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今宵、貴方と

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●奇天烈なる夜会
 ひらひらと、薄紅の花弁が舞う。
 この世界において当たり前の光景だ。疑問を挟む余地すら無い。木々を見下ろす山荘に設けられたこの館においても、この花弁からは逃れられぬ。
 昼に見た限り、山は春を迎えつつあった。淡く色づき始めた山の緑は、傾斜に沿って、なだらかに色を変えて――下に行くほど深く、暗い闇に吸い込まれそうな崖。
 もっとも、日が落ちてしまえば何も見えぬ。代わりに、軒下にぶら下がったラムプが湯煙を色とりどりに染めていた。
 旅情を切り取ったような四角い闇を眺めながら、男は、手慰みにチラシを折る。
 描かれているのは此処、山荘『無月荘』――ひっそりと山奥に佇む宿だ。成りは洋館だが、中は和洋折衷、館の三分の一が和室なのが特徴だった。
 なんでも小さな旅籠より商いを始め、曾てはあの文豪やら、かの文豪やらがふらりと訪れて泊まっただとか、高名な政治家がお忍びで泊まっただとか胡散臭い話がそこらに貼り出されている。
 因みに、全くの嘘では無いらしい。過去、旅籠時代には赤貧を舐めた高名なひとびとが湯治のために泊まったことは事実らしい。
 そんなボロくさい貧乏宿を買い取った物好きが、がらっとモダンな和洋風に改装して、巧く商売をしており――今は残念ながら、そんな才能の卵が泊まれるお値段では済まぬ宿になってしまった。
 昔から変わらぬのは、優れた温泉のみ。だが今宵の客の何人が、それを楽しんだだろう。
 男の手の中で、チラシはいつしか花になっていた。それを背広の胸に挿して、鼻歌を歌いながら、紙袋を手に取る。袋の真中に、ふたつ無造作に穴が空いていた。
 迷いも無く、頭に被る。首から下は紳士。首から上は紙袋。素っ頓狂な姿になった男は、机の上のトランクを空ける。赤黒い柄の鉈をふたふり、慣れた手付きで掴むと、部屋を出る――障子を蹴り飛ばし、瓦斯マスクの男が日本刀を振り上げてきた。
 紳士はひょいと前へ跳んで、前のめりに加速した瓦斯マスクの男の首を狩る。
 その紙袋の頭が、べしゃりと潰れた。上から、切り取られた天井が降ってきた。上に乗るチェーンソーを振り上げた鞣し革の仮面の男が、勝利の雄叫びを上げると、奇声を唱える鉄仮面の男が先を尖らせた丸太で突撃してくる。

 ――尤も、最後は誰一人残らない。
 これぞ怪奇なる一夜の宴。血で彩られた狂乱の一幕である。

●ざっくばらんな神のいうところ
 殺人鬼になって殺人館で皆殺しになってこい。
 グリモア猟兵は開口一番そう言った。
「ふざけてねぇぞ。大まじめだ大まじめ」
 阿夜訶志・サイカ(神の文豪・f25924)は誰に胡乱そうに見つめられようが、何処吹く風だった。
「もう一回言うぞ、『殺人鬼になって殺人館で皆殺しになってこい』――理解したか、ダーリン?」
 けらけらと癪に障る笑い方をしながら、サイカは一枚のチラシを猟兵に見せる。
 そこにはある山荘の情報と、気になるコピーが刻まれていた。
「『誰が最も優れた殺人鬼か――密やかに開催されるマン・ハント。勝利者には名誉と、山荘の権利を巡る、選ばれしものの宴』……クハ、これ考えた奴、三流ライターに違いねぇ」
 嘲弄を隠さず彼は唇を歪める。
「ま、ご覧の通り、この山荘では影朧による連続殺人が目論まれていたわけだ。なんで、元々の招待者については、いろんな手を使って予定はキャンセル済みだぜ。詳細は訊くな」
 などといいつつ、手首を括るような動作をしていた。お察しの通りらしい。
「だが、それでめでたしめでたし――じゃ面白くねぇ。影朧を倒すためには、想定通りの犠牲者が必要だ」
 そこで猟兵たちが殺人鬼になりすまして、影朧の望むように殺し合ってくれ、という話になるらしい。
 然しそんな雑なプランでいいのだろうか――否、元より雑なプランのようだが。
「おいおい、連続殺人事件ってのは、精緻に組み込まれたドミノ式の仕掛けがいるだろうってツラしてんなァ。俺様のジャンルは違うぜ。なんか登場人物全員無茶苦茶で、気付いたらひとり残って、そいつが真犯人にブッ殺される――ハ、こいつが一番シンプルで爽快だろうが」
 やりたきゃ好きにやれ。探偵みたいな狂言回しはご自由に。
 どのみちそんな合理的な解はねぇだろうけどな、とサイカが肩を竦める。
「でもな、バトロワにもご作法ってのはある。夜が来るまでは、殺人なんて知りませんと、つんと澄ましてなきゃならねえ。……あとこれは蛇足だが、チラシにゃマン・ハントって書いてあるだろ? 中には普通の宿泊客を混じらせて、盛り上げる段取りだったみたいだぜ――今回はいねぇけど。その役も、やりたきゃやってもいいぜ」
 台本通りに踊って、台本通りに誘き寄せ。
「んでそっからはアドリブだ。俺様は此処で見物させてもらうが――……締め切りが近い。傑作を任せたぜ、ハニー」
 終始、なんだか無茶苦茶な説明を一方的に切り上げて――サイカはグリモアを光らせるのだった。


黒塚婁
どうも、黒塚です。
立ち位置によってはパニックホラーかもしれない。

●1章
山荘で夜まで過ごします。
仮初めの自己紹介、フラグ建築、お好きにどうぞ。
勿論、何も知らない犠牲者役を演じても構いません。
なお、予め山荘で働く人々に扮しても構いません。
能力値の選択肢はあまり気になさらずどうぞ。

●2章
深夜、皆様で殺し合っていただきます。
お好きな(版権に寄りすぎるのはNG)殺人鬼を演じるでも、自前でも構いません。
一矢報いて共倒れ、とかもありえます。誰と誰が戦うかは人数と組み合わせ次第です。
特にご作法はありませんが、基本的に猟兵同士でひとりずつ殺し合い、最後のひとりが影朧に仕留められて終わり、になります。
こちらも能力値の選択肢はあまり気になさらずどうぞ。

●3章
犯人見えてる……!!

●プレイングに関して
各章導入公開後、プレイングを受付いたします。
期間については導入に続けて表記予定です。
また同様の情報はマスターページ及びツイッターでもご案内します。
受付前に受け取ったプレイングに関しては、内容如何を問わず採用しませんのでご注意ください。
また全員採用はお約束できません。
ご了承の上、ご参加くださいますようお願い申し上げます。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
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第1章 日常 『君、ちよつと聞かせてくれたまゑ。』

POW   :    敵を倒して活躍したときの話をする。

SPD   :    類稀なる技量で窮地を脱したときの話をする。

WIZ   :    閃きや機転で困難を突破したときの話をする。

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●山荘で待ち受けるもの
 全く、骨が折れる。
 山道は散々であった――前日の雨で、酷く道が崩れ、歩きにくいったら何の。
 最後の駅から案内役が迎えに来るといったが、何とも印象の薄い小男が、冴えぬ顔で「申し訳ございません、徒歩になります」というばかり。
 ああ、だが、やっとの事で辿り着いた山荘は輝くようだった。
 白亜の壁に赤い屋根。西洋建築の成りに、和建築の玄関を残し、内部も老舗旅館のように馴染み深い木の香りがした。
 それでも二階に上がれば、都の洋館と変わらぬ見事な内装で、清潔そのもの。
 実はたった三階建てらしいが、崖に沿うように立っているため、見晴らしが大変よい。
 雨上がりの澄んだ空気で、不吉なまでに木々の緑が輝いて見えた。
「サロンは皆様ご自由にお遣いいただけます。飲料、軽食は無料でサァビスしてございます。宜しければ、ご利用くださいませ」
 部屋に案内してくれたボォイは斯く告げる。
 ――さて、今宵の会合まで、如何に過ごそう。

○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
【プレイング期間】3月19日(木)8:31~21日(土)中
 ひとまず、21日の段階でもう少し延ばせそうなら22日まで受付しますが、安全圏は21日までと案内しておきます。
 この章の捕捉はマスターよりをご確認ください。
○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
ジャック・ジャック
常に晴れぬ空
鬱蒼とした空気が四肢を包み
街行く陰も擦違う面も何処も彼処も曇り、曇り、曇り

嗚呼もうこんな鬱々とした空気はうんざりよ
“彼女”が片頬膨らますものだから
偶には息抜きも必要だろうかと

足向け辿り着くは種々様々が混ざり合う不可解な宿
緑萌ゆり薄紅舞い落つ趣に色めく青石英の眸
それはそれは大層気に入ったご様子で
右へ左へ
他人からは見えぬ煌めきの御身が舞い、踊る

気に入ったか?
嗚呼――それは良かった

果たせずにいた“ふたり”の旅行
他人の目から見れば唯一人
けれどその実決してひとりに非ず
常に、君と、共に

細指掬い誘うは君が望む場所
見下ろす木々の中に投じるでも
ゆらゆらと煙る湯の中でも
君が望むなら何処なりと

仰せの侭に



●束の間のまほろば
(「街行く陰も擦違う面も何処も彼処も曇り、曇り、曇り」)
 ジャック・ジャック(×××・f19642)は陰鬱な空を仰いで、重い吐息を零す。
 ――嗚呼もうこんな鬱々とした空気はうんざりよ。
 彼女が片頬を膨らませて言う。彼にしか見えない、彼にしか聞こえない。
「……偶には息抜きも必要だろう」
 それは動機。そして目的までは、あと少し。
 見えた白亜の洋館に、周囲は苦しいほどに密な深緑の馨が立ちこめている。清涼な空気など、彼らには何ら興味を引かれるものでもないが、曇天でも映える白と深緑のコントラストは別だった。
 山荘の前庭は質素であるが丁寧に刈り込まれ、先程までの泥道が冗談のように、きっちりと石畳が敷かれている。モノトーンに幾何学を描く道の上、薄紅がひらひらと舞い落ちる。
 鬱蒼と茂る木々の中に混ざるものも、神秘と呼べた。少なくとも、この世界にしか存在しない光景だろう。
 その中を、ジャックはゆっくりと進んでいく。
 ――端から見れば、彼はひとりでふらふらと散策しているように見える。
 だが彼の傍らでは、麗しきひとが、青石英の眸がきらりと輝かせている。
 ジャックに縋るか、ジャックが縋るか――常に共にあるひとは、興味は尽きぬというように左右を何度も見渡す。
 他人からは見えぬ煌めき御身――彼の背を押し出すように、身を浮かせ、舞い踊る。
 眩しいものを見るように、彼は灰の瞳を細めて、頷く。
「気に入ったか? 嗚呼――それは良かった」
 中も面白いらしい、語りかけながら扉をくぐる。
 様々な視線が『彼』を迎えるが、『彼ら』は気にしない。彼女の見たいものを、興味を惹かれるものだけを。
 満足げな笑みを口元に刻んで、ジャックは彼女に倣って周囲を見る。
「さあ、何処へ行く?」
 見下ろす木々の中に投じるでも、ゆらゆらと煙る湯の中でも――君が望むなら何処なりと。
 美しい微笑は喜色を隠さず。くいと腕を引っ張り、繊細な指先が指し示す先へ、ジャックは進む。
 ――何せ、この旅行は“ふたり”の旅行だ。そして、君のための。
「仰せの侭に」
 ――常に、君と、共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
いたって普通の人として。
名も与えられない登場人物にもなり得ない一人として
ここで大人しくしていよう。

足元が悪くて少々疲れてしまってね。
飲み物でも飲んでゆっくりとしようかな。
癖と言うべきか、此処にいる様々な顔を眺めてしまう。
そしてそこから、彼、彼女がどんな殺人を起こすのか
どんな犯人になるのか、被害者になるのか
頭の中で一つの話を描いてまた次。

一体何冊書けるのだろうね。
こうしてゆっくりとしている間にも実は裏で何かが起こっていた
なんて事も楽しそうだ。

今ここで執筆する必要は無いが、書きたくて書きたくて
嗚呼。落ち着かない。
この筆は綴るためにあるとは限らないが
今日ばかりは今すぐにここで書いた話を世に広めたいよ


花筏・十織
【謎の青年】
到着する客の視界の隅や廊下の向こう側をよぎる影
窓から見える景色の隅にひっそり佇む和装の青年
山荘の口の軽い使用人曰く
「お気の毒なことです」
「療養の名目でご実家から預けられて……何年になることやら」
「一度もご家族の面会がないのですって」

話しかけてみれば初めは警戒はするものの
帝都や外の華やかな話題には相応に興味を示す孤独
「僕にはここが家のようなものですから」
外のことを知る機会は限られています
「ご迷惑でなければ、もっと話を聞かせていただけますか」

今宵はやがて雨となりますから、外の散策には向きません
夜桜ならば明日、楽しめましょう
「……生きのびられたらの、お話です」
さて、何のことでしょうね


夏目・晴夜
このハレルヤが泊まるとなると、
無月荘の価値は今後ますます高騰するでしょうね

ああ、喉が渇きました
ニッキーくん、何か飲み物を取ってきてください
ご安心を。彼は見ての通り可愛いうえに優しいですからね
人様を殺めたりなどという物騒な事は絶対に致しませんよ
本当に本当に

しかも優しく可愛いだけの存在ではなく、とても気が利いているので
このように私が操らずとも独りでに動いてくれたりもするんですよ
独りでに動く理由は私にもわかりません
何なんでしょうね、可愛いですけど

それに以前は筋骨隆々でも巨体という程でもなかったのに
気付いたらいつの間にかここまで膨張してたんですよね
その理由は私にもわかりません
いや本当に何なんでしょうね


ロカジ・ミナイ
草臥れた帽子を顔の半分を覆うほど目深に被り
色味のない着物を纏って
表情はなく、猫背で、漂う辛気臭さは明らかに場違いで
色らしい色といえば、時折覗く眸の青さくらいなもの
そんな風態の冴えない男

山荘のあちこちにふらりと現れては
ギョロリと周囲を見回して消える
その存在をはっきり捉えるのは難しいだろう
見る者が見れば、死に場所を探しているように見えるかもしれない

或いは、その眼の色を知る者でもない限り
或いは、独特の香りに覚えのある者でもないかぎり
僕はただの迷い人だ

三階の窓から眺めるのは、落ちた先の地面
急な階段の手摺りを撫で、上手い転び方を探る
縄を括れる梁はないか
共に逝けるあの子はいないか

嗚呼、俺に構うな


コノハ・ライゼ
わーあ、楽しみー

何ってホラ、ここすごく良い温泉だと聞くし。
有名な文豪が泊まった部屋があるとかなんとか。
建物もモダンで何より見張らしが良くて、
……ナンて継ぎ接ぎした口実でなにも知らない客を装うねぇ
とはいえソレ自体が真っ赤な嘘で
実はひ弱な被害者候補の皮被った殺人鬼……まあコレも演技になるンだケド、そういう事にしときマショ
ああほら、楽しみってのは本当だしネ

時間が来るまでは、有名人や華やかな世界に憧れるミーハーな庶民でいよう
建物や料理に感嘆の吐息、憧れてそうな人物に話しかけられれば浮き足だって
いかにも狙いやすそうに振る舞うヨ
ああ今夜は嬉しくて眠れそうにないなあ、ナンてフラグも置いたりしてネ


錦夜・紺
何とも悪趣味、何とも不穏な宴だな
好き好んで殺し合いなど趣味じゃないが
文字をなぞるように、頁を捲るように、
「しなりお」通りに演じてみせよう

くたびれた紺の和装を身にまとい
……まったく散々だ。
此処までの道のりを思い返しながら
趣のある館内を見て回ろうか

どなたかに話しかけられたのならば
「……ああ、俺の名は錦(にしき)という」
此処の温泉は良いと聞いてね。更には自然の中にあるだろう?
疲れを癒しにな、と
疲労を隠せない表情で対応を
……勿論演技なのだが

……ああ、それにしても
此処は、
吸い込まれる程の良い景色だ、と
崖沿いの緑色と底なしの黒を視界に入れて
まるで逃げ場などないと言われているようだ


グリツィーニエ・オプファー
はあ、皆で殺し合いの余興を…
中々に面妖な依頼に御座いますね
ハンスもそう思うでしょう?

とりあえず…山荘に着いたならば
のんびり過ごしたい欲がありますが…
ふらり散策して回るも手で御座いましょう
死角や暗器を仕込むに申し分ない場所
さり気なく確認しては目星をつけておきます
何せ夜には狂宴の舞台となるのです
多少なりとも地の利を得る必要が御座います故
…やれ気の滅入る作業です

流石に無職を名乗る訳にも参りませんので
流れの曲芸師に扮する事として
ハンスと簡単な芸を披露致しましょう
ハンスは非常に優秀な相棒故
多少の無茶振りも難なくこなしてくれる筈です
…が、後で美味しい物を馳走せねばなりますまい
暫し、安息の時を過ごしましょう



●奇妙なるまろうど
「……まったく散々だ」
 紺の和装を纏った男が溜息を零す。登った山路は登山よりは易いものの、のんびりと羽を伸ばそうという前準備にしては骨が折れたとばかりに。
 ぼやく男はひどく疲れた顔をしていた。
 確かに、ひどい道だった――ふわりと癖のある赤茶の髪の青年が頷き、柔和な表情で荷物を預かろうと寄ってきた男に笑う。
「足元が悪くて少々疲れてしまってね。飲み物でも飲んでゆっくりとしようかな」
 承知しましたと給仕の男が引き継ぎ、榎本・英(人である・f22898)を招く。
「珈琲になさいますか、紅茶……アルコールも御座いますよ」
「そうだね――」
 考えながら、じっと周囲を見守る。困った癖だという自覚はあるが――つい無意識に、目に入る人々の顔を眺めてしまう。
 悪意など知らぬような彼が、目に映るものに何を思うかは、不思議と読めなかった。
「ところで、君の名を尋ねてもいいかな?」
「……ああ、俺の名は錦(にしき)という」
 藍色の髪の青年は名乗ると、再び深い溜息を吐く。
 とても疲れたような様子で道中の足取りも重そうだった。
「此処の温泉は良いと聞いてね。更には自然の中にあるだろう? 疲れを癒しにな」
 聴かれてもいないが、極自然に、彼は英に打ち明けていた。聴いて欲しい、とでもいうかのように。
 錦と名乗った男の双眸はそれぞれ色が異なる。紅桔梗と梔子色、どちらも暗く蔭っており、その本音は掴み取れぬ。
 そんな二人の前を――ふらり、幽鬼のように、花めく影が横切っていった。
 和装の青年は、自分の居るべき場所は決まっているとばかりに――他のものは目に付かぬように、うつくしい細工の窓辺に寄り添うと、躰を預けて遠景を眺め始めた。
「あの方は?」
 英の問いに、給仕は声を潜めて囁く。
「療養の名目でご実家から預けられて……何年になることやら」
「……ほう、そういう者もいるのか」
 相鎚を打ったのは錦だ。いつしか腕を組み、しげしげと周囲を見ている――その一挙において、和装の衣擦れの音が、殆どせぬことに誰が気付いただろう。
 より声を潜め、給仕が囁く。
「一度もご家族の面会がないのですって――お気の毒なことです」
 不意に目が合う。青年――花筏・十織(爛漫・f22723)は軽く目を瞠ると、黙礼してくる。
 人を寄せ付けぬ空気の持ち主に見えたが、無礼は厭う気質なのか、介入を拒否しているわけではないのか。
 バツが悪そうに給仕が別の客の声に応えて離れるのと同じくして、錦が「さて」と二階へ向かう階段の方を見やった。
「では、俺は此処で――ひとまず館内を見て回ろうと思ってな」
 英はそれに会釈で応えて、見送った。
 ふと振り返った玄関で見かけた何かに、おや、と小さく声を漏らす。
 草臥れた帽子を目深に被った、色味の無い着物を纏った猫背の男がいた――丸めた背中は介入を拒絶するような――否、それ以上に、世界を拒否しているような印象があった。
 然し、彼が目を瞬く間に、男は消えてしまった。それは宿泊客なのだろうか。亡霊なのだろうか――そんな男がいるような気がしただけだったのか。

 ラウンジには先客があった。
「わーあ、楽しみー」
 ふわっとした声をあげるのは紫雲に染めた髪が鮮やかな青年だった。
 革張りのゆったりとしたカウチソファに腰掛けるコノハ・ライゼ(空々・f03130)は整った貌に笑みを浮かべ、くるりと薄氷の瞳で周囲を見渡す。
 此処いいですか、と尋ねた英に、どうぞどうぞと気兼ねなく隣を指し示してくれる。
 重ねた何が楽しみなのか、という無粋な問いにも微笑んで答えてくれた。
「何ってホラ、ここすごく良い温泉だと聞くし」
 ふふと笑う表情は純粋に、日常から離れた慰安を楽しみにしているものの明朗さを宿していた。
「有名な文豪が泊まった部屋があるとかなんとか。建物もモダンで何より見張らしが良くて、――」
 ああ、このカップも凄いよネ、と珈琲の入っているそれを持ち上げて見せた。
 彼の食器に対する蘊蓄と、珈琲への品評はかなり的確で、英はしばしば感嘆を零した。
「こんな有名人が泊まる宿に縁ができるとは思ってなかったカラ」
 少し興奮しすぎているかもしれない、とコノハは恥じるように笑う。
 大柄な躰をすっぽりと包むようなソファに沈めながら、熱意の籠もった眼差しだけは隠せない。
 そこへ、新たな客が悠々とやってきた。二人。どちらも奇妙な雰囲気を持っていた。
 ひとりは、ローブを纏った山羊角の男だった。物憂げな眼差しは左右で色が違い、濡羽色に囲われた白い貌は表情に薄い。
 蹄を覆う柔らかな絨毯に、ほう、と小さく感心する様子はあったが、それも微かに眉が動く程度であった。
「私は――流れの曲芸師で御座いますよ」
 グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)は腕に止まった鴉を軽く掲げて、この子はハンス、と紹介する。
 片や、もうひとりの客人は灰色の髪に、ぴんと天を向く狼の耳をもっていた。
「このハレルヤが泊まるとなると、無月荘の価値は今後ますます高騰するでしょうね」
 自分の言葉に一切の疑いもなく、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は堂々といってのけた。そこに立つ彼は、なるほど傲慢ともとれる言葉にも違和を憶えぬ――少年と青年の狭間を猶予う顔立ちは華やかで、ゆらりゆれる尾は自由だった。
 彼は二人と小机を挟んだ向かいに、断りも入れず迷い無くすとんと収まると、にこりと微笑した。
 傍らに控えるのは、彼の使用人だろうか――。
「ああ、喉が渇きました。ニッキーくん、何か飲み物を取ってきてください」
 振り返ることもなく、晴夜は彼に依頼する。
 こくりと深く頷いてニッキーくんなる愛らしい頭に屈強な体躯の人形は、のしのしと飲み物を取りに行った。
 入口側を確保して動かぬグリツィーニエとは、対照的な動きであった。
 二人は知り合いなのか、とコノハに問われれば、きっぱりと「そこで出くわしただけです」と晴夜は言う。
「あなたもゆっくり過ごしては?」
 そんな彼が背後を振り返ると、グリツィーニエはゆっくりと頭を振る。
「いえ、先に少々部屋を確認しておきたいので――しかし、折角のご縁。簡単な芸を披露致しましょう」
 斯くして、彼は即興のショーを披露してくれることとなった。
 グリツィーニエは片の掌をぱっと広げ、ローブの影からハンスを放ち、羽ばたいた鴉がラウンジを一周すると、戻ってくる――彼がローブの内部に鴉を迎えると、二度ほど、裾を翻してみる。
 芝居がかった仕草でローブを広げると――ハンスは忽然と消えていた。
「そちらをご覧ください」
 彼はある給仕へと腕を招くように伸ばすと、その男の頭上に、ハンスが澄まして止まっていた。はて、羽ばたきの音も、影のような姿も見えなかった――。
 拍手に合わせ、グリツィーニエは流麗な所作で辞宜を披露すると「それでは、後程」と告げ、部屋へと引き上げるべく踵を返した。
「有難う御座いました、ハンス」
 労いの言葉に合わせ、智慧の精霊はすっと澄ました顔で翼を広げ、主の腕へと止まる。
 彼らが去って行くと、ニッキーくんも負けていませんけどね、と晴夜はいう。
 あああの屈強な人形――英が目を細めると、彼は深く頷く。
「ご安心を。彼は見ての通り可愛いうえに優しいですからね――人様を殺めたりなどという物騒な事は絶対に致しませんよ……本当に本当に」
 真剣な眼差しともとれる表情で、絶対に、を強調してみせる。
「しかも優しく可愛いだけの存在ではなく、とても気が利いているので、このように私が操らずとも独りでに動いてくれたりもするんですよ」
「へえ、自律式の人形、ということかな」
 英の相鎚に晴夜は深々頷いた。ニッキーくんが戻って来て、飲み物を差し出した。
 紅茶だ――繊細なカップを置いたソーサーを、音も立てずに見事に運び渡す、滑らかな動き。
「独りでに動く理由は私にもわかりません――何なんでしょうね、可愛いですけど」
「……そうだね」
 愛らしいのは愛らしい。かもしれない。
「でも色々と汲んで動いてくれるなんて、凄いじゃナイ――」
 不自然な間が、少しあった。コノハは微笑を貼り付けた儘、それ以上語る積もりはないというように口を閉ざした。
 だがどうしても、その筋骨隆々な巨体が気になる。英の視線に気付いた晴夜は、紅茶のカップを机に置きながら、はて、と首を傾いだ。
「ああ……気付いたらいつの間にかここまで膨張してたんですよね。その理由は私にもわかりません――いや本当に何なんでしょうね」
「全く不思議な話ねェ」
 皆凄い人ばかり、とまるっと信じたかのように、コノハが言う。
 それから暫くの間、朗らかで、何処か歪な笑声がラウンジに響く――。

 柱の陰でひとりの男が身を潜めているとも知らず。
 色という色を排した着物を着た、あの男だ。彼は陰に身を潜め、ギョロリと周囲を見る。
 その瞳は妙に青い。が、すぐに帽子の鍔を引いて隠す。何者にも知られたくないかのように。
 立っていたところには、独特の残り香があった――薬めいた、苦い、甘い――更には煙草の匂いも混ざっている。
「……ン?」
 ラウンジから去る間際、コノハが軽く鼻を利かせた。だがその正体は、当然だが、解らなかった。

 夕暮れ時に差し掛かると、十織は三階から山の風景を眺めていた。幾度となく見て、見飽きたという眼差しを呉れながら。
「――良い景色だな」
 話しかけられると、彼は警戒するようにじっと相手を見つめた。
 桜の色をした瞳は物憂げで――然し、他者を完全に拒むには、繰り返される退屈に飽いていた。
 そこにはラウンジの前で一瞬邂逅した、藍色の髪の男がいた。湯治目的だったか。名は知らぬ。
 相手が自分の名を知らぬことに気付いたらしい紺色の和装の男は、錦という名を十織にも告げた。
「――此処に来て、長いとか」
「僕にはここが家のようなものですから」
 外のことを知る機会は限られています――寂しげな視線を窓の外へ送った儘、彼は言う。
「ご迷惑でなければ、もっと話を聞かせていただけますか」
「……すまないが――俺はあまり役に立てそうにもないな」
 返す錦の言葉に、十織は少しだけ表情を和らげた。
「このようなところに閉じ込められていると、取るに足らぬ事が知りたくなるものです――などといっては、失礼かもしれませんが」
 聴けば、帝都では流行のものは直ぐに変わってしまうとか。
「そんな目まぐるしいものとは疎遠で……此処では殆ど、見える景色は代わりありません」
 山が多少、着替えるくらいで。
 そういうものか、疲れた顔をした錦は彼に倣って窓の外を見る。
「……ああ、それにしても。此処は、吸い込まれる程の良い景色だ」
 深緑から深淵へ。密度が織りなす色合いだろうが、どうしても人の死角からすれば、急激に底へと引き込まれるような勾配に見える。
 夕映えが強い闇で山の端を巻き込めば、逃れられぬ闇に捕食されるような。
 はらはらと落ちていく桜吹雪は、闇の中に消えていく。
「――まるで逃げ場などないと言われているようだ」
「……それは真理なのかもしれません」
 錦の低い声音に、十織は目を伏せて、何故か笑った。
「今宵はやがて雨となりますから、外の散策には向きません――夜桜ならば明日、楽しめましょう」
「雨はもう上がったと聞いたが」
 錦の訝しげな視線に、ふふ、と青年は隠し事を告げるように唇に指を当てた。
「……生きのびられたらの、お話です」
 さて、何のことでしょうね。首を傾げて見せる。青ざめて見える貌は、妖しく、美しかった。
 では、これで。踵を返して部屋へと去って行く十織の背を眺めながら、残された男はそっと息を吐いた。
(「俺も人の事は言えないが……まったく――皆、大した役者ぶりだ」)
 そう裡で囁きながら、錦夜・紺(羅刹の化身忍者・f24966)は暫くの間、窓の外を眺めていた。

「はあ、……中々に面妖な依頼に御座いますね――ハンスもそう思うでしょう?」
 グリツィーニエはいつだか零した言葉を、無意識に繰り返していた。
 ハンスはといえば、彼の肩で一緒に周囲を窺ってくれている。
 とても非常に優秀な相棒である――先の曲芸にも文句も言わず、調子を合わせて呉れた。
 呉れたことは、呉れたのだが――。
(「……後で美味しい物を馳走せねばなりますまい」)
 ちゃんと労ってやらねば。ただそれは、事が済んでからだ。
「……やれ気の滅入る作業です」
 山荘そのものは、紛れもなく本物だ。深緑鮮やかな風景も、山の清涼な空気も、都会の喧噪から離れた穏やかな時間も――建物も温泉も、本物なのだ。
 そこに、こうして紛い物でも悪意を、悪意に打ち克つために、散策せねばならぬ。
(「何せ夜には狂宴の舞台となるのです……多少なりとも地の利を得る必要が御座います故――」)
 潜むに相応しい死角、暗器を仕込むに申し分ない場所――鋭く目星をつけながら、グリツィーニエは重い溜息を零した。
 ひらひら舞い落ちる桜を眺めて、しみじみと思う。何も考えず、此処でのんびりと過ごせたなら、どんなに良かったか。
 残された僅かなひとときだけでも、安らぎの時間を過ごせるだろうか。宛がわれた部屋の見事さを思い出して、のんびり眠ることができぬ事実に気付いて、またしてもそっと溜息を零した。
 その時――くすんだ猫背の男を目撃し、彼は身を影に潜ませた。
 男は急な階段の手摺りを撫でていた――まるで、上手い転び方を探るように。男が天を仰ぐ――室内の何を見上げる必要があるというのだろう。
 つと思うが、すぐに悟る。
 梁を観察しているようだ――まるで、縄を括れる場所を探すように。
 同じように天井へと気を取られたグリツィーニエが、ゆっくりと視線を戻した時。
 男は既に、消えていた。

 コノハは鼻歌を歌いながら、階段を上がっていく。
 すっかり警戒心などもたぬように無防備に――まるで館と、上質な酒に逆上せているような笑みを湛え乍ら。
 勿論、全て真っ赤な嘘で、この場に集まる皆が共犯者なのも理解している。
(「ああほら、楽しみってのは本当だしネ」)
 廊下は柔らかな絨毯が敷かれ、ふわふわと心地好い感触が返ってくる。和室の廊下も歩いてみたが、すべすべでよく手が入れられていた。
 いやいや、そこはリフォームすべきじゃないだろうと、一瞬だけ冷静な自分も過ぎったが。
 自分以上にはしゃぐ――フリをした知り合いがいたので、顔見知りがいたので、そっと離れてきた。
「ああ今夜は嬉しくて眠れそうにないなあ」
 嘯く言葉は、まんざらでもない。三階へと辿り着いた彼は、窓の外をじっと眺める色のない着物の男に気付いた。
 彼は窓から、じぃっと下を見つめていた。何かを探すように――当然、此処から、下を眺めて見つけ出せるものなどなかろう。
 陽が落ちかけて、廊下は真っ赤に染まっている。何かを予感させるように。
 声をかける気はなかったが、ふと独特な匂いに気付く。あの時、ラウンジの柱に隠れていたのは、彼なのだろうか。
 ――近づいてみても、彼は特に逃げたりはしなかった。
 ただじっと窓の外を精察する姿は揺るがさぬ儘、彼はコノハに告げた。
「嗚呼、俺に構うな」
 ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は帽子を深く被っていて、その表情は探れなかった。
 それでも一瞬、目が合ったように感じるのは――共に逝ける者はいないか、探っていたのではないか――。

 はてさて凡庸なる聞き手として、数多な客に温和な表情を見せていた英であるが、その頭の裡もなかなか忙しかった。
 ――喩えば、彼ならば、彼をどう殺すのだろう。
 あの人形で縊り殺すのは簡単だ。いやいや、かの桜の青年はああみえて毒か何かを平然と仕込むかもしれない。
 疲弊した彼はどうにも曲者のようだし、七彩をもって朗らかな青年は嘘つきの匂いがする。
 あの明確に妖しい彼なんて――。
 同時に、被害者となった時の死に様を想像する。誰と誰が遭遇するかで、目まぐるしく役者が入れ替わり、頭が休まる暇が無い。
 何より、こうして腰を落ち着かせている間に見えぬ舞台で何が起こっているのやら。
「一体何冊書けるのだろうね」
 嗚呼。落ち着かない。
 書きたくて書きたくて逸る。英はソファに身を委ねた儘、まだまだ存在する登場人物達に思いを馳せた。
「この筆は綴るためにあるとは限らないが――今日ばかりは今すぐにここで書いた話を世に広めたいよ」
 後はただ、刻を待つだけ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
セロお兄さん(f06061)と
ああうん。今日は温泉客だよね。温泉客
(温泉客ってどうすればいいんだろう…
……兄さん、落ち着いて。温泉は逃げないから
俺は温泉は初めてだけれども、温かいらしいし、楽しみだな
(……ええと……
(!?セロお兄さんがなんか急に変なこと言いだしたな
(これに勝つって何に勝つんだ!?え。ただの温泉客だよね。なんの勝負してたの
…………
「そう。じゃあその時には、俺も聞いてほしいことがあるんだ
(あ、これ殺す側の台詞だ(まあいいか
とか完全に無表情で、時々周囲の様子を見ながら歩いていく

まあ、たまにゆっくりするのもいいだろうね
何事もなく、過ぎればいいんだけれども…
なんて、平然と言いながら


セロ・アルコイリス
リュカ(f02586)と

リュカ、リュカ、
温泉ですって、温泉
入ったことあります? おれはありますよ!
(いつもよりテンション高いのは敢えて――のはず)
……リュカはいつもどおりですねぇ
ちょいとつまんねーなぁ

ええと、こーゆーときはなんて言えばいいんでしたっけ
『おれ、これに勝ったら結婚するんだ』?
(リュカの反応に、あっそうだ殺し合いのことは知らねーフリするんだっけ)
うん?(なるほどおれを殺す気?)
(殺せると思ってます? って目だけで笑って)
へへ、いいですよ。『終ったら』聞きましょう

それとなく周囲を見渡して下見しつつ
いいですねぇ、こーいうとこ
たまに来るにゃ最高だ
(殺し合いなんかなけりゃなあ)



●きみの考えていることは
 温泉に行くには、一階の和装空間を抜けて、外に繋がる通路を通る必要があるらしい。そこから見えるのは客室と通路を遮る庭園と、自然の深緑。
 見苦しくないようにと簡単に整えられているので、手つかずの自然――とは呼びがたいが、しっかり作り込まれた庭と対比すれば、山の原風景といえようか。
 その通路を見物まじりに歩く、二人組があった。
 足取りもふわふわと軽やかな青年と、静かに堅実な足運びを見せる少年。
 青年が半身を捻って、虹が架かった白髪躍らせ、連れを振り返る。
「リュカ、リュカ、温泉ですって、温泉。入ったことあります? おれはありますよ!」
 セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)があまりに上機嫌でそう尋ねてくるので、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は目を瞬いた。
 ――お兄さん、いつもより二倍増しで元気だ。なんでだろう。
(「ああうん。今日は温泉客だよね。温泉客」)
 設定を思い出し乍ら、こくりと頷く。
「……兄さん、落ち着いて。温泉は逃げないから――俺は温泉は初めてだけれども、温かいらしいし、楽しみだな」
 元より、感情の起伏にも日常的な情緒にも乏しいリュカである。
 身体に良いらしい温泉なるものに、一介の傭兵として効能に興味はあるだろうし、入浴がもたらす衛生的な効果は嫌いじゃない――みたいな、そんな合理的な判断をしていそうな気がする。
 つまるところ、セロはリュカが何となく『ノリきれていない』風に思える。
 要するに、幸か不幸か――セロもリュカの戸惑いの詳細を、きちんと掴めていなかった。
「……リュカはいつもどおりですねぇ。ちょいとつまんねーなぁ」
 ちぇーっと唇とがらせ、天を仰ぐ。空は灰色混じりで白っぽい薄青だった。
 ――そうそう、演技しないと。演技。
(「ええと、こーゆーときはなんて言えばいいんでしたっけ」)
 思考を巡らせること、三秒。
「『おれ、これに勝ったら結婚するんだ』?」
 なんだか空をしんみりと見上げながら、セロが奇妙な事を口走った。
「……」
 ――無表情の儘、リュカが固まる。
(「……!? セロお兄さんがなんか急に変なこと言いだしたな――これに勝つって何に勝つんだ!? ……え。ただの温泉客だよね。なんの勝負してたの……ええと――」)
 思考を巡らせること、五秒。
「…………そう。じゃあその時には、俺も聞いてほしいことがあるんだ」
 重い吐息と共に、リュカは告げる。淡淡としているようで、重い秘密を抱えるような、囁き。
 ――あ、これ殺す側の台詞だ。などと思ったが、まあいいかと流す。
「うん?」
 ――なるほどおれを殺す気?
 眉を上げて、セロはリュカを見た。二人は脚を止めて、暫し無言で見つめ合う。
 青い双眸と、東雲色の双眸とぶつかる。感情に裏打ちされた表情こそ無いが、真摯な眼差しを向けてくる少年へ、目許だけで彼は笑う。
 ――殺せると思ってます?
 そう挑発するように。
「へへ、いいですよ。『終ったら』聞きましょう」
 うん、それでいい。リュカは頷くと、二人は再び肩を並べて歩き出す。
 何となくズレていたような――ちゃんと噛み合ったような――最終的な目的は同じだからいいか、というような――曖昧な空気の中で、館の構造を調べるかのようにじっくりと散策する。
 様々な鳥のさえずりが遠くで聞こえる。湯煙の馨が近づいてくる。旅情を感じさせるラムプの飾りに、セロはふっと息を吐いて、朗らかな表情を見せた。
「いいですねぇ、こーいうとこ――たまに来るにゃ最高だ」
「まあ、たまにゆっくりするのもいいだろうね――何事もなく、過ぎればいいんだけれども……」
 遠くを見つめるリュカの横顔は、いつもと変わらぬ。平然と零すのは、彼なりの台詞だということは解った。
 そうですねぇ、とその言葉にセロも心から同意する。本当の処は、多少、別の思いもあったけれど。
 ――殺し合いなんかなけりゃなあ。
 片やリュカもひとつだけ、胸に引っ掛かるものがあった。
 ――結局、セロお兄さんの想定してる設定、なんだったんだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
わしこういうのはじめてじゃ(ウキウキ)

これがあの、山荘
こんなとこに泊まれんは贅沢じゃね
かの文豪先生にあの文豪先生…政治家はどうでもええけど、足跡なんかないじゃろか
と、胡散臭い話を信じ切った文豪オタク的な振る舞いで友の実の所など何も知らぬしろうとさん風味

到着すればそわそわしながら探検に
モダンに改装しておるけども…それはそれでまた赴きがあり
なるほど温泉!それは楽しまねばならんの

そいえば夜の催しも楽しみじゃね(お遊びと思っている風を装い)
マン・ハント……おいかけっこかの?
逃げるのは得意ぞ(ふふりと尻尾を揺らし)

あとは野となれ山となれ
死する方が良い場面あれば存分にやろう


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

俺は何も知らぬ友を連れた殺人鬼を
…殺人鬼に見えない?だから良いのでは(くすりと

無邪気にはしゃぐ友ににこやかに頷く
俺も聞いた話だが、旅籠時代には高名な人々が湯治の為に訪れていたらしいな
文豪先生の足跡追いつつ、優れた温泉も楽しもう
そして…その後の夜も、存分にな(微笑み

探検か、行こう
楽しげな友と共に山荘を探検しつつ
そっと夜のお楽しみに向けての下見もしておこうか

マン・ハントの話を耳にすれば
ほう、らんらんは逃げるのが得意なのか
では、俺が鬼になろう(微笑み
俺は追いかける方が好きだからな(にこにこ

ノリノリならんらんを微笑まし気に見つめつつ
…折角の茶番、存分に楽しませて貰うとしようか



●戯れ
 空は灰掛かってすっきりしなかったが、深緑の狭間から覗く白く輝く壁は、遠くからでも良く見えた。
 おお、山荘を見上げて、隻眼の男は声をあげた。左右に揺れる尾を見れば、表情を見なくても感情が解る。
「わしこういうのはじめてじゃ」
 目に見えて終夜・嵐吾(灰青・f05366)が浮かれ、興奮の儘、連れ合いを振り返ると、ふわり灰の髪が舞った。
「これがあの、山荘――こんなとこに泊まれんは贅沢じゃね」
 朗らかな感情を顕わにする彼へ、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)もまたにこやかに応じる。
 柔らかに細めた双眸で嵐吾を見つめると、俺も聞いた話だが、と彼が飛びつかずにはおられぬ言葉を向ける。
「旅籠時代には高名な人々が湯治の為に訪れていたらしいな」
「かの文豪先生にあの文豪先生……政治家はどうでもええけど、足跡なんかないじゃろか」
 途端、目を輝かせて周囲を見渡し始める嵐吾の言葉に、蒼地に桜舞う扇で口元を隠しつつ、はは、と清史郎は声を立てて笑った。
「文豪先生の足跡追いつつ、優れた温泉も楽しもう」
「なるほど温泉! それは楽しまねばならんの」
 無邪気に喜ぶ連れは山荘の面の看板も、裏の看板も知らず、ただ温泉と豪華な宿に感嘆をあげる。それでいい、それがいいのだ。
「そして……その後の夜も、存分にな」
 ひらりと落ちる桜のひとひら、掌に乗せ、清史郎はひそりと囁く。赤い瞳に僅かに宿る光の色を、嵐吾は知られぬように。

「おお、此処が……なるほど――モダンに改装しておるけども……それはそれでまた赴きがあり」
 良い良い、と到着してからも、嵐吾は相好を崩して館の内部に感心している。
 探検しようと誘われた清史郎も付き合っている――下見は大切だからな、と呟いた時に、はて、と嵐吾は首を傾げたが、今はすっかり忘れているらしい。
 彼らがどう過ごそうと構わぬ、という山荘のスタンスは確かなようで、何処をどういう風に観察しようと従業員に咎められることはなかった――もっとも、それらしき人物を殆ど見かけないというのが、正直なところであったが。
 彼らは現在、和室を見物していた――態と古びた障子やら、昔使っていたらしい道具を残してあり、綺麗にしてはいるが、なるほど年季が入っている。
 不意に、嵐吾の耳がひょこりと動いた。
「せーちゃん、せーちゃん。この草臥れた鉛筆! 万年筆! 大正何年くらいのもんじゃろか」
「ああ、そうだな――」
 一緒に並んで眺める。曲がりなりにも、文豪の足跡に興味津々な二人としてやってきているのだから。
 ああそういえば、と夢中で机の上を眺め続けていた嵐吾が、突然、じいっと琥珀色の瞳で清史郎を見上げた。
「そいえば夜の催しも楽しみじゃね」
 唐突な言葉に清史郎は軽く目を瞠る。無意識に、扇で口元を隠していた。
 何処で目にしたのだろう――と驚いた彼に、あくまでも嵐吾はさっぱり事情など知らぬ顔で続けた。
「マン・ハント……おいかけっこかの? 逃げるのは得意ぞ」
 無邪気に、妙に自信満々に言い切る彼に、清史郎は春風駘蕩たる微笑を浮かべた。
「ほう、らんらんは逃げるのが得意なのか。では、俺が鬼になろう」
 軽く瞼を伏せ、彼は小さな吐息を逃がすように「俺は追いかける方が好きだからな」と囁いた。
 では勝負じゃの、と素直に頷く嵐吾の尾は振れて、たいへん楽しげだ。
 清史郎の思惑など――露知らず。

 暫く、二人は種類の違う笑みを浮かべて見つめ合う――まあ、本当はきちんと解り合っているのだけれど。
 きっと巧く周囲は欺けているはずだ。
(「あとは野となれ山となれ――死する方が良い場面あれば存分にやろう」)
 ふわりと笑って見せる嵐吾の前で、解っているとばかり清史郎はひとつ首肯し。
 ……折角の茶番、存分に楽しませて貰うとしようか。
 共犯者へ、真犯人に向けてか――彼はただ優美に微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・白鴎
紅紀(f24482)様と

趣はようございますが……あぁも山道を歩かされるとは。
紅紀様の好まれる物語にはこのような場所が、良く?

拙に殺人鬼の心得は分かりませぬが
真犯人たる方がどのように踊って頂けるか、興味はございますね

散策…にございますか?
成る程……拙は舞台で舞う者。舞台を描き上げる方に従いましょう
ふふ、そうですね。舞台は完璧なものでなければ
踊らされるフリであっても

温泉……あぁ、そういえばそんな話も
では拙はセンセのお背中でも流しましょう?(くすくすと笑って
時に紅紀様、温泉にて殺される可能性など紅紀様のお話では如何程に?

ふふ、では紅紀様でも絵になりましょう?
どのような宴になるか今から楽しみですね


天瀬・紅紀
白鴎さん(f22765)と

へぇ、随分と趣ある旅館
僕の好きな推理小説家の作品で良くありそうな奴だな
人里離れると警察の介入が遅れるから事件の舞台には良いんだよね

それにしても、殺人鬼のバトルロワイヤルっていうか
猟奇的な趣味は読み物としては嫌いじゃ無いけど

ね、まずはこの建物を軽く散策してみない?
部屋の間取りを知る事は推理小説には必須なんだ
どこから敵が襲ってくるか、舞台の立ち位置は重要、だろう?

大体確認したら、温泉入ろうか
だって、ここの温泉すっごく良いんでしょ?
頭痛肩こりに効くし、綺麗な露天風呂の景色で心に彩りを得られると思うんだ!(力説)
湯船の殺人なら美人に限るかな。野郎の全裸は文字でも映えないしね



●かくしごと
「へぇ、随分と趣ある旅館」
「趣はようございますが……あぁも山道を歩かされるとは」
 天瀬・紅紀(蠍火・f24482)が帽子の鍔を軽くあげて、山荘を見上げている。白い膚は陽に弱い。曇天であっても油断はならぬ。物語のように、即時爛れてしまうような呪いではないけれど。
 その横で、月白・白鴎(桜花繚乱・f22765)が胸を押さえて、大きく深呼吸した。
 彼は容貌を隠すように薄紗のヴェールを纏っていた。その隙間から桜の花弁が覗いているが、当然、彼も日射しに溶けて消えていく類ではない。
 一見、虫も殺せないような儚い舞踏家、これもまたこういった舞台には必要だよね、その様子を微笑ましそうに見つめ、紅紀は笑って、指折り数え上げる。
 鬱蒼と茂る緑の奥に佇む孤独な館、雨でぬかるんだ山路、集まった不思議な客達――。
「僕の好きな推理小説家の作品で良くありそうな奴だな」
「紅紀様の好まれる物語にはこのような場所が、良く?」
 ヴェールの下からの問い掛けに、紅紀は肩を竦めるに似た動作をした。
「――人里離れると警察の介入が遅れるから事件の舞台には良いんだよね」
 ああ、なるほど。白鴎は頷く。
 素直に感心してくれる彼に、改めて紅紀は微笑むと山荘を見やる。
「それにしても、殺人鬼のバトルロワイヤルっていうか、猟奇的な趣味は読み物としては嫌いじゃ無いけど」
「拙に殺人鬼の心得は分かりませぬが――真犯人たる方がどのように踊って頂けるか、興味はございますね」
 対し、白鴎は微かな吐息に笑みを交えて、あらじ彼方を見た。

 山荘の内部は静かなものだった。否、客で賑わってはいるのだが、ほんの少し暗い気配が猶予うようだった。
「ね、まずはこの建物を軽く散策してみない?」
「散策……にございますか?」
 首を傾げた白鴎に、紅紀は講義に臨む教授のように、重々しく頷いた。
「部屋の間取りを知る事は推理小説には必須なんだ。どこから敵が襲ってくるか、舞台の立ち位置は重要、だろう?」
 その喩えは解りやすい――得心がいったように、白鴎は同意する。
「成る程……拙は舞台で舞う者。舞台を描き上げる方に従いましょう……ふふ、そうですね。舞台は完璧なものでなければ」
 踊らされるフリであっても――艶美な笑みをヴェールで隠し。
 紅紀に連れられるように歩き出す。誰かの一歩後ろを歩くのも、得意ではある。なんたら先生の慰安に付き添う経験も一度や二度ではない。
 ああ、思い出したように紅紀が赤いコートを翻す。
「大体確認したら、温泉入ろうか。だって、ここの温泉すっごく良いんでしょ?」
「温泉……あぁ、そういえばそんな話も――」
 思案するように白鴎は俯いた。そんな彼に腕広げ、紅紀は温泉の良さを力説する。
「頭痛肩こりに効くし、綺麗な露天風呂の景色で心に彩りを得られると思うんだ!」
 綺麗な顔をして、どうやら物書きに付きものの悩みはあるらしい。
 もしもそれを告げたなら、この冷静な青年は顔は関係ないと拗ねるだろう――ふふ、とありあり浮かんだ光景に、思わず笑うと、不思議そうな眼差しで見つめられる。
「では拙はセンセのお背中でも流しましょう?」
 白鴎はからかうようにはぐらかし、廊下を並んで歩き出す。他の客達も好きなように動いているらしい――すれ違う皆は、さてどんな不穏な事を考えているのやら。
 ふと思い出したように、白鴎は『センセ』に問うてみた。
「時に紅紀様、温泉にて殺される可能性など紅紀様のお話では如何程に?」
 うん、そうだな――文豪の逡巡は一瞬だった。
「湯船の殺人なら美人に限るかな。野郎の全裸は文字でも映えないしね」
「ふふ、では紅紀様でも絵になりましょう?」
 どのような宴になるか今から楽しみですね――微笑みの意味は、ヴェールの内側に留めて、彼は嘯いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
例のチラシはポケットに潜ませ、何食わぬ顔でサロン給仕に
今はこの皮肉なまでに綺麗な空気や館の風情――胡散臭い平和を、楽しんでおこう

――そう、せめて今だけはと思っていたのに
客として部屋に籠ってればよかった、なんて考えても後の祭
“御客サマ”と目が合ってしまった――多分に含みしかない視線を送ってくる御客サマと!

……ハイ何で御座イマショ
二人して色々と妙な言い回しはおよしクダサイヨ
ええと、ご婦人にはデザートと――旦那には特別サァビスとして、冷水かけて差し上げましょーか?
言われずとも構いやシマセンヨ
(ひきつり気味の営業すまいるで、てかどーして此処に…と零しかけるも口つぐみ)

――嗚呼、もう既に悪夢だ!


花川・小町
【花守】
清宵ちゃんと、訳があるようなないようなお忍び旅行者――優雅なる紳士淑女に成り済まして、さぁ愉しく踊りましょう

悠々と噂の湯を堪能した後、ほくほくと二人サロンへ
お行儀良く作法は守って――けれど密やかに“子羊”の品定めでもしておこうかしら
なぁんて、調度品や風情を楽しむ振りをして周囲を見遣れば――あら、ふふ、早速見つけた

ねぇ、そこのギャルソンさん
私、湯上がりで少し火照ってしまって、何か冷たいデザートが欲しいの
――まぁ、そうね、更に火照るのも悪くないけれど
サァビス、お願い出来るかしら?
素知らぬ顔でにこりと微笑みかければ――期待通りの良いお顔
あら、詮索は野暮というものよ

嗚呼、愉しい一夜になりそうね


佳月・清宵
【花守】
この手の舞台や筋書にゃ、ある種のお約束たる紳士淑女――秘境での密会に耽りにでも来た体でひとつ、茶番に乗ってやろう

楽しめるもんは楽しみ尽くさねぇと損だろうと、湯に浸った後にサロンへ
件の招待状――いかれた本性は互いに胸の裡へと秘しながら、然しごく自然に今宵の愉しみを探す様に
宿の情緒を楽しむ序で、獲物を求めて辺りを眺めれば――良いのが飛び込んできやがった

ご機嫌良う、ギャルソン
さて、俺は寧ろもっと浮かされる様な熱が欲しいぐらいだが――そう怪訝な顔をすんなよ、酒の話に決まってんだろ?
あぁ、肴は良いのを見付けたんでお構い無く(ギャルソンの顔を見ながら心底愉快げに笑い)

コイツは良い夢が拝めそうだ



●訳ありの二人と、ギャルソン
 洋装そのものも珍しいのだが、ギャルソン姿で髪をかっちりと纏めた変装――自画自賛ながら、堂に入っていると思う。
 給仕に扮した呉羽・伊織(翳・f03578)は澄ました顔で客人たちを送る。演技も別段、抵抗はない。世界は違えど、日頃から似たような生き方をしているのだ。
 当然乍ら、客は皆猟兵であり、時折見知った顔もあるにはある――然し、彼は平然としたものだ。
 客が限られているゆえ、忙しさも殆ど無い。因みに他の従業員は『夜は皆帰宅するように』と言われているという情報も得た。
(「今はこの皮肉なまでに綺麗な空気や館の風情――胡散臭い平和を、楽しんでおこう」)
 サロンに流れる優雅な時を、別の立ち位置から彼は満喫していた。
 皆の知らぬ一面が見える、そんな気もして楽しいと――この時は、そう思っていた。

 いい湯だったな、佳月・清宵(霞・f14015)は花川・小町(花遊・f03026)と極めて密接に――然し触れ合うほどではない距離で、寄り添い語らう。
 華やかな和装はいつも通りだが、湯上がりにほんのりと色づいた頬と、いつもとは少しだけ違う髪型。
「本当、噂通りだったわ。どう――綺麗になったかしら?」
「ああ、いつも以上に輝いてる」
 白い掌を見せるようにして小町が妖美に笑えば、悠然と頷いた清宵は、一切の照れを含まず褒める。
 二人は――小町に曰く、訳があるようなないようなお忍び旅行者。清宵が曰く、紳士淑女の秘境での密会――吐息で囁き合うように微笑み合う美男美女に、給仕達は表情こそ変えぬが、ひそり浮き足立っている。
 趣味の良い調度品、窓から見える風景に視線を向ける儘に、小町は居合わせる人々へと流し目をくれる。
 つまるところ、“子羊”の品定め――エスコートする清宵にしても、時折ぎらりと鋭い眼差しを四方へ向ける。
 二人揃って、極めて巧妙に殺気を隠し、憐れなる――或いは、相応しき獲物を探している。
「それにしても……こんなにのんびりしちゃっていいのかしら」
「楽しめるもんは楽しみ尽くさねぇと損だろう」
 悩むように小町が吐息を零すと、清宵はわざとらしく肩を竦めて見せる。
 ほら、そこに良い獲物が――あら、本当。ふふ、早速見つけた――微笑みに細めた双眸の輝きに、肩を丸めて隠れようとした男がひとり。
「ご機嫌良う、ギャルソン」
 当然、見逃すはずはなく、金眼を眇めた清宵が長い黒髪を纏めた給仕を呼び止める。

(「――そう、せめて今だけはと思っていたのに」)
 ぐ、と唇を引き締め、逃げ損ねた伊織がふるりと頭を振る。
(「“御客サマ”と目が合ってしまった――多分に含みしかない視線を送ってくる御客サマと!」)
 こんなことなら、客として部屋に籠もっていれば良かった――などと思っても、もう後の祭りである。
 このまま無視して去って行くなど、赦してくれる二人ではない。
「……ハイ何で御座イマショ」
 真顔の儘、冷や汗を隠して振り返る。涼しい顔を取り繕っているが、声はガタガタだ。
 それすら可笑しそうに、小町は蛇のような眼差しで蛙――伊織を見つめる。
「ねぇ、そこのギャルソンさん――私、湯上がりで少し火照ってしまって、何か冷たいデザートが欲しいの」
「さて、俺は寧ろもっと浮かされる様な熱が欲しいぐらいだが――そう怪訝な顔をすんなよ、酒の話に決まってんだろ?」
 片目を瞑って、にやりと笑う。小町に話しかけているんじゃないのか、なんで俺を見ているんだこの男は。
 指先を顎に沿わせて、小町が考えるような仕草を見せる。
 そんな憂いを帯びた視線を向けてこようが「うーん、どうやってからかってあげようかしら」とか考えてるのは解っているぞ。
「――まぁ、そうね、更に火照るのも悪くないけれど……サァビス、お願い出来るかしら?」
「あぁ、肴は良いのを見付けたんでお構い無く」
 ふふふ、と笑う二人に向けて、ははは、伊織は朗らかに声を上げたつもりだったが、全く平坦な声音であった。
「二人して色々と妙な言い回しはおよしクダサイヨ。ええと、ご婦人にはデザートと――旦那には特別サァビスとして、冷水かけて差し上げましょーか?」
 営業スマイルを崩さなかったのは、褒めていただきたい。
 明らかに作った笑顔が引き攣る伊織を二人は遠慮無く眺め倒す。心の底から愉快そうな笑みを湛える清宵は余計な口を挟まぬが、やたら腹が立つ。
 ――が、此処では未だ、客と給仕なのである。
「さァさ、お席に着いてクダサイネ――そこに居られると、手が滑るかもしれませんヨ」
 取り敢えず形勢不利を覆すべく、伊織は二人は追い払う。
 軽く頭を下げた隙、人目に付かぬようじろりと睨みあげた彼に、ころころと小町が笑う。
「あら、詮索は野暮というものよ」
「言われずとも構いやシマセンヨ」
 ドウゾおくつろぎクダサイヤガレ、と自棄になった伊織がとっておきの綺麗な顔で笑って告げると、清宵は堪え切れずに噴き出した。

 ――はてさて、愉快なものが見られたと笑う二人が席に収まる頃、いよいよ陽も暮れ。深い闇が窓の向こうを隠してしまう。
 宵まではあと少し。山荘の灯が落ちるまでは、この道楽を楽しもう。
「コイツは良い夢が拝めそうだ」
「嗚呼、愉しい一夜になりそうね」
 品良く笑う小町に、グラスを片手で掲げた清宵が乾杯、と気取って言う。
 さて伊織であるが――当然の如く、これで解放、とはいかず。二人に幾度となく呼び止められては、取り留めの無いサァビスを要求されることになったのだった――。
(「――嗚呼、もう既に悪夢だ!」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『待ち人、まだ来ず』

POW   :    辛抱強く待つ

SPD   :    時計に視線が行ったりと時間が気になる

WIZ   :    本を読んだり、時間を潰して待つ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜会
 夜は更け――ひとたび館は一切消灯した。
 だが、此処に集うまれびと達は知っている。これより、メインイベントたる――『マン・ハント』が行われるのだ。
 開始時間の決まりは無い。仕込みは昼から許された。
 決まったルールもない。何を使おうが、どんな武器を使おうが、後から咎められることもない。
 こういった催しでは禁じ手である事が多い建物の破壊も許されているのだ――。
 ただひとつ。この日、この夜。山荘に残った者は強制参加だ。知らぬふりをしても、実際何も知らなくとも、逃れることはできぬ。
 籠城して見たところで――既に部屋に誰か入り込んでいるやもしれぬ。
 今宵決まるのは、殺人鬼の中の殺人鬼――伝説に残るほどの、怪異そのものなのだから。

○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
【プレイング期間】3月26日(木)8:31~28日(土)中

●捕捉
殺す側は任意ですが、「必ず殺される」ことはご了承ください。
どんな風になるかはプレイングで汲みますが(耽美なのか、スプラッタなのか……みたいな)ご指定いただいた方が安全です。
お連れ様は「お互いが殺し合う」でも「組んで誰かと殺し合う」でも構いませんが、最終的にはお互いに死にますので、その辺をご了承の上、ご参加いただけると幸いです。
巧くマッチングしなかった場合は、恐らく突然亡くなることになります。
○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
コノハ・ライゼ
じっと待つのも趣味じゃナイしふらふら散策しましょーか

予め仕掛けがありそな箇所は『情報収集』し記憶しとくわ
多少は粘らないと面白くナイもの、早々引っ掛からないようにネ
罠や不意討ちは『第六感』で察知し『見切り』躱しながら隙あらば『カウンター』で反撃
素早いのは苦手だケド、こう見えて器用さと腕っぷしには自信あるの
時にはその辺色々解体し破壊し盾にも武器にもしてみせましょ

得物は刃物の「柘榴」か雷の「氷泪」時には『呪詛』を刻もうか
狙うのは誰でもダケド、相手の望む事、したい事を叶えながら殺せたらイイ
オレを殺したいなら殺されながら殺そう
その方がハッピーでしょ?
死ぬ時はこの身を綺麗なイロで染めて、華々しくお願いねぇ


夏目・晴夜
暗い夜は苦手ですが、こういった催しは夜ならではですね
このハレルヤはどんな風に殺されるのか楽しみですねえ
ねえ、ニッキーくん

殺される為には誰かしらに会わねばなりません
なので人の気配が感じる方へ向かって
壁があるならニッキーくんの怪力で壊してもらいながら進み、
こちらから積極的に遊んでもらいに参ります
隠れんぼしているみたいで面白いですね

どうせ死ぬのであれば派手に死にたいです
至高たるハレルヤの死に様とエンターテインメントは過激でなくては!

ああ、でも折角ですし
相手を殺せそうであるなら積極的に殺しましょうか
大丈夫ですよ、ニッキーくんはとても優しいですからね
抵抗せず彼の暴力に身を委ねれば痛みなく逝けますよ、多分


錦夜・紺
……ああ、時はきた。
帳は落ちて、夜が深くなるころまで身を潜めていよう
暗殺、影討ち、騙し討ち。
ひとりでも殺めることが出来れば上々。

……俺が死ぬときは、潔く一瞬に逝けたら
無様な姿は晒したくはないな…

一人で行動している者か…殺し合いの後、残った者でもいい
合図は視界を塞ぐ煙玉
【闇に紛れて】後ろから
【影踏み鬼】で足許からじわりじわりと侵食し、
後ろから心臓のあたりを苦無でひと刺し
忍ぶ者のように【暗殺】してしまおう

夜の錦。この意味を知っているか。
仮の名を「錦」と例えたならば、今となってはこの名は無駄なものだ。
俺の名は錦夜の紺。忍んで殺めるものだ。



●三者三様
 のし、のし――巨大なシルエットが闇に浮かぶ。
 ユニークな頭部に、筋骨隆々の屈強な体躯。その背の向こう、物音に耳を欹て乍ら、夏目・晴夜が灯りを目の高さまで掲げた。
「暗い夜は苦手ですが、こういった催しは夜ならではですね」
 灯りに半分照らされた彼の貌は、状況を楽しむように目を細める。
「このハレルヤはどんな風に殺されるのか楽しみですねえ――ねえ、ニッキーくん」
 振り返ったニッキーくんは、こくり、と深く頷いた。
 勿論、晴夜としては敵に屈するような真似は度し難い。
 だが逆に――そうせねばならぬのであれば。考えて、ふふ、と声を漏らす。
「それにしても、誰もいませんね。気配はしたのですが……」
 ――周囲はしんと静まりかえり、反応は無い。さて、殺すにせよ殺されるにせよ、まずは相手に遭遇せねば話にならぬ。
「隠れんぼしているみたいで面白いですね」
 晴夜はのんびりという。
 ならば自分は鬼だ。見つけて、追いかけ、遊んでもらわねば。
 目配せを送れば、ニッキーくんは無造作に拳を振り上げた。
 低い振動が彼らの横で響き、ぱらぱらと木材の欠片が落ちてくる。ニッキーくんは一撃で壁を破壊すると、小さな穴に身をねじ込んで、更に破壊した。
 その後を晴夜は悠然と歩き、「もういいかい」と声を掛けてみる。潜った先は、なかなか面白いことになっていた。
 女と、男の死体がある。そして、負傷し、疵付いた男がひとり残っている。
 ――ああ、それではさぞ苦しいでしょう。
 憐れみを晴夜は彼へと向けた。男の瞳は諦めてはおらぬ。鋭い視線で、晴夜の隙を窺っている。
 そんな男を吹き飛ばしたのは、ニッキーくんの拳だった。一撃を食らわせると、二撃、三撃、怒濤と乱打する。
「大丈夫ですよ、ニッキーくんはとても優しいですからね。抵抗せず彼の暴力に身を委ねれば痛みなく逝けますよ、多分」
 最終的に、ぐちゃぐちゃになるのは変わりませんけど――などと言い、高みの見物をしていた彼が、不意に横へ跳ぶ。
 お気に入りの外套が裂けて、晴夜の手から灯りが落ちて、割れた。部屋にあった小さなラムプが粉々に砕けたのをじゃりと踏みつけ、男が問うた――。
「ネ、死に方の希望はある?」
 問われて、晴夜は高らかに返した。
「どうせ死ぬのであれば派手に死にたいです――至高たるハレルヤの死に様とエンターテインメントは過激でなくては!」


(「あァ――、此処もそうだったネ」)
 手摺り近くを覗き込み、コノハ・ライゼはうっすら笑い、肩を竦めた。
 廊下には幾つも罠がある。誰がいつ仕掛けたものだか、たった一晩で面白いほどにこの山荘は危険地帯と化していた。
 ――幸いなのは、仕掛けた本人が起動させるものが多いコトかしら。
 冷静に裡で零す。全く動じぬ彼の薄氷の瞳こそ、ひと処しか観察できないが――膚が拾う感覚も、鼻が拾う感覚も、直感も動員して、一瞬一瞬を判断して動く。
「多少は粘らないと面白くナイもの、早々引っ掛からないようにネ」
 かく語る声音は、何処か楽しそうに。
 しかし、出来る事なら、直接仕掛けてくれる相手と会いたい。
 階段を飛び降りる。段差には何があるか知れたことでは無い――と同時、館を揺らす振動に身を低くする。地震ではない。何処かの壁が破壊されたようだ。
 近い、思ってコノハは気配を消しながら駆った。
(「取り込み中なら、大丈夫デショウね」)
 ――ラウンジの壁に、穴が穿たれていた。その奥で躍動する影の詳細は解らぬが、構わずコノハは飛び込んだ。
 昼間に見かけた、屈強な人形と、暗闇にも明るい白い尾――。
 ニッキーくんの背後で、悠然と見物している晴夜へ、彼は試すように一撃を仕掛けた。
 彼はさして驚くこともなく、軽やかな奇襲を跳んで躱す。
 その手から落ちたラムプが割れて、灯りが消えてしまう――僅かに晴夜が目を細めたが、特に何も言わなかった。
 コノハは片手に握った刃をくるくる回しながら、微笑を向けた。
「――ネ、死に方の希望はある?」
 それは、珈琲に添える砂糖の数を尋ねるのと同じ調子の問い掛けだった。
「ほら、アンタの望む事、したい事を叶えながら殺せたら――」
 いつしか空だったもう一方の手にも同じ形のナイフが現れ――両の掌の中で刃を半回転させると、手の内に正しく収める。
 歌いながら自然にこなす戦闘準備は、優雅でしなやかだった。
「その方がハッピーでしょ?」
 お互いにね――と、害意など知らぬように朗らかに微笑んだ。なるほど、晴夜は数回肯いて見せた。
「どうせ死ぬのであれば派手に死にたいです――至高たるハレルヤの死に様とエンターテインメントは過激でなくては!」
 返答はコノハにとって、この上なく響いた。
 別の誰かを沈めたらしいニッキーくんが身を返してくる――身を低く駆りながら仕掛けたコノハはすぐ近くのテーブルを掴んで、投げた。
「こう見えて器用さと腕っぷしには自信あるの」
 悪戯っぽく薄氷の瞳を細めれば、晴夜の赤い双眸もそうですか、と半ば伏せられ。その腰元から鈍い光が煌めいた。
 ニッキーくんがテーブルを砕く。その下を潜って、晴夜もコノハに合わせた。二対を交差させる紅の斬撃と、青ざめた逆手の一閃。
 すれ違った二人の肩口には、それぞれ浅く朱が走っていた。
「――いやはや、まさかまさか、ですね」
 ほんの少しだけ悔しそうな色を瞳に湛えながら――晴夜は胸を押さえて、崩れ落ちた。交錯の刹那、コノハの右目が輝いて、雷が至近距離より彼を捕らえていた。
 スパークは晴夜の視界を光で眩ませ、同時に二撃、身を撃った。刃への対処に気を取られた彼は、雷の衝撃を凌ぐことができなかったのだ。
「さて、派手なのがご希望だったよネ」
 望みを叶えてあげる、と。コノハが刃を振り翳した瞬間。

 ――煙幕が、すべてを覆い隠した。


「……ああ、時はきた」
 錦夜・紺は呟きながら、ふと思う――この館に集う幾人が、同じ心持ちで潜んでいるだろうか。心を躍らせているのだろうか。或いは、怯えているのだろうか。
 ――いかんな、と思う。どうしても状況を猟兵的に見てしまいそうになる。
 実のところ、黒幕には設定など最早どうでもいいのやもしれぬ。此処で殺人が起これば、帳尻は合うのだから。
 それでも。
(「無様な姿は晒したくはないな……」)
 想像してみるに、悪趣味だ。理想の死に様も、不快な死に様も、敢えて想像したいものではない。
 あまり気は進まないが――その瞬間も紺は覚悟し、息を吐く。集中のためのひと呼吸で――ひどく静かに彼の気配は闇に翳んでいく。
 ラウンジは昼間眺めた時と様子は変わらぬ。机と、高そうなソファが程よく並んでいた。殺し合いが始まった結果、随分と弾き跳ばされ、斬り跳ばされて、その名残は偏っていた。
 ――だが、お陰で紺は影に身を潜めた儘、じっと機を窺えた。
 いくつかの殺し合いが此処で始まり、終わろうとしていた――欲を言えば、もう少し負傷してくれていた方が良かったのだが――。
 どうせ遊戯だ。
(「暗殺、影討ち、騙し討ち。ひとりでも殺めることが出来れば上々」)
 他の人物の気配が無いか、耳を澄ます――此処に一人だけ残る瞬間は、今だけだ――色の違う双眸が、鋭く狙いへ定めた。

「さて、派手なのがご希望だったよネ――」
 コノハが仕上げにかかる寸前、突如と舞い上がった煙幕がすべて覆い隠す。
 これは晴夜を庇うためのものではあるまい――反撃の好機だというのに、ニッキーくんも動きをとれず、ぐったりとした儘だ。
 だから彼は振り上げた刃を一度退いて、身構えた。下手に動けば思うツボ、襲撃は近くで起こるだろう。もうもうと立ち上がる煙は、闇に慣れた瞳をも惑わすのだから。
 ――そう、こんなことをしては逆に、攻撃を宣言するようなものだ。だが、それに反応する相手だと知っているからこそ、忍ぶものも相応しい動きをする。
 ふふ、とコノハは改めて笑った。
「オレを殺したいなら殺されながら殺そう――この身を綺麗なイロで染めて、華々しくお願いねぇ」
 彼はそのまま殺されては呉れないらしい。
 その気配に膚がひりつくのを感じつつ、紺は集中を高めた。
 それは、音も無く忍び寄るものであった。――彼の足許から、影が伸びて、獲物の影と繋がる。暗闇と煙幕で完全に隠されているのだから。
 床を蹴る音は、しっとりと受け止める絨毯に拾われ、聞こえない。だが僅かな気配を嗅ぎ取ったか、コノハが振り返ろうと腕を僅かに上げた――が、身動きがとれなかった。
 影が、脚から腰、腕まで伸びて、身体を搦め捕っている。力を限界まで籠めてみるが、ふりほどけそうにも無かった。
 その隙に紺は、彼の鋭い視線に捉えられぬよう、背後へと忍び寄る――先程、もうひとつの武器である雷撃を見ていた。やすやす喰らうわけにはいかぬ。
 素早く手を伸ばせば触れられる距離まで詰めると、紺は躊躇いもなく、握った黒き苦無を彼の背――心臓の位置に、突きたてた。
 二人は暫し、そのままじっと立ち尽くしていた。
「夜の錦。この意味を知っているか――」
 世間話を切り出すように、彼は問い掛けた――偽りの名、錦なる昼の名は、最早不要。
「俺の名は錦夜の紺。忍んで殺めるものだ」
 囁く声は穏やかに――紺が力を籠めて埋まった刃を引き抜けば、思い出したように血が流れ出す。愉快そうにコノハは笑っていたが、言葉を紡ぐ事はできないようだった。
 そんな彼が最後に見たのは、静かに凪いだ紅桔梗と梔子色の瞳――闇を纏う忍びの、冷静な眼差しだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
続・素人さん

これから催物の時間かの!
追いかけっこじゃね、ではせーちゃん
鬼に捕まらぬようにがんばろ……えっ?
刀抜かんでも……
えっ??さつじんき?
遊びでは、ない?

ここで死ぬのはいやじゃと慌てて逃げ
(逃げ切れる気が…ふりでないとしてもできん気もするんじゃけど~!)
追い詰められたら、痛いのはやじゃと訴えて
楽しそうな顔しとるなぁと思いつつ刃を受ける
じょうずに、痛くないように

あとは死んだふり
懐に仕込んだケチャップをどばー
(そいえばせーちゃんはトマト嫌いじゃったな~、ケチャップは平気じゃったが)

傍らの倒れる気配に
わしはもぞもぞ動きたいのを我慢しとるのに
微動だにせんな…と感心


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

さて、お楽しみの始まりか
そうだな、追いかけっこだな、らんらん

にこやかに刀抜き
では俺は鬼になろう
鬼は鬼でも、殺人鬼だがな(微笑み

他の鬼に隙突かれぬよう注意しつつ
逃げる友をまずはゆるりと追いかけよう
らんらんと殺し合うのも楽しそうだが、
こういうのもたまには面白いな
…勿論、演技だぞ?(くすりと

事前に抜かりなく下見も済ませてある
友を追い詰めれば、訴える声に笑み零しつつ
では望み通り、一思いに殺してやろう
飛び散った赤をぺろり
…ケチャップの味がするな

暫くは他の鬼と遊ぶのも楽しそうだと立ち回り
だが後の事を考え、最後は友の傍に倒れよう
俺は箱だからな、動かぬのはお手の物だ(友に微か笑みつつ


グリツィーニエ・オプファー
ああ、始ってしまいましたか…
無論気乗りは致しません、が

暗い廊下を、曲力音を立てぬよう
事前に調べておいた死角に隠れつつ移動
死角に罠を仕掛けるも手に御座いましょうか
…寧ろ私が狩られぬよう用心せねばなりますまい
多少暗くとも暗視で事足りましょうが
敢えて電灯をつけ、他の注意を逸らしましょう
――ハンス、貴方の力をお貸し下さい
暗がりから我が相棒に嗾けて頂いたならば
その隙をつき、ナイフで暗殺を行います
…ああいえ、流石に殺しは致しません
暫しお休み頂くだけに御座います

とは云え私も何れは何者かに斃されましょう
その点は問題御座いません
後はハンスとゆっくり休憩致します
…それ迄に何かしら犯人の情報を得られれば良いのですが



●蕃茄の秘密と、誰かの視線
「さて、お楽しみの始まりか」
 物音に気付いた筧・清史郎が常と変わらぬ微笑で、廊下を眺める。今の所、此処で血が流れた様子はないようだ。
 彼が周囲を探る姿を真似ながら、終夜・嵐吾が半身で清史郎を振り返る。
「これから催物の時間かの! 追いかけっこじゃね、ではせーちゃん」
「そうだな、追いかけっこだな、らんらん」
 ふわふわとした微笑みをお互いに交わし、嵐吾が戯けたような足取りで廊下を駆け出す――同時に、では俺は鬼になろう、囁き乍ら清史郎は突如と鯉口を切った。
「鬼に捕まらぬようにがんばろ……えっ? 刀抜かんでも……」
 言葉だけを聴きつけ、清史郎を軽く振り返った嵐吾は、驚きに眼を瞠った。
 逃げなくていいのか、彼は微笑んだまま尋ねてくる。
 一歩一歩、ゆっくりと詰めながらすらりと蒼き刀身を見せつけるように手首を返した。
「――鬼は鬼でも、殺人鬼だがな」
「えっ?? さつじんき? 遊びでは、ない?」
 再度、嵐吾は茫然と繰り返し、瞬く。
 肯定の笑顔は見惚れるほどに華やかだった――桜散らしながら刀を掲げた清史郎に、我に返った彼は、頭を振って、駆け出す。
「ここで死ぬのはいやじゃ」
 慌てて逃げた友の背を慈愛に満ちた視線で追いかけながら、ゆっくりと清史郎も駆けだした――追いつかぬ程度に、距離を時折間合いまで詰めながら。

 いやはや、こんなわかりきった芝居というのも、面白いといえば面白い。
 嵐吾とて、そう思っていたのだが――なんだか、追ってくる清史郎から、本気で獲物をいたぶるような、そんな気配を感じるのだ。
「ほら、追いついたぞ」
 ひゅ、と風が唸る。
 左右に分かれる曲がり角で迷った瞬間、清史郎が刀を振り下ろしたのだ。
 それを咄嗟に躱すと「流石らんらん」と褒めてくれるが、その凄く良い笑顔は演技とか演出とか全く関係ない、楽しいという感情が裏打ちした表情ではないのか。
 気のせいじゃろか。ひやりと額を伝った汗は、本物になりつつある。
(「逃げ切れる気が……ふりでないとしてもできん気もするんじゃけど~!」)
 待ってくれる間に身体を返して走り出す。こっちに逃げればよかったのだったか――清史郎の意の儘、逃がされ追い詰められる――というのは、元々の計画通りなのだから。
 ばたばたと逃げる背の内心を知ってか知らずか、清史郎は涼しげな笑みを口元に湛える。
(「らんらんと殺し合うのも楽しそうだが、」)
「こういうのもたまには面白いな」
 思わず口にする。ああ、勿論、演技だぞ。誰にでも無く言い訳しつつ、微笑んだまま鬼は駆ける。
 二人の鬼ごっこは暫く続いたが、巧妙に追い立てられた――逃げ場がない、と追い込まれた壁をどんどんと叩いたが、壊れる気配も無い。
「さて、鬼ごっこもお終いだ」
 追い詰めた獲物へゆっくりと近づいてくる剣士は抜き身の刀を返した。
 この廊下は外のラムプの光が入って来ており、青白い輝きに照らされている――妙に絵になるとも、演出過剰とも思える。
 諦めて壁を背に、震えながら嵐吾は訴える。
「……痛いのはやじゃ」
 ――我ながら、なんとベタな演技。笑いで巧く声が震えた。少し笑ってしまったのは、清史郎と確り目が合ってしまったからだ。
(「楽しそうな顔しとるなぁ」)
 殺人鬼は刀を上段に掲げると、にっこりと微笑んだ。
「では望み通り、一思いに殺してやろう」

 振り下ろされる刀身を、嵐吾はきっちり見届ける。
 彼の肩口を滑って袈裟斬りに、美しい斬撃が弧を描く。否や、夥しい朱が噴きだし、清史郎の半身を汚した。
 赤い血が舞い散る中で、崩れ落ちていく嵐吾の姿を、慈悲深い表情で清史郎は見つめていた。
 床に倒れた彼の傍に膝を着き、生死を確かめる振りをしつつ――頬についた血を指で拭って舐める。
(「……ケチャップの味がするな」)
 なるほど、と彼は派手な血の理由を知る。
 ――そいえばせーちゃんはトマト嫌いじゃったな~、ケチャップは平気じゃったが。
 ぴくりともしない嵐吾に、彼は囁く。
「では、他の鬼と遊んでくるな」
 その瞬間、ばさりと羽ばたきの音が背後で響き――彼は咄嗟に振り返った。
 黒い鳥の姿とちらりと見えた細い光を素早く見極めると、刀を握り直す。
 膝を折り座った姿の儘、居合いのような姿勢で構える――仕掛けては来ないらしい。
「ならば、俺から行くぞ」
 宣言する声音は余裕を含んで、柔らかい。
 軽やかに地を蹴り一足で距離を詰める――光が差した、その位置まで。無論、敢えて誘導されているということは彼も考えた。
 だからこそ、即座、それ以上の時間を与えぬように動く。
 翼を広げた鴉が天井高くで転回して滑空してくる――それも読んでいたとばかり、清史郎が手首を返して、柄を向ける。
 鴉は厭わず、彼の目を狙うよう飛来する。柄でそれを躱しながら、前へと駆ける。
 床に、点灯したままの懐中電灯が転がっていた――はっと目を瞠った彼の横から、影が素早く距離を詰めてきた。
「御覚悟を」
 静かな声音に、ああ、と清史郎は小さく笑って応じる。喉元にひやりと冷たい感触が押しつけられていた。山羊角の男は、何処か申し訳なさそうに、瞳を半ばまで伏せていた。
「……ああいえ、流石に殺しは致しません――暫しお休み頂くだけに御座います」
 背後の鬼はそっと囁くと、小さな刃を閃かせた――。

 壁際まで、じりじりと這いながら戻って来た清史郎は、先に逝った友に詫びる。
「らんらん……すまぬ」
 それは決して、殺めたことへの悔いなどではなく――鬼として勝ち抜けなかったことを詫び、斃れた。
 というような体で。
 出番が終わった、ということをさり気なく嵐吾に伝えたわけだが。
 ――さて、いつまでこうしていなければならぬのか。
 鼻先が痒いのう、とか思いつつ。嵐吾は尾の先を意図的に動かさぬことの難しさを実感していた。
 そーっと、そーっと、薄目を開けたい欲がある。目の前に友がころりと転がって、気配を全く感じないのだけは解る。
(「わしはもぞもぞ動きたいのを我慢しとるのに……微動だにせんな」)
 以心伝心。会話を交わせぬのが何となく察した気配に頷いてみる。
(「俺は箱だからな、動かぬのはお手の物だ」)
 ――まあ、こうして転がっていると、眠くなるのが難点と言えば難点だった。


「ああ、始ってしまいましたか……無論気乗りは致しません、が」
 暗い廊下をグリツィーニエ・オプファーは音を立てぬよう進む。予め、死角となりそうな地点を見立てておいた場所を渡って、極めて慎重に行く。
 ただし、この死角というのは、彼だけのものではない。猟兵や――影朧が、何か仕掛けをしている可能性があった。
 実際、いくつか細工の後があった。使われたかどうかは解らぬが、此処に潜むことは危険であろう。少なくとも誰かが目を付けた場所なのだから。
(「……私が狩られぬよう用心せねばなりますまい」)
 別の物陰へと身を潜めながら、手にした懐中電灯を眺める。そんな彼の前を、疾駆していくふたつの影があった。
 片方はただ逃げており、片方は刀を手にしている。
 関係性は明らかだ――。
 どちらからも気付かれなかったようで、無防備な背中を見せており、追いかけることも容易そうだ。確か下見をした限り、あの先は行き止まりだ。
(「ただ、少し明るいのが問題といえましょうか――」)
 さて、どういたしましょう、グリツィーニエは思案する。
 肩からひょいと顔を覗かせた鴉――ハンスとを目配せし合う。そうでございますね、憂いの印象が強い瞳に、ほんの少し柔らかな光を灯し。
 仕留めるにせよ、仕留められるにせよ、台本通り。流れに従おうと、身を起こす。
 気をつけねばならぬのは、この瞬間。彼らのように自分も誰かに捕捉されているかもしれぬ――実際、先程から捉えきれぬ嫌な感覚が纏わり付いている。
「――ハンス、貴方の力をお貸し下さい」

 ――万事、巧くいった。
 清史郎を下したグリツィーニエは、懐中電灯を拾い上げて、ハンスを労う。
「さて、次は何処を目指すといたしましょうか……」
 ひとまず、また暗いところに戻りたい――館中に敷かれた絨毯に感謝する。毛足が長いそれは足音を吸い、気配を消してくれるばかりでなく、質の良さを示すようにすぐに立ち上がって、足跡も消してくれる。
 極めて慎重に、階段の近くまで辿り着く。階下の騒動を考えるならば、下を目指す方が良いだろう――そんなことを考えた時、ハンスが警告するように、翼を羽ばたかせた。
「……っ」
 だが間に合わなかった――振り返り様、ひゅ、と刃渡りの短い獲物が頬を掠めた。手にしたナイフは拍子に取りこぼしてしまった。だが、こんなものかもしれぬ。
 グリツィーニエは静かに双眸を閉ざして、その瞬間を待った。
 フードを深く被った誰かが何かをぶつぶつ零しながら、再度斬り込んでくる。
「うううこれはオブリビオンこれはオブリビオン……」
 ごめん、男は小さな声で謝って、グリツィーニエを深々貫いた。
 ええ、お気になさらず――後は、ハンスとゆっくり休憩致しますので。
 いらえは伝えることは出来なかったが、穏やかな表情で彼は倒れ込む。東雲色の瞳と一瞬だけ目があった。
 ああ、あの視線が外れた気がする――あれこそ、真犯人のものだったに違いない――ただ、そう自覚したところで、追いかけることはもうできないのは残念だ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
セロお兄さん(f06061)と
俺は殺されるのはごめんだけれども…
そういう約束ならしょうがない
せめてお兄さんだけは殺しておこう

と、いうわけで
俺と言えば銃なわけなのですが
それは相手も分かっているだろうなので、罠を張っておく
具体的に言うと、自分の銃を自動で発射できるようにしておいて
通りそうな場所で設置
自分は別方向に潜んで、あとは待つ
それで倒せるならよし
倒せなければ銃のほうに気を取られた隙に接近してダガーで暗殺したい

…問題は、相手も殺しに来るってことなんだよなあ
手が読みにくい相手だから、困るんだけれど
逆に気付かない間に接近されるのだけは気をつけて、対処するしかない
まあ、その辺は臨機応変に
※結果はお任せ


セロ・アルコイリス
リュカ(f02586)と

夜になったらすぐに分かれて宴の準備
なんか被った方がいいんですかね
視野が狭まんのはやだけど仕方ねーな
身体のシルエット覆うくらい大きな服を着てフードを目深に被る

問題はおれがヒトを殺れんのかってハナシだ
完全なお芝居でならかわいい弟分を殺ったコトはありますが
……
あれはオブリビオンあれはオブリビオン……

最初は吹っ切るためにもダガーで斬りかかるけど
どうしたって鈍るから
被害者の武器借りてカウンター主体に切り替える
魔法は使わない
うううこれはオブリビオンこれはオブリビオン……

リュカのことだから銃で狙撃でしょうか
物陰にゃ注意します
怪我は厭わない、死に方も人形なのでスプラッタ可

結末お任せ!


ジャック・ジャック
項を焼く隠しきれぬ殺気に
怒気孕み今にも拐わかしそうな彼女を宥め

手伝ってくれるならば一刻先を視てくれと

“彼女”の示す侭
右へ左へ
踊り狂うは俺の番

そんな粗末な手付きで“殺人鬼”気取りか?
二つ名が聞いて呆れる、と息吐き

煙管に仕込んだナイフが一閃膚を裂き
怯む刹那に其の首捕って

“こう”やるんだ、わかったか?

歪に吊り上がる口端と抗えぬ高揚感は
常に押し殺し抑え込んでいるもの

今宵ばかりは解放も許されると耳すれば
疼くのだって、致し方無いだろう――?

逸る鼓動は飼い慣らし
裡に浮かぶは彼の日の事

この手を穢し“彼女”を屠った――
嗚呼、なんたる悲劇か
哀愁に浸る暇すら今は許されないらしい

遠のく意識の先
君が唇に乗せた意は、一体



●殺人鬼と罠
 さあ、夜が更けた――。
「視野が狭まんのはやだけど仕方ねーな」
 そっとひとりごちて、セロ・アルコイリスは身体を覆う程大きい服を纏い、フードですっぽりと顔を隠してしまう。
「問題はおれがヒトを殺れんのかってハナシだ」
 ――これは、切実な問題だ。
(「完全なお芝居でならかわいい弟分を殺ったコトはありますが……あれはオブリビオンあれはオブリビオン……」)
 ふるりと頭を振る。髪とフードが擦れ、かさかさと音を立てる。なるほど、こういう障害もあるのか。そんなことを考えて気を紛らわせながら、セロは闇に潜んだ。
 ――しかし、彼の覚悟を嘲笑うように、面白いくらい、人に出会わなかった。皆何処かの部屋で争っているのだろうか。
 ゆえに、そこへ丁度通りがかったのは奇跡だろうか。或いは、不幸だろうか。
 何処かへと身を潜めようとしている誰かの背を見つけた――無防備ではないが、セロに気付いている様子は無い。今すぐ詰め寄れば、仕留められる。
 そう――相手が獣やオブリビオンなら、その感覚に身を委ね、直ぐにダガーで貫けるのだが。
 だが悩んでいても仕方ない。思いきって床を蹴り、グリツィーニエの背にダガーを押し当てる。
「うううこれはオブリビオンこれはオブリビオン……」
 自分に言い聞かせるように言うセロに、山羊角の男は儚い笑みを向けて送り出してくれた。
 倒れゆく彼の視線が、何かを報せるようにあらぬ方を見た気がするが、追求する余裕をセロは持たなかった。
 はあ、苦しげに息を吐くと乱れたフードを戻した。
(「さて、リュカはどうしてんですかね――」)

(「俺は殺されるのはごめんだけれども……そういう約束ならしょうがない」)
 お約束ですよ、と昼間からセロは言っていた。つまりそういうこと、で済むルールらしい。
 別れる前のやりとりを思い出し、リュカ・エンキアンサスはひとり頷く。どういうことなのか良く解っていない気もする。
 そして――やるからには。もうひとつ決心があった。
「せめてお兄さんだけは殺しておこう」
 これも約束だから。闇に身を任せながら、マフラーで口元を覆う。
 考え事をしながらでも、やる気を出せば、勝手に身体が仕事の準備を整えていく。これが哀しいことか、お得なことか、まだよくわからないけれど。
 淡淡と仕掛けのチェックをしつつ、彼はぽつりと零す。
「……問題は、相手も殺しに来るってことなんだよなあ」
 プランを構築しつつ、嘆息する。信頼する相手だからこそ、知っている「手が読みにくい相手だから、困るんだけれど」という本音。
 でもきっと、それは相手も同じかもしれない。だから、素直を信じよう。
 彼が自分のやり方をちゃんと把握して、仕掛けて来ることを。
 息を殺して獲物を待つのは得意だ――じっと待ち続けると、何人かが素通りしていく。リュカの狙った相手ではないので、彼も見逃す。
 周囲の喧噪がひとたび鎮まった後――ふと、気配も匂いもしない誰かが、目の前にやってきた。
(「――来た」)

 猫のように足音を立てず――といっても、元々この館の床は良い絨毯が敷かれていて、音を立てようと思わない限り、足音は吸われてしまう。
 闇の中、セロはふと違和感に脚を止めた。
 ――あの花瓶と台、あんなところにありましたっけ。
 考えた瞬間、その花の中から火花が爆ぜた。銃火だ、思った瞬間、セロは横へと跳んだ。
 近づく事を許さぬ掃射の流れを転がりながら寸で躱しながら、花瓶の影へと駆ける。
「そー来ると思ってましたよっ」
 セロは邪魔なフードを脱ぎ捨て、地を蹴る。切り返し、銃撃のあった場所へとダガーを振るう。布で覆われた、台座の下を乱暴に曝く。
「――あ?」
 リュカが銃で狙撃してくるだろうことは解っていた。
 ゆえに物陰に潜んでいるだろうことも――だが、台座の元に、少年の姿はなかった。ただ銃がオートで引き金を引くように設置されているだけ――。
 見間違えるはずもない、とても『精巧な』リュカの銃。
 それを認めた瞬間、風を斬る刃の音がした。
「そっか、お兄さん。魔法は使わなかったんだね」
 淡淡とした声音は憎らしいほど、いつもと変わらない――。
 振り返ったセロと、リュカの視線が刹那交わる。
 深く、リュカは頷いて――その喉笛を断ち切った。血は出ない。セロは人形だから。頸を落としても、死にはしないのだ。
 くるくると色々な所を見る東雲色の瞳が色をくすませる。
 リュカの青い眼差しは、それを何のこともないように、見つめていたはずだが。

「――そんな粗末な手付きで“殺人鬼”気取りか? 二つ名が聞いて呆れる」
 迫る声に、匂いのある気配に、ああ、とリュカは目を瞑った。
(「俺にも少しだけ、油断があったみたいだよ――お兄さん」)
 でも、これでは終われない。命がある限り、一矢報いてみせよう――引き金にかけた指に最後の力を籠めた。


 ああ、ジャック・ジャックはそっと息を零す。
 山荘中に充満する殺気に呼応するように、項を焼く、より強い殺気。自分をそこへと無理矢理突き動かす“彼女”の嗾しに、静かに笑う。
「落ち着け」
 衝動に突き動かされて、ばたばたと踊っては、みっともないだろう――ジャックは穏やかな声音で彼女を宥める。
「手伝ってくれるならば一刻先を視てくれ」
 くすくすと鈴を転がしたような笑い声が耳元で答えてくれる。
 後は、君が行きたいように。ジャックの囁きに、彼女は当然よと答え、その背を押す。美しい彼女が細い腕を搦めて――昼間の逢瀬の続きとばかり。機嫌の良い彼女と踊るように。
 こんなに楽しいひとときがあって良いのだろうか。
 夜に忍んで獲物を探す

 彼女に導かれるまでもなく、銃声が彼らの存在をジャックに報せてくれた。
 フードを棄てた白髪の男が花瓶の元へと駆ってダガーを突きつける。その背後から、壁を突き破るようにして少年は跳びだした。
 勝敗は決した――少年は躊躇うことなく、男の頸を刈りとった。
 ジャックは自然と、その輪に加わっていた――ゆるりと走らせた刃物を、少年は身を翻して受け止めた。
 隙のない青い眼差しと、ジャックの灰色の眼差しがぶつかり合う。
 リュカは思い切りよく跳びかかってきた。リーチのハンデを埋めるにはそれしかない――命を獲ることに躊躇が無い動きだと、ジャックには良く解る。
『わたしの、あなた』
 それでも彼には彼だけの“輝きの御身”がついていた。次の攻撃を読んで教えてくれるその存在のお陰で、ぎりぎりまで引きつけながら、躱すことができる。
 懐まで誘き寄せられた事実に、少年は軽く眉を動かしたが、それだけだった。直ぐに、次の手を打とうとする――何処までも冷静だ。
 だから、ジャックも束の間の舞踏に、付き合うことにした。くるりくるりと躍り響き合う刃と刃を合わせ乍ら、微笑を向ける。
 そろそろいいか――彼女が教えてくれる軌道通り、半身を傾け、すれ違い様に刃を掠める。こんな程度――とリュカが怯まず身を捩り、追撃を重ねる。
「そんな粗末な手付きで“殺人鬼”気取りか? 二つ名が聞いて呆れる」
 ふっと息を吐くと同時、ジャックの手元――煙管に仕込んだナイフが、閃く。
「“こう”やるんだ、わかったか?」
 マフラーが緩く解けた首筋へと、すっと滑らせる。そうなるのが必然というような動き――手応えに、彼は満足げに目を細めた。リュカの身体が崩れ落ちて、止めにもう一撃、その背に落とす。
 無意識に――唇の端が、歪に吊り上がる。昂揚は隠しきれず、彼女が傍らで頬を膨らませる。さっきは己を諫めたくせに。
 だが刹那に澄ました貌をみせ、彼女はそれでいいと頷く。
「今宵ばかりは解放も許されると耳すれば、疼くのだって、致し方無いだろう――?」
 すべてを肯定してくれるだろう、煌めきの御身よ。
 幸せな心地をもって、ジャックは傍らのひとをみた。
 だが。だというのに――ふと、うつくしく笑いかけてくれる貌に、違和感を憶えた。
 ――ズドン。
 重い一撃が胸に穴を穿った。リュカの最後の反撃――精巧に作られた全自動射撃の銃が、ジャックに応報する。
 血と共に吐息を零しながらも、彼は微笑を刻んだ。先にある危険を見ることができなかったのは、仕留めたと思って気を緩めたからか。
 或いは――。
「この手を穢し“彼女”を屠った――嗚呼、なんたる悲劇か……哀愁に浸る暇すら今は許されないらしい」
 霞む視界の中、彼女が、何かを囁く。
(「君が唇に乗せた意は、一体――」)
 考えながら、瞼が落ちる。三人の亡骸を残し、廊下は再び静寂に包まれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
白鴎さん(f22765)と

ああ、こんな場所にも桜の花弁が
夜ともなれば薄紅色は深く濃く変わる
血を花と咲かせよっか

既に紅く濡れた抜き身の刀を手にしたまま
回廊の窓枠に膝立てて座り、人の気配に大きく息を吐く
何だ、あんたか……
白鴎の口上は静かに耳を傾けてから

桜の下には死体が眠るとか言うけれど
しかしまぁ、桜の精が死体を作るとは思わなかった
肩すくめ、次の瞬間接近し切っ先突き入れ

そうだね、無抵抗な猫の首をへし折る感覚に似ている
相手が倒れたのだけ見て場を去り…かけた時
音に振り返るも既に遅し。桜吹雪が身を凍らせる
――成る程、道連れって訳
じゃあ俺からも餞、差し上げるよ
花には蝶が付き物だろう?(炎の蝶飛ばし事切れる)


月白・白鴎
紅紀(f24482)様と

随分と静かな夜にございますね。
皆々心をひた隠すよう。

血の匂いに誘われるまま行きましょう
拙の鳥も存分に戯れ貪りましょう
啄む様子を見せなさい?

ーーあぁセンセ。

回廊で見つけた紅紀様に微笑んで
ふふ、まさに良き夜にございましょう?

拙は美しいものがみたいのです
ーー美しい、甘美な終わりを

貴方様の、終わりも

突き刺さった刃に鳥は間に合わず
桜を手折る心は、いかほどにございますか?

立ち去る背に、ふと笑って
冷たいお方だ。
笛の音で桜吹雪と共に凍り付かせましょう

ーーえぇ、拙を置いて行こうとしたのですから

うっそりと笑って、凍り付く姿を見送る前に
炎の蝶に舞えば、つれない方と笑いながら崩れ落ちる



●幕間~二人静
 ひとり、ひたひたと廊下を歩く。足運びは凪。
 どんな舞台も慣れたもの、ひやりと首元を冷やすような殺気の中でさえ、彼は悠然と微笑んだ。
「随分と静かな夜にございますね。皆々心をひた隠すよう」
 薄桜色のヴェールの下、月白・白鴎は唱う。窓が映す風景はただひたすらの闇。そこに、はらはらと何かが舞っている。これは何かと不審に思うまでもない――桜だ。
「拙の鳥も存分に戯れ貪りましょう……」
 何処からか招かれた金の首輪を付けた黒き魔鳥が、大きな翼を広げて彼の腕に停まる。
 無論、ただの鳥にあらず――良い子、と嘯きながら、それを一瞥すると「啄む様子を見せなさい?」と戯れる。
 ――そんな彼と、彼が出会うのは必然であっただろう。
 回廊の突き当たり、貌を上げればそのシルエットは闇に浮き上がる。
 赤い外套が風にひらりと揺れる。紅く濡れた抜き身の刀を手に、窓枠に座った天瀬・紅紀が掌を差し出せば、その上にひらりと一片の花弁が舞い落ちた。
「ああ、こんな場所にも桜の花弁が」
 状況も知らぬようにひとり夜桜を楽しむように。色の薄い貌に微笑を浮かべるが、紅き双眸は冴え冴えと冷めていた。
「夜ともなれば薄紅色は深く濃く変わる――血を花と咲かせよっか」
 ひとり嘯き――近寄る気配へ、そちらへ一瞥くれることなく、大きく息を吐いた。
 白鴎は距離を空けたまま、紅紀へと小首を傾げて見せた。
「――あぁセンセ」
「何だ、あんたか……」
 素っ気ない声音に、白鴎はくすりと笑う。
「ふふ、まさに良き夜にございましょう?」
 声音は魔が誘うもののように心地好く響く。背後の闇に吸い込まれていくようだ。
 白鴎は紅紀の横顔をひたと見つめた儘、続ける。
「拙は美しいものがみたいのです――美しい、甘美な終わりを」
 貴方様の、終わりも。
 躊躇いなく、その唇はするりとそんな言葉を紡いで聴かせる。扇をひらりと返した彼は、舞踊の一節のように指先まで美しく手招いた。
 片や紅紀も――虚空へ視線を向けた儘、口の端を軽く持ち上げ、肩を竦めた。
「桜の下には死体が眠るとか言うけれど――しかしまぁ、桜の精が死体を作るとは思わなかった」
 ――刹那の、沈黙。
 玲瓏と震えたのは、玉鋼のしなる音。
 彼がいつ窓を離れたのか。地を蹴り、距離を詰めたのか。全ては瞬きの間のこと。
 戦くように黒き魔鳥が羽ばたいて、はらりと桜が落ちた。
 紅紀の白い髪がはらりとその背に追いつく頃には、白鴎の胸を深々と彼の刀が貫いていた。
「桜を手折る心は、いかほどにございますか?」
「そうだね、無抵抗な猫の首をへし折る感覚に似ている」
 とるにたらぬ。
 取り付く島も無い冷たい言葉に、ああ、白鴎は紗の下で微かに吐息を零す。青ざめた貌はそれでも儚い笑みを作って、紅紀を見つめる。
 彼のこころなど、どうでもいいとばかり――紅紀は無造作に白鴎の身体を押して、刀を抜く。繊細な外見に似合わぬ、雑な処理だ。
 さすれば柔らかな絨毯の上に、ゆっくりと白鴎は崩れ落ちた。それでお終い――紅紀は軽く手首を返して血を払うと、彼に背を向け歩き出す。
 だが、膝をついて堪えた白鴎は震える指で、衣の裡より、何かを掴んだ。
「冷たいお方だ」
 囁く言葉は届くまい。血の気を失った唇に、篠笛寄せて、弱々しくも切ない旋律を奏でる。
 その違和に、紅紀が気付いたところで――今更振り返ったところで、もう遅い。
 隠り世の桜吹雪は彼の身を包むように、はらはらと。濡羽の魔鳥が凍気と風を吹きつける。残る命を使うのだから、あっという間に凍らせてくれなければ。
 主の我が儘を、悪魔は受け入れ、紅の殺人鬼を見る間に凍らせていく。
「――成る程、道連れって訳……」
 問い掛けるとき、かちりと歯が鳴った。
 体力も一気に削られ――元々、虚弱な質なのだ。紅紀は完全に失敗したと、自虐的な笑みで白鴎を見た。
「――えぇ、拙を置いて行こうとしたのですから」
 ああ、なんて情念だ。
 凄絶な微笑みを浮かべた白鴎と同じように、紅紀も膝をつき乍ら――片手を彼へと伸ばした。
 それは決して、彼を望む、――という意味では無い。
「……じゃあ俺からも餞、差し上げるよ――花には蝶が付き物だろう?」
 一羽の蝶が、掌から解き放たれる。
 闇に鮮やかな、紅の蝶――炎の輝きが、ふわりと漂い――然しそんなものさえ、捕らえるだけの力を、白鴎も残していなかった。
 つれない方、彼はうっそりとそう零すと、今度こそ力尽き崩れ落ちた。
 紅紀が意識を失うより、先であったか、後であったか――。
 舞う蝶だけが優美に火の粉を軌跡と残し、窓の外へと旅立てば――回廊に残されるは、薄紅と真紅の亡骸がふたつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
この世で最もうつくしい花はなんぞやと
凡ゆる花を見てきたが
遂に僕だけの答えを見つけちまったんだ
大きな声じゃ言えないよ
誰にも言いたくない、勿体ない
死際にだけ逢える花のことなど

僕がそれを知ってるなんてのは秘密
だから花畑にうってつけの庭園に
襤褸で躑躅を隠してやって来た
花咲く場所に他の色はいらないとも思うわけ

一輪で咲き誇るのも
二輪が重なり合う様も
花束のように入り乱れるのも
なんだっていいよ、見られれば
死ぬのはこわいかい?少なくとも僕は死にゆく君を愛しているよ
何もおそれることはない

僕はこの場に適した殺し方を知っている
僕の死に方は君が知ってるんだろう?さあ、
みごとに凄惨であれと
血の花を、死の花を咲かせるのさ!



●花よ
 玄関の暗がりに、壁に身を寄せた男がひとり。
 よれた帽子、くすんだ着物の男はぶつぶつと何かへと語りかけている。
「この世で最もうつくしい花はなんぞやと、凡ゆる花を見てきたが――遂に僕だけの答えを見つけちまったんだ」
 区切られた世界で、浅く顔を上げたロカジ・ミナイの目がぎらりと輝く。
(「誰にも言いたくない、勿体ない――死際にだけ逢える花のことなど!」)
 秘密にせねばならぬ。誰にも知らせてなるものか。
 だから代わりに怪しげな微笑みを口元に浮かべて、影から幽鬼のようにあちこちを彷徨い歩いた。何処で、何が咲いたら美しいか。想像するだけで笑みがこぼれる。
 そんな花々が咲き乱れる――『花畑にうってつけの庭園』があると聴いてしまった。
 花咲く場所に他の色はいらない。だから彼はわざわざ襤褸を纏ってやってきたのだ。
 だというのに。
 ――既に骸が多く重なり合うラウンジに、ロカジは失望した。
 どれもこれも、もう花の盛りを過ぎている――端から此処に潜んでいれば、いくつの花々を見ることができたのだろう。
 ひい、ふう、みぃ――だが、今は数えている場合ではない。何故ならば、今まさに一輪、花開こうとしている。
 煙幕に紛れて、ひとつの決着を迎える、ふたつの影。
「俺の名は錦夜の紺。忍んで殺めるものだ」
 冷徹な名告りと同時、崩れ落ちたひとりの男。鮮やかに咲いた七色の花を前に、ロカジは無意識に微笑んでいた。
 だから、仕掛けた。もう一輪、重ねて観たい。きっと彼は、桔梗のように慎み深い花を咲かせてくれるはずだ――。

 一息ついた紺は急に迫る殺気へ、即座に反応した。
 握ったままの苦無を構え直すがロカジは見惚れるほどに美しい妖刀を振り上げていた。
 影で搦め捕る時間は無い――刀身に何とか合わせて、弾く。
「おや、右足に怪我をしているね。小さな小さな疵だけど、足許には気をつけたほうがいいよ」
 彼の指摘に、紺は驚く。だが、そうして相手の様子を窺うことで、ロカジの次の剣戟はより鋭くなる。
 深く息を吐いて、紺は後ろへ跳ぶ。だがすぐさまロカジは強か刀を振り下ろして、その動きを阻害する。
 素人めいた大振りな所作でありながら、何者も畏れぬ――そんな大胆な踏み込みに、紺はいよいよ、追い詰められた。
 鼻歌交じり、此処にあらぬ何かへと恍惚とした眼差しを向け――そう、誰にでも無く、ロカジは語りかける。
「一輪で咲き誇るのも、二輪が重なり合う様も――花束のように入り乱れるのも。なんだっていいよ、見られれば」
 花は、喋らぬものだ。
 可憐に咲いて、物言わず、じぃっとしているものだ。
 だから独り言で好い。いらえなど不要の長物。
 相手の返事など要らぬとばかり、独特の呼吸で刻み込む。
 紺は自らも応戦したが、苦無は弾かれ、無手になる。否、徒手でも戦える――彼は鮮やかな身体捌きを見せて、反撃の機会を狙ったが――不意に、何かに脚を掴まれた。
 驚く間もなく、目の前にロカジが迫る。
「死ぬのはこわいかい? 少なくとも僕は死にゆく君を愛しているよ――何もおそれることはない」
 宥めるように、慰めるように。彼は気の良い笑みを見せながら、正面から鮮やかな一刀を振るった。

 ひい、ふう、みい――なな。
 五指が一度全部返って、ふたつ戻った。観ることが叶ったのは、ふたつだけ。なんて勿体ない。
 それでももしかすれば、何か別の花も――、一縷の望みを持ってロカジは周囲を探る。
「あれれ、おかしいな」
 一歩進んだだけで、違和感に気付き――だが、なんだろうと首を捻った。
 視界の端で、赤い光が瞬いた――と認めた瞬間、ひゅっと何かが閃いた。脚に、腕に、喉に――圧縮されたような刃の華が咲く。
 はは、彼は笑った――吁、なんて綺麗なんだろう。
「僕の死に方は君が知ってるんだろう? さあ、――血の花を、死の花を咲かせるのさ!」
 満足そうに、ロカジは血を撒き散らしながら刀を振り上げ、踏みとどまる。
 だが再び刃が閃くと、堪らず崩れ落ちた。その表情は、恍惚とした儘――そりゃあ当然だ、最期の最期に、とても美しい花を見ることができたのだから。

 死体は六つ。今まさに咲き誇る花がひとつ増えて、七つ。
 ――よしよし、帳尻は、合ったじゃないか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
嗚呼。ついにやって来た
待ちに待ったこの舞台
彼らは一体どんな風に動いてくれるのだろう

筆と言う名の得物を片手に私は綴る
彼らの最期を、死に様を
どのように苦しみ、どのように散り、どのように対立するのか

読者はそれを待っているのだ
刺激的な物語を、迷宮入りするような物語を
時に、その刃が私に向く事もあるだろう
それもまた余興としてこの筆で受け入れよう

この物語は世に広めなければならないのだ
だから私もこの惨劇に馴染んで、演じ続けよう
時には館の柱を切り刻み、倒して
時には死んだふりをして隙を突き

筆者の死に様は、誰が描いてくれるのだろうね
嗚呼。君かな?
それとも君かな?

派手に殺してくれよ
でないと場が盛り上がらない


花筏・十織
【魔に魅入られた青年】
僕は此処から出られない
僕は此処に留まり続ける
そういう『契約』なのですよ
この土地に集まるヒトの魂と引き換えに、異界の知識と永遠の命を

長く続く宿の割に、使用人がよく入れ替わること
訪問客が時折消えること
此処を調べた方なら気づくはず
「気づかなかった、貴方が今宵の贄となりましょう」

古く小さな旅籠が、何故ここまで繁栄したのか
名高き彼らが何故、この宿を訪れるようになったのか
皆、僕の知識を求めてきたのです
三文小説の話の種から、果ては国事の方向性まで
もう何百年……ひとは、愚かな生き物ですね

「存分に、喰らえ」
※召喚した悪魔を影に忍ばせ、無音で引きずり込み殺す
※悪魔に裏切られ窓から谷底に墜落



●終演
「嗚呼。ついにやって来た」
 静かに笑って、榎本・英は顔を上げる。だが、彼の眼差しに狂気は一片も見られぬ。
 ただあるとすれば興味。観察者として、観測者として、筆者として――。
「――彼らは一体どんな風に動いてくれるのだろう」
 如何なる出来事が目の前で起ころうとも、筆を棄てぬ。物語を紡ごうという意志。
 そのために命を摘み取ることになろうと――摘み取られようと仕方なし、と彼は肯定する。
「読者はそれを待っているのだ――刺激的な物語を、迷宮入りするような物語を」
 彼らは求めている。
 ならば、筆者が伝えず誰が伝えるのだ。
「この物語は世に広めなければならないのだ。だから私もこの惨劇に馴染んで、演じ続けよう」
 ――そして、それを一番に伝えられる場所は何処だろうか。

 ――答えは勿論、物語の中心地点だ。
 死屍累々たるラウンジの中央、屍に加わったロカジの身体と入れ替わり、ひとつの死体が、むくりと身を起こした。
 そう、彼こそ――憐れなる犠牲者の脚を掴み、狂気の殺人鬼を死の淵へと送り込んだ張本人であった。
「特等席で見せて貰ったとも……どのように苦しみ、どのように散り、どのように対立するのか」
 死体のふりをしていた英は、身を起こすと――微塵も感情を表情に載せず、ただ物語を綴るだけ。
 ふ、と微かに息を吐くと、英は徐に振り替える。
「筆者の死に様は、誰が描いてくれるのだろうね――嗚呼。君かな?」
 背後には、幽玄なる青年が立っていた――彼が一体、いつから其処に居たのか――人の事は言えないが、良く解らない。
「……君のような人と出会ったのも、何度目の事でしょうか」
 哀しそうとも、可笑しそうとも――どちらとも解釈できる寂しげな微笑と共に、花筏・十織が告げる。
「僕は此処から出られない――僕は此処に留まり続ける……そういう『契約』なのですよ」
 秘密を打ち明けるように、否、儘に。十織は人差し指を唇に寄せた。
「この土地に集まるヒトの魂と引き換えに、異界の知識と永遠の命を」
「なるほど……つまり、それがこの山荘の物語――ということかな」
 英のいらえに、その通り、と満足そうに十織は頷く。
「長く続く宿の割に、使用人がよく入れ替わること。訪問客が時折消えること――此処を調べた方なら気づくはず」
 別段、招かれざる客が混ざったわけではない。
 常に、常に、内側にそれを飼っていただけ。
「気づかなかった、貴方が今宵の贄となりましょう」
 十織の背後で、炎が揺らめく。
 何処から出火したのであろうか――気配はあれど、不思議と何かが燃焼するような、嫌な匂いはせず。炎はただ、十織の桜を燃やすように輝かせた。
「古く小さな旅籠が、何故ここまで繁栄したのか――名高き彼らが何故、この宿を訪れるようになったのか」
 薄紅の双眸を伏せた儘――暗い部屋の中、皓皓たる月が如き青年は、秘密を諳んじてみせる。
「皆、僕の知識を求めてきたのです。三文小説の話の種から、国事の方向性まで――何百年経っても……ひとは、愚かな生き物ですね」
 冷たく笑って、ひらりと手を振ってみせる。
 君も、そのひとりなのだと告げるように。
「……ふむ――然し、是では怪談の気が強い。できれば、もっとエゴイスチックな黒幕が良い気のだろうが」
 筆を手に英も微笑する。何を巡り巡って殺し合うのか。叡智でも富でも同じ事。
 ただ望むべくは――。
「派手に殺してくれよ。でないと場が盛り上がらない」
 全ては素晴らしい幕引きにするために――そして、英は物語を残すため、筆を手に青年へと躍りかかった。彼の狂瀾の色を宿し、瞳は赤く輝いている――。
 ええ、受け入れるように十織は華やかに微笑んだ。その刃が喉元に届こうかという瞬間。
「存分に、喰らえ」
 彼の影から、何かが腕を伸ばし――英を引き摺り込んだ。
 まさに刹那――、文豪は消え失せ、今度こそラウンジで生きたものは――否、この山荘の中で生き残ったのは彼だけとなる。
「また、生き延びて了った……」
 残された十織は、小さな吐息を零すと――目が眩んだように、ふらりと蹌踉めき、窓辺に凭れ掛かる。
 悪魔の力は、彼に様々な誓約を与える。贄を捧げようが、貪欲に飢えている。
 目の前が真っ白になるような感覚は珍しいことではないが――今回は、妙に強烈だった。
 身体を支えきれず思わず触れた窓が、割れた。
 自分の掌に重なる、影の意志に十織は軽く目を瞠った――驚く間もなく、十織の身体が外へと押し出されるように傾いた。
「――何故」
 十織は悪魔に向けて、柳眉を寄せた。その手が、他ならぬ主の首を容赦なく鷲掴み、奈落へと突き落とそうとしている。
 贄は与えた。そう紡ごうとする彼の言葉を、不要と握りつぶすように悪魔は腕の力を強め、ぶらり、窓の外へと彼の躰を差し出した。
 ――悪魔の背後に――揺れる影をしかと捉えながら、彼は窓から落ちていく。

 窓から闇を覗き込む影は、いつまでも其処に立っていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】絡みも歓迎&結末一任
耽美――はたまた軽妙に

嗚呼、遂に夜が訪れた――否、漸くこの刻がやってきた
ふふ、ふふふ
昼の顔こそ道化の仮面
この仮面をおろした今こそが、本当の素顔
あっはは――殺人鬼の血が騒いでならない
(闇色の不吉なローブと烏面纏い、独り強がって演技してみるも、凄く虚しい気がするのは気のせい
微妙に声が震えてるのもきっと略
俺だけある意味若干素が混じってるのも略)

奴らめ、今に見てろ
あのツラが歪む瞬間が愉し――

――あっコンバンハ
やだな~、お二人揃ってまた妙な言い回ししちゃって!
お望みなら最期に一花咲かせてあげましょ――その身でもって
文字通りの出血大サァビスをドーゾ?
俺に構わず仲良く逝けばいい!


佳月・清宵
【花守】絡みも歓迎&結末一任
耽美に軽妙に

あぁ、もう我慢も加減も要らねぇとも
そして互いに遠慮も無用
さぞや良い見物になるだろう
此処からはただ獣と化すのみ――狩るも狩られるも喰らい合うも、血を求む本性と本能の赴く儘に
歪に嗤う狐面を下ろすも、最早ぎらつく鬼の衝動は隠す気もなく――まっしぐらに獲物の元へ

あんな美味そうな餌を前に、ここまで良い子で待ってたんだ
横取りなんぞされちゃ敵わねぇ
そしてあれを味わわずして食い物に成り下がるつもりもねぇってな

――よう、良い夜だな
昼に散々下拵えした甲斐があった
おい、今更隠すなよ――寧ろ余計暴いて玩びたくなんだろ?
花を添えて欲しけりゃ、お前ももっと愉しませてくれよ、魔性!


花川・小町
【花守】絡みも歓迎&結末一任
耽美に軽妙に戯れましょう

ふふ、いよいよお愉しみの時間ね
ええ、恨みっこなしよ――それにどちらが落としてもきっと、可愛くて可愛くて堪らない光景になるわ
嬉々とした笑みを壮絶な般若の面で覆い隠し、今はまだ真白い着物に身を包み――向かうは勿論憐れな“子羊”ちゃんの元

道中何かあっても見かけても気にも留めず、軽やかに弾む足取りで
寄り道してる間にメインディッシュがとられては悲しいものね

――あぁ、見つけたわ
どうして逃げるの?ねぇ、お顔を見せて?
仮面で隠したって無駄よ、ふふ
さぁ、貴方の色でこの白無垢を飾って頂戴
綺麗な花を咲かせて魅せて?
勿論、貴方の色も頂くわ――私強欲なのよ、旦那様!



●開宴
「ふふ、いよいよお愉しみの時間ね」
 妖美なる微笑みを口元に、花川・小町が蠱惑的な眼差しで対峙する男を見つめた。
「あぁ、もう我慢も加減も要らねぇとも――そして互いに遠慮も無用」
 泰然と大きく頷くは、佳月・清宵はよく似た金の瞳を鋭く細めて、にやりと笑う。
「ええ、恨みっこなしよ――それにどちらが落としてもきっと、可愛くて可愛くて堪らない光景になるわ」
 真白い着物を纏った小町はそう言って、無邪気に似た笑みを壮絶な般若で覆い隠す。
 応よ――首肯した清宵も同じく、歪に嗤う狐面で貌を隠す。だが、ぎらつく鬼の衝動を隠すつもりはないようだった。
「此処からはただ獣と化すのみ――狩るも狩られるも喰らい合うも、血を求む本性と本能の赴く儘に」
 二人の目的は一致していた――さあ、憐れな“子羊”ちゃんへと、まっしぐらに。
 部屋を出れば、夕方までの清涼な空気が嘘のように、殺気が渦巻き、館の内部に澱んだ空気を招いている。
 何かが変わった――匂いの質が違う――そんなことを一瞬考えかけて、はっ、と清宵は笑い飛ばす。
「あんな美味そうな餌を前に、ここまで良い子で待ってたんだ。横取りなんぞされちゃ敵わねぇ」
 途中に転がる罠の気配も無視して、駆け抜けながら、小町も微笑む。互いの表情は仮面の下に、隠れていたけれど。
「寄り道してる間にメインディッシュがとられては悲しいものね」
 ああ、清宵は獰猛さすら滲ませ、答えた。
「そしてあれを味わわずして食い物に成り下がるつもりもねぇってな」

 ぶるり、背筋を震わせ――否、これは武者震いだ。そうに決まっている。男は自分に言い聞かせるように、そっと囁いた。
 夜の帷は落ちて、誰もが眠る刻限。
 開幕を知らせるような轟音が、ラウンジに響く。折角なら素敵なダンスホールが良い――けれど、一番広く、一番派手なのが一階のラウンジだった。
 皆々繚乱と踊るならば、此処が良い。そう知らせるような柱の倒壊は、誰が書いた筋書きであっただろうか。
 そして、部屋の中央で肩を震わせる男は、黒い烏面を手に、闇色のローブを纏い――ラウンジの椅子に深く腰掛けていた。
「嗚呼、遂に夜が訪れた――否、漸くこの刻がやってきた。ふふ、ふふふ」
 怪しげな笑いを零すと、呉羽・伊織は、芝居がかった動作で立ち上がると、ローブを翻す。
「……昼の顔こそ道化の仮面、この仮面をおろした今こそが、本当の素顔――あっはは――殺人鬼の血が騒いでならない」
 ――気取った所作こそ、優雅で様にはなっている。
 だが、どうしても、強がっている気配が消せぬ。というか、声は震えている。
 それこそ、先程の柱は誰が倒したのだろう。まだ来そうな奴らの姿は無い――あの性悪どもの性格を考えるに、堂々と挟み撃ちくらいはしてくるだろうが、気配を消して襲い掛かってくることはないはずだ。
 否、何故、知り合いの顔を思い浮かべて、冷や汗をかかねばならないのか。
 ふるりと嫌な感覚を払拭すべく、頭を振ると、フフフ――と腹の底から的な笑い声を出してみる。
 仮面を身につけると幾分か楽になった。
「奴らめ、今に見てろ。あのツラが歪む瞬間が愉し――」

 ひゅ、と。
 容赦ない斬撃が髪を掠めた。彼の代わりに真っ二つになった椅子を、襲撃者に向けて蹴り飛ばす。
「――よう、良い夜だな。昼に散々下拵えした甲斐があった」
 易々と椅子の残骸を躱した清宵の貌は、仮面で見えぬ――にも関わらず、表情が手に取るように解るのは何故だろう。
 へぇ、と彼は伊織の仮面を眺めて双眸を細める。猫が鼠をいたぶるように。
「おい、今更隠すなよ――寧ろ余計暴いて玩びたくなんだろ?」
 そちらこそ、と揶揄の言葉を投げるより先、
「――あぁ、見つけたわ」
 風鳴りが、伊織の頸を鋭く捉える――素早く後ろに跳び退き、規則正しく並んだテーブルを蹴って距離を取る。
「どうして逃げるの? ねぇ、お顔を見せて? 仮面で隠したって無駄よ、ふふ」
 容赦の無い薙ぎ払いを披露しながら、小町は小首を傾げている。こっちだって仮面で貌が隠れているのに、蛙を睨む蛇が如き気配は全く変わらない。
「さぁ、貴方の色でこの白無垢を飾って頂戴……綺麗な花を咲かせて魅せて?」
 あまい吐息は、殺気を隠さず。膚がひりつくような、ホンモノの殺気。
「――あっコンバンハ。やだな~、お二人揃ってまた妙な言い回ししちゃって!」
 無垢って柄かよ――喉まで出掛けた言葉を呑み込みつつ、軽やかな跳躍で切り返し、今度は伊織が前へと詰める。
 二人の妖刀を捌いて払う、黒い刀が辻風起こし、自慢の着物の袖先を断つ――。
「お望みなら最期に一花咲かせてあげましょ――その身でもって」
 三者はそれぞれの意図を持って互いに笑みを合わせると――、全力で斬り結び合う。
 鋼が闇に火花を散らし、狐、般若、烏は入り乱れて豪奢なソファを蹴散らす。
 実直な剛刀が垂直に落ちれば、遊ぶような妖刀がふわりと受け止め、挙動も短く隙を与えぬ一刀が横から走る。
 最初ばかりは、伊織が両者より追われ続けたが、小町も清宵を狙い、逆も然りであった。
「勿論、貴方の色も頂くわ――私強欲なのよ、旦那様!」
「花を添えて欲しけりゃ、お前ももっと愉しませてくれよ、魔性!」
 戯れ、嘯き――だが剣の重みだけはいずれも真剣。笑みが滲ませる殺気は膨らみ、増すばかり。
「隙あり――」
 呼吸に合わせて、伊織が踏み込んでくる。下から上へと斜めに振り上げた一刀が、清宵が上段へと構えた腹へと滑り込む。
「甘ぇ」
 にや、と男は笑ったようだ。肘が垂直に落ちて、刃の背を撃ち落とす。そのまま前のめりに清宵の前へ身を晒した伊織へ、小町が片手で深く刺突してくる。
「可愛い子羊だこと」
「……騙しやがったな……」
 くすくすと笑う小町を怨みがましく睨みながら、伊織が崩れ落ちる。
「そら、望み通り赤く染まったな」
「そうね……でもまだ足りないわ」
 先程のやりとりもまた、本音であると互いに認め合い――両者は躍った。
 至近距離から刀をくるりと返して、斬り下ろす小町に、清宵は両手を添えて刃を加速させる――。
 それは研ぎ澄まされた、ふたつの剣閃。闇の中で捉えるのは、ひどく難しい極限の斬撃。
「嗚呼」
 吐息を零した勝利者は、どちらであっただろうか。遠慮も容赦も無い立ち回り、この喜劇の勝利者は。
 両者が相撃つように刃が入っていた。
 清宵の肩は割られ、じわりと赤で染まり――小町の腰を貫いた朱線は帯の如く。仮面を落としながら、微笑みを見せ、崩れ落ちたのは小町であった。
 ――終わったか、刀を担ぐように構えた清宵が、軽く触れてみた傷の痛みに僅かに顔をしかめた、その時。
「――文字通りの出血大サァビスをドーゾ? 俺に構わず仲良く逝けばいい!」
 斃れていたはずの伊織が跳ね上がり――容赦なく斬り込んだ。
 肉を断ち、血の花を鮮やかに咲かせる――てめえ、と罵る言葉が、小気味よい調子を伴って、清宵はゆっくりと身を傾いでいった。
「油断してるんじゃねえってな」
 辛く笑いながらも、伊織は勝利の余韻に浸ることなく、構え直す。近くに人の気配がある――人の虚をついて、同じように殺されては堪らぬ。
 ただ、手負いに違いは無い。肩から夥しい血を流しながら、伊織は静かに息を整えた。
 ――だが、次に走った衝撃は、想定以上であったはずだ。
 重い地響き。空間を振るわせるような振動が壁を貫き――彼らの間を裂くように、瓦礫が飛び散る。
「もういいかい」
 熱を払うような涼やかな声音が、戯れを投げかける。
 ぬっと顔を出した愉快な人形が――嵐の暴虐を持って蹂躙するまで、あと僅か――。

 斯くして、怒濤と人々は殺し合い。
 誰も残らなかった。
 ――それが、この山荘で起こった事件の顛末である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『切り裂きジャック』

POW   :    ジャック・ザ・リッパー
自身の【瞳】が輝く間、【刃物を使った攻撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    フロム・ヘル
【秘めたる狂気を解放する】事で【伝説の連続殺人鬼】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    霧の都の殺人鬼
自身に【辺りを覆い尽くす黒い霧】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠守田・緋姫子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●何者にもなれなかった伝説
 ――後の、かの文豪は言った。
『この世で最も偉大なる殺人鬼は■■■■である』
 ――後の、かの政治家は言った。
『いやいや、それは書物の話。実在するものからならば、■■■だろう――』
 ああ、遥か遠き過去を語るなど無為なり。
 そして嘆かわしい。この広がりきった「帝都」において、過去を越える存在がおらぬとは。
 ひとたび気になれば、どうしても証明せねばならない。
 ――そうだ、この花の帝都に相応しき、もっとも素晴らしき殺人鬼を生み出さねばならぬ。
 殺人鬼と殺人鬼を戦わせ、生き残ったそれを――。
 最期に屠れば、それが帝都における『もっとも偉大なる殺人鬼』となるのでは――?

 かつて霧の都ロンドンを恐怖に落とした殺人鬼がいた。
 ああ、あの有名すぎる『名無しの殺人鬼』だ。正体不明、詳細不明、生死不明の儘、有耶無耶になった伝説だ。
 けれど、それは概念でしかあり得ぬ。実在した『何か』は伝説にはなれなかった。
 自分が本当の『名無しの殺人鬼』であったかでさえ曖昧だった。
 然し――影朧となった『其れ』はどうしても『伝説の殺人鬼』になりたかったのだ。
 ならなければ、なかったのだ。

●視線の主
 静かな廊下を、死体の数を数え乍ら歩く、給仕がいる。彼は影のように殺人鬼に寄り添い、死ぬと別の殺人鬼を近くに潜んで見守った。
 彼は影だった。彼は殺人鬼だった。彼は何者なのだろう――自分でも解らない。
 何が見たいのか。どうなりたいのか。解らぬ儘にこの山荘に狂気を呼び込んだ。
 ラウンジの中央、最後のひとりを見送った給仕は、小さく溜息を吐く。その手には小さな闇色の刃。
 吁、逃げられて了った――。
 否……何かが、違う。
 違和感を追求しようと思った瞬間、周囲に甦る、ひとの気配。彼は自分が取り囲まれている事に気付く。
 ひらひらと夜桜が舞う――破れた窓の前、『給仕』に見えていた輪郭を失った影が、猟兵たちをじぃっと見つめかえす。
 再び溜息を零すと、彼は再び刃を構え直す。
「……この度はご利用真に有難う御座いました。しかしながら、皆様は殺人鬼ではあられない。つまり失格――もう一度、舞台を整えて仕切り直さねばなりませんゆえ」
 お引き取りくださいませ。
 静かに、強く、男は告げた。

○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
【プレイング期間】4月8日(水)8:31~11日(土)中
※2章で負った負傷などは無かったこととして貰って構いません。

※お詫び※
1章冒頭でサロンといっていたのが現在ラウンジと読んでいるポイントです。
此処で訂正してお詫びします。悩みましたが、以後ラウンジで統一いたします。
○==+==+==+==+==+==+==+==+==+==+==○
セロ・アルコイリス
リュカ(f02586)と

ふぅん、伝説の殺人鬼ねぇ
楽しいですか、あんなコトが?(掌に残った感覚を振り落としつつ)
ああ、はい、生きてますよ
頸斬られんのは初めてじゃねーんで(至って普通に)
ところでリュカは死んでませんか?

敵の獲物がナイフなら
おれもダガーで速度上げるしかねーでしょ
相手の手を学習してカウンターで弾くのを狙う
おれごと撃ち抜いたって別にいいですよ? リュカ
死なねーことは判ったでしょ?
……なんて、
あんたにゃ失礼でしたよね

ええ、識ってます
あんたがいいヒトなのは
例えおれが本物のヒトになれる日が来ても
たぶんあんたとは本気で殺し合えねーんだろうな


リュカ・エンキアンサス
セロお兄さん(f06061)と

ようやく出た
と、いうわけで、今度こそ本当に、死んでもらおうかな
あ、セロお兄さん大丈夫?生きてる?(とっても平然とした顔で
まあ、お兄さんが本気で殺す気でかかってくるとは思ってなかったけれどもね
俺は折角だからってだけで本気で行ったけど
俺?俺は死ぬわけないですよ(しれっと

…と
オブビリオンにはちゃんと、銃をもって向き合う
正直さっきのほうが強敵だった感は否めないけれども、
今度は遠慮なく、きっちりきっかりとどめを刺すよ。
別にお兄さんごと打ち抜かなくとも、俺はちゃんと殺せます
それに、仕事だと躊躇わないけれど、別に俺は進んで殺しがしたいわけでもないんだから
……知ってるくせに



●善とか悪とか
「ようやく出た」
 リュカ・エンキアンサスは淡淡と、銃を構えながらそれを見つめる。
「と、いうわけで、今度こそ本当に、死んでもらおうかな」
 身に染みついた手順は敢えて手元を確認するまでもない。だがそんなリュカを半ば隠すような位置で、セロ・アルコイリスは不快そうに敵へと問うた。
「ふぅん、伝説の殺人鬼ねぇ――楽しいですか、あんなコトが?」
 感触を消すべく、軽く掌を振る。
 演技であっても嫌だった――人型のオブリビオンへとダガーを振り下ろすのとは、まったく違う、あの気持ち。
 そんなセロへ、リュカは思い出したように声をかけた。
「あ、セロお兄さん大丈夫? 生きてる?」
「ああ、はい、生きてますよ。頸斬られんのは初めてじゃねーんで」
 下手人の軽い言葉に、セロは肩を竦めるも――至って平然としていた。
 頸を曲げてホラ、と見せてくる彼の姿を、しげしげと見つめるリュカは、顔色ひとつ変えやしない。
「まあ、お兄さんが本気で殺す気でかかってくるとは思ってなかったけれどもね――俺は折角だからってだけで本気で行ったけど」
 そーですよね、そーいうひとですよね。
 セロも別に何とも思わないけれど、殺すよりかは殺されるほうでよかった、と思うのだ。やはり、あの感触を何度も体験するのはおっかない。
 そういえば、と彼はリュカに水を向ける。
「ところでリュカは死んでませんか?」
「俺? 俺は死ぬわけないですよ」
 しれっと言う。はは、とセロは緩い笑みを零し、再び切り裂きジャックへと向き直る。
 軽く身を屈めたような低い体勢で、何時でも抜けるよう指を腰のダガーの柄に搦めると、相手の動きを注視し、駆け出すタイミングを計る。
 そこに背後のリュカのことは気にかけてはいない――する必要はないと、解っている。
 相手が軽く身じろいだ瞬間に、床を蹴った。
「一度、見て御座いますので――」
 影のような男は口調だけは慇懃な儘、セロの動きに合わせて、狂気を解き放つ。
 加速した黒い刃が、鼻先を掠めるように斜めに振り下ろされる――東雲色の瞳を軽く細めて、彼は笑う。
「そーですか。でも……この速さじゃねーでしょ」
 刹那、光の魔法が彼の躰を軽くし、黒い刃の下を潜り抜け――セロも相対するようダガーを上へと閃かせた。
 笑うような吐息が降ってきた。影と、セロがすれ違う。どちらも無傷だ。然し、その軸が定まる瞬間を見逃さず、アサルトライフルがすかさず追い立てる。
「正直さっきのほうが強敵だった感は否めないけれども」
 今度は遠慮なく、きっちりきっかりとどめを刺す――リュカの声音には、特別な熱も、思い入れもない。ただただ冷徹なだけだ。
 硝薬の匂いの中で躍る影は、射線から逃れようと跳ぼうとするのを、セロが仕掛けて逃さない。
 ひらり、ひらり。揺らめく青いマフラーは戯れるように。
 踏み込みは怒濤、ダガーの応酬はナイフで応える相手の身体を開き、それ以上何も出来ぬように――それを鼻歌交じりに、セロは楽しそうにこなす。
 標的が顕わになるタイミングを再び狙うリュカへ――彼は、つと軽口を投げた。
「おれごと撃ち抜いたって別にいいですよ? リュカ」
 死なねーことは判ったでしょ?
 戯れの言葉に、少年は小さな吐息を零した。
「別にお兄さんごと打ち抜かなくとも、俺はちゃんと殺せます」
 莫迦にされているわけではないことは、わかっている。彼は良くも悪くも少々ねじが飛んでいる。自分も、他人のココロの働きに文句をつけられた口ではないけれど。
 彼を構成するものが、善性なのも知っている。
「……なんて、あんたにゃ失礼でしたよね」
 ほら、飄飄と謝ってくる。何処まで、ちゃんとそう思っているのか。
 確認するように銃弾を叩き込む。セロが身を翻したとき、的確に狙い澄まし、流れ弾など許さぬ。
 切り裂きジャックはまるで陽炎のようだ。狂気で膨れあがって存在感は増しているのに、掴めぬほどに早い。セロの双腕には創が走り、影に吸い込まれたダガーの創は見えない。
 スピードはやや相手が上だが――動きの癖を掴んだらしいセロは、幾度となく銃撃に対する好機を誘導してくれる。
 その呼吸に合わせ、リュカは銃の力を強く引き出す。これより撃ち出すは、実弾にあらず。
「別に俺は進んで殺しがしたいわけでもないんだから……知ってるくせに」
 ぽつり、不満と共に引き金に指をかけた。
「……星よ、力を、祈りを砕け」
 魔術と蒸気の力で動く愛銃より放たれるは、あらゆる幻想を打ち破る星の弾丸――夜明けに星が揺れ、煌めく。
 それはセロの腕の隙間を潜って、切り裂きジャックの胸を貫く。
 ぐうを呻いて後退る男へ、畳み掛ける一刀をねじ込んで、セロは微笑んだ。
「ええ、識ってます――あんたがいいヒトなのは」
 凄い腕だ。いつだっておれを射抜けるだろう。
「……例えおれが本物のヒトになれる日が来ても――たぶんあんたとは本気で殺し合えねーんだろうな」
 引き金を引くことに罪悪感を抱かなくても。あんただって、善性によって作られてるんでしょ――なんて尋ねたりはしないけど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
お芝居はもう終わりだなんて物足りない
私はまだ一回だけしか殺されておりませんのに

しかしこのハレルヤに失格などと言い渡すとは
流石はオブリビオン、身の程知らずにも程がある
ハレルヤの成すことは全て正しいのです

敵の攻撃には【カウンター】で
握りしめた妖刀で串刺し、と見せかけてからの【投擲】
敵の速さにはフェイントをかける事で対応したく
足に刺さるよう狙って放ち、その俊敏性と肉を削ぎ落として差し上げますよ

以降は『恋う欲求』で増強された威力と命中率を存分に活かし、
気の向くままに【串刺し】【傷口をえぐり】【蹂躙】して参ります
良かったですねえ、私と戦えて
もっとも偉大なるハレルヤと戦い無惨に死んだという伝説になれますよ



●無情
 残念そうに尾を下方で揺らし、はあ、と夏目・晴夜は態とらしい溜息を零して見せる。
「お芝居はもう終わりだなんて物足りない――私はまだ一回だけしか殺されておりませんのに」
 嘆きの根底は退屈。未だ未だ遊び足りぬ。この不服を満たすためには――行動など決まっている。
 ゆらり、再び揺れた尾を隠すように、それにしても、と彼は冷ややかな声音をもって男へ向き合う。
「――しかしこのハレルヤに失格などと言い渡すとは、流石はオブリビオン、身の程知らずにも程がある」
 言い放つ彼は紫の瞳を細めた――口元に刻んだ笑みに似た弧は、殆ど変わる事なき貌に、残酷な輝きを見せた。
「――ハレルヤの成すことは全て正しいのです」
 声音も常と変わらぬというのに、切り裂きジャックは怖気に誘われ、躍りかかった。
 それは正しい、とでもいうかのように晴夜は頷くように軽く屈んで後ろに跳ぶ。
 いつでも抜き身の妖刀を手に、相手のナイフを一度躱して前へと向かう。
 低めの位置で、真っ直ぐ刺突するような姿勢で繰り出した一撃は、男の考えに反して、伸びた――正確には、晴夜は刀を手放していた。投擲することで虚を突き、間合いを広げる。
「その俊敏性と肉を削ぎ落として差し上げますよ」
 宣言通り――足を削ごうと狙う投射は、男にして見れば、咄嗟に躱しやすい部位でもあった。
 予想外の一刀に驚いたものの、太腿を浅く裂いた程度。
 肉を縫い止める程には至らず、創とも呼べぬ。
「僭越ながら、その程度の腕では――」
 狂気が膨らむ。男を、伝説の殺人鬼たらしめる力が高まり、ぐんと速度が増す。
 晴夜はあっさりと男の脇を擦り抜け、妖刀を拾いながら、ゆっくりと振り返る。自信に満ちた表情は眼前にナイフの刀身が迫っていようが、恐怖に染まることは無く、
「おや、怪我しておられる様子」
 しれっと『吐かして』、無造作に握った妖刀を男の傷口に差し込んだ。
 それが妙に、当たり前のように起こったことで――切り裂きジャックは再び驚きで時が止まったかのように、ゆっくりと目を瞬いた。
 晴夜は既に刀を振り上げている。それには間に合わせて、男は横へと逃れる。
「おや、よく見たら腕もボロボロじゃないですか」
 もうひとつ憶えたと、実に愉快そうに言うと一歩踏み込む。
 切り裂きジャックとて、痛みに怯えるような気質でもないが――晴夜の行動は男の『思考の範疇』から外れていた。必要以上に警戒してしまうのは、致し方ない。
「良かったですねえ、私と戦えて――もっとも偉大なるハレルヤと戦い無惨に死んだという伝説になれますよ」
 それが望みなのでしょう、と。
 思う儘に刀走らせ、傷を抉り、蹂躙する――一方的な舞踏。
 最も驚くべきは、おそらく――彼はそれでも『別に殺人鬼というわけでもない』という事実だっただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
嗚呼。そうだとも。
私は殺人鬼ではないよ。
私は、ただの人だ。
実に楽しい舞台をありがとう。
これで、楽しい楽しい物語を世に広める事が出来る。

今までの事件だけでも十分だが
やはり最期は君の力が必要なのだよ。
伝説の殺人鬼。
その殺人鬼が鮮やかに散る様は、きっと正義の話を貫くものにとって
それはもう面白い話になるのだろうね。

さあ、魅せてくれ給え。
君のその力を。私に。

私は戦えない。
お相手はこの著書に住む情念の獣がしよう。
君のように素早くは無いが、情に飢えた獣は君を追い続ける。

素早い刃、切れ味、何をとっても一級品。
私には負けるが
嗚呼。うっかりしたよ。
私は、ただの人、ただの人だ。

封じた想いが溢れ出る
なんと、楽しい。



●人であらねば
 殺人鬼では無い――そう指摘されたならば、その通り。
「嗚呼。そうだとも。私は殺人鬼ではないよ。私は、ただの人だ」
 榎本・英は真摯に殺人鬼たる存在に向き合うと、実に満足そうに続ける――柔らかな微笑さえ浮かべて見せた。
「――実に楽しい舞台をありがとう。これで、楽しい楽しい物語を世に広める事が出来る」
 彼に悪意は無い――ゆえに、極々自然にそう告げる。
 この館で起こった出来事は、物語として紡がれ、広まるだろう。
 その事実だけをとってみれば、この男にとっても悪い話では無い――。
 だが、その前提にあるのは『彼らは生きて脱出する』ことだ。つまり、切り裂きジャックは『殺人鬼たりえない』結末である。
「……殺人鬼でもない皆様が、此処で好きに振る舞うのは舞台に対する冒涜ではございませんか?」
 男は叫きたい一心を堪え、そう告げると、英は顎に手をやり頷いた。
 ふむ、一考の余地はある――、というよりも。
「今までの事件だけでも十分だが、やはり最期は君の力が必要なのだよ」
 つまりは存在の肯定であった。
 伝説の殺人鬼――敢えてそう呼び掛けてくる声音に、男はぞくりととした何かを憶える。
「その殺人鬼が鮮やかに散る様は、きっと正義の話を貫くものにとって、それはもう面白い話になるのだろうね」
 赤き双眸が眼鏡の奥で、密かな輝きを宿す。
「さあ、魅せてくれ給え。君のその力を。私に」
 彼の手には一冊の本。紡いだ物語、その著作。
 訝しげに目を眇めた男に、英は穏やかな眼差しを返し乍ら、愛おしげに文庫本を一撫でする。
「私は戦えない。お相手はこの著書に住む情念の獣がしよう」
 盾のように翳すでもなく。
 儘よと思い切った男の双眸が怪しく輝く――刹那、ナイフの軌道が幾重に割れる。
 それを迎え撃つのは、情念の獣の指先。
 突如と飛び出したそれに、切り裂きジャックはナイフを振ったが、掴みかかる指先を完全に振りほどくことは叶わなかった。
 残った左手の指先を、ぎりりと握り潰される。
「君のように素早くは無いが、情に飢えた獣は君を追い続ける――」
 まるで情を交わした遊女が、真実の証を求めるように。
「素早い刃、切れ味、何をとっても一級品。私には負けるが……――嗚呼。うっかりしたよ。私は、ただの人、ただの人だ」
 人だ、人だと言い聞かせたのは、誰にだろうか。
 赤茶の髪をくしゃりと撫でるように叩きて、訂正すると、彼はあまりにも穏やかな表情で、問うてくる。
「物語というのは素晴らしい。君もそう思わないか」
 ――なんと奇異なることか。
 英が『男が伝説の殺人鬼であると信じてくれてゐる』という現実が、他ならぬ自分の心を――あらぬ過去の疵を深々と抉って呵む。
 伝説の殺人鬼を求めて指を伸ばす獣、愛を求めて、その終わりを彩ろうと追いかけて来る作家なる存在が。真偽も曰わくも幾らでも紡いでみせる、その宿業が。
「封じた想いが溢れ出る――なんと、楽しい」
 実際に指を潰されたことよりも恐ろしい――男はそう、思ってしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花筏・十織
(……肝を冷やしたのは内緒のことといたしましょう)
※高い所実は苦手

『名』とはそのものの本質を現すと申します
なにものでもない者としての、己のあり方に苦しむことは
人であれ影朧であれ、かわりはありません

しかし、ひとの生きる世の理として
影朧である貴方は、人の世ではなにものにも成れぬのです
命は巡り、時も巡る
影朧のいのちは過去のもの、骸の海より沁みる雫
波紋程度は残せましょうが
いくら殺そうと、どれだけ殺そうと、何者にもなれませぬよ

巡り巡るは命の環
眠るにはこの季節はちょうど良い
幻朧桜と山野の桜、花の褥でゆるりとひと眠り
そうして生まれなおしたあかつきには
名をもつ『ひと』と成れましょう
「お休みなさい、よき夢を」



●閑話~泡沫夢幻
 ――伝説の殺人鬼は、怯えるだろうか。
 否、怯えなど憶えまい。大胆不敵に振る舞い、追っ手を翻弄し、ひとり嘲笑うだろう。
 猟兵達との孤独な戦いも――伝説の殺人鬼であるならば、乗り切れるに違いない。
 ――では、できないのならば。己はやはり、紛い物なのではないか。
 ふるり、身を震わせた男はある気配に振り返った。
 そこに立っていたのは、花筏・十織――窓から落ちるという終幕で、彼を一時落胆させた、忌々しき相手である。今となっては彼らは殺人鬼でも何でもなかったので、そもそも徒労であったわけだが。
 ――そう、落ちたはずの彼は、涼しい顔でそこにいる。
(「……肝を冷やしたのは内緒のことといたしましょう」)
 そんな心を露とも報せず。
 寡黙と目を瞑っていた彼は、静かに瞼を解き――ゆっくりと桜色の眼差しを男へ向けた。
「――『名』とはそのものの本質を現すと申します」
 徐に語りかける。
 肩に落ちている桜は、外のものか、彼のものか。ひとつ摘んで、彼は目を細めた。
「なにものでもない者としての、己のあり方に苦しむことは……人であれ影朧であれ、かわりはありません」
 その言葉を男は、どう受け止めただろう。
 優しさだろうか、慈悲であろうか――切り裂きジャックともあろうものが、それを忘我と受け止めていいものだろうか。
 十織は相手の様子を見ながらも、淡淡と言葉を続ける。
「しかし、ひとの生きる世の理として、影朧である貴方は、人の世ではなにものにも成れぬのです」
 男から部屋を覆い尽くすような黒い霧が発生しても、十織は気に止めなかった。
「命は巡り、時も巡る――影朧のいのちは過去のもの、骸の海より沁みる雫……波紋程度は残せましょうが、いくら殺そうと、どれだけ殺そうと、何者にもなれませぬよ」
 いつしか、黒霧を散らすように、桜の花吹雪が舞う。
 ゆらり、ゆらりと幻惑の桜が斬撃に断たれようと、領域を譲らない。攻撃力などもたぬ儚い桜だというのに。
「巡り巡るは命の環――眠るにはこの季節はちょうど良い」
 抵抗する男へと、十織は誘うように手を差し出した。
 ――繋ぐためではない。輪廻へと招くための、水先案内人として。
「幻朧桜と山野の桜、花の褥でゆるりとひと眠り。そうして生まれなおしたあかつきには……名をもつ『ひと』と成れましょう」
 桜の化身である彼は、ひとつの道筋を示して微笑する。
 いつしか吹きつける桜吹雪は斬撃を押し返し、黒霧すべてを覆うように部屋を埋め尽くしていく。戦闘に荒れ果てた無惨なすべてを隠し、夢幻の出来事であったかのように。
 ――己は誰であるのか。余計な事を考えずとも。『誰か』になれる……。
「お休みなさい、よき夢を」
 旅路は整えたと青年は帽子の鍔を引き、餞の言葉を送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・白鴎
紅紀(f24482)様と

あぁ、貴方様は舞台の中心となりたかったのか
数多の伝説の中核。そのものが居なければなりたたぬ
殺人事件とてーーえぇ、それが伝説を謳うのであれば
貴方様は無くては成り立たぬ程の殺人鬼たらねば

想いが故、かもしれませんね
紅紀様
輪郭さえ無いものは、形に支配されずにあれるもの

紅紀様が物語るのであれば、拙はその舞台に色を添えましょう

紅紀様の立ち回りに合わせ、隠り世の濡烏を。

殺人鬼殿、これはほんの餞別にございます
一差し舞うと共に魔鳥を呼ぶ
霧の都に鳥は如何か?
貴方の舞台、拙が頂きましょう?

魔鳥の攻撃は派手に
高嶺に相応しき傲慢にて、殺人鬼殿を引きつけましょう
全てはお任せ致します紅紀様


天瀬・紅紀
白鴎さん(f22765)と

いや、その…蠱毒じゃないんだから
何でそんな斜め上の発想に辿り着くのかなぁ

過去の曖昧な存在だから伝説になり得るんだろうね
輪郭すら曖昧な君も概念の様な存在なのかな
…成る程、それこそ変幻自在に演じる舞台役者のようなものか

僕が犯罪研究家だったら良かったんだけど
残念ながら只の探偵小説好きなもので
ラストシーン、犯人が死んで終わるの多いんだよね

まずは突っ込んで一太刀
向こうの反応速度的に易々と斬れないか
身を退けば白鴎が攻撃開始
意識が其方に向いている内に外套そこらに引っかけ、ダミーに

黒い霧は僕にも好都合
敵が僕を視界から見失った時にはもう遅い
真下より突き上げる蠍針
毒炎の柱が焼き尽くそう



●桜舞と炎毒
「いや、その……蠱毒じゃないんだから。何でそんな斜め上の発想に辿り着くのかなぁ」
 やれやれと溜息を零して、天瀬・紅紀は紅の瞳でそれを静かに見つめた。
「蠱毒で結構ではございませんか。残ったものが伝説――それに何の問題がありましょうや」
 顔の詳細はわからぬが、男は笑う。
 歪んだ笑みだ――諦念の果てに歪んでしまった、正体不明の男。本物なのか否か、本人にも解らず仕舞いなら、猟兵たちにわかるはずもない。
 ただ、ひとつ掬い上げられるとするならば――。
「あぁ、貴方様は舞台の中心となりたかったのか」
 月白・白鴎はそう、解釈をした。
 狂言回し。全ての黒幕。どちらでも構わぬが――この物語を成り立たせる、重要な柱。
「数多の伝説の中核。そのものが居なければなりたたぬ。殺人事件とて――えぇ、それが伝説を謳うのであれば……貴方様は無くては成り立たぬ程の殺人鬼たらねば」
 男は無言を守ったが――それなら解ると、紅紀は目蓋を閉ざす。
 何にでもなれる。
 だが、なんであったかは解らない。
 それは可能性を秘めている――喩え、過去から甦った先の無いものであったとしても。
「過去の曖昧な存在だから伝説になり得るんだろうね。輪郭すら曖昧な君も概念の様な存在なのかな」
 さりとて取り扱いが面倒なことに代わりは無いと、にべもない紅紀に、くすり、ヴェールの下で白鴎は笑う。
「想いが故、かもしれませんね……紅紀様。輪郭さえ無いものは、形に支配されずにあれるもの」
「……成る程、それこそ変幻自在に演じる舞台役者のようなものか」
 それに付き合い――『真犯人は伝説の殺人鬼であった』と念じて振る舞うのは、容易いこと。だが、それでよいのかと紅瞳を薄く開けて問う。
 今も尚、筋書きに従って終わらせてやることは可能だ。
「僕が犯罪研究家だったら良かったんだけど――残念ながら只の探偵小説好きなもので。ラストシーン、犯人が死んで終わるの多いんだよね」
 言うなり、赤が翻った。
 動作のついでと外套を大きく広げて目眩ましに、閃く一刀が深く斜めに斬り上げる。
 男は跳び退く。今までの負傷など何ともないかのように、素早く、的確な反応であった。
 然し彼はひとりではない。
「紅紀様が物語るのであれば、拙はその舞台に色を添えましょう」
 広げた扇を手に、優美と白鴎が舞う。招かれた濡羽の魔鳥が、鋭い角度で滑空する――共に、隠り世の桜吹雪を連れて。
「殺人鬼殿、これはほんの餞別にございます」
 身を裂くような凍気と風が、ラウンジに吹き荒れる。魔鳥が羽ばたく度、空気を白く染めながら、切り裂きジャックを貫こうと幾度と旋回する。
 それも、ただ棒のように立っているばかりではない。殺気と狂気と、綯い交ぜにした黒き霧をラウンジに広げ、闇に紛れて斬撃を見舞う。
 ふわりと動く靄を見つめ、白鴎は横へと退く。慣れた舞台を踏むように、幽玄と。
「霧の都に鳥は如何か? 貴方の舞台、拙が頂きましょう?」
 曾て高嶺の花とならした美しき舞、その傲慢さをもって場を支配すべく、死と戯れる――。
 態と大仰な動きを見せて気を散らしてくる魔鳥に苦心しながら、斬撃を撃ちながら前へと躍った男のナイフが、薄紅のヴェールを軽く引っ掻いた。
 それを棄てながら、白鴎は興じるようにくるりと身を返した。その向こう、特徴的な赤い外套が揺れている――。
 無防備な背中だと、男は思う。白鴎の冷気が強く身体を痺れさせる。ならば彼を追いかけ回すよりは、先にあの男を――。
「全てはお任せ致します紅紀様」
 躊躇する心に、花を添えるは楽しむような笑い声。
 背を押された男は、赤い外套にナイフを深々突きたてた――無惨に細切れとなった赤い布の向こうには、ソファの背しかなかった。
 なれば、最早、跳んで身構え備えたところで――。
「もう遅い」
 冷たい声音が耳朶を打つ。
 ただ、お気に入りの外套を台無しにされたのだ――代償は、然るべきものを払うべきだろう。
「気付けなかった君の負け。毒と炎の熱に蝕まれるがいい」
 足元より突き出す、蠍針――それは深々と甲を貫き、男を捕らえる。
 そして鮮やかな火柱が、瞬時に燃え上がる。皓皓たる熱源へと目を細め、紅紀は不敵な笑みを唇に刷いた。
「――毒炎の柱が焼き尽くそう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・ジャック
胸が空いたと思うが刹那
土色の五指を向かわすも名残は消え失せ

瞬きの間だけ感じたものは
夢か、幻か

いっそ現で在ったらば、と、願はずには居られない

けれど
再び耳打つ“彼女の聲”は、頭蓋にだけ反響せし物だから
――嗚呼、

間違いなく、“此方”が、現なのだと
痛い程、突きつけられる。示される

為れば
再び足掻くしかあるまいて


手放せ無かった“生”を全う為可く
指掛け構うは手慣れた武具等

奇襲こそを得意とする其等は
奇を衒い、意表を突く事にこそ真価を発揮する


床に伏す“名無しの殺人鬼”に一瞥を呉れ
“其”と成り得たかも知れない過日に、馳せる

後幾程の時を刻めば善いのかと宵に、問う
口許緩ませ喉震う“君”の聲は、――嗚呼、今は聞こえない



●現
 かぐわしきは火薬の残り香。胸を穿たれて、沈む瞬間。
 視界に過ぎったような、脳裡の片隅に浮かんだ『何か』に、彼は灰色の瞳を瞠る。
 天へと伸ばした土気色の五指を戦慄かせ――無意識に、握りしめていた。指の隙間から、零れ落ちてしまわぬように。何か、何が。
 深く、堅く――瞼を閉ざした儘、ジャック・ジャックはその向こうに存在する幻を掴もうと手を伸ばす。
 だが、その時点で悟ってしまっている。これは夢か幻。
「いっそ現で在ったらば……」
 願う自身の言葉も、何処か現実味を失っているように遠く響いた。
『ねぇ――』
 不満そうに、”彼女”がジャックを呼ぶ。こんなところで、遊んでいては駄目。舞台はもう移ったのよ。
 然し、その聲は彼の頭蓋にだけ反響せし物――。
「――嗚呼、」
 思わず、声がこぼれた。今度は確りと自分の声で、嘆きを滲ませたものだと自覚する。
(「間違いなく、“此方”が、現なのだと……痛い程、突きつけられる。示される」)
 冷酷で軽薄な笑みで唇が歪む。
 どんなに望んでも手に入らぬもの、過去の夢、夢見る望み。その日に辿り着くまでは。
「為れば――再び足掻くしかあるまいて」

 目を輝かせ殺人鬼は躍る。斬りかからねばならぬ。その相手の首を狩らねば、自分は『何者でも無い儘』であるゆえに。
 追い詰められつつある男は、気付かない。此処にあり得ぬ存在が、またひとつ増えていることに――幽鬼の如く、灰色の男は『独りで』そこにいた。
 彼の一挙一足には、一切の音がなかった。布擦れも、刃が立てる歓喜の声も。
「――ッ!」
 風を切り裂く音だけが、後からついてきた。意識の外より、襲う暗器の数数に影朧は驚く。今までに散々痛めつけられ、傷付いていた足が、再び深々と貫かれ床に転がる。
 奇を衒い、意表を突く事にこそ真価を発揮する――そうジャックが考える、暗器の性能を最大に生かすべく場において。無慈悲なる無作為の斬撃は覿面と効いた。
 男が転がった先、素晴らしき絨毯の床は、今や戦闘の憂き目とばかり所々剥げて、板の目を曝していた。男は血を流さぬ、闇が形を取り繕えなくなって、蠢いた。
 その姿に一瞥呉れ、ジャックは微かに瞼を伏せる――見つめる先は、現ではなく――自分が、“其”と成り得たかも知れない過日。
 だが、幾ら思い巡らせども。否、それを思う今があるからこそ、思郷にも似た虚無が胸を支配する。
「……後幾程の時を刻めば善いのか」
 思わず問えば、傍らの彼女は――美しい唇を笑みに緩めて、微笑する。
 楽しげに、戯れるように、喉を震わせる――だというのに。
(「“君”の聲は、……――嗚呼、今は聞こえない」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

花川・小町
【花守】
もう、血糊でべたついて敵わないわ
折角だしまたあの温泉にでも浸かり直したいところ――ええ、血の海も花ももう結構よ
可愛げのない給仕擬きさんにこそ、舞台を降りてお引き取り願いましょ

あら、やーねぇ、誰が鬼ですって?
UC使い守りを高めると同時に、軽口叩く仲間へと戯れに衝撃波――と見せかけて、真の狙いは無論、その奥の敵
ふふ、大丈夫、今度はちゃあんと綺麗にかわしてくれると信じてるわ
でも貴方は逃がさないわよ――名無しさん?
一撃一撃に足縛る呪詛込め高速移動を潰しながら、皆と代わる代わるに攻守を

貴方が何者であれ、その夢は叶えてあげやしない――悪夢は此処で掻き消すだけよ
さぁ、三文芝居はどんでん返しで幕引きを


佳月・清宵
【花守】
全く、派手に散らかしたもんだな
確かにこりゃあ温泉も恋しくなるってもんだ
――ああ、安心しろよ
この舞台は俺達でちゃんと片してやるさ
てめぇという厄介者を片して、綺麗サッパリ、静かなだけの山荘に戻してやる

序でに言っとくが、コイツ(小町)は正真正銘――殺人なんて余計な文字はつかねぇ、純然たる鬼だぜ?
――この通りな
言いつつ、敵の速度を殺し縛る毒と呪詛込め、UCで一撃
後ろからの衝撃波も承知済
横に飛んでかわす序で、2回攻撃と早業駆使し、敵の横面へと更に麻痺攻撃の手裏剣も見舞っとく
後は敵動作探り見切りでいなしつつ、仲間の攻守の合間を縫って更に畳み掛ける

伝説なんぞにゃしてやらねぇよ
何一つ残さず消えるが良い


呉羽・伊織
【花守】
嗚呼、ホント散々な目に遭った
――帰る前にさ、とんでもない夢の一夜に招待してくれた礼をしないと気が済まねーんだわ?
ウン、ソレに血の花よか湯の花の方が断然良い
何もかも、さっぱり洗い流して帰るとしよーか

舞台が夜、敵が影なら丁度良い
UCで随所から鴉呼び出し敵へ向け速度を殺しにかかる
同時に自信も早業の2回攻撃で、鴉達同様の呪詛仕込んだ風切を敵へ
――いや、余計な鬼を呼び起こすなっての!
味方ごと巻き込む様に見せ掛けたフェイント交え連携
敵の攻撃は観察して見切りでかわす、或いは此方も闇に紛れたり残像を見せたりし撹乱

仕切り直すならいっそ転生して違う道を行ってくれると良いんだがな――その気もないなら、霧散を



●三妖
 身を起こした彼女は、婀娜めいた吐息を零した。
「もう、血糊でべたついて敵わないわ。折角だしまたあの温泉にでも浸かり直したいところ」
 白い着物にはべっとりと朱が浸みて――あんまり良い趣味じゃないわね、と花川・小町は嘆いた。元来彼女は瀟洒な身なりを好むのだ。
「全く、派手に散らかしたもんだな。確かにこりゃあ温泉も恋しくなるってもんだ」
 呵々と笑い、佳月・清宵が彼女や――周囲に一瞥くれて、肩を竦める。
「嗚呼、ホント散々な目に遭った」
 恐らく尤も陰惨な表情をして身を起こしたのは、呉羽・伊織であった。じとりと二人を睨むも一瞬、既に切り裂きジャックなる黒幕へ、ゆっくりと向き合う。
 男は何とか形を取り直している。負傷を庇うようにしているが、走るも戦うも問題はなさそうだ。
「――帰る前にさ、とんでもない夢の一夜に招待してくれた礼をしないと気が済まねーんだわ?」
 赤い瞳に灯した輝きは、先程までの薄暗いものではなく。
 伐つべき相手を、ただ斬り伏せる。用心棒として鳴らした男らしい気っ風で笑う。
 ええ、と紗なり笑う女もまた先程までの狂気が嘘のように――全てが嘘でもなさそうだったが――艶やかに、剣を返した。
「――ええ、血の海も花ももう結構よ。可愛げのない給仕擬きさんにこそ、舞台を降りてお引き取り願いましょ」
「ウン、ソレに血の花よか湯の花の方が断然良い。何もかも、さっぱり洗い流して帰るとしよーか」
 小町の言葉に同意しつつも、俺は入ってないけどな、とぶつくさ零す伊織の肩を軽く叩き、清宵が口の端を持ち上げた。
「――ああ、安心しろよ。この舞台は俺達でちゃんと片してやるさ。てめぇという厄介者を片して、綺麗サッパリ、静かなだけの山荘に戻してやる」
 三者が同時に笑う。不思議なほど、ぴたりとその息が合う。
 対峙する男も無論、その瞬間に来る、という感覚にナイフを下げた。
 最初に躍りかかったのは、清宵であった。試すような遊ぶような、妖刀の一閃。男も、軽く刃を合わせて捌く。
 反応を試すように、間合いの裡で清宵が思い出したように、軽く顎を引いた。
「序でに言っとくが、コイツは正真正銘――殺人なんて余計な文字はつかねぇ、純然たる鬼だぜ?」
「あら、やーねぇ、誰が鬼ですって?」
 一目見ただけでは気付きがたいが、神霊体と身体の性質を変じた小町が、大きく薙刀を振り下ろした。
 走る衝撃波は、清宵の背を割る――と見せかけ、軽く上半身を傾げれば、その奥の男を斬りつける。
「――この通りな」
 にい、と唇を歪めた彼に、切り裂きジャックは忌々しげに舌打ちした。
「――いや、余計な鬼を呼び起こすなっての!」
 頬を掠めるような衝撃波を、回避しながら、叱咤するは伊織。後ろでにこやかに笑う女の気配は、何とも言えぬ。
 伊織の影より生じた鴉達が影より一斉に男へ迫り、備えた暗器で四肢を襲う。操る彼もまた、闇に紛れる暗器を手に、その脇を鋭く抉る。
「ふふ、大丈夫、今度はちゃあんと綺麗にかわしてくれると信じてるわ……でも貴方は逃がさないわよ――名無しさん?」
 金の双眸を細めて、小町は嫋やかに微笑む。
 握りしめた薙刀の斬撃は容赦なく、清宵と伊織と代わる代わる、或いはほぼ同時に攻め込む事で、回避も防御も追いつかせぬよう。
 ただ、覚悟を決めた男も、その狂気と、身より迸る黒霧の中で彼らと対等に渡り合って見せた。恐ろしく速い身のこなしに、急所を狙う一閃を搦めて、鴉を落とし、妖刀を払う。
 そして不思議な事に、――男は徐々に、その表情に笑みを浮かべていった。
「ああ、こうして追い詰められる私は、やはり本物ではないのやもしれませぬ――ならば……本物を越えよという試練でございましょう」
「いきなり恐ろしく前向きになったな」
 やれ、と清宵は訝しげな視線を向ける。
 ――追い込まれた影朧を、覚醒させてしまったか。或いは燃え尽きる前の、最後の輝きなのか。
 あら、いいじゃないの、小町はからりと笑って、一転。冷たい一瞥を送った。
「貴方が何者であれ、その夢は叶えてあげやしない――悪夢は此処で掻き消すだけよ。さぁ、三文芝居はどんでん返しで幕引きを」
 強い踏み込みと同時、渾身で振り抜く。
 衝撃波にあわせ、正面から鴉を嗾け乍ら、背後に迫った伊織が深く――腕をねじ込むように、男へと暗器を放つ。
 宙返りで身を返した男の、黒き刃が、身を落として無防備な伊織の額を割る――。
「残念、こっちだ」
 戯けるような声がその僅かに横からする。旋回した彼の暗器が、その肩を穿った。
 一瞬脚を止めた隙、次々と背に鴉が続き、暗器がその身を削っていく。すべて、彼が貫いた残像が消えゆくまでの出来事だった。
「仕切り直すならいっそ転生して違う道を行ってくれると良いんだがな――その気もないなら、霧散を」
 赤い双眸が強く見据える。男の背の向こう、高々と刀を振り上げた美丈夫と、目が合った。
 殺人鬼の殺気の中、妖刀の怨念をこれ以上なく高め――迸る妖気の中に身を置いた清宵は、彼らしい楽しげな表情で、刀を下ろす。
「伝説なんぞにゃしてやらねぇよ――何一つ残さず消えるが良い」
 滑らかな一閃は、肩を割って――影の中を、深々泳いでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f05366)と共に

件の殺人鬼の気配を感じればのそりと起きあがり
……やれ、死体ごっこも終わりじゃって
ああー……動かんことがこれほどきついとは
せーちゃんは見事なフリじゃったの
追いかけっこの間も……めっちゃ楽しそうじゃったなぁ
……せーちゃん、本気じゃったよね?
演技?まぁそゆことにしとこ

虚、おいでと右腕に招いて三爪を借りよう
せーちゃんが斬り込む、その傍らを務める
うむ、動きはようわかるよ。目ぇ閉じとってもいけそうじゃけど
しっかり相手の事見てやろか

仕切り直して自分で手ぇ出しにくるとはなかなか矜持が高いよう
ならそれをへし折りたくもあるものよな
ここで誰も殺せず果てる道しかないと思うんじゃけどね


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

なかなか楽しい遊びだったな、らんらん
俺は箱だからな、じっとするのは得意だ
…勿論演技だぞ?(微笑み
あの程度でらんらんを仕留められるとも思っていないしな
血糊がトマトジュースではなくケチャップで良かった(苦手
さて、茶番も此処まで
黒幕の鬼を共に退治するとしようか

友と連携し隙作らず斬り込もう
友の動きは手に取る様に分かるからな
幾ら手数増えても当たらねば意味はない
敵の瞳に注視、輝けばより警戒を
攻撃は確り見切り躱し、避けられぬ時は扇で受け流す
そして命中率重視【桜華葬閃】の連撃を見舞おう、たっぷりとな(微笑み

残念だが、伝説の殺人鬼には程遠いようだな
其方こそ、躯の海へとお引き取り願おうか



●乱と
 ひくり、最初に動いたのは灰青の耳だ。
 変化した物音を聞きつけ、演技の時間が終わったと悟った終夜・嵐吾は、のそりと身を起こして、首を鳴らす。
「……やれ、死体ごっこも終わりじゃって、ああー……動かんことがこれほどきついとは」
 固まった身体を順番に解しつつ、傍らで既に立ち上がり、埃を払っていた。
「なかなか楽しい遊びだったな、らんらん」
 悠然と笑った筧・清史郎を、嵐吾はじぃっと見つめた。
「せーちゃんは見事なフリじゃったの」
「俺は箱だからな、じっとするのは得意だ」
 涼しげな顔で、しれっと答える。
 楽しい、楽しいか――そういえば、嵐吾はついでに先程の一幕を思い出す。
「追いかけっこの間も……めっちゃ楽しそうじゃったなぁ……せーちゃん、本気じゃったよね?」
「……勿論演技だぞ?」
 嵐吾は暫く訝しげに見つめてみたが、微笑んだままの清史郎の言い分を受け入れる。
「演技? まぁそゆことにしとこ」
 実際、嘘を吐いたところで機嫌を損ねるとか、本気で斬りかかろうとしたところで仲違いをするような話ではないのだ。
 ああ、本気などではないとも、清史郎は小さく笑った。
「あの程度でらんらんを仕留められるとも思っていないしな――ああ、それと。血糊がトマトジュースではなくケチャップで良かった」
「じゃろ?」
 えへんと胸を張る嵐吾に、有り難い有り難いと同調しつつ、今度こそ、真の獲物を見つけたような表情で、階下へ振り返る。
「さて、茶番も此処まで――黒幕の鬼を共に退治するとしようか」

 ラウンジは既に――演技の時点で、ソファセットが吹き飛ばされたり、壁がぶち抜かれたり、柱が倒壊していたりしたのだが――戦闘で荒れ、黒霧の残滓、猛った殺意の渦で息が詰まりそうだ。
「アァ――まだ、お客サマが……ヲ引き取りヲ――」
 その中心たる男は慇懃なる態度も人らしい振る舞いも投げ捨て、獣のように大きく胸を動かし呼吸をしている。度に、吐き出される黒い霧と、殺意。猟兵たちが刻んできた傷痕から、それらは耐えず零れている。
 恐らく伝説を越える伝説とならんとする変化。同時に自滅を招くもの――。
 さりとて、居合わせた二人にしてみれば、それが何だで終わるだろう。清史郎の言う通り、茶番は終わったのだ。
 害意なるものに過敏と聡い鼻なれば、そっと息を吐き、嵐吾は右目に眠るものを呼び醒ます。
「虚、おいで」
 花の芳香が消え、右腕に黒き茨が伝い、三爪と変じて顕現する。
 それを契機と、清史郎と合わせて二人は同時に床を蹴る。互いに目配せすることも、声を掛け合うこともない――曰わく。
「友の動きは手に取る様に分かるからな」
「うむ、動きはようわかるよ。目ぇ閉じとってもいけそうじゃけど」
 しっかり相手の事見てやろか――注意すべきは、相手の行動だけだ、と。
 男は這いつくばりそうな低い姿勢から、瞳を爛々とさせながら跳びかかってきた。後から応じていながら、その黒いナイフは、視認が追いつかぬ速さで二人へ奔る。
 嵐吾が右腕を素早く翳して下ろせば、下段より清史郎は蒼地に桜舞う扇を優雅に広げた。
 一動作で九の斬撃であろうが、左右より押さえ込まれては意味が無い。
「幾ら手数増えても当たらねば意味はない」
 涼しげに断じ、清史郎は片手で素早く居抜く。蒼き刀の閃きは、やや薄い。だが、重ねて三爪が男の肩を薙いでいた。
 扇を手放した空いた左手を柄に添え、清史郎は更に踏み込み斬り下ろす。懐深くに潜り込んでの一刀は黒い躰に確りと埋まった。
 だが、直ぐに距離を取るべく跳び退く。間合いの外へ出た双方は、踵を返すなり、次の一撃へと転じる。
 再び男の目が輝く――清史郎は愉しそうに、前のめりに跳び掛かってきた相手に合わせ、刀をやおら掲げる。
「閃き散れ、黄泉桜」
 桜花弁が舞い散るように、蒼い輝きが垂直に落ちる。正確無比な一刀は吸い込まれるように、男の身体を幾度となく切り裂く。
「たっぷりとくれてやろう」
 容赦なく波濤と撃ち込む剣士の表情は華々しく、穏やかな微笑を讃えていた。
「残念だが、伝説の殺人鬼には程遠いようだな――其方こそ、躯の海へとお引き取り願おうか」
 身を捩り逃れることも――嵐吾が許さぬ。大きく飛び込み、腕を振るうと、心臓を抉るように中心へと爪を潜らせる。彼が躍動する度、柔らかな灰青の尾が揺れた。
「仕切り直して自分で手ぇ出しにくるとはなかなか矜持が高いよう」
 彼は何処までも、柔和に笑い乍ら――だからこそへし折ってやりたくなる、と嘯く。
 今まで、散々猟兵たちが宣告したことと同じく。
「ここで誰も殺せず果てる道しかないと思うんじゃけどね」
 友人の剣戟に合わせ、引き裂き掻いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グリツィーニエ・オプファー
残念では御座いますが
お引き取り頂くのは貴方の方かと
貴方の綴る物語は、これにて閉幕に御座います

さあハンス、準備は宜しいですか?
相棒を花と変え、齎すは【黒き豊穣】
たとえ黒き霧を纏おうとも
黒き花弁は貴方を逃しは致しません
…ハンスが励んで下さっているのです
ならば私も斃れぬよう
死角だけは取られぬべく
常に敵の、霧の挙動に注意を払い
斬撃波は見切りに徹しましょう

倫敦、殺人鬼…ええ、ええ
その『通称』は存じ上げております
彼の持つ猟奇性――神秘性
それは人々を恐怖させ、そして惹きつけるのでしょう
何故彼は娼婦ばかりの狙ったのか
果して彼は何者だったのか
今でも議論される疑問に御座います

――さて
貴方は一体何者なのでしょうね?



●花問い
 ゆっくりと、蹄を下ろす。荒れ果てたラウンジの床は、昼に踏みしめた時とは全く異なる姿を見せていた。
 あらゆる物はいずれ喪われるとはいえ――素直に残念だ、と思う。
「残念では御座いますが……お引き取り頂くのは貴方の方かと。貴方の綴る物語は、これにて閉幕に御座います」
 山羊角の青年は演技がかった台詞回しで、外套を翻し、内側より鴉を解き放つ。
 憂いの眼差しを、憐れなる殺人鬼に向け、グリツィーニエ・オプファーは閉幕の開宴を告げる。
「さあハンス、準備は宜しいですか?」
 ばさり、彼の相棒は羽ばたき、天井へと迫る――母の慈悲に御座います、ひそりと唱えれば、鴉の姿はたちまち黒藤となり、ラウンジ中に舞い落ちる。
 切り裂きジャックの身体から、黒霧が噴きだし、それを遮る――否、霧ごと斬り裂くように、花弁は舞い踊り、供物を探す。
「たとえ黒き霧を纏おうとも、黒き花弁は貴方を逃しは致しません」
 そっと半ばまで瞳を伏せた彼は、軽やかに跳んだ。
 目の前に迫る霧が割れ、衝撃波が奔る。闘牛士というほど勇ましいものではないが、ひらりふらりとはぐらかすように、多段と畳み掛ける斬撃の雨を、グリツィーニエは躱す。
「……ハンスが励んで下さっているのです」
 私が先に斃れてはならぬと。
 のらりくらり、躱して耐える。時に黒剣を手に、斬撃を打ち消し、相手を死角に逃がさぬよう、絶えず見つめながら。
 然しこうして男が黒霧に身を潜める姿を見ていれば、自ずと連想するは、誰もが知っている『伝説の殺人鬼』――。
 この影朧のルーツたる怪奇。
「倫敦、殺人鬼……ええ、ええ。その『通称』は存じ上げております。彼の持つ猟奇性――神秘性……それは人々を恐怖させ、そして惹きつけるのでしょう」
 識っていると、グリツィーニエは色の違う双眸を更に憂いに蔭らせるようにして、続ける。
「何故彼は娼婦ばかりの狙ったのか、果して彼は何者だったのか――今でも議論される疑問に御座います」
 吐息と共に、黒藤の花弁が視界に落ちてくる。霧が遠く、向こうに退けていた。
「貴方はご存じで御座いますか。彼の正体を……」
 試すように問い掛ける。答えは聴くまでもないのだが。
「――…………その正体を知るコトが出来たならば、キット、多くの人々が大枚を叩くので御座いまショウね」
 男は、それではない。
 何故ならばその正体を知らぬのだから。そしてそれが故に、定まらない。
 霧は自ら退いていったのではなく――黒藤に斬り裂かれ、徐々に、小さく勢力を削られていた。
 グリツィーニエの視界は今や馴染み深き花弁に埋め尽くされており、最早、男から繰り出される衝撃波を、彼が手ずから打ち消す必要すらなかった。
 青き蝶の輝きを脳裡に、影朧の苦しみを思う。さりとて、同調するつもりは更々無い。
「――さて、貴方は一体何者なのでしょうね?」
 今度の問いに、解は要らぬ。
 そう告げるように黒藤が、圧倒的に押し寄せ――男を押し潰した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

錦夜・紺
掴まれた脚も、刃で裂かれた箇所も跡はなけれど微かな違和感
まったくもって曲者の集まりだ

ああ、黒幕がおいでなすった
何故このような事を画策したのかと思っていたが…
姿も意思も全て霞み、朧気ときた
こんなにも歪であると真の殺人鬼にも迫れぬであろうよ

俺自身も殺人鬼の素養を持つものなのだろうが、
……俺は、忍ぶ者だ

梔子色の瞳が怪しく揺らめき輝いて
腰に携えた刃を操り手数で攻めよう
【部位破壊】で彼の者の脚を裂いてしまおうか
ほら、これで動けまい

同士も巻き込んでしまったならば、
……ああ、すまない。
だがしかし、傷つき傷つけ対等だろう?

雨も止み、澄んだ空気の中
散る赤も花弁も綺麗であろうよ
桜の許に眠るように逝け。



●闇に沈むもの
 身を起こしたとき、僅かに頭痛があった。
 先程の一幕は――全ては演技だ。演技ゆえに、疵は無い――だが、未だに掴まれた脚と斬られた身体に違和感がある――或いは、あれほど立ち回って、無傷であることへの違和だろうか。
「――まったくもって曲者の集まりだ」
 錦夜・紺は憂鬱そうに嘆息する。
 演技であったとはいえ、真に迫る――否、恐らく皆、かなり乗り気でやっていたはずだ。それこそ、つまらぬオブリビオンと対峙するときよりも真剣に。
「……ああ、黒幕がおいでなすった」
 紅桔梗と梔子の双眸を鋭く細めて、男を見据える。
 揺らめく影は広がっていたが――ますます、軸となる輪郭は萎んでいた。傷口から、噴き出す殺気は尽きぬ。
 だが、けれど。その姿に、紺は決して恐怖など覚えぬ。
「姿も意思も全て霞み、朧気ときた……」
 やおら頭を振り、腰の得物へ手を伸ばす。いつでも抜けるよう、指を掛け、脚を撓ませ、その瞬間に備える。その動作に一切の感情の揺らぎを与えない。
「何故このような事を画策したのかと思っていたが――こんなにも歪であると真の殺人鬼にも迫れぬであろうよ」
「――ゆえニ、ゆえニ……招いたのでございマスよ……」
 紺の言葉に男はこう応えた。
 ああ、幾度も聴いたとも。いっそ穏やかに頷いて、静かに告げる。
「俺自身も殺人鬼の素養を持つものなのだろうが、――……俺は、忍ぶ者だ」
 ああ、そういう意味では――若しかしたら俺は呼ばれたのやもしれないな、と彼が囁くと同時、右の梔子色は、強く輝いた。
 床を蹴るは両者同時に、あまりにも速く距離を詰める男に、冷徹に紺は正面から応じる。狙うは、脚だ。かなり傷付き、焦げた匂いすらする。
 男は気付いていないが、一歩踏み込む度に、どろりと粘つく影が床を汚していた。
 抜いた一刀、間合いは似たようなもの。一息に花開くような斬撃で、相手の動きを見る。反応速度は確かに速く、正確に合わせてくる。
 攻撃を捌ききらぬ中で、男は紺の腕の裡へと体当たりするように潜り込んで来た。垂直に振り上げたナイフが、顎を捉える前に、相手の肩を蹴り上げ、宙に躍った。
 すかさず地を蹴り返して、再度、すれ違う――今度は薙ぐように滑った黒き刃の鋒が、紺の肩口に掛かった――だが、紺は気にせず身を屈めて、刃をねじ込んだ。
 太腿を貫き、掻き裂くように腕を引く。
「ほら、これで動けまい」
 血の代わりに、澱むような闇が刃に纏わり付いていた。
 肩を浅く引っ掻いた朱の線に軽く触れつつ振り返れば、床に転がった男は幾度となく立ち上がろうと試み、仕損じていた。再び立ち上がるやもしれぬが、もう時間の問題だろう。
 目を伏せ、輝く金色の瞳を隠しながら、紺は静かに告げる。
「雨も止み、澄んだ空気の中、散る赤も花弁も綺麗であろうよ――桜の許に眠るように逝け」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
いいねぇ
いい志じゃないの
――どうしても。しなければ。
分かるよ、そういうの
手段を選ばぬほどの目的ってのは、素っ頓狂な手段を生む
素っ頓狂ってのは、見事に晴々しく愉快な、僕の好きなものだ

今日だって何人殺した?
僕だって、お陰さんで気持ちよく死ねたし殺せたし
楽しい思い出がありがたいとまで思ってんのよ

惜しむらくは、今日のこれが伝説には及ばねぇってことだ
出直して来たのに残念だったね
己の魂は非凡ではなかったと諦めるこった

……はぁ?次はないよ
曖昧さを残すほどの潔い幕引きに惹かれないのかい

誘雷血
それは魂ごと灼いてしまうほどの斬撃

安心おし
僕はこの日をお前さんを忘れない
誰かの胸に強く残ること――それこそが伝説だろう?



●忘れえぬ
 空を打つような音がした。拍子も適当に拍手を送り、壁に身を預けて男が腕を広げた。
「いいねぇ、いい志じゃないの」
 褒めそやしながら歩く。その足取りは先程までの陰惨なる殺人鬼の気配は捨て去って、飄飄としたものだ。
 切り裂きジャックは最早、猟兵たちの前に姿を現した時とは随分かたちを変えていた。
 ひとの形はしている。だが絶えず零れる影の雫が、男の足元に溜まっている。
 それでも、まだナイフを手に猟兵に立ち向かおうとするのは妄執の塊。ずるり、ずるりと自分の影を引き摺る相手に、ロカジ・ミナイは慈悲に似た視線を向けた。
「『――どうしても。しなければ』――分かるよ、そういうの」
 甦ってしまったからには、見出さねばならぬ。自分の正体を。自分の求める理想を。
 ある種の職人気質だろうか。そんな崇高なもんじゃないと、他人は嗤うかもしれないが――。
「今日だって何人殺した? 僕だって、お陰さんで気持ちよく死ねたし殺せたし。楽しい思い出がありがたいとまで思ってんのよ」
 うんうんと頷くと、抜き身の刀を肩に担ぎ、空いた片手で指折り数える。
 ひた、とその眼差しが男を捉える。
「惜しむらくは、今日のこれが伝説には及ばねぇってことだ」
 その一言に、緩やかに前進を続けていた男が、止まる。
 殆ど容貌の解らぬ顔が、唖然とロカジを見る。何を今更、彼はからりと笑う。さんざ、他の皆からも言われただろう。
「――出直して来たのに残念だったね。己の魂は非凡ではなかったと諦めるこった」
 にべもなく突き放す言葉に、男は震えた。
 どうやら、随分と弱り果てて軽い挑発に耐えられなくなっているらしい。
「ワタしは――伝説を……――仕切り、直しヲ」
 反論は弱々しいが、意志は固い。
 さりとて、その意志はロカジの美学には反する――眉を上げ、怪訝そうに男を見下ろす。
「……はぁ? 次はないよ。曖昧さを残すほどの潔い幕引きに惹かれないのかい」
 まあ、いいや。
 彼はくるりと背を向け、うつくしき妖刀を下ろす。なまめかしさすらある曲線に、徐に雷が這う。
 細く歪んだ瞳をぎらりと輝かせ、最後の力を振り絞って、獣のように男は跳躍した――洗練された殺人の手技などあったものではない。
 長物構えた相手の間合いに無防備に飛び込むなど、返り討ちは必至のがむしゃらな攻撃は、伝説など感じさせぬ凡庸な一手だ。
 だが、どんなものであれ、そのなりふり構わぬ必死な瞬間こそが――真理を宿した姿なのやもしれぬ。
 半身振り返ったロカジの貌は、やはり笑顔であった。
「安心おし」
 ゆるりと刃を返せば、三日月が闇に輝くように。雷霆は静かに発する時を待っていた。
 黒いナイフが軌道を読ませぬ動きで奔る。それを、一刀に伏すように、彼は腕を上げる。
「僕はこの日をお前さんを忘れない。誰かの胸に強く残ること――それこそが伝説だろう?」
 斬撃ごと、纏めて斜めに斬り上げた――目が眩むほどの閃光が奔る。
 影の身体を真っ二つに割るは、真白き光。
 魂ごと灼いてしまうほどの斬撃は、それの芯を貫き――影の肉体を消し飛ばす。それが最期に見たのは、心からの笑みであっただろう。

 左様なら。
 ――ああでも、お前さんには、桜の導きがあったねぇ。
 今度はどんな愉しい舞台を整えてくれるか、楽しみにしてるよ。

 これにて無糖滑稽な夜会は終演。
 ――山荘は再び静寂を取り戻し。いずれ、つまらぬ平凡な呼び文句で、次の客を待つのだろう。
 いつの日か『本物』が訪れる日を、待ちながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月15日


挿絵イラスト