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指導者の指導

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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 技師、ヘルガにとって日常は単純なものだった。
 まず起床。
 次に洗顔。
 簡単な朝食。
 そして、車両技師としての仕事を開始。
 途中で昼食。
 仕事を再開。
 やがて夕食の時間になる。
 しばらく仕事をして切り上げる。
 明日の仕事の準備や、雑事を済ませると、
「…………」
 就寝。
 それだけだった。
 拠点の誰かから頼まれた仕事を期日までに終え、賃金を貰う。そんな繰り返しの日常に不足を感じることも無く、むしろ静かな生活は好みだった。
 だが、
「――――」
 ヘルガは同時に思う。
 拠点も、己も、以前とは何もかもが変わったなと。


 先代に引っ付いてやってきた少女が技師としての実力も上げ、先代の足を引っ張ることも無くなったのも、もう今からずいぶん昔だ。
 作業をこなせる人間が増えれば工程も並列できる。二人の稼業が安定化し、上向きになったところで、外部からさらなる追い風が来た。
「――猟兵による道路敷設」
 地理的に交易の要所を担っていたこの場所は、以前から車両が集まりやすい拠点だったが、この追い風によってその勢いが増したのだ。
 道路が安定化すれば、車両が増える。車両が増えれば、車両技師としての仕事も増える。そして自分達は、技師の人数と実力もあった。
 なので、必然的に仕事の量も増えた。というか増やした。
 稼げるときに稼ぐ。そういう意識の二人だったが、しかし困ったことが二人を同時期に襲った。
 先代が死んだのだ。
「あのクソババァ、仕事取るだけ取って……」
 ベッドの上で足を組みながら天井を見る。少し前なら眉に皺でも寄っていただろうが、今は感情的にも随分フラットだ。
 あの時は大変だった。
 工房のタスク表に、“葬儀の手続き”という未経験の案件が新たに加わったが、二人分の仕事だって貼ってあるままなのだ。
 拠点の皆は、葬儀と同じく仕事の方にも便宜を図ってくれようとしたが、ヘルガは断った。
 自分の実力的にイケると、そう判断したのもあるし、先代が遺したものの中で最新だと、そう思うところもあった。
 が、一番は、
「稼げるときに稼ぐ、だ」
 結局、イケた。たった今。請け負った全ての依頼を、期日通りに終わらせることができた。
 二人分の報酬で、得るのは己のみ。なので新しい工作機械でも取り寄せようかと、そう思い、拠点のソーシャルディーヴァから与えられた端末でネットワークにアクセス。
 すると、興味深いニュースが飛び込んできた。
「――拠点の放棄?」
 売店などに買い出しをする際に、噂を聞くことはあった。
 曰く、交易が活発化し、拠点が拡大したがために食料の配分や仕事の権益で揉めているだとか。
 静かな生活を好み、仕事にも困っていないヘルガは、拠点内における政治的なスタンスを強く持たず、まぁそういうものかと、そんな風に思っていたが、拠点の放棄というニュースは、噂から些か飛躍しすぎなように感じた。
 だが、ニュースに書かれた拠点議会の発表全文を読んだことで、ヘルガは納得する。
「拠点の外のオブリビオンか……」
 破邪顕正宗。ヘルガ達の拠点周囲に現れた宗教団体は、以前から拠点を襲撃してきていた。
 “過ぎた冨、名誉、暮らしは争いの種となる”。そのような教義で攻撃の標的にするのは拠点の富裕層や、物資の輸送車両などだ。
 つまり、車だらけのヘルガの工房やこの拠点にとって、相性は最悪の部類に入る。
「……工作機械は取りやめだな」
 抵抗しようにも相手はオブリビオンだ。自分達では敵わず、その場所から離れるしかない。あまつさえ、拡大の最中にある拠点は、その勢力図も混沌としており一枚岩ではない。
「丁度、猟兵でも来て助けてくれればいいんだが……」
 そうすれば、また静かに過ごせる。と思い、気づく。
「……猟兵が帰った後はどうする」
 また、このようなことが起こった時にどうすれば? そんな考えがヘルガの脳内を渦巻く。
 猟兵はこの世界の厄介毎に駆けつけてくれるが、いつも助けに来てくれるとは限らない。
「……つまり、この拠点がもっと強靭になれば良いわけだけど……」
 そんな事、可能なのか?


「可能ですわよ!」
 猟兵達の拠点であるグリモアベースに、フォルティナの言葉が響く。
「今回、私が予知したのは、今にも放棄されようとしているアポカリプスヘルの拠点ですの」
 用意した概要図を展開しながら、言葉を続ける。
「交易拠点として栄えていたこの拠点は、数か月前から始まった猟兵による道路敷設事業によって、その勢いを過去最高に迎えてますの」
 しかし、
「人が増えれば増えるほど、拠点の内外で混沌は生じるようですわ……。一方はまぁ、人間同士の不和ってよくあることなのですが、もう一方、拠点の外で大規模なオブリビオン集団が発生してますの」
「拠点が発展するにつれて、躯の海から滲み出る過去も多くなってくるのか、オブリビオンによる拠点襲撃は強さを増し、ついに拠点議会は拠点の放棄を決定しますの!」
 一大拠点ですのに勿体ないですわね、とフォルティナは言う。
「なので、猟兵の皆様にはこの拠点を残してほしいんですの。……強靭な拠点を築ける“リーダー”と共に」
 フォルティナは、一人の顔写真を展開する。ヘルガだ。
「彼女はこの拠点の車両技師の一人なのですが、“人々を率いるカリスマ性の持ち主”ですわ。猟兵ならこの素質を見抜けるのですが、拠点の住民からは彼女は『仕事に真面目で、若いけど腕のいい女技師』程度の評価ですの」
 勿体ないですわね、と二度目の言葉を言う。
「人々はこの拠点を放棄すべきと考えており、その準備が進められていますが、彼女をうまく“リーダー”として覚醒させることができれば、拠点を放棄する必要も無いどころか、諸問題を解決し、より強い拠点を作ることができるかもしれませんわ」
 ならばどうするべきか。
「彼女を“リーダー”として教育して下さいまし! 方法としましてはこんな感じですわ」

 ・まずは彼女を連れて冒険。向かう先は火急の障害であるオブリビオンの方向ですわね。車修理の素材とか拾いながら向かって下さいまし。
 ・オブリビオンの元へたどり着いたら、ヘルガさんと共に戦い、彼女に戦闘経験や指揮経験をつけつつ勝利してくださいですの。
 ・目に見えた戦功を得たヘルガさんと共に拠点に帰還し、日常生活の中でより一層自信をつけさせたり、今後の成長に繋がるような教えを諭したり、他の人々に彼女の功績を知らしめたり、この拠点の課題の解決方法を教えたりしてくださいまし。

「ヘルガさん本人は“リーダー? 興味無い”ってクール系ですけれど、どうも先代からの古株ポジションで、拠点の皆からも頼られがちで、自分の仕事に強い責任感があって、なんだかんだで拠点も気に入ってるようで、つまりは無自覚系ですの」
 フォルティナは手を振り、その先から光を放つ。砂状の光はグリモアだ。
「キングメイクならぬ、リーダーメイクってところでしょうか。ともあれ、行ってらっしゃいまし!」


シミレ
 シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
 今OPで25作目です。アポカリプスヘルは初めてです。
 不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。

 ●目的
 ・放棄される拠点を救うために、住民の一人、ヘルガを拠点のリーダーとして教育する。
 ・ヘルガを教育することで拠点の諸問題を解消し、拠点をさらに強靭にしてもらう。

 ●説明
 ・舞台の拠点は交易が盛んな拠点です。車両が多く、ヘルガはそれらを修理・整備する技師です。
 ・猟兵の【Q】によって発動したアポカリプスヘルの道路敷設。これも合わさり、拠点は繁栄しましたが、内と外に問題が生じました。
 ・拠点内部では、急激な拡大で食料や権益といった部分で軋轢や摩擦が生じ始め、住民同士の不和が起こっています。
 ・拠点外部では、増えた住民に呼応したのかオブリビオンが活性化し、拠点への襲撃が激しさを増して、とうとう拠点の放棄の要因となりました。
 ・これら問題を解決するためにはヘルガがリーダーになるしかありません。しかし彼女は、「え、リーダーとか興味無い……」系です。どうやってリーダーにして、どんなリーダーにするかは様々だと思います。

 ●他
 皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
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第1章 冒険 『エンカウント・レイダースベース』

POW   :    力を売り込もう!/強行突破だ!

SPD   :    技術を見せつける!/静かにステルスだ!

WIZ   :    頭脳で差をつけろ!/計略で一網打尽だ!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 技師、ヘルガにとって日常は単純なものだった。
 まず起床。
 次に洗顔。
 簡単な朝食。
 そして、
「……仕事は終わったんだったな」
 言い換えれば、仕事が無い。工房まで来たところで、しまった、と頭を掻き、天を仰ぐ。
「あー……何か仕事貰って、いや、確か、素材がもう切れかけてたか……」
 ほぼ缶詰め状態で大量の仕事にかかりきりだったのだ。車の修復などに使う素材が切れ、このままでは作業に支障を来す。
 簡単な仕事であれば今の手持ちでいけるが、後々のことを考えるとやはり補充は必須だ。
 馴染みの奪還者に素材を拠点の外から取ってきてもらおうと、連絡するために端末に触れた時、来客を知らせる玄関のチャイムが鳴った。
「……修理の依頼か?」
 だったら断らねばと、そう思って扉越しに応対してしばらくもしない内に、ヘルガは己の過ちに気づいた。
 目下、最大のニュースである拠点放棄に関する情報の方が訪ねてくる確率は高く、
「――はぁ?」
 それが来るということは、己が当事者の時なのだと。


「拠点の外とか数年ぶりだよ……」
 ヘルガは眉に皺を寄せながら、周囲を見る。辺りは拠点とは違う荒野で、前方に廃棄された建物がある。
「リーダーの素質がどうのとか、カリスマ性がどうとか、いきなり玄関で語られたときは、また別の宗教団体が出来たのかとそう思ったけど……。どうやら本気みたいだね……」
 護衛するように囲む猟兵達を見ながら、ヘルガ自身も護身用の拳銃を固く握る。
「この世界で道路敷設なんてやってのけた、否、今現在もやっている最中か。まぁ、そんなあんた達だから、突飛だけど多分、虚ではなく実の話なんだろう。それは解る」
 だけどさ。
「どうするんだ? 確かに私は、先代からの仕事の腕もあって、向こうである程度の評価を得てる。それに個人的にもあの拠点は気に入ってる。
 ――でも、皆を束ねるリーダーの器なんかじゃないよ。それも文明崩壊後の世界でそれなりの商業圏を持った、都市とも言える拠点の」
 だけどさ。
「あんた達はやれると、そう言う。だが私はやれないと、そう思う。そのギャップをどう埋める?」
 ヘルガが前を向く。前方にある建物、廃棄された車両工場へ。
「今からあそこにあるレイダー達の拠点をどうにかして、あんた達は向こうにいる破邪顕正宗の元まで行く。私はそれに同道して、ついでに素材とかを拾う。……ツアーみたいなもんだな」
 自身も拳銃を持っているが、恐らく使う出番は無いだろうとヘルガは理解していた。
「奪還者に依頼するよりかは、まぁ確実で、金もかからんから歓迎ではあるっちゃある。だけど問題は、安全とかそういうのじゃなくて……」
 少し迷ったが、ヘルガは言った。
「私をリーダーとして“成長”させるためのツアーなんだろう、これは。まずはレイダーの拠点を突破して、その後に破邪顕正宗との衝突、そして拠点に帰って“答え合わせ”だ」
 ヘルガがため息とともに肩を竦める。
「とりあえずはあの工場だ。前哨戦のあそこで、私に何かを見せるのか? 何かをさせるのか? よく解らんが、何も解らないこそ従おうじゃないか」


「……あそこの工場の様子? 私も人伝てに噂を聞く程度だ。あまり詳しくない。知ってることは少ないぞ」
 ヘルガは顎に手を当てて、話し出す。
「残ってる工作機械や設備を利用して、かなり装甲化していると聞く。工場自体が結構頑丈だし、中のレイダー達も自分達で生産した装備で武装してる。それらを背景に奪った資源で、籠城戦もそれなりにできるとか。力押しで突破するにも結構歯応えありそうだ」
「それに、工場っていうのはシステマティックの究極だ。大量のものを一気に作るため、それに最適化している。無駄なものが無い。あそこに存在するのは機械と機械と……それに機械だ。
 機械の中には巨大なものや、素材を貯蔵するタンクやコンテナだっていっぱいある。だから、視線を切る物陰は沢山存在するだろう。だが、レイダー達もそれら設備を利用するんだ。無法者の拠点と言えど、内部はよく整理整頓されていて、人員の配置も確かだろう。忍び込むのも難があるかもな」
「そして計画性のある建物は、土地だってそうだ。工場は土地を広く活用するために、文明崩壊前はよく郊外に建てられた。つまり周囲は何も無く、見晴らしもよい。力押しの突破にしろ潜入にしろ、その前にあそこへ何か計略を仕掛けるんだったら、これもまた一工夫いるだろうな」
 そこまで喋ったところでヘルガが一息を吐く。
「ふぅ……。それじゃ、早速ツアー開始と行こうか」
鞍馬・景正
確かに人の上に立つ者には幾つかの資質が求められます。

少なくともヘルガ殿は、必要な情報を即座に引き出し、取り得る方針を提示して下さっているのですから、将器は十分に有るものと愚考しますが。

ま、結論は焦らずとも構いませぬ。

◆突破
宛ら、守り固められた城塞というべきでしょうか。
ですがどんな堅牢でも隙はあるもの。

試しに遠間から【紅葉賀】を連射し、炎上させてみましょう。
異常に気付いた者たちが近寄り出した所で愛馬に【騎乗】し、一気に別口にまで接近。

そこから押し入り、死角からの奇襲は【第六感】で気配を読んで反撃しつつ、素材確保しながら暴れるとしましょう。

派手に動く事で、他の猟兵が行動しやすくなれば良いのですが。




「――確かに、人の上に立つ者には幾つかの資質が求められます」
 説明し終えたヘルガは、猟兵の中から一人の男が話しかけてきたことに気づく。
 長身で、寒色系の和装に身を包んだ姿は、
「……景正さん、だったか」
「はい。憶えていて下さって光栄です。――少なくともヘルガ殿は、必要な情報を即座に引き出し、取り得る方針を提示して下さっているのですから、将器は十分に有るものと愚考しますが」
「い、いや、私は知ったことを、解ったように言っただけだ……」
 正面から突き付けられるような、真っすぐな評価がむず痒く、まるでそれを逸らすようにヘルガは首を振る。
「大袈裟だ」
「袈裟ですか」
「ああ、袈裟。大きな、過ぎた袈裟」
 そんな評価は行き過ぎだと、ヘルガからしたら、そう言外に伝えたつもりなのだが、
「ええ。凡僧と僧正では、やはり着る袈裟も変わってくるかと。況や、あの規模の指導者なれば――、どうかされましたか?」
 正面の景正が、全く表情を変えることなく言葉を続けてきたので、慌てて手で制した。
「いや、だからそういうのが大袈裟で、あー……袈裟じゃなくて……お世辞、……って訳でもないよな、その様子だと……」
「違います」
 さっきから単刀直入というか、正面すぎるというか……。
 額に手を当てながらそう思うヘルガは、んー、と唸りを前置きにして、言う。
「これはつまり、真剣か……」
「真剣です」
 重ねて正面から言われ、ヘルガは思う。
 この景正さんって人こそ、正しくリーダー教育受けてる側の人だよな……。
 身に着けた衣服や装飾品、姿勢や所作といった立ち居振る舞いから、時に堂々としていながら、物腰柔らかな態度。
 最後は本人の性格な部分もあるのだろうが、それを覗いても明らかに、家格やそれから派生する何某かで裏付けされた、指導者然とした特有の雰囲気を感じる。
 かなり俗に言えば、“いいとこの出”ってやつだ……。
 それも、このような戦場や鉄火場でも臆さないような。
 そんな人から“貴女は将の器が十分あります”と評されたのだ。世辞かと問い返せば、違うとも。
 つまりは、困る。
「……そういうものか?」
 正面から大真面目に、嘘偽り無い言葉で言われたら、そういうものか、と思ってしまうのだから。
「そういうものです」
 思わず出た呟きにすら、大真面目に応対された。


 眼前で、腕を組んで首を傾げ続けるヘルガを見ながら、景正は思う。言葉は届いただろうかと。
 しかし見れば、ヘルガは納得というよりは、困惑や訝し気な雰囲気が未だに色濃い。
「ま、結論は焦らずとも構いませぬ」
 急に告げられても、やはり戸惑いは大きいのだろう。唸るヘルガに一礼し、背を向ける。
 そうすると、視界に入るのは、遠く離れた車両工場だ。
 瓦礫だけでなく、鋼板といった確かな素材で守られた姿は、野盗のそれとは一見思えない。
 ……宛ら、守り固められた城塞というべきでしょうか。
「ですが、どんな堅牢でも隙はあるもの」
「? どう攻める?」
 後ろからの声に答える代わり、景正は己の手段を見せた。
「――――」
 大気を焼く音と共に、突如として近くに出現したのは、一本の火矢だ。
 赤く、陽炎を蓄えた姿は、控えるように景正の傍らに佇む。
「――焼き滅ぼさむ、と」
 言葉と共に手を振り下ろせば、弓に番えたわけでもない矢が、まるで弦に弾き飛ばされたように行った。直進だ。
 空間を一直線に進む朱線は、風を切る音と、焦がしていく音。そして、一つの大きな音を立てた。
 工場を防護する装甲版と衝突したのだ。
「……!?」
 遠く、工場が騒然とした雰囲気に包まれるのが、景正達の位置からも解る。突然襲来した火矢が、衝突の勢いで装甲版の表面に広がったかと思えば、そのまま炎上し続けているのだ。
 そして、それは一箇所だけではない。
「――!」
 連射だ。火矢が次々と衝突していき、火炎を広がらせていく。
「お、おい。派手にやるのはいいけど、素材のこと考えてくれよ?」
「ご安心を。火の手は私が操作できますし、素材も、今から適当に見繕ってまいります。――夙夜」
 背後のヘルガからの心配そうな声に小さく微笑み返し、頃合いかと、愛馬を呼んで騎乗する。
「は? 今からって――」
「今からは、今からですよ」
 景正が合図を送れば、夙夜は従順に応えた。
「……!」
 大地を蹴って、速度を上げていくのだ。
 前進する。


 景正は夙夜を駆り、レイダーが蔓延る車両工場へと一気に距離を詰めていった。
 進路は直進だが、それも途中までだ。炎上している部分にレイダー達を集中させ、手薄な個所を見切ると、そこに目がけてさらに速度を上げていった。
「……!」
 前方、景正の接近に気づいた敵が、慌てて迎撃しようとするが、
「遅い」
 隆起した地形を踏み台として、大跳躍。防護壁も、その上に歩哨として立っていたレイダーの頭すらも飛び越そうというのだ。
 折り曲げた馬脚が宙を切り、
「飛び越すぞ! 殺――」
「遅い、と」
 排除の弾丸が迫り来るのは解っていたので、景正は馬上で身を捻り、飛び越しざまに斬り伏せていく。
 数は二。吹き上がった血飛沫すらも既に背後として、夙夜は大地を踏み締めた。が、そのまま留まらず、すぐさま走りを再開した。
 狙われているのだ。
「――!」
 着地の瞬間を狙った、死角からの射撃を速度でもって回避すると、その速度のまま、騎乗から反撃する。
 虎落笛と、そう名付けられた弓を震わせれば、やはりその名の通りの音が戦場を洗い流していく。
 機械群の合間を縫った矢が、潜んでいた敵を次々と沈黙させていく。
「弓箭の道は先駆けを以って賞とす……、と言いますが、此度の賞はこれらでしょうね」
 工場の敷地内を縦横に駆け、立ち回りを広げながらも、優先的に確保するのはヘルガにとって有用であろう素材が、蓄えられている場所だ。
 景正はそこで顔を上げ、自分が先ほどまでいた方向を見る。もはや防護壁の向こう側となった、ヘルガがいる場所だ。
「私が派手に動く事で、他の猟兵が行動しやすくなれば良いのですが……」
 先駆け。その一語を胸に、景正は己の役割を果たしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒影・兵庫
なるほど、これほどの情報の分析能力
確かにリーダーの素質は十二分にあると判断できますね
せんせー
(頭の中の教導虫に話しかけると「確かに...そうだ、黒影ちょっといい?」と返される)
...なるほど、それはいいですね!
ヘルガさん、虫さんは見るのも苦手なタイプです?
もしそうなら、少し目をつむっててもらえませんか?
(UC発動)
強襲兵さん!工場内に侵入して内部の構造や敵の配置、装備など調査してきてください!
そしてヘルガさん!
先ほどの情報分析はまさに統率者に相応しいレベルです!
貴女の指示に従いますので
強襲兵さん達が集めた情報を元にレイダーの拠点の制圧作戦を
立てていただけないでしょうか!?




 兵庫はヘルガの説明を聞き、確信を得ていた。
「なるほど、これほどの情報の分析能力、確かにリーダーの素質は十二分にあると判断できますね。――せんせー」
 そんな己の確信を確かめる先は、やはり己だった。正確には、自身の脳内なのだが。
『確かに……』
 黒影の脳。そこに存在する教導虫という生物が、言葉を返してくる。教導虫と兵庫とは、正しく切っても切り離せない関係だった。
『……そうだ、黒影』
 両者にしか聞こえない声で、さらに言葉を続けて来る。
『ちょっといい? あのね……』


 通信、か……?
 ヘルガは、そんな兵庫の様子に気づいていた。自分の方を見て、何やら話をしているようなのだが、通信機器が見当たらない。だが、時折頷いたりして、兵庫が誰かと会話しているのは間違いないのだ。
 すると、
「……なるほど、それはいいですね! ――ヘルガさん、ちょっといいですか?」
 一際大きく頷いたかと思うと、視線を向けてきた。
「ん? ああ、構わないが……」
 猟兵達はこちらをリーダーにしたがっているらしく、ヘルガとしては戸惑いが大きいが、とりあえずは協力態勢だ。なので兵庫を信用してないわけではないが、だからこそ気になる部分はある。
「さっき、誰かと連絡を取っていたようだが……、私に何かさせるのか?」
「はい! ――それでヘルガさん、虫さんは見るのも苦手なタイプですか?」
 随分元気よく肯定されて、随分急に話が変わった。
「は? 虫? 何で急に……。……いや。こんな世界だし、工房で夜作業してると虫なんてよく寄ってくる」
「そうですか? それならよかった。――強襲兵さーん!!」
 兵庫がこちらの返答に頷いて、何か兵科のような名を叫んだ瞬間だった。
「――――」
 ヘルガは、己の視界が僅かに陰ったことに気づいた。否、正確には兵庫の方もだ。と、そう改めて認識したときには、周囲に音が追加されていた。
 大気を細かく打って、震わせる音は、兵庫の頭上からだった。そこに、皆へ影を落としてきた原因がいた。
「!?」
 虫だ。
 羽音を鳴らして滞空する羽虫が、数百という数でいる。
「味方です。俺が呼びました」
「……苦手ではないが、流石にこの数は驚くな……」
 よく見れば、ヘルガも見たことが無い種類の虫だった。
「強襲兵さん!」
 兵庫が虫達に呼びかける。
「工場内に侵入して内部の構造や敵の配置、装備など調査してきて下さい!」
 現状、兵庫達は突き立った岩陰にいるので、レイダー達からは虫は視認されていない。兵庫はそれを利用し、強襲兵と呼ばれた虫達を散開させると、高度や突入タイミングを変え、次々と工場内部へ潜入させていった。


「ふむふむ……そうですか……」
 強襲兵を送り出し、帰ってきた強襲兵から情報を受け取る。そんな一連のやり取りをしばらく続けながら、兵庫は確信していた。
 これならいけそうですね……。
 段々と情報が揃っていくにつれて明確な部分が増え、教導虫が提示した案が現実味と言うか、確実性を帯びていく。
「……解りました、強襲兵さん。ありがとうございます。――ヘルガさん」
「うん?」
 虫とのやり取りを珍しそうに眺めていたヘルガに声をかける。情報が揃ったのだ。
「貴女が最初に述べた情報分析は、まさに統率者に相応しいレベルです!」
「私はそうは思わんが……、そういうものなのか? ……まあいい、それで?」
 もはやそういう時間帯でも無いと、ヘルガも思っているのか、強く否定せず、続きを促してきた。
 なので、兵庫は言った。
「はい! 貴女の指示に従いますので、強襲兵さん達が集めた情報を元に、レイダーの拠点の制圧作戦を立てていただけないでしょうか!?」
「…………」
 促されたので言ったら、兵庫としては何とも味わい深い表情を返された。表情から読み取れるその感情は驚愕や呆れと言ったもので、感想として表すならば、
「無茶言うな……」
 それです。と思いながら、兵庫としても想定内なので答えを返す。
「無茶ではありませんよ」
 持っている破砕警棒で地面を擦りながら、言葉を続ける。
「言ったでしょう? 情報分析の力が統率者に相応しいレベルだと。貴女がリーダーになるならば、周囲にそれを証明する必要があり、それにはまずここで、貴女が貴女自身に証明しなければ」
 警棒をスナップし、掌中で回すと、先端で地面を指す。そこに描かれているのは、
「これは……」
 戦場となる、工場の概略図だった。


 兵庫は、地表の図上に強襲兵を配置し、
「レイダーの歩哨を始め、人員配置を再現してください」
「…………」
 命じれば、強襲兵達がその通りに動き始める。
「おいおい、まだやるとは――」
 思わずと言った様子で、ヘルガが口を挟むが、
「……いや、言ったな、最初に。従おう、と。すまん、忘れていた」
 溜息を吐き、腕を組んで概要図を見下ろす。
「……防壁の上に立つ者、敷地内をパトロールする者、屋内で向かい合ってるのは休憩か、会議中か。それにこの比較的広い部屋で、均等に配置されてるのは夜の見張りに備えて寝ているな……」
 呟きながら、彼女があることに注目した。
「この少し密集した虫達は車を表してるのか? どんな車か知りたいな……」
「そういうことなら……」
 強襲兵から受け取った鋼片を、兵庫はヘルガに渡した。
「? これは?」
「強襲兵さんが装甲の一部を噛み千切って来たそうです。何か解りますか?」
 は? 噛み……? と、手の中の鋼片と強襲兵を見比べていたヘルガだったが、頭を振って、鋼片を目の前に掲げる。
「……薄い。捩じ切られてるから、断面を見れば加工の質が高いのが解るが、薄い。良くて装甲車で、乗用車かバンを改造しただけか? そう思う」
 鋼片を手の中で転がしながら、概要図から顔を上げたヘルガが兵庫に言葉を続ける。
「兵庫君はどれだけ戦える? 呼べる虫はこれだけか?」
「レイダー程度なら苦戦しません。呼べば、もう一人も戦ってくれます。虫さんは遠距離、近距離、非殺傷、それに広範囲の攻撃を一通り。さっき見せた潜入とかも、ですね。俺が指示できる範囲だと、それらをしてもらうようお願い出来ます」
「私にとっては素材を確保するのも大事だから、出来れば破壊は避けたい。それは敵によるものもね。なので兵庫君には敵の車と……」
 辺りに転がっていたのをいつの間にか拾ったのか、ヘルガの手には木の枝が握られており、図のあちこちを指し示していく。
 もはや作戦は、最後の詰めの部分に入っている。
『やっぱり、いい感じに作用したねー』
 ヘルガには聞こえない、己の脳内だけに響く声。兵庫はそれに返事をしながら、作戦が整ったことを知ると、
「――解りました。それでは、そういう作戦で!」
 それを遂行するため、戦場へと駆けて行った。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・ラーヴァ
※アドリブ・連携歓迎

うーん、リーダーの資質とかよくわからなーい
でもヘルガさんが自分の巣を守りたいと思うならやるしかないと思うのー
それにどうにかしたいと思ったからツアーに参加したんじゃないかなー?
とりあえずリーダー向いているかどーか試してみよー
妹達を沢山呼ぶから、ヘルガさんが指揮してみたらいーのー
アリスは皆と意識を共有しているから、ヘルガさんはアリスに【騎乗】して指示だしお願いねー
妹達(成虫)は、甲殻【継戦能力+激痛耐性】で攻撃に耐えて前肢と鋏角【串刺し+傷口をえぐる】で敵を切り刻んで【捕食】するのよー
(幼虫)は必要な資材を【運搬】ねー
沢山の資材を持って帰ったら拠点の皆も認めてくれると思うのー




『うーん、リーダーの資質とかよくわからなーい』
 ヘルガは声を聞いた。しかしそれは、鼓膜を震わせる音としてではなく、
 脳に直接語りかけてくるような……。
 そんな、もっと直接的な感覚で、だからこそ指向性を強く感じ、“音源”を探ろうと振り返った。
 背後、果たしてそこにいたのは一人の猟兵だった。


 随分、騒々しい雰囲気の猟兵だな……。
 ヘルガの感想としてはそれだった。ぬばたま、そう形容できそうな綺麗な瞳に、濡れ羽色を纏った見た目は、色味としては落ち着いているが、生じる音が反して派手だ。
「――――」
 その猟兵が少し身動きすれば、硬質な音が幾つか連続して生じるのだ。足回りに何か仕込んでいるのか、そもそもが特殊なのか、ヘルガとしては一見して解らなかった。
『やっほーなのー』
 それに性格も童女のようで、余計にその印象を与える。
「アリス君だね。なら、私と同じだ。リーダーと言われてもよく解らない者同士、何か解るかも知れない」
 自分より数十センチは身長があるアリスを見上げながら、ヘルガは言葉を続ける。
「だから、君の率直な意見を教えてくれるか?」


『んーっとね……。よくわかんないけど……』
 ヘルガからの要望に答えるため、アリスは己の多脚の関節部を緩め、姿勢を下げた。そうして視線を合わせると、
『でもね、ヘルガさんが自分の巣を守りたい、と思うならやるしかないと思うのー』
「…………巣?」
『? 巣なのー』
「……いやまぁ、住んでるから巣っちゃ巣だが……。……それで、そこを守るためなら、やるしかない、か」
『そうなのー』
 “巣”の方角を見るヘルガに、言葉を続ける。
『アリス達がこのままオブリビオンやっつけても、巣の中のモメ事は解決しないのー』
 それに、と。
『どうにかしたいと思ったから、ヘルガさんもツアーに参加したんじゃないかなー?』
「……まぁ、素材も大事だけど、そっちも視野に入れなきゃな……」
 アリスからの言葉を思案するように、今まで遠くを見ていたヘルガだったが、最後の言葉で再びアリスと視線を合わせる。
「それで? アリス君、私は何をすればいい?」
『とりあえずリーダー向いているかどーか、試してみよー』
 どうやって? という視線が来る。なので、
『妹達を沢山呼ぶから、ヘルガさんが指揮してみたらいーのー』
 アリスはそう答えた。
 直後。答え通りの結果が周囲に生じた。
「――――」
 二種類の生物が突如として出現したのだ。


 一種は、体長40センチメートルほどの緩やかな円錐形で、その大きさを無視すれば昆虫の幼虫に雰囲気がよく似ていた。
 そしてもう一種は、二メートルを越す体高で、多脚を左右対称に蓄えた身体は、前後に長く、丸みを帯びている。
 顔面に当たる部分は、黒い眼と、極厚の鋏を思わせる顎が印象的だ。
「……!?」
 目の前に現れた未知の生物に、ヘルガが息を呑む。
『妹達なのー』
 ヘルガの戸惑いとは裏腹に、“妹達”はアリスの呑気な声と共に次々と増えていく。
「わっ、っとと……!」
 幼虫の方が、地面を埋め尽くさんばかりにどんどん増加していくので、足の踏み場を探したヘルガだったが、
「――て、うわっ!?」
『どーぞ』
 アリスに腕で捕まえられ、その背中に乗せられた。
『アリスは皆と意識を共有しているから、ヘルガさんはそこから指示出しお願いねー』
「ここ……って、君の背中だよな。ずいぶん堅牢だ……」
 アリスの背部甲殻を手で叩きながら、ヘルガがそう感想する。
『大きい妹達も一緒なのー。銃弾くらいは跳ね返すのー。それで耐えたら、前肢とか牙で攻撃するよー』
 アリスが前肢の一つを上げると、連動するように他の成虫達も上げた。
「……“も”って言うことは、とか色々聞きたいことがあるが、ともあれ、ソレ、どれくらいの威力だ?」
 答える代わりに、成虫の一体が己の側に有った岩石を砕いた。
『食べるのー』
「……!」
 岩石が牙の圧で割られ、更に細かく砕かれ、嚥下されていく音をヘルガは初めて聞いた。
『幼い方の妹達は運搬とか出来るのー。欲しい物言ってくれたら運ぶねー。沢山の資材を持って帰ったら拠点の皆も認めてくれると思うからー』
 砕け散った岩石を幼虫達がその背に乗せたり、互いに絡み合って固縛し、それをまた別の幼虫が引っ張っていくのを眼下にしながら、ヘルガは言葉をやっとの思いで絞り出した。
「……多彩だな」
『ありがとうなのー』


 それからは圧倒的だった。
「……!?」
 車両工場の正面から、列を成して進行してくるアリスの“妹達”。それを認めたレイダー達は、すぐに防御と迎撃の態勢を取った。
 内部に繋がる出入り口を閉鎖し、武器を構え、
「――!!」
 一斉に引き金を引いたのだ。火薬の炸裂音が、ひっきり無しに響いていく。
 果て無く広がる荒野に木霊していくその音は、小銃程度の物もあれば、防壁上に設置された重機関銃や、個人携行用のロケットランチャーなど大小様々だった。
 それらは直進してくる“妹達”に正面から衝突し、高らかな音を奏でるが、それだけだ。
 小銃弾は跳ね返され、重機関銃の高威力の弾丸も多くは跳ね返されるか、“妹達”の甲殻に負け、ひしゃげて地面に落ちる。
 そして、爆薬の詰まったロケット弾が直撃したとしても、
「……!」
「軽車両なら吹き飛んでるぞ!?」
 屈伸するように身体を僅かに地面へ沈ませるだけで、すぐに立て直し、六つの脚を荒れ地に突き立て、危うげ無く進行を開始する。
「速度を上げてきた……!」
 初期は歩調を揃えるような“妹達”だったが、距離を詰めるに従って各々が最適なルートや走行を確立すると、
『――!!』
 目標に向けて、加速して行った。
 食い止めようと、レイダー達の迎撃は更に激しくなるが、止めることは出来ず、防壁に取りついた“妹達”は二種類の行動をレイダー達に見せた。
「壁を上ってくるぞ!?」
 六脚を地面から剥がし、防壁に突き立て上っていくのが一つ。
 そして、
「こ、こっちは食い破――」
 前肢で防壁の各所を断ち切り、牙である鋏角で砕いていくのだ。
 砕きはやがて周囲に波及していき、見る見るうちに大穴が開くと、そこに前肢を突き込んで、押し広げるようにしてぶち壊し、スペースを空ける。
 突入経路が完成した瞬間だった。
「――!!」
 牙を打ち鳴らしながら雪崩込んだ“妹達”は、もはや半狂乱の状態で攻撃してくるレイダー達を銃の上から断ち切り、遮蔽物も踏み潰し、装甲車ごと刺し貫いていった。
「……! ……!」
 そして“妹達”は、装甲車の中から貫いたままのレイダーを引きずり出すと、前肢で彼らを切り刻みながら、口に運び、牙で咀嚼していく。
 銃声、爆発、牙の打ち鳴らし、悲鳴、肢の風切り、血飛沫。他諸々の音が重奏する現場で遅れて入ってきたのは、後方から随伴していた幼虫達だった。
『…………』
 防壁を剥ぎ取り、火器を拾い、工業素材や修理部品、果ては建物の中から食糧や医薬品、それに衣服やシーツといった何もかもを持ち出していく。
 成虫達が蹂躙した後、抵抗は皆無であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴァレーリヤ・アルテミエヴァ
(アドリブ・連携歓迎)
交易拠点!いいですわね!整った道路に車両、それに優秀な技師も揃っているなんて素晴らしいですわ!
ですのに放棄するのが総意ですの?ヘルガさんもそう思って?
いいですわ、差し迫る脅威と向後の憂い…両方吹き飛ばしに参りましょう!

わたくしの主武装はこの戦車。潜入には不向きですわね…突破するにせよ守りは堅い、と。
だからといって何もせず帰るつもりはありませんわね!為せることを為すまで、
防壁の抉じ開けと囮ならやれるはずですもの!
装甲で固めた壁や塀でも、UCで<限界突破>させた主砲を一点集中で受けたのならどうでしょうね?
装甲自慢はそちらだけではありませんの、どちらが先に破れるか対決ですわね!




「いいですわね、この拠点! 整った道路に、数多くの車両! 素晴らしいですわ!」
 車両工場襲撃の少し前。ヴァレーリヤはヘルガの工房で彼女と話をしていた。
 だが工房と言っても、場所は戸口を挟んで内と外だ。己が立っている場所は外で、
「……それで?」
 戸口にもたれたヘルガが短い言葉を返してくる。話はここで十分だという姿勢がありありと見えているが、
「だって、そう思いませんこと?」
 気にすることなく、ヘルガに背を向ける。彼女と視線を共有するのだ。そうすればそこに有るものが見える。
  道路だ。それも幅広で、区画としてそれなりに整備されている物は、見る者に一つの感情を抱かせる。
「――立派、ですわね。
 来る前に拠点の中を少し見て回りましたが、やはりどこもそうですの。道路も車両も整っていて、発展著しい拠点。そしてそこに優秀な技師も揃っているなんてやっぱり素晴らしいですわ!」
 こちらの感想に返ってきたのは、最早短い言葉すらも無く、溜息のみだった。
 肩越しに振り返り、ヘルガと目を合わせる。身長や立ち位置の関係上、見上げるような視線で、
「どうですの?」
 問う。
「こんなに素晴らしいところを放棄するのが、総意ですの? ヘルガさんもそう思って?」
「どうしようもないだろう」
 即答だった。
 なので、己は更に問うていった。
「何故ですの?」
 問うていったが、しかし答えさせない。
「発展しているけれどそれ故の歪みが生じ、それだけならともかく、そこをオブリビオンに突かれようとしている拠点など、救えるはずが無い、と?」
「…………」
 沈黙は肯定だ。
「――いいですわ。なら、差し迫る脅威と向後の憂い……。両方吹き飛ばしに参りましょう!」


 そうして、レイダー達が住まう車両工場へと近づいたところで、ヘルガは思う。ああ言っていたが、果たしてどうするのかと。
 ヴァレーリヤ君だったか……。
 今、己の眼前に、ピンク髪で“極端に肌の白い”あの少女はいない。
 代わりに存在するのは、黒く、重厚で、鋼の塊だった。
「――――」
 戦車だ。黒と銀灰を主とした塗りで、要所で紅の色が引き立つ車両は、それ以外に目を引く部分が有った。
 それは特徴的な両舷の武装や、ルークの駒にも似た車体もそうだが、何よりも、
「紋章……?」
『――知っていますの?』
 スピーカー越しに戦車の中から響いた声は、少し上ずった声だ。驚かせてしまったかと思い、自分は慌てて訂正する。
「いや、初めて見た。だから、珍しいなと、余計に思って」
『そうですの……。まぁ、珍しいですわよね。部隊章とかペイントとかと違って、こういうのは』
「まるで貴族の家紋みたいだ」
 車体上部にある紋章を見ながらそう答えれば、ヴァレーリヤがあら、と言葉を返す。
『実は私、高貴な血筋ですのよ?』
 その答えに、己は思わず小さく笑いながら、
「確かに君は、立ち居振る舞いも言葉も優雅だし、綺麗な肌だ。だけど、私の知ってるお嬢様は、ゴーグルと戦車に馴染みが無い」
『あらそうですの? でも、こんな世界ですわよ』
 会話を続けながら、目の前の戦車が唸りを挙げていく。動力装置が発動していくのだ。
『こんな世界だと高貴な者も戦車に乗るでしょう。――だけど、高貴な者の役目は変わりませんわ』
 動力はやがて、各所の部品に伝わっていき、互いを合致させ、作動させ、履帯が大地を噛んでいく。
「あそこの守りは堅いって、私、言ったぞ」
『構いませんの』
 即答と戦車が動き始めるのは、同時だった。
『確かに私の戦車で潜入とかは不向きですし、その上敵は守りを堅めていたとしても、何もせずに帰るだなんて』
 駆動は最高を目指していき、それに伴って速度が上がっていく。
『為せることを為しに行きますわ』
 乾いた大地を吹き飛ばすように、履帯が荒れ地を蹴った。
 行くのだ。


「敵襲……!!」
 ヴァレーリヤはレイダー達がそれに気付いたことを知った。否、
 否が応でも気付きますわね……。
 荒野の上で、狼煙の用に塵埃を蹴立たせる一両の戦車が、自分達の車両工場へ向かっているのだ。
「――迎撃態勢!」
 勢いはあるが一両だ。本来であれば、奪還者の凶行か、はたまた囮かと判断できただろうが、度重なる猟兵の襲撃に過敏となったレイダー達は、現場指揮官のヒステリックな叫びに従い、
『撃ってきますわ……!』
 鋼の雨が、水平や放物線を描いてやって来る。
「――!」
 己のいる場所を目掛けて、弾丸やロケット弾が次々と撃ち込まれていく。前面部を閉じたことによって制限された己の視界では、それらは雨と言うよりは壁のようで、壁が迫りくると、そんな印象を抱かせる。
『……!』
 着弾。
 戦車の装甲上を大小様々な弾丸がぶつかり、弾け、騒々しい音を奏でるが、これらは無視して構わないことを己は知っている。
 むしろ注意すべきは、
 ロケット……!
 足回りを狙ったそれを見切り、ハンドルを切り返すことで回避。背後で、爆砕や火炎といった要素で地表が抉られたのを、音で確認しながら、
『――アクセル!』
 一気に踏み込んだ。
 追撃のロケット弾が相次いでやって来るが、高速の車体を捌き、丘の稜線などに飛び込むことで無効化。そうして工場との距離を詰めていけば、やがて防壁と己の間は随分と縮まっている。
『ここまでくれば、十分ですわね!』
 三度発射された、放物線を描く白い噴煙を見ながら、己は丘の頂上で叫ぶ。
『無駄ですわよ!』
 迫りくるロケットに最早臆さず、
『――!!』
 主砲の引き金を引いた。目標は工場防壁。装甲板や諸々で堅牢に備えられたそこへ、一発をぶち込んだのだ。
 同時。
「……!!」
 迫っていたロケットの雨が着弾し、火炎と爆砕が己の戦車を飲み込んだ。


 撃破したと、レイダー達は判断した。
 敵は速度で振り切っていたが、やがて優位な位置を取ろうとしたのか、丘上に登った。高所は優位だが、目立つ。囮としては適切な位置だろうが、そこで最早逃れられることが出来ず、ロケットの雨を浴びることとなった。
「――!」
 今、敵が最後に撃ってきた砲弾が防護壁に着弾した。壁はいくらか抉られ、損壊を得たが、それだけで終わりだった。
「……!?」
 そのはずだった。
 未だ色濃く残るロケット弾の着弾煙を突き破って、何かが飛来したのだ。
『――!!』
 遅れて響いてきた爆裂音が主砲の発射音だと、そう気付いた時には、すでに防護壁へ着弾しており、
「まだ来る……!?」
 そんな砲撃が、次々と発射されてきた。主砲の連射だ。
 丘上という高所からの斜め撃ちが、防護壁の一点を穿つように、激しく打撃していく。
『――さぁ!』
 健在を示す、敵の声が届いてきた。
 音速超過の砲撃によって着弾煙は吹き飛ばされ、敵の戦車もよく見える。
『装甲で固めた壁や塀でも、限界突破させた主砲を、一点集中で受けたのならどうですの!』
 主砲は止まない。こちらも応戦としてロケットを叩き込むが、彼我の状態は時間が経つにつれて、その差を明確としていく。
 一台、また一台とロケット砲を失っていく中、己の居場所を喧伝するように、堂々とした声が戦場を走っていく。
『装甲自慢はそちらだけではありませんの! ――どちらが先に破れるか対決ですわね!』

成功 🔵​🔵​🔴​

御形・菘
なるほど、お主のイメージしている『リーダー』像が、己自身とは重ならんということであろう
リーダーの資質も多種多様、お主はどんなタイプかのう?
妾は、皆の前に立ちグイグイ引っ張る系であるがな!

リアルタイムの状況分析や指示出しの適正を試そうか
タブレットに妾たちの映像が出てるであろう? ドローンが撮影中よ
無線機を渡すから、妾に、工場突入とその後の行動を指示してもらおう!
な~に、仮にミスっても良い経験よ

妾は接近戦オンリーと考えてくれ
目立つ側への能力には自信があるし、最終的に左腕と尾を使う力押しでどうとでもできるが、
この身の特徴を活かせば、隠密行動の方向も可能かもしれんぞ?
さあ気負わず突っ込もうではないか!




「なるほど、なるほど……。――つまりは、お主のイメージしている『リーダー』像が、己自身とは重ならん、ということであろう」
 背後からの呼びかけだったが、ヘルガには声の主が誰だか、振り向かずとも解った。
 印象の塊だからな……。
 そうとしか表現できない相手は、同道する猟兵の一人だった。
「――菘、だったな」
「んン? 妾を呼び捨てとは、ちょいと不敬だが……、まぁ良い! 差し許す! ――して、だ」
 菘。特異な気というかオーラを発するその猟兵は、こちらの横を背後から通り過ぎると、そのまま止まらず、乾いた大地を擦るような音を立てながら前に回り込んでいく。
 変わった歩き方だよな……。
 擦り足で移動してるには随分と音が“広く、長い”。まるで何かを引きずっているような歩き方だが、
 私には“普通”に見える……。
 違和感が無い。
 身体を見ても、色黒の肌やそこに描かれたタトゥーなどが目を惹くだけで、
「……!」
 と、いつの間にか、菘の顔が目の前に有った。
 一瞬で距離を詰めてきたのかと思ったが、違う。歩行すらしてない。
「リーダーの資質も多種多様だが……、お主はどんなタイプかのう?」
 極端な前傾姿勢で、前に“寄って”きたのだ。
 倒れるのではないか、とそう思う程の姿勢から、仰ぎ見るように金の隻眼で睨めつけてくる。
 かと思えば、
「――――」
 また独特な歩行で引きずるように、滑るようにこちらの周りを回っていく。
 初めて会った時から、忙しない、と言うよりは、テンション高いな、というのが菘への感想だったが、そこに新たな語が加わったのを感じる。
「……蛇?」
 思わず、といった感覚で言葉に出してしまえば、菘が体ごと首を傾げ、周回を止めた。
「ハァ? リーダーの資質を問うたら、蛇、とはお主……。――つまりタイトルマッチ所望か! 不敬極まるな!
 ――良いぞ、来い!」
「何でやる気なのか解らんが、すまん。今の蛇は、私じゃなくて、菘を見た感想だ」
「なるほど、つまり妾の質問を半ば無視していたと……。――不敬! であるが、まぁ良し! 実際、妾、蛇のリーダーというか神であるからな! 百点満点の感想よ! 神らしく皆の前に立ち、グイグイ引っ張る系である!」
 コレ、知っておくのだぞ? と指を突きつけてくる相手への感想としては、やっぱりテンション高いな……、で不変だ。
 と、そう思っていると。
「――そういうわけで、ホレ」
 何かを投げて寄越してきた。何がそういうわけなのか、と考える間もなく、慌てて受け取って、腕中に収まったものを見る。
 掌より一回りか二回り大きい板状で、表面の液晶には周囲の風景、というか自分と菘が映っていた。
「――タブレット?」


 左様、と菘はヘルガの声に応えながら、上空を見る。
「アレで撮影中よ。それと……、ホレ、これも渡しておく」
 空中に浮かぶドローン、己が有する“天地通眼”という存在を視線で示唆しておき、タブレットと同じように、無線機も投げ渡す。
「タブレットと撮影ドローンに、無線機……。これでどうしろと?」
 肉声と、無線機が拾ったスピーカー越しのヘルガの声を同時に聞きながら、己は口角を上げた。
「お主の資質や適正を見るために、蛇神が駒になってやろうと言うのだ!
 お主の、リアルタイムの状況分析や指示出しの適正を試す! そのために妾へ、工場突入とその後の行動を指示してもらおう!」
 口を横に開いた相手に対して、こちらとしては別れた舌を出す。
「面倒だから先に言うが、妾の心配は無用であるぞ? な〜に、野盗如きに遅れは取らん取らん! つまり仮にミスっても良い経験! そういうことよ!」
 いいか? と、ヘルガの目を正面から見る。
「人を顎で使うという言葉があるが、技師が機械で邪神を使えたのならば、常鱗凡介など恐れるに足らず! ――あ、妾も鱗生えてるけど神であるからな? 常ではない! 一緒にするでないぞ!」
 後半は話が逸れた気がするが、神の言葉であるのでまぁ良し。そう思っていると、前方の技師が溜息を吐いた。
「……解った。それで、蛇神様は何が出来る?」
 本題だ。
「私が指示を出す以上、そっちが何が出来るのか知る必要がある」
「うむ、妾は接近戦オンリーと考えてくれ」
 尾で支えて身を立ち上げ、
「目立つ側への能力には自信があるし……」
 左腕を挙げた。
「この左腕と尾を使えば、力押しで最終的にはどうとでもできる」
 “五行玻璃殿”。異形の左腕に装備した儀礼祭壇には、今まで成敗した悪が封じ籠められている。
 が、ヘルガが食いついたのはそれではなかった。
「……尾?」
 立ち上がることで身長が伸びたこちらの足元や、背後へ、訝しげな視線を向けているのだ。そんな疑惑の視線に、己は肩を竦める。
「先程から、お主の目に妾がどう見えてるかは知らんが、妾には尾がある。蛇神と言ったであろうが」
 口で説明するのも面倒だ、と思い、
「ンー、そこの石でも妾に放って……、タブレットとかで両手塞がっとるか……。なら、もう足でよい。足で。こっちに蹴り飛ばしてみろ」
 そう伝えたら、足元の石を蹴ろうとヘルガが振りかぶった。
 そして、爪先と石がぶつかる。
 その直前。
「――よっ」
 己が、尾で石を拾った。
 ヘルガの足が、空を蹴る。
「……!?」
「両手も足も、使っとらんぞ? お主の目にもタブレット越しの映像でも、どう認識を歪められておるかは知らんが、妾はこういうことが出来る身体よ」
 妾の配信を“生”で見れんとは不幸よなぁ、と石を尾で砕いていると、
「……長さは?」
 聞かれた。なので、答える。
「……!」
 尾の先端で、離れた地面を吹き飛ばして、だ。
「……とまぁ、蛇体である! 身を沈めるなどすれば、隠密行動もイケるであろうが、妾、溢れ出るオーラがあるからのう……! 如何ともし難いかもしれん! 妾の溢れ出るオーラが……!」
 ヘルガが半目を向けてくるが気にせず、己は背後へ振り返る。
 既に猟兵達の攻略が開始し始めた敵拠点を眺めながら、鼓舞するように声を張り上げた。
「――さあ、気負わず突っ込もうではないか!」


 レイダー達は混乱の最中にあるな、と工場へ接近した菘は感じていた。
 襲撃した他の猟兵達は、まず工場外周を覆う防壁でレイダー達と衝突したが、そこには最早破壊と突破の結果が残るだけだ。今や戦場は工場内部へ、それもあらゆる場所に移り変わっていた。
 どこもかしこも、戦闘の音が鳴り響いている。
『敵は慌ただしく、最早外周の外へ気を向けていない。――行けるぞ』
「突撃であるな……!」
 ヘルガも、ドローンからの映像で状況を理解している。彼女の言葉に従い、己は物陰から飛び出した。
 防壁を乗り越え、工場内部の敷地内に飛び込んでいくのだ。
「!? 新手が――」
 乗り越えた瞬間。側にいたレイダーを左腕で殴り飛ばして黙らせ、少し離れた位置のもう一人を、尾で掴んで叩き伏せる。
 大地を打撃した尾の反動で身を起こすと、高い視点から戦場を把握していく。
『来るぞ』
 ヘルガからの通信は短いが、解る。見えているのだ。
 侵入に気付いたレイダー達が駆けつけようと、慌てて駆けて来る。
『相手をせず、側の建物に入って誘い込むんだ』
「ここか?」
 扉を蹴破り、中に突入。するとそこにあったのは、
「旋盤、溶接、板金……」
 大きな工業機械が立ち並ぶ加工区画だった。
 なるほど……。
 他人の指示に従って動く、先程までは逆境として楽しんでいたが、ことここに至ってそれは頂点に達するらしい。
『機械の影に隠れて、追っ手をここで仕留めろ』
「承知したぞ」
 側のパイプに巻き付くと、天井まで上がり、こちらを追って突入してきたレイダー達を頭上から見下ろす。
「……!」
 こちらを探すために散開し、孤立したところを狙ってまず一人目。
 その音に気付いた敵の背後へと、機械の影に隠れて回り込むことで二人目。
 周囲を警戒する三人目を四人目に向けて投擲し、五人目の意識が衝突した二人に向けられたら、後はもう仕舞いだ。
『終わったか? どうせだからこのまま見つからずに行くぞ』
「ほう! ならば、妾のオーラが察知されんようにせいぜい祈っておけ……! ――声が大きい?」
 他人に指示されて動くというのは、色々やり辛いな、と改めて思うがこれも逆境といえば逆境だ。
「さて、次はどこへ向かう? 良い画が撮れるといいが……!」
 敵地であえて不利な行動をする。そんな状況だが、身に満ちていく活力に歯を向きながら、己は前進していった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『破邪顕正宗の信者』

POW   :    世の平穏のために
自身の【配下の命】を代償に、【召喚した鬼の亡霊】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【物理攻撃無効の炎の肉体】で戦う。
SPD   :    破邪顕正のために!
【命を賭して戦え】という願いを【自身の配下】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
WIZ   :    死にたくない!
【命を賭して私を助けろ】という願いを【自身の配下たち】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。

イラスト:リル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 車両工場を攻略した猟兵達とヘルガは、手に入れた素材や部品、資源などを安全な場所に保管すると、更に奥地へと進んでいった。
「私の仕事に使う素材だけじゃなくて、拠点にとって必要な物資も随分手に入ったな……。ありがとう、皆。
 まぁ、君達からすれば、あれらは将来の私が拠点に渡す“手土産”という意味もあるんだろうが……。それを抜きにしても、純粋に助かる」
 しかし、と。
「君達の言葉を聞き、戦い方を見て、そして私も実際に指揮したりして、随分と意識が変わってきた気がする。
 こんな鉄火場や修羅場なんて自分に縁が無いものと思っていたが……。中々どうして、だな。
 こんな世界だからこそ、指導者にはこういう力が必要か……」
 拳銃から、工場で取得した自動小銃などに装備を変更したヘルガが、それを担ぐ。
「しかし妙だ……」
 眉を顰め、最早見えなくなった先程の工場へと振り返りながら、
「この先に破邪顕正宗の信者達がいるなら、何故あの車両工場は無事だったんだ?」


 交易拠点から工場まで移動でき、そして今、信者達が潜伏してると思しき場所に向かっているのだ。
 拠点、工場、潜伏場所。それらは互いに、地理的な距離を近くしている。
「“過ぎた冨、名誉、暮らしは争いの種となる”……。そんな教義を破邪顕正の教えとして襲ってくるんだ。金や物に車に、その他諸々が集まる私の拠点はよく狙われて、それ故に物資が不足していた」
 が、
「――あの工場だって車や物資は豊富だったから、標的になるはずだ」
 ヘルガは足元を見た。
「…………」
 車両工場から逃げ出すことに成功したレイダー達の足跡は、一様に方角を同じにしていた。
「……急ごう。嫌な予感がする」
 自動小銃を抱え、歩みを早くした。
「もしもの時は、私も戦う」


 予感は的中していた。
「――“過ぎた冨、名誉、暮らしは争いの種となる”!」
「――“過ぎた冨、名誉、暮らしは争いの種となる”!」
 猟兵達が向かい、レイダー達が逃げ込み、オブリビオンが潜伏している場所は、廃神社だった。
 金目の物が奪われ、もはや訪れる者もいなくなった神社の敷地の中、白衣や緋袴にも似た和装で身を包んだ少女達が、声を大にして教義を唱えれば、逃れたレイダー達が続く。
 破邪顕正宗の信者達と、その配下であったレイダー達だ。
「……やっぱりグルで――、いや、どうやらもっと酷いな……!」
 そう言ったヘルガの視線の先、それが起こった。
「――――」
 どこからともなく、レイダー達が出現してくるのだ。
 虚空から突如として現れるのは、およそ尋常な風景ではなかった。
「信者が、配下を生み出してる……」
 レイダーと思っていた存在は、オブリビオンが召喚した手勢だったのだ。
 逃げ出したレイダー達だけだった一団は、すぐに膨れ上がり、一大勢力となっていく。
「――聞きなさい!」
 巨大な拝殿に立った少女信者達が、レイダー達に言う。


「直に、猟兵達がここへやって来るでしょう! 皆で一致団結して奴らを撃退し、工場を奪還! そのまま交易拠点に雪崩込むのです!」
 神職らしくよく通る声が、神社の敷地内を走っていく。
「我々の度重なる襲撃で、あの拠点は資源も車両も減り、住民同士は不和を、指導者やそれに準ずる裕福な階級層は、既にその数を減らしています!」
 和装の少女達が、御幣を振るう。
「あの一大拠点を奪えば、さらに我々の教えを広げることが出来ます! ――皆様、命を賭して戦うのです!!」


 猟兵達とヘルガは、自分達の周囲を見た。
「――森だ」
 鬱蒼と茂った森の中、自分達がいる。
 背の高い木々が立ち並び、足元は土。ところどころ木の根が出ていて、隆起もあり、一定ではない。
「――そして、敵は神社だ」
 そこに、オブリビオン達がいる。
 森を切り切らいて作られた敷地は、砂利や石畳で整地され、鳥居や拝殿に本殿、手水舎といった基本的な設備が、朽ちてはいるが並んでいる。
「どちらで戦う?」
 遮蔽物が多いが、足元が不安定で、自由に身動きの取りづらい森の中か。
 見通しがよく、地面も整地され、動き回れるであろう神社の敷地内か。
「前者は動きづらく戦いにくいかもしれんが、もうすでに“ここ”だ。
 後者は動きやすいが、そもそも“ここ”を出て、あちらへと辿り着かなければならない。――オブリビオンのユーベルコードや銃弾を潜って」
 ヘルガは自動小銃のグリップを力強く握る。
「私も火力が上がったし、信者の少女達はどうやら、そう化け物じみておらず、攻撃も防御も配下に頼っている面も大きいようだね」
 猟兵達を見渡し、技師は言う。
「先程のように指揮でも構わないが、私も戦えるということだ」
「――猟兵達を迎撃できるよう、警戒にあたりなさい!」
 オブリビオンが令を発した声が聞こえる。
 どうする、とヘルガが囁く。
「君達がどこで戦うか。私は指揮かそれとも共に戦うか……。全て君達の判断に従おう」
アリス・ラーヴァ
※アドリブ・連携歓迎

えー、争いを無くす為に争うのー?変なのー、アリスよく分からないー
お家に帰ったらパパに聞いてみよーっと
でも、その前にあの悪い人達を退治しないとだめよねー
さっきみたいに妹達を沢山呼び出してヘルガさん指示の下、戦うのよー
(『世の平穏のために』に対し)
あらー?変な人たちが出てきたのー
攻撃が効かないわねー?仕方ないから(【火炎耐性】で)無視して突破して他の配下さんを【捕食】しちゃおー!
後方のお姉さん達も悪者なのねー?配下さんが邪魔だから【トンネル掘り】の要領で地中を進んで真下に着いたら【ジャンプ】で飛び掛かって串刺しにするのー
お姉さん達は強くないから接近して【蹂躙】よー




 アリスとしては不思議だった。
『えー?』
 脚を閉じて伏せた姿勢で森の中に潜みながら、オブリビオン達の言葉を聞いていたのだ。
 バレてはマズイので声としては表に出さないが、彼女らの主張への疑問は言葉としてヘルガへ送っている。
『争いを無くす為に争うのー? 変なのー、アリスよく分からないー』
「…………」
 が、隣のヘルガは答えず、唇の前に指を立てた。その動作の意味は知っている。養父から教えられている。静かに、だ。
 こちらは思念を飛ばしてるだけだが、ヘルガは喋るしかない。お喋りは後で、そういうことなのだろう。
『うーん……。お家に帰ったらパパに聞いてみよーっと』
「…………」
 “パパ……。……パパ? えっ?”という呟きが聞こえてきたが、何が疑問なのか己としてはそれが疑問だ。
『? パパいるわよー? でも、パパと会うにはまず、あの悪い人達を退治しないとだめねー』
 ここは戦場で、倒すべき敵がいるのだ。視界を巡らせて、前方の状況を確認。敵の配置や装備を確認すると、
『んー……。さっきみたいで、いーい?』
 工場の時のように“妹達”を呼び、それに指示を出してほしい、という意味だ。
「…………」
 ヘルガが頷きで了承し、手で合図を送ってくる。いつでもいいぞ、と。
 なのでユーベルコードを発動した。


 破邪顕正宗の信者達は、森の中にいながら漣のような音を聞いた。
 ……?
 自分達がいる神社、そこを包む森の一部から大量の音が聞こえてきたのだ。
 何かが互いに擦れ合った時に立つ音に似ており、一瞬、木々のざわめきかと思ったが、聞こえてくるのは地面の上、恐らく地表ほどに低い位置からだ。
 そこから、地を揺らすような音が聞こえてくる。
 異常だ。
 それに低いのは位置だけではない。
「重――」
 重いと、そう感想したかった。重量があり、音階としても低いのだ、と。葉のように軽い物の衝突ではないのだ、と。
 しかし感想の言葉は続かなかった。
「敵襲――!!」
 物見に立っていた配下のレイダーが、警戒の叫びを挙げたからだ。ほぼ同時に、銃声と怒号も聞こえてくる。
 戦闘が始まったのだ。


『飲み込むのよー』
 森の木々に潜みながら、アリスは戦闘の行く末を見ていた。己が発動したユーベルコードによって、戦場はごく単純な光景を描いている。
 呼び出した“妹達”の数があまりに大量で、敵陣と自陣の間に境界線が引かれているのだ。
「数が多すぎる……!?」
「……!!」
 散開して敷地内の警戒に当たっていた敵に対し、地を埋め尽くすほどの幼虫の“妹達”が押し寄せていく。
 彼女らは森から飛び出て、互いの隙間が無いほどに密集して地を進んでいった。その姿は大地がそのまま波打っているかのようで、相対したレイダー達は半ば恐怖で引き金を引き絞る。
「――!!」
 落雷にも似た発砲音が複数のレイダーから複数回聞こえる。が、そのどれもが数十発程度で止む。
 弾切れだ。
 だが波濤に切れ間はない。
「……!!」
 慌てた動きでリロードや、他の武器に手を伸ばそうとしているレイダー達へ、大波が正面からぶつかっていった。
 飛沫一つが四十センチメートル。速度と質量を持った突進は、レイダー達を押し倒し、飲み込んでいく。
「こ、後退! 後退……!」
 置土産に手榴弾を投げられたが、
『飛ぶのよー』
 爆風に乗って一部が建物に取り付き、他の“妹達”もその後を続くように、壁をよじ登っていく。
 砂利地も建物も、最早その何割かが“妹達”の腹の下となっている。
『……ん?』
「どうした?」
 だが彼女達が建物の上に上がったことで、視界共有している己にもそれが見えた。
 新手だ。
 先程までいなかった姿が、拝殿の周りにいる。
『変な人達が出て来たのー』
「……あのなあ」
 こちらからは建物の影になって見えない相手、その特徴を自分としては正直に伝えたつもりだった。
 だって、
『――身体が炎で出来てるのー』
 変なのー。


 破邪顕正宗の信者達は、後退してきたレイダー達を見て、即座に行動に移した。
「――世の平穏のために!」
 幣を振ってそう言ったのだ。すると、やっとの思いで後退してきたレイダー達が伏せた顔を上げ、
「――世の平穏のために!」
 答えた。
 直後。レイダー達の身体が一瞬で燃え上がり、肉の殻を割るようにその内部から現れる姿がある。
 朱と黒の姿で、ゆらいだ輪郭を持ったものを火炎という。
「――!」
 火炎が、やがて鬼の形を取った。
 屈強な足で地面を踏み締めると、押し寄せる大波に向かって駆けていった。
「……!?」
 幼虫達は先程と同様に正面から突進を仕掛けるが、鬼は炎の身体だ。突進虚しく、背後の陽炎へすり抜けていく。
「そのまま焼き尽くしなさい……!」
「――!」
 大気を焼く咆哮で号令に答えた鬼達が、更に奥深くへ波の中へ突き進んでいく。
 そのはずだった。
「!? 波が割れた……!?」
 鬼の突進に合わせ、幼虫達が逃れるように左右に割れたのだ。波の割れ目は直線的で、回避に乱れが無い。
 ただ無作為に突進してくる蟲かと先程まで思ったが、違う。
「明らかに指揮する者が――」
 いる。今も、左右に逃れた幼虫達がそのままの勢いで、まだ“鬼になっていない”配下達をへ突進していっていることからも、それは明らかだった。
 野生の戦いではなく、指揮者による戦闘行動。
 そして、その指揮者がやはり“いる”のだ。
「――親です!」
 工場から逃れたレイダー達が叫んだ。叫びが指す方向は、割れた波の向こう側。
 対岸と、そう言える位置に“それ”がいた。
「――――」
 幼虫が成長した姿だと、直感的に解る個体が、ぬばたまの瞳でまっすぐにこちらを見ていた。
 波が割れ、両者の間には遮る物が何も無い。
「! 正面防御――!!」
「……!!」
 反射的に叫んだのと、極厚の顎を打ち鳴らした“親”が、波間をレーンとして突進してくるのは同時だった。


 アリスは地面を疾走していた。針のような足先で地面を捕らえ、前へ前へとその突き刺しを繰り返していく。
 二メートルを越す体長から生み出すストライドは大きく、一歩ごとに一気に距離が縮まっていく。
 眼前、飛来していくる小銃弾の雨の間から見えるものがある。割れた波間を埋めるように、火炎の鬼達が立ち塞がっている。
「――!!」
 こちらの前進を堰き止めるようと、鬼達は一斉に咆哮を挙げ、全身の“火力”を上げた。
 赤壁。相応しい言葉はそれだ。
 眼前に壁が立ち上がった。
『――通るわよー』
 己は気にせず突っ込んだ。
「なっ……!?」
 驚愕の声が火炎の向こうから届いてくるが、耐性のある己からすればこのような熱は何の影響もない。
 ……熱い、というか厚いのこの壁ー……。
 入ったはいいが、長い。横幅もそれなりにあったが、厚みも結構もたせて作っていたようだ。
 早く抜けないかな、と僅かな面倒を感じていたが、
『――――』
 熱で歪んだ向こう側に異変を感じた。軽やかな噴射音も合わせて聞こえて、だ。
『……!』
 それを察知し、すぐに垂直跳躍した己は、今まで立っていた場所が、否、赤壁すらも新たな爆発と衝撃波によって消し飛んだのを、散りゆく壁の上空から見た。
「――第二射用意! 着地した瞬間、また足元を狙いなさい!」
 炎鬼ごと巻き込んだ、こちらの姿勢を崩す狙いの攻撃だった。
 信者の少女達の前方で、ロケット砲を構えたレイダー達が射列を組んでいる。
『――――』
 このまま行けば、正面からロケットで足止めだ。突破できるが、邪魔で面倒だ。
 敵の狙いを確認した自分は、宙で姿勢を整え、前肢を振り上げると、
『――地面が柔らかくなったのねー』
 地表にぶち当たるように落下した。


 第二射の着弾煙が散っていく最中、信者達はそれを見た。
「いない!?」
 猟兵の姿が見えないのだ。着地と同タイミングでロケット弾の斉射をぶち込んだはずだが、その姿が何処にも見えない。
 レイダー達へ警戒の指示を出そうとしたが、その必要は無かった。
「――――」
 周辺を警戒しても無意味だと、“地中からの音”で知ったからだ。
「しまった……!」
 残煙の中に目を凝らせば、着弾した場所に大穴が空いていた。あの“親”が一体通れる程の大きな穴だ。
「……っ!」
 地表に逃れ、そしてそこ仕掛けてくるつもりなのは、一目瞭然だった。その手から逃れようと、急ぎ拝殿の中へ逃げ込んだが、
「そんな…!?」
『……!!』
 拝殿の下の地面から床板ごとぶち抜き、天井に張り付いた姿がある。
 全長二メートル、蜘蛛にも似た多脚の姿は、先程の“親”だ。
『……!!』
 歯を威嚇に鳴らしながら、未だ土が付着した甲殻の身体を蹴って、天井から飛びかかってくる。
「や、やめ――」
 悲鳴は押しつぶされ、それ以上聞こえなかった。
『――!』
 金属をすり合わせるような威嚇音と共に、拝殿の中を嵐が暴れまわっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒影・兵庫
(頭の中の教導虫と協議してヘルガさん指揮下で敵を森で迎え撃つ方向に決定した)
戦うなら森が良いでしょう!
強襲兵さんには絶好の狩場です!
俺はヘルガさんの側で『オーラ防御』壁で護衛をしながら
森に潜んだ強襲兵さんとの連絡係になります!
そしてヘルガさん!強襲兵さんを指揮して
敵集団を殲滅していただけませんか?
俺も護衛をしながら『念動力』で枝葉や石を操作して敵の視界を妨害したり
{皇糸虫}を操作して足に絡ませ転倒させたりできます!
将来ヘルガさんが拠点の人たちを率いて戦うための練習と思って
俺と強襲兵さんをどうぞ手足のようにお使いください!




 ヘルガは兵庫の様子を見ていた。
 やっぱり通信機見当たらないよな……。
 が、木々に潜んだ兵庫は、敵に察知されない程度に小さな呟きや、頷きでどこかと連絡を取っている。
「はい、はい……。ええ、そうですね……。やはり……、ええ、じゃあそういうことで……」
 声だけ聞くと何か社会人みたいだな……、というのが己の感想だが、流石に口にはしない。
 やがて通信を終えたのか、兵庫がこちらに振り向く。
「ヘルガさん、戦うなら森がいいでしょう」
 シンプルな切り出しは、戦場の話だ。
 小声ながら快活な声が、言葉を続けていく。
「森は強襲兵さんにとって絶好の狩場だからです。ここに引き込んで敵を倒しましょう」
 強襲兵。先程の工場でも見た、鋼鉄をも切り裂く強靭な羽虫だ。彼らが森に潜み、その顎を使えば敵にとって脅威となるのは、想像に難くなかった。
「ヘルガさんには、その指揮をしていただけますか?」
「ああ。さっきで随分と慣れたよ」
 側の木に止まった強襲兵に視線を向けながら、当初のような迷いや困惑が、己の中から随分と無くなっていることを感じる。
「ありがとうございます。俺はヘルガさんの側で、防護壁を張って護衛します」
 と、兵庫が構えを取ると、側にいた強襲兵が彼の元へ飛んでいき、
「――――」
 視えない壁でもあるのか、兵庫の身体から離れた空中で弾かれた。
「サイキックだね。さっきの工場戦でも使っていた」
「はい。不意の流れ弾も含め、敵の弾丸はこれで防げます。あとは、石や枝葉で視線を遮ったりも。強襲兵との連絡役も担うので、やっぱり貴女の側が基本位置ですね」
「君からの情報で強襲兵を操って戦え、と……」
 先程の工場戦と似ているが、決定的に違う点がある。
 自分も現場にいることだ……。
 護衛されているとはいえ、随分とシチュエーションは変わってきた。出来るか、という不安が少しもたげはするが、
「将来、ヘルガさんが拠点の人たちを率いて戦うための練習と思って、俺と強襲兵さんを、どうぞ手足のようにお使いください!」
 目の前の少年が、全幅の信頼を寄せて来る。文字通り、命を賭ける勢いで。
 それを聞いて、もう心は決まった。


 破邪顕正宗の信者達は、周囲の警戒に当たっていた。来たる猟兵に備えて、監視の目を光らせているのだ。
 数十人のレイダー達を手勢として、敷地内を警戒していく。
 すると、空気を震わせる音が聞こえた。その音に対して疑問を感じた次の瞬間、
「……!?」
 目の前を瞬間的に何かが通り過ぎていった。
 己は反射的に身を竦め、そのままの勢いで遮蔽物に転がり込んだ。それが結果的に身を救った。
 直後。自分達の小隊がいるエリアを、羽虫の群が通り過ぎていった。
「――!!」
 羽虫の数は数十匹か多くて百体程度。少数の群れが小回りを効かせて、エリアを疾走していく。
 時折陽光を遮り、一段薄暗くなる視界の中では徐々に地獄が作られていた。
 遮蔽物に逃れきれなかった隊員が、羽虫の突進を受け、服ごと肌を切り裂かれ、倒れ伏していくのが見える。
 あ、とも、お、とも聞こえる音が伸び続けるのは絶叫の声だ。しかしそれも、やがて聞こえなくなってくる。
 やがて羽虫達は気が済んだのか、進路を変え、森の中へ戻っていくルートを辿っていくのが見えた。
「……!」
 それを目で追えば、ルートの下、森の中に人影がいるのが見える。長大な棒を振って、上空の虫達を誘導する姿は、少年だった。
「“虫使い”です……!」
 部下の叫びが相手の正体を知らせる。工場襲撃のときにも見た猟兵だ。
 今、猟兵は虫のコントロールのためか身を曝け出し、視線も上空を見て、こちらに注意を払っていない。
「――!」
 なので自分は配下に射撃を命じた。
 生き残った隊員全員で、小銃や短機関銃の引き金を引き絞り、弾丸の雨を浴びせていく。
 すんでの所で猟兵は察知したが、
「……!!」
「――当たったぞ!」
 弾丸が肩や腕を掠めていった。
 血を迸らせながら、猟兵はすぐに近くにあった木々の影に飛び込んで、それ以上の射撃を回避。
 逃げていく。
 それを見て、己は即座に指示を出した。
「――追いなさい!」
 このまま放置しても、また今のような散発的な攻撃をしてくるのは明白だった。
「傷を負ったなら、あと一発でも銃弾を撃ち込めばいい! 例え命を賭してもここで仕留めなさい!」
 つまり、最接近した今こそが最も好機。
「逃すな……!」


『とか、考えてんだろーね?』
「ですねぇ、せんせー」
 脳内の教導虫スクイリアと会話しながら、兵庫は背後の追手から逃れていた。
 胸を膝に触れさせるような疾走姿勢で、重心を低く安定。柔らかい腐葉土や木の根を踏み越え、不整地の上でも速度を保って、抜けていく。
 が、
「……っ」
 時折、“無傷”の肩を押さえて、よろけたふりをする。
 ヘルガからの指示だ。
『撃たれたフリして、引きつける……。だね』
「ええ。そうでもしないと、連中、ノッて来ないでしょうから」
 先程の工場戦でちょっと元気に立ち回りすぎた。“虫使い”とあだ名をつけられる程には。
「フツーに強襲兵さんけし掛けても、警戒して森には入ってこないでしょうし……。フリとは言え、身を切る必要はあるでしょう」
 つまり今、己は“手負い”なのだ。
「…………」
 振り返る。
 敵は追ってきている。手負いの相手を仕留めようと。
 追いつかれてはいけないが、離れすぎてもいけない。こちらからすればこれをキープしたいが、敵からすればそんな絶妙な距離は解消したい。
 なので、解消するために敵が射撃してきた。
 連射される銃弾。その殆どは、屈めた背中の上を掠めていく程度なので気にせず、直撃コースのみを防護壁で気付かれないよう逸す。
 逸した。
「……!」
 が、“血”が流れる。
『……大丈夫? ……本当に当たってないよね?』
「あ、当たってませんよ……。せんせーなら、解るでしょう?」
 肩から滴る“血”を目で見切りながら、せんせーの言葉に答える。
 脳内に住まう教導虫はその性質上、一心同体で一蓮托生だ。血液の流出などは、すなわち脳機能の低下を招き、すぐに察知できる。
 なので先程から己が流しているのは、樹液に加水した即席の血糊だ。それを服の下に念動力で押さえ、銃弾が服を裂いたと同時、外にぶちまける。
 薄暗い森の中とは言え、直にバレるだろうが、ヘルガの元まで引き付けらればいい。
 そしてそれはもうすぐだ。
「あそこですね……!」
 逃走中の視界、斜め前方。敵の射線から外れた場所には、もうヘルガが居る場所が見えている。
 念動力で岩や枝葉を組んでカムフラージュした、敵からの視線と銃撃遮る簡易シェルターのような物だ。
 枝葉の間から、こちらを見るヘルガの目だけが見えている。
「連れてきました! ヘルガさん……!」
「ありがとう。なら、後は仕上げだけだ……」
 そこへ飛び込むように入ると、ヘルガはすぐさま次の指示を出した。
「――包囲して、仕留めるぞ」
「……!!」
 ヘルガのその言葉と同時、森の中に控えていた残りの強襲兵が、己からの連絡を受け取り、一斉に動き出した。
「虫が来るぞ……!」
 追ってきた信者達が一斉に木の影に隠れようとしたが、強襲兵の動きのほうが凄まじい。
 数百匹の群れが木々から木々へ飛び、森の中を包囲すれば、どこに隠れようとも無駄だった。
 木の幹に隠れても、幹に沿うように垂直降下してきた強襲兵が襲い、頭上の枝葉を警戒しても、始末し終わった他の強襲兵が周囲の幹から飛来してくる。
「て、て、撤退……!」
 逃げ出そうとする者もいたが、それも土台無理な話だ。足場は悪く、先程まで走り詰めだったのだ。
 すぐに追いつかれ、その背に強襲兵が集っていく。
「い……嫌だ……。死にたくない……!」
 幣を振るって追い払おうとする信者は、周囲へ叫びにも似た呼びかけを送る。
「誰か……! 誰か……!?」
 命を賭して私を助けろと、そう願う彼女だったが、
「――――」
 その声に答える配下は、既にもう存在していなかった。
 オブリビオンが、殲滅されていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
次はここで、スニークキルの指示に挑戦してもらおうかのう
ミスっても安心せい、上空に魔方陣を召喚してある!
妾が見つかる→花弁が舞い落ちる→ダメージで排除
と自動的に解決する!
…意味が分からん? エモさを語ると長いから後でな?

樹上待機も身を伏せ地を這うのも得意なのでな
気配は抑える、ドローン映像と妾の目視情報から判断して命令を出してくれ
目指せ戦果Sランク!


さっきの話の続きであるが、
妾は本音では、こんな獣の本能剥き出しの振る舞いが大好きという事でもなくてのう
とはいえ視聴者受けとかキャラ作りがあるのでな?
資質や能力と、実際のやる気が比例するとは限らん
しかし割り切ってやる心も大事ということよ
オフレコであるぞ?



  

 菘は木の幹に背を預けながら、廃神社の様子を探っていた。
「おーおー、いっぱいおるのう……」
 探るとはいっても、幹から顔を出して直接その目で覗き込んでいるわけではない。上空に飛ぶドローンの映像を、手元のタブレットで確認していくのだ。
 天からの視界は敵の配置や人数を始め、様々なことを詳らかに知らせてくる。
「お主も見てみよ。――必要であるからな」
 大体を確認すると、またタブレットをヘルガに渡し、
「次はここで、スニークキルの指示に挑戦してもらおうかのう」
 次なる挑戦を伝える。
 スニークキル。つまり、気付かれずに敵を始末するということだ。
「……出来るのか」
 タブレットに目を落とした後、ヘルガが茂みの中から境内を窺う。先程まではあった疑問という感情が、言葉に響きとして無い。
 彼女は、“出来る”ことを先の工場戦で把握しているのだ。猟兵であるこちらの能力も、急速に成長している己自身の能力についても。
 ならば今のは可否を問う言葉ではなく、確認だ。
「どうやって殺るか……、であるが、それも確認する必要が無いことは、お主も知っておろう」
 ヘルガから視線を切り、己は頭上を見上げた。
 そこにあるのは一面の緑と、僅かばかりの茶と青の色。枝葉の隙間から見える青空だった。
「先程のパイプみたいにこの樹上へ上がって、移っていくことも出来るし……」
 長く伸びた爪で、タブレットの画面を指す。
「連中の死角を選んで、地を這って潜入することも出来る」
 好きに選べと、片眉を上げれば、相手は考える素振りをして、
「失敗した時は?」
「安心せい、ちゃんと考えておる。――アレが見えるか?」
 視線と指で、枝葉の間から見える空を示す。そこにあるのは雲と時折のドローン・そして、
「何だアレ……? 図形……、否、図面か……?」
 遙か上空にある、この世界にとって馴染みの薄い“もの”。目を細めて“それ”を見ていたヘルガは、自然と自身にとって馴染みのあるもので例えた。
「少女の心を忘れた社会人め……。魔法陣だ、魔法陣」
 対して己は、ヘルガへ見せるように円と幾何学、そして幾ばくかの呪文を、空中へ指でなぞっていく。
「少女の心って……魔法の箒って歳でもない。ディーゼル車の方が好きだよ、私は」
「ホイ、お主エモさ減点ー。解ってないのう、ギャップ萌えというのがあってな……」
 あのウサギ頭は大変だった……、と難しい顔をしている自分より、さらに難しい顔をしているのが隣の技師だ。
「つまりどういうことだ……」
「つまり妾が敵にバレたとしたら、あそこから花弁が舞い落ちて、敵はダメージ食らってダウン! お主はそれだけ解っておけばよいのよ。解ったか? ……余計に解らなくなった? ……まぁ、つまりはエモさなんだが、これ語ると長いので後でな? 後で」
 指で鋏の形を模して動かす。
「采配を妾に任せると言ったが、任された妾からお主に任せよう。気配は抑える。ドローンの映像と妾の目視情報から、判断して命令を出してくれ」
 鋏を一転。伸ばした二本の指をヘルガに見せ、口端を緩めた。
「目指せ戦果Sランク……!」


 境内を巡回していたレイダーは、周囲の異変に感付き始めていた。
「……なぁ」
「ああ……」
 境内を大きく回る巡回ルート。与えられたその任務故に、己と、ツーマンセルの相方は、廃神社を包む様子に気付いたのだ。
「人の気配が……」
 薄くなっている。
 最早人の身ではない自分達であるが、形容するのならば相方のその言葉だろう。
「どうなってんだ……?」
 自分達は巡回し、敷地内の要所に着いた仲間達と出会い、別れていった。そのどれもが過不足無く、異常は無かった。
 そのはずだった。
「――――」
 しかし今、彼らの気配を背後に感じない。すれ違い、通り過ぎたあの場所に、まだいる誰かがように感じない。
 そうしてしばらく進む内に、気配が無いのは、既に背後だけではなくなったことを知った。
「あの要所も……」
 歩みを進めていくのは本殿裏の要所だ。まだ曲がり角の向こうで様子を探れないが、足音や装備の擦れ合う音など、生活音とでも言うような音が聞こえて来ず、今の時間であれば太陽の位置から考えて、人の影がこちら側に伸びてくるはずだ。だがそれも無い。
「急ぐぞ……!」
 後方の相方に声をかけ、己は歩みを走りに変えた。
 砂利を蹴って、現場へと急ぐ。急いでいく。
 しかし砂利を蹴る音は、己一人分しか聞こえなかった。
「――!?」
 その意味することを知っている己は、弾き飛ばされるように後方へ振り返った。
 いない。
 先程まで共にいた相方が、どこかへ消え失せていた。いつから、いつの間に。そんな思考が脳内を駆け巡る。
 急ぎ、他の仲間へ大声で知らせようとしたが、それは出来なかった。
 その時にはもう、背後からの何者かによって、己の首が締められていたからだ。
「ッ……!?」
 痛苦から逃れ、酸素を得ようと反射的に伸ばした手が触れるのは、ロープではなく鱗ばった何かだった。
 解ったのはそれだけだった。
「――!」
 次の瞬間には締め付けが強まり、強烈な圧迫が意識を消していった。


「…………」
 レイダーが動かなくなったことを確認した菘は、音を立てぬように宙へ持ち上げ、本殿の床下、地表と床板の間へ共に潜り込む。
 敵の目が来ない深い位置まで進むと、そこにレイダーを置き、身軽となった身体で最後の獲物を見る。
 見えている。
『――後はもう信者だけだ』
 本殿に陣を貼ったオブリビオン達の朱袴と履物が、あちこちへ忙しなく動いていくのが、床下から見える。
「――!」
「……!」
 聞こえてくるのは、苛立ちや焦りの混じった会話。相手の状態も手に取るように解る。
「そろそろ気付かれ始めた感じかの」
『巡回のレイダー達が露骨に減ったからな。――右、イケるぞ』
 異変を確認しようと、他のオブリビオンから離れ、視覚からも外れた一体を、己は床下から尾だけを出して捕らえる。
「……!?」
 首を持ち上げて地面から離し、一気に力を加える。
『音を立てて降ろして、誘い込もう』
「了解……と」
 近くの遮蔽物の影に音を立てて降ろせば、
「!?」
 オブリビオン達が、一斉にそちらを向く。
「……!? ……!!」
 なのでその最後尾を捕らえても、誰も気付かない。
『そいつは離れた別の遮蔽物に』
 置く。
 置いた。音を立てて。
 神経が過敏となった連中は、釣られるように首を別方向へ振る。
 音が鳴ったと思ったら、別の場所でも同じような音が鳴ったのだ。稀有な状況は、こちらが生んだ陽動だと気付き始めているが、一瞬とはいえ皆の視界が一方向に向く。
「今度はお主じゃの……」
 一瞬の内に、最後尾を捕らえた。
 圧迫するように締め付ければ、軽く硬いものが折れる手応えがあった。
「ひっ……!」
 その音に振り返った敵が、息を呑んだ。自身の足元に、倒れた仲間がいたからだ。
 彼女達は叫ぼうと、何度か口を開閉するが、
『――もう二人だけだ。そのまま一気に』
「左様か」
 己は尾先を鞭のようにしならせ、二人の首を一纏めに締め上げた。


「……誰にも見つからなんだな。大儀である」
 本殿を排除し終えた菘は、拝殿や他の要所へ隠れて進みながら、ヘルガに話しかける。
「そう言えば、さっきの話の続きであるが……」
『さっきの話? ……少女趣味の話か?』
「阿呆、違うわ。――お主のリーダーとしての資質の話だ」
 気にしておったのだとすれば、ギャップ萌えでやっぱり加点かの、とそう思いながら、言う。
「妾は本音では、こんな獣の本能剥き出しの振る舞いが大好きという事でもなくてのう」
『…………』
 無言だが、相手がどんな表情をしているかは解る。
「……お主、嘘だと思っておるな……?」
 こちらを見ている相手が何を考えているかなど、配信者としては常の課題なのだ。
 いや、今から話すのちょっとマジ話であるぞ、と上空のドローンに半目を向けながら、
「視聴者受けとかキャラ作りとか、色々あるのでな?」
 この常の課題というのは、つまるところ自分が何を求められているか、それを知ることだ。
「資質や能力と、実際のやる気。これが比例するとは限らんのだ」
『…………』
 然りと、首を縦に振る。
「生きていたら急に、今までの生き方より“向いている”生き方が出てきたわけだ。たった半日程のツアー参加で、メキメキと頭角を表していくレベルでの」
 戸惑うが、自分の人生なのだ。選択する必要がある。
 そういう時、どうするか。
「妾から言えるのは、割り切ってやる心も大事ということよ。――これ、オフレコであるぞ?」
 唇の前で指を立てる。その仕草をドローンへ見せた後、己は潜入を続行していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鞍馬・景正
彼奴らの教義、一理無くもありませんが──。
自ら争いと劫掠に手を染めているならば欺瞞の類。

誅滅しなくてはなりますまい。

◆戦闘
基本の動きは自ら判断しつつ、ヘルガ殿からの下知があれば従います。

まずはあの炎の鬼ども、太刀や弓矢では傷付けられそうにありませんね。

ならば【騎龍之勢】で一気に神社の境内まで突入。
その疾走で生じる【衝撃波】により、炎も弾丸も吹き散らしてしまいましょう。

距離が詰まれば【破魔】の念を宿した一刀で調伏。
身動きが封じられぬよう、【早業】で仕掛けては離脱を繰り返し。

鬼を追い散らしたら、信者への攻撃はヘルガ殿に任せましょう。
逆に彼女への攻撃があれば、人馬ともに盾となり【かばう】事も厭わず。




「“過ぎた冨、名誉、暮らしは争いの種となる”、か……」
「彼奴らの教えですか」
 景正はヘルガの呟きを聞いていた。身を潜めて敵の様子を注意深く観察していた彼女は、口をついて出る言葉も、やはり敵に関するものだ。
「ん? あぁ……、すまん。戦闘とは直接関係ない話だな……」
「いえ、連中の教義も一理無くもありませんので。指導者となるヘルガ殿が気にするのも、そうおかしな事ではないかと」
「そ、そうか? いや、でもあれは……」
 ヘルガが怪訝そうな顔を向けてくるので、彼女の心の中の言葉を己が言う。
「ええ、欺瞞です。
 教義通り、それらが争いの種であるのは古今東西が知ることですが、彼奴らは自ら争いと劫掠に手を染めているのならば……」
 刀の柄頭に手をかける。
「誅滅しなければなりますまい」


 景正は戦場を見る。そこにいるレイダー達、信者の少女達、そして
「あの炎の鬼……」
 その三種が敵の手勢だ。
 炎鬼が吠えた。
「……!!」
 火炎が猛る。という言葉を正しく体で現している。空にぶち上げた咆哮に合わせるように紅蓮の勢いが増し、周囲の景色を熱で歪めていく様子は圧巻だ。
 そんな鬼達が一体、また一体と増えていく。
「あの身体、太刀や弓矢では傷付けられそうにありませんね」
「何か方法があるか?」
 共に見ていたヘルガの声に、そうですね、と。
「使うのは刀ではなく、夙夜を」
 夙夜? とヘルガが訝しげな声を発する。
「夙夜って……、さっきの工場でも乗ってた、馬の名前だよな?」
 そんな心配そうな声音に、己は表情を緩める。
「ご心配ありがとう御座います。この世界だと、戦車や装甲車といったもので炎熱に耐えるかもしれませんが、私の愛馬だって只の馬ではありませんよ」
 ヘルガに振り向き、これからの動きを伝えていく。
「基本の動きは自ら判断しつつ、ヘルガ殿からの下知があれば従います。
 まずは私が炎鬼を滅しますので、その後、隙が生じた信者達への攻撃はヘルガ殿の鉄砲に任せます」
 ヘルガが装備する自動小銃を見ながらそう伝える。
「発泡すれば、ヘルガ殿の位置が敵にも知られるでしょうが、もしもの時は私が、夙夜と共に盾となって射線を遮るのでご安心下さい」
「……馬だよな?」
 二度目の確認が来た。こちらとしてはどう説明したものかと、顎に指を少し当てたが、
「――見せたほうが早いですね」
 隠れていて下さい、と手振りで示す。が、
「ああ、いえ、茂みではなく……。そうですね、そこの岩の裏にでも」
 場所を指示する。
「……? ここか?」
「はい。そこだと“安全”ですので。――夙夜」
 ヘルガが隠れたことを確認すると、己は愛馬を呼びつけた。
「――――」
 森の草葉を踏みしめやって来た愛馬の手綱を取る。鐙に足を掛け、一気に騎乗した。
 森の中といえど、騎乗するとかなり目立つ。こちらの様子に気付いたオブリビオン達が境内のあちこちから警戒の声を叫ぶ。
 信者の指揮する声と、レイダー達の怒号、そして、
「……!」
 炎鬼達の咆声だ。大気を揺らすほどの圧で押し寄せ、熱がこちらの頬を撫でる。
 熱波。それを正面から浴びながら、
「では、行ってまいります」
 次の瞬間には境内の奥深くまで突入していた。


「……!?」
 先程まで己の身体を撫でていた熱波が、一瞬の内に吹き飛んだことをヘルガは知った。
 炎鬼の咆哮の後、岩の輪郭を辿って回折してきた熱の波が、横合いから生じた莫大な衝撃波に全てをぶち撒けられていったのだ。
 吹き荒れる強風が、今は寒さを身体に感じさせている。
 一体何が……!?
 状況を知ろうと岩陰から顔を出し、何とか周囲を窺う。
 衝撃波に押し退けられた大気を補填するように、全方向から大気が流入してくる。強風に髪が乱れて視界は定かではないが、何とか窺い知れることは三つあった。
 一つは、流入する風の流れから、全ては景正達がいた位置から発生したということ。
 もう一つは、森の木々を洗うような突風から、疾走する景正達から衝撃波は生まれ、生まれ続けているということ。
 そして最後の一つを見る頃には、自分の周囲の吹き荒びは落ち着いており、現場の状況をクリアに見ることが出来た。
「炎鬼が……!」
 身体を火の粉にして、吹き飛ばされていっている。


 景正は境内の砂利地を夙夜で駆けていった。しかし、その速度が尋常ではなかった。
「――!」
 馬の足と言えど数十歩は必要な距離を、一瞬の内に詰めていくのだ。あまりに高速の走りは、自分達が抜けていった後に、衝撃波が生じていく。
 離れた木々が軋むほどの突風だ。側にいたレイダーは浮き上がって吹き飛ばされ、離れたレイダーは銃弾を送ってきたが、それすらも風の勢いに負けて届かない。
 そして奥に構えていた炎鬼達は、
「……!!」
 風に押し負けぬよう身体を猛火と変え、吹き飛ばされないよう堪えた。
 しかし、
「……!?」
 接近するに連れて、炎の身体から散る火の粉の量が増えていっているのは、誰からの目にも明らかだった。
 火炎の身体が吹き飛ばされ、総量が減っていくのだ。
 両者の距離が目前まで縮まると、もはや鬼は原型を留めておらず、すれ違う頃には、
「――――」
 朱色の吹雪が境内を吹き荒れていた。
「やっ……!」
 だが朱雪も一瞬。それを捨て去ったのは突風ではなく、新たに加わった銀の色だ。
 銀閃が空間を煌めいて走った。
 切り裂く場所は吹雪の中。断ち割るような一刀は、火の粉の中に未だ偏在していた炎の鬼としての念を鎮める。
 破魔の一刀によって調伏していったのだ。
「――夙夜!」
 手綱を翻し、身体も傾けて進路を大きく転回していく。
 レイダー達を吹き飛ばし、最早炎鬼もいなくなった。信者達への障害はもういないのだ。やがて飛来する射撃を遮らぬよう、夙夜を操る必要がある。
 すると、やはり来た。
「――!」
 突風吹き荒れる中でも聞こえてくる、大気を割り砕くような音は自動小銃の射撃音だ。
 岩陰に隠れたヘルガが、風に影響されぬよう単発の射撃を繰り返し、信者達に銃弾を与えていく。
「……!」
 全ての轟音の隙間から、オブリビオン達の絶叫と、
「奴を……狙……!」
 ヘルガを狙う指示の声が聞こえた。
「行け……!」
 敵が狙うのは予想通りだ。なので夙夜の軌道は、ヘルガの隠れる岩へと既に向けている。
 砂利はもう吹き飛ばされている。浮き出た森の地面から土が蹴立つが、それもすぐに衝撃波で吹き飛んで見えなくなる。
 何もかもが高速の世界の中、ヘルガへ飛来する銃弾を背後から追い越し、その勢いで弾丸があらぬ方向へ飛んでいくのが見えた。
 それでもまだ銃弾は大量だ。
「……!」
 己と夙夜と共に、岩の前へ飛び込んだ。急制動をかけ、静止。
 人馬一体という言葉通り、どちらの身体も使ってヘルガへの銃弾を阻止していった。
「ヘルガ殿、大丈夫ですか!?」
「それはこっちが言いたい台詞だが……。ああ、大丈夫だ!」
 弾倉の交換のために隠れたヘルガから、無事の声が聞こえる。
「それは良かった!」
 同時。ヘルガの銃への装填が終わった音が響くと、夙夜が嘶いた。
「――ではこのまま掃討していきましょう……!」
 片手に手綱、片手に刀を握り締め、己は夙夜と共に銃弾の雨を吹き飛ばしに行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『世紀末的リペア&レストア!』

POW   :    まだいける! 右斜め45の角度で叩いて復活させる

SPD   :    新品同様! 乗り物の構造を正確に把握し、損壊前と遜色のない状態まで修復する

WIZ   :    むしろ原型なんか残さん!! 壊れた乗り物に徹底的な魔改造を施しレストアする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 “過ぎた冨、名誉、暮らしは争いの種となる”。そのような教義で、交易拠点へ襲撃を仕掛けていた破邪顕正宗の信者達は、猟兵達とヘルガの手によって撃破された。
 これでへルガの住む交易拠点は、当面安全になる。しかし、
『まだまだ不穏というか、面倒残ってるんだよな……』
 拠点へと帰還するトラックの中で、ヘルガがそうごちる。
『あんたらも聞いたろ? さっきの連中が言ってたこと。思ったよりボロボロなんだよ、ウチ』
 トラックの中から無線を使って猟兵達に語りかける。
 戦闘前、信者達が拝殿の上からレイダーに演説していた通りだ。
『道路敷設で盛り上がって人が増えたところをガツン、だ。物資も車も随分減らされた。一番キツいのは、指導者層がごっそり殺されたところだ』
 交易拠点としての機能や能力が随分衰えた。
『私の仕事に使う素材も足りないが、あの拠点はそれだけじゃない。医薬品に食糧に衣類に武器に……。色々不足してる』
 ああ、違うな、と自分自身が言った台詞を否定する声が、彼女の口から出る。
「不足“していた”、だ」
 ヘルガのトラックの荷台は、廃神社と工場に残っていた物資で満載となっていた。協力を申し出た猟兵達も、各々の輸送手段で協力していくが、それを含めてもまだほんの一部だった。
「……コレ、持って帰ったら逆に争いになったりしないよな?」
 拠点の門は、もうすぐそこだった。


 結論から言うと争いになった。
 というか、
「……!!」
「――!!」
 既に争っていた。
 押し合い圧し合い、交易拠点の住民達がメインストリートに大挙してごった返しているのだ。
 集まった皆は興奮しており、拳を振り上げて叫ぶ。
 だがその叫びは、怨嗟や嫌気の念が籠められたものではなかった。
「英雄達の帰還だ……!」
 歓喜だった。


 どういうことか、と疑問する猟兵達とヘルガの前に、人影が現れる。
「――議長?」
 ヘルガの言葉通り、そこにいたのは襲撃で数を減らし始めている議会の長であった。
 彼は重々しく頷くと、口を開く。
「連絡は聞きました」
 連絡と、目の前の老人はそう言った。猟兵達もヘルガもそのような事をした覚えは無かった。だが、すぐに合点がいった。
 オブリビオンストームによって様々なものが破壊されたこの世界、断絶されたインフラは通信インフラも含まれる。危険から逃れるため拠点の中に篭ると、“外”の情報は垂涎の価値を生じ、命を賭けてでも得ようとする者が出てくるのだ。
「尾行されていたか……」
 もしくは誰かに偶然見られていて、“タレコミ”されたか。しかし今となっては、どちらでも大差は無かった。
 拠点の皆は、猟兵達とヘルガの活躍を知って色めきだっており、そして議会の長が言うのだ。
「――どうされるおつもりですか」


 出方を問われた。
 レイダーの基地とオブリビオンの基地を崩壊せしめ、豊富な物資を持ち帰ってきたのだ。
 この拠点からすれば僥倖だが、強烈すぎる光は人々を惑わし、不安にさせる。
「貴女はここで、何をなさるおつもりですか?」
 何をするつもりか。何が望みか。これ以上この拠点をどうするつもりか。
 ポジティブな意味とネガティブな意味が、正しく半々に籠められた問いだった。
「――――」
 ヘルガは一瞬言葉に詰まる。
 自分が何をするつもりなのか。何が望みなのか。そして、この拠点をどうするつもりなのか。
 しかし猟兵達との旅で、彼女は心を決めたのだ。
「私は――」
 迷わず言った。


 猟兵達はヘルガと共に、彼女の工房へ戻っていた。
 先程、メインストリートで彼女が宣言した言葉を果たすためにだ。
 それは何か。
「――拠点の武装強化。特に車両方面の、だな」
 破邪顕正宗に奪われ、壊された車両達の復活。猟兵達と共に、度重なる戦闘とその指揮を何度も経験した彼女は、もう奪わせず、失わないと皆の前で宣言した。
「あれだけドンパチ経験したから、作り方も配備の仕方も効果的なのが解ってきたが、結局は車両技師の私だ。……今のところは、な」
 宣言したのは他にもある。
「手に入れた必需品の拠点への寄付と、――時期、議長への立候補」
 結局手元に残ったのは、当初通りの車両整備に使う素材だけになった。それを使い、拠点の車両を修理する。
「結局まぁ、いつも通りの日々に戻ったわけだが……。何だか、前より“公僕”感があるな……」
 ここを治める公人になるため、キャンペーン活動を今から始めるのだ。
 物資を拠点へ寄付し、拠点のために車両を直し、武装化する。そう宣言した後、人々の興奮は更に跳ね上がった。今すぐにでも議長へと、そういう荒っぽい意見も聞こえたが、そういうわけには流石にいかない。
 確かにあの盛り上がりだと、対立候補も恐らく無に等しいだろうが、この大きさの拠点を治めるシステムがどんな車両の設計図よりも複雑なことを、ヘルガは知っていた。
 住民も、ヘルガも、現議会も、全てが落ち着く必要がある。一時の熱に浮かされて指導者が代替わりされそうになる程、この拠点は傷ついているのだ。
 そんな傷を癒やすための様々な物資は、すぐに寄付した。
「だがその後、忘れられてはいけない」
 だからキャンペーン活動だ。
 ヘルガは見る。工房のタスク表を。
「“英雄”様手ずから修理してもらうのは、何やらの価値があるらしいな」
 そこには我先にと持ち込まれた案件が、山のように貼ってある。
 やはり皆落ち着く必要があるな……? と思いながらも、ヘルガは持ちかけられた案件の殆どを受けた。
 キャンペーンとしての側面もあるし、新しい工作機械も何やら融通して届けてくれた。かといって、自分の実力的に、全ての案件を片付けるのが大変なのは解りきっていた。
「けど、拠点を救った英雄は私一人じゃなかったしなあ……」
 ヘルガは猟兵達を見た。


 次期議長候補、ヘルガにとって単純な日常が再開した。
 色々あって、車両技師としての仕事を開始。
 と思ったら、時計を見るに昼時なのでまず昼食。
 食べ終わったので、再開。
「……君達が玄関叩いてから、意外に時間が経ってないことにちょっと驚きだが、とりあえず作業を始めよう」
 指示を出す。
「私は今から車両整備をする。車を直して、今回は武器を搭載したりもするな。君達にはその手伝いをしてほしい」
 並ぶ車両群に振り返りながら、
「仕事としてはまず、もう使えそうにないパーツを運んだり、スクラップにしたり、はたまた叩いて直したり……、といった力仕事が一つ。
 次に、車両や機械、それに今回は搭載する銃器とかに明るい者達は……、まぁ、特に指示することはないだろう。君達の知識や経験通りに作業してくれて構わない。
 最後に、異世界から来た君達だ。おおらかなクライアントからの、おおらかな依頼も中にはあるので、“原型なんか残さん!!”ってレベルで、君達流で好き勝手に修理してもいい」
 この世界の者がちゃんと使えるようにするんだぞ、と釘を刺し、ヘルガは顎に手を当てる。
「不調箇所の特定や検品とか、そういった作業もアリだし……。――あぁ、というかそもそも、そう火急の案件っていうのも無いからな。参加人数も少なくても構わないよ」
 二人か三人もいれば十分だ、と指を立てる。
「だから他の拠点や、他の世界の危機を救いに行ってくれても構わない。それに今から行うのは、結局のところ露骨な政治活動だ。もしかしたら、立場とか色々な事情で協力できないって者もいるだろう。
 ――だから先にここでお礼を言わせてくれ」
 ヘルガは居住まいを正した。
「今までありがとう、君達のおかげでこの拠点は助かった。私自身もどうなることかと思ったが、今ここでこうしている。
 君達を見て、共にいて、より良い未来のために行動しようと、そう思ったんだ」
 柔らかな表情でそう告げた後、ヘルガは照れ臭そうに手早く工具を手に取った。
「――それじゃあ、始めよう」
アリス・ラーヴァ
※アドリブ・連携歓迎

お手伝いするのー
まずはスクラップを解体しましょー
妹達は前肢でサクサク分解してパーツを選別、幼い妹達はヘルガさんの元へ使えるパーツの【運搬】ねー
うーん、それにしても結構使えないパーツが余ったわねー
これで何か作れないかしらー?…いいことひらいたのー!
(スクラップからフレームと装甲板と座席シートを引っ張り出し)
えーと、フレームをてきとーに曲げてー、幼虫から分泌される謎物質でシートと装甲版と機関銃を接着してー、妹(成虫)に背負わせたらかんせー!
悪路も走破する軍用車よー
ヤドカリみたいだけど結構かわいーかもー
ヘルガさーん、妹たち(ヤドつき)を10人くらい置いていくから可愛がってねー




 いの一番に手伝いを申し出てくれた声をヘルガは聞いた。
『お手伝いするのー』
 アリスだった。童女らしい気楽な声を聞いて、仕事モードに入っていた己だったが、思わず表情を緩める。
「うん。それじゃあお願いしようか」
 工房の中は、既に数台の車が搬入されていて割りと手狭だが、アリスは軽い足取りで車両や部品達を避けて移動する。
 そうして目指す先は、
『まずはスクラップー』
 工房の外だ。彼女が玄関ではなくシャッターから身を屈めて出ていけば、状態の悪いスクラップ群が外に並べられている。
「ソレ、前肢とか口の鋏でバラせるか?」
『余裕よー』
 でも、とスクラップの群れにアリスが向き合いながら、
『量が多いから妹達呼ぶわねー』
 その声に従ってすぐに“妹達”がやって来た。敷地スペースの問題もあるので十体前後の“大きい妹”がスクラップの前に取り付き、“小さい妹”がそれより多く、少し後ろで待機している。
「……!? ……!?」
 すると、丁度外の道路を通ったのか、その光景を見た近所の住民が驚愕の顔を寄越してきた。
 どう説明したものかなと、思いながらも、そんな彼らに対して、こちらとしては右手を軽く振ることで、平気だ、と理解してもらう。
『? アリス達もご挨拶するのよー』
 ご近所さんのご理解がちょっと怪しくなった。
 ……まぁいいか……。
 事の顛末を見られていたということは、“妹達”も既にこの拠点の中では周知だろう。
「それじゃ、早速頼む」
 アリスや“妹達”の事も、誤解の無いように拠点へ伝えていかなければと思いながら、彼女へ作業の許可を出す。
『オッケー』
 前肢を振り上げ、アリスと“妹達”が作業を開始していった。


 アリスと“妹達”にとって、作業は単純だった。
 目の前に並び、時には積まれているスクラップに向き合ったところから作業はスタートする。
『サクサクいくわよー』
 状態の悪いスクラップだ。崩れないように一部の前肢で支えると、大雑把な部位ごとに刃を入れていく。
『ルーフにー、ドアにー』
 車両の外側を構成するパーツは損傷が激しい。少し力を入れるだけで、音を立てて割れ、砕け、断たれていく。
 鉄屑となったそれらを地面に置けば、後ろの幼い“妹達”が背に乗せてヘルガの元へ運んでくれる。
「ああ、そういうのはあっちのくず鉄置き場に」
『運ぶわー』
 ルーフもドアもどんどん砕いていった。
 後は、車体後部や前部といった部分を主として増設された装甲板へも、前肢を突き立てた。
 ここも同じく損壊が激しいが、特に頑丈な部分でもあるため、無事なものも幾つかあった。
「あー、装甲板で使えそうなのはそこら辺にー」
 解体の流れが安定してきたのを確認したヘルガは、工房の中に戻って自分の仕事に取り掛かりながら、“妹達”に指示を出す。
 そんな背後のやり取りを聴覚器官で捉えながら、作業を続行。
『座席シートー、それにフレームー』
 ここも同じだ。装甲板で守られていれば、シートもフレームも無事なことが多い。
『血がべっとりなのよー』
 乗り手の出血が染み込んだシートを裁断して、中の骨組みだけにしたりもしながら、作業の終わりが見えてきた。
『エンジンにー、バッテリーにー……、何かいろいろー』
 重要な役割を持つ各種機器。それらは鋏でもぎ取る事も可能だが、この世界において特に貴重な品でもあるので、状態の良いものはそのままにしておく。
 するとどうだ。
『ヘルガさーん。終わったのよー』
 自分達の周りに有ったスクラップ群は解体され、バラバラとなっている。
 “え、早い!”という返事を聞きながら、己の仕事の結果を見渡した。
 そこにあるのは、分別の結果、ヘルガの仕事としては使いみちの無いパーツたちだった。
「装甲板に、フレームに、シートに……。これで何か作れないかしらー?」
 状態はそう悪くないが、これより良いものは他にもある。それは自分が砕いたスクラップからもだが、そもそも手に入れた物資からも出てきている。あの車両工場の設備を支配下に置ければ、そのような質の良い素材はもっともっと増えるだろう。
 つまり今、己の足元に転がっている部品達は使えるが、使えない。予備として保管しておくか、他の工房に卸すかだ。
『……いいことひらめいたのー!』
「? 閃いたって、何が?」
 工房の中に戻っていたヘルガが窓から顔を出し、尋ねてくる。
『この余ったパーツで色々作れるなーって。作っていーい?』
 こちらの足元に転がってるパーツを一度見た後、
「まぁ、いいけど……」
 ヘルガは首を傾げながらも、許可をくれた。
『それじゃ、作ってみるねー』
 そう言って、まず前肢でフレームを掴む。


 アリスは前肢の先、刃で持ったフレームに力を送った。
 力加減が難しいわねー……。
 抑える力が強ければ断ってしまう。それではだめだ。今、自分が望むことはこのフレームを曲げることなのだから。
 そうやって、最初は口の牙も含めて、前肢の刃に細かく力を加えて変形させていったが、途中から地面に置いて、跨ぐように多脚で互い違いに挟んだ。
『えいっ』
 てこの力で曲げていく。こちらの方が早くて、効率的だ。
「マジか……」
 足元で容易く形が変わったフレームをそのまま、次は他のパーツを持ってくる。
『装甲板にシートに……、あと機関銃ー』
 前肢でそれぞれ宙に掲げておいて、
『――!!』
 幼い“妹達”から分泌された物質を、塗りたくっていく。
「………………な、何それ……」
 疑問された。
『接着剤になるのよー』
 曲げたフレームにそれぞれを押し付け、接着させる。
『ほら、くっついたわー』
 突いたり揺らしたりして、接着の具合を確かめる。良好だ。
 持ち上げる。
「それで……、出来上がったこれは……車体というか、座席か? タイヤや履帯がまだ無いが、これからどうするんだ?」
『――こうするわねー』
 言って、近くにいた大きな“妹”の背に乗せた。
『かんせー!』
「えっ」
 足回りが加わって、完成したのだ。
『悪路を走破できる軍用車よー』
「……い、いや、確かに悪路、走破出来たけど……」
 ヘルガは己の背に乗って移動したことがある。その時を思い出すように、彼女は顎に手を当て口を開いていく。
「……そう言えば乗ってても、全然視点が揺れなかったな」
『揺れたら大変なのー』
 多脚で安定していることもあるが、視点が揺れたら目標を正確に捉えられない。
 その場で少し前後して歩いてみたり、左右や上下に傾きを得てみるが、
『ほら、頭は同じ位置なのー。……しゃがんだら、これ背負ってるからヤドカリみたいねー。結構かわいーかもー』
「私の知ってるヤドカリとは随分違う気がするが……。というか乗ってる時から思ったけど、やっぱりサスが効いてるわけだな……」
『刺す?』
 ヤドカリ状態の“妹”が、鋏を突き込むジェスチャーをする。
「いや、そっちじゃなくてサスペンション。揺れを抑える機構の事だ」 
 成程ねー、と己が思っていると、ヘルガが手をひらひらと振って工房の中へ戻っていく。
「まぁ持って帰ってもいいけど、あんまり使いすぎるなよ」
 そう言われた。だがそう言われても、こっちとしては“違う”。
『? 持って帰らないわよー?』
 疑問詞付きでヘルガの背に言葉を投げたら、やはり向こうも疑問詞付きで振り返った。
「持って帰らない……? じゃあ――」
『それに作り過ぎもしないのー。あと作って……十個くらい? ――出来たわー』
 言ってる間に、他の“妹達”が同じように作って、それぞれが背に背負う。
 背負った。
 それを見届けた後、ヘルガに己の目的を伝える。
『ヘルガさーん、このヤド付きの妹達ここに置いていくからー』
「――――」
 信じられないものを見る目で見られた。
『十人くらいいるからねー。可愛がってねー』
「えっ!? えっ……!?」
 慌てた動きで周りの“妹達”を見ていく彼女は、体の前で両手を振る。
「さ、流石に、飯に人間は用意できない……!?」
 それを聞いて、あー、と己は言葉を発する。工場戦の時を言っているのだろう。あの時はレイダー達を刺して、食べた。
『だけど、別に私達何でも食べるのよー』
 言って、そうする。前肢で適当に土を掬い、
『――――』
 口に持ってきて、咀嚼。他の“妹達”も同じように、土やスクラップを食べる様子をヘルガに見せた。
「…………」
 マジかー……、と唇を小さく動かしたのを見ながら、己は必要なことを伝えていく。
『あと酸素も必要無いわー。麻痺毒も持ってるわねー。それに何にでも寄生して増えるのー』
 “最後……”と、目の前のヘルガが頭を抱えるのを見た。が、しばらくそうして、
「……まぁ、人食べないならいいか……。……いいのか? いいのか……。――うん、いいよ。ここにいてくれると、アリス君と離れ離れにならなくてもすむからね。それは嬉しいことだ」
『やったー! ありがとー!』
 快諾してくれた。前肢を打ち付け、“妹達”と共に祝いの拍手をした。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

黒影・兵庫
では俺「たち」は力仕事をしますね!
せんせー!お願いします!
(UCを発動し教導虫の抜け殻を呼び出すと、抜け殻がヘルガさんに微笑みながら手を差し伸べる)
細かい部品なら俺が『念動力』で、重い鉄骨とかものはせんせーで持ち運びます!
でも力仕事だけじゃなくて何か助けになる物を残しておきたいですね...
あ、そうだ!{蠢く水}を差し上げますよ!ヘルガさん!
こいつは微生物の塊でして
粘着性と潤滑性に任意で切り替えできる凄い奴なんです!
しかも水分があれば勝手に増えるので管理も維持も楽ちんです!
さ!どうぞ!
(ぐねぐね動く{蠢く水}を手のひらに乗せてヘルガさんに差し出す)


御形・菘
ならば力仕事を手伝うとしよう
妾は技術を使いこなす側で、整備とか改造のスキルは無いのでな
スクラップはガンガン潰すから、好きなだけ用意してくれ!
それと叩いて直すのは、右手であればそこそこ力加減が効くぞ

作業がてらに話半分で聞いてくれればよいぞ、最後のレクチャーはズバリ「笑顔」だ!
…即、自分には向いてないとか切り捨ててはいかんぞ?
これも才能ではあるが、努力と訓練でカバーできる分野であるからな
交渉や指示の段階で、重要な要素と覚えておくのが大切!

はっはっは、要は使いどころの問題よ
お主の場合、的確なタイミングで急所にクリティカルを決めるタイプ!
皆が無茶振りしてくるのだから、出し惜しんでご褒美にしてしまえ!


鞍馬・景正
一件落着、という所でしょうか。
されどヘルガ殿、そしてこの拠点にとって大変なのはこれからでしょう。

せめて、門出の手伝いくらいはさせて頂きます。


鍛冶師の手伝いは経験が無いもの。
肉体労働を主に担当しましょう。

部品を運んだり、廃材を整理したりと、羅刹の【怪力】が役に立てそうな仕事をこなして参ります。

作業中、ヘルガ殿なら理解なされているとは承知しつつ、一言。

衆を率いるというのは、正解も終わりもない難題にひたすら悩まされるようなもの。

苦しい時でも己を追い込まず、どうぞ最初に抱いた理念を思い出して頂きたい。

それでもどうにもならない状況なら、また私達が駆け付けましょう……友人として。


ヴァレーリヤ・アルテミエヴァ
(アドリブ・連携歓迎)
よいではありませんか、政治活動?主張するべきところは積極的に主張して立場を磐石にしていくべきですわ!
もう既にヘルガさんには主張に見合う力と信頼があるのですから!

大きなパーツはわたくしが戦車で運んでさしあげますわ!
戦車の重量を以てすれば不要なパーツのスクラップ化も容易いものですわね!
この先、拠点を運営し守っていくのはヘルガさんをはじめとした此処の人々。
わたくし達猟兵がずっと付きっきりという訳には参りませんけれど…
貴女達が思い描く未来のために、これくらいの一助はさせて欲しいものですわ。
…さぁ、どんどん働きますわよー!




「――ならば妾は力仕事を手伝うとしよう」
 ヘルガは見た。工房の中に並ぶ車両や車の間をすり抜けるように、菘が前に出てきたのだ。
「妾は技術を使いこなす側で、整備とか改造のスキルは無いのでな。スクラップをガンガン潰すから、好きなだけ用意してくれ!」
 先の工場や神社で振るった左腕を掲げ、歯を向いた笑顔を見せてくる。
「それは頼もしいな。ありが――」
 とう、と言葉を続けようとしたが、前に出てきたのは菘だけではなかった。
「一件落着……、という所でしょうか。せめて、門出の手伝いくらいはさせて頂きます。ヘルガ殿」
 景正だ。そして、さらに続いていく。
「この先、拠点を運営し守っていくのはヘルガさんをはじめとした此処の人々。わたくし達猟兵がずっと付きっきりという訳には参りませんけれど……。
 けれど、貴女達が思い描く未来のために、少しくらいお手伝いはさせて欲しいものですわ」
「そういうことです! ヘルガさん、お手伝いします!」
 ヴァレーリヤと、そして兵庫だった。
「皆も……。うん、ありがとう」
 皆が残って助力を申し出てくれた。その事に表情を緩めながら、工具片手に答える。
「スクラップはいくらでもあるよ。襲撃を受けたこの拠点からも、私達が制圧した工場や神社からも沢山出てくるからな。それらは外に集積してる」
 その工具で工房の彼方を指した。そこにあるのは外に繋がるシャッターだ。
「スクラップはそこで……。菘以外の他の三人は、何を手伝ってくれる?」
 それによって与える指示も変わってくる。なので、外へ出る前にそう問えば、
「鍛冶師の手伝いは経験が無いものですので、私も肉体労働を主に担当しましょう」
「私は戦車がありますので、工房の中はともかく外でしたら運搬とか、それこそスクラップの処理とか、ですわね」
「俺“たち”も力仕事を担当します!」
 そう答えた三人が、思わず顔を見合わせる。
「つまり四人共、大体一緒か……」
 指示が出しやすくて良い、と思っていたら、気付く。
「俺……、“たち”?」
 兵庫の言葉だ。他の猟兵を指した言葉かとも思ったが、それにしては流れが不自然に感じる。
「さっきも見せた、虫か?」
 そう問えば、兵庫が小さな苦笑と共に首を横に振る。
「いえ、そう言えばそうとも言えるんですが。もう一人いるんですよ。ヘルガさんも知ってるかと思いますが、見たことは無い方です」
 知っているが見たことは無い兵庫の知己。そう言われても最初解らなかったが、はたと思いつく。
「ああ、それって……」
「ええ。――せんせー! お願いします!」


 兵庫の発動したユーベルコードが、一つの結果を生んだのをヘルガは見た。
 虚空より人が出現するのだ。
「ん……」
 現れた人影は金の長髪を蓄えたスーツで、小さな呟きと共に床へ革靴を付けた。
 身のシルエットからその者が女性だとすぐに解ったが、それ以上にもっと印象的な部分が真っ先に目に入る。
「え……!?」
 その印象を一語で表すなら、大きい、否、正確には“高い”だ。
 床に立った彼女の身長が、隣にあるハイルーフ車を優に越している。恐らく三メートル超え。
「ほお?」
 競うように、測るように、どれ、と菘が身体を上に伸ばしていく。いつかのように尾で立ち上がったのだ。
「――――」
 視線を正面から等しくすれば、互いは必然と目が合う。緑色の瞳は同じ高さにある菘に気付くと、一瞬驚いたように僅かに目を見開き、その後すぐに細められる。
「よい、よい」
 それに満足したのか、呵呵と笑った菘が立ち上がるのを止め、下がってくる。それと並行するように、正しく眼下であるこちらへ、翠眼も向けられてきた。
「――どうも! ヘルガさん!」
 しかし、声は上から振ってこない。彼女が膝を曲げて屈み、こちらと視線を合わせてくれたからだ。
 手が差し伸べられる。そこは人の肌ではなく、硬質だった。
「依頼中に、黒影が独り言のように喋っていた“せんせー”こと。スクイリアです。よろしくね。――あ、私も力仕事担当で」
「あ、ああ、よろしく……」
 どこかに通信していたとは思っていたが、相手のビジュアルがかなり予想外だ。有り体に言って面食らったが、差し出された大きな手を握り返し、何とか返事を返す。
 そうしてスクイリアが再び立ち上がると、こちらの隣に戻ってきた菘が、視線を向けてきた。
「ああ、それとスクラップもいいが、叩いて直すもの、あるか? それもイケるぞ」
「……その腕でか?」
 先程までオブリビオン達を投げ飛ばし、叩き伏せていた左腕。あの時の様子を思い出せば、“叩いて直す”と言うより“砕いて散らす”という苛烈な力だった。
「違う違う。左じゃなくてこっちだ、こっち」
 そう思っていたら、右腕を振った否定が来た。
「右腕であれば、そこそこ力加減が効く」
 見れば、そちらの腕には包帯が巻かれている。それはそれで大丈夫か、とも思ったが、
 まあ、猟兵だしなあ……。
 戦闘中の動きを思い返しても、菘の動きに不備は無かった。なので彼女の言う通りなのだろうと、修理が必要なものは何か有ったかと思い返し、
「……ああ、そうだ」
 思い当たるものがあった。
「そこの車。奥の」


「あれか?」
 菘はヘルガの視線と工具の先、シャッター近くを見た。
 そこにあったのは大きなトラックだった。種別としては大型車と言うのだったか。場所を取らないよう工房の隅へ押し込まれたその車は、見た目に反して縮こまったような印象を受ける。
 照明の当たりづらい位置のせいで判然としないが、車体に傷や汚れは少なく、この世界においては優良品と言える車だった。
「そう。それ、状態は良いんだけど動かなくて。一回バラして見なきゃとは思ってるんだが、何分大きいからな」
「面倒な作業の前に、叩いて直ればめっけもの、か」
 まあそんなところだ、とヘルガの声を聞きながら、シャッターへ向かうルートから方向転換。
「――ぬ。お主らも来るか」
「ええ、何か手伝えることがあるかもしれませんもの」
「左様か……。――よいぞ、許す!」
「せんせー! 許可が降りました!」
「ここの主はヘルガ殿では?」
 まあまあ、と言いながら結局、皆で大型車に向かう。
「それで、だ。お主としての所見は? 何処を叩けば良いのだ」
「主としての所見も言いたいところだが……。まあ、総合的に衝撃を与えたいから下に潜って……、こう、上に向かってガツン、と」
 ジェスチャー混じりの指示を聞きながら、成程のう、と車体の下を覗き込む。
「機会といい拝殿といい、今日は何かの下に潜るのが多い日だな……」
「持ち上げましょうか?」
 スクイリアが、彼女の首元あたりにあるトラックの荷台を掴んで、微かに揺らす。
「んー……。そうだな……」
 車体の下を見れば、地上とのクリアランスは十分にあるが、余裕があればその分作業も容易になる。
「であれば良いか! 許す!」
「黒影ー、許可降りたよー」
「さっきから許可制ですの?」
「ヘルガ殿?」
「まあ作業手順と指示を明確にするのは良いことだ……」
 お主ら付き合い良いの……。と思っていると、
「――であれば、私は逆側を受け持ちましょうか」
 景正が、スクイリアの逆側に回り込んでいく。


「……えっ!?」
 景正が反対側に回り込んだ時、ヴァレーリヤの耳にヘルガの驚いた声が入った。
 ……?
 その声を聞き、何を驚くことがあるのか最初解らなかったが、隣のヘルガが景正を見て慌てているのを知り、得心する。
「ああ、多分大丈夫ですわよ。景正さんなら」
「い、いやでもアレ、確か十トンだぞ……?」
 いやまあ、私も彼のことはそう詳しくありませんですけれど、と前置きしながら、
「景正さんの額の角って、ヘルガさんから“見えて”ます?」
「黒い角? 見えてるけど……」
「あら、見えてるんですのね? ……って、まあ、この世界だとそう不思議ではないかもしれませんわね。角生えてても……」
 猟兵の姿というものは、その世界の住人に違和感の無いよう映る。世界の加護によるものだ。そのため、説明の前にそのことについて問うてみた。
 この世界であれば、相手に威圧感を与える身体改造の一環として、身体に角を埋め込む輩も特にレイダーなどにはいるだろうが、流石に景正はそれらとは違う。
「彼の角ってファッションじゃなくて、種族的なものですのよ」
「種族? それって――」
 と、その時。
「――せー……のっ!」
 スクイリアの声と共に、自分達の眼前にあるトラックが揺れた。
 車種としては大型で、構造としてはキャブオーバー。荒れ地を走行するため、最低地上高を高めに取ったオフロード仕様の一台が、
「……!?」
 浮き上がった。複数あるタイヤ全てが、床から離れていく。
 スクイリアと景正の二人が手で持ち上げていくのだ。
 スクイリアは片膝を床に着き、そして景正は腰を落として、掴んだ車体の底を、
「――――」
 更に上へと持ち上げていく。
 最早真っ直ぐに腰を伸ばした景正は、空箱を持っているかのように涼しげな顔だ。
「よーし! 良いぞ、高さ十分。どれどれ……」
 車体が上昇し終えると、菘がその下に入っていく。姿勢としてはもう殆ど屈んでいない。
「……あっ、解っておると思うが、お主ら絶対手を離すでないぞ!? 絶対だぞ! フリではないからの! ――まあ、この程度頭に落ちてきても妾的にはノーダメだがの! わっはっはっはっ!!」
「早くしなさいですの」
 促した直後。
「――――」
 トラックが下から上に震えた。
 一打が放たれたのだ。


「ほう……」
 思わず景正は声を漏らした。自分が持つ大型車が震えるのと同時、そこから低く、通り抜けるような音が聞こえたからだ。
 車体の下に潜り込んだ菘が、天井方向へ打撃を与えたのだ。
「良い音ですね!」
 離れた位置から見ていた兵庫の言う通りだ。発散や断続をせず、“一本”と形容できそうな音は、既に持ち上がっている車体を更に押し上げていく。
 浮き上がりそうになる車体だが、浮き上がらせては打撃が“通らない”。なので対面のスクイリアと共に、車体へのダメージとはならない程度に、車を下へ抑えつける
 彼女はその手足の長さから、荷台を上から押さえるように出来るが、流石に自分は無理だ。自分は、車の骨組みを掴んだ手に力を籠め、
「ん……」
 引き下げるようにして堪える。
 堪えた。
「――――」
 すると“音”は濁ることなく消えていき、残響が工房を満たす。
 だがその後に、代わりとして広がるものがあった。
 ん……?
 最初、油が漏れているのかと思った。車体の下から黒い液体のようなものが広がったからだ。
 己の世界にこのような乗り物は無いが、油を糧として動く程度のことは知っている。なので、すわ燃料漏れかと、思ったが、
「――――」
 違った。
 油かと思った“黒い何か”が波が引くように、また車体の下に引っ込んでいったからだ。
「――おーい? どうだ? フレーム? じゃなくてシャーシ? まあソレ全体を打撃するように一発打ったが……。もう一発いっとくか?」
 車の下、そこに立つ菘が包帯の腕を振ってヘルガの注意を引いている。左右へ振られるその腕には、黒い波紋のような揺らぎが纏わっていた。
 ……成程。
 油かと思ったのはこれだ。黒い液体とも、気体とも見える黒いうねりをもって、彼女は打撃を通したのだろう。
「いや、とりあえず一旦出てきてくれ。二人も車、降ろしていい。――エンジンを掛けてみる」
 ヘルガの指示に頷き、菘が下から出てきたことを確認すると、スクイリアと共に車を床に降ろす。
 そうしてヘルガが運転席に乗り込み、刺し込んだままの鍵を捻る。すると、
「――――」
 目の前の車が唸りを挙げた。
 鋼の身体の中に燃料という血が廻り、動き出したのだ。
「……まさか本当に直るとは……」
「お主な……」
 菘から半目を向けられながら、ヘルガは様子見のためか、しばらく車を作動させ続けた後、停止。運転席から降りると、軽く車体を叩きながら皆に視線を回す。
「いや、助かった。バラすのは勿論、動かないんだったら外に運び出すのも面倒で。ありがとう、三人共」
「何、この程度、造作もないことよ!」
「いえいえ、どういたしまして」
「ええ、お気になさらず」
 手に着いた汚れを、ヘルガから貰った布巾で拭いながら、
「――それでは、今度こそ外で廃材の整理といきましょうか」
 工房の外へ繋がる搬入口へ戻っていく。


 スクイリアは身長の関係上、工房の外に出るのが一番最後だった。
 シャッター上がり切るまで、待たないとね……。
 先程の通り、内部に大型車が置かれている工房だ。その搬入口も高さが高く取られ、己の身長ですら余裕の作りだ。しかしそれ故、開閉まで時間がかかる。
「……とまぁ、あんな感じで」
「ほう……。これはまた……」
「随分手応えありそうだの!」
「あっ、私のミーシャあそこですわね。ちょっと回してきましょうか」
 先にシャッターを潜った面々はすでに現場を見ている。ヘルガの声と、興味深いのか少し声音を上げた景正の声、そして菘とヴァレーリヤだ。
 自分の視界は未だシャッターが殆ど。だが、“見えている”。
「うーん、思ったより量多いですね、せんせー」
 現場には黒影もいるからだ。
 未だシャッターの内側にいる自分だが、この身体は抜け殻で、自分の本体とも言うべき存在は黒影の脳内にいる。
 己の正体は“教導虫”という、寄生虫だからだ。
 そこから“抜け殻”を操作しているため、本質的には、彼がいる場所が自分のいる場所だ。
 彼から送られてきた言葉と視界を、やはり彼の脳内で受け取って、情報として咀嚼する。
『確かに。思ったよりいっぱいあるね……。コレ』
 その頃には“抜け殻”の視界からも、シャッターが段々と除かれはじめている。少し屈み、首を傾けて現場を“生”で見る。
 ……どっちかって言うと、黒影の視界の方が本当は“生”なんだろうけど。
 抜け殻と言えど身体を持つと得る感覚も少し変わるな、と思いながらやっと外に出て、空の下に出る。
 午後の日差しの下、皆と共に次の作業現場を見る。そこにあったのは乱雑に並べられた、
「いや、もうこれ、並べるっていうか……、密集? 集積?」
 スクラップだ。
 大型車や小型車のみならず、既に車の外観を失している残骸もが一緒くたに押し寄せられ、敷地の一部を裾野が広がった錆鉄の山にしていた。
「いつもだったらここら辺に纏めて置いておけば、業者か、業者じゃないどっかの誰かが勝手に持っていくんだけど……。まあ、両方オブリビオンに襲撃されてさ」
 以来、このままか。
 混乱していた拠点ではスクラップは増えるが、回収が為されないとなると、いずれ敷地のキャパシティが来て、業務的に窒息する。
「ヘルガ殿に手伝いを申し出て、良かったですね」
「というか私達が手伝いを申し出なかったら、どうするつもりだったんです? これ」
「あー……。その時は同業とか互助会とか頼って何とか、って感じのヴィジョンだったかな」
「――でも、拠点全部がこんな状況でしょう? だとしたら、その方法だと時間かかりますわね」
 と、戦車に乗ってヴァレーリヤが戻ってくる。二足戦車はこちらより高く、全長五メートル程か。見下される、という自分にとってはあまり味わえない機会を与えてくれる。
 つまり面子が揃い直した。なので、己は胸の前で手を打つと、
「それじゃあ、どうします?」
 皆に尋ねた。


 ヘルガは、猟兵達の会話を聞いていた。
 これから作業をするため、それぞれが何を担うか、何が出来るかという簡易的なミーティングだ。 誰からともなく緩く円を描くように、皆が向かい合う中、まず最初に言葉を発したのは菘だった。
「随分、量が多いの」
 彼女はスクラップの前に立って、見上げるようにしながら。
「まあ別に、妾にかかればどうということはないがの! ……と、いうか、実際問題大抵の猟兵にとって、この程度苦ではなかろ。ただの鉄屑の山だし。
 が、時は金なり、とも言う。――効率的にいくべきだ」
 提案を聞き、兵庫も顎に手を当てて考える。
「時短優先の方法ってなると、俺の場合は虫さんに削ってもらうか、もっと手っ取り早く呑み込んでもらうかですが……」
 真っ先に思いつくのはそういった大規模なユーベルコードだ。それらを使えば一気に片がつく。菘も心当たりがあるのか、おお、と指を立てる、というか、空を指す。
「流星群呼ぶか!? 呼べるぞ妾! ――ここら一帯がスクラップになると思うが!」
「拠点のスクラップ処理で、亜空間とか隕石出したら大問題ですわよー?」
「そうですね。ここは戦場ではなく拠点の中」
 と、景正が首を動かさず、視線だけを周囲に向けて、言葉を続ける。
「つまり衆目があります。彼らの目が吉凶のどちらに転ずるかは、我々の働き次第かと」
 己の工房、その敷地の外側や道路上には、拠点を救った猟兵達を一目見ようと、さっきからひっきりなしに人が訪れているのだ。
 遠巻きに見てくるオーディエンスという存在は、自分にとっては何とも不慣れなものだったが、猟兵達は慣れているのか、特に気にする様子もなく会議を続け、
「それじゃあ、“大きく一気に”じゃなくて、“細かく一斉に”って感じですね」
 と、スクイリアのその言葉を会議の締めとして、
「――――」
 皆が動き出した。スクラップを山として、山の東西南北にそれぞれが配置されていく。
 一人残ったのは兵庫だ。彼は翠色の破砕警棒を取り出し、皆に声を張る。
「部品とか散っても、俺が念動力で押さえるんで、好きにやっちゃってください!」
 そう言った彼に対する他の猟兵の返事は、言葉ではなかった。
 空間を震わせる音が、敷地内を走った。
「……!!」
 作業の始まりが、一斉の動きで知らされたのだ。


 ヴァレーリヤは正面から衝撃が迫るのを見た。
「――!」
 兵庫の言葉を合図に、まず菘がスクラップへ拳をぶちかましたのだ。否、山を挟んで向かい合ってる関係上、実際に彼女が拳をぶち込んだかは定かではない。が、恐らくそうだろう。彼女の左腕から放たれた打撃音が、スクラップを通じて押し寄せる。
「……!」
 打撃の音は、軽い。先程のトラックと違い、錆びて朽ちた鉄が集まっているだけだからだ。
 スクラップそれぞれは密集しておらず、空気を孕んだように隙間を空けている。ターゲット自体が軽いと、打撃も通らないものだ。
 だが、
「連打してますわね……!?」
 スクラップが砕け、散る音が向こう側から止まらない。。
「ははっ……!」
 楽しむような笑い声も合わせて聞こえてくる。強烈な打撃を何度も与えてスクラップを圧縮し、一塊としていくのだ。
 波が、押し寄せてくる。
「けれど固めて来てくれるのでしたら、こちらとしてもやりやすいですわよ?」
 言って、己は戦車を操縦した。神経伝達で思うがまま操縦できる機体は、こちらのイメージ通りに動き出す。
 鋼足による前蹴りを、押し寄せる波へ突き込んだのだ。
「――!!」
 圧縮されてやって来た波は戦車の重量に負けて歪み、乾いた破断音を連続させていく。だが己はそこで動作を止めない。
 入れ替えた逆足を、さらに前へ突き込む。
「お……!」
 こちらが“受けられる”と解った菘が、さらにラッセルを激しくして来るからだ。
 なのでこちらとしても、迎え撃つことで応える。
 前へ押し込むような、踏み込むような足捌きを連続させていき、波のベクトルを真下へ向けて、足裏で大地に押さえつける。
 何か、工場の作業みたいですわね……。
 押し寄せてくる向こうがベルトコンベアで、上から押さえつける自分の戦車がプレス機だ。
 押して、寄せて、来て、それを蹴って押さえ、大地へ踏みしめる。単調な流れだが、飽きは無い。
「ほう! じゃあこれはどうだ……!?」
 山の向こうからこちらを試すように、変化を付けてくるからだ。
「甘いですわ……! ――さぁ、どんどんいきますわよー!!」
 最初は正面のみだった波も、今や左右も合わせて押し寄せてくるので、こちらとしても時折サイドステップだ。
 そうして機体を横に振っていけば、自然と視界も己の左右に散る。
 お二人も順調そうですわね……!
 己の左右、そこにいるのは景正とスクイリアだった。


 打撃音と、それを脚で受けて踏み越える音。その二種が連続していく中、景正は変形していく山に立ち向かっていった。
「左右と、対面のスクイリア殿から圧縮されていますからね……」
 菘達が正面からぶつかり合えば、力の余波は横に逃げる。即ちスクイリアとこちら側に、山が裾野を広げていくのだ。
「……!」
 山の向こう側から、翠色の棍が振るわれているのが見える。それが大地を撃つごとに、衝撃波が立ち上がり、スクイリア側に伸びる裾野が押し戻されていく。
「早くこちらも打たねば、埋もれてしまいますね」
 オブリビオンを倒した後でもあり、皆の雰囲気は随分と緩い。それもあってか、今のこの作業も何だか幼子の遊びを思い出す。土で山を作り、皆で削っていくのだ。
「そして一番削れた者の勝ち、ですね。――どれ、廃材相手ならこの程度で十分か」
 遊戯じみてるし、その上別に勝った負けたを競ってるわけでもない。が、だからと言って気を抜いていると、埋もれさせられる。
 三方を押さえられこちらに伸びてくる裾野の中から、半ば砕けた自動車の骨組みを引き抜いた。手に持ったところ、長さにして一丈半前後か。
「――!」
 片手一本。それだけで手中の骨組みを振るい、裾野がこれ以上伸びてこないよう上から叩き潰す。
 潰した。
 だが、
「やはり脆い……」
 潰れたのは裾野だけではなかった。こちらの力に耐えられず、骨組みも砕けたのだ。
 元は重量物を支える骨組みは、この世界の製鉄技術で作られた頑丈なものだったろうが、如何せん朽ちている。
 刀がそうであるように、鍛えられた鋼は粘るような強靭さを持ち、砕ける時もそのような音が鳴るものだが、先程から他の三人が豪快に発している通り、朽ちた鉄は砕ける音も軽い。
「だが、互いに砕け合ってくれるので良し、か」
 どうせ全てを最終的に潰すのだ。面倒が無くて良いと、地面に転がっている他の骨組みを今度は二本、片手にそれぞれ構えると、
「やあっ……!」
 裾野を左右から二度、挟み込むように払った。
 錆鉄同士がぶつかり合い、割れ砕けながら互いに潰れ合い、しかし吹き飛ばず、散らない。兵庫が念動力で押さえているからだ。
 錆の粉すら浮かないとは……。
 砕けた部品どころか、粉と散るはずの鉄粉すらも宙に漂っていない。済んだ空気の中、四方を押さえられた山は、その力を残された方向へ伸ばす。
「あの遊戯は、頂を崩しても負けでしたか」
 上方向にも伸び続けた山は、やがて衝撃と自身の重さで自立できず、
「――――」
 落ちる。
「あ……」
 誰ともなく声を発する。最早互いに顔が見えるほど作業は終盤となっており、自然と頂きの行く末を見ていたからだ。
 落ちる先、それは、
「残念、私ですね」
 自分の頭上に落下してきた廃材を見上げると、己は無手を掲げ、
「……!」
 受け止める。高度からの重量物だが身体は怯まず、寧ろ廃材のほうが軋みを挙げる。随分派手な児戯だったが、
「これで終わりです」
 受け止めた廃材を振りかぶって、目の前の山肌へ投擲する。
「合わせますね……!」
 同時。山肌の向こう側にいるスクイリアが、裏打ちとして棍を当てて、反力を返してくれれば、
「――――」
 最後に残っていた山が耐えられず、崩れていった。
 廃材の解体が、終わった瞬間だった。


 スクラップを砕き壊した後、ヘルガは先程修理したトラックを回してきた。処分場に運搬するため、試運転代わりに使うつもりなのだ。
「……しかし、凄い光景だ」
 トラックから降り、先程まで錆の山があった場所を見る。そこは今や夕陽と錆の色が混じり合う湖と姿を変えていた。
「後は、まだ残ってる大きいヤツらを砕くだけだな……、っと!」
 他の皆と同じく、菘が地面に残ったスクラップを砕いていく。それを後ろから見ていると、
「おお、そうだ」
 忘れていた、とそんな雰囲気で、口を開いた。
「――最後のレクチャーをしようか」


「え……?」
 背後でヘルガが身構えたのを気配で知り、作業がてらの話半分で良いぞ、と右手を軽く振る。
「最後のレクチャーはな、ズバリ“笑顔”だ!」
 振った腕の先、指を一本立てて振り向くと、また歩き出す。
「笑顔って――」
「――そういうのは向いていないとか、即、切り捨ててはいかんぞ?」
 相手に被せるようにした言葉は、正しく発しようとしたその通りだったようで、ヘルガが言葉に詰まる。
「これも才能ではあるが、努力と訓練でカバーできる分野でもあるからな。交渉や指示の段階で、重要な要素と覚えておくのが大切!」
「訓練って……、どうやって? 鏡に向かって練習とかか?」
 疑問符塗れの言葉を背中越しに聞きながら、
「……いや、そもそもそういう場面で……、私が? 笑顔を振りまく……?」
 疑問符が段々と訝し気な唸りに変わってきたので、どう言ったものかのー、と思いながら、遠く、ヴァレーリヤが鉄骨とコンテナを指差していたので、腕を振って応じる。
「許可出ましたわー……!」
「おい」
「はっはっはっ。よく通る声で結構だの、あの娘」
 スクイリア達が鉄骨を箒に、ヴァレーリヤが戦車でコンテナを塵取り代わりにし、スクラップの破片を集め始めるのを遠目に見ながら、
「いやなに。何も振りまけとまでは言っておらん。――要は使いどころの問題よ」
 こちらも粗方砕き終わった。腕に付いた錆を、振るって落としながら、
「この拠点も、限定的とは言えネットがあるのだろ? するとまあ動画なり何なりもあると思うが、やはり商品のパッケージと同じでサムネイルが重要」
 し・か・し、と振り向いて指を突きつけながら、言う。
「お主の場合、そういう一番最初に目にする“掴み”の部分とは真逆! 的確なタイミングで急所にクリティカルを決めるタイプ!」
「……そうなのか?」
 首を傾げるヘルガに、そうなのだ、と頷く。
「どうせ皆が無茶振りしてくるのだから、出し惜しんでご褒美にしてしまえ! 厳しい人が不意に見せたナンタラってやつだ!」
「う、うーん……。理屈? は解ったけど、上手く出来るかどうか……、いや、やってみるけどさ」
「お、物分かりがいいの。――ならば、ほれ早速」
 と、ヘルガの背後を指指す。
 そこに他の猟兵達が来ていた。


「こっちのスクラップも集めに来ました!」
 兵庫は他の皆と同様、ヘルガの横に並ぶと、菘が砕いたスクラップをせんせーや景正が鉄骨で纏めた後に、念動力で持ち上げる。
「どうですか? 力仕事ばっかりでしたけど、助けになれたでしょうか?」
「そりゃもう、大助かりだよ。ありがとう」
 持ち上げたスクラップをヴァレーリヤが牽引するコンテナの中へ移し、そのコンテナをトラックの荷台の中に収める。
 これで、最後のスクラップを集め終えた。
 こちらとしてはもっと手伝いたいが、しかし時間も時間だ。空はもう夕焼けで、一日が終わっていく。
 朝一番にヘルガさんと会ってから色々ありましたね……。
 あれから、今、ヘルガはこの拠点の指導者として相応しい人物となり、それをやがて成し遂げようとしている。
「この拠点の長となるヘルガ殿のお手伝いでしたが、あまりそういう空気を感じませんでしたね。気楽でした」
「そうですわねー。政治活動と言えばそうなんでしょうけど、やってたのは只のスクラップ砕きとかですものね。気楽というか、肩の力入れずにというか。そんな感じでしたわ」
「ああ、二人も。私の方こそいつもの作業で気楽だったよ。お疲れ様だ」
 トラックへの積み込み作業が終わったのか、景正と、戦車から降りたヴァレーリヤが戻ってきていた。
 そんな二人の言葉に己は、ですねー、と軽い相槌を打ちながら、政治活動と聞いて、思いつくことがあった。
「そうだ、俺がヘルガさんのことを宣伝してきましょうか? 俺の大声とせんせーの身長があれば、人の目を引けると思います!」
「む、人の目を引く? いやいや、目立つと言えば妾だろう、妾! だが問題は、目立ちすぎて妾の名の方が覚えられてしまう恐れ……! 妾は自分の才能が怖い……!」
「確かに宣伝も大事ですが、ヘルガ殿は一人です。家臣までは勿論言いませんが、先代殿のように宿老のような存在は、他にいらっしゃいますか?」
「一人で十分なほど口煩い老人だったからなあ……。……ていうか、皆、そこまで手伝ってもらわなくても……」
「ああ、そういえば議会制ですのよね、ここ? それだったら襲撃受けた今はともかく、議員同士のパーティとかいずれはまた開くでしょうし、面倒でもそういうのに顔出してコネクション形成して……、フォーマルなドレスとか持っています?」
「というかお主、パーティとか華やかな場所以前に、そもそも目立つ場所に慣れとるか? 工房籠りっきりではないか? 冗談抜きでこれから千回以上は人前に立って、スピーチやら何やらをすることになるんだが……」
「いや、あの、その……」
 武家や蛇神に高貴な少女と、指導者系ポジションの猟兵達が色々アドバイスしているが、一島民系の自分としては興味深く、たじろぐヘルガの隣で頷いて聞く感じだ。せんせーも厳密には指導者側だが、
「…………」
 彼女は特に発言すること無く、微笑で皆の会話を聞いている。如何せん島とここでは状況やシチュエーションが違いすぎるからだろう。
 虫さんもいませんからねー……。
 この交易拠点に軍隊虫がいれば、随分と楽になるだろうに、とそう思った時だ。
「――あ、そうだ!」
 思いついた。
「?」
 何事か、とヘルガを含め皆がこちらを見てきたので、己は荷物を探って“それ”を手に取り、皆に見せる。
「これを差し上げますよ! ヘルガさん!」


 これは……。
 景正は皆と一緒に兵庫の手の中を覗き込んで、はて、と自分の知識の中で近しい物を口にした。
「初めて見ましたが、なんでしょう……。葛湯のようにとろみがありますね……」
 兵庫の手中に収まっていたのは、粘性のある液体だった。透明で、僅かに翳りというか液体の中に“何か”がある気がする。
「確かにとろっとしてて……、キセリみたいですわね。あれはこんなに透明ではありませんけど……」
「スライム! スライムだろ!?」
「何だろう……? 兵庫君?」
 皆が口々に感想を言って、スクイリアが可笑しそうに声を漏らす下、兵庫が首を振る。
「はい。俺は“蠢く水”って呼んでるんですが、――こいつは微生物の塊でして」
「えっ」
 受け取ろうと手を伸ばしたヘルガが、一瞬固まるのを見た。
「……よく見たら動いてますわね……? ――よく見たら動いてますわね!?」
「はい! 生きてますから!」
 会話だけ聞くと何が何やらという感じだが、掌で“蠢く水”を手繰りながら、兵庫が説明を続ける。
「このように、こいつは潤滑性と……、ほら、粘着性。これらを任意で切り替えできる凄い奴なんです」
 彼が手を傾けるに合わせ、“蠢く水”は水のように一気に落ちたかと思えば、下で構えていた手の上で糊のように固まる。
 性質が瞬時に変わっているのだ。
「おお……、おおう……?」
 ヘルガが、何とも形容し難い顔と声でそれを眺める。
「しかも水分があれば勝手に増えるので、管理も維持も楽ちんなんです!」
 それを聞き、己は思わず兵庫の方を向く。
「それはつまり、雨の日に外に置いておいたら大変なことになるのでは……? ――あ、否、ヘルガ殿。今のは別に、貴女を不安にさせるつもりではなく……、その……」
 まさか……、という顔でヘルガがこちらの顔を見たので、慌てて訂正する。そんな己の横で、
「さ! ヘルガさん、どうぞ!」
 兵庫が“蠢く水”を満面の笑みで、ヘルガに差し出した。
「――! ――!」
 掌の上で、“蠢く水”がその名の通り蠢いていた。
「…………」
 沈黙するヘルガ。
「――――」
 そしてそんな彼女に対し、いつの間にか兵庫の背後に回った菘が、唇の両端を指で押し上げて何やらの合図を送っているが、あれは一体。


「あ……、ありがとう……。こんな便利そうな物……、じゃなくて……、子? 子達? だね……。いや本当に……、本当に凄い……。――生命の神秘だ……」
 “蠢く水”を受け取るというか流し込まれ、包括的な感想を口にするヘルガ。そんな彼女の様子を、兵庫の背後から見て、
 やっぱ、笑顔要練習だの……。
 と、菘は改めて再認識した。
 すると、
「ヘルガ殿」
 景正が、ヘルガの前に出てきた。


 ヘルガの正面に立って、景正は言葉を紡いでいった。
「ヘルガ殿なら理解なされていると承知してはいましたが、先程は宿老のことなど、私の僭越な言を受けて頂き、ありがとうございます」
「え……? え、あ、い、いや、そんな、寧ろもっと聞きたいくらいだ、こっちとしては……」
 一礼をするこちらに、ヘルガが慌てて手を振って否定する。が、その手には“蠢く水”が乗っているので、ヘルガの手の振りに合わせて“水”が震えて、何だか少し可笑しみを感じる。
「ははっ」
 菘も同感なのか、こちらの背後から小さな笑い声を漏らし、己も思わず口端を緩める。
「ああ、失敬……。ええ。では、あとほんの少しだけ語らせて頂こうかと」
 言って、彼女の目を見る。
「ヘルガ殿、衆を率いるというのは、正解も終わりもない難題にひたすら悩まされるようなものです」
 自分が放った言葉だが、己も心の中でその言葉を反芻させる。
 人の上に立つということは、重責だ。自分自身だけでなく、背後や麾下とした人々の面倒を正しく“見る”ことになるのだから。
 彼らの成功だけでなく、失敗や苦難に振り回され、奔走することになる。そして、彼らが寄越してくるのは、それらだけではない。
 ……喪失です。
 失われていくのだ。
 ヘルガはそれを、全力で回避しなければならない。そして回避し切れなかった時、その結果を正面から受け止めなければならない。
 彼らの幸福と喪失に、責任を持つ。
 重責だ。そして己の言う通り、難題で、
 ……どうすれば正解で、どうすれば終わりなのか。


 ヴァレーリヤは思う。至難ですわね、と。
 指導者にとって幸福も喪失も、目の当たりにするだけでなく、書類やデータ上の数字として上がってくることだってあるだろう。
 この世界出身の自分は、一度この世界で失われた。そして再びこの世界で目を覚ました時、今度は己以外の何もかもが、失われていることを知った。
 己の一族も、一族を潰した国すらも……。
 データを調べれば調べるほど突きつけられるのだ。ここに書かれているものは、最早この世界に存在しないのだと。
「――――」
 あの時は結構、メゲた。
 目を覚ました時、まず最初に思ったのは、もう一度一族と会いたい、だ。
 それが叶わぬのなら、彼らの血を引いた者達を見てみたいと。あの地はどうなっているのかと。
 そしてそれすら叶わないのなら、一族を滅ぼした国へ復讐なり、文句の一つでも言ってやろうかと、そんな風に思いもした。
 だが、
 無理でしたわねー……。
 全て、オブリビオンストームで消し飛ばされた後なのだ。何も残っていなかった。
 それ以来、己は生きている。
 己の姓に恥じないよう生きようと、弱き民を助けるのは高貴なる者の使命と。何故なら、そうして己が生きている限り、残る。
 滅びたものも、“在り”続けるのだ。
「もう失いませんわ……」
 小さく、誰にも聞こえないように呟いた。そのはずだったが、
「――――」
 隣りに立つスクイリアから、ほんの僅かに息を詰める音が聞こえた。
 “抜け殻”の身体に呼吸がどれ程必要なのか、己には解らない。必要無いのならば、思わず取ってしまった所作ということになるが、彼女の表情を仰ぎ見ることはない。
 だって、それこそ必要の無いことですものね……。


 菘は空を見た。
「――――」
 もう、完全に陽が落ちて、夜だ。先程まで敷地の外から見ていたオーディエンスも、今は随分と数を減らしている。
 いつの間にか静かになったな……。
 つい先程までスクラップ相手に馬鹿騒ぎしてたが、今は一転、静かだ。仕事が終わったこともあるが、景正の言葉に皆も思うことがあるのだろう。
「…………」
 誰もが話すのを止めた空間の中、景正が言葉を繰り返す。
「ええ……、難題です。ひたすら悩まさられるような」
 ですが、と。
「苦しい時でも己を追い込まず、どうぞ最初に抱いた理念を思い出して頂きたい」
 最初。今、景正はそう言った。
 それはつまり、今日この日のことだ。猟兵達と出会い、敵を打ち破り、拠点を守ることを決めたこの一日。
 どうしようもなく悩んで、苦しいとき、そんな状況を打破しようと己を追い込むのではなく、その日に抱いた理念を思い出せと。
 それは何か。
「――もう奪わせず、失わない」
 繰り返したヘルガの声に、皆が頷きをもって応える。
「ええ、そうです。貴女は我々の助力を、その理念に繋げました。外敵を誅滅し、戦果をもって内患を抑え、その理念へ貴女は辿り着きました。
 だからそれを忘れないで下さい。これから始めて、続けて下さい。……ですが」
「……?」
 と、景正が身に纏う雰囲気を変えた。背後に立つこちらからは彼の表情は解らないが、先程まで一緒に仕事をしていたのだ。真面目で気品を感じる立ち姿は変わっていないが、
 ……随分とリラックスしておるな。
 そんな雰囲気のまま、景正が最後の言葉を告げた。
「ですが、それでもどうにもならない状況なら、また私達が駆け付けましょう。……友人として」


「――――」
 ヘルガが息を詰めた。菘は景正を挟んで正面だから、それがよく解った。
 彼女の初めて見た表情だった。少なくとも己が先ほど、練習しろと言った表情ではないので、
「――――」
 兵庫のときと同じく、景正の背後で自分の唇の両端を指で押し上げ、表情の手本を見せてやる。
「…………」
 やらない。不敬である。
「――!」
 なので、さらに激しく手本を見せると、
「……にらめっこですの?」
「……にらめっこですね!」
 不敬な者達が増えた。が、大体合ってるような気もする。何故なら、
「――それだと正反対の表情ではないか、お主」
「……!」
 向こうが何か言い返した気もするが、嗚咽で何言ってるか解らん。
「ああ、ヘルガ殿、ヘルガ殿……。水を与えてしまうと“水”が増えてしまいますよ……」
 会話だけ聞くと何が何やらだ。だが夜の工房に、そんな自分達の会話が、その後もしばらく続いていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年03月28日


挿絵イラスト