5
華は月下のまほろばに咲く(作者 宮松 標
3


●恋桜
 祭りの喧騒を背に聞きながら少年は冬の間に枯れた草むらへ分け入った。微かに聞こえる声に導かれて。木々の向こうに動くものが見える。
 ぼそぼそとした声は嗚咽混じりとなり、やがて鼻歌となる。初めて聴くはずの音の連なりに不思議と安らぎを覚える。いつか遠い故郷を懐かしむような、置き忘れてきた愛しいものを見つけたような。
 朱色の人影が舞っているのが判別できる距離まで近づいた時、くるりと振り返った狐の面と相対する。
「……そこにいるのはどなたでありんすか?」
 息ひとつ乱れのない穏やかな声に、少年の胸は高鳴る。息を呑んだ後で口を開く。
「あ、あの――」
 二人の間に沸き起こった花嵐がざあっと音を立てた。

●予知
「皆様、ようこそおいでくださいました」
 真白のローブに身を包んだ涅・槃(空に踊る人工の舞姫・f14595)が皆を出迎える。
「早速ですが此度の事件について説明致しますわね」
 サクラミラージュの帝都から離れた宿場町の郊外。大正に入り新たな街道が整備された結果、あっという間に寂れてしまった旧市街地の、更に外れの一画に慰霊碑が鎮座している。
「先日そこで祭りが行われた際、一人の少年が行方不明となりました」
 地図と周辺の情報を映し出す。古びた塀で囲まれた広大な敷地は管理する者もなく、祭りの時期だけ人の手が入る有様だった。
「少年の名は輪太郎と言い、その日八歳になったばかりですわ。私に視えたのは、初めての場所を探検しているうちに影朧として甦った遊女と接触する、短い場面です」
 投影機が再現シーンの映像を流し始める。聡明そうな顔立ちと年相応のやんちゃな行動。しかし子どもらしからぬ熱情を孕む瞳が見つめる先には。
「それと、近隣で『遊郭の幻を見た』という情報が上がっていますわ」
 タイミング的に影朧の遊女と関係があるに違いない。他に手掛かりのない今、調査する価値はあるだろう。
「朝市が立つ時間、町の入り口へご案内致します。まずは遊郭の幻の情報を探してくださいませ」
 転送の準備が始まり、明け方の淡い空が広がっていく。
「影朧にも事情があるかも知れませんが、放っておくことも出来ません。どうかよろしくお願い致します」
 燈火色の髪がさらりと流れた時、転送の準備が整い静かに猟兵たちを待っている。





第3章 ボス戦 『『殺人者』遊女』

POW ●ゴールデン遊郭
戦場全体に、【あらゆる存在を誘惑する、豪華絢爛な遊郭】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD ●【指定技能:呪詛耐性】水子コンセプション
【広範囲に、遊郭で死亡した遊女達の恨み】を籠めた【指定技能以外では防御不可能の呪詛】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【身体の中に異形の赤子を孕ませ、その体内】のみを攻撃する。
WIZ ●享楽バイオレンス・ボーイズ
【遊郭で豪遊していた、Lv×10人の男性達】の霊を召喚する。これは【【性別:女性】の対象では防御行動】や【回避行動を不可能にする能力を持ち、手足】で攻撃する能力を持つ。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 全ての蜘蛛糸を取り払った猟兵たちは摩天楼の内部への侵入をあらゆる場所から試みた。だが扉は扉に非ず、窓は窓に非ず。障子や襖は見合わぬ強度で阻み、傷ひとつつく事無く。瓦を渡り柱を登り、それでも摩天楼は沈黙で拒絶を続けた。
 最終的に正面と思しき鬼灯の大扉へ集う。一人の猟兵が扉に触れると、背を抉るような軋む音を立てながら存外な軽さで口を開けた。ひょう、という風鳴りと共に周囲の空気が飲み込まれていく。あの二人がいるとしたら、この奥しかなく、上層にあった金色の一画が特に怪しい。猟兵たちは果敢に踏み込んでいく。

 最初に出迎えるのは受付のような開口部とベンチのようなものが並ぶ天井の高い大空間。この摩天楼はかつての遊郭を模したもののようだ。往時は目当ての遊女との時間を買うためにたくさんの男たちがごった返したのだろう。開口部上部に屋号の看板らしい立派な板が掲げられている。ただそこに文字はない。
 そして一ヶ所、真っ黒な場所が目を引いた。周囲の様子から、ここが大火災の発端なのだろうと推測される。探索した結果、奥へと続く通路はひとつ。猟兵たちは周囲を警戒しながら石畳を進む。頑丈な木の格子で区切られた小部屋がいくつか並んでいる。その二階からは男女の楽し気な笑い声が漏れ聞こえた。ここも外と同じように建具のような壁に阻まれ内部の様子はそれ以上判らない。
 これらも全て往時の再現ならば身請け前の一時の逢瀬こそが彼女にとって最も幸せな時代だったのだろう。ただ倒すだけでは百五十年後に同じ事が繰り返されるだろうことは過去の事例で想像に難くない。未来を守るためには彼女を説得し転生を促すことが重要になる。
 説得の鍵を握るのはやはり輪太郎少年だが、彼の今の状態は判らない。行方不明となってから丸二日が経つ。万が一など起こらなければ良い。猟兵たちは入り組んだ路地を進み、上層への道を探す。
 何の変哲もない廊下の只中に場違いなほど豪華な金色の部屋があった。その襖の前に立つ、身なりの良い男性。手には鬼灯の簪。赤い中玉は鈴になっているようだ。軽く振るとシャンと繊細な音を立てた。
 ひと呼吸の間を置き内側から襖が開かれる。狐の面をつけた遊女が出迎えた。二言三言言葉を交わして男性を部屋に招き入れようと手を伸ばす遊女。だが、彼女の手が触れた瞬間、そこから火が広がり男性を包み込む。
「ひっ……あ……あ……」
 耳をふさぐように手で顔を覆い後退る遊女。微動だにしない男性はそのまま飲み込まれ崩れ落ちる。
「いやああああああああ――――!!」
岩永・勘十郎(サポート)
メインの方が苦手とするポジションで戦います。例えば接近戦が出来ないなら刀を使って闘い、遠距離の援護が必要なら弓で攻撃します。戦闘スタイルは【集団戦】に記載した通りです。あと敵や人体の弱点を突くような戦闘スタイルを取ります。『足の腱を斬って身動きとれないようにする』など。あくまでサポートなのでトドメはメインの方に任せます。ただやむを得ない場合は勘十郎が刺します。

集団戦でも言える事なのですが、味方の自己犠牲を否定します。味方の驚くべき戦術を目の当たりにした時や敵の行動には素直に「流石だな」と褒めます。一対一に近い戦闘だったり、真剣勝負風な空気なら、最初に「いざ参る!」と言うタイプです。


クリュウ・リヴィエ(サポート)
記憶喪失のダンピールだよ。
名前も年齢も本当かどうか、僕にも判らない。
ま、気にしてないけどね。

自分の過去は判らなくても、色々考えるのは好きだよ。
他人の行動とか状況とかに違和感があると、それに何か意味がないのか考えちゃうよね。
まあ、それで僕が有利になるかどうかは別問題だけど。

あとは食べることも好き。
食わず嫌いはしないし、残さないよ。

戦うときは、突っ込んで力任せに殴り掛かることが多いかな。
一応、剣も魔法も使えるんだけど、結局シンプルなのが性に合うね。


 響き渡る女性の悲鳴に、現場から一番近いクリュウ・リヴィエ(よろず呑み・f03518)と岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)の二人組が駆けつけた。
「いたぞ!」
 探索に使っていたテープで誘導の矢印を描き、金色の部屋へ向かう。
「ひぃ!」
 猟兵の姿を認識した影朧は踵を返し部屋の奥へと消えていった。男性がいた跡形を残さず消した残り火を後目に、二人は影朧を追って部屋へ飛び込む。踏み込む瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ、気がした。
「どっちだ?」
 奥の部屋へ入ると六畳ほどの空間で正面は壁。左右に少し開いた襖が見える。両方を警戒しながら勘十郎が声を潜めて誰ともなく問うた。クリュウは逡巡の後左手の開口部へ向かい、襖に手をかけた。軽く力をかけるとするりと移動する。その向こうの襖が開いている。
「こっちかも」
 隣室の中をぐるりと見渡しながら振り返ることなく言い放つクリュウ。剣を構えながら次の開口部へと駆け寄る。その後を軽く引き絞った弓を手に勘十郎が追う。
「いたぞ!」
 隙間から部屋の奥へ向かう影朧を見つけた。襖を開け放ち走り出すクリュウの後ろから影朧目掛けて弓を射る。逃げ出そうとする影朧の行く手を塞ぐように複数の矢が降り注いだ。僅かに怯んだ隙にクリュウの黒い大剣が振り下ろされる。獰猛な牙のついた刃が豪奢な着物を引きちぎり鮮血に染めた。遊女は左の腕を盾にして大剣を受け止め身体への被害を防いだ。
 すっと遊女の右腕が持ち上げられると、クリュウの身体が宙を舞った。不可視の力に投げ飛ばされたように。すかさず勘十郎が複数の矢を同時に放つ。だがそれも腕のひと薙ぎで全て吹き散らされた。
「!?」
 視界の端で矢とクリュウが床に叩きつけられるのを捉えながら次の矢へ手を伸ばす。その間にも遊女は隣の部屋へと逃げようとしている。三度弓を引いた。閉じられる寸前の襖の隙間へ吸い込まれた矢は、命中したのか。ぴたりと閉じ合わされた襖からは判らない。
 素早く起き上がったクリュウと共に遊女の消えた襖へ体当たりを喰らわせ、四度目の矢を向け――

 ――風が、ざあっと音を立てた。そこに遊女の姿はなく、夕陽がガラス戸に反射して辺りを眩く照らし出している。踏み出した足がなかなか床を捉えない。
「うわああああ!」
 沈み込んでいくクリュウの身体と悲鳴、吹き飛ばしたはずの襖があった場所でガラス戸が閉まる音。ひとまず空中浮遊で体勢を確保する。
「ぐぇっ」
 いきなり落下したクリュウは張り出した屋根に叩きつけられた。先ほど畳に打ち付けた場所の半分を再び痛めたようだ。見上げれば二階分の高さの向こうで勘十郎が宙に浮いている。どうやら迷宮から放り出されたらしい。
 勘十郎はガラス戸を調べるが、他の場所同様に閉ざされている。入り口からやり直しだ。
 二人は移動を始めるが、果たして。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

「――連華さん!?」
 随所に金をあしらった豪奢な部屋へ遊女が入ると輪太郎が駆け寄った。左腕に重傷を負い、背には矢。おろおろするだけで何もできず歯噛みする。
「ここから逃げましょう」
「……どうなさりんした?」
 伏せ気味の瞳が言葉を探してあちらこちらへ彷徨う。
「僕では手当ひとつできませんし、連華さんを守ることもできないです」
 遊女は・連華は黙って袖を引きちぎり簡易の包帯として止血を始めた。
「少し離れた山に親戚の小屋があります。ひとまずそこで夜を待って、夜更けに僕の家に行きましょう」
 輪太郎が伸ばした先には蓋の閉じられた自鳴琴。
「それに、自鳴琴も父さんなら直せると思うので……」
 カタリと開いても音を奏でる事はなく。
「……そうはいきんせん」
 くるりと首を巡らせて一点を見据える。やって来るのだ。次の、二人を引き裂くものたちが。
●幻桜

「……ふわぁ……」
 そこはどのお座敷よりも広い空間だった。いくつかの低木の他は黒い枯れ木が一本。縁側に沿って様々な椅子が点々と置かれている。優美な弧を描く池はカラカラに干上がり、往時の面影を僅かに残すのみ。遥か頭上には覆い切れていない屋根が見える。
「ちょっとだけ休憩しよう」
 抱えていた小箱を長椅子の端に置き、自身もごろりと横になる。屋根の隙間から夕刻を過ぎた空が顔を覗かせていた。輪太郎は飢えを訴える腹を抱える。今日はまだ何も食べていない。昨日だって砂のような菓子だけだ。
「連華さんの心残り、か……」
 それを解決すれば、彼女は心から笑ってくれるだろうか。ふわりと柔らかい風が心地よく頭を撫ぜた。まるで母の手のように。その優しさは疲労の溜まった身体が眠りへと落ちるのに十分だった。