【Q】爆ぜる海を越えて
●鈍色を包む紫輝
「今日も光っておるのう」
「相変わらず光っておりますね」
燧島の城主代行・朔八姫と、廻船問屋・風早屋が、港に浮かぶ巨大な鉄の船を見上げていた。元々は武骨な鈍色であった筈の船は、淡い紫色の輝きに包まれている。
「良い兆しかのう」
「……不気味な感じもしますが」
エンパイアでは、紫は瑞祥――めでたい事の兆しとも言われる色であるが、2人の表情はどちらも訝し気だ。
それもその筈。
元々は敵の物であった船なのだから。
「して、燧丸の準備は如何なのじゃ?」
「最後の荷を積み込んでいる所ですよ」
風早屋の示した先には、今まさに船に積み込まれようとしている『樽』があった。
「酒の樽に見えるんじゃが?」
「酒です。集められた人員が、酒好きばかりでしてね。危険な外海に出るのですから、そのくらいの息抜きは必要でしょう」
●爆ぜる海へ
「サムライエンパイアの、鉄甲船の話は聞いているかな?」
集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は、そう話を切り出した。
エンパイアウォーの際、日野富子によって建造された鉄甲船団。猟兵達によって沈められた後、引き上げられた残骸はエンパイアの各地にて修繕されていたのだが。
「少し前から、鉄甲船が紫の光を放ち出してね」
ただ光っているだけではなく、どの鉄甲船の艦首からも光が伸びている。光が指しているのは、恐らく同じ方向。
鉄甲船が光り出した時期からして、猟兵達の儀式魔術、及び、サムライエンパイアに現れていた『レディ・オーシャン』の儀式を阻止した影響があるとみられているが――。
「光の先に何があるのか、調べてみる価値はあるだろうさ」
やはりエンパイアウォーにて、渡来人の可能性が示されている。
何もないと思われていたエンパイアの外洋の先に、何が待っているのだろうか。
「さて、皆に乗り込んでもらう鉄甲船の名は『燧丸』と言う」
お馴染みの人にはお馴染みの、瀬戸内は燧島にて修繕された鉄甲船である。
「水や食料は十分に用意されているし、鉄甲船を動かすのに必要な人員も、現地で手配されているよ」
エンパイアの呪術法力文明を駆使してある程度は自動化されているが、巨大な鉄甲船ともなれば、航行にも相応の人数が必要になる。
「皆の主な役目は、まずは海難の対処だ」
サムライエンパイアの外側には、ひたすらに危険な外洋が広がっている。
「その一つが、爆ぜる海、だ」
海底から絶え間なく昇って来るガスの様なものによって、まるで海中で爆発が起きたかの様に『海が噴き上がる』のだ。
その威力たるや、釣舟なんかで出ようものなら一発で海の藻屑。
「しかも発生の直前まで波と区別がつきにくいと言う、厄介な現象でね」
燧丸は修繕の際に船底を重点的に強化されている。直撃してもある程度は耐えられるだろうが、限界はあるだろう。
「あと上にも注意しておいた方がいいよ。噴き上がりは、海の中の色々なものを打ち上げるからね――時々、降って来るみたいなんだ」
降って来る?
「そう。海藻とか珊瑚とかウニとか――やばい所だと、サメとか」
おい待て。最後待て。
「あと戦闘も覚悟しておいて欲しい。既に出港した船に乗っていた猟兵の話では、途中でオブリビオンが現れた、と言う事だからね」
待てと言う声からは目を逸らして、ルシルは掌から転移の光を出すのだった。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
こちらはレディ・オーシャンの撃破と「【Q】グリードオーシャンを求めて」の儀式成功によって出現したシナリオです。
鉄甲船『燧丸』(ひうちまる)に乗って、紫の光が示すエンパイアの外洋の外を目指して頂きます。
所謂、冒険ものです。多分。めいびー。
1章は冒険。
爆ぜる海、と言う特殊な海難から鉄甲船と船員を守って下さい。
海で発生する、大きく強力な間欠泉、みたいなイメージです。
直撃すれば船にダメージが入ります。ある程度は耐えられますが、直撃し続ければ流石に壊れかねません。
また、色んなものが打ち上げられて降って来ます。
爆ぜる海か、降って来るものか。どちらかに絞る方が良いかと思われます。
2章、3章は、戦闘メインとなります。詳しくは、それぞれの章開始時に。
『燧丸』が修繕された燧島は、当方の過去のシナリオで何度か登場した地です。ですが、読んでいなくても全く問題ありません。メインは出航後ですしね!
船員も、今回の為に集められた人たちです。
OPに出た2人はお留守番。(朔八姫は乗りたがったが止められた)
なお、酒好きの船員の為に積み込まれたお酒に、深い意味はありません。ただのお酒です。2章、3章の敵に多少関係はしますが。
飲みたければ飲んでも良いです。エンパイア基準で元服前の方は、ダメ。
1章のプレイングは3/17(火)8:30~でお願いします。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 冒険
『脅威の海洋災害』
|
POW : 肉体の力で体力任せに海洋災害に立ち向かいます
SPD : 素早い行動力や、操船技術で海洋災害に立ち向かいます
WIZ : 広範な知識や、素晴らしいアイデアなどで海洋災害に立ち向かいます
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
燧島を出た、燧丸。
その船旅が何処まで続くのか。それは猟兵達にも判らない。
終わりの見えない船旅の中、いざと言う時に誰もが疲れ果てていては事だ。猟兵達は数人ずつの組で爆ぜる海の対処に当たることにした。
栗花落・澪
【狼狐兎】
わーい船旅だー!
船に乗った経験自体はゼロじゃないけど
二人も一緒だとなんか新鮮な感じ
勿論わかってるよー
上は任せたからね
準備ができるまでは音楽経験で鍛えた【聞き耳】で
海中の音の変化を共有
紫崎君、そっち今不自然な音混じったよ
晃君の人形の髪を万一のための命綱に
僕は海に飛び込み【指定UC】
下半身を魚に変え人魚姿で自在に泳ぎ回りながら
魚の特性で全身で水温や流れの変化を感じ取り水面から指示を
あ、【火炎耐性】を混ぜた【オーラ防御】の展開は忘れずに
流石に僕も直撃したら痛いじゃ済まなさそうだからね…
ガス自体も危なそうだし
危ない時は水の【高速詠唱、属性攻撃】でガスの噴射口に水圧をかけ
威力を少しでも緩和狙い
紫崎・宗田
【狼狐兎】
おいチビ
遊びじゃねぇんだからな、ちゃんと気引き締めろよ
海中の対処はチビ(澪)に任せ
俺と堺で落ちてくるものへの対処
巻き込まれそうだと感じたらちゃんと範囲外に逃げるよう
チビには言い含めてはおいたが…
考えているところで堺にまるで心を読んだかのように話しかけられ
思わず舌打ちを
…わかってんならしっかり管理しとけよ、その命綱(照れ隠し)
万一の時は俺も飛び込む覚悟はあるが
左右どちらから来ても対応出来るよう連携しながら
降ってくるものは武器を【薙ぎ払う】際の【怪力】により発生させる風圧で
【吹き飛ばし】の【範囲攻撃】
まとめて海にお帰り願おうか
取りこぼしは堺に任せる
…俺もちっとは覚えてみるかな、遠距離攻撃
堺・晃
【狼狐兎】
★人形の伸縮自在な髪の束を
澪君の胴体に服の上からしっかりと巻きつけてやりながら
(直は肌傷つけそうだしね)
さっき紫崎君も言ってましたが、危ないと思ったらちゃんと逃げるんですよ
命綱とはいえ、動きを縛るようなものではありませんから
澪君は聴力も自然と心を通わせる力も備えてる
心配はしてないけどね
考え込む様子の紫崎には笑顔で話しかけようか
心配ですか?
澪君は無茶しがちですからね
はいはい勿論…
僕は紫崎と連携しながら落下物への対処
★アイアンメイデンを召喚し
トゲを【一斉発射】する事で
大きい獲物もまとめて【串刺し】にして撃墜させる
ふふ…近接最強の君が遠距離も覚えたら
僕では勝ち目も無くなってしまいますね
●狼狐兎
鉄の舳先が波を掻き分け、白波を立てて鉄甲船が行く。
「~~♪ ~~♪」
甲板から海を眺める栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の鼻歌が、琥珀色の髪を揺らす海風に流れていった。
「そのまま動かないでくださいね」
その傍らでは堺・晃(元龍狼師団師団長・f10769)が屈んで、服の上から澪の胴体に何かを巻き付けている。
「~~♪」
「おいチビ」
こくりと晃に頷き鼻歌を続ける澪の背中に、紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)のぶっきらぼうな声がかかる。
「遊びじゃねぇんだからな、気引き締めろよ」
「判ってるよ。でも、二人も一緒の船旅がなんか新鮮な感じで――あ」
釘を刺して来る宗田に背中を向けたまま、澪が少し口を尖らせ返した言葉は、何かに気づいた澪自身が半ばで遮った。
「あ、ちょっと。まだ動かな――」
「紫崎君、そっち今不自然な音混じったよ」
晃の静止も構わず振り向いた澪は、宗田のいつものキツイ目つきも気にせずに、きっぱりと告げる。
直後、宗田の背中の遥か後ろで――ドーンッ!――と音がして、海が噴き上がった。音楽で鍛えた澪の耳は、船の上からでも波音とは違う海の変化を聞き分けていた。
「ね?」
「――……判ってんならいい」
ちょっと誇らしげな澪にぶっきらぼうに告げて、宗田は巨大剣『剛壊刃~龍~』を無造作に振り上げた。
地獄の炎でも溶けることは無い武骨な刃は、降ってきた大きな巻貝を物ともせずに海へと跳ね返す。
「澪君の聴力も、紫崎君の腕力もさすがですね」
そんな2人に賛辞を贈りながら、晃は曲げていた膝を伸ばして立ち上がる。
「準備が終わりましたよ――命綱ならぬ命髪の」
晃が澪に巻き付けていたのは、人形『Mirror Doll』の伸縮自在の髪を束ねたもの。そしてその色は、宗田の髪と良く似ていた。
と言うか、『Mirror Doll』の姿は宗田そっくりに変わっていた。
触れた相手と同じ姿に変わる晃の『Mirror Doll』の能力だが、何故――宗田なのか。
「おい、何で俺だ」
「なんで紫崎君?」
「一番体格がいいの、紫崎君じゃないですか」
宗田と澪の重なった疑問に、晃がさらりと返す。
「命綱ですからね。こちら側は澪君よりも大きくないと」
通常の命綱であれば反対側は船に巻き付ける所だが、人形の髪ではそうはいかない。だから晃は、『Mirror Doll』に少しでも大きな姿を取らせたのだ。
そもそも何故命綱が必要なのかと言えば、これから必要な事をするからである。
「いいか、巻き込まれそうだと感じたらちゃんと範囲外に逃げろよ」
「そうですよ。命綱とはいえ、動きを縛るようなものではありませんから」
「勿論わかってるよー」
言い含める宗田と晃に笑って返して、澪は船の縁に足をかける。
「上は任せたからね」
そして言うなり――澪は船の縁を蹴って外へと飛び出した。
「水の精霊よ、力を貸して!」
重力に引かれて海へ落ちて行く澪の身体が、淡く眩い光に包まれる。
――ドボンッ。
海に飛び込んだ時には、澪の下半身は魚のそれになっていた。まるで人魚の様なその姿こそ【マジカルつゆりん☆アクアフォーム】である。
勿論、ただ単に姿が変わっただけではない。
(「わ、まだ水冷たいなー」)
アクアフォームと言うだけあって、今の澪は魚の特性をその身に得ている。水中でも呼吸を可能だし、全身で水温も感じ取れる。人魚の姿は伊達ではない。
(「ん? この流れ……海底から?」)
魚の肌で感じる水の流れにおかしなものがあることに気づいた澪は、鉄甲船の船底を目指して海の深くへ潜っていく。
(「へえ。こうなってるんだぁ……あ、あれだ」)
船底に大きな櫂が幾つも動いている光景を見た澪は、そのすぐ下から気泡の様なものが無数に出ているのを見つけた。
あれがガスの噴出だとしたら――このままでは、船底を直撃する。
(「流石に僕も直撃したら痛いじゃ済まなさそうだけど……仕方ない!」)
火炎に対する仄かに赤いオーラを纏った澪は、魚の尾びれで水を蹴って気泡の出口に近づき、魔力で操った水流を叩きつけた。
一方その頃。
「おやおや、随分と深くに潜ってますね」
するすると伸びていく人形の髪に、晃は目を瞬かせていた。元々ある程度は長く伸ばしておいたが、それ以上に伸びている。澪が想定以上に深く潜っていると言う事だ。
「……」
宗田は人形の髪が伸びている海を、腕を組んでじっと見下ろしている。
(「逃げろと言ってはおいたが……チビの癖にすぐ無茶するからな」)
宗田が胸中で呟いたその時まさに、澪は海底でガスの噴出を抑えていたりする。
「心配ですか?」
知らず知らず眉間に皺が寄っていく宗田に、晃が笑って声をかける。
「澪君は無茶しがちですからね」
まるで心を読んだかの様な晃の言葉に、ちっと宗田が微かに舌を鳴らす。
「……わかってんならしっかり管理しとけよ、その命綱」
「はいはい、勿論」
照れ隠しなのを隠せていない宗田に、晃が笑って返す。
「まあ、澪君は聴力も自然と心を通わせる力も備えています。僕や君よりも、ずっと海の中に適していると思いますよ」
「……」
万一の時は俺も飛び込む――そんな覚悟も見透かしたような晃の言葉に、宗田は眉間の皺を深くしながらも、人形の髪が伸びた先から目を離さなかった。
海の中から、見慣れた金蓮花が出てくるのを見逃さない為に。
――そして、数分後。
「来るよ! 大体30秒くらいで8時の方向!」
海の中から顔を出すなり、澪は警告の声を響かせた。
それを聞いた宗田は海に向かって片手だけ挙げて応えると、すぐに踵を返す。澪が告げた方向に向き直って『剛壊刃~龍~』を持ち上げると、赤い龍の紋様が刻まれた柄を軸に頭上で回し始めた。
続けてジャラリと、鎖の音が鳴る。
「お前は動くな」
宗田は空間の穴に手を突っ込んでいる晃に、短く告げた。
「俺が取り溢した分だけでいい。しっかり管理しとけつったろ、命綱」
「――はいはい」
本当に素直じゃないですねぇ、と胸中で呟いて、晃は空間から引っ張り出しかけた鎖だけ掴んでおく。
――ドーンッ!
澪の言葉通り、船の右手と右後方で海が噴き上がった。
ふん、と鼻を鳴らして、宗田は巨大剣を頭上で振り回したまま前に出る。
「まとめて海にお帰り願おうか」
頭上で回した遠心力を殺さないように掌中で回していた柄を確りと掴むと、宗田は『剛壊刃~龍~』を勢い良く振り上げる。
――羅刹旋風。
ブォンッと巨大な刃が風を裂き、剣風が巻き起こる。技術と膂力だけで巻き起こした風が、降って来る海産物の勢いを殺して海へと落としていく。
だが――宗田の剣風で、全てを防ぎきるには至らなかった。
「ちっ……任せるぞ」
「任されましょう」
宗田が構え直すには、距離が近すぎる。
頷いた晃が掴んだままの鎖を引くと、ジャララッと鎖の音を鳴らして空間の穴から、ずるりと巨大な何かが現れた。
ゴトンッと鈍い音を立てて船の上に置かれたのは、人の顔の様なものが彫られた、棺桶の様なもの――拷問具『アイアン・メイデン・スキュア』。
晃の手が『アイアン・メイデン・スキュア』に絡まっていた鎖を引き解けば、その前面がゆっくりと開いていく。中にずらりと並ぶのは、鋭い棘。
本来は中に封じたものを刺し貫く為のものであろう棘は、晃の手が『アイアン・メイデン・スキュア』を叩くと、その中から飛び出した。
ロケットの様に白い煙の尾を引いて飛んだ棘に貫かれ、イカもタコも大きな魚も次々と船の上に落ちてくる。
「……俺もちっとは覚えてみるかな、遠距離攻撃」
「ふふ。近接最強の君が遠距離も覚えたら、僕では勝ち目も無くなってしまいますね」
背中を向けたまま宗田がぽそりと呟いた言葉を聞き逃さず、晃はどこか揶揄う様な笑みを浮かべて告げる。
「また来るよ! 次は2時の方向!」
上でそんな空気になっていると海からでは判る筈もなく、澪は容赦なく続く自然の驚異に対する警告を元気よく二人に告げていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
霧城・ちさ
爆ぜる海、というのも危ないですわね
その中航海する船と船員さんをお守りしますわね
打ち上げられて降ってくる物の対策をしますわっ
私自身はオーラで防御して、降ってくるものは大きさに合わせて高速詠唱で数多く魔法で攻撃して壊すか全力魔法で対応しますの
ユーベルコードでの船に届く前に網状に展開して止めたりもしていきますわね
魔法で間に合わない場合はオーラ防御のまま身を挺して防ぎにいきますの
他の猟兵さんとの協力やアドリブはOKですわっ
ギヨーム・エペー
はっはっは!!大荒れだなー!いや笑ってる場合じゃないけども、海だなーー!!?
海は楽しーねー!!これ以上危険な海にならないようにしないとな!
おれは降ってくる物を対象しよう。UCで生成した氷槍を投擲して、船に落ちないように軌道を逸らしてみる
軽いものは太陽の水圧で払い除けられると思うが……デカイのは流石に厳しいか?
デカイのが来たら、相手によく効きそうな属性を纏わせたレイピアで迎撃する。その間の露払いは任せたぞー太陽。しっかり学習して対処頼むぜー
●日焼けダンピと風紀委員
「っと。海は楽しーねー!!」
ざぶんっと大きな波に上下に揺れた船の上で、ギヨーム・エペー(日に焼けたダンピール・f20226)がカラカラと笑――。
ドーンッ!
少し離れたところで、海が噴き上がった音が響く。船体に横殴りに叩きつけられた衝撃に、船が斜めに傾いた。
角度にすれば、その傾斜は僅かなものだ。
だが――乗っている方は、僅かな傾きでも何倍にも感じるものである。
「はっはっは!! 大荒れだなー!」
「大荒れ、どころではないですわ!」
それでもギヨームは楽しげに笑っていられたが、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・f05540)が船の柱にしがみついて叫んでいた。
「爆ぜる海と言うのも、危ないですわね」
程なく船の傾きが収まり、ちさは柱から手を離してほっと息を吐く。
安堵しながらも、笑っている場合ではないと言外にやんわりと釘を刺すような事を言っているは辺り、学園で風紀委員に属するちさの性と言うものだろう。
「いやうん、笑ってる場合じゃないけども」
当のギヨームは、日に焼けた頬を掻いて苦笑い。
ギヨームにとって、海は『暇つぶし』の場だ。冬の海だろうが、釣りよりも潜って魚を獲る方を好むくらいに。
「海だなーーって」
「海ですわね?」
続けたギヨームの言葉に、ちさが首を傾げる。
だが、ちさはその言葉をそれ以上追求しようとはせずに、頭上を仰いだ。
「何かが飛んで来る海ですけれど」
ちさが見上げた青い空に、何かがこちらに降って来るのが見える。
「こんな危険な海の中、航海する船と船員さんをお守りしなくてはなりませんわ」
それが何かを確かめるより早く、ちさは慣れた風の魔法を高速詠唱で放ち、飛んでくるものをさらに打ち上げる。船を飛び越えてしまうくらいに。
「ま、これ以上危険な海にならないようにしないとな!」
それを見たギヨームも、にっと笑って片手を掲げた。
「穿て、氷花」
――Prune des neiges。
ギヨームの頭上に生成されたのは、二百を越える氷の槍。その穂先は、普段ギヨームが形成する細身の投擲槍と異なり、十字槍の形を取っていた。
「そいっ!」
ギヨームがその一つを放てば、飛んでくる何かの幾つかが空中で凍りついた。
凍った分重くなった事で、何かは失速して海に落ちて行く。
ちさの風が船を飛び越えるか、ギヨームの氷槍で船に届かないか。
飛来物が取る道は、二つに一つ――かと思われた。
ドーンッ!
再び爆ぜて噴き上がる海。その水柱で飛ばされたものは、今度は――とても巨大な何かだった。
「ちっ!」
ギヨームが氷槍を放つが、その表面を凍らせる事しかできない。
「太陽。凍らせ損ねたやつは頼むぜ!」
ギヨームの傍らに顕現した水の力を持つ契約精霊・太陽――ソレイユが、船に迫る巨大なものに勢い良く水を放った。
「……このデカイのは流石に厳しいか?」
「いえ、そのままもう少し」
ソレイユの水圧でも押し返せずギヨームが眉を潜めたそこに、ちさが声を上げる。
大きな貝だと見えるようになったそれに、ちさは片腕を掲げて指先を向けた。
「船と船員さんに悪い事するのは許しませんわっ。取り押さえますの」
ちさの指先が光り輝き、光が広がっていく。
ライトニングキャプチャー。
光輝く魔力の網が巨大な貝を絡め取って、水圧で幾らか弱まった後の勢いを完全に殺して、船の上に静かに貝がおろされる。
「んー? この貝、海底で見たことあるような……」
「こ、こいつは……おい、ちょっと来てくれ!」
ギヨームが貝にまじまじと視線を向けると同時に、船員の一人が声を張り上げる。
「こ、これは……」
「間違いない! 阿古屋貝!」
聞きつけて集まって来た船員達が、一様に目を丸くする。
阿古屋貝――別名の真珠貝の方が通りがいいだろうか。
「ああ! 真珠があるやつか」
船員達の言葉で、ギヨームも貝の種類に思い至った。見た事あるものよりも大きかった為に、すぐに繋がらなかったのだ。
「これは、いいお土産になりそうですね」
ちさの言葉に、船員達も力強く頷く。思わぬ収穫に、船員達の士気も上がっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
小夜啼・ルイ
ユエ(f01199)と
…オレ、船に乗るっつーか大海原に出るのは初めてなんだよ
すげー海荒れてるのは残念だケド
あれか、やっぱでっかい白鯨が襲ってくるとかマジであるのか
海面を観察して、噴き上がりそうな様子の海面を【Glacies】で凍らせる
海に意思はあるか。いーや、そう見えちまうだけで実際は無いな
つか、意思があって躱したら怖ぇよ
タイミングが悪くて噴き上がったとしても、凍らせるのは変わらない
凍らせた後の氷柱の処理はユエに任せる形
って、ユエの袖の中どうなってんだあれ(袖から落としたアイテム類見やり)
…え、拾うのオレなのかよ!
いや、多分他の奴に比べればそんなツッコミは些細だな。常識的だし
鈴・月華
ルイ(f18236)と
へぇ、そうなんだ
私はよく御師様に色々な場所に連れていかれた都合で、結構海は行ってる
荒れた海も一応は体験したよ
うーん、白い鯨は見たことは無いかなぁ…
私はルイが凍らせた間欠泉を、衝撃波を籠めた【繊月】で叩き斬って後始末するね
氷柱になっても邪魔になりそうでなければ放置。けれど明らかに邪魔になるものは斬る
スピード重視で、袖の中の道具は予めどさーってしておく
怪力は一応それなりにだけれどあるから、大きい氷柱をルイが作っちゃった時はちょっと強引に。そうなると斬るより砕くになるかも?
あ、ルイ。余裕があればでいいから、私がどさーってした道具を拾っておいて
櫟・陽里
あの鉄甲船が動いてる!
何がどうやって動いてんのかなー動力は何かなー舵はどうやってとるのかなー気になるなー?(操縦したいと顔に書いてある)
操舵に関われるなら持てる操縦能力と集中力を研ぎ澄まして“最良の航路”を取って見せる
なるべく短時間で駆け抜ける、障害は避ける、無理でも被害を抑える
ほら、良いバイクレーサーってのは転び方も上手いわけ
どんな状況でもより良い判断で最悪だけは避ける
操舵に関われなくても動力に関する何かとか搭載武器とか
活用できる何かがあればと船内を探検
爆発が直撃したら船体が浮き上がったりするのかな?
もうさ、飛んだ方がよくない?
じゃーん、俺、乗り物に搭載する用ロケットエンジン持ってんだけど!
●銀月と氷棘
「船って、結構揺れるもんなんだな」
斜めになった船の上で、胡坐をかいていた小夜啼・ルイ(xeno・f18236)がそのままズルズルと滑っていく。
「荒れた海なんて、こんなものだよ」
遠ざかるルイを見送る鈴・月華(月来香・f01199)は、細腕ながら片手で船の帆柱に平然と掴まっていた。
「そういうもんか? オレ、船に乗るっつーか大海原に出るのは初めてなんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
船の傾きが戻って前に戻ってきたルイの独白に、月華が意外そうに目を瞬かせる。
「私はよく御師様に色々な場所に連れていかれたからね。都合、海にも何度か行ったし船にも乗ったさ。まあ――ここまで荒れた海は初めてだけど」
肩を竦める月華の後ろで、波と波がぶつかった様に海が盛り上がり――。
海が凍った。
爆ぜて盛り上がった所に凍り付いた形は、さながら氷山。
だが――氷山の表面にビシッと亀裂が走った。直後、ドーンッと音が響いて、氷が砕け散る。海が爆ぜたエネルギーが行き場を失い、内から氷を砕いたのだ。
「おっと」
飛んできた子供の頭ほどの氷塊を、月華は白銀の大鎌で斬り砕く。
「……あまり動くんじゃねーぞ」
海中から次の水柱が噴き上がったとこに、ルイが指先から氷柱を放った。水柱に比すれば氷柱はあまりにも小さい。だが、氷柱が当たった瞬間、水柱が氷結する。
「海に動くな、か。まるで海に意思があるようだね」
「そう見えちまうだけで、実際は無いな」
忙しく甲板を行き交い氷柱を放ちながら、ルイは月華に言い返す。
「つか、意思があって躱したら怖ぇよ」
ただ爆ぜて水を噴き上げると言う現象が、まるで海に意思がある様に見えるだけだ。そこに意思などなく――故にルイが氷柱を外す事などあり得ない。
Glacies。
当たった対象を氷結させるルイの氷柱が作るのは、冷たい静寂。
噴き上がった水を氷の柱と変えて、爆ぜる音すら凍り付かせた氷の世界。
これまでの猟兵達の取った手とは異なり、海が爆ぜ切らない内に封じる手立て。これならば、衝撃も海産物も飛んでくることは無い。
「段々慣れてきた」
何度か放つ内に、ルイは噴き上がりそうな海面を凍らせるよりも、噴き上がった直後を凍らせた方が良いと把握していた。
多少なりガス抜きしておけば、氷の柱が内から砕かれる事もない。
「静かになったのは良いけど……このままじゃぶつかっちまいますぜ!」
ルイによって船の周りに次々と作られていく氷の柱を見やり、船員の一人が少し慌てた声を上げる。氷の柱に直撃するのも、船にはあまりよろしくはないだろう。
「これは何本か斬らないと、か」
月華がほぅと吐いた息が白くなっていた。
「ルイ」
今も氷柱を放とうとしていたルイが、月華に呼ばれて振り向く。
「余裕があればでいいから、拾っておいて」
言うなり月華は、両手の袖の中に隠し持っていた暗器の類をどさっと足元に捨てて、甲板を蹴って船から凍った海へと飛び出した。
「って、拾うのオレなのかよ!」
船の上から聞こえるルイの声を無視して、月華は氷の上を駆ける。
唯一持ってきたのは、先ほども振るった白銀の大鎌――鈴華。同じ得物でも、船の上にほとんどの道具を置いてきて身軽になった今の月華では、振るう速度が違う。
「ふっ」
月華が素早く振るった白銀の刃の軌跡が、三日月の如き軌跡を描く。
――繊月。
白銀の氷柱と白銀の大鎌がぶつかり、刃が氷に突き刺さる。氷の柱に幾つもの亀裂が走って、氷の欠片が月華の頭に降って来る。
「よっと」
そこから、月華はぐっと腕に力を籠めると、華奢な見た目に似合わぬ怪力でもって、氷柱を一気に斬り砕いてみせた。
カシャーンッと氷が砕け散る音を聞きながら。
「……ユエの袖の中、どうなってんだこれ?」
月華が置いていった道具を拾い集めたルイは、その量に目を丸くしていた。何をどうすれば、これが袖の中に入ると言うのか――。
「いや、他の奴に比べればそんなのは些細な事だな。常識的だし」
他のもっと常識離れしている知人たちの顔を思い浮かべ、ルイは月華の道具をしまっておく氷の容器を作り上げる。
「おーい、そこの兄さんよ」
その背中に、とある猟兵の声がかかった。
●星の舵手
――時は出航直後に遡る。
「なあ。船の中、見せて貰ってもいいか?」
櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)は船が動き出すなり、手近な船員を捕まえて、そう尋ねていた。
(「何がどうやって動いてんのかなー、動力は何かなー、舵はどうやってとるのかなー、気になるなー?」)
陽里が気になっているのは、外の海の様子ではなく船の中だ。
「あなたが風早屋の旦那が言ってた猟兵さんですかい」
好奇心に満ち満ちた陽里の顔をまじまじと見ていた船員が、ポンと手を打つ。
「風早屋から何人かの猟兵さんの事を聞いてましてね。奇妙な大きな眼鏡をかけた猟兵が船を見たいと言ったら、見せてやれ。舵を取りたいと言ったら取らせてやれ、と」
「風早の旦那がねぇ……」
決して善人とは言えない風早屋の顔を思い浮かべ、陽里が呟く。色々あったが、操縦の腕は信用されているようだ。
「ではまず動力を見て貰いましょうか」
船員の案内に従って、陽里は鉄甲船の中を降りていく。
「これが動力です」
着いた船底で陽里が見たものは、無数の絡繰り人形が櫂を漕ぐ様に棒を動かしている光景だった。
その棒は船の外の櫂と連動しているのだと言う。法力供給の必要はあるがそれさえ怠らなければ、この船が止まる事はないだろう。
「そっかー。あの鉄甲船が、こうなって動いてんのか!」
流石にスクリューは作れなかったようだが、この世界なりの技術の粋を尽くしたであろう船の機構に、陽里の顔に笑みが浮かぶ。
ゴォォォンッ!
そこに船底から何かが叩いたような音が響いて、浮き上がるような感覚が陽里の身体を襲った。実際、少し船が浮いたようだ。
「いっそ、飛んだ方がよくない?」
「――は?」
「俺、乗り物に搭載する用ロケットエンジン持ってんだけど!」
「ろ、ろけっと……?」
じゃーんっと陽里が取り出した見た事もない道具に、船員の目は丸くなった。
●燧丸、飛ぶ
「寒っ!」
陽里が甲板に戻ると、周りの景色は一変していた。
爆ぜた海が凍り付いて、幾つもの氷の柱が海に聳えている。その一つが、目の前で斬り砕かれて倒れていった。
「よっしゃ! 見えた!」
それを見た陽里の頭の中に、取るべき『最良の針路』が浮かぶ。
「おーい、そこの兄さんよ」
甲板で何かを拾い集めていたルイが氷の容れ物を作るのを見て、陽里は氷の術者であろうと当たりを着けて声をかける。
「あの氷って、この船が乗っても大丈夫かい?」
「あ? ……多分、少しなら」
「オッケー! それじゃあ――」
陽里はルイにアイディアを告げると、舵を取るべく船尾へと駆けていく。
「ユエ!」
一方、ルイも船の縁へと駆け寄って、氷の上の月華を呼んだ。
「その氷の柱を、船の方へ斬り倒せ! そしたら戻ってこい!」
「? 良くわからないけど、判った」
内心首を傾げながら、月華はルイが示した――船の進行方向にある氷の柱へと駆け寄ると、言われた通りに氷の柱を船の方へと斬り倒す。
「一体、何なんだい――っ!?」
言いかけた月華の言葉は、激しく傾いた船に遮られた。
陽里が、敢えて倒れた氷の柱に船を乗り上げるように舵を取ったのだ。
「ここで――点火!」
直後、船の後ろで炎が噴き上がった。
陽里のゼロヨンが、鉄の船を海上に浮き上がらせる。
乗り物に搭載するロケットエンジンであり、この鉄甲船も乗り物である。とはいえ、鉄甲船の質量はバイクなどに比べあまりに大きい。
ゼロヨンだけでは、飛ばす事は不可能だ。
倒れた氷の柱と言う、発射台でもなければ。
障害は避けるに越した事はなく、避けられない時でも良いバイクレーサーならば転び方も上手いものだ。
今回の場合、避けるべき最大の障害は『爆ぜる海』そのもの。
いわば、レース場自体が障害。ならば、大胆にコースアウトするのも手である。
このままずっと飛んでいくにはゼロヨンだけでは流石に足りないが――しばらくは爆ぜる海の脅威から離れて進むことが出来るだろう。
「船が飛ぶくらいだし、やっぱでっかい白鯨が襲ってくるとかマジであるのか」
「うーん、白い鯨は見たことは無いなぁ……と言うか君、案外ロマンチストかい?」
凍った海を眼下に見ながら、ルイと月華はそんなことを話していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィクトル・サリヴァン
爆発する海かあ。鉄甲船も壊すような強烈なのがあるとは世界は広いね。
紫光の向こうに何があるのかは分からないけども、だからこそ何があるのか暴いてみたいよね。
爆ぜる海に対処。
UCで空シャチ召喚して燧丸周囲および進路上を偵察し情報収集。
空から見て間欠泉の如く噴き出した場所があったら直撃を受けないよう船員さんに情報共有。
俺も船首付近に立って視力を活かし燧丸の進路上の異変を警戒。
これだけ広い海なら泳いで水中直接見た方が早いかもだけども間欠泉直撃は流石にねー。
もし回避が間に合わないタイミングなら高速詠唱からの水の魔法で水流操作、船底の障壁を作り爆発を横や後ろに流すようにして燧丸を守る。
※アドリブ絡み等お任せ
ニコ・ベルクシュタイン
船。おお、此れが船か!
先の戦争でも乗る機会が無かった故に
初めて目撃した鉄甲船に興味津々、なれど今は仕事をせねばな
素人が操舵や海の動きに余計な口出しをするのは控えようか
噴き上がりに乗って降って来るというモノへの対処に回ろう
こう見えて其れなりの持久力はある、鍛えているからな
「オーラ防御」の防御障壁を「全力魔法」で船いっぱいに広げ
「継戦能力」で可能な限り展開し続け飛来物を弾く
其れでも突き破って来ようという輩はいるだろう
【精霊狂騒曲】で炎の精霊を喚び、疾く良い感じに焼いてしまおう
氷漬けにするか迷ったが、氷塊が甲板をぶち抜いても困るのでな
焼いた海産物ばかりで申し訳ないが、酒の肴にでもなれば幸いだ
ワン・シャウレン
爆ぜる海とはまた豪快じゃの。
海を見るに慣れておるわけでもない。
素直に降ってくるものに集中するかの。
ひとまずは静かに空を眺めて無理なく注意。
音や空気の変化、近くで爆ぜれば警戒しておこう。
降ってきたら迎撃じゃな。
水天輪で弾きにいくとしよう。
流石に無差別とはいかぬから即座の三回攻撃は無理じゃが
波状なり来るのであれば出来るペースで連撃といこう。
こうして揺られるも面白いが
先の場所も楽しみじゃな
●シャチと時計と人形と
ドッパァンッと派手な水音を立てて、海の上を飛んでいた燧丸が着水する。
「おお、此れが――此れが船か!」
甲板の上に出ていたニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)は、着水時の波飛沫を浴びながら、珍しく弾んだ声を上げていた。
「もしかして、船は初めて?」
興味津々な様子を見て声をかけたのは――縦にも横にも大柄なシャチの獣人、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)である。
「うむ。これほどの船はな。先の戦争でも乗る機会が無かった故に」
背中にかかったヴィクトルの声に振り向き、ニコは首肯する。
「UFOやサーフィンに乗ったり、海底都市に行ったことならばあるのだが」
「ああ、行って貰ったね」
記憶を探るニコの言葉に、ヴィクトルも何かを思い出して頷いていた。
「初めての船出が爆ぜる海とは、中々にチャレンジャーだのう」
二人の会話を横で眺めていたワン・シャウレン(潰夢遺夢・f00710)が、薄い笑みを浮かべていた口を開く。
「チェレンジャーか……そう言われる事はあまりないが。とは言え、海の上を往くものと思っていたが、船で海を飛ぶとは思わなかった」
飛沫で濡れた眼鏡を外して拭きながら、ニコはシャウレンに頷く。
その時、だいぶ遠くの方でドーンと音が鳴り、噴き上がった水の柱が立った。
「爆発する海かあ……」
音のした方に、ヴィクトルが視線を向ける。
「豪快に爆ぜとるのう」
「鉄甲船も壊しかねない強烈な海があるとは、世界は広いね」
離れていても水の柱が見える程の海の爆ぜっぷりに、シャウレンとヴィクトルが思わず顔を見合わせる。
「うむ。なればこそ、俺達が仕事せねばならぬな」
レンズを拭いた眼鏡をかけ直したニコの言葉を、二人が首肯する。
その時――ドーンッと言う海が爆ぜる音が、先ほどよりも近くで聞こえた。
「どうやら大物は打ち上げられていないようだな」
船の斜め後方で上がった水柱を見やり、ニコは甲板の真ん中に立って、柊の杖『Bloom Star』を両手で構えた。
杖の石突を甲板に軽く打ち付ければ、杖に絡みついた花が輝きを放ち、花弁と同じ星型の淡い輝きが杖から広がる。
星型の光は連なりながら広がっていき、半球状の障壁を為していく。
ニコを覆う程度だった半球はどんどん大きくなり、三人を余裕で覆う大きさになってもさらに広がり続けていった。
「船全体を覆う障壁か――この大きさ、大丈夫?」
ついには障壁が船の舳先を越える規模になったの見やり、ヴィクトルが感嘆の心配の混ざった声を上げる。
「こう見えて其れなりの持久力はある、鍛えているからな」
ニコは杖を構えたまま、不敵な笑みを浮かべて返す。
「それにだ。UFOやサーフィンに乗った経験がある程度の素人が船の操舵や海の動きに余計な口出しをするよりも、降って来るモノへの対処に回るのが良いと思ってな」
確かに船の運航にはあまり活きなさそうだが、サーフィンはともかくUFOの経験など、様々な世界を渡る猟兵でしかあり得ぬ経験ではある。
その間にも、飛んできたウニやエビがニコの障壁の上を滑って、海へと帰っていた。
「とはいえ上だけだ。あの程度の小物なら問題ないが、流石に爆発の直撃を防げるまで厚い障壁かと言うと怪しいし、船の進行を妨げかねないからな」
「まあ、直撃は流石にねー」
ニコの言葉に頷くと、ヴィクトルは船の縁へ行って海を覗き込んだ。
海に手をかざし、何かを呟く。
「船底に水流の障壁を張っておいたよ。多少は勢いを殺せると思う」
さらにヴィクトルが獣奏器を高らかに鳴らすと、空に幾つもの魚影が現れた。
否。魚に似てはいるが、それは魚ではない。ヴィクトル自身と同じ、白と黒のつるりとした胴体。シャチだ。
「空シャチたちに、周囲を偵察して貰うよ」
空泳ぎたちの狂宴――スカイ・オルカ。
66体の空を泳ぐシャチの群れと自身の目で、ヴィクトルは次の爆発を警戒する。
「わしも海を見るに慣れておるわけでもない。素直に降ってくるものに集中するかの」
言うが早いか、シャウレンは船の帆柱を軽やかに駆け上がっていく。
見張り台もない柱の上に器用に立つと、シャウレンは周囲の空を見回した。
「来るぞ!」
「こっちも見えた!」
シャウレンが上げた声に、ヴィクトルも声を揃える。直後、二人の視線の先で再び海が爆ぜて、水が噴き上がった。
同時に海から打ち上げられる巨きな魚影――サメだ。それも複数。
「スカイ・オルカ! 迎え撃て」
ヴィクトルの指示で、すぐさま空シャチの群れが打ち上げられたサメを迎え撃つ。
シャチとサメの空中戦。
まさに、空泳ぎたちの狂宴である。
ドーンッ!
そこに容赦なく起こった次の海の爆発で、水が噴き上がる。
「此度の爆発はまた随分と強烈な……あれは巨大なサザエかの?」
目を細めるシャウレンの視線の先にあるのは、打ち上げられた巨大な巻貝。ご丁寧に、如何にも硬そうな空の先端を船に向ける格好で飛んできている。
「む……大きいな」
「アレはわしに任せい」
巻貝の大きさに眉根を寄せたニコの頭上に、シャウレンの声が降って来る。
帆柱の上に立って構えたシャウレンの周囲には、三つの水の輪が現れていた。
その水は、眼下で波打つ海の水とは違う。精霊の力を帯びた清らかな水の輪。
――水天輪。
「さすがに無差別とはいかぬ故、逃す小物は出ようが――」
海風に長い淡金の髪が揺れるのも構わず、シャウレンは構えたまま間合いを測る。
帆柱の上からならば、水天輪の射程は障壁よりも僅かに長くなる。とはいえ、タイミングを間違えれば、巻貝は障壁にぶつかってしまうだろう。
「薙ぎ払ってくれる」
サザエと思しき巨大巻貝が間合いに入る瞬間を見切って、シャウレンは一つ目の水輪を放った。
流れ回り続ける水の輪が、巻貝が障壁に触れる前にその勢いを殺し、続く二輪目で向きを変えて、三輪目で完全に海の方向へ落とす軌道に乗せる。
「ま、こんなもんじゃの」
横波に揺れる柱の上で器用に立ち続け、シャウレンは水天輪を手元に戻した。
「汝らは今こそ解き放たれん!」
そこに甲板にニコの声が響いて、良い匂いが漂い出した。
「いいな、焼き魚だ」
精霊狂想曲――エレメンタル・カプリッチオでニコに喚び出された炎の精霊は、障壁を突き破ってきたサンマやダツを、なんだか慣れた様子で焦んがりと焼いていく。
「こっちも終わったよ」
告げて、ヴィクトルが空を指さす。そこには口元を真っ赤にした空シャチの群れが、どこか誇らしげに漂っていた。
少し数を減らしているのは、ヴィクトルが合体させたのだろう。その証拠に、尾びれに刻まれた数字が大きくなっているシャチがいた。
打ち上げられただけのサメが、空を泳げるシャチに叶う筈もない。
偶々同じ船に乗り合わせ、偶々同じ時に船を守ることになった三人ではあるが、爆ぜる海から何が飛んでこようが問題はなさそうだ。
「重畳、重畳。こうして揺られるも面白いが、先の場所も楽しみじゃな」
「紫光の向こうに何があるのかは分からないけども、だからこそ何があるのか暴いてみたいよね」
帆柱から降りてきたシャウレンの声に、ヴィクトルも頷く。
「うむ。なればこそ、船員達には頑張って貰わねばならぬ。そこで、二人とも。申し訳ないのだが、頼んでも良いだろうか。俺は障壁の維持で動けぬ故――」
何事かと首を傾げる二人に、ニコは周囲に散らばる焼き魚を視線で示す。
「焼いた海産物ばかりだが、船員たちの酒の肴にでもなればと思ってな」
炎の精霊は魚を焼くことは出来ても――拾い集めるのは出来なかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・祭莉
【かんさつにっき】で燧島へ!
おおー。これ、あのときの船?
立派になったねー♪(ナデナデ)
姫様たちに挨拶してから、いざ出帆!(燧島の旗を挙げて)
うん、長老が冬眠から醒めるころには戻ってくるよ♪
海底から泡がやってくる。
わかりにくいみたいだから、おいら直接行くね!
準備体操してから。このへん?(振り返り)
疾走発動ー♪(どぼん)
泡っぽいのを見つけたら、爆発する前に突進ー!
先制攻撃で、如意な棒から衝撃波をぶつける!
船の底の近くに泡が来たら、拳で迎撃ー!
とにかく、近寄らせないよう頑張るー♪
ときどき浮き上がって、空を眺めてっと。
あ、お魚と一緒に、宇宙船やたまこが飛んでる。
いい匂いもするし。すごいね、新世界!
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
これが、サルベージされた鉄鋼船か。
立派に改装されたものだね。
人員も十分揃っているし、これなら外洋に出ても大丈夫そうだ。
甲板に『メカたまこEX』を出して、紫の光の先を
〈撮影〉させながら進もう。
とはいえ外洋についての情報は不足しているし、
海難現象から船を守らないといけない。
【ブレイカーシップ・ブレイブナイツ】を召喚
無人宇宙船団に燧丸を護衛させよう。
索敵センサーを使い、高温になっている箇所を避けるように誘導。
打ち上げられたものが降ってきたらシールド展開、
〈空中戦〉技術でガードさせる
強度を上げるため、合体したほうがよさそうかな。
積み荷は無事か? シリン、一緒にそのお酒で一息つこうか。
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
姫様や風早屋に挨拶していくよ
燧丸、いい名前じゃないの
冒険心にも火が点くってものね
お土産話も期待しててよ
間欠泉
引き上げ時もお世話になったっけ
これも縁なのかな?
…1時の方向100m先、来る!
雨音の先で噴出を予知
祭莉ん達仲間に知らせ連携しつつ
杏と共に海の幸…飛来物を迎撃するよ
海老、鯵、鮑…
飛来物を糸雨で弾き勢い弱め甲板に集め
鮫、鮪…
暴れる魚は刀で頭部を一刺し
氷の属性攻撃で鮮度も保つ
そして…鯨!?
これまたデカいの来たね
杏達と協力して解体するよ
大漁大漁♪
杏、よだれよだれ(笑
刺身に炙りにお鍋に煮つけ
落ち着いたら船員さんのお勧めレシピも教えて貰おうね
あ、大人組だけずるいー!
※アドリブ歓迎!
木元・杏
【かんさつにっき】
燧島には黄金色のお菓子があった
そこから旅立つ先には
きっとある、未知なるすいーつ
待ってて、姫
必ずお菓子、げっとしてくる
三又槍にした灯る陽光からオーラ放出し拠点である船を防御しつつ
ざっぱーんと爆ぜる海をじっと観察
…ん、落下してくるのは
鯛、蛸、それに…クジラ
小型は槍で突き船上に落とし
大型はしゅたっとジャンプでガーネットのシールドに飛び移り、すぱぱぱぱっと身を切り分ける
む、鮫。白身でたんぱくな味(こくん)
真っ向勝負。槍を構え…その口にざくっと突き刺す!
船旅に必要なのはお食事
船員の皆にも美味しいごはん、食して欲しい
村から持参したお米を炊いて、瀬戸内名物の鯛飯
たこ飯もある
沢山食べてね
シリン・カービン
【かんさつにっき】
超常的とは言え、自然の力はよく知っています。
せっかく就航した燧丸。
易々と壊させるわけにはいきません。
船の舳先に陣取り、精霊猟銃を構えます。
「わが声に応えよ、炎の精霊」
【スピリット・ブレッシング】を発動し、
火の上級精霊を宿した精霊弾を装填。
祭莉やガーネット、小太刀の行動や、
精霊の様子を元に海の爆ぜる位置を予測。
吹きあがる瞬間を見切って撃ち込み、
水蒸気爆発を起こして威力を相殺します。
海中の祭莉は…、まあ大丈夫でしょう。
一段落したら一息入れましょう。
ガーネット、風早屋の差し入れがあるそうですよ。
杏と小太刀のおかげで肴には事欠かなさそうです。
皆さんも如何ですか?(船員に徳利掲げ)
●出航前の一時
――出航直前、燧島の港にて。
「おーい、姫様ー!」
「おお、祭莉! 杏も来てくれたか」
手を振る木元・祭莉(どらまつりん・f16554)の仕草と声で、後ろの木元・杏(杏どら焼き・f16565)にも気づいた朔八姫がぱっと笑顔を浮かべる。
「小太刀も、がーねっとも、しりんも。またよろしくお頼み申す」
ぺこりと頭を下げる姫の後ろには、海に浮かぶ鈍色の塊。
「おおー。これ、あのときの船?」
祭莉が桟橋から船体を叩いてみても、びくともしない巨大な鉄の船。
「燧丸、いい名前じゃないの。冒険心にも火が点くってものね」
鉄甲船の堂々たる佇まいを見上げる、鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)の口元には、楽しそうな笑みが浮かんでいる。
「これがサルベージされた鉄鋼船か」
ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)も手応えを確かめる様に、船体をコツコツと叩いて回る。
「立派に改装されたものだ。これなら外洋に出ても大丈夫そうだ」
「だって。ガーネットの船の知識は、私達の中では多分一番なのよ?」
「それはどうも。かなり金をかけましたからね――それ以上に稼がせて貰いましたが」
ガーネットと小太刀の賛辞に、風早屋が見せたのは何故か悪そうな笑顔。
「またそうやって悪ぶって――」
「まあまあ。大人には色々あるのですよ」
風早屋のそんな素振りにものを言おうとした小太刀を、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)がそっと遮った。
(「羽根突きで疲れた時は、もっと素直な顔してたのにな」)
声にこそ出していないが、ガーネットも風早屋の表情には思うところあったりした。
まあ、そういうおっさんなのだ。
放っといてやろう。
――そろそろ、船が出ますぜー! 乗ってくだせえ、猟兵さん方!
そこに、船の上から乗船を促す声が聞こえる。
「皆、気を付けての。武運長久……は違うか。兎も角、無事を祈っておるのじゃ」
「うん、長老が冬眠から醒めるころには戻ってくるよ♪」
見送る朔八姫に、にぱっと笑いかけ、祭莉が船の中へと駆けこむ。
「お土産話も期待しててよ」
「話、だけじゃない。お土産も、期待して」
微笑みかけた小太刀の隣で、杏が朔八姫に告げる。
「杏? どういう事じゃ?」
「燧島には黄金色のお菓子があった。だから燧島から旅立つ先には、きっとある。未知なるすいーつが」
首を傾げた朔八姫に、杏がきりっと拳を握って力強く告げる。
「未知のすいーつ、じゃと……そ、それは真なのか」
朔八姫がグイッと身を乗り出すほどに反応した瞬間、杏の両腕をシリンとガーネットが同時にそっと抱えた。
「あれ?」
「未知のスイーツ、あるといいですね」
「その為にも、早く船に乗らないとな」
「待ってて、姫。未知のお菓子、必ずげっとしてくる」
シリンとガーネットにズルズルと引かれながら、杏は朔八姫にそう言い残して船の中へと入って行った。
●そして、大海の上
そんな燧島での別れから、早数刻。
「飛んでも平気なんて、丈夫になったねー♪」
甲板に屈んで、祭莉が燧丸を撫でるように掌でさする。
ロケットで飛んで着水した時には、流石に【かんさつにっき】の5人も驚いたものだ。「本当に立派に改装されたものだ」
待っている間に見て回った船内を思い浮かべ、ガーネットがしみじみと呟く。
動力はいまだ櫂とは言え、絡繰を使った自動化。
船員には絡繰を支える法力使いから、海に詳しい者もいる。数に頼むのではなく必要な人員を十分に揃えた人員構成。
何より特筆すべきは、空と言うまでの高度でなかったにせよ、ロケットエンジンで海上を飛んで着水しても破損がない堅牢さ。
(「ほとんど無駄がない。これをあの風早屋が手配したのなら、大したものだ。私も見習うべきところはあるな――っと、いかんいかん」)
頭の中がすっかり宇宙船開発会社の社長のそれになっていたことに気づいて、ガーネットは目の前の海に意識を切り替えた。
船の中は、心配ない。
今必要なのは、船を守る事だ。
「勇敢なる騎士たちよ、今ここに集え!」
天に向かって腕を掲げてガーネットが告げれば、空から舞い降りる、七十三機の小型自律スペースシップ――英雄の船、ブレイカーシップ・ブレイブナイツ。
『コケッーコッ!』
そこに響くにわとりの鳴き声。スペースシップに紛れてガーネットが飛ばした、にわとり型ドローン『メカたまこEX』の上げた声だ。
「メカたまこEXのカメラをブレイブナイツにリンクさせて、と……」
ガーネットはメカたまこEXに船から伸びる光の先を撮影させ、燧丸の周囲に展開したブレイブナイツにその映像を共有させる事で、広範囲の防御態勢を作り上げたのだ。
一方その頃。
羽ばたくメカたまこEXのほぼ真下。
「……」
甲板の船首付近に立って、小太刀は目を閉じていた。
今の小太刀には、メカたまこの声も、船を打つ波の音も聞こえていない。ただ、降りしきる雨の音だけに包まれている。
小太刀だけに聞こえるその雨音が――僅かに乱れた。
「5時の方向、30m先、来る!」
目を開いた小太刀が告げてから、きっかり十秒後。
ドーンッ!
その通りの場所で、海が爆ぜて噴き上がった。
「だめそう……」
「はっきりとは……中々難しいですね」
じっと海を見ていた杏とシリンが首を横に振る。
雨音の先――短期予知に近い小太刀の予測能力で海が爆ぜる場所が判っても、その予兆を船の上から視覚的に判別するのは難しそうだ。
「ブレイブナイツの熱センサーには、反応があったぞ。但し、高温を検知したのは爆発の直前だったがな」
ガーネットの小型船でも検知は出来るようだが、どうしても直前になる。周知する時間の猶予と言う意味では、小太刀の予測が頼りになるか。
「やっぱわかりにくいから、おいら直接行くね!」
屈伸したり踵を伸ばしたり肩を回したり。
準備運動を終えた祭莉は、如意みたいな棒を手ごろな長さに伸ばして、カチっと止めると船の縁に足をかける。
「疾走発動ー♪」
そして躊躇いなく甲板を蹴って跳ぶと、祭莉は空中で燃え上がる白炎を纏って、どぼんっと海の中へ消えていった。
●水中、孤軍奮闘
(「ガスなら気泡があるかなー?」)
海の中でしっかりと目を開いて、祭莉は周囲を見回す。
ボコンッ――そんな音が、祭莉の耳に届いた。
(「あ、あれかな?」)
海底に空いた亀裂から噴き出しているそれらしい泡を見つけ、祭莉は如意みたいな棒を振りかぶる。
(「消えちゃえ!」)
水中の重さを感じさせない勢いで、祭莉は如意みたいな棒を振り下ろした。
放たれた衝撃波が、気泡を噴き散らす。
――……ボコンッ!
(「もう一発!」)
まだ気泡が出るのを見て、祭莉は今度は気泡そのものよりも海底の亀裂を目掛けて、如意みたいな棒から衝撃波を放った。
海底が砕けた瓦礫が一瞬舞い上がり、すぐに重みで沈んでいく。
これで落ち着いた――と思ったのも束の間。
――ボコンッ!
また聞こえた音に振り向いた祭莉の目に飛び込んだのは、船の下から立ち昇る気泡。
(「今度はあっち!?」)
纏った白炎を燃え上がらせると、祭莉は流石に少し慌てて飛び出した。
風輪の疾走――ホワイトラッシュ・オブ・ウインド。
白炎がもたらす飛翔能力ならば、水中でも自在に、泳ぐよりも早く飛ぶ事が出来る。
祭莉は燧丸を守るべく、海中でまさに東奔西走していた。
●船上だって忙しい
「さて。祭莉にばかり任せるわけにもいきません」
船の舳先に片足をかけて乗り出したシリンが構える、精霊猟銃。
「超常的とは言え、自然の力はよく知っています」
森と海とでは違いも多いが、共通している所もある。
避けられない自然の驚異と言うものは存在する――それをシリンはこの5人の中で、恐らく誰よりも知っていた。
そういう脅威を目の前にして、どうするかと言う事も。
「小太刀、頼みますよ。なるべく遠い所を」
「判ったわ」
シリンの指示に頷いて、小太刀は再び瞳を閉じて意識を集中し、雨音だけが聞こえる状態へと入った。
「1時の方向、100m先!」
「わが声に応えよ、炎の精霊」
小太刀が告げたその距離と方向に迷わず銃口を向けて、シリンは引き金を引いた。
スピリット・ブレッシング――火の上級精霊の加護を与えられた弾丸が、大きな波の様に盛り上がり出した海面に着弾する。
どぱぁんっ!
これまでよりは少し軽い音を立てて、海が爆ぜて水の柱が上がった。
シリンは、敢えて海の中で圧が高まり切る前に水蒸気爆発させてしまう事で、自然発生よりも被害を抑えてみせたのだ。
「進行方向は二人に任せるぞ。後方は、私とブレイブナイツで」
ガーネットもそれに倣って、小型スペースシップの半数以上を船の後方へと向けた。小さくとも戦闘用だ。検知した熱源を誘爆させるくらいの火力は十分にある。
「小太刀。どんどん予測してください。せっかく就航した燧丸。易々と壊させるわけにはいきませんから」
「そうね――次、11時の方向で120m!」
小太刀の予測を信じて、シリンが引き金を引くたびに、海が自然本来よりは弱く爆ぜて水が打ち上がる。
「海中の祭莉は……まあ大丈夫でしょう」
「シリンも木元家に馴染んだ。まつりん、がんばれ」
海の中を心配しながらも、引き金を引くのは止めないシリンに杏も頷いた。
実際、海の中の流れはめちゃくちゃな事になっていて、祭莉も目を白黒させていたりしたのだが。
祭莉なら大丈夫、と信じるしかない理由もある。
弱めたとはいえ何度もだけ爆発を繰り返せば――海の中からは色々飛んでいた。
「杏、降って来るわよ」
「ん。全部獲る!」
海産物が降って来るのも予測した小太刀の言葉に、光の三又槍を構えて杏が頷く。
じっと頭上を見上げる二人の上に降って来る、海の中にいた生き物たち。
「海老、鯵、鮑……」
降って来る海産物を、小太刀は糸雨を操って絡め取って船に落とす。
「鯛、蛸、鰹もいる……ガーネット、借りるね」
杏は甲板を蹴って跳び上がる、更にガーネットの小型船が展開している障壁を足場に蹴って跳び上がり、空中で三又槍を構えた。
「魚は鮮度がいのち……釣りたて、最高」
杏が槍を振るう度に光の花弁がひらひらと舞い散り、すぱぱぱぱっと斬り落とされていく魚類たち。
「杏、鮫! 鮫来てる! あ、シリンは150m先で2時方向!」
小太刀は杏に警告を発しながら、シリンにも予測を告げる。
「判りました」
「む、鮫。白身でたんぱくな味」
シリンから帰ってきたのは返事と、弾丸を装填する音。一方の杏は船の上に飛び降りると、光の三又槍を石突を船に当てる様にして斜めに構えた。
「真っ向勝負」
降って来る鮫に、杏は槍の角度を合わせこそすれど一歩も引かなかった。
そして――ずぶりと。光の槍が鮫の口から尾を貫いていた。
「獲ったー♪」
鮫を仕留めて満足気な杏の声に、どーんっ!と海が爆ぜる音が重なる。
「あの……何か大きなものが、打ち上がってしまったのですが」
そこに、シリンが少し震えた声で告げた。
ふっと四人の上が暗くなる。見上げた空には――黒い巨体が。
「クジラ」
「これまたデカいの来たね!?」
鯨としては小さな種類のようだが、それでも海でも最大の哺乳類。だが、その巨体を前にしても、杏と小太刀の食よ――意欲は衰えなかった。
「いや、あれは流石にそのまま降ってきたら船が傾きかねん」
船に乗せる前に、ガーネットは数台ずつ合体させたブレイブシップを鯨の落下線上にぐるりと円陣を組むように配置した。
そのまま障壁を広げれば、空に作られる即席のまな板。
「クジラ肉……(じゅるり)」
「杏、よだれよだれ」
空中で障壁まな板に乗った鯨を解体すべく、杏と小太刀が飛び掛かっていった。
「――ぶっはぁっ!」
船の横の海の中から、祭莉が顔を出す。
「中々息継ぎできなくて死ぬかと思った……」
風輪の疾走の白炎で水中の機動力を確保できたが、呼吸はどうにもならなかった。
祭莉が息継ぎをしようと浮上しかけたところに、何故か海中の流れがめちゃくちゃになって中々浮上できなかったのだ。
「ちょっと休憩。空を眺めてっと」
身体の力を抜いて、祭莉は海の上に仰向けに浮かぶ。
「ガーネットねーちゃんの宇宙船に、メカたまこも飛んでる。……あ、あれ、コダちゃんとアンちゃんだ」
ぷかぷかと漂う祭莉の目の前と言うか頭上で、クジラの解体が始まっていた。
●勝ち得た休息
「あれ? ――しばらく、爆発起きなさそうよ」
目を閉じて意識を集中していた小太刀が、意外そうに目を開く。
「ひと段落着いた、と言う事でしょうか」
「ブレイブナイツのセンサーも反応がないな。凪かもしれない」
首を傾げたシリンに、半信半疑と言った風にガーネットが返す。
凪――風が収まり波も穏やかになる現象。
海の中には、偶にそうなる地帯もあると言う。
「正直、爆ぜる海が何処まで続いてるのか、誰も知らねぇんでさぁ」
「進んでみねえことには、何とも――」
船員達にも、この海は未知数だ。
だからこそ――休める時に休んでおくのも、大事な事である。
「一息入れましょうか。ガーネット、風早屋の差し入れがあるそうですよ」
「ああ、そうだな、シリン。一緒にそのお酒で一息つこうか」
シリンとガーネットが、顔を見合わせ頷いた。
「皆さんも如何ですか?」
「猟兵の先生方、いける口ですかい」
「良いですねぇ、飲みましょうや!」
シリンが船員達を誘えば、待ってましたと運ばれる酒樽。
「あ、大人組だけずるいー!」
それを見た小太刀が、不服そうな声を上げる。
小太刀はもう、16歳。世界によってはまだまだお酒はNGな年齢だが、エンパイア基準であれば、大人とされる元服は15歳。
小太刀が作りかけていた綺麗に切り揃えたお刺身と、焦んがり炙った焼き魚は、酒の肴に丁度いい。
「小太刀、ごはん炊けた」
そこに杏が、じっと構っていた土鍋を抱えて持って来る。
「まず瀬戸内名物の鯛飯」
蓋を開ければ、仄かに出汁に染まったごはんと鯛の香りが広がる。
「たこ飯もある」
もう一つの土鍋を杏が開ければ、広がるタコの香り。
「何だ? 良い匂いだな」
「これは鯛か?」
「沢山炊いた。船旅に必要なのはお食事。船員の皆にも美味しいごはん食して欲しい」
匂いに釣られて顔を出した船員達を、杏が見回す。
「いい匂ーい! アンちゃん、コダちゃん、出来た?」
濡れた服を着替えに行っていた祭莉も、匂いに釣られて顔を出していた。
「杏と小太刀のおかげで肴には事欠かなさそうですね」
「ブレイブナイツは自律船だ。何かあれば、通信が私に来るから、それまでは少しくらい飲んでもいいだろう」
魚尽くしのご飯を囲んで、シリンとガーネットが盃を鳴らす。
こうして――ひと時の凪の海の上、小さな宴が始まった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『うわばみ』
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POW : 噛みつく
【鋭い牙】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 巻きつく
【素早い行動】から【巻きつき攻撃】を放ち、【締めつけ】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 炎を吐く
【体内のアルコールを燃焼した炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:塚原脱兎
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●酒の匂いに呼ばれたにょろ
不定期に不規則に。
激しい音を立てて海が爆ぜ、間欠泉の様な水柱は上がり続けている。
爆ぜる海、と呼ばれる海はどこまで続いているのか。そんな中でも、猟兵達の尽力の甲斐あって『燧丸』は、大きな被害もなく進んでいた。
船首から伸びる光の先は――まだ見えない。
だが。
紫の光が突如、その輝きを増した。
「な、なんだ!?」
「猟兵の先生方を呼んで来い!」
船員達に慌ただしく呼ばれて猟兵達が甲板に集まると、紫の光の中から何かが――にゅるんとした動きで飛び出して来た。
炎の様に真っ赤な色を持つ長い胴体をくねらせ、それらは船に乗り込んで来る。
「う……」
その姿を見た船員から、うめき声が上がった。
「うわばみだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
呻き声は、すぐに叫びに変わった。
「何でこんな海の上であいつが……」
中には、膝を付いて項垂れている船員もいる。
「ありゃあ、酒のある所に現れたが最後、全ての酒を奪って飲み干すまで止まらないと言う大酒呑みの蛇の妖怪――酒飲みの天敵でさぁ」
船員の一人が、重たい声で告げてきた。
他の船員達も酒の心配をしているのか、表情がしょんぼりしていく。
と、その時――。
ドーンッ!
何度も聞いた海が爆ぜる音が遠くに響いて、叩きつけた横波が船を揺らした。
乗り込もうとしていたうわばみが、その衝撃でつるんっと滑って海へと落ちて行く。
ぽちゃんっ。
そんな軽い音を立てて海に落ちたうわばみは、波間に出たり消えたりして――やがて海に沈んだのか、見えなくなった。
どうも、必ずしも正面切って戦う必要もなさそうだ。
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2章となりました。
うわばみとの集団戦です。通常の集団戦とは少し趣が異なります。
・まだ爆ぜる海です。時々どーんっと爆ぜて、船が揺れたり海産物降ってきます。
・爆ぜる海に対処するか、上手く利用するとプレイングボーナスになります。
・船に酒が残っている限り、うわばみは酒を優先です。船員守らなくても大丈夫。
・うわばみは、海に落ちたら上がって来れません。
以上を踏まえたうえで。
勝利条件は『うわばみを船の上から一掃する事』です。
プレイングは、この導入公開時いつでもOKです。
執筆開始は25(水)以降の予定でいます。締め切りはいつも通り別途告知です。
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鈴・月華
ルイ(f18236)と
蛇のお肉は骨が多くてあまり好きじゃない…
ん。昔泊まった宿で蛇肉料理が出された事があって、食べた事があるんだ
とりあえず邪魔だから、片しに行こうか
んー、【妖剣解放】で手早く対処した方がいいかな
素早さ勝負なら、少しは自信があるよ。どちらが速いか勝負しようか
寿命奪られるけど、戦闘中は生命力吸収で一時的に補う形
刀は抜くけど、斬るんじゃなくて峰で殴って吹き飛ばす
殴る時は他のうわばみにぶつけるようにする。巻き込みとバランス崩し狙い
ルイが凍らせたうわばみが近くに居たら、積極的に峰で殴り飛ばしてく
そういえばルイは怪力無いんだ
ルイが飛んだ時は、掴んで引っ張り上げなきゃいけないかな
小夜啼・ルイ
ユエ(f01199)と
…ユエ今なんつった?
そ、そうか…(宿の料理なんだから、オブリビオンじゃねぇよな…)
とりあえずアイツら食う気は無さそうで良かった
一体一体を相手にするのはメンドーだな
酒目掛けて移動している所を、可能な限り纏めて【Congelatio】で範囲攻撃して凍らせる
船揺れで勝手に滑って海に落ちるならそれで
滑らないなら海の方へ蹴飛ばせば勝手に滑ってくだろ
芯まで凍っちまえば、アルコールを燃やす事が出来ねぇ筈
月華が気付いていなさそうなうわばみが目に入ったら、直ぐ凍らす
揺れる船で身動きが取れなくなったら危ねぇからな
なんかこう、ユエの身体能力がオレよりも高いのが…鍛えるべきかねぇ…
●多分、うわばみも食べられる
――うわばみだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
船員達に慌てた声を上げさせる、赤い大蛇の群れ。
「蛇か……」
鈴・月華が腰の刀の柄を掴む。
「蛇のお肉は骨が多くてあまり好きじゃないんだよな……」
「ん!?」
その呟きを聞いた小夜啼・ルイの首が、ぐりんっと月華の方を向いた。
「……ユエ今なんつった?」
「ん?」
問われて視線を横にやった月華が見たルイの顔には、『まさかアイツら食う気じゃないよな?』と書いてあった。
「……」
ルイの顔をまじまじ見れば、『お前まで』と言う言葉も付いてそうである。
「昔泊まった宿で蛇肉料理が出された事があって、食べた事があるんだ」
少し考えて、月華は事実をありのまま伝える事にした。
「そ、そうか……」
(「宿の料理なんだから、オブリビオンじゃねぇよな……」)
それを聞いて、ルイも少しは安堵したようで息を吐く。
「とりあえず邪魔だから、片しに行こうか」
「ああ……そうだな」
雪のような白銀の刃をスラリと抜いた月華にひとつ頷くと、ルイの周囲の気温が急速に下がり始めた。
なお、世界にもよる所ではあるが、蛇を食材と見るのはそう珍しい文化でもない。骨が気になる場合は、骨ごとミンチにすると食べ易くなるのだとか。
●猟兵の腕力は見た目では測れない
シュルルッ!
「やる気かい? どちらが速いか勝負しようか」
威嚇音を発するうわばみの反応に、月華が薄い笑みを浮かべ――。
しゃらんっ。
小さく響いた鈴の音は、月華の髪に飾られた水琴鈴。
その音を置き去りに、月華の姿はうわばみの視界から消えた。
ゴッと鈍い音が響いて、うわばみが2,3体、船首の方へ吹っ飛ばされる。
「素早さ勝負なら、私も少しは自信があるからね」
月華が携えし刃は、ただ美しいだけの刀ではない。
『綺玲』――使い手も斬った相手も構わずに、命も奪う妖刀である。
その怨念を解放し、その身に纏った月華は、うわばみを速さで翻弄し、その長い胴に『綺玲』を叩き込んでいた。
普通に振るっていれば、うわばみはそこで両断されていただろう。
だが、うわばみは血を流すことは無くただ吹っ飛んでいた。月華の一撃は、斬撃ではなく打撃――『綺玲』の刃を返して峰を叩き込んだのだ。
峰打ちと共に放たれた衝撃波に吹っ飛ばされたうわばみが、その先にいたうわばみにぶつかり絡みつく。
「そこで仲良く絡みついていな」
それを見た月華は別のうわばみに向き直り、足に軽く力を籠める。
シューッ!
そこに響く威嚇音。
絡み合ったうわばみたちの後ろから、別のうわばみが月華を狙って飛び出す。
「凍ってろ」
飛び出した瞬間の、空中で身体を伸ばした状態のままで。
うわばみは一瞬で凍り付いて動きを止めていた。その先でルイが掌を開いて掲げている片手は、放った冷気が空気中の水分を凍らせた証の煙が纏わりついている。
「ほいっと!」
瞬転――身を翻した月華は、空中で凍り付いたうわばみが甲板に落ちる前に、『綺玲』の峰打ちと衝撃波で船の外まで吹っ飛ばす。
「ユエ、跳べ!」
そこに響くルイの声。
何かと聞こうともせず、月華はその声に従って甲板の上で跳び上がる。
直後、数体のうわばみが体内でアルコールを燃やして炎を放ち――しかし月華が眼下に見た炎は、その熱を感じる前に凍り付いた。
Congelatio。
氷結そのもの意を持つ、ルイの氷の業が放つ冷気の温度は華氏-459.4度。
またの名を――絶対零度。分子レベルであらゆるものが凍り付く極寒の世界。炎ですら凍り付き、水より凍りにくいアルコールも問題にはならない。
「芯まで凍っちまえ。アルコールも燃やせねえ程にな」
ルイの冷気は炎を凍らせ、そのままうわばみの体内へと浸透して凍らせていった。
「また派手に凍らせたものだね?」
「一体一体を相手にするのはメンドーだろ?」
絡みついたまま凍ったうわばみの上に降り立った月華の少しつまらなさそうな顔を見上げ、ルイは軽く肩を竦める。
「まあそうだけどね? これじゃ、まとめて海には落とせないよ」
そう言ってうわばみの上から飛び降りると、月華は凍ったうわばみに『綺玲』の峰を叩きつける。
「よっと」
月華は峰打ちともに衝撃波を撃ち込んで、凍ったうわばみを殴り飛ばしていく。
「……水って、凍れば膨張するんだけどな」
その程度の差など物ともせずに、凍ったうわばみを次々と吹っ飛ばして海へ叩き落していく月華の背中を見ながら、ルイがぽつりと呟いた。
「ユエの身体能力、全体的にオレより高いよな……鍛えるべきか」
「取り敢えず今回は、ルイが船から落ちても私が引っ張り上げなきゃいけないね」
背中に聞こえるルイの呟きに、背中を向けたまま返す月華の声は、どこか笑っているように弾んだ響きがあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
栗花落・澪
【狼狐兎】
すみません、お酒ちょっと借りますね!
一つ酒樽を開けたら水魔法の【高速詠唱】
お酒だって水分だからね
球体状の酒の玉を空中にふわりと浮かせ
囮にさせてもらうよ
うわばみ達を惹きつけながら【空中戦】
紫崎君や晃君のところに誘導
同時に【聞き耳】で海中の異音を聞き分け
兆候を感じたら船の端に誘導
海が爆ぜれば船も揺れる
それを利用して風の【属性攻撃】で傾いた方向にうわばみを吹き飛ばし
海へ落とす狙い
ごめんね!
敵の攻撃は【指定UC】で防御
白いうわばみを結界鏡から召喚しUC返し
お借りしたお酒は後で樽に戻す…?
空気に触れたものは美味しくないのかな
お酒事情はわからないので、ダメそうなら残ったうわばみさんにあげよう
紫崎・宗田
【狼狐兎】
チビが酒の準備をしている間、堺とうわばみ対処
船員は船の舵切るのに専念しとけよ
堺が護りに入るようなら、俺は特攻するぜ
俺は炎の【属性攻撃】使いだからな
炎は利かねぇが…戦場で炎はご法度だろ
特に、酒は可燃物だからな
念のため【火炎耐性】で身を守りつつ自分から炎を扱う事は控え
敵が炎を使ってきた場合に自らの属性攻撃に巻き取る事で
炎を回収するためだけに使用
チビが囮になったら【指定UC】
上昇させた威力から放つ【薙ぎ払い】や風圧での【吹き飛ばし】で
【範囲攻撃】によりうわばみをぶっ飛ばしつつ
飛来物があれば柵蹴りジャンプからのキャッチで
飛来物対処も兼ねてうわばみに投げつけてやる
おらぁ、まとめて帰れ!
堺・晃
【狼狐兎】
紫崎よりも後ろに控えながら
酒の強奪のために船に奇襲をかけるとは
ふふ……まるで海賊ですね
ただ少し運が無かった
猫を被り続けるのもね、疲れるんですよ
だから、発散
付き合ってもらうよ
★人形の髪を操り拘束
★メイデンからの【一斉発射】を駆使して攻撃対処しつつ
急所は狙わない
蛇にも恐怖心はあるのか試したくなってね
いたぶってあげるよ
【指定UC】を発動しながら質問
人間の玩具になるのはどんな気分?
にこやかに問いを投げたところで答えは返る筈無いね、蛇だもの
それなら、僕も納得のしようもないね
残念でした…逃さないよ
澪と紫崎には本性バレてるからね
二人に聞かれるのは気にしないよ
それ以外は爽やか笑顔で敬語対応
●託し託され
「あのー。お酒って、空気に触れたものは美味しくないんでしょうか?」
「ああ、風味は損なわれちますな」
栗花落・澪の唐突な問いに、訊かれた船員は首を傾げながら返す。
「お借りしても、戻せないか……」
その答えを聞いた澪は、しばし視線を彷徨わせて思案した。
それを使ってしまうのは忍びない部分もあるが――やはり他に良い案が浮かばない。
「うわばみ退治にお酒を使わせてください! 使った分は、多分返せないですけど」
「……。わ、わかった! こっちだ!」
澪の真剣な表情に、船員は一瞬逡巡を見せるも船の中へと駆け出していく。
「柴崎君、晃君。しばらくお願い!」
言うが早いか二人の返事を待たずに、澪は船員を追って船の中へと駆け出した。
「お願い、されてしまいましたね」
「チビのやつ、何を思いついたんだか」
澪が船員と船の中に消えていくのを見送っていた堺・晃と紫崎・宗田は、酒の匂いを漂わせる赤い大蛇の群れに向き直る。
「まあいい、やるぞ――堺」
こちらも晃の返事を待たず、うわばみの群れに宗田が飛び出していく。
「おらぁっ」
赤い龍の紋様が入った柄を両手で掴んで、宗田が『剛壊刃~龍~』を振るった。
巨大な刃がうわばみの長い胴体を叩き斬れば、うわばみの血と共に、その体内から流れ出たアルコールの匂いが辺りに漂った。
――チリッ。
その匂いに混じって、宗田が背後に感じる炎が生まれる気配。
「させるかよ!」
振り向きざまに宗田が薙ぎ払った『剛壊刃~龍~』が、うわばみの頭を叩いてその首をぽきりとへし折った。
「俺に炎は利かねぇが……戦場で炎はご法度だろ」
この燧丸の上ではまだ見せていないが、宗田は炎使いでもある。その勘で、うわばみが体内のアルコールを燃やした気配に気づいたのだ。
炎が利かないと悟ったか、宗田を囲むようにうわばみ達が動き出す。
『シャ――!?』
宗田にうわばみの上げかけた威嚇の音が、不自然に途切れた。
「ふふ……」
その長い身体には、いつの間にか伸びていた晃の人形『Mirror Doll』の髪に雁字搦めに巻き付いていた。
「まるで海賊ですね。酒の強奪のために船に奇襲をかけるとは」
数体のうわばみを捕らえた晃は、微かに笑みを浮かべる。
「ただ少し運が無かった」
――嗜虐的な笑みを。
「猫を被り続けるのもね、疲れるんですよ」
晃の口が、ニタリした笑みに変わっていく。
「だから、発散――付き合ってもらうよ」
空間に手を入れてアイアン・メイデン・スキュアを引っ張り出すと、晃はその前面を開いて――その中の棘が『一本だけ』うわばみへ突き刺さった。
「蛇にも痛覚はあるだろうけど、恐怖心はあるのかな?」
棘が刺さった痛みにか、のたうち回るうわばみに、晃は更にもう一本、アイアン・メイデン・スキュアの棘を放つ。急所を避けて。
わざと急所を外す晃の顔には、抑えていた本性が滲み出ていた。
「遊んでんじゃねえ!」
晃がいたぶっている分、宗田が忙しい。
絡みつこうとしてくるうわばみの身体を片手で握って締め上げながら、別なうわばみを足で踏みつけ抑え込んでいる。
「二人とも、お待たせ!」
そこに澪の声が響いて――同時に強い酒の匂いがした。
●三人揃えば――
振り向いた宗田と晃が見たものは、澪の少し前方に浮かぶ大きな水の球。それがただの水でない事は、漂う匂いと、横に転がっている空っぽになった酒樽で判る。
「チビ、お前それ――」
「お酒だって水分だからね」
澪の前に浮かんだそれは、酒の水塊である。
水を操る魔法の応用。酒も水分である事には変わりはない。
「これを囮に――って」
『『シャァァァァッ!』』
蛇の嗅覚は鋭いものだ。匂いで酒だと勘づいたのだろう。
2体のうわばみが、いきなり澪――と言うより酒の塊目掛けて飛び出していた。
「うわわっ!?」
澪は酒の水塊を上昇させながら、自身も咄嗟に跳んでうわばみをやり過ごす。
「……樽一つ分は、囮が大きすぎたかな?」
「いいや、悪くねえ!」
舌をチョロチョロと出したうわばみの視線を幾つも向けられ、思わず少し引いてしまう澪の肩を宗田が軽く叩いた。
そして、宗田は両手で赤い龍の紋様が入った柄を掴み、頭上で回し始めた。
羅刹旋風。
「狙うもんが判ってりゃ、こっちも当てやすいってもんだ!」
回転の勢いを乗せて宗田が振るった巨大な刃は、酒の水塊目掛けて飛び掛かったうわばみを空中でまとめて打ち据え、薙ぎ払う。
遠心力を加えた分、大振りになりがちだが、敵の動きが判るのならば読み易い。
『シャッ!』
「我が指でなぞるは跳ね返すための力……押し通る!」
巨大剣の隙間を縫って飛びかかってきたうわばみに、澪は今度は慌てず片手の指で一筆に虚空に円を描き、結界鏡を作り出す。
うわばみの突進を跳ね返した結界鏡から、真っ白なうわばみが飛び掛かった。
(「澪は紫崎に任せておけば大丈夫か」)
2人の様子を横目で見やる晃の前には、幾重にも伸ばされた『Mirror Doll』の髪に捕縛されたうわばみが増えていた。
「さて、と」
晃は捕らえたうわばみたちに向き直り、にこやかな笑顔で訊ねる。
「人間の玩具になるのはどんな気分?」
――と。
……。……。……。
晃とうわばみの沈黙は、ほんの数秒。
それ以上は要らない。
「答えが返って来る筈無いね、蛇だもの」
最初から、晃に答えを待つ気なんかないのだから。
「それなら、僕も納得のしようもないね――残念でしたぁ!」
再び嗜虐的な笑みに戻った晃の周囲に突如開いた空間の穴から、幾つもの拷問器具が零れ出てきた。
――慚愧の刻。
「逃さないよ。己の罪を存分に悔いるといい」
拷問器具がうわばみに向かっていく。
別に質問の内容は、何でも良かったのだ。
答えが返ってくる筈がない――それが重要だった。答えに晃が満足しない限り消えない拷問器具なのだから。
「柴崎君、来るよ!」
海が爆ぜる音――その兆候を感じ取った澪の声に、宗田が無言で頷く。
直後、ドーンッと水柱が上がって、船が大きく揺れて傾いた。うわばみが、傾いた船の片側に集められる。
「よし――やるぞチビ」
まだ傾いいている船の縁を蹴って、宗田が高く跳び上がった。
同時に澪は、酒の水塊を操って自身から離れた船の端へと追いやる。
うわばみ達はこれ幸いとばかりに、酒の水塊を追って次々と飛び出して行く。
「ごめんね!」
酒の水塊を追ってうわばみ達が跳躍したそこに、澪が風を放った。
「まとめて海に帰れ!」
宗田が爆ぜた海が飛ばされてきた鮫を空中で迎え撃ち、その胴体に『剛壊刃~龍~』を振り下ろした。
澪の風に流されるうわばみ達の上に、鮫を叩き落した格好だ。
鮫と風に押しやられ、うわばみ達がなす術なく海へ落ちて行く。
「ごめんね。せめてお酒は上げるから」
これだけ長時間空気に触れてしまっては、風味に明らかに影響が出る。船員からそう聞いていた澪は、せめて酒だけはと、うわばみが落ちた海に酒の水塊を落とす。
「そっちも終わったみたいだね?」
聞こえた声に2人が振り向けば、うわばみからまき散らされた血とアルコールの中、晃が何処かすっきりした様子で佇んでいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
酒か…
一度前後不覚になるまで飲んで記憶を無くし
後で「大暴れしていた」と聞かされて以来
生涯一滴たりとも呑まぬと誓った酒か…
まあ、俺の都合は良いのだ
嫌な事を思い出させてくれるなという程度で
船がどうしても爆ぜる海で揺れるのだな、船の耐久度が心配だが
此処は心を鬼にして揺れと衝撃を活用させて貰うぞ
予め姿勢を低くしておき「地形の利用」で揺れが来た瞬間
衝撃に乗ってうわばみ目掛けて思い切り「ジャンプ」
うわばみに危険を承知で接近した上で【時計の針は無慈悲に穿つ】
勢いを全部乗せた「捨て身の一撃」で海へと叩き落としてくれる
俺ごと落ちる?他力本願だが誰かが何とかしてくれるような気がしてな
そう易々と海の藻屑にはならぬよ
●克己心を拳に乗せて
「酒か……」
うわばみが咥えて下げている瓢箪。そして既に他の猟兵に倒されたうわばみの身体からも漂う、酒の匂い。
「嫌な事を思い出させてくれる……」
それらは、ニコ・ベルクシュタインを知らずに渋面にさせていた。
以前に酒を呑んだ時の事だ。
尤も――ニコはその時の事を覚えていないのだが。
つまりはそういう事だ。前後不覚になって記憶を無くすほどの深酒をした。
それだけであったなら、まだマシであったと言えよう。同席した人から『大暴れ』していた、と後に聞かされなければ。
故に、ニコは『生涯一滴たりとも酒は呑まぬ』と固く誓ったのだ。
たった一度の過ちでそこまでの誓いになる辺りが、ニコの生真面目さを物語っていると言えよう。
「……まあ、俺の都合は良い」
思い出してしまった過去の過ちを記憶の底に沈めて、ニコはうわばみに向き直り、拳を握って低い姿勢で構える。
「む?」
構えたまま、ニコは内心で首を傾げる。
うわばみとの距離が、何故か少し開いていたのだ。
眼鏡で緩和されるとは言え、ニコは目つきが鋭い方である。そんな彼が、酒の匂いに嫌な過去を思い出させられ、渋面になっていた。
つまり、ニコは普段以上に険しい表情になっていたのだ。
知らず知らずの内に、うわばみにすら近寄り難いと感じさせる程に。
『……?』
『………!』
お前行けよ、いやお前が行けよ。
そんな感じで、ニコの前にいるうわばみたちが顔を見合わせまごついている。
ドーンッ!
そこに、近くで海が爆ぜる音が響いた。
衝撃に船が揺れた直後、船自体がぐらりと傾く。
傾いた甲板の上をズルズル滑ったうわばみたちが、船の縁に集められる。
「そちらから来ないなら――こちらから行くぞ」
それを見たニコは、低く告げて甲板を蹴って飛び出した。
「歯を食い縛り覚悟せよ、此の一撃はかなり痛いぞ」
ルースレス・クロックブレイク。
鍛え上げた拳による超高速の一撃は、まさに時計の針が無慈悲に穿つが如し。
船の傾きと跳躍の勢いを載せたニコの拳は、うわばみが咄嗟に開いた口にある牙をへし折り、喉奥に突き刺さってその骨を打ち砕いた。
衝撃で浮いたうわばみの胴体が、他のうわばみに絡みつく。
「纏めて海へ、叩き落としてくれる」
うわばみ数体分の重さを片腕に感じながら、ニコは再び傾いたままの船を蹴って飛び出し、そのまま拳を振り抜いた。
振り抜いた腕から、うわばみたちの重みが消える。
自身も一緒に落ちる事も厭わぬ捨て身の一撃で、ニコはうわばみ数体をまとめて、船の外へと押しやり、海へ叩き落としてみせたのだ。
その代償は、眼下に見える荒波。
だが――そのままでは海に落ちるしかなかったニコを掬い上げるような形で、傾いていた船が元の態勢へと戻っていた。
捨て身ではあったが、ニコは自分が海の藻屑になるとは思っていなかった。
この燧丸に乗っている猟兵は、1人ではないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
櫟・陽里
へええ?船が揺れたら良いわけだ?ええーなにそれおもしろーい(ニヤニヤ)
燧丸の動きにも慣れたきたとこだ、
ここらで動きの限界を探ってみるのも良いと思うな?
舵をとらせてもらって出来る限りの小回りターン
船体がどこまで倒せるのか?興味あんだよねー
海が爆ぜたらマルチフォームサーキットを発動
爆ぜて発生したエネルギーを利用し水流を変え、海面に渦を作る
何故って、もちろん船をスピンさせるため!
スピンする乗り物ってさぁ……楽しいよな!
(遊園地のコーヒーカップを全力で回しまくる発想)
渦で回るし、他の場所で爆ぜた余波で横揺れも加わるしで超たーのしー!
敵もまあ酒飲んでる場合じゃないだろ
船酔い?いや?俺はしないけど?
●道を選ばず
「へええ?」
つるっと滑ったうわばみが、海の中へと落ちて消えていく。
それを船の高い所――舵輪のある場所から見ていた櫟・陽里は、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「船が揺れたら良いわけだ? そういう事なら――またしばらく舵を任せてくれ」
「あ、ああ……」
何それ面白い――船員から舵を預かった陽里の顔には、そう書いてあった。
「船体がどこまで倒せるのか、興味あんだよねー」
舵を預かってしばらくは、陽里は海の爆発とその衝撃に合わせながら、甲板で戦う他の猟兵にも合わせるように船を傾け、戻していた。
何度か傾ける内に、傾かせるのも慣れてくる。
船の傾きでうわばみを集めたり、捨て身の覚悟で外に飛び出しかけた銀髪の猟兵を船に拾うくらいの操舵が出来るようになってきた。
「よしよし、燧丸の動きにも慣れたきた」
「船を動かして! すぐ近くで爆発しそう!」
慣れてきたと陽里がニマリとした笑みを浮かべた所に、甲板から金蓮花を咲かせた猟兵が海が近くで爆ぜる気配に気づいて声をかけてくる。
だが――それこそが、陽里が待っていたものだった。
「それじゃそろそろ――サーキットを走るとするかぁ!」
突如、燧丸の周りで海が渦を巻き出した。
マルチフォームサーキット。
乗り物のためのコースを召喚する陽里の業が、海が爆ぜたエネルギーを取り込んで水の流れを作り出し、渦へと変えたのだ。
「そおれ、回すぜ!」
ギュルンッ!
燧丸がその巨体ではあり得ない勢いで海の上をスピンした。
陽里がわざと、渦に乗せて船体を回したのだ。
渦こそが、陽里にとっての燧丸のコース。
「スピンする乗り物ってさぁ……楽しいよな!」
遊園地のコーヒーカップ。
陽里はアレを、全力で回しまくるタイプの人間であった。
「―――っ!? っ――!?」
とても楽しそうに舵輪を右へ左へと操る陽里のすぐ横で、控えていた船員は舌を噛まない様に口を押えて、目を白黒させていたりする。
「まだまだ! この船ならもっと回せる! 超たーのしー!」
そんな様子には気付かず、陽里はしばらく船をギュルンギュルン回し続けていた。
そして船が回る度に、うわばみの赤い身体が海へと投げ出されていた。
――船が回り続けていたのは、どれくらいだったか。
「待っ――……頼む、待って。止め……て……」
「お?」
渦が減ってスピンが落ち着いてきたタイミングで、青い顔をした船員が陽里に船を止めるようにと懇願する。
「もしかして――船酔い?」
けろりとした顔色の陽里に、青い顔をした船員が頷く。
何で平気なんだ――とその視線が言っていた。
その頃、誰もいなくなっていた甲板には、また紫の光の中から現れたうわばみが乗り込もうとしていた。戦いは、まだ終わらないようだ。
大成功
🔵🔵🔵
ギヨーム・エペー
相変わらずの天候に酒飲みの蛇が追加か。なら、船に積んでた酒を囮にしたほうが被害は少ない。酒より命だろー?
おれが飲んだと思って諦めてくれ。だからこの酒貰っていくね!
UCをうわばみに直接ぶち当てて外に追いやっていく。甲板に放ってできた水流で隅に追いやったあとに落とすのもいいかもしれないな
炎は大量に熱湯をかけて消す。水蒸気で火元を覆えば酸素が供給されなくなると思う
それと、上から降ってくる物も引き続き対処しないとな!多忙だなー太陽は!次は休んでいいから、まだストライキしないでくれよ?
ワン・シャウレン
やれやれ
酒から心配とは呑気というか呑兵衛というか
まぁ敵もそうなら話は早くもあろうか
船員の心配がいらんのはいいの
思い切りやれるというものじゃ
水霊駆動を起動
酒の近くに構え、高速移動も活用し
近寄るうわばみを流水で流すか、水を槌や壁のようにして押し出すとしよう
爆ぜる海により船が傾けば、その傾斜も利用して叩き出す
一度には叩き出しづらい場合は流水をもって動きを封じてからじゃな
もしその時に爆ぜる海により飛んでくるものがあれば
叩き出しついでにうわばみを投げつけて迎撃してくれよう
ヴィクトル・サリヴァン
海でまで酒追ってくるんだねー。
と言ってもお酒を飲まれるのはたまったものじゃない。
俺の分も飲み干されるなんて論外だし。
そんな訳で酔っ払い達には海に落として頭冷やして貰おうか。
UCで爆発の属性と潮風を合成、いきなり弾ける風で蟒蛇を攻撃。
いや、海だけ爆発するってずるくない?
水の上だって安全地帯じゃないって事を知らしめないと。
あ、できるだけ水平方向に弾けさせて船へのダメージ控えめになる様に。
蟒蛇のアルコールを吹き飛ばす感じでぶつければ攻撃の妨害にもなるだろう。
そして海が弾けて船が揺れた瞬間、バランス崩した蟒蛇に爆発する風をぶつけ船外へと吹き飛ばす!
頭冷やしてきてねー(手ひらひら)
※アドリブ絡み等お任せ
●酒は命の水とも言うけれど
「うう……」
「うぇっぷ……」
「ぐふ……」
燧丸のあちこちから、呻き声が上がっている。
爆ぜる海の衝撃にやられたのではない。その程度の揺れであれば、ベテランと言っていいであろう船員達が、これほどまでにやられはすまい。
「船を……あんなに回せる、なんて」
「海は広いぜ……」
ある猟兵が、ギュルンギュルンと回した船の動きは、エンパイアの船乗り達には未知の衝撃だったようだ。
「よーし、ぐるぐるが納まったな。これが使える」
そんな中、ギヨーム・エペーが船酔いの影響なんかなさそうな足取りで、何か大きなものを抱えて甲板に現れる。
「ほら、新しい酒だぞーっと」
ドンッとギヨームが置いたそれは、酒樽だ。
拳で蓋を叩き割れば、酒の香りが漂い出した。
『『『!!!』』』
紫の光の中から新たに湧いて出たうわばみの群れが、一斉にピーンッと尾を伸ばして反応し、酒樽に首を向けてチロチロと舌を動かし始めた。
尤も、反応したのはうわばみだけではない。
「うう……また酒を使ってしまうのか……」
「俺達の酒が……減る……」
一部の船員達から、酒を惜しむ弱々しい声が上がっていた。
「やれやれ……船に酔っていながらも酒の心配とは。呑気というか呑兵衛というか」
揃いも揃って船酔いで青い顔をしていながらも酒を惜しむ船員達に、ワン・シャウレンが大きな溜息を零す。
まあ、船酔いでまともに動けないので声を上げる以上の事はしてこないのだが。
「酒より命だろー? おれが飲んだと思って諦めてくれ」
「あ、頭では判っちゃ……いるんだ……」
ギヨームの説得に、船員が視線を逸らす。
彼らだって判ってはいるのだ。敵は酒飲みの蛇妖怪。酒を囮にするのが効果的だと。
「大体お主ら、さっき一つ使わせておったではないか」
シャウレンが指さしたのは、既に使われて空のまま転がっている酒樽。その中身は、別の猟兵が中身を操り囮と使ったものだ。
「今更、一つも二つも変わりなかろう」
「いやぁ……それは二つ目だからじゃないかな」
シャウレンが続けた言葉に、ヴィクトル・サリヴァンが口を開いた。
「一つ目の時はそのくらい大丈夫、と思っていたけれど、二つ目となると『この調子で減ったらどうしよう』とか思っちゃったんじゃないかな?」
ヴィクトルの言葉に、声を上げていた船員達がコクコク頷く。
まだまだ残りはあると思っていても、いざ減り出すと惜しく思えてしまう。そういう人間もいる――と言うよりも少なくないだろう。そんなものだ。
「俺だって、俺の分も飲み干されるなんて論外だし!」
パシッとヴィクトルの手が、自身の懐を示すように身体を叩く。そこには常に持ち歩ているテキーラが入っている。
ヴィクトルには猟兵以外にもう一つ、バーのマスターとしての顔もある。本人曰く、そちらの方が本業だそうだ。
「そんな訳で、蛇の酔っ払い達には海に落ちて頭冷やして貰おうか」
「うむ、あのうわばみどもを駆逐せんとな」
「そのためにお酒貰ったんだしねー!」
ヴィクトルの言葉にシャウレンもギヨームも頷いた、その時。
ドーンッと遠くで海が爆ぜる音がした。
●水風精霊乱舞
「さて――舞うとしよう」
淡金の髪を翻し、シャウレンがするりと酒樽の前に出る。
「そうら」
薄い笑みを浮かべ、舞う様に振るったシャウレンの手から水塊がうわばみを撃った。
水霊駆動。
宿した精霊の加護を身に纏い、精霊の力を帯びた水を放つ業。
舞うような軽やかな動きながら、シャウレンが飛ばす水の衝撃は槌が叩いたかと言う程に重く、うわばみを船の縁の方へと追いやっていく。
ドーンッ!
そこに響いた海が爆ぜる音。ほぼ同時に、水柱が船のすぐ近くに上がって、間近で発生した衝撃で、船がぐらっと傾く。
「む――」
シャウレンが丁度放った水の槌が、船が斜めに傾いた事で空を切る。
『――!』
それを好機と見たか、うわばみが斜めに傾いた甲板を滑る様に移動し、そのままシャウレンに飛び掛かった。
「甘いのじゃ」
それを見てもシャウレンは浮かべた薄い笑みを絶やさず、生み出す水の形を変えた。水に決まった形などない。そして、精霊の力を帯びた水は――変幻自在。
「蛇には蛇じゃ」
シャウレンの手から放たれた水流が、うわばみの身体に巻き付き自由を奪う。
「纏めて落ちるがよい」
更にシャウレンは大量の水を一気に放出し、水の壁となって水で封じたうわばみもその後ろのうわばみも、纏めて傾いた甲板から海へと押し流していった。
(「少し似てるなー」)
シャウレンの戦い方に胸中で呟きながら、ギヨームは腰の鞘から刃を抜き放った。
「太陽熱に浸される」
銀で装飾されたレイピア『トゥルヌソル』。
水の精霊を宿した細身の刃が、炎に包まれた。
炎の刃で斬る技か――この現象だけを見れば、そう思う者が多いだろう。
だがギヨームはそこから一歩も動かずに、炎を纏ったトゥルヌソルの切っ先を、天に向かって真っすぐ掲げた。
「頼むぜ――太陽(ソレイユ)」
ギヨームが契約精霊の名を口にした瞬間、炎を纏った刃の切っ先から、圧縮された水が弾丸の様な勢いで放たれる。
先の海面爆発で打ち上げられていた鮫らしい魚影が、ギヨームの水の一撃で海の向こうへと撃ち返される。
「次はあっちだ。多忙だなー太陽は! これ片付いたら休んでいいから、まだストライキしないでくれよ?」
『ジャッ!?』
ギヨームが炎纏う切っ先をうわばみに向けると、猛烈な勢いで放たれた水が、うわばみを吹っ飛ばした。
同時に立ち昇る、白い湯気。
É.D.C.S.――エブイヤンテダンシャルールソレイユ。
ギヨームが放っている水はただの水ではない。水温100度を超える熱湯だ。
通常であれば蒸発している筈の温度の水を撃ち出すと言う、埒外の業。
『ジャッ!?』
高圧高温の熱湯を浴びたうわばみが、その勢いと熱に苦悶し、のたうち回る。
掻い潜ろうにも、熱湯流の表面で気化した湯気が霧の様に広がっていては、とても近寄れるものではない。
『――!』
ならばとうわばみは、体内のアルコールを燃やして炎を生む。
「お? 炎で対抗?」
それに気づいたギヨームは、熱湯を放つ切っ先をうわばみの口に向けた。
うわばみの炎よりも、既に放たれていたギヨームの熱湯の方が――圧倒的に速い。
放たれた熱湯がうわばみの口元を直撃し、立ち昇る湯気の向こうで、放たれようとしていた炎の赤い輝きが消えていく。
「蒸気で火元を覆えば、酸素が供給されなくなるでしょ」
炎が燃え上がるには空気――酸素が必要だ。
ギヨームの放つ熱湯が放つ湯気は、うわばみの口元から広がってうわばみが取り込む空気を断つ役目も果たしていた。
『!?ジャゴボボガボ!?』
尤も――炎が完全に消える前に、うわばみが熱湯に溺れる方が先のようだ。
甲板に漂う湯気に混じって、細い煙も立ち昇っていた。
「――」
ヴィクトルが咥えた、キセル型の携帯香炉から昇る煙だ。漂う微かな香りが、それがお香の類であると判る。
勿論、ヴィクトルはただ香を焚いているのではない。
燻らせた香は魔術触媒だ。空に立ち昇り、風に混ざっていく。
「そろそろ充分かな? ――風よ」
……――パァンッ!
ヴィクトルが空を見上げて呟いた直後、膨れた紙袋を潰した時の破裂音の様な音が響いて、数体のうわばみが突然吹っ飛んだ。
パァンッ! ――パァンッ!
破裂音が響く度に、うわばみが宙を舞う。
「海だけ爆発って、ずるいよね」
それを眺めるヴィクトルの口元には、笑みが浮かんでいる。
「船の上だって安全地帯じゃないって事を、知らしめないと」
うわばみを吹っ飛ばしているのは、風だ。潮風が、爆ぜている。
「爆発の属性と潮風を合成すれば、いきなり弾ける風になるって寸法さ」
ヴィクトルが使ったのは、「属性」と「自然現象」を合成する術――エレメンタル・ファンタジア。
「あまりうわばみに近づかないでくれよ。船にダメージを与えないことしか、制御できていないからね」
巻き込ない保証はないと、他の2人にヴィクトルは告げる。
エレメンタル・ファンタジアは、自然界ではあり得ない現象すらも引き起こせるが、その分、猟兵が扱う中でも制御が難しい部類で知られている。
潮風がいつ爆発するか――それは、もうヴィクトルにも判らない。
だがそれは、うわばみにとっても同じだ。
おそらく何が起きているかもわからずに、無作為に爆ぜる風に翻弄され、衝撃に舞い上げられて吹っ飛ばされて、船の外へと落ちて行く。
船が揺れる瞬間を、待つまでもない。
「頭冷やしてきてねー」
爆ぜた潮風に打ち上げられ放物線を描いて船の外へと飛んでいくうわばみを、ヴィクトルは軽く手を振って見送った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・祭莉
【かんさつにっき】だい!
うわー。なんかにょろカワイイ?
え、おいら別にお酒がなくなっても……(ちら)
悲しむ人がいるの、よくないよね!
わかった、退治しよー♪
ん、ちょっとだけお酒借りるねー?(よっこらしょっと 酒甕を背負い)
ほーらほーら、お酒だよー♪
ほれほれ、こっちこっちー♪(おびき寄せ)
ふわりふわりと空中でだんしーん♪
うわばみーの鼻先で、お酒の匂いを振り撒くゾ♪
あ、うさみん☆も?
ヘイヘイ、だんしーん♪(酒樽曲芸)
おっと、うさみん☆跳ねた!
もつれたうわばみーを、如意な棒でばしっ。
おいらもぴょん♪ 海上へしゅた!
おぉ、噴水だー♪
ハイハイ、悪酔いした人ー?
一緒に、集い鮭の歌を歌おー♪(誤字じゃないよ♪)
木元・杏
【かんさつにっき】
む。蛇。
蛇も美味しくないこともないと聞くけど……あ、沈んだ
お酒美味しい?
でもわたしは呑めない…
なら、あげてもいい気がする!
(ガーネットとシリンを見た)(渡すまいって顔してる)
…お酒、渡さぬ!
【Shall we Dance?】
うさみん☆、まつりんと一緒にダンス
酒樽をくるくる回し、はい、まつりん(酒樽パス)、ターン
残りの酒樽持ったまま船や蛇の体を足場にジャンプ
逃げ足で蛇の周囲を四方八方跳び逃げて、長い首をぐるぐる絡ませさせて?
ん、今
第六感で読んでいた海が爆ぜるタイミング
幅広の大剣にした灯る陽光でべしっと蛇を叩き、間欠泉の爆ぜる中に放り込む
お酒…(匂い嗅いで)(ちょっと変な顔する)
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
赤い大蛇…あれは妖怪うわばみか。
お前たちも宴会に入りたいのか?
だが全部飲まれたら、私たちが困る。
(シリンに目配せ)…うん、あいつらに
酒は渡さない!(口をへの字に結んで)
〈船上戦〉の技能を使い、揺れ動く
甲板でも平衡感覚を保ちながら戦おう。
漁師から釣竿を借りて、その先に
糸で結んだ酒瓶を吊るして、うわばみを誘き出す。
奴の顔の前でぷらぷら動かし、〈フェイント〉で
スッと手繰り寄せて攻撃を誘う。
こちらに迫ってきたのを見計らい、【サイキックブラスト】!
…シリン、もう酔ったかもしれない。
目の前でウサミミを着けたシャケが踊っているんだが…
ごめん、自分でも何言ってるかわからないや…。
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
うわばみ…
シリンとガーネットの方を見
何でもないよと誤魔化す
でっかい蛇がわんさかと
そんなにサケが欲しいなら呼んじゃうからね
桜雨を空に掲げUC発動
鮭さん達を召喚しウサミミを生やす
ふふふふふ、空も飛べるし強くなる
これぞウサミミの力!(ドヤ顔
鮭さん達に火炎耐性な海色オーラ防御と
酒の属性攻撃(徳利)を持たせたら
うさみん☆や祭莉ん達に合わせてダンス、空飛ぶサケの舞い踊り♪
うわばみの周囲をくるくる飛んで
海上に誘導し尾びれでパチン
ざぶーんと海に落としていくよ
これは、鮭の歌?
祭莉んの歌に感動する鮭さん達
ウサミミ揺らして一緒に合唱する姿は…うん、カオスだわ(汗
そうだ写真!後で姫様に見せなきゃね♪
シリン・カービン
【かんさつにっき】
大蛇をちらりと見やり。
「いい度胸ですね。」(少し目が据わってる)
ガーネットと視線を交わし、臨戦態勢に。(ウサミミ装着)
船が揺れると狙いが定まらなくて困ります。
なので。
【ピクシー・シューター】を発動。そのうちの一挺に腰掛け、
ふわりと宙に浮かびます。空なら揺れは関係ありません。
基本的に皆の誘導をお手伝い。
射撃でうわばみの行動をコントロールする他、
猟銃数挺を蛇の下に潜り込ませて船の外に運び出したり、
回転させて銃把で横っ面を引っぱたいたり。
ガーネットの問いに。
…本当ですね、ウサミミ鮭の舞踊りです。
…まあ、なんでもいいじゃないですか、ガーネット。
私?
酔ってません。本当ですよ?(ヒック)
●かんさつにっき――おさけはおとなののみものです
紫の光からは、今だに赤い大蛇がにょろにょろと現れていた。
「うわー。なんかにょろカワイイ?」
器用に船首を伝って船に乗り込んで来るうわばみの姿を、木元・祭莉は興味深そうに眺めている。
「蛇も美味しくないこともないと聞くけど……骨が多いとも聞く」
一方、木元・杏の向ける視線はちょっと冷めていた。
杏にとって食べられるか、食べておいしいか、はかなり重要なポイントなのだ。
ところでこの時、既に燧丸の甲板は海水やら酒やら精霊の水やらで、あちこち水浸しになっていたのだ。それは、うわばみ達がとっかかりとしている船首も例外ではない。
祭莉と杏の目の前で、一匹のうわばみがつるっと滑って落ちて行く。
「あ、落ちた」
「……沈んだ」
そのまま波間に消えたうわばみを見送って、祭莉と杏が思わず顔を見合わせた。
「あ、また勝手に落ちたの?」
片手に持ったスマホの画面を睨んでいた鈍・小太刀は、その音に顔を上げる。
「……蛇の調理方法、出た?」
「唐揚げか、ミンチが多いわね。スープはやめた方が良さそう」
杏の問いに、小太刀はスマホをしまいながら返した。やはり、小太刀にとっても食べられるか、食べておいしいか、は大事なポイントだった。
小太刀のスマホが――この大海原で何に繋がったのか謎ではあるが。そんな事は、現れ続けているうわばみに比べたら些細な事である。
閑話休題。
勝手に海に落ちたうわばみもいるが、大半のうわばみは船に乗り込んできていた。
「あれが妖怪うわばみか」
海風に揺れる赤い髪を抑え、ガーネット・グレイローズがその名を口にする。
「聞きしに勝る酒好きだな。お前たちも宴会に入りたいのか?」
ガーネットが見ているのは、甲板を舌でチロチロと舐めているうわばみ達の姿。どうやってか、水と酒を区別しているようだ。
「嗅覚でしょうか。大したものですね」
称賛を口にしながら、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)の目は――笑っていなかった。
「お酒……美味しいのかな?」
そんなシリンの様子に気づかず、杏はうわばみを見て首を傾げている。
「おいらも良くわかんないなー」
祭莉も同じく、首を傾げる。
二人ともまだお酒を呑める年齢ではないのだから、この反応は無理もない。
だが――。
「だから、別にお酒がなくなっても」
「わたしは呑めない……なら、あげてもいい気がす」
「二人とも、ストップ」
祭莉と杏が続けかけた言葉を、小太刀が手で口を塞いで遮った。
「……あれを見て」
小太刀が小声で二人に告げて、視線で示したのは大人組の二人。
「零れた酒で我慢してればいいものを……いい度胸ですね」
――何と言うか、シリンの目が据わっていた。
既に精霊猟銃を構えて、頭には(誰も何も言っていないのに)ウサミミを装着している本気っぷりである。
「ああ。全部飲まれたら、私たちが困る」
シリンがちらりと視線を向ければ、ガーネットも口をへの字に真顔で頷いた。
「あいつらに酒は渡さない!」
ウサミミにツッコミも入れないどころか、こちらも目が本気である。
かんさつにっきのうわば――もとい、酒呑み二人が、燃えていた。
「「小太刀?」」
「何でもないわよ!」
視線に気づいたシリンとガーネットに、小太刀は幼馴染二人の口を押えていた手を離しながら笑って誤魔化した。
「ね?」
「……お酒、渡さぬ!」
「悲しむ人がいるの、よくないよね! 退治しよー♪」
小太刀が振り向いて同意を求めれば、杏と祭莉も空気を読んで、キリッとした顔をうわばみに向ける。
うわばみめ、かくごしろー!
●この出番になったのは大人組の酒が抜けるの待ってたからかもしれない
「この釣り竿、使わせて貰うぞ」
ガーネットが構えたのは、船内の倉庫で見つけた竹の釣り竿である。
竿の先に通常ならある筈の釣り針はなく、代わりに通い徳利と呼ばれる類のものがぶら下がっていた。勿論、酒入りである。
「そら、酒だぞ!」
ガーネットは竹竿を振りながら、徳利を手から放した。ブンッと勢い良く飛んでった徳利が、うわばみの鼻先を通り過ぎる。
ガーネットは竹竿を操り徳利を振れば、ちゃぷんっと酒が揺れて音が鳴った。
『――!!!』
うわばみの目が、徳利を追って右へ、左へ。
――ドーンッ!
遠くで海が爆ぜる音がして、船がグラリと揺れた。
船の上での戦いに慣れているガーネットは、船がグラリと揺れても自分も竹竿も微動だにせず、むしろ揺れに合わせて徳利を振るう。
「ほらほら、こっちだぞ」
船上での戦いに慣れた重心の取り方は見事なものだ。
だが惜しむらくは――ガーネット、釣りはすごい上手と言う程でもなかった。
「あ」
次第にガーネットの竿捌きに慣れたうわばみが、徳利に食らいつく。
――タァーンッ!
甲高い銃声。
徳利に食らいついたうわばみが、喉を撃たれて吹っ飛ばされる。
シリンが構えた精霊猟銃の銃口から、硝煙が昇っていた。
「船が揺れると、狙いが定まらなくて困りますね」
シリンにしては狙いを合わせるのに時間がかかったのは、慣れた森の環境ではなくここが海の上だからだろう。海が爆ぜなくても僅かに揺れる船の上は、中々勝手が違う。
「ならば――羽根妖精よ、私に続け」
シリンは精霊猟銃の引き金から指を離すと、真上に放り投げる。
ふわりと浮かんだ精霊猟銃が――増えた。
ピクシー・シューター。
羽根妖精の力で複製された精霊猟銃の一つを掴んで引き寄せると、シリンはその上にひょいっと腰掛ける。
そのままシリンを載せて、精霊猟銃はふわりと浮かびあがった。
「空中なら揺れは関係ありません」
何も高く飛ぶ必要はない。要は船の揺れから、自身を切り離せればいいのだ。
(「まだ少し視界が揺れ――気のせいですね」)
それでも揺れている気がする視界を気のせいで片づけて、シリンは六十七丁の銃口をうわばみの群れに向けた。
「いきますよ、ガーネット」
「ああ、頼んだぞシリン」
ガーネットが徳利釣り竿でうわばみの気を引き、シリンが精霊猟銃で徳利を守りつつ、うわばみを一塊に押し込めていく。
「よし、今だ!」
それをしばらく繰り返したところで、ガーネットが釣り竿を大きく振るった。
うわばみの真ん中に、徳利を投げ落とし――竿を掴んだままのガーネットの両手から、激しい雷光が放たれた。
サイキックブラストによる高圧電流が、一瞬で竹竿を真っ黒に炭化させた。ガーネットはそのまま、両掌から電流を流し続ける。
竹はそのままでは電気をほとんど通さない――だが、炭化させれば別だ。炭となった竿から釣り糸を伝って、高圧電流がうわばみ達を感電させる。
「羽根妖精よ、落としなさい」
痺れて動けなくなったうわばみを、シリンは精霊猟銃を箸の様に使って摘まみ上げて、海へぽいぽい投げ捨てていった。
●うさみみダンシング――別名、まつりんがんばれ
さて、大人組が容赦なく頑張っていた頃。
「小太刀、このくらい?」
「もうちょっと入るんじゃない?」
幼馴染な若者組は、樽から甕に酒を移していた。
樽そのままよりは抵抗がないのか、船員達からも惜しそうな顔をするものはいても、特に異論は上がらない。
「ん、ちょっとだけお酒借りるねー?」
それでも彼らに笑いかけ、祭莉は縄で固定した甕をひょいと背負――。
ずしっ。
大樽よりは軽い筈だが、杏と小太刀がなみなみとお酒を移した甕は結構、重い。
「……」
背中に加わった重さに、祭莉の顔が一瞬、笑顔のまま固まる。
「まつりん、がんばれ」
何となく察した杏が、肩を叩いて一言。
「最近、おいら頑張ってるよね!」
気を取り直した祭莉はにぱっと笑って、うわばみ目掛けて駆け出した。
「ほーらほーら、お酒だよー♪」
ちゃぷちゃぷと酒の揺れる音を立てながら、祭莉はうわばみの間を跳ねまわる。
「ほれほれ、こっちこっちー♪」
ぴょんと跳んで、ふわりと降りて――またすぐに、ぴょん、ふわり。それだけ激しく動けば、甕から酒が少しずつ漏れ出していた。
ぴちょん、と酒の雫が甕から零れ落ちる。
「おおっと」
飛び跳ねる祭莉を追って、うわばみがあちこちで首を伸ばす。
「音楽スタート?」
祭莉(の背負った酒)に釣られるうわばみの姿を見ながら杏がぽつりと呟くと、うさみん☆がふわりと軽やかなステップ踏んで舞うように飛び出した。
「うさみん☆、まつりんと一緒に酒樽ダンス」
ぷろでゅーさー杏の指示で、うさみん☆が空っぽの樽(まだちょっと中身残ってる)を拾って――樽を抱えたままうわばみを飛び越える。
「あ、うさみん☆も?」
そして、跳ね回る祭莉の踊りにうさみん☆が加わった。
「ヘイヘイ、だんしーん♪」
「Shall We Dance?」
曲芸の様に跳ね回る、祭莉とうさみん☆。
杏は何も、うさみん☆で遊んでいるわけではない。そのダンスは、うさみん☆の踊りを楽しまない者の動きを遅くする踊りの業。
祭莉とうさみん☆の周りのうわばみの動きが、次第にゆっくりになっていた。
動きが遅くなった事にも気づかず酒を狙う、うわばみの群れ。
「そんなにサケが欲しいなら呼んであげるわ!」
そこに高らかに告げて、小太刀は黒漆の玉手箱を掲げた。
箱の名――『桜雨』を表すかの様な螺鈿細工の桜吹雪が輝いて、開いた箱から光が空に伸びていく。天を衝くかと思われた光は、空で爆ぜて海に降り注いだ。
ザバァッ!
光が降った海から、何かが飛び出す。そのままぐんぐんと、空中を泳いで燧丸に近づいてくる赤い姿。
鮭だ。酒ではなく鮭だ。同音異義語だが、よくある変換ミスではない。
と言うか、ただの鮭ではない。鮭ならば決してないものが頭に生えている。
「……シリン。シャケがウサミミを着けてるんだが」
「……本当ですね、ウサミミ鮭です」
ガーネットとシリンが、真っ白もふもふなウサミミ生えてる鮭に目を丸くする。
「ふふふふふ、空も飛べるし強くなる! これぞウサミミの力!」
玉手箱を掲げたまま、小太刀はそれはそれは自信たっぷりなドヤ顔をしていた。
「更にこんなことも出来るのよ。鮭さん、整列!」
片手を挙げた小太刀の前に、ずらりと並ぶウサミミ鮭。
(「……イルカ?」)
「はい、皆これ持って」
内心首を傾げるガーネットに気づかず、小太刀はウサミミ鮭に徳利を配って回りながら青い海色のオーラを纏わせる。
「これで酒属性攻撃、出来るでしょう」
「成程。酒は属性……」
ウサミミ鮭に小太刀が告げた言葉に、シリンが何か頷いている。
「それじゃ、祭莉んとうさみん☆に合わせて――空飛ぶサケの舞い踊りよ♪」
そして小太刀は、ウサミミ鮭にも踊れと告げた。
無茶振り? いやいや。
うわばみのいる一帯は、既に杏の術中。うさみん☆に合わせて楽しまなければ、ウサミミ鮭でもスローリーィになるのは免れない。
「酒樽をくるくる、そしてターン。はい、まつりん」
「お酒の匂いを振り撒くゾ♪」
杏の指示で、酒樽が飛び交う。
酒樽に跳び乗り回して投げ、酒樽曲芸じみた動きで踊る祭莉とうさみん☆の周囲で、ウサミミ鮭がびちびちと、ウサミミと尻尾を揺らして飛び跳ねる。
「ウサミミなシャケが踊っている? ……自分でも何言ってるかわからないや」
「ウサミミ鮭の舞踊りですね。……まあ、なんでもいいじゃないですか、ガーネット」
何ともカオスな光景に、ガーネットとシリンは援護も忘れて見入っていた。
「まつりん、今」
第六感で何かに気づいて、杏が合図を送る。
「おっけー、アンちゃん」
答えた祭莉が背負った酒甕を放り投げ、酒樽捨てたうさみん☆と同時にうわばみの頭を踏みつけて、うわばみの群れを飛び越えていく。
うわばみの輪の外で、光が生まれて白銀の花弁が舞う。
灯る陽光――自在な形を取る白銀の光剣を、杏は幅の広い剣に変えた。
祭莉も空中で身を翻しながら、如意な棒を捻ってぐいっと伸ばす。
「これで、フィナーレ」
「おっちろー」
刃を立てて鎬をぶつける様に、杏と祭莉が左右から振るった灯る陽光と如意な棒が、ほとんど一塊になっていたうわばみをまとめて吹っ飛ばす。
「鮭さん!」
小太刀の声で、ウサミミ鮭の群れが2人が打ち漏らしたうわばみを尾鰭でぺちんと叩いて、海へ殴り飛ばしていく。
そこに――ドーンッと爆ぜた海が、うわばみをまとめて空の彼方に吹っ飛ばした。
●歌え、鮭の歌
ようやく、紫の光からのうわばみの出現が止まった。
そうなると、半端に酒が余った酒樽が残されていた。
「お酒……」
あれだけうわばみが執着を見せたお酒に興味が湧いたのか、杏が酒樽を覗き込んで、すぅっと息を吸い込み匂いを嗅いでみる。
「……~~」
樽から顔を上げた杏の表情は、ちょっと変な顔になっていた。
「ハイハイ、船酔いした人、悪酔いした人ー?」
そこに祭莉が、自らも手を挙げて声を挙げる。
揃って手を挙げたのは、まだ青い顔の船員達だけだった。
「一緒に、集い鮭の歌を歌おー♪」
鮭の歌?
酒ではなく?
「うん、鮭」
祭莉は蓋をした空樽の上にひょいと飛び乗ると、くるりと回って歌い出す。
「集い鮭 うさみみ被りて 爆ぜる海 お船揺れる」
確かにこれは――鮭の歌だ。
そして鮭の歌に最も早く反応したのは、何と小太刀のウサミミ鮭だった。
『………♪(パクパクパク)』
バックコーラスよろしく祭莉の背後に並んで、一緒に歌っている様にウサミミ揺らしながら、口をパクパク開閉している。
「……うん、カオスだわ」
鮭にウサミミ生やした張本人である小太刀をして、この光景をカオス以外に何と言っていいか言葉が見つからない。
「今度はウサミミなシャケが歌う? シリン、もう酔ったかもしれない」
「私? 酔ってません。本当ですよ?」
目を疑うガーネットの横で、シリンがヒックと酔ったしゃっくりをしていた。
二人の足元に、空になった徳利なんて転がってたりはするが――どっかから転がって来た可能性もあるじゃないか。
「勝手にアンコール、いってみよー!」
『………♪♪(パクパクパク)』
「そうだ写真! 後で姫様に見せなきゃね♪ あ、ガーネット。動画も取りたいから、メカたまこ貸して!」
乗ってきた祭莉と鮭達を記録に残そうと思い立ち、小太刀が慌ただしく動きだす。
その後ろで――どうやらお酒がお気に召さなかったらしい杏が、口直しに鯨肉もぐもぐしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『蒼海の泡姫』水魚』
|
POW : 殺気瓶瓶
【強く握りしめたボトル】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 回転打尾
【高速回転を行いながら尾びれ】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : 酒泡発射
【コルクを抜いたボトル】から【滝のごとき勢いの放水】を放ち、【特殊な成分でほんわかした気分にさせる】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:つばさ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「海神・優命」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●うわばみ去って、またうわばみ
ザザーンッ、ザザーンッ、ドーンッ!
寄せては返す波の音――に混ざる海が爆ぜる音。
いつまで続くんだコレ。
そろそろそんな空気が燧丸の中に漂い出した中、船の舳先から伸び続けていた紫の光の先に海の上に浮かぶ紫色の光の球体が見えてきた。
近付くにつれて、それが巨大な光球であるのが判る。
そのまま、この鉄甲船も入れそうな――。
「あらぁ?」
だが船が光球に届く前に、光の中から女性の声が聞こえた。
「あらあらあらぁ?」
ぬっと突き出て来たのは、束ねた海の様に青い髪を持つ女性。
だが、人間でないのは、薄青いドレスから覗いている下半身を見れば明らかだった。
足の代わりに、深い海の様に濃い青の魚の尾鰭が生えている。良く見れば、耳や腕にも魚のヒレの様なものになっていたり生えていたりした。
「人魚――」
船員の誰かがぽつりと呟いた言葉が、まさにピッタリである。
小脇に抱えた、清酒の一升瓶がなければ、だが。
「フフフ。私ね、水魚(みお)。あのね、私ね、お酒に目がないの」
うん。見れば大体わかるし、喋ると声と一緒に、仄かに酒の匂いが漂って来る。頬や露出した肩が仄かに赤い辺り、さては既に酔っているなこの人魚。
「このお酒と蛇の混じった匂い。さっきまで、蛇のうわばみちゃんがいたでしょう?」
謎の嗅覚で酒の匂いに気づく水魚。
何だろう――人魚って、こういうもんだっけ?
「それに――それだけじゃないわね。この船、まだ他にもお酒を積んでるんじゃないかしら? ねえ、そうでしょう?」
すっと水魚の目が細められる。
「出しなさい! お酒! ぜぇ~んぶ!」
――間違いない。またうわばみの類だ、これ。
「お酒置いて帰るなら、見逃してあ・げ・る。でも、お酒出さないって言うなら――この船、沈めちゃうわよ?」
それに何より。猟兵達は、はっきりと感じていた。目の前の人魚もまた、オブリビオンであると。
「あら? やる気なのね? それでもいいわよ?」
紫色の巨大光球を調べるには、水魚を倒すしかなさそうだ。
==================================
3章となりました。
ボス戦です。敵は麗しの物の怪四天王の一人、人魚の水魚(みお)。
今回もまだ爆ぜる海の上です。たまにどーんっと爆ぜて、船が揺れたり海産物降ってきたりしてます。と言う以外は、シンプルなボス戦です。
水魚は、海に落っこちても這い上がってきます。
水魚も船員<<<<お酒なので、船員を直接攻撃はしません。
勝利条件は『水魚の討伐』です。
プレイングは3/31(火)8:30~でお願いします。
締め切りは、今回も別途告知になります。最初に届いた方の締め切りに合わせる事が多いので、最短でも4/3(金)くらいまでは大丈夫かと思います。
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●うわばみ去って、またうわばみ
ザザーンッ、ザザーンッ、ドーンッ!
寄せては返す波の音――に混ざる海が爆ぜる音。
いつまで続くんだコレ。
そろそろそんな空気が燧丸の中に漂い出した中、船の舳先から伸び続けていた紫の光の先に海の上に浮かぶ紫色の光の球体が見えてきた。
近付くにつれて、それが巨大な光球であるのが判る。
そのまま、この鉄甲船も入れそうな――。
「あらぁ?」
だが船が光球に届く前に、光の中から女性の声が聞こえた。
「あらあらあらぁ?」
ぬっと突き出て来たのは、束ねた海の様に青い髪を持つ女性。
だが、人間でないのは、薄青いドレスから覗いている下半身を見れば明らかだった。
足の代わりに、深い海の様に濃い青の魚の尾鰭が生えている。良く見れば、耳や腕にも魚のヒレの様なものになっていたり生えていたりした。
「人魚――」
船員の誰かがぽつりと呟いた言葉が、まさにピッタリである。
小脇に抱えた、清酒の一升瓶がなければ、だが。
「フフフ。私ね、水魚(みお)。あのね、私ね、お酒に目がないの」
うん。見れば大体わかるし、喋ると声と一緒に、仄かに酒の匂いが漂って来る。頬や露出した肩が仄かに赤い辺り、さては既に酔っているなこの人魚。
「このお酒と蛇の混じった匂い。さっきまで、蛇のうわばみちゃんがいたでしょう?」
謎の嗅覚で酒の匂いに気づく水魚。
何だろう――人魚って、こういうもんだっけ?
「それに――それだけじゃないわね。この船、まだ他にもお酒を積んでるんじゃないかしら? ねえ、そうでしょう?」
すっと水魚の目が細められる。
「出しなさい! お酒! ぜぇ~んぶ!」
――間違いない。またうわばみの類だ、これ。
「お酒置いて帰るなら、見逃してあ・げ・る。でも、お酒出さないって言うなら――この船、沈めちゃうわよ?」
それに何より。猟兵達は、はっきりと感じていた。目の前の人魚もまた、オブリビオンであると。
「あら? やる気なのね? それでもいいわよ?」
紫色の巨大光球を調べるには、水魚を倒すしかなさそうだ。
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3章となりました。
ボス戦です。敵は麗しの物の怪四天王の一人、人魚の水魚(みお)。
今回もまだ爆ぜる海の上です。たまにどーんっと爆ぜて、船が揺れたり海産物降ってきたりしてます。と言う以外は、シンプルなボス戦です。
水魚は、海に落っこちても這い上がってきます。
水魚も船員<<<<お酒なので、船員を直接攻撃はしません。
勝利条件は『水魚の討伐』です。
プレイングは3/31(火)8:30~でお願いします。
締め切りは、今回も別途告知になります。最初に届いた方の締め切りに合わせる事が多いので、最短でも4/3(金)くらいまでは大丈夫かと思います。
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小夜啼・ルイ
ユエ(f01199)と
待てユエ、食う気なのか
ちーっとばかし不穏な気配を感じたケド、食わないなら良しとする
(まさか、ユエは論理的に整合性取れて食えるって判断したら食うタイプなんじゃ…)
おいコラ折角拾い集めたのにまた落とすのか
…酔いどれは酒酒うるせぇ!
【Mors certa,Vitae incerta】で冷気を放って身動きを取り辛くして、氷柱飛ばすか
動き回るな。ユエが落とした道具拾いづらくなるだろうが(一応拾う心算)
氷柱は酒瓶を狙って飛ばす
酒を捨てるか、自分の身体を捨てるかのどっちかだぞ
はーあ、酒ってそんなに美味いモンなのかね…
オレは二十歳にならなきゃ飲む気はねぇよ
煙草は成分が身体に悪いから論外
鈴・月華
ルイ(f18236)と
人魚…食べると不老不死になるって言うけれど…
いや、食べないよ?だって永遠は辛いから
けれど、500年くらいだったら生きてもいいかもね
私の服は重いから、船が沈むと凄く困る
どさーってまた暗器落として、【繊月】の前準備
ごめんルイ、後で集めるから今は見逃して
ルイが水魚の動きを鈍らせて氷柱を放ったら、大鎌をしっかり握って…船外へと殴り飛ばしに行く
大鎌の用途は斬るだけじゃないよ?
お酒が大好きみたいだし、持ってるお酒を狙えば意地でも守ろうとするかな?
まぁ、お酒を守ろうとしてもしなくても、殴るんだけど
へぇ。ルイは二十歳になったらお酒を飲む気はあるんだ
それならば、煙草は吸う気はあるの?
●比丘尼ではない
『あらあら。素直にお酒は貰えなさそうね』
燧丸の上から向けられる敵意に、人魚・水魚は困った様に首を傾げて――。
『それじゃあ、まず景気づけね』
言うなり、ポンッと酒瓶の栓が抜ける音が響いた。
『うふふ』
水魚が空いている手で糸を引くように指を引けば、抱えた酒瓶から酒が吸い寄せられるように出て来て、周囲に浮かぶ水の泡に注がれた。
「……おい。酒を出せと言いながら、勝手に飲み始めたぞ」
水を器に酒を呑む水魚に、小夜啼・ルイが呆れた声を上げる。
聞こえていないわけでは無かろうが、水魚はそんな声を気にした風もなく、コクンと美味しそうに喉を鳴らして呑み続ける。
「はーあ、酒ってそんなに美味いモンなのかね……」
「へぇ。ルイはお酒を飲む気はあるんだ?」
眉間を寄せてため息交じりに呟くルイに、鈴・月華が少し意外そうに視線を向ける。
「機会がありゃな。二十歳にならなきゃ飲む気はねぇけど」
「何だ。そう遠くないじゃあないか」
ルイが口にした年齢の条件に届くまで、あと二ヶ月を切っている。
「それならば、煙草は吸う気はあるの?」
「そっちは論外。成分が身体に悪い」
月華が続けて訊ねた嗜好品に、ルイはきっぱりと首を横に振る。病弱だったのは昔の事はあるが、だからこそ――と言うのもあったかもしれない。
「身体に悪いかぁ……」
ルイの言葉を月華が反芻した時、『ぷはぁっ』と水魚が景気づけを呑み終えた。
『ぷはぁっ』
「人魚を食べると不老不死になるって言うけれど……君もその類かい?」
酒気の香る吐息を吐いた水魚を見上げ、月華が問いかける。
月華の脳裏に浮かんでいたのは、幾つかの世界にある人魚の伝説の類。曰く、人魚の肉が不老不死の妙薬になるとか、そういう類のものだ。
「待てユエ」
当の水魚が何か言うより早く、ルイが声を上げる。
「まさか食う気なのか」
「いや、食べないよ?」
訝しむ視線を向けてくるルイに、月華はさらりと返した。
「きっと永遠は辛いからね。500年くらいだったら、生きてもいいかもだけれど」
死なず、老いず、永遠に生きる。それが自分だけであるのならば、別れを何度も繰り返すと言う事にもなる。
「そっか……ま、食わないなら良しとする」
どこか寂し気に微笑む月華の答えに、ルイも取り敢えず納得して頷く。
(「ちーっとばかし不穏な気もするが。ユエは論理的に整合性取れて食えるって判断したら食うタイプなんじゃ……」)
不老不死の伝説とか関係なく、普通に食べられそうな魚類系だったりしたら――。
『ふふふ。不死はともかく不老よ? お酒は百薬の長って――』
「酔いどれは黙ってろ」
胸中でそんなことを考えてしまっている所に降ってきた水魚の声にルイの声色は、ひどく冷たかった。
●酒と月と氷と
『兎に角、お酒出しなさい? 船、沈んじゃったら困るんじゃないかしら?』
「ああ、それは凄く困るね」
脅している様に聞こえない響きの水魚の声に、月華が返す。
「私の服は重いから」
「おいコラ」
広がった袖から、どさどさっと暗器や毒薬を足元に捨てる月華に、ルイがじとっと睨むような視線を向ける。
「折角拾い集めたのに、また落とすのか」
愚痴る様に言いながらも、ルイはそれらが散らばらない様、氷で囲いを造った。
厳密に言えば重いのは月華のドレスではない。どうやって持っているんだと言いたくなるくらい、袖の中に隠している様々な道具の重さだ。
そしてそれらは――月華が速さを求める上では、枷となる。
「ごめんルイ、後で集めるから今は見逃して」
言うが早いか、月華は返事を待たず、白銀の大鎌『鈴華』だけを構え、甲板を蹴って水魚の方へと駆け出した。
『あらあらあら。当たったら痛そうね』
その速度と大鎌の刃に目を丸くして、水魚は滑る様に後ろに退がる。
「意外と速いね――仕方ない」
空中でも泳ぐように動く水魚を見て、月華は袖の中から手帳以外の全てを捨てる。
「捨てるなら全部一ヶ所に捨てやがれ!」
背中に聞こえたルイの抗議の声は、黙殺。
『っ、まだ速くなっ――』
水魚が驚く間に、月華は『鈴華』の届く間合いに捉えていた。
月華が斬りかかった瞬間、水魚が空中でぐるんっと回転する。青い尾鰭が弧を描き、月華の大鎌とぶつかり甲高い音を立てた。
「――っ」
『痛ぁいっ』
大鎌と尾鰭が互いに弾かれ、月華も水魚も態勢が崩れる。
月華は甲板に伏せる様にして堪える一方、水魚は尾鰭を弾かれた衝撃にぐるぐる回りながら、後ろに吹っ飛んでいた。
衝撃に逆らわず勢いに任せることで、敢えて距離を取った。
直線的な速さならば月華に分があるが、動きの滑らかさと言う点では、空中でも泳ぐ様に動ける自分の方が有利――そう水魚は思っていた。
『フフフ、これだけ距離が開けば――っ!?』
だが、その笑みが文字通り凍り付く。
――いつの間にか、水魚の周囲は空気が冷たくなっていた。
「動き回るな、酔いどれ」
月華の後方でルイが広げた掌から、冷気が放たれていた。
「ユエが落とした道具拾いづらくなるだろうが」
冷たさを増した声で愚痴りながら、ルイは放つ冷気を強めていく。水魚の周囲で空気中の水が凍って輝き、その青い鰭の鱗に霜が降りていく。
『くっ――』
思う様に動けなくなった水魚は、抱えた酒瓶を見つめて指先だけ動かした。
景気づけに呑んだ時の様に、酒を外に出そうと言うのだろう。度数にもよるが、アルコールの氷結温度は水よりも遥かに低い。融雪に酒を使う地もあると言う。
だが――水魚は知らなかった。
ルイが放つ冷気は、うわばみの炎すら凍らせる絶対零度だと。
「無駄だ」
ルイが短く告げた通り、酒すら冷気で凍り付く。
それを眺めながら、ルイは反対の手を掲げて指先に冷気を集めだした。
――Mors certa,Vitae incerta。
絶対零度の冷気にして敵を封じた上に、氷柱にて穿つ業。
「酒を捨てるか、自分の身体を捨てるかのどっちかだぞ」
『あらあら。迷う事はないわね』
酒か身体か。ルイに突き付けられた選択に、水魚は迷わず答えを出した。片手を犠牲に氷柱を受け止める、と言う形で。
「お酒を狙えば意地でも守るかと思ったけど――そこまでするかい!」
――チリーン。
小さく鳴り響く鈴の音。
飛び掛かる月華が両手でしっかりと『鈴華』を構えているのを見た水魚は、片手が凍るのも厭わずに氷柱から守った酒瓶で受け止めようと身構える。
『凍っちゃうのは困るから守ったけど――この酒瓶、すごい硬いのよ?』
「大鎌の用途は斬るだけじゃないよ?」
振り下ろす直前、月華は掌中で『鈴華』の柄を回す。大鎌で斬るのではなく、反対の短い刃が酒瓶を叩いて、殴り飛ばした。
『く――』
想定外の攻撃に船の外に吹っ飛ばされた水魚の悲鳴は、ドボンッと言う海に落ちた音にかき消された。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
栗花落・澪
【狼狐兎】
またお酒…
大人ってわかんないなぁ
翼だけでなく、★Venti Alaに風魔法を宿す事での【空中戦】
万一液体浴びせかけられても
羽ばたきによる風起こしと風魔法で吹き飛ばせるように
一応【オーラ防御】も重ね掛けしておこう
…前に義姉が飲んでたカクテルの匂いだけで酔った事あるし…(激弱
まぁでもいざとなったら紫崎君も晃君も頼りになるからね
水魚さんの周りをちょろちょろしながら【誘惑】を乗せた【催眠歌唱】で気を引き
敵の攻撃を引き出してから【指定UC】
メロディラインを実体化させた譜面のロープを高速回転する水魚さんに巻き付け
楽しそうだからお手伝いしてあげる
はーい逆かいてーん(引っ張りぐるぐる
もういっかーい
紫崎・宗田
【狼狐兎】
酒好きの気持ちも否定はしねぇがな
ちっとは酔い覚ましに運動も必要だろ
手伝ってやるよ
炎は控えてたが、状況を利用すりゃいけるかもしれねぇ
★破殲を使用し接近戦による【薙ぎ払い】や
武器を振り回す際に【怪力】によって発生する【衝撃派】で
遠距離からの斬撃、【吹き飛ばし】で攻撃
常に自分に有利な距離感は崩さねぇ
特にUC発動の兆候が見えればな
だが…傷を負う事は厭わねぇよ
爆ぜる海…その際に飛んでくるのは障害物だけじゃねぇ
水もまた然りだろ
もし波でも来てくれりゃ利用
自身が水を被る瞬間に炎の【属性攻撃】と【指定UC】
直接燃やせなくとも…俺の炎で水を熱してやる事で熱湯へ
そのまま水魚にぶつけてやる
魚も熱には弱ェだろ
堺・晃
【狼狐兎】
魅力が色々あるんでしょう、お酒には
僕は嫌いだけどね
僕の過去をぶち壊した一因でもあるから
見境の無い相手なら特に
そうですね…うわばみ達を殺った時に被った血
お酒のにおいも混じっていたようですし
囮にはなれますかね
★龍狼剣を使用し【暗殺】の要領で素早く接近
死角を突いては鋭い【薙ぎ払い】や
そのまま仕掛けると見せかけ【フェイント】で他所を狙う等
【戦闘知識】を生かして翻弄
ついでに瓶の【略奪】狙い
澪君が仕掛けたら退き
【指定UC】で仕掛けましょう
質問は「お酒の何がそんなに好きなのか」
存分に語らせてあげますよ
おや、誰が解放すると言いました?
僕言いましたよね
酒は嫌いだ
嫌いな話聞かされて満足するわけないでしょ
●炎、解放
『フフフ……やってくれたわね』
海の中から顔を出した水魚が、海面にふわりと浮き上がる。
海に叩き落された事は気にしていないようだが、その片腕はまだ氷に覆われていた。
『あらあら。こっちはしばらく、使い物にならないわね』
満足に動かせない腕に、水魚は溜息交じりに零す。
『まあいいわ、お酒は呑めるから』
言って、水魚はまたお酒を飲み始めた。船から叩き出されたと言う嫌な事は、酒を呑んで忘れてしまおうとでも言うかの様に。
「お酒飲めればいいって……大人ってわかんないなぁ」
また呑み出した水魚の様子を船の上から眺め、栗花落・澪が胸中で首を捻る。
「魅力が色々あるんでしょう、お酒には」
その隣で口を開いた堺・晃は、あくまで穏やかな笑顔を浮かべていた。お酒にも理解があるような、紳士的な物言いと表情ではある。
「――僕は嫌いだけどね」
笑顔を崩さずにさらりと吐いた毒と、先のうわばみで色々と『発散』した返り血がそのままな辺りに、本性が滲み出ている。
「二人とも、ちっと下がってろ」
紫崎・宗田が、船の縁に足をかけて二人よりも身を乗り出した。
(「炎は控えてたが――この状況と距離ならいけるかもしれねぇ」)
宗田が肩に担ぐように構えているのは、凶悪な程に巨大な斧――『破殲』。
常人なら持ち上げる事すら難しいであろう『破殲』を、宗田は船の縁に足をかけたままと言う不安定な態勢で振り上げる。
その漆黒の刃に刻まれた狼の紋様は赤く輝き、刃が炎に包まれた。
「らぁっ!」
宗田が振り下ろした斧の軌跡が炎を纏った衝撃波となって、水魚へ飛んでいく。
『あらあら? 危ないじゃない?』
「さっきから呑みっぱなしで、ちっとは酔い覚ましに運動も必要だろうと思ってな」
慌てて飛び退いた水魚の抗議の声に、宗田は『破殲』を構え直しながら返す。
「手伝ってやるよ」
『二、三杯で酔う程、弱くないわよ』
パシャンッと尾鰭で海面を叩く音を響かせ、水魚は宗田が放つ炎の刃をひらりひらりと躱してみせる。
その動き、まさに腐っても人魚と言えよう。
「んー……ちょっと行ってくる!」
水魚のそんな動きを見ていた澪は、言うが早いか船から飛び出した。
●その歌声はセイレーンが如く
「おいこらチビ! 無茶すんじゃねぇぞ!」
「大丈夫ー! 気を付けるから!」
止める間もなく飛び出され思わず口調がきつくなった宗田に、澪が海へ落ちていきながら手を振って応える。
海へ落ちる前に、澪の背中と足元から白い翼が広がった。
『Venti Ala』――澪の足を彩るその靴は、風の力で翼を生やす。
「もっと楽しい事、教えてあげる。世界に溢れる鮮やかな音!」
風の魔力を纏った四枚の翼を広げた澪は、全身に護りのオーラを纏いながら、海の上にふわりと舞い降りる。
「――♪ ~~♪」
『あらあら。接近戦でも遠慮はしないわよ――お嬢さん』
歌いながら水上を飛んでくる澪に、水魚が尾鰭を振り上げた。
「――!」
完全に誤解している水魚に若干むっとした顔を向けながら、澪はピタリと止まって尾鰭をやり過ごすと、『Venti Ala』で尾鰭を蹴り上げた。
「っ!」
尾鰭から飛んでくる水滴を、澪は四枚の翼を羽ばたかせた風で吹き飛ばす。
(「あれはお酒じゃないと思うけど……僕、お酒弱いみたいだからなぁ」)
以前、澪は義姉が飲んでたカクテルの匂いだけで酔った事があった。それを思えば、この距離で水魚と戦うのは、澪にはややリスキーであろう。
「――♪ ~~♪」
それでも澪は、海の上で翼を広げ歌声を響かせ続けた。
『いい声だけど……一体何のつもりかしら?』
その歌が持つ誘惑の力の影響を受けていると知らず、水魚は訝しむ視線を澪だけに向けていた。だから気付かなかったのだ。
いつの間にか、二人の周囲には幾つもの音符が浮いていた事に。
彩音――ボクノオト・キミノオト。
メロディや言葉を実体化させる澪の業。その力によって形を持った音符の上を、音もなく忍び寄る悪魔に。
●熱が降る
『あら? ――え?』
水魚が気付いた時には、晃が刃を構えていた。否、突き刺そうとしていた。
ヒュ――。
響く歌に混じる、風を切る小さな音。
『っ!』
刃が空を切り、水魚の青い髪がハラリと潮風に舞う。
「残念――殺り損ねましたか」
『お酒の混じったうわばみちゃんの血の臭いがなかったら、危なかったわねぇ』
音符の上に立った晃に、水魚は安堵したように息を吐きながら告げた。
(「やはりこの血には、お酒のにおいも混じっていますか」)
晃がうわばみの血を落とさずに来たのは、わざとだ。
『随分、殺気立ってるのね?』
「お酒は嫌いですから」
そんなことはおくびにも出さず、晃は音符の上から水魚に斬りかかった。
龍狼剣――龍と狼が刻まれた鋭い刃が、海の上で躍る。斬り、突き、払い。或いはそうと見せかけ、掌中で回して型を変える。
『お酒を落とそうたって、そうはさせないわ』
フェイントを混ぜて晃が振るう刃から守る様に、水魚が酒瓶を確りと抱え込んだ。
「ま、酒好きの気持ちも否定はしねぇがな」
澪が形にした音の上に立って、宗田が少し呆れた様に呟く。
晃の攻撃からお酒をひしっと守る水魚を眺めながら、宗田は音符の上を歩いて行く。
「さて、と」
澪が歌い続ける声を背中に聞きながら、宗田は海に翳す様に『破殲』を構える。
その漆黒の刃はそれ自体が発する炎に加えて、宗田の身体の傷より生じた地獄の炎――ブレイズフレイムに覆われていた。
「……来たか」
轟々と紅く燃え上がる『破殲』の下の海が、ボコッと音を立てて膨れ上がる。それを見た宗田は、『破殲』を握る両手にしっかりと力を籠めた。
爆ぜる海。
それが飛ばすのは障害物だけではない。
「水もまた然り、だろ」
宗田の目の前で、ドーンッと海が爆ぜた。
自分が濡れるのも構わず、噴き上がる水の勢いに『破殲』が押し上げられるのを己の膂力で耐えて、宗田は『破殲』を噴き上がった海の中に翳し続けた。
さすれば水の柱の中でも、『破殲』を覆っていた紅蓮の炎は消えはしない。
さりとて、蒸発させられるほどでもない。
ならば、どうなるか。起こるのはごく単純な自然現象。
爆ぜた海は宗田の炎で熱せられ、熱湯に近い雨となって降り注ぐ。
『熱っ……熱いって!』
「思った通りだ。魚も熱には弱ェだろ」
自らも熱湯の雨を浴びながら、宗田は平然と告げる。
熱くないわけではない。耐えているだけだ。目の前で水が爆ぜた、耳を劈く轟音にも宗田は耳を塞がなかった。傷を負う事を厭わない覚悟がある。それだけだ。
一方、水魚と切り結んでいた晃はとっくに距離を取って、縦に並んだ音符と音符の間に身を潜めて熱湯の雨をやり過ごしていた。
音符の間から晃が向けてくる物言いたげな視線を、宗田も無言で睨み返す。
その後ろで、澪は宗田の背中を歌いながら見つめていた。
(「……風で平気なのになぁ」)
翼に纏った風を起こせば、雨除けくらいは難しくない。
だが――宗田がそこに立っている事で、澪に降って来る熱湯の量は軽減されていた。
●悪魔の顔
『やってくれたわね……!』
熱湯の雨が熱かったのだろう。
水魚は一度海に飛び込むと、高速回転をして海から飛び出して来た。
シュルルッ。
その尾鰭に、何かが巻き付く。
『え?』
「それ、楽しそうだからお手伝いしてあげる」
驚く水魚に、澪が告げる。
水魚に巻き付いたそれは、澪が歌いあげたメロディ。音一つ一つではなく、メロディラインを譜面と言う形で実体化させ、ロープの様に巻き付けたのだ。
「はーい、逆かいてーん」
『何ゃぁぁぁぁぁ!?』
澪が五線譜のロープを引っ張れば、帯回しの様に水魚の身体がぐるぐる回った。
「もういっかーい」
『待ってぇぇぇぇぇぇ!?』
水魚がぐるぐる回っている間に、澪はもう一度五線譜のロープを巻き付けていたのだ。それを引っ張れば、当然の事象として、反対向きに水魚はぐるんぐるん回される。
「へぇ……やる様になったじゃない」
音符の上に腰掛けて、晃は澪が水魚を手玉に取る様を楽しそうに嗤って眺めていた。
(「けど――まだまだ甘い」)
胸中でほくそ笑み、晃は腰掛けていた音符から飛び降りる。
「さぁ、懺悔の時間です――お酒の何がそんなに好きなんですか?」
別の音符の上に飛び降りた晃の周囲に空間の穴が空き、ジャララッと鎖の音が響く。
――慚愧の刻。
飛び出した鎖が、ぐるぐる回され目が回っている水魚の身体に、それでも抱えている酒瓶の上から幾重にも巻き付いた。
『鎖……?』
「そう。丈夫なだけの鎖です。だけど――その状態じゃ、お酒呑めませんよね?」
ニタリとした笑みを浮かべて、晃が水魚に告げる。
『え? あ、指も上手く動かせない!?』
「あはははっ! 無駄ですよ!」
もがく水魚の姿を見て、晃が嗤う。鎖は、特に水魚の両手を指まで封じる様に雁字搦めに絡みつけてあった。
酒を操れても、手の自由が利かないのでは流石に水魚でも呑めまい。
「その鎖は、僕が質問に満足しないと解けませんから。存分に語るがいいですよ」
それこそが、晃の拷問。
『わざわざ訊くなんて、お酒の事知らないのね。まず舌ざわり! お酒によって辛かったり甘かったりするのよ。それに、喉越し。喉がかぁっと熱くなる感覚は水じゃ絶対に味わえないのよ。あとは蓋を開けた時の香りも――』
流石に慌てているのか、やや震えた声で水魚がお酒の好さを語り出す。
「晃君、そこ危ないよ?」
それを聞き流す晃に、澪が声をかけた。
「へぇ――そうかそうか。それは、都合がいい」
その言葉と向けた指の意味を理解して、晃が悪魔の様な笑みを浮かべる。
此処は海の上だ。本性を露わにしたところで、それを見るのは知っている澪と宗田しかいない。晃が遠慮する理由は、どこにもなかった。
「危ないそうですよ」
『あらら? ねえ、ちょっと――答えたわよ?』
音符の上でくるりと踵を返した晃に、水魚が慌てた声を上げる。
「おや、誰が解放すると言いました?」
背中を向けたまま振り向いて、晃はしゃあしゃあと告げた。
「僕言いましたよね。酒は嫌いだ――と」
晃が、まさに悪魔の笑みを浮かべる。
「嫌いな話聞かされて満足するわけないでしょ」
最初から鎖を解く気など、晃には毛ほどもなかったのだ。
『このあく――』
悪魔。言いかけた水魚の声は、海が爆ぜた音にかき消された。水の柱と共に、水魚が打ち上げられる。
通常であれば、人魚がそんな事にはならなかっただろう。
だが、鎖に縛られ自由を奪われたままではさしもの人魚も自由に泳げず――。
ばしゃーんっ!
とても痛そうな音を立てて、人魚が海に腹打ちで落ちた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
此の…此の、酒狂いめ…!
酒気を帯びている相手に近付いたら俺がどうなるか分からぬ
絶対に接近戦は挑めんな、こうなったら徹底的に撃って撃退する…!
とにかく【疾走する炎の精霊】の弾丸を切らせたら終わりだと思え
初手「先制攻撃」からの「一斉発射」で面による攻撃を浴びせ
弾丸に宿った炎の「属性攻撃」でダメージに追撃を狙う
其れでも怯まぬというのなら「2回攻撃」で次弾装填
今度は「誘導弾」で的確に一撃ずつ喰らわせながら削っていく
執拗に迫るというのなら「スライディング」でギリギリ躱し
すれ違いざまに横っ腹に「捨て身の一撃」をくれてやる
俺はもう二度と酔う訳には行かぬのだ、貴様とも関わり合いたくない
だがこの船の酒宴は守るぞ
ギヨーム・エペー
これ以上酒を使うのは船員が気の毒だがなー。また一つ貰うね!!ごめんな!!
おれはこの酒をバイクで宅配してくる。相手の顔面目掛けて投擲して、浴びるように飲んでもらおう
攻撃や爆ぜる海上は運転技術で避けないとなー!
スライディングして尾びれは避けて、波をクライミングで登ったりして移動する
アルコールを纏っているなら、魔術での着火を図りたい。船に戻る際にバイクで突進して、逃げる際に放ってみよう
ヴィクトル・サリヴァン
人魚なのに蟒蛇とはこれ如何に。
というか何か凄く物理攻撃得意そうな…まあいいや。
言葉に惑わされずきっちり倒して紫の光を調べないとね。
基本は遠距離から支援重視。
放水に対してはボトルの向きから攻撃範囲推測、周囲の樽とか高速詠唱からの水の魔法で壁作って直撃を避ける。
特殊な成分希釈できるかなー、もし放水直に受けた人いたら爆発の衝撃で落っこちたりしないようフォローに回る。
相手の攻撃で傷を負った人がいる場合はUCの電撃で代謝加速させて回復、ほんわか成分の分解もいければよし。
攻撃は高速回転の切れ目に銛を投げて隙を作ったりあくまで他の猟兵の攻撃に繋げる感じ。
撃退できたら紫の光球を調べるよ。
※アドリブ絡み等お任せ
ワン・シャウレン
ええい、敵も味方も酒好きばかりじゃなこれ
目的地まであと少し
着けばおしまいであればくれてやっても良い気はしたが
生憎そこからが本番
絡み酒はお帰り願おう
(…いやわかっとる、わかっとるからと船員に頷き)
続けて水霊駆動を起動
高速移動で距離を保ちつつ流水を蹴りや掌底の延長として放つか、
刃や槍に変えて叩きつけていく。
放水には水の壁を生んで水の方向を散らすとともに、離脱回避を。
酔いどれに後れを取るほど鈍くはないわ
酒の相手なら欲張らずにうわばみでも探しにいくべきじゃったな
●それぞれの評価
光球の中から出てくるなり、酒を出せと脅して来る。
或いは、景気づけと称していきなり呑み始める。
そして、窮地に追い込まれながらも、酒の好さを語らせれば止まらない。
そんな水魚の姿に猟兵達が抱いた感想は、様々だった。
「人魚なのに蟒蛇とは……これ如何に」
海の上に腹打ちして突っ伏したままの水魚を船の上から眺めて、ヴィクトル・サリヴァンが肩を竦める。
「うわばみ言われても仕方ない酒好き人魚じゃな」
ワン・シャウレンは溜息交じりに、ヴィクトルの言葉に同意を示した。
「あの蛇よりも、酒で釣れそだよなー……よし!」
ギヨーム・エペーはこれまでの水魚の行動を思い返し、何かを思いついて船の中へと駆けこんでいく。
「……何か凄く物理攻撃得意そうな感じだよね」
その背中を見送ったヴィクトルは、再び海面の水魚に視線を向ける。
「ああ、だからこそ、開いた距離を詰めさせぬのが寛容だろう」
そこに、ニコ・ベルクシュタインが口を開いた。
水魚に向けるニコの視線は、元々鋭い目つきが更に険しくなっている。
それもその筈。
ニコは、悟っていた。
この敵は己に近づけさせてはならぬ――と。
うわばみ相手には掴みかかりもしたニコだが、水魚相手には接近戦など論外。
(「酒気を帯びている相手に近付いたら俺がどうなるか分からぬ」)
禁酒の誓いが揺らぎかねない。
ある意味、水魚はニコにとっての天敵だった。
●海上の攻防
『フフ……フフフ……』
海の上に突っ伏したまま、水魚が肩を震わせる。
『屈辱だわ……人魚なのに腹打ちするなんて』
水魚が上げた顔の額は、海に打って赤くなっている。
ドレスの下も真っ赤になっている事だろう。
だが――その内にあるお酒への情熱は、腹打ちしても消えていなかった。
『こうなったら、その船のお酒はぜーったい貰うんだから!』
腹打ちで落ちた衝撃でか、それともその醜態に術者が満足したからか。水魚は拘束の緩んだ鎖から抜け出すと、燧丸へ向かって飛び出して――。
「契約の下に疾く来たれ、我が炎の愛し子よ!」
燧丸の方から声が響いて、甲板から幾つもの炎が撃ち出された。
『ちょ――』
完全に不意打ちで降ってきた炎の雨の様な一斉射撃を、水魚が避けきれる筈もない。
ボンッ!
『きゃんっ!?』
着弾した炎が爆ぜた衝撃に、水魚が再び海に叩き落される。
『ちょっと、何なのよ、いきなり――』
問答無用な攻撃に、水魚が面食らった様に甲板に視線を向ける。
「……」
そこには、ニコが炎を思わせる赤い銃身を持つ精霊銃『エレメンタル・ワン』を構えて立っていた。
ニコの返答は、無言で放つ炎の弾丸。
疾走する炎の精霊――クイックドロー・サラマンドラ。
『くっ!』
人魚らしく海を泳いで、水魚はニコの炎弾をやり過ごす。
『もう……! 今度は随分と不愛想な人ね!』
泳ぎながら愚痴る水魚だが、ニコは堅苦しい所はあれども、別段、不愛想と言うわけではないだろう。
(「とにかく、この弾丸を切らせたら終わりだと思え」)
ただ単に――この時ばかりは、余裕がないだけであった。
(「あれ、ニコさん? なんだか妙に余裕がないなぁ……」)
船に戻る途中のオラトリオの少年が、気づいて内心首を傾げる程に。
「しぶといな……!」
海を泳ぎ回る水魚に『エレメンタル・ワン』から炎弾を撃ち続けながら、ニコが思わず毒づいていた。
最初の斉射こそ当たったが、泳ぎ出されてしまえば中々そうも行かない。
流石に人魚だけあって、水魚の泳ぎは並みの小舟よりも速かった。
「ふむ。中々見事な泳ぎじゃな」
その泳ぎに、シャウレンも感心したように呟く。
「ちゃんと人魚だったね」
ヴィクトルが思うがままに放った一言は、聞こえていたら水魚の心にグサッと突き刺さっていた事であろう。
「お主、案外と容赦ないのう」
「そうかな?」
シャウレンの一言に、ヴィクトルが首を傾げる。
とは言え、シャウレンも否定はしていないのだが。
ニコが撃ち続ける銃声に二人の声がかき消されていたのは、水魚にとって幸運だったと言えるだろう。
『しつこいわねぇ……』
そうとは知らずに泳ぎ続けながら、水魚も毒づいていた。
注意すれば、炎弾を避ける事は可能だ。だが、こうも撃ち続けられては、水魚にとっても攻撃に転じる隙が無かった。
だが――水魚は腐っても人魚だ。
海に全身で潜って泳ぐことだって、難しくはない。
ばしゃんっと水音を響かせて、水魚の尾鰭が海面を叩いて浮き上がる。人間で言えば、ドルフィンキックから潜水に移行しようとしたような形だ。
「あ、潜るか。なら、こうだ」
コンッと甲板に硬い音が響く。
ヴィクトルが構えた真っ白な角が、甲板を叩いた音だ。
直後、ヴィクトルの水の魔法でザバァッとせり上がった海が、潜った筈の水魚を海面へと押し戻した。
『あ、あら? あららら??』
潜るのを阻害された水魚は、目を丸くする。
真白き一角――ヴィクトルが構えたそれはイッカクと言う角を持つ海生生物の角を加工したものだ。故郷の思い出の品であり、魔術触媒でもある。
元々海の生き物の身体の一部なだけあって、水の術に対して有用な触媒であった。
『やるじゃない、私を水の術で妨害するなんて』
人魚である水魚も、水を操ることが出来るのは既に明らか。
だが、動きを止めれば炎弾に撃たれる状況でヴィクトルと張り合うのは、さしもの水魚でも容易な事ではなかった。
『ならこっち!』
故に水魚は海を諦め、ニコの炎弾を掻い潜って空へと飛び出した。
「舞うとしよう」
それを見たシャウレンが、呟きながら両腕を掲げて掌を広げて構えた。
――水霊駆動。
シャウレンが広げた左右の掌に、精霊の力を帯びた水が生まれる。
「ふっ!」
『きゃんっ!?』
空中に出た水魚が動き出すよりも、シャウレンが掌から水を放つ方が早かった。
「酔いどれに後れを取るほど、鈍くはないわ」
シャウレンが口の端を吊り上げた笑みを浮かべて、掌を突き出す。うわばみを何匹も海へ叩き落とした水の槌で、水魚の顔を打ち据えた。
「酒の相手なら欲張らずに、うわばみでも探しにいくべきじゃったな」
『うわばみちゃんのお酒なんか、飲み飽きたのよ!』
シャウレンが蹴りに乗せて放った流水を、水魚が全身でぎゅるんっと回って振るった尾鰭で打ち払う。
「ほいっと」
そこに、ヴィクトルが構えた三又銛をぶん投げた。
力の入ってなさそうな声と一見雑な投げ方に反して、ヴィクトルが力強く投擲した銛――勇魚狩りが水魚の尾鰭に当たって、鈍い音を立てた。
『いったぁい!?』
刺し貫くには至らなかったが、ヴィクトルの一撃が水魚の回転を食い止める。
そこに響く銃声。
ニコが構えた銃口から、紅い軌跡を描いて炎弾が飛来する。
『また炎――!』
炎弾から距離を取ろうと水魚が空中で後ろに下がる。
今までの炎弾であれば、それでやり過ごせただろう。
「此の弾丸は、貴様を追うぞ」
ダァンッ!
告げてニコが二発目を撃てば、二つの弾丸は水魚を追って曲がると言う、あり得ない軌道を描いた。
『しまっ――』
追いかけてきた炎弾に撃たれた水魚を、爆ぜた炎が吹っ飛ばす。
だが――。
『こんなに……』
炎を浴びてもなお、水魚は酒を諦めようとはしなかった。
『こんなに頑なに拒まれるなんて、さぞすごいお酒があるのね』
どれだけ炎に焦がされても、水魚の酒への情熱は消えはしない。むしろ、此処までされるならと、酒に対する期待値がどんどん上がっている。
「此の……」
それを聞いたニコが、銃口を向けたまま肩を震わせる。
「此の、酒狂いめ……!」
ニコの魂の叫びと銃声が、甲板に響いた。
「どうしようもない酒好きじゃの、お主!」
シャウレンも水魚の酒へのこだわりに、溜まらず声を上げる。
「目的地に着けばおしまいであれば、樽でくれてやっても良い気はしたが――」
そう口走ったシャウレンの背中に、数人の船員の視線が突き刺さる。
――もう使わないでくだせえ。
(「……いやわかっとる、わかっとるから」)
そんな視線を向けてくる彼らに、シャウレンは振り向き視線で頷いて。
「光の先があるにせよ、此処から引き返すにせよ。まだこれからが本番だしの。生憎、絡み酒はお帰り願おう!」
水魚に向き直ると、シャウレンは掌底の様に手を突き出した。
纏った精霊の加護とその力を宿した水で間合いを広げ、シャウレンは船の上にいながら舞うように手足を振るい、掌打や蹴りを変幻自在の水に乗せて水魚に放つ。
五行では、水と火は相克の間にある。
だが飛び交う炎弾も流水も、打ち消し合う事などなかった。
「頼むぞ、サラマンドラ」
「合わせい」
ニコの炎弾もシャウレンの水も、どちらも精霊の力が入っている。
術者が告げる事で、炎と水は共存し、水魚を追い詰めていた。
『仕方ないわね――』
まるで船に近づけない状況に、水魚が酒瓶を構え直す。
『折角のお酒を使っちゃうから、あまり使いたくなかったけれど』
残念そうに眉根を寄せながらも、水魚は水魚は船に酒瓶の口を向けた。
『酒泡発射!』
水魚が向けた酒瓶から、滝の様に大量の水が燧丸の甲板目掛けて放たれる。
「何の! 水よ!」
だが同時に、ヴィクトルも海に向けて構えていた真白き一角を、高々と掲げていた。
海の水の一部が空中に浮き上がって広がり、酒砲を遮る水の壁と化す。
「わしも手を貸すのじゃ」
シャウレンも変幻自在の水を放ち、ヴィクトルの水の壁に重ねる様に広げた。
バシャァァンッ!
水と水が激しくぶつかり合った音が、大きく響く。
「む。あの酒瓶、底なしか」
「希釈は――ちょっと厳しいかな」
滝のような勢いで放たれ続ける水の勢いと量に、シャウレンとヴィクトルの表情が険しさを増す。海水と精霊の水で、酒砲のほんわか成分を希釈するどころではない。
――ドルンッ!
そこに、エンジン音が響いた。
●酒は燃えるもの
時間は少し遡る。
船の中に駆けこんだギヨームが目指したのは、酒樽がある船倉だった。
「これで最後に出来るんですね」
「多分! だからまた一つ貰うね!! ごめんな!!」
断腸の思い――まさにそんな感じで使用許可をくれた船員に礼を言って、ギヨームは酒樽を抱えて走る。
ギヨームだって、これ以上酒を使うのは気の毒――と言う思いはあった。
あったのだが、他に手が思いつかなかったのだ。
契約精霊――ソレイユには休んでいいって言っちゃったし。
「それじゃ、この酒を宅配してくるとしますか」
そしてギヨームは、オフロードバイク『パステーク』の荷台に酒樽を積むと、燧丸の船尾から大海原へと飛び出した。
水かきがあるような形にタイヤが変化したパステークが、ギヨームを乗せて海の上を走っていく。
元々、パステークは海すら走れるオフロードバイクだ。
だが――走れると、沈まない、はイコールではない。沈む時は沈むのだ。
扱いには注意が必要である。
そして、沈まないための最良な方法は――止まらない事である。
幸い、水魚は海から浮上していて、ギヨームには気付いていない。
だからギヨームは、待った。沈まない様にぐるぐると海の上を走りながら、何度も聞いたその音が、近くで聞こえるその時を。
ドォーンッ!
海が爆ぜて、水が噴き上がるその時を。
「待ってましたぁ!」
ギヨームがパステークのスロットルを全開にして、噴き上がった水の柱へ向かって飛び出して行く。
そして、水の柱の表面を、ギヨームはパステークを駆って垂直に駆け上がっていた。
『……』
「よっ! これ欲しかったんだろ」
何でそんなところにいるの、みたいな目を向けてきた水魚に、ギヨームは片手を挙げてフランクに返す。
「くれてやるよ!」
そしてそのまま上げた手を後ろに回して――酒樽を水魚の方にぶん投げた。
『お酒ー!!!!』
ギヨームが投げたのが酒樽だと気づいた水魚が、酒砲を中断して手を伸ばす。
「今だ!!」
それを見たギヨームが、声を張り上げ掌から炎の魔法を放つ。
「俺はもう二度と酔う訳には行かぬのだ、貴様とも関わり合いたくない!」
甲板では、ニコが『エレメンタル・ワン』から、今撃てる全弾を一気に撃ち尽くす。
『あ――あぁぁぁぁぁ!?』
樽を掴んだ水魚が気付いた時には、既に遅し。
爆ぜる炎弾に炎魔法と酒と言う燃料が加わり、爆炎が膨れ上がった。
海面の色が変わる程の炎が水魚の姿を飲み込んで――身体のあちこちからプスプスと煙を上げた水魚は、爆炎の衝撃に波立つ海に落ちて、沈んでいった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・杏
む。シリンとガーネットと同じくーるびゅーてぃな匂いがす…る(くんくん)(少し変な顔する)
残りの鯨肉をもぐっとして
ん、わたしも(肉の)香り漂うくーるびゅーてぃ
うわばみ達に負けられぬ
(ハロウィンの金魚モチーフひらふわ衣装、目元で横ピースして決めっ☆)
とうっ、と飛び舞い上がり
逃げ足素早くお酒シャワーを回避して
着地ついでに尾びれを踏みつけ
逆に動きを封じる
ふ、その匂いはほんわか出来ない
うさみん☆、ごー
一升瓶叩き割り気をそらした隙にキック&えいっと目潰しね
ふふ、踏みつけるのはいい女の特権って、おとうさん言ってた
わたしもこれでいい女
あ、揺れる……(海が爆ぜてゆらゆら)
踏みつけ続けて動き封じ
皆の攻撃の補助する
木元・祭莉
【かんさつにっき】だよー♪
わーい、ばいんばいんの姉ちゃん!
脚が尾っぽだー。カッコイイね!
一緒に鮭の歌、歌わない?(ナンパ?)
へぇー、お酒好きなの? ニガくない??(何故知ってる)
あ、うん、おいらの酒甕でっかいでしょ!
姉ちゃんになら、分けてあげても……ダメなんだって。(しょぼん)
ごめんね、戦わないといけないみたいー。
おいらはね、人魚もいいと思うけどね?
それじゃ、いくよー?
ダッシュ&ジャンプで接近!
たまこズうさみん☆鮭ミミズたちの声援を受け、懐に飛び込んで。
いま! ここで! 床がどーん☆ってしてくれたら!
……しなかったので、普通に殴りまっす。(灰燼拳)
むうー。ばいんばいんに埋もれたかったー。
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
…あの人魚、酒瓶を持っているぞ。
成る程、こいつも私やシリンの同類ということか!
酒は、渡さん!(への字口再び)
小太刀とオジサンも早速スタンバイして、やる気十分だな。
まつりんもばいいんが好きか。やはり男の子…
酒の入った瓢箪を腰に吊るし、囮に。
エーテルの光を体に流し、<船上戦>の準備を整える。
ユラユラ動く鰭の動きに注視し、攻撃は
ブレイドウイングの<武器受け>でガード。
躯丸とアカツキの二刀で戦うが
水が爆ぜ、船体が揺れた際に態勢を崩し、
思わず瓢箪を床に落としそうになる……のは<フェイント>。
奴が酒を気にして近寄って来るのを待っていたのだよ!
食らえ、宇宙カラテ【烈紅閃(飛び膝蹴り)】!
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
またうわばみが…そしてまたうさみみが(汗
杏とシリンの隣に更に並んで目元横ピースしてるのは
ウサミミ付けた鎧武者
呼ぶ前からスタンバってる辺り
余程出て来たかったんだね、オジサン(遠い目
来たからにはちゃんと働いてよ
囮役は任せろって?
いつになくやる気じゃないの
…って、早速ほわほわしてるしー!?
全く何やってんだか(溜息
祭莉んも何し…ばいんばいん?
むむむ、ちょっと大きいからっていい気にならないでよね!
スナイパーの本領発揮
命中軌道見切り水魚のボトル射貫いて武器落とし
炎属性の矢でアルコールに引火させフランベしちゃうよ
ウサミミ鮭さん達は勝利を祈った破魔の踊りで皆を応援中
…うん、やっぱりカオスだわ
シリン・カービン
【かんさつにっき】
ガーネット、杏、それは違います。
お酒は皆(成人)で楽しむもの。
独り占めなどと了見の狭い輩と一緒にしてはいけない。
そして猟師は獲物を振舞うことを厭いませんが、
獲物を横取りされることは嫌うのです。
「あなたは、私の肴…いえ獲物」
(ウサ耳+据わった眼。杏+鎧武者と目元横ピース)
「いい度胸ですね(再)」
杏とガーネットが気を逸らしている間に狙撃態勢。
「あなたはこの弾を避けられない」
何故か?
この精霊弾には【スピリット・ブレッシング】で
特上の酒精を込めたから。
お酒を独り占めしようってのに、まさか避けたりしませんよね。
…酒精は精霊ではなくアルコールのこと?
(酔って力みが抜け、揺れは自然に対応)
●カオスの予感しかしない
ぽちゃんっ。
プスプスと煙を上げていた水魚が落ちて沈んだ海に、五人分の視線が注がれていた。
「む。シリンとガーネットと同じくーるびゅーてぃな匂いがして……た?」
波間に広がる波紋を見やり、木元・杏が首を傾げる。
船に乗り込んできた時は、水魚からそんな匂いを感じた気が――したのだが。
「してた?」
「私やシリンの同類かどうか、か? 確かに酒瓶持ってたが……どうだろうな」
杏に問われ、ガーネット・グレイローズが首を傾げる。
「ガーネット、杏、それは違います」
そんな二人の隣で、シリン・カービンがきっぱりと否定の言葉を口にした。
「お酒は大人が皆で楽しむものです。独りで呑むならまだしも、独り占めなどと、了見の狭い輩と一緒にしてはいけません」
「そうだな。独り酒も悪くはないが、独り占めはよろしくない」
シリンのお酒に対する価値観に、ガーネットも頷き首肯する。
二人の話を黙って聞きながら、杏は鯨肉もぐもぐしている。
そんなお酒にまつわる大人なトークに花が咲く中。
「むうー」
木元・祭莉は一人、何やら不満げに海を見つめていた。
「お酒の飲み方も色々ね――って、祭莉ん? やけに静かじゃない?」
鈍・小太刀が気付いて、その背中に声をかける。
「ばいんばいんに埋もれたかったなーって」
小太刀の声に背中を向けたまま、祭莉はさらっと返す。
「……ばいんばいん?」
祭莉が口走った謎の言葉の意味を、小太刀が問い詰めようとしたその時だ。
ザバァッ!
何かが海から上がってきたような音が、船の舳先から響いた。
かんさつにっきの5人がそちらに視線を向けると――船の外から酒瓶を持った腕が伸びていた。続いて、半ば凍った腕がぬぅっと伸びてくる。
ずるずる、びちゃんっ。
そんな這いずる音を立てて船に上がって来るのは、倒れたかと思われた水魚だった。
尤も、真珠の様な珠で飾っていた髪はボサボサ、ドレスもボロボロ。女性の上半身も青い尾鰭を持つ下半身も、ところどころ無残に焦げている有様だ。
『フ……フフフ。戻ったわ、戻ったわよおぉぉぉぉぉ』
それでも、お酒への執念を原動力に、文字通り船に這い上がって来たのだ。なんかもう人魚っていうか、別のホラーな存在に見えなくもないかもしれない。
「わーい、ばいんばいんの姉ちゃん!」
だが、そんな水魚の姿に、祭莉が何故か歓声を上げる。
その視線の先を見て、女性陣は祭莉の言う「ばいんばいん」の正体を察した。
「むむむ、ちょっと大きいからっていい気にならないでよね!」
「まあまあ。まつりんもばいんが好きなのは、やはり男の子と言う事だろう」
むすっとした小太刀を、苦笑を浮かべたガーネットが宥める。
まあ要するにだ。祭莉の視線は、水魚の胸部の谷間に行っていたわけである。
『はぁ……こんなの、呑まなきゃやってられないわ』
自分がそんな話題になっているとは気付かずに、水魚は酒瓶を煽り始めた。ついに水で器を作るのも忘れて、喇叭呑みである。
『ぷはぁっ! あー、早くこの船のお酒も飲みたいわぁ』
「杏、一緒にしないでくださいね」
その姿を指さして、シリンは杏に真顔で告げていた。
その迫力に、杏は黙ってこくこく頷き、最後の鯨肉をごくんと飲み下す。
「それに――猟師は獲物を皆に振舞うことは厭いませんが、獲物を横取りされることは嫌うのです」
水魚に視線を移して、シリンは再び精霊猟銃――ではなくウサ耳を手に取った。
あ、そっちですか。
「あなたは、私の肴……いえ獲物」
「ん、わたしも香り漂うくーるびゅーてぃ。うわばみ達に負けられぬ」
臨戦態勢となったシリンの隣で、杏の姿が光に包まれた。
光はパァッと強く輝き、杏は金魚をモチーフにした衣装のくーるびゅーてぃーに一瞬でどれすあっぷしていた。
そして、シリンと杏は揃って目元横ピースのポーズを決める。
鎧武者のオジサンを挟む形で。
「オジサンも早速スタンバイとは、小太刀もやる気充分だな」
「って、何スタンバってるのオジサーン!?」
感心するガーネットの横で、小太刀が思わず叫んでいた。
あれ?オジサンいつ喚んだっけ。しかもまたウサミミ着けてるんだけど。まあ、そんな事もあるのだろう。
「囮役は任せろって? 余程出て来たかったんだね、オジサン……」
またうわばみとウサ耳になった甲板に、小太刀が遠い目になる。
「ところで皆。あれ」
そんな中、ガーネットが舳先の方を指さす。
「姉ちゃん脚が尾っぽだー。カッコイイね! 一緒に鮭の歌、歌わない?」
『え? 酒の歌? いいわよ!』
そこでは、祭莉が水魚と微妙にかみ合わない会話に花を咲かせていた。
「割と本気でナンパしてないか?」
「祭莉ん、戻ってこーい!!!」
ガーネットがナンパと称した祭莉に、小太刀が全力でツッコミの声を上げた。
●刃と拳とくーるびゅーてぃー
「へぇー、お酒好きなの? ニガくない??」
『その苦みがいいのよ。坊やにはまだ早――あら?』
酒瓶片手に祭莉との会話に付き合っていた水魚が、その背中にある甕に気づく。
『その甕、お酒入ってたわね!?』
「あ、うん、おいらの酒甕でっかいでしょ!」
目の色変えて乗り出して来る水魚に、祭莉がにぱっと笑って告げる。
その位置と角度だと、祭莉の視線からはばいんばいんが――何でもない。
「姉ちゃんになら、分けてあげても……」
「ガーネット、祭莉んを強制送還!」
「了解した」
戻って来いと小太刀が叫んでも戻ってこない祭莉の背中に、ガーネットが伸ばしたブレイドウイングの液体金属がシュルっと巻き付いて、引き寄せる。
「ダメなんだって。ごめんね、戦わないといけないみたいー」
『あらあら。こっちはもう――そのつもりよ?』
ズルズル引っ張られていく祭莉に、水魚は抱えた酒瓶の口を向けて構えた。
『酒砲――発射!』
酒瓶の中から、すさまじい勢いで水が放たれる。
なお、これは水である。お酒っぽい匂いがするだけの水と言う事でひとつ。
「まずい、祭莉ん!」
このタイミングでは避けきれない――と小太刀が流石に慌てた声を上げた瞬間、一番大きな影が動いた。
即ち、鎧武者のオジサンである。
「よし、よくやったわオジサ――」
囮は任せろと言う意思表明通りの動きに小太刀が上げた喝采の声が、途切れた。
確かにオジサンは、酒砲を身体を張って止めた。
止めたが――その場で何かふらふらの千鳥足になっている。
「って、早速ほわほわしてるしー!? 」
酒砲の直撃に、あっさりとほわほわに陥ったオジサンに、小太刀が声を張り上げた。
『もっとほわほわにしてあげるわ!』
そこに水魚が放った二発目の酒砲が直撃し――鎧武者のオジサンが、バターンッと背中から倒れる。
「何やってんだか……」
小太刀がもう何かツッコミ疲れた感じで、溜息を零す。
だが――鎧武者のオジサンをほわほわに陥れた酒砲は、泊まらなかった。
『フフフ。皆まとめて、ほわほわになりなさい!』
水魚が放った酒砲が、誰もいなくなった甲板を叩いて凹ませる。
「とうっ」
甲板に漂ったほわほわになる酒砲の匂いに変な顔になりながら、桜の花弁を舞い散らせて杏が空に飛び上がった。
『空中に逃げたって!』
「その匂いは、ほんわかできない」
水魚が空に向けて放つ酒砲の追撃を、杏はひらりひらりと金魚が泳ぐように優雅且つ素早く飛んで、避け続ける。
そして――空振りした酒砲は、ほわほわになる水の雨となって甲板に降っていた。
「酒は、渡さん!」
それを浴びたガーネットが口をへの字にして、水魚に斬りかかる。
多少ほわほわになっていたかもしれないが、ガーネットの戦いの勘まではほわほわになっていなかった。
『くっ……酒砲』
「遅い!」
水魚が慌てて酒瓶を構え直すが、ブラッドエーテルを流して身体能力を上げたガーネットの方が早かった。
『妖刀・アカツキ』と屍骨呪剣「躯丸」の赤と白の二刃が閃き、咄嗟に酒瓶を引いた水魚の身体を斬り裂く。
『あらあら、痛いわねっ!』
「おっと」
水魚が素早く振り上げた尾鰭を、ガーネットが寸でで避けた。尾鰭が強力な武器である事は、これまでの戦いを見ていればわかる事。注意しない筈がない。
『……その瓢箪』
一方水魚は、斬りかかるガーネットの刃を躱しながら、その腰に吊るされている瓢箪に気づいていた。
(「ふんふん……間違いないわ、お酒ね!」)
すんと鼻を鳴らして、匂いで瓢箪の中身を酒だと確信した水魚の目がキランと輝く。
その時、ズドンッと海が遠くで爆ぜて、船が揺れた。
「しまった……!」
ガーネットの態勢が崩れた拍子に、腰の瓢箪を結んでいた糸がほどけて、跳ね上がった瓢箪が宙に舞った。
『落ちてるお酒は私のもの――!』
落ちる瓢箪を掴もうと、水魚が手を伸ばす。
「うさみん☆、ごー」
そこに、杏が上空からうさ耳付きメイドさん人形『うさみん☆』をぶん投――もとい、けしかけた。
ガーネットが態勢を崩したのも、それで瓢箪が外れる様にしていたのも、水魚の気を引くためのフェイントだ。
完全に気を取られた水魚の顔面に、うさみん☆の靴底がめり込む。
『ぎゃん』
うさみん☆の一撃は、威力よりも目潰し狙い。
水魚の視界がうさみん☆に完全に塞がれたその隙に、ガーネットと杏が動く。
ガーネットは水魚から距離を取って、杏は空からばびゅんと勢い良く降下して、しゅたっと着地した。
水魚の尾鰭の上に。
『いっっっったぁぁぁぁぁい!!!』
水魚の悲鳴が響く中、祭莉が『10.0』と書かれた板を掲げていた。
メカたまこが拍手するように羽根をカチャカチャ鳴らし、うさみん☆は小さく手を鳴らし、ウサミミ鮭達もヒレをびちびちと打ち鳴らす。
「ウサミミ鮭さんも、まだ帰ってなかったんだ……」
鮭の破魔の舞をする鮭達の姿に深まったカオスに、小太刀が溜息を零す。
「ふふ、踏みつけるのはいい女の特権って、おとうさん言ってた」
そんな声援を浴びて、杏は実に満足気にどやっと微笑んでいた。
「わたしもこれでいい女」
『あなたのおとうさん、さてはおかあさんの尻に敷かれてるわね……!』
杏が続けた言葉から、水魚が家庭環境を推察したその時だ。
ズドンッとまた海が爆ぜて、船がグラッと揺れたのは。
「あ、揺れる……」
ゆらゆらふらつきながらも、水魚を離すまいと杏は足に力を籠める。
「それじゃ、いくよー?」
そんな揺れる船の上を、祭莉が駆け抜けた。蛇のうわばみの群れの中で踊って跳び回った事に比べれば、この程度、難しくはない。
たまことうさみん☆とウサミミ鮭の応援を背に受けて、祭莉は尾鰭を抑えられた水魚の懐に飛び込み拳を固く握りしめた。
『くっ――』
咄嗟に身構える水魚だが、何故か祭莉は動かない。
(「今! ここで! 床がどーん☆ってしてくれたら!」)
祭莉は構えたまま、この爆ぜる海に期待していた。
『え?』
そして祭莉が意図せず外したタイミングが、結果的に水魚の虚を突く。
「多少手荒に行かせてもらうぞ」
その隙を見逃さず、ガーネットが甲板を蹴って飛び出す。
「食らえ、宇宙カラテ! 烈紅閃!」
「どーん☆ってしなかったから普通に殴りまっす!」
鮮血のように紅いエーテルを纏ったガーネットの膝と、諦めた祭莉の拳が、緊張を緩めてしまっていた水魚に同時に突き刺さった。
●狙撃手たちとうわばみ
『ぎゃんっ』
拳と膝を同時に受けて吹っ飛ばされた水魚が、甲板に倒れ込む。
『……扱い酷くない?』
むくりと起き上がった頭から、髪を飾っていた真珠の様な青い珠がバラけて落ちる。後ろでまとめていた青い髪も、はらりと解けていた。
『やっぱり、この船にはすごいお酒があるのね! フフフ、絶対私のものにして――』
まだこの船に酒があると、水魚は情熱を燃やしていた。
或いは――そう信じたかっただけかもしれないが。
「私の目の前で、酒を奪おうするとは。いい度胸ですね」
だが、その言葉はシリンに火を付けた。
違う火なら、シリンの中でとうについていたのだ。酒砲がほわほわする水の雨となって降り注いだ時から。
「我が声に応えよ」
シリンが構えた精霊猟銃の銃身が、パァッと輝きを放ち出す。
その光は、スピリット・ブレッシングの輝き。特定の属性の精霊の加護を、精霊猟銃が帯びた証である。
輝きを纏った精霊猟銃の銃口を、シリンはピタリと水魚に向けた。
「あなたはこの弾を避けられない」
『そんなの、この酒砲で押し流してあげるわ』
据わった目で告げるシリンに、水魚が酒瓶構えて返す。
「その前に、アルコールに引火させフランベしちゃうよ」
シリンの斜め後ろで、小太刀が黒漆塗の和弓・白雨を構えていた。
『くっ……』
水魚が、思わず呻く。今の位置関係では、二人同時に酒砲を浴びせるのは難しい。
「無駄です。何をしても、あなたは私の弾を受けるしかない」
そんな水魚に、シリンが淡々と告げる。
「何故なら、この弾丸には――特上の酒精を込めたから」
……。
一瞬、甲板に沈黙が降りる。
「ねえ、シリン。言いにくいんだけど……」
弓を構えたまま、小太刀はゆっくりと口を開いた。
「酒精って、確かこっちだとアルコールの事になるわよ?」
「……酒精は精霊ではなく?」
その言葉に、シリンが水魚から視線を逸らさずに告げる。
だが――。
『しゅ、せい? ……しゅ? え、酒? つまりお酒の弾???』
水魚はシリンの言わんとすることを、シリンの思惑通りに受け取っていた。
「お酒を独り占めしようってのに、まさか避けたりしませんよね」
だからシリンも、ふっと笑みを浮かべて言い放った。
(「シリンの様子、おかしくない?」)
構えた弓を崩さぬようにしながら、小太刀は胸中で呟いていた。
また目が据わっているし、よく見れば頬も少し赤い気がする。
「祭莉んの鮭の歌でお酒は抜けた筈だけど……」
「あ、コダちゃん、それなんだけど」
思わず小太刀が口にしていた呟きに、祭莉が言いにくそうに口を開く。
「おいらもあの時は気づかなかったんだけど……」
「まつりんの鮭の歌、共感してくれないと効果出ない」
「……あ」
バツが悪そうな祭莉の後を引き継いだ杏の言葉に、小太刀が目を丸くする。
さて、水魚が出てくる前、蛇のうわばみを倒した後の事だ。祭莉が集い鮭の歌を歌った時、シリンが何と言っていただろうか。
――私? 酔ってません。本当ですよ?
さもありなん。
ドーンッ!
すぐ近くで海が爆ぜて、船が大きく揺れた。
「揺れてますね」
シリンが船の揺れに自然と身体を合わせて重心をずらすことで、水魚の向けた銃口をピタリとそのまま構えていた。
酔いが抜けきっていなかった所に水魚の酒砲を浴びて酔った分、シリンの身体からは余分な力が抜けていた。
『何なのよ、この海……っ』
一方、水魚は強い揺れに顔を顰めて、酒瓶を大事そうに抱えていた。
明暗は、そこで判れた。
『しまっ――』
シリンが構えを崩していないと気づいた水魚が、慌てて酒瓶を構え直す。
そこに、小太刀が放った炎を纏った矢が飛来した。
『っ!』
酒を浴びて炎上したことを思い出したか、水魚が咄嗟に酒瓶を引く。
その瞬間。
シリンの指が引き金を引き、光り輝く弾丸が水魚を撃ち抜いた。
その弾丸が、シリンが言った様に本当に特上の酒精の力を帯びていたのだろうか。
『あぁ……これはこれで、いいお酒の匂い、ね……』
ぐらりと水魚の腕から、酒瓶が零れる。
甲板で跳ね返って海へと落ちていく酒瓶を追うように、水魚もふらついて、海の方へと倒れ込んで、そのまま落ちていった。
パシャンっ、ぽちゃん。
水音が二つ響くと同時に、その変化は起きた。
燧丸から伸びていた紫の光。その先にあった紫の光球の中から白い輝きが放たれ――その光の中に今まで見た事もない、島の様な風景が映し出されていた。
大成功
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