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縁切り館と赤い糸

#サクラミラージュ #再送のご協力ありがとうございました!!

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#サクラミラージュ
#再送のご協力ありがとうございました!!


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●縁切りの館
 ——其処に行けば、必ず『別れる』ことができるという。
 さほど気の無かった面倒な相手と。
 困った縁と。
 旦那様ならいらっしゃいましょう? 気に入らぬ親族の一人や二人。
 先生ならありましょう? 困った締め切りの一つや二つ、追いかける編集殿。
 追いかけるようにして別れられぬ、己が趣味趣向。数多全てと『別れる』には縁切り処・白芷の館をお選びください。
「いやぁ、困ってたんだよなぁ。追いかけてくる女もさぁ、詐欺師だって分かってるのに惹かれるなんて、俺の腕が最高に良い訳だけど」
 金が無くなりゃ邪魔なだけだろ。
 薄く笑った男が一人、手首に巻いた紐を切る。
「昔話じゃぁ足首だってのに、手首なんざぁ可愛いもんだよなぁ。こいつでとんと、綺麗に縁も切れておくれよ、次の仕事が——……」
 ある、と告げる筈だった男がぐらりと揺れる。背に感じた熱があったか、ひぃひぃ、と言いながら倒れたそれが、血溜まりで顔を上げる。
「ンだよ、何がどうなって——……な、な……っ」
「縁を切ルヲ望ムナラ、うぬ等ガ先ニ消え失セヨ」
 騙した女との縁を切る為に来た男が、恋路を邪魔する一人と愛しいあの人との縁を切りに来た女が、悪癖との縁切りを望んだ娘が、皆々、館の影にかかって骸を晒す。
「コノ地を狂ワセたうぬ等に願ウコトなド許シはシなイ。骸ヲ晒セ」
 ひゅうひゅうと息する人々が最後に見たのは、影より立ち上がった異形の姿だけ。

●白芷の館
「いやぁ、いーこと思いついたんだよね」
 出会ってそうそう、そんな風に告げたのは柔和な笑みを浮かべる派手な男であった。まぁまぁ俺のことは良いからと、優男の空気を纏ったまま、グレイ・レッドラム(R.I.P.4.7・f31472)は告げた。
「ま、仕事の話だよ。サクラミラージュの一角、今や使われなくなった古い館「白芷」って場所があってね。まぁ、昔はえらーい人の別荘だったかとか噂はあるが——何より今じゃ、縁切り処として有名な場所さ」
 悪縁を絶ちきり、新たな縁を結び直す。
 手首に赤く長い紐を巻き、滞在した夜に部屋から紐を切るというのだ。
「青白い桜の咲く頃に行けば、どうだってくらいに悪縁が切れるってね。この場所で、影朧による連続殺人が起きちゃうのが分かってね」
 縁切りに来た人々を片っ端から殺して回るという。
「さぁて、危ないから来ないでねって言えば話は終わっちゃうけど、影朧も放ったままにはできないからねぇ」
 だから思いついた、のだとグレイは笑みを浮かべた。
「みんなには、この白芷の館で別れ話を演じて欲しい。そりゃぁもう、どうだってくらい揉めてくれたって良いし、悪癖に嘆いたって良いさ」
 そうして騒いで見せればその分、真実味も増す。
「そうして、みんなには殺人事件の被害者になって欲しいってこと。まぁ、館の内部に影朧によって作られた淀みや、術式でひどい目にはあうかもしれないけれど猟兵ならどうにか生還できちゃうでしょ?」
 予知のと折りに連続殺人事件が発生すれば、影朧はその姿を見せるだろう。
「縁切りばかりを願いに来た人々を、この地で修羅場を演じたものを見下ろす為にね。そこを、みんなで討伐して欲しい」
 影朧の怒りの理由に触れれば——或いは、次の巡りの可能性もあるかもしれない。
「異形の獣って以外は、今ははっきり分からないけど。まぁ館に関してはちょっと情報がある」
 嘗て何処かの貴族の別荘であった館は、同時に一人残された娘の療養所でもあったという。
「恋人と死に別れた娘さんでね。昔は別に、縁切りなんて場所でも無かったそうだよ」
 館の主人を失い、誰も彼も「白芷」のことを知らなくなった先で、何の因果か縁切り処として有名になった。
「詳しいことなんざなぁんにも分からなくなっちゃったけど、ここで殺人事件が起きてしまうのは確かだからね。一つ因果を断つと思って、よろしくね」
 男が、薄墨の炎を灯す。さーて、時間だよとグリモアの光が猟兵達を導いた。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願いいたします。

修羅場を演じたり、縁切りしたい何かや悪縁欲望とびちばたしながら殺人事件の被害者になってみよう、な感じになります。

●各章
 第一章:旅篭の夜……白芷の館に集まって修羅場を演じたり演じなかったり(日中)
 第二章:孤島の邸にて……修羅場その2。夜、殺人事件の被害者になってみよう。
 第三章:ボス戦……詳細は不明。影の異形。

 1章では館で桜を見たりしながら修羅場を演じたり、悪癖から逃げたり逃げれなかったりして、2章で殺されて、3章でレッツバトルとなります。

 各章、導入追加後、プレイング告知を致します。
 プレイング受付期間はこちらのページ、マスタページでご案内致します。

 第一章プレイング受付:4月10日 8:31〜

 *状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。

●第一章について
 白芷の館にて修羅場をどうぞ。
 断ち切れない何かの話をしてみたり、締め切りから逃げた文豪優雅ライフをしたり、派手な修羅場を演じてみたり。

 *白芷の館について
 ステンドグラスの美しい館。青白く輝く桜が満開です。
 さる貴族が別荘として使っていたらしい。
 古くは一人娘の療養に使われたというが現状では詳細は不明。過去に館を訪れたものの話では、少女と何かの写真があったという。

●お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。


 それでは皆様、御武運を。
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第1章 日常 『旅篭の夜』

POW   :    布団の眠気に抗い、夜の一幕に浸る

SPD   :    そよぐ風に舞う夜闇の桜花弁を眺める

WIZ   :    いいや、枕投げだ!!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●白芷の館
 悪縁をそれはもうすっぱりと断つ。
 ここに来ればどんな厄介な縁も断ちきることができる。
『サァサ、皆サマ。良縁を望むのであれば先ニこちらヲドウゾ』
 などと、詐欺師が秘密の場所として告げたのが何時であったか。腐った床はいつの間にか張り替えられ、とうの昔に主人を失った屋敷は、ぎぃぎぃと軋みながらも立派に建っている。高い天井に高い梁。ステンドグラスの光が淡く落ちる。見上げる程に高い場所にあるのは梁だけではない、照明もだ。しっかりと夜になってもつく灯りに、取り残された家具も古めかしいが使えはする。
 嵌め殺しの窓から見える庭には立派な桜が咲き、これが夜になれば青白く光る——と言われるのだろう。広大な庭を眺めることができるのは日中だけだ。夜となれば縁切りの作法通り、館の中に籠もらなければならない。
 ——つまり、日中はどう過ごそうと自由だ。
 庭を見て回るのも良いだろう。館の中を探索するのも良いだろう。——だが、どこを見るにしても君達の『設定』を忘れるわけにはいかない。
 縁切りを望んで来たものだ、と。
 涙ながらの別れもあるだろう。
 暴れた果ての修羅場もあるだろう。——或いは、これ以上は君を殺してしまうから、などと縛ってしまうからと嘆く者もいるだろう。
 或いは、殴り合う程の修羅場も。
 勿論、過去には締め切りから逃げたいと縁切りを願った作家もいたという。
 二人連れだって金輪際合うものかと吐き捨てるものもいる
『……』
 今宵の獲物を見据える影も、君達をそんな客だと思っているだろう。ならば、存分に演じ、時を待てば良い。
 一時の別れが、縁切りが君達の心を抉るのであれば——どうか繋ぎ直す手の温かさを忘れぬように。
 さぁ、後は唇に嘘と偽り——或いは真実を載せるだけ。
◤――――――――――――――――◥

第一章:白芷の館にてお過ごしください
▷時間設定 日中(ざっくりです)
▷プレイング受付:4月10日 8:31〜

修羅場を演じたり、断てぬ悪癖との縁を切るために放り込まれたと言ってみたり。
2人揃って二度と会わぬようにと縁を切りに来たり、或いは、君を殺さぬうちにと手放す為の縁切りだったり、別れの儀式だったりとなんでもござれ。

建物を損壊しようとするなどの行動は、不採用になります。

◣――――――――――――――――◢
伊川・アヤト
人格名 怪奇探偵『伊川』
夜の一幕に浸りながら赤い紐を見て呟く
「こんな紐だけで縁が切れるなんてね、考えただけで本当この世界は怪奇に満ち溢れていると感じてしまうよ」

そう笑みを浮かべつつ煙管を一服
同時に懐にしまった携帯電話が鳴り響く。

『伊川君この前調査を依頼したが全く連絡がないじゃ無いかどうなってる‼︎』
「あのね佐藤さんボクは怪奇探偵なんです、浮気の調査なんて専門外だから他の所に頼んでって言ったでしょう」
『私は君が信用に値すると聞いて依頼したんだ良いから早く調査をしろ‼︎』
そう言い捨てて佐藤は電話を切る

「縁切り館さんさっさとこの佐藤との縁を切ってくださいな」

桜に背を預けながら館を見てそう呟いた。



●とある怪奇探偵の場合
 古い館だというのに、そこは随分と『整って』いた。床板は補強され、数日の滞在であれば——多少の埃臭さを我慢すれば可能であろう。広大な庭に青々とした芝生、美しい桜は季節柄か。或いはこの館であるからか。主人を失った地は、噂の名の下に未だ行き続けていた。
「こんな紐だけで縁が切れるなんてね、考えただけで本当この世界は怪奇に満ち溢れていると感じてしまうよ」
 ほう、と伊川・アヤト(天蓋の探究者・f31095)は息をつく。腕に巻くだけだというのに、赤い紐は随分と長くあった。どこぞの商人が噂にかこつけて妙な商売を始めたのか——或いは、この逸話をおもしろがったものがいたのか。
(「逸話そのものであれば、赤い糸なら紐より縄で、足首だけど……まぁ妙なものだね」)
 縁切りの館。必ず縁が切れる。
 それらしい儀式めいた活動がひとつあって、それが赤い紐だと言うのはまだしも『必ず』縁が切れる、というのは——。
(「さて……」)
 笑みを浮かべながら煙管に口をつける。ふぅ、と零した煙を追い、桜の影に立つ。ゆらり揺れた腕にある黒い腕輪が僅かに揺れた。
「……桜、か。季節ではあるね」
 尤も、青白い桜などそうそう聴くような話ではないが、見ることができるのは少しばかり後になるだろう。館に客が揃いきれば、縁切りの儀式へと進み——影が来る、という。
「どうなるかな」
 薄く唇に浮かべられた笑みは、青年の知識欲が故であった。
 『伊川』は怪奇探偵であるが故に。今日この時も、怪奇を知り、辿り、識る為に来たのだ。だがからこそ——……。
「……」
 鳴り響いた携帯電話に伊川は息をつく。2コールたっぷりおいて、さっぱり引く様子の無い電話を取った。
『伊川君この前調査を依頼したが全く連絡がないじゃ無いかどうなってる!』
「あのね佐藤さんボクは怪奇探偵なんです、浮気の調査なんて専門外だから他の所に頼んでって言ったでしょう」
 白い花弁の影が落ちた携帯電話を手に、伊川は身を起こす。はぁ、と落とした息に関係なく、電話口の声は大きくなった。
『私は君が信用に値すると聞いて依頼したんだ良いから早く調査をしろ!」
「……」
 言い捨てて電話先の相手——佐藤はさっさと電話を切ったらしい。はぁ、と伊川は息をついて桜の木に、とん、と背を預けた。
「縁切り館さんさっさとこの佐藤との縁を切ってくださいな」
 今や主人のいない——ただ不可思議な噂だけが残った館を眺めて、そう呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

プラシオライト・エターナルバド
エリィ様と(f11289)
従者兼恋人役を本気で演じます
自分では手放せない想いなら
誰かに縁を切ってもらわなければ

青白の桜が寂しく散る中
私は唯の従者。嫁ぎ先でお嬢様が別の方の手で幸せになる様を
記録することも出来ない愚かな私をどうかお許し下さい

お別れの儀式は思い出の品の返却
嵩の減った香水瓶を渡されて
代わりにエリィ様からいただいたアメジストのブレスレット
をその場で外してお返し

今までありがとうございました
お嬢様との思い出は、役目として記録するクロスとは別の場所に在る
この痛む場所が心なのですね

エリィ様……
美しい涙を冷たい指先で掬い
これから永遠に忘れられないであろう、
彼女と香水の混じり合った香を胸に吸い込む


エレニア・ファンタージェン
シオさん(f15252)と

じきに嫁ぐお嬢様と侍女という設定、二人は恋仲
お散歩の途中桜の下で足を止め、見つめ合う
エリィがお嫁に行く時は一緒に来てと言ったこともあったわね
ずっと一緒に居られることが幸せだとあの頃無邪気に思ってゐたのに
傍に居ることで互いに傷つくこともある
故に道を分かちましょう

差し出すのは半分残った香水の瓶
彼女が調香してくれた沈丁花と阿芙蓉の香
「思い出して辛いからどうか貴女が連れて行って」
強いて思い出さなくても忘れることは出来ない
返されたブレスレットは彼女の瞳に合わせて選んだ品
贈った時は別れなど思いもせずに

…あら、エリィ如何して泣いているのかしら
お芝居の筈なのに、本当に悲しくて悲しくて



●とあるお嬢様と侍女の場合
 ——例えば、この戀が四百四病の外であれば良かったのか。何もかも捨てて行ければ良かったのか。
「……」
 いいえ、とエレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)は瞳を伏せた。零す吐息には足らず、ただ僅かに伏せられた赤い瞳に手をひく侍女が足を止めた。お嬢様、とやわく落ちた声に視線を上げる。ひら、ひらと舞う桜の花がミントグリーンの髪を揺らしていた。
「エリィがお嫁に行く時は一緒に来てと言ったこともあったわね」
 吐息を一つ零すようにして告げる。足を止めたのは青白い桜の咲く場所であった。館をよく見ることができる場所だ。ぽつり、とひとり立つ桜は広大な庭に淡く長い影を残していた。
「お嬢様……」
 そっと、手を取る侍女はエレニアの守人であった。一番の友人であり、この手を預ける相手であり——この手を、握り返すただひとりの相手だった。
「ずっと一緒に居られることが幸せだとあの頃無邪気に思ってゐたのに」
 落ちた息は苦笑に似た。
 恋をした。恋をしていた。永遠に思える日々を生きて——ただ、どうしても『その先』が二人には無かったのだ。
『婚儀の日取りが決まった』
『——……』
 簡潔に告げられたその言葉に否やを言える訳も無い。いずれ嫁ぐことなど最初から分かって居たのだから。
「傍に居ることで互いに傷つくこともある」
 舌の上、浮かべた名を溶かすようにしてエレニアは告げた。
「故に道を分かちましょう」
「——お嬢様」
 繋いだ手を、離そうと思った日はあっただろうか。離さなければ、と思うような日はあったのかもしれない。
 つま先の触れるその距離で、告げられた言葉にプラシオライト・エターナルバド(かわらないもの・f15252)は視線を上げる。二色の瞳には、大切なお嬢様の姿が見える。
「私は唯の従者。嫁ぎ先でお嬢様が別の方の手で幸せになる様を記録することも出来ない愚かな私をどうかお許し下さい」
 許容すれば良かったのだ。この想いごと全て飲み干して——だが、それができなかった。唯の従者である自分には過ぎた思いだとそう分かっていた筈なのに。
(「自分では手放せない想いなら、誰かに縁を切ってもらわなければ」)
 零す吐息に触れた白い花弁が揺れる。青白の桜が寂しく散る中、そっとエレニアの白くほっそりとした手が向けられた。
「思い出して辛いからどうか貴女が連れて行って」
 差し出されたのは嵩の減った香水の瓶。半分ほど使われたそれはプラシオライトが贈ったものだった。沈丁花と阿芙蓉の香がふわり、と指先に触れる。
「……」
 両の手で香水瓶を受け取る。淡く触れた香りの代わりにプラシオライトはブレスレットに触れる。アメジストのそれは、彼女から貰ったものだった。
「今までありがとうございました」
 そうっと、ブレスレットを外して差し出す。これは別れの儀式だった。
「お嬢様との思い出は、役目として記録するクロスとは別の場所に在る。この痛む場所が心なのですね」
 終わりを告げるより、別れの方がずっと心が痛むような気がするのはなんでだろう。そう、と掌でおさえ、息をついた娘の前——きらり、と何かが光った。
「……あら」
「……」
 頬を伝い落ちるそれは、白皙を滑り指先に触れていく。ぱた、ぱたと零れ落ちる涙に戸惑いの声が落ちた。
「エリィ如何して泣いているのかしら。お芝居の筈なのに、本当に悲しくて悲しくて」
 強いて思い出さなくても忘れることは出来ない。そう『お嬢様』は思ったから香水を『侍女』に返した。別れの言葉も、何もかも演技の筈なのに——お嬢様と侍女の、二人で紡いだ話の中のことの筈なのに、どうしてか涙が零れていた。
「エリィ様……」
 首を傾ぐエレニアの涙を、冷たい指先が掬う。ぱちぱち、と僅かに瞬いたエレニアに、プラシオライトは静かに微笑んだ。
「いいえ」
 ただ、これから永遠に忘れられないであろう、
彼女と香水の混じり合った香を胸に吸い込みプラシオライトは瞳を伏せた。ほんの、少しの間だけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈
※アドリブ歓迎

絶対別れて…
(いやだなぁ、別れるの…)

隣にいる彼女をみやる
護ると誓った大事な友達
これから縁を、依頼とは言え切らねばならない
それはなんだか…とてもつらい

でも依頼なのだから、やらなくちゃだけど

俺様も…俺も、楽しいこといっぱいだった
忘れられない思い出がいっぱいあるし…うん
でも…あの…うぅ…

迷って迷い惑ううち、別れの言葉を切り出そうと
嘘を、言葉に出すのが辛くて
頑張って絞り出そうとした内に、彼女から別れの言葉が告げられた

―――俺、だって…幸せ…だよ…

思わず目を見開きながら、目を逸らす
泣きそうな顔になってなかっただろうか
思ったより、やけに…心が痛くて、辛い
なんでだろう…分からないよ…


音海・心結
💎🌈
※アドリブ歓迎

此処が絶対別れてしまう場所
しかも、みゆたちの意思で……?

隣を歩む彼
大好きで大切な彼を
自分の意思で拒絶する
そんなことがみゆに出来るのでしょうか

――いえ
やらなくてはならないのです
此れが依頼ならば

……ね、零時
零時とはいっぱいっぱい
楽しいことを経験しました
楽しいことばかりではありませんでしたが
それでも、みゆは

先に続く言葉は出ない
今生の別れではないと知っても
これ以上言ったら涙が零れそうだったから
せめて、最後には笑顔の姿で在りたい

零時と逢えて
みゆは幸せでした

自分から別れを切り出す
彼から別れの言葉を聞いたら
辛くて、胸が張り裂けそうで
耐えきれたものではなかったから



●少年少女の縁の場合
 ぎぃ、と古めかしい館の床板が鳴った。古く鳴くように零れ落ちた声は、艶々とした床板にはよく似合う。穴が空くようなことが無いのは、この館が維持されているからだろう。高い天井に、梁の位置も高い。大きなお屋敷、というよろいは、ただただ広いと感じるこの場所が同時に寂しいと思うのは——きっと、この地にある噂が理由だろう、と音海・心結(瞳に移るは・f04636)は思った。
 縁切りの館。
 此処に来れば、必ず『別れる』ことができるという噂。
(「此処が絶対別れてしまう場所。しかも、みゆたちの意思で……?」)
 きしり、と床板が鳴る。開きっぱなしの扉が、長い影を廊下に残していた。このまま進めば、桜の場所に届くのだろうか。柔らかな風が、淡く花の香りを届ける。一歩、二歩と進んだ先で結局足が止まった。
「……」
「……」
 紡ぐ言葉が見つからずにいたのは、傍らの彼も同じだった。藍色の髪が頬にかかり、快活ないつもの表情がどうしたって見えない。
(「零時……」)
 隣を歩む彼。大好きで大切な彼を自分の意思で拒絶する。
(「そんなことがみゆに出来るのでしょうか」)
 蜂蜜色の瞳を、僅かに伏せる。終わりではない、別れを告げることができるだろうか。これより先を断つ言葉を——それが、演技だとしても。
「――いえ」
 薄く唇をひらく。舌の上、溶かすようにして心結は揺れる心に否を紡ぐ。
(「やらなくてはならないのです。此れが依頼ならば」)
 ふわりと揺れるミルクティ色の髪は、淡く煌めく色彩を持っている。あの日——そう、明日からは猟兵、印象に残れるようにと、頑張る心を込めて毛先を淡くカラフルに染めた。
 猟兵として生きて、猟兵としてある。依頼として、応じて此処に来たのであれば——……。
「……ね、零時」
 唇を開く。告げる。視線を合わせた先、空のように青い、美しい藍色の瞳が瞬く。
「零時とはいっぱいっぱい、楽しいことを経験しました。楽しいことばかりではありませんでしたが」
 それでも、心結は、と告げた先、先に続く言葉が出て来なかった。震える唇が言葉を紡げずに吐息だけを零す。今生の別れではないと知っても、これ以上言ったら涙が零れそうだったから。
(「せめて、最後には笑顔の姿で在りたい」)
 きゅ、と拳を握る。吹き込んだ風が、さらさらと心結の髪を揺らした。
「俺様も……俺も、楽しいこといっぱいだった」
 窓を、背にしているからだろう。淡い光を背に受けるようにして紡がれた彼女の言葉に、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)は小さく息を飲んだ。ここは、別れる場所だという。絶対別れて……、と唇に乗せる筈だった言葉は、いやだなぁ、という心に辿りついた。
(「いやだなぁ、別れるの……」)
 護ると誓った大事な友達。これから縁を、依頼とは言え切らねばならない。それはなんだか……とてもつらいことだった。
(「でも依頼なのだから、やらなくちゃだけど」)
 返すだけの言葉を紡ぐのに、ひどく時間がかかる。言わなきゃ、言わないと、と思うのに、どうしてか、すごくもやもやして、嫌な気分になる。依頼だと、そういうことを『言えば良いだけ』の話だと分かっているのに。
「俺様も……俺も、楽しいこといっぱいだった。忘れられない思い出がいっぱいあるし。……うん
でも……あの……うぅ……」
 迷って迷い、惑いのうち別れの言葉を切り出そうと——嘘を、言葉に出すのが辛くて。瞳が揺れる。二度、三度と開いた唇がようやくその一言を絞り出そうとしたところで、ふわりと吹く風が心結の髪を揺らした。
(「——あ」)
 僅かに伏せた瞳。ゆっくりと開いて、顔を上げるようにして彼女は笑う。
「零時と逢えて、みゆは幸せでした」
 それは、心結にとって敢えて先に告げた言葉だった。零時から別れの言葉を聞いたら、辛くて、胸が張り裂けそうで耐えきれたものではなかったから。
 だからこそ、少女は微笑み告げた。差し込む日差しにきらきらと長い髪を揺らす彼を見ながら。
「——俺、だって……幸せ……だよ……」
 思わず目を見開きながら、零時は目を逸らした。言葉は、最後まで震えずに告げられただろうか。泣きそうな顔になってなかっただろうか。
(「思ったより、やけに……心が痛くて、辛い」)
 演技をしただけなのに、本当の別れじゃないのに。心が痛い。じくじくと痛む。
(「なんでだろう……分からないよ……」)
 分からないけれど——この痛みを、忘れられそうも無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
【虹誓】

縁切りの館とか、ヒメだめそうだな
俺は、簡単に縁切れねェと思ってるけどよ
……ヒメ、この場所より俺を信じとけよ
こんな館に来たくらいで縁が切れるならな、もうどっかで切れてる
俺達の縁は、そんな簡単に切れるもんじゃねェ

これは演技だからなと言い含めたが、なんか変なコト考えてそうだ
俺は家との縁切りにきた金持ちの息子
何回も家を出るが連れ戻され、自由がないと思っている
絶対に帰らない、ここで縁を切ると言い張って聞く耳を持たない体でいく
うるさい、絶対帰らない、放っとけ
――って、演技でもヒメに言うのは変な心地だ

敵にとって美味い縁になってるだろうか
美味くくわせてやる気はねェけど
……ちらってみるな、バレるだろーが


姫城・京杜
【虹誓】

…ん、大丈夫
それは本心で

勿論、主のこと信じてるから続く言葉にも迷わず頷くし
簡単に切れないって聞いたら嬉しくなっちまうけど

でも與儀は俺が守らなくても強いのに
主として色々背負わせてねェかって
與儀にとっては俺との縁は悪縁かもなんて…
ちょっとだけ思う事もある
怒られるし言えねェけど!

それに俺のこと不要って言われたら、縋らず去るつもりだから
與儀が死ぬのは演技でも無理だけど…縁切りは多分平気だ
怒られるしこれも言えねェけど!

ん、分かってるぞ(演技頑張る!
俺は主連れ戻しに来た従者
與儀、帰るぞ!
あの家と縁切るとか出来ねェだろ
頼むから一緒に戻ってくれ!
放っとけるわけねェし!

…こんな感じで大丈夫かな?(ちらっ



●とある主人と従者の場合
 両手開きの扉は、長い廊下に繋がっていた。広い、というよりは半ば大きいという感想が先に来るのは高い天井の所為だろう。空間として広いその場所は、主人を失って久しいというのに廃墟というには人の手が入りすぎていた。きぃきぃと音を鳴らす蝶番はそのままに、館のあちこちに埃や砂は溜まっていたが、枯れ葉の入り込んでいる様子は無い。雨風に触れることもあるだろうに、天窓からは風が入り込んでいた。
「……」
 誰か掃除にでも来ているのだろうか。
 カツン、と姫城・京杜(紅い焔神・f17071)は足を止める。藍の瞳が天井から壁を撫で、ベルの外れた部屋の扉に出会う。妙に整えられ屋敷は、廃墟というには不釣り合いであった。
(「縁切りの館……縁を切る場所」)
 そういうものを、その形で残そうとしている人がいるのだろう。それを望むひとがいて、叶えようとする人がいるかぎり——存在の意味を成す。
「……ここは」
「縁切りの館とか、ヒメだめそうだな」
 薄く開いた京杜の唇が、言の葉を紡ぎ上げるより先に傍らを歩く主の声が耳に届いた。
「俺は、簡単に縁切れねェと思ってるけどよ」
 吐息一つ零すようにして、そう言って英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)が視線を上げる。
「……ヒメ、この場所より俺を信じとけよ」
「……ん、大丈夫」
「こんな館に来たくらいで縁が切れるならな、もうどっかで切れてる。俺達の縁は、そんな簡単に切れるもんじゃねェ」
「……」
 大丈夫の言葉は、紛れも無い京杜の本心だった。勿論、與儀のことを信じているから続く言葉にも迷わず頷いた。簡単に切れないと告げられた言葉がひどく嬉しいのに——思うのだ。
(「でも與儀は俺が守らなくても強いのに、主として色々背負わせてねェか」)
 與儀にとっては自分との縁は悪縁なのかも、と——そう、ちょっとだけ思う事はあるのだ。怒られるから言えないけれど。
(「それに……俺のこと不要って言われたら、縋らず去るつもりだから」)
 僅かに瞳を伏せて、京杜は思う。與儀が死ぬのは演技でも無理だけど、縁切りは多分平気だ。
(「怒られるしこれも言えねェけど!」)
 だからこそ、これは自分だけの秘密。ささやかな誓い。最たるは主人の幸せであれば——……。
「……」
 これは演技だからなと言い含めたが、なんか変なコト考えてそうだ、と與儀は黙した京杜を見ながら思う。妙な静けさの後、ぱ、と顔を上げる姿は常と変わらないのだが——それにしても、だ。
(「まずは仕事だが……」)
 與儀の役どころは家との縁切りに来た金持ちの息子だ。何回も家を出るが連れ戻され、自由が無いと思う少年は——一歩を、大きく出す。ガツン、と足音が大きく響いた。
「……なんで付いてきた」
「與儀、帰るぞ!」
「なんで、来たか聞いてんだ」
 與儀! と叫びに似た声に、がつがつと先を歩いて、荒く與儀は振り返る。
「絶対に帰らない、ここで縁を切る」
 真っ直ぐに言い放って——その言葉が、妙に心を揺らす。こんな言葉を、演技でも京杜に言うのは変な心地だった。
「あの家と縁切るとか出来ねェだろ」
「うるさい、絶対帰らない、放っとけ」
 主を連れ戻しに来た従者は引き下がらない。伸ばされた手を無視して與儀は歩き出す。京杜は構わず追う。
「放っとけるわけねェし!」
「——……」
 跳ねて響いた声に與儀は眉をつり上げた。家の束縛、あの檻に戻れというのかと告げるように鋭い視線を向ける。
(「敵にとって美味い縁になってるだろうか。美味くくわせてやる気はねェけど」)
 薄く口の端を上げて見せたところで、ちらり、と向けられた京杜の視線に気がつく。
『……こんな感じで大丈夫かな?』
 そう雄弁に語る視線に、與儀はそっと息をついた。
『……ちらってみるな、バレるだろーが』
 そんな視線を返しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『孤島の邸にて』

POW   :    警察も来ない離島だ。用心棒は必要ないかい?

SPD   :    大きな邸だ。修繕も必要だろう。はて、こんなところに扉が。

WIZ   :    島の地図や伝承を調査する。日記や書き付けは残されていないか。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●影が嗤う
 ——また、と落ちた声が低い唸り声に変わる。そう、また別れる為に、縁を切りにと全てをこの地になすりつけに来た。
「骸ヲ晒セ……骸ヲ晒セ」
 影に潜み、館を訪れたもの達を眺めていた影朧が身を起こす。闇の帳が落ちれば、決行の時。
「縁を断ッテ尚、生きテいラれルナドト努々思ウナ。うぬ等ガ先ニ消え失セヨ」
 骸を晒せ、と唸り影は——行く。喉元に食らいつき、全てを殺す為に。

●縁の果て
 白芷の館に夜が訪れた。この地が縁切り館として知られるようになったからだろう。大広間に、小部屋にと縁切りの作法が書き記された紙が貼り付けてあった。
『夜になったら部屋に籠もり、窓を開けて縁切りを行ってください』
 貼り付けたのは、縁切り館と広めたものか、或いは——館までの道筋で一つ二つと稼ぐ者たちか。廃墟というには妙に整い過ぎた館は、嘗て暮らした貴族の娘の名残も遠いままに、縁切りの作法を知らせる。

 その壱、手首に赤く長い紐を巻く。
 その弐、その紐を鋏で切る。

 単純な作法であったが、皆々部屋に入ってソレをするらしい。館に潜む影朧はその瞬間を狙ってくるだろう。夜の影に潜み来る相手に、君達は一度は殺されなければならない。——そのフリではあるが。
 さぁ、素直に縁を切るのか、否やを紡ぎながらも切り捨てるのか。どちらにしろ、あと少しは演技の時間だ。決して捨てぬ縁であっても、一度は切り捨てる。全ては、影朧を引きずり出す為に。

◤――――――――――――――――◥

第2章:赤い紐を切って、殺されるまでの一幕。修羅場その2
▷時間設定 夜
▷プレイング受付:4月23日〜26日(達成値に足らなければ延長してます)

すぱんと縁を切ったり、少し屋敷を調査したり。
嫌だと言いながら切ったり。
最後は必ず、影朧に襲撃されます。

◣――――――――――――――――◢
伊川・アヤト
そろそろ夜も更けてる頃合いか
このままスパッと切ってもいんだが調べた方が面白そうだ

(影朧による殺人事件という情報もある事だ、他にも誰か居るとより良いけどね・・・・・・)

さて調査という事で書斎にやって来たはいいものの、ここは別荘兼療養所だったと聞くし重要な情報が残っている可能性は低いだろうね

≪UC発動≫1時間程観察そして、煙管Placeboの瞬間思考力を使用
書斎の使った形跡や一番最後に使われた書物の判別を開始

まあこんな所か
じゃあ待ちに待った縁切りの時間だ

紐を鋏で断ち切り影朧に襲われ死亡
(致命傷を負う前に、黒い腕輪の結界術と受け流しを使い傷を抑える)



●探偵は実を見る
 夕暮れが空の藍に呑み込まれて行けば、館の廊下に、ぼう、と灯りがつく。元より、用意されていたのだろう。ゆらゆらと揺れる灯りは初めて訪れる館の夜を思えば頼りなく——だが、この地にある噂と、この先起こる事実を思えばひどく「らしい」ものであった。
(「そろそろ夜も更けてる頃合いか」)
 広い玄関も、大広間も随分と天井が高い。梁を見上げ、さて、と伊川・アヤト(f31095)は館の奥へと目をやった。件の赤い紐は持っている。客間のひとつにでも入って、切ってしまえばそれで、仕事は果たせるが——調べた方が面白そうだ。
(「影朧による殺人事件という情報もある事だ、他にも誰か居るとより良いけどね……」)
 そも、不可解な点は幾つもあったのだ。——否、どちらかと言えば、探偵の伊川からすれば見知ったものに近い。不可解な窓の配置、高い梁。照明の位置も随分と高い。元は貴族の娘が居たというのであれば、世話役の使用人たちもいただろうに。
「彼らが勤労に励めば構わないか、館を建てた某かのセンスの問題か。或いは——……」
 そうしなければならない理由があったのか。
 一階をぐるりと回った先、陽当たりの良い場所に書斎はあった。品の良い家具はそのままに、天井まである書棚には今も多くの書物が収まったままになっていた。
「ここは別荘兼療養所だったと聞くし重要な情報が残っている可能性は低いだろうね」
 さて、と伊川は視線を巡らせ、分厚い机に手をついた。灰色の瞳が黒塗りの机を撫で、一度だけ瞳を伏せる。
「そこには事実だけが存在する」
 ただ一度、世界から視界を切り離し——ゆるり、と開く。
「分厚い机……棚も多い。これ程書物を収めているのに、部屋の陽当たりは良い。目隠しは作ってあるけれど……いや、部屋なら他にも沢山あった。なら、ここで無ければいけない理由があった。文芸書物、辞書……医学書、医者……違うな、これは——……」
 一時間程観察をした先で——ふぅ、と息をつく。現場の壁に背を付く気にはなれないまま、煙管を口につけた。Placebo深く吸い込んだ煙と共に、猟奇探偵『伊川』は思考する。
「療養していた娘の為、集められたものだね」
 それがただの心配であったかは、正直怪しいだろう。この書斎の主人は、書棚と、この机、そして——窓辺をよく使っていたらしい。擦り切れた絨毯、何より、このあたりだけ『音』が違ったのだ。
「床板の造りだね。貴族の館らしくないとは思っていたけど、随分と音が響く。これなら、上の音も聞こえるだろうね」
 そしてこの上の部屋は恐らく、件の『貴族の娘』の部屋だ。この書斎の主人が、住み込みの医者でもあればそれも良いだろうが、此処は書斎だ。診療に使った道具は全て片付けられたと見ることもできるが、書棚の本が妙に偏っている。
「心理学、セラピー……、怪しげな聖書が無いだけマシかな。けれど、一番最後に使われていたのは……、この本だ」
 分厚い辞書の間、逃げるように滑り込まされていた一冊の本。帝都の新聞記事の切り抜きと共に其処にあったのは、芳しくは無い、という言葉だった。
「日記……じゃないね。普通にノートみたいだけど、書斎の主は執事かな」
 心が癒えない貴族の娘を心配する言葉、療養についての心構えなど細かく記載されたノートの端に、一度消した言葉が残されていた。
「旦那様も、あのように無理矢理引き離さなければ、か。療養には他の意味もあったのかな?」
 医者のいらない療養。心を痛めていた貴族の娘は恋人と死に別れたという。その死に『何か』があったのか。
「まあこんな所か」
 今や貴族の娘も何も無く、この地に残るのは歪んだ因果の果てに生まれた噂と、殺人の予告だけ。コツン、と伊川は廊下へと足を向ける。書斎を後にして、腕の赤い紐を鋏で切れば——ぞわり、と背後で何かが湧き上がる気配がした。来る、と思った次の瞬間、衝撃が身を貫いた。
「これ以上、曝キ喰いチラすナ」
「——」
 歪み響いた声と共に、伊川は床にずるずると倒れ込む。致命傷を避けるように展開した結界術が肌を這い、崩れゆく僅かの合間に見えたのは黒く長い、尾を引くような獣の影であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

プラシオライト・エターナルバド
桜の下でエリィ様と別れた後
返された香水は肌身離さず
物陰で【指定UC】
透明化で屋敷を探索
念動力で浮かんで足音も消します
疲労時は手に持つアメグリーンの回復薬を使用

事前情報にあった「少女と何かの写真」を探しましょう
何か…恋人ではないのでしょうか?
「コノ地を狂ワセた」とはどういう意味なのか…

考えながら捜索中、別行動のエリィ様を見かければ
透明のまま、そっとお傍へ
そして手を握り、祈ります
(離れていても心は共に。どうかご無事で…)

部屋に戻ったら、作法の通り縁切りの儀式を
演技でも、自らの手で縁を切るというのは…
(…大丈夫、私達の縁は切れません)
表情は歪まず目を伏せるだけ
クロスで周囲を記録しながら糸を切ります


エレニア・ファンタージェン
シオさんとお別れした後、屋敷を探索しましょう
UCを使用し、蛇たちに探し物をさせるわ
たしか、写真がどうとかって…
そういうの、何処に置くかしら
エリィなら書斎とかかしら

沈丁花と阿芙蓉の香り
姿がなくてもシオさんが近くに来たのはすぐに分かるのよ
滑らかな手をそっと握り返して、
(後で全部、笑い話にしましょうね)
思わず語りかけそうになる言葉は、今回は、飲み込むわ
全部…そうよ、泣いてしまったこととか、この後の影朧のこと、縁切りの儀式とか…
だからご無事で

お部屋に戻ったら聞いた通りに儀式の準備を
縁切りをしたら影朧と縁が結ばれるなんて皮肉よね
(これは違うわ。切るのはシオさんとの縁ではないわ)
エリィ、躊躇わないわ



●雨霖鈴曲
 ——淡く、花の香りが残っていた。
「……」
 半分ほど残った香水が瓶の中でちゃぷり、と揺れる。手の中に収めた香水とは僅かに違う香りは、彼女の名残だろう。
(「エリィ様……」)
 桜の下で別れた後、プラシオライト・エターナルバド(f15252)は館へと戻ってきていた。開け放たれたままの玄関にも、灯りがつき、広間への道筋を照らしていた。長く続く廊下を洋灯が照らしているのは、この地が縁切りとして知れた地であるからだろう。長く——遠い昔に主人を失った館だというのに、人が居ることはできるように整えられている。
(「……ですが、暮らしていくようには整えられてはいないのですね」)
 足を踏み入れた部屋は、館の使用人が使っていた部屋のようだった。シンプルな本棚に、机。椅子はそのまま座れそうではあったがベッドは寝るには向かないだろう。埃を払えばまだ少しは、と伸ばした指先に——その向こうが見える。
(「やはり、この館は何かがあったのでしょうか」)
 透明となった体は、指先の淡い影さえ落とさない。軽く浮かせた体は、足音さえ世界から消していた。館に入る前、物陰で己の宝石を変じたのだ。肌身離さず持った香水と共に透明となってしまえば、館を訪れている他の猟兵もプラシオライトの姿には気がつかない。
(「この部屋にはやはり、無いのでしょうか……」)
 プラシオライトの記録には、ある言葉が残っていた。「少女と何かの写真」だ。
(「何か……恋人ではないのでしょうか? 「コノ地を狂ワセた」とはどういう意味なのか……」)
 少女が貴族の娘であるのは間違い無い。恋人と死に別れたという娘が、この地で療養していたという。
(「本来であればここは、哀しい記録が残る場所で……、これは」)
 とん、と指先にひとつ、引っかかるように触れた本から一枚の紙が滑り落ちる。手紙だ。見る限り、出されることの無かった古い手紙。
「……文字は擦れていますが、これは使用人が誰かに宛てたものでしょうか」
 小さく呟いた言葉と共に、ゆっくりとプラシオライトは文字をなぞっていく。館での仕事について、あまり館の外に出られないということ、最近の帝都の情報について疎くなっているということ。手紙を書いた使用人は若い娘だったのだろう。
『流行を教えて欲しいの、えぇ。お嬢様の気が少しでも紛れるように。お体の強くない方なのよ。最近はクロの散歩も難しそうで』
「……」
 心配だと綴る使用人の手紙は、何度か悩んだかのように書き直され、やがて数日後の内容に変わっていた。随分と、文字が荒れている。
(「これは……出すことが出来なくなった手紙でしょうか」)
 日記のように書き続けられた話は『お嬢様の心配』と雇い主である貴族——お嬢様の父親への不満が増えていった。
『旦那様もひどいわ。けれど、お嬢様には今も大切な方が——……』
 先に続いた言葉は、小さくプラシオライトは息を飲んだ。
『だからお嬢様は、心中なされようとしたのに』
「——」
 きぃ、と開け放ったままの扉が音を鳴らす。風が入り込んだのだろう。ふいに、馴染みのある足音がプラシオライトの耳に届いた。コツ、コツと行く足音に杖の音。振り返れば、柔らかな白い髪が夜風に揺れていた。
(「——エリィ様」)
 そっと、傍に向かう。足音も無く、透明なこの身は彼女の瞳に映らなくても——ただ、そっと手を握って祈る。
(「離れていても心は共に。どうかご無事で……」)
 エリィ様、と音も無く告げる。そっと滑るように離した指先が、ふいに握り替えされる。
「——」
「——」
 視線が合った。合う筈も無いというのに。つま先の触れあうような距離で、ただ一度だけ視線を合わせて、桜の下で別れを告げた二人はそれぞれ館の中を進んで行く。
「……」
 部屋へと戻ったプラシオライトは、ほう、と息をついた。疲れた体を癒やすように回復役を手にした娘の腕で赤い紐が揺れる。
「お嬢様は、心中に失敗して取り残された……ですか。この館は、お嬢様を囲う為にあったのでしょうか」
 帝都の状況は知れず、館の中だけで暮らした貴族の娘は、長くは無かったのだという。療養は、真実娘を案じたものであったのか、後追いしそうな娘を抑え込むだけのものであったのか、仔細は知れず。
『お嬢様は、生き残ってしまったことを、生き残った自分を許してはいなかったのに』
 次の縁談が、決まるかもしれないという話があったという。使用人の噂話程度だ。真実かどうかは分からないが——心を痛めていたのだろう。ならばこの館は、館に伝わる縁切りは決して悪縁を切るものではなく。
(「思い、願った縁が切れてしまった地……どうしようも無いほどに」)
 息をひとつ吸う。手にした鋏。演技でも自ら縁を切るというのは——……。
(「……大丈夫、私達の縁は切れません」)
 ただ瞳を伏せ、赤い紐に鋏を入れた。瞬間、揺らぐ影が、立ち上がる獣がプラシオライトのクロスに記憶されていた。

●然れど、縁は続く
「——……」
 ふいに、感じた違和にエレニア・ファンタージェン(f11289)は足を止める。吹き抜ける風が強くなってきていた。夜風が館の何処かから滑り込んできているのだろう。或いは影朧が動き出した関係で、館の方々が開いているのかもしれない。
「たしか、写真がどうとかって……そういうの、何処に置くかしら。エリィなら書斎とかかしら」
 不可視の蛇たちが、エレニアの足元でくるり、と回る。悩むように動いたのは、書斎では見つけられなかったからだ。天井まで届く本棚に囲まれた部屋は、館の使用人のものだったらしい。精神医学に関する書物——所謂セラピーに使う書物のようだった。専門書というよりは、一般人が使うような書物だ。小説の類いもあったが随分と古い品だった。
「上の階は……あぁ、あそこからかしら?」
 そうだね、そうみたいだね。と不可視の蛇たちがエレニアの足元から先に向かっていく。花の香りは——もう、遠ざかっていた。
「……」
 あの時した、沈丁花と阿芙蓉の香り。
(「姿がなくてもシオさんが近くに来たのはすぐに分かるのよ」)
 滑らかな手をそっと握り返して、思わず語りかけそうになった言葉。
『後で全部、笑い話にしましょうね』
 全て飲み込むようにして、指先が去る前に握り返した。
(「全部……そうよ、泣いてしまったこととか、この後の影朧のこと、縁切りの儀式とか……」)
 カツン、と足を止める。杖が階段に触れた。
 ひゅう、と吹き抜ける風に揺れる髪を押さえる気にはなれないまま、ただ一度、エレニアは彼女の名を紡いだ。
「シオさん……」
 だからご無事で、と。祈るように、願うように紡いだ言葉が風に攫われていく。ふいに、蛇たちがエレニアを一つの部屋に招いた。館の中で一番広い部屋だ。貴族の娘が住んでいた部屋だろう。頑丈な鍵は、とうに外れ、薄く開いた扉の向こう蛇たちが写真立てを運んできた。
「これがあの写真かしら? お嬢さんと、これは犬かしら?」
 美しい着物に身を包んだ娘が、ぎゅっと傍らの黒い犬に抱きついている写真だった。楽しげで微笑ましい写真。この時、娘は幸せだったのだろう。
「けれど、この部屋は……とっても寂しいように、エリィには思えるわ」
 調度品は皆美しく、主人を失って久しい館だというのに多くが揃っている。百年の微睡みがあれば或いは、魂の宿る者がいたかもしれない。——そう、思うのに何処かが哀しいのだ。若しくは、そう苦しいのかもしれない。
「……」
 部屋に戻れば、もう随分と夜も深くなっていた。赤い紐を手首に結び、鋏を手にする。縁切りをしたら影朧と縁が結ばれるなんて皮肉な話だ。
(「これは違うわ。切るのはシオさんとの縁ではないわ」)
 ゆっくりと吸った息。懐かしい香りを思い出しながら、鋏を開く。
(「エリィ、躊躇わないわ」)
 するり、と赤い紐が腕から滑り落ちる。受け取ったブレスレッドが小さく揺れて、ふいに気がつく。己の影が大きく蠢いたことに。
「あの姿は……どこかで——……」
 見たわ、と落とす声は、食らい付く獣の牙が散らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

姫城・京杜
【虹誓】

う…縁切りに気ィ取られてたけど、死ななきゃだった
いや、俺は100万回死んだっていいけど!
與儀が死ぬのは演技でも無理…!
心の準備出来てなくて、涙目で主をちらっ

…でも、上手にやれって言われたからな
うう、俺が先に死にたいから自害でもするか?(悶々

気もそぞろに、でも主に言われたから
とりあえず頑張って演技する
與儀、縁切りなんてやめてくれ!
今ならまだ帰れる、一緒に戻ろう!
…涙目だから迫真に見えるかも?

けどやっぱり、心ここに非ずだったら
…!?
ガッといきなり頭に衝撃が
そして、ぱたりと死ぬ俺

死にたくても死ねねェくらい頑丈だから気ィ失っただけだけど
多分後でホッとする
余計なこと考える間もなくてよかった…って


英比良・與儀
【虹誓】

さて、ここからが問題…
部屋にこもって縁を切ろうとする
演技だって十分言い含めたが、大丈夫だろうか
ふりでも俺が先に死ぬのはこいつ、無理だしな
…ダメそうだな。仕方ない
沈める

俺は縁切りをする
と、強く言って紐を手に巻く
とめにくる姫をかわして、うるさいと――手近にあるものに手をのばした
壺だ
これ高そうだなと思ったがもう遅い
思い切り振り下ろしちまった

あっ

上手に死んだふりしろよと思ったが思いのほか力がはいって鈍い音
……やりすぎた、か?

……やっちまった……
それは演技じゃなく本当に思って、零れた
やばい、力入れすぎたか、大丈夫か?
しゃがんで様子を見て……
……息はしてるな、よし

後は俺も演技の続き
……死んでる…



●天の定めであれど
 夜風が薄く開いた窓から吹き込んできていた。いつの間にか空いていたのか——或いは『前』に縁切りに来た者が桜の花を見るために窓を開けていたのかもしれない。はたはたと揺れる白いカーテンの向こう、ぼう、と灯るように青白い桜の花が見えていた。
 ——夜である。即ち、刻限だ。
「……」
 う、と姫城・京杜(f17071)は小さく呻く。そう縁切りに気を取られていたが——そも、この依頼、縁切りに来た一般人を装って殺される、というものだ。いや、別に本当に死ぬ訳では無いのだが——ただの一般人であれば、影朧の手にかかってまず生きてはいないだろう。
 擬似的な死。
 ちょっとした身代わり。
 言葉をどう飾ろうがそこにあるのは『死』であり、京杜の傍らにいる主——英比良・與儀(f16671)も死ぬのだ。
「——」
 小さく息を飲んだ。死ぬ、という言葉が、その事実が京杜の心を染めていく。
(「與儀が——……」)
 その先を、言葉として紡ぐことができない。冷えていく体を自覚しながら、京杜は拳を握った。
(「いや、俺は100万回死んだっていいけど! 與儀が死ぬのは演技でも無理……!」)
 心の準備が出来ていないまま、涙目でちら、と主を見る。
「……」
「……はぁ」
「——!」
 ため息、ため息だ。いや、普通に息をついただけかもしれないし、ちょっと涼しくなってきたからそれが理由かもしれないけれど——あ、上着を貸した方が良いだろうか、とくるくると思考は巡り——だが、どうしたって始まりの気づきに帰ってくる。
(「……でも、上手にやれって言われたからな。うう、俺が先に死にたいから自害でもするか?」)
 悶々と考え込む青年の唸り声が、夜の部屋に落ちていた。
「……」
 半ば、與儀の想像通りに。
 演技だと十分言い含めた。大丈夫だろうか、と心配はしていたのだ。ふりでも俺が先に死ぬのはこいつ、無理だしな。と。だが——まぁ、なんというか。
(「……ダメそうだな。仕方ない」)
 はぁ、と落とす息をひとつ。ぐるぐると考え込んでいる守護者のことを分かって居るからこそ、主人たる少年はゆっくりと視線を上げた。
(「沈める」)
 確固たる意思で、そう決めて與儀は己の手首を晒す。白く、ほっそりとした腕に夜気が触れ、小さな瞬きを以て京杜が気がつく。
「與儀——……」
「俺は縁切りをする」
 そう強く言って赤い紐を腕に巻く。しゅるり、と巻いた紐に、京杜の手が伸びた。
「與儀、縁切りなんてやめてくれ!」
 與儀の言葉を合図に、京杜が演技に入る。涙を滲ませた瞳はそのままに、鋏を取ろうとした與儀に否を紡ぐ。
「今ならまだ帰れる、一緒に戻ろう!」
「うるさい」
 カラン、と鋏が机から滑り落ちた。與儀、と声を上げ、赤い紐の絡んだ腕が捕まれる。強く掴むそれは演技に熱が入ったのか、それとも——この先の『演技』が理由か。
「與儀!」
「——うるさい」
 ぐ、と引かれて——引っ張られるままの感覚に、近くにあったものを手にとった。棚の上にあった壺。
(「これ高そうだな——……」)
 そう、思えど。掴んだ腕が、振り下ろす手が止まる訳も無く。
「あっ」
「……!?」
 ガシャン、と派手な音と共に、青い壺が京杜の頭にぶつかり、ぐらり、と長身が——倒れた。
「……」
「……やりすぎた、か?」
 上手に死んだふりしろよと思ったが——正直、思いの外、力が入ったのだ。重かったからか、何というか勢いか。
「……」
 ぴくりとも動かない京杜に、與儀の唇から息が漏れた。
「……やっちまった……」
 それは演技ではない。家との縁を切る為にやってきた少年の心ではない——與儀の、本心だ。零れ落ちた言葉に、伏せられた瞳に思わず手を伸ばす。コン、と膝を付けば指先に柔らかな赤い髪が触れた。
(「やばい、力入れすぎたか、大丈夫か?」)
 そう、と伸ばした指先で頬に触れる。感じた吐息に、ほう、と息をついた。
(「……息はしてるな、よし」)
 それなら——後は演技の続きだ。よろよろと、與儀は立つ。息を吸い、己のという存在に役型を落とし込む。
「……死んでる……」
 そんな、俺は。と淡く落ちた声。ゆらりと立ち上がった少年は床に転がっていた鋏を拾い上げる。
「これで、この紐を切って。あの家との縁を、ここで縁を切る」
 それで終わりだ、と鋏を入れれば、赤い紐が床に落ち——ふいに、影が蠢いた。来る、と思った次の瞬間、背に感じた衝撃と共に意識が落ちていく。
「……こノ地ヲ、歪メル者ハ、全テ」
 ザン、と落ちる、鋭い音は床に倒れた男をも貫き——夜の部屋を、血に染めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈
※アドリブ歓迎

部屋に来た
夜が来た
なら、後は…
…これからこの紐切って…色々やるんだよな……
手首に赤い紐は手間取りながらも巻きおえる
窓を開け、紐も巻き終え、準備は整ってしまった
整ってしまったのだ
正直切りたくない
依頼なのはわかってるしどうしようもない事は理解できるけど
其れでも嫌なものは嫌だ

…おぅ、巻けたよ

…ん?どうした心結?
俺様が…?……わか……

凄くやりたくないけれど、彼女の手を見る、心結も嫌なんだろう
それを見ると、同じ気持ちなのは嬉しい…けど、斬らないといけないのが凄く嫌だが…嫌な役だからこそ、此処で俺が切るしか…

……分かった
深呼吸しながら、一気に斬る

―――落とし前は絶対付けるからな、影朧


音海・心結
💎🌈
※アドリブ歓迎

ついにこの時が来てしまったのですね
言葉少なに部屋に移動し
大人しく手首に赤い紐を巻く

ここまで来てしまったら後には引けません
でも、どうしてでしょうか
自分の意思で来たはずなのに
辛くて、胸が張り裂けそうで

……紐は巻けましたか?
何処までも赤く染まる絲を
こんなに憎いと思ったことはないのです

彼の手首と自分の手首
これが紐じゃなくて手錠だったらよいのに
ふたり一緒にどこまでも繋がっていられたら

……あの、零時
良ければ斬ってくれませんか?
斬ろうとして震えが止まらない手
今までの彼との縁が
全て消えるよう

紐が落ちてゆく
それは彼も同じこと
溢れる涙に彼の誓いが体に染みた

みゆたちの縁は誰にも奪えない



●君よ、絶えぬ縁よ
 ぼう、と館に灯る明かりが夜の訪れを告げていた。洋灯が随分と高い場所にあるからだろう。廊下を行く2人の影は長く尾を引き、足音はぎぃぎぃ、と響く。穴こそ空いてはいないが、床板は所々随分と古くなっていた。一部は直しているようだが——そのままにしているのは、此処は縁切り処として有名だからか。だからこそ、それらしい雰囲気を保たれているのか。
「……」
 辿りついた部屋は、客間として使われていたようであった。ベッドには白い布が掛けられ、ソファーは今でも使えるのか埃が払われていた。
(「ついにこの時が来てしまったのですね」)
 月明かりが眩しかった。暗闇が——夜の闇が、その訪れがよく分かってしまう。吐息を零すように紡いだ言葉は音として響くことはないままに音海・心結(f04636)の手に触れた。晒した手首。言葉少なに赤い紐を巻いて行けば、共に部屋に来た彼の声が静かに落ちた。
「……これからこの紐切って……色々やるんだよな……」
 夜が来た。なら、後は、と。ぽつりと落ちた声に滲む戸惑いとも後悔とも似た色に心結は視線を上げた。
「   」
 零時、と。唇は僅か彼の名を作り——止めた。ここまで来てしまったから後には引けない。そう分かっているのに、自分の意思で来た筈なのに——……。
(「——どうしてでしょうか」)
 辛くて、胸が張り裂けそうで。
 ひらひらと手首に揺れる赤い紐が、重くて軽い。長く揺れる奶茶色の髪が、ほんの僅か、心結の表情を隠す。
「……紐は巻けましたか?」
 顔を上げる頃には、憂いを沈めていた。飲み干せる分だけを必死に沈めて、真っ直ぐに前を見る。
「……おぅ、巻けたよ」
 ややあって零時の声が届く。左右、長さの違う形で結ばれた赤い紐が零時の腕で揺れていた。窓は開け放ち、吹き込む夜風が別れを告げた——仮初めの、形ばかりの別れを告げた桜の香りを届けてくる。
 準備は全て、整っていた。後はそう、この赤い紐を切るだけ。そうすれば——縁が切れる、という。
「……」
 何処までも赤く染まる絲を、こんなに憎いと思ったことはなかった。震えそうな吐息に心結は唇を引き結ぶ。
(「彼の手首と自分の手首。これが紐じゃなくて手錠だったらよいのに」)
 決して切れぬ縁。途切れぬもの。
(「ふたり一緒にどこまでも繋がっていられたら」)
 鋏を持った手が震えてしまっていた。薄く開いた刃で赤い紐に触れることができない。切って、しまうことができない。
「……あの、零時」
「…ん? どうした心結?」
「良ければ斬ってくれませんか?」
 震えの止まらない手から、鋏が落ちてしまいそうだった。今までの彼との縁が全て消えるよう。
「俺様が……? ……わか……」
 先を、紡ぐ言葉が揺れてしまいそうだった。凄くやりたくない、とそう思う気持ちは零時にもあるけれど——彼女の手を、見たのだ。
(「心結も嫌なんだろう」)
 夜が来た、と零時は思った。落ちた陽に、差し込む月明かりに——時が来てしまったのだと。整ってしまったのだ、と。
 正直切りたくなかった。依頼なのはわかってるしどうしようもない事は理解できるけど、其れでも嫌なものは嫌だ。そう、思っていたのだ。
(「心結も……」)
 嫌だと、そう思ってくれるのなら。同じ気持ちなのは嬉しい……けど、斬らないといけないのが凄く嫌だった。
(「嫌だが……嫌な役だからこそ、此処で俺が切るしか……」)
 伏せた瞳に月影が映る。宝石の髪が夜風に揺れていた。唇を引き結んだのは、ただ、一度だけ零時は視線を上げる。真っ直ぐに心結を見た。
「……分かった」
 深く息を吸って、深呼吸をしながら零時は二人の赤い紐を切った。カチン、と刃が触れあって、赤い紐が零時と心結の手首から滑り落ちていく。その喪失に、零時はきゅ、と唇を引き結び——告げた。
「――落とし前は絶対付けるからな、影朧」
「みゆたちの縁は誰にも奪えない」
 頬を、涙が伝う。心結の溢れる涙に、零時の瞳が瞬き——薄く開いた唇が名を呼ぶ。
「——心結……」
 なあ、と紡ぐその先が、言葉として届く前に衝撃が来た。影朧だと、そう気がついた瞬間、目の前の彼女が倒れてくる。残る意識で手を伸ばせば赤い紐を失った手が触れあう。指先が——届く。
「——地ヲ、この地ヲ歪メしモノヲ全テ消ス。縁を切ルヲ望ムナラ、うぬ等ガ先ニ消え失セヨ」
 歪んだ声と共に鋭い爪が床を叩く音がした。低く、唸るような獣の声は——だが、二人を見下ろすような地で、僅かに揺れる。
「コノ地を狂ワセたうぬ等に願ウコトなド……アァ、なノニ、ドウシテ——お嬢様、貴方のヨウニ、嘆くモノマデ——……」
 遠吠えのように哀しい声を残し、影の獣は部屋を飛び出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『その場から動かない影』

POW   :    僕は待ち続ける
全身を【敵対的な行動を完全に防ぐ拒絶状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    忘れ果てても待ち続ける
【身体をあらゆる敵対行動を拒絶する影】に変形し、自身の【知性と感情】を代償に、自身の【防御能力】を強化する。
WIZ   :    あなただけを待ち続ける
非戦闘行為に没頭している間、自身の【影】が【記憶に残っている何かを模倣し】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はペイン・フィンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●指切り
 白く、色の付かぬ桜であった。けれど華やかな帝都を忘れるには丁度良いだろうと、そんな理由で館は療養の地となった。恋人を失った娘が、その身を癒やすには丁度良いだろう、と。
『旦那様も、あのように無理矢理引き離さなければ』
 書斎から探偵が見つけたのは、そんな一文であった。書斎の主人は、館の仕切りを任されていたのだろう。元より、あまり丈夫ではない娘が心を病んでいたのは確かであった。
『お嬢様の気が少しでも紛れるように。お体の強くない方なのよ。最近はクロの散歩も難しそうで』
 宝石の髪を揺らす娘が見つけたのは、館で貴族の娘に仕えた使用人の日記だった。『お嬢様』を気遣う使用人の日記は、主人への苦情を零し
やがて一つの言葉に辿りついていた。
『だからお嬢様は、心中なされようとしたのに』
 貴族の娘が、死に別れたのは——ひとり、残されたのだろう。生き延びてしまったか、その地に辿り着けなかったのか。仔細は知れぬまま、だが赤い紐と、切れる縁の始まりはそれであろう。
 永遠を願って、離れずにと告げて——けれど、叶わなかったひとりの娘の果て。帝都から離れた館で療養していた娘は、少ない使用人と黒い犬と共に暮らしていた。幼い頃から娘と共にあったのだろう、写真立てを見つけたヤドリガミは幼い頃の娘と犬を——そして、闇より姿を見せた『モノ』を見ていた。

●影、朧に
「全テ、凡テ……」
 低く唸るような声と共に影朧は館を見回る。嘗ての己の、己の残滓たるものが点々と残された地を血に濡らした憂いはあれど、あの館を歪めた言葉の方が許さなかったのだ。
「縁を切ルヲ望ムナラ、うぬ等ガ先ニ消え失セヨ。コノ地を狂ワセたうぬ等ガ、こノ地ヲ歪マセたモノが、こレ以上——……」
 上階を回り、部屋を見回って広間に戻った影朧が足を止める。唸るような獣の声は、死んだ筈の者達の足音に気がついたからだろう。
「うぬ等——……!」
 開け放たれたままの玄関を背に、影の獣は吠える。ルォオオオ、と低く、ノイズがかった声は隠すことの無い殺意があった。
「我を嵌めたか、我を騙シタか。再びこの地ヲ、これ以上、歪めニ来カ……!」
 牙を剥き出しに告げる獣を倒すか、或いは説得するか。館に関する情報——そして影朧の狙いを見れば、或いは可能性はあるかもしれない。同時に、倒すことが救いとなることもあるだろう。
「アァ、全テ、凡テ、殺シ、噂ナド、消シテくれル!」
 どの道を選ぶかは、君達次第だ。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第3章受付期間:5月7日8時31分〜

●その場から動かない影【WIZ】攻撃について
 特殊ルール。
 記憶に残っている何か、はプレイヤーの記憶に残っている「何か」を同時に映し出します。
 心に残る誰かだったり、出来事だったり、良いことだったり悪いことだったり、或いは館での出来事だったりご自由にどうぞ。

●影朧の転生を願う場合
 全参加者のプレイング判定上、転生が可能な場合は、通りすがりの桜の精が手伝います。

◆―――――――――――――――――――――◆
英比良・與儀
【虹誓】

……大丈夫か?
(思い切りやってしまったので少し気まずさがあるが…大丈夫そうだな)

俺は残されたものの、ってのはわかんねェけど
残されたやつがどうなのかは、わかる
だから、影朧のお前が苦しんでいるのは、わかる

大事なものを歪められてご立腹
その怒りを収めるほうほうももうわからねェんだろうな
俺がなんか言っても薄っぺらい言葉になっちまいそうだ
説得はヒメに任せて――いや、任せるというより
言いたいコトがあるなら言っておけ、ってとこか
お前が後悔しねェように

それは影朧に向けた言葉だが、自分にも向けているように思える
何か、少しでも届くといいなと見守る
どうしても言葉届かないなら俺も俺の水をもってお前を送ってやろう


姫城・京杜
【虹誓】

…何かまだちょっと殴られた頭痛いけど
でも平気だぞ、俺は守護者だからな!(頑張る!

ひとり、残された
生き延びてしまった
その辛さは…痛いほど、俺にはよーく分かる

でも、縁だって、人それぞれだ
望まないのに切られた縁もあれば
切りたいのに切れない縁もある
この場所や結ばれていた縁がお前にとって大切だからこそ
縁切りの噂なんて許せないのもわかる

でも、だからこそ、だ
お前も次の縁を結ぶために進んで欲しい
俺はそれで、何よりもかけがえのない縁と結ばれたからな
それに…いくら待ち続けたって、帰ってなんてこないから
だから、あいつの幻影だって、もう視ない

影朧の転生を望むけど
無理そうなら神の炎で送ってやる
與儀と一緒にな



●深悼
 吹き込む風がひどく冷たい。青白い花弁が、ぼう、と光る。館の空気がひどく歪んでいた。影朧の影響を受けてのことだろう。館が軋む程の風音が響くというのに、揺れは無い。吹いたかと思えば風はすぐに消える。
「……大丈夫か?」
 辿りついた玄関で、珍しく己より少し後ろを歩いた姫城・京杜(f17071)に英比良・與儀(f16671)は視線を向けた。
 なにせ、思いっきりやってしまったのだ。花瓶だし、どうもすごい音はしたわけで。ばたりとあの京杜が倒れてしまったわけで。
「……何かまだちょっと殴られた頭痛いけど。でも平気だぞ、俺は守護者だからな!」
「そうか」
 少しばかりの気まずさと共に向けた視線の先、頑張る、とばかりに握られた拳に、與儀は息をつくようにして頷いた。
(「大丈夫そうだな」)
 軽く振った頭を最後に、京杜の視線が、す、と鋭くなる。敵意に対する対応。守護者たる青年は、與儀の前を取る。
「……」
 その背に、與儀は少しばかり瞳を細めた。
(「あぁ、こいつは……」)
 守護者としてばかり——盾としての意味だけで、立った訳では無いか。
「アァ、全テ、凡テ、凡テ、凡テ、凡テ!」
 影朧の怨嗟の声は、人のそれと獣の咆吼が混ざった音をしていた。姿で言えば、黒犬だろう。もう大分、様々なものが——怨嗟が、怒りが纏わり付いて本来の形を見失いかけている。
「俺は残されたものの、ってのはわかんねェけど
残されたやつがどうなのかは、わかる」
 與儀は静かに一つ、息を落とし——視線を上げた。真っ直ぐに影朧を、纏わり付く怨嗟の向こうにある存在を見る。
「だから、影朧のお前が苦しんでいるのは、わかる」
 低く唸るような獣の声。凡て、と獣は告げる。何もかも、と吼える。其処にあるのはどうしようも無いほどの怒りだった。
「大事なものを歪められてご立腹。その怒りを収めるほうほうももうわからねェんだろうな」
 自分が何か言っても薄っぺらい言葉になりそうだった。どう言っても、何を告げても己には残された側の気持ちというものが分からないから。
「ひとり、残された。生き延びてしまった。その辛さは……痛いほど、俺にはよーく分かる」
「……」
 コツン、と響いた足音。前に出るようにして言葉を投げた京杜に、與儀は静かに一度だけ瞳を伏せた。
(「言いたいコトがあるなら言っておけ、ってとこか」)
 喪失を知り、残された事実を知り、生きていた己を——残されたと告げることができる京杜の声で、一度だけこの身を満たす。
(「お前が後悔しねェように」)
 己が知っているのは、残されたものが『どうなるのか』だけだから。託すように與儀は京杜を見た。何か、少しでも届くといいな、とそう思いながら。
「でも、縁だって、人それぞれだ。望まないのに切られた縁もあれば、切りたいのに切れない縁もある」
 唸る獣の声を前に、京杜はそう言った。そう獣だ。見目で言えば犬が近いのだろうか。影朧となり言の葉を解するようになった影の獣は、怒りを以て告げる言葉の凡てを否定する。
「コノ地を狂ワセたうぬ等ガ、こノ地ヲ歪マセたモノが、縁を告ゲルカ!」
「この場所や結ばれていた縁がお前にとって大切だからこそ、縁切りの噂なんて許せないのもわかる」
 グルルルル、と唸る言葉と共に影朧が拒絶を纏っていく。敵対行動を取っても影朧には届かない。だが、あの場から動かなければ、だ。回避行動でも何でも行えば、攻撃は通る。
(「でも——……」)
 動かないだろうな、と京杜は思う。永遠にそのままでも。——或いは、その場に止まる行動の始まりは、扉の前で待つそれは嘗ての獣の思いなのかもしれない。例え、この先永遠に、待ち続けることになっても憂いなど無いのかもしれない。
「でも、だからこそ、だ。お前も次の縁を結ぶために進んで欲しい」
 真っ直ぐに影朧を見据えて京杜は告げた。
「俺はそれで、何よりもかけがえのない縁と結ばれたからな」
 相手が影の獣でも構わずに。己にあった喪失と、恐れの向こう——踏み出した日を思う。
「それに……いくら待ち続けたって、帰ってなんてこないから」
 だから、あいつの幻影だって、もう視ない。
 なぁ、と京杜は告げた。
「考えてみないか? 進むことを」
「——……」
 グルルルル、と影朧は唸る。怨嗟の衣が、解けるように僅かに揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エレニア・ファンタージェン
お芝居はおしまい!
シオさん!!無事だった?
エリィは無事よ
あら?嫌だわこれって犬ね
嫌いなのよ

幻覚は弱り死んでゆく中毒者たち
嗚呼、彼らこそ縁切りが出来たなら、もう少し人として死ねたのに
エリィが今のエリィならこの縁を切ってあげられたのにーこうやって
大鎌で、幻覚全てを斬り伏せるわ
彼らが消えたのは、シオさんのおかげ?
ありがとう

さて、嫌なもの見せてくれたわね…犬
この世と縁切りしたくなるくらい痛めつけて…シオさん?
…ええ…約束するの?この犬に?

犬!シオさんに感謝しなさい
UC使用
付与する感情は強い懐古と愛惜、それらを話したい気持ち
さぁ、話しなさい…あなたはどうしたいの?
…クロ
それがあなたの名前でしょう?


プラシオライト・エターナルバド
主従の芝居が終われば切れない縁の大切な友
エリィ様、ご無事でなによりです

影の模倣は一人の男と共に炎に包まれる記憶
特に会話もせず、男へエレノアの銃口を向けて
【指定UC】
敵UCを打ち消し、何事も無かったかのように
エリィ様、ご気分は悪くございませんか?

エリィ様の犬嫌いは存じておりますが
影朧の真意を知りたいので少々お待ちを

影朧が写真の犬と仮定して
「こノ地ヲ歪マセた」とは、この地を縁切りの館とした噂のことですか?大切なお嬢様の真実を歪ませたのが許せなかった…?
私は真実を記録して世に広めることを約束しましょう

お優しいエリィ様のご協力に感謝を
いつも私の我儘に付き合わせて申し訳ございません
クロ……どうかお話を



●影の獣、或いは——……
 靴の先に、桜の花弁が触れていた。さぁあ、と靡く髪をそっと押さえれば、ふわり、と柔らかな香水の香りがした。
「シオさん!! 無事だった? エリィは無事よ」
 お芝居はおしまい。
 この目にしっかりと映る友の元へとエレニア・ファンタージェン(f11289)は踏み出す。一歩が大きくなるその前に、冷えた指先がそっとエレニアへと差し出された。
「はい。エリィ様、ご無事でなによりです」
 そっと指先をすくい上げるようにプラシオライト・エターナルバド(f15252)の手が触れる。安堵の息が手の甲を撫でるように落ちれば、唸るような声が耳に届いた。
「歪メルカ、再びこの地ヲ、これ以上……!」
 そこにいたのは黒い影のような獣であった。姿は犬に近いだろうか。怨嗟の衣を纏い、長く尾を引く影は怒りに満ちている。ルゥウウウウ、と低く響く唸り声は獣のそれと人のそれが混ぜっていた。
「あら? 嫌だわこれって犬ね。嫌いなのよ」
 眉を寄せ、コツン、と杖をついたエレニアに影朧は牙を見せた。
「奇遇ナこトダ。我モ、うぬ等ハ消エヨと思うゾ……!」
 獣の咆吼と共に青白い花弁が一気に舞い上がった。花弁の向こう、すぐ傍にいる筈の友人の姿が遠く感じる。
「シオさん」
「——エリィ様」
 花弁の向こう、攫われるように伸ばした指先から景色が歪んでいく、変わっていく。そうして、エレニアの目に見えたのは、膝を付く人々だった。
「……ァ、ァアア」
「……が、あぁ……見え、あ」
「……」
 それは弱り死んでいく中毒者達だった。床を削るようにひっかき、空を仰ぐように立ち竦む。見開かれた瞳は、伸ばされた手は誰の名を呼んだのか。
「嗚呼、彼らこそ縁切りが出来たなら、もう少し人として死ねたのに」
 未明の影に、エレニアは足を向ける。するりと下ろした手。冷えた鋼が触れる。
「エリィが今のエリィならこの縁を切ってあげられたのにーこうやって」
 ザン、と緩やかに大鎌が幻影を切り裂いた。伸ばす指先が四散して影が消える。呻き声が消え、トン、と残る間合いを一気に詰めるように前に出た娘の瞳に淡いミントグリーンが見えた。
「シオさん?」
「配合番号09」
 静かに声は落ちた。淡い桜に攫われるようにして消えた友の代わりにプラシオライトの瞳に映っていたのは——炎だった。
『    』
 声はあったか。顔は見えたか。
 煉獄に引きずり込むような炎の中、プラシオライトは男と立っていた。共に炎に包まれるように、全てを飲み込む炎の中で——……。
「……」
 言の葉を紡ぐことなく、プラシオライトは男に銃口を向けた。
「効能は≪事象の停止≫です」
 特別な配合を行えば、世界の理だって変えられる。
 強制的に事象を遊色させるアメグリーンの薬を、プラシオライトは幻影に打ち込み——この幻を、根幹から停止させる。
「……うぬ等」
 低く唸るような獣の声がプラシオライトの耳に届いた。突き刺さるほどの殺意に、真っ直ぐに視線を上げる。炎が消え、揺れる影が消え去れば桜の向こう、ぱち、と瞬くエレニアの姿が見えた。
「エリィ様、ご気分は悪くございませんか?」
「彼らが消えたのは、シオさんのおかげ? ありがとう」
 微笑んで頷いたプラシオライトに、エレニアは笑みを零す。ほ、と安堵に似た息を零した娘は、低く唸る獣へと向き直った。
「さて、嫌なもの見せてくれたわね……犬。この世と縁切りしたくなるくらい痛めつけて……」
「エリィ様の犬嫌いは存じておりますが、影朧の真意を知りたいので少々お待ちを」
「シオさん?」
 僅か首を傾いだ彼女に、プラシオライトは静かに頷いた。ひとつ、気になることがあったのだ。館の中で見つけた写真。あそこにいた犬は——この影朧なのではないか、と。
「『こノ地ヲ歪マセた』とは、この地を縁切りの館とした噂のことですか?」
「……」
 プラシオライトの言葉に、影朧の唸り声が僅かに揺らぐ。怨嗟の影を背負うように、深い怒りの中にあった獣が緩く尾を立てる。
「大切なお嬢様の真実を歪ませたのが許せなかった……?」
「ソレを聞ク意味ガ、うぬ等ノ何処ニアル」
 重ねた言葉に、影朧の声が静かに響いた。低く、這うような怒りは変わらぬままに、だが、その瞳はこちらを見ている、とプラシオライトは思う。何より——言葉に、否定が無い。
(「あなた様は、本当にお嬢様が大切だったのですね」)
 言葉を交わす程に、影朧の——影の獣の声が、人のそれに近づいていく。怨嗟に満ちた獣の声から、人のそれに。年嵩の男のものに変わっていく。
「私は真実を記録して世に広めることを約束しましょう」
「……ええ……約束するの? この犬に?」
 プラシオライトの言葉に、エレニアは友人を見る。静かに微笑んだ彼女に、少しばかり申し訳無さそうにされてしまえば——頷く他無い。
「犬! シオさんに感謝しなさい」
「エリィ様、有り難うございます」
「シオさんは良いのよ」
 問題はそう『犬』なのだから。
 すい、と伸ばした指先。触れるよりただ、指差すようにして——紡ぎあげるは阿芙蓉の幻覚。
「さぁ、話しなさい……あなたはどうしたいの?」
 付与する感情は強い懐古と愛惜。それらを話したい気持ち。
「……クロ」
「——!」
 は、と影朧が顔を上げる。エレニアの言葉に、影を纏うようにしてあった獣の姿が変わっていく。
「何故、ソレヲ——」
「それがあなたの名前でしょう?」
 誘うような声であった。吐息一つ零すようにして、怨嗟の影を引きずり、怒りの衣を纏う影朧を犬と見た娘は真っ直ぐに告げる。影朧の名を——傷ついた『過去』の名を。
「いつも私の我儘に付き合わせて申し訳ございません。クロ……どうかお話を」
「——……」
 低く、ひくく唸るような声がひとつあった。長い沈黙の後、影朧は——クロは、告げた。
「此の地ハ、——タダ一人、寄リ添ウ番いサエ奪ワレタあの子ノ」
 お嬢様、と呼ばれた娘には、恋した相手がいた。結婚の約束を交わし、共に暮らして行くことも一度は認められたという。——だが。
「一つ目の約束は反故されタ。故にあの子ハ、我に別れヲ告げテ、出て行ったノダ。ダガ、アァ、戻ってきたあの子ハ、我を捨テタことを嘆いたあの子ハ……!」
 ただひとり、生き残ったのだろう。心中の果てか。心中を邪魔されたかは『クロ』の知る範疇には無く。娘を幼い頃から知っていた一匹の犬は、彼女と共にこの館に住まい——そして、その死を看取ったという。
「誰が置いて行けル? 誰が先に眠レル? あぁ、漸くト。導きの先デアレバ、あの子モ、己の番いト再び出会えるト……」
 彼女を思うクロは共にいた。老いた身で最期まで彼女に寄り添い、その眠りを見守った。
「そうでしたか」
 娘の眠りを見送ったクロは数日の後に眠りについたのだろう。長い哀しみを引きずり、館を守りに戻ってきた彼は、噂を知った。秘匿された心中話が、噂に乗り、やがてねじ曲がるようにして縁切り処となった事実を。
「あなた様の語る真実、記録致しました」
 静かに頷いたプラシオライトとエレニアの前、長く濃い影の衣を纏っていた獣は一匹の黒い犬の姿に変わっていた。その場から動かない影——クロとして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈
アドリブ歓迎

結果的に嵌めた事は確かだ
お前に会う為にやった事だ
だけど、歪めに来たわけじゃァない

見えるは館の光景
俺達が縁切る時の場面

改めて分かった
縁を切るのは怖い
この風習が凄く嫌な事が身に染みて分かった

お前の言葉も聞いたし事情も…まぁ知った

この風習を終わらせたい
何が出来るかな

…そうだ

お前に殺されないし
この風習を真っ向から否定する方法、思いついたよ
紐切ったら縁切れる
なら真逆の結果を示せばいい

俺様は何が有ろうと心結とのこの縁を手放さない
絶対だ
お前に誓うし心結にも…誓うよ
君に手を差し出す

そしてUCを一つ

属性は輝光
暖かく周りを包み込む護りの術式
正しいかは分からない
でもやれる事をやる

転生を望みながら


音海・心結
💎🌈

騙したみたいでごめんですよ
……でも、貴方を放っておけなかった

事情は少し伺っています
貴方のことも
ご主人様の女性の事も

みゆは、零時と全てを断ち切るのが凄く辛かった
楽しかった想い出も、辛かった想い出も
全てが無くなってしまうようで
ふたりで過ごした時間に嘘はないのに
それが何より辛かった

……風習を終わらせたいですね
もう貴方にも
他の人にも悲しみを背負って欲しくない、です

ああ、そうゆうことですか
切った紐を拾い上げて手首に一度巻く
そして、きつく結ぶ

ふふ
みゆからも誓います
貴方は証人ですよ?
忘れないでくださいね
約束です

転生の願いを込めてみゆは歌います
この願いが届かなくても、最後には幸せのままで



●あなたと、一緒にいたい
 ——長く、尾を引くような遠吠えと共に影を纏う獣の姿が変わっていく。怨嗟と怒りを纏い、全てを呪うように立った影から、ぴん、と耳をたてた獣の——犬の姿が見えた。
「……クロ。それがあなたの名前でしょう?」
 先に立つ猟兵達が伝えた影の獣の名——黒い犬『クロ』の名は、駆けつけた兎乃・零時(f00283)と音海・心結(f04636)の耳にも届いていた。怒りと哀しみに満ちた最初の遠吠えも。
『我を嵌めたか、我を騙シタか。再びこの地ヲ、これ以上、歪めニ来カ……!』
「……」
 だからこそ、先の言葉に零時は一歩、前に出る。足音を響かせて、影朧へと告げる。
「結果的に嵌めた事は確かだ。お前に会う為にやった事だ」
 だけど、と零時はゆっくりと息を吸う。相手を、心ある者と理解した上で告げた。
「歪めに来たわけじゃァない」
「騙したみたいでごめんですよ」
 ぴくり、と動いた影朧・クロの耳を心結は見ていた。小さな反応。警戒するように揺れる尾はそのままでも——纏う影は、怨嗟の色は僅かながら薄くなっている。
「……でも、貴方を放っておけなかった」
 怒りを纏い、怨嗟を飲み干し、尚、それでも影朧はここにいた。この館に。大切なひとりと一緒に過ごしたこの館に。
「事情は少し伺っています。貴方のことも、ご主人様の女性の事も」
「……」
 グルルルル、と影朧が唸る。尽きぬ警戒は、あまりに長くクロが噂に憤ってきたからだろう。噂を知った上で、
「我ハ、我ハ、我ハ我ハ——……!」
 僕は、と揺れる音を零時は聴く。魔術師としての性がそれを可能とする。宝石の神を揺らし、は、と浅く息を吐く。影朧の纏う黒い霧が、衣のように揺れて——ふわり、と桜の花が舞った。
「——心結」
「大丈夫ですよ、零時」
 振り返った先、桜の花びらの中に——青白い煌めきの中に彼女が消え、代わりに見えたのは館の光景。零時と心結が縁を切るその時の光景であった。
『……あの、零時』
『……ん? どうした心結?』
『良ければ斬ってくれませんか?』
 静かに告げられた言葉。息を飲む自分が、迷いの果てに頷く。 
『……分かった』
 その一言に、耳に届いた言葉に、零時は深く息を吐いた。あぁ、本当に思い知る程に良く分かる。
「改めて分かった。縁を切るのは怖い」
 例えばそれが猟兵としての仕事で、必要だからやっただけで——そう、演技に過ぎないとしても、恐ろしかったのだ。もしも、と思ってしまう。噂に過ぎなくとも、演技だとしても思ってしまった。
「この風習が凄く嫌な事が身に染みて分かった。お前の言葉も聞いたし事情も……まぁ知った」
 胸の裡にある想いを、そのまま零時は真っ直ぐに告げる。伸ばした指先が花弁の向こう——とん、と柔らかな指先に触れて、声がした。
「みゆは、零時と全てを断ち切るのが凄く辛かった」
 柔らかな髪が揺れていた。青白く舞う桜の花が散っていく。花弁に攫われるようにして消えた心結の姿が、すぐ傍に見える。
「楽しかった想い出も、辛かった想い出も全てが無くなってしまうようで」
 少しばかり心結の声が震えるように響いた。すぅ、と位置を息を吸う。もう大丈夫だと、自分に言い聞かせるようにして、一度、零時を見る。目の前の影朧・クロを見る。
「ふたりで過ごした時間に嘘はないのに、それが何より辛かった」
 この地に、嘗てあったのは別れだった。添い遂げることができずに、二人共に終わることを選んで——それさえ叶わずに。たったひとり残された女性は、この館で亡くなった。
 それは、確かに悲恋というもので。繋いだ手が、離れてしまったもので。——哀しい、ことだったというのに。
(「噂は……縁を切ることだけが伝わってしまった。どうしようもない程に、切れてしまった縁の方だけが」)
 時の流れが理由かもしれない。噂が立ったのかもしれない。けれどもう、噂の始まりを、その根源に口を出すことはできない。そうだとしても——……。
「この風習を終わらせたい。何が出来るかな」
 ぽつり、と零時は呟いた。頷くように心結も視線を上げる。
「……風習を終わらせたいですね。もう貴方にも、他の人にも悲しみを背負って欲しくない、です」
「……うぬ等ガ、何ヲ」
 言っても、なのか。しても、なのか。
 低く、唸るように響いた影朧・クロの言葉に、零時は思い出す。そう、ここが縁を切る場所であるのならば。
「……そうだ。お前に殺されないし、この風習を真っ向から否定する方法、思いついたよ」
 真っ直ぐにクロを見据えて、零時は告げる。
「紐切ったら縁切れる。なら真逆の結果を示せばいい」
「ああ、そうゆうことですか」
 零時の言葉に、心結は、ふ、と笑った。うん、と頷いた彼と視線を交わして頷き合う。
「うぬ等ハ、何ヲ——」
「約束です」
 戸惑いと、僅か残った警戒を滲ませて響く影朧・クロの言葉に心結はそう言った。あの時、切った紐を手首に一度巻き——きつく結ぶ。ふたり、離れることがないように。
「俺様は何が有ろうと心結とのこの縁を手放さない。絶対だ」
 差し出された手を、そっと取る。二人手を重ねるように——心結が巻いた赤い紐に触れあうように。
「お前に誓うし心結にも……誓うよ」
「ふふ、みゆからも誓います」
 指先を絡めるようにして、傍らに立って。ふるり、と黒い獣が耳を揺らすのを二人は見た、あぁ、と落ちる声を。
「貴方は証人ですよ? 忘れないでくださいね」
 合わせた掌から光が零れる。零時の紡ぐ光だ。輝光の属性を持つそれは、暖かく周りを包み込む護りの術式。
(「正しいかは分からない。でもやれる事をやる」)
(「はい」)
 二人視線を合わせるようにして、心を辿る。影朧・クロの転生を願いながら。
「約束です」
 やわく、心結は紡いで歌った。零れ落ちる優しい光と唄の中で、影朧・クロが鳴く。長く、ながく響く遠吠えは、あぁ、と落ちた声に変わる。
「この地ノ歪みヲ解クというのカ……? 変えるト? アァ——……」
 そうすれば、と影朧・クロは鳴く。お嬢様と呼んだ人の子を、幼い頃から見ていた獣は、影朧となって尚、館に縁を持ち続けていた黒い犬は嘗ての心を取り戻していく。長き時で呪いと怨嗟を纏った獣から——ただ一匹の黒い犬へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

伊川・アヤト
咄嗟に致命傷は避けたがこれは……だがあの影朧、発言から考えるならば屋敷に縁が深い存在愛玩動物と言ったところか
縁と死 恋人 心中か……
庭に出て戦闘開始前に人格交代
結界術と早着替えでアヤトの服装に

戦闘はSPDで判定
UC発動 問いは令嬢の元へ行きたいかこの地を守りたいか

夜空の使者と共に捕縛を試みる
MONOLITHを拘束具として展開夜空の使者に渡し異聞奇譚の降霊術で令嬢そしてその恋人を呼び出し隙を作る

影朧!君は何を求める
もう一人の私が調べた事柄からして、この地は逸話に歪められたのは承知しているが今の君のやり方だとこの地を歪め続ける事になるぞ
前者を答えた場合PIECEで介錯
後者は異聞奇譚で方法を調べ転生



●縁切り館と猟奇探偵
 ——は、と青年の声が夜の闇に落ちた。青白く光を帯びた桜が、ひらひらと待っている。痛みより、意識を引き寄せるようにして伊川・アヤト(f31095)は息を落とす。黒のトレンチコートが赤く染まっていた。
「咄嗟に致命傷は避けたがこれは……だがあの影」
 傷そのものより、服の方に憂いがあるか。緩く握る拳に痺れはなく、動くのに問題は無い。壁にとん、と背を預け、伊川は眼鏡をつい、とあげた。
「朧、発言から考えるならば屋敷に縁が深い存在愛玩動物と言ったところか」
 書斎で得た情報は、この館にある事情の方だ。ならば真実はどこにあるのか。
「縁と死 恋人 心中か……」
 この場に必要なのは、最早何故犯行に至ったのか、という問いだけだ。動いたのは影朧であり、怨嗟の衣の向こう、静かに立つのは伊川の推理通りであれば愛玩動物——猫、いや犬だろう。
「始まりの噂を招いたのが、秘匿された真実にあるのか、一部にだけ知らされた真実にあるかは分からないが——……」
 縁切りの館——その怪奇に纏わる推理は成った。トン、と窓枠に手をかけると、伊川は軽やかに外に出る。ばたばたと靡くコートが血に濡れ、僅かばかりの重さを見せていた。


●その目で、その声で世界を作る
 黒の腕輪が、揺れた。音を立てること無く腕に収まったそれは、戦闘服に身を通したアヤトの体にも良く馴染んでいた。猟奇探偵の伊川から、アヤトへと明け渡された身は彼の紡ぎ上げた推理を聞き及んでいた。
「この地ノ歪みヲ解クというのカ……? 変えるト? アァ——……」
 だからこそ、その咆吼の意味をアヤトは理解していた。長く尾を引くような獣の咆吼。やっぱり犬だったか、と青年は思う。
「我ハ我ハ我ハ——……ァア、ァアアアア!」
 濃く、重い影の衣を纏った獣は、最早一匹の黒い犬へと姿を変えていた。クロ、と他の猟兵達が告げる。一匹の犬であった時の記憶と、影朧となり、纏い呪い続けた怨嗟が影朧としての獣を引き裂こうとしている。
「我ハ!」
「此度呼ぶのは影法師、たった数頁ですがお楽しみいただきたく存じます」
 四度目の咆吼に、アヤトは足音を高く鳴らす。ルァアア、と唸るように聞こえた声に構わず、一冊の本に手を添える。異聞奇譚:天蓋。UDCや怪異について綴られたその本を、アヤトは——捲った。一頁、指先を掛ければ、本はバラバラと捲られていく。青白い光が零れ落ち——アヤトの瞳が、その虹彩が変わった。
「影朧! 君は何を求める」
 星屑を思わせるような色彩に。
 トランク型拡張兵装を展開し、アヤトは夜空の使者へと渡した。指先を伸ばし、綴り誘うは嘗ての人。この地に長くあり、この地に住まった一人の娘と——その、恋人。
「——お嬢、様。アァ、うぬは……」
 影朧の声が、獣と人のそれが混ざり合ったような声が——人のそれに変じていく。床を焼くようにあった黒い影が、熱を抑えていく。怨嗟の影が降霊術を以て呼び出された二人を前に牙を収めていく。
「もう一人の私が調べた事柄からして、この地は逸話に歪められたのは承知しているが今の君のやり方だとこの地を歪め続ける事になるぞ」
 深く引きずり込まれるような怒りが、まだ影朧にはあった。重ね告げられた願いが、約束があっても、怒りはその身に残る。だからこそ、アヤトは事実を告げた。このままではダメだと。
「我ガ、歪メルト」
「あぁ。だから、君は何を求める!」
 瞳に星が映り込んでいた。一歩、踏み込んでアヤトは問いを重ねる。言葉が届くと、この問いが届くと——そう分かったからこそ。
「令嬢の元へ行きたいか? それともこの地を守りたいか」
「——我、ハ」
 ひとつ息を飲む音があった。零れ落ちた驚き、瞬きに揺れていた黒い影がその動きを収めていく。怨嗟の気配が収まっていく。
「我ハ……」
 一度、黒い犬が鼻先を上げた。影の衣の中、動かずに立っていた一匹が——一歩を、踏み出す。クゥン、と小さく零れた鳴き声はアヤトが喚んだ二人へ向けたものだった。懐かしむように、或いはただ、鼻先を寄せて甘えるように、相手を甘やかすように声は落ち——ゆるり、と影朧・クロはアヤトの前にやってきた。
「我ハ望モウ。コノ地ヲ守るコトヲ。うぬ等達ガ真実を伝えると告げ、尽キヌ絆ヲ見セ、喪失ヲ語リ、尚歩キ出シたヨウニ」
「そうか」
 吐息ひとつ、零すようにして頷いてアヤトは頷いた。

 淡く、桜の花が舞う。
 桜の精の癒やしを受け、影朧・クロは転生の道を行く。ゆるり、と尾を揺らし、猟兵達に感謝を告げたクロは最期、一匹の犬の姿に変わり怨嗟の影も消える。遠くない日に、縁切り館の噂も消えることだろう。
「これで……」
 本を閉じ、アヤトは息を落とす。青白い桜の花だけが、淡い光を零しながらひらひらと舞っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月14日


挿絵イラスト