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幸福の対価

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●喰らうモノ
 朱色に染まる空の下。
 僅かばかりの温もりの時は終わり、底冷えする夜の始まりを告げる時間。
 人通りの無い森の道を、一人の男が歩いている。
 傷ついた腕をおさえ、疲れ切った体を引きずるように、少しづつ歩みを進めている……しかし、ついに限界が来たのか、足が覚束なかったのか、男は前のめりに倒れる。
「とうちゃん?!」
 倒れたその先に手を伸ばせば、そこには幼い娘の姿があり、今まさに男に向かって駆けよってくるところだった。
 こんな都合の良いことががあるのだろうか? と男は現実を疑うが、手を取った娘の感触は間違いなく現実のもの。その手から伝わる温もりは、それさえあればこれから訪れる夜の寒さをも凌げそうなほどに暖かなもの。
「もう会えないかと思ったよ」
 男はその温かさを感じながら、帰って来て嬉しいよ、父ちゃんが居れば幸せだよと泣く娘の肩を抱く。
 生き別れた父と娘の姿……しかし、そんな姿もこの世界では、どこにでもある風景、よくある光景の一つに過ぎない。
 けれども、今ようやく掴んだ、確認した幸せをもう手放すまいと、男は娘を見上げ、
「すまなかったなミ――」
 その姿が真っ二つに割かれる様を、目のあたりにした。
 朱よりも濃い赤を撒き散らしながら左右に分かれていく娘をただ呆然と見つめる男の前で、それは笑う。
 半分になった娘の片方の手を掴んで持ち上げ、零れる腸を食らいながら、それは笑う。
 何が起こったのか理解できぬままに、命を絶たれた娘の顔に汚らしい舌を這わせ、無垢な顔を赤色に染めて、その鬼は笑う。
「フハハ、美味なり」
 そして呆然とする男に興味も示さず、それは立ち去る。
 後に残されたものは娘だったものの残骸と、地面に広がる赤い水溜まり。
 水溜まりの温もりは徐々に失われ夜の冷たさに呑み込まれていく――けれど、それはどこにでもある風景で、よくある光景に違いなかった。

●幸せとは
「幸せってなんだと思う?」
 八幡・茜はグリモアベースに集まっていた猟兵たちの一団に話しかける。
 幸せ……といきなり問われても回答に困るだろう。
 常日頃から幸せについての定義を持ち合わせている人間などそうそう居ないし、幸せの定義など人それぞれなのだから。
「おねーさんは対比だと思うのよね」
 顔を見合わせている猟兵たちを前に茜は微笑む……対比、つまりは他と比べる、或いは自分の過去や未来と比べると言うことか。
「そんな訳で、幸せを喰らうモノと呼ばれる、オブリビオンの鬼を退治して欲しいのよ」
 何がそんな訳なのかは不明だが、オブリビオンが相手となれば猟兵の出番だろう。

「この鬼は、相手が幸せになった瞬間を狙ってそれを喰らう」
 それから茜は、話を聞く気になった様子の猟兵たちに説明を始める。
「でも、ただ漫然と待つのに飽きたのかしらね? 盗賊を使って悪徳商人の財産を盗ませ、それを貧しい村にばらまくことを始めたらしいわ」
 貧しい村人が突然お金を手にれればそれは幸せと言えるだろう。
 しかもそれが悪徳商人のものとなれば罪悪感も薄い。
 幸せを喰らうモノにとっては良い餌場になるに違いない。
「さらにもう一つ、とても残念なことなのだけれど、泡銭を掴んだ人間は大抵分不相応な夢を見るわ。そして御あつらえ向きに、近頃村の近くで賭場が良く開かれているのよね」
 そこを抑えればいいのか? と問う視線を向けてくる猟兵に茜は頭を横に振る。
「それで、賭けで負けた人たちは金山に連れていかれて見も心もぼろぼろにされちゃうらしいわ」
 悪銭身につかずとはよく言ったもので、身の丈に見合わない金は大抵の場合不幸しか呼ばないものだ。
 ご多聞に漏れず、都合よくお金を手に入れた村人は、都合よく開かれた賭場で、都合よく金山の労働力として連れていかれるというわけだ。
 そして、拾った小さな幸福を手放し、絶望に追いやられる……が、その後、もし本当の幸せをつかむことができたならば、
「心や体に多大な負荷をかけられた状況からの救出、或いは差し伸べられた手。その瞬間の幸せはさぞ美味しそうに見えるでしょうね」
 どんな労力をも厭わないごちそうになるだろうと茜は肩をすくめた。
 それから茜は猟兵たちを見回して、
「放って置けば多くの人が不幸になってしまう、そんなことは見逃せないわよね!」
 オブリビオンを倒してほしいと、頼むのだった。


八幡
 舞台はサムライエンパイア。


●話の流れ
 第一章では、まず義賊(盗賊)を捕まえて、オブリビオンが現れる日にちなどを聞き出します。
 第二章では、賭場を抑え金山の場所を聞き出し、一章で得た日にちに併せて労働者を開放します。
 第三章では、解放した労働者のもとに現れたオブリビオンとの戦闘となります。

 一章、二章は数日間をかけた行動となります。
 各章、個別ではなくなるべくまとめてリプレイを返せればいいなと思っております。


●傾向
 皆様のプレイング次第ですが傾向としては冒険活劇風だと思います。

 戦闘などについては、以下のシナリオで雰囲気が掴めると思いますので良ければ参照してください。
 https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=1093
 参加者もまだまだ募集しております。


●その他
 あまりに活躍させられないなと判断した場合、プレイングを採用しない可能性があります。
 また、場面場面に応じてアドリブや、キャラクター間の会話が入る可能性がありますのでご注意ください。

 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『義賊と盗賊』

POW   :    義賊を見つけて問いただす、襲撃の予想される場所で用心棒として雇われる

SPD   :    義賊を追跡、罠や仕掛けを用意して盗賊を捕まえる

WIZ   :    貧しい民に扮して義賊と接触、襲撃現場の調査や聞き込み

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●義賊の仕事
 夜の闇に紛れて、複数の男たちが蠢く。
 男たちが何をしているのかと目を凝らせば、金の入った箱や、高価な衣服、或いは見たこともない食料を次々に箱に詰めている。
「あー、この金があれば……」
「俺はあの女たちを、へへへ」
 素性を隠すためか、頭巾を被る男たちは目の前の金塊や気絶させている屋敷の住人を嫌らしい目で見つめる。
 この金があれば楽に暮らせるのにと、この女たちで遊べればどれ程良いだろうかと。
「死にたくなければ、黙って仕事をしろ」
 だが、そんな男たちも主導者らしき男の押し殺した声を聞き、肩を震わせて作業に戻る。
 決して楽しむな。
 楽しいと思うな。
 仕事に誇りを持つな。
 ……幸せを感じるな。
 それが彼らの鉄の掟であり、万が一それを破れば圧倒的な力で理不尽な死を与えられるだけだ。
 そこには抗議も、言い訳も、逃げ道も何もない。
 男たちは死んだような目で、箱を抱えると指定された村へとそれを運んで行く。

 ――次の指示は三日後、町外れの悪徳問屋。
 相手は無理やり背負わせた借金の肩代わりに女を売り買いしているような糞野郎だが……それを打ちのめせることを差し引いても、男たちの胸がすくことは無かった。
河南・聖
上げて落とす、的な
そういえばいつか戦った異端の神もそんな事やってましたっけ
どこの世界もオブリビオンの考える事って似たようなものなんでしょうかね

とりあえず襲撃の予想される問屋さん?に用心棒として雇われましょう

襲撃の義賊さんがきたらお話を聞きましょう
「あ、動かないでください」
「聞きたい事があるだけなので、命まで取るつもりはないです」
「断ったら?とりあえず空気奪って身動き封じて股間を思いっきり蹴り上げます。程よく回復してきたらもう一度蹴り上げます。以下繰り返し」
「もう一度言いますね?イノチまで取るつもりはないです。が……」

鬼が現れる日にちとか聞けたら用はないです。後はお好きにどうぞ?(にっこり)


エウロペ・マリウス
義憤を感じて、というわけではないようだね

行動 WIZ【視力】【暗視】
使用ユーベルコード【月の女神に従いし亡霊の影(ヘルハウンド・ウンブラ】

【視力】と【暗視】を使用して、襲撃現場で相手の行動を監視するよ
賊が、今回参加した人数のみとは限らないからね
【月の女神に従いし亡霊の影(ヘルハウンド・ウンブラ】で、その内の1人を後を追って、賊の拠点を見つけるよ
その後、その情報を元に賊全員を捕縛、オブリビオンの情報を聞き出すよ
賊は、今後の憂いも絶つ意味でも、全員捕らえておいた方がいいと思うからね

死の恐怖によって義賊たりうるならば、それが無くなれば、ただの賊に成り下がる可能性が高いからね
悪いけど、容赦はしないよ


ベール・ヌイ
「鬼ついて・・・おしえてもらおうか・・・」

自分の復讐相手の可能性があるため普段よりも声が冷たい状態です
【楽器演奏】で【誘惑】して盗賊をおびき寄せましょうかね
おそらくヌイだけだと舐められるでしょうから銃で足を撃ちましょう
逃げるようなら白狼においかけてもらって噛んでもらいます
大丈夫大丈夫、話が聞きたいだけ、拷問なんてしないよ
でも嘘ついたら・・・わかるよね?


ゼット・ドラグ
「ふむ、義賊か。俺は倒すのは得意だが、捕まえるのは苦手だ。さて、どうするか・・・」
と考えてから、用心棒として雇われる事を希望する。
戦いに備え、今はただ静かに瞑想でもして時を待つ。
Zzz。


塩崎・曲人
ククク、鬼の手先で義賊活動か
正義とは何かって考えちまうよなぁ?
「つまり大事なのは、お前さん方がどう思うかってことさ。まぁ、それとオレがこれからすることは関係ないけどな」

盗賊さんたちを襲撃して捕縛、楽しい尋問タイムと行こうか
義賊の居所を掴むのは仲間に頼ろう
待ち伏せや強襲が出来る情報が揃ったらオレの出番だ
【咎力封じ】で義賊を無力化し【恫喝】で高圧的に尋問する
「さて――お前さん方の依頼主の事について、洗いざらい吐いてもらおうかなぁ」
(ナイフで頬をピタピタして義賊を脅しながら)

仲間の聞きたいことも聞くし、要すれば悪い警官役も可能
お仲間同士助け合わんとな?
(アドリブ絡み歓迎)


セルマ・エンフィールド
【SPD】使用

行動の是非は問いません。ただ結果として人死ににつながるなら、止めさせてもらうだけです。

夜に紛れての犯行ならナイトビジョンの『暗視』の出番ですね。犯行が起きる店とその近くにある貧しい村の間の道を狙える建物や木、岩などの高台の上に陣取り、スコープの『視力』で監視して盗品を持った盗賊が来るのを待ちます。

盗賊が来たら『スナイパー』で盗賊の足元の地面を狙いマスケットで【アイスリンク・バレット】を。
極限まで摩擦が減る凍結した地面の上で、しかも荷物を持ったまま。立っていられたら大したものです。

情報を聞き出すために必要であれば手荒な真似もしますが、犯行自体に気が乗らないようですし不要そうですね。


メンカル・プルモーサ
……ん、義賊……うーん、これ義賊かな…
一応、悪徳問屋も助けないとかな…狙われそうな悪徳問屋について【情報収集】をして……
【愚者の黄金】で金素材の装飾品をいくつも作っておいて……
【コミュ力】や【言いくるめ】を駆使して「実家の宝物を持ち出した家出娘」を装って悪徳問屋と接触……
義賊の襲撃があるまで宝物についての商談を【時間稼ぎ】をしながら待とう……【世界知識】で相場安めのラインで…粘る
あと、飲み物に眠り薬とか入れられても困るから【毒使い】や【医療】で対策しておく…
……義賊が攻め込んで来たら【現実を侵せし狩猟団】でガジェットを出して御用だ御用だ……逃げるのは【支え能わぬ絆の手】で転ばせるよ…


陰白・幽
皆と協力して盗賊を捕まえてやるぞ~
【SPD】罠を張って盗賊をしっかりと捕まえるぞ~……そうした方がきっと、皆が幸せになるはずだからね。

まずは手始めに盗賊さんが出入りするだろう扉とか窓の周りに鋼糸を使った罠を仕掛けるよ、ボクがクイッとすると足に絡まってこけちゃうようなヤツをだよ
ボクは籠の中で待ち構えるよ~、大きな葛籠と小さな葛籠作戦だよ。大きな葛籠の中でのんびりと待ちかまえるよ~
「は~盗賊の人、まだなのかな……は~やく~こないかな~」
葛籠に人が入って待ちかまえてたらビックリして逃げやすいとこから逃げちゃうだろうね、そこをクイッといくよ
罠を躱した人もUCで追いついて転ばせれば問題なし、だよ~



●前日
 それは義賊が押し入る前日のこと。
「用心棒と言われましても……腕前も分からない者たちを雇う余裕もありませんので」
 河南・聖と、ゼット・ドラグは座敷で丸々と太った人の好さそうな男……件の悪徳問屋の主と対峙していた。
「俺たちが居れば十分ですぜ」
 そして、問屋の斜め前方には剣客風の二人の男が、問屋の主を守るように控えている。
 にやにやと品のない笑みを浮かべる剣客風の男たちへ、ゼットは青い瞳を向ける……聖とゼットは用心棒として問屋に雇われに来たのだが、腕の分からないものは雇えないと渋られている状況だ。
 余裕もないという割には、この場所に通されるまでの間に何人もの使用人とすれ違ったし、屋敷自体もかなりの大きさだった。
 それらを見れば実際にはかなり潤っているようだが、商人らしく出し渋っていると言うところか。
「ですが、そちらのお嬢さんは……使用人としてならねぇ」
 ゼットが状況整理と打開策を考えている間、聖を値踏みするように見ていた問屋の主が口を開く。
 使用人という言葉の裏にある意味は言うまでもない、厭らしく自分の唇を舐めて助兵衛な視線を向けてくる問屋の主に、聖はにっこりと笑顔を返し――次の瞬間、座した姿勢から跳ねるように立ち上がると問屋の眼前まで踏み込む。
 聖がいつの間にか手にしていた刀の、水色に透き通った刀身は問屋の主の喉元に――突き刺さる寸前でゼットが手で掴んで止めた。
「そちらの方々だけでは、物足りないようですよ」
「実力は見てもらった通り。さて、どうする……?」
 それから自分たちをただ唖然と見つめている剣客風の男たちへ聖が紫の瞳を向け、ゼットはやれやれと肩をすくめた。

●当日
「あそこの問屋は女好きだからアンタみたいなのが行くとろくな目に合わん、やめておけ」
 問屋のことを聞いてみたメンカル・プルモーサに対して旅支度をした二人組の剣客風の男たちは口々に、女好きだから行かない方が良いと口にする。
「……ありがとう……気を付ける……」
 しかしそれは女なら相手にしてもらえる可能性が高いということでもある。メンカルが礼を述べると男たちは本当に分かったのかぁ? という表情を浮かべていたが、分かった上でやることがあるのだ。

 商談を持ち掛けたメンカルを快く迎え入れた問屋の主は、メンカルの体を値踏みするように厭らしい目で見ていたのだが、
「……これは我が家の宝……買い取って欲しい……」
 メンカルが眠たげな目で金素材の装飾品を広げると、目の色を変える。
 メンカルが持ってきたもの……それは愚者の黄金によって生成された金細工の数々。商いをするものであれば、興味を惹かれて当然だろう。
「ほう、手に取って見ても?」
 どうぞとメンカルが答えると、問屋の主人は品物を布で包んで持ち上げて一つ一つ丁寧に鑑定する。
 悪徳と言っても財を成すほどの問屋だ。商売となればまともな人……というよりも油断ならない人なのだろう。
 問屋の主人が品物を鑑定している間、メンカルが部屋を見渡せば、上手いこと用心棒として雇われた聖とゼットの姿がある。
 他に人の姿が無いところを見ると、よほど腕を買われたと見える……が、小さく手を振ってくる聖に対して、ゼットは目を閉じて睡眠状態になっていた。
「もよおしてきちゃった~」
「こんな時に、困ったね」
 大丈夫なのか寝ていてとメンカルがゼットを見ていると、兄弟の設定でついてきた陰白・幽がもじもじと体を揺らし、エウロペ・マリウスがさも困ったように目を閉じる。
 幽とエウロペは問屋の中で義賊を待ち伏せするつもりでいた……この機会に待ち伏せ場所の確保と、もろもろの仕掛けをしたいということだろう。
「俺が連れて行こう」
 その意図を察したメンカルが聖たちへ視線を向けると、ゼットが立ち上がり幽たちを屋敷の奥へ案内していった。

「ずいぶんと信頼されているんだね」
 金細工から目を離さずに、お任せしましたよと自分たちを送った問屋の主人を思い出し、エウロペは前を歩くゼットに声をかける。
「ここが丁度良さそうだよ~」
 そしてゼットが小さく肩をすくめて返事をするのとほぼ同時に、幽が声を上げた……裏口が近く、使用人もほとんど通らず、荷物が雑然と積まれたその場所は、侵入、或いは逃走するには打ってつけの場所に見える。
「そうだね。ここが良いだろう」
 積まれている荷物などを確認してからエウロペが頷くと、幽は嬉々としてあちこちに鋼糸の罠を仕掛けてゆく。
「は~盗賊の人、まだなのかな……は~やく~こないかな~」
 それから、一通り仕掛け終わったのか大きな籠に入って、義賊の到着を待つか前に入った幽に、
「ゆっくり待とう」
 自分も身を隠す籠を捜しながら、エウロペは応える……そう、義賊は今夜必ず現れる。分かっているのならば待つだけだと。

「正義とは何かって考えちまうよなぁ?」
 次に義賊が金をばら撒くと思われる貧しい村と、問屋の間あたり。
 村へと続く道が良く見える高台の上で待ち構える、塩崎・曲人は脅されて義賊をやるなどという歪んだ状況に皮肉を込めたように笑う。
「結果として人死ににつながるなら、止めさせてもらうだけです」
 そんな曲人の顔に小首をかしげてから、セルマ・エンフィールドはスコープを覗いて自分の道具の調子を確かめる。
 過程や行動の是非はともかく、結果として人が死ぬというのは見過ごせないとセルマは考えるのだろう……仕事道具の整備に余念のないセルマに真面目だねぇと、独り言ちた後、
「しかし、本当にここに来るかねぇ」
「大丈夫……ちゃんと誘導する……」
 再び曲人が村へ続く道を眺めていると、問屋から村までの道を何度か往復して確認していたベール・ヌイが高台の上に登ってくるところだった。
「捕まえて……話を聞く……」
 ベールは何度も下見をして誘導するのに確信めいたものを得たのだろうが……青い瞳を伏せて、冷たく、とても冷たく言い放つその姿はどこか危ういものを感じさせた。
 さりとてその心に踏み入ることもできず……セルマと曲人は、冬の冷たい風に流れる銀色の髪を見つめながら、時が来るのを待つのだった。

●鬼の手掛かり
「……夜も更けてしまった」
 商談という名の値切り交渉を延々と続けていた問屋の主とメンカルだが、いい加減使用人たちも寝静まったあたりでメンカルがぽつりと呟くと、続きは明日にしましょうと問屋の主が腰を上げた。
 メンカルとしてはそろそろ時間だなと思っただけだが、ここで話を切れるのであればそれはそれで都合が良い……などと考えながら立ち上がると、数人の男たちが部屋の中に押し入ってくる。
「義賊さんですね? 空気の有難み、教えてあげます!」
 だが、その男たちが言葉を発するよりも早く、聖は両掌から魔力で生成した真空の球体を放って男の一人を球体内に閉じ込め、
「我が軍勢よ、集え、出でよ。汝は電霊、汝は猟団。魔女が望むは現を狩り取る百鬼夜行」
 メンカルが小型の戦闘用プログラムが実体化したガジェットを召喚すると、人知を超えた事態に義賊たちは慌てふためく。
「なんだこいつらは?!」
 だが、慌てふためきながらも野生の感が働いたのか、或いは盗賊の習性か……義賊は座敷に広げられていた金細工に飛びつき、素早く抱え上げると一目散に逃げ出した。
「あ、動かないでください」
 逃げ出す男たちの内、一人だけをさらに聖が空気の檻でとらえるが、他の男たちは逃してしまう。
「……一応、追おう」
 男たちが逃げた方向……それは先ほど幽たちが向かった方向だ、であるなら問題はないだろう。しかし次の手を考えるなら合流はしておいた方が良い。
 メンカルの言葉に、聖は頷いて、
「あ、そうですそうです。あんまりおいたが過ぎると、次は蹴りますよ?」
 聖は腰を抜かしたままの問屋の主……その股間を見ながら、にっこりと笑った。

 忍ぶ様子もない足音が近づいてくる。
 そして、足音が目の前に迫ってきたのを感じると、幽は鋼糸をくいっと引っ張る。
「待ってたよ~」
 唐突に足元に出来た障害を躱せるわけもなく。先頭を走っていた数人が無様に転び、顔面や腹を廊下にしたたかに打ち付ける。
「ここもか!」
 幽のような子供であれば、なめてかかられそうなものだが……先に聖たちと遭遇してたせいもあるのか、義賊たちは幽の相手はせずに、裏の扉を蹴破ってそのまま走り出した。
「眠れる我を……今ここに……」
 しかし幽とて簡単に逃走を許しはしない。
 自らの内に眠る時空間支配能力の強引な使用により、逃げる男の目の前に瞬間移動すると、その腹に拳を捻じ込む。拳を捻じ込まれた男は、くの字に曲がって倒れる……が、流石に全ての義賊を捉えるには至らなかった。
「丁度良いさ。追跡は任せておきたまえ」
 あ~っと捕え切れなかった義賊たちに頬をかく幽に氷のような瞳を少しだけ細めて、エウロペは意識を集中させる。
 義賊たちは、義憤を感じて義賊になった連中ではない、死の恐怖によって義賊になった連中だ……ならば死の恐怖から解放されたときに、ただの賊に成り下がる可能性もある。
 その芽は今の内に積んでしまおう。そのためには義賊に実行部隊以外の仲間がいないかを確認しようと、エウロペは考えていたようだ。
「彼らが死の先触れにならないことを祈るよ」
 故に今の何人かが逃げ出した状況は都合が良い。
 エウロペは黒い犬の姿をした不吉な妖精の影を召喚すると、義賊の後を追跡させる。極めて発見され難く、五感を共有するそれはエウロペの知識と経験を持つ影のようなものだ。
 簡単に逃げ切れはしないだろう。
「それじゃ~、ゆっくり行こう~」
 そう判断した幽が、エウロペに微笑むと……丁度、聖とメンカルが問屋の主の部屋から歩いてくるところだった。

「どうするんだ! もう行くところもないんだぞ!」
 背中から自分を責める声に、男は唇を咬む。
 行く場所も無い。
 帰る場所も無い。
 守るべき家族も奪われた。
 義憤も、喜びも、十足も……全ては折られた。
 自分たちは既に、恐怖にとらわれた生きる屍に過ぎない。
 けれど、本当は……。
「よう」
 微かに聞こえる音楽に導かれるように、走り続けた男たちは頭上から聞こえた声に上方を見上げ、疎かになった足元に着弾した弾丸が周囲の地面を凍らせる。
「直接当てるだけが能ではありませんよ」
 見事に全員転んでいく様をスコープで覗きつつセルマが小さく息を吐き、男たちに声をかけた張本人である曲人は真面目だねぇと再び肩をすくめた。
「声と鈴の音が……聞こえたなら……おいで……ボクの友達……一緒に……敵を倒そう……」
 転んでもなおじたばたともがき、逃げ出そうとする男たちに、ベールが無音鈴を鳴らしながら祝詞を唱える。
 すると、ベールの二倍はあろうかという大きさの純白の狼が現れ……逃げ出そうとしていた男の首根っこに噛みついて動きを封じた。
「諦めてください。極限まで摩擦が減る凍結した地面の上で、立っていられたら大したものです」
 さらに他の男たちについても、曲人が咎力封じで動きを押さえ、高台の上から降りながらセルマは抵抗は無駄だと警告する。
 セルマの言葉を聞いた男たちは力の差を悟ったのか、大人しくなり……、
「よう、話を聞かせてもらえるかい?」
「……何の話だ」
 そんな男たちへ曲人が話しかける……というよりも、ナイフの腹で男の頬を叩きながら脅す。
「――お前さん方の依頼主の事について、洗いざらい吐いてもらおうかなぁ」
「何を言って……」
 だが、男たちもそう簡単に口を割るつもりはないらしい、これは面倒だなと曲人がうんざりした様子で息を吐くと、
「鬼ついて……おしえてもらおうか……」
「っ!?」
 唐突にベールが発砲した。
 男の脚を打ち抜くべく放たれた弾丸は、思わず男を庇ったセルマによって弾かれる。
 だが、無表情に……ただ冷たく言い放ったその言葉の裏に押し込まれた想いの重さは、この場に居る全員に伝わったことだろう。
「まぁ、オレは別にどっちでも良いんだが……あの娘は本気でやるぜ?」
 暫しの間沈黙が訪れる。
 それを破るように、曲人がベールへ視線を向けると、問屋の方から仲間たちが向かってくる姿が見えた。

 縄で縛られ、完全に自由を奪われた男たちを、猟兵たちが取り囲む。
「聞きたい事があるだけなので、命まで取るつもりはないです」
「大丈夫大丈夫、話が聞きたいだけ、拷問なんてしないよ。でも嘘ついたら……わかるよね?」
 それから今一度、話を聞きたいだけだと聖と、ベールが宣言し、エウロペも頷く。
「鬼と言ったな? ……何故それを知っているのかは聞かんが」
 命まで取らないという言葉に安堵したのか、逃げ場などないと判断したのか、ようやく男は重い口を開いた。
「そうだ、俺たちは鬼に脅されて義賊なんてものをやっている」
 どうだ? 恐ろしいだろう? とでも言いたげに、唇の端を歪ませる男だが、それは既に得ている情報だ。
 メンカルと聖は顔を見合わせて小さく首を傾げ、再び冷たい声でベールが問うと、
「鬼は……いつ現れる……?」
「一週間後、金山の近くの村。具体的な場所までは決まっていない。あの鬼はいつも唐突に背後に現れる」
 ベールの問に男はあっさり答えた。

「他に仲間が居る様子もない、このまま役人に引き渡そう」
 黒い犬の姿をした不吉な妖精の影で一部始終を見ていた、エウロペがそう宣言すると、
「そうだね~」
 幽も納得した様に頷く。
 必要な情報は聞き出した、これ以上この場所に長居する必要もないだろう。
「俺たちはもう、死んでいる。だが、繋いだぞ。ようやくだ! 地獄の底で待っているぞ!」
 そう判断したエウロペたちがその場を後にしようとすると、縛られたままの義賊の一人が吠える。
 それは負け犬の遠吠えか、心の叫びか……、
「ああ、任せておけよ」
 義賊を押し付けられた男たちへ、曲人は振り向きもせずに、そう応えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『父と娘と金と幸せ』

POW   :    賭場に乗り込みひと暴れ

SPD   :    賭場でわざと負けて金山送りになる

WIZ   :    父親を全うに働かせるために説得する

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●賭場の裏側
「とうちゃん、もう帰ろうよぉ!」
 丁半賭博の場に相応しくない少女の声が響く。
 何事かと、その場にいる者たちが視線を向ければ、一人の男の腕に縋りつく少女の懇願の声だった。
「何言ってやがる、この金をもっと増やせば楽になるだろう!」
 だが懇願された男は、少女の腕を振り払い。邪魔をするなと叱りつける。
「そのお金ももうないじゃない……」
 振り払われた少女は、床に伏して泣いているが……、
「黙れってんだ! なくした分も取り戻せばいいんだよ!」
 男は少女に目もくれない。
 ただ、はったはった! と器に投げ込まれる賽の目だけを凝視していた。

「あーあー、また一人金山送りになっちまうねぇ」
 賭場の裏側から様子を見ていた線の細い男が、せっかく幸運を拾ったってのに、哀れだねぇと息を吐く。
 悪徳問屋の倉庫からばら撒かれた財産、その中で一人が拾えるのは僅かばかり……それすらこんなところで浪費してしまうなんてと。
 大人しく、慎ましやかに生活していれば、ほんの少しの間でも幸せに暮らせただろうにと。
「それを食い物にしているワシらもろくでもないがね」
 そんな線の細い男の言葉を聞いた、用心棒風の男が悪態をつく。
 悪態をつきながらもやらざるを得ない。
 この手は既に悪道に染まり、俗世に戻ることも敵わない。
 死ぬことは簡単だ……だが、それは次の犠牲者を生むだけだろう。
 ならば、他の誰かの手を汚すよりは、この手を汚そう。
「本当、嫌な仕事だねぇ……それにしても何でこんな回りくどいことをするかねぇ」
「幸福にも味があるのだとよ。ワシには分からんがね……さて、仕事だ」
 賭けで負けた愚か者たちを金山に連れて行く……すまないとは思わない。
 ただ、もうこんな愚か者は現れないでくれとだけ願った。
エウロペ・マリウス
なんだか、負けが込んだときの師匠を彷彿とさせる姿に、ボクも複雑な気分になるのだけれど……。
そのときの手段をとるとしようかな
説得よりも負けをうやむやにする方法だけれどね

行動 WIZ【暗視】【視力】【礼儀作法】
使用ユーベルコード
【月の女神に従いし亡霊の影(ヘルハウンド・ウンブラ)】

まずは【礼儀作法】で相手の警戒心を解いて、【暗視】と【視力】で賭場の壺振り師を正面から観察
それから【月の女神に従いし亡霊の影(ヘルハウンド・ウンブラ)】で背後からも観察
定期的に金山送りをするためには、イカサマはあると思うのだけれど
それをこっそりと賭場の裏にいる支配人に告げて、今日は店仕舞いしてもらうようにお願いするよ


塩崎・曲人
まぁ、ギャンブルで金スるのは得意よオレ様?
昔っからこういうの苦手なんだよなぁ

というわけで金山送りの刑を喰らいに行く
元々取り上げられる様な武器は使ってないからお誂え向きさね
あ、大事なものは念の為置いてこ
「見てろよ、次だ!次で一発逆転して負け分全部取り返してやるぜぇ」
「い、イカサマだぁ!そうそう都合よくオレが賭けたのと逆の目ばっか出るわけねぇ!」
見苦しいバカの演技付きで疑われないように金山へ送られる

仲間、特に子供の猟兵が金山に潜入するお芝居を必要としてる場合
彼らに合わせて演技する
親は厳しいから兄とかかね
「うるせぇ!それより金持って来い!ここで勝てばオレらもお大尽様の仲間入りよぉ!」


ベール・ヌイ
「・・・大人じゃないと・・・不便」

【SPD】
曲人さん(f00257)のことをお兄ちゃんと呼んで連れて行かれる際に軽く抵抗しておきましょう
連れて行かれたところを【誘惑】した動物に【動物会話】でお願いして尾行してもらい。それを追いかけていきます
もしもヌイ自身が連れて行かれたならば嫌がるふりをして連れて行かれます


メンカル・プルモーサ
……ん、少女は…ちょっとほっとけない…親父さんを説得出来れば良いのだけど……

…【不思議な追跡者】を使ってあちこちから【情報収集】して、金山送りされた人の末路(特に義賊から金を得た人間の末路)と金山の位置を…探る……
……で、その結果を…父親に知らせて……嵌められ掛けてること、その結果少女が危険にさらされることを…【コミュ力】で【言いくるめ】を交えて伝えるよ…
……いい加減真面目に働かないと……彼女も危ない……降って湧いたお金でどうにかなる物じゃ無い……大切なのはお金なのか、自分なのか、彼女なのか…本当に賭場で稼いで「楽に」なれるのか……と


河南・聖
賭場ですか!
任せてください!私運が凄くいいんです!
おみくじ引いたら大上吉だったり、殺意高いトラップ満載ダンジョンで大したトラップにかからなかったり、お味噌汁の出汁に使う竜骨取るためにドラゴンと戦ったら物凄ーく綺麗に攻撃が決まったりとか!

もちろん勝ち分のお金は全部貰います
賭場の運営費用が無くなれば賭場も潰れちゃうはずですしね
……勝ちすぎて用心棒が出てきた?
丁度いいです、捕まえて金山の場所を問い質しましょう

もし勝てなかったらそれはそれで金山送りなので一応目的は果たせますね
その時は傍で賭けてる父親に言いましょう
「私は一人だから気楽ですけど、貴方が負けたら破滅するのは貴方だけじゃないですよね?」って


セルマ・エンフィールド
果たして胴元たちは悪なのか、そしてその犠牲者たちは愚かなのか……
私には関係のないことです。善人も悪人も賢人も愚人も、必要ならば撃つ、それだけです。

どれかといえば【SPD】でしょうか。

金山送りになる猟兵たちおよび連行する者たちの跡をつけます。
迷彩で自然に溶け込み目立たないようにしながら、忍び足で音は殺しつつ。スコープの視力補助およびナイトビジョンの暗視機能があればかなり遠くからでも姿を見失うことはないでしょう。

金山に付いた後は猟兵たちを事前に解放したほうがいいと感じたなら氷の狙撃手による用心棒への狙撃などで猟兵を援護射撃し解放、そうでなければ同様にして労働者たちと同時に解放します。


陰白・幽
幸せな人、不幸な人……人それぞれだよね。誰かが無理矢理それを押しつけたりするのは……間違ってる……よね?
鬼退治のために鬼に会えるようにしっかり頑張ろっと
仲間のみんなと一緒に頑張るぞ。

今回は借金を作って鉱山送りになる方針で動くよ。だけど子どもが賭け事なんかに参加することは難しいから大人の人に協力してもらうよ。
ボクは大人の人をお兄さんもしくはお父さんとして演技をして潜入するよ。大人役の人や仲間の人がしっかり負けて素寒貧になるようにイカサマをしていくよ。
イカサマ:半か丁かを確認した後UCを使って時間を巻き戻し、直前に戻って結果を伝えることで負ける方に一気にかけてもらうよ。
大丈夫、なんとかなるよ~



●偵察
 良く晴れた昼のこと。
 身が震えるほどの寒さも、太陽の光が幾分和らげてくれる。そんな時間。
 村に居る多くの人は、日々の糧を得るために畑や森に向かう……だが、その中にあって疲れ切った様子で子供の手を引く女性の姿があった。
「小さき者よ、追え、暴け。汝は狩人、汝は猟犬。魔女が望むは獲物逃さぬ鋭き眼」
 拠り所なく歩くその姿を見つけた、メンカル・プルモーサは足元に猫を召喚すると、その女性と子供の後を歩かせる。
「おとーと、おにーはいつ帰ってくるの?」
「もう少しだから……きっと、あと少し……」
 五感を共有する猫から聞こえてくる母子の会話。
 義賊がばら撒いた財宝を得た村人の末路を探っていたメンカルは、既に幾つかの村で同じような者たちを見ていた。
「こんなことになるなら、あんなもの拾わなければ……」
 それは、財宝を得たと思わしき、大抵の人たちが口にする言葉。
「一攫千金当てて帰ってくる奴も居るってぇ話だ。気をしっかりもちねぇ」
 そしてここぞとばかりに現れた幾分身なりの良い男が、僅かばかりの食料を女性に渡す。
 これもまた、あちこちの村で見た光景。
(「……飼い殺し……」)
 そんな言葉がメンカルの脳裏に浮かぶ……が、これもまだ救いのある方だ。
 メンカルが見たものの中には、無残に飛び散った肉片とそれを前に自らの喉を掻き切った亡骸すらあった。
 あの惨状が何を示すのかなど、考えるまでもない。
「……止めないと……」
 少しの間、母子と言葉を交わしていた男が歩きだしたのを追いかけて、メンカルは小さく息を吐いた。

●準備
 村のはずれにある賭場。
 男が裏手に回るのを確認したメンカルは、賭場の正面へ回る。
「まぁ、ギャンブルで金スるのは得意よオレ様? 昔っからこういうの苦手なんだよなぁ」
 するとそこでは、塩崎・曲人がやけくそ気味に賭け事の弱さを自慢していた。
「……適任」
 そんな曲人にベール・ヌイは親指を立てる。負けて金山に連れていかれる。それが曲人の目的なのだから負けるに越したことはない。
 小細工なしで負けられる。ベールが言うように、これほどの適任者はいないだろう。
「勝つ方は任せてください! 私運が凄くいいんです!」
 ベールにだろ? なんて返す曲人とは違い、河南・聖は自分の胸を叩いて運の良さを主張する。
「凄いんだね~」
 聖のあまりの自信っぷりに、陰白・幽が根拠が感心したように頷けば、
「おみくじ引いたら大上吉だったり、殺意高いトラップ満載ダンジョンで大したトラップにかからなかったり、お味噌汁の出汁に使う竜骨取るためにドラゴンと戦ったら物凄ーく綺麗に攻撃が決まったりとか!」
 こんなことがあったんですよと聖が逸話を披露してくれた。
「では、キミはボクと一緒に行動だね」
 若干微妙な……というよりも行き当たりばったりなものが混じっているようなとエウロペ・マリウスは首を傾げつつも、勝てるなら勝てるで、いかさまを暴こうと考えていた自分と協力できるだろうと聖を手招きする。
「で、金山送りになるのはオレと?」
「僕も負ける方だよ~」
 はい! と軽快な足取りでエウロペに寄る聖を眺めつつ、曲人が確認すれば幽が袖の余った手を上げ、
「私は二人を追跡して金山に向かいます」
 金山送りになる二人の顔をよく確認してから、セルマ・エンフィールドは頷く。狙撃に有効な技能を有するセルマが追跡すると言っているのならば任せて置いて間違いはないだろう。
「……ヌイも……追いかける……任せて」
 監視場所を確保しますと言って先に移動したセルマの背中を見ていた曲人と幽にベールが主張し、
「……大人じゃないと……不便」
 二人が頷くのを確認したベールも小さく呟いてからセルマに続いた。

 幽は、遠ざかっていく銀色の髪を見送りながら考える。
(「幸せな人、不幸な人……人それぞれだよね。誰かが無理矢理それを押しつけたりするのは……間違ってる……よね?」)
 幸せだったり、不幸だったり……それは人それぞれだ。けれど、それは誰かに押し付けられたり、ましてや何者かによって弄ばれて良いものではないだろう。
(「鬼退治のために鬼に会えるようにしっかり頑張ろっと」)
 だから、まずはその何者かに会うために頑張ろうと、
「みんなと一緒に頑張るぞ」
 ぺしぺしと自分の頬を叩いて気を引き締めた。

●賭場
 戸の向こう側から、悲喜こもごもの声が漏れ聞こえてくる。その戸を叩けば、いかつい顔の男が顔を覗かせ……、
「俺たちは客を選ばない。この中に入れば女子供だろうと大人の男と同じに扱う。良いな?」
 値踏みするように確認した後、入りたければ入れと少し大きく戸を開いた。
 女子供でも……とはつまり、負けが込めば金山に連れて行くということだろう。背後に居る者の目的を考えれば、その理屈は納得できるものだ。
(「……引く理由にはならない……」)
(「むしろ正面突破が出来てやり易いくらいだよ」)
 そこまでを考えてエウロペとメンカルが視線でやり取りをしていると、
「もちろんです!」
 元気よく聖が返事をして中へ入ってゆき、曲人と幽も続く。聖たちの様子にエウロペとメンカルは再び顔を見合わせて……やることは変わらないと頷いた。

 賭場は独特の熱気に包まれていた。
 あるものは嘆き、崩れ落ち、何処かへと連れていかれ。あるものは歓喜の雄叫びを上げる。
 慣れぬものがこの場に入れば、その熱量に飲み込まれて道を違えてしまいそうな……そんな場所にすら見える。
「見てろよ、次だ! 次で一発逆転して負け分全部取り返してやるぜぇ」
 そして見事に道を踏み外した一人を演じる曲人は負け分を取り返そうと、先の倍額をつぎ込むが……見事に外れる。
(「凄いや、本当に全部外してる」)
 永眠龍の刻によって項垂れる曲人を二度見る羽目になった幽は、それでも感心したように曲人を見つめる。
 幽のように超常の力を使って負け続けることは可能だろう、そこには理屈があるのだから。だが、何の細工もなしに負け続けるのは最早ただの異常と言っても過言ではない。
 そもそも博打はある程度客に勝ってもらって、乗せてから剥ぎ取らないと商売にならない。
 故に、賽を振る方も曲人が賭けた目が出るように振るのだが……それすらもすべて弾き飛ばす悪運だった。
「い、イカサマだぁ! そうそう都合よくオレが賭けたのと逆の目ばっか出るわけねぇ!」
「お、お兄さん。ボクももう賭けるものが無いよ~」
 見苦しくもイカサマを主張する曲人と、その手に縋る幽を数人の男たちが取り囲み、
「残念だがお二人さん。払うもん払えねぇなら体で払ってもらうしかねぇんだわ」
 強制的に奥の部屋へと連れて行ったのだった。

 曲人たちの姿に既視感を覚えたエウロペは小さく頭を振った。
 とりあえずあの二人は、そのまま金山へ連れていかれるだろう……となればあちらは外に居るセルマとベールに任せて置けばよい。
 後はこの賭場自体だねと、エウロペは再び場に意識を集中させる。
「彼らが死の先触れにならないことを祈るよ」
 暗視と視力の特技を用いて壺を正面から観察しつつ、召喚した黒い犬の姿をした不吉な妖精の影を壺振り師の背後に回す。
「次はこっちです」
 エウロペの準備ができたところで現在連勝中の聖が賭けると、壺振り師は賽と壺にイカサマがないことを証明するように聖に見せ……賽を壺に放り投げた。
 一見何の不正も無いように見えるその挙動。流れるような動きは美しくすら見えるが――壺に賽を投げ入れる瞬間、振り師は壺を持つ手に隠し持っていた賽と見せていた賽を入れ替えた。
 それは古典的の手だが、全く違和感を感じさせずに行使するのは熟練を要する技だ。
 師匠のおかげで色々なイカサマを見てきたエウロペですら、正面からでは見破れなかっただろう。
 ただ、裏に回って確認するとかいう手法の発見も師匠のおかげなのだ。と考えると世の中何が何処で役に立つか分かったものではない。
 などとエウロペが考えている間に、賽は止まり……二つとも割れた。
「これは私の勝ちですね」
 ありえない事態に騒然とする賭場だが、道具の不手際は主催側の責任である。当然のように聖は自分の勝利を宣言するが、
「てめぇ、ふざけんじゃねぇ!」
「丁度いいです。相手してあげます」
 勝ち過ぎた聖を柄の悪い用心棒らしき男たちが囲み、聖はそれに応じて……賭場は喧噪に包まれるのだった。

「ほーんと、品がないわねぇ」
 用心棒と聖の喧嘩に、負けが込んでいた客と壺振り師が参戦して大乱闘となっている賭場を、奥の部屋から見つめていた線の細い男がため息をつく。
「イカサマをしてるよね。賽を入れ替えているところを見たよ」
 と、線の細い男の前にエウロペが立つ。
「……あらあら、それで、どうしたいの?」
 周りの喧騒など寄せ付けない。触れてはいけない、そんな空気を纏うエウロペに男は目を細めて問う。
 何が目的なのか、場合によっては自分もいよいよ覚悟を決めなければならないだろう。
「今日は賭場をお開きにして欲しい」
 だが要求されたものは、今日の賭場の終わり。欲張ればもっと色々求められそうなものだが……、
「……良いでしょう」
 男はさらに目を細めて、エウロペの要求をのんだ。
「話が早くて助かる」
 賭場へ戻るエウロペの背中を見つめて、男は大きく息を吐く。
 今日は鬼が現れる日。
 そんな日に変わったことが起これば、何かを期待するのは仕方がないことだろう。

「とうちゃん、もう帰ろうよぉ!」
「負けたままで帰れるかってんだよぉ!」
 帰ろうと泣く少女の手を振り払い、その父親は乱戦に参加しようとしてた。
「……勝つために、話がある……」
 メンカルは振り払われてよろけた少女を守るように肩に手をまわし、父親へ声をかける……頭に血が上っていた様子の父親だったが、勝つための話と言われて「聞かせてもらおうじゃねぇか」とメンカルへ向き直る。
「……私は見てきた――」
 自分の言葉に関心を持った父親へ、メンカルは見てきたことを切々と語る。
 夫や兄弟が返ってこなくて苦しんでいる村人の姿。人ならざる者に遭遇した哀れな亡骸たち。絶望の果てに自ら命を絶った人々。復讐のために悪行を繰り返す哀れな人形たち。
「なんだって……」
 メンカルの話を聞いて父親の血の気が引いていく。
「……いい加減真面目に働かないと……彼女も危ない……降って湧いたお金でどうにかなる物じゃ無い……」
 そう、メンカルの話を聞く限り、自分が不幸になるだけでは済まないのだ。
 メンカルの袖を掴みながら縋るような目で自分を見つめる娘を、父親は見返す。
「私は一人だから気楽ですけど、貴方が負けたら破滅するのは貴方だけじゃないですよね?」
 用心棒の股間を蹴っ飛ばして勝利した、聖が横眼でメンカルたちを確認しながら釘を刺し、
「……大切なのはお金なのか、自分なのか、彼女なのか……本当に賭場で稼いで楽になれるのか……」
 メンカルがよくよく考えるべきだと父親へ言葉を投げると……父親は膝を追って娘の肩を抱いた。
 父親と娘の様子を見てメンカルは小さく息を吐く。
 説得は上手くいったようだ……予め村の様子を見ておいたのは正解だったろう。
 それから、用心棒たちを一方的に片づけた聖と、奥の部屋から出てきたエウロペに頷くと、メンカルたちは金山へ向かった仲間を追うことにした。

「……お兄ちゃん」
「うるせぇ! 金持って来い! ここで勝てばオレらもお大尽様の仲間入りよぉ!」
 金山へ連行される途中、ベールが心配そうに曲人に声をかけるも、曲人は見事な熱演で駄目人間っぷりを披露していた。
(「お見事ですね」)
 見晴らしの良い、それでいて外からは見え難い木の上に陣取ったセルマはスコープ越しに、その様子を観察する。
 曲人の熱演で、連行している用心棒風の男たちですら、ベールに同情的な視線を向けている。
 さらには見た目は子供である幽を気遣うようなそぶりすら見せている……、
(「果たして胴元たちは悪なのか、そしてその犠牲者たちは愚かなのか……」)
 そんな素振りを見せる用心棒たちは果たして悪なのだろうかとも、犠牲者たちは愚かなのだろうかともセルマは思考するが、それも一瞬のこと。
(「私には関係のないことです。善人も悪人も賢人も愚人も、必要ならば撃つ、それだけです」)
 小さく頭を振ると気を取り直して、スコープの向こうにいるのは獲物だけと覗きなおす。
 迷いは一瞬の決断を鈍らせる、それ故にかセルマは常に自分に言い聞かせるのかもしれない。
 スコープの向こうではベールが犬に何かを話しかけている……誘惑した動物を追跡に使おうとしているのだろうか。
(「そろそろ次の場所に移動ですね」)
 そうこうしている内に、曲人たちが姿がだいぶ遠くなり……完全に視界から消える前に、セルマは次の監視場所へ移動しなおすのだった。

●金山
 日はだいぶ傾き、そろそろすれ違う人の顔すら見えなくなる時刻。
「……こっち」
 曲人と幽の後を追った聖たちは、途中でベールと合流しベールの案内で金山までたどり着いた。
 金山の入り口……そこは厳重に守られているのかと思いきや、見張りの一人もいない状態だった。
「ずいぶんと手薄だね」
「みんな帰っちゃったんでしょうか?」
 あまりの手薄っぷりにエウロペが首を傾げ、聖が誰かいないか周囲を見回す。
 しかし誰もいない。
「……罠とか……」
 もぬけの殻っぷりにメンカルが罠を疑うのも仕方がないが……そんな様子もない。どうしたものかと一行が思案していると、
「わざと、逃げられるようにしているのでしょう」
 こちらもわざと足音を立てて、仲間に近づきつつセルマが言う。
 セルマが言うには、ここも完全に誰もいなかったのではなく、見張りは何人か居たらしい。
 もっともそれは先に到着したセルマが眠らせて置いたようだが、それでも見張りの人数が少なすぎると。
 であるなら、考えられる可能性は一つだけ……逃げやすくしてあるのだ。
 そしてそれは、鬼の趣向を考えれば、十分にあり得る話。
「ほれ、さっさと出てこい」
 セルマたちが話している間に、金山の奥まで入っていた曲人と幽が労働させられていた村人たちを連れて出てきた。
 村人たちは口々に礼を述べて、解放された喜びに満たされているようだ。
 中には、勝手に逃げて報復されないかと気にするものも居るが、
「大丈夫、なんとかなるよ~」
 幽がひらひらと手を振ると、安心した様に涙ぐみすらしている。

 こうして一時的とはいえ賭場は閉じられ、村人たちも救済された。
 
 ――故に、この場は喜びと幸せで満たされた。
 蒔いた種は芽吹き、多くの試練を超えて極上の実を結んだ……今こそ収穫の時。
「……来る」
 肌が泡立つのは恐怖のためか、喜びのためか。
 夕暮れに溶けるように佇む、赤き巨躯――青い瞳は、はっきりとその姿を捉えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『幸せを喰らうモノ』

POW   :    破断掌
【掌底】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    鬼神一閃
【斬馬刀】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    魂食呪体
対象の攻撃を軽減する【喰らってきたモノの怨念を身に纏った状態】に変身しつつ、【呪詛が込められた斬馬刀】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はベール・ヌイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●鬼は嗤う
 空一面に血液をぶちまけたかのように、真っ赤な夕暮れ時。
 その空から産み落とされたかのような、真っ赤な人影が佇んでいた。
 否、よくよく見ればそれは人では無いように見える……血のように赤い肌。血に飢えた双眼。血を滴らせたように真っ赤な口。
 何よりも特徴的なのは、頭部から延びる二本の角……それは、鬼と呼ばれる存在に違いなかった。
「嗅いだことのない香りだと思えば、面白いことになっておる」
 鬼は独り言ちる……金山から解放された人々と、人々に囲まれる者たちを見て。
「奴らは何者だ? まぁ、良い。まずは腹ごしらえに一匹喰らう。その後、奴らを血祭にあげるとしよう」
 鬼は考える……今回邪魔をした者たちをいかにして滅ぼすかを。
「残りの家畜どもは放つとしよう。フハハ、この状況から新たな味となればよし。ならずとも代わりは幾らでも居る」
 鬼は嗤う……新しい可能性に。
 鬼はやることを決めると、血に濡れた斬馬刀を肩に担ぎ――ゆっくりと獲物に向かった。
セルマ・エンフィールド
鬼が現れる瞬間は第六感を頼りに察知、デリンジャーのクイックドロウで予知で見たようなシーンは阻止します。


……止めるよりは援護した方が確実ですね。ヌイさん達の援護射撃を。

斬馬刀が届かない遠距離からスナイパー技能によるマスケットからの【アイスリンク・バレット】で斬馬刀と敵の足元を狙います。
刀の持ち手や足元を凍り付かせ、滑らせることで攻撃の妨害をおこないつつ、斬馬刀の刃も凍らせることで殺傷力を出来る限り下げていきたいところです。

家畜、ですか……その物言い、故郷を思い出しますね。あぁ、そういえばあれも吸血『鬼』でしたか。
なんにせよ、人間と人喰いがともに生きていけるはずもなし、ここで仕留めます。


エウロペ・マリウス
悪いけれど
悪趣味な食事会には付き合うつもりはないよ
今日がキミにとっての最後の晩餐になると思うよ

行動 WIZ【全力魔法】【誘導弾】【高速詠唱】【属性攻撃】
使用ユーベルコード
【射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)】

【全力魔法】と氷の【属性攻撃】で火力を
【高速詠唱】で手数を
【誘導弾】で命中率を共に強化して攻撃するよ

こんなもの(ホワイト・フライクーゲル)でよければ存分に喰らえばいいよ
味なんてものが、わからなくなるぐらいに凍てつかせてあげるよ
キミは何も為せず、ただ命を奪われるという恐怖を知るべきだね


塩崎・曲人
ベールのやつ、完全に頭に血が上ってんなぁ
まぁ、そこをフォローすんのが大人組の役目さね
「鬼さんこちら、手の鳴る方へってな!かかって来いよ!」

【咎力封じ】で行動束縛を狙う
大ぶりの斬馬刀なんざ完璧に避けてやんよ
ちびっこ達を攻撃に晒すわけにもいかんし
接近して足止めと囮をやりますかね

無論、仲間とは連携して挑む
オレが時間を稼げば、攻撃を差し込んでくれる奴が居ると信じて

「復讐なんざ究極的には気晴らしだ。それでスッキリ出来るなら、いくらでも鬼の首を刎ねればいいさ」
それとは別の次元の話で、どの道オブリビオンは誰かが殺さなきゃいけネェからさ


須藤・莉亜
ベールたちの援護を。
「援護援護っと」
まあ、ちょこっと手助けできれば良いかな?

大鎌を21本に複製して、敵さんの手足を【傷口をえぐる】を使いつつ、集中的に狙い機動力を殺す。
味方に敵さんの攻撃が当たりそうなら、大鎌を盾がわりにしてフォローもしとく。
味方の攻撃に合わせて、大鎌の追撃もしっかり入れれるように頑張る。
【生命力吸収】【吸血】も使って自分のダメージの回復も忘れないようにしよう。

「あ、僕の報酬は鬼の血で良いから。」


ベール・ヌイ
「キミ、鬼だろ?あの時の鬼だろ?首よこせ、鬼の首を・・・お前の首をよこせ!
讐相手と相対したため、頭の中は復讐一色にそまってます。
【再演・鬼殺】を使って真の姿になり、【殺気】をこめた【捨て身の一撃】で相手に斬りかかります、狙いは首。相手の攻撃に関しては【激痛耐性】で無理やり耐えます

すべて終わったあとにヌイを援護してくれた人に頭を下げよう。「ありがとうみんな・・・ボクは、復讐を果たせた」


仁上・獅郎
遅ればせながら、ヌイさん達の加勢に参りました。
あれが鬼ですか……正面切って戦うのは少々骨が折れそうですね。
僕は精々小細工を凝らすとしましょう。

下手に近づけば致命の一撃を喰らいそうですね。
ならば距離を取って、[高速詠唱]で【白熱縛鎖】使用。
鬼の周囲に空間の歪みを作り、そこから放つ鎖でその身体を拘束。
斬馬刀には鋼糸を巻き付け、動きの阻害を致しましょう。
ついでにその目の周りにも巻いて[目潰し]と。

お膳立ては十分でしょうか?後は皆さん、存分にどうぞ。


メンカル・プルモーサ
……ん……様子がおかしいと想ったら…そう言うこと……
…友人のお手伝い…はじめる……

……【現実を侵せし狩猟団】を呼び出して……援護射撃とベール・ヌイの護衛をさせる……目的は…とにかく鬼を自由に動かさないのと…味方のダメージを減らす……(援護射撃・かばう)
その後はウィザードミサイルで牽制しつつ鬼の動きとUCを…観察……

ヌイの動きに合わせて…【面影映す虚構の宴】でヌイの幻影を作って……
迎撃の手を1つ失わせる……次の迎撃に合わせて【崩壊せし邪悪なる符号】これでもう1手…合わせて2手失わせれば……ヌイが届く……

…ん、終わっら……お疲れ様…と声をかけるかな…


陰白・幽
どっからどう見ても鬼だね~。回りくどいことをしてた割にはフツーの……人をあだなす存在って感じだよね~。
他の皆と協力して、鬼退治をするぞー。
斬馬刀を持ってたり、太い腕は危険だよね、いつでも回避できるような距離を保ちながら鎖を使ってチクチク攻撃をしていくよ。鎖を使った突き、薙ぎ払いに……隙が出来たら鎖を地面の中を通して、鬼の近くから奇襲させ体のどこかに巻きつけて、その後思いっきり引っ張って地面に叩きつけるよ。【怪力】を使えば、鬼との力比べにも負けないよね。
姿勢を崩した鬼にUCを当ててさらに動きを邪魔するよ。

ボクたちの頑張りで、少しでも皆が幸せになってくれたら……嬉しい~かな。


河南・聖
いやぁ、金山で働かされてた人も無事解放できて、とってもハッピーですね!

……さて、貴方の周りは餌でいっぱいですけど、今どんな気持ちですか?
そうですかそうですか。
じゃ、今度は貴方が餌になる番ですね!
いや食べませんけど!

というわけでペガサスライドです!
相手は斬馬刀ですけど、射程外から攻撃できるなら関係ないですもんね!
ブレイズドラゴン、お願い!

あ、トドメを刺せそうならペガサスから飛び降りて、黒狼牙で剣刃一閃できますかね?
今まで真っ二つにされた人たちのように、真っ二つにしてやりたいです。



 夕暮れの空を一陣の風が吹き抜ける。
 吹き抜ける風は周囲の木々を揺らし、地面に落ちた枯葉を舞い上げて何処へともなく去ってゆく。
「ボクは鬼を殺す者」
 風によって乱された髪をまとめるように頭の後ろで結び、ベール・ヌイは巻き上げられた木の葉の向こうを……真っ赤に染まった空を青い瞳で見据える。
「すなわち桃から産まれぬ狐姫」
 続けざまに紡がれるベールの詠唱。らしからぬベールの様子と、風と共に運ばれた得も言われぬ悪寒。
「桃太郎になれぬ桃姫也」
 ベールの詠唱が完了して、その身に深紅の甲冑を纏うのとほぼ同時に、セルマ・エンフィールドは自身のスカートに隠していたデリンジャーを引き抜き、上空へ向けて発砲する。
 その目が何かを捉えていたわけではない……が、セルマが放った銃弾は上空から迫る何かを捉える。
 否、正確には何者かに弾かれた。
 セルマの銃弾を弾いたそれは、セルマの目の前に音もなく降り立つと同時に銃弾を弾いたのであろう巨大な刀を真直ぐに振り下ろしてくる。
 セルマはとっさに後ろに下がって、それを避けようとするが……僅かに遅い。避け切れなかった刀の切っ先が、セルマの二の腕を浅く裂く。
 深紅の液体がセルマの腕をつたって地面へ落ち、
「キミ、鬼だろ? あの時の鬼だろ?」
 その血が地面を赤く染めるよりも早く、ベールは鬼を殺すために打たれた刀を自身の倍はあるかという巨躯を持つ何者か……鬼の首へ向けて抜き放つ。
「首よこせ、鬼の首を……お前の首をよこせ!」
 首をよこせと吠えるベールの一撃。それは受け身や防御などを全く考えてない捨て身の一撃……その殺気に手にした斬馬刀では防御が間に合わないと判断した鬼は、左腕でベールの一撃を受ける。
 丸太のような鬼の腕を、中ほどまでを抉ったところでベールの刀は止まり、
「家畜が吠えるな」
 眼前まで迫ったベールの顔を値踏みするように見つめた後に、にたりと牙を見せて右手に持った斬馬刀に呪詛を籠めながら切り上げる。
 頭の中が復讐一色に染まったベールにそれを防ぐという考えはない。腕から噴き出した鬼の血に顔を赤く染めながらも、食い込んだ刀をさらに押し込み、あの首をはねることしか頭にない。
 斬馬刀はそんなベールの右足に迫り……、
「援護援護っと」
 その足に刃が届く直前、須藤・莉亜が作り出した二十一の白い大鎌の内の四つによって防がれる。
 しかし、それでも殺し切れなかった威力によって盾となった大鎌ごとベールの体は上方へ吹き飛ばされた。
「いやぁ、金山で働かされてた人も無事解放できて、とってもハッピーですね!」
 吹き飛んだベールの体をメンカル・プルモーサが受け止め、そのメンカルたちが鬼の視線に入らないように間に入った、河南・聖がにこにこと話しかける。
「……さて、貴方の周りは餌でいっぱいですけど、今どんな気持ちですか?」
 周囲に居る村人たちは唖然とした様子で、猟兵と鬼の戦いを傍観していたが、聖が餌と言って村人たちを示すと……あの異形の目的が自分たちなのだと察し、慌てふためき、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「貴様らの方こそ家畜を救えて幸せそうではないか」
 逃げ去る村人たちなど眼中にない……鬼は血に飢えた眼で、獲物を見るような目で聖たちを見つめ、標的が自分たちへ移ったことを確信した聖は大きく後ろへ飛ぶ。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へってな! かかって来いよ!」
 聖と入れ替わるように塩崎・曲人が鬼の眼前へ躍り出ると、丸太のような腕を手枷で固定し、鋭い牙の生える口を猿轡で塞ぐ。さらに拘束ロープで斬馬刀と胴体を締め上げて、鬼の動きを止める。
「バラバラにした方がいっぱい血が出るよね?」
「ブレイズドラゴン、お願い!」
 鬼の動きが止まった機を逃さず、莉亜が二十一の白い大鎌を念力で自在に操り鬼の体を切り裂いてゆく。
 さらに獲物に群れる蝙蝠のごとく鬼にまとわりつく莉亜の大鎌の合間を縫って、純白のペガサスの背に乗った聖がすれ違いざまに鬼の左肩をヒカリで抉る。
 肩を抉られ、さらに執拗に傷口を広げてくる大鎌に苦痛の声を漏らしつつも鬼は曲人の拘束を力づくで解き、莉亜の大鎌を払うように斬馬刀を横なぎに振るう……が、そのころには聖はペガサスとともに遥か上空へ舞い上がっており、曲人は一歩下がったところで鬼と仲間の様子を冷静に観察していた。
 そして空を切った斬馬刀の正面。
「どっからどう見ても鬼だね~。回りくどいことをしてた割にはフツーの……人にあだなす存在って感じだよね~」
 陰白・幽は笑顔を崩さずに両の掌を鬼へ向けると、そこからドラゴンオーラを放つ。
 放たれたドラゴンオーラを鬼は右手で払うが、払った瞬間オーラは爆発し幽と鬼の腕とをオーラの鎖で繋いだ。
「手間暇は惜しまん性質なのでな」
 鬼は繋がれた鎖を一瞬不思議そうに見つめるも、にたりと牙を見せると鎖を引っ張り幽の体を引き寄せようとする。
 体が小さく線の細い幽を見て、自分と力比べをしようだなどと愚かなことだと鬼は嗤うが……どういう理屈か、幽の体は微動だにしなかった。
「悪いけれど。悪趣味な食事会には付き合うつもりはないよ」
 驚愕の表情を浮かべる鬼へ、エウロペ・マリウスは氷のような瞳と、氷の結晶に彩られた杖を向け、
「幸運の白い薔薇を持たぬあなたは、ただ魔弾に貫かれるだけの運命」
 口早に詠唱を行うと一瞬で自分の周囲に百に及ぶ氷の魔弾を生成する。
 生成された魔弾は降り注ぐ雨のように鬼へ向かい、鬼はそれを避けようと横に飛ぶが……鎖で繋がったままの幽がそれを許さない。
 強引にその場に足を止めさせられた鬼は、幽へ怒りの視線を向けつつも斬馬刀でエウロペの魔弾を弾く、
「時空の外神よ。その憤激を、深淵よりの光と鋼鉄の束縛と化し、我に貸し与え給え」
 だが、半分ほどを凌いだところで鬼の周囲に空間の歪みが生じたかと思うと、白熱する鎖が鬼の手足を捉えて拘束する。唐突に拘束された鬼は成す術無く、残りの魔弾の直撃を受け、
「正面切って戦うのは少々骨が折れそうですので、小細工を凝らさせていただきましたよ」
 魔弾で凍り付いた顔を強引に声の元へ向ければ、そこには優し気な表情で自分を見つめる仁上・獅郎の姿があった。
「キミは何も為せず、ただ命を奪われるという恐怖を知るべきだね」
 獅郎と幽の鎖に繋がれ、自由を失った鬼を見つめ……それがキミの最後の晩餐だよ。美味しかったかい? とエウロペは冷たく言い放った。

(「……ん……様子がおかしいと思ったら……そう言うこと……」)
 吹き飛ばされた衝撃のためか、削り続ける力の代償のためか……少し咳込みながらも、再び鬼へ向かって駆け出したベールの背中を見つめてメンカルは小さく息を吐く。
 それからベールを援護すべく、プログラムが実体化したガジェットを召喚する。百を超えるガジェットの軍隊はがむしゃらに鬼へ向かっていくベールに追随して鬼へと向かい、
「……止めるよりは援護した方が確実ですね」
 ベールとメンカルの様子を横目で確認していたセルマは、マスケット銃を構えてスコープを覗く。
「まだ動けますか」
 スコープの向こうでは鎖にとらわれながらも呪詛を込めた斬馬刀を振り回して、メンカルのガジェットを蹴散らす鬼の姿と、遠巻きに観察しつつ拘束の手を緩めない獅郎の姿。
「ボクも頑張るぞ~」
 さらに幽が獅郎と同調するように、オーラの鎖を駆使して鬼の動きを阻害しつつ、先端が龍爪のような形状をしている鎖を薙ぎ払い、蛇のようにしならせて鬼の皮膚を切り裂いていく。
「お前の相手はこっちだって言ってんだろ!」
 鎖が引きちぎれないのならばと鬼が幽へ踏み込めば、その直前で曲人が割って入り、斬馬刀を持つ手を封じる。
「この程度で!」
 それでも強引に振り下ろしてくる斬馬刀の腹を曲人は鉄パイプで殴り、その軌道をそらす。そらされた斬馬刀は地面を大きくえぐり、その威力を示すが……、
「隙ありっと」
「まだ喰い足りないのかい?」
 振り下ろしてしまった斬馬刀では防御は間に合わない。その隙をついて莉亜が大鎌で鬼の腕を肩を次々と切り裂き傷口を広げ、エウロペが作り出した氷の魔弾が次々に鬼の体に直撃する。
「今度は貴方が餌になる番ですね!」
 さらに上空から落ちてきた聖が漆黒の大剣で鬼の背中を切りつける。実際に食べる訳ではないが、誰かの贄になる気持ちを分かれと、今まで真っ二つにされた人たちの気持ちを少しでも分かれとその体を刻む。
 聖たちに体を削られ、真っ赤な鬼の体表は霜で覆われ、地面には鬼よりも赤い血だまりが出来ている。
 だが、そんな鬼の様子を見てもベールの心が落ち着くことは無く。
「首をよこせ!」
 愚直に正面から鬼の首を狙うのみだ。捨て身で振り下ろす鬼殺を鬼は再び左腕で受け止める。受け止めた瞬間、鬼の腕はあっけなく落ちるが……、
「フハハ! やるではないか家畜の分際で」
 腕を切り落とした勢いで体勢を崩したベールに向かって、余った右腕の掌を向け……その掌がベールの腹に掌が当たる寸前で、曲人が左手を差し込んだ。
 唐突に邪魔が入ったが、鬼は構わず掌を振りぬき、衝撃で曲人の体が反転しベールが再び吹き飛ばされる。
 それから振りぬいた腕でそのまま斬馬刀を拾った鬼は、反転した曲人へ向けて踏み込むが、
「させません」
「直接当てるだけが能ではありませんよ」
 獅郎が鬼の脚を白熱する鎖で捉え、セルマが鬼の足元に着弾地点付近を凍結させる弾丸を撃つと、鬼は体勢を崩して膝をついた。
(「家畜、ですか……その物言い、故郷を思い出しますね。あぁ、そういえばあれも吸血『鬼』でしたか」)
 体勢を崩した鬼を無表情に見つめつつ、セルマは曲人に駆ける。それから曲人の右腕を引いて、鬼から距離を取らせる。
「大丈夫だ。オレは大人だからな」
 ちらりと左腕見れば、酷い有様だったが……セルマが何かを言う前に、曲人は大丈夫だとその手を振る。
「……まだ、あと一歩……」
 とりあえずは大丈夫そうな曲人の様子に小さく息を吐きながら、メンカルはベールの幻影を作り出した。

「お膳立ては十分でしょうか?」
「これでもう動けないよね?」
 獅郎の白熱する鎖がさらに鬼の胴を捉えて動きを押さえ、鬼の真下から出現した幽の龍爪の鎖が鬼の体を地面に縫い付けるように固定する。
「フハハ……」
 すると、突然鬼はとても愉快そうに嗤いだした。
「気が触れましたか?」
「観念したのかい?」
 笑い出した鬼に不快なものを感じた、セルマが弾丸を、エウロペが三度目の魔弾を放つ……が、弾丸の嵐に身を削られながらも鬼は嗤うことをやめない。
「ハァアハッハッハ!」
 それどころか鬼の嗤いは狂ったように大きくなる……そんな鬼に対してベールはゆっくりと近づき、鬼殺を真横に構える。そして鬼はベールに対して右手の掌を向けて……、
「……お前の首をよこせ!」
 鬼の行動など無視して鬼殺を薙ぎ払うベールの動きに併せるように鬼は掌をベールの顔に押し当てる。
「邪なる力よ、解れ、壊れよ。汝は雲散、汝は霧消。魔女が望むは乱れ散じて潰えし理」
 が、それはメンカルが作り出した五感を狂わせる幻影。幻影は霧散し、次の瞬間メンカルが紡ぎだした情報を分解する魔術によって鬼の右腕も爆ぜるように砕け散った。
 鬼の腕が砕け散り、肉片と血が飛び散る中……飛び散った血肉すら切り裂き、ベールの鬼殺は鬼の首へ到達する。
 そして、ベールが鬼殺を振りぬくと……鬼の首は笑い声をあげたまま宙を舞ったのだった。

 鬼の首をはねたあと、ベールは残心をとるように大きく息を吐いて……再演・鬼殺を解く。
 纏っていた深紅の甲冑が消え去り、いつものベールの姿に戻ると首を失った鬼の体は、噴水のように血を噴き上げてから地に伏した。
「上です!」
 倒れた鬼を、どこが茫然と見つめるベールの耳に警告の声が届く。
 宙を舞っていた鬼の首がベールに向かって落ちてくる……声なき嗤い声を上げて、ようやく極上の獲物を見つけたとばかりの笑みを浮かべ、その大口を開いている。
 セルマが発砲し、メンカルのガジェットたちが迎撃しようとするも、その軌道は変わらない。
 ベールを庇うように幽が、曲人が、その身を躍らせ、聖が頭を真っ二つにしようと漆黒の大剣を構えるが……曲人の頭を丸呑みしたところで鬼の動きは完全に止まった。
「首だけで動くなんてホラーかと思いましたよ」
 聖はその首をつついて本当に死んでいることを確認する。
「やっぱこういうの得意だわ、オレ様」
 それから聖につつかれている鬼の頭を引き抜いて、曲人が肩をすくめると……、
「……適任」
 どこからともなく呼び出されたベールのゴリラが唾液でぬとぬとになった曲人の肩を叩いた。

「大丈夫かい?」
 ゴリラに肩を叩かれて「お、おう」となっている曲人へ、少し目を細めてエウロペが声をかけ、セルマもただ黙って見つめてくる。
 そんなセルマに何ともないさと曲人は左腕を上げ、
「復讐なんざ究極的には気晴らしだ。それでスッキリ出来るなら、いくらでも鬼の首を刎ねればいいさ」
 それからいまだに少し呆けた様子で遠くを見つめるベールへも手を振る。
 どの道オブリビオンは誰かが殺さなければならない、それがたまたま誰かの復讐だった。それだけの話だろう。
「ボクたちの頑張りで、少しでも皆が幸せになってくれたら……嬉しい~かな」
 たったそれだけの話だけれど、それでも誰かが幸せになってくれたら良いなと幽は呟き、ベールを見つめる。
 そんな幽の視線に気づいたのか、ベールは皆の方へ振り返り、
「ありがとうみんな……ボクは、復讐を果たせた」
 ベールはゆっくりと頭を下げた。
 
「……お疲れ様……」
 頭を下げたベールにメンカルが声をかけ、それをきっかけに仲間たちはお互いを労う言葉をかけあう。
「あ、僕の報酬は鬼の血で良いから」
 そんな中、莉亜が報酬について言及するも、
「……首切ったから……全部、流れた」
 ベールが言うように鬼の血は全て地面にぶちまけられていた。それを見た莉亜がさしてがっかりした様子でもなく「えー」と声に出すと……誰からともなく笑い声が漏れる。
 それから一行は鬼の死体を始末すると――暮れてゆく夜の空を背に、帰路へ着いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月27日
宿敵 『幸せを喰らうモノ』 を撃破!


挿絵イラスト