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星の海より零れた船は忘却の時へと静かに埋もれ

#グリードオーシャン

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#グリードオーシャン


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●忘却に喰い込む欲望の牙たち
「お宝は、眠らせておいちゃあいけねェ」

 夜の闇に浮かび上がる凶相。彼女が小高い丘から見下ろすのは大きく広がる島の全景。
 のどかで、クソ退屈な、彼女にとっては虫唾の走るようなロケーションだ。
 よく通る声で紡がれた言葉と共に女がくつくつと笑う。欲望のままに奪い続けた生前の在り方を反映したような、禍々しいサディスティックな表情。長く伸びた金髪の隙間から覗く、右眼窩に埋め込まれた義眼が妖しく燃えるように輝いた。
 
「誰も手を出さねえ、使い道も分からねえってんならそれを欲しがってるヤツこそが有効活用すべきだ。例えばこのアタシとかな。……そう思うだろう、お前たちも」

『肯定』『肯定』『肯定』『左ニ同ジク』『以下同文』

 彼女の問いに、傍に控えていた複数の大柄な影たちが無感情に機械音声を淀みなく返しては、点灯する赤い眼光を明滅させる。身に纏うボロ布めいたマントに覆い隠されたその巨体には、たかが布一枚では到底隠し切れぬほどの凶悪な武装を帯びているらしい。

「宜しい。ならば島に眠るお宝はアタシ達が頂戴するよ。
 こんなつまんねえ島で眠らせとくのは勿体ねえ。せっかくのお宝が泣いちまうよ!」

 羽織るマントを翻し、美しくも狂暴な女コンキスタドールが振り返る先には、小さな集落の賑わい。凶悪なオブリビオン共の企みなど露とも知らず、日々を生きる人々の営みの明かりがぽつぽつと闇をほのかに照らしている。

「その過程で塵芥みてェな人間どもが何人くたばろうと知ったこっちゃねえ!」

『肯定』『肯定』『肯定』『肯定』『オカシラ、サッサト下知ヲクダサイヤガレ』

 次の瞬間、黒く禍々しく歪んだその右腕で女が無造作に振るう大斧の横薙ぎが、不遜な口を叩く配下の首を胴体から勢い良く刎ね飛ばす。

『アバッ!?』

「其処は“キャプテン、下知を宜しくお願い致します”だろうが! 
 お前にゃまだまだ調教が足りねえらしいな!」

 重たい金属音と共に地べたに転がり落ちた自分の首を追いかけて、拾い上げたそれを胴の上になんとか戻そうと頑張る手下を尻目に、大斧の石突を力強く足元に打ち付けながら凶相の女コンキスタドールは高らかに宣言した。

「海賊にゃイカした船が必要だ! 散々イキって船がねェなら格好もつかねえ!
 イイかい、船を手に入れるのに邪魔な連中は皆ぶっ殺しちまいな!」

『任務了解』『合点承知』『アイアイサー!』『イエスマム!』『アババ……』

 船を持たざる船長の轟かせる号令に、異形の大男たちは一斉にマントを脱ぎ捨てる。其処から突き出された鋼の多肢に握られたビームカトラスの光刃が夜の闇に唸り、これを青白く灼いていく。それぞれ突き上げた青く燃える刀身と月明かりを背負いながら、女船長は狂気の哄笑を上げるのだった。生前には海賊を散々に刈り取った自慢の大斧が、更なる生命をこの刃に吸わせてくれと猛っている。無論彼女自身もそのつもりだ。景気付けにこの島を丸ごと吹き飛ばして派手な船出と洒落込むのも悪くはない。

「島のお宝……いや、この島そのもの! アタシたちの船にしてやろうじゃないか!」


●グリモアベースにて
「今回、皆に向かって欲しいのはグリードオーシャンの中に浮かぶひとつの島だよ」
 黒いローブを纏ったその肩に一羽の黒い鳥を留まらせるユスト・カイエン(終の紅刃・f24320)は開口一番にそう告げれば、テーブルの上に乗せられていた映写機からスクリーンに映像を投影する。大きな白い垂れ幕へと映し出されたのは青い海に浮かぶ島の遠景だ。一見すれば何の変哲もない緑豊かな行楽地のように見えなくもない。
 
「島の名前は“オサフネ島”だ。この島はスターシップワールドから墜ちてきた宇宙船で出来ている。島の岩盤に突き刺さるようにして墜落した船が、永い時を過ごす内に土砂に埋もれて島の一部になってしまったんだ」

 彼の言葉を裏付けるかのように、島をより詳細に大きく捉えた画像が映し出される。島の端部から突き出しているように見えるのは、金属的な遺構の類。更に目を凝らせば島の巨大な岩盤に何らかの建造物が埋もれているという事が理解出来るだろう。合わせて集落の様子を映す映像には、それぞれ年季の入った宇宙服を身に纏い往来を行き来する島民たちの日常の生活風景が描かれていた。

「ここで暮らしているのは墜落から生き残ったスペースノイドの子孫たちだ。彼らに祖先の技術や知識は殆ど残っていないけど、あんな風に代々伝わる宇宙服を大事にして何時も着込んでいるのが特徴的だね。彼らは祖先が残した道具の残骸を島民同士で物々交換したりしながら、農耕とか漁をしてのどかに生活しているよ」

「でも、今回大事なのはそこじゃないから本題に移ろう。宇宙船はまだ完全に機能が死んでいる訳じゃない。部品が足りない、技術がない、とか色々な理由で修理を諦めた乗組員たちはこの世界に適応して生きていくことにしたみたいだけど」

 今日もビビットにいい色していらっしゃいますね、いいえそちらこそ大層クールにキマっておられますよ、等と朗らかに互いの宇宙服の着こなしを褒めそやし合う奥様たちや、とうの昔に壊れてしまった年代物のブラスターライフルの銃身に黒曜石を削り出して作ったナイフを括り付けたお手製の狩猟道具を担いで森を目指す宇宙服姿の狩人たちの紡ぐ日常風景を他所に、ユストは新たな映像をスクリーンに映し出した。それは漆黒のマントを纏う異形の大男たちを複数従えた、一人の女だ。変異して黒く歪んだ異形の右腕には、常人では到底扱えぬであろう禍々しい大斧を一振り携えている。

「ともかく、その船に目をつけたのがこのコンキスタドールだ。メガリスの力を悪用し、配下を集めて海賊を気取っている。彼女がメガリスを使えば部品や技術の不足も誤魔化して強引に船を飛ばせるかも知れない。でも、島の地面にほぼ全体が埋まっている船を無理やり動かしたら、島の大部分が崩壊して住民たちにも危険が及ぶ」

 皆には彼女と、彼女に率いられた配下たちの討伐をお願いしたいんだ、と告げるユストの肩上で、其処に留まる黒鳥がガアガアと耳障りに鳴いた。それを咎めるようにクチバシの辺りをぎゅっと握って掴みながら、ユストは表情に乏しいその顔立ちで、それでも真剣な眼差しを猟兵たちに巡らせた。

「皆には地表に出ている宇宙船の搭乗口から船の内部に潜ってもらうよ。島民たちがパニックに陥らないように、極力彼らに知られずに素早く済ませて欲しい」

 宇宙船搭乗口近くの浜辺までは、鉄甲船が猟兵達を運んでくれる事だろう。

「コンキスタドールは既に宇宙船の内部を進んでいるから、彼女が最深部でメガリスの力を振るうより先に追いついて、撃破する。……ここまではいいかな?」

 艦内のセキュリティはまだ生きているようだから気をつけて、と続けるユストは少し考え込んでから、更に厳かに紡ぐ一言を添える。それはまるで祈るように。

「……フォースオーラの導きと加護が皆と共にあらん事を」


毒島やすみ
 はじめまして、或いは何時もお世話になっています、毒島です。
 せっかくの新世界、一本くらいはと思いとりあえずやってみることにした次第です。

 第一章は日常、島民たちからは遺跡と思われている宇宙船の内部に侵入し、最深部を目指していきます。第二章は道中に遭遇する敵との集団戦、女海賊の手下として扱き使われている雑兵達を蹴散らしていきましょう。第三章はボス戦、ようやく追いついた性格のキツそうな強欲な女コンキスタドールとの決戦です。まだ船を持っていないので海賊ではなく山賊かも知れません。名前はマダナイ、トクニナイ。

 ともあれ、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
 宜しければどうぞ今回も毒島とお付き合いくださいませ。
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第1章 日常 『忘れられた遺跡』

POW   :    この先はなにがあるんだ? 好奇心のままに探検だ。

SPD   :    そういえば、こんな所に。仕掛けや、隠し通路を見つけてみる。

WIZ   :    読める、読めるぞ! 知識で失われた文明を紐解いていく。

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アシェラ・ヘリオース
「人とは逞しい物だな」
スーツ姿で人々の営みを眺め息を吐く
かっての銀河帝国の近衛として、皇帝の理想の為に活動した過去に悔いは無いが、人の強さにも目を向けるべきだったと言う自省の想いはある
忠を尽くした帝国は遠く滅び、人々の営みが続いているなら立ち返るべきは騎士の本分だ

「かって一度はスペースに覇を唱えた以上、彼等もまた守護すべき臣民だと言えるな」
詭弁を以て立ち位置を明確にし、戦闘服に早着替え
「そう言う訳だ貴様等。帝国騎士の本分を果たせ。帝国近衛隊長アシェラ・ヘリオースの名において命ず」

黒騎達を展開し、自身も生きている遺跡の機器を【メカニック】で復旧させ【ハッキングで情報収集】を行う
慣れ切った手順だ



●銀河帝国騎士、異郷の地にて起つ
「人とは逞しい物だな」

 照りつける陽光の中、黒いスーツの女が感嘆の溜息と共に呟く。
 眩しいのは決して陽光だけではない。宇宙服のヘルメット越しに透け出す人々の笑顔は確かに眩しいものだった。そう規模は大きくはないが、なかなかの活気に溢れる浜辺の集落。周囲を見渡せば道の端では行商を営む者、屋根の下ではボードゲームに興じる老人、路地裏では黄色い宇宙ゴムボールを蹴ったり投げたりして、それを追いかけていく子供たち。それぞれの人々がこの世界に刻みつけているそれぞれの日常の営みがある。そして、大通りを行き交う人々の中に、アシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)の姿もあった。

 色とりどりの宇宙服を身に纏う人々の中にあって、黒スーツのアシェラの姿は目を引きそうなものだが、そこは猟兵としての特性ゆえに、誰も彼女に対して違和感や疑問を抱くことはない。彼らは嘗ての銀河帝国による支配から逃れたものたちの子孫であろうか。皇帝の理想を実現すべく、帝国近衛騎士として仕え尽くした日々を悔いるものではないが、彼らの営みの様子を目の当たりにし、胸の内で燻るような苦い感情はある。

 嘗てその忠義を捧げた強大な帝国もとうに滅び、その支配から脱した者たちの子孫は今もこうしてささやかながらも、日々を懸命に暮らしている。その風景は繁栄や文明の光とは些か遠いが、それでもこの島は彼らにとっての楽園に違いない。そして、自身もまたスペースノイドであるアシェラにとっても、その風景を破壊せんとする者たちの企みは到底看過する訳にはいかないものだという思いを強く改める。――……機械設備の類に頼らず、自己の生身で生きる事が出来る肥沃な大地。それはスペースノイドにとっての悲願とも言えるだろう。この大地を守る事こそが、騎士の本分とも言えるのではなかろうか。

「……おっと」

 不意に脚にぶつかる小さな衝撃。傍らに弾みながら勢いなく転がる、空気の少し抜けた黄色いゴムボールを屈んで拾い上げる。 ボールを抱えながら騒々しい賑わいに視線を向ければ、宇宙服姿の子供たちが駆け寄ってくるのが目に入った。

「ごめんなさーい! それ、返してもらってもいいですかー!」
「……気にすることはない。だが、出来ればもう少し広いところで遊ぶと良い」

 人にぶつかると危ないからな、と屈んで子供にボールを手渡せば、礼と共に遠ざかっていくその背中を見送ったところでアシェラの表情が穏やかなそれから、真剣味を帯びた鋭いものへと変わる。

「嘗て一度はスペースに覇を唱えた以上、彼等もまた守護すべき臣民だと言えるな」

 表情同様の鋭く堅い決意に満ちた声と共に、歩み出す。黒い風が一筋吹き抜けていく。その風が通り抜けた時、それまでアシェラの身に纏っていたブラックスーツは、一瞬の内にその身を帝国騎士伝統の、漆黒の戦装束へと変貌している。

「……そういう訳だ、貴様ら。
 聞いていたな? 今こそ我ら帝国騎士としての本分を果たす時だ」

 主君の言葉と同時に、その眼前に音もなく降り立つ影のような漆黒の小さな騎士たち。AIによって再現、制御されたアシェラの嘗ての配下たちを模倣する騎士ユニット「黒騎」たちが、一糸乱れぬ隊列を組んで指揮官の下知を静かに待つ。

「帝国近衛隊長アシェラ・ヘリオースの名において命ず。
 先行し、かの箱船の斥候を務めよ。
 そしてこの地を侵略せんとする不届き者どもを捕捉するのだ」

『御意』

 常であれば、オリジナルの彼らの軽薄ささえもが再現されたAIは剽軽に軽口すら叩くであろう。されど、緊迫した状況においては質実にアシェラの指令へと応えるその忠勤ぶりもまた、在りし日に共に戦い続けた彼らを忠実に模したものである。赤い眼光の刻む軌跡を一筋残し、文字通りの影と化して一斉に音もなく散開していく頼れる配下たちを追うように、アシェラもまた力強い足取りで歩き出した。

 目指す先はそう遠くない遺跡。
 この地に住まう者たちからはそう認識されている遺構。しかし、それは現役のスペースノイドであるアシェラにとっては馴染み深いよくよく見慣れたものである事は想像に難くない。

「――……システムがどれほど生き残っているのやら。
 だが、この手の作業も慣れたものだ」

 海賊風情が、近衛騎士を舐めてくれるなよ。
 声に出すことなく呟くアシェラの口元が、不敵な笑みの形を刻んだ。
 曰く、笑顔というものは本来攻撃的な表情であると言う。

成功 🔵​🔵​🔴​

シルヴィア・スティビウム
宇宙船が墜落して、その子孫が守っている……SF小説の世界だわ
でも、のどかに生きているのなら、何よりだわ
健やかな日常、それを冒すことはできないわね……

どの程度、船の機能が生きているかわからないけれど、人目につかぬよう侵入しましょう
アポカリプスヘルの文明とは違うけれど、端末のようなものがあれば調べてみましょう
世界知識を以て、情報を引き出せるかもしれない
もしくは物理的な書物などから船の情報を調べられないか試してみましょう
セキュリティはどの程度かしら
温度や音、光学センサーの類なら、属性攻撃で以て風や熱、闇を用いて誤魔化せないかしら
遺跡を傷つけるのは本意ではないわ
誤魔化しきれなければUCで突っ切る


レイ・オブライト

欲しいもんが目の前にある
そりゃオレでもはしゃいだだろうよ

【POW】

古い本でしか見たこともねえ
宇宙船、のセキュリティつうとなんだ
食らって歩いても構わねえが
焦げ跡やら破片、先に入り込んだ女の痕跡で多少は予測つくかもな
センサー他機械系統ならヴォルテックエンジンの電流叩き込みゃ狂わせられるか。素手がヤバけりゃ衝撃波だ
単純に分厚い隔壁なんかはぶっ壊しゃいい
……ん?
極力穏便につって言ってた気もしねえでもねえな
仕方ねえ、戻しとくか
帰りがけに手足ついてたら



●Open Sesame!
「宇宙船が墜落して、その子孫が暮らしている……まるでSF小説の世界だわ」

 ちらりと振り返る視線の先には、小さく離れた集落の姿。これだけ離れていても微かに聞こえる賑わいからは、其処で暮らす人々の活気の様子も窺えるというものだ。

「彼らがのどかに生きているのなら、何より。
 ……健やかな日常、それを冒すことはできないわね……」

 彼らの平穏を必要以上に乱すことはない。そう判断したシルヴィア・スティビウム(鈍色の魔術師・f25715)は遺跡の入り口へと人目につかぬように、極力の注意を払って移動してきた。尤も、技術や知識に然程の興味も持たずおおらかに日々を過ごす島民たちからしてみれば、遺跡など省みる価値も特にない場所ではあるのだが。思いの外容易に接近できた搭乗口は、嘗ての乗組員たちが外の世界へと抜け出した時のまま、タラップを降ろして開け放たれている。その周囲は長い年月の経過を経ての老朽化が進んでこそいるが、一歩内部へと足を踏み入れれば靴の裏を通して伝わる微細な振動に、まだこの船は生きているという言葉を思い起こす事だろう。進む度に、金属の廊下の彼方此方の計器類がシルヴィアの歩みを先導するかのように、点灯してはぼんやりと明滅を繰り返す。

「……飛べない割に、状態はそれほど悪くはない……?」

 単純に頑丈なのか、スペースシップワールドの技術力が優れているのか。思案に首を捻るも、状態が良いのであればお目当てのものもありそうなもの――それを探すべく、周囲を見回しながら慎重に進むシルヴィアの視界にやがて映るのは行く手を遮る巨大な隔壁と、その側面に備えられたターミナルである。それはまさしくシルヴィアの探し求めていたものだ。

 罅割れた小さなコンソールを覗き込みながら、キーを叩く指先が踊る……が、船内のセキュリティシステムへのアクセスを試みると同時に鳴り響く警告音に小さく舌打ちを漏らしたシルヴィアは微かに渋面を作る。

「アポカリプスヘルのとは少し勝手が違うみたい……」

 次第に強まる警告音、これはいよいよ危ないかも知れない、と思い至るとほぼ同時にシルヴィアの行く手を阻む隔壁が轟音と共に大きく丸く膨らんだ。

「……え?」

 これは、壁の裏側に居る何かが其処から思い切り壁を殴り付けているのだと気付いたのは、第二撃と共に膨らんだ壁を拳が突き破って風穴をぶち開けたのとほぼ同時のこと。壁をぶち抜いた拳を引っこ抜き、風穴を覗く向こう側の人物と目が合う。

「……取り込み中だったか?」
「いいえ、開けゴマを唱える手間が省けたのだわ」

 そのまま歪んだ壁をめりめりと引き剥がすことで強引に通路を開通させてきた弊衣破帽の青年の姿に、シルヴィアは思わず嘆息するのであった。

「正直、遺跡を傷付ける事は避けたかったのだけれど……」
「悪い、機械にゃとんと疎くてな……。殴れば動くとかそういう認識なんだ。
 後で出来る限りで戻しとく。あんまし器用でもねえんだが」

 シルヴィアの言葉に、頭を掻きながら後方を振り返るレイ・オブライト(steel・f25854)。彼の歩んできた道程の険しさと、それを強引に己の不死身の肉体の頑強さで押し通ってきた事を示すかのように、通路の彼方此方は無惨にとっちらかり、或いは壁や床面が崩れて内部の機械装置が痛々しく露出している。よくよく見れば、レイの強靭に鍛えられた肉体の彼方此方にも、焼け焦げた火傷痕やレーザー痕らしき孔まで穿たれている。

「言っておくが、オレだけのせいじゃねえからな」
「…………えぇ……」

 シルヴィアの「……本当に?」とでも言いたげなその眼差しから逃れるように虚空の辺りで目線を彷徨わせつつ、レイは頬に走る縫い傷の辺りを小さく指で掻く。然し、少々気まずくはあるが、彼の言葉は決してウソなどではない。

「先に入り込んだ連中の仕業だろうな。奴らはしゃいでやがるのさ」
「……はしゃぐ?」
「何せ欲しいもんが目の前にある。そりゃオレでもはしゃいだだろうよ」

 海賊連中にとっちゃ、此処は宝物そのものだしな、とレイは呟く。その割に扱いがぞんざいなのは ―― まあ、オレも連中もお互い様だから言いっこなしだ。等と続く筈のレイの言葉はひっそりその分厚い胸板の内に仕舞っておくとして。

「この先の通路がよくわかんねェから、一旦引き返して来たんだけどよ。
 パスワードもわかんねェし、壁もちょいと分厚くてな」

 レイのその言葉に、改めてシルヴィアは壁のターミナルを見遣る。既に道を開くための用途は為さなくなったが、それ以外の役割も見込めるかも知れない。どうしたものかな、と首をゴキゴキ鳴らしながら欠伸を漏らすレイを尻目にコンソールキーへと再び指を滑らせる。リズミカルにキーを叩く指先の速さが、少しずつ加速を帯びていく。

「……少し情報を集めるわ。あなたは余りモノに触らないでいてくれる?」
「おう」

 コンソールに不規則に浮かび上がる一見すれば意味不明の文字列を読み取りながら、強引にセキュリティから管理の大本たる船内管制のシステムへとアクセスするなり、其処に対応すると思われるパスワードをプロテクトが反応するよりも先に、総当りで機関銃の如くぶち込んで強引に防護を解きほぐしていく。ユーベルコードによって無理やりオーバークロックさせた脳の演算速度とそれに付随する反射神経の強化。今やシルヴィアの打鍵と情報処理能力は常人を遥かに越えていた。それは機械の反応、処理速度さえをも易々と上回るほど。無論代償はある。だが、今は一人きりではないからこそ躊躇なく使える切り札だ。

「この間、私は無防備だから何かあったら護りをお願いするわ」
「あいよっと」

 言われるよりも先に、警報音と共に放たれる侵入者迎撃用のレーザー照射。
 咄嗟にレイの放り投げる引っ剥がされた隔壁が身代わりとなって焼き溶かされる。

「邪魔だっての……!」

 間髪入れずに崩れ落ちる残骸の陰より突き出した太い腕から放たれる電流の青白く眩い輝きが廊下を照らし、走り抜ける電撃の衝撃に白煙を噴き上げて沈黙するレーザー砲を見上げながら、レイは再び頬を掻いた。それ以上の追撃はないと見て、改めて振り返る視線の先には、コンソールの前でふらふらと崩れ落ちるシルヴィアの姿。咄嗟に伸ばした腕が倒れ込む身体を支えれば、そのまま壁に凭れさせるようにして座り込ませる。やがて、一分のクールダウンを挟んで再起動されるシルヴィアの意識。彼女はユーベルコード「アルジャーノンエフェクト」によって加速、増幅された演算速度の代償として、しばしの昏睡に陥っていたのである。

「悪ぃな、また壊しちまった」
「……仕方ないわ。でも、こちらも欲しい情報は手に入れた。パスワードもね」

 立ち上がろうとする彼女へと此方からも腕を伸ばして引き起こしつつ、レイは先に自分が通り抜けてきた道程を振り返った。我ながらなかなか手荒くやったものだ。過去は余り振り返らない主義だが、前に進めば進むほど自分の所業を突きつけられているような気がして、レイはもう一度頬の傷を小さく掻いた。

「防衛装置の類は予めだいたいぶっ壊したからな。安心して進もうじゃねえの」

 そんな彼の言葉に半分呆れたりしつつも、シルヴィアの抱いたもう半分の感慨は頼もしさだったかも知れない。不意のトラップの類も、ある程度は盾となって凌いでくれると見て良さそうだ。

「……ところで、この船の名前教えてあげましょうか」
「あんまり興味はねえけど、教えたいなら教えてくれてもいいぜ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
朽ちた故郷の宇宙船…ある意味ではSSWの民の悲願「居住可能惑星発見」を成し遂げたのかもしれませんね
今もこの船で息づく人々の為、そして眠るこの船の為にもコンキスタドールの目論見を阻止せねばなりません

セキュリティの攻勢を●盾受け●武器受けで防御
コンピューターにアクセス可能な場所に侵入しワイヤーアンカー先端の形状可変ジャックを用い●ハッキング●情報収集と●破壊工作
大分古い形式ですが腕に付けたUCの支援があれば…

制御システムに接触し操作
船内構造の把握や猟兵の侵攻ルート上セキュリティを解除

もし制御システムが完全に生きているならば協力を要請したい所ですが望み薄
せめて船名くらいは知りたいところですが…


ミハエラ・ジェシンスカ

まさかこんなところでスペースシップワールドの痕跡を見る事になろうとはな

まずはフォースレーダーを照射して【情報収集】を行う
外観と内部を走査して可能な限り構造を把握
よほど特異な造りでない限り船の構造というのは似通うものだ
私の記憶領域にある他の船とも照らし合わせつつ奥へと進む
艦名や所属がわかればより確実な照会ができる筈だが、さて

この角度でなおかつ重力制御も死んでいるとなれば
徒歩で進める箇所ばかりでもないだろう
【念動力】による飛行や障害物の除去も適宜行おう

まだ生きている機械があれば【変形進化】させて
セキュリティの掌握あるいは情報の取得を試みる
永い惰眠を貪っているところ悪いが、叩き起させて貰うとしよう



●望めど望まれず、遁るれど遁れず
「……とりあえずこの船の名前は分かりました。
 超長距離移民船“ビゼンオサフネ”。島の名前にもなっていましたね」
「嘗て銀河帝国の支配域から逃れた大規模移民船団の生き残りが、
 まさかこんな所にまで流れ着いていたとはな」

 制御系の大部分が死んでいる、或いは機能不全を起こした事で薄闇に支配された区画。それでも、文字通りに闇の中でその眼光を燃やす二人のウォーマシンにとってはさしたる障害ともならない。壊れかけたターミナルの端子に接続していたジャックを引き抜き、それが繋がるワイヤーを手早く巻取り自身の内部へと格納するトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)と、周囲を警戒するように視線を巡らせるミハエラ・ジェシンスカ(邪道の剣・f13828)である。

「SSWの民の悲願でもある“居住可能な惑星の発見”を成し遂げたとも言えます。
 それなりに感傷にも浸るというものですよ」
「成程、センチメンタリズム大いに結構。
 それについてはこの私とて思うところが無い訳でもない。
 寧ろかのスペースノイドたちを見事な反骨心の持ち主だったと讃えもしようさ」

 奇しくも銀河帝国に縁の深い両者であるが、片やたった一つ刻み込まれた騎士道を規範に、片や未だに帝国への忠義深き故に叛逆し続ける、互いに複雑怪奇な宿痾を抱える者同士でもある。赤い眼光を薄闇に刻みつけながら、同時にミハエラは自身に搭載された装備「フォースレーダー」の照射により、現在地の周辺情報の収集を試みる。自身も操るサイキックエナジーによって、通常のレーダー類よりも更に直感的に、つまり文字通りの手に取るように周辺地形を理解、把握することも可能である。赤い眼光が明滅するたびに、照射されるフォースオーラが解析する情報類が、ミハエラの頭脳回路へと送られ、集積されていく。

「外からは地下に埋まっているので判別し難かったが、艦種と記録を照合した結果、構造は既知の大型宇宙船と大差ない。銀河帝国と一戦交えるつもりだったか、移民船の割にはなかなかの重武装ではあるが。……海賊どもが目をつける訳だな。このまま進めば動力室やブリッジのある重要区画に行き着く。連中にも追い付く筈だ」
「急ぎましょう。今もこの船の上で息づく人々、そして役目を終えて眠り続けるこの船のためにも、コンキスタドールたちの目論見は阻止せねばなりません」
「……悪くない心意気だ。ならば、更にもう少し情報の精度を高めよう。
 この船には少々気の毒だがな」
「ふむ?」

「永い惰眠を貪っているところ悪いが、叩き起こさせてもらうとしよう。
 もう少しだけ働いてくれ」

 言うが速いか、ミハエラのユーベルコード「変形進化」によって、死にかけの機械類を賦活するようにエネルギーが送り込まれ、それらは見る見る内にそのフォルムを人型の―― ミハエラやトリテレイアにも何処か似通った二足歩行のウォーマシンのそれへと作り変えられていく。彼女たちから見れば、些か……寧ろかなり簡素化された飾り気に乏しい円筒状の頭部に穿たれた二つの孔に、静かに活力の光が灯る。それは脱力していた状態から、弾かれたように直立不動の折り目正しい姿勢を取り、その姿と出来栄えに、ミハエラは満足げに「うむ」と頷いた。

「貴様の制御コードを私に寄越すがいい。
 合わせてこの区画のセキュリティ権限と船内の現状報告も要求する」
『ガガ、ガガガ……』

 ミハエラの要求に、拒否するように首を左右に振るウォーマシンであるが、次第にその身体が痙攣でもするかのように震え出す。総金属の重厚な身体が、まるで透明な糸で天井から吊るしたかのように浮かび上がっていく。

「私が手荒な真似をする前に権限を譲ったほうが身の為だぞ」
『ガガガガガ!!』

 宙に吊り上げられた哀れな虜を見上げながら禍々しい笑みを口元に浮かべるミハエラの姿に、見かねて声をかけようとしたトリテレイアであるが、異変に気付けばその身は電光石火の勢いで駆け出した。彼の勘はまさしく適切に働いたと言えよう。直後、部屋の隅に仕掛られていたレーザー砲からの不意をつくように射ち出された一撃を、割り込む形でトリテレイアの振るう儀礼用の長剣が弾いて逸らす。警護の役目も与えられたその刀身には、対光線兵器用のコーティングまで施されている。生半な出力のレーザーでは傷つける事さえ叶わない。続けての機銃による掃射も、彼の掲げた身の丈にも匹敵する重質量の大型シールドが容易く防いで見せるのだ。

「礼は言わんぞ。私でもあの程度は防げる」
「分かっていますよ。ですが、今は御身を守らせて頂きます」

 天井が割れて姿を表す侵入者迎撃用の武装ドローンが羽音を唸らせながら飛来するのを、ミハエラが無造作に翳した掌から放つフォースオーラ……念動力の見えない障壁が押し留めてはそのまま数機纏めて吹き飛ばした。入れ替わりに尚も襲い掛かるそれらをトリテレイアは剣を奮って叩き落とし、或いは頭部、肩部に格納された機銃と単装銃で撃ち落としていく。

「システムの掌握までどれほど掛かりますか?」
「なに、そう時間は取らせんよ」

 もう少しの辛抱だ。そう告げながら獰猛に笑うミハエラの振るうフォースセイバーの禍々しい赤の光刃がドローンを両断し、同時にその強烈なダークサイドのフォースオーラによって束縛し、宙吊りにされた人形へと加えられる過負荷と重圧がじりじりとその密度を容赦なく増していく。

「任せておけ。
 永らく惰眠を貪った老頭児の折檻など、赤子の手を撚るよりも容易いことだ」
「……加減はしてあげて下さい」

 果たして、ミハエラの宣言通り。
 それから数十秒と持たず、防衛システムは屈服するのである。

「もっと早く素直になっておくべきだったのだ。
 我らは貴様の主の子孫たちを護りに行くようなものだからな」
「……手早く済ませますので。何卒ご容赦を……」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『メカニカルパイレーツ』

POW   :    目標確認、銃殺で処理
【ビームマスケット】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    目標確認、近接を敢行
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【耐久力及びエネルギーと他の仲間】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ   :    耐久力低下、至近距離自爆を遂行
自身に【エネルギーシールドと高熱】をまとい、高速移動と【自爆による爆発エネルギー】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●We’re devils and black sheep.We’re really bad eggs.

 分厚い隔壁が重々しい響きと共に開かれる。
 ブリッジルームへと繋がる一本道の広い廊下。
 そこで猟兵たちとコンキスタドールの一団はついに相見えた。
 
 大斧を担いだ角付きの女コンキスタドールが不敵に笑う。

「なんだ、お前ら。アタシの宝探しの邪魔しに来たのかい。
 いいねえ、血腥いのは大好物さ。でも、アタシの手ェ煩わせるまでもない」

 その言葉に、彼女の傍に控えていたウォーマシンの海賊たちが一斉にマントを脱ぎ捨てる。外套の下から解き放たれる無骨な金属製のボディは、隠されていた四本の腕を大きく広げ、其処に思い思いの武器を携えている。

「殺っちまいな、てめえら! アタシらの船を景気良く赤で塗り潰しちまおうぜ!」

『ヨーホー!!』

「剣を掲げろ! 銃ぶっ放せ! 船はなくともテメェの心の錨を上げなァ!」
 
 大斧を振り上げて号砲の如く高らかに響き渡る女コンキスタドールの号令と共に、鋼の海賊たちがじりじりと歩みを寄せる。ビームカトラスの青い輝きが冷たく湿った船内の空気を震わせる。彼らの後方に控えた首魁の女は、禍々しい笑みのまま督戦の姿勢を崩さない。

『盗ンデ 殺シテ 海賊稼業』

『ソウサ悪イカ 俺タチャ海賊』

『ヨーホーヨーホー 悪行三昧』

「アタシたちの船出を邪魔するヤツには」

『『『死ンデモラウゼ!!』』』
アシェラ・ヘリオース

「それが海賊の流儀か。ならば、私も騎士の流儀にて応じよう」
帝国騎士なら剣を捧げた主に忠を
自由騎士なら剣を持たぬ民に勇を捧げるのみだ

「大技を準備するので支援を頼む」
【礼儀作法】で依頼し後方に跳躍
両手を胸の前に構え、フォースの圧縮を開始する

【戦闘知識】で敵味方の能力と立ち位置を分析し、常に味方が闘いやすいように位置取る
【念動力】で「黒渦」を操作し牽制で【時間稼ぎ】、【オーラ防御】で赤光の盾を形成し自他を【かばう】
後方にて戦況を俯瞰し、味方に適宜【威厳と鼓舞】にて戦術的な助言を行う

「ここで崩しをかける」
赤光を上方に放ち、【誘導弾】として拡散させて撃ち降ろす
回避されやすい欠点は【集団戦術】でカバーだ


黒鋼・ひらり
どうしてこうも…どの世界でも『悪』…特にこういう手合いって絶えないのかしらね
まあいいわ、こっちもどの世界だろうがやる事は変わらない…ぶっ潰したげるわよ

先ずは手下どもだけど、無骨な金属製のボディの機械海賊…
ふん、存在そのものが私にとって恰好の獲物(カモ)じゃない

ビームでの精密射撃が自慢らしいけど…ビームが強力な磁場の影響でどうなるか知ってる?
…答えはその目と身で確認しなさいな…参考にしようにも今後なんてあげる気はないけど

磁力操作能力で海賊の攻撃を防ぎ…磁場で白兵攻撃は弾き、ビームは拡散・あるいは偏向させながら鎖で縛り上げUC発動、振り回し範囲内の敵も磁力で巻込みながら諸々纏めてぶちのめすわよ



●モーニング・グローリー
「それが海賊の流儀か。ならば、私も騎士の流儀にて応じよう」

 かつて忠と剣を捧げた主君は既に亡く、今アシェラの中にあるものは今も尚、騎士で在り続ける為の誇り。柵のない漆黒の自由騎士は、その剣と研ぎ澄ませたるフォースの輝きを以て守るべき民を害す者の前に立ちはだかる。
 
「ハッ、おもしれェ! その流儀ってヤツを見せてもらおうじゃねェの!
 てめェらさっさと其処の騎士サマを畳んじまいなッ!」
『Sir!』『Yes!』『Sir!』

 大斧を振るいながら頭目の飛ばす号令に突き動かされる走狗たち。一糸乱れぬ統制された動作で四方八方より襲いかかるのは、メガリスの魔力によってコンキスタドール化し、更には邪悪な海賊へとその身を堕としたウォーマシンたち、メカニカルパイレーツの一団だ。次々と飛来するビームカトラスの斬撃。

「……おっと!」

 流れるような所作で嵐のように襲い来る斬撃の連携を軽やかに擦り抜けては飛び退るアシェラ―― 尚も距離を詰めて彼女へと襲いかからんとする海賊たちの出鼻を挫くかのように、頭上より飛び降りてきた小さな黒い影が地響きと轟音を伴い着地する。

「オイオイ、まぁーた何か来やがったな!」

 革靴の底で金属製の廊下を踏み付けた折に響く轟音は其処に込められる脚力の強靭さと、その小さな身体が見た目以上に重厚である事の何よりの証左である。視線を向ければ、黒いスーツを身に纏うツインテールの少女が其処には居た。

「どうしてこうも……どの世界でも『悪』……。
 特にこういう手合って絶えないのかしらね」

 そんな言葉と共にゆらりと立ち上がるのは黒鋼・ひらり(鐵の彗星・f18062)だ。その黒手袋に包まれた右手に携えた鉄球が緩やかに傾き滑り落ち、鈍い音と共に足元に転げては床板に減り込む。それを繋げた鎖を引きずりながら、新たな邪魔者の出現に警戒するようにじりじりと間合いを詰めんとする機械の海賊たちを静かに睨み据えた。

「丁度いい所に。大技を準備するので支援を頼みたいが、構わんか」
「……別にいいけど。でも、さっさと済ませてね? でないと――」

「――私が全部ぶっ潰すから」

 そんな言葉と共に、ひらりの振るう鉄球が手元から大きく伸び、鎖が緩やかにカーブの軌跡を描いてメカニカルパイレーツの横腹に深々とめり込んだ。

『ガガッ……!?』

 ひらりの放つ磁力を帯びた鉄球は、金属製のボディを持った彼らに対して極めて高い追尾性を備える。有り体に言えば、ひらりにとっての彼らは――

「――格好の獲物(カモ)ってヤツなのよ」

 鉄球の直撃を受けて吹き飛んでは壁へと衝突してそのまま崩れ落ちる同型機の姿など、意にも介する事なくパイレーツたちがひらりを取り囲み、その四つ腕で構えるビームマスケットの銃口を彼女へと一斉に揃えて向ける。けれどもひらりの浮かべる表情には一寸の焦りも見当たらなかった。頼もしい前衛の存在にアシェラは安心して敵を任せる肚を決める。両手を胸の前に構え、その身に宿るフォースオーラの力を引き出せば、両掌の間に集中 ―― 一点に収束させ、膨れ上がる力を無理やり抑え込むように圧縮を開始する。

「あんたたち、ビームでの精密射撃が自慢らしいけど。
 ……ビームが強力な磁場の影響でどうなるか知ってる?」

「ハッハッハ! アタシにゃサッパリわからねェ!」
「あんたには聞いてない。
 コイツら壊したらあんたの事もぶちのめすんだから、待ってなさい」

 その質問に答えたメカニカルパイレーツは当然一体も居ない。強いて言うならば、言葉の代わりに引き金を引く指が答えなのだろう。鈍く光るマスケットの銃口から撃ち出されるビームの雨がひらりの視界を埋め尽くさんばかりに唸りを上げる。

「答えはその目と身をもって確認しなさいな」

 然し矢継ぎ早に撃ち込まれるビームの集中砲火の中で、ひらりに命中するものは一射たりとも存在しない。それらはまるで見えない力によって軌道を曲げられたかの如く逸れ、明後日の方向へと着弾しては床や壁を小さく焼き焦がしていくばかり。中には大きく軌跡を曲げられたビームが、まるでUの字を描くかのようにして射手である筈のパイレーツへと突き刺さっていくものまである始末――。後方にも幾つか流れ弾は飛んでいったが、アシェラの収束させるフォースオーラの莫大なエネルギーは、マスケット程度のビーム出力では撃ち貫く事も叶わずに弾かれ雲散霧消する。

「成程、曲がって逸れるのかい!
 いいねェ、次の参考にさせてもらうとするか!」
「……参考に? させるわけないでしょう。
 あんたたちに今後なんてあげる気はないわ」

 ビームの嵐を強烈な磁場によって偏向させる事で無事すり抜けるひらりの姿にぱちぱちと疎らな拍手を贈って見せる女コンキスタドール。その姿に小さく舌打ちを漏らしながらも、予測していなかった敵の防御力にたじろぐ手近なパイレーツへと投げつけた鉄球が、その鎖を蛇の如くうねらせて金属製の巨体を取り巻き縛り上げて束縛する。太く強靭な四本の腕でも抵抗できぬ凄まじい磁力によって拘束した敵兵を、そのまま無造作に鎖を振るうことでひらりはまるでハリボテでも持ち上げるかの如く、容易くその巨体を浮かし、竜巻の如く振り回していく。それは他の雑兵たちをも巻き込まんと、更に唸りを上げながら旋回範囲をじわじわと広げて迫り来る。当然其処から逃れようと後退りを始めるパイレーツたちであったが、それを許さぬものがある。

「……彼女ばかりを働かせる訳にも行くまいしな」

 その足元を薙ぎ払うようにして死角より飛来する巨大な手裏剣。まるで風車の如く四枚の刃を高速回転させるそれは、アシェラが自らのサイキックエナジーによって操作しているものだ。『黒渦』と名付けられたそれは、逃げ遅れた敵兵たちの足首を次々と切り飛ばし、体勢を崩してひらりの生み出す鉄球の大渦へと無慈悲に飲み込ませていく。

「……此処で崩しをかける。合わせてくれ」

 ひらりに向けて、そう告げると同時にアシェラの高めたフォースオーラが極限まで圧縮された状態より解き放たれる。掲げる両腕、その左右の掌から赤い輝きが大きく丸く膨れ上がると、そのまま一気に爆ぜ飛んだ。次の刹那には、上空を埋め尽くす赤い輝き―― 否、無数に飛び散った禍々しい赤に燃え続ける闇のフォースを宿した閃光の弾丸が、雨あられと敵めがけて降り注ぐのだ。それは、ひらりの鉄球の竜巻のごときスイングと、アシェラの操る手裏剣の紡ぐ大渦から辛くも逃れた機械の海賊たちをも捉え、その全身彼方此方に突き刺さっては、装甲を貫いて次々と火花を散らしながら爆ぜていく。

「オーケー、諸々纏めてぶちのめすわよ」
 
 真紅に輝く光の雨が降り注ぐ中、ひらりが黒い竜巻を引き連れながら床を蹴って虚空に舞う。今まで散々に振り回してきた鉄球に絡め取り、捉え続けた敵兵は一塊に纏められ、今や巨大に膨れ上がった鉄塊そのもの。

『どぉっ……せぇぇぇえぇぇいっ!』

 そのまま大きく振りかぶると、振り下ろした先の床板ごと、周囲の敵兵を巻き込むようにして豪快に叩き付けた。ひらり渾身の一撃、【雪崩大降伏(グレートアヴァランシェ・ブレークダウン)】。その破壊力たるや――砕け散った敵兵が残骸を撒き散らし、凄まじい轟音と共に“ビゼンオサフネ”の船体が揺れる。船体が地盤に深く減り込む島そのものまで揺さぶる程の衝撃だ。
 
「……ちょっとやりすぎたかも」

 騒ぎになってないといいけど、等と言いつつも、船体そのものには思ったほどのダメージがない事に密かな安堵を覚えるひらり。赤いフォースの残滓と、敵兵の残骸が降り落ちる中を悠々と進みつつ、鎖を強く引いて鎖鉄球を手元へと戻し身構える彼女の隣には、赤く燃える光の刃を形成させたダークフォースソードを抜き放ちつつ同様に眼前の敵を見据えるアシェラが静かに並び立つ。

「……まだまだ数は多いが」

 まだ行けるか。
 そう問うようなアシェラの視線に、振り返る事なくひらりは告げる。

「多いのは数だけでしょう? なら問題ないわ。私たちならね」

 それぞれの手が握り締める鎖鉄球とフォースソードの狙うものは、未だ大量に居並ぶ敵兵たちの向こうに控える女頭目ただひとり。無数の雑兵などは、あくまで其処に至るまでの通過点に他ならぬ。

「上等だ! もうちょい長生きしててくれよな!
 そうしたらアタシが相手してやるからさあ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シルヴィア・スティビウム
ようやく、壊してもいい相手という訳ね
こういう類のロボットは、考えてみれば初めてだわ
この屋内で銃器は厄介ね
属性攻撃で霧を作ってかく乱し、酸の魔術弾で腐食を狙うわ
念動力で周囲に転がる椅子や壊れた機械を動かして即席の矢避けや質量武器としましょう
この程度では決め手にならないでしょうし、攻撃を防ぎきれるとも思えない
これはあくまで牽制だわ
近接の有効範囲に踏み込むのが目的だもの
そして状況になったら私の従騎士に叩きのめしてもらいましょう

一攫千金には、リスクがつきものだわ
自分の居場所を欲しがる気持ち、わからなくない
でもダメだわ。ここは貴方たちの居場所ではない
シネレウス……埒を明けなさい


トリテレイア・ゼロナイン

こうした賑やかさも士気向上や連帯感には有効なのでしょうね
まあ、“ビゼンオサフネ”の眠りを妨げるのは頂けません

その性能、見せて頂きましょう
グリードオーシャンのウォーマシン
…もっとも、騎士として海賊に遅れを取る訳にはいきませんが

センサーでの●情報収集で銃口の向きを●見切り●武器受け●盾受けで防御
その際に剣や盾の着弾の瞬間を●見切りUCを起動
弾いた光弾をそのまま敵にお返し
手、足、頭と嬲る趣味はありません
胴体の動力部へ直撃コース

それで不足ならば接近し●怪力で振るう剣の●なぎ払いと●シールドバッシュで粉砕
斃れた機体にアンカーで●ハッキングし頭脳部の正確な位置取得
攻撃効率向上

SSW流の冷淡さはご容赦を



●ふたりの白騎士
「ようやく、壊してもいい相手という訳ね」

 自身を包囲するようにじりじりと距離を詰めてくる機械仕掛けの海賊たちを前に、対するシルヴィアは悠然とした態度を崩さぬ侭、愛用のマサクルを両手で握りしめて身構える。マサカリと言いたい所を、微妙に間違えてそう呼んでいるのだが、それ(massacre)が示す意味は「大虐殺」或いは「皆殺し」である事に彼女が気付く日は果たして来るものか。とりあえず相対している彼らの迎える終わりがそうである事に違いはないのだけれども。

「壊されるのがテメェじゃなきゃ良いけどなァ。
 オラてめェらどんどん行け行け。あの小娘をひん剥いちまえ!」
『ヴァー!!』

 女頭目の掛け声に触発されたかのように、次々と動き出す海賊たち。然し、踏み出す一歩を先んじるように、その行く手に立ち込める白い霧。濃密なそれに、振り下ろすカトラスは無様に空を切り、マスケットから放たれるビームは見当違いな明後日の方向へと飛んでいく。シルヴィアの振るうマサクルを触媒として放たれた魔法の霧が、彼女の身体を覆い隠してみせたのだ。然しメカニカルパイレーツ。彼らもただの海賊ではない。グリードオーシャンへとやって来た時よりも遥かな昔、悪しき存在へと堕す前にはそれぞれがSSWにて繰り広げられた苛烈な宇宙戦争で鳴らした歴戦のウォーマシンたちである。先頭のパイレーツは慌てずに頭部のレーダーを起動すれば、霧に隠れた彼女の存在をサーチするべく分析を開始し――

「こうした賑やかさも士気向上や連帯感には有効なのでしょうね」
『……!?』

 然し、その索敵機能が標的を捕捉するよりも先に警告メッセージが彼の電子回路を走る。ほぼ同時に振るわれる騎士剣での斬撃よって、頭部を横水平に薙ぎ払われた先頭の海賊が、機能を停止し崩れ落ちた。耳障りに響く金属音、それに構わず新たな目標目掛けてパイレーツたちが一斉にマスケットの銃口を向けた。無数の銃口が向けられたその先には悠然と佇む白いメタルボディの機械騎士、トリテレイアの姿。崩れ落ちる海賊の残骸へと向けて装甲の隙間から射出したアンカーが先端のジャックを突き刺し、その体内に残留する海賊たちの機体データや性能を吸い取り、速やかに解析していく。

「しかし少々騒々しくもある。“ビゼンオサフネ”の眠りを妨げるのは頂けません」
「生憎こちとら大人しくしてると死んじまうタチでなあ。
 気に障るんなら、悪いが黙るのはテメェのほうだぜ白カブト」
「面白い、グリードオーシャンのウォーマシン。その性能、見せて頂きましょう」

「……やっちまえ!」
『アラホラサッサー!』

 頭目の号令とほぼ同時、無数の光弾が空気を引き裂き灼きながらトリテレイアを目掛けて殺到する。機械的な精密さと速度で連射されるそれは、最早ビームマシンガンと言い換えても良い。そんな殺意の吹雪の中を、ジャックを抜き取り引き戻したトリテレイアの白い機体が流れるようにすり抜ける。あるものは耐光線反射加工済みの長剣で払い除け、あるものはその大盾で難なく防いで弾く。彼の電子頭脳に組み込まれたセンサーと解析の性能は、通常のウォーマシンのそれを凌駕する。嘗て、銀河帝国の要人警護を主として作り上げられたその身体には、在りし日の帝国の技術の粋が惜しみなく注ぎ込まれ、更には無数の戦闘を潜り抜けて培い磨き上げた経験則がその強固な基盤を更に盤石のモノとして支えているのだ。

「……こちらの事も忘れないで欲しいのだわ」

 立ち込める白い霧の奥に潜むシルヴィアの撃ち出した魔術弾が寄せ手に着弾しては次々と破裂し、内側に込められた高濃度の酸が海賊たちの装甲を容赦なく腐食融解させる。それは一撃必殺たり得ずとも、着実に相手を損傷させてその進行を大きく阻害していく。弾丸が脚に当たれば酸が蝕み軋む膝関節によりその歩みは遅れ、腕に当たれば其処に携えていた武器を取り落とすこととなる。無論の事決め手とは成り得ないが、牽制としては十二分の役割を果たしている。しかし落伍しかけた者を横へと押しやり次々と前に出る兵たち、やはり数だけは多いのだ。

「成程、狙いそのものは悪くない。
 ……もっとも、騎士として海賊に遅れを取る訳にはいきませんが」
「一発も当たらねえだと!?なんだあの白いの! 面白ぇなオイ!」

『キャプテン、面白ガッテイル場合デハアリマセン』
「うっさいねェ。おまえら数だけは多いんだ、その強みをもっと活かせってぇの」

 再びトリテレイアを包囲する無数の銃口。其処から吐き出されるのは先よりも尚、その勢いを増す無数のビーム弾の集中豪雨だ。青白いビーム弾が視界を塞ぐ程の濃密な弾幕となって押し寄せるのを、しかしトリテレイアは然程慌てる事もなく静かに見据えた。彼らのデータは既に手元にある。その射撃のクセも先程見せて貰った。故に、その電脳は既に彼らの性能を解析し終えている。よって、それに当たる道理はない。その身を庇うようにして大型シールドを突き出し掲げるトリテレイア。その身体の奥深くで低い駆動音がヴン、と唸る―― 同時、前方に展開される力場。それは目には見えぬものなれど、その存在が露見するのは次の刹那。トリテレイア目掛けて降り注ぐ青白い無数の光弾は、シールドへと突き刺さるその寸前で、力場に囚われあっけなく弾き返されていく。それは記録映像を逆回しに再生するかのようなコースを辿りつつ、発生点へと戻る最中に楔状へと変形すれば、次々と撃ち出した射手たちの身体に深々と突き刺さる。トリテレイアに搭載された「個人携帯用偏向反射力場発生装置 (リフレクション・シールド・ジェネレータ)」がその性能を遺憾なく発揮した瞬間である。

『……ッ!? 何ダ、コレハ……!!』
「……宇宙で騎士を名乗るなら、ビームを打ち返す事など出来て当然の芸当です」

 自身の攻撃をあっさりと打ち返された挙句、正確に動力部を貫き残留するビームエネルギーによって次々とメカニカルパイレーツたちが膝を搗き、崩れ落ちていく。そんな味方を蹴散らしながら、更に前へと飛び出し、ビームカトラスの二刀流によってトリテレイアを切り刻もうと肉薄していく気概のある者たちは、既にその性能を見切った彼の計算によって冷徹に繰り出される豪剣によって両断された挙句、追い打ちに振るわれた大盾からの重厚な質量を叩き付けられて吹き飛び、次々とスクラップと化して行った。

「生憎、こちらは生粋のスターシップワールドのウォーマシン。
 冷淡なのはご容赦ください」
「ハハハ、やるじゃねェか。
 十二機ものウォーマシンを三分も経たねェ内にスクラップに変えるとはなァ!
 だがこのガラクタどもはまだ沢山居るぜぇ。その勢いどこまで続くかなァ!」

 ラテンのリズムは苦手なのです、とでも言いたげに飛びかかってきたパイレーツを無造作に長剣で貫き、そのまま腕を振るって剣を引き抜きながら壁面へと容赦なく叩きつける。それは刻み込まれた騎士道と常にせめぎ合いながらも、彼の身に深く根付く機械戦士としての本能に突き動かされた無駄と、そして慈悲のない動作だった。

『怯ムナ! 掛カレ! アノ白イ悪魔ヲ休マセルナ!』

 それでも怯む事なく次々と襲いかかるパイレーツの猛攻を、剣で打ち払い、或いは身体を微かに撚る事で紙一重にすり抜けるトリテレイアの脇を抜け、霧に紛れて距離を詰めたシルヴィアが駆ける。霧と残骸、そしてトリテレイアのボディに衆目を引き寄せながら、自身は着実に距離を詰める。これこそが彼女の本来の狙いである。

「今までのはあくまで牽制だわ。本当はこの距離まで踏み込むのが目的だもの」

 トリテレイアの防御に剣を払い退けられバランスを崩したパイレーツの脳天をシルヴィアの振るうマサクルが唐竹割りを叩き込んで、残骸へと変える。更に身を翻しざま、次の標的目掛けて打ち上げるようにして払った一撃が、ビームカトラスの柄を握るその腕を無造作に切り飛ばす。吹き飛んだその腕は握りしめた侭のカトラスによって天井に突き刺さってだらりとぶら下がるが、その行末を見やる事もなくシルヴィアは三本腕のパイレーツを袈裟懸けに叩き斬り、打ち捨てる。崩れ落ちる残骸から目線を持ち上げれば視線の先には未だ大量に数を揃えたメカニカルパイレーツたちの軍勢と、その向こうで不遜に構えるコンキスタドールの女。握り締めたマサクルを振り上げ、その分厚い刃を視線の先の女頭目へと向けながら、シルヴィアは静かに告げる。

「……一攫千金には、リスクがつきものだわ。
 自分の居場所を欲しがる気持ち、わからなくない」

 それは自身の生まれた理由と、その希少性故に荒廃した人心を見せ付けられ、故郷に倦厭した複雑な想いを抱くシルヴィアの紛れもない本心であっただろう。然し、対峙する敵はそれを素直に聞くような相手でもない。それはシルヴィアとて十二分に理解している。だから、彼女は戦うのだ。

「でもダメだわ。ここは貴方たちの居場所ではない」
「はッ! 構うもんか! 殺して壊して奪い取る、それがアタシらの流儀ってもんでねェ!」

 ぶっ殺しちまえ!

 そんな号令と共に猛然と襲いかかるメカニカルパイレーツたち。無骨にして凶悪な鋼の戦士たちが、その多肢に武器を携え隊列を組んで押し寄せる様は、まるで鋼の津波と化したかのよう。それらを前にして、シルヴィアは揺るがない。かつて捨てた故郷とは違う、荒み乾いた心とは無縁のこの世界の民を守るために。毅然と立つ彼女の足元、それが床面へと刻みつけていた影が揺らぐ。非常灯に照らされる薄闇の中、彼女を取り巻く暗黒のオーラが、銀色に燃えて静かな輝きを灯していく。

「シネレウス…… 埒を明けなさい」

 主の命にその影が大きく広がると、水面の如く揺らぐ壁面よりぬるりと這い出す白く輝く銅で形作られた大柄にして雄壮な全身甲冑。兜の面頬を引き下ろした覗き穴からは、ただ力強く眼光が燃え盛る。太く逞しい二本の脚で歩み出す白銅の騎士が、ガントレットで包み込んだ金属塊のような巨腕で、押し寄せるパイレーツの顔面を殴り付ければ、大きく頭部装甲を陥没させた哀れな海賊は、後ろに続く者たちをも巻き込むように吹き飛び、転倒してしまった。

『さあ、征きなさい私の従騎士! その斧で埒を明けよ!!』

 シルヴィアの声に応えるが如く、白の騎士が自身の影より引き抜いた身の丈にも匹敵するような大斧を無造作に振るい、担ぎ上げる。力強い踏み込みからその豪腕で横水平に振るい抜かれる大斧の一薙は、押し寄せる鋼の津波の上半分を豪快に切り裂き、そのまま派手に吹き飛ばした。一拍遅れて次々と床上に倒れていく胴から上を無くしたパイレーツたちの下半身。シネレウスが振るい抜いた大斧を引き戻し、厳かに身構えると同時、先に飛び散った津波の飛沫――否、無惨に粉砕された上半身たちは細かな残骸と化し、まるで雨のように降り注ぐ。

「そいつも面白ぇなあ。お前殺したらそれ、貰えるのかい?」
「……言ってもわからない人らしいわね、貴女は」

 度し難いものを見据えながら、尚も一歩踏み出すシルヴィアを追い越すように、トリテレイアが大きく前に歩み出る。矢面に白騎士の逞しい巨躯が二つ並べば、各々の武器を掲げてその切っ先を静かに敵へと突きつける。

「――……その傲慢の代価は、貴女の生命となる事でしょう」
「私の騎士は誰にもあげられないわ。特にあなたには、ぜったいに」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミハエラ・ジェシンスカ

よくぞまぁウォーマシンにここまで仕込んだものだ
船出なぞやめにして合唱団でも結成してはどうだ?

とはいえ腐ってもウォーマシンか
的確にこちらの隙を狙ってくる
ならばそれを利用させて貰うまでだ

フォースレーダーによる【情報収集】
敵の配置を逐一把握しながら立ち回る
【武器受け】で攻撃を捌き、しかし捌き切れなかった振りをしてわざと体勢を崩す
そうして敵の総攻撃を誘発し
【念動力】で手近な敵を引き寄せる【だまし討ち】【乱戦戦術】
その後手元の敵を念動力で射出して反転攻勢
2刀とセイバードローンによる【2回攻撃】でまとめて切り捨てる

どうやら歌ばかりで戦術までは仕込めなかったようだな
やはり貴様には合唱団の頭がお似合いだ


レイ・オブライト


潰していいもんがやっとお出ましだ

ベースは『覇気』と格闘で少数ずつ仕留める
他にぞろぞろ高速移動されっと面倒だ。割と電気の通りやすそうな身体してんのでフィールドに衝撃波+属性攻撃の電流広げて動き麻痺らせるのは狙っとくか
で……
ほらな、やっぱりオレよりかこいつらの方が壊してんだろ
敵UCに関しては台詞、挙動、予備動作や音に注意。敵の爆発直前~合わす形で【Undead】衝撃波で自主的に身体を散らして爆風ダメージ含め減じ
そん後バラけたパーツで殴る蹴るしてトドメ刺しつつくっつける
無駄死に、とは言わねえさ
うまくいくことの方が珍しいからな、自爆なんざ。一度きりしか試せねえのは同情するが



●No One Lives Forever
「よくぞまぁ、ウォーマシンにここまで仕込んだものだ。
 船出なぞやめにして合唱団でも結成してはどうだ?」

「ハハハ、抜かしやがる。テメェこそ、なかなか良い面構えだ。
 どうだ、ウチに来いよ。仲良くできそうじゃねえか」

 ミハエラの冗句めかした挑発に、その不遜さを崩さぬ侭、寧ろ翻意の誘いを返して寄越すコンキスタドールの女。されどもそれに対するミハエラの返答は至ってシンプルだ。彼女が一歩踏み出せば、赤い光が交差する。

「――……興味はない。遠慮させてもらう」

 手近な位置に立っていたパイレーツの巨体が「X」の軌跡に斬り裂かれ、その断面から機械部品を散らしながら崩れて倒れ伏す。残骸と化した海賊には脇目も振らず、ただ静かに歩むミハエラの肩からは展開した二本の複腕、それぞれが握るフォールンセイバーが有無を言わさず標的を解体して見せたのだ。

「ハッ、つれねえなあ。腕四本同士、ウマも合いそうだってのによぉ」

「潰していいもんがやっとお出ましだ」

 首領の軽口を他所に、新たなパイレーツがビームカトラスを振り翳して躍りかかる――よりも先んじて、その眼前に突如として出現したのは、拳。カメラアイのレンズが砕け散る寸前に捉えたのはすぐ目前に迫った巨大な拳であった。それはめきめきとパイレーツの頭部装甲を拉げ無惨に変形させながら、内部の電脳回路を文字通りに粉砕せしめる。その鉄拳の持ち主たるレイは、頭部を失い崩れ落ちるパイレーツの残骸を蹴り飛ばすと、首をごきごきと鳴らしながら、居並ぶ周囲のパイレーツたちを見回すように視線を一巡させると、緩く左手を持ち上げて指をくいくいと小さく動かして見せ付けた。

「――――多くて面倒だ。纏めて来いよ」

「おい、私の分の敵を持っていくな」

 一斉に殺到するパイレーツ。その先頭を文字通りに鉄槌の如く頭上より振り下ろす拳で叩き潰して機能停止させつつ、自身の後ろに回り込んだ敵を割り込んで袈裟懸けに斬り捨てるミハエラの言葉をレイは聞き流しながら再び拳を振り上げた。

「跳べ」
「何ッ」

 相手が自分の意図を察したかどうかは構わず、床面目掛けて叩き込む拳の衝撃が船体を再び震わせ、その振動に乗せて伝播させる形で駆け抜けていく青白い電流が薄暗がりを染め上げる。周囲に広がる電撃を浴び、危うげに身体を傾がせるパイレーツを、流れるような太刀筋で切り刻み、解体していく赤い光の軌跡が幾つも走る。

「ぞろぞろ高速移動されっと面倒なんでな。
 何せ金属製の機械どもだ、こいつらにはてきめんだろ」

「……それは私にも効果覿面だろうな。ともあれ貴様の意図は理解した」

 咄嗟に地を蹴り足元を奔る電撃を回避したミハエラの、滞空しながら縦横無尽に振るわれる四刀流から繰り出すフォールンセイバーだ。フォースレイダーによる敵位置の捕捉から、正確無比に標的を捉えて唸る四本の刻む太刀筋、それは進路上に立ちふさがる海賊たちを鮮やかに切り裂き、瞬く間に残骸へと変えていく。その凄まじい速度たるや、切り刻まれる同胞の姿をパイレーツが視認するその頃には、彼自身もまた既に残骸と化して虚空を舞っている程である。然し、メカニカルパイレーツの強みはその物量である。着地するなり生まれるミハエラの隙を、マシン特有の正確さにて執拗に攻め立てる。

「チッ……!」

 咄嗟に四本の腕による剣撃を盾代わりにして、間合いを保ちつつ崩れた態勢を整えるミハエラ。それ以上の追撃は来ないものの、その隙を見出せば、連中は途端に数を頼みに執拗な攻撃を繰り返して来る事だろう。

(腐ってもウォーマシンか。的確にこちらの隙を狙ってくる……)

 されどミハエラの表情に焦りはない。寧ろ、機械的であるが故に柔軟性に欠けるという彼らの攻めの欠点を見出した彼女の口元に過ぎるのはサディスティックに歪んだ笑みであった。

「――ならばそれを利用させて貰うまでだ」

 遠巻きから撃ち込まれるビームの銃撃を、四本腕の可動範囲をフルに活かして高速回転させたフォールンセイバーの形成する赤い円盾が弾いて往なす。明後日の方向へと弾かれたビームは次々と床や壁に跳ね返って火花を散らし、そのまま霧散していく。

「……クッ!」

 けれども、その銃撃の勢いは余りに苛烈。幾度も降り注ぐ集中砲火を前に、さしものミハエラの防御も次第に追い詰められ、ビームの勢いに抗し切れずついには大きく仰け反り、無防備のボディを晒すという致命的な隙を見せてしまう。当然それを見逃すウォーマシンの海賊たちではない。トドメを刺そうとカトラスを振り上げながら一体のパイレーツが肉薄する。その後には当然、更に大量の同型機が続き、立て続けに繰り出す斬撃の嵐でミハエラを原型留めぬほどに切り刻もうと殺到する。

「……数の有利が必ずしも戦術的に有効とは限らん。
 それに気付けぬ貴様らはやはりポンコツだな」

 ミハエラの口元の笑みが一層に深く刻まれる。ミハエラが虚空に向けて二刀を放ると同時、不可視の力に強引に引き寄せられたパイレーツが、後続して次々と殺到していた同型機たちの突き出すカトラスによって、無惨に貫かれ、恰も幾本も針を突き立てられた針刺しのような姿を晒す。咄嗟に引き寄せられた同胞を盾にされたのだと理解するよりも先に、哀れな先頭のパイレーツは敵の群れの真ん中へと放り込まれ、更にカトラスを突き立てられては引き裂かれ、飛び散る残骸へと化した。

「――――悪く思うなよ。そう思うほどの情緒が貴様らにあるとは思えんが」

 その僅かな数秒の間に、死角より音もなく大群の隙間に潜り込んだミハエラの振るう二刀が、すれ違いざまに次々とパイレーツたちの首を刈り取り、その胴体より斬り飛ばしていく。黒い疾風と化して駆け抜けるミハエラを追うように虚空を走る二つの赤い光条が、その死の収穫を逃れた幸運な者たちを死の定めへと引きずり込む。セイバードローン。手持ちのセイバーとして振るう事も、そしてミハエラの念動力にて操作する事も可能な、半自律飛行型のフォースセイバーがその使い手に追随して赤い斬撃の軌跡を虚空に刻むたび、破壊の風が吹き荒れる。縦横無尽に4本の赤い剣が踊り狂い、為す術もなく海賊たちは部品へと切り分けられては、床上へと転がり落ちていく。

「……ほらな、やっぱりオレよりかあいつらの方が壊してんだろ」

 ミハエラが暴風の如き剣術を披露する間、レイは其処に巻き込まれる事を逃れたパイレーツ達へその鉄拳を振るい続けていた。幸いにして、大多数は向こうが引き受けてくれている上に、先に放った電撃のお陰で連中の動きも幾らか鈍い。何体目か、既に数えるのも忘れるほど殴り潰してきた連中の残骸を打ち捨てて、目の前に立つ新たな標的へと拳を向ける。もはや単純作業めいてきた行為に少々退屈さを覚えてきたところで、目の前に立つパイレーツの単眼が一際強く赤い光に燃え上がる。

「チッ……! こいつ、大技使いやがるのか」

 金属のボディが高熱を帯び、赤熱化しはじめた所に繰り出した拳が衝撃と共に弾かれ、その勢いにレイの肉体も堪らず大きく後退りしてバランスを崩す。ふらつくレイを他所に、その総身を赤く染め上げながら過剰出力によるエネルギーフィールドで身を包んだフルメタルパイレーツが一歩を踏み出し、漏らす機械音声が無情に響く。

『当機、耐久力ノ著シイ低下ニツキ、標的至近距離デノ自爆ノ遂行ヲ提案シマス』

「おう、いいぞ。派手に死ね」

『オカシラ、ドウゾオタッシャデ』

 船長からの激励を背に、死をも厭わぬ肉弾攻撃が決行される。その全身の耐久力と性能限界を明らかに無視した超駆動で、その身を赤く燃やしたパイレーツがその巨体に見合わぬ速度で地を駆ける。赤く燃え上がる彗星と化したその身は、ただ走るだけでも周囲に熱風と過剰に溢れたエネルギーの余波を撒き散らし、レイの周辺を撹乱するかのように駆け回りながら、彼の肉体を容赦なく焼いていく。

「自爆だァ? ……その意気結構。
 だがな、こっちは心中に付き合ってやるつもりはねェぞ」 

 走り抜ける度に吹き荒れる熱風。破帽の庇の端が焼け焦げ灰となって散るのをちらりと見上げつつ、レイは自身の周囲を駆け回りながらコチラの隙を伺い小刻みに繰り返される攻撃のリズムを、その身を以て読み取っていく。幸いにして一度死んだこの肉体はえらく頑丈で、多少のダメージならば物ともしない。その身を揺るがし、焼いていく赤熱した拳の一撃の重みを、受け止め逸らした己の腕で感じながら、その口元は不敵な笑みの形に歪んだ。じりじりと攻撃の速度が上がっていく。極め技を入れるべきタイミングに近づいていくのを感じる。……普通の人間ならばチャンスはただの一度きり。だが生憎己はデッドマン。一度死んだその経験こそが、タイミングを見誤らぬ絶対の自信の拠り所。

(……来た!)

 必殺のタイミング、正面より弾丸の如く迫るは熱風とエネルギーの障壁を纏う決死のメカニカルパイレーツ。それがレイに組み付く寸前に、レイは己の肉体の中心にて衝撃波を解き放つ。ヴォルテックエンジンの緊急駆動、急速に生み出されたエネルギーを意図的に暴走させる形で、自身の肉体を中心に引き起こす小規模の爆発と同時に、レイは自分の肉体の連結を『意図して』切り離す。

『生憎、もう死んでてな』

 直後に続くメカニカルパイレーツの起こした熱風に乗る形で、飛び散ったレイの五体が宙を舞う。吹き荒れる暴風の中で踊る木の葉のように。そして、飛び散った五体はそれぞれが先のミハエラの操った飛行するフォースセイバーが如く、自由自在に宙を飛び交い、メカニカルパイレーツへと襲いかかる。

『ガッ、ガガッ……!?』
「……無駄死に、とは言わねえさ。なんせコレをやるオレの方も結構痛い。
 ……いや、実際かなり痛ぇ」

 その四肢は、関節や骨格の構造上発生する制約を飛び越えて、思うがままにエネルギーフィールドごとおかまいなしにパイレーツを殴り、或いは蹴りつける。拳が焼け焦げ、肉が裂けていくのにもお構い無しで繰り返す連撃の前に、ついにエネルギーフィールドを空飛ぶ右拳がブチ抜きながら、パイレーツの左腕を鷲掴みにする。

「……ま、なんだ。うまくいくことの方が珍しいからな、自爆なんざ」
『ッ、離セ……!! コノ……!!』

 虚空を浮かぶ胴体から伸びた鎖が絡みつく形で引き寄せられるそれぞれの部位。次々と集結し、繋がっていく五体が再びレイの形を作ると同時に、レイの左腕がフィールドに突き刺さったままの骨になるまで焼け焦げた右腕をひっ掴んで強引に引き抜けば、それが掴んだままのパイレーツの左腕までをも引き千切り―――。

「一度きりしか試せねえのは同情するぜ」

 大きく振りかぶった肘から先のない右腕に、その赤熱化したままのパイレーツの腕を強引に突き刺すようにして繋いだレイ渾身の鉄拳が、叩き込まれるパイレーツの身体を真正面より殴り飛ばした。

『ブベラッ……!! オカシラ……! ドウゾ武運ヲ……!』

 その衝撃に大きく歪み拉げ潰れた機体は、そのまま虚空を吹き飛び爆発四散、内蔵されていた部品をぶち撒けながら無惨に砕けて破片を散らす。爆風をその全身で受け止め、黒く焦げた弊衣の裾を翻しながら、右腕に繋がったパイレーツの左腕を引き抜き、放り捨てる。代わりにつなぐのは、早くも筋肉と血管を纏うようにして蠢き再生し続ける自身の右腕。やはり落ち着くのはこちらだ。

「生憎こっちは経験者だからよ。
 アクセル、ブレーキ……どっちも踏むコツは身に染みてンだ」

 繋いだ拳を握って、開いて、調子を見るように幾度か繰り返せば、既に動く者は誰もいない――立ち塞がる敵全てを切り刻んで拵えたスクラップの山を背に、次なる標的を求めて頬に飛び散った鮮血の如き返りオイルを拳で拭うミハエラと共に、レイは最早僅かな手勢を残すばかりの女頭目へと向き直る。

「どうやら歌ばかりで戦術までは仕込めなかったようだな。
 やはり貴様には合唱団の頭がお似合いだ」

「……なら、次はこのお頭直々に歌ってもらうとしようぜ。
 イイ声出してくれんだろ?」

「……面白ぇぞ、てめぇら。アタシに火ぃ付けてくれやがったな」

 両者からの挑発に、女頭目は口元を大きく禍々しい笑みで歪めてゆっくりと歩み出る。地べたに垂らすように携えていた大斧を振り上げてはそのまま肩で担ぐ所作は泰然とした様を装い、その実で隠し切れぬ怒りと、そして歓喜に満ち溢れている。

 彼女を守る軍勢はもう、ほぼ壊滅状態。
 残るもの。ただ剥き出しのその身にて、彼女は猟兵たちに立ち向かう。

 望むところだ。
 殺し壊し奪い尽くすが彼女の流儀。
 人任せにするよりは、やはり自分の手で直々に行ってこそ面白い。

「お望み通りに奏でてやるよ。テメェらを楽器にした、悲鳴の大合奏をよォ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『女賞金稼ぎ』

POW   :    ハンタータイム
全身を【右目の義眼(メガリス)から放たれた青い光】で覆い、自身の【これまで殺した賞金首の賞金合計額】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    殺戮斧旋風
自身の【右目の義眼(メガリス)】が輝く間、【呪われた戦斧】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    カースバウンティ
【自分が過去に殺した賞金首】の霊を召喚する。これは【手にした武器】や【怨嗟の呻き声】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●sailing day
「やっぱよォ、最後に頼れるものは何時だって自分ひとりだけだ」

 緩やかに前に歩み出る彼女を、僅かに生き残ったメカニカルパイレーツたちが庇うように前へ出ようとする。

『キャプテン、マダ我々ガ戦エマス……!』
『ドウカ、我ラニオ任セクダサ』

 言い終えるよりも先に、彼らの首は虚空を舞っている。

『――――イ?』

 何故?

 そう問うよりも先に転がり落ちた部下たちの頭部をグシャリと踏み砕いて、その右腕はだらりと無造作に巨大な刃を垂らした大斧を引きずり、金属製の床面を噛むように異音と火花を散らす。

「だぁーかーらー、テメェらじゃ無理だってんだよ。すっ込んでな、ガラクタども」

 その言葉と共に、改めて猟兵たちの前に進み出た女コンキスタドール。
 長く伸びた金の髪を熱風に靡かせながら、その頭部から突き出た二本の角も誇らしげに、力強く胸を張り威風堂々の佇まい。

「便利な連中だったが、こうも使えねえんじゃあ一旦考え直しだ。
 数揃えて仕込むの、結構たいへんだったんだけどねぇ。
 飽きっぽいアタシにしちゃ、よく頑張ったほうだよ」

 大斧を握り締める、黒く変容し歪んだ禍々しい右腕。
 其処に込められる剛力がぎちぎちとその柄を軋ませる。

「……だから、ねえ。
 せめてお宝だけは戴いていくのさ。
 てめぇらをみんなぶち殺して気分良く船出といこうじゃあないか」

 嘗て賞金稼ぎであった頃は、退屈な海を彷徨いながら、欲望のままに海賊どもを刈り取り浴びるほどの財貨を得た。更なる栄華を求めて、メガリスにも手を出した。その挙句が異形に歪んだこの姿。されど後悔は微塵もない。自分の欲望のままに突き進むことが何よりも肝要。邪魔なものは全部ぶち壊して行けるところまで突き進む。

「このくだらねェ退屈な島、綺麗にふっとばしてさァ。大空を航海するんだよ。
 なあ、この船は飛べるんだろう? さぞかし気分がいいだろうねえ」
 
 歌うように、夢見るように、熱の籠もった囁き。
 ひとしきり熱に浮かれたところでその女は大斧を再び振り上げ、身構える。

「アタシの自由への船出、邪魔はさせないよ。
 この……マダナイ様の無限の旅路の邪魔は誰にもねえ!」

 船持たざる女海賊、マダナイ・トクニナイ。
 ついに猛攻を開始する。その総戦力はたったの一名。
 しかし単独にしてその武威は極めて極悪である。
シルヴィア・スティビウム
どうやら、この世に存在してはいけない相手のようだわ
野放しにしたら、他の島まで吹き飛ばしてしまいかねない
貴方の自由が誰かの自由を阻むなら、誰かの自由が貴女の自由を阻むことだってある
そんなものだわ

属性攻撃で電撃を放つわ。周囲に散った敵の残骸に伝播させ、感電させるかスパークさせれば、少しは足止めできるのではないかしら
もはや敵は貴女だけだわ
リミッターを外して念動力を使用
帯電した残骸を檻のように展開、逃げ場を奪いユーベルコードを使う
この身は捨ててもいい。ギーラハ、私のことは構うな。斬れ

……すこし、使い過ぎたかしらね……


レイチェル・ルクスリア
自分の船を持たない海賊なんて聞いた事がないわ?
まぁ……己の欲望に忠実過ぎるってところは賊らしいと認めてあげても良いけどね。

身を隠したまま、少し離れた物陰で腹這いになってスコープ越しに一部始終を眺めるわ。

マテリアルに対しては威力を発揮しにくいアサルトライフルなのだけれど、幸い自ら部下を破壊してくれたので好都合。

さぁ、いつでもいいわよ?……隙を見せたその時に……アナタの人生を船無しの海賊団船長として終わらせてあげる。


レイ・オブライト


デカい夢だな。なによりだ
もう暫し忘れずいろよ
死んでも憶えていられるかもしれねえ

空間中に巡らせる『枷』の鎖に属性攻撃の電流伝わせ飛翔状態から引き摺り下ろす試み
馬力負けして千切れる、ああそりゃそれでいい。むしろいい。降る破片を殴りつけて『覇気』を込め弾丸代わりに次々撃ち込む
目晦ましにもなるか? そうやって着地させた一瞬の間か他の奴が注意引いてる間か。どっちでも構わねえが射程に踏み込めたら【Vortex】
代償は片腕。わりぃが、おたくと違ってお片付けが待ってんだ
しぶとそうなんで反撃も想定しておく。その場合は腕断面から生える『爪』で斧を受け逆の拳で殴りつける

案外よ
叶っちまうとつまんねえもんだぜ。きっと



●Silent Trigger

「どうやら、この世に存在してはいけない相手のようだわ。
 野放しにしたら、他の島まで吹き飛ばしてしまいかねない」

 自身の配下ですら役に立たぬと見れば即座に切り捨てる、冷酷無比にして悪逆無道の女海賊の姿に危機感を抱くシルヴィア。それととは対象的に、隣に立つレイの口元に過ぎるのは微かな笑みだった。

「デカい夢だな。なによりだ」
「ははッ、見る目あるねェおまえ」

 不遜さはそのままに、それでも上機嫌な様子のマダナイに先んじるようにして、レイは続けて口を開く。

「だから……もう暫し、忘れずにいろよ」
「はァ?」

「あんたが死ぬまでそう思っていたなら、死んでも憶えていられるかも知れねえ」
「なんだァ、てめェ……アタシをぶっ殺す気マンマンかい」

 上等だよ、やってみなッ!!

 そんな咆哮と共に、マダナイが顔に掛かる金髪を掻き上げ、其処に隠された右の眼を顕にする。其処にあるものは、眼窩に強引に埋め込まれた青い宝石。其処に宿る不吉の輝きを目にする者は、その宝石こそがメガリスと呼ばれる呪われし秘宝である事を直感的に悟るだろう。青の輝きが不気味に明滅を繰り返しながら、そのペースを断続的に加速させていく。同時に、マダナイの周囲に吹き荒れる風。その勢いを次第に増していくたびに、彼女の義眼を燃やす輝きは、その全身までをも包み込んでいく。

「さぁ、狩りの時間の始まりだッ!!」

 嗜虐の喜びに満ちた声と共に、マダナイが地を蹴り走り出す。青い疾風と化した女海賊の、黒き豪腕が振り上げるは、其処に握り締めた呪われし大戦斧。互いの間に広がる距離を、瞬く間に零へと埋めながら振り落とす大斧の分厚い刃が、レイが眼前で広げ構えた鎖『枷』と噛み合い、火花を散らす。刃金と鋼の噛み合う耳障りな異音が、騒々しく響き渡り、撃ち込まれたその衝撃に、彼の重量級の長身がじりじりと圧されていく。

「……おう、こいつァなかなか……」
「なかなか、なんだってェ!? 油断してると死ぬぞテメェ。
 いいや、寧ろ死ねや今すぐにッ!!」

 レイを押し遣る勢いの侭に、続けざまに振るわれる怒涛の連撃。それを紙一重に往なし擦り抜けやり過ごすも、メガリスの加護を受けた剛力で振るわれる嵐のような連撃は、ただ掠めるだけでも容赦なくレイの全身を彼方此方削り裂いていく。その余波の凄まじさ、レイを掠めた斬撃の衝撃が、周囲に散らばるメカニカルパイレーツの残骸までをも一層無惨に切り刻み砕いていく程だ。その凄まじい猛攻を、遠巻きから身を隠して物陰で見守る者がいる。

(……自分の船を持たない海賊なんて聞いた事がないわ)

 いや、まあ……デビューしたての海賊ならそういう事もあるかも知れないけど、などと胸中で独りごちるレイチェル・ルクスリア(畜生なガンスリンガー・f26493)だ。気配を殺し、息を潜め、愛用のアサルトライフルのスコープを腹這いに伏せた格好で静かに覗く。メカニカルパイレーツの装甲を射抜くには若干の不安も残る愛銃なれど、幸いにして懸念の種であった手下共は他の猟兵たちの活躍と、マダナイ自身の癇癪によって文字通りに全滅した。その御蔭もあり、今はこうして散らばる残骸の山に潜んでチャンスを狙っているところである。

(まぁ、己の欲望に忠実過ぎるってところは賊らしいと認めてあげても良いけどね。
 ……ああ、他人の気がしないかも。しなさすぎて、いっそ殺意が湧いて来るわ)

 それはともかく、早く自分の出番が来ればいい。
 致命的な油断を晒したそのときこそ。

(さあ、こっちは何時でもいいわよ。
 ……アナタの人生を船無しのマヌケな海賊団船長として終わらせてあげる)

 スコープレンズの中のレティクルと、デッドマンの巨体を切り刻み続ける女海賊の姿を重ねながら、酩酊にも似た嗜虐の高揚にレイチェルは口元を細い三日月のように深く歪めて笑った。それは例えるならば“ニチャア……”と音さえしそうな感じの、生々しく粘着的な笑みであった。

「……オラオラ! どうしたこの野郎!」
 尚も怒涛の勢いの侭、止まる事無く振るわれる戦斧の暴風がレイの巨体を追い詰めていくが、不意に其処に撃ち込まれる青白い電撃を、マダナイは飛び退りながら戦斧を風車の如く高速回転させて円盾と振るえば、弾き散らされた電撃はそのまま雲散霧消する。

「こっちも忘れないで欲しいわね!」
 シルヴィアの次々と振るうマサクルによって尚も立て続けに放たれる電撃の魔力弾。それは、周囲に飛び散ったパイレーツたちの残骸に伝播することで不規則の軌道を描きながら、女海賊目掛けてそれぞれが部下たちの恨みを募らせるかのように襲いかかる。

「……っ……! しゃらくせェ!」

 それらを身を捩って躱すマダナイであるが、その数はなかなかに多い。避けそびれて身体の彼方此方に掠める電撃に、手にした斧がバチバチと耳障りにスパークを起こす。痺れた脚を支えるように力強く踏み止まると、手にした戦斧の石突が一際強烈に床面へとその切っ先を抉るように突き立てた。

「……貴女は味方さえ犠牲にするのね。
 けれども、その振る舞いが今こうして貴女を追い詰めている」
「おいおい、この期に及んでつまんねェ説教くれやがるなァ!!」

 痺れを振り切って、強引に地を蹴り再び飛び立とうとするマダナイ。然し、その行く手を阻むかのようにシルヴィアが両腕を大きく広げる。ばちばちと先の電撃を浴びて帯電したパイレーツどもの残骸がゆっくりと浮き上がっては、マダナイの逃げ道を封じようとするかの如くに取り巻いて、じわじわと距離を詰めていく。

「つまんねェかどうかは聞くもの次第だぜ……!」

 更には、その身体を苛むダメージより立ち上がるレイが、大きく拳を振りかぶり、手にした鎖を勢いよく投げ放つ。虚空を唸る銀の鎖が、まるで意志を持ったかの如く虚空を奔り、無尽蔵に伸びゆく鎖は幾度も鋭角を描いて折れ曲がり、その軌跡で標的を取り囲む牢獄を形成する。帯電した残骸と、電流を帯びた鎖が二重に連なる包囲網、互いに互いを補い合って形成された結界が、じりじりとマダナイを捉え、追い詰めていく。

「お前がどんなに速くても、その中じゃあ動き回れやしねえだろう」
「――……もはや、敵は貴女だけだわ」

「んだと、このアタシが……てめぇらなんぞ、にィィィィィッ!!!!!」

 次第に狭まる包囲網に触れ、絡みつく鎖に走る電流にその身を貫かれて、地へと引きずり落とされるマダナイ。それでも自身の馬力を以て強引に束縛を引き千切らんと試みる……よりも先に、レイが一歩大きく踏み込む。

「ってワケだ。悪いが、数の暴力は遠慮なく使わせてもらう。
 さっきまではお前らの方が数も多かったしよ」

 相手がそう思い立ち実行するよりも一瞬先んじて、自ずから彼女の身を戒める束縛の鎖を引き千切れば、結果徒労と終わる相手のその無駄な力みを狙い撃つかのように、無数に虚空を飛び散る鎖の破片を矢継ぎ早に殴りつけて行く。その破片ひとつひとつに込められたレイの『覇気』が、金属片の礫を更なる凶器へと強化し、容赦なく弾丸として撃ち込んでいく。虚を突かれるタイミングで降り注ぐ無数の礫に全身を打ち据えられながら、マダナイの身体はまるで暴風の中の木の葉のように揺れ踊るばかり―――そしてこの隙を見逃す理由など猟兵たちは持っては居ない。

『おいで、私の従騎士』

 シルヴィアの足元に広がる影が不規則に揺らぐ。其処から這い出すようにして姿を表すのは、赤銅色の全身甲冑に身を纏う騎士。面頬の降りた兜の覗き穴に、灯るは冷徹にして不屈の忠義讃えし冷たき炎の眼光。己の主君、儚げな少女を護ろうとするかのように歩き出し、敵へと向かう騎士の背に少女は告げる。

「――……ギーラハ、私のことは構うな」

 主の命に、無言でありながらも騎士はその忠義を背中で示す。
 大きなマントを翻し、その両腰に吊るした鞘入りの剣をそれぞれの手がすらりと抜き放つ。騎士は再び歩き出す。その甲冑に包まれた重々しく力強い歩みが加速する。赤銅の騎士が、その身を赤い流星と変えて地を駆ける。 

「……この、野郎がァーッ!!」
『―――斬れ』


 その剣で何もかも。私の敵を切り捨てろ。

「グワァァァァァァァッ!!?」

 解き放たれた双剣が唸りを上げ、すれ違った女海賊の胸元で交錯した斬撃の軌跡がXの傷を深く刻みつけ。噴き上がる鮮血の中、悪態をつきながらも騎士目掛けて斧を叩きつけんと振りかぶるマダナイの至近距離に、音もなく黒い巨体が滑り込む。

「なッ…… てめ――」
「わりぃが、こっちはおたくと違ってお片付けが待ってンだ」

“だからさっさと終わりにしちまおう”
 そんな呟きと共に、レイがその太い左腕で撃ち込む掌打がマダナイの鳩尾を深く重く抉り込み、その均整の取れつつも豊満な肢体を胴からくの字に折れ曲がらせる。それは、インパクトの瞬間に身体が浮き上がるほどの破壊力。だがしかし――

「おごうッ!?」
「こっちの腕はくれてやるからよ。そいつ駄賃に――」

 レイの攻撃はそれで終わりではない。

『付き合いな』

 その言葉と共に、レイの体内のヴォルテックエンジンが唸りを上げて高速回転を開始する。リミッターを越えた超回転から生み出されるエネルギーを意図的に自身の左腕、その一点に収束させる事で引き起こされる暴走。レイの胴体を内側から貫く青い光が、そのまま左腕へと流れ込み、周囲の空気を焼いていくオゾンの臭いが周囲に満ちる。薄暗い空間を照らすのは、今やマダナイの纏うメガリスの輝きではない。それを塗りつぶす程の青白い雷光が巻き起こり、その電撃はレイの腕を基点にして一気に炸裂した。

「……て、めッ…… この、や゛ろ゛ぉ゛ッ!!」
「正直ちっとは面白そうだとは思ったけどなあ、おまえの夢。
 でも案外よ、そういうのって叶っちまうとつまんねえもんだぜ。きっと」

 その夢に続くものは、何も残らないとレイは断じて拳を振るう。死人の夢と大差ない刹那の狂乱に共感するものもないではないが、完全に同調する訳もない。ならば最初から己は此処でこの拳を振るいなどしないのだ。立ち込める黒煙を引き裂き、雷光に胴体を貫かれても尚戦意を失わぬ女が吠える。振りかぶる大斧を、然し振り下ろされるその途中で食い止めるのは、超高圧電流の放出に肘から先の爆ぜ散ったレイの左腕だ。肉を突き破るようにして異形の牙、爪のように歪んで生え揃った骨が、噛み付くようにしてその刃を止めたのだ。

「化け物かよ、てめぇ……!!」
「お前に言われたくねえよ」

 レイの右拳がその側頭部を強かに殴り付け、その衝撃に蹈鞴を踏みつつ後退るマダナイ。ふらつきながら、尚も斧を大きく振りかぶる女の前に、再度立ちはだかった赤銅の騎士が、踊るように振るう双剣がその肩に、脇腹に次々と吸い込まれては鮮やかに血の帯が噴き出し虚空を彩り散り落ちる。ごぼぉ、と口元からは黒々とした血液と黒煙を吐き出す女海賊を、あの女もまた見逃してやるつもりは微塵もない。

「……ファッキン! 勘弁してよね。
 このまま死なれちゃ、私何のためにじっとしてたんだか分かんないでしょ」

 死ぬなら今死ね。私に殺されてしまえ。レティクルに重ねたそのツラに悪態を吐きながら、引き絞るトリガーが吐き出す狙い澄ました一射。響く銃声は高らかに一発。レイチェルの放った弾丸は、マダナイの側頭部に雄々しく聳えた支配者の証たる大角を付け根から無惨に砕いて吹き飛ばす。

「っが、ァァァァァッ!!!!」

 頭部側面での衝撃に脳を揺さぶられ、そして神経の集中するであろう角を砕かれた激痛に堪らず呻く女海賊をしてやったりという表情で眺めるレイチェル。腹這いの姿勢から素早く立ち上がれば、抱えたアサルトライフルの銃身下部に取り付けたオプションのグレネードランチャーを確かめる。生命を刈り取るよりも先に、そのプライドを粉微塵に砕いてやった嗜虐感に笑みを深く刻みつつ、レイチェルは改めてレイとマダナイが互いの肉体をぶつけ合う乱戦の最中に飛び込んでいく。振るわれる大斧。直撃すれば途端に弾けて死ぬようなそれを擦り抜けながら、返礼に思う存分鉛玉を相手にぶつけて弾痕と血でデコレートしてやるその作業が、レイチェルはたまらなく好きだった。心が躍る。ヒリつく死の感覚が首筋を逆撫でするたびに、今すぐおっぱじめたくなる疼きを堪えるのが大変だった。

「GOOD,GOOD,VERY GOOD!! 鼻ッ柱……いや、角ッ柱へし折られた気分はどう?
 アハハ! バランス悪いしもう片方も折ってあげようかァ!」
「……アタシの、コンキスタドールとしてのシンボルを良くもッ!
 ……やってくれるじゃねえか、クソ女がァ!!」
「おい、それじゃあこっちはオレが折る。両方持ってくなんてズルいぞお前」

「すこし、使い過ぎたかしらね……。こ、ほッ……!!」
 レイチェルの乱射するグレネードの爆炎が周囲を赤く染め上げ、続くフルオート射撃がけたたましい銃声を響かせる中、不意に咳き込み、そのまま崩れ落ちそうになるシルヴィアの身体を、赤銅の騎士が寄り添い静かに支える。然し、少女はそれを由とはしない。咳き込んだ手で抑えた口元を濡らしている赤い血を拳で拭いながら、少女は己の騎士の腕を振り払う。

「私のことは構うなと言ったわ。そんな暇があるならもう一太刀、あの女にぶつけてやりなさい」

 主に背を向け、敵へと走り出す騎士を見送りながら、マサクルを杖代わりに身を支えてシルヴィアが嘆息する。

「……貴女の自由が誰かの自由を阻むなら、誰かの自由が貴女の自由を阻むことだってある。そんなものだわ」

 互いの自由がぶつかり合い、互いを潰し合う。自由。その単語だけ切り取れば聞こえは良いが、自由というものは元来そういうものだ。暴力で自由を勝ち取らんとするものは、同じく暴力によって害されるものだろう。歴史とはその繰り返しである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鋼・ひらり
…くっだらない

仮にあんたがこの船を得てもどうせその内そいつらみたいに途中でほっぽり出してまた別の物…他の誰かの何かに目を付けて奪うんでしょ? そしてそれを延々繰り返す…心底下らないわ
もとより『悪(あんたら)』の目論見なんか全部ぶっ潰すけど…特にあんたには何一つ思い通りにさせたげない、何処にも行けずにここで終わんなさい


磁力反発や鋼鉄板、斧槍による防御で高速で飛来する斧の猛攻を凌いだ後、UC発動
船内の瓦礫や攻撃を凌ぐ為ばら撒いた自前の斧槍や鋼鉄板、鎖鉄球…それからさっきあいつ自身が斬捨てた機械海賊の残骸をありったけブチ込みぶっ潰す

…斬捨てた手下も寂しがってるわよ
因果応報、仲良く諸共埋まんなさいな!


アシェラ・ヘリオース
「吠えるだけある。これは強いな」
ミラーシェイド越しに【メカニック】で【情報収集】
【戦闘知識】で分析すると即座に“戦闘力(仮)”の値が振り切れる。馬鹿な部下の細工でBOM‼と言う効果音付だ

「貴様の夢は認める。だが、その為の犠牲は看過出来んな」

【オーラ防御】を駆使し剣戟に応じる。強烈なバフを前に守勢を強いられるが機会を待つ
自身か味方を【庇い】UC発動を狙う

「仕様は理解した」
【ハンタータイム】を借用し真の姿を現す
黒と金を基調とした宇宙騎士甲冑に豪奢なサーコート、指揮官用バイザーの現役時代の装いだ

「あの時代、私が狩った賞金首の総額は53万皇貨だ」

フォースを極限圧縮した水晶質の槍を構え、赤光を漲らせる



●Aces High

「……くっだらない」
「あァ……?」

 足元に散らばるパイレーツたちの残骸を踏み越えて、ひらりは相対するマダナイへと冷たく険しい視線を向ける。自身ですら気付かぬ内に、鎖を握り締めた手に籠もる力がぎちぎちと鎖を軋ませる。

「仮にあんたがこの船を得ても、どうせその内そいつらみたいに途中でほっぽり出してまた別の物……他の誰かの何かに目を付けて奪うんでしょ? そしてそれを延々繰り返す。……心底下らないわ」

 そう吐き捨てるひらりに、強欲の女はクツクツと喉を転がして笑う。全身彼方此方を血に染め、豪奢なコートは無惨に焼け焦げて尚、その身より滲み出す不遜さは衰えることを知らない。先の乱戦にて彼女自慢の両角はどちらも無惨に砕き折られてしまったが、プライドの象徴であるそれらを失っても、野望へと突き進む原動力が失われた訳ではないのだ。

「……そういう強がりを言う連中は、今までゴマンと見てきたよ。だが、そいつらは皆アタシの斧で未来永劫黙って貰った。お前もその仲間入りしてもらうかねェ」

「もとより『悪(あんたら)』の目論見なんか全部ぶっ潰すけど……特にあんたには何一つ思い通りにさせたげない。あんたは何処にも行けずにここで終わんなさい」 

「……上等だ、ブチ斬って押し通るまでッ!」

 握り締めた大斧を高く掲げ、女海賊マダナイ・トクニナイ咆哮す。
 そのまま一歩力強く踏み出せば、右の眼窩で燃え盛るメガリスが呪われし輝きで再びその身を包み込み、青い焔を纏う女海賊はまるで砲弾の如き勢いを得て宇宙船内の通路上を火花と焔の残滓を散らしながらに疾駆する。

「吠えるだけある。これは強いな」

 常軌を逸する高速で距離を詰めるマダナイを前に、立ち塞がらんとひらりを庇うように前へと踏み込むアシェラ。その双眸を覆うミラーシェイドに搭載された計測機能が、マダナイのステータスを計測、分析するがそれは即座に戦闘能力の値が振り切れ、計測不能と言う表示と共にボン、と弾けるような効果音と共に、計測機能は動作を強制終了した。然し、ミラーシェイド越しに敵を見据えるアシェラの視線に焦りの色はない。ただ格上の相手とならばこれまで幾度も刃を交え、そして彼女は生き残ってきた。歴戦の帝国騎士としての自負に揺るぎはない。

「貴様の夢は認める。略奪に破壊、それは誰もが生きる中で行い続けたもの。
 その在り方を罪科と断じはするまい。だが見過ごせぬ」
「なぁにを、見過ごせねぇってんだよォ……!! 邪魔くせぇ!!」

 暴風の如く荒れ狂う大斧の連撃を、アシェラの振るう赤光の剣、ダークフォースソードが的確に受け止めて往なしていく。然し、底無しに沸き上がるメガリスの魔力によって強化されたマダナイの膂力と速度に任せ、強引に回転数を上げていく怒涛の連撃の前には巧みな防御であろうとも分が悪い。

「……くッ……! 流石に手数も速度も向こうが上か……!
「ったりめェだ!元々アタシはこの斧で、名だたる海賊を何人も殺して回った賞金稼ぎサマなんだぜェ!!」

 次第にじりじりと圧されていく中で、それでもアシェラは辛抱強く護りの剣を振るい続けた。斧の掠めたミラーシェイドが砕け散る。身に纏う黒衣が裂かれ、斬撃の余波を浴びた甲冑が軋み、その表面に亀裂さえ走る。それでも退かない。騎士としての意地がその身を支え続けている。

「貴様の夢の前の犠牲となる、この地に住まう民たち……
 私は帝国の騎士として、それを看過出来んのだッ!」

 その叫びと共にアシェラの身を取り巻くように吹き荒れる、闇のフォースを宿した黒い風。その勢いは次第に加速し、やがてアシェラの姿を覆い隠すほどに強いものへと変わっていく。

「ちッ! 狙いはわからねェが好きにはさせねェぞ!」
「……そりゃこっちのセリフよ!!」

 本能的に危機を察したマダナイが、尚も追い打ちを叩き込まんと振りかぶる斧に絡みつくのはひらりの投げた鉄球の鎖だ。振り下ろそうとした斧を鎖に引かれ、綱引きのような拮抗状態に陥ったマダナイに、ひらりの操る磁力に誘導され、虚空に繋がれた『武器庫』から降り注ぐ無数のハルバードが重々しく風を引き裂き、解けた鉄球と入れ違いの形で唸りを上げて雨の如く飛来する。

「……ふざけ、やがッ――」

 続く言葉は押し寄せる無数の凶器の中に埋もれて消える。無数に殺到した斧槍や、自身の破壊した部下たちの残骸、磁力によって引き寄せられた数々の金属物によって取り囲まれては押し包まれる女海賊―― そのまま無惨に全身を貫かれながらの圧殺コースと思いきや、巨大な金属の球状となった檻を内側より強引に斬り散らし、爆ぜ散らして女海賊は牢獄を力尽くで飛び出した。

「……ッ! 流石に一筋縄じゃ行かないか」
「当然だ! こんなものでアタシを縛れると思うなよ!!」

 体中の彼方此方を金属片に刺し貫かれては引き裂かれ、血の帯を引きながらもその歩みは止まらない。再び振りかぶる大斧が、アシェラを取り囲む黒い風ごと、その中の彼女を斬り裂かんと勢い良く振り下ろされる――も。それは硬質な手応えと共に弾かれた。大斧の弾かれた勢いに引きずられ、後退るマダナイの目の前で風の結界が静かに解けて消える。其処から現れるのは、それまでの騎士装束から、黒と金を基調とする宇宙騎士甲冑、そして豪奢なサーコートを纏った姿へと変じていたアシェラである。静かに指揮官用のバイザーを引き下ろし、かつての大戦時に前線で指揮を取っていた現役時代の装いを完成させれば、その左右の手の間で超圧縮、凝縮収束させたフォースの輝きが結晶化し、一振りの赤い槍としての姿を為す。

「貴様の力―― その仕様は今、理解した」
「早着替えぐれェで偉そうにしてンじゃねえぞ!!」

 尚も振るわれるマダナイの大斧、それを真っ向より受け止めたアシェラの赤槍。互いの武器が風斬り激突し合う度に、その衝撃に船体が揺れる。メガリスの力とフォースオーラの衝突に、眠りかけていた船の機能が今にも励起させられるのではないかと思える程の鳴動だ。両者とも一歩も引くこと無く、赤と青の輝きを纏う両者は闇の中で幾度もぶつかり合っては火花を散らす。それは夜空をふたつの流れ星が競い合うように滑り落ちていくかのような光景だ。

「……てめぇ!何故アタシの動きに付いてこれるッ!?」
「理解した、と言ったはずだ。貴様の力の根源――それは即ち、メガリスによって強化されたエゴ。賞金稼ぎとして今まで稼いだ総額、それに比例して貴様は強くなる」


「そして、今私が纏うこの力も、それと同様のもの。
 嘗て銀河帝国が宇宙という大海にその覇を唱えたあの時代、
 私が狩った賞金首の総額は53万皇貨だ」

「……何だとッ!! てめぇも賞金稼ぎってワケかい!!」

 それがどれほどの貨幣価値か、スペースシップワールドと縁を持たぬマダナイが知る由はない。されども本能的に気圧された事は想像に難くはあるまい。或いは、アシェラの言うその金額が自身の稼いだ賞金総額を遥かに上回る超高額であるのだと判断したのかも知れない。その一瞬の動揺を突くようにしてアシェラの振るう赤槍に掬われて崩れたバランスを、追撃に振るわれる二打目の連撃に穿たれたマダナイの身体は容易く吹き飛ばされては大地へと突き落とされ、残骸の山を吹き飛ばしながら床上を滑り――そのまま壁面へと背中から叩き付けられ、崩れ落ちた。

「賞金稼ぎではなく騎士だ。そして我らは一騎当千の強者が数を揃え立っている」
「……そういうこと。
 あんたが幾ら強かろうと、ひとりじゃあ勝ち目なんてないわ。諦めなさい」

 それも自業自得だけれど、と転がる部下たちの残骸を指して冷徹に告げるひらり。崩れ落ちたマダナイがどう動こうと、右の鉄腕で握り締める鉄球を即座にブチ込める位置取りだ。

「あんたが斬り捨てた手下たちも寂しがってるわよ。躯の海に還りなさいな」
「……ククク。アタシはまだ一人じゃねえ……!」

 大斧を杖代わりの支えに、ゆっくりと身体を起こして立ち上がるマダナイ目掛けて、ひらりの投げ放った鉄球が唸りを上げて肉薄するも、それは何の前触れもなく弾かれ、ひらり自身へと打ち返される。

「……っと!」

 砲弾の如き勢いで打ち返されたそれを、右の掌が事も無げに掴んで受け止めれば、続けての第二投を見舞うべく身構えるひらりの目に映るのは、マダナイを取り囲むようにして立つ複数の影――それぞれ思い思いの武器を携えた亡霊たちが、怨嗟の呻きを上げながらマダナイの身を守っているのだ。

「こいつらは、かつてアタシが狩ってきた賞金首どもさァ!
 アタシに殺された雑魚だが、纏めて掛かればちったァ役にも立つだろうさ!」
「……本当にどうしようもない悪だって分かるわ、あんた」
 
 怨嗟の声を上げ、手にした長ドスを振りかぶって躍りかかる剃りこみ頭の亡霊をひらりは鉄球の鎖で腕を絡めつけては投げ飛ばす。釘バット、高枝切ハサミ、フライパン―― それぞれ多種多様の得物を手に次々と襲いかかる彼らも、生前は荒くれ者として名を馳せた歴戦の悪党揃いなのだろう。けれども、怨嗟に取り憑かれながらも、ただ傀儡として操られ使役されるだけの過去の亡霊どもに、今を生きる者たちが遅れを取るはずはない。

「因果応報!全員纏めて仲良く埋まんなさいな!」

 ひらりの怒りを乗せた叫びと共に、再び虚空より次々と撃ち出される無数の斧槍、戦闘で破壊された船内の壁面や床面などの金属板、メカニカルパイレーツたちの残骸、そして鉄球鎖。ひらりの磁力の前に、ありとあらゆる金属は従順な下僕と化す。強烈な磁力を帯びたそれらは、使い手の意のままに使役される無数の弾丸と化し、眼前の亡霊、そしてその識者たる女海賊そのものを目掛けて津波のように襲い掛かった。

「……ふざけんなよ、クソがァァァァッ!!!」

 押し寄せる鋼の津波に引き裂かれては飲み込まれ、散り消えていく亡霊たち。亡霊たちを貫いても尚収まらぬひらりの怒りを乗せた弾丸の嵐が、女海賊をずたずたに切り刻んでいく。傷から噴き上がるのは血の霧。眼窩に収まるメガリスは青い怒りの焔に激しく燃える。磁性体の弾雨に晒され、無惨に裂かれた五体は辛うじて繋がっているような有様だ。しかしそれでも尚立ち上がるのは、メガリスの魔力ゆえか。或いは、彼女自身の欲望と妄執がそれを可能としているのか。ばらばらと磁力を失い転がり落ちる残骸たちの中心で、大斧を支えに幽鬼じみた姿と成り果てたマダナイが、ゆっくりと立ち上がった。

「……まだ、だ……ッ! アタシはまだ、お宝を手に入れちゃいねえんだ……!!」

 ありったけの怒りと憎悪に歪んだその左目が眼前の敵を睨む。言葉を綴る度に咳き込み血を吐き溢すほどに傷付いて尚。彼女を突き動かすその怒りも、欲望も、収まりはしない。寧ろ、それは勢いを増していくばかり。


「……ベクトルこそ違えど、たいした夢だ。改めて私は認めよう」

 バイザー越しに敵を見据えるアシェラの瞳に浮かぶ感情は、暴走寸前にまで膨れ上がった激情に支配されたマダナイのそれとは対象的に静かなものだった。敵を理解した上で、これを確実に斬り滅ぼす。冷徹な討滅の意志そのもの。それは銀河帝国の興亡を騎士として関わり、そして離反者として牙を向きながら最後まで見届けた彼女であったからこそ、持ち得たものであっただろう。

「しかし、貴様の抱くその夢が花咲き実を結ぶことは決してない。
 ……貴様の夢は終わるのだ。今日、ここで」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン

永い時を経た航宙船、飛行能力があるかどうかはわかりませんが
メガリスを組み込めば不可能では無いかもしれません

ですが、この『島』…ビゼンオサフネで育まれる命の為、船出は阻止させて頂きます
空では無く骸の海が貴女の行き先です

室内とは言え飛翔能力の機動性は脅威
格納銃器の●なぎ払い掃射で牽制し●武器受け●盾受けでの防御を重視しつつセンサーで予測演算に必要な●情報収集
戦斧のリーチ、義眼の死角の有無、攻撃傾向を調査

仕掛け時ですね

防御の態勢が崩れたと同時にUC
誘う動きで誘導した攻撃を●見切り紙一重の僅かな動きで回避
直後に強烈な●怪力での●シールドバッシュで地に叩きつけ剣で追撃

潮目を見誤りましたね


ミハエラ・ジェシンスカ

連中も報われん事だ
尤もウォーマシンの末路など得てしてそんなものか

ヤツの飛翔速度は確かに脅威
だが、空間の限られるこの艦内で十全に発揮できるものではあるまい
悪心回路(アイテム)を起動
さらにフォースレーダーによる【情報収集】で
戦場全体の構造及びそれによって限定される敵の飛行軌道を【見切り】
その上セイバードローンで追い込んでやる

それでも捉えるのが困難な速度である事に変わりはないが
その速度を逆手に取った【カウンター】の4刀を【殺気】と共に叩き込む
このまま斬られる程度の相手であればそれで良し
そうでなくとも、我が邪剣に脅威を感じた心は確実に貴様の身を蝕もう
【恐怖を与える】事で【鏖殺領域】を発動させる



●Stargazer

「オイオイ、何だよ。……アタシの夢が、終わるって……?
 冗談じゃ、ねえ……。やっとこさ、此処まで漕ぎ着けたってのによォ……」

 よろめきながらも、その身を支えるマダナイ。
 その身に刻みつけられた猟兵たちの力に圧されながらも、彼女を突き動かす欲望とそれを遮る者へと向ける焔のような戦意は微塵も衰えては居ない。寧ろ、自身の生命が明確に死へと傾いているのを間近に感じ取っているからこそに、彼女の闘争本能は一層に研ぎ澄まされているのだろう。一瞬たりとも油断はできぬ、手負いの獣としての凄みを彼女はその身に帯びていた。

「永い時を経た航宙船、飛行するだけの能力が今もあるかどうかは分かりませんが、貴女の持つメガリスを組み込めばそれも或いは不可能では無いかも知れません」

 斧の石突を杖代わりにしてゆっくりと進むマダナイの、その進路を遮るように立ち塞がるトリテレイア。頭部を覆う装甲のスリットより覗く緑に燃える眼光が、「それ以上先に進ませるつもりはない」という明確な意志を眼前の敵へ言葉に出さずとも強く示し、突きつける。

「……ですが、この『島』…ビゼンオサフネで育まれる命の為、船出は阻止させて頂きます。空では無く、骸の海こそが貴女の行き先です。貴女の夢、その旅の終着点と致しましょう」
「上等だ!てめえら全員ブッ殺して、アタシはこの先の空に進んでやる……!!」

 対峙する両者を他所に、一人静かに佇むミハエラは周囲を見回す。そこに散らばるのは、猟兵たちの猛攻を前に打ち砕かれ、或いは護るべき主に斬り捨てられたウォーマシンの兵士たちの残骸だ。

(連中も報われん事だ。……尤も、ウォーマシンの末路など得てしてそんなものか)

 その末路に対し、ミハエラは過分なセンチメンタリズムを抱く訳でもないが、それでも些かに哀れみはしよう。彼我の間の差、それはただ盲目的に付き従うだけの機械であったか、叛逆に突き動かされる心を得たかどうかの違いであろう。凡その場合、心などは厄介で面倒な柵でしかないが、フォースの流れを読み取る才覚を備えた者にとってはそれこそが大きな力を引き寄せる因子として機能する。ミハエラの体内奥深くに組み込まれた「悪心回路」が作動し、「闇の力に屈し、暗黒面の深みへと堕ちたフォースナイト」の姿を再現するべく、プリセットされていたパラメータへと瞬時に彼女の思考が移り変わる。

「……貴様たちに無念の感慨を覚える程の機能が備わっていたかは知らん。
 だが、もしあったのならば、それはついでに私が晴らすとしよう」

 ミラーシェード越しに、青白い輝きを纏い飛翔するマダナイの姿を捕捉する。其処に浮かんだ赤い眼光が激しく燃え盛り、口元に浮かぶのは禍々しく攻撃的に引き攣った笑みだ。それは、彼女の内側で底無しに膨れ上がり続ける強烈な破壊衝動を如実に反映する表情だと言えただろう。瞬時に両肩装甲より飛び出し展開される隠し腕が四本腕の異形のフォルムを形作る。展開された左右の隠し腕はぎちぎちと不気味に蠢き、その先端にに繋がる五指に握られたフォールンセイバーをそれぞれ同時に起動した。ヴン、と低い唸りにも似た動作音と共に赤い破壊の光で形成された刀身がすらりと伸びる。

「…………オラァァァァァァッ!!!!」

 そこそこに広めのスペースがあるとは言え、あくまで此処は船内である。遮蔽物の少ない屋外ならばいざ知らず、移動範囲の極端に限られるこの環境、本来であれば縦横無尽に周囲を飛び回れるほどの機動力を獲得できるマダナイのユーベルコードは、その性能を十全のものとして発揮出来ずにいた。それでも爆発的に強化されたそのスペックに任せての荒々しい猛攻、決して侮れるものではない。咆哮と共に振り下ろされる大戦斧の一閃を、トリテレイアは咄嗟に掲げる重質量大型シールドにて凌ぐ。

「そんなもん! コイツの前には豆腐だァァァァーッ!!」
「……なんと……!!」

 強化された大斧の破壊力は、文字通りに一撃必殺。頑丈さが身上である大盾の積層装甲に噛み付いて火花を散らす肉厚の刃は、そのまま深々と切り込み、押し込む膂力に任せて強引にシールドを圧し切った。斜めに奔った軌跡からずれ落ち、重々しい金属音と共に床へと転がり落ちる寸断されたシールドの上辺を他所に、トリテレイアはその全身の装甲各所から展開されて迫り出す格納銃器による横水平に薙ぎ払うような掃射にて牽制、それ以上の追撃を避けつつ、冷静にマダナイの動きを解析していく。速度、パワーは向こうが明らかに上。だが、戦いにおいてモノを言うのはスペックだけではない。相手の動きのクセを把握し、解析、導き出された隙を狙う。その冷徹さは、ウォーマシンであるからこその強みだと言えよう。そんなトリテレイアの動きに乗じるが如く、不意に虚空に閃く赤い光がふたつ。飛来するそれを大斧を大きく振り回す事で強引に払い除けるマダナイの隙に付け込むように、黒い影が走り寄る。

「……ちぃッ!!」
「先にも言われていたが――……所詮、貴様はただ一人。
 だが、それに手心を加えてやる心算もない」

 ミハエラの振るう二刀が唸り、上空から再び飛来するセイバードローンによって多面的に襲いかかる異形の四刀が、まるで刃の結界の如くにマダナイの周囲を取り囲む。どちらの方向に逃げても即座に一刀が喰らいつき、追いつく三刀が追撃を叩き込む刃の牢獄を前に、マダナイはその速度を活かし切れずに翻弄されていく。

「……仕掛け時ですね」

 合わせてトリテレイアが再び前へ。ミハエラと共に踊る紅き四刀の速度とは裏腹に緩やかな彼の動きは、まるで優雅に踊っているようでさえある。白い甲冑姿にて、流れるようなトリテレイアの所作は暴風の如く荒れ狂うマダナイの中で燃え続けている激情の焔に油を注ぐようなものだ。それでも彼女の攻撃がトリテレイアを捉える事は叶わない。いくら闇雲に斧を振るおうとも、既に彼女の振るう得物の正確な間合いと、それを扱うクセを解析し読み切ったトリテレイアの電脳を前にしては、逆に反撃のチャンスを差し出しているようなものである。大斧を振るう度に、返される長剣の斬撃が正確無比に彼女を捉え、その度に刻み込まれていく傷跡は、彼女を不可避の死へと緩やかに追い込んでいく。

「なんでだ……! なんで、当たらねえ!! 攻めているのはアタシの筈だ!!」

 血の帯を引きながら尚も猛進するマダナイ。その勢いを受け流しながら繰り出すトリテレイアの剣舞と、それを支援するが如くに縦横無尽に速度に任せてマダナイを切り刻み続けるミハエラの四つのセイバー。フォースナイト特有の極近未来への予測を、ウォーマシン二体の電脳が更なる高精度の予知として補強しながら織り成す刀圏の間合い。

「……此処が、アタシの終わりだと? ふざけるな! そんな筈はねえ!!」

 ほぼ行末の確定したその未来より逃れられる者はそう多くはない。刃が唸るたびにマダナイは一層確実な破滅の運命へと引き寄せられていく。変異していない左腕が、掠めた刃に引っ張られて切り飛ばされ、明後日の方向へと放物線を描いて飛んでいく。マダナイに刻み込まれていくのは肉体へのダメージだけではない。追い立てられていくこの状況そのものが、絶望という刃となって孤独に追い詰められるコンキスタドールの心を刻むのだ。

「――――……潮目を見誤りましたね」

 トリテレイアの呟きと共に、マダナイ渾身の一撃を紙一重に擦り抜けながら、上辺の切り落とされて尚巨大なシールドが彼女の視界を埋め尽くす。力任せに叩き付けられた重質量の金属塊に吹き飛ばされたマダナイの身体を白騎士が追い、すれ違いざまに剣で一薙ぎ撃ち込んで―― 更に迫るは上空を飛び交うセイバードローンを跳躍と共に掴み取り、その四本腕に刃を構えたミハエラの獰猛な笑みと共に飛びかかるその姿。それを見上げるマダナイの表情に浮かぶのは、明確にもうこの先がないという確信。絶望。迫りくるそれを前に、出来るのはただ叫ぶ事だけ。右の眼窩に嵌った青いメガリスの表面に、びしりと亀裂が奔る。

「く、来るなァッ……!!」

「……我が邪剣に脅威を感じたな。
 ならば貴様のその心、此処で確実に斬って捨ててやる」

 目前に迫る死の恐怖に怯えた懇願を聞き入れる善良さなど、堕ちたフォースナイトが備えているはずもなく。逃げ場のない空中、迫る四刀は思い思いの方向からそれぞれカーブを描き、標的目掛けて吸い込まれ――― その直前に掻き消えた。入れ違いにマダナイを貫くのは暗黒面のフォースによって増幅された圧倒的な殺意。これまで自分が戯れに獲物を狩り殺していた時のそれとは比べ物にもならぬ濃密なそれは最早概念的に敵を斬る刃として作用するほどの。

『騙して悪いが、私は剣を振るってすらいない。
 今、貴様を斬ったのは貴様自身の心だ』

「じょ、冗談……きついぜ、オイ……。
 ブザマにビビっちまった、ってのかよ。……このアタシが……!」

 交錯し、着地するミハエラの振り返る事さえなく告げた無慈悲の宣言。刃を消失させた四振りのセイバーをそれぞれスムーズに体内へと格納する彼女の背後で、胴から上下ふたつに寸断されたマダナイの身体が重力に引かれて床へと墜ちると、それぞれ床上を幾度か弾んでそのまま転がりようやく動きを止めた。それから一拍遅れ、空から墜ちてくる呪われし大戦斧を、トリテレイアの振るう騎士剣が真っ向より叩き斬り、黒い無数の破片と砕いて散らす。

「――――……先の言葉通り、貴女の旅路は此処で終わりです」
「……クソ、こんな……終わりが―――」

 あってたまるかよ、そう続くはずの言葉はもう紡げない。咳き込む度に溢れる血液が、それ以上の言葉を阻む。ぼやけた視界の中、マダナイの伸ばす手は星空をつかもうとして空を切る。星も月もない、ただ真っ黒な暗闇と天井だけが其処にある。メガリスの瘴気により変異し歪んだ異形の右腕がもう一度虚空を掻く。そしてそれは、ゆっくりと重力に引かれて滑り落ち、それ以上動くことはなかった。

 どうしてこうなったのだろう。こんな筈ではなかった。この腕は星にも届くはずだった。無限に広がる空という名の大きな海に抱いた女の憧憬は、その生命と共にゆっくりと虚無の海へと還っていく。これで終わりではない。けれども、此処に居た彼女の旅は確かに今、此処で終りを迎えた。

 マダナイの眼窩に嵌る青い宝石の義眼、呪われしメガリスが黒煙を噴き出しながら青い焔を撒き散らして砕け散り、そのまま跡形もなく焼失していく様に一瞥を向ければ、ミハエラは緩やかに肩を竦めた。

「この船の旅は既に終わったのだ。既に埋もれた過去を無理に掘り出す事なかれ」

「……そうですね。ビゼンオサフネは既に役目を終えています。
 彼はこの地に主たちを導き、其処で生きる自由を与えた」

 この思い出は、静かに忘却へと埋もれていくべきだ。ふたりのウォーマシンは、どちらからともなく似たような感慨を抱きながら、嘗て同じ世界に生きた巨大な同胞の安らかな余生の日々を思う。此処で忘れ去られ、誰にも知られる事無く静かに朽ちていく。そんな彼の行末をせめてこの記憶には焼き付けて、彼らは次の島へと向かうのだ。









●lingering memory

「…………なんだか今日はよく地震のある日だなあ」
「おとうさん、おふねの神様……目を覚ましたのかな」
「そうかもな、だがきっとまた眠ってしまわれたのだろう」

 彼らを不自由な支配者たちの圧政から楽園へと導いた神はもう遠い伝承のもの。その正確な存在を覚えているものなど最早誰もいないだろう。けれども、息づくものは確かに残ってはいるのだ。島民たちの生は彼らの神と共にある。神が生きていいと許す限り、彼らはおぼろげな神が作り上げたこの島と共に栄えていく事だろう。

「さて、今日はおまえに新しいヘルメットを用意しよう。
 おじいさんの形見のかっこいいやつをな」

「やったあ! わたしもこれで大人のなかまいりだね!」

 島民たちはそれぞれのやり取りを繰り返し、今日も彼らの日々を懸命に生きる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月09日


挿絵イラスト