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青春天使奇譚

#UDCアース

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#UDCアース


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●青春天使奇譚
「ねぇ、知っている? 三年の先輩のこと」
「ほら覚えてる? 二年の彼」
「天使になったって!」
 学園に伝わる八つの噂。
 もう一人が映る鏡。
 誰もいない教室から手を振る誰か。
 舞台袖で蹲ってる彼女。
 天国を探してるひとのこと。
 それからそれから——……。
「神様に選ばれたひとだけが知ってるの」
「そう、天使になるのよ」
 くすくすと笑って、彼らは告げる。あぁ、何もかも狂い果てているのに——。
「なぜ、普通にしていられる? おかしい、あまりにおかしいのに……あぁ、違う、これが当たり前だと思いそうになる」
 この学園は狂っている。
 血を吐くような声で男は告げた。握りしめた十字架に血が滲む。
「副会長が言っていたことも、寮長も……そうか、全てこの為に」
 歩くはずの膝が崩れた。派手に転ける。痛みがあるはずなのにもう分からない。
「あの日、お前を手放した兄を恨め——……」
 腹に受けた銃弾が、命を奪っていく。膝を付けば水音が響いた。
「——」
 名を、呼ぶことさえできない。最後に、せめて、あの子の。お前を。
「連れて、逃げられれば——、この世の果てでも、その、先に——……」
 足音に向けられた瞳は最早何一つ映さず——だが、事切れる前に男が見ていたのは、ただひとり探していた者の姿であったのだろうか。
「安心することだ、悩める君」
 幻覚と共に伸ばされた手を取る。微笑んだ来訪者は、死せる男に銃口を向けた。
「僕は人を愛している。死は唯一の幸福だ。だから一人でも多くの人を死を以て救いたい」
 額に一発。
 血の花が咲いた。

●密使
「皆々様、お集まり頂きありがとうございます」
 深々と一礼をして見せたのは、メイド姿の娘であった。エルザ・ヴェンジェンス(ライカンスロープ・f17139)はゆっくりと視線を上げると、仕事にございます、と告げた。
「ある学園にて、邪神復活の儀式が行われていることが分かりました。既に、少なくは無い被害が出ております」
 ですが、とエルザは一つ言葉を切った。
「学園では多くの人々がそれを『不思議』と思っていません」
 転校という形で姿を見せない者、自宅に戻っている、という理由で姿を見せない者が多くいるというに、誰もがそれを不思議とは思っていないのだ。
「ある程度は、元からあったようです。校則は随分と緩いようですから、いないこともあるだろう、と。件の天使についても、受験前特有のものだろうとか、若しくはよくない薬が出回ったか、だとか。ですが——……」
 学園でも『おかしい』と思われていたようだ。だが、ある時から理事長も調査を辞めてしまったらしい。
「何があったのかと。皆様の無関心については、邪神復活儀式が精神に影響してのことでございます」
 これが、日常である、と。そう思わせるのだ。
 それでも、違和感を感じて調べた者は知らぬ間に転校している。贄とされたか、教団に取り込まれたか。
「邪教集団は学園の何処か復活の儀式を行おうとしています。正確な場所を特定し、儀式を阻止してくださいませ」
 その為に、とエルザは微笑んだ。
「皆々様には、学園に潜入して頂きます。決して、身分を知られることはありませんように」
 復活儀式を行おうとしているところだ、邪教集団も周囲を警戒している。
 邪神を追っていることもばれれば、邪教集団は学園の全てを贄とすることだろう。
「邪教集団の者は、学園内部に侵入し、多くを信徒としております」
 幸い、とエルザは視線を上げる。
「学園内部は、復活儀式の影響で、違和感を感じられなくなっております。少々年齢が言った方が制服を着ても——勿論、大丈夫ですわ」
 決して犯罪にはなりませんわ、とメイドは微笑んだ。
「どうぞ、学生らしく振る舞ってくださいませ。それでは、皆々様。道を繋がせていただきます」
 一礼と共に告げたメイドは猟兵達を見送った。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。
学園潜入系です。

▼各章について
 各章、導入追加後、プレイング受付告知致します。
 プレイング受付期間はマスターページ、告知ツイッターでご案内いたします。

 状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。
 少数採用、複数で絡みありのリプレイの予感です。

 第一章:閉ざされた学園へ
 第二章:詳細は不明。
 第三章:ボス戦。

▼第一章について
・学園に『生徒』として潜入し、儀式場や天使、噂について情報収集を行ってください。

*第一章はPOW、SPD、WIZは参考までに。

*三章までボスとは接触できません。ボス戦は三章のみです。

▼学園について
全寮制男女共学校、ギナジウム
お金を積めば入れてくれる学校、と揶揄されることもある。富裕層の子供が多く、他校で問題があった生徒なども受け入れている。

*潜入の制服は何でもOKです。
邪教復活的謎パワーで違う制服でも受け入れます。
転校生なのか最初からいたのか、立場はご自由にどうぞー。プラス判定はありません。


▼お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。

それでは皆様、御武運を。
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第1章 冒険 『閉ざされた学園へ』

POW   :    生徒や関係者を装って堂々と内部に潜り込む

SPD   :    誰にも気づかれないよう隠密潜入にて捜査

WIZ   :    役人や講師などの専門家のふりをして聞きこみ調査

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●学園と噂
 さる宣教師の縁で学園はひらかれたという。自然溢れる地に建てられた全寮制の男女共学校は、数多の芸術に触れる機会もある——と言われる有名校であった。校舎には絵画も多く飾られ、その高い教育から外国からやってくる生徒も少なくは無い。全寮制ならではの日々を過ごすことができるだろう。
 ——それが、外に語られる学園の姿であった。
「全く、お前達はそろそろ受験なんだぞ」
 学園に伝わるのは八つの噂。
 もう一人が映る鏡。
 誰もいない教室から手を振る誰か。
 舞台袖で蹲っている彼女。
 天国を探してるひと。
 本当は三つしか無かったとか、八つが正解だとか。増えたり、数を戻したりとするのがこの学園に伝わる噂であった。受験シーズンを前に何かと盛り上がるのだ。
「でも、噂は秘密の話なんだから」
「そうそう。生徒会は少し厳しすぎたわ」
「だから寮長も怒ってしまったのよ」
「今はその寮長様もお休みだもの」
 くすくすと笑いあう生徒たちはひどく楽しげであった。
「それに、ねぇ三年の先輩は覚えている?」
「あぁ、二年のあいつもだろう」
「天使になったって」
 囁くように告げて笑う生徒達と、全くと息をつく教師とはまるで、話が通じてはいなかった。——だが、彼らは「それ」を気にしない。
 学園は、邪教の狂気に侵されていた。
 今の彼らは、クラスメイトが急に増えても、転校生が数人紹介されても気にはしない。教室には空席が元々目立ち——数時間すれば「前から一緒だったよね」と笑うのだ。
「それじゃぁ、ホームルームが終わったら掃除だ。前のように変な落書きがあったときは先生にちゃんと知らせるように」
 生徒たちは数多の噂を口にし、天使と歌う。生徒や教師たちから巧く話を聞き、調べる必要があるだろう。
 学園の内部には邪教の信者も入り込んでいる。彼らに見つかることなく、儀式上に関する情報を得なければならない。
 ——さぁ、何から探そうか。

◆―――――――――――――――――――――◆
第1章受付期間
10月25日(日)8時31分〜28日(水)22時

生徒に扮しての、潜入調査となります。
POW、SPD、WIZは参考までに。

◆―――――――――――――――――――――◆
明日川・駒知
先生(f29745)と共に
アドリブ、マスタリング歓迎です。

_

…緊張、ですか。
…いえ、実際しているかもしれません。けれど大丈夫です。…行きましょう。

頭を緩く横に振って、緊張を振り払う様
先生と一緒に学園へ。
…そういえば、トモちゃん先生っていつもどこのクラスにいるのかしら。
気付けばいつも隣にいるのだけれど…

_

先生が生徒たちから情報収集をしている間
私は学園の中を探索

「ねえ、」
私も天使様になりたいの。

そう動機を提示しつつ情報収集
この嘘に充てられて、信憑性の高い情報が出てくれれば上々なのだけれど。
…そもそも『天使になる』条件は何かしら。
思考と同時に八つの噂がまつわる場所へ出向き
丁寧に調査


七・トモ
マドンナ(f29614)と一緒に潜入さ
いやあ、アドリブは大好きだよ

おや、マドンナ。
デートだって言うのに顔色が暗いね、緊張してるの?
若人よ、先生に任せなさい
潜入なんてトモちゃんには朝飯前ってやつだ

何せいつもやってるからねワハハ!

さあ早速堂々と秘密の花園へ、囁きに混ざろう混ざろう

「ねえ、知ってる?」
ほら、魔法の言葉だよ
ほらほら気になるだろうワハハ
トモちゃんたちは特にゴシップが好きそうな女子グループと
最近できたクレープ屋さんやらバレー部のワクワク三角関係とかの合間に
件の「落書き」を「見かけた」って話をしよう

ねえ、知ってる?そうそう、7階の踊り場で、いやあ、でもどの棟だったかなあ
きみたち、知ってる?



●午前××時の問いかけ
 古びた大時計が正面玄関に飾られていた。授業終わりを告げるチャイムとは別に、大時計が告げるのは昼食と部活終わりの時間だという。嘗ては教会のチャイムもあったのだという話は、玄関に飾られた学園の歴史に書かれていた。絵画を以て説明されたそれは、来客と入学したばかりの学生に分かりやすく説明する為なのだろう。
 この学園には、絵画が多い。
 コツン、とひとつ。先に足音を響かせた少女の制服がひらり、と揺れた。
「おや、マドンナ。デートだって言うのに顔色が暗いね、緊張してるの?」
 ぴん、と伸びたその背に七・トモ(七不思議・f29745)は声をかける。ひょい、と前に回り込んで顔を見せれば、二度、三度と小さく瞬いた明日川・駒知(Colorless・f29614)が静かな声を零した。
「……緊張、ですか。……いえ、実際しているかもしれません」
 今回の仕事は潜入捜査だ。
 現役の高校生とはいえ、自分が通っている学校では無い場所に行くのだ。今の学校がある分、違和感は先につく。
「けれど大丈夫です」
 緊張を振り払うように頭を緩く振って、駒知は視線を上げた。
「大丈夫です。……行きましょう」
 生真面目なほど真っ直ぐに、先を見据えた黒の瞳にトモは、先に一歩進んでくるり、と回って笑ってみせる。
「若人よ、先生に任せなさい。潜入なんてトモちゃんには朝飯前ってやつだ」
 トン、と胸にひとつ手を置いて。それっぽいポーズなんてひとつ取って、トモは言った。
「何せいつもやってるからねワハハ!」
 さぁ、いざ踏み入れるは秘密の花園。白く長い廊下には、美しい庭園の絵画が飾られていた。

「……花の絵が多いんでしょうか」
 ――美しいものを見て、心を養うの。
 囁くようにそう、駒知に告げたのは廊下で出会った女子生徒だった。スカートを翻し、笑うように告げた彼女は、またすぐに姿を消した。何があったわけでなく、友人に呼ばれていた姿を思えば掃除当番でもあったのかもしれない。
(「トモちゃん先生と別れて、三階まで来たけど……広い」)
 小さく、息を落とす。縦に長くても困ったが、この学園は横に広い。校舎そのものもそうだが、複数の校舎が繋がって作られているようだった。
「……そういえば、トモちゃん先生っていつもどこのクラスにいるのかしら」
 廊下に教室は見えて七つ。人気の少ない廊下を抜けながら、駒知は思い出したように首を傾げた。
「気付けばいつも隣にいるのだけれど……」
 他のクラスの事を完全に分かっている訳でも無い。何処かで見たような――見てもいないような。気がつけば、ひょい、と覗き込むようにしてやってきては笑みを浮かべるのだ。
「……」
 それが不思議でも無く、当たり前だったな、と思う。やたら多く並んだ教室を見ていたからかもしれない。
「もっと上にも行けそうだけど……」
 何処にでも生徒が入れるというわけでも無いだろう。噂の場所を探すには、それが何処にあるかを調べる必要もある。
(「舞台袖は、舞台のある場所……講堂かしら。鏡があるのは……」)
 単純に考えればトイレとかだろうか。
 学園の噂らしい場所ではある。
 考えながら歩いていれば「あら」とかかる声があった。
「ごきげんよう。誰かを待ってるのかしら?」
 小さく首を傾げたのは長い髪を結った女子生徒だった。教室を見ていたのに気がついたのだろう。訝しんで、というよりは単純に誰か一緒に帰る約束でもしているのかと思っているようだ。
(「警戒されていないなら……」)
 ひとつ、小さく息を吸って「ねえ」と駒知は唇に音を乗せた。
「私も天使様になりたいの」
「――まぁ、天使に!」
 小さく首を傾げていた女子生徒が、ふいに満面の笑みを浮かべた。花の綻ぶようなやわく、甘い笑みと共に手をポン、と打つ。
「えぇ、私もなりたいわ! 幸せなことね」
 幸せなこと、と女子生徒は言った。微笑んだ彼女との会話はそこで途切れ、貴女が天使になれるように祈っているわ、と会話はそこで終わった。一人、二人と学園の中を見て回りながら話をしているうちに知ったのは、多くの生徒が天使になりたい、という言葉を返してくるということだった。具体的な話と言えば――……。
「愛を伝えないと、ってどういう意味かしら」
 キューピッドにでもなれという話か、全く違う意味か。
『楽園からの愛を伝えないと。私達も。一欠片の不幸も無い、幸いを告げるの』
 微笑んで告げた女子生徒の言う『楽園』の意味は何処にあるのか。
「……そもそも『天使になる』条件は何かしら」
 呟きひとつ、眉を寄せれば、ふふ、と笑うような声が耳に届いた。
「貴女も天使になりたいのね。私も、と言った可愛らしい貴女」
「前になった方を知っているのかしら」
「……」
 足音無く、彼女達は現れた。くすくすと笑い合い、ふふ、と微笑み告げる。今まで出会ってきた生徒達とは何かが違う。人のようでいて、人では無い何か。
「貴女も噂になっているの」
「でもすぐに消えてしまう噂かしら」
「どうかしら」
 囁き合う女子生徒達の言う「貴女も」の意味が向かう先は何処か。知らず、握りかけた拳に駒知は息を吸う。トモが情報収集をしていた教室からは離れているが――同じ廊下だ。駆け抜ける手も残ってはいた。

 駒知が『彼女たち』と接触する少し前、トモは教室に残った女子生徒達の話の輪に加わっていた。
「ねえ、知ってる?」
 ――それは魔法の言葉だ。
(「ほらほら気になるだろうワハハ」)
 机にぽん、と手をついて、笑顔と共に告げればゴシップが好きそうな女子たちが目をぱちくりとさせた。
「え、何々?」
「何、どれどれ?」
「最近出来たクレープ屋のことさ! キャラメルブラックチョコレートには裏メニューがあってね……」
 え、嘘。と瞳を瞬かせた女子生徒達に笑みを浮かべながら、トモはくるり、と指を回す。噂好きの少女達は、嘘、ほんとだ! ときらきらと目を輝かせる。トモが、いきなり話の輪に加わったことなど何一つ不思議に思う事無く――もっとも、これは邪神復活儀式の影響の前に、トモがよくしていることでもある。
 ――七・トモは何者であるのか。
 小さな足音は本当に響いていたのか。ふわりと揺れる髪は、窓の外から流れた風に揺れたのか。そんな「何故」は今や話に盛り上がった彼女たちには浮かび上がらない。
「そこで、分かったのさ。これはバレー部のあれは、三角関係だって。あれを見かけたときにね」
「え、何々あれって?」
 興味津々とばかりに身を乗り出してきた生徒に、トモは「落書きさ」と笑みを見せた。
「ねえ、知ってる? そうそう、7階の踊り場で、いやあ、でもどの棟だったかなあ」
 件の落書きを見かけたのだと、盛り上がる話の合間に放り込んだのだ。
「きみたち、知ってる?」
 微笑むようにして告げたトモに、話に盛り上がっていた少女達は、不思議がる様子も無いままに頷いた。
「えぇ。流石にあれはもう有名だものねー。先生も怒ってたし、あれは芸術じゃないーって!」
「そうそう。楽園を目指す芸術じゃないって、もう怒って怒って。すぐ掃除したんだっけ。三階の渡り廊下と、二階のやつ……あと、何処かあったっけかなー」
「無いんじゃない? すぐ消してたし。二階のトイレには絵画あるから余計に早かったもんねぇ掃除。『ここは天国では無かった』っていうあれ!」
 ってことは、ねぇねぇ。バレー部の三角関係って、と盛り上がって帰ろうとする少女たちと和やかに話をしながら――ふと、トモは違和感に気がつく。
(「三階の渡り廊下ならこの先で……」)
 妙な感覚。気配、に近いそれは、自分と似たような存在――否、似て非なる何かが『出た』感覚。
「――マドンナ」
 ぽつりと落とした言葉が、少女達の賑わいに消えた。

 ――明日川・駒知『噂』に接触。 
 ――七・トモ『落書きと芸術』について確認。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鐘馬・エリオ
学校の噂って楽しいよね。
復活阻止はもちろんだけど、天使のお話なんて縁を感じるな。
オラトリオも天使になれるかな。

ボクしばらく休学してて。
休んでる間にすっかり見ない顔が増えちゃった。お昼一緒に良いかな?

お昼休みに情報収集。
天使のワードに聞き耳立てて偵察。
話している集団を見つけたら、コミュ力で話しかけよう。

いま話題になってる話、噂にあった天国を探してるひととは違うの?
ボクは今年卒業だから…それまでに神様に選ばれてみたいなぁ。

そもそも"天使になる"ってなんだ?
天使になる条件とかも聞けたらいいけど。

そろそろ予鈴が鳴るね。お昼、お邪魔してごめんね。


ヨシュカ・グナイゼナウ
転校生として学園に潜入

放課後、80匹は多いからそこから数匹選んだ猫を連れて
人目のある寮の庭あたりで猫と遊んでいましょう
その時少し猫からも話を聞いて

季節外れの転校生に数匹の猫
好奇心に駆られて寄って来る子供はいるはず
そういう子供はきっと、お喋りも好きな筈だから

猫、可愛いですよね。こんにちは、ああ、きみは同じクラスの
寮長さまにご挨拶に伺いたかったのですが、お休みされてるみたいで
ご病気でしょうか?
ね、ね、きみ。先生がさっき仰っていた落書きって何のこと?
そういう変な事って気になっちゃいませんか?
それでなくても、ここには不思議なお話が八つもあるそうですし

ありがとう
ええ、また明日

(アドリブ等歓迎です!)


八上・玖寂
常に隠密行動する必要がないのはいいのですが……
こう、別の意味で落ち着かないですね……。
いつだったかに、回避した事象だったような気もします。
(制服の襟を正しながら)

噂について調べてみましょうか。
八つあるんでしたっけ。どれが関係あってどれがないのやら。
もしくは全て関係あるのか……。
こういった場所には情報通がいるでしょうから、
適当な生徒に【情報収集】して、彼ないし彼女を探します。

ああでも、『噂は秘密』なんでしたっけ。
情報源を特定次第、【影の追跡者の召喚】で追わせて見るのもいいかもしれません。

噂には尾鰭が付くものですが、さて、今回はどうでしょうか。


※絡み・アドリブ大歓迎



●午後××時の天国行き
 制服に袖を通して歩き出せば、白い廊下は足音をよく響かせた。昼休みは、随分と自由がきくらしい。教室間を移動して、仲の良いメンバーで食事をしているのも珍しくは無いのだろう。飽きっぱなしになっていた扉にするり、と入り込んで、鐘馬・エリオ(イディオット・f16068)は賑わう教室に足を踏み入れた。
(「学校の噂って楽しいよね。復活阻止はもちろんだけど、天使のお話なんて縁を感じるな」)
 この背には、羽根がある。
(「オラトリオも天使になれるかな」)
 学園で言われているという『天使になった』という話。エリオの場合は、背の羽根が増えたりするのか——それとも、全く違う何かなのか。
「まずは話を聞いてからだよね」
 小さく笑って、言葉を作る。賑わいの中にひとつ、落とすようにして教室に入れば二度、三度と瞬いた男子生徒と目があった。
「あれ? 見ない顔だよな。……いや、うーんどっかで見たっけ……?」
「ボクしばらく休学してて。休んでる間にすっかり見ない顔が増えちゃった」
 にこりと微笑んでそう言えば、男子生徒は「あぁ」と頷いた。
「やっぱり、そうだったよな。何、もうこっち出てきて良いんだ?」
 そこに、一瞬の違和感を感じた男子生徒の姿はもう無い。儀式の影響下で認識が曖昧になっているのも勿論あるが——説明も良かったのだろう。理由を告げられた赤髪の男子生徒は、それを綺麗に受け入れた。
「うん。お昼一緒に良いかな?」
「おう。座ってけ座ってけ。最近多いしなぁ休学組」
 軽やかに笑って見せた赤髪の男子生徒——アキトは空っぽの机からひとつ、椅子を引いた。
 今日のパンの話も、テレビやゲームの話も今時の学生らしいというのに、それを話す彼らの周りでは空席が目立っていた。一クラスに一人二人、という空席では無い。随分と「いない」のに、誰一人不思議がってはいなかった。
(「全員に何かがあったとしたら、結構なことだけど……」)
 何処までが本当の休学なのか、邪教に巻き込まれてしまったのかは分からない。
「……し、やっぱり、二年の彼もでしょう?」
「そりゃぁ、やっぱり二年にはなるだろ。天使に。でも、一年のがそうかと思ったけどなぁ」
「——」
 ふいに、そんな話が耳に入る。天使という言葉に、エリオはペットボトルを置いた。
「いま話題になってる話、噂にあった天国を探してるひととは違うの?」
 前の席のグループだ。振り返るようにして声を投げれば、女子二人、男子一人のグループは小さく首を傾げた。
「それは、違うわよ。あれは寮長のことだし」
「地元じゃ毎日真面目に礼拝に通ってたーって話だもんな。まぁ、うちの教会は形だけあるだけで、真面目な寮長には合わなかったのかもな」
「あれはどっちかと言えば頑固でしょ。生徒会ともよく言い合いしてたし……まぁ寮の中まで生徒会の言う事聞けってのもちょっとないから良かったけど」
「ま、副会長とは本気で仲悪そうだったけどねー」
「へぇ、そうなんだ」
 適度に相づちをうちながら、エリオは寮長に関する話を頭の中で纏めていた。
(「礼拝に通ってた、まぁ真面目なタイプ。生徒会と関係が悪かったのは、寮と生徒会の力関係の問題で……」)
 実際は、どうだったのだろうか。少なかれど、副会長とは仲は悪かったようだが——それが、儀式に関係することかどうかは分からない。
「ボクは今年卒業だから……それまでに神様に選ばれてみたいなぁ」
 やわく言葉を使い、エリオは金の髪を揺らす。ほう、と落とした息ひとつ、僅か憂いを覗かせれば、えぇ、と生徒達は笑みを見せた。
「私もなりたいわ。でも、それなら余計に寮長や副会長みたいになったら駄目よね」
「楽園からの愛を伝えないとな。一欠片の不幸も無い、幸いを」
 あの人達とは違って、ちゃんと。
 にっこりと笑って女子生徒は言った。
「ここに楽園は無かったなんて、ひどい話よ」
 ——それが、副会長と寮長の共通点か。
 ため息交じりに響く声は、呆れと確かな怒りを乗せて響く。だが、ひどく空虚だ。これが儀式によって歪められた精神か。
「そろそろ予鈴が鳴るね。お昼、お邪魔してごめんね」
 会話を切るようにして、エリオは席を立つ。ちょっと片付けと言ってしまえば、誰かが追ってくる様子も無かった。

 ——放課後ともなれば、寮の敷地にも人の行き来があった。部活が無ければ早く帰ってくる人も居るのだろう。日当たりの良い寮の庭で、ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)は出会ったばかりの猫たちの頭を撫でていた。
「にゃお」
 一声、落とした少年の鳴き声に、とて、とてとてと猫たちが集まってくる。流石に80匹は多いから、と数匹、人なつっこい猫たちと一緒にヨシュカは柔らかな芝生に腰を下ろしていた。
「にゃーお」
「にゃーお?」
 なぞるように言葉を落としたのはヨシュカであったか、人懐っこい白猫であったか。最近、遊んでくれる人が減ってつまらないのだと猫たちは言っていた。
『ご飯はあるけど』
『忘れずに持ってくるけど。折角俺たちが遊んでやろうって言うのに、さっさと帰ってくんだ』
『そんなのばっかくり返してるんだぜ』
 ——と、猫さん達的には、最近の生徒達——基、俺たちが遊んでやっている下僕たちは、反応が悪いらしい。
(「くり返してるのは、儀式の影響で子供達の動きがループしているんでしょうか。猫たちの言っていたこの前まで見てなかった顔が子供であれば……」)
 邪教の教団員は生徒の中に混じっているのか。
 にゃぁん? と考えるヨシュカにすり寄ってきた白猫に小さく頷く。すりすりと頬を寄せて来た猫たちとじゃれ合っていれば、カサリ、とひとつ足音がヨシュカの耳に届いた。
「にゃ」
「あ——……、すみません。驚かせました、よね」
 申し訳なさそうにひとつ、落ちた声に顔を上げる。ヨシュカの頬に落ちた影がひとつ、長身の男子生徒が申し訳なさそうにヨシュカと、ひょいとその背に隠れた白猫を見ていた。
「猫、可愛いですよね。こんにちは、ああ、きみは同じクラスの」
「——あぁ、そうか。そうですね、同じクラスだ。転校生、そういや最近は久しぶりで……ん? そうでも無かった気もするんですけど」
 猫好きの生徒は、そう言って苦笑した。儀式の影響で「認識」にズレが生じているのだろう。にゃぁ? と足にすり寄ってきていた猫に小さくヨシュカは頷く。警戒を解いた猫さん的には少し前に出てやっても構わないぞ、な気分らしい。
「寮長さまにご挨拶に伺いたかったのですが、お休みされてるみたいで。ご病気でしょうか?」
「あぁ、寮長はもう随分と休みなんで。実家の人も、なんかこの国を出てったーって話ですし」
「——国を」
 猫好きな生徒の声が、淡々とした色を見せる。感情をあまり感じさせないそれは、どこか抑え込まれているようでもあった。
(「家族のことまで知っているのは、この子供も心配だったからでしょうか」)
 男子生徒曰く、寮長は生真面目な性格だったのだという。寮の自治にも五月蠅く——結果、生徒会と揉めることもあったとか。
「ま、生徒会とのいざこざは歴代の寮長恒例なんですけどね。サボってる生徒がいると、そりゃ色々やってるんじゃないかって話になるんで」
 どっちがチェックするかどうだとかで、毎回騒ぎにはなっていたのだと、少し懐かしそうに男子生徒は告げた。
「まぁ、信心深いひとだったんで、色々大変そうでしたけど。会えないんじゃないかな」
「——そうでしたか、それではご挨拶はまたの機会に」
 サボっている生徒、というのは授業に出てきていない生徒のことだろう。当初、学生が姿を見せないことに学園側も調査を行ってはいたという。ある時から、それも無くなったらしいが——教師側からの調査と同時に、生徒達もこの事象を調査していたのか。
「ね、ね、きみ。先生がさっき仰っていた落書きって何のこと?」
「あぁ、落書きってあの……」
 眉を寄せて、一度言葉を切った生徒をヨシュカはひたりと見据えて、ゆるく首を傾げて見せた。
「そういう変な事って気になっちゃいませんか? それでなくても、ここには不思議なお話が八つもあるそうですし」
「あ——……、まぁ、確かに。うちの学園って噂好きですからねぇ。誰が何したってのもわりと噂になる方でしたし」
 かぷり、と白猫さんに甘噛みされながらも男子生徒は笑った。
「もう結構前で、最近は見ないですけどね。先生達が落書きっていう『あれ』は。他は芸術だから構わないーって話ですけど」
「そんなに違うんですか?」
 転校生の興味を装うようにして、問いかけたヨシュカに、ふは、と生徒は笑った。
「噂好き系? だったら、噂にされないように気をつけた方が良いですよ。ま、落書きの方はあれですよ「ここは楽園じゃなかった」って奴で。あっちこっちに書かれてたーってやつで」
 学内にだけ書かれていたという落書きは怒った教師によって消されたという。
「すぐに消されたのはやっぱ、トイレとか渡り廊下ですけどね。七不思議だったり、八不思議の話ある場所の近くはすぐ。他の芸術の邪魔になるからーとかで」
 芸術との境目なんて、最初は分からなかったですけど。と生徒は軽く肩を竦めた。
「あれもいきなり増えたけど、やっぱり芸術があるだけで気分変わるからさ。……とそろそろ戻らないと。あんたも、良かったら見ておくと良いよ、芸術は」
「ありがとう。ええ、また明日」
 ひらりと手を振って別れると、ヨシュカは息をついた。この学園には落書きとされるものと、芸術とされるものがあるらしい。
「そして落書きが消されたのが噂のあった場所であれば……」
「意味のある妨害であったのかもしれませんね」
 コツン、と足音は硬く響く。長身の影に、ヨシュカは静かに問うた。
「猫はお好きですか?」
「さて。子供よりは好かれるかも知れませんが……」
 八上・玖寂(遮光・f00033)はそう言って、ひとつ息を落とす。相応の年頃に見える彼に対し、こちらは二十歳を超えての学生服だ。
「……」
 思うところが無い訳では無い。三十路前で良かったと思うべきか。
「噂について調べてみましょうか。八つあるんでしたっけ。どれが関係あってどれがないのやら」
 もしくは、と告げる玖寂の頬に影が落ちる。寮の中庭に気まぐれに吹く風が長い木の陰を生む。
「もしくは全て関係あるのか……」
「——噂がどうして生まれたかもありそうです。さっき、噂にされないようにと言われたので……」
 影の下にある玖寂へと視線を合わせ、ヨシュカは告げた。
 それが、単純に噂好きって話をされないようにね、という程度なのかは分からないが——この学園の噂は増えたり減ったりするという。
「お気を付けて」
「——えぇ」
 にゃーお、と猫にも見送られれば、学生服に身を包んだ玖寂は、つい、と眼鏡をあげて賑やかな校舎内へと向かった。
 放課後と言っても、全寮制であるこの学園では多くの生徒が格好に残っていた。清掃の時間は終わっているようだが——結局、あれこれと話をしたり、遊んだりしているのだ。
(「こうしていると、普通の学生ですが……さて」)
 学内は白を基調に作られている。落書きなどされれば目立つ。単純に考えて、年頃の学生がいる学校にしては目立つ仕様だろう。上から塗り潰せばそれで構わないという意味の白かもしれないが。
「……」
 トン、と響く足音。廊下の鏡に映ったのは学生服姿の自分。横を通り抜ける学生たちが違和感を持っていないのを思えば、潜入は成功しているのだろう。
「常に隠密行動する必要がないのはいいのですが……こう、別の意味で落ち着かないですね……」
 学生服、だ。
 この年齢で、学生服。
「いつだったかに、回避した事象だったような気もします」
 制服の襟を正しながら玖寂は息をつく。似合うも似合ってないも自分の中では無いのだが——……。
「じゃぁな!」
「——えぇ」
 軽やかに会話する今時の学生さんに紛れ込むのは、それなりにメンタルを使う気はした。勿論、仕事である以上するのだが。
「あれ、そこの……えっと、何処のクラスだったっけ?」
「あぁ。転校してきたばかりなので。見て回っていたんです。……そういえば、さっき聞いたんですが八つ噂があるとか」
 確か、学校の……と敢えて緩めた言葉の先、あぁ、と生徒の方が先に手を打った。
「学園に伝わる八つの噂ね。……あれ、まだ八つだったかなぁ……、減ったり増えたりするし……」
 詳しいのはうちじゃないんだよね、と女子生徒は言った。
「二年の方が詳しいよ。でも、すぐに教えてくれるかはなぁ……」
「あぁ『噂は秘密』なんでしたっけ」
「そうそう! 神様に選ばれたひとだけが知ってるのさ。八つの噂も、天使になることもね。だから——……、ってあれ?」
「……」
 会話が、終わるより先に玖寂は賑わいの中に身を隠す。丁度教室から出てきた生徒たちの波に紛れ、曲がり角の近くで靴紐を結ぶようにしゃがむ。一度こちらの姿を見失った生徒は、すぐに興味を失ったように他の生徒と話を始めていた。
「会話をする分は問題なし、ですか。無理に込み入ったことを聞けば怪しまれそうですが……。まずは二年の教室か」
 秘密、という以上、単純に話をしたところで噂話をただされるだけだろう。放課後の教室に残り、賑やかに話をしている女子生徒の一人を玖寂は影の追跡者に追わせる。
「噂には尾鰭が付くものですが、さて、今回はどうでしょうか」
 そうして、玖寂が掴んだ噂好きの女子生徒の行き先は「噂の場所」であった。渡り廊下から教室を眺め、講堂の舞台袖とまで行って——ふと、玖寂は気がつく。
「全ての場所に絵画が飾られていますね。それにこれは——……」
 巡回だ、と思う。
 鏡や窓を見る仕草は年頃というよりは、周囲を警戒するそれだ。壁を確認するように触れる彼女へと視線を向けるその前に——ふと、違和感に気がつく。
「貴方も噂を探してるの?」
「それとも、噂になりたいの?」
「——」
 振り返った先に聞こえた声。さっきまであった学内の賑やかさとはまるで違うそれは——その生徒達は、ぬるり、と窓硝子に映った生徒から這い出てきた。

 ——鐘馬・エリオ『寮長と生徒会』『楽園からの愛』について情報を取得。
 ——ヨシュカ・グナイゼナウ『寮長と生徒会』『落書きと芸術』について情報を取得。
 ——八上・玖寂『学園の噂』について情報を取得。『噂』に接触。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザハール・ルゥナー
そもそも生徒役は難しい?
もし疑われたら、18歳+αと名乗ろう。
今では健康だが病がちで留年していたという設定だ。
最後は笑って誤魔化せば何とかなると少尉もいっていた。

落書きが気になるな。
先生、前は何処に落書きがありましたかと、教師に問う。
気味の悪いものがあると受験に集中できないので、確り消しておきたいのですとでも。

情報が得られても得られなくても、落書きがあった場所を探しにいく。
複数あるなら辿って行こう。

あちこちで聞こえる天使の話でふと思う。
校内に宗教画などないのだろうか。
そういったものを探せば、近辺で面白い話が聞けるのではないか?

いずれにせよ。
無辜なる学生諸君をこの空気から早く解き放ってやらねば。



●午後××時、密使は告げる
 長く真っ直ぐな廊下が学内に続いていた。この学園はどうやら横に長い作りをしているらしい。全寮制となれば、相応の期待をして生徒を任せる保護者というのもいるらしい——という話をザハール・ルゥナー(赫月・f14896)が耳にしたのは、渡り廊下を抜けた先で年嵩の教師に出会ったからであった。
「……からして、君はどこのクラスなんだ? 今の時間はホームルームをしているクラスもあるだろう」
「——最近、学園に戻ってきたので。ご挨拶に行っていたんです」
 目の前の教師の話を聞き流し、ザハール・ルゥナー(赫月・f14896)はリボン帯を揺らした。瞳を伏せるようにして、体の調子も良くなったのだとザハールは静かに視線を上げた。
「今年は留年せずに済みそうです、先生」
 口元浮かべた笑みと共に、先に理由を伝えてしまう。
(「最後は笑って誤魔化せば何とかなると少尉もいっていた」)
 それは、自らの持ち主であった人の記憶であり、ザハールからすれば眺め見た経験に近かった。
 あれこれと告げるよりは微笑ひとつで終える。
「そうか……あぁ、そうか」
 笑顔というものは、強いのだ。
「あぁ、大変だったな。そうか、漸くか!」
 笑って誤魔化す手法を知る一人がこの場にいれば、解せぬと眉を寄せるかお説教でも始まりそうではあったが——実際、誤魔化されているのだから、笑って済ますは強いのだ。
「先生、前は何処に落書きがありましたか」
「落書きか?」
 訝しむように眉を寄せた教師にザハールは頷いた。
「気味の悪いものがあると受験に集中できないので、確り消しておきたいのです」
「——うむ、それはそうだろうな、あれを見れば気分が悪くなるのは不思議は無い。『ここは楽園じゃなかった』なんて馬鹿げた落書き、何処の馬鹿が書いたのか……」
 ——それは、走り書きのような文字であったという。スプレー缶で描かれていた文字は『ここは楽園じゃなかった』というそれだけで、男子トイレや渡り廊下、教室に大きく書かれていたという。
「——何の為に、か。教師は見つけ次第消しているという話だが」
 教師との話を終え、足を向けた長い廊下の壁は白く、確かに落書きをすれば目立つような見た目はしていた。文字は白く塗り潰されたのか。
「……」
 どっちだ、とザハールは思う。
 落書きはどっちよりのものだ、と。
『最近はもう無いが、お前も見つけたらすぐに先生に知らせるんだぞ』
 邪神の影響下にある教師の話が、そうである以上、復活儀式を妨害するようなものであったのか——だが、仮にそうだとしてどうして妨害になり得るのか。
「後は二階と三階の教室か」
 男子トイレは二年の場所だというし、先に上階からクリアリングしても良いだろう。
「ふむ、小綺麗な学校ではあるな」
 男子トイレにもかかった絵画は、良く聞く情操教育の為か。
 道中、すれ違った生徒達を躱し、賑わいの中を抜ける。ホームルームも終わったのだろう。廊下に生徒が増えていけば、聞こえる話も増えてくる。部活に、街で新しくできたスイーツに合わせて——天使の話が耳に付いた。
「天使、か……。校内に宗教画などないのだろうか」
 そういえば、あの時男子トイレで見た絵は宗教画に近かったかもしれない。他には、と階段を上がった先、辿りついたのは三年の教室がある場所であった。
「早速、宗教画があったか」
 それは、廊下にひとつ大きくかけられていた。天から舞い降りる天使たちは、淡い光を大地へと届けるようであった。
「楽園からの愛を伝えないと」
「えぇ、私達も。一欠片の不幸も無い、幸いを告げるの。神様から聞いたわ……ふふ、あぁこの絵を見ていると気分が良いの」
「——あぁ、私も天使になりたいわ。愛を伝えるものに……!」
 宗教画の前では、生徒達が天使の話で盛り上がっていた。——否、あれは盛り上がるというよりは。
(「熱狂や崇拝か」)
 愛を伝えるもの。
 神様から聞いた。——彼女たちの言う神様は何なのか。
「落書きのあった教室の前、か。それにこの宗教画は……」
 他の、落書きがあった場所や廊下で見た絵と似ている。色だろうか、それとも同じモチーフだからか。
「いや、これは……繋がってるのか?」
 上層階に天から舞い降りてきた天使たちを。下の階では光を届ける様を。ひとつの大きな絵の一部のように見えた。
「復活儀式のための道具か……」
 ならば落書きは、妨害側のものであったか。
 視線を逸らし、或いはこの異常な状況に気がつかせる為のものか——ただ、必死な誰かの叫びであったか。
「いずれにせよ。無辜なる学生諸君をこの空気から早く解き放ってやらねば」
 近づいてきた足音にザハールは階段を降りる。踊り場に差し込む光がゆっくりと夕焼けに染まろうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マオ・ブロークン
……青春。せいしゅん……うらやま、しい。
あたし、には、もう、無いから。
学校、の、なか。みんな、楽しそう、生者、ばかり、で……
すこし、恨めしく、なっちゃう。

……不思議な、噂が、たってる……現場を。探します。
残って、いない、かな……無念、の、気持ち。
……血痕、とか、ダイイング、メッセージと、おなじで、
強い、念は、死んでも……静かに、残る。
……あたし、も。あたしの、身体に、残った、無念、だもの。
分かる、よ。

ねえ、聞かせて……のこった、つよい、気持ち。
あなた、たち、は……ほんとうに、天使、に、なれた。の?
それとも、ほんとう、は……。



●午後××時五九分と一秒の狭間
 ひとりでにカーテンが揺れていた。薄く開いたままの窓が理由だろう。風は心地よいのか、話に花を咲かせる生徒達が窓をしめる雰囲気は無く、とりとめも無い話だけが盛り上がっていた。
「……で、あのクレープ屋に」
「今度の週末、外出許可を取って……」
 普通の——それこそ、高校生や中学生らしい会話だ。放課後の予定に、週末の予定。今日の部活の話と、先輩のこと。誰が誰に気があるとか、可能性があるとか。
「……青春。せいしゅん……うらやま、しい。あたし、には、もう、無いから」
 教室に入る扉を開けることはできなかった。 
 邪教儀式の影響下にある学園であればマオ・ブロークン(涙の海に沈む・f24917)が中に入っても、教室にいるみんなは話しかけて来るかもしれない。まだ帰って無かったの? とか、今日はどうする? とか。よくあるような言葉は——だが、今のマオには遠い。
「学校、の、なか。みんな、楽しそう、生者、ばかり、で……すこし、恨めしく、なっちゃう」
 マオ・ブロークンはゾンビである。
 手酷く振られた記憶を抱え、目覚め彷徨い日々を行く少女は、賑わいの中に混じるよりは少しばかりの恨めしさが動かない心臓を鈍く揺らしていた。
 この学園には八つの噂が伝わっているという。増えたり、減ったりすると言う噂は『もう一人が映る鏡』に『誰もいない教室から手を振る誰か』『舞台袖で蹲ってる彼女』『天国を探してるひとのこと』——とそこまでは分かっていたが、その現場が何処であるかは分からない。鏡がある場所も、教室も沢山ある。
「……舞台袖、は……講堂……?」
 他は、誰かに聞かなければ分からないだろう。闇雲に探しても時間がかかるだけだ。一番可能性の高い講堂へとマオは向かった。
「……広い、所」
 幸い、今日は講堂が使われる予定は無いようだ。舞台袖へと入り込めば、薄暗い其処には照明機材や、パイプ椅子が並べてあった。壁に掛けられた絵画は、薄暗い舞台袖には不釣り合いなほど明るい庭園の絵だ。
「残って、いない、かな……無念、の、気持ち。……血痕、とか、ダイイング、メッセージと、おなじで、強い、念は、死んでも……静かに、残る」
 ぽつ、ぽつと言葉を紡ぎ、ゆらり、とマオは身を揺らした。
「強い、念は、死んでも……静かに、残る。……あたし、も。あたしの、身体に、残った、無念、だもの」
 瞳を伏せる。音を辿る。
 この世界の死者の念と触れあうようにしてマオはその身をオブリビオンへと変えていく。
「……あたし、も、きっと、同じ……あの日……過去、で、止まった、まま……」
 ざわめきが耳に届く。歓喜に満ちた声。甘く蕩けるような声が、愛を歌う。
『愛を届けるの』
『私達は愛を届けるの。楽園からの愛を伝えないと。一欠片の不幸も無い、幸いを告げるのよ!』
 くすくすと笑い合うそこには、分かりやすい無念は無い。ただ甘く蕩けるような声が響き——だが、その奥底に僅かに揺れるものをマオは感じる。
「ねえ、聞かせて……のこった、つよい、気持ち。あなた、たち、は……ほんとうに、天使、に、なれた。の?」
 それとも、ほんとう、は……。
 その先を紡ぐ前に、あぁ、と声が届く。マオの裡へと届く以上、それは彼女達が『死者』である証。この舞台袖にあった何かの結末。
『——あぁ、どうして、どうしてどうしてどうしてどうして。どうして疑問に思ってしまったの? 神父様のお話を聞いてしまったの? あぁ、これじゃぁ楽園に行けない。神様に選んでいただけない……私、天使になりたいのに』
 そこにあったのは恐怖だ。何かに気がついてしまった恐怖——否、理性を取り戻してしまったが故に恐怖。
『分からないままで居たかったのに。ここは楽園じゃなかった……みんな、おかしくなってしまっていて——だから、私も』
 みんなと一緒でいたかったのに。
 恐怖と戸惑いに満ちた念が——ふつり、と消える。電気エネルギーの失われていく感覚と共にマオを眠気が襲う。
「貴方も噂を探してるの?」
「それとも、噂になりたいの?」
「……あなた、たちは」
 揺らぐ意識をどうにか引き上げる。真後ろから急に聞こえた声。噂に直面したのでは無い。これは『そういう存在』で無いのは、マオには良く分かる。
「……、何?」
 顔の無い生徒の姿をした『もの』がくすくすと笑っていた。

 ——マオ・ブロークン『舞台袖で蹲ってる彼女』と接触。『噂』に接触。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルキヴァ・レイヴンビーク
ふむ…このスクール全体が最早常識線から足踏み外してマスか
しかし学校の怪談話は七つが相場と聞きマスけど
8thミステリー…後から付け足されマシタか?

ブレザーにネクタイはイングランドでも定番の制服デス
ワタシはハーフの帰国子女
来たばかりの転校生としてお喋り好きな女子学生とボーイミーツガール
顔の良さには自信有りマスし
この学校のコト、教えて下サーイ、と愛想良く

8つの不思議をコンプ…出来マスかね
聞いた話から推測はしマスが
何かしらのヒントはゲット出来るデショウ

エンジェル絡みの話で妙な素振りをした方がいらっしゃれば、そっと後をつけマショウ
人の姿で追って目立つようなら、鴉に変じて外から上空から行き先見張りマスよ



●午後××時、八と七の狭間
 真っ白な廊下には、複数の絵画が飾られていた。芸術が美しい心を育てるのだという長い話はホームルームの度に告げられるもので、話す教師側も半ば飽きているのが現状のようだった。
「……から、今日は先輩いないから楽な感じでさ」
「週末は外出許可取れたら、ホットケーキ食べに行きたいんだよねぇ」
「あー今からだと間に合わなさそうだしね」
 話している内容、そのものは年頃の高校生らしいものだ。賑やかな話の中、だが教室には空いた机が目立ち、いない、という話が多い。
「ミユカも休みだから出かけられないなーって」
「そうね。いつまで休みなのかしら。それで、週末の外出許可なんだけど……」
 休みだということを認識して、いつまでかとは思ってもその先の明確な疑問には行き着かない。辿りつく前に、話をくるり、と戻されているのはループするような教師の話に似ていた。
「ふむ……このスクール全体が最早常識線から足踏み外してマスか」
 ひとつ、ふたつ、教室の中の様子を確認しながらルキヴァ・レイヴンビーク(宵鳴の瑪瑙・f29939)は廊下を行く。ブレザーにネクタイ、イングランドでも定番の制服に身を包んでいた青年は、人波を抜け、時にひらりと手を振って笑ってみせる。
「しかし学校の怪談話は七つが相場と聞きマスけど、8thミステリー……後から付け足されマシタか?」
 ひとつ、付け足されたとすればどれがそれに当たるのか。付け足された理由は何処にあるのか。
「考えるより、感じろデスねー」
 お喋り好きな女子学生とボーイミーツガール。
 トン、と足音高くルキヴァは教室へと足を入れると「あれ、お前……」と、生徒達が話しかけるより先に、にっこりとルキヴァは笑みを見せた。
「帰国子女の転校生デス」
 顔の良さを自覚しているワタリガラスは、きっちりしっかり、可愛い女子にだけ返事をしていた。

「この学校のコト、教えて下サーイ」
「転校生テンション高いしー、まぁ、うん、今は校内案内もできないし」
 愛想良く声をかけた先、僅かに頬を染めた女子生徒に「ハイ」とルキヴァは笑って、指をたてた。
 女子生徒曰く、この学園の校則は元々緩いのだという。厳しいのは寮の方で、学校そのものは自由度が高く、偏差値自体も然程高くは無い。
「まぁ、中にはすごーい頭の良い先輩とかも出てくるんだけどね。生徒会の人たちとか」
「でも、ああ言う先輩たちって疲れやすいからねー、寮長もそうだけど。噂話で遊んでるなーとか言ってさ」
「噂、デスか?」
 驚いたようにひとつ、ルキヴァは瞬いてみせる。
「そ、学園の怪談ね。鏡でしょ、教室から手を振るのに、舞台袖と……、後、昔のはなんだっけ?」
「動く模型も、ドッペルゲンガーじゃない? でも、古いのよね。最近はああいうのじゃないもの」
 眉を寄せた女子生徒に、さっきまでパンケーキで盛り上がっていた友人が息をつく。
「わお、噂にも古いのと新しいのあるデスか」
 ニューアンドオールドデスね? と笑ったルキヴァに、女子生徒は笑みを見せた。
「そうよ。だって噂だもの。最新は、天国をさがしてるひとのやつね」
「詳しいデスね」
 古い噂と新しい噂。
 ルキヴァの想像通り、八つめの噂は足されたものだ。それに——少女は『最近のこと』と八つ目の噂に対して言った。
(「8つの不思議をコンプ……は出来ないかもデスが、噂はただの噂じゃナイかもデスね」)
 一頻り話を聞いて、ルキヴァは廊下へと出ていた。天使についての情報は特に出てこなかったが、噂については大分情報を得ることができた。
『噂好きなの? 転校生。食いつき良いしー、でも噂にならないようにね』
 何より最後にそう言って微笑んだ女子高生の瞳は、確実に笑ってはいなかった。
「噂にならないように、デスか。難しいデスねー」
 目立つことならば少しばかり自信がある——かもしれないが。否、結果的にデンジャラスターンになるだけで、ルキヴァとしては真っ当に仕事をして途中で飽きているのだが。
 噂に新旧があるのであれば、追加された八つ目の他に、減らされた何かもあるのかもしれない。それが本来の学園の噂——邪教とは関係無く、この学園にあったものを塗り潰したのか。
「——そこの熱烈視線もそうデスか」
 教室を出た時から、感じていた視線。クスクスと笑うそれは、さっきまでルキヴァが話していた生徒と似た姿をしていた。
「貴方も噂になっているの」
「でもすぐに消えてしまう噂かしら」
 だが、顔がない。顔にあたる部分を認識させることなく、生徒に似たものはルキヴァに妖しい笑みを見せた。
「どうかしら?」
「さて、どちらでショウカ?」
 
 ——ルキヴァ・レイヴンビーク『噂』について情報を取得。『噂』と接触。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
学校というものに通った事が無いので少々不安ですが
適当な制服に袖を通し、転校生として振る舞います
学校が舞台の本をいくつか読んだので、恐らく大丈夫でしょう

親切そうで話をするのが好きそうな
儀式について何か知っていそうだと、第六感が告げる人に声を掛け
まだ不慣れなので学園を案内して欲しいとお願いします

適当に話を合わせつつ、人気が無い場所で
前の学校では七不思議という噂があったのですが
この学校にも似たような噂があるらしいですね、と話を切り出します

天使になるって、何だか素敵ですよね
だって、天使は穢れの無い存在でしょう?
私も、天使になれたら良いのに

夢を見るような演技をしながら、相手の出方を見ます



●午前××時の微睡み
 天井は思ったより高くは無かった。ただ長く続く廊下に、行事の掲示や部活の勧誘が目立つ。
「大会に向けて部員を……。同好会、というのもあるんですね」
 物珍しげにティア・レインフィール(誓銀の乙女・f01661)は廊下を見渡した。学校というものには通ったことが無いのだ。
(「少々不安ですが、学校が舞台の本をいくつか読んだので、恐らく大丈夫でしょう」)
 袖を通した制服はリボンタイに、長めのスカート。ワンピース型の制服は、この学園が創立の際に縁があったという宣教師が理由であろう。邪教に目を付けられることも無く、ただの学園であった頃の名残に僅か瞳を伏せ、ティアは「どうかした?」と振り返った人にゆるり、と首を振った。
「いいえ。珍しいものが沢山あると思いまして」
 儀式について何か知ってそうな人が分かれば良かったのだが——やはり、それらしい人を見つける事は出来なかった。
 学園は邪教の影響下にある。
 それを思えば、不思議も無かった。
 例え、今の学園に疑問を感じたとしても「普通」と置き換えられてしまっているのだ。話を聞いていく中でも、何らかの情報を得ることはできるだろう。彼らの中でそれが置き換えられてしまっているとしても——こちらは、ここの学園に起きようとしていることを知っているのだから。
「そう? まぁ、うちみたいな全寮制の学校って珍しいのかもしれないか。やたら絵を飾って芸術を学べーって五月蠅いしね」
 ミレッタ、と名乗った三年の生徒はそう言って笑って見せた。
 不慣れだと告げたティアに、転校生ならと彼女が最初に教えてくれたのが教室の位置と職員室の場所であった。後は自販機に、食堂までの近道でしょ、と告げる言葉は、年頃の少女らしいものだ。
「食堂の他に、カフェも……」
「そ。カフェの方が人気かなー。パンケーキとパングラタン。でもお腹が空いてるなら食堂かも」
「ふふ、そうですね」
 柔らにひとつ笑って、階段を降りていく。時間帯の関係か、食堂には人の姿は無かった。
「前の学校では七不思議という噂があったのですが、この学校にも似たような噂があるらしいですね」
 人気が無いのを確認して、ティアは視線を上げた。思い出したような口ぶりに、あぁ、とミレッタが手を打つ。
「あるある。まぁ、うちの場合は……鏡のでしょ、誰もいない教室に誰かいて、でもって舞台袖の彼女に、ドッペルゲンガーでしょ。で、科学室の動く模型と、不思議な未来予知に……」
 指を折るようにして数え、そうそう、とミレッタは笑った。
「天国を探してる人で、今は八つだね。そっか、忘れてた。セオリーは七不思議って言うんだよねぇ」
「はい。前にいた学校では」
 微笑んで頷きながら、ティアは小さく息を吸う。天使の話が、噂に数えられていないのだ。
(「天使になる、というのは噂とは別のものでしょうか……? それに、今は八つとは……」)
 この学園では噂は増減する、という話だった。それ自体は何も不思議では無い。そういうこともあり得る。だが、ミレッタは「忘れてた」と言った。
(「何か……あるのかもしれません」)
 警戒を忘れずに、ティアは小さく息を吸う。それに、と柔く開いた唇で夢見がちに告げた。
「天使になるって、何だか素敵ですよね。だって、天使は穢れの無い存在でしょう?」
 ほう、と息をつくようにしてティアは筒下駄。
「私も、天使になれたら良いのに」
 唐突は自覚している。だが、ぱちと瞬いたミレッタに浮かんだ表情は驚きでは無い。
「あぁ……ふふ、そう。貴女も天使になりたいのね。うん、私もなりたいの。それなら、愛を届けなきゃ」
 楽園からの愛を伝えないと。とミレッタは微笑んだ。それまでとはまるで違う笑みで。
「私達も。一欠片の不幸も無い、幸いを告げるの」
 神様からの愛を。
 そう、甘く蕩けるような声で告げた瞬間、くらり、と少女の体が揺れる。
「ふふ、ふふふふ、あははは……」
「ミレッタ様?」
 くらり、と身を揺らし、ふいに少女は駆け出す。待ってください、と言いかけたそこでティアは足を止めた。人気の無い食堂から「何か」が出てくるのを見たのだ。
「貴女も天使になりたいのね。私も、と言った可愛らしい貴女」
「貴女も噂になるかしら」
「でもすぐに消えてしまう噂かしら」
 囁き合う女子生徒たちに、だが顔は無い。顔にあたる場所が「見えない」のだ。明らかに人では無い何かが、食堂の窓硝子から這い出てきていた。

 ——ティア・レインフィール『八不思議』について情報を取得。『噂』に接触。

成功 🔵​🔵​🔴​

マルガリタ・トンプソン
鸙野(f15821)と

海外から留学してきたお嬢様でこっちの学校には不慣れ、ってことで
クラスの皆に学園のことを教えてもらおう

学校には殆ど通えなかったから不慣れなのは事実だし
ふふ、これが制服ってやつかぁ
君に合うサイズがあってよかったね。結構イケてるよ

噂については色んな人から話を聞きたいな
日本の学校には七不思議ってのがあるって聞いたけど、ここにもそういうのあるの?
俺は本当だと思うけど……実際の体験談、聞きたいよねぇ

噂と言えば、生徒会や寮長さん?に何かあったって噂を聞いたけど……
って具合に探りを入れてみる

八つの噂が儀式場に関係してるかもしれない
情報が得られたら噂の現場に行って儀式の痕跡がないか調べよう


鸙野・灰二
マルガリタ(f06257)と

海外から留学してきた子息を装う。
もとより学校での振る舞いに疎い、会話もそう上手く無い身だ
「それらしく」見えるだろう。学園について教えを乞うのに丁度いい。

然し制服ッてのは初めて着るな
お前もよく似合うじゃないかマルガリタ。
どんな学校でも溶け込めそうだ。

噂についてはマルガリタの話に乗る形で探る。
そうだな、否定的な立場で話してみるとしようか。
七不思議なんてのはただのお伽噺だろう。
本当に「見た」奴や「体験した」奴がいる訳じゃアない。そうだろう?

ついでに教室の会話に聞き耳を立て、手がかりの一つでも拾えればいい。

情報が得られたら現場に向かう。
儀式の痕跡がないか調べ、無ければ次だ。



●午後××時の問いかけ
 白く長い廊下が続いていた。全寮制の学園とあってか、放課後になっても生徒の数は多い。少しばかり廊下に増えてきたのはホームルームが漸く終わったクラスもあるのだろう。一階は一年、二階は二年、と学年とクラスが揃えられているようだった。
 ——つまり、学年が上がれば上がるほど遅刻したらやばいのだ。
 そう笑いながら2人に告げたのは、二階の廊下で出会った男子生徒だった。海外から留学してきたと告げたマルガリタ・トンプソン(イン・ユア・ハンド・f06257)に、きょとん、とした後、すぐに彼は「——あぁ、そうだったよな」と笑みを見せて言ったのだ。
『2人とも、来たばっかだから分からないこともあるよな。何でも聞いてくれよ』
 ——と。
「あれが、邪神の影響って奴なのかな」
 まだ残ってるやつもいるから、と彼が教えてくれたのは廊下の奥にある教室だった。廊下の窓が薄く開いている所為か、心地よい風がマルガリタの頬を撫でる。ふわり、と揺れたリボンタイに、笑みを零した。
「ふふ、これが制服ってやつかぁ」
 不慣れなのは演技でも何でも無い。実際、学校には殆ど通えていなかったのだ。生きるために武器を取ってから。
「……」
 ぴん、と手を伸ばせば、袖口を飾るボタンが煌めき、トン、と進めた一歩と共に長めのスカートが揺れる。ワンピース型の制服にはリボンタイが良く似合う。
「然し」
 機嫌良く先を行くマルガリタがくるり、と振り返れば、長身の連れもまた物珍しげに制服を着た己を見ていた。
「制服ッてのは初めて着るな」
 伸ばした袖には揃いのボタン。リボンタイも同じだが——男子の方が少し、細めのリボンだ。ベストに、季節柄ついた上着は長身の鸙野・灰二(宿り我身・f15821)によく似合う。
「君に合うサイズがあってよかったね。結構イケてるよ」
 さらり、と揺れた長い髪は常と変わらないが、制服を着ている、というだけでも普段とは雰囲気が違う。
「お前もよく似合うじゃないかマルガリタ。どんな学校でも溶け込めそうだ」
 笑みを見せたマルガリタに、灰二も笑って告げた。箱入り刀のヤドリガミたる男と、己を『武器』と定義した娘は、廊下を賑わいに紛れるようにして目当ての教室へと入った。
「日本の学校には七不思議ってのがあるって聞いたけど、ここにもそういうのあるの?」
「——そっか、そっちの学校って無いんだっけ。そういうの」
 マルガリタの話に、女子生徒は少しばかり驚いた顔をした。普通に意外だと思ったのだろう。留学生という2人に、楽しげに話しかけてくる姿は年相応に見えた。
 年相応の、平和な世界に生きている生徒達の姿というものに。
「七不思議なんてのはただのお伽噺だろう」
 一つ、息を吐くようにして灰二は口を挟む。呆れ半分、隠さぬままに息をついた。
「本当に「見た」奴や「体験した」奴がいる訳じゃアない。そうだろう?」
「ふっふふふー、教えて上げよう! うちの学園だってしっかりあるんだからね。八不思議だけど」
 もう1人が映る鏡。
 誰もいない教室から手を振る誰か。
 舞台袖で蹲ってる彼女。
「それに、天国を探してるひと! まぁ、古いのはドッペルゲンガーとか、模型動くのとかあるけどねー」
 予言する獣とか、と笑って、女子生徒は友人らしき1人を手招く。
「ユイも噂を見てるよね」
「見てる見てる。ってか、けっこう出会ってるっしょ? みんな。何々? 留学生ちゃん達って噂好きなの? 噂にされないようにねー」
 友人——ユイはお喋り好きらしい。彼女の話によれば。誰もいない教室、は一年の教室だったそうだ。
「放課後、もう帰ろうって思ったら忘れ物しちゃった後輩がいて、で、教室に取りに行くから待ってたんだよねぇ。そしたら教室から誰か手、振ってて。あたし、てっきり後輩が手を振ってるのかと思ったんだけど……実は」
 怪談を語るようにそう言って、ふふ、とチヨは笑った。他にも噂を見たことがあるという生徒が集まって、ちょっとした人だかりが出来る。
「何々? 噂の話?」
「ほら、留学生がうちの八不思議にさ」
「あー、そっか今八つだもんな」
「……」
 ——今、という言葉が少しばかりひっかかる。なら、以前は何であったのか。考えるように眉を寄せた灰二の横、マルガリタも同じだったのか。瞳にだけ僅か思案を乗せた娘は、そういえば、と一歩、踏み込むように身を寄せた。
「噂と言えば、生徒会や寮長さん? に何かあったって噂を聞いたけど……」
「あぁ、噂になってたよねぇ。ミネルヴァ先輩。最初は噂とかで大騒ぎしてるなーっていう、生徒会と寮でやりあってたけど」
「あれは、生徒会がいつも通り寮にやばいの持ち込んで無いかってチェックしに来たからでしょ。寮の中は寮長の管轄だもんねー」
 肩を竦めて見せたのはユイだ。そうなんだ、と話を合わせるように頷いたマルガリタの視線に、灰二は頷くように口を開いた。
「なら、喧嘩でもやらかしたのか?」
「はは。まさか、ミネルヴァ先輩信心深いっていうか、真面目だったしねー。だから、あんな風に噂になったんでしょ。『ここは天国では無かった』って大騒ぎして!」
「——」
 それは、噂にあったものに似ている。
 天国を探しているひと。——探していた人というのは。
(「行方不明だという寮長か。ならば、他の噂も、噂になったという意味は、そのまま『成る』か」)
 その意味は、と灰二が視線を上げた瞬間、パチ、と空間が歪む。感じたのは静電気に似た感覚。何が起きた、と思うより先に何かが『来た』と思う。
「——鸙野」
「あぁ、どうやら出会ったみたいだな」
 噂のものに。
 くすくすと笑い合っていた生徒たちが、姿を消す。笑いながら教室を出て行けば、窓硝子の向こうから、同じような姿をした生徒達が這い出てきた。
「八つの噂は、八つの場所みたいだけど……、逃がしてくれそうも無いね」
 息をつくようにして、マルガリタが視線を上げる。緩やかに頷いた灰二は、凡そ生というものを感じさせない者達を見た。
「噂を真実だと知るこっちが、ある程度は楔になるだろうがな」
 若しくは『あれ』を倒せば。
「貴方も噂になっているの」
「貴女も噂になるの」
「でもすぐに消えてしまう噂かしら」
 だがそこに顔が無い。顔に当たる場所が認識出来ない——この学園に潜む『噂』が今、二人の前に姿を見せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
トモエさん/f02927

ガッコウ、へと潜入するのは二度目なの
制服を纏わうのも久方振りだわ
まあ、トモエさん
よおくお似合いだわ
制服姿も、とてもステキね

このガッコウには八つの噂があるのだそう
もう一人が映る鏡
天国を探すひと
トモエさんは、気になるものがあるかしら

わたしは、そうね
天上にあると云う国
その場所を探しているひとが、気になるわ

あなたへと目配せをして
あなたの語りに合わせて言葉を乗せる

まあ、トモエさんも?
わたしも見逃してしまったの
ふたりとも、とても惜しいことをしてしまったわ
嗚呼、気になってしまうわね

あなたとお芝居の練習をしたことが懐かしい
今回は、お芝居ではなく本心よ
ほんとうに、気にはなっているのよ?


五条・巴
七結(f00421)

僕は制服を着る歳では無くなったからなあ。
ふふ、七結もいつもと違った姿、よく似合ってるよ。

夜空に月がある事が当たり前のように
2人静かに場へ溶け込む

当たり前のように、空いた前後の席へ座り
当たり前のように、噂話をする

どの噂話も確かめたくなっちゃうな

僕は舞台袖で蹲ってる彼女も気になるな。
それに、天国を探してるひとのことも。

近くにいる学園の生徒にもこの会話が聞こえるように

そういえば、先生が言ってた変な落書きって?
僕運悪く見てないんだよね。

うーん、気になるなあ。

ふふ、今のこれも練習でいて、本番のお芝居。
さあ、”クラスメイト”にも舞台に上がってもらおうか。



●午後××時の戯れ——或いは噂の、
 白い廊下には、学内行事が張り出された掲示板の他に、絵画が飾られていた。大小様々の絵画は、どれも明るい色彩のものであった。少しばかり離れた場所に、踊るのが部員の募集であるのはやはり、学園生活らしいものだろうか。
「ガッコウ、へと潜入するのは二度目なの」
 トン、と足を進めればふんわりと長いスカートが揺れた。ワンピース型の制服にはリボンタイがふわり、揺れる。白く、ほっそりとした手を伸ばし、袖を飾る星の釦に蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は笑みを零した。
「制服を纏わうのも久方振りだわ」
「僕は制服を着る歳では無くなったからなあ」
 揺れる髪をそっと抑え、振り返った七結に五条・巴(照らす道の先へ・f02927)は小さく笑った。
「僕は制服を着る歳では無くなったからなあ」
 二一ともなれば、制服からは縁が遠くなる。男子の制服はベストにブレザーだ。リボンタイは同じだが——少し、こちらの方が細めだろうか。星の紋章が刻まれたそれは、卒業時に取り合いになるのだという。
「まあ、トモエさん。よおくお似合いだわ。制服姿も、とてもステキね」
 やわく微笑んだ七結へと追いつく。トン、と傍らに立って、巴は笑みを見せた。
「ふふ、七結もいつもと違った姿、よく似合ってるよ」
 すぐ近くには教室へ入る扉。物珍しげな視線が、すぐに「あぁ、そういえば」と勝手に物語を作り上げ、認識を塗り替えられていくのを見ながら二人は当たり前のように扉を開けた。
「——うちのクラスだったか」
 ぱち、と瞬いた男子生徒の疑問が塗り替えられていく。これが邪教の影響——不思議に思ったそれを、違和感が形を持つより先に『当たり前』のことへと変えていく。
「うん、向こうの掃除も終わった所だから」
「放課後は、どうなさるの? トモエさん」
 夜空に月がある事が当たり前のように、二人は静かに場へと溶け込む。当たり前のように空いた前後の席に座り、放課後の賑わいに笑みを浮かべた。
「このガッコウには八つの噂があるのだそう。もう一人が映る鏡。天国を探すひと」
 机の上に指を滑らせ、七結は囁くように告げて、少しばかり身を前に出す。
「トモエさんは、気になるものがあるかしら」
 ——それは、いきなり始めた会話だった。クラスの生徒達の反応が一拍、遅れる。構わない。これは『場』を作るための会話だ。
「どの噂話も確かめたくなっちゃうな」
 吐息ひとつ零すようにして笑って、巴は椅子に斜めに座ったまま、振り返って彼女を見る。視線を交わし、零した笑みと共に当たり前のように噂話を進めていく。
 ——そう、これは舞台だ。
 言の葉を紡ぎ、仕草で、笑みで、役者というものは空間を塗り替えていく。この身ひとつで、世界を変えるのだ。
「僕は舞台袖で蹲ってる彼女も気になるな」
 振り返って、彼女の机へと肘をつく。ひとつふたつ、こちらを見る生徒たちの視線に気がつきながら巴は噂を思い出しているような姿を演じてみせる。
「それに、天国を探してるひとのことも」
「わたしも、そうね……天上にあると云う国」
 目配せをして、七結は彼の語りに合わせるように言葉をのせた。
「その場所を探しているひとが、気になるわ」
 クラスの視線は、確実に七結達に集まってきていた。
(「あなたとお芝居の練習をしたことが懐かしい。今回は、お芝居ではなく本心よ。ほんとうに、気にはなっているのよ?」)
 学園に伝わる不思議な八つの噂。
 其れが、何処から来て何処に行こうとしているのか。
「そういえば噂ってさ」
「そっか、今、八だしなぁ……、やっぱ、今、一番のは舞台のだろ?」
「えー、私は鏡のやつだけど」
 七結と巴が紡ぐ噂話に影響されるように、クラスの生徒たちは噂について語り出す。今は八つあるという学園の噂——八不思議。
「そういえば、先生が言ってた変な落書きって?
僕運悪く見てないんだよね」
「まあ、トモエさんも? わたしも見逃してしまったの」
 ぱち、と瞬いて七結は残念そうに息をついて見せた。
「わたしも見逃してしまったの。ふたりとも、とても惜しいことをしてしまったわ」
 ほう、と落とした息には憂いを寄せて。伏せた瞳と共に言の葉を——落とす。
「嗚呼、気になってしまうわね」
 囁くような言葉に、クラスの空気が変わろうとしていた。噂話に花を咲かせていた彼らが、くすくすと笑い出す。常とは違う空気へと変じていく。
(「ふふ、今のこれも練習でいて、本番のお芝居」)
 トントン、と近づいてくる足音に、表情ひとつ変えぬまま——噂話に花を咲かせる二人の顔をしたまま『その時』を巴は待った。
(「さあ、”クラスメイト”にも舞台に上がってもらおうか」)
 トン、と最後の一歩、響くと同時に「それなら」と声がかかった。
「俺が知ってるよ。つか、二人とも噂好きなのな」
「噂にならないようにね、気をつけないと」
 くすくすと笑うようにして一緒にやってきた女子生徒が告げる。
「それに、天国をさがしてる人も落書きも一緒よ。寮長ったら『ここは天国では無かった』って大騒ぎしてたんだから」
「それな。信心深いのは、まぁ良いことなのかもしれないけどさぁ、最初は天使のあれにも、何も言わなかった癖にさ」
「——へぇ、じゃぁ寮長が?」
 敢えて欠けた会話を使って巴は言葉を作る。視線を上げた先、男子生徒は当たり前のように頷いた。
「そうそう、落書きしたんだよ。『ここは天国では無かった』って」
「で、先生めちゃくちゃ怒ってさーもう。噂の場所とかにあったら速攻消してたし」
 数学の野々村とか何も言わずに怒ってさー、と女子生徒は息をつく。噂の場所、と聞こえた言葉に巴は七結へと視線を流した。微笑むようにして、七結は言葉を選ぶ。
「まあ、すぐに消されてしまったのね」
 吐息一つ零すようにして、ひどく残念そうにして見せれば、そりゃぁね、と女子生徒は肩を竦めていった。
「大切な絵画の傍にあんなの描いたんだから。落書きは、見てるだけで気分悪くなるでしょ。芸術は良いよ、見てるだけで気分が良くなるもの」
「愛を伝えられる気がするからな。神様からの——あの方からの愛を」
 ——ふいに、教室の空気が変わる。周りにいた生徒達の姿が歪んでいく。
「トモエさん」
「——うん、飛び込みの役者が来たみたいだね。……或いは、真打ちの登場かな」
 ゆっくりと巴は席を立つ。ゆるり、と視線を巡らせた七結は歪んだ空間を見定める。
「すこし、空間をずらしているのね」
 あちらとこちら。
 そちらとあちら。
 狭間を漂うように、教室の窓硝子に映っていた影が——這い出てくる。
「噂はお好き? 噂はお好き?」
「貴方も噂になっているの」
「貴女も噂になるの」
 さっきまでいたクラスメイト達の姿をした『それ』は笑うように告げる。顔にあたる部分は見えないまま——認識させない何かをつけたまま、笑うように告げた。
「どんな噂になるかしら」
「どんな噂が良いかしら」
 噂になる——は『成る』であったか。
 落書きは復活儀式を邪魔する『もの』となり得たから、消されたのだろう。そして大切と言われた絵画は、儀式の要——この学園にある八つの噂は、八つの核か。
 その真実を知った二人へと、儀式を守る者たちは歌うように告げた。
「ここが楽園になるまで——あと少しなのだから、さぁ、貴方も貴女も、埋もれて?」

 ——蘭・七結『八つの噂』について情報を取得。『落書き』『寮長』について情報を取得。『噂』と接触。
 ——五条・巴『八つの噂』について情報を取得。『落書き』『寮長』について情報を取得。『噂』と接触。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『噂語り』

POW   :    自分ソックリの妖怪『ドッペルゲンガー』の噂
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使ってきた猟兵のコピーを生み出し、操り】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
SPD   :    学校の七不思議『動く模型』の噂
戦闘用の、自身と同じ強さの【動く骨格模型】と【動く人体模型】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    予言をする妖怪『くだん』の噂
対象のユーベルコードに対し【使ってくるユーベルコードを言い当てる言葉】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●天使或いは密使
「——そうか、微睡みから目覚めさせようというのか。困ったものだな、僕は人を愛しているというのに」
 学園の一角、薄闇に背を預けながら長身の男は告げる。憂いを滲ませて落ちた吐息に、学生服に身を包んだ信者達が深々と頭を下げる。
「あの日、楽園は無かったと声を上げた彼等のようにこの地に訪れる救済を拒む、か。
 天使達に愛を届けさえ、楽園に至る道筋をこの地に根付かせていたというのに」
 楽園と愛を紡ぐ男の手にあったのは拳銃であった。血に濡れることも、血を流すことにも慣れきった男は息を落とす。
「彼らもまた、僕の届けた幸福の中で眠っている。——あぁ、うん、そうだな。来訪者達にも愛を届けよう」
 そして噂となってこの地に馴染ませ、その時を迎えよう。儀式の成功を。降臨を。
「僕は人を愛している。死は唯一の幸福だ。だから一人でも多くの人を死を以て救いたい」

●放課後××の囁き
 学園に伝わる八つの噂。
 増えたり減ったりする不思議な噂。増えたのはどれだろう? 減ったのはどれだろう。
「噂はするもの。噂はされるもの」
「ねぇ、貴女噂は好き?」
「ねぇ貴方、噂になる?」
 もう一人が映る鏡。
 誰もいない教室から手を振る誰か。
 舞台袖で蹲ってる彼女。
「そして天国を探しているひと。みんなみんな、誰かのこと」
 くすくすと笑うように『彼女』や『彼』は言う。学園内で見てきた生徒達の姿をして——だが、そこに顔は無かった。
「さぁ何を話そう」
「ねぇこれは知ってる?」
 幾重にも反響し、響く声こそ彼等の証。
 人混みに紛れて噂を喋り、それを聞いた人々に広めるという性質を持つUDC『噂語り』だ。
 囁くように告げ、笑うように話す彼らの広める噂話は虚実入り交じり——やがて、過去に起きた出来事の残滓と結びつく。
 行方不明となっている寮長。ここに楽園は無かったと壁に書き殴った彼は、学園の異常に気がついてしまった。
 舞台袖で蹲っていた彼女は、天使になれると思っていたのに学園の異常に気がついて隠れていた——隠れきれなかった。
 学園に残された噂。天使の名が示すように学園に点在した宗教画。この学園を使い、邪教集団は天へと続く儀式を描き上げようとしていた。
「気がついてしまった貴方」
「知ってしまった貴女」
「けれどけれど、噂になってしまえば大丈夫!」
「だからほら——融けテしマいマしょう? 私達ノ中ニ」
◆―――――――――――――――――――――◆
第2章プレイング受付期間
11月4日(水)〜7日(土)24時

●戦場について
校舎内になります。
生徒達は何処かに姿を消しています。三章でボスの勝利することができれば、被害を負うことはありません。

*戦闘による学園への被害は問題ありません(マイナス判定は特にありません)

●「噂」との接触について
▷1章で「噂」と接触したメンバー
→そのまま戦闘開始。
 一章で収集した噂の情報に応じて、追加の情報収集が可能です。
(特に情報収集しなくても問題ありません。オマケ程度です)

 *二名参加で、片方だけ接触している場合は合流前、後のどちらからでもOKです。

▷1章で「噂」と接触してない場合
 校舎内の遭遇戦です。
 好きな場所でどうぞ。儀式場はまだ発見されていないので指定はできません。

接触の有無における戦闘での有利不利はありません。

*2章ではボスと戦うことができません。3章で接触します。

◆―――――――――――――――――――――◆
八上・玖寂
また姦しい。
天国にも楽園にも天使にも興味はありませんし、
噂になるなど以ての外ですね。
周囲は静かであってほしいものです。

絵画を見たり等、周辺の【情報収集】はしつつ、
『月影も照らさぬ無貌の星』で攻撃しましょう。

……やれやれ。自分と同じ顔……ドッペルゲンガーですか?
生憎なのですが、特に自分を殴ることに抵抗がないので、失礼。

噂も、情報源としては有益ですが
ここまで来ては無用のものですね。


※絡み・アドリブ大歓迎



●斯くして時計の針は止まった
「貴方も噂を探してるの?」
「それとも、噂になりたいの?」
 ——それは、正しく異形であった。ぬるり、と窓硝子から『出て』来たのだ。さっき八上・玖寂(f00033)が横を通り過ぎてきた生徒の姿に似て、あまりに違う。囁き笑う彼らは、人の姿を持ち、人を真似——だが、だからこそ圧倒的の『人』では無い。足元に影一つ残さぬままUDC『噂語り』達はくすくすと笑った。
「みんなみんな噂になってしまえば大丈夫」
「私も貴方も。あの子も貴女もみんな一緒よ」
 それは、歪な誘いに似ていたか。将又、拒否権など存在しない引きずり込むような声音であったか。くすくすと笑いながら、周囲の空間を歪ませていく『噂語り』達を見据えた。
「また姦しい」
 胸元のリボンタイが揺れ——緩めるには向かぬ胸元に息を落とす。吹き込んだ風など無く、ならばこれは『あれ』が起こす歪みが理由だろう。
(「空間を歪ませた……いえ、此処は最初から歪んでいましたか」)
 歪みを歪みとして認知させずにいた「モノ」が対応に動いた、ということだろう。
 舞台袖まで向かった一人を追った先、振り返ったそこにあったのは長く続く廊下だった。学園内部の一角、西洋画らしきものがひとつ飾られていた。
 ——今、この『空間』の中でも。
「……」
 それは空へと手を伸ばす人々の絵であった。両の手を伸ばし、誰もが見上げる先には光の差し込む空があった。ひらり、と落ちる白を思えば天使の描かれた宗教画だろう。
「天国にも楽園にも天使にも興味はありませんし、噂になるなど以ての外ですね」
 息を落とすこと無く、常と変わらぬ様子で玖寂は告げる。絵は不自然に途切れていた。学園内には他に絵画が飾られている場所もあった。全てをあわせ、ひとつの絵となるのだろう。
(「一般的な画材が使われたものか、それとも特殊なものを用いたか……さて、どちらにしても」)
 これは、儀式に使う道具の一つなのだろう。息を一つ落とし、玖寂は足音無く近づいてくるモノ達に視線を合わせた。
「周囲は静かであってほしいものです」
 ぐにゃり、と目の前、空間が歪む気配に玖寂は地を蹴った。身を真横に飛ばす。空間を潰すようにして踏み込んできた噂語りを視界に、ひゅん、と腕を振る。空を切るように滑った暗器が、一振りの刃に変わった。
「さぁ、さぁ! 融けテしマいマ——……」
「追われる方がお好きですか」
 キュ、と廊下が音を鳴らす。絡め取るとは違う、踏み込みによって得た間合いにて玖寂は忍刀を滑らせる。深く、沈めた刃に肉を裂く感覚は無くともパキン、と一つ核を砕いた感覚が変える。ヒュン、と素早く抜き払い、そのまま腕だけを背後に振るう。ギン、と鈍い音と共に受け止めたのは——……。
「——あぁ、腕でしたか」
「——」
 学生服に身を包んだ長身の男。誰でも無かった影が、揺らぎの中で玖寂へと姿を変えていた。
「……やれやれ。自分と同じ顔……ドッペルゲンガーですか?」
「融けてしまいましょう。私達の中に。——さぁ」
 声は似ていたか。
 妙に反響した声と共に、受け止められた拳の代わりに脚が来る。蹴りは——さて、暗器の代わりか。足癖が悪かったでしょうか、と息をひとつ落とし、己と同じ姿をした「もの」に動揺する様子も無いまま、玖寂は息をついた。
「生憎なのですが、特に自分を殴ることに抵抗がないので」
 回し蹴りに軽く身を逸らす。ひゅ、と抜ける風が浅く玖寂の髪を散らし、だが構わず玖寂はドッペルゲンガーへと拳を叩き込んだ。
「失礼」
「——ギャァアアアア!」
 ガウン、と今度こそ重く、叩き込んだ感触が手に返った。
「噂も、情報源としては有益ですがここまで来ては無用のものですね」
 核を砕く感覚と同時に響いたのは、鳥の絶叫に似た声であった。異形の叫び声は空間を震わせ、玖寂を周囲に湧き上がってきていた『噂語り』たちがざわめく。
「噂にしなきゃ」
「噂にならなきゃ」
「もう少しなのだから。ここが楽園になるまで——あと少しなのだから!」
 トン、と地を蹴る足音も無いままに、近づいてくる「モノ」達の姿を見据え、玖寂は忍刀を持ち直す。
「残りも、仕事と行きましょうか」
 楽園に至る気など、無いのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザハール・ルゥナー
サブリミナルとは悪質だな。
今時の思想誘導はもう少し健全であるべきだろうに。

ところで、新しい噂だが。
風が吹くと、模型が勝手に壊れる……という怪談はどうだろう。

刃嵐を使用、模型の速度を超えて本体に迫る。
先に衝撃波を叩き込み牽制しながら、速度を生かし、
廊下などの地形を利用して、壁・天井を蹴り、距離を詰める。

彼らにどんな反撃の準備があるかは謎だが、油断はせず。
模型が即時再召還されても、攻撃を優先。

貴殿らに、そのような知恵を与えたのはどんな人間――存在なのだろうな。
……ただの独り言だ。

救いをくれる神など私は信じていない。
そして、天使は大体……死を告げるものだ。

まあ貴殿らに伝えても詮無いことだが。



●告死の徒
「楽園からの愛を伝えないと」
「えぇ、私達も。……神様から聞いたわ……ふふ、あぁこの絵を見ていると……」
 ついさっき、聞いた話が二度、三度と反響するようにして聞こえていた。否、空間に残っているのか、とザハール・ルゥナー(f14896)は紫の瞳を細めた。階段を降りた先、二階の廊下は不自然なほどの静寂を得ていた。
「ねぇ、噂はお好き?」
「噂になるの?」
 くすくすと笑い合う声。囁き合うようなやわい声だというのにひどくよく耳に届く。だというのに、この場がひどく静かなものにザハールには思えた。
(「――あぁ、足音か」)
 人の姿はあるのに、足音が無い。
 人の姿をしているのに、影が無い。
 生者であれば存在しうる音が彼等には無かった。喉を掻き切ったところで血の一滴も流れないのだろう。
 半透明であるわけでも、陽炎のように揺らいでいるわけでも無いというのに目の前の者達が、生きてはいない、と思う。
「まぁ、さっきまでは賑やかだったからな」
 ふわり、と歪む空間の中、リボンタイが揺れた。風はあるのか、それとも囲むように近づいてくる気配が生んだのか。
「サブリミナルとは悪質だな。今時の思想誘導はもう少し健全であるべきだろうに」
 華やかに告げる手法も、流行に乗る手段もあるだろうに。古式ゆかしいと言うべきか。将又、プロパガンダを始めて用いたのが教会であったのを思えば「らしい」と告げるべきか。
 心の奥、染み込ませるように楽園を告げる。天使は神の愛を伝えるのであったか。安い薬で見せる幻覚よりも甘やかで曖昧なそれは、生徒達から疑う力を奪い従順な――何も考えぬ者へと変えた。
「聞いてしまった貴方」
「知ってしまった貴方」
「どんな噂が良いかしら。どんな噂になるかしら」
 笑い合う声が反響し、一人、また一人と廊下の奥に影が増える。UDC『噂語り』達は増殖し――ふいに、コトン、と音が落ちた。
「――さぁ、紛れましょう」
 次の瞬間、廊下に姿を見せたのは、二つの模型。カタン、と漸く増えた足音。硬く軽い音を響かせながら骨格模型と人体模型は、動いた。
「ふふふふ」
「あはははは!」
 笑う声は、噂語りたちの者か、将又、作り物の骨と肉が笑ったか。
「走るのか、最近の模型は丈夫だな」
 或いは頑丈とでも言うべきか。トン、と廊下を蹴った先、来るスピードは――やはり、早いか。
「ところで、新しい噂だが」
 学生服に身を包んだ腕を軽く振る。いつもであればナイフを持つ腕を、ただ虚空へと伸ばしザハールは口の端に笑みを浮かべた。
「風が吹くと、模型が勝手に壊れる……という怪談はどうだろう」
 告げた次の瞬間、鋼もまた、床を蹴っていた。身を前に、飛ぶように行けばその身に風を纏う。ヒュウウ、と一度だけ、高い音が廊下に響いた。
「アハハハ、ハ――」
 ぐん、と手を伸ばしてきた人体模型が指先から砕け散る。その破片さえ銀糸には触れられぬ。靡く髪に、頬に、影ばかりが落ち、ザハールは触れれば斬れる風を纏い身を飛ばした。
「ふふふふ」
「ヒハ、ハハハハ!」
 それに、向かい来る骨格模型も気がついたか。先にカン、と跳躍が来た。揃えた指先は手刀か。目の端、捉えたそれにザハールは踏み込む速度を変えぬまま、腕を払った。
 ヒュン、と衝撃波が上へと駆けた。
 倒しきるには足らず――だが、突撃は軸線をずらす。真横、抜けていく姿を見送る事も無いままに、次の群れを見据える。壁のように立つのは、どの噂語りが喚んだものか。
「さぁ、混ざりましょう。融け合いましょう」
「生憎、その気は無い」
 踏み込む一歩を大きくして、速度を上げる。トン、と一気に壁を蹴り、ザハールはその身を天井に向けた。軽く身を回せば、足裏は天井を掴む。一気に蹴り出せば模型の波を通り抜け、ざわめく噂語りたちの前に辿りついた。
「貴殿らに、そのような知恵を与えたのはどんな人間――存在なのだろうな」
 噂語りは、噂を語るもの、だ。
 人混みに紛れて噂話を喋り、人々に広めるばかりのUDCたるかれらは、何を以てしてここまで人を喰らうモノとなったのか。
 それは始まりに人があったモノである、ヤドリガミであるからか。ただの独り言に過ぎなかったその言葉は、ザハールの纏う風に切り裂かれた噂語り達に拾われる。
「神様ヨ」
「神様にナりタイヒト」
「血と泥の中デ見つケたものニ魅入られたヒト」
 くすくすと笑い合う噂語り達は、声を揃えるようにして告げた。
「そうシて楽園でミんなヲ救うノ」
「救う、か」
 誘いに似た腕が伸びた。指先が触れるより前に、ザハールの纏う風が切り裂き、背後に迫った模型を衝撃波が砕く。
「救いをくれる神など私は信じていない。そして、天使は大体……死を告げるものだ」
 砕け散った破片が、床に付く前に消える。パキ、と聞こえたのは壁にぶつかった音か。
「まあ貴殿らに伝えても詮無いことだが」
 纏う風は、全てを切り裂き――戦いが終わるまで、ザハールの寿命を静かに削っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
寮長の彼はこの楽園が歪なものだと気づいてしまったから
考えたくはないが邪教集団の手によって、若しくは『八不思議』のひとつとなって──

彼が残した、消されてしまった警告のあるところ
芸術と不思議のあるところ
渡り廊下と言っていましたっけ
全部置いて逃げてしまえばよかったのに
彼の持つ責任感か、それとも

はじめまして、こんにちは
そしてさようなら
わたしは噂にはなりませんが
不思議をこれ以上増やさない為に
正しくない終わりを迎えない為に

きっとその芸術は大切なものなのでしょう
ですからそれごと渡り廊下全てを虫籠のように
【針霜】で穿いてさしあげましょう
何処に逃げようとも関係ない
逃げられやしないのですから


(アドリブ等歓迎です)



●天国に遠く楽園でも無く
 トン、と足音は静かに響いた。長く続く廊下に人影は無く、何処か遠い、とヨシュカ・グナイゼナウ(f10678)は思う。
 誰かが居るようで、居ない。
 足音が聞こえるようで、何も聞こえない。
「……」
 人の居た名残だろうか。——否、似ていても違うような気もする、と思う。薄いカーテンを一枚引いたような違和感。学園の敷地内全てが少しズレているのかもしれない。
「寮長の彼はこの楽園が歪なものだと気づいてしまったから」
 きっかけは何だったのだろう。
 リボンタイを揺らし、ヨシュカは階段を登る。色鮮やかなステンドグラスは、長く学園の生徒達を見守ってきたのだろう。ふわり、と揺れる乳白色の髪に青い影が落ちた。
「考えたくはないが邪教集団の手によって、若しくは『八不思議』のひとつとなって──」
 トン、と最後の階段を上がる。ステンドグラスから届く色彩はもう、足元には届かない。さわさわと髪ばかりが揺れていた。此処には風が吹いている。
「渡り廊下と言っていましたっけ」
 一階で見たのより随分と白い廊下だった。幾つかあった掲示が渡り廊下に近づく程に少なくなっていく。
「……」
 僅かな色の違いを見つけた気がして、ヨシュカは足を止めた。指先で触れる代わりに、ひとつの金の瞳で『其処』を見る。
「全部置いて逃げてしまえばよかったのに」
 彼の持つ責任感か、それとも。
 ぽつり、と落ちた声。吐息ひとつ、零すように紡がれた言葉と共にゆっくりと視線を上げる。近くには宗教画のような絵があった。横に長いそれは、空から天使が降りてくる絵のようだった。だが、絵は不自然に途切れている。
(「地上も、天界もここには無い……」)
 途中だ。まるで此処から先、続くものが何処かにあるかのような作り。それにこの絵だけが、やけにはっきりと見えるような気がしていた。
「これは、そういう造りをしているから。だから、此処に——」
 寮長は書いたのだろう。この絵も、おかしいと気がついてしまったから。
 ここは楽園じゃなかった、と。
「ふふふふ」
「あははははは」
 ふいに、笑い声が響いた。くすくすと囁き合うような声は、足音一つ残さず、気配一つ無くヨシュカの背後に現れた。
「気がついてしまった子」
「見つけてしまった貴方」
 それは学園の生徒の姿をしていた。そう、姿ばかり、だ。顔に当たる部分が認識できない。ひとり、またひとりと宗教画の近くに立つヨシュカを囲むように現れていた。
 ——まるで、この学園から染み出すように。 
 UDC『噂語り』は、くすり、と笑った。
「噂はするもの。噂はされるもの」
「混ざりましょう。融け合いましょう」
「ねぇ貴方、噂になる? この子達みたいに!」
 コトン、と始めてそこで足音がする。硬く、軽い足音。白い骨を見せる骨格模型に、ぎょろりと目玉を動かす人体模型だ。
「ふふ」
「あはははは!」
 零れた笑みは、模型からか。それとも噂語り達のものか。歪み響いた笑い声と共に、模型達が来る。トン、と踏み込みから来るのは——走りだ。
「そう、走りますか」
 真っ直ぐに渡り廊下を駆けてくる模型の手が、宗教画と、ヨシュカを離すようかのように来た。割り込むように突き出された拳が、そのまま払うようにヒュン、と振るわれる。一撃に、トン、とヨシュカは後ろに身を飛ばす。包囲は、まだ完成はしていないが——囲んで、取り込む気なのだろう。
「はじめまして、こんにちは」
 蜂蜜のようにキラ、と輝くヨシュカの瞳が向かい来る模型達を——その奥にいる噂語り達を見据える。
「そしてさようなら」
 風は噂達が駆け抜けるが故であったか。人体模型に続き、軽く地を蹴り上を取ってきた骨格模型の影が足に触れた。
「ふは、ははははは!」
「わたしは噂にはなりませんが。不思議をこれ以上増やさない為に、正しくない終わりを迎えない為に」
 その笑い声に、歪な影にヨシュカは床を蹴った。上から来るのであれば落下地点より前に出る。敵陣深く、模型と噂の間合いに迫るように飛ぶ。身を低め、半ば倒すようにして行き、背を抜けていった影を目の端に収めた——地に手をつく。
「きっとその芸術は大切なものなのでしょう」
 それは別れの挨拶か、ただの告げるだけの言葉であったか。
 人形たる少年の両の指に絡めた鋼糸がキリリ、と音を残し——次の瞬間、全てが止まった。
「ですからそれごと渡り廊下全てを虫籠のように穿いてさしあげましょう」
 駆ける模型達が崩れる。ガシャン、と破砕の音を響かせる事も無いまま消え、その向こうに立っていた噂語り達は不自然に手を伸ばしたまま止まっていた——否、皆、穿たれていたのだ。ヨシュカの鋼糸に。
「何処に逃げようとも関係ない。逃げられやしないのですから」
 全て、この瞳で捉える限りの相手を少年は穿つ。鋼糸の描き出した虫籠に捉えられた噂語り達が一体、また一体と崩れ落ち——やがて、あの宗教画が見えた。
「これは……」
 どろり、と崩れる様は、最早絵では無い。儀式に使われていた何か——核のような硬いものを砕いた感覚は、これが理由か。
「……寮長の言葉、ですか」
 真っ白な壁に、滲むような文字が見えた。宗教画が壊れた事により、見えるようになったのだろう。走り書きには『ここは楽園ではなかった』という文字とあとひとつ。
「……えぇ、気をつけます」
 気をつけろ、とあった文字に、言い残された言葉を知る少年は静かに頷いた。一度伏せた瞳は瞬きの後に世界が色を変えたのを知る。
「——夕焼け」
 昼過ぎの影だけで、時を止めていた学園が緩やかに変化を迎えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルキヴァ・レイヴンビーク
ははっ、噂とは一人歩きするものと申しマスが
まさか手足が生えてお越しになるとは…いやはや

古今東西、噂とは不安定な人々の心に生じる――情勢の鏡映しデス
さて、ユー達はどうなのデショウね?
噂と不安定、どちらが先か…いえ、卵と鶏の様なものか

両手に対の得物構え、振り回して模型達を牽制
「噂になる」の意味デスが――行方知れずの皆様は噂に成った末にどうなさいマシタ?

…そうデスか
いいえ、悲しむ程の善性は生憎持ち合わせておりマセンので
ユー達の無邪気に見せかけた悪意はただただ厄介だな、と
ワタシも噂になれ、と? ジョークはフェイスだけになサイ
UC発動
その中途半端なのっぺらぼう、纏めて全部深き闇で塗り潰して差し上げマスよ



●噂にカタリ
「貴方も噂になっているの」
「でもすぐに消えてしまう噂かしら」
 くすくすと笑う声が廊下に響いていた。学園内の賑やかな気配がひどく遠い。——否、遠く『なった』とルキヴァ・レイヴンビーク(f29939)は思う。囲み取材宜しくやってきた彼等が理由だろう。
「ははっ、噂とは一人歩きするものと申しマスが
まさか手足が生えてお越しになるとは……いやはや」
 息を、落とす。肩を竦めるようにして息をついた男の瞳は、ひたり、と噂の元たるモノを見据えていた。UDC『噂語り』学園内の生徒達に似た姿を持ちながら、そこに顔は無い。顔に当たる場所を認識することができない。
(「まぁ、ユー達の本来のやり口は、フレンドのフェイスでハッピートークをするのデショウが」)
 ハッピートークであるかは、その人次第ではまぁあるのだが。
 噂を「噂だ」と知っている猟兵を相手に、噂語りは顔を維持することは出来なかったのだろう。——もっとも、ワタリガラスの妖魔たるルキヴァの目をそう簡単に誤魔化せるものでもないのだが。
「古今東西、噂とは不安定な人々の心に生じる――情勢の鏡映しデス」
 それは、ワタリガラスの妖魔として人の世を見てきたが故の言葉か。人は思い悩む。心を有するが故に、言葉を持つが故に世界を変革し、揺らし——妖魔であるルキヴァの感覚からすれば、さざ波を立てる。
「さて、ユー達はどうなのデショウね?」
 人を食ったような笑みを消し、ルキヴァは問うた。
「噂と不安定、どちらが先か……いえ、卵と鶏の様なものか」
 学園の噂は後から増えた。
 噂語り達は人混みに紛れて噂話を喋り、それを聞いた人々に広めるものだ。虚実入り交じる噂が過去の残滓と結びつくのであれば——。
「ふふふふ」
「わたし達は話すもの」
「お話するもの。噂はするもの。噂はされるもの」
 さぁ、さぁ。
 くすくすと笑い合って噂語り達は手を伸ばした。
「私達が気になるなら、一緒に融けてしまいましょう」
「噂になってしまえば大丈夫。みんなで遊びましょ!」
 コトン、と其処で漸く音がした。軽く硬い足音を残し、姿を見せたのは二種の模型達だった。
「ふふふふ」
「あははははは」
 人体模型に、骨格模型。零れた笑みは模型からか、噂語り達の告げたものか。二度、三度と異界めいた空間と化した廊下に声を響かせ——模型は、来た。
「これはまた、走りますか」
 しかも、なんかまた早い。
 軽い足音から叩き込まれた加速に、ルキヴァは腕を振るう。指先、虚空を切り裂くようにすれば黒の羽根が舞い、手の中、対となる得物が落ちる。
「あはははは!」
「廊下は走っちゃ駄目デスね」
 ひゅ、と突き出された腕に片鎌槍を振り上げる。軽い音に反して、一撃にある重さは——やはりUDCの喚びだしたものか。息をつくようにして笑い、ルキヴァは——踏み込んだ。
「は——」
「お仕置きデス☆」
 ぐ、と押し返す。跳ね上げる。一瞬、浮いたその身へと片鎌槍を振り回すようにして首を落とす。コトン、と乾いた人体模型の首を飛び越えて、真横から迫る骨格模型へとルキヴァは左手に持った片鎌槍で凪いだ。
「「噂になる」の意味デスが――」
 敵を見据えるより先、空間毎薙ぎ払ったのだ。飛び込むようにしてきた模型が砕け散る。
「行方知れずの皆様は噂に成った末にどうなさいマシタ?」
 落ちる破片を視界に、その奥に立つ噂語り達を見据えた。くすくす、と笑い合う影たちは無邪気に笑みを零した。
「それなら、それなら」
「みンなみンな、幸せにナったソうヨ」
 噂語りは、時に過去に起きた残滓と結びつくもの。喋り、語るUDCである彼等は一定条件下であれば——喋るのだ。
「神様にナりタいヒトが、幸せニしテあゲたイからッテ!」
「みンな今頃、学園の一部。ここを楽園にすル為ニ。死んでシマッタワ」
「ワタシ達と一緒ニ融け合ったノ」
 即ち、噂となった生徒達は、儀式の生贄となった、と。
「……そうデスか。いいえ、悲しむ程の善性は生憎持ち合わせておりマセンので」
 息を、落とす。胸元のネクタイを軽くゆるめ、ルキヴァは口の端を上げた。
「ユー達の無邪気に見せかけた悪意はただただ厄介だな、と」
「ふふふふふ」
「あはははは。大丈夫ヨ、貴方も噂になってしまえば大丈夫!」
 ほら、さぁ、と再び模型達が呼び出された。噂語りの数の分、模型は起き上がってくるのだろう。これは最初の頃の噂か。
「ワタシも噂になれ、と? ジョークはフェイスだけになサイ」
 口の端を上げ、いっそ露悪的に笑うようにしてルキヴァは告げた。
「その邪悪な魂こそワタシの糧。更に深く蝕む闇、受けてみマスか?」
 ——ただ、瞳だけを向けた。
 次の瞬間、模型が崩れる。廊下を駆け抜けたのは闇の波動であった。骨格模型を砕き、力はは噂語り達に届く。
「——ぁ、あ」
 それは、相手の邪悪さに比例して威力を増す力。どれ程の威力で増殖する彼等に届いたか。包囲するほどに居た彼等はふつり、と消え——ふいに、差し込む光が変わったことにルキヴァは気がつく。
「夕暮れデスね。鴉にホームして欲しいようデスが——いえ、こっちが本物のタイムですカ」
 猟兵の誰かが、儀式の核を一つ砕いたのだろう。学園を覆っていた次元の歪みがひとつ、揺り戻され——だが、まだ儀式の土台としての力が強いか。
「何が出ますかネ?」
 ゆるり、とひとつ笑い、ルキヴァは赤く染まる廊下を行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

明日川・駒知
先生(f29745)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

前になった方…?
誰のことを指しているのかしら。

足音なく現れた彼女たちに臆することなく、凛と見つめる。
いいえ、いいえ──私、もう噂は飽き飽きなの。
ごめんなさいね。私、きっと貴女たちには混ざれないわ。

…私の足元を渦中に起きる影の嵐。
闇が形を成すは巨躯の凶犬。緋色の眼は『噂』を見据え、大きな喉から唸り声が聴こえる。
そして私の指示のまま、ヴァレンタインが牙を剥く。災禍が蹂躙する。
トモちゃん先生だけは食べないように、
けれどあとは彼が暴れるがまま。


スカートの裾をそっと指先で摘み、ふわりと微笑んでみせて。

「ごきげんよう」


七・トモ
マドンナ(f29614)と一緒に潜入さ
いつだってアドリブは大好きだよ

「ワハハ、御機嫌よう。」

そうして、さようならだ。

トモちゃんがマドンナの危機に気が付かないはずがないだろう?
うそうそ、探して走っちゃったよワハハ

マドンナに続いて、トモちゃんもご挨拶さ
ほら、鋏で切り刻もう、チョキチョキ

マドンナには騎士がついているからね、
トモちゃんは好き勝手に、どんどん行こう

上履きが床を滑る音って、なんて心地良いんだろう。
自分の噂話が風に乗って、聴こえてきたら最高だろうね。
トモちゃんは、ずっと学校に居たいんだ。
大好きだからね。

でも、きみたちとは、ごめんだ。

トモちゃんの代わりに、この子たちが相手してくれるよ。
ばいばい



●一人と騎士と、味方
「前になった方を知っているのかしら」
「貴女も噂になっているの」
「でもすぐに消えてしまう噂かしら」
 二度、三度と反響して響く声と共に周囲の空間が歪んでいく。白く長い廊下にあった筈の掲示物が消え、ただ真っ白な空間が奥まで続く。こんなに廊下は長かっただろうか。滲むような警戒に明日川・駒知(f29614)は視線を上げる。
「前になった方……? 誰のことを指しているのかしら」
「見つけてしまったあの子」
「知ってしまった彼!」
 返す言葉は木霊のようであったか。学園に潜み、生徒達の中に混ざり、噂を告げる者である『噂語り』達はくすくすと笑うようにして、駒知に告げた。
「噂になった子たち」
「天国を探してるひと。舞台袖で蹲ってる彼女もみんなみんな」
「ワタシ達ト融けアったノ」
 声がふいにノイズがかった。獣の咆吼にも似た、ひどく嫌な感覚の残る声は生徒たちの見目には似合わない。——恐らく、もう誰の真似も出来ていないのだ。
「——サァ、貴女も一緒にナりましょウ」
「——」
 誘いを口にしながらも、ひたひたと迫るのは確かな狂気だった。足音無く現れた彼女達に臆すること無く、駒知は凜と見つめる。
「いいえ、いいえ──私、もう噂は飽き飽きなの。ごめんなさいね。私、きっと貴女たちには混ざれないわ」
 伏せられた瞳は、僅か憂いを帯びていたか。さわさわと少女の髪が揺れる。噂達の出現から起きた風では無い——ただ、足元から僅かに生まれる風。ゆっくりと瞳を開いた駒知は、一人と彼との戦いを覚悟していた黒の瞳が——不意に瞬く。
「——トモちゃん先生」
「ワハハ、御機嫌よう」
 トン、と足音は聞こえたか。駒知の横、包囲するように現れていた噂語りたちの間を縫うようにして七・トモ(f29745)は姿を見せていた。
「そうして、さようならだ」
 告げる言葉は、どれもUDC『噂語り』へと向けたものだ。訪いに驚いたのか、ざわめく彼等に、ふふ、と笑ってトモはひらり、とスカートを揺らすようにして駒知に振り返った。
「やあ、マドンナ」
「……ここだと、どうして分かったんですか」
 それは純粋な疑問だったのだろう。表情の乏しい、静かな駒知の問いにトモは笑みを浮かべた。
「トモちゃんがマドンナの危機に気が付かないはずがないだろう? うそうそ、探して走っちゃったよワハハ」
 コトン、カタン、と廊下に音が増える。随分と軽い、足音だ。二人、視線を向ければ其処にあったのは骨格模型に人体模型。トン、と踏み込む姿は——あれは、走る。
「追いかけっこみたいだね、マドンナ」
「……あまり、走る人体模型と走り回る気は無いですが……」
 ワハハ、と笑うトモの言葉に一つだけ息を落として、駒知は視線を上げた。瞬間、足元を渦中に起きる影の嵐。闇が形を成すのは巨躯の狂犬。
「    」
 咆吼はこの地に響いたか。
 少女の意思によって姿を見せたのは黒霧纏い形成すは漆黒の凶犬。死霊《ヴァレンタイン》だ。
「──往きましょう、ヴァレンタイン」
「グルゥウウウウウ」
 大きな喉から唸り声を残し——ヴァレンタインは駆けた。飛びかかる模型を躱し、壁を蹴るようにして凶犬は爪を落とす。首元、滑らせた爪は床を切り裂き、鋭い牙を剥き出しに緋色の眼が見据える先は——『噂語り』だ。
「トモちゃん先生だけは食べないように」
 告げる少女の意思は輝く。その間が全てヴァレンタインの力となる。味方を攻撃しない、その覚悟が寿命を減らすこととなっても。
「ルォオオオオオオ」
 死霊は吼える。骨格模型を砕き、その破片降り注ぐ中、一気に噂語りへと距離を詰め喉元に食らい付いた。
「——ぁ」
 一声を残し『噂』が一体、崩れ落ちる。模型が砕け——落下音よりも早く、真横の噂へとヴァレンタインは行く。蹂躙する災禍が、模型ごと噂達を切り裂けば——僅か、空気が震えた。
「光が——夕暮れに?」
「おや、何処かで何か変化があったみたいだね」
 鋏で切り刻もう、と、軽やかに踏み込んでいたトモが噂語りに鋒を向ける。
「放課後の時間かな」
「……時間経過が戻ってきたのでしょうか。本来の」
 それなりの時間、学園の中に居た筈なのに影に動きは無かった。考えるように一度眉を寄せ、駒知は戦場へと瞳を向け直す。今は、まず、此処を突破することだ。
「マドンナには騎士がついているからね、トモちゃんは好き勝手に、どんどん行こう」
 さぁ、と笑うように軽やかに、残らぬ足音に小さく笑ってトモは行く。接近に、は、と漸く気がついた噂語り達が、にぃ、と笑う。
「貴女も噂になるの」
「融け合いましょう。混ざり合いましょう。埋もれて、埋もれて?」
 笑い告げる言葉と共に、噂語り達が来た。空間を歪ませるようにして、至近へと。迫る指先が誘うようで取り込むようであるのをトモは分かっていた。
「チョキン、ってね」
 だからこそ、鋏を入れる。
 笑うばかりの影が歪む。七・トモは自分が「何」であるか分かっている。ワハハ、と笑い、構えた鋏と共にくるり、と回る。
「上履きが床を滑る音って、なんて心地良いんだろう。自分の噂話が風に乗って、聴こえてきたら最高だろうね」
 そうして浮かべられた笑みはひどく柔らかで——穏やかなものだった。
「トモちゃんは、ずっと学校に居たいんだ。大好きだからね」
 「ねえ、知ってる?」七さんの呼び方はね。屋上に腐った林檎をお供えするの。
 「ねえ、知ってる?」そう、あなたの正義の味方。七さんの噂だよ
 一度、伏せた瞳をゆっくりと開く。吐息を零すようにしてひとつ、トモは告げた。
「でも、きみたちとは、ごめんだ」
 黒いリボンがひらり、と舞う。鋏によって受けた傷を縁に、触れたリボンなど——そこを基点に現れるものたちのことなど『この学園』の噂たる者たちには『くだん』を使ってもできはしない。
「——ぁ」
「トモちゃんの代わりに、この子たちが相手してくれるよ」
 姿を見せたのは通りがかりの悪霊たち。そう、この地で儀式が行われている以上、縁が結ばれた以上——彼等は、来る。
「ばいばい」
 ひどく黒く、重い闇が駆け抜けた。悪霊たちの上げる声は、空間に残ったか。切り裂かれるようにして噂語り達が砕け、散って行けば——トン、と駆けるマドンナの騎士の姿が見えた。
「ルォオオオオオオ」
 凶犬は吼える。噂語りの喉元に食らい付き、立てた牙が核を砕く。
 サァアアア、と冷えた風が廊下を駆け抜けた。黒い靄のようになって消えていく姿に駒知はスカートの裾をそっと指先で摘まみ、ふわりと微笑んで見せた。
「ごきげんよう」
 誘い混じる噂語り達が——ふつり、と姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
顔の無い……いえ、人ですらないものに対し、驚きで目を見開きつつ
投げかけられた言葉と数が増減する噂の話を繋ぎ合わせ
そこから導き出されたのは、噂は消えてしまった人々の事である事

儀式を行っている者は何処に居るのか
訊いても、答える気は無いのでしょうね
ならばあなた方を倒し、自ら姿を現して頂くまでの事

悲愴の葬送曲を歌い
それが相殺されるのと同時に距離を詰め
破魔と浄化、そして光の属性を込め
鮮血のミセリコルディアで突き刺します
邪なる影ならば、相応の効果がある筈

一つだけ、訂正しておきましょう
私、本当は天使になりたいとは一度も思った事が無いのです
――ただ、人で在りたい
例えこの身に、忌むべき血が流れていても



●誰かの思い、ひとりの望み
「貴女も天使になりたいのね。私も、と言った可愛らしい貴女」
「貴女も噂になるかしら」
「でもすぐに消えてしまう噂かしら」
 気がつけば、がらん、とした食堂に囁く影が増えていた。二度、三度と反響して響く声は、廊下を抜けてきた時に聞いた声に似て——違う。似せようとしたのか、声音を借りたのか。詳細こそ分からないが、理由は分かる。
(「この方たちが、彼女達に紛れ込んでいた……」)
 顔の無い——人ですら無いものにティア・レインフィール(f01661)は藍の瞳を見開く。ひゅ、と息を飲む音だけは響かせなかった。唇は、静かに結ばれたからだ。
 ——貴女「も」と目の前の存在達は告げた。
 UDC『噂語り』は、人混みに紛れて噂話を喋りそれを聞いた人々に広める性質を持つ。虚実入り交じった噂は時に過去に起きた出来事と、その残滓と結びつく——今回は、結びつけたのだ。
 噂は増減する。七とも八とも言われるそれは、増えるだけの理由があったからだ。この学園で紡がれている噂には、必ず誰か人が関わっている。
(「噂は、あの噂たちは、消えてしまった人々の——……」)
 もう一人が鏡に映っていた。
 誰も居ない教室から、誰かが手を振っていた。
 舞台袖で彼女は蹲っていた。
 ——そして、天国をさがしている人がいた。
「——誰もが」
 薄くティアは唇を開く。一体、また一体と姿を見せる噂語り達は足音さえ響かせない。まるで染み出すかのようだ。この学園、そのものから。
「儀式を行っている者は何処に居るのか訊いても、答える気は無いのでしょうね」
 くすくすと笑う声が響く。嘲笑ではない。ただ、囁くように笑う声が誘いを以てティアに届く。
「融けてしまいましょう。貴女も私達の中ニ」
「噂はするもの。されるもの」
「噂はなるもの。なれるもの」
「——噂になれバ、分かるカシラ!」
 笑う声と共に風が抜けた。ひゅうう、と室内には凡そ生まれはしない風に美しい銀色の髪が揺れる。
「……」
 一度、祈るように誓銀の乙女は瞳を伏せる。短いそれは、失われた命へ。この地に起きた異常に気がついてしまった彼等へ。上げられた瞳は——全て、守るために。
「ならばあなた方を倒し、自ら姿を現して頂くまでの事」
 ——ァ、と声を落とす。小さな音を始まりに、静かな声を始まりにティアは歌う。ゆっくりと、続く歌声は葬送の歌となって響いた。
「主よ。願わくば、彼の者の魂に永遠なる安息を――」
 悲愴なる聖歌に、ゆらり、と噂語り達が揺れる。その形を保ちきれぬように一体が崩れ——その後ろ、さっきまで話を聞いていた少女の似姿を得ていた『噂』がぴん、と此方を指さす。
「くだんの噂ヲ知ってル? その力は——『悲愴な聖歌』だネ」
 歌声が、魂の浄化する旋律がふつり、と消える。相殺の気配に、ティアは驚く様子も無く、ただ床を蹴った。噂語り達が出現した時点で空間は歪んでいる。此処はもう普通の食堂ではない。トン、と床を蹴り、一気に行くティアが一度握った指先に光が灯れば——テーブルが、椅子が消えていく。歪んだ世界の中、破魔と浄化を紡ぐ乙女は『噂語り』の前へと辿りついた。
「——ナ」
 短剣が深く『噂』に沈む。キン、と核が解けた感覚が手に返った。そう、これは洗礼が施された短剣だ。いつの日か、その覚悟のために持つ一振り——鮮血のミセリコルディア。
「さ、噂、噂ニ、ナ——……」
 ぐにゃり、と歪むようにして『噂語り』は崩れ落ちる。群れとして、ティアを囲むように姿を見せていた『噂』達がざわめく。残った美しい短剣に、身を逸らす。耐えきれずに崩れ落ちていくのは——彼等が噂として繋がっていたからか。
 邪なる影を払うは、乙女の刃。
「一つだけ、訂正しておきましょう」
 指先に光は残っていた。それは、清らかな月の光に似ていた。破魔の力、浄化の祈り——刀身に一度触れ、ティアはざわめく『噂語り』達を見据える。
「私、本当は天使になりたいとは一度も思った事が無いのです」
 あの時、口にした言葉とは違う想いがこの胸にはある。
「――ただ、人で在りたい」
 例えこの身に、忌むべき血が流れていても。
 藍の瞳に僅か滲ませた情は、ふわり揺れる銀の髪に隠されていた。——月が、まるで慰めるかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
トモエさん/f02927

噂に成ろうと誘い惑わす声がきこえる
この場所の、世界の噂になれるだなんて
なんだか魅力的な響きに感じてしまうわ
喉奥で転がす微笑が溢れてしまいそう
あなたは如何様に感じるかしら

けれども、嗚呼。残念ね
かつてを生きた噂にはなれないわ
わたしも、トモエさんも。いきているもの
誘う声を薙ぎ払って
手招く腕をちょきんと絶ちましょうか

わたしの姿をしたもの
此度で幾度目になるのかしらね
今のわたしは如何なる姿に映るのかしら
喰らってご覧なさい
ただし、喰らえるのならばのお話よ

呼び起こすのは黒鍵の刃
纏わう噂の手を絶ち斬りましょう
あなたの背は任せてちょうだいな
指の一本も触れさせない
あなたを連れていかせないもの


五条・巴
七結(f00421)

僕の噂はもうあるんじゃないかな
ここでも噂に成るなら光栄かもね
ふふ、でも良くないものには成りたくないな
月は、良くないもの、では無いでしょう?

噂になって、永遠をうつろうのもまた一興
けれどこの身ある限りは僕は僕として、在りたいじゃないか

同じ笑み、同じ顔、同じ姿で佇む”僕”は、どこまでも冷たい、鈍い輝きでしか無かった

それは、美しいとは言えないな

思いの外、照準はぶれなかった
目の前にいる僕と、今の僕が違うと感じられるからか
背中に七結がいるからか

大丈夫だよ、七結
僕はここに
向き合う先が違くても、心は並び立って

もうひとりの僕に教えてあげよう
僕という存在を
”朋”



●唇に乗せて、指先に伝え
「噂はお好き? 噂はお好き?」
 薄いカーテンが、一枚掛かったかのようだった、教室であった筈の空間が歪み広がるようにしてそれは姿を見せる。
「貴女も貴方も」
「噂ニなっテしマいマしょう?」
 UDC『噂語り』人混みに紛れ噂話を喋り、それを聞いた人々に広めるもの。
 甘く囁くように『噂』達の声は響いていた。誘うように差し出された手は人のそれだというのに、言の葉を紡ぐ唇が、顔に当たる場所が無い。見せてくれないのね、と蘭・七結(f00421)は、吐息を零す。
「ほんとうの、あなたの顔は」
「演じるための顔かな。誰にでも慣れるんじゃなくて、紛れ込む為の」
 静かに微笑むようにして五条・巴(f02927) は告げた。真っ黒に塗り潰されたような顔は、其処に都合の良い顔を当てはめる為だろう。少なくとも、この学園に於いてはそう『機能』している。
「ここが舞台かな」
 くすり、と小さく笑うようにして巴は視線を上げる。くすくす、くすくす、と木霊を返すようにして噂語り達は笑った。
「融け合いましょウ。混ざりマショ」
「噂ニなってしまえバ大丈夫」
 この学園の噂に。この地に残り、伝わるものに。誘い惑わす声に、ぱち、小さく紫の瞳を瞬かせて、七結は喉奥で微笑を転がした。
「この場所の、世界の噂になれるだなんて、なんだか魅力的な響きに感じてしまうわ」
 クスクスと零れた笑みひとつ、ゆるり、と向けた傍らで視線が合えば、こてり、首を傾げるより先に、小さな笑みが七結に届いた。
「僕の噂はもうあるんじゃないかな。ここでも噂に成るなら光栄かもね」
 長い睫が、僅かに伏せた瞳と共に淡い影を作る。ゆっくりと開かれた瞳は、七結の瞳を受け止めて緩やかに弧を描いていた。ふわり、ふわり、窓の閉じられた——いつの間にか、封じられた空間の中に風が生まれる。リボンタイを揺らし、さわさわと揺れる黒髪をそのままに、ふふ、と巴は笑った。
「ふふ、でも良くないものには成りたくないな」
 机の上、置きっぱなしにされていた雑誌には覚えがあった。表紙を飾っていた自分の姿に小さく巴は笑う。
「月は、良くないもの、では無いでしょう?」
 招来の夢は「お月さま」だ。
 その理由も、意味も、唇に浮かべた笑みに溶かして、ふふ、と巴は唇に指をかけた。
「噂になって、永遠をうつろうのもまた一興。けれどこの身ある限りは僕は僕として、在りたいじゃないか」
 融け合いましょう、と噂語り達は告げる。
 埋もれてしまおう、と噂語り達は誘う。
「全テ、融かしてシまいまショ」
「噂にナッテしまえバ——」
 さぁ、と告げる声が、ひとつ力を持った。一体、また一体と噂語り達が姿を見せる。まるでこの学園そのものから染み出すようにして、増えてきた彼等の誘いに七結は微笑んだ。
「けれども、嗚呼。残念ね。かつてを生きた噂にはなれないわ」
 空間の歪みがあと一つ。踏み込んでくるのか。ふわり揺れた髪をそのままに、白くほっそりとした指先を虚空へと伸ばして七結は告げた。
「わたしも、トモエさんも。いきているもの」
 今を、この時を生きているのだ。
 此処に置いてけぼりにできるものは——無い。
 微笑むように静かに告げて、トン、とひとつ前に出る。
 ——さぁ、舞台に興じよう。
 誘う声を薙ぎ払って。前へ。
「手招く腕をちょきんと絶ちましょうか」
「そうだね、七結。僕らは——……」
 その先が、ふつり、と途切れたのは戸惑いからでは無く、空間の歪みを「見た」からだ。巴の瞳はひとつの影が、七結の瞳にもまた、一つの影が見えていた。
「ふふふふ」
「あはははは」
 笑い合うのは囲む『噂』達。ねぇ知っている、と囁き合う異形は、ひとつ応えを影に与えた。
「ドッペルゲンガーの噂!」
「貴女と同じ姿の子」
「貴方と同じ姿を見たら」
「どうなってしまうか!」
 ぐにゃり、と歪んだ空間から歩き出した『それ』は長く伸びた髪を揺らしていた。コツ、コツと響く足音は己のそれに似て、少し違う。
「わたしの姿をしたもの。此度で幾度目になるのかしらね」
 七結は吐息を零すようにして、視線を上げた。それは『今日の自分』と同じ姿をしていた。くすり、と零れる笑みはひとつだけ。
(「そう、そんな風に映るのね」)
 薄く開いた唇に言葉は無く、微笑を浮かべる自分は誘うように手を差し出して——あぁ、だが、瞳の乗っているのは殺意か。
「ふふふ」
「喰らってご覧なさい」
 歪んだように響いた笑みに七結は告げる。ドッペルゲンガーの踏み込みは足音を残さないか。先に、届いた風にさぁああ、と髪を靡かせながら七結は微笑んだ。
「ただし、喰らえるのならばのお話よ」
 ひら、と踊るように空へと伸ばした手に、訪れたのは黒鍵の刃。両の手で構え、鋒を下げた娘は向かい来る偽物へと視線を合わせた。
「きざんで、納めて」
 ヒュン、と薙ぎ払う一撃を受け止めるようにドッペルゲンガーは腕を前に出した。ギン、と鈍く、重く七結の耳に届いたのは剣戟の音。防御から、こちらの術式を借りたのか。黒鍵の刃があちらの七結にもあった。
「ふふふふ」
「——そう。けれど」
 そう、けれど。ただコピーしてそれで操りきれるものでは無い。ただの一度きり、使う事が出来たそれを、踏み込まれる一撃を七結は散らし。受け止め、刃の一撃を手にした黒鍵の刃に滑らせるようにして跳ね上げる。キン、と高く響く音がひとつ。胴が開けば、迷い無く踏み込んだ。
「——ぁ」
 鋒を、ドッペルゲンガーへと沈める。纏わう嘘の手を絶ち斬る。
「あなたの背は任せてちょうだいな」
 指の一本も触れさせない。唇にそう音を乗せて、七結は告げた。
「あなたを連れていかせないもの」
「——」
 声は、背を合わせるようにして戦うこの地においてしっかりと巴の耳に届いていた。ひたり、ひたり、不可解な足音を響かせ、目の前、もう一人の自分——ドッペルゲンガーと相対する巴へと。
「   」
 それは確かに、自分と同じ姿をしていた。
 今日の自分と同じ、この学園に似合う姿をして、剣戟が響く中で微笑む。
 同じ笑み、同じ顔、同じ姿で佇む”五条巴”は、どこまでも冷たい、鈍い輝きでしか無かった。
「それは、美しいとは言えないな」
 吐息ひとつ、零すようにして巴は告げた。言葉は苦笑めいていたか、ただ静かに響いていたか。ゆっくりと持ち上げられた手。収めた銃の照準は思いの外、ぶれることは無かった。
(「目の前にいる僕と、今の僕が違うと感じられるからか。背中に七結がいるからか」)
 ——ガウン、と一撃が届く。心臓に赤い花が咲く。それでも尚、微笑んだままの“僕”はやっぱり違う。
(「大丈夫だよ、七結。僕はここに」)
 剣戟に、舞うように響く軽やかな足音に巴は心の中、言葉を作る。向き合う先は違っても、心は並び立つように。
「  」
 一歩、踏み出してくるドッペルゲンガーが銃を持つ。鏡映しのように撃鉄を引く。
「もうひとりの僕に教えてあげよう。僕という存在を」
 一度瞳を伏せる。小さく息を吸う。この身にひとつ、誓いを立てて。——そう【月になる】と。
「”朋”」
 零れたのは笑みであったか。誘うように手を伸ばし、巴はその姿を晒す。五条・巴の真の姿を。零れ落ちたやわい光は、月の見せるそれであったか。
「——ァ、ア、ア」
 凡そ、ドッペルゲンガーには真似など出来ないその姿に『噂語り』が崩れていく。存在を確立出来ずに、足をひいた姿に照準を——合わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鸙野・灰二
マルガリタ(f06257)と

マルガリタ。奴等随分良く喋るが――
「噂」について尋ねれば答えて呉れると思うか?
……嗚呼、そんな噂もあッたか。なアお前、知ッてるなら教えて呉れよ。

答えが有ッても無くとも、刀を抜き前に出る。
近くの敵から斬り払う。
集団を相手取るには此処は手狭だ、数を減らす。
俺はヤドリガミに成ッた。この上何かに成るつもりは無い。

《早業》【錬成カミヤドリ】
本体の複製六十八振り、飛ばして使うのに丁度良い数だ。
全て一息に飛ばして標本と模型を《串刺し》、その場に縫い留める。
本体を叩くのは俺じゃない。頼んだぞマルガリタ。

銃としてのお前を見るのは初めてだが、成程。
噂程度に納まる武器じゃアないな。


マルガリタ・トンプソン
鸙野(f15821)と

会話が成り立ちそうな感じじゃないけど……お喋りの続き、してみる?
教室で手を振ってたのは誰だったの、とかさ
そいつも噂に『成った』誰かなんだろ

さて、【援護射撃】は任されたよ
鸙野が囲まれないように後方から短機関銃で【制圧射撃】
君の手が届く敵だけに集中するといい
俺は自分が倒れないために君を最大限利用するけど、君にもまだ倒れて欲しくはないから

動く模型たちを抑えてもらってる間に
【射抜くもの】で戦えない本体を潰していく
一瞬でも隙を作ってくれたら十分
速さには少し自信あるんだ

刀としての君を間近で見るのは初めてだけど
やっぱ本物の『武器』は違うな
噂話に押し込めるなんて勿体ないことさせるかっての



●楽園に挑む
「貴方も噂になっているの」
「貴女も噂になるの」
「でもすぐに消えてしまう噂かしら」
 囁き合うような声と共に空間が歪んでいた。階層ひとつずらされるような感覚は、偽装された戦場に似ていただろうか。一体、また一体と窓硝子から、ぬるりとそれは姿を見せる。
「気がついてしまった貴方」
「知ってしまった貴女」
 UDC『噂語り』は学園から滲みだすように廊下を埋めていく。気がつけば、確かに長くあった廊下は不可解な程のその距離を伸ばしていた。
「異界か、もしくはこの学園は最初から『そう』だったか」
 やれ、と息をつくように鸙野・灰二(f15821)は告げる。ひたり、と刀の男が捉えた先、足音ひとつ残さぬ者達の影は廊下を埋め尽くすように増えていた。
(「あの中で、実際に斬りかかってくるのは数体、か」)
 残りは同じような反響だろう。殺意よりは笑みを零し、ほら、とさぁ、と笑う姿に灰二は傍らへと声を投げた。
「マルガリタ。奴等随分良く喋るが――「噂」について尋ねれば答えて呉れると思うか?」
 噂語りは人混みに紛れて噂話を喋り、それを聞いた人々に広めるUDCだ。彼等の広める虚実入り交じった噂話は、時に過去に起きた事件の残滓と結びつく。その性質が故に――知っている可能性があるのだ。
「会話が成り立ちそうな感じじゃないけど……お喋りの続き、してみる?」
 頷くように短く瞳を閉じて、マルガリタ・トンプソン(f06257)は、あの時聞いた噂の一つを拾い上げる。
「教室で手を振ってたのは誰だったの、とかさ。そいつも噂に『成った』誰かなんだろ」
 楽園を探していたのは『ここは天国では無かった』と告げた寮長だ。学園内に多くあったという落書きは、寮長の命がけの警告か、狂い果てた末の叫びか。
「……嗚呼、そんな噂もあッたか」
 思い出すように一つ視線を上げて、灰二は噂語り達に視線をやった。
「なアお前知ッてるなら教えて呉れよ」
 投げた言葉に『噂語り』達は笑う。くすくすと身を寄せ合うようにして囁き合うようにして。其処にあるのは嘲笑ではなく、そう、ただの反響だと二人は思う。戦場を知る身だ。侮るように笑い銃口を、鋒を向ける者も見たことがある。
「ふふふふふ」
「うふふふふふふふ」
 だが、これは本当に響くだけのものだ。人の姿をしてあまりに違う。人々の中、混ざり込む為に得た姿で、得た声で。紛れているという事実に気がついた二人には黒塗りの顔となって、表舞台へと引きずり出される形となった噂語り達は――言った。
「手を振ってたヒト」
「必死に、手を上げてたヒト。知ってるワ」
「気がついてしまった人! 気がついて欲しかったヒト。此処に居るよっテ」
 くすくすと笑って、噂語り達は告げた。誘うように手を伸ばして、ぺたりと鏡に触れて。
「副会長さんハ、楽園を探してたあの子を探しテ」
「楽園に続く道の中。神様のトコロ! 幸せになったノヨ?」
 囁き合う噂語り達が、にぃ、と笑う。次の瞬間、淡い光と共に差し込んでいた日差しが赤く染まる。夕焼けだ、とマルガリタは薄く唇を開く。僅かに、何かが壊れるよう音がした。儀式に纏わる品を他の猟兵が壊したのか。
「そして、正しい時間がやってきたのか。此処の、本当の姿と一緒に」
 教室へ入る扉は知らぬ間に空いていた。否、扉そのものが無くなり――代わりに、一つの文字が見えていた。走り書きに似たそれ。破れたカーテンには血が滲み、何度も叩いたかのように罅の入った窓硝子に書き込まれた文字はひとつ。
『早く、逃げろ』
「……、噂に成った副会長か」
 それは必死の警告だったのだろう。歪んだカーテンに残った黒い染みの意味をマルガリタは知っている。銃弾ひとつ、その身に受けて生まれるものだ。
「手にかけたのは邪教集団の誰かだね。あるいは、銃を使う邪神でもいれば話は違うか」
「随分と、邪神も現代めいたな」
 鼻をならし、灰二はゆるり、と視線を前に向ける。反響する笑い声の中、にぃ、と笑う笑みに殺意を見つけたからだ。
「さぁ、さぁ」
「知ってしまった貴方も。気がついた貴女も」
「融け合いましょう。混ざり合いマショ」
 コトン、カタン、と廊下に足音が生まれる。一体、また一体と姿を見せてきたのは骨格模型に人体模型。硬く、軽い足音を響かせながら、噂語り達は、学園に似合う噂を紡ぐ。
「この子たち見たいニ!」
「動く模型を知っていテ!」
 その言葉を合図とするように、模型達が一気に踏み込んできた。
「ふふふふふふ」
「あはははは!」
 笑う声は模型から響いたか、噂達が響かせたか。半ば、波のように来る模型達へと灰二は前に出た。詰められる間合いを、此方から食い潰し、切り返す。最初の一体、迫る拳より早く刀を抜き――払う。集団を相手取るには此処は手狭だ。
「数を減らす」
 短く告げたのは、ふ、と息を一つ落とす為。共に戦場を行く者は――その程度の意味、察しているだろう。
「さあ、さあ!」
「俺はヤドリガミに成ッた。この上何かに成るつもりは無い」
 作り物の白い指先が灰二に迫った。手刀か。突き出されたそれが浅く男の頬を切り裂き――だが、掴むほどの間合いに刀は笑う。届くのは何もこちらだけでは無い。
「ははははは――ァ」
 笑う模型の頭が吹き飛ぶ。続けて、灰二の後方に迫っていた人体模型が銃弾の前に砕け散る。
「君の手が届く敵だけに集中するといい」
 焼けた鉄の匂いと、薬莢が落ちる音が廊下に響いていた。短機関銃を向けたマルガリタが静かに告げる。
「俺は自分が倒れないために君を最大限利用する」
 前に出た灰二が囲まれる事は無いように。銃弾は的確に戦場を、間合いを此方のものとしていく。
「けど、君にもまだ倒れて欲しくはないから」
 薬莢が落ちる中、銃弾の雨が模型達を散らす中で、その声は届いただろうか。憂う理由も無く、迷い無く向けた銃口が異界めいた学園を撃ち抜いていく。――壁に、傷ひとつもつかないか。
「儀式によって守られてる、か。なら、まずは――」
 ガウン、と落ちる一撃を灰二は聞く。奥から飛びかかる群れを散って居れば、正面、向かってきた相手を――己が間合いにいる模型を捉えれば良いだけのこと。
「あはははは!」
 人体模型が床を蹴った。最近の模型は随分と高く飛ぶらしい。学園の廊下は上も異界化したか。だが、どれほど上を取ったとて――刃は、届く。
「――ァ」
 次の瞬間、人体模型が吹き飛んだ。否、壁に縫い付けれたのだ。
 本体の複製六十八振り。その全てを一気に飛ばしたのだから。
「本体を叩くのは俺じゃない。頼んだぞマルガリタ」
 廊下が、ひらける。模型の群れが消え、噂語り達が見えた。――それは、永遠では無い一瞬。だが、それだけの時間があれば問題無い。
「一瞬でも隙を作ってくれたら十分」
 見えた射線。見つけた敵の姿。
 やられる前にやる。それだけ。その理由を以て紡ぐ少女の一撃。
「速さには少し自信あるんだ」
 クリムヒルトの撃鉄を引く。対UDC用に改造された短機関銃は、真っ直ぐに噂語り達を撃ち抜いた。
「ァアアアアアア」
「――ァ、ア」
 叫び声を上げ、驚きの声を残し噂語り達は崩れていく。どろり、と影に紛れるように、だが確かに消えていく。気がつけば、長く続いていた廊下が本来の、あの時見た長さに戻っていた。ただ、差し込む夕日と学園を包み込む空気だけが変わってきている。
「銃としてのお前を見るのは初めてだが、成程。
噂程度に納まる武器じゃアないな」
 腕に残った模型の破片を払い、灰二はマルガリタを振り返った。
「刀としての君を間近で見るのは初めてだけど
やっぱ本物の『武器』は違うな」
 銃口を下げ、マルガリタは一つ笑う。
「噂話に押し込めるなんて勿体ないことさせるかっての」
 噂語り達は消えた。歪む学園が――この中で進められていた儀式が軋んでいる。完全復活は無くとも、この地を変えようとしていた何かが姿を現そうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『戦争屋『カミル』』

POW   :    導く者
【かつて利用していた少年兵たち】の霊を召喚する。これは【銃】や【爆発物】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    赦す者
【君を救いたいという想い】を披露した指定の全対象に【この人になら殺されてもいいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ   :    愛する者
【愛】を向けた対象に、【召喚した様々な銃器から放たれる弾丸】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はマルガリタ・トンプソンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●青春天使奇譚
 ——ふいに、空間が広がった。
 廊下にいても、教室にいても、食堂にいても同じような通路に出会っただろう。真っ白な壁にひとつ、二つと飾られていたのは宗教画であった。ひとつは大地から手を伸ばす人々、ひとつは空から差し伸べられる天使の手。真ん中にあたる絵だけが無くなっていた。
「——あぁ、それは壊されてしまってね。困ったことだ」
 一歩、二歩と足を進めていけば猟兵たちは通路が変化した事に気がつくだろう。知らぬ間に階段を上がり、導かれるように辿りついたのは屋上だ。
「此処からだと、学園がよく見える。上を取るということは重要だ。どんな場面においても」
 ——そう、屋上の筈だった。
 だが、空がない。夕暮れは差し込むのに、空に当たる場所は何処までも歪んだ何かに防がれている。歪みはこの学園を丸ごと包み込むようにしてあった。屋上の、コンクリートの床は知らぬ間に大理石に変わり、フェンスがある筈の場所は高く大きな壁が立つ。
「——僕は、人を愛している」
 その壁に手を触れ、振り返った男がいた。長身の男はアタッシュケースを床に置くと、ゆっくりと息を落とした。
「死は唯一の幸福だ。だから一人でも多くの人を死を以て救いたい」
 告げる言葉はひどく真面目であった。そこに嘲笑は無く、湧き上がるばかりの殺意も無く——ただ、それこそが真実であると言うように戦争屋『カミル』は猟兵達へと視線を向けた。
「戦争はその最たるものだ。恐怖がそこにあれば理想を紡げば良い。幻想も幻覚も必要ない。野蛮な薬を使う者もいたが——僕は」
 息を落とす。軽く頭を振った男は美しい笑みをひとつ浮かべていた。
「君達には困ったんだ。あの時、ここは天国じゃ無いと騒いだ寮長や、彼が居なくなったことで気がついてしまった子のように騒ぎ立てるから」
 微睡みからみんなを目覚めさせようとしてしまうから、とカミルは息をつく。
「あぁ、勿論、僕は彼等も救いたい。僕のその気持ちを彼等も理解してくれたよ」
 胸に手をおき、カミルは祈るように瞳を伏せた。
「ちゃんと皆も一緒に救われる」
 その理解が、何を意味するのか詳細は知れずとも結果だけは猟兵達には分かっていた。寮長も、副会長も殺され、噂に飲み込まれた。
『気をつけろ』
『早く、逃げろ』
 互いに残した噂にならなかった——彼等がさせなかった忠告を目にした猟兵もいた。
「天使とは、神の使いであり、愛を伝えるものだ。古くは伝令であったのだから——何一つ、問題は無い」
 ぐにゃり、と空間が歪む。夕焼けが遠ざかれば、猟兵達はこれが不完全ながらも復活した邪神の力だと知る。
「——あぁ、受け取らせてもらった。これだけあれば充分だ。この学園の人々を救うのも、楽園へと向かうにも」
 戦争屋は愛を紡ぐ。救いを口にする。
 その思想が故に戦争に魅入られ、兵士として戦う一方情報操作や扇動により戦争の火種を生み続けてきた男は静かに微笑んだ。
「この学園の人々は、何一つ疑う必要は無い。そんな風に考える必要は無い」
 従順であれと戦争屋『カミル』は告げる。
 戦場では、兵士が思考することを必要としないのだから。
「言葉は僕が告げよう。僕が救おう。死を以て——君達も」


◆―――――――――――――――――――――◆
第3章プレイング受付期間
11月20日(金)8時31分〜23日(月)

▼リプレイについて
戦争屋『カミル』と戦闘開始シーンからのスタートになります。
屋上までの移動は含みません。

戦場は広く、戦いには充分な広さがあります。
不可思議な空間となっており、間違って落ちるような事は無さそうです。

◆―――――――――――――――――――――◆
 
五条・巴
七結(f00421)

上を取ることは重要
ああ、わかるよ

でもね、僕にとって、死は救いではないんだ
君が僕らを救いたいと言うように、
僕は皆に見てもらいたい
誰からも、忘れられたくない
僕を月だと信じてくれる子の為に、僕は月で居たいんだ

今ここで死んでしまったら、
僕はこの先に出会えたであろう人々に
知られないまま終わってしまう

君の言う愛を囁くように
僕という存在を施すように
僕は君に、カミルに教えてあげよう

上を見てご覧
君の言う上より、もっと上
天から君を見ているよ

ああ、七結
僕らは僕らの道を歩く
行先も速度もばらばら、
けれど時折こうして交差する
それでいい、それがいい。

その道筋に、君は
導きも赦しも愛も、君からは要らないよ


蘭・七結
トモエさん/f02927

下に見おろすものを支配する
嗚呼、とても理解が出来てしまうことね

ほんとうの救済なぞ、存在しないわ
死も忘却もさいわいには至らないでしょう
わたしは、わたしがいきてゆくままに
歩みたいと願うままに進んでゆくの
わたしたちが歩む先に、あなたの愛は不要よ
わたしは、救済をもとめていない

先へと往きましょう、トモエさん
あなたはあなたを示すための道を
わたしはわたしがいきるための道を
この切っ先で、斬り拓いてみせる

薙ぎ払う風の力を乗せたのならば
黒い刃の一閃を、あなたへと贈りましょう

いきてゆきましょう
あなたはあなたの歩みで
わたしはわたしの速度で
時に交わり、ひと時を共に留まりながら
これから先も、ずうと



●青年少女は今を生きる
 薄く差し込む夕日が帯のようにあった。長く伸びた影は戦争屋『カミル』と猟兵たちの影を長く残し――増える。ひとり、ふたり。見つければ三人四人、と。姿はあれど視線を感じることは無い、と五条・巴(f02927)は思った。だが、あるだけの「影」とも違う。
「彼等が儀式で消えてしまった子たちかな」
 学園の噂の由来、或いは戦争屋の二つ名を持つカミルが今まで引きずり込んだ者達か。
「生きている気配も無いのね」
 目が合うこともなければ、その身に生の気配があるわけでも無い。紫の瞳で彼等を眺め、おや、と息を落とす戦争屋へと蘭・七結(f00421)は視線を向けた。
「教室にいた子たちかな。ここからだと、色々な者が良く見えてね」
 ゆるり、とカミルは笑う。皮肉では無い。本当にこの男は微笑んでいるのだと、巴はゆっくりと視線を上げた。
「上を取ることは重要。ああ、わかるよ。でもね、僕にとって、死は救いではないんだ」
「だが、君も知れば——……」
 戦争屋の言の葉の先を、巴は微笑みで止める。
「君が僕らを救いたいと言うように、僕は皆に見てもらいたい」
 そっと胸へと手をあてて、ゆっくりと持ち上げられた瞼はプルシアンブルーの瞳を世に見せる。
「誰からも、忘れられたくない。
 僕を月だと信じてくれる子の為に、僕は月で居たいんだ」
「――月、と。それは君の矜持か、それとも願いかな。……あぁ、だが、その想いがいつか君を苛み焼き尽くすかもしれない」
 僕は人を愛しているんだ、とカミルは告げた。小さな笑みを口元にさえ浮かべて。
「君が、君達がこれ以上思い悩む必要などないんだ」
 安寧の地を、楽園を知っているのだと戦争屋は告げる。
「あぁ、勿論。死は唯一の幸福だ。君達を幸せにしたいんだ」
「――まあ、困ったひと」
 君達、だなんて。と七結が息を零す。ほう、と落ちた吐息が白く染まったのは、この空間が歪んでいるからだろうか。トン、と一歩進めば、薄く、浅く残った夕焼けの光につま先で触れた。
「下に見おろすものを支配する。嗚呼、とても理解が出来てしまうことね」
 ゆっくりと七結は視線を上げる。ひらり、と制服のスカートを揺らして、巴の横、並ぶようにして微笑んだ。
「ほんとうの救済なぞ、存在しないわ。死も忘却もさいわいには至らないでしょう」
「――ほう、君はそう言ってしまうのか」
「えぇ」
 悠然と七結は微笑む。花が綻ぶように美しく、それでいて戦いを知る乙女の笑みで。
「わたしは、わたしがいきてゆくままに。歩みたいと願うままに進んでゆくの」
「……」
 黙した戦争屋が息を落とす。ゆるり、持ち上げられた手が銃を構える。向けられた銃口に、構わず七結は告げた。
「わたしたちが歩む先に、あなたの愛は不要よ。わたしは、救済をもとめていない」
「――そうか。君達は僕の救済を望まないと」
 パチ、と空間が揺れる。吐息ひとつ、零した戦争屋の周りが僅か、光を零す。
「あぁ、ならばやはり僕が与えないと。君達も、きっとすぐに分かるはずだ。――これが唯一の幸福だと」
 撃鉄が引かれる。傲慢な考えの果てに、戦争に魅入られた男は銃弾の代わりに、キン、と軽く響いた音が招いたのは一つの群れであった。陽炎のようにゆらり、と揺れ、歩みを進めるようにこの地に姿を見せる。
「僕が導いた子たちだ」
 それはカミルがかつて利用していた少年兵たちの霊であった。薄汚れた顔、生気の無い瞳、体の線は細く――だが、戦いになれた者達だと一目で分かる。
「いきなさい」
『――』
 その言葉ひとつで、タン、と少年兵たちの霊が一気に二人へと向かってきた。踏み込みは然程早くは無い。だが、間合いに踏み込むより先に、投げ込まれたものがある。
「――」
 爆発物だ。
 ピンを抜く音に、いち早く七結が気がつく。トン、と地を蹴り、飛ぶように前に出た娘が黒鍵の刃を振り上げた。
 熱はたたき上げた空で弾ける。浅く、腕に残った痛みに、ただ息だけを落とせば、七結、と瀬に掛かる声が、ほんの少し、心配するように揺れていた。
「先へと往きましょう、トモエさん」
 大丈夫、と告げる代わりに、そう言って振り返った。視線を合わせるのは一度きり、向かい来る敵がまだいることもよく分かっているから。
「あなたはあなたを示すための道を。わたしはわたしがいきるための道を」
 この切っ先で、斬り拓いてみせる。
 チカ、と目の端で光ったそれに、身を飛ばす。着地の先、くる、と身を回し、舞うように黒鍵の刃を振えば、呼び起こされた幽霊たちが斬り払われる。
「きざんで、納めて」
 掬いたい 救いたい、すくえない。
 断罪は在らず、黒き縁を刻むのみ。――それは、くろ紅の縁絶。
『――ァ』
 擦れるような声を残し、幽霊達は消えていく。例え、数が多くとも道を塞がれようとも、其処を行くと、この世界に影を落とし、歩いて行くと決めたのであれば――道は、できる。
「あの子たちから、幸せだと話を聞くことができただろうに。――お嬢さんは随分と頑固なようだが、君はどうかな」
 ひたり、と戦争屋『カミル』の視線が巴を向く。
「僕は、君を救いたい」
「……」
 その言葉に、巴は唇を結ぶ。向けられた視線に、言葉が『何か』違う。術式が組み込まれているからか。
 この人になら、と声がする。
 うん、この人なら、と誰かが囁く。
 ――殺されてもいいと。
「――今ここで死んでしまったら、僕はこの先に出会えたであろう人々に知られないまま終わってしまう」
 ゆっくりと巴は息を吐く。微笑みを浮かべたまま、トン、と一歩、進み出そうとしたカミルの前を風が駆け抜けた。
「風? 何処から……、まさか」
「――これは」
 薙ぎ払う風は刃が招く。幽霊達を散らし、そのまま、カミルの間合いへと七結は踏み込んでいた。
「あなたへ」
 黒き刃の一閃。カミルの胸に沈む。零れ落ちた紅が、ばたばたと地面を染める。
「――っく」
 僅か、カミルが息を詰めれば巴の心を掌握しようとしていた何かが消える。ふ、と吐息ひとつ残して、巴は告げた。
「君の言う愛を囁くように、僕という存在を施すように。僕は君に、カミルに教えてあげよう」
 するり上げた腕。手にした銃は、キラ、と光り――『空』が出来た。
「上を見てご覧。君の言う上より、もっと上。天から君を見ているよ」
 頭上に輝く北斗七星。弓の名手であり、美しい彼女はいつも天から君を見ている。
 天より一撃は届いた。撃ち抜く光が、戦争屋『カミル』の腕を赤く染め、その身を傾ぐ。
「これが、君達の否定か」
 低く、響いた声に微笑だけを返し、とん、と間合いを取り直し七結は言った。
「いきてゆきましょう。あなたはあなたの歩みで。わたしはわたしの速度で」
 唇に言葉をのせて。今日の舞台を共にしたひとに、今宵の戦場を共に行ったひとに。
「時に交わり、ひと時を共に留まりながら。
 これから先も、ずうと」
「ああ、七結。僕らは僕らの道を歩く」
 振り返って微笑む彼女に、巴は頷いた。吐息一つ零すように柔く微笑む。
「行先も速度もばらばら、けれど時折こうして交差する。
 それでいい、それがいい」
 天を仰いだ指先を下ろし、視線は前へと。
「その道筋に、君は。導きも赦しも愛も、君からは要らないよ」
 今を、生きていくのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザハール・ルゥナー
救う、とは大きく出たな。
所詮、戦争屋に救済は過ぎた壮言だ。
それが解っているから、毒のような夢を見せるのだろう。

説教する気はないさ。
貴殿を討ち、あるべき平穏を取り戻すだけ。

攻撃は甘んじて受けよう。
霊となり、救済も甘受できず戦争を続けるというのも皮肉だな。

霊に対してはこちらも銃撃で攻撃を誘発、隙を駆ける。
戦争屋との距離を詰めるついでにナイフで仕留める。
進路の邪魔にならなければ無視。戦争屋を優先して接近したい。

負傷はこちらの反撃のトリガーとなる。
代償は大きいだろうな、銃か、ナイフかが使えなくなる。
まあ、刃物は口でも扱えるか。

……人は苦しみながら、それでも生きていくものだ。
私が人を語るのも、皮肉だな。



●常しえに夢を見ず
 ゴォオオ、と駆け抜ける衝撃波の後、銃弾が空より届いた。ほんの僅か、小さく息を飲み、瞬き――だが、次の瞬間には戦争屋『カミル』は笑ってみせた。
「困ったな。僕は多くの人を、死を以て救いたいというのに」
「救う、とは大きく出たな」
 柔らかに響くばかりの声を、ザハール・ルゥナー(f14896)は断つ。屋上の歪んだ空間には彷徨うように人影が薄く見えていた。これが、カミルが嘗て『救った』者達か。
「――あぁ、大きいさ」
 その影達を微笑まし気にカミルは見ていた。視線も合わず生気も無いそれは、ただの「影」なのだろう。
「僕は唯一、幸福になるための術を知っているのだから」
「それが、死だと」
 は、とザハールは息を落とす。吐息ひとつ零すようにして、視線を上げた。
「所詮、戦争屋に救済は過ぎた壮言だ。それが解っているから、毒のような夢を見せるのだろう」
「——過ぎた壮言、か」
 紫の瞳が捉えた先、戦争屋の二つ名を持つ男の纏う空気が変わる。
「廊下で熱心に話を聞いていた子には見えないな」
 やんちゃだったのかい、と口の端、浮かべられた笑みは柔らかく――だが、瞳は笑ってはいない。向けられた目は、標的を見る者の目だ。
「僕は人を愛している。人あらざる君もまた、生があるのだから」
 ゆっくりと戦争屋『カミル』が手を持ち上げる。誘うように差し出された手でカミルは告げた。
「僕が君を救ってあげよう」
「説教する気はないさ」
 言葉ひとつ、誘いを斬り伏せるとザハールはは慣れぬ学生靴で床を掴む。
「貴殿を討ち、あるべき平穏を取り戻すだけ」
 一言、告げると同時に地を蹴った。強く、飛ぶように身を前に倒して加速する。踏み込みに影法師のようにいた「彼ら」が散り、カチ、と覚えのある音が耳に届く。
(「――撃鉄」)
 顔を上げる。銃口を向けた戦争屋が静かに微笑んでいた。
「――それは、残念だ」
 愛を告げたときと、変わらぬ顔で。
 カチン、と撃鉄を引く。軽い鋼の音は、だが次の瞬間――空間を歪めた。湧き上がるように、起き上がるように無数の人が立つ。青白い顔、欠けた腕、細い脚。だが、それが標的を見つければ素早く動き出す影であることは見て取れた。
「僕が、導いた子たちだ。――さぁ、行きなさい」
『――』
 短い応答は声であったか。だが、カミルの言葉に少年兵たちの霊は動き出す。踏み込みから一気に、放り投げるのは爆発物か。
「――は」
 ピンを抜く音と、衝撃は同時にザハールを襲った。爆風は熱と共に前に出した腕を焼き、肩口を晒す。焼け付いた首に赤々とした火傷が目立ち、肉の焼ける臭いに僅か目を細めた男息を落とす。
「霊となり、救済も甘受できず戦争を続けるというのも皮肉だな」
 チカ、と目の端で何かが光る。銃口だ。ザハールは力強く床を蹴った。身を勢いだけで横に振る。振り上げた白銀の短銃は、狙いを定めるより先に撃鉄を引いた。
 一発、二発。
 派手に放った銃弾は相手の攻撃を誘うものだ。分かりやすく放たれた銃弾にザハールは速度を取る。駆け抜ける事を選んだのは、狙いは別に彼等では無いから。
『――ァ』
 擦れる声を一つ残し、幽霊が崩れる。消えかけの体に構わず飛び込んできた一体へとザハールはナイフを投げた。ヒュン、と突き刺されば、一拍、刃は空に止まる。落ちる前に踏み込んだ先で受け取れば、ひらけた視界に戦争屋『カミル』の姿が見えた。
「僕に迫るか。――良いだろう。今こそ見せる時だ」
「救済をか」
「あぁ」
 カミルが撃鉄を引く。今度こそ銃弾を伴い――だが、放ったのは少年兵の幽霊達だ。迫る銃弾に、熱に、だがザハールは静かに笑った。
「私の一端」
 差し出したのは片腕。戦争屋が誘いに見せたのとは違う。庇うように使い、拳を突き出し――だが、それだけで終わらない。
「それもまた刃」
 それは刃の呪い。
 突き出した腕が裂け、同時にカミルの内側からも無数の刃が突き出していた。
「――な」
 それは内側から斬り裂く魔力。刃の所以。
 刃の如き鋭さを持ち、カミルの内側から展開された魔力が戦争屋を食い破り、手にした銃を落とす。
「自分の、腕を……」
 驚愕に見開いた瞳に、ザハールは息を落とす。代償は大きい。それ故のこの威力。銃かナイフが使えなくなれば戦う術は限られるのだから。
(「まあ、刃物は口でも扱えるか」)
 ふむ、と一つ拾い上げたナイフを見れば、戦争屋の声が低く響いた。
「君もまた、救いを拒絶するか」
「……人は苦しみながら、それでも生きていくものだ」
 どれ程の悩みの内にあっても、足を止めても、いつか歩き出す。生きていく。
「私が人を語るのも、皮肉だな」
 ふ、と息を落としてザハールは笑った。片腕、落とした男とは思えぬ程、皮肉めいた笑みを一つ口の端に浮かべて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
死が幸福で、救いですか
ええ、確かに死ぬ事が救いになる事もあるのでしょう
そうする事でしか救えない命もあると
私は戦いの中で学びました

ですが死が唯一の幸福ではありません
生きてこそ得られる幸福もあります
これ以上、それを奪わせはしません

両親から手酷い裏切りを受け、絶望していたお母様も
かつては死ぬ事だけを望んでいたと、そう聞いた
けれど愛する者と新たな家族を得て、お母様は幸福になれた
そして最期の瞬間まで人を恨まず、ただ家族の幸福だけを祈って
――その結末が、愛する者を守る為に、殺されるものだったとしても

急所をオーラ防御で守りながら
破魔と浄化の光の力を込めて悲愴の葬送曲を歌います
歪み、穢れた空間ごと清めるように



●悲愴を知り、なお乙女は祈る
 カン、と鈍い音を立てて男の手にしていた銃が落ちた。一撃、内より斬り裂く力は刃に似ていた。片腕を失い、その代償に一撃を叩き込んだ猟兵が、トン、と地を蹴る。先を行く姿を視界に、ゆっくりとティア・レインフィール(f01661)は、戦争屋『カミル』を見た。
「死が幸福で、救いですか」
「――あぁ、勿論」
 君はどうやら、とカミルは笑みを浮かべて見せた。
「僕の話を聞いてくれそうだ。食堂で色々な話を聞いていた」
「ええ」
 驚く程のことでは無かった。この学園は邪教集団の手にとって認識を歪められている。学園そのものを包み込み、多くの生徒の意識を歪めていたのだ。噂達を倒した今であれば、会話の内容をある程度認識されていても不思議では無い。
(「それでも、聞こえていたというよりは感じていたに近いようですね」)
 噂語り達から手に入れた情報として知ったのを、まるで聞いていたかのように語るのだろう。柔らかな笑みを浮かべ、寄り添うような声音で告げるのだ。
「僕が、君を救おう。天使ではなく、人でありたいという君を」
「死を以て、ですか」
「――あぁ」
 そう言って、カミルは悠然と笑った。男の周囲には、揺れる人影が見えていた。ゆらり、ゆらりと揺れるそれは影法師のように気がついた屋上に漂っていた。儀式の犠牲となった人々だろう。
(「魂の影……」)
 安息を得ることも出来ないまま、この場に刻まれていた。
「死は唯一の幸福だ。救いは、そこにある」
「ええ、確かに死ぬ事が救いになる事もあるのでしょう」
 揺れる髪をそのままにティアは唇を開く。
「そうする事でしか救えない命もあると、私は戦いの中で学びました」
 ティア・レインフィールは戦いを知っている。
 戦場というものを、流れる血を、哀しみを知っている。失われる命も、喪われて漸く安息を得た魂も。
「――うん、そうだ」
 戦争屋の二つ名を持つ男は微笑を浮かべていた。その身に戦いに於ける傷を残しながら、何一つ気にする様子など見せぬままに。言葉も、会話になっているようで実際、この男がどれ程聞いているのか。己が望む結論へと向かわせる為だけの言の葉を紡いでいるだけか。
「だからこそ僕は、一人でも多くを死を以て救いたい」
 微笑んで告げたカミルへと、ティアは視線を向けた。
「ですが死が唯一の幸福ではありません」
「――」
 カミルの纏う気配が変わっていく。黙した男の口元の微笑は変わらぬまま、瞳だけがティアを見据える。射貫く。その強さに、だが構わずティアは告げた。
「生きてこそ得られる幸福もあります。これ以上、それを奪わせはしません」
 息を吸う。
 ひとつ、旋律を、歌をこの身に宿すために。届ける為に。
「困ったな。君は僕の話を聞いてくれると思ったんだけど」
 やれ、と息をつくようにしてカミルは視線を上げる。吐息一つ零すようにして、柔く浮かべた笑みは変わらぬまま――手を、空に向けた。
「さあ、幻想の中にいる君を救おう」
 次の瞬間、ガウン、と重い音が屋上に響き渡った。銃弾だと気がついた時には、腕に一撃が届いていた。落とした銃の代わりに、召喚した様々な銃器が、カミルの手に落ちる。小銃の後、手にしたそれはマスケットか。
「僕は人を愛しているのだから」
 向けられた銃口は、心臓にか。
「――主よ」
 短く祈りを紡ぐ。ティアの身の内から溢れた月の光がオーラとなって銃弾を防ぎ――落とす。カラン、と乾いた音。足に、腕に受けた傷は構わない。流れた血は――そう、制服を汚してしまうのは申し訳ないような、少し勿体ないような心はあるけれど。
(「幻想と言われようとも……」)
 そんな言葉で、揺れる事は無かった。知っている事があるのだ。古の歌と共に母から教えてもらったもの。
(「両親から手酷い裏切りを受け、絶望していたお母様も、かつては死ぬ事だけを望んでいたと、そう聞いた」)
 けれど愛する者と新たな家族を得て、お母様は幸福になれた。
(「そして最期の瞬間まで人を恨まず、ただ家族の幸福だけを祈って」)
 お母様、とそっと名を呼ぶ。銃弾の雨が降る地でかき消されながらも、瞼の裏にそのひとを描く。
(「――その結末が、愛する者を守る為に、殺されるものだったとしても」)
 生きてこそ、幸福になった。幸せを祈った。
 それを知っているから、聞いていたから。
「私は――……」
 ぱた、ぱたと腕を伝い落ちる血を拭うことなく、乙女は歌う。
「主よ。願わくば、彼の者の魂に永遠なる安息を――」
「安息など――!」
 歌声に、カミルの声が不意に乱された。ひゅ、と僅か息を飲む音。次の瞬間には、変わらぬ笑みに変えるが――だが、息を飲んだ。確かに一度、乱された思考はティアの紡ぐ歌にある。破魔と浄化を込めた旋律。教会で教わった聖歌は歪み、穢れた空間をも清めていく。
『   』
 ふいに影法師達が足を止めた。ゆらりゆらり、と揺れるばかりであった彼等が消えていく。
「――皆様に、神のご加護がありますように」
 その旅立ちに祈るようにティアは告げた。君は、と低く響くカミルの声に向き合う藍の瞳は静かな覚悟を湛えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルキヴァ・レイヴンビーク
死生観は教義によって変わりマスし
それが当人にとってハッピーならばワタシは口出し致しマセン
けど、押し売りはいただけマセン
クーリングオフも効かないマルチと一緒デス

向こうの大義名分に耳傾け、大きく溜息
真顔で首を横に振り
残念ながら、殺されるより殺す方が大好きなんですよ私
そもそも神を気取ろうなんて烏滸がましい
…天国? 地獄の間違いじゃないですか
UC発動
さぁ行きなさい私の眷属達
冥府の行き先案内はこの鴉の役目です
敵を取り囲み、目玉を突っつき肉をついばめ
闇で蝕み風で斬り裂き、その血を冥王の手土産と致しましょう
天国と違って地獄は――骸の海は来るもの拒まずですから

Nevermore――貴方に"次"は有りませんよ



●黒き鳥は生死を告げ
 清らかな旋律が、戦場となった屋上に響いていた。影法師のようにゆらり、ゆらりと揺れていた人影が消えていく。魂の欠片か、名残か。儀式に使い、この場につなぎ止められていた者達だろう。
「空っぽの器まで取っておくとは、良いホビーですネ」
 静謐な空気の中、とん、とルキヴァ・レイヴンビーク(f29939)は足を進める。ひくり、と僅か頬を引きつらせた戦争屋『カミル』へと、ルキヴァは笑みを見せた。
「ビューティフルに消されてマスね」
「——君は、人か」
「さて、どうだと思いマス?」
 ゆるり、と口元、一つルキヴァは笑みを浮かべる。軽口めいた雰囲気で肩を竦めてみせれば黒髪が揺れた。銃を持つ手こそ、血に濡れているが戦争屋の周辺には火の気配が残っていた。銃弾、炎。重火器。その当たりだろう。
「さぁ、困ったな。教室で楽しそうにしていた君だ」
 噂と出会っただろう。とカミルは告げる。聞いただろう、と笑う。
「彼らの憂いも悩みも今日終わる。儀式は、最後に成功されば良い」
「……」 
 まだ道が残されているとでも言うのか。
 元気デスね、とルキヴァは内心息をついた。細めた瞳にも、語る男は気にする様子は無いのか、それでも、と響く声はひどく柔らかに響いた。
「僕は救いを信じている。その術を知っている。死は唯一の幸福だ」
 だからこそ男は戦争に魅入られた。救いと幸福を口に乗せて。
「僕は人を愛している」
 戦争屋『カミル』は微笑むようにして告げた。
「死生観は教義によって変わりマスし、それが当人にとってハッピーならばワタシは口出し致しマセン」
 それは真実、妖魔らしい言葉であった。人の世を眺め渡り歩き——時にかき回したワタリガラスらしい言葉。ブレザー姿の青年には、最早見えはしないだろう。
「けど、押し売りはいただけマセン。クーリングオフも効かないマルチと一緒デス」
「——僕の救済を、そこらの詐欺と一緒にされるとはな」
 やれやれと、カミルが息をつく。血濡れの腕がゆっくりと持ち上げられる。空の手は、差し出すようにルキヴァへと向いた。
「僕は、君を救いたい。その心から、全て」
「——」
 散々聞いてきた「救い」の言葉が、僅か色を変えていた。ぐにゃりと、と意識を歪めるような何かがある。声か、魔力か、その想いそのものか。
(「厄介デスね」)
 この人になら、と声がする。
 うん、この人なら、と声がする。
 湧き上がるような思いは、実際、ルキヴァの考えとは関係無く、泡のように浮き上がるものだ。誰とも知れぬ声が響き渡り、差し出された手がひどく——魅力的に感じる。
『アナタになら——あぁ、ワタシ』
 それしか、道を考えられない程に。
「——詐欺でしょう」
 やれ、と息をつく。どれ程、声が聞こえようと。勝手に浮かび上がる思いがあろうと、ただ、それだけだ。真顔で首を横に振り、冷えた灰色の瞳をカミルへと向けた。
「残念ながら、殺されるより殺す方が大好きなんですよ私」
 笑み一つ浮かべぬまま鴉は告げる。向けられた愛など拾わぬままに、翼ひとつで払うように。
「そもそも神を気取ろうなんて烏滸がましい」
「——君は、天国さえ信じないと?」
 僅かに低く響いたカミルの声に、ルキヴァは息を吐く。
「……天国? 地獄の間違いじゃないですか」
 吐息ひとつ、ため息に似せて。
 冷えた視線を向けたルキヴァが、カツン、と踵を鳴らす。次の瞬間、巨大な黒い翼が背に生えた。——否、正しく『生まれた』のだ。
「さぁ行きなさい私の眷属達」
「——な」
 羽ばたきがカミルの言葉を喰らった。
 ルキヴァの背後、その影を縁とでもするように大鴉たちが飛び立つ。漆黒の翼に刻印を持ち、邪神の祭壇に——その名残の地に、箱船の鴉達は影を生む。
「冥府の行き先案内はこの鴉の役目です」
 差し込んでいた僅かな夕日さえ覆い隠し、深く落ちた影の中、ルキヴァは静かに告げた。
「敵を取り囲み、目玉を突っつき肉をついばめ」
『   』
 応じる鴉たちの声は、人の耳で聞き取れる音であったか。聞き取って正常でいられるものであったか。一斉に襲いかかる鴉たちに、カミルが息を吐く。は、と荒く落ちた声と共に血濡れに腕が銃を掴んだ。
「渡り鴉が、僕の救済を阻むか」
 ガウン、とカミルが銃を放つ。続けざまに二発。だが、一羽、翼を射貫かれようが、一羽、首を撃ち抜かれようが——群れは、行く。取り囲むように弧を描き、生まれた風がヒュウ、と高い音と共にカミルの胴を切り裂いた。
「——っく」
 だらり、と腕が揺れる。肩口から斬り裂くように落ちた風が、カミルの肉を、骨を晒す。零れた血は赤く——だが、黒い。
「君は、本当に僕を拒むようだね」
 ヒュン、と鋭い音と共に届いた銃弾が、浅くルキヴァの頬を掠った。
「——えぇ」
 つぅ、と頬を流れ落ちる血をルキヴァは拭う。
「天国と違って地獄は――骸の海は来るもの拒まずですから」
 指先、残った血を軽く舐めるようにして、ワタリガラスは冷えた瞳で告げた。地獄への道行きはそっちだと言うように。
「Nevermore――貴方に"次"は有りませんよ」
 そして大鴉はカミルの顔に傷を刻んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
手袋を外す

天国がこんな所にある訳ないじゃあないですか
馬鹿だなあ。子供だって知っています
それに、かみさまに許されたひとが行き着く先が楽園です

救うことはひとでも出来るけど
全てを許せるのはかみさまだけで
あなたではない

かみさまはあなたを赦すだろうけれど
わたしはそうは出来ないのです
彼らの為にも

召喚された銃器は投擲した千本でなるべく撃ち落とし
弾丸は発射される前の銃口の動きを見切り避け
避けきれないものは刀で弾き
あなたもとへまっすぐと
それでも大量の弾丸の前にはいつかは無理が生じ



わたしを壊したと思いましたか?
全部、全部夢ですよ
いつからですって?
さあ、そんなことどうだって良いじゃないですか

(アドリブ等歓迎です!)



●機械人形は幻に踊る
 羽ばたきが空の無い地に響いていた。大鴉の鳴き声は鳥に似ていたか、全く別の――外つ国の力であったか。薄く差し込んでいた夕日が、僅かばかりに戻ってくる頃には、この地の核たる男の目は赤く濡れていた。
「全く、困ったな」
 片眼をひとつ大鴉に奪われたのだろう。腕を赤く染め、戦争屋『カミル』は息をついた。
「もうすぐ、全てを救う天国に辿り着けるというのに。――君も、興味はあったんじゃないかな」
「——わたしもですか?」
 戦争屋の言葉に、ヨシュカ・グナイゼナウ(f10678)は小さく首を傾ぐ。薄く差し込む外の気配が、長い髪を揺らす。
「あぁ、あの絵を、彼の話を聞いて来たんだろう?」
 問いかける声はひどく柔らかな音色をしていた。カミルの言う『彼』は中庭で話を聞いた人では無く、寮長の彼ことだろう。こちらの行動を掴んでいた、というよりは感じていたに近いのか。噂語り達を通じて漸く知ったという所だろう。そうで無ければ、最初の潜入の時点で止めに来るはずだ。
『ここは楽園ではなかった。気をつけろ」
 壁に残されていた言葉を、ふと思い出す。全てを置いて逃げることが出来なかったか――しなかったひとの言葉。警告。
「……」
「それほどまでに楽園を、天を望んだ子の話を聞いて、君も探していたんじゃないかい」
 問いかけるような言葉で、だが声は寄り添うような優しさを滲ませていた。こちらがどう思おうと構わないのか——否、関係無いのか。人の良い笑みを浮かべ、救済と楽園を、天国をカミルは唇に乗せる。
「それなら僕が——」
「天国がこんな所にある訳ないじゃあないですか」
 ゆっくりとヨシュカは視線を上げた。金色の片眼がひたり、と戦争屋『カミル』を見据える。笑みを浮かべたままの男の言葉を切るように、だが、拾い上げるようにしてヨシュカは告げた。
「馬鹿だなあ。子供だって知っています」
 吐息ひとつ、零すようにして。
 紡いだ言葉は少年らしい柔らかさと同時に、どこか大人びた色を持つ。
「かみさまに許されたひとが行き着く先が楽園です」
 学園に伝わった噂を知った。噂となった人々のことも。天使の話も。楽園も——そして、全てを贄と捧げる男の言葉も聞いた。
『天使とは、神の使いであり、愛を伝えるものだ。古くは伝令であったのだから——何一つ、問題は無い』
 天使の話も。愛も。宗教画も——全て、カミルの思想を伝える為にあった。
 死は唯一の幸福だと。
 ——けど。
「救うことはひとでも出来るけど、全てを許せるのはかみさまだけで」 
 しゅるり、とヨシュカは手袋を外す。揺れる風が長い髪を揺らす。淡く頬に落ちた影をそのままに、真っ直ぐにヨシュカは告げた。
「あなたではない」
「――……やっぱり、絵画を壊した君は先に会っておくべきだったか」
 かつ、こつとカミルが足を進める。淀んだ屋上の空気が揺れる。
「僕は人を愛している。人をみんなを救う為の方法を知っている。——唯一の幸福、救いに至るための道を」
 楽園を此処に作ろう、とカミルは言った。
「儀式には一度失敗したが——もう一度、君達を送った後に行えば良いからね」
 空の手をカミルが持ち上げる。空を指さすようなそれに、空間が歪んでいく。何かが来る。
「救いたい。――君も、僕は愛しているよ」
 告げる言葉と、カチャリと小銃がひとつ男の手に落ちたのは同時だった。
「人形の君でも」
 ガウン、と銃弾がヨシュカの頬を掠った。小銃の次、カチの目の端光って見えたのは――マシンガンか。派手な銃口にヨシュカは、しゃがむように身を低め、両の腕を払い上げる。瞬間、指に絡めたのは千本。
「かみさまはあなたを赦すだろうけれど、わたしはそうは出来ないのです」
 ゴォオオオ、と唸るように撃ち出された銃弾と、ヨシュカの放った千本がぶつかり合う。ガウン、と空に、熱が派手に抜けた。火花が散り、淀んだ空気が吹き飛ぶ。靡く髪をそのままにヨシュカは地を蹴った。
「彼らの為にも」
 前に、出る。撃ちきったマシンガンの代わり、息をついたカミルが手にしたのは先の小銃だった。
「それは、残念だな」
 向けられた銃口に身を横に飛ばす。足は止めない。それでも肩口、足に一撃が届く。よろめきかけた体を、そのまま利用するようにして、タン、と地に手をついた。
 ――トン、とそのまま身を上に飛ばす。仰ぐように来た銃弾に、くる、と空で身を舞わす。パサリ、と僅か髪だけがさらさらと落ちて――だが、今は構わず、少年人形は踵から降りた体で刃を抜いた。
「あなたにとって残念でも」
 かまわないので。
 血濡れの腕で抜き払う。抜刀は銃弾を捌き少年は身を飛ばす。前へ、先へ、あなたへ届くために。あなたのもとへ——まっすぐに。
「なら——そうだね、甘い」
 飛び込んだ先、カミルの銃口がこちらを捉えていた。 ガウン、と銃弾が、ヨシュカの肩を撃ち抜く。
「――ぁ」
 僅か落ちた声。刀を持つ手が揺れ、抜刀が送れる。続けざまに腹に足に、銃弾が届けば、ガク、と体が崩れた。
「――本当に残念だよ。迷える君」
 とぷとぷと黄金を溶かしたような液体が傷口から零れていた。膝をつくように倒れ、上半身だけをゆるり、と起こしていたヨシュカへとカミルが歩み寄る。銃を持つことになれた男の手が、ヨシュカの心臓に拳銃を当てた。
「漸く君も救われる。安心して――……」
 ――だが、撃鉄を引くより先に、ひゅ、と戦争屋『カミル』が息を飲んだ。ごぽり、と男の口から血が零れ落ち、声が——引きつる。
「な……」
 カミルの胸に、深く刃が刺さっていたのだ。突きつけた銃が手から落ちる。カツン、と硬い音は膝をついた少年の足に触れ——共に消える。
「——まさか」
「わたしを壊したと思いましたか?」
 足音も無く、声はカミルの背後から響いた。柔らかな髪を靡かせながら、ヨシュカは告げる。
「全部、全部夢ですよ」
 その言葉を合図とするように、カミルの前に膝をついていた筈のヨシュカが消える。とろり、と黄金を溶かしたかのような液体となって——だが、ぱしゃりと地に落ちる前に空間に融けて行く。
「まさか——、目の前にいた君が幻だったとは。——いつからだ。いつから、僕の前に——……」
「いつからですって? さあ、そんなことどうだって良いじゃないですか」
 靡く髪をそのままにヨシュカは刀を握り直す。下げた鋒、掌は金色に塗れていた。惑雨の素となる液体は、常にヨシュカの中に満ちている。
「——やってくれるね」
「よいゆめを」
 微睡みと幻覚の裡に、学園を封じた男へとヨシュカは微笑む。指先、伝い落ちた黄金が、ぱしゃりと音を立てること無く——消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八上・玖寂
如何にも高尚な思想の元に起こした闘争だと言わんばかりですが、
そもそも戦争屋が救済の話など、畑違いが過ぎるのではないかと。
まあ、こちらも仕事なもので。失礼。

基本的に【目立たない】ように【闇に紛れ】つつ【忍び足】で行動し、
頃合いを見ながら『凶星、黄昏に瞬くとも』で攻撃しましょう。

救済も愛も僕には不要のもの。
己の行いくらい、理解しているつもりです。
そして自分がどういう存在かも。……いえ、これはいいでしょう。

人は皆、生まれては死んでいく。それは遅いか早いかだけ。
それだけで十分でしょう。少なくとも、僕には。

※絡み・アドリブ大歓迎



●空を知り、天に触れず地に影を落とし
 銃弾の雨が空を切った。零れ落ちた金色は、救済を紡ぐ男に幻覚を見せていたのだろう。突きつけた銃は引き金を引く前に地に落ちた。
「――あぁ、本当に君達には、困ったな」
 吐息一つ零すように落ちた声は血に濡れていた。スーツを染める程の血に、片眼を失い、だらりと垂れた腕は肩を斬り裂かれたが故か。――最も、あの状況でも銃は握ってみせるのだろう。愛と救済を唇に乗せたまま。
「死は唯一の幸福だ。だからこそ、僕は一人でも多くを救いたいというのに」
 吐息ひとつ零すようにして、戦争屋『カミル』は言った。
「僕は人を愛している」
「……」
 そこに浮かべられた笑みに狂気があれば良かったのか、狂乱が滲んでいれば良かったのか。最も――そのどちらで無くとも、影を踏み行く青年にとっては変わらぬ姿で見えていた。
「如何にも高尚な思想の元に起こした闘争だと言わんばかりですが、そもそも戦争屋が救済の話など、畑違いが過ぎるのではないかと」
 戦争屋、だ。
 男が自ら得た二つ名は、戦争を手段としたものであったか。振り返るより先に八上・玖寂(f00033)が放ったナイフがカミルの指に、腕に突き刺さった。
「――」
 声を、落とすより先にカミルが振り返る。狙いを定めるより先に銃口を向けてくるのは――やはり、戦争になれた傭兵の理論か。撃鉄を引く指先を視界に玖寂は地を蹴る。一足、踏み込みと共に身を低め、弧を描くようにして手を振るった。
「まあ、こちらも仕事なもので。失礼」
 手にしていた暗器は両の手で6本。残る三本、左手から手放せば、少年人形と斬り合っていた時から詰めていた距離で外す訳も無い。――外すような仕事は、生憎覚えが無い。
「――これは、困ったな」
 ガウン、とカミルの放った銃弾が跳ねた。撃鉄を引く指先より手首――内側を狙えば、照準はぶれる。玖寂の頬、掠るように一撃は外れていった。
「畑違い……、か。君は、戦争を生業とする者を知っているのかな」
 ゆっくりと視線を上げたカミルの腕は赤く染まっていた。腕が抉れ、骨まで達した傷から血に混じって黒い霧が落ちる。
「僕は、人を救いたいだけだ」
「戦争を手段としてですか」
 ただ一つ、息をつくようにして玖寂は言葉を返した。別段、糾弾するつもりはない。やれ、と落とした息が、戦場に満ちる血と硝煙に混じっていく。
「あぁ。死は唯一の幸福だ。一人でも多くの人を、死を以て救いたい。その為に、戦争はより良い手段だと思わないかい?」
「その同意に意味があるとも思えませんが」
 戦争屋が、と玖寂は悠然とした笑みを浮かべる。底知れぬ笑みだと、この場に第三者がいれば告げただろう。どちらも、底知れぬと。だが、日常を、世に言う平穏ばかりを知る者はこの場には無く、荒事師は微笑を以て戦争屋に告げた。
「こちらの同意を必要とするとは」
「君の憂いも迷いも、僕ならば救うことができるさ」
 血濡れの腕を、カミルが持ち上げる。空手に銃は無く、誘うように掌が晒される。
「雇われてみる気は?」
「お忘れのようですが――こちらも仕事なので」
 戯れ言めいた言葉が微笑みと共に向けられれば、真心の無い穏やかな口調で玖寂は否を告げた。――最も、こちらの言葉などカミルには関係あるまい。
「――僕は人を愛している。君もまた」
 その人だ。
 告げる言葉が――不意に、玖寂の視界を歪ませた。声に力があるのか。術式か。
『この人なら』
『あぁ、君になら』
『殺されても……あぁ、あなたになら!』
 頭の中、響き渡る玖寂の意思とは関係無く浮かび上がり、意識を侵していく。考える心を奪っていく。
『愛して、くれるなら――……』
「――……」
 最後ひとつ、玖寂の心の奥、深く深く沈み込み底を浚おうとした言葉に息を吐く。
「救済も愛も僕には不要のもの。己の行いくらい、理解しているつもりです」
 感性が空っぽだ。
 愛情というものを込められて差し出された手を玖寂は見る。
「そして自分がどういう存在かも。……いえ、これはいいでしょう」
 吐息一つ零すようにして、一度だけ目を伏せた。伊達眼鏡の奥、黒の瞳が見せた瞬きは術式を破るためのそれであった。
「人は皆、生まれては死んでいく。それは遅いか早いかだけ」
 玖寂が停滞と永遠を否定するのは、滅んでいくものへの諦観の裏返しだ。
「それだけで十分でしょう。少なくとも、僕には」
「愛も不要だと?」
 問いかけるような音で向けられた銃口に、玖寂は微笑を浮かべ暗器を放った。
 ――薄く、差し込むばかりであった夕陽が色を濃くし始めている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七・トモ
マドンナ(f29614)と一緒だよ
勿論、アドリブは大好きさ


わあ、崇高なお考えだー
でも唯一の幸福ってのは賛同できないなあ
だってタピオカ飲んでも幸せだよ

やや?きみとは話が合わないらしいぞ
そうかつまり、つまりだ
戦争だ

颯爽とリボンをプレゼントしておこう
あとで役に立つからね

あとはねえ
鋏じゃあ、すこし頼りないかな
騎士とマドンナの補佐として動こうかな
まあ、主に盾役だよ
ヘイトを買うのは趣味だからね

お兄さんお兄さん殺してみせてよほらほら
トモちゃんを愛してないってのかい?

ワハハ!もう一回死んでみるのも良い!

でもさ
一度死に触れた子たちは
やっぱりきみが気に入らないみたいだ

トモちゃんの兵士は質悪いぞ
期待してくれ

戦争だ


明日川・駒知
先生(f29745)と
アドリブ、マスタリング歓迎
ヴァレンタインの攻撃方法お任せ
NG:味方を攻撃する
_

唯一の幸福、ですか。
貴方がそう思うのなら、貴方にとってはそうなのでしょう。
けれど、いけないお方。無理強いなんてだめですよ。
死は幸福の一部なのかもしれない。
けれどそうでない方もいる。
…エスコートの仕方を、教えて差し上げましょうか。可愛らしい貴方。

戦争なんて趣味ではないわ。
トモちゃん先生に暴力の雨が降るなら護りたいの。
ねえヴァレンタイン──

私の意志が輝く
先生と私を護る緋色の死兆星がカミルへ狙いを定める

──蹂躙なさい、私の騎士。


「おてんばで、ごめんあそばせ」



●放課後少女と先生と
 銃弾が地面を抉っていた。薄く、帯のように差し込んできていた夕日が色彩を強める。空を隠し、屋上を包むように展開された儀式の結界が、揺らいで来ているのだろう。
「——困ったな」
 戦争屋『カミル』は息をつく。品の良いスーツは血に濡れていた。片腕を多い黒い霧は負傷を形ばかり補うものだろう。片眼に、片腕。アタッシュケースだけが血に濡れていないのが異様であった。
「死は唯一の幸福だというのに」
「唯一の幸福、ですか」
 コツン、と足音が響いた。一歩、前に出れば明日川・駒知(f29614)の髪が揺れる。艶やかな黒曜の髪は夕暮れの光を受け、頬に淡い影を描く。視線の先、柔らかな笑みを浮かべたままのカミルが「あぁ」と頷いた。
「そうさ。だからこそ僕は、一人でも多くの人を、死を以て救いたい」
「貴方がそう思うのなら、貴方にとってはそうなのでしょう」
 けれど、と駒知は囁くように告げた。
「いけないお方。無理強いなんてだめですよ」
「それは、君達がまだ迷っているだけさ。唯一の救いの前に」
「気がついていないだけと?」
 緩く、問いかける言葉を作った駒知の横、ひょい、と顔を出すようにして七・トモ(f29745)の明るい声が響いた。
「わあ、崇高なお考えだー」
 ふわり、と三つ編みが揺れる。口元に手を当て、声は大きく響いた。
「でも唯一の幸福ってのは賛同できないなあ。だってタピオカ飲んでも幸せだよ」
「……幸せにも色々あるとは思うけどね」
 やれ、と息をついたカミルにトモは笑った。
「放課後の楽しみってやつさ」
「……先生って買い食いは良いのかしら?」
 小さな瞬きにトモは笑う。
「其れは其れとしてだよ、マドンナ」
 くると振り返って笑えば、ふわりと髪が揺れてスカートが揺れる。風が頬を撫でていたか。やれやれ、と二人の会話を閉ざすようにカミルは息をついた。
「君達はまだ、迷い悩んでいる。——あぁ、それでも大丈夫さ。僕は、君達も救いたいのだから」
 穏やかな笑みを浮かべ、カミルはゆっくりと手を向けた。
「死を以て」
「やや? きみとは話が合わないらしいぞ」
 向けられた掌に、黒塗りの拳銃が落ちる。雨でも落ちるかのように銃器を手にする。両手持ちか。
「そうかつまり、つまりだ」
 ひたり、と向けられた銃口に。駒知より一歩、軽やかに前に出て——トモは笑った。
「戦争だ」
 しゅるりと手にしたリボンを投げる。銃を手にした男にしてみれば気にならないのか。腕に当たったのも気にせずに、銃弾がトモの腕を掠った。
「僕は、君も愛しているよ」
 ——果たして、二丁拳銃を構えて告げる言葉であったか。響き渡る銃声を前に構わず、トモは前に出る。身を、前に飛ばす。真っ直ぐに地を蹴り、軽く身を振るって、くるり、と回る。腕に、頬に、銃弾が掠れば——流れる血はあったか。
「死は幸福の一部なのかもしれない。けれどそうでない方もいる」
 カミルの意識はトモに向いている。こちらを確認はしているけれど——そう、銃口はいつだってトモを捉えていた。
(「——先生」)
 何度となく響いた発砲音に、駒知は、トン、と踵を鳴らした。
「……エスコートの仕方を、教えて差し上げましょうか。可愛らしい貴方」
 ふいに影が揺れた。——否、黒い霧が立ち上がったのだ。駒知の傍ら、その影を伸ばすようにして獣は身を伸ばす。
「──往きましょう、ヴァレンタイン」
 それこそ漆黒の凶犬。
 緋色の瞳を持つ少女の騎士——死霊《ヴァレンタイン》は吼えた。
『      』
 咆吼は、ひとの身に聞き取れるものであったか。少女の耳に、しかと響いた咆吼は空を振るわせた。一足、吹き抜ける風のようにヴァレンタインはカミルへと向かった。
「——獣を使うか。君もまた、戦いを知っているようだ」
 なら、そのエスコートに応じよう。とカミルは微笑んだ。肩口、斬り裂かれた衝撃に僅かに身を揺らしながら——駒知へと手を差し出した。
「君を救いたいんだ」
 差し出された手に銃は無く、ただ血に濡れていた指先が——ひどく優しげなものに駒知には思えた。そう、思わせるような声がする。
『あの人なら』
『——うん、この人になら。私は』
『私の、命を——……』
 駒知の心とは関係無く、言葉は浮かび上がってくる。心を塗り潰すように、意識さえ奪うように響く言葉に——だが、銃弾と笑う声がした。
「お兄さんお兄さん殺してみせてよほらほら。トモちゃんを愛してないってのかい?」
 降り注ぐ銃弾の雨が生まれたのは、トモが派手に踏み込んだからだ。救いを紡ぐカミルのその瞬間を崩してみれば——分かりやすく視線は此方に向く。
「全く、君には困ったな」
 カミルの手に落ちた銃が、マシンガンに変わった。
「ワハハ! もう一回死んでみるのも良い!」
 ヘイトを買うのは趣味だ。
 銃弾の雨も、この身を散らす程の衝撃にもトモは笑ってみせる。
「でもさ、一度死に触れた子たちはやっぱりきみが気に入らないみたいだ」
 くるり、とトモは身を回す。柔らかく髪が揺れれば——空間が歪んだ。ひとり、また一人と影が増える。通りがかった悪霊たちがトモの周りにやってくる。
「——君は、そうか。君を、本当に救うには苦労しそうだが——あぁ、構わないさ。僕は人を愛している」
「トモちゃんの兵士は質悪いぞ、期待してくれ」
 敵意は無い。ただ殺意と共に向けられた銀の銃口にトモは笑った。
「戦争だ」
『      』
 悪霊達が、甲高い音を響かせながら——行った。波のように一気に襲いかかれば、腕を掴む。一体、銃弾に撃ち抜かれようが、悪霊がその程度で怯む訳でも無い。全ては、あの黒いリボンが始まりなのだから。
「君を以て、救いとしよう」
「フハハ! トモちゃんを救うのかい?」
 銃弾にトモは笑う。揶揄うように両の手を広げて見せたのは——後ろ、視線を上げた彼女に気がついたからだ。
「戦争なんて趣味ではないわ」
 駒知は言葉を紡ぐ。自らの意思で誘いを払う。声を、思いを自ら発す。
「トモちゃん先生に暴力の雨が降るなら護りたいの。ねえヴァレンタイン──」
 駒知の意思が輝く。駒知とトモを守る緋色の死兆星がカミルへと狙いを定めた。
「──蹂躙なさい、私の騎士」
『ルグァアアアアアア』
 トモの背を飛び越し、ヴァレンタインはカミルへと食らいついた。肩口を掴み、喉元食らいついた獣に戦争屋『カミル』が、ぐらり、と身を揺らした。
「君は——」
「おてんばで、ごめんあそばせ」
 男の手から銃が落ちる。放たれた銃弾が地に沈む中、ふわりと駒知は微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鸙野・灰二
マルガリタ(f06257)と

そうか。

男の云う事は少しも分からない
「逃げろ」と云う声は噂に成ッた者達か
悪いな、従えない。

俺は俺の仕事をしよう、男を殺す手伝いをする
兵の霊も弾丸も知ッた事か。此の身体は仮初で何度でも蘇る。
「救い」とやらからは最も遠い
痛みには耐性を付けた
マルガリタに向かう攻撃は俺が全て受ける
刀を、鸙野(おれ)を抜く事はしない。男を殺すのは俺じゃない。

支援は任せろ。お前はやりたい事に集中すれば良いさ
【剣涯撒手】
俺もするべき事を為す。奴に救わせてなんてやるものかよ

そうだな。考えて決めるより他人に決めて貰う方がずッと楽だ
それでも自分の意志で為したお前を、俺はとても尊く思う
…… よくやッた。


マルガリタ・トンプソン
鸙野(f15821)と

育ての親を殺したことがあるんだ

死が救いだと謳う君が死に損ねて帰ってくるなんて
おかしな話だね、パパ

武器である俺は、持ち主だった君の言うことに従うのが道理なんだろうけど

もう少し生きて、一緒にいてみたい奴がいる
だからまだ死ねないし、彼も死なせない

これは殺意が引き金を引くユーベルコードだから
意思を持たない武器には扱えない
でも今、君を殺すのは俺の意思だ

やられる前にやる。物量で押し切る。俺の作戦はそれだけ。支援は頼むよ
死ななくても痛みはあるのは知ってる
でも庇わないし謝らない
それは俺が今すべきことじゃない

自分で何かを考えて決めるって、結構大変なんだね
ねえ鸙野、俺はちゃんとできたかな



●少女と刀と、
 ――その声を、覚えている。
「……」
 戦場となった屋上は、血と鉄の臭いに満ちていた。薄く差し込むばかりであった夕日がその色を強めている。儀式の主たる男の負傷が、結界を弱めたのだろう。
「全く、君達には困ったな」
 吐息ひとつ、穏やかな笑みさえ浮かべたまま血に濡れた手を戦争屋『カミル』は拭う。
「死は唯一の幸福だというのに」
 本当に困ったとばかりに響く声は、血濡れの身にはいっそ不自然で――だが、マルガリタ・トンプソン(f06257)には、ひどくしっくりと来ていた。
 ――多分『そう』するのだろう、と。
「育ての親を殺したことがあるんだ」
 前へと、視線を向けたまま静かに声は響いた。淡々とマルガリタの告げた言葉に、鸙野・灰二(f15821)から返った言葉は「そうか」の一言だった。別段、長い言葉を期待した訳では無い。ただ――そう、口にしておきたかったのかもしれない。目の前、出会った人に。見つけた人に――骸の海を辿り、再び出会った人と向き合うその前に。
「死が救いだと謳う君が死に損ねて帰ってくるなんて。おかしな話だね、パパ」
「――あぁ」
 ゆっくりとカミルの視線がこちらを向く。ひたり、と視線が合って響いた言葉は、応じるそれであったか、吐息めいた言葉だったか。
「僕は人を愛している。一人でも多くの人を、死を以て救いたいからね」
 それが理由だとでも言うように。己は、まだだというように。パパ、と告げた時も、変わらずにあった男の瞳が「それで」と先を促していた。
「どうして其処にいるんだい」
「――……」
 マルガリタ・トンプソンは生きるために武器を執った。いつしか己自身を『武器』と定義した。求めず拒まず、望まれるままに善を為し悪を為す。――それこそが、マルガリタという武器だった。
「……」
 傍らにある少女の足が止まっていた。動き出せない訳では無いのだろう。ただ、僅か言葉を探しているようにも灰二には思えた。
(「最も俺には――……」)
 男の云う事は少しも分からない。
 教室で見たあの「逃げろ」という声は、噂に成った者達からの最後の警告だろう。書き殴るようにして残した彼等の遺志。
「悪いな、従えない」
 遺されたものに、そうとだけ灰二は言葉を作る。ひゅう、とふいに血濡れの戦場に風が吹いた。外界から招かれたか――否、戦争屋たる男が零す吐息が、結界内部を振るわせたか。邪神復活の儀式は、とどのつまりこの男の言う救いの体現の為だ。
「結界の補強はなったが……儀式も、時間は掛かるが、この場所を使い直せば良い。此処の子達は皆、思い悩んでいたのだから」
 カミルはそう言って、血濡れの手を持ち上げる。虚空から白銀の銃が手に落ちる。
「何一つ疑うことは無い。何一つ憂うことは無い。言葉は僕が告げ、僕が救おう」
 ゆっくりと持ち上げられた銃口が、ひたりとこちらを向いた。
「――死を以て。救われるべきだ」
 ガウン、と始まりの銃声がマルガリタの頬を掠った。続いて届くはずの銃弾は――だが、踏み込んだ男の腕に沈んでいた。
「……君は」
 吐息一つ零すようにしてカミルが灰二を見る。無茶をする子だな、と落ちた声を無視して、ただ、共に戦場を行くひとりの名を呼んだ。
「マルガリタ」
「――」
 答える代わりに息を吸う音がした。薄く唇を開く気配がある。それで、灰二が動くには充分だ。間合いで言えばあちらが有利。ならば、その絶対をこちらが喰らうまで。
(「――だが」)
 俺は、と低く響いた声は、マルガリタの耳にも届いていた。前へ、踏み込む者がいればそちらへとカミルの視線は向く。そうだろう。詰められた距離は無視出来ない。戦場であれば常にそうだ。慢心と自信を得た者から死んでいく。警戒は常に。上官の命令は、パパの言葉は――……。
「武器である俺は、持ち主だった君の言うことに従うのが道理なんだろうけど」
 マルガリタは息を吸う。ぱさぱさと揺れる黒髪を気にせずに――白い手を一度、握る。
「もう少し生きて、一緒にいてみたい奴がいる。だからまだ死ねないし、彼も死なせない」
 真っ直ぐに見据えた先、カミルの瞳がひたりとマルガリタを捉えていた。薄く開いた唇。両の手は知らぬ間に空手であった。先に召喚した銃は使い捨てたか。
「――それは、困ったな。僕は人を愛している」
 愛を紡ぎ、響いた言葉がマルガリタに届いたのとカミルの手に新たな銃が落ちたのは同時だった。
「――さぁ、救おう」
 サブマシンガンだ。
 銃声を派手に響かせ、凪ぐように腕を払う。庇う男がいるのを分かっているが故か。飛び込むように射線に入った灰二の視界に、影が立った。
「――ァ」
 それが、世に言う霊だと、投げつけられたのが手榴弾だと気がついたのは、熱と衝撃を叩き付けられた後の事だった。
「――ハ」
 痛みに、だが灰二は息を吐く。だらり、と庇うように前に出した腕が血に濡れていた。ろくに力が入らない。――だが、構いはしなかった。
「兵の霊も弾丸も知ッた事か。此の身体は仮初で何度でも蘇る」
 俺は俺の仕事をしよう。
 そう、灰二は決めていたのだ。男を殺す手伝いをする。撃鉄を引くと、彼女がそう決めたのだから。
「「救い」とやらからは最も遠い」
「――ならば、まず、この子達に手伝って貰おう。僕が導いた子達だ。きっと……」
 君を救う手に辿り着ける。
 静かにそう、カミルが笑みを浮かべたのはヤドリガミたる灰二の器物を見てか。だが、これを抜く気は灰二には無かった。刀も、鸙野も。
(「男を殺すのは俺じゃない」)
 故に、この身は盾だ。
 行く道の為の儕だ。
「やられる前にやる。物量で押し切る。俺の作戦はそれだけ」
 は、と息を落とす灰二へと、銃弾と爆薬から守るように立つ男へとマルガリタはそう告げた。だらりとした片腕は、マシンガンの前に落ちた。血溜まりに――だが、それでも立つ彼にマルガリタは視線を向ける。
「支援は頼むよ」
「――あぁ。お前はやりたい事に集中すれば良いさ」
「――……」
 死ななくても痛みはあるのは知ってる。
 でも庇わないし謝らない。
「それは俺が今すべきことじゃない」
 口の中、そう言葉を作る。手をゆっくりと前に出す。――それは、先にカミルがした仕草に似ていた。誘いに似た指先を、空の掌を晒して息を吸う。真っ直ぐに相手を――見る。
「これは殺意が引き金を引くユーベルコードだから、意思を持たない武器には扱えない」
 一丁の銃が手に落ちた。迷わず銃口を向ける。慣れた動作。身に染みついたそれは、だが、今だけは違う。
「でも今、君を殺すのは俺の意思だ」
「僕に向けるのか」
 ふ、とカミルが笑う。穏やかな笑みは変わらず、だが、手にした銃が小銃に変わる。撃鉄が引かれるより早く、マルガリタは己の銃を放った。続けて二発。立ち止まって撃つ気は無い。身を横に飛ばし、射線を確保する。少年兵の霊達がカミルを庇うように射線に立つ。
「――それでも」
 やると、決めたのだ。自分で。そう決めた。
「お前、俺に揮われて呉れ」
 投げつけられた爆薬を払い、炎熱の中、灰二は己にかけた枷を力とする。
「俺もするべき事を為す。奴に救わせてなんてやるものかよ」
「――、体が」
 灰二の見据えた先、カミルの腕が止まる。3秒。短い時間だが――そう、これだけの時間があればマルガリタには充分だった。
「――パパ」
 黒塗りの銃を手に、マルガリタは息を吸う。
 これは、意思持たぬ武器が、自ら祈り、希い、引き金を引くもの。
「そこ、どいてよ」
 希う者。
 愛する者とカミルが定めた術式と対と成る銃弾がカミルの胸に届き――その核を、心臓を砕いた。
「――僕、は」
 戦争屋の手から銃が落ちる。ぐら、と身を揺らす。何故、という言葉は無かった。ただ己の胸に手をあて――そして、マルガリタを見る。
「救い、を。人、を――……」
 一度確かに目をあわせ——そして、ゆらりと大きく身を傾いだ男が、地に倒れていく。マルガリタの銃弾に、骸の海へ還ることなく、戦争屋『カミル』は今度こそ最後の死を迎えた。

●遠い岸辺へと
 空が、還る。
 歪んでいた屋上に夕陽が戻り――気がつけば、夕暮れの冷たい空気が頬を撫でていた。見上げれば夕暮れが空を染めていることだろう。
「自分で何かを考えて決めるって、結構大変なんだね」
 空を、見ることは無いままに、マルガリタは最後にカミルの立っていたその場所を見ていた。
「そうだな。考えて決めるより他人に決めて貰う方がずッと楽だ」
 それでも、と灰二は視線を上げる。ゆっくりと、夕陽を背にした少女を見た。
「それでも自分の意志で為したお前を、俺はとても尊く思う」
「ねえ鸙野、俺はちゃんとできたかな」
 死は唯一の幸福だと言って。多くを救いたいと言って――自分は帰って来てしまった人に。
「……、よくやッた」
 風が吹く。二人の頬を撫でるように。労るように。
 ――程なくして、UDC組織が学園に入った。邪教の影響が解けた学園は、情報統制の後に日常へと帰るのだろう。警告を告げた彼等の叫びが、願いが猟兵に届き――そして、学園は、確かに救われたのだ。天使でも神でもない。今を生きる猟兵たちの手によって。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月30日
宿敵 『戦争屋『カミル』』 を撃破!


挿絵イラスト