●近すぎる未来
折れた帆柱が船上の人々へ牙を剥き、帆布がけたたましく警鐘を鳴らす。
腕に自信のある者が帆を操ろうとした。
しかし大嵐に奪い取られた帆の自由は、容易く得られない。どれほど操船技術に長けた者でも、あるいは海を読む水先案内人であっても──抗う術は多くない。
少なくとも、猟兵たちが知るような嵐ではなかった。怒り狂った海の神が、船舶も猟兵も拒むかのようにこの海域を荒らしている。
波は巨腕と化し、船めがけて襲い掛かる。手の平に似た形をもって、生きとし生けるものを叩くために。はたまた海へ引きずり込もうと、悲鳴もろとも包み込んでゆく。
激しい風は、触れるものすべてを切り裂いていく。しかし帆柱こそ襲撃しても、なぜか帆布には手を出さない。とはいえ暴風に呑まれた帆だ。風がわざわざ裂かずとも、いつかは破れるだろう。
そして船は揺れ続ける。今にもひっくり返りそうな勢いだが、鉄甲船ゆえか辛うじて耐えている。
しかしただの嵐ではないのだ。対処せずにいれば、猟兵とはいえ海へ放り出されてしまいそうな揺れ具合だ。
観念するか、と過ぎる思考がある。
まだ見ぬ新天地に背を向けるかと、問い掛ける声がある。
この奇妙な嵐では、仲間の声すら届きにくい。ならば誰のものでもなく、猟兵の頭の中に響くもの。
諦めれば帰そうと、囁かれる。陸へ戻るのなら許そうと、甘い誘いが届く。
そう、それこそが──猟兵たちを待つ危難だった。
●グリモアベース
鶴首して待った者も多いだろう。名こそ聞き及んでいたものの、実態も掴めずにいたグリードオーシャン。
サムライエンパイアにて画策していたレディ・オーシャンの野望を打ち砕いたことで、猟兵たちはとある異変に気付く。先の大戦、エンパイアウォーの際に引き揚げた『鉄甲船』から、おぞましい光が発生しはじめたのだ。
紫色のそれは、船首からどこかへと伸びている。指し示す先に何があるのかは、誰にもわからない。わからないからこそ、冒険のし甲斐がある。
「待ってるのは果てしない大海原! いいわねっ、ロマンに溢れてるわ!」
いつになく興奮気味に口を開いたホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が、早速本題に入る。
「つまりね、サムライエンパイアの外洋へ漕ぎ出します」
どこまでも続く外洋。
そこに待ち構えるは得体の知れぬ自然災害か、或いは謎の生命体か。
とにもかくにも情報が欲しい。
何らかの情報を持ち帰りたい──それが今回の目標ではある。だが。
「長い船旅になるわ。危険も待ってるの。まずは嵐を超えないと」
見えた限りでは──不気味な嵐が待ち受けている。
今にも転覆しそうな船舶、すべてを切り裂くほどの暴風、生者を死へ連れ去ろうとする荒波。そして謎の聲。
そのすべてを乗り越え、あるいは耐えて、更なる外へと向かうことになる。
「オブリビオンだって出るかもしれないもの。準備は万端にしていきましょ!」
何が起こるかも不明だ。しっかり対策しておくに越したことはない。
ところで、と話を続けるホーラの表情は、先ほどよりもニコニコしていて。
「自分たちが乗る船を識別できるように、呼び名を考えたんだけど……」
浮き立つ心をこれっぽっちも隠さず、ホーラが続けた。
「みんなのお船、ってのはどうかしら??」
少なくとも本人は、とても楽しそうだ。
棟方ろか
お世話になっております。棟方ろかです。
一章は冒険、二章で集団戦、三章がボス戦でございます。
●一章(冒険)について
鉄甲船『みんなのお船』での船旅です。
一章では、待ち受ける災害を突破しましょう。どんなことが起こるかは、オープニングをお読みくださいませ。
なお、プレイングの内容や集まり方次第ですが、一章は複数人あわせてのリプレイを執筆する予定です。
同行者がいる方々は、『プレイング冒頭』に【相手のお名前かグループ名】をお願いします。この場合は、そのグループメンバーでのリプレイとなります。
なお、二章以降については章開始時に簡単な追加リプレイを挿入しますので、そちらをご参照くださいませ。
それでは、すてきな船旅を!
第1章 冒険
『脅威の海洋災害』
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POW : 肉体の力で体力任せに海洋災害に立ち向かいます
SPD : 素早い行動力や、操船技術で海洋災害に立ち向かいます
WIZ : 広範な知識や、素晴らしいアイデアなどで海洋災害に立ち向かいます
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シノギ・リンダリンダリンダ
そう。ロマンなんです。未知の大海原。そこに眠る財宝
強欲の溟海が待っているんです。どんな困難が待っていようと乗り切ってみせましょう
とは言えこの大荒れ模様の海
いくら大海賊たる私とて、これはさすがに…
しかし負けていられません
海上での「戦闘知識」を生かして大荒れの船上でも動けるようにします
そして同乗している仲間達へ【キャプテンコード:ドラコ】で大声を張り上げて「鼓舞」
この程度の荒れ模様!大魔王を倒した我らには怖くないでしょう!?
大きな力の大波には同じく力
鉄甲船なら大砲の一つや二つや三つあるはず
それらに魔力をこめ「属性攻撃」で「乱れ撃ち」で吹き飛ばす
手が足りないなら死霊を召喚してでも、とにかく撃ちまくる
レザリア・アドニス
神、だと…?
邪魔したら、神だって倒してみせるの
諦めるなんて、猟兵の辞書にはないんです…っ!
動きやすい服を着用
海に落ちないように、丈夫なロープで、自分を船にしっかり繋げる
【環境耐性】、【激痛耐性】と【狂気耐性】で揺れと嵐と謎の声を耐える
暗くなったら【暗視】を使って周りの様子を観察と警戒
船の周りの海面をしっかり注意し、波の手が来たら炎の矢で、叩いてくる前に蜂の巣にして、迅速に撃破
気流を感知して、切り裂ける風が来ると鈴蘭の嵐で風の壁を作り、出来るだけ相殺して帆柱を守る
【高速詠唱】で素早く放出し、【範囲攻撃】と【全力魔法】で威力を増幅させる
こんなものに…負けるわけ、あるのか…っ!
アドリブ歓迎
シホ・イオア
目指せ新天地!って何この嵐。
うーん、外に出たら飛ばされちゃいそうだな。
シホにできるのは……
邪魔なものや危ない物、貴重なものをフェアリーランドにしまっちゃうことかな?
船酔いの人を避難させたりにも使えるかもね。
念動を使って帆に干渉できないかもチャレンジしてみよう。
声が聞こえる?
もしかして対話可能?
情報収集のチャンス!
無視してみたり抗議してみたりフェイクを入れてみたりして
反応をみよう。
敵がいるとしたらその存在を知るためにね。
「目指せ新天地! って元気に出航したのに!」
シホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)の弾む声さえ、猛威をふるう大嵐が浚っていく。
「何この嵐! 飛ばされちゃいそう」
船室から覗き見るだけでも、過酷な環境に置かれていると痛感できる。旅を好み、悠々と飛び回れるシホは、この海の上を闇雲に進むのがいかに困難か知れた。凪いでいたはずの海面は、もはやここに無い。
──今、シホにできるのは……。
よしっ、と意気込んで、避難の際に邪魔となる荷や怪我に繋がりそうな物品をフェアリーランドへぽんぽんしまいこんでいく。
同じ頃、己の身と船体とを頑丈なロープで繋いだレザリア・アドニス(死者の花・f00096)が、無理に踏ん張りすぎないよう足裏へ力を込める。命綱さえあれば、海へ放り出されても復帰が叶う。落ちないことに重点を置いてばかりでは、迫り来る悪意を射落とせない。
そう、それを落とすために少女は立った。
「……嵐なんて……」
海風ですっかり冷えきった唇に、静かな音を乗せる。たとえ人智を超える暴力的な嵐であっても、少女にとって、真闇に比べれば恐るるに足らぬものだ。
激しい揺れと凄まじい風が吹き荒れる中、シノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海・f03214)もまた彼女同様に前を見据えていた。
──そう。ロマンなんです。
未知の大海原。人の手を離れ眠り続ける財宝。強欲の溟海が自分を待っているのだと、シノギは胸裏に込み上げる熱を力に変える。
たるみなく吹き落としてくる風が、船体を軋ませ船に身を寄せるレザリアたちをも伏せさせようとする。頭や両肩に、ずっしりとした空気が圧しかかってきている感覚だ。そんな中で、謎の声は鮮明に届く。
新天地への海路を脱するか、と問い掛けてくる。引き返すならまだ間に合うのだと、訴えかけてくる。
もしもこれが本当に海神の声だとしても、レザリアは決して俯かない。
──邪魔するようなら、神だって倒してみせるの。
培ってきた経験を基に揺れに耐え、声に抗う。そうして彼女は船に掴まりながら、声以外の脅威へ意識を傾けた。
念動の力を駆使して帆への干渉を試みていたシホは、そこで不意に鼓膜を震わす何かを感知する。
「……あれ、え、声?」
覚えのない声に耳を済ましてみるも、どこからのものか判らない。とにかく確実に届く声だ。そして声はこう告げた──陸へ引き返せば許そう、と。
脅しにも似た言葉だが、しかしシホの好奇心をくすぐるばかりで怯ませるものにはならない。
「これは……もしかして……チャンス!?」
対話ができるのなら、情報を得る絶好の機会だ。そう思い至ったシホは、止まない声を探すようにきょろきょろと眺め回す。
ふと、暗い、とあえかな呟きが落ちる。
船の周りの海面をしっかり注意していたレザリアが、波の手へ炎の矢を向ける。そして先程の呟きからは思いも寄らない、凛とした眼差しと共に掌を射抜く。
こんなものに、負けるわけがない。
波音がもはや波に聞こえぬほどの轟音の中、レザリアはそう自らを奮い立たせて唇をきゅっと引き結ぶ。
声の主の居場所を探しはしたが判らず、シホはならばと船中に響かんばかりに声を張る。
「ちょっとー! まずは挨拶からだよ! 第一印象大事なんだから!」
大きく口を開けて抗議してみるも、返るのは相変わらず「観念するか」と問う淡泊なものだ。応答するつもりはないらしい。
未だに、異常な弾力を持った海が鉄甲船を常に弄ぶ。
大荒れの海なぞシノギには慣れたものだが、慣れているからこそ彼女には肌身でわかる──いくら大海賊たる私とて、これは。
晴れては曇る大海も、陸とは表情の異なる海風も、時には降雪入り混じる航海だって経験した。数多の海を超えた海賊に、超えられぬ青はない。だが、そんなシノギでさえ気後れしそうな海が、いま眼前に広がっている。
「これは負けていられませんね」
騒々しい嵐の中、ふ、と吐息だけで笑ってシノギは辺りを見渡す。こうした窮地は、灯台とはまた別に船路を照らすものだ──海賊としての心が疼いた。だから動かずにいられない。
「この程度の荒れ模様! 大魔王を倒した我らには怖くないでしょう!?」
そして仲間たちの耳朶を震わせる、シノギの大音声。同乗の友へ向けた言の葉は皆を鼓舞し、冷えた両足に力を募らせ、その腕を意欲に滾らせるものだ。
「撃ちまくりましょう! 鳴らしましょう! 砲火こそ、我らの船の旗です!」
敵を怯えさせるべく揚げる海賊旗は無くとも、ばたばたと風に煽られるあの音がなくても。
シノギには今聞こえるすべての音が心地好い。
レザリアは彼女の声を聞いた。同時に、尚もなまめかしく撫でるように届く、見ず知らずの海妖が口ずさむ誘惑の歌。諦めろと歌う。引き返せと囁く。
「ずっと、同じことばかり……っ」
シノギの鼓舞に集中しながら、レザリアは手持ちの武器も自らの魔力も、花弁と化して放った。
すると切り裂く風が、花を巻き込み連れ去ろうとする。だが少女の内に秘められた光が花に宿り、抗う。そして己の身だけでなく、帆柱への道を阻むように花びらで壁を築いた。
「諦めるなんて、猟兵の辞書にはないんです……っ!」
彼女の応戦の近くで、シホがはたりと思い立ち、空を仰ぎ見る。謎の声を無視しても、響き続けている。声は猟兵たちの言動を歯牙にもかけない。
──でも、敵がいるとしたら。
船旅を阻む存在がいるのなら、やはり知ることが第一だとシホは胸の前で手をきゅっと握り締めた。輝石のごとく髪が煌めく。たとえその髪が荒れた波飛沫に襲われても、彼女の光は一切削げない。
そうした仲間たちの奮闘を、幾つもの色彩を宿した双眸で、船縁に立つシノギが捉える。やがて彼女の目線は澪も知った。航路に狂いはない。今はただ、凌ぐのみだと改めて認識する。
そして巨大とも言える力には、同じく力で返すのが常套。ゆえにシノギが武器としたのは、鉄甲船に備わる大砲だ。修繕と手入れにより、ピカピカだった大砲も、すっかりこの嵐で疲れきった顔をしている。
すかさず死霊たちを呼びだし、砲撃手の数を増やして──披露したのは、魔力を込めた砲弾による、波への乱れ撃ち。波の手に風穴をあけ、飛沫までも打ち砕き、未来を切り開いていく。
「さあ、乗りきってみせましょう」
困難を超えて海を渡るなんて。
大いなる船長にとって、さほど難しいことではないのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢来・夕立
確か最初のシゴトも船上でした。
こうも荒れてはいませんでしたが。
【夜雲】で波の上まで逃げます。
その上で使える式紙を全部使う。
命綱代わりの『朽縄』。
帆柱のガードや他の猟兵のサポートとして『幸守』『禍喰』の群れ。
ひどい大時化ですけれど
投げ出されそうな人や危うい人、何かアクションを起こそうとしてる人くらいは見えるでしょう。
式紙を使って…あんまりガラじゃないですけど…救助、ないし補助します。
多少荒っぽくても文句言わないでくださいね。
船を沈ませもしませんし、況や尻尾を巻いて帰るワケがありません。
それに進むのをやめろって言われちゃ逆に行きたくなるでしょう。
オレは負けるのも、指図を受けるのも嫌いです。
鞍馬・景正
外洋への旅、ですか――所領近くの由比ヶ浜から水平線をよく見ておりましたが、その先へ向かうなど考えもしませんでした。
何が待ち構えているか、自身の眼で確かめるとしましょう。
それにしても『みんなのお船』……うむ、和の尊さを訴えるような良い船名です。
◆行動
嵐が強くなれば船員たちの手助けを。
鉄甲故にある程度は頑丈でしょうが、船体に穴や亀裂が入れば、溢れる海水を【怪力】と共に板で抑え付けて補修。
操船や航海術の心得はありませぬ故、この躰を張らせて頂く。
妙な声が無視しきれなくなれば……甲板に上がり、【太阿の剣】で荒波や颶風を一閃。
笑止、徒手で帰れば良い物笑いの種――陸でも海でも武士としての心までは奪わせぬ。
角守・隆豊
「新しい土地ならば、まだ見ぬ強者に巡り合えるかもしれんな」
変わった武術の使い手や出鱈目な規模の魔術を使う者、悍ましい怪物までもが存在するかもしれないが、それはそれで対峙するのに心が躍るじゃないか。
とはいえ、そこに行くまで外洋に出るというのは経験が無いから不安があるな。
外洋の嵐は凄まじい揺れ方をするな。ここまでくると操船も何もあったものではないだろうし、船の耐久力を信じるしかあるまい。修理でなら手伝えることもあるだろうしな。
とりあえず、今は誤って放り出されないように柱か手摺りにしがみついておこうか。
物資が飛んでくることもあるだろうから武器で弾いてみよう。失敗して多少物が当たっても堪えられるしな。
リインルイン・ミュール
ひゃあー、凄いという言葉も霞むような嵐ですネ!
とはいえ諦めるわけにはいきません、皆で頑張りまショウ!
とりあえず落ちないよう、身体の一部を常に何処かに絡めておき、ユーベルコードで波への対処を
水は無機物ですから。範囲内に入った荒波、船を潰そうとするそれらをサイキックエナジーにしちゃいマス
エナジーはその時必要そうなもの……一時的な風除けであったり、帆柱を直す材料や接着剤だったり、船を安定させる為に波を相殺する波を創造
勿論、他にも何方かが使いたい、欲しい物があれば頑張って創りマス
あとは念動力で物を掴んだり浮かせたり引き寄せたり固定したり、というのを状況に応じて
落ちそうな人が居てもそれで何とかしまショウ
──外洋への旅、ですか。
鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)が想起したのは、緩やかな弧を描く由比ヶ浜だ。所領の近くという縁もあって、頻繁に訪れては水平線を眺めていた。
しかしまさか、その先へ向かう日が来ようとは。
──考えもしませんでした。
浜風に吹き曝されながら汀で船を見送るよりかはと、気付けば船縁を跨いでいた。胸裡に疼く想念の理由を、待ち構えているものを自らの眼で確かめるべく、彼は澪の先を見据える。
それにしても、と途端に蘇ったのはこの鉄甲船の名だ。
「みんなのお船……」
ぽそりと口に出してみると、嵐の中でも音がまろく転がる。ゆえに景正は口端を微かに上げて。
「……私は船内へ降りましょう。穴や亀裂が入った際の対処に行きます」
鉄甲船といえど、海水の侵入を許せばまともに航行もできない。だからそう告げた景正に、仲間たちが頷く。
「頼んだ。手が更に要るようなら、声をかけてもらいたい」
彼にすぐさまそう返したのは角守・隆豊(闘争こそ存在意義・f24117)だ。有り難いです、と告げたのを最後に景正が船内へ入るのを見送り、隆豊は吹き巻く風に引っ張られる波を改めて眺めた。
嵐がいかな存在かは隆豊も知っているが、外洋のものとは種類が異なると感じる。しがみつく手すりも飛沫をかぶって凍てついた。濡れた指先から染み入る冷たさが、なるほど生を掴もうとする者の手から力を奪うとわかる。
仰ぎ見れば、吊るし上げられた布のように波が盛り上がっていく。瞬く間に聳える山となった暗い激浪が、次の瞬間には山頂から風に砕かれ覆いかぶさってきて。
──手のかたちを成さずとも、驚倒に値するな。
顔色ひとつ変えぬまま、隆豊は目を細めた。
そんな彼の近く、確か最初のシゴトも船上だったと矢来・夕立(影・f14904)は想起し、しかし懐旧の念には駆られず現実をただただ見据える。
──こうも荒れてはいませんでしたが。
穏やかな航路であれば、ゆっくり鉄甲船内に潜むのも叶っただろうに、とんだ船旅になったと息を吐いて。
「失礼」
端的な断りは波間にかき消えた。構わず矢継ぎ早に放ったのは、命綱代わりの朽縄だ。紙垂状の式紙は、しなやかに身を伸ばし、夕立自身を現世に繋ぎとめる。
ひゃあー、とそこで賑やかに声を弾ませたのはリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)だ。面をつけているがゆえ表情こそ変わらないが、その様相から驚きと興奮が入り混じっていると知れる。
「凄いという言葉も霞むような嵐ですネ!」
楽しむときの声を発したリインルインは、けれど戯れが過ぎることなく襲来する蒼を味方につけた。揺れだけはどうしようもないが、降りかかる水の鱗は弄ってしまえば絶望的な脅威にはなり得ない。
船員と共に舷牆の修理を手伝っていた隆豊は、目当てもなくちぎれ、そして倒れ込む波の手を幾つも見た。浸水のおかげで溶けかけの雪道よりもよく滑る船板が、修繕の手も踏ん張る足も滞らせる。
──操船も何もあったものではないな。
舵取りがどれほどの苦戦を強いられているか、想像に難くない。かといって持ち場を離れることを隆豊は選ばなかった。
「信じるしかあるまい」
船の耐久力を。銘々の行動力を。
「先に断っておきます」
そう口を開いたのは夕立だった。指に挟んだ式紙を放ちながら、顔も向けずに続ける。
「多少荒っぽくても、文句言わないでくださいね」
船にしがみつく仲間や、移動する仲間の手助けには、悠々と空をゆける式紙が適している──夕立自身も覚っていた。助けの手を差しのべるなどガラではない。式紙による補助ならば、とりあえず自らの手ではないだろう。
「視界内で海に落ちてもらっても、寝覚めが悪いですし」
付け足す夕立の視線は、ずっと床を見つめたままだ。そんな彼の言に隆豊は語らず黙したまま肯い、そしてリインルインははしゃぐように跳ねた。
式紙の助力も得て船上を移動したリインルインは、しゅるりと伸ばした艶めくタールを、帆柱へ巻付けてやり過ごす。
そして幾度となく現れる切り裂く風を、創造の波で喰らった。彼女の操る波濤はときに風よけとして形成し、時に荒波を打ち返して船の損傷を抑える役目を果たす。転げ落ちそうな船員がいれば、それを引きずり込む手ではなく、引き揚げる手として波を呼ぶ。
「なんでもお申しつけください、頑張って創りマス!」
朗々と声を響かせて、リインルインが船上をゆく。
不意に、陸へ戻らぬのかと誰かが囁く。このまま未知の海へ沈むのかと誰かが告げる。
けれどそのとき、波の花が咲いたとリインルインは気付く。今までもずっと咲いていたものだが、衰えぬ怒濤のおかげで目にする機を逸していた。だから彼女は声を払うように、かぶりを振る。
「皆で頑張りまショウ!」
苦難をものともしない声が響く中、景正は甲板に上がった。
誰彼かまわず語りかけて来る妙な声。もはや無視するために意識してしまい、埒が明かない。甲板から海面を眺めると、船の艫を圧す波は墨汁を零したかのように暗かった。そして疾うに見えなくなった陸の影は、どこにも無い。
海に出るという行為の恐ろしさを肌身で受け止めながら、景正はゆっくり足裏を摺り、構える。
──張らせて頂くのは、この躰。
揺れも顔に当たる飛沫も厭わず、彼が一閃を披露した相手は荒波と颶風。踏み込んだ一歩で、振るった一太刀で、風も波の掌も叩く。打ち込みの速さは正しく雲耀の一撃。そうして景正へ迫るものは、声だけとなった。
諦めれば帰れるだろうと、脳を揺さぶらんばかりに囁かれる。
死地と見紛う、ほの暗い蒼の内で──もし、只の人がこの囁きを耳にしたなら、心折れてもおかしくはない。帰りたいと願うのも疚しい選択ではない。陸が恋しくなるのも道理だ。しかし声の主にとっては残念なことに、景正は只の人ではない。
「笑止」
瞼が押し上げられ、潜んでいた瑠璃色の眸が海原を捉える。
「徒手で帰れば良い物笑いの種」
吐いた息にさえ宿るものこそ、まさに。
「陸でも海でも、武士としての心までは奪わせぬ」
彼、景正を織り成す心のかたちだ。
一方、別の場所ではまだ風が力を発揮していた。破損した船の部品が止まず飛来する。修理に勤しむ者たちが砕かれぬよう、隆豊が得物で弾き、時には身を呈して庇う──激しく上下する船の中でも、これぐらいならお安い御用だ。
仲間たちの手腕や気遣いもあって、海へ落ちかけても助けが入る。
「なんとも心が踊るじゃないか」
隆豊は暴風が阻むおかげで、誰に聞かれるでもなく呟けた。
この荒ぶる航路の先にいるとするなら、誰だろうか。奇想天外な武術の使い手か、出鱈目な規模の魔術を行使する者か、はたまた悍ましい怪物か──漠然としていた想像が、次第に研ぎ澄まされ、鮮明になっていく心地だ。
まだ見ぬ強者に巡り合えるという期待は、たとえ不安が冥冥たる先行きを塞いでも、決して消えることはなかった。
その頃、夕立は再び宙へ乗っていた。もはや徒波にしか思えない灘を乗り切る術は、ある。そして。
陸へ戻らねば待つのは絶望だと、先ほどから鼓膜を震わし、三半規管を狂わそうとする声に負けぬ術もまた、同様に。
「沈ませもしませんし、況や尻尾を巻いて帰るワケがありません」
何を愚かなことを聞くのか。そう遠回しに指摘しつつも夕立が翳す式紙は、蝙蝠となって千波の狭間をゆく。
「進むのをやめろだなんて、逆効果ですよ。行きたくなるでしょう。それに」
蝙蝠の式紙が波風から帆柱を庇い、夕立はその間に波の頂きを蹴っていく。手を模り叩き伏せようとする男波さえも、夜の雲と化した彼を崩すには至らず。
「負けるのも指図を受けるのも、オレは嫌いです」
返る声はなかった。けれど海は静穏からまだ遠い。
総身にかぶった波の片端をふるふると振り落として、リインルインが恐ろしいほどの曇天を仰ぐ。嵐の在り処を報せる空は、未だ船の頭上にあった。けれど、山脈のようにそびえ立つ波の向こう、嵐で視界不良な先に、不思議な切れ目を彼女は目撃する。
天使の階段こそ差し込んではいないが、妙に明るい切れ間だ。
──人工的なようで、たいへん自然的な嵐ですネ。
届く声といい、手を模した波といい、ヒトの思惑にも似た存在を感じたのに、眼前で繰り広げられる猛威は大自然の力でしかない。だが、光明は確かに見えた。
「もう少しデス! あと少しで切り抜けられそうですヨ!」
だからリインルインは声をあげる。
船員すべてに届くかはわからなくとも、リインルインは音を響かせた。それが未来へ繋がると、なんとなく知っている気がしたから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
風見・ケイ
【流星群】
(体力ある別人格の荊(青い瞳)になっている)
ああ水死体の身元確認は大変て慧ちゃんも言うとったな……ってそないな縁起でもあらへん話やめてや!
いやいや落ち着けボク。こないな時こそ武術の出番や。
内股で膝曲げて足の指で床を掴むように力入れて――って限度があるわ!
あかんあかんムリムリ夏報ちゃんボクも縛って!(錯乱)
こないな状況で声なんか知らん!(呪詛耐性・狂気耐性)
目先の嵐や冷たい海の方がよっぽど怖いしどうせ油断させといて帰ろうとしたらって奴やろボクにはわかる!
夏報ちゃんだいじょぶ!?
ロープ掴んどくから!(グラップル・怪力)
……だいじょぶ絶対離さへん!(……一瞬フリかと思たけどぐっと握り直す)
臥待・夏報
【流星群】
風見くんの別人格は訓読みのアダ名で呼ぶ
ああーこれ故郷の冬の海を思い出す
船が沈んでから水死体が揚がるまでの、町の浮き足立ったあの空気ったら
漁業組合の人ってみんな刺青入れてたんだよな、ほら、判別がつくようにさ
やだやだ怖い怖いこんなことなら夏報さんも勇気出してタトゥーくらい入れておけばよかっ
現実逃避してる場合じゃないよ!
釣星のロープワークで体を固定して耐久戦。ええい、イバラくんもぐるぐる巻きだ(錯乱)
幻聴なら慣れてるし、ちょっと声が増えたところで大差ないって
怪物なんかいなくったってそもそも冬の海は怖いよ、誤差だ誤差!
一応薬をかじって呪詛耐性・狂気耐性を高めておく
は、離すなよ!
絶対離すなよ!
波濤に圧しかかられた勢いで、船尾が時に傾く。そこから水没する恐れを感じて風見・ケイ(星屑の夢・f14457)の透き通るような頬もいつになく青褪めた。落ち着いた素振りはそのままだが、その瞳孔は常のケイと違っていて。
「イバラくん、漁業組合の人ってみんな刺青入れるんだ。知ってる?」
故郷で得た記憶の片端を突然紡ぎ始めたのは、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)だ。荊と呼ばれたケイは、ぱしぱしと多めに瞬くばかりで。
「判別がつくんだ。腕でも肩でも、あればとにかく」
夏報が多く語らずとも、荊には意味が理解できた。だからああと思わず唸って納得する。
「そういや水死体の身元確認は大変て慧ちゃんも言うとったな……って!」
冷静に振り返ってまもなく、荊の双眸が揺れる。
「そないな縁起でもあらへん話、やめてや!」
ましてやここは船の上。今もなお、天へと吊り上げられた三角の波が山のように押し寄せる大海原。
嵐という状況も相まって、一寸先は闇とも呼べる中であまり考えたくはない光景だ。水死体として陸に揚がるなど。
「やだやだ怖い怖い夏報さんも勇気出してタトゥーくらい入れておけばよかっ……」
ざぶん、と荒々しい轟音を立てた激浪が夏報の頭を冷やす。くまなくずぶ濡れになった少女は、ぐらつく船体へと反射的にしがみつく。
「現実逃避してる場合じゃないよ!」
自らへ言い聞かせるべく声を張り上げ、夏報はいそいそと釣星を取り出す。フック付きのワイヤーは頑丈だ。身体を帆柱と繋げるだけでも、充分命綱として働いてくれる。
夏報がそうしている間、荊は荊で必死に思考を巡らせていた。
──いやいや落ち着けボク。せや、こないな時こそ武術の出番や。
武術の真髄に至ったのか、荊はぷるぷるとかぶりを振って足に力を入れる。膝は多少折り曲げた方が、腰への負担が少なく耐えやすい。そして内股で立った荊は、足の指で床を掴む。武の真骨頂はここから。技を繰り出すため整えた呼吸と、しなやかな動きに乗って──。
「って限度があるわ!」
誰にでもなく叫んだ荊の声さえ、強風と波飛沫が飲み込んでいく。
塩辛さに喉を痛める暇もなく、荊は身体を固定した夏報を認める。
「あかんあかんムリムリ夏報ちゃんボクも縛って!」
「よし、イバラくんもぐるぐる巻きだ!」
固定した、と平たく語るよりどちらかと言えば夏報の言う『ぐるぐる巻き』が表現としては正しい。
まさに簀巻きのごとくしっかりかっちり巻かれた二人は、自由な腕だけを残して船上を転がった。下手に耐え凌ぐよりは、かえって動きやすいかもしれない。釣星さえ切れなければ、たとえ帆柱にぶつかろうと、はぎつけに叩きつけられようと、襲い来る狂濤に浚われずに済む。結構痛いが。
そんな多忙窮まる最中でも、誘惑の声は響く。二人の脳へと不気味な声が問う。諦めるのかと。そして陸へ戻るのなら許そうと誘う。
「うっさいわ! こないな状況で知らん!」
真っ先に荊が叫んだ。含んだ怒気は、囁きかけてくる言葉の内容などお構いなしに拒む。
文字通り、それどころではないのだから。
「油断させといて帰ろうとしたとこを後ろから刺すって寸法やろ! ボクにはわかる! わかる!!」
「怪物なんかいなくったってそもそも冬の海は怖いよ、誤差だ誤差!」
薬をかじりながら夏報も連ねた。海で届く幻聴にせよ、波の唸りにせよ、大して珍しくもない。特に冬ならではの風浪が船を揉む様は、夏報もよく知っている。例えるなら天下の大将軍でも恐れるのが冬の海だと、頷いていた夏報はそこで、足を滑らせた。
乾く間もなく濡れた冷たい船床は、氷と同じぐらい見事に滑る。しかも激しい揺れの止まない船ならば、尚更。
「か、夏報ちゃんだいじょぶ!?」
引き絞ったような声は悲鳴に近く、けれどあげた本人は己の声音に構う余裕もなかった。咄嗟に釣星を掴み、船縁から飛び出た夏報を引き揚げようとする。けれど傾く船が動作を難航させた──荊自身も落ちかねない。
「は、離すなよ! 絶対離すなよ!?」
こんな状況でなければフリにしかならない常套句を口にして、夏報は船体へつま先をかける。かけては滑り落ち、揺れによってまた船へ寄ってを繰り返した。
この命綱が、切り裂く風の餌食とならないうちに戻らなければならない。奇妙な風なら、何を断ち切られてもおかしくはないのだから。
荊は息を深く吸い直し、宙吊りになった夏報へと叫ぶ。
「……だいじょぶ絶対離さへん!」
ぐっと握り直せば、冷えきった指先にも熱がこもる。
火事場のばか力と呼べるものかはわからないが、今の窮地を打破するのに必要な、荊の膂力と船の縁を蹴る力がフル稼働する。
せえの、の掛け声と共に思い切り全身を反らせば、夏報の身体を、綺麗な曲線を描いて釣り上げることに成功した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『堕ちた白虎』
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POW : 旋風
自身の身長の2倍の【3つの竜巻】を召喚する。それは自身の動きをトレースし、自身の装備武器の巨大版で戦う。
SPD : 飄風
【触れるものを切り裂く暴風を纏った突進】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : 凱風
自身に【相手の動きを読む風の鎧】をまとい、高速移動と【かまいたちによる遠距離斬撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●波頭の向こう側へ
忽然と姿を消したのは、うねる波が模った手のかたちと、奇妙な声だけだ。
風は相も変わらず船を、乗船している船員や猟兵たちの心身を激しく揺らす。狂った千波もやはり衰えず、船を飲み込もうとしている。
臓が零れんばかりの波は表情を変えぬまま、しかし暴風の元らしき姿を露わにした。
暗い嵐の空に浮かぶのは、無数の白虎、白虎、白虎──いずれも首から上がない。
頭部をどこかへ忘れてやってきた白虎の群れが、切り裂く風を招いていた主が、猟兵たちへ狙いを定める。未知の海へ挑む彼らこそが脅威と、虎の群れは覚ったのかもしれない。あるいはオブリビオンゆえの本能か。
そうして敵は、猟兵たちが支えとしている命綱や防護の類を真っ先に切り裂こうと風を起こす。
猟兵たちを、船から落とすつもりでいるのだろう。鉄甲船に留まる術を与えないつもりなのかもしれない。
──かれらの真意など定かではないが、それでも判ることはある。
未開の地へ到るためには、押し迫る巨大な波頭を越えて行かねばならない現状。
そして虎の軍勢を波飛沫の如く砕かぬ限り、通してはもらえぬという事実だ。
シホ・イオア
首無しとか怖いんだけど。
……頭を忘れてきちゃうなんてうっかりさんだね☆(虚勢
さっきから邪魔してた風はこの子たちの仕業ってことね。
立ちふさがるというなら、撃ち抜くのみ!
「輝石解放、エメラルド! 雷の獅子よ、魔弾となりて敵を砕け1」
誘導弾・鎧無視攻撃で纏う風を貫いてダメージを当てていくよ。
接近戦になるなら空中戦・残像を駆使してアクロバティックに応戦。
周りの戦況によっては飛んで囮になることも覚悟しておく。
怖くても前に進むために。
連携アドリブ歓迎。
シノギ・リンダリンダリンダ
あぁ、もう…七面倒臭い!!
波が、虎がなんですか!!
海においてこのシノギ・リンダリンダリンダ、恐れる物無し!
全て一切合切まとめて蹂躙してやりましょう!
【幽玄な溟海の蝗害】で海賊幽霊船を召喚し乗り込む
同時に【飽和埋葬】で死霊海賊を召喚し、配置につかせる
例えどんな海だろうと、海の上なら我がシャニムニーは無敵。それは揺るぎません
大波にも耐え、大海賊たる「操縦」でみんなのお船を守りつつ立ちまわってやります
虎には大砲、死霊の持つ銃等による「制圧射撃」「乱れ撃ち」「呪殺弾」で畳みかける
攻撃の手を休めないことであちらの船にも攻撃させない「援護射撃」です
お前達を倒して、強欲の溟海、調べさせてもらいますよ!
鞍馬・景正
首の堕ちた姿とは不吉ですが。
目に見えぬ声に翻弄され、ただ波風に嬲られるよりは腕の揮い甲斐がある。
とは言え、命綱を切られぬようにしつつ、空飛ぶ虎を狩るような術などありましたか。
……。
そう言えばありましたな。
◆戦闘
【羅刹天降陣】を発動し、呼び寄せた大甲冑に【騎乗】
そのまま宙に飛び、大太刀の【衝撃波】で竜巻を吹き払いつつ、【2回攻撃】で白虎にも斬撃を加えて参ります。
飛行できるのは便利ですが、この強風下では姿勢制御も一苦労ですし、包囲され袋叩きにされるのも避けたい。
切り込んでは船に戻り、再び切り込みと繰り返して撃滅していきます。
他の猟兵殿への攻撃を察知すれば、【かばう】などして盾になりましょう。
「あぁ、もう……七面倒臭い!!」
進んでいるのか進んでいないのか判断をつかせぬ船は、シノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海・f03214)の口から純一なる気持ちを吐き出させた。突然の大声は、衰えを知らない波音の表面をも滑り響き渡る。
近くにいたシホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)がぱちぱちと瞬いて驚きの視線を送るも、シノギの顔は遥かな大海の向こうを見やるばかりだ。
「波が、虎がなんですか! 軍勢がなんだというのです!」
船縁へかけた片足にも自然と力が入る。
雨風は船乗りを安閑としてはいられない日々の原因だ。ましてや海賊にとって、別の海賊船はもちろん取り締まろうとする軍や組織も夢を挫こうとする存在。シノギにとって見かけは獰猛な獣の群れでも、航海を阻むものに変わりはなく。
「海においてこのシノギ・リンダリンダリンダ、恐れる物無し!」
突き出したシノギの指先は、迫る白き虎の群れをまっすぐに示した。
「全て一切合切まとめて蹂躙してやりましょう!」
どこからともなく、海賊たちの歓声が湧いた──否、彼女に応じた蝗害の賑わいが空を満たす。
そして無数の羽ばたきと共に姿を現したのは、他でもない海賊船シャニムニー。想像から創りだしたガレオン船はスマートな船体で波を切り裂き、掲げられたマストにロマンをはためかせる。
「海賊団しゃにむにー、出航です!」
突如として出現した海賊船は、オブリビオンたちをざわつかせた。巨体ゆえか圧倒的な存在感ゆえか、群れは海賊船を沈めようと竜巻を生み出す。虎よりも大きな竜巻は海面を滑り、瞬く間にシャニムニーへ纏わり付く。
伏し目がちに沈思していた鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)もまた、その影に思うところがある。
「……首の堕ちた姿とは、随分と不吉ですが」
ただの白虎であるならば、話も違ったであろう。
しかし顔なき姿では、本来の獰猛さも曖昧で、肉を噛みちぎられるのだと想像し──景正には有り得ぬ話だが、例えて言うなら──身の毛がよだつことさえ難しい。だがそれでも。
「腕の揮い甲斐がある」
景正は不敵な笑みの片鱗を、ほんのり口角へ刷く。
それにしても、とシホは敵陣を見渡した。
揃いも揃ってどの獣も、頭部がない。綺麗に断ち切られたかのように、首から上だけがすっかり消失している。おかげで虎たちの顔色も、表情さえ窺えないのは恐ろしい。背筋に走った嫌な寒さは、シホの纏う光にも染みていく。
「……頭を忘れてきちゃうなんて、うっかりさんだね☆」
精一杯に張った虚勢は、シホの翅を震わせるばかりで白虎には届かない。
ふるふるとかぶりを振って、シホは敵を見据えた。
「輝石解放、エメラルド!」
溌剌とした声音が招くのは、雷光鳴りやまぬ魔弾。
「雷の獅子よ、魔弾となりて敵を砕け!」
ひとたびシホに指先を向けられたら、野を駆け山を駆け海を駆ける虎であっても、逃れる術はない。
だからか虎たちは凱風を纏った。風の鎧は魔弾の軌道を読み、風圧で押しのけ、素早い動きで弾こうとする。しかしシホもただ黙って弾を撃ち落とされはしない。くるりと指で宙を掻けば、魔弾はシホの意思に沿って弧を描き、高く舞い上がる。
そして魔弾は、風巻く鎧の脆い箇所めがけて急転直下──波風に煽られた白へと、雷を落とした。
仲間がそうしている間に、靡かせた薄桃色の髪を潮風に遊ばせて、シノギは死霊の海賊を配置につかせる。海上の拠点となる船、そして乗り込む者。操船に長けたシノギ。役者は揃ったと言わんばかりに、海賊船で海原を駆る。
シャニムニーを海の藻屑にするべく、白き猛獣たちは幾つもの風巻を生み一帯を覆う。前途洋々とはいかぬ船旅、けれど三十六もの海をゆく海賊団にとって恐れる対象にはなり得ない。
「どんな海だろうと、そこが海なら我がシャニムニーの庭!」
崩れぬ誇りと自信で胸を張り、シノギはみんなのお船へ向けて叫ぶ。
「こちらはお任せを! 荒らし回ってやります!」
シノギの掛け声を後押しするように、海賊たちの叫び声がこだました。
「頼もしいね!」
小さく拍手をしてシホは海賊船の鮮やかな航行を見送り、景正も相槌で応じた。
敵の姿は確かにそこに在る。立派な猛獣のかたちとして存在する。目に見えぬ声に翻弄され、ただ波風に嬲られるよりは良いと景正は微かな息を吐いた。
そして視界の隅にちらつく命綱を意識しながら、空飛ぶ虎を狩る術を探す。狩り、と一言で呼ぶにはあまりにも異色だ。だからこそ顎に手を添え、静かに考えを巡らせる。そう言えば、と思い至るまでさして時間はかからなかった。
「ありましたな」
二粒の瑠璃に標的を映し、景正は驚天動地の光景をここへ生み出す。
かつて異世界で得た鎧武者。それが今の景正を支える力となり、糧となるため戦場へ舞い戻る。戦を振りかざす大甲冑に跨がった景正は、そのまま荒れ狂う海の空へ跳びあがった。真白き獣が飛ぶのなら、景正もまた宙を蹴るのみ。
天より下りて白を大太刀で断ち切り、周りへ集う猛獣には一太刀の余波となる衝撃を浴びせる。かれらの呼び寄せた竜巻が何度となく景正へ襲い掛かるも、甲冑が風を弾き、受け止め、景正への影響を防ぐ。
強風はもちろん敵の数が数だけに、景正も包囲されることだけは避けようと飛ぶ。切り伏せては船へ戻り、また体勢を整え切り込んでいく。その流麗な攻撃の繰り返しは、確実に白き獣の脅威を減らしていた。
「抜かりはありません」
竜胆の武者は、至って穏やかな仕種で敵を討つのみ。
同じ頃、止まず雷鳴を轟かせながら、シホは次なる標的を指差していた。
「さっきから邪魔してた風は、この子たちの仕業ね」
外洋への航海を阻む異様な嵐。かれらがその源であるなら、群れを一掃すれば道は開けるはずだと信じて、シホの魔弾は雷で一体ずつ数を減らしていく。放射されたかまいたちが彼女の肌身を切り裂こうとも、うろたえはしなかった。
荒ぶる波濤がシャニムニーを狂わせようとする。しかしシノギの取る舵も団員への指示も、揺れはしない。急転舵にも耐えたシャニムニーは、みんなのお船に縋る白の群れを徹底的に轢いていく。
そして手際の良い砲撃準備は、シノギの合図と共にその威力を海へ轟かす。海賊船の大砲が鳴り響き、海賊の構えた銃が砲弾の狭間を埋めていく。
制圧射撃により身動きを封じられた虎も多く、シノギは口端を悠々と吊り上げて笑う。
「お前達を倒して、強欲の溟海、調べさせてもらいますよ!」
彼女にとって、彼女たち海賊団にとって──ここはまだ途次でしかなかった。
そのとき。
わっ、とシホが反射的に声をあげる。白き群れの中から突然、一体が飛び出した。かれはなりふり構わずシホへと突撃を試みる。しかし。
そこで景正が呈する様相は、正しく打打発止のごとく。
牙なき虎の風が牙となり、まるで熱して叩き上げた鉄のような硬さで景正の一撃と相対する。シホへの直撃は免れ、シホも一礼を彼へ向けた。
勝鬨をあげるためならば、盾となることも厭わない。景正は柔らかく微笑み、受けた痛みをも感じさせぬ空気を帯びる。
「まだ敵は多いです。参りましょう」
返った言葉に、シホも深く頷いた。
──怖くても、前に進むために。
風の守りなど構いやしない。シホの眼差しが、魔弾が、白き群れを射抜く。
「立ちふさがるなら、撃ち抜くのみ!」
ばきゅーん、と威勢良く告げたシホの発砲音は、狙い過たず獣を打ち落とした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢来・夕立
……隠れるところがないですね。
だからって殺せないワケじゃありません。
紙垂の式紙『朽縄』と羽織で身代わりを作ります。
目くらましから《だまし討ち》、【紙技・影止針】。
三枚全部当たればよし。
当たらなくても鎌鼬の切れ味は鈍るハズです。
命綱までは分かりませんが、防壁はそう簡単に崩れないでしょう。
敵の学習力次第ですが、コレは最初の一発しか効かないとみます。
一旦下がって、他の方の攻撃に合わせる形でリトライ。
武器や射撃攻撃の影を、手裏剣の隠れ蓑として利用させてもらいます。
知ってるでしょうけど、ついさっきまで結構大変だったんですよ。
脳味噌がないヤツに止められて「そうですか」って帰ってやるつもりはありません。
レザリア・アドニス
白虎って言っても、首以上がなければ分からないね…
もしかしたら、虎頭じゃない可能性もあるかもしれない…
だったらなんになるんでしょう…?
とかどうでもいいことをぼんやり考えつつ敵と対峙
ロープがダメっぽいので、爪付きのブーツに変え、しっかり甲板に固定
【環境耐性】も発動させて出来るだけバランスを取る
周りと上空を警戒、一匹とも近づかせない
近寄ってくるやつを鈴蘭の嵐で吹き飛ばす
自分や仲間の周りに鈴蘭をたくさん撒き、カマイタチを顕現させる
そして【鎧無視攻撃】の炎の矢で各個撃破
照準が難しかったら【範囲攻撃】と【全力魔法】で、数の暴力で、纏めて叩く
邪魔です…退いていけ…っ!!
凪いだ海からは未だ縁遠く、荒波に揉まれる船の上でレザリア・アドニス(死者の花・f00096)は小さく息を吐いた。ブーツのつま先でとんとんと船床を叩き、靴に仕込んだ鉤爪を引っ掛ける。これなら踏ん張りやすいと顎を引いて、レザリアは再び戦場を見渡す。
「白虎……」
確かになびく毛並みは白い。柄も虎のものだろう。けれど首から上が見当たらないと、こうも虎とはわからないものなのかと目を眇める。何の生き物かを想定はできるが、もしかしたら虎の頭ではない可能性もあった。
「……そうだとしたら、なんになるんでしょう……?」
猫か、犬か、鳥かもしれない。それとも自身の故郷で見るような、おぞましい闇から生まれる生き物か。映らぬ頭部に思い馳せながら、レザリアは船上でバランスを保つ。
「相変わらず、風はしつこいのですね……」
ただの潮風でさえ、湿って髪や肌に纏わり付くものだというのに、触れれば切り裂く悪意の風は、船旅に不要のもの。潮気を帯びた空気の中で瞬けば、睫毛さえも重く感じる。
だからレザリアはゆっくり瞬き、得物のすべてを鈴蘭の花嵐に変える。
「一匹たりとも、近づかせません……」
ほのかな花の香が船上に舞い上がり、海へ向かう。空を埋め尽くさんばかりの白を巻き込んだ花吹雪は、彩りを成す過去を吹き飛ばしていく。
たとえ相手が風の鎧を纏おうとも、しなやかな花びらたちはするりするちと合間を抜けて白き虎そのものへ張り付き、そして苛める。
彼女がそうして花の乱舞を披露する間、ふ、と吐息とも唸りとも取れぬ声を落として矢来・夕立(影・f14904)は海上を眺めた。
「……隠れるところがないですね」
傷ついた船に帆柱や船室へ繋がる戸はあれど、殲滅に繋がる拠り所には心許ない。否、夕立にとってそこは戦いにおいて隠れる場とならなかった。
平時であれば。戦の場でなければ。どんな軒下も柱の影も仕事の場になり得たものだが、いずれにせよ今は問わない。問わずとも動ける。
「まあ、だからって殺せないワケじゃありませんけど」
佇む夕立の面に、陰が差すことはない。そうして彼の指が挟むのは、蛇を思わせるしなやかさで揺れる式紙。
済ませるなら手早く。迅速に。
多くは語らず、夕立から解き放たれた朽縄が踊る。すかさず彼は羽織を潮風に晒し、濡れ羽色の幕で宙空を取り込んだ。羽織は同じ色彩を共にする彼の元を離れ、荒々しい狂風になびいた──まるで意思を持つかのように。
白き獣はその動きに、色に、意識が引き寄せられる。
それこそが、夕立の身に代わる色。たとえ黒のない船の上だろうと、深い青が満たす海の上だろうと、何物にも染まらぬ彼のかたち。
立てた人差し指を唇へ押し当てて、夕立は誰にでもなく静止の素振りを示す。そして衣擦れの音さえ殺しながら、荒れ狂う暴風へ三枚の式紙を──手裏剣を打つ。
美しく折った手裏剣を模る式紙たちは、小さな身と素早さを活かして猛獣へ向かう。切り裂く風がいかに分厚くとも、手裏剣は僅かな隙間を縫って虎の身体へ突き刺さる。悲鳴をあげる口を持たぬがゆえか、白虎は身を反らして苦痛を訴えた。
──これで切れ味は鈍るハズ。
夕立の眦が不敵さに和らいだ。
そしてレザリアも機は逸さない。
「守りを、固めます……」
任せてください、と囁いたレザリアの手元から、再び鈴蘭の花弁が吹く。自身と仲間の周りに撒いた花嵐で顕現したのは、華やかなるかまいたち。淡くやさしい鈴蘭の色彩が、そこから生まれた影が、レザリアと夕立の姿を眩ませる。
「良い塩梅です」
夕立は静かにレザリアへそう告げた。
そして花を隠れ蓑に、敵へ迫った夕立が首の根本を鷲掴む。空っ風は変わらずとも、技を手裏剣に阻まれた虎が纏うものは、大した効力を発揮していない。それもあり花にまみれた夕立は、まともな傷を受けずに迫れた。
「知ってるでしょうけど、ついさっきまで結構大変だったんですよ」
悪意の源へ吐き出したのは、不穏な音。
「大人しく帰ってやるつもりはありません」
脳味噌のないヤツに止められただけで翻すような、そんな外套は持たない。
動きを封じられた虎が夕立に叩き伏せられた、そこへ──軍勢の強固な凱風をも、吹きすさぶ花の舞いが飲み込んでいく。
「邪魔です……退いていけ……っ!」
すべてを包み込む嵐が、海に鮮やかな花を咲かせた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
風見・ケイ
【流星群】
(後は頼むわ、と目を閉じて、開けば赤い瞳の『螢』)
任せろ。とは言っても、この風じゃまともに狙うのは難しい。
……まともじゃない手段、か。
UCで銃を召喚。派手なカラーの玩具みたいな銃。
(舌打ち)いつも通り、まともじゃねぇな。
俺では理解するまで時間がかかる。だが慧になっている余裕はない――夏報!(投げ渡す)
夏報ならすぐにわかるだろ。効果だけは、保証する。
固定しておいた包みからLilyを取り出す。
……こんなそよ風に怯んで、何がスナイパーだよ。
己への怒りを集中力に変える。風を見切り、属性攻撃で右腕とLilyを赤炎で包み、銃弾に纏わせ出力強化。
首無しタイガー共を狙い撃つ。
夏報には近寄らせねぇよ。
臥待・夏報
【流星群】
これだけ波に揺られてたら、さすがに夏報さんも慣れてきたよ。
怖くなくなるわけじゃないけど、不利な状況自体に、慣れる。
っと(おもちゃを受け取る)
眼の色は見て取れなかったけど、雰囲気からしてホタルくんだね?
……『きみ』ならそれほど無茶はしないよな。よし、ちょっとの間護ってくれる?
戦闘は一旦任せて、使い方の推理に集中するよ。
導火線があるし火縄銃かな……?
銃ってよりってか、こりゃマンガやアニメの爆弾に似てるな。で、一発きりか。
この状況での敵の強みは、それこそ船の揺れだろう。
そいつに有効だって言うなら――これは多分、追尾弾だ。
だったら狙いよりタイミングを重視。
呪詛の炎で着火して、一発で決めるよ!
●流星群
未だぐらつく船だが、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)の足取りは妙に軽い。それもそのはずだ。長時間でないとはいえ、波に揺られ続けていれば慣れて幾分か動きやすくなる。
「さすがにこれだけ乗っていたらね」
恐れが拭えるわけではないが、不利な状況というのは、それが不利であればあるほど慣れやすい。
ふと閉ざした瞼に信じる心を託せば、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)は眼裏に滲む熱をじんわりと感じていく。
──あとは頼むわ。
そんな声が何処からともなく届いた。届くというより、自身の内から呼び覚まされた感覚だ。
「任せろ。とは言っても……」
相も変わらず狂ったように吹きすさぶ風だ。まともに狙うのは難しいと、唸りながら螢は顎を撫でて。
「……まともじゃない手段、か」
口にしてみれば、以外と澄んだ音として自身へ返ってきた。
だからこそ暴風纏う突進を前にして、螢は動じず銃を招く。宙へ踊り出た指先が次の瞬間に掴むのは、白虎に有効な銃──なのだが。
「いつも通り、まともじゃねぇな」
螢の手にあるのは、目が眩むほどの色彩に染まった玩具の銃。
理解に時間を要するが、かといって慧になっているほどの余裕はない。時間は限られている。ならば。
ほんの一瞬だけの考えの結果、螢は呼びかけと同時に銃を放り投げていた。
「夏報!」
「……っと」
放たれたものを受け取って、夏報はぱちりと瞬く。
「効果だけは、保証する」
そう告げた声を聞き、夏報が顎を引く。
「……ホタルくんだね?」
窺い知れぬ瞳の色を見ずとも、夏報にはわかった──『きみ』なら、それほど無茶はしない。
「よし、じゃあちょっとの間護ってくれる?」
戦いへの意識は一任して、夏報が傾けるのは巡らせる思考。こめかみに指先を押し当てて、ううんと低く唸りながら戦場を見渡した。
──導火線があるし火縄銃かな……?
あるいは爆発物に近いものか。脳内での試行錯誤はやがてひとつの決断に至り、静かに頷く。
縦横無尽に駆け回る敵陣の強みは、この船の揺れ。そう夏報は判断してくるりと視線を彷徨わせる。咆哮ままならぬ白き虎は、代わりに高速での疾駆を繰り返す。どうにか標的を追尾していけば、あとは。
そこまで考えて夏報は、来たるべき機が限られていると感じた。
「チャンスは一発きり。でも……」
そいつに有効だって言うなら。
竜巻がやまぬ船上で、夏報はその機会を待つ。
夏報の言を受け、そろりと解いた包みから螢が取り出したのは、Lilyの名を持つ相棒。
「……こんなそよ風に怯んで、何がスナイパーだよ」
己への怒りを、憤りこそが力となり、集中力に転じる。風をも味方につける狙撃手の本懐を遂げるべく、螢は風の間で右腕とLilyを赤き炎で彩った。
首を忘れた猛獣を撃ち落とし、騒々しさを一体ずつ確実に駆除していく。
「夏報には近寄らせねぇよ」
そこで続けて白を燃やし尽くすのは、呪詛の炎。
夏報がひとたび着火させれば、標的とともに過ごした時間こそが、彼女の糧となる。
「一発で決めるよ!」
言葉通り燃え上がった力が、白き獣を波間へ消していった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リインルイン・ミュール
この揺れは相変わらずですが……
とりあえず変な形の波は引きましたし、今のうちに蹴散らしちゃいたいですネ!
攻撃を避ける時以外は、身体の一部を船に絡めておくのは変わらず
滑りそうな時は自分への念動力で僅かに浮遊しやり過ごし、落ちそうな人は引き寄せたりします
意識するのは全ての白虎、拡声器たる面で声を増幅し
命奪う呪詛をありったけ込めて、UCの呪歌を響かせマス
動きを読んだ上での高速移動といっても、広がる音の速度からは逃げられない筈
かまいたちは見切るのが難しそうなので、避けられないなら無理せず武器受けに徹しまショウ
近付かれて対処が必要なら、籠手や鞭剣状に変形させた黒剣にサイキックエナジーの電流を纏わせ殴り斬り
角守・隆豊
未だ荒れ狂う海に加えて奇怪な獣が出てきたか。と言うよりも、奴らが嵐の原因かもしれんな。
だとすれば好都合。奴らを仕留めれば道が開けるというわけだ。
「早速難敵に出会えるとは。血が滾るというものだ」
頭が無い分噛みつかれる心配は無いが、この風は厄介だ。まともに受ければ吹き飛ばされて海へ真っ逆さまという事態になりかねん。正面からの攻撃は避け、側面から胴体を狙いたいところだな。
ここは【妖剣解放】を行い、奴らの速度に付いていけるようにして突進を躱そう。然る後、その横っ腹をすぐさま叩き切る。
他の猟兵達が命綱を用意してくれているとはいえ、いつまで持つか分からん。早急に決着をつけるために一撃必殺を心掛けねばな。
気高き見目のリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)は、治まらぬ揺れに表情ひとつ変えぬまま唸る。揺れも風も鎮まらないのなら、仕方がない。
すると、そんなリインルインの思考を察したのか、すぐ傍で紡がれる声。
「狂濤もこの暴風も、奴らが原因かもしれんな」
そう話した角守・隆豊(闘争こそ存在意義・f24117)の瞼が、ゆっくり押し上げられる。
まもなく敵を見据えた双眸には、未だ荒れ狂う海上に浮かぶ奇怪な獣が映った。
首のない白、獰猛さを獲物へ与えるはずの牙が見えぬ獣。
──だとすれば好都合。
嵐の源が奴らならば。根源となる存在を仕留めれば、自然と道も開ける。難しく考えるまでもない。
そこでリインルインがこくりと頷く。
「変な形の波はなくなりましたし、今のうちに蹴散らしちゃいたいですネ!」
揚々とあげたリインルインの声音は、どんな嵐の最中でもころころと弾んで響く。
肯った隆豊は一歩、前へ踏み出した。
──他の猟兵が命綱を用意してくれているとはいえ、いつまで持つか分からん。
そう、数もだいぶ減ってきたが頼みの綱も、海へ放り出された際の援護も、常にもたらされるとは限らぬ加護。
狙うのは早急なる決着だと、隆豊は真っ直ぐに、ゆく。
身体の一部は船へ繋いだまま、海への転落を阻止してリインルインは更に念じる。念により編まれた力は、たとえ足を滑らせようともリインルインの支えとなる。
バランスを失わぬよう僅かな浮遊でやり過ごし、またその華麗な動きは敵の目なき目を惹いた。
「どんどんいきまショウ!」
掛け声は己を奮い立たせるために、そして白き獣の意識を傾けるために。
リインルインがそうしている間、風の穴を抜けて隆豊が得物を振るい、白を屠っていく。
「早速難敵に出会えるとは。血が滾るというものだ」
ふ、と隆豊が息に込めるのは楽しげな色。闘志と平たく呼ぶにはあまりに研ぎ澄まされた意志。
頭部がないゆえ、噛みつかれる心配は無い。ちらりと隆豊は残る敵を捉え、そして吹きすさぶ風を追う。
──この風は厄介だ。
荒れ狂う風は、へたな姿勢で受ければ、吹き飛ばされやすい。迂闊な動きをとれば、海へ真っ逆さまという事態にもなるだろう。
敵をねめつける眼差しは熱く、けれど冷静に隆豊は現状を理解する。
──選ぶべきは、ひとつ。
正面からの攻撃は避ける。そして、狙うならば胴を。それも側面から。
隆豊が解放するのは己が力。そこに眠る意へ沿うように、妖刀の怨嗟を纏う。
直後、彼の足は船床を蹴っていた。
飄風の権化たる突進をひらりと躱し、一瞬だけ無防備となった横っ腹を──叩き切る。瞬きよりも早い斬撃が、風を、真白き獣を斬り伏せた。
これぞ正しく、一撃必殺の極意。跡形もなく消滅していく様を、見届けるまでもない。
そうして彼が立ち回る中、リインルインはもまた、最後の敵を視界に収めていた。
敵の纏う鎧がいかに頑丈でも風は風。そして素早く戦場を駆け巡る姿が、どんなに一瞬の出来事であっても、風は風だ。広がる音からは逃れられない。
リインルインはそう考えて。
──風の向こう側にまで、届けマス。
続けて意識するのは、白、白、そして白だ。意識した色へ歌を贈るため、ありったけの呪いの気を、より集める。白き命の骸へ向ける準備は、万全だ。
まもなく拡声器としての効力を遺憾無く発揮する面で、声が増幅した。潮騒でさえ飲み込んで響く、澄んだ声。
リインルインの歌は、這うように伝い、空気を震わせて風を押した。
織るのは負の思念。篭めるのは亡き過去へ捧げる葬送歌。
旧きものへ手向けるならば、この呪歌を。願いにも似た想いでリインルインは歌う。
注いだ意識は歌声に力を乗せて──最後の白は抗う術なく、海の藻屑と化した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『呪詛に呑まれし者』角守・みつ』
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POW : 空間両断
【非物質にも干渉する斬撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 拡散する呪詛
【出会った相手に自動的に放たれる呪詛】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を汚染して拡散し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : 高濃度の複合呪詛
【衰弱の呪詛】【虚脱の呪詛】【酩酊の呪詛】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「角守・隆豊」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●嵐のあとに
烈風吹き荒れる海は、白き獣の消滅と共に鎮まった。
おかげで怒り狂っていた波頭も和らぎ、時間をおかずして凪へ変わる。久しく平になっていなかった海面だ。これならば水平線の彼方まで望めるだろうと、猟兵たちもひとつ安堵の息を吐く。
一段落、との言葉が過ぎったところでしかし、猟兵たちの肌身をひりつかせる何かが姿を現した。
「左様、左様」
繰り返す音が悲しげに響く。
誰へ対する応答でもないその声は、いつのまにか船首の側から──そこに佇むひとりの女性から聞こえてきた。
「まだ、間に合うでしょう。陸へ帰るつもりがあるのなら」
促すような口振りだが、ぼんやりと猟兵を、猟兵たちの居る場所を眺めるばかりだ。誰にかけた声でも、誰へ向けた想いでもない。もしかしたら、彼女自身を模るかつての思念が、そう口走らせているのか。
真意こそ判らずとも、人のかたちを為したオブリビオンは、ただただ切実なる言を投げる。
今なら戻れるだろうと、期待を告げる。
遠くへ行く必要などないと、縋るような声音を紡ぐ。
けれど、かの者の総身からあふれ出る禍々しい呪詛の気配が、言葉と相反する結果を振り撒いた。彼女の足元で船床が次第に朽ちていく。彼女の触れた船の壁では、鉄が徐々に色褪せていく。かの者が存在するだけで、何をせずとも。
嗚呼、と嘆声がかの者から零れた。
しなやかな指先を伝わせたのは確かに、刀だ。 けれど鯉口を切る一連の仕種はどことなく、揮う力を拒むかのように遠慮がちだと、猟兵たちには感じ取れる。
喩えるならばそう、戦いそのものには慣れていない素振りで。
それでもかの者は、戦の音が満ちた船上を、そして猟兵たちの乗る鉄甲船が描いてきた澪の先を眺める。疾うに見えなくなった陸を、恋しがるように。
「……角守……みつ」
ぽつりと名乗り、彼女は構えた。
「参ります」
行き場のない思念を抱き、彼女は静かに刃を振るう。
生者を死へ引きずり込むだけの、オブリビオンとして。
レザリア・アドニス
そんなに私たちに行かせないって、一体なにを隠しているかしら…?
なにか私たちに、見らてはいけないものでもあるかい…(目を細め)
【呪詛耐性】と【オーラ防御】で呪詛を抵抗
闇は、こちらのほうが深いですけど…
呪詛が近づいてくるかを感知するために、感覚を研ぎ澄ませる
感知できたらすぐに避ける
出来るだけ距離を取って近づかない近づかせない
炎の矢で敵を攻撃
特に汚染された地面に立たせないように迫る
自分が衰弱とかして、まともに戦えなければ
死霊騎士と蛇竜を召喚して、騎士に守ってもらいながら、蛇竜には敵を攻撃してもらう
影に潜って後ろに回り、奇襲を仕掛ける
何のために邪魔しに来たって気にしない
オブリビオンなら、倒すのみです
シホ・イオア
貴方は、陸に戻りたいの?
帰れなくなったから、帰らせるの?
その呪詛は、どんな思いをもとにしているのだろう。
思いを晴らせるなら晴らせてあげたいけど……
シホ達は、戻る気はないよ。
言葉での警告は彼女の意志で攻撃は呪詛のせいでしょうか。
呪詛だけを断ち切れば心だけでも助けられないかな。
「輝石解放、ルビー! 愛の炎よ、禍々しき呪詛を焼き尽くせ!」
呪いに有効かもしれないので【呪詛耐性】【祈り】【破魔】も使っていきます。
この船は「みんなのお船」。
先へ進むならあなたの乗れる場所もあるかもね。
連携アドリブ歓迎。
陸へ、おかへ。戻るならば、まだ間に合う。
諄々とそう繰り返す角守みつなるオブリビオンに、シホ・イオア(f04634)は海を映していた双眸をぱちりと瞬く。
「貴方、陸に戻りたいの?」
零れる言の葉は看過できず、思わず問い掛ける。するとみつの視線がシホを知った。
ぽつぽつと落ちる言葉を耳にし、レザリア・アドニス(f00096)はこてんと首を傾いだ。
「そんなに私たちを行かせたくないって……」
ちらりと一瞥するのは、敵の向こう、遥か水平線の先。靄のかかった海の果て、まだ陸地もいびつな波も窺えない。もっと近づかなければならないと、誰がいわずともわかる。けれど行く手を阻むオブリビオンは確かに、そこへの船旅を拒むばかりで。
意識せずレザリアは、不思議そうに唸った。
「一体、なにを隠しているの……? それとも、見てはいけないものが……?」
眇めた瞳に映るみつの姿は、彼女の疑問に応じてくれる気配もない。だからレザリアは、そっと瞬いて感覚を研ぎ澄ませる。
返答の代わりに伸びてきた呪詛の影を、レザリアはひらりと跳んで躱す。どれほどの闇が呪いと化し、オブリビオンを浸蝕しようとも、レザリアの内に秘める深い色までは染められない。
──闇は、こちらのほうが深いもの。
静謐を湛えた眼差しで敵を射抜き、続けて闇を照らす炎でみつの身を貫く。どんな暗闇でも消えずに翔ける魔法の矢は、嘆声やまぬ敵をも燈した。
直後、肯いも拒みも仕種で見せぬままに、かの者から溢れ出したのは呪詛の一端。衰弱を招く影がフェアリーの翅へ圧しかかる。幻想を象ったかのような翅は、禍々しい影に纏わり付かれ、均衡を損ないかけた。しかし。
「帰れなくなったから、帰らせるの?」
シホの問いに、ぴくりと蠢く闇が反応した。
「自分では叶わなくなったから託してるの? それとも……」
単なる警告なのか。
紡いだシホの声音は、本人が思っている以上に明るく、そして優しい。
すると呪いの片鱗がぶるりと震えた──気がシホにはした。だから少女は、胸に宿る愛を矢に換え解き放つ。
いくつもの矢に撃たれたみつはしかし、諦めるという要素を持たず佇む。彼女がもたらすのは、やはり呪いの渦。レザリアの心身を蝕むのは、その呪詛だ。脱力させる呪いの素が、何をせずともレザリアの動きを阻害する。
噛み締めて踏ん張り、それでも俯かずレザリアは前を見据えた。
「……蛇竜……」
呟きは影へ潜んだ死霊に届く。蛇竜を模した死の友は、シホに気を取られているみつの背後から喰らいつく。
立てた牙にみつの姿勢が揺らぐ。揺らいでも尚いくつもの呪の塊が、シホを船へ叩きつけようと伸びた。だから少女は祈るように手を重ね、指を折りたたみ、そっと唇を動かす。
「シホ達に、戻る気はないよ」
シホなりの返答だ。聞き届けたみつの眼差しが、虚空を仰ぐ。
「まだ、間に合うでしょう」
やはり繰り返されるのは同じ言葉。
オブリビオンの秘める思いを、もし晴らせてあげられるなら。
そう傾けたシホの願いなど知る由もなく、みつから溢れ続ける災いの欠片が、悲しげに少女たちへ向かう。
静かにかぶりを振って、シホは、輝石の色彩を掲げた。
「輝石解放、ルビー!」
生み出した炎の中で輝くのは、目映いばかりのハートマーク。
「愛の炎よ、禍々しき呪詛を焼き尽くせ!」
無数の情熱が戦場を駆け、呪いの影を打ち返す。そこへレザリアも矢を射た。魔で編んだ矢が、海の煌めきを映してみつを赤く染める。
「何のため、誰のため邪魔しに来たって、変わらない……」
気にするものではない。前へ突き進む足を止めるものではない。そうレザリアは囁く。
「オブリビオンなら、倒すのみです」
宣告にも似た力強さで、矢を操り続ける。
そして魔を打ち破る光で、シホが呪詛を押し返した。そしてゆっくり羽ばたき、悲哀の情を浮かべたみつを見やる。
「この船は『みんなのお船』だから」
名に偽りはない。みんなで乗って、みんなで旅する鉄甲船だ。
名の持つ意味を理解するシホの声が、まっすぐ船上を飛んでいく。
「先へ進むなら、あなたの乗れる場所もあるかもね」
「乗れる……場所」
シホの想いに、みつがぽそりと漏らす。
掲げた光は確かにオブリビオンの──みつの生気なき頬へ色を添えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シノギ・リンダリンダリンダ
自前の船からみんなのお船に戻ります
さて。私が帰る場所は海です。それが海賊
お前もまだ間に合いますよ?それ以上の呪詛を浴びて己が朽ちるのを見たくはないでしょう?
例えどんな呪詛を相手が放とうと、すでにこの身は幾度となく呪いのお宝で呪詛を浴びている
そんな「呪詛耐性」なので気にするのは斬撃のみでしょう
【強欲の右腕】を起動
呪いの黄金による銃撃で「呪詛」をこめた「乱れ撃ち」。他の猟兵の方々への「援護射撃」をする
斬撃は飛翔して回避しましょう。そのまま「空中戦」です
私が用があるのはその光球。その先に待つはずの強欲の海です
呪われ朽ちろ。お前はただの障害物です
特大の呪詛をこめた強欲の右腕で殴りつけます
鞍馬・景正
ご忠告、痛み入ると言えば良いのか。
狂瀾を既倒に廻らしたところで帰ろうとするなら、最初から船には乗りますまい。
……鞍馬景正、と。そう名乗り返し、此方も太刀を構えましょう。
◆戦闘
近寄るだけで呑まれそうな瘴気ですが――間合を詰めねば斬れぬなら参るまで。
【視力】を駆使して相手の出方を観察。
特に手元の動きはそのまま刀の操作に繋がります故、注視。
刀を正眼に構え、中段と下段からの斬り込みを牽制しつつ、相手の攻撃に移る瞬間を【見切り】、先制して腹部を蹴り上げ。
そのまま繰り出した足を軸にして踏み込み、【怪力】を籠めて【天暁不露】の一撃を。
……無事に勝てたら、合掌するくらいは許されるでしょう。
「ご忠告、痛み入る。と言えば良いのか」
鞍馬・景正(f02972)の視界に収まった景色では、オブリビオンのみつが相も変わらず物静かに佇んでいる。
かの者の呟きへ耳を傾ける景正もまた、緩やかに唇を動かした。
「狂瀾を既倒に廻らしたところで帰ろうとするなら、最初から船には乗りますまい」
帰還を促し、陸を恋しがる様を求めるかのようなみつに、景正は悠然と返す。彼の言葉が届いているのか否か、虚空をぼんやり眺めるみつは首を振ることもしない。けれど景正が一歩踏み出せば、その眼差しはちらりとこちらを捉えた。
意識の濃淡はともかく、認識しているのならば問題なかろうと景正は太刀を構える。
「……鞍馬景正」
名乗り返せば、みつの顔が景正を知った。
敵意や殺意は感じずとも、滲み出る呪詛の気を景正は拾う。こればかりは、下手に触れれば瘴気に呑まれかねないと本能で察する。けれど間合いを詰めねば斬れまい。そして斬れぬなら、やはり。
「参る」
一度の瞬きののち、景正は船床を足裏で擦る。
みんなのお船へ軽快な足取りで舞い戻ったシノギ・リンダリンダリンダ(f03214)もまた、そんなオブリビオンと相対する。
「陸、ですか。さて。私が帰る場所は海です」
ぴんと来ないのだと返答しながら、シノギは幾つもの呪詛が渦巻く戦場を見渡した。いずれも目先のオブリビオン──みつから滲み出た影だ。煙る闇と例えられそうで、けれどシノギが見てきた黒煙とは、明らかに含むものが違う。黒を散らして立つ敵へ、シノギは微かに息を吐く。
「……お前もまだ間に合いますよ?」
「まに、あう……?」
まるで言葉の意味が分からないかのように、みつが心底不思議そうな声を発した。
だからシノギは肯い、浮かんだ疑問に応じる。
「それ以上の呪詛を浴びて、己が朽ちるのを見たくはないでしょう?」
シノギのかけた言葉に何を思ってか「嗚呼」とみつが嘆く。本意でないと言いたそうな素振りだが、しかしシノギは遠慮なく床を蹴った。
景正とシノギの立ち位置はどれだけ動こうとも重ならず、みつもまたどちらか片方を狙うでもなく存在する。
だからこそシノギが真っ先に渦中へ飛び込んだ。どろどろの呪詛が今にも心身を蝕みそうな、悲しくも禍々しい坩堝へと。
景正の視線が問うように確かめるのは、その瘴気を打ち破る術。口にせぬままシノギは彼の眼差しへ頷き、黄金色に輝く腕を生む。
──私は海賊です。この身は幾度となく、呪いを浴びている。
お宝とは種々の呪いに浸されたもの。お宝の在り処とは、数々の呪いの先にあるもの。
シノギが迷う理由にはならず、強欲の右腕が鏤められた呪詛を──蹂躙する。烈しい銃声が鳴り響き、差し違える形で叩きこまれた呪いの一撃を、シノギはひらりと避ける。
「用があるのはその光球。その先に待つはずの、強欲の海です。わかりますか?」
お前はただ朽ちるのみ。前途を阻む障害物でしかないのだと、シノギは宣言する。
そこで、相手の出方を観察していた景正が動く。戦いの気配が濃厚だというのに、船体の軋みが緩やかに耳朶を打つ。それが波音と混ざるだけならば、心地好い音として船旅を飾るだろう。そんな中で振るわれるみつの攻撃は、たしかに──。
──仕種は滑らかだ。……然し。
刀を握る機会には恵まれたようだが、奇しくもみつの太刀筋は百戦錬磨の者とは異なると感じる。戦場での動きがどのようなものか、推し量ることこそ出来ても目で確かめる術はない。だからこそ景正が注視した手元は、みつの経験を雄弁に物語る。
正眼に構え、乱れぬ呼吸をより研ぎ澄ます。直後みつが振りかざした得物は、繊細な煌めきもなくただ呪いの影を帯びる。切り込む彼女の挙動を牽制し、踏み込んだ景正が一瞬生まれた隙めがけて足を入れる。
腹部を蹴り上げれば姿勢が揺らぎ、思わず後ずさったみつに構わず、景正は足を繰り出し懐へ飛び込む。
「散れ」
凄まじい力を集わせて、大上段からの一撃を見舞う。体勢を乱したみつに真っ向から直撃した閃光は、船よりも大きな揺れをかの者にもたらす。
それでもみつは臆さず、空間を両断する斬撃を振るう。風を切った勢いはあるが、躊躇にも似た残響が落ちる。感じながらも敵の真意を慮るには穏やかな状況でなく。
──終いに合掌するくらいは、許されるでしょう。
近い未来、それぐらいならば手向けようと思いつつ、景正は再び得物を構えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
臥待・夏報
【流星群】
ひとつひとつ言葉を拾うのは風見くんに任せるよ。
……『火』を見るよりも明らかに、こいつは夏報さんの同類だ。
こっちの担当は呪詛返し。
人を呪わば穴二つ――ってこの場合、船に二つも穴が開いたら困るかな?
援護射撃とロープワークで、風見くんがUCを披露する時間を稼ぐ。
彼女の推理は確かに当てずっぽうだし、そもそも証拠からしてオブリビオンの寝言か何かだ。
でもそれでいい。
ちょっとの切欠で感情が動けば、後悔《いみ》は後から付いてくる。
言葉なんてそんなもの、所詮ホモ・サピエンス特有の単なる威嚇行動さ。
――燃えろ!
陸には帰るよ。
騒々しくて忙しない、僕らの日本列島に。
――君を、静かな海に送り還したその後でね。
風見・ケイ
【流星群】
(凪いだ時点で慧になっている)
『陸へ帰る』『嘆声』『ぎこちない所作』『澪の先を眺める』
所作や言葉から情報収集し言葉を紡ぐ
――角守みつ。
貴女は過去を『後悔』している。
呪いを宿したこと。
刀を手にしたこと。
道を踏み外したこと。
骸の海に沈んだこと。
当て推量で、わざと曖昧な言い方で、彼女の『後悔』を決めつける
……探偵というより詐欺師か占い師だ
余裕を装う演技や拳銃での牽制を駆使して呪詛を避けながら語り続ける
私の妄言(フィクション)が彼女の真実(ノンフィクション)になるまで
たとえ短い時間でも、嘘まみれの真実でも、
――夏報さんに繋がる
まだ、そちらの海には行けないんだ
やらなければならないことがあるから
風見・ケイ(f14457)が認めるのは敵の姿よりも、放った言葉や所作だ。
陸へ帰る、嘆声、ぎこちなさ、澪の先を眺める。たわいないものも情報になり得ると知ってか知らずか、オブリビオンに秘する気配はない。
鎖のような鋭さと速さで乱舞する呪詛は、生きとし生けるものを深淵へ連れていこうとする。ケイもまた同じく、這い寄る闇に狙われた。腕へ、足へ、喉へと絡み付こうとする幾つもの呪詛。衰弱が鳴り、虚脱に奮え、酩酊で侵そうとするのを弾きながら。
やはり言葉拾いを風見くんに任せて良かった、と臥待・夏報(f15753)は瞑目した。こいつは夏報さんの同類だ──火を見るより明らかな事実を、少女は眼裏に灼きつける。
敵の姿より遥かな存在感を醸し出す呪いの念が伸び出した。それを認めて夏報は息を吐く。
「よく言うだろう。人を呪わば穴二つ」
濃密に練り上げられた呪詛が迫る。底なしの闇へ引きずり込み、戦いの鼓動を根こそぎ奪うかのように。
「って、この場合、船に二つも穴が開いたら困るかな?」
けれど夏報はそんな暗さなど気にも留めず告げ、射撃により起きた烈しさで敵の気を惹く。
――角守みつ。
その者の名を辿りながらケイはゆっくり瞬いた。凝視により思考が研ぎ澄まされる。澄んだ思考が推理へと繋がっていく。
「貴女は、過去を『後悔』している」
真っ向からぶつけた言葉は飾らず、シンプルに相手へ届く。
みつがケイを瞥見した。何を言うでもなくただ目をやるだけのみつに、ケイは続ける。
「呪いを宿したこと。刀を手にしたこと……」
眉間へ指先を押し当てて口に出すと、音となった言葉ひとつひとつがパズルのように組み合わせられていく。この心地は、推理に傾けているからこそ覚えるものだ。
「道を踏み外したこと。骸の海に沈んだこと」
ケイ自身も理解している。これは当て推量だ。だが敵に聞こえているからこそ意味を成す。詳細には触れず、曖昧な物言いをすることで、当人の意識から当て嵌まる物事を引きだす──そしてケイの目論見は見事みつの心奥を掻き乱した。
その間も夏報の動きは止まない。
ちらりと顔を向けてみると、ケイは漸く言を発した。推理は確かに当てずっぽうだろうと、夏報は思う。そも証拠からしてオブリビオンの独り言。まるで寝言のような呟きを手繰り寄せ、そこから導き出すのは至難の業だ──回答を得るのならば。
でもそれでいいと、夏報が顎を引く。両名が求めるのは答ではない。切欠さえ生じれば、そして感情が動けば、後悔《いみ》は後から付いてくると夏報は知っている。
「……言葉なんてそんなもの、所詮ホモ・サピエンス特有の単なる威嚇行動さ」
ぽつりと呟いて夏報は船床を蹴る。
跳ぶ少女の姿を視界の片隅で捉えたケイが、肩を竦めた。
それにしても、これでは探偵というより詐欺師か占い師だ。
思いつつケイは拳銃で呪詛の塊を牽制し、ひらりひらりと穏やかな船の揺れに合わせて身を動かしていく。つかみどころのない動きは敵にとっても厄介で、這う呪詛の描いた軌跡はなんともあやふやだ。まるでオブリビオンの心境を表すかのように。
──ほら、妄言が真実に換わる。
だからケイは目を眇めた。
フィクションはノンフィクションを喰らう。星屑が食む夜の色を、深い呪いの闇を蝕んで、そして。
――夏報さんに繋がる。
視線を向けるまでもない。既に動き出している。
みつの視界から僅かに外れた場所で、夏報は色褪せたアルバムを開く。めくった台紙から飛び出すのは、赤く燃え盛る写真。
「燃えろ!」
後悔ごと焼き尽くせと、夏報は標的を見据えた。
すべてを焼こうとするあの日の呼び声が、容赦なくみつの内に眠る情念へ火を移す。
「陸には帰るよ。騒々しくて忙しない、僕らの日本列島に」
懐かしさも郷愁もないけれど、そこが立つべき島で、降りるべき陸ならば。
「……君を、静かな海に送り還したその後でね」
歪んだ過去の骸が漂う海は、どれほど昏く深いのだろう。夏報には知る由もないが、そこがオブリビオンの帰る海ならば、送るのみで。
ケイは口角に微かな情を乗せる。宥めるような笑みとも、諭すような意欲とも違う、静かな情を。
「まだ、そちらの海には行けないんだ」
やらなければならないことがある。
そう告げるケイに、みつの双眸はやはり、悲しげだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
角守・隆豊
「はは。もうその姿を見れることは無いと思っていたのだがな」
それ自体は嬉しく感じるが、このような形で出会ってしまったのは戴けんな。せめて俺が断ち切らねばならんか。
それは忠告であろうか。先に進み、戻ってこれなかった者としての。
だが俺にはやりたい事、やらねばならぬ事がある。そこを通してもらおうか!
空間両断は避けるか【空間両断】で返さなければ危険だ。積極的に俺が受けよう。
しかし、これが件の呪詛か。何とか切り離してやりたいものだ。上手く力が入らぬが、怪力でいくらか埋め合わせをしよう。
長期戦は不利と見た。ならば通常の斬撃をあえて受け、その間に咄嗟の【空間両断】を放つ!
「もうこれで、終わりにしよう」
リインルイン・ミュール
ワタシ達は往くモノなのです
此処で止まるわけにはいきませんので……帰るというなら、それはアナタだけですヨ
呪詛で船がボロボロになるのも極力防ぎつつ、しっかり弱らせたい
となれば力を削ぐべきでしょう。その為のUCを確実に当てるべく動きマス
呪詛を躱すというのは難しく、且つ躱せば強化されるというのもいただけまセン
ですので、耐性とオーラ防御で凌ぎつつダッシュで接近
剣で斬りかかると見せかけるフェイント掛けて、刀を構えさせた隙に懐へ飛び込み
そのまま組み付き絡み付き、絶対に印から逃れさせぬという気持ちでUC使用
縁のある方もいらっしゃるようですから尚更、還るべき所へ還れるようにと祈りも込めて。その為の詩なのですから
はは、と笑いを混ぜた吐息が角守・隆豊(闘争こそ存在意義・f24117)から零れる。一度瞬いてから再び視認しても、やはりかの者の姿は変わらない。見間違いなどではなかった。そも別の人物と見紛う筈もなく。
「……もう、その姿を見れることは無いと思っていたのだがな」
喉を鳴らすのは喜びだ。目にする機会が訪れるなど夢にも思わなかった。だから素直に感じ入るのだ、嬉しいと。だが。
「このような形で出会ってしまったことだけは、戴けんな」
ゆるくかぶりを振り、隆豊は腰を据えて構える。
その近く、こうべを高く上げたリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)は、晴れ渡った空の向こうを知る。空か海上か、色が霞んでいた。水平線がそう見せているのか、ぼやけた色彩はまだまだ行き着くところを教えてはくれない。それでも。
「ワタシ達は往くモノなのです」
笑みにも似た面を通し、彼女は囁く。
軋む船体がさざ波を引き寄せ、戦場と化した船を揺らす。安定ままならぬ航路は、まるでオブリビオンと化した過去の心境を物語っているかのようだ。そうと感じたから隆豊は問う。
「先刻のそれは忠告であろうか」
まだ間に合うだろうとみつは告げた。陸へ帰るなら今しかないのだと、声音こそ静かなものだが訴えかけてくる念には真剣さがある。儚げな面差しが、隆豊たち猟兵へそう思わせているのかもしれない。
だが隆豊は振り返らない。後退もしない。先へ進み、戻ってこれなかった者が今相対する角守みつならば、せめて。
──俺が断ち切らねばならんか。
相手の技が有する力を彼はよく知っている。だからこそ、俺が受けようとリインルインへ目配せし、踏み込んだ。
船床が隆豊の気合いを受け止め、蹴りあがる力を支えた。迫るならば斬ると言わんばかりに、みつの手元がしなやかに動き、そして──どことなくぎこちないながら、得物で世を断つ。空間そのものを切り伏せる程の斬撃が、高らかに鳴り響く。
しかし、虚しい残響をも打ち消すように隆豊が妖刀を振るい、風に乗って一撃を躱す。
やはりまともに喰らえば、ひとたまりもない。斬撃の痕跡を正視して、隆豊は唇を引き結ぶ。
その間、仲間はもちろん船体を呪詛が蝕むのを抑えるため、リインルインは標的を見据え、細く唸っていた。
──となれば力を削ぐべきでしょう。その為には……。
確実に与える必要がある。自身が持つ詩の言霊を。
リインルインが纏うのは、ふわふわした光の片鱗。己から浮かぶものか、はたまたサイキックエナジーがそうさせるのかは解らずとも、オーラはリインルインを守る盾となる。疾駆しながら彼女は這い寄る呪詛を一瞥し、そして淡い光で受けとめる。
──強化されるのはいただけまセン。
削ごうという力を与えては本末転倒。
だからこそ彼女は呪いの闇を耐え凌ぎ、煙る闇をも剣で切り裂く素振りをした。みつもまた、物悲しい面差しながら警戒は解けぬのか、素振りは暫しの切り合いを生む。
リインルインを襲い、船上に蔓延った果てなき影を見つめ、隆豊は短い息を吐く。
「……これが件の呪詛か」
底もなければ終わりもない。始まりすら知らずにかの者を蝕んだ呪詛が、今は生者を喰らおうと這うばかり。
呪詛を振り撒く存在と成り果てた彼女に、寄せる思念は隆豊にもある。
直後、華麗に舞っていたリインルインの剣が、みつを引き寄せる。呪詛こそ本人の意志を問わず流れゆくが、みつ自身もまた武士の一員。剣を払うべく刀を構えたかの者を捉え、機を逸さずリインルインは懐へ飛び込んだ。
「此処で止まるわけにはいきませんので」
ぴょんと軽やかに跳んだリインルインが、みつへ組み付く。溢れ出る呪詛に阻まれながらも、逃すまいと身を絡め、リインルインは続きを告げる。
「帰るというなら、それはアナタだけですヨ」
「……帰る……」
ぽつりとみつが零した音を、リインルインは掬い上げる。
そう、帰るために。還すために──そのための詩を、リインルインは綴る。
──縁のある方も、いらっしゃるようですから。
なれば尚更、還るべき所へ還れるようにと祈りが募る。艶めく身を巡る祈りの力は、まもなくリインルインへ言の葉を招いた。
「旧き星海より出で、地を這うもの」
かつて紡いだ詩魔法と思しき言祝ぎ。リインルインの口ずさむ祝詞が示すのは、回帰のための道行きで。
肯うリインルインの意志もまた変わらず、そして詩も変調させない。重みに揺らぎ変化するのは、みつの姿勢のみ。具現化した印が囲うのもまた、オブリビオンのみで。
「その身に抱く災禍の星、標に灼かれ、今こそ……」
それが無言の合図となった。
「俺にはやりたい事、やらねばならぬ事がある」
応じる声はない。ふと隆豊が見やるも、みつの眉尻は悲しげに下がったままだ。過去と化した心身はもはや呪詛に囚われ、元の意志を持てずにいるのかもしれない。だが隆豊は嘆かず、ゆるりと刀を構え直す。
「理解できずとも構わん。ただ、通してもらおうか!」
一族が担う役目と理解して戦場へ身を投じたのは、何もみつだけではない。隆豊もまた、誇りを刃へ宿らせて舞う。
迫撃と取れる彼の走りは、みつの腕を動かした。
しかしその間も響き続けるリインルインの詩が、力を削ぎ、還すために船上の空気を鳴らす。みつと向き合う隆豊を阻もうとする闇を、呪詛の一端を抑止していく。
すると心をも切断しようとするみつの一振りが、突貫した隆豊へと振り下ろされる。だが隆豊は、リインルインの詩による支えだけでなく、一点に力をを集わせていた。構わぬものかとすかさず差し出した肩へ、みつの刃が減り込む。痛みが熱となって胴へ駆けるも、隆豊は意に介さずに。
「……終わりにしよう」
隆豊は振り抜く暇を与えず、一撃を──断つための技を見舞う。
柔らかな大地にも似た色の瞳が、揺れる。
「もう、終わりだ」
しかと伝えるため繰り返した頃には、みつの総身が潮風にさらさらと溶け始めていた。滲み出ていた呪いの色はなく、佇むみつは透けて零れて消えゆく。
ああ、と消える間際にみつの唇を奮わせたのは、邂逅の際に聞いた嘆声と同じ音。
けれど改めて耳にしたその音は、なぜだか隆豊にもリインルインにも、安堵のため息に聞こえてならなかった。
戦いの音は消え去り、静穏を取り戻した海原が得体の知れぬ光の球を呼ぶ。あるいはずっとそこに在ったものだろうか。航路を示すように、紫の球は猟兵たちを出迎えた。確かめるまでもなく、海へ伸びていた紫の光が指し示すのは、その光球。
目を凝らした猟兵たちは、球を成す紫の色彩に、僅かな白が混じるのに気付く。
知り得た白はまるで光の向こう側を映し出すかのように、淡く揺らぎ──南国の島々を彼らへ見せる。
もしもあれが目的地ならば。遥かな海の外で待つ、新天地だとしたら。
こうして溟海への羇旅は、幕を下ろすことなく次なる世を切り開いた。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年03月20日
宿敵
『『呪詛に呑まれし者』角守・みつ』
を撃破!
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