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あくまで食べてほしいだけ

#UDCアース #感染型UDC

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●知らぬが仏
 机の上にはぐつぐつ音が聞こえるほどに熱々な煮込みハンバーグ。
 鼻先を掠めて立ち昇る湯気は、甘く酸味のあるデミグラスソースの匂いだ。
 ブラウンのデミグラスソース、ホワイトの生クリーム、オレンジの人参や緑のブロッコリーといった温野菜の彩りが、目にも鮮やかに心を躍らせる。
 主役のハンバーグは、形は少々不格好ながらもふっくらとして、切ったらきっと柔らかく、じゅわりと肉汁が溢れるのだろう。
 そして大きめに切ったハンバーグを、たっぷりのソースと絡めたなら――。

「あれー。お姉さん、まだ食べてなかったんですかー?」
「っえ、えぇ……まぁ」
 知らず知らずのうちに口中に溢れていた唾を飲み込み、秀子は未練がましくフォークへと伸びそうになる手を、空腹に痛む腹部に下ろした。
 厨房から出てきた女子高生ほどの年齢の少女は、片手に先ほどハンバーグを提供したときと同じトレーを持ち、不思議そうに秀子の様子を見ていた。
 お昼時だというのに店内には他の客はおらず、少女は真っ直ぐ秀子のテーブルまで辿り着く。
 その理由を思い出し、秀子は少女に向けた顔が僅かに強張るのを感じた。
「あぁーもしかして、全部揃ってからじゃなきゃ食べない派ですかー?」
 だったら仕方ないですよねー、と秀子の心中を知ってか知らずか少女はのんびりと頷き、へらへらと笑う。
「ではではーお待たせしましたー」
 口調の緩さとは裏腹に丁寧な仕草でテーブルに並べられたのは、琥珀色に透き通った肉のスープと、食べやすいサイズに切られてこんがりと焼きあげられたフランスパン。
 どちらも食欲をそそる、温かな匂いがした。
 三品が食卓に揃ったとき、秀子の脳天から腹にまで痺れたような衝撃が走った。
 ――それはあまりにも、完璧だった。会社を出たとき秀子が食べたいと思い浮かべていた、まさに理想のランチそのものだった。
 それから秀子の味覚、聴覚、嗅覚は、ついさっきまで抱いていた怖気も忘れ、目の前の料理に心から魅了され、支配されてしまった。
 残るは、味覚と触覚だけであった。秀子は柔らかな肉の甘みを、しょっぱさを、噛んだ肉から溢れ出す汁を、蕩けるような食感を、今すぐに深く深く味わわねばならなかった。
 秀子の妄想はブレーキを壊しながら加速し、驚異的速度で現実を侵食していく。
 留められなかった涎が秀子の口端から溢れ、腹の虫が叫び暴れ狂う。
 じき獣の唸るような声まで喉から漏れだしてくる始末であったが、秀子は身形を気にする素振りすら見せず、ただ一心不乱に煮込みハンバーグランチを凝視していた。
「……そうだよ、食べてほしいと言われて差し出されたものをどうして拒むの? 食べなきゃお肉が可哀想。だってこんなにおいしそうなのに。それに冷めたら勿体ないし私すごくお腹空いてるし良いよね? 私は良いことをするんだから。悪くない。何も知らない。そうですよね? だから食べても良いですよね? ねぇ?!」
「もちろんですー。どーぞ、召し上がれー」
 己が食欲のために滅茶苦茶な自己欺瞞を吐き出し続けていた秀子の声は、少女の穏やかな肯定を聞くや否や、ふつりと途切れ。
 秀子はようやく飼い主に『よし』をもらった犬のように満面の笑みを浮かべると、猛然とその両手を伸ばした。
 いまだぐつぐつと煮える、デミグラスソースの中へ。

 数分後。
「はふっはっ、おぉいしいぃぃーっ! あぁぁこのおいしさ、皆にも教えたい……教えなきゃ……はぐっふふふー!!」
「えー、ちょー嬉しー。店長も喜んでますー」
 恥も外聞もなく肉を貪り食う秀子の姿を、少女は昏い目で見つめていた。

●トンでもないランチに御用心
 グリモア猟兵である遠千坊・仲道(砂嵐・f15852)は、彼の招集に応じて集まった猟兵たちに感謝を述べながら、アナログテレビの頭部を抱えて深々と溜息を吐いた。
 もし彼に人間のような顔があれば傍目にも分かるほどに青褪めた顔色をしていただろうが、顔代わりのテレビ画面には普段と変わらぬモノクロの砂嵐が流れているだけだった。
「……『感染型UDC』って知っているか? 自身の噂を知った人間の精神エネルギーを餌にして大量の配下の生み出す、新種のUDCなんだけどよ」
 嫌そうに問う仲道に幾人かの聡い猟兵が何かを察したように彼の顔を見た。仲道は彼らの視線に肩を竦め、頷く。
「お察しの通り、今回の予知は感染型UDCが活動を始めるって内容のものだった。
 不幸中の幸い――って言っていいか分からねぇけど、UDCが自分の噂を広めるために利用した人間は予知で見たところ、まだ一人しかいない。
 つまり、これから急いで彼女を保護して、噂を餌に出現した雑魚敵を倒しちまえば、ひとまず噂の拡大は食い止められるってわけだ。
 ちなみに現場に居合わせた一般人は組織が良い感じに対応してくれるから、心配しなくていいぜ。
 そしたら後は保護した人間から感染型UDCと遭遇した場所を聞き出して、いよいよボスとの最終決戦だ。
 ただ、そこに辿り着くまでの道中も何があるか分からねぇ。用心してくれよ、猟兵」
 仲道が説明を終えると、時間が惜しいとばかりにテレビ画面が白い光を放ちだす。
「――出されたランチは食べない方がいいぜ。特に肉料理はな」
 転移が完了する間際。計ったようなタイミングで早口に告げられた奇妙な忠告を最後に、猟兵たちは世界を渡った。


葛湯
 お肉は好きですか? 私は好きです。あっ、野菜も好きです。
 葛湯(くずゆ)と申します。七作目です。
 今回は二度目のUDCアース。過激表現はぼんやりと。
 頂いたプレイング次第ですが、少し気味の悪いシナリオになる予定です。
 どうぞお手柔らかに、よろしくお願いします。

●シナリオ構成(ざっくり)
 第一章 集団戦『灰色の軍勢』…手下を殲滅しましょう。感染型UDCの第一発見者・秀子と、彼女から話を聞いてしまった人たちの周囲に灰色の軍勢が出現します。一般人を保護するも良し、敵を只管千切っては投げても良しです。
 第二章 冒険『???』…何かが起きます。フラグメントは参考程度に、ズンズン進みましょう。
 第三章 ボス戦『『肉屋と言う名の災厄』二代目ハールマン』…何がどうあれ倒してください。色々と深掘りしなければ、ちょっと奇抜な見目の可愛い少女です。

●お願いと諸注意
 基本的に青丸がクリア目標に達したら締め切る予定です。
 ただし、余力があればそれ以降も受け付けます。
 同行者がいる場合、その旨をプレイング冒頭に分かりやすく記載をお願いします。
 プレイング受付は各章の間に状況説明を兼ねた導入を挟んでからとなります。
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第1章 集団戦 『灰色の軍勢』

POW   :    ときは はやく すぎる
【腕時計】を向けた対象に、【時間の奪取による急激な疲労】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    ひかる ほしは きえる
【触れたものを塵に変える手のひら】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    たとえ だれもが のぞんでも
【奪った時間を煙草に変えて吸うこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【老化・劣化をもたらす煙】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●灰の時間
 ――某社・女子トイレ内。
「ねぇ秀子、どうしちゃったのよ。あんた今日、なんだか……おかしいわよ」
「……おかしい? 私は元気ですよ! 何も問題ありません。そんなことより、お仕事が終わったら一緒にご飯に行きましょうよ」
「そんなこと、ってあんた……それ……」
 秀子の同僚はニコニコと機嫌よく微笑む秀子を戸惑いと恐怖の混じった表情で見返し、そっと彼女の服を見下ろした。
 昼休憩のために別れるまでは、確かにシミひとつない白シャツだったはずだ。それが今では茶や赤でまだらに染まり、そればかりか正面に立つ自分でも分かるほどに、におう。
 いつも少し神経質なまでに身だしなみに気を遣う秀子からは、到底考えられない姿だった。
 しかし彼女は汚れた服にも頓着せず、シミを抜こうとも着替えようともしない。鏡に映る自分の姿すら見えていないようだった。
「おいしいご飯屋さんがあるんです。お肉、好きでしたよね?」
 極め付きがこれだ。
 休憩から戻ってきてからというもの、どんな話題を振っても秀子の返事は常に、どこかにあるという料理店の勧誘が後についてきた。
 当然、注意をしようとした人もいたが、対話を試みていくらもしないうちに気味が悪いと彼女を避けるようになった。
 そんなことが繰り返されるうち、『声を出せば秀子が来る』と幽霊か何かを恐れるように皆が息を潜めるようになり、今ではこのフロア全体が静まり返っていた。
 だから、秀子と友人である自分がどうにかしなければと、同僚は使命感に似た感情で女子トイレに連れ込んだ。
 けれど、これは――目の前にいるこれは、誰だ?
「……秀子はどこ?」
 友人の昏い瞳を見つめ、震えた声が無意識のうちに零した言葉。
 怯える同僚に秀子は不思議そうに首を傾げ、口を開いた。
「ときは ひとを かえる」
 しかし、女子トイレの中に響いたのは、秀子のものではない中性的な声だった。
 先ほどはいなかった第三者の声に驚き困惑するふたりの前で、声は次々に増えていく。
「つきは みちて かける」
 灰色の装束を身に纏った、男とも女ともつかない見知らぬ人間――否、ナニカが地面から生じ、ふたりを覆うように囲っていく。
「はらが みちれば うえる」
「きえる うしなう うばわれる」
 トイレの外から複数の悲鳴が聞こえた。ここと同じ事態が起きているのかもしれない。
 しかし秀子も同僚も、明らかな超常現象を前に、ただ唖然として息を呑むことしかできなかった。
「すべて はいに かえる」
 そして灰色の手が、立ち竦むふたりに伸ばされる――。



【MSよりご連絡】
 猟兵たちは女子トイレの前に転移してきます。
 急げば魔の手が彼女たちに伸びる前に救出できる距離です。
 今いる階の全体に灰色の軍勢が出現したので、これを殲滅してください。
 灰色の軍勢は猟兵を優先的に攻撃するため、暴れまくるだけでも一般人への被害を減らせます。
 秀子は現在魅了状態にありますが、戦闘が終わる頃には落ち着くでしょう。
 (魅了を解除するリプレイなども可能です)
星群・ヒカル
「おっといけねぇぜ?本人の許可なく、女の子に手を出すなんてなッ!」
彼女たちへの攻撃に対して『超宇宙牽引ワイヤー』を鞭を振るうようにして『ロープワーク』で操り、敵に一撃を加えてこちらに注意を引くぞ

「こっちに来いッ、この超宇宙番長が纏めて相手してやるよ!」
沢山いる敵に『挑発』を投げかけつつ、敵群を人がいない方向へと誘導していこう
敵の攻撃は星の目による『第六感・視力』で見切って『逃げ足・早業』で回避だ

敵はおれに対して距離を縮めに来るはずだ
沢山の敵が集まり、人がいないことを確認した上で
【超宇宙・真眼光波動】を発動
敵を纏めて焼き尽くすぞ
「おれに触れると火傷するってことだなッ」

※負傷含めたアドリブ歓迎です


金櫛・キンコ
うおおおおーっ!と危ない!
事情はどうあれ、まずはお二人の安全確保が最優先ですね。
その後の事はおいおいなんとかしましょう。

お二人を助けるために、お二人の周りに出現したオブリビオンを素早く倒します。
指定のユーベルコードでオブリビオンを指定し、攻撃を加えます。
黄金蟲が攻撃を加えている間にお二人を救い出し、女子トイレに押し込みます。

私はそのままトイレに残り、お二人がオブリビオンに襲われないように女子トイレに籠って守ります。

ユーベルコードで呼び出した黄金蟲はそのままフロアに解き放ち、フロアをうろつくオブリビオンを襲うよう指示を出しておきます。


カーバンクル・スカルン
はーい、こちらのフロアは禁煙となっておりまーす。あと、ここは女子トイレなんだからさっさと出ろ男ども。

ボディ・サスペンションを壁に接触しないように振り回してから投擲し、誰でもいいから捕まえて手元に勢いよく手繰り寄せる。

それが人なら私の後ろに下ろして、オブリビオンなら待機させて置いたワニの口の中に叩き込む! 機械が疲労することはないからね、私に腕時計を向けられる前に噛み砕かせてもらうよー。

人は……勝手に恐怖して逃げられても困るから適当に枷に繋いでおいて転がしとくかな




 滅びを齎す灰色の手が、文字通りふたりの人間を灰燼に帰さんと伸ばされた、まさにそのときであった。
「――えっ?」
 眼前にまで迫っていた手が、秀子たちの視界から消えた。
 正確に言えば、それは消えたのではなく、何かに引っ張られるようにして急速に秀子たちから遠ざかっていたのだが、あまりの速さに常人の目には消えたように見えたのだ。
 そして今――ガチャンッ――本当の意味で、消えた。
「はーい、こちらのフロアは禁煙となっておりまーす。違反者はこちら≪人身供犠(クレーン・オブ・クロコダイル)≫にご案内ーってね」
 正面に立ち塞がっていたものが消えたことで開けた視界の先。
 女子トイレの入り口で、まるで海を割ったモーセのように仁王立ち灰色の軍勢を睥睨していたのは、宝石の如く煌めく赤髪の少女カーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)であった。
 巨大な釣り針のようなフックがついたワイヤーを振り回すカーバンクルの側には、機械仕掛けのワニがメタリックな体躯を揺らし、大きな口をガシャンガチャンと動かしながら次の獲物を待ち構えていた。
 口の中には凶悪な刃がずらりと並び、人間が挟まれれば語るのも憚られる有様になるだろうことは明白であった。
「一発で仕留めてあげる。……だから安心して死になさい」
「みらいは かこに たえる」
 仲間がワニに捕食されたことに気づいているのかいないのか。
 纏う空気や表情こそ微塵も変わらないものの、天敵である猟兵の登場を察した灰色の軍勢は煙草を燻らせ、カーバンクルに敵意を持って向き直った。
「――そらっ! ご飯の時間だよ、黄金蟲!」
 灰色の軍勢の注意が秀子たちから逸れた途端、何処からかの掛け声と共に小判がトイレの中へばら撒かれた。
 しかし小判は奇妙なことに床に落ちることなく、ブンブンと羽ばたいており――そう、それは小判などではなかった。
 それは、蛍光灯の安っぽい光の下でもギラギラと黄金に輝く、五百円玉大の虫の群れだったのだ。
 金色の天道虫に似た見た目のそれらは、竦み上がっている秀子たちには目もくれず、主人の命じた敵、すなわち灰色の軍勢へと狙いを定めて襲い掛かった。
 灰色の軍勢も応戦し身体中を食われても痛みを感じないように淡々と手を黄金蟲に触れて塵に変えていたが、如何せん黄金蟲の数が多すぎる上に、すばしっこい。
 対処しきれなかったモノから順番に、バラバラと紙のように千切れていった。
 そんな攻防の間を、黄金蟲の輝きに紛れて秀子たちに近づく影がひとつ。
「ヒッイィ――ッ!?」
 不意に腕を引かれ、悲鳴を上げかけた同僚女性の口は素早く塞がれる。
 しかし刹那、死を覚悟した彼女の耳に届いたのは、少し慌てたような少女の声だった。
「おわわっシーッ! 静かにっ! 大丈夫、私たちはあなたたちの味方ですよ」
 同僚女性の口元から手を離しながら、少女は二人を安心させるように囁いた。
 この少女こそ黄金蟲たちの主であり、自身もまた眩い純金の髪を持つ金櫛・キンコ(✨純金髪✨・f27825)であった。
 彼女は後天的に得た純金の髪のためにどこにいても目立つ存在だったが、灰色の軍勢がキンコに気がついた様子はない。
 その絡繰りは至極単純、トイレ内に放った黄金蟲の大群に紛れて移動することで、自分の存在を埋没させたのだ。
 木を隠すなら森の中。森がないなら、作れば良いのだ。
「入り口は……ちょっとまだ使えそうにないので、もうちょっと奥の方に行きませんか?」
 カーバンクルがワニの口にまた一体オブリビオンを放りこむのを見遣って、キンコはふたりに提案する。
 灰色の軍勢も今は虫とワニに気を取られているが、いつまた矛先がこちらに向くとも知れず、猟兵に対抗するたの力を蓄えようと彼女たちに危害を加える可能性は十分にあった。
「さぁっ今のうちに移動しちゃいましょう。煙を吸い込まないように」
 同僚女性は困惑気味に頷き、秀子はぼんやりとしていたがキンコの声は聞こえているようで、トイレの奥にそろそろと歩き始めた。
 二人の背を眺めながら、なんとか上手くいったとキンコは安堵の息をつく。
 しかし、戦場ではほんの僅かな気の緩みが命とりになるもの。
「――っな、ん!?」
 突然、何の前触れもなく足から力が抜け、キンコは歩き出した体勢のまま崩れるように落ちた。
 咄嗟に手をつくことで完全に床へ倒れ込むことは防いだが、身体が言うことを聞かず、立ち上がれない。
「ときからは だれも のがれられない」
 さっと背後へ首を回せば、頭の半分を黄金蟲に食われ内部の空洞を晒しながらも腕時計を嵌めた腕をキンコに向け、灰色の軍勢が近くに迫っていた。
 キンコは圧し掛かる疲労感に汗を滲ませながら、果敢にオブリビオンを睨みつけ床を這う。自身を盾にして秀子たちを庇うためだ。
 勿論、無抵抗にやられてやる気はさらさらない。キンコは黄金蟲を差し向けようと声を上げかけ……しかし、それよりも早く飛び込んできた力強い声に口を噤んだ。
「おっといけねぇぜ? 本人の許可なく、女の子に手を出すなんてなッ!」
 目前まで迫っていた手が大きなフックに攫われ、吹き飛んだ。
 フルスイングの勢いで真横の壁に叩きつけられた灰色の軍勢は、水風船が割れるように空中に霧散し消えた。
「こっちに来いッ、この超宇宙番長が纏めて相手してやるよ!」
 突風のように現れ、牽引曳航もこなすフック付きワイヤーの一薙ぎで数体を消滅させた少年は閃光の如き存在感を放ち、灰色の軍勢を挑発するとさっさと身を翻した。
「ここは女子トイレなんですけどねー、ヒカルくん」
「それは非常時ってことで、許してくれ! あとは任せたぜ!」
「はいはい、そっちもね。……さーて、次はどいつから食われたい?」
 女子トイレの入り口で擦れ違い様にカーバンクルと軽口を交わして、少年――星群・ヒカル(超宇宙番長・f01648)は灰色の軍勢を引き連れ、廊下を駆け出した。

「っよ、と……っ! はぁッ、ぐっ……んー、やっぱりあの腕時計が面倒だ、なッ」
 ヒカルは自分を捕らえようと後ろから伸ばされる腕や時おり放たれる波動を、星写す魔眼の力と持ち前の高い運動能力で回避しながら駆けていた。
 しかし、灰色の軍勢が腕時計をヒカルに向け掲げることまで回避するのは至難の業で、ヒカルの身体は徐々にだが疲弊しはじめていた。
 僅かに走る速度が落ち、灰色の軍勢の手が身体に届きそうになる寸前で回避するというギリギリの状態。
 もはや猶予は残されていなかった。
「……っここだな!」
 ヒカルは残った力でフック付きワイヤーを後方に振り回し牽制すると、横の部屋へ飛び込んだ。
 そこは小さな会議室のようだった。中には誰もおらず、窓にはブラインドが下ろされて薄暗い。
 間もなく、ヒカルを追いかけて灰色の軍勢が部屋の中へと雪崩れ込んでくる。
「……」
 牽制によって開いた距離は逃げ場のない密室内ではすぐに埋められ、ヒカルは壁際に追いやられていった。
 立ってはいられないほどの疲労感に息を荒らげ、自分の意思に関係なく痙攣するように震える身体を壁についた手で何とか支えながら、ヒカルは目を閉じる。
 その姿は、死を諦観して待っているようにも見えた。
 煙草の煙が触れた肌から時間を奪い、衰えさせていく。
 しかしそれでも、ヒカルは身動ぎもせずに、じっと待ち続けた。
 やがて、もはやヒカルは抵抗を諦めたと踏んだのか、ヒカルを取り囲んだ灰色の軍勢はその包囲を一歩狭めた。
「けんじゃは ほろびを うけいれる」
 抑揚のない中性的な声が言い、誘うかのように数多の手がヒカルへと伸びた。
 ヒカルは黙してその手を受け入れる――わけがなかった。
「だったらおれは愚者でいいさ」
 這う這うの体だったはずのヒカルは活気に満ちた顔を灰色の軍勢に向けると、ニヤリと口端を上げて笑った。
「その目に焼き付けろ。これが……超宇宙番長の輝きだッ!」
 開かれた魔眼に輝くは、見たもの全てを滅ぼし尽くす鮮烈なる星の光。
 会議室中に目を焼くほどの閃光が放たれ、一瞬にして灰色の軍勢は自らを塵に変え溶けた。
「おれに触れると火傷するってことだなッ」
 ヒカルは汗を拭って一度空になった室内を見渡すと、疲労も忘れたように再び戦場へと駆け戻っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葛籠雄・九雀
SPD

食事は嫌いではないであるが、洗脳されてまでしたいものではないであるな。
材料も得体が知れぬ。得体が知れぬものは食わん。…オレの意思が通るのであればな。

さて、オレは一先ず女子トイレからは離れるであるかな。秀子ちゃんたちは他の猟兵ちゃんに任せるであるよ。

襲われておる一般人ちゃんたちを【かばう、おびき寄せ】で守りながら、【誘導弾、2回攻撃】+ウルティカ・ディオイカにて干物作りにでも勤しむとするであるかな。どこかに避難させるか近くに置いておくかは状況で判断するである。
オレ自身は【ダッシュ、逃げ足】で距離を保ち、複製した一本を囮に背後から刺すなどで当てに行くか。当たればいいであるな!

アドリブ連携歓迎


メアリー・ベスレム
メアリ、お肉は大好きよ?
えぇ、とっても
オウガの「好物」以外はね

あんまり楽しんでいる余裕はないかしら
一般人の保護は他の猟兵にお任せで
メアリは敵を殺して回るのを最優先
【獣の嗅覚】と【聞き耳】で敵を探してその階を駆け回り
戦闘になったら【逃げ足】で触れられないように立ち回り
もし捕まりそうになっても【咄嗟の一撃】で
腕なり手首から切り飛ばす【部位破壊】
トドメは【ジャンプ】から肉切り包丁の【重量攻撃】叩き切る

あなた達の感染させる病がどんなものかなんて知らないけれど
そんなやり方じゃ獣は捕まえられないし
月(ほし)の狂気だって消せやしなんだから


レッグ・ワート
そんじゃ、仕事しようか

俺は救助活動といこう。女子トイレ?有事だろ。ただ手が足りてるなら他一般全員の確認できるまで対応に回るよ。安全圏ができたら集まって貰って守りつつ組織に後よろでいいかね。他案あれば乗るぜ。とりまドローンは迷彩起こした状態で放して、行く部屋や廊下の情報収集に使う。一般には状態確認の後、その時の対象に合った声かけや応急処置であたるわ。物騒見聞きも最少にとは思ったって、落ち着いて貰えないと厳しいからな。
あちらさんに絡まれたら、そうだなあ。物騒な手は避けつつ、糸張っての時間稼ぎや拘束、鉄骨での胴払い狙いで。組織の後始末まで一般来なそうな場合は、怪力任せに鉄骨でぶん殴りもするかもな。




 奇怪なヒーローマスクとバニースーツの人狼少女、武骨なウォーマシンの男は、女子トイレに向かった猟兵たちと別れ、悲鳴の上がった部屋へと駆けていた。
「食事は嫌いではないであるが、洗脳されてまでしたいものではないであるな」
 救助へ向かう短い道中、ヒーローマスクの葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)が台詞とは裏腹に陽気な声で独り言ちる。
「そうね、メアリもお肉は大好きよ。オウガの『好物』以外はね」
「オウガってのは、アリスラビリンスでのオブリビオンの呼称だったか。そいつの好物っていうと……あぁ。俺には理解できないものだな、仕様的にも」
 九雀の言葉に人狼のメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)が軽やかに謎めいた言葉を返せば、ウォーマシンのレッグ・ワート(脚・f02517)通称・レグはメアリーの暗示するものをアリスラビリンスの情報と照合して、その結果に心なしか嫌そうな声を出した。
 そうこうする間にも喧騒の発生源は近づき、彼らは無言で足を速める。 
「メアリは敵を殺したいの。だから一般人には構っていられないわ」
「おぉ、メアリちゃんが暴れ回ってくれるのであれば丁度良いのである。一般人ちゃんたちの救護は、レグちゃんに任せて良さそうであるな」
「オーケイ。俺も元からそのつもりだったからな。葛籠雄はどうするよ?」
「オレは孤立した一般人ちゃんたちをレグちゃんに引き渡すのである。適材適所であるよ、レグちゃん」
 早口に作戦とも呼べない粗雑な役割分担を決めると、異端の即席チームは躊躇いなく阿鼻叫喚の部屋に足を踏み入れた。
「そんじゃ、仕事しようか」


「つまらないのね、あなたたち。流せる血すらないなんて」
 デスクや椅子の上を蹴ってぴょんぴょんと、兎のふりした狼が跳ねる。
 不躾に近づいてきた手を高く跳んで避けて、くるりと宙返りしながら腕を振るえば、ぽぉんと飛ぶのは敵の首。
 切断面から血は流れず、代わりに細く煙が立ち上っては残った体ごと消えていく。
「ひかる ほしは きえる」
 次々と殺されていく仲間を余所に、灰色の軍勢は舞台の上で踊るように殺戮を繰り返すメアリーに焦がれるように手を伸ばす。
 けれどもメアリーは素っ気なく、その手を端から斬り飛ばした。
「あなた達の感染させる病がどんなものかなんて知らないけれど。そんなやり方じゃ獣は捕まえられないし、月(ほし)の狂気だって消せやしないんだから」
 ぽん、ぽん、ぽぉん。
 小気味よいくらいに呆気なく、腕から切り離された手首が舞う。
 灰色の軍勢に怯えていた一般人も、今では自分たちを助けてくれたはずのメアリーを見て悲鳴を上げている始末だ。
「メアリが聞きたいのは、あなたたちの悲鳴じゃないのよ」
 溜息ひとつ。メアリーは肉切り包丁を片手に座り込む会社員に近づいて、横に薙いだ。
「隠れていても分かるわ。だってあなた――とっても煙くさいもの」
「うわああああーっ! ……ぁ? え?」
 頭を抱えて茫然とする会社員の背後で、灰色の煙が昇って消えた。
 何が起きたか分からず困惑する一般人の誤解を解こうともせず、メアリーはその横を通り過ぎていく。
「これじゃあ、ちっとも満ち足りない。ねぇ、あなたはメアリを楽しませてくれる?」
 ぽーんと首が跳ねた。

 葛籠雄・九雀にとっての戦闘は、義務であり自身の存在意義だった。しかし、決して好んでするものではなかった。
 戦えば傷を負うだろう。傷は痛いし、下手をすれば痕になる。
 九雀は不必要に肉体に傷痕を増やしたくはないのだ。これでも彼は彼なりに、肉体のことを気遣っていた。
 そんなわけであるから、自らの意志で積極的に戦いに赴くメアリーは、九雀には有り難い存在だった。
 と言っても、九雀が戦闘を怠けているわけではない。そこは先ほどレグへ語ったように『適材適所』である。
 戦闘が得意なものには戦闘を、支援が得意なものには支援を任せるのが一番効率が良いと考えた九雀は、戦闘をメアリーに治療支援をレグに任せ、自分はその二つを繋ぐ役目を自ら請け負ったのだ。
「――まあ、そういうわけである。オレたちは味方であるから、安心してついてきてくれると助かるのであるが……」
「ウワーーーーッ!!」
「聞こえてなさそうであるな」
 九雀は壁を背にして蹲る男性を見下ろし、思案気に首を傾げた。
 襲われていたところを助けたまでは良かったが、男性は次々と繰り広げられる惨状に現実を受け止めきれず、恐慌状態に陥ってしまったのだ。
 優しく声をかけたり自分たちは敵ではないとアピールしたり、様々試みたがどれもそれほど効果があったようには見えない。
 それに、と九雀は真横に顔を向ける。
「叫ばれると見つかりやすいのであるよな」
 そこには、九雀の操る思念針によってハリネズミにされたUDCが立っていた。
 思念針は触れた液体全てを吸い上げる針である。ゆえに中身が空洞のように見えた灰色の軍勢に効果があるようには思えなかったが、何故だかUDCはみるみるうちに萎んで消えていく。
 この針はいったい何を吸っているのか。興味はあったが、残念ながら今はそれどころではない。
「ふーむ」
 そも九雀は誰かを慰めるなどという、人の感情に寄り添った対応は不得手なのだ。
 ならば、自分よりは人とのコミュニケーションに長けているレグに助力を願おうかと部屋の一角で一般人たちの保護にあたっている彼を見るが――あちらはあちらで忙しそうだ。
「……申し訳ないのであるが、一般人ちゃんには暫し寝てもらいたいのである」
 少し考えて、九雀は努めて穏やかにそう言うと男性の肩に手を置いた。

「部屋にいた一般人ちゃんは、これで最後である」
「ああ、お疲れさん。状態は……気絶か。ま、正直パニックで暴れられるよりは、そっちの方が治療しやすくて助かるな。そっちに寝かせといてくれるか?」
 気を失っている一般人の腕を肩に回し、引きずるようにして連れてきた九雀に指示を出しながら、レグは情報収集に充てていたドローンの映像を確認する。
「……他のとこも別の猟兵連中が行っているし、とりま大丈夫そうだな」
 敵はほとんど片づいたとはいえ、まだどこから湧いてくるかも分からない。レグは負傷者を残して部屋を離れられなかった。
「葛籠雄、手が空いたら部屋中の窓を開けてもらってもいいか。治療に障るんだよ。あと単純に邪魔」
「うむ、承知したのである」
「サンキュー、よろしく」
 九雀が窓を開けに行くのを見送り、レグは部屋の一角に張り巡らせた糸の中で寝そべる人々を眺めた。
「老化・劣化は、あいつらを倒せば戻るみたいだな。だが、こっちは……」
 疲弊し、意識のない一般人の状態をスキャニングしていたレグは、ある一点を見て声を落とした。
 包帯が巻かれた腕には、肘から先がなかった。既に塵と化してしまったのだろう。
「生きているだけ良かったって、思ってくれれば良いんだがね」
 この世界の一般人はオブリビオンの存在を知らない。
 目が覚めたとき、彼らは恐らく今日のことを覚えてはいないだろう。
 それが良いことなのか悪いことなのかは、分からないが。
 溜息に似た排気を漏らすと、レグは劣化で軋む体を無視して自身の役目を最大限に果たしに戻っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レン・デイドリーム
アドリブ連携歓迎

あー、こんな人目につく所でオブリビオンが出ると後処理が大変なんだよなぁ
女子トイレの中に入るのはきっと女性の猟兵さんがやってくれると信じて
僕はフロア内の敵を対処していこう

劣化するのは嫌だから【オーラ防御】で身を守りつつ
相手が手にした煙草は【衝撃波】で撃ち落としたり、ユーベルコードで手を拘束して無効化しよう
ここ多分禁煙だよ
喫煙者ならマナーは守ろう

煙草を無力化したら【呪詛】で攻撃
灰は灰に、過去は過去に
さあ、消え去ってしまえ

一般人が狙われているなら守りにいきたい
秀子さんも大丈夫かな?
もし話せるなら様子は見ておこう
【催眠術】で彼女にかかった魅了が解けないかもためしておきたいな


シキ・ジルモント
◆SPD
到着次第すぐ行動開始
この場を切り抜け、元凶の感染型UDCを探し出して速やかに排除する
魅入られた人間がまだ戻れる内に…いつかのように手遅れになる前に、止めなければならない

一般人を狙って接近する敵を最優先で倒して被害を防ぎたい
既に接近されているなら、抱えて飛び退き攻撃範囲から離脱する
守りながらの戦いでも後れを取らない為に、ユーベルコードを発動し行動速度を上げて対抗
銃の射程を利用して接近しないよう、させないように戦う

感染型UDCと接触した者が何か話してくれるなら、保護がてら聞いておきたい
何を見たのか、何が起こったのか
いつもの日常のどこで、どんな風に、隣り合う異常へと足を踏み外してしまったのか


玖篠・迅
UDCも色んな種類が出てきてるんだな…

式符・朱鳥で鳥たち呼んでこの階全体に散ってもらうな
襲われそうな人がいたら守ったり、敵の邪魔して時間稼ぎとか頼むな
他の猟兵がいたら、その人に協力するようにもお願いしとく

秀子さんに「破魔」を込めた護符で正気に戻せるか試してみたいから、秀子さんと同僚の人のとこ目指すな
敵にあったら「破魔」や「麻痺攻撃」で金縛りの呪い込めた霊符で攻撃したり邪魔していく
秀子さんたちが危ない時は、千代紙で折っといた盾と「結界術」で防いでみるな

…よくないものにあったみたいだし、秀子さんが不安そうなら「破魔」を込めた護符渡してみるな
これで少しでも安心してくれるといいんだけども




「あー、こんな人目につく所でオブリビオンが出ると後処理が大変なんだよなぁ」
 レン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)はやれやれといった口ぶりで独り言ちながら、フロア内を探索していた。
「女子トイレの方は女性の猟兵さんたちがやってくれているし……あちらの方も人手は足りていそうだね。さて、僕らはどこへ行こうか、シュエ」
 歩きつつひょいと覗き込んだ部屋では、既に他の猟兵たちが役割を分けて働いているようで、そこに自分の仕事はなさそうであった。
 何気なくシュエに話しかければ、彼女は白い腕をレンにゆるりと絡ませた。
 この分なら、いくらもしないうちに片がつきそうだと算段をつけながら歩いていたレンは、ふと顔を顰めて立ち止まった。
「煙たいな……」
 奥に行くごとに、流れてくる煙の濃度が高くなっていた。
 火災時と違い熱さは伴わず、オーラ防御の効果で身体に老化などの影響もない。
 だが、視界は先が見通せないほど悪く、呼吸をするのも躊躇われた。
 念のため口を手で覆い、レンは廊下側の窓を開け放ちながら用心深く先へ進んだ。
「――シュエ、あいつが鬼だ。捕まえてしまおう」
 やがて煙の中に二つの影を見たレンは、姿が鮮明になるのを待たずにユーベルコードを発動する。
 と、同時。シュエが放った半透明の触手の枷と同じかそれ以上の速さで、彼の横を何かが猛スピードで駆け抜けていく。ぶわりと煙が巻き上がり、後ろへ流れていく。
 そして瞬きのうちに、何かは再びレンの横を通り過ぎて煙の外側へ飛び出していった。
 しかしレンは何かの後を追うことはせず、そのまま煙の発生源に近づいていく。
 そこには、予想通り手足を拘束された灰色の軍勢――一体だけを軍勢と呼ぶのは違和感があるが――が床に転がり、触手を解こうと身体を捩じらせていた。
「ここ、多分禁煙だよ。喫煙者ならマナーは守ろう」
 レンは灰色の軍勢が咥えている煙草を親指と人差し指で摘まんで抜き取ると、代わりに呪詛を籠めた衝撃波を返した。
「灰は灰に、過去は過去に。――さあ、消え去ってしまえ」

「やあ。無事だったかな?」
「あぁ、酷く疲弊してはいるが……十分な休養を取れば、回復できるだろう」
「それは良かった。それで、君は?」
「――シキ・ジルモントだ。先ほどはすまなかったな」
「そういう意味じゃなかったんだけど、まあいいか。僕はレン・デイドリームだよ。よろしくね」
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、UDCの始末を終え戻ってきたレンと言葉を交わしながら、彼が深く尋ねてこないことに感謝した。
 萎びた肌を露出し、肩で息をするシキが無事ではないことなど誰の目にも明白であったからだ。
 シキは、転移直後に行動を開始し、助けが遅れそうな場所にいる一般人たちの救助を行っていた。
 大抵は遠距離からの射撃で片が付いたが、中には先ほどのように飛び込んでいかなければ救出できない場面もあったため、自身の体を盾として使わざるを得なかったのだ。
 それに寿命を縮めて身体能力を異常強化するユーベルコードの代償も合わさり、常人なら昏倒してもおかしくないほどの疲労が、シキの中に蓄積していた。
「(だが、俺のことはいい。それよりも)」
 シキにとっては自分の命が削れるよりも、助けられず手遅れになる命を見る方が、余程恐ろしく、痛かった。
「おや。なんだろうね、あれ」
 不意に、隣を歩いていたレンがシキの頭上を指差して声をかける。
 シキがつられて顔を上げれば、そこには確かに火を纏った赤い鳥が手招くように飛んでいた。

 玖篠・迅(白龍爪花・f03758)は、虚ろな目をした秀子の顔を気遣わしく見つめていた。
 女子トイレから空いていた小さな会議室に場所を移してからずっと、秀子はこんな調子であった。
 転移直後に聞いた女子トイレでの会話のように何処かにあるという料理屋を勧めてくることはなかったが、反対に何も話すことなく黙りこくっていた。
 オブリビオンの関わっていることであるから、猟兵に対して情報を流さないように術などが仕掛けられていても不思議ではないのだが――
 そこまで考えたところで、無意識のうちに眉を顰めていたことに気づき、迅は頭を振って表情を柔らかいものに切り替えた。
 安心させたい相手の前で、険しい顔は逆効果だからだ。
「えっと、俺の名前は玖篠・迅。お姉さんは……秀子さん、で合ってるよな?」
 気を取り直して親しげに話しかけてみるが、秀子は僅かに肩を跳ねさせるのみで、口を開こうとはしなかった。
 迅はめげずに、明るく笑いかけて続ける。
「これ、破魔の護符なんだ。悪いものから守ってくれる。良かったらもらってな」
 そう言って秀子に手製の護符を差し出すと、ようやく秀子は迅の方を見た。
 相変わらず無口だが、手は渡した護符を強く握りしめている。
「(空気がちょっとだけ軽くなった、かな?)」
 ようやくしっかりとした反応を示した秀子を見て、迅は内心で安堵の息をつく。
 破魔の護符は、秀子に纏わりついた邪気を払ったようだ。
 だが、秀子は黙したまま何も語らない。
「失礼するよ」
 そこへ、迅の赤い鳥の式・朱鳥を伴ったレンとシキが現れた。
 先ほど救出した一般人は他の猟兵に預けてきたらしい。
 役目を終えた朱鳥が主人の元へと戻ってくるのを受け止め、迅はふたりを出迎えた。
「朱鳥! そっか、朱鳥がふたりを連れてきてくれたんだな」
「道案内をありがとう。それで――彼女が、秀子さんだね」
「目に見える範囲の怪我はなさそうだが……元凶の感染型UDCについて、何か聞けたか?」
「それが、まだなんだ。俺がふたりを呼んだのも、そのこと相談したかったからで」
「……そうか」
 要するにまだ話を聞ける状態ではないと聞かされ、シキは一刻も早く情報を知りたいと逸る気持ちを抑え、腕を組んだ。
 思案に沈黙が流れたのも束の間、声を上げたのはレンだった。
「それなら、僕が試してみようか。彼女にかかった魅了が解けるかもしれない」
 薄く微笑んで、レンは近くの椅子を手繰り寄せて秀子の前に腰かけた。
 迅とシキは何をやるのかと疑問に思いつつ、秀子に何やら話しかけているレンを後方から見守っていた。
 それから暫くして、レンはちょっと首を傾げた。
「おや、これは……秀子さん、本当はもう正気に戻っているね?」
「えっ」
 漏れ聞こえてきたレンの確信に満ちた言葉に、迅は急いで秀子を見る。
 すると秀子は明らかに動揺したように顔を逸らし、傍目にも分かるほどに震えだした。
 だから、つまり、レンの言うことは真実なのだろう。
 ――では、どうして今まで黙っていたのか。他の一般人のように、怖がっていたからだろうか? いや、それなら何故、レンの言葉にあそこまで動揺するのだろうか?
 秀子の謎めいた態度に考えを巡らせ、ほとんど同時に彼らは一つの解を導き出した。
「あぁ、そうか」
「……正気だからこそ、話を拒んだのか」
 気づけてやれなかったと落ち込む迅の隣で、シキは過去の傷に出会ったように苦しげに息を吐き出した。
 しかしたとえ本人が嫌がっていたとしても、オブリビオンに関する情報であれば、どうにかして聞き出さなければならない。
 オブリビオンを倒し、世界の破滅を防ぐ。それが、彼ら猟兵の仕事だからだ。
 顔を上げたシキは青白い顔色で俯いている秀子の近くまで近づくと、反応が返ってくるのを待たずに口を開いた。
「教えてくれ。あんたが行ったという店で、何を見たのか、何が起こったのか、いつもの日常のどこで、どんな風に、隣り合う異常へと足を踏み外してしまったのか……あんたが話してくれれば、これ以上手遅れになる前に間に合う。俺達が必ず、間に合わせる。だから――頼む」
 シキはそう話を締めくくると、深く頭を下げた。
 彼の言葉は語調こそ始終淡々としていたが、籠められた決意は強く、重かった。
 それから暫く誰も動かなかったが、やがて、小さな声がぽつりと落ちた。
「……私だって分かりませんよ。どうして、こんなことになったのかなんて」
 ようやく口を開いた秀子の声は震えていた。どこか、投げやりにも聞こえた。
「私、昼はいつも外で食べるんです。よく通っている定食屋さんがありまして。だけど今日は臨時休業でした。それで、仕方ないので別の店に行こうとして……けれど、この辺りってあまり食事ができるところがないでしょう? コンビニで済まそうかと思っていたとき、においがね、したんですよ」
「におい?」
 レンが尋ねると、秀子はちょっと喉を鳴らし、頷いた。
「えぇ。とてもおいしそうな……お肉の焼けるにおいです。私はそのにおいに誘われて、普段は通らない道に入り込んで……それから、私は歩きました。ずっとずっと歩きました。何時間も歩いたんです。有り得ないですよね? でも本当なんです。だからもう、お腹がすいて、すいて」
 秀子は腹部を擦ろうとして、しかしその手に護符を握っていることに気づくと、落ち着かない様子で護符を弄んだ。
「お店で何を見たか、と聞きましたね。あのお店では、私は何もおかしなものは見ていません。異常なものはありませんでした。ただちょっと変わった服装の、高校生くらいの店員さんが、お腹を空かせた私に食事を恵んでくださった。今まで食べたことがないほど、おいしい、おいしい……ハンバーグを。それだけです、本当に。だから、私は食べたんです。そうでなければ、何か変なものを見ていれば、私だって何も食べませんでしたよ。そうでしょう?」
 歪んだ笑みを浮かべ、秀子は三人を縋るように見上げたが、その問いに答えを返せる者はここにはいない。
「ですから私は、道に迷って、遠くて誰も知らない場所にある店でランチを食べて、会社に戻った」
 ただそれだけなんですよ、と秀子は口許を拭って囁いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『ループ』

POW   :    ループを引き起こしている元凶を排除する

SPD   :    ループが起きる条件を満たさぬよう切り抜ける

WIZ   :    ループが起きる法則を見極めて潜り抜ける

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●空っぽの時間
 秀子の記した地図を基に、例の料理店に続いているという道へと向かう途中。
 それまで無言で歩いていた猟兵のうち、鼻が利く者が不意に立ち止まると呟いた。
『……料理のにおいがする』
 しかし、周辺の目に見える範囲に営業しているレストランや居酒屋等はない。
 元々ここは空き物件の多いシャッター通りのようで、行き交う人も疎らだ。
 通る者も皆、左右に並ぶ閉鎖された商店には目もくれず、ただ前だけを向いて過ぎ去っていった。
 やがて、地図に印のつけられた場所に着く頃には、猟兵は皆そのにおいを感じていた。
 シャッターの下りた店と店の間に、通りから外へと続く細い道があった。
 食欲を掻き立てるそのにおいは、確かにその道から漂っているようだ。
 一見、行き止まりのように見えたが、秀子の話では奥まで行けば道が続いているのが分かる、とのことであった。
 道の先に何が待つとも知れず。
 されど猟兵たちは災禍の種を絶つため、未知へと足を踏み入れた。


 ――瞬間、君は道の真ん中に立っていた。
 他の仲間の姿はなく、振り返れど元来た道は既にない。
 眼前に広がるのは、日本とは異なる外国の町並み。
 立ち止まった君の横を、影のような半透明の人間たちが通り過ぎていく。
 腹の空くような料理の良いにおいだけが、先ほどと変わらず道の先から漂っていた。
 しかし、食事の時間はまだまだ先のようだ。
 それまで君は、何をして過ごす?




【MSからのご連絡】
ループと空腹、ちょっとした裏話。
フラグメントはあまり参考にならないと思います。
人影に話しかけても良いですし、ただ歩き続けても構いません。
だいたい何をしても判定は成功以上になります。
他人のプレイングやリプレイを参考にして考えても良いですよ。
(※ただしPCは一緒の場面にいない他PCの行動を見ることはできません)
金櫛・キンコ
うーん、良い匂い!なんだか解らないけど、とりあえずはこの匂いの元を探りにひたすら歩きますね。

でもあんまりいい匂いでお腹が空いてきますし、どれだけ距離があるかわかりませんから持ってきたアイテムの「フィナンシェ」を食べながら行くとします。
これもまたお酒の良い香りで【元気】が出ますよ!



●金櫛・キンコ
 行き止まりの先に思い切って足を踏み出したキンコは、自身の体が壁の向こうへと呑みこまれていく感覚に顔を強張らせた。
 だが、次の瞬間ふわりと鼻腔を擽る食欲をそそる料理の匂いに、思わず歓声を上げた。
「うーん、良い匂い!」
 キンコは同意を求めるように笑顔で後に続いているはずの仲間を振り返り、ピシリと固まった。
「……えっ、えぇぇーっ! 誰もいない?」
 キンコの後ろには仲間もいなければ、今しがた自分が通ってきた壁すらもなかったのだ。
 追い抜かれたのかと前を見るが、そこにもやはり猟兵たちの姿はない。
 ならば置いて行かれたのかという考えが一瞬脳裏を過ったが、彼らが仲間を残してどこか別のところへ行くとは思えず、キンコはその可能性を即座に否定した。
 キンコは困惑しながらも、状況を把握しようと努めて冷静に辺りを見回す。
 そこには、先ほどまでいた町とは異なる景色が広がっていた。
 看板の文字などを見る限り、日本ではない別の国にいるのだろうことは、ヒーローズアース出身のキンコにも分かった。
 しかし単に異国へ飛ばされたのかといえば、そんな単純な話でもなさそうだった。
 横を通り過ぎていく半透明の影を慎重に見送りながら、キンコは溜息をつく。
「なんだか解らないけど……とりあえずはこの匂いの元を探ってみましょうか」
 ひとまずの目標を立てると、もう一度、今度は注意深く顔を動かしながら空気中に漂う匂いを嗅ぐ。
 匂いは、どうやら今いる道の先からしているようだった。
「それにしても、あんまり良い匂いでお腹が空いてきますね」
 嗅げば嗅ぐほどおいしそうな匂いに空腹感が強まっているような気がして、キンコは腹の虫を宥めるとどこからか小袋を取り出した。
「持ってきておいて正解でした!」
 得意げに笑って、キンコは小袋から金塊型のフィナンシェを一つ手に取った。
 金塊型といっても勿論、キンコの髪や本物の金塊のように光り輝いているわけではないが、黄金のように美しい山吹色をしている。
 染み込んだブランデーの深みのある味わいと芳醇な香りが景気づけに最適な、キンコこだわりの一品であった。
 ところが。
「うっ……」
 喜々としてフィナンシェを口に含んだキンコの表情は、口を動かすごとに怪訝なものに変わり、徐々に険しくなっていった。
「……ま、ず、いっ!」
 噛むのも最小限にフィナンシェを飲み込んだキンコは大いに嘆いた。
 元から透き通るように白い肌は、もはや白を通り越して青白い。
 それもそのはずだ。
 食べたフィナンシェはバターの味もしなければブランデーの香りもなく、それはただ水を含んだ固いスポンジを噛んでいるようなものだったのだから。
「はぁ、もったいないことしちゃいました」
 残念そうに空の包みを仕舞いこみ、キンコは遠い道のりを歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーバンクル・スカルン
……転移系の罠? ユーベルコード? 中々に面倒くさそうな技を使ってくるじゃない。簡単な予想としては、歩き疲れた所に店を出してご飯を見せてくる系かな?

そうだとするならば……美味しいお肉を焼きます。人にぶつからない、道の端っこに盾を置いて、その上でステーキ作って腹ごしらえでもしましょう。

こんな街中で石板置いて料理作ってる女に何の反応も示さなかったら、私の姿が見えてない別次元の人だったり幻影だったりって予想がつく。逆に話しかけてきたらお肉を振る舞ってみて、食べられるかどうか、「ここはどこなのか」といった情報を引き出せるかどうかも判別していきましょう。



●カーバンクル・スカルン
 カーバンクルは行き止まりの壁を抜け、僅かに眉を顰めた。
「……転移系の罠? ユーベルコード? 中々に面倒くさそうな技を使ってくるじゃない」
 振り返って壁がなくなっているのを確認すると、周囲を見渡しながら淡々と状況を分析する。
「簡単な予想としては、歩き疲れた所に店を出してご飯を見せてくる系かな?」
 顎に手を添え考えるカーバンクルを誘うように、おいしそうなにおいが道の先から漂っていた。
「(そうだとするならば……)」
 影のような人にぶつからないように道の端に避け、ゴトン、と重い音を鳴らしてカーバンクルが地面に落としたのは、巨大な金属製の盾。
 『黒炎の盾』と呼ばれるそれは、その名の通り高温の炎を発する特殊な盾で、盾でありながら攻守どちらにも利用可能という、非常にカーバンクルらしい装備である。
 そんな代物を一体どう使うのかというと――
「ん、良い感じに焼けてきたかな」
 肉を、焼いていた。
 一体どこに持ち歩いていたのか、分厚いステーキ肉を鉄板代わりの黒炎の盾の上で、ジュウジュウと。
「(さて、どうでるかな)」
 カーバンクルはプロの目線で焼き加減を確かめながら、意識をよそに向けていた。
 そう、カーバンクルは何もお腹が空いたからという理由だけで、突然街道でステーキを焼き始めたわけではない。
 これには、ちゃんとした狙いがあったのだ。
「(こんな街中で石板置いて料理作ってる女に何の反応も示さなかったら、私の姿が見えてない別次元の人だったり幻影だったりって予想がつく。逆に、話しかけてきたら――)」
『……何を考えているのかしら』
『正気とは……』
 思案するカーバンクルの耳に、不意に聞こえてきたのは潜めたような声だった。
 声の方へ顔を向けてみれば、そこには一組の男女と思われる人がカーバンクルをちらちらと見ながら何やら話をしている。
 身体の造形しか見えないため表情までは分からないが、口ぶりからして好意的ではないことは確かだった。
 ミディアムに焼き上がったステーキを慣れた手つきで切り分けながら周りを窺えば、先ほどまでカーバンクルに見向きもしなかった通行人までもが彼女をこそこそと見ている。
「(出来上がったら振る舞ってあげる予定だったけど……食べますかー、なんて聞ける様子じゃないね。まぁ、私の姿が見えていないわけじゃないって分かっただけでも収穫かな)」
 影のような人間たちとも対話できそうだということは分かったが、手料理を振る舞って情報を得ようとする作戦の方は、完全に裏目に出たようだ。
 しかも、あからさまに避けられながら仕方なく独り頬張ったステーキは、比喩なしで味がしないという二重苦である。
 カーバンクルはそっと顔を顰め、相変わらずどこかから届くおいしそうな匂いと一緒に食べることで誤魔化しながら分厚いステーキを平らげていく。
「(それにあの感じだと、道端で料理をしたのが不味かったっていうより……)」
 盾の上に肉がなくなったのを確認すると再び何事もなかったように前を通り過ぎていく通行人たちを眺めながら、カーバンクルは今しがた起きた出来事について考えを巡らせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星群・ヒカル
参ったな、いきなり迷子か?
……んなわけないか、これもUDCの仕業なんだろう
ともかく情報を集めないことには始まんないなッ

【超宇宙望遠鏡・析光形態】を使って周囲を見回す
『星の目』の『第六感・視力』を生かしていこう
人影の分布や行動、年齢、目的地など……
幾人か観測した上で、この場所の真実を導き出すぞ

ここはどこなのかわかれば、先に進む上での助けになるんだけどな
腹も減ってきたし、逸る気持ちもあるが
『限界突破』で押さえ込んで歩いて回ろう
きっと答えが見つかるはずだ

危険に対しては超宇宙牽引ワイヤーを用いた『ロープワーク・早業』で先んじて対応していくぞ!

※アドリブ歓迎



●星群・ヒカル
「参ったな、いきなり迷子か?」
 行き止まりの壁を抜けて、自分が独りになっていることに気づいたヒカルは開口一番そう言って周囲を見渡した。
 そうして目に映った光景は、さほど地理に詳しくない者でもそこがつい先ほどまでいたところとは異なる地であると分かるほどに様変わりしていた。
「……んなわけないか、これもUDCの仕業なんだろう。ともかく情報を集めないことには始まんないなッ」
 そう結論付けたヒカルは道の端に寄ると素早くユーベルコード――超宇宙望遠鏡・析光形態(ガントバス・スペクトルモード)――を発動する。
 両の目を視た事象を超観測し真実を導く『星の目』に変異させ、人影の様子を注意深く観察することで、この場所の真実を導き出さんとしたのである。
 黙して佇むこと暫く。20分ほど経った辺りで、ヒカルは奇妙なことに気がついた。
「ん? あの人影……やっぱりそうだ。さっき見た人影じゃねぇか」
 人影はどれもこれも全身のっぺりとした黒い半透明で、一見すると皆同じのようだが、よくよく見てみれば一人ひとりの体型や歩き方など其々に違いがある。
 ヒカルはその小さな違いを見抜いて記憶し、彼らの動向を探っていた。
 だからこそ、分かったことがある。
「あっちも、そっちも……間違いない。全部、20分前に見た光景とそっくり同じだ」
 家の前の鉢植えに水をやっていた人影は同じ鉢植えに水を撒き、ヒカルの前を右から左へ通り過ぎていった人影は同じように右からやってきていた。
 もしやと思い殊更に意識して人影の動きを観察してみれば、やはり約20分後に同じ映像を再生したかのような光景がヒカルの前に現れた。
「繰り返し、繰り返し……家を出入りしている奴らはまだしも、道を歩いている奴らはどうやっているんだ?」
 同じ方向から現れては去っていく影に興味をもったヒカルは、向かう先に何があるのかを確かめに行くことにした。
 道端を離れておいしそうな料理のにおい漂う方へと、空腹と逸る気持ちを抑えつけながら。
「においが近くなっているな。……もしかして、意外とあっさり辿り着けるのか?」
 予想していた障害や立ちはだかる敵もなく順調に15分ほど歩き続けていると、件の料理店に近づいているのか、においが一層強く感じられるようになった。
 空腹も相まって気を緩めたくなったが、堪える。
「いや、油断させておいて襲ってくるパターンかもしれねぇし」
 いつ何が襲い掛かってきても反撃できるように装備していた超宇宙牽引ワイヤーを握りしめ、気合いを入れ直す。
 やがて行く手に黄色いテープの張られた建物が見えてきたとき、それは起こった。

 ぐにゃり。

 踏み出した足が泥中に踏み込んだときのように沈む感覚に、ヒカルは目を瞠った。
「――なんだッ!?」
 咄嗟に飛び退り、超宇宙牽引ワイヤーを構えるが時すでに遅く。
 次の瞬間にはヒカルは壁を通り異界に着いた直後に見た景色に囲まれていた。
 ゴール目前でスタート位置まで戻されたと気づき、ヒカルは悔し気に腕を組んだ。
「あと少しだったんだがなー……辿り着くにはまだ何かが足りないってことか? 歩き回らせること自体が目的ってことも考えられるか……」
 暫しの間ムムムと思案していたヒカルだったが、突如カッと目を見開くと、空を見上げると何者かに宣戦布告するように声を張り上げた。
「――こんなところで悩んでいても埒が明かねぇッ! 分からねぇなら分かるまで確かめるまでだ。罠だとしても臨むところだぜッ!」
 こうして心機一転、ヒカルは再び繰り返される未知へと挑んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛籠雄・九雀
SPD

ふぅむ。
異世界で食事と言えば、よもつへぐいであるかなあ。専門でないので何とも言えぬな。
まあ適当に歩くか。考えるのは得意でない。
犬も歩けばと言うし、何がしか見つかるやもしれぬ。

一応、何かわかることがないか、半透明の影ちゃんたちにも、【コミュ力】にて話しかけてみるであるかな。まるで自信はないであるが、訊かぬよりは幾らかマシであろうよ。

しかし食事、食事なあ。
オレとしては、辛くなければ本当に何でもよいのであるが。念のため、毒の類は論外として。
この肉体が幾ら欲しがったところで、こいつ自身では指の一本も動かせんであるしなあ、大丈夫だとは思うのであるが。オレが錯乱した場合は困るであるよな。

アドリブ歓迎



●葛籠雄・九雀
 九雀はぐるりと辺りを見回すと、異界に転移するのも慣れたものといった調子で呟いた。
「ふぅむ。異世界で食事と言えば、よもつへぐいであるかなあ。専門でないので何とも言えぬな」
 よもつへぐい。黄泉(よもつ)の食べ物を食することを指す言葉だが、これが意味するのは、あの世の食べ物を口にすると、生者でも現世に戻ることができなくなるという言い伝えだ。
 秀子の例があるため帰れなくなるということはないだろうが、ここがオブリビオンが作りだした異界であることを考えれば、まず普通の食べ物が出てくるとは望むべくもなかった。
「……まあ適当に歩くか。考えるのは得意でない。犬も歩けばと言うし、何がしか見つかるやもしれぬ」
 そう言って、半透明の影をふらりふらりと避けながら、九雀はにおいを辿って歩いた。

 暫く、特に何も起きない平穏な時間が過ぎていった。
 当てもなく歩いてみたが、分かったのはここが日本ではないことくらいであった。
 看板の文字を見るに英語圏のどこかだろうが、街の一部だけで場所を言い当てられるほど、世界の地理に明るいわけでもない。
 歩いているだけでは大した情報が得られないと分かると、九雀は自信のないコミュニケーション能力を駆使して、別の手段を取ることにした。
「そこの半透明の影ちゃん、良ければ少し尋ねたいのであるが」
 九雀は一目ではどちらが正面なのかも分からないが、とりあえず人の形はしている影に話しかけたのだ。
 すると、影は言葉が通じない可能性を考えるほどの間を置いて、徐に『何を知りたい』と平坦な声で九雀に向き直った。
 その途端、九雀が話しかけた者以外の全員がピタリと凍りついたように静止する。
「そうであるなぁ……」
 さて、聞きたいこととは何だったか。写真のように動かない半透明の影を横目に、九雀は思案した。
 質問内容を考えることを忘れていた。
 しかしこちらが呼び止めたのに相手を待たせておくというのは、忍びない。
 ゆえに、最初に思い浮かんだことを、そのまま尋ねることにした。
「このにおいの料理を出している店を探しているのであるが、教えてもらえぬであろうか」
 においが可視化されているわけではないが、何となく空気中を指差しながら問うてみれば、半透明の影は首を振った。
『料理のにおいなんてしないね。店はもうなくなったんだ』
 心なしか棘のある口調で言い切ると、影は九雀の横を通り過ぎ、歩き去ってしまった。
 それに合わせて動き出した他の影の中に紛れられてしまえば、普通の人間ですら姿を覚えるのに苦心する九雀には、どれが今さっき話をした者なのかまるで判別がつかない。
 九雀は早々に追跡を諦め、また歩き出した。
「しかし食事、食事なあ。オレとしては、辛くなければ本当に何でもよいのであるが。念のため、毒の類は論外として」
 顎に手をあて、九雀は首を傾げる。
「この肉体が幾ら欲しがったところで、こいつ自身では指の一本も動かせんであるしなあ、大丈夫だとは思うのであるが」
 確かに、においを嗅げば腹は飢えに痛み、唾液の分泌が平常時よりも促進され、少し力が抜ける感覚があるが、九雀にとってはそれだけだ。
 ヒーローマスクは仮面が本体であり、中には特殊な個体もあるだろうが、肉体と違って基本的に食事を必要としない。
 それに加えて、九雀の肉体はほとんど自我を失っている状態なのだ。
 肉体を動かしている自分が正気を保っていれば、何も問題はないはずだった。
「――オレが錯乱した場合は困るであるよな」
 果たして、人間を狂わせるほどの食欲に自分は抗えるのか。
 九雀はどこか愉快げに呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レン・デイドリーム
ここ、どこだろう
町並みはなかなかお洒落だね
散策してみようか

まずは【情報収集】も兼ねて人に話しかけてみよう
こんにちは、いい香りがしますねって感じで
……そもそも日本語通じる?
話が聞けるならオススメのレストランなんかを聞いてみよう

もし話が通じないなら雑談している影がいないかを探してみる
そしてその影が話してる内容を聞くよ
雑談してる影もいないなら……どこに向かっている人が多いかを確認してみたい

人が集まっているところがあるならそちらにも行ってみる
【第六感】も交えて面白いもの探しだ
レストランが近いなら食材を卸しているお店とかもないかな
色々見てみよう

……これが本当にただの町なら良かったんだけど
そんな訳ないよね



●レン・デイドリーム
 日本の路地の先は、見覚えのない異国に繋がっていた。
 異界と言った方が正しいか。
「ここ、どこだろう。……町並みはなかなかお洒落だね」
 散策してみようか、と囁けば、シュエは白い腕をするりと絡ませた。
 さながら恋人との逢引を楽しむ観光客のように、レンは景色を楽しみながらゆったりと歩いた。
「こんにちは、いい香りがしますね」
 人畜無害の顔をして、近くを歩いていた立体化した影のような地元民の肩の辺りに触れて声をかける。
 驚くほど普通の人間のような感触がした。
 影は二、三歩ほど進んでから立ち止まり、そばに立つレンを見返したようだった。
 すると時間まで一緒に止まってしまったように、周りの影らも動かなくなる。
「(……そもそも日本語通じる?)」
 中々言葉を発さない影の様子に、そんな懸念が頭を過る頃。
『何を聞きたい?』
 年嵩の男の声がそう応えた。
 かけた言葉の返事としては些か噛み合っていないように思えたが、気にせず話を続ける。
「この辺りでオススメのレストランがあれば、教えていただきたいのですが」
 影は一度道の先(料理の香りがする方向)に顔を向け、それから首を振った。
『良いダイナーがあったけどね。あそこは潰れちまったからな。食事がしたけりゃ他所に行きな』
「潰れた? ……それは、残念だな。どうして潰れてしまったんですか」
 美味しそうな料理の香りは未だに道の向こうから漂っている。
 だというのに、影は既に店は潰れたと言う。食事なら他所へ行けと言う。
 不可解な齟齬に疑問を抱きながらも何気なく話を振れば、逡巡するような沈黙の後で、影は声を潜めて囁いた。
『――他では食えん特別な料理を提供していたからさ』
 表情も見えない真っ暗な顔で男が嗤う。
 そして、これ以上話すことはないと言うように、影は肩を揺らして去っていった。
「……これが本当にただの町なら良かったんだけど。そんな訳ないよね」
 遠ざかっていく影を眺めて、レンは残念そうに肩を竦めた。

 ともあれ、目指していたレストランの場所はそう遠くではないと判明したのだ。
 ならば、近くにレストランへ食材を卸していた店があるかもしれないと考えたレンは、街並みを眺めるふりをして店を探して歩いた。
 それは決して悪くはない発想のはずだったが、成果は芳しくなかった。
「それらしい店はあったけど、どれも休業中じゃ話を聞けそうもないしなぁ」
 閉まった商店の前で思案するレンに、シュエはシャッターの下に敷かれた一枚の紙を器用に掬い上げて見せる。
「えっと、『当店は事件に一切関与していません』……だって。レストランが潰れたことと、何か関係があるのかな」
 目の前に吊り下げられた紙の言葉を読み上げると、レンはシュエと顔(?)を見合わせて首を傾げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玖篠・迅
あの時みたいに、この町並みも誰かの記憶や想像だったりするのかな…

式符・朱鳥で鳥たちにこの場所がどれくらい広いのかと、においのもとがどの辺にあるか空から調べてもらうな
その間に影みたいな人たちに話しかけてみて、反応がもらえたらこの場所とかにおいについて聞いてみようか
反応がない時は…その人たちを観察したり、何か話してたりしてないか聞き耳を立ててみるな

秀子さんはずいぶん歩いたらしいし、町並みを見ながら俺も少しづつ歩いてみようか
あとでUDCアースに詳しい人にここと似た地域があるか聞けるように、建物とか道に貼紙
お店もあれば商品とか、特徴になりそうなの探してくな



●玖篠・迅
 空を覆わんばかりに浮かび上がった、尾に1と刻まれた全部で65体の赤い火の鳥が迅を囲うように見下ろしていた。
「この場所がどれくらい広いのかと、においのもとがどの辺にあるかを空から調べてほしいんだ」
 迅の式神で朱鳥と名付けられた彼らは、年若い主の願いを聞き届けると四方に散らばっていった。
「朱鳥が戻ってくるまで、俺も誰かに話を聞いてみよう」
 遠く火の玉のようになって飛んでいく朱鳥を見送って、迅もまた自分にしかできない調査をするため町の探索を始めた。

 影のような人たちは町の至るところに居り、それぞれに普通の人間と同じように動いていた。
 話しかけやすい相手を探しながら歩いていた迅は、アパートメントの壁に寄りかかり新聞らしきもの(人と同様に半透明で内容を見ることはできない)を読んでいる者に近づくと、持ち前の人懐こい笑顔で声をかけた。
 長い沈黙の後、声を掛けられた影は紙をめくる手を止めた。そして、時間が止まったかのように、近くを歩いていた人々までもが動くことを辞めた。
『どうして子供が外にいる』
「――っ!?」
 周りの変化に気を取られていた迅は、直ぐ前から聞こえてきた声に目を見開き後退った。
 音もなく間近に迫っていた影は瞬く間に距離を詰め、迅の腕を摑んだ。
『子供は家から出しちゃいけないんだ。でなきゃ悪魔が攫いにくる。悪魔が……』
 影はぼそぼそと不安定な声で呟きながら、迅の腕を引き何処かへ連れて行こうとしていた。
 抵抗すれば、次第に籠められた力は締め上げるように強くなり、痛みに思わず顔を顰める。
 それでも迅が腕を振り払わなかったのは、影が何かに怯えているように見えたからだ。
「っなあ、何をそんなに怖がって――」
『怖い。怖いだと? みんなそうだ。だから見つからないように隠したんだろう。おお、怖い。こわい――』
 それきり影は何を聞いても応えることなく、狂気じみた声で同じ言を吐き続けた。
 もはや真面な対話は不可能だと悟った迅は、影が前を向いた瞬間に身を翻すと動きを止めた群衆の中を駆け抜けた。
 しかし、走りながら振り返って見た影は、後を追って来ようともせずに、ただ落ちた新聞を拾い上げると何事もなかったかのように元の位置に戻っていった。
「……ごめんな」
 口を衝いて出た言葉は、何に対するものだったのか。迅自身にも分からなかった。

 再び動き出した町の中、この場所に関する手掛かりを探しながら歩いていた迅は、前が不意に暗くなったのを見て天を仰いだ。
「朱鳥? 思ったより、早く終わったんだな」
 声をかけると朱鳥は頭上を旋回しながら一体の鳥と成り、迅が伸ばした腕の上に降り立った。そして、戸惑ったように迅を見つめた。
 朱鳥曰く、この異界は一つの通りで完結しているのだという。
 そこから逸れた場所には行けず、また、においのもとに近づくと転移直後の位置に戻される。
 念話により伝えられた内容を言語化すると、そういうことのようであった。
「うーん……何か条件を満たさないと辿り着けないってことかな。秀子さんはずいぶん歩いたらしいし、町並みを見ながら俺も少しづつ歩いてみようか」
 労いの言葉をかけて朱鳥を符に戻すと、空腹と疲労からか普段よりも緩やかな足取りで、迅は繰り返す町の中を歩き続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
不思議な事もあるものだけれど
不思議の国には慣れているもの
危険がないなら足取り軽く

漂ってくるわ、匂ってくる
美味しそうな料理のにおい
とってもジューシーなお肉のにおい
これはそう
ソースを絡めたハンバーグ?
それとも茹でたソーセージ?

それにそう
料理に紛れても隠し切れない
むせ返るような血のにおい!

牛さんでも豚さんでもない
強いて言えば、あわれなあわれな「羊」の血?
メアリ、血のにおいは甘くて好きよ?
だけれどこれは、嫌いなにおい

道行く虚ろなあなた達
あなた達は「食べてしまった」のかしら?
それとも「食べられてしまった」のかしら?
えぇ、どちらでも良いけれど
オウガもヴァンパイアもそれ以外も
「人食い」はメアリが必ず殺すから



●メアリー・ベスレム
 異界に飛び込んだメアリーは町をきょろきょろ見回して、大きな瞳を瞬いた。
 けれどその顔に浮かぶのは、憐れな被害者の怯えでも戸惑いでもない。
「不思議な事もあるものだけれど、不思議の国には慣れているもの」
 寧ろこっちのほうが居心地が良いと、アリスラビリンスのオウガ殺しは言う。
 ふと、兎のように小さな鼻をひくひくさせて、メアリーは恍惚と目を閉じた。

「――漂ってくるわ、匂ってくる
 美味しそうな料理のにおい
 とってもジューシーなお肉のにおい
 これはそう
 ソースを絡めたハンバーグ?
 それとも茹でたソーセージ?」

 メアリーは道の真ん中を我が物顔で軽やかに歩み口遊む。
 その様はさながらミュージカル映画の一場面。
 存在しない愉快な伴奏の音さえ聞こえてくるような。

「それにそう
 料理に紛れても隠し切れない
 むせ返るような血のにおい!

 牛さんでも豚さんでもない
 強いて言えば、あわれなあわれな『羊』の血?
 メアリ、血のにおいは甘くて好きよ?
 だけれどこれは、嫌いなにおい」

 楽しげな雰囲気から一変、急転直下に軋む舞台。
 白い柔肌を太陽に晒していた稚い少女の顔に獣が宿った。
 日陰に赤い瞳がギラリと光り、傍観者たちを見つめる。

「道行く虚ろなあなた達
 あなた達は『食べてしまった』のかしら?
 それとも『食べられてしまった』のかしら?」

 居並ぶ影を覗き込み、メアリーは歌うように問いかけた。
 悪戯っ子の無邪気さで。血に飢えた狼の目で。
 数刻の沈黙。そして影は答えた。
 『それは私のせいじゃない』
 『それは決して俺じゃない』
 返されたのは何れも要領を得ない言葉の群れ。
 けれども数多の情動がメアリーの背を追い縋る。

「えぇ、どちらでも良いけれど
 オウガもヴァンパイアもそれ以外も
『人食い』はメアリが必ず殺すから!」

 時の止まった町の中。落ちた溜息は恐怖か救済か。
 獲物しか見えぬ獣には関係のない話であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レッグ・ワート
えぇ、マジか。まともな生体いないんだが。

これじゃ支援も何もない。とりま防具改造でフィルムの各耐性値を変換合算。呪詛耐性を主にしてそっから情報収集。干渉内容を元に環境耐性か空腹耐性にも振ったり演技もするかもだ。俺腹無いし嗅覚つっても計測だけど。
突破さえできれば元軸だろうから、何時間と歩く分には上等。一応迷彩起こしたドローン放して、地理や文字傾向の情報収集はするぜ。後は周りに声かけて道きいてみるかな。普通に聞いて触れられない方向があれば、そっちが誰も知らない場所なんじゃないか。気取られなさそうなら、ついでにこっそり状態確認もあててみる。もし組成がさっきの連中に近い何て事があれば、生まれでもきくよ。



●レッグ・ワート(WR-T2783改め奪還支援型3LG 通称・レグ)
「えぇ、マジか。まともな生体いないんだが」
 それが異界に着いたレグの率直な感想だった。

 これじゃ支援も何もないと思いつつ、レグはフィルムの各耐性値を呪詛耐性特化になるよう変換、合算し直す。
 ついでに猟兵の同僚が『においがする』と話し出した頃から機体に干渉してきた呪いじみた何かとそれに対する同僚の反応から、においは生体に空腹を感じさせるものだと推測し、過去に視た生体の空腹時の状態を模倣する。
 においは空気中の揮発性有機化合物を計測すれば、問題なく辿れるだろう。
 そして、何時間でも歩ける足もある。
「んで、あとは……」
 ちょっと考えて、迷彩機能を起こしたドローンを数体、町中に放した。
 町の地形や文字傾向の情報等を収集するためだ。
 そうしてレグは十全の備えをもって、異界の地探索に乗り出した。

 ――この世界は一見広そうに見えて、実際のところ行ける場所は少ないらしい。
 通りから逸れてはノイズを挟んでスタート地点に引き戻されるドローンの映像を見、自身も幾度目かのループを体験したことで、レグはそう結論付けた。
 通りを真っ直ぐ進んでいくと道の向こう側に規制線の張られた店を視認した途端、予期しない力によって最初の位置に引き戻され、横道に入り込めばこれもまた引き戻される。ならばと逆方向に進んでみたところで、結果は同じであった。
 このまま歩き続けていても良かったが、大した成果は上がらないだろう。
 レグは一度立ち止まり、道端に座り込んでいる半透明の影のような人間に近づいた。
「ちょっと聞きたいんだけど、今時間あるか?」
 威圧しないよう巨躯を折って尋ねれば、それはピタリと動きを止めた。
 同時に、他の半透明の影のような人間たちもフリーズしたように一斉に静止する。
「おぉ……」
『何が知りたい』
 思わず気の抜けた声を漏らしたレグに、座ったままの影だけが応答を返した。
「この辺のこととか教えてもらえると助かる」
『此処に旅行者が見るものはないよ』
「あー、いや、別に旅行者向けじゃなくていい。地域に関わることなら何でも」
 曖昧に言いながら、レグは何気なく半透明の人間(のようなもの)に状態確認≪スキャニング≫を行う。
 当然ながらそこに、通常なら示される生体の反応はなかった。
 予期していなかったのは、そこに何かがいることを示す何も無かったことだ。
 オブリビオンが関わって起きる事象に置いては、よく起きるエラーだが。
 “医術”で診たのが誤りか。黙考するレグの視界の端で、半透明の影がゆらりと動いた。
『この通りではたまに人間が消えるんだ。消えた人間がどこに行ったか、誰も知らない。だけど皆が知っている。何処に消えたか知っている』
「……要領得ないな。場所知ってんなら、消えた生体の親族とか友人は探しに行きたがるもんだと思ってたよ」
 謎々か哲学のような影の言葉に、レグは抱いて当然の疑問を呈した。
 しかし影はレグの方こそがおかしいのだと言いたげに『分からないのか』と首を真横に傾けた。
『みんな知っているから何も知りたくないんじゃないか』
 それきりレグに見向きもせずに、影は地べたで膝を抱えたまま前後にぐらぐら揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
異空間へ誘われるというのは、UDC相手ならよくある事だ
警戒はするが、過剰に慌てる必要は無い

匂いを辿って何時間も歩く、だったな
先の証言の通りならこの匂いの先にUDCが居る
秀子と同じように行動すれば目的の場所に辿り着けるはずだ
戻るという選択肢は無い、来た道は消えてしまった
…それに、手遅れになる前に間に合わせると約束したからな

情報収集の為、周囲の様子を確認しながら歩く
何時間も歩く事になるならそのついでだ
人影に試しにも話しかけてみる
この場所や店について情報が得られると良いが

それにしても、ずっとこの匂いに意識を向けていたせいだろうか
さっきより少しだけ、まだ行動に支障がない程度ではあるが…
…腹が、減ったな



●シキ・ジルモント
 刹那襲った眩暈のような馴染みの感覚に、シキは異界に転移されたことを悟った。
「(異空間へ誘われるというのは、UDC相手ならよくある事だ。警戒はするが、過剰に慌てる必要は無い)」
 シキは冷静に町を一瞥し、差し迫った脅威がないことを確かめると警戒を低く抑え足を踏み出した。
 その矢先、不意に料理の匂いが鼻を掠める。
 彼らが異空間へ踏み込むに至った理由。ヒトを過った道へ導く魔性の香だ。
「匂いを辿って何時間も歩く、だったな」
 常人の何倍も感度の良い嗅覚で道に漂う匂いを追いながら、シキは感染型UDC唯一の目撃者が語った体験談を思い返した。
「(先の証言の通りならこの匂いの先にUDCが居る。秀子と同じように行動すれば目的の場所に辿り着けるはずだ)」
 戻るという選択肢は無い、来た道は消えてしまった。
「……それに、手遅れになる前に間に合わせると約束したからな」
 堅固な意志を鋭い両目に秘し、人狼は長い旅路を歩み始めた。

 10巡目。休むことなく歩き続け、体感で3時間ほど経っただろうか。
 その間、ついでにと観察を続けていた町の様子に一切の変化はなかった。
 意思があるように見える人影でさえ、シキが接触しない限り、どこかで見た古いRPGのNPCのように寸分違わず同じ行動を繰り返すだけだ。
「(歩きながら得られる情報は、これくらいだろう)」
 暫し思案するとシキは再びループに入る寸前で足を止め、今までのように前に進むのではなく、真横へと爪先を向けた。
「少し、話を聞きたい」
 建物の壁に寄りかかって居眠りをしている姿勢をした人影は、5秒程の沈黙の後、徐に首を擡げてシキを見た。
『何が知りたい』
「……あの店で起きたことについて、あんたが知っていることを」
 シキが問えば、人影は聞かれる前から知っていたように、顔を道の先に向けた。
『あそこは良い店だったよ。まあ、表向きはなぁ。美味い飯に愉快な店主、可愛い看板娘。俺も含めて、この通りに住んでいる奴の殆どは通っていたはずさ』
「――“表向き”? なら、実際は違ったということか」
 引っかかる物言いに人影を問い質すと、慌てた風に首を振った。
『いや、いや。ちょいと奇妙な噂があったってだけだよ。詳しいことは何も知らん。識りたいとも思わなかった。俺はただ美味い料理が食えれば、それでよかったんだ。だのに、店主まで消えちまって……』
「……どうした?」
『……』
 人影の声は何かを恐れるように尻すぼみになって消え、それきり続かなかった。
 壁に寄りかかり元の姿勢に戻っていく人影に、シキはこれ以上の追求は無意味だろうと判断して踵を返した。
『……あの肉、もう食えねえのかなぁ?』
 11巡目のワープに入る間際、不思議そうに呟く声が聞こえた気がした。

 それから、ただただ歩き、歩き、歩くだけの、単調な時間が続いた。
 匂いを追っているのか、追わされているのか、惑うほどに。
「(それにしても、ずっとこの匂いに意識を向けていたせいだろうか。さっきより少しだけ、まだ行動に支障がない程度ではあるが……)」
 シキは僅かに霞がかった脳内で自己分析を行いながら、無意識に手を口許へ触れる。薄く開いた口から、ちらと犬歯が覗いた。
「……腹が、減ったな」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『肉屋と言う名の災厄』二代目ハールマン』

POW   :    自慢のソーセージを味わって下さいねー
【真っ赤な紅茶と手作りソーセージ(意味深)】を給仕している間、戦場にいる真っ赤な紅茶と手作りソーセージ(意味深)を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD   :    お肉屋さんは何処でもお伺いしますよー
【血糊の染み付いたエプロン姿】に変身し、武器「【非常に使い込まれた肉切り包丁(意味深)】」の威力増強と、【人体構造の限界を無視した身体能力】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ   :    是非お友達にも紹介してくださいねー
【手作りソーセージ(意味深)】を披露した指定の全対象に【知人にも食べさせなければと言う異常な】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は黒玻璃・ミコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●おまちかねのランチタイム!

 ――どれほどの時間が経っただろうか。
 猟兵たちは、料理のにおいを追いかけて異界の町を歩き続けていた。
 変わらぬ町並み、繰り返すタイムライン。
 疲弊していく身体、増進される食欲と異様なまでの空腹感。

 しかし、それは突然に訪れた。
 何かが変わるとも思わなかった、幾度目かのループ。幾度目かの試行で。
 これまでどう動けども越えられなかった不可視の境界を、彼らは越えたのだ。

 サプライズに目を瞠った猟兵たちのそばには、いつの間にか料理店が現れていた。
 まるで初めから、ずっと変わらずここにあったのだという顔をして。
 外観は遠目に見えたときとは違って、壁も看板もまだ新しい。
 ガラス張りの窓付近には、楽しげに会話をしながら食事をとっている複数の大小様々な影に似た半透明の人間の姿も見えた。
 猟兵たちを誘うように薄く開いた入り口の扉から、涎の溢れるような極上の料理のにおいと客たちのものだろう賑やかな声が聞こえてくる。

 ――カランコロン。
 扉を押し開くと上部に取り付けられた小さなベルが鳴った。
 途端、外で見聞きした客の姿も声も途絶え、耳に痛いほどの静寂が猟兵を襲った。
 客に提供されていたのだろう料理の数々だけが、テーブルの上に手付かずのまま放置されていた。
「いらっしゃいませー」
 緊張感のない声で店奥から現れたのは、店員らしき一人の少女――の姿をした感染型UDC。片手で危なげなく持ち運んでいる大きなトレーには、ほかほかと湯気立ち昇る料理が載っている。
 少女(胸元のネームプレートには英字で『二代目 ハールマン』と記されている)は猟兵を見るなり、ちょっと顔を顰めた。
「……あれれー? お客さん、どこかで会ったことありますー? なーんか、ヤな感じー」
 ハールマンは首を傾げながらトレーに載った大皿を、たった一つの空席に置いた。
「まあでもー、お客さんはお客さんなんでー、どーぞー」
 お腹空きましたよねー?
 ハールマンは緩いながらも親切な声で、確信めいて問いかけた。




【MSよりご連絡】
 第三章では二代目ハールマン(ボス敵)のPOW及びWIZのユーベルコードが既に発動している状態(敵の先制攻撃)からの戦闘になります。そのため、プレイング難度は少し高めです。
 二代目ハールマン(ボス敵)は攻撃を仕掛けられれば反撃しますが、戦闘よりも猟兵に食事をさせることに執着します。
 第二章で得た情報や疑問に関しては、活かすも放るも皆様次第です。公平を期すため、知らなくても使わなくても、戦闘に大きな影響はありません。

 また、第三章では諸事情により筆者が纏まった執筆時間を取ることが難しくなるため、プレイング受付期間を設けさせてください。
 なお、頂いたプレイングの数によっては、再送の可能性があります。ご了承の上、お送りください。
 お手数をおかけすることになり申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

【プレイング受付期間】
7/10(金) ~ 7/14(火)

【再送(仮)期間】
7/25(土) 8:31 ~ 7/28(火) 11:59
【プレイング受付期間(訂正)】
7/11(土) 8:31 ~ 7/14(火) 11:59
◎受付期間の締切日時訂正のお詫びとお願い(07/14)
 プレイング受付、及び再送期間の締切日時を誤って記載していました。
 こちらの不手際で度々混乱を招いてしまい、申し訳ございません。
 正しい日時は下記の通りです。

【プレイング受付期間】
7/11(土) 8:31 ~ 7/14(火) 23:59

【再送受付期間】
7/25(土) 8:31 ~ 7/28(火)23:59

 期限内に全てのリプレイをお返しすることが困難と判断したため、参加者の皆様には上記日時に再送をお願いいたします。
 頂いたプレイングは、一度全て返却させていただきます。
 皆様にはご面倒をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。
星群・ヒカル
何人も同じ手で引っ掛けようってんのは、さすがに芸がないぜ?
それにてめーの本性も、その食事が反吐が出るもんだってことも!
全部全部お見通しなんだよなぁーッ!
(『星の目』の視力・第六感)

正直体も食欲も限界だが
『限界突破・狂気耐性』で己を奮い立たせる
『地形の利用・早業』で、敵の死角の位置から卓上のフォークを隠し持ち
敵が自分に近づき食べさせようとする瞬間に彼女の腹に刺す

悪あがきのような『パフォーマンス』をしながら
敵がカトラリーに気を取られている隙に
『超宇宙・真眼光波動』を発動し敵ごと焼き尽くすぞ!

仲間を、大切な人を、おれの手で陥れさせようとすることが、一番許せないんだよ、なッ!!

※苦戦含めアドリブ歓迎



●星群・ヒカル
「あったかいうちにどうぞー」
 ハールマンの誘う声に真っ先に反応したのは、激しく疲弊した改造制服の少年――星群・ヒカルだった。
 日頃見せる快活さは鳴りを潜め、伏せた顔は異様な狂気と虚ろに陰っている。
 ヒカルは今しがた大皿が置かれたばかりのテーブルに無言で歩み寄ると、長椅子に腰かけようとして天板に手をついた。
 しかし、疲れ切った身体を腕は上手く支えきれず、滑った手はカトラリーをテーブルから押し退けた。
 ガシャンッ、カトラリーは騒々しい音を立てて床に落ち、転がった。
「やっちゃいましたねー。大丈夫ですかー?」
 ハールマンは怒った風もなく伸びた声で問いかけるが、ヒカルは床に落ちたそれらに気づかぬ様子でテーブルの上の料理を見下ろしている。
 ぼんやりとして動かないヒカルの様子にハールマンは小さく溜息を零すと、どこからかフォークとナイフを取り出し、ヒカルに近づいた。
「……しょうがないですねー、いつもはこんなサービスやってないんですけどー」
 特別ですよー、と言いながら、ハールマンはナイフとフォークを使って大皿に載った分厚いソーセージを切り分けていく。
 パキュッ。パリッ。
 小気味良い音を立てて切られたソーセージの中から肉汁がじゅわりと溢れ出て、香ばしいにおいが蒸気となってヒカルの鼻腔を掠めた。
 喉を鳴らすヒカルにハールマンは昏い瞳で微かに笑いながら、一口サイズに切り分けたソーセージを口元に差し出す。
「はーい、あー……ん、んー?」
 ハールマンはヒカルに食べさせようとした体勢のまま、突然動きを止めた。
 そして、僅かに目を見開くと不思議そうに己の身体を見下ろした。
「フォーク?」
 自身の脇腹に突き刺さった銀色のソレの先を辿れば、そこには満身創痍の状態で狂気に抗うヒカルの姿があった。
「……あぁ、なるほどー。お兄さん、お肉は生で食べたい派なんですねー。でもうち、そういうのは取り扱ってないんでー」
 すいません、とハールマンはまるで痛みを感じない様子で笑いながら、腹に刺さったフォークを床に放り投げた。
次の瞬間、ソーセージが刺さったままのフォークをテーブルの上に無防備に置かれたヒカルの手の甲へと勢いよく振り下ろした。
「ッァ――ぁ゛、あああ゛ッ!!」
 容赦のない力で突き立てられたフォークは貫通には至らず、しかし潰れた肉から溢れた油が刃を伝って開いた傷口にぐちゃりと沁みこむ熱と苦痛は悍ましいものだった。
 絶叫し椅子から転げ落ちたヒカルは、震えながらフォークを手から引き抜き床に捨てると、滴る血を抑えて蹲った。
「食べ物を粗末にしないでくださいよー、もったいないじゃないですかー」
 自分の行為を棚に上げて言いながら、ハールマンは投げられたソーセージを拾い上げ、見えない埃を吹いた。
 そして、未だ倒れているであろうヒカルを振り返り――迫りくる閃光に目を見張った。
咄嗟に飛び退くが光はそれより早くハールマンの右腕と右脚を跡形もなく消し飛ばした。
「……えー? あれ、今までの演技だったんですかー? 騙すなんて酷いですよー」
 片脚でゆらゆらと立ち、焦げた腕の断面を眺めてハールマンは文句を言った。
 ヒカルは疲労も空腹も流れる血も痛みも無視して腕に力を籠めながら、苦情を鼻で笑う。
「おめぇが言えた義理じゃない、だろ……っだいたい、おれはなぁッ」
 輝く星の目に微かな怒気を滲ませて、ヒカルはハールマンを見据える。
「仲間を、大切な人を、おれの手で陥れさせようとすることが、一番許せないんだよ、なッ!!」
 威風堂々として立ち上がり、改造制服をはためかせて、星群・ヒカルは真正面から吠えた。
 その佇まい、まさに超宇宙番長の称号に相応しく。憐れな犠牲者の姿は、もはやどこにもなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
確かに、酷く空腹だ
空席に置かれた皿に思わず目を奪われる
美味そうな匂いに誘われそうになる、だが…

秀子と影から聞き出した情報、それに仲道の転移前の言葉
共通するのは肉と肉料理
あの皿がその料理だと判断し、異常な空腹感を残った理性で抑え込む

悪いが、食事をしに来たわけではない
ユーベルコードを発動、狼の姿に変身
体勢を低く保ち包丁を掻い潜り、低下した行動速度を補う為に敵行動パターンの把握に努める
隙を突いて牙と爪で制圧、組み伏せて人の姿に戻り、銃で止めを刺したい

しかし“肉屋”か、料理を食べなくて正解だった
思い返すのは敵に突き立てた牙の感触
あの料理を食べたらその感触は、その味は…そこから先は深く考えないようにする



●シキ・ジルモント
 肉の焼ける香ばしいにおいが部屋中に漂っていた。
 それは忘れようにも忘れられない空腹を強調し、一寸眩暈が襲う。
 喉の奥から、飢えた獣の唸り声さえ聞こえてくるようだ。
「……悪いが、食事をしに来たわけではない」
 欠損部位をうぞろと生やし、手慣れた動作で素早くテーブルのセッティングを整えていくハールマンを伏せた目で見ながら、シキは彼女よりも自分に言い聞かせるように囁いた。
「(場の空気に呑まれるな)」
 異常な飢餓感を強靭な理性で抑えつけながら、シキは静かに時間をかけて深呼吸を繰り返す。
 すると、ほとんど人間と変わらぬ形をしていた肉体は、銀糸の髪が伸び、鋭い牙が生え、二足から四足へと、シキの呼吸に合わせて徐々にその姿を一匹の銀狼に変えていった。
 狼はよく創り上げられた芸術品の如き美しさを持ちながら、野性的で荒々しく、しかし研ぎ澄まされた気配を放つ。
 古であれば神の遣いとでも称されよう銀狼は、しかし周囲の評価とは裏腹に、シキは自身の獣を強調する姿を好ましく思ってはいなかった。
「(使える物はなんでも使う。この姿も例外ではない)」
 全ては受けた仕事を完遂し、約束を果たすため。そう考えれば、己が身すらも一つの武具として割り切れた。
「(今のところ、あのUDCからは殺意も敵意も感じられない。こちらが仕掛けない限り、攻撃する意思はないということか)」
 料理を食すことを拒んだ瞬間から鈍くなっていく体の動きを奇襲という形で補うため、シキは息を殺しながら、ハールマンの一挙手一投足を注視していた。
 ハールマンはシキの視線に気づいているのかいないのか、ポップな鼻歌混じりにどこからか香ばしい匂いのする新しい皿を取り出して、テーブルに載せている。
 まるでどこにでもいる、普通の少女のように。
「……」
 シキは相手に気取られないように爪が床を叩く音も立てずに忍び寄ると、その背がこちらに向けられた瞬間、今出せる最大限の力を以って疾走した。
「――えっ?」
 唸り声を上げて背に襲い掛かったシキは肩と首の境辺りに牙を沈めて前方に体重をかけることでハールマンを押し倒すと巧みに相手の動きを封じた。
 しかし、奇襲に成功したシキは即座に次の行動に移るのではなく、そのまま動きを止めてしまう。
「重いんですけどー退いてくれませんかねー? いくらお客さんでも怒りますよー」
 シキは真下で藻掻くハールマンのくぐもった声を、どこか遠くに聞いていた。
 口内に広がるのは慣れた鉄臭さ。他の動物と変わらない血の味がする。
そうだ、あと少し。この顎にもう少し力を入れれば、皮膚を破り、血の滴る肉を喰――
「(――俺は、何を)」
「あー生肉は提供してないんですよねー、うち。だってほら、料理店なのでー」
 血の気の引く感覚にシキの前足に籠めていた力が僅かに緩んだ。その隙に拘束から抜け出したハールマンは後ろに向けて肉切り包丁を振り回した。
 咄嗟に仰け反って鼻先擦れ擦れを通り過ぎた刃を見送ったシキは、何故か先ほどよりも軽くなった身体でハールマンから飛び退くと、即座に人間態へ戻りながら銃を構えた。
 無理な体勢で放った弾丸は、それでも全てハールマンの額、腹、脚に命中し、鮮血と肉片を壁や床に飛び散らす。
 それでも人ならざる者であるオブリビオン相手では即死に至るものではないが、弱らせるには十分だった。
「(だが、敵に警戒された今、もはや奇襲は通用しないだろう)」
 冷静に後退しつつ、シキは口の中に溢れた血を吐き出し、荒く唇を拭った。
 しかし頭に浮かぶのは、敵に突き立てた牙の感触、血のにおいと鉄の味。
「(もし、あの料理を食べたらその感触は、その味は――)」
 己の中で料理への好奇心が増幅されていくのを察したシキは賢明に思考を止めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

メアリー・ベスレム
歩き続けるのはもう飽き飽き
確かにお腹がぺこぺこよ
お店がこうも見つけ難いのは
ひとえに食欲を付ける為かしら?
食欲には【狂気耐性】抗って

お味の秘訣は何かしら?
企業秘密と言うのなら
直接【血の声を聴く】だけよ
屠り殺され料理され、食べられてしまった哀れな誰か
あなたたちの最期、メアリに教えて?

もし『人食い』なら目を輝かせてやっぱりと
もしも違うのならつまらなそうにがっかりと
どちらにせよ、殺す事に変わりはないけれど

【野生の勘】も併用で敵の攻撃を予想して
飛翔を迎え撃つように【咄嗟の一撃】切り払う

誰かに食べさせようとするのは
仲間に引きずり込みたいのかしら
けどお生憎様!
メアリはそんな人食いを殺す為に生きているんだもの


カーバンクル・スカルン
外の人は道端でバーベキューをしてたことじゃなくて「肉を食べている」ことに不快感を抱いていた。

なのにこのお店では提供してるんだねー、まるで禁酒法時代の酒場みたい。外で堂々と食べても罰された訳じゃないからちょっと違うか?

まーいいや、食べた人を狂わせる料理を作る人は大人しく包丁を折ってもらいましょ。

名札を見せてしまった以上、あなたは私の知人。ということでハールマンの口に出されたばかりの料理を皿ごと叩き込む。

そしてその行為に対して恐怖を抱いてくれれば、あとは勝手に【集団心理】がやってくれるさ。あなたが今まで屠殺してきた物達の恨み、味わいなさ……って人!?

ってことは、あのお姉さんは……うっわぁ……



◎メアリー・ベスレム
 小鳥の囀るような可憐な声は、血のにおい漂う室内でも歌うように言葉を紡ぐ。
「歩き続けるのはもう飽き飽き。確かにお腹がぺこぺこよ。お店がこうも見つけ難いのは、ひとえに食欲を付ける為かしら?」
 しかしメアリーは自身の言葉に反して、目の前に極上のにおいを放つソーセージプレートを差し出されても一切食事に手をつけていなかった。
 あの人食いだらけの狂った世界で、殺意を秘め、上等な獲物を演じながら生きてきたのだ。
自らの狂気じみた欲求を少しの間内に秘めておくことくらい、メアリーには何ということもなかった。
だからメアリーはただ興味深そうに、皿の上を眺めていた。けれど彼女を見る誰かの目には、料理を食べるのを我慢しているようにも映ったかもしれない。
「お味の秘訣は何かしら?」
 こてん、とメアリーが頑是ない子どもの仕草で首を傾げて見上げたのは、いつの間にやら隣に立っていたハールマン。
 気の良い店員の笑みを浮かべていたUDCは、メアリーの問いかけに目を瞬いた。そんなことを聞かれるとは思わなかったという顔で。
「……なんでしょうねー? やっぱり、愛情とかなんじゃないですかー?」
 ハールマンは珍しいことに暫し悩んだあと、曖昧に言葉を返した。
 それは、答えを隠して誤魔化しているというより、明確な答えを知らないために適当な仮説を語っているようだった。
「――そう、それなら直接≪血の声を聴く≫だけよ」
 ハールマンの言に何か引っかかるものを感じながらもあえて深掘りはせず、メアリーは皿に向き直ると呪文のように囁いた。
「屠り殺され料理され、食べられてしまった哀れな誰か。――あなたたちの最期、メアリに教えて?」

◎カーバンクル・スカルン
 少し時間を戻し、メアリーと通路を挟んで反対側の席では、カーバンクルが思案顔で腕を組んでいた。
 考えていたのは、この店に辿り着く前に見た街の光景。
「(外の人は道端でバーベキューをしてたことじゃなくて『肉を食べている』ことに不快感を抱いていた。なのにこのお店では提供してるんだねー、まるで禁酒法時代の酒場みたい。外で堂々と食べても罰された訳じゃないからちょっと違うか?)」
 カーバンクルは街で見聞きした情報と食い違う店の状況に整合性のある理由を見つけようとした。しかし、空腹に回らない頭では結局上手く纏まらずに、盛大な溜息を吐いた。
「まーいいや、食べた人を狂わせる料理を作る人は大人しく包丁を折ってもらいましょ」
早々と理解を諦めたカーバンクルは、目の前に置かれていた誰かのための料理が載った皿を拾い上げながら席を立った。
メアリーの方を向いていたハールマンの肩をトントンと叩いて振り向かせる。
「はいー? ……あぁー、追加注文ですかー?」
 ハールマンは一瞬きょとんとしたが、片手に持つものを見ると納得したように頷いた。
 しかし、カーバンクルは首を横に振ると、にっこりと笑った。
「名札を見せてしまった以上、あなたは私の知人。――だから私、さっきからあなたに食べさせてあげたくてしょうがなかったのよねー、コレ」
 そう言うとカーバンクルは突然、手に持った熱々の料理が載った皿をパイ投げの要領でハールマンの顔に叩き込んだ。
「――っ?!」
 敏捷性を失わせるユーベルコードの影響でカーバンクルの攻撃は当たる寸前にガードされたが、肉やソースを浴びたハールマンは微かに悲鳴を上げた。
 見た目に反して強力なオブリビオンであるハールマンにとっては大したダメージにはならなかっただろうが、カーバンクルに落胆した様子はない。
 カーバンクルの目的は、一瞬でもハールマンに恐怖を覚えさせることだったからだ。
 ユーベルコード≪集団心理≫――それは、対象の恐怖を条件として発動する術。
「あなたが今まで屠殺してきた物達の恨み、味わいなさい」
 出てくるのは、牛か、豚か、鶏か……或いは?

 しかし数秒後、得体の知れない肉の正体を露わにしようとしたメアリーもカーバンクルも、揃って首を傾げていた。
「ねぇ、誰の声も聴こえないの。何故かしら?」
「――何これ、どういうこと?」
 人食いを期待したメアリーは些か残念そうに、カーバンクルは不可解だと顔を顰めて、それぞれ、自身のユーベルコードが示した結果に疑問を呈した。
「ユーベルコードが発動しなかった……ってわけじゃなさそうだし」
 カーバンクルは不満げに唇を尖らせて、何も現れてこない店内を見回す。
 そんなカーバンクルを余所に肉をじっと見つめていたメアリーは、暫くして憂鬱な溜息を零した。原因に思い至ったのだ。
「……そうね。それなら、声が聴こえないのも当然。だって、お肉はあなたなんだもの」
 退屈した声で言うと、メアリーは徐に人差し指を伸ばした。
 カーバンクルはメアリーの指し示す先に立つものを見ると、その目を大きく見開いた。
「あなた、って――ハールマン!? あー、でも、それなら確かに正常に発動しなかったのも納得……ん? ってことは、あのお姉さんは……うっわぁ……」
 驚きつつも答えが得られてすっきりとした面持ちだったカーバンクルは、ここで食事をしてしまった秀子の顔を思い出した途端、盛大に顔を引き攣らせた。
 知らぬが仏。真相は、告げない方が平穏だろう。
「どちらにせよ、あなたを殺す事に変わりはないけれど」
 メアリーは淡々として言うと、身体の鈍さを感じさせない動きで椅子から滑り落ちた。
 そして、愛用の肉切り包丁をくるりと手元で回して、ハールマンに向き直る。
「……よしっそんじゃ、私も仕切り直しといこうかな! 不具合の原因も、判明したことだしね」
 それを見ていたカーバンクルもまたメアリーの隣に立つと、物騒な拷問武器を取り出して対峙する。
 ハールマンは肉の正体を言い当てられても特に動揺することなく、ただ二人を迷惑そうな顔で見ながら、使い込まれ血がこびりついた肉切り包丁を右手に出現させた。
「店内での乱闘は止めてほしいんですけどー……言っても聞きませんよねー」
 溜息混じりにぼやいたハールマンは壊れかけの蛍光灯に鈍く光る肉切り包丁を振り翳し、開戦を告げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

葛籠雄・九雀
POW

ぬぅ。
彼奴に戦うつもりがないのであれば、わざわざ手を出す道理もオレとしては特にないのであるがなあ。戦わずに済む方法があるならそれが良い。痛みは好かん。
ただまあ、うむ、その得体の知れん肉は勘弁願いたいであるしなあ。

しかし速度を殺されるのは困ったものである…正直何もできぬ。うーむ。
店、店であるか。
影ちゃんたちは、『店はなくなった』と言ったのであるよな。ふむ。

外が影ちゃんだけかどうかはわかるであるか?
もし影ちゃんだけならば、【かばう】+エピフィルムで囮になり、誘導しつつ、扉を開けて、本人を外へ放り出したり…は出来んであるかな。嗚呼、だが、根本解決にはならぬのであるかな…ううむ。

アドリブ連携歓迎



●葛籠雄・九雀
 九雀は席にもつかず、かといってハールマンを攻撃するでもなく、店の片隅に佇んでいた。
 仕事を放棄したわけではないが、戦う意欲が湧かないというのも事実だった。
「(彼奴に戦うつもりがないのであれば、わざわざ手を出す道理もオレとしては特にないのであるがなあ。戦わずに済む方法があるならそれが良い。痛みは好かん)」
 危機が間近に迫っているというのであれば、九雀とて荒っぽい手段を取ることに躊躇いはない。
 しかし、今のところハールマンはこちらが攻撃を仕掛けなければ食事を勧めてくるだけで、直接的な害はないのだ。
 それならば戦闘を伴わない手段で片を付けたいと考えるのは、至って自然な流れだった。

 ――問題は、その代替案が“食事をする”くらいしか浮かばないということなのだが。

 九雀は遠目からテーブルの上に並んだ肉料理をちらと見遣り、すぐに目を逸らした。
 ヒーローマスクの彼にはどれほどの絶品料理も然して魅力的には思えなかったが、それでも食事をする肉体がある以上、腹は減るのだ。
「(ただまあ、うむ、その得体の知れん肉は勘弁願いたいであるしなあ)」
 料理を食して一種の錯乱状態に陥った被害者の言動を考えると良からぬものが入っているのは確実であったし、体に悪影響を及ぼす可能性が高いものを進んで食べようという気はしなかった。
「(しかし速度を殺されるのは困ったものである……正直何もできぬ)」
 九雀は目の前で乱闘が繰り広げられているのを見ながら、思案気に腕を組んだ。
 例えば、灰色の軍勢を相手取ったときのように救助者がいたなら、もっと何か色々とやれることが思いついたかもしれない。
 しかし今、ここにいるのは猟兵と感染型UDCのみで、先ほど外から見えた影たちは夢幻の如くに消えてしまった。
 つまり。いよいよ、やることがない。
「……ううむ。どうしたものであるかな」
 長閑そうな店の外を眺めながら、九雀は独り言ちた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

レッグ・ワート
防具改造の変換合算で各耐性値を呪詛耐性全振り。多少鈍さをマシにして、楽しみにしつつ席に迷う客を装うのが狙いだ。実際俺重いし。そんで雑談風に話振ってみるよ。紅茶の色や一代目、外の変わった連中に行方不明者、今はいつで外はいつかだとか。知り合いに料理は食わないよう言われただとか。迷彩起こしたドローンが厨房や裏手の情報収集の結果寄越す間の時間稼ぎだな。

終わったらドローンを料理解析へやりつつ、被膜置換で卓斬り回って給仕先潰すわ。食べなくても楽しいぜ、同系データの現場追加無くす仕事中なんで。とりま状況によっちゃ迎撃は勿論、退路断ちも視野にいれとくよ。
……身元辿れる物が回収できれば上等だが、時間とれるかね。



●レッグ・ワート
 客を装ったレグは、カウンター席に寄りかかってハールマンと雑談をしていた。
 内容は、紅茶の色や店内の装飾、店名の由来などの他愛のない話……ドローンが隠密に情報を取得するまでの時間稼ぎだ。
 ハールマンはレグの隠された企みに気づくことなく、スプラッタ映画のようになっている体や食器についた血を拭いながら、時おり料理を食べさせようとする以外は普通の店員のように振る舞っていた。
 ふと会話が途切れ、次の話題を探していたレグは転移の間際にグリモア猟兵に告げられた言葉を思い出した。
「ここに来る前、知り合いに料理は食わないよう言われたんだが……」
 ハールマンはその問いに少し不機嫌そうな顔をしたが、理由など考えもつかないと頭を横に振った。
「その知り合いって、秀子さんのことですかー? あなたたち以外だと、あのお姉さんくらいしか来てませんしー」
「いや、違うな」
「えー? それなら、誰が――」
 ハールマンは突然、ぱちん、と両手を合わせたかと思うと、謎が解けたというようにレグを見上げた。
「あぁー、街で何か聞いたんですねー? あの人たちの言うことは聞かない方がいいですよー。あそこにいるのは嘘つきだけですから」
 そう言って、ハールマンは冷ややかに笑った。
「嘘つき?」
 問いながらレグは密かに調査を終え戻ってきたドローンを、提供された料理の解析に回す。
 ハールマンは話に夢中になっているようでレグの動きを不審に思った様子もなく、頷いた。
「だって、知らないはずがないんですよ。街の子どもがどこに消えて、何に変わったのか。私、ちゃんと教えたんですから――“それはあなたのお腹の中です”って」
 解析結果がハールマンを指し示すのを確認すると、レグは肩を竦めるような動作をして重みを増した機体を寄りかかっていたテーブルから離した。
 そして、静かにユーベルコード≪被膜置換(ブレードエピダミス)≫を起動しながら、通路も障害物も無視して歩き出す。
 テーブルや肉や悲鳴を切り裂いて破壊するのに俊敏な動きは必要ない。
 ただ、歩けばいい。その後に広がるのは、在るべき過去の残骸だろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

レン・デイドリーム
予想してたけどこういうのかぁ
あんまり美味しそうじゃないはずなのにとても空腹感を感じている
できれば食べずに済ませたいね

だからここは僕以外のあんまり食欲なさそうな人に任せようか
【呪詛】をこめてサモニング・ガイストを使い、古代戦士の霊を呼び出して戦闘を任せるよ
といってもやってもらうのは炎攻撃がメインかな
あとは僕が彼女の料理に手を出しそうになったら止めて欲しい

美味しいお肉も全部灰にしてしまえばいい
焦げ臭さと【狂気耐性】を全力で発動
仲間やシュエにあんなものを食べさせる訳にはいかないからね

……彼女を炎に沈めるのは酷なことかもしれない
けど、僕にできるのはこういうことくらいだから
ごめんね、ゆっくりおやすみ


玖篠・迅
怖がる人と、悪魔に攫われる子供に、UDCが関わってる料理店か…

なんとなくだけど俺はこの料理に心動かされちゃだめだと思うから、
「呪詛耐性」を「破魔」で強めた護符で、この場から受ける影響を少しでも減らせないかやってみる
抵抗したそうな他の猟兵の人がいたら、待ち人を探してるように動いて護符渡して助けになれるかも試してみるな

式符・朱鳥で鳥たちをよべたなら、合体した状態でよんで羽ばたきでにおいをとばしたり、この料理に囚われる人がもう出ないように「破魔」をおりまぜた炎で料理そのものを燃やしてもらう
…通りにいた人たちが既に囚われた人だったら、抜け出せるきっかけになればいいんだけども



◎レン・デイドリーム、玖篠・迅
 半壊した屋内で、レンは折れたテーブルの上に奇跡的に乗っかったままの料理を眺めていた。
 皿の上で油をてらてらと光らせるソーセージは、出来立てのときほど熱くはなく、においも漂ってはこない。
 しかしハールマンの能力なのか、冷めたあとでもそれを見た者、嗅いだ者の空腹を誘う魅了は健在で。
「……あんまり美味しそうじゃないはずなのになぁ」
 感情を裏切るように飢えを主張する腹部を不服そうに擦って呟く。
「レンさん!」
「うん? ――あぁ、迅君」
 においを嗅がないように鼻を手で覆ったところで声をかけられ振り向けば、朱鳥を連れた迅が駆けて来るのが見え、ひらりと手を振った。
 数秒もせずにレンの前まで来た迅は、顔を見るなり、あれ? という顔で瞬いた。
 レンは内心首を傾げつつ、人当たりの良い微笑を向けた。
「何か急いでいたようだけど。僕に何か用だったかな?」
「あっ、ごめん。いや、とくに用があったわけじゃないんだけどな。その、向こうから見たとき、レンさん具合悪そうに見えたからさ」
「僕が? ……あぁ、あれかな。ちょっと料理のにおいに当てられただけだよ」
 どうやら先ほどのレンの様子を見て心配して見にきてくれたらしい。
 大したことはないと肩を竦めて言えば、迅はほっと息をついた後で細長い紙を懐から取り出し、レンに渡した。
「『護符』? これ、貰っていいのかな?」
「勿論! 良かったら使ってな。気休めでも、無いよりはマシだと思うから」
「ありがとう、助かるよ」
 迅から受け取った護符は不思議と朱鳥の火が移ったように温かく、確かに少しだけ気分が楽になったような気がした。
「さて、それじゃあ僕も始めようか。破魔の護符を貰ったばかりでやるのはちょっと気が咎めるけど、仲間やシュエにあんなものを食べさせる訳にはいかないからね」
 レンは≪サモニング・ガイスト≫をその身に満ちた呪詛の力で強化し、古代戦士の亡霊を召喚した。
 武骨な亡霊は大槍を片手にレンやシュエを守護するように立ち上がると、全身から青白い炎を立ち昇らせる。
「美味しいお肉も全部灰にしてしまえばいい」
 レンが空中を指先でなぞれば、それに従って亡霊の白い炎が帯のように湧き上がっては仲間以外のもの悉くを飲み込んでいく。
 そしてそれは、ハールマンも例外ではなく。
「あぁぁああッ!! やめて、やめてくださいよぉ! どうしてこんなことするんです? 酷いじゃないですか、ねぇッ?!」
 青白い炎の帯の中から飛び出してきたハールマンは空高く跳躍した勢いのまま、レンを止めようと肉切り包丁を振り翳した。
 しかし、レンは一瞥すらくれずに手を動かし続け――鈍く光る刃が振り下ろされた。
「朱鳥!」
 ――刹那。放たれた声は微かに震えながらも空に力強く響き渡った。
 突如として飛来した煌々とした赤の炎はハールマンを弾き飛ばし、帯の向こうへと押し戻した。
 迅は辛苦に耐えるように拳を握りしめながらも気丈に立ち、レンと目を合わせて頷いた。
 亡霊の青白い炎は高く燃え上がりハールマンを封じる檻となり、式神の赤い炎は祓いの雨となって天から降り注ぐ。

 絶えず聞こえる悶え苦しむ声、否応なしに空腹を誘うにおい。
 それらの源が何なのか、みな考えずとも知っていた。

 そうして、ようやく声もにおいも絶えた頃。
「……彼女を炎に沈めるのは酷なことかもしれない。けど、僕にできるのはこういうことくらいだから」
 燃え朽ちていく建物の瓦礫の奥に、黒い人影がひとつ揺らいで消えていくのを見届けて、レンはそっと目を伏せた。
「ごめんね、ゆっくりおやすみ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年07月29日


挿絵イラスト