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あまいはうまいなのですよ

#キマイラフューチャー

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#キマイラフューチャー


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「さぁさぁ、御照覧あれ!」
 大通りを頂く巨大モニター前の屋外スタジオでは、多くのキマイラたちが自らを表現しようとダンスやアートの世界を繰り広げていた。
 そんなクリエイティブな空間に突如として流れ込んだ甘ったるい芳香、そして人目を寄せる声、咆哮。
 我こそ渦中に在りと衆目を欲する事に貪欲なキマイラたちをして、その注目を一身に受けるは、頭に三段重ねのアイスクリームを乗せた……いや、あれは怪人だ!
「ユーモアアンドアート! 頭に身体に汗をかけば、甘い物が欲しくなりましょう。
 身体を動かすためにスイーツ! 素敵な発想の為にスイーツ!
 美しく煌く皆々様は、よく食べ、よく肥えて、美しいイモムシになってもらわねばなりません。
 さぁさぁ、いざいざ、御照覧あれ! 甘いは美味いなのですよ!」
 黒いタキシードから伸びる長い手足を大きく広げて高らかに宣言するアイスクリーム怪人は、その背後に多数のスイーツ怪人を従え、あっという間に屋外ステージを独占してしまう。
 胸焼け必至の甘味の臭気にあてられ、キマイラたちは散り散りに去っていく。
「全人類に甘味を、圧倒的甘味を!」
 巨大モニターにアップになったアイスクリーム怪人は、声高に謳う。
 このままでは、全世界が甘味に染まってしまう!

「えと、甘味の……怪人が、暴れている、そうです……」
 グリモアベースにて、羅刹のグリモア猟兵、刹羅沢サクラは、我が身に見た予知を反芻するただそれだけで眉根を寄せていた。
 価値観や文化の異なるキマイラフューチャー世界で起こった異変を察知したのは、はたして彼女にとって幸いだったのか不幸だったのか。
 一度だけやり直すかのように、寄った眉間を揉み解すと、サクラはすぐにいつもの冷静な調子に戻った。
「失礼しました。今回の舞台はキマイラフューチャーのとある大通りに面した屋外撮影スタジオです。
 建物の屋上をそのまま使用していて、周囲に同じ建物がほとんど無いため、遮蔽物となるのは周辺の撮影機材程度となるでしょう。
 今回の騒動の発端となったのは、頭部に三段重ねのアイスクリームを乗せた『カロリー執事』氏が、スタジオの順番待ちに痺れを切らして暴れだし、スタジオに押し入って占拠してしまったようです」
 話しながらサクラの形相はまたも困惑の色に染まるが、なおも続ける。
「彼の怪人は同じようなスイーツの怪人を伴い、全世界に向けて甘味のプレゼン……そして、自身のスイーツで全人類を肥え太らせ、緩やかに人類抹殺を断行することを宣言しています。
 たいへん婉曲的な計画ですが、今回の騒動でキマイラの皆さんに御迷惑がかかっていますし、このような相手でもオブリビオンである以上、我々猟兵の手でしか彼らを排除することはできないでしょう」
 怪人のある意味で律儀な神経は理解できないものの、倒すべき敵であることに違いは無い。
「それと、今回はスタジオが舞台という事もあって、スポンサーがつくそうで……詳しくはわかりませんが、プロジェクションマッピング……?の祭典を特等席で鑑賞出来るサービスを褒賞としてくださるそうです。あたしは特別にお誘い頂かない限り参加しませんが……」
 聞きなれない言葉をなんとか咀嚼しながら、サクラは一呼吸置いてから改めて猟兵たちに向き直ると、
「とにかく、スタジオで暴れる怪人の退治を第一目標として下さい。キマイラの皆さんの生活の安全は、我々猟兵の働きにかかっています。どうか、ご協力を」
 いつもの通り、恭しく頭を下げるのであった。


みろりじ
 こんばんは。
 流浪の文章書き、みろりじです。
 サクラの旅団でダイスロールを行い、シナリオ選択をした結果、今回はキマイラフューチャーの世界に決まりました。
 はたしてうまくいくのでしょうか。
 今回の流れは、集団戦→ボス戦→日常というフレームを採用させていただきました。
 サクラ本人にとってはキマイラフューチャーはあまり馴染みがなさそうですが、そこはお仕事ですので、いつも通りのものになると思います。
 皆様と一緒に素敵なリプレイを作っていきましょう。
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第1章 集団戦 『売れ残ったクリスマスのケーキ怪人』

POW   :    恨みのローソク
【ケーキの飾りのロウソク 】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    ふかふかボディ
自身の肉体を【スポンジケーキ 】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ   :    生クリームブラスト
【両掌 】から【生クリーム】を放ち、【ベトベト感】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ユーミ・アハティアラ
甘いは美味いについては同意しかない。
だがスイーツが生み出すのは美少女!断じてイモムシではない。
例え甘味の化身と言えど、おやつタイムにテンション下がる発言をする空気読めない子は断罪だぞ。

そんなわけで怪人退治。
こいつら見た目はケーキでも食べられないから、ユーベルコードで拘束した端からマイ拷問具に丸齧りして貰っちゃおう。

次は美味しく食べてもらえるケーキに生まれてくるんだよ。



「フハハハ、甘味! 甘味こそ、正義! 健康的に汗をかいた者もそうでない者も、皆等しく甘味に溺れ、甘い美味い地獄に埋もれて、美しく醜く肥えて太ってしまえばいいのです!」
 屋外スタジオを占拠するアイスクリーム頭の怪人ことカロリー執事は、どこから引っ張り出してきたのか、スタンドマイクを前にしてこの上なく上機嫌に演説を続けていた。
 はたして演説として効果があるかどうかは置いておいて、ゲリラ的に乗っ取られた放送の視聴率は高いらしく、彼の演説効果とは言い難いものの、その味覚を刺激する見た目と甘味を賛美する純粋な姿から、お菓子の需要が一時的に高まっている……らしい。
 食に困窮しないキマイラフューチャーという世界に於いて、その興味を引くというのは共感性という認識が強いのかもしれない。
 だからこそ、純粋な思想というものを発信するだけで、少なからずその思惑に侵食される者もゼロではない。
 まして人知を超えた怪人、オブリビオンという存在ならば、それは脅威というほかに無い。……たぶん。
 しかしオブリビオンあるところに猟兵の姿あり。
「甘いは美味い、ね。全くその通りだと思う。同意しかない」
 声高の演説に水を差すタイミングで、乾いた拍手と共に少女の声が響いた。
 カロリー執事と、その配下のケーキ怪人達たちが一斉に声のしたほうへと目を向けると、新雪のような銀髪の猟兵ユーミ・アハティアラ(バーチャル咎人・f02282)が退屈そうに佇んでいた。
 その只ならぬ寒々しさすら覚える気配に距離をとるケーキ怪人達だが、最奥に位置するカロリー執事は一度だけ肩を竦める。
「おやおや、猟兵殿に同意していただけるとは……然もあらば、甘味の礎となりに参られたのですかな?」
「いい提案だけどね。ただ、あなた思い違いをしてるよ」
 じゃらり、とユーミが引き寄せたのは鉄の茨の巻きついた鋼の顎……小柄な装いにおおよそ似つかわしくない鉄条網に繋がれたトラバサミである。
「スイーツが生み出すのは美少女!断じてイモムシではない。
 例え甘味の化身と言えど、おやつタイムにテンション下がる発言をする空気読めない子は断罪だぞ」
 腰を落とし、凶悪な得物を構えるユーミの姿勢は、親しげな言葉とは裏腹に、目の前の怪人達の存在を許そうという考えはまったく無い様であった。
「ハァッハッハ! たった一人で、我々を相手取ろうというのですか。同じ甘味を愛する同好の士でありながら、嘆かわしくそして、なんと誇り高い……」
 大袈裟な素振りでアイスクリームの額に手を当てつつ、カロリー執事は手近な椅子に優雅な仕草で腰掛け、足を組む。
「いいでしょう。貴女のその意志が本物かどうか……試させて頂きますよ。
 さあクリスマスケーキ諸君、彼女に甘味の洗礼を浴びせて差し上げなさい!」
 高らかな号令と共に、ケーキ怪人たちがユーミに襲い掛かる。
「うおお、世間は甘いもの大好きな筈なのに、売れ残った俺たちの気持ちを思い知れ!」
 飽食の果てに時期を過ぎては半額シールを張られるも、生菓子ゆえに足の速さに廃棄を余儀なくされたクリスマスケーキ怪人の一人が恨みの涙をこぼしながら、その小さな身体をボコボコと膨らませて伸ばしてくる。
 スポンジケーキのようにふかふかに膨らんだ腕は素早くユーミを捕らえようと伸びてきたが、ユーミはそれを拷問具で受け流すと、すかさずその腕に鉄条網を絡みつかせた。
「柔らかい……でも、わるいけど食べてあげらないな」
 多少湿ってはいるものの、ケーキ本来の柔らかさを保っているケーキ怪人のふかふか具合に面食らったものの、ユーミのユーベルコードは容赦なく怪人を辛め取っておく。
 鉄の茨が蔦の如く、腕を口を、果ては頭のトナカイとサンタクロースの砂糖菓子まで拘束してしまう。
 そして鉄条網なので当然、その棘がふかふかボディに突き刺さる!
「いいーだだだだ!」
 悲鳴を上げる怪人へと、ユーミはゆっくりと近付く。その手に持つトラバサミが大きな口をあけていることに、ケーキ怪人も気付いて逃げ出そうとするが、体のあちこちに巻きついた拘束具で体が動かない。
「さあ、丸齧りだ」
「ひ、ひぃぃ!?」
 ばつん、と鋼の顎がケーキ怪人を大きく咀嚼する。
 恐怖。そして、それと同時に、いい知れない幸福がケーキ怪人を戸惑わせる。
 だがすぐに、それに納得もする。
 ああ、そうか。
「おれは……こんな風に、齧りつかれたかった……のか」
「次は美味しく食べてもらえるケーキに生まれてくるんだよ」
 頭部を半分ほど削られた状態でどこか満足げに目を閉じる怪人に、ユーミは無表情のまま祈るような言葉を与え、他の怪人達に向き直ると、トラバサミについた生クリームを拭い取る。
「さぁ、次はどいつだ……?」

成功 🔵​🔵​🔴​

リグレース・ロディット
ふえーすっごくキラキラしていて眩しい所だねこの世界は。……えっとケーキの怪人?売れ残りの?……この世界の人たちは僕に合わないかもしれないや……食べ物大切にしないと。けど、敵は倒すよ。うん、倒そうか!
【SPD】ユーベルコードの『凍血焼刃』でスポンジケーキが伸びてこないように試してみるね。ううっ敵なのに美味しそうだけど食べたらお腹壊しそうだなぁ(じー)むしろ食べた方が敵は幸せに?……『吸血』試してみるね。食べ物!残しちゃだめだもんね!!
ねえねえ、あのケーキ余ったら持って帰ってもいいー?黒服の敵に同意してるわけじゃないよ。個人的にご飯分のお金を浮かせたいの!!だめー?



「ぬうっ、なんと満足げに倒れるのだ……いや、よくも私の可愛い同胞を……!」
 さっそく脱落したケーキ怪人の姿に思わず席を立ちそうになるカロリー執事だったが、いやまて、まぁ落ち着けという具合に眉間を押さえるようにして思いとどまった。
 そして自身を落ち着けるように、どこからともなくティーセットを取り出して熱々の紅茶に口をつける。
 大丈夫だ。ケーキ怪人はまだまだたくさんいるのだ。
 どうでもいいが、三段重ねのアイスクリームのいったいどこに眉間や口元があるのか全くの謎だが、そんなものは些細な事である。
「ふえー、まぶし……キラキラしてるなぁ、ここ……」
 ひりついた空気を突き破るようにして登場したのは新たな猟兵リグレース・ロディット(夢みる虚・f03337)だった。
 処狭しと居並ぶケーキ怪人が道を開ける。そのちょこちょことした有様すら物珍しそうにきょろきょろと見回して、スタジオを照らす照明器具の明りが少し煩わしいとばかりに手をかざす姿は少年そのものだが、身に纏う雰囲気と首輪のようなチョーカーはどこか異質であった。
「おやおや、迷子と言うわけではなさそうですね。あなたも我等が計画の礎となりにおいでなすったのかな?」
「んー? お菓子を持って帰っていいなら、いっぱい欲しい……かな。でも、迷惑な怪人は倒さなきゃいけないんだ……」
「なんとなんと! 少年も猟兵の一人とは……残念ながら、お菓子は戦わなければ差し上げられないですな。なに、ご安心あれ。勝っても負けても、少年が肥えて太る程度のものを用意させようではありませんか」
 どこか落ち着きの無いリグレースの言葉にも、カロリー執事は大袈裟な身振りと紳士的な口調で対応し、配下のケーキ怪人に顎で指示を出す。
 どうでもいいが、三段アイスのどこに顎があるのかなどというのは些細な問題である。
「お菓子大好き少年か。戦いにくいが、これも大儀のため……俺たちのような売れ残りを二度と出すわけにはいかないんだ。覚悟しろ、うわぁぁぁ!」
 ずずい、と前に出たケーキ怪人の一人が、悲鳴のような掛け声と共に短い手足を振り回して突撃してくる。
「えっと、ケーキの怪人?売れ残りの? うーん……」
 どこか愛らしく憎めない仕草で近付いてくる、甘いニオイのするケーキ怪人に手を出すことが躊躇われ、リグレースは一度は思い悩んでさっと身をかわすと、怪人の短い足元を引っ掛けて倒すにとどめる。
 ちゃんと前を見ていなかったケーキ怪人は簡単に足をすくわれて、べしゃりと音を立てて転んだ。その拍子に頭のケーキの飾りつけが崩れる。
 ケーキ怪人のその哀れな姿にリグレースは思わず目を背けた。
「この世界の人たちは、僕には合わないかもしれないや……食べ物は大切にしないと」
 よろよろと立ち上がりながらも、頭のケーキをぼろぼろと落としつつある姿を見ると、尚更にそう思う。
 というか、そんなに脆いのに、どうして戦おうとするのだろう。
 長引かせるわけにはいかない。自分の大好きなお菓子が、食べるわけでもないのにボロボロに崩れていくのは見るに耐えない。
 倒さねばならない。うん、倒そう。
 決意を固めたリグレースが、噛み締めた口の端からこぼれるものを親指で拭い取ると、その指に這う赤い痕跡が紫色の炎を帯びて瞬く間に大鎌に変じる。
『燃える痛みをその身に刻め!』
 次の攻撃が来る前に、先手を取る。リグレースのユーベルコード「凍血焼刃」が発動する。
 輪を描くような大鎌の回転を利用してその刃を投げ飛ばすと、今まさに攻撃態勢に入ろうと身体をスポンジのように膨らませていたケーキ怪人に命中した。
 鋭いケーキナイフすら押し返しそうなふかふかボディも、凍血焼刃の刃が触れれば、瞬時に凍結して弾力を失った先から両断されてしまう。
「ぐ、ぐはっ!」
「あ、危ない!」
 肩口から切り裂かれたケーキ怪人が再び崩れ落ちるのを、リグレースが受け止める。
 敵であるはずの猟兵、まして少年であるリグレースに抱き止められ、ケーキ怪人は困惑する。
 そんなケーキ怪人の頭に、リグレースは唐突にかぶりつく。
「むぐ、むぐ……食べ残しちゃ、駄目だもんね」
「よ、よせ……俺は、怪人。それも売れ残りだぞ……」
 リグレースの吸血行為に、怪人はなぜか涙が溢れるのを抑えられなかった。
「君は、僕がお持ち帰りするんだ」
「う、うう……半額おつとめ品の、俺を……うう……」
 抱きしめる感触もやがて薄れて、ケーキ怪人の嗚咽も、甘い口当たりすらもやがてはささくれていくように消えていく。
 だが、事切れるケーキ怪人の口元には幸福そうな笑みが浮かんでいた。
「みんな、みんな、僕が持ち帰る……別に黒服の人に同意するわけじゃないよ」
 最早痕跡すら残っていない口元のクリームを拭いつつ、リグレースは立ち上がる。
 別にほだされたわけじゃない。僕は只、ご飯分のお金を浮かせたいだけだ。
 こんな理由じゃ駄目だろうか?

成功 🔵​🔵​🔴​

片桐・公明
『甘いものはおいしい』ね。それには同意するわ。私も甘いものは好きよ。でもね、どんな理由があろうとも人を害すること、そして食べ物を粗末にすることはダメよ。と言うわけで、成敗!!

怪人退治は愛用の2丁の拳銃で応対する。近づかれてもある程度近接戦闘もできるが、近づかれたらケンカキックで距離を離して拳銃で攻撃する。ユーベルコードは炎系統だからもしかしたら生クリームが溶けるかもしれない。

ところで私って太りにくい体質どころか、食べないとどんどん痩せる体質なの。それ位のケーキだったら1グロス用意されても体型に影響は出ないわ。



 ざわり、とケーキ怪人達が泡立つように騒ぎ始める。
 これまでに倒れていったケーキ怪人たちは、皆誰もがどこか満足げに、時には嗚咽を洩らしながら消えていった。
 羨ましい。そんな感情が、文字通り残り物のケーキ怪人達の中に共通の意識として、空気として流れ始めていた。
「持ち帰り! そういうのもあるのですか! いえいえ、そうは参りませんぞ。
 同胞の皆さん、何をほだされようとしているのですか!
 我々は栄えある甘味の徒! 世界中を肥え太らせて、満足の最中に滅亡をもたらす幸福の破壊者なのですよ!」
 熱弁をふるって、ティーセットを置いていたサイドテーブルを勢いよく叩くカロリー執事の主張は、半ば破綻をきたしているようですらあった。
 あまりにも熱弁を振るい過ぎて、アイスの頭部が若干溶け出しているが、そんなことには気付かぬほどの狼狽振りである。
「……『甘いはおいしい』ね。それには同意するわ」
 そうして統率の甘くなった(お菓子だけに)のを見計らったかのように、新たな猟兵の声が響き渡る。
「ええい、また新手ですか! こんなときに」
 いちいち大袈裟な仕草で周囲を見渡すカロリー執事が、いち早くその存在を認める。
 そしてタイミングよくスタジオ入りしたところを照明器具がスポットを当て、優美な曲線を描く少女の眼鏡を逆光気味に照らす。
「私も甘いものは好き。でもね、どんな理由があろうとも人を害すること、そして食べ物を粗末にすることはダメよ」
 片桐・公明(人間のフォースナイト・f03969)が忠告するかのように指を立て、芝居がかった動きで眼鏡のブリッジを押し上げると、鮮やかな赤い瞳がきらりと光った。
 その堂々とした佇まいを前に、カロリー執事含む怪人たちはひと時だけ視線を奪われる。
 猟兵にとっては、その一瞬だけあれば十分であった。
「というわけで、成敗!」
 火花のようなマズルフラッシュが続けざまに二回。まるで懐刀を抜きつけるが如き早業でいつの間にか公明の手に握られていた拳銃が火を吹いていた。
 直後、彼女の一番近くのケーキ怪人が受身も取れぬまま倒れた。
 その眉間、ケーキで言えばスライスしたイチゴとクリームの層に当る部分に真新しい銃創が二つできていた。
「い、いてぇ……いきなり撃たれたぞ。中のイチゴがつぶれちまった!」
 抗議するように立ち上がるケーキ怪人のリアクションに、公明はアレと小首を傾げる。
 今までそこそこ簡単に倒していたように感じていた怪人だが、やはりオブリビオンということだろうか。急所を手っ取り早く撃ち抜いたつもりだったが、致命傷には至らなかったようだ。
 改めて、この怪人達の身体のつくりはどうなっているのか。
「ま、いいか」
 細かいことは置いておこう。
 撃っても立ってくるなら、動かなくなるまで撃てばいい。
 居並ぶケーキ怪人達を前に、公明は冷静さを保ったまま、空いた手に銃をもう一挺握って対応する。
 もう片方の銃は、反動は大きいものの威力は高い。ストッピング能力には十分期待できるはずだ。
 立ち上がってきたケーキ怪人に容赦なく銃弾を撃ち込むと、今度は起き上がってこなかった。
「やっぱりちゃんと効くじゃない」
 当たり所が悪かったのだと納得すると、公明の行動は迅速だった。
 両親仕込の銃と格闘術を駆使し、近付かれればグリップで打ち付け、長い足で蹴りつけ、時には反動の軽いほうの銃で手足を撃ち抜いて動きを止めて、トドメには威力の高いほうで確実に損傷を与える。
 そんな事をしていると、あっという間にケーキ怪人達は数を減らしていた。
「ちょ、ちょっとまって、ちょっと!」
「うん? どうかした?」
 慌てて声をかけてくるケーキ怪人に律儀に応じつつ、銃を向ける。
「今までの、ほら、感動的な流れはァ? これまで、それなりにいい話だったよ? なんで唐突に硝煙臭いことになってるの?」
「え、うーん……湿っぽいのばっかりってのも、ねぇ?」
「いや、ちょ、まって!」
 抗議する声を待たず、公明はだめ押しとばかりユーベルコードを発動する。
『母の歴史。父の知識。それを興すは私の能力。すべて焼き尽くす!!』
 両手の拳銃からは銃弾ではなく、魂魄のような紅蓮の業火にも似たエネルギーが照射される。
 その炎はさながら大蛇のようにケーキ怪人にまとわりつき、ホイップされた生クリームの表皮はあっという間に黒く染まる。
「ぎゃああ! 熱い熱い、もうベイクされてるから! これ以上火が入ったら、女の子の苦い思い出の一部になっちゃう! うわーん!」
 灼熱のオーブンに放り込まれたかのような業火に身を焼かれ、哀れケーキ怪人は見るも無残な姿に変わり果てる。
 流石に少しだけやり過ぎただろうか。
 拳銃を手にしたまま顎に手をやり思案するが、直ぐに解決策を思いつく。
 そうだ。相手はケーキなわけだし、終わったら供養の為にケーキを同じ分だけ食べることにしよう。食べ物を粗末にしちゃいけないと自分で言った手前、その辺りは守らなくちゃいけない。
 そんなに食べられるのかって?
 ケーキなら1グロスくらいはペロリと食べられる自信がある。
 それはつまり、144体はケーキ怪人を倒せるという計算にもなりそうだが、生憎とそこまでの敵の勢力は多くないように見える。
「まあ、おんなじおんなじ」
 甘い幻想にほんわかとしつつも、公明は再び銃を構えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

聖護院・カプラ
【WIZ】
やはりオブリビオンですか。私も同行しましょう。
本来は人生の余禄として楽しむべき甘味を、生活習慣病による死の暗示としようとは……その行い、正さねばならないでしょう。

ここは敢えて『生クリームブラスト』を放たせ、寸での所で『存在感』から『後光』を放つ『円相光』で売れ残ったクリスマスのケーキ怪人を生クリームごと動きを止めましょう。

動きを止めた怪人に対して、私自身の膂力で…回転を加えて振ります。
生クリームをシェイクし続ければやがてバターとなるでしょう。
バターとなってしまったケーキは果たして甘味と呼べるのでしょうか…?

命までは奪いません。
心を入れ替え鮮度の高いバターとして生きるのがよいでしょう。



「お、おのれ……なんとむごい仕打ち……それに、なんて恍惚とした顔でしょう!」
 二挺拳銃で大立ち回りを演じた公明の手により、最早ケーキ怪人達の半数近くが倒されてしまった。
 あまつさえ既に終わった後のケーキタイムの妄想で頬が緩む公明の横顔に、カロリー執事は拳をぷるぷるとさせていた。
「執事ー、新手ですー」
「な、またですか! 一体、何人送り込んできたのですか!」
 傍らでケーキ怪人が増援を知らせると、カロリー執事は頭を抱えそうになる。
 だがしかし、相手が不倶戴天の敵、猟兵ともなれば、迎え撃たざるを得ない。カロリー執事の矜持はオブリビオンと成り果てても、なお気高いものを抱いていた。
 ただし、目標はあくまでも全世界を甘味で緩やかに人類滅亡にいざなうという極めて婉曲的なものではあるのだが。
「ふむ、情報通り、やはりオブリビオンですか」
 上空から投下されたかのようにスタジオ入りしたのは、巨躯のウォーマシン、聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)であった。
 しばしば忘れがちだが、ビルの屋上を利用した屋外スタジオでは、絶賛、電波ジャック状態である。
 見る者を威圧するウォーマシンの大柄に、しかしカロリー執事はふんっ、と鼻を鳴らす。どこに鼻が……などというのは今更野暮である。
「おやおや、次から次へとやって来ると思ったら、今度は機会の身体のお方ではありませんか。
 貴殿のような方が、我々甘味の是非を問おうとは、片腹痛いですな!」
「だまらっしゃい。本来は人生の余禄として楽しむべき甘味を、生活習慣病による死の暗示としようとは……」
 居丈高にいい放つカロリー執事の言葉を一蹴しつつ、カプラは一直線にカロリー執事のもとへと近付こうとする。
「その行い、正さねばなりませんねっ!」
 豪腕が巨大な質量を伴って、カロリー執事へと迫るも、その拳は突如として膨張した白いクリームの壁に阻まれて押し戻されてしまう。
 予想外の弾力を持つ壁の反発力に、カプラはたたらを踏んで数歩下がる。
 そうして壁をなしていたケーキ怪人がそのふかふかのボディを元のサイズに戻す頃には、カプラの周囲にはいつの間にかケーキ怪人達が取り囲むように布陣していた。
「あくまでも大将は後ということですね……いいでしょう。まずは、あなた方から正しましょうか」
 周囲の個体数を冷静に分析しつつ、カプラはあくまでも無防備を装って、ケーキ怪人達の出方を伺う。
「よーし、みんな、一斉攻撃だ! 暴れられたら迷惑だから、動きを止めるぞー」
「おーっ!」
 カプラが動きを止めたのを好機を見たか、ケーキ怪人たちは自分たちのことなどすっかり棚に上げて小さな手足で合図を送りつつ、その身体から白くべたつく何か……もとい、甘く味付けされた生クリームを一斉に浴びせかける。
「やはりそうきましたか。そうはいきませんよ」
 無防備を装っていたカプラは、降りかかる生クリームブラストを予測していたかのように、ぎらりとアイセンサーをきらめかせると、両手を合わせて自らを即身仏に見立てるかのごとく、『存在感』を高め、全身から凄まじい後光を発する。
「うわっ!?」
「ああーっ!」
 その眩い光に、カプラを取り囲んでいたケーキ怪人のみならず、カロリー執事も声を上げる。
 そんなに明るい光をいきなり発したら、カメラの明度が!
「いや、最近のカメラはメイドの自動補正がかかるようになってますから」
「む、そ、そうですか。なら安心です」
 傍らの怪人のお陰で、カロリー執事はなんとか冷静さを取り戻す。
 だが、肝心のカプラ周囲では奇妙なことが起こっていた。
「な、なにぃ!? 生クリームが、空中に静止している!」
 思わずカロリー執事をして、説明的な台詞が飛び出してしまうほど、それは衝撃的な光景だった。
 カプラの強烈な後光、ユーベルコード『円相光』を浴びた生クリームは強力な誘引力によって空中に押し留められているのだった。
 ぱしゃり、とカプラの巨腕が空中に静止した生クリームブラストを掴み取り、一箇所に集めて揉み込むようにして両手で握りしめた。
「何をするつもりでしょうか。せっかく回避した生クリームを、わざわざ掴みにいくとは……」
 困惑するカロリー執事をよそに、カプラはその生クリーム群を握り締めたまま洩らさぬよう身体を高速で回転させ始める。
 どうやら攪拌しているようだが……。
「ふ、何をするかと思えば……やはり、甘味を知らぬ機械の輩ですな」
 不敵に笑みを浮かべるカロリー執事。その笑みの理由とは!
「市販の生クリームの中には、保存性を良くする為、多少のことでは凝結、分離しないよう、乳化剤や安定剤が含まれているのです。
 そんな風に力任せに攪拌したところで、永久に液状のままですよ!」
 勝ち誇ったように笑みを浮かべるカロリー執事だったが、その傍らのケーキ怪人がその希望を打ち砕く!
「あー、俺たちちゃんと拘って作られているんで、そんなもの入ってないです」
「な、なんとぉ!?」
 驚愕に大量の冷や汗……ではなく、思わずどろっと溶け始めるアイスクリームの頭部を慌てて拭うカロリー執事。
 その視界の端では、回り続けていたカプラが動きを止めているところだった。
「あ、ああ……俺たちの生クリームが……」
 がぱり、と再び開かれた鋼鉄の巨腕の中には、わずかに黄色を帯びた塊……バターと化した生クリームの成れの果てが残るばかりであった。
「さあ、バターとなってしまったこのクリームを見ても、甘味と言えますかな?」
 宝物でも掲げるかのようにしてバターまみれの腕を見せびらかしながら、カプラは高らかにいい放つ。
 既に周囲の怪人たちは膝を折っていた。
「くそ、これじゃあ……シュトーレンの材料にするか、ダックワーズに挟み込むくらいしか使い方が無い……もう、お菓子と呼べない……」
 意外と使い道があったことに内心で冷や汗をかくカプラだったが、そこは表情に出さない。
「命まではとりません。心を入れ替え、新たなお菓子の材料として生まれ変わるのもいいでしょう」
 あくまでも慈悲深くいい放つカプラに、怪人たちはとぼとぼと寂しげに歩き去る。
 だが、そのうちの一人が瞳の奥に涙を湛えつつ、振り向いて負け惜しみを告げる。
「今回は俺たちの負けだ。だが、忘れるな! バターを作ったときに出る液体。このホエーにも栄養たっぷりだから、捨てちゃわないようにな!」
 言われて、そういえばとカプラは周囲に飛び散った水分の事を思い出す。
 ペットボトルか何かを用意したほうがよかったかもしれませんね。
 心中で反省点を探してみるも後の祭りであるし、水を差すのも憚られた。
「くっ、そんな……安定剤も乳化剤も最低限の材料を使っているから……! あなた達は早々に見切り品扱いされてしまうのですよ!」
 去って行く一部のケーキ怪人たちを引き止める言葉も持たぬまま、カロリー執事は臍を噛むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三上・チモシー
なんかすごい甘い匂いするー♪
わーおっきいケーキたくさん!ハグしていいー?
なんか抱き心地良さそう。クリーム食べられるのかな?

ああ、うん、怪人なのは分かってるんだけどね
でもおいしそうだよね
目の前におっきいケーキがあるとテンション上がるよね

グラップルと怪力でしっかり怪人に抱きついて、確実に【灰燼拳】を当てていくよ
……手にクリーム付いたらちょっとなめてみようかな
大丈夫そうならスポンジ部分も食べたいな
賞味期限?1ヶ月くらいなら誤差でしょ。
見た目傷んで無さそうだし、たぶん平気平気
ケーキ大好きー!



「いよいよ劣勢と言うわけですな。やれやれ、いったいどれだけ我々を邪魔すれば気が済むのか……」
「また、新手のようです。俺も行かなきゃならないです」
 銃に撃ち抜かれた者、トラバサミに喰われた者、果ては吸血された者や、攻撃をバターにされて落ち込んだので帰った者……もはやケーキ怪人は、カロリー執事の傍らに立っていた参謀役を残すのみだった。
 この期に及んでも尚、カロリー執事は一人椅子に腰掛けてケーキ怪人を見送るのだった。
 戦力の逐次投入は上策ではない。とはいえ、彼我の戦力差は歴然としている。
 抜きん出た戦力であるカロリー執事が陣頭指揮を執りでもしない限り、この戦いを最初から有利に進めることは不可能であったろう。
 だがそれでも、彼らには彼らの矜持があるのか、カロリー執事は最後の一兵が散るまで戦いに介入することは無いようである。
「どうか幸運を」
「あんたもな」
 カロリー執事の贈る言葉として、それは気休めにもならないが、上司と部下という他に計り知れない関係性が、傍からも不思議な絆を感じさせていた。
 そこへ、
「んんー! なんかすごい甘い匂いするー♪」
 三上・チモシー(くっきーもんすたー・f07057)は、悲壮な雰囲気すらあっさりぶち壊すかのような幸せそうな声を上げてスタジオ入りする。
 古今東西あらゆるお菓子が大好物である彼女にとって、お菓子の怪人たちは興味の対象でしかないのである。
「現れたな、猟兵め。もう俺たち二人になっちまったが……俺たちのような売れ残りすら出ない、甘いものをひたすら食わせる世界にするんだ。邪魔はさせないぞ」
「うん、それいいと思う!」
「あれぇ!?」
 勇んで見栄を切るケーキ怪人だったが、チモシーの朗らかな返答に思わず脱力してしまう。
「お腹いっぱいのケーキやスイーツ。とってもいいと思う。周りに迷惑かけちゃう怪人は倒さなきゃだけど……チモシーは素敵だと思うなぁ」
「ええい、黙れ! それなら、俺のような売れ残りが生まれるのはおかしな話だろう!」
 幸せそうに頬を緩めるチモシーに思わず毒気を抜かれそうになるケーキ怪人だったが、怒りで己を奮い立たせてうっかりウィットの利いたことを言いつつ、頭のローソクに火が点る。
 その火はやがて炎となって飛び散り、チモシーは炎に包まれる。
「うわわ、あついあつい!」
「ふん、俺たちの怒りを思い知ったか!」
 炎に飲まれたチモシーに勝ち誇った次の瞬間、その炎がむくりと膨れ上がって人の形になる。
 思わずのけぞるケーキ怪人をよそに、炎は徐々に薄れていき、近付くそれはやや焦げ臭いニオイをさせてはいるが、ほぼ手傷を負っていないチモシーの姿だった。
「わあ、近くで見るとやっぱりおっきいなぁ。ハグしてもいいー?」
「うわぁ!? な、なんで燃えないんだ!?」
「えへへ、チモシーは鉄瓶なのです。火にはちょっとだけ強いんだべさー」
 炎の中から現れたその動きでケーキ怪人に抱きつき、すかさずクリームの肌に頬ずりしてしまう。
 攻撃と言うわけではないが、お菓子に目が無いためか巨大なケーキを前にしてテンションがおかしなことになっているのである。
 ケーキ怪人も彼女の異常性に逃れようとするも、万力のような力で組み付かれて脱出することが出来ない。
「ああ、やっぱりおっきなケーキ、憧れるなぁ。いいなぁ……ちょっと食べてもいい?」
「や、やめろ。そんなキラキラした目で言ってもだめだ! 俺は怪人なんだからな!」
「やーだ、我慢出来ない」
 そうして押し問答するうちに、チモシーは密着距離にこそ効果のあるユーベルコードを発動……。
 超高速の拳……もとい、手シャベルでケーキ怪人の頭を削り取っていた。
 それを目にも留まらぬ早業で頬張り、誰が止めるのも間に合わないスピードで嚥下する。
「甘くて、美味しい……チモシー幸せだべ……」
「や、やめろ……そんな幸福そうな顔で食うな。俺を、俺たちを売れ残りにしたくせに……」
「ケーキ、大好きだよ」
 力なく項垂れるケーキ怪人を、チモシーは尚も抱きしめる。その感触を味わうかのように、その温もりが消えていくを惜しむかのように。
「ちくしょう……俺が、いてやんなきゃ……あの人は一人で……でも、こんなに、こんなに……」
 何かに手を伸ばすケーキ怪人はそうして、胸に湧く幸福に満たされながら風のように消えていく。
 チモシーの嚥下したケーキも、口の端や頬にべったりとついた筈のクリームも、嘘だったかのように姿を消している。
 それでも、チモシーの舌は、脳髄を抜けるような甘い刺激は、確かに憶えている。
「そうだよ。忘れるわけない」
 少し寂しげに微笑むと、奥の椅子に座るカロリー執事へと目を向けた。
 残すはアイスクリームの頭をしたあの怪人のみである。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『カロリー執事』

POW   :    血糖覚醒
【自らの野望の為 】に覚醒して【全身が高カロリーな食べ物】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    カロリーボム
【口に向けて一日分超の高カロリーな食べ物 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    お食事会
いま戦っている対象に有効な【相手が好みそうな食べ物(カロリー激高) 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は宇冠・由です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 スタジオには浅い沈黙が流れていた。
 それもほんのひと時。それはかの者達が粗暴な夢に付き合った世間の売れ残りたちに捧げる鎮魂のひと時。
 それで十分とばかりに、三段アイスを乗せた巨大な頭をした紳士は、あくまでも優雅な所作のまま椅子から立ち上がる。
「さすがは猟兵諸君、見事な手並みと言う他ないでしょう。しかし……」
 ゆらりと長い両手を翼の如く広げる執事の両手には、いつの間にかティーセットやカトラリーの乗ったトレイと、ケーキスタンドが乗っていた。
「この私を倒さぬ限り、野望は続くのですよ」
 アイスクリームの頭を反らせて、あくまでも居丈高に猟兵たちを見下ろし、臨戦態勢をとるその姿は、あまりにも執事として、戦う者の姿として堂に入っていた。
「さあ、アフタヌーンティーはこれからですよ」
片桐・公明
【WIZ】あなたってどんな食べ物でも出せるの?じゃあシフォンケーキを出してちょうだい。その次はサクサクのラスク。
喉が乾いちゃったから次は暖かい紅茶をちょうだい。
(全部出すことができたら)とっても美味しかったわ。ありがとう。それじゃあ、腹拵えも済んだし、ヤろっか。
(出すことができなかったら)なんだ、つまらないの。じゃあもう用はないわ。

先のケーキ怪人同様両手拳銃で応戦。でもアイスの部分は効果が薄そう。UCは詠唱を省略して発動する。鉛玉が効かなくとも、熱と炎には耐えられまい。
相手の食べ物を食べた後でも身軽に動く、エネルギー効率良すぎない?

ところで執事って従者のことよね?なんで従者がボスやっているの?


聖護院・カプラ
【POW】
カロリー執事……その佇まい、所作。正にカロリーに仕える執事。
並みの鍛錬ではその執事域に達する事はできなかった筈。
怪人でなかったなら、と思わずにはいられません。
そんな彼の、確固とした野望を成しえようと願わん意志を『説得』しようとする事は失礼にあたるのではないでしょうか。

であれば、私は『無敵城塞』にて彼の攻撃意志を全て受け止めた上で
尚健在であることを示しその意志を超える猟兵ここにありと知らせましょう。

爆発的な戦闘能力からくる連撃は流石に堪えますが、なに。
あの技は寿命を削る技と見ました。
今現在常温であるこの空間で、アイスクリームの寿命とは即ち―――。



「ふぅん、たいした装いじゃない」
 猟兵たちを前に堂々と胸を反らして立つカロリー執事を上から下まで余すことなく観察し、最初に口を開いたのは片桐公明だった。
 その言葉に皮肉や侮りは無い。
 執事の装いによく似合う、ケーキスタンドやティーセットの乗ったトレイ。とてもではないが、戦いの装いとは言い難いが、それを感じさせない、明言に尽きぬ凄味があった。
 そこで一計を案じるというわけではなかったが、一つ試してみたい事があった。
「ねえ、あなたって、甘いものならだいたい出せるの?」
「それが生業のようなものですからね。お望みとあらば、お好きなスイーツをご用意しましょう」
 ちりん、とカロリー執事のケーキスタンドが金属音を奏でたかと思えば、いつのまにか公明の目の前にはテーブルと白い皿が幾つも並んでいた。
 とんでもない早業、というわけではなく、彼特有の能力なのかもしれない。
「へぇ、じゃあ、そうね。シフォンケーキ出して。あと、サクサクのラスク。それだけだと喉渇いちゃうから、紅茶も用意して欲しいな」
「おやすい御用です」
「あらまぁ」
 公明が次々と矢継ぎ早につける注文に、カロリー執事は文字通り涼しい顔で三段しかない筈のケーキスタンドから応えていく。
 不思議な事に、公明が今まさに口寂しさに明かして要求した物品は、まるで最初から用意されていたかのように、テーブル……公明のすぐ目の前へと供されていた。
 相手はオブリビオン、お菓子の怪人だ。お菓子とはいえおかしな事は何も無いのかもしれない。
 そうして促されるまま、公明はテーブルについて、空気のようにさり気なく用意されたカトラリー……鏡面のように磨かれた銀色のナイフとフォークを手にしていた。
「あ、まさかとは思うけど、毒なんて入ってないでしょうね?」
「お疑いですか? スイーツでできたこの私が、そのような無粋なもので甘味を汚すとでも?」
「でしょうね。あなたたち、変なこだわりをもっているもの」
 奇妙とも言うべき確信があった。カロリー執事は、お菓子に細工はしない。仮にするとしても、添加物で味を損なうような真似をするとはとても思えない。
 誇り高い佇まいは、戦っている敵ですらも信用させてしまうほどのものがあった。
 そういった理論武装をするまでもなく口に運んだスイーツはどれも絶品であった。
 特にシフォンケーキがうまい。
 きめの細かい気泡を生じさせた絹のような質感のスポンジは、湿度すら感じさせる滑らかな舌触りがあり、綿雲のように噛み締めれば卵と牛乳、爽やかなオリーブオイルがかすかに香り、それ単体ですら上品でありながらしっかりとした存在感がある。
 そしてその味を更に高めているのは、脇に添えられた白くぺったりとしたクリームとベリーソース。
 ただのホイップした生クリームではない。クリームチーズのような質感に近いそれは、英国式になぞらえているのか、クロテッドクリームである。
 普通はスコーンに添えるようなやや濃い目のクリームなのだが、シフォンケーキにも、そして紅茶にも相性が抜群に良い。
 最早これ無しにシフォンケーキはあり得まい! そう思わしめるほどに、確かな存在感。或は、カロリー執事をそれ足らしめる格式のようなものを感じさせる。
 忘我……。まさに、我を忘れるひと時を味わい、公明は飲み干した紅茶のティーカップをソーサーに置く音で、ようやく我に返った。
「……ふぅ、ありがとう、とてもおいしかった」
「ご満足いただけましたか?」
 危ないところだった。直ぐ傍に立つのが怪人ということすら、忘れるところだった公明は、心中で叱咤する。
 だが、改めて問われると、正直に答えそうになってしまう。
 あれほどの逸品。たったの一切れと数枚。そんなもので満足だと?
 私を誰だと思っているのだろうか。
 甘いものなら、いくら食べても平気という自負がある。つまりそれだけ愛している。
 それが、この程度、こんなもので、満足だと?
 いやいやいやいや、待て待て。何を言っているんだ。
 ただの興味本位で言ってみたことに、何を目くじらを立てることがあるのか。
 さっさと、こんな茶番終わらせて、いつものように銃弾を叩き込めばいい。
 なんだつまらない。もう用無しだよって……。そう言えば済む筈なのに。
 どうしてか、公明は手にしたフォークを手放せずにいた。
「おや、ご満足頂けていないようですね。ところで、もう一品、オススメの品があるのですが、いかがなさいますか?」
 甘い誘惑。まさにそれが当てはまる。甘い顔をした執事が公明の顔を覗き込んでくる。
 挑まれている。そう感じてしまっては、もう後に引けなくなっていた。
「参ったな。そんな誘い文句をもらっちゃ、引き下がれない。頂こうかな」
「かしこまりました」
 笑みを洩らした、ように見えた。アイスクリームでできたその顔から伺えることは少ないが、その顔に邪気のようなものを感じない。
 純粋に甘いものを提供したいだけなのか、彼の策なのか……。まあいい。相手にしてみればわかることだ。
「ただいま切り分けますので」
 うん? 切り分ける? 違和感があった。
 むわっ、と濃密な冷気が白い靄を作っていた。
 ケーキスタンドにはいつの間にか、黒くてきらきらしたドーム状の何かが鎮座していた。
 それがオススメの品とやらなのだろうか。
 おかしいな。さっきのシフォンケーキは、既に切り分けられ盛り付けられた状態で出てきたのに、今度はホールで出現し、それをわざわざカロリー執事がナイフで切り分けようとしていた。
「なんだったら、ホールごといっちゃうけど?」
「おお、そうですか。それならば、残飯が出ずに済みますね。しかしこの切り込みを入れるのも一つの演出ですので」
 演出というのが引っかかったものの、すぐに氷解する。なんということはない。
 黒いドーム状のホールから、まず一人分切り分けられたのは、その断層を見せたかったのだろう。
「アイスケーキ、ね」
 冷気を帯びたそれはまさに、頭がアイスクリームでできているカロリー執事らしい品と言えた。
 これまで格式張った、いわば王道の品を高い品質で供しておきながら、独自のものを決して失わない確固たる意志。
 これが公明の要求に対する、カロリー執事の返答だというのなら、応えないわけにはいかなかった。
「冷たい……」
 意を決して一口、その冷たい幸福を削り取って口腔へと運ぶと、冷たい吐息が漏れる。
 確かに冷たい。しかしそれもすぐにまろやかなミルクの風味が忘れさせてしまう。
 シンプルなアイスミルクの層から始まり、クランベリーの果実の混じった甘酸っぱい層、チーズケーキのブロックが混じった触感の楽しい層……。
 幾重にも折り重なり、時には表面のぱりぱりとしたチョコレートのビターな味わいが味を引き締め、口が冷えすぎれば添えられたウェハースで口の中を休ませる。
 そんな事を無我夢中で繰り返すうちに、ホールのアイスケーキはあっという間に公明の胃袋に収まってしまっていた。
 そしてそれを見計らったかのように、公明のティーカップに新たに紅茶が注がれる。
 しかし今度の紅茶は香りが違っていた。
「アップルジンジャーティーです。アップルの香りは食欲と消化を増進させ、ジンジャーは血行を良くし、冷えた身体を温めてくれます」
「よく気のつくことで」
 湯気の上がるほどの温度。本来そこまで高温で紅茶を淹れれば香りを飛ばしてしまうものだが、唇が痺れるほどの温かさは、アイスケーキで冷え切った公明の口腔から胃の腑までをじんわりと温め、癒していくかのようであった。
 そうして、それを飲み終える頃には、アイスケーキの甘さを改めて思い起こすほどまでになっていた。
 お菓子に対しては、まったくもって卒が無い……。
 だが、すっきりとしてしまった今は、もう迷うことはない。
「すっかりご馳走になっちゃったわ。それじゃ腹拵えも済んだことだし……?」
 ヤろうか、と続けざまに拳銃を引き抜いたまではよかったのだが。
 勢いをつけて立ち上がろうとした公明は、ようやくその身体のあちこちが鉛のように重いことに気付いた。
 異様な倦怠感。最早、拳銃を握った手を持ち上げる事すら億劫になるほどに身体が言うことを聞かず、特に頭が重石を乗せたかのように重く、視界が黒く明滅し始めた。
「う、ぐ……まさか、本当に毒を……?」
「心外ですねぇ。毒物など……いえ、ある意味で毒ではありますが……いやはや」
「な、何を……」
 ろれつが回らない。いや、奥歯を噛み締めておかなくては、意識を保つ事すら危うかった。
 油断、と言ってしまえばそれまでだが、迂闊に相手の得意分野に踏み込んでいくのは、リスクが大き過ぎたか。
 とはいえ、公明は自分の身に起こっている事態が何なのか、わからずにいた。
 それなりに頭の回転はいい方だという自負のある公明に、毒物の知識が皆無ではない。だが、世に数多ある毒物全てを網羅しているわけではない。
 それでも、即効性のある毒物にはある程度のパターンはある。経口摂取からいきなり効果のある毒物が劇薬でない筈が無い。口に入れた瞬間に気づく筈なのだ。
 何より、あそこまで繊細な味付けの中に、毒物が入り込む余地があったのだろうか?
「甘味の中で、その答えを探してみるも、またいいものですよ」
 ぼこりぼこり、とカロリー執事の片腕がスポンジのように膨れ上がっていく。
 その身を質量とあとカロリーの高いお菓子に変貌させて、座り込んだまま動けない公明目掛けてそれを振り下ろす。
 しかし、
「カロリー執事……その佇まい、所作。正にカロリーに仕える執事。
並みの鍛錬ではその執事域に達する事はできなかった筈」
 落雷一閃、そう比喩するが似合うかのような轟音が鳴り響いた。
 しかしその直後に公明が聞いたのは、機械的な駆動音に連なって降りかかる賞賛の言葉だった。
 執事域ってなんだ。
 思わず口に出しそうになったが、身体がだるくて、言葉が出なかった。
「ふむ……乱入してくるとはとんでもないお人だ。しかし、流石は機械の輩と言ったところですか」
 感情を失ったかのようなカロリー執事の言葉と共に、バケツをひっくり返したかのように飛び散る黄色い液体。
「特性プリンの腕が台無しです」
 見ればカロリー執事の片腕がボロボロに崩れ落ち、液状化して零れ落ちていた。
 身体をお菓子に変じさせる能力は、彼に絶大な力を与えるが、その代償は大きいようだ。
「よもやそこまで……。やはり、貴方を説得することは不可能……いや、失礼にあたりますかな?」
「私などより意志の固そうなお方に、そうまで言っていただけるとは、光栄ですね」
 公明に向かうはずだった特性プリンの一撃を受け止めた聖護院カプラは、その無機質な視線に感嘆を乗せてカロリー執事を見つめる。
 一方のカロリー執事は、崩れた腕をあっという間に別のお菓子に作り変えて、肩を竦めてみせる。
 かたや、明確な攻撃の意思を見せたカロリー執事と、その一撃を完全に防いでみせたカプラの無敵城塞。
 これは攻めるも守るも容易ならぬ様相とばかり、二人の間に緊張が走る。
「……貴方が使った毒。想像がつきましたよ」
「ほう! ウォーマシンたる、そのお身体で気付かれるとは……よほど生身の人間がお好きなようだ」
 拮抗を破るべく話しかけたカプラに、カロリー執事はその予想よりも景気良く応答した。
「人には血糖値というものがあります。糖分や炭水化物、そういったものを短時間に過剰摂取すると、血糖値が急上昇します。
 人間の身体はそれを察知すると、慌ててインスリンを多量に分泌し、今度は低血糖を起こしてしまう。
 強い倦怠感、意識の混濁。酷くなれば、昏倒までしてしまう。
 そう、まさに……貴方の施した毒とは、糖分ですね」
「ハァッハッハ! よくぞ、見破りました。これぞ甘味の地獄。もとより、甘いものがお好きで、代謝も良い方なのでしょう。だからこそ陥りやすい」
 カロリー執事が最後に供したアイスケーキ。これが効いた!
 人間の味覚は10℃を下回ると、甘みを感じにくくなる。溶けてドロドロになったアイスクリームが甘ったるく感じることは無いだろうか?
 アイスクリームは本来感じる何倍もの糖分を配合したとて、それを感じづらくしてしまう。
 加えて、本来多量に摂取しては消化に悪く、臓腑の機能を落としてしまうアイスケーキをフォローするため、胃の機能を促進させるアップルと血行を良くし体を温めるジンジャーを使った熱い紅茶で体温を確保することで、ただでさえ新陳代謝のいい公明の消化機能を高め、吸収を早めたのも血糖値を瞬間的に高めるのに手を貸していた。
 まさに、完食した者を甘い眠りに突き落とす、血糖値の暴力。甘味の地獄といっても過言ではない攻撃だったのである。
「……やはり、貴方を野放しにすべきではないようですね……」
「ならばどうするのです? そこで、守り続けているつもりですかな?」
 ごう、と空気が密度を増して引き千切られるような風鳴りが呻る。
 両腕を巨大なお菓子に変じさせるカロリー執事の猛攻が、カプラの無敵城塞に降り注ぐ。
 それらをカプラは、ただただ不動の姿勢で耐え抜く!
 多層構造の合板のような巨大ミルフィーユが打ち付けられては砕け散り、
 煮えた鉄のような巨大な飴細工が打ち付けられては弾け飛び、
 のたうつ竜の尾の如き巨大な求肥が打ち付けられては千切れて飛び散る。
 轟音、或は爆音と喩えてもいい文字通りの甘味の暴力の最中で、カプラはもとより、その影にいる公明も、傷は無かったが、このままではこう着状態にも近い。
 しかし、その猛襲により追い詰められているのは、むしろカロリー執事の方であった。
「どうやら、時間をかけて不利なのは、そちらのようですね」
 静かに語りかけるカプラに応じたわけではないが、カロリー執事の額にはどろりとしたものが滴っていた。
「……あんたたち……私を、抜かして……遊んでんじゃない!」
 拮抗、いや、勢いがカプラに傾きつつあるのを察知したのか、それまで沈黙を決め込んでいた公明が声を張り上げて、拳銃の引き金を引いた。
 まさか、愛する甘味の影響で意識が刈り取られそうになってしまったのは深くと言わざるを得ないが、それであっさり引き下がってしまうのは、馬鹿らしい。
 鳴り響いた銃声と共に、公明の肩には赤い染みと火傷の痕。
 意識を保つ手としては古典的で、気つけとしてはかなりの荒療治だが、身近にあるもので手っ取り早く意識をはっきりさせるとすれば、これしかなかった。
「おやおや、大人しく眠ってしまえば、そんな手傷を負うこともなかったでしょうに」
「嘗めないでよね……仕事も終わんない内にベッドに入ったんじゃ、両親に叱られちゃうんだよ……それにさ」
 歯を食いしばり、気だるい身体に喝を入れて自身を奮い立たせ、カプラの身体を支えに立ち上がる。
「美味しいケーキだったんで、軽く昏倒しかけたけど……まだ、お代を払っちゃいないからね!」
 渾身の力を込めて両手を持ち上げて銃を構え、練り上げたユーベルコード、紅蓮『赤壁乃業火』を発動する。
 銃弾ではない大蛇のような紅蓮のエネルギーが尾を引いて、カロリー執事にまとわりつき、覆い尽くす。
「なんと! ご満足いただけましたか……!」
 回避もせず、甘んじて受けたカロリー執事は、どこか驚嘆したように声を上げてただ立ち続けて、その炎を耐え切った。
 そうして炎のエネルギーが全て消えると、片腕をたたむようにして恭しく、公明に向かって頭を垂れた。
「お粗末さまでした」
 その拍子に三段重ねのアイスクリームのてっぺんにあった、柑橘類にスプレーチョコをまぶしたようなアイスが一段、崩れ落ちた。
 それを見届けると、公明はへたりと腰を落とす。
 流石にまだ、糖分の消化が追いつかない。攻撃するにしろ、まだもう一呼吸必要かもしれない。
「まったく、なんで従者がボスやってんのよ……」
 攻撃の意思を見せたかと思えば、礼儀正しくして見せたり、よくわからない相手だが、一番の疑問点が疲労のせいか、つい洩れ出てしまった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鮫兎・醒闇
「ふふふ、カロリー執事敗れたり!貴方の攻撃は私に力を与えるだけよ!」

私にとって体脂肪と体重はパワーよ!ユーベルコード暴飲暴食グラトニーモード発動!さらにスキル大食いと脂肪による誘惑も追加よ!

さあ肉でもスイーツでも油でもどんどん食べさせなさい!(ぶくぶくっ!)
貴方の全身食べつくしてアゲルわ…!(バニー服が弾け飛びぽちゃを超え肥満を超え肉塊へ)

「……ふう、ふう、ごちそうさま…」(身動きできなくても満足そうに)


ユーミ・アハティアラ
売れ残ったばかりか怪人にされ嫌われ者になったケーキたちの無念を晴らすためにも負けられない。
あとやたらカロリーカロリー言ってくる奴は嫌いだ(本音)

あの高慢怪人の鼻っ柱…アイスっ柱?を折るためにもあえて正面から攻撃。
飛んでくるカロリーは拷問具で噛み砕き、ユーベルコードで特別ラッピングの刑だ。
その後拷問具での追撃でシェアされた業務用アイスみたいにぎったんぎたんにしてあげよう。

万一超カロリーが自分の口にぶち当たったら甘んじて食べる。
美少女だからちょっと摂取カロリーがやばかったり顔中クリームだらけになったりしても許される。はず。(訳:[激痛耐性]と[恥ずかしさ耐性]を駆使して攻撃には耐える)


リグレース・ロディット
(絡み・アドリブ大歓迎)

ケーキの怪人いなくなっちゃった……次はアイスをお持ち帰りすれば良いの?食べていいー?食べられたりしたらきっとケーキ怪人たちの気持ちがわかると思うよ。
【POW】真の姿になって装備の『ドロップシャドウ』で動きを止めながらユーベルコードの『血統覚醒』で戦うよ。命をくれた(食べさせてくれた)から命を尽くすよ。……ん?あれ、なんか違うような……まあいっか。確かこういう時はいただきます、っていうんだよね?『吸血』ついでに『生命力吸収』したらもっと美味しくなると思うんだ。だからやってみよ。……えっとね、えっとね……僕アイス初めて!!



「ふふふふ……あまーい、ニオイがするなぁ」
 暴風ともいうべき攻防が一段落したその時を見計らったかのように、地の底から這い出すような声が響いた。
 兎のような鮫のような、愛らしいような凶悪なような、あと奇妙な触手を帯びたキマイラが、いつの間にかそこに居た。
「おやおや、これはまた、随分と……ワガママなお客様のご様子です。歓迎いたしますよ。あなたのようなお方にこそ、私の理想は近いのですから」
 闖入者ともいうべきタイミングで登場した鮫兎・醒闇(兎と鮫となんかの触手・f02122)の存在にうろたえる事も無く、カロリー執事は頭の3分の1を失ったままでも涼やかな佇まいを崩さない。
「そのようだわ。このニオイだけで、もうお腹が減っちゃうもの」
 先の攻防で砕け飛び散ったカロリー執事の変貌した肉体。その残滓ともいうべきお菓子の残骸で、既にスタジオ一帯は様々な甘味の臭気で、ちょっとしたバイオテロか、お菓子工場の様相であった。
 この臭気というものはなかなか強敵であり、その場に居合わせた猟兵の一人ユーミ・アハティアラも常識的な範囲でお菓子を常食するとはいえ、この甘い香りの暴力に若干辟易していた。
「ウサギ君、よく平気だね……」
「ふふん、当たり前よ。体脂肪はパワーなんだから!」
 力強く鼻を鳴らしてニコッと笑うと、醒闇の口元から獰猛なギザギザ歯がぎらりと光る。
「たいしぼー? おいしいの?」
 そしてもう一人平気そうな顔をしているリグレース・ロディットは、言葉の意味をうまく飲み込めていなかったようだが、この場に於いて体格のある醒闇の存在は頼もしく映ったらしい。
 この場に残る戦力で、いよいよという状況。自然と三人は一並びになってカロリー執事と対峙する。
「どうする。さっきみたいに、両手でお菓子の猛攻を食らったら、ユーミの得物じゃ捕らえ切れないかも知れない」
「全部食べちゃえばいいじゃない。ていうか、食べちゃうわ」
「えぇ……いや、食べられる勢いじゃ……ま、まあいいや。とにかく、何か飛んできたら、ユーミが受け止める。例のお菓子の腕は……」
「わかったわ。速い攻撃はユーミにお任せね。おっきいのは任せて」
「僕も、僕もー!」
 クールとセクシー、タイプの違う女性二人に挟まれる形でリグレースが精一杯手を上げて存在を主張し、大雑把極まるという弱点を除けば簡潔な作戦会議は終了する。
「ふふ、いくら策を練ろうと、この甘味の地獄は熱した飴よりもべったりと張り付いて逃れられませんよ」
 ゆらり、と広げるカロリー執事の両腕がぼこりぼこりと異様に膨れ上がって形を変えていく。
 さっそく、恐れていたお菓子の腕による質量攻撃である。
 今は別の味方の援護に回っている巨体のウォーマシンならばいざ知らず、現在の三人であの強力な両腕を全て受けきるのは難しいはず。
 そう判断したユーミは、いち早く得物である有刺鉄線つきのトラバサミ「ヤトノカミ」を手に前に出る。
 こうなれば、カロリー執事が攻勢に出る前に出鼻をくじいて、攻撃を中断させる、先手必勝に限る。
 だが、それすら想定していたのか、カロリー執事の手前にケーキスタンドが金属音を立てて浮かび上がった。
 怪しく光を帯びるケーキスタンドには、いつの間にか大量のプチシューが並んでおり、それがうず高く山を作っているようだ。
 クロカンブッシュ? いやちがう、あれは……弾丸だ!
 瞬間的にそう判断したユーミは、拷問具に巻きついた有刺鉄線を大きく投網の如く展開させる。
「く、間に合えっ!」
「遅いですよ!」
 散弾銃の如く飛び出してきた多量のプチシューを包み込もうとした有刺鉄線の網だったが、幾つかは網をすり抜けて、ユーミの顔面に衝突してしまう。
「った! ……くない!」
 たかがプチシュー。されどプチシュー。超高速の飛翔体と化したプチシューの直撃は、強い衝撃と共に炸裂し、中身のカスタードとホイップという大カロリー兵器をぶちまける。
 バニラの強い臭気が、鼻腔を突き抜ける。匂いがきつすぎて目を回してしまいそうだ。
 たまらず口を開けると、待っていましたとばかりに口の中にプチシューが幾つも入ってくる。
「うごごご……」
 美少女を自称するに足る美貌の持ち主、とは言い難い声を上げてしまうところだが、それにもめげず、ユーミは口に入ったものは甘んじて受け入れ、よく噛んでから嚥下する。
 美少女が口に入れたものを吐き出すなんてテレビ映りの悪いことは出来ないのだ。
「うげ……こりゃあ、明日から走りこみだなぁ……」
 多量に甘いものを摂取したのに、苦々しい顔をしながら、ユーミはとらえたケーキスタンドを引き寄せてトラバサミで粉みじんに噛み砕いた。
「ハイカロリープチシュー、ご満足していただけましたかな?」
「うるさいよ。カロリーカロリー言う奴は嫌いだ」
 若干の涙目で思わず本音が洩れてしまうも、映像配信中に涙を見せるわけにはいかない。
「おかわりがお望み、ということですね」
 アイスのように冷ややかな声。それと同時にカロリー執事の片腕が、膨れ上がった練り切りを幾つも繋げた様な悪趣味な腕が伸びてきていた。
 しまった、間に合わない!
 慌てて再びヤトノカミを展開しようとするも、それよりも前に彼女の前に立ちふさがる人影。
「これをぉ、待ってたんだよゴォッ!」
 ひどく陽気な声が途中でくぐもったものになる。
 衝突音で潰れたと言うのもあるが、一番の原因は、巨大な練り切りの塊をあろう事か顔面で受け止めたからであろう。
「醒闇! どうして……顔面で」
「あいびょーぶ、へーひ、へーひ」
「何言ってるかわかんないよ」
 バニー姿の頭だけを練り切りに埋めて片手だけグッとサムズアップを見せる醒闇の行動は意味不明ではあったが、言葉のトーンだけはとにかく陽気で明るかった。
 ほっとするのも束の間、カロリー執事が腕をもう一度振るうと、醒闇の体はあっさりとそれに引っ張られ、振り回されて、凄まじい勢いで周囲の撮影機材を薙ぎ倒しながら、しまいには床に強く叩き付けられてしまう。
 それきり巨大な練り切りに押し潰される形で、醒闇は動かなくなってしまう。
「そんな……!」
 悲痛な声を上げるユーミだが、そんなユーミのもとにカロリー執事のもう片方の腕が迫る。
 濡れおかきを何百倍にも引き伸ばしたみたいな巨大濡れおかきの腕が鞭のようにしなって、ユーミに振り下ろされるが、その直前、黒い影のような何かが一閃。
 粘りのあるはずの濡れおかきが半ばから両断され吹き飛ばされる。
「ついに甘辛いまできましたか。そろそろネタ切れなのでは?」
 ユーミを守るように立ちふさがるのは宵闇のような黒い髪の青年……だが、この人は誰だろう。
 服装だけなら見覚えはあるのだが、色々見た目が違うし、何より……ユーミの知っているリグレースは、年下の少年だったはずだ。
「ぼ、自分ですよ、リグレース! ほら、半分吸血鬼だから」
「え、そうなの? いや、だって……うーん」
 振り向いてニッと子供っぽい笑みを浮かべるリグレースに、ユーミは思わず眉根を寄せる。
 誰だって自分より年下の少年が、いきなり長身イケメンの吸血鬼に変貌して助けにやってこられたら、困惑するものである。
 それにしても、黙ってれば知的で線の細いクールな印象なのに、笑う姿がちっとも成長してないのが、ますます微妙に感じてしまう。ちょっとかわいい。
 いや、今はそれどころではない。
「さあやろう、ユーミ。片腕相手なら、戦える」
「うん、でも……」
 黒い影のようなものでできた剣のようなものを手に促すリグレースに、ユーミは後ろの方で押し潰されている醒闇が気になったものの、立ち上がって再び戦いに参加する事にした。
 心配なら後からでもできる。が、そういえば、どうして片腕だけなのだろうか。
「来ます!」
「わかってる!」
 逡巡は一瞬。カロリー執事が切り落とされた濡れおかきを切り離して新たな腕を作り出すのと、二人が加速するのは同時だった。
 今度の腕は、半透明で視認しづらいものだったが、幾つか気泡を含むゲル状の何かであることはわかった。
「自分が前に出る。ユーミはその間に」
 リグレースがいち早くゲル状の何かに対して黒い得物、自身の影から作り出した武器「ドロップシャドウ」で斬り付ける。
 先ほどの濡れおかきのようにあっという間に両断……するかと思いきや。
「斬れ、ない……!?」
 半透明のゲル状の腕。それは、巨大な水飴だった。
 よく練らないと柔らかくならないほどの粘性、そして影で出来ている武器にとって、光を通す水飴は、文字通り歯が立たなかった。
 それを計算して水飴の腕を作ったのかどうかは不明だが……それでもリグレースは諦めず、瞬時に別の手を考えた。
「ユーミ、武器を借りますよ」
 剣を模していた黒い武器が形状を変え、茨のような棘を持った紐状に変化し、それはそのまま水飴の腕へと絡み付いて動きを封じて見せた。
 そして、その瞬間をユーミは見逃さなかった。
「ケーキ怪人達の無念を晴らす。業務用アイスみたいにぎったんぎったんにしゃくり取ってやる!」
 飛び上がったユーミのトラバサミが呻りをあげる。
 先の戦いで倒したケーキ怪人たちは、嫌われ者のレッテルを貼られていた。怪人になるほどの絶望。それは想像もつかないが、彼らの無念の先にこのカロリー執事がいるのならば、こいつも倒すべき相手に違いない。
 散っていった(一部は帰った)彼らの無念の一撃は、カロリー執事の頭部の二段目ストロベリーアイスを半分ほど削り取ることに成功した。
「おお、お見事です」
「く、こいつ、余裕そうに!」
 ユーミが着地すると同時に、残ったストロベリーの頭部の半分も崩れ落ちたが、カロリー執事は自身の負傷などどうでもいいかのように、ユーミを賞賛する。
 その言葉の真意が全くつかめず、歯噛みするところだが、次の一撃を加えようとするユーミは、自分の足が床から離れないことに気がついた。
「……これ、水飴……!」
「そう、既に私の周りには近づかれた時のための罠を仕掛けておいたのです」
 涼しい顔で言ってのけるカロリー執事だが、彼自身ももはや攻撃手段は残っていない筈だった。
 水飴の腕はリグレースが拘束しているし、もう片方の腕は……そういえば、もう片方の腕はどうしたのだろうか。
 ユーミはふと、あることに気が付く。
「楽しいひと時でした……この世界は現在、食に困ることは無く、好きなものを好きなだけ食べられますが……それだけに、食べ残される、かえって食べられなくなるものの、なんと多いことか……ケーキ怪人もそういった飽食の中から生まれたのです。
 好きなものを好きなだけ。それはとても素晴らしい事です。
 しかしできることならば、それらすべてを愛して欲しかった。
 私どもの粗暴な夢の、その最初の一歩は、そんな……そんな小さな願いでした。
 だが、もう目標に達したも同然……これだけのアピール。この世界も無視できはしないでしょう。そう、信じたい」
 静かに語り、カロリー執事は仕上げとばかり、練り切りの腕を持ち上げようとして、
 そうしてふと、その腕が既に無いことに気付いた。
 そして、その背後に、どしりどしり、という重厚な足音が近付く。
「いい演説だったわ。でもね、ふふふ……カロリー執事、貴方の負けよ。だって、貴方の攻撃は、私に力を与えるだけだもの」
 振り向いたカロリー執事が目にしたのは、先ほど地面に叩き付けたはずの醒闇の姿だった。
 いや、本当に彼女なのだろうか。執事の記憶していた彼女の姿よりも、数倍は膨れ上がっている。
「まさか……あの練り切りの腕を完食なさった、というのですか!?」
 ぶくりぶくりと、話しかける合間にも膨張を続ける有様は異様としか言い様が無いが、質量を考えれば、かなり圧縮して見積もっても大人しいのだろうか。
 ……ユーベルコード『暴飲暴食・グラトニーモード』
 食料を食えば食うほど、体重が増加し肥満化するが、それと同時に比類なきパワーを得るという、彼女独自の能力である。
「さあ肉でもスイーツでも油でもどんどん食べさせなさい!貴方の全身食べつくしてアゲルわ……!」
 おいおいまだ食うのかよ!
 その辺りに転がっている求肥やら芋けんぴやらの残骸を口に放り込むと、ついに肉体の質量は、身につけたバニー服の限界をも肥え……もとい超え、みちみちと千切れ飛んでしまう。
 いかん、放送コードが!
 そこは安心して欲しい。どこで暴飲暴食してもいいよう、彼女の下着は伸縮性が高く設計されているのである。だが、それにしても、限界まで引き伸ばされた下着のラインがまるで高級ハムの様相を呈しているのだが、そこまで言っては流石に失礼とばかり、周囲の猟兵たちは口を呆然と開くか、さもなくば噤むのみに留めていた。
「おお、おお! 素晴らしい……これこそが、これこそが、我が主の望む理想のイモム」
 何やら感極まったカロリー執事は、なぜか攻撃するのも忘れ、醒闇の巨大な肉体に見とれたように立ち尽くし、最後まで言葉を綴るまでも無く、残った一段目のチョコミントアイスを上半身ごと食われてしまった。
 なんとも、呆気のない幕切れに、周囲は沈黙に包まれ、しばらくは醒闇の口元の咀嚼音のみが続いていたが、それもやがてこれもまた大きな喉の音で終わりを告げる。
「ぶふぅ……ふぅ、ふぅ、ごちそうさま」
 息苦しいような呼気が混じるも、その肥え……もとい、声と表情はなんとも満足げであった。
 やがて、周囲に散らばったお菓子の残骸が、ささくれたように消えていく。
 ユーミの足を接着していた水飴、リグレースが押さえつけていた水飴もまたやがて存在感を失って消えてなくなると、それまで周囲を包み込んでいた甘い空気も薄れていく。
「終わった……? あれ、気持ち悪さが、なくなったわ、ね……」
 猛烈な倦怠感に襲われていた公明が頭を抑えつつ、目をぱちくりとさせつつも元気に立ち上がる。
「彼もまた、ケーキ怪人達や、残飯を憂う思いだったのでしょうか……」
 防御形態を解いたカプラもまた、存在を検知できなくなったカロリー執事を遠く想い、傾き始めた空模様を眺める。
 そして、最後の戦いを繰り広げていた三人は、
「あー、無くなったんだ……お腹が空いてきたぁ……」
「アイス食べ損ねちゃったよー、うわーん、初めてだったのにー!」
「君たち、結構余裕そうだね。ユーミは、甘いのしばらくいいかなぁ……」
 三者三様、勝った喜びよりも、むしろ色んな意味でカロリーの心配をしていた。
 そうして、オブリビオンの脅威の去ったスタジオには、なんだかんだで猟兵たちの笑顔と、そして……一抹のほろ苦さが残ったのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『プロジェクションマッピング・フェスト』

POW   :    鑑賞しながら動画配信や写真撮影しちゃおう

SPD   :    映像がよく見えるベストプレイスを探してみて!

WIZ   :    プロジェクションマッピングをじっくり見て、内容を語り合おう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 かくして悪は去った!
 果たして彼らを悪と断じていいものかどうかは、不明ではあるのだが……。
 しかしそれでも、住民にとって迷惑なオブリビオンは去ったのである。
 ついでに言えば、お菓子の怪人と猟兵たちとの壮絶(?)な戦いの模様は、奇しくもカロリー執事一味がスタジオジャックした影響もあってか、配信サイトは一種のお祭り騒ぎになっていた。
 結果的に、スタジオ側としては、大きな利益へと繋がったという話には猟兵一堂も複雑な思いかもしれない。
 だが、番組制作側のみがおいしい思いをするのはよろしくない!
 番組スポンサーは金払いがいいのである。そうでなければ、番組制作なんてできやしないのである。たぶん。
 というわけで、君たちが招待されたのは、同じ屋外スタジオには変わりないのだが、そこは向かいに展示されるプロジェクションマッピングの祭典への特等席にもなる。
 実を言えば、今回の騒動で屋外スタジオの損傷もあったため、その修繕のため、一時使用不能になっている。
 入ることができるのは関係者のみということだが、今回は特別にその場所を猟兵にのみ解放してくれるようである。
 君たちはそこへ飛び入ってもいいし、友人などを誘い合わせて一緒に鑑賞してもいい。
 ちなみにプロジェクションマッピングとは、建物などに対してプロジェクターで映像を投影し、その変化を楽しむ舞台演出の一種であるという。
 平面でない建物を使うことで、より立体的で、その陰影すら演出に利用するその迫力は一見の価値がある筈だ。
片桐・公明
結局スイーツの代金は払い損ねちゃったわね。まぁ、鉛玉を代わりにするか、ツケておいてくれるでしょ。とりあえず、ご馳走さま。してやられたけど、スイーツは本当に美味しかったわ。(先の戦闘を思い返し、少しだけ黙祷する。)

【WIZ】プロジェクションマッピング自体は私がいた世界にもあったけど、ここまで来ると拡張現実に近いわね。さすがキマイラフューチャー。技術躍進と派手さにおいては群を抜いているわね。(様々な映像に目を輝かせている。体調は肩の傷を除いて全快している。)

ってこれじゃあ、おのぼりさんみたいね。間違ってはいないけど。


聖護院・カプラ
今回事件を起こした怪人は、信念を持った強力な者達でした。
(人類抹殺という到底許しがたい計画も、甘味というオブラートで包むことで脅威性をキマイラフューチャーの住人に悟らせずに”迷惑な怪人”程度の認識にさせた事実を受け止めねばなりません)

ですがそういった”シリアス”はこの世界には似合いませんから……。
特等席からのプロジェクションマッピングを配信(景観メイン無言配信)させていただいて、
配信の最後に屋外スタジオの損傷にカメラを向け
「こういう事をしてしまう変な怪人が出たら是非私達にお知らせください」
「怪人に関する悩み事解決いたします」
といったメッセージを盛り込んでこれにて一件落着とさせていただきます。


リグレース・ロディット
アイス……アイス食べたかったよぉ。
【SPD】この世界だからどこにでもアイス売ってるんだろうなーってことで、え、バニラのアイスの上にみかんのアイスを?!……あのオブリビオンは3段アイスだったから2段アイスなんて当たり前……?
んっとーアイスを片手に映像が良く見える場所を探すよ。僕ちっちゃい方だから高い所……少し遠くで見よっか。場所探しから楽しい…………すごいねこのバッ!ときてドーンッ!!て!!これが映像なんて考えられないや。
こうも技術が進んじゃうと残したりする理由がわかっちゃったかも。少し、かなり?ぬるま湯だから心配になっちゃう……ま!今はこの映像楽しもう!
(絡み・アドリブ大歓迎)



 あの騒動、あの戦いから日をまたぎ、更に日もとっぷりと暮れたかつての戦場、大通り向かいの屋外スタジオは、かの戦いの激しさを物語るかのごとき爪痕を幾つも残していたためしばらくは修繕のため、使用不可能という状態であった。
 しかし、そこはそれ、怪人騒動にはもう慣れっことなってしまったキマイラフューチャーの住人にとって、そんなものは楽しいアクシデントに他ならない。
 動画撮影が出来る設備が一時的に使えないのは痛手ではあったものの、その復旧はもとより、トラブルを切欠にして別の事へと利用目的をシフトさせる機転は、彼等ならではのものがあった。
 日をまたいだこともあって、屋外スタジオ設備のうち、修理が必要な機材は撤去され、壁や地面に生じた損傷などには、未だに生々しく補修跡が残っているものの、スタジオそのものは既に片付いているといってよかった。
「なんだか、嵐が去った後みたいね」
 あの日、スイーツ怪人達と白熱のバトルを繰り広げた猟兵たち、そしてスタジオスタッフ達と共に現場でもある屋外スタジオに通されると、いわゆる関係者の人でもある片桐公明は、あちこち片付けられて広くなったスタジオを見回して、大きく息を吐いた。
 そういえば結局、彼ら怪人は姿を消し、おいしいスイーツをたらふく食べたことによりちょっとだけピンチに陥ったこともある公明だったが、お代を払う前に倒してしまった。
 まあでも、と転落防止のフェンスに肘をかけると、大通りを挟んだ向かいののっぺりとしたビル群がライトアップされているのがとても目立っていた。
「あーん、結局アイス食べ損なったの思い出しちゃったよー。ここに来たら、そりゃ思い出すよー! アイス食べたかったよぉ……」
 ふとスタジオを見回せば、公明と同じくスイーツ怪人たちと戦いを繰り広げたリグレース・ロディットもきていた。
 そういえば、アイスケーキを食べたりもしたんだっけ。
 リグレースがとほほというような顔つきになっているのを見て、公明は自分があのときに食べた物を思い出し、そしてうっかり食べ過ぎて低血糖を引き起こしたことまで思い出してしまい、なんとも言えない感慨に襲われて笑ってしまう。
「おや、もうお体は平気なようですね片桐さん」
 ひとしきり笑うと、自分で撃って自分で手当てした肩の傷が突っ張って、思わず肩を抑えてしまう。
 そんな公明の様子に気付いたのか、またも同じくここで戦ったことのある聖護院カプラが話しかけてきた。
「あら、このタイミングでそんなこと言うなんて、ちょっとイヤミじゃない?」
「そんなつもりは……いやはや、ご自分で付けた傷とはいえ、痛みが残るということは、生きようとする事への好転反応。御自愛ください」
「ご高説どうも。これも療養だよ。……それと、こないだは盾になってもらって、助かったよ」
「ははは、なんのこれしき。この体は、人々の盾になってこそですからね。おっと、ロディットさんがお困りのようです。では、また後ほど」
「はいはい、カプラちゃんもゆっくりしなよ」
 追い払うように手を振る公明に、カプラはどこか楽しそうに巨体を揺らして歩いていく。
 あの戦いで最も多くの攻撃を受け続けたのは、強固な存在感と装甲を持つカプラだろう。
 甘味による緩やかな人類滅亡計画。その所業自体はとても気の長い戦いと言わざるを得ないものの、彼らが企てたのはどれだけ堅固なオブラートに包み込んだとて度し難いものに変わりはない。
 それがただの迷惑な怪人程度の認識にしかならないという事実は、忘れてはならないことだ。
 とはいえ、それも今はデータの奥底にしまっておこう。この世界にそんなシリアスは似合わない。
「ロディットさん、ロディットさん。実はこちらのタイルをこんな具合に叩きますと……」
 事件の感慨を鋼鉄の胸の内に秘め、とぼとぼとスタジオを歩くリグレースを呼び止めると、カプラは手近な床板を正確なリズムで小気味よく鳴らす。
 するとどこからともなく器に盛られたアイスが飛び出してきた。
「うわ! アイスだぁ! え、じゃあここを叩けばアイスが出てくるの?」
「ええ、でも、うまく叩かないと……」
 喜色満面といった様子でカプラからアイスの器を受け取るリグレースは、カプラがいい終える前に見よう見まねでタイルを叩いてみる。
「わわっ、バニラアイスの上にみかんアイスが!」
「うーむ、ちょっとしたリズムの違いで、別のフレーバーが出てくる、と言おうとしたのですが……。しかし、バニラにみかんというのも、悪くはないのでは?
 あのカロリー執事ですら、三段重ねだったのですから」
「そっかぁ……よーし、それなら、全種制覇しちゃおうかな!」
「ははは、あんまり食べ過ぎると、おなかを壊しますよ」
 目をキラキラとさせてアイスに舌鼓を打つリグレースを見つめつつ、確かにこういう笑顔のためなら、素晴らしいスイーツとしての矜持も、そして売れ残る彼らの無念もある程度は納得がいくかもしれない。
 物や空気に心があるならば、と考えない日はない。
 心とは、魂とは、どこに生じ、またどこに消えていくのか。
 カプラもまた、出所が知れている被造物である。
 そのルーツは、きっと魂に帰依しない。
 では、自分の今のこの意思は、どこから生じ、そしてどこへ向かっているのだろうか。
 考えない日はない。だが、こうして日々を歩み、誰かの助けに、救済になるということ。
 その充足は、誰かに意図して与えられたものではない。
 これが魂の軌跡だと言うのなら。
「見て見て、はじまった!」
 リグレースをはじめ、スタジオに集まった者達が歓声に湧き上がる。
 ライトアップされたビル群に、流星のような光の粒子が散りばめられる。
 この屋外スタジオは、プロジェクションマッピングの祭典、その特等席なのである。
 平面ではなく、既存の建造物に対して、幾重にも光が浴びせかけられ、黒の中に白が、白に浮かぶ虹が、あらゆる光彩でもって夜空に佇む無骨なビル群を美しく飾っていた。
「すごいすごい! バッときて、ドーンッ!って……これが映像なんて、考えられないや……」
 感嘆の声を洩らし、リグレースはあちこちと場所を変えて、視点を変えて楽しんでいるようだった。
 その足取りは若干不安を覚えるようなものがあるが、そこは猟兵、危なっかしく見えながらも、人ごみなどにぶつかるのを器用に避けていっている。
 歳若く、言動もあちこちに危うい部分を抱えているリグレースだが、彼にも彼なりの悩みはあるし、彼の出自もまた真っ当とは言い難い。
 そんな彼からすれば、キマイラフューチャーという世界はなんとも優しく、生ぬるく感じる部分もあるのだろう。
 それでも、嫌悪したり見下したりはしない。そこに住まう者には、そこに住まう者の苦悩や葛藤があって然るべきである。
 そしてそこで得た充足は、その結果たるこの輝き、彩りは、愛すべきものに他ならない。
 だから、心配になってしまう。
 リグレースの胸に生じる不安の種は、故郷を想うゆえだろうか。
 まあでも、苦悩が生じれば、また解決すればいい。その為に自分たちのような猟兵がいるのだ。
 期待と決意に胸が高鳴る。その心の輝きは、目の前の光景にもきっと引けをとらぬ筈だ。
「プロジェクションマッピング自体は私がいた世界にもあったけど、ここまで来ると拡張現実に近いわね。さすがキマイラフューチャー……見事なものだわ」
 公明もまた、光の織り成す幻想的な演出に目を輝かせ、その技術の高さに溜息を洩らさんばかりであった。
 今回も色々と冒険してしまった。どれも輝かしい思い出だし、自分の体験したものは、なんだって宝物だ。
 でも、隣の芝生が青く見えるわけではないが、両親のことを想うと自分もまだまだ冒険したりなく感じてしまう。
 病気かもしれないな。
 自嘲気味に喉を鳴らすと、肩の傷が突っ張るような痛みを発する。
 それも今は、目の前の光彩に委ねれば、心地よいものに感じるのだから、この世界は強い。
 自分の世界は、明るいとは言い難い。でも、それも捨てたもんじゃない。
 ここがとても明るいからこそ、公明は自分と、そして自分の世界の輝きをもう一度探したくなるのである。
 ……そうして、この景色、この演出、この光彩を自身のアイセンサーを介して動画配信しつつ、自分は無言でスタジオ内をゆっくりと巡回していたカプラは、その演出がクライマックスを迎えると、その視点を配信したままスタジオの方へともどした。
 そこにあるのは、この大掛かりな光の演出が終了するのを惜しむような人々の姿と……。
 そして先の戦いで生じた損傷痕。
「こういう事をしてしまう変な怪人が出たら是非私達にお知らせください」
 最後の最後に、配信画面にそういう文言を表示させ、カプラは心中で力強く微笑む。
 怪人に関する悩み事解決いたします。
 その一文を添えつつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月02日


挿絵イラスト