13
崩落の咎

#アポカリプスヘル

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル


0




●崩落の咎
『君もまた、日々を生きる中で選択をくり返しているだろう?』
 だからこれもまた、選択のひとつに過ぎないのだと黒いスーツの男からの伝言であった。黒衣の影はただ伝言を伝える。
 これがあれば助かると。
 これがあれば、君の姉は生きていられるだろう、と。
『この世界に憂い、考え続ける君にだからこそ。私はこのギフトを贈ろう。——困難に直面した時こそ人は輝きを放つのさ』
「……」
 それはきっと、邪悪なものの囁きだったのだろう。廃墟となったホテルで作られた拠点は、頑丈で、オブリビオンの包囲されてもみんな落ち着いていた。怪我人の為の簡易医療室も作れたし、拠点を仕切るディーヴァだって厳しいけど優しい。きっと僕らは生きて此処を脱出できるだろう。
「……ほんとうに?」
 安全なはずの拠点で姉さんは怪我をした。沢山の血が出た。僕を手伝うと言って怪我をした。沢山血は流れたけど、大丈夫だと言っていた。
「本当に……?」
 大丈夫じゃないものを幾つも見てきた。大丈夫と言った次の日に墓に入った奴だって知っている。絶対は無くて——だから、僕はあれの手を取ってしまった。
「あの日、招き入れたのは死を呼ぶものだ。……僕はまた、何かした所為で誰かを殺して、何もしなかった所為で——……」

 ——カタン、と足音が響く。黒衣の影は、人の姿を模していた。口数の少ない医師。ペストマスクは彼の、或いは彼女の意思表示であった。
「病は根絶すべきである」
 くぐもった声に拠点の者は不思議がる事は無かった。姉を心配した少年が傍にいたからだ。成る程、心配にもなるだろう。あの子は気にするから、と。
「立ち向かうべきである。迎え撃つべきである。誰一人、見捨てること無く。何一つ、見逃す事無く根絶すべきである」
 医師の頑な言葉は、脱出によってこの拠点を捨て次の拠点へと移動する筈であった人々の心を揺らした。——その揺れが、恐慌を招くと誰も知らぬまま。

●献身
「アポカリプスヘルにある拠点がオブリビオンに包囲された」
 ゆっくりと伏せた瞳を上げた男——シリウス・クロックバード(晨星・f24477)は猟兵達に告げた。
 廃ホテルを改造して作られた拠点(ベース)だ。スナイパーの設置も可能な拠点は、オブリビオンに包囲されても持ちこたえることができる場所だった。
「簡易だが医療設備もある。でも、どれほど強固な施設であっても内側から鍵を開けられてしまえば意味は無くなるからね」
 彼らは内側から鍵を開けさせる気だよ、とシリウスは告げた。
「既にオブリビオンが一体、潜入している。人に擬態していてね。流れの医師だ」
 そして人々を扇動しているのだ。『立ち止まり、迎え撃つべきだ』と。
「——上手くやってくれたという話だよ。既に擬態したオブリビオンに追従している者もいる」
 包囲した側のオブリビオンに頭の回る者がいるのだ。侵入していたオブリビオンの口上は全て、そのオブリビオンが作ったものだ。
「流れの医師に違和感を持つ者には、望む物を手渡したりしてね。——侵入者に最初の追従したの少年もその一人だよ」
 受け取ったのは怪我をした姉の為の治療薬だ。
「少年はひどく気を病んでいる。渡された薬が本物であったから余計にね」
 だが、全てはこのオブリビオンの群れを率いていた指揮官の計略だ。
「医療施設が完備されている場所には『それ』を使うだけの理由もあるだろうってね。実際多少の違和感は本物を持っていた、ということで拭えるからね」
 オブリビオン・荒野に試練を蒔く者。
 時に大量の物資と友に集落を訪れ、物資目当てに決死の覚悟で挑む人間を慈しみ殺す者。
「荒廃した大地で絶望せず、懸命に生きる人の姿に美しさを見いだしたオブリビオンだよ」
 そして告げるのだという。『困難に直面した時こそ人は輝きを放つのさ』——と。
「スーツ姿の河童は随分と語るようだけど、好きにされる必要もない」
 覆させてもらうよ、とシリウスは微笑を刻んだ。
「猟兵なら、一目でオブリビオンが分かるからね。拠点内部へ転送する。奴を倒し、後にオブリビオンの群れの殲滅を」
 一度の攻撃が通れば、追従していた人々も目を覚ますだろう。
「それじゃ、行こうか。あなたたちの行く道にどうか祝福を」
 青白き光が転移の光となり灯る。星を詠む男は静かに告げ——風が、猟兵達を導いた。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。

3連戦、戦闘シナリオです。

▼各章について
 各章、導入追加後のプレイング受付となります。
 プレイング受付期間はマスターページ、告知ツイッターでもご案内致します。
 また、状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。

 第一章:業病のジュピター
 第二章:煮慈威露愚喪の獏羊族
 第三章:荒野に試練を蒔く者

▼拠点について
 サバイバルガンナー達と、賢い動物(狼)のソーシャルディーヴァが守っています。
 2章の集団戦では彼らからの援護も可能です。
 (拠点からのスナイピング)

●少年について
 サバイバルガンナーの少年。怪我をした姉は実姉ではなく、拠点を転々とするうちに出会い姉弟となった関係。

●少年の姉について
 オブリビオン包囲時に施設内部で怪我をした。足の怪我で身動きを取ることができない
(脱出時は誰かが運ぶだろう、という話だった)

▼お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。

 それでは皆様、ご武運を。
164




第1章 ボス戦 『業病のジュピター』

POW   :    病勢のニーズヘッグ
【両手の砲身から放たれる医療用レーザー】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    病臥のラタトスク
【自動追尾麻酔ミサイル】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ   :    病理のフレースヴェルグ
自身の身体部位ひとつを【対象の病魔根絶に適した形】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠トール・ペルクナスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●少年の咎、或いは
 ギフトと称して贈られた薬は本物だった。姉さんの熱は下がって漸く、話もできるようになった。また、仕事に行くのだと言う僕を心配していたが——もう、近くにはいられないから仕事があって良かった。
「あの年、僕が撃ち抜いたものの所為で拠点が包囲された。あの夜は僕が撃ち抜かなかったものの所為で橋に向かったみんなが死んだ」
 これしか無かったから銃を持った。これができれば救えると思って。——でも、僕がこれを使うようになって、その真似をしたみんなが死んでしまって。
「僕だけが、まだ生きているから……」
「病は根絶すべきである」
 廊下の向こうで、医者の声がする。ペストマスクをつけた医者の言い分に、従う人たちが増え始めていた。この拠点は強固で、逃げる先もあったけれど、逃げるだけにみんなが飽きてきていたから。
「……あれは邪悪なものかもしれない」
 でも、本当に包囲しているオブリビオンと戦って、門を開いて行けというのであれば——最初に行こう。銃弾はある。弓もある。クロスボウも持った。
「僕が最初に行って、今度こそ……」
 撃つべきものを、間違わないように。

●業病のジュピター
 ホテルの中央フロアは、吹き抜けになっていた。此処で話せば設備が無くとも声はよく通る。電気設備など残っている
「立ち向かうべきである。迎え撃つべきである。誰一人、見捨てること無く」
 そこで、回診と共にペストマスクを付けた医者は告げていた。病を見分けるのに長けた医者であった。頑丈な拠点とて一つの病で崩れることがある。
「しかし流れの医者か。ボスは?」
「忙しくてこっちにはまだ。……だが、流れの危険性も、ありがたさも分かっちゃいるだろうさ」
「となると、どちらかといえば、ボスが心配してたのはニールですね」
 俺も分かるが、とサバイバルガンナーの男は頷いた。
「あいつは優秀だ。目も良い。引き金を引く責任は俺たちガンナー全てが持つ者だが……、あいつの場合、周りに共に背負う者がいなかったのもある」
「流れの医者であれ、彼が誰かに何かを託すのは良いという話ですか……」
 銃弾は戻らないが、銃弾だけが全てでは無い。
「もう少し、子供らしくいられれば良いんでしょうが……大人の我が侭か」
 軽く肩を竦めたサバイバルガンナー達の視界で、医師は話を続けていた。
「何一つ、見逃す事無く根絶すべきである。病は——……」
 その言葉がふつり、と途絶える。不可解な沈黙。一点を見据えたペストマスク姿の医者に、フロアの人々がざわめく。次の瞬間——風が、吹いた。
「——」
 姿を見せたのは転移してきた猟兵達。その足音に、来訪に拠点の人々が驚いて声を上げる。
「おい、いったい誰が……」
「襲撃か!?」
「——」
 その中にあって「医者」は冷静であった。否、それこそが「医者」の本来の姿であったのだ。饒舌に語るのはそう渡されたが故。病を見るのは本分に近しいが故。
「病は根絶すべきである」
 一度の銃弾が、ペストマスクの医師の姿を崩す。黒衣が払われ、顕わとなったのは機械人形であった。
「病は——……」
 業病のジュピター。
 人を癒やすのではなく病を根絶することこそが行動原理である機械人形。嘗てさる人形が病を根絶するために創り上げた機械人形は、今、病を根絶するためには手段を選ばず考慮しない存在として——この地に、立った。
「根絶すベキであル。スベテ」
 
◆―――――――――――――――――――――◆
▷プレイング受付期間
9月6日(日)8:31〜9月9日(水)22:00

広間に集まっている人々は、戦闘開始時に逃げ出していきます。
避難指示などは、現場のサバイバルガンナーが行います。
少年(ニール)は戦闘には参加しません(業病のジュピターへの援護など行いません)

一般人周りは気にせず、姿を現したオブリビオンの撃破をお願い致します。
広間は頑丈です。崩落の危険はありません。

▷業病のジュピター「WIZ」使用時の形について
対象の病魔は「破傷風」です。
高熱を操る武器へと変異するようです。

▷少年「ニール」について
声かけは可能ですが、結果は2章への反映となります。
状況によっては、2章以降の行動に変化があります。



◆―――――――――――――――――――――◆
英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

病を根絶する、ってだけならいいことしてるようだが
手段選ばず、つーか選んだのが最悪じゃねェか
医者つっても、道を踏み外してるならありがたくもなんともねェな
このまま放っておくのはよくねェよな

はー?
病気になるならお前のほうが先だろ、絶対に
まぁ、病気になったら、病院ぶち込んで毎日見舞いにいってやるよ
ここで病になることはなさそうだけどよ
ヒメ、病は治せねェけど傷はきっちり、治してやるよ
だから怪我するのも気にせず、向かっていい

だが攻撃貰う前に倒すにこしたことはねェな
水を放って、その手元を狂わせて隙を作ろう
あとはヒメ、任せた
そうだな、神だからな
人のためになることができればそれでいい


姫城・京杜
與儀(f16671)と

與儀も俺も神だから、あまり医者の世話に普段ならねェけど
人には有難い存在だよな
それが真っ当な医者なら、だけどよ

俺は身体が丈夫なのが取り柄だからな!
まぁもし與儀が病気になっても、俺が世話するし!
林檎とか可愛く兎さんに切ってやるぞ
でもやっぱ與儀が、病気もだけど、怪我するのも絶対嫌だから…
守護者の俺が守る!

天来の焔で敵の攻撃を確り体勢崩さず防いで
自身と、何よりも與儀の守りにまずは徹する!
レーザーも高熱の武器も、神の焔が一切通さねェ
與儀の水で敵に隙出来たら攻勢に
與儀が治してくれるからな、多少の怪我は厭わず
ペストマスク野郎を炎の拳でぶん殴る!

俺達は神だ、悪は根絶しないとだろ
な、與儀!



●傍らにあること
 粉塵と共に黒い羽根が舞った。ひどく艶やかに舞う羽根は鴉に似たか孔雀に似たか。吹き抜けのホールに落ちた影は暗く、人々の驚きさえも飲み込んでいく。
「早く、此処から離れろ!」
「避難するんだ!」
 リーダーに、と飛ぶ声はサバイバルガンナーたちのものだろう。悲鳴が上がるその前に、強く告げられた言葉に狂乱の一歩手前で人々が足を止める。意識を引きずり戻す。
「——病ハ、根絶すベキであル。スベテ、スベテ」
「……」
 花浅葱色を細め英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)は息をついた。
「病を根絶する、ってだけならいいことしてるようだが。手段選ばず、つーか選んだのが最悪じゃねェか」
 見上げる程に巨大、というわけでは無いが、機械人形は大人ほどの姿をしていた。ひたり、と向けられた視線に、臆するだけの理由など無いままに與儀は業病のジュピターを見据える。
「医者つっても、道を踏み外してるならありがたくもなんともねェな」
 二度目の息は、機械人形の視線が僅かに変化したのを感じたからだ。医者、という言葉に反応したのか。未だ医者だというつもりはあるのか。
「このまま放っておくのはよくねェよな」
 羽根は、地に落ちても羽根のままでありえるのか。與儀の靴先に羽根が触れる前に潰えた。
「與儀も俺も神だから、あまり医者の世話に普段ならねェけど」
 姫城・京杜(紅い焔神・f17071)は、ひたりと藍の瞳を機械人形へと向けていた。
 人の姿に偽装していたという。纏っていた黒衣はとうに消えたのか。機械の身を晒した業病のジュピターは、ノイズがかった声でくり返していた。
 病は、根絶すべきである、と。
「人には有難い存在だよなそれが真っ当な医者なら、だけどよ」
 息をひとつ、京杜は落とす。此処は——この世界に限らず、人は時に脆い。驚くほどに強くあっても神たる與儀と京杜に比べれば脆い時もあるのだ。
「俺は身体が丈夫なのが取り柄だからな! まぁもし與儀が病気になっても、俺が世話するし!」
 ほう、と落とした息の後、ぱ、と京杜は顔を上げる。
「林檎とか可愛く兎さんに切ってやるぞ」
「はー? 病気になるならお前のほうが先だろ、絶対に」
 すっぱーんと與儀の一言が入った。クリティカルであった。
「まぁ、病気になったら、病院ぶち込んで毎日見舞いにいってやるよ」
 ここで病になることはなさそうだけどよ。
 そう言って、與儀は視線を上げる。どうやら、機械人形は完全にこちらへと意識を向けたようだ。
「ヒメ、病は治せねェけど傷はきっちり、治してやるよ」
 チリチリ、と焼ける気配。病を排除する、その至上目的を邪魔すると、あの機械人形はこちらを定めたか。ふ、と息をひとつ吐き、與儀は地を深く踏む京杜へと告げる。
「だから怪我するのも気にせず、向かっていい」
「——あぁ」
 応じる声は、踏み込みと同時であった。ダン、と足音を残し、行く姿は身を低めた跳躍に似た。ばたばたと外套を揺らし、ギュイン、と響く機械音に京杜は視線を上げる。
(「こっちを向いたな」)
 さっきまで、業病のジュピターが見ていたのは與儀だった。
(「やっぱ與儀が、病気もだけど、怪我するのも絶対嫌だから」)
 林檎も可愛く兎さんにするし、看病だってばっちりつきっきりでやるけれど。——でも、嫌なのだ。だからこそ。
「守護者の俺が守る!」
 言の葉を紡ぐ。強く握った拳に、機械人形が身を滑らせるようにして——来た。
「病ハ、根絶すベキでアル」
 荒れた地面など業病のジュピターには関係は無いのか。滑走するように来た機体が銃口を向けた。
「余すコトなク。全テ」
 瞬間、放たれた銃弾に京杜は迷わず踏み込む。射線から逃れる事も無く、ばら撒かれる銃弾の全てを受け止めるように最期の加速を叩き込む。
「宿れ焔、我が神の拳に」
 握る、拳と共に。
 ゴォオオ、と京杜の周囲が熱を帯び、紅葉の舞う燃ゆる焔が立ち上がる。銃弾を片腕で受け止め、向けられた銃口を拳で打ち上げた。
「病ハ、ハ、ハハハハハハ」
 ノイズがかった声が、跳ねた。たたき上げた拳で空を向いた銃口が、瞬間、熱を帯びる。
「病勢のニーズヘッグ」
 両手の砲身から光が——来た。
 医療用レーザーは容赦の無い圧となって、京杜へと叩き落とされる。受け止めるように振るった腕が神の焔を招く。
「一切通さねェ」
「——根絶セヨ」
 それまで、ノイズがかっていた声が急に耳に届いた。瞬間、押し込まれる感覚に京杜は息を吐く。全てを容易く防がせてはくれないか。片腕、焔を打ち上げたそれを切り払うように砲塔が向く。己の焔では無い、容赦の無い熱線が腕に届き零れ落ちた血さえ——焼く。
「——っ」
 息を飲んだのは痛みからではない。ここを抜かれればどうなるか、その意味と姫城・京杜の矜持が神たる青年を突き動かした。
「の、言うことより……!」
「根絶シ、破壊シ、滅スベキで——……」
 レーザーが再び地を這うよりも先に、熱された空間に清浄な水が舞った。
「仕方ねェから癒してやるよ。高くつくぜ、俺の――は」
 與儀の操る癒やしの水だ。
 吐息ひとつ、戦場と戦況を見据えていた瞳は真っ直ぐに機械人形を捉え、虚空より招いた癒やしは京杜の傷を、血を拭っていく。
「——おい」
「——病ハ、根絶すベキであル。スベテ、スベテ」
 ギュイン、と駆動音と共に片腕が炎を帯びた武器に変わる。チェーンソーか。派手に上がった音が呼びかける声さえかき消し——だが、飛ぶように一気に来た機械人形へと與儀はその手を向けた。
「切リ落とス」
「——」
 告げる声さえ無いままに。打ち出された水が、飛びかかってくる業病のジュピターに叩き付けられた。迎え撃ち、統べて絡め取るように。水圧で砕くことは叶わずとも——元より、與儀の狙いはそこには無い。
「あとはヒメ、任せた」
「——おう」
 応じる声こそ明るく——だが、地を蹴り機械人形を追う守護者の踏みこみは早かった。宙で体勢を崩した業病のジュピターへと京杜の拳が、入った。
「俺達は神だ、悪は根絶しないとだろ。な、與儀!」
「そうだな、神だからな」
 ゴォオオ、と唸る炎と共に機械人形が吹き飛ぶ。派手に上がった火花と砕け散った鋼を視界に、偽りの医者を見据えて與儀は言った。
「人のためになることができればそれでいい」
 癒やしの術を有す、神が一柱として。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネウ・カタラ
じわじわと身をむしばむ、毒
病がなくなるのは、きっと誰しもがねがうこと

でも。今をいきたいヒトに、きみは招かれざる隣人
根絶されるべきは、病でもヒトでもなく、きみの方
だから、ね?
そのいのち、俺がたべてあげる

細い足を狙いつつ大鎌でなぎ払い傷を重ねる
体勢崩せた方が照準もつけづらい、でしょ
両手からの放射は見切りで躱したり、
大鎌で腕を弾き射線を反らしてみる

固くて無機質なおいしくなさそうな鉄の躰
本当に全部がそうなの?
虚ろふ深紅を躰目掛けて、放ち
ねぇ、みせて、内側も全部

少年と目が合ったなら、微笑んで
手を取ったこと、まちがいだなんていわないよ
自分の思いに正直に、いきていいんだよ
今日の後悔は明日への希望に繋がるから



●眞白は告げる
 轟音と共にレーザーが広場を焼いた。跳ね上がった瓦礫が地面を打ち——だが、次の瞬間には砂塵に返る。
「根絶すベキであル。スベテ。スベテ。スベテ。余スこトなク、迎えルベキであル」
 瓦礫を潰したのは機械人形であった。偽装の折に身に着けていた黒衣は燃え尽きたか。既にそこに人らしい姿はなく、長身の機械は駆動音を響かせながら告げた。
「誰一人、見捨てるこト無く。何一つ、見逃ス事無ク根絶スベキであル」
 病を根絶する為に。
 その為に病人を見分けた。その為に医療室を改装し、場を作り上げた。取り集め、納め、全てを根絶する。然るべき後に、残る病も滅する。
「何ひとツ逃スことなク。殲滅シ焼却シ滅却スル」
 根絶すべきは病であり、人を癒やすことなど機械人形の行動原理には元より無い。
「じわじわと身をむしばむ、毒。病がなくなるのは、きっと誰しもがねがうこと」
 でも。とネウ・カタラ(うつろうもの・f18543)は視線を上げる。
「今をいきたいヒトに、きみは招かれざる隣人」
 粉塵の舞い上がる戦場へと、ネウは向き合う。キュイン、と起動音が耳につく。機械人形の視線がこちらを向く。
「病ハ——」
「根絶されるべきは、病でもヒトでもなく、きみの方」
 放つ言の葉が熱を帯びるより先に告げる。ペストマスクの面がひたり、とネウを捉えた。
(「敵意、だね」)
 殺意ではな胃、明確な敵意。
 邪魔者とこちらを見たか。空間が熱を帯び、す、と僅か身を低めた機械人形——業病のジュピターへとネウは大鎌を振り抜いた。
「だから、ね? そのいのち、俺がたべてあげる」
 ヒュン、と空を切り裂く大鎌と共にネウは一気に地を蹴った。キュイン、と響く機械音と共に業病のジュピターが銃口を向けた。
「根絶スべキであル」
「——」
 派手に飛び散った銃弾を鎌で払う。肩口、浅く受けた傷を気にせずに、ネウが狙ったのは機械人形の細い——足だ。
「根絶すベキで——」
「体勢崩せた方が照準もつけづらい、でしょ」
 銃口ではなく、薙ぎ払ったのは足。関節部に叩き込んだ斬撃にネウの顔を狙っていた銃口が——逸れた。ガウン、と派手に火花が散り、傾ぐ体を立て直すように機械人形が足を引く。戦場を統べるように移動し、取り直される間合いに、だが、ネウは踏み込んだ。
 ザン、と一撃が届く。薙ぎ払いつけたそれは、正しく傷、だ。だが、だからこそ意味がある。
「病ハ病ハハハハハハハ」
 機械人形のノイズがかった声が震え、逸らされた照準に業病のジュピターは顔を跳ね上げた。
「病勢のニーズヘッグ」
 ふいに、声が変わる。ノイズが消え、澄んだ声音と共に周辺の空気が跳ね上がり——光が、来た。医療用レーザーだ。熱線に、ネウは大鎌を弾く。直撃を逸らし、浅く受ければ腕から血がしぶく。だが、それだけだ。この間合いは変わらない。
「固くて無機質なおいしくなさそうな鉄の躰。本当に全部がそうなの?」
 焼ける腕をそのままに、ネウは囁くように告げた。
「ねぇ、みせて、内側も全部」
 瞬間、足元の血の海が刃を向いた。血液より生まれた無数の刃が機械人形を切り裂く。僅か、崩れた体勢を逃すこともないままに。
「根絶すベ——……」
 続く言葉は、火花に食い尽くされた。爆発と共に飛び散った破片に、機械人形がぐらり、身を揺らす。
「——」
 その状況を見ている少年の姿があった。ふと、目があった先、ネウは静かに微笑む。
「手を取ったこと、まちがいだなんていわないよ。自分の思いに正直に、いきていいんだよ」
 白い髪を揺らし、そう柔く少年に告げた。
「今日の後悔は明日への希望に繋がるから」

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
風切さん(f01441)と参加

「私が前を」

風切さんに援護を任せて前に出る
夜帷を抜いて攻撃開始

「病は殺した。人も死んだ。そういうことでしょ?」

攻撃が命中したら【暗黒】を発動
ジュピターを削りながら、風切さんへの攻撃は【かばう】
ダメージは【肌】の機能で痛覚を遮断、【継戦能力】を発揮する

一陣の風が吹く
動きの止まった敵を【怪力】で無理矢理になぎ払い吹き飛ばす

風切さんの独白が遠く聞こえる
敵と私の違いなど大してあるわけじゃない
敵かそうじゃないかの違いだけ
でも、

「私は人形じゃない」

どれだけ人を離れても、機械化を推し進めようと
だからジュピターに同情する

「役目を果たしても、褒めてくれる人がいないのは、寂しいから」


風切・櫻
日下部・舞(f25907)と

敵の首魁は余程捻くれた趣味をしていると見える
結局仕舞いには殺すだろうに。徒に希望を持たせるとは

此度の敵も。病を根絶するならば、その病の持ち主を根絶させればいい――等とは
所詮は人形。心など持ち合わせてはいないという事か!

「うむ、任せたぞ、日下部殿」
……日下部殿との共闘は初めてだな
手始めは援護に回らせて貰うとしよう

「その武器。使わせぬとも」
機先を制し、抜いた刀より巻き起こる風が武装を煽る
<風花縛封>。突風に遊ばれる花弁の如く、その自由を封じんと

後は日下部殿がその力で捻じ伏せてくれるだろう

「いやはや。頼もしいな、日下部殿」
活躍を率直に労い、褒め称える
美しく頼もしい『友』を



●境界線
 熱が戦場に上がった。火花と共に光線が空を撫で、天井を崩す。元より吹き抜けであったのだろう。乾いた布が焼け落ち、だが同時に「構わない」とサバイバルガンナー達の声が届いた。
「どうせいつもすっ飛ぶんだよあの天井!」
「あんたの付け方が悪いからでしょう……。ですが、どうか今は気にせず……!」
 今、此処を生き抜けるかどうかが重要です。と叫ぶ声をかき消すように機械人形の駆動音が響いた。キュィイイン、と甲高く響いていた音が低く軋み、獣の咆吼に似る。
「病ハ根絶すベキであル。スベテスベテスベテスベテ」
「……」
 重なり響く声は、狂ったように響き——だが、そこに狂乱を誘う空気は感じられない。ただ「そうあるべき」であるからこそ、機械人形——業病のジュピターは告げ、成すのだ。
 ある人形が病を根絶するために創り上げた機械人形は、その至上目的の為に存在し、病を根絶するためには手段を選ばず、人命は考慮されない。
「敵の首魁は余程捻くれた趣味をしていると見える」
 機械人形にとっての目的を達成する時までは、正しく「医者」であったのだろう。少なくともオブリビオンに包囲されていた拠点の者にはそう見えた。そう振る舞うようにさせていた。
「結局仕舞いには殺すだろうに。徒に希望を持たせるとは」
 一度、静かに風切・櫻(ヤドリガミの剣豪・f01441)は息をついた。年若い見目に反し、どこか老成した雰囲気を纏う青年は桜舞う羽織をつい、と引く。
「此度の敵も。病を根絶するならば、その病の持ち主を根絶させればいい――等とは」
 放つ言の葉に、粉塵から立ち上がった機械人形がこちらへと視線を向ける。病、の言葉に反応したか。叩き付けられた敵意に、櫻は悠然と笑う。間合いであれば詰めれば良いが、無為に人々を巻き込む気など元より無い。
「所詮は人形。心など持ち合わせてはいないという事か!」
「病ハ、根絶すベキであル」
 キュイン、と響く駆動音が変わった。戦場の空気が揺れ、先んじて声が櫻の耳に届いた。
「私が前を」
 告げる声と同時に、黒髪が揺れた。一足、叩き込まれた加速に機械人形が面を向ける。
「根絶ヲ根絶ヲ。病ハ、余すことナク——」
 ノイズがかった声と共に、銃口が向いた。響く機械音、構えられたのは単純なミサイルか。瞬間、空間が熱を帯び——だが、先行を告げた日下部・舞(BansheeII・f25907)は刃を、抜く。
「病は殺した。人も死んだ。そういうことでしょ?」
 夜帷を抜き払い、一刀と共に散らす。上がる爆煙は、僅か舞の腕を傷つけたか。
「——」
 だが、構わず舞は行く。肌の機能で痛覚は遮断してある。ただ残るのは傷だけだ。
「闇は闇に」
 だからこそ、間合い深く沈み込んだ娘は一刀にて斬り上げた。喉元ではなく浚うように肩口へ。一撃で崩す刃ではない、これは剣戟にこそ意味を持つ。
「うむ、任せたぞ、日下部殿」
 ギン、と火花を散らし、舞の夜帷が叩き付けられた機械人形の腕を受け止めた。ぐ、と踏みとどまった足が、あちらの力を刀身に滑らせる。
(「勢いを殺すか」)
 銃口を持つ機械人形の腕が、撃つことで力を発するのに対し、片刃の長剣としての形を持つ舞の武器は、受け流すことにも長けるということか。
(「……日下部殿との共闘は初めてだな。手始めは援護に回らせて貰うとしよう」)
 前を託すには憂いなど無く。黒の瞳は、真っ直ぐに戦況を捉えていた。
「スベテ、スベテスベテスベテスベテ」
 剣戟の中、空間が熱を帯びる。頭上に浮かぶ輪が光を帯びれば、腕の銃口が姿を変えた。
「病理のフレースヴェルグ」
 それは炎熱の刃。両手の砲身は、炎を帯びたチェーンソーへと姿を変える。空間ごと熱するようなそれは病へと変じる前に潰すというつもりか。
「切リ落とス」
 低く告げられた言葉と共に、体当たりに似た突撃が来た。ガウン、と叩き付けられた体に、だが舞は顔を上げる。痛みというものは舞の動きを止めるものにはならない。
「私を? それとも風切さんを?」
 言の葉を以て、舞は機械人形の意識を引き寄せる。ギュイイン、と唸るチェーンソーが迫る。——だが。
「その武器。使わせぬとも」
 轟音を響かせるチェーンソーが、止まった。響く声は風を招く。
「風に囚われ、花に魅入られ、その手は止まるだろう」
 抜いた刀より桜の花が舞う。桜花招く風が、チェーンソーを、一撃を叩き込もうとする機械人形を——捉えた。
「根絶、ヲ——」
 グン、と業病のジュピターの視線がこちらを向く。地を蹴り向かって来ようとする気配に、だが櫻は刀に手を置いた。風切櫻。櫻の本体である刀は、銘と共にその力は欠け——だが、招く風は業病のジュピターの自由を奪うには十分だった。それが永遠でなくとも、その時を見逃す彼女ではないことは共に戦う中で分かっていた。
「——」
 唸る刃を、その体ごと舞は無理矢理に薙ぎ払い、吹き飛ばす。いっそ清々しい程の力で吹き飛ばす彼女の活躍に櫻は顔を上げた。
「いやはや。頼もしいな、日下部殿」
 率直に労い、褒め称える。美しく頼もしい『友』を。
「……」
 その声が遠く、舞の耳に届いていた。
アズライト社の『マーシャル・ドール』シリーズの試作モデル。それが「舞」だ。外見上は人間そのものだが『そう』では無い。
(「敵と私の違いなど大してあるわけじゃない。敵かそうじゃないかの違いだけ」)
 でも、と言の葉を落とす。僅かに伏せられた瞳は憂いであったか、将又別の何かであったか。
「私は人形じゃない」
 どれだけ人を離れても、機械化を推し進めようと。
 だからこそ、舞は業病のジュピターに同情する。
「役目を果たしても、褒めてくれる人がいないのは、寂しいから」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
病気を無くすには、病気に罹る人が居なくなればいい、ということ?
はー、頭良いね
この作戦を考えたあなたのボスに、会って話しててみたくなりました

『wanderer』の出力を全開【ダッシュ】
動きを読まれないよう不規則な軌道で走りながら距離を詰める

最後の一歩
レーザーを『with』の刀身で反射させ逸らすことで、急所への直撃を避け
一気に距離を詰める【激痛耐性】【武器受け】

【怪力】で腕をロックし引き倒す
この腕、貰います
UC発動

ねぇ…絶対は、あるよ
私は、この『with』と一緒なら
絶対負けないって信じてるから
最強でいられるんです
だからこんな怪しい人やなくて
みんなを、自分を、また信じてあげて
次は絶対うまくいくから



●風が告げる
 火花と共に破片が飛び散った。鋼鉄は地面にめり込み、派手に粉塵が上がる。わぁああ、と遠く拠点の人々の声がした。
「こっちは大丈夫だ! 驚いただけだから」
「あぁ。守りは任せといてくれ……!」
 だから、と告げたサバイバルガンナー達がきつく銃を握りしめる。僅か、見えた後悔はこの状況を招いたという事実だろう。
「根絶すベキであル。スベテ。スベテ。スベテの病ハ、余スことナク。逃すコとナク」
「……」
 そこにある後悔は、年嵩のガンナー達が自らに化すものだろう。だが、立ち尽くす少年の心の奥深いにある後悔は、罰に似た思いは根深い。不必要な程に重く、それを是とするほどに責任を告げる大人はいても、そうじゃないと頬を叩くように怒る人も、引きずり上げる人もいなかった。
「立ち向かうベキでアる。迎エ撃つベきデアル。誰一人、逃サズ余サズ、見逃ス事無く根絶すベキであル」
 それを、この機械人形を送り込み拠点を包囲したオブリビオンは上手く利用したのだろう。
「病気を無くすには、病気に罹る人が居なくなればいい、ということ? はー、頭良いね」
 整えられた医務室は、機械人形——業病のジュピターがことを成すため。病を根絶することが行動原理であり、手段を選ばず、人命を考慮しない機械人形は春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)の言葉に、視線をこちらへと向ける。叩き付けられたのは敵意、だ。殺意では無い、明確な敵意。己が目的を邪魔された、というもの。
 オブリビオンに包囲された拠点は、根絶すべき病に溢れる可能性があるのだから。
「この作戦を考えたあなたのボスに、会って話しててみたくなりました」
 告げる言葉と同時に、結希は地を蹴った。足元、荒れた地面を飛び越え、着地の先で身を低め——行く。
「——根絶スル」
 向けられた銃口が、火を噴くより早く飛ぶ。一足、踏みこみが叩き込んだ加速は蒸気魔導によって脚力が強化されたブーツが齎したものを。その出力を今、結希は全開までたたきあげる。グン、と身を低め、初撃を避ける。最初のあれは——ミサイルか。
「レーザー以外も色々持ってるんですね。牽制だけみたいだけ、ど」
 身を横に振る。着地の先、withを振るうにはまだ早い。動きを読まれないように不規則な軌道で、地についた足を軸に——行く。
「根絶スル根絶スル根絶スル根絶ス——……」
「——」
 ガウン、と撃ち出されたミサイルが空を切った。肌を浅く撫でていった熱は痛みには遠く、だからこそ、結希は空間が帯びる熱に気がつく。
「病勢のニーズヘッグ」
 ノイズがかった声が消え、ふいに澄んだ声と共に業病のジュピターが両手の砲身を結希へと向けた。次の瞬間、熱線が——来た。
「——」
 迎え撃つように来た光に、圧するほどの熱量に、だが結希は漆黒の大剣を振り上げた。
「with」
 名を呼ぶ。強く、つよく握りしめ、構えたwithの刀身で医療用レーザーを受ける。反射させるようにして逸らせば、剣を握る腕ごと落とそうと跳ね上がったレーザーは散らされる。
「……っ」
 全てを避けられた訳では無い。足に、肩口に残る痛みはあっても——全部、分かっていたことだから。これは急所への直撃を避けるもの。痛みは耐えきれる。
 ——今、私はwithと共に在るから。
 ぐん、と顔を上げる。は、と落とす息を最後に、残る光さえ斜めに構えたwithの刀身で散らし、残る間合いを結希は自ら一気に詰めた。
「根絶シ、余スことナ——」
 来るものを捉えようと砲身は向く。だが、その腕を、結希は掴んだ。その力を持ってロックして——引き倒す。
「——」
「この腕、貰います」
 上を取り、動きを封じ、告げた結希と共に生まれた爆炎が業病のジュピターの片腕を——砕いた。
 ——風が、抜ける。鋼が零れ落ち、ぐらり、と機械人形は身を揺らす。その状況を、驚きと共に見ている少年の姿があった。きつく握りしめられていた拳が一瞬、緩んでいるのは衝撃が大きいからだろう。驚いたように、ぱち、と瞬く少年に結希は視線を合わせるようにして告げた。
「ねぇ……絶対は、あるよ。私は、この『with』と一緒なら絶対負けないって信じてるから最強でいられるんです」
 漆黒の大剣に触れ、結希は微笑んだ。
「だからこんな怪しい人やなくて。みんなを、自分を、また信じてあげて」
 次は絶対うまくいくから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
清史郎さん(f00502)と

聞いていた話から思うことは色々あれど
…今は目の前の敵をどうにかすることが先決
ですよネ?清史郎さん

強い人ってのはオーラで分かるもの
清史郎さんはあの機械よりもずっと強い
だから彼がより動きやすくなるように努めるのみ

ミサイル発射のタイミングは?発射する前の動作は?音は――
相手の行動を注視、UCで戦場に鍵刀を浮かばせ
追従する攻撃の軌道が広範囲に及ぶ前に絶ち
そして

あの人の邪魔されちゃあ、困るんだよなぁ
それに、別に俺らは病とかじゃねーし

言葉を掛けながら舞うように振るう扇
出でる炎の灯りで気を引いて攻撃は仰ぎ飛ばし

タイミングを示すまでもなく刃振るう彼に
ひゅう、と笑み、共に駆けよう


筧・清史郎
綾華(f01194)と

俺は箱で在った故、病とは縁遠いが
幾人もの主が病に臥し、世を去る姿を傍で見てきた
なので人にとって医者とは、心の拠り所にもなる存在だという事は想像できるし、そこに付け込んだのだろうが
ああ、俺達は成すべき事をやるのみだな

綾華と戦場に赴く事は思えば珍しいが
その強さは見てきたし、よく知っている
背中を安心して任せられる友だ

ミサイルの主な対応は信頼する綾華に任せ、俺は最低限対応
自身を強化、攻撃の軌道見切り残像駆使、敵を翻弄しつつも前へ
頼もしい友が拓いてくれた道を駆け
届く言葉に刃で応えよう

さぁ、根絶やしにしようか
人に害を成す輩をな
隙見切った刀の一閃を、医者を騙る機械人形へと見舞ってやろう



●百花に舞い
 ガウン、と砕かれた片腕に機械人形が粉塵を巻き上げた。それは咆吼の代わりか——将又、己が機能を無理矢理にでも維持しようとするものであったか。頭の輪が光を帯び、だらりと垂れた腕を補強するように配線が巻き付いていく。
「根絶スル。根絶スル根絶スル根絶スル根絶スル」
 一度散った火花は、修復の為ではあるまい。機械人形——業病のジュピターは病を根絶するために、ある人形が創り上げたものだ。
 そこにどれ程の願いがあったのか、そこにどれ程の思いが——若しくは呪いがあったのか最早知れず。創られ、残った人形は人を癒やすのではなく病を根絶することを行動原理とした。
「病ハ根絶すベキであル。スベテ」
「……」
 響く声から感じるのは、意思よりは理由であった。そこに挟む情など存在していないのか、塗り潰されたのか。
(「俺は箱で在った故、病とは縁遠いが。幾人もの主が病に臥し、世を去る姿を傍で見てきた」)
 伏せられる瞳を、誰かを呼ぶ声を筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は知っている。その声が叶う時もあれば、その瞳が誰も知れずに終わることも。苦しみの中、ただ沈み逝く主たちの手を時に掴んだのが医者という存在であった。
(「なので人にとって医者とは、心の拠り所にもなる存在だという事は想像できるし、そこに付け込んだのだろうが」)
 医者という存在は、と押し黙った男の後ろ、コツン、と足音が響く。
「聞いていた話から思うことは色々あれど」
 黒髪を揺らし、揺れる衣をそのままに浮世・綾華(千日紅・f01194)の声が清史郎の耳に届いた。
「……今は目の前の敵をどうにかすることが先決ですよネ? 清史郎さん」
 どこか、ひとつ涼やかに響いた鍵の青年の言葉に、刀の男は桜滲む瞳に緩やかに弧を描いた。
「ああ、俺達は成すべき事をやるのみだな」
 告げる言葉と、ギ、と軋む鋼の音が重なった。キュイイイン、と駆動音が響き渡り、機械人形の周囲に風が生まれる。ぐん、と身を持ち上げた業病のジュピターが——来た。
「根絶すベキであル」
 機械人形の踏み込むの瞬間、風が、抜けた。指先に感じる空気の変化に、綾華は加速を悟る。
「清史郎さん」
「——あぁ」
 悠然と言葉ひとつ返したひとが、一歩足を引く。刀に手をかけた彼が見据えるのは踏み込んでくる機械人形だ。
「開き咲け、零れ桜」
 抜き払う刃が桜花を纏う。さわさわと藍の髪が揺れ、ゆるり、一刀を構えた清史郎に業病のジュピターが砲身を向けた。
 キュイン、と一度、空間が熱を帯びる。雷光に似た光は、機械人形の生んだものか。——だが。
「――コレをこうして、こうな?」
 牽制か。放たれたミサイルは、空にて切り裂かれた。清史郎の一刀ではなく、虚空を撫でた綾華の指先。操るは鍵刀。一撃を切り落とし、爆風の向こうから現れ出でた黒鍵刀は——複製されるていた。
「根絶ヲ」
「——」
 それを、正しく邪魔と捉えたか。機械人形の気配が綾華を捉える。ひたり、と見据えられた先、叩き付けられた敵意に、だが、青年は静かに笑った。
(「強い人ってのはオーラで分かるもの。清史郎さんはあの機械よりもずっと強い」)
 だからこそ、彼がより動きやすくなるように綾華は術式を展開する。相手が「動く」以上、そこには音が生じる。機が生まれる。駆動音が響くように、歯車が回るように、かち合ってすげては動き出すのだから。
(「ミサイル発射のタイミングは? 発射する前の動作は? 音は――」)
 指先で、虚空を撫でるように、操るように。複製され、立ち上がった鍵刀は——やがて、ひとつの解を得た。
「根絶ヲ。根絶ヲ根絶ヲ根絶ヲ根絶ヲ——余スことなク」
 それは、今までとはまるで違う動き。砲身の色は変わらずとも、構えが違う。踏みこみが僅かに低い。
「——見つけた」
 綾華は笑う。口元浮かべられた笑みは何処までも美しく、だが何処までも不敵に。
「病臥のラタトスク」
 ノイズがかった声が消え、機械人形が腕を振り上げる。瞬間、自動追尾麻酔ミサイルが撃ち出され——来る。
「あの人の邪魔されちゃあ、困るんだよなぁ」
 筈であった。
 弧を描き、空間を縫うように来るミサイルの軌道が広範囲に及ぶ前に綾華の操る鍵刀が絶つ。ぶつかるようにして打ち払い、綾華は悠然と笑い告げた。
「それに、別に俺らは病とかじゃねーし」
 声をかけながら一差し、舞うように振るう扇。出でる炎の灯りが戦場を彩り、熱を回す。
「根絶ヲ」
「——あぁ」
 低く、響いた機械人形のその声に応じたのは清史郎であった。一足、踏みこみと共に加速した男は、迷わずに前に——業病のジュピターの間合いへと行く。
 信じているからだ。
(「綾華と戦場に赴く事は思えば珍しいが、その強さは見てきたし、よく知っている」)
 背中を安心して任せられる友だ。
 戦場にあって舞うように炎を仰ぎ、しゃらと揺れた衣は炎熱を招いたか。誘われるが侭、彼の元へと向かう力を見送って、己はただ、踏み込む。
「スベテ、スベテスベテスベテ」
 接近には、流石に反応したか。グン、と勢いよくこちらを向いた砲身に、だが、清史郎は身を低め、沈み込む。下げた鋒、一気に振り上げれば刃は鋼の砲身とぶつかる。
 ——ギィイイ、と火花が散った。
「さぁ、根絶やしにしようか。人に害を成す輩をな」
 受け止めるのは一度だけ。打ち払い、振り下ろす刀の一閃が医者を騙る機械人形へと——落ちる。ひゅう、と笑う友の声が耳に届いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
蔓延してる?してない?
そう、そいつは僥倖

医者ってのはなにを求められてんのかね
ずっと考えてんだけど、未だに正解に辿り着けない
僕の知ってるお医者はね
人情に絆されりゃ頼りないだの
正しく治療すれば人の心がないだの言われてさ
それなら脳味噌の心の部分も医療知識に変えちまえばいいなんてこと
考えついて、反発して、トンズラしたのよ
成否は知らねぇが

お前さんとは真逆だねぇ

メカってのは電気を食うが
食いすぎると壊れるって聞いたよ
どうだい、僕の美味しい美味しい電撃を食らってみるかい
何だってテメェで試してみなきゃ勧められないでしょ
味見しないで出す飯も薬もないってね
……ね?

この野生の妖狐・ロカジミナイ
とうにワクチン摂取済みよ



●かくあるべきか。望まれるべきか。或いは——。
 轟音と共に、鉄骨が軋んだ。拠点の骨組みではない。新たに整えられた医務室の跡地であった。広場の一角に作られてあったそれは、オブリビオンに包囲されてから作られたのだろう。簡素なベッドと、仕切りに作られていたカーテンが焼け焦げて落ちる。
「根絶ヲ」
 炎の中から立ち上がったものこそが、破壊の主であった。だらりと揺れる腕は、戦いの中で一度はもぎ取られたのだろう。配線で無理矢理につなぎ合わされ——だが、あぁ、あの腕は人を狙う為には動くのだろう。
「スベテ。病は根絶すベキであル」
 告げる声は、ノイズがかっていた。擬態の為に身に着けていた衣など最早無く、ペストマスクだけをそのままに機械人形は告げる。
「立チ向かうベキでアる。何一ツ見逃スことなク。誰一人、捨てルこトナク。根絶すベキでアル」
 病は。と告げる機械人形は、医者を名乗っていたという。流れの医者。流れであるという事実から相応に警戒され、相応に重宝された。
「病ハ、スベテ」
 嘗て、ある人形が病を根絶する為に創り上げられた機械人形。
「あぁ、ったく。派手にやってくれるな……! まぁ作り直せば良いんだけどな」
 舞い上がった砂塵を払うように拠点のサバイバルガンナーが外套を揺らす。だから、の後に続く言葉は「気にせずやってくれ」だった。
「修理も修繕も朝飯前だ! いや、朝飯は欲しいけどな」
「そりゃそうだ」
 カラカラと一つ笑い、ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)はガンナーの男へと声を投げた。
「蔓延してる? してない?」
 瞳は、正面の機械人形を捉えたまま。衣を揺らしたロカジの言葉にガンナーの声が返る。
「してないぜ」
「そう、そいつは僥倖」
 だから、と続く言葉は最早無く、ただその言葉だけがを告げたひらりと手を振ってロカジは射線に立った。機械人形が視線をこちらに向ける。
「根絶ヲ」
 叩き付けられるのは敵意であった。己が行動原理を邪魔された故の敵意に、だが、吐息ひとつ零してロカジは問う。
「医者ってのはなにを求められてんのかね」
 空を震わせ、響いた言葉は問いかけるようで独白にも似ていた。
「ずっと考えてんだけど、未だに正解に辿り着けない」
 ロカジ・ミナイは医家に育った。医家に育って医者を憎み、数多の世界で放蕩し——ひとつの、禁忌に触れた。
「僕の知ってるお医者はね。人情に絆されりゃ頼りないだの、正しく治療すれば人の心がないだの言われてさ」
 落とす息は静かな笑みであったか、果たして自嘲であったのか。揺れる髪が瞳の色を隠し、来し方をなぞるように声は落ちる。
「それなら脳味噌の心の部分も医療知識に変えちまえばいいなんてこと考えついて、反発して、トンズラしたのよ」
 成否は知らねぇが。
 低く、落ちた声は動く砲身を見たからか。だらり、と前に倒した体。機械のそれだが——あぁ、片腕は外れたか。それじゃぁ、加速は揺れるだろう。二足で立ち、二腕で戦うのであればそこに道理は生まれる。
「お前さんとは真逆だねぇ」
「滅ヲ。根絶ヲ殲滅ヲ。スベテの病ハ。病ヲ、スベテ、スベテスベテスベテスベテ——余スことナク」
 ひたり、と目が合えば——ぐん、と機械人形が来た。ぐらり、身を揺らすように来る加速は、瞬発とて緩い。砲身が空間一体を焼くように熱を帯び、刃へと変わった。
「病理のフレースヴェルグ」
 ギュイイイン、と唸るのは炎を零すチェーンソー。凡そ、切り落とすよりは吹き出す炎を持って叩き付ける武器へと片腕を変異させ、業病のジュピターが滑り込む。
「切リ落とス」
「そいつは、斬るって言うには物騒だねぇ」
 っと、と抜刀にて、受け止める。ギ、と軋む刀が軋む。吹き出した炎が、ロカジの腕を這うように焼いていく。——だが、薬屋は静かに笑った。
「メカってのは電気を食うが食いすぎると壊れるって聞いたよ」
 受け止めたままの刃に、身を引く。叩き付ける重みに沿うように身を前に倒していく機械人形を前にロカジは鞘を片手に身を沈めた。
「どうだい、僕の美味しい美味しい電撃を食らってみるかい」
 バチ、と空間が熱を帯びる。振り上げた刃は斬りつけるには浅く——だが、それで良い。それだけで。
「何だってテメェで試してみなきゃ勧められないでしょ。味見しないで出す飯も薬もないってね」
 ロカジは笑う。口元に一つ笑みを浮かべ、業病のジュピターへと告げた。
「……ね?」
「根絶ヲ——」
 病ハ、と続くはずの言葉が、雷光に喰われた。至近より撃ち出された電撃が、業病のジュピターの胴を砕く。
「この野生の妖狐・ロカジミナイ。とうにワクチン摂取済みよ」
 派手に上がった火花に、傾ぐ体を支えることもできないまま。膝をついた機械人形にロカジはそう言って、静かに笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリ・グロリオサ
スーツで、戯れ言を並べる?
誰の話を知らぬ顔でいうのか、とんだ笑い種だな。

さて、私としては、機械の医者の考え方は悪くない。
病魔は排するべきであろう。
そして、オブリビオンどもも同じく、悉く消えるべきである。

精霊を展開、氷の竜巻にて熱に対抗。
吹きつける氷の狭間より、雷の精霊を解き放つ事で二段攻撃を狙う。
まあ、雷撃よりも、奴の機構が一部でも凍り付けば、他の誰かが砕くであろう。

あまり攻撃を受けたくはないが、負傷は片腕分に纏めておこう。
焦げようが炭化しようが、後で直せばよい。
グラネで覆い隠して、戦闘を継続する。

この拠点における病巣は貴様である。
ならば――適切な切除を行うのが、医師の立場というものであろう?


鹿忍・由紀
責任感があるって言えば聞こえはいいけど
難儀な性格してるみたいだね
それとも集団行動の弊害ってやつかな
守りたいものがあるのは不自由そうだなぁ
少年に語りかけることはなく
気怠い視線を敵へと向けて
確かめるようにナイフを握る

距離を取って敵の動作を確認しつつ
乱戦に乗じて一気に距離を詰める
その腕じゃ至近距離は狙いにくいでしょ
片腕の関節部分にナイフを突き立て動きを阻害
向けられたもう片腕の砲口は
『壊絶』で下から思い切り蹴り上げる
狙いは射線逸らしと砲身の破壊
器用に体勢を整え直して新たなナイフをくるりと握る

病は根絶しなくちゃいけないんだろ
どうでもいいけど今回はそうするのが仕事だからさ
さっさと綺麗さっぱり消え去ってよ



●信条の盾
 ゴォオ、と風を巻き上げるように駆動音が響き渡った。床板を抉り、浮き上がった石塊さえ砕いたレーザーは逃げた人々を追い立てる為ではなく、傾ぐ身を立て直すために打ち出された支えだ。
「根絶スル」
 ゆらり、と機械人形は身を揺らす。砕かれた片腕を配線で無理矢理に繋ぎ、雷光を受けた体は派手に火花を散らしていた。
「根絶スル根絶スル根絶スル根絶スル」
 それでも、空間を熱する力は未だ有していた。頭部に浮かぶ輪が光を帯び、半ば、浮かすようにその身を引きずり上げる。
「立チ向かうベキでアる。迎え撃ツベキでアル。何一ツ見逃スことなク。誰一人、捨てルこトナク。根絶すベキでアル」
 それは、人々を扇動する為に使われていた言葉であったか。今や言の葉は骨を晒し、機械人形の行動理念に圧されてあった。
「スーツで、戯れ言を並べる?」
 嘗ての耳聞こえの良さよりもいっそ、と男は揺れる髪のそのままに低く告げる。
「誰の話を知らぬ顔でいうのか、とんだ笑い種だな」
 苦言でも苦情でも無く――、ただ落とされた息は正しく嗤笑であった。告げるつもりで落ちた言葉であったか。影の如く視線を上げたヴィリ・グロリオサ(残影・f24472)は根絶を告げる機械人形を見据えた。
「さて、私としては、機械の医者の考え方は悪くない」
 何処ぞの戯れ言に比べ、ひどく分かりやすい話だ。病の根絶を告げ、余すこと無く、見逃すことなくと機械人形は告げるのだから。
「病魔は排するべきであろう」
 医師の術を持つデッドマンは告げる。闇に近い深緑の髪が揺れ、吐息が染まる。舞い上がっていた砂塵が落ちていく。
「そして、オブリビオンどもも同じく、悉く消えるべきである」
 それこそが、悪く無い結論。
 消えるべきであればこそ――消すだけだ。
「根絶ヲ」
 ヴィリのその言葉に、キュィイイン、と甲高い音が応えた。駆動音は、機械人形の頭上、あの環が齎したものか。空間が熱を帯び、前にゆらり、と身を一度倒した業病のジュピターが――来る。
「根絶ヲ根絶スル病ハスベテスベテスベテ」
「――」
 地を、滑るように加速は来た。瞬発の加速。だが、砲身を向けた形では体にブレが出る。キュイン、と射線が熱を帯びる感覚に、は、と構わずヴィリは告げた。
「精霊よ」
 瞬間、風が抜けた。ヒュウ、と高く響いた音を初まりとするように放たれたミサイルにヴィリは杖を振るう。薙ぎ払うには届かず――だが、あれを真正面にくらう理由も元より無い。この一振りは、ただ招くものだ。
「根絶すベキであル。スベテスベ――」
「凍てつけ」
 告げる声が白く染まる。展開された精霊と共に紡ぎ上げた氷の竜巻が、牽制のミサイルを凍り付かせれば――キュイン、と業病のジュピターの砲身が熱を帯びる。
「――絶を。スベテの病ハ。病ヲ、スベテ、スベテスベテ」
 追撃では無い。熱せされた砲身は、上がる炎と共に姿を変えていく。吹き出された熱。ギュイインン、と溢れた音はチェーンソーか。
「病理のフレースヴェルグ」
 瞬間、ヴィリの眼前に炎が迫った。否、届こうとしたのは炎熱の刃だ。
「断ち切る」
「――最早、真っ当な治療とも言えないのである」
 吹き付ける氷が、刃を受け止める。切る、と告げながら、その実、業病のジュピターが操るのは炎だ。でたらめな武器を振りかざす機械人形に、ヴィリは息を吐く。バチ、と空間に白い光が生まれた。
 ――雷光だ。
 吹き付ける氷の隙間より、解き放たれた雷の精霊がチェーンソーを撃つ。機械人形の振り下ろす軌道がズレ、吹き出された炎がヴィリに――届く。
「――」
 来るのであれば、構わずデッドマンたる男は片腕を使う。痛みだけが先に走り――だが、機械人形は踏み込んだ分、氷気の只中にあるのだ。
「根絶、ヲ――」
「この拠点における病巣は貴様である。ならば――適切な切除を行うのが、医師の立場というものであろう?」
 バキ、と炎を吹く機械人形の片腕が凍り付いた。炎熱が途絶え、吹き出す先を失い爆発する。
「――」
 その事実を誰よりも動けずに見ていたのは、長銃を構えた少年だった。年嵩のサバイバルガンナーに促されるようにして、避難の役目こそ果たしてはいるが、その視線はあの機械人形を――医者を名乗った者を捉えていた。
「責任感があるって言えば聞こえはいいけど、難儀な性格してるみたいだね」
 派手に上がった炎が打ち崩され、デッドマンの男の頬に霜が落ちるのを視界に鹿忍・由紀(余計者・f05760)は息をつく。
「それとも集団行動の弊害ってやつかな」
 少年の様子には、年嵩のガンナー達も気がついているのだろう。今、話し込まれたところで面倒な雰囲気はあるが――、何度こういうことがあったのか。
「守りたいものがあるのは不自由そうだなぁ」
 少年に語りかけることはなく、ただ由紀は気だるい視線を機械人形へとひたり、と向けた。
「滅ヲ。根絶ヲ殲滅ヲ」
「……」
 一々、そう、と言葉を返す理由も無い。ただ、確かめるようにナイフを握り、上がる爆煙と冷気の中へと由紀は踏み込んだ。相手の動きは、見えている。
(「腕の片方は壊れてるし、踏みこみは弱い。最後には加速するけど、一直線には来れない」)
 は、と吐き出す息を一つ置いて、トン、と地を蹴る。荒れた地面、瓦礫を飛び越えれば、着地の先で機械人形の視線がこちらを捉えた。
「根絶スル」
 キュイン、と向けられた砲身。既に、片腕を完璧に失いながらも業病のジュピターの構えは揺れず――だが、だからこそ、由紀は踏みこみを選んだ。
「速度、射線を守るのに捨ててるでしょ」
 飛ぶように前に出る。
 気だるげに告げた青年が、軽く身を振る。頬の横を牽制のミサイルが擦り抜け、タ、とついた足を基点に由紀は一気に機械人形の間合い深くへと沈み込んだ。
「その腕じゃ至近距離は狙いにくいでしょ」
 告げる言葉と共にナイフを振り上げる。狙う先は、関節部。突き立てれば、ギ、と火花が散った。
 キュイイイン、と瞬間、砲身が熱を帯びる。雷光に似た光が空間を満たし、己が真下へ叩き付けるように残る砲身が――氷結の中、砕かれた腕が砲身としての機能を見せる。
「病勢のニーズヘッグ」
「砕けろ」
 筈であった。
 真下、叩き付けられた砲身に、由紀は身を逸らして蹴り上げる。撃ち出される筈のレーザーは、砲身と共に空を仰ぎ――砕かれる。一点に圧縮された魔力が、機械人形の砲身を砕いたのだ。
「――ゼツ、根絶、根絶スべ――」
 ギュイン、と鈍い音を響かせ、ノイズがかった声で告げる業病のジュピターを前に、由紀は新たなナイフをくるり、と握った。
「病は根絶しなくちゃいけないんだろ。どうでもいいけど今回はそうするのが仕事だからさ」
 気だるげに落とす息ひとつ。
「さっさと綺麗さっぱり消え去ってよ」
 逆手に構えたナイフが、完全に機械人形の腕を――落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・侑士
確かに病は根絶されるべきだと俺も思うよ
でも先ずは壊れた人形を先に破棄しないとな

一般人のことを気にしなくていいのは有り難い
広間の柱や物陰に身を隠しつつ
ジュピターからある程度の距離を取りショットガンで狙撃していく
回避行動を取る前にミサイルを食らっておねんね…ってのは避けたいしな

隙を見計らってUC咎力封じを発動
ヤツの動きを鈍らせたら
部位破壊で足か面倒なミサイルを撃ってくる武器を狙おうか

麻酔ミサイルが放たれたら回避は難しそうだな
早業と乱れ撃ちを組み合わせて
範囲に入られる前に全弾爆発させる
寝るのは好きだが今は遠慮しておくよ

おや?お医者様
足元がふらついてますよ?
骸の海に帰って眠った方がいいんじゃないか


クーナ・セラフィン
先に潜入、内から切り崩させるとは中々やるね。
こんな壊れたロボットみたいなのでも上手く偽装すればそれっぽくは見える…のかな。
ともかく、滅茶苦茶にされる前にさっさと片付けてしまおう。
ここをどうするかは後で考えるとしてね。

追尾ミサイルはすり抜けたり槍で弾いたり瓦礫を割り込ませたりで直撃を避ける。
弾幕薄い所を狙い一気に飛び込み至近距離からUC発動。
さあこの槍をとくと味わうといい、残像すら纏う槍の連撃でポンコツペストマスクを穴だらけにしてやろうかな。

悩んでる少年は励ます。
焦りは死への直行便、厳しい時だからこそクールに周りを見渡そうね。
案外力を貸してくれる人はいるものさ、こことか。

※アドリブ絡み等お任せ



●崩落の途は
 爆発は雷光と共に生じた。蹴り上げられた機械人形の腕が砕け、ぐらり、傾ぐ体へと迷わず仕掛けられた追撃はナイフであった。吹きすさぶ氷の竜巻が一拍、炎の全てを奪い取れば、ほう、と落とす息が白く染まる戦場にあるのは火花を散らす機械人形だけであった。
「絶ヲ、根絶ヲ、根絶スル根絶スル根絶スル」
 くり返される言葉はノイズがかり、両腕の砲身は砕かれたまま、体はだらり、と前に垂れる。それでも機械人形の頭上、雷光を帯びた環は力を残していた。
「病ハ根絶すベキであル」
 鈍い光と共に告げられた言葉には、最早人に擬態し、扇動していた姿は無い。
「先に潜入、内から切り崩させるとは中々やるね」 
 ほう、とクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は息をついた。
「こんな壊れたロボットみたいなのでも上手く偽装すればそれっぽくは見える……のかな」
 それこそこの拠点を包囲したオブリビオンの手腕であったのか。
「ともかく、滅茶苦茶にされる前にさっさと片付けてしまおう。ここをどうするかは後で考えるとしてね」
「――あぁ、そうだな」
 一度、戦場となった空間を眺めて城島・侑士(怪談文士・f18993)はそう言った。崩壊は進んでいるが、崩落はしていない。轟音の向こう、頑丈だから、と告げるサバイバルガンナー達の言葉通りなのだろう。
「壊れたって後で直せば良い、か。一般人のことを気にしなくていいのは有り難い」
 避難は済んだ。ガンナー達の声が届くのは、避難した人々を近づかせない為――そして最後の防衛ラインとしての役目だ。
(「なら、長引かせる理由もないな」)
 二度目の息。爆音と共に上がった炎が空間を熱す。機械人形が派手な雷光を上げ、無理矢理に体を組み替えていく。砕けた両腕とて、武器として使うとでも言うように。
「根絶ヲ」
「確かに病は根絶されるべきだと俺も思うよ。でも先ずは壊れた人形を先に破棄しないとな」
 それじゃぁ、と告げる言葉の代わりに、コン、と侑士は踵で床を叩く。踏みこみに足跡を残したのは只の合図の為。ピン、と猫の耳を立てたクーナは口元に笑みを浮かべ――飛んだ。
「前は任せてもらおうかな」
 派手な踏みこみ。一足、地を蹴った次の瞬間、クーナは銀槍を低く構えた。薙ぎ払うように振り上げたのは、熱を帯びた空間に――業病のジュピターの背後が歪んだのを見たからだ。
「根絶シ、破壊シ、滅シ――スベテの病ヲ」
 キュィイイン、と甲高く響いた駆動音と共にミサイルが撃ち出された。牽制のつもりか。銀槍で切り上げ、来る衝撃よりもクーナは前に行く。
「追尾性能はなし、か。本命はこの後みたいだね」
 なら、と派手な立ち回りを己に課した騎士猫は地を蹴る。牽制とて永遠には続かない。轟音と共に向かい来るミサイルを撃ち払えば、爆煙の向こう、キュイン、と機械人形の環が光った。
「スベテ、余スこトナク、逃スことナク」
 だらりと落とす両腕。顔だけを上げ、ブォオオン、と唸るような音が戦場となった広場に響き渡り――ノイズがかった声が、消えた。
「病臥のラタトスク」
 次の瞬間、機械人形の背後から『それ』は現れた。雷光と共に一気に撃ち出されたのは自動追尾麻酔ミサイルだ。
「――スベテ、余スこトなク」
 キュィイン、と一気に衝撃は来た。速度より、瓦礫へとクーナは向かう。半ば、飛び込むようにして盾にした瓦礫が砕け散れば、迷わずその次へ行く。
「追いかけっこか。悪くはないけれど……」
 よっと、と空へと身を飛ばす。追いかけるように這い上がって来たミサイルを銀槍で弾く。真横、迫った一撃には壁を蹴るべきか。間に合わないか。――だが。
「――」
 ガウン、とショットガンの一撃が、機械人形へと届いていた。ミサイルとて、撃ち出すものだ。自動追尾型とはいえ、基点たる業病のジュピターが揺らげば――ずれる。
「絶対では無い分な」
 一撃の主は、侑士であった。広間の柱に身を隠しながら、放った銃弾はそれによって居場所を知らせる。
(「まぁ、最も『全て』って言われている以上、何もしなくても見つかる可能性の方が高いしな」)
 だからこそ、このショットガンの一撃は意味を持つ。
「回避行動を取る前にミサイルを食らっておねんね……ってのは避けたいしな」
 ほう、と息を落とす。侑士を真正面に捉えた機械人形が、ぐん、と体をこちらに向けて――来る。
「根絶ヲ。余すこトなク」
 唸り響く声は、機械よりは獣に似たか。だが、叩き付けられるのは殺意ではなく、敵意であった。
(「若しくは害意か。かの人形は――……」)
 そう、綴るには場が悪く、〆切りも無く綴る気も無ければ趣向も些か違うか。とん、と一歩だけの間合いをつくり、侑士は先んじて銃弾を空間へと叩き込む。
「絶ヲ――」
 ガウン、と派手な爆発が機械人形の言の葉を喰らう。迎撃したミサイルの向こう、爆煙に立つ姿へと侑士はその手を振り上げた。
「寝るのは好きだが今は遠慮しておくよ」
 放たれるのは拘束の術。手枷が砕けた両腕を捉え、ロープが胴へと絡みつく。踏み込むはずの脚が――止まった。
「おや? お医者様。足元がふらついてますよ?」
 白銀と菫青色の髪を揺らし、怪談文士は美しく微笑む。
「骸の海に帰って眠った方がいいんじゃないか」
 悠然と告げる男が銃を持ち上げる。真っ直ぐに銃口を向けた理由はひとつ――分かっていたからだ。
「根絶ヲ、病は、スベ、スベテスベスベスベ――」
「さあこの槍をとくと味わうといい」
 瓦礫と爆煙の向こう、飛び出していく騎士猫の姿が。
「――」
 は、と機械人形が顔を上げる。ギリ、と持ち上げようとした腕は――だが、足らない。クーナの踏みこみが早く、何より心を見透かしたような槍の一撃は、迎撃の可能性を読んでいる。
「根絶ヲ根――」
 グン、と叩き付ける機械人形の頭がぶつかったのは、残像だ。迎撃が空を切り、超高速のクーナの一撃が業病のジュピターへと届いた。
「――絶、ゼツ、コン、ゼ――」
 ペストマスクに穴が空く。ノイズがかった声が潰え、爆煙と共に機械人形は砕け散った。
 炎が天井へと抜ける。高い天井を焦がし、狂乱を招こうとした侵入者は骸の海へと還っていく。取り戻された静寂に、息を飲む音が僅かに響いた。
「――」
 サバイバルガンナーの少年だ。唇を噛み、だが強く握った銃から未だ、手を離せずにいる彼にクーナは励ますように言った。
「焦りは死への直行便、厳しい時だからこそクールに周りを見渡そうね」
 詳しく問う代わりに、小さな微笑を一つ浮かべて。
「案外力を貸してくれる人はいるものさ、こことか」
 ゆるり、と揺れる尻尾と共にクーナは拠点の人々と猟兵達を見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『煮慈威露愚喪の獏羊族』

POW   :    強奪の時間だヒャッハー!
自身が操縦する【山羊】の【突撃威力】と【物資強奪確率】を増強する。
SPD   :    ヒャッハー!突撃だ!!
【トゲ棍棒】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    1ヒャッハー!2ヒャッハー!!3ヒャッハー!!!
【ヒャッハー系歌詞で大音声の羊数え歌】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●崩落を味わう者
「——あぁ、落ちてしまいましたか」
 遠く、包囲した拠点を眺めながら黒衣の存在は息をつく。黒のスーツに身を包んだ河童は、手にした薔薇を捧ぐ用に空へと投げた。
「彼、あるいは彼女が成した後に、私達が出向くというのも人々の選択を見るのに良いかと思っていたが……」
 きっと、絶望だけはしないのだろう、と荒野に試練を蒔く者は告げた。あの拠点は頑丈だ。誰か一人、数人、生き延びるために命をかける者もいるだろう。
「ならば、守るべきものを守り切れなくなったらどうするのか。非情なる選択が生まれるのか」
 羊たちは眠りを齎す。
 一匹であれば彼らから守り切ることもできるだろう。だがそれが群れであれば?
「穏やかな眠りも絶望の眠りも等しく眠り。——さぁ、守るべきものが枷となったとき、その困難に君達はどんな心を見せるのか」
 余すことなく晒し、藻掻き、輝きを見せてくれ。
「君達は何を選ぶのか。——猟兵諸君もまた、最後に絶望を見せてくれ」
 そう言って、荒野に試練を蒔く者は嗤った。

●荒野の略奪者
 ——無事かい? と拠点の上階より姿を見せたのは黒と銀。二色の瞳を有する巨狼であった。この拠点のソーシャルディーヴァである賢い動物は、ゆるり、と尾を揺らして状況を確認するように鼻先を上げた。
「中に入り込んだ奴を倒してくれたようで、感謝する。私がここの群れのボスだ」
 巨狼の雌——黒の毛を揺らした賢い動物は、だが、と鼻を鳴らした。
「外に面倒な奴らが出てね。忌々しい羊共」
 山羊に乗って現れる荒野の略奪者だ。
「あいつらの手に掛かれば、眠っている間に全てを奪い尽くされる。生き残りは出るだろうがね。だが、残るのは——……」
 飢えと苦しみ、痛みの中、何一つ残されていない拠点だ。
「ここは頑丈な拠点だが、それも此処で生きていければ話だ」
 ぐるうう、と巨狼が唸る。
「せめて目的が分かればね。優先順位が付けられる。だがなぶり殺しにする気であれば……」
「——違う、と思う」
 否を紡いだのは少年——ニールであった。二度、三度と戸惑うようにして、だが、覚悟を決めたように言った。
「あれは邪悪なものだから。ボス、あいつは交渉をしにくる。それが——、僕にも来たんだ」
「ニール」
 低く、静かに巨狼が問う。真偽を問うそれに、ニールは真っ直ぐに視線を返した。
「どんな罰でも受けるよ。でも、信じて欲しい。あれは、あいつは困難を起こして、選択させる」
「——信じよう。ニール。だが、処分は後だ。今は迎撃に備えろ」
 処分、の言葉に年嵩のガンナー達がざわめく。待ってくれ、と叫ぶ声を巨狼の一声が沈める。
「お前等全員説教だ」
 いいか、と巨狼は告げる。
「お前がまだ小さな狼だということをしっかり教えてやる。だいたい、お前一人で全てがなすと思うな。この拠点とて、只一人で守れれば群れなどいらん」
 巨狼は尾を揺らして告げた。
「この大地は己の足で立つしか無い。だが、その時に、誰かの助けがあってはいけないわけじゃ無いんだ」
 そこまで言うと、巨狼は猟兵たちへと向き直った。
「騒がしいところを見せたね。すまない。力を貸して欲しい。あれに侵入されれば、分が悪い。迎撃を手伝ってくれるか?」
 こちらの戦力は前衛と、遠距離狙撃を得意とするサバイバルガンナー達だ、と巨狼は告げる。
「ニールや、他の者からも確認はとれた。最初の侵入者が何処かをこじ開けてきた形跡は無い。打って出て、奴らを狩る」
 告げる声に重なるように、拠点の外からヒャッハー、という声が響く。
「五月蠅い……。ふん、羊が私の群れをよくいたぶりに来たものだね。——良い機会だ。私達の雁を見せてやろうじゃないか」
 ルォオオオオ、と巨狼が吠える。高くたかく、響く咆吼が戦いの始まりを告げていた。

●煮慈威露愚喪の獏羊族
 拠点の外へと出れば、そこにあったのは砂混じりの乾いた大地だった。人の姿に気がついたか。山羊に乗った羊たちがこちらを向く。
「強奪の時間だヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー! ヒャッハー!」
 ——五月蠅い羊たちだが、通す訳にはいかない。戦いの始まりだ。
◆―――――――――――――――――――――◆
▷プレイング受付期間
9月18日(金)8:31〜9月21日(月)22時

*ニールへの声かけ、賢い動物(狼)のソーシャルディーヴァ、他ガンナーたちに声をかける場合は19日〜20日の間にプレイングをお送りください。
戦闘には後半から参加、という形になります(文字数配分が変化します)
前半に頂いた声かけプレイングに関しては採用が出来ない場合がございます。

▷サバイバルガンナー達からの援護
狙撃による援護を行います。
ソーシャルディーヴァの指揮により前線に出ているガンナーも含め、猟兵の援護を行います。

▷ニールについて
てっきり罰されると思っていたので戸惑ってはいますが、拠点からの狙撃担当です。


◆―――――――――――――――――――――◆
春乃・結希
ニールさん達ともお話ししたいけど…
ここを落とされたら、それも出来なくなってしまうから
すぐに外に出て敵を食い止めます
ってうわぁ!ふわふわで色合いも素敵ですね…ちょっともふもふさせて欲しい…
…やなくて!集中集中っ。頑張ろうね、with!

UC発動
入り口付近で突撃してくる敵を待ち構え、
反応速度とスピードをもって躱し、すれ違いざまに【カウンター】の一撃を叩き込む
避けきれなくても、私には焔がある
負傷を補完し、強引に弾き返す【激痛耐性】

ここは通しません。ニールさんに、『絶対うまくいくから』って言いましたしね
私が最強でいられるのは、私の想いを信じてるから
私が絶対通さないって想ったら、絶対その通りになるんです



●希望へ継ぐ
 外へと続く大扉を開ければ、さっきまで聞こえていた「鳴き声」は膨れ上がるように大きくなった。拠点の外壁が、大分あの声を防いでいたのだろう。ただ聞こえただけで眠らせるほどの力があるものでは無いらしいが——兎に角、なんというか、賑やかだ。
『忌々しい羊共。次は丸焼きにしてやろうか』
 グルルウ、と唸る巨狼のソーシャルディーヴァに、迎撃と一度決まって動き出したサバイバルガンナー達が苦笑いをしていた。
『……迎撃』
「……」
 その中に、ニールの姿もあった。あの時、春乃・結希(f24164)の言葉に、仲間を——拠点の皆を振り返り、言葉を交わすことを選んだ少年はそれでもまだ、僅かに戸惑いを残しているようにも見えた。
(「ニールさん達ともお話ししたいけど……ここを落とされたら、それも出来なくなってしまうから」)
 外へと続くこの門は、迎撃用に1カ所だけ開く。全てのメンバーが出た所で閉めきり——そして、後はあの全てを倒しきるまで耐えるのだ。
「なら、すぐに外に出て敵を食い止めます」
「——開門!」
 ガンナー達の声が後ろから響く。真っ直ぐに荒れた地面を踏みしめ、結希は飛び出した外を、大地を蹴り上げる。軽い跳躍。岩を飛び越え、軽く得た高さから拠点を囲むように現れた羊達を——山羊に乗った羊達を見た。
「ってうわぁ! ふわふわで色合いも素敵ですね……」
 それは、とてももふもふであった。
 なにせ黒山羊さんに羊が乗っているのだ。モヒカン——は置いておくとしてももふもふふかふかにキラキラの虹色。ひゃーっはーひゃっはー、とぱからぱからしているのだ。羊なのに。時々加速するけれど。ふわふわでもこもこで——だから、思わず声に出た。
「ちょっともふもふさせて欲しい……」
 ぎゅ、としてもやっぱりもこもこなのだろうか。そわり、と揺れた心に、結希は、ぱ、っと顔を上げた。
「……やなくて! 集中集中っ。頑張ろうね、with!」
 漆黒の大剣を構え、結希は真っ直ぐに前を——羊達を見た。拠点から飛び出してきたこちらへと群れが視線を向ける。
「ヒャッハー」
「ヒャッハー!」
「——」
 来る、と思う。
 自分の方へというよりは、この方向へ。一気に駆けだした羊達がトゲ棍棒を振り回す。その姿も、群れとなって近づいてくれば——圧、だ。拠点の中、僅かに聞こえていたざわめきも迫る略奪者の声の中、聞こえない。
「希望を結ぶ為の、私の想い」
 だからこそ、結希は言葉を作る。言の葉を以て想いを紡ぐ。ふわりと黒い髪が揺れた。
「ヒャッハー!」
「——」
 ぐん、と一気に、棍棒が近づく。殴るより、最早叩き付けるに近いそれは——だが、空を切った。
「ヒャ——……」
 賑やかな鳴き声が不自然に止まり、次の瞬間、山羊に乗った羊が吹き飛ぶ。
「ヒャッハー!?」
「ここは通しません。ニールさんに、『絶対うまくいくから』って言いましたしね」
 斬撃だ。すれ違いざまに結希の一刀が略奪者を切り捨てていたのだ。
「私が最強でいられるのは、私の想いを信じてるから」
 ふわりと広がるは燃え盛る焔の翼。すぅ、と一度息を吸って、邪魔者とこちらを定めた羊たちへと結希は——行く。
「……」
 本当は少しだけ体が痛む。分かっている。これは真の姿を不完全ながらも引き出したものだ。その分、負荷は大きい。
(「——でも」)
 は、と一度だけ、息を落とす。疾走する略奪者より早く駆ける。瞬発の加速と共に翼を広げ、薙ぎ払う棍棒を飛び越えた。
「私が絶対通さないって想ったら、絶対その通りになるんです」
 一足。間合い深く向かう分だけの距離。高速で打ち出されるそれよりも前に出たのは、焔の翼と共に行ったから。は、と顔を上げた羊たちが突撃を繰り出すより早く結希はwithを振るった。
「ヒャッハー……ハ……」
 ——ザン、と一撃と共に焔が舞う。ぱふん、と光の中に羊達が消えれば、拠点を囲む群れがざわめき出す。
(「それでも、止まる気は無い……ですね」)
 守るべき場所はこの一点。そう分かっているからこそ立ち回れる。焔の翼を広げ、結希は一度、withに触れた。
「——頑張ろうね、with」
 おまじないのようにそう言葉をくり返して、結希は地を蹴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

なんだあれすげェな、山羊にのった…羊?
虹色で派手だな
なァ、あれかわいいと思うか?
俺は思わねェけど…

ヒメ、あれだ
お前、俺を運べ。あっちも二体で一組みたいなもんだろ
一緒に動いた方がめんどくさくねェし、俺も狙いやすい
(お前がちょろちょろしてたら気になるしなと小声で零し)

……おい
なんで姫抱きなんだよ
くそ、こうして抱えられてるとほんとにガキみてェで悔しい

突撃してくる威力があがるなら避けやすくもなるだろ
力の限りむかってくるなら方向も変えにくいはず
そこをお前がちょろっとよけて、俺も攻撃をかける
ちゃんとやれよ、ヒメ

抱き上げられた八つ当たりだ
敵への攻撃は容赦せず、水を放って打ちのめす


姫城・京杜
與儀(f16671)と

何かキラキラもふもふしてんな…羊?獏?
可愛いってより、何でモヒカンなんだ?
ヒャッハーうるせぇし

ん?どうした、與儀
お、名案だな!俺が與儀を運ぶ!(張り切り
山羊だか獏羊だか知らねーけど、俺達の方が絶対息ぴったりだろ
俺は與儀の守護者だからな!

んじゃ…よっ、と(ひょいっと姫抱き
…え?これが手っ取り早いだろ?(きょと
今の與儀はちっちゃいから軽いしな!(にこにこ

よし、いくぞ!
絶対與儀に掠り傷ひとつ付けたくねぇから全力で避ける!
両手塞がってるから殴れねぇけど、神の炎は生めるから
周囲に焔放ち、突撃の軌道逸らしたり攻撃の支援を
よく燃えそうな毛してるしな
おう、俺は器用だからな!任せとけ(どや



●比翼
 焔が、駆ける。
 迎撃用に拠点が開いた門の前、迎撃に出た猟兵の一撃が焔を喚んでいた。突撃する群れが斬り捨てられ、ぱふん、と妙にキラキラとした光と共に羊達が消えていく。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハ、ヒャ……」
 ――多分、羊が。
「なんだあれすげェな、山羊にのった……羊? 虹色で派手だな」
 拠点の人々の話を聞く限り、あれは「羊」で通っているのだろう。眉を寄せた英比良・與儀(f16671)の横、姫城・京杜(f17071)は軽く首を傾ぐ。
「何かキラキラもふもふしてんな……羊? 獏?」
 一応正式名称は「煮慈威露愚喪の獏羊族」と言うらしい。何故名称が分かっているかと言えば、あの羊達が略奪の果てに壁に描いていくからだという。もこもこの毛と同じ虹色のペンキで。
「……」
 ――なんで虹色なんだとか最早突っこんではいけないのだろう、と與儀は思う。ひとまず、あれが面倒な生き物であるのは確かだ。迎撃用に開けた門は1カ所。最初の迎撃から警戒したのか、無策でただ只管に突撃する気は無いらしい。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
「……」
 恐ろしく、五月蠅いが。
「なァ、あれかわいいと思うか? 俺は思わねェけど……」
「可愛いってより、何でモヒカンなんだ? ヒャッハーうるせぇし」
 與儀の問いに、そう言って眉を寄せた京杜が一点を見据える。與儀、と落ちた声の意味は分かっていた。こちらを伺っていた羊達が、じりじりと動き出してきたのだ。
(「すぐに来るな」)
 一匹――ひとまずは一体か。動き出せば、あの羊達は一気に来るだろう。山羊がどの程度速度を出すかは分からないが――あれもオブリビオンだ。
「ヒメ、あれだ」
「ん? どうした、與儀」
 ひたり、と先を――戦場にて敵を見据えていた守護者がふいに瞳を緩める。柔い色彩を滲ませ、首を傾げれば、ぱさり、と髪が頬に触れた。
「お前、俺を運べ。あっちも二体で一組みたいなもんだろ。一緒に動いた方がめんどくさくねェし、俺も狙いやすい」
 それに、と薄く與儀は呟く。
「お前がちょろちょろしてたら気になるしな」
 小さく唇から零れた言葉は果たして京杜へと届いたか。ぱ、と顔を上げた京杜は笑みを浮かべた。
「お、名案だな! 俺が與儀を運ぶ!」
 張り切って浮かべられた笑みひとつ。うんうん、と頷きながら京杜は與儀へと手を差し出した。
「山羊だか獏羊だか知らねーけど、俺達の方が絶対息ぴったりだろ。俺は與儀の守護者だからな!」
 それはもう力強く宣言して、やたら嬉しそうに笑った京杜は差し出された手を取った先、ひょい、と軽々と與儀を持ち上げて――横にして、抱いた。
「……おい」
 そう、横抱きである。
 所謂お姫様抱っこと言われるアレである。
「なんで姫抱きなんだよ」
 低く、それはもう低く声が響く。
 ヒメ、と響いた声の先、與儀を抱き上げた京杜はきょとん、と首を傾げた。
「……え? これが手っ取り早いだろ? 今の與儀はちっちゃいから軽いしな!」
「……」
 ちっちゃい。小さい。
 確かに「今」の與儀は小さい。神たる少年の真の姿は別にあるが――だが、確かに今は10歳程度の身の上で。中身はどれだけ違うとしても、こうして抱き上げるには丁度良い身長なわけで。挙げ句、京杜がこの形を選んだのは「手っ取り早い」が理由で他の意味が無いとなれば――……。
「くそ、こうして抱えられてるとほんとにガキみてェで悔しい」
 低く、與儀は唸る。
 にこにこと笑う京杜を蹴りつける事も出来ないまま、三度目のため息が荒野に落ちた。
「ヒャッハー」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 うっせぇ、と低く落とした声は、とん、と後ろに飛ばれた衝撃に飲み込まれる。
「ヒメ」
 一体、先んじて飛び込んできたのだ。
「舞い踊れ紅葉、我が神の猛火に」
 與儀を腕に抱いたまま、後ろに飛ぶ。一度間合いを取り直す。絶対に與儀に掠り傷ひとつ付けたくは無いのだ。――だからこそ、この焔は牽制だ。相手が速度を上げてくるのであれば、そこに合わせるだけが戦いでは無い。
「……ったく、正面2体。それと、右に1体だ。ちゃんとやれよ、ヒメ」
「おう、俺は器用だからな! 任せとけ」
 対応すれば良いのだ。
 あの羊達は自分達に向かって突撃してくるのだから。
(「両手塞がってるから殴れねぇけど」)
 神の焔は操れる。
 チカ、と一点を見据える。舞い踊れ、と告げる言葉に舞い燃ゆる紅葉が応える。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 ダン、と山羊が地面を叩く。羊の方と目が合う。来る、と感じるにはその一瞬で十分だ。カン、と硬い岩を飛び越えるようにして羊は突撃してきた。真っ直ぐ、一直線に向かってくる分、軌道も読みやすい。
「よっ、と」
 だん、と今度は派手に後ろに飛ぶ。間合いを広く取る。突撃が空を切れば、次の一撃、羊は狙うために来るだろう。
 だが――そこはもう、與儀の間合いだ。
「抱き上げられた八つ当たりだ」
 は、と吐き出した息ひとつ、花浅葱の瞳で敵を見据えて與儀は告げる。操るは水流。空をひとつ指先でなぞれば水は踊る。常であれば與儀の周囲にて、踊るように展開される力が――今、京杜の腕の中、踊る紅葉と共に顕現する。
「喰らえよ」
 薙ぎ払う腕は片方だけに、舞い踊る焔を越え、撃ち出された水流が羊達へと叩き付けられた。
「ヒャッハー……!?」
 押し流されるようにしてバシャン、と羊達が荒野から姿を消す。叩き付けられた水に、ひび割れた地面も、とん、と飛び越えてご機嫌にお姫様抱っこ中の従者と、半ば諦めと八つ当たり先を羊に決めた主の戦いはあと少しばかり続きそうであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

風切・櫻
日下部・舞(f25907)と

「異論無い。切った張ったの方が性には合っている」
なにせおれは人斬り刀。此方の方が本領故に、な!

<櫻花剣嵐>を纏い、疾風の如く駆ける
早業・残像・先制の一撃。
その馬鹿力、要は一尺の間合いに入らなければ良いのだろう?
日下部殿の援護もある。そう易々と捉えられるものか

「その品の無い叫び声。息の根諸共、即刻止めてくれる」
風の刃でその喉元を掻き切ってくれる
ひとつ、ふたつ、みっつ……刃に映る全て

何より――日下部殿の、女子の柔肌、無為に傷付けさせるには忍びないものだ
はは、これは男の性分だとでも思ってくれ
おれにとっては日下部殿もまた、守るべき娘子なのでな。
少々、失礼だったかな?


日下部・舞
風切さん(f01441)と参加

「仕事に徹しましょう」

お喋りは得意じゃないし、戦うほうが気が楽だ

影のように疾駆、囮役として前に出る
夜帷を抜いて【先制攻撃】
的を絞らせないように風切さんと連携して行動
砦からの援護射撃を活用しつつ、囲まれても【怪力】で強引に【なぎ払う】

「鬼さん、こちら」

風切さんに敵が偏らないよう【挑発】【釣り】出す
潰れ役なら私の方が向いている
ダメージは【肌】の機能で痛覚遮断
【継戦能力】を発揮
もっとも簡単にやられはしない

「汚物は消毒ね」

【深淵】を発動

敵を根こそぎに屠っていく
それでも相手の数はあまりにも多い
風切さんへの攻撃を【かばう】
盾となって彼には攻撃に専念して貰う

「私は大丈夫です」




 拠点を囲むそれは群れであった。乾いた大地を黒く染め――時折、虹色の煌めきを見せる。
「ヒャッハー」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 荒野の略奪者。拠点のソーシャルディーヴァに言わせれば忌々しい羊と言われたオブリビオン達は、迎撃用に1カ所開いた門の存在に気がついているようだった。既に入り口には猟兵達の姿もある。焔の翼を広げ、駆け抜けた斬撃が道を開き、先の空間を打ち付ける水が作る。バシャン、と派手に聞こえた音を遠く、包囲する者たちが狙いを定めてくる気配に日下部・舞(f25907)は瞳を細め告げた。
「仕事に徹しましょう」
「異論無い。切った張ったの方が性には合っている」
 さわさわと揺れる髪をそのままに、左に5体と短く告げた舞に風切・櫻(f01441)は頷く。
後ろも騒がしいな、と静かに一つ笑ったのはし合いというものを櫻が知っているからだ。敵は複数。狙いは拠点。命よりは先に物資を奪い尽くそうとすると言う。
(「かの少年の憂いはあろうが……」)
 語らうには語らうべき者がいる。
(「なにせおれは人斬り刀。此方の方が本領故に、な!」)
 やたら賑やかにしていた羊たちの視線が明確にこちらを向く。ふ、とひとつだけ櫻は笑った。
「では、行こうか」
「――えぇ」
 軽く視線だけを交わして地を蹴る。叩き込んだ加速と共に先に出たのは囮役の舞だ。
「ヒャッハー」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 暴走する羊たちの突撃に対し、前に出れば容易く的となる。強奪の時間を告げるように、ダン、と一度力強く地を蹴った山羊さえもこちらを向く。
「ヒャッハー!」
 拠点へと向かう障害としてこちらを捉えたか。一際強く、響き渡ったその声に舞は夜帷を抜く。
(「お喋りは得意じゃないし、戦うほうが気が楽だ」)
 前へ、行く。影のように飛ぶ。踏みこみは跳躍に似た。長い黒髪を揺らし、間合い深く踏み込んだ舞の一刀が羊の突撃より先に届く。
「――」
 相手が向かってくるのであれば、奪われる間合いをこちらのものとすれば良い。
「ヒャッッハー!」
 一撃に羊が傾ぐ。くら、と蹌踉めいた先、跳ねるように顔を上げた羊が反撃に踏み込む。
(「――来る」)
 そう分かりながらも、回避を一拍遅らせたのは踏み込む人を知っていたからだ。
「我が銘は風切る櫻。美しいと見惚れれば微塵だぞ」
 凜、とした声と共に一刀は来た。
 足音より早く、戦場に風が走る。荒野の砂を巻き上げる風とはまるで違う――それは、鋭き風の刃であった。
「ヒャハ……?」
 羊の声が空を切る。風の刃にて斬り落とされた羊が崩れ落ちる。ゴトリ、と地を叩くより先に光の中に消え――だが、その光を飛び越えるようにして向かい来る略奪者の突撃に、櫻は地を蹴った。
「ヒャッハー!」
「その馬鹿力、要は一尺の間合いに入らなければ良いのだろう?」
 地を蹴り叩くほどの加速であれど、届かねばただの加速に終わる。ならば間合いを取る。空けた空間を櫻の聖域とするまでのこと。
「その品の無い叫び声。息の根諸共、即刻止めてくれる」
 正面、薙ぎ払うように風の刃を放つ。喉元を掻き切られ吹き飛べば、突撃の名残だけが数歩進んで崩れ落ちた。
「ヒャッハーヒャッハー!!」
 その骸が消え去るよりも早く、飛び込もうとした一体が拠点の援護射撃に崩れ落ちる。
「ありがたいものだな」
 ふ、と一度だけ櫻は笑い、刀を握る。桜舞う風の衣がふわり、と揺れる。
「ヒャッハー!」
「――ひとつ」
 振り返ることなく、ただ刃に映る敵を斬る。
(「何より――日下部殿の、女子の柔肌、無為に傷付けさせるには忍びないものだ」)
 刃に映る全てを。風を纏い、風と共に舞うように櫻は刃を振えば――前に立つ娘は影と共に踊る。
「鬼さん、こちら」
 櫻に敵が集まりすぎないように、挑発するように舞は夜帷を振るう。浅い一撃、地面を抉ったそれは砂塵と共に羊たちの視線を惹くものだ。
「ヒャッハー!?」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 獲物はあそこだと、言わんばかりのその声に舞は迷わず踏み込む。
(「潰れ役なら私の方が向いている」)
 痛みであれば、肌の機能で痛覚も遮断できる。腕に一撃、突撃から浮けた傷をそのままに舞は夜帷の封印を一時的に解除した。
「魂の解放を」
 敵の只中にあって解き放たれたのは暗黒物質だ。
「汚物は消毒ね」
 敵を根刮ぎ屠るように力は行く。それは夜帷の支配者と言われたUDCの能力がひとつ。ヒャッハーと賑やかな声を上げながら――だが、容赦なく飛び込んでくる羊達を倒し、崩しながら――は、と一度だけ舞は息をついた。
「多い」
 拠点を包囲するほどの敵だ。群れというよりは黒き圧に近く、波のように向かい来るそれが舞の横を抜けた。
「――」
「ヒャッハー!」
 向かうのは櫻の元か。風の刃が届くより早く、半ば飛びかかるようにしていく羊を舞は追う。半ば、無理矢理に射線に踏みこみ、庇うように立てば――ヒュン、と切り抜ける風が舞った。
「風切さん」
「はは、これは男の性分だとでも思ってくれ。おれにとっては日下部殿もまた、守るべき娘子なのでな」
 風の刃で向かい来た敵を斬り捨て、ヤドリガミたる男は首を傾ぐ。
「少々、失礼だったかな?」
「私は大丈夫です」
 黒髪を揺らし、静かに舞は返す。痛みは無く、ただ白い指先を伝い落ちた赤に櫻が小さく苦笑した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネウ・カタラ
ひとりだけでいきるのに
世界はあまりに広すぎてあじけない

だから、助けあっていきていく
ひとりではかけている、たりない部分をおぎなって
となりあって何かを埋め合うように
そこにはきっと善も悪も、関係ない

俺は、そう思うよ
…きみはどう思う?
少年からの答えはまたずに、戦場へ

……眠りの使者だなんてうそみたい
でも、さっきの子に比べたら
きみ達はおいしそうかも

ぐぅとなるお腹を合図に、
大鎌片手に一気に距離詰め
氷呪の槍を展開しさしむける

眠りの淵におちかけたら、
蝙蝠のきふじんにチクリと牙を突き立てて貰って
鈍い痛みで目を覚まそう

―うん、大丈夫。
まだまだお腹はぺこぺこだもの
痛みは堪えて、もう一度
眠りの使者を永久の眠りへと誘おう



●世界の上で
 ――轟音が、外界から響いた。
 迎撃の為に1カ所だけ開いている門は、やたら賑やかな羊達の鳴き声と戦いの音を響かせていた。鋼と鋼がぶつかり合う硬い音は、羊の振り回す棍棒か、突撃がぶつかった音か。鈍く重い音と共に、ヒャッハー、と響く声と、荒野を叩く蹄の音が包囲の事実を拠点の人々に伝えていた。
「――外に、あんなに」
 唇を引き結んだのはスナイパーライフルを手にした少年――ニールだった。迎撃メンバーに指名されひとまずの役目を得た――と、そう思っているニールの手は、未だ爪が食い込む程に強く握られていた。
「あれが、来たら……、違う、それが、あいつの狙いだから……」
 不安を飲み込むようにきつく結ばれた唇にネウ・カタラ(f18543)は足を止めた。
「ひとりだけでいきるのに、世界はあまりに広すぎてあじけない」
 コツン、とひとつ、敢えて音を立てる。いきなり驚かせないようにひとつ間を開けて、ゆるりと視線を上げたニールにネウは静かに言った。
「だから、助けあっていきていく。ひとりではかけている、たりない部分をおぎなって」
「――おぎ、なう……」
 なぞるようにニールが言葉を落とす。灰色の瞳が戸惑いに似た色を見せるのを見ながらネウは告げた。
「となりあって何かを埋め合うように。そこにはきっと善も悪も、関係ない」
 吐息ひとつ、零すようにして静かな笑みを浮かべた。
「俺は、そう思うよ。……きみはどう思う?」
「僕、は――……」
 戸惑い、揺れる。迷う分が、ニールの中に生まれていた。頑なにひとり、拳を握っていた少年の見せた戸惑いを瞳にネウは答えを待たずに外へ――戦場へと飛び出した。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 一面の黒。煌めきはあの虹色の羊毛だろう。乾いた地面を黒く染め上げる程の略奪者達の群れは賑やかな鳴き声を響かせながら一点を――拠点の中へと向かう門を目指していた。
『迎撃用に空ける門はひとつ、だ。全員が出た後に門を閉め、拠点は防御と射撃援護に回る』
 まぁいざとなれば射撃ポイントから飛び降りていくさ、と笑っていたのは年嵩のサバイバルガンナー達だった。手榴弾装備の数名に、ニールは入ってはいなかった。
「……」
 僕は、の先を、今で無くても、今日で無くても、彼は見つけるかもしれない。補い合う誰かを、みんなを。
(「だから……」)
 小さく、言葉を作る。だから、多分、と戦場に目を向ける。山羊に乗った羊たちはどうにも賑やかで、それでいて容赦ない略奪者だ。
「……眠りの使者だなんてうそみたい。でも、さっきの子に比べたらきみ達はおいしそうかも」
 ぐぅ、となるお腹を合図に、大鎌を手にネウは地を蹴った。トン、と荒れた地面を蹴って――飛ぶ。身を低め、接近に気がついた羊が棍棒を振り上げるより早く大鎌で薙ぎ払う。
「ヒャッハー!?」
 斬撃に、僅か羊が身を浮かす。倒れはしない。それはネウも分かっている。だからこそこの力を解き放つのだ。
「きみの命で、みちて、満たして」
 斬撃は力への誘い。展開されたのは氷の呪槍。緩やかに振るう一撃と共に力が――行く。
「ヒャヒ!?」
 ヒャッハー、と続くはずの鳴き声は空を切った。氷の呪槍に貫かれた羊が地に落ち、その先、飛び越えて来ようとした一体が真横から来た槍に地に落ちる。ぱふん、と光の中に消えていく姿は、お腹は膨れない気がする。
「あれだと……」
 ぽつり、と呟いた先、ふいに視界が揺れる。二度、三度と瞬いた先、これって、と落とした言葉は声にならないまま――だが、チクリ、という鋭い痛みに我に返る。
「   」
 蝙蝠のきふじんだ。チクリと牙を立て、もの言いたげに向けられた紅のひとみにネウは頷いた。
「――うん、大丈夫。まだまだお腹はぺこぺこだもの」
 こうして痛みで目を覚ますことができるのであれば、羊達の齎す眠りにも対抗できる。痛みには耐え、ネウは大鎌を握り直した。
「眠りの使者を永久の眠りへと誘おう」
 そして黒き略奪者へと眞白の獣は駆ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
中々ロックな羊…山羊達だねー。
でもまあ、暴れ山羊の群れだろうと私達が負けてやる道理もない。
選択が必要ない位に追い込まれないようにするのが一流ってものだしね。

ボスの巨狼と話す。
まず礼儀正しく挨拶しつつ、キミは何で群を率いてるのかと問う。
脅威から逃れ安全なんてない、そんな苦しい生活を希望捨てずに続けられるその動機に興味があってね。
…結局、生きたいからになるのかもだけども。
質問後礼を言い、戦場へ。

山羊の動きは速いだろうけど後半なら動きも鈍ってるはず、獏へと飛び跳ねてUCの一撃をぶつけてやろう。
倒しきれずとも叩き落せれば追撃も容易、煩いのが聞こえなくなるまで油断せず叩いてやろう。

※アドリブ絡み等お任せ



●不香のファルト
 迎撃用に1カ所、拠点の門は開かれていた。迎撃メンバーが全員出た後、閉められる門は耐えるだけであれば凡そ頑丈な「門」ではあるのだという。
『だが、結局あれは「門」だ。そもそもが開くようには出来ている』
 壁では無い。強固な門は、門である以上本格的に敵が狙ってくれば危険が生じる。特にあの羊が門に張り付いて叫び出せば危険なのだと、忌々しそうに告げたのはこの拠点のソーシャルディーヴァたる巨狼だった。
「お前達、狩りの作法は覚えているな。獲物は逃がすな!」
「イエス・ボス!」
 巨狼の一声に、サバイバルガンナーが銃を掲げて吼えるように応える。牙を出し、ゆるり尾を揺らした巨狼は外へと続く門の傍に立つらしい。
「……」
 その肩越しに、黒く染まった荒野が見えていた。山羊に乗った羊達は、キラキラとした羊毛より黒い体とあの妙な旗が目立つ。
「中々ロックな羊……山羊達だねー」
 クーナ・セラフィン(f10280)はそう言って眉瞳を細めた。山羊に乗っている羊——となると、主にどちらの話をすべきか。主導権は羊にあるのか、足たる山羊にあるのか。
「でもまあ、暴れ山羊の群れだろうと私達が負けてやる道理もない」
 選択が必要ない位に追い込まれないようにするのが一流ってものだしね。
 ふ、と口元で悠然と笑った騎士猫は、指揮を執る巨狼の元へと向かった。こちらの視線には気がついていたのだろう。
「話があるんだろう? 狩りについての一家言では無さそうだね」
「——まぁ、そうだね」
 小さくひとつ笑い、クーナは帽子を取って一礼と共に挨拶をする。短く名を告げた騎士は、真っ直ぐに黒毛の巨狼を見た。
「キミは何で群を率いてるの?」
 この大地は己の足で立つしか無い、と告げたのは巨狼であった。その時、誰かの助けがあっていけないわけじゃないんだ、とニールに告げた巨狼は、クーナの問いに二色の瞳をひたり、と合わせてきた。
「何故、と?」
「脅威から逃れ安全なんてない、そんな苦しい生活を希望捨てずに続けられるその動機に興味があってね」
 ……結局、生きたいからになるのかもだけども。クーナは聞いてみたかったのだ。此処で生き、生きていく巨狼に。一匹では無く群れとしてそのボスとして生きる理由を。
「——……そうだね。出会ったからだ。この荒野で、命なんざすぐに枯れ果てるこの世界で出会ったからだ」
 巨狼——不香のファルトはそう言って、小さく笑った。
「最初は身を寄せ合ってれば暖かいだろうと、そんな気持ちで始めたことさ」
 狩りも楽になるだろうとね、と巨狼は懐かしむように瞳を細めた。
「だが結局、増えたのは良くも悪くも馬鹿騒ぎさ。だがそいつが今日も、明日も続く」
 明日、さ。と巨狼は笑った。
「この荒野で最も不確かなものに……明日というものに、今日見た顔があるのは悪くは無いと思ってね」
 それにね、と不香のファルトは静かに言った。
「身を寄せ合って眠れば、暖かいだろう」
「——そうだね」
 ひとりでは無い暖かさ、というものはクーナも知っている。放浪の旅をしていたが故に、ひとりも、ひとりでは無かった日々のことも知っている。
「ありがとう」
 一礼と共に告げて、クーナは戦場へと飛び出した。此処に生きる人々を、彼らが共に生きる場所を守るために。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 ダン、と山羊が地を叩く。凡そ、蹄で叩いたとは思えぬ程の重い音が響き羊達が——来る。突撃が加速したか。
「——」
 間合いが詰められる。風が抜ける。僅か、浮いた騎士帽を抑え、たん、とクーナは地を蹴り上げた。
「ここだね」
 突撃を、ただ待っていた訳では無い。詰められる間合い——その距離を測っていたのだ。山羊へと飛び跳ね、空中にて銀槍を構える。
「苦しませるのも心苦しいんだよ――動かないでね?」
 白雪と白百合を飾るヴァン・フルールが白百合のオーラを纏いクーナは宙より穿つ。超高速の一撃。空より駆け降りるようにして突き出された一撃が羊を吹き飛ばした。
「ヒャッハー!?」
 パフン、と光となって略奪者は消える。着地の先、真横から迫った一体をクーナは薙ぎ払う。騎乗の山羊から落としてしまえば、追撃も容易い。
「悪いけど、逃がす気は無いんだ」
 ヒュン、と構え直した銀槍と共に騎士猫の舞う戦場に百合の香りが——踊った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
おー、おー、きたきた
羊の群れにしては血の気の多い
もちょっと眠気を誘うようなもんじゃなかったかい?カカカ!

守るものが枷じゃなかったことがあるかい?
あんなもんお荷物以外の何でもない
ほっとくと直ぐ死んだり消えたり逃げたりするし
だからこそ気合いも情も籠るから守れるんだろう?

逆説的に説くならば、守るものは強さの証
強いから守れるんじゃない
守るから強いのさ
聞いてる?奪うしか能のない手ぶらの羊ちゃん

出逢った先から捌いてやろう
お望みなら刈った毛をセーターにして骨に着せてやるよ

僕はと言えば
大事なもんは沢山あるよ
まだまだ温もりの必要な子らを抱えてやりたい
だって僕の腕は長くて、僕の手はこんなにデカいからね



●守るもの
 拠点を包囲するほどの群れとなれば、その姿は染め上げる黒に似ていた。一体一体の姿こそ、丸みを帯びたフォルムで可愛らしく――恐らく――はあったが、虹色の毛並みよりも荒野を染め上げる程の「黒」は逃げ場など無い圧を与えるかのようであった。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 ――声は、やたらと賑やかであったが。
「おー、おー、きたきた。羊の群れにしては血の気の多い」
 迎撃用に開かれた門は1カ所であった。内部から守る位置にガンナー達とソーシャルディーヴァたる巨狼がつく。ぽっかりと開いた穴から見える外の景色を、ロカジ・ミナイ(f04128)はひょい、と手を翳して見た。
「もちょっと眠気を誘うようなもんじゃなかったかい?」
 カカカ! と笑ってみせた男に、ややあって声が返る。違うものなの、と問うたのはニールだった。
「眠気、誘うとか……」
「一匹、二匹なんて数えてみせるのさ」
 童歌のように、ひぃ、ふぅ数えて。指折り見せたロカジの話にニールは単純に驚きであったらしい。
「そんな話があるんだ……、眠れない夜に、羊……。眠りは、いつも恐ろしいから」
 不思議だ、と思うとニールは呟く。小さな呟きと共に銃を持つ手に力が入るのは、拠点を囲むオブリビオン達が理由だろう。守り切れるのか、その不安はどうしたって捨てきれない。
「……」
 それは自分自身への不安でもあるのだろう。
「守るものが枷じゃなかったことがあるかい?」
 話を終え、迎撃のポイントへと階段を上がろうとした少年にロカジは声を投げる。
「――」
「あんなもんお荷物以外の何でもない。ほっとくと直ぐ死んだり消えたり逃げたりするし」
 階段から落ちる少年の瞳が見開かれる。あ、と落ちた声が、何か、何かと反論の言葉を探すのを見ながら、ロカジは、ひとつ笑った。
「だからこそ気合いも情も籠るから守れるんだろう?」
「……え、あ……」
 ぱち、ぱちと瞬く。少年の灰色の瞳が、ロカジを見る。
「まも、れる……?」
「逆説的に説くならば、守るものは強さの証。強いから守れるんじゃない」
 吐息ひとつ、零すようにして笑ってロカジは言った。
「守るから強いのさ」
 ――トン、と足音がする。人のそれでは無い。獣のそれに、ロカジはゆるりと振り返った。
「保護者の登場かい?」
「――いや、見送りだ。あれには必要な言葉だったからね」
 拠点のボス――ソーシャル・ディーヴァの巨狼だ。
「この荒野は、小さな狼さえ勝手に大人にしようとするからね。守るってことばかりに固執して、その意味さえ何れ見失う」
 だが、と巨狼は牙を見せるようにして笑った。僅かな安堵と、後はただ――ひどく楽しげに。
「――枷で無かったことなどあるものか。あっちこっちと転がって、群れが静かだったためしなどありはしない」
 首根っこを捕まえて荒野を駆け抜けたこともある。
「あぁ、良く分かっているとも。懐かしいほどに」
「これ以上何も出てきやしないよ?」
 カカカ、と笑ったロカジに、だからこそ見送りだと巨狼は笑った。
「拠点からの援護は任せておけ。――私達の狩り、お前達にも見せてやろう」
 何せ今の私達は、守るために強くなれるのだから。
 ゆるり、と尾を振り、巨狼は門の向こう――黒く染まる大地を見る。先行した猟兵達のお陰で随分と数は減ってきてはいるが、それでも大地を覆うほどの数はいる。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー! ヒャッハーヒャッハー!」
 その全てが、ただ1カ所開かれたこの門を目指していた。
「聞いてる? 奪うしか能のない手ぶらの羊ちゃん」
 振り抜いた刀を手に、門の外へと出る。ひゅん、と振り抜かれた音は羊がトゲ棍棒を構えた音か。
「ヒャッハー!」
「お望みなら刈った毛をセーターにして骨に着せてやるよ」
 その踏みこみに、ロカジは地を蹴る。よっと、と飛ぶように前に――間合いに、行く。一刀、薙ぎ払う斬撃。捌き落とす刃は、ただ一刀では羊を倒せず、だが――。
「おや? アンタ、水虫の気があるよ」
 続く、上段からの振り下ろしは、羊の入った傷を――その存在としての核を、迷わず打ち砕いた。
「ヒャッハー!?」
 何が起きたか分からぬまま、虹色の毛まですっぱーんと落とされた羊が、ぱふんと消えていく。出会った先から捌き、浮けた傷を今は置いて、ロカジは迫る羊を――黒き略奪者を斬り捨てる。真横から羊が迫れば、拠点からの援護射撃が届く。
「こいつは流石だね」
 カラカラと笑った男は、刀を担ぐ。
 守るもの。守りたいもの。
「大事なもんは沢山あるよ」
 ロカジの中に、沢山、たくさんあるのだ。
「まだまだ温もりの必要な子らを抱えてやりたい
だって僕の腕は長くて、僕の手はこんなにデカいからね」
 さぁて、とくるりと刀を回す。曲芸みたいに振るってみせるなはご愛敬。残る羊へ向けて、トン、とロカジは地を蹴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・侑士
アドリブ共闘◎

ニールのことは気にかかるが
まずはこいつらをなんとかする方が先だろうな
罰も許しもこの拠点を守りきってからだ

しかし…なんか見てると目がチカチカしてくるオブリビオンだな
アレは羊と山羊なのか?
随分とふざけた格好だが舐めてかかるとやばいのはわかる
よしよし全部マトンにしてやろうな

後方から狙撃の援護が貰えるからここは
コソコソせずに攻めていくか
千里眼撃ちで集中、部位破壊を併せて
爆走している山羊を狙う
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ…ってね
落ちた羊は乱れ撃ちでトドメを刺すか
スレッジハンマーで肉叩きに

トゲ棍棒の射程に入ってしまった時は即座にオーラ防御を展開
無防備な状態で直撃を食うことだけは回避する



●そして今を生きる為に
 ヒャッハー、とやたら賑やかな声が荒野に響いていた。斬撃と共に吹き飛ばされ、轟音と共に光の中に羊達が消えていく。
「……」
 要素が多いな、と城島・侑士(f18993)は思う。そもそも凶暴な羊が拠点を包囲しているという図の時点で情報は多かった。見渡す限り、荒野を埋め尽くし染め上げるほどにあった「黒」も先行した猟兵達によってある程度は減らされてきていた。
「ニールのことは気にかかるが、まずはこいつらをなんとかする方が先だろうな」
 それでもまだ、数がいる。
 物資のある拠点を前に逃げる気など無いのだろう。迎撃用に開いた門へと迷わず向かってくる姿に、侑士は息をついた。
「罰も許しもこの拠点を守りきってからだ」
「ヒャッハー! ヒャッハーヒャッハー!」
「……」
 落とす、息は何度目か。向かってくるのが分かっていれば守りやすい。なにせ開けている門は1カ所で、羊の狙いが物資である以上突っこんでくるのは間違い無いのだが――あれは、なんというか。
「しかし……なんか見てると目がチカチカしてくるオブリビオンだな」
 黒い、とは思う。黒い羊ではあるのだが、なんか毛は虹色に輝いているし、ヒャッハーヒャッハー騒がしいし――山羊に、乗っている。
「アレは羊と山羊なのか?」
 連弩を手に、侑士は眉を寄せた。一応拠点の人々の話からすれば「羊」がメインなのだろう。随分とふざけた格好だが――嘗めてかかるとやばいのは分かる。
「ヒャッハー!」
「よしよし全部マトンにしてやろうな」
 ひとつ、息を吸う。正面、真っ直ぐに向かってきた羊達がトゲ棍棒を構える。ざぁああ、と地面を擦るように、派手に向かってきた姿が一度――跳ねた。
「ヒャッハー!?」
 拠点からの援護射撃だ。一拍、ずれた突撃。倒しきるには足りず――だが、その一拍で侑士には十分だ。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ……ってね」
 10秒間の集中。向けた連弩の引き金を――引く。バシュン、と鋭い音と共に正面の一体を撃ち抜けば、崩れ落ちた山羊から羊が転がり落ちた。
「ヒャッハ――……? ヒャハ!?」
 爆走する為の足を失ってしまえば、其処にあるのは棍棒を構えた羊だけだ。トゲのついた棍棒を振りかざしてくるはずの一撃は空を切り、その後ろ、落ちた羊を飛び越えるように来た一体にも迷わず侑士は連弩を向けた。
「ヒャッハー!」
「それだけ賑やかに来れば、見えてる」
 迫る一撃より早く、棍棒の間合いに入るより先に落とす。山羊を先に、つんのめるように前に落ちてきた羊へと一歩、侑士は踏み出す。
「これで終わりだ」
 重い一撃、振り下ろせばパフン、と羊たちが消える。打ち倒す為に踏み込んだ間合いで――ふと、風を感じた。
「ヒャッハー!」
「来たか……、いや、まぁ来るだろうな」
 これだけあちらの射程を封じてきたのだ。落ちた羊を倒している間に一気にこっちを狙ってくる相手がいても不思議は無い。
「ヒャッハーヒャッハー!」
 ぐん、と突撃と共に、薙ぎ払う一撃が迫った。重いハンマーを振り上げる。瞬間、展開したオーラが一撃を受け止める。
 ――ガウン、と重い音と同時に火花が散った。ギィイ、と軋むのは奴の棍棒か。腕に返った痺れと浅く入った一撃に、侑士は息を落とす。
「――まぁ、直撃さえ受けなかったのなら……」
 こちらの番だ。
 受け止めた距離は至近。重いので最近は使っていなかったハンマーだが――まぁ、片手で持とうと思えば持てる。ならば、開いた手に構えているのはひとつ、だ。
「いい加減、静かにして貰おうか」
 羊の額に押し当てた連弩が、終焉の一撃を送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
清史郎さん(f00502)と

随分元気の良い羊さんだこと
清史郎さん、いくら動物が好きだからって
手加減とかしたりしませんよねえ?
なんて冗談めかして笑いかけてみる
なるほど、確かに
はぁい、今回もしっかり倒しましょ

歌?なのか分からないですケド…
うん、あのひゃっはーは大分厄介そうですよネ
音を防ぐ方法――耳塞いでちゃ、戦うのも難しい

一先ず振るわれる棍棒を見れば
これなら、遠くにいれば当たらなそうだ
一定の距離を保って扇を操ろう

きらきらしてるが、羊毛だろ
良く燃えそうだと炎を宿して
でしょ、きらきらより、綺麗な炎にしてあげますよ

距離を詰められても鍵刀で切り払う
間に合わなければ信を寄せる彼へと任せ
舞う桜に目を細めて


筧・清史郎
綾華(f01194)と

確かに、俺は動物さんがとても好きだが
しかし羊さんは、ひゃっはーとは鳴かないのでは…?
故にあれは、敵で間違いないかと(真剣に思案し
綾華、惑わされずに参ろうか(きり

歌…ひゃっはーと合唱されては、耳障りな上に厄介だな
では歌わせぬよう立ち回ろう

棍棒や増強された突撃の威力が大きくとも
当たらなければ良いだけ
桜の残像に紛れ、棍棒や突撃の軌道を見切り躱し
綾華の操る扇に合わせ、桜嵐巻き起こす連撃や衝撃波放つ
近くにある敵は刀の一閃で斬り伏せる

ふふ、確かによく燃えそうだな
友の放つ炎の美しさに笑みながら
綾華へと羊らが向かえば、こっちだ、と
敵を引き付けるよう踏み込み、その只中で桜嵐を巻き起こそう



●羊かひつじか
 荒野を覆うほどにいた黒はその数を確かに減らしてきていた。拠点を包囲するほどにいたのだ。漸く姿を見せた荒れた地面を矢が走る。足場の山羊を先に射貫き、落ちた羊を吹き飛ばしたハンマーの一撃が見事ホームランの軌道を描くのを見ながら浮世・綾華(f01194)は軽く肩を竦めた。
「随分元気の良い羊さんだこと」
 山羊に乗った羊——暴走族系羊らしい。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 黒い体にキラキラと虹色の毛並みは、遠巻きに見ても目立ち——挙げ句、近づいてくれば視界に五月蠅い。荒野を埋め尽くすほどにいた羊達も、随分とその数を減らしては来ていた。それでも、黒き略奪者達が逃げることは無い。真っ直ぐに拠点の入り口——迎撃用に開いた門へと向かってきていた。
「清史郎さん、いくら動物が好きだからって手加減とかしたりしませんよねえ?」
 冗談めかしてひとつ笑った綾華に筧・清史郎(f00502)はややあって口を開いた。
「確かに、俺は動物さんがとても好きだが、しかし羊さんは、ひゃっはーとは鳴かないのでは……?」
 そう、大前提なのである。
 羊はメーと鳴く。だいたいが「メーメー」と鳴く生き物である以上——……。
「故にあれは、敵で間違いないかと」
「なるほど、確かに」
 どうやら真剣に考え込んで出された結論に、おやまた真面目に、と綾華は思う。だが——そう、確かに羊らしい鳴き声からは遙かに遠い。
「綾華、惑わされずに参ろうか」
「はぁい、今回もしっかり倒しましょ」
 ヒャッハー、と向かい来る羊の群れが戦いの始まりを告げていた。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 ダン、と山羊の蹄が地を叩く。グン、と先頭を駆けてくる一体が——加速した。突撃の威力を上げてきたか。
「——ふむ」
 迫る勢いに清史郎が足を引く。一気に詰められる間合いに、ざ、と擦るように足を引けば桜花が舞った。
「ヒャッハー!?」
 突撃が、空を切る。残像に紛れ、躱した男が緩やかに刀を抜く。——キン、と棍棒を払い上げれば火花が散った。
「突撃の威力が大きくとも、当たらなければ良いだけだからな」
 腕にひとすじ、腰にひとつ。流石に全てを躱すには、強奪を掲げる羊が操縦する山羊は早い。——だが、刀を振るうには何ひとつ、問題は無い。
「清史郎さん」
「なに、随分と元気なようだからな」
 綾華の声に悠然とひとつ笑い、トン、と身を飛ばす。突撃であれば身を振って、少しばかり大きく取った間合いの先、ヒャッハーと賑やかに駆け抜けようとする羊へと、ひらりと扇が舞う。
「――コレをこうして、こうな?」
 綾華の操る扇だ。
 薙ぎ払った一撃が羊の頬をすっぱーんと叩けば、トゲ棍棒を持つ羊の視線がこちらを向き——轟音と共にその声は響いた。
「ヒャッッハー!」
「……」
 成る程確かに、羊っぽくは無い。
「歌……ひゃっはーと合唱されては、耳障りな上に厄介だな」
「歌? なのか分からないですケド……うん、あのひゃっはーは大分厄介そうですよネ」
 音を防ぐ方法――耳塞いでちゃ、戦うのも難しい。あの数と勢いで眠りに誘われた日には、起き上がった時にどうなっているか分かったものではない。
「だから、まぁ」
 ——今、動くだけだ。
 ゴォオオオン、と地面に引きずるようにして羊が棍棒を引きずってくる。ヒャッハー、と賑やかな声と共に向かってくる相手に、綾華は指先を向ける。ひらり、払えば扇が舞って。一差し、舞うようにトン、と空を叩けば複製された扇が行く。正面の一体、扇で落とせば、真横から来た一体へと清史郎が刃を放つ。
 一刀。放つ衝撃波に羊が転がり落ちて、ぱふん、と消えれば、その煌めきさえ飛び越えて次の群れが来る。
「ヒャッハー!」
「いや、まぁ元気は元気なんだろうけド」
 勢いだ、と思う。近づいてくればその分、あの妙な毛が眩しい気もする。
「きらきらしてるが、羊毛だろ」
 良く燃えそうだ、と綾華は炎を宿す。ひらり、空を撫でていた手を両の手に変えて、空間を開くように両の手で払う。——瞬間、炎が舞った。
「ふふ、確かによく燃えそうだな」
 綾華の放つ炎を瞳に映し、清史郎は微笑んだ。美しい炎だと思う。ゆるり、細めた瞳ひとつ、炎を飛び越え来た羊へと「こっちだ」と告げて踏み込む。
「巻き起これ、桜嵐」
 ひら、ひら、はらり、と桜が舞う。踊る炎の中、桜嵐と共に清史郎は刃を振るう。白刃の映る炎は綾華の操るそれだ。扇と共に炎が舞い、桜と共に刃は踊る。
「——……」
 その光景に、ふ、と綾華は瞳を細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィリ・グロリオサ
高潔を気取った襲撃者は略奪より悪質であるな。
奴と話が合いそうだな。誰とは言わんが。

いずれの群れの矜持が上かなど、私には関係のないことだが。
そちらの流儀にのって、試練とやらをこちらも与えてくれよう。

雷は古来より天の裁きという。
その悪事が是か非か、試してみるがいい。
杖よりガルムを解き放ち、近づく前に食らえと命じる。
接近する前に、すべてを灼き尽くしてやろう。

接近を許した場合は、ノコギリで対応。
騎乗する馬……ではなく、山羊から解体する。
機動力がなければ、その武器も活かせなかろう。
己の傷は厭わぬが、後がある。必要以上の負傷は避けたい。

平和的であれ、暴力的であれ――奪うリスクは命で贖うものである。



●雷光の錠
 ――炎が、踊る。桜花と共に炎が踊り戦場を駆ける。ただひとつ、拠点へと続く門へと向かい来る略奪者達を焼き尽くし吹き飛ばせば、やたら賑やかな鳴き声の向こう、パフン、と光となって消えていく。その煌めきの名残さえ吹き飛ばすように残る羊達が向かってくる。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 黒き略奪者。拠点の者に言わせれば忌々しい羊。拠点を包囲するほどにいた羊達は、今やその数を大分減らして来ていた。囲むには足らず――だが、奴らの能力を思えば、ほんの数体、拠点へと入る事が出来ればそれで略奪は完了するのだろう。
「高潔を気取った襲撃者は略奪より悪質であるな」
 眠りの果てに全てを奪い、次の目覚めにあるのは廃墟だけ。
「奴と話が合いそうだな」
 熱を帯びた荒野の風に長い髪を揺らしながら、ヴィリ・グロリオサ(f24472)はそう呟いた。誰とは言わんが、と落ちた声は低く、だが、比べられた先を知れば忌々しそうな顔をするのだろうと思えば――さて、幾分かマシな気にでもなるのか。
「……」
 今更浮かべた言葉は舌の上に溶け、飲み干した厭悪にヴィリは低く笑う。
「いずれの群れの矜持が上かなど、私には関係のないことだが」
 振るう杖が空間を払う。ヒャッハー、とやたらと賑やかな声と共に羊達が向かってくるのが見えていた。あの群れの奥――恐らくは包囲の先に、この状況を「試練」と告げた襲撃者達のボスがいるのだろう。
「そちらの流儀にのって、試練とやらをこちらも与えてくれよう」
「ヒャッハー!」
 ダン、と山羊の蹄が強く地を叩いた。加速を入れたか。ギィイイイイ、と鋼の擦る音は棍棒を引きずってくるそれだ。
「ヒャッハーヒャッハー!」
「――」
 五月蠅い、と今更言う言葉でもあるまい。ならばこそ、ヴィリは間合いを喰らってくる略奪者へと足を止める。杖で地を叩く。
「雷は古来より天の裁きという」
 さわさわと髪が揺れる。荒野に吹き荒れる風とは違う流れ、バチバチ、と空間が爆ぜる。火花が散り――それは、姿を見せた。
「その悪事が是か非か、試してみるがいい」
 杖より解き放たれしは雷の精霊《ガルム》であった。四肢を伸ばし犬の姿を以て――吼える。咆吼は空を裂く雷鳴に似る。大地を震わせ来る略奪者達を見据え、ただひとつヴィリは告げた。
「近づく前に食らえ」
 あれが間合いを食らい踏み込むのであれば、その歩みごと食らえば良い。
「これより、鎖を解き放つ――喰らえ、《ガルム》」
 斯くして精霊は自由を得る。
「ヒャッハー!」
 雷鳴が轟き、駆ける羊へと精霊ガルムは走った。振り上げた棍棒を雷光が撃ち抜き、僅か、身を浮かせたそこへ喉元目がけ食らい付く。
「ヒャ――……」
 賑やかな声とて、羊には鳴き声であったか。一体を引き倒し、雷光の爪が飛び越えて来る一体へと向けられる。
「   」
 振り下ろす一撃は雷光を招いた。大地を穿ち焼き尽くすほどの雷に黒き襲撃者が消える。地を一度、白く染めたほどの光に、金緑石の瞳を細める事無く――ただ、ヴィリは静かに告げた。
「すべてを灼き尽くしてやろう」
 大地を震わせ来る群れを空を震わす雷鳴が撃ち抜く。僅か、抜けてきた一体へと迷わずのノコギリを振るった。
「ヒャッハー!?」
 身を低め、抉るばかりの腕を使って足たる山羊を先に落とす。両断された山羊から転げ落ちた羊へとガルムの雷光が落ちる。
「平和的であれ、暴力的であれ――奪うリスクは命で贖うものである」
 包帯が巻き付いた片腕を僅かに振るう。必要以上の負傷は避けるように、トン、と一歩分、手に入れた間合いから戦場を見る。駆ける精霊が雷光と共にヴィリの視界から羊を消した。包囲していた羊達が消えるまで――あと、少しだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
いちいち選択がどうとか考えてないけど
迷った挙句決めかねて共倒れってのが一番無駄だよね
声掛けは優しい人達にお任せ
敵をきっちり片付けるのだって仕事でしょ

俺は自分が不利になるようなことはしない性分でね
庇って戦うなんて期待しないでよ
前衛の少し後ろで影の刃を展開
突っ込んでくる敵を数で撃ち負かせるように
絶えず影雨を撃ち続ける
真正面から突き立ててやれば
突撃の勢いも利用して深く深く刺さるだろうか
綺麗さっぱり片付けてやる

あーあ、気持ちよさそうに寝ちゃってさ
今日は猟兵達が助けに来て良かったね

拠点のことを細やかに気にかけてるわけではないのだけれど
わざわざ不幸な姿を見たいわけでもないから
少しばかり手を貸してみる



●例えば静寂の在処
 乾いた地面に雷鳴が轟く。空の色は変わらずとも空間を裂くようにして響くのは精霊の顕現であった。駆け抜ける雷の精霊が黒の群れを焼き払えば、焦げ付いた地面にぽてん、と転がった羊がキラキラと消えていく。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 拠点を包囲していた羊達の数は随分と減っていた。荒野を染め上げていた黒は拭い去り、今や転々と残った黒き略奪者達が向かってくるだけだ。
「……」
 此処が、拠点へと続く唯一の門だから。
 援護射撃が突撃を緩める。飛び越えるようにして山羊が跳ねる。——結局、山羊だろうが羊だろうが荒れた地面を駆けるのには向いているらしい。
「いちいち選択がどうとか考えてないけど。迷った挙句決めかねて共倒れってのが一番無駄だよね」
 鹿忍・由紀(f05760)はそう言って向かい来る群れへと視線を合わす。ギィイイイ、と派手に響く音は手にした棍棒を岩にぶつけているからだろう。轟音は、意識を引く。実際、そこまで考えてあれが暴走しているかは分からないが——中での話が、もう終わっていて良かったのだろう。まぁ、実際、どんな話をしていたのかは優しい人たちにお任せだ。
(「敵をきっちり片付けるのだって仕事でしょ」)
 全ての迎撃メンバーが出た後、拠点へと続く門は閉められる。最も、門である以上突破しようと力が加われば——あの羊達の特性で「門」としての機能を失ってしまう可能性はある。
「迎撃急げ!」
「足を止めるな! 馬鹿、お前は寝てるんじゃ無い!」
 だからこそ、外に出ての迎撃を担うサバイバルガンナー達も必死なのだろう。銃弾が飛び交い、駆け抜ける足音が耳につく。派手に岩場を飛び越え、ばら撒かれたマシンガンを見ながら由紀は息をつく。
「俺は自分が不利になるようなことはしない性分でね。庇って戦うなんて期待しないでよ」
「——あぁ、分かってる!」
「……」
 例えばその、分かっているがどの程度なのか。隻眼のサバイバルガンナーが飛び出して行った先でヒャッハー、と賑やかな声が耳につく。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーヒャッハー!」
 ダン、と山羊の蹄が地を叩く。ぐん、と身を跳ね上げたのは加速の為か。棍棒で地を叩いた羊たちの速度が上がる。瞬発の加速。飛ぶように一気に来たそれに由紀は、トン、と一歩身を後ろに飛ばし、踵で地を叩いた。
「貫け」
 告げる言葉は一つだけ。瞬間、展開された無数の影の刃が突っこんでくる羊たちへと突き刺さった。真っ正面、相手が突撃してくる以上、刃は深く刺さる。向かい来る敵の勢いさえ利用するように絶えず由紀は影の刃を放つ。
「ヒャッハー! ヒャッハー!」
「そこ」
 気だるげにひとつ告げて、目の端に見えた5体に刃を放つ。足元から穿ち、羊の喉元を貫き落とせばその向こう、飛び越えて来た羊が迫る。
「ヒャッハー!」
「綺麗さっぱり片付けてやる」
 だが、影はそこにあった。魔力により影で複製した夥しい程のダガーが羊達に突き刺さる。由紀ごと押しつぶそうと迫った敵が、その影により——自ら、貫かれたのだ。
「ヒャ、ハー……」
 ぱふん、と最後の一体が消える。荒野にあった黒き群れが消えれば、荒れた地面とまだ、少しばかり熱を残す風が返ってくる。
「……」
 その風の向こうに、ただ一人、立つ影が見えた。黒衣のそれは——スーツだろうか。襲撃者達を率いていた者。恐らくはこの戦いさえも眺めていた存在は、吐息ひとつ零すようにして笑った。
「——あぁ、これはまた残念だ」
 一欠片も残念では無さそうな声でそう言って、砂塵に一度姿を隠す。取り繕う為のものなど最早無い。すぐに奴との戦いとなるのだろう。この荒野で。
「……」
「あーあ、気持ちよさそうに寝ちゃってさ」
 とん、と岩場を越えた先、半ば由紀の予想通りに隻眼のガンナーは眠っていた。あの羊達の鳴き声にやられたのだろう。すよすよとそれはもう、見事なまでにぐっすりとしている姿に由紀は息をつく。
「今日は猟兵達が助けに来て良かったね」
 果たして何処まで寝ているのか。
 つんつん、と頬をつつけば起きるのか——いっそ、蹴ってしまった方が良いのか。
「……」
 拠点のことを細やかに気にかけてるわけではないのだけれど。
(「わざわざ不幸な姿を見たいわけでもないから」)
 ねぇ、と由紀はガンナーに声をかけた。眠りから引き戻すように——とりあえずは、まぁ頬をつつくあたりから。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『荒野に試練を蒔く者』

POW   :    『さぁ、君の力強い生命の輝きを見せてくれっ!』
【生体感知機能搭載の殺戮機械獣の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    『この程度じゃないだろう?もっと輝いてくれっ!』
対象の攻撃を軽減する【、自らの意志の強さに比例した力を持つ超人】に変身しつつ、【周囲一帯を破壊する衝撃波を伴う蹴り】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    『素晴らしい!ならばこの試練も乗り越えてくれ!』
自身の【全て】を代償に、【巨大オブリビオン・ストームの発生を伴う命】を籠めた一撃を放つ。自分にとって全てを失う代償が大きい程、威力は上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は雛月・朔です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●荒野に試練を蒔く者
 ほう、と息を落とす。荒野を覆い尽くす黒き羊が消え去れば、荒廃した大地が再び世界に広がっていた。
「——あぁ」
 その荒れた大地に立つ影があった。黒衣——スーツ姿の襲撃者は、感嘆の息を零す。
「君達はまたひとつ、生き延びた。この荒廃した世界に抗い、生き残ることを選んだのか」
 閉ざされた門の向こう、息を潜めるようにしている人々に対し、迎撃に顔を出した人々も、拠点の中から聞こえた遠吠えも——全て、等しく『美しい』ものであった。
 これ程までに世界は荒廃し、息を吸うのも苦しく、死にきれぬと嘆く人々がいる中で——あぁ、彼らは生きているのだ。
「絶望せず、君達は懸命に生きている。……あぁ、その美しさこそ賞賛に値する」
 スーツが揺れる。サングラスをつい、と上げ、コツン、と足音を響かせながら襲撃者達のボス——拠点へと業病のジュピターを送り込み、ニールへ手紙と物資を渡し、あの異常を許容させた者。
「やはり、困難に直面した時こそ人は輝きを放つ」
 荒野に試練を蒔く者はそう言って笑った。ひどく満足げに——それでいて、感動さえ滲ませるように。
「素晴らしい。この奇跡を、この美しさを終わらせてしまうのはあまりに惜しいと思わないか?」
 問いかけは猟兵達へと向けられたものであった。君達ならば分かるだろう、とでも言うように笑みを浮かべた荒野に試練を蒔く者は告げた。
「本来であれば、全てを失った彼らに物資を持って行こうと思っていたのさ。——彼らはきっと、私のギフトの為に全力で挑んできてくれるだろう」
 決死の覚悟で挑んでくるだろう。今日を、明日を、皆で生きるために。
「その物資で生きることが出来るのがほんの数日だけであったとしても。——あぁ、彼らは誰を生かし、誰がその身を差し出すのか!」
 コツン、カツン、と足音が響く。襲撃者を中心に、風が気配を変えていく。
「裏切り者を最初に捨てるのか。縁者も全て捨てるのか——あぁ、いや、誰も捨てられないと嘆くのか」
 気になるだろう? と襲撃者は笑う。滲むのは喜悦では無く感嘆であり——だからこそ、異様であった。これは、美しさを語り、賞賛を紡ぎながら人を、慈しみながら殺すものだ。
「——さぁ、猟兵諸君。君達も見せてくれ。守るために来た君達の覚悟と選択を!」
 戦場に嵐に似た風が生まれる。荒れる世界にて、襲撃者たちの主は笑った。
◆―――――――――――――――――――――◆
▷プレイング受付期間
9月29日(火)8:31〜10月2日(金)いっぱい

▷戦場について
 嵐のような風が吹いています。フレーバー程度です(戦闘時に有利、不利には働きません)

▷荒野に試練を蒔く者について
WIZ選択時の代償により、荒野に試練を蒔く者はダメージを受けます。
(WIZを一度使用したことにより、速攻倒されるとかはありません)
巨大オブリビオン・ストームは周辺を破壊します。

▷ニール、他拠点所属のサバイバルガンナー
ボスは強敵な為、戦闘に参加することはできません。
外に迎撃に出ているメンバーは、指示が無くても巻き込まれない安全な場所へ移動します
(会話などの絡みは可能です)

◆―――――――――――――――――――――◆
◆―――――――――――――――――――――◆
▷プレイング受付期間
9月29日(火)8:31〜10月2日(金)いっぱい

▷戦場について
 嵐のような風が吹いています。フレーバー程度です(戦闘時に有利、不利には働きません)

▷荒野に試練を蒔く者について
WIZ選択時の代償により、荒野に試練を蒔く者はダメージを受けます。
(WIZを一度使用したことにより、速攻倒されるとかはありません)
巨大オブリビオン・ストームは周辺を破壊します。

▷ニール、他拠点所属のサバイバルガンナー
ボスは強敵な為、戦闘に参加することはできません。
外に迎撃に出ているメンバーは、指示が無くても巻き込まれない安全な場所へ移動します
(会話などの絡みは可能です)

◆―――――――――――――――――――――◆
鹿忍・由紀
吸血鬼にも似たような事言ってるヤツらはいたけど
どこにでもああいうのいるんだなぁ
見世物じゃないのにいい迷惑だよね
俺にも理解出来るように、精々しっかり苦しんで教えてよ

賢いガラクタだね、ちゃんとこっちを把握してる
逃げ回って雑魚の相手をしててもキリが無いし
追われたまま頭領に突っ込もうか
追い付いてくる獣は払い除け
多少の負傷に怯んでなんかいられない
加速して駆け寄り正面から攻撃するふり
フェイントで背後に回って『壊絶』で思いきり蹴り飛ばす
ついでに追っかけてきた獣にぶつかってくれたらラッキーなんだけど
河童を這い蹲らせることが出来れば上々

ほら、輝きってのを早く見せてよ
分かってやるつもりなんか
これっぽっちもないけど



●過ぎたりし熱に
 ザァアア、と荒野に風が抜けた。羊達が駆け抜けた名残だろう。視界を染め上げるには足りず、空ばかりが淡く色づいていた。
「吸血鬼にも似たような事言ってるヤツらはいたけど、どこにでもああいうのいるんだなぁ」
 ほう、と鹿忍・由紀(f05760)は息をついた。呆れ、というよりは半ば単純な感想に近い言葉を唇に乗せて、相変わらず笑みを浮かべたままの敵を見る。
「見世物じゃないのにいい迷惑だよね」
「――ほう? 迷惑と!」
 跳ねた言葉は驚きと感嘆を滲ませていた。喜悦では無くひどく嬉しそうに荒野に試練を蒔く者はその視線を由紀へと向けた。
「これは心外なことだ。私は、この地で懸命に生きる人々の姿に美しさを見いだしただけだというのに」
 あぁ、勿論、と襲撃者は笑みを浮かべた。
「君もまた、私が慈しみを以て見る者の一人さ」
 慈愛を以て襲撃者は告げる。差し出された手から零れ落ちる「何か」を由紀は見た。
「……」
「あぁ、そうとも! 守るために来た君達には、あぁ、きっと私の獣が似合うだろう」
 零れ落ちたのは銀色の液体。どろりとしたそれが地に落ち――鋼の群れと変わる。
「ルグ、ァア、アアアアア」
 それは、殺戮機械獣の群れであった。鈍く光る瞳が、揃ってこちらを見る。一体、また一体とどろりとした銀の中より獣は生まれた。
「さぁ、この群れが君を抜ければどうする? この困難を前に君はどんな輝きを見せてくれる?」
「……そう」
 それは穏やかな問いかけのようでいて、真実脅しに似ていた。こうして選択を突きつけるのだろう。笑みを浮かべる襲撃者に息だけを落とし、由紀は視線を上げた。
「俺にも理解出来るように、精々しっかり苦しんで教えてよ」
 視線を合わせ、見据えて告げる。ざらついた風が一度強く吹き――殺戮機械獣達が鼻先を上げる。
「ギィイイアアア!」
「――」
 その咆吼を合図とするように由紀は地を蹴った。身を低め、一気に叩き込んだ加速で斜面を駆け下りる。先に行くよりは、段差を使って由紀は下の岩場に飛び移った。
「ァアアア!」
 その着地点へと殺戮機械獣が来る。咆吼とも鋼の軋む音とも似た声を響かせ、迫る牙に由紀は身を横に振った。
「賢いガラクタだね、ちゃんとこっちを把握してる」
 とん、と着地に手を使う。は、と落とした息が地面の砂を散らす。肩口に受けた傷がぱたぱたと地面を濡らしていた。身動きは取れる――だが、この状況をいつまで続けるか、だ。
(「逃げ回って雑魚の相手をしててもキリが無いし」)
 は、と由紀は息を落とす。 
 どうせ追いかけられるのであれば、行き先を決めれば良いだけのこと。
「グルァアアア!」
「――」
 岩場を飛び越え迫る殺戮機械獣に由紀は血濡れの腕を振るった。ギィイイ、と浅く手にしたナイフが殺戮機械獣を切り裂き体勢を崩す。
「ギィイアア!?」
 踏み込みがぶれる。真横、抜けていった獣を無視して由紀は前へと踏み込む足で地を掴む。体を前に倒すようにして、ぐん、と一歩強くその身を前に飛ばした。
 ――瞬発の加速。
 半ば、飛ぶように前に出る。追いついてくる獣をただ払いのけ、赤く染まる腕も全て置いて由紀は前に出た。
「さぁ、その先どうすると? 君の力強い生命の輝きを見せてくれっ!」
 笑い告げる襲撃者が、銀の液体を地に零す。這い出てきた獣達が真っ正面から踏み込む由紀に吼えた。
「ギィイイアアア!」
「ルグァアアアアア!」
 高く長い咆吼と共に叩き付けられる殺意。得物を前にした獣たちが牙を剥き出しに来た。
「――」
 影が、落ちる。飛びかかる獣たちの腕が、牙が由紀の頬に影を落とす。剥き出しになった牙と共に襲撃者が笑うのが見えた。
「真っ正面から来るという選択も悪くはないのですが、あぁ、君はこの困難にどう対応す――……」
 するのか、と響く声が耳に届くよりも先に由紀は身を横に飛ばす。無理矢理、体を動かした分、着地に手を使う。ざぁああ、と指で体を止めて、低い体勢の侭、向かう先は饒舌に笑う襲撃者の背後。
「な――」
「砕けろ」
 トン、と地を足に付けると同時に、思いっきり由紀は蹴りを叩き込んだ。ヒュン、と蹴りは空を砕きスーツ姿の河童が――浮く。そう、これはただの蹴りではない。魔力を一点圧縮し接点で解放するもの。ガウン、と重い音が響き、由紀の回し蹴りに河童が吹き飛ぶ。その先に居るのは――追いかけてきていた獣たちだ。
「――っく、何だと!」
 派手な衝突に火花が散る。おろし立ての小綺麗なスーツが砂にまみれ、べしゃん、と物の見事に荒野に試練を蒔く者は転び、地面に這いつくばった。
「この私に……っ」
「ほら、輝きってのを早く見せてよ」
 ひび割れたサングラスの向こう、目を瞠る襲撃者へと困難の襲来を告げた。
「分かってやるつもりなんか、これっぽっちもないけど」
 落とす息は常と変わらぬまま、瞳だけはひたりと敵の姿を捉えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネウ・カタラ
うつくしい?
すばらしい?
……さっぱり、よくわからない

俺が分かるのは
きみの勝手な自己満足で、
いのちをおとすヒトがいて、かなしむヒトがいるということ
そしてそれを見て喜べるきみは
正しい意味で、怪物、だということ

ヒトの世界に怪物はいらないんだよ
だから、ね?
そのいのち。俺が貰い受けてあげる

瞬き一つした後に
輝かせるは真紅の瞳
鉄の獣は大鎌でなぎ払い、衝撃波で吹き飛ばし
或いは怪力でねじ伏せて
身をきざむ烈風すら己を動かす糧としながら、
黒剣をかの怪物へと振り翳す

未来は。選ぶものでも与えられるものでもない
立ち止まり時に迷って、それでも前に進みながら
彼等がつくっていくもの

その邪魔はさせない
きみにも。誰にも。ぜったいに



●今日より明日へ、明日から未来へ
 地を蹴るように猟兵は飛んだ。踏み込みよりは半ば跳躍に近い。零れる血を風に流し、襲撃者の背後に回り込んだ猟兵の蹴りが叩き込まれる。派手に吹っ飛んだ河童が、猟兵を追ってきていた獣にさえ踏み倒されれば砂塵が舞った。
「く、はは、ふはははは! 成る程、成る程! この私にさえ困難を与えると! あぁ、ですが……慈しむのは私なのですよ」
 スーツを汚し、罅の入ったサングラスをつい、と上げて荒野に試練を蒔く者は告げた。
「君達の勝利を彼らは信じているのでしょう? ――あぁ、ですが、それが叶わなかった時どうするのか」
 それは苦しみを伴う選択だろう、と襲撃者は言う。それでも生きていく為に選ぶのだろう、と。
「困難に直面した時こそ人は輝きを放つ。私はその奇跡を愛しているのです。君達も知っているでしょう?」
「うつくしい? すばらしい?」
 薄く開いた唇から零れ落ちた声は、淡々と響いていた。問いかけるようでいて、冷えた氷の瞳はひたり、と襲撃者を捉えていた。
「……さっぱり、よくわからない」
 ひどく身勝手に響いた襲撃者の言葉への応えであった。砂混じりの風に揺れる髪をそのままに、ネウ・カタラ(f18543)は告げる。
「俺が分かるのはきみの勝手な自己満足で、いのちをおとすヒトがいて、かなしむヒトがいるということ」
 ネウの言葉に襲撃者は笑みを浮かべた。薄く口を開くようにしてゆっくりと向けられた笑みは、続く言葉の意味を理解しているそれだ。
(「――そう」)
 そこにあるのは喜悦では無ければ嘲笑でも無い。世に慈しみと呼ばれるそれを滲ませて、荒野に試練を蒔く者は微笑んだ。
「えぇ、それこそ困難ですから」
「そしてそれを見て喜べるきみは正しい意味で、怪物、だということ」
 返す言葉と共に、息を落とす。はたはたと揺れる衣をそのままに、ネウは真っ直ぐに襲撃者を見た。
「ヒトの世界に怪物はいらないんだよ」
 此処は――この世界は、今を生きる人々のものだ。怪物が戯れにその明日を、今を蹂躙して良いものでは無い。
「だから、ね? そのいのち。俺が貰い受けてあげる」
 瞬き一つ、揺れる髪に隠れた氷の眼が覚醒と共に真紅の瞳を見せた。輝くように瞳はヴァンパイアとしての性を見せる。ほう、と襲撃者の声が上がった。
「己を変えてきますか! 素晴らしい、では私も君の輝きに応じましょう!」
 掲げられた手から銀の液体が零れ落ちる。パシャン、と派手に一度跳ねれば大地に生まれたのは殺戮機械獣の群れであった。
「ギィイイアアア!」
 鋼の軋む音とも、獣の咆吼とも似た声が大地に響き渡った。
「さぁ、君の力強い生命の輝きを見せてくれっ!」
「――」
 告げる言葉を合図とするように殺戮機械獣達が地を蹴った。波のように襲いかかる獣を迎え撃つようにネウは大鎌を手にした。
「ルグァアアア!」
 食らい付く大口へ向けて大鎌を振るう。ガギン、と受け止めるように殺戮機械獣はネウの一撃に食らい付いた。――だが。
「通るよ」
 今のネウは、真紅の瞳に覚醒している。振るう力は常よりも――強い。トン、と踏み込みだけは軽く、だが、押しとどめられている刃を通すようにネウは腕に力を入れた。ザン、と眼前の殺戮機械獣を切り倒し、踏み込む。地を蹴る。追いすがる獣たちを衝撃波で吹き飛ばし、開いた間合いを加速に使う。
「ほう、私を狙ってきますか! ですが、獣たちは凶暴ですよ」
「知っている」
 でも、とネウは息を落とす。囲うように呼び出された獣たちは優秀だ。生者を刈り尽くすために、ネウを追い、食らい付こうとしてくる。――だが、狙ってくると分かっているのであれば、決して諦めぬ相手だと分かっていれば。
「ギィイイアアアア!」
 ひゅん、と迫る爪に身を逸らす。避けるためでは無い。受け止める為だ。ザン、と深く刺さった爪ごとネウは獣の腕を受け止め――掴む。
「グルァ!?」
 押し返される感覚に驚いたのだろう。声を上げた獣を怪力でねじ伏せて、ネウは飛んだ。飛び越えるように血を蹴って真っ直ぐに襲撃者の間合いへと行く。
「未来は。選ぶものでも与えられるものでもない。立ち止まり時に迷って、それでも前に進みながら彼等がつくっていくもの」
 与えられた選択肢で、断頭台に行くものを選ばせるものではない。そこに道が無ければ、道から作り出すのもこの世界を生きる人々の未来だ。
「その邪魔はさせない」
 突き出した黒剣が深く、荒野に試練を蒔く者に沈んでいた。スーツの下、シャツが赤く染まり、回避より早く届いた刃に襲撃者は息を飲んだ。
「――っく、言いますね。猟兵。邪魔を、させないとは」
「きみにも。誰にも。ぜったいに」
 抜き払った黒剣と共に、大地が血に染まる。トン、と間合いを取り直すように地を蹴った怪物にネウは黒剣を強く、握った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

なぁ、河童がいる
河童ってこんなとこにいるもんか?
まぁ変な河童っぽいしな
深く考えるのやめとこ
ヒメ、さっさと倒して帰ろうぜ

ところで、俺まだこのままか?
遠慮じゃねェ、もういいけどよォ

向かってくる敵を水を打って払う
やることは一緒だ
数は多いが、全部うまくさばけるか、ヒメ?
できるとは思ってるが、頼むぞと託す
本当にどうにもならねェ、なんてことにはならない
俺が一緒に戦ってるからな
は、頼りになる守護者だぜ、ほんとにな

試練を与える、なんて何様なのか
神にでもなったつもりか?河童のくせに
あの河童にとっては俺らとの戦いが試練になるだろ
あの頭の皿も狙ってやろうか
お前が干乾びさせたら、砕きやすそうだ


姫城・京杜
與儀(f16671)と!

河童…本物か?
河童っていえば、川でキュウリ食ってるイメージだけど…(じー
でも敵には違いないからな、とにかく倒せばいい話だろ

…ん?俺が與儀のこと運ぶって言っただろ?
今の與儀ちっちゃくて軽いから、全然大丈夫だぞ!(にこにこと

有象無象を捌くのはむしろ任せろ
一匹残らず、神の焔で燃やしてやるからな!
與儀が払うのとは別方向からくる獣を猛火で片付ける
おう、俺達の絶妙なコンビネーション見せつけてやろうぜ!(どや
俺は與儀の守護者だからな!
絶対に與儀には、傷ひとつだってこの俺がつけさせやしない

神は俺達だもんな
んじゃ、俺達が河童に試練与えてやろーぜ
その金ピカの皿、神の焔で干乾びさせてやるぞ!



●天地の轍
 鋼の軋む音が響いていた。ギィイイ、と凡そ荒野の不釣り合いなその音は獣の咆吼として響く。蹈鞴を踏み、斬撃から間合いを取るように身を飛ばした荒野に試練を蒔く者がスーツの汚れを叩く。
「やはり、猟兵という存在はこの荒野を揺らすに相応しいのですね。希望たり得る」
 あぁ、それならば、と襲撃者は罅の入ったサングラスをつい、と上げていた。
「その希望が目の前で潰えた時、彼らはどんな顔をするのか……」
 ふ、と笑い、襲撃者は緑の手で血を拭った。――そう、緑、だ。肌は緑で、サングラス――はおいておくとして、頭に乗っていたのは金色の皿。そう、河童であった。
「なぁ、河童がいる。河童ってこんなとこにいるもんか?」
 常と違う視界の所為で、英比良・與儀(f16671)の目に、あのキラキラ光る皿がよく見えていた。
「河童……本物か? 河童っていえば、川でキュウリ食ってるイメージだけど……」
 じぃ、と姫城・京杜(f17071)は河童を見てそう言った。あれ、皿だよな? と言われれば、まぁそうだろうな、と與儀としても返すしかない。
「まぁ変な河童っぽいしな。ヒメ、さっさと倒して帰ろうぜ」
「敵には違いないからな、とにかく倒せばいい話だろ」
 うんうん、と頷いて京杜はひどく当たり前に踏み出す。ザ、と常よりも重い足音が響けば、襲撃者がひくり、と頬を上げた。
「フ、フハハハハ、川辺の河童より洗練された私だからこそ言いましょう。君達の選んだ『それ』もまた、困難を生むと」
 その困難は、猟兵たる守護を失う道筋を感じさせるに等しい。
 そう告げて襲撃者は両の手を広げた。大地に獣を更に呼ぶように銀が零れ落ちる。
「姫抱っこをしたままの姿で、何処までやれるのか……さぁ、君達の力強い生命の輝きを見せてくれっ!」
「――おい」
 お前が言うのかよ、と與儀が告げる言葉は殺戮機械獣達の咆吼に食い尽くされた。ルグァアア、と駆け出す獣たちに迷いは無い。生者たるものを追うように作られているのだ。
「よ、っと」
 迫り来る獣に対し、京杜が身を後ろに飛ばす。間合い一つ作り直したのは、獣の踏み込みの方が早かったからだ。ぐわり、と大きく開いた口が、食らい付くより先に強引に距離を取る。庇うように外套を引き、腕の中の與儀を京杜は抱き寄せた。
「與儀」
「あぁ、無事だ」
 問題ない、と告げた先、安堵の息を一つ零して微笑んだ京杜に「ところで」と声が届いた。
「俺まだこのままか?」
「……ん? 俺が與儀のこと運ぶって言っただろ?」
 にこにこと京杜は笑ってみせた。足元は足元であの獣が狙ってくるし、数が多い。羊達のような鈍器は無いが、やっぱりこうして腕の中に抱き上げたまま運べるのは安心できるのだ。
「今の與儀ちっちゃくて軽いから、全然大丈夫だぞ!」
「遠慮じゃねェ、もういいけどよォ」
 與儀のため息にきょとん、と首を傾ぐ。與儀? と口を開いた先――目の端に獣の方が見えた。
「――ヒメ」
 腕の中の主も見つけたか。ひたりと一点に向けられた双眸が応えだ。死角を狙うように駆けてきた殺戮機械獣が吼えた。
「ルグァアアア!」
「舞い踊れ紅葉、我が神の猛火に」
 地を蹴った獣の爪を受け止めるように焔が走った。ゴォオオ、と唸り行く焔は嵐に似る。舞い上がった紅葉が淡く京杜の頬に影を落とした。
「ギィイイアアアア!」
「で、こっちなら死角だろうってか?」
 一体、倒れた所ですぐに続きが来る。炎熱の領域を避けるように来た獣へと、悪いが、と與儀は薄く笑った。
「見えてんだよ。――喰らえよ」
 手を伸ばす。一度握った拳を緩やかに解けば、零れ落ちたのは水であった。それは與儀の生み出した水。大地を濡らし、この地に雨を喚ぶほどの水を今、與儀は解き放つ。
「ギィイイアア!?」
 穿つ一撃は突き出す刃に似ていた。殺戮機械獣を貫いた水が、地に落ちる前に払う與儀の腕に沿うように薙ぎ払う刃に変わる。
「数は多いが、全部うまくさばけるか、ヒメ?」
 できるとは思っているが、頼むぞ、と言葉にして與儀は託した。相手は殺戮機械獣の群れだ。こちらの気配を、生者として捉えている以上、逃げる事も諦める事も無いだろう。
「有象無象を捌くのはむしろ任せろ。一匹残らず、神の焔で燃やしてやるからな!」
 低く獣が唸る。殺戮を担う獣は、仲間が焼かれようが水に撃ち抜かれようが関係無く来る。骸を飛び越え、駆ける獣の姿を捉えながら與儀は告げた。
「本当にどうにもならねェ、なんてことにはならない。俺が一緒に戦ってるからな」
「おう、俺達の絶妙なコンビネーション見せつけてやろうぜ!」
 京杜は笑う。どやっと見せつけるように――舞い踊る焔と共に告げた。
「俺は與儀の守護者だからな! 絶対に與儀には、傷ひとつだってこの俺がつけさせやしない」
「は、頼りになる守護者だぜ、ほんとにな」
 吐息ひとつ、落とすように笑う言葉を受け取って、京杜は焔を踊らせる。数は多い。咆吼と共に向かい来る獣達とて殺戮の名を有しているだけはある。
「ルグァアアアア!」
 腕に傷が走る。振り下ろされた爪が深く突き刺さり、だが、腕を一本落とされるより先に焔が舞い上がる至近距離とて京杜の間合いだ。それに何より今、この腕は與儀を抱き上げているのだから。
「ほう、落としてしまうかと思いましたが……」
「落とすわけ無いだろ」
 襲撃者の笑い声に、京杜は真っ正面から言い返す。下ろしていいんだがな、と落ちた與儀のげんなりとした声は、だが次の瞬間激流を生む。
「いい加減、道を作らせてもらうぜ?」
「ルグアアアア!」
 飛びかかる獣を與儀の水が受け止める中、とん、と京杜は地を蹴った。水膜の向こうを目指し――飛ぶ。展開した水の壁が解き放たれるのを分かっていたからだ。
「行け、ヒメ」
「おう!」
 水が、前に出る。水流を以て獣を押し流す。正面ひらけた空間の向こう襲撃者は立っていた。
「まさか、ここまで来ましたか!」
「神は俺達だもんな。んじゃ、俺達が河童に試練与えてやろーぜ」
 ゴォオオ、と焔が唸る。踏み込みから空間が一気に熱を帯びる。
「その頭の皿も狙ってやろうか」
 炎熱の戦場に、だが同時に水滴も舞っていた。消え去る事も無いままに、ぷかぷかと浮くそれは不敵に笑って見せた與儀のもの。
「その金ピカの皿、神の焔で干乾びさせてやるぞ!」
 京杜の焔に巻かれた襲撃者へと與儀の水が――落ちた。頭上から、バシャンと派手に行けば――パキン、と乾いた音が戦場に響き渡った。
「――な、なんだと!?」
 河童の皿が、ひび割れたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・侑士
アドリブ共闘◎

チッ、趣味が悪いやつだな
高みからの見物は楽しかったか?
だがこの拠点はお前を楽しめるための見世物小屋じゃないぜ

見た目はスーツを着て格好つけているふざけた河童だが
伝わってくる闘気から
かなりの強敵なのがわかる
接近されると此方がかなり不利になるな
距離を取って戦闘を進めていこう

試練だの輝けだのお喋りなヤツだな
お前の娯楽に付き合うほど俺達も暇じゃないんだ
そこで止まってろ!
回避行動を取られる前に早業で咎力封じを発動
うまく動きを鈍らせたら防御される前に乱れ撃ち
拍手の代わりに鉛弾を贈ってやるよ
攻撃中も衝撃波付きの蹴りの範囲内に入らないよう気を配るが
接近されたらオーラ防御で直撃を喰らうのだけは避ける


クーナ・セラフィン
ねえこの上位者気取りの馬鹿ッパさっさと潰したいんだけど。
…聞いてるだけで頭クラクラする妄言吐いてとことん逆撫でしてくれるよね。
うん、始末しよう。

超人に変身したら蹴りに注意しつつ視線を合わせ攻撃を読み切り回避。
幾ら強烈な衝撃波でもどこかには安全地帯はあるもの。
そうじゃないと一番近くの本体が、ね。
そこを見出し飛び込み回避しつつ反撃の槍を喰らわせよう。
貫けるまで何度でも避けて喰らわせて、ね。
…あと一つだけ教えてあげよう。
――に攻撃は届かない。特にキミみたいなのではね。

戦い終わったらファルトとニールに激励を。
世界は理不尽だけど案外活路はあるもの。どこまでも…やれる限り頑張ってね?

※アドリブ絡み等お任せ



●博愛に遠く慈愛に成らず
 焔と水が戦場を舞った。殺戮機械獣の骸が積み上がり、どろり、と銀の液体に変わる。荒野に染みる事無く襲撃者の足元に零れたそれは、二度、三度と荒れた水面のように波打った。
「――たしの、皿を」
 河童の皿が、割れていたのだ。
 焔を受け、水を受ければ確かに金色の皿は割れるのだろう。罅が入り、バキ、と乾いた音と共に綺麗に二つに割れたそれを抑えながら荒野に試練を蒔く者は告げた。
「く、はは、はははは! これこそ試練、これこそ困難! 良いでしょう。この困難にこそ輝き、私は美しさを求める。――今こそ、えぇ、見たいのです。この地に生きる人々の絶望せずに懸命に生きる姿を」
 猟兵、と襲撃者は告げる。
「君達は守護者なのでしょう。えぇ、彼らの拠点を守るために此処に居る。君達が困難に直面した姿もきっと美しいのでしょうが――君達こそ、失われれば絶望に等しいのだろうね」
 つい、とひび割れたサングラスをあげる。吐息一つ零すようにして襲撃者は笑った。
「一度、手にした救いを失ったとき彼らは、どれ程の困難を知ることになるのだろうね」
「チッ、趣味が悪いやつだな」
 いっそ、喜悦ほど滲ませ告げれば良いものを。襲撃者の声から感じられるのは、慈愛の類であった。拠点の人々を本気で心配し、愛を以て慈しみながら――そして、殺すのだ。
「高みからの見物は楽しかったか?」
 ひたり、と襲撃者を見据え城島・侑士(f18993)は問う。
「だがこの拠点はお前を楽しめるための見世物小屋じゃないぜ」
「あぁ、勿論。だからこそ――楽しかったとも」
 見世物小屋では無い。彼らが――拠点の人々が必死に生きている『場所』であったからこそ、意味があったとでも言うように襲撃者は笑った。
「こうして私自ら姿を見せてしまうほどに有意義であったよ」
「それはまた、最低な話だな」
 お前が、の話だが。
 息を落とし、侑士は口の端を上げる。皮肉程度笑みを浮かべて返した襲撃者――見た目はスーツを着て格好付けている河童だが、伝わってくる闘気からかなりの強敵なのがわかる。
(「容易い相手ではない、か」)
 チ、と二度目の舌打ちに、ザ、と荒い足音が重なった。
「ねえこの上位者気取りの馬鹿ッパさっさと潰したいんだけど」
 ため息を零すようにそう言って、クーナ・セラフィン(f10280)は、冷えた青の瞳を向ける。騎士たる猫は鋭い視線をひとつ向けると、息をついた。
「……聞いてるだけで頭クラクラする妄言吐いてとことん逆撫でしてくれるよね」
「ああいう手合いは、無駄にお喋りなんだろうな」
 どんな場所でも、と侑士が告げる。銃を持ち上げれば、ハ! と襲撃者は笑った。
「君達と語らうのも、また悪くは無いからね」
「うん、始末しよう」
 割れた皿を抑えつつ、無駄にポーズ一つ取っ手見せた河童に付き合う理由など一つも無いのだ。すぱっとクーナは言い切った。
「これ以上、楽しく話をする気も無いからね」
「同感だ」
 吐息ひとつ、零すように頷いた侑士を視界に、じゃぁ、とクーナは声を零す。眼前、吹き抜ける風が気配を変えているのは二人とも分かっていた。
「フハハハ! その苛烈さ、その冷静さ。私は君達ともっと語らいたいと思うのだが、残念だよ」
 あぁ、だからこそ、と荒野に試練を蒔く者は両の手を広げて歌うように告げた。
「この程度じゃないだろう? もっと輝いてくれっ!」
 瞬間、額の皿が光る。眩しくは無い。気になるが――気になりはするが、問題は、はたはたとスーツを揺らし、明らかに気配を変えた襲撃者の方だ。
「さぁ、語らおうじゃないか!」
 告げる言葉と共に踏み込みが来た。ひゅん、と来た蹴りにクーナは後ろに飛ぶ。弧を描き来る蹴りに沿うように距離を取る。ヒュ、と一撃は空を蹴り――だが、ザァアアアア、と大地が抉れた。
「これは――」
 叩き付けられたのは風、だ。同時に舞い上がりえぐり取られた地面がクーナに迫る。白銀の槍を振り上げ、致命傷を避けるように弾き上げると、地を滑るようにして一度足を止めた。
「うん、重いかな」
「……あいつ、周辺一帯巻き込む気か」
 接近されると此方がかなり不利になるな、と零す侑士にクーナも頷いた。
「そうだね……。うん、でも、手はあるかな。幾ら強烈な衝撃波でもどこかには安全地帯はあるもの」
 そうじゃないと一番近くの本体が、ね。
 ふ、とひとつ笑って、クーナは視線を上げた。
 超人に変化し、無駄にやたらとキラキラしている河童だが――身体能力以外にも、変化は見えた。額の皿だ。先の一戦で猟兵から受けた攻撃からひび割れていたそれが、進行している。
「あのモード、負担掛かるみたいだし。前で揺さぶってみるよ」
「なら……」
 レバーアクション式の散弾銃を手に、侑士は息を吸った。
「追撃は、こっちでやろう」
「うん。それじゃぁ馬鹿ッパが騒ぎ出す前に……」
 行こうか、と告げる言葉と共にクーナは、一気に地を蹴った。タン、と荒れた地面を踏みしめ――飛ぶ。先に衝撃で、ぽっかりと地面には穴が開いていた。そり上がった地面を足場にするように蹴り上げて、一度、上を取る。
「あぁ、そこでしたか。ならば……!」
 ヒュン、と空に向けて襲撃者が蹴りを放つ。蹴りそのものを届かせるのでは無く、衝撃波を使ってくるのか、先の一撃で見えていた。
(「あれは、地面を這うようにしてから『上がってくる』から……」)
 だから、クーナは空で騎士槍を構える。真っ直ぐに襲撃者を見据え――瞳を、合わせた。
「それはもう視てるんだよ。残念だろうけどね」
「ハ! 何がどう見えていると……!」
 ひゅ、と襲撃者が息を飲む。空より、身を落とすクーナが身を横に振った。強引な回避。攻撃をするには遠ざかるばかりのそれは――だが、襲撃者が踏み込んでくることによって『変わる』追撃で蹴り上げるつもりであったのか、ダン、と力強く空へと上げられた足が空を蹴った。
「な……!?」
 結果、襲撃者はただクーナの間合いへと飛び込んできたのだ。まるで動きを最初から読んでいたかのように。ヒュン、と鋭く突き出した槍が荒野に試練を蒔く者に沈んだ。
「何故――……ッ」
「……あと一つだけ教えてあげよう」
 白雪と白百合の銀槍を引き抜き、クーナは囁くように告げた。
「――に攻撃は届かない。特にキミみたいなのではね」
「にを、何を言って……っく、この困難、新たな輝きにしてみせよう……!」
 ぐん、と勢いよく振り返った襲撃者が間合いを詰める。今度こそ、蹴りを当てるように身を軽く飛ばした。――だが。
「試練だの輝けだのお喋りなヤツだな。お前の娯楽に付き合うほど俺達も暇じゃないんだ」
 その足にロープが絡まった。手枷がかかれば、動きが鈍る。
「これは……! 君は私を拘束しようと……!?

「そこで止まってろ!」
 攻撃が一拍、止まる。遅れた蹴りは、だが最初ほどの力を持ちはしない。侑士の拘束に阻まれ、踏み込みさえ鈍くなれば向けるのは銃口だけ。
「拍手の代わりに鉛弾を贈ってやるよ」
 怪談文士は静かに笑い、撃鉄を引いた。
 ガウン、と散弾銃が荒野に試練を蒔く者へと届く。な、と息を飲んだ襲撃者のスーツが赤く、染まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィリ・グロリオサ
試練に物資に……、呉れてやったとは、呆れた物言いであるな。
道楽に命を賭けるものなど、この世界にはほぼおらぬであろう。
頭のおかしい病人以外はな。

さて、殺戮機械獣の群れは面倒であるな。
魔力を出し惜しみなく振るい、雷にて攻撃。
その機能へ一時的に支障を与えられれば構わぬ。
突破を優先し、河童に肉薄する。
操るものを討たねば解決せぬからな。

射程範囲に入れば、左腕の布槍ごと食らわせる。
片腕を代償に、雷撃を与える。
話に聞く怪物ならば、よく効きそうであるが。
生きるものの輝きが、この死した身より伝わるか?
無論皮肉だ。

貴様の感想などどうでもよいのである。
私は呪を祓い、病巣を取り除く。
その為だけに此処にあるのだからな。



●生者の選択、死者の辿り
 襲撃者の踏み込みが、風を生んでいた。大地を抉り、バキバキと派手に抉られた地面が空を舞っていた。速さに対応した猟兵の槍が深く突き刺さり、蹈鞴を踏んだ体に銃弾が届く。
「あぁ、私も今、困難の中に身を置いているのか。人々の営みをより美しく感じるのでしょうね」
 赤く染め上げたシャツを気にする気は無いのか。スーツの汚れだけを叩いた荒野に試練を蒔く者は笑みを浮かべていた。
「——」
「試練に物資に……、呉れてやったとは、呆れた物言いであるな」
 長い、髪が揺れる。さわさわと揺れる深緑の髪は闇に近い色彩をしていた。ヴィリ・グロリオサ(f24472)の頬に影を落とし、狭間より覗く金緑石がひたり、と荒野に試練を蒔く者を捉えた。
「道楽に命を賭けるものなど、この世界にはほぼおらぬであろう。頭のおかしい病人以外はな」
「ならば私は愛という病の中にあるのだろう」
 冷えた瞳を真正面から受け止めた襲撃者は、ただ、ひどく楽しげに笑ってみせた。「この荒廃した世界で人々は懸命に生きている。私はその姿に美しさを見いだしたのです。困難に直面したときこそ人は輝きを放つのだと」
 さぁ、と誘うように襲撃者は告げる。掲げられた手から銀色の何かが零れ落ちる。液体か、どろりとしたそれが日の光に鈍く光り、ピシャリ、と大地に触れれば——獣が、生まれた。
「ギィイイアアア!」
「ルグァアアアアア!」
 長く続く咆吼は正しく殺意に満ちていた。だからこそ、スーツ姿の「あれ」が慈しみを以て告げていたのだと良く分かる。胡散臭さを通り越した異様であったか。
「——瘡蓋でも無いか、随分と腐り落ちたものであるな」
 病巣か、病毒か。
 ゆるり笑った襲撃者に落とす息は獣の咆吼に食い潰された。
「さぁ、君の力強い生命の輝きを見せてくれっ!」
 高らかに襲撃者が告げるのを合図として、殺戮機械獣が駆けた。ルグァアア、と吼えるそれは獣の咆吼のようで、鋼の軋む音に似ていた。姿は獅子に似たか。ぐん、と地を蹴れば接近は——早い。
「ギィアアアア!」
「——」
 大口開けて迫る獣に身を飛ばすより先にヴィリは杖を掲げた。バキ、と空気が震え次の瞬間、雷光が大地に落ちた。
「ほう! これは」
 ガウン、と落ちる雷光が獣を撃った。感嘆の声を漏らしたのは襲撃者であった。招来の一撃を合図に、ヴィリは一気に空間に魔力を展開させる。轟音が荒野に試練を蒔く者のお喋りを食らっていく。
「ルギァアアアアアア!」
「これで、暫く——……」
 トン、と杖の背で地を叩く、周囲に展開していた魔力が一気に雷へと変わった。ゴォオオオ、と雷光が獣を撃つ。ヒュン、と伸びてきていた爪がヴィリの背を抉り——だが、首筋に食らい付くより先に雷光が獣の機能を砕く。ひくついた体が地面に落ちる。
「……」
 背に残った傷の、首筋を狙ってきた一撃をそのままにヴィリは地を蹴る。致命傷で無ければ足を止める必要も無く——致命傷であったところで、どれ程の意味を持つのか。
「ルギァアアア」
 踏み込めば獣たちが追う。加速は殺戮機械獣の方があるのか。
「生者を追う獣が、屍を追うか」
 口の端、浮かべた笑みは皮肉であった。動けばそれと追い立てる獣の性か、動いていれば皆生きているつもりか。
「いずれにせよ、面倒であるな」
 追い立てられるつもりなど元より無い。
「ルグァアア!」
 ヒュン、と咆吼と共に頬に風を感じた。半ば、反射的に腕を振るう。獣の牙を杖で受け止め、ただ一言、ヴィリは告げた。
「ガルム」
 ゴォオオ、と空が唸る。空間が爆ぜる。雷光がその一瞬で空間を白く焼き尽くす。その熱の中を、ヴィリは一気に駆け抜けた。
「ギィイイアア!」
 背後で獣の声が軋む。構いはしない。操るものを討たねば解決しないのだから。
「フハハ、私の所まで来ましたか!」
 襲撃者が腕を掲げる。再び零れ落ちた銀に、だが構わずヴィリは左腕を突き出した。傷を受け、止血に巻いていた包帯が——今、解ける。肉を晒す傷口が、変じた指が荒野に試練を蒔く者を向いた。
「その距離。私には——……」
「——随分と、よく喋るのである」
 落とす息はそれだけに、風が男の髪を揺らし金緑石の両眼を戦場に晒した。次の瞬間、バチと空間が震え、ヴィリの片腕に傷が走る。指先から肩口まで——一瞬にして裂けるように傷が行き、膨大な電流が走った。
「な……っく、ぁあああ!」
 前へ、と。
 電撃は真っ直ぐに襲撃者を貫いていた。肩が抉れ、零れ落ちたものがスーツを汚していく。ぐらり、とその身が大きく揺れた。
「話に聞く怪物ならば、よく効きそうであるが」
 ヴィリは一つ息をついて視線を上げた。ばたばたと血を流す肩口を抑える事も無いままに。
「生きるものの輝きが、この死した身より伝わるか? 無論皮肉だ」
「君は、く……ッ猟兵と、いうものは……まさか、これほどに」
 獣を喚ぶはずの銀が消失していた。反撃の一手は紡げない。ぐらり、身を揺らした襲撃者を視界にヴィリは静かに告げた。
「貴様の感想などどうでもよいのである」
 杖を持ち直す。息を一つだけ落とし、闇医者たる男は告げた。
「私は呪を祓い、病巣を取り除く。その為だけに此処にあるのだからな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
風切さん(f01441)と参加

「私のやることは何も変わらない」

彼の言動とやり方は命を弄ぶに等しい
自身の好奇心を満足させたいだけ

影を滑るように疾駆して【先制攻撃】

嫌悪は感じなかった
でも、賛同したり肯定しようとは思わない

「世界は弱肉強食。力があれば生殺与奪は欲しいままね」

風切さんを【かばう】
ダメージは【肌】の機能で痛覚遮断【継戦能力】を発揮

「あなたの嗜好に興味ないわ」

放たれる敵の一撃を右腕で【受け】止める
犠牲になった片腕がズタズタに千切れ飛ぶ

【殺戮回路】を起動

瞳が赤く染まり、衝動が私を突き動かす
【恐怖を与える】まで【怪力】任せに殴打
蹴り、頭突き、なんでもいい
暴力の限りを尽くす

「死ぬのは怖いものよ」


風切・櫻
日下部殿(f25907)と共に

彼女は変わらず、己が身を捨てるかのように突貫する
頼もしい――が、危ういな

暫くは刀で応戦しながら様子見
日下部殿が守ってくれるが――その合間を縫って、敵へと咄嗟の一撃を繰り出し削る

「その試練。端から潰させて貰う」

敵ユーベルコードの起動を察すれば
日下部殿が気を引いてくれる内に懐へ
敵の胸へ押し当てるは《七星七縛符》

元より長きを生きるヤドリガミ。命を多少削ろうと構う物ではない
さあ、日下部殿。彼奴へ引導を渡してやれ

仕舞いにはその首、一刀にて切断してくれる

戦い終われば彼女は昏倒するだろう
その身を受け止め小さく嘆息
器物のおれよりも、その身を道具か何かと思っている節を感じるぞ



●命の在処、生の在処
 ゴォオオ、と空が唸るような電撃が襲撃者を貫いていた。轟音と共に蹈鞴を踏む。焦げ付いたスーツは既に赤く染まり――だが、次の瞬間に体液は濃く暗い色彩に変わる。赤は、奴が見せただけのものか。
「フ、ハハ、ハハハ! あぁ、これこそが困難ですか!」
 衝撃に身を傾ぎ、だが荒野に試練を蒔く者は笑みを浮かべていた。声はひどく楽しげに、あぁ、と落ちた息は感嘆を滲ませる。
「彼らには、君達が私を追い詰めたように見えるのでしょう。ですがならばこそ! ここで終わりにするにはあまりに惜しい」
 全てを見届けてこそ、と襲撃者は笑みを見せる。荒れた大地を踏み、ひたり、と見据えた二人を前に襲撃者は告げた。
「君達という救いの可能性が潰えた時、彼らはどんな思いを得るのか……それでも、一人でも多くを救おうとするのでしょう」
 その姿はきっと美しい。
「困難に直面したときこそ人は輝くのですから」
 狂乱でも狂気でも無く、ただ慈愛を以て殺す襲撃者の言葉に日下部・舞(f25907)は視線を上げる。高らかに告げる襲撃者の周りが、僅かに変化してきていた。風が強くなってきただけという訳ではあるまい。
「強制的な環境変化……」
「――そのようだな。だが、まだ完全ではないようだ」
 風切・櫻(f01441)が黒髪を細める。普通の風では無い。黒の混じっていくそれはこの世界において災厄と喚ばれるもの――それに近しいものを生み出そうとしているのか。
「発動までは時間がまだありそうだな」
「ならば、止めましょう」
 短く告げて、災厄と喚ばれる風の気配を帯びていく地へ舞は構わず向かった。
「私のやることは何も変わらない」
 トン、と地を蹴る。荒れた地面に落ちた影を滑るように低めた身で加速をつける。タン、と飛ぶように行けば、襲撃者の視線がこちらを向いた。
「ふ、私を狙ってきますか!」
「――」
 その言葉に舞は答えない。別に今、話をしたい訳でも無い。
(「彼の言動とやり方は命を弄ぶに等しい。自身の好奇心を満足させたいだけ」)
 ――嫌悪は感じなかった。
(「でも、賛同したり肯定しようとは思わない」)
 ヒュン、と撃ち出された襲撃者の蹴りに、夜帷を抜く。刃は受け止めるためでは無い、片腕で勢いだけを殺して、刃は襲撃者へと向ける。
「世界は弱肉強食。力があれば生殺与奪は欲しいままね」
「――えぇ、その言葉否定しようとは思いません」
 舞の刃が、襲撃者を捉えていた。薙ぎ払う一刀に、だが、襲撃者は笑う。蹴りと刃がそれぞれに沈み、結果、弾くように間合いを生む。
「――おや、君は痛みを感じてはいないのですか」
 割れたサングラスの向こう、小さな瞬きを以て襲撃者は告げていた。その声に興味が乗る。ほう、と落ちた息は――だが、言葉となって響くより先に刃が来る。
「生憎、こちらにも居てな」
 櫻だ。
 襲撃者の真横、切り上げた刃は櫻の本体だ。振り上げた刃を振り返るより先に、上段より振り下ろす。ヒュン、斬撃は素早く、迎撃に繰り出された蹴りは間合いに踏み込んだ舞が受け止めた。
 ――ガウン、と音が響く。鈍く重い音と共に彼女の構えた刃と襲撃者の蹴りの間で火花が散る。踏み込みに迷いは無いようだった。初撃と同じ。変わらず、己が身を捨てるかのように突貫する。
(「頼もしい――が、危ういな」)
 それは年嵩の身としてか、ヤドリガミとしての身としてか。僅か、細められた瞳は一瞬に、踏み込んだ舞が作った一拍を利用し、櫻は襲撃者に刃を向ける。
 ――ザン、と向けた刃が腕に沈む。ゴトリ、とスーツごと片腕を落とし、だが、襲撃者は笑った。
「素晴らしい! ならばこの試練も乗り越えてくれ!」
 周辺の空気が一気に変わる。間合いに踏み込んでいる瞬間を狙ったのか。
「さぁ、オブリビオン・ストームをここに呼ぼう。暗黒の竜巻と共に――私の力を知れ」
 轟音が、全てを巻き込む程の風が吹き荒れた。大地を抉り、斬り伏せる力が解き放たれようとする。
「あなたの嗜好に興味ないわ」
 その瞬間に、舞は行った。放たれる力が、災厄として解き放ちきられる前に右腕を突き出す。指先から衝撃に飲み込まれるようにして、舞の腕が砕け、ズタズタに千切れて飛ぶ。
「あぁ、この試練にその身を犠牲としましたか。あぁ、それは確かに美しい献身だ。ですが、この一撃、それだけで潰せると――……」
「思いはしないさ」
 だからこそ、と櫻は襲撃者の言葉を浚う。蹈鞴を踏むこと無く、行く道を作るように僅か、横に飛んだ彼女を視界に櫻は襲撃者の胸へと手を伸ばした。
「その試練。端から潰させて貰う」
 間合い深く、その懐にて。
 押しつけた護符は、相手のユーベルコードを封じるものだ。展開した瞬間、周囲を飲み込むように生まれていた風が、嵐が抑え込まれていく。
「な――!? まさか、私の力を!」
「封じた、と説明しておくべきか?」
 静かに笑って櫻は告げる。軋むような痛みが、胸に起きる。オブリビオンの力をひとつ封じているのだ。対価は寿命。だが元より長きを生きるヤドリガミ。命を多少削ろうと構う物ではない。
「さあ、日下部殿。彼奴へ引導を渡してやれ」
「死の宣告を」
 声が、落ちる。ひどく静かに舞はそれを告げた。瞳が赤く染まり、刃より腕を伸ばした。
「な……」
 ひゅ、と襲撃者が息を飲む。舞の拳が頬に沈み、ぐら、と揺れた先、胸ぐらを掴み持ち上げる。地に叩き付ければ、何か砕けるような音がした。
「っく、ハハハ! 成る程、これはまるで――……!」
 身を跳ねるように襲撃者が起こす。迎撃を狙った一撃は、だが踏み込んだ舞の蹴りに喰われる。それは、暴力の限り繰り出される攻撃であった。あの瞬間、舞が行ったのは倫理回路を不活性化することだ。湧き上がった破壊衝動は彼女という存在を変えていく。
「その首、一刀にて切断してくれる」
 楽しげに笑い、腕を伸ばす襲撃者へと櫻は刃を向ける。ザン、と振り下ろす一刀、首こそ落ちずとも――ぐらり、と荒野に試練を蒔く者が蹈鞴を踏み、舞の手がゆらり、と下ろされる。
「――」
 意識を失ったのだ。
 崩れ落ちる身体を櫻はそっと受け止めた。
「器物のおれよりも、その身を道具か何かと思っている節を感じるぞ」
 ――死ぬのは怖いものよ、と昏睡する前、聞こえた言葉を思い出して、ひっそりと櫻は息をついた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
それで、だからお前さんは物資を持って来てないのかい?
そんなら全く用はないしお邪魔虫だ
あるならさっさとそれを置いて海へ還りな
こんなに風を吹かせてたんじゃ
せっかく洗ったハンカチも飛んでっちまう

花も咲かねぇ世界でどうして懸命に生きるのか
けど事実、懸命だからあいつらはここに生きてる
たまに笑ったりね、するんだよ、花がなくたってね

掌の刺青を裂いて艶華を赤に染めてやったなら
放つのは誘雷血
稲妻は周囲の殺戮機械獣の動きを封じながら
長い刃がギラギラと、彼らの主ごと両断する

見えたかい?よーく光っただろう?お前の仮初の命ですら、煌々と
命を無理矢理光らせるってのはこういうことよ
無機質で無感情で無慈悲で、無い無い尽くしさ



●ふとした瞬間に君は笑うから
 大地が、荒れる。弾けるようにして砕ける。剣戟の狭間、火花と共に大地に舞ったのは気取ったスーツであった。片腕をとうに失い、額の皿を砕かれた襲撃者は、だが尚、笑みを浮かべていた。
「あぁ、これこそが困難! これこそが苦痛! あぁ、彼らは今、勝利を感じているのでしょうね。若しくは確信しているのか」
 ならばこそ、だからこそ、此処では終われない。終わるのはあまりに惜しい、と荒野に試練を蒔く者は告げる。
「全てを覆された時、一度手にした救いでは足りぬと知った時——彼らは、きっと感じたことも無い困難に出会うのでしょう!」
「……」
 高らかに、饒舌に荒野に試練を蒔く者は語っていた。猟兵が敗北すれば、拠点の人々は、一度は得た救いを失うのだろうとその瞬間、彼らはきっと選択するだろう、と。
「絶望しきることは無いままに、一人でも多くを生き残らせるために。何を選び、何を捨てようとするのか……——あぁ、時を賭けてみるのも良いかもしれませんね」
 語る声は何処かでも楽しげで、挙げ句慈愛というものに満ちていた。いっそ喜悦であれば良かったのか、真実、慈しむ声と滲む情を以て襲撃者は語り——そして、その『賭け』では慈しんで殺すのだろう。人々を。
「それで、だからお前さんは物資を持って来てないのかい?」
 合いの手一つ入れるようにロカジ・ミナイ(f04128)は声を投げる。ゆるり、と割れたサングラス越しの瞳を襲撃者は細め、にこりと笑った。
「——どちらだと思いますか?」
「無いなら全く用はないしお邪魔虫だ。あるならさっさとそれを置いて海へ還りな」
 一つ息を零すようにしてロカジは視線を上げた。乾いた風に鉄と血の匂いが混じっている。嵐のような強い風でさえ拭いきれぬそれが、はたはたとロカジの衣を揺らした。
「こんなに風を吹かせてたんじゃ、せっかく洗ったハンカチも飛んでっちまう」
「フ、別れの挨拶にでも贈るつもりだったのかい?」
 ゆるり、と襲撃者が笑う。誘うように差し出された手から、どろり、と銀色の液体が零れ落ちる。ぴしゃり、とそれは地を叩き、獣へと変わった。
「ギィイイアアア!」
「ルグァアアアアア!」
 殺戮機械獣の群れだ。獣の咆吼とも、鋼の軋む音とも似た鳴き声を響かせ、牙を剥き出しにした獣を従えて襲撃者は笑う。今になってスーツの汚れをひとつ叩く河童に、ロカジはやれ、と息をつくようにして口の端を上げた。
「受け取れば帰ったのかい?」
「——いいや。まだ、見届けてはいませんからね。困難に直面した時に、人々の見せる輝きを」
 さぁ、と荒野に試練を蒔く者は高らかに告げた。
「君の力強い生命の輝きも見せてくれっ!」
 その言葉を合図とするように、殺戮機械獣達が地を蹴った。咆吼が大地を震わせ、乾いた地面を獣たちが埋め尽くす。
「ギィアァアア!」
 牙を剥き出しにして、荒れた地面を飛び越えてくる獣は生者を追う。屍であれば飛び越えて行くのだろう。
「どれもこれも見せてなんて、こいつはまた、強欲なことだね」
 牙が迫る。ぐん、と地を蹴り、一気に間合いを詰めて来る獣たちを前に——その群れの奥、笑いながら立つ襲撃者をロカジは見据えた。
「花も咲かねぇ世界でどうして懸命に生きるのか。けど事実、懸命だからあいつらはここに生きてる」
 青の双眸がひたりと襲撃者を捉え、僅か弧を描く。吐息ひとつ零すようにして静かに笑ったのは奴の為では無い。
「たまに笑ったりね、するんだよ、花がなくたってね」
 彼らはこの世界で生きていて、今日を、明日を過ごしていくのだ。
 拠点からの援護は、荒野に試練を蒔く者との戦いに邪魔にならないように止まった。彼らを直接狙われてはこちらも動きようが無い。——だからこそ、今、彼らは見守っているのだろう。信じているのだろう。
「ルギァアア!」
 跳躍から獣たちは上から来た。ロカジの頬に影が落ちる。僅か息を落とした男は、身を飛ばすより己の掌に触れた。
「口説いて終われりゃよかったのにね」
 刃を、当てる。掌の入れ墨を裂く。白刃を滑らせれば、瞬間、世界が白く染まった。
「それは……!」
 襲撃者が息を飲む。ゴォオオ、と空を唸らせるように響いたのは稲妻だ。ロカジの周囲、展開された稲妻が殺戮機械獣達を撃ち抜く。痺れるように獣たちが落ちれば、赤に染めた艶華と共にロカジは地を蹴った。
「悪いね」
 落ちた獣を飛び越え、追いすがる爪を、今は置いて。爪痕のついた腕なんて、零れた赤に触れる艶華は笑うのか。チリ、と残った痛みに小さく笑いロカジは最後の間合いを——詰めた、
「私を狙ってきますか! 獣たちよ、此処に……」
「——あぁ」
 獣の咆吼が応えを響かせるより先に、ロカジは振り抜いた。長い刃がギラギラと、殺戮機械獣と襲撃者を一気に——両断する。
「な——……っく、ぁ」
 カハ、と襲撃者は息を落とす。雷電が、その鮮烈までの光が戦場を照らす。
「見えたかい? よーく光っただろう? お前の仮初の命ですら、煌々と」
 腹にひとつ、大穴が開いていた。衝撃に、荒野に試練を蒔く者が蹈鞴を踏む。ぐらり揺れた体は、支えきれぬままに膝をつく。
「この、私に……ッ」
「命を無理矢理光らせるってのはこういうことよ」
 ヒュン、と振るった一振りを向け、ロカジは告げた。
「無機質で無感情で無慈悲で、無い無い尽くしさ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
私は絶望が嫌いで、それに屈する人を見るのも嫌で
誰かのためじゃない。私が見たくないから、海に還す
貴方と一緒ならそれが出来る。今までも、これからも

愛する者と共にあることで無限に湧き上がる【勇気】と
猟兵として旅を続けると決めた時からの、骸の海に還る【覚悟】を持って
敵の群れに突撃
『with』で叩き潰し【重量攻撃】、『wanderer』で蹴り飛ばし【怪力】
身体が動く限り、前へと進み距離を詰める

誰かを助けるとか、何かを守るとか、そんな事どうでもいいんです
withと一緒に居られるなら、世界がどうなっても構わない
そう想うことが、私が最強で居られる理由だから
UC発動
私の選択は……『withと私が勝つこと』です



●この胸にただひとつ
 轟音と共に、稲妻が地面に落ちた。殺戮機械獣が痺れるように地面に倒れ、獣の群れを飛び越えた猟兵の一撃が襲撃者に沈む。
「フ、ハ、ハハハハ! あぁ、これが、これこそが困難。これこそが苦痛ですか!」
 スーツは既に血に汚れていた。額の皿はひび割れ砕け、鈍い光を落とす。片腕をとうに失い、ぐらりとその身を揺らしながらも荒野に試練を蒔く者は笑う。
「私は今、困難の中にあるのですね。あぁ、ならばこそ惜しい。あまりに惜しい! この身が砕け散ろうとしているのであれば、彼らはきっと安堵を抱いているのでしょう」
 その先にあるのは、猟兵の勝利だ。
 囁くように笑い告げて、襲撃者は薄く口を開く。
「あぁ、ですが。それではあまりに惜しい。全てをかけて守ることを選んだ君達も全てを託して信じることを選んだ彼らも……更なる困難が訪れれば、あぁ、きっと輝きを放つのでしょう」
 例えば守るべきを守れずに。
 果たすべきを果たせずに。
「全てを守りきることを出来ずに、自分の掌を知り、零れ落ちる水に嘆きながらも彼らは一人でも多くを逃がそうとするのでしょう」
「……随分とお喋りですね」
 静かにひとつ、春乃・結希(f24164)は告げる。襲撃者が語るのは全て可能性の話だ。例えば、と口にして楽しげに笑う。そこに滲むのは喜悦では無く、狂気でも無い。慈愛さえ滲ませて響く事実が『荒野に試練を蒔く者』という存在を告げていた。
「私は絶望が嫌いで、それに屈する人を見るのも嫌で」
 さわさわと黒く長い髪が揺れる。艶やかな黒の瞳を一瞬、隠した風に手にした大剣をゆっくりと構える。
「誰かのためじゃない。私が見たくないから、海に還す」
 理由を誰かに置かず、己が胸において。己の手に握って生きていく旅路を知る娘は漆黒の大剣に告げた。
「貴方と一緒ならそれが出来る。今までも、これからも」
 タン、と結希は地を蹴った。大剣の鋒を下に、荒れた大地に踏み込む。派手に開いた穴は巨大オブリビオン・ストームを喚ぼうとした跡地か。飛び越えるように前に出て、着地の足で地を叩く。
「――with」
「フ、ハハハ! ならば、ならばこそあまりに惜しい! 君のその先にある困難を、彼らのこの先にある困難を見れないのはあまりに惜しい!」
 だからこそ、と高らかに笑い告げて襲撃者は手を空に掲げた。掌から零れ落ちるのは、どろりとした銀の液体。荒廃した大地に触れれば、パシャン、と一度跳ねる音を残し――獣たちが立ち上がる。
「私も、私の困難を前に全てを出しましょう。この美しい戦場でまだ楽しむために」
「ギィイイアアア!」
「ルグァアアアアア!」
 殺戮機械獣の群れが吼えた。牙を剥き出しに一気に大地を蹴る。迷う事無く、真っ直ぐに獣たちは結希に向かってきた。
「さぁ、君の力強い生命の輝きを見せてくれっ!」
 ヒュウウウ、と風が抜けた。大地に生まれていた嵐とはまるで違う。獣たちが向かってくる音だ。グルァアア、と響くそれは、獣の咆吼に似て、鋼の軋むような音でもあった。普通の動物とはあまりに違い――だからこそ、ひどく肌に感じるのだ。
(「――来る」)
 タン、と踏み込みを結希は横に振る。半ば、飛ぶようにして回避を先に入れる。右を選んだのは勘だ。ザアア、と足を滑らせ、ぐ、と大地を掴んで顔を持ち上げる。
「グルァアアア!」
「――」
 迫る獣が加速の代わりに跳躍する。飛びかかるように迫ってくる獣へと結希はwithを振り上げた。ガウン、と受け止めるように――だが、その重さを利用して、withと共に行くように振り上げた刃は殺戮機械獣を叩き上げる。
「ギィイアア!?」
 払い上げられた事実が追いつかないのか。せめて、と伸ばされた爪が浅く入る。チリ、と走った痛みに、だが、気にすることも臆することも無く結希はwithを振り下ろした。
「……行きます」
 行く、と決めたのだ。
 荒れた地面を、砂塵舞う荒野を覆い尽くすほどにいる獣が向かってくる。その群れへと結希は行く。withを手に、この身にあるのは愛する者と共にあることで無限に湧き上がる勇気。そして――覚悟は、いつだってあるのだ。猟兵として旅を続けると決めた時からの、春乃・結希の覚悟。
 ――骸の海に還る覚悟を。
「ギィイイアアアア!」
 ザァアア、と地面が荒れた。派手な踏み込みと共に来た獣が真横を狙う。胴を狙ってきた牙をwithで受け止める。薙ぎ払いは連撃か、そのままグン、と襲いかかるように来た相手にwithは身を低め――払うように、蹴る。
「ギィイア!?」
「このブーツも頑丈なんです」
 驚いたように声を上げた獣の視線がひたり、と結希を見据える。零れ落ちる殺意は生者を狙うばかりのものだ。喰らうとでも言うように、向けられた牙に、爪に、臆すること無く蹴り飛ばす。一線、襲撃者へと向かうための道が――開く。
「――」
 迷わず、結希はそこに飛んだ。左右に展開した群れをwithで払い、行く為の、届かせる為に足は地を蹴る。腕に、肩に血は滴り落ちようとも、痛みは熱となって体に届こうとも――行く。前へ、前へと。
「あぁ、私に辿りつきますか!」
 感嘆を以て襲撃者が告げる。掲げられた掌から再び銀に似た液体が零れ落ちる。その海の中を、踏み越えるように結希はwithを構えた。
「誰かを助けるとか、何かを守るとか、そんな事どうでもいいんです」
 ぱたぱたと落ちる血が、大地で色を変えていく。黒髪が揺れる。痛みは、熱の色をしていた。零す吐息が熱を帯びる。――だってそうだ、この身は受けた傷を焔で補完していた。
「withと一緒に居られるなら、世界がどうなっても構わない。そう想うことが、私が最強で居られる理由だから」
 僅かに伏せた瞳を開き、結希は告げた。
「そう想うことが、私が最強で居られる理由だから」
 ゴォオオオ、と焔が唸る。足元、襲撃者の生み出そうとした獣たちが鼻先を上げる。爪を持ち上げる。――だが、結希の踏み込みの方が、早い。
「貴方と一緒だから、怖くなんて無いよ」
 パシャン、と銀の海を踏む。踏み越える。力強く一気に行って、結希はwithを振るった。
「な――ッ」
 放たれた焔に、一撃に襲撃者が傾ぐ。受け止める筈の獣たちが間に合わぬまま、熱にぐらりと倒れる。衝撃を支えきれずに足をつく。地面に生まれていた銀が消失する。
「あぁ、世界を、守るためではなく……フ、ハハハ。あぁその選択もまた、あぁ……あまりに惜しい、この先を見れない、のは……」
 胸を貫かれた襲撃者は笑う。惜しいとひどく身勝手に笑いながら、その身を崩す。暗い風に紛れるように荒野に試練を蒔く者は骸の海へと消えていった。

●今日と明日と、それから――……
 荒れた大地にいつもの風が戻ってきた。ほら、いつも通りだ、と聞こえた声は、遠く戦況を見守っていたサバイバルガンナー達の声であった。
「勝ったんだ!」
「やった……!」
 次々の上がる喝采と歓喜の中、巨狼の咆吼が拠点から響く。勝利の報を告げるように高く、高く強く届く声は猟兵達の耳にも届いていた。
 彼らは、この先も生きていくのだろう。戸惑いを残したニールは少しずつ人に頼ることを覚え、年嵩のサバイバルガンナー達は少年に声をかけることを戸惑わずに。
「ありがとう!」
 ガンナー達の声が耳に届く。守り通した人々の声が猟兵達にも届いていた。これから先も続いていく――彼らの今日と明日と、未来の始まりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月07日


挿絵イラスト