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華は月下のまほろばに咲く

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●恋桜
 祭りの喧騒を背に聞きながら少年は冬の間に枯れた草むらへ分け入った。微かに聞こえる声に導かれて。木々の向こうに動くものが見える。
 ぼそぼそとした声は嗚咽混じりとなり、やがて鼻歌となる。初めて聴くはずの音の連なりに不思議と安らぎを覚える。いつか遠い故郷を懐かしむような、置き忘れてきた愛しいものを見つけたような。
 朱色の人影が舞っているのが判別できる距離まで近づいた時、くるりと振り返った狐の面と相対する。
「……そこにいるのはどなたでありんすか?」
 息ひとつ乱れのない穏やかな声に、少年の胸は高鳴る。息を呑んだ後で口を開く。
「あ、あの――」
 二人の間に沸き起こった花嵐がざあっと音を立てた。

●予知
「皆様、ようこそおいでくださいました」
 真白のローブに身を包んだ涅・槃(空に踊る人工の舞姫・f14595)が皆を出迎える。
「早速ですが此度の事件について説明致しますわね」
 サクラミラージュの帝都から離れた宿場町の郊外。大正に入り新たな街道が整備された結果、あっという間に寂れてしまった旧市街地の、更に外れの一画に慰霊碑が鎮座している。
「先日そこで祭りが行われた際、一人の少年が行方不明となりました」
 地図と周辺の情報を映し出す。古びた塀で囲まれた広大な敷地は管理する者もなく、祭りの時期だけ人の手が入る有様だった。
「少年の名は輪太郎と言い、その日八歳になったばかりですわ。私に視えたのは、初めての場所を探検しているうちに影朧として甦った遊女と接触する、短い場面です」
 投影機が再現シーンの映像を流し始める。聡明そうな顔立ちと年相応のやんちゃな行動。しかし子どもらしからぬ熱情を孕む瞳が見つめる先には。
「それと、近隣で『遊郭の幻を見た』という情報が上がっていますわ」
 タイミング的に影朧の遊女と関係があるに違いない。他に手掛かりのない今、調査する価値はあるだろう。
「朝市が立つ時間、町の入り口へご案内致します。まずは遊郭の幻の情報を探してくださいませ」
 転送の準備が始まり、明け方の淡い空が広がっていく。
「影朧にも事情があるかも知れませんが、放っておくことも出来ません。どうかよろしくお願い致します」
 燈火色の髪がさらりと流れた時、転送の準備が整い静かに猟兵たちを待っている。


宮松 標
 どうも宮松 標です。今回は心情系のお話となります。おねショタ、て言うやつだと思います。どう足掻いても悲恋。

 第一章は遊郭の幻を探してください。
 POW:目撃情報を元に足で探す(具体的に『宿場町の新旧市街地郊外』『近隣の野山』『新旧街道沿い』が候補)
 SPD:出現場所に共通する何かを噂話の中から推測する(道祖神や樹木など目印になりうるものがあるかも知れない)
 WIZ:過去に遊郭があったかどうか、何か事件や言い伝えがなかったかどうかなどを聞き込んで、遊郭と遊女の関係を探る

 第二章は遊郭内の集団敵です。ばっさばっさと倒してください。

 第三章はボス敵です。呪詛耐性をお持ちになる事をお奨めします。

 それでは(主に私が遊郭特有の言葉使いに翻弄される様を)どうぞお楽しみください。
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第1章 冒険 『朧遊郭』

POW   :    街々を巡って忍耐強く現れるのを待つ

SPD   :    噂を集めて出現する場所を探る

WIZ   :    過去の事件・伝説・伝承から遊郭の正体を探る

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 サクラミラージュの世界へ足を踏み入れた猟兵たちを、早朝の清々しさと、人の営みに伴う埃の匂いが迎えた。少し離れた朝市の活気が空に残る朝霞を押しやっていく。
 遊郭の幻の情報を探すため、目撃情報のあった場所へ、目撃者の集う朝市へ、この地の歴史を識る旧家へ、或いは自身の心の赴くまま。落ち合う時間を確認して猟兵たちは雑踏や喧騒に紛れた。
神代・凶津
今回はませたガキんちょの捜索か。
くっくっくっ、恋に年齢は関係無いってか?
「・・・笑い事じゃないよ。」
分かってるって相棒。
相手が影朧ってのがいけねえな。
野暮は承知だが仕方ねえか。

まずは、情報収集だな。
今回の影朧は遊女って話だし、昔の遊郭の話を聞き込みとかで洗い出してみるか。
事件や言い伝えを調べて今回の影朧の未練が分かれば対処も楽になるんだがな。

「・・・輪太郎くん、無事だと良いんですが。」
そうだな、相棒。
なるべく早く見つけてやらねえとな。
それが失恋の瞬間になるとしてもな。

【技能・情報収集】
【アドリブ歓迎】



 未だ江戸の街並みを残す旧市街地を横切る大通り。赤い草履が一定のリズムで小気味よい音を閑散とした雑踏に刻んでいる。
「今回はませたガキんちょの捜索か」
 高さを増す陽光を受けて艶めく鬼の面から神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の声が響く。目の前には少年の特徴や人相絵が描かれた資料。
「くっくっくっ、恋に年齢は関係無いってか?」
 影朧である遊女の姿も添えられている。狐の面に狐の尾。妖狐だろうか。
「……笑い事じゃないよ」
 茶化すような凶津の頭上からぴしゃりと少女の声が降る。
「分かってるって、相棒」
 胸に鬼の面を抱えた少女は見回していた視線を一点に留め、そちらへ向かった。旧い街には旧い時代を語る存在がいる。

「わしもひいばあから聞いた話じゃて、どっから尾ひれ背びれか判らん」
 そう前置きをして言葉を選ぶように少しずつ紡がれていく昔話。
「まだ街道が古い頃の話での。山をひとつ越えた向こうに、この世の極楽とも言われた遊郭があったそうな」
 しかし二度までは無事に出る事は出来ても三度目はないとの噂も立った。
「借りた金が返せずに働かされてるだとか、客同士のいざこざで殺されただの、言われ放題じゃった。だが金が続かず帰っていった者の方が多いじゃろう」
 それはどこの遊郭でもありふれた話だ。
「じゃあ、なんかでかい事件はなかったか?」
「ふむ、あの遊郭に関した事件らしい事件なら大火災じゃろうて」
「それ! 詳しく頼む!」
 大事件の匂いに桜も心持ち前にのめる。
「三百年前の話でな、当時の地主の息子で輪之助という青年が遊女を身請けするために金を揃えて行ったところ、揉めに揉めてそのうち行灯か煙草かわからんが火が出てな。そのままあっという間に遊郭ごと、周囲の山ごと火に呑まれちまった、という事だ」
「その、相手の遊女の名前ってわかるかい?」
 ふーむ、と手を顎に当てて考えこむ。
「ひいばあなら知ってたかも知れんが、わしは聞いておらぬで……」
「そうか……」
「あの、輪太郎という少年をご存じではありませんか」
 考え込む凶津と、資料を見せる桜。
「うぅむ……聞いたような……どこじゃったか……わからん、すまんのお」

 二人が外へ出た時には既に集合時間が迫っていた。足早に元来た道を戻る。
「身請けされるはずだった遊女が影朧なら話は早い、んだろうかねぇ」
 何らかの形で身請けの状況を再現してやれば良いのだろうか。
「……輪太郎くん、無事だと良いんですが」
「そうだな、なるべく早く見つけてやらねえとな」
 陽は既に中天、もうじき昼の鐘が鳴るだろう。この後は昼食を摂りながら得られた情報を共有することになる。

大成功 🔵​🔵​🔵​


「お早う、連華」
「……もう朝、で、ありんすか……」
「今日も良い天気だよ」
「……主さん……」
「お金を工面してくるまで、しばらく来れないけれど」
「もう……少しだけ」
「じゃあ、鐘が鳴るまで、な」
 この温もりを胸に、いつまでも待とう。ひと月でもふた月でも。
御園・桜花
「人か物か場所か…辻が出来るにしても、何か理由がいりましょう」

UC「ノームの召喚」使用
まず行方不明が新聞記事になっているか場所が載っているか確認
次に図書館なり役場なりで編纂された町史がないか確認
役場で編纂に関わった人、図書館の司書、交番等で、遊郭や遊女に関わった事件の情報がないか、そういうことに詳しそうな話好きの古老がいないか確認
可能ならば菓子持参し、遊郭の話や遊女の暮らしぶりを1時間程度古老に聞く
ノーム達には新聞や書籍探しと、聴取後の現地確認の手伝いを依頼

「場所の目安がついたら、そこを皆で歩きましょう。今は異界と重なっていないかもしれませんが、何か手懸りが落ちているかもしれませんもの」



 新市街の中心近く、近代的な建物の中。人の少ない図書館の大テーブルで一人、いくつもの新聞を広げている桜色の女性と小人たち。
「……載っていませんね」
 行方不明となった少年の情報を求めた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だが、全国紙どころか地元紙でも祭りと遊郭の幻の話が小さく載っているだけだった。
「この新聞は昨日のもので……お祭りが行われたのは一昨日なのですね」
 輪太郎の両親は行方不明を伏せているようだ。次に郷土史の書架からこの街の歴史書を探し、内容を確認していく。
「えぇと『山向こうに遊郭あり』……四百年近く昔の事ですね」
 遊郭については抽象的な内部描写があるだけで、その後は遊郭がある事によって起こる諍いなどの愚痴のような説明と『決して関わるべからず』の一言。それとおよそ三百年前に『遊郭大火災』で焼失、とあった。
 本を片付け、司書に歴史書にあった遊郭について質問してみる。奥で調べると引っ込んで、しばらくして奥から初老の男性が現れた。胸のプレートに『館長』の文字。
「大変お待たせして申し訳ございません。先方へ話を通して参りましたので、こちらをお訪ね下さい」
 地図が添えられた一枚のメモを手に図書館を後にする桜花。途中で手土産として菓子を買い求める。合間の世間話で向かう場所が三百年続く大地主であると知った。

 新旧の街道に挟まれた市街中心部に広大な敷地と屋敷を構える旧家の圧倒的な歴史と格式。通された部屋で待っていたのは、既に前線を退いた当主だった。
「お待ち申し上げておりました。さて、どこからお話致しましょうか」
 紐で綴っただけの一冊の本をめくりながら当主が柔和な顔で問いかける。
「では、三百年ほど前に焼失したという遊郭についてお話を伺いたいです」
 笑みを深めて軽く頷くと目次に指を滑らせた。
「あの遊郭の名は知られておらず、皆ただ『遊郭』とだけ呼んでおりました」
 丑の方角に四里と半ほどの場所にあった事以外は図書館で読んだ歴史書と同程度の内容だった。
「では、他に遊郭や遊女に関する事件などはありますか?」
「……今から百五十年ほど昔、当家跡継ぎと目されていた輪一郎という男児が行方不明になった事件がありました」
 当時も三月の最後の日で、輪一郎は八つになったばかりだったという。同時に遊郭の幻が現れたと騒ぎになったそうだ。その話にはっとした桜花は手元の資料を開く。今回行方不明となった輪太郎少年の絵姿と特徴が描かれた紙。
「あの、もしかしてこちらの少年は……」
 紙を覗き込み、音が聞こえそうな勢いで青ざめていく当主。
「……はい、孫の輪太郎でございます……」

 結局戻らなかった輪一郎少年に孫の輪太郎を重ね、既に諦めた様子だった。なんとか無事に再会させてあげたい。桜花は皆の待つ場所へと、昼時の喧騒を足早に抜ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 畳に寝そべり、小箱を覗く少年。
「輪之助さん」
 少しむくれた顔で目線を上げる。
「輪一郎だよ」
 向かいに座る遊女が呼び直す。
「……輪一郎さん」
 どんな姿になっても、二人を結ぶ絆は永遠と信じて。
アルタ・ユーザック
「とにかく情報が足りない・・・」
送ってくれるのは朝市らしいから、情報収集にはちょうどいい・・・
でも、一人で聞き込みするには時間の問題で、数が限られるから・・・
「『一騎当千・千変万化』」
自分のアルターエゴを限界まで出して、情報収集と目撃証言のあったところの確認を同時に行う・・・
子供の姿の方が話を聞きやすかったり、大人の方が聞きやすかったりするだろうからいろいろな年齢のわたしを出して聞き込みをしながら周りを調べてみる・・・
UCの効果範囲の問題があるから、一通り聞き込みが終わったら移動して全員で調べてみる



 他の猟兵たちが思い思いに行先を見つける中、一人その場で資料をめくるアルタ・ユーザック(クール系隠密魔刀士・f26092)の姿があった。
「とにかく情報が足りない……」
 資料と言ってもたった二枚。輪太郎と遊女の姿絵、街と周辺の地図が印刷されたプリントだけだ。肝心の噂や目撃場所など詳細はない。
 資料越しに投げた視線の先には人々がごった返している。何やら威勢のいい声があちらこちらからまるで張り合うように飛び交う。この街で一番活気のある朝市が開かれている。
 もう一度地図に目を落とし人の集まりそうな場所をピックアップしていく。一通りチェックした後、その場でユーベルコードを発動させた。
「……『一騎当千・千変万化(アルターエゴ)』」
 瞬く間にあらゆる姿形の『自分』が現れる。聞き込みを行う場所で警戒心を持たれにくく情報が引き出せるように。一度に移動すると目立つため、少人数ずつ雑踏に紛れて街中へ散っていく。
 アルタ自身も新街道沿いの広場のベンチに移動し、集まる情報を逐一整理していた。『自分』を街の隅々まで向かわせるのは効果範囲という制約から難しいと考えていたが、実際には街のほとんどをカヴァできている。範囲外なのは旧市街の外縁部と更に向こうの農地だけだ。
 情報を集めていくと、遊郭の幻が目撃された場所は旧市街地の外縁に集中していることがわかった。北側に広がる旧市街地の北東にある貧民街の子どもたちに発見者が多い。
 幻の出現位置は農地よりも遥か北、山すそに広がる森の辺り。どうやら日によって多少場所が変わるらしい。特徴的な提灯がいくつも飾られていることで同じ幻だと判断されている。
 貧民街は範囲外のために移動しようと立ち上がった。あちらこちらから美味しそうな香りが誘惑してくる。そろそろ昼時だ。だが集合時に皆で昼食を摂ることになっている。誘惑を振り払い、勇ましく北へと踏み出した。

 結局途中でたい焼きを購入し、子どもたちを一緒に頬張っているアルタであった。
「幻なら、おいらが見たのはあの辺り」
 貧民街の少年が指さす場所は広がる農地の更に先の森。薄暗い辺りに現れ、たくさんの提灯が灯るのだという。
「おれが見た時はもっとこっちだった!」
「……あっち」
 それぞれ指を示しては口々に声をあげる。どれも森の辺り。その距離ざっと二里ほどだという。『自分』を向かわせるにしても遠すぎるし、一人で動くのも良くないだろう。
 たい焼きを食べ終え一通り話を聞けたので戻ろうとした、その時。パラパラと雨が降り始めた。しかし頭上に雲はなく、なんとも不思議な雨だ。
「……あ! あそこ! ほら!」
 少年の声に森の方へ目を凝らす。ぽう、と橙色の灯りが見えた。今すぐ確かめるべきか否か。ひとまず子どもたちに礼を言って踵を返す。早く皆に知らせなくては。

大成功 🔵​🔵​🔵​


「……人が……来る……」
 ふと虚空を見つめて呟くと、立ち上がる。
「どうしたの?」
 少年が自鳴琴を閉じて腕に抱えた。
「山の向こうへ参りんしょう」
 素早く草履に足を入れて少年の手を引く。
「うん、わかった」
 遊女と少年は先の見えない道を行く。自鳴琴だけを携えて。
御狐・稲見之守
ふふ、啖うならやはり童が良いが……しかしさて、ヒトとヒトならざる者との恋路なぞ結末はいつだってつまらんもんじゃ。

[POW]それでは目撃情報のあった場所に朝の散歩と参ろう。予知では祭りを行った慰霊碑があると云うておったな。そちらの方に出向いてみよう。ふふ、如何にもって感じじゃァないか。

しかし遊郭の幻なぁ……まあ狐の女たるもの化かすが嗜み、幻術の使い手として[催眠術][呪詛]での経験や勘、鼻を働かせて見て回ろうか。

通りゃんせ通りゃんせ、ここはどこの細道じゃっと。



 人気のない朝霞の濃く漂う路地を一人往く影。上端でぴこりと動く何か。地図と資料を片手に歩く御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)の軽い足取りが不規則な反響音を生む。
「まずは祭りのあった慰霊碑の方じゃな」
 地図を見ながら北西を目指す。路地から未舗装の道へ出た。小さな水路を越えて農地が広がる。青々と茂る若い苗、ふかふかに耕された何本もの畝。田植えを待つ一面の水田。
 それらを通り過ぎると古びた橋が姿を見せた。さながら現世と幽世を隔てるような。見た目に反ししっかりとした造りの橋をぎしぎしと軋ませながら渡る。
「通りゃんせ通りゃんせ、ここはどこの細道じゃっと」
 応えるもののない獣道を、葉擦れの音を伴い進んでいく。やがて道の先に大きな岩のようなものが現れた。草に埋もれていて判別が遅れたが、どうやら広い屋敷跡に入り込んだようだ。
「ふふ、如何にもって感じじゃァないか」
 表面を滑らかに研磨された一枚岩に彫られた『鎮魂』の文字が昇りつつある陽光に照らされる。足元は人の手で草が刈られた後。碑の周囲に真っ直ぐ天へと伸びる植物が等間隔で生えているこれは植えられたもののようだ。
 ぐるりと見回すが、何か術や呪詛の痕跡はなく、その他も別段不自然な点は見られない。
「ふむ、ここではなさそうかえ?」
 ならばと街とは逆の方向へ頭を巡らせた。山すそに広がる森はただ黒々と横たわっているだけだ。ふと、この山には幻朧桜がない事に気付く。
 石碑を見上げて裏手に回ると、そこに由来が彫り込まれていた。
「『遊郭大火災にて命失いし全ての御霊を慰め申すものである』……」
 そのような一文で始まる読みづらい長々とした文言。後ろ半分は犠牲者と思しき名前の一覧となっている。幻朧桜がないのは火災で焼失したからか。何気なく眺めていると、何故かひとつの名前が目に付いた。
「『遊女 連華』か……」
 れんか。れんげ。どちらか判らないが何の変哲もないはずの名を舌の上で転がしてみる。その途端、森の方からぞわりとする空気が流れてきた。慌てて振り返るも、異変は見当たらず。気のせいかと思い向き直ろうとするがどうも何か引っかかる。”匂い”として感じられるかどうかの瀬戸際の感覚。催眠術でも呪術の類でもない。これは同類(ユーベルコード)の気配。
 何が起きているのか確かめなければと、踏み出そうとしたところで既に影が短く足元にのみわだかまっているのが視界に映る。空を仰げば太陽が高く昇っていて中天まであと少しというところまで来ている。
 ここまで結構な距離を歩いたことを鑑みれば、そろそろ戻らねば集合時間に遅れてしまう。
「ぐ……」
 集合場所は街一番の高級店。個室を抑えて報告会を兼ねて昼食を摂ることになっている。もしかしたら戦闘になるかもしれない。森へ向かいたいのは山々だが、ここは一度退くことにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​


「ネェ……サン……」
 闇に這いずり回るかつての残骸。蜘蛛と成り果てた、妹分や同僚の遊女たち。
「輪太郎さん、しっかり捕まってくんなまし!」
 少年を担ぎ上げ、闇の合間をひた走り、潜り抜け、辿り着いた極楽浄土。
「そんな……」
 邪魔するもののない二人だけの楽園は、今や毒滴る蜘蛛の糸で覆われていた。
宴・段三郎
【pow】
遊郭の幻とな?
ふむむ…武蔵国にそういう伝承があるのじゃ。
竹林に迷い込んだ旅人の目の前に豪華な遊郭が突然現れて旅人が入り込むが…実は化け物屋敷じゃたとかのう…しかも丁度この時間帯に…

【行動】
たまには風の向くままに動いてみるのじゃ

とりあえず、祭りがあったところの周囲に、「枯れた草むら」「木々の生い茂るところ」を散歩がてらにうろうろして見てみようかの。
『宿場町の新旧市街地郊外』『近隣の野山』『新旧街道沿い』のどこかに祭りがあったところがあるし、そちらを伺うかの

とりあえずそこらで聞いてみるのじゃ

遊郭の幻を知ってるか
最近ここらで女の歌声を聴いてないか

念のため【聞き耳】もたてようかの



「武蔵国にそういう伝承があったのぅ」
 迷い人の前に現れる豪華な遊郭は、実は化け物屋敷だったという話を宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)が語る。嘘か真か、同様の話は古今東西に散見される。しかし旧い地図に当てはめればなるほど、ここは外れとは言え武蔵国の範囲内。
 祭りの現場へ向かうべく足を踏み出した。まずは街の外周をぐるりと回りそれらしい場所を探す。予知の再現映像にあったような、真昼でも常夜のような木々生い茂る場所。下草が枯れていればなお良い。
 新街道からほど近い朝市の横を抜け、旧街道へ。まばらな雑木林はあっても森のような場所は山の方にしかない。旧市街地の奥、江戸時代で時が止まったままのような古い、旧い区画。聞き耳を立てずとも響く子どもたちの楽し気な声。
 朝市の帰りだろうか、空の荷台の小型トラックが停まっている。周囲でおしゃべりに興じていた数人がこちらに気付くと、見知らぬ顔を警戒するように目を細めて段三郎を見やる。
「遊郭の幻について調査しておるのじゃが……」
 そう切り出してみると猟兵が珍しいようで、住人たちがわらわらと集まってきた。そして続々と口にする。
「ゆーかくの幻ならいつもあっちの方に出るよ」
「おら三度見ただよ」
「雨が降ってきたと思たら、子どもたちが出たー、と騒いでなぁ」
「こないだ祭りの最中にも雨が降っただな」
「すぐやんじまったがねぇ」
 祭りという言葉で別の質問を投げかけた。
「その祭りのあったところに、枯れた草むらに木々の生い茂るような場所あるかえ?」
 今度は皆首をひねった。
「昔の地主様の屋敷跡だからな……屋敷森くらいはあるが、今はだいぶ間引いちまって森とは言わねぇしな」
「今の地主様が祭りの時に山の方へ行くみたいだから、そっちじゃないかねぇ」
 心当たりを探して唸り声の合唱が始まる。
「他に何か関係のありそうな話は知らぬかの」
 小型トラックの持ち主で東の山に代々住むという猟師が話始める。
「遊郭の幻と関係あるか判らんが、亡くなったじいさんが『あそこの山の麓の崖には、極楽への扉がある』と言うとったさ。あん山には近付くなと何度も言われたもんだ」
 そこでポンと手を打った。
「森の近くまで送ってやろうか? 歩いたら大人の足でも二時間近くかかるが、こいつなら三十分ありゃ着くぜ」
 コンと小型トラックの外装を叩いてみせる。

 さくりと柔らかな下草の森へ踏み込む。木々は同じ種類のようだ。陽の当たらないもう少し奥なら予知の景色に似ているだろう。ひとまず耳をそばだてる。
 穏やかな葉擦れの音。高く鳴き交わす鳥の声。吹き抜ける風鳴り。雪解け水の流れる調べ。その更に更に向こう。
 ギィィィィ……
「今のは……」
 木の軋む音。いや、錆びた金属の悲鳴。本当に扉があるのか、誰が開けたのか。もしかしたら閉めた音かもしれない。
 見通しの利く正面の木。そこまでなら。緩やかな上り坂を真っ直ぐに走る。幹に手をつき、辺りを見回した。遠く奥の方からまた音がする。そちらへ目を凝らすと茫と橙の灯りの名残が見えた。が、すぐに消えてしまった。
「新街道まで頼めるかえ? 仲間が来とるんじゃ」
「よし、任せな!」
 小型トラックに乗り込み、急ぎ知らせねばならない。扉の話と、不穏な空気の所在を。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『女郎蜘蛛』

POW   :    操リ人形ノ孤独
見えない【ほどに細い蜘蛛の糸】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    毒蜘蛛ノ群レ
レベル×1体の、【腹部】に1と刻印された戦闘用【小蜘蛛の群れ】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    女郎蜘蛛ノ巣
戦場全体に、【じわじわと体を蝕む毒を帯びた蜘蛛の糸】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「本当に扉があったとは……」
 合流後、昼食に舌鼓を打ちながら情報を交換した猟兵たちは『まずは現地だ』となんやかんやで現在森の中。草にまみれ僅かに口を開けた扉の前に集合している。隙間からは鬼灯の彫金が施された金具が錆び付いた肢体を曝していた。
 ……ォォォォオオオオォォォォ……
 吹き抜ける風の唸り声に紛れて微かに聞こえてくるのは。
「……戦闘音、でしょうか?」
「少年の声も聞こえるのう」
「灯りが見えたってトコに季節外れの鬼灯が実ってて、その側に鬼灯の飾りの扉があって、しかも開いてるってなりゃあ」
「この先に輪太郎くんと影朧の遊女――連華さんがいるはずです」
「向こうから来る気配はないようじゃ。こちらから出向いてみるかえ」
 冷たく湿り気のある空気は焦げ臭さを纏う。僅かに漂うのは死臭か。足元を照らすように鬼灯のランプがぽつりぽつりと小さく燈されている。暗がりに何かわだかまっているように見えるが、今は調べている場合ではない。
 火災に巻かれ命を落とした者たちの怨嗟のような風におぞましさを感じながらも、猟兵たちは前へ進み出す。
 陰気な長い通路を駆け抜けた猟兵たちの視界いっぱいに広がった、生い茂る草木の向こうの景色。ヒトの上半身を生やした蜘蛛の群れと、その後方に空高く聳える真白の摩天楼。
「オ……サマ……」
「……モテ……キャ……」
 猟兵たちに気付いたケンタウロス的蜘蛛、いや女郎蜘蛛が、こちらへ向き直り緊張感を高めていく。
 この隙に向こうで遊女が少年を抱えて糸の上を飛び渡り、一歩一歩ごとに巡らされた糸が揺れて毒の飛沫が地面へ降り注いだ。気が付けば頭上の糸にも蜘蛛が現れ囲まれている。
「化け蜘蛛か」
 意思疎通もままならず、説得も転生も望み薄だ。傷ひとつつけずに突破する事はかなり難しい。致し方なく猟兵たちも戦闘態勢へ移行した。
 猟兵たちは見失わぬよう互いに目的を確認しあう。最優先は輪太郎少年を救助すること。そのためにまずは女郎蜘蛛の群れを切り抜け、それから摩天楼の向こうへ消えた遊女を追わなくてはならない。
「では、後程」
 互いの健闘を祈る中、それぞれ目の前に女郎蜘蛛たちが立ち塞がる。さあ、己が力で道を切り拓け!
御園・桜花
「…お可哀想に。お仕事に熱心すぎて、此方に取り込まれてしまったのですね」

UC「桜吹雪」使用
女郎蜘蛛も子蜘蛛も切り刻む
毒はアイテムの毒耐性で
敵の他の攻撃は第六感や見切りで躱す
当たりそうな攻撃は盾受け

「貴女達にもお慕いしている方や敬愛するお部屋の方々が居るのかもしれませんが。遊郭は既に失くなりました。貴女達がよすがとしたものも、本日消えてなくなります。共に働いていた方に、お慕いしていた方に。また会いたいと望むなら、どうか転生を望んで下さい。貴女達の想いが深ければ深いだけ、その願いは叶うでしょうから」
合わせて破魔と慰めのスキルを乗せた鎮魂歌を歌い、一人でも多く転生できるよう願いながら進む



 誰かが鯉口を切る音を立てるなり、戦場全体に風がひょうと吹く。空を切る風鳴りにピリと不可視のエネルギーが宙を走る。青空は不穏な雲にかき消され、辺りの景色が色を僅かに失う。
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は武器を構える事なく一歩、二歩と踏み出した。両の手から溢れ落ちる花びらがはらはらと風に乗って舞い上がる。
「……お可哀想に……」
 桜花の唇から言葉が零れた。しかしその声に耳を傾ける者はなく。続くはずの台詞は勢いを増す風に吹き千切られ。それがオブリビオンとなってしまった彼女たちの心に決して届かない事を示しているようで。
「……取り込まれてしまったのですね……」
 ゆるりと近付いてくる彼女に一体の女郎蜘蛛が地を蹴り迫る。その複雑な脚の動きを全て見切り、くるくると躱して二人の立ち位置が入れ替わった。雲の切れ間から傾き始めた陽光が二者の明暗を分けるように注ぐ。
「よすがとしたものが、失われるとしても」
 吹きすさぶ風の谷間、一瞬の凪。伏せられた瞼と微かに耳朶へ滑り込む声。胸中を察するには充分な間。
 刹那、背後の死角から放たれたはずの爪の一撃は、奇妙な壁に阻まれる。軽く挙げた桜花の手を中心に淡く輝く薄膜が展開されている。ビームシールド。発生源は繊手を包む可憐なグローヴ。
「逢いたいと思いませんか?」
 くるりと振り返った桜花に対し本能的に飛び退る女郎蜘蛛。逃さず追い迫り問いかける。
「貴女にもいるでしょう」
 にこりと笑いかけながら、どこからか吹き飛んでくる小蜘蛛の群れを光の盾がまとめて受け止め弾き飛ばした。地面へと落ちる前に桜吹雪が跡形もなく消し去る。
「お慕いする方、敬愛する方が」
 別の女郎蜘蛛が隙を狙うように頭上から襲い掛るが、その手も爪も、毒糸さえも彼女に届く前に全て切り刻まれた。周りを囲む桜の花びらに。
「どうか、望んでください」
 糸の上を駆けながら切り断つのは攻撃だけではない。とうに朽ち果てた、彼女たちの夢見るかつての煌びやかな世界への未練をも。
「新たな命を、転生を」
 僅かでも望みがあるなら。少しでもその魂が慰められるように、言葉を紡ぐ。
「貴女達の深い想いに、世界はきっと応えてくれます」
 未来への希望を込めて、花弁は戦場を舞う。癒しの力をレクイエムに乗せて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
ちぃ、例のガキんちょを抱えた遊女の影朧を見つけたがこの蜘蛛共をどうにかしないと追いかけられねえな。
さっさと片付けるとしようぜ、相棒。

「いくぜ、相棒ッ!」
「・・・転身ッ!」
雷神霊装で蹴散らしてやるぜッ!

てめえらみたいな魑魅魍魎の類の相手は得意中の得意なんだよッ!
破魔の雷撃を纏った妖刀の斬撃の放射をぶちこんで周りに張り巡らされた蜘蛛の糸ごとなぎ払ってやるぜ。
厄介な蜘蛛の糸を排除して動きやすくなったら高速移動で縦横無尽に動きまわりながら四方八方から斬撃の放射を叩き込んでやるよ。

「・・・速やかに討伐して件の影朧を追いかけましょう。」
あいよ、相棒ッ!


【技能・破魔、なぎ払い】
【アドリブ歓迎】



「この蜘蛛共をどうにかしないと追いかけられねえな」
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は遊女が越えていった摩天楼を見上げた。そこここに見え隠れする女郎蜘蛛の姿。複雑に縦糸と横糸が張り巡らされ、あちらこちらで毒の瘴気を放っている。触れればじわりと身体を蝕む毒は呪詛にも似て。
「……速やかに討伐しましょう」
 桜は生身のまま連れ去られた輪太郎少年が気掛かりだと。時間が経てばそれこそ危険度は否が応にも跳ね上がっていく。
「さっさと片付けに、行くぜ、相棒!」
「……転身ッ!」
 空気が小さく弾けた。一度、二度。凶津と桜、二人の力が雷となって雷神霊装<スパークフォーム>を顕現させ、その身に纏う。
「てめぇらみたいなヤツらの相手は俺らの十八番ッ!」
 すらりと抜き放った刀へ、霊装から溢れる雷が満ちていく。そこへ破魔の力を重ねた。
「蹴散らしてやるぜッ!」
 凶津が吼えると同時に十二分に雷を吸った刀を高く掲げれば、放たれた雷撃が空を駆けて清浄な空間を創り出し、頭上を覆う檻を一掃する。支えを失った糸が煽られ乗り手を振り落とした。唐突に戦場へ引っ張り出された女郎蜘蛛たちは、それでも果敢に小蜘蛛の群れを召喚し遥か地上へ攻撃を仕掛ける。
 再び雷を吸い上げる刀を引っ提げて残った蜘蛛糸を足場に、垂直降下してくる女郎蜘蛛たちを迎え撃つ凶津と桜。一太刀振るうと稲妻が飛び散り周囲を白く染める。胴を薙ぎ払うはずの太刀筋が爪とかち合った。すかさず角度を変えて表面を滑らせる。金属の震える涼やかな音が生まれ、刀身の延長に放たれた雷撃が女郎蜘蛛の上半身を焼いた。
 電光石火の高速移動を活かした目にも止まらぬ怒涛の連撃が縦横自在に小蜘蛛の群れを叩き落として女郎蜘蛛を灼き貫き薙ぎ払う。かつて一人の女だったものは息絶える前に一面の雷光の中へ何を見るのか。
 迸る雷撃に張り巡らされた糸が消えていく。徐々に現れる摩天楼の鮮やかな彩りを照らすのは陽光に非ず。戦場を埋め尽くす疾雷。
「……見当たらねえな」
 駆け上った天辺から見下ろして影朧を探すが、その姿を捉えることは出来なかった。足元の先に小蜘蛛が登ってきている。
「まだいやがるかッ!」
 更に下の女郎蜘蛛目掛けて斬撃を放つ。一体ではないようだ。
「……早く追いたいものです」
 雷を纏う身を躍らせながら、桜が呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宴・段三郎
御狐・稲見之守と行動。


蜘蛛じゃのう…
しかし、化け蜘蛛とは言え蜘蛛を殺めれば罰が当たると昔から言われておる

ゆえに刀に変えるかの

【行動】
まずは号 『酔月』を使用。
酒を盃に入れて酒を飲み、刀身である小型の月を酒の水面から浮かばせて【範囲攻撃】を行う。念のため【気絶攻撃】も交えて殺さないようにするかの。

次いで号『化生炉』を抜刀し、ユーベルコード、屍山血河を発動。
化生炉を何本も召喚し、この刀の炎で生きたまま妖刀へと鍛刀する。
余った蜘蛛には一匹ずつ生きたまま妖刀になってもらう。
どんどん刀へと鍛えてゆこうかの。

蜘蛛の糸の様に頑丈で、一度過ちを犯した者でも救ってくれる様な広い心を持った大太刀を鍛刀するのじゃ



「蜘蛛を殺めると罰が当たると言われておるからの」
 何やら思案する顔で宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)は刀を抜いた。しかし前方へ突き出したその手に現れたのは彼の顔と劣らぬ大きさの盃だった。確かに聞いたはずの鯉口を切る音は幻聴だというのか。
 『酔月』という”大太刀”にトクトクと音を立てて正体不明な無色透明の液体が注がれていく。口をつければゆらりと水面に月が現れた。これから中天に差し掛かろうとしている現実の三日月とは違う、陰のない望月。一連の行動を隙とみた女郎蜘蛛が段三郎へと迫るが、一瞥もせず。
 間違っても殺めぬようにと願い、盃の縁をするりと撫でる。応えるように淡く光を宿し、月がふわりと盃から浮かび上がった。輝きは強さを増し、閃光を放つ。間近に迫る女郎蜘蛛は全身に浴びて倒れ伏す。
 まぶしい光の矢は蜘蛛糸の壁を貫き、次々とその戒めを解いて隠れた敵をあぶり出しては光刃が意識だけを刈り取っていく。やがて力を使い果たしたのか、月は光を失い盃へと還った。気を失った女郎蜘蛛たちを前に、次の一刀を抜く。激しい炎を纏った大太刀を。
「無象鍛刀」
 呟きを引き金にユーベルコードが発動する。段三郎の周囲に手にした刀と同じものが出現した。十数本の『化成炉』が抜き身を曝す。
「刀に変えるかの」
 女郎蜘蛛一体に一本。呼吸以外ぴくりとも動かない身体を、刀の纏う炎が噴き出して包んだ。局地的劫火に朱く染まる姿は熱を帯びて内側から輝きだす。その輝きが眩く全身を満たした時、おもむろに刀が振り下ろされた。
 二者が触れた瞬間、金属質の甲高い音が響く。猛火の刀は肉へ食い込むことなく表面で跳ねた。同じ光景がそこここで繰り広げられている。蜘蛛糸のように頑丈な鋼となるように段三郎は二度三度と振るう。一度過ちを犯した者でも救ってくれる様な広い心を持った大太刀となるようにと。真剣な瞳と真摯な想いは祈りにも似て。
 出来上がった妖刀はそれぞれに個性を写し取り、様々な刃紋を見せる。どれを取っても鋭くも懐の深さを感じさせる光を宿しているのが共通点だ。
 転がり残る女郎蜘蛛たちへと視線を巡らせる。まだ息の残る彼女たちを炎が包んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御狐・稲見之守
ふむ、ここは常世……或いは幽世と云ったところか。ならばこの身相応しい姿にて参ろう。そしてふふっ尋ね人見たり。

さて、蜘蛛の糸で作られた迷い路とは厄介だ。UC荒魂顕現、我為す一切是神事也、天裂き地割る神業畏み畏み奉願祈るべし――唸れ雷雲、轟け雷鳴、神鳴れ雷鎚稲光。迷い路を雷の洪水で消し炭にしてくれよう。制御なし、意図して暴走させ、我は[電撃耐性]の霊符で防陣を敷くこととす。

……さて、蜘蛛を喰うのは趣味ではないが彼奴らの呪詛怨嗟の念は我がいただこう。女郎蜘蛛の首根っこを掴み[生命力吸収]、その思念とともに精気を喰らうこととす。



 ぐるりと首を巡らせ僅かに”外”と異なる空気を感じ取る。
「ここは常世……或いは幽世と云ったところか」
 普段は幼い見た目の御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)の姿が大人の色香漂う艶姿へと変化していた。幻術か錯覚かはたまた。
 束の間、輪太郎少年が連れ去られた方角に思いを馳せる。瞬きひとつ経たぬうちに視界を閃光が迸り、向こうで女郎蜘蛛が一体落下した。気付けば毒糸の迷宮に囚われているではないか。
「おや……蜘蛛の糸の迷い路とは」
 敵の術中に嵌ったというのに、焦りも動揺も見られない。まじまじと壁面を観察すると、針の穴のような隙間から外部の様子が窺える。空を覆う稲光。地面から立つ十数の火柱。微かに歌声が聞こえる。
「ふむ、やはり厄介だ」
 極少数の毒のない糸の強度を確認し、生半可な攻撃ではどうにもならないと判断した。複数体の女郎蜘蛛による術の重ね掛け。振り仰げば幾層にも広がる真白き宮殿。待ち伏せ中に痺れを切らした女郎蜘蛛が壁の向こうで蠢き始めた。
 そんな動向を気にするでもなく、妖艶な唇が紡ぎだす言葉は一体。
「我為す一切是神事也、天裂き地割る神業畏み畏み奉願祈るべし」
 内容は荒魂を顕現させる文句。稲見之守の目の前で何かが空間に干渉を始める。小さな穴をこじ開けるように現れたるは神性纏う電子の乱舞。荒れ狂う雷は蜘蛛糸を灼きながらのたうち回る。糸壁を破壊するにはまだ足りない。今にも制御を振り解きそうな姿は、まるで龍の如く。
「唸れ雷雲、轟け雷鳴、神鳴れ雷鎚稲光!」
 更なる力を与え成長を促した。一枚の霊符を取り出して展開する。電撃を防ぐ陣が完成した時、雷龍ははち切れんばかりに膨張していた。
 制御の枷を外し意図的に暴走させる。放たれた龍は喜び身をくねらせ、全てを灼いた。心躍らせた光の奔流は迷宮を疾駆する。後には消し炭すら残らない。瞬く間に厄介な毒の城は雷龍の餌食となり創造主たちごと飲み込まれた。
「さて」
 満たしたのは腹か心か判らないが空へ消えた雷龍を見送る。周囲へ視線を投げれば幸運か不幸か一命を取り留めた女郎蜘蛛たち。渦巻くのは恨みか妬みか。
「蜘蛛を喰う趣味はないが、その呪詛怨嗟の念は我が頂こう」
 うつ伏せに転がる手近な一体の首を引っ掴み精気を吸い上げる。金と銀の瞳の前に女は抵抗を示す間もなく意思も命も感情すら喰らい尽くされた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『『殺人者』遊女』

POW   :    ゴールデン遊郭
戦場全体に、【あらゆる存在を誘惑する、豪華絢爛な遊郭】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD   :    【指定技能:呪詛耐性】水子コンセプション
【広範囲に、遊郭で死亡した遊女達の恨み】を籠めた【指定技能以外では防御不可能の呪詛】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【身体の中に異形の赤子を孕ませ、その体内】のみを攻撃する。
WIZ   :    享楽バイオレンス・ボーイズ
【遊郭で豪遊していた、Lv×10人の男性達】の霊を召喚する。これは【【性別:女性】の対象では防御行動】や【回避行動を不可能にする能力を持ち、手足】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 全ての蜘蛛糸を取り払った猟兵たちは摩天楼の内部への侵入をあらゆる場所から試みた。だが扉は扉に非ず、窓は窓に非ず。障子や襖は見合わぬ強度で阻み、傷ひとつつく事無く。瓦を渡り柱を登り、それでも摩天楼は沈黙で拒絶を続けた。
 最終的に正面と思しき鬼灯の大扉へ集う。一人の猟兵が扉に触れると、背を抉るような軋む音を立てながら存外な軽さで口を開けた。ひょう、という風鳴りと共に周囲の空気が飲み込まれていく。あの二人がいるとしたら、この奥しかなく、上層にあった金色の一画が特に怪しい。猟兵たちは果敢に踏み込んでいく。

 最初に出迎えるのは受付のような開口部とベンチのようなものが並ぶ天井の高い大空間。この摩天楼はかつての遊郭を模したもののようだ。往時は目当ての遊女との時間を買うためにたくさんの男たちがごった返したのだろう。開口部上部に屋号の看板らしい立派な板が掲げられている。ただそこに文字はない。
 そして一ヶ所、真っ黒な場所が目を引いた。周囲の様子から、ここが大火災の発端なのだろうと推測される。探索した結果、奥へと続く通路はひとつ。猟兵たちは周囲を警戒しながら石畳を進む。頑丈な木の格子で区切られた小部屋がいくつか並んでいる。その二階からは男女の楽し気な笑い声が漏れ聞こえた。ここも外と同じように建具のような壁に阻まれ内部の様子はそれ以上判らない。
 これらも全て往時の再現ならば身請け前の一時の逢瀬こそが彼女にとって最も幸せな時代だったのだろう。ただ倒すだけでは百五十年後に同じ事が繰り返されるだろうことは過去の事例で想像に難くない。未来を守るためには彼女を説得し転生を促すことが重要になる。
 説得の鍵を握るのはやはり輪太郎少年だが、彼の今の状態は判らない。行方不明となってから丸二日が経つ。万が一など起こらなければ良い。猟兵たちは入り組んだ路地を進み、上層への道を探す。
 何の変哲もない廊下の只中に場違いなほど豪華な金色の部屋があった。その襖の前に立つ、身なりの良い男性。手には鬼灯の簪。赤い中玉は鈴になっているようだ。軽く振るとシャンと繊細な音を立てた。
 ひと呼吸の間を置き内側から襖が開かれる。狐の面をつけた遊女が出迎えた。二言三言言葉を交わして男性を部屋に招き入れようと手を伸ばす遊女。だが、彼女の手が触れた瞬間、そこから火が広がり男性を包み込む。
「ひっ……あ……あ……」
 耳をふさぐように手で顔を覆い後退る遊女。微動だにしない男性はそのまま飲み込まれ崩れ落ちる。
「いやああああああああ――――!!」
岩永・勘十郎(サポート)
メインの方が苦手とするポジションで戦います。例えば接近戦が出来ないなら刀を使って闘い、遠距離の援護が必要なら弓で攻撃します。戦闘スタイルは【集団戦】に記載した通りです。あと敵や人体の弱点を突くような戦闘スタイルを取ります。『足の腱を斬って身動きとれないようにする』など。あくまでサポートなのでトドメはメインの方に任せます。ただやむを得ない場合は勘十郎が刺します。

集団戦でも言える事なのですが、味方の自己犠牲を否定します。味方の驚くべき戦術を目の当たりにした時や敵の行動には素直に「流石だな」と褒めます。一対一に近い戦闘だったり、真剣勝負風な空気なら、最初に「いざ参る!」と言うタイプです。


クリュウ・リヴィエ(サポート)
記憶喪失のダンピールだよ。
名前も年齢も本当かどうか、僕にも判らない。
ま、気にしてないけどね。

自分の過去は判らなくても、色々考えるのは好きだよ。
他人の行動とか状況とかに違和感があると、それに何か意味がないのか考えちゃうよね。
まあ、それで僕が有利になるかどうかは別問題だけど。

あとは食べることも好き。
食わず嫌いはしないし、残さないよ。

戦うときは、突っ込んで力任せに殴り掛かることが多いかな。
一応、剣も魔法も使えるんだけど、結局シンプルなのが性に合うね。



 響き渡る女性の悲鳴に、現場から一番近いクリュウ・リヴィエ(よろず呑み・f03518)と岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)の二人組が駆けつけた。
「いたぞ!」
 探索に使っていたテープで誘導の矢印を描き、金色の部屋へ向かう。
「ひぃ!」
 猟兵の姿を認識した影朧は踵を返し部屋の奥へと消えていった。男性がいた跡形を残さず消した残り火を後目に、二人は影朧を追って部屋へ飛び込む。踏み込む瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ、気がした。
「どっちだ?」
 奥の部屋へ入ると六畳ほどの空間で正面は壁。左右に少し開いた襖が見える。両方を警戒しながら勘十郎が声を潜めて誰ともなく問うた。クリュウは逡巡の後左手の開口部へ向かい、襖に手をかけた。軽く力をかけるとするりと移動する。その向こうの襖が開いている。
「こっちかも」
 隣室の中をぐるりと見渡しながら振り返ることなく言い放つクリュウ。剣を構えながら次の開口部へと駆け寄る。その後を軽く引き絞った弓を手に勘十郎が追う。
「いたぞ!」
 隙間から部屋の奥へ向かう影朧を見つけた。襖を開け放ち走り出すクリュウの後ろから影朧目掛けて弓を射る。逃げ出そうとする影朧の行く手を塞ぐように複数の矢が降り注いだ。僅かに怯んだ隙にクリュウの黒い大剣が振り下ろされる。獰猛な牙のついた刃が豪奢な着物を引きちぎり鮮血に染めた。遊女は左の腕を盾にして大剣を受け止め身体への被害を防いだ。
 すっと遊女の右腕が持ち上げられると、クリュウの身体が宙を舞った。不可視の力に投げ飛ばされたように。すかさず勘十郎が複数の矢を同時に放つ。だがそれも腕のひと薙ぎで全て吹き散らされた。
「!?」
 視界の端で矢とクリュウが床に叩きつけられるのを捉えながら次の矢へ手を伸ばす。その間にも遊女は隣の部屋へと逃げようとしている。三度弓を引いた。閉じられる寸前の襖の隙間へ吸い込まれた矢は、命中したのか。ぴたりと閉じ合わされた襖からは判らない。
 素早く起き上がったクリュウと共に遊女の消えた襖へ体当たりを喰らわせ、四度目の矢を向け――

 ――風が、ざあっと音を立てた。そこに遊女の姿はなく、夕陽がガラス戸に反射して辺りを眩く照らし出している。踏み出した足がなかなか床を捉えない。
「うわああああ!」
 沈み込んでいくクリュウの身体と悲鳴、吹き飛ばしたはずの襖があった場所でガラス戸が閉まる音。ひとまず空中浮遊で体勢を確保する。
「ぐぇっ」
 いきなり落下したクリュウは張り出した屋根に叩きつけられた。先ほど畳に打ち付けた場所の半分を再び痛めたようだ。見上げれば二階分の高さの向こうで勘十郎が宙に浮いている。どうやら迷宮から放り出されたらしい。
 勘十郎はガラス戸を調べるが、他の場所同様に閉ざされている。入り口からやり直しだ。
 二人は移動を始めるが、果たして。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


「――連華さん!?」
 随所に金をあしらった豪奢な部屋へ遊女が入ると輪太郎が駆け寄った。左腕に重傷を負い、背には矢。おろおろするだけで何もできず歯噛みする。
「ここから逃げましょう」
「……どうなさりんした?」
 伏せ気味の瞳が言葉を探してあちらこちらへ彷徨う。
「僕では手当ひとつできませんし、連華さんを守ることもできないです」
 遊女は・連華は黙って袖を引きちぎり簡易の包帯として止血を始めた。
「少し離れた山に親戚の小屋があります。ひとまずそこで夜を待って、夜更けに僕の家に行きましょう」
 輪太郎が伸ばした先には蓋の閉じられた自鳴琴。
「それに、自鳴琴も父さんなら直せると思うので……」
 カタリと開いても音を奏でる事はなく。
「……そうはいきんせん」
 くるりと首を巡らせて一点を見据える。やって来るのだ。次の、二人を引き裂くものたちが。
●幻桜

「……ふわぁ……」
 そこはどのお座敷よりも広い空間だった。いくつかの低木の他は黒い枯れ木が一本。縁側に沿って様々な椅子が点々と置かれている。優美な弧を描く池はカラカラに干上がり、往時の面影を僅かに残すのみ。遥か頭上には覆い切れていない屋根が見える。
「ちょっとだけ休憩しよう」
 抱えていた小箱を長椅子の端に置き、自身もごろりと横になる。屋根の隙間から夕刻を過ぎた空が顔を覗かせていた。輪太郎は飢えを訴える腹を抱える。今日はまだ何も食べていない。昨日だって砂のような菓子だけだ。
「連華さんの心残り、か……」
 それを解決すれば、彼女は心から笑ってくれるだろうか。ふわりと柔らかい風が心地よく頭を撫ぜた。まるで母の手のように。その優しさは疲労の溜まった身体が眠りへと落ちるのに十分だった。
クロゼ・ラビットクロー(サポート)
アポヘルの人間の商人20歳男。
温厚。常にガスマスク着用。
家族以外には基本敬語。口調は乱れてもOK。
ギャグや苦戦描写、キャラ崩壊等も問題無し。
【※但しお色気関係には関心を示さず、
 人前でマスクや衣類を外すこともありません】

身体能力は一般兵士程度。
催涙弾等の様々な擲弾でサポートするのが得意。
火器の無いバイク型戦車に乗ることも。
常にマスクをしているので爆煙の影響を受けない。
強敵にはトレーラーに搭載された兵器を用いる。
(擲弾の中身、兵器共に架空兵器でも可)

「僕で良ければ協力しましょう」
「あの敵は僕には無理そうだなあ…」
「爆弾は危ないしやめておきましょうか」
「爆弾は使わないと言ったな。あれはウソだ」



 ここへ来てもう見慣れた、幾度目かの畳と襖で構成された部屋をぐるりと見回す。パタリと襖の閉まる音で視線を戻した。その襖だけ、他のものと柄が少し違う事に気が付く。さほど気にも留めず、先に行った同行者たちの後を追って襖を開いた。
「はぐれてしまいましたね……」
 がらんとした部屋にはもう同行者たちの姿はなく、進んだ方向も判らないクロゼ・ラビットクロー(奇妙なガスマスクの男・f26592)が呟いた。
「合流できると良いのですが」
 そう呟いて手近な襖から隣室へ踏み込む。ほぼ同時に対角線上の襖が開き、現れたのは連華だった。すぐさま襖の陰に隠れ、様子を窺う。手が武器を求めた。
「そこに鼠が入り込んでいるようでありんすね?」
 こちらに言い放ちながら近づいてくる気配。クロゼはグレネードをひとつ、襖の向こうへ投げ込む。
「何……うっ!」
 どうやら命中したようだ。次にどれを投げるか逡巡する。が、先に連華が動いた。
「隠れた鼠を捕まえてくんなまし!」
 連華を取り囲むように、様々な身なりの男たちが姿を現す。奥の部屋にもいるようで、次から次へと湧いて出た。ここは一度距離を取るのが定石であろうが――
「――爆弾は有効に活用しませんと」
 ひと周り大きなグレネードを、男たちの頭上を越えて部屋の中央目指して投擲する。トン、と床に落ちた音を聞いた次の瞬間。それは閃光と爆炎を伴い炸裂した。男たちは膨張する火炎に飲み込まれて消えていく。迫りくる爆風を、クロゼは衝撃波を放ち相殺する。
 ひどい匂いの充満する中、部屋は傷ひとつ、焦げ跡ひとつなく。連華の姿はどこにもなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御園・桜花
「毒に呪詛、人を人と思わぬ扱い…此処は貴女にとって言葉通り苦界だったのですね」

UC「精霊覚醒・桜」
壁に激突しない程度の高速飛行で迷宮突破
桜鋼扇に破魔属性与え殴合いながら説得

「輪太郎さん…輪一郎さん、それとも輪之介さんと言った方が宜しいですか。貴方が待たぬゆえ、連華さんを300年も待たせた事、恋人としてどう思われます」
「貴方が連華さんの転生をきちんと待てるならば、10年程の年の差で、貴方達は同じ人として同じ時を過ごせましょう。愛する人をまた150年待たせ続ける、そんな人の愛情に胡坐をかいた愛が貴方の愛ですか」

「連華さん…望んで下さい、転生を。今度こそ同じ人として輪太郎さんと同じ時を歩めるように」


神代・凶津
くそ、影朧を見付けたがすぐ逃げやがる。
「・・・追いかけて彼女の魂を鎮めないと。」
おうよ、相棒ッ!

「・・・式、召喚【ヤタ】【追い雀】」
追い雀を影朧に付けて追跡するぜ。
攻撃は見切って破魔の力を宿したヤタでなぎ払ってやる。
呪詛攻撃は相棒の巫女服なら呪詛耐性で浄化できるだろ。

輪太郎の坊主を見つけたら保護、
いや影朧を転生させる為に坊主にも協力してもらうか!?
おい、坊主。
あの姉ちゃんが苦しんでるのを助けたくねえか!?
「彼女を苦しみから解放する為に協力してくれませんか?」
例え道が別たれても惚れた女の事を想って行動するのが男ってもんだぜ、坊主。

【技能・破魔、見切り、式神使い、呪詛耐性、浄化】
【アドリブ歓迎】



 渦巻く桜の花びらを纏った御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はガラス戸から差し込む夕陽に照らされた廊下を高速飛行していた。反対側は閉じた障子戸が続く中、一ヶ所だけ開いている場所に気付いて入り口で立ち止まる。そこは何もない部屋だが、細く開いている奥の障子の向こうで子どもの影を見た気がした。
「輪太郎さん!」
 部屋を横切りながら探している少年の名を呼ぶ。返事はない。襖に手をかけると音もなくするりと滑り現れた部屋は、豪華絢爛な衣装の数々がひしめいていた。
「輪一郎さん、それとも輪之助さんと言った方が宜しいですか!」
 昔行方不明になった少年の名と、遊女を身請けするはずだった青年の名。桜花は輪太郎をどちらか、或いは両方の転生者であると結論付けたようだ。
「恋人を三百年待たせ続け、今また百五十年待たせ続けるつもりですか!」
 足音を気配を見失わぬよう、衣装をかき分け追いかける。何故輪之助だけが、輪一郎だけが、先に転生してしまったのか。何故、連華は影朧となってしまったのか。
「それが、人の愛情に胡坐をかくことが、貴方の愛ですか!」
 襖が開く気配。なんとか追いつこうと息を切らせて小さな足が出て行った襖に飛びつく。足元は畳が途切れ、板張りになっている。それからふわりと頬を撫ぜる風。視線を上げるとそこは縁側から続く中庭だった。枯れたような黒い樹が一本だけ鎮座している。
 遠ざかる子どもの背はだんだんと成長し青年となり、やがて老人となって樹の前で消えた。中庭に降り立った桜花はその樹が幻朧桜だと直感する。まだ生きていることも。
 近付いた桜花は木の根元に掘られた穴を見つけた。そこにあるのは人骨らしきもの。黒く煤けた二種類の布に包まれた、おそらく二人分の。一体誰が。葉も花もない幻朧桜を見上げ、思考を巡らせた。

「ちょこまかと逃げやがって!」
 いくつもの座敷を走り抜け連華を追いかける神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)とその相棒・桜。既に放った式神【追い雀】のおかげで見失う事はない。追跡し続け見慣れてしまった襖の向こうに障子戸が現れたところで連華が立ち止まった。何かを探して首を巡らせている。
「今だ!」
「……式、召喚【ヤタ】」
 桜が破魔の力を宿す八咫烏を召喚し連華へと放つ。更に薙刀を構え、【ヤタ】との連携攻撃でジリジリと連華を追い詰める凶津と桜。
「さあ、大人しくしてもらおうか!」
 連華の背には障子戸のみ。どうにか捕獲を、と隙を見せぬよう距離を詰めていく。連華が後ろ手に障子戸を開き身を翻す。その後を桜よりも速く【ヤタ】が襲う。それを払おうと――バランスを崩して膝ほどの手すりの向こうへ連華が『落ち』た。見失わぬよう慌てて見下ろす。
 真下近くの低木の陰に背もたれのある横長の腰掛を見つけた。そこで今まさに身を起こし眠そうに顔をこする人影。輪太郎を発見する。連華は――

 中庭から一つ分上の階層から人が落下してくる。連華だ。体勢を立て直すには距離が短すぎた。ほんの一瞬足が先に着き、仰向けに叩きつけられる。凶津と桜は軽々と飛び降り、輪太郎を背に庇うように危なげなく着地した。
 連華がゆっくりと身体を起こす。幻朧桜の側に佇む桜花の姿に目を留めるや否や、何かを呟いた。直後、様々な身なりの男たちが現れた。それも中庭を埋め尽くすほどの数が。
「な、なんだこりゃあ!」
 凶津の驚く声が響く。一体一体はとても弱く薙刀のひと薙ぎで軌道上の男たちが掻き消えた。輪太郎は腰を抜かしている。桜鋼扇と銀盆を振るう桜花の元へ、連華が迫った。その手には短刀が握られている。
「そこを退いてくんなんし!」
 桜花は男たちが消え拓けた場所へくるりと移動する。そのまま連華を視界に収めながら男たちを祓っていく。
「……見たからには生かしてはおけんせん!」
 狐面の下の形相が見て取れるような気迫で短刀を握り直し、打ち倒された男を踏み台に飛び掛かった。その短刀を閉じた桜鋼扇で打ち据え、銀盆ごと体当たりで吹き飛ばす。
「毒に呪詛、人を人と思わぬ扱い…此処は貴女にとって言葉通り苦界だったのですね」
 男たちをなぎ倒しながらも辛うじて踏み止まり、再度短刀を振り上げた。
「わっちとて、好きで、こな姿に、なりんした、訳では、ありんせん!」
「ならば連華さん、望んで下さい、転生を」
 繰り出される稚拙な刃の悉くを捌きながら、桜花は転生を願うように説得を始める。

 周囲の男たちを一掃した凶津と桜は輪太郎と向き合った。
「おい坊主、あの」
「彼女を苦しみから解放する為に協力してくれませんか?」
 鬼面である凶津を顔から額へずらし、セリフを桜が強引に引き継ぐ。
「それは……もちろんです!」
 ぱあっと輝いた輪太郎の顔がすぐに曇り俯いた。視線の先は手の中の小箱、自鳴琴。
「これをどうにかしないと、だめな気がして……」
 かたりと小箱を開くと鳴らないオルゴールの構造がむき出しになる。内側は黒い布張りになっていた。凶津と桜が覗き込む。
「どれどれ……ふーむ……ん? この隅に何かあるな」
「内張りと同じ布に包まれているようですね」
 見えにくい手前の角に隠された何かが歯車をせき止めている様子。慎重に作業しなければ壊してしまいそうだ。
 しばらく格闘し、ようやくそれが外れる。中から現れたのは、小さな小さな頭蓋骨だった。輪太郎の手の平にすっぽりと収まってしまいそうなそれを、不可解そうに見つめる。

「……わっちは、まだ、探して、いんす、ものが、ありんすぇ……」
 身体全体を使い大きく息をしている背は血が滲み、左腕は傷が開き真っ赤に染まっている。顎から滴り落ちる雫は、汗か涙か。
「探しているのは……もしかしてこちらですか」
 桜の声に押されるように、輪太郎が両手を差し出す。落とさぬよう大事に大事に合わされた手の中には、先ほどの小さな頭蓋骨。
「これは……これが……ああ……」
 連華は震える手を伸ばし、そっと触れた。
「やっと……やっと……会え……」
 途切れた言葉は嗚咽となり、薄暗くなり始めた空気へ融ける。骨を握り込むと同時にどさりと崩れ落ちた。その目の前に跪いた輪太郎が狐面に手をかけ、するりと外す。
「……あ……」
 涙を湛える瞳が現れた。仮面の下の顔は、癒えぬ火傷の痕が痛々しく広がっている。
「森で連華さんが僕に気が付いてくれた時、とても嬉しかったんです。だから、今度は僕が連華さんを探し出します。だから……転生して、僕のお嫁さんになってください!」
 そう告白しながらハンカチーフを差し出した。なんとも斬新な求婚だろうか。
「……輪太郎さん……」
「本当はもっと連華さんと一緒にいたいけど、生まれ変わった連華さんと、歳が離れちゃうのは……嫌だから……」
 言葉を探すように彷徨う視線。それを聞いてほたりと大粒の雫が溢れ落ちた。
「……わっちを……わっちで……まことに……いいの……で……」
「連華さんが、いいんだ」
 瞬間、雲の隙間から月明かりが二人に降り注いだ。淡い色の服だからだろうか、輪太郎が光を帯びて浮かび上がり、残像が見える。連華の目が驚きに見開かれ、そしてくしゃりと歪ませて涙を流す。
「……わっちは……なんと……果報者で……ありんしょう……」
 我が子の骸を胸に抱き、泣き笑いの顔が月光に照らされた。ふいに二人の間をはらりと桜の花びらが躍る。
「あれは……幻朧桜か?」
 いつの間にか若枝が伸びて花をつけていた樹に皆の視線が集まる。注目を浴びた花々からふわりふわりと光の粒子が立ち昇り始めた。それはやがて頭上を覆い尽くし、気が付くと建物も光の粒子に包まれている。いや、よく見れば建物自体が幻朧桜の花のように淡く輝いているではないか。
「あっ……お二人が!」
 桜花の声に視線を戻せば、輪太郎と連華の二人も同じく光の粒子にまみれている。二人の些細な違い。連華は内側から光を放っているのに対し、輪太郎は周囲を取り囲まれているだけだ。まるで属する世界が違う事を強調するかのように。
「もう……行くんだね」
 立ち上がる連華に輪太郎が寂しげな笑みを見せる。それにこくりと肯定の意を示す。
「それが世の理でありんしょう」
 大部分が光の粒子となって急速に形を失う連華。輪太郎の周囲の粒子と混ざり合うようにくるくると螺旋を描いていく。
「連華さん! 僕、何年でも待ってるから!」
「わっちも…………に……て……」
 言葉にならぬ声を残し、二人の間にざあっと音を立て花嵐が沸き起こった。目を開けていられないほどの強い嵐が。

 ――ありがとう――
 ――ありがとう――

 風に声がこだました。

 風が収まり皆が目を開けると摩天楼は姿を消し、すっかり暗くなっている。山の端の残照に沈みゆくは弓張月。寄り添うように一番星が力強く輝いていた。

●●●おしまい●●●

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月17日


挿絵イラスト