桜花嵐の前に吹き荒ぶ
#サクラミラージュ
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●桜花
見上げる花は桜。舞い散る花弁は永遠の象徴である。帝都に咲き乱れる幻朧桜の花弁は不変である。それは世界が違えば刹那の瞬きへと変ずるものであろうが、サクラミラージュにおいては不変の象徴。
変わらぬものなどないというのに、変わらぬものを追い求めるのは人の性か。
「桜の花は美しい……けれど、もっと美しくとおもってしまうのは人間の傲慢だろうか」
彼女は優しく微笑んだ。この美しさが不変のものであれど、もっと高みに昇華することはできないかと。自身たちが一年中見ている幻朧桜。
この美しさを我々は甘受しすぎて、美しさというものの定義を曖昧なものにしているのではないかと。
幻朧桜の花弁が舞い散る中を歩く彼女に見惚れていたものだから、とっさのことで声が出なかった。ああ、桜よりも君が美しい。
そんなことを口に出せたらいいのに。
だが、その言葉を告げれば、何よりも桜を愛する君はきっと己に幻滅するであろう。
だから、口をつぐんだ。出てきた言葉は全く別の、咄嗟に出てきたものだった。
「桜はなぜ美しいのかと言うと、きっと樹の下に命尽きた生物たちの亡骸が沢山埋まっているからだ。土は肉を分解し、肥やしになる。だから、きっと、格別美しい桜の樹の下には数多の生命の亡骸が埋まっているのだろう」
とっさに出た言葉にしては纏まっているような気がした。理路整然としていた、と感じてしまうのも無理なからぬほどに己は舞い上がっていたのだ。
なぜなら、彼女の微笑みが自身へと向けられていたから。
「―――嗚呼、私もそう思うよ。桜の樹の下には、死体が埋まっている。そうすれば、もっと桜は美しいものとなるだろう。私もそう思うよ」
美しく微笑む彼女はまさに桜の精だ!己は天にも昇る気持ちでいっぱいであった。
ああ、なんて素晴らしい!彼女のためならば、己は如何なる悪逆非道にも手を染めよう!彼女の!彼女のための桜を咲かせるとしよう!
嗚呼、己の人生は万事桜色に彩られている―――!
●遊ぶ荒ぶ
幻朧桜が一年中咲き乱れる帝都。そうサクラミラージュの世界は常に桜が咲き誇っているのだ。
そんなサクラミラージュでの異変を予知したグリモア猟兵の元へと集まってくる猟兵達。彼らを出迎え、頭を深々と下げるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)である。
「お集まりいただきありがとうございます。今回の事件はサクラミラージュ……幻朧桜が咲き乱れる大正の世続く帝都が舞台です」
影朧と呼ばれる不安定なオブリビオンが存在し、それに対抗するユーベルコヲド使いのいる世界。だが、その不安定なオブリビオンである影朧を匿っている民間人がいるというのだ。
「はい……影朧は不安定なオブリビオンですが、直ちに危害を加えるとは限りません。今回の匿われている影朧もまた、その例に倣うようです。ですが、オブリビオンです。放置しておくと、世界の崩壊に繋がります」
どれだけ見目麗しくとも、どれだけ庇護欲をそそられようとも、オブリビオンであることに代わりはなく、未来を食いつぶしていく過去の化身なのだ。
放ってはおけない。
「まずは匿っている人間……帝都に住む文学青年……春忠さんという方が影朧を匿っている容疑者になります。彼は神社で行われている華舞華祭というお祭りに出向いています。どうやら幻朧桜の苗木を購入しているようです」
とある神社で行われる春の訪れを祝うお祭りで、色とりどりの花や木々の緑溢れる神社の通りには出店が並び、舞台では巫女さんが舞い踊るのだ。
そんな楽しい催しの中ではあるが、文学青年春忠が影朧から離れて行動するのはこの機会を置いて他はない。
これ以上長引けば、影朧による世界の崩壊につながってしまうからだ。
「あくまで影朧は救済が可能であり、十分に説得できれば桜の精によっていずれ転生できるのです。そのため、春忠さんから強引に影朧の居場所を吐かせてもいいのですが、できれば穏便に……その、春忠さんは影朧に、その……」
ナイアルテはまごまごとして何か言いにくそうにしている。なんだろうか?と訝しむ前に彼女は意を決したように言葉を紡ぐのだ。
「こ、恋をしていらっしゃるようです!で、ですので、よろしければ、その方面からでも……説得しつつ、影朧の居場所を聞き出してほしいのです」
できれば手荒なことをしてほしくない、という思いもあるのだろう。
それに、と加えるのは、それまでとは違う真剣そのものな雰囲気を纏うナイアルテ。
「どうやら、春忠さんは影朧を匿うために幻朧戦線と呼ばれる組織とも繋がりを持ってしまっているのです。やはり、影朧に接する内に理性を失いつつあったのでしょう。私達が影朧の居場所の情報を得ると、妨害するように襲いかかってきますので、これを撃退してください」
幻朧戦線は帝都に混乱をもたらす組織である。彼らもまた影朧を利用して良からぬことを企んでいたのだろう。
これは影朧の救済と帝都に起こる幻朧戦線による混乱を未然に防ぐための戦いでも在るのだ。
「匿われていた影朧の居場所まで向かうと、影朧との戦闘になります。彼女との戦いに置いて……説得の糸口は残念ながら春忠さんではありません。彼女は桜の樹に対する執着が凄まじいのです。そのために過去の化身たるオブリビオンとして舞い戻ってきたのですから……」
桜を美しくするためならば、殺人に手を染めることすら厭わぬ者であったようだ。
説得をするのであれば、正しき花の美しさ、手段……言葉を尽くすのであれば、猟兵達自身の言葉を用いることが良いであろう。
それが影朧への「癒やし」となれば、いずれ転生を果たすのだ。
「どうか、お願いいたします。サクラミラージュは幻朧桜の美しい世界です。その桜を血に染める行為が起こる前に……どうか、未然に防いでほしいのです」
ナイアルテは再び頭を下げる。
猟兵たちは幻朧桜の花弁に何を思うであろうか。
そして、影朧は猟兵達の言葉に何を感じるであろうか。
答えは未だ出ない。だが、ナイアルテは送り出す。きっと彼らならば、花々を愛する者たちの歪んだ道行きを正してくれれうであろうと。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はサクラミラージュの事件になります。日常、冒険、ボス戦と転々と場面の変わるシナリオになります。どうか思いの丈を存分にプレイングに託して頂けたらと思います。
●第一章
まずはお祭りである華舞華祭に参加していただき、影朧を匿っている容疑者である文学青年、春忠さんを説得もしくは、影朧の居場所を吐かせていただきます。
優しく影朧の危険性を説いて頂いてもいいですし、腕力にものを言わせて見てもいいですが、あくまで目的は影朧の救済であるので、優しく接して上げたほうが良いかも知れません。
●第二章
春忠青年が影朧の居場所を教えてくれた瞬間から、彼が影朧を匿うために接触していた影朧戦線の構成員たちが猟兵達の急行を阻止せんと襲撃してきます。
お祭りの最中ですので、人々の混乱は必死でしょう。
これを無事に収め、影朧戦線の構成員たちを官憲に突き出していただきます。
●第三章
ボス戦になります。『殺人者』桜守と呼ばれる影朧との戦闘になります。
彼女は桜を愛し、桜を美しくするために手段を選ばない者です。彼女の救済のためには説得は必須ですが、どのようにして説得するか、またはしないか。どのように言葉を尽くすのかは猟兵の皆さんのプレイング次第となります。
ここは思いの丈をぶつけて戦い、ボスである影朧を倒していただきます。
それでは、幻朧桜の舞い散るサクラミラージュでの猟兵の戦いを綴る一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『華舞華祭』
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POW : 春の味覚を食べ歩き
SPD : 通りの出店で遊び尽くす
WIZ : 舞台での舞に飛び入り参加
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
とある神社で行われる春の訪れを祝うお祭りに人々の行き交う姿は活気に満ち溢れていた。
色とりどりの花や木々の緑溢れる神社の通りには出店が並び、舞台では巫女さんが舞い踊る。その姿を見る度に、己の世界は桜色に彩られているように思えてならない。
嗚呼、なんて幸せな時間なのだろう。
誰かのために、何かをすることがこんなにも尊く、誇らしいものだとはついぞ知らなかった。
どんな小説にも、どんな本にも与えてもらえなかった感動である。
嗚呼、あの人は喜んでくれるだろうか。桜の苗木。抱えたこれを見せ、一緒に世話をしてくれと頼んだら、彼女は喜んでくれるだろうか。
あの微笑みをまた自身へと向けてくれるだろうか。ああ、楽しみだ。こんなにも足取りが軽いなんて。
春忠青年は浮かれるように、跳ねるように祭の道を行く。それが彼にとっては幸いであろうとも、世界の崩壊を招く破滅の道だとしても―――。
天方・菫子
桜の苗木を持った春忠さんを探すよ
見つけたら
「私も苗木を買いたいんです、案内してもらえませんか」って
声をかけてます(【コミュ力】)
桜の話題でつなぎながら
好きな人が桜が好きなんです、と探りを入れます
桜が好きな人に悪い人はいないと思うけれども
…桜の樹の下には死体、なんてこともよく言われるし
思うんです
好きな人のことを「守る」ってどういうことなのか
ただ囲って、愛でて、それは守り愛する本当の姿なのか
あたしね、信じて手放すことも必要なんじゃないかって
本当の姿を尊重するのも大事なんじゃないかって
…春忠さん、ですよね
匿っている人のこと、教えていただけませんか
絡み、アドリブ歓迎です
花々に意思があるのかどうかわからない。
けれど、花々を愛でる人間の殆どが言う。花は応えてくれる、と。それは思い込みなどではなく、花を愛するがゆえに伝わる何かがあるのかもしれない。
そう思えるほどに花々は、その麗しくも可憐な姿を人の目にさらす。故に人々は花を唄い、花を摘み束ね、誰かのなにかのために贈るのだろう。
神社で行われている祭りは盛況である。
人の往来も多く、歩き進むだけでも多少の体力を使ってしまうことだろう。幻朧桜の花弁があちらこちらに舞っている。
出店は華やかなものばかりであり、それは人の活気を表しているかのようだった。
そんなサクラミラージュの幻朧桜に負けじと華やかなりし見目の女性が一人行く。
天方・菫子(花笑う・f17838)は、道行く人々が振り返るほどの可憐さを持っていた。
あ、と彼女は桜の苗木を持った春忠青年の姿を見つける。
「あの―――もし……」
春忠青年は、己に掛けられた声に振り返り、驚きを示した。彼はあまり女性と接する機会があまりなかったものだから、菫子に声をかけれて少し戸惑ったような表情を浮かべた。
「え、あ、己ですか……?」
「はい、私も苗木を買いたいんです。でも、出店が多くて困ってしまっていて……そうしたら、あなたが桜の苗木をもっていらしたので……」
思わず声をかけてしまったのだ。そういう体で菫子は距離を詰める。確かに出店は多いし、人も雑多だ。
この様子では彼女は不慣れな場所に来た女性であるように映るだろう。実際、春忠青年も同じ印象を受けたのだ。
それに桜の苗木を見て、と言われれば、多少自信有りげな顔をしてしまう。
「ええ、もちろん。己でよければ。桜の苗木ならば、ご案内できますよ」
春忠青年は心根自体は素直な青年なのだろう。快く案内を引き受けてくれた。
道中、菫子は桜の話題でつなぎながら春忠青年の心へと探りを入れていく。それは彼の心の内を探る以上に、彼の心にある花への愛情を確かめたかったのかも知れない。
「好きな人が桜が好きなんです。桜が好きな人に悪い人はいないと思うけれども……桜の樹の下には死体、なんて事もよく言われるし……あまり良い印象がないのかなって」
彼女の言葉は真実味を帯びていたことだろう。
春忠青年はそんなことはない、と頭を振って否定する。菫子の言う通りであると。桜の樹が好きな人間に悪い者はいない、と彼もまた力説するのだ。
菫子はそんな彼の様子を見ながら、微笑む。
「思うんです。好きな人のことを『守る』ってどういうことなのか。ただ囲って、愛でて……それは守り愛する本当の姿なのか。あたしね、信じて手放すことも必要なんじゃないかって。本当の姿を尊重するのも大事なんじゃないかって……」
春忠青年の顔が訝しむ表情に曇っていくのを感じながらも、菫子は言葉を続けていた。何を、と彼はたじろいだだろう。
それはまるで推理小説の探偵役が犯人を追い詰めるような様相であった。
じり、と足を半歩引く春忠青年。
「い、嫌だな……そんな、囲うだなんて。己は、そんな大それたことは……」
冷や汗が伝うのを見た。何か見透かされているという気持ちの悪さを感じたのだろう。視線が泳ぐ。キョロキョロと定まらない。
菫子の言葉は確かに彼の胸中に届いていたことだろう。
だがそれは、彼の心の薄皮一枚に刺さっただけに過ぎないのかも知れない。いや……元より彼もまた影朧と関わることに寄って理性を無くしかけていたのかもしれない。
「……春忠さん、ですよね。匿っている人のこと、教えて頂けませんか」
菫子の言葉が核心を突く。
それは春忠青年にとって、最も恐れていたことだった。半歩引いた足が踵を返して菫子から逃げるようにして駆け出す!
菫子が手を伸ばしても、これだけ雑多な人混み中である。不慣れな場所では、この世界の住人である春忠青年に歩があるのだ。
あっという間に、その背中を追うことしかできなくなってしまった。
だが、菫子の言葉が刺さる胸中において、匿っている影朧の元へと戻ろうとするだろう。居場所を聞き出せなくても、彼が戻る方向へと向かえばいい。
菫子は春忠の心根を信じたかった。
彼には桜の花を愛する心があると―――。
成功
🔵🔵🔴
寧宮・澪
まずは、春忠さんを見つけましょー……。巫女舞の舞台、高いですかね……飛び入りで、踊って……見回して探しましょー。
見つけたら、降りて声かけましょね。
何やら、悩まれてますかー……それとも、浮かぶ、心地でしょか。
それは、恋されているからでしょか……。
恋って、素敵なんですよねー……まるで、ここの桜みたいに。
ですが、悪逆非道な手段で……恋する人の願いを叶えるのは、だめだと思いますよー……。
それは、貴方が止めなくちゃ、いけないんですー……。
……止めるために、匿ってる人のこと、教えてくれませんかー……?
春忠さんが離れていくなら、【猫の召喚】の猫さんに、追いかけてもらいましょー……。
アドリブ、お任せでー……。
風に遊ぶは幻朧桜の花弁。それは花の嵐。舞い上がる桜色の花弁は、それは見事なものである。
春の訪れを祝う華舞華祭。それはとある神社で行われている催しである。色とりどりの花や木々の緑溢れる神社の通りには出店が並び、舞台では巫女たちが舞い踊るのだ。
出店は食べ物やサクラミラージュの草花の苗木など多種多様に渡る店揃い。
縁日の一日、といった雰囲気であろうか。誰も彼もが笑顔である。
一年中幻朧桜が咲き乱れている世界とは言え、春の訪れは喜ぶべき習わしなのだ。
巫女の軽やかな舞が披露されている踊り台。太鼓や笛の音が流麗に鳴り響き、巫女達の艶やかな姿を見上げる人々は歓声を上げていた。
そんな高台の舞台に舞い降りたるは天女を思わすような美麗なる女性。寧宮・澪(澪標・f04690)である。
彼女は飛び入りで舞台へと上がったのだ。そんな彼女の舞を歓迎する者たちは、彼女の舞を見上げ、今日一番の歓声を上げる。
まずは春忠青年を見つけねば、と高台にある舞台へと上がってみたものの流石に人が多いように思える。ふわり、ふわりと舞い続ける内に、出店の一角から神社の外へと駆けていく者の姿が見えた。
「見つけましたー……それでは、みなさん、わたしはこれにて……踊り、楽しんで頂けたのなら幸いですー……」
澪の舞が終わりを告げると群衆は些かトーンダウンしてしまう。彼女の美麗な踊りはそれだけ多くの人々の目を惹いたのだ。
ふわりと舞台から舞い降りると、駆けていく春忠青年を追いかける。
「どうなさいましたかー……?」
息切れを起こして、肩で息をしている春忠青年を澪は心配そうに覗き込む。
その表情は切羽詰まった者のそれである。ああ、この青年なのだと確信を持つに至る澪。ならば、と彼女は微笑む。できるだけ彼に圧迫感を与えぬようにと。
「何やら、悩まれてますかー……?それとも、浮かぶ心地でしょうか」
彼女の言葉はふわふわとしていて、聞く者の心を安心させるものであった。春忠青年もまた同様である。悩み……そうと言われたら悩みであるのかもしれない。
「己は、その……ただ、誰かのために何かをしたいと思っているわけで……」
彼の抱えた桜の苗木もそうだ。彼自身は誰か……つまりは影朧に何かをしてあげたくてしかたのないのだ。それ故に、澪の瞳に映る青年は浮かぶ心地と表現するのに相応しいほどに浮き足立っていた。
「それは、恋されているからでしょうか……恋って素敵なんですよねー……まるで、ここの桜みたいに」
そんなに己はわかりやすいのだろうか、と春忠青年は頬を抑える。己の気持ちを誰かに悟られてしまう位であれば、彼女にもまた同様なのかと羞恥に染まるのだ。
その様子を澪は微笑ましく思うと同時に、彼の行く末を案じてしまう。
だからこそ、事実は事実。苦言を呈しなければならない。
「ですが、悪逆非道な手段で……恋する人の願いを叶えるのは、だめだと思いますよー……それは、貴方が止めなくちゃ、いけないんですー……」
澪の言葉は真理であろう。
如何様な手段に出ようとも、そこに真心がこもっていなければ唯の邪心である。邪心であるとすれば、それはお互いを傷つけるだけである。
だからこそ、彼の行う行動は……
「……止める為に、匿ってる人のこと、教えてくれませんかー……?」
ぎくり、と肩を震わせる春忠青年。だめだ。だめだ。だめだ!あの人は己が……!その想いは歪んでいく。
それは影朧に関わったものの末路であるのかも知れない。
「ち、違う……己は、そんな……匿ってなど……!」
再び駆け出す春忠青年。あ、と澪が手を伸ばすのも届かずに、彼女はユーベルコード、猫の召喚(サモン・ニャンコ)にて呼び出した、ころころふあふあもふもふなちび猫たちに呼びかける。
「お願いします……あの方を、春忠さんを追いかけてくださいー……きっとその先に、影朧がいるはずですからー……」
にゃ。ちび猫たちは敬礼するように手を上げ、雑踏の中を追いかけていく。
その様子を見送りながら澪は呟く。
「……どうしても諦めきれない……というのならー……悪逆無道に陥る前にー……止めなければなりませぬ」
それが、春忠青年と影朧のため。
彼女の望む結末のため、澪は一歩を踏み出すのだった―――。
成功
🔵🔵🔴
御園・桜花
UC「魂の歌劇」使用
路上で恋の美しさを謳う歌の合間に影朧と人との悲恋、影朧を愛し殺された娘の歌を歌う
「影朧は、不安定な存在です。だから衝動のまま願いのまま、人を殺し力を得て安定しようとするのでしょう。そして…1度人を殺し始めた影朧はもう止まりません。在りたいという影朧の願いに共感する方、愛する方も全く居ないわけではありません。でも、本当に影朧を愛したのなら、その方が殺人に苦しむ前に、転生への道を拓いてあげるのが愛ではないでしょうか。彼らには苦しみを忘れ、転生して戻ってこれる道が残されているのですから」
桜の苗木を持ち青い顔をした男性を発見したら語りかけ
その方が逃げるように移動を始めたら後を追う
活気に満ち溢れた華舞華祭は、様々な催しが行われている。
まさに絢爛舞踏。舞台の上では巫女が踊り、その華やかさをでもって観衆たちを楽しませていた。
幻朧桜の花弁が舞い散る中での舞台は、見慣れているはずであろう幻朧桜をきっと非日常の象徴として演出していたのかもしれない。
サクラミラージュにおいて幻朧桜は不変の象徴。一年中咲き乱れ、他の世界の桜とは違った意味合いを持つのだ。
そして、舞台だけが歌や踊りを披露する場ではない。路上で歌を披露するもの、大道芸の妙技を披露するもの、様々である。
そんな路上の一角で美しくも儚い悲恋の歌を歌う者もあった。
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の姿は、見る者の目を引く。パーラーメイドの格好をしているからというのもあるが、彼女の歌う歌はユーベルコード、魂の歌劇(タマシイノカゲキ)である。
彼女の歌が披露され、それを聞く者に、その場を離れ難い感情を与えるのだ。
「貴方の一時を私に下さい…響け魂の歌劇、この一瞬を永遠に」
恋の美しさを歌う。その歌詞は聞く者の心に入り込み、染み渡っていく。
その歌に足を止めたのは、春忠青年であった。桜の苗木を抱えては居るものの、顔色が悪い。
それは彼自身が影朧を匿っているという後ろ暗いながらも、真摯な気持ち故に呵責に苛まれている証であった。
桜花の歌は、影朧と人との悲恋。物悲しくも愛に溢れた歌。影朧を愛し、殺された娘の歌は、群衆と春忠青年の心に何かを去来させるのであった。
歌い終えた桜花が、そっと春忠青年に近づいていく。確信めいたものがあった。
春忠青年は、彼女の言葉を聞いてしまえば、何か決定的なことが起こってしまうのだと。
「影朧は、不安定な存在です。だから衝動のまま願いのまま、人を殺し力を得て安定しようとするのでしょう」
ああ、その言葉は聞きたくない。聞きたくない。頭を振る春忠青年は、それ以上は聞きたくないとばかりに耳をふさぐ。桜の苗木を取り落しても気が付かないほどに取り乱してしまう。
「そして…1度人を殺し始めた影朧はもう止まりません。在りたいという影朧の願いに共感する方、愛する方も全く居ないわけではありません」
桜花の言葉は耳を塞いでいても心のなかに入り込んでくるようだった。
「違う、己は……!違うんだ!あの人はそんな人じゃない!違う!」
春忠青年はもうどうしようもなくなったかのように桜花へと向き直る。
違うのだと。己の願いは愛することではないのだと。あの人の愛は己には向かないとわかっているのだと。
桜花は儚ささえ感じさせる微笑みを春忠青年に向ける。それは、そんなに自身を偽らなくても良いのだと言うような慈しみさえあったのだ。
「でも、本当に影朧を愛したのなら、その方が殺人に苦しむ前に、転生への道を拓いてあげるのが愛ではないでしょうか。彼らには苦しみを忘れ、転生して戻ってこれる道が残されているのですから」
愛。桜花の言葉は確かに春忠青年の心を、隠していた本心を、しまい込んでいたはずの心を取り上げるようであった。
「お、己は……あの人は……己を見ていないから、そんな、こと、ありえるわけがない……!」
そう、あの人は己が例え死んだとしても眉根一つ動かさないだろう。わかっている。わかっているのに、どうしてこんなにも悲しいと思ってしまうのだろうか。
桜の苗木を取り落したことも、目の前の桜花のことも、何もかもかなぐり捨てて逃げ出すように、その場から駆け出していく青年。
その背中を桜花は追う。わかっていた。桜花の言葉は、春忠青年の心を散り散りにしてしまうことであろうことは。
辛い決断をさせる説得であると。
だが、不安定な影朧が取り返しのつかないことになる前に癒やしを与えなければならない。桜の精である桜花には、それができる。
ならば、桜花は例えそれが困難な道であっても進まなければならない。
いつだってそうだ。
正しい道は険しく困難な道なのだから―――。
成功
🔵🔵🔴
神代・凶津
絶好の祭り日和だな。
これで、物見遊山だったら良かったんだがな。
「・・・影朧を匿っている方を放っては置けません。」
分かってるよ、相棒。
手遅れになる前に見つけないとな。
何やらキナ臭い連中と関わりを持っちまったらしいしな。
春忠の兄ちゃんを見つけたら気さくに話かけつつ情報収集するぜ。
よお兄ちゃん、こんな祭りの場で顔を青くしてどうした?
悩みがあるならぶちまけてみたらどうだい。話くらいは聞いてやるぜ。
腹の底に溜め込んだもん吐き出してみりゃ少しはスッキリするかもだぜ。
話を聞き終わったら説得だな。
任せたぜ、相棒。
「・・・貴方の想い人が道を踏み外す前に救ってあげませんか?」
【技能・情報収集】
【アドリブ歓迎】
サクラミラージュの幻朧桜が舞い散る光景は、それを見る者よって様々な想いが浮かぶものであろう。
華やかな花弁によって去来する想いは、それぞれにとって大切なものである。
華舞華祭によって神社に面する人通りは、大変な賑わいになっている。往来する人々の表情は明るい。
舞台では巫女が舞い踊り、歌を披露するものがあり、いつでもどこでも音楽が満ち溢れている。
出店は様々な品々が並び、飲食だけではなく土産物や草花の苗木など多種多様なもので溢れていた。
彼ら、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)にとっては馴染み深いものであったかもしれない。
鬼面と巫女服の猟兵である彼らは、その出自故に神社のある風景にとてもよく溶け込んでいた。懐かしさを僅かに感じるかも知れない光景。それを見上げながら彼らは幾ばくかの言葉を交わす。
『絶好の祭り日和だな。これで物見遊山だったら良かったんだがな』
「……影朧を匿っている方を放っては置けません」
凶津の言葉に桜が返す。
そう彼の言葉通り物見遊山でいられたのならば、どんなによかっただろう。だが、そうはならない。彼らにはやらなければならないことがあるからだ。
『わかってるよ、相棒。手遅れになる前に見つけないとな。何やらキナ臭い連中と関わりを持っちまったらしいしな』
凶津の言葉の通り、彼らが探している人物……春忠青年は影朧を匿うために影朧戦線というテロ組織とも繋がりを持ってしまっているのだ。
このまま放おっておけば、必ず帝都の安寧に罅を入れることに加担させられてもおかしくないのだ。そうなる前に彼には関係を断ち切ってもらわなければならない。
「……あちらに」
桜の声に視線を向けると、酷く青い顔をした青年が走っていくのが見えた。走る、と言っても、足は今にも縺れそうである。文学青年然とした彼には、かような激しい運動は応えると見えた。
『よお、兄ちゃん、こんな祭りの場で顔を青くしてどうした?』
二人は青い顔をした青年がへたり込んだ場所へと近づきながら、気さくに声をかける。と言っても、その役割のほとんどは凶津であったが。
近づき、声をかけるとわかる。これが情報の通り、影朧を匿っている青年、春忠であると。
『悩みかなんかかい?悩みがあるならぶちまけてみたらどうだい。話くらいは聞いてやるぜ?』
どうしてそんな風に声をかけるのかと、訝しむ春忠青年。いくら気さくに声をかけたとしても、いきなり話す気にはならないだろう。
「己は、そんな……ただ、慣れないことをしたものですから……」
『それにしたって、顔が青すぎるぜ。まあ、別に取って食おうとはしないさ。行きずりの人間にだからこそ、腹の底に溜め込んだもんを吐き出せるってこともあるだろうさ。それに吐き出してみりゃ、少しはスッキリするかもだぜ?』
凶津の言葉に春忠青年は息を整えながら立ち上がる。その手にはもうない桜の苗木のこと。どうして桜の苗木を手に入れようとしたのか。それは何のためなのか。
己の気持ちを整理するように吐き出していく春忠青年。
これまで幾人かの猟兵達の言葉が彼の中で木霊しているようだった。
「己は、そんなに大した人間ではないから……あの人のような情熱を……持っていないから、あの人の夢が、情熱が桜であるのであれば、それに寄り添いたかっただけなんだ」
春忠青年の言葉は真摯なものではあった。だが、最早彼の言葉に対する違和感を彼らは拭えなかった。
手段が目的になっている。すり替わっているのだ。本当の気持ちは、影朧に振り向いて欲しい。
その手段として桜の苗木。だが、今は違う。桜の苗木を与え、影朧の気持ちを成就させることが彼の目的になっている。
それはあまりにも危険な変遷であった。故に、凶津と桜は言葉を紡ぐ。
「……貴方の想い人が道を踏み外す前に救ってあげませんか?」
桜の言葉が春忠に届くかどうかはわからない。
けれど、少し考えさせて欲しいと春忠は離れていく。だが、二人はうなずく。
最初の想いが純粋なものであったのなら、歪められてしまったとしても必ず元の想いへと戻ると信じているからである。
そうして凶津と桜は、新たなる情報を求めて祭りの場を後にする。
調べなければならないことは、まだあるのだ。
そう、影朧戦線。春忠青年の周辺にまとわりつく、危険な思想―――。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
それを育てるのかと苗木を持つ春忠に声をかけ、
花に興味があるていで話を進める
「売り場で育て方を聞いてみたがなかなか手がかかりそうだ
それを育てるとは余程桜が好きなのか?それとも桜よりも好きな相手の為、とか」
「桜に必要なのは良い土と日光と水、それから適した肥料だったか
死体が埋まっているから美しいだとか妙な話も聞くが根拠のない噂だ
桜の為に作られた肥料の方が適しているに決まっている」
「…あんたはその苗を、誰の為に育てるつもりだ?」
「今からしようとしている事は、自分や相手の未来にとって適した肥料と言えるのか?」
花の話から少しずつ、よく考えて行動を改めるよう働きかけたい
恋は結構だが、相手が影朧では報われない
人の人生において取りこぼしてしまったものの多くは後悔と共に語られることが多いことだろう。それは大概の場合、自身の意図しない所で起こってしまう。止めることは出来ず、さりとて取り上げることもできない。
己の人生を振り勝った時、それを後悔と呼びたくはない。だが、どうしたって人生に後悔はつきものだ。
サクラミラージュの一年中咲き乱れる幻朧桜の花弁に慣れたかと言われると、彼はどちらであったであろうか。
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、たまたま春忠の取り落した桜の苗木を手にしていいた。
彼にとってこれはどういった類のものであろうかと思案するも、答えは見つからない。春忠青年の姿を探して華舞華祭の行われている神社からつれづれと歩いてきたのだった。
青年の姿を見つけたのは、神社の賑やかな通りから僅かに逸れた路地であった。
「これを育てるはずではなかったのか。取り落したようであるから、持ってきたのだが……」
シキは春忠青年に声をかける。春忠青年は気落ちしているのか、青白い表情でシキの持つ桜の苗木を見る。
それを見つめる瞳は僅かに色を取り戻したかのようだった。苗木を受け取る青年をシキは見つめる。彼にとって、取り落した苗木は一体なんだったのだろうかと。
「花に多少の興味はある。俺にはあまり縁がなかったものであるから、売り場で育て方を聞いてみたが中々手が掛かりそうだ。それを育てるとは余程桜が好きなのか?それとも桜より好きな相手の為、とか」
その言葉に青年の顔色が少しづつ戻ってきたように思えた。シキにとって、こういうやり取りというのはあまり経験が豊富であるとは言えなかったのかも知れない。
「桜に必要なのは良い土と日光と水、それから適した肥料だったか。死体が埋まっているから美しいだとか妙な話も聞くが根拠のない噂だ。桜の為に作られた肥料の方が適しているに決まっている」
シキの言葉に春忠青年は顔を上げる。
彼の瞳に写っているのはシキではあるが、その瞳は何処か遠い場所を見ているようであった。
徐々に影朧と関わったことによる精神的な汚染が姿を表し始めていた。
「己は、そう……確かに桜は好きです。貴方の言う通りかもしれない……己は桜よりも意中の人の心が欲しいと思ってしまう。不純だと言われるのが恐ろしい」
春忠青年の心のうちは、青年期特有のものであろう。純粋、不純、どちらも他者のものさしと己のものさしとをくらべっこにするしかないものだ。
「桜を美しく咲かせたい……咲かせるためには何だってしていいとさえ思っていたのに、己は今、それを少しばかり恐ろしいとさえ思ってしまう」
「……あんたはその苗を、誰のために育てるつもりだ?」
「あの人のために。あの人が喜んでくれるのなら、己は喜んで悪逆非道と罵られようとも……!」
そう、そう誓ったはずなのに春忠青年は揺らいでいる。今まで猟兵たちに投げかけられた言葉が彼の理性を既の所で引き止めている。
シキにはそれが分かる気がした。
だからこそ、言葉を尽くさねばならない。強行に出たとしても、それが彼の心を意固地にするだけだとわかっていたから。
「今からしようとしている事は、自分や相手の未来にとって適した肥料と言えるのか?」
その言葉は確かに春忠青年に届いた。常々己はあの人の事を思っていた。あの人のためが自身のためだと思いこんでいた。
それならば、己の未来はどこにあるのだ。
「……報われないとわかっていても、それでも縋るのであれば、やはりお前は一度己の身を振り返ってみるべきだった。立ち止まってみるべきだった」
シキの言葉は春忠青年の足を止め、振り返らせるには十分だった。
桜の苗木を抱えたまま、嗚咽が聞こるのをシキは聞かないふりをした。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『暗躍する幻朧戦線』
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POW : 正面から敵を圧倒し、打ち倒す。
SPD : 集団戦や周りの物を利用して戦い、確実に倒す。
WIZ : 策略や魔術で奇襲を仕掛け、一気に倒す。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
春忠青年はうずくまっていた。
猟兵たちが彼を追いかけ、追いついた時、彼は何もかも悟ったような表情で影朧を匿っていた自身の下宿を吐露したのだった。
「己の……行き過ぎた想いだったのでしょう。あの人は、己の下宿している部屋に……」
影朧と知りながらも、それでもと願ってしまったのは彼が純粋すぎるからかもしれない。視野が狭くなってしまったのは、彼が浮足立っていたから。
思い直したことは、彼にとって手痛い失恋であったかもしれない。だが、影朧である以上、彼女に癒やしを与えられるのならば、桜の精によって転生することもできるのだ。
彼の初恋は実らずとも、彼と彼女の想いは遂げられるかもしれない。
だが、それをさせぬと幻朧戦線が姿を現す。
「そうはいくまい。アレは我らが有効に利用させてもらう。幻朧戦線、大正の世を終わらせるために!貴様たちを排し、影朧は我らが戦力として使うのだ!」
幻朧戦線の構成員たちが、その黒い鉄の首輪を鳴らしながら、行く手を阻む。
彼らを躱し、匿っていた影朧が一般人を手にかける前に、その行為をやめさせなければならない。
時間は少ない。幻朧戦線の構成員は一般人であるが故に手心を加えなければならない。官憲に突き出すにしても、拘束や気絶させたりと猟兵を縛る条件は厳しい。
だが、それでもやり遂げなければならない。春忠青年の心と、影朧である彼女の心、どちらも癒やさなければならないのだから。
御園・桜花
「落とし物ですよ?貴方の大事な想いまで、忘れる必要はないですから」
青年が落とした苗木を返す
UC「桜の癒やし」使用
幻朧戦線を全員眠らせる
可能なら眠らせた幻朧戦線を彼ら自身の衣服で縛り拘束
短銃やグラッジ弾等あれば全回収
「これがなければ、例え逃走されても蜂起を遅らせることが出来るでしょう?」
連絡がつくようなら桜學府に連絡し捕縛要員の派遣も依頼
「間違った考えに取り付かれただけなら、親身に教え諭すことで目を覚ますこともありますもの。それには桜學府の協力を求めるのが1番でしょう?」
「これから私達は、貴方の大事な方を止めて転生を促しますけれど。伝えたい言葉はありますか。彼女の言葉も、必ず貴方に伝えましょう」
譲れない想いがあったとして、それが誤っていたものだとは誰も言えない。
誰も彼もが正解のない人生を送っているのだから。取り落したのならば、拾えばいい。自身が拾うことができなくても、誰かが拾ってくれる。
届ける者もいれば、届けられるものもいる。それが人と人との交わりである。
ならば、彼の……春忠青年の落とした苗木は彼にとって譲れない想いであったであろうか。忘れなければならない想いであったであろうか。
否。それは否である。忘れる必要などない。
「貴方の大事な想いまで、忘れる必要はないですから」
優しげな声が響く。春忠青年が顔を見上げる。そこにいたのは、彼に声を掛けてきた猟兵の一人。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)である。
彼女の声が優しく響くものだから、春忠青年の心のうちにあった澱はほとほとに解けて消えていく。
それは彼女が桜の精だからではない。
彼女自身の想いであり、優しさであるからだ。
「桜の精……!貴様、我らが大正の世たる停滞を正さんとするわからぬか!我らが世を正さねば、いずれ停滞は淀みを生み、腐れ落ちてしまうだけだというのに!」
幻朧戦線の構成員たちが声を張り上げる。
彼らは春忠青年と密約を交わしていたのだろう。影朧を匿う情報を隠匿するかわりに、影朧の力を利用しようとしていたのだ。
一斉に彼らは短剣や物騒な武器を構える。
だが、そのどれもが遅い。猟兵である桜花の前には尽くが無意味である。
「平穏そのものの湖面をいたずらにかき回すことが、淀みを解消するのだとは、とても思えませんが……少々眠っておいていただきましょう」
彼女のユーベルコード、桜の癒やしが発動する。桜の花吹雪が桜花を中心に吹き乱れる。薄紅色の花弁が幻朧戦線の構成員たちを包み込み、彼女の周辺にいた彼らを昏倒させる。
それは春の日差しにも似た暖かなものであったが、この場にいる構成員たちを無力化スルには十分すぎるものであった。
桜花は素早く彼の衣服を使って縛り上げて拘束する。短剣や物騒な武器は全て取り上げる。
「これがなければ、例え逃走されても蜂起を遅らせる事ができるでしょう?」
春忠青年も及ばずながらに手伝って、武装などを解除していく。何故彼が今更になって手伝おうと思ったのか、桜花は理解していた。
己を見つめ直すための言葉を猟兵たちはすでに彼に送っていた。その言葉が彼を失いつつ合った理性を取り戻したのだった。
「間違った考えに取り憑かれただけなら、親身に教え諭すことで目を覚ますこともありますもの。それに桜學府の協力を求めましょう」
彼女の連絡によって桜學府の要員が派遣されてくる。こうすれば、幻朧戦線の面々を取り逃がす心配もないだろう。
一息ついた彼女が春忠青年に向き直る。
そう、彼女は言わねばならない。桜の精としてではなく、一人の猟兵として。
「これから私達は、貴方の大事な方を止めて転生を促しますけれど。伝えたい言葉はありますか。彼女の言葉も、必ず貴方に伝えましょう」
桜花は優しく微笑む。春忠青年の言葉はきっと影朧の転生の助けになるであろう。きっとそんな予感がする。そうであってほしいという願望でもあったかもしれない。
その言葉に春忠青年は真っ直ぐに桜花を見て伝えるのだ。
「己は、貴方のことを慕っていた……と。それだけ……それだけでいいです」
過去形にした言葉は、決別の言葉。今生では結ばれなくとも、転生した影朧の人生が美しいものであるように。
そんな想いのこもった言葉を桜花は確かに受け取り、走るのだった。
成功
🔵🔵🔴
神代・凶津
漸く姿を現したが幻朧戦線ッ!
そっちから来てくれるとは探す手間が省けたぜ。
だがここは他の一般人もいる祭りの場、しかも連中は影朧じゃないからおもいっきり叩き斬る訳にもいかない。
俺達の力が思う存分発揮できねえ。
・・・なんて事を考えてるんじゃねえか?
甘えよ、俺達を舐めすぎだぜッ!
「・・・幻朧桜花、お休みなさい。」
こいつは、範囲内の指定した対象だけを眠らせるユーベルコードだ。
周りに人が居ようが相手が一般人だろうが関係ねえぜッ!
後は寝ているコイツらを官憲に突き出せば解決だな。
超弩級戦力の力、存分に思い知ったか?
「・・・凶津は何もしてないでしょう?」
それは言いっこ無しだぜ、相棒ッ!
【アドリブ歓迎】
幻朧戦線。それは帝都に仇なす組織の名である。平穏そのものの帝都を停滞した大正の世と断じ、サクラミラージュに革新をもたらすという妄執に取り憑かれた者たち。
そんな彼らが春忠青年を通じて、影朧の力を利用しようとしていたことはすでにわかっていた。いずれは彼らの尻尾を掴み、叩かねばならぬと思っていたが、末端とは言えど、その一端を掴んだことは間違いない。
神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)と神代・桜の二人は現れた幻朧戦線の構成員を前に立ち塞がる。
『漸く姿を表したか、幻朧戦線ッ!そっちから来てくれるとは探す手間が省けたぜ』
凶津が鬼面よ凶津り放つ言葉は、幻朧戦線の構成員たちを一瞬ひるませた。だが、それも一瞬であった。なぜなら、彼らにとって目の前の鬼面をかぶる少女は非力な巫女にしか見えていない。
ユーベルコヲド使いだとしても、この数である。数で押せばなんとかなると考えても仕方のないことだった。
「我らを探っていたようだが、うろちょろと探偵気取りをするには、子供の遊びの領分を越えているな。多少の痛い目は見てもらわねばならぬ!」
幻朧戦線の構成員たちは、次々と刃物を取り出す。幸いにして周囲を呪いで汚染するグラッジ弾などは装備していないようだった。
それに此処は他の一般人も居る祭の場である。他の一般人たちに迷惑のかかることはできない。それに彼らは影朧ではない。
『く……俺達の力が思う存分発揮できねェ……』
猟兵の一撃を加減なしに受けて無事でいられるとは思えない。何よりも彼ら二人の得物は太刀である。一刀のもとに切り伏せる、ということができようはずもない。
「ユーベルコヲド使いと言えど、この数だ!押せ!押せ!」
幻朧戦線の構成員たちが凶津たちに殺到する。
例えユーベルコードが使えずとも、利はこちらに在る、そう言わんばかりの突撃。だが、それがそもそもの考え違いである。
『……なんて考えてるんじゃねぇか?甘えよ、俺達を舐め過ぎだぜッ!』
「……幻朧桜花、おやすみなさい」
相棒の桜の霊力で発生させた桜の花吹雪が舞う。彼らのユーベルコード、幻朧桜花(ゲンロウオウカ)!
彼らの周囲に発生した桜の花吹雪が幻朧戦線の構成員たちを包み込んでいく。それは桜の霊力によって彼らを昏倒させる。深い眠りに落ちていった彼ら。
これならば、どれだけ周りに人がいようが、相手が一般時であろうが関係がない。
バタバタと倒れていく構成員たちを縛り上げ、官憲に連絡を入れる。
これで此処等一体の幻朧戦線は沈黙したも同然だ。これで影朧の所在へと向かうことができる。
『超弩級戦力の力、存分に思い知ったか?』
ふん!と得意げに笑う凶津であったが、桜は冷ややかに言い放つ。
「……凶津は何もしてないでしょう?」
『それは言いっこ無しだぜ、相棒ッ!』
彼ら二人の夫婦漫才のような声が路地に響く。急がねばならない。影朧が一般人に手を出す前に止めなければならない。
それは春忠青年の想いでもあった。ならば、猟兵たる二人は、それを叶えなければならない。
そう決意を新たにして、二人は帝都の街を走るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◆SPD
決断は、簡単なものではなかっただろう
その決意を無駄にしない為、まず幻朧戦線へ対処する
下宿に向かおうとしてみせる事で構成員の注意を引き、
春忠含め周囲の被害を防ぐ
構成員からの攻撃はユーベルコードの効果で回避を試み反撃する
反撃で狙うのは構成員の持つ武器だ
武器を叩き落とすか射撃で弾き飛ばして攻撃手段を奪いたい
丸腰相手なら逃げても向かってきてもやる事は同じ
接近して当身で失神させ、拘束によって無力化する
…しかし、影朧に味方するというわけではないが
影朧とはいえ、あれも意思のある存在だろう
それを利用するだの使うだのと、随分な言い草だ
世を正す前に、まずは自分たちの心根から叩き直した方が良いんじゃないのか
何かを決断するということは、何かを捨てるということでもあるのかもしれない。
取捨選択と同じである。何を取り、何を捨てるか。それだけのことだ。だが、それだけのことであっても、人は多大な力を使う。それが無為であると人は言うかも知れない。
けれど、決断することを知る者たちは、それを無為とは呼ばない。前進と呼ぶのだ。
サクラミラージュに幻朧桜の花弁が舞い散る。それは不変たる象徴。桜の花弁に春忠青年は何を思っただろうか。何を誓っただろうか。
それを推し量る術をシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は持たない。だが、その決断が簡単なものではなかったことだけはわかる。
その決意を無駄にしない為、彼は幻朧戦線への対処を開始するのだ。
シキは春忠や華舞華祭に着ている者たちを巻き込むまいと、下宿に向かうように走り出す。そうすれば、自ずと幻朧戦線の構成員たちの注目はシキへと向かう。
追え!と構成員たちが叫ぶ声が聞こえる。
「単純なことだ……だが、その方がやりやすい……」
追いすがる足音が背後から迫る。路地入り、待ち構え不意打ちで構成員の一人を当身で失神させる。
それに気がついた別の構成員たちが殺到するも、シキにとっては赤子の腕をひねるのと同義であった。
短剣を持つ手は払い、掴んでは捻り上げる。遠く離れていれば、彼の持つハンドガンから放たれた銃弾が弾き飛ばす。
「くっ―――!こいつ、まさか……!超弩級戦力!」
構成員たちがどよめく。超弩級戦力。それは通常のユーベルコヲド使いとは一線を画する存在。その存在を幻朧戦線は認知していた。あまりにも並外れたユーベルコードの使い手、つまりは猟兵のことである。
ここにきて漸くシキの実力を見誤ったことを幻朧戦線は悟るのだった。
「……しかし、影朧に味方するというわけではないが、影朧とはいえ、あれも意思のある存在だろう」
足を一歩踏み出す。それだけで威圧されたかのように幻朧戦線の構成員たちが後ずさってしまう。
シキは正直に言って冷静ではあるが、幻朧戦線の物言いには少しカチンと来るものがあったのだ。
意思あるものを道具扱いするのは度し難い。
「それを利用するだの使うだのと、随分な言い草だ」
幻朧戦線は自分たちが何を相手にしてしまったのか、敵にまわしてしまったのかを悔いることになる。細く薄暗い路地に倒れ伏す幻朧戦線の構成員たち。
彼らは一様に気を失っていたが、生命を脅かすようなことにはなっていなかった。
ふぅ、と一息つくシキ。倒れ伏す彼らを見下ろし、ぽつりと言い放つ。
「世を正す前に、まずは自分たちの心根から叩き直したほうが良いんじゃないのか」
聞こえてはいないだろうが、それでも言わずにはいられなかった。
決断する者がいれば、その決断もまた正否がわかれる。春忠は苦しい決断をした。それが正しい道であるからこそ、苦しくも険しい道なのだ。
対して幻朧戦線はどうだろうか。彼らの取った道は春忠と同じ苦しみを味わったものであっただろうか。
答えは、明白だとシキは独り言を呟くのだった。
成功
🔵🔵🔴
寧宮・澪
春忠さんは、教えてくれて、ありがとうですよー……。恋しい相手が、幸せであれ……というのは、間違いじゃないですし。
さて、幻朧戦線、穏やかでないですねー……。利用とか、戦力とか全く好ましくない。
とりあえず、まずは眠っていただきましょか……。うん。
気づかれないよう静かにー……上空から、彼らの周りを囲むように風を起こしましてー……穏やかに眠りを誘う、蜜を流して【揺り籠の謳】……子守歌を歌いましょー……。
さあ、おやすみなさいー……夢の世界で、少しだけ、行いを振り返れますようー……祈ってますよー。
寝かせられたら、親指同士を縛って武装とって……桜學府辺りに連絡して。
それから下宿に飛んでいきましょー……。
小さな猫たちが寧宮・澪(澪標・f04690)を導くように春忠青年のいる路地まで導いてくれる。
そこで小さな猫たちは役目を終えたと小さく敬礼するように手を上げて消えていく。ありがとうね、と優しく見送ってから澪は春忠青年へと近づく。
彼の心中は察するほか無い。彼女だけではない、他の猟兵達も彼に心を配った証だろう。彼の匿う影朧の所在はつかめた。
彼の言葉に偽りはない。誰かを想う気持ちに偽りなどないのだから。
「春忠さん……教えてくれて、ありがとうですよー……。恋しい相手が、幸せであれ……というのは、間違いじゃないですし」
澪の言葉は春忠青年の心に届いたことだろう。間違いではない。苦しく決断をした彼にとって、彼女の言葉は乾いた砂地に雨が染み込むように癒やしていくことだろう。
だが、そんな僅かな暇すらも与えぬ者たちがいる。心の安寧を与えぬとばかりに立ち塞がるのは幻朧戦線の構成員たち。
短剣などで武装した彼ら。幸いにしてグラッジ弾などを装填された火器は所持していないようだった。あの呪いを撒き散らす弾丸が放たれれば、華舞華祭に着ている人々にも累が及ぶ。
「さて、幻朧戦線、穏やかではないですねー……。利用とか、戦力とか全く好ましくない」
澪の言葉ははっきりと幻朧戦線との拒絶する。彼らは未だに澪たちが猟兵……つまりは超弩級戦力であると思ってもいない。ユーベルコヲド使い程度にしか思っていないのだろう。
対峙する彼らの上空に風が起こる。緩やかだが、微風というのはあまりにも局地的な風。それはあまりにも甘やかな香りを伴って路地裏にまで入り込む。
幻朧戦線が武器を構え、春忠青年と澪を拘束しようと迫る。だが、甘い香りは眠りを誘う。
それは彼女のユーベルコード、揺り籠の謳(ユリカゴノウタ)がすでに発動していた証である。
「さあ、おやすみなさいー……夢の世界で、少しだけ、行いを振り返れますよー……祈っていますよー」
彼女の甘い声が響く。それは彼女の子守唄がユーベルコードを伴った幻朧戦線の睡魔を誘う。ふらり、ふらりと、また一人足取りがオブつかなくなっていく構成員たち。
澪に近づく頃には、幻朧戦線の構成員全員が路地裏に昏倒していた。
「それではー……こうして、こうー……武装はこうです。桜學府に連絡もしていましたから、後は安心ですねー……」
眠らせた構成員たち全てを拘束し、桜學府へと連絡した澪。後は春忠青年から教えてもらった影朧を匿う下宿へと向かうだけだ。
空を行く澪を春忠が見上げる。その瞳が夕焼けを照り返していたのを澪は見た。
きっとそれは涙をこらえているのだろう。溜まった涙は鏡面のように夕焼けの橙を反射していた。
彼の想いを無駄にはできない。せめて、彼の心が癒やされるよう。そう思い澪は道を急ぐのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
天方・菫子
春忠さん、ありがとうございます
そして、ごめんなさい
責めるような口調、失礼しました
せめて、あなたの気持ちを無駄にせぬようにしますね
とは言え…困ったな
あたし、こういう状況苦手なんだよね
UCを幻朧戦線の人の武器のみ範囲にするよう調整します
桜の中に紫の花びら
目立ってしまうのもちょっと申し訳ない
うまく武器だけ攻撃できたら
幻朧戦線の人へ体当たりして無力化するしかないかなあ
(【捨て身の一撃】)
本当は桜學府へ連絡したいところだけど
あたしの対応でそれができるかどうか
武器を壊して無力化しただけで諦めてくれそうな人たちじゃないけど
桜でも見て、改心してほしいなあ
アドリブ歓迎です
体は容れ物で、心は容れ物の中にある液体のようなものだという人がいる。心は流体であるのだから傷つくことはないと。
それに容れ物の形によって心の形も変わるのだから、それは傷ついたのではなくて、形が変わっただけで依然、心に傷はつかないのだという。
それならば何故、己の胸は痛むのか。この心というものが流体なのだとすれば、何故胸が痛むのか分からない。
あの人の言葉は確かに己の薄皮に刺さったのかも知れない。だが、傷つくいわれはないはずなのに痛む。
そうか、と思う。容れ物が傷つけば、中身は溢れてしまう。こぼれた水は戻せない。
けれど、それが人の人生の道行きだというのなら、必要な痛みなのかもしれない。
顔を上げると、そこにはあの時の彼女、天方・菫子(花笑う・f17838)が心配そうに春忠青年の顔を覗き込んでいた。
彼が匿っていた影朧の所在はしっかりと彼女に伝わっている。けれど、彼女はその形の良い眉根を寄せて頭を下げる。
「春忠さん、ありがとうございます。そして、ごめんなさい。責めるような口調、失礼しました。せめて、貴方の気持ちを無駄にせぬようにしますね」
彼女は侘びた。彼女が詫びることなんてなかったのだ。
この事態を招いたのは己の心の弱さ故。彼女に非はない。己の心の弱さを気が付かせてくれたのだが、そんな顔をしてはいけない。春忠青年が何かを言いかける前に、彼女たちに前に立ち塞がるは、幻朧戦線!
黒い鉄の首輪をした幻朧戦線の構成員たち。彼らが手にしているのは短剣や拳銃。グラッジ弾という呪いを周囲に撒き散らす危険極まりない弾丸は装填されていないことが幸いであった。
「やはり、超弩級戦力―――!我らの革新の邪魔立てをするか!」
彼ら幻朧戦線は、サクラミラージュの太平の世を停滞と呼び、大正の時代を終わらせると吹聴し、帝都に重大な被害を及ぼす行動をしている組織である。
彼ら構成員たちは皆血気盛んな若者たちである。そんな彼らが春忠青年の匿う影朧に目をつけていたのだ。
「とは言え……困ったな。あたし、こういう状況苦手なんだよね」
そう、彼女のユーベルコードはこのような状況を想定したものを持ち合わせていないのだ。
幻朧戦線の構成員と言えど、彼らは一般人である。超弩級戦力、つまりは猟兵である菫子の強力なユーベルコードでは彼らに重症を負わせてしまう可能性があるのだ。
だが、ここで菫子が引いてしまえば、春忠青年に累が及ぶことであろう。それだけは避けねばならなかった。
「だからといって、やらないわけにはいかないんだから!」
彼女のユーベルコード、天方流・濃紫(アマカタリュウ・コキムラサキ)が発動する。彼女の武器が無数のスミレの花弁へと変わる。
それは花の嵐のように幻朧戦線の構成員たちが持つ武器にまとわりつき、絡め取るようにして宙へと取り上げる。
一瞬の出来事であった。早業のように彼女のユーベルコードの花弁が彼らの武器を取り払ったように、彼らの目を花弁が覆う。
パニックに陥った彼らに菫子を捉える術はない。
「ごめんなさい!これでっ!」
菫子はその構成員たちに己の身を顧みずに体当たりする。その衝撃で彼らは倒れ込む。そこまではよかった。
「桜でも見て改心してほしかったんだけどなあ……」
けれど、彼女にこれ以上の拘束は難しい。下手をすれば彼らに大怪我を負わせてしまうかもしれないし、桜學符へと連絡しようにも彼女の今の状況ではそれも難しい。
だが、彼女の予想に反して、彼女の窮地は救われることになる。
「この―――っ!」
菫子に素手でも構わず襲いかかろうとしていた幻朧戦線の構成員に春忠青年が体当たりをする。それは彼女を助ける行動であった。
さらに彼が桜學府へと連絡してくれていたのだろう。次々とユーベルコヲド使いたる學徒兵たちが集まってくる。
「貴方の言う通りだった!己は貴方の言葉に責められたなど思っていない!己は己のために己の気持ちを偽り裏切るところだった!だから!」
春忠青年が叫ぶ。
菫子はその言葉を聞いた。彼は、彼なりの意思でもって、未練を断ち切ったのだ。
ならば、その想いに菫子は応えなければならない。
走る。駆ける。帝都の街を菫子は、飛ぶように駆ける。
急がなければならない。春忠青年の匿った影朧が決定的な過ちを侵す、その前に―――!
「春忠さんの気持ち、絶対に無題にはしないんだから!」
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『殺人者』桜守』
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POW : 無限開花・彼岸大桜
【周囲の幻朧桜を一時的に変異させ、自身の】【影朧をレベル×10体を召喚する。自身の】【数が減れば即座に補充し、戦力を強化する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 反魂桜~満開~
自身の【周辺に存在している幻朧桜】を代償に、【凄まじい数の影朧を召喚し、その影朧】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【猟兵に対抗する形で変質し続ける身体】で戦う。
WIZ : 華胥の桜花
無敵の【ユーベルコードと、無敵の影朧】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
イラスト:久蒼穹
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
春忠青年の下宿先は、すぐに見つかった。
けれど、そこには影朧の姿はなかった。いや、下宿にはいなかっただけだ。
下宿の直ぐ側にある桜並木の通り。幻朧桜が連なるようにして咲き乱れる薄紅色の小道。
そこに影朧はいた。幻朧桜の花弁が舞い散るのを陶酔した様子で見上げていた。
猟兵に気がつく。互いに互いが己の敵であると瞬時にわかってしまう。
あれは敵である。滅ぼし合うために出会ったのだとわかってしまう。
「……そうか。とても早かったね。私が見つかるのは、もう少し後だと思っていたのだけれど」
『殺人者』桜守は、舞い落ちる幻朧桜の花弁をひとつまみ掴み、吐息を吹きかけて散らした。
その瞳は猟兵たちを前にしても尚、花弁ばかり目を追っていた。
ああ、なんて美しい。こんなにも美しいものが不変であるだなんて信じられない。けれど、もっと美しく。
「そうは思わないかい。この花の美しさ。ああ、でもそうだね。今は少しだけ色褪せて見えるよ……」
互いに足を踏み出す。
相容れぬ存在であるというのなら、彼女と猟兵の間に在るの戦い。その手段しかないのかもしれない。
「少し寂しいと思ってしまうけれど、これもまた桜の花弁の前には霞んでいくだろう。私の桜はもっと美しくなる。そのために、君たちには桜の樹の下に埋まってもらおう―――!」
シキ・ジルモント
交戦と共に対話を試みる
ただ消滅させるのではなく、影朧の転生を狙いたい
幻朧桜もだいぶ見慣れたが、変わらず美しいと思う
更に美しくなるなら見てみたいものだが…
しかし、花が美しく見えるかどうかは個々の感覚の問題だ
どう映るかは全て見る者次第
これ以上を望むのなら、変えるべきは見る者の方だろう
…今のあんたはどうだ
桜を美しくしたいと望みながら同時に桜を戦闘にまで利用し、いつか愛する桜ごと世界を壊しかねない状態で、
十分にその美しさを理解し、愛でる心の余裕があるのか?
攻撃時は味方への誤射を防ぐ為に距離を取り、召喚された影朧の中にあえて突っ込む
ユーベルコードによる『範囲攻撃』で周囲の敵を多数巻き込み一気に片付けたい
不変の象徴であるが故に変わらぬ美しさを保つのであるというのなら、それは停滞と呼ぶのかも知れない。
変わらぬ平穏、変わらぬ毎日。その何処に刹那の一瞬の輝きが在るだろうか。それはもはや鈍色の光景ではないのか。
人は慣れる。慣れれば忘れる。視界の端にも止まらなくなる。そんなことは到底理解できないし、させてならないことであると影朧、『殺人者』桜守は思う。
桜の美しさをもっと!もっと!そうしなければならない。何をおいても!どんなに己の前に不変ではない一瞬のきらめきを持つものが現れようとも!
「幻朧桜もだいぶ見慣れたが、変わらず美しいと思う。さらに美しくなるなら見てみたいものだが……」
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は『殺人者』桜守の前に立ち塞がる。ただ滅するだけではない、交戦と共に対話を試みようとしているのだ。
影朧は癒やしを与えれば転生が叶う。
春忠青年の想いは、桜守にとって癒やし足り得るだろうか。シキにはそれはわからない。
だが、わからないからといって放棄していいものでもないと彼は知っていた。
「なるさ!美しく!桜の樹木は醜い人の本性を吸って、さらに美しくなる!そうでなければ、埋める価値もない!」
桜守が幻朧桜を影朧の形に変えて、召喚する。それは彼女の力であると同時に、この状況においては凄まじい能力であった。幻朧桜であるのならば、そこら中にある。
大量の影朧がシキの目の前で姿を変えていく。それは群体オブリビオンと言ってもいい姿。
「しかし、花が美しく見えるかどうかは個々の感覚の問題だ。どう映るかは全て見るもの次第。これ以上を望むのなら、変えるべきは見る者の方だろう」
そう、花は変わらない。不変である幻朧桜であるのならば、尚更である。見るものの心の内を鏡に写すかのように花々は咲き誇る。
そこに何を見出すのかは、花を見上げる者たちの心次第なのだ。
シキに迫りくる影朧の群。圧倒的な数にシキは身構えることをせずに、敢えて突っ込む。
それは自殺行為に等しいもののように見えたことだろう。
「……今のあんたはどうだ。桜を美しくしたいと望みながら、同時に桜を戦闘にまで利用し、いつか愛する桜ごと世界を壊しかねない状態で、十分にその美しさを理解し、愛でる心の余裕があるのか?」
シキのユーベルコード、フラッシュ・ストームが発動する。襲い来る影朧たちを手足を使った柔軟な格闘術でいなし続ける。
言葉は続く。己に襲い来る影朧たちは、みな物言わぬ木偶である。そんなものに己は止められない。
まるで嵐のようにシキの体は影朧の大群の中心で暴風を巻き起こす。
「心の余裕なんて最初からないさ!私の心には、最初から最後まで、たった一つだけさ。猟兵が、私の心に隙間を作ろうなど!」
桜守は叫ぶ。その言葉の裏にあるのは、己の心にある一分の隙を見出しているからであろう。裏返しだ、とシキは思ったかも知れない。
今正に彼女の心の中を占めるものは桜だけではないのかもしれない。
「私の愛は―――!」
吠えるように桜守の言葉が桜並木に響き渡る。それを遮るようにシキの手にしたハンドガンの銃声が鳴り響いた。
「それは嘘だな。たった一つしかないというのなら、己自身も愛することはできまい。己自身が愛せないというのならば、己以外の何かを愛することもまたできない。愛がないのであれば、愛することが叶わない」
故に、彼女に愛があるのだとすれば、たった一つの愛などという言葉はまやかしである。
「俺はあんたの心に問いかける。頭に血がのぼっているのなら―――」
シキへと殺到する影朧たち。だが、彼のユーベルコードの前には無意味な群である。彼の放つユーベルコードは嵐。
花弁は嵐の前に吹き荒ぶのだから―――!
「今は冷水をぶっかけてやるよ。冷めた頭でもう一度考えるんだな―――」
群れ、荒れ狂う影朧をシキの放つ嵐が全て霧散させる。
それは彼女の心に吹き荒れる嵐となって、叩き込まれるのであった。
成功
🔵🔵🔴
寧宮・澪
共存できたら良かったんですがー……そうはいかない、ので
ほろ苦い恋心の為にも、止めましょね……
……できたら、次の世で桜を楽しんでもらいたい、ですが
【霞草の舞風】……無敵のコードも、影朧も包みましょー……跳ね除けられても、諦めずに
貴方方が無敵だと、言うならー……何故今も私達は立っているんでしょね……
桜のみを愛でるという、その意識から生まれた想像は……限られたものではー……?
そうでないなら、春忠さんとの、会話は少しでも、楽しかったんでしょか……もしそうなら、貴方の心は、花以外にも向けられたんですねー……
それに、一人で見る花もいいですがー……誰かと見る花も、別の美しさを見せますよね……そうでしょう?
決定的に違う生き物が同じ場所に存在する時、起こるのは敵対である。
猟兵とオブリビオンもまた、決定的に違う存在である。過去の化身であるオブリビオンは今という現在において、未来を食いつぶして蘇る存在。
それ故に互いが敵であると正しく認識するのである。ただ、共存できることはないのかと、そう思うこともあるのである。
オブリビオン全てが邪悪であるのであれば、何も考える必要はない。だが、過去の化身であるというのなら、今正に描いた想いもまた時と共に過去になる。
その想いが歪むからこそ、共存できないのだ。
幻朧桜が舞い散る並木道に、『殺人者』桜守はいた。
ゆらりと揺れるように寧宮・澪(澪標・f04690)に対峙する。不変たる幻朧桜の美しさと同じ不変たる想いが、この胸の中にあるのだと桜守は対峙する澪が猟兵であることを本能的に悟っていた。
「次から次に私の邪魔をするものばかり現れるんだね……私はただ桜を美しく咲かせたいだけだというのに」
そう、そのためならば、何をしても良い。何をしても許されるはずだと、妄執にも似た想いを吐露する。
だが、澪の言葉は彼女の妄執を否定する。
「共存できたら良かったんですがー……そうはいかない、ので。ほろ苦い恋心の為にも、止めましょね……できたら、次の世で桜を楽しんでもらいたい、ですが」
それは拒絶であった。
春忠青年のことを思えば、一瞬ちらつく共存への道。だが、それはすでに閉ざされた道であり、そおそもが存在していない選択肢である。
「その気はないよ……!元より私に在るのは、桜への執着!」
華胥の桜花が舞い散り、彼女の傍に現れるのは無敵の影朧。彼女の創造性によって生み出された影朧は、確固たる疑念の入り込む余地のない意志によって維持されるのだ。
「そうですか……かすみが如くー……舞い踊れー」
澪のユーベルコード、霞草の舞風(カスミソウノマイカゼ)が発動する。
無敵の影朧も、ユーベルコードも、何もかも包み込むように、すみ草の花弁が舞う。それは花嵐のように桜守と影朧を取り巻くが、その尽くが弾き返される。
それは無敵ゆえ。それは確固たる意志ゆえ。
だが、無敵だと言う影朧にほころびが見えるのは何故か。
「貴方方が無敵だと、言うならー……何故、今も私は立って居られるんでしょうね……?」
何度も何度も澪は諦めずにユーベルコードを放つ。かすみ草の花弁が舞い散り、その都度弾き返される。
だが、言葉を尽くす度に無敵と謳われた影朧の姿は霞んでいく。
「桜のみを愛でるという、その意識から産まれた現象は……限られたものではー……?」
そう、無敵のユーベルコードが綻び始めているのが、その証拠ではないのか。
彼女の言葉は、徐々に桜守の心に掛かった帳を上げていく。
視界にちらつくのは、桜の花弁以外の何者か。声が頭の中で響く。違う。違う。自身が求めているのは、こんな紛い物ではない。一時の感情に流されるのは、自身の抱く妄執への冒涜である。
だが、それでも消えない何かが桜守の頭の中を染め上げていく。
「違う!違う!違うさ!こんな感情!私のものではない!」
浮かんでは消える。泡沫のような感情。それが桜守の頭の中をかき乱していく。狂おしいほどの感情はまるで嵐のようである。
「そうでないなら、春忠さんとの、会話は少しでも、楽しかったんでしょうか……もしそうなら、貴方の心は、花以外にも向けられていたんですねー……?」
やめろ、よせ、と桜守が叫ぶ。
かすみ草の花弁が、その叫びすらも包み込んでいく。いよいよ綻びが大きくなっていく無敵の影朧。そのほころびをこじ開けるように澪のユーベルコードによるかすみ草の花弁が食い込んでいく。
もはや散り散りになるのは時間の問題であった。
「違う……私は、違う……こんな感情……!私は独りであったはずだ……!」
完全に霧散する影朧の形。かすみ草の花弁が、桜守の周辺の渦巻く。それは傷つけるためのものではない。
その花弁の花言葉の通り。清らかな心は、幸福を思い出させる。幸福。桜を見上げればよかったあの幸福とは違う幸福を思い出していた。
顔が、浮かぶ。あの無邪気な顔。言葉をかわす度に、手を取り合う度に、浮かぶのは幸福。
「一人で見る花もいいですがー……誰かと見る花も、別の美しさを見せますよね……そうでしょう?」
澪の言葉はどんな武器よりも深く桜守の心に突き刺さったことだろう。
疑念は確信に変わる。
桜守の心に産まれていた疑念は、ついには無敵と謳われたユーベルコードすらも完全に霧散させた―――
「あなたの心に浮かぶのは、桜の花弁と―――」
その先は告げなかった。
澪はもうわかっているはずだと。その言葉を自覚すれば、自身の言葉は些細なことだと、桜守の行く末を見守るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
天方・菫子
桜の花は綺麗 正直に言えば貴女も綺麗よ
春忠さんが恋い焦がれたのもわかる
貴女はまるで桜みたいだもの
沢山の影朧に囲まれて
それでも私は【戻り花】を持つ
貴女を傷つけるために来たんじゃないの
桜を綺麗に咲かせたい
その気持ちは私もわかるけど
ねえ、貴女は本当にそれだけしか望まなかったの?
春忠さんと話しているときに
胸に花が咲くような、そんな気持ちはなかったの?
悲しい結末は嫌なんだ
貴女にも春忠さんにも綺麗な桜を純粋に見てほしいだけ
ねえ、もう一度春忠さんと一緒に
桜を見る未来を、探してみませんか?
アドリブ歓迎です
美醜の基準とは人それぞれである。何を美しいと思うのかは、その者の主観によるものである。
だが、美しいと感じる感情に貴賤はない。その感情を抱くのが人間であれ、オブリビオンであれ、違いはあろうはずもない。
帝都にあって幻朧桜を見上げる人間と影朧。両者の間にあったのは、美しいという感情の共有であって、相違ではない。
故に、オブリビオンである、ということは世界にとっては決定的なものであった。
影朧は不安定な存在である。今はまだ世界に影響を与えぬ存在であったとしても、どの道、世界を破壊へと導いてしまう。望むと望まざると。
「桜の花は綺麗。正直に言えば貴女も綺麗よ」
そう言ったのは天方・菫子(花笑う・f17838)であった。対峙する『殺人者』桜守を前にしての第一印象はそのようなものであった。
春忠青年が恋い焦がれたのもわかる。その艶やかな黒髪、桜色の召し物。そのどれもが見上げる桜に映えるものであった。
「貴女はまるで桜みたいだもの」
その言葉に桜守は顔を伏せる。その顔の浮かぶ表情は要として知れず。ぶるぶると肩が震える。
それは目の前にした猟兵への如何なる感情か。それとも―――。
「言うな!私はそんなものではない!桜などではない!私は!桜にはなれない!」
叫ぶ桜守の声は悲痛に満ちていた。
己では処理できない感情の波が彼女の心を波立たせているのだ。強すぎる衝動。湧き上がる感情の波が彼女の妄執を洗い流すようでもあったのかもしれない。
彼女は未だに、その妄執から手を離せないでいる。
掲げた手が桜並木の幻朧桜を自身の影朧へと変異させる。それは一時的なものであるが、荒ぶる感情のままに桜守の能力が強化されていくのを菫子は肌で感じた。
凄まじい圧力。それは菫子の肌を泡立たせる。周囲には圧倒的な数の影朧。完全に菫子は包囲されてしまっている。だが、気圧されるわけには行かない。
「それでも私は、戻り花を待つ。影朧なら転生すれば、いつかまた逢えるはずだから。私は貴女を傷つける為に来たんじゃないの」
そう、菫子は戦うために来たわけではない。彼女の目的は別にある。だからこそ、周囲を囲む影朧の数に怯むわけにはいかない。
桜守を傷つけるわけにはいかない。なぜなら、桜守が心の奥底に鎮めてしまったものがなんであるか、彼女はよく解っているからだ。
それは憧憬にも似た感情であろう。見上げるしかないもの。
「桜を綺麗に咲かせたい。その気持は私もわかるけど。ねえ!貴方は本当にそれだけしか望まなかったの?」
手にした妖刀、戻り花。それは彼女の持つ守り刀。そこには祈りの心が込められていく。
菫子の声は自然と張り上がっていく。
春忠と話している時。一緒に桜を見上げている時。互いの顔を見て、視線が交錯した時。彼女の心の中に花が咲くような気持ちはなかったのかと。
止まらない。止められない。菫子の感情の赴くままに言葉は紡がれる。
「私は悲しい結末、嫌なんだ!」
彼女の妖刀・戻り花が、祈りの心を受けて輝く。彼女のユーベルコード、天方流・灰桜(アマカタリュウ・ハイザクラ)が発動する。
それはオブリビオンを傷つけるものではない。その刃が断つのは、邪心、執念。黒き念とも言うべきものだけである。
桜守と影朧たちが菫子へと襲いかかる。だが、それは彼女の手にした祈り込められし妖刀によっって、すべて霧散していく。
「貴方にも、春忠さんにも綺麗な桜を純粋に見てほしいだけ!ねぇ!もう一度春忠さんと一緒に―――!」
「だまれ!だまれだまれ!私の心を薄めるな!私の心の中にあの男を入り込ませるな!薄まってしまう!桜の花が!あの美しさだけあればよかったのに―――!」
互いの言葉が反響する。
薄まってしまうと言った心は、裏を返せば、桜と同じように大切なものであったのだ。見ないようにしていた、気が付かないようにしていた気持ち。
それが菫子がわかって、桜守がわかっていないものであった。
だからこそ、と菫子は叫ぶ。
「桜を見る未来を!一緒に!」
菫子の妖刀が桜守の肉体を透過し、その内側にある桜の美に取り憑かれし黒く妄執を断つ。その一撃は、今はすぐに効果が出ないであろう。
だが、確実に桜守の内面を変化させる。
薄めなくても良い。陰らなくても良い。ただ、誰かが誰かを想うのであれば、その気持はどんなものよりも美しいはずなのだから。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
こいつが件の影朧か。
確かに中々のべっぴんさんだな。
オブリビオンである以上見逃す訳にはいかねえがなッ!
敵の攻撃を見切りながら妖刀の一撃を叩き込むぜ。
敵が他の影朧を召喚してきたら千刃桜花で纏めてなぎ払ってやる。
このまま一気に・・・なんだよ、相棒?
説得?おいおい、マジかよ。
分かったよ、やれるだけやってみな。フォローはしてやる。
「・・・貴女の望みは桜の花を美しく咲かせる事だけだったのかもしれません。
だけど、春忠さんと一緒に桜の花を見た想い出は本当にどうでもいいものだったのですか?
私はそうは思えないんです。
貴女も本当は気付いているんじゃないんですか。」
【技能・見切り、なぎ払い】
【アドリブ歓迎】
許されざるものがいるのだとして、その身に抱えるのは贖罪か。たが、この世に本当に許されざるものがいるのだろうかという疑問もまた永遠の命題である。
『殺人者』桜守は過去の化身である。骸の海より集積せし、罪の塊であるというのなら、今正に現し世に現れたる彼女は、すでに罪ある者であるのだろうか。
オブリビオン、影朧である以上、その罪から逃れる術はないのだろうか。故に桜守は抱えた妄執に取り憑かれているのだろう。
己の生まれてもってきた過去を寄る辺としてしまっているのだから。
幻朧桜の花弁舞い散る桜並木。そこに『殺人者』桜守はいた。これまでに幾多の猟兵達の言葉が彼女の心の内を、彼女自身も気が付かぬままにしていたものを白日のもとにさらしていた。
それは彼女にとっての不幸であったのかも知れないが、彼女にとって必要なことなのであった。
罪抱えるというのであれば、その罪を下ろせばいい。下ろした手には贖うものを持てばいい。
『こいつが件の影朧か。確かに中々のべっぴんさんだなッ。オブリビオンである以上見逃す訳にはいかねえがなッ!』
神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)と桜が桜並木へとやってきた頃、そこにいた桜守は、ゆらりと立ち上がっていた。
抱えていた妄執は散り散りに。だが、彼女は影朧である。目の前にいるのは猟兵。だとするのであれば、彼女のすべきことはたった一つであった。
「私の中にはたった一つしかなかったのに……たった一つでよかったのに……!なのに、何故私の中にもう一つ入り込んでくる……!」
桜守のユーベルコード、華胥の桜花が舞い散る。それは無敵のユーベルコード。無敵の影朧を生み出す。
だが、その姿は己に対する疑念が産まれた瞬間、その効果を著しく半減させる。無敵は無敵ではなくなる。たった一つの妄執を持つが故の強力さであったのかもしれない。
「遅い……見切れる!」
彼らのユーベルコード、千刃桜花(センジンオウカ)が発動する。手にした無銘の妖刀が桜の花弁へと姿を変えていく。
無数の桜の花弁は空へと舞い上がり、花の嵐のように無敵の影朧の姿をなぎ払っていく。十全の状態であれば、恐らく彼らのユーベルコードは、その効果を届かせることすら叶わなかっただろう。
しかし、すでに妄執とは別の何かを抱える桜守にとって、そのユーベルコードは最早、無敵のものではなくなっていた。
『脆いぜッ!このまま一気に……なんだよ、相棒?』
凶津のパートナーである桜の体が止まる。何故、と問うよりも早く桜が答えていた。桜守を説得する、と。
おいおい、マジかよ。凶津にとっては正直信じられない……というほどでもなかった。彼女なら、桜ならそうするであろうとも思っていた。だからこそ、凶津は桜の主張を尊重したいと思った。
『わかったよ、やれるだけやってみな。フォローはしてやる』
短く桜が礼を言う。なんだかむず痒いな、そう思ったかも知れない。
「……貴女の望みは桜の花を美しく咲かせる事だけだったのかもしれません。だけど、春忠さんと一緒に桜の花を見た想い出は本当にどうでもいいものだったのですか?」
桜は問う。それは問いかけであったが、彼女にとっての賭けでもあった。短い間ではあったが、春忠の言葉を信じるのであれば、彼女の心のうちにあるものは、たった一つではない。
ならば、桜の花に対する妄執以外にあるものはなにか。たった一つのことだけで生きている者がいるはずがない。
「私はそう思えないんです。貴女も本当は気づいているんじゃないんですか」
その言葉が無敵のユーベルコードによって構成された影朧を完全に霧散させた。賭けは確信に変わる。
桜にはわかっていた。人には寄る辺が必要である。それは花への想いであったり、人への想いであったり、もしかしたら、隣りにいるだけで互いに寄る辺となるものであったり。
人それぞれに違う形のある寄る辺がある。
桜守の頬を伝うのは一滴の涙。
その涙を見れば、桜は微笑む。同じ花の字を持つ同士。奇縁は果たされた―――。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「貴女は2つ、勘違いしていらっしゃる。幻朧桜が美しいのは。その下に、転生を望み力を捨てた影朧の、力が埋まっているからです」
UC「桜吹雪」使用
影朧も桜守も全て桜吹雪で切り刻む
「貴女を大事に想った方は。此方に桜の苗を持って帰ろうとしていらっしゃいました。桜を植えて貴女の喜ぶ顔が見たいと。貴女をお慕いしていると」
「桜が美しいのは。同じ想いで桜を見上げる方が居るからです。貴女に苦しい顔で桜を見上げさせたくないと願った方に。貴女のために桜を植える方に。これから一生、桜を眺めて寂しい涙を流させる。貴女はそれで平気ですか」
「願って下さい転生を。共に桜を見上げるために」
鎮魂歌で送り、最期の様子は余さず伝える
「―――嗚呼、私もそう思うよ。桜の樹の下には、死体が埋まっている。そうすれば、もっと桜は美しいものとなるだろう。私もそう思うよ」
その言葉を紡いだのはいつの頃であっただろうか。二人が出会って間もない頃であっただろうか。
思い出せない。思い出そうとしなかったのかも知れない。思い出してしまえば、あの純朴な青年の顔が思い浮かんでしまう。埋めてきた死体たち。それは今ではない過去の残滓が見せる幻影であったのかもしれない。
その死体たちの顔が春忠青年の顔に重なる。駄目だと思った。こんな自身では応えることはできない。
だから、この身に抱える妄執は一つで良い。桜の花だけあればいいのだと己の心を偽り続けてきた結果がこれだというのなら、己はこれを甘んじて受け入れなければならない。
「貴女は二つ。勘違いしていらっしゃる。幻朧桜が美しいのは、その下に転生を望み力を捨てた影朧の力が埋まっているからです」
それは桜吹雪と共にやってきた。ひと目見ればわかる。あれは猟兵である。己の敵。己と互いとを滅ぼし合う運命にあるもの。
だからこそ、己の身は動いた。本能的だったと言っても良い。
すでに綻び、破綻してる影朧とは言えど、猟兵に立ち向かう本能は残されている。だが、その影朧も桜吹雪の前にかき消される。
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の姿が悠然と、『殺人者』桜守の目の前に立っていた。
膝から崩れ落ちる。もうなにかもが駄目だと思った。抱えた妄執と罪悪があまりにも重い。
桜花は言う。二つ、と。ならば、もう一つはなんだ。
「貴女を傷つけるつもりはありません。骸の海へと返す気はないということです」
一歩、桜花が進む。
その瞳に宿るのは揺るぎない信念。自身が抱えるのが妄執であるのだとすれば、彼女の信念は美しいものであったのかもしれない。
桜花は言葉を続ける。
それが、彼女に出来る最大のことであると信じているからである。その瞳は、信念に溢れていた。その瞳を見上げる度に、桜守は惨めな気持ちにさせられた。
「貴女を大事に想った方は……此方に桜の苗を持って帰ろうとしていらっしゃいました。桜を植えて貴女の喜ぶ顔が見たいと。貴女をお慕いしていると」
その言葉は、散り散りになった妄執すらも打ち払うようであった。
雲が風に払われるように。
「桜が美しいのは。同じ想いで桜を見上げる方が居るからです。貴女に苦しい顔で桜を見上げさせたくないと願った方に。貴女のために桜を植える方に」
嗚呼。
嗚呼、と声が漏れ出たのは、桜守の喉からであった。顔が浮かぶ。あの青年の顔。もう思い出せない。
思い出してしまえば、己は存在すらできなくなってしまう。自身が自身であるために必要でった妄執が消え果てていくのを感じる。
「これから一生、桜を眺めて寂しい涙を流させる。貴女はそれで平気ですか」
溢れるのは涙か、感情か。どちらであっただろうか。
手をのばす。この妄執はすでに晴れた。それを為したのは、猟兵ではない。
この心の内側に入ってきた、もう一つの唯一。
最初から全て終わっていたのだ。この妄執の彼方にあったものは、たった一人の青年がすでに片付けていた。
打ち払うほどの心震える感情。その感情の名前を、桜花は知っている。
その感情の意味を知るために桜花は桜守に手を差し伸べる。
「願ってください。転生を。共に桜を見上げるために―――」
その鎮魂歌は、最期まで響いた。
その最期は余さず伝えられたことだろう。それが桜花の果たすべき約定であるから。
―――そして、桜花嵐が吹き荒ぶ季節に、また二人は出逢う。
大成功
🔵🔵🔵