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花畑の竜はまどろみの中で夢を見る

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●花と廃虚とドラゴン
 そこは、かつては小さな村だった。人々が平和に暮らす、活気に満ちた村だった。
 今は花の咲き乱れる廃村になって……もう、誰もいない。
 小さな木造の家、斜めに傾いだ風車、村を囲んでいた木の柵。それらすべてにツタが這い、葉を茂らせ、小さな花が数え切れないほど咲いている。
 水の枯れた井戸にも、煙の出ない煙突にも、鳴ることのない鐘楼にも。花々と緑が、建物の半ばを覆いつくしている。
 村の広場だった場所だけは、大きい生き物のねぐらのようなくぼみが、ぽこりとあいていた。

 しばらく後。ねぐらに、1匹のドラゴンが帰ってくる。
 血と煙のにおいをまとわりつかせ、凶暴な目をらんらんと光らせて、息を荒げた、怒れるドラゴン。
 興奮さめやらぬふうで、しばらくは花の廃村をぐるぐる歩き周り、何かを探すふうに頭を巡らせて、……哀しげにがくりと頭を下げる。
 やがて、ドラゴンはその場に身を落ち着け、息を整え、目をつぷる。
 ――次の破壊衝動が起きるまで、短い眠りにつくのだろう。

●ドラゴン退治
「アックス&ウィザーズの世界で、オブリビオンを見つけたよ。見たことある人いるかな、花の竜グラスアボラスだよ」
 グリモアベースで、猟兵達に向けて泥炭の小山――以累・ナイが言う。
「わたしが見つけたこのドラゴンはね、山奥の廃村に住んでいるの。時々遠出をして人を襲うから、これ以上被害が大きくなる前に、倒さないといけない。みんなの力が必要なんだよ」
 廃村で花に囲まれ眠るドラゴンの姿――予知した光景を画面に投影しながら、ナイは説明を続ける。

 ドラゴンの居場所はわかっているが、今回は事前の下調べが役立つとのこと。
「力づくで倒すこともできるけど、このドラゴンは何かをとても哀しんでいて、その哀しみを和らげることで、オブリビオンとしての力を弱める――倒しやすくなりそうなの。……倒さなきゃいけないことには、変わらないんだけど」
 具体的に、ドラゴンが何に哀しんでいるかを知るには、街の酒場で情報収集をする必要がある。
「その酒場は、冒険者がたくさんいてね。ドラゴンを倒せば懸賞金が出るから、我こそはドラゴン退治をと狙っている冒険者は、簡単には情報を他人に漏らさないけど……交渉とか、力づくとか、情報をもらう方法はいろいろとあると思うよ」
 また、ドラゴン退治をするつもりがない冒険者も、ドラゴンについてはあまり話したがらないという。……何かドラゴンの事情を知っている者もいるのではないかと、ナイは言う。

「でね、ある程度の情報をつかめだら、ドラゴンがねぐらにしている廃村に行って戦うだけなんだけど、道中にちょっと厄介なポイントがあって」
 途中に、幻惑の霧が出るエリアがある。亡くした大事な人や、会いたい人の幻が出てきて、死ぬまで離さないという恐ろしい場所だという。
「この霧、ドラゴンの感情や魔力に反応して活性化しているの。自分にとっての大事な人に会う人もいるだろうけど、ドラゴンの見る幻を、一緒に見てしまう人もいるかもしれない。そうなってもドラゴンに共感しすぎないように、気持ちをしっかり持ってほしいの」

 まずは酒場の情報収集。それから幻惑の霧を越え、目的地にたどり着き、ドラゴン――オブリビオンを倒す。
「現地への移動とかのサポートはわたしがするから、気をつけて行って、帰ってきてね」


海乃もずく
 こんにちは、海乃もずくです。
 舞台はアックス&ウィザーズです。ドラゴン退治がメインですが、ワケありドラゴンなので、声かけが戦闘を楽にする可能性があります。プレイングにもよりますが、心情や説得に比重を置いた戦闘シーンになるかなぁと思っています。

 1章は酒場での情報収集、2章が幻惑の霧を踏破する冒険シーン、3章がボスのドラゴン戦です。
 1章の情報収集は、割と簡単に情報は出てきます。気になることがありましたら、または思いついたことを何でも、お気軽に行動していただければと思います。
 2章から、3章からの途中参加も大歓迎です。お気軽にどうぞー。

 同伴希望、アドリブ制限・留意事項など、何か希望があれば、プレイングにご指定いただいた範囲で極力対応します。
 特にご指定がなければ『アドリブあり、2~3人の少人数描写(時々単独描写)』になると思います。
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第1章 冒険 『酒場の賑わいの中で』

POW   :    酒の飲み比べ、腕相撲、一騎打ちなどで冒険者に認められる

SPD   :    冒険者同士の情報を盗み聞き、地図をすり取る等でこっそりいただく

WIZ   :    色仕掛けや説得など、口先で騙して冒険者から情報を引き出す

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャルファ・ルイエ
酒場って初めて来ました…!ええと、先ずは情報収集ですね。
酒場って何となく吟遊詩人さんが出入りしているイメージがありますし、先ずは警戒心を解いてもらうために何曲か歌ってみようと思います。『歌唱』
ある程度場所に馴染めたら、廃村の出身者や廃村に行ったことがある人が居ないか、雑談に交えて探してみます。
そもそもその村は、どうして廃村になったんでしょう。
ドラゴンが出たから廃村になったのか、廃村にドラゴンが住みついたのか、それとも―…。
廃村の事を知っている人を見つけたら、ドラゴンが哀しんでいると聞いたからその理由が知りたいんですって素直に話して、知っていることがあれば教えて貰えないかお願いしてみます。


春霞・遙
初めての剣と魔法の世界。
すごい、本当に小説とかゲームの中みたいだ・・・。

【WIZ】
冒険者の人たちも悪い人たちではないだろうから誠心誠意お願いしよう。

ローブで「変装」して巡礼中の神職を装う。
モンスターなどに滅ぼされた町や村を巡って死者や傷ついた者のために「祈って」おり、詳しい情報を知りたい、と「言いくるめ」る。
だから、そこの村がどんな村だったのか、何があって人がいなくなってしまったのか、そこにいるドラゴンもなにか謂れがあるのか、など聞いてみたい。

怪我をした人や病気の人がいればついでに手当してあげたり治療してあげたいな(「世界知識」「医術」)
お医者さんの性分なもので。



●廃村の理由
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は、初めて訪れたアックス&ウィザーズの景色に目を奪われていた。
「すごい、本当に小説とかゲームの中みたいだ……」
 木と漆喰の素朴な建物が並び、果物を積んだ荷車が通り過ぎ、遙の感覚で言えばファンタジー風の服装をした人が行き交う。
 遙自身も地味なローブ姿で、手には巡礼者の杖。この世界を小説やゲームの中というなら、今の遙はそこの登場人物だった。
(「冒険者の人たちも悪い人たちではないだろうから、誠心誠意お願いしよう」)
 よし、と気合いを入れ直し、酒場の扉を開ける。喧噪に混じって、澄んだ歌声が酒場の中から聞こえてきた。

 一足先に酒場の中で、物語を歌っていたのはオラトリオの少女、シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)。杖に下がったガラスのベルが伴奏を奏でる。
 歌い終わったシャルファは拍手喝采を受け、青いウェーブヘアを揺らしてお辞儀を一つ。

「ねーちゃん、いい声だな! この辺は初めてか?」
「一杯おごってやるよ、こっち来て座らねえかい」
 酒場といえば吟遊詩人、ならばとシャルファが歌ってみたところ、冒険者達にはずいぶん喜ばれたらしい。
(「酒場って初めて来ましたが、こんな感じなんですね……!」)
 雑談を交わしながら、シャルファはさりげなく、話題をドラゴンの廃村のほうへと向けていく。廃村に行ったことがある者、廃村の出身者はいるか。
「――そもそもその村は、どうして廃村になったんでしょう?」
「どうしてって、その、なあ……」
「……うん……」
 正面の男達が言葉を濁す。――これは知っている反応だ、と見込んだシャルファは、更に一歩を踏み込んだ。
「わたし、ドラゴンが哀しんでいると聞いたから、その理由が知りたいんです」
「聞いたって誰に? ドラゴンって哀しむのか?」
 聞き返され、シャルファは返答に詰まる。『ドラゴンが哀しんでいる』という話は、確定情報として聞いていたためそのつもりで話したが、酒場の男たちにはそういった認識はないようだった。

「――実は私たち、モンスターなどに滅ぼされた町や村を巡って、死者や傷ついた者のために『祈って』おりまして」
 答えあぐねたシャルファに助けの手を差し伸べたのは、ローブ姿の遙だった。
 青い瞳をぱちくりとさせたシャルファに、遙は声を出さずに口の動きだけで伝える。
(「話を、合わせて」)
「……はい、そうなんです! わたしたち、いろんな町や村を巡っていて、途中でドラゴンのうわさを聞きまして」
「私は神職なのですが、正しく祈りを捧げるためには、そこで何があったのかを、正確に知る必要があるんです」
 遙は柔らかな物腰に巧みな言いくるめを交え、シャルファと話を合わせつつ、如才なく話を続けていく。
「だから、そこの村がどんな村だったのか、何があって人がいなくなってしまったのか、そこにいるドラゴンもなにか謂れがあるのか、事前にわかることがあったら知りたいんです」
 シャルファと遙の真摯な言葉に、男達は互いに目を見交わす。やがて、1人がためらいがちに口を開いた。
「実は――」

「伝染病?」
 本業が医師である遙からすれば、聞き捨てならない話ではある。
 男の話は――冬に大流行した病気で、村人のほとんどが死に、廃村になったというものだった。
「最初、悪質な疫病だから村を隔離しなければならないって話になって、それもあって対応が遅れて」
「それ、本当は、隔離までする必要はなかったんですよね?」
 遙は断言する。症状を聞く限り、そこまで感染力の高い病気ではないように思えた。
「ああ、悪質な疫病ってのは、結局、デマだったみたいだな。でも、あの村の生き残りだって知られると居づらくなるから、秘密にしといたほうがいいって、今もそんな雰囲気で」
「村の人達も大変だったんですね」
 シャルファは相づちを打ちながら、今得た情報を頭の中で整理していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

泉宮・瑠碧
グラスアボラス…花を芽吹かせる竜、僕は好きだ
何が哀しいのか…
僕は…私は、花の竜に何が出来るのかな

話したがらない冒険者から情報収集
ドラゴン退治はしない様だが…
竜の事情と関係があるのか…?

奢る位はするが、正直に訊く
花の竜の事情と
山奥の廃村に何があったか、知らないだろうか

…僕は、本当は花の竜を討ちたくは無い
けれどまだ被害が出る以上、放置は出来ない
が、懸賞金なんていらない
せめて、あの竜に何か出来る事を探したいんだ

…あのまま、時に破壊衝動に支配されて
哀しみまで抱えているなんて、そんなのあんまりだ…

こちらに都合の良い話で申し訳ないが…
花の竜が少しでも穏やかに眠れる様に、どうか教えて欲しい

深く頭を下げて頼む


ユズリハ・オーリエト
花のドラゴン、かぁ。
なんだか少し、ううんすごい他人事には思えないのよね。

まずは情報収集ね。
お子様っぽいからって相手にされなかったらどうしよ…。
私は退治に積極的じゃない冒険者さんからお話を聞いてみようかな。
「私はただ倒すだけじゃなくて、何とかしてあげたいって思うの」

…ダメそうだったら、目立たないように聞き耳を立てて情報を集めるしかないかな?
大事そうな情報がいたらどんどん声をかけていこう。
力づく、というのはちょっと怖いけどどうしてもっていうなら頑張る!
「ね、そのお話詳しく聞かせてもらえない?」

・アドリブ歓迎します。



●村とドラゴン
「花のドラゴン、かぁ。なんだか少し、ううん、すごい他人事には思えないのよね」
 酒場の隅でホウレンソウのパイをつつきながら、ユズリハ・オーリエト(清翠の意思・f05260)が呟いた。
 向かい合って座る泉宮・瑠碧(月白・f04280)が、青い瞳にもの問いたげな色を乗せてユズリハを見る。とはいえユズリハはそれ以上この話を続ける気はないようで、さっぱりとした態度で話題を切りかえた。
「まずは情報収集ね。お話を聞ける人を見つけたいけど、お子様っぽいからって相手にされなかったらどうしよ……」
「どうだろうか。この世界なら、そこまで子供扱いされないと思う」
 ユズリハと瑠碧。2人連れのエルフは、うまく酒場の賑わいに溶け込んでいた。
 瑠碧は、グラスアボラスという竜を、好きだと思う。オブリビオンであることは、十分に理解しているけれど。
(「グラスアボラス……花を芽吹かせる竜。何が哀しいのか……」)

 ユズリハと瑠碧はそっと聞き耳を立て、話し声に耳を澄ます。しっかりと注意を払えば、花のドラゴンや廃村の話題を続けている冒険者がいるようで、会話にまぎれた単語を拾い上げることができた。
 ――廃村のドラゴンは倒すべきじゃない。
 ――できればそっとしておきたい……。
 そんな声に気づき、瑠碧はユズリハの注意を促す。
 ドラゴン退治に積極的じゃない冒険者――2人が探していたのはそういう者達だった。
「どうする、直接聞くべきだろうか」
「そうね、どんどん声をかけていかないと、欲しい情報が得られないもの」
 立ち上がったユズリハは、目指す冒険者のほうへ向かう。
「ね、そのお話詳しく聞かせてもらえない?」

 ユズリハが声をかけた冒険者達は、およそ好意的とは言えなかった。
 花のドラゴンについて知りたいと正直に告げれば、男達はあからさまに嫌な顔をした。
「懸賞金狙いならやめておけ」
 冒険者の中でも比較的年配の、古びた皮鎧の2人組。今はモンスター退治ではなく、隊商の護衛や、宿屋の用心棒で生計を立てているとのことだった。
「懸賞金なんていらない。僕はせめて、あの竜に何か出来る事を探したいんだ」
 男達のとげとげしいもの言いに、思わず、瑠碧は言葉を挟んでいた。
「……僕は、本当は花の竜を討ちたくは無い。けれどまだ被害が出る以上、放置は出来ない。……だけど、あのまま、時に破壊衝動に支配されて、哀しみまで抱えているなんて、そんなのあんまりだ……」
 どうか教えて欲しいと、深く頭を下げる瑠碧。ユズリハも真剣な表情で言葉を続ける。
「私たちはただ倒すだけじゃなくて、竜を何とかしてあげたいって思ってるの。何か手がかりがあれば、教えてもらえないかな?」
「……そういうことなら……」
 男の片方が、ユズリハのほうへと向き直った。
「あんた達になら、話してもいいのかもしれないな」

 ……彼らは廃村の近くの村で生まれ育ったらしい。
「死んだじいさんが、あの廃村の出身だったんだ。じいさんがまだ小さいころ、竜の卵を拾ったらしい。それで村で話し合って、子竜のときから村ぐるみで育てたとか」
「それが、花の竜なのね?」
 ユズリハに問われた男は、確証はない、と返す。
「俺はそう思ってる。じいさんから聞いた特徴は合っているし」
 断言できないけどな。男はそう言って、やりきれないようにエールを飲み干した。
「その竜は成長してからも村人と仲がよくて。息吹で花が咲くのが困りものだったけど、怒られてしょんぼりする様子も可愛かったってさ……」

「……村でドラゴンを育てる、なんてあるのかな」
 酒場を出て、ユズリハは首を傾げる。考えをまとめながら瑠碧が返す。
「事実はともかく、少なくとも、村人はドラゴンだと信じて育てていた」
 はやり病で村が滅んだ後、当時育てられていたドラゴン――もしくは別の何か――がどうなったのかは、わからなかった。
 しかしそれが時を経て、失われた過去の化身として、オブリビオンという怪物として蘇った。
「それが花の竜、かぁ」
 それならつじつまは合うかなと、ユズリハも頷く。
(「……僕は……私は、花の竜が少しでも穏やかに眠れる様に、何が出来るのかな」)
 内心で呟き、瑠碧は手に持つ杖を握りしめる。水の精霊が瑠碧を心配するように、視界の先でくるりと回った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エリカ・ブランシュ
(※アドリブ等歓迎)

【POW】
ドラゴン相手ともなれば報酬も良いでしょうからそう簡単には情報くれそうにないわよね……。
とは言え、冒険者相手なら一騎打ちで実力見せつければ語ってくれるかもだし、とりあえず情報を持ってそうな冒険者相手に一騎打ちを申し込んでみるわ。

「アンタ、アタシとドラゴンの情報を賭けて一騎打ちしなさい。もし、アンタがアタシに勝てたらその時はドラゴン討伐と同じ額のお金を渡してあげるわ」
戦闘ルールは10分以内にアンタがアタシに傷一つ付ける事が出来たらアンタの勝ち。出来れなければアタシの勝ちよ!

一騎打ちは【オーラ防御】と【盾受け】それにAigisを駆使して10分間無傷で凌いでやるんだから!


オクタ・ゴート
哀しむ竜、ですか。理由はともあれ突くべき隙があるのは大変有難い事です。とはいえ準備は怠らぬように致しましょう。

力で信頼が勝ち取れるというのであれば話が早い。金銭を賭けて腕相撲でも致しましょうか。細身ですが【怪力】、となれば周囲の反応も大きいでしょう。
あとはそうですね、手持ちの飴を情報の対価にしてみましょうか。アックス&ウィザーズでは珍しいでしょうし。

【POWで判定 共同プレイング・改変自由】



●幻惑の霧
 しばらくの時が経過し、喧噪を取り戻した酒場に、次なる爆弾発言を落としたのは、お嬢様然とした若い娘だった。
「アンタ、アタシとドラゴンの情報を賭けて一騎打ちしなさい。もし、アンタがアタシに勝てたら、ドラゴン討伐と同じ額のお金を渡してあげるわ!」
 エリカ・ブランシュ(寂しさに揺れる白い花・f11942)のよく通る声が響きわたった刹那、酒場がしん、と静まり返った。
「10分以内にアンタがアタシに傷一つ付ける事が出来たらアンタの勝ち。出来れなければアタシの勝ちよ!」
 一拍おいて、場がどっと盛り上がる。
 エリカに指名された冒険者は、一瞬ぽかんとした後、ニヤッと笑って立ち上がった。
「金はいらんが、俺が勝ったら姉ちゃんに一晩つき合ってもらおうかね。夜から朝まで」
「い……いいわよ! お酌でも話相手でも、何でもしてあげる!」
「そういうことじゃないが、まあいいか。表に出ようか、べっぴんさん」
 やんやと囃す酔客を横目に、オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)は、目をつけていた客にさりげなく声をかける。
「あちらの勝負がつく前に、こちらも一勝負致しませんか。私を負かすことができれば、言い値で金銭をお支い致しましょう」
 10分もあれば、相応の勝負ができるでしょう。対価はドラゴンの情報で結構です。
 頭部に山羊の骸骨を被った男は、眼窩の奧の赤い光を熾火のように光らせ、慇懃なもの言いで勝負を持ちかける。
 
 10分後。酒場の裏通りは、大盛り上がりを見せていた。
「――そこまで!」
 2本のシミターを落とし、激しく息を切らした男が、その場に座り込む。
「アタシの勝ちね。ドラゴンの情報はいただくわ!」
 守護のティアラも、ドレスも含め、エリカの全身は、解放された守護の魔力でうっすらと光っていた。愛用の盾をしっかりと構えたエリカは、頬を上気させて息をつく。
「卑怯だぞ! がちがちに守りを固めるだけで、一騎打ちと言えるのかよ!」
「ルールは最初に言ったわ、同意したのは言ったのはアンタでしょう。負け惜しみは見苦しいわよ?」
「この……っ」
 男は言い返そうとしたが、観客は明らかにエリカの味方だった。嬢ちゃんすごいな、強いな。実力を見せつけたエリカに、賞賛と敬意、ねぎらいの言葉がかけられる。
 そして勝負をつけ、酒場に戻ったエリカ達を待っていたのは――。
「時間通りでございますね、エリカ様。こちらも決着をつきました。さて、ドラゴンの情報を伺うと致しましょう」
 山羊の骸骨の顎に手を添えたオクタが、涼しげな態度で、腕相撲で負かした冒険者達を見やるところだった。
 細身の男が、驚くべき力で、次々に腕相撲に勝利した――そんな噂話が、後々、酒場に広まったらしい。

 ……一通りの情報収集を終えて。
「つまり、ドラゴンと戦うなら夕方を狙えってことよね」
「察するに、破壊衝動を発散させてねぐらに戻った直後が、最も力が弱まっているということでございましょうか」
 エリカとオクタは、互いの情報をつなぎ合わせ、内容を検証していた。
 日中は出かけるドラゴンは、夕方に戻ってくる。戻った直後が最も動きが鈍く、攻撃も雑になる。それが冒険者から得た情報だった。
「あとは、幻惑の霧についてね。誰かと一緒に霧の中に入れば、同じ幻を共有できるらしいわ」
 自分が見る幻を人に見せたくないという者もいるだろうが、選択肢があるに越したことはない。
 オクタは手のひらの飴を転がし、思案にふける。バチバチ弾ける蛍光色の飴は、オクタの好物だった。
(「飴は取引材料にはなりませんでしたか。冒険者の方々は、警戒心が非常にお強いようです」)
「幻惑の霧では、平和な村の一風景が現れることがあるようでございます。ずっと見ていると何故か胸が締め付けられ、哀しみが心を見たし、一歩も先に進めなくなるとか」
 それがドラゴンの記憶なのでしょうなと、オクタは続けた。
「しかし……哀しむ竜、ですか」
「何よ。言っておくけど、同情なんてしていたら戦えないわよ?」
 エリカの口調は強気を崩さないが、オクタの様子をうかがう視線は、少しばかり心配そうだったかもしれない。
「いえ。理由はともあれ、突くべき隙があるのは大変有難い事です」
 禍々しい山羊の骸骨をかぶり、くつりと喉の辺りを鳴らしたオクタは、どうやら笑ったようだった。
「準備は全て怠りなく。では、目的の地に向かうと致しましょう」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『幻惑の霧を越えて』

POW   :    力に任せたり気合いで解決(自傷行為等)

SPD   :    見なければ惑わされない、かもしれない。ダッシュで走り抜ける等

WIZ   :    幻と現実の齟齬を見つける等

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幻惑の霧
 かつて、小さいながら平和な村があり、1匹の竜が共に暮らしていた。
 小さな村がはやり病で廃村になったころ、竜の姿は見えなくなった。
 時を経て、オブリビオンとして戻ってきた竜は、廃村をねぐらに、付近の村々を襲っている。

 竜がねぐらにする廃村に行くには、幻惑の霧を越えなければならない。
 単独で突破することも可能だし、誰かと同じ幻を見て、協力して突破することもできる。
 また、霧の中に入る時に、ドラゴンに思いを馳せていれば、ドラゴンが見ていると思しき幻を見る。
 そうでなければ自分の心に住まう大事な人、会いたい人、後悔する何か……そういうものと会うことになるだろう。
 何を見るにしろ、それらの幻は、人を捕らえて死ぬまで離さない。
 ――これから猟兵達が入ろうとする場所は、そう伝えられているところだった。
ユエ・ウニ
【SPD】
もしここで足踏みしている奴がいるのなら、一緒に行っても構わない。
何をしている。行くぞ。
僕には覗かれて困るものはないし、想い馳せるのはこの霧の向こうにいるドラゴンだからな。

ドラゴンはどんな夢を見ているのだろう?
矢張りドラゴンにとって幸せだった時の景色なのだろうか。
人に育てられたとして、人を襲う理由も分からないな。
それを知りたいから見たいんだ。きっと僕はドラゴンに共感はしないだろうから。

ただ、朧げに見えた人影に冬と夜の気配を感じれば、思わず振り向いて。
もう思い出せない程昔の記憶の断片の様な気がしたから。
早く行こう。走ればあれも追いつけないだろう。
こんなものを見続けるなんて寂しいな……。


シャルファ・ルイエ
亡くした人や、会いたい人がいるかどうかも分からないなら、幻って見るものなんでしょうか。
例え誰かを見たとして、その人がそうだって分からないのに。

でも今知りたいのは、そのドラゴンの見る幻です。
ドラゴンにも大事な人が居たのかもしれませんし、それを知る事が出来れば、哀しんでいる理由もわかる気がしますから。

協力できそうなら協力して、霧の中に入ります。
共感しすぎない様に気を付けつつ、杖はウィル(小竜)にして、惑わされそうなら合図をお願いしておきます。
幻が確認出来た後は、霧を通り抜ける気持ちで【シンフォニック・キュア】をのせて歌います。
幻は解除できなくても、霧の中を歩く道標くらいにはなればいいんですけど。


ユズリハ・オーリエト
大方の事情はわかったし、あとはドラゴンの元に行くだけね。
ってその前に厄介な霧があるんだっけ。

【POW】で行動するね。
花の竜、グラスアボラスの事を思いながら霧の中に入る。
出来れば同じ考えの人がいたら一緒に入れたら嬉しいな。
「誰か、ご一緒できる人はいないかな?」

「これが、グラスアボラスの見ている幻…。」
村人達との記憶なのかな…?
だけど、どんなに過去が幸せであっても、今生きている人を傷つけていいわけがない…!
何としてもドラゴンの元にたどり着くという【強い意志】を持って霧の中を進んでいくよ!



●ドラゴンと幸せな村
 今は使われていない道を進み、しおれた植物が点在する丘陵地を越えたあたりで、急に霧が濃くなる。
 シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)は霧の手前で足をとめ、流れる白い靄を目で追っていた。
「何をしている。行かないのか」
 ユエ・ウニ(ヤドリガミの人形遣い・f04391)の硬質な声が、シャルファの背にかかる。
「もしここで足踏みしていたのなら、一緒に行っても構わない。僕には覗かれて困るものはないし、想い馳せるのはこの霧の向こうにいるドラゴンだからな」
 シャルファは首を振って答えた。
「別に怖じ気づいていたわけではなく、少し考えていたんです。――亡くした人や、会いたい人がいるかどうかも分からないなら、幻って見るものなのかなって」
 ……仮に、シャルファの会いたい誰かが、幻の中にいたとして。
「姿を見たとして、その人がそうだって分からないのに」
 一瞬伏せられた瞳は、次の瞬間には変わっている。ユエへと向き直ったシャルファは、友好的な笑みと共に言葉を続けた。
「わたしも、今はドラゴンの見る幻のことが知りたいです。協力して先に進みましょう」
「――私も、ご一緒してもいいかな?」
 近くまで来ていたらしい、ユズリハ・オーリエト(清翠の意思・f05260)も合流する。何が起きても対応できるようにしっかりと準備を整え、3人は霧の中へと足を踏み入れた。

 一歩ごとに濃密さを増す霧が、周囲の景色を閉ざしていく。
「グラスアボラスの見ている幻は、村人達との記憶なのかな……?」
「だとしたら、その記憶の中に手がかりがあればいいですね」
 ユズリハの呟きに、シャルファが相づちを打つ。
「ドラゴンにも大事な人がいたのかもしれませんし、それを知れば、哀しんでいる理由もわかるかもしれませんから」
 会話を交わすユズリハとシャルファの姿も、霧の中にぼんやりとかすむ。ユエは目を細めて2人の姿を確認する。
(「どんな夢を見ているのだろう? 矢張り、ドラゴンにとって幸せだった時の景色なのだろうか」)
 そもそも人に育てられたドラゴンが、人を襲う理由がユエには分からない。そこに関心を持ったからこそ、ここに来たわけだが――。
 とりとめもなく考えていたユエは、目の前に現れた光景に足をとめた。
「何かが見える」
 ユエの言葉に、ユズリハとシャルファも目をこらす。

 ……それは、村の幸せな光景だった。

 穏やかな笑い声。子供たちのはしゃく声。
 水のせせらぎ、ごとんごとんと風車が回る。洗濯物を抱えた女性が通り過ぎ。農具を持つ男が、親しげな笑みを向ける。
 霧の向こうから現れる村人達は、皆優しい表情をして、こちらに向けられる目はいつくしみにあふれている。

 ――アイタイ。

 強烈な想いが胸を満たす。

 ――アエナイ。

 相反する想いが胸を引き裂く。

「これが、グラスアボラスの心……?」
 ユズリハは思わず胸元を押さえる。頭ではわかる、この想いはグラスアボラスのものであり、ユズリハのものではない。けれど気を抜くと、どちらのものかわからなくなりそうだ。
 ユズリハは目を閉じ、深く呼吸し、自分の意志に集中する。
(「どんなに過去が幸せであっても、今生きている人を傷つけていいわけがない……!」)
 シャルファの肩にいた小竜のウィルが、警告するように鳴き声を発した。
「ユエさんも、共感しすぎないように気をつけて」
「わかっている。先に進もう、走ればあれも追いつけないだろう」
 きっと自分はドラゴンに共感はしない、ユエはそう考えていたが、ドラゴンの感情はいっそ暴力的なほどだった。有無を言わさず強引に、喪失の悲哀の中へと引きずり込もうとする。
 眼前の幻は幸福な光景なのに、ドラゴンの感情は哀しみが渦巻いていて、目がくらみそうだった。
 シャルファのシンフォニック・キュアの歌声が低く。足を速め、幻との距離をあけることで、少しずつ思考の靄が晴れていく。

 幻を振り切ってしばらく進むと、霧が晴れ始める。
「ユエさん、どうしたの?」
 あと少しで霧を完全に抜けるという時、弾かれたように振り返ったユエに、ユズリハが声をかける。
「今、そこに……」
 言いかけ、ユエは口をつぐむ。
 最後の最後、霧の中で朧げに見えた人影は、冬と夜の気配をまとっているように感じて。

 ――亡くした人や、会いたい人がいるかどうかも分からないなら――

 ふと、シャルファの言葉を思い出す。
 全てがドラゴンの幻だと、そう言い切れただろうか。
 ……あるいは思い出せない程昔の、記憶の断片がそこにあったのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

泉宮・瑠碧
幻惑の霧…
もう会えない人や後悔は、無いと言えば嘘になるが
それはもう、常に共にあるからな…

僕の事より、花の竜の方が気に掛かる
故郷や住んでいた人々、大切なものが喪われて
どれだけ哀しくて、寂しいか…

村の一風景が現れたら
人々の様子や何があったのか
あの竜は何を嬉しく、喜んでいただろう
あるのなら竜の名前も…
どれだけ哀しくても、きちんと見て聞く
例え、僕達からでは無意味でも、届かなくても
出来る限り、花の竜に返そう

齟齬というより
これは竜の感情だと知っているから…
だからこそ僕は…私は進む
あの竜を、このままにしてはおけない
こんな哀しい気持ちのまま、独りにする方がずっと辛い
少しでも、この哀しみが和らぐよう…そう願って


春霞・遙
医療の基本は傾聴と共感。
ということで、ドラゴンの悲しみを癒すためにも直接見せてもらおうかな。
といっても、まだ自分の後悔に向き合うには勇気が足りないからなんだけれども…。

【WIZ】
「聞き耳」も使って周囲をよく観察しながら幻惑の霧を進む。
酒場で聞いた話、ほかの猟兵が聞いた話、「医術」の知識、「世界知識」などと比較して現実と異なるところを見つける。
オブリビオンの見る幻だから既に終わってしまったことなのだろうけれども、病に伏す人たちがいたら【生まれながらの光】での治療を試してはみたい。
ドラゴンの中でだけでも大切な人が安らかに逝けたことになれば。

あ、それが出来てしまったらそれ自体が現実との齟齬になるな。



●ドラゴンの願望と絶望
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)と、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は、2人で霧の中を歩いていた。
「医療の基本は傾聴と共感。ということで、ドラゴンの悲しみを癒すためにも直接見せてもらおうかな」
「遙は医師とのことだけど、相手の話を聞くことが、病気の治療に役立つものなのか」
 瑠碧の問いに、遙が頷く。
「治療もそうだけど、聞いてあげるだけで楽になれる人もいてね。あと、肉体の治療だけが医者の仕事ではないっていう考えもあるからね」
 といっても……と、遙は苦笑する。
「霧の中で自分の後悔に向き合うには、まだ勇気が足りないからなんだけれども……」
 そうか、と瑠碧は言葉少なに返して、視線を前に転じた。――霧の濃さが増してくる。
「もう会えない人や後悔は、無いと言えば嘘になるが、それはもう、常に共にあるからな……」
 今の瑠碧は、自分のことよりも、花の竜の方が気にかかる。
(「故郷や住んでいた人々、大切なものが喪われて、どれだけ哀しくて、寂しいか……」)

 霧の中から、シルエットのような村の姿が浮かび上がった。
 どんよりとした暗い雰囲気。
 現れる村人は、一様に顔色が悪い。
 杖で体を支えてふらふらと歩き、息を切らし、時に咳き込み、その場にばたりと倒れる。

「私の知るどの病気にも当てはまらないな。この世界特有の疾患って可能性もあるけれど……」
 少なくとも遙の知識では、これは実在の病気ではなく、ドラゴンの記憶から再構成された『ある種のイメージ』に見える。曖昧な記憶に基づいた、正確性の欠ける疾患の表現。これでは治療のしようもないだろう。
「けれど、みんなつらそうだし、苦しそうだ」
 瑠碧は、苦しそうに咳き込む、子供の1人に近づいた。
 どれだけ哀しくても、きちんと見て聞きたい。自分達がこの幻を受けとめることができなくても、出来る限り、花の竜に返したい。 
 瑠碧に見つめられた子供は、けほっと咳き込みつつも、視線を合わせて――無理矢理に見える笑顔をつくり、そして、たどたどしい口調で言った。

 ――待っててね。すぐに、元気になれるから。
 ――そうしたら、また遊ぼうね。

 子供の言葉に重なるように、強い感情が瑠碧と遙を飲み込む。

 ――ミンナ イツカ モドッテクル

 小さな願望にすがりながらも、
 
 ――ダレモ モウ モドッテコナイ

 大きな哀しみを抱え込んだ、感情のうねり。

 ……これは竜の感情だと、今の瑠碧は知っている。
(「……だからこそ僕は……私は進む」)
 あの竜を、このままにしてはおけない。こんな哀しい気持ちのまま、独りにする方がずっと辛い。
「遙。遙、先に進もう。いつまでもここにいるわけにはいかない」
「……、ああ、そうだね。ごめん、ありがとう。準備はしていたつもりだったけど、対処の仕方が足りなかったみたいで」
 ドラゴンの感情にあてられたらしい遙の手を引くようにして、瑠碧は霧からの脱出を目指す。

「……結局、竜の名前はわからなかったな」
 どうにか幻惑の霧を踏破し、瑠碧は息をつく。
 遙は、今経験したドラゴンの感情を追いながら、口を開いた。
「強い喪失の感情は、哀しみばかりでなく、孤独感や、怒りの感情、ときに不安感なども引き起こすんだよ。ドラゴンの心は、そういったものがごちゃ混ぜになっていたね」
 瑠碧は丘の向こうに目を向けた。廃村はもうすぐそこにある。
 少しでも、竜の哀しみが和らぐよう……そう願わずにはいられない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オクタ・ゴート
この霧に私が入れば恐らく、私の過去に繋がるモノが現れるでしょう。かの竜は、私にとっては斃すべき敵でしかないのですから。

暗く血腥い牢獄と、共に貌を捧げた兄弟たち。そして、忌まわしき我が母。九十九の顔を奪った悍ましき汚泥の女神―――いずれ私が殺すべき過去。
だが、幸いにして今の私は真の姿に近しいらしく酷く頭が冴えている。紛い物に惑わされることはないでしょう。

他の方と幻を共有してしまったのでしたら、その方のご助力をして差し上げたいと思います。とはいえ。決して深入りは致しませんが。

【判定:WIZ アドリブ・共同歓迎】


エリカ・ブランシュ
(※アドリブ等歓迎)

霧が濃くなってきたわね……。
って、あれは……!父さまに母様……!それに、兄様までっ!
皆もう亡くなったと思ってたのに……また会えた……。
ここに居たらまた皆で暮らせるの?今度はアタシが……皆を守れるの?
なら……アタシもここに……。

(突然レイピアが【破魔】の力を宿して光輝き、エリカは無意識にレイピアで自身の右手を軽く刺し)

痛っ!?アタシ……今までどうして……。
家族が亡くなったの目の前で見て知ってたはずなのに……。
ごめんね、父さま、母様、兄様。アタシ……やっつぱり此処には居られない。だから……行くね。
「奪われる悲しみを広げない。今を生きてる人達の幸せを護るために。」



●過去から訪れる者
 霧が立ちこめている。空を覆い隠し、光を閉ざす、幾重にも重なる霧が。

 暗く血なまぐさい牢獄の中、うごめく影。それは、共に貌を捧げた兄弟たち。
 牢獄の向こうにいるのは、九十九の顔を奪った悍ましき汚泥の女神。
 その不穏な空気が……唐突に崩れた。
「――やはり本物にはほど遠い。所詮は幻、紛い物」
 牢獄の中の影が冷めた口調で言い、ゆらりと立ち上がる。
 しばし不定形のまま揺れていたもの――オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)は人型をとり、禍々しい山羊の骸骨を頭部に据える。
「幸いにして、今の私は真の姿に近しいらしい。酷く頭が冴えておりまして」
 ぱちん、とオクタが指を鳴らす。
 幻が次々とかき消えていく。牢獄も、兄弟たちも、そして――。
「邂逅はまたの機会に致しましょう、悍ましき汚泥の女神。忌まわしき我が母――いずれ私が殺すべき過去」
 
「やはり、 過去に繋がるモノが現れましたか」
 幻が消えた後、オクタは独りごちる。
 これから向かう竜は、オクタにとっては倒すべき敵でしかなく、思いを馳せる対象ではない。
「さて、他の方は幻を打破できているでしょうか」
 ほかにも、何人かがこの霧を越えているはず……と、オクタが周囲に注意を向けた時。
 声が聞こえた。

 霧が立ちこめている。現在を覆い隠し、過去を蘇らせる、幾重にも重なる霧が。

「父さまに母様……! それに、兄様までっ!」
 オクタの眼前で、エリカ・ブランシュ(寂しさに揺れる白い花・f11942)が、霧の中の『誰か』に話しかけている。
「皆目の前で亡くなったはず……。見間違いだった? そう、そうだったのね、きっと。……嬉しい、また会えた……よかった……」
 エリカの語尾は涙混じりで、霧の中の相手とは、会話が成立しているらしい。
「父さま、母様、兄様……アタシ、みんなを護れるように強くなったのよ」
 幻との会話で笑ったり、拗ねたりしてみせるエリカの様子は、オクタの記憶にある彼女よりも無防備で、年相応の少女らしくも見える。
 ふむ、とオクタは思案する。
(「さて、あまり深入りは致したくないところですが……」)
「今度はアタシが皆を護ってみせるわ。また皆で暮らせるのね……アタシもここに……ずっと一緒に……」
 エリカがそこまで言った時、突然エリカが携えていたレイピアが光輝いた。右手をレイピアの先端がかする。
「痛っ!?」
「――エリカ様」
 今がその時と、オクタは声をかける。
「アタシ……今までどうして……」
 頭を振ったエリカは、オクタを見てはっとした表情になった。
「……アタシ、何か言っていたかしら?」
「いえ、私は来たばかりでして。エリカ様が何かおっしゃっていたとしても、全く聞いておりません」
「そ、そう。だったらいいの」
 先に行くわよ、と歩き始めるエリカの数歩後ろを、オクタが続く。
(「ごめんね、父さま、母様、兄様。アタシ……やっつぱり此処には居られない。だから……行くね」)
 名残惜しいとでも言いたげに、霧がエリカの周りにまとわりつく。振り切るように歩を早め、エリカはレイピアの柄を握りしめる。祈りのように、小さな声で呟いた。
「奪われる悲しみを広げない。今を生きてる人達の幸せを護るために」
 ――そのために前を向き、歩き続ける。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『息吹の竜『グラスアボラス』』

POW   :    フラワリングブレス
【吐き出された息吹 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【咲き乱れるフラワーカッター】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ガーデン・オブ・ゲンティアナ
自身の装備武器を無数の【竜胆 】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    フラワーフィールド
【吐き出された息吹 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花畑で埋め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイツ・ディンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花畑のドラゴン 
 夕方近くになれば、廃村のねぐらに、花の竜グラスアボラスが帰ってくる。
 喪失の哀しみを癒しきれず、哀しみを怒りとして発散する、オブリビオンになったドラゴンが。

 グラスアボラス自身は言葉は発さないが、こちらの言葉は理解できているらしい。
 その哀しみが怒りの厳選であり、オブリビオンとしての強さの源だというのなら。哀しみに寄り添い、共感を示すことは、強さを削ぐための手段となり得るだろう。

 どんな経緯をたどるにしろ、オブリビオンは倒さなければならない――彼らは、世界を滅亡に導く存在であるのだから。
春霞・遙
カウンセリングは専門外ですが、心の癒しに関して学んだ「医学知識」と似た人を何人も診た経験で。

大切なものを喪うこと、その苦しみは誰もが直面し、人それぞれに様々な方法で乗り越えるものです。
悲しみや怒りを感じているということは、ショックや否認の時期を超えてすでに大切なものが失われたということを理解しているのでしょう。
大丈夫、じきに自分が本当にしたいことやすべきことが見えてきますよ。
せめてそれまで安らかに眠れますように。「祈り」「優しさ」

戦闘は味方の癒しと「援護射撃」。
「催眠術」でも使えるなら竜のために【光】の中に花の丘で眠る人々の優しい幻でも見せてあげたいですけれど・・・。


エリカ・ブランシュ
(※アドリブ等歓迎)

他の皆には悪いけど、アタシはあのドラゴンの気持ちに寄添う気はないわ。
どんな理由があろうとも、この世界に生きてる人を襲ったからにはアイツは倒すべき敵でしかないもの。

とりあえず、水の力でアタシの防御力を上げておいて。
それからドラゴンを少し【おびき寄せ】て軽く一騎打ちといこうかしら。
「抑えられない程の破壊衝動……アタシに全力でぶつけてみなさい!護ると決めたアタシの全力で迎え撃ってあげるわ!」

今回はAigisは無しで盾受けだけでアイツの想いを受け止めるわ。
全力出した後なら他の皆が攻撃したり、説得する隙も作れるでしょうし。
それに……。
(アタシが護りたいのはアンタみたいな奴なんだから)


オクタ・ゴート
斃さなくてはならないとはいえ、その悲哀にお付き合いするとしましょうか。
相手の攻撃を全て堪えましょう。怒りを、喪失の苦痛を受け止める【覚悟】を決めましょう。炎を使えば事は早く済みそうですが、決して花を燃やさぬように今回は使いません。ブレスを受けても、前へ、手の届く所まで進みましょう。

人を愛した無垢なる竜は、もういない。目の前にあるのは、過去を捻じ曲げた残響。
「人を愛する貴方を憎む誰かを生まないよう、私は貴方を斃す」
少しでも力が弱まるようなら、【力溜め】で溜めた力で思い切り鞭で殴りつけます。

……帰る前に、持ってきた飴を供えます。喜んで頂けるかは、わかりませんが。

【POWで判定 アドリブ・共同歓迎】



●花畑にて
 花畑の廃村には、夕方を少し過ぎたころに、竜――グラスアボラスが戻ってくる。
 若葉色の体に、赤みがかった翼と角は、花畑の花々とよく似ている。しかし竜の瞳は、抑え切れない激情に爛々と光っていた。

「アタシが先に行かせてもらうわ!」
 エリカ・ブランシュ(寂しさに揺れる白い花・f11942)は、猟兵達の中から、いち早く飛び出した。
 ドレスの裾をひるがえし、ドラゴンの目を引くように駆ける。竜のブレスが地面を走り、エリカを追いかけて次々と花を咲かせていく。
「軽く一騎打ちといこうじゃないの。抑えられない程の破壊衝動……アタシに全力でぶつけてみなさい!」
 その刹那、ブレスがエリカを捉え、刃のように輝きながらエリカを切り刻んだ。
「……っ!」
 盾でそらし直撃は避けながらも、衝撃にエリカの体は吹っ飛んだ。盾がまとう水の魔力と、花びらの刃とが相殺され、光の粉となって散る。
 次の獲物をと首を巡らせようとするドラゴン――の前に、エリカは再び飛び出す。
「他の皆には悪いけど、アタシはアンタの気持ちに寄り添う気はないの!」
 どんな理由があろうとも、この世界に生きてる人を襲ったからには、倒すべき敵でしかない――そう宣言して、エリカは守護の魔力が籠められた盾を掲げる。
「護ると決めたアタシの全力で、迎え撃ってあげるわ!」
(「だって……アタシが護りたいのは、アンタみたいな奴なんだから!」)
 苛立ちの咆吼と共に、ドラゴンが前足をふり上げる。踏み潰される寸前に、エリカは頭上に盾を掲げた。盾ごと踏みつぶそうとするドラゴンの重みに耐え、渾身の力でエリカは叫ぶ。
「まだまだよっ! もっと全力を出しなさい!」
 ドラゴンは姿勢を変えずに息を吸い込む。
 オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)の黒い姿が現れたのは、その時だった。
「私も、その悲哀にお付き合いするとしましょうか」 
 オクタの身体から、ひゅるひゅると黒いものが伸びる。触手のように見えたそれは、黒い鞭となってドラゴンの足に巻き付き、すくい上げた。
 間髪入れずに響く銃声。ダメージは軽微でも、眉間への不意の衝撃に、ドラゴンは体勢を崩す。
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は拳銃を手に、エリカへと呼びかける。
「援護しますから、エリカさんは今のうちに」
「ありがとね、遙!」
 エリカがドラゴンの足の下から抜け出したことを確認し、オクタは一歩前へと踏み出した。
「人を愛する貴方を憎む誰かを生まないよう、私は貴方を斃す」
 そう告げ、横なぎに迫る尾の打撃を、オクタはあえて受けとめる。不定形の身体から、黒い液体がちぎれるように飛び散った。血液のように流れるそれが、花畑を黒く染める。
「……いけませんね。せっかく燃やさないよう攻撃を控えているのに、これでは花畑を汚してしまう」
 オクタの目――山羊の骸骨の眼窩の奧、赤い光に灯るものは覚悟。
 怒りを、喪失の苦痛を受け止めるため、前へ、前へ、手の届く所まで。 
(「人を愛した無垢なる竜は、もういない。目の前にあるのは、過去を捻じ曲げた残響」)
 それでもオクタは、目の前の竜の怒りを、激情を受けとめる。
 もしも人を愛した無垢なる竜が、その一欠片でもそこにいるなら……少しでも出てきやすいようにと。

「ドラゴンと一騎打ちなんて、無茶をするよね」
 遙は、エリカへと手をかざす。手のひらから光があふれ、エリカの体に刺さっていた花の刃が抜け落ちる。
「あとは後方に回ったら?」
「平気よ、まだいけるわ。アイツが全力出した後なら、他の皆が攻撃したり、説得する隙も作れるんでしょう?」
「そう、悲しみや怒りを感じているということは、ショックや否認の時期を超えて、すでに大切なものが失われたということを理解していることだから……」
 大切なものを喪うこと、その苦しみは誰もが直面し、人それぞれに様々な方法で乗り越えている。
 悲しみや怒りを発散することは、本来であれば、その乗り越えるためのステップなのだと、遙は続けた。
「カウンセリングは専門外なんだけどね」
 ――援護よろしくね、そう言って走り去るエリカの後ろを、遙も追う。
(「いつか自分が本当にしたいことや、すべきことが見えてくるようになればいい」)
 ……せめてそれまで、安らかに眠れますようにと、そんな考えが遙の頭をよぎった。
 
 ふらり、とドラゴンの巨体がよろめいたとき――オクタの鞭と、エリカの盾が、渾身の力でドラゴンへと叩き込まれた。
「少し手痛いかもしれませんが、ご容赦を」
「手加減なんか、してあげないんだからね!」
 エリカやオクタを先頭に、猟兵達は持久戦にも似た、長い戦いを続ける。
 その激情がおさまるまで、つき合い続けるのだと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ユズリハ・オーリエト
ようやくここまで辿り着いたね。
オブリビオンは倒さないといけない。だけど、せめて…。

戦闘時は【POW】で行動するよ。
立ち位置は前衛の少し後ろ、中衛付近で臨機応変に立ち回れるように。
Chain of Thornを使用、狙いは前脚。私と繋げて動きを封じるよ。

村の皆がいなくなって哀しいのはわかるよ。
私も帰る場所を失くした身だから、ね。
だけどね、今のキミをもし村の皆が見たらきっと悲しむと思う…。
村の皆と寄り添った優しかったキミを、どうか取り戻して…。

最後はドラゴニックエンドで自分の緑竜、レイシーを放って攻撃するね。
お願いレイシー、終わらせてきて…。

せめて、安からに眠れるようにしてあげられたかな…?


シャルファ・ルイエ
ひとりぼっちは、寂しいですよね。

戦う前に、ドラゴンと話をしてみたいです。
この村は、あんなに会いたいと思うくらい、この子が大好きだった人達が居た優しい場所だったんでしょう。
そんな人達なら、この子が一人で泣いている事も、誰かを傷つけてしまっていることも、哀しいだろうと思うんです。
きっと一匹だけ残してしまうことを心配した人も居た筈です。
でもごめんなさい、わたし達が出来るのは、この場所で眠らせてあげることくらいなんです。

話が終わったら、【鈴蘭の嵐】を使います。嫌がられなければ、傍に寄って撫でてあげられたら良いのにとも思います。
全部終わったら…、酒場でお話した通り、祈りを込めて子守歌でも歌いましょうか。


泉宮・瑠碧
花の竜…倒したくは無い
救う事も出来ないけれど
哀しみだけでも…少しでも

僕は精霊祈眼で
息吹を吹き飛ばす様に風の精霊に願う
皆を守って、と
自分は見切りかオーラ防御

…息吹で花が咲けば、怒られていただろう?
花の竜…
生き延びた村の者も居たんだ

君の知る彼らには会えなくても
彼らの子孫も君を知っていて、大事に想っている
村の人の想いは途絶えず、受け継がれて…
ずっと君の傍に在るんだ、今も
…独りじゃないよ

倒れるなりで
竜の頭が地に着けば寄り添って撫で
息を引き取るまで子守唄を

村の人々の笑顔や優しい目を思い出して
皆が戻れないなら、会いに行こう
きっと、君が飛び出して行って迷子になったって探しているよ
大丈夫、逢えるから

…おやすみ



●朝陽の中で
 日が沈んだ後も、ドラゴンとの戦いは続いた。
 想定外の長期戦になった理由は、猟兵達がドラゴンを倒すよりも、攻撃をうけとめ、哀しみに寄り添うことを選択したからだろう。

 ユズリハ・オーリエト(清翠の意思・f05260)は、乱れた呼吸を整え、額の汗をぬぐう。
(「ようやくここまで辿り着いたね。オブリビオンは倒さないといけない。だけど、せめて……」)
 ユズリハの腕に絡む茨の鎖、Chain of Thornは、ドラゴンの前足に絡みつき、動きを封じるように地面に縫いとめる。
 竜の息吹が花を咲かせ、刃をきらめかせるが、強い風が刃の向きを強制的にそらす。泉宮・瑠碧(月白・f04280)の精霊祈眼。風の精霊達は、瑠碧の願いによく応えてくれていた。
(「花の竜……倒したくは無い。救う事も出来ないけれど、哀しみだけでも……少しでも」)
 月と星に照らされ、花々が白く光って見える。ドラゴンの若草色も、シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)の髪に散るカスミソウも、花畑に咲く花のようで。
(「ごめんなさい、わたし達が出来るのは、この場所で眠らせてあげることくらいなんです」)
 杖をスズランの花びらに転じ、攻撃を続けながらも、シャルファは根気よく、ドラゴンの様子をうかがっていた。

 ドラゴンの動きが鈍っていく。
 むずがるように吐く吐息も弱まり、両の足もろくに動かず、尻尾も緩慢になり。
 ――そして、はたと動きをとめたドラゴンに、ユズリハ達も動きをとめた。
 瑠碧も、シャルファも、ほかの猟兵達も、ドラゴンが動かなくなったら、誰も攻撃を仕掛けなくなり。
 そうして、数秒が過ぎてから。

「ひとりぼっちは、寂しいですよね」
 シャルファは、ドラゴンに話しかけていた。
 声の方向に首を巡らせるドラゴンへ、ユズリハも歩み寄る。
「今のキミをもし村の皆が見たらきっと悲しむと思う……。村の皆と寄り添った優しかったキミを、どうか取り戻して……」
 距離を詰めるユズリハに、ドラゴンも身構えることはなく。
「………息吹で花が咲けば、怒られていただろう? 花の竜……生き延びた村の者も居たんだ」
 ぱちりと瞬くドラゴンの瞳に、瑠碧の姿が映っている。その瞳を見返し、瑠碧は、構えていた弓をおろした。

 ドラゴンは、ねぐらにしていた村の中央に視線を向けた。ぺたぺたと、いつもの場所へと戻っていく。
 そして――その場に座り込み、翼をたたみ、尻尾を収めて、ぺたりを頭を下げた。
 
「村の皆がいなくなって哀しいのはわかるよ。私も帰る場所を失くした身だから、ね」
 花の竜に歩み寄り、話しかけるユズリハの声音は優しい。
 ぱたり、とドラゴンの尻尾が揺れる。
 シャルファが伸ばす手のひらを、ドラゴンは嫌がらない。それどころか、シャルファの手に押しつけるように、自分の鼻面をこすりつけてきて。
「この村は、大好きだった人達が居た、優しい場所だったんですよね? また会いたい、と思うくらい」
 シャルファの問いかけに、ぱたり、ぱたりとドラゴンの尻尾が揺れる。
(「きっと、この子が1人で泣いていたり、誰かを傷つけてしまっていることは、ここにいた人たちにとっても哀しいことでしょう。一匹だけ残してしまうことを、心配した人も居たはず」)
 シャルファはドラゴンの頭の傍らに座り、若草色のウロコをそっと撫でる。その近くに、瑠碧も腰をおろした。
「花の竜。君の知る彼らにはもう会えなくても、彼らの子孫も君を知っていて、大事に想っている。村の人の想いは途絶えず、受け継がれて……ずっと君の傍に在るんだ」
 ぽつぽつと話す瑠碧の言葉を、ドラゴンは、何を聞き返すでもなく、応えるでもなく。
「今も……君は独りじゃないよ」
 寄り添うように座り、瑠碧もそっとドラゴンの体に手を伸ばす。若草色のウロコはひんやりとしていた。

 そうして、そのまま。
 ある者はドラゴンにぽつりぽつりと話しかけ、ある者は少し離れたところからその様子を見やり。
 星が回り、月が傾き、朝日が昇り始めるその時まで、彼らはそうやって時を過ごす。
 誰かが代わる代わる歌う子守歌が、優しい夢のように回っていた。
 
「朝になりますね」
 朝焼けの光に目を細め、シャルファが呟く。
 むくりと立ち上がるドラゴンの、瞳の奧にある哀しみは消えてない。それでも、きのうとは違う、どこかすっきりとした様子にも見えて。
 その証左のように、ドラゴンの輪郭線が崩れ、姿が揺らぎ始めていた。オブリビオンとしての存在を構成していた何かが、維持できなくなっているのだろう。

 瑠碧は優しい口調を意識して語りかける。
「皆が戻れないなら、会いに行こう。きっと、君が飛び出して行って迷子になったって探しているよ。大丈夫、逢えるから」
 じっと瑠碧を見ていたドラゴンが、何かを促すように視線を転じる。頷いたユズリハの手から、緑竜が飛んだ。
「お願いレイシー、終わらせてきて……」
 緑竜の一撃で、ドラゴンの体は朝陽に溶ける。そのまま、かげろうのように揺らぎ……。
「……おやすみ」
 消えていくドラゴンに、瑠碧はそっと別れを告げた。

 村々を脅かすドラゴン――オブリビオンは猟兵達の手によって倒された。周囲の人達は、平和に暮らせるだろう。
「せめて、安からに眠れるようにしてあげられたかな……?」
 何となく去りがたく、ユズリハは廃墟となった村を振り返る。
 竜も村人もいなくなった廃村は、竜が息吹で咲かせた花々が、朝日の中で輝いていた。

 ――村が大好きだった花の竜と、竜と共に暮らした村人達の幸せな物語は、小さなおとぎ話として、ひっそりと残されている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月23日


挿絵イラスト