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今夜はあなたの大好物

#UDCアース #【Q】 #UDC-P

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●はぐれものひとりめし
 つるつる一枚で隔てられた三角のものはケーキっていうらしい。隣のお家にあるワタシたちみたいぷにっとしていて、しかし丸いものはマンジュウだって。
 向かいのお家に並んでいるものはカナモノっていうんだけれど、ちょっぴり固い。食べられないことはない。でも、ワタシはドンブリやパンってやつの方がもっと気になる。
 甘い、辛い、苦い、酸っぱい。ヒトは色んなおいしいを知っていて、しかも作り出すことができるんだ。
 他にも、他にも……。

 じゅるじゅると響いていた液体を啜る音が止んだ。
 身体のあちこちに大小の穴を開け、干乾びた人間が折り重なるように倒れている。そこから這い出る蟲がいち、に、さん、……数え切れぬほど。
 ねえねえ次はどこでなに食べる? と語り合う風に、真っ赤に染まった戸口の外へぞろぞろご機嫌で進んでゆく。
 行列からすこしばかり遅れ、カウンター下から姿を見せた一匹がいた。身を縮こませた蟲は、転がる人間の頭をそろっとつっつく。

 ごめんください。
 いただきます。
 おいしいです。
 ごちそうさま……ヒトの言葉をいくつ耳にし覚えても、ワタシには声がない。もし声があっても、こうして動かなくなってしまったヒトには届くことがない。それがちょっぴりだけ、ざんねん。さっきまでかき混ぜられていた、割れたボウルから零れたクリームは「甘い」。
 みんなはヒトの味が一番だって言うけれど――ワタシは。

●今夜はあなたの大好物
 みなさん、UDC-Pってご存知でしょうか?
 ニュイ・ミヴ(新約・f02077)はどこか弾む音で切り出した。
 UDC-PのPはPeaceを意味する。かのシャーマンズゴーストが嘗てその名で呼称されていたように、何らかの要因でオブリビオンの"破壊の意志"を持たぬ突然変異体。
「ひとを襲うことに積極的ではなく、むしろそうした行いをする仲間たちに怯えてしまっている……このままだと、止めに入って傷付けられる可能性もある。そんな方からのSOSが、ニュイのもとにも届いたのです」
 どうかお力を貸していただけませんか。

 早くも移り変わり始めた世界は茜色だ。
 みつば通り商店街。古びたアーチで名乗りを上げる掠れ文字が賑やかしい。もう少し上では複雑に交差する電線を揺らし、カラスが鳴いて飛んでゆく。
 花屋の隣では芳ばしいコロッケの香りを漂わせ、肉屋が売り切りタイムセール中。競うみたいに表へ出て値引きシールを貼っている魚屋の主人と、目でも合ったろうか。
「UDCはこの町のどこかにいるようです」
 そしてお探しいただきたいUDCがこちら、と。
 徐にニュイが差し出した資料には赤茶色のワームめいた生物が描かれている。手乗りサイズから小さめの人間の赤子ほどまで個体差があるらしい、目も耳もなく、なんなら手足もなく口に生えそろった牙が本来の獰猛さを滲ませていて……。
 通称・腹喰蟲。人間に寄生し肉を喰らう寄生蟲。
 とても、こう――ぬめっとうねっとしているが。
「そのぅ、……種族の垣根を越え協力されているみなさんならきっとお分かりいただけると思うのです!」
 本当に大切なものは何であるか!
 高速でぺこぺこしたあと、問題の個体は外見上他のUCDと違いこそないが、猟兵ならば一目で見分けがつくはずとニュイ。
 もちろん、UDC-P以外の腹喰蟲は放置しておけば人類にとって害となる。そこは普段通りばっちり討伐してほしい――そう続けて。
 無事に保護できたならもうひと仕事。組織へ引き渡す前に猟兵側でUDC-Pの性質を確認し"対処マニュアル"を作成しておく必要があるので、後ほどまた此処で。そこまで伝えると、タールは横へ跳ね道を譲った。
「よろしくお願いしますっ。でもひとよりもひとの食べ物がおいしいなんて、不思議ですよねぇ」
 彼か彼女か……定かでないが、UDC-Pはどうやらなにか食べたいものがあるご様子。行きがけに手土産なんて用意してみるのも、いいのかも?


zino
 ご覧いただきありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、おいしいで対話できそうな蟲の待つUDCアースへとご案内いたします。

●流れ
 第1章:冒険(みつば通り商店街)
 第2章:集団戦(腹喰蟲)
 第3章:日常(ふれあい)

●第1章について
 時間帯は夕方。昔ながらの商店街を歩きながらUDCに迫りましょう。
 町並みはOPや第1章導入の通り。触れられていない店なども、一般的なものであれば存在するものとしてプレイングを掛けていただいて結構です。
 半分日常パートのような扱いなので、聞き込みなどせず買い物や休憩のみでもご自由に。
 なんとな~くお目当てに近付いています。

●第2章について
 UDC-Pを庇いながらの戦闘です。
 猟兵はUDC-Pとそれ以外の見分けがつくため、その点の工夫は不要です。

●第3章について
 おいしいものが食べたいUDC-Pとのふれあいタイム。料理も可能です。
 詳細は第3章の導入およびマスターページをご参照ください。

 お手数となりますが……。
 複数人でのご参加の場合、【お相手のIDと名前(普段の呼び方で結構です)】か【グループ名】をプレイングにご記入いただきたく。
 個人でのご参加の場合、確実な単独描写をご希望でしたら【単独】とご記入ください。
 ニュイ・ミヴ(新約・f02077)はお声掛けいただいた場合のみお邪魔します。

●その他
 各章とも導入公開後、プレイング受付開始。
 今回、第1章執筆予定を【先着4名様+そこから1時間以内にプレイングを送信いただいた方】とさせていただきます。
 補足、詳細スケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
 ゆるいものの虫系、寄生系の話ですので苦手な方はご注意ください。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
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第1章 冒険 『街のおもかげ』

POW   :    生の情報が一番。人々に聞き込みしよう。

SPD   :    図書館や役所などで資料を当たろう。

WIZ   :    実際に街並みを歩けば感じるものがあるかも。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 まばらに設置された自販機では緑と赤のランプがちかちか。つめたい、あたたかい、つめたい。この季節は入り乱れて騒がしい。
「やった当たった!」
「ずりーぞ!」
 カプセルトイで一喜一憂する小学生が駆け出していって。
 主婦とその手に手を引かれる子どもが「今日なにたべたい?」「ハンバーグ!」等とおしゃべりをしながら通り過ぎてゆく。
 ゆっくりと時間をかけて夜へ移り変わろうとしている商店街。道行く人はそう多くない。
 今の今まで店先で昔話に花でも咲かせていたのだろう、老人たちは浅く会釈すると杖をついて別れて。春が来て外へ出された水槽では、赤黒の金魚がぴちゃんと跳ねた。

 商店街といえどこの規模であれば気儘なもので、主の気分と腹具合次第で早くに夕ごはんの時間となる。
 がらがらがら、がらと音立て灰色のシャッターを下ろしている服屋の女主人が、珍しいものを眺めるみたいに猟兵を見つめた。
「おや……こんな何もないところに観光かい?」
「かんこーかいー?」
 その傍ら、ひょっこり顔を出すのは娘だろうか。
 それとも宿でも探してるの?
「ならついでに腹ごしらえでもしていきなよ。食べ物に関しちゃ色々あるからね、この通り」
 使う? と差し出されるのは商店街振興委員会謹製・手書きパンフレット。なになに、特売中の地域のスーパー、肉屋魚屋からおばあさんのほかほか手料理お持ち帰りまで……。
 ちいさな洋菓子店和菓子店に、山間の町だからだろうか、八百屋がいくつか。――ちょっと文字が潰れて判別できない店も多い、が。
 はやくしないとしまっちゃうぞー、と弾む声は続いて、おなかすいたと母親の店仕舞いを急かした。
エンジ・カラカ
賢い君、賢い君、お腹すいたなァ……。
どーする?どーしよ。

風に揺れる賢い君
春の風が気持ち良いのカ
わかるわかる。コレも昼寝したい。
でもお腹すいた。

じゃあ、昼寝するために何か買おう。
ジャーキーと、それからアァ、賢い君知ってる?知ってる?
自販機。
この前教えて貰ったンだ。

銀のコインを入れて、光ったボタンを押す。
沢山押すと自販機は怒るカラ選んで押す。
賢い君は賢いカラすーぐに理解するよなァ……。
ドレがイイ?

風に揺れる君に任せて飲み物を買う買う。
うんうん、コレとアレとソレ
悩むなァ……ぜーんぶ押そうそうしよう!

両手でがっと全部のボタンを押したら出てくるのはどんな飲み物なンだろうなァ
アァ、自販機が怒る?
しーらない


藤代・夏夜
大勢の中で自分だけ違うって
環境によってはなかなか怖いものよね
そのUDC-Pちゃん…腹喰蟲ちゃんって何が好きかしら?
良さそうなの物色しながらついでに小腹満たしちゃいましょ
腹が減っては戦は出来ぬっていうしね♪

まずはお総菜屋さんで…ってやだ
凄く美味しそうな上にこのお値段…!
買いよ、買い!
コロッケ10個とメンチカツ10個ください(超笑顔

これくらいあれば私が半分食べても腹喰蟲ちゃん分は残るわよね
おかず系以外もあるといいかしら…
メインってなるとやっぱりご飯物とかパスタかしらね?
あっ、食後のおやつも欲しいわ

お店の人にオススメや人気店の事を訊きつつ
さりげなく物陰見たり第六感で回り探ったり
早く助けたいものね♪


エドガー・ブライトマン
夕陽が落ちていって、マントがやわいオレンジ色に染まる
ここは故郷の城下町をなんとなくおもわせる場所だねえ
今日も穏やかで平和な一日として終わってゆくんだろう

そう、ヨソの国から観光に来たのさ
通りすがりにここを見つけたんだ。コレ、もらっていくね
ありがとう

手書きパンフレットを眺めつつ、商店街を歩いてゆく
道端の機械にも興味を惹かれる
(すごい、あの機械の中に小さなおもちゃが入っているんだ!)
知らない場所を訪れることはやっぱり楽しい

おいしいものを何か買いたいな
色々な店があるらしいし……
コロッケっていうのはこの国にもあるのかなあ

近くに猟兵がいたら声をかけてみよう
おいしいものを探すなら、二人の方がきっと都合がいい


イディ・ナシュ
商店街というものに余り馴染みのない国で
普段は暮らしておりますが
雑多な食べ物の匂いで溢れる通り道は
歩いているだけで楽しいものですね
手を繋いで夕食の一品を探す親子連れの姿も、微笑ましく

お店に食べ物は未だ珍しいと感じるものばかり
ついつい、歩む足を何度も止めて
これは何ですかと店主様がたに問いを投げ掛けて
そのついで、というていでUDCについてもお聞きしましょう
最近、鼠などとは違う生き物に
食べ物を荒らされた事はございませんか?

つい試食の後に買い求めてしまったのは
ほかほかの、揚げたてドーナツ
生地と塗された砂糖の甘味だけで、充分美味しい一品でした
持ち返り用で二袋包んで頂けますか
家族と、それから迷子の為に




「そう、ヨソの国から観光に来たのさ。通りすがりにここを見つけたんだ」
 コレ、もらっていくね。ありがとう。
 パンフレットを手にふんわりと微笑みかけるエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、夕陽を背にやわいオレンジへ照らされメロドラマの主役めいて輝いたに違いない。淡いときめきに両頬を押さえる女主人を余所に同じ色へ染まったマントを翻したなら、さぁ、見聞を広めよう。
(「……故郷の城下町をなんとなく思わせる場所だなあ。今日も穏やかで平和な一日として終わってゆくんだろう」)
 すれ違う人々の軽い足音は帰路へ向かうもの。彼らにもおいしいごはんが待っていて――手にする買い物袋から漏れる出来立ての香りがエドガーの心を擽った。
 周囲のカプセルトイもまた魅力的! ちいさなおもちゃの王様蛙と目が合い硝子ケースに触れていると、ひょこり。
 同じく惹かれるものがあったのか頭へ乗ってくるツバメ、オスカーの喉を指の腹で擽ってやってエドガーは薄いパンフレットを捲る。指先は右へ左へ。ふむふむ?
 そうだな、まずは――……。

 ぱちんっ!
 エンジ・カラカ(六月・f06959)の目の前では、子どもたちが投げ合うちいさな水風船が弾けて中身をキラキラ散らした。じ……、と数分は熱心に見つめていた狼男はやがて伸びをすると、椅子代わりにしていたブランコから蹴って飛び降りる。
「賢い君、賢い君、お腹すいたなァ……」
 どーする? どーしよ。問いかけを向ける先、手の内からは垂れた赤い糸が風に靡いている。やはりずっと、なにより綺麗に。
 きっと春の風が気持ち良いのだ。わかるわかるとご機嫌に公園を後にしたエンジはとてもお昼寝したい心地でもあるのだけれど――お腹いっぱいの方がぐっすり出来るなんてのは、知っての通り。
「じゃあ、昼寝するために何か買おう。賢い君はナニがイイ? 甘いモノを食べると甘くなるなンて言うよなァ……」
 甘いは嫌いだけれど、君のためなら。
 暖簾をひょいっと持ち上げ覗いて。蕎麦屋。また覗いて。うどん屋。
 そのまま片っ端から"好物"を求め歩くエンジが辿り着いたのは、掃き掃除中の駄菓子屋だった。くんくん。狼の鼻はすごいんだ、ジャーキーのにおい。
「おやおや、お客さんかぁ。いいよ、ゆっくり見ていって。私も鍋の様子でも見てこようかね」
「アァ……ダイジョーブ、君とコレはお利口なンだ」
 イッテラッシャイ。盗んだりなんてしないヨ、とエンジたちはからころ笑って。
 箱で大人買いするジャーキーの会計を待つ間、移ろう興味のまま表を覗けば古めかしい機械が立っていた。これは自販機。この前教えてもらった……コインを入れて、光るボタンを押す。
 するとがしゃこん! 飲み物を次々吐かされるかわいそうな存在だ。
「沢山押すと自販機は怒るから、選ばないとダメ。賢い君はすーぐ理解できるよなァ……ドレがイイ?」
 癖みたいに問いを重ねるエンジへ、拷問具はしんと真っ赤っ赤。いいや? ふわ、と、枝分かれして広がり始める糸は何か言いたげな――まさか全ボタン同時プッシュ!?
 にぃんまり、
「うんうん。ぜーんぶ押そうそうしよう!」
 エンジも両手をパーにして。がっっと手伝うから、結果として――。
 ――古い自販機なのだ。ザル制御をすり抜けて吐き出された缶はスリムなものが計五つ。サイダー、ミックスフルーツ、ミルクティーにミルクセーキ、それとトマトジュース。
「わぁお」
「あっはっは! お兄さん、飲み物だけで腹が膨れちまうんじゃないの」
 よくあるんだよと気にした風もなくジャーキー入り紙袋を差し出す老婆へ追加のジュース代も渡して別れた"お利口"エンジの金は、次にひとりの娘の後ろ姿を映す。

「――ソレなァに?」
「ドーナツ、です」
 ぬう、と。
 現れた神出鬼没な声にも眉ひとつ動かさず。動いたとて顔に出ず、振り返るのがイディ・ナシュ(廻宵話・f00651)。手にした楊枝は一口ドーナツの試食用。
 イディにとってもこうした商店街はあまり馴染みなく、珍しい場所だった。
 誘い誘うおいしいたちの香り……微笑ましく手繋ぎ歩く親子連れの背を眺めては追い越さぬ程度の足取りで、あれはなに、これはなに、と忙しい興味の果てに辿り着いたのがこのパン屋だったのである。
 一番人気はツイストされた生地と塗された砂糖の甘味だけのシンプルなもの。けれどイディとしては、それだけで充分と思える魅力があった。
「さくさくで美味しいのですよ」
「ヘェー」
 答えれば特に前置きなくミルクティー缶を押し付けてくるエンジにぱち、と瞬きお辞儀をして受け取って。そんなイディたちの目的を同じものと捉えたらしい、今の今までおしゃべりしていた店主は「今日は本当に賑やかですね」と焼きたてをケースへ補充していた。
「それで、近頃鼠なんかに荒らされてないか……でしたっけ?」
「はい。何かお心当たりがあればと」
「春だし野良猫でも増えたんだろうと思ってましたが、たしかにここのところ多いかも。うちっていうよりは肉屋さんがぼやいてたかなぁ。あと共有のゴミ捨て場とか」
 肉屋。例の蟲が食べ比べるにしても違和感のないワードに心内で頷きを落としたイディの手に、注文の品が渡される。持ち帰り用に二袋、紙越しにもとてもほかほかなこれは揚げたてドーナツ! 
「小豆ボールはサービスです、ちいさいお子さんにも大人気なんですよ?」
「ぁ……、ありがとうございます」
 家族と、それから迷子のために。
 そんなイディの注文を何と受け取ったのか、下手なウインクをする店主へやんわり微笑み返して――熱を逃さぬよう抱きしめ外へ出る背へ、お仕事頑張ってくださーいと見送りの声が掛かった。
 ちゃっかりベーコンベーグルを齧る狼男がついてくる。
「ほふふる?」
「そうですね。既に調べられていそうですが念の為、肉屋の方も覗こうかと。……」
 ……のど、詰まってしまいますよ。

「やだぁ! 割る前から肉汁が溢れちゃってるわよ、それに見てこのお値段――!」
「すごいねえ、これもコロッケかい? 大人になった旧友を見かけたような心地だよ」
 その肉屋はいま、とても賑やかなことになっていた。
 美丈夫ながらきゃぴきゃぴ黄色い声は藤代・夏夜(Silver ray・f14088)。その隣はエドガー。天井を殴る顔面偏差値の暴力になんだか縮み上がってしまった店主は「これなにかのロケ……? カメラまわってる?」という顔をしていて。
 買いよ買い。ねぇ! と軽快に両手を打ち鳴らす夏夜にはっとして向き直った。
「コロッケ十個とメンチカツ十個ください」
「え……」
 夏夜満面の笑みである。
 指はたしかに十本立っている。そこにするする~っと人差し指を加えたエドガーが「コロッケをもうひとつ」と期待に瞳を一層輝かせたなら、はいただいまと威勢の良い掛け声も震えるというもの。
 どこに入るのだろうか……? いややはりスタッフが外で待って……?
「やあしかし、この町にも色んな誘惑があるなあ」
「本当よね。まだまだこうしちゃいられないわ。私見たもの、ちょっと歩いたところのお菓子屋さんのショーケース……お総菜屋さんのとろとろカルボナーラ!」
「ふふ、キミはおいしいにとっても詳しそうだ」
 この店で偶然鉢合わせたとはいえ、目の付け所が良い夏夜のチョイスはエドガーにとってもありがたいもの。おいしいものを探すなら、ひとりよりきっと都合が良い。
 夏夜も夏夜でなにもひとりで全て食べようなどという魂胆ではなく。……余裕で美味しく戴けるかもしれないが、それはそれとして。
(「大勢の中で自分だけ違うって、環境によってはなかなか怖いものよね」)
 半分はUDC-P――"腹喰蟲ちゃん"のため。
 見知らぬ相手のことを想像するならまず自分の立場に当て嵌めて、といえようか、道中味わった選りすぐりのオススメたちはもちろん一包みずつ確保してきたわけである。旬の野菜天丼でしょう? ケチャップが鮮やかポテト串、美容にも気遣って海藻サラダ、おやつにはぷるぷる杏仁豆腐まで。
 多い? いえいえ、腹が減っては戦は出来ぬっていうし♪
「ええ、完璧――完璧よ。このまま私が蟲でも小躍りして捕まっちゃう品揃えにするんだから」
「あのー、お待たせしましたお客さん」
 お店でも始めるのかな? な宣言をする夏夜の前にそろっと差し出された紙袋は二重三重に包まれている。これはあれだ、ヘビーな買い物をした客用の。同じく受け取ったエドガーはありがとうと早速一口!
 さくっ、ほろっ。
「おいしい!」
「でしょう! 私の眼に狂いはなし……!」
 店主より早く勝利を確信する夏夜がいたりして。
 みなさんにもよろしくお伝えください! と何故か深々頭を下げられつつ後ろ手ふりふり戸をくぐった二人は、今まさに入店しようとする別な二人組と見つめ合うかたちとなった。
「エドガー様」
「アァ……オスカーもいるいる」

「イディ君、エンジ君」
「あらお知り合い?」
 ばったり。
 挨拶ついでエンジからミルクセーキにミックスフルーツを押し付けられたエドガーと夏夜は顔を見合わせて、そうなんだ、と。
 その間もイディの視線はといえば夏夜が両手に下げた買い物袋に注がれていて。
「……これからお泊り会でしょうか?」
「それも楽しそうだけど違うの、これは腹喰蟲ちゃんへのお土産。ね、そっちは何か掴めた?」
「お肉屋様ではこのところ、ひとりでにお肉が無くなることがあると聞いてきたのですが」
 淡々返したイディがそろりと見渡してみても、見たところ目立つ異変はない。店内も変わった様子はなかったとコロッケ他を楽しんだ二人が語るならば、あとはゴミ捨て場……店の裏手へと続く細い道がそれだろうか?
 そんな中「わっ」と声を上げたのはエドガーだ。
 そしてぱたぱたと微かな羽音はオスカーのもの。
 オスカーはそのままヤドリガミの娘が見つめる先、褪せたタイル床へ舞い降りると、そこに落ちていた赤茶色の物体を趾でちょんっとして頭を傾ける。
 赤茶の……手足のない……かぴかぴに干乾びてしまった……虫!
「――し、しんでる!」
「この子はまさか」
 UDC-P!?
「ただのミミズよこれ」
 一瞬身構えたエドガーとイディであったが間髪入れぬ夏夜の一声で事なきを得る。夏場になるとよく行き倒れてるのよねぇ、などとしげしげ見下ろすUDCアース出身を真ん中に「えぇ……」「苛酷な土地なのですね……」といった異文化学習会が開かれる傍ら、「コレも知ってる土の下にいっぱいいる」と空き缶をゴミ箱シュートしていたエンジはひくりと鼻を動かした。
 間違えもしない。
 血の、臭い。
 賢い君はまだ何も食べていない。とすると――。
「そうね。でも、きな臭さは本物みたい」
「オスカー。戻っておいで、私のそばにいるんだ」
 夏夜とエドガーもお遊びは終わりとばかり暗がりへ踏み出す。乾いたボロボロの死骸はその程度の風の動きにも煽られ、イディの視界の外へ転がされていった。
 胸に抱いていた袋がくしゃりと音を立てる。
「……」
 見つけよう。そして――このぬくもりが冷めぬうちに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
昔ながらの街並みっていいわよね
桜舞う
鼻歌交じりで歩む
さぁ、今夜の晩御飯のおかずでも選ぼうかしら!
いつもは私が作っているけれど……たまにはね

この商店街の名物はなにかしら
揚げたてサクサクのコロッケに、唐揚げに
ポテトサラダもよいかしら?
おいしそうなお団子を買って、食べ歩きをしながら
平穏な商店街に笑む
さっきのご婦人も
お団子屋さんの主人も良い方で
あたたかな笑顔が
歓迎してくれる
その愛が


とても嬉しくて

おいしそう

うふふ、ひとはたべないわ
私は悪食ではないもの

うふふ
きっとふかふかのケーキのように甘い
コロッケのように香ばしい?

私は食べないわ?
晩御飯を買いに来たの

噫でも
それを食らったバケモノなら

たべてもいいかしら?


ロキ・バロックヒート
※連携可

俺様実はあんまり食事は必要ないんだよね
面倒くさかったらずっと食べなくても平気だし
食べなきゃ死んじゃうひとってなんとも不便だなぁって思ってる
でも美味しいものを食べるのは生の彩り
不味いのでもそれはそれで面白い
人の肉も食べたことはあるんだけど
味覚はひと寄りだからすごい不味くて笑っちゃった
どちらかというと血の方が好きだな
黒ずんだのじゃなくて真っ赤な方
件の虫の子も味覚がひと寄りなのかもね
だからとてもわかる

あれもこれもお味はどう?
ひとつとして同じものはないから
いつもつい買い込みすぎちゃうんだよね
商店街を巡ってたら増える袋
また食べ切れないや

聞いてた虫の子はどこかなぁ
今なら幾らでも食べさせてあげるのに




 桜の樹もないというのに淡紅が舞う。
 誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)の通る後、はなびらが地へ落ちる前に掴み取らんとす子どもの声がわいわいと続いている。願いが叶うのだとか何だとか、きっとこの世界の風習なのだろう。
「昔ながらの街並みっていいわよねぇ……」
 そんな賑わいもBGMにして歩む櫻宵は頬を緩めた。手にした三食団子は最後のみどり。
 鼻歌交じりからんころん、下駄と奏でる足音が軽やかな春の心模様。

「やあ宵ちゃん、また一段とご機嫌だね?」

「きゃっ……」
 調べに惹かれて姿を見せるは人間のみならず。にゅ、と突如脇道から現れみどりを奪ったロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は、団子を齧り取られぱちくりする櫻宵へ嬉々として手をひらり。
 ん、おいし。 なぁんて笑うのだ。
「っもう、ロキ! あなたも来るなら声くらいかけてくれたっていいじゃない?」
「ふふふ、ごめーん。でも美人さんなんだからぼーっとしてたら危ないよ。もっとも――」
「そうね。こんな平和な往来で、叩っ斬っちゃったら大変だもの」
 危ないのは"ダレ"だって? くすりとふたり、慣れた言葉遊びは傍から見たとき物騒なもの。
「悪戯なお口だこと。けど、おいしいならいいわ」
「うん、ごちそーさま」
 ――俺様、実はあんまり食事の必要ないんだけどね。とは口には出さないロキ。
 だってその方がたのしいから。
 美味しいものは生の彩りとの論調を否定するつもりもないが、食べなければ死んでしまうひとはなんとも不便だ。それに不味いものだってそれはそれで面白い。
(「人の肉なんてすごい不味くて笑っちゃったよなぁ。どちらかなら血の方が好き……真っ赤な、真っ赤な。ふふ、件の虫の子と意気投合できちゃうかも」)
 ひとならざる者がひと寄りの味覚をして。得をすることといえば、例えばこんな道中だ。
「ロキ?」
「んーん、 」
 ところで何買おうとしてたの。広げられたパンフレットを懐こく覗き込むロキは自然に櫻宵の隣へと収まり、当の櫻宵も晩御飯のおかずをって考えてたの、とおしゃべりを続けてゆく。
「いつもは私が作っているけれど……たまにはね」
「へえ、いいなぁ。絶対美味しいじゃない」
「もちろんよ。たくさん愛情を込めてるんだから」
 謙遜するでもなく胸を張る龍へ、ロキはさも愉快そうに双眸を細め。あれなんていいんじゃない、と適当な店を指した。
 この通りの名物は何だろうか、気になっていた櫻宵もいとおしき神の思し召しには首を横に振るはずもなく、むしろありがたいと連れ立って戸を引く。

「わぁ……」
「とってもいい香り!」
 出迎えは揚げたてさくさくコロッケ、塩麹の唐揚げに黄金色のポテトサラダ!
 視線がわくわく跳ねれば他にもいっぱい。夕陽色したデミグラスハンバーグ、奥へといざなうミートボールの甘酢あんには思わず喉も鳴るというもの。
「いらっしゃいー、お仕事帰りですかい?」
「こんばんは。これからお仕事……かしら、家に帰るのがもっと楽しみになったわ」
「歩きながら手軽に食べられるものってあるかなー?」
 気さくな主人とやり取りをする櫻宵とロキの人当たりの良さも光る。
 色んな味付けの唐揚げたちをふたり分、おまけ込みで串に刺してもらったロキがにっこりスマイルで礼を告げれば返るものも満開の笑みだ。
(「良い方たちね」)
 だからこそ、櫻宵は思う。
 先に挨拶した服屋の主人もその次の和菓子屋の主も同じ。人々の笑顔はあたたかく、心からの歓迎を伝えてくれる――その、愛が。噫、とても嬉しくて。
「おいしそう」
「? そりゃー美味いよ! 出来立てですからねっ」
 我知らず零れた櫻宵の呟きにも鼻頭を擦ってはにかむ店主は、店の表まで見送ってくれた。
 会話の微かな擦れ違いに気付くのは、本人と。傍らの神くらいのもの。 いま、総菜ではなく店主の顔をみていたじゃない。
「おなかへっちゃった?」
「……うふふ、ひとはたべないわ。私は悪食ではないもの」
 手にした袋たちを覗けばなんていい香り。
 あの女主人はきっとふかふかケーキのように甘い。
 その総菜屋ならコロッケのように芳ばしい―……。 そして隣の蜜めく男なんて、
「ほんとう。私は食べないわ? 晩御飯を買いに来たの」
「ふぅん?」
 ひとたび交錯した瞳の底に揺れる欲。
 敢えて追及せず、囲った池のうち泳がせて愉悦するかのロキはまさしく悪童なのだろう。或いは、神なぞ往々にしてそのような。
 ひとつとして同じものはないから、あれもこれもと気になって。そう必要としないくせ、歩くほどロキの両手を埋める紙袋たちががさがさ嗤う。
 また食べ切れないや。
「さって、聞いてた虫の子はどこかなぁ。今なら幾らでも食べさせてあげるのに」
 唐揚げぱくり。ひとふた、ロキが蹴り上げた小石がとんてん削れて路地の奥へ転がっていった。
 なんとなし――……その向かう先へつと顔を向けたから、櫻宵の表情は灰の庇の陰に消える。
「噫、でも」
 曲がり角の奥。 陽では誤魔化せぬほど赤黒く飛び散る見慣れたものを捉えて。世界はこんなにも都合良く出来ているのだから、ついでみたいに先の話の続きをしましょうよ。
 ねぇかみさま、そうでしょかみさま。
 "それ"を食らったバケモノなら、

 たべてもいいかしら?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
どこの世界にも変わり者と呼ばれるものが居る
そして、時に迫害される
…という事だろうか

ショウテン、ガイ
見慣れた市場に少し似ている、が異なる空気
重なり連なる看板に目移り
興味深く見渡して右へ左へ

かぷせる、とい…
隣にいた子供の見様見真似で
ひとつ回してみるなどして
出てきた小さな猫型のがま口を手に
…面妖な
透明なかぷせるも記念に持ち帰ろう
使い易そうながま口に小銭をいくつか移せば
程よく準備も整った気がする

急ぎ、良い匂いのする看板の方へと
まずは、あそこに見える「らーめん」の文字
それとも主の好きな「けーき」が良いだろうか
細い路地裏に消える野良猫を見送って
UDCの手掛かりも道筋も
あれに訪ねて解れば労はないのだが、さて


アルバ・アルフライラ
UDC-P…また面妖よな
オブリビオンは等しく屠った方が手取り早いだろうに…まあ良い
彼の特異点には興味を惹かれぬ訳ではない

UDC-Pの手掛かりとなり得る情報を
コミュ力で聞き込むは良いが…手土産は如何したものか
嗜好が全く分らぬ故、推測は困難を極める
幼い従者には何を買い与えると喜んだか
否、奴は何でも喜んで――む?
甘い香に誘われ、訪れた小さな洋菓子店
シュークリームにケーキ…視覚も嗅覚も楽しませる品々
ふむ、これならば持ち運びにも困らぬ
…弟子への土産にもなろう
此方と此方…後、この菓子も頂けますか?
勘定を済ませ、改めて歩を進めて

情報のもと、時には第六感を頼りに隈なく商店街を散策
…さて、迷子の虫は何処に居る?




 夕刻を告げるチャイムがどこからか響いている。
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)にはそのメロディーの示すところが分からない。
 見慣れた市場とすこし似ているが異なる空気をしたこの町にはそんな調子で、普段なら触れぬ、見知らぬものが多くあった。
 かの蟲に辿り着く前に、迷い込んで帰れなくなるのでは――不思議な、焦燥感いや好奇心、はたまた寂寥感が胸の端を掠めもする。
(「どこの世界にも変わり者と呼ばれるものが居る。そして、時に迫害される……という事だろうか」)
 数多くのオブリビオンを屠ってきて、今更どうというつもりもなく。
 けれど惑うなら、見つけ出してやりたい気持ちが仄かなれどあった。
「……そう広くはなさそうだが」
 並ぶ看板へ次々当たりそうになる身を縮こまらせるジャハル。自然に俯くかたちとなったとき、次にその心を捉えたのは腰ほどの高さに設置された色取り取りの"箱"だった。
 それの前でしゃがむ少年が一枚小銭を入れて?
 ハンドルを回して?
 箱の中身がかこんっと雪崩れて……、吐き出されるカプセルがひとつ。
「ああああーっまたモンシロ!」
 そして全身で項垂れる少年。地へついた手から放り出されたカプセルはころころ、転がってジャハルの靴にこつんとぶつかった。 
「落としたぞ」
「いらねーよ三匹目なんだぜ? この箱外れしか入ってないんだぜったい」
 肩を叩いてはみるが受け取る気のない少年を前に、手の中の蝶……簡易なつくりの虫フィギュアだろうか、を見て。徐に、ジャハルも彼を真似てその"かぷせるとい"とやらに勤しんでみることにした。
 かこんっ!
 吐き出されたカプセルをジャハルが手に取るより早く、ばっ! と飛びついてくるのは少年だ。
「うわーっヘラクレスじゃん! いいないいな!」
「これは。いいものなのか?」
「だって一番かっけーし! おれも毎日回してんのに中々出ねーし……」
「そうか。持っていくといい」
「いいの!?」
 ……等という同年代めいたやり取りの末何度かガチャリガチャリと興じることとなったジャハルの手には、最終的にちいさな猫型がま口が握られていた。
 女児向けだろうか――もふっとぷにっとしたデフォルメの強い品であるが、これが案外実用性がある。具体的には五百円玉くらいまでなら五枚は収まる。
「……面妖な」
 まじまじ見つめる竜人は恐る恐るそこに小銭を収めて頷く。こうすることで程よく準備が整った気が、したのだ。……傍から見ればはじめてのおつかいの絵面そのものながら。
 半分透明で半分青色をしたカプセルも記念として持ち帰ることに決め、ジャハルは身を起こす。さてでは、店仕舞い前に向かわねば。

「UDC-P……また面妖よな」
 時を同じくして似たような呟きを落としているのがアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)。
 オブリビオンは等しく屠った方が手取り早いだろうに。
(「まあ良い」)
 彼の特異点には興味を惹かれぬ訳ではない――、しかし腹喰蟲の好物など人肉以外に予想がつく筈もなく。だからと己が従者へ幼き頃、買い与えては喜んだものについて思いを巡らせていたのだが。
(「奴は何でも喜んでいたし……」)
 とても参考にならぬ、と。
 仰いだ直進方向から甘く香る風。時にジュエル好きのご婦人たちの熱視線を集めながら、さらさら長く宝石の輝きを遊ばせるアルバは颯爽と歩みを速める。
 そうして辿り着いた場所こそが、此処。
 薄ピンクの壁が小洒落た洋菓子店。ガラスの戸を押せば、ふわんと増す匂いがアルバの眦を緩めさせる。
「いらっしゃいませー」
「ああ、こんばんは。ふむ……シュークリーム、ショートケーキ。どれも美麗な出来栄えですね」
「ま! べっぴんさんにそう言われちゃたまらないね」
 ショーケースの向こうのものたちもまた磨き上げられた装飾品のよう。女主人はにっこにこと満面の笑みで、此方と此方、あと此方をいただけますかと辿るアルバの指に応じる。
 迷子の蟲の餌としてはもちろん、ひとりで食べるにも聊か多い量は弟子への土産であり。いくら時が流れようと変わらず喜色に煌くあの瞳が脳裏に過ると、俄かに笑みが深まって……その微かな表情の変化はサプライズを企画するひとのもの、察した店主も嬉しそうだ。
「ありがとうございます。今日中に食べちゃってくださいな」
 取っ手のついた白い四角の箱にはみつばマークがワンポイント。保冷剤でひんやりしたそれを受け取って勘定を進めながら「ところで」さりげなくアルバは切り出した。
 近頃変わったことがないか。例えば、暫く見ていない常連客がいるだとか。野良猫が減っただとか。
 女主人はすこしぽかんとしたあと、指折り何かを数えて――そうしてゆるく首を振った。いやぁ毎日平和なもんだよ、そう。
「看板猫ってわけじゃないけど、よく来るノラならさっきも元気に外歩いてたよ。一番変わってるといえば今日はなんだかとっても繁盛しちゃってねぇ、ありがたいったら」
「そうでしたか……此方こそありがとうございます、大切に味わわせていただきますね」
 目的を同じにした猟兵が多く訪れているのだろう。
 アルバが内心納得して店の戸をくぐったときだ。道の真ん中をいくらか外れた脇に、濃い影を見つけたのは。

 なんてことはない。或いは、なんてことしかない。……ジャハルだ。
 動物を寄せ付ける持ち前の性質でも発揮したのであろうか、足元には三毛の地域猫をころころへそ天させている。それを撫でもせず、中腰真顔で無言で見下ろしている。なんとも言えぬ光景にんんっと噴き出してしまえば、当然目も合うわけで。
「……」
「…………」
 びたむっと跳ねた竜の尾にか、猫が不思議そうに顔を上げた。
「おいジ」
「……うなぁお」
「おい」
 人違いを演ずるにも無理があるぞとデカい図体をした黒猫もとい黒竜に歩み寄るアルバ。そのかつんと硬質な足音に野良はたたっと去ってゆく。猫と主、交互に見遣ってすこし肩を落としてみせたジャハルはやおら立ち上がり「調査の一環だ」、そしてアルバの腕に抱えられた紙箱へ視線を注いだ。
 自分の右手にあるものと同じ。
「奇遇が重なるな。一時らーめんと迷ったが……師父もけーきとやらを選んだか」
「む? ……ああ。そうだな。これなら持ち運びに適しているし、視覚も嗅覚も楽しめよう」
 もちろんお前への土産としても、な、とはこうして出逢った手前なんとなく言えないアルバの前にずずいっ。
 二回りは大きい紙箱を差し出したジャハルが詰める。
「そう言うと思い、いちおしを数種ずつ買っておいた。蟲の余りは後で共に戴こう」
「ほ――ほほーぅ? 殊勝な心掛けよな、ジジ!」
 結局考えることは同じであると知れば浮かぶ笑みこそは誤魔化せず。
 ところで首から下げたそれは猫からの求愛の貢物か? いいや、これはかくかくしかじか……。戦利品を確認しあう二者のすこし先、逃げたかと思いきや振り返り、ゆらり尾を揺らして鳴く三毛はまるで誘う風。
 顔を上げたなら路地裏へ抜ける陽の影に、まだ湿った。てんてんと続く赤黒いシミが見えたろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
…ふむ、こんなにたくさんお店があると逆に迷ってしまいますね。
せっかくの見知らぬ土地、色々試したくはありますが。
味わえない刀が多くを食べるのも逆に失礼というもの。
食べ歩けるたい焼きでも片手に調査と洒落込みましょうか。

おいで、【赤鉄蛺蝶】。
とくに手掛かりの無い広域調査ならこの子向きです。
手当たり次第に飛ばして、それらしい蟲の影か。
…あるいはそれに喰われたと思しき被害者が見つかれば。
他の猟兵様に接触できたなら情報交換もいいかもしれません。

食べたいものがある、でしたか。
それなら好きなものを食べさせてあげたいですね。
食の喜びは生きる喜び。
満たされるべき欲です。
……わたくしには、もうあまりないものですし。


矢来・夕立
第三者が調理したものには毒物混入の危険性が非常に高く危険です。
万一を予期してそちらの警戒に当た…、らなくていいんですね。

…。
……。
コロッケは好きな部類というか…自分で作るのは面倒ですから、やぶさかでないというか…
お肉屋さんのコロッケなら食べてもいいのではと思います。
そう決めました。

あと持ち帰りのできる喫茶店があれば、アイスコーヒーをサーモボトルに入れてもらいます。
ケーキ……よりはシュークリームとかエクレアかな。
デザート類の持ち帰りもしときましょうか。

今回は相手が特殊でしょう。あとで使うかもしれません。
食べるわけではありません。
この二人分のひとつを食べるわけではありません。


狭筵・桜人
UDC組織も物好きですねえ。
いつから化け物の保護団体になったのでしょう。
自我なんか持つ前に殺しておけばいいのに。
……ま、お仕事なので言われたとおりにしますけど。

探し物は小さな姿をしていると聞きました。
とすれば聞き込み相手は視線の低い子供が良いでしょう。
虫とか好きですしね。私はキライです。
駄菓子やおもちゃなんかありそうな店で子供を探して聞き込みをします。

お兄さん虫捕りに来たんですよ。
それも誰も見たこともない変な虫です。
情報をくれた子供にはお菓子を買ってやりますよ。
知らない人に物をもらってはいけませんが
人の好意を無下にするのもいけません。
これを矛盾といいます。ひとつ賢くなりましたね。




「あ、どーも」
「どうも」
「ちょっとちょっと、なんで当たり前のように会釈だけですれ違おうとするんですか」
 狭筵・桜人(不実の標・f15055)、矢来・夕立(影・f14904)。そして穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)。
 時をすこしだけ遡るなら、知己の彼らもまた個別でこの案件を受けたはずだった。

 桜人はぶらりぶらりと、人とぶつかって面倒が起きない程度に最低限の労力を払い歩んでいた。
 UDC組織も物好きだ。いつから化け物の保護団体になったのか――自我なんか持つ前に殺しておけばいいのに。夜が近いくせ間抜けに浮かれた春の陽気に思う。
(「……ま、お仕事なので言われたとおりにしますけど」)
 仕事道具のスマホをポケットへ突っ込めば、ちゃり、と耳障りな音を最後にひとりになれる。探し物は腹喰蟲。ちいさいものを見つけるならば、ちいさいものを利用することが手っ取り早いと算段を立て。
「こんばんは。いえ、まだこんにちはってとこでしょうか」
 どう習ってます?
 赴いた先、駄菓子屋。
 いつもの笑顔で腰を屈め、ランドセルを背負った少年二人組の前に立つのだ。
 え……あ……とたじっとする彼らを順に覗き込むと桜人は「よかった」手を合わせ。
「その顔、虫好きでしょう。お兄さんも虫捕りに来たんですよ。それも誰も見たこともない変な虫です」
「む、むし? きらいじゃないけど……」
「ばかっ! 最近ふしんしゃっていうのが多いって先生言ってたろ!」
 ひそひそ耳打ちのつもりなのだろうが駄々洩れだ。 桜人が眉をぴくりと動かしたのは決して不審者扱いに憤慨したからではなく――おとなはスマートに札束で殴るもの。
「へえ、この辺りに不審者が。"むし"って名前かもしれない。情報をくれるならお菓子を買ってやりますよ、お好きなものをお好きなだけ」
 す、と懐から取り出した紙切れ数枚に子どもたちの目の色が変わる。
 桜人の背には欲望渦巻く駄菓子屋。夜ごはんまでまだ時間があるからお菓子でも……、ああ、あのフィギュア入りチョコ新シリーズ始まったんだったな……対戦カードもクラスの流行りに取り残されたくないし……。
「「…………ちょっとだけなら話しても、いいよ」」
 おずおずとした堕ちた子どもらの返しに、よくできましたなんて肩を竦めてみせる桜人だった。
 知らない人に物を貰ってはいけません。人の好意を無下にするのもいけません。
「これを矛盾といいます。ひとつ賢くなりましたね」
「――とんでもない"先生"もいたものですよ」
 その犯行現場に出くわす形となったのが、神楽耶そのひと。

(「……ふむ、こんなにたくさんお店があるとは」)
 桜人がスマホをいじっていた頃、神楽耶はといえば通りの両脇から繰り出される売り込みコールに申し訳なさげに頭を下げていた。もちろん、中でも立ち寄らせてもらった店もある。
 手にしている尻尾まで餡たっぷりのたいやきなんかがそれだ。
「あ、 」
 むぎゅ。
 力加減を誤って、開かれた魚のたらこ唇からはみ出す餡。間抜け面にちょっぴり笑える。
 せっかくの見知らぬ土地。色々と試したいこともあったのだが――"味わえない"刀が多くを食べるのも、逆に失礼と判断して。最後のひとくちをありがたく戴き神楽耶はそっと手を合わせた。
「おいで」
 やがてひらり、その指を解いて宙へ。
 沈む夕陽に触れるに似て翳された手のうちへ、じじ、じ、と炎の蝶が。赤鉄蛺蝶の群れが現れ出る。
「探してきてくれますね」
 翅持つ彼らは広域調査にうってつけの助っ人といえよう。
 ターゲットの姿は神楽耶を通して見ている。高く飛び立ち消える赤をただ見送る――すこし、火照る風を頬に感じていたら、桜人だ。
「子どもに手を出すなんて……」
「誤解ですって。私たちウィンウィンの関係ですから」
 ね、って具合で目くばせした少年らは菓子選びに夢中で桜人どころではない。薄情なものである。代わって表へ出てきた腰の曲がった店主が、その話だけどね、と左右を見たあと手招きをする。
「子どもたちには不審者だから真っ直ぐ帰れなんて言ってるけど、本当のところは分からないんだよ。野良犬じゃないかって話もあるけどね……ほら、今朝もゴミ捨て場が荒らされてたろう?」
「あぁ、そういえば」
 狭筵様知ってるんです? いえ? の目配せ一度。
 それで、そのゴミ捨て場とやらは何処に――話が進もうとしたとき、おーいばあちゃん! 駄菓子屋の中から届く会計を求める呼び声に、店主は頭を下げ引っ込んでいった。

 そんなやり取りを遠巻きに眺めていた赤が双つ。
 彼こそがお集まりの三人目、夕立。それにしてはシルエットが矢鱈と膨れている? 当然だ、両手はもちろん腕にまで下げられた戦利品たちの賑やかしさたるや。
 右手にまだぬくいコロッケ。左手にはこじんまりとした喫茶でテイクアウトしたシンプルなアイスコーヒー、入り持参サーモボトル。
 下げた紙袋には、ついでに売られていたエクレアもチョコとキャラメルダブルでゲット。
 ――第三者が調理したものには毒物混入の危険性が非常に高く危険です。
 万一を予期してそちらの警戒に当たります――と、念入りに使い捨ての式を補充していた男と同一人物にはとても見えない。まあそのあたりの誤解は"活用"される前に、他の猟兵の「待った」や平和が過ぎる往来の様にひとまず鳴りを潜めたわけではあるが。
(「やはり町民の混乱が少ない……目立った人的被害はまだ出ていない、か」)
 刀はいつでも抜ける傍らに。
 ……冷めた真顔でコーヒーを啜るのだって、いざというときに零れる中身を減らすためという合理性に基づいた行動である。頭も冴えてなんか良い。きっと良い。
 コロッケ? コロッケは――……、好きな部類というか。自分で作るのも面倒だし。やぶさかではないというか。"お肉屋さんのコロッケ"なのだ、本来人肉を好む蟲だって食べたがる可能性が高い。あんしんでおいしい。
 すべては計算のうち。
 だからかさっがさりと音を立てるのは、気配を殺す程度容易な夕立本人ではなく嵩張る紙袋たち。
「おや」
「あら」
 三者、目が合う猟兵同士。
 どーも、どうもと申し訳程度の会釈が続いて。

 そして、今。
「なんでも何も。散開して当たった方が効率的でしょう」
「言えてますよ。おともだち付き合いは仕事内容に入ってないですしね」
「……喧嘩でもしました?」
 とくには?
 夕立と桜人ふたり同時に首を傾けるから、神楽耶はむいーっと眉間の皺をいじるばかり。なんて、作ってみせる表情ほど気にしてもいなかった。いつかの案件と同じだ。共通の敵を前にしたとき、彼らが"目的"を違えたことはなく。
「散開。実際、それも有効ですが」
 ぴん、と。
 糸の張ったような感覚が神楽耶の指先に伝わる。次いで耳元に羽音ほど微か声がする。念話機能を備えた炎蝶からの報告――ミツケタ、ミツケタ。コッチ、コッチ。 ぶわり、大気を燃やして舞い降りる蝶を薬指にとまらせて浮かべる微笑み。
「その必要はもう無いと言ったら、如何でしょうか?」
 アタリです、狭筵様。 夕焼けが女の輪郭を溶かすから。炎みたいだ。
 見据えて。ふっと息を吐いてさっさと歩み始めた夕立の行先は何故だか"合っている"。
「話が早くて結構。はやくこの大荷物を下ろしたい」
「へぇぇ、そんなに食べる気だったんですか? ひとりで?」
「これは蟲の分ですが。何に役立つか分かりませんからね、備えは多い方が良い」
 半分ウソですけど――は夕立の喉奥に呑み込まれ。視線のひとつ絡みもしない。ちょっかいをかける桜人はしたり顔をしつつ、先を飛んでゆく燃え立つ蝶が導としては余りに朧気で瞳を細めたとき。しゃんと歩みながらも俯きがちな神楽耶の横顔を見る。
「そっちはそっちで食べ損ないでもしました? 丁度いいじゃないですか、ちょっと分けて貰っちゃえば」
「――、いえ? 食べ過ぎたくらいです」
 笑むなら翳りなく。
 食べたいものがあるらしきUDC-Pのことを考えていた。夕立の万全たる装備ではないが、それなら好きなものを食べさせてあげたい、と神楽耶は。
 食の喜びは生きる喜び。
 満たされるべき、欲。 蝶の声が、火の勢いがさあさあじりじり身を焦がす。胃酸がやわい壁を舐める感覚に、もしかするとよく似ていても。
(「……わたくしには、もうあまりないものですし」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蜂月・玻璃也
部下の耀子(f12822)と
仕事だ。

まだ何も言ってないだろ。
仕事のためのリサーチだってのはわかってるよ。

昔だったらこういうとき、
気の締まらない部下を注意したりもしたけど…
こう見えて、やるときはやる奴だとわかっているのだ。
と、内心だけで思っておく。

俺だって商店街の惣菜は嫌いじゃないぞ。
美味いし、手頃だし。
それに「手作り」って感じがして、
ひとりで飯食うときもちょっと心があったまるんだよな…
まあ、問題は平日だと店が開いてる時間に帰れないってことなんだが…
最近は休日にさえ…ウッ…

わかった、耀子がお腹すいてるのはわかったよ。
俺も匂いに誘われて腹減ってきた。
そこのパン屋寄ってくか。


花剣・耀子
室長(f14366)と
お仕事よ。

無意味に買い食いをしているわけではないの。
UDC-Pの性質について案内を受けたでしょう。
おいしいって思ったものを食べて貰いたいじゃない。リサーチなのよ。

夕方の商店街って、どうして美味しそうなものが多いのかしら。
荒く潰されたじゃがいもと挽肉のコロッケの魅力がすごい。
もっと肉々しくメンチカツだってすてきなのよ。
焼きたてのパンの方がいいかしら。
チーズがごろっと入ったフランスパン、美味しそうだと思わない?
……室長、あんまり根を詰めすぎると体を壊すわよ。
ごはんを食べる時間くらいはちゃんと取りなさいな。

そう? それじゃあ、あたしはコロッケを買ってくるわ。
あとではんぶんこね。




 ざっ、と。
 微妙な距離感を保ったまま並び歩く蜂月・玻璃也(Bubblegum・f14366)と花剣・耀子(Tempest・f12822)は片や仕事着、片やセーラー。
 髪と瞳、そう遠くない色彩も相まって兄の仕事帰りに回収された妹にも見えなくはないが、その実、土蜘蛛――とある対UDC組織に属する同僚であった。
「仕事だ」
「そう。お仕事よ」
 とは、先に服屋の主人へ声を揃えて告げた来訪の目的。
 だから耀子の手に握られた飴色大学芋の小袋なんていうのも、勿論仕事の――隣からちらと視線が注がれたのを感じたか、眼差しは前を向きながら耀子は口を開いた。もぐもぐ、ちゃんと味わって呑み込んでから。
「無意味に買い食いをしているわけではないの。UDC-Pの性質について案内を受けたでしょう」
「……まだ何も言ってないだろ。わかってるよ、仕事のためのリサーチだってのは」
 おいしいって思ったものを食べて貰いたいじゃない、と結ばれる答えに玻璃也は浅く溜め息をついて正面へ視線を戻した。疲れの滲むそれは半分以上癖みたいなもので、別に本当に呆れているわけではなく。
 仕事なのだ。昔だったらこんなとき、気の締まらない部下だと注意したりもしたものだが――この女学生がこう見えて、やるときはやる奴だと分かってしまっている。
(「あとまあ、これから前に出て働いてもらうわけだし」)
 美味いものでも見つけて食って英気を養ってくれるなら、それはそれで。
 心の中だけで結論を出して顎を撫でる玻璃也を思案気に見遣っている、かと思いきや、耀子が見ているのはその奥。雄々しく掲げられた肉屋の看板。ガラスケース。そして――鼻腔をくすぐるこの香り!
 ねぇ、室長。不思議よね。
「夕方の商店街って、どうして美味しそうなものが多いのかしら」
 耀子の唇からもほう、と微かな息が落ちた。学校のテスト中でも中々出したことのない重たさで。
 ご丁寧に半分に割られた試食用のブツを見てほしい。あのごろっと形も残りがちなほど荒く潰されたじゃがいもと挽肉! 具が零れ落ちてしまいそう。ならばこの存外甘い香りはソース? その隣のメンチカツもまた大変肉々しく、上品よりもワイルドという誉め言葉が相応しく――、
「焼きたてのパンの方がいいかしら。チーズがごろっと入ったフランスパン、美味しそうだと思わない?」
 青の瞳は暗闇に奔る閃光の如く、ぐりんと別方向へ向く。 成程あちらはパン屋。いつの間に蛍光丸印をつけていたのか、耀子の手の中のパンフレットが風にはためいた。

(「本気だ」)
 過程で射すくめられひっと声を漏らしかけたが寸でで堪える玻璃也。室長としてのなけなしの矜持である。それにしてもなんでそんな、その、戦場みたいな。もしかしてもうUDC現れた? いや居ない。
「わかった、耀子がお腹すいてるのはわかったよ……、ああ。俺だって商店街の惣菜は嫌いじゃないぞ。美味いし、手頃だし」
 お手上げとばかり首の後ろを掻くと。それに"手作り"って感じがして、そう、耀子の視線の流れを追うみたいにゆるり見渡す茜の景色。
 手作り――さみしいひとり飯のくせ、ちょっと心があたたまる気がする魔法みたいな。
「まあ、問題は平日だと店が開いてる時間に帰れないってことなんだが……最近は休日にさえ……」
「……室長、あんまり根を詰めすぎると体を壊すわよ。ごはんを食べる時間くらいはちゃんと取りなさいな」
 ヴッと声を詰まらせる玻璃也へ耀子がぴしゃりと言ってのける。
 ぐうの音も出ない男の口へ大学芋(おいしかった)を捻じ込むでもなく、というよりとっくの昔に完食しきっていた耀子は眼鏡の位置をちゃっと調整して。
「行くわ。あとではんぶんこね」
「うん……そう、気を付けてな」
 肉屋へ――いざやオブリビオンの前へ歩み出んといった凛とした足取りで玻璃也の横を通り抜けてゆくのだ。
 そんな少女を後目に「おい例のヤツの分もな!」と慌てて付け足し、そっとポケットを叩いてみる玻璃也であった。もしかしてこれ、今回も経費で落ちないやつ?
 しかし彼女の言う通り。
 仕事、仕事の仕事人間ではあるがこうも漂う匂いの手前、ただ紙だ端末だと向き合うばかりではどうにも誤りな気もして。
 染み付いた"己"を崩すことは未だ難しくも。意を決し。手を引っ張り出し。そこのパン屋寄っとくぞ、とゆらり振ってみると、口パクで「フ・ラ・ン・ス・パ・ン」が返ってきてつい笑ってしまった。
「あれで育ち盛りってやつかね……なぁんか何もかもすごい昔のことみたいだ」
 そこまで歳を取ったつもりもないんだが。ガラス戸に映る自らの眼の下のクマをなぞる玻璃也。と、背後に大きな影が過るのが見えた。
「――ん?」
 振り返ったなら。

 がらがらがら!

 テレビに出てくる怪物が力いっぱい放り捨てていったみたいに。
 宙を舞っては転がるゴミ箱。足元で跳ねてひしゃげる蓋。声もなく順に視線を移す玻璃也の前、零れだす中身は――赤。新鮮なほどの赤一色。 が、解けて思い思いに散らばる。
 蟲。 夥しくびたびた蠢く様は、蟲だ、その蟲がマンホールから溢れかえる下水じみて。玻璃也の靴先までを影のように濡らしている。
「あ」
 剥かれる牙だけ白い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『腹喰蟲』

POW   :    腹喰
戦闘中に食べた【生命体の肉体 】の量と質に応じて【身体が成長し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    腹繰
【体内侵入 】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
WIZ   :    腹借
【産卵管 】から【すぐ孵化する卵の弾丸】を放ち、【体内で孵化した腹喰蟲に喰われる激痛】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:イガラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 人間はひとりずつ食べた方がばれにくいよ。
 ひとりぼっちのやつをだれも気にしないよ。
 群れを外れたやつは死んでもしかたないよ。
 おいしいおいしいごちそう皆で食べようね。おいしいおいしいおいし……、

 ……本当に、そう?
 それでいいの? おいしいは――おいしいは、もっと。


 通りから脇へ逸れた先。
 調査を進めていた面々が辿り着いた共用のゴミ捨て場に残っていたものは、猟兵ならば解る。犬猫の食べ荒らしではない、どちらかといえば食事の跡ですらない――UDC。"穢れた生物が好き勝手這いまわった跡"だった。
 濡れた赤茶の線は陽が入らずともてらてらと眩しい。
 豚、だろうか。穴だらけの生肉からくり貫かれた丸はあちこちへ飛び散り、喰われたよりも遊ばれた、そんな様相をしている。
 町内の様子を振り返ってみても、幸いにして人間のパーツが混ざっている模様ではない。別の"餌場"から移動してきたところか、生まれたて――宿主を食い破って、出てきたばかりの連中なのやもしれない。
 端に落ちているオレンジのチョコレートの包みが、やけに目を引いた。

 途端、  がらがらと響いた音はずっと表通りへ近い。
 ――それだけではない。目の前でゴミ山が、不自然に崩れた。
 一匹の蟲がぴょっと飛び出したのだ。その蟲はてのひらから少しはみ出るくらいの大きさをして、構える猟兵には見向きもせず音の方へなにやら必死に這い進んでゆく。
 敵意がない。間違いない、UDC-P。
 更には彼或いは彼女に付き合っていられないと齧られでもしたのだろうか、半端に欠けた同種の蟲たちがあちこちから湧き出してUDC-Pの後を追おうとする。猟兵へも威嚇のつもりだろう、頭をもたげて。

 一方ではゴミ箱いっぱいの蟲の群れ。
 もう一方では蟲と蟲の追いかけっこ。
 地獄と呼んでも差し支えない絵面であるが――何をすべきかは、よく知っての通り。
エドガー・ブライトマン
ウーン、なるほどね
確かにミミズとやらよりも大きいし、牙なんてもっているし
アレはひとに向けられてはいけないものだ

私は群れの方を相手しよう
P君の方も気にならなくはないけれど――
この群れがさっきのひとびとのもとへ向かってしまうことの方がマズい
私はひとを守る王子様であるからさ

“Hの叡智” 攻撃力を重視
溢れかえるほどにたくさん…敵がいようと……
ひとつずつ確実に片づけていけば……

ま、まあ猟兵諸君揃ってるワケだし終わりのない戦いではないよ
地道に潰してゆこう

肉を食べようとした蟲から順に攻撃
ゴミ箱から蟲が出ていかないよう、位置にも気を付けるよ

ところでレディは虫がキライなんだよね
左腕から不機嫌が伝わってくるよ……


隠・イド
【土蜘蛛】

両手いっぱいに食べ物を抱えて二人に合流
顔色を悪くした室長には食べ過ぎですか?と気遣い

UDCの事など目にも入らぬように
耀子様には買ってきた食べ物を如何ですか?と勧めていく
主人に拾ってきた骨を見せ、褒めてとせがむ犬のよう

UDCが視界に入れば、蜜月を邪魔されたと不快そうに

襲い来る一匹を掴み取れば、興味なさげに軽く観察
そのまま丸呑み
腹で蠢く虫を消化し味わってみるものの、出てくる感想は今ひとつ
商店街の方が努力を感じられるとの評

でしたら手早く片付けてしまいましょう、と片腕が異形化
敵が生きてようが死骸だろうがお構いなしに、後処理も兼ねて痕跡ごと全て喰らう

…UDC-P?
はて、何の話でしたでしょうか


蜂月・玻璃也
【土蜘蛛】

ゴミ箱から溢れる蟲に、広範囲散布用ハンドガジェットから
毒液を浴びせながら必死に応戦!
駆けつけてくれた部下たちにぱっと顔を明るくする

イド!耀子!ナイスタイミングだ!
残念ながら食べる暇なんてなかったよ
吐くものがなくて幸いだけどな!

最近この種の気持ち悪い系が少なかったので、
やっとついてきたと思っていたグロ耐性が低下してしまった気がする
前線から後退して、援護のためにガジェットを単発式に換装

UDC-Pは……?あそこだ!
ふたりとも、頼む!

保護対象に向かっていく蟲どもを撃ち抜き牽制しながら、
UDC-Pの確保に動く


花剣・耀子
【土蜘蛛】

遅かったわね、イドくん。お疲れ様。
……ああ、うん。美味しそう。
美味しそうだけれど、後でね。後で。後でって言っているでしょう。
ほら、あっち。アレらを片付けるのが先よ。
こんなにヒトが近い所に出られたんじゃ、逃がす訳にはいかないわ。
室長、さっさと下がって頂戴。
此方にUDC-Pが来るなら保護は任せたわ。

最優先は敵勢の蟲たちを通りの表に出さない事。
他に気にするのは室長の命くらい。
喰われたならその分を斬り返せば良いのでしょう。
時間を掛けるのも避けたいのよ。
肉くらい喰わせてやるから、おまえたちの骨も命も断たせなさい。

イドくんがUDC-Pを巻き込みそうになったら、それは止めるわね。
今日のお仕事よ。




 ゴミ箱から溢れ出す肉の海?

「っ――――っっっ!!」

 人間、本当にびっくりしたときは声も出ないものだ。
 それでも棒立ちで硬直して"終わり"とならなかったのは、玻璃也の身にも染み付いたものがあったのだろう。或いはまだ死ねない使命、とか。
 うぞりと高波を形成する第一波を遮るみたいに突っ張る手には確りとひとつの銃が握られていた。此度吐き出すものは胃の内容物ではない、そこから放つ出迎えの劇毒。
「こんっ、の……!」
 お誂え向き広範囲散布用のガジェットだ。ぶちまけられる蛍光カラーの毒液は着弾の瞬間にぷくぷくっと細かな気泡を弾けさせ、蟲たちをジュワリと溶かして分厚い肉壁に穴を開ける。
 一方、玻璃也も無理な体勢からの至近への射出の弾みで後方へ軽く吹き飛ばされるかたちになっている。背後の壁にへばりついて背を強打する様は無様であったかもしれないが、だが逆に良かった。 ぜえ、と息を継いで身体を折った頭上スレスレを、腹喰蟲プレゼンツ数多の卵弾丸が撃ち抜いてゆくのだ。
「はっ、 」
 休む間もないとはこのこと!
 拳をつくる片手で壁を殴りつけて己の身を駆け出すための前傾姿勢へ押し戻せば、飛び出すと同時逆の手でKiller-βの引き金を引き続ける。照準なんて大体でよかった、もはやどこを撃っても当たりな状態だから――……。
(「早く!! 来てくれ……いや、俺だけでもなんとか……しないとか?」)
 手汗で滑りかける得物を両手に握り直す玻璃也。
 ちら、と視線を巡らせた肉屋の方角では。 こんな街並みに目立ちすぎるほど目立つ長躯の男が、見覚えのある部下が、平和~な感じで両手いっぱい食べ物を抱えて立っていた。
「イド!?」
「食べ過ぎですか?」
「っ残念ながら食べる暇なんてなかったよ、吐くものがなくて幸いだけどな!」
 名を呼ばれた隠・イド(Hermit・f14583)には上司の焦りが微塵も伝わっていない。その後方から駆けつけてくる耀子はどうだろうか、手にした買い物袋をまずイドこと荷物持ちへ渡すあたりとても日常の絵面であるが。
「遅かったわね、イドくん。お疲れ様」
「耀子様。如何ですか? 気に入っていただけそうな物をくまなく探って参りました」
「……ああ、うん。美味しそう」
 顔を寄せての笑みは拾ってきた骨を主に見せ、褒めてとせがむ犬のよう! ぐいぐい来るイドの背後では引き続き食った食われたの戦いが続けられているわけで。あっ、白上着の端が喰い千切られた。角度的に両方を視界に収めることとなる耀子は「美味しそう、だけれど後でね、後で」と忠犬の鼻先に指を立てて待てを命じ。
「ほら、あっち。アレらを片付けるのが先よ。――室長、さっさと下がって頂戴」
 自由の利く両手、構え、途端にして布を波立たせる残骸剣の声無き咆哮をぶつける風に白刃を放った。

 それは日に焼けたタイルを僅かに削り取り。
 蟲が広げた血の海を押し返しながら、玻璃也と腹喰蟲とを分断した。 巻き込まれた数匹がぷつぷつと千切れて飛び散る。様を、しげしげと眺めてイドは息を吐いた。
「塵が」
 蜜月を邪魔された、と。実に不快そうに。
 加勢に気付き、敵意と牙を剥き出しにする個体がふたりのもとへも飛びついてくる。だが届かない。その不格好なジャンプは剣めいて突き出された長い腕に鷲掴みのかたちで捉えられ、二度と足場を得ることはないのだ。
「成程。自ずから皿の上に並ぶ姿勢だけは評価しても良いですが」
 赤く赤い双つの眸が、必死にバタつく虫けらを間近に見ている。
 イドの手は平坦な力加減で肉を万力のように絞める。裏返りそうに剥かれてゆく牙の数々に怯むどころか、そのまま。口元へ運んで丸呑みにした。
「如何せん拙いですね。買ってきた品々――商店街の方が努力を感じられる味をしていましたよ、耀子様」
「ちょっと参考にはならないけれど。そう。楽しみが増えたわ」
 今見えている分は全部食べていい。
 主の命であればヘドロとて平らげるのであろう、この道具は。「それでは」応じて黒くとろけ、しなり、異形化した片腕が宙を裂いた。
 ぐしゃりと叩き潰される蟲の群れ。先ほどの前置きなき部下の白刃はなんとか飛び退くことに成功していた玻璃也であったが、こちらの部下に至ってはまず手心がない。肝を冷やした卵弾以上のスレスレを過ってゆくので、白く褪せた髪の何本か犠牲に駆け出すのだ。
「おおおお前ら殺す気かっ!」
 だが――イド! 耀子! ナイスタイミングだ!
 置き土産で撃ち込んだ毒が背後で弾け、二者により半殺しにされた個体をも溶かして殺す。 浮かぶものは笑み。引き攣り歪んでいても、それは確かに頼もしき部下たちへ対する信頼の笑みであった。


 時を同じくして、沈みゆく太陽を別ちながら剣閃が煌めく。
 半分に切られたオレンジみたいに、とろりと。代わって液体を零すものは、いくらも歪な蟲なれど。
「ウーン、なるほどね」
 確かにミミズとやらよりも大きいし、牙なんてもっているし。コレはひとに向けられてはいけないものだ。
 炸裂音を聞きつけ直ぐに踵を返したエドガーは、いま、ちょうど表通りに辿り着いたところ。UDC-Pの姿を垣間見もしたが、自分にとって優先すべきは何より人命。
(「この群れがさっきのひとびとのもとへ向かってしまうのはマズい。私は――」)
 そう、ひとを守る王子様であるから!

 深呼吸ひとつ、瞬きをひとつ。

 祖国の名を胸裡に唱えるHの叡智。 重んじるべきは義であると、一層鋭さを増したレイピアの切っ先が蟲の数匹を通して串刺しにした。がつ、がつ。自らが死に絶える前にと仲間を齧り肥大化を図る様は醜悪の限りで。
「やめておきな。死に際を汚すことはない」
 すぱんっ。横へ引き抜かれた刃が、次の瞬間にはぐちゃっと地面へ落ちゆくそれらを縦にも断った。
 四つに割れる肉片。
 もう動かないことだけ確認して、エドガーは先を急ぐ。腹喰蟲も丁度ひとりぼっちのごはんを探していたらしい、寄ってくるものの横をすり抜け際に斬り捨ててゆく分には非常に楽でいい。
 はためくマントが彼らの飛びつきを振り落とすのに一躍買っていた。そして左半身側に関しては……この通り! 手袋の下、エドガーを独占する麗しの赤薔薇レディが黙ってはいない。触れるな下郎とでも語るかの茨鞭の一蹴、見舞われた側は棘だらけ。放っておいても死に絶えるだろう。
「虫、キライだよね。すまないね……いつも連れ回してさ」
 向ける申し訳なさげな笑みは、到底日々喰われている側のそれではない、ある種の歪を抱えているとして。
 正しく届く剣さえあればそれでいい。 エドガーという存在は革命の刃を振るうのみ。
「――ん?」
 と、不穏にかたかた蓋を押し上げていたゴミ箱の中身ひとつ分を掃除したときだ。
 ゴミを纏めて表へ出ようとする肉屋の主人を目にしたのは。
「おっとっと! 良ければ私が運んでおこう、重いだろう?」
「ええ? さっきのお客さんじゃないですか、そこまでしてもらうわけには」
「そうだな……さっきといえばあのコロッケ、揚げたてでえーと、二十ほど用意しておいてほしい。十分ほどで必ず取りに来るからさ」
 ぱちくり瞠目する主人からゴミ袋を掠め取って、エドガーはその背をカウンター内へ押し返す。調理器具は奥にある、ということは時間稼ぎにぴったりだ。店主はすこし驚いた様子だったが、ああスタッフさんたちとの打ち上げかなという納得具合で最終的に嬉々として頷いたのだった。

 ――――、ゴミ袋をひとまずカラになったゴミ箱へ突っ込んで!
 倒れて割れたプラスチックの残骸を跳んで乗り越えるエドガー。 先では、始めに耳にした音の元凶だろう、腹喰蟲の群れが蠢いていた。とは言っても想定より大幅に数を減らして。


「待たせたねヨーコ君、助太刀は必要かい?」
 不要と言われたって貸すけれど、と剣を振るう。金糸を軽やかに躍らせ赤を飛沫かせた少年の乱入に、土蜘蛛の面々の反応は三者三様だ。
 すっかり後方支援へ回った――ああそうだとも、やっとついてきたと思っていたグロ耐性の低下を身を以て実感してしまって――玻璃也は単発式に換装したガジェットガンを操っていたところ。
「ラッキー、知り合いか?」
「知り合い……そうね、王子様よ」
 おしゃべりの最中にもバラされて散る蟲、肉、緑。
 太刀風の方がごおと力強く語るかの。詳細を端折る耀子の淡泊な返しに品定めするかの眼差しを向けるイドと、エドガーの対照的な色味の眼差しが交錯する。
 だが、手を貸しなさい、と。
 主の囁きが落ちたなら誰より先に応じるのは己とばかり、同族喰いのかいなは大きく開かれて向かい来る卵の雨霰を取り込んだ。それは即席の遮蔽物ともなって、ひと跳びに繰り出す耀子の太刀筋をより一層に予測不可能なものへと高めている。
「わお、すごいな! 何でもこなせるんだ」
「そのように造られていますので」
 エドガーの翳りなき評価にはマニュアル通りじみた言葉を口に、駆け出して戻る気のない少女を援護すべくイドのスローイングナイフが飛び立った。
 蟲どもを斬る。傍ら、そのナイフに刀身を打ちうわせ互いの軌道を変える。足元から喰らいつかんとすものたちも、そうして直上からナイフの矢に貫かれればたちまちお陀仏だ。
 まさに第三、第四の腕のように耀子はイドの援護――扱い慣れたクサナギのレプリカを扱いこなしてみせる。
 何人のいのちを喰らってきたのだろうか。資料にあった以上に大きくまるまる、豚みたく肥えた蟲が本能的な恐怖を覚え逃げを打とうとする。
 けれど。
「――やれ!」
 玻璃也の銃撃が冷静に追い立てる。弾ける毒が動きを鈍らせ、辺りへ降り注ぐ黒きナイフが小物をぷちぷち始末して。もう巨大化することもできない、悟り壁際に追い詰められたなら最後。
「さようなら」
 お友だち(UDC-P)のことはご心配なく。 とんと踏み込む冷えた瞳が瞬いて。同じ冴えをした刀が奔れば、吹きつける刃の嵐は、夕暮れに溶ける街並みを傷付けることなくオブリビオンのみを過去へと連れ去ってゆく。

 よし! と、エドガーは親指を立ててみせる。
 堅実に少数ずつ処理し続けた彼の努力もあり、これであらかたが片付いた。
 血糊で頬にへばりつく髪を払い、耀子はイドへひとつ目配せすると、どうやら先ほどから断続的に蟲を寄越し続けていると見える路地の奥を振り返る。きっかけとなったゴミ箱も彼方から転がってきた、と考えれば自然だろう。
「時間を掛けるのは避けたいわ。エドガーくん、UDC-Pは見かけた?」
「ああ見たとも。裏路地のゴミ捨て場でね、他の皆が既に向かっているよ」
「そういうことなら話は早いな。俺たちはこっちをしっかり片付けて――」
 直ちに合流するぞいいな! なんて続けようとした玻璃也の声ごと呑んで食んで消し去るかの質量で放射状に解き放された異形の口が、ばぐんっ、と。残りの蟲たちを捕らえて咀嚼していった。
「引き続き全て喰らっていい。分かりやすくなによりです」
 平らげたイドの手がしゅるしゅるヒトのそれに戻る。ところで、UDC-P?
 はて、何の話でしたでしょうか。 死屍累々、代わりに出来上がったのは途方もない血の海。それすら男の足元より吸い上げられてゆく様に、実は混ざってたらどう報告しようこれ……とゾッと蒼褪める玻璃也の背を押しながら、耀子はエドガーの先導を追って走る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸宵戯

なぁにこれ
臓物が動いてるのだと思ったわ
噫、蟲。私に近寄らないで頂戴
愛嬌…そうね

食べ物を庇ってコレの食べ物になるなんて
かみさまは食べ物がお好きだったのかしら?
そんなに嬉しそうにして
あなたを食べるのは私なのに
腹が立つわ
気に入らないわ
ロキに入り込んだ蟲を苛立ち混じりに引き摺り出して
雑に引き千切る
零れた血をひと舐め

あまい
あなたを喰らったこれは甘い
他はいらない

ダメな子だけは逃がすわ
引きちぎって
ミンチにしてハンバーグにでもすればいいかしら
なぎ払い蹂躙し
瞳に捕えて『喰華』
醜きも美しい桜にして
喰ろうて咲かせてあげる

柔い臓物ならそのまま食むけど
これは蟲だもの
私はそんな悪食ではないのよ

ロキ
それ美味しい?


ロキ・バロックヒート
🌸宵戯

うわぁ割とぐろいね
資料と実物って全然違うや
見ようによっては愛嬌あるかも?なんてね

食べ物抱えてるしあんまり動けないな
襲われたら食べ物をかばう
あぁすごく痛い
歪む顔で笑って宵ちゃんの反応でも見る
わざとじゃないもん
わざとだけど
その反応が嬉しいし可愛いの
ふふ
勿論蟲より宵ちゃんに刻まれるものがいいけど
ほんとに君は俺様の味が好きなんだね
あとでご褒美でもあげようかな
さっきもちゃぁんと我慢してたし
とてもえらいよ

宵ちゃんあの子は駄目みたい
その子以外は…やめとく?
ゲテモノっていうかそれこそ悪食だよね
龍は美食家だもの

たまには食べる側でもいいよね
ぼとりと落ちた虫のひとかけら
好奇心で齧ってみる
さぁてお味はいかが?




 ――なぁにこれ、
 どこぞの戦いから這う這うの体で逃げ出したのかもしれない。眼前の土をもこもこと盛り上げ、這い出す蟲たちを見つめて櫻宵は嫌悪感を隠さぬ声でそう言った。
「臓物が転がって動いてるのだと思ったわ」
「これあれだよ、例の。うわぁ割とぐろいね。資料と実物って全然違うや」
「噫、蟲……私に近寄らないで頂戴っ」
 殺意も新たに血桜の鯉口を切る櫻宵と異なり、見ようによっては愛嬌あるかも? なんて、とロキは興味津々前のめり。両腕に抱えた買い物袋ががささっと音を鳴らす通り、この状態じゃあんまり動けそうにない。まぁ隣の龍が居る限り心配はしていない、が。
 逆にちょっと面白いかも?
「わぁっ、と」
「は――ロキ!?」
 射出の瞬間を見ていたのだ。双眸を細め、今後起こり得る物事に対して怒り狂うそのひとを思い浮かべ舌鼓を打つ間すらあった。避けようと思えばいくらでも避けることができた筈の卵弾、身に受けよろけたロキの腹に細かな穴が無数に刻まれる。
 ひょいっと頭上へ逃がした食べ物たちに被害はゼロ。
 身を呈して庇った、なんて言えば聞こえはいい行動。
「ちょっとなにしてるのよ! なんで避け、」
「いたた、痛いって宵ちゃん! わざとじゃないもん、引っ張らないで……これ、ほんと、すごく痛いから」
 肩を引っ掴んで自分の方を向かそうとする櫻宵の手に手をかけた途端、ごぽりと。ロキの腹部から零れ落ちた鮮血がとめどなく地面に色を塗りたくり始める。早くも孵化してうちで暴れるものたちが肉とともに押し出しているのだ。
「なん……」
「あ っはは。ほらみて、こんな」
 脂汗浮かべ歪む顔で笑いかけてくるロキの表情を、暫し、声も忘れ見下ろしていた櫻宵はガッとその肩を掴み直して。逆の手を、鋭く龍爪尖らせた五指を、神の腹へと埋めた。すべての穴をまとめて抉り取るほど深く。
「ぅ、っえ」
「食べ物を庇ってこんなものの食べ物になるなんて。――かみさまは食べ物がお好きだったのかしら?」
 そんなに嬉しそうにして。
 櫻宵の指先にぐにりと肉厚なものの感触が伝わる。強張るロキの手からは買い物袋が零れ落ちる。ああ、中身、潰れてないといいけど。ロキはといえばちかちか星が飛ぶ視界でそんなことをうすぼんやり考えていた。
 ふと龍の顔を盗み見たりして。そうしたら思い切り目が合って「いたいよ」とバカのひとつ覚えみたく繰り返し口元に笑いを塗り重ねるのだ。 すると――苦し気な、泣き出しそうな顔をするものだから!
(「わざとだよ」)
 あー錯乱してる。その反応が嬉しいし、可愛いの。
「あなたを食べるのは私なのに」
 腹が立つわ。気に入らないわ!
 力任せに、苛立ち混じりに。掴んだ端っこを半ば握り潰しながら櫻宵が手を引き抜けば、ぞろりと引き摺り出されるのは神の血肉を食んだ逆賊。その醜悪が口元から覗かせる食いかけを呑むより早く、二つに……というよりはズタズタに、鋭利な爪が裂いて潰す。
 しばし見つめる手の内、
 伝い垂れる赤い雫をひと舐めした櫻宵が「噫」と溢す、漸く息の仕方を思い出したかの吐息。
「あまい」
 あなたを喰らったこれは、甘い。他はいらないと、そう。

「……ふふ。ほんとに君は俺様の味が好きなんだね」
 勿論蟲より宵ちゃんに刻まれるものがいいけど、と先の痛みやらで勝手に折れかけた膝を宥めながらロキは顔を上げた。
 まったくこの器は脆くていけない。気付いた櫻宵が手を貸すからまたまたお揃い血塗れだ。別に甘い香りはしないのだが――改めて櫻宵のかんばせを見つめると、口元彩る血化粧がおそろしく歪で、不釣り合いで、相応しくて。
「足りない?」
 こくり。
「そう。さっきもちゃぁんと我慢してたし、とてもえらいよ」
 こくり、こくり。 櫻宵夢中の頷きに合わせロキがすこし背伸びしてその頭を撫ぜれば、大層幸せそうに、角の桜がひとふた花開いた。
(「かーわい。あとでご褒美でもあげようかな」)
 だから、まずは、と。
 ロキが続きを紡ぐよりも早く眼差しの先、躍り出た櫻宵がギャラリーを薙ぎ払っている。びゃっと千切りにされたミンチ肉はぱらぱら風に散って、それを踏みしめた下駄の足元でぺちゃんこに。
「二度とロキにも寄り付かないで。ハンバーグにされたいのなら話は別だけれど」
 喰華。
 睨み据える龍眼には力が宿っていた。 櫻宵が足を退けて前へ進めば、ハンバーグよりは比べようもなく優美な、薫る血桜として咲いて散る終わりを迎えることができる。
 ひらり眼前を舞う淡紅のすこし色濃い様で指遊び、調子はすっかり整って。
 "些細なこと"で怒れる龍をにっこり眺めていたロキだが、回収した買い物袋同様、それなりにお仕事のことも憶えていますとも。
「んー、あの子はいないみたいだね。あとは食べてもいいと思うけど……やめとく?」
「そうね。柔い臓物ならそのまま食むけど、これは蟲だもの。私はそんな悪食ではないのよ」
 だよねぇ、龍は美食家だもの。 ぐちゃりと殺して――否、咲かせてゆく櫻宵の背をのんびり追いながら、隅っこで縮こまるミニミニ腹喰蟲の一匹をロキは見つけた。
「やぁ」
 気安く一歩で歩み寄れば牙を剥いてくる。どうやら元からミニではなく、連れの薙ぎで千切れてしまったらしい。
 なんてことはない、これも"ハズレ"ならば。
「たまには食べる側でもいいよね」
 ひょい、ぱくっ。
 ケーキの最後に苺を齧るみたいに、好奇心の赴くまま舌の上へと招くだけ。
「ロキ。それ美味しい?」
「やっぱり気になるんだ? うぅん、そうだなぁ……――」
 とろとろ溶けて鼻へ抜け、脳を揺らがす劇物の味わい。
 俺様に似てるかも、などと冗談めかしてロキが答えれば、嘘おっしゃいなと穢れて尚も美しい指が頬へ伸ばされた。ふたりの足元、湧き出た黒で串刺しに処された骸が影へと溶け堕ちてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルカ・ウェンズ
仲良くなれる蟲がいると聞いて来ました!仲良くなれない蟲は…食べたそうにしている仲間に食べてもらわないと。

UDC-Pを助けないと!【空中戦】ができる相棒の宇宙昆虫でUDC-Pを安全な場所に避難させたら仲良くなれい蟲は敵だから、虫の本を使って呼び出した昆虫型機械生命体の群れ食べてもらうわ。

私や仲間が食べられるのは嫌だから【オーラ防御】で身を守り敵を【残像】の見えるよう速さでオーラ刀や仕事人の拷問具で【怪力任せ】に潰さないと。それに江戸モンゴリアンデスワーム(幼体)にも昆虫型機械生命体の群れに食べやすくしてもらった敵を食べてもらうわよ。


エンジ・カラカ
アァ、臭う。臭うなァ……。
オオカミのはとーってもイイ。
コレが間違えるはずも無いンダ。
血のニオイ。

賢い君、賢い君、アイツは不味そうだなァ。
薬指の傷を噛み切って君に食事を与えよう。
あんなヤツよりコレの血の方が美味しい。

ゴミ場一杯に気持ち悪いヤツ。
どーやって食う?
アァ……なるほどなァ……うんうん、そうしよう。
君の糸は毒の糸
摩擦で炎を生み出して気持ち悪いヤツらを燃やそう燃やそう。
こんがり焼いたら美味しくなるカモねェ……。

毒と炎。
情熱的だろ、そうだろう。
アイツらは不味そう。それに臭い。
君も不味いって言ってる。

ゴミはゴミ箱。
ちゃーんと袋に入れなきゃいけないって知っているカ?
コレは知っている。賢いから!


キディ・ナシュ
【合流】

ゴミ捨て場へ猛ダッシュ
おねえちゃん!待ってください!
置いて行くなんてひどいです!
いえ、コロッケに夢中になってたなんて……はい

UDCーPさんは甘い物がお好きですか?
もしそうなら
わたしのおやつのチョコも後でお分けしますね
一緒に食べましょう

でもその前に
蟲さんを狙ってる子達を潰しましょう
食欲勝負なら負けませんよっ!
狼さんへ食べかけコロッケお裾分け
今日は省エネコンパクトなサイズでお願いしますね
敵の悲鳴も騒音も、飛んでくるたまごだって全て丸っと喰らって飲み干しましょう!

あ、おねえちゃん戦闘中に狼さんに芸を仕込まないでください!もー!
ぷんすこ怒りながら二人がサボってる間はスパナさんをぶん回しますね!


イディ・ナシュ
【合流】

ゴミ捨て場で再会した義妹には
遅いですよと文句一つ
食べた分はしっかり働かないと
今日のおやつはコロッケで打ち止めです

同族が殺される様をむざむざ見せつけるのは忍びないですし
諸共夢の中で終わらせましょうか
魔導書を読み上げて
花筏浮かぶ水底の幻影に蟲たちを包んで足止めなりと
傷を負っている迷子…UDC-Pは
猟兵様方に拾われたタイミングで眠らせられると良いのですが
追いかけっこに加わって、私も迷子を捕まえるお手伝いを
ドーナツの袋と共に抱えられたら
暫しの休息をどうぞ
怖かったですね、もう大丈夫ですよ

卵を産み付けられそうでしたら
キディの狼を呼んで食べさせましょうか
ごはんですよ、食べたらお手です、おかわりは?


藤代・夏夜
買った物は親切なお店に預けてゴミ捨て場へ

たった一人で他の子を止めに行く
そういうガッツ、私は嫌いじゃないけど
一人でなんて水臭いわUDC-Pちゃん
会うのは今回が初だけど気にしないの!
これはそう…義によって助太刀致すってやつね♪

私を食べようとする蟲は引きちぎったり
念力でそこらに叩き付けたり
残念だったわね、私はミミズにもグロにも慣れっこよ
二次元の素敵な男性もしくは女性に生まれ変わってらっしゃい!

UDC-Pちゃんの邪魔しに行く蟲含め、周りの蟲にUC
生きる為に食欲は不可欠、わかってるわ
でも
素敵な商店街
UDC-Pちゃん
どっちもあなた達にはあげられないのよね
旺盛な食欲も一緒に、一匹残らずここで止めるわ


狭筵・桜人
穂結さん/f15297
矢来さん/f14904

■ゴミ捨て場

ウワッむし……思ってたよりも虫!
ピーちゃんどれですか?それ?
ああ~見た目一緒かあ……。よし、保護は穂結さんに任せました。
男が女性を前に出させるなんてカッコ悪いですし?
あ?誰がビビりだ ヒッここにも虫いた!!

的が小さい。数が多い。一匹ずつ潰してたら夜になりますよコレ。
ですから役割分担しましょう。
――『怪異具現』。『肉塊』のUDCを召喚。
内側から喰らう虫の習性を利用して、肉塊の中に虫を集めてみます。
食わなければ虫を食わせます。肉塊の中に収まればヨシ。
腹を食い破って出てくる前にコイツごと殺していいですよ。

っていつの間に……油断も隙もないですね。


穂結・神楽耶
夕立さん/f14904
狭筵様/f15055

蝶の案内でゴミ捨て場へ。

食事のマナー悪っ…
いやUDCに言うことじゃないんでしょうけど。
本当にお行儀悪いですね…
だからといったら変ですが、見た目が同じでも分かりやすいのは助かります。
保護はこちらで請け負いますよ。
含むものはありません、ええ。まったく。

おいで、【神遊銀朱】。
多少荒っぽいですが、保護対象と鎮圧対象は分断させて頂きます。
狭筵様の方へ追い立てる形にできれば最上でしょうが、
遮蔽になるだけでも構いません。
毒餌をおいしく?食べている間に本命の方へ移動します。

ええと、ピーちゃん? でいいですか?
よかったらこちらへどうぞ。
もう大丈夫です、助けに来ましたよ。


矢来・夕立
■方針
ゴミ捨て場
穂結さん/f15297:敵性UDCとの分断→対象の保護
狭筵さん/f15055:複数体を一か所に誘引

予想よりずっと社会性があるみたいですね。
向かうならUDCの正規職員が適任じゃないですか?
狭筵さんはビビりですし、オレは殺すほうが得意だし。

腹喰虫が肉塊に対してどう動くかは分かりませんが、オレの仕事は同じです。
【“小さなUDCを内包する、大きなUDC”の殺害】。
斬るより燃やすのが定石ですね。でも担当者が離席中なものですから。
肉塊に遅効毒を打っておきました。
毒入りUDCの肉を食べて死ぬ。或いは、共食いUDCに食べられて死ぬ。

終わったら手を消毒しときます。
保護対象にとっても危険ですから。


ジャハル・アルムリフ
…目は、何処なのだろう

随分と行儀が悪いようだな
躾、…否
住み慣れた屋敷の庭園で
怒りに震える師の姿が脳裏を過ぎる
害虫なれば、駆除させてもらう

「ぴー」とやらに追い付かせぬよう
されど見失わぬよう、一線を保ち乍らの防衛

羽ばたきで、或いは壁を蹴って空中へ
それなりに食いではあるだろう
来てみろと誘い
翼持たぬ虫たちには
空中での回避は出来まいと踏んで
<範囲攻撃>で高めた【まつろわぬ黒】にて撃ち落とす
落ちたものらは地上の猟兵へ目配せして
喰らい付いてくるものは籠手や刃で受け
戦闘力増加を防ぎながら

時折は守るべき一体の無事を確認し
何を追っているのか知らぬが、気侭なものだ
まるで誰かのようだなどと
口にする愚は犯さずとも


アルバ・アルフライラ
やれ、まったく
私も丸くなったものだ
…か弱き蟲よ、凍えたくなくば急ぐが良い

UDC-Pがゴミ山から離れた事を確認し
魔方陣より召喚するは【女王の臣僕】
蠢く蟲共に、立つ筈もない鳥肌が立つ想いだ
その醜悪な姿、私に見せるでないわ
現れる度に高速詠唱で敵を凍らせながら足止めに努める
全身を氷に閉じ込める事で産卵すら儘ならぬ身にしてくれる
それに我が身を形作るは硬き宝石
肉の器と同じく易々と寄生出来ると思わぬ事だ
――何よりも万死に値する
斯様な不敬、試そうものがいるならば
手ずから、芯の髄まで丁寧に、丹精を込めて氷漬けにしてやろう
慈悲深き女王の腕に抱かれる栄誉
そう与れるものではないぞ?

…さて、彼の蟲は
無事辿り着いたろうか




 ゴミ捨て場では分厚い腹喰蟲の壁の向こう、尚も進み続けるUDC-Pがちらりと見える。
「そう。あの子がね……」
 ろくに食事もしていないのだろう。まさしく日が暮れてしまうかの鈍足が、見ようによってはいじらしい。
 ひとつ溜め息零して。その身へ追い縋ろうとする蟲をざっと前へ出る夏夜の靴底が蹴転がした。
(「たった一人で他の子を止めに行く――そういうガッツ、私は嫌いじゃないけど」)
「一人でなんて水臭いわUDC-Pちゃん。会うのは今回が初だけど気にしないの! これはそう……義によって助太刀致すってやつね♪」
 顰めた眉からぱあっと一転、明るい以上に明確な宣戦布告に対し、足蹴にされた側はびよんびよんと跳ねて憤った風だ。
 四足の獣が威嚇するみたく、地面にへばりついて牙を剥きだしにする、が。
「アァ、臭う。臭うなァ……不味そうな、血のニオイ」
 コレが間違えるはずも無いンダ。ぶつぶつ呟いたエンジが薬指を噛み切って。そこからぼたりと垂れて弾けた鮮血に惹かれたか、蟲の意識は左右にぶれてしまう。到底自分になぞありつける代物ではないとも知らずに。
 教え込むのがずっと赤い色。
「賢い君。どーやって食う?」
 ずず、  エンジの手元で血を啜り糸を光らせた拷問具、その束がぐんと伸縮すると直ぐ、肥えた蟲の身を矢のように突き刺す。貫通した先で花開く風に捩じれ玉結びにコブを作り出すと、地面へ円を描いて滑り始めるのだ。
 なるほど、なるほど。そうしよう!
「君はヤッパリ何でも知ってる。こんがり焼いたら美味しくなるカモねェ……」
 注入される毒に悶え暴れる蟲の抵抗と相俟って、硬いアスファルトとの間で酷い摩擦が生じる。蟲の肉が削げるほどに糸と地面の接触面は広がって――やがて辺りに捨てられた木くずをも巻き込んで――ごお、と炎を生み出した。
「クク、はじめのヤツには見せられなかったケド。代わりにオトモダチが楽しんでいく?」
 綺麗な綺麗な赤だろう? 見せつける、それは今や炎の鞭じみて。
 エンジが悠々手繰って好き放題叩きつければ、ゴミ山ごとそこに隠れる蟲を焼き始めた。とても体に悪そうな黒色の煙を上げつつ。
 たまらず飛び出してくる蟲の群れは一年物のプールの水でもひっくり返したかの様相だ。
 やや後方。イディの身は人と同じではないものの、この数十年でいつしか染み付いた彼らならではの作法もある。ついレースのハンカチを鼻に当てたのなんてまさにそれ。 必要など、無いのだけれど。
「――、熱そう、ですね」
 皆とともにおいしい戦利品或いは手土産たちを、近場の店へ預けてきてよかった。
 うぞりと逃げ広がるものの足止め。同時に、同族が殺される様をむざむざ見せつけるのは忍びないとの思いで捲る白蒙の書の頁。
「すこしばかり涼ませて差し上げましょう」
 安寧は水底にこそ。
 読み上げる唇から零れる吐息が静かに揺らしたかの如く、イディの足元から波紋が伝う。内より外へ、のたうつ蟲のもとまで。辿り着く頃には硬い石のはずの地面が、いつしか透き通る水面に姿を変えていた。
 尤もそれを視認できるのは"幻"を見せつけられる腹喰蟲だけ。
 浮いた薄紅の花筏を肉の切れ端とでも捉えたのだろう、必死に取り込もうとする滑稽な動きが次第に鈍く鈍くなってゆく――すべての続きは、痛みなき眠りの底にて。

 止まぬ支援のおかげで僅かばかり有効範囲より進めていたUDC-Pが、振り返って後方を確認するかの動きで身を捩じる。
 すけだち? みずくさ。
 知らない言葉を噛み砕いて確かめるみたいに、猟兵たちを見渡して――――がさがさっ!! 脇へ積み上げられていた黒ゴミ袋から飛び出してきたミニ腹喰蟲の集団に襲われそうになるも。
 ふたつの合間にひらりと、一匹の蝶が。炎に揺らぐ赤が、舞い込む。


 次いで、ぷちっ!
 上方を窺おうとした蟲たちにたった迫る靴の底が、その身をぺったんこに踏み潰して尚も数歩進んでからやっと止まった。
「ウワッむし……思ってたよりも虫!」
「食事のマナー悪っ……」
 足の持ち主、桜人と神楽耶は声を揃えてノーを突きつける。
 ぬるっとした感覚に靴裏を見てウッと息を呑む桜人がけんけんで向き直る隣で、神楽耶は案内を見事全うした炎蝶を見送って。まぁUDCに言うことじゃないんでしょうね、と、すらりと神刀を引き抜いた。
「しかも踏んじゃいましたうえぇ……ピーちゃんどれですか? これ?」
「これだと大問題じゃないですか。あれですよあれ、あっちの」
 見た目同じなのになんで分かるんです? お行儀の悪さとか……?
 大分ふんわりした解釈だが間違っておらず、
「こっちに塗り付けようとするのやめてくれます? 割と高いんですよ制服って」
 駆け出したのは一番遅かった筈だが一番に辿り着いている。暗がりからぬうと出てくる夕立とは相変わらずそういう男で、しきりに宙を蹴っている桜人の脇を潜り抜けた。神楽耶の切っ先があれだと指すところにはUDC-Pが歩みを再開しているのが見える。観察していたところ、件の蟲は予想よりずっと社会性があるらしい。
「向かうならUDCの正規職員が適任じゃないですか?」
「ですね、保護は穂結さんに任せました。男が女性を前に出させるなんてカッコ悪いですし?」
「ですよ。狭筵さんはビビりですし、オレは殺すほうが得意だし」
「あ? 誰がビビりだ―― ヒッここにも虫いた!!」
 ……。…………。
 相変わらず仲が良いのか悪いのか、ただし息が合うのは確かなようで。自分の後ろへまで飛び退かんかの桜人を余所にアルカイックスマイルを湛える神楽耶は主に夕立の大荷物を預かった。
「保護はこちらで請け負いますよ。含むものはありません、ええ。まったく」
「減ってたら重みで分かりますからね」
「食べもしませんってば」
 まったく、幾らか和らいだとて警戒心が強い野良猫のよう。
 事実。"役割"をこなす上で神楽耶は片手さえ空いていれば十分なのだ。それではまずは、と吸った息を吐きながら結ノ太刀の白銀を微かな西日へ翻すだけ。 すると、どうだ。同じ姿かたちをした刃たちがその手元に現れ出て。
 ぎゅおお、  どんな蟲よりも獰猛な鳴き声をして、示す方へ真っ直ぐ飛び立つ。
「任せましたよ。神遊銀朱」
 偽りの複製、されど切れ味は遜色なく。UDC-Pと隙あらば追う蟲、此方を警戒する蟲。二者の間へ次々突き立つと蝶とは比べものにならぬ荒々しさで抉り取るのだ。空間ごと斬り離す風に、空間に満ちる不浄をも殺す風に。
 腹喰蟲にとって、前触れなく降ってきたおいしくもない物質は邪魔で仕方ないことだろう。登ろうとしたらつるりと滑ってしまうし、となるともう回り道をするしかない。

 ――その、先頭の一匹が時間差でやって来た刃により跡形無く串刺されたのが始まり。
 的が小さく数が多い、一匹ずつ潰すなんて夜まで暇を潰すと同義。故にと提案された怪異が、ごぽり。列をなす彼らの道行きを塞ぐ形で肉の塊のかおをして具現化する。
「はーぁ。ビビりは安全圏から失礼しますから。役に立ってくださいよ、精々」
 ストレンジ・コレクション。始めちいさな切れ端のようだったそれは、使役者たる桜人の一息に醒めた眼差しをも糧とするみたいに、泡立ちながら膨らむと醜い踊りをはじめた。
 鮮やかな、……活き活きした桜色のごちそうに見える。
 きっと腹喰蟲の中にもグルメがいるに違いない。タバコを吸わない肺がおいしいとか、こどもの柔い肉がタイプとか。そんなすべての欲求をまとめて満たしてくれそうな肉が、目の前にッ!!
 蟲どもは後先考えず肉塊の誘いへ飛び込んだ。罠と知っても同じことをしたろう、その程度の本能を振り翳して。
 淡紅の袋は蟲が入り込むほどに膨らんでいる。もっとおいでよ、もっと食べていいよ、齧り取られる穴なら噴き出す粘液がたちまち塞いで"閉じ込める"。
「こんなとこですかね。じゃ、後どうぞ」
「もう終わりましたけど」
「はい?」
 探し出し目配せする工程を端折って例の影へ声を飛ばせばこの返し。
 いつからか向かいに。夕立は一羽の折り鶴を開いている最中で――? 桜人が視線を戻せば、肉塊の端っこには注射針の形をした折紙が突き立っていた。
「っていつの間に……油断も隙もないですね」
「大した仕掛けでもないです。あの肉塊がどう働こうと、オレの仕事は変わらないので」
 はらりと紙が解ける。
 カラまで注入された黒い液体は、肉に透く血管を、鮮やかだった身を濁った暗色へ染め変えて――遅効毒、その効果をありありと発揮しはじめた。
 びたんびたんびた!!
 ちいさな肉たちを孕む大きな肉が苦しみに跳ねまわる。ともすればあの振動で死ぬかもしれないな、などと夕立は眼鏡の奥、経過をただ眺めている。大成功か、成功か。ストックしておける殺しの術は多い方が良いのだから、関心といえばその程度。 買い食……巡回中以来、指を触れもしない刀は綺麗なまま。
「斬るより燃やすのが定石ですしね。でも担当者が離席中なものですから、灼熱感だけでも似せておきました」
「えげつなー、枕元に立たれますよ?」
「そこはお互い様では?」
 ま、二度殺せば同じですけどね。 飛び散る肉片。羽を広げてその盾となった鶴が、折ったものと同じ繊細な手で握り潰されれば。
 ――意味もない問答にふっと肩を揺らして桜人の手指が、先ほど地雷攻撃を仕掛けてきた曲者を手洗い後の水滴を払うみたいに感慨無く弾いた。
 ぽとりと肉ドームの傍らに落ちれば虫の息は、なかよく毒の沼へ引き摺り込まれて。
「はい。お疲れ様でした」
 ゆっくり死んでください、と淡々言い渡す桜人。一度大きく脈動したきり、ぐずり、ぐずり……溶けゆく肉塊型UDCの粘着網のように広がった線維たちは、その下でもがく命諸共に液状へ還るまで働くことだろう。

 そうやって毒餌がおいしくいただかれている間に、神楽耶は一路UDC-Pを追っていた。
 薄暗さに加えて伸びた雑草やら倒れた資材の内が腹喰蟲のスペシャルかくれんぼ場を作り上げているものの、後方を分断してきた分憂いは少ない。飛び出してくる分を、こう――、
「邪魔!」
 水平に寝かせた刃でスライスしていれば片手は尚も暇。
 緑の葉っぱが宙へ舞って、女を狙っていた卵弾を代わりに受け落ちる。お礼にとスナイプ地点へ叩き込まれる複製刃たちが木箱ごと蟲の一塊を屠るは直後。
 ぼろぼろの木屑が保護対象の脆い身を貫く前に払って。
「ええと、ぴーちゃん? でいいですか? もう大丈夫です、助けに来ましたよ」
 壁際、覗き込む先へ微笑んでみせた。
 刹那。 ぼごんっ!
 土竜の仕業ではない、不自然に盛り上がる土の地面はそんな邂逅に憤るかの。
 UDC-Pが応戦し……もしかすると"守るため"牙を突き立てるより早く、深々刀を突き刺すと空いた手を差し延べる神楽耶。よかったらこちらへ――と、引き続きお連れしたかったところですが。
「ひとまず、足場にでも?」
 迷いは一拍、飛び乗るUDC-Pのからだを更に高くへ放り投げる。
 そしてそれの後追い土中より躍り出た数匹を、複製刀の余りが、"本体"を軸とし弧を描く軌跡で捌いた。

 身動きのできる状態では、このやさしい蟲は無謀にも戦おうとしてしまう。なにより離脱を優先とするなら、性質を見てきた職員としてもより適任を見つけたのだ。
 空に。


 舞い降りたのは美しい青に明滅するダンゴムシのような生物。
 跳ね上げられたUDC-Pの背をその付属肢ではしっと掴めば直ぐに上昇。腹喰蟲どもの届かぬ宙を翔け始める。
 ジャンプも虚しく空振っては絡まる数匹を押しのけ、続く数匹が畳む体をバネに飛び掛かろうとするが――。
「――仲良くなれる蟲はその子で合ってたかしら」
 すぱんっと空気を割る音ともに影が過ぎった。ルカ・ウェンズ(風変わりな仕事人・f03582)。長い黒髪が蛇みたいに巻き上がる、女の歩いた後にはぽとぽとと斬り捨てられたばかりの蟲たちが細切れに吹っ飛んだ。
 片手に携えたオーラ刀がその元凶だ、とは中々に気付けまい。次なる獲物を求め息つく間もなく二太刀目が奔っている。込められた力の強さ故にぶわりと荒れる風が起きて、同時に蟲が四方へ散って。 タネの無いバラバラショーでも見せられているかの塩梅。
「間に合ってなにより。仲良くなれない蟲は……そうね、みんな食べたい?」
 急を要する追っ手を片したルカはさらりと髪を掻き上げると、一冊の本を懐から取り出して捲る。
 "虫の本"。表紙にそんな名を記された本は、ぅぞろ、ぞろぞろ。適当に開いた頁から文字通りに、光を点しつつ蠢く蟲たちを吐き出し始めて――?
「食べたいんですって」
「あらあら、すごい。ますますパンクな絵面になっちゃったみたい」
 すこし遠く、緊張感に欠けた声は夏夜のもの。大蟻、天牛、百足に蜘蛛……機械化して幾らかシャープなデザインとはいえ夥しい数の害虫を前にしても、僅かも震えぬ拳は腹喰蟲のぷにっと横っ腹に叩き込まれた。 かさかさ音の大合唱がどうした!
 残念だったわね、私はミミズにもグロにも慣れっこよ。
「二次元の素敵な男性もしくは女性に生まれ変わってらっしゃい!」
 めぎょっ!
 ご自慢メタリックシルバーの御手は緑の体液塗れ引き抜かれた際、その奥で反撃の機会待ちをしていた別の一匹を握りしめ、既に引き千切っている。とんでもない死に様であるが彼らの来世を祈らずにはいられない――ところが夏夜はといえば、祈る間も与えずに。
 千切れたふたつを放り投げたかと思えば念動力でそれぞれチャクラムよろしく振り回して、びたむっ。機械蟲から逃げ惑う列を軒並み轢き潰してゆく。段々毛羽立って、ベルトみたいに細長く縮れてゆく死肉。そこや地面へプレスされシミになって色付ける腹喰蟲たち。
「恨んでくれても結構。でもこの単調さ、何かに似てるわね……」
 あっ、お供え物作り!?
 第▲▲推しの■■様の誕生日ピックアップがそういえば近い――ッ!
「そうじゃないの、私ったらうっかりさん! ちょっと練習台になってちょうだいな」
 あの方をばっちりお迎えできる腕前にしておかなくちゃね♪ とでもルンルン続けそうな。具合で、何かを何かに打ち付ける惨たらしい音はもう暫し響くこととなった。尚、お供え物とはガチャ確率UPを祈願する一種の宗教である。


 一方、UDC-Pを吊り上げたルカの相棒である宇宙昆虫は離脱に成功して、後方を守っている者たちのもとへその身柄を引き渡そうとしていた。
 腹喰蟲は翅を持たない。卵弾の狙いが定まる速度でもない。故に大半があんぐりと見上げるだけとなっていたが、時折、ぶくぶくと太ったものを足場に高くジャンプをするものも出始める。
 そしてそうしたものは、
「知恵をつけたところで無駄だ」
 風哭かせ迫る第三の竜翼。
 宙を蹴って舞い込むジャハルの黒剣の餌食となるまで。 向かいの壁を蹴りつけての三角飛びで華麗な着地を見せるジャハルを真似ることなぞ出来ようもなく、ばっさり斬り捨てられた肉片は真っ逆さま。
 地面で潰れると、他の蟲たちがうぞうぞ寄り集まり共食いの光景を見せる。うちに人肉でも残っているのだろうか? さも美味そうに、がつがつと。ぶくぶくと。太り始めて――、
「ええい散れ! その醜悪な姿、私に見せるでないわ」
 そんな群衆へと音もなく降り落ちる青く輝く白雪はアルバのヴィルジナル、臣僕たる蝶の霊が齎す冬。
 大口を開けてこうべを垂れた姿勢のまま、哀れ蟲どもは永遠の冬眠刑。
 氷像と化したとていただけない、この醜悪を見ていると立つ筈もない鳥肌が立つ想い、だ。思わず己の両腕をさするアルバの姿を横目に、ジャハルは「師父は下がっていてくれてもいいぞ」と。剣を胸の前へ引き戻して、飛びつく一匹の牙を粉に砕く。
 くわっと眼を見開くのはアルバで。
「大きな口を叩くようになったではないか。私を誰だと思っている?」
「俺の師父だが」
「そういう話ではない!」
 さすが飛び出す腹喰蟲を見ての第一声が「目は何処なのだろう」第二声が「随分と行儀が悪いようだな」の男は違う。構造から違う。
 とはいえジャハルとて何も能天気に考えているわけでは、ない。
 住み慣れた屋敷の庭園を思い返して。花を喰らうもの、勝手に茶会に混ざり込むもの……あらゆる害虫への怒りに震えるアルバの姿を脳裏に過らせたりもしていた。 "ぴー"のことも勿論ありつつも、だからこそこうして師へ近寄らせぬよう、剣を握って働いているというわけだ。
 多くを語らぬ弟子ではあるが、この仏頂面の下に何か思うところはあるのだろうとアルバも知っている。故にぴきぴき罅でも入りかけた眉間を宥め、指は杖へ。
「まったく……見ていろ」
 本当のところ、この気色悪い汚れ方をした地面へと得物を触れさせるだけでも鬱屈としてしまいそうになるが。自分の身体と同じでモノはなんとでもなる。替えの利かぬものは、命。
(「やれ、まったく。私も丸くなったものだ。……か弱き蟲よ、凍えたくなくば急ぐが良い」)
 背に聴こえる宇宙昆虫の羽音が順調に遠ざかることを確認すると、アルバの杖模すルーンソードは描き上げた魔法陣の真中を突く。
 ぶわり、ぐわり。 追加でありったけ喚び出された蝶たちは最敬礼代わり主の足元を一周すると青き渦を作り出して。それこそ巨大なワームがすべてを呑み込む風に、地面に触れるほど近く霜柱の道を引きながら低空飛行。
 蟲もゴミも別なく付近をぱきぱきに凍り付かせてゆく。
 逃げるならば宙くらいしか無いではないか。腹喰蟲が狭い空を見上げたとき、濃い影が掛かるのはそこに竜が待ち構えているから。
「来てみろ」
 こちらは温いと手招くジャハル。手元のつるぎが牙同然刺々しく光る。
 凍えて死ぬか? ひとかけでも肉を食んで死ぬか? ――答えなら簡単!
 垂らす涎も固まりながら蟲たちは牙を剥く。我先にと同族を押しのけて跳ね上がった一匹が、まず蹴り抜かれて壁面に張り付いた。これはまだ良い方だ。捻りを加えた上体、斜めに構えた上段から振り下ろされる本命が――……。
「よく来たな」
 落ちる。
 落とす、命じられずとも主の願いの通りに醜悪を跡形なく。まつろわぬ黒の影なる刃は蟲亡きあとの地にも散々無数に刻まれて。かと思えば、日差しに溶けるみたいだ。ジュウと音を立てながら失せ消えていった。

 これでは"食える食い物"もない。
 食い物がなくては成長もできない。
 たじろいで見える蟲たちの破れかぶれの突撃、やさしく抱き止めてやるほど主従は甘くもなく。
「貴様には価値も分からぬのだろうなぁ……」
 憐れ、あまりに憐れ。宝石のこの身へ牙を立てんとす愚行。
 片手に掴み取ったばたつく一匹へ。ん? 美味そうな匂いでもしたか、などなど問い質すアルバの爪は燃え立つ薔薇色であるのに伝わすものは相も変わらず冷気ばかり。
「――何よりも万死に値する」
 ぱきんっ!
 冷ややかに言い渡すと同時、瞬時に氷と化した蟲は砕けて散る。
「ああ、腕にでも抱いてやれば良かったか。希望する者は並ぶがいい、今の私は大層気分が良い。慈悲深き女王の腕に抱かれる栄誉、そう与れるものではないぞ?」
(「逆だ」)
 この麗人の性質をよく知っているジャハルは静かに目線を上げた。これはながくなる。同じ考えか、角にとまって休む青き蝶の端だって見える。
 尚もアルバや己へ飛び掛からんとするものもいるにはいるが、寒さで動きが鈍っていた。くろがねの籠手を噛ませておけば緑だか赤の血を零し、そこから凍り始め、適当に振り払った先でへばりついたのち次第に死んでゆく。
「……さて、彼の蟲は無事辿り着いたろうか」
「何を追っているのか知らぬが、気侭なものだったな」
 ふと、飛んでいったUDC-Pのことを思う。
 もとは脇目も振らず地面を這いまわっていたのだったか。気侭――……まるで誰かのようだなどと、本人の手前口にする愚は犯さぬジャハルだが。見通すかの星彩と目が合って、揺れた尾は蟲を叩きつけるためとしておいた。


「……綺麗で、そして賢い生物でしたね」
 ルカの宇宙昆虫より運ばれし皆の連携の賜物、UDC-Pはいま、イディの近くに。
 口を開けて閉じて、自分を傷付けぬよう戦い続ける猟兵たちを気に掛ける素振りを見せ右へ、左へ。
「おねえちゃんったら! 待ってください!」
 そこへ運び屋とは逆方向――表通りの側から駆けつけてくるのがキディ・ナシュ(未知・f00998)。ふわんふわんのツインテールは揺れる度、砂糖よりも甘く香るというのに。
 前を見て走りながら腕を振るついで程度、いま大事なお話し中ですとばかり振られる巨大スパナがぼこべこと寄り付く人喰い蟲を引っ叩いてゆく。狭い壁にぶつかって、ずるり、泡立ち垂れ落ちる体液には目もくれず。
 おねえちゃんことイディのもとに血溜まりジャンプで辿り着いたキディは、うんしょとスパナをその辺に立てかけると胸元にその手を添えて弾む呼吸を整えた。
「――置いて行くなんてひどいです! わたしがどれだけ急いできたと」
「キディ。遅いですよ。…………」
 無言で自分のほっぺを指さすイディ。はっとして自らの頬を拭うキディ。ぽろっと落ちるのはさくさく狐色の衣ひとかけ――仕方ないじゃないですか夢中になるほどおいしかったんです!!
 後ろ手の包み紙に隠していた食べかけコロッケをそろりと出すキディに、まったくと零すイディの眼差しはしかしどこか優しい。瞬きを一度挟み、次いで"敵"へと向けるときはいつもの涼しさで。
「いいですね。食べた分はしっかり働かないと、今日のおやつはコロッケで打ち止めです」
「はっ――はい! そんな、UDC-Pさんがお食事しているのを眺めるだけなんて拷問ですからね……がんばりますっ」
 コロッケの残りをひとまずぱくりと銜えるキディ。両手に持ち替えぐるんと回した血濡れスパナを地面すれすれひとつ振れば、風圧だけで周囲の蟲が打ち上げられた。
 それはUDC-Pも例外ではない。
 ぽーん、と飛んでうねうねする塊を片手にキャッチするとキディはにっこり。UDCーPさんは甘い物がお好きですか?
「もしそうなら、わたしのおやつのチョコも後でお分けしますね。一緒に食べましょう」
 約束を口にして。
 更にすこし後方――姉の側へとゆるやかな放物線を描いて放り投げる。拾われなかった蟲はどうなるかって? こうだ、と言わんばかり、流れ込んで躍る電流と炎。
 手を翳す夏夜とエンジ。ばちりと迸る電撃が肉を焦がして炎を呼んだのか、もとより赤い炎なのか。
「おかげでやりやすいったらないわ」
「ウンウン、毒に炎にバチバチも! 情熱的だねェ……賢い君もウレシイ、ウレシイ」
 嬉しいから糸はもっと"燃え盛る"。
 僅かな滞空時間の間に丸焦げにされた残骸たちがぼとぼと地面へと落ちてゆく。
 安地を求め同族の死体を隠れ蓑になんとか這い出した個体についても、飛来した影にガッと圧し潰されのたうつばかり。棘の生えた脚をしたそれは機械蟲。使役者、ルカの目配せひとつでバリリと頭から丸齧りしてしまう翅持ち大蟻の咢。
「あなたたちだって嬉しいでしょう? 最期くらいは役立ててあげる」
 私の可愛い子たちのお夕飯として、ね。

 歩み来たルカが薄く笑えばがしょ、と音を立てて一匹の蟻から幾匹もの小蟻が溢れだし。
 あちこちの逃げ遅れを問答無用で引き摺り出す。追いかけっこはおしまい、鬼はこちら!
「――片付けなさい」
 一斉に突き立てられる牙。
 腹喰蟲とて食いつき返せど機械の鎧は容易く砕けない。誰もが断末魔を発せぬから、代わりに上がるはぶちぶちと肉の喰い千切られる、ゴムを引っ張り過ぎて破けたみたいな音だ。
 眼下で繰り広げられる凄惨な食物連鎖の光景。受け止めた両手の中でUDC-Pが震える気配がしたので、イディはそうっと魔導書の一節を口遊んだ。
 先と同じ頁。
 齎すのは、ソーダ水みたく甘い水泡で包む束の間の安眠。
「暫しの休息をどうぞ」
(「怖かったですね、もう大丈夫ですよ」)
 ひと袋だけ。UDC-Pを落ち着かせる一助になるならと持ち出していたドーナツの包みとともに腕の中に抱え直せば、か弱い生物が怯える気配はもう、なくなった。
 行いを妨げるかのがさごそとした物音に前を見るイディ。先に眠りへ落とした個体は既にまとめて屠られたようだが、おかわりとは雑草の陰からすらひっきりなし這い出してくるものだ。
「食欲勝負なら負けませんよっ! 狼さん!」
 けれど――駆除する側も。
 恐れ疲れ穢れ、知らぬと知ることばかりのステップは鳴る踵も軽く、故に無敵で。出元へ飛び入り、一塊を躊躇いなくスパナで叩き潰すキディがぽぽいっと高く放ったコロッケのラストひと欠片ジューシーな肉汁に、一部の腹喰蟲は反射的に群がろうとしたことだろう。
 結果的には自分たちが餌となるわけだが。
 ばたばたばた! 秒と経たず。地面の影から現れ出で、彼らとコロッケすべてをいっしょくた呑み込んだのはキディの遣わす巨狼。今日はおやつサイズ的にもちょっぴり省エネコンパクト……とはいいつつも蟲にとっては相当化物。
 舌なめずり。 食い足りぬ分は土の下へ潜り込もうとする数匹を爪のひと薙ぎで土ごとごっそり跳ね上げ、そのままお口へひょいっとイン。悍ましく裂けた口で笑うものだから。
 今しかないと思ったか、同族の死の合間に別方向から撃ち出される卵は弾丸となりヤドリガミの腕を掠め取ろうとする。
 が。
「ごはんですよ、食べたらお手です」
 こんこん! 次に当のイディが踵を鳴らせばご覧、影から影へ飛び立つみたく、狼は瞬時に主の姉のもとへ。
 その大口で卵までも難なく食んでしまうのだ。 お手! ぱたぱた忙しない尾がイディのてのひらへ乗せられる。到底おかわりにも期待出来なさそうな、ちょっと間抜けな反応に誰を思い浮かべたと言わずとも女の唇が浅い弧を描いた。
「――あ、おねえちゃん戦闘中に狼さんに芸を仕込まないでください! もー!」
 なに笑ってるんですかぁ!
 キディのスパナさんも、より一層めためたに暴れてしまうというもの。

 ぼこすか音に紛れる姉妹の微笑ましいやり取り。
 耳は続いて今一度響き始める、清らな朗読へと傾け。顔面狙いで体当たりしてくる蟲を鷲掴んだとき、夏夜の機械化部位を駆け巡るように一際大きな電流の波が立った。
(「そう……。眠っているうちに終わるなら、その方がいいわ」)
 ――生きる為に食欲は不可欠、わかっている。
 でも。
 素敵な商店街。UDC-P。やっぱり……、
「どっちもあなた達にはあげられないのよね」
 加減はなし。旺盛な食欲も一緒に、一匹残らずここで止める。 ぱあんっ。蟲が弾け飛ぶ、食い荒らして尚も輝く銀の電流は蜘蛛の巣状に広がりゆく。
 銀雷蜘の食庭――捕らわれたなら、逃げられない。
「ゴミはゴミ箱。ちゃーんと袋に入れなきゃいけないって知っているカ?」
 それか燃やして埋めるンだ。コレは知っている。賢いから!
 生憎と袋の手持ちがないエンジは糸で絡め取って。いいや、あったとしても同じ道。見た目通りに臭く、そして賢い君のお口にも合わなかったらしい腹喰蟲は"ゴミ"と断じられるのみ。
 二度と牙も剥けないよう端をくくり、ぎゅうっと絞ると出口を求め、巡った猛毒で紫に染まった血が節々から飛沫を上げた。
「ザンネン。生まれ変わりはおいしいコト、コレも期待しよっと」
 そんなものあるか知らないけれど。
 ゴミの行く末はいつかの被害者らと同じ。からからに枯れ果てて灰とともに落ちれば――。
 電気網の下もがくほどに細かに焼き切られてゆく有象無象を、毒に浸された黒焦げたちを、江戸モンゴリアンデスワームという名を冠した腹喰蟲以上に毒々しい見目の化物が食してゆく。食べ盛りの幼体は底知らずの食欲で、きっとこのまま主――見下ろすルカの望み通り綺麗に"お片付け"してくれることだろう。
「ふう……それで、そうそう。その子が例の蟲でしたっけね?」
「はい。今はすこし眠らせていますが」
「へぇ。ふふふ、うーん、やっぱり似てるわねぇ」
 かつかつ歩み寄りイディの手元を覗くルカ。うちの子と、と語る足元ではワームが元気に暴れまわっていて。
 きっとこの子もたくさん食べるに違いないわ! てのひらの体温が移るということもなくひんやりしたUDC-Pの表皮をルカが指先でつんとつっつけば、もぞり。 蟲が微かに身動ぎをした。
 同時、がさっと届く音に構えて振り返る者もいただろうが、心配ない。
 それは歩み来る夕立少年の手に無事戻った紙袋たちであり。 持参の消毒液で手や眼鏡を清め終え、特段乱れてもいない詰襟を正すと、夕立は「終わりましたか」と呟いた。
「おお、ピーちゃんだかビーちゃん……間近で見るとやっぱきんもいですね!」
「ほらビビリアピール」
「は?? どうでもいいんでその消毒液貸してくださいよ」
 かる~い足取りで続いた桜人とは異なり、神楽耶は頭を下げて。
「おやすみの邪魔なので余所でやりましょうね」
 本当にお疲れ様でした。 そう猟兵、それからUDC-Pを見た。

 やがて暗がりからとろりと焼ける光のもとへ向かう道すがら、いくつもの足音が混ざり合っては迎えることだろう。
 あれ、もう終わってた? 思ったよりも早く片付いた、そちらこそ。のやり取りは表と裏。両側で人知れずちいさな町の平穏を――ひいてははぐれものの願いを護り抜いた、お互いの仕事ぶりを称え合う言葉として。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『UDC-P対処マニュアル』

POW   :    UDC-Pの危険な難点に体力や気合、ユーベルコードで耐えながら対処法のヒントを探す

SPD   :    超高速演算や鋭い観察眼によって、UDC-Pへの特性を導き出す

WIZ   :    UDC-Pと出来得る限りのコミュニケーションを図り、情報を集積する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ここは。
 あぁ……つかまっちゃったんだ。殺される、んだ。
 ワタシたちはたくさんのひとを傷付けたんだ、それも仕方ない。
 でも、なんだかおいしい香りがする。
 これは。サトウの「甘い」?

 もぞり。 安寧の眠りから覚めたUDC-Pの視界に一番に映ったのは、いくつもの人間たちの足だろう。
 さくさくと歩みを進める者もいれば、覗き込む者もいた。その中に先刻同族が一斉に食べようとしていた人間を五体満足で見つけたとき、蟲は俄かに頭を上げて下げるかの動きを見せた。
 次に、――……眠りの前後で思い返すことでもあったろうか? 猟兵全員を見渡して、なにやら口を開け閉めしてみせる。
 暴れる様子はないがやはり言葉は喋れぬらしい。
 マニュアル作成用として組織が手配したとの近場の建物は、一般的な民家に見せかけ内へ入れば分厚い防音壁に囲われている。殺風景な白。その中でも家庭的という意味で異彩を放つのがキッチンだ。
 普段は化物の血でも洗い流しているのやもしれないが、本日は別の意味でも活躍してくれる筈。
 テーブルの上には黒いペンと紙の束。

【UDC-P対処マニュアル】
・扱う上で注意すべき問題があれば、報告してください
・落ち着かせる際に役立つものがあれば、報告してください
 …………
 …………
・その他所感、連絡事項をどうぞ
イディ・ナシュ
【姉妹】

お皿を一枚お借りして
プレーンと小豆を一つずつ
まだ温かいドーナツを置いてキディに渡しましょう
キディのおやつはこっちですよと
紙袋はふわふわツインテールの上に
Pちゃん様…と仮にお呼びすれば良いのでしょうか
お疲れ様でした
これから美味しいものと楽しいものが見つけられますように

…情が移り過ぎてしまってもよくありませんので
キディのボディランゲージを見守りつつに
後は、マニュアルの作成なりと
繊細でいらっしゃるように見受けられます、優しく接してくださいね
そんなお願いを調書の最後に付け足して

記念撮影…面白みのある顔はできませんが
せめて姿勢だけでも楽しく見えるようにいたしましょう
…だぶぴ?というのでしたか?


キディ・ナシュ
【姉妹】

受け取ったお皿に
わたしが持ってたおねえちゃん作のクッキーとチョコもつけて
Pちゃんさんに差し出します
こわくないですよー
あっ そこにお菓子を置かれてしまっては取れないのです
そして動けない…とおかしな姿勢でぷるぷる震え

言葉が話せなくとも通じていますでしょうか?
お菓子食べつつ身振り手振りも交えて
なるべく意思疎通を試みましょう
甘いもの好きに悪い方はいませんから
あなたもきっと、良い子さんですね!

マニュアルの作成は
そうですね、お写真を撮ってつけておきましょうと
言い訳しつつの、新しいお友達ができましたの記念撮影です
近くにいた猟兵さんやニュイさんも
よろしければどーぞと巻き込んで

パシャリと一枚
はいチーズ!




 一枚の白い皿の上、ころころりきつね色のボールが転がった。
 となりにはまぁるい穴開きドーナツ。塗された砂糖がほろっと崩れ、一片の雪を積もらせる。その実まだあたたかい。手のうち広がる平和な景色にイディは淡く微笑みを浮かべて。
「――はい、お待たせしました」
「遅いですよ、おねえちゃ……あっあっうそです、ご用意ありがとうございます!」
 えへんと胸を張り先刻の意趣返しを口にしようとしたキディは、手を伸ばした手前スッと引かれた皿につんのめりかけて。しょげしょげ両手で受け取っていると、頭の上にほのかな重みを感じた。
「キディのおやつはこっちですよ」
「? はっ」
 それはドーナツの入った紙袋!
 そこにお菓子を置かれてしまっては取れないッ――! 片手に皿、片手にイディのお手製クッキーとチョコを摘まみ座りかけの俯き中腰というおかしな体勢でふるふる震えるキディの足元で、UDC-Pはうねっと不思議そう。
 なにしてるの? と言いたくもなろう。はいはいそっちは自分で取りなさいとばかり、義妹の手からクッキーらの分ほんのり重みの増した皿をすっと取り上げイディはローテーブルへと置く。
「さぁPちゃん様……と、仮にお呼びすれば良いのでしょうか」
 お疲れ様でした。
 指先で押してもうすこしだけ、待ち侘びる異形へ寄せる。ソファのふかりとしたクッションに凭れることもなく折り目正しくイディが座る横では、ばふっ! とキディが凭れ込む。ああ、落とすかと思ったじゃないですかぁ! きゃんきゃん吠えるも束の間、救出した紙袋を傍らに、前のめりに両手をついて蟲を覗くのだ。
「たべていいですよー、こわくないですよー」
「キディは巨大ドラゴンから鼻先をくっつけられたとき、怖くはありませんか?」
「むむむっ」
 もちろん怖くなんてと答えるキディであったが、ドラゴンさんなんかじゃないですし……とヤケ半分ボール状のドーナツをまるまる頬張る様はすこしだけ怪獣に似ていた、とか。
 やがて少女人形を真似るみたいに、UDC-Pもボールをつついて牙を立てる。
 勝手にころころ回転してしまうそれが皿の上を転がるのに、笑ってキディのてのひらが押し返した。
「その調子です! 手があったなら半分こにすると食べやすくなるのですが、手……出てきたりしませんか?」
 つんつん、つん。
 ふにっとした腹喰蟲ボディは棒状のまま小刻みに震えるのみ。
 でも、欠片まで追いかける様であったり完食後すぐに次のひとつへ向かう様であったり。なんとなく夢中でおいしそうに食べていることは分かるもの、おしゃべりが出来なくとも、心で通い合っているような気がした。
「ふふふ。甘いもの好きに悪い方はいませんから。あなたもきっと、良い子さんですね!」
 おねえちゃんの見立てはいつもすてき。
 にーっこり笑いかけるキディもまたぱくり、イディが持ち帰ってくれたドーナツたちをおいしく食べ進めてゆく。

 甘い香り、
 似ている。などという次元ではないが、近しいものは感じる。
 いつしか差し入れの紅茶片手、マニュアルとペンを手にひとりと一匹を眺める姿勢になっていたイディは、もっもっ吸い込んで揺れるUDC-Pの様子にそんなことを思う。
「それにしても、よく食べますね」
 どちらが? きっと、どちらも。
 ――これから美味しいものと楽しいものが見つけられますように。
 ふっと頬を緩めているとキディが見上げてきて「あふぇふぁふぇんお!」などとなにやら紙袋を庇う仕草をするので、代わりにカップ一杯のアプリコットティーを差し出してやるのだった。
 甘やかな幸せをとろりと溶かして煮詰めたようなそれは、きっとドーナツにもよく合うだろう。
「まだ熱いですよ」
「!」
 途端に瞳を輝かせ両手で受け取るキディと、水面を覗き込むUDC-P。
 のめる? のめ……あつい! でもおいしい! んべっと舌を出す義妹にあたふた跳ねまわる蟲の絵面は――、なるほど、情が移りすぎてしまいそうで別の意味でよろしくないかも?
 繊細でいらっしゃるように見受けられます、優しく接してくださいね。
 ――そんな願い事をイディは、はらはら捲っていった紙束の最後へと記す一文とした。
「さて、食べた後はお片付けしておきませんと。Pちゃん様もよろしいですか? お掃除も含めての食事です」
 そっとペンを寝かせてふたりのもとへ戻るイディが膝を折ると――しゅばっ!
 振り返るキディの目がとっても大きく!? いえいえ、目元に構えているのはガジェットカメラ。ワンタッチで大切な思い出を形にできる優れもの。ボタンを押すと、じじーっと吐き出される写真を手に「せっかくですもん」笑うのだ。
「お片付けはあと五分だけ待ってください、マニュアル用のお写真撮影のお時間ですよ!」
「写真……、ですか。面白みのある顔はできませんが」
 よろしければみなさんもーっとフレンドリーさ全開で周囲へ呼び掛けるキディを後目に、頬を揉み解すイディはぽてんと転がるUDC-Pを見下ろす。この子が安全な存在と思ってもらえるような、和気藹々穏やかな一枚――?
 すっかりなかよしさんですねぇとほにゃほにゃやってきたニュイ・ミヴ(新約・f02077)が伸ばす触腕で撮影係も買って出て、スーパー自撮りではいチーズ!
「はっ」
「あーっ! おねえちゃん目瞑ってるー!」

 ワン、ツー、からのテイクスリー。
 瞳を細めやんわりダブルピースをこなすイディ、満面笑顔で両拳を握るキディの肩の高さまで跳びあがってはしゃぐUDC-Pもきっと、主旨を理解していたのだろう。
 お仕事用とは口実で……、
 新しいおともだちが出来ました、の素敵な記念だということ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

藤代・夏夜
この子の好みも映像資料も要るわね
念力で浮かせたスマホで映像撮らせてもらいましょ
商店街でしこたま買った物はババーンと出すわ♪
味の系統毎に別々のお皿に載せてUDC-Pちゃんの前へ

はいどうぞ
食べたいなって思ったやつを好きなだけ食べて大丈夫よ
その方が私も嬉しいの♪

沢山あるから良かったらニュイちゃん(f02077)もどうぞ♪
私は海藻サラダと野菜天丼から行こうかしら!
野菜系を最初に食べると美容にいいって聞いたのよ
でもメンチカツやコロッケもすぐ食べちゃうのよね
だって美味しいんだものしょうがないわ
それに美味しい物は幸せのもと
食べたくなったら食べればいいのよ

折角のご縁だし
ケーキに載ってた大きな苺はPちゃんへ




「考えることは同じ、ってやつね♪」
 選び抜かれたのは某アイドルキャラクターと同じポーズ――ちゃっかりと決め顔で記念撮影に収まった夏夜も片手にスマホをふりふり。
 映像資料を残しておこうと起動したカメラモード、ちいさな長方形の中ではUDC-Pがうごごと次のごちそうへ向かっていっている。交互に見つめるかの伸縮をするニュイは「夏夜さん、撮られ慣れていらっしゃったのです……」とふるり。
 歩む夏夜が不意にひょいっと宙へ投げ出したスマホを拾い上げようと触腕がばたつくも、それは重力に逆らって悠々と宙を漂い始めた。ゆるーく滑りながらもばっちりと三百六十度から、蟲を映し続けているのだ。
「!? これは――」
 念力。
「対季節イベント攻略用・スマホ数台を同時操作するための業……、かしら」
 なんて冗談、と嘘か真かつわものの笑いをみせた夏夜はフリーになった手にがっさり抱え上げる戦利品たちをテーブルの上へババーン!!
 次々皿へと盛ってゆく。メンチカツとコロッケは交互に、何故だかファミリーパックな海藻サラダの半分を彩りとして添えれば、杏仁豆腐には添えられたベリーソースを垂らしてひと混ぜ。
「はい、どうぞ。食べたいなって思ったやつを好きなだけ食べて大丈夫よ」
 その方が私も嬉しいの♪ そんなあたたかな言葉とともに、やがて厳選プレートはUDC-Pのもとへ。
 沢山あるからよかったらどうぞとお誘いを受けたニュイもびょびょと波打ってお隣へ失礼するは直ぐ。
「ごちそうさまです! えっとね、ニュイもお飲み物をお持ちしたのですよ」
「あら本当? 気が利くわねニュイちゃん、ぽかぽかだわー」
 といっても、ティーバッグから淹れてくれたのは他の猟兵なのだが――甘酸っぱい香のローズヒップティーが湯気を上げている。
 そんな湯気とも似た動き。左右にうねうねして「いいんです?」みたいな動きをしていた蟲はそそそーっと白の上へ乗っかれば、端っこのコロッケから食べようとして――見上げた先の夏夜が両手を合わせいただきますと海藻サラダへ箸を伸ばしたのを見て止まった。
 ぴたり。 目はないけれど、目が合う気配?
「――ん? あは、そうそう。野菜系を最初に食べると美容にいいらしいから」
 UDC-Pちゃんだってそのつやつやお肌、大事にしなきゃねと摘まんだわかめを差し出してあげる夏夜に、ぴょいんと飛びつく蟲なのだった。

 もっとも、メンチカツもコロッケもすぐに食べてしまうのだけれど。
「だって美味しいんだもの……」
 本当に誰も早送りボタンを押していない?
 そう、押していなくたって。米粒ひとつ残さぬ野菜天丼の容器は眩しいほど。箸を片手なにやら物憂げにすら見える青年の呟き通り、綺麗に平らげられた皿の上! UDC-Pも実においしそうに欠片まで吸い込んでおり、ニュイはといえばほえーと眺めていた。
「きもちのいい食べっぷり、というやつです……! お茶のおかわりはご入用でしょうか? むしろ食べ物のおかわりの買いだしに!?」
「ありがと、大丈夫よ」
 むんっとしてくるニュイへからから笑った夏夜はそっと箸を揃えて置くと、次に金色のフォークを手にした。
 また上を向く蟲。フォークに刺されその口元へと近付いてくるのは、ショートケーキのてっぺんに輝く宝石こと大きな苺ひとつぶ。
 食べ物が美味しいということ。けれどそれは、決して罪ではなくって。
「――ね、UDC-Pちゃん。美味しい物は幸せのもと。食べたくなったら食べればいいのよ、ちゃあんと言伝しておくから、これからは好きなものをね?」
 これは"どちら"かしら。 よく手入れされた髪をさらり、斜めに垂らし首を傾げてみせる夏夜へ。
 縦に折れるUDC-Pが返す答えといえば、もちろん。とってもだいすきのいただきます、だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
戦いは終わった。ご飯の時間だねえ
先ほど買った、20個ほどコロッケが入った袋を手に
P君にもわけてあげる

あのねレディ
キミが虫がキライなのはよく知っているけれど
P君はひとにとって無害なヤツなんだ。だからいじめちゃダメ
一応言っとくよ

一緒に食べるご飯はよりおいしいんだって
私に教えてくれたひとがいるんだ、多分そのへんに
だからキミも一緒に食べようか

《動物と話す》ことができる力は、P君にも効くのかな……
効きそうなら聞いてみたいな
コロッケはスキかい?って
あ、話せたら報告ってした方がいいのかい?

こんなにコロッケがあるんだ
私も食べるけど、他にも欲しそうなひとがいれば勿論分けてあげる
一緒に食べるご飯はおいしいからね


エンジ・カラカ
賢い君、賢い君、コイツ何?
アァ……コイツが、なるほどなァ……。
落ち着かせる方法ー。
コレは賢いカラいつも落ち着いてる。
賢い君は知ってるカ?
アァ……うんうん、そうしよう。
それがイイ。

さっき、ジャーキーをたーっくさん買った。買った。
コレの大好物。豪華なご飯。
あげる。美味しいヨー。

黒と白が食べた。
いままでドコに行ってたンだ?
ダメダメ、コレはコイツの。
黒と白のはあとで
美味いカ?

飲み物もたーっくさんもらったンだ。
でもあげたカラ、コレのをあげよう。
それから紙に書けばイイ?

ジャーキーをあげた。
黒と白がジャーキーを横取りした。
ジュースもあげた
黒と白がつついて遊んでいた。

コレでイイ?
おーけー。それじゃあ遊ぼうカ。




 ぴーすぴーす。
 ぬるりと入り込み同様に写真の中に収まっていたエンジは、ふわんと近付いてくるイイ香りに顔を上げるのも早い。およそUDC-P並の反応速度で、両手いっぱいビニール袋を抱えなんとかドアを開けようとするエドガーを見遣った。
「ワァ。エドガーがコロッケだー」
「戦いも終わって、ご飯の時間だからね――っとと、良ければ手を貸しておくれよ」
 頼み込む声に、重いドアを引っ張ってあげたエンジもまたお食事中であった。
 その対象も鮮血滴る子ヤギ、ではなく駄菓子のジャーキーとなれば微笑ましいもの。エンジにとっては豪華なご飯であるそれを、賢い君と相談した結果、UDC-Pと分けっこしていたところなのだ。
「知ってるカ? コイツはナンでも食べるンだ」
「知ってるよ、私もいっしょに食事したくて来たんだもの」
 よいせとエンジの隣へ腰掛けるエドガーが袋からコロッケたちを取り出せば、UDC-Pは興味を示してぴこりと跳ねる。
 そして、一拍遅れ跳ねたものがもうふたつ。
 それは宙をひゅんっと滑って、ほくほくコロッケへ喰らいつこうとして――エンジの手にぎゅむっと摘まみ上げられた。黒と白、仔竜の二匹。
「ダーメ」
 さっきコレのジャーキー食べたろう?
 そうとも、先刻からエンジがUDC-Pへ差し出すジャーキーを横から掠め取っていた主に負けず劣らずの悪戯っ子たち! じたばたするそれらは一体戦闘中どこに居たのか。出てきたとき口元に肉の欠片がついていたから、案外どこかのお店で可愛がられていた可能性も無きにしも非ず。
 黒と白はあとで、と告げられたにも関わらずたべたいたべたいと鳴く二匹へとエドガーは笑ってコロッケの二つ四つを取り分けてあげた。
「イイの?」
「いいよ。キミだって私に飲み物をくれただろう? それにこのお金はあれさ、国庫から出ているからね!」
「コッコ? へえー、エドガーはトリのトモダチが多いねェ」
「うんうん、これからもっと増える予定だとも!」
 絶妙に通じ合っていないのだがお互いあまり細かいことは気にしない性分であった。国庫からも出てはいない。
 一緒に食べるご飯は美味しい――この場にいる誰かさんが教えてくれた通り。だから気にしないでたんとお食べよ、との言葉さえ通じていればそれでいいのだ。
「P君も一緒にね。わけてあげる。牛肉のものの他にササミウメポテトっていうのもオススメだと入れてもらったんだ、どうかなぁ?」
「おいしいおいしい、甘くないところがコレ好み」
 ……野菜に言及しない様は、細切れにされたピーマンならば気付かないこどものそれ?
 兎にも角にも、やがてエンジと仔竜との取り合いに発展したことは言うまでもなく。
 UDC-Pもありがたくごちそうしてもらい、ご機嫌にうねうね躍ったのだった。味の違いは分かるのだろうか? ジャーキー、コロッケ数種、それぞれ順に食べているあたりその節もある。

 夜へと向かえど天気はいい。ご飯はおいしいし、誰も彼もが幸せそうでなにより。
 エドガーが気になることといえば、先ほどから疼く左手くらい。
 虫嫌いのおひめさまがぷくーっと膨れるみたいに主導権を奪おうとするので、時たまフォークを置いて逆の手で撫でつけ宥める必要があるのだ。こらこら、見てごらんよ。分かるだろう?
(「P君はひとにとって無害なヤツなんだ。だからいじめちゃダメ」)
 しゅるる、隙あらば伸びんとす茨も白手袋の下へ押し込み直す。
 何度かそんなやり取りを繰り返したところで漸く落ち着いてくれたことにほっとして――顔を上げたら、物言いたげに見上げるUDC-Pがそこにいて。
「うん?」
 こてり。首を傾ければ同じ方向に折れ曲がる蟲。
 おかわり? 食べやすいようひとつを半分に割って渡してやると、主の帰りを喜ぶ犬よろしくゆっくり転がって腹側を見せる様が見て取れた。動物みたいに喋ってはくれないものの。
「――ふふ! 今のは分かりやすい、コロッケがスキなんだね?」
「コレと気が合うかもしれないなァ……ジュースは?」
 先の自販機からの贈り物、エンジが紙皿へ出した常温トマトジュースを蟲へ寄せたのは、何も野菜嫌いなだけではない。多分。
 絵面的には血肉を啜る腹喰蟲。とはいえ横からつっついて遊ぶ黒と白に負けぬようすぐに吸い上げてゆく様からして、どうやら気に入ってくれたらしい。
 本当に、人間の食べ物そのものに興味津々と見える。
「よしよし、うんと大きくおなりよ。私の歩いてきた世界の伝承のひとつにはねぇ、空にも届くサンドワームの物語があって――……」
 キミももっと強く逞しくなれるに違いないと説くかのエドガーのおはなしが作り物であれ本物であれ、UDC-Pは始まる長話に喜んで付き合うのだろう。
 エンジはといえば腹も膨れて眠りこけ始める竜たちをその傍らへ置いたまま、卓上の紙束を摘まみ上げていて。
(「アァ……たしかナニか書くんだっけ」)
 なんだっけ。
 なんだろう?
 賢い君に尋ねてみても分からないから、きゅきゅっと。ジャーキーとジュースをあげたこと、黒白が横取りしたり遊んだりしていたことだけ箇条書きで記してぺーいとペンを転がすのだった。
 後々この走り書きが「ヒト以外との協調性もあるんだな……?」「協調していると言えるのか……?」「そも黒と白とは……?」などとUDC組織をざわつかせたのはまた別の話。
 今は、これでおーけーとにんまり笑い。
「それじゃあ遊ぼうカ」
 戻った先の輪、未だジェスチャー交え話し続けるエドガーをも巻き込んで、次なる退屈しのぎに興じるまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
🌸宵戯

やぁ気分はどう?お腹減った?
喋れないんだね
読心術はできないかな
動物とは多少話せるけど虫だからわかんないか
いーっぱいご飯を用意したから
おいしいかどうか感想があった方が嬉しいじゃない?
食が進むならそれが答えか
買ったものを目の前に並べてあげて
手ずから食べさせてあげる
食べてくれたらいい食べっぷりだね良い子だねって構って
ほんと可愛い
ふふ

でもそろそろ龍が膨れてる頃
しょうがないなぁ
今俺様を齧ってもいいよ?
さっきのご褒美だよ
でもバレたら拙いからこっそりね
誰にも気付かれなかったらさ
帰ったら好きなだけ齧らせてあげる

中々来ないから油断してたら―
宵ちゃんの指噛んで声を殺す
全くもう悪い子なんだから
ふふ
おいしいよ


誘名・櫻宵
🌸宵戯

ふぅん
このこがねぇ…
蠢く生物を口元隠しながら見つめる
臓物みたい
人の食べ物が好きなのかしら
身を呈して守ったかいがあったじゃないの
そうね
じゃあ私はチョコレエトをあげるわ
私が作ったの
…うねうねよく食べるわね
…まぁ
愛嬌があるといえばあるのかしら

楽しげに戯れる神をジト目でみる
可愛い?これが!?
私の方が可愛いのに
ふぅん……そう
私に構うよりこれに構う方が楽しいんだ?
気に食わないわ!

意外と人目を気にするのね
後ろからロキにおぶさるようにくっついて
着物の袖で隠し
首筋に歯をたて齧る
声は出さないで?
気づかれてはいけないのでしょ
口に指を突っ込んで
溢れたあかを啜り飲む

噛まれた手に血が滲む
痛いわ
私は美味しいかしら?




「ふぅん。このこがねぇ……」
 目の前には一回りは大きくなったUDC-P。
 座り込んでの前屈みで「気分はどう?」笑いかけるロキに比べると、その背に手を置いて恐る恐るといった姿勢で覗く櫻宵はやはり及び腰と言えよう。だって、蟲なのだ。やはり動く臓物?
「……本当、飛び掛かってはこないわね。人の食べ物が好きみたいだけど」
「まだお腹減ってる? 喋れないって不便だねぇ」
 口元にもう片方の手を添えるのは、あまり辛辣な言葉をかけないようにと櫻宵なりの配慮かもしれない。……やっぱり気持ち悪いだけかも。誕生以来人間を食べていないからか、先ほどの群れと異なり悪臭がしないことだけは幸いか。
 むしろこの場の誰かに食べさせてもらったらしい、香ばしい香り。
「ふふ、動物とはまた勝手が違うみたい。いーっぱいご飯を用意したからさ、じゃあおいしいならうんうんってしてくれたりする?」
 おいしいときは感想を貰えたらもっと嬉しいじゃない。
 こう、と手本として頷いてみせるロキを見上げるように身体をくねらせたUDC-Pは、口を開けた。
 心を読むにしても、目線はおろか表情がない手前身体言語だけで読み取る他ないが――なんとなーく、なんとなくだが分からないこともない。肯定は縦、否定は横、その程度の意思表示は、人々の暮らしを眺める中で身につけていたのだろう。
 そしてテーブルへ容器に入った唐揚げを置いてあげると、一度ふたりの方にぺたんと伏せたのち齧り始めた。
「……ロキ、たのしい?」
「楽しいよ? 見てこの食べっぷり! ほぉら、こっちこっちー」
「そ。身を呈して守ったかいがあったじゃないの」
 ロキがひとつ手に取って持ち上げるとつられるように上を向いた蟲。その口元に肉を寄せればかじかじ齧るという、親鳥が子にご飯を与えるかの光景だ。頬に手を当てて眺める櫻宵の唇にもなんとも淡い笑みが滲む。ロキの無邪気さだとか、大半はそちらに向けて。
 ――そうね、と。呟く櫻宵が、ごそりと品の良い懐紙から取り出すのは柔らかな桜色をした花の一輪。
「これはチョコレエトって言うの。あげるわ。私が作ったの」
「わぁお、塩辛いのと甘いのの共演だ」
「巷じゃチョコレエトチップスなんてのも流行ってるのよ? きっと合うわ」
「さっすが宵ちゃん詳しいんだー」
 そっ、と。
 牙の並ぶ口元に寄せようとして、いざ寄られたらちょっとぴゃっと引いてしまう龍の姿は、先ほど同じ手でぶちぶち引き千切っていた姿と別人のよう! ロキはあははと声に出して笑って、その指から花を抜き取ると蟲のもとへ代わりに運んだ。
「どう?」
「こういったお客への提供は多分初めてだけど、 」
 ……うねうね食べている。
 また少し大きくなって見えるのも、きっと気のせいではないのだろう。
 そうしてひとひらとて残さず呑み込むと、蟲はこくりと縦に頷いたのだった。
「……まぁ。愛嬌があるといえばあるのかしら」
「いい食べっぷりだね良い子だね!」
 ほんと可愛い、とUDC-Pを指先でつっつくロキ。ぷにんっ、つんっ。ぷにんっ、つん。
 和気藹々戯れるものだから、櫻宵の心中にはざわりと波立つものがあって。

「――私の方が可愛いのに」

 ぽそり。 ジト目で斜め後ろからロキの横顔を見るのだ。聴こえているだろうにまだまだこっちを向きやしない。私に構うより、これに構う方が楽しいんだ――気に食わないわ!
 薄い背をつい爪で引っ掻きかけた、とき。
 とうとう堪え切れないといった様子でその背がちいさく揺れた。もう、しょうがないなぁ宵ちゃんはとくつくつ笑いを伴って。膝立ちをしていた櫻宵の肩にはするりと腕が回され、前へ引き寄せられる。
 跳ねた黒髪が頬を撫でる。瞬きの間に、隣り合うロキのかんばせは吐息が触れるほど近く。
「今俺様を齧ってもいいよ? さっきのご褒美。バレたら拙いからこっそり……ね」
「……。……意外と人目を気にするのね」
 誰にも気付かれなかったらさ、帰ったら好きなだけ齧らせてあげる。 絡む眼差し、囀るロキの声こそが甘美な蜜のよう。瞳を細めた櫻宵は沢山ぶつけたかった文句を紡ぐ代わり、青年へおぶさるみたいに両腕を絡めて――胸の前に抱き込むと、着物の袖で申し訳程度隠した陰で褐色の首筋に歯を立てた。
 埋める。
 ぷつ、と、浮かぶ上質の血珠を舌先で転がしながら。より深くへ押し付ける。
「――、」
「声は出さないで」
 吐息を零したロキの半開きな唇を彼が先に蟲へしたみたいに一度二度、指先でつっつくと、奥に入り込んで声を奪う櫻宵。押さえ付けられて痺れる舌の不自由も、別段嫌いではなかった――ロキは、有無を言わさぬ指の腹をひと舐めしたのちその柔肌へ噛みつき返して。
 んふふ、なんてくぐもった笑いを蕩けさせた。
(「まったくもう、悪い子なんだから」)
 溢れた赤を一心に啜る愛し子の絹に似た髪を撫でつける片手には、いつくしみなどという目に見えぬ言葉すら似合っていたろう。
 ――影が離れる。
 密約じみたやり取りは、UDC-Pが塩気と甘味の出会いに夢中になっている束の間にうち終わった。
 頭を上げる蟲以上、未だ物欲しげな眼差しを傍らへ送る櫻宵は、己が指に微かに滲む血を見つめ舌を這わせる。自分の味は自分じゃいまいち分からないけれど。
「今のところはごちそうさま。ねぇロキ、私は美味しかったかしら?」
「ふふ。 おいしいよ」
 当たり前じゃない、微か穴の開いた首筋に手を触れさも愉しげにロキが破顔する。
 知っての通り。お互いがお互いの大好物、なのだもの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルカ・ウェンズ
(POWで解決)
食べ物は他の猟兵から貰ってたし私はIQ300以上の天才UDC-Pかもしれないから【読心術】を使って、いろいろ聞いてみないと。しまった私はパープーだからIQ300以上かどうか調べられないわ!UDCの職員さんに調べてもらわないと。

とりあえず読心術と、あいうえおボードを使うわ。私が手にしているのは鉄剣だど説明して敵がこれで攻撃してきたらどう反撃するか聞いて。
それに鉄を食べることができるかや好きな食べ物も聞いてみないと。

他にも、どのぐらいの速さで成長するのかや最大でどのくらいの大きさになるかも聞いて、どれぐらいジャンプできるか、どれぐらいの速さで走るか私といっしょにやってもらうわよ。




 いっぱいの食べ物を貰ったのだろう。
 ぷくぷく膨らんだUDC-Pは幸せそうに転がっていたが、そこにぬうと影を落とす女がいた。
「そう、割と早く育つというか大きくなるのね。加齢はあるのか……分からないことは多いけれど」
 テーブルの上にぱさりと紙束を置く音。
 見下ろす赤がキラリ。
「――ごはんの後には何が必要か、知ってる?」
 今日会ったのも何かの縁。餞別として教えてあげるわ。
 そうして腕を組むルカが逆光背負う様は、鞭持つスパルタ教官に見えたとかなんとか?

 やることは簡単だ。
 手にした鞭もとい刀がこう、縦に振られる。すると生命の危機を感じた蟲が跳ね転がる。ルカは微笑む。ね、簡単な食後の運動でしょう? とばかり。
「能力測定とも言うかしら。IQ300以上の天才UDC-Pかもしれないから、あなたの可能性を調べさせてもらいたいのよ」
 ちなみにこれは鉄剣なので大丈夫、あなたが鉄を食べることができるならごはんの延長みたいなものと。
 しゅっ! と刃物を振り回すルカは逆の手に取り出したあいうえおボードをフリスビーよろしく投げると、「は」「い」のあたりに跳ねるようにひゅんひゅん誘導する。
 ここは防音室。事実、UDC-Pの戦闘能力というものは猟兵にしか測定できない良い資料となるだろう。
 ……すこし手荒くはある、が。
「ほら、誰かに攻撃されたときはどう反撃すればいいの? 駄目よ野生を失っちゃ! それじゃサバンナで生きていけないわ!」
 ――熱もやたら入っているが。
 先の猟兵とのやり取りで身体言語で気持ちを示すことは心得たらしきUDC-Pは、そんな彼女の熱意を汲んだのだろう、頷くかの素振りを見せると鉄の先にびよよよんと齧りついて応戦を示す。
 はぐれものとて一応はオブリビオンの端くれか。
 人肉を齧り取るかの軽さで、鉄はもぎ取られた。が――直後ぺいっと吐き出されるあたり、少なくともこの個体にとって食べたいものではないらしい。
「ふむふむ。鉄は食べられない、っと……好きな食べ物欄はもうやたら埋まってるみたいだし……」
 きゅきゅっ。ペンを走らせたルカはいつの間に取り出したのか眼鏡を着用しそれらしさを醸し出している。マニュアルの束を捲ると、それを再び卓上へ置いて――にこり。
「じゃあ次は走ってみる? 大事よね、逃げ足について」
 手を叩いて呼び出した機械の虫たちをうぞうぞけしかけながら、言うのだ。

 どのくらいの早さで成長するか、どのくらいまで大きくなれるか。
 どのくらいジャンプできるか、どのくらい速く走ることができるか――……。
 問答はこうして果たされ、白紙だったそこに黒の割合が多くなったことに満足げに頷くルカと。よく分からないうちに引き摺り回され彼女の虫らと親睦すら深めてしまったUDC-Pと。
 やがて連絡事項欄にでかでか値を書き込もうとして、
「――しまった! 私パープーだからIQ300以上がどんなもんか調べられないじゃない!」
 そちらはUDC職員に託すしか。だんっと卓上をぐーで殴るルカにびくぅっと一際高く跳ねるUDC-P。恐る恐ると女の様子を窺いに這い寄るが、いや、本当の一番はその直後。
 じゃあもうちょっと"私にしか"調べられないことを、見ておかなきゃね?
 と、計測器具(物理)片手のルカに地獄のおかわりを言い渡された瞬間に違いない。

 しばらく後。
 そこには保護時よりもう幾分スリムになった蟲が転がっていたのだった…………。
 おめでとう! これでまたぺこぺこ気分でおいしいごはんが食べられるぞ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
目…は結局分からず仕舞い故
漠然と顔らしき箇所と見合わせ
怯えさせぬよう、背を屈める

買っておいた「けーき」を出しておく
好きなものを選ぶといいが
どれか残しておいてくれ
喉(?)に詰まらせぬよう
その間に茶でも淹れてこよう

ちらちらと観察しながら
いつものように茶葉を蒸らし配膳
ぴーの分は杯より飲みやすかろうと平たい皿へ
蜂蜜を落とした苺の茶
…もっと蜂蜜が要るか聞いてみるべきか
甘いものばかりでは歯を痛めるだろうか
本能のままに肉を喰らわぬ蟲の
食事の様子をしげしげ眺める

あの人食い蟲どもは
「ぴー」にとっては同胞でもあった筈だが
…恨まぬのか、おまえは
ぽつりと問い掛けて

報告…うむ
「実に良い子である」と最後に書き加えておこう


アルバ・アルフライラ
先ずはじぃっとUDC-Pを観察
…良し、いきなり噛み付いては来ぬな

言葉も喋られぬとなると、如何にして交流を図るべきか
此処は読心術を試みて…流石に蟲には無茶が過ぎる
否、私ほどの賢者ともなれば不可能なぞ有り得ぬ
不可能と考えるのは、私が彼奴を知らぬ故
他の猟兵と交流する対象の挙動を一挙手一投足逃さぬよう
警戒心を与えぬ事にのみ注意しつつ観察を続ける
この動作の際は嫌がっている
この動作の際は喜んでいる…等々
簡単な感情であれば、読み取る事も出来るのではなかろうか
確り記録を残しておかねばなるまい

彼奴への贈り物も忘れぬ内に
お近付きの印というやつだ
ケーキやシュークリームを置いて
ほれ、好きな物を選ぶが良い
一緒に食べよう




 たくさん食べてたくさん動いてのUDC-Pのことを、腰掛けたソファからじぃっ……と眺め続けている者がいた。
 アルバである。
 如何な識者であれ凡そ読心術の及ばぬであろう存在を前に、その一挙手一投足から感情というものを読み取ろうと努め始めてもう何分になるか。跳ねる、折れる、伏す、転がる――様々な動作で猟兵への感謝や友好を示しているというのは確かだと見ていいだろう。
 正しき理解は不可能を可能とする。してみせると、賢者はそう思うのだ。
「……良し。いきなり噛み付いては来ぬな」
 見た目上は譲歩できぬ気色悪さをしているとて、それはそれ。先刻のぴょんぴょこ襲ってくる連中と違うと思えばまず零れるのは安堵の息で。そんな男の後ろ姿を見遣るジャハルはといえば、熱心なものだ、と感心していた。
(「知れていたことか」)
 アルバはこれと決めた物事に真摯だ。根を詰め過ぎる様を案じる此方の身にも、なってほしいときがあるように。
 ローテーブルを回り込み、UDC-Pのもとへ歩み寄るジャハル。目、の有無は結局分からずじまいであるが、怯えさせぬべく。漠然とそれらしき箇所と目線を合わせるかの如く背を屈めて。
「……少し痩せたか? それとも消化が早いのか。ともかく、けーきを食うだろう」
 好きなものを選ぶといい。ただ、どれか残しておいてくれと片手を階段代わり卓上へ蟲を招く。もはや警戒の素振りなく、のそのそ斜面を上ったUDC-Pの視界は絶景であったに違いない。ショーケース越しではない、キラキラなケーキたちがずらり並んでいたのだから!
 モンブラン! ミルクレープ、それともティラミス?
 ケーキたちの合間をにょろにょろ動き回る姿を見てから、さて、というように膝を叩くとジャハルは茶の用意に移ることにして立ち上がった。
「何を選んだか聞いておいてくれ。師父」

「無茶を言うでないわ。見ておく分には任されておくが」
 この動作は、嫌がっている。
 この動作なら、喜んでいる。
 ああ、手に取るかのように分かる。蟲の今のはしゃぎっぷりも同様に喜びの意思表示なのだろう――弟子の方へは声だけ飛ばしマニュアルへペンを走らせていたアルバは得心すると、己の優秀さにふふんとひとり頷くなどしていた。
 ここへ至るまで従者に持たせていたシュークリームも大好評!
 直ぐにでもふかふかの中へ飛び込まんとす蟲を、最早癖か「行儀がなっていないぞ」と幼子へするみたく遮っていたところ、背後からすっと差し出された取り皿はさすがジャハルといえようか。よく見ている。
「うむ」
「茶が入った。先の店でともに売られていた葉だ」
「うむうむ」
 一層満足げ、アルバの手元から順にかちゃりと卓上へ並べられるソーサーはふたり分。そして、ちいさな平たい皿がもうひとつ。
 どちらにも並々注がれた赤色の液体が揺れている。正体は血、なんてものよりずっと甘くやさしい……アルバ好みに蒸らされた口当たりの、蜂蜜入りストロベリーティー。
 ハニーポット片手にアルバの向かいに腰掛けたジャハルは、アルバの手により皿へ移されたティラミスの回りをぐるぐるするUDC-Pの傍へと平たい皿を寄せてやって。
「飲むといい」
 早くも牙並ぶ口を寄せるそれを見下ろしながら、アルバに続いて薫り高い春のひとくち目を味わった。
 いただきますと手を合わせる二人を真似たものか、ぺたむと伏せて起きてをした蟲。
 ティーカップよりも飲みやすかろうとの気遣いは成功し、皿へ半身を突っ込む彼によりたちまち眼下の水位も下がってゆく。どうやら好みらしい。甘いものばかりでは歯を痛めるやもしれない、が。
「……もっと蜂蜜は要るか?」
「要る」
(「師父に尋ねたのではないのだが……」)
 "世話"をする必要があるのは、なるほど一匹だけではないときた。  無論、歓迎するところであるのだけれど。
 何も言わず頷いたジャハルがとろりと金に煌めく雫を匙から垂らしてくれている間、アルバもまたフォークの先でフルーツタルトを崩しつつ蟲の食べっぷりを見ていた。
「なあ、ジジよ。此奴の食欲旺盛さ、誰かに似ていると思わんか?」
「――。――好物を前にした師父だろう」
「たわけ」
 私がこのような…………、このような?
 人間、永く共に暮らすと似てくるともいうが。食に関心の薄かった己が今やどうだ、思い当たる節が全くないわけでもなく、こほんと咳払いをしたアルバは二の句を諦めフォークを進めることに専心するのであった。
 ぷつんと弾ける頂点のブドウは、蜂蜜がなくとも斯様に甘い。

 本能のままに人肉を喰らわぬ蟲。
 奇怪なUDC-Pのためのマニュアルをひとつに抱え上げ、別の猟兵へ手渡しにすこしだけアルバが席を外したならば、ジャハルと蟲とは一対一。
 蟲は未だ食べるスピードを落としはしない。余程腹が減っていたのだろうか、あるだけ食べる、そうした習性であるのか。
「ぴーよ」
 ジャハルはぽつりと声を落として、
「……恨まぬのか、おまえは」
 人喰い蟲ども――この存在の、同胞を屠った爪で半ば無意識に机を鳴らす。
 かつりとちいさな音に、それとも声に。上を向いたUDC-Pは誰かに教わったのであろう、ゆるりと左右に身を捩じる。意図を読みかねて眉間に皺を刻むジャハルの頭の上にふぁさっと乗せられたのは薄っぺらい紙。
「構わん、むしろ助かったと言っているな。ほれジジ、お前も一筆書いておけ」
「師父。……ああ。そうしよう」
 傍らには取り忘れの一枚を回収しに戻ってきていたアルバが微笑んでいた。その視線はジャハル、そしてUDC-Pの中間を巡って――ペンを握る手が綴ってゆく文字に落ちる。
 どれどれ。
 実に良い子である?
「ふっ」
「どうした?」
 ええい何もない貸せ、と続いてゆく和やかなふたりのやり取りに、怯えではなくきっとリラックスして。UDC-Pは、笑う風にまた身を揺らすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠・イド
【土蜘蛛】
まったく、面倒くさい事この上ない、と欠伸を噛み殺す

いっそまとめて処分してしまえばこのような手間も省けたのに
本心ではそう思いながら、経過を見守る

敵性UDCであれば兵器の素材やら何やら利用価値もあるだろうが
戦力にもなりそうにないUDCの保護など、何の価値も見出だせない

知性だの自我だの、半端に保護欲を出してしまうとまた非難が集中しそうですね

呑気に近づくUDC-Pでも居れば、静かに殺気を放ち近付けさせない

図に乗るなよ、虫ケラ風情が
生かされてるだけ有り難いと思え

言葉にはせず、
何か問われても適当にはぐらかす


『本当に大切なものは何であるか』

あぁ、そうか
だから私にはUDC-Pの見分けがつかぬのだ


蜂月・玻璃也
【土蜘蛛】
耀子、イド!フランスパン買ってきたぞ!
ちょっとオマケしてもらっちゃったよ、へへっ
UDC-Pの様子はどうだ?

あ、こいつ俺がもらうはずだったコロッケを!
なあ、俺のコロッケは?なあ。

あ、はい。レポートね……ちょ、ちょっと待ってくれ。
えーっと……手帳、手帳……イド、この紙袋持ってて。
ふうん……よく見たら、愛嬌があるかもな。
子供の頃育ててたカブトムシの幼虫に似てるかもしれない。

イド、難しい顔してどうした?
ははあ。お前も耀子の買ってきたコロッケ、
はんぶんこして貰いたかったのか。
拗ねるな拗ねるな。代わりにそのフランスパン食べていいからさ。
見ろ、ほら!ブロックチーズがいっぱい入ってるんだぞ。


花剣・耀子
【土蜘蛛】
……ヒトを喰うものは嫌いなのだけれど。
その意志がないなら、邪険に扱う理由もないもの。

お惣菜を手に目線を、……目線……?
……まあ、立っていてもやりづらいもの。
傍に座って意思疎通を試みましょう。
室長、レポートお願いね。

ことばはわかる?
あたしたちは、きみがどんな性質の子かを知りに来たの。
……コロッケはすき?
はんぶんこしてあげましょう。
おいしいものはみんなで食べるとおいしいのよ。
室長の分はイドくんが買ってきてくれたのがあるでしょう。

イドくんの方から圧を感じても、危険がないなら咎めはしない。
多様性というものよ。

きみがヒトよりも、ごはんの方がおいしいと思う限りは、
あたしは味方だから安心して頂戴。




 ……ヒトを喰うものは嫌いなのだけれど。
 その意志がないなら、邪険に扱う理由もない。
 噛みついてくることなく眼前で蠢くUDC-Pを見下ろしながら、耀子はそう断じた。今は甘い香りがしている。誰かからケーキでも貰ったのだろう、生まれたての子犬程度のサイズのそれに目線を――……目線? とりあえず傍らに座り込むことで近付いて。
「ことばはわかる?」
 あたしたちは、きみがどんな性質の子かを知りに来たの。
 もう知ってるかしら、と続ければいくらも意思疎通が達者になったらしき蟲は縦揺れした。
「だったら話は早いわね。イドくん」
「は」
 名を呼ばれたイドは淹れたてのアッサムティーにミルクを垂らしたものを運び耀子の傍らへ侍ると、例のコロッケの包みを渡した。突如発生した戦いにより暫しお預けとなっていたが、これまた何故だかレンチンの機に恵まれたそれは出来立てのあたたかさ。
「ありがとう」
 それこそ犬と同じ、出来る限り主の役に役立とうとしてくるこの男。気が利く道具に口端へ笑みを乗せ応え、受け取った耀子はほくほくのコロッケをぱかりとふたつへ割った。
 渡す先はイド――ではなくて。軽い皿へ乗せ、UDC-Pの口元へ。
「……コロッケはすき? おいしいものはみんなで食べるとおいしいのよ」
 どこぞの王子様らにも同じことを教えられたのかもしれない。声の主を見上げて跳ねるUDC-Pは、すぐには食べようとせずまるで耀子が一口目を食べ始めるのを待つみたいだ。
 さくり。
 噛みしめた口内、たちまち旨味は広がって……。
「おいし」

「――耀子、イド! フランスパン買ってきたぞ!」

 耀子が頬を押さえたとき、ばぁんと扉を開けて玻璃也が戻ってくる。一件落着後にハッと思い出したかの如く夕暮れの町へ駆け出したこの男は、閉店間近のパン屋に息も絶え絶え辿り着き、色々とサービスしてもらったのだった。両手いっぱい零れそうな戦利品――あ、零れた。
 のを、着地すれすれイドの手が拾い上げる。
「脅し取る術でも覚えましたか」
「人聞き悪いこと言うな! ご・厚・意で・ちょっとオマケしてもらっちゃったんだ、へへっ」
 売れ残りを処分せず済んで店側としても大助かりだったのだろう。照れりと玻璃也が浮かべる笑みは次にUDC-Pへ向けられる。相変わらずグロい見目の生物に若干強張らせながらも、様子はどうだ? と部下へ尋ねる頃にはそれなりに引き締まって。
「この通りよ。大体何でもよく食べるわ」
「そう――あっ、こいつ俺がもらうはずだったコロッケを!」
 なあ、俺のコロッケは? なあー……と直後には今一度情けなさを帯びるのだから面白い。
 おつかれさま、買ってきてくれてありがとう、礼を口にするがコロッケを食べ進める手は止めない。耀子はそうした調子のまま、手に取った紙束で打ちひしがれる上司の肩を叩いた。
「室長の分はイドくんが買ってきてくれたのがあるでしょう。あたためてあげて、イドくん。室長はレポートもお願いね」
「ではコロッケはその書類を書き上げたごほうびということで」
「おまっ……お前ら、分かったよ。どっちにしろやるっての、ちょっと袋持ってて」
 どうしたって手厳しい部下たちだ!
 仕事用の手帳を引っ張り出さんとす玻璃也からパン入り紙袋を手渡されたイドは、すぐにそれを卓上へ置いた。すると新しいおいしいの気配に反応したのだろう、カラになった皿から振り返るUDC-Pがうねっと動き始める。
 ――まったく、面倒くさい事この上ない。
(「図に乗るなよ、虫ケラ風情が。生かされてるだけ有り難いと思え」)
 とは、イドが噛み殺した欠伸と本心。いっそまとめて処分してしまえばこのような手間も省けたというのに。
 これが敵性UDCであれば兵器の素材やら何やら利用価値もあるだろうが、戦力にもなりそうにない、何の価値も見出せぬこの矮小な生命へ手を出さないのは、ひとえにそうした命を受けているから。
「知性だの自我だの、半端に保護欲を出してしまうとまた非難が集中しそうですね」
「まぁ、そうだな。実際に被害にあった人もいるわけだし」
 そうそう表沙汰には出来ぬだろう、とペンを走らせながら玻璃也。
 UDC-P側としても、己が本来万人に好かれる立場ではないと理解しているのかもしれない。はたまた男の有す"本性"に畏怖でも覚えたか、いずれにせよ蛇の如き眼差しで見下ろすイドの側へ必要以上近付こうとはしなかった。
 故に衝突は発生しない。
 だから耀子だってしんと漂う殺気を肌身に感じたとて、イドの態度を誡めることはしない。個々の性質、人間ならば性格――どんな種族にもはぐれものとそれ以外がいるように。これもまた多様性というもの。
「きみがヒトよりも、ごはんの方がおいしいと思う限りは、あたしは味方だから安心して頂戴」
 ぴ、と立てて、倒す。僅かも空気に染まらず穏やかに告げる耀子がUDC-Pへ向けた人差し指も、齧り取られるではなく軽くつっつかれるのみ。
 みっつの間のやり取りをもしも玻璃也が見つめていたのならすわ一触即発と肝を冷やしもしたろうが、丁度良く書類に集中していた玻璃也はそんな微笑ましい瞬間のみを視認して口元をへにゃっと歪ませる。
「お、随分と仲良くなったじゃないか。ふうん……よく見たら、愛嬌があるかもな」
 子どもの頃育てていたカブトムシの幼虫に似てるかも、なぁんて。
 ペン先がほぼ無意識にうにょ~っと落書きし始めたとき、玻璃也は先ほどから輪にかけて口数少ななイドの方を見た。暇なら手伝えと、上司として一言注意でもしてやろうと思って――。
 だが。

 本当に大切なものは何であるか?
 ――イドの胸の内では、出立時に耳にした言葉が反復されるばかり。あぁ、そうか。
(「だから私にはUDC-Pの見分けがつかぬのだ」)

 ふっと。
 変わらず立ち竦む――少なくとも傍目からはそう見えた――イドに玻璃也は、その眉間に寄った"難しさ"が先ほど硝子に映った自分のそれと似ていることに瞠目した。
「イド。どうした?」
 ペンを回す手だって止まる。
 こいつにも人並に悩み事があるんだな、だとか。 いやまてよ? ははあさては!
「お前も耀子の買ってきたコロッケ、はんぶんこして貰いたかったのか。拗ねるな拗ねるなー代わりにこのフランスパン食べていいからさ」
「はぁ」
「見ろ、ほら! ブロックチーズがいっぱい入ってるんだぞ。ちょっと待ってろ……ジャムだって色々サービスしてくれたんだ、どうだ? 苺は定番だがこれなんか抹茶ホイップだと。それにこっちは」
「はぁ」
 イドはといえばしらーっとした目に加え明らかに生返事であるのだが。
 再び両手へ押し付けられたものをわざわざ突っ返す気もないらしい。やっぱりおいしそうね、あたしにも紹介して、と耀子が隣へ腰掛けるよう促す頃には、玻璃也の役を丸々奪う形で正確な商品説明を吐き出すあたりすっかり平常運転である。
「室長、書類の方はもう良いの」
「うん? ああ、よく見たら大分終わってたし。戦闘にもつれ込んだときの注意点に関してはみぃ~~っちり埋めといたから、後はどうにでもなるだろ」
「万一繁殖した場合も、よく躍る囮をひとり立てておいてその隙に叩けば安全と」
「実証済みだものね」
「もっと労えっ! 形だけでもいいから! それとイド、俺にもお茶くれない……?」
 お前からも何か言ってくれ、なんて声掛けされたUDC-Pもが早速おいしいパンに夢中なものだから。

 ――そう、平常運転。 結局室長自ら茶を注ぐことになるのも含め。
 三人、おざなりにティーカップの端を合わせるのが、本日も一日お疲れ様でしたの代わり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
は〜仕事した仕事した。
皆さん虫一匹のためにどんだけ食べ物用意してるんですか。
ひとつくらい(勝手に)分けて貰ってもいいですよね。仕事したんだし。

甘いものがいいです。
飲み物もあれば貰います。
で、腰を下ろせる場所を見つけて全力で寛ぎます。
いいでしょ別に。仕事したんだし。

しっかし対策マニュアルまで用意して何に使うんだか。ねえピーちゃん。
ま、向こうでも良い暮らしが出来るよう精々頑張ってください。

あー……触れ合いは結構です。私はマニュアル作成に忙しいので。
こっちにやらないでくださいマジで。

こう見えて報告書を書くのは慣れてますよ。
『特徴 キモい』『注意点 キモい』
『所感 キモい』と……バッチリですね。


穂結・神楽耶
おにぎりは塩と具入りと混ぜご飯。サンドイッチは卵とハムチーズ、お肉ものもいいですね。
唐揚げ、鯖味噌、炒め物に天ぷら各種。
ケーキにチョコレート、プリンにアイス。
買ってきたものもありますけど…
料理は得意です、お任せあれ!

好きかどうかは食欲を見れば分かるんじゃあないでしょうか。
あんまり食べすぎてもよくないかもしれませんが…
今日くらいはいいでしょう。

満腹は、安心と充足の特攻薬です。
だから今夜はあなたの大好物を教えて下さい。
好きなものでお腹いっぱいになりましょう。

あ、残ってるのは猟兵の皆様方もぜひどうぞ!
満腹は誰にとっても幸せなものですから!
みんなでお腹いっぱいになってくださいね。


矢来・夕立
意思疎通の手段を探します。

味覚はきっと大丈夫だと思います。
数や形や音の識別が可能か。
こちらの言葉が、わかる。
「はい」か「いいえ」で答えてもらう手法が一番いいと思うんですが…
砂糖入りのコーヒーが「はい」。
ブラックが「いいえ」。でどうでしょう。
苦いのがだめなら超甘くしたのが「はい」、普通に甘いのが「いいえ」。
…やっといてなんですけど、味の好みのためにウソをつく可能性がありますね。
そこんとこの傾向も含めて観察しておきます。

より複雑な手法はこれから先に確立されていくでしょう。
社会的な観念があると分かった以上、UDCが取引先になる可能性は大いにあります。
その為の先行投資、珈琲くらいなら安いですよ。




 ざらぁ……と重々しい山を形成するのは神楽耶が持ち込んだ戦利品たち。
 塩と具入りと混ぜご飯。卵にハムチーズのサンドイッチ、肉屋特製分厚いカツだってある。テーブルから雪崩落ちかけてギリギリ乗っかるアソートチョコレートはファミリーサイズで、傍らの小型アイスボックスの中にはプリンにそれからラムネアイスまで?
「これでよし。さぁピーちゃん、こちらを食べながら少し待っていてくださいね」
 ――更には、この山を"おやつ"とでも称すのだ。ひとつに纏めた頭からばさりと割烹着を被り腰の後ろで紐を結ぶ、神楽耶という存在は。
 馴染んだ刀ではなく今その手に握られたのは包丁。つまりは、手料理をふるまってやる支度が万全だということ!
 あんまり食べすぎてもよくないかもしれませんが……今日くらいはいいでしょう?
「唐揚げ、鯖味噌、炒め物に天ぷら。ご希望があればなんでもお任せあれ、料理は得意なんです」
「まだ増やすんですうぅ? ほんと、皆さん虫一匹のためにどんだけ食べ物用意してるんですか」
 ささっと逃げ込むつもりが道中荷物持ちに巻き込まれた桜人はは~ぁやれやれと腕をくるくる回している。ぐでぇと沈み込むソファは、目の前のローテーブルでUDC-Pがうろうろうろつくから気が散るったら。
 そいつが寄り付きかけたチョコレート菓子をひょいと摘まみ上げ封を切る。あーん、だなんてしてやるものか、放り込む先は自分の口だ。がりりとアーモンドを噛み砕くと、なにやらしょげしょげ折れて見つめてくるかのUDC-Pと視線的なものが合って。
「分かってんですか、皆があんたのためって疲れてるわけですよ。チョコひとつで手を打ってあげるなんて安過ぎだと思ってほしいですね」
「すごいですね。蟲と張り合うのって楽しいですか?」
「はぁー……」
 横合いから鋭利な剃刀言の葉を投げつけてくるのは他でもない夕立。大袈裟な溜め息をついた桜人は更にふかふかのクッションに沈み込む。
 夕立もまたソファに腰掛けて、少なくとも二杯目以上のコーヒーに舌鼓を打っていた。手にしたマニュアルと見比べつつ、じ、と見遣っているのはUDC-Pのことだ。今の凹み方もそうだが、寄り添う姿勢を見せてくれる猟兵らに囲まれ過ごすこの短時間でかなり分かりやすくなったように思う。
「夕立さーん、何が食べたいって言ってますー?」
「何がって言ってもな。何でもいいよって言って殴られる手合いに見えますけど、こいつ」
 意思疎通の手段――。
 新鮮な野菜を洗いながら神楽耶が急かしてくるので、夕立は暫し考え込む。こちらの言葉が、わかる。そこで思いついたのは、二種の味わいのコーヒーを使ったテストの形式だった。
 かたん。 卓上、ソーサーに置くカップの一方は砂糖入り、一方はブラック。間にて不思議そうに両方を覗くUDC-Pに指差しで教え込む"甘いならはい"、"苦いならいいえ"はどうやら一瞬で伝わったらしく――。
「食べたいものとやらを教えてください。 はい、唐揚げ」
 砂糖入り!
「鯖味噌」
 砂糖入り!
「……。炒め物」
 砂糖入り!
「もしかして率先して殴られたいタイプですか?」
 ブラック!!
 ゆんゆんと揺れ左右の液体を飲んでゆくUDC-Pは、やはりこの調子だ。味の好みのためにウソをついている――なんて読みも出来たが、両方とも飲み干されてしまう頃にはその線も薄くなる。
「うぇ、本当に人間の言葉分かってるんだ。こわいなー、私のことどう思ってますー?」
 クッション抱えて横になっての頬杖、盛大に寛ぐ桜人が声を投げかけたところカップらの真ん中でぴた……と止まるUDC-Pの姿こそが、この問答で一番真理に近付いていたのやもしれない。
「あれですね、善処します……みたいな。嫌いじゃないけど好きでもない……みたいな」
「そんな繊細な感性持ってるなら見上げたものです。お手柄ですよ狭筵さん、堂々とサボってるくせにやりますね」
 結果を棒読みで書き記す夕立であった。
 対する桜人はいいでしょ別に、仕事したんだしと卓上に広げられたチョコチップクッキーをもうひとつまみ。いつの間にやらストローをさしてキープしているいちごミルクのパックをずずずと減らしつつ。
「しっかし対策マニュアルまで用意して何に使うんだか。ねえピーちゃん」
 同じくクッキーを摘まみにきたUDC-Pをしげしげ見遣った。
 あーあ、一口でいかないからボロボロ欠片が零れている。とはいえ吸引力は馬鹿にならず、直後には綺麗さっぱり食べているから案外――掃除機にくらいはいいかも?
「ま、向こうでも良い暮らしが出来るよう精々頑張ってください」
 ティッシュを取るのも面倒だし。手についた甘い粉を落としてみれば桜人は、嬉々として上へ口を開ける化物にそんな言葉を贈ることとする。

(「ふふ。なんだかんだで馴染んでるじゃないですか」)
 キッチンからは規則正しく続く包丁の音。操る神楽耶は、団らんめいた何かを今日も遠巻きに眺めている。
 某所炊事課課長は伊達ではない、なにがたべたいかわかんない~なんてリクエスト、味の暴力で捻じ伏せてしまえばいいのだ。それ即ち、戦いと同じである。
 ただ――この身体だ。最近は味見があまり意味を成さなくなったことだけが、すこしだけ不便になったか。
「……ちょっと薄い、かな」
「普通だと思いますけど」
 お玉に掬った飴色の水面が揺れて。
 そこへにゅっと手を伸ばしてきた夕立はしかし、丁度おいしい頃合い、みたいな評価がするりと飛び出す口はしていなかった。長い付き合いであるからこそ示すところが解る神楽耶が、ぱちぱちと瞬いたのちにほっと表情を綻ばせるだけ。
「なら良いです。いやぁあの子にあげようと思って、町で濃いものばかりつまみ食いし過ぎましたかねぇ」
「へえ。コーヒーでリセットするのをオススメしますよ」
 そして通りすがりみたいにソファへと戻ってゆく黒い背を見送るのだ。
 事実、蟲用コーヒーのおかわりでも取りにきたついで程度だろう。どこまで察されているか――UDC-Pのようにはいいいえで試されずとも、人間とはまったく不思議な生物で。
「ふぅ……、よし、もう一品作りますか!」
「ええぇーもう私寝ちゃいますけどー?」
「働け。オレは身ての通りメモで忙しいんで、軽く肩車でもして遊んでやってください」
「いやいや。いやいや代わりますよ、普段からUDCに造詣の深い私が書いた方がどう考えても適任でしょ」
 一介のアルバイターが何を……、こっちにやらないでくださいマジで!! と、続いてゆくやり取りはうだうだと。最終的になんとか押し切った報告書マスター桜人であったが、その手が特徴・注意点・所感として記した内容といえば"キモい"の三文字のみであったとか。
 捲る頁捲る頁と他の猟兵がばっちりと埋めてくれているから、実際のところなかったのだ。そんな程度のスペースしか。
 ペンのインクはもう掠れかけ。こういうところが杜撰なんだよななんて思うのと、それだけ多くの文字が綴られたのだと悟るのと。
「熱心なもんですよね、矢来さんも。何か裏でもあるわけで?」
「裏。社会的な観念があると分かった以上、UDCが取引先になる可能性は今後大いにあると思ってます」
 より複雑な意思疎通手法はこれから先に確立されていくだろう。そう、だから、この一杯もまた安い先行投資。
 黒色の液体をとぽとぽ継ぎ足しUDC-Pへ寄せる夕立を横目に、うへぇと舌を出す桜人と。
 そうして「皆様方もぜひどうぞ」神楽耶の一声で卓上のテイクアウトな品々や菓子がわーいと誰かしらの胃袋へと掃けた頃、どんと真ん中へやってくるのが出来たてお手製。
 厚い鍋蓋の下から湯気はほわほわ立ち昇る。
 自然と腹の虫を刺激するような、あたたかな香りもまた。
「あ、お疲れ様でーす。結局、これって何を作ってたんですか?」
「さて、見てからのお楽しみですよ。ねぇピーちゃん、満腹は、安心と充足の特攻薬です」
 だから――好きなものでお腹いっぱいになりましょう。
 うねうね寄ってくる蟲へと、微笑みかける神楽耶がゆっくり蓋に手を掛けた。
 このおいしいもまたあなたの大好物のひとつであるようにと、そう願って。


 おいしいものをたくさん教えてもらった。
 それは、硝子越しに眺めるよりずっとキラキラで。
 ぽかぽかで、さくさくでもふもふで。たまにがりがり。声は出ていない筈なのに、そんなワタシのおいしいがわかるみたいにヒトは"笑う"をしていた。

 いろんな言葉を、これからのやっていき方も、ともだちの作り方も教えてもらった。
 ワタシはこれからワタシみたいなみんなのところへ行くという。
 ヒトを食べなくていい。
 好きなものを食べていていい、おいしいを作り出すヒトたちの力にだってなれるかもしれない場所。
 ぺこりと折れ曲がって"はい"をすると、不思議なことに、声が出ている気だってした。
 だったら――今度こそ、こころから言わせてほしい。
 ごちそうさま。
 おいしかった。
 ――ありがとう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月19日


挿絵イラスト