#サクラミラージュ
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●恋に恋して追いかけて
「わたくし死ぬまでに一度、恋と言うものをしてみたかったですわー!」
ですわー。ですわー。ですわー。
よく通る声が、列車の駆け抜ける音と共に音楽のように響いた。
駅舎の時計塔でぱかんと窓を開けた清掃員は同じ音で口を開けたし、列車に乗り込もうと急ぎ足で帝都を進んでいた人々はぽかんと上を見上げる。
桜色でまとめた華やかな着物と、長いお下げ髪に赤いリボンを揺らした少女が駅舎の屋根の上で叫んでいた。
「ああー! わたくし悪漢に攫われて! 死んでしまうのですわー!!」
「ちゅん……」
「……」
困り果てた様子で控えめに鳴くまるまるした白いカラスと、ぼうと浮かぶ影竜が、少女を捕らえるようにゆらゆら揺れて――そのまま鳴る汽笛と共に列車の屋根へ飛び去って。
我に返った人々はユーベルコヲド使いを呼べだの何だの、ひとしきりわあわあ騒ぎ立て、けれどもどこか緊張感のない少女の叫びを思い出すと、首を捻るばかりになった。
「ですわ……。あー、ありゃあ、篠宮さまのとこの香恋お嬢さまだ、間違いねえ」
「ああ、どこぞのお偉いさんと結婚が決まって言う?」
「夢見がちなお嬢さまさ、恋した相手としか結婚したくないだのなんの、言ってたらしいが」
なんて噂話は瞬く間に広まって。人々は笑っていたけれど。
やがて、地を揺らすような轟音がどおんと空へ突き抜けて、夜色列車が宙を舞うなんて、思ってもみなかったのだ。
●恋とはどんなものかしら
「恋に憧れるお年頃って、どんなコにもあるものよねえ」
くすくすと声をこぼして、真っ赤な男、ベルナルド・ベルベット(リーリフラウ・f01475)は微笑ましそうに唇を持ち上げた。その視線は呼び掛けに応えてくれた猟兵たちへ向く。
「きっかけは単純なことよ。望んでもない結婚が決まって、初恋もまだな乙女は嘆き悲しんだ。恋のひとつもしてみたかったって憧れを、誰かに助けて欲しいって願望を、めいっぱい抱いて叫んだの」
――曰く、わたくし死ぬまでに一度、恋と言うものをしてみたかったですわー! である。
「それがオブリビオン……影朧を呼んでしまったみたいなのよね。ンフフ、可愛いこと」
えええ。聞いていた猟兵たちから少なからず嘘だろみたいな反応があるのを気にせずに、ベルナルドは楽しげに笑う。
「影朧はそのコを誘拐した。……つまり彼女はいわゆるこの事件のヒロインになったのよね。もう心の中はウキウキよ、思う存分助けてって叫べるし、実際叫びまくっているの。だからまあ、列車の上でもそれなりに近づけば場所はすぐわかると思うわ」
よく喉が枯れないものだと感心するが、よく響き渡るですわー。が、近づけばきっと聞こえて来るだろう。そして猟兵の手にかかれば、救出は困難ではないだろうけれど。
「敵がレールに爆弾を仕掛けるみたいなの。それは間違いなく、どうにかして頂戴」
誘拐された少女は勿論、列車を吹き飛ばすわけには行かない。現地のユーベルコヲド使いの機転で、先に出た列車と併走できるように別の空列車を出して貰えるようだから、上手く使ってとベルナルドは伝える。
「それとね。せっかくだから、嘘でもなるべくときめかせてあげて欲しいのよ」
お茶目にウインクを決めて、ベルナルドはそんな提案をする。
どちらに重きを置くかは猟兵たち次第だけれど、なるべくなら誘拐された少女が喜ぶような活劇を、繰り広げてあげてほしい。
「いっそ本気で口説いたって構わないわよ? もう男とか女とか、委細構ってられないらしいから。その子の救出をするときは、完全にでっちあげの思い出を語るとかその子への恋心を騙るとかして戦ってあげるといいんじゃないかしら」
真っ赤な嘘の演技でもこの際構わないのよ。なんて完全に楽しむ顔で綺麗に笑って、真っ赤な男は光をひらく。
「恋に恋した女の子、助けてあげて貰えるかしら?」
柳コータ
お目通しありがとうございます、柳コータと申します。
今回はサクラミラージュにて、気軽に軽快に、列車の上で楽しんで頂ければ。
●大まかな流れ
一章:冒険。全速力で走る列車で敵を追い、爆弾を処理します。
二章:集団戦。まだまだ追いかけながら、可愛い手下を倒します。
三章:ボス戦。救出対象を口説いたり口説かなかったりしてボスを倒します。
●NPC:篠宮・香恋(しのみや・かれん)
16歳の富豪の娘。恋に恋するお年頃。
「これは夢ですのね!! きっとわたくしの恋人(いない)が助けに来てくれるはずですわ!」
恋愛願望を叶えてあげると、ボスが弱体化します。叶えなくても大丈夫です。
男女問わず好きだ! 愛してる! とか言うだけでときめきます。戦闘能力は皆無です。
三章以外は響き渡るですわー。以外基本的に空気ですので、冒険活劇をお楽しみ下さい。
●プレイングについて
プレイングの受付期間はMSページにてご案内致します。
いずれも短期受付の予定にさせて頂く予定です。スケジュール等の都合で全採用は難しい場合がありますが、なるべくご案内できるよう頑張ります。また、再送の可能性がございます。もしも返って来て受付をしていた場合はどなた様も再送歓迎です。
複数名でご参加の場合は【合言葉】か名前とIDをお願い致します。
それでは、どうぞよろしくお願い致します。
第1章 冒険
『レヱルの上に腹腹時計が!』
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POW : 力ずくで列車を止める!
SPD : 爆弾を迫りくる鉄道から遠ざける!
WIZ : 爆弾を解除すれば、もう大丈夫!
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「列車が出ます、お早く! お早く!」
駆けつけた猟兵たちの前で、勢い良く汽笛が鳴いた。今にも進みだそうとする列車は、少し前に発車して行った列車を追うために、全速力を出そうとしている。
ですわー。ですわー。と遥か向こうから聞こえていた声ももう聞こえない。
「影朧は列車の屋根上、人質を小脇に抱えていますですわ。……あ、いえ。自由に飛び回ることができますゆえ、逃げ足は速いでしょうが、人質が気を取られると動きが鈍くなるようです。併走できるのは八駅先の手前までで、」
「――報告します! この先七駅め手前に、影朧が何かを仕掛けに来たと言うことですわ!」
「移ってるぞお前! 何かとはなんだですわ! お嬢様か!」
「お嬢様ではありません置くわけないですわ! って言うかみんな移ってますよお!」
再び騒然とする駅員を置いて、猟兵たちを乗せた列車は走り出す。
――幻朧桜舞う帝都、風を切って進む列車を舞台に、恋に恋した少女の誘拐事件が幕を開けた。
アルバ・アルフライラ
うーむ、中々の地獄絵図
いやはや然し、恋に憧れる乙女の強き事よ
ある意味見習いたいものですわ…おっと
列車の屋根上にて、影朧の動きを注視
六駅目…七駅目手前は特に警戒
人質に危害を加えず、爆弾の設置を妨害出来ぬものか
宝石による属性魔術で敵の牽制を試みるが
レールの上にある爆弾を確認次第、其方へ意識を向ける
流石に列車ごと吹き飛ばされては洒落にならぬでな
魔方陣より召喚するは【夢より這い出し混沌】
黒き翼竜に跨り、爆弾の撤去に赴く
易々と解除出来る類ならば僥倖
難しい場合は…遥か上空へ爆弾を遠ざけ
更に上へ投げ上げたそれを高速詠唱の魔術にて爆破
爆発に巻き込まれぬよう疾く離脱
後生故、我が身よ欠けてくれるな
欠けたら後が怖い
シキ・ジルモント
◆SPD
オブリビオンを呼び寄せる程の強い想いといえば、まぁ確かにそうなのかもしれないが…
少女の恋への憧れとそれが齎す凄まじいパワーに、
いっそ感心すら覚えつつ、気を取り直して仕事に取り掛かる
ひとまず、爆弾をレール上から撤去してしまいたい
現場近くまでは列車で移動し、後は走って爆弾に近付く
ユーベルコードを発動し、増大したスピードを利用した『ダッシュ』で爆弾へ
動かす事で爆発するような仕掛けはないか確認し、取り外して線路の外へ移動させる事で列車への被害を防ぐ
爆弾を解除できる猟兵がいれば任せるが、そうでなければ上空に思い切り投擲する等で影響の少ないよう配慮して
銃で撃ち抜いて爆発させることで処理してしまおう
ジャハル・アルムリフ
…こい、ごころ
恋う――乞う…
如何様なるものをそう呼ぶか
正しくは解せぬが
…心捧ぐ相手と添い遂げたいと想うのは
件の娘にも「こい」にも限るまい
しかし鉄塊が斯様に速く駆けるとは
翼も足も持たぬというに、生意気な
屋根から【竜追】にてレッシャを追尾
何処か遠い背を追う、何時もの心地に似て
令嬢の近くを飛び越すときは
敬礼でもしておけば良かろうか
微笑むのは…あまり得意ではないが
死なせはせぬ、と
あとは一気に飛翔、ばくだんとやらの仕掛けられる地点へ向かう
……何だろう、あれは
我が師なら読み解けたであろうか
解らぬなら降下と同時、ただ一息に壊すまで
最大限に<第六感>以て<部位破壊>を
危うければ人の居らぬ遠くへ跳ね飛ばせるよう
エン・ギフター
爆弾を取り除くのですわー……ですわ?
恋だのなんだのはさておいて、列車爆破は看過できねェわな
ちょい待てよその列車俺も乗るわ!
ダッシュで駆け込み乗車かまして
件の列車と併走始めたら窓から窓へと文字通り飛び移る
無賃乗車じゃねェわ、爆発四散したくなかったら頭抱えて大人しくしてろな!
列車内で騒ぐ乗客にぞんざいな挨拶投げて
窓に貼り付いたままで最前車両に移動しつつ
レール眺めてそれっぽいモン探し
…あれか?違ってても疑わしきを処理できりゃ御の字か
野生の勘頼りに目星付けたら壁蹴って
滑空がてらにブツ確保
成功してたらそのまま上空まで飛んで
更に高いトコに爆弾ブン投げてから
【黒嵐】で爆破狙っとく
おーお、汚ェ花火だことで!
鶴澤・白雪
気持ちは察してあげないでもない
けど叫ぶ意味は全く分からないわね
誘拐された割に楽しそうで何よりだけど
とりあえず恋に恋するじゃじゃ馬お嬢様を助け出せばいいのね
なんか既視感……いや、気のせいね
絶対気のせいだわ
あたしはあそこまで浮かれてなかったわ
まずは爆弾をどうにかしないとなのね
レールの上なんて面倒くさい場所に仕掛けてくれたわね
冷却が効く爆弾なら冷気を籠めた弾丸で起電力を停止
解体やら解除はできる人に任せるわ
撃ち抜いて大丈夫ならそのまま撃ち抜くけど確認してから
そうじゃないならいっそ爆破させた方が早い気がするわ
リールから引き剥がせるならエラースラッジで囲んで中で爆発させる
さっさと済ませて早く追いかけましょ
●
「…………ですわ――――!」
――茜色列車が駅を飛び出した。
「爆弾を取り除くのですわー……ですわ? ――じゃねェわ、ちょい待てよその列車!」
列車が駆け出すのとほぼ同時に、俺も乗るわ、と烏羽色の翼を風に膨らませて、エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)が車内へ駆け込んだ。
駅舎の混乱しきった喧騒を掻き消すように大きく汽笛が鳴り渡り、速度をぐんと上げてゆく。
忙しなく揺れる車内に乗り込んだ猟兵たちは、どこか幻聴のように聞こえる『ですわー』に何とも言えない顔をするばかりだった。
中でも鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)は端正な顔立ちをわかりやすく顰めながら、車窓を開く。軽く顔を出せば余韻のようなものは聞こえるが、まだ遠かろう。
「恋のひとつも、ねえ。……気持ちは察してあげないでもないけど、ああまで叫ぶ意味は全くわからないわね」
「小柄だが、逞しい声量だった。オブリビオンを呼び寄せるほどの強い思いと言えば、まぁ確かにそうなのかもしれないが……」
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が表情を動かすことなく呟いた。そうしながらも、その指先は仕事道具を確かめる。
件の少女の恋への憧れと言うものは、かくも凄まじいらしい。シキの声音に滲むのは、いっそのこと感心だ。
「……こい、ごころ」
馴染みのない言葉を持て余すように、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の澄んだ夜灯しの瞳は子供のように瞬いて、首も傾げる。
(恋う。乞う……)
娘が当然のように口にしたそれは、ジャハルには理解し得ぬものだ。
(如何様なるものをそう呼ぶか)
わからない。けれど、それよりも余程判然としているのは、今眼前をゆく黒いものを追わねばならぬと言うこと。そして。
「いやはや全く、恋に憧れる乙女の強さは大したものです」
他の車両を軽く確認していたアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)も星を宿す瞳を遠くを見るように眇める。
ですわー、しか聞こえぬその声は、とことん肝心な部分を伝えないけれど、思いの丈はよくよく尾を引いているせいで、随分耳にこびりついたかもしれない。
「ある意味見習いたいものですわ……おっと」
「移ってる移ってる」
「ふふ、これは失敬を。ただの楽しき列車の旅とは参りませんが、そろそろこの活劇の舞台に上がりましょうか。――役者はこれで揃ったようです」
エンの本気でもない一言に、本気でもなく微笑んでアルバが車窓の外を見やったその先で、猟兵たちは追うべき列車の姿を捉えた。
●
「仕事の時間だ」
がうと吠え立てるように風を切りながら、列車は五駅めを越えて、列車を追いかける。
茜色と夜色、その二つがようやく並んだところで、シキが目的を同じにする猟兵たちを一瞥して、車両の端にある出入り口を軋ませて開いた。
勢い良く風が吹き込むのを合図にしたように、猟兵たちは迷いなく外へ飛び出す。目指すはその屋根の上。
「おーお、騒いでる騒いでる」
駆けながら隣り合う窓をエンが開けて覗き込めば、向こうの列車の乗客も窓を開けて何か口々に言っていた。それも気にせず窓枠に足を掛ければ、隣の窓に半ば強引に飛び移る。
「無賃乗車ですわー!」
「無賃乗車じゃねェわ! 爆発四散したくなかったら頭抱えて大人しくしてろな!」
わあわあと騒ぎ立てる乗客たちにぞんざいな挨拶を投げて、そのまま長々と続く列車を見渡した。敵らしい影はまだ視認できない。
「上からなら見えそうか?」
問いかけは頭上へ。エンと同じく窓から飛び出して白亜の竜翼を広げていたジャハルは、短く頷いた。
「ああ。線路の先に飛んでいる」
「乗ってねェのかよ」
まあ行くけど、と窓を足掛かりにエンは移動を始める。それを横目に駆け出しながら、シキが呟いた。
「だが、戻っては来るだろう」
「ええ。爆弾を仕掛けに行ったか、陽動か、かしら」
白雪の予測に、アルバも蒼く光る宝石魔術を浮かべながら、頷く。
「そんなところでしょう。――追いつけるか、ジジ」
「追い越して見せよう」
聴き慣れた声が魔術を込めた宝石ごと不意に投げ上げた声に、ジャハルは当然のようにまた短く頷いて、ひかる宝石を掴み取った。ほとんど同時に更に力強く翼を動かす。列車と同じか、それ以上の速度で空の中を進んでゆく。
その姿にアルバはくすりと笑った。速さを競えとは言っていないのだけれども。
会うとは思っていなかったが、だからこそ。いつもの調子は充分に出せそうだ。
(速い)
空を駆けながら、ジャハルは未だ速度を上げるらしいその乗り物を眼下に見る。
(鉄塊が斯様に速く駆けるとは)
レッシャと言っただろうか。がたんごとんと忙しなく響く音はどこか鼓動にも似ているが、生物ではない。
(翼も足も持たぬと言うに、生意気な)
芽生えたのは何てことない対抗心。張り合ったところで、ただ走るばかりなのは見て取れるけれども。――置いて行かれてなるものか。
翼を広げる。風を纏う。舞う幻朧桜の花弁ごと風の鎧と為せば、ジャハルはぐんと速度を上げる。
速く。もっと速く。――何処か遠い背を追う、何時ものようにひたすらに。
恋は理解し得ぬ。けれど。
(心捧ぐ相手と添い遂げたいと想うのは、『こい』にも限るまい)
「…………ですわ――――!」
声が先ほどより近くで聞こえた。そう認識するとほぼ同時に、レッシャを追い越す。――線路に影の塊を見る。その下に、括り付けられたそれを見る。託された宝石を投げやると、星と弾けて影が空へ飛び上がった。
ジャハルもまた風に風をぶつけるようにして大きく飛翔すれば、影朧の奥におさげ髪の娘が見えた。思い出すのはときめき要請。けれども微笑むのはあまり得意ではないゆえに、ジャハルは敬礼をしてみることにする。
死なせはせぬ。――そう唇で言ったなら。
「全力で!!! 素敵な花嫁になりますわ――――!!!」
思い切り勘違いされたけれども。
●
「なんか既視感……」
ますわー、ますわー、と逞しく響いて来た声に、屋根を駆けながら白雪は露骨に嫌そうな顔をした。
(いや気のせいね絶対気のせいだわ。あたしはあそこまで浮かれてなかったわ)
記憶の底のほうから顔を覗かせた、なるべくなら忘れていたい過去の何某を頭を振って吹き飛ばして、白雪はしょうのない子ね、と口の中で呟いた。
「誘拐された割に楽しそうで何よりだけど」
悲痛に泣かれるよりは気は楽だが、それにしたって緊張感はどこにもない。まだ屋根を走る身体が吹き飛ばされないようにするほうがよっぽど緊張感があるものだ。
「……戻って来た」
シキが空に視線を遣る。その先から、ジャハルが風と共に舞い戻った。
「――すまない、ばくだん設置の阻止はできなかった。だが、設置は甘い」
「ふむ、想定内だな。場所は?」
「この先、あと十分と掛からぬだろう」
アルバの問いに簡潔に答えて、ジャハルは主を含める面々を見渡した。
「解除ができそうな者はいるか」
「ごめんなさい、あたしは無理ね。面倒くさい場所に仕掛けてくれたこと」
「俺もできそうにない。……爆弾の状態の確認程度なら、見慣れてはいるが」
「俺も無理無理ー、空に運ぶんだったら請け負うけど」
「ものによるが……この時間では、解除より撤去を目指したほうがよかろうな」
白雪にシキ、エンも隣の列車から首を振り、アルバもそう見解を示せば、あとの行動は決定した。――目指すは爆弾の撤去。
「お、影朧も戻って来たな」
エンの声で列車の先を見れば、影朧が夜色列車の最後尾に陣取っている。
自分でやっといて真先に吹き飛ぶのは嫌なのかね、などとエンが軽口を叩いたちょうどその頃に、猟兵たちは先頭車両に辿り着く。
「……あれか。俺が行こう」
線路の先の先、僅かに見える違和感を視認するや、シキの青い瞳が光る。同時に躊躇なく飛び降りると、ほんの一息の呼吸で人並外れた速度で線路へ駆け出した。リミッターを外し、限界を越えたシキの身体は、列車よりも疾く駆ける。
「――飛べ」
ほんの僅かな詠唱ひとつで列車の上に大きく展開された魔法陣から、巨大な黒竜が姿を見せた。その背に手馴れた様子で跨って、アルバもまた空へ駆ける。追うようにジャハルもまた翼を返した。
「撃って大丈夫そうなら弾き上げるわ」
「街中だし、なるべく高くにしたほうが良さそうな。そんじゃ行くか」
白雪が銃を構え、エンも空を滑るように飛んで。――後ろから聞こえるですわー、はひとまず今は聞かないふりで。
「……確認した。これなら動かして問題ない」
いち早く爆弾に辿り着いたシキが合図を送る。
「道、開けて!」
それと同時に白雪の冷気を込めた弾丸が電源部分を撃ち抜いた。
「では、もう一息」
傾いた爆弾を、アルバの宝石魔術が跳ね飛ばす。
「――師父」
こちらへと言うまでもない。飛ばされた爆弾を、ジャハルの拳が更に殴り飛ばして、腹腹時計は空を飛ぶ。
「はーい、お預かりしますよ。ンでもって、」
空の半ばでエンが爆弾を掴み取れば、そのまま更に上空へと飛翔する。高く高く――届け先は雲の上の上。
この辺で充分か。勘のひとつでそう察すれば、駄目押しのように更に高くへ投げ上げて。
ばさり。広がる黒い翼は羽を放つ。宝石よりも石よりも硬化した羽根たちは、遠慮もなしに爆弾を貫いた。
――響く轟音。
それとほぼ同時に追いついた列車に飛び乗った猟兵たちは、ぱらぱらと散る爆弾を見上げた。天高く上げたおかげで、爆風はほとんど列車に及ばず、雲が晴れる。
「おーお、汚ェ花火だことで!」
響くですわーは観客同然に、どこか嬉しげに響いたようだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『しろがらすさま』
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POW : 雑霊召喚・陽
レベル×5体の、小型の戦闘用【雑霊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
SPD : おみくじをひきなさい
レベル分の1秒で【おみくじ棒】を発射できる。
WIZ : ゆめをみましょう
【ふわふわの羽毛】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――飛び移れ!
そう叫んだのは猟兵だったか、機関助士だったか。
キィィィィと甲高い音で速度を落とした併走列車から、猟兵たちは一斉に先頭車両に飛び移り、夜色の列車の上に、力強く降り立った。
その瞬間に風に煽られてよろめいたその身体が、――ぽふんっ。と。
まっしろ、ふかふか。まるまるの何かにぶつかった。
「……ちゅん?」
だいじょうぶ? けっこんする?
そんな目であったかもしれないし、
「ちゅん……」
あのおじょうさまつかれたですわ……はよもっていってですわ。
そんな目であったかもしれないし、
「ふぉーちゅん!」
いいからおみくじひきなさい! ひきなさいったらひきなさい!
そんな積極性に満ちた何かであったかもしれない。
そんな、白くて丸くて何故かちゅんと鳴くしろがらすさまたちが、夜色列車のその上に。
わさっ。
と、いるのだから、これはもう。
「もふもふパラダイスですわ――! やはりこれは夢ですわ――!」
千切っては投げ、あるいは飛び越えて、あるいはおみくじを引かせて貰ったりして、最後はつぶらなひとみをえいやっとして、戦わねばならぬらしい。
列車は走る。真っ直ぐに。――うきうきした誘拐された令嬢の目前まで、あと。
シキ・ジルモント
なんだこれは…なんだ、これは
白く丸いものがひしめく光景にあっけにとられて、発射されるおみくじ棒に困惑して…
響き渡る“ですわ”を聞いてお嬢様の無事を確認し、同時に我に返る
お嬢様の位置を声で確認してそこへ向かう
列車から落とされないようにしろがらすの攻撃をユーベルコードの効果で回避し、邪魔をするなら蹴り飛ばして道を開ける
こちらも仕事だ、悪く思うなよ
…疲れた様子のしろがらすには少し同情する
元気の良いお嬢様の相手をするのは大変だったのかもしれない
手を貸してもらえるよう説得してみるか
「大丈夫か?疲れているならお嬢様の相手は喜んで引き受けるが、まずはそこまでたどり着く必要がある。手を貸してはもらえないか?」
●
「なんだこれは……」
帝都を駆け抜けてゆく列車の上で、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は半ば無意識に呟いた。
吹き付ける風は、先程駆けていた列車にいたときほどは強くない。それなのに思考が吹き飛ばされそうな心地なのは、どうしたことか。
シキは常に冷静であることを意識している。受けた仕事を確実にこなせるよう、約束を、信用を損わぬよう。しかし、今までの仕事でここまで困惑したことがあったろうか。
ひらりと舞う桜の花びらと、同じ程度の頻度で飛び交うおみくじ。見渡す限り列車の上に広がる――しろいもの。
もふん。ころん。
夜色列車のその上を、ぎっちりみっちり、白くて丸い鳥っぽい何かが埋め尽くしていた。
「……なんだ、これは」
思わず二回呟いた。警戒を緩めてはいけないのは、わかっている。わかっているのだけれども、いまだかつてなく緊張感がなく呆然とするばかりの仕事場のありさまに、つい耳の先も垂れてしまう。けれどもすぐに、銀狼の耳がぴんと立った。
「…………ですわ――!」
その声で、我に返った。そろそろ耳に慣れて来たあの叫びは、救出対象のものだ。自発的に叫び続けているその声で有り余る健康状態と無事は確認できる。そろそろ喉が枯れないだろうか。あるいは腹式呼吸によるものか。上手い。
妙な感心を再度覚えながらも、シキは手にした武器を握り直し、声を辿るように視線を走らせた。
自分の現在位置は先頭車両。――声がしてくるのは、最後尾のほうだ。
「……見つけた」
青い瞳が白いもふもふたちのひしめく先、小さく見える影を捉える。
同時にシキは駆け出した。人狼となって得た冴える感覚は、視覚を、嗅覚を、聴覚を、そして反射速度さえ底上げする。
わっと動き出した白いものの殺到を飛び上がることで回避して、発射されたおみくじを潜り躱す。
「どこから出しているんだ、それ」
「ちゅん!」
しらない! とでも言うようにもふりと丸い胸を張ったのを、そうか、と青い空に蹴り飛ばした。
「こちらも仕事だ、悪く思うなよ」
「ちゅん……」
しごと。その言葉にのっそり顔を上げた、数羽がいた。先程まで相手していた鳥たちとはどうも様子が違う。ちゅんちゅん元気よく鳴くわけでもなければ、おみくじを飛ばして来たりもしない。有り体に言えば。
「暗いな……」
「ちゅぅん……」
つかれてるんですわ。そんなふうに聞こえた気がする。他の個体と同じもふもふまるまるとしているはずなのに、そのしろがらすたちはどうも疲れ切ったどんよりオーラを纏っていた。そして一応シキの前に立ちはだかるも、もうほとんど蹴られやすい場所に一列に並んでいるような状態だ。
「……大丈夫か?」
つい、問う言葉が出た。敵ながらここまでの様子では、少し同情する。響くですわー、に白い毛を丸く禿げさせている頭を覗けば、シキは片膝をついてしろがらすたちと視線を合わせた。あの元気良さを相手するのは、どれだけ大変だったのだろう。
「そうして並ばなくても、邪魔をしないのなら蹴り飛ばしはしない」
「ちゅん……?」
「ああ、あんたたちの仕事は俺の邪魔をすることだと理解している。……お嬢様の相手もだろう? 疲れているのなら、お嬢様の相手は喜んで引き受ける」
「ちゅん……!」
きらきらと、疲れ果てたしろがらすたちの瞳に光が戻った。正直意思疎通が正しくできているかはわからないのだが。
「手を貸してはもらえないか。お嬢様のところまで、たどり着く必要がある」
シキがそう言って立ち上がれば、しろがらすたちはよろこんで! とばかりに白くて丸い体をお嬢様がいるほうへ向けた。
「行くぞ」
低く、短い声がひとつ。それを合図にして、シキと数羽のしろがらすたちは列車の上を駆け出した。
大成功
🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
ちゅん……え、可愛い……
最終的には殴らないといけないけどちょっとだけ……ちょっとだけ……
モフってさせてくれないかしら?
もふ、もふ……
天国かしら此処
あら、おみくじをくれるの?
だったら引かせてくれるかしら
おみくじをくれる動作も可愛いんだけど……
ねぇ、貴方達どうして影朧の下についちゃったの?
あたし、貴方たちを撃ちたくないわ
つぶらな瞳を覗き込んで悲しそうに
本当に悲しいのよ
毎回こんな可愛い子たちを射抜くの嫌なんだもの
ねぇ、お嬢様の誘拐してる影朧なんて見限って自由にならない?
元凶は撃ち抜いてきてあげるから、ね?
キラキラした目で訴えてみるけど
ダメなら心を鬼にして精霊銃でぶん殴るわ…
撃つのは可哀想なんだもの
●
可愛いは暴力だ。
そんなことを痛感しながら、鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)はときめきに感銘を受けるままに両手にあった武器をしゅっと仕舞った。可愛いの前に武器など無力である。
「可愛い……かわいい」
つい呟いて、白雪は足元をふかふかにしている白いもののそばにしゃがみ込む。
「ちゅん?」
つぶらなひとみが、どうしたのとばかりに至近距離で白雪を見上げた。
「え、かわい……」
これは敵だ。最終的には殴らないといけない。それはわかってはいる。
「……あのね、わかっているのよ、わかってはいるから」
そろ、そろりと手を伸ばす。武器はそこ。握ればすぐ。けれども手は武器を通り越して、ポケットにしまっていた携帯端末をすっと取り出した。
――すかさず連写。
――まだ撮る連写。
――なになに? と重なりあったのでまた連写。
一切淀みのない動きで可愛い存在の保存をしっかり終えてから、白雪は改めて手を伸ばした。
「ちょっとだけ……ちょっとだけでいいの」
そろ、そろり。
伸びる手は少しだけ躊躇いを含む。それは触れるのが怖いのではなく、怖がらせないかと気を遣うそれ。
一見目つきが鋭く、酸漿色に輝くレッドスピネルは、動物たちから逃げられやすい。よくよく逃げられてはしょんぼりしているけれど、相手はただの動物ではないオブリビオン。だとすれば。
もふん。
「……!」
ぱあああ、と白雪の瞳が輝いた。逃げられない。むしろまんざらでもなさそうに、しろがらすさまたちはまるまるとしている。
もふもふもふ。もふもふふ。もふもふもふふふふふ。
「天国かしら此処」
そのふかふかでもちもちな毛並みと触り心地を存分に堪能しながら、白雪は幸せそうに柔い笑みを浮かべた。
「ちゅん!」
すっかりさっぱり戦闘なんて概念はさて置いた白雪としろがらすさまたちのあいだにほのぼのしい雰囲気が満ちる。その手に、ふとおみくじの棒が差し出された。
「あら、おみくじをくれるの?」
だったら引かせてくれるかしら。そう言って貰った、一枚のおみくじ。おみくじをくれる動作にすら可愛いさを噛み締めながら、どこに収納されていたんだろうということは聞かずに置く。
おみくじの結果は――大吉。可愛いものに恵まれるでしょう。好きなようにやると良し。
その結果をぱちくりと眺めて、ならばと白雪は改めてしろがらすさまたちと向き直った。もふもふは気持ちがいい。
「……ねえ、貴方たち。どうして影朧の下についちゃったの? あたし、貴方たちを撃ちたくないわ」
本心からの言葉は、悲しげに響く。つぶらな瞳をじいっと覗き込めば、やっぱり銃口なんて向けたくない心地になるのだから仕方ない。
「毎回こんな可愛い子たちを倒すの、嫌なんだもの」
可愛い敵に出会うのは、実のところ初めてではない。これまでだって心を鬼にして倒して来たことだってあるけれど。
「ねぇ、お嬢様の誘拐してる影朧なんて見限って、自由にならない?」
説得と言うよりは、お願いに近かった。きらきらとした瞳でさらにじぃぃっと見つめる。それでもなあ、ねえ。と言うようにころころと迷う素振りを見せるしろがらすさまたちに、白雪はダメ押しの一言を付け足した。
じゃきん。武器を手にする。黒光りする銃口が、遠く響くですわーのほうへ向いた。
「元凶は、撃ち抜いて来てあげるから。……ね?」
「ちゅん!!」
すごい! つよい! ついてく!!
そう言ったかどうかは定かでないが、白雪の言葉に応えた数羽のしろがらすさまたちがぴょこぴょこと飛び上がる。
「一緒に来てくれるの?」
「ちゅん!」
可愛らしくも頼もしい応えに思わず笑って、白雪は列車の上を走り出す。
かたん、ことん。揺れる列車の上にはまだまだもふもふがひしめきあっているけれど。この救出劇のあいだだけ出来た相棒たちを呼ぶように、大きな汽笛が響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
エン・ギフター
とっとと片して嬢サン回収しねえと口調戻らなくなりますわ!
列車の上で風に煽られんように羽は極力畳んどく
んじゃ件の車両まで…って
ウワなんだこりゃめっちゃ居る
タピオカか?いや白玉か?食ったら意外と旨いヤツか??
…てか、うっかりこいつら線路の上落ちたら脱線すんじゃねーの
鷲掴みにできるやつから捕獲して
線路に引っかからない角度にシュッー!しとくわ
うるせー結婚はしねェ
往生際悪ィと蹴(蹴刄)るぞオラァ!!
って増えやがった消えろ!
落ちゲーみたく三つに重なって消えろ!
出来るだけぶん投げ処理しながら嬢さんとの距離詰めるべく
列車の上進んで行きたくはある
ですわーの声で位置関係把握し易いのだけは救…、救いか…?
●
汽笛が長閑に鳴り響けば、同じ長さでエン・ギフター(手渡しの明日・f06076)の腹が鳴った。ですわー、も響いた。
「あー、腹へったですわー……ですわじゃねェですわ」
残念ながら語尾の修復に失敗して、エンは肩を竦めながら風に煽られぬよう翼を畳む。
とっとと片して嬢サン回収しねえと口調戻らなくなりますわ。刷り込みって怖ェんだぞ。まあトリアタマだしすぐ忘れる自信はなくもないけども。
なんてところまで視線を空に投げた一瞬で考えて、エンはもう一度視線を列車の屋根の上に戻した。
みちっ。もふっ。ワサァ。
「ウワやっぱ減らねェわな、そらな。めっちゃいるよな。知ってた知ってた」
相変わらず列車の上は、白くて丸くてもふもふした緊張感のないものに埋め尽くされているからどうしようもない。抗いようのない現実。目を逸らしたってまあ減らない。腹は減るのだけれども。
「あー、アレか、タピオカか? いや白玉か? 食ったら意外と旨いヤツか??」
「チュンッ」
食えンのかな。じい。つぶらな瞳を見てみた。光の速さで逸らされた。なんだ噛み付いてやろうか。試しとばかりに片手でむんずと捕まえてみれば、なかなかにもちもちふわふわで触り心地はたいへん宜しい。光の速さでつつくのやめろ。
「あ。……てか、うっかりこいつら線路の上落ちたら大惨事じゃねェ?」
不意に気づいた。気づいてしまった。
軽快に走る列車と流れる風景、桜の花びら舞う風は、青空の下で心地良いものだけれども、いくら愛嬌があったとしても、この数のもふもふオブリビオンが線路に落ちればどうなるか――想像には難くない。
「脱線ですわーとか、笑えねェしな、はいはい飛んでけ!」
やたら反抗的だったしろがらすさまを線路に関わりそうにない角度を狙って思い切りぶん投げる。勢い良く飛んでゆく白いのは、さながら真昼の流れ星。
「はい次!」
エンは手際良く白いのを鷲掴み、引っこ抜き、ぶん投げてお星さまにする作業を容赦なく開始した。可愛い見目ももふふわもお構いなしだ。すぽぽぽぽぽーんとこれまた緊張感のない音で飛んでゆくのを見送って一車両分を流星群にした頃には、次の車両で待ち構えていたしろがらすさまたちがなかなかに殺気立っていた。
あいつ。かわいいつうじない。おみくじひかない!
だいじょうぶ? けっこんする??
「うるせー結婚はしねェ!」
エンは巨大な蹴爪でダァンと列車を蹴り飛んだ。そのまま次の車両に飛び移りがてら、白いもふもふたちの真ん中に降り立つ。
「往生際悪ィと蹴るぞオラァ!!」
ぶんと蹴爪を振り抜けば、鋭い爪と、小柄な身体からは想像し得ない程の衝撃で、半分ほどが爪の餌食になって吹き飛ばされた。
「ちゅん!」
「ちゅん!!」
「ちゅん!!!」
「ってなんか増えやがった消えろ! 落ちゲーみたく三つに重なって消えろ!」
ばきぃ。
一瞬のうちに雑霊を召喚したもの諸共蹴り飛ばして、エンはやっと走り易くなって来た列車の上をしろがらすさまたちをぶん投げ続けながら駆ける。
「前見なくてもですわーの声でわかりやすいのだけは救……、救いか……?」
ぶん。掴んでは投げ、掴んでは投げ、ときどき蹴り飛ばしたりもしてエンは進んだ。
「……ですわ――!!」
――随分近くなって来たお嬢様のところまで、あと。
大成功
🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
なるほど夢…
ではなさそうだが
なんだこれは
白饅頭であろうか
無垢な眼差しは憐れみを誘えども
欺こうという魂胆と知れば気に入らぬ
うむ、だが中々の手触り
…我が主の昼寝布団を仕立てるには調度良いやもしれぬ
この中で一番極上の個体を探すとしよう
かかってこい、白饅頭ども
戦闘の鳥から素手で掴み
うむ、良き艶
二羽目、悪くない
三羽目、少々柔らかすぎる
納得いかねば場外へ放り投げ
レッシャの突風に流れてゆく鳴き声を見送る
お前は枕に誂え向きだ
小柄な一体を小脇に締め抱え
…あれだ
一際輝くような気がする一体
このうえない質感
喜べ特上白饅頭、お前には栄誉を与える
羽毛を傷つけぬよう【想葬】にて仕留めんと
令嬢と視線が近ければ
力強く頷いておく
アルバ・アルフライラ
ええい邪魔するでない、白いの
鴉かまりもか知らぬが
踏まれたくなくば道を開けよ!
わらわら集られては進むに進めん
ならばと魔方陣より【眠れる花園】を召喚
無力化したまりも鴉を次々に踏み越えつつ先を急ごう
ええい何故そう鳴き喚く
それではまるで私が重い様ではないか!
それに、別に斯様に強くは踏んでおらぬであろう
ほれ、傘もさしておる故多少は軽く…おっと
羽毛の攻撃が第六感で察知
此方に飛ばされたならば傘で防御を試みる
ふふん、床に就くにはちと早いでな
然し…ふむ
足から伝わる、筆舌に尽くし難いこの感触
例えるならば…嘗て口にした柔らかな餅の様な…
…別に小腹は空いておらんぞ?
ふと、何気なく思い出しただけよ
*敵、従者以外には敬語
●
「並ではない整った顔立ちの皆様が! わたくしのために癒し系もふもふを千切っては投げて来てくださっているのですわー!! 素晴らしき夢ですわー!!」
随分と声が明瞭になった。なるほど、夢。ふむ、と頷きそうになったところで、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)はことんと首を傾げる。確かにこんなに白くて丸くてもちふわしたものがひしめきあうのは夢さながらと言えばそうなのか。果たしてそんな呑気な夢を、ジャハルは見たことがないのだが。
「……夢、ではなさそうだが。なんだこれは」
白饅頭であろうか。中身も白餡であれば尚相性が良さそうだが、どうか。問いかけるようにじいいと見れば、つぶらな瞳がうるうると見上げる。
「ちゅん……」
らんぼうしないでですわ。
「だが断る」
即断して、節張った大きな褐色の手がむんずとしろがらすを掴み上げた。
「欺こうと言うその魂胆、気に入らぬ」
そのまま長い腕でぶんと投げれば、空の端に向かって飛んだ一羽は流星の如く豪速球と化して飛んでゆく。鍛え抜かれた腕力の恐るべし。――その一方で。
「ええい、邪魔するでない、白いの!」
アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はわらわらと足元を埋める白いものに文字通り足止めを食らっていた。
帝都の風景と風が、列車によっていとも簡単に手繰られてゆく。アルバの髪もまた空に透けるように風景を彩って靡いていたが、心地良い風を楽しむ前に足元を取られては進めもせず、やたらめったに囀る声ばかりでは落ち着くのもままならぬ。
「鴉かまりもか知らぬが、踏まれたくなくば道を開けよ!」
「まりも……」
「なるほどそれかと言わんばかりの顔をしてくれるな、ジジ」
アルバは思わず数歩先にいる従者にじとりとした視線を投げるが、当人は至っていつも通りの様子である。主が苦戦する相手でもあるまいと判定したのか、吟味する手と視線はそのままである。
「……いや、しかし師父よ。やはりこれは白饅頭」
「……白饅頭」
「うむ、手触りにも個体差があるな」
中々の手触り。ジャハルは吟味するように呟いて、ぶん、ぶん、と掴み上げた一羽ずつを駆除がてら放り投げている。
「――やはり。我が主の昼寝布団を仕立てるには丁度良いやもしれぬ」
「ちゅん!?」
なにが! ちょうど! いいのですわ!?
じい、と。ジャハルが冴えた視線を投げた先のしろがらすたちがいささか竦み上がったのは気のせいにして。
「かかってこい、白饅頭ども」
羽布団の吟味が、始まった。
(あやつめ、何か選び始めたな)
アルバは少し先でしろがらすたちを千切っては投げ千切っては投げし始めた従者を横目に、軽くため息を吐いた。
ジャハルがどういうつもりかは、わかるようなわからぬような。少なくともあの夜色に子供のようなきらめきが灯っているのは見て取れた。宝物探しのときと似たそれにはつい笑みも浮かぶ。
「……それにしても、そろそろ進みたいのだが」
「ちゅん?」
相変わらず足元にわらわら群がり、丸こい体ごと首を傾げるようにする敵に、ならばと手に持った白い傘をとんと鳴らした。
アルバの足元、すなわち、しろがらすたちの下。そこに淡い光と共に開いたのは魔法陣だ。ふわりと溢れる光は白く、白く――ふわりと雛罌粟の白き花と成る。舞う花は帝都の桜と共に、柔い眠りをしろがらすたちにもたらした。
「おやすみの時間だ、まりも鴉よ」
すっかり無力化して転がるしろがらすたちを踏み越えて、アルバは進み出す。ぽんと音を立てて手にしていた傘を開けば、陽を透かす白が箒星のように風に髪とたなびく。
むぎゅ。
「ちゅんっ」
ぷぎゅ。
「ぢゅんっ」
もぎゅ。
「ふぉぉぉぉぉ」
「――ええい、何故そう鳴き喚く! それではまるで私が重いようではないか!」
というか最後の鳥ではなかろう、何か違うの混ざっておったろう。……嗚呼、御籤を吐いた音か。大大吉が見えた。
「それに別に斯様に強くは踏んではおらぬであろう。ほれ、傘もさしておる故、多少は軽く……と」
隙を狙うように飛んできた羽毛を正しく察知すれば、傘をくるりと回して弾く。攻撃と呼ぶには実に可愛いものだけれども。
「ふふん、床に就くにはちと早いでな。お前たちはよく眠ると良い」
くつりと喉で笑って、綺麗に唇を笑みにする。白き傘を風に乗るように掲げれば、ふわりと身体は風に乗り、ジャハルの背側にもぎゅりと着地する。ふぉちゅん。また何か鳴いたが素知らぬふりだ。
「それで? 良いまりも鴉は見つかったか」
「まだだ。ふむ、お前は枕が良いか。……お前は少々柔らかすぎる」
ジャハルはぶんっと一羽、二羽、三羽を投げ飛ばし、その流れゆく鳴き声を見送りながら、ずいずいと先へ進む。良い羽毛を探す。
「――あれだ」
それを目にした瞬間、直感的に、そう感じた。
一際輝くような気がする、その一体。ひと目見ただけで、そのつるふわ具合がわかる。ジャハルにはわかる。あれが、師の昼寝布団に最も相応しい。
「喜べ、特上白饅頭。お前には栄誉を与える」
「ちゅん!?!?」
なにが!? ねえなにがとくじょう!?!?
がしりと掴んだそれだけで、この上ない質感を確信する。同時に白亜の翼の影から、夜が忍び出た。形なき闇は、するりと特上白饅頭を包み込む。その羽毛を傷付けぬように、仕留める。
「よし」
――ころんと転んだ特上白饅頭もとい、しろがらすさま(の羽毛)、お持ち帰りにつき。
「満足したか、ジジ。……然し、ふむ。なるほど、この感触、確かに」
例えるならば、嘗て口にした柔らかな餅のような。
「……白饅頭。帰れば食べるか、師父」
「ふふ、まあそれも良かろう。……別に小腹は空いておらんぞ?」
何気なく思い出しただけだと、どこか呑気な会話をしながらも、アルバとジャハルは合わせるまでもない呼吸で昏倒させ、投げ飛ばし。残るしろがらすを綺麗さっぱり蹴散らした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『影竜』
|
POW : 伏竜黒槍撃
【影竜の視線】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の足元の影から伸びる黒い槍】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 影竜分身
【もう1体の新たな影竜】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 影界侵食
自身からレベルm半径内の無機物を【生命を侵食する影】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――果たして猟兵たちは、影朧と令嬢の前に立っていた。
列車は走る。駆けてゆく。
始めの速度よりは随分とゆっくりだ。ひらり、桜の花びらが頬を撫でた。
おそらく終点が近いのだろう。それでも常人が放り出されれば、呆気なく地面に叩きつけられてお終いだ。
ゆら、ゆらり。
影の竜が令嬢を抱えて、最後尾の車両の端に立っている。猟兵たちから逃げる素振りはないが、人質を離すつもりもないようだ。
声はない。言葉はない。その代わり。
「わたくし……わたくしを助けに来てくださった救世主さまたちですわーー!! 胸熱ですわ、浪漫ですわ、ときめきですわ! わたくしの夢最高でずわ……あら?」
ンン。コホン。
首を傾げて咳払いをして、敵の手中にある令嬢はきょとんとした顔になった。
「なんてこと……喉が枯れましたわ! もしかしなくてもこれ、夢でないのではなくて!?」
わたくしやばいのではなくて!?
ようやく気づいたらしい誘拐されし令嬢、篠宮・香恋は一瞬で顔面蒼白になった。
「いけませんわ、いけないのですわ。わたくしこのまま死んでしまったら、恋のひとつも……っ」
香恋は視線を上げる。泣きそうな顔は恐怖よりは、もういっそ切実である。
「ちょっとそこの顔の造形が整いまくった救世主さまがた! 誰かひとりくらいわたくしに恋させてくれませんこと!? 後生でずわ、ンゲホッ、ときめきを! 寄越してくれろくださいですわーー!!」
――その願いに呼応するように、どす黒い影竜が、赤いあぎとを開いた。
鶴澤・白雪
全く落ち着きのない子ね
そんな叫ばなくても助けるからもう口閉じてなさいな
ちゃんと帰って場当たり的な恋じゃなくて本気の恋しなさい
お姫様が抱えられたままじゃ戦いにくいわね
まずは掻っ攫うことが優先かしら
仕掛けられる前に高速詠唱でUCを発動するわ
狙うはお姫様を抱えている影竜の手
間に剣林の壁を作るように操作して引き剥がしにかかるわ
誰かお姫様拾いに行ってくれない?
あの様子なら殿方が行った方が喜びそうだわ
その間、援護はしてあげる
精霊銃の弾丸に焔を込めて誘き寄せるように発砲するわ
ほら、こっちにいらっしゃい
近づかれたらガンブレードに持ち替えて生命力吸収を込めた刃で刺すわ
奪われたら奪い返さないと気が済まないのよ
●ときめきを寄越せと言われても
恋に恋した乙女の叫びの前に、ひとりの少女が真っ直ぐ立った。
「全く落ち着きのない子ね」
列車の走る音と風に髪を遊ばせて、鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)は呆れた息を吐く。
「そんな叫ばなくても助けるから……」
「嫌ですわ嫌ですわ!! 恋が!! したいの!! でずわ!!」
「助けるから口を閉じて――」
「叫んでも叫ばなくてもわたくしの意志なんて丸無視なら叫んだほうが冥府で後悔せずに済みますわー!!」
「……わかったから、もう口閉じてなさいな」
しょうのない子ね。呆れに滲むのは、姉じみた優しさだ。
望まない結婚に、どこか自暴自棄になった同じ年頃の女の子。恋に恋する――憧れを夢見るような心地は、幼いいつかに白雪も覚えがある感覚かもしれない。
ゆらり、影の竜が揺れる。その小脇で香恋が情けない顔を上げた。
「助けてくれますの……?」
「そのために来たのよ。ちゃんと帰って、場当たり的な恋じゃなくて本気の恋しなさい」
「わたくしのために……お姉様……!!」
きらきらと目を感涙で輝かせた香恋を上手く避けられるよう、充分に注意を払いながら白雪は唇に詠唱を乗せる。風景と共に流れてゆく紡ぎは、列車の一部を鮮やかな尖晶石に変え、その剣林は香恋を抱え込んだ影竜の腕のような一部を過たず狙い貫く。
影竜から声なき風の唸りのような叫びが響いた気がした。
(仕掛けられる前に)
畳み掛けてしまえば、意識はこちらへ向くはずだ。そう目論んだ通り、すかさず銃を構えたのを阻止するように影が白雪の足元を穿った。
「どこ狙ってるのよ。ちゃんと見なさい」
敵からあの子を引き剥がす。
白雪の目的はまず、それだった。囚われたように奪われている、その状況が気に食わない。
焔を込めた弾丸を撃ち込む。当てると言うよりは、誘き寄せるように。
「カッコイイですわお姉様ー!!」
「そういうのいいから、動かないでよお姫様。――ほら、こっちにいらっしゃい」
渦中であるはずなのに観客同然の黄色い声に重ねて呆れながら、身軽に跳んで車両の端へ。釣られるように距離を詰めた影竜に一息で踏み込めば、手に握り変えたのはガンブレードだ。
赤と黒。鋭すぎるほどの輝きを持つ刃で、影竜の穿つ。
「返しなさい」
確かな手応えと共に。影竜が堪らず香恋をどさりと取り落とす。それを助け起こすのは、誰か殿方のほうが喜ばれそうな気がしたからあえて手は出さずに、白雪はついでとばかりに引き金を引いた。
「奪われたら奪い返さないと、気が済まないのよ」
――それができなかったいつかを、同じように悔いることのないように。恋に恋するこの子の願いが、幸せに満ちる一秒が訪れるように。揺らぐ影を引き受けて。
「……誰かお姫様、拾いに行ってくれない?」
大成功
🔵🔵🔵
エン・ギフター
恋…?
そも俺がしたことねェんだが??
つっても助ける為に必要ならどうにか絞り出すしかねンだけども
…あー、アンタ充分いい女だよ
思い一つでこんだけの騒動起こせるんだしな
そんだけの気力と生命力ありゃ
今後の人生意に染まないモン全部蹴散らしていけるさ
踏み出す為の力が足りねェなら、手ぐらい幾らでも貸す
望む場所にどこへだって運んでやるから、俺について来いよ
嬢さんに手を伸ばしちゃみるが、最中から全身トリハダ酷ェ!!!
畜生!全部お前のせいだ死ね!!!
影の槍は勘で回避を狙うが何なら食らっても構わねェ
こんな似合わんことする羽目になった元凶の影竜を絶対蹴り抜いてやる
…喉やられたんなら花梨飴でも買いに行くか?
●拾えと言われてましても
「エッ。俺が拾うの? マジに言ってる??」
丁度よく影朧の足元に転がった香恋を前にしたのは、エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)だった。
元気の良すぎる懇願にわあ必死。と目が点になって、とりあえず仲間たちの手本を参考にして考えようそうしよう。なんて思いながら戦線に混ざるや否や、むしろほとんど一番手になってしまった。どうしてこうなった。
「恋……?」
とは。むしろ聞きたい。概念としては知っている。存在は確かにしている。ラブなレターとか言うものを託されたり託されなかったりもする運び屋だ。そういえば二月の十四日くらいに運んだ修羅場はどうなったろう。いや、そもそも。
「俺がしたことねェんだが? 捏造上等で絞り出せと?」
「捏造上等ですわ!!!」
「バッチリ起きてんじゃねェか立てよ!!」
などと言っている間に、うぞ、と影が蠢いて香恋を再び取り込まんとするから、知らぬ存ぜぬでは通せないのも見て取れた。がしがしと頭を掻いて、列車の揺れに合わせて息を吐く。――旅の恥はかき捨てと言う。
ときめき。甘い台詞。甘いものなら食べるほうがよっぽど好みなのだけれども。
「……あー、あー、アンタ充分いい女だよ」
喉がむず痒いような感覚をやり過ごして、エンは何とかそう絞り出した。香恋がばっと顔を上げる。
「わたくしがいい女……?」
「思い一つでこんだけの騒動起こせるんだし、そんだけの気力と生命力ありゃ今度の人生、意に染まないモン全部蹴散らしていけるさ」
語りかけるエンの声はどこかぶっきらぼうでぎこちない。こんな文字列口にすること滅多にない。けれどもそう、これは仕事。言うなれば荷物受け渡しの確認のようなもの。あ、スミマセーンお届けものでっす。荷物の状態確認してもらっていいですかー? と聞いているのと同じこと。ときめきはナマモノワレモノです。たぶん。
目の前にあるきらきらした少女の目を見る。光の速さで逸らしたい。
「……踏み出す為の力が足りねェなら、手ぐらい幾らでも貸す」
手を差し出す。頑張れ手、負けるな手。引っ込めるなあと三秒。
「望む場所にどこへだって運んでやるから――俺について来いよ」
ぴっ。かちっ。
『――俺について来いよ』
「言質取ったどですわー!! ご結婚!! ありがとうございますわですわーー!!!」
「どこに持ってた録音機! 光の速さで消せオラァ!!!」
どこからともなく録音機を取り出した香恋をまさか蹴るわけにも行かず、八つ当たり紛いに影竜を蹴爪で蹴り上げる。心なしかぐんにゃりした影は、思ったよりも手応えがあった。同時に伸びて来た黒い影槍を身を捩って避けて、踏みつける。こんな似合わんことする羽目になったのも元はと言えば。
「畜生! 全部お前のせいだ死ね!!!」
ぞわわわと粟立つトリハダが止まらないまま振り切るように更に影竜を蹴り付ける。一緒に叩きつけられた風が、小さな旋風となって列車の上を駆けて行った。
「わたくしの旦那様のバイオレンスラヴでずわゲェッホゴッホ!」
「誰が旦那様だ、てか喉やられてんなら大人しくしてろな! てか後であの録音機絶対寄越せ」
「ゲエッホゴホゴホゴッホ!!」
「むせてるフリしてんじゃねェぞ、花梨飴でも何でも買ってやるから!」
「さすがですわ旦那様!!」
「旦那様じゃねェって言ってんだ、――ろ!」
すかさず奪い取った録音機ごと、影竜を三度蹴飛ばして。きらめく乙女の声と反対に、影はゆらりと僅か、色を薄めた。
大成功
🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
ときめき、なるは
恐らく喜ばしい親切のようなものと理解すれど
くどく…
…功徳?
つまりは歓喜と善行により、かの娘は救われる
うむ
空気を読めという師の言いつけを心に
――読めぬが
影朧へと踏み出し声を上げる
かれん――殿
暫し辛抱されよ
【影楼】にて拘束解かんと斬り付け
相似形のもう一体が現れれば
寧ろ御覧に入れるには好機(師に)
必ずや勝利を捧げよう(師に)
分身影竜へと飛び乗り応戦
竜同士、愉しもうではないか
手の届く距離に近付いたなら
かれん殿、これを
貴方に、急ぎ必要な物だ
戦闘のさなかであれば緩く投げ
天鵞絨の小箱に収めたそれを捧げる
内部には慎ましく輝く光
本来は主用の
煌めく特製・薬草のど飴
…年頃というのは何かと大変なのだな
アルバ・アルフライラ
よもやこのタイミングで己の危機に気付くとは…
それ程にときめきに飢えていた事でもある、のか?
…深く考えては負けだ、うん
恋だのときめきだの
斯様な物、私こそ縁遠いにも程がある
故に口説きの類は若人に任せよう
魔方陣より【愚者の灯火】を召喚
彼奴が影を操るならば光を以て退ける迄
…然し狙い難い故
何とか娘を引き剥がせぬものか
歯噛みしつつ様子を観察
彼女に危害が及ばんとしたならば
光魔術による目潰し後、庇いに入る
多少砕け過ぎようが
肉の身が傷付く痛みより遥かにマシであろう
序でに隙をついて娘の確保が叶えば満点だが
怪我は、ありませんね?
…やれ悲しい顔をされるな
先程迄の元気は何処にいったのです?
明るい侭の貴女でいなさい
…ん?
●喉がやられていると言われたら
「……喉か」
ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は聞こえて来た声を拾って考えを巡らす。列車の上で感じる帝都の風は、仄かに甘くも涼やかな春の匂いだ。――否、呑気に考えている場合でもないのだが、いかんせん緊張感は戻らない。一歩後ろにいる師が、端正な顔立ちを形容し難いものにしているせいであろうか。
「よもやこのタイミングで、己の危機に気づくとは……」
アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はいっそ頭痛でも覚えたかのように眉を下げる。オブリビオンを呼び寄せるほど、切実な思いであることは理解はするが。
「それほどにときめきに飢えていたという事でもある、のか?」
――深く考えては負けだ、うん。
そこで思考を打ち切った。恋する乙女の思考とやらは、下手な魔術よりよっぽどどうして厄介である。
「ときめき、なるは……おそらく喜ばしい親切のようなものか」
少なくとも、ジャハルはそう理解した。あの娘にとっては、それは今までそうそう巡り合えなかった類のものなのだろう。
「……親切心あらば口説けと言うのがまあ、要請の一つではあるな」
ジャハルの呟きに、アルバは何とも言えぬ顔でやや目を明後日の方向へ逸らす。恋だのときめきだの、斯様なものには縁遠い。そういう類は是非とも若人に任せたいところだ。とは言え目の前の大きな子供がそれに縁があるかと言うと。
「くどく……」
視線の先で、大きな身体を持つ竜の男はこてんと首を傾げる。くどく、とは。
「……。……功徳?」
はっとした。ぴんと来た。つまり。
「歓喜と善行により、かの娘は救われる――うむ」
うむ???
「……空気は読めよ、ジジ」
何もわかっていないのを隣の師も同じくらいわかってしまったけれど、踏み出す弟子をそっと見送った。可愛い子には旅をさせよと言うではないか。頑張ってほしい。
「かれん――殿」
ジャハルが影朧の傍に蹲る香恋のほうへ一歩踏み出す。正直踏み切り腕を伸ばせば容易に奪還が叶いそうではあるのだが。
くうきをよむ。ジャハルは努力した。
(……読めぬが)
無理だった。
ゆえに、黒剣を握る。空気よりも確かである。かちり、澄んだ音が揺らめく呪詛と風に馴染んだ。
「暫し辛抱されよ」
「……旦那様……!!」
香恋は震える身体をぐっと起こした。ついさっきも旦那様生まれてなかったかとか言ってはいけない。
「不肖の妻香恋、三メートルぐらい向こうでお迎えをお待ちしておりますわー!!!」
「――それでは狙い難い故」
その影、引き剥がしましょう。
アルバがの唇に、速く短く詠唱が乗る。風と混ざって過ぎゆく音は、ぴぃと鳴く鳥のようでも、流れゆく箒星の音のようでもある。魔法陣から生まれた光は影を脅かすように取り囲み、たまらず影竜が香恋の側から飛び離れた。
「何処へ行く」
瞬間、空へ逃れようとした影竜を、ジャハルの黒剣の切っ先が縫い止めた。影の翼と白亜の翼、竜たるふたつは香恋とアルバの視線の先で向かい合う。斬り結ぶ。
「寧ろ御覧に入れるには好機」
師に。
「必ずや勝利を捧げよう」
師に。
「旦那さまああああああ!!!」
ジャハルの心の中での確定事項は音にならないが故、香恋の気分は更に高揚してゆく。
「かれん殿」
「はい旦那さま!!」
影竜を愉しむように追いながら香恋の側を行き過ぎるジャハルが、馴染まぬ音で少女の名を呼んだのはそのすぐあとだった。
「これを」
――そうして緩く投げやられた小箱。
「貴方に、急ぎ必要なものだ」
「結婚指輪でファイナルアンサーですわーー!!!」
食い気味に遠慮なく開けた箱にあったのは、慎ましく輝く――。
特製・薬草のど飴。
「……本来は主用なのだが」
特別なのは間違いなかったけれども。今の香恋に最も効果的なものではあったけれども。
「三メートル先およそ三分三秒でのインスタント離婚届でしてよ!!!???」
そもそも結婚もしていないので不成立である。
(……やりおった)
一連の流れを見守って、アルバは見ながら軽く息を吐いた。まあ香恋が楽しそうなのは間違いないが、よよよと泣き崩れたふうなので見かねて足を進める。
「おっと」
その身に迫る影を踏み蹴散らすようにして、アルバは香恋を庇い立った。ぱきんと宝石が軽い音で欠けるも、些事だ。肉の身が傷つく痛みより、遥かに。
「怪我は、ありませんね?」
「えっ? ええ、ですわ……ぐすぐす」
「……やれ、悲しい顔をされるな。先程迄の元気は何処に行ったのです?」
なるべく柔らかい声で教えるように言葉を紡ぐ。
「明るい侭の貴方でいなさい」
列車がごとりと揺れ、影竜がジャハルに貫かれ、香恋が大きな瞳を見開いた。
「……すわ」
「……ん?」
「両手に麗しき婿、ありですわーーー!!!」
――そもそも結婚しないので、不成立である。
年頃と言うのは何かと大変なのだな。ジャハルが呟いて、影竜を列車の屋根に叩き付けた。
大成功
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シキ・ジルモント
◆SPD
…仕方の無いお嬢様だ
お嬢様、香恋の救出の為に影朧と交戦する
あまり叫ぶと喉に障る、落ち着かせる為声をかけてみる
効果があるかは分からないが…
「安心しろ、死なせたりはしない。必ず助ける」
しかしときめき、とは…
柄では無いと気恥ずかしさはあるが、そのささやかな願いは叶えてやりたい
攻撃の為にもあまり動かないよう注意を兼ねて、優しく聞こえるよう心掛けて
「そのお下げ髪、しっかり押さえていて欲しい。髪一筋でもお前を傷付けたくはない」
「お前を可愛く想う男の頼みを、聞いてはもらえないか?」
影朧が隙を見せたらユーベルコードで攻撃
影朧はできれば転生を狙う
香恋の想いに応えて現れたなら、彼女が満足すれば、あるいは…
●恋に満たねば満たすもの
「……仕方のないお嬢様だ」
喉の調子も顧みず元気よく叫び続ける香恋の声に、ぴくりと銀狼の耳がそよぐ。
あと一撃――おそらくは、それで確実に仕留められるだろう。
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は馴染んだ勘で、確信に近いものを覚えて影朧を見た。ゆらぐ影が、最初見たよりも随分と弱い。
(香恋の願いが満たされつつある、と言うことか)
それにしても相変わらず、賑やかなことに変わりはないが。
「わたくしの運命の旦那様方! お早く素早くテンポよくわたくしを花嫁にしてくださいませですわ!! ついでに助けてくださいませ!!」
随分強欲な花嫁である。助けるのがついでになっているのにお気づきだろうか。シキは気づいた――けれども、敢えて言葉を重ねた。
「……安心しろ、死なせたりはしない」
必要な言葉なのだろう。到底柄ではないと気恥ずかしさは未だ拭えぬ。けれども少女のささやかな願いは、叶えてやりたいと思う。
「必ず、助ける」
そのために来たのだ。
「ときめきの!! 大洪水で溺れて死にますわ!!!」
助けに来た相手がみずからよろこんでしにかけているのは置いておこう。
ゆらり、影竜がゆらぐ。その脚が立たぬように撃ち抜いて隙を作ると、シキは香恋を背に庇うようにして銃を構えた。
「そこを動くな――動かないで欲しい」
つい淡々としがちな声を言葉を、なるべくなら春の柔らかさを得るように、心掛けて。
「そのお下げ髪、しっかり押さえていて欲しい。……髪一筋でもお前を傷つけたくはない」
息を呑むような間が感じられた。影朧は動かない。それを確認して、シキは僅かに視線を香恋に向ける。
「――お前を可愛く想う男の頼みを、聞いてはもらえないか?」
「…………っ、はい、ですわ……!!!」
ぐらり。
揺れたのは影朧だった。影の竜の輪郭がぼやけて、ぼろぼろと解けるようにゆらぐ。まるで存在する場所を失ったかのようにふよふよとする虚ろな影に、シキは真っ直ぐ銃口を定めた。
満たされぬ、乙女の恋心。
それは帝都をゆく列車のその上で、春風と共に満たされた。
「お前も」
行け。巡れ。そう、言葉にはしないまでも。願うように、ただ声なく引かれた引き金は、彷徨う影を撃ち抜いて。
――ぱぁん。
弾けた影は、桜吹雪になった。柔い風と汽笛が、祝うように響き過ぎてゆく。
「わたくし……」
舞う花弁を抱きしめるように手にして、香恋は幸せそうに微笑んだ。
「わたくしきっと、素敵な花嫁になりますわ!!」
なんて決意表明の数日後、顔面偏差値のハードルがガン上がりした何処ぞのお嬢様の結婚話は力強く破談して、乙女は皆ときめきに溢れた恋をすべきですわと高らかに叫んだ令嬢がいたと云う。
大成功
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