァーネッツォのその手から、無骨な槍はスっぽ抜けた。音もなく飛んでいく槍、無手となったグァーネッツォに浮かぶ、明確な怯えの表情。裸のような彼女の装備だ、これ以上武器を隠し持つということも出来ないだろう。
 接近を躊躇していた触手までがグァーネッツォへとその身を近づける。何に使うのかわかったものではない、先端の装飾が鮮やかな、狂気のような触手達。
「やめろ、オレに触手を伸ばすな!?」
 尻もちをつき、動くこともままならないように強張った浅黒い肌の、豊満な身体。ぬ、と伸びた触手達は、我先にとグァーネッツォへと巻き付いた。手足を縛り、胴を縛り、顔も、首も、その胸も。押しつぶされた胸が窮屈そうに動くのを楽しむように、触手達はぐにぐにと身体を動かして見せる。
 ミイラのように触手に囚われた少女は、堪えるような呻き声を上げる。全身を撫でる触手の感触は、あの時思い描いた感覚を想起させる、気持ちが悪く、気持ちいいもの。その怪力をもって一本の触手を握り、潰してみせるもののそれはたったの一本である。内腿を撫でるブラシの触手が動き回れば、それだけで力は消えていく。
 頬を撫で、濡れた触腕で髪を梳く。甘い匂いに包まれたそこは肉の通路を思わせた。
 まだか。そんな思いを抱いた直後、全身を覆う触手が一度跳ね、動きを止めた。溢れる力、その準備は既に終わっている。
「……来い!」
 絶叫は、奇跡を生んだ。


 グァーネッツォが手放した槍。その特性は、その存在感の薄さにある。見えない、ではなく、気にならない。少女が振り回している間であれば、敵はそれを認識するだろう。しかし一度手放し、更に注意を向けないとなれば、敵にとってその武器は存在しないものと認識する。
 果たして、グァーネッツォの企ては成功に終わった。上空へ投げた槍は、殺到する触手を纏めて穿ち貫き、勝利を確信した柔らかな肉を纏めて傷つけるのだ。
 数本の触手を断ち切りながら、繭のように固まった場へと落ち、地面へ刺さるファントムドラゴンランス。それはグァーネッツォの正面、幾筋も伸びる触手が固まるその場所に、空間を軋ませ肉を破り、まるで初めからそこにあったかの様に生まれいでる一匹のドラゴン。
 開いた竜口は、戯れに目の前の触手を食い破った。緩まる拘束は更に加速する。数度口を開閉し、毒の体液を取り込みながらまるで動きの変わらない巨竜。身じろぎ、翼を広げるその衝撃でちぎれ、振り払う尾撃が更に災魔の武器を奪う。
 生み出して十秒と立たない内に、全身を覆っていた触手はぼろぼろと地に落ちた。快楽に揺らぎそうだった身体を必死に抑え、目標に向かい突き進むドラゴンを見る。
 体当たり、食い破り、掴みかかり壁に投げる。触手を傷つけることが出来た災魔に関しては、このままドラゴンに任せてしまおう。粘液でぬれた身体を揺らめかせ、ゆったり斧と槍をその手に握る。
「この……やろうが!」
 混乱の最中、駆け寄り飛び上がるドワーフの少女。憎々しげに叫ぶ声は大部屋に響き、手にした斧は災魔の豚面をかち割った。反撃の合図だ、未だドラゴンに動揺する敵を見つめ、小さな体を真っ直ぐに動かし初めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎
自称妹【杜鬼・カイト】と行動

「…おい。
さっきのコト、誰かに言いふらそうなんて考えンなよ?あーそれ以上言ったら殺す。俺にンな趣味はねェ。
やっと抜けたと思えばまたかよ…同じ手は食わねェ!
憂晴らしさせろや、オラァ!」

上半身が色々気持ち悪いので脱ごうとして何かに気付きやめる
中衛
【煉獄の魂呼び】使用
禍鬼は触手を狙い棍棒を振るう
霆で援護攻撃

「あんま前出すぎンな馬鹿!
っち、服が…別に見られて困るようなカラダはしてねェけど、な!(多分」
敵の攻撃は【武器受け・カウンター】で剣ぶん回し切り裂く
石の壁を蹴って上り空中で回転し、勢いをつけて重い一撃食らわす

「その目ン玉、潰してやらァ!気色悪ィんだよ、クソが」


杜鬼・カイト
兄【杜鬼・クロウ】と行動

さっきは散々な目に遇いましたね。
オレとしては、兄さまのあんなところやこんなところを見られたので、そう悪い気はしなかったですけど。
……って、うわぁ、なんか気持ち悪いのでてきた。
サクッとやっちゃいましょうか兄さま。

兄さまを好き勝手にさせるわけにはいかない、と前衛ではりきる。
【武器受け】【なぎ払い】で敵の攻撃をいなし、妖刀で反撃。

兄さまに触れていいのはオレだけなので、兄さまが触手に襲われそうになったら【永遠の愛を誓え】を発動。蔦で相手の動きを封じる。
うぅ、これ兄さまに使うための技だったのに、こんな気色の悪い敵相手に緊縛プレイなんてごめんだよ。

◼️アドリブ歓迎




「…おい。さっきのコト、誰かに言いふらそうなんて考えンなよ?」
 疲れの色すら見えない声色は、しかし威圧的に尖っている。鋭い眼光で睨みつける声の主だったが、向ける相手はどこ吹く風の楽しそうな笑顔。艶めかしい色をした通路を走りながら、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は懇願するような脅しを掛けていた。
「散々な目にあった、というだけじゃないですか。オレとしては、兄さまのあんなところやこんなところを見られたので、そう悪い気はしなかったですけど」
 のほほんとした表情で風のように、怒涛の勢いで駆け抜けるのは杜鬼・カイト(アイビー・f12063)。遠く聞こえる戦闘の音が二人の出遅れを指し示し、互いに握った得物に込められる力が強くなっていくのを感じていた。
「あーそれ以上言ったら殺す。俺にンな趣味はねェ。いいか? あれはたまたま……」
「オレを助けようとして捕まった? いやー、いやー! いいですね、兄さま! いいですよ、言いふらしませんからもっとそこを詳しく!」
 うんざりとした表情を返すクロウに更なる笑みを返す自称妹のカイト。震える拳が拳骨を落とすその前に、彼らの道程は終わりを告げた。
 かき鳴らされる戦場の音は激しさを極めている最中。そこかしから上がる光の渦や、人ならざる超常の力を見せつける戦場。数多くの災魔と戦う猟兵を遠目に見ながら、未だ数を残した敵の数に血が滾る。
 クロウは背負った大剣の柄を、更に強く握り込む。視線を周囲に這わせ、浮かび上がるように現れたにやけ顔の豚頭を睨みつけた。その背から震える幾本もの紫の触手、思い出される肉の通路の出来事だったが、生憎とそれに捕われるような弱さを持ち合わせているつもりはない。
「うわぁ、なんか気持ち悪いのでてきた」
「またかよ……こんな豚面だとは思わなかったが、気色悪いのは予想済みなンだよ!」
 クロウの身体に膨れ上がる力。ニヤついた表情は余裕の現れ、目の前に集まってくる災魔共と潰す力任せの協力者。
「杜鬼クロウの名を以て命ずる。拓かれし黄泉の門から顕現せよ!贖罪の呪器…混淆解放(リベルタ・オムニス)──血肉となりて我に応えろ!」
 祝詞の完成は一瞬。声に応え、地響きとともに現れたのは、長身のクロウを大きく超える筋骨隆々の一体の鬼、禍鬼(マガツミ)。無骨に歪んだ棍棒を手に、強い戦意を荒い息が抑え込む。鋭い眼光はクロウの比ではない、災魔たちですら見下ろすその巨体は湯気立つ肉体を震わせ、主人の声を只管に待つ。
「サクッとやっちゃいましょうか兄さま」
 カイトの声は軽い。厄介な相手だ、という思いと共に、負けるはずがないという兄への信頼の表れである。腰に刺した刀の柄をゆるく握り、クロウへと視線を送る。
「出し惜しみは無しだ! 憂晴らしさせろや、オラァ!」
 抜き放つ身長台の黒い大剣。クロウの声は禍鬼の抑圧を開放させ、広間の空気を一変させる一吠え。
 振り下ろされる棍棒が、一体の災魔を押し潰した。


 二人と一体、その周りを囲む災魔の数は計り知れない。壁を背に戦う彼らの元へ迫る無数の触手。災魔一体につき一つ、等と言う簡単なものではなく、大小様々に殺到するそれの数に限界など見えないように思えた。
 しかし、そんな攻撃も禍鬼の放つ一振りがあっさりと退けて見せた。硬化し強固になった触手を叩き潰し、威力を殺して避けたものですら弾き飛ばされ動きを止める。続けて襲いかかるそれも打ち払い、時にはその手で握り潰し、災魔を振り回して壁に叩きつける。
 驚異だと感じたのだろう。敵はその数を増やし、迫る触手も増えるものの、俊敏な巨体の一撃を掻い潜るものは殆ど無い。
「もう触手なんかに兄さまを好き勝手させたりしませんから! オレ頑張りますよ! よ!」
 わざとらしく声を上げながら、クロウの顔を見つめるのはカイト。うんざりした表情をするだけで、目すら合わせない、そんな兄の姿を見るだけで満足してしまう。力を貰った、と笑顔を浮かべ、一歩、二歩。進んだ先にあるのは、今まさに触手を弾かれ体勢を崩した豚面の災魔。
 ゆるりと刀の柄を握り込む指先が、一瞬だけ強く力を込めた。抜き放たれる剣刃が光を水のように蕩けさせ、そのたった一振りは滑るように災魔の腹を通り過ぎる。
 不満げに顔をしかめるカイト。翻る刀……妖刀と呼ばれるそれは、二度目の光を放つ。下から上へ。十字に裂かれた災魔の腹からは臓腑が漏れ落ち、汚らしい息を吐く口に汚らしい血を吐かせてみせた。
 蹴りつけ倒す。突然の致命傷にぐるぐると視線を揺らす災魔に目を向けること無く、音もなく差し込まれる触手を……その刀で受け流した。
 多勢に無勢、いくら禍鬼の力が強いとしても、全てを捌き切るというのは難しい。こうして飛んでくる触手の一撃も折り込み済みであった。
 触手に触れる直前、半歩だけ身体をずらしたカイトは刃を向けた刀を握り込む。滑るように伸びる触手の側面を切れ味鋭い刃が裂き、その慣性に合わせて押し込めばざっくりと縦に裂けて行く。押し込むほどに震える触手へ、振り抜いた妖刀。歪に切れ込みのはいったそれは、痛みによるものか、その場でびたびたと暴れ回る。
 うるさいな。言外に込めた視線を向けると、もう一度刃が翻る。断ち切られた触手は血を吐きながら転がり、力を失い動きを止めた。


「あんま前出すぎンな馬鹿!」
 禍鬼の防護があるとは言え、想定した数を超えるその量を前にすると、その防御は完全とは言えない。防衛圏を離れたカイトともなれば、向かう触手の数は増えていく一方だ。一つ一つを確実に撃ち落としていく弟の技量を心配することはないが、調子に乗るきらいがあるあれを放って置くというのは気持ち悪い。
 禍鬼の全力の一吠え、びりびりと震える空気の中走り寄るクロウはカイトの首根っこを掴み引き戻した。一瞬の緊張を引き起こしたのは災魔たちだけではなくカイトもだったのだろう。驚いたように振り返る表情は、しかしすぐに溶けていく。兄さまー、と猫なで声。これも気持ち悪い。
「交代だ、ちったァ休め」
 視線を合わさず、クロウは上着に手をかける。じり、と広がる感覚を思い出し、眉を顰めたその表情を弟は見逃さなかった。
「……兄さま?」
「なんでもねェよ!」
 脱ぎかけた上着はそのまま、代わりに抜き放った黒い刀身の大剣が振りかざされると、防衛圏を抜けた一本の触手を打ち払う。握り込んだ柄を絞り、急角度の方向転換。質量を膂力によって加速させる、力任せの一薙ぎ。弾かれた直後に断ち切られた触手は血を吹き出しながらのたうち回る。終わった相手に視線をやる必要もない。クロウは大剣の遠心力を加速に使い、その足を壁へと向けた。
 撃ち落とされる大型の霆。肉の地面すら焦がす一撃が新たな触手を打ち崩し、更に災魔の動きを一瞬止めてみせる。
 クロウにとって、必要な隙はそれで十分。壁を駆ける足は二歩三歩。駆け上がった高さは禍鬼の身長を優に超え、くるりと回転した身体は更なる加速度を持って打ち下ろされる。
 霆の音に負けない、弾けるような一撃。地すら割るその攻撃は災魔の身体を二つに割った。直後に焼け焦げるように燃える醜悪な肉体が、ぐずぐずと崩れて落ちていく。
「オラ! 次だ!」


「流石兄さま! すごいかっこいい! 愛! 愛ですよ! ラブです! ライクじゃないですよ!」
 飛び跳ねるカイトの視線はクロウに釘付けとなってはいたが、それでも増え続ける敵から視線を逸らす程愚かではない。すり抜けた細い触手を切り払い、視線だけはクロウに向けながら細かな敵を排除している。
 前線に飛び出したクロウは、取り回しの難しい大剣を振り回し、それこそ器用に立ち回っていた。敵の動きを一方からに限定させ、一振りでまかなえる触手の量を調整する。禍鬼の動きを制御出来るという事もあるのだろうが、大雑把な性格とは別に戦いにおいては計算高いとも言えるだろう。
 流石兄さまです、と胸を張りたくもなるが、これでは自分の活躍を見てもらえない。このまま見ているだけ、なんて事があっては妹としての沽券に関わる。応援の声を上げながら、どうにかチャンスはないかと妖刀を構えて居たカイトの目の前で、クロウに振り掛けられる謎の白い液体。
 湯気を上げながら飛び出すそれは、災魔たちにとっての切り札だったのだろうか。今まで見せたことの無い攻撃に一瞬だけ反応が遅れたクロウは、右の上半身にそれを浴びてしまう。声を上げるカイトを尻目に、クロウの様子は余り変わったものではない。大丈夫? と目を凝らした先にあったのは、どろどろに服が溶けた兄の姿。
「けしからん!!!」
 突然の叫び声に一瞬だけ止まる戦場。敵味方合わせた全員の視線が注がれるものの、それを気にするようなカイトではない。見つめるのは胸元の痣。え、なんです兄さま、なにそれ。女? 女なの? あ、違う、触手だ、さっきの通路のあれがあれしてああなって……。
「上着脱がなかったのはそれが原因だったんですね!?」
 思い至った結論にもう一度止まる戦場。クロウの顔は赤く染まり、怒りの表情が満ちている。しかしカイトは気にしない、そんな辱めをこれ以上受けさせる訳にはいかないのだから、やることをやらねばならない。
 ユーベルコード『永遠の愛を誓え』、突き出した左手薬指に嵌まる指輪。愛を誓った思いに応え、無数のアイビーの蔦が、指輪を元に溢れ出す。
 一本一本は触手に勝てるはずもない細さの蔦。しかし、その数は彼らの武器を遥かに超えて無数。肉色の地面を覆い隠すほどの枝葉を備えた蔦が一瞬で膨らむと、一斉に災魔たちへと殺到する。
 今まで数で押してきて居たはずの彼らを、弱くとも圧倒的な物量で押し返すその力。触手に巻き付いた蔦が払われ切られ、直後に巻き取る様に動くそれを払い続ける事などできようはずもない。
 災魔本体となればなおさらだった。人型であることが何よりも弱点となる。その関節を極め、重心を崩すように動けばあっさりと動きを止める。動き回る触手達の自由も効かない、となれば。
「ああ! っクソが! 見てンじゃねえぞ!」
 大ぶりの横薙ぎ。黒い剣閃は囚われた災魔の眼球毎頭部を切り裂き、即座に零れる血と脳漿をぶちまける。蹴り倒しながら、その反動を利用して突き入れる剣先。それは同様に災魔の瞳を捉え、巻藁を叩くように絶命させて回っていた。
「その目ン玉、潰してやらァ!気色悪ィんだよ、クソが」
 女のように胸元を隠すなどできようはずもない。ちらちらと感じるカイトの視線に苛立ちを覚えながら、禍鬼の助成も加えたその戦いは決着の時が近づいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ウォークグルェート』

POW   :    大斧の一撃 + 服破り + ずぶ濡れ
【触手から吐き出した粘液】が命中した対象に対し、高威力高命中の【防具を破壊する大斧での一撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    触手乱撃 + 捕縛 + うごめき
【悍ましい触手】【粘液まみれの触手】【いやらしい触手】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    悲しき性質 + 壊アップ + 狙アップ
自身の【欲望が理性を上回る性質】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠茲乃摘・七曜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●マスターから(以下、後に削除予定)
 おはようございます、三杉日和です。

 大変申し訳ありません、マスターページの方で告知をしておりましたが、こちらだけ見るという方もいらっしゃるという事を失念しておりました。
 プレイングの受付に関してまして、2月10日から受け付けたいと考えております。早く投げていただいて大変有り難いのですが、もしも期日的な問題で流れてしまった場合、まだ受付可能な状態にあれば投げて頂いて構いません。
 10日にまた章頭の簡単な舞台説明を書かせていただきます。とても重要、というほどのものではないのですが、既にプレイングを投げていらっしゃる方に関しては、それをみて内容を変えたいと仰るかもしれません。その時は変更した内容を後日送っていただければ結構です。
 また、流石に今回はある程度蹴ってしまう可能性があります。その点はご容赦下さい。

 以上となります、よろしくお願いしまします。
●響き、轟く
 湧き出るように溢れてくるウォーク達は、一向にその調子を崩すことはなかった。殺され、肉体を無残に地に散らしても、まるで亡霊のように猟兵へと襲いかかる。
 透明な粘液を纏った地面は、いつしか赤茶けた色を含む汚らしい色合いに変化していった。それは彼らの血飛沫が、体液が、崩れおちた臓腑の破片が。崩れおちた肉体が粘液に溶け、その色と濃度を濃く引き伸ばしていく。
 そんな地獄に生まれた、地震の様な揺れを最初に感じたのは誰だったろう。背筋を走る悪寒が身をこわばらせ、目の前に立つ豚面の災魔もまた、猟兵と同様にその場に立ち尽くしていた。
 揺れは少しずつ大きく広がっていく。豊満な肉体が震え、沼にでも落ちるように身体を沈ませていく。そして、轟く。うねる肉の地面が津波のように波打つと、見る間に地表が低く落ちていく。
 数秒のうねりに膝を付き、あるものは空を飛び、収まった足が踏みしめるのは石畳の大地だった。

 石畳を覆い尽くしていた肉は全て消え去った。猟兵が通った肉の道も、何の変哲もないただの通路に変わり果てっている。何が起こったのか、そんな考えを巡らせる前に、激しく地面を打つ水音が鳴り響いた。
 ニヤつく顔と、ギラついた視線。手にした武器と背から伸びる紫の触手。
 それはここで嫌になるほど戦った敵と同じ姿をしていたが、全く違うのは放つ威圧感と、湧き上がらせる嫌悪感の強さ。そして何より、その身の巨大さであった。
 ただでさえ猟兵の身長を軽々超える巨体であったはずの災魔は、その倍はあろうかという肉体をほぐすように動かしていた。背から伸びる触手の数も、小さな災魔達の比ではない。威圧するように地面に触手を叩きつけ、足音を響かせながら粘液塗れの身体を近づける。
 迫る腹に見えるのは、クレーターの様に抉れた半球の傷が複数と、無数の切り傷、火傷痕。何故か既に傷ついている身体ではあるが、それは猟兵にとっては好都合と言えるだろう。

 さあ、猟兵諸君。これが最後の戦いだ。ここまで力を奪われ、苦戦を強いられた敵の最後の姿。その巨体を打倒せよ。

●マスターから(以下、後に削除予定)
 おはようございます、三杉日和です。

 第三章は『ウォークグルェート』とのボス戦です。
 前作に登場した敵と似てはいますが、ここまで見て頂けた方なら分かる通り、結構違います。こういう敵だと思って、かっこよく、楽しく、好きなように戦って下さい。

 前章以前に描写している方は、その状態から戦いを初めたとしても構いませんし、一度どこかで休憩を入れた、などお好きな状況を想定して構いません。特に記載がなければそのままボスと対峙した、と判断するかと思います。この方が展開的に動かしやすい、という場合はその限りではありませんので、特に気になる方は休憩、そのまま、など短文でも記入して頂ければよっぽどありえない指定出ない限り対応可能だと思います。
 前章まで参戦されてない方も、どういう状況か、と一言有りましたらそれに沿って書かせて頂きます。記載がない場合は、それっぽい形をでっちあげて参戦、となります。

 そして、今回こそはある程度人数を絞って書こうと考えています。もう3週間前後皆様をお待たせしている状況ですし、シナリオの進行も進めたいと思っておりますし。

 それでは以上となります、よろしくお願いしまします。
ルナ・ステラ
※アドリブ・絡み(特にミコさんがいれば一緒に)等歓迎です

服が破かれて恥ずかしいです...
(でも、まだなんとか羽織れそう)

さっきの敵よりもすごい大きいです!?
嫌な敵ですがこれ以上被害が出ないように..集中して、頑張らないと!

魔法で攻撃を試みますが、魔法だけでは心許ないので星霊も召喚しようと思います。
(力をかしてください!)

召喚されたのは...蟹さん?
(どう戦ってくれるのでしょうか?)
蹴飛ばされちゃいました...

―いつの間に触手がこんなに!?
きゃっ!放して...

動けない...
いやっ!触らないで!
そんな所だめですよぅ...
(もう、だめかも...)

あれ?急に敵が痛がり始めました!?
まさか―蟹さんが?


黒玻璃・ミコ
※【真の姿】
白髪ポニーテールの美少女の人間形態に

◆心情
ミコさん、学びました
水饅頭姿で居るから散々な目にあったのです
溜まったフラストレーションを解放させて頂きますよ?

◆行動
【黒風鎧装】で漆黒の風を身に纏います
大体、美女美少女達を触手でアレコレなんて破廉恥なこと

邪神や魔王が許しても私が許しません(キリッ)
纏った風で宙に浮き【空中戦】ですよ
敵の攻撃は【第六感】で察知し
肉を切らせて骨を断つ理論で【カウンター】です
愛用の槍による一撃は筋肉と言う【鎧を砕き】
【怪力】で【串刺し】にしてみせます
【毒使い】による毒も塗られてますからね

◆補足
アドリブ、他の方との連携も歓迎
ルナ(f05304)さんが居ればご一緒に


月宮・ユイ
▼状況
前章にて汚染に意識呑まれフランチェスカさん(f04189)に助け出された後安全圏で状態を回復中
ボスの出現を察知、守って貰っていたお礼を伝え、彼女が全力で戦える様別行動を提案

▼戦闘
方針:遠距離支援
不覚ね、彼らの情欲に呑まれるなんて…
”学習力、耐性”で対応出来てきたけど、近接はまだ無理ね
それでも最後まで戦うわ、大丈夫無理はしない

あの傷…まさか迷宮の肉が形になったとでも云うの
縋り受け入れていた時の記憶まではないでしょうね…
’ストレージ:ライフル’で”スナイパー”
”マヒ・気絶攻撃、生命力吸収の呪詛”を撃ち込み行動阻害
こちらまで触手伸ばすようなら体を餌に招き【縛鎖】で縛り対抗

アドリブ・絡み協力歓迎


フランチェスカ・ヴァレンタイン
直前までユイさんをケアしつつ休息していましたが、ボス出現を察して単独で先行しての状況突入です
あの状態で一人にするのは幾分気に掛かりますけれど……彼女も猟兵、ですしね
さて、休息したとは言え万全ではありませんが…

※スーツはボロボロ、全身に体液と粘液を浴びた影響は抜けきっていない

突入と同時に噴射で加速し、擦れ違いざまに速度を乗せた斧槍を叩き込んで先制します
そのまま交差機動を駆使した高機動戦に移行、UCを使った渾身の一撃を見舞うタイミングを計ります

疼きの残る身体を押しての粗のある機動なので、触手と粘液は完全に躱しきれるかどうか…

※芯が折れない限りは諸々お好きにどうぞ
※アドリブ・他の方との絡み大歓迎です




 地震を思わせるその地鳴りに、猟兵達は膝を着いた。満身創痍とも言える肉体に大きな負荷を与える揺れは、彼らの目前に膨らんでいく形を注視する暇を与えない。流動する肉の音、千切れ流れ潰されていく感覚を足元から感じ、そのおぞましさにただ顔をしかめていた。
 そんな中たった一人、蠢く地面を眺める影があった。スラスターから放たれる轟音がその身を浮かせ、地上に立ちすくむ猟兵同様……いや、それ以上に険しい顔を浮かべながら、その様子に閉口していたのだ。
 フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は、全身を震わせた。ボロボロの外装に切れ目と破れが目立つスーツ。そこから見える陶磁のような肌も赤く染まり、濡れ光る全身がわななくのは淫蕩な震えにすら見える。
 眼下に広がる一面の肉の海。大津波かという動きを見せる地面であったが、フランチェスカの視線は別の一点に注がれていた。隆起する肉はのたうつ動きとは全く違う、一つの意思を持った造形の瞬間。背筋を走る悪寒は、先程まで戦っていた豚面達に感じたそれを上回る、吐き気すら催す嫌悪の感情。
 それと同時に、未だ苛む全身の疼きはその強度を強めていく。険しい表情に隠れる甘い感覚は、それが明確な形を現していく事により更に、更に強くなる。無意識に抑えた腹、そこが発する熱量に舌打ちひとつ、フランチェスカは視線をそらした。
 見やるのは背後、本来狭い入り口でしか無かった小さな通りは、今や大口を開けた大きな石の通路と変わり果てていた。そこに横たわり、地面で大きく息を吐く小さな姿。それを見留めたフランチェスカは視線を戻す。
 巨人と言って良いだろう。豊満な肉体を震わせる豚面の巨人はいやらしく笑みを浮かべ、一歩を踏み出した。その姿に気づいた猟兵達に走る動揺、巨大な質量を見て驚異と感じないものは居ないだろう。
「全く。イライラしますね」
 ひとまず、彼女の無事は確認できた。であるならば、猟兵としてやるべきことはたった一つ。フランチェスカはスラスターを強く吹かし更に上空へ。急角度の旋回を見せると、錐揉みをかけながらの直滑降へと移行していく。


「あの、ルナさん……乙女の着替えですので、少しだけあっちを向いててもらって……」
「そんな場合じゃないですよね!?」
 漸く収まった揺れから立ち直った矢先。ルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)は眼前に佇む巨大な災魔を見上げていた。ギラついた視線を四方へ、そこに佇む猟兵達の品定めをするような目つき。それがルナへと向けられると、全身を走る怖気が小さな身体を震わせた。
 ミコさん、と助け舟を求める様に振り返るルナ。そうして、やんわりと黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)の注意を受けてしまったのだ。
「さっきの敵よりもすごい大きいです!? ……あの、誰か、戦って……」

 ルナに視線の先にあるのは、一人の鎧装騎兵。既に破壊された跡すら見える外殻、背負ったスラスターから聞こえる音は快音とは言えない。
 鎧装騎兵、フランチェスカは誰よりも早く災魔へと切り込んでいた。握りしめた槍斧、ヴァルフレイア・ハルバードを手の中で絞り、風切り音を盛大に響かせた。滑るように振り抜かれた刃が上から下へ。束となって押し寄せた触手達を一刀のもとに切り落とすと、急角度の旋回を行う。
 災魔の頭上から一気に高度を落とし、地面すれすれに飛び込むと平行に。追いすがる触手が地面へ叩きつけられ、地響きと粘液を辺りに跳ねては揺らしていく。一際大きな触手が目前へ迫ろうとも、フランチェスカの速度は変わらない。強く吹かしたスラスターが強引に角度を付け、それは災魔の足元へ。足の一本でも頂こうともう一度振り抜く槍斧であったが、弾かれる。
 揺れる身体、上下する体勢。それを見逃さない触手達は、今度は前後から挟み押し寄せるように伸びてくる。まだだ。フランチェスカは地を蹴り上げ、急上昇。足元でぶつかり絡み合う触手ではあるが、まだ足りない。背から生え揃った触手の群れは数え切れない程、背を通る彼女の身体に追いすがる紫のそれが、更に迫り寄る。
 安定を取り戻した飛行から、横に薙がれる槍斧の刃。硬い、そう思った所で手を変える訳にはいかない。切り裂くために押し込む力、安定を崩しながら引き、裂いた。ぐるりと回転する遠心力はそのままに、更に向かってくる触手を切り落とすと、錐揉みを続けながら上昇していく。

 ほ、と安心するとともに、その動きに見惚れていた。ルナは両手を前に組み、一人奮戦する猟兵へと祈りを込めていたのだ。
「ミコさん……あの、早く、早くしないと……」
 一瞬の膠着。空中で触手を睨みつけ、その隙を伺う触手達。にらみ合いは一秒と持つまいが、焦れる感情がルナを突き動かし、振り向かせてしまった。
「あーもう。まだ見ちゃだめなのに」
 振り返った先にあったのは見慣れた黒いスライムではなかった。スラリと長い足に白い髪。端正な顔立ちに見覚えは無い。呆気にとられた表情で足元を見ると、ぶよぶよと膨らんだ黒の固まりが、ぬるりと足を模って収まった。誰、と口を開こうとしたルナに、その少女はにんまり笑ってみせる。
 身長はルナと同じくらいだろうか、しかしどこかで見たような柔らかな笑みに、釣られて微笑み返してしまう。きゅ、と握られる手は、人肌に温かい。柔らかな感触を思い出すと、クエスチョンマークが浮かんでいた頭がスッキリと晴れ渡った。
「ミコ、さん?」
 に、と笑みを作るその表情。のほほんとしたその印象は変わらない、変わらないが……ルナは、そんな彼女にどこか空恐ろしさを感じていた。


 更に上空へ。浮き上がるフランチェスカの身体が急旋回を見せると、追いすがる触手へと槍斧を振るった。ユーベルコード『城塞穿ち 爆ぜ砕くもの』、痛み始めたスラスターと心もとない術式炸薬。想定以上の苦戦を強いられた小さな災魔達を恨みながら、振り払った刃の先から聞こえる破裂音。
 爆音、爆炎、焦げた肉と濃厚な体液の匂い。この地を覆っていた血肉があの身体に込められている。となれば、災魔の持つ体液は濃く煮詰められた様なものだろう。気化した体液から逃げるように急降下させ、爆破の影響で動きを止めた触手を打ち払う。弾ける飛沫、赤い雨。切り口はフランチェスカへと向けられ、その身体が赤く染まった。
 一瞬の酩酊、ふらつく頭は空中制御の不安定を誘い、泳ぐ瞳が視界を揺らす。何が起こったか、などと考える暇もない。そんな隙を見逃すはずもない災魔は、小煩いハエのような鎧装騎兵を、その一瞬で捉えて見せた。
 スラスターを掴み、胴を巻き取る触手達。逃げ出そうと身悶えした所で拘束の手は緩むはずもない。恐怖か、光悦か。染まっていくフランチェスカの表情を、遥か後方に立つ少女は見通す事は出来なかったのだ。

 大きな呼吸を繰り返し、見つめていたフランチェスカの戦い。触手をいなし、切り裂き、たった一人で捌き切る技量。やはり別行動を提案してよかった、そんな悔しさを伴う感情の中にあったはずだ。
 月宮・ユイ(死ヲ喰ラウモノ・f02933)は悔やんでいた。もしも自分があの場に参戦できていれば。未来を見通す瞳を使い、彼女の援護をできていれば。悔しくて噛み締めた奥歯の甘い痺れに、こんな自分に何が出来た、と自問自答を繰り返す。
 眼の前で、手の届かない上空で、その外殻の内側に触手を這わされる屈辱。災魔の足元から彼女を助けようと武器を手に戦う猟兵もあるが、あまりの数の触手で手一杯なのは見て取れる。そして、そんな彼らですら出来ないことを私一人でやれるというのだろうか。
 ぞ、と引いていく血の気に感じるのは無力感だった。まともに動くはずの身体も、フランチェスカを苛む触手達の動きを見るだけで疼きが蘇ってきてしまう。やめろ、と呟く言葉は、心の中だけのもの。何が出来る、そう考える頭に空白の意識が落ちるだけ。満身創痍のこの身体、出来ることなど何があるというのだ。
 そんな事実に絶望と、仕方ないという安心感を覚えてしまう。戦えない理由がそこにあるという、諦念を基礎とした余りにも弱々しい安心感。敵の巨体、無数の触手。無力感が苛む感情は、最悪の感情にすら縋ろうと手を伸ばしかけた。
「私は……もう……」

 そんなユイの視界に入る、モノトーンの影。墨をまぶしたような線を纏ったそれは、小さく地を蹴ると空へと浮き上がった。
 同時に駆けてくる足音。ユイの前に立ちふさがり、巨大な災魔から身を呈するようなその行動。白くて小さな影を見上げた。それは小さな背中だった。ぼろぼろの衣服をまとった、ユイと変わらない背格好の白い少女。
 助けてくれるのだろうか。そんな思いを抱いた自分が、どうしようもなく嫌になる。


 ボロボロと形を崩した外殻の下に見えるのは、張り付くようなフィルムスーツ。外殻の隙間から潜り込む触手の数は大小合わせても数え切れず、切り傷の入ったスーツを更に広げようと先端をこすりつけ、撫で回していた。
 何度と無く吹かしたスラスターの音は、回数を重ねる毎に不吉な不協和音を引き起こしていた。高熱の噴射であるはずだ、災魔の持つ触手にダメージが無いはずがない。事実、焼け焦げ崩れる感触を幾度となく感じていたのだ。
 だが、災魔にとって一本の触手など数ある内の一つでしか無い。焼かれた所で、切られた所で、代わりにの肉体などいくらでも生み出せてしまう。既に数十本も切り落とされ焼き切られた災魔の背であったが、限りが無いという程にフランチェスカを覆い、苛んでいく。
 いくら力をかけようと、その圧力だけで壊れるような外殻ではない。ただ、狭い隙間に潜り込む触手達の動きは巧みで、撫で擦る感覚は時間を追う毎に強く、激しくなっていくのだ。
 根本から絞り上げられる双丘の感覚、じっとりの先端に伸びてく左右数本の触手が頂点を挟み、潰す。がく、と大きく揺れる腰が何を意味しているかなどフランチェスカ自身が嫌というほど分かっている。小さな豚面との戦いの最中から、身体の芯に残る熱の存在を無視してきた。
 勿論、こんな戦いの最中発散できる感情ではない。ましてや猟兵……ユイという存在が背後を見ているともなれば、みっともない姿を晒せようはずもないのだ。自身を信じて送り出した、満身創痍の彼女を不安にさせるような事があってたまるものか。
「この……豚、が……!」
 憎まれ口を叩く口を塞がれる。強く絞り上げられる胸に、痛みを感じる程の締め付けが甘い愉悦を引き出した。一際大きく、熱を持った感触。芯の硬い、しかし感触は柔らかい。それはへそを撫で、下腹を撫で、腰を撫でる。
 やめろ。その叫びはくぐもった音となる。スーツの下に潜り込んだ触手は、既に自身の身体を玩具のように扱っているのだ。開かれる足、あてがわれる触手。ぬるつく感触に覚える甘い痺れに、最大限の嫌悪を込めて。

 思い切り吹かしたスラスターがフランチェスカの身体を動かした。それは何度試しても無駄だった、重いながらも浮き上がるような感覚。既に弱っている彼女の羽も今この時は全力を振り絞っていた。
「……大体、美女美少女達を触手でアレコレなんて破廉恥なこと」
 塞がれていた瞳に入る光は眩しく、目の前に浮かび上がる少女の姿を捉えることが出来ない。ブレるような墨が周囲を覆い、光沢のある灰色の身体がゆっくりと視界に流れ込んできた。
 ぶつぶつと聞こえてくる声は不平不満の表れか、眼の前の少女の腕が降ろされると、フランチェスカの身体は一層軽く浮き上がる。吹き上がる災魔の体液を、墨の暴風がかき消し、内部に立つ灰色の少女まで届く事はない。
「邪神や魔王が許しても私が許しません! ……ですよね!?」
 全身を這い回っていた触手を剥ぎ取り打ち捨てていたフランチェスカ。前後関係の分からない怒りの言葉に、不機嫌な表情を返す。赤い顔を必死に抑え、その場でぐるりと回転すると、たっぷりと乗せられていた粘液は弾け飛ぶ。
「……なんです?」
 仏頂面を改めて向ける。白いポニーテールの少女、ミコは見つめ返し、微笑んだ。握り込む大槍と、強くなる暴風。真の姿を見せたミコのユーベルコード『黒風鎧装』、それは近づく触手を刻み、肉片と化すほどの力を見せていたのだ。


 ミコがユーベルコードを用いて飛び上がったその頃。ユイの前に立つ少女は、くるりと振り返った。同じ背格好ではあったが、いくらかあどけなさを残すルナをどことなく弱々しく感じてしまう。
 災魔へと飛びかかった彼女にしても同じだ。強い力を感じるが、それはフランチェスカにだって感じたものだ。それがたった一人、二人。増えた所でどうなるのだというのだ。
 吐き出される甘い吐息。身体を蝕む毒が脳まで回ってしまったのだろうか。表情を暗くするユイを見て、ルナは微笑んだ。
「多分、その。あの敵は強いです。さっきまで戦ってた敵と全く違います」
 その通りだ。あの災魔に向かい攻撃を仕掛ける猟兵は多数いる。しかし、あれだけフランチェスカが飛び回り、隙を生み出し場を整えても決着は見えない。あとは戦力が削られるだけ。そう、自分自身のような足手まといが増えるだけ。
「嫌な敵です。嫌な敵ですが、これ以上被害が出ないように……集中して頑張らないと。私達は、猟兵なんですから」
 全身を苛む媚毒が回る。火照った頬が赤みを増し、ゆらりと撫でる風が全身をくすぐった。
 耐性はあったはずだ。こうなると学習もしたはずだ。一度戻る、それが何故出来ないんだろう。そうでなければ、ここで私達は……。

 ユイの前に立つルナは、ボロボロの衣服を少しだけ正し、その手に力を込めた。正面を向き、災魔に相対する。集中する精神が生み出す、指向性をもたせた魔力。猟兵の力がそれを超常のものに変えていく。膨らんでいく魔力は常を超え、本来は存在しない力をルナの身に宿していく。
 ぞ、と背筋が凍る感覚に身体が強ばった。災魔の背から伸びる幾本もの触手。そのうち、十数本がこちらへ向かってきているのだ。粘液に塗れた触手群は、二人に向かう途中に切られ、裂かれ、焼かれる。前線の猟兵たちの援護だろう、しかしまだ、足りない。
 硬化させているのだろう、走るように粘液を弾けさせ、前線の彼らの斬撃もこの時ばかりは弾かれる。たった一度、その攻撃を無効化さえすれば触手は二人のもとに届くのだ。見ろ、眼の前に、ルナの力を感知した災魔が迫ってきた。
(やっぱりダメじゃない)
 ユイの頭に渦巻く諦念ではあったが、その身体は動いていた。眼の前の少女はと言えば、飛んでくる触手を見たとしても微動だにしない。生み出したその力を、猟兵としての力を。今この時、この場に居る彼らのために使おうと、身を呈しているのだ。
 猟兵だから……ね。
 ユーベルコード『縛鎖』。捻れた空間、歪んだ空気。視界を歪ませるその空間から勢いよく飛び出す無数の鎖が、この場に居る二人を撃滅せんと打ち出された触手に飛びかかる。
 どこまでも引き出される無限長の鎖が、一斉に触手の先端へとぶつかっていく。表面を滑りながら、一瞬で先端を覆い隠す銀色の鎖。
 多少の速度を落とした触手ではあったが、一本の形の違う鎖が巻き付くとぴたりと動きを止めてみせた。更に巻き付く大量の鎖は、災魔の触手に負けない物量を示している。
「永久の縛りを……!」
 更に一本巻き付くと、硬化していた触手の表面が柔らかく緩んでいく。そして、断ち切られる。ずん、と重々しい音を立てながら地に落ちたそれをみて、ユイの心は跳ねた。それは淫靡な思いからではない。諦念に打ち勝てた。たったこれだけのことだ、という気付き。

 膨れ上がる力が頂点に達する。ユーベルコード『星霊召喚』、目標を打ち倒す力を借りる、猟兵だけが使える召喚魔法。煌めきが空へ、魔力が生み出した星座の化身は、果たしてユイの首を傾げさせるものだった。
「ありがとうございます!」
 くるりと振り向き笑顔の花を咲かせるルナであったが、どうにも不思議な顔をしているユイをみて、同じ様に首を傾げてみせた。じ、と向かうユイの視線。応答のない様子を不審に思いながらたどった先にあったのは、ルナの胸まではあろうかという大きなぬいぐるみのような甲殻類であった。
「蟹?」
「蟹さん……です」
 口元からは綿の泡を吹き、柔らかそうなハサミがふわふわと開閉を繰り返している。これを蟹という以外に表現できないが、正確にいうならばぬいぐるみの蟹、である。
「え、えっと……蟹さん! 頑張って!」
 言葉を理解してはいるのだろう。ルナの言葉に頷きこそしないが、柔らかそうな足を細く動かし、ちょこちょこと災魔へと向かっていく。そして、暴れまわる災魔と猟兵、その間に立たされた蟹は災魔の足に蹴飛ばされ、部屋の端へと飛ばされてしまった。
「猟兵……」
「え?」
 一連の出来事に頭が白くなる。この場面はこの子がすごい魔法を見せてくれるとか、そういう流れなのではないか。勝手な思い込みでしか無いユイのそれは、しかしルナにとっても同じことではあったのだが。
 なんで蟹さん、と傾げる二人に迫る触手。一度目が失敗だったとしても、この力を持つ猟兵を置いておく程馬鹿ではない。更に数を増した触手は、前線の彼らの手も足りないままに十数本を伸ばしてきていた。
 災魔自体も近づき、巨大な身体が迫る圧迫感があまりにも強い。もう一度、とユイがユーベルコードを行使しようとしたその寸前。敵の触手が二人を捉えたのだった。


 べったりと張り付いた粘液が、二人の素肌を舐めあげる。擦り上げる感触はさっきまで感じていたそれよりも強く、撫で付けられる度に患部が電気を走らせていた。
「放して……やだ!」
 ぐるりと腰、首元に巻き付く触手。ぐるぐると巻き込み引き込みながら、柔らかな肌を楽しむように撫で擦ってきた。強すぎる匂いに頭はふらつき、弄られる感触は気持ち悪いはずなのに声が弾む。
「いやっ! 触らないで……! そんな、所……だめ……」
 更に増える触手がルナを覆い隠した。数本切り落とされ動きを止める触手もあるが、追加され増えていく触手の数が勝っていく。小さな胸を吸い上げ、内腿を啄む。いやだ、と足を閉じても、触手達の膂力は少女の力などあっさりと超えて見せた。
 ひ、と上がる声が甘く上擦っていた。どうしよう等と考える暇などない。押し付けられる触手が擽る感覚に、ただ只管に無駄な抵抗をするしかない。
 そんな折である。ばつん、と何かを断ち切る音がした。それはルナへと押し付けようと動く触手の動きを止める音。さらに、二つ、三つ。同じ音がいくつか続き、気がつけばルナの身体は自由の身になっていたのだ。
 なんで? 首を傾げるルナの前に表れたのは、真っ赤に染まったぬいぐるみの蟹。体液をもろに浴びてしまったのだろう、香り立つ匂いは甘く甘く、自らが生みだした生物だと言うのにどうにも嫌悪感がすごい。
 蟹はちょこちょこと動き回り、ユイを拘束する触手へとそのハサミを当て……閉じた。
 ばつん。
 ふわふわな見た目からは想像も出来ない切れ味を見せるそのハサミは、更に数度閉じて見せるとユイを完全に開放せしめた。咳き込むユイへと駆けつけ、その肩を抱き起こすも、視線は蟹へ。
「あの……」
「……ごほ、ほっ……なに、大丈夫、私はまだ」
「蟹さん、すごいです」
 戦える、と言いかけたのだろう。強い視線をルナに向けていたユイは、その視線を辿り、先を見た。
 そこには真っ赤に染まったぬいぐるみの蟹。ぶくぶくと赤い綿を吐き出しながら、柔らかなハサミを開閉して見せていた。
 嘘でしょ、なんて言いかけた二人にまたも触手が飛び込んでくる。たった一本、しかし身を起こしたばかりの二人にとっては驚異の一本だった。しかし、ばつん。
 蟹は単調な触手の動きを見きったのだろう。にゅ、とそのハサミを伸ばし走る触手にあてると、目の前で簡単に断ち切った。
 溢れ出る体液を全身に浴びながら、なんの感慨もなく泡を吹く。
「え、うそ。凄い怖いんだけど……」
 怯えた表情のユイに同意しかけるルナではあったが、ぐっと乗り越えた。それは大人への一歩。
「……強いし、可愛いです」
 嘘をついた。
 更に九匹、追加で呼び出す間ルナの周りを囲む蟹のマスコット。災魔としても嫌がっているのだろう、幾度として差し向けられる触手の刺客は、一向にその力を発揮出ないでいた。
 ばつん、という音が連続で鳴り響く。蟹達は、それぞれ別の色の染まり方をしていたが、少なくともユイに見分けはつかなかった。


 大振りの斧の一撃が地を打ち貫く。破片を四方へ弾き飛ばしながら乱暴に振り回す災魔の武器は、猟兵への狙いを正確に定められてはいなかった。突然動きが大味になった理由は分からないまでも、精彩を欠いた敵に見るのは勝機だけだ。
「これまでがいい動きだったとは言わないけ……どっ!」
 黒風を纏ったミコは、迫り来る触手をしなる槍で打ち弾く。手にした獲物は鏖竜飛槍ハヅキ。黒を基調とした鋭角なそれを、弾いた触手に刺し穿つ。
 返しの付いた刃が肉を裂き、力を失った瞬間には暴風に飲まれて刻まれる。すぐ隣に飛び上がるのは、スラスターの出力を上げたフランチェスカの姿だった。彼女の肉体が忘れられないのか、追いすがる幾本もの触手達。
 柱のようにそびえる触手達は余りにも無防備にそこに立っている。ミコはただ、槍を振るいその柱を断ち切る。ただそれだけでよかった。
「良いことではありませんか。この程度の動きなら、大したことありません……っ!」
 ずるり、と落ちていく触手に見向きもせず、錐揉みと共に押し入るのは災魔の豚頭。槍斧を構え振り下ろすものの、それは硬化した触手に阻まれる。
「惜しいっ」
 弾かれ動きを止めるフランチェスカを付け狙う触手。そんな事は想定済みだ。伸びる触手の通り道、さらりと振った槍の刃が、ざっくりと触手を縦に割った。弾ける体液をすんでで躱し、しかし地面へ降り立つことはない。
「ああ……蟹、ですね」
「……蟹?」
「蟹」

 そろって上空へ浮き上がる。左右から押しつぶすように迫る触手が急角度をつけ上り、ミコの暴風に耐えるべく硬化した肉体で打ち付けようと接近し……ばつん、という音と共に落ちていく。
 それはもう片方の触手も同様だった。中程から断ち切られた痕が残り、吹き出す体液が地上へと降り注いでいる。
 そして、落ちていく触手に乗っかった赤すぎる蟹。かすかに見えたのは、蟹。そのぬいぐるみ。
「蟹だ」
「でしょう?」
「蟹……」
 ミコが視線を動かすと、きゃいきゃいと手足をバタつかせるルナの姿があった。周りを取り囲む数体の蟹がボディガードの様に彼女にまとわりつき、迫る触手を断ち切ってみせていた。
 すぐ隣には、長銃身を構えた少女が一人。狙い澄ますのはミコ達同様、災魔の頭である。
 暴風にかき消されてまともに聞こえないが、放たれた銃声が耳に届くと、触手達の動きが鈍ったように見えた。絶大なものではない、しかし何かしら明確な効果がある。なるほど、とミコの口の端が釣り上がった。

 幸いな事に的は大きい。こうして何度も銃撃が成功しているところを見る限り、狙撃手の腕は悪くないように思える。そして、先程から数えている限り殆ど同程度のタイミングで狙撃を行っている。弾の装填の関係もあるだろうが、一番の目的は前線にそれを知らせるということだろう。つまりは、タイイングを合わせろ、ということ。それならば。
「今、ってことだ!」
 暴風で顔が隠れるミコに変わって、フランチェスカに合図を送る役目を頼んでいた。
 剣戟と銃撃と、弾けまわる触手の音。粘液の艶めかしい音も含んだその戦場は、およそクライマックスを迎えているのだろう。
 何度目か分からない狙撃音は、福音となる。災魔の頭部を狙った一撃は、しかし触手に阻まれた。ダメージを明確に負わないその一瞬、災魔は狙撃手から視線を外す事となった。
 瞬間、生み出される大量の鎖。捻れた空間は災魔の周囲に浮かび上がり、ジャラジャラと音を立て引き伸ばし、巨大な災魔を包みくるんでいく。巨人とも言えるその身体を簡単に抑えられるほどの力はない、ただ嫌がってくれればそれでよかったのだ。
 災魔の身体を走る十体の蟹。すでにでろでろに濡れた彼らは茹で上がった様に染まっているものの、足を動かす速度に変わりは無いように見える。身を捩る災魔に振り落とされる蟹は数体。十分だ。
 先頭を急降下するフランチェスカ。残り少ない燃料を最大限に吹かし、鈍い動きの触手へ狙いすまし、払い退ける。
 爆炎が辺りを包み、周囲に拡散していく。炎の渦から飛び出してくるのもまた、フランチェスカ。頭部を守る災魔へと槍斧を振り下ろし、触手を断ち切った。あと一歩。届かないその一撃は、果たして狙い澄ましたものであった
 ばつん、と響く音。頭部を覆うように動いていた触手が宙に舞う。落ちていく触手にのった蟹たちが、さようならと手を振るのが見えた。
 がら空きになった頭部、弱点である事を願うそこへ……一切の邪魔を受けない黒い風が吹き下ろされる。その風は槍を手に、一層のの暴風を吹き荒れさせ、更に迫る触手を徹底的に切り刻む。
 打ち込まれた鏖竜飛槍ハヅキは、豚頭の固い骨を穿った。押し込む力は人間のそれではない。真の姿を発揮しその暴風を纏った黒玻璃ミコのその膂力は、竜にすら打ち勝つ可能性を秘めたものとなる。
「……うっそ!?」
 豚の頭が弾けた。溢れ出るのは肉と体液。そこに脳漿などという大層なものはなく、全身を覆う身体同様筋肉が詰まっていた。
 そんな一撃を受けた災魔は数歩足を引き、無い首を振る。痛みに悶えるジェスチャーを行うと、全身に絡みつく鎖を引きちぎる。
 手にした大斧を振りかぶり、地上の猟兵を一掃しようと、横薙ぎに構えた。
 次の瞬間。災魔の身体から一斉に白い花が咲き誇ると、その動きをぴたりと止めたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【杜鬼・カイト】と行動
アドリブ歓迎

「…その上着、いいから寄越せ(無理矢理強奪)お前も目ン玉潰されたくなけりゃ見ンな気持ち悪ィ。
ち、いっそ破いてやりてェが今よりマシか。クソが(八つ当たり)
テメェで最後か。ようやくこのクソみてェな迷宮ともおさらばできるぜ。
さっさと逝けや」

溶けた服脱ぎ液体拭く
カーディガン羽織る
カイトの視線などガン無視
苛々MAXだが心頭滅却状態

挑発・先制攻撃・2回攻撃で玄夜叉で触手を斬る
【トリニティ・エンハンス】使用
攻撃力重視
属性攻撃・呪詛で今までの怨み纏いし烈火の焔を剣へ宿す
敵の攻撃は剣で武器受け・カウンター

「お前のンなコードに救われンのは腑に落ちねェ。これ以上借りなんか作るかよ」


杜鬼・カイト
兄【杜鬼・クロウ】と行動

休憩。
兄さまにカーディガンを貸す。
あは、オレのものを兄さまが身につけるなんて最高です。
「オレに抱きしめられていると思って着てくださいねっ!」

気分がいい間にサクッと敵をやっちゃおう。
次の敵はどいつかなー……ってうわぁ、さっきのヤツらとほとんど変わんないじゃん。
むしろ気持ち悪さ倍増。

リーチ重視でなぎなたを装備。
【見切り】で回避しつつ、迫る触手はガンガン切り落としていく。
兄さまを守るために【赤い糸は結ばれて】を使用。
白詰草の花が命中したら『オレの兄さまに触るな』ってルールを宣告。
「約束、破ったら許さないよ?」
微笑んでみせつつも【殺気】を垂れ流し【恐怖を与える】

■アドリブ歓迎


セリオス・アリス
アドリブ歓迎

はッ…まさかあのクソみたいな迷宮の正体がコイツってことか…?
浅い呼吸で吐き捨てるように呟き
濡れた髪を後ろに払う

さっさとけりをつけてやる…!
【望みを叶える呪い歌】を歌い先制攻撃
触手に斬りかかる
斬った勢いで回転更に2撃目を叩き込み
しかしぬるぬるして足場が悪い
散らかしてんじゃねえぞ

くそ…ドジふんじまった
足を滑らせ触手にからめとられたら力任せに引きちぎろうと
うっ…く…
ぞわぞわと背を伝い引きずりだされる望まない感覚に身をよじり
歯をくいしばって呻く

引きちぎれねえなら燃やしてやる
意地とわずかな理性で炎の魔力を拳に集め
全力攻撃だ

焼きブタになりやがれ…!!
…つっても食えたもんじゃねえだろうけどな




「……その上着、いいから寄越せ」
 揺れの収まった地面に立つのは、大剣を手に視線を上げる長身の男。その横には、笑顔に花を咲かせてカーディガンを渡すセーラー服を纏った一回り小さな姿があった。
 自らの上着を明け渡すその様は強奪とも言える傲慢さを感じるが、渡すことに何の意義も唱えない。それどころか、そうすることこそが誉れだ、とばかりに顔を赤く染め、瞳を輝かせている。視線は鍛えられた肉体に注がれ、サイズが合わないながらも着ようとする男を見る表情は、余りにもたおやかであった。
「……お前も目ン玉潰されたくなけりゃ見ンな気持ち悪ィ」
 悪戦苦闘の末、弟のカーディガンを着用出来たのは杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)その人である。パツパツの感触に違和感を覚えるが、胸元を見せる位ならこの姿のほうがいくらかましだ。そんな思いに気づいているのかいないのか、弟の杜鬼・カイト(アイビー・f12063)は何度も頷きながらそんな姿を眺めている。
「オレに抱きしめられていると思って着てくださいねっ!」
 眉をひそめ、露骨なまでに表情を崩すクロウ。しかしそんな表情ですらカイトにとっては一つのご褒美であった。気にかけてくれている、受け入れてくれている。そんな思いが一欠でもあるのであれば、カイトは無限の力を貰っていると思えてしまえるのだ。
(あは、オレのものを兄さまが身につけるなんて最高です……!)
 弟の舐めるような視線は慣れたもの。それ以上構うこと無く見上げた先にあるのは、余りにも巨大な豚面の災魔の姿。
「次の敵は……って。うわぁ、さっきの奴らと同じ、ていうか、大きくなった分気持ち悪いんですけど……」
 今まさに形を取り戻し、赤色だった肉が肌の色を作り上げていく。踏み出す一歩が地鳴りを引き起こし、手にした大斧は巨大の一言では語れない程の大きさを誇っていた。
「あれで最後って事か。ようやくこのクソみてェな迷宮ともおさらばできるぜ」

 【黒魔剣】玄夜叉─アスラデウス─、黒の刃渡りに施されたルーン文字が浮き上がる精霊を宿す異界の武器。握り込んだ柄を更に強く絞ると、クロウは巨人を睨みつける。どう戦ったものか、そんな思いが頭をよぎった瞬間、上空から聞こえる風切り音。吐き出される不可視の炎が生み出す快音が響くと、その影は地上スレスレを飛んで行く。
 影を追う数々の触手が地に叩きつけれ、張り付いた粘液を地上に撒き散らし、それでも追いすがり伸びていく。
 足元を器用に掻い潜り、一撃を加えながらまた空へ。目まぐるしいまでの一瞬の攻防が、クロウから迷いを捨てさせた。
「らしくねェってな」
「勿論です、兄さま!」
 何のことだか、分かっているはず無いだろう。呟く声にハツラツと返事をするカイトの目は爛々と輝いている。妄信的とも言える弟の声が、今は心強かった。
 返事などするわけがない。握りしめた大剣をもう一度構えると、巨人の災魔と目を合わせる。やってみろよ、そんな思いを込めた睨みが届いたのだろう。愉快に破顔した災魔は、その手に持った大斧を真っ直ぐに振り上げた。


 それは重機による破砕音。そうでなければ、自然災害の類いを思わせる強烈な一撃であった。
 ただ大きい、ただ重い。ただ、力が強い。それだけの一撃は石畳の地面を悠然と砕き、その破片を四方へとばらまく程の打撃力をまざまざと見せつける。災魔の背から伸びる触手は縦横へと動き回り、まるで視界を有しているかのような動きで各猟兵を追い詰めていった。
 クロウは手にした大剣を盾に、カイトはその身のこなしによって。弾けるように飛び交う破片から身を守り、二度振り下ろされる前にその距離を詰めていく。
 迫る触手を振り払う一刃の光。遠心力を利用した一薙ぎが一本の触手を切り裂くと、右下段へと流れた腕で上方へ。糸を引く刃光が赤いぬめりをも引き伸ばしながら、割るように裂いた触手が開いて散る。
 石突が打ち込まれ、弾かれ動きを止めるそれに振り下ろされるのは、黒剣の一撃。斬り潰す、そんな言葉が似合う渾身を込めた勢いは進む足へと繋がり、地を擦りながら火花を散らす切っ先が真横に振り抜かれ……更に襲いくる触手から、身を転がし躱した。
 間断の無い触手の猛攻は二人の予想を遥かに超えていた。切り払い、高濃度の体液が弾ける視界に飛び込んでくるのもまた、触手。それは災魔との距離を詰めれば詰めるほど激しく、二人分の手では裁ききれるかどうか、という圧倒的な物量を見せていた。
 振り絞る力が旋風すら生む斬撃を見せ、返す刀で払われた連続の斬り口は背後に迫る一段を纏めて落とす。大振りのクロウの隙を消すカイトの薙ぎも鮮やかに打ち払い続けるものの、まるでその数が減る様子がない。

「チっ……さっきよりも」
「面倒ですね……っ!」
 互いに背を押し当て、ほんの一瞬の呼吸の瞬間。合わさった声が同義を放つと、少しだけ笑みが溢れてしまう。カイトは前に、クロウは右に。大きく身体を進ませると、赤く染まった獲物を振り抜いた。弾ける赤を背に進み、更にその足元へと近づいていく、そんな折。
 突如として上空から聞こえていた爆音と風切り音が姿を消す。眼の前の災魔の動きは一層激しく、触手達は縦横無尽に暴れまわりはじめたのだ。クロウの口から鳴る音は、苛立ちを紛らわす舌打ち。
「下手ァこきやがったか」
 自然と上向く眼球が、しかし真横から殴りつける触手がそれを許さない。大剣の腹で受け流し、軌道のずれたそれをカイトが撫でるように切り裂いていく。吐いた息を飲む間もなく、弾かれる触手を断ち切れば、視界は飛沫で赤く染まっていった。
 そして、異音とも言える風切り音。数本の触手がぬめる音と共に走り去り、遥か後方を目指して弾丸を思わせる速度で飛んでいく。二人を狙う触手たちとは動きが違う、その目的は言わずとも知れていた。
「カイト!」
「ちょっと、これは……!」
 声に応えようと前へと向かう足は、迫る触手の束によって止められる。払う刃が血路を開き、そこに被せられる新たな触手の束。キリがない、と歯噛みする思いは苛立ちの表情に表れた。
 薙ぎ払う触手の海。変わらない光景は刻一刻と深刻化する状況を生みだし、ジリ貧という言葉を二人の頭に浮かばせた。やること、やれることなど一つしか無いというのに。更に強くなる奥歯の痛みを感じたクロウの耳に飛び込んでくる、低い、呟くような声。
 それは徐々に音階を繋げ、意味はわからずとも心地よい響きを生み出していく。戦場には似つかわしくない歌声。震えるような空気が何を意味するのか、正確な理由は分からない。ただ、その声が生み出す何か。それが猟兵の力であるということは、説明されずとも理解していたのだ。


 弾むように駆ける足音、数度の音を鳴らした影は真っ直ぐ前方へと跳ねた。
 視界の内でも尚黒いその影は、光纏う純白の剣を携え……切り払う。真っ直ぐに伸び切る触手がたわみ、進む身体を地にこすりながら、沈む。しかしそれはたったの一本。黒い影は前方へと進む慣性をそのままに触手を蹴り上げると、二人の頭上へと舞い踊った。
 風のような剣閃が光を伴い円を描く。響き続ける歌声は止まること無く、二つ、三つと触手を切り落としていく。
 クロウを見つめる青い瞳。ほの暗さすら感じる視線は明確な意思を持ち、言葉すら無く語りかけた。
 頷く間も勿体無い。弾けるように駆け出したクロウ、その大剣の先が火花を散らし、切り上げたのは後方へと進む触手の一本。
「カイトォ!」
 クロウの肩を蹴り、高く舞い上がる。背から振り上げ、まっすぐに下ろす切っ先が長大な遠心力を生むと、最後の一本の肉を噛み、弾かれる。硬化した触手は更なるクロウの一撃も弾き飛ばし、後方に佇む猟兵へと進んでいく。そして、見る間に猛然と速度を上げていくのだ。
 もう一撃、そんな思いは背後から迫る触手群が、嘲笑うように打ち砕く。気取られた一瞬の対応の遅れ、兄弟の手を掴む触手に怒りの視線を向けたその時、もう一度白い閃光が走った。
 低い姿勢の黒い影。外套と髪が風になびき、近くなる歌声はその人のものだと理解する。更に迫る触手を器用な手さばきで切り払うと、急停止した身体についていかない真っ黒な外套がふわりと宙に浮き上がった。
 歌声は止まない。風のような移動はただひたすらに細やかに。声の一つもかけないままに、黒い旋迅は駆け抜けた。

「はッ……まさかあのクソみたいな迷宮の正体がコイツってことか……?」
 滑る石畳を進む足は、僅かなスリップをものともしない。セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は歌声が呼び起こす根源の魔力を身にまとい、自らの驚異を見せつけることで注意の一端を引きつけていた。
 正面から真っ直ぐに飛び込んでくる触手を払い、乱暴なまでの剣捌きが生む遠心力に身を任せる。ぐるりと回転する手に握られるのは青星という名の純白の剣。セリオスのユーベルコードに呼応するかのように光を増す刀身が閃くと、硬化を始めた触手すら一刀のもとに切り伏せる。
 狙うのはその足元、巨人を支える二本の足。びくり、と触手群を震わせる災魔の動きは鈍い。勝機を模索するその足は止まることはなく、遮る触手を断ち切り、更に前へ。翻る剣光、飛沫を上げる切り口。あと一歩。
 握りしめた柄を振り抜こうとしたその瞬間。大量に溢れた体液と粘液が足元に、高速に至った黒い影は、滑る足元に身体の制御を失った。
 セリオスに向けられているのは先端を失った触手の切り口。大量の体液をこぼすその姿はグロテスクの一言ではあったが、そんな精神ダメージを狙う程愚かな敵ではない。
 吐き出される赤い粘液が足元を濡らすと、慣性を持った男の身体は滑り、流れていく。何が起こったのか気づいたときにはもう遅い、腕だけを振るう剣にどれほどの力が込められているだろう。魔力を込められたその白い刀身は無残にも触手に絡め取られ、そのままセリオスの腕までも取り込んだ。
「くそ……ドジふんじまったか……」
 溢れる触手、覆われる身体。一瞬で繭と相成ったセリオスの姿は、瞬きの間に外界から途絶されることとなった。


 災魔の動きが鈍り始めた。再度、上空から聞こえてきた風切り音にクロウの表情が和らぎ、それを見たカイトの表情も柔らかく溶けていく。旋風のように飛び出した彼のおかげだろう、一時的に二人への攻撃が穏やかになるのを確認したカイトは、風を追うように駆け出した。
 同時に膨らみ始める猟兵としての固有の力。クロウにしてみれば慣れた弟の力ではあったが、今それを頼るという事がどうにもためらわれた。この迷宮に足を運んでから、救われてしまうことが余りにも多い。そんな我儘を言える場面で無いことなど百も承知であったが、愚痴のように言葉がついて出る。
「お前のンなコードに救われンのは腑に落ちねェ」
 ぶっきらぼうな言葉は、黒い大剣を振り下ろしたタイミング。集中するカイトの邪魔をすることも無いが、膨らんでいく力が何のために使われるのか。薄っすらと想像がつく事が、余計に気にいらなかった。
「大丈夫ですよ兄さま。これは兄さまを信じるオレの気持ち……愛、そう、愛ですから!」
「これ以上借り作りたくねンだよ、くそ」
 呆れた口調も親近感の現れだと思えばむしろ心地良い。触手をあやすように先端を回し、刃を当て擦りながら振り抜いた後に、赤い筋。弾けた体液が頬に張り付くものの、そんな不快感を超えて余りある高揚感がカイトを包んで離さない。
「大丈夫、簡単です。あれが兄さま『触らなければ』、こんな力は発動しません」
 振り払う薙刀を回転させ身に留めると、石突を石畳に打ち付けた。前に伸ばすのは左の手。薬指にはめられた指輪が、かすかに力を発する。生まれるのはユーベルコード『赤い糸は結ばれて』、弾丸のように飛び出す白い影は白詰草の白い花、たったの一輪。
 それは触手渦巻く空間を掻い潜り、災魔の足へと命中した。グロテスクな戦場に不釣り合いな慎ましやかな一輪の花。うへ、と顔をしかめるクロウの表情は先の展開を予想したのだろう。発破を掛ける意味合いを受け取ってはいるが、出来れば発動してほしくない。そんな思いを表情に載せカイトを見つめるが、カイトはと言えば笑顔を返すだけだった。


 熱気が全身を渡り、もがく手足に汗が吹き上がる。粘液を払ったはずの黒髪にはもう一度ぬらつく液体が降りかかり、じっとりとした痺れを頭皮から全身へと広げていく。
 首筋から腰骨へ、ゆっくりと降りていく震えが通った後に残るのは、疼くような快感の残り香。いやだ、と首をふろうとも、衣服の上から撫でる感触はいかんともし難く、ただ強かった。
 握りしめる一本の触手も、ただそれだけだ。引きちぎろうと力を込めて、握りつぶそうを手を閉じて。生まれるのは強い弾力と、そんなセリオスの様子を楽しそうに触って遊ぶ触手達の動きだけ。小さな豚面の災魔たちとは違うということだろう。ユーベルコード『望みを叶える呪い歌』の助力があったとしても、今拘束されているセリオスは無力である、と。
「笑わせんじゃねえ」
 快楽を塗りつぶす、強く込められた闘志。噛みしめる奥歯が霧がかった頭を晴れさせ、視界一杯に広がる紫の触手を力の限り睨みつける。
 湧き上がる思いは魔力に変わり、歌声に乗せていた魔力に指向性を与える。
「引きちぎれねえなら燃やしてやる……」
 瞬間、繭の中の熱気を優に超える熱が、セリオスの右手から発せられた。それは瞬く間に広がり、炎の形を取るとなお一層勢力を増していく。
 まずは握りしめた触手が灰になった。そこから広がる熱の流れは爆発的に広がっていく。焼ける匂いはあっという間に焦げ臭く、セリオスに触れた肉の尽くを焼き切った。
 腕を振り下ろし、殴りつける。焼かれた肉は固まり動きを止め、当てた拳から灰燼と化す熱量を放射する。
「たく……ざまあねえな」

 全力の力を注いだ魔法の行使。脱力する身体はぐったりと前に倒れ、血と粘液に塗れた地面へとダイブする。その寸前、セリオスを抱きかかえる腕があった。
「おう、まだまだ元気そうじゃねェか」
 同程度の身長差だろうか、黒い大剣を携えたクロウが触手の繭から引きずり出すと、何が楽しいのか笑ってみせていた。
「任せろよ。こんな豚野郎、相手にもならねえ」
 つられて笑うセリオス。この戦場でみかけただけの相手、名前すら知らない相手。軽口を軽口で返すこの状況が似つかわしくないと分かっていても、変に心配されるよりももっと楽で、頼もしい。
 クロウの背後から迫る触手。音もなく忍び寄る数本のそれを、大剣が滑り逸らすと、返す刀で一閃。視線をやる必要もない、戦い慣れたその手管に、セリオスはもう一度笑ってみせた。
「そろそろ本番ってやつだ」


 カイトの目の前で、大きく触手が跳ねた。視線はセリオスを抱きとめるクロウに向かっているが、周辺視野はその全てを確認している。
 先程から何度も動きを鈍らせていた災魔であったが、今回は特に強い。痙攣するように身体を震わせ、憎々しげな視線を彼方へと向けていた。なんだ、と逡巡する間もなく、生まれる金属音と、鎖の束。巨人たる災魔の周囲に生まれた空間の歪みから溢れ出る大量の鎖が、その豊満な身体を巻取り拘束せんと動き回っている。
 一本一本の力は弱くとも、束になれば恐ろしい力を発揮する。それは眼の前で暴れる災魔が教えてくれたことだ。完全な拘束に至るものではないにしても、嫌がり暴れる災魔は足元の二人を踏み潰しかねない勢いで動き回っていた。
 うまくいなし、身を躱しているものの気が気ではない。暴れるのは本体だけではなく、背から伸びる無数の触手も同様に。宙を打ち、血を叩き、周囲を動き回る猟兵を付け狙う。
 災魔の身体が大きく震えた。一歩足を引き、空から落ちてくる肉の破片と大量の体液。ガクガクと震える身体であったが、動きを止めるには至らない。
 振りかぶられる大斧、地面にたつ猟兵を一掃しようとでも言うのだろうか、低く、横に深く構えたポーズはバッティングフフォームを思わせる。そんな身体を支える触手が地面に降ろされていた。
 そして、動き回っていたクロウが柱として立った触手に背を付いた。突然出来た壁にぶつかった、ただそれだけの事だ。
「……約束は約束ですからね!」
 パツパツのカーディガンに張り付いた粘液と、気持ち悪そうに離れる兄の姿。幾筋もの粘液の橋を作る感触に眉をひそめ、思い出したようにカイトを見る。
 に、と笑顔を作るカイトを、粘液の感触を覚えた時以上の苦々しい表情を浮かべて見やる。
 ぱたぱたと手首だけを振り呆れている兄の姿に、カイトの表情は明るく花開いた。

 完成するユーベルコード、災魔の身体を覆っていた鎖が弾け、今まさにその手を振り払おうとしたその瞬間。
 肉の弾ける強い音。血飛沫の吹き上げる音が耳に届く頃には、巨人の豊満な肉体に花が咲き誇っていた。
 それは白詰草の白い花。肉に根を張り、肉を裂く。筋肉の隙間に根を張り巡らせ、止まらない開花は次々と無様な肉体を白く装飾していく。
 頭部を潰されるまで痛みの様子を見せることの無かった巨人は、もがくように動き回る。ぶちぶちと体内から聞こえてくる切断音が耳に障り、動くほどに溢れてくる根本からの血潮。巨人の立つそこは血に塗れ、足元に立つクロウとセリオスは赤く染まっていく。


 エグいから嫌なんだよ、と視線を弟に送るクロウ。ファイト、と両手を胸の前で握り、嬉しそうに跳ねるカイトを見ても空恐ろしさしか感じることはない。
 傍らに膝をつくセリオスは何事かと目を丸くしているが、その背をクロウが叩く。
「やれンだろ?」
 引き起こした男を見やることはない。あとは、勝手にやるだろう。
 クロウは手にした黒剣、玄夜叉を右下段に構え、疾走る。花が咲き誇った災魔の足へを力の限り叩きつけ、千切れろとばかりに全力を込めた。しかし、それは半分。花がその肉体を満足に使えない状態に追い込んだとして、未だ強く硬い。
 だったら!
「さっさと逝けや……っらァ!」
 ユーベルコード『トリニティ・エンハンス』。黒剣に施されたルーン文字が光を発し、溢れ出る強い熱量が炎を形どる。肉を焦がし、骨を焼く。咲いた花すら燃やし尽くす大剣を押し込み、引き抜き……切り払う。
 ずるり、と巨人の身体が崩れ落ちた。焦げた切り口の足が地面に着き、溢れんばかりの血潮を地面に零してはふらついている。
 それ以上はさせまい、と殺到する触手もカイトの薙刀が一瞬の邪魔をすれば、それで済んだ。

 歌声が聞こえる。それは呟き、呪うような、奮い立たせる奇跡の歌。
 片足が刈り取られ、巨体がずれたその直後。魔力だけではない、己も奮い立たせる歌声を乗せた疾駆と、光の残影。
 それもまた大量の熱を放つ斬撃で、同時に放たれた衝撃波は近づく触手達をも一掃する。青い顔を見せながら、その表情は強く熱い。既に枯渇仕掛けた魔力を燃やし続ける、その手に握った剣が放つ光は未だ強くあった。
 そうして、両足を失った災魔の身体は脆くも落ちていく。立つことの叶わない肉体は前傾に倒れ、無様にも両手を掲げ、地面に這いつくばったのだ。
 声もなくセリオスは走る。まだ終わりではない、そんな事は分かっているのだろう。同様にクロウも飛びかかり、触手渦巻く災魔の背に飛び乗った。
 背の中心、花が咲き誇るそこに、ルーン文字が浮かぶ黒剣を深く、深く突き入れる。セリオスも同様に、災魔の脇腹めがけて純白の剣を深く差し入れた。
「いくぞ!」
「おゥよ!」
 短い掛け声が大部屋に響き渡り、残り滓すら燃えつきよ、と渾身の力を流し込む。
 傷口から吹き上がる炎が花を燃やす。直後に漂う焼けた肉の匂いと、蒸発する血と粘液の匂い。ふらつく頭であったが、正常な意識を保っていられるのはこれで終わりだという決意の証。
 数秒の熱、その直後に膨れ上がる炎は巨人の全身を包み、火だるまと化した。花が咲いた触手ものたうちまわるが、こうなれば既に戦う力は残っていまい。
 ただ、自らの本体が燃え尽き、力なく焼けて行くのを見守るしか無い。そうなったことで、ようやく猟兵の表情に笑みが戻ったのだ。


 火の手が上がる災魔の肉と、燃え残った白詰草の白い花びら。上昇気流に乗った花びらが舞い上がり、ひらひらと風を受けて落ちては火に掛かる。儚さを思わせるそんな状況も、漂う匂いに情緒の一切が消し飛んでいた。災魔の肉の焼ける匂い。それは焼き肉のそれとは違う、嫌悪感を催すドブのような香りであった。
 始めこそジタバタと身体を動かしていたが、時間が経つほどにその動きは弱まり、おとなしくなっていく。あれ程の猛威を振るった触手達も、本体の指令がなければ集団戦を行える程の力も無いのだろう。みっともなくのたうち回っては、一本ずつ動きを止めて行くだけだった。
「焼ブタっつっても……こりゃ食えたもんじゃねえな」
 地面に腰を下ろし、脱力のまま燃える巨人を眺めるセリオス。応えるように鼻をつまみ、表情を歪めるのはすぐ隣に立つクロウ。カイトはその腰に抱きついては、流石兄さまです! 格好良かったですよ! と賛辞の言葉を惜しみなく注いでいた。
「クソみたいな迷宮だったな、ッたく」
 カイトの頭を押さえつけ、引き剥がしながら笑みを零す。それは戦友に向けられる、クロウの持てる精一杯の謝辞。
 セリオスはといえば、それを素直に受け取った。この二人が居なければ、きっとあの触手に飲まれていただろう。いや、この場に居る猟兵が力を尽くさねば、こうはならなかったはずなのだ。
 どことなく温かい気持ちを持ちながら、ふと上を向いたセリオスは疑問を一つつぶやいた。
「……まあ、人の趣味にとやかく言うつもりは無いんだがな。そのカーディガン……そういう、あれか?」
 ちょっとした、ただの疑問。クロウの表情から笑みが消え、剣呑なまでに眉間に皺が寄る。
「良い質問、良い質問だよ! これはオレのカーディガンで、今兄さまが着ているということは詰まり愛を示してて……」
「おい黙れうるせえやめろ気にすンなコラ!」
 突然の豹変に困惑しつつ笑ってしまう。くだらないことで笑える今の状況こそが、ようやくこの戦いが終わったのだという実感を覚えることができた、その瞬間であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月14日


挿絵イラスト