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星花散る揺り籠にて

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●絶望の国にて
 かつてあったはずの「自分の扉」は、すでに無く。あるのは「絶望の扉」のみ。
 どれだけ探しても、もう辿ることの出来ない軌跡。あれだけ焦がれた世界も、今は遠く何も感じない。
 あるのはルールだけ。
 「花を踏んではならない」「花を詰んではならない」「花を散らしてはならない」

 ケタケタと笑い声が聞こえる。人影はない。
 だが、確実に聞こえる笑い声。
「どこに行くの?」
「どうやって行くの?」
「どこにも行けないのに」
「でもどこかに行ける」
「扉はないのに、扉は開かれる!」
 支離滅裂な言葉の羅列は、足元の花々から!花の中心に見えるは、人の歯列。カチカチ音を鳴らしながら、お喋り花は口々に語りかける。ねぇねぇ!お話聞いて!お話して!

 ゆめゆめ忘れぬことだ。この絶望の扉存在せし世界には、ルールしかない。破ってはならない。犯してはならない。
 もしも、君たちがルールを、この世界の法を犯したのならば、気をつけろ。

 ―――やつが来る。

「お前、花を踏んだ」

 そうなってはもう、何を言っても無意味。抵抗も、反論も、全てが無。やつは言うだろう。

「理由になってない」

●揺り籠を砕け
 グリモアベースに猟兵たちが集まるのを見て、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)は頭を下げる。
「お集まりいただきありがとうございます。今回の事件はアリスラビリス……不思議の国が繋がる複合世界。オウガとアリスの織りなす美し地獄です」
 ナイアルテの顔は微笑みではなく強張っている。これから猟兵に向かってもらう世界、アリスラビリンス……アリスが召喚された世界である「不思議の国」はすでにもう「絶望の国」へと変貌を遂げているのだ。

 つまり、アリスがオウガと化しているのだ。嘗て彼らの「自分の扉」があった国は、見るも無残な「絶望の国」に。もう戻ることはない。不思議の国も、アリス自身も元に戻ることなど万一の希望もないほどに。
「元アリスであった彼の国は、すでに絶望の国。しゃべる花が咲き乱れる一面となっておりますが、まずはこれを踏破して絶望の扉へとたどり着いてください。その先にオウガの揺り籠……つまり、次々とオウガを生み出す絶望の国を砕いてほしいのです」

 猟兵たちがやらねばならないことは3つ。
 まずは、元アリスの扉のあった国、現絶望の国を突破し、国の主であるオウガの撃破。そして絶望の扉と、その先にあるオウガの揺り籠の破壊。

「もう絶望の国に存在しているオウガを救う術は、倒すほかありません。予知で見たオウガは……その国に存在するルールを破るものを殺戮するマシーンと化しています。彼の国に存在する、しゃべる花。一面に咲き誇っていますが、これらを踏みつけたり、荒らしたりすることをルールを犯したとして、問答無用で殺害しようとしてきます」
 もはや、感情らしい感情もなく、ただただ国の法に則り殺害せしめんとしてくるのだ。かと言って、花を踏まずとも、自分の国にある絶望の扉にたどり着く頃には、猟兵である皆を殺害しようと出現する。

「オウガを撃破した後は、オウガの揺り籠から溢れるオウガの群れを倒していただきたいのです。ただ……その、数が、尋常ではないのです。絶望の扉が開くことによって、国は崩壊を始めますし、数が多すぎて大半のオウガを取り逃がしてしまうのです」
 そう、元アリスのオウガをただ倒すだけでは、オウガの揺り籠に蓄積されたオウガたちの数は減らせないのだ。
 ならば、どうすればいいのか。

「元アリスであるオウガ……彼の心に染まった絶望を和らげていただきたいです。その……彼は花を愛する者であったようです。絶望の扉に至るまでの道に咲き乱れる花たちは、その名残だと思うのです。絶望に染まってもなお、花を愛する気持ちは消えなかったのでしょう……そう思いたいのです。彼の絶望を消し去ることはできません。ですが……」
 だが、和らげることはできるのだ。
 元アリスのオウガと戦う前と戦う間、花々を散らさぬように戦うことこそが、最早言葉を解する知能もなくなってしまったオウガの彼の絶望を和らげる方法なのだ。
 難しいことを言っているのはわかっている。
 だが、それでも猟兵には成さねばならない時もある。

「どうか、お願いいたします……花を愛した彼の絶望を……少しでも和らげてあげてください。それにオウガの揺り籠を破壊することは、これより呼び込まれるアリスたち救出の助けにもなるはずなのです。どうかよろしくお願いいたします」
 ナイアルテは再び深く頭を下げた。
 猟兵は知っているであろう。絶望の淵に立たされる苦しみ、絶望に叩き落される叫び、それを拭い去るには、時に厳しい道を選ぶことこそが正しい道なのであると。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はアリスラビリンスの事件になります。花の季節ではありますが、此度はアリスラビリンスに咲き乱れる、おしゃべり花と元アリスのオウガ、そして、オウガの揺り籠に揺られし星屑たちとのシナリオになります。
 皆様の思いの丈をプレイングにたくしていただければと思います。

●第一章
 まずは絶望の国へと変じてしまった、おしゃべり花の咲き乱れる回廊を突破していただきます。
 道中とにかく喋りかけてくる花たち。支離滅裂で何を言っているのか、正直わかりません。ですが、踏破するにしても彼らを散らすことのないようにしなければ、第二章で現れる元アリスのオウガの逆鱗に触れてしまいます。
 おしゃべり花たちは、元アリスのオウガのアリスの時の情報も最後には話してくれるでしょう。無視して進むでも構いませんし、花よりもしゃべるように質問攻めしてもいいかもしれません。

●第二章
 元アリスのオウガが出現します。絶望の扉へとたどり着くと現れます。彼の絶望を和らげる鍵は花です。
 第一章でおしゃべり花達が語るアリスの時の彼の話を踏まえた上で、花を散らさず、花を踏み荒らさずに戦うことで絶望を和らげ、第三章で現れるオウガの揺り籠内のオウガの数を減らす事ができます。

●第三章
 オウガの揺り籠より溢れるオウガたちとの集団戦になります。オウガの群れですので、個体の数は尋常ではありません。第二章での元アリスのオウガの絶望を和らげておけば、数は減らすことができます。
 大半を逃がす、ということはなくなるはずです。
 崩壊する国の中で戦うため、積極的な攻勢が必要となるでしょう。

 それでは、美しき地獄たるアリスラビリンスでの、猟兵の戦いを綴る一片となれますように、いっぱいがんばります!
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第1章 冒険 『花語る回廊』

POW   :    話を聞かないように突っ切る

SPD   :    花に負けないくらい話す

WIZ   :    花が満足するまで話を聞く

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そこは絶望溢れる国。
 花に歯列の浮いた、おしゃべり花たちは一斉に狂ったように言葉を紡ぐ。
 来た!来た!来た!新しいお客さんが来た!
 それは喜ぶようでもあり、悲しむようでもあり……ただ、喋り続ける。
 かつての彼がそうしてくれたように、花々は一斉に語りかける。

「どうする?何する?」
「あっちに扉があるよ!嘘!ないよ!」
「こっちこっち!こっちのほうだよ!」
「どこにないよ!どこにもあるよ!どこにでも!」
「ねぇ、お話しよう!少しだけ!たくさん少しだけお話お話!」

 耳をつんざくような、おしゃべり花たちの声!声!声!
 猟兵たちが探すのは、絶望の扉。オウガの揺り籠を秘めし扉……!
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 午睡に誘う茉莉花香】
ーーーええ、ええ。お話、しましょうか。『礼儀作法、コミュ力、空中浮遊』でフワフワと浮きながら、花の話に耳を傾けます。……私はあまり多弁な性ではありませんので、どちらかといえば聞き役の方が得意ですけれど…。そうね、別の世界ですと、季節は春になって桜も咲き始めていますね。私の庭も、いろんな子たちが咲き始めて、冬を越えて色彩が増えてきましたね…。
かつて、依頼の結果で手に入れた杖『ライトスタッフ』で、花々が望むならば雨を降らせたり、そよ風を吹かせたりしましょう。……道を教えて頂けると助かるのは確かだけれど…無理には聞かないわ。私の行動は、貴方たちの友人を傷つけることだもの



 絶望の国にあっても尚、花は咲き乱れる。花には絶望も希望もないのかと問われれば、それは難しい問題であると考えることだろう。
 だが、花には言葉がある。愛も希望も、夢も、儚さも。そして、絶望もまた。
 その花の名に込められた思いと言葉は人によって意味成されたものであるがゆえに、人の心を慰めるのだ。
 おしゃべり花たちは見上げる。

「飛んでる!沈んでいる!」
「ふわふわ!ずんずん!」
「お名前は!なあに!」
 次々と溢れ出てくる言葉。まるでシャワーのように降り注ぐ言葉に彼女は優しげな微笑みとともに応える。

「ーーーええ、ええ。お話、しましょうか」
 アリソン・リンドベルイ(貪婪なる植物相・f21599)は、軽やかに空中に浮かぶ。オラトリオである純白の翼は、まさに天使そのもの。
 愛想の良い愛らしさ。愛嬌と言ってもいいだろう。温順な雰囲気は、柔和な言葉となっておしゃべり花たちの上に降り注ぐ。

「私はアリソン・リンドベルイ。以後お見知りおきを。私はあまり多弁な性ではありませんので……聞き役になってしまいますが」
 彼女の淑女然とした立ち振舞は、おしゃべり花たちの陽気さを更に増すことになる。次々と語られる言葉。
 どこから来たの?どこへ行くの?何をしに行くの?帰り道は分かる?扉は、扉はあっちだよ!
 支離滅裂ながら、あちらこちらから飛んでくる言葉の渦。アリソンは静かに、けれど、確かにうなずきを返していく。彼女の柔らかな雰囲気は、いるだけで場を和ませることだろう。

「お話聞かせて!聞いてもらったから、聞きたい!」
「そうね、別の世界ですと、季節は春になって桜も咲き始めて居ますね。私の庭も、いろんな子達が咲き始めて、冬を越えて色彩が増えてきましたね……」
 彼女の言葉は、花たちに個としての個性を見出していることは明白だった。
 故におしゃべり花たちは、上機嫌になる。よかった!優しい子!お花が好きな優しい子がまた一人着てくれた!
 
 アリソンはそれからどれだけの時間、彼らの言葉に耳を傾けていただろうか。常人であれば、辟易してしまって足早に立ち去ることも想像できる。だが、アリソンはそれをよしとしなかった。
 おしゃべり花が望めば、彼女の杖から雨を降らせたり、そよ風を吹かせたりした。歓声があがる。こんなに喜んだのは久しぶりだというように花々はみずみずしい輝きを放つようでもあった。
「やはり、水と風、それに大地があれば花は咲き誇るのですね……良き方が世話をしてくださったのでしょう」
「そう!でも、もう居ない。此処には居ない。あっちに行ったよ!あっち!間違えたらダメだよ、あっちだよ!」
 おしゃべり花たちの口が一斉にある方角を示す。あっち!あっち!と一斉に。

「……」
 アリソンは彼らになんと言えばいいかわからなかった。彼女の行動は、きっとおしゃべり花の友人を傷つけることだから。だから、何も言えなかった。視線を向ける。
 あっち、という方角には、きっと絶望の扉がある。

「ありがとう!ありがとう!とてもいっぱいありがとう!優しい子!」
「お願い!どうかどうか、此処には居ない誰かを!」

 終わらせて、と花たちは一斉に語る。
 その言葉を背にアリソンは天使の羽を広げて、絶望の扉へと向かう。
 そこにあるのは絶望だけだと知りながら、その絶望を少しでも拭いたい。その優しさにおしゃべり花たちは、感謝の言葉を投げかけ続けるのだ。

「―――ありがとう!」

成功 🔵​🔵​🔴​

城野・いばら
*WIZ
あら、お喋りならいばらも負けないわ
今はアリスと同じ容をしているけど、いばらはシロバラ
皆の気持ちわかるの
アリス達の話はいつも不思議でいっぱい
だから沢山、聞きたくて話したくなるね

皆はもちろん
葉に隠れた虫さん達も傷付けないように
日傘の風に乗って空中浮遊
ご機嫌よう、お花さん達
いばらもお話にまぜてくださいな

この国のお日様加減はいかがかしら
土はふかふか?お水は、栄養は足りている?
お話を聞きながら、この体で出来る事をお手伝い
お歌を歌うの良いわね
お城のお庭にいた頃はこうしてよく遊んだの
上手く言葉に出来ない想いは、音にのせてアリスに届けよう

…アリスが、皆が困っているなら
いばら、力になりたいわ
ね、聞かせて



 おしゃべり花は、しゃべるのが大好きである。どんなことでも話したがるし、どんなことでも真逆のことを言いたがる。
 真実は嘘に、嘘は真実に。真実は真実に、嘘は嘘に。支離滅裂な言葉はあまりにもとっちらかっていて、正しく理解することなど不可能だったのかも知れな。
 しかし、ここは絶望の国。
 かつては「自分の扉」だった「絶望の扉」のための国。ここで何があったのか、アリスがオウガに成り果てるには何があったのか。果てなき絶望の後に訪れたのか、それとも。

ふわり、ふわりと風に漂うタンデライオンの種子のように、日傘が風を受けて浮かぶままに城野・いばら(茨姫・f20406)は絶望の国へとやってきた。
「ふわふわ!たんぽぽの綿毛!」
「とぼとぼやってきた!」
「アリスなようでそうでないようなアリスの、愉快な仲間!」
 おしゃべり花たちの声は大合唱のように彼女を迎えた。あら、と優しく微笑むのは、何故だろうか。
「お喋りなら、いばらも負けないわ。今はアリスと同じ容をしているけど、いばらはシロバラ」
「シロバラいばら!」
「ばらばらいばら!ばらばらにならないいばら!」

 まずは自己紹介、ごきげんようお花さんたち。いばらにもお話に混ぜてくださいな。いばらが日傘を指したまま空中で優雅に頭を下げる。おしゃべり花たちはいよいよ持って、盛大に喋り始める。
「いいとも!」
「だめだとも!」
「ふふ……この国のお日様加減はいかがかしら。土はふかふか?お水は、栄養は足りている?」
 彼女の心配りは、一斉におしゃべり花たちを花開かせるようにして解きほぐしていく。どうしようもない絶望の国だというのに、ここだけ一斉に華やいだような気配すらする。
 もはや何もかもが手遅れではあるが、彼女の言葉は確かに、目には見えない傷を癒やすようだった。

「お歌を謳いましょう。お城のお庭にいた頃は、こうしてよく遊んだの。さあ、みんなも一緒に歌いましょう」
 いばらの歌が絶望の国へと響く。その歌はもはや、この国では絶対に聞けないものだとばかり思っていたものだから、おしゃべり花たちは、喉が枯れそうなくらいに謳う。謳う。謳うことができることは尊いのだと。
 いばらもまた同じであったことだろう。うまく言葉に出来ない想い。伝えたいと願っても、言葉に乗せるのが難しい想い。歌ならば、それはアリスにも届くだろう。
 きっとそれは、どこかの誰か。いつかの誰かの絶望を和らげることにも繋がることだろう。

「……アリスが、皆が困っているなら。いばら、力になりたいわ。ね、聞かせて」
 それは溢れ出る想いから来る言葉。
 おしゃべり花たちが一斉に言葉を紡ぐ。それは叫ぶようでもあり、嘆くようでもあり。

「アリスは居たけどもう居ない。居るけれど居ない。困っているけど、困ることができない!」
「だって絶望がいっぱい。希望いっぱい!涙が溢れても、涙は枯れてしまうから!」
「絶望の扉の奥にはもっといっぱいの絶望がひしめいている!すっからかんなのに、いっぱいいっぱい!」

 ―――だから、もうアリスではない、オウガを。もう困ることも出来ないオウガを。どうかもう困らなくて済むように。

「……」
 いばらは上手く思いを言葉に出来なかった。
 だから歌った。その歌は絶望の国に響き渡る。おしゃべり花たちの声を背にいばらは絶望の扉へと進む。

「―――ありがとう!」

成功 🔵​🔵​🔴​

ティレア・エウドーレ
あら、綺麗ですね。
気負わず足を踏み入れます。ただの花園を訪れた少女のように、涼やかに。

花共に、心の欠片はあるのでしょうか。それとも――知った言葉を、望んだ言葉を、でたらめに繰り返しているだけの存在か。
興味深いです。己も人を模倣する、人ならざるものなれば。

泰然自若として、軽やかに歩む。
時に話しかけ、話を聴き、情報を手繰ります。万一、勘の良いのがいても、花を楽しみに来ただけと「言いくるめ」しましょうか。あながち間違いでもありませんし。

ここに優しい陽の光はあるのかしら。花に水を与える者はいるのかしら。
探りを入れる時は、無垢な笑顔で。
――あなたたちに言葉を与えたのは、どんなひと?
(WIZ)アドリブ歓迎



 絶望の最中にある国であれど、その青い瞳に映る一面の花園は美しく見えたことだろう。その姿は少女。ただの花園を訪れた少女のように、涼やかに進む足。
 ただ表面をなぞるように見やる国は、とても絶望の国とは思えなかった。
 だが、事実として、確実に嘗ての「自分の扉」である「絶望の扉」は存在するのである。そして、この国に迷い込んだアリスであったオウガもまた存在する。
 興味深い。ただそれだけの感情。
 ティレア・エウドーレ(星のあわいを渉る者・f25638)は、ゆっくりと花園を歩く。

「乳白色のふんわりふわわ!ずっしり中身は詰まってる!」
「緑の神が花を彩ってる!暗くて吸い込まれそう!」
 おしゃべり花たちの声が一斉に咲き乱れるようにして、ティレアへと投げ込まれる。支離滅裂な言葉。意味があるようで意味のない言葉の羅列。
 相反する言葉はワンセットのように洪水じみた彼らの声が反響するのをティレアはどう思っただろうか。
 泰然自若として彼女は思う。花共に、心の破片はあるのかと。それとも、知った言葉を、望んだ言葉をデタラメに繰り返しているだけの存在なのだろうかと。
 答えはでない。だが興味深い。自身もまた人を模倣する、人ならざるものなればこそ。

「ここに優しい陽の光はあるのかしら」
 無垢な笑顔が浮かぶ。おしゃべり花たちは絶えず言葉を紡ぐ。何度も何度も同じことを言ったかと思えば、まったく見当違いなことを言う花もある。
 共通性があるようでいてバラバラ。まるでカオスの渦のような。
「優しいけれど、強い日差し!」
「怖いけれど、弱い日差し!」
「怖いと優しいとが一緒になってる!」
 時に話しかけ、話を聞き、おしゃべり花たちの言葉を集めていく。時折、ティレアの行動に訝しむような言葉をかける花もあったが、それすらも意味のない言葉のように思えてしまうだろう。

「花に水を与える者はいるのかしら?」
 水を与える者となれば、最早此処に存在しているのは、花とオウガのみ。その可能性があるとすれば、オウガだけだろう。だが、それが為せる存在とは思えない。
「前は居たけど、今は居ない」
「此処には居るけれど、もう居ない」
「明日は来ると言ったけど、昨日から来た」
 おしゃべり花たちの声は、徐々に確信に至るような言葉に収束していく。探りを入れては居たものの、ティレアが言葉を聞き、引き出していく内に見えてくるものはある。
 そして、彼女は最後の質問。最後の会話のきっかけを、その唇から紡ぐ。

「―――あなたたちに言葉を与えたのは、どんなひと?」

 あれだけ騒々しかった、おしゃべり花たちが一瞬押し黙る。あまりの静けさ。時が泊まったのかと思うほどの空白。おしゃべり花たちの口が同じ方向を向く。
 その先にあるのは、きっと「絶望の扉」。ティレアが目指すべき、この国の「絶望の扉」であり、かつてアリスであったオウガのいる場所である。
 そして、ぽつりと。本当にぽつりと、おしゃべり花たちは一言だけつぶやく。

「―――天災のような人」

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・クールー
WIZ

こんにちは、賑やかな花々。わたくしは扉を探しに来ました
はい、アリスの元へ行きます。ええ、徒歩になりますね
もちろん、貴方達を踏みはしませんよ。お話をしましょう、わたくしも話すことが大好きですから

好きなものはなんですか?では、苦手なものも教えてください
わたくしは……花に限定するなら、藤が好きですね。苦手なものは極彩色でしょうか。目が疲れてしまうものですから
貴方たちの友人も、おしゃべりが好きだったのでしょうか。もしそうであれば、わたくしも仲良くできますね
……その友人は、何が好きでしたか?そして、何が嫌いでしたか?



 おしゃべり花たちの咲き乱れる花園は、いつまで立っても風景が変わらない。朝と夜のない昼間だけの国。
 常に花は咲き続ける。変わらない平坦な時間。けれど、この国に訪れる物があれば違う。だからこそ、おしゃべり花たちは一斉に喋り始めるのだ。
「どうしてここにきたの?ここから出ていくの?」
「ここから先はなんにも無いよ。扉があるよ!」
「行く宛があるなら、ここにずっといなよ!」
 次々に語りかけてくる、おしゃべり花たちに微笑みで持って応えるのは、マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)。

「こんにちは、賑やかな花々。わたくしは扉を探しに来ました」
 花を踏まないようにそっと歩いてきたのだとマグダレナは言う。おしゃべり花たちは次々と支離滅裂な言葉を紡いでいく。
 その意味をまともに解することは不可能に思えたかも知れないし、ずっと聞き続けていれば気が狂いそうになるほどであった。ただ、それが常人であったのであればの話ではあるが。
「はい、アリスの元へ行きます。もちろん、貴方達を踏みはしませんよ。お話をしましょう、わたしくしも話すことが大好きですから」
 おしゃべり花たちは、その言葉にいよいよ持って盛大に言葉のシャワーをマグダレナに浴びせ続ける。
 彼女の言うアリス、つまりは元アリス。この国に「自分の扉」のあった現オウガ。もはや「自分の扉」はなく「絶望の扉」しか存在しないことは疑いようがない。
 だが、おしゃべり花達はどうだろう。愉快な仲間たちのまま、咲き誇っている。

「好きなものはなんですか?」
「月!星!夕焼け、朝焼け!」
「なるほど……わたくしは……花に限定するなら、藤が好きですね」
 彼女の言葉はゆっくりとだが確実に、おしゃべり花たちの注目を集め始めていた。はじめは一つ二つの花々だったものが、徐々に和を広げるように多くなっていくのだ。

「では、苦手なものも教えて下さい。私が苦手なものは極彩色でしょうか。目が疲れてしまうものですから」
「虹に暑さに寒さ!みんなみんなぜんぶ!」
 気がつけば、マグダレナの周囲には、おしゃべり花たちの口が向いている。一斉に喋りだす支離滅裂な言葉は相変わらずだが、合唱するように声が揃ってきているようであった。
 奇妙でありながらも、どこか整然としたおしゃべり花たち。そして、マグダレナは決定的な質問を投げかける。
 それはおしゃべり花たちにとっては、唯一のもの。

「貴方達友人も、おしゃべりが好きだったのでしょうか。もしそうであれば、わたくしも仲良く出来ますね」
 その言葉に、花々は一斉に声を揃える。それだけはないのだと。絶対にないのだと。そうなってはならないのだと。仲良くしてはダメなのだと。
「できない!できない!やってはならないこと!できないことはやっていけないこと!」
 マグダレナは、一瞬考える。きっと元アリスのオウガのことを言っている。ならば、おしゃべり花たちもわかっているのだ。あの元アリスはもう元には戻れない。それは絶対。だからこそ―――。

「……その友人は、何が好きでしたか?そして、何が嫌いでしたか?」
「嫌いなものは、花を散らすもの!踏みつける者!荒らす者!」
「好きなものは、わたしたち!―――来る。天災が来る!」

 マグダレナの方を向いていた、おしゃべり花たちが一斉にある方向を見る。全てが一様に、ある方角……つまり、「絶望の扉」のある方角を示す。
 そう、来る。天災のようなあの者が来るのだ。
 そして、一斉に叫ぶように、嘆くように、願うように、おしゃべり花たち言葉を発する。

「―――此処にはもう居ないあの人を、どうか此処ではないどこかに!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
踏んじゃダメ?そう言う器用なことは苦手なんだよなー。
という訳で、複数の妖精ロボを呼び出してそれに運んで行って貰うか。
飛んでれば踏むことも無いし。

別にさ。特に話す事なんて無いのだけれど。
ボクはこの国を壊しに来たのだし、
その喋る花を愛した人を殺しに行くのだし。
はー……面倒だなー。

・・・・・。
アリスは優しかったの?
アリスは笑えていた?
アリスは今でもあなた達を愛しているの?

花のルールがいまだある感情のルールなのか
それともただの機能としてのルールなのか
まぁどちらにせよ、愛していたのなら…

私は『アリス』を殺しに行くから、
だから変わっていたとしても弔いの花にはなってやってね。



 絶望の国の花園は、彼女の瞳はどう映っただろうか。
 朝と夜のない昼だけの国。おしゃべり花たち以外の愉快な仲間たちの姿は見えない。それが、この絶望の国の姿なのだろうか。それにしても「絶望の国」と呼ぶには、些か賑やかすぎないかと思ってしまうほどに、場違いな気分になってしまっただろうか。

 踏んではダメなのかという、そういう器用なことが苦手なのだと嘆息するのは、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)だった。彼女はユユーベルコード、自律式妖精型偵察ロボ (スティールフェアリーズ)によって呼び出した複数の妖精ロボに運んでもらうことにしたのだ。
 彼女を抱えるようにして飛んでいれば、彼女自身が花を踏むことはない。

「飛んでる!飛んでないのに、飛んでる!」
「羽根が無いのに羽根があるみたいに!」
「お大臣様!お姫様!女王様!王様!」
 支離滅裂な言葉をつぐむ、おしゃべり花たちの言葉がライアに投げかけられる。特に話すことなんてないのだけれど、とライアは思う。
 そもそもこの国を壊しに来たのだし。元アリスのオウガ……つまりは、この花々を愛した人を殺しに行くわけであるし。
 そうなると一層彼らと話すことなどないのではないだろうか。面倒だと感じてしまう。
 だが、面倒を面倒のままに終わらせられないのが彼女という人間だったのだろう。
 ただ「絶望の扉」を探すだけだというのなら、言葉をかわす必要はない。空を飛んでいるのは、さっさと扉を探すための効率である。
 では何故花を踏まないという選択をしたのか。その答えは彼女の中にだけあるものであって、他者の言葉から知るべきものではないのだ。

「……アリスは優しかった?アリスは笑えていた?アリスは今でもあなた達を愛しているの?」
 ライアの言葉は跳ね返るように、おしゃべり花たちへと降り注ぐ。
 花のルールが未だある感情のルールなのか。それともただの昨日としてのルールなのか。どちらにせよ……それがわかるのは、今ではない。
 おしゃべり花たちの口が一斉に開く。

「優しかったし厳しかった!降り注ぐ太陽の光に時折強く吹く風もまた必要なものだと言っていた!」
「笑っていなかったけど、笑っていた!笑顔の作り方がわからないけど、そんなことはない!」
「愛していたけど、愛してる!今も過去も!未来だけがない!」

 おしゃべり花たちの言葉は、正しく元アリスのことを語っているのか判別が付かない。けれど、そこにあるのは、花々と元アリスの交流の結果。
 おしゃべり花たちは一斉に言葉を紡ぐ。お願い!お願い!お願い!叶うのならば!と。

「どうか!優しくて厳しかった!冷たいけれど暖かった!此処にはもう居ない過去からのあの人を!どうか此処ではないどこかに返してあげて!拭えない絶望があっても希望は陰らないから!」
 その言葉は、おしゃべり花の願いか。それとも最早何者でもないオウガたるアリスの願いか。
 それを正しく理解できると思うは傲慢かも知れないと、ライアは応える。

「私は『アリス』を殺しに行くから、だから……変わっていたとしても弔いの花にはなってやってね」
 その言葉だけで十分だというようにおしゃべり花たちが一斉に、ある方角を示す。
 きっとその方角にあるのだろう―――「絶望の扉」が。オウガが。

「―――此処にはもう居ない、あの人ではないあの人をどうか!」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『断罪執行人』

POW   :    斬首刑、執行
【大鎌】が命中した対象を切断する。
SPD   :    対象、捕縛
【有刺鉄線】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    酸雨、放射
【強酸性の血雨】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:こがみ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 絶望が希望を塗り替えるというのであれば、希望は絶望を拭うに値するのだろうか。
 その答えを持つ者は多くはないだろう。どちらにしても、目の前に現れたるオウガには意味のない言葉。
 もっと理解から遠い言葉である。

 ゆらり、と不安定な体が揺らめくようにして猟兵達の前に立つ。
「理由になってない」
 何が、と問うことはきっと無意味なのだろう。絶望に染まる理由。何もかもが、断罪執行人にとっては理由足り得ない。
 花を愛した断罪執行人。天災のような人と、おしゃべり花たちは言った。善も悪も、良いものも悪いものも、目の前にあるという理由だけでなぎ払っていく。
 きっと目の前にいるのが猟兵でなくとも、きっとその大鎌を振るったことだろう。

 目の前にいた、ただそれだけが理由。

 その有様に何かを思うことが感傷でしか無いというのなら、絶望を拭うのでなく和らげるのは一体何か。
 彼の愛した花。
 それを散らさぬこと。何もかもが手遅れだというのなら、最後に残った愛だけが、彼の絶望を和らげるたった一つ―――。
ティレア・エウドーレ
絶望とは何かしら? かなわぬ希望の灯を手放せない苦しみを、人は絶望と呼ぶこともある。うふふ、それなら面白いのに。
天災。お前はもう手遅れね。

濃い霧雨を現出させ、大鎌の切っ先を惑わそうと試み。
花を散らしては興醒めですから、戦うならできるだけ至近距離へ。
攻撃にはオーラ防御で応じたい所ですが、この身が傷ついても気には留めません。

隙があれば敵に肉薄し、少女の手でそっと触れるように。
対話は期待しない。翡翠色に輝く触手を顕して一切容赦のない《串刺し》を。
嘲るような、どこか慈しむような笑顔で。

思いの形骸ばかりが、ここに残っているのですか。
花とともに、お前の姿も愛でましょう。
希望の果てにその有様があるのなら。



 希望に意味があるのだとしたら、絶望とは無意味か。この世界の全てが表裏一体だとすれば、希望と絶望は背中合わせの表裏一体。
 希望は絶望に転じ、絶望は希望への灯火となることもある。だが、今目の前にしている断罪執行人は何もかもが遅すぎた。
 たった一つの想いしか抱けなかったというのなら、それが彼の災難である。世界に遍くあるものの中から、たった一つを見つけ出したとも、たった一つしか見つけだっせなかったとも言えよう。

「絶望とは何かしら?叶わぬ希望の灯を手放せない苦しみを、人は絶望と呼ぶこともある。うふふ、それなら面白いのに」
 人ならざる身である彼女―――ティレア・エウドーレ(星のあわいを渉る者・f25638)は、断罪執行人の前に立つ。
 目の前に立った。ただそれだけが大鎌を振るう理由だと言わんばかりに振り上げられる。油をささなかった機械のように、ぎこちなく、ゆっくりとした動作。
 あまりにも遅い動き。鈍すぎる。

「天災。お前はもう手遅れね」
 ティレアの言葉が、あまりにも遅すぎた彼への手向け。それは慰めでもなければ、訴えるものでもない。ただの事実。そこにどのような感情を秘めているのかは、ティレアしか知る由もないこと。
「―――理由になってない」
 言葉が返ってくる。手遅れであろうと、そうでなかろうと今、目の前に立つという事実だけが大鎌を振るうに値する理由であると上段に構えた大鎌が振るわれる。
 空を切る音。

 だが、その切っ先はティレアを捉えることができなかった。
 彼女のユーベルコード、エレメンタル・ファンタジアによって生み出された濃い霧雨が大鎌の切っ先を惑わす。断罪執行人に視界があるのかどうかはわからない。確実にティレアと断罪執行人、彼我の距離を歪ませるには十分なものだった。

「花を散らせるのは興醒めですから……―――」
 ティレアが距離を詰める。花は散らない。お互いが動くたびに草花が揺れるだけ。それはまるでワルツを踊るような、そんな不思議な光景だっただろう。
 激しく動いているようで、ゆっくりとしたような動き。
 ティレアと断罪執行人の攻防は、あまりにもあっけなく終わる。ワルツは終わるのだ。物別れになるように、手を離すように、幕切れはあるのだ。

「思いの形骸ばかりが、此処に残っているのですか―――」
 ティレアは言う。嘲るような、どこか慈しむような笑顔。その笑顔の意味を真に解するには人の身はあまりにも脆弱すぎたことだろう。
 そっと断罪執行人の体に触れる手。優しく、慈母のような手付き。だが、翡翠色の輝く触手が一瞬で顕れ一撃のもとに、その体を貫く。
 血の一滴すらでない。彼女の言葉の通り、形骸そのもの。中はがらんどう。

「花とともに、お前の姿も愛でましょう―――」
 触手が、がらんどうの体の中をかき回す。そこに確かにあったであろう、絶望をかき乱す。ガクガク震える断罪執行人の体。
 その触手の動きは、きっと愛でているのだろう。彼の絶望も希望も、何もかも。
 そのまま触手が断罪執行人の体を放り投げる。花の上には投げつけない。花のない地面へと叩きつけられる断罪執行人が、ギシギシと音を立てながら立ち上がろうとする。だが、しばらくは立てまい。

「―――希望の果てにそのさまがあるのなら」
 希望と絶望が表裏一体だとすれば、きっとただ一周回っただけ。ならば、絶望の中をあるき続けたのであれば、あるいは……
 絶望を和らげる愛がそこにはあるのだろう―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリソン・リンドベルイ
【WIZ 庭園迷宮・四季彩の匣】
…これが、私の庭。四季折々の花の迷宮、季節と時間を閉じ込めた停滞の匣。『覚悟、空中浮遊、時間稼ぎ』で、迷路に閉じ込めます。出口は一つ、答えは一つです。ヘデラの緑蔓と緑指の杖を開放し、外に出すまいと蔓を絡みつかせて妨害。正面から戦う技量が私にはありませんから、かくれんぼや追いかけっこのように迷路で相手を惑わせます。
ーーーそれでも、貴方に此処を出る理由があるのならば、私を斬りなさい。微睡むように、揺蕩うように、このまま花に包まれて泡沫に消えるならば…私が貴方を看取ります。それを否と言うのなら…私を斬って外へ出るといいわ。私の庭を壊して、私の育てた花を踏み越えなさい。



 ギチギチと音が花園に響く。
 その音は断罪執行人の関節から聞こえてくる。油をさしていないかのような軋んだ音。それは絶望故に軋んだ心の音か。
 がらんどうの体は、軋む音を反響させて空へ吐き出される。何故に絶望しなければならなかったのか。花がありながら、何故。
 その問いに答える者はいない。もう此処には居ないのだ。それを悲しいと思うのか、それとも哀れと思うのか。
アリソン・リンドベルイ(貪婪なる植物相・f21599)は、ふわりと宙に浮く。彼の花を傷つけまいと、散らすまいと。

 断罪執行人は穴の空いた体から、強酸性の血の雨を吐き出そうとする。
 だが、なぜか動きが止まる。その予備動作は、確実に攻撃の動作のはず。それなのに何かに抗うように足を止め、攻撃してこない。何故?と問うには、もう答えは明らかたであったことだろう。

 酸の雨が降れば、この花園は枯れ果てる。

「……正面から戦う技量が私にはりませんから……」
 そっとアリソンがつぶやく。断罪執行人の足が進む。酸が使えぬのならば、その手にした大鎌で。
「理由になってない」
 それは何を示して、そういうのか。彼の前に立ちふさがって尚、その生命を刈り取られない理由は、戦う技量に関係ないと。そうであるのかわからない。
 ただの自動機械のように言葉を繰り返しただけか。

 庭園迷宮・四季彩の匣(メイズガーデン・フラワーボックス)。アリソンのユーベルコードが発動する。
 戦場となった花園の光景が変わる。四季折々の花々で満ちた廃墟……その迷図へと世界を書き換えるアリソンのユーベルコードだ。

「出口は一つ、答えは一つです」
 そう、彼女のユーベルコードによって作れらた迷宮の出口はたった一つしかない。そして、彼女の手にした緑指の杖が、ヘデラの緑蔓のほどかれた封印の力を増幅する。
 ぎゅる、と音がしたかと思えば、断罪執行人の手足が絡んだヘデラの緑蔓によって封じられる。ぎち、ぎち、とまた音がする。もがぎ、歩を進めようとするも、まるで進まない。
 アリソンの力もあるのだろうが、それにしたとしても……あまりにも弱すぎる。

「貴方には此処に居てもらうの……貴方はもう十分のはず。此処に居ないのであれば、此処からどこかに行く理由もないはず」
 アリソンの静かな声にも反応しない断罪執行人。ただ、ただ、緑蔓と体が軋む音が響く。行かねばならない。何処へ。もう此処は絶望の国であるというのに、これよりも絶望へと進もうと言うのか。

「ーーーそれでも、貴方に此処を出る理由があるのならば、私を斬りなさい。微睡むように、揺蕩うように、このまま花に包まれて泡沫に消えるならば…私が貴方を看取ります」
 嗚呼。それでも。彼の足は止まらないのか、がらんどうの体がひび割れていく。捕まえていた緑蔓が引きちぎれる。だが、即座にまた足に絡みつき、動きを止める。
 それ以上絶望する必要はないはずなのに。

「それを否と言うのなら…私を斬って外へ出るといいわ。私の庭を壊して、私の育てた花を踏み越えなさい」
 足が止まる。
 花は踏めない。踏み潰すことなどできない。彼女の花と、彼の花。どこにも違いはない。花は花。ただ在るが儘に在ればいい。

 アリソンのユーベルコード……庭園迷宮・四季彩の匣(メイズガーデン・フラワーボックス)の効果が途切れるその時まで、断罪執行人の足は止まったまま……

 揺蕩うような微睡みが絶望を拭い去ることはできないだろう。
 だが、アリソンの心が絶望に塗れた心を和らげることはあったであろう。

 彼女の庭が。彼女の花が。自分ではない誰かの心を配った花園が、自分ではない、此処にはもう居ない誰かの心をきっと救ったのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・クールー
こんにちは、厳粛なオウガ
貴方にはたくさんの友人がいたのですね。誰しもが貴方のことを思っていましたよ

リィー、ルールを確認しましょう
《フマナイ、ツマナイ、チラナイニ》
そうです。貴方はわたくしを追跡して次の動きを予測し、足場を確保してください
酸雨は旗布で防ぎますが、もし花にかかるものならば、身は捨てて旗布を覆いかぶせましょう

《オウガ、オイシイ!アリス、オイシクナイ……ソウサイニ?!》
きっと苦い味。苦しい味です
ですが、わたくしはオウガの肉を食いちぎり、アリスの骨を噛まねばならないのです
《ハーフサイズカ?》
そうですね、オウガがオウガを。アリスがアリスを
理に適っていると思いませんか、暖かだったアリス



 ギチ、ギチ、と関節が軋む音が聞こえる。
 がらんどうの心は何を見ているのか。絶望は消えない。一度染まってしまったものは、二度と戻らない。絶望を和らげることができたとしても、絶望は消えない。
 だからといって、絶望を拭うことをやめることはきっと彼らは……猟兵たちはしなかっただろう。何のために世界に選ばれたのか。その理由を彼らは、彼女はきっと知っているから。

「こんにちは、厳粛なオウガ」
 マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)が断罪執行人の前に立つ。だが、断罪執行人は、ただ顔を向けただけ。何も答えない。
 もとより答えが返ってくることを期待したわけではない。
 ただ、言わずにはいられなかっただのろう。もう此処には居ない誰か。その残滓とも言うべき姿になってしまった彼に。
「貴方にはたくさんの友人がいたのです。誰しもが貴方のことを思っていましたよ」
 そうおしゃべり花たちは一様に言っていたのだ。マグダレナは、それを知っている。だからこそ、言葉を掛けねばならない。それが徒労に終わることだとわかっていても。返ってくる言葉を知っていたとしても。
「理由になってない」
 そう、その言葉が返ってくることは知っていた。だからこそ、マグダレナは成さねばならない。

「リィー、ルールを確認しましょう」
 彼女のユーベルコード、冥冥デカダンス(シーミンフゥーディエ)。
 彼女の視界を支配するオウガ、リィー・アルを呼び出したのだ。だが、その姿は観測できない。きっと視界を支配する彼女の瞳にしかわからないのだろう。
《フマナイ、ツマナイ、チラナイニ》
 声が返ってくる。うなずきを返す。ただそれだけでよかった。
 目の前の断罪執行人の頭がカタカタ揺れだす。攻撃の予備動作だ。今までであれば、強酸性の血雨を放つことはなかった。なぜなら花を枯らせてしまうから。
 だが、もはや、そのがらんどうの体と心は絶望に染まりきっている。もう何もわからないのかもしれない。
 ド―――バ、と空いた穴から血の雨が降る。

 同時に駆けていたマグダレナの旗布が血雨の拡散を防ぐ。だが、それでも覆いきれない。ならばと旗布で覆う。自身は無防備になるも、それは問題ではないというように強酸性の血雨がマグダレナに降り注ぐ。
 皮膚を焼く匂いと音。鼻を抑えたくなるほどの匂い。これが絶望の匂い。

 きっと彼女の行動は理に適っていないと言えなかっただろう。他の誰かが見たのであれば、そう言ったかも知れない。
 だが、マグダレナ自身は違う。これがもっとも理に適っているのだ。
 あのおしゃべり花たちを見ていればわかるのだ。どうして自身がこのような行動にいたったのか。
 これから自身が何を成さねばならないのか。

《オウガ、オイシイ!アリス、オイシクナイ……ソウサイニ?!》
「きっと苦い味。苦しい味です。ですが、わたくしはオウガの肉を食いちぎり、アリスの骨を噛まねばならないのです」
《ハーフサイズカ?》
 リィー・アルの声が嫌に響く。マグダレナの決意は消して花を散らさない。何もかもが不利な条件。けれど、それでもやらなければならない。
 なぜなら―――

「そうですね、オウガがオウガを。アリスがアリスを。理に適っていると思いませんか、暖かだったアリス」
 あの暖かい心を持っていたはずの、もう此処には居ないアリスを。
 その絶望を和らげなければならない。この後に控えるオウガの揺り籠に揺られるオウガの数を減らすだとか、そんな打算は頭の端にもない。
 ただ、ただ、今目の前にいるアリスの残骸を。

 染まった絶望を。

 あの花たちの思いに報いるために―――噛み砕かなければならないのだ。

 絶望が砕ける音が、花園に響いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

城野・いばら
来るのが遅くなってごめんね
いばら、アリスにあいにきたよ
お見送りにきたよ

アリスはいるわ、ここに
アナタ(絶望)と希望が裏表なら
…今度はアナタが眠る番
アナタを生み出す源を、活力を【茨の子守歌】で眠るように誘う
お花はね、花弁のお口だけじゃないのよ
香りでも伝えているの
想いを、意思を
茎を折られるとき、お水を頂くとき
花弁のお顔を貴方に見せたいと蕾開くとき
ね、ね、気付いていた?思い出した?おきて、アリス

皆のお歌、聞こえたかな?届いたかな?
辛かったね。でも、たくさんがんばったね
ぎゅっと抱き締めて、生命力吸収を
傷付けられても平気
過去は変えられないけれど
その絶望、いばらが拭い取ってあげるから
安心して、おかえりなさい



 瞳に映るものだけが真実なのだとすれば、現実の美しさは時に残酷そのものであろう。
 瞳に映るものだけが虚構なのだとすれば、現実の虚しさは時に慈愛に満ちたものであろう。
 そこには残酷さも慈愛も関係ない。ただ瞳をそらさぬ者さえいればいい。諦観は瞳を逸らさせる。瞳が逸らされないと言うのであれば、未だ諦めていないということである。
 彼女の瞳に広がる花園と傷だらけのオウガ……断罪執行人の姿は、どのようなものに見えていただろうか。
 何もかもが絶望に包まれているというのなら。
 何もかもが手遅れだというのなら。
 自分が世界に選ばれた意味とは一体なんなのか―――

「来るのが遅くなってごめんね。いばら、アリスにあいにきたよ」
 城野・いばら(茨姫・f20406)の瞳は、真っ直ぐに断罪執行人を見据えていた。
 傷だらけの姿は痛ましい。痛ましいと思えるほどに彼女の瞳は逸らされていない。
 あのおしゃべり花たちの言葉に従ってたどり着いた「絶望の扉」。きっと此処がアリスの終着点。
 だから―――。
「お見送りにきたよ」

 歌が聞こえる。
 ぎち、ぎち、と断罪執行人の動く音が聞こえる。あまりにもぎこちなく、とろとろとしているのに関節の軋む音だけが虚しく響く。
 体に空いた穴から聞こえてくるのは、がらんどうの音。それはもう此処にはもうアリスは居ないのだと思えるほどの空虚。
 その虚に響くのはいばらの歌。彼女のユーベルコード―――茨の子守歌(イバラノコモリウタ)。
「アリスはいるわ、ここに。アナタと希望が表裏なら……今度はアナタが……絶望が眠る番」
 彼女の歌声はユーベルコード。絶望より湧き出る力を子守唄が眠りへと誘う。
 ぐらつく体。揺れる大鎌の切っ先。
「理由になってない」
 眠る理由にはなっていないのだ。
 なぜなら、今断罪執行人の前に立つのは猟兵である。彼女が望むと望まざるとて、オウガの身には猟兵は本能的に敵であるのだ。
 アリスとオウガが相容れぬ表裏なのだとすれば、オブリビオンと猟兵にとってもそれは同じことである。
 すでに過去になってしまった、もう此処には居ないアリス。

「お花はね、花弁のお口だけじゃないのよ。香りでも伝えているの」
 薔薇の香気が花園に広がる。彼の、此処にはもう居ないアリスの花とは違う香り。漂う薔薇の香りは、自分とは違う他者のもの。
 自分と他人との違いに気がつくのだとそれば、それは一つの慰めであろう。
「想いを、意思を……茎をおられる時、お水をいただく時、花弁のお顔をアナタに見せたいと蕾開くとき……ね、ね、気づいていた?思い出した?」
 何を。
 何を。思うだすというのだ。もうなにもないのに。がらんどうの体は心と同じだと言うのに。大鎌の切っ先が揺れる。その振り下ろす先すらもわからぬまま、振り上げる。
 理由になってない。
「おきて、アリス」

 揺れる大鎌の切っ先が振り下ろされる。何を切り裂こうとしているのかもわからぬまま。いばらが駆け出す。
 それは倒れ込むような断罪執行人を受け止めるため。
「皆のお歌、聞こえたかな?届いたかな?辛かったね。でもたくさんがんばったね?」
 絶望の淵に、絶望の渦中に身を落としたアリスのがらんどうの体は受け止めれば、あまりにも重さを感じられなかったことだろう。
 だが、目に見えるものだけが全てではないのだと知っているのであれば―――!

「―――あなたのがんばってきた想い……こんなにもたくさん、まだ此処にあるのに―――!」
 だから、もう此処にはもう居ないだなんて、ない。あのおしゃべり花たちの顔を思い出す。声を、歌を思い出す。
 いくら傷つけられても平気なのだと、いばらは強く抱きしめる。
 過去は変えられないけれど、その絶望は―――

「いばらが拭い取ってあげるから―――安心して、おかえりなさい」
 
 目に見えぬ何かを拭う歌声が、いばらの唇から。そして、「絶望の扉」よりはるか遠く……いばらの歌を歌うおしゃべり花たちの合唱が届いた。

 きっと、がらんどうの虚に届いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
さぁ、殺してあげる。まだ死んでいないあなたをお墓の下に送る為に…
終わらせる。

花を散らさない方法。花を踏まない方法。
まぁ考えれば簡単な事だよね。
一歩も動かなければいい。
そして一撃で落とせばいい。

地面にしかと立ち、覚悟をもって立つ。
そして相手が攻撃してくるの待つ。
鎌で攻撃してきたら大剣で受け止める。
まぁついでに片腕までなら犠牲にしても大丈夫。

止められたら捨て身の一撃のカウンターで刀で両断する。

理由になってない……か。
それは本当に相手に相手だけに言ってるのか、
それとも世界がこうなった自分にも向けているのか。
まぁいいか。



 それはゆらりと揺れるカカシのようだと、彼女は思ったかも知れない。
 彼女、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)の瞳に映ったのは満身創痍の断罪執行人の姿。
 その姿に憐憫の情を持つのは、傲慢であろうか。
 他者の痛みに苦しむのは、不遜だろうか。
 共有する痛みと苦しみは、自傷と同じなのだろうか。それがなければ、他者と自身との境界すらもわからなくなってしまうというのに。
 人は強くなければ生きていけないだろう。力がなければ、守りたいものも守れない。貫きたい意思も容易く折れてしまう。
 だが、人は優しくなければ生きる資格などないのだ。自分と他者は違うのだと。決定的にわかりあうことのできない存在が隣にあるのだとわからなければ、愛することもできないというのに。

 だからこそ、目の前の断罪執行人を終わらせなければならない。ライアの赤い瞳が見据える。
「さぁ、殺してあげる。まだ死んでいないあなたをお墓の下に送るために……」
 ライアは動かない。
 花こそが彼の、断罪執行人の寄る辺なのだとすれば、絶望に染まる彼の心を和らげるためには花を散らしてはならない。花を踏まない。
 ならば、一歩も動かなければいい。
 だが、それではどうなるだろう。避けるつもりのないライアは、断罪執行人の大鎌にとっては単なる的であろう。
 それでもいい。片腕くらいくれてやってもいい。そう思えるほどの不退転の決意。

「理由になってない」
 がらんどうの体がから響く空虚な言葉。それは一体何に対してだろうか。
 絶望を和らげることに意味はないということだろうか。何もかも諦めているから、もうどうでもいいのに。他者である自分に、此処にはもう居ない誰かに心を配る必要なんて無いのに、と。
 だが、その程度の突き放し方で、離れる者は猟兵にはいない。
「理由になってない……か。それは本当に相手に、私達だけに言っているのか、それとも世界がこうなった自分にも向けているのか」
 どちらにしたって、構わない。
 ライアの瞳が力強く輝いた瞬間、振り上げられた断罪執行人の大鎌が過たずにライアへと振り下ろされる。
 その斬撃はあまりにも拙いものだった。猟兵であれば、避けることなど造作もなかった。
 けれど、その一撃はどうしても受け止めねばならないと思ったのだ。

「―――っ!」
 大鎌と大剣がぶつかる音が響く。重くない斬撃。ただ、振り下ろしただけの斬撃。わかってしまう。
 そう、このオウガは。このかつてアリスであったがらんどうのオウガは―――!
「―――終わらせるっ!」
 剣刃一閃。ライアのユーベルコードが一閃煌めく。
 その一撃は、天頂から地面へ一直線に振り下ろされていた。断罪執行人は両断され、その一撃を持って骸の海へと返される。

 ライアはそれを静かに見送る。最後の大鎌の一撃。あれは攻撃と呼べるものですらなかった。
 ただの理由を作られたに過ぎないのだ。
 そう、断罪執行人自身を骸の海へと返す理由。ライアが剣を振るう理由。その意図に気がついた時、あのおしゃべり花たちは弔いの花になってくれだろうかと、「絶望の扉」より遠いあの場所へと瞳向ける。

 わからない。けれど、答えはきっと出ることだろう―――

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『星屑のわたし達』

POW   :    パ・ド・ドゥをもう一度
【ソロダンスを披露する】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
SPD   :    我らがためのブーケ
いま戦っている対象に有効な【毒を潜ませた美しい花束】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    そして、わたし達は星になる
【星のような煌めきを纏う姿】に変身し、武器「【白銀のナイフ】」の威力増強と、【魔法のトウ・シューズ】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。

イラスト:伊間川九百

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 割れる。割れる。世界が割れる。
 絶望の扉は開かれる。ドロのように溢れ出るのは、星屑。
 キラキラしたものに憧れ、見上げ、流星にも成れずに朽ちていった「わたしたち」。

 最後の最後までアリスは「わたしたち」を閉じ込めておくつもりだったようだけれど、それもおしまい。
 だって終わりは来るから。
 だって希望は潰えるから。

 すべては無意味。「わたしたち」の生に意味がなかったように、彼の人生もまた無意味に塗り替えてあげましょう。
 何もかも絶望という花を咲かせてブーケにしましょう。
 それはきっと「わたしたち」だけの「絶望」―――!


 
 崩落していく絶望の国。絶望の扉より溢れ出るは、オウガの群体!
 あまりにも数が多い。圧倒的な数……となるはずだった。
 死が全ての意味をなくしていくのだとすれば、それは間違いであると猟兵たちは証明した。
 死は意味を無くするものではない。心を無くしたものにこそ、心を配ることこそが、絶望を和らげる方法なのだと。

 グリモア猟兵の見た絶望の数と、今猟兵たちが対峙するオウガの群れの数は一致しない。
 大幅に数を減らしたオウガの揺り籠の中の群体たち。物言わぬ彼の心を、確かに猟兵たちは和らげた証。

 ならば、猟兵達のしたことは無意味でも無価値でもない。

 崩落していく一つの世界。時間は少ない。だが、きっとやれるはずだ―――!
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 愛し﨟たし毒の華】
―――あまり、こういうことは得意ではありませんが。まだ少し、この世界の為にしなくちゃいけないことがありますから、ね。
『毒使い、範囲攻撃』…毒持つ植物の花吹雪で、溢れ出ようとするオウガさんたちを足止めします。そうですね、花は散ります。夜は長いですし、冬の寒さは厳しいです。けれど―――花は散って実を結び、枯葉は積もって土となります。日は昇り、春は来ます。 咲く花は美しいですが、散った花にも意味はありますから…。『オーラ防御、覚悟』で、自分の限界まで戦う心算です……無意味ということはありません。無意味にはさせません。この花に満ちていた世界を踏み荒されたくはありません…!



 空が崩れる。まるで書き割りが引き下ろされるようにして、空の一部分が崩落していく。
 嘗ては「自分の国」であった「絶望の国」が崩壊していく。それは「絶望の扉」の向う側にあるオウガの揺り籠からオウガ群体が溢れ出るということを意味していた。
 泥のように溢れ出るオウガ。
 それはバレリーナのプリマの贋作じみた姿。決してプリマにはなれなかった者たちの残滓。
 星にもなれず、かといって星屑のように流星にも成れず。何者にも成れなかったと嘆きの内に消えていった者たちの集合体。その生に意味はないとうそぶく彼女たちの妄執そのもの。
「さあ、意味あるものを無意味に。生を死に。希望を絶望に。みんな私達と同じにしましょう!」
 叫ぶ。それは慟哭と言ってもよかったのかもしれない。
 持つ者を妬み、嫉み、歪ませることに自分の力を使うことにためらいのない者たちの群体。それが、この国の……花を愛した彼を歪ませた者達の正体。

 空を見上げるのは、アリソン・リンドベルイ(貪婪なる植物相・f21599)。成さねばならないことがある。彼女にはまだ世界を去る理由がなかった。
「―――あまり、こういうことは得意ではありませんが。まだ少し、この世界のためにしなくちゃいけないことがありますから、ね」
 一歩踏み出す。
 あのおしゃべり花たちは言った。どうか此処には居ない誰かを、と。助けを求めるわけではなかった。
 ただ、終わらせてほしかった。彼女はそれに答える言葉を持っていなかったが……だからこそ、今答えなければならないことをしっかりと自覚していた。

「もう終わってしまっている国だというのに、貴方は逃げないのね?とっても強いのね?羨ましい。妬ましい。こんなにも数が違うというのに。勇ましいのね。その強さが、妬ましくて羨ましくて、狂おしいほどに憎い!こんなにも無意味に溢れているというのに!花は尽く私達が散らして枯らすというのに!」
 星屑の私達……オウガの群体たちが一斉に吠える。
 憎い。憎い。憎い。こんな状況になってもまだ、こちらを止めるつもりの猟兵が憎い。

「そうですね、花は散ります。夜は長いですし、冬の寒さは厳しいです。けれど―――花は散って実を結び、枯れ葉は積もって土となります。日は昇り、春は来ます」
 彼女の言葉は淡々と。荒れ狂うオウガ群体たちの言葉とは裏腹な、穏やかささえあった。静かに、けれど確かに。心のうちには暖かさがある。
 あれだけの数の憎しみを向けられようとも、一片の陰りもない。なぜなら、アリソンは知っている。
 あのおしゃべり花たちに注がれていた愛情の深さを。ありがとうと、彼らは最後に言った。この小さな世界が終わることを知っていた。それでもなお、何を憎むでもなく、彼らはアリソンにありがとうと言ったのだ。

 ならば、アリソンの心の内にある暖かさは消えるはずなどない―――!

「……無意味ということはありません。無意味にさせません」
 彼女のユーベルコード、愛し﨟たし毒の華(マイ・フェア・スウィートポイズン)が発動する。彼女の武器が木立朝顔、丸葉藤袴、山月桂樹、水芹の花弁へと姿を変える。
 それはオウガ群体である星屑の私達にとっては忌むべきもの。
 希望を絶望に塗り込めたはずの、嘗ての花々。アリスをオウガに変えた絶望を、アリソンの言葉は強く吹き飛ばす。
 花弁が舞い、偽物の星の輝きに包まれたオウガたちを吹き飛ばす。
 銀の短剣は絡み取られ、トゥシューズはずたずたに切り裂かれる。アリソンのユーベルコードは、多数のオウガたちを足止めする。だが、それだけだ。致命傷にはなっていない。

「わたしたちは塗りつぶす。踏み潰す。意味あるもの、希望あるもの、きれいなもの、すべて。すべてすべてすべて!遍く光り輝くもの全てに失墜を!」
 だが、その慟哭は儚く崩れ落ちていく。アリソンの武器に仕込まれた毒が、彼女たちを蝕んでいく。
 アリソンはまっすぐ見据える。これ以上は進ませない、と。
 これより後には一歩も踏み出させない。なぜなら、これより後には、あのおしゃべり花たちの花園がある。
 例え、この世界が崩落していく運命であったとしても―――

「この花に満ちていた世界を踏み荒らされたくはありません……!」
 彼女の花弁が春の嵐のように吹き荒れ、オウガ群体を押し止める。
 どれだけ足掻いても無駄だと吠えるオウガたち。だが、アリソンには覚悟がある。どれだけ足掻いたとしても、この世界が救えなくても、それでも。
 それでも、彼女の心のうちにある言葉があるかぎり、戦うことは止めない。
 だって、あんなに。

「―――ありがとう!」

 あんなに自分に言葉をくれた者たちを、その小さな背中に背負っているのだから―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・クールー
アリスの人生を、無意味と、いいましたか?塗り替えると、アリスを。オウガが
惑わせて、歪ませて。彼にひどいことをしたくせに、まだ足りないというのですか
ええ、踊りましょう。ともに踊りましょう!!ねえ、アリス!!アリス!!生まれながらにして強者であるオウガに暴力を!!どうか、どうか強者への仕返しを、わたくしとともに!!

《キラキラニ!イルミネーションニ!!》
ええ、ええ。食べ放題ですね!?残骸は一つ残さず腹に収めましょう!喰ってしまいましょう!
《……リュウシンニ!オネガイサンカイカ?》
では、三度願いを唱えましょう!リィー、的を捉えて教えてください!
流星は地表に落ちることなく燃え尽きてしまえば良いのです!



 人生というものに名を与えたのが神だというのならば、意味を失墜させ無意味と成すのは誰か。
 その問いに対する答えを持つのは神ではないだろう。きっと人だけが答えを持っている。
 ―――そう、いつだってそうだ。
 誰かの人生を無意味だと貶めるのは、いつだって人生の主役である者たちではない。誰でもない誰か……他者である。
 強者は常に否定する。他者の生き方を。
 ならば、それに憤るのは弱者の役目であろう。だが、忘れるべきではない。いつだって強者の足元を掬うのは、強者同士ではない。
 見下ろしていた弱者だ。

「無意味。無意味!全部全部無意味!自分が輝くためではなく、人間ですらない!花を輝かせるだなんて無意味だというのに!己のために生きることすらできない何者かが、自分のためにだけ生きる私達の輝きを曇らせるなんて無意味なのです!」
 圧倒的強者が言う。
 我らが論法こそが正義であると。力なき正義は、もはや害悪であると。力あるものこそが正義である。
 ならばこそ、弱者であるアリスは食いつぶされるが必定であるのだと。
「アリスの人生を、無意味と、言いましたか?塗り替えると、アリスを。オウガが」
 静かな声が響き渡る。崩落していく絶望の国。かつては「自分の国」であり、アリスがいた国。
 書き割りが崩れるようにして空が崩れ去っていく。あのおしゃべり花たちは、きっと散ること無く消えていくだろう。

「惑わせて、歪ませて。彼にひどいことをしたくせに、まだ足りないというのですか。ええ、踊りましょう。共に踊りましょう!!ねぇ、アリス!!アリス!!生まれながらにして強者であるオウガに暴力を!!どうか、どうか強者への仕返しを、わたくしとともに!!」
 マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)は声を張り上げる。喉の奥から驚くほどの声が張り上がる。
 もう怒りしかない。この身の中を渦巻く感情は、燃え盛るなどという表現は生ぬるい。
 彼女の怒りに呼応するようにして、嘗て骨噛んだ朋だったアリス達の骸が次々と現れ、首をもたげる。その虚ろな眼窩、虚の奥にある光が流星にも成れぬ星屑の私達を捉える。
 マグダレナのユーベルコード、故意は盲目(パラノイア・パラ・ダイス)である。彼女の周りには圧倒的な数のアリスであった骸が立つ。
 この怒りはマグダレナのものか、それとも嘗てのアリスだった骸たちのものか。いいや、どちらも、が正しい。
「さあさ共に踊りましょう!?愉快に詼り喰るいましょう!!楽園に溺れ酔い続けるのです!醒めてはいけません。不浄な現実なんて目に毒です」
 その声が遠吠えのように響き渡る。一斉に骸たちが星屑の私達へと襲いかかる。一体一体はオウガに敵わない。
 だが、二体、三体、四体……あらゆる方向から襲いかかる骸に対して、圧倒的弱者はもはやどちらかわからない。

《キラキラニ!イルミネーションニ!!》
 リィー・アルの声が響く。目の前が眩むような激しい怒り。どうしようもないほどの怒り。そればかりがまるでキラキラ弾ける火花のように見えた。
「ええ、ええ。食べ放題ですね!?残骸は一つ残さず腹に収めましょう!喰ってしまいましょう!」
 マグダレナの怒りは収まらない。収まるわけがない。
 こんな、こんな理不尽など一つ残らず消えてしまえばいい!星屑のわたし達が逃げ惑う傍から、骸たちが群がり一片も残すものかと剥き出しの歯列でもって噛みちぎる。
 逃げるのか!強者が!オウガが!今更!

《……リュウシンニ!オネガイサンカイカ?》
「では、三度願いを唱えましょう!リィー、的を捉えて教えてください!流星は地表に落ちること無く燃え尽きてしまえば良いのです!」
 歪む視界に置いても尚、リィー・アルに願うのは敵の所在。彼女を突き動かすのは、怒り。
 絶望を噛み砕いたように、此度は強者を噛み砕く。
 骸たちも止まらない。存在を一片も残してなるものかと、その腹の全て納めるまで続くのだ。

 そして……

「ハ、ァ―――」
 吐息が一つ聞こえた。
 その腹に全ての絶望を飲み込んで。希望にはなり得ない。満たされない。ああ、とまた一つため息。
 あのおしゃべり花たちの言葉が脳裏に蘇る。
「―――此処にはもう居ないあの人を、どうか此処ではないどこかに!」

「……ねぇ、リィー・アル。あのアリスは、此処ではないどこかに旅立てたでしょうか―――」

 それはきっと。
 どこかでおしゃべり花の一輪が言葉を紡いだことだろう―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティレア・エウドーレ
溢れる星屑を眺めて笑う。絶望の群体を目の前にしても飄々と。
まるで故郷のようね。良い景色です。

先程の元アリスに比べれば、この群れ共への興味は薄いけれど、
仕事はして行きます。

一度距離を取り。UCで群体の動きを凍りつかせ、攻撃を叩き込む隙を作りたいですね。
他にアタッカーがいらしたら任せてしまいたいところですが、周辺の敵はわたくしも触手で何とかしましょうか。串刺し、薙ぎ払い。
流れ墜ちる最期に精々光ればいい。


ここは、崩落するとしても――
自分のヴェールに咲く青い花をひとつ取り、
もう居ない彼へ手向けとして残す。
風に攫われてゆくなら、そのままに。

人は喪われた誰かを想ってこうするのでしょう?
では、さよなら。



 崩落していく絶望の国。オウガの揺り籠たる「絶望の扉」の向こう側から溢れる星屑。オウガの群体……星屑のわたし達。
 それが「自分の国」のアリスを歪め、貶め、オウガへと変えた者たち。それがどれほどの絶望をもたらしたのかは、推し量るしかない。しかし、絶望は和らいだのだ。
 本来の群体の数は大幅に、その数を減らしている。
 だが、そんなことに興味あまりない様子でティレア・エウドーレ(星のあわいを渉る者・f25638)は、その様子を眺めていた。
 その瞳に恐れはない。これより襲い来るオウガ群体の力と数を見ても尚、その瞳は揺らがない。

「まるで故郷のようね。良い景色です」
 見るものが見れば、禍々しさをも感じさせる空の書き割りの砕ける様子。後から後からひび割れを跨ぐようにして現れる星屑のわたし達。
 そのどれもティレアの心を打つものでもなければ、興味を惹くものでもない。もう彼女にとっての興味の対象は此処には居ないのだ。

「先程の元アリスに比べれば、この群れ共への興味は薄いけれど……」
 仕事はしていきます、と一度距離を取る。ふわりと降り立つのは未だ崩壊の影響を受けぬ花園の中心。
 その時、不吉な鐘の音が崩落する世界に響き渡る。その鐘の音は、聞くものの心をざわめかせたことだろう。それはオウガである星屑のわたし達であっても同様であったようだった。
 ティレアの指先が上がる。指し示す先にはオウガ群体。変わらぬ瞳。何かを写しているようで、何も写していない青い瞳が捉えるのは、天体図のように広がり廻る、青く輝く魔法陣。
 弾くようにして魔法陣を放つと、指し示す先にいたオウガの群体が動きを止める。
 傍から見れば急にオウガ群体の足が止まったようにしか見えなかったことだろう。
 だが、オウガ群体である星屑のわたし達は、混乱のさなかにあった。

「―――!?体が……おもい……足、が、上がらない……目の前に見えるのは……あれは一体、なんなの……?」
 彼女たちの視界にちらつくのは崩れ落ちた廃墟の都。その幻影が視界を覆う。襲い来る無力感。虚脱した手と足は重く、鉛のよう。
 そう、彼女のユーベルコード旧世界より(アルフ・ライエ)。
「歓迎します……ようこそ、星屑のオウガ」
 何が起こったのかもわからないままに星屑のわたし達は動きを止める。
 ティレアが静かに歩み寄る。その仕草はたおやかで、正に神と呼ぶにふさわしい仕草。
 だが湛える微笑みは、星屑のわたし達をさらなる混乱に叩き落とすだけだった。

「流れ墜ちる最期に精々光ればいい」
 ティレアから放たれた触手の一撃はオウガ群体を串刺し、なぎ払う。
 崩落していく絶望の国で星屑が骸の海へと返っていく。
 抵抗も何もかもできないままに。そう、星屑として流星になることも叶わずに。

 …そして。
 オウガ群体は、おそらく逃げ出すこともできないだろう。この絶望の国も、もう長くは保たないだろう。だとしても―――
 ティレアがそっと自らのヴェールに咲く青い花を手に取る。
 それは彼女の想い。神は語らない。ならば、その青い花こそが結実したる何か。

「人は喪われた誰かを想ってこうするのでしょう?」
 それはただの反芻だったのかもしれない。彼女もまた人を模倣する人ならざる身であれば。
 もう此処には居ない彼へ手向けとして。掌に載せた青い花が風にそよぐ。ただ、差し出す。受け取るべき者はもう此処には居ないというのに。
 だが、風が一陣、青い花を受け取るように舞い上げた。触れていく青い花。ならあ、そのままに。
 そうするのが、人であるというのであれば、ティレアはそれを見送ることだろう。
 
 ―――さよなら。
 そう聞こえた気がしても振り返ることはなしなかった。きっと今は遠いおしゃべり花の声だろう。ティレアは、あの騒々しくも賑やかな花たちを数瞬思い出す。
 ええ。では―――

「さよなら」
 青い花は崩壊する国の端に最後まで残り続けた。
 それが慰めになるかどうかは、ティレアにはわからないかもしれない。けれど、きっと此処にはもう居ない誰かの心を弔うことにはなったことだろう―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
いいえ、無意味なんかじゃない
…この国は無くなってしまうかもしれないけれど
いばらが覚えているから

アリスを想っていたお花さん達、みんなを想っていたアリス
アナタ達のことも…
だから、消えないわ
無かったことにはならないわ

もういいんだよ
アナタ達も、アナタ達をゆるしてあげて
きっとたくさん傷付いてきたアナタ達
まっシロなバラの花で送りましょう
これ以上、傷つくことのないように、傷つけることのないように
生命力吸収を籠めた花弁で【くちづけ】を

踊りに合わせてふわふわと、たくさん芽吹かせた花びら
みんな、みんなに、届くように
…お歌、一緒に歌えてうれしかったわ
たのしかったわ
おはようのその時まで、どうかゆっくりおやすみなさい



 あらゆる意味あるものに遍く無意味を持って塗りつぶしたいと慟哭する想いはどこから来るのだろうか。
 何者にも成れなかったと嘆く後悔からか。それとも、何者かに成れた輝く星々に対する嫉妬か。
 どちらにせよ、それが人道を外れた行いであるということに間違いはなく。しかし、人として至極まっとうにある感情でもあるのだろう。
 それを抱かずには居られない人間もまた確実に人間そのものの側面であるが故に。
 だからこそ、星屑のわたし達が見上げる星々は尊ぶべきものである。
 それらを守ることに力を振るう世界に選ばれた者たち。
 その名を―――猟兵と言う。

「ああ、ああ!なんて無意味な時間!もう消えゆく国だというのに!私達に構うことなど意味のないことなのに!それでも私達を止めようとする!猟兵とはなんたる無慈悲!」
 星屑のわたし達……オウガの群体は叫ぶ。何もかもが自分たちの邪魔をする。足を踏み出せば、路傍の石ですら自分たちを躓かせようとする。嫌になる!嫌になる!と群体の口から漏れ出るのは怨嗟。
 何もかもが憎らしくて仕方ない。花を愛でる心も、それを救わんとする意思も何もかも!

「いいえ、無意味なんかじゃない……この国はなくなってしまうかもしれないけれど、いばらが覚えているから。アリスを思っていたお花さん達、みんなを想っていたアリス。アナタ達のことも…」
 城野・いばら(茨姫・f20406)の翡翠の瞳が星屑を見据える。その眼差しにあるのは決意。何もなくならない。無意味と虚無とを結び付けさせることなどさせはしないと、瞳に力が籠もる。
「なくなってしまうことが無意味のはずなのに、それを無意味でないと言う事自体が無意味であると!」
 オウガ群体が次々と星を思わせるような煌めく姿になる。構えた短剣の切っ先は真っ直ぐに、いばらをしめしている。刺し、貫き、あの真白の肌を赤く染めんと逆手に持ち帰るのだ。

「だから、消えないわ。なかったことにはならないわ」
 いばらの声は、はっきりとオウガ群体の心を貫く。なかったことにはならない。何もかも。アリスの絶望も、オウガ群体の苦悩も。何もかも。
 綺麗に消え去るものなどないのだ。それが例え絶望であったとしてもだ。
 だが、それ故に。
 それ故に希望もまた消え去ることなどないのだ!

「もういいんだよ。アナタ達も、アナタ達をゆるしてあげて」
 きっときっとたくさん傷ついてきたアナタ達。いばらの声色は哀しみを湛える。それが彼女たちの慰めになるかどうかはわからない。
 必要なのは慰めではないのかもしれない。ただ、一言許す言葉さえあればいいのだ。
 誰かを傷つけないと生きていけなかった人生であっても、ただ、許すことで霧散するものもあるのだろう。

 いばらのユーベルコード、茨のくちづけ(イバラノクチヅケ)が発動する。
 彼女の白い指先がオウガ群体を捉える。
「まっシロなバラの花で送りましょう。これ以上傷つくことのないように、傷つけることのないように……」
 指先を向けたオウガ群体……星屑のわたし達の体を取り囲み、包むのは無数の白薔薇の花弁!それは苦痛のない生命吸収の力を込めた花弁。
 白薔薇の花弁が舞い散る頃には、彼女たちの生命は一片たりとて残すこと無く骸の海へと帰ることだろう。
 無数のオウガ群体は、崩落する国の中で一欠片もなく消え去っていく。

 いばらは書き割りが崩れたようなひび割れた空を見上げる。
 ああ、と思い出すように言葉が漏れ出る。この国の思い出。もう消えてしまう絶望の国。けれど、絶望と呼ぶにはあまりにも、あのおしゃべり花たちには希望に溢れていたように思えてならない。
 どうしてそうのように思えたのか、いばらにはわからない。
 だって彼女は歌を歌っただけだから、と答えるだろう。だが、それが絶望に染まった国を、花を、彼を、どれだけ救っていたか。
「……お歌、一緒に歌えてうれしかったわ」
 絶望の扉よりはるか遠くの花園に視線を向ける。あの愉快で騒々しい花たちを思い出す。きっと歌を謳うたびに思い出す。
 踊りに合わせてふわふわと、たくさん芽吹かせた花びら。きっとみんな、みんなに、届くようにと祈らずには居られない。

 だから、この祈りに込めた想いはたった一つでいい。
 それだけが伝わればいい。消えてしまう国へと手向ける言葉。

「たのしかったわ。おはようの……その時まで、どうかゆっくりおやすみなさい」
 眠りにつけば、目覚めるように。
 絶望の後に希望が残るように。
 いばらの言葉は、消えゆく国への手向けとなるのだった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

宮落・ライア
あはは!笑えるな?笑わせるな。
希望は潰えるだと?ボクを前にして。
彼の人生もまた無意味に塗り替える?
吐いたな。お前らはボクの敵だ。
許しも慈悲も憐れみも加減も無しに屑にしてやるよ。

はは、私に有効な毒なんて……そんな物があったとしたら耐性ない人なんて手元に置いた時点で影響出ちゃうんじゃない?
まぁ例えそれが私に効いたとしても、私が倒れる前に全滅させてやるよ。
【毒耐性】【継戦能力・限界突破】

【自己証明】で身体強化
呪縛を引いた場合【止まる事なかれ】
毒を無視しながら近接で蹴散らす。



 崩落していく国。
 それは小さな世界ながらも、終わりを意味する。もはや、此処に残ることは崩落に巻き込まれて消えるということでもある。
 あの花園の花々も崩落と共に消えていくことだろう。それを無意味と嘲笑ったのは、オウガ群体―――星屑のわたし達。
 すでに絶望の国においては、希望はなく。絶望しかない。
 ならば、あのおしゃべり花たちの言葉はなんだったのか。
「―――此処にはもう居ない、あの人ではないあの人をどうか!」
 あの言葉は願いではなかったのか。絶望しかない国であっても希望は残っていた。それを見逃すことはなかった。
 だからこそ、彼を打倒したのだ。絶望に染まった彼の希望を。
 故に―――!

「希望を失墜させるのはとても愉快です。絶望に染めるのは滑稽です。簡単だったのです。白くて純粋な綺麗なものほど、黒く染めやすいのです。それはとても、とても……愉快だったのです!」
 星屑のわたし達が一斉に嘲笑う。希望を絶望に。白を黒に。あまりにも濃い悪意。
 その悪意の塊が押し寄せている。

「あはは!笑えるな?笑わせるな。希望は潰えるだと?ボクを前にして。彼の人生もまた無意味に塗り替える?」
 宮落・ライア(ノゾム者・f05053)の笑い声が崩落する国に響く。
 赤い瞳は笑っていない。その瞳の奥に灯るのは、ただの決意。オウガ群体が何もかもを塗りつぶすというのならば、こちらは尽くその全てを屑へと落とそう。
「……吐いたな。お前らはボクの敵だ。許しも慈悲も憐れみも加減もなしに……」
 あのアリスの絶望を思い出す。あの斬撃の重さを思い出す。
 すこしも重さを感じさせない一撃。攻撃とも言えない一撃。ただのあの一撃を思い出すたびに燃え上がるものが、心の内より溢れ出るのだ。
「屑にしてやるよ―――!」

 オウガ群体、星屑のわたし達が一斉にてをかかげる。その手に持ったのは毒を潜ませた美しい花束!
 その潜んだ毒は相対する者に合わせて調合されたもの。ライアという敵に対する最適解の毒素を染み込ませたブーケは、過たずライアの体にぶつかる。
 じわりと肌を蝕む毒素。痛み、苦しみ、倦怠感。あらゆる苦痛がライアの体を蝕む。だが!
「はは、私に有効な毒なんて……そんな物があったとしたら耐性のない人なんて手元に置いた時点で影響出ちゃうんじゃない?まあ、例えそれが私に効いたとしても……私が倒れる前に全滅させてやるよ」
 全ての攻撃を受けても尚、未だ倒れないライア。オウガ群体は戦慄した。確実に目の前の猟兵に対抗できる毒素のはずだ。
 効いていないはずがない。なのに、ライアは健在。揺らめくこと無く立っている。何が起こっているのかわからなかった。
 彼女のユーベルコード、侵食加速:自己証明(シンショクカソク・ジコショウメイ)が発動する。

「私は……負けられない!死ぬことも止まることも認められない!私は託された!選ばれたんだから!」
 そう、負けられないのだ。託されたのだから。あのおしゃべり花たちに。此処にはも居ない誰か……アリスのために、と。
 そして選べれたのだから。世界に。
 だからこそ、彼女は倒れない。倒れることすら許されない。超強化された体が一歩を踏み出す。重い音が響いた。
 それは彼女が背負った物の重さだったのかも知れない。止まることは許されない。

「―――だから、私はお前たちを星屑に返す」
 毒の効果を無視し、それでもなおライアは剣を振るう。オウガ群体をひとり残らず骸の海へと叩き落とすために。
 その身を毒に侵されようと、流血する鮮血が花弁のように舞い散ろうとも、決して止まる事はなかった。
 崩落していく世界の中で、それは最後に咲く一輪の赤い花だった。
 それを見る者はもういないけれど。
 それでも、その花は気高く咲き誇っていたのだった。

 ―――絶望の扉の向こうにあった、数多のオウガ群体……全ては星屑に帰り、骸の海へと沈む。
 絶望の国は消えていく。
 嘗ての花に囲まれたアリスの国。今はもう絶望に染まった国。

 だが、その絶望は拭われた。誰の手によっては関係がない。ただ、絶望に差し伸べた手があった。それだけでいい。

 故に、崩落して消えゆく国の片隅で……
 あの騒々しくも賑やかな花たちの声がきっと響き渡ったのだった。



「―――ありがとう!」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月31日


挿絵イラスト