さまよえる狂気と異端の魔女
●『同族殺し』の狂気
――あたま、が、いたい。
とある辺境の地にて、ずるり、ずるり、と、地を這いずる、ひとりの異形。
月夜の下に美しい裸身を晒す、その女性の下半身は、醜い触手となっている。
人ではない、さりとて吸血鬼でもない、怪物としか言いようのない異端。
――わたし、は、だれ、なの?
彼女は既に、己の名前も、過去も、何者であったのかさえも忘れていた。
正気はとうに喪われ、狂気のままに喰らい殺しながら、闇夜を彷徨うもの。
そんな己の有り様に、もはや疑問を抱くことさえ忘れかけていた彼女だが。
たったひとつだけ、忘れたくても忘れられない、目的と感情があった。
――ころさないと。
――あいつを、ころさないと。
何故そうしなくてはいけないのか、今の彼女はもう覚えていない。
ただ、喪ってしまったかつての己の残滓が、魂の奥底で囁くのだ。
だから彼女は彷徨い続ける。"懐かしい"と微かに感じる匂いを追って。
異端の魔女ディアナイラの念願が果たされる時は、目前に近付いていた。
●
「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「ダークセイヴァーの辺境にて、危険な研究を行うオブリビオンの領主がいます。その拠点が、とある『同族殺し』に襲撃を受ける未来を予知しました」
正気を失い、同じオブリビオンを殺害する狂えるオブリビオン『同族殺し』。それは一般人や猟兵にとっても脅威となるが、逆に好機ともなり得る。オブリビオン同士の戦いを利用して、厳重に守られていた領主の拠点に討ち入るチャンスが巡ってきたのだ。
「領主の名はキーター・ランプ。その人物像を一言で表せばマッドサイエンティストで、研究を続けるためだけに吸血鬼の眷属となった危険人物です」
彼の研究内容は人間――主に少女と"異端の神"を混ぜ合わせ、新たな生命として固定しようというもので、これまでにも多くの人間を"研究材料"という名の犠牲にしてきた。その拠点たる研究施設の所在はこれまで不明確だったものが、『同族殺し』の襲来により明らかとなった形だ。
「領主の拠点は大きな屋敷を改装した研究所となっていて、『黒い薔薇の娘たち』と呼ばれる少女型オブリビオンが領主の助手兼警備として常駐しています」
戦闘力においては下位にあたる眷属だが、数的な優位と連携力は侮れない。
『同族殺し』の動向をうまく利用して警備網を突破するのが得策だろう。
「キーターの研究所を襲撃した同族殺しの名はディアナイラ。彼女の来歴については不明瞭なところが多く、今までどこで何をしていたかも定かではありませんが、領主キーターに対して強い敵愾心を抱いているようです」
人間の女性と異形の触手が融合したような姿の彼女は、異端の神に類似した能力を行使することから"異端の魔女"とも称される。『同族殺し』の例に漏れず既に発狂しており、周囲のオブリビオンに見境なく攻撃を仕掛ける。近寄れば猟兵であっても例外は無い。
「非常に強力、かつ危険な存在ですが、彼女の力を利用しなければ領主の拠点を攻め落とすことは困難でしょう」
強襲の混乱に乗じて警備を蹴散らし、領主と『同族殺し』との三つ巴に持ち込む。そして領主キーターを、最後に消耗したディアナイラを討つのが今回の作戦の概要である。
「なぜ、ディアナイラはキーターを狙うのか。気になる方もいるかもしれませんが、現状では憶測にしかなりません。ひとまずはオブリビオンの打倒に専念してください」
もし、戦いの最中で彼女の動機を知る機会があれば――その時は狂える同族殺しの心に猟兵の言葉が届く可能性もあるかもしれない。もしそれが成れば彼女との決戦において有利に働くだろう。
「けして可能性が高いとは言えませんが、気に留めておくのも良いでしょう」
説明を終えたリミティアは手のひらにグリモアを浮かべ、領主の研究所への道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
今回の依頼はダークセイヴァーにて、『同族殺し』と化した狂えるオブリビオン、その標的となった領主、双方の討伐が目的となります。
舞台は領主オブリビオンによって密かに建造された研究施設です。
大きな屋敷の中では人体と異端の神にまつわる書物や研究資料、おぞましい実験の結果を目にすることになるでしょう。救出すべき対象はいません。
第一章では同族殺しの急襲に乗じて警備の『黒い薔薇の娘たち』を撃破し、
第二章では領主である狂科学者『キーター・ランプ』との決戦。
第三章では最後に同族殺しの『異端の魔女ディアナイラ』と決着をつけます。
施設の警備は厳重なので、これを突破するには『同族殺し』の利用が不可欠です。
彼女の殺意は主にオブリビオン(特に領主)に向けられていますが、狂気に侵されているため会話は困難で、猟兵を攻撃に巻き込もうがお構いなしです。
一章と二章では「猛毒の刺胞を備えた触手」や「負傷時に飛び散る猛毒の血」を使って領主やその配下と戦っています(必要がなければ特に描写はされません)。
三章より前の段階で直接『同族殺し』に戦闘を仕掛けるような行動は、依頼達成に不利に働く可能性が高いです。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『黒い薔薇の娘たち』
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POW : ジャックの傲り
戦闘中に食べた【血と肉】の量と質に応じて【吸血鬼の闇の力が暴走し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : クイーンの嘆き
自身に【死者の怨念】をまとい、高速移動と【呪いで錬成した黒い槍】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : キングの裁き
対象のユーベルコードを防御すると、それを【書物に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
イラスト:シャチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒影・兵庫
同族殺しのオブリビオンなんて
俺たち猟兵を罠に嵌めるため敵が流した
嘘だと思ってましたが、あの暴れっぷりは本当と
信じるを得ないですね...せんせー
(物陰に隠れながら頭の中の教導虫に話しかける)
同族殺しにもっと暴れてもらうため
{皇糸虫}を『念動力』で操作し
交戦中の警備の足に絡ませて警備の
戦闘の邪魔をします!
さらにUCを発動し強襲兵の皆さんに
警備達の背後から警備だけを攻撃してもらいます!
そうやって同族殺しの襲撃のサポートを行い
屋敷内に先行してもらった後を追いかけて
俺たちも屋敷内へ侵入を試みましょう!
(同族殺しのオブリビオンなんて、俺たち猟兵を罠に嵌めるため敵が流した嘘だと思ってましたが、あの暴れっぷりは本当と信じるを得ないですね……せんせー)
目標の建物の様子が見える場所で、物陰に隠れながら小声で呟くひとりの猟兵。
それは独り言ではなく、黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)の頭の中に宿る教導蟲「スクイリア」との会話だった。
彼らが見つめる先ではまさに今、『同族殺し』による強襲が始まったところである。
「なに、こいつ……きゃあぁぁっ!」
「どうしてこの研究所が……っ?!」
「あぁぁぁぁぁ、うぅぅぅぅぅっ」
突然の敵襲に慌てふためいているのは、警備担当の『黒い薔薇の娘たち』。
対する『同族殺し』ディアナイラは、言葉にならない譫言と共に触手を振るう。
まるで獣のように乱暴な戦いぶりだが、その勢いは苛烈にして獰猛。数で勝るはずの警備たちでも押さえ込むことができず、逆に蹴散らされている羽目だった。
(あのまま同族殺しにはもっと暴れてもらいましょう)
兵庫は物陰に隠れたまま、自身に寄生させた皇糸虫を念動力で操作する。軽くて強靭な"生きた糸"であるそれは、音もなく研究所の床を這い、警備の足に絡みついた。
「きゃっ?!」
「ちょっと、何やって……!」
悲鳴を上げて転倒する黒薔薇の娘。戦闘の最中、味方がひとりでも陣形を乱せば、それは全体にとっての隙となる。特に己よりも強大な敵を相手にしている時は尚更。
「うぅぅぁぁあぁぁぁぁっ!」
ディアナイラは咆哮を上げると、隙を見せた獲物共を異形の触手でなぎ払う。
打撃力もさることながら、その刺胞から注ぎ込まれる魔女の体液は、たとえオブリビオンであろうとも絶命させる恐るべき猛毒であった。
(いい調子ですね。続けて強襲兵の皆さん、よろしくお願いします!)
兵庫は皇糸虫で黒い薔薇の娘たちの邪魔を続けながら、さらに【蝗害】を発動する。
喚び集められたのは彼の指揮下にある軍隊虫の基礎にして基幹を成す強襲兵。獰猛さと忠実さを兼ね備えた彼らは『同族殺し』が暴れている正面を迂回して、交戦中の警備の背後を取った。
(まだ同族殺しには攻撃しないでくださいね。それ以外は遠慮なく!)
誘導灯型の警棒を振って合図を出すと、強襲兵の群れは一斉に攻撃を開始する。
それは雲霞のごとき蟲群の襲来。1匹では脆弱な羽虫でも、数百もの個体が一糸乱れぬ動きで行動し、鋼鉄をも噛砕する顎で喰らいつけば、立派な脅威となる。
「なッ、こんどは虫っ?!」
「一体何が起こって……ッ!!」
同族殺しにばかり気を取られていた警備にとって、この攻撃は完全な奇襲となった。
オブリビオンの血肉を好物とする強襲兵は、我先にと獲物に群がると容赦なく噛りつく。呼吸すらままならぬほどの大量の蟲に纏わりつかれた黒薔薇の娘が、骨の髄まで余さず喰らい尽くされるまで、さほどの時間はかからなかった。
「あぁぁぅぅ……ころ、す……ころす……!」
異端の魔女ディアナイラにとっては、相手が蟲に襲われていようが関係はない。
ただ、目の前の敵を叩きのめし、捻り潰し、殺し尽くすだけ。もがく娘たちもろとも付近にいた強襲兵までも蹴散らしながら、彼女は建物の中へと突き進んでいく。
(突破口が開けました。俺たちも屋敷内へ侵入を試みましょう!)
同族殺しの戦いのサポートを行い先行してもらうという兵庫の作戦は順調だった。
被害と負担を最小限に抑えた少年と仲間達は、物陰から出ると倒された警備を通り過ぎ、同族殺しの後を追って敵の拠点に突入するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
貴女達が守る価値も無いと思うのだけどね…まぁ、良いわ。降伏するなら今の内よ。眷属にも同族の子がいるし、今なら迎えてあげるわ
【ブラッディ・フォール】発動。
「最低極まりなき言葉」の「モルトゥス・ドミヌス」の力を使用(フレミアに魔王の翼や角、体格に合わせて外殻が形成)。
【貴様らの攻撃は我が肉体には届かぬ】で敵の攻撃を無効化し、【己の力にて滅びるがいい】で敵のUCを強制的に喰らい、コピーして反撃。
更に【裁定者に仇為す者には災いあるのみ】で絶望を与え、戦意喪失し降伏する者には【魅了の魔眼】による快楽と従属を。反抗する者には死を与えるわ
汝は『無力』。『恐怖』を心に『刻み』、『絶望』に『染まり』なさい
「ああもうっ! 同族殺しだけでも厄介な所に、猟兵まで来るなんて!?」
「キーター様をお守りするのよ! たとえこの命にかえてでも!」
オブリビオンの支配下にあるこの世界で、その体制を揺るがし得るふたつの脅威。
その2つを同時に対応することになった黒い薔薇の娘たちは、悪態を吐きながらも迅速に守備を整える。流石に重要施設の警備を任されるだけのことはあるようだ。
「貴女達が守る価値も無いと思うのだけどね……まぁ、良いわ」
領主の手によってこの施設で行われたという忌まわしき研究に眉をひそめながら、警備と相対するのはフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)。
彼女は向けられる敵意を涼やかに受け流しながら、女王のごとき振る舞いで告げる。
「降伏するなら今の内よ。眷属にも同族の子がいるし、今なら迎えてあげるわ」
「何を愚かな! 私達が猟兵風情に頭を垂れるなど、あるはずがないでしょう!」
その勧告を慈悲ではなく侮辱だと受け取った娘たちは、羽ペンを書物を手にして襲い掛かる。だが彼女たちは分かっていなかった、歴戦の猟兵と自分たちの力の差を。
「貴女達の攻撃はわたしの肉体には届かない」
フレミアがそう口にした瞬間、その全身がオーラの障壁に包まれ、敵の攻撃を阻む。
驚く娘たちの前で、彼女の身体は体格に合わせた漆黒の外殻を形成し、悪魔のような角や翼が生えてくる。それは異界アルダワにて討ち取った大魔王『モルトゥス・ドミヌス』の力を、【ブラッディ・フォール】によって顕現させた姿だった。
かの魔王は膨大な魔力によって、自らが放つ言葉を現実のものとした。ものによっては言霊とも呼ばれる恐るべき力が、今はフレミアの舌先にある。
「一体どんな魔法を……っ、だったらこれで!」
黒い薔薇の娘たちは書物のページを捲ると、呪いで錬成した黒い槍を一斉に放つ。
通常攻撃が通じなくともユーベルコードなら――そんな思惑があったのだろうが、あいにく大魔王の力とはそんな生易しいものでは無かった。
「己の力にて滅びるがいいわ」
フレミアがすっと両手をかざして攻撃を受け止めると、まるで手のひらに吸い込まれるように黒い槍が消える。今度こそ愕然とする娘たちの前で、彼女はたった今"喰らった"ユーベルコードの力を、そのまま持ち主へと撃ち返した。
「そんなっ、きゃぁぁぁぁっ!!!?」
呪いの黒槍にその身を貫かれ、悲鳴と共に倒れ伏してゆく黒い薔薇の娘たち。
その表情に宿る感情は、次第に怒りから不安、そして恐怖へと変わりつつあった。
「汝は『無力』。『恐怖』を心に『刻み』、『絶望』に『染まり』なさい」
敵にさらなる絶望を与えるために、フレミアは第三のユーベルコードを発動する。
【裁定者に仇為す者には災いあるのみ】。言葉に秘められた魔力が、彼女の発言を現実のものとする――黒い薔薇の娘たちの腕は萎え、脚はすくみ、無明の闇に呑まれたような重圧と負の感情が心を満たしていく。
「あ、あぁぁぁっ」
「ひぃぃっ」
今やフレミアの視界において、まだ反抗しようという気概を残す者は皆無だった。
崩れ落ちた娘たちは恐怖と絶望でガタガタと震え、裁定者の沙汰を待つ無力な子羊に過ぎない。
「これが最後の機会よ。降伏する者には快楽と従属を。反抗する者には死を与えるわ」
戦意喪失した者達を【魅了の魔眼・快】で見つめて、改めてフレミアは勧告する。
吸血姫と魔王の力の前に心を折られた者たちにとって、それは選ぶまでもない2択だった。黒い薔薇の娘は震えながらも熱に浮かされたような表情で頭を垂れる。
「あ……貴女様に服従を誓います……」
それは、吸血姫が率いる虜の軍勢に、また新たな眷属が加わった瞬間であった。
フレミアは女王の微笑と共に従属を受け入れると、彼女らを引き連れて屋敷の奥へと進んでいくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
神宮寺・絵里香
●心情
・同族殺しねぇ。ま、敵の敵は基本…敵だが、放置でいいだろう。互いに邪魔しない程度で十分。それ以上は期待しないし、関わるつもりもないな。
・さて、数だけは無駄に多い敵だ。さっさと倒すぞ。
●戦闘
・高速詠唱からUCを使い、雨を降らせる。
このUCならば吸収しても仕方ねえだろ。お前らにとってはただの雨だからな。
・雨で強化された黒剣と傘で戦闘。破魔の水属性を纏った黒剣を伸ばし、薙ぎ払いを放つことで広範囲の敵を斬り払う。刀身から放たれる水流が、血糊を洗い流すから切れ味は落ちん。
・敵の攻撃は見切り、傘で武器受けして、短くした黒剣でカウンター。
・なるべく敵が居るところへ突っ込み、次々と斬り捨てる。
「同族殺しねぇ。ま、敵の敵は基本……敵だが、放置でいいだろう」
施設内で暴れまわる異端の魔女をちらりと見て、神宮寺・絵里香(雨冠乃巫女・f03667)はそう判断する。優先して倒すべき敵が共通しているのなら、今すぐに雌雄を決する必要もない――さりとて馴れ合うつもりも無いが。
(互いに邪魔しない程度で十分。それ以上は期待しないし、関わるつもりもないな)
正面を見れば立ちはだかるのは、研究施設を警備する黒い薔薇の娘たち。
同族殺しをどうこうよりも、まずはこいつらを突破するほうが先決だ。
「さて、数だけは無駄に多い敵だ。さっさと倒すぞ」
「舐められたものね。ここは絶対に通さないわよ!」
絵里香が黒蛇剣「ウルミ」と仕込み傘「蛇乃目」を構えると、黒い薔薇の娘たちは書物のページを広げる。彼女らの【キングの裁き】は敵対者から受けたユーベルコードをコピーして使用する技。迂闊な攻撃を仕掛ければ手痛い反撃を受けるだろう。
ゆえに絵里香は"場"を整えるため【我等雨雲と共に舞い踊る巫女也】を発動する。
「大いなる水を司りし白蛇の神よ! 汝が巫女たるこの我に恵みの雨を与え給え! 急急如律令!」
神へと捧ぐ祝詞が高らかに唱えられると、屋内であるにも関わらず、にわかに天井がかき曇り、大きな雨雲が召喚される。それはたちまち絵里香たちの頭上を覆うと、ざぁっと大雨を戦場に降り注がせた。
「これは……雨? いったい何のつもりで……」
「このユーベルコードならば吸収しても仕方ねえだろ。お前らにとってはただの雨だからな」
篠突く雨に打たれながら、水たまりを蹴立てて絵里香が駆ける。その身のこなしは俊敏で、振るう黒刃は蛇のように伸びてしなり、黒い薔薇の娘たちを薙ぎ払った。
雨冠乃巫女たる彼女にとって、この雨は恵みだ。水気を纏わせた剣は破魔の力を帯び、穢れた吸血鬼どもの血糊を刀身から放たれる水流が洗い落とす。ひとり敵を斬り捨てるたびに、切れ味は衰えるどころか増していくようだ。
「くっ! こいつ、この雨の中でこの動きっ」
黒い薔薇の娘たちが濡れて滑りやすくなった足元の変化に対応しきれていないうちに、絵里香は敢えて敵の密集している場所に突っ込んでは次々と斬り払っていく。
その剣捌きに淀みはなく、恵みの雨の中で戦う様はまるで剣舞のように美しい。
「こ、このぉっ!!」
狼狽した娘たちは苦し紛れの反撃を仕掛けるも、振るわれた爪は蛇乃目の傘によって受け止められる。すかさず絵里香はウルミの刀身を短刀ほどの長さに縮め、無防備に空いた敵の脇腹を突く。
「隙だらけだぞ」
「かは……っ!?」
骨の隙間から臓腑を抉られ、喀血しながら倒れ伏す黒薔薇の娘。溢れ出した血はすぐに雨によって洗い流され、穢れや邪気を現し世に残すことなく骸の海に還される。
「お前らの動きはもう見切った。さっさと道を開けてもらおうか」
絵里香は仕込み傘を閉じると再びウルミを蛇のようにしならせ、邪魔な連中を散らして先に進んでいく。雨音に溶ける断末魔の中、その歩みを止められる者はいない。
成功
🔵🔵🔴
セシリア・サヴェージ
オブリビオンの同士討ちは私たちにとって好都合ではありますが、同族殺しがなぜ発生するのかは謎のまま……。
とはいえ、分からないことを考えても仕方がありません。任務に集中しましょう。
『ディアナイラ』の攻撃に巻き込まれないよう彼女と距離を取りつつ、UC【魂喰らいの魔剣】で『黒い薔薇の娘たち』を攻撃します。
吸血鬼の闇の力は暗黒剣のいい糧になりそうです。
傷を与えずとも【生命力吸収】で急速に死に至らしめましょう。
【武器受け】【見切り】で防御もしっかりと行っていき、【なぎ払い】でまとめて斬ります。
同族殺しにはまだ消耗してほしくありませんので、彼女の方へ向かおうとする個体を優先して撃破していきましょう。
「あぅぅぅああぁぁぁぁっ」
「くっ、この、止まりなさい、バケモノっ!」
猟兵達が施設の警備網を突破していく中、ディアナイラは激戦区の只中にいた。
多くの警備に襲われながらも一歩も退かず、傷を負おうと怯まず、血飛沫を散らしながら猛然と敵を蹴散らして先に進んでいく。その戦いぶりはまさに狂気の沙汰だ。
(オブリビオンの同士討ちは私たちにとって好都合ではありますが、同族殺しがなぜ発生するのかは謎のまま……)
あの異端の魔女なるオブリビオンがなぜこの研究所を襲い、同族を殺すことに執着するのか、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は疑念を抱いていた。
あれほどの執念と狂気には、おそらくは相応の理由があるのだろう。しかし領主キーターと同族殺しディアナイラの間にある因縁は、現時点では不明のままだ。
「とはいえ、分からないことを考えても仕方がありません。任務に集中しましょう」
優先すべきは領主を含むオブリビオンの討伐。女騎士は暗黒剣ダークスレイヤーを抜き放つと、暴れまわるディアナイラの攻撃に巻き込まれないよう、距離を取りながら前線に駆け出した。
「暗黒剣よ、赴くままに喰らうがいい」
暗黒の呪いを籠めた【魂喰らいの魔剣】は、肉体ではなく生命そのものを断つ斬撃。
その一太刀を浴びた黒い薔薇の娘は、傷ひとつ付かないまま眠るように絶命する。
「な、なによあいつの剣。ヴァンパイアでもないくせに……!」
「同族殺しひとりでも面倒だって言うのに……こうなったら!」
新手の出現により劣勢に立たされた娘たちは、やむなく倒れた同族のち肉を喰らい【ジャックの傲り】を発動する。吸血鬼の闇の力を暴走させ、戦況を覆すつもりだ。
「これ以上ここを荒らさせるわけにはいかないのよ。くたばりなさい!」
闇のオーラを纏った黒い薔薇の娘たちの爪牙が、一斉にセシリアに襲い掛かる。
しかし彼女は冷静に敵の動きを見切って防御の構えを取り、暗黒剣で攻撃を捌きながら踏み留まる。その後方では、狂乱せし異端の魔女ディアナイラが暴れている。
(同族殺しにはまだ消耗してほしくありませんので)
領主討伐という大目的を果たすためには、ここで魔女に力尽きられてはまずい。
ゆえにセシリアは同族殺しの方へ向かおうとする敵を率先して自らに引き付け、優先して撃破する腹積もりだった。
「オブリビオンを討つためにオブリビオンを守る、というのも妙な気分ですが……」
これも任務だと思えばセシリアに迷いは無い。暗黒剣に再び魂喰らいの力を籠めれば、その刀身は漆黒に煌めき、群がってきた黒い薔薇の娘たちをまとめて薙ぎ払う。
「「な、ぁ……っ!!?」」
痛みも傷も与えることなく、されどその魔剣は獲物を急速に死へと至らしめる。
断末魔の悲鳴を上げることさえなく、ぱたりと事切れていく黒い薔薇の娘たち。
その身から吸い上げられた生命と闇の力は、全て暗黒剣へと還元されていく。
「吸血鬼の闇の力は暗黒剣のいい糧になりそうです」
「ひ……っ!」
獲物をひとり屠るたび、魔剣が纏う漆黒はより濃くなり、刃は鋭さを増し続ける。
闇夜よりも昏いその暗黒は、吸血鬼の眷属たちですら恐れ慄くほどの絶大な力。
その担い手たる暗黒騎士セシリアは、容赦なく剣を振るい道を切り開いていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
異端の神を弄繰り回す狂科学者に異端の神に酷似した力を使う同族殺し、ね
全くの無関係とは思えんが…まずは敵の掃討が先だな
まずは同族殺しの急襲で混乱してる敵をシルコン・シジョンでスナイプ
一体一体的確に急所を狙い狙撃して倒す
同族殺しには当たらないようになるべく離れた敵を狙う
フン、戦闘中に食事とは行儀がなってないな?
お仕置きだ
敵がUCを発動したらこちらもUCを発動
攻撃回数を重視して血と肉を食べた者を優先的に狙い、止めを刺しきれなかったものには弾丸を浴びせ、同族殺しの毒で弱った敵も片付ける
この血と臓腑と薬品の臭いがミックスされた空気…まったく、気が滅入るな
早速シャワーを浴びたくなってきたぞ
「異端の神を弄繰り回す狂科学者に異端の神に酷似した力を使う同族殺し、ね」
厳重な警備をくぐり抜けて研究施設の奥に進みながら、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は相争うオブリビオン達の情報に符合するものを感じていた。
「全くの無関係とは思えんが……まずは敵の掃討が先だな」
問い詰めているような暇はなく、答えが返ってくるという保証もなし。
考えている内にもまた新たな敵を視界に捉え、キリカは銃把を握りしめた。
「ころ、す……ころす……っ」
「こ、これ以上行かせるわけにはっ!」
ひたすら施設の奥に向けて猛進する同族殺しを、黒い薔薇の娘たちは阻めずにいた。
我が身を顧みない強襲により、厳重であった警備体制には大きな混乱が生じている。
その混乱をキリカは見逃さず、自動小銃"シルコン・シジョン"のトリガーを引く。
「邪魔をするな」
「かはッ?!」
洗礼を施された銃口から放たれる弾丸は、込められし聖句と共に標的の急所を貫く。
邪なる吸血鬼の眷属に対してその力は致命的であり、一発で仕留めるには充分だった。
「くっ、また新手が……忌々しい猟兵め!」
黒い薔薇の娘たちは顔をしかめながら、倒れた同胞の血を啜り闇の力を暴走させる。
【ジャックの傲り】によって彼女らの戦闘力は捕食した血肉の量に比例して増大する。眷属とはいえその能力はまさしくヴァンパイアに相応しいユーベルコードだ。
――だが、そんな悠長な真似を黙って見ているほど、キリカが手緩いはずもない。
「フン、戦闘中に食事とは行儀がなってないな? お仕置きだ」
咎めるように襲い掛かったのは、白のドレスを纏った呪い人形「デゼス・ポア」による【バール・マネージュ】。愛らしくも不気味なその躯体から飛び出る錆びついた刃が、血肉を喰らった者から優先して敵を切り刻んでいく。
「きゃっ?! な、なによコイツっ!」
『キャハハハハハハハハハハハハハッ』
無邪気に哄笑しながら宙を踊る人形。深い憎悪と呪詛を込めて執拗に放たれる刃。
呪われし乱舞は忌むべき異形の息の根が止まるまで、激しい苦痛をもたらし続ける。
「踊れ、デゼス・ポア。貴様を呪う者達の怨嗟の声で」
人形に敵陣をかき乱させながら、キリカは後方からスナイピングを続行していた。
利用価値のある『同族殺し』には当たらないよう、なるべく離れた敵を狙い撃つ。"聖歌隊"の通称にちなむように小銃の銃声が戦場に鳴り響き、バール・マネージュから逃れた者、トドメを刺しきれなかった者に引導を渡していく。
「く、こいつら……っ、ぎゃぁっ!?」
「い、一旦体制を立て直して……!」
錆刃と聖弾から逃れようと後退していく黒い薔薇の娘たち。しかし彼女らに逃げ場は無い――キリカとデゼス・ポアが追い立てた先には、狂乱する同族殺しがいる。
「うぅぅぅぅ……あぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「し、しまっ……きゃぁぁぁぁっ!?!!」
咆哮と共に身体を大きく震わせるディアナイラ。傷ついた異形から撒き散らされた鮮血は、あまねく生命を侵す猛毒の雨となって、黒い薔薇の娘たちに浴びせられる。
たちまちのうちに肌を焼き、肉を腐らせ、臓腑を蝕む、凄まじい毒性。悲鳴を上げて苦悶にのたうち回る彼女らに終焉を与えたのは、キリカの銃弾だった。
「この血と臓腑と薬品の臭いがミックスされた空気……まったく、気が滅入るな」
早速シャワーを浴びたくなってきたぞ――と、小さく悪態を吐きながら、戦場傭兵は戦いを続ける。鼻を突くようなおぞましい悪臭よりも、なお悪しきものが、この研究施設の先に待っているであろうことを予感しながら。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
この領主の所業は許せるものじゃないね
ディアナイラの正体が想像通りなら少し同情するよ
僕もああなっていたかもしれないから
まあ本神曰くそれは無いらしいけど
研究資料も余裕があれば目星をつけておきたいな
分離に関する資料があれば儲けものだし
女神降臨を使用
自分を対象にするUCだから防御はできないよね
上空から館の構造を把握した後は
ディアナイラの近く
もちろん触手の届かないあたりを飛行して
敵をガトリングガンで射撃したり
使い魔に石化させたりして突入を援護しよう
飛んでくる槍や血は攻撃の時間を停めて防御
これは僕なりのオーラ防御だよ
多機能イヤホンの機能を使って
ディアナイラの声を聞いてみよう
何か情報が得られるかもしれないし
「この領主の所業は許せるものじゃないね」
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、人と神を人為的に混ぜ合わせるという、領主キーターの狂気の研究に強く憤る者のひとりだった。それは彼女(彼)自身が不慮のことで封じられし邪神と融合してしまった、半神半人の身の上ゆえでもあるだろう。
「ディアナイラの正体が想像通りなら少し同情するよ。僕もああなっていたかもしれないから」
警備のオブリビオンと激しく争う『同族殺し』を見つめながら、ぽつりと呟く。
確証に足る根拠はないが――彼女の有様とここの研究を照らし合わせれば憶測はつく。何かの歯車が狂っていれば、晶もあんな狂える異形に堕ちていたかもしれない。
「まあ本神曰くそれは無いらしいけど……それじゃ、行こうか」
【女神降臨】を発動し、可憐なドレス姿に変身した晶は、魔力の翼を広げて邸内に突入した。先行するディアナイラからなるべく近く――もちろん触手の届かないあたりを飛び回りながら、携行型ガトリングガンのトリガーを引く。
「これは防御はできないよね」
浴びせられる銃弾の雨は【キングの裁き】の構えを取っていた黒い薔薇の娘たちを容赦なく撃ち抜く。その威力は女神の神力によって強化されているが、あくまで自分を対象にするユーベルコードであるため、コピーの対象とは成り得ない。
「「きゃぁぁぁぁっ!?」」
同族殺しひとりにも手を焼いていた娘たちの手から、広げたままの書物が落ちる。
その隙を逃さず、ディアナイラが髪を振り乱しながら敵陣に飛び掛かった。
「うぅぅぅあぁぁぁぁあぁぁぁっ」
譫言のように呻きながら、異形の触手を振り回して敵をなぎ払うディアナイラ。
己の負傷を顧みることのないその戦いぶりは、彼女自身にも流血を強いるものだ。しかし彼女はその流血すらも猛毒の武器として、狂気のままに暴れまわる。
(いったい何が彼女をそうさせるんだろう)
晶は飛んでくる毒血を浴びないよう、神気によって攻撃の時間を停止させる。
空中でピタリと停まった血飛沫をひらりと躱しながら、耳に装着した多機能イヤホンに手を当て、ディアナイラの声に耳を澄ませてみる。ひょっとすればその中に、何か情報が含まれているかもしれないと考えて。
「うぅぅぅ……わたし、わたしは、だれ……」
「わたしから……すべて、すべて、うばった……」
「きぃたぁ……ゆるさない……きぃたぁぁぁあぁぁあぁっ」
イヤホンの集音機能が拾い集めたのは、憎しみに満ちた異端の魔女の言葉。
得られた情報は僅かであり断片的だが、憶測に対する裏付けのひとつにはなるか。
晶は小さくひとつ頷くと、なおも暴れる魔女を援護すべく石造りの使い魔を放った。
「同情はするけど、今は利用させてもらうよ」
使い魔たちが唱える状態異常魔法が、立ちはだかる黒い薔薇の娘たちを石化させて動きを封じる。頭数が多いために全員ではないが、足並みを乱せればそれで充分だ。
「な、なによこれっ、身体が……!」
「きぃぃぃぃたああぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
石と化した娘たちの只中に、狂乱する異端の魔女が体ごとぶつかっていく。
血飛沫と石の破片が飛び散り、混じり合う悲鳴と絶叫が戦場に木霊した。
「今のうちかな」
ディアナイラが防衛線を突破したのを見届けると、晶は彼女と別の所に向かう。突入前に上空から屋敷の構造を把握していた時、目星をつけていた場所があったのだ。
そこは、この施設で行われた研究や実験の記録を纏めた図書室とでもいうべき一室。他の警備の連中がやってくる前に、本棚に並んだ研究資料を手早く漁る。
「分離に関する資料があれば儲けものだし」
ひょっとすれば自分の身体についても応用が効くかもしれない――そう考えての調査だったが、残念ながら芳しいものは見つからない。キーターの研究は人と神の融合による「新たな生命の固定」に主眼を置いており、分離に興味は無かったようだ。
「まあ、そう上手くはいかないよね」
晶はそれほど気落ちした様子もなく資料をしまうと、再び翼を広げて飛んでいく。
これ以上研究について調べるのなら、本人の口から聞き出すのが一番だろうから。
成功
🔵🔵🔴
四王天・燦
(すげ…艶めかしい半身…)
哀しき人魔融合の成功例かと思う反面、異形の肉体に美しさを感じてしまう
飄々とディアナイラの後ろから入るよ。
「女の子に乱暴はしたくない。アタシに精気を捧げて安らかに逝きなよ」
黒薔薇娘に一方的交渉。
挑発しながら真威解放・デストラップで通路に鋼糸の罠を張り巡らせる
交渉決裂すりゃ四王稲荷符で呪詛や精神攻撃を流し込んでKOするよ。
黒槍はアークウィンドで武器受け、残像を囮に回避。
敵集団を鋼糸の罠へとおびき寄せるぜ
罠で拘束すりゃあ質問と吸精タイム。
「あの美女が何でキーターを狙うか知らねーかな?」
答えに関わらず首筋に犬歯を立てて吸血し生命力吸収。
(可愛い娘だ、せめて痛みに震えず眠りな)
(すげ……艶めかしい半身……)
相手が人に仇なすものだと分かっていても、四王天・燦(月夜の翼・f04448)は目を奪われてしまう。狂おしげな声を上げながら敵を蹂躙する、異端の魔女の裸身に。
これが悪しき研究による哀しき人魔融合の成功例かと思う反面、人と異端が混ざりあった異形の肉体に美しさを感じてしまう。あるいは魔性の美とはこういうものか。
(……っと、いけね。見惚れてるばかりじゃいられないよな)
自分がここに来たのは美女との逢瀬のためではなく、戦いのためなのだから。
我に返った燦は飄々とした振る舞いでディアナイラの後ろから戦線に突入する。
「女の子に乱暴はしたくない。アタシに精気を捧げて安らかに逝きなよ」
「な……ッ、誰があんたなんかに! 不届きな侵入者風情が!」
八重歯を見せながら燦が一方的な交渉を突きつけると、黒い薔薇の娘たちは案の定激昂した。初対面ということを差し引いても、この条件で屈する者はいないだろう。
燦もそんなことは織り込み済みだ。娘たちを挑発して気を引きながら、その指先は相手から見えない角度で、何かを手繰るように密かに動いている。
「ここはキーター様の研究所よ。お前こそ狼藉の代償を生命で償いなさい!」
「残念、じゃあ交渉決裂だな」
その瞬間、燦は隠しポケットから「四王稲荷符」を先頭にいた娘に投げ放つ。
ぴたりと貼り付いた符は込められた呪詛を標的に流しこみ、その精神を侵食する。
「きゃ……っ」
一瞬でノックアウトされ、糸が切れた人形のように崩れ落ちた黒薔薇の娘。
その直後、他の娘たちが【クイーンの嘆き】を発動して燦に襲い掛かった。
「やってくれたわね!」
死者の怨念を纏うことによる高速移動と、呪いを練成した黒い槍の投射。
怒りと共に繰り出される猛攻を、燦は風の短剣「アークウィンド」で切り払い、旋風が生み出す残像を囮にして躱す。付かず離れず、まるで挑発するような距離感を保ちながら、通路に後退していく彼女の行く先に待っているものは――。
「死になさい―――ッ?!」
高速移動にものを言わせ、距離を詰めようとした黒い薔薇の娘たちの動きが止まる。
よくよく目を凝らして見れば、彼女らの身体には細い鋼の糸が何本も絡みついている。
「既に罠は仕掛けた。KO捕縛ってやつさ」
初手の交渉――という挑発の時点から布石は張られていた。僅かな時間のうちに展開されていた【真威解放・デストラップ】の罠は、見事に敵を一網打尽にする。
「くっ、このっ、このぉっ」
黒い薔薇の娘たちは必死にもがいているが、強靭な鋼糸の罠はびくともしない。
拘束が完了すれば、あとは質問と吸精タイムだ。楽しげな笑みを浮かべながら燦は娘たちに近寄る。
「あの美女が何でキーターを狙うか知らねーかな?」
「し、知らないわ……でもあの姿は……」
警備兼助手とはいえあくまで眷属である彼女らは、主人の研究についてそれほど詳しく知っているわけでは無いようだ。だが、ディアナイラの異形はこれまで主人が作り出した「人と神の融合実験体」に類似しているように見えると言う。
(なら、やっぱり彼女は……)
憶測を裏付ける根拠をひとつ得て、無言のまま静かに頷く燦。これ以上は聞き出せる情報も無いようだと判断すると、彼女は娘たちの首筋にそっと犬歯を突き立てる。
(可愛い娘だ、せめて痛みに震えず眠りな)
「ひ、ぁ、ぁぁぁぁ……っ!!」
血と精気を吸い取られていく、快感とも不快感ともつかない奇妙な感覚。黒い薔薇の娘たちは苦痛とは異なる悲鳴を上げながら、骸の海へと還っていくのであった。
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
…ん。少女と異端の神の融合を試みる領主に、
異端の神に類似した力を持つ異形の魔女の同族殺しね…。
…偶然の一致か、それとも関係者なのか分からないけど、
気にする猟兵もいるだろうし、貴方達は情報を探って来て。
事前にUCで喚んだ吸血鬼狩人達には存在感を消して闇に紛れ、
館内の研究資料を探るように命令しておき、
私は戦闘知識を頼りに吸血鬼の攻撃を見切り、
呪力を溜めた大鎌をなぎ払う早業のカウンターで迎撃する
第六感が同族殺しの敵意や殺気を捉えたら離脱し、
毒属性攻撃の余波は毒耐性と気合いで耐え、
自身の生命力を吸収して負傷を治療する
…っ、分かっていたけど私達がいてもお構い無しね。
…それで、何かしら分かった事はある?
「……ん。少女と異端の神の融合を試みる領主に、異端の神に類似した力を持つ異形の魔女の同族殺しね……」
敵対するオブリビオンたちの情報に奇妙な一致を覚えながら、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は呟く。類似する境遇を持つオブリビオンは他にもいるだろうが、両者の接触には何かしら因縁めいたものを感じなくも無い。
「……偶然の一致か、それとも関係者なのか分からないけど、気にする猟兵もいるだろうし、貴方達は情報を探って来て」
彼女が声をかけたのは【吸血鬼狩りの業・血盟の型】で喚び出した黒衣の集団。
吸血鬼狩りの少女が手ずから鍛えた弟子達にして、夜と闇を終わらせるという誓いを胸に業を振るう、吸血鬼狩人の集団である。
「……それじゃあ、私も行きましょう」
気配を消して闇に紛れ、館に潜入する弟子たちを見送ると、リーヴァルディは漆黒の大鎌「過去を刻むもの」を手に、施設を警備する黒い薔薇の娘たちに挑み掛かる。
【クイーンの嘆き】を発動した娘たちは、呪いを練成した黒い槍を放射して接近を阻まんとするが、リーヴァルディにとってその攻撃は既知の範疇を出ないものだ。
「……どんなに加速しても、動きが読めていれば関係無いわ」
「な……っ?!」
培われた戦闘経験を元にひらりと黒槍を躱すと、敵群の中からは動揺の声が漏れる。
直後、懐に飛び込んだリーヴァルディは、目にも留まらぬ早業で大鎌を一閃し、呪力を溜めた刃をもって吸血鬼の眷属どもを薙ぎ払った。
「ぎぃっ……こ、こいつ、強いっ!?」
「同族殺しだけじゃなく、こんな奴らまで相手だなんて……」
斬撃の直撃を受けた者は半数が倒れ、残る者たちも深手を負って半死半生。
吸血鬼狩人の実力を身を以て知った黒い薔薇の娘たちの間に、焦燥が広がり始める。
狼狽の隙を突き、このまま畳み掛けようと鎌を振り上げるリーヴァルディだが――その刹那、背筋が寒くなるほどの殺気を感じ、第六感が訴えるままに飛び退いた。
「なに……っ?!」
敵はなぜ彼女が退いたのか分からなかっただろう。しかしすぐに理解することになる。
轟音と共に屋敷の壁を突き破り、狂える異端の魔女ディアナイラが姿を現した。
「ああぁぁうぅぅぅ……うぁああぁぁぁぁ……!」
言葉にならない呻き声を上げながら、乱雑に異形の触手を振り回すディアナイラ。
粗雑で力任せだが、猛毒の血に塗れたその乱打は、充分に致命傷となる威力を持つ。
「「きゃぁぁぁっ!!!?!」」
正面のりーヴァルディに気を取られていた敵は、魔女の急襲に反応できなかった。
触手になぎ払われ、悲鳴と共に吹き飛ばされる娘たち。あとすこし遅ければリーヴァルディもあの中に巻き込まれていただろう。間一髪飛び退いてもなお、猛毒の血が余波として彼女の元にまで降り掛かってくるほどだ。
「……っ、分かっていたけど私達がいてもお構い無しね」
毒への耐性を持つリーヴァルディならば、この程度で致死量になることは無い。
身体を蝕まれる不快感を気合いで抑え込みながら、これ以上巻き込まれないようにと素早くその場から離脱する。
「……あの暴れようなら、ここの警備はもう瓦解寸前でしょうね」
無事に戦線から離れたリーヴァルディは、自分自身の生命力を糧として治癒力を一時的に高め、魔女から浴びた毒を治療する。少々手傷は負ったものの、この程度なら戦闘に支障はなく、敵方の負った被害のほうが遥かに悲惨であろう。
「……それで、何かしら分かった事はある?」
手当を終えた彼女が虚空に呼びかけると、建物の物陰から弟子達が姿を現す。
調査の報告に戻ってきたのだろう。師たる彼女にはその気配などすぐ分かる。
彼らは無言のまま、羊皮紙を束ねた一冊の資料をそっと彼女の前に差し出した。
「……これは、ここの領主が残した研究の記録ね」
綴られたおぞましい実験の数々に眉をひそめながらページを捲るりーヴァルディ。
その目にふと留まったのは、今から数年前の日付となるとある日の記録だった。
"融合実験中に被検体が暴走。脱走を許してしまった。有望な実験体だったのに、惜しいことをした"――研究者らしい几帳面な筆致でそんなことが記されている。
「……実験体の暴走と脱走、ね」
断片的だったパズルのピースがひとつ、頭の中で繋がったような気がした。
りーヴァルディはその記録をしまうと大鎌を持ちなおし、再び前線へと向かう。
この推測が正しいか、真実は討つべき敵と共に、遠からぬところで待っている。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
人を実験材料にするなんて…絶対に残しておけない…。
この研究所も研究自体も必ず叩き潰してみせる…!
事前に聞いたこの場所での研究の内容から、同族殺しがここで生み出されたのではないかと推測…。
同族殺しの行動や言動に注意しつつ、霊魔のレンズで隠し部屋や研究資料等を探索、押収しながら進み、ここで行われた研究の詳細等を確かめつつ進み、最後は呪炎【属性攻撃、呪詛、高速詠唱】で設備も資料も全て灰にするよ…。
黒茨の娘達は数が少なければ凶太刀の高速化を発動しつつ、凶太刀と神太刀の二刀で斬り捨てて行き、多い場合は【unlimitedΩ】で設備ごと一気に一掃させて貰うよ…。
悪いけど、邪魔するなら容赦はしないよ…。
「人を実験材料にするなんて……絶対に残しておけない……」
静かなる怒りに身を震わせながら、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は駆ける。
人と異端の神を融合させるという狂気の実験。その首謀者を討つのは無論のこと、この研究の誰かに受け継がれるような事態は何としても防がねばならない。
「この研究所も研究自体も必ず叩き潰してみせる……!」
もう誰も、こんな悪しき企てによって犠牲になることが無いように――固い決意と共に少女は施設の中を走りまわり、各所に残された研究の資料や成果を探していた。
「うぅぅぅぅ……あぁぁぁぁぁ……!」
激しい戦闘音と共に聞こえてくるのは、同族殺しのディアナイラの叫び声。
その闇雲な戦いに巻き込まれないよう行動と言動に注意しながら、璃奈は瞳に嵌めた「霊魔のレンズ」で周囲を観察する。霊的な存在や隠蔽された魔力さえも視認できるほどに研ぎ澄まされた彼女の知覚の前では、どんな偽装も無意味なものとなる。
「ここ、何かある……」
とある通路の壁に違和感を覚えた彼女は、その奥から通じる隠し部屋を発見する。
そこはどうやら、より重要度の高い研究の資料を収めた保管室のようだった。
「これは……」
璃奈は棚に収められた資料を抜き出し、綴られた文章に素早く目を走らせていく。
その内容は専門的な記述が多く、彼女の知識では理解できない部分もある。読み解くことが出来たのは、ここで作られていた「人と神の融合体」に関する詳細だった。
『異端の神の血肉を移植された人間は、驚異的な再生力や猛毒等の特性を得る』
『負傷と再生を繰り返すことで、その肉体はより異端の神へと近付いていく』
『その過程で、人間だった頃の記憶や人間性は喪われていくが、新種の生命の創造のために、これらは些細な問題だろう』
「…………酷い」
余りにも非道で残酷で、そして救いのない記述に、璃奈は思わず言葉を失った。
その他にもこの資料に記されていた内容は、あの同族殺しと符合する点が多い。
同族殺しがここで生み出されたのではないかという彼女の推測は、ひとつの裏付けを得ることになった。
「貴様、ここで何をしている!」
立ち尽くす璃奈の背後から浴びせられた怒号。異変に気付いて駆けつけた警備たちだ。
人数はそれほど多くはない。おそらくは同族殺しや他の猟兵の対処に追われているのだろう。璃奈は怒りに満ちた眼差しで振り返ると、絞り出すように言葉を紡ぐ。
「悪いけど、邪魔するなら容赦はしないよ……」
妖刀・九尾乃凶太刀と九尾乃神太刀を鞘から抜き、呪力を発動。音速を超える速さを得た彼女は疾風のごとく敵陣を駆け抜け、すれ違いざまに敵を斬り捨てる。
「――ッ!?」
不死性や再生力を封じる妖刀の斬撃を浴びた黒い薔薇の娘たちは、自分たちが何をされたのかも気付かぬうちに絶命し、塵となって骸の海に還っていった。
「何が起きたの……?!」
「っ、これ以上、やらせる訳には!」
血振りをするうちに騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた、さらなる黒薔薇の増援。
璃奈は彼女らに冷たい眼差しを向けながら、ユーベルコードの詠唱を紡ぐ。
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
召喚されるの力の名は"終焉"。あらゆるものに終わりを与える数百もの魔剣・妖刀の現身が、魔剣の巫女の呪力によって極限まで強化されたうえで、解き放たれる。
「『unlimited curse blades 』……!!」
その一斉射は、目前にいた黒い薔薇の娘たちは言うに及ばず、隠し部屋に残されていた資料も、設備も、何もかもを一掃し、跡形もなく消滅させるのだった。
「もう二度と、こんな実験は起こさせない……」
最後に手元に残った資料と破壊した部屋に呪炎を放ち、璃奈はその場を後にする。
呪詛の業火によって灰と化していく研究の名残にはもはや一瞥もくれず。その視線は、倒すべき敵のいる方角だけをまっすぐに見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・フォーサイス
ディアナイラちゃんの姿から推測すると、キーターくんの被献体だったのかな。
まあ、それはさておき侵入だね。
『同族殺し』が来たことが周知されれば、他のところの警備が手薄になったりしないのかな。
彼女たちの声を真似て悲鳴と、『同族殺し』に襲われてる旨の叫びを響かせるよ。たぶん、誰かが様子を見に行って、増援を要請する流れになるはず。
そのあいだ、ファデエフポポフゴーストなどを使って見つからないように隠れるよ。
警備が手薄になったら襲撃だ。こっちは騒ぎが拡がらないよう、手早く、静かにやらないとね。
そうだな、効果範囲を絞って、全力魔法のマヒ攻撃で声もあげられなくしちゃえ。それじゃ、おやすみ。
「ディアナイラちゃんの姿から推測すると、キーターくんの被献体だったのかな」
敵の研究施設で猟兵たちが戦闘と調査を進めていく一方で、アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)もまた、彼女らと同じ推測に至っていた。
この地の領主と同族殺しの間に一体どんな『お話』があったのか。興味を引かれないとは言わないが、あまり甘美なハッピーエンドは期待できそうに無いだろう。
「まあ、それはさておき侵入だね」
アリスは【ファデエフ・ポポフゴースト】で自らの身体を量子化し、身を隠しながらひっそりと施設に近付いていく。館の周りはどこも厳重に警備されているが、綻びを突くための作戦はきちんと立てている。
(『同族殺し』が来たことが周知されれば、他のところの警備が手薄になったりしないのかな)
同族殺しの強襲という"情報"を最大限に活かして、相手をこちらの望むように動かす。それは情報妖精にして電脳魔術士である彼女にとっては造作もないことだ。
アリスはまずバーチャルキャラクターとしての特性を活かして敵の声色を分析・模倣し、周囲を警戒中の黒い薔薇の娘たちに向けて、おもむろに大きな声で叫んだ。
『きゃぁぁぁぁっ! 助けてぇぇぇっ!』
『同族殺しが来てる! はやく増援を、増援をっ!』
「っ!! 今の悲鳴は……」
「向こうからよ! 私が見てくるわ!」
目論見通り、警備の娘たちは騒ぎの様子を確認するために持ち場を離れていく。
残っている人員はごく僅か。アリスはこの機を逃さずひっそりと敵に近付きながら、宝石型魔力情報デバイスを起動して電脳魔法のプログラムを展開する。
(こっちは騒ぎが拡がらないよう、手早く、静かにやらないとね)
もたもたすれば此方にも穴埋めの増援が来るだろう。悠長にしている暇は無い。
出力は最大に設定しつつ効果範囲は最小限に絞りこみ、発動するのはマヒの魔法。
宝石から発射された電撃が音もなく警備を包み、その神経から筋肉を痺れさせる。
「―――!!?!」
量子化した情報妖精からの奇襲に、黒い薔薇の娘たちはまったく気付けなかった。 痺れた身体は指先ひとつ動かせず、声を上げて救援を呼ぶことさえできない。
「それじゃ、おやすみ」
気を失う前に敵が最後に見たのは、にこっと笑いながら手をふる少女の姿だった。
警備を無力化したアリスはそのまま屋敷に忍び込むと、騒ぎに乗じて奥へ奥へと進んでいく。情報を司りし妖精の歩みを止められる者は、もう誰もいなかった。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
幾度かの『同族殺し』依頼…彼ら彼女らの様々な狂気と事情に触れました
それを汲んだうえで、その牙が人々に向かう前に確実に滅する
それが私の選択で、変わることもなし
…その狭間で騎士として何が出来るのか、此度も考えねばなりません
毒の返り血への保険として●防具改造で暗色の対蝕化学処理した外套を装備
狂気で防御が疎かな同族殺しの隙を●盾受け●武器受けで●かばいつつ、●怪力での近接攻撃で迎撃
勿論センサーでの●情報収集で彼女の触手範囲を●見切り付かず離れずの距離で巻き添え回避
同時並行でUC使用
悍しい施設の情報、それへの同族殺しの反応から読み取れる物もある筈
教えて頂けますか、その怒りの訳を
(返答の期待無し)
(幾度かの『同族殺し』依頼……彼ら彼女らの様々な狂気と事情に触れました)
メモリーに刻みつけれれた、狂える者たちとの鮮烈な記憶に、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は想いを馳せる。『同族殺し』と呼ばれる者達の多くは、ひとりひとりが重大な理由を経てそうなったのだと彼は知っている。
「それを汲んだうえで、その牙が人々に向かう前に確実に滅する。それが私の選択で、変わることもなし……その狭間で騎士として何が出来るのか、此度も考えねばなりません」
揺らぐことのない使命感を抱きながら、決して思考を止めることなく回転させ。
機械仕掛けの騎士は儀礼剣と大盾を構え、荒れ狂う同族殺しと同じ戦場に立つ。
「うぅぅぅうあぁぁぁ……ころす、ころす、ころす……!」
狂乱する異端の魔女ディアナイラは、その身を衝き動かす殺意のままに暴れ回る。
乱雑に振るわれる異形の触手は、立ちはだかる警備のオブリビオンを悉く薙ぎ払い、同時に撒き散らされる猛毒の鮮血が、周囲のあらゆるものを侵食していく。
トリテレイアは対蝕化学処理を施した暗色の外套を装備し、毒の返り血を対策しながら、彼女から付かず離れずの距離を保っていた。
「あのバケモノを止めるのよ! 何としてでも!」
「そうはさせません」
これ以上の侵攻を阻止すべく向かってくる黒い薔薇の娘たちから、同族殺しを守るように機械騎士は立ちはだかる。領主討伐のためには彼女の力を利用するのが必要不可欠――だが騎士が彼女を守るのは、決してそんな合理的な理由だけでは無かった。
「邪魔をするなァッ!!」
【ジャックの傲り】を発動し、闇の力を暴走させて襲い掛かる黒い薔薇の娘たち。
狂気に憑かれた同族殺しの思考は攻撃一辺倒で、防御はひどく疎かで隙だらけだ。
ゆえに彼女らの攻撃は、確実に同族殺しにダメージを与える筈だった――トリテレイアが庇いさえしなければ。
「ッ!? なぜ猟兵のお前が、そのバケモノをっ」
「そうしなければならない理由がある、とだけ」
がきん、と鈍い音を立てて、娘たちの攻撃は掲げられた大盾によって阻まれる。
トリテレイアはすかさず儀礼剣を振るって反撃へと転じ、ウォーマシンの怪力を活かした猛攻で敵を迎え討つ。こと近接戦闘において、彼の守備は鉄壁である。
「あぁぁぁぁぅぅああぅううぅぅぅぅっ」
「「きゃぁぁぁっ?!!」」
直後に譫言のような叫びを上げて、ディアナイラが再び猛毒の触手を振るう。
暴力に蹴散らされていく黒い薔薇の娘たち。だがトリテレイアだけはマルチセンサーでその軌道を見切り、触手の届かないギリギリの距離で巻き添えを回避していた。
(全て見通す……とまではいきませんが)
フルアクティブモードで起動した【鋼の擬似天眼】は、ディアナイラの攻撃のみならず、戦場に散らばるあらゆる情報を収集し、超高速演算での解析を可能とする。
この施設で行われた悍ましい研究や実験の数々と、それに対する同族殺しの反応から読み取れるものもあるはずだと、彼はシステムをフル回転させる。
「うぅぅぅぅぅぅ……」
警備をなぎ倒しながらディアナイラが進んでいった先に待っていたのは、血と薬品と臓物の匂いに満たされた部屋だった。トリテレイアのセンサーは、ここが件の「人間と異端の神の融合」の研究が行われた実験場であるとの解析結果を示す。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!!」
所狭しと並べられた器具や怪しげな装置、そして悍ましい「何か」の入ったフラスコを目にした異端の魔女は、これまでにない狂乱模様でそれらを攻撃しはじめた。
「き、キーター様の実験場が!」
「やめなさい! やめてッ!!」
慌てて止めに入ろうとする黒い薔薇の娘たちの前に、トリテレイアが立ちはだかる。
彼は解析していた。この部屋にあるものは同族殺しにとって"思い出したくない"、"忌まわしい"、"辛い"、"苦しい"――そういった感情を想起させるものだと。
「ならば、それを破壊することを私が止める理由はありません」
他の敵には目もくれず、実験場ばかりに攻撃するディアナイラを守りながら、トリテレイアは警備の者たちを斬り伏せていく。まるで姫君を守護する騎士のように。
――トリテレイアが最後の敵を倒した時には、実験場は既に瓦礫の山と化していた。
破壊の限りを尽くしたディアナイラは、今は呆けたようにその中心で佇んでいる。
「教えて頂けますか、その怒りの訳を」
血に染まった剣を鞘に収め、騎士は魔女に問いかける。返答を期待してのものでは無かったが、今ならばあるいはという推測を疑似天眼で立てていたのも事実だった。
「……わたし、は、ここに、いた」
果たして、魔女の唇から紡がれたのは唸り声ではなく、意味のある言葉だった。
酷くたどたどしくはあったが、そこに込められていたのは、燃えるような憎しみ。
「……ここで、わたし、は……すべて、を、うばわれた……」
「なまえも……こころも……いのちも……すべて……すべて……」
「だから……ころす……きぃたぁ……きぃたぁ……ぜんぶ、ころして、うばう……!」
対話とはならず吐き散らされただけの言葉に宿る、領主キーターへの呪詛と殺意。
それを最後にディアナイラは再び動きだし、施設の奥へと向かって進んでいく。
その身は血に塗れ、幾つもの傷を負い――それでも彼女は、復讐を果たすまで止まらないであろうことを、この時トリテレイアははっきりと理解した。
大成功
🔵🔵🔵
シェーラ・ミレディ
できるなら、美しいものだけ見ていたいのだが、なぁ……。
……うん。いや、詮無きことだったな。これ以上の被害を食い止めるためにも、オブリビオンは全て倒さなければ。
敵は防御したUCを模写し、あまつさえ借用できるらしい。
ならば防御しようのないUCを使おうか。彼女らをエスコートしておくれ、『野茨姫』。
同族殺しの手を逃れた敵を迷路に誘い出し、各個撃破していくぞ。
学習力、情報収集で迷路のルートを把握、敵に出会ったら先制攻撃だ。素早く銃を抜いて、至近距離から銃弾を撃ち込もう。
道幅に限りがあるから、一度に複数人から襲われる心配はない。大人数と遭遇しても、普段通り対処すれば片付くだろう。
※アドリブ&絡み歓迎
「できるなら、美しいものだけ見ていたいのだが、なぁ……」
施設内に残されたおぞましき研究と実験の痕跡と、獣のように荒れ狂う異端の魔女を目にしてしまい、シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)は嘆くように呟く。
この光景も、それを生み出した元凶たるオブリビオンの悪意も――あまりにも醜悪、その一言に尽きる。叶うならば瞼を閉じて、視界にも入れたくないくらいだ。
「……うん。いや、詮無きことだったな。これ以上の被害を食い止めるためにも、オブリビオンは全て倒さなければ」
果たすべき使命のために少年は現実を直視し、手に馴染む愛用の精霊銃を構える。
ここの警備である黒い薔薇の娘たちは、その書物で防御したユーベルコードを模写し、あまつさえ借用できるらしい。単純な力押しでは攻略のしづらい相手だ。
「ならば防御しようのないユーベルコードを使おうか。彼女らをエスコートしておくれ、『野茨姫』」
甘く囁くような呼びかけと共に、シェーラが発動したのは【戯作再演・野茨姫】。
破壊された建物の壁に床に天井に、彼の足元を中心として無数の茨が伸びていき、戦場はまたたく間に巨大な森の迷路と化した。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ、これは一体……?」
同族殺しの手から逃れた黒い薔薇の娘たちは、いつの間にか自分たちが茨の迷路に囚われていたことに気付く。おとぎ話に登場する眠りの森のように、それは深く入り組んで、誘い込んだ者を決して放さない。
この場において迷路の構造を理解しているのはただ1人――他ならぬシェーラだけだ。優れた学習力と情報収集力を活かしてルートを把握した彼は、迷いのない足取りで迷路を駆け、敵との出会い頭に攻撃を仕掛ける。
「眠るがいい、永久に」
「な―――ッ?!」
曲がり角から飛び出してきた少年に銃口を突きつけられ、黒薔薇の娘が凍りつく。
直後、零距離から眉間を撃ち抜かれたその躰はばたりと倒れ、鮮血を吸った茨が紅に染まっていく。
「こ、こいつっ!」
「よくもやってくれたわね――ッ?!」
先手を打たれた吸血鬼の眷属たちは、狼狽しながらも反撃を仕掛けようとする。
だが、ここは茨の迷路の中。限られた道幅では一度に接敵できる人数は限られており、後方にいる者は前にいる味方が邪魔で攻撃に参加することができない。
対するシェーラは大人数に包囲されるような心配がなく、迷路で限定された方向だけを警戒していればいい。つまりは普段通りに対処すれば片がつくということだ。
「今の僕は少々気分が悪い。手荒なダンスになるが付き合ってもらおうか」
冷たい敵意を込めてトリガーを引けば、放たれた銃弾は狙い過たず敵を撃ち抜く。
思うように動けないでいる連中の先頭から順番に、的確に、反撃を許すことなく。
複数の精霊銃を巧みに操り仕留めていくその戦いぶりは、踊り戯れるように華麗であり――同時に苛烈。ひとつ銃声が響くたび、必ずひとりの敵が茨の森に倒れ伏す。
「こ、こいつ……ぎゃぁっ!」
書物を広げ呪文を唱えようとした黒薔薇の娘も、一句紡ぐ間もなく撃ち抜かれる。
研究施設の一角を埋め尽くしたシェーラの茨の森の迷路は、そのまま数多のオブリビオンが眠る墓所と化したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アンナ・フランツウェイ
こんな研究施設を見ると、いつも昔いた施設と受けた人体実験を思い出す…。いや、今はそんな記憶に浸っている場合じゃない。
同じような実験で生み出された者…呪詛天使の生き残りとして、こんな研究施設さっさと叩き潰してやる。
【範囲攻撃】【なぎ払い】【衝撃波】を組み合わせたUCで警備の連中を攻撃。血と肉で強くなるみたいだけど、そんな時間を与えてたまるか。一応同族殺しには当てないようにしておこう…。
ついでに攻撃がてら研究成果や設備も破壊しておこう。こんなモノ残す訳にいかないし、これ以上見たくもないから。
同族殺しが近くにいるなら可能な限り【聞き耳】を立てながら様子を伺い、彼女が同族殺しになった理由を探ってみる。
(こんな研究施設を見ると、いつも昔いた施設と受けた人体実験を思い出す……)
血と臓物と薬品が混ざりあった異臭と悍ましい実験の痕跡が、アンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)の過去を想起させる。被検体としてその身を切り刻まれ、怨念と憎しみと呪詛を魂に宿された――決して忘れられない忌まわしい記憶。
(いや、今はそんな記憶に浸っている場合じゃない)
少女はざわつく心の揺らぎを抑え込み、断罪の剣を抜き放つと、白と黒の翼を広げて邸内を翔ける。この惨状を生みだした全ての元凶、領主キーターの元へ向かって。
「こんな研究施設さっさと叩き潰してやる」
それが同じような実験で生み出された者――呪詛天使の生き残りとしての使命だと信じて、アンナは断罪剣・エグゼキューターを己に振るう。鋸刃状の刃に切り裂かれたその身から飛び散った鮮血は、空中で大量の処刑器具へと変化する。
「なに……っ?!」
「地獄の釜は開いた。断罪の時だ」
驚愕する警備のオブリビオンたちに襲い掛かる【断罪式・彼岸花】。断頭斧、処刑剣、絞首縄、断首刃――アンナの体内に宿る怨念から複製されたありとあらゆる処刑器具が、罪深き黒い薔薇の娘たちに極刑をもたらしていく。
(血と肉で強くなるみたいだけど、そんな時間を与えてたまるか)
【ジャックの傲り】を発動する暇も無いよう、苛烈な猛攻で敵を薙ぎ払うアンナ。
巻き起こる死の衝撃波から直撃を免れているのは、オブリビオンの中では唯一、同族殺しのディアナイラだけだった。
「あぁぁぁぁ……ころす……ころす……っ」
彼女にとっては降り注ぐ刃を防ぐよりも、目の前の敵を殺戮するほうが重要らしい。
彼岸花を受けて倒れ伏した黒薔薇の娘に、執拗に触手を叩き付けて入念にトドメを刺す様は、アンナの目から見ても常軌を逸した憎悪を感じさせるものだった。
(彼女が同族殺しになった理由は、やっぱり……)
攻撃に巻き込まれないよう空中で距離を取りつつ、アンナは聞き耳を立てて様子を窺う。呻き声に混ざって異端の魔女が口にするのは、この地の領主に対する呪詛だ。
「きぃたぁ……よくも、わたしを……こんな、からだに……うぅぅぅぅ……ころす……ゆるさない、ぜったい、に……あぁぁぁぁぁ……っ!!」
悲鳴とも怒号ともつかない叫びを上げて、異端の魔女は保身なき猛進を続ける。
何度傷を負おうとも再生を繰り返し、血の跡を引きながら、復讐の相手を求めて。
「……その憎しみは、少しだけ分かる気がする」
アンナの体内に宿る呪詛天使の残滓が疼く。自分をこんな目に合わせた者を、絶望をもたらした世界を破壊したいという怨念が、彼女の魂の中で燻り続けている。
だが、その怨念に身を委ねることは、あの同族殺しと同じ――果てしのない闇の中、破壊と殺戮を続ける怪物に成り果てるということだ。
「私は抗ってみせる……呪詛天使としての運命に」
まだ人として在らんとする固い意志が、待ち受ける昏い末路から少女を遠ざける。
アンナはぎゅっと拳を握り締めながら血の処刑器具を操り、立ちはだかる敵と共に施設を破壊する。悪しき研究の成果や設備が、もう二度と日の目を見ないように。
(こんなモノ残す訳にいかないし、これ以上見たくもないから)
闇の中に秘められてきた邪悪な実験も、悲しき犠牲者も、今宵、ここで終わらせる。
決意を宿して双翼を羽ばたかせるアンナの目前に、全ての元凶は迫りつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『女装狂科学者キーター・ランプ』
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POW : かわいい傘:生体捕獲
【傘型捕獲器】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : フラスコ:細胞片採取毒
【生物融解用の強力毒】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 試験管:胎児状の肉片
自身の創造物に生命を与える。身長・繁殖力・硬度・寿命・筋力・知性のどれか一種を「人間以上」にできる。
イラスト:せとたまき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠紅月・知夏」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「きぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
狂気に満ちた咆哮を上げながら、異端の魔女ディアナイラが最奥の扉を突き破る。
その後から駆けつけた猟兵達が見たものは、無数のフラスコや試験管の並んだ実験室。そしてその中央に立っている、メルヘンチックな衣装を纏った人物だった。
「おやおや。外が騒がしいと思ったら、意外な珍客がやって来たものです」
一見すれば愛らしい少女のようだが、よく観察すれば声音や体格から男性と分かる。
そして何より、どんな格好をしていようが、その悍ましい邪気までは隠せはしない。
"彼"こそがこの研究施設の主である領主、キーター・ランプに間違いないだろう。
「逃げ出した実験体がまさか戻ってくるとはね。随分融合が進んでいるようですが、まだ人としての自我が残っているのか……? これは大変興味深いですね」
キーターの視線は同族殺したる異端の魔女、ディアナイラに向けられている。
その口ぶりからして彼女はやはり、この地で生み出された実験体だったらしい。
異端の神の血肉を移植された結果、その肉体は斯様な異形へと変貌し、記憶と人間性は喪われ――ただ衝動のままに破壊と殺戮を繰り返すバケモノへと成り果てた。
彼女の意志を辛うじて繋ぎ止めているのは、己を改造した元凶への憎悪と殺意だ。
「きぃたぁ……ころす……ころす、ころす、ころす……!」
「面白い。お前を捕獲して解剖すれば、私の研究はさらなる発展を遂げる……それに、貴方達も。猟兵を素材にして実験を行ったことは、まだ無かったのでね」
口元を歪めながら愉快そうに語るキーターの眼差しは、猟兵達にも向けられる。
その目つきは"敵"ではなく新たな"実験体"に対するもの。彼にとってこの世の全ては己の研究にとって有益か無益か、その二種類しか存在しないのだろう。
ベクトルは異なるが同族殺しと同様、このオブリビオンもとうに狂っているようだ。
「さあ始めましょう、実験の時間です。貴方達も我が研究の礎となるがいい!」
「うぅぅぅぅぅがぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
哄笑する狂科学者キーター・ランプ、激昂する異端の魔女ディアナイラ。
狂える2体のオブリビオンとの三つ巴、この状況を活かすことが猟兵の勝利の鍵。
悪辣なる異端の研究に終止符を打つために、ここに決戦の火蓋が切られる。
アリス・フォーサイス
さあ、復讐劇の始まりだね。狂気の実験を繰り返す研究者の前に立ちはだかるは昔の実験体。今までの因果の報いを受けるときがきたってところだね。
キーターくんの出してきた創造物はこっちで処理しておくよ。戦闘用掃除機召喚。
復讐のお話を見届けさせてもらうよ。キーターくん本人にはぼくからは手を出さないようにしよう。
黒影・兵庫
なるほど同族殺しは復讐者ですか
攻撃は同族殺しに任せておかないと
余計な火の粉が降りかかってきそうですね
せんせー
(頭の中の教導虫に話しかけると「でも放置したら同族殺しが負けるわね多分」と返された)
怒りで罠に気づかなくなりますからね
俺たちは裏方に回りましょう
俺と同族殺しを『オーラ防御』で守りつつ
科学者の動きを『第六感』で予測し
移動先に粘着性の{蠢く水}を『念動力』で
配置して動きを止めます!
敵のUCで生まれた雑魚は強襲兵の皆さん
対処お願いします!
俺も『衝撃波』で雑魚散らしに専念します!
君子危うきに近寄らず!
因縁は当人同士で解決してもらいましょう!
「なるほど同族殺しは復讐者ですか」
得心がいった、という様子で頭の中の教導虫に話しかけるのは兵庫。狂える科学者を睨む異端の魔女の瞳は殺意がみなぎり、他のものなど眼中にないといった様子だ。
「さあ、復讐劇の始まりだね。狂気の実験を繰り返す研究者の前に立ちはだかるは昔の実験体。今までの因果の報いを受けるときがきたってところだね」
舞台のあらすじを読み上げるように、笑顔を浮かべながらかく語るのはアリス。
彼女の言葉どおり、今この時こそがまさに物語のクライマックスの始まりだった。
「攻撃は同族殺しに任せておかないと、余計な火の粉が降りかかってきそうですね、せんせー」
『でも放置したら同族殺しが負けるわね多分』
頭の中から木霊する声。兵庫の"せんせー"たる教導虫スクイリアは、彼我のコンディションと精神状態等から冷静にこの戦いの行方を見極めていた。その結論には兵庫も頷くところである。
「怒りで罠に気づかなくなりますからね。俺たちは裏方に回りましょう」
狂科学者に猛進していく同族殺しの陰で、兵庫はそっとオーラの防壁を展開する。
保護の対象は自分自身とディアナイラ。領主討伐の為にはまだ、ここで斃れてもらっては困る。
「おや、貴女方は手を組んでいたのですか?」
「うぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
同族殺しとはいえオブリビオンを守るような動きに、意外そうな顔をするキーター。
一方でディアナイラは礼など言うはずもなくに、ただ正面の宿敵に触手を叩きつける。
既に彼女は怒りで我を忘れている。獣のような乱雑な攻撃からキーターはひょい、と身を躱そうと――。
「―――おや?」
一歩、踏み込んだ先の足元にあったのは、半透明に濁った液体による水溜まり。
ただの水ではない。「蠢く水」と名付けられたソレは極小の微生物の集合体であり、その働きによって粘着性と潤滑性が切り替わるという特殊な性質を持つ。
「そこに退くと思っていました!」
科学者の動きをじっと予測していた兵庫は、相手が避けようとした直前に粘着性にした蠢く水を念動力で操り、動きを止める即席のトラップとして配置していたのだ。
べちゃりと付着した粘液の塊は、キーターの足を鈍らせる。これが有効なのは一時的なものだろうが、僅かにでも隙を作り出せれば、それを突くのは兵庫では無い。
「ころすころすころす……っ!」
狂える異端の魔女の触手が、ぶおんと風切り音を立てて忌むべき怨敵に直撃する。
キーターは咄嗟に傘を盾として衝撃を和らげたものの、その身は数メートルも大きく吹き飛ばされた。
「やれやれ……同族殺しと猟兵の連携、思ったよりも厄介ですね」
だが、これはこれで興味深い――と、キーターは保管された試験管の封を開ける。
その中から姿を現すのは、おぞましく地を履い蠢く【胎児状の肉片】の群れ。
狂科学者の研究の産物であるそれらは、硬度や筋力といった特定の一種の性質を大きく強化されており、アンバランスながらも人間以上の脅威として産声を上げる。
「キーターくんの出してきた創造物はこっちで処理しておくよ」
敵が配下を出してきたタイミングで、アリスも【エレクトロレギオン】を発動する。
召喚された戦闘用掃除機の大群は、ぶおぉんと唸りを上げて肉片に襲い掛かった。
自分のほうに向かってくるものだけではなく、同族殺しのほうに近付くものも駆除し、同族殺しをキーターとの戦いに専念させようという心積もりだ。
「これで思う存分戦えるよね」
戦場を這いずる肉片を吸い上げ、溜め込み、そしてすぐに破壊されていく掃除機。
だが、300機を超えるその機体数は、キーターの出した配下の数をさらに上回る。
圧倒的な物量に圧され、肉片の群れはディアナイラにもアリスにも寄り付けない。
「復讐のお話を見届けさせてもらうよ」
アリスの望みはおいしいお話を食べること。キーター本人には自分からは手を出さないようにしているのも、ディアナイラの復讐の邪魔をしないという意図がある。
同様に、せっかくの盛り上がりに水を差すような、モブの乱入も願い下げである。
宝石型デバイスを煌めかせ、縦横無尽にレギオンに"掃除"をさせながら、情報妖精の視線はディアナイラとキーターの攻防、その一点だけに注がれていた。
「君子危うきに近寄らず! 因縁は当人同士で解決してもらいましょう!」
そして兵庫は巻き添えを喰らうまいという冷静な戦況判断の下、こちらもキーターの生み出した雑魚を散らすのに専念していた。衝撃波を放って肉片を吹き飛ばす彼の周囲には、肉眼では捉えることのできない"何か"がブンブンと羽音を立てている。
「強襲兵の皆さん、対処お願いします!」
その羽音の主は【蠢く霊】。戦いの中で散っていった兵庫の強襲兵達が、死してなおも兵庫のためを想い尽くさんと亡霊となった姿。たとえ肉体が喪われようと、鋼をも噛砕する牙の鋭さにはいささかの衰えも無い。
『(こんなものに黒影を傷付けさせる訳にはいかないわね)』
兵庫を保護せんとするスクイリアの細胞をベースに生まれ、その意志を使命として受け継ぐ亡霊羽虫は、兵庫に迫る脅威に対してはほとんど自発的に牙を剥く。這い寄る胎児の肉片の群れは、見えざる霊体の牙によってたちまち引き裂かれていった。
「やはりこんな失敗作では、足止めをするのが精々ですか」
試験管の怪物を猟兵達に駆逐され、結局キーターはディアナイラとの一対一を余儀なくされていた。数の利も搦め手もない正面対決では異端の魔女の側に分があることは、皮肉にも彼女を改造した狂科学者こそが誰よりもよく理解していた。
「きいぃぃたぁぁぁ……しね、しね、しね、しね……!!」
殺意と怨念と憎悪を込めて、一打一打を渾身の力で叩き付けていくディアナイラ。
粗暴かつ前のめりな攻勢だが、それがキーターを圧しているのは紛れもなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
イカれたラボにイカれた科学者か
随分と個性的な事だな、一刻も早く骸の海に叩き込みたくなったぞ
敵の使う摂取毒に当たらぬよう遠距離からの銃撃を行う
同時に敵の死角になるようにデゼス・ポアも飛ばす
非生物である人形であれば毒の影響も少ないだろう
同族殺しによる猛毒の血や触手を隠れ蓑にして上手く配置を行う
フン、服の趣味だけでなく臭いも最悪だな
毒と言えどもう少し香りに気を使え
敵がUCを発動したらカウンターでUCを発動
毒のフラスコを銃弾で破壊しつつ死角からデゼス・ポアの刃で攻撃
敵がそちらに注意を向けたらカウンターで銃撃を行い、さらに刃で斬り付ける
その狂った研究と共に消えさるがいい
実験ごっこはもう終わりだ、ドクター
「イカれたラボにイカれた科学者か。随分と個性的な事だな、一刻も早く骸の海に叩き込みたくなったぞ」
歯に衣着せることなく嫌悪と不快を露わにしながら、キリカは銃把を握り締める。
照準の先に捉えるのは狂気の科学者キーター・ランプ。躊躇うことなくトリガーを引き絞れば、聖なる箴言を刻まれた"シルコン・シジョン"の銃弾が放たれる。
「まだあそこに還るわけにはいきませんね。私の研究は終わっていないのだから」
傘を盾代わりにして弾幕を防ぎながら、キーターはおもむろにフラスコを取り出す。
その中身は酷く毒々しい色合いをした液体で満たされ、刺激臭を伴う煙が漂っていた。
「まずはサンプルを採取させてもらいましょう」
放り投げられたフラスコから放たれるは【細胞片採取毒】。生物融解用に調整された強毒が戦場に撒き散らされ、猟兵達と同族殺しの頭上から雨のように降り注ぐ。
「ぎぃぃぃぃぃっ!!!?」
至近距離にいたディアナイラには避ける術が無かった。ほぼ異端の神のものと化した魔女の肉体すらも狂科学者の毒は融解させ、甲高い悲鳴が実験室に響き渡る。
一方、敵の攻撃を警戒して遠距離から銃撃を仕掛けていたキリカは、猛毒の雨の範囲から辛くも退避できた。直前まで彼女がいた足元の木製床が、ジュウッと音と煙を立ててぐずぐずに融け落ちていく。
「フン、服の趣味だけでなく臭いも最悪だな。毒と言えどもう少し香りに気を使え」
融解後に漂う刺激的な悪臭に、顔をしかめながらキリカが言うと、キーターはカチンときた様子で言い返す。服装についてダメ出しされたのが気に障ったのだろうか。
「この服装の可愛らしさが分からないとは……それに香水ではないのですから、毒にそんな要素など不要ですよ」
「つくづくお前とは意見が合わないらしい」
やはり会話にもならないと、キリカは再びシルコン・シジョンで銃撃を仕掛ける。
激しい銃声と弾幕で気を引く一方、キーターの死角からは彼女の相棒(?)デゼス・ポアが、ひっそりと距離を詰めていく。前線で暴れる同族殺しの巨体や、撒き散らされる毒血や触手は、そのための良い隠れ蓑となってくれていた。
「猟兵に私のセンスと研究は理解できませんか。サンプルだけ残して消えなさい!」
再び投じられる融解毒。だが、歴戦の戦場傭兵に同じ手が二度通じるわけがない。
キリカは銃の照準を飛んでくるフラスコに合わせ、正確な狙撃でこれを撃ち落とす。
満たされた猛毒が想定外の位置で飛び散った直後、反撃の【咎人の錆】が発動した。
「泣き叫べ、デゼス・ポア。死者の落涙で錆びた刃を咎人に突き立て、消えぬ罪の報いを与えろ」
狂科学者の死角より襲い掛かったのは、人形の全身から放たれる錆びついた刃。
虐げられし者たちの呪詛を帯びたその攻撃は、咎人の肉体を深々と引き裂いた。
「が……ッ、こいつ、あの毒の雨を抜けてきたのか……?!」
あくまで研究用に調整されたキーターの毒は、生物に対しては絶大な効果を発揮する反面、非生物であるデゼス・ポアには効果が薄かった。思わぬ奇襲を受けた狂人は錆刃から逃れようと仰け反るが、その瞬間、再び神聖なる弾丸が彼に浴びせられる。
「余所見をしている暇は無いぞ」
「ぐぁッ?!」
肩を撃ち抜かれたキーターの口から悲鳴が溢れ、余裕ぶっていた顔が苦痛に歪む。
敵が人形に注意を向ければキリカが撃ち、キリカが注視されれば人形が切る。
一糸の乱れもない連携を前にしては、いかな強大な領主とはいえ分が悪かった。
「その狂った研究と共に消えさるがいい。実験ごっこはもう終わりだ、ドクター」
宣告と共に放たれる銃弾と、キャハハハと哄笑しながら斬りつけるデゼス・ポア。
キーターの身体を抉る刃は、初撃よりもさらに深く、それが犯してきた罪の贖いだと言うように呪詛の苦痛を体内に塗り込める。
「ぐぅぅ……っ、私の研究と実験を愚弄する者は、絶対に許しませんよ……!」
苦悶の表情を浮かべながらも、怒りに身を震わせ体勢を立て直すキーター・ランプ。
だがその発言はキリカにはもう、ただのイカれた男の虚勢としか感じられなかった。
成功
🔵🔵🔴
フレミア・レイブラッド
どの世界にも外道はいるものだけど…筋金入りみたいね。
貴方の研究材料になるつもりは無いわ。
【ブラッディ・フォール】で「誇り高き狂気」の「ヴラド・レイブラッド」の力を使用(マントに魔剣を携えた姿)。
ディアナイラがキーターに攻撃を仕掛けるのに合わせて、侮蔑を込めつつ【平伏す大地の重圧】による超重力でキーターを重圧で動けなくして回避も防御も封じてディアナイラの攻撃を援護。
更に自身も【カース・オブ・ブラッドナイト】で強化し、【鮮血魔剣・ブラッドオーガ】で追撃を叩き込むわ
多分、お父様が見ても貴方の所業には激昂したでしょうね。規律には厳しい人だったから…その為に同族殺しにまで成り果ててしまった程だしね。
「どの世界にも外道はいるものだけど……筋金入りみたいね」
およそ人道や倫理と呼ばれるものから程遠い所業と言動を繰り返すマッドサイエンティストを前にして、フレミアの紅瞳は燃え上がるような怒りで爛々と輝いていた。
そのいでたちは普段の紅いドレスに真紅の魔槍とは異なり、漆黒の装束とマントに真紅の魔剣。その姿は他ならぬ彼女の父――『吸血大公』ヴラド・レイブラッドの力を顕現させたものだ。
「貴方の研究材料になるつもりは無いわ」
「貴女の意見など聞いておりません。これはもう決定事項なのですよ……!」
威圧的なオーラを放つ吸血姫に、キーターは試験管の怪物をけしかけようとする。
だが、彼が対峙している敵は猟兵だけではない。融解毒のダメージから回復したディアナイラが、咆哮を上げながらまたも攻撃を仕掛けてくる。
「きぃたぁ……ころす……ころす……っ!」
「ええい、逃げ出した実験体風情が!」
迫る異端の魔女に悪態を吐きながら、身を躱そうとするキーター。
だがその瞬間、頭上から凄まじい重圧が彼の身体にのしかかった。
「ぐぉッ!! な、なんだこれは、ッ!?」
「見苦しいわね、平伏しなさい、この下種が」
魔力と侮蔑を込めた眼差しで敵を睨めつけるフレミア。彼女が父の力を借りて放った【平伏す大地の重圧】は、局所的な超重力によって標的を大地に押さえつける。
まるで見えない巨人に踏みつけられているような圧力に、たまらずキーターが膝を屈した直後、ディアナイラの振るった異端の触手がその身に叩き付けられた。
「しぃぃぃぃねぇぇぇぇぇっ!」
「ぐがごぉぁッ?!」
回避も防御も封じられた状態で同族殺しの暴威を受ければ、創造主といえど無事では済まない。悶絶したキーターの身体は勢いよく吹き飛ばされ、高々と宙を舞う。
「貴方の受けるべき報いは、まだまだこの程度では無いわ」
攻勢はまだ止まらない。重圧を解除したフレミアは【カース・オブ・ブラッドナイト】を発動し、尋常ではない量の魔力のオーラを纏いながら即座に追撃を仕掛けた。
キーターから感じた怒り、嫌悪、侮蔑といった負の感情を力に変え、手には父の愛剣【鮮血魔剣・ブラッドオーガ】を握り締め。驚異的な跳躍で空中の敵に肉迫する。
「多分、お父様が見ても貴方の所業には激昂したでしょうね。規律には厳しい人だったから……その為に同族殺しにまで成り果ててしまった程だしね」
遠い記憶の中にある父の面影と、この手にかけた時の狂奔した父の姿を振り返る。
厳格であり、誇り高く、規律を厳守し、乱れた世の理を滅さんと狂気に堕ちた――そんな吸血鬼の父のことを娘がどう想っているのか、一言で現すことは難しい。
決して許すことはできない宿敵。だが同時に、かつて人からもオブリビオンからも畏敬された彼の誇り高き気質は、紛れもなくフレミアにも受け継がれていた。
「命を不当に弄んだ貴方の罪に、このフレミア・レイブラッドが誅を下すわ」
「レイブラッド……まさか貴様、あの『吸血大公』の……!」
音に聞こえた上位ヴァンパイアの姓に、キーター・ランプが瞠目した直後。
全ての魔力を集束させた魔剣の一撃が、渾身の力を込めて振り下ろされた。
「がぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!?!」
鮮血のごとき真紅の斬撃を受けた狂科学者は、絶叫と共に大地へと叩き付けられる。
その落下点にできた巨大な陥没跡が、フレミアの放った一撃の重さを物語っていた。
成功
🔵🔵🔴
雛菊・璃奈
悪いけど、隠し部屋の資料は全て破棄させて貰ったよ…後はおまえを倒せばこの狂った研究は終わり…。
命はおまえの道具でも実験材料でもない…。ここで終わらせる…!
【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…!
実験室を【呪詛】で侵食し、崩壊させながら無数の終焉の魔剣を顕現…。
敵の放つ攻撃に合わせて魔剣を放って迎撃し、そのまま魔剣の掃射で敵の肉体に容赦なく魔剣を突き立てていき、終焉の魔力と【呪詛】で侵食していくよ…。
おまえは研究者であって戦士じゃない…。わたし達には勝てないよ…。
【呪詛、高速詠唱、全力魔法】呪力の縛鎖で呪詛に侵食された敵を更に捕縛…。
死ぬ前に融合された者を元に戻す方法を問い質すよ…
外道…死で償え…!
「ぐぅぅ……くそっ、貴様ら、よくも……」
破壊された実験室のクレーターから、よろよろと身体を起こすキーター・ランプ。
余裕ぶっていられるのにも限界が来たのか、慇懃な口ぶりや態度が剥がれている。
そんな手負いの狂科学者に、冷たい視線と共に言葉を投げかけたのは璃奈だった。
「悪いけど、隠し部屋の資料は全て破棄させて貰ったよ……後はおまえを倒せばこの狂った研究は終わり……」
「ッ?! なんということをッ!!」
それを聞いたキーターはこれまでに無いほどの動揺を見せ、そして激昂する。
長い年月をかけて積み重ね、大事に保管しておいた研究の成果と記録。それを纏めて葬られたのは、彼にとっては心臓を抉り取られるのにも等しい痛手だ。
「一体私がどれだけ苦労して実験体を作り、ここまで研究を進めたと……」
「命はおまえの道具でも実験材料でもない……。ここで終わらせる……!」
狂科学者の妄言を斬り捨てて、璃奈は【九尾化・魔剣の媛神】の封印を解放した。
解き放たれた莫大な呪力が、周囲を侵食し実験室を崩壊させていく。妖しくも美しい九尾の妖狐へと変身した彼女の周りには、"終焉"を司る無数の魔剣が顕現する。
「私の実験室が……! お前達、あの小娘を止めなさい!」
呪力による崩壊現象を目の当たりにしたキーターが顔色を変えて叫ぶと、試験管の中から飛び出した胎児状の肉片の群れが、一斉に魔剣の媛神へと襲い掛かった。
璃奈はそれに合わせて魔剣を放ち、向かってくる敵を迎撃する。終焉の力を宿した呪われし刃は、貫いた肉片たちをチリひとつ残さずにこの世から消滅させていく。
「こんなものでわたし達は止められない……」
忌まわしき実験の過程で創造された試験管の中の生物。だがそれは戦闘用というわけでも、無尽蔵に数がいるわけでもない。璃奈の呪力によって無限に顕現する魔剣に対抗するには、どう見たところで力不足だ。
「くっ……なぜ止められない!」
自らのホームでこうも劣勢に立たされている理由が、キーターには分からない。
だが傍から見れば当然だ。彼の戦い方はあくまで実験の産物の転用に過ぎない。
「おまえは研究者であって戦士じゃない……。わたし達には勝てないよ……」
研究のために智を重ねる者と、戦いのために技を磨く者。能力のベクトルの違いと何よりも実戦経験の差が、地力では上回るはずのキーターとの戦力差を覆していた。
璃奈はさらに大量の魔剣を掃射し、試験管の怪物のみならずキーターにも攻撃を仕掛ける。盾のようにかざされた傘を突き破り、終焉の刃が狂科学者の身体を抉る。
「ぐ、ぁぁぁ……なんだ、この力は……っ」
魔剣に込められた呪詛と終焉の魔力が、キーターの肉体をじりじりと侵食していく。
敵が苦悶に喘ぎながら体勢を乱した隙を逃さず、璃奈は素早く呪力の縛鎖の呪文を唱え、追い詰めつつある標的の身体をさらに縛りあげた。
「しま……っ、放せッ!? 何をするッ!!」
「おまえが死ぬ前に聞きたい事がある……融合された者を元に戻す方法は……?」
璃奈が一思いに敵を仕留めにかからなかったのは、これを問い質すためだった。
異端の神の血肉を宿し、変質してしまった人間を救う手掛かりがあるとすれば、それを握っているのは不本意ながらこの男を置いて他に無いのだから。
――だが、その問いに対するキーター・ランプの解答は無慈悲なものだった。
「バカバカしい。コーヒーにミルクを注いだ後で、混ざったミルクをコーヒーから分離できますか? 融合による変異は不可逆のもの、元に戻す方法などあるものか!」
口元を卑しく歪めて嘲るように笑う狂科学者。この男は、それを全て理解した上で、数多の人間の生命を使い潰すように、不可逆のバケモノへと貶めてきたのだ。
――期待を摘み取られた失望と、それ以上に激しい憤怒が、璃奈の胸を焦がした。
「外道……死で償え……!」
平時の彼女が滅多に見せないような激情に呼応し、終焉の魔剣が一斉に放たれる。強大な呪力を秘めた無限の刃が、縛鎖に囚われた狂人に容赦なく突き立てられた。
「ぐがぁぁぁぁあぁッ!!!?!」
男の嘲笑はたちまち苦悶に満ちた悲鳴へと変わり、終焉の呪力が骨の髄まで彼を侵す。ハリネズミのごときその様相に、もはや領主の威厳など微塵も存在しなかった。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
研究者らしいから一応聞くけど
彼女を元に戻す事はできるのかな
原理を理解する為に
逆のプロセスを試した事ないのかな
情報聞けたら儲けもの程度だけどね
こちらの気配から事情を察するくらい詳しいなら
適当に話を繋いでディアナイラの到着を待とうか
戦闘になれば神気でフラスコを防御しつつ
ガトリングガンで攻撃
ディアナイラが参戦したら
予め邪神の繰り糸で精緻な球体関節人形に変えておいた
黒い薔薇の娘達を突撃させて支援
生物じゃない人形なら毒は聞かないだろうし
壊れても良いから纏わりついて
ディアナイラが攻撃する隙を作らせよう
空気に毒気が混じっても大丈夫だよ
自分の体も精緻な蝋人形に変えてたしね
この体にも邪神の力にも慣れちゃったなぁ
「研究者らしいから一応聞くけど、彼女を元に戻す事は本当にできないのかな」
猟兵の怒りに触れたボロボロのキーターに、晶は改めてもう一度問いかける。
相手は邪悪なオブリビオン。仮に情報を持っていたとしても、素直にそれを猟兵に教えてくれる保障は無い。
「原理を理解する為に、逆のプロセスを試した事ないのかな」
ゆえに晶はキーターを問い詰める。もしかすれば彼の研究を応用して、自分も元の姿に戻れる手掛かりになるかもしれないのだ。聞いてみて別に損は無いだろう。
(情報聞けたら儲けもの程度だけどね)
油断なくガトリングガンを構えつつ問う晶に、キーターは皮肉げな笑みを浮かべた。
話に乗る気になったのは、少しでも傷を癒やす時間稼ぎになると考えたからか。
「一度異端の神と融合した人間を元に戻すことはできません……少なくとも私の研究ではね。それこそ奇跡でも起こらない限り、いずれ完全にヒトではなくなります」
深手を負ったキーターの目つきは、再び研究者のそれとなって晶を見つめている。
彼の研究者としての智識と経験ならば、晶の気配から事情を察するのは容易いことだった。
「どうやら貴女もヒトならざるモノが混ざっているようですね。私の知る異端の神とは違うようですが……残念でしたね。貴女が元の身体に戻れることは無いでしょう」
「ご忠告どうも。それより、こんなに長話に付き合っていて良かったのかな」
悪意に満ちたオブリビオンの言葉を鵜呑みにするほど、晶も純真ではない。
彼女が望み薄と思いつつもここまで話を繋いでいたのは、もうひとつ理由がある。
「僕よりもよっぽどお前を殺したいと思ってるやつがご到着だよ」
「きぃぃぃぃぃぃいたああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
その瞬間、実験室に木霊するのは殺意と憎悪と狂気に満ちた、異端の魔女の絶叫。
蓄積した負傷ゆえか、しばらく動けずにいたディアナイラが、戦線に復帰したのだ。
「ちっ。お前は大人しくサンプルになっていればいいものを!」
キーターは舌打ちしながら【細胞片採取毒】の詰まったフラスコをディアナイラと晶に投げつける。晶は神気のオーラによって毒が撒き散らされる前にフラスコを防御するが、狂える同族殺しにそんな芸当ができるはずもない。
「いぃぃぃたいぃぃぃぃ……ゆるさないぃぃぃぃぃぃぃ……っ!!!」
「ええい、生き汚さだけは一級品ですね!」
強毒によって肉体を融かされながらも、怨敵に一矢報わんと猛進するディアナイラ。
ならば完全に融解させてやろうと、キーターは再びフラスコを振りかぶり――。
「――っ?! 何のつもりです、お前達!」
狂科学者の攻撃を寸前で止めたのは、彼にとって思ってもよらない相手だった。
それは黒い薔薇の娘たち。彼の助手にして下僕であるはずの彼女らは今、無言のまま虚ろな表情を浮かべながら、敬服すべき主人にしがみついていた。
「接近戦は苦手なんだよ。だから彼女たちにやってもらう」
よく見れば娘たちの身体は肉ではなく無機物に変わり、関節は球体になっている。
晶の【邪神の繰り糸】によって、先の戦闘時に敗北した彼女らは精緻な球体関節人形に変えられていたのだ。
「くそっ、放せ、放しなさいっ」
纏わりつく娘たちを引き剥がそうともがくキーター。その手から落ちたフラスコが割れて無差別に毒を撒き散らすが、既に生物ではない人形たちに効果は薄かった。
晶も同様に自らの身体を精緻な蝋人形に変えておいたため、空気に混ざった毒気に蝕まれることも無い。会話による時間稼ぎの間に、敵の攻撃への対策は万全だった。
「きぃぃぃたぁぁぁぁ……」
「ま、待て、くそ、やめろッ」
どんなに叩かれても壊されても、決してキーターを離そうとしない黒薔薇人形。
そこにずるずると這うように迫り来たディアナイラが、異端の触手を振り上げる。
「これが自業自得ってやつだね」
淡々と呟いた晶の目の前で、異端の魔女の一撃が狂科学者に直撃する。
凄まじい膂力を叩き付けられたキーターの身体は、ゴム毬のように吹っ飛んだ。
「ごがあぁぁぁぁぁッ!!!?」
鮮血と猛毒に塗れた男の醜い絶叫が、実験室の奥に遠ざかっていく。
晶はそれを見届けると邪神の繰り糸を解除し、元の邪神少女の身体に戻った。
(この体にも邪神の力にも慣れちゃったなぁ)
徐々に違和感を覚える機会も減るほどに、意のままに操れるようになった力と体。
それを果たして歓迎すべきか忌避すべきか、今の"彼"にはまだ分からなかった。
大成功
🔵🔵🔵
神宮寺・絵里香
〇心情
・マッドサイエンティストとか言う奴か。ま、どうでも良いが。
・何の為に狂った実験をしているのかも興味はないし、まあ齎される結果もどうせ碌でもないから、どうでもいい。手段を選ばん方法がもたらす結果何てどうせ碌でもないからな。
・実験体の方はまあ…今は、スルーで。巻き込まれないようにだけ注意はするが、それだけだ・
〇戦闘
・真の姿を解放。
・破魔の雷を纏った薙刀をメイン武器にして戦闘。敵の攻撃を第六感で見切り、刃に流した雷でカウンター。麻痺を仕込む。
・創造物がうじゃうじゃわいて来たら、敵の中心に翼槍を投げ込んでUCを発動させて、範囲攻撃の死の呪詛で一網打尽にする。
・痛い目でも見ておけ、この女装野郎が
「マッドサイエンティストとか言う奴か。ま、どうでも良いが」
散々に人の命を弄んできたキーター・ランプに対して、絵里香の反応は冷淡だった。
何の為に狂った実験をしているのかも興味はないし、まあ齎される結果もどうせ碌でもないから、どうでもいい。自分はただ、為すべきことを為すだけだ。
「手段を選ばん方法がもたらす結果なんてどうせ碌でもないからな」
白蛇の意匠のついた薙刀の神器「叢雲」を手に、雨冠乃巫女は真の姿を解放する。
その黒髪は雪のように白く、瞳は鬼灯のように赤く。神の裁きたる雷を刃に纏わせ、流水の歩みで敵との距離を詰めていく。
(実験体の方はまあ……今は、スルーで)
絵里香がちらりと見たディアナイラの姿は、己と敵の血で真っ赤に染まっていた。
優先して狙う相手が共通している以上、ここで手を出す理由は無いが配慮してやる理由もない。巻き込まれないようにだけ注意はするが、それだけだ。
蛇のように鋭く細められた巫女の眼光は、それきりキーターだけに狙いを絞る。
「ぐ、うぅぅ……このッ!」
ボロボロのドレス姿で這い出ててきたキーターは、寄るなとばかりに傘を振り回す。
その得物にどんな機能を仕込んでいるかは知らないが、そんな素人丸出しの動きが絵里香に通用する筈もない。研ぎ澄まされた第六感で攻撃の軌道を見切りながら、叢雲の矛先より反撃の雷を放つ。
「痺れてろ」
「がぁッ!!」
スタンガンなどよりも遥かに強烈な電流を浴びて、身体を痙攣させながら崩れ落ちるキーター。オブリビオンは頑丈とはいえ、しばらくは麻痺で思うように動けまい。
「ぉ、にょれ、このアマァ……」
呂律の回らない舌で悪態を吐きながら、キーターは試験管の中の実験体を解放する。
硬度や筋力などを強化された【胎児状の肉片】が、創造主を守らんとするように群れをなして襲い掛かる。
「うじゃうじゃわいて来たな」
業の深い形をした増援に絵里香は顔をしかめながら、バックステップで距離を引き離す。単に逃げたわけではない、別方向から迫る"敵"の脅威に直感で気付いたからだ。
「きぃたぁ……きぃたぁぁ……!」
退いた絵里香と入れ違いに飛び出したのはディアナイラ。猛毒の血に塗れた触手が、怨敵との間に立ち塞がる肉片を乱雑に薙ぎ払う。あと少し退くのが遅れていれば、絵里香もその中に巻き込まれていただろう。
(丁度いいか、そのまま引き付けてもらおう)
これを好機と捉えた彼女は薙刀から黒翼槍「スノードロップ」に得物を持ち替えると、前線目掛けて勢いよく投げつける。黒い翼をモチーフとしたその槍は鳥のように戦場を翔け、彼女の狙いどおりに敵群の中心に突き立てられた。
「さぁ、舞踊れ! 我が義娘の名を持つ花よ! 其の名に宿し呪詛を解放せよ!」
凛として鮮烈な宣言と共に、黒翼槍に秘められし【待雪草の呪詛】が発動する。
まるで花が散るように槍は消え、変わりに現れるのは無数の黒羽根とスノードロップの花弁。その一枚一枚に籠められたのは、触れたものを葬る死の呪詛だ。
「ひ……が、ごほ、げぉッ!?」
被造物共も、その創造主も、諸共に巻き込んだ羽吹雪と花吹雪は、モノトーンの大渦となって敵を一網打尽にする。呪いへの耐性の無かった肉片は即座に斃れ。そしてキーターも麻痺により逃れられぬまま、死の呪いに蝕まれて血反吐をぶちまけた。
「痛い目でも見ておけ、この女装野郎が」
呪詛の渦中でのたうち回るイカれた男に、絵里香はやはり冷淡な表情で告げる。
スノードロップの花言葉は『オレはお前の死を望む』。舞い散る花弁に託された言葉は、外道に対する死の宣告であった。
成功
🔵🔵🔴
シェーラ・ミレディ
生命を弄ぶか。
それだけ虐げたのだ、報いを受ける準備は出来ているのだろうな?
──覚悟しろ、外道!
まずは、ある程度間引かねばな。
肉片に生命を与えられる前に、銃撃を連発して使い物にならなくしておこう。
動き出した肉片は、停滞の呪いを込めた呪殺弾を用い、制圧射撃で足止めだ。
敵の本体が見えたなら『片恋の病』。
このUCならば、障害をものともしない銃撃を放てる。
生命を与えられた肉片が硬度を高めようが、繁殖力を上げて幾重にも連なろうが、何も問題はないな。
お前は正義に反したのだ。邪悪を誅し、せめて被害者への手向けとしよう。
罪に塗れて死んでいけ!
※アドリブ&絡み歓迎
「畜生……貴様ら、いい気になるなよ……!」
度重なる猛攻に余裕を剥ぎ取られたキーターは、憎々しげに猟兵達を睨みつけながら後ずさる。その周囲に蠢くのは試験管から新たに補充された【胎児状の肉片】だ。
「お前達、もっと私を守りなさい! 失敗作にできるのは肉壁くらいでしょう!」
研究の過程で生み出されたその歪なる存在も、彼にとっては道具でしかない。
創造主が被造物に向ける視線は、慈悲の欠片もない嫌悪と侮蔑に満ちていた。
「生命を弄ぶか。それだけ虐げたのだ、報いを受ける準備は出来ているのだろうな?」
異端の魔女に飽き足らず、この期に及んでもなお命をモノ扱いするその所業。
シェーラは沸き立つような怒りに打ち震えながら、精霊銃の銃口を向ける。
「──覚悟しろ、外道!」
「ひッ!?」
気迫に圧されるように失敗作の陰に隠れるキーター。彼のユーベルコードによって生命を与えられた肉片は、文字通りの肉の壁としてシェーラの視界に立ち塞がる。
「まずは、ある程度間引かねばな」
シェーラはまず、動き出す前の試験管の中身に狙いをつけてトリガーを引いた。銃声とガラスが砕ける音が響き、連射を受けた肉片は原型を留めぬほどに破壊される。
「こうすればもう使い物にはなるまい」
すでに動き出した肉片に対しては、停滞の呪いを込めた呪殺弾で対処。舞うような手さばきで操られた4丁の精霊銃からなる弾幕は、迫る被造物の壁を寄せ付けない。
停滞の弾丸を受けた肉片たちは、まるで凍りついたようにその場で動きを止めた。
「……見えたぞ」
制圧射撃で敵を足止めしながら、シェーラは壁の向こうに隠れた元凶の姿を捉える。
キーターが生命を与えた被造物は、繁殖力・硬度・筋力等をそれぞれ強化されており、組み合わさることで自己増殖する強固な壁を築き上げている。1個体ずつ間引くのは容易いが、肉壁全体を突破するのはなかなか難しい。
「こそこそ隠れて、往生際の悪い奴だ」
だがシェーラは知ったことかと言わんばかりに、狂える科学者に銃口を向ける。
その弾倉に込めしは愛憎の弾丸。あらゆる障害をものともせず、どれほどの距離をも超えて届く必中の魔弾。この程度の障害など薄いヴェールのようなものだ。
「お前は正義に反したのだ。邪悪を誅し、せめて被害者への手向けとしよう」
此奴に貶められた数多の生命に代わって――少年の眼光が断罪すべき悪を射抜く。
直後、義憤と共に放たれしは【戯作再演・片恋の病】。愛憎の弾丸は幾重にも重ねられた高硬度の肉壁を一撃で貫き、その向こう側にいた標的を撃ち抜いた。
「がッ?! き、貴様……正義だと……そんなモノに何の価値がある……がはッ!」
銃創に手を当てて苦痛に呻きながらも、恨みがましい表情で罵声を放つキーター。
己の行状をなんら省みる気配もない外道へと、シェーラは続け様に銃弾を叩き込む。
「罪に塗れて死んでいけ!」
音楽のように戦場に木霊する銃声の連鎖。標的を死へと誘う華麗なる銃技と演戯。
シェーラの怒りを買ったことは"高くついた"と、狂科学者は骨の髄まで思い知ることになった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
「知」は重要ですが一線を越えた以上、もはや貴方は「知」の怪物に変わりなし
その所業の対価、払って頂きましょう
防御を顧みぬ同族殺しと捕獲器の相性の悪さを考慮
横から●かばう為に銃器での●スナイパー射撃で捕獲器の●武器落とし狙いで牽制
再度捕まるという屈辱は酷でしょう
彼女は私に構わず攻撃する以上、巻き込み必至
ならば体躯でキーターの回避行動を制限
●怪力での●盾受けで被害を軽減し確実にダメージを
崩れるが必至の即席連携
邪魔な私の態勢が崩れた隙を狙う筈
外套の下からUCを●だまし討ちし傘を迂回するよう●操縦
首を掴んで●ロープワークで放り同族殺しの眼前へ
被験者達の無念も少しは報われることを祈る他ありませんね…
「くそ、くそ、くそっ……何故貴様らは私の研究を、知の探求の邪魔をする……!」
「『知』は重要ですが一線を越えた以上、もはや貴方は『知』の怪物に変わりなし」
血塗れの姿で悪態を吐くキーターに対し、冷徹な調子で応じたのはトリテレイア。
飽くなき探究のままに人の道を逸れた目の前の科学者は、彼の騎士道において決して許さざる敵であった。
「その所業の対価、払って頂きましょう」
「きぃたぁ……ころす……きぃたぁ……」
儀礼剣と大盾を構えた彼とタイミングを同じくして、異端の魔女ディアナイラまでもが戦線に復帰する。猟兵と同族殺しのふたりを同時に相手取るだけの余裕と余力は、もはやこの領主からは失われつつあった。
「こうなったら、こいつで……!」
追い詰められたキーターは、手にしていたファンシーなデザインの傘を広げる。
トリテレイアのセンサーは、それがただの傘ではなく内部に複雑な機構を備えた、捕獲装置の一種だと見抜いた。恐らくはあの男にとっての切り札なのだろう。
だが一方、狂気に陥ったディアナイラに、そんな冷静な判断ができるはずもない。
「きぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁぁっ」
怨敵への復讐を果たさんと、触手を蠢かせて真っ向から突撃を仕掛ける同族殺し。
防御を顧みぬ彼女の戦闘スタイルと、当たればいい捕獲器の相性は最悪に近かった。
(かかった……!)
キーターは内心でほくそ笑みながら、愚かにも寄って来た標的に【生体捕獲】を作動させようとする。だがその寸前、横合いからトリテレイアが格納銃器を発砲する。狙い澄まされたその弾丸は傘の軸を的確に捉え、捕獲器の向きを強引に変更させた。
「再度捕まるという屈辱は酷でしょう」
「な……っ!」
絶好のチャンスを潰され唖然とするキーター。彼が再び捕獲器を構えるよりも早く、ディアナイラが猛然と飛び掛かり、猛毒のしたたる触手を怨敵に叩きつける。
「ころす、ころす、ころすころすころす……!」
一撃一撃に殺意を込めた重い殴打。たまらずキーターは傘を盾にして後退する。
この機を逃すまいとトリテレイアも前線に踏み込み、儀礼用長剣を振るった。
「逃がしはしません」
「貴様……ッ、アレが味方だとでも思っているのですか?!」
大盾を掲げ立ち塞がるトリテレイアの巨躯は、キーターの移動と回避を制限する。
思うように動けずにいる敵を、ディアナイラの猛攻が打ちのめす――即席ではあるが良い連携と言えるだろう。ディアナイラがトリテレイアを認識してさえいれば。
「しね……しねしねしねしねしね……!」
この状況下において彼女の頭の中にはキーターを殺すこと、ただそれだけしか無い。
乱雑に振り回される異端の触手はキーターのみならず、足止めに努めるトリテレイアをも容赦なく巻き込み、金属をも蝕む猛毒と凄まじい膂力が彼を襲うことになる。
「承知の上です」
トリテレイアは大盾で毒を防ぎ、怪力で触手を押さえ、自らの被害を最小限に凌ぐ。
同時に剣と銃撃による牽制を重ね、キーターにもダメージを与えていく技量は、流石は歴戦の騎士と言える――だが、その連携が遠からず崩れるのは必至だった。
「うぅぅああぁぁぁぁぁあぁぁっ!!!」
ディアナイラの無差別な攻勢はさらに激しさを増し、ついに捌き切れなくなった触手が騎士の胴体を打ちすえる。たまらず体勢を崩したその瞬間は、同じ攻勢に晒されているキーターの目には好機と映った。
「ならばお前こそ、その無謀のツケを払いなさい……!」
回避を妨げる邪魔な猟兵から先に封殺しようと、傘型捕獲器を向けるキーター。
ここで戦況を同族殺しとの1対1に引き戻せれば、まだ勝機はあると踏んだのだろう。
だが、トリテレイアが彼の前で隙を見せたのは、それさえも作戦の一環であった。
「騎士の戦法ではありませんが……」
「うぐッ?!」
不意にキーターの喉首を鷲掴みにしたのは、外套の下に見えないよう隠されていた【両腰部稼働装甲格納型 ワイヤー制御隠し腕】。傘を迂回するように伸長したトリテレイアの"奥の手"は、一度捕らえた標的を決して放しはしない。
「対価を払って頂くと言いましたね。ですがそれは私にではありません」
「な、なにを……っ!!」
首を締める隠し腕から必至に逃れようともがくキーターを、トリテレイアは無造作に投げ飛ばす。放り込んだ先は言うまでもない、狂乱する同族殺しの眼前だ。
「きぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
「やっ、やめ、やめろッ、ぎゃあぁぁぁぁぁッ!!?!?」
我が意を得たりとばかりに襲い掛かるディアナイラの咆哮と、無惨に打ちのめされるキーターの絶叫が戦場に響き渡り、悍ましき異端の鮮血と猛毒が撒き散らされた。
「被験者達の無念も少しは報われることを祈る他ありませんね……」
他ならぬ被験者のひとりの手で復讐が果たされれば、せめてもの慰めとなるだろうか。
同族殺しのみならず、この実験場で果てていった数多の生命に無言の哀悼を捧げながら、トリテレイアはこれ以上の狂乱に巻き込まれぬよう後退していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
四王天・燦
「見た目が嫌いだから」
斯様な理由で挨拶がてらカウントダウンを即時爆発でキーターに投擲。
そもそも女の子を不幸にする奴は大嫌いだ
「ディアナイラ…お前の名前だ。少し時間を稼いでくれ」
優しく囁いて盗賊ノスヽメで存在感を消す
研究室の物色に没頭。
変異や精神崩壊に関わるものを盗み、毒使いで出鱈目に混ぜて注射器に入れるぜ。
ディアナイラに関わるものがあれば回収するよ
術を解いて戦闘開始。
アークウィンドを振るって起こした風で毒攻撃を武器受け、吹き飛ばす。
ダッシュ・ジャンプ・キック!
部位破壊:股間でマヒ攻撃
キーターに薬物注射し自我を破壊してやる。
あとはディアナイラと組んで処分さ。
「もう名前を使ってあげる必要もねーな」
「う……く……なぜ、貴様らは私を……」
「見た目が嫌いだから」
復讐でもなければ自衛でもない。猟兵とは因縁のないはずのキーターをなぜ襲うのかという問いに、燦はシンプルな一言と時限爆弾「カウントダウン」を答えとした。
挨拶がてらに投げ込まれた箱型の爆弾は、即時に起爆し標的を吹き飛ばす。罪なき生命を弄ぶ女装変態狂科学者相手に、かける情けや容赦など微塵も無かった。
「そもそも女の子を不幸にする奴は大嫌いだ」
吹っ飛ばした敵が戻ってくる間に、燦は異端の魔女の元にそっと近寄っていく。
敵と認識され即座に攻撃されないよう、ゆっくりとした動きと朗らかな笑みで。今だ人の形を保っているその耳元に顔を近付け、優しい声で囁く。
「ディアナイラ……お前の名前だ。少し時間を稼いでくれ」
「ぅ……?」
その言葉を彼女が理解できたかは分からない。だが燦は勝手に信じることにする。
言伝をした直後、【盗賊ノスヽメ】の発動によって燦の気配と存在感は極限まで薄められ、誰からも認識されない"自由時間"へと突入する。
「くそっ、よくもこんな爆弾などを……あの女、どこへ行った……?」
爆風の中から起き上がってきたキーターは、燦の姿がどこにもない――正確には"見つけられない"のに気付く。しかし悠長に探している余裕などは無く、正面からは同族殺しのディアナイラがすぐさま襲い掛かってくる。
「でぃあ、ないら……きぃたぁ、ころす……!」
「えぇい、貴様もしつこいですねッ!」
既に相当の深手を負っているにも関わらず、ディアナイラの攻勢はまるで緩まない。
寧ろ、傷を再生するたびにその身はより異形へと変化し、力が増していくようだ。
後のことを考えればそれは良いことばかりとも言えないが、現在の戦いにおいてこの特性は猟兵にとってもプラスに働いた。
(言う通りにしてくれた……のかね。ともかく今のうちだ)
ディアナイラがキーターを足止めしている間に、燦は研究所の物色に没頭していた。
壊れた実験棚から溢れ落ちた薬瓶や、放置されたフラスコの中身などを盗み出し、出鱈目に混ぜ合わせて注射器に入れる。一目でヤバいものと分かる、悍ましい色をした毒薬の完成だ。
(ディアナイラに関わるものもあれば良かったんだけどな)
目につく限りのところにそれらしい資料は無い。さすがに今から研究所中を駆け回って虱潰しに探すのは時間がかかりすぎるし、ディアナイラが保たないだろう。
第一目標を準備できたところで燦は"自由時間"を切り上げると、術を解いて戦闘を再開する。
「いくぞっ!」
「そこにいましたか……!」
姿を見せた燦に対し、キーターは咄嗟に融解毒の入ったフラスコを投げつける。
燦はアークウィンドを振るって風を巻き起こし、毒を吹き飛ばしながら全速疾走で目標に吶喊。その勢いのまま跳躍すると、股間目掛けて飛び蹴りを叩き込んだ。
「ごふぅ……っ!!!?」
どんなに見た目を女らしく取り繕っても、彼は男性。当然そこは急所である。
凄まじい激痛が全身へと広がり、堪らず硬直するキーター。すかさず燦は疾風のごとき素早さで背後に回り込むと、ついさっき用意したばかりの注射器を取り出した。
「お前にピッタリのプレゼントだ」
腕に突き刺さる注射針。動脈から体内に注ぎ込まれるのは燦特製ブレンドの猛毒。
肉体の変異や、精神への影響を及ぼす薬物を調合したその効果は、すぐに現れた。
「わ、わだじに、何ヲ……ぐ、ぎ、うぎぃ、ガぎぎぎぎぎッ?!」
毒を注入された腕が、ぼこぼこと泡立つように醜い肉の塊へと変異していく。
苦悶に喘ぐキーターの言葉は、やがて意味を成さなくなり、およそ理性を感じさせない絶叫へと変わる。
「お前がさんざん女の子たちにやって来たことだ。せいぜい苦しめ」
バケモノに変貌していくキーターを冷たく睨みつけながら、燦は短剣を構え直す。
それと共に触手を振り上げたのはディアナイラ。タイミングが合ったのは偶然か、それとも彼女の意志か――分からないから、燦は好きなように解釈することにする。
「もう名前を使ってあげる必要もねーな」
「うぅぅぅ……あぁぁぁぁ……っ!!」
笑みを浮かべた燦と、咆哮する同族殺しの一撃が、狂える科学者を同時に捉える。
風を纏う斬撃と、猛毒を帯びた触手。それを一度に受ければ耐える術はなく。
「ギィィィィヤァァァァァァァッッ!!!?!」
獣のような絶叫を上げ、血飛沫を散らしながら、狂科学者は地に倒れ伏した。
成功
🔵🔵🔴
セシリア・サヴェージ
…………。
見た目で誤魔化されるほど私は甘くはないですよ。
悍ましき狂科学者よ、断罪の時です。
まずはキーターの繰り出す胎児状の肉片とやらに対処します。
それらは私が全て引き受けましょう。キーターの相手はディアナイラに……私が何を言わずとも彼女はあちらに向かうでしょうが。
肉片を暗黒剣で斬り払うか、UC【終焉の業火】で【焼却】するか、有効な方法を見極め処理します。
肉片を始末したら次はキーターですね。
【念動力】でキーターの動きを阻害してディアナイラの攻撃をサポートします。
彼女に追い立てられ逃げ場を失くしたところで、ユーベルコードで作り出した暗黒の炎を合体させた【全力魔法】の一撃を見舞いましょう。
「あ、あぁぁぁぁうぅぅぅ……たす、たすけ、て……」
肉腫の塊と化した腕を押さえながら、よろよろと身体を起こす血塗れのキーター。
哀れみを誘うような声を上げ、なよなよしい仕草で慈悲を乞うその姿は、可愛らしい女物のドレスと相まってか弱い少女のようにも見えた。
「…………。見た目で誤魔化されるほど私は甘くはないですよ」
だが、そんな女装男に対してセシリアが返したのは、怜悧な拒絶と敵意のみだった。
この男が今日まで繰り返してきた所業は"可愛げ"などとは程遠いもの。外道なる邪悪に対する怒りを込めて、彼女は暗黒剣ダークスレイヤーに手をかける。
「悍ましき狂科学者よ、断罪の時です」
刀身より燃え上がる暗黒のオーラ。それは邪悪を滅する【終焉の業火】であった。
「う……ぁあぁ……嫌だ……嫌だ……わたシの研究は……まダ……!」
薬剤の影響により自我に変調をきたしたキーターは、不安定な情緒のままに試験管に残された【胎児状の肉片】を全て繰り出した。悪しき研究の副産物であるできそこないの怪物共は、創造主を守らんと地を這いずりながらセシリアに襲い掛かる。
「あれらは私が全て引き受けましょう。キーターの相手は……」
「うぅぅああぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
セシリアが何を言わずとも、狂科学者に飛び掛かったのはディアナイラ。
復讐を唯一の行動原理とする彼女は、ただの肉片になど目もくれなかった。
「ええ、それで良い」
本体の相手を同族殺しに任せ、セシリアはまず肉片の怪物どもの対処に徹する。
近付いてきたものを暗黒剣で斬り払えば、刃の軌跡から放たれた闇色の炎が異形を呑み込む。暗黒から生成されたその炎に焼かれたモノは、悉く灰燼と化すが定めだ。
「硬さにバラつきはありますが、刃も炎も有効のようですね」
一体一体がそれぞれ長所の異なる敵の特性を落ち着いて見極めながら、斬撃と焼却で処理。しょせんは失敗作の肉片など、暗黒騎士たる彼女の敵ではなかった。
「く、そ、くソがァ……ッ!」
「きぃたぁ……ころす……!」
セシリアが肉片の始末を終えて振り返ると、ふたりのオブリビオンが激しい攻防を繰り広げていた。守りを捨てて猛攻を仕掛けるのはディアナイラだが、キーターもしぶとく傘で攻撃を凌ぎながら反撃を繰り出している。
「次はあちらですね」
「ぬ……うぁっ?!」
暗黒騎士がすっと片手をかざすと、不可視の念動力がキーターの身体を掴まえる。
完全に拘束するほどでは無いが、相手からすれば四肢に枷を嵌められたようなもの。がくんと動きが鈍ったキーターを、ここぞとばかりにディアナイラが攻め立てる。
「ち、ク、しょ……ッ、この、バケモノ、風情がッ」
悪態を吐き散らしながら、じりじりと実験室の隅に追い詰められていくキーター。
そしてついに一本の触手が、彼の手から盾であった傘型装置を弾き飛ばした。
(ここだ)
敵が逃げ場も防御手段もなくしたこの瞬間、セシリアは暗黒の炎を集束させる。
70以上に散らばっていた火球がひとつに合体し、大気すら焦がさんばかりの巨大な業火と化した。
「お前の罪と共に灰燼と化すがいい」
厳格なる宣告と共に放たれた全力の一撃は、一直線に標的目掛けて飛んでいく。
実験室の壁とディアナイラに挟まれた状態のキーターに、避ける術は無かった。
「グギャアァァァァアァァァァァッ?!!!?!」
漆黒の業火に包まれ、火達磨となって踊り狂う狂科学者。呼吸を奪われ、骨の髄まで焼き焦がされる壮絶なる痛みに、耳をつんざくような絶叫が戦場に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
アンナ・フランツウェイ
アンタもアイツらと…あの施設の研究者共と同じだ。心の赴くまま命を弄び、歪みと澱みを生み出すアンタに、私たちの…世界に棄てられた者の怒りを教えてやる!
いくら強力毒と言っても、生物以外に命中すれば意味がない。なら散布された毒が拡散する軌道を【見切り】、【鮮血の鋼鉄処女・改】を盾に【武器受け】しながらUCで強化された高速移動でキーター目がけ突撃!
接近できたら【断罪剣・エグゼキューター】を突き立て、【傷口をえぐる】で追撃。痛みで動きが止まったら、【2回攻撃】で両腕の切断(【部位破壊】)を狙う。
最後に傷口からこの研究所で死んだ者達の【呪詛】を集め、流しこんでやる。これがアンタの生み出した澱み…憎しみだ。
「ま、まダだ……わタしの研究は、終わらなイ……!」
猛毒の肉腫に侵され、全身に大火傷を負った、満身創痍のキーター・ランプ。
絶体絶命の窮地に追い詰められてもなお、彼はまだ研究を諦めてはいなかった。
「わたシの望みを果たすマデ、何度デモ……その為に、何人犠牲になろウと知ったこトか……!」
研究に取り憑かれた男は咆哮する。もはや妄執に等しい欲望と探究心を露わにして。
――その醜態、その妄言に、己の過去を重ね合わせる、ひとりの少女がいた。
「アンタもアイツらと……あの施設の研究者共と同じだ」
自分でもゾッとするほど冷たい殺意に満ちた声が、アンナの口をついて出た。
呪詛天使の残滓が疼く。狂いそうなほど激しい憎悪が胸の中で燃え滾っている。
だけど狂ってはいけない。彼女の理性を保ったのは、鮮烈なる怒りの感情。
「心の赴くまま命を弄び、歪みと澱みを生み出すアンタに、私たちの……世界に棄てられた者の怒りを教えてやる!」
激情を込めて叫びながら飛び立ったアンナの身体が、幾重もの呪詛に包まれていく。それはこの地でキーターに殺された、数多の実験体達の怨念であった。
「ぎぎぎ……知ったコトか、そンなもの! お前モ、わたシのサンプルになれッ!」
奇声を上げながらキーターが投げつけたのは【細胞片採取毒】入りのフラスコ。
あらゆる生物を融解させる危険な猛毒が、雨のようにアンナの下に降りかかる。
(いくら強力毒と言っても、生物以外に命中すれば意味がない。なら――)
怒りに燃えていながらもアンナの思考は冷静だった。散布された毒が拡散する軌道を的確に見切ると、武器の収納具でもある「鮮血の鋼鉄処女・改」を盾のようにかざして防ぐ。生物にとっては致命的な毒も、鋼鉄の塊を融かすことは敵わなかった。
「ちぃッ!」
キーターは舌打ちしながら次のフラスコを取り出そうとするが、それをもう一度投げつける暇は無かった。身に纏う死者の呪詛――【断罪式・白詰花】によって移動力を強化したアンナは、迅雷のごときスピードでキーター目掛け突撃する。
「断罪の時は来たれり。復讐の時だ」
「な―――ッ」
あまりの速さに瞠目する狂科学者に突き立てられるのは断罪剣・エグゼキューター。
鋸歯状となった刃は標的の肉をズタズタに抉り、修復困難な傷を与えると共に耐え難いほどの激痛をもたらす。
「ぎひぃッ!?」
たまらず悲鳴を上げるキーター。痛みで動きが止まった瞬間、アンナは即座にもう一度刃を振るい――罪と血に塗れた男の両腕を、肘の上からばっさりと切断した。
「わ……わだ、じの、腕があぁああぁぁぁぁあぁぁぁァァァッ!!!?!」
それは苦痛と、喪失感と、驚愕と、何よりも深い絶望に彩られた絶叫だった。
研究や実験を行うために欠かせない手と腕。それを奪われるということは、戦闘力の大幅な低下を意味する以上に、キーターにとっては人生の喪失に等しい。
「まだ、終わりじゃない」
血飛沫を撒き散らしながら無様に倒れた男を、アンナは無情な眼差しで睥睨する。
私たちの味わった苦しみは、まだこんなものじゃない。再び突き立てられた断罪剣の刀身に、彼女の身体を覆っていた呪詛のオーラが集まっていく。
「これがアンタの生み出した澱み……憎しみだ」
刃を通して体内に流しこまれる何十人、何百人といった死者たちの呪詛。
この研究所で亡くなった全ての生命の無念が今、キーター・ランプに牙を剥く。
「ぎ、が、ごぇぇッ!? ぎ、やめ、たす、け……ぐぎがぁあぁぁぁぁッ!!?!」
内側から憎悪の呪詛に蹂躙される苦悶の程度は、もはや筆舌に尽くしがたい。
芋虫のようにのたうち回る狂科学者の身体から、流血と共に生命が溢れ落ちていく。その抵抗はゆっくりと、しかし確実に、止まりかけていた――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…ん。弟子達を調査に回しておいて正解だったわ。
こんな甘い姿、彼らに見せられないもの…。
毒属性攻撃の余波は全身を覆う毒耐性を強化する呪詛のオーラで防御し、
同族殺しの負傷は吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを発動し治癒する
…大丈夫?これで少しはマシになったはず。
聞こえていないかも知れないけど手を貸すわ。
心と体を弄られ、異端の神と融合して…。
今の貴女の姿は、私にとって他人事じゃないから…。
戦闘知識と経験から自身や彼女に向かう攻撃を見切り、
呪力を溜めた大鎌を乱れ撃ち迎撃して彼女を援護する
…傷の再生に力を使えば、それだけ融合が進む可能性がある。
これ以上、貴女を怪物にしない為にも、道は私が切り開く…!
「きぃぃぃたぁぁぁ……」
ぴくりとも動かなくなった狂科学者を、変わらぬ憎悪の視線で見つめるモノがいる。
同族殺しにして異譚の魔女ディアナイラは、激戦の中で傷ついた身体を引きずりながら、ゆっくりとソレに近付いていく。無論それは介抱するためなどでは無く。
「これで……おわ……り……」
憎んでも憎み足りない怨敵を、原型すら留めずに壊して潰して殺し尽くすため。
肉片になろうと許しはしないと、猛毒の血がしたたる触手を振り上げる。
――だが、その時。息絶えたかに見えた男の身体が、ぴくりと動いた。
「わわわわ私のぉぉぉぉ研究はぁぁぁッ!! おわわわらないぃぃぃぃィィぃッ!」
がばっと身体を起こす勢いで蹴り上げたのは【細胞片採取毒】入りのフラスコ。
この至近距離でそんなものを浴びれば、いかに異端の魔女でもただでは済まない。
「ぎ……っ」
防御という発想は無くとも、反射的に身構えたディアナイラの目の前で、猛毒のフラスコが砕け散る――だが、それが彼女の身体を傷つけることは無かった。
「……ん。弟子達を調査に回しておいて正解だったわ」
異端の魔女にかわってフラスコの中身を浴びたのは、黒衣纏いしリーヴァルディ。
融解毒は彼女の全身を覆う抗毒の呪詛のオーラによって弾かれ、傷ひとつ無い。
だが、それにしても危険な行為だった。敵には違いないはずの同族殺しを庇った自分に内心で苦笑を浮かべながら、少女はそっとディアナイラの傷口に手をかざす。
「こんな甘い姿、彼らに見せられないもの……」
【限定解放・血の聖杯】。瞬間的に吸血鬼化した自らの生命力を凝縮し、ひとしずくの血として送り込めば、傷だらけだったディアナイラの身体は幾許か癒えた。
「……大丈夫? これで少しはマシになったはず。聞こえていないかも知れないけど手を貸すわ」
「ぅ……? あ、ぅ、ぁ……??」
狂気に陥った思考でも、目の前のダンピールに敵意が無いらしいことはディアナイラにも分かった。だが、一体どうしてそんなことをしたのか、まったく分からない。
混乱している様子の同族殺しに、吸血鬼殺しの娘はふっと仄かに微笑みかけ――左眼に刻まれた名も無き神との契約の証、代行者の羈束にそっと手を当てる。
「心と体を弄られ、異端の神と融合して……。今の貴女の姿は、私にとって他人事じゃないから……」
自らがいつかは陥るかもしれない末路のひとつが、目の前にいる彼女だと思えば。見逃すことはできないと分かっていても、手を貸さずにはいられなかったのだ。
「きぃぃぃさまらああぁぁぁぁ……なななにろ話しているぅぅうぅぅ……!」
束の間の穏やかな空気を引き裂いたのは、怒りと狂気に満ちた男の叫びだった。
両腕を喪失し肉体的には満身創痍。ある猟兵から投与された毒が効いてきたのか、呂律も回っていないうえ正気も定かではない。誰が見ても致命傷を負っている。
研究に対する飽くなき執念のみが、現在のキーター・ランプを動かしていた。
「うぅぅぅぅぅ……!」
「……ええ、行きましょう」
リーヴァルディとディアナイラは同時に戦闘態勢を取る。果たして今の行為で言葉や心が通じあえたかは分からない。しかし今、両者の目的は完全に一致していた。
「わわたしししの研究の邪魔をするやつわぁぁぁ! 死になさいぃぃぃぃッ!!」
腕を失ったキーターにできる抵抗と言えば、そこらに転がる物を蹴り飛ばす程度。
だが、その中に何が入っているかは分かったものではない。リーヴァルディは飛来するフラスコや試験管の軌道を見切り、呪力を溜めた漆黒の大鎌で撃ち落とす。自分を狙ったものだけではなく、ディアナイラに当たりそうな攻撃も含めた全てをだ。
(……傷の再生に力を使えば、それだけ融合が進む可能性がある)
弟子達や他の猟兵らが見つけた研究の資料にそのような記述があった。負傷と再生を繰り返すほどに実験体の肉体は人間から異端の神のものに近付いてしまう、と。
ただでさえ狂気に落ちた同族殺しは自分の負傷に無頓着だ。融合の進行を止めようとするなら、リーヴァルディが彼女の分まで防御を請け負う必要があった。
「これ以上、貴女を怪物にしない為にも、道は私が切り開く……!」
例えそれがエゴだとしても、リーヴァルディは既にそれを貫き通すと決めた。
乱舞する"過去を刻むもの"の軌跡は漆黒の竜巻のように戦場を薙ぎ、投擲物を切り払いながらキーターの元にまで到達する。腕無き彼にそれを防御する手段は無い。
「ぎひぃぃあぁッ!?」
草を刈るように低く振るわれた一閃は、じたばたと往生際の悪い標的の両足を斬り飛ばし――四肢をなくした狂科学者が、芋虫のようにどさりと地に這いつくばる。
「……今よ」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
とん、と軽いステップでリーヴァルディが脇に退いた直後、異端の魔女が咆哮する。
彼女がその体内から引きずり出したのは――ひと振りの剣。おそらく彼女を討伐せんとした"誰か"のものであろうそれは、猛毒の血に塗れてぬらぬらと妖しく輝く。
リーヴァルディら猟兵達が見守る前で、ディアナイラは万感の憎悪を込めてそれを振りかざし――。
「……さよ、なら」
「イギャアアァァァァァァァァァァァッッ!!!!?!!」
心臓を深々と剣で貫かれた男は、断末魔の絶叫だけを戦場に残して灰燼に帰す。
それが、数多の生命を弄び続けた狂科学者、キーター・ランプの最期であった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『異端の魔女ディアナイラ』
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POW : 異端の落とし仔
【傷付けられた際に発生する猛毒の返り血】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に落ちた血肉は異端の神の眷属へと変化し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 穢された聖遺物
レベル×5本の【神聖と猛毒の二重】属性の【かつて自身を討伐に来た者達の武器や防具】を放つ。
WIZ : ハイドラの降臨
自身の【人間だった頃の記憶や人間性の喪失】を代償に、【自身の内外を侵蝕する異端の神の血肉】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【驚異的な再生力や土地を汚染する程の猛毒】で戦う。
イラスト:えな
👑8
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アイシス・リデル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
――研究所にひとときの静寂が戻り、狂科学者キーター・ランプはここに斃れた。
だが、それはまだ戦いの終わりではないことを、この場の猟兵達は知っている。
「きぃたぁ……しんだ……しんだ……」
異端の魔女ディアナイラ。かつてキーターの研究所を脱走した実験体のひとり。
望まぬ異形の肉体を与えられ、逃亡と雌伏の果てに正気を失った彼女は『同族殺し』となって、己の全てを狂わせたオブリビオンに憎悪の牙を剥いた。
その復讐劇は結果的に猟兵の力を借りる形で果たされた。猟兵も同様に領主討伐のために彼女を利用したのだから、ここまでは相互に利があったが――。
「きぃたぁ……ころした……きぃたぁ……って……だれ……?」
自我を繋ぎ止めていた唯一の行動原理を失ったことで、ディアナイラは完全な狂気に陥り始めていた。これまでの戦いで己の身を顧みずに力を使いすぎた彼女は、とうに人間よりも異端の神に近い。それが意味することは火を見るよりも明らかだった。
「わたし……なにを……だれを……なにが……あれ……?」
遠からず彼女は全てを失い、無差別に破壊と殺戮を行うバケモノに成り果てる。
ともすればそれは、創造主であるキーターをも上回る脅威にもなりかねない。
この世界の人々を守るため、決して見逃すことはできない存在であった。
――今のディアナイラにはまだ、ほんの一欠片だが人間性が残っているようだ。
呼びかければ、言葉も届くかもしれない。それは彼女の救いとはなるかどうかは分からないが、余計な苦痛を与えずに、安らかに眠らせる一助とはなるかもしれない。
無論、それは狂乱するオブリビオンとの戦闘中に隙を晒すリスクともなり得るが。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
その叫びは慟哭か咆哮か。狂気を宿したディアナイラの瞳が猟兵達を見つめる。
先端から猛毒をしたたらせた異端の神の触手が、殺意をもって振りかざされる。
これが今回の依頼における最後の戦いとなる。
さまよえる狂気と異端の魔女に、終焉を。
アリス・フォーサイス
クライマックスだね。
復讐を果たした怪物はやり場のなくなった復讐の炎に焼かれて死ぬ。
心臓に杭を打ち込むよ。
猛毒の返り血はあえて受ける。
キミをこの姿にしたキーターくんは倒れたよ。
安らかに眠ってね。
神宮寺・絵里香
●心情
・まあこうなったか。そうなる気はしていたが。まあ仕方ないだろう。始末する。復讐は存分に果たしただろうしな。満足したな、では死ぬがいい。
●戦闘
・真の姿解放
・高速詠唱から【水神権限】と【雨冠の王】を発動。水神権限は、汚れた水を真水に変える力をメインに使う
・UCの効果で生み出した霜の槍で串刺し。流れ出た毒血は水神権限で水に変えて無害化。敵の触手攻撃は見切り、体から生やした霜の棘で武器受けしつつカウンター。
・敵の動きが止まったら、雲を操り雨を降らせ、八つの首でそれぞれ高速詠唱をした全力魔法の破魔の雷の巫術を降らせる。
「雲よ集え、雨よ降り注げ。破魔の雷よ、雨冠の王の名の下に異端の魔女に鉄槌を下せ!
「まあこうなったか。そうなる気はしていたが。まあ仕方ないだろう。始末する」
驚くことも嘆くこともせず、絵里香はただ冷然とした眼差しで敵を見つめていた。
相手がかつては人間だったとしても、今や戻ることはできない怪物ならば――変わりはしない、何も。己が為すべきことは猟兵としてオブリビオンを葬ることだ。
「復讐は存分に果たしただろうしな。満足したな、では死ぬがいい」
「クライマックスだね。復讐を果たした怪物はやり場のなくなった復讐の炎に焼かれて死ぬ」
神気を纏い真の姿を解放する雨冠乃巫女と並び、最終戦の開幕を告げるはアリス。
目的を見失ったディアナイラは彼女らの戦意に惹かれるように、血塗れの巨体を引きずって近付いていく。
「大いなる水を司る白蛇の名の下に、水よ我が支配下となれ。雨冠を持つ全ての事象よ、我が王命に従え!」
先手を取ったのは絵里香。今やその姿はヒトから離れ、八岐の首を持つ純白の大蛇へと化身している。その頭上には【雨冠の王】によって従えた雨雲の冠を戴き、身じろぎひとつせず無数の霜の槍を生み出す様は、まさしく雨と水の全ての支配者なり。
「ぎ、いぃぃぃっ」
相も変わらず防御には無頓着なディアナイラは、霜の槍に串刺しにされて悲鳴を上げる。傷口からは真っ赤な血が噴水のように迸り、周囲を猛毒の血溜まりに変える。
ここまでは猟兵達もすでに確認していた能力だ。しかしよく見ると血溜まりはぼこぼこと泡立ち、千切れた肉片が新たなカタチを成そうとしている。異端の神としての"深化"が進んだ結果、彼女は【異端の落とし仔】を生み出す力を得たらしい。
「人でなしが板についてきたな。だが、やらせるか」
絵里香が鎌首をもたげ、紅い眼でディアナイラから流れた血溜まりを睨みつける。
すると毒々しく泡立っていた血は一瞬にしてただの真水に変わる。雨冠の王と共に発動していたもう一つのユーベルコード、汚れた水を浄水する【水神権限】の力だ。
それが毒や呪い、あるいは他の神の力によるものであろうと、水神の権能による支配が及ぶ限り、いかなる汚染も彼女の前では通用しない。それが理というものだ。
「うああぁぁぁぁ……!」
血溜まりをただの水溜まりに変えられたディアナイラは、怒りとも悲鳴ともつかぬ呂律の回らぬ声を上げて、技も巧もない力任せの攻撃を繰り出す。絵里香は大蛇化した巨躯から針鼠のように霜の棘を生やすと、振り下ろされた一撃を受け止めた。
「ぎぃっ!?」
霜の棘はそのままディアナイラの触手を貫き、ピン留めするように動きを縫い止める。
その隙を突いてすっと前に進み出たのはアリス。身構えるでもなく、手に武器を持つでもなく、まるで友人と会うように正面からゆっくり異端の魔女に近付いていく。
「そろそろお休みの時間だよ」
かける口調も優しく穏やかに――手が触れ合えるほどの距離までやって来たアリスは電脳魔法で大きな杭を作り出すと、動けない相手の心臓目掛けて一気に突き出す。
「ぎ……いぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
どすり、と肉を貫く鈍い手応え。これまでの比ではない勢いの鮮血が飛び散り、至近距離にいたアリスの身体に降り注ぐ。彼女はそれを避けようともしなかった。
「キミをこの姿にしたキーターくんは倒れたよ。安らかに眠ってね」
猛毒の返り血に塗れても、アリスは突き立てた杭から手を離さなかった。肌を灼かれ肉を蝕まれていく苦痛に苛まれながら、ディアナイラに穏やかに声をかけ続ける。
彼女が敢えて血を浴びたのは、避ければまた異端の落とし仔の発生を誘発しかねない――ということもあるが、本音はもっと個人的で、そして感情的な理由だった。
(こうしたら、より美味しくなるんじゃないかな)
"よりドラマチックなお話を食べたい"という【物語中毒】のアリスにとっては、ドラマを演出する過程で自分が不利になる程度は些細なことだった。ぐっ、とより強く力を込めて杭を押し出せば、尖った先端がゆっくりと魔女の肉体に沈み込んでいく。
「ぎいぃぃぃやぁぁぁぁぁ……っ!」
ディアナイラが苦痛に悶えるたびに吹き出す鮮血も激しくなるが、それでもアリスは止まらない。保身なく、ただ最高のフィナーレを求めて突き放たれる一撃は、ついに異端の魔女の心臓を抉る。
「あぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!!」
「苦しいか? なら今終わらせてやる」
胸の中心に深々と杭を突き刺され、悲嘆に満ちた絶叫を上げるディアナイラ。
その後方では絵里香が、彼女に引導を渡すために全霊力を練り上げていた。
八つの首で同時に呪文を唱えることで、詠唱時間を短縮しながら巫術の威力を増幅。頭上の雨雲はにわかに戦場を覆い尽くすほどに大きくなり、ざぁっと殴り付けるような豪雨が襲い――。
「雲よ集え、雨よ降り注げ。破魔の雷よ、雨冠の王の名の下に異端の魔女に鉄槌を下せ!」
カッ、と曇天に閃光がまたたいた直後、大気の爆ぜる轟音と共に雷霆が降り注ぐ。
絵里香渾身の破魔の雷は八本の槍となって、狂える異端の魔女に突き刺さった。
「あぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!?!」
絶叫。霜と杭と雷にその身を穿たれた魔女は、ただ絶叫する他に為す術はない。
黒く焼け焦げたその身は、ぼろぼろと末端から崩れ落ちていき、迫る終焉の時を如実に示していた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒影・兵庫
猛毒の血を流させるよりイチかバチか
ここは心に訴えかけましょうか!
せんせー!
(頭の中の教導虫に話しかけると「了解。慎重にね?」と返された)
もちろん!
『オーラ防御』壁と『衝撃波』を『念動力』で圧縮した空気の障壁
この2重の壁で攻撃を防ぎます!
(防御後、UCを発動すると大量の鈴虫が黒影の足元から出現した)
言霊兵さん!俺の言葉を言霊に変えて彼女の心にぶつけてください!
「まずはお礼を。ありがとうございました。
貴方のおかげで狂った研究は止まりました。
もうこれで実験体は二度と生まれないでしょう。
そして貴女の心をかき乱す存在も消えました。
もう何も苦しむ必要はありません。
ゆっくりと目を閉じ静かに眠ってください。」
「ぅ……うぅぅ……あぁ……」
心臓を杭に抉られ、破魔の雷に打たれ、苦しげなうめき声を上げるディアナイラ。
並みのオブリビオンならとうに死んでもおかしくない筈だが――異端の神との融合によって得た生命力と再生力が、結果的に彼女の苦しみを長引かせてしまっていた。
加えて"復讐"をいう目的を失った彼女の行動は予測がつかないうえ、その身に流れる血はあらゆるものを侵す猛毒を帯びており、迂闊に近付くこともままならない。
「これ以上猛毒の血を流させるよりイチかバチか、ここは心に訴えかけましょうか! せんせー!」
迂闊に肉弾戦を挑むよりもそのほうが勝算が高そうだと、兵庫は教導虫スクイリアに話しかける。彼の頭の中にいる「せんせー」は、最優先命題である「黒影の保護」を考慮したうえで、それが最も彼が傷つく可能性の少ない戦術だと判断した。
『了解。慎重にね?』
「もちろん!」
返ってきた答えに、アホ毛を触覚のようにぴこぴこさせて元気よく応じる兵庫。
その目の前では、猟兵を敵と認識したディアナイラがゆっくりと迫って来ていた。
「あぁあうぅぅぃぃぃぃぃ……」
もはや完全に人語を喪失した魔女は、意味のない呻きを発しながら触手を振り回す。
標的を認識しているかも怪しい乱雑な攻撃を、兵庫はオーラの防御壁で受け止めた。
「狙いはデタラメですけど、流石に重たいですね」
兵庫はさらに衝撃波を念動力で圧縮した空気の壁を構築し、2重の防壁をもってディアナイラの猛攻を凌ぐ。びたんびたんと乱暴に叩き付けられる異形の触手が、彼の護りを打ち破ることはついに無かった。
『仕掛けるなら今のうちよ』
「はい!」
教導虫に促され、兵庫は防壁を保ったままユーベルコードを発動する。召喚に応じて彼の足元から出現したのは、軍隊虫の中でも特殊な役割を与えられた鈴虫の群れ。
「言霊兵さん! 俺の言葉を言霊に変えて彼女の心にぶつけてください!」
指揮者の指示に従って鈴虫達が一斉に羽を擦り合わせると、大気のかわりに霊力の振動が発生する。この無音の羽音によって兵庫の言葉を反響させ、威力を増幅した【穿つ言霊】を放つ――それがこの虫達の役割なのだ。
「まずはお礼を。ありがとうございました」
言霊虫の羽音に乗せて、兵庫は荒れ狂うディアナイラに呼びかける。決して大きな叫びではないが、その声は相手の心の壁を穿ち、想いを直接伝える力を持っている。
「貴方のおかげで狂った研究は止まりました。もうこれで実験体は二度と生まれないでしょう」
兵庫が最初に伝えるのは偽らざる感謝の想い。彼女がいなければ堅固な警備の突破も、領主キーターの討伐も遥かに難易度が高くなっていただろう。そもそも彼女が発端となる襲撃を起こさなければ、この研究所の所在が予知されることも無かった。
もうこれ以上、罪もなき人々が狂った研究の犠牲になることは無い。その功労者にはディアナイラも含まれていると、兵庫は心からそう考えていた。
「ぅ……ぁ……ぅ……?」
敵意のない感謝の言霊が、狂える異端の魔女の心に突き刺さる。まるで予想もしていなかった想いを伝えられて、困惑するようにディアナイラは攻撃の手を止めた。
兵庫はそんな彼女ににっこりと笑いかけると、優しい調子でなおも語りかける。
「そして貴女の心をかき乱す存在も消えました。もう何も苦しむ必要はありません」
それは狂気に侵されていたディアナイラの心を鎮め、終わらぬ痛みと絶望を和らげていく。肉体ではなく、剥き出しの心を揺さぶる言霊の力は、時に物理的な凶器よりもずっと強力な力となる。
「ゆっくりと目を閉じ静かに眠ってください」
その時ディアナイラが感じていたのは、子守唄のように優しい鈴虫の音色だった。
鼓膜ではなく精神で聞く、霊力と言霊の調べは確かに異端の魔女の心に届いた。
「ぁ……ぅ……」
眠たげに細められた彼女の瞳には今だ狂気が宿っているが、その凶暴性は幾許か和らいだように見える。もう元に戻ることはできずとも、このまま安らかに眠らせてやることもできるかもしれない――より多くの猟兵達が、彼女の心に訴え続ければ。
大成功
🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
さて…残るは彼女だけか
確かに倒さねばならん敵なのだろうが…やりきれんな、どうも
返り血から現れた眷属には銃撃しつつ呼びかける
気休めにしかならないだろうが、それでもただ戦って倒すよりはマシだろう
お前を苦しめ、弄んだ男は死んだ、これ以上奴に囚われる事もない
…そして、その呪われてしまった命も、きっちりと終らせてやろう
同時にUCを発動
攻撃回数を重視した刃で周囲の眷属を切り倒し、装備武器での銃撃で本体にダメージを与えていく
猛毒の返り血も銃で撃ち落とすかダッシュで回避する
…最後は狂気と憎悪に塗れたオブリビオンではなく、人として終われるように心から祈ろう
お前を殺す者からの、せめてもの手向けだ
「さて……残るは彼女だけか。確かに倒さねばならん敵なのだろうが……やりきれんな、どうも」
割り切れない想いを胸に抱えたまま、キリカは小銃の銃把をぐっと握りしめる。
目の前にいるのは、キーターのような情け容赦のいらぬ外道という訳ではない。
それでも、やらなければならなかった。魔女の身体から流れ落ちた血は【異端の落とし仔】となって産声を上げる――ソレはもはや存在自体がこの世の驚異だった。
「お前を苦しめ、弄んだ男は死んだ、これ以上奴に囚われる事もない」
トリガーを引き、返り血から現れた眷属に銃撃を浴びせながらキリカは呼びかける。
気休めにしかならないだろうが、それでもただ戦って倒すよりはマシだろうと信じて。
「……そして、その呪われてしまった命も、きっちりと終らせてやろう」
彼女の意志に迷いは無い。葛藤はあったとしても、為すべきことは心得ている。
果たしてその想いは届いているのか――異端の魔女ディアナイラは呆と立ち尽くしたまま、彼女の言葉に耳を傾けているようにも見えた。
「踊れ、デゼス・ポア」
キリカの指示に応じて、呪われし人形は【バール・マネージュ】を舞う。その躯体から放たれる錆びついた刃は、生まれ落ちたばかりの眷属共を執拗に切り刻み、切り倒す。人形が舞ったあとの戦場には、キリカとディアナイラを結ぶ射線が通った。
「……許せとは言わない」
引金を絞る。聖別されし銃弾がディアナイラを貫通し、毒々しい血飛沫が上がる。
半ば異端の神と化したその存在に"シルコン・シジョン"は有効な威力を発揮した。皮肉にもそれは、救いようが無いという事実をより鮮明なものとしていた。
「あぁぁぁぁぁ……!!」
ディアナイラの口から悲鳴が溢れ、弾痕から吹き出した鮮血が周囲に飛び散った。
キリカは猛毒の返り血を浴びないように戦場を駆け巡り、空いた手で"シガールQ1210"を引き抜き、血の雫を撃ち落としていく。生まれ落ちた眷属にはデゼス・ポアに対処させ、自身の視線はあくまでディアナイラに向け続けたままで。
「ヒヒヒヒヒャハハハハハ」
異形に対して強い憎しみを抱く人形は、異端の落とし仔共にも容赦はしない。哄笑を上げながら放つ錆刃は手数を重視したもので、血溜まりから新たな眷属が生まれる側から徹底的に切り刻んで息の根を止めていく。それはまさに一片の慈悲も無く。
だが――同じく異形を憎む者とはいえ、キリカはそこまで無慈悲にはなりきれない。クールに徹してはいても、彼女はれっきとした感情を持つヒトであるがゆえに。
「……最後は狂気と憎悪に塗れたオブリビオンではなく、人として終われるように心から祈ろう」
"伝道師"の異名も持つ自動小銃に祈りを込めて、神聖なる銃撃を放つキリカ。
戦場に響き渡る銃声は弔鐘の音色にも似て、ディアナイラに天国への道標を示す。
闇に覆われたこの世界でも、そのくらいの奇跡や慈悲があっても構うまい。彼女の中にまだ、ひとひらの人間性が残っている間に、その生命を終わらせてやりたい。
「お前を殺す者からの、せめてもの手向けだ」
「ぁ……」
慈悲の想いと共に放たれた聖なる箴言の弾丸が、哀れなる異端の魔女の胸を撃つ。
ディアナイラはそれを避けようともしない。それ自体はこれまでと変わらないが――まるで受け入れるかのように、その表情はどこか穏やかなようにも見えた。
大成功
🔵🔵🔵
セシリア・サヴェージ
力の使い過ぎで自我を失う……他人事とは思えませんね。
私と違い望まぬ力を与えられた彼女の苦しみは私の比ではないでしょう。
私が彼女にしてあげられることは狂気からの解放だけです。
猛毒が危険なのは当然ですが、神聖さも少々厄介ですね。
暗黒とは相反する属性……ともすればこちらが不利かもしれませんが、臆していては勝利を掴むことはできません。
【武器受け】で飛来する武具を弾きながら【ダッシュ】で距離を詰めます。
UC【闇の猟人】を用いた【二回攻撃】で攻めます。
一度目で弱点を把握し、二度目の攻撃は弱点を【部位破壊】します。
時間は掛けません。一刻も早く苦しみを終わらせましょう。
「力の使い過ぎで自我を失う……他人事とは思えませんね」
身も心も異形と成り果てた異端の魔女を見つめて、セシリアは自戒を込めて呟く。
彼女の操る『暗黒』もまた、代償として使用者の肉体と精神を蝕む諸刃の剣。ともすればただ破壊と殺戮を繰り広げるだけの狂戦士にも堕しかねない危険な力である。
ディアナイラの境遇との違いを敢えて挙げるとすれば――騎士はそれを人々を護るために、この世界に光を取り戻すために、自ら望んで手にしたということだろう。
「私と違い望まぬ力を与えられた貴女の苦しみは私の比ではないでしょう」
異端の力に心身を蝕まれる辛さを慮りながらも、セシリアは暗黒剣を構えなおす。
ここで躊躇っても、相手の苦しみを徒に長引かせるだけだと理解しているために。
「私が貴女にしてあげられることは狂気からの解放だけです」
「あ……うぅぅぅぅあぁぁぁ……」
暗黒のオーラを纏い近付いていく騎士に対し、ディアナイラは体内から【穢された聖遺物】を引きずり出す。猛毒の血肉によって汚染されていながらも、その武具にはかつての討伐者達が頼みとしたのであろう、聖なる力が今だに宿り続けていた。
「猛毒が危険なのは当然ですが、神聖さも少々厄介ですね」
聖遺物が有する聖性は、暗黒とは相反するもの――ともすればこちらが不利かもしれないが、臆していては勝利を掴むことはできない。暗黒を纏いし騎士は迷いのない全力疾走で異端の魔女との距離を詰めていく。
「うぅぅぅぅああぁぁぁぁぁ……!」
魔女自身の肉体を引き裂きながら飛来する武具を、暗黒剣で受け止め、弾き返す。
その度に穢された聖遺物の持つ毒気と聖性に当てられて暗黒の力は削ぎ落とされていくが、それでもセシリアは止まりはしない。清浄と不浄の豪雨の中を駆け抜けて、剣の間合いにディアナイラを捉える。
「……この世界を脅かす者は全て斬る」
騎士としての誓いを胸に、【闇の猟人】の一撃が閃く。暗黒剣ダークスレイヤーの刃は異端の魔女の肉体を深々と斬り裂き、悲鳴と共に真っ赤な血飛沫が上がった。
「ぎぃぃぃぃぃっ!!?」
ぐらり、と仰け反るディアナイラ。間髪入れずにセシリアはさらに一歩踏み込みながら、返り血に染まった剣を再び振るう。その斬撃はより鋭くより的確に――一度喰らった獲物の味を、その習性や弱点を、暗黒剣は決して忘れない。
「時間は掛けません。一刻も早く苦しみを終わらせましょう」
初撃にて弱点を把握し、追撃にて弱点を断つ。セシリア渾身の二連撃は空間に暗黒の軌跡を描きながら、ディアナイラの身体に大きく十文字の傷を刻みつける。
「ぐぅぅぅあぁぁぁぁぁぁ……っ!!!!」
追撃の傷は初撃よりもさらに深く。肉体の奥に隠された異端の神との融合の結節点――言うならば"核"とでも言うべき急所を抉り、致命的なダメージを与えていた。
噴水のように鮮血を散らし、ディアナイラの身体がぐらりと傾ぐ。ここまで多くの戦いを経て再生を続けてきた肉体にも、いよいよもって限界が迫りつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
貴女が他の人々へ悲劇を齎す前に、貴女を止めるよ…。
…ごめんね…本当は、元に戻してあげたかったけど…叶える事ができなくて…。
力不足で…
【魔剣の巫女媛】封印解放…!
強化した黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】で敵本体や放たれる聖遺物、眷属等を一気に吹き飛ばし、侵食…。
強化した凶太刀で超高速で接近し、神太刀でハイドラの再生力を封じ、【呪詛】を纏った二刀による攻撃で触手を切り払いつつ本体を攻撃…。
胸元の核と思しき箇所に【ultimate】の一撃を放つよ…
【共に歩む奇跡】は敵意を宿した相手には使えない…
せめて、貴女に安らかな眠りを…。
破魔の鈴飾りの音色で、せめて天国へ導ける様誘い、願うよ…
フレミア・レイブラッド
せめて、自我が残れば彼女が望めば城で保護する事もできるのだけど…。
この世界は本当にヒトに優しくないわ…。
ごめんなさいね。貴女に罪が無い事は解ってるけど、放っておくわけにもいかないのよ。
【念動力】で動きを封じ、毒の血に対して防御膜を纏いつつ、雷撃と炎の魔力弾【属性攻撃、誘導弾、高速詠唱】で牽制しながら魔槍による攻撃【怪力、早業】。
隙を見て【神槍グングニル】を放つわ。
彼女の死の間際に【ブラッディ・フォール】で「魔薬の見せる幸福な悪夢」の「調薬師・エーブル」の力を使用(エーブルの服装と瓶を持った姿)。
【ユーフォリアドラッグメーカー】で在りし日の幸せな幻覚に包み、せめて苦しみから解放して眠らせるわ…。
四王天・燦
「肉親も、友達も…心にいないのか?」
忘却が見ていて辛い―そして怖い。
自分や親友が忘却したら…
「思い出せ。ディアナイラの名をくれた人の顔を、一緒に笑った友達を!」
心の力を狂気抑制ではなく記憶維持に使って欲しい。
孤独ではなく想い出と共に逝くために
アークウィンドの剣風で武器受けて特攻。
毒・激痛耐性と気合で蛇身を潜り肉迫
額に読符『攻撃的な思念測定術』を貼る。
狂気耐性で堪えながら壊れた記憶を覗き、紡ぎ直して叫ぶぜ
心に届いたら、覚悟の上で犬歯を立てて吸血。
生命力吸収で精気と魂の片鱗を戴く。
「少しだけ貰うぜ。ディアナイラが世界にいた証としてね」
苦いね…
墓を建てるよ。
―いつか躯の海で。今度はゆっくり語らおうぜ
トリテレイア・ゼロナイン
数多の「手遅れ」を騎士として送ってきました
此度も速やかに…
「なっ…!縺舌?縺」
先の戦闘で【慈悲の短剣】破損
その虚に腹を貫かれ緊急停止
その刹那
UDCアース
邪神に覚醒した護衛対象の少女を討った依頼…悔恨を鮮明に想起
報いかもしれない
慈悲と嘯き己が理想に背を向け続けたことへの
嗚呼
助けたかった
叶うならば
幾許かの救いを
幻影が憑依し再起動
負傷による活性化で明確化した人と神の境界を切断
猟兵達が繋ぎ止めた人間性を核に肉体再生
人の姿の同族殺しに外套を羽織らせ再度停止
代償
短剣薬剤の影響で更に発狂
周囲全てを仇と認識
怨嗟と苦痛の果て自ら命を絶った結末と認識改竄
その後
「…依頼は達成できました」
────!!(電子音の絶叫)
シェーラ・ミレディ
……彼女を元に戻す方法があれば良かったのだが。
せめて、手早く眠らせてやるのが情けだろう。
事前に、毒への耐性をつける薬を飲んでおく。
あとは攻撃を受けないよう、踊るように動き回っていようか。
彼女に代償を払わせたくはないなぁ。『尤雲殢雨』でUCを封じよう。
既に呼び出されてしまった血肉は制圧射撃で足止めし、燃やし尽くすぞ。
捧げられてしまったものが、彼女に戻ることはないだろうが。だからといって放置も出来ない。
全く、たかだか神ごときが人の邪魔をするな!
戦いが終わったら。
魔女でもなく、異端の神でもない彼女の冥福を祈ろう。
自己満足にすぎないが──……嗚呼、お休み。良い夢を。
※アドリブ&絡み歓迎
佐伯・晶
もう手遅れなんだろうね
せめて苦しまないように終わらせてあげたいね
傷つけるのは忍びないし
猛毒の血をまき散らすだけだから
物理的な攻撃を避けて
石化で動きを封じる事を目指すよ
石から創った使い魔で石化させたり
神気で固定したりして触手を防御
キーターはもう死んだんだ
目的を果たしたんだよ
このまま暴れていたら
キーターを同じようにたくさんの人を
傷つけるだけの存在になってしまうよ
だからもう眠ろう
自分も石化するけど
異端の神の力を抑え込むには
それなりの力がいるだろうから邪神の領域を使用
二度と苦しまないように
ディアナイラを念入りに石化させるよ
少しの間でも正気に戻れるなら
手を握るなり人として看取ってあげられるといいんだけど
リーヴァルディ・カーライル
…ん。先の宣言を覆す気はない。貴女一人救えないで、どうして猟兵を…いいえ。
これから先、闇の救済者を名乗っていける?
このまま貴女を怪物になんてさせないわ。絶対に…。
ディアナイラを助けようとする他の猟兵と連携を試み、
呪力を溜めた掌で彼女に触れ“調律の呪詛”を付与
自我の存在感を増幅する精神攻撃を行い、
一時的に狂気耐性を与えた後、UCを発動
…自分をしっかり保って。貴女は、怪物なんかじゃない…!
【血の魔星】を九重展開して現在過去未来の精霊達に救済の祈りを捧げ、
限界突破した神の肉体を昇華して、人間に戻せないか試みる
…人間もまた世界の一部と認めるのなら…。
異端の神に侵されている彼女をどうか救済してほしい…!
アンナ・フランツウェイ
彼女は私だ。あの日救われなかったら、間違いなく私はあの施設で完全に呪詛天使と化していた。だから彼女に親近感を抱いたのかもしれない。
だから彼女を助けられなくても、せめてその心だけは取り戻して見せる。私がやらなきゃ…いや、やるんだ!
【空中戦】で翻弄しつつ毒が少ない地点を【見切り】、【毒耐性】で耐えながら接近しUCを放つ。これで少しは時間を稼げるはず…!
後は【コミュ力】【優しさ】で私も似た境遇で有る事、彼女の気持ちが分かる事、でも自分で有る事を捨ててはいけないと伝える。そして彼女自身が忘れてしまった名を告げよう。…ディアナイラと。
正気を取り戻し死を望むならそれに応える。…それが私の、処刑人の役目だ。
「う……うぅぅぅ……ああぁぁぁぁぁぁぁ……」
怨敵と猟兵との激戦を経て、異端の魔女・ディアナイラは今や満身創痍だった。
その身は傷つき流血に塗れ、狂気に染まっていた瞳はどんよりと濁り、息絶えるのも時間の問題かに思われた――だが、そこでふいに彼女に異変が起こる。
「うぅぅぅうぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
まるで逆送りのような速さで傷が塞がっていき、修復された肉体はさらなる異形に変貌する。同時に撒き散らされた血肉が大地を汚染し【異端の落とし仔】が現れる。
死の瀬戸際にまで追い込まれたことで、ディアナイラに埋め込まれた異端の神の血肉が制御を外れ、暴走を始めた。消えかけの火に人間性という薪を焚べることで、彼女は真なる異端の神へと変貌を遂げようとしていた。
「……彼女を元に戻す方法があれば良かったのだが。せめて、手早く眠らせてやるのが情けだろう」
悶え苦しみながら異形化していくディアナイラを、憐れむような眼差しで見つめながら、シェーラは精霊銃を手に彩色銃技の構えを取る。異端の神とオブリビオンの悪意に翻弄され続けた彼女が、これ以上苦しむ様を見続けるのは余りにも忍びない。
「貴女が他の人々へ悲劇を齎す前に、貴女を止めるよ……」
璃奈もまた、哀しみと無力感を押し殺しながら、決意と共に呪槍・黒桜を構える。
彼女を救うことができないのなら、せめてこれ以上の悲劇の連鎖だけは断ち切らなければならない。この世界の安寧のためにも、他ならぬ彼女の尊厳のためにも。
「ああぁぁぁうあうああぁぁぁぁっ!!!!」
【ハイドラの降臨】により狂乱する異端の魔女は、その身からありったけの【穢された聖遺物】を引き出し、異端の神の血肉から【異端の落とし仔】を生み落とす。
猛毒に汚染された地に蔓延るそれらは、まさに神の眷属の軍勢だった。親であり本体である異端の神――ディアナイラを護るため、異形共は一斉に猟兵に襲い掛かる。
「封印解放……!」
怒涛のごとき異形の攻勢に、正面から立ち向かったのは璃奈だった。【九尾化・魔剣の巫女媛】の発動によって九尾の妖狐に変身した彼女は、解き放たれた莫大な呪力を呪槍に集束すると、渾身のひと振りと共に解き放つ。
「邪魔をしないで……!」
極限まで強化された黒桜の呪力は、戦場全域を呑み込まんばかりの巨大な漆黒の桜吹雪と化し、放たれる聖遺物も押し寄せる眷属も、全てを侵食し吹き飛ばしていく。
漆黒の衝撃が過ぎ去った後には何も残らず。新たな眷属が喚び出されるまでの間隙を突いて、猟兵たちは一気にディアナイラの元に吶喊する。
「全く、たかだか神ごときが人の邪魔をするな!」
汚染された大地で踊るようなステップを踏み、精霊銃を撃つのはシェーラ。血溜まりの中から現れる落とし仔に炎の銃弾を浴びせ、焼き尽くしながら突き進んでいく。
予め毒への耐性をつける薬を飲んでおいたお陰で、猛毒化した足場からの侵食にも耐えられている。だが、それも長引けばいつまで保つかは分からない。
「彼女のためにも、望ましいのは短期決着だな」
「ええ、分かっているわ」
シェーラと璃奈が切り開いた突破口を、いち早く駆け抜けたのはフレミアだった。
彼女は念動力の防御膜で全身を毒の侵食から守り、魔槍ドラグ・グングニルを手にディアナイラと肉迫すると、雷と炎の魔法を詠唱しながら果敢な攻勢を挑んだ。
「せめて、自我が残れば彼女が望めば城で保護する事もできるのだけど……。この世界は本当にヒトに優しくないわ……」
フレミアの目の前にいる魔女は今や暴走状態にあった。人間であった頃の残滓を燃やし尽くしながら、目についたものを本能のままに破壊し殺戮する狂気の化身。猛毒を撒き散らしながら振るわれる触手には、明白な殺意のみが宿っている。
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ごめんなさいね。貴女に罪が無い事は解ってるけど、放っておくわけにもいかないのよ」
哀れみを抱きながらもフレミアの動きに淀みは無かった。念動力の束縛で触手の動きを鈍らせ、同時に毒血を防ぎながら、雷撃と炎の魔弾を牽制として放つ。光と熱で反射的に標的が怯めば、その機を逃さずに魔槍による本命の一撃を叩き込む。
「ぎぃッ!!」
ダンピールの怪力を以って突き入れられた魔槍は、魔女の腹を深々と抉る。だが、異端の神との融合で与えられた再生力により、その傷は徐々に塞がっていく。
「この治癒力はすこし厄介ね」
「なら、それを封じるよ……」
眉を潜めながらも魔槍を振るうフレミア。そこに駆け込んできたのは璃奈だった。
その手にあるのは妖刀・九尾乃凶太刀と九尾乃神太刀の二刀流。巫女媛の力によって強化されたそれぞれの呪力は、音を超える速さと神を殺す力を使い手に与える。
烈風のごとき超高速で敵に肉迫した璃奈は、その勢いのまま猛然と二刀を振るった。
「あぐぅあぁぁぁっ!?!?」
目にも止まらぬ速さで切り刻まれていくディアナイラ。超常の存在が持つ不死性や再生力を封じる神太刀の力によって、その傷は決して再生することは無い。
「……ごめんね……本当は、元に戻してあげたかったけど……叶える事ができなくて……。力不足で……」
そのまま異形の触手を斬り払っていく璃奈の顔には、悔しさと哀しさが滲んでいた。
彼女には共存を望むオブリビオンに救済をもたらすユーベルコード【共に歩む奇跡】がある。しかしそれは敵意を宿した相手には使えない――狂気に侵され、対話すらままならない今のディアナイラ相手には、どうしても条件を満たせなかった。
「せめて、貴女に安らかな眠りを……」
祈りを込めて舞うがごとく妖刀を振るう、魔剣の巫女媛による葬送の剣戟。
再生力さえ封じられれば恐れるものは何もない。フレミアも再び攻勢に加わることで、ディアナイラは戦場の隅へとじりじりと追い詰められていく。
「これでっ!」
「ぎぃぃ……っ!!」
真紅の魔槍が今度こそ魔女を貫き、実験室の壁と彼女の身体を穂先で縫い付ける。
触手をじたばたさせながら槍を抜こうともがくディアナイラ。その機に乗じて2人の猟兵が、空中から彼女の元に接近していく。
「もう手遅れなんだろうね。せめて苦しまないように終わらせてあげたいね」
魔力の翼で飛翔しながら、哀れみと諦観の混ざった調子でそう呟いたのは晶。
傷つけるのは忍びないし、猛毒の返り血を撒かれるのは長期的にこちらの不利になる。幸か不幸か、彼女には相手を痛めつけずに無力化させられる能力があった。
「まずは動きを止めないとね」
ディアナイラの近くまで迫った晶は、神気のオーラで触手を受け止めると使い魔をけしかける。石で造られた妖精のようなそれらは、自らの素材に対応した状態異常魔法を放ち、異端の触手を石化させていく。
(彼女は私だ)
そして触手の動きが止まった隙を突いて、アンナが一気にディアナイラに迫る。
オラトリオの翼を活かして毒血に染まった大地を避け、汚染の影響が少ない空中を行くことで、ここまでの負担は最小限に抑えている。そしてここからが正念場だ。
(あの日救われなかったら、間違いなく私はあの施設で完全に呪詛天使と化していた。だから彼女に親近感を抱いたのかもしれない)
だから彼女を助けられなくても、せめてその心だけは取り戻して見せる――それがアンナの決意であり覚悟。誰よりも彼女の苦しみが理解できるからこそ、その苦しみから解き放ってやりたいという、切なる想いであった。
「私がやらなきゃ……いや、やるんだ!」
アンナは右手をディアナイラに向けて【ブラッドエンド・カース】を発動する。
そこに刻まれた傷口から放たれた彼女の血は、怨念が生み出す呪詛で汚染されている。それは彼女自身をも蝕む呪いだが、時には彼女の武器にもなる。
「うぐぅぅぅぅっ?!!」
呪血を浴びたディアナイラの表情が苦痛に歪む。自らも血に毒性を持つ彼女だが、アンナのそれはまた訳が違う。夥しい呪詛を宿した血液は、それに触れた他人の血さえも腐敗させるのだ。
「これで少しは時間を稼げるはず……!」
「ぎぃぃぃぃぐぅぅぅぅ……!!」
呪詛に蝕まれたディアナイラは、何とかこの戒めから脱しようと【ハイドラの降臨】にさらなる人間性を焚べる。だが、神太刀によって再生力を封じられた状態では、どんなに異端の血肉を強化しようとも、望みの結果はもたらされない。
「彼女にこれ以上代償を払わせたくはないなぁ」
無為にバケモノへと堕ちていく魔女を制しようと、シェーラが発動するのは【彩色銃技・尤雲殢雨】。虚空より現れた女の悪霊が、ディアナイラにしなだれかかる。
「彼女がお前の背の君だ」
「あぎぃ……??」
悪霊はディアナイラの身体をしがみつくようにして捕まえて、彼女のユーベルコードを封印する。泡立つ血の毒沼から落とし仔が消え、異端の血肉の暴走が止まった。
(捧げられてしまったものが、彼女に戻ることはないだろうが。だからといって放置も出来ない)
たかが神ごときにこれ以上、彼女の人間として生きた証を――記憶や人間性を奪わせてなるものか。細められたシェーラの瞳の奥で、燃えるような意志が輝いた。
「キーターはもう死んだんだ。目的を果たしたんだよ」
暴走の止まったディアナイラに呼びかけながら、晶は石化の魔法を放ち続ける。
触手の末端から下半身、そして胴体へと、緩慢ながらも魔女の身体は次第に肉から石に変わっていく――それと同時に晶自身の肉体も、指先から石化しかかっていた。
成りかけとはいえ異端の神の力を抑え込むには相応の力がいる。そのために晶は【邪神の領域】を展開し力を底上げしているのだが、このユーベルコードは使い過ぎれば自分も石化してしまう。未だ生きている邪神封印の力の弊害であった。
――しかし、それでも晶は邪神の力を行使するのを止めようとはしなかった。
「このまま暴れていたら、キーターと同じようにたくさんの人を傷つけるだけの存在になってしまうよ。だからもう眠ろう」
二度と苦しまないように、ディアナイラをここで石化させるのが晶の望み。
彼女がまだ、決定的な一線を越えてしまう前に、二度と覚めない安らかな眠りを。
(少しの間でも正気に戻れるなら、人として看取ってあげられるといいんだけど)
果たしてその望みが叶うかは仲間達次第だろう。自分は自分の出来ることをするだけだ。
「ねえ、お願い。私の話を聞いて」
「あぁぁぁうあぁあぅぅぅぅあぁ……」
呪詛、悪霊、石化。何重に拘束されたディアナイラに、アンナは懸命に呼びかける。
だが、相手からの反応は鈍い。暴走が止まったからとて彼女の狂気が収まったわけではなく、近寄ればまだ石化していない触手で無差別に攻撃を仕掛けてくる。
その有様はもはや完全に記憶や人間性を失った、ただの獣のようですらあった。
「肉親も、友達も……心にいないのか?」
そんな魔女の姿をじっと見つめながら、ひそかに心を痛めていた猟兵がいた。
彼女、燦は短剣を片手に握りしめ、猛毒に汚染された大地の上を気合いで渡り切る。
そして呼びかけるも、ディアナイラの返答は言葉にならない譫言と触手だった。
「うああぁぁうっ!」
叩き付けられる触手はアークウィンドの放つ剣風で切り払える。しかし燦の胸にはそれだけでは抑えられない痛みが走った。全てを忘却したその姿が見ていて辛い――そして怖い。もしも自分や親友が相手のことを忘却したら、そんなことを頭の片隅で思い浮かべるだけで、足元が抜けて奈落に落ちるような心地になる。
「……残念ですが、彼女は、もう」
同様に、魔女の様子を観察していた猟兵はもうひとり――トリテレイアがいた。
もう戻れない。そう判断した彼は情動を冷徹なプログラムの底に押し込め、スラスターを全力噴射して爆走する。それは他の猟兵たちの意表すらついた行動だった。
「数多の『手遅れ』を騎士として送ってきました。此度も速やかに……」
「「待っ―――!!」」
アンナが、燦が、思わず目を丸くして叫ぶ。しかし抑止の声を振り切って、機械仕掛けの騎士はこれが自分の責務であると吶喊する。ディアナイラも反射的に触手を動かすが、拘束された緩慢な状態で間に合うはすがなく、そのまま彼は一息に――。
「なっ……!」
――突き立てるはずだった【慈悲の短剣】は、刃の中程から折れてしまっていた。
恐らくは先のキーターとの戦闘による損傷。それに気付いていなかったトリテレイアが愕然とした直後、ディアナイラの触手が彼の腹部装甲に突き刺さった。
「縺舌?縺!?」
完全に虚を突かれた。装甲を突き破った触手はそのまま機体内部にまで到達し、猛毒が繊細な電子回路やシステム系統を侵食する。不可解な電子音声をスピーカーから吐き出しながら、トリテレイアの意識は闇に沈んだ。
――意識が途切れるその刹那、彼の思考に浮かんできたのはUDCアースでの過去。
邪神に覚醒した護衛対象の少女を討った依頼――その悔恨が鮮明に想起される。
(報いかもしれない。慈悲と嘯き己が理想に背を向け続けたことへの)
よもやこんな形で不覚を取るとは思いもしなかった。いや、あるいはこんな時が来ると薄々思っていたのか? 分からない。今はもう何も分からない。自分が本当に守りたかったのは"理想"なのか"誰か"なのか、それさえも分からなくなってしまう。
(嗚呼。助けたかった)
薄れゆく意識の瀬戸際で、機械仕掛けの騎士が想ったことはそれだけだった。
本当なら誰も殺したくなど無かった。全てをこの手で救いたかった。"御伽の騎士"という高すぎる理想を掲げてしまったがゆえに挑み続け、悩み続け――時には重い挫折を味わいながらも、捨て去ることだけは出来なかった、彼の剥き出しの本心。
(叶うならば――幾許かの救いを)
それを最後にしてトリテレイアの機体は緊急停止し――直後、目も眩むほどの閃光が彼の収納スペースの一番奥にしまわれた、一冊の書物から放たれた。
「あぁぁぁうぅぅぅぅ……?」
確かに敵を仕留めたと、そう手応えを感じていたディアナイラは困惑する。
眩くも暖かな光の中から姿を表したのは、ぴかぴかの鎧兜を纏い、立派な剣を帯びた騎士の幻影。それはまるで、トリテレイアが焦がれ続けた御伽の騎士のような。
『……未熟者め、手を貸そう』
騎士の幻影がそのままトリテレイアに吸い込まれていくと、倒れていた機体が再起動する。立ち上がった彼から感じられるのは殺意ではなく、包み込むような慈悲の念。
「あ……ぅ……?」
彼は敵なのか、それとも違うのか? 狂気に侵された思考では判断がつかず、困惑と驚愕が入り交じった表情を浮かべながら、ディアナイラは騎士から後ずさる。
――その背中に、闇の中から伸ばされた手が、とん、と優しく触れる。
それは黒外套を纏うリーヴァルディの手。いつの間に背後に回り込んでいたのか、一斬必殺の間合いにまで距離を詰めている。しかし、その眼差しに敵意は無かった。
「……ん。先の宣言を覆す気はない。貴女一人救えないで、どうして猟兵を……いいえ。これから先、闇の救済者(ダークセイヴァー)を名乗っていける?」
甘かろうとも危険だろうとも、一度口にした言葉を彼女は決して違えはしない。
この世界に未来を、人々に繁栄をもたらすために――救済の1歩目はいつだって、目の前にいる1人を助けるところから始まるのだ。
「このまま貴女を怪物になんてさせないわ。絶対に……」
リーヴァルディはディアナイラに触れさせた掌から"調律の呪詛"を送り込む。
それは呪力による精神攻撃の一種ではあるが、決して相手を害する類のものではない。対象の自我を増幅させたうえで、一時的に狂気への耐性を付与するものだ。
「ぁ……ぅ……わた……し……?」
精神を調律されたディアナイラの唇から、久方ぶりに意味のある言葉が溢れる。
それは彼女の救済という不可能かに思われた道筋にさした、一筋の光明だった。
「……今なら言葉も届くはず。呼びかけて、彼女に」
リーヴァルディはそのまま"調律の呪詛"の付与を維持する。僅かながらも正気を取り戻したディアナイラを見て、再び声をかけはじめたのはアンナだった。
「聞いて。私もあなたと似た境遇だったの。だからあなたの気持ちも分かる……何もかも壊してしまいたくなるような、深くて昏い、憎しみや絶望が」
怨念を宿した胸にそっと手を当てながら、まっすぐに相手の瞳を見て優しく呼びかける。今度こそ伝えたいことを伝えられるように、一言一言に丁寧に想いを込めて。
ディアナイラはもう暴れない。ただ、食い入るような視線をアンナに向けている。
「でも、自分で有る事を捨ててはいけない。植え付けられた力や憎しみに呑まれないように、運命に抗うの。あなたにもきっと出来るはずだから……ディアナイラ」
「ぅ……でぃあ……ない、ら……?」
それは、彼女自身が忘れてしまった名前。それを聞いた瞬間、魔女の瞳に光が宿る。
「思い出せ。ディアナイラの名をくれた人の顔を、一緒に笑った友達を!」
闇の中に見えた光を掴むように、燦もまた力強く呼びかけながら腕を伸ばす。
その手から放たれたのは読符『攻撃的な思念測定術』。ディアナイラの額にぴたりと貼り付いた符は、対象の過去や思念を読み取り、術者に伝える効果を持つ。
「お前にもいたはずだ、大切な人達が。自分で思い出せないならアタシが教えてやる!」
断片的になったディアナイラの人間としての記憶を紡ぎ直して彼女に伝える。それが危険な行為であることは言うに及ばない。狂人の精神を覗き込むということは、自らも狂気に侵されるということなのだから――それでも、燦はそれを断行した。
「教えてやる、あんたの父親の、母親の、友達の名前を!」
ヘドロの海のような思念の渦の中で必死に自分の正気を保ちながら、燦は記憶のピースを拾い集めて叫ぶ。忘れてしまった大切な人たちの名を。消えてしまった思い出の断片を。ひとつ伝えられるたびに、魔女の瞳には少しずつ生気が戻っていく。
「わた、し……あぁぁ……私は……」
「……自分をしっかり保って。貴女は、怪物なんかじゃない……!」
少しずつ己を取り戻していくディアナイラに、リーヴァルディも想いをぶつける。
その後背には巨大な血色の光輪が浮かび上がり、左目の聖痕が輝いている。それは時間を支配する"名も無き神"の力を最大限発揮するための【限定解放・血の光輪】。
この力を以って彼女は異端の神と融合した娘の救済を試みる。祈りを捧げる相手は神ではなく、時の圧縮によって接触した過去、現在、未来に渡るこの世界の全ての精霊。
「……人間もまた世界の一部と認めるのなら……。異端の神に侵されている彼女をどうか救済してほしい……!」
【限定解放・血の魔星】の九重発動。少女の切なる願いは果たして世界へと届き、時空を超えて集まってきた精霊たちの輝きが、ディアナイラの肉体を包み込む。
「……どうかお願い……!」
リーヴァルディは懸命に祈る。だが、全ての精霊がその願いに応えてくれたわけでは無い。限界を超えて異端の神と融合した肉体を昇華させて、元の人間に戻す――そんな荒唐無稽な願いが、彼女の思い描いた通りに叶う保障は無かった。
「……私も力を貸そう」
――その時、これまで静観していたトリテレイアがすっと儀礼剣を抜き放った。
その振る舞いに殺気は無い。いや、彼のことを以前から知るものであれば、そもそもの雰囲気や立ち居振る舞いそのものが別人のように変わっていると気付くだろう。
"騎士"はそれ以上言葉を発することなく、光に包まれたディアナイラの前にゆっくりと立つと――見惚れるほどの鮮やかな太刀筋で、剣を真一文字に一閃した。
「何を――」
それは相手を傷つけるものではないと、リーヴァルディにも他の猟兵達にも分かった。
かの"騎士"の一刀は人と神の境界を分かつもの。重傷を負い活性化の果てに微かな正気を取り戻した、この不安定な瞬間でのみ見極められるような、ごく薄い境界だ。
仮に見えてもそんなものを切断するなど本来は不可能だ。だが"騎士"にはそれが為せる。何故ならば彼はトリテレイアがこれまでに出会った人々の、理想への願いと祈りが魔力となって形を成したもの。悲劇を覆し奇跡を齎すための存在なのだから。
世界への祈り。人々の祈り。ふたつの"祈り"によって"奇跡"はここに果たされる。
ディアナイラの身体の中からすうっと、半透明な女性が姿を現す。顔立ちや上半身はディアナイラにそっくりだが、下半身は異なっている――完全な人間のそれだ。
異端の魔女の肉体は、今や細胞レベルで異端の神と融合を果たしていた。ゆえに"騎士"と"精霊"は唯一残った人としての要素、すなわち精神を取り出したのだ。
アンナや燦たち猟兵の呼びかけが彼女の人間性を呼び覚ましていなれば、その精神さえ完全に失われ、奇跡の成就は無かっただろう。
「……ここまでか。後は頼む」
抜け落ちたディアナイラの精神体に外套を羽織らせると"騎士"は再び機能を停止する。おそらくは奇跡の行使で魔力が尽きたのだろう。血の光輪からの強引なユーベルコードの多重発動を行ったリーヴァルディも、力が抜けたように崩れ落ちる。
「……これが精一杯かしら。あとはあれを何とかしないと……」
「ううぅぅぅああぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁっ!!!!」
視線の先にいるのは、拘束された状態で再び暴れ出した異形のディアナイラ――いや"異端の魔女"と言うべきか。精神の失なわれた空っぽの器は、今や完全に本能のままに行動するだけの、ただのバケモノに過ぎなかった。
「があぁぁぁああぁうぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「暴れないで。きみももう休めばいい」
「心を失った人形が、じたばたするな!」
"異端の魔女"の肉体を引き続き拘束するのは晶の石化魔法とシェーラの操る悪霊。
いかに精神の枷が外れたといえど、物理的にも霊的にも念入りに封じ込められた状態では何もできはしない。ユーベルコードの使用さえ封じられているのだから。
「これで終わりにするよ……」
「ええ、これが最後よ!」
石像と化していく"異端の魔女"に止めを刺すのは、璃奈の【ultimate one cars blade】とフレミアの【神槍グングニル】。各々が操る呪力と魔力、魔剣と魔槍の力を一点に収束させた、全てを破壊し終焉へと導く、究極にして最大なる一撃。
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……。その力を一つに束ね、我が敵に究極の終焉を齎せ……!」
「全てを滅ぼせ、神殺しの槍……。消し飛びなさい……! 神槍グングニル!!」
振り下ろされた究極の一刀は"異端の魔女"の胸元の核を真っ二つに両断し。
直後、渾身の神殺しの一撃が叩き付けられ――解き放たれた膨大な魔力による爆発と閃光が、全てを真っ赤に染め上げ、"異端の魔女"の肉体を跡形もなく消滅させる。
「ああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
――それが、同族殺しの異端の魔女・ディアナイラの最期であった。
●
「……ここは?」
トリテレイアが目を覚ました時、そこは研究所ではなくグリモアベースだった。
機能停止後、ダメージが深いとみて他の猟兵よりもいち早く転移されたようだ。
一体何があったのかを、彼は思い出す。ただしそれは事実とは大幅に異なる形で。
『あの時――トリテレイアは対象を安楽死させるための【慈悲の短剣】を使用したが、短剣に含まれる薬剤の影響でディアナイラは更に発狂。周囲にいる全ての者を仇であると認識し、怨嗟と苦痛の果てで自ら命を絶った』
それがトリテレイアが認識している記憶(ストーリー)だった。現実とはまるで異なる結末になっているのは、無意識のままあの"騎士"を喚び出した代償が、認知の改変という形で現れ、「結末は悲劇だった」と彼の認識を改竄しているためだ。
幸か不幸かその認知錯誤を指摘する者はここには居なかった。だからトリテレイアは自身が――正確には自身に取り憑いた"騎士"が奇跡を起こしたことも知らぬまま、依頼の結果をこう報告する。
「……依頼は達成できました」
そう、改竄された認識上においても依頼の成功には違いない。非人道的な研究を行っていた領主も、無差別に生者に害を為す同族殺しも倒れ、あの地のオブリビオンは全て駆逐された。そう、これは文句の付けようもない、完全な大成功――。
「────!!」
――言葉にならない電子音の絶叫が、グリモアベースに木霊する。
"奇跡"を起こす代償とはかくも重い。これからトリテレイアは無力への永遠の悲嘆と悔恨を抱えて生きていくのだろう。それが何の代償であったかも知らぬままに。
【知らぬは騎士ばかりなり】――ここからは、彼の知らない「めでたし、めでたし」を語っていこう。
●
「……ありがとう、皆さん。私を人間に戻してくれて」
戦いを終えた猟兵達の前で、ディアナイラの精神体は深々とお辞儀をする。
その表情は穏やかで優しく、狂気に侵されていた時の彼女とは似ても似つかない。
これが本来の"人間"としてのディアナイラなのだろう。狂気からも復讐からも解放された彼女は、とても晴れやかな様子で、けれど少し寂しそうでもあった。
「本当はもっとお礼をしたいのだけれど、ごめんなさい。あまり長くここには居られないみたいです」
"奇跡"は起こった。ただしそれは永遠のものではなく、流星の煌めきのようなもの。
肉体の全てと、記憶と人間性の大半――あまりにも多くのものを異端の神に奪われたディアナイラの精神体は、長く顕現を保つことはどうしても不可能だったのだ。
「……私が貴女の肉体を元に戻せていれば」
「気にしないでください。こうして最期にお礼が言えただけでも私は幸せ者です」
ぎゅっと拳を握ったリーヴァルディに、ディアナイラは曇りのない笑顔で応じる。
狂気と苦悶の果てで死ぬしかなかった自分に、最後に人らしく悔いなく逝ける機会が与えられた。それだけでも計り知れないほどの"奇跡"なのだと。
「私は十分に救われました。あの騎士の方にも、会えたらどうかお礼を言っておいてください」
「……ええ。分かったわ」
その晴れやかさに一切の偽りが無いことを知って、リーヴァルディはこくりと頷く。
生命の救済は成らずとも、ディアナイラの魂の救済は、確かに成し遂げられたのだ。
「貴女がもし望むのなら、【共に歩む奇跡】で存在を保てるかもしれない……」
「ありがとう。でもごめんなさい。それでも私は一緒に行けないと思う」
彼女の取り戻せた記憶は断片的だ。ゆえに彼女は現世に留まるために最も重要な要素である"未練"が欠けた状態となっていた。無理に留め置いたとしてもいずれは意識や自我がほつれ、自分が何者であったかも分からない浮遊霊となるだろう。
「元に戻るなんてとっくに諦めてましたから。これ以上の奇跡を望んだらバチが当たっちゃいます」
「……もう後悔は無いんだね?」
囁くようなアンナの問いかけに、ディアナイラは「はい」と微笑みながら答えた。
彼女は"未練"を失ってしまったが、それと共に"憎悪"や"怨念"からも解放された。ここに居るのは狂気に堕ちた復讐鬼ではなく、どこにでもいるごく普通の女の子だ。アンナはそれに少し寂しさのようなものを感じながらも、彼女の選択に応える。
「分かった。アンタが死を望むなら……それを見届けるのが私の、処刑人の役目だ」
「ありがとう」
ディアナイラは微笑んだ。ガラスのように透き通った、美しい笑顔だった。
「そうと決まったら、今のうちにちょっといいかな」
「なんですか? ……わっ」
振り返ったディアナイラの首筋に、そっと唇と犬歯を寄せたのは燦だった。
精神体の彼女に吸える血はないが、まだ"生きて"いるなら精気を吸うことはできる。猛毒に身体を蝕まれる覚悟がいらなくなって逆に拍子抜けするくらいだ。
「少しだけ貰うぜ。ディアナイラが世界にいた証としてね」
「……はい。それくらいでよければ、どうぞ」
最初こそびっくりしていたディアナイラだが、その吸精を拒む理由は無かった。
ディアナイラの精気と、魂の片鱗を戴くと、燦はにっかりと笑いながら離れる。
(苦いね……)
手に入れた魂の味は甘く優しかった。雪解け水のように澄んでいた。
けれども燦の喉元には、今は苦くて熱いものだけがこみ上げていた。
「もう行ってしまうのね。だったら最後にせめて良い夢を見せてあげる」
「いい夢……?」
猟兵達との別れを済ませていくディアナイラの元にやって来たのはフレミア。
その装束はいつの間にか黒を基調としたものに変わり、手には薬のような煙を発する瓶を持っている。それはかつてこの世界で彼女が倒した『調薬師・エーブル』の力と姿を、【ブラッディ・フォール】によってその身に顕現させたものである。
「薬にはちょっといい思い出が無いですけど……」
「これは大丈夫だから安心して。苦しみのない夢の中で眠りなさい」
そう言ってフレミアは【ユーフォリアドラッグメーカー】を発動し、成分を調整した香の霧でディアナイラを包む。それは対象に幸福な幻覚を見せる魔法の秘薬だ。
「あ……おとうさん……おかあさん……!」
霧の中に浮かび上がった人影や景色は、在りし日の幸せな思い出を再現したもの。
忘れかけていた――否、もう失われていたはずだった記憶がありありと浮かびあがり、ディアナイラは「ありがとう」と幸せそうな微笑を浮かべながら、目を閉じた。
「おやすみ。もしも次があれば平和な世界に生まれてくるといいね」
晶は眠りに落ちていくディアナイラの手をそっと握り、人としての彼女を看取る。
実験体となってからはもう、長らく人のぬくもりに触れることも無かっただろう。少女は夢見心地のままきゅっと晶の手を握り返すと、心地よさそうに表情を綻ばせた。
「おやすみ……なさい……」
「自己満足にすぎないが──……嗚呼、お休み。良い夢を」
少女の寝顔を見つめながら、シェーラもまた穏やかな微笑と共に別れの言葉を紡ぐ。
同時に魔女でもなく、異端の神でもない、人間としての彼女の冥福を祈る。それが自分の感傷に過ぎないのだとしても――眼の前に横たわる少女は今、とても幸せそうだ。それは紛れもなく、シェーラたち猟兵の手によって取り戻された笑顔なのだ。
「どうか彼女の魂が、せめて天国へ導かれますように……」
りん、りん、と、祈りを捧げる璃奈の手元で、破魔の鈴飾りが澄んだ音を立てる。
その音色は死者の魂を鎮め、あるべき所へと誘うもの。安らかなな顔で横たわるディアナイラの精神体が、すうっと空気に溶けるように透けていき――そして消える。
きっと彼女の願いは届いたはずだ。根拠はなくとも、胸にははっきりと確信がある。
『―――ありがとう』
それは風の悪戯か、それとも耳の錯覚か。その場にいた猟兵は皆、彼女の声を聞いた。
"同族殺し"も"異端の魔女"も、もうここには居ない。それが今回の事件の本当の意味で終わりであった。
――後に、この研究所は跡形もなく取り壊され、跡地には小さな墓が建てられた。
けして立派なものではなく、墓標に死者の名が刻まれただけの簡素なものだが――そこには今も時折、花が供えられているという。
「――いつか躯の海で。今度はゆっくり語らおうぜ」
月夜の翼は墓標の前で優しく笑いかけると、自らの大切な人たちの元に帰っていく。
さまよえる狂気と異端の魔女の物語は、かくしてエンディングを迎えたのであった。
大成功
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