きみをむかえにいくよ
#UDCアース
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●きみへ
君は、いつもこの絵を見ていたね。
小さな美術館に並ぶ絵を、背伸びをして、柵の向こう側から見ていたね。
壁に並んだ絵の前を、通り過ぎていく君。
いつも友達と一緒だったのに、今はいつも一人だね。
いつも楽しそうに笑っていたのに、今はいつも俯いているね。
君が、どうしてそんなに傷だらけなのか、知っているよ。
ボロボロの制服も、鞄も、傷だらけの心も、見ていたから知っているよ。
君が、しあわせになれる場所を、知っているよ。
●黄昏時に鳴るチャイム
事件発生の報を聞きグリモアベースに集まった猟兵たちの顔を見て、三蔵・迅(遠き夕の灯・f04775)は淡々と告げる。
「日が暮れたら、カラスと一緒に帰りましょう、そんな歌もありますね。黄昏時には、不意に伸ばした闇の手が、一人でいる誰かを連れ去ってしまうのでしょう」
その少女もまた、連れ去られそうになっている一人だった。
「まだ小さな、そう、中学生くらいの年頃でしょうか。少女が一人、美術館に飾られた絵の中へ連れ去られてしまうのです」
その美術館そのものには、何かを祀るような邪教集団との繋がりは見受けられない。建物のオーナーは引退した美術教師の一般人であるし、彼から美術館を預かるスタッフの誰ひとりとしてそういった繋がりが無いことは、既に組織が調査済みだ。
ただ、その美術館で展示されている絵の中に、過去に黒魔術に深く傾倒していた芸術家が描いたと思われる絵が一枚混ざっていた。それは一見何の変哲もない風景画だが、その絵は曰く、「人を呼ぶ」のだと言う。
「事実、その絵が収容されてから、美術館を訪れる客の何人かが、美術館へ行った日を最後に失踪していることが確認されています」
失踪の発覚した人々は普段から一人であったり、何かの事業に失敗して周囲との関わりが薄くなっていて、そういえばあの人の姿を見ない、と人々の口に上がってようやく失踪が判明する場合が多く、美術館との直接的な関連性は薄いだろうとこれまでUDC組織では結論付けられていた。
「ですが、今度は間違いではありません。私が見た予知の中で、確かに少女は一枚の絵の前に立っていました」
どの絵がそうであるのか、どうやって人を失踪させているのかまでは、予知からは分からなかった。突き止めるには美術館での詳しい調査が必要になるだろう。いったい何の目的でオブリビオンがそうしているのかは分からない、だがこれ以上の被害が出る前に止められるのも猟兵だけなのだ。
「少女があの額の向こうへ連れ去られてしまう前に、お願いします、彼女の手を繋いで、こちらへと引き留めてあげてください。彼女にはまだ、未来があるのです」
己の手で止められないことに言葉の端々に悔しさをにじませながらも、迅は猟兵たちをひたと見据え、お願いします、と繰り返した。
本居凪
夕闇の中から、伸びる魔の手を払いのけろ。
そういう感じのシナリオです。
●一章:美術館探索編
美術館の中にあるという「狂いし芸術家の描いた風景画」を探してください。
舞台となる国来(クニキ)美術館は、西洋風洋館を改装した二階建て構造になっています。西洋画・日本画・彫刻の各常設展示室、企画展示室、書斎を改装した資料室、スタッフのみが入れる保管修復室の四箇所が、猟兵たちの探索可能な範囲です。
やりようによっては美術館スタッフに紛れて調査も可能ですので、猟兵の皆さんは自分の得意な方法を見つけて頑張ってみてください。UDC組織も全力でバックアップしますので、多少の無茶も可能でしょう。
●二章:絵画の謎解明編
オブリビオンは絵画でどうやって人間を連れ去るのか、その条件を調査してください。美術館の中にある資料室で資料を探したり、美術館のスタッフへの聞き込みをすることも可能です。条件の判明した後に自分が囮となることもできるでしょう。
なお、二章に入った時点でOPにて被害者として挙げられている女子中学生(名前は萌音と書いて、モネさん)は美術館を訪れています。彼女へ接触して何かを伝えることも可能ですし、彼女が絵画に連れ去られる瞬間まで待機して、オブリビオンを誘き出してもいいでしょう。謎の答えを探る方法に正解も不正解もありません。
【萌音】中学二年生。美術部。以前は明るい子でしたが、最近はいつも俯いてばかりいるそうです。毎日の様に、放課後になるとこの国来美術館を訪れます。
●三章:邪神討伐編
絵画の謎を解いた時、それは姿をあらわして、
きみ、に きみたち に、
あい、に、
いく ね ?
では、ご参加お待ちしています。
第1章 冒険
『狂気の美術館の探索』
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POW : 美術品が壊れるのもお構いなし。力ずくで探す。
SPD : 鍵がかかっている所などを、片っ端から器用に解除して探す。
WIZ : 注意深く観察する。隠された仕掛けなどを見つけ、探す。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ノルナイン・エストラーシャ
人を連れ去る風景画、ですか。興味深いですね。
一体どのような情景が描いてあるのでしょうか?
他の人と被らなければ、各常設展示室を調べます。
【非認証機能・矛盾存在】を使い、犯罪者(というかシーフ)としての道を歩んだ自分を呼び出しましょう。
捜索は一人よりは二人。そしてもう一人の私なら、ピッキング技術も高いはず。鍵がかかっているところも含めて、手当たり次第に調べていきます。
何か見つかればUDC組織に報告します。
何も無ければ美術館で絵を鑑賞します。
しかし連れ去られた人は皆孤独な人。
三蔵さんの予知に現れた少女もそうなのでしょうか?
未来あるはずの少女が孤独に過ごしているなら……それはとても悲しい事です。
コンラート・シェパード
(※アドリブ歓迎)
◆事前に
端末を使って【情報収集】を
この美術館に寄贈されている美術品の名前や作者名、特
に西洋画と日本画の欄を確認
更にこの美術館のHPにて作品名と共に絵画の写真が載っていたなら風景画に注目
その風景画の評判をSNS等で探してみる
何点か確認出来たらその作者を個別に経歴等を調査
警察官という身分も必要あらば使い、警察のデータベースにアクセスして犯罪歴等がないか調査
また、各々の絵が寄贈された時期と絵に呼ばれた者の失踪した時期を照合し、件の風景画を特定するか絞ることを試みる
【WIZ】
実際に美術館へ
事前に収集していた情報を元に風景画を一通りまわる
何か私でも気づく点がないか観察
ひとつ。それは、美術館の中にいる。
ひとつ。それは、絵の中から、君を見ている。
ひとつ。それは、それを探す、君たちのことも、見ている。
●口
国來美術館、一階常設展示室。
横並びの客間の壁を壊し、ひとつに繋げた展示室の中、黒魔術を信奉する芸術家の作品を探している猟兵たちの姿があった。美術の真贋に長けた目を持つわけではない彼らは、一つずつ実際に自分の目で見て回ることで作品を探そうと、順路の看板に従って、ゆっくりと、じっくりと、壁に並ぶ絵を調査していく。
シンプルな形状の携帯端末を手に、事前に収集していた各展示品の情報と実物を見比べているのはコンラート・シェパード(シリウスの鉾・f10201)だ。寄贈された美術品に絞り検索した結果、美術館には主に明治から昭和の頃に輸入された西洋画が多く寄贈されていることが分かった。洋館の一室に置くには、確かに西洋画の方が相応しいのだろう、寄贈者のリストにも、この地域ではそれなりに名の知れた町会長や病院の院長などの名が並んでいた。彼は警察に通じている己の立場も利用し、寄贈された絵の作者の犯罪歴の有無も調べてはみたが、時代が古く、西洋人ともなると、日本警察のデータベースからではさしたる収穫が無いのは当然の事だろう。
国來美術館のホームページも一通り確認はしてみたが、小規模な美術館にとって目玉となるような有名な作品ばかりが取り上げられており、風景画、それも一枚きりのものを見つけるのは難しいものだった。
しかし。彼の執拗な情報追跡も、決して無駄にはなっていない。寄贈された作品と、この近辺で失踪者の出始めた時期を照らし合わせてみると、実に不思議な事が判明したのだ。一枚の絵が寄贈されたその一ヶ月後に、失踪した者がいる。その直後、この美術館に新たに一枚の絵が寄贈された記録が残っている。しかしその絵の前に寄贈された筈の絵は、紛失扱いとなっており、その年の所蔵記録からは消去されている。それが何度も、二週間、一ヶ月、半年、期間はバラバラながらも、繰り返されて──結果として、この美術館の絵の枚数は、一枚たりとも、変わっていない。
改めて確認したその事実に、星を映す空の様な彼の青い瞳も、何かを感じて、ス、と細まる。
「寄贈されては消える絵画、変化しない所蔵数……さて、これはどういう意味を持つのだろうな」
一枚一枚、視線を絵の隅々まで巡らせる。突き当りの角に置かれた、小さな額の一つまで。
ふと、背をややかがめて絵画を眺める彼の視線の端を掠る気配。かつてではなく、今、対峙することの多い者たちの気配。よもや、と思い視線を絵から外して様子伺えば、そこには同じ二つの顔。金糸に藍色の瞳の少女たち。
ミレナリィドールの少女、ノルナイン・エストラーシャ(旅する機械人形・f11355)と、彼女が【非認証機能・矛盾存在】で作りだした、シーフとしての自分の二人ぶん。一人は物腰柔らかい印象だが、もう一人はやや荒っぽさを感じる顔つき、一人よりも二人で手分けして、彼女たちもこの部屋に手掛りが無いかを探っていた。
「まったく、一枚一枚見ていくのも中々骨が折れる」
「調査なのだから、そういうものです、地道に、地道に、ね」
彼女たちはもう一人のノルナインの技を頼りに、鍵の掛かったケースの中など、通常では触れられないものもピッキングで開錠しては直接確認することを繰り返していた。しかし、手探りしても空を掴むばかり。まだ人の少ない開館したばかりの時間帯、巡回するスタッフが来ないかを気にしながらの作業はノルナインにとって、それなりに気の張るものでもあった。朝日の下でも浮かない顔をして、ふうと息を吐く。
それ以上に気にかかるのは、邪神に目をつけられてしまった少女の事だ。
(連れ去られたのは、皆、孤独だった人ばかり)
ならば、その少女も孤独に過ごしているのかと。それは、未来のある少女にとっては……悲しいことでは、ないのだろうか。犯罪者であった過去を持つノルナインには、他人事の様に思えない。
「悲しい、ですね」
先を歩くもう一人の自分の背中を見ながら、ノルナインはそう零す。
●
フタリ。狼の、匂い。でかくて、硬そうな。ああ、あの星色は、旨く、なさそう。
ふたつ、否、ひとつ、の、人形。細い、が、ああ、あの藍色のキャンディ。旨そう、な。
サガシ、テ、ゴラン。ココニ、イルヨ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
多々羅・赤銅
【WIZ】
や〜〜〜私芸術とか全くわかんねえや。
けど肥えてないからこその直感とかあるんじゃね?
ほら、何かを呪って描いたものとかって何か分かるからさ。
怨念めいたものや、執念がこもるんだろう。
たとえグロテスクであろうが、美しい黎明を描いた絵であろうが、その感情は心臓に届くもんさ
私の聖者の血がざわざわするだけかもしれねーけど。
そんなわけで、ま、展示物周りを一通り練り歩くか。
常設より企画展の方が怪しいかぁ?
茜谷・ひびき
人を呼ぶ絵画か、不気味だな。
被害が出ても気付きにくいのも厄介だ。
さっさとどれか突き止めねぇと。
判定:WIZ
俺は正直絵の良し悪しは分からないし、風景が描いてあれば全部風景画なんじゃねぇかと思っちまう。
だから【野生の勘】を頼りに片っ端から絵を見て怪しそうなのを探す。
常設展示室や企画展示室みたいな一般の人もよく立ち入る場所を中心に確認してみるぜ。
あと美術館の絵って解説ついてたり近くに学芸員がいたりするよな。それを頼りに割りと新しく収容された絵かどうかとか、何か起きた画家が描いてないかとかも確認する。
怪しいのには目星つけとく。
正直あんま自信はないから、他の猟兵がいるなら積極的に情報共有するつもりだ。
フルム・サーブル
狂気と芸術性は紙一重だと、誰かが言っていたような気もするけれど…
誰だか思い出せないぐらいには普遍的な概念なのかもしれないね
僕は力ずくで探索することにしよう
ふたつの展示室ならフェアリーがふらふらしてても
なんかそういうガイド演出として誤魔化せるんじゃないかな
一応図録みたいなものには目を通しておいて、何か聞かれたら答えられるようにしておこうね
そして力ずくとはいってもね、「美術品を毀損しない」という条件を自分に課すことで
『妖精さんのたしなみ』で能力強化するんだ
探しもの関連の神経を研ぎ澄ませよう
ユキ・パンザマスト
(SPD)
しらみつぶしで行くけれど、大体の見当はつけましょっか。
左掌の刻印をさりげなく翳して、何処で一番腹が減るのかを確かめます。
女の子をずっと見ていて、獲物としてアタリつけたオブリビオンなら、
獲物としての執着なり食欲なり同情なり、強い情動を向けてるって事。
この偏食家が何かしら食指働かせてくれる筈だ。
大体の見当をつけた後は、左掌の空腹を宥めつつ侵入タイム。
器用さにはそれなりに自信があるし、
電子錠があったとしても、情報収集と暗号作成でパスワードなら探せます。
悪意か善意か知らないが、
女の子を現実の地獄から絵画の袋小路へと、
お迎えするつもりだって分かってりゃ今は充分ですね。
碌なもんじゃねえな、それ。
●囲
国來美術館、二階、企画展示室。
大きな硝子の窓からは、至って平和な町並みと、美術館の下に広がる庭が見通せる。国來美術館で現在開催中の企画展の題目は、『妖精郷への誘い』。その名の通り、妖精のいる世界を夢想した芸術家たちによる幻想的な絵の数々が、ずらりと揃って並んでいた。それは妖精の姿そのものを描いたものから、妖精の飛び出てきそうな場所を描いたものまで、ファンタジーが好きなものであればきっと喜ぶだろうと思わせる、そんな絵だけを集めたような展示室の只中に、まさか本当の妖精がいようとは、きっとこの展示室にいる一般人の誰一人、決して思いはしないだろう。
そんな、妖精を描いた美術作品の中でただ一人、本物の妖精、フルム・サーブル(森林の妖精さん・f03354)は、この企画の為に作られた展示用ガイドの一部だと周囲に誤認させることで、企画展示室の中でも動けていた。赤い薔薇の花びらつけた軽鎧を纏い、三十センチほどの背丈で動く彼を、一般人はそういうガイドロボットだと思い、この小さな美術館にしては珍しい、それだけ今回の展示に力を入れているのだろう、そんな思い思いの感想を、彼の頭上で話しては通り過ぎていく。フルムへあの展示品はどこかと尋ねてきた老婦人へ場所を大まかに案内し終えたところで、様子を見ていた茜谷・ひびき(火々喰らい・f08050)が声を掛けた。
「ふう、やっと行ってくれた……図録の展示内容を憶えておいて助かったよ」
「大丈夫か? まあ、この場ではな、それなりに目立つのだろう」
周囲の客層は平日の日中ということもあり、中年か、高齢者の姿が多い。彼らの様に若い者の姿はあまり見ないのだろう、ひびきもまた、話し好きな美術愛好家の老紳士に絵画についての薀蓄を語られるという経験をしたばかりだった。
そのまま、室内を見渡せる場所でお互いに情報交換を行う。ひびきは野生の勘を頼りに怪しそうな絵を探し、なんとなく気になった絵について、解説を読んだり隅の椅子に座って控えている学芸員へ訊き、フルムは調査中は自身の溢れそうな程の力を抑え、『美術品を毀損しない』条件を己へ課すことで、探し物をする為に使うであろう繊細な神経を研ぎ澄ませて室内の展示品を調査していた。
「それで、風景画だがな。学芸員に確認しても、どうにも要領を得ないのが一枚あった」
「ふむ、僕の方でもね、不思議なことに何度も尋ねられるのが一枚あったよ」
ひびきとフルムは互いに視線を交わす。
「俺が聞いたのは、あの絵だった。ベンチの上に、男が寝ている絵だ」
「僕がよく聞かれるのも、ベンチの絵だったよ。でも、人が違う。小さな子供の座っている絵だ」
おや、おや?噛みあわない歯車に、不穏を感じた二人の勘が、怪しいと反応している。
「……だが、この展示室を見ている学芸員は、バイトのようで、詳しいことまでは分からない、と言っていた。どうも元はこの美術館の常設展示室にあった絵を、企画に合わせて持ってきたらしいぜ」
「おそらくは以前からあった絵、なのに題名を誰もよく覚えていなかったのも不思議だね。皆、あのベンチの絵、としか聞いてこなかったよ。ベンチの絵が、そんなに置いてあると思うかい?」
聞けば聞く程、怪しさの増す。だが、まだ確実とは言い難い。
「それにしても、人を呼ぶ絵画か、不気味だな。被害が出ても気付きにくいのも厄介だ。さっさとどれか突き止めねぇと」
「狂気と芸術性は紙一重だと、誰かが言っていたような気もするけれど……誰だか思い出せないぐらいには普遍的な概念なのかもしれないね」
「そうだな、そんな風に、あいつらもどこにでもいるのかもしれねぇな」
ひびきの胸元に宿る赤い曼荼羅の花、そっとなぞる、その胸中。闇への怒りは、沸々と。
同じく、二階、企画展示室。
壁一面を埋めるような、大きな一枚の妖精郷のその前に立つ、この場にも、妖精郷にもそぐわない、夕暮れと夜の気配のする二人。
ユキ・パンザマスト(暮れ泥む・f02035)と多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)が、この場で会った偶然に意気投合、共に絵から絵へと室内を巡っていた。
芸術など分からなくとも、誰かの心傾け描かれたもの。なら見る者だって、感じるものはあるはずと。
己に流れる聖者の血、ざわめく一枚探してふらふらする赤銅に、声を掛けたユキはといえば、翳す左手、その掌に咲く藪椿が、喰らうべきUDCの血肉求めてざわざわと、腹を空かせやしないかと。
ぐるぐる、二人顔合わせた瞬間は、同じことを考えているなと笑ったもんだ。
黒魔術への想いを込めた絵師の、怨念めいた執念のようなどろどろとした感情と、獲物つけ狙う邪神の、食欲か執着か、粘つく情動のこびりつく、一枚。
だがそれは、決してそんな呪いの染み込んだ絵では無かった。麗らかな、春の陽射し、森の小路が後ろへ見える、木立の前にベンチがひとつ。少年が一人、その上で仰向けになって眠っている。
何も心配事などないように、その顔はひどく、安らかだ。
ユキは密かに反応し、喰らわせろと宣う偏食家を宥めながら、この絵をどうするかと思案する。
「絵の中ってな、そんなに居心地のいいもんか?」
「さぁてね、でも悪意か善意か知らないが、女の子を現実の地獄から絵画の袋小路へと、お迎えするつもりだって分かってりゃ今は充分ですね」
「あぁ、そりゃあそうだ。そんなことすんのは、ロクなヤローじゃねえよ」
「そう、碌なもんじゃねえな、そんなのは」
その絵の隣には、宵闇の中で輝く太陽を描いた絵が、他のものよりも高い場所へ、まるでその絵を描いた者と、同じ視点になるように展示されている。二人の女が見上げたのは、夜闇へ沈む夕陽と、闇夜に昇る朝日の、どちらだったのだろう。
●
いち、に、サン、ヨ。
ああ、どれも、これも。くるくると鳴る腹満たすほど、旨い、だろうか。
ちいさな羽のは前菜に。筋っぽくとも、腹ごなしには丁度よかろう。
黒く赤い、辛そうなのは箸休め。舌を変えるに、丁度よかろう。
想いの多き、ふたつはより、旨そうな。
棘の多きも、噛み応えのあるは、久しく、良く。
あの華の、香り立つはああ、椿、あまい、きっと、あまくて、旨い。
モウ、スコシ。ミツケテ、ゴラン。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
勘解由小路・津雲
いなくなっても気付かれない、か。やりきれんな。……おれは美術はさっぱりだが、呪術には通じている。黒魔術は使えないが、それでも何かの術の痕跡があれば探れそうだが……。
■行動(WIZ) 常設・企画・資料室の三カ所の内、他の猟兵の手が回っていないところを中心に調査。保管修理室は入るのに特別な手続きが必要だろうから他に任せることにする。なにもなさそうだということを含め、何か分ったらユーベルコード【式神召喚】を使い、他に調査している仲間に情報を伝える。
主に術の有無を調査するが、同時に展示物の傾向や、客の動き・反応も見ておこう。何か気付くことがあるかもしれない。【第六感】も使おう。(アドリブ可)
彩瑠・姫桜
WIZ
企画展示室か保管修復室を調べる
可能なら保管修復室を優先したいわね
美術室の探索は、スタッフの人にも同行お願いしたいわ
【コミュ力・情報収集】も使用
美術科の学生を装って、
学校で美術品の修復についての課題レポートまとめている事
絵をどんな風に修復しているのかについて
実際に携わる方に見せてもらいながら話を聞きたい旨を伝える
特に保管修復室は、スタッフのみの立ち入りだからこそ
スタッフの人の同意の上で堂々と入りたいので
マナーは守り指示には従う事も約束するわね
どの場所においても
保管・展示されている美術品を傷つけないように気をつけて
風景画を中心に丁寧に見ていくわ
必要応じ他の場所調査した仲間とも情報交換するわね
●囚
国來美術館、一階、資料室。
「いなくなっても気付かれない、か。やりきれんな」
勘解由小路・津雲(ヤドリガミの陰陽師・f07917)はここで、美術館に寄贈された絵について、何らかの情報が残ってはいないかと調べていた。
(おれは美術はさっぱりだが、呪術には通じている。黒魔術は使えないが、それでも何かの術の痕跡があれば探れそうだが)
さて、どうだろう。古びた紙の匂いの中で、彼は過去の寄贈された美術品についての記録を掘り下げていく。どこかに術の一つでも感じとれはしないかと、銀色の瞳を皿のようにして、年号と名前を追っていった。
「……これは、どうしたことでしょうか」
不意に口をついて出る、本来の津雲の口調。ずらずらと並ぶ寄贈者の名前の欄が、空白になっているものがある。その下には、寄贈された美術品の題名。なぞる指、口に出して読み上げる。
「『さいわいは、ここに』……西洋のもの、絵画、制作者、制作年、共に不明……」
美術館側の備考欄には、この絵は中世ヨーロッパで活躍した西洋画家による連作だろうと思われる、の一文。しかし他の目録を確認しても、ベンチの絵はこの一枚しか、この美術館には存在していない。ならばなぜ、これが連作と解るのか。
津雲の疑問の答えを知るのは、同じ頃、修復保管室で美術館のスタッフへ話を聞いていた彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)であった。
「この作品は森に置かれた一脚のベンチをモチーフに、そこへ集う人々を描いたものであるが、美術館にはこの一作しか存在しない。以前も同じモチーフ、構図の作品が美術館には所蔵されていたはずだが、現在は行方不明……? どうして行方不明になっているの?」
美術科の学生を装った姫桜は、学校で美術品の修復についての課題レポートをまとめている事、絵をどんな風に修復しているのかについて興味があるとスタッフへ語り、保管修復室の見学を申し出ていたのだ。昔から美術館で働いているという年配の女性スタッフは、若い学生に興味を持ってもらえたことが嬉しいらしく、にこにこと彼女へ美術館の裏方仕事を案内してくれた。
メモを取りながら、その合間の雑談で美術館で不思議なことは起こらないのかと水を向けた彼女へスタッフが語ったのが、『ベンチの絵』の話だった。
「それがねえ、不思議なことなんだけど、いつの間にか別の絵になってたとか、なんとか。私はあまり新しい絵の購入に関わってないからよくは知らないんだけどねぇ、同じ場所で、同じベンチの絵を描いてるのは確実だから、とりあえず新しい絵は寄贈されたってことにして、前にあった絵が無くなったのは、別の場所に貸し出していることにして……まあ、誰かの悪戯かもしれないんだけどね。こんなの、いつもあることじゃないし」
そういうちょっと不気味なことも、美術館だから、かしらねえ。と笑う恰幅の良い彼女にそうなんですね、と返しながら、姫桜はこの情報が重要なものだとメモと共に心に刻み込む。
絵がそう簡単に変わる筈はない。普通なら悪戯で済まされることも、今、この美術館で起きていることを考えれば、悪戯である筈がない。早くこの情報を、会場にいるだろう仲間たちと共有しなくては。
姫桜の背中を、冷たい汗が伝った。
●
見ている、ね。きづいた、かな。
ねえ、ね、え。
銀色の、鏡が見える、過去負う心ごと、砕いて食って、しまおうか。
金色の、血の色、その心、きっと甘くて、蜜かもしれない。
ハヤク、ハヤク、コチラヘ、オイデ、ヨ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『黄昏時にひらく異界への扉の噂』
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POW : 連れ去られる条件を発生させないようにする、自分が囮になる等
SPD : 速さを活かして効率的に聞き込みを行う等
WIZ : 異変の情報を精査して原因を突き止める等
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●おいで、おいで
君はどうして悲しいの。
君はどうしてほしいの。
君を理解してほしいの。
でも君は、誰にも理解されないよ。
そこへいても、苦しいだけ。
親も、友も、先生も、君の未来を閉ざすだけ。
だからおいで、こちらへおいで。
君の幸いは、ここにあるから。
●口、耳、耳、耳
どこからか、学校のチャイムが聞こえてくる。
放課後の学校を背にして、街へあふれる子供たち。
冬の空は、日の暮れるのが早いから。
真っ暗な影の落ちる道に、黒い学生服は、今にも紛れてしまいそう。
その中にたった一人、通学路から外れて、美術館へ向かう少女の姿がある。
大人しそうな彼女。黒いコートにセーラー服の彼女。沈んだ顔をした彼女。
二階の企画展示室。その大きな窓からも、流れる黒から逸れる小さな黒色はよく見えた。少女は正門を潜り抜け、美術館に入場する。
猟兵たちが見つけた一枚の絵。一脚のベンチが描かれたその絵は、一体どんな絡繰りで人を消してしまうのか。
夕暮れに染まる美術館、夜の気配の近づく中で、猟兵たちは調査を続ける。
茜谷・ひびき
肝心の絵は分かったが条件が分からないと対策できねぇか。
どうにかして確認しないとな。
判定:POW
萌音に接触してみるぜ。
年下の子が一人で美術館にいるのが珍しいから、とかそんな感じで。
【コミュ力】も使って出来る限り優しく接するつもりだ。
初対面の人間にどこまで話をしてくれるか分からないが、出来る限り親身になって話を聞いてあげたい。
そこから条件が分かるかもしれないし。
【野生の勘】で気になったことがあれば聞いてみる。
そのあと一緒にいても条件が発生しそうから萌音と共に絵に対峙する。
萌音一人じゃないと駄目なら一旦別れて近くに待機、敵が出てきたら萌音を助けに行く。
囮にさせちまうのは心苦しいが、絶対助けるからな。
ユキ・パンザマスト
【POW】(●アドリブ可)
柄にもない事をすると決めました。
美術館に入ろうとする萌音さんの前でハンカチでも落としましょう。
拾って受け取る時に、彼女に左掌の刻印で触れて、強い情動、萌音さんの孤独を傷付けずにこっそり食べてしまおう。
ユキの記憶、こういう事の為なら欠けたって納得はできます。
けど。奪ってばかりじゃ件の絵と変わらない。
「此処にはよく来るんですか?」
「もしかして絵とか詳しい人ですか?」
「キョーミあるけどまだ疎いから詳しい人に色々聞いてみたかったんすよ」
美術館近くの喫茶店においしいパンケーキがあるんです。
「ゆっくりお話しませんか」
一人だっていうのなら、ちゃんと友達になれればいいなあ。
勘解由小路・津雲
『さいわいは、ここに』か。……しかし、幸せというのはどこか遠くではなく、自分が今いる場所でつかむしかないんじゃないか。おれはそう思うがね。
■行動(WIZ)少女はこれまでここに通っていたはずだが、今まで異変は起きなかった。ということは、人を消すには何か条件があるのではないか。美術館の人に話を聞いてみよう。「いい雰囲気の美術館ですね。おれは今日初めてきたんだが、近くにい住んでいたらもっと来たいところだね。やはり、常連さんのような人もいるのかい?」と話を向けて、少女の普段の様子や、何か変化がないかを聞きだせないものか、試してみよう。
彩瑠・姫桜
POW
萌音さんと会って話をするわ
【コミュ力・優しさ・情報収集】使用
萌音さんが置かれている環境から、絵に連れ去られる条件を探っていくわ
仲間とも条件のすり合わせができたら、私が囮に立候補するわ
怖くないって言ったら嘘になる
でも、他の誰かが怖い想いをするのを見てるのは嫌だから
>萌音さん
絵っていいわよね
あんまり素敵な絵だと
絵の向こう側の世界に行ってみたくなったりもするかもね
行けるなら行ってみたい?
(萌音さんの反応を見ながら)
力不足かもしれないけれど
私は、一緒にお茶を飲んであなたの話を聞く事はできるわ
親友が言ってたの
誰にも言えない事を、口にするだけで気が晴れる事はあるって
だからもしよかったら、話を聞かせて
●逢、迷、三、mOne
ねえ、君ってば、本当に、本当に、柄にも無いことしてさ。だけどそんな君の為、夕暮れの中、ひとりっきりの彼女の心に寄り添おうとした君たちの為に、ほんの少しだけ、回り道をしていこう。
これは、この話は、一人ぼっちの少女の心にまとわりつく重苦しい鎖を外してくれた、ヒーローたちのお話だ。
萌音には夢があった。同じ美術部の親友との、ささやかな夢。
将来はふたりで、こんな美術館に飾られるような絵が描けたらいいねと笑いあって、指切りまでしたのに、どうして今は私しかいないんだろう。
どうして。どうしてだろう。分からない?分からないの?ヒステリックな声、胸の奥に突き刺さったままのその声は萌音の耳にいつまでも残っていて、ふとした瞬間に思い出してしまう。だって、分からないよ。どうしてなの。どうすればよかったの。
どうしたらあなた、許してくれるの?
じわじわと目の縁に浮かび上がる涙粒、冬の冷たい風に震えて、萌音の頬へと伝う、否、伝いかけたその間際、潤む視界にひらり、慰めるように飛び込んでくる一枚の、椿の柄が見える、ハンカチ?
誰かの落とし物だとしたら、萌音のすぐ傍にいる、あのファッション誌から抜け出したようなパンクコーデの子のかもしれない。ふわふわしたロリータファッションの子ならこの美術館でも時々見かけたけど、ああいうパンクな服装は、萌音の知る世界とかけ離れていて、拾い上げたハンカチ片手に萌音は尻込みをしてしまう。
「あ、あの、もしかしてあなた、ハンカチ拾ってくれたんですか?」
「えっ……は、はい、ええと、あなたの……です、か」
「そうそう、そうなんですよー。これ、ユキのお気に入りでして。拾ってくださりありがとうございます」
見える耳にも臍にも並ぶピン留め形のピアスを気にしてしまって、上手く言葉が出てこない。恐る恐る、言葉を選びながら伺うようにユキを見る。ハンカチを手渡そうとした手が一瞬彼女の手に触れて、思わず大きく肩が跳ね上がってしまうのを、悪く思われたりはしなかったろうか。謝ろうと思って、あれ、と思う。
涙、いつの間に乾いたんだろう。泣きそうになるほど苦しい胸のつかえも、前が見えなくなりそうに潤んだ視界も、元通りになっていた。
「どうかしました?」
「い、いいえっ! だだ、大丈夫、です……」
左手の喰らったこの子の孤独はどんな味だったんでしょうね。ユキは内心でそう思う。返してもらったハンカチも、そういえばいつから持っていたんだったか。こんな風に忘れてしまえるくらいだから、特になんとも思わずに買ったんだろう。自分の記憶を代償にして喰らった萌音の孤独も、涙の影を消せるくらいには薄まったようだから、まあ、いい。
(けど、奪ってばっかりじゃ件の絵と変わらないですよね)
とはいえ、緊張している萌音の反応はやや芳しくなく。そこへ声を掛けてきたのは、美術館の入口近くで話す彼女たちの様子を伺っていたひびきと姫桜たちだった。午前中に調査した結果は既に猟兵間での情報共有が完了しており、また各々が美術館のあちこちへ散らばって情報を集める者もいれば、中にはこうして萌音の訪れを待つ者もいたのだった。
「ユキ、そんな場所で留まってどうしたんだ」
「ああいえね、ひびきさん、この子がユキのハンカチを拾ってくれたもので、ちょっとお礼を言っていたんですよ」
「あら、学校も終わったこんな時間に美術館に来るなんて、あなたも絵が好きなのね。もし良かったら一緒にお話しでもしない?」
優しそうに微笑んでくれた女の子、私服だけど、私より年上……かな?綺麗な金髪なのは、アメリカとか、ヨーロッパあたりの人だからかも。日本語がとっても上手だし、きっと留学生なんだろう。
「わ、わ、私、英語苦手ですけど……それでも、良ければ」
人当たりの良い笑顔を見せる彼女たちに不安も和らいだのか。ようやく彼らひとりひとりの顔をちゃんと見ながら、萌音はしっかりと頷いた。
その様子を、二階へ続く大階段の上、一階を見渡せるスペースから、津雲と、彼が話しかけていた美術館のスタッフは見ていた。三人に囲まれて移動する萌音を見ながら、スタッフの老人はしみじみと語る。
「おや、珍しいねえ、萌音ちゃんが誰かと一緒なのは」
「彼女もここの常連さんなのか?見たところ、結構若いけどさ」
「老いも若きも、芸術を良いと思う心は同じさ。でもあの子、最近はずっと思い詰めた様子で絵を見ていてね。いつも一緒だったお友達の子も来なくなってしまったし……この美術館、若い子が珍しいのはご覧の通りだろう。萌音ちゃんも来なくなってしまうんじゃないかと思うと、儂は寂しい……」
「そういうものか……それで、ご老人、あの絵のことを聞かせてくれないか」
「ああ、あのベンチの。あれはだねぇ……」
津雲が得た情報は、やはりこれまでの調査で得たものと似ていた。あのベンチの絵だけを見る為だけにこの美術館へやってくる者もいたのだが、そういう人物はしばらくすると姿を見なくなるのだという。萌音も最近はこの美術館を訪れる度に、あの絵だけを微動だにせず見つめていたこともあり、老人は彼女が美術館を訪れなくなるのではないかとも心配していた。
(『さいわいは、ここに』か。……しかし、幸せというのはどこか遠くではなく、自分が今いる場所でつかむしかないんじゃないか。おれはそう思うがね)
不意に、壁にかかった大時計がボーンと鳴る。
「……もうそんな時間だったか?」
学校の下校時刻を知らせるチャイムは鳴っていたが、それからまだ鐘の鳴るほどの時間は経っていなかったように思う。首を傾げる津雲へ、老人スタッフは悪戯っ子のような目をして、こっそりとその訳を教えてくれた。
「ああ、あの時計はね、少しだけ時間をずらしてあるんだよ。いや、ちょっとした昔の話だけどね、人気のある画家の企画展をやっていた時に、混雑対策にちょこっとね。何時でも、あの大きな音を聞けばもうそんな時間か、帰らなきゃと、思ったりするだろう? あれはその名残なのさ」
所、変わって。美術館のすぐ近くにあるパンケーキの美味しい喫茶店、そのテーブル席に萌音と猟兵たちの姿はあった。
「此処にはよく来るんですか?」……はい、毎日、通ってます。
「もしかして絵とか詳しい人ですか?」……はい、学校では、美術部です。
「キョーミあるけどまだ疎いから詳しい人に色々聞いてみたかったんすよ」
……私の知識量じゃ、ちょっと説明できないこともあると思うけど、それでもよかったら。
ユキからの矢継ぎ早な質問につっかえながらも答えていった萌音だが、人との会話そのものが不慣れなのか、三人の顔色を窺うようにしてしまう。
それを見かねたユキの提案で、こうして場所を変えて、ゆっくりお茶でも飲みながらお話を、ということになったのだ。珈琲と紅茶、それからパンケーキ。それぞれのオーダーしたものが並ぶテーブルで、姫桜はそれとなく萌音の反応を探る為、彼女へ言葉を向ける。
「やっぱり絵って、いいわよね。あんまり素敵な絵だと、絵の向こう側の世界に行ってみたくなったりもするかもね……萌音さんも、行けるなら行ってみたい?」
「絵の中の……そう、ですね。私でも行けるなら、行ってみたいかも」
「それは、どうしてですか? 絵の中の方が、現実よりもずっと綺麗で素敵だから、なんですか」
ユキの一言に、ハッとした顔を見せる萌音。緩んでいた空気の中、薄氷を踏んだ時のように亀裂が走る。
「……初対面の俺達でも、話くらいは聞けると思う。もし、あんたが何かに悩んでいるのなら、聞かせてくれないか」
「力不足かもしれないけれど、私も一緒にお茶を飲んであなたの話を聞く事はできるわ」
彼女の心へ、届けるように、ひびきと姫桜も視線をそらさずに語りかける。
「親友が言ってたの。誰にも言えない事を、口にするだけで気が晴れる事はあるって。だからもしよかったら、話を聞かせて」
姫桜のその言葉が、最後の引き金となったのか。
「本当、ですか……私、私、本当に、なんでなのかわからなくって、どうしたらいいかも、わからなくて──!」
「ゆっくりで、大丈夫ですよ。ね、今の萌音さんが一人だっていうのなら、ユキと友達になりましょうよ」
ユキが孤独を喰った分、きっと彼らのその言葉は、萌音の心を囲んでいた孤独に震える壁をすり抜けられたのだろう。
ぽろぽろと涙をこぼして語る少女の話に耳を澄ませて分かったのは、どこまでもタイミングの悪い、ありがちだけれど、本人たちには苦しい話。
萌音と、親友の少女と、萌音の所属する美術部の部長を巡る、一方通行の想いが重なりあって出来た歪なデルタ。
引退する彼へ、意を決して告白したのに、実らなかった親友。
受験を控えた最後の美術コンクール、受賞した親友と、出来なかった自分。
だというのに、当の部長は、卒業前に萌音をモデルに絵を描きたいのだと、頼んでくるから。いいですよ、なんて言ってしまったのは、きっとあの時、魔が差してしまったのだ。もっと頑張りましょうと言う先生にも、自分には絵を描く才能が無いのだと言う親にも、嫌気が差して、魔が差して。それを知った親友が、どんな風に思うのか、少し考えればわかることだったのに。
どうしてと、なんで。そんな言葉ばかりがぐるぐる、頭の中で響いていた。
「だから、私、あの大きな額の中へ、キャンパスを突き抜けて入っていけたら、どんなに良かったのにって、ずっと、あの絵の前で思っていたんです」
「それなら萌音さん、あの絵を見ていた時に、何か声は聞こえませんでしたか?」
「声……? どうだったかな。でも、飛び込むなら絶対にあの絵だって、それだけはずっと、そう思ってて。今思うと、どうしてだろうって思っちゃうんですけどね」
照れ臭そうに、泣き腫らした痕の残る顔で笑う萌音。その顔にはもう、薄暗い夕闇の陰は見えない。この様子なら、きっと彼女はもう大丈夫だろう。親友との間の確執も雪解けに時間はかかるだろうけれど、いつかは春が来るはずだろう。
でも、もう少しだけ。この珈琲の、紅茶の、パンケーキの無くなるまで、もう少しだけ。今度は大事な親友との仲直りの方法について、彼らはしばし語り合うのだった。
成功
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イデア・ファンタジア
アートは現実を超えた景色を描き出すけれど、それは現実を否定する為じゃないわ。むしろ現実を彩る為のものよ。
それをいいように利用されるのは、いちアーティストとして我慢ならないわね。
ベンチの絵の前で考えるわ。
萌音ちゃんはかなり魅入られてたけど、今日まで消えることは無かった。条件を満たさなかったから。
美術館じゃ満たすのが難しい条件、そして『額の中へ飛び込むなら』って言葉。
条件は……絵に、触れること。
理想も空想も一時の夢。幕引きの時間よ、オブリビオン。
●回
沈んでいく夕日は空の端を赤と青の狭間の色に染め上げて、オレンジ色の光が南の窓から入り込み、それぞれの夢見た妖精郷を描いた絵画たちを照らし出す。
大きな額に入ったベンチの絵の前、その白い髪を橙色に染めて、青と金の双眸で絵画をイデア・ファンタジア(理想も空想も描き出す・f04404)は見据えていた。
イデアは思う。時に、アートは現実を超えた景色を描き出す。しかしそれは現実を否定する為のものではなく、むしろ現実を彩る為のものであると。
彼女を囲む大小多数の妖精画も、幻想的な風景も、画家たちがこんな場所があったら良いのにと夢を見た証拠。彼らの夢の欠片たちだ。しかし、この絵だけは根本的に違う。どんなに綺麗に描かれていようとも、この絵を描いた画家は夢を見たのではない。彼は人々へ悪夢を見せたかっただけなのだ。それは、黒魔術を崇拝した彼にとっては確かに妖精を見るのにも似た、甘美な夢だったのだろう。
しかし。
(それをいいように利用されるのは、いちアーティストとして我慢ならないわね)
自身もアートを好み、その造詣も深いイデアには、この絵画は決して許し難いものだった。硬い眼差しを投げかけたまま、イデアは七本の絵筆の入った鞄に触れる。
この絵の中から萌音に声をかけていたのだとしても、あそこまで魅入られていたのに、今日まで彼女が消えずにいた理由はなぜか?
この絵を利用していた邪神があえて彼女を見逃していたとも考えられるが、なによりも萌音本人が美術館を訪れなければ、この絵は彼女を中へと引きずり込むことが出来ないからだとも言えるだろう。
それは、これが絵画であるからこその弱点だ。美術館を動けない絵画は、いくら人間を闇へ誘おうと、この美術館以外では何もできない。だからこそ、声は魅入られた人間を待ち構えて、絵の中へ捉えてしまう。だがその実行には、美術館を訪れる数多の人間の中から目当ての人間を区別する為に違う条件も必要なのだ。
その謎を解くヒントは、萌音のあの言葉。
『額の中に飛び込むのなら、あの絵しかない』
腹を空かせた猛獣の前に小動物が近寄っても、そこに硬い檻があれば、猛獣は小動物へは近寄れない。だから知恵の回る猛獣は檻の隙間から、小動物へ甘い声音で囁くのだ。小動物が自分から、檻をすり抜け近寄ってくるように、自分を優しく害の無いものだと偽って。
さあ、おいで、こちらへ、おいで。わたしはけっして、こわくはないよ。
「そう、条件は……この絵に触れること。さあ、もう終わりにしましょうか。理想も空想も一時の夢。幕引きの時間よ、オブリビオン」
ベンチの絵へと、沈んでいく陽の最後の光が投げかけられる。
黄昏色に満ちた展示室。ごぉん、ごぉん、と響く、時間外れの鐘の音。勿論今は外も中も、鐘の鳴る時間ではないことは確認済みだ。
それから部屋の照明の明るさを無視したように、イデアの背後は真っ暗に塗り潰されていく。彼女に見えるのはもう、目の前のベンチだけ。
虚ろに響く鐘の音。伸ばしたイデアの手が、誰もいないベンチに触れる。
ああ、ザンネン。み、つか、っちゃった、な、ァ?
もういいかい、もういいね。もう。もう。もう、きみを──タベテ、イイネ?
カァカァと、どこかで鴉の鳴く声がした。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『牙で喰らうもの』
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POW : 飽き止まぬ無限の暴食
戦闘中に食べた【生物の肉】の量と質に応じて【全身に更なる口が発生し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 貪欲なる顎の新生
自身の身体部位ひとつを【ほぼ巨大な口だけ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : 喰らい呑む悪食
対象のユーベルコードを防御すると、それを【咀嚼して】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●開口
ずるり、イデアの触れたベンチの奥から。
ぬるり、どろり、ぐちゃぐちゃと、聞こえてくるのは何の音。
鼻につく臭気。
生臭い臭い。据えた臭い。どうしたって、忌避してしまうような。
ざわめきが聞こえる。
それも一人二人ではない。何人もの人間が一斉に喋っているような。
耳鳴りがする。鐘の音はもう聞こえないのに、まだ鳴り続けているかのように。
触れた場所から、絵の具がどろりと溶けていく。だらだらと流れ落ちていく絵の具の色は混ざりあって赤黒く、足下へと滲んで、広がって、しかし絨毯には少しも染みはできていない。血溜まりのような絵の具溜まりはだんだん大きくなって、やがてぶつぶつと沸騰しているかのように泡立ち始める。
異質な光景に何かを感じた猟兵たちが絵画の前から飛びのけば。
ベンチの奥の木陰から、音も無く飛び出してきた赤黒い腕が空を掴む。
「ドぉ、し、てぇ? 逃げないで、イイヨ。ここにいれば、もうナニも心配なことなんてないんだ、全部、なにも、ゼンブ! 考えずに済むンダヨ!」
腕を広げて、甲高い声が響く。その声は男のような、女のような、子供のような、老人のような、そのすべてが合わさったような、奇妙な声だ。
「アハハハ!! クウ、喰ウ、喰う、腹がヘッタんだ、きみも!君を!クワセロ!」
ぐらんぐらんと揺れる影。いくつも重なって響く声は一様に、食欲を訴えて。
自分の目の前に現れた獲物を食ってやろうと、身体中に開いた口が、牙を剥く。
勘解由小路・津雲
猟兵たちがさっても、彼女を見守ってくれる存在がいることにきづけたのが、おれの調査の最大の収穫かな。さあ、後はこいつを倒すばかりだ!
■戦闘 【歳殺神招来】を使用、歳殺神の力で古代の戦士の霊を召喚し、戦わせる。ただ、場所柄「炎」は使わない。相手は明らかに近接系、戦士の霊を前衛に出して自分は距離を取ろう。もし仲間の猟兵が近づいて戦うなら、戦士の霊で注意を引くなどしてサポートする。
「霊体を食えるものなら食ってみな! 霞を食うようなものだろうがな」(敵の能力をみるかぎり、本当に食えそうではありますが、一応こう煽っておきます)(アドリブ連携歓迎)
彩瑠・姫桜
心配事を取り払う代わりに食わせろ、だなんて
趣味も悪ければ行儀も悪いのね
今まで何人食べてきたのかは知らないけれど
それも今日でおしまい
あなたの重ねた罪ごと串刺しにしてあげるわ、覚悟なさい!
攻撃直後は隙が生じるかしら
敵の動きを観察し【情報収集】【第六感】であたりをつけるわ
隙が生じるタイミングで【咎力封じ】使用
【拘束ロープ】を最初に放ち
捕縛できたら【手枷】【猿轡】の順で放つわ
特に【手枷】と【猿轡】は対象の手と口の数分使用
流石に複数の手や口を一度に封じるのは厳しいかもしれないけれど
試してみる価値はあると思うから
全て命中しなかったとしても
少しでも動きを止められたら
ドラゴンランス二刀流で【串刺し】にするわね
●酸いも、甘いも、舌の上
ぐる、ぐる、ぐるぐるる。
獣の唸りのような腹の音がする。おぞましい数の口は口々に舌舐めずりをして、じゅるりと何かをすするような水音は聞く者に嫌悪感を催させる。
倒すべき邪神を前に、姫桜は眉をキッと吊り上げ、津雲は霊符を握りしめて。
「はぁ、ア、キミたちもこちらへおいでよ、不安も、ナヤミも、無くシてあげるヨ」
「心配事を取り払う代わりに食わせろ、だなんて。趣味も悪ければ行儀も悪いのね」
幼い少女の声で語りかける異形に、姫桜は付け入る隙など与えないとばかりに切り捨てるが、そう答えることは想定済みだったのだろう。異形はウフフと甘ったるい女性の声で笑って、からかうようにべろりと舌を出す。
「今まで何人食べてきたのかは知らないけれど、それも今日でおしまいよ」
「ああ、その通り! おれ達は、彼女をお前なんかに喰わせない!」
津雲にとって、先ほどの調査で分かったことは邪神を呼び出す条件だけではない。あの老人のように、猟兵たちが去った後も萌音を見守ってくれる存在がいること。それに気付けたことはきっと、彼にとっては最大の収穫ともいえるだろう。
だからこれ以上、彼女を魔の手に渡さないよう。霊符をつきつけ、津雲が行うのは【歳殺神招来】。彼は戦闘用の式神として、古代の戦士の霊を召喚した。
「八将神が一柱、歳殺神の名において、式神、来たれ!」
ガシャ、ガシャ、と音を立てて、美術館のフロアに現れた古の鎧を纏った戦士。長い槍を手に、武人は使役者である津雲の前へ立って戦いの構えを取る。
「ああァ、オソロシい、恐ろしイ、なんと、恐ろしい!」
今度は年老いてしわがれた男の声で、げひゃひゃ、と笑う。ぶるりぶるり、震える体と伸ばされた舌。喰らう者は、全身の口を開いて老若男女の声で笑う。もしかしたらそれは、邪神の喰らってきた過去の犠牲者たちの声なのかもしれない。
耳障りな音を発しながら喰らう者はその両腕を再び持ち上げて、ぐっと膝を深く曲げる。それを見た津雲は武人を前へ出し、代わりに自分は後ろへと下がった。
「逃げるなヨおぉ」
津雲を追いかけるように、曲げた膝のバネを使って邪神は飛び出す。津雲の操る武人が応戦しようと突き出した槍と鋭い爪が噛みあって、キンと鋭く硬い音、鋼のぶつかり合いに火花も散る。他の美術品に被害の無いように、炎による攻撃の選択肢は封じられていたが、それでも武人は喰らう者と互角に打ちあっていた。
ぎりぎりで攻撃をさばいていく武人へ、喰らう者はぐばりとその両腕に開いた口で、武人をまるごと喰らおうとする。
しかし、武人との応酬を観察していた姫桜は、その隙を見逃さない。
相手を丸呑みしようとする口の開ききるその前に、彼女は【咎力封じ】を発動する。開いた口の上から、拘束ロープがぐるぐると巻かれ、喰らう者を閉口させる。
封じられた両腕を振り回しても、ロープはより両腕を締め上げて、自由に動くことを許さない。更に続くように、彼女の投げた手枷がまとめて腕を縛りあげる。
「ひぃ、痛い、イタイ、いたいよ……!」
それでもなお、喰らう者はおどけたような言葉を発する。背中に開いた口から漏れる声は声変わり前の少年のものに似て、しかしその声に悲痛さは微塵も感じられない。そして、背中から飛び出すもう一本の腕。
だがそれさえも、姫桜のロープが飛んで、津雲の武人が叩き伏せて、思わず漏れた舌打ちは、きっと喰らう者も予想外。ぼこぼこと無数に開く口のすべてを塞ぐことは出来なかったが、その動きを抑えるだけの時間は作り出せた。
「あなたの重ねた罪ごと串刺しにしてあげるわ、覚悟なさい!」
両手に構えたドラゴンランス。少し姿勢を低くして、腹に開いた口を目掛け、これがチャンスと姫桜は走る。
津雲は彼女を援護するように、武人を操って拘束された喰らう者の腕をまとめて槍で貫き、突撃へ対応させる時間を喰らうものへ与えさせない。
一撃、二撃、深々と。
腹の口、穿つ二槍を受けてもまだ。
ひぃ、と口に笑みを浮かべて、喰らう者は立っている。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
茜谷・ひびき
……気持ち悪い奴だな、胸糞悪い。
だが食欲を訴えてるのだけは俺と同じだ。
俺が逆にお前を喰らう、お前は二度と何も喰えない。
【ブラッド・ガイスト】を使用して右手を殺戮捕食態に変える。
何で出来てるか分からねぇけど【鎧砕き】の一撃を加えてやれば多少はダメージがあるだろう。
他の仲間との連携を意識して【傷口をえぐる】ことを意識したり【2回攻撃】で連撃を狙ったりもする。
胸糞悪い敵だから【捨て身の一撃】でさっさと倒しちまいたいな。噛まれたら噛み返す。
危険そうな攻撃やヤバそうな雰囲気を【野生の勘】で感じ取って、妙な事はさせないようにも気をつける。
萌音みたいな悩んでる人を今まで食らってきたんだろう。
罰を受ける時だ。
キファ・リドレッタ
ただ静かに大花の蔓を差し向ける。
会って早々悪いけれど、『金枝の罪』を負ってちょうだい。
噛まれるわけにはいかないもの、距離を取って戦いたいのよ。
私食べると言った相手が、こぞって食えずに死んだものだから。
お前の“たべる”を信じていないの。
何でも食べたがるのはおやめ。
毒が入っていたらどうするの、腹を壊すだけでは済まないわ。
砂糖菓子のようにどろりと溶かす『毒』もあるというのに。
暴食のおばかさん。
お前はもう少し、用心をした方が良い。
忠告は、したわ。
聞かぬというなら『罰』は相応に。
ごめんなさい、私、声が出ないの。
必要があったら水で空に綴るわね。
●飽きるほどに食らい、呆れるほどに食らい、
腹に突き立つ二本の槍をぐしゃぼきばりんと、折り、割って、咀嚼する。喰らう者はその身体に生えた牙で腹に開いた穴を覆い、傷を閉じる。
(……気持ち悪い奴だな、胸糞悪い。)
ひびきの表情は変わらない。だが、彼の漆黒の瞳のその奥で燃え盛る苛烈な炎は、彼の怒りを示していた。
「だが、食欲を訴えてるのだけは俺と同じだ。俺が逆にお前を喰らう、お前は二度と何も喰えない。」
右腕に巻いた包帯を解いていけば、ひびきに宿る刻印は彼の血を求めてざわめく。浸透する血液は、力の代償──【殺戮捕食態】と変化したその腕で、ひびきは喰らう者へと突っ込んでいく。
「すいた、スイた、おなか、すいたヨゥ。君も、食べていい?」
明るい少女の声。小さな子ども、そう、まるでキファ・リドレッタ(涯の旅・f12853)のような、無邪気であどけない子どもの声で、喰らう者はひびきに問うた。捨て身で向かってくる彼は、火に自ら飛び込む兎も同じだと、身体中をうごめく口が待ち受けるように大きくあんぐりと開いて、ひびきを食らおうと。
する前に、びしり、びしりと打ち据えられる鞭の音。喰らう者が口腔内に沈んだ眼で目線を向ければ、そこにはただ、大花の蔓を差し向けるキファの姿。
行儀の悪い子供を叱りつけるように、キファの【金枝の罪】が再びしなり、喰らう者の伸ばした舌鋒を払いのけてひびきの接近を支援する。
そして水泡の中に浮かぶ人魚姫、声無き彼女の『声』が、喰らう者の眼に映った。
『何でも食べたがるのはおやめ。毒が入っていたらどうするの、腹を壊すだけでは済まないわ。砂糖菓子のようにどろりと溶かす『毒』もあるというのに』
「毒、毒に舌はしびれる、けれど、次の味がもっとオイしくなるすぱいスだ?」
闊達な男性の声。自分がなにより一番だと、自信に満ちている声。喰らう者にとっては、そういう者の後悔と絶望に染まる心こそ、美味と感じる。どいつも、こいつも、自分だけは思っている!その顔が暗く染まる、噛み砕く!あの興奮!
「何かをきみも抱えてイル、わかるよ、わかる、から、食べてアゲルようぅ」
『暴食のおばかさん。お前はもう少し、用心をした方が良い』
忠告は、したわ。
聞かぬというなら『罰』は相応に。
「っ、余所見しすぎだ、ぜっ!」
言葉の代わりに、飛ぶのは鞭。罪を重ねる者への罰。喰らう者の懐へ飛び込んだひびきもまた、鎧を砕くように、閉じた口に居並ぶ牙を拳で砕く。ぶよぶよとして冷えた豚肉を叩いたような感触に眉をひそめ、胸糞悪いと呟くが、その正確な一撃は喰らう者の身体を確かに揺らした。
「萌音みたいな悩んでる人を今まで食らってきたんだろう。罰を受ける時だ」
たたらを踏んでのけぞる敵の懐に残る、先ほど二槍で貫かれたばかりの傷跡をひびきは視認する。握った右手の拳を肩ごと引いて、傷痕を抉るようにその赤い爪を突き立てる。一度、突き立てた拳引いて、もう一度。
抉られた傷からごぽりと噴き出すタールのように濁った液体は、邪神の血とでも言うのだろうか。流石のひびきも口をへの字に曲げて、貫いたばかりの右手についた液体を払い落とそうと手を振った。
「ナンデ、なんでダ!! 食べさせて、クレよぉう!!」
喰らう者は叫ぶ。口々に叫ぶ。一様に、腹が減ったとざわめいて、血肉を寄越せと大声で求めて、ガキンガキンと、牙を鳴らして大騒ぎ。
そんなクレームの声を聞いて、キファは思う。だって──私を食べると言った相手が、こぞって食えずに死んだものだから。お前の“たべる”を、信じていないの。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
多々羅・赤銅
お迎えどぉも、ありがとさん。さ、終いの時間だ。
抜刀、剣刃一閃、参る。
あーーこうでかいと見切りもクソも無ぇーわ。すなわち仕事はシンプル。斬るのみよ。
先ずは怪我しないように牙を斬りますずんばらり。鎧無視のこの斬撃、有機物の牙くらい斬れずにどうすんだ?あ、二回攻撃で上と下斬っとこな。
食おうとするなら顎を斬りて転がり出る。魚の小骨で死ぬ事もあるんだぜ?私の刀を食って無事でいられる訳ねえべ。
私の血はてめーすら癒すだろうからなあ、傷つかぬよう丁寧に立ち回るのさ。
ははは。素直に獣みてえに貪ってりゃ、私もここまでトサカに来ずに済んだのにな。人間様を誑かしやがって。
赤銅鬼を怒らせたテメエが悪い。死に絶えな。
金剛・燦
・何とも哀れな……もはや骸の海へ還すことのみが救いと見ます。今の私がどこまで及ぶかは分かりませんが、私の全てをかの邪神へとぶつけてみましょう。
・私はこれしかできません。「オーラ防御」で身を固めながらひたすらに前進。【灰燼拳】の間合いに入るまで、我が身が削れても歩みを止めません。間合いに入ったら「誘導弾」「鎧無視攻撃」を加味した一撃を打ち込みます。
相手の方から寄ってくるならしめたもの。相打ち気味に相手の体へ【灰燼拳】を打ち込みましょう。
・次善策としては、私を倒すために振るわれるその腕に【灰燼拳】を合わせれば味方が幾らかでも楽になるでしょうか。
・邪神よ、罪を抱えて骸の海に疾く去るがよい。
●生きる者たちの晩餐
哀れ。足りないと老婆の声で泣く。喰いたいと低い男の声で乞う。
腹からぼこぼことタールのように濁った液体をごぼごぼとこぼして、赤黒い両腕を床につけて、口だけしかない異様な頭部をゆるくもたげて。
「何とも哀れな……もはや骸の海へ還すことのみが救いと見ます。今の私がどこまで及ぶかは分かりませんが、私の全てをかの邪神へとぶつけてみましょう」
法衣を着た金剛石、金剛・燦(守護の巌・f13021)は両手を合わせて、ナム、と拝む。穏やかな顔から一転、その体には隈取りのような赤い文様を、額には目のような聖痕を浮かべて彼は首にかけた大連珠をひきずり掴んで掌へ握った。
「わざわざ額縁の向こうから、お迎えどぉも、ありがとさん。さ、終いの時間だ。」
この場にいるもう一人の聖者。赤銅もまた己の得物を抜刀する。
「抜刀、剣刃一閃、参る……ってなァ。」
燦も赤銅も、特別なことなど何もない。彼ら聖者、己の身ひとつを武器に戦場に立つ。
「お前も、オマエモ、おまえも!」
苛立ちは、ひび割れた声。余裕の無いせっかちそうな声で、喰らう者は腹に開いた傷からごぼごぼと真っ黒い液体を垂れ流しながらわめいている。
傷を癒す為には、血肉がいる。新鮮な血肉、傷をふさげるほどの量。光を分け与える聖者のうち、より柔らかそうなのは赤銅だと、喰らう者は狙いをつけた。バキバキと音を立てて喰らう者の背中から生えた腕の先端に、牙がびっしり生え揃った口がまた開く。
ギギギ、と声にもならない呻きを発して赤銅へと腕が伸ばされる。だが所詮、傷を負った者の悪あがき、大きなだけの体躯では、戦い慣れた者にとっては見切る以前の問題だ。
抜き放たれた白刃は速く鋭く、純粋なまでに冴えた刃でただ敵を斬る。
まずは上に生えた牙を、ざくりと横薙ぎにぶった切る。返す刀で次は下、これまたさっくり、藁束でも刈るかのようにぶった切る。それでもなお喰らいつこうとする口が赤銅を呑みこもうとするのならば、その舌ごと切り裂いて、開いた口の中に見える上顎の肉を裂いてやる。
「私の血はてめーすら癒すだろうがなあ、一欠片だっててめーにやる肉はねえよ」
肉どころか、髪の毛一本、やるものか。どこともしれぬ邪神の目を剣鬼の鋭い目が射貫く。ならばと伸ばされたもう一本の腕は、オーラで身を固め近づいてくる金剛石へと向かう。
あれはただの石に見えても感じる光は本物だった。癒しの力を得る為に、愚かにもこちらへと進む彼に腕が伸ばされる。
燦に出来るのは、思うことだけだ。彼はいつもただじっと、思っていた。目も、耳も、口も、身体も、力も、思っていたから、彼は手にした。だからいくら身を削られても、燦は進み続ける。
何より硬い金剛石を、更に信念の力で固めた燦の肉体だ。邪神がいくら喰らおうと削れるのはその表面、彼の進む意思までは削り取ることは出来ない。削った肉も微々たる癒しにはなるが、やはり噛み砕くには歯が折れる。その間も近づいてくる燦に、喰らう者も浮かべた笑みを取り下げる。
「何故、なぜ、ナゼお前ヲ喰エナイ!」
(私には、これしかできません)
ですが私には、これだけは出来るのです。
「邪神よ、罪を抱えて骸の海に疾く去るがよい!」
金剛石に浮かぶ菩薩の笑みは、転じて修羅の顔となる。ようやく辿り着いた彼の拳の触れる距離。【灰燼拳】を打ち込めば、吹き飛び転がる邪神の身体。絨毯の上に点々と飛び散る黒い液体と、砕かれた金剛石の破片。
技を出せる範囲にまで近づくことは、相打ちの危険性を高めることにもなる。燦に殴られる間際、喰らう者は自身の胸元に新たな顎を作り出して彼の一部に思い切り噛みついていた。
それでもなお、思いの籠った真摯な一撃は邪神の体に深く傷を残す。邪神がいくら立ち上がろうとしても思い通りに動けない。舌を伸ばして痙攣し、鋭い爪を柔らかい絨毯に立ててびくびくと跳ねることしか出来ないでいる。漏れ出る声も、もう誰のものでもない。ただ耳障りなだけの高音だ。
「ははは。素直に獣みてえに貪ってりゃ、私もここまでトサカに来ずに済んだのにな。人間様を誑かしやがって」
半死半生、あがく肉塊にこびりついた眼が最後に見たものは。
「赤銅鬼を怒らせたテメエが悪い。死に絶えな。」
朱い、鬼の、舌。
ざん。
●ご馳走さまでした。
牙喰らう者の肉体はでろりと溶けて消えていく。暗かったはずの展示室も今やすっかり元通り。
窓の外は夕陽も沈んですっかり暗くなってはいたが、館内は照明の白い明るさに包まれて、床にも壁にも、戦いの痕跡は何ひとつ残らず綺麗さっぱり消えていた。
猟兵たちの目前にあったあの絵も、まっさらな状態のキャンパスへと戻ってしまったらしい。額縁の中には森の風景もそこにあったベンチも、なにひとつ残っていなかった。
美術館の人びとはこの絵を見て、また絵が変わってしまったと頭を抱えるのか、それともそういうものとして飾るのか、ここを去る猟兵たちには分からないが、これまでのようにどうにか理由を作るのだろう。
だが、これからはもう失踪する人もいなければ、絵が変わることもない。それだけは確かだった。
美術館の扉を開けて、外へ出る。
冬の冷えた夜の空気はどこか甘く、室内の暖かさに慣れた体を芯から引き締める。
さあ、家へ帰るとしよう。それとも、何か食べていこうか。
空腹抱えて夜の道、歩いて帰る猟兵たち。
見上げた冬の夜空、浮かんでいた月はとても綺麗な満月だった。
成功
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