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三六五日の南瓜祭

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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 ――トリック・オア・トリート!
 ハロウィンはとっくに終わったって? 半年前のイベントだって?
 いやいや、まだまだ。僕らのハロウィンはまだまだ、まだまだ終わらない!
 不思議の国の、夢の中。
 南瓜もおばけもコウモリも、皆みんなお祭り騒ぎ。
 お菓子だってちゃんと、沢山たくさん、用意してる。

 ほらね、今日はハロウィンだろう?



「皆、集まってくれてありがとう。突然だけれど……」
 空っぽのバスケットを差し出して、ネルウェザ・イェルドット(彼の娘・f21838)は集まった猟兵に向かって――『トリック・オア・トリート!』と一言。
 当然、ハロウィンならだいぶ前に終わっている。それは彼女も分かっている筈だ。
 グリモアベースの隅が一瞬しんと静かになった後、ネルウェザは空のバスケットを抱えたままで、こほんと咳払いをして話を始めた。
「……さて、今回向かってもらうのはアリスラビリンス。と言ってもアリスや国を助ける、という話ではなくて……『元アリスだった』オウガを倒し、それが創り上げた国を壊してほしい、というお願いだ」
 ネルウェザはバスケットをくるくる回しながら続ける。
「……そのオウガが居るのは『ハロウィン』の国。アリスであった頃何に絶望したのかは分からないけれど、ハロウィンがいつまでも終わらない空間を創って国の主となっている」
 故に、不思議の国はずっとずっと『トリック・オア・トリート』の声で溢れている。沢山のカボチャお化けやコウモリ達がお菓子をくれないアリスを追いかけ、捕まえてオウガの餌にしてしまうのだという。
「彼等より先に『不思議の国のお菓子』を食べてしまえば、とある場所に転移して逃げることができる。但し、逃げた先は――オウガの本拠地、嘗て『自分の扉』があった空間。もし非力なアリスがそこに逃げ込んでしまえば、当然……オウガの餌食だ」
 そうなる前に猟兵が先にオウガのいる場所へ辿り着き、退治して欲しいのだ、と。

 そこまでを語ると、ネルウェザはバスケットを足元に置いてグリモアを浮かべた。
「それでは早速転送するよ。あちらでは先程話した奴等が餌を探して走り回っているから、逃げたり退けたりしつつ『お菓子』を探してオウガの元まで辿り着いてくれ」
 ふわり、とグリモアが光を帯びれば。
 空のバスケットに口を尖らせる彼女の姿を最後に、猟兵の視界は白く染まっていくのだった。



 ――トリック・オア・トリート!
 お菓子をくれない子は、捕まえて食べちゃうぞ!
 ――トリック・オア・トリート!
 お菓子を勝手に食べちゃう子は、怖いところに連れてっちゃうぞ!

 わいわいがやがや、物騒な言葉で賑わう不思議の国。走り回る顔つきカボチャやコウモリたちは、猟兵の姿に気づくや否やわぁっと声を上げてこちらへと向かってきた。
 周りを見渡しても、目につくところにお菓子は見当たらない。そして幸い、未だ迷い込んでいるアリスもいないようだ。
 彼等から逃げつつ、オウガを探し出す為にお菓子を探さなければ。


みかろっと
 こんにちは、みかろっとと申します。
 今回はアリスラビリンスにて、まだハロウィンをしているオウガを倒すシナリオです。
 第一章、追いかけてくるお化けやコウモリに対処しつつ、不思議の国で彼等より先にお菓子を食べてください。お菓子は探せばなんでもありますのでお好きなものを指定してください。

 第二章にてオウガとのボス戦、第三章にて集団戦を突破できれば任務達成となります。
 皆様のプレイングお待ちしております。よろしくお願いいたします!
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第1章 冒険 『ホラー・ホラー・テラーナイト』

POW   :    気合で切り抜ける。

SPD   :    足で切り抜ける。

WIZ   :    慎重に考えて切り抜ける。

イラスト:葎

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ファルシェ・ユヴェール
空のバスケットを手にした彼女の姿……
なんだか懐かしいものを見たような

それにしても
……やはり、救えなかったアリスも居るのですね
数多の物語のような不思議の国は
見た目の愛らしさより随分と残酷です……

先ずはころりころりとまんまるの、飴玉のように見える宝石を造り出し
カボチャ達の意識がそちらに向いたうちにさっと身を隠し
コウモリに気付かれれば壁のように水晶の結晶を生やして阻害

隠れたり壁を造ったりしながら
墓地めいた場所の枯れた茂みに飛び込めば
一見、毒々しい色の木苺めいた小さな実のようですが
よく見ればお菓子なのでは
グミ……という名だったでしょうか

ひと粒、口にすれば弾力なかにぱちぱちと弾けるような食感に目を瞬いて



 トリック・オア・トリート!
 駆け回りながらそう叫ぶオバケ達――ではなく、空のバスケットを手にしていたグリモア猟兵の姿を思い浮かべて。ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は何だか懐かしいものを見たような、と和やかな微笑を浮かべつつ、件の不思議の国を訪れていた。

「それにしても――」
 オバケ達を見遣り、ファルシェは表情を少し引き締めて呟く。
「……やはり、救えなかったアリスも居るのですね」
 ファルシェは彼等の主であるオウガが『元アリス』であるという話を思い出す。この賑やかな国が誰かの絶望の成れの果てであり、同時に絶望を生み出すための場所なのだと――そう認識すれば。
 数多の幻想的な物語を思わせるような不思議の国は、見た目の愛らしさよりも随分と残酷だと。ファルシェは紫の瞳をすっと細くして、こちらに気づいたオバケ達へと向き直った。
「――トリック・オア・トリート!! トリック・オア・トリート!!」
 わあぁっ、とオバケ達が両手を上げてファルシェに近づく。
 ファルシェは指先へふっと魔力を練ると、ころり、ころりと可愛らしいまんまるの粒を造り出してオバケ達の方へと放った。
「お菓子!!!!!!」
「お菓子だー!!!!!」
 色とりどりにきらきら輝く、まるで飴玉のような――宝石。ファルシェのユーベルコードによって作り出された石はカボチャのオバケ達の目を奪い、その意識を少しの間、遥か向こうへと追いやった。
 その瞬間を狙い、ファルシェはさっと近くの物陰に身を隠す。
 宝石と気づいて視線を戻したオバケ達は明らかに戸惑った様子を見せ、悔しそうにどこかへ去って行こうとしていた。

 あとはお菓子を……とファルシェが顔を上げた、その時。
「見つけたっ!!」
 ばさばさばさっ!! と騒がしい羽音と共に響く声。影に隠れていたコウモリ達は一斉にけたけた笑ってファルシェに飛びかかろうと――
「ぎゃっ!!!?」
 ――する、寸前。ごちん! とコウモリ達は透明な壁、ファルシェの造り出した水晶に阻まれて跳ね返される。きゃあきゃあ騒ぐ彼等を残し、ファルシェはお菓子を探して先へ進んだ。

 カボチャに見つからぬよう身を潜め、飛び出してくるコウモリを水晶で阻んで。
 そうしてようやくファルシェが辿り着いたのは、如何にもホラーチックな、墓地にも見える場所であった。
 遠くからまたわあきゃあと騒ぐ声が聞こえ、ファルシェは其処にあった枯れた茂みへと飛び込む。薄暗く、かさりと葉の擦れる中で目を凝らせば、其処には――
「これは、よく見れば……」
 彼がそっと手を伸ばすのは、一見すると毒々しい木苺のような小さな実。細い指がそれを掴めばぷに、と程よい弾力が感じられ、仄かに甘い香りがふわりと漂った。
 ――これがオウガの元へ辿り着ける、『不思議の国のお菓子』なのでは。
 ぷち、とひと粒その実を摘み取って、彼はそう確信しつつ。
「……グミ……という名だったでしょうか」
 少し慣れない発音で小さく呟き、口に入れる。
 もぎゅっと柔らかなそれを噛めば、更にその弾力の中でぱちぱちと弾けるような食感。ファルシェが目を瞬くと同時に、甘酸っぱい味と香りが口の中に広がり――ふわり、彼の身体は不思議な浮遊感に包まれていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
そっかー元アリスのオウガかー。最近アリスを食べるではなくオウガにしようとするオウガが居るからその被害者かな?
あはっ、救わないとだな?

目に付くお化けや蝙蝠をとりあえず殲滅しながら歩き回る。
物探しはあんまり得意じゃないのだよな。
野性の感は生き物を探すのに使えても…お菓子にはなー。
地道に虱潰しに探すしかないか……。
ま!ただ単に探すだけじゃなくて、お化けとか蝙蝠とか斬り放題なら
飽きもしないか!

目に映った邪魔者は見敵必殺!一切殲滅!
ダッシュで近づいて薙ぎ払う!
攻撃は見切ってカウンター!
あはー!



「そっかー元アリスのオウガかー」
 訪れた不思議の国、その賑やかな住民たちを眺めつつ、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)は出発前に聞いた話を思い出して呟く。
 アリスに絶望を与え、その身を喰らうのではなく同族へと堕とそうとするオウガ。猟兵としてアリスラビリンスに赴く中で何度かそれを目にしてきたライアは、この国を創った存在がその『被害者』なのではと考えを巡らせていた。
「――あはっ、救わないとだな?」
 笑い、その手に武器を構えて。

 ライアはオバケやコウモリ達がこちらに気づき、一斉に向かって来るのを目で捉える。
 途端にお化けはわあっと両手を上げ、朗らかな声で決まり文句を口にした。
「トリック・オア・トリ――、ッ!?」
 ライアを捕らえようとしたカボチャの声が――ブツっと途切れる。
 振り抜かれたライアの剣はカボチャの頭を見事に砕き、更に近くのコウモリを巻き込んで纏めて真横へと薙ぎ払った。
 驚いたオバケ達が揃って悲鳴を上げる。
 それでも諦めずに飛びかかってくる彼等を一掃しつつ、ライアは前へと踏み込んだ。

 ――赤の瞳が光を返す。もう片手の刀がユーベルコード『剣刃一閃』の力を纏って美しく煌き、残るオバケを切り裂いていく。
 目に映る邪魔者は見敵必殺。次々に刃を振るい、前へ前へと進み続け――彼女はオウガの元へ辿り着くための『お菓子』を探し回りながら、彼等を殲滅していった。

 ――物探しはあんまり得意じゃないのだよな。
 ライアは周囲に目を凝らしつつ、心の中でそう呟く。
 生き物を探すのには適した彼女の鋭い野生の勘も、お菓子相手では中々発揮されないようだ。
「……地道に虱潰しに探すしかないか……」
 小さくぼやくものの、ライアはすぐに何時もの元気を取り戻して。
「ま! ただ単に探すだけじゃなくて、お化けとか蝙蝠とか斬り放題なら飽きもしないか!」
 そう言ってぐいと視線を動かせば――また、もう一体。

 けたけた笑うカボチャのお化けのいる方へ踏み出しながら、ライアは両の手に握った刃を一度構え直し――口角を上げた。
「あはー!」
 真っ直ぐに駆け、一気に距離を詰めたライアが思い切りカボチャの頭へと剣を叩き込む。砕けかけた頭がぐしゃと歪むと、その口が歯を食い縛るように真横に潰れて。
「ぐ、ッ……らぁっ!!」
 カボチャは辛うじて残る意識で、高く脚を振り回す。ライアはその蹴りを仰け反って躱すと、そのまま身を起こす勢いで刀をカボチャお化けの身へ振り抜いた。

 カボチャはバゴッ!! と良い音を立てて真っ二つに割り裂かれる。それをライアが薙ぎ払うと同時、カボチャはばらりと何か丸いものを散らして地面へと叩きつけられてしまった。
「……飴?」
 ころころと宙を舞うそれらは、色や形も様々な飴玉。
 果物を思わせる甘く爽やかな香りが辺りに漂う中、ライアはひとつそれを掴んでそっと口に入れた。

 飴玉はすぐにふわりと溶けて、弾けるような酸味と柔らかな甘味を口いっぱいに広げていく。
 それと同時にライアは身体が浮くような感覚に包まれ――不思議の国の奥へと導かれていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラリー・マーレイ
まずはお化け達に捕まらない様に逃げなきゃね。
UC【盗賊の極意】を使うよ。盗賊に最も必要な技術の一つが追っ手から逃げる術。戦わずに逃走に専念する。
「ウイングブーツ」の移動力強化の魔力で逃げながら、「蟷螂の籠手」から射出した鉤付きロープを高所に引っ掻けて【ロープワーク】で自身を移動させる等して追っ手から逃走。
物陰に隠れたり気配を消す事で追っ手をまくよ。

後はお菓子を探さないと。目につかないって事は隠されてるのかな。
行動は慎重かつ迅速に。盗賊としての嗅覚と直感を駆使してお菓子を探す。折角なら好みのお菓子がいいな。チョコレートプディングとかあればいいんだけど。



 未だ誰も捕まえられずにいるお化けやコウモリ達が、わあわあと騒がしく辺りを駆け回る。不思議の国へ訪れたラリー・マーレイ(少年冒険者・f15107)の姿に気づけば、彼等は朗らかな声でお決まりの言葉を叫びながら騒がしさを増した。
「トリック・オア・トリート! お菓子をくれなきゃ、食べちゃうぞー!!」
 ばたばたと大量の足音と羽音が一斉に近づく。ラリーは彼等と戦い退ける――ことはせず、ユーベルコード『盗賊の極意』を発動して彼等とは逆の方向へ走り出した。
「戦うだけが冒険じゃない、ってね」
 タンッ、とラリーの足元、魔力を込めた靴が彼の身を前へ前へと進ませる。
 彼は追いかけてくるお化け達をぐんぐん引き離しながら、パステルカラーに染まった岩や木々の間を抜けていった。
「待てーっ!!」
 お化け達はそれでもどうにかラリーを捕まえようと食らいつく。そんな中右へ、左へと追手から逃げるラリーの視線はふっと上へ向き――高く伸びる薄橙の岩壁を捉えた。

 近くの岩の後ろへ回り、お化け達の目から逃れた一瞬。
 ラリーは手元の篭手を高く掲げ、その先へ狙いを定めて。
 ――ヒュルルルッ!! とラリーの手首から勢いよくロープが伸びる。きらりと光った鉤爪が岩壁の天辺へ鋭く食い込むとほぼ同時、ラリーはロープを一気に縮めて自身を上へと引き上げた。
「うえーっ!?」
 高く高く上っていってしまったラリーに、お化け達は目を丸くしながらも悔しそうにぎゃあぎゃあと喚き出す。翼を持ったコウモリが急いで追いかけようと羽撃くが、壁の上には既にラリーの姿や足跡は残されていなかった。

「後はお菓子を探さないと」
 お化け達を撒いたラリーは暗い色の岩に身を潜めつつ、オウガの元へ辿り着く為の『お菓子』を求め進み出す。すぐに目につかないということは、どこか物陰や仕掛けの向こうなどに隠されているのだろう。
 彼は慎重かつ迅速に、直感を頼りに歩いていく。折角なら好みのお菓子が良いな、と頭でそれを思い浮かべつつ周囲の匂いを探れば――ふと。
「……っと」
 岩に手を付きながら歩いていたラリーは、突如その感触がぶにゅんと柔らかくなるのを感じる。同時にすうっと甘い香りが漂い、ラリーは思わず一歩距離を取ってそれに目を凝らした。

 周囲と同じ岩かと思われたそれは――ラリーが頭に浮かべていた、大きな大きなチョコレートプディング。
 ご丁寧に突き刺さっていたスプーンを引き抜き、彼は手の平大程度にそれをぷるんと削って一度見つめ、嗅いだ。
 毒の匂いや怪しい気配はしない。これは罠ではなく、オウガが造った『不思議の国のお菓子』だろう。安全を確認したラリーがそっとプディングを口に運べば、柔らかくとろける食感とカカオの香りが口いっぱいに広がった。

 まるで雲のようにふわと溶けてしまったそれを味わいつつ飲み込むと、途端にラリーは眠るような、夢の中へと誘われるような感覚を覚える。
 そうして不思議な浮遊感が身体を包めば、彼は此処とは別の空間へ転移していくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
元アリス、か…
出来れば間に合わせたかったけど…

翼の【空中戦】で空を飛び
敢えてお化け達の気を惹きつけながら進むよ

お菓子をあげなきゃ食べられちゃうの?
つまりお菓子あげたら見逃してくれるってこと?

イタズラっぽく笑う【指定UC】で(無自覚に)【誘惑】しつつ
まとめて動きを止めたところに★Candy popの【投擲+範囲攻撃】で
まとめてプレゼントしてあげる!
それじゃあこっちも、トリックオアトリート
あげたんだから貰ってもいいよね
そうだなぁ…じゃあ、金平糖はどこ?

言葉に【催眠】を乗せて誘導尋問しつつ
案内してもらえたら嬉しいけどね
効かないようなら催眠【歌唱】でまとめて夢の世界にご案内
その間に探させてもらうよ



「元アリス、か……」
 不思議の国に降り立った栗花落・澪(泡沫の花・f03165)がぽつりと呟く。
 出来ることならば、その子も救いたかった。絶望し、オウガになってしまう前に助けてあげたかった。
 彼がそんな想いに目を伏せる中、ふと向こうからわあわあと騒ぐ声がして。

「トリック・オア・トリート! お菓子をくれなきゃ食べちゃうぞ!」
 そう叫びながら両手を広げるのは、可愛らしいカボチャのお化けやコウモリ達。
 澪は敢えて彼等の気を惹くように大きく背の翼を広げると、ふわりと浮き上がって笑みを浮かべた。
「つまり、お菓子あげたら見逃してくれるってこと?」
 そう悪戯めいて笑えば――お化け達の声が、すうっとフェードアウトする。澪が彼等に向けた天使の笑顔はユーベルコードの力を混ぜて、無自覚にも周囲を魅了し誘惑していた。
 思わず動きを止めたお化け達に、澪はこんと小瓶を叩いてその中身を振り撒く。
「まとめてプレゼントしてあげる!」

 ころりころりと色とりどり、たくさんの飴玉が光って宙を舞う。お化け達は物騒な目的などとうに忘れて、わあっと嬉しそうな声をあげながらそれに手を伸ばした。
「お菓子だー!!!」
 飛んだり跳ねたり、可愛らしい飴玉の雨に歓声を上げて。
 ぱくぱくそれを口に含んだお化け達へ、澪はふわっと近づいて手を差し出す。
「それじゃあこっちも、トリック・オア・トリート」
「むぐっ!?」
 飴が詰まった口を慌てて閉じて、カボチャのお化けがぶんぶん首を振る。あげたんだから貰ってもいいよね? と澪がこてりと首を小さく傾げて笑えば、お化けはうーんと唸って飴玉を飲み込んだ。
「持ってないよ! 持ってたらみんな食べちゃうから、隠してるんだもの!」
 その言葉に、澪は少し詰め寄って。
「そうだなぁ……じゃあ、金平糖はどこ?」
「むぐぐぐっ!?」
 教えないよ! と言わんばかりにお化け達はまた口を閉じる。しかし澪の魔力が籠もった飴をわんさか飲み込み、言葉とともに催眠を掛けられた彼等は、少し悩みつつもぱっと口を開けて喋り出した。
「じゃあ、金平糖の場所だけ! そこだけだよ!」

 わあわあと騒がしく言って、お化け達は澪に手招きしながらどこかへと踏み出していく。
 楽しげな声と足音を響かせて、淡いピンクやグリーンに染まったパステルカラーの森を抜けると――奥にひとつ、きらきらと星を実らせたような樹が聳えているのが見えた。
 辺りに漂う甘い香り。澪がそっと樹へ近づけば、その実が可愛らしい金平糖であることがすぐに分かる。
 澪はくるりと振り向き、お化け達にお礼をと――
「お菓子だぁぁぁ!!」
 甘い香りに誘われてか、カボチャもコウモリも一斉に樹へ飛びかかろうとする。彼等が金平糖を食べ尽くしてしまってはいけないと、澪はすうっと息を吸い込み喉を震わせた。
「――」

 ぱたり。お化け達は澪の歌声を聴くや否や、その場に伏せてぐうぐうと呑気ないびきを立て始める。その間にと澪は金平糖をひとつ摘んで手に取り、そっと口に含んだ。
 橙の粒を軽く噛めば、軽い食感とともに甘く、爽やかな香りが広がる。蜜柑やオレンジに近いその味をゆっくりと味わえば、澪はふと視界が白く染まり始めているのに気づいた。
 そのまま、ふわり、ふわり。金平糖を飲み込んだ澪は、この国へ訪れた時に似た不思議な浮遊感に包まれていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ハッピーシュガー』

POW   :    ビッグポップ
【巨大なロリポップ】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    キャンディースコール
【お菓子を食べる事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【キャンディーの雨】で攻撃する。
WIZ   :    ゴーストパンプキン
自身の身長の2倍の【カボチャお化け】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。

イラスト:kae

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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黒白・鈴凛です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 不思議な感覚のあとに猟兵が目を開ければ、そこは静かな夜の街らしい空間。
 無機質な建物と石畳が囲む人気のない通りには、橙や黄色の光がぽうとあちこちに灯り、先程の場所にいたようなカボチャやコウモリの飾りが賑やかに並んでいる。

 そんな場所に、こつり、小さな足音がひとつ響いた。
「お菓子、食べたってことは……皆も、ハロウィンを楽しみたいのかな?」
 猟兵を見つめ、そうにやりと笑みを浮かべる人影は――猟兵やアリス、ではない。
 彼はこの不思議の国の主、オウガ『ハッピーシュガー』であった。
「ハロウィンは良いよね、お菓子が沢山貰えて、食べ放題! 衣装も髪も好きに飾って、街を自由に練り歩ける! ここならずっとそれが続くんだ!」
 笑うその瞳は狂気に光り、歪んで。

 突如ハッピーシュガーがトリック・オア・トリート! と大きく手を広げて叫ぶ。
 街の灯りが震えると、その奥――暗くなっていた道の向こうで、不気味な門のようなものがぼんやりと照らされてその姿を見せた。
 あれはおそらく、嘗て彼の『自分の扉』であったものだろう。
 しかし最早、それが開く様子も、彼をどこかへ導く様子も一切無かった。
 つまり、もう彼は帰らない。元の世界を望まない。
 大好きな大好きなハロウィンを楽しむ為に存在し、存在し続ける為に餌と仲間を求めるのみ。

「さぁ、君たちは僕のお菓子になってくれるのかな? ずうっとここで遊んでくれるのかな? どっちでもいいよ、好きな方を選ばせてあげるから!」

 このオウガの被害がアリス達に及ぶ前に、彼を討伐しなければ。
ラリー・マーレイ
この人が元アリスか……。
僕は勇者じゃないから、世界の全員を助けるなんて出来ない。救えなかった、なんてのは思い上がりだ。分かってるつもりだけど、対峙するのはキツいな……。

せめて、真正面から全力で相手しよう。
UC【一の剣】使用。
弓を引き絞る様に、左手の盾を前に構え右手の長剣を水平に構える突きの姿勢で力をたわめる。基本の、片手平突きの構え。
「お菓子、美味しかったよ。
追いかけっこも楽しかったけど、ごめん。今は仕事中なんだ。君を倒すよ。」
相手の技は射程が短い至近攻撃と見た。僕に接近しようと突進してきた所を【盾受け】して力を少しだけ横に逸らして、相手の力を利用した【カウンター】の突きで【吹き飛ばす】よ。



 元アリス。つまりは何らかのきっかけによって、アリスではなくなってしまった者。そんな存在である筈の『ハッピーシュガー』は明るく――いや、明るすぎる程の笑顔を浮かべ、不思議な光と甘い香りを漂わせてくるくると回っている。
 狂気に満ちた笑みは、彼が絶望の成れの果てであることを示してひどく歪んでいた。

 苦い顔で、ラリー・マーレイ(少年冒険者・f15107)は『それ』に対峙する。
 自分はまだ、勇者ではない。だから、世界の全員を助けるなんて出来ない。目の前で狂う彼を『救えなかった』と、自分の手がそこへ届いた可能性を考えるのは――思い上がりだ。
 そう分かっているつもりでも、キツい。
 ラリーはせめて、と――真正面から、全力で相手することを心で誓った。

「……さ、どっち? お菓子を食べてここに来たってことは、君もハロウィンを楽しみたいんだろう?」
 ハッピーシュガーはラリーに笑みを向け、答えを待つ。
 お菓子か、遊ぶか。ハロウィンを楽しむ子供の決まり文句にも似た問いは、あまりにも物騒な意味を込めて響いていた。
 当然、彼に食べられる気も、此処に留まり続ける気もない。
 ラリーは先程食べたあの甘味を思い出しながら、ハッピーシュガーに向けて言葉を放った。
「お菓子、美味しかったよ。追いかけっこも楽しかったけど――」
 なら、とハッピーシュガーは瞳に小さく光を浮かべる。
 しかし、ラリーの言葉は静かに続いた。
「ごめん。今は仕事中なんだ。君を倒すよ」
 そう、ユーベルコード『一の剣』を発動させて。
 左手の盾を真っ直ぐに前へ、右手の長剣を水平に。弓を引き絞るような突きの姿勢、攻撃の構えをとったラリーに――ハッピーシュガーはかくりと肩を落として、けたけた笑っていた。
「……そっか。そっか……そ、っか!!!!」
 苛立ったような声でハッピーシュガーが右手を高く上げる。緑の光がぎゅるりと飛び出した瞬間巨大なロリポップがそこへ現れ、ハッピーシュガーはそれを武器のように掴んで駆け出した。

 ――単純な打撃。射程の短い、至近距離の攻撃。
 ラリーは瞬時にそれを判断し、向かってくる軌道を見切る。甘い香りと共にグォンと振り上げられたロリポップを確かに目で捉え、前へと出していた盾を僅かにそちらへ向けた。
 ガゴッ! と硬い衝突音。ロリポップがラリーのすぐ横で空振ると、その勢いでハッピーシュガーはラリーとの距離を一気に詰める。
 せめて拳を、とハッピーシュガーが腕を動かした頃には――既に。
 ラリーの姿勢は鍛錬を積み重ねた基本の構え、片手平突きの形をとっていた。
「――はぁっ!!」
 滑るように、長剣が力強く前へと飛び出す。刃はハッピーシュガーの右肩を捉え、突進の勢いを緩めながら深々と突き刺さった。
 ラリーがそのまま長剣を握る手へ力を込め、思い切り押し出せば――ハッピーシュガーの身が後退し、吹き飛ばされていく。
「ぅ、ああああああああああっ!!!」
 まるで幼い子供のような、悲痛な叫びを上げながら。
 ハッピーシュガーはロリポップを手放して、冷たい石畳に勢いよく転がるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
お菓子は好き?
自由は好き?
僕も大好きだよ、君と同じ
でも…でもさ。元の世界はもっと大事だから

帰りたくない理由があるのなら聞いてあげる
話せないなら無理には聞かない
どちらにしても…夢から覚める時間だよ

★Venti Alaに風魔法を宿し【空中戦】
★Candy popを【投擲】でパラパラと降らせ
貰ってくれるなら喜んでプレゼントするよ
でも貰ってくれないなら…飴に含む魔力を媒介にして
炎魔法の【高速詠唱、属性攻撃】を流し込み小さな手榴弾に変化させ
無数の破裂による爆炎で目眩し

その間に【指定UC】を展開
【優しい祈り】を乗せ与える痛みを和らげた【破魔】の花弁を
柔らかな【催眠歌唱】で操り
お化けさんごと浄化攻撃



 祭りにしては閑散としていた夜の街へ、ぽん、ぽぽぽんと何かの影が増えていく。ハッピーシュガーがくつくつ笑って立ち上がると、その影達も一斉に立ち上がり――朗らかな声で、叫んだ。
「――トリック・オア・トリート!!!」

 途端、街は一気に賑やかになる。栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はその主の元へ歩み寄りながら、そっと問い掛けるように囁いた。
「……ねえ、お菓子は好き? 自由は好き?」
「勿論」
 ハッピーシュガーは口角を上げて答える。
 お菓子は沢山あるし、いつまでも自由でいられる。ここはそんなお祭りの続く楽園だから。
 だから――ここから出ていく気は無い、と。

 その言葉に澪は頷き――しかしゆっくりと目を伏せ、首を振った。
「僕も大好きだよ、君と同じ。でも……でもさ」
 そうして、真っ直ぐに『元アリス』の方を向いて。
「元の世界はもっと大事だから」
 澪がそう紡げば、ハッピーシュガーはギリ、と歯を軋らせて。
「大事……? ……元の世界なんか、帰るもんか。あんなところに、戻るもんか !!!」
 叫び、ぎろりと澪を睨む。先程までの歪んだ笑みとは一変、その表情は焦りと不安に満ちて冷や汗を流していた。
 そんな、明らかな動揺に。
「……帰りたくない理由があるのなら聞いてあげる」
 無理には聞かない、と優しく付け加えて。
 そう寄り添うように澪が一歩近づけば、ハッピーシュガーはふるふる首を振って後退する。
 アリスが目指し、求めるはずの元の世界。それを拒む理由とは当然辛いものだろう。
 それでも、いつまでも偽りの楽園に閉じこもり、他のアリスまで巻き込み傷付けて良い理由にはならない。

 ――夢から覚める時間だよ。
 その澪の言葉が響いた瞬間、ハッピーシュガーは血相を変え、怯えるように腕を振り回した。
「来るな……来るなっ!! い、行け、お化け達っ!!」
 ケタケタ笑い出したカボチャのお化けは、その言葉に応じてわあっと澪のほうへ飛び出す。
 石畳に弾むそれらが地面を揺らす中、澪はふわりと翼を広げ、足元へ風の魔法を宿して高く浮き上がった。
 カボチャのお化け達は一斉に上を見上げ、澪を追おうと強く床を蹴る。彼等の視線の集まる先で、澪はぱらっと沢山の粒を広く振りまいた。
「プレゼント、貰ってくれる?」
 雨のように降り注ぐ、甘い飴玉の数々。
 先程追いかけてきていたお化けやコウモリ達が喜んで受け取っていた筈のそれは――今飛び上がろうとしているカボチャ達を惑わせてはいないようだった。
 ただただ、澪を狙って。主の命に忠実に、ぼこぼこと重い身体を弾ませて。
 味わわれることなくからころと転がる飴玉に少し残念そうな表情を浮かべつつ、澪はくるりと身を回し、そちらへ向かって手を広げた。

 ――ド、ゴォォォォッ!!!
 突如爆ぜた炎に石畳が激しく割れ、カボチャを巻き込んで煌々と燃え盛る。
 澪の魔力を内に秘めていた沢山の飴達は、一瞬にしてその姿を小さな手榴弾へと変えていた。
 炎と煙が視界を遮る中、澪は上空の澄んだ空気をすうっと吸い込む。
「幸せのままに眠れ」

 ふわ、ふわと澪の声に惹かれるように、無数の花弁が街を舞う。ユーベルコードを纏うそれは炎の間を縫いながら、澪の祈りを乗せてお化けとハッピーシュガーの周囲を回りだした。
「トリック・オア・トリ――」
 無機質に叫ぶお化けの声が途切れ、消えて。
 澪の柔らかな歌声が優しく、優しく響く街で、ハッピーシュガーは彼の従えるお化け達ごと花弁に呑み込まれていく。
 刃に襲われながらも痛みは無く、ただ心に刺さったままの棘が抜き去られるような感覚。ハッピーシュガーは音もなく頬を濡らし、炎の中で膝をつくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
元の貴方の事は何も存じませんから
戻りたくないと言うのならば
そうなのですかと首肯して
貴方だけの、楽しい世界……誰も巻き込まないのなら
それでも良かったのかもしれませんが

しかしながら
他のアリスに犠牲を求めてしまった時点で
それは楽しいハロウィンでは無くなってしまったのです
楽しいのは貴方だけ

いいえ
……本当は、気付いているのではありませんか?

安らぎのネフライトで貴石の騎士を創造し、
ロリポップを真っ向から受け止める
硬い石ではありませんから、欠ける事でしょうが
それでも

お化けやコウモリ達はお菓子もくれない、仮装もしない
遊んでくれる人が誰もいないハロウィン
それが永遠に続けば、きっといつかは楽しくない
だから、せめて



 いやだ、戻りたくないと首を振り、焦燥した様子でよろめくハッピーシュガー。彼が元の世界を嫌い、拒んでいることは明らかであったが、しかしその理由を話す気は毛頭無さそうであった。
 そうなのですか、とただ首肯して、ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)が一歩踏み出す。祭りと言うには閑散とした夜の街では、その靴音ですらこつりと響いて空に溶けていくのが感じ取れた。
「貴方だけの、楽しい世界……誰も巻き込まないのならそれでも良かったのかもしれませんが」
 ――しかし、この世界は。
 お菓子を沢山くれる人も、好きに着飾り歩く人も、今はどこにも居やしない。
 まだまだ、まだまだ人が、アリスが――『犠牲』が必要なのだ。

 お菓子をばら撒き、自分を飾って楽しんでいるのは。
 今この世界に於いて、ハッピーシュガーだけなのだから。
 ――故に、楽しいのは貴方だけ。
 ファルシェは諭すようにそう告げた後、すっと視線を正面に向けて。
「……本当は、気付いているのではありませんか?」
「っ……!!」
 黙り込み、目を丸くする。しかし少しの間を置いて、ハッピーシュガーは頭を掻き毟りながら声を荒げて叫びだした。
「る、さい……うるさい!! 違う、僕はただ楽しくて、自由な場所を――」
 ハッピーシュガーはぎろりとファルシェを睨み、片手を高く掲げて巨大なロリポップを出現させる。大きくそれを振り回しながら駆けてくるその少年に、ファルシェはそっとひとつの貴石を取り出して。

 ふわり、と彼の魔力が掌の上を伝う。やわらかな翡翠が人のかたちを映し、ファルシェの前へ騎士を顕現させれば――ハッピーシュガーの振り下ろしたロリポップが、ガキン!! と重い衝撃を生んで止まった。
 ――硬い石ではありませんから、欠ける事でしょうが……
 そんなファルシェの予想通り、真っ向からロリポップを受け止めた騎士の腕には、ぴしりと確かなヒビが刻まれてしまう。それに気付いたハッピーシュガーはにやりと笑い、そのままロリポップを押し込もうと腕に力を入れた。
「砕、……けろっ!!」
 ビキッ、とヒビが広がる。
 それでも騎士は思い切り腕を前へ出し――硬いロリポップを思い切り弾き返した。
 ハッピーシュガーはぐらりと体勢を崩して地面へと向かう。大きな隙が生まれれば、騎士はファルシェが指示を送るとほぼ同時に強く一歩踏み込んで。
 空気を鳴らし、斬るのは――騎士を形作る輝きと同じ、ネフライトの剣。

 気付いていたのだろう。分かっていたのだろう。
 この国は寂し過ぎる。他のアリスを犠牲にしなければ、遊んでくれる人も、お菓子をくれる人も、誰ひとり集まってはくれない。
 それでも、これがアリスの絶望の果て。
 元の世界を自ら棄ててオウガと化し、どうにか自分を保とうと創り上げた理想の箱庭。
 大好きなハロウィンも、そんな悲しいままで永遠に続けば――きっと、いつかそれ自体も楽しくないものへ変わってしまうから。

 ――だからせめて、絶望してしまった『元アリス』に安らぎを。
 騎士のネフライトがハッピーシュガーの背を貫き、そのまま石畳を突く。
 かつん、と手を離れたロリポップが砕けると同時、ハッピーシュガーは小さく息を揺らして暗い地面に赤を散らすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
楽しむ? いや? 終わらせに来たんだよ。
トリックオアトリートなんてもう遅い。
怖い怖い終わりが、キミを攫いに来たんだ。

射程30cmだと解っているなら加速とか搦め手とかない限り、距離を見極めるのは容易い事だな。
元アリスのオウガなら、そんな戦闘経験も無いだろうし。
距離を見切って避けて、振り切られたらカウンターでロリポップを剣刃一閃で切断。
返す刀で切り捨てる。

分からなかった? 帰らずにそっち側になったらボクみたいなのが来るんだ。どんな理由があってもそっち側に成ったのなら、報いが来るってわからなかった?
私はお前を助けないよ。



 荒い息を吐いて、ハッピーシュガーはロリポップを杖にしつつ何とか立ち上がる。
「……楽、しもうよ。ここで……ずっと、ずっと、ハロウィンを――」
 ね、と彼が引き攣った笑みを向けた先。
 宮落・ライア(ノゾム者・f05053)は前へと踏み出しながら、笑顔で首を傾げて口を開く。
「楽しむ? ……いや? 終わらせに来たんだよ」
 ――トリック・オア・トリートなんてもう遅い。
 怖い怖い終わりが、キミを攫いに来たんだ。
 そう突きつけるようにライアが言葉を紡げば、ハッピーシュガーは怯える子供のように小さく喉で音を鳴らす。
 嫌だ。この楽園を、終わらせたくない。まだ――ハロウィンは続くんだ。
 ぶんぶんと青い顔を真横に振り、ハッピーシュガーはその手のロリポップを握り締める。硬い飴がヴォン、と空気を鳴らせば、ライアは両手の刃を構えてそれを待ち受けた。

 巨大とはいえ、あのロリポップのリーチはそう長くない。その上焦り、判断力を失い、力任せに武器を振るうその戦い方は――お世辞にも、高度とは言い難かった。
 変異しているとはいえやはり彼も元アリス、戦闘経験が豊富というわけではないのだろう。
 そんな、単調な動きを見極めるのは容易い。ライアは冷静に距離と軌道を見切ると、不意に一歩右へ身を動かした。
 ロリポップが思い切り空振って、ハッピーシュガーは勢いよく前へ倒れかかる。しかしそれでも食らいつくように地を蹴ると、彼はライアの頭部目掛けてロリポップを振り回した。
 再び、何の小細工もない飴の打撃が近づく。ライアは刀を握り直すと、剣刃一閃――ユーベルコードを纏う、鋭い斬撃を繰り出した。
 ――衝突と同時に、ライアの刃はすうっと飴へ食い込んでいく。

 そして――音もなく、硬い硬い飴玉が真っ二つに割れた。
「なっ……!」
 棒だけになったロリポップに目を丸くするハッピーシュガー。
 瞬時にライアが一歩踏み込み、距離を詰めて確実な一撃をと刃を構える。

 開いた胸から赤を流すオウガの体は、既に満身創痍であった。
 終わった、と目に涙を浮かべ、助けを乞うように息を震わすハッピーシュガーへ――ライアは勢いを緩めぬまま、諭すように言葉を放つ。
「分からなかった? 帰らずに『そっち側』になったらボクみたいなのが来るんだ」
 帰りたくない理由があっても。絶望し、存在を変異させる程の出来事があっても。『そっち側』に成り、他を犠牲にして楽しもうなどと考えれば。
「――報いが来るってわからなかった?」
 これは、その報いだと。ライアは細く息を吸い込み、止めを刺すべく力を込めて。
「私はお前を助けないよ」

 その瞬間、ハッピーシュガーの懇願するような目が伏せられ、乾いた笑みがくくっと漏れる。
 ――なら、僕を絶望させた『アレ』にも、いつか報いは来るんだよね、と。
 紡がれる前に、ぞぶり、とライアの刀が容赦なくハッピーシュガーの身を両断する。
 崩れるように散るそのオウガは、最後まで笑い――何かに手を伸ばして、消えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『ストレンジ・レインボー』

POW   :    ソロモン・グランディの永遠
敵を【ぽこぽこ殴って皆】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
SPD   :     終末の過ごし方
技能名「【団体行動】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ   :    奇妙な虹彩
自身が戦闘で瀕死になると【アリスを素材にしてストレンジ・レインボー】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:橡こりす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ハッピーシュガーが消滅した瞬間、猟兵達の視界は一番最初に訪れた『不思議の国』へと移り変わる。しかしカボチャやコウモリの姿は既に無く、代わりにわらわらと集まってきた小動物――否、この国にいた愉快な仲間達が、口々に『おかえり!』『大丈夫だった?』と猟兵の身を案じて言葉を掛けていた。
 そんな中で、可愛らしい口ひげを生やした小さなリスが深々と頭を下げて。
「……感謝しますのじゃ。あの、狂った祭りが終わりまして。皆さんも、無事にあのオウガの夢から覚めまして。我々も、これからは隠れること無く平和に――」
 しかしその言葉を遮るように、ガゴォォォォッ!! と轟音が響く。
 不思議の国は激しく地を揺らし、そして人のような形をした何かを生み出し始めていた。
「た、大変ですじゃ……」
 ひげのリスはあわあわ震えて回りを見渡す。
「ああ、大変ですじゃ。この国はもう、主を失って『だめ』になったようです。皆さんも、早く逃げてくだされ」
 たたーん、とリスと共に愉快な仲間達が遠くへ駆け出す。
 主であったオウガが消滅したことで、崩壊を始めた不思議の国。ここに留まるのは危険だが――それよりも。

 生み出された人形達。彼等からは確かに、オウガの気配が感じ取れた。
 ぽこ、ぽこぽこ。カラフルで可愛らしいそれらは、駆け抜ける愉快な仲間達に近づくや否や、殴りかかろうとしたり取り込もうとしたりと確かな敵意を持って襲い掛かっている。
 あれを野放しにし、別の国へ逃してしまえば、また別のアリスが被害に遭ってしまうだろう。
 幸いその数は目で捉え切れる程。対処が間に合えば、この場で殲滅し切ることもできる筈だ。
 不思議の国が崩壊しきる前に、彼等を倒して脱出しなければ。
栗花落・澪
この国の事は残念だけど…見逃すわけにはいかないね
これから失われるかもしれない命まで見過ごすわけにはいかないもの

せめて終わりは楽しくいこうよ

翼の【空中戦】で飛び回りながら【指定UC】を発動
奏でる【歌唱】に合わせて宙に実体化していく五線譜は
団体行動を行うレインボー達を縛り上げる縄として
歌詞を紡げば物理的に飛んでいく文字達は
カラフルな弾丸のようにレインボー達を貫いていく

君達の音はどんな色?
聞きたいな、君達の音
楽しく明るいリズムに乗せて戦場を彩りながら
【破魔】の★花園を広げて風の【高速詠唱】で花嵐を起こす【範囲攻撃】
これは追悼だよ
国への、彼への、そして君達への鎮魂歌

見届けてあげるから
終わりにしようね



 空に大きな亀裂が入る。地が震え、遥か下の何処かへと崩れ落ちていく。
 ――もう既に、崩壊を止めることは叶わないだろう。
「この国のことは残念だけど……見逃すわけにはいかないね」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は翼を広げ、ふわりとその身を宙へと浮かばせる。
 崩壊が止められなくても、これから失われるかもしれない命――まだ、救える命がある。それを見過ごすわけにはいかないと心で頷いて、彼は愉快な仲間達の駆ける方へと羽ばたいた。

 途端に視界に入るのは、悲鳴と足音が響き、オウガがわらわらと蠢く終末。
 それは正に『絶望の国』と言わんばかりの光景であったが――澪はそれを少しでも和ませるように、柔らかく、明るい笑顔を見せて口を開いた。
「せめて終わりは楽しくいこうよ」
 すうっと息を吸い込み、彼が歌い出すのは。
「教えてあげる。世界に溢れる鮮やかな音!」
 空を駆ける天使の声が、ら、ら、と滑らかなメロディを奏でていく。
 ユーベルコード『彩音』がその音を五線譜の形に変え、長い長いロープとなって巡り出せば、それらは愉快な仲間達を囲もうとしていたオウガ達の身を一気にぐるりと囲んだ。
「〜〜ッ!!」
 物言わぬ虹色の人形達は五線譜に縛り上げられ、じたばたと暴れ出す。
 澪はその隙に遠くへと逃げていく愉快な仲間達を見送って、音だけで奏でていた歌へ言葉を乗せ始めた。

 紡がれる歌詞はカラフルな弾丸のように実体をもち、オウガを貫いて滅していく。
「君達の音はどんな色? 聞きたいな、君達の音」
 ふわ、ふわと飛び回りながら、楽しく明るいリズムを刻んで戦場を彩るように歌う。
 五線譜に縛られ、言葉の弾に貫かれても未だ暴れようとするオウガの足元へ向けて、澪は魔力を込めて大きく花園を広げた。

 彼が歌の間で瞬時に風の魔法を口遊めば、オウガ達は花の嵐に巻き込まれて次々に骸の海へとその身を還してしまう。
 そんな中――花嵐を操る澪の手が、轟音を立てて崩れる空へ向けてふっと高く掲げられた。
「これは追悼だよ。――国への、彼への、そして君達への鎮魂歌」
 言葉と同時、花は風とともに舞い上がり、国を包むように広く広く散っていく。
 流れるように響いていた歌に終止符を打ちながら、澪は優しい微笑を浮かべて呟いた。
「見届けてあげるから、終わりにしようね」

 ――偽りの祭りの国が、終わっていく。
 アリスの絶望が創り上げたその国は、お菓子やお化けを失っても尚――歌と花に包まれた『楽しい終わり』を迎え、緩やかに崩れていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラリー・マーレイ
この世界を救う事は出来なかったけど、せめて住人のみんなは無事に逃がさないと。

UC【浮遊の呪文】を使って、33の「蟷螂の籠手」の複製を召喚、周囲に浮遊させる。
その全てから魔法のロープを伸ばして【ロープワーク】で制御。蜘蛛の糸に捉える様に人形達を縛り上げるよ。
「みんな、今のうちに逃げるんだ1」
と声をかけて愉快な仲間達を避難させる。

絡めたロープを引き絞って、人形達をなるべく一纏めにしたら、更に33の「フレイムタン」を召喚。
人形を取り囲む様に浮遊させた小剣の群れを【誘導弾】にして一斉に敵達に突き立て、炎の【属性攻撃】で【焼却】する。

僕も早く逃げた方がいいかな。でも、逃げ遅れた住人がいないか探さなきゃ。



 最早、この国を救うことは出来ない。支えを失った木々がばたばたと倒れ、ヒビの入った地や空が失われていく光景からは、それがはっきりと理解できるだろう。

 それでもせめて、残された住人達は無事に逃さなければ。ラリー・マーレイ(少年冒険者・f15107)は逃げ惑う小動物――愉快な仲間達の方へ駆けながら、ユーベルコードを起動すべく『浮遊の呪文』を詠唱し始めた。
「ラーイ・ターザンメ・フェーエイン・イェーター!」
 その力は『蟷螂の籠手』へと向けられ、ラリーの周囲へ三十三のコピーを作り出す。
 彼の向かう方、群れを成して愉快な仲間達に飛び掛かるオウガ達を囲むように、ラリーは籠手を飛ばして更に魔力を込めた。
 ――シュルルルッ!! と全ての籠手が蜘蛛のようにロープを吐き出す。
「――!!!」
 オウガ達の間を縫うように放たれたロープは、ラリーが籠手を動かすと同時に複雑に絡まっていく。ラリーがそのままぐるりとオウガの身を縛り上げれば、襲われかけていた愉快な仲間達が顔を上げ、わあっと安堵したような声を上げた。

「みんな、今のうちに逃げるんだ!」
 ラリーの言葉に頷いて、愉快な仲間達は礼を述べるや否やすたたっと遠くへ逃げていく。
 そして住人を巻き込む危険がないことを確認すると、ラリーはオウガを縛るロープを強く引き絞ってぎゅっと一点へ纏めた。
 オウガがじたばたと暴れる中、ラリーは残していた『浮遊の呪文』の力を解き放つ。籠手と同じ数――三十三の両刃剣を召喚したラリーは、それをオウガ達を纏めた地点へ向けて一斉に突き立てた。
「ーーーーッ!!!」
 ゴォォォッ!!! と炎が轟き、刃に貫かれた虹色の人形が燃やし尽くされていく。
 ぐわっと絵の具を煮詰めたような悪臭が漂い、炎とともに消えた頃には――そこに、オウガの姿は残されていなかった。

 ふうと息をついて、ラリーは崩れる空を見上げる。
「僕も早く逃げたほうがいいかな。でも――」
 逃げ遅れた住人はいないだろうか、と周囲を見渡す。オウガに襲われていなくても、逃げる方向の分からない者、障害物に阻まれてしまった者がいては大変だ。
 ふと、ラリーの視線が暗い色の岩に向く。
 空や地面と同じように崩れていく、大きな大きな岩――の、間。
「ぢぃぃぃ……」
 ぷっくりとしたピンク色のネズミが、岩に嵌ってばたばた手足を動かしているのが見えた。
「……!! 大丈夫、今助ける!」
 ラリーはすぐさまそちらへ駆け、ネズミを引っ張り出して小脇に抱える。ガゴン!! と激しく崩れる岩の間を抜けて、ラリーはネズミと共に愉快な仲間達のいる方へと向かって行くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
うん、来るよ。大丈夫。私はそう言うものになるために居るんだから。
私はヒーローで英雄だからね。

さて、と。
邪魔と言うか発つ鳥跡を濁さずとするには汚らしすぎる物が出てきたものだね。
愉快な仲間に纏わりつきに行ってるなら距離を詰めるのは簡単かな。
歩幅の差もあるしね。
近づいて掴んで【唯潰】で確殺。
目で捉えられる数なら、一体一体確実に潰して行っても大丈夫かな。

国が一つ壊れちゃったかー。
うーん。アリスラビリンスは難儀だなー。



 ――なら、僕を絶望させた『アレ』にも――
「うん、来るよ。大丈夫。私はそういうものになるために居るんだから」
 あの元アリスが残した問いに、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)がそう答える。
 ひげのリスの『オウガの夢から覚めた』という言葉が本当であれば、ハッピーシュガーの消えた今、再びあの扉のある空間へ訪れることは叶わないのだろう。
 それでも彼女はボロボロに罅割れた空を見上げ、手向けるように言葉を続けて微笑んだ。
「私はヒーローで英雄だからね」
 絶望し『そっち側』に成り果てた彼を助けることはせずとも、等しく報いを受けさせることで――いつかは。

 すっと視線を戻せば、向こうに未だ逃げ惑う愉快な仲間達の姿が見える。ライアはその後方、彼等を追いかけ群がるオウガを目で捉えた。
「さて、と」
 息を整え、オウガの居る方へ踏み出しながら。
「邪魔というか、立つ鳥跡を濁さずとするには汚らわし過ぎるものが出てきたものだね」
 武器は構えぬまま、ライアはその手にユーベルコードを宿して呟く。
 向こうで繰り広げられる小動物と小さな人形の追いかけっこはそう速いものではなく、距離を詰めるのは簡単であった。

 強く、地を蹴り――瞬時に、至近距離へ。
 愉快な仲間達に殴りかかろうとしていた人形は、突如背後に近づいたライアにびくっと肩を震わせ振り向く。
「――」
 ライアは人形をひとつ掴み、思い切り地面へ叩きつける。紛れもない力業『唯潰』が赤い人形を粉砕した瞬間、ライアは更に手を伸ばし――またひとつ、人形の頭部を掴んだ。
 ――数はそう多くない。
 ライアは素早く手と足を動かし、愉快な仲間達に群がるオウガの一体一体を確実に潰し、処理していった。
 そんな中、反撃をと人形が跳び上がり、ライアに向かって拳を振り上げる。しかし気配すら隠さないその一撃は虚しく空を切り、瞬時に頭部を掴まれて真下へと落とされた。

 ――ぶにぃっ、と不気味な音と共に、群れの最後の人形が爆ぜる。
 見える範囲にいたオウガを殲滅しきったライアは、自らも脱出するべくぐるりと周囲を見渡した。
 遠くの空はもう既に、砕けてのっぺりとした黒を覗かせている。
「うーん。アリスラビリンスは難儀だなー」
 そう呟き、息をついて。
 ライアは一歩踏み出し、崩れ行く不思議の国を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
……嗚呼、既に崩壊は避けられないのですね
誤った道とはいえ、あの子の夢見た国
……絶望に寄り添った国
お菓子を供えてあの子の冥福を祈るには、きっとよい場所であったのですが

ともあれ
本来住人であるリスさん達は勿論
別の国にも被害を及ぼす訳には参りません
数が居るなら先ずは味方を増やす事に致しましょう

先程割れたネフライトの破片に魔力を込め
再び騎士の姿を創り出し、今度は己も仕込みの刃を抜いて並び立つ
私の場合、広範囲に数を斃すような攻撃手段はあまり持ちません
その代わりに、と言っては何ですが
愉快な仲間達により近く、脅威を与えているものを優先的に相手取り
この場の犠牲を出さぬよう立ち回りましょう

……この国の最期の為にも



「……嗚呼、既に崩壊は避けられないのですね」
 青かった空は黒く欠け、踏める地面も少なくなった不思議の国。最早それを止める術がないことを悟り、ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)はそっと帽子の鍔を下げる。
 オウガに成るという『誤った道』とはいえ、ここはあの元アリスが夢見た国。
 沢山のお菓子と自由に溢れる、楽しい祭りを続けようとした国。
 ――絶望に、寄り添った国。
「お菓子を供えてあの子の冥福を祈るには、きっとよい場所であったのですが」
 しかし、此処はもう長く保たない。ハッピーシュガーと戦ったあの場所も、リスの言う通り彼の夢であったのならもう訪れることはできないだろう。

 切り替えるように息を吐き、首を振る。ともあれ、とファルシェが前を向けば、彼の目には狭い草原で逃げ惑う愉快な仲間達の姿が映った。
 彼等に襲い掛かるのはカラフルな人形、絶望の国から生まれてしまったオウガ達。数は両手で数えられる程、体躯もそれほど大きくはない――が、小動物の姿をした愉快な仲間達にとっては十分な脅威のようだった。
 本来ここの住人である彼等は勿論、別の国にまで被害を及ぼす訳にはいかない。
 あのオウガ達を残さずここで倒し切る為、ファルシェはその手のネフライト――先程割れてしまった貴石の破片へ、ふわりと魔力を込めた。

 轟き崩れる空の下、安らぎの輝きが眩く広がる。
 直後震える大地に立つのは、あの戦いと同じ――穏やかな緑を纏った鎧の騎士だった。
 ファルシェはその横に並び立ち、己も仕込みの刃を抜く。彼は騎士と共に強く地を蹴ると、怯えて目を瞑る愉快な仲間達の方へと駆け出していった。

 ぐるりと愉快な仲間達を囲み、一斉に拳を振り上げて殴りかかろうとするオウガ。そこへ辿り着いたファルシェは小さな人形の首元に狙いを定めると、一気に距離を詰めてそれを貫く。
「――ッ!!!」
 人形の一体が爆ぜれば、オウガ達はざわっと動揺を見せて動きを止める。
 すかさず、近くのオウガから一体ずつを確実に。
 一度に多くの数を斃す手段は無くとも、この場の犠牲を出さぬように立ち回ろうと。
「……この国の最期の為にも」
 ――呟き、確かに前を見て。

 汎ゆる方向から襲い掛かってくるオウガを斬り倒し、ファルシェは愉快な仲間達の逃げ道を作っていく。輪の一点を崩し、開いた隙間をネフライトの騎士と共に広げれば。
「ありがとー!」
「感謝しますじゃー!」
 口々に礼を述べ、ばたたたっと急いで逃げていく小動物達。彼等を見送り、ファルシェは一歩輪の外へ退がってオウガ達を待ち受ける。
 のっぺりとした人形の塊に向けて、ファルシェは騎士と共にその手の刃を思い切り振り抜いた。

 残るオウガが一気に斬り裂かれた瞬間――向こうの空が、激しく崩れる。
 気がつけば、既に国の殆どが影を深くしたような黒に覆われていた。
 国を後にする前に、ファルシェは一度振り向きそっと一礼する。終わりを告げるような地震の中、彼は愉快な仲間達の後を追って国を抜け出すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月20日


挿絵イラスト